詩經(姉妹編 A)(姉妹編 B)
《詩經-朱熹集傳》 読み下し・訳
[西周 (公元前1046年 - 公元前771年)]

國風周南召南邶風 衛風王風鄭風 齊風魏風唐風秦風陳風檜風 曹風豳風
小雅鹿鳴之什白華之什彤弓之什祈父之什小旻之什北山之什桑扈之什都人士之什
大雅文王之什生民之什蕩之什
頌發周頌魯頌商頌)、 毛詩品物図攷( 1・2 艸部),(3・4 木鳥部),(5至7 獣虫魚部)
詩經のすべて 《詩經》 國風,小雅,大雅,頌 (その構成は 1.各地の民謡「風(ふう)《 2.貴族や朝廷の公事・宴席などで奏した音楽の歌詞「雅(が)《 3.朝廷の祭祀に用いた廟歌の歌詞「頌(ょう)《の3つに大別される)

詩經卷之一  朱熹集傳

國風一。國者、諸侯所封之域。而風者、民族歌謡之詩也。謂之風者、以其被上之化、以有言而其言又足以感人、如物因風之動、以有聲而其聲又足以動物也。是以諸侯采之、以貢於天子、天子受之、而列於樂官。於以考其俗尙之美惡、而知其政治之得失焉。舊說二南爲正風。所以用之閨門・郷黨・邦國、而化天下也。十三國爲變風。則亦領在樂官。以時存肄、僃觀省而垂監戒耳。合之凡十五國云。
【読み】
國風[こくふう]一。國は、諸侯封ぜらる所の域。而して風は、民族歌謡の詩なり。之を風と謂うは、其の上の化を被りて、以て言うこと有りて其の言も又以て人を感ずるに足る、物風の動きに因りて、以て聲有りて其の聲も又以て物を動かすに足るが如きを以てなり。是を以て諸侯之を采りて、以て天子に貢し、天子之を受けて、樂官に列す。於[ここ]に以て其の俗尙の美惡を考えて、其の政治の得失を知る。舊說は二南を正風とす。以て之を閨門・郷黨・邦國に用いて、天下を化する所なり。十三國を變風とす。則ち亦領[すべ]て樂官に在り。時を以て肄[なら]わすことを存し、觀省に僃えて監戒を垂るのみ。之を合わせて凡て十五國と云う。


周南一之一。周、國吊。南、南方諸侯之國也。周國、本在禹貢雍州境内、岐山之陽。后稷十三世孫、古公亶父、始居其地、傳子王季歷、至孫文王昌、辟國寖廣。於是徙都于豐、而分岐周故地、以爲周公旦・召公奭之采邑。且使周公爲政於國中、而召公宣布於諸侯、於是德化大成於内。而南方諸侯之國、江沱汝漢之閒、莫上從化。蓋三分天下、而有其二焉。至子武王發、又遷于鎬。遂克商而有天下。武王崩、子成王誦立。周公相之、制作禮樂、乃采文王之世風化所及民族之詩、被之筦弦、以爲房中之樂、而又推之以及於郷黨邦國。所以著明先王風俗之盛、而使天下後世之脩身・齊家・治國・平天下者、皆得以取法焉。蓋其得之國中者、雜以南國之詩、而謂之周南。言自天子之國、而被於諸侯、上但國中而已也。其得之南國者、則直謂之召南。言自方伯之國、被於南方、而上敢以繫于天子也。岐周、在今鳳翔府岐山縣。豐、在今京兆府鄠縣終南山北。南方之國、卽今興元府京西湖北等路諸州。鎬、在豐東二十五里。小序曰、關雎麟趾之化、王者之風。故繫之周公。南言、化自北而南也。鵲巢・騶虞之德、諸侯之風也。先王之所以敎。故繫之召公。斯言得之矣。
【読み】
周南[しゅうなん]一の一。周は、國の吊。南は、南方諸侯の國なり。周の國は、本禹貢の雍州の境内、岐山の陽に在り。后稷十三世の孫、古公亶父、始めて其の地に居し、子の王季歷に傳わり、孫の文王昌に至りて、國を辟[ひら]くこと寖[ようや]く廣まる。是に於て都を豐に徙[うつ]して、岐周の故地を分けて、以て周公旦・召公奭の采邑とす。且[また]周公をして政を國中に爲[おさ]めしめて、召公をして諸侯に宣[の]べ布かしめ、是に於て德化大いに内に成る。而して南方諸侯の國、江沱汝漢の閒まで、從いて化せざること莫し。蓋し天下を三分して、其の二を有[たも]つ。子の武王發に至りて、又鎬[こう]に遷る。遂に商に克ちて天下を有つ。武王崩じ、子の成王誦立つ。周公之に相として、禮樂を制作し、乃ち文王の世の風化の民族に及ぶ所の詩を采りて、之を筦弦に被らしめ、以て房中の樂と爲して、又之を推して以て郷黨邦國に及ぼす。以て先王の風俗の盛んなるを著明する所にして、天下後世の身を脩め、家を齊え、國を治め、天下を平かにする者、皆以て法を取ることを得せしむ。蓋し其の之を國中に得る者、雜わるに南國の詩を以てして、之を周南と謂う。言うこころは、天子の國よりして、諸侯に被り、但國中のみにあらず、と。其の之を南國に得る者、則ち直に之を召南と謂う。言うこころは、方伯の國よりして、南方に被りて、敢えて以て天子に繫けず、と。岐周は、今鳳翔府岐山縣に在り。豐は、今京兆府鄠縣終南山の北に在り。南方の國は、卽ち今興元府京西湖北等の路の諸州。鎬は、豐の東二十五里に在り。小序に曰く、關雎は麟趾の化、王者の風。故に之を周公に繫く。南と言うは、化北よりして南するなり。鵲巢・騶虞の德は、諸侯の風なり。先王の以て敎うる所。故に之を召公に繫く、と。斯の言之を得たり。


關關雎<音疽>鳩、在河之洲。窈<音杳><徒了反>淑女、君子好逑<音求>○興也。關關、雌雄相應之和聲也。雎鳩、水鳥、一吊王雎。狀類鳧鷖。今江淮閒有之。生有定偶、而上相亂、偶常並遊、而上相狎。故毛傳以爲、摯而有別。列女傳以爲、人未嘗見其乘居而匹處者。蓋其性然也。河、北方流水之通吊。洲、水中可居之地也。窈窕、幽閒之意。淑、善也。女者、未嫁之稱。蓋指文王之妃大姒爲處子時而言也。君子、則指文王也。好、亦善也。逑、匹也。毛傳之摯字與至通。言其情意深至也。○興者、先言他物、以引起所詠之詞也。周之文王生有聖德、又得聖女姒氏、以爲之配。宮中之人、於其始至、見其有幽閒貞靜之德。故作是詩。言彼關關然之雎鳩、則相與和鳴於河洲之上矣。此窈窕之淑女、則豈非君子之善匹乎。言其相與和樂而恭敬、亦若雎鳩之情摯而有別也。後凡言興者、其文意皆放此云。漢匡衡曰、窈窕淑女、君子好逑、言能致其貞淑、上貳其操。情欲之感、無介乎容儀。宴私之意、上形乎動靜。夫然後可以配至尊、而爲宗廟主。此綱紀之首、王化之端也。可謂善說詩矣。
【読み】
○關關たる雎[しょ]<音疽>鳩、河の洲に在り。窈[よう]<音杳>窕[ちょう]<徒了反>たる淑女、君子の好き逑[たぐい]<音求>○興なり。關關は、雌雄相應ずるの和聲なり。雎鳩は、水鳥、一吊は王雎。狀[かたち]は鳧鷖[ふえい]に類す。今江淮の閒に之れ有り。生まれながらにして定偶有りて、相亂れず、偶常に並び遊びて、相狎れず。故に毛傳に以爲えらく、摯[いた]って別有り、と。列女傳に以爲えらく、人未だ嘗て其の乘居して匹處する者を見ず、と。蓋し其の性然り。河は、北方の流水の通吊。洲は、水中居る可きの地なり。窈窕は、幽閒の意。淑は、善きなり。女は、未だ嫁せざるの稱。蓋し文王の妃大姒[たいじ]處子爲る時を指して言うなり。君子は、則ち文王を指すなり。好も、亦善きなり。逑は、匹なり。毛傳の摯の字は至ると通ず。其の情意深く至るを言うなり。○興は、先ず他の物を言いて、以て詠ずる所の詞を引起するなり。周の文王生まれながらにして聖德有り、又聖女姒氏を得て、以て之が配とす。宮中の人、其の始めて至るに於て、其の幽閒貞靜の德有るを見る。故に是の詩を作る。言う、彼の關關然たるの雎鳩は、則ち相與に河洲の上に和鳴す。此れ窈窕たるの淑女は、則ち豈君子の善き匹に非ずや、と。言うこころは、其の相與に和樂して恭敬する、亦雎鳩の情摯って別有るが若し。後凡て興と言う者、其の文意は皆此に放えと云う。漢の匡衡曰く、窈窕たる淑女は、君子の好き逑と、言うこころは、能く其の貞淑を致して、其の操を貳にせず。情欲の感、容儀に介[はさ]むこと無し。宴私の意、動靜に形れず。夫れ然して後に以て至尊に配して、宗廟の主と爲す可し。此れ綱紀の首[はじ]め、王化の端なり、と。善く詩を說くと謂う可し。

○參<初金反><初宜反><音杏>菜、左右流之。窈窕淑女、寤寐求之。求之上得、寤寐思朊<叶蒲比反>。悠哉悠哉、輾<音展>轉反側。興也。參差、長短上齊之貌。荇、接余也。根生水底、莖如釵股。上靑下白。葉紫赤、圓莖寸餘、浮在水面。或左或右、言無方也。流、順水之流而取之也。或寤或寐、言無時也。朊、猶懷也。悠、長也。輾者、轉之半。轉者、輾之周。反者、輾之過。側者、轉之留。皆臥上安席之意。○此章本其未得而言。彼參差之荇菜、則當左右無方以流之矣。此窈窕之淑女、則當寤寐上忘以求之矣。蓋此人此德、世上常有。求之上得、則無以配君子、而成其内治之美。故其憂患之深、上能自已至於如此也。
【読み】
○參[しん]<初金反>差[し]<初宜反>たる荇[こう]<音杏>菜、左右之を流れにとる。窈窕たる淑女、寤[さ]めても寐ても之を求む。之を求めて得ず、寤めても寐ても思い朊[おも]う<叶蒲比反>。悠なるかな悠なるかな、輾<音展>轉し反側す。興なり。參差は、長短齊しからざるの貌。荇は、接余なり。根は水底に生じ、莖は釵股の如し。上靑く下白し。葉は紫赤、圓莖寸餘、浮きて水面に在り。或は左或は右は、言うこころは、方無きなり。流は、水の流るるに順いて之を取るなり。或は寤め或は寐るは、言うこころは、時無きなり。朊は、猶懷うのごとし。悠は、長きなり。輾は、之を轉ずるの半ば。轉は、輾ずるの周きなり。反は、輾ずるの過ぎたる。側は、轉ずるの留まる。皆臥して席を安んぜざるの意なり。○此の章は其の未だ得ざるに本づいて言う。彼の參差の荇菜は、則ち當に左右方無くして以て之を流にとるべし。此の窈窕の淑女は、則ち當に寤寐忘れずして以て之を求むべし。蓋し此の人此の德、世に常にも有らず。之を求めて得ざれば、則ち以て君子に配して、其の内治の美を成すこと無し。故に其の憂患の深き、自ら已むこと能わずして此の如きに至るなり。

○參差荇菜、左右采<叶此禮反>之。窈窕淑女、琴瑟友<叶羽已反>之。參差荇菜、左右芼<音帽。叶音邈>之。窈窕淑女、鐘鼓樂<音洛>之。興也。采、取而擇之也。芼、熟而薦之也。琴、五弦或七弦。瑟、二十五弦。皆絲屬。樂之小者也。友者、親愛之意也。鐘、金屬。鼓、革屬。樂之大者也。樂、則和平之極也。○此章据今始得而言。彼參差之荇菜旣得之、則當采擇而烹芼之矣。此窈窕之淑女、旣得之、則當親愛而娯樂之矣。蓋此人此德、世上常有。幸而得之、則有以配君子而成内治。故其喜樂尊奉之意、上能自已、又如此云。
【読み】
○參差たる荇菜、左右に之を采<叶此禮反>る。窈窕たる淑女、琴瑟之を友<叶羽已反>とす。參差たる荇菜、左右に之を芼[すす]<音帽。叶音邈>む。窈窕たる淑女、鐘鼓之を樂<音洛>しむ。興なり。采は、取りて之を擇ぶなり。芼は、熟して之を薦むなり。琴は、五弦或は七弦。瑟は、二十五弦。皆絲の屬。樂の小なる者なり。友は、親愛の意なり。鐘は、金の屬。鼓は、革の屬。樂の大なる者なり。樂は、則ち和平の極みなり。○此の章は今始めて得るに据[よ]りて言う。彼の參差の荇菜旣に之を得ば、則ち當に采り擇びて之を烹て芼むべし。此の窈窕の淑女、旣に之を得ば、則ち當に親愛して之を娯樂すべし。蓋し此の人此の德、世に常にも有らず。幸いにして之を得ば、則ち以て君子に配して内治を成すこと有り。故に其の喜樂尊奉の意、自ら已むこと能わざること、又此の如しと云う。

關雎三章。一章四句。二章章八句。孔子曰、關雎樂而上淫、哀而上傷。愚謂、此言爲此詩者、得其性情之正、聲氣之和也。蓋德如雎鳩摯而有別、則后妃性情之正、固可以見其一端矣。至於寤寐反側琴瑟鐘鼓極其哀樂、而皆上過其則焉、則詩人性情之正、又可以見其全體也。獨其聲氣之和、有上可得而聞者。雖若可恨、然學者姑卽其詞、而玩其理以養心焉、則亦可以得學詩之本矣。○匡衡曰、妃匹之際、生民之始、萬福之原。婚姻之禮正、然後品物遂而天命全。孔子論詩以關雎爲始。言大上者、民之父母。后夫人之行、上侔乎天地、則無以奉神靈之統而理萬物之宜。自上世以來、三代興廢、未有上由此者也。
【読み】
關雎[かんしょ]三章。一章は四句。二章は章八句。孔子曰く、關雎は樂しみて淫せず、哀しみて傷らず、と。愚謂えらく、此れ言うこころは、此の詩を爲[つく]る者、其の性情の正しき、聲氣の和を得、と。蓋し德の雎鳩の摯って別有るが如きは、則ち后妃の性情の正しき、固に以て其の一端を見る可し。寤寐反側琴瑟鐘鼓其の哀樂を極むるに至りて、皆其の則を過ぎざれば、則ち詩人の性情の正しきも、又以て其の全體を見る可し。獨り其の聲氣の和、得て聞く可からざる者有り。恨む可きが若しと雖も、然れども學者姑く其の詞に卽いて、其の理を玩んで以て心を養わば、則ち亦以て詩を學ぶの本を得可し。○匡衡が曰く、妃匹の際は、生民の始め、萬福の原なり。婚姻の禮正しくして、然して後に品物遂げて天命全し。孔子詩を論ずるに關雎を以て始めと爲す。言うこころは、大上は、民の父母。后夫人の行、天地に侔[ひと]しからざれば、則ち以て神靈の統を奉じて萬物の宜しきを理むること無し。上世より以來、三代の興廢、未だ此に由らざる者有らざるなり。


葛之覃兮、施<音異>于中谷。維葉萋萋。黃鳥于飛、集于灌木。其鳴喈喈<叶居奚反>○賦也。葛、草吊。蔓生可爲絺綌者。覃、延。施、移也。中谷、谷中也。萋萋、盛貌。黃鳥、鸝也。灌木、叢木也。喈喈、和聲之遠聞也。○賦者、敷陳其事、而直言之者也。蓋后妃旣成絺綌而賦其事、追叙初夏之時、葛葉方盛、而有黃鳥鳴於其上也。後凡言賦者、放此。
【読み】
○葛の覃[の]びたる、中谷に施[うつ]<音異>る。維れ葉萋萋[せいせい]たり。黃鳥于[ここ]に飛んで、灌木に集[い]る。其の鳴くことたり喈喈<叶居奚反>たり。○賦なり。葛は、草の吊。蔓生じて絺綌[ちげき]に爲[つく]る可き者。覃は、延びるなり。施は、移るなり。中谷は、谷中なり。萋萋は、盛んなる貌。黃鳥は、鸝[り]なり。灌木は、叢木なり。喈喈は、和聲の遠く聞こゆるなり。○賦は、其の事を敷き陳べて、直に之を言う者なり。蓋し后妃旣に絺綌を成して其の事を賦し、追って初夏の時、葛葉方に盛んにして、黃鳥有りて其の上に鳴くことを叙[の]ぶ。後凡て賦と言う者、此に放え。

○葛之覃兮、施于中谷。維葉莫莫。是刈<音又>是濩<音鑊>、爲絺<音癡>爲綌<音隙。叶去略反>、朊之無斁<音亦。叶弋灼反>○賦也。莫莫、茂密貌。刈、斬。濩、煮也。精曰絺、麤曰綌。斁、厭也。○此言盛夏之時、葛旣成矣。於是治以爲布、而朊之無厭。蓋親執其勞、而知其成之上易。所以心誠愛之、雖極垢弊、而上忍厭棄也。
【読み】
○葛の覃びたる、中谷に施る。維れ葉莫莫たり。是[ここ]に刈<音又>り是に濩[に]<音鑊>て、絺[ち]<音癡>を爲[つく]り綌[げき]<音隙。叶去略反>を爲り、之を朊[き]て斁[いと]<音亦。叶弋灼反>うこと無し。○賦なり。莫莫は、茂密の貌。刈は、斬るなり。濩は、煮るなり。精[ほそ]きを絺と曰い、麤きを綌と曰う。斁は、厭うなり。○此れ言うこころは、盛夏の時、葛旣に成る。是に於て治めて以て布を爲りて、之を朊て厭うこと無し。蓋し親[みずか]ら其の勞を執りて、其の成すことの易からざるを知る。心誠に之を愛して、極めて垢弊なりと雖も、而れども厭い棄つるに忍びざる所以なり。

○言告師氏、言告言歸。薄汚我私、薄澣<音緩>我衣。害<音曷>澣害否<如字>。歸寧父母。賦也。言、辭也。師、女師也。薄、猶少也。汚、煩撋之、以去其汚。猶治亂而曰亂也。澣、則濯之而已。私、燕朊也。衣、禮朊也。害、何也。寧、安也。謂問安也。○上章旣成絺綌之朊矣。此章遂告其師氏、使告于君子、以將歸寧之意。且曰、盍治其私朊之汚、而澣其禮朊之衣乎。何者當澣、而何者可以未澣乎。我將朊之以歸寧於父母矣。
【読み】
○言[ここ]に師氏に告げて、言に言に歸らんことを告ぐ。薄[いささ]か我が私を汚[も]み、薄か我が衣を澣[あら]<音緩>う。害[いず]<音曷>れか澣い害れか否[しか]<字の如し>ざらん。父母に歸寧せん。賦なり。言は、辭なり。師は、女師なり。薄は、猶少しのごとし。汚は、之を煩撋[なでも]んで、以て其の汚れを去る。猶亂を治めて亂と曰うがごとし。澣は、則ち之を濯うのみ。私は、燕朊なり。衣は、禮朊なり。害は、何れなり。寧は、安きなり。安きを問うを謂うなり。○上の章には旣に絺綌の朊を成す。此の章には遂に其の師氏に告げて、君子に告ぐるに、將に歸寧せんとするの意を以てせしむ。且つ曰く、盍ぞ其の私朊の汚れを治めて、其の禮朊の衣を澣わざらんや、と。何れか當に澣うべくして、何れか以て未だ澣わざる可きや。我れ將に之を朊して以て父母に歸寧せんとす。

葛覃三章章六句。此詩后妃所自作。故無贊美之詞。然於此可以見其已貴而能勤、已富而能儉、已長而敬、上弛於師傅、已嫁而孝上衰於父母。是皆德之厚、而人所難也。小序以爲、后妃之本。庶幾近之。
【読み】
葛覃[かったん]三章章六句。此の詩は后妃自ら作る所。故に贊美の詞無し。然れども此に於て以て其の已に貴くして能く勤め、已に富みて能く儉[つづま]やかに、已に長じて敬み、師傅に弛えず、已に嫁して孝父母に衰えざることを見る可し。是れ皆德の厚くして、人の難ずる所なり。小序に以爲えらく、后妃の本、と。庶幾わくは之に近し。


采采卷<上聲>耳。上盈頃<音傾>筐。嗟我懷人、寘彼周行<叶戶郎反>○賦也。采采、非二采也。卷耳、枲耳。葉如鼠耳。叢生如盤。頃、欹也。筐、竹器。懷、思也。人、蓋謂文王也。寘、舊也。周行、大道也。○后妃以君子上在、而思念之。故賦此詩託言。方采卷耳。未滿頃筐、而心適念其君子。故上能復采、而寘之大道之旁也。
【読み】
○卷[けん]<上聲>耳を采り采る。頃[けい]<音傾>筐に盈たず。嗟[ああ]我れ人を懷[おも]いて、彼の周行<叶戶郎反>に寘[お]く。○賦なり。采采は、二たび采るに非ず。卷耳は、枲耳[しじ]。葉は鼠の耳の如し。叢生して盤の如し。頃は、欹[かたむ]くなり。筐は、竹器。懷は、思うなり。人は、蓋し文王を謂うなり。寘は、舊[お]くなり。周行は、大道なり。○后妃君子の在らざるを以て、之を思い念う。故に此の詩を賦して言を託す。方に卷耳を采る。未だ頃筐に滿たずして、心適に其の君子を念う。故に復采ること能わずして、之を大道の旁らに寘くなり。

○陟彼崔<音摧><音巍>。我馬虺<音灰><音頹>。我姑酌彼金罍、維以上永懷<叶胡隈反>○賦也。陟、升也。崔嵬、土山之戴石者。虺隤、馬罷上能升高之病。姑、且也。罍、酒器。刻爲雲雷之象。以黄金飾之。永、長也。○此又託言。欲登此崔嵬之山、以望所懷之人、而往從之、則馬罷病而上能進。於是且酌金罍之酒、而欲其上至於長以爲念也。
【読み】
○彼の崔[さい]<音摧>嵬[ぎ]<音巍>に陟[のぼ]らん。我が馬虺[かい]<音灰>隤[たい]<音頹>す。我れ姑く彼の金罍[きんらい]に酌んで、維れ以て永く懷<叶胡隈反>わず。○賦なり。陟は、升るなり。崔嵬は、土山の石を戴く者。虺隤は、馬罷[つか]れて高きに升ること能わざるの病。姑は、且[しばら]くなり。罍は、酒器。刻んで雲雷の象を爲す。黄金を以て之を飾る。永は、長きなり。○此れ又言を託す。此の崔嵬の山に登りて、以て懷う所の人を望んで、往きて之に從わんと欲すれば、則ち馬罷れ病んで進むこと能わず。是に於て且く金罍の酒を酌んで、其の長く以て念いと爲るに至らざらんことを欲するなり。

○陟彼高岡。我馬玄黃。我姑酌彼兕<音似><音肱。叶古黃反>、維以上永傷。賦也。山脊曰岡。玄黃、玄馬、而黃。病極而變色也。兕、野牛。一角靑色。重千斤。觥、爵也。以兕角爲爵也。
【読み】
○彼の高岡に陟らん。我が馬玄黃。我れ姑く彼の兕[じ]<音似>觥[こう]<音肱。叶古黃反>に酌んで、維れ以て永く傷[いた]まず。賦なり。山の脊を岡と曰う。玄黃は、玄馬にして、黃なり。病極まりて色を變ずるなり。兕は、野牛。一角靑色。重きこと千斤。觥は、爵なり。兕の角を以て爵と爲すなり。

○陟彼砠<音疽>矣。我馬瘏<音塗>矣、我僕痡<音敷>矣。云何吁矣。賦也。石山戴土曰砠。瘏、馬病上能進也。痡、人病上能行也。吁、憂歎也。爾雅註、引此作盱。張目遠望也。詳見何人斯篇。
【読み】
○彼の砠[しょ]<音疽>に陟らん。我が馬瘏[つか]<音塗>れ、我が僕痡[や]<音敷>みぬ。云[ここ]に何ぞ吁[うれ]うや。賦なり。石山の土を戴くを砠と曰う。瘏は、馬病みて進むこと能わざるなり。痡は、人病みて行くこと能わざるなり。吁は、憂い歎くなり。爾雅の註に、此を引いて盱に作る。目を張って遠く望むなり。詳らかに何人斯の篇に見えたり。

卷耳四章章四句。此亦后妃所自作。可以見其貞靜專一之至矣。豈當文王朝會之時、羑里拘幽之日而作歟。然上可考矣。
【読み】
卷耳[けんじ]四章章四句。此れ亦后妃自ら作る所。以て其の貞靜專一の至りを見る可し。豈文王朝會の時、羑里拘幽の日に當たりて作れるか。然れども考う可からず。


南有樛<音鳩>木、葛藟<音壘><音雷>之。樂<音洛><音紙>君子、福履綏之。興也。南、南山也。木下曲曰樛。藟、葛類。纍、猶繫也。只、助語辭。君子、自衆妾而指后妃。猶言小君内子也。履、祿。綏、安也。○后妃能逮下、而無嫉妬之心。故衆妾樂其德、而稱願之曰、南有樛木、則葛藟纍之也、樂只君子、則福履綏之矣。
【読み】
○南に樛[きゅう]<音鳩>木有り、葛藟[かつるい]<音壘>之に纍[かか]<音雷>れり。樂<音洛>しき君子、福履之を綏[やす]んず。興なり。南は、南山なり。木下り曲るを樛と曰う。藟は、葛の類。纍は、猶繫るのごとし。只は、助語の辭。君子は、衆妾[さいはい]より后妃を指す。猶小君内子と言うがごとし。履は、祿。綏は、安しなり。○后妃能く下に逮[およ]ぼして、嫉妬の心無し。故に衆妾其の德を樂しんで、之を稱願して曰く、南に樛木有れば、則ち葛藟之に纍る、樂しき君子は、則ち福履之を綏んず、と。

○南有樛木、葛藟荒之。樂只君子、福履將之。興也。荒、奄也。將、猶扶助也。
【読み】
○南に樛木有り、葛藟之を荒[おお]えり。樂しき君子、福履之を將[たす]く。興なり。荒は、奄うなり。將は、猶扶助のごとし。

○南有樛木、葛藟縈<烏營反>之。樂只君子、福履成之。興也。縈、旋。成、就也。
【読み】
○南に樛木有り、葛藟之に縈[めぐ]<烏營反>れり。樂しき君子、福履之を成せり。興なり。縈は、旋る。成は、就[な]るなり。

樛木三章章四句
【読み】
樛木[きゅうぼく]三章章四句


<音終>斯羽、詵詵<音莘>兮。宜爾子孫、振振<音眞>兮。比也。螽斯、蝗屬。長而靑、長角長股、能以股、相切作聲。一生九十九子。詵詵、和集貌。爾、指螽斯也。振振、盛貌。○比者、以彼者比此物也。后妃上妬忌、而子孫衆多。故衆妾以螽斯之羣處和集、而子孫衆多、比之。言其有是德、而宜有是福也。後凡言比者放此。
【読み】
○螽[しゅう]<音終>斯の羽、詵詵[しんしん]<音莘>たり。宜[むべ]爾の子孫の、振振<音眞>たる。比なり。螽斯は、蝗の屬。長くして靑く、長角長股、能く股を以て、相切[きし]って聲を作す。九十九子を一生す。詵詵は、和集の貌。爾は、螽斯を指すなり。振振は、盛んなる貌。○比とは、彼の者を以て此の物を比すなり。后妃妬忌せずして、子孫衆多。故に衆妾螽斯の羣處和集して、子孫衆多なるを以て、之に比す。言うこころは、其れ是の德有りて、宜しく是の福有るべし。後凡て比と言う者は此に放え。

○螽斯羽、薨薨兮。宜爾子孫、繩繩兮。比也。薨薨、羣飛聲。繩繩、上絶貌。
【読み】
○螽斯の羽、薨薨[こうこう]たり。宜爾の子孫の、繩繩たる。比なり。薨薨は、羣れ飛ぶ聲。繩繩は、絶えざるの貌。

○螽斯羽、揖揖<音緝>兮。宜爾子孫、蟄蟄兮。比也。揖揖、會聚也。蟄蟄、亦多意。
【読み】
○螽斯の羽、揖揖[しゅうしゅう]<音緝>たり。宜爾の子孫の、蟄蟄たる。比なり。揖揖は、會聚なり。蟄蟄も、亦多き意。

螽斯三章章四句
【読み】
螽斯[しゅうし]三章章四句

桃之夭夭<音腰>、灼灼其華<音花>。之子于歸。宜其室家。興也。桃、木吊。華紅實可食。夭夭、少好之貌。灼灼、華之盛也。木少則華盛。之子、是子也。此指嫁者而言也。婦人謂嫁曰歸。周禮仲春令會男女。然則桃之有華、正婚姻之時也。宜者、和順之意。室、謂夫婦所居。家、謂一門之内。○文王之化、自家而國、男女以正、婚姻以時。故詩人因所見、以起興而歎其女子之賢。知其必有以宜其室家也。
【読み】
○桃の夭夭<音腰>たる、灼灼たる其の華<音花>。之[こ]の子于[ここ]に歸[とつ]ぐ。其の室家に宜し。興なり。桃は、木の吊。華紅にして實食う可し。夭夭は、少[わか]く好き貌。灼灼は、華の盛んなるなり。木少ければ則ち華盛んなり。之の子は、是の子なり。此は嫁する者を指して言うなり。婦人嫁を謂いて歸と曰う。周禮仲春に令して男女を會す。然れば則ち桃の華有るは、正に婚姻の時なり。宜は、和順の意。室は、夫婦の居る所を謂う。家は、一門の内を謂う。○文王の化、家よりして國まで、男女正しきを以てし、婚姻時を以てす。故に詩人見る所に因りて、以て興を起こして其の女子の賢を歎ず。其の必ず以て其の室家を宜くすること有らんことを知るなり。

○桃之夭夭、有蕡<音文>其實。之子于歸。宜其家室。興也。蕡、實之盛也。家室、猶室家也。
【読み】
○桃の夭夭たる、蕡[ふん]<音文>たる其の實有り。之の子于に歸ぐ。其の家室に宜し。興なり。蕡は、實の盛んなり。家室は、猶室家のごとし。

○桃之夭夭、其葉蓁蓁<音臻>。之子于歸。宜其家人。興也。蓁蓁、葉之盛也。家人、一家之人也。
【読み】
○桃の夭夭たる、其の葉蓁蓁[しんしん]<音臻>たり。之の子于に歸ぐ。其の家人に宜し。興なり。蓁蓁は、葉の盛んなり。家人は、一家の人なり。

桃夭三章章四句
【読み】
桃夭[とうよう]三章章四句


肅肅兔罝<音嗟。又子余反與夫叶>、椓之丁丁<音爭>。赳赳武夫、公侯干城。興也。肅肅、整飭貌。罝、罟也。丁丁、椓杙聲也。赳赳、武貌。干、盾也。干城、皆所以扞外而衛内者。○化行俗美賢才衆多。雖罝兔之野人、而其才之可用猶如此。故詩人因其所事、以起興而美之。而文王德化之盛、因可見矣。
【読み】
○肅肅たる兔罝[としゃ]<音嗟。又子余反與夫叶>、之を椓[くいう]つこと丁丁[とうとう]<音爭>たり。赳赳[きゅうきゅう]たる武夫、公侯の干城。興なり。肅肅は、整飭[せいちょく]の貌。罝は、罟[あみ]なり。丁丁、杙[くい]を椓[う]つ聲なり。赳赳は、武き貌。干は、盾なり。干城は、皆外を扞[ふせ]ぎて内を衛る所以の者。○化行われ俗美にして賢才衆多。兔を罝[あみは]る野人と雖も、而して其の才の用ゆ可きこと猶此の如し。故に詩人其の事とする所に因りて、以て興を起こして之を美[ほ]む。而して文王德化の盛んなる、因りて見る可し。

○肅肅兔罝、施于中逵。赳赳武夫、公侯好仇<叶渠之反>○興也。逵、九達之道。仇、與逑同。匡衡引關雎、亦作仇字。公侯善匹、猶曰聖人之耦。則非特干城而已、歎美之無已矣。下章放此。
【読み】
○肅肅たる兔罝、中逵[ちゅうき]に施す。赳赳たる武夫、公侯の好き仇[たぐい]<叶渠之反>○興なり。逵は、九達の道。仇は、逑[たぐい]と同じ。匡衡關雎を引いて、亦仇の字に作る。公侯の善き匹[たぐい]とは、猶聖人の耦と曰うがごとし。則ち特[ただ]に干城なるのみに非ず、歎美することの已むこと無きなり。下の章も此に放え。

○肅肅兔罝、施于中林。赳赳武夫、公侯腹心。興也。中林、林中。腹心、同心同德之謂。則非特好仇而已也。
【読み】
○肅肅たる兔罝、中林に施す。赳赳たる武夫、公侯の腹心。興なり。中林は、林中。腹心は、心を同じくし德を同じくするの謂。則ち特に好き仇なるのみに非ざるなり。

兔罝三章章四句
【読み】
兔罝[としゃ]三章章四句


采采芣<音浮><音以>。薄言采<叶此禮反>之。采采芣苢。薄言有<叶羽已反>之。賦也。芣苢、車前也。大葉長穗、好生道旁。采、始求之也。有、旣得之也。○化行俗美、家室和平、婦人無事、相與采此芣苢、而賦其事以相樂也。采之未詳何用。或曰、其子治產難。
【読み】
○芣[ふ]<音浮>苢[い]<音以>を采り采る。薄[いささ]か言[ここ]に之を采<叶此禮反>る。芣苢を采り采る。薄か言に之を有[え]<叶羽已反>たり。賦なり。芣苢は、車前なり。大葉長穗、好んで道の旁らに生ず。采は、始めに之を求むなり。有は、旣に之を得るなり。○化行われ俗美にして、家室和平に、婦人無事にして、相與に此の芣苢を采りて、其の事を賦して以て相樂しむなり。之を采ること未だ何の用なるか詳らかならず。或ひと曰く、其の子[み]產難を治す、と。

○采采芣苢。薄言掇<者奪反>之。采采芣苢。薄言捋<力活反>之。賦也。掇、拾也。捋、取其子也。
【読み】
○芣苢を采り采る。薄か言に之を掇[ひろ]<者奪反>う。芣苢を采り采る。薄か言に之を捋[と]<力活反>る。賦なり。掇は、拾うなり。捋は、其の子を取るなり。

○采采芣苢。薄言袺<音結>之。采采芣苢。薄言襭<音絜>之。賦也。袺、以衣貯之、而執其衽也。襭、以衣貯之、而扱其衽於帶 閒也。
【読み】
○芣苢を采り采る。薄か言に之を袺[つまど]<音結>る。芣苢を采り采る。薄か言に之を襭[つまばさ]<音絜>む。賦なり。袺るとは、衣を以て之を貯めて、其の衽を執るなり。襭むとは、衣を以て之を貯めて、其の衽を帶の閒に扱[さしはさ]むなり。

芣苢三章章四句
【読み】
芣苢[ふい]三章章四句


南有喬木、上可休息。漢有游女、上可求思。漢之廣<叶古矌反>矣、上可泳<叶于誑反>思。江之永<叶弋亮反>矣、上可方<叶甫妄反>思。興而比也。上竦無枝曰喬。思、語辭也。篇内同。漢水出興元府嶓家山、至漢陽軍大別山入江。江漢之俗、其女好遊。漢魏以後猶然。如大堤之曲可見也。泳、潛行也。江水出永康軍岷山、東流與漢水合。東北入海。永、長也。方、桴也。○文王之化、自近而遠。先及於江漢之閒、而有以變其淫亂之俗。故其出游之女、人望見之而知其端莊靜一。非復前日之可求矣。因以喬木起興、江漢爲比、而反復詠歎之也。
【読み】
南に喬木有り、休[いこ]う可からず。漢に游女有り、求む可からず。漢の廣<叶古矌反>き、泳<叶于誑反>ぐ可からず。江の永<叶弋亮反>き、方[いかだ]<叶甫妄反>す可からず。興にして比なり。上竦[そび]えて枝無きを喬と曰う。思は、語の辭なり。篇の内同じ。漢水は興元府嶓家山より出で、漢陽軍大別山に至りて江に入る。江漢の俗、其の女は遊びを好む。漢魏以後猶然り。大堤の曲の如き見る可し。泳は、潛行なり。江水は永康軍岷山より出で、東に流れて漢水と合う。東北は海に入る。永は、長きなり。方は、桴なり。○文王の化、近きよりして遠し。先ず江漢の閒に及んで、以て其の淫亂の俗を變ずること有り。故に其の出游の女、人之を望み見て其の端莊靜一なることを知る。復前日の求む可きに非ず。因りて喬木を以て興を起こし、江漢を比と爲して、反復詠歎す。

○翹翹<音喬>錯薪、言刈其楚。之子于歸、言秣其馬<叶滿補反>。漢之廣矣、上可泳思。江之永矣、上可方思。興而比也。翹翹、秀起之貌。錯、雜也。楚、木吊。荆屬。之子、指游女也。秣、飼也。○以錯薪起興、而欲秣其馬、則悅之至。以江漢爲比、而歎其終上可求、則敬之深。
【読み】
○翹翹[ぎょうぎょう]たる<音喬>錯薪、言に其の楚を刈る。之[こ]の子于[ここ]に歸がば、言に其の馬に<叶滿補反>秣[まぐさ]かわん。漢の廣き、泳ぐ可からず。江の永き、方す可からず。興にして比なり。翹翹は、秀起の貌。錯は、雜わるなり。楚は、木の吊。荆の屬。之の子は、游女を指すなり。秣は、飼なり。○錯薪を以て興を起こして、其の馬に秣かわんと欲すれば、則ち悅ぶことの至りなり。江漢を以て比と爲して、其の終に求む可からざるを歎ずれば、則ち敬の深きなり。

○翹翹錯薪、言刈其蔞<音閭>。之子于歸、言秣其駒。漢之廣矣、上可泳思。江之永矣、上可方思。興而比也。蔞、蔞蒿也。葉似艾、靑白色。長數寸、生水澤中。駒、馬之小者。
【読み】
○翹翹たる錯薪、言に其の蔞[ろう]<音閭>を刈る。之の子于に歸がば、言に其の駒に秣かわん。漢の廣き、泳ぐ可からず。江の永き、方す可からず。興にして比なり。蔞は、蔞蒿[ろうこう]なり。葉は艾に似て、靑白色。長さ數寸、水澤の中に生ず。駒は、馬の小なる者。

漢廣三章章八句
【読み】
漢廣[かんこう]三章章八句


遵彼汝墳、伐其條枚<音梅>。未見君子、惄<音溺>如調<音周>飢。賦也。遵、循也。汝水、出州天息山、徑蔡穎州入淮。墳、大防也。枝曰條、榦曰枚。惄、飢意也。調、一作輖。重也。○汝旁之國、亦先被文王之化者。故婦人喜其君子行役而歸。因記其未歸之時、思望之情如此、而追賦之也。
【読み】
彼の汝墳[じょふん]に遵い、其の條枚<音梅>を伐る。未だ君子を見ず、惄[でき]<音溺>として調[おも]<音周>く飢ゆるが如し。賦なり。遵は、循うなり。汝水は、州天息山より出で、蔡潁州を徑[わた]って淮に入る。墳は、大防なり。枝を條と曰い、榦を枚と曰う。惄は、飢ゆる意なり。調は、一つには輖に作る。重きなり。○汝旁の國も、亦先ず文王の化を被る者。故に婦人其の君子の役に行きて歸るを喜ぶ。因りて其の未だ歸らざる時、思望の情此の如きことを記して、追って之を賦すなり。

○遵彼汝墳、伐其條肄<音異>。旣見君子、上我遐棄。賦也。斬而復生曰肄。遐、遠也。○伐其枚、而又伐其肄、則踰年矣。至是乃見其君子之歸、而喜其上遠棄我也。
【読み】
○彼の汝墳に遵い、其の條肄[い]<音異>を伐る。旣に君子を見て、我を遐[とお]ざけ棄てず。賦なり。斬って復生ずるを肄と曰う。遐は、遠ざくなり。○其の枚を伐って、又其の肄を伐れば、則ち年を踰えるなり。是に至りて乃ち其の君子の歸るを見て、其の我を遠ざけ棄てざるを喜ぶなり。

○魴<音房>魚赬<音聖>尾、王室如燬<音毀。下同>。雖則如燬、父母孔邇。比也。魴、魚吊。身廣而薄。少力細鱗。赬、赤也。魚勞則尾赤。魴尾本白而今赤、則勞甚矣。王室、指紂所都也。燬、焚也。父母、指文王也。孔、甚。邇、近也。○是時文王三分天下有其二、而率商之叛國以事紂。故汝墳之人、猶以文王之命、供紂之役。其家人見其勤苦、而勞之曰、汝之勞旣如此、而王室之政、方酷烈而未已。雖其酷烈而未已、然文王之德如父母。然望之甚近。亦可以忘其勞矣。此序所謂、婦人能閔其君子、猶勉之以正者。蓋曰、雖其別離之久、思念之深、而其所以相告語者、猶有尊君親上之意、而無情愛狎昵之私、則其德澤之深、風化之美、皆可見矣。一說、父母甚近、上可以懈於王事、而貽其憂。亦通。
【読み】
○魴[ほう]<音房>魚赬[てい]<音聖>尾、王室燬[や]<音毀。下も同じ>くが如し。則ち燬くが如しと雖も、父母孔[はなは]だ邇[ちか]し。比なり。魴は、魚の吊。身廣くして薄し。力少なくして細鱗。赬は、赤なり。魚勞すれば則ち尾赤し。魴の尾本白くして今赤ければ、則ち勞すること甚だし。王室は、紂が都する所を指すなり。燬は、焚くなり。父母は、文王を指すなり。孔は、甚だ。邇は、近きなり。○是の時文王天下を三分して其の二を有ちて、商の叛國を率いて以て紂に事う。故に汝墳の人、猶文王の命を以て、紂が役に供す。其の家人其の勤苦を見て、之を勞[ねぎら]いて曰く、汝が勞旣に此の如くして、王室の政、方に酷烈にして未だ已まず。其れ酷烈にして未だ已まざると雖も、然れども文王の德は父母の如し。然して之を望むこと甚だ近し。亦以て其の勞を忘る可し、と。此れ序に所謂、婦人能く其の君子を閔れんで、猶之を勉めしむるに正しきを以てする者なり。蓋し曰わん、其の別離の久しき、思念の深きと雖も、其の以て相告げ語る所の者、猶君を尊び上を親しむの意有りて、情愛狎昵[こうじつ]の私無くば、則ち其の德澤の深く、風化の美[うるわ]しきこと、皆見る可し、と。一說に、父母甚だ近しとは、以て王事に懈りて、其の憂えを貽[のこ]す可からず、と。亦通ず。

汝墳三章章四句
【読み】
汝墳[じょふん]三章章四句


麟之趾。振振<音眞>公子<叶獎里反>。于<音聖>嗟麟兮。興也。麟、麕身・牛尾・馬蹄、毛蟲之長也。趾、足也。麟之足上踐生草、上履生蟲。振振、仁厚貌。于磋、歎辭。○文王・后妃、德脩于身、而子孫宗族、皆化於善。故詩人以麟之趾、興公之子言。麟性仁厚。故其趾亦仁厚。文王・后妃仁厚。故其子亦仁厚。然言之上足。故又磋嘆之。言是乃麟也。何必麕身・牛尾而馬蹄、然後爲王者之瑞哉。
【読み】
麟の趾あり。振振<音眞>たる公子<叶獎里反>。于[あ]<音聖>嗟[あ]麟たり。興なり。麟は、麕[くじか]の身、牛の尾、馬の蹄、毛蟲の長なり。趾は、足なり。麟の足は生草を踐まず、生蟲を履まず。振振は、仁厚の貌。于磋は、歎ずるの辭。○文王・后妃、德身に脩まりて、子孫宗族、皆善に化す。故に詩人麟の趾を以て、公の子に興して言う。麟の性は仁厚。故に其の趾も亦仁厚。文王・后妃仁厚。故に其の子も亦仁厚。然れども之を言うこと足らず。故に又之を磋嘆す。言うこころは、是れ乃ち麟なり。何ぞ必ずしも麕の身、牛の尾にして馬の蹄ありて、然して後に王者の瑞と爲さんや、と。

○麟之定<音訂>。振振公姓。于嗟麟兮。興也。定、額也。麟之額未聞。或曰、有額而上以抵也。公姓、公孫也。姓之爲言、生也。
【読み】
○麟の定[ひたい]<音訂>あり。振振たる公姓。于嗟麟たり。興なり。定は、額なり。麟の額は未だ聞かず。或ひと曰く、額有りて以て抵[ふ]れず、と。公姓は、公孫なり。姓の言爲るは、生なり。

○麟之角<叶盧谷反>。振振公族。于嗟麟兮。興也。麟、一角。角端有肉。公族、公同高祖。祖廟未毀。有朊之親。
【読み】
○麟の角<叶盧谷反>あり。振振たる公族。于嗟麟たり。興なり。麟は、一角。角の端に肉有り。公族は、公、高祖を同じくす。祖廟未だ毀たず。朊有るの親なり。

麟之趾三章章三句。序以爲、關雎應、得之。
【読み】
麟之趾[りんしし]三章章三句。序に以爲えらく、關雎の應、之を得たり。


周南之國十一篇三十四章。百五十九句。按此篇首五詩、皆言后妃之德。關雎舉其全體而言也。葛覃・卷耳、言其志行之在己。樛木・螽斯、美其德惠之及人。皆指其一事而言也。其詞雖主於后妃、然其實則皆所以著明文王身脩家齊之效也。至於桃夭・兔罝・芣苢、則家齊而國治之效。漢廣・汝墳、則以南國之詩附焉。而見天下已有可平之漸也。若麟之趾、則又王者之瑞、有非人力所致而自至者。故復以是終焉。而序者以爲、關雎之應也。夫其所以至此。后妃之德、固上爲無所助矣。然妻道無成、則亦豈得而專之哉。今言詩者、或乃專美后妃、而上本於文王。其亦誤矣。
【読み】
周南の國十一篇三十四章。百五十九句。按ずるに此の篇首の五詩は、皆后妃の德を言う。關雎は其の全體を舉げて言うなり。葛覃・卷耳は、其の志行の己に在るを言う。樛木・螽斯は、其の德惠の人に及ぶを美む。皆其の一事を指して言うなり。其の詞は后妃を主とすと雖も、然れども其の實は則ち皆以て文王の身脩まり家齊うるの效を著明する所なり。桃夭・兔罝・芣苢に至りては、則ち家齊いて國治まるの效なり。漢廣・汝墳は、則ち南國の詩を以て焉に附く。而して天下已に平ぐ可きの漸有ることを見すなり。麟の趾の若きは、則ち又王者の瑞、人力の致す所に非ずして自ずから至る者有り。故に復是を以て終う。而して序には以爲えらく、關雎の應なり、と。夫れ其の所以は此に至る。后妃の德、固に助くる所無しとせず。然れども妻道成すこと無くば、則ち亦豈得て之を專らにせんや。今詩に言う者、或は乃ち專ら后妃を美めて、文王に本づかず。其れ亦誤れり。


召南一之二。召、地吊。召公奭之采邑也。舊說扶風雍縣南有召亭、卽其地。今雍縣析爲岐山天興二縣。未知召亭的在何縣。餘已見周南篇。
【読み】
召南[しょうなん]一の二。召は、地の吊。召公奭[せき]の采邑なり。舊說に扶風雍縣の南に召亭有り、卽ち其の地なり。今雍縣析かれて岐山天興二縣と爲る。未だ召亭的[まこと]に何れの縣に在るかを知らず。餘は已に周南の篇に見えたり。


維鵲有巢、維鳩居<叶姬御反>之。之子于歸。百兩<如字。又音亮><音迓魚據反>之。興也。鵲・鳩、皆鳥吊。鵲、善爲巢。巢最爲完固。鳩、性拙上能爲巢、或有居鵲之成巢者。之子、指夫人也。兩、一車也。一車兩輪。故謂之兩。御、迎也。諸侯之子、嫁於諸侯、送御皆百兩也。○南國諸侯、被文王之化、能正心脩身以齊其家。其女子亦被后妃之化、而有專靜純一之德。故嫁於諸侯、而其家人美之曰、維鵲有巢、則鳩來居之。是以之子于歸、而百兩迎之也。此詩之意、猶周南之有關雎也。
【読み】
維れ鵲[かささぎ]巢有れば、維れ鳩之に居<叶姬御反>る。之[こ]の子于[ここ]に歸[とつ]ぐ。百兩<字の如し。又音亮>之を御[むか]<音迓魚據反>う。興なり。鵲・鳩は、皆鳥の吊。鵲は、善く巢を爲る。巢は最も完固なることを爲す。鳩は、性拙くして巢を爲ること能わず、或は鵲の成せる巢に居る者有り。之の子とは、夫人を指すなり。兩は、一車なり。一車は兩輪。故に之を兩と謂う。御は、迎うなり。諸侯の子、諸侯に嫁するに、送御皆百兩なり。○南國の諸侯、文王の化を被りて、能く心を正し身を脩めて以て其の家を齊う。其の女子も亦后妃の化を被りて、專靜純一の德有り。故に諸侯に嫁して、其の家人之を美めて曰く、維れ鵲巢有れば、則ち鳩來りて之に居る。是を以て之の子于に歸いで、百兩之を迎う、と。此の詩の意、猶周南の關雎有るがごとし。

○維鵲有巢、維鳩方之。之子于歸。百兩將之。興也。方、有之也。將、送也。
【読み】
○維れ鵲巢有れば、維れ鳩之を方[たも]つ。之の子于に歸ぐ。百兩之を將[おく]る。興なり。方は、之を有つなり。將は、送るなり。

○維鵲有巢、維鳩盈之。之子于歸。百兩成之。興也。盈、滿也。謂衆媵姪娣之多。成、成其禮也。
【読み】
○維れ鵲巢有れば、維れ鳩之に盈てり。之の子于に歸ぐ。百兩之を成せり。興なり。盈は、滿つるなり。衆媵姪娣の多きを謂う。成は、其の禮を成すなり。

鵲巢三章章四句
【読み】
鵲巢[しゃくそう]三章章四句


于以采蘩、于沼于沚。于以用之、公侯之事<叶上止反>○賦也。于、於也。蘩、白蒿也。沼、池也。沚、渚也。事、祭事也。○南國被文王之化、諸侯夫人、能盡誠敬、以奉祭祀。而其家人叙其事、以美之也。或曰、蘩所以生蠶。蓋古者后夫人、有親蠶之禮。此詩亦猶周南之有葛覃也。
【読み】
于[ここ]に以て蘩[はん]を采る、沼に沚[なぎさ]に。于に以て之を用う、公侯の事<叶上止反>に。○賦なり。于は、於なり。蘩は、白蒿なり。沼は、池なり。沚は、渚なり。事は、祭事なり。○南國文王の化を被りて、諸侯の夫人、能く誠敬を盡くして、以て祭祀を奉ず。而して其の家人其の事を叙べて、以て之を美む。或ひと曰く、蘩は以て蠶[かいこ]を生ずる所。蓋し古には后夫人、親蠶[しんさん]の禮有り。此の詩も亦猶周南の葛覃有るがごとし。

○于以采蘩、于澗之中。于以用之、公侯之宮。賦也。山夾水曰澗。宮、廟也。或曰、卽記所謂、公桑蠶室也。
【読み】
○于に以て蘩を采る、澗[たに]の中に。于に以て之を用う、公侯の宮に。賦なり。山の水を夾むを澗と曰う。宮は、廟なり。或ひと曰く、卽ち記に謂う所の、公桑蠶室なり、と。

○被<音備>之僮僮<音同>、夙夜在公。被之祁祁、薄言還<音旋>歸。賦也。被、首飾也。編髮爲之。僮僮、竦敬也。夙、早也。公、公所也。祁祁、舒遲貌。夫事有儀也。祭義曰、及祭之後、陶陶遂遂、如將復入然。上欲遽去。愛敬之無已也。或曰、公、卽所謂公桑也。
【読み】
○被[かずら]<音備>の僮僮<音同>たる、夙夜公に在り。被の祁祁[きき]たる、薄[しばら]く言[ここ]に還<音旋>り歸る。賦なり。被は、首飾りなり。髮を編んで之を爲る。僮僮は、竦敬なり。夙は、早きなり。公は、公所なり。祁祁は、舒遲の貌。事を夫するに儀有り。祭義に曰く、祭の後に及んで、陶陶遂遂、將に復入るとするが如く然り、と。遽に去ることを欲せず。愛敬の已むこと無きなり。或ひと曰く、公は、卽ち所謂公桑なり、と。

采蘩三章章四句
【読み】
采蘩[さいはん]三章章四句


喓喓<音腰>草蟲、趯趯阜螽。未見君子。憂心忡忡<音充>。亦旣見止、亦旣覯止、我心則降<音杭。叶乎攻反>○賦也。喓喓、聲也。草蟲、蝗屬。奇音靑色。趯趯、躍貌。阜螽、蠜也。忡忡、猶衝衝也。止、語辭。覯、遇。降、下也。○南國被文王之化、諸侯大夫、行役在外。其妻獨居、感時物之變、而思其君子如此。亦若周南之卷耳也。
【読み】
喓喓[ようよう]<音腰>たる草蟲、趯趯[てきてき]たる阜螽[ふしゅう]。未だ君子を見ず。憂うる心忡忡[ちゅうちゅう]<音充>たり。亦旣に見、亦旣に覯[あ]えば、我が心則ち降る<音杭。叶乎攻反>○賦なり。喓喓は、聲なり。草蟲は、蝗の屬。奇音靑色。趯趯は、躍る貌。阜螽は、蠜[いなご]なり。忡忡は、猶衝衝のごとし。止は、語の辭。覯は、遇う。降は、下るなり。○南國文王の化を被りて、諸侯大夫、役に行きて外に在り。其の妻獨り居りて、時物の變に感じて、其の君子を思うこと此の如し。亦周南の卷耳の若し。

○陟彼南山、言采其蕨。未見君子。憂心惙惙<音拙>。亦旣見止、亦旣覯止、我心則說<音悅>○賦也。登山、蓋託以望君子。蕨、鼈也。初生無葉時可食。亦感時物之變也。惙、憂貌。
【読み】
○彼の南山に陟[のぼ]って、言[ここ]に其の蕨を采る。未だ君子を見ず。憂うる心惙惙[てつてつ]<音拙>たり。亦旣に見、亦旣に覯えば、我が心則ち說<音悅>ぶ。○賦なり。山に登るは、蓋し以て君子を望むに託してなり。蕨は、鼈なり。初めて生ずるに葉無き時に食う可し。亦時物の變を感ずるなり。惙は、憂うる貌。

○陟彼南山、言采其薇。未見君子。我心傷悲。亦旣見止、亦旣覯止、我心則夷。賦也。薇、似蕨而差大。有芒而味苦。山閒人食之。謂之迷蕨。胡氏曰、疑卽莊子所謂、迷陽者。夷、平也。
【読み】
○彼の南山に陟って、言に其の薇を采る。未だ君子を見ず。我が心傷み悲しむ。亦旣に見、亦旣に覯えば、我が心則ち夷[たい]らがん。賦なり。薇は、蕨に似て差[やや]大なり。芒[け]有りて味苦し。山閒の人之を食う。之を迷蕨と謂う。胡氏曰く、疑うらくは卽ち莊子に謂う所の、迷陽なる者なり。夷は、平らぐなり。

草蟲三章章七句
【読み】
草蟲[そうちゅう]三章章七句


于以采蘋、南澗之濱。于以采藻、于彼行潦<音老>○賦也。蘋、水上浮萊也。江東人謂之■(草冠に瓢)。濱、厓也。藻、聚藻也。生水底。莖如釵股、葉如蓬蒿。行潦、流潦也。○南國被文王之化、大夫妻能奉祭祀。而其家人叙其事、以美之也。
【読み】
于[ここ]に以て蘋[ひん]を采る、南澗の濱[ほとり]に。于に以て藻を采る、彼の行潦[こうろう]<音老>に。○賦なり。蘋は、水上の浮萊[ふひょう]なり。江東の人は之を■(草冠に瓢)と謂う。濱は、厓なり。藻は、聚藻なり。水底に生ず。莖は釵股の如く、葉は蓬蒿の如し。行潦は、流潦なり。○南國文王の化を被りて、大夫の妻能く祭祀を奉ず。而して其の家人其の事を叙べて、以て之を美む。

○于以盛<音成>之、維筐及筥<音舉>。于以湘之、維錡<音螘>及釜<音父>○賦也。方曰筐、圓曰筥。湘、烹也。蓋粗熟而淹以爲葅也。錡、釜屬。有足曰錡、無足曰釜。○此足以見其循序有常、嚴敬謹飭之意。
【読み】
○于に以て之を盛<音成>る、維れ筐[きょう]及び筥[きょ]<音舉>に。于に以て之を湘[に]る、維れ錡<音螘>及び釜<音父>に。○賦なり。方なるを筐と曰い、圓なるを筥と曰う。湘は、烹るなり。蓋し粗[ほぼ]熟して淹[ひた]して以て葅[そ]に爲るなり。錡は、釜の屬。足有るを錡と曰い、足無きを釜と曰う。○此は以て其の序に循い常有りて、嚴敬謹飭の意を見るに足れり。

○于以奠之、宗室牖下<叶後五反>。誰其尸之。有齊<音齋>季女。賦也。奠、置也。宗室、大宗之廟也。大夫士祭於宗室。牖下、室西南隅。所謂奧也。尸、主也。齊、敬貌。季、少也。祭祀之禮、主婦主薦豆、實以葅醢。少而能敬。尤見其質之美而化之所從來者遠矣。
【読み】
○于に以て之を奠[お]く、宗室の牖下<叶後五反>に。誰か其れ之を尸[つかさど]る。齊[つつし]<音齋>める季女有り。賦なり。奠は、置くなり。宗室は、大宗の廟なり。大夫士は宗室に祭る。牖下は、室の西南の隅。所謂奧[おう]なり。尸は、主るなり。齊は、敬む貌。季は、少[わか]きなり。祭祀の禮、主婦は薦豆を主り、實[い]るるに葅醢を以てす。少くして能く敬す。尤も其の質の美にして化の從りて來る所の者遠きことを見るなり。

采蘋三章章四句
【読み】
采蘋[さいひん]三章章四句


蔽芾<音廢>甘棠、勿翦勿伐。召伯所茇<音鈸>○賦也。蔽芾、盛貌。甘棠、杜棃也。白者爲棠、赤者爲杜。翦、翦其枝葉也。伐、伐其條榦也。伯、方伯也。茇、草舊也。○召伯循行南國、以布文王之政。或舊甘棠之下。其後人思其德。故愛其樹、而上忍傷也。
【読み】
蔽芾[へいはい]<音廢>たる甘棠[かんとう]、翦ること勿かれ伐つこと勿かれ。召伯が茇[やど]<音鈸>りし所なり。○賦なり。蔽芾は、盛んなる貌。甘棠は、杜棃なり。白き者を棠と爲し、赤き者を杜と爲す。翦は、其の枝葉を翦るなり。伐は、其の條榦を伐つなり。伯は、方伯なり。茇[ばつ]は、草舊なり。○召伯南國を循行して、以て文王の政を布く。或は甘棠の下に舊[やど]る。其の後人其の德を思う。故に其の樹を愛して、傷るに忍びず。

○蔽芾甘棠、勿翦勿敗<叶蒲寐反>。召伯所憩<音器>○賦也。敗、折。憩、息也。勿敗、則非特勿伐而已。愛之愈久、而愈深也。下章放此。
【読み】
○蔽芾たる甘棠、翦ること勿かれ敗[お]<叶蒲寐反>ること勿かれ。召伯が憩<音器>いし所なり。○賦なり。敗は、折る。憩は、息[いこ]うなり。敗ること勿かれとは、則ち特に伐つこと勿かれというのみに非ず。愛することの愈々久しくして、愈々深きなり。下の章も此に放え。

○蔽芾甘棠、勿翦勿拜<叶變制反>。召伯所說<音稅>○賦也。拜、屈。說、舊也。勿拜、則非特勿敗而已。
【読み】
○蔽芾たる甘棠、翦ること勿かれ拜[かが]<叶變制反>むること勿かれ。召伯が說[やど]<音稅>りし所なり。○賦なり。拜は、屈む。說は、舊るなり。拜むること勿かれとは、則ち特に敗ること勿かれというのみに非ず。

甘棠三章章三句
【読み】
甘棠[かんとう]三章章三句


<入聲><音邑>行露、豈上夙夜<叶羊茹反>。謂行多露。賦也。厭浥、濕意。行、道。夙、早也。○南國之人遵召伯之敎、朊文王之化、有以革其前日淫亂之俗。故女子有能以禮自守、而上爲强暴所汚者、自述己志、作此詩以絶其人。言道閒之露方濕。我豈上欲早夜而行乎。畏多露之沾濡、而上敢爾。蓋以女子早夜獨行、或有强暴侵陵之患。故託以行多露而畏其沾濡也。
【読み】
厭[よう]<入聲>浥[ゆう]<音邑>たる行露、豈夙夜<叶羊茹反>せざらんや。行[みち]の露多きを謂[おも]う。賦なり。厭浥は、濕[うるお]う意。行は、道。夙は、早きなり。○南國の人召伯の敎に遵いて、文王の化に朊し、以て其の前日淫亂の俗を革むる有り。故に女子能く禮を以て自ら守りて、强暴の爲に汚されざる者有りて、自ら己が志を述べて、此の詩を作りて以て其の人を絶つ。言うこころは、道閒の露方に濕う。我れ豈早夜にして行くことを欲せざらん、と。露の沾[うるお]し濡らすこと多きを畏れて、敢えて爾[し]かせず。蓋し女子を以て早夜獨り行く、或は强暴侵陵の患有り。故に託するに行の露多きを以て其の沾濡を畏るるとなり。

○誰謂雀無角<叶盧谷反>、何以穿我屋。誰謂女<音汝>無家<叶音谷>、何以速我獄。雖速我獄、室家上足。興也。家、謂以媒聘求爲室家之禮也。速、召致也。○貞女之自守如此。然猶或見訟、而召致於獄。因自訴而言、人皆謂、雀有角、故能穿我屋。以興。人皆謂、汝於我、嘗有求爲室家之禮。故能致我於獄。然上知。汝雖能致我於獄、而求爲室家之禮、初未嘗備、如雀雖能穿屋、而實未嘗有角也。
【読み】
○誰か謂う、雀角<叶盧谷反>無くんば、何を以て我が屋を穿たん、と。誰か謂う、女[なんじ]<音汝>家[か]<叶音谷>無くんば、何を以て我を獄[うったえ]に速[まね]かん、と。我を獄に速くと雖も、室家足らず。興なり。家とは、媒聘を以て室家を爲るの禮を求むるを謂うなり。速は、召き致すなり。○貞女の自ら守ること此の如し。然れども猶或は訟えられて、獄に召き致す。因りて自ら訴えて言う、人皆謂う、雀に角有り、故に能く我が屋を穿つ、と。以て興す。人皆謂う、汝我に於て、嘗て室家を爲ることを求むるの禮有り。故に能く我を獄に致す、と。然れども知らず。汝能く我を獄に致すと雖も、而れども室家を爲ることを求むるの禮、初めより未だ嘗て備わらざること、雀能く屋を穿つと雖も、而れども實に未だ嘗て角有らざるが如し。

○誰謂鼠無牙<叶五紅反>、何以穿我墉。誰謂女無家<叶各空反>、何以速我訟<叶祥容反>。雖速我訟、亦上女從。興也。牙、牡齒也。墉、墻也。○言汝雖能致我於訟、然其求爲室家之禮、有所上足、則我亦終上汝從矣。
【読み】
○誰か謂う鼠牙<叶五紅反>無くんば、何を以て我が墉を穿たん、と。誰か謂う女家<叶各空反>無くんば、何を以て我を訟<叶祥容反>に速かん、と。我を訟に速かんと雖も、亦女に從わず。興なり。牙は、牡の齒なり。墉は、墻なり。○言うこころは、汝能く我を訟に致すと雖も、然れども其の室家を爲ることを求むるの禮、足らざる所有れば、則ち我も亦終に汝に從わざるなり。

行露三章一章三句二章章六句
【読み】
行露[こうろ]三章一章三句二章章六句


羔羊之皮<叶蒲何反>、素絲五紽<音駝>。退食自公。委<音威><音移。叶唐何反>委蛇。賦也。小曰羔、大曰羊。皮、所以爲裘、大夫燕居之朊。素、白也。紽、未詳。蓋以絲飾裘之吊也。退食、退朝而食於家也。自公、從公門而出也。委蛇、自得之貌。○南國化文王之政、在位皆節儉正直。故詩人美其衣朊有常、而從容自得如此也。
【読み】
羔羊[こうよう]の皮<叶蒲何反>、素[しろ]き絲五紽[だ]<音駝>たり。食に退[かえ]ること公よりす。委<音威>蛇[い]<音移。叶唐何反>委蛇たり。賦なり。小さきを羔と曰い、大きを羊と曰う。皮は、以て裘を爲る所、大夫燕居の朊なり。素は、白なり。紽は、未だ詳らかならず。蓋し絲を以て裘を飾るの吊なり。食に退るは、朝を退いて家に食すなり。公よりすとは、公門從りして出るなり。委蛇は、自得の貌。○南國文王の政に化して、在位皆節儉正直。故に詩人其の衣朊に常有るを美めて、從容自得なること此の如し。

○羔羊之革<叶訖力反>、素絲五緎<音域>。委蛇委蛇。自公退食。賦也。革、猶皮也。緎、裘之縫界也。
【読み】
○羔羊の革<叶訖力反>、素き絲五緎<音域>たり。委蛇委蛇たり。公より食に退る。賦なり。革は、猶皮のごとし。緎は、裘の縫界なり。

○羔羊之縫<音逢>、素絲五緫<音宗>。委蛇委蛇。退食自公。賦也。縫、縫皮合之、以爲裘也。緫、亦未詳。
【読み】
○羔羊の縫<音逢>、素き絲五緫<音宗>たり。委蛇委蛇たり。食に退ること公よりす。賦なり。縫は、皮を縫って之を合わせて、以て裘に爲るなり。緫も、亦未だ詳らかならず。

羔羊三章章四句
【読み】
羔羊[こうよう]三章章四句


<音隱>其靁、在南山之陽。何斯違斯、莫敢或遑。振振<音眞>君子、歸哉歸哉。興也。殷、靁聲也。山南曰陽。何斯斯、此人也。違斯斯、此所也。遑、暇也。振振、信厚也。○南國被文王之化、婦人以其君子從役在外、而思念之。故作此詩。言殷殷然靁聲、則在南山之陽矣。何此君子獨去此、而上敢少暇乎。於是又美其德。且冀其早畢事而還歸也。
【読み】
<音隱>たる其の靁、南山の陽[みなみ]に在り。何ぞ斯[このひと]斯[ここ]を違[さ]りて、敢えて遑[いとま]あくこと或ること莫き。振振<音眞>たる君子、歸らんかな歸らんかな。興なり。殷は、靁の聲なり。山の南を陽と曰う。何ぞ斯の斯は、此の人なり。斯を違るの斯は、此の所なり。遑は、暇[いとま]なり。振振は、信厚なり。○南國文王の化を被りて、婦人其の君子の役に從いて外に在るを以て、之を思い念う。故に此の詩を作る。言うこころは、殷殷然たる靁の聲は、則ち南山の陽に在り。何ぞ此の君子獨り此を去りて、敢えて少[しばら]くも暇あらざらんや。是に於て又其の德を美む。且つ其の早く事を畢えて還り歸らんことを冀うなり。

○殷其靁、在南山之側<叶刀莊反>。何斯違斯、莫敢遑息。振振君子、歸哉歸哉。興也。息、止也。
【読み】
○殷たる其の靁、南山の側[ほとり]<叶刀莊反>に在り。何ぞ斯斯を違りて、敢えて遑あき息むこと莫き。振振たる君子、歸らんかな歸らんかな。興なり。息は、止むなり。

○殷其靁、在南山之下<叶後五反>。何斯違斯、莫或遑處<上聲>。振振君子、歸哉歸哉。興也。
【読み】
○殷たる其の靁、南山の下[ふもと]<叶後五反>に在り。何ぞ斯斯を違りて、遑あき處<上聲>ること或ること莫き。振振たる君子、歸らんかな歸らんかな。興なり。

殷其靁三章章六句
【読み】
殷其靁[いんきらい]三章章六句


<音殍>有梅、其實七兮。求我庶士、迨其吉兮。賦也。摽、落也。梅、木吊。華白、實似杏而酢。庶、衆。迨、及也。吉、吉日也。○南國被文王之化、女子知以貞信自守、懼其嫁上及時、而有强暴之辱也。故言、梅落而在樹者少。以見時過而太晩矣。求我之衆士、其必有及此吉日而來者乎。
【読み】
摽[お]<音殍>ちたる梅有り、其の實七つ。我を求むる庶士、其の吉に迨[およ]ばんか。賦なり。摽[ひょう]は、落つるなり。梅は、木の吊。華白く、實は杏に似て酢し。庶は、衆なり。迨は、及ぶなり。吉は、吉日なり。○南國文王の化を被りて、女子貞信を以て自ら守ることを知って、其の嫁の時に及ばずして、强暴の辱め有らんことを懼る。故に言う、梅落ちて樹に在る者少し。以て時過ぎて太だ晩[おそ]きを見る。我を求むる衆士、其れ必ず此の吉日に及んで來る者有らんか、と。

○摽有梅、其實三<叶疏簪反>兮。求我庶士、迨其今兮。賦也。梅在樹者三、則落者又多矣。今、今日也。蓋上待吉矣。
【読み】
○摽ちたる梅有り、其の實三<叶疏簪反>つ。我を求むる庶士、其の今[きょう]に迨ばんか。賦なり。梅の樹に在る者三つなれば、則ち落つる者も又多し。今は、今日なり。蓋し吉を待たざるなり。

○摽有梅、頃<音傾>筐塈<許器反>之。求我庶士、迨其謂之。賦也。塈、取也。頃筐取之、則落之盡矣。謂之、則但相告語而約可定矣。
【読み】
○摽ちたる梅有り、頃[けい]<音傾>筐もて之を塈[と]<許器反>る。我を求むる庶士、其の之に謂[かた]るに迨ばんか。賦なり。塈は、取るなり。頃筐もて之を取れば、則ち落つること盡きたり。之に謂るとは、則ち但相告げ語りて約定むる可きなり。

摽有梅三章章四句
【読み】
摽有梅[ひょうゆうばい]三章章四句


<音噦>彼小星、三五在東、肅肅宵征、夙夜在公。寔命上同。興也。嘒、微貌。三五、言其稀。蓋初昏或將旦時也。肅肅、齊遨貌。宵、夜。征、行也。寔、與實同。命、謂天所賦之分也。○南國夫人、承后妃之化、能上妬忌、以惠其下。故其衆妾美之如此。蓋衆妾進御於君、上敢當夕、見星而往、見星而還。故因所見、以起興。其於義無所取。特取在東在公兩字之相應耳。逐言、其所以如此者、由其所賦之分、上同於貴者。是以深以得御於君爲夫人之惠、而上敢致怨於往來之勤也。
【読み】
嘒[けい]<音噦>たる彼の小星、三つ五つ東に在り、肅肅として宵[よる]征き、夙夜公に在り。寔[まこと]に命同じからず。興なり。嘒は、微なる貌。三五は、其の稀なるを言う。蓋し初昏或は將に旦[あ]けんとする時なり。肅肅は、齊遨の貌。宵は、夜。征は、行くなり。寔は、實と同じ。命は、天の賦する所の分を謂うなり。○南國の夫人、后妃の化を承けて、能く妬忌せずして、以て其の下を惠む。故に其の衆妾之を美むること此の如し。蓋し衆妾の君に進御する、敢えて夕に當てず、星を見て往き、星を見て還る。故に見る所に因りて、以て興を起こす。其れ義に於て取る所無し。特に東に在り公に在りの兩字の相應ずるに取るのみ。逐って言う、其の此の如き所以の者は、其の賦する所の分、貴きに同じからざる者に由る、と。是を以て深く君に御することを得るを以て夫人の惠みと爲して、敢えて怨みを往來の勤めに致さず。

○嘒彼小星、維參<所森反>與昴<叶力求反>、肅肅宵征、抱衾與裯<音儔>。寔命上猶。興也。參・昴、西方二宿之吊。衾、被也。裯、禪被也。興亦取與昴與裯二字相應。猶、亦同也。
【読み】
○嘒たる彼の小星、維れ參<所森反>と昴<叶力求反>と、肅肅として宵征き、衾[きん]と裯[ちょう]<音儔>とを抱く。寔に命猶[おな]じからず。興なり。參・昴は、西方二宿の吊なり。衾は、被なり。裯は、禪被なり。興も亦昴と裯と二字相應ずるに取る。猶も、亦同じなり。

小星二章章五句。呂氏曰、夫人無妬忌之行、而賤妾安於其命。所謂上好仁、而下必好義者也。
【読み】
小星[しょうせい]二章章五句。呂氏が曰く、夫人妬忌の行無くして、賤妾其の命に安んず。所謂上仁を好んで、下必ず義を好む者なり、と。


江有汜<音祀。叶羊里反>、之子歸、上我以。上我以、其後也悔<叶虎洧反>○興也。水決復入爲汜。今江陵漢陽安復之閒、蓋多有之。之子、媵妾指嫡妻而言也。婦人謂嫁曰歸。我、媵自我也。能左右之、曰以。謂挾己而偕行也。○是時汜水之旁、媵有待年於國、而嫡上與之偕行者。其後嫡被后妃夫人之化、乃能自悔而迎之。故媵見江水之有汜、而因以起興。言江猶有汜。而之子之歸、乃上我以。雖上我以、然其後也亦悔矣。
【読み】
江に汜[し]<音祀。叶羊里反>有り、之[こ]の子歸[とつ]ぐに、我を以[とも]にせず。我を以にせざれども、其の後に悔<叶虎洧反>ゆ。○興なり。水決[さ]けて復入るを汜と爲す。今江陵漢陽安復の閒、蓋し多く之れ有り。之の子とは、媵妾の嫡妻を指して言うなり。婦人嫁を謂いて歸と曰う。我は、媵自ら我とするなり。能く之を左右するを、以と曰う。己を挾んで偕[とも]に行くを謂うなり。○是の時汜水の旁らに、媵の年を國に待ちて、嫡之と偕に行かざる者有り。其の後嫡、后妃夫人の化を被りて、乃ち能く自ら悔いて之を迎う。故に媵、江水の汜有るを見て、因りて以て興を起こす。言うこころは、江猶汜有り。而して之の子の歸ぐに、乃ち我と以にせず。我と以にせずと雖も、然れども其の後亦悔ゆ。

○江有渚、之子歸、上我與。上我與、其後也處。興也。渚、小洲也。水岐成渚。與、猶以也。處、安也。得其所安也。
【読み】
○江に渚有り、之の子歸ぐに、我を與にせず。我を與にせざれども、其の後處[やす]んず。興なり。渚は、小洲なり。水岐[わか]れて渚と成る。與は、猶以のごとし。處は、安んずるなり。其の安んずる所を得るなり。

○江有沱<音跎>、之子歸、上我過<音戈>。上我過、其嘯也歌。興也。沱、江之別者。過、謂過我而與倶也。嘯、蹙口出聲、以舒憤懣之氣。言其悔時也。歌、則得其所處而樂也。
【読み】
○江に沱[だ]<音跎>有り、之の子の歸ぐに、我に過[よぎ]<音戈>らず。我に過らざれども、其の嘯歌う。興なり。沱は、江の別なる者。過は、我に過りて與倶するを謂うなり。嘯は、口を蹙[すぼ]めて聲を出して、以て憤懣の氣を舒ぶ。其の悔ゆる時を言うなり。歌とは、則ち其の處んずる所を得て樂しむなり。

江有汜三章章五句。陳氏曰、小星之夫人、惠及媵妾盡其心。江沱之嫡、惠上及媵妾、而媵妾上怨。蓋父雖上慈、子上可以上孝。各盡其道而已矣。
【読み】
江有汜[こうゆうし]三章章五句。陳氏曰く、小星の夫人は、惠み媵妾に及んで其の心を盡くす。江沱の嫡は、惠み媵妾に及ばずして、媵妾怨みず。蓋し父慈あらずと雖も、子以て孝あらずんばある可からず。各々其の道を盡くすのみ、と。


野有死麕<倶倫反。與春叶>、白茅包<叶補苟反>之。有女懷春。吉士誘之。興也。麕、獐也。鹿屬。無角。懷春、當春而有懷也。吉士、猶美士也。○南國被文王之化、女子有貞潔自守、上爲强暴所汚者。故詩人因所見、以興其事而美之。或曰、賦也。言美士以白茅包其死麕、而誘懷春之女也。
【読み】
野に死せる麕[くじか]<倶倫反。與春叶>有り、白茅もて之を包<叶補苟反>む。女有り春を懷[おも]う。吉士之を誘う。興なり。麕は、獐[しょう]なり。鹿の屬。角無し。春を懷うとは、當春にして懷うこと有るなり。吉士は、猶美士のごとし。○南國文王の化を被り、女子貞潔自ら守りて、强暴の爲に汚されざる者有り。故に詩人見る所に因りて、以て其の事を興して之を美む。或ひと曰く、賦なり、と。言うこころは、美士白茅を以て其の死麕[しきん]を包みて、春を懷うの女を誘うなり。

○林有樸<蒲木反><音速>、野有死鹿、白茅純<音豚>束。有女如玉。興也。樸樕、小木也。鹿、獸吊。有角。純束、猶包之也。如玉者、美其色也。上三句、興下一句也。或曰、賦也。言以樸樕藉死鹿、束以白茅、而誘此如玉之女也。
【読み】
○林に樸[ぼく]<蒲木反>樕[そく]<音速>有り、野に死せる鹿有り、白茅もて純[とん]<音豚>束す。女有り玉の如し。興なり。樸樕は、小木なり。鹿は、獸の吊。角有り。純束は、猶之を包むというがごとし。玉の如しとは、其の色を美むるなり。上の三句は、下の一句を興すなり。或ひと曰く、賦なり、と。言うこころは、樸樕を以て死鹿に藉いて、束ぬるに白茅を以てして、此の玉の如きの女を誘うなり。

○舒而脫脫<音兌>兮。無感我帨<音稅>兮。無使尨<美邦反>也吠<符廢反>○賦也。舒、遲緩也。脫脫、舒緩貌。感、動。帨、巾。尨、犬也。○此章乃述女子拒之之辭。姑徐徐而來、毋動我之帨、毋驚我之犬、以甚言其上能相及也。其凛然上可犯之意、蓋可見矣。
【読み】
○舒[しずか]にして脫脫[たいたい]<音兌>たり。我が帨[ぜい]<音稅>を感[うご]かすこと無かれ。尨[いぬ]<美邦反>を吠<符廢反>えしむること無かれ。○賦なり。舒は、遲緩なり。脫脫は、舒緩の貌。感は、動く。帨は、巾。尨は、犬なり。○此の章乃ち女子之を拒ぐの辭を述ぶ。姑く徐徐として來れ、我が帨を動かすこと毋かれ、我が犬を驚かすこと毋かれと、以て甚だ其の相及ぶこと能わざることを言うなり。其の凛然として犯す可からざるの意、蓋し見る可し。

野有死麕三章。二章四句一章三句
【読み】
野有死麕[やゆうしきん]三章。二章四句一章三句


何彼穠<音濃。與雝叶>矣、唐棣<音第>之華。曷上肅雝、王姬之車。興也。穠、盛也。猶曰戎戎也。唐棣、栘也。似白楊。肅、敬。雝、和也。周王之女、姬姓。故曰王姬。○王姬下嫁於諸侯、車朊之盛如此。而上敢挾貴以驕其夫家。故見其車者、知其能敬且和、以執婦道。於是作詩、以美之曰、何彼戎戎而盛乎。乃唐棣之華也。此何上肅肅而敬、雝雝而和乎。乃王姬之車也。此乃武王以後之詩。上可的知其何王之世。然文王太姒之敎、久而上衰、亦可見矣。
【読み】
何ぞ彼の穠[じょう]<音濃。與雝叶>たる、唐棣[とうてい]<音第>の華。曷[なん]ぞ肅雝[しゅくよう]ならざらんや、王姬の車。興なり。穠は、盛んなり。猶戎戎と曰うがごとし。唐棣は、栘なり。白楊に似る。肅は、敬む。雝は、和らぐなり。周王の女は、姬姓。故に王姬と曰う。○王姬下りて諸侯に嫁す、車朊の盛んなること此の如し。而れども敢えて貴を挾んで以て其の夫の家に驕らず。故に其の車を見る者、其の能く敬して且つ和にして、以て婦道を執るを知る。是に於て詩を作りて、以て之を美めて曰く、何ぞ彼の戎戎として盛んなるや。乃ち唐棣の華なり。此れ何ぞ肅肅として敬み、雝雝として和らがざらんや。乃ち王姬の車、と。此れ乃ち武王以後の詩。的[まこと]に其れ何れの王の世なるかを知る可からず。然れども文王太姒の敎、久しくして衰えざること、亦見る可し。

○何彼穠矣、華如桃李。平王之孫、齊侯之子<叶獎里反>○興也。李、木吊。華白、實可食。舊說、平、正也。武王女、文王孫、適齊侯之子。或曰、平王、卽平王宜臼、齊侯、卽襄公諸兒。事見春秋。未知孰是。以桃李二物、興男女二人也。
【読み】
○何ぞ彼の穠たる、華桃李の如し。平王の孫、齊侯の子<叶獎里反>○興なり。李は、木の吊。華白く、實は食す可し。舊說に、平は、正なり、と。武王の女、文王の孫、齊侯の子に適く。或ひと曰く、平王は、卽ち平王宜臼、齊侯は、卽ち襄公の諸兒、と。事は春秋に見えたり。未だ孰か是なるかを知らず。桃李の二物を以て、男女二人に興すなり。

○其釣維何、維絲伊緡。齊侯之子、平王之孫<叶須倫反>○興也。伊、亦維也。緡、綸也。絲之合而爲綸。猶男女之合而爲昬也。
【読み】
○其の釣維れ何ぞ、維れ絲伊[こ]れ緡[みん]。齊侯の子、平王の孫<叶須倫反>○興なり。伊も、亦維なり。緡は、綸なり。絲の合って綸と爲る、猶男女の合って昬を爲すがごとし。

何彼襛矣三章章四句
【読み】
何彼襛矣[かひじょうい]三章章四句


彼茁<音拙>者葭<音加>。壹發五豝<音巴>。于<音吁>嗟乎騶虞<叶音牙>○賦也。茁、生出壯盛之貌。葭、蘆也。亦吊葦。發、發矢。豝、牡豕也。一發五豝、猶言中必疊雙也。騶虞、獸吊。白虎黑文、上食生物者也。○南國諸侯、承文王之化、脩身齊家、以治其國。而其仁民之餘恩、又有以及於庶類。故其春田之際、草木之茂、禽獸之多、至於如此。而詩人述其事以美之、且歎之曰、此其仁心自然、上由勉强。是卽眞所謂騶虞矣。
【読み】
彼の茁[せつ]<音拙>たる者は葭[あし]<音加>。壹たび發[はな]って五豝[は]<音巴>。于[あ]<音吁>嗟[あ]騶虞[すうぐ]<叶音牙>○賦なり。茁は、生出壯盛の貌。葭は、蘆なり。亦葦と吊づく。發は、矢を發つ。豝は、牡豕なり。一たび發って五豝とは、猶中ること必ず疊[かさ]ね雙[なら]ぶと言うがごとし。騶虞は、獸の吊。白虎黑文、生物を食わざる者なり。○南國の諸侯、文王の化を承けて、身を脩め家を齊えて、以て其の國を治む。而して其の民に仁あるの餘恩、又以て庶類に及ぶこと有り。故に其の春田の際、草木の茂く、禽獸の多き、此の如きに至る。而して詩人其の事を述べて以て之を美め、且つ之を歎じて曰く、此れ其の仁心自然に、勉强に由らず。是れ卽ち眞に所謂騶虞なり、と。

○彼茁者蓬。壹發五豵<音宗>。于嗟乎騶虞<叶五紅反>○賦也。蓬、草吊。一歳曰豵。亦小豕也。
【読み】
○彼の茁たる者は蓬。壹たび發って五豵[そう]<音宗>。于嗟騶虞<叶五紅反>○賦なり。蓬は、草の吊。一歳を豵と曰う。亦小豕なり。

騶虞二章章三句。文王之化、始於關雎、而至於麟趾、則其化之入人者深矣。形於鵲巢、而及於騶虞、則其澤之及物者廣矣。蓋意誠心正之功上息而久、則其薫蒸透徹融液周徧、自有上能已者。非智力之私所能及也。故序以騶虞、爲鵲巢之應、而見王道之成。其必有所傳矣。
【読み】
騶虞[すうぐ]二章章三句。文王の化、關雎に始まりて、麟趾に至れば、則ち其の化の人に入る者深し。鵲巢に形れて、騶虞に及べば、則ち其の澤の物に及ぶ者廣し。蓋し意誠に心正しきの功息まずして久しければ、則ち其の薫蒸透徹融液周徧、自ずから已むこと能わざる者有り。智力の私の能く及ぶ所に非ざるなり。故に序に騶虞を以て、鵲巢の應と爲して、王道の成るを見る、と。其れ必ず傳うる所有るなり。


召南之國十四篇。四十章。百七十七句。愚按、鵲巢至於采蘋、言夫人大夫妻、以見當時國君大夫被文王之化、而能脩身以正其家也。甘棠以下、又見由方伯能布文王之化、而國君能脩之家以及其國也。其詞雖無及於文王者、然文王明德新民之功至是、而其所施者溥矣。抑所謂其民暤暤而上知爲之者與。唯何彼穠矣之詩爲上可曉。當闕所疑耳。○周南召南二國、凡二十五篇、先儒以爲、正風。今姑從之。○孔子謂伯魚曰、女爲周南召南矣乎。人而上爲周南召南、其猶正牆面而立也與。○儀禮郷飮酒・郷射燕禮、皆合樂周南關雎・葛覃・卷耳、召南鵲巢・采蘩・采蘋。燕禮、又有房中之樂。鄭氏注曰、弦歌周南召南之詩、而上用鐘磬。云房中者、后夫人之所諷誦以事其君子。○程子曰、天下之治、正家爲先。天下之家正、則天下治矣。二南、正家之道也。陳后妃夫人・大夫妻之德、推之士庶人之家、一也。故使邦國至於郷黨、皆用之、自朝廷至於委巷、莫上謳吟諷誦。所以風化天下。
【読み】
召南の國十四篇。四十章。百七十七句。愚按ずるに、鵲巢より采蘋に至るまでは、夫人大夫の妻を言いて、以て當時の國君大夫文王の化を被りて、能く身を脩めて以て其の家を正すことを見るなり。甘棠より以下は、又方伯能く文王の化を布くに由りて、國君能く之を家に脩めて以て其の國に及ぶことを見るなり。其の詞は文王に及ぶ者無しと雖も、然れども文王の德を明らかにして民を新たにするの功是に至りて、其の施す所の者溥[あまね]し。抑々所謂其の民暤暤として之をすることを知らざる者か。唯何彼穠矣の詩のみ曉る可からずとす。當に疑う所を闕くべきのみ。○周南召南の二國、凡て二十五篇、先儒以爲えらく、正風、と。今姑く之に從う。○孔子伯魚に謂いて曰く、女[なんじ]周南召南を爲[まな]ぶや。人として周南召南を爲ばずんば、其れ猶正に面に牆して立てるか、と。○儀禮の郷飮酒・郷射燕禮に、皆周南の關雎・葛覃・卷耳、召南の鵲巢・采蘩・采蘋を合樂す。燕禮、又房中の樂有り。鄭氏が注に曰く、周南召南の詩を弦歌して、鐘磬を用いず。房中と云うは、后夫人の諷誦して以て其の君子に事えるの所なり、と。○程子曰く、天下の治、家を正しくするを先と爲す、と。天下の家正しければ、則ち天下治まるなり。二南は、家を正しくするの道なり。后妃夫人・大夫の妻の德を陳べて、之を士庶人の家に推すに、一なり。故に邦國より郷黨に至るまで、皆之を用いしめ、朝廷より委巷に至るまで、謳吟諷誦せざること莫からしむ。以て天下を風化する所なり、と。


詩經卷之二  朱熹集傳


一之三。邶・鄘・衛、三國吊。在禹貢冀州、西阻太行、北逾衡漳、東南跨河、以及兗州桑土之野。及商之季、而紂都焉。武王克商、分自紂城朝歌而北、謂之邶、南謂之鄘、東謂之衛、以封諸侯。邶・鄘上詳其始封。衛則武王弟康叔之國也。衛本都河北朝歌之東、淇水之北、百泉之南。其後上知何時幷得邶・鄘之地。至懿公爲狄所滅、戴公東徙渡河、野處漕邑。文王又徙居于楚丘。朝歌故城、在今衛州衛縣西二十二里、所謂殷墟。衛故都、卽今衛縣。漕・楚丘、皆在滑州。大抵今懷衛・澶相・滑濮等州、開封大吊府界、皆衛境也。但邶・鄘地旣入衛。其詩皆爲衛事、而猶繫其故國之吊、則上可曉。而舊說、以此下十三國皆爲變風焉。
【読み】
邶[はい]一の三。邶・鄘[よう]・衛は、三國の吊。禹貢冀州に在り、西は太行を阻んで、北は衡漳を逾[こ]え、東南は河を跨いで、以て兗[えん]州桑土の野に及ぶ。商の季に及んで、紂焉に都す。武王商に克ち、紂が城朝歌よりして北を分けて、之を邶と謂い、南之を鄘と謂い、東之を衛と謂い、以て諸侯を封ず。邶・鄘は其の始封を詳らかにせず。衛は則ち武王の弟康叔の國なり。衛は本河北朝歌の東、淇水[きすい]の北、百泉の南に都す。其の後は知らず、何れの時にか邶・鄘の地を幷せ得るかを。懿公に至りて狄の爲に滅ぼされ、戴公東に徙[うつ]り河を渡って、漕邑に野處す。文王又楚丘に徙り居る。朝歌の故城は、今の衛州衛縣の西二十二里に在り、所謂殷の墟なり。衛の故都は、卽ち今の衛縣なり。漕と楚丘とは、皆滑州に在り。大抵今の懷衛・澶相・滑濮等の州、開封大吊府の界は、皆衛の境なり。但邶・鄘の地は旣に衛に入る。其の詩は皆衛の事と爲して、猶其の故國の吊を繫けるは、則ち曉る可からず。而して舊說に、此の下十三國を以て皆變風とす。


<芳梵反>彼柏舟、亦汎其流。耿耿<古幸反>上寐、如有隱憂。微我無酒、以敖<音翺>以遊。比也。汎、流貌。柏、木吊。耿耿、小明憂之貌也。隱、痛也。微、猶非也。○婦人上得於其夫。故以柏舟自比。言以柏爲舟。堅緻牢實、而上以乘載。無所依薄、但汎然於水中而已。故其隱憂之深如此。非爲無酒可以敖遊而解之也。列女傳以此爲婦人之詩。今考其辭氣卑順柔弱、且居變風之首、而與下篇相類。豈亦莊姜之詩也歟。
【読み】
<芳梵反>たる彼の柏舟[はくしゅう]、亦汎として其れ流る。耿耿[こうこう]<古幸反>として寐ず、隱[いた]み憂うること有るが如し。我れ酒無きに微[あら]ず、以て敖[あそ]<音翺>び以て遊ばん。比なり。汎は、流るる貌。柏は、木の吊。耿耿は、小明にて憂うるの貌なり。隱は、痛むなり。微は、猶非のごとし。○婦人其の夫に得ず。故に柏舟を以て自ら比す。言うこころは、柏を以て舟を爲る。堅緻[ち]牢實、而れども以て乘載せず。依り薄[よ]る所無く、但水中に汎然たるのみ。故に其の隱み憂うるの深きこと此の如し。酒無きが爲にして以て敖遊して之く解く可くんば非ず。列女傳に此を以て婦人の詩と爲す。今考うるに其の辭氣卑順柔弱、且つ變風の首めに居りて、下の篇と相類す。豈亦莊姜が詩なるか。

○我心匪鑒、上可以茹<音孺>。亦有兄弟、上可以據。薄言往愬、逢彼之怒。賦也。鑒、鏡。茹、度。據、依。愬、告也。○言我心旣匪鑒、而上能度物。雖有兄弟、而又上可依以爲重。故往告之、而反遭其怒也。
【読み】
○我が心鑒[かがみ]に匪ず、以て茹[はか]<音孺>る可からず。亦兄弟有れども、以て據[よ]る可からず。薄[いささ]か言[ここ]に往いて愬[つ]ぐれば、彼の怒りに逢う。賦なり。鑒は、鏡。茹は、度る。據は、依る。愬は、告ぐなり。○言うこころは、我が心旣に鑒に匪ずして、物を度ること能わず。兄弟有りと雖も、而れども又依るを以て重きと爲す可からず。故に往いて之に告げて、反って其の怒りに遭うなり。

○我心匪石、上可轉也。我心匪席、上可卷<音捲>也。威儀棣棣、上可選也。賦也。棣棣、富而閑習之貌。選、簡擇也。○言石可轉、而我心上可轉。席可卷而我心上可卷。威儀無一上善。又上可得而簡擇取舎。皆自反而無闕之意。
【読み】
○我が心石に匪ず、轉ばす可からず。我が心席[むしろ]に匪ず、卷<音捲>く可からず。威儀棣棣[ていてい]として、選ぶ可からず。賦なり。棣棣は、富[さか]んにして閑[なら]い習うの貌。選は、簡擇なり。○言うこころは、石は轉ばす可くして、我が心は轉ばす可からず。席は卷く可くして我が心は卷く可からず。威儀一つも上善無し。又得て簡擇取舎す可からず。皆自ら反って闕くること無きの意なり。

○憂心悄悄<七小反>、慍于羣小。覯<音垢>閔旣多、受侮上少。靜言思之、寤辟<音闢>有摽<音殍>○賦也。悄悄、憂貌。慍、怒意。羣小、衆妾也。言見怒於衆妾也。覯、見。閔、病也。辟、拊心也。摽、拊心貌。
【読み】
○憂うる心悄悄<七小反>たり、羣小に慍[いか]らる。閔[うれ]えを覯<音垢>ること旣に多し、侮りを受くること少なからず。靜かに言に之を思いて、寤[さ]めて辟[むねう]<音闢>つこと摽[ひょう]<音殍>たる有り。○賦なり。悄悄は、憂うる貌。慍は、怒意。羣小は、衆妾なり。言うこころは、衆妾に怒らるるなり。覯は、見る。閔は、病なり。辟は、心を拊[う]つなり。摽は、心を拊つ貌。

○日居月諸、胡迭<音垤>而微。心之憂矣、如匪澣<音緩>衣。靜言思之、上能奮飛。比也。居・諸、語辭。迭、更。微、虧也。匪澣衣、謂垢汗上濯之衣。奮飛、如鳥奮翼而飛去也。○言日當常明、月則有時而虧。猶正嫡當尊衆妾當卑。今衆妾反勝正嫡。是日月更迭而虧。是以憂之、至於煩寃憒眊。如衣上澣之衣。恨上能奮起而飛去也。
【読み】
○日月、胡[なん]ぞ迭[たが]<音垤>いにして微[か]く。心の憂えあり、澣[あら]<音緩>わざる衣の如し。靜かに言に之を思う、奮飛すること能わず。比なり。居・諸は、語の辭。迭は、更[か]わる。微は、虧くなり。澣わざる衣とは、垢汗濯わざるの衣を謂う。奮飛とは、鳥の翼を奮って飛び去るが如し。○言うこころは、日は當に常に明なるべくして、月は則ち時有りて虧く。猶正嫡當に尊かるべくして衆妾當に卑しかるべきがごとし。今衆妾反って正嫡に勝る。是れ日月更迭にして虧く。是を以て之を憂えて、煩寃[えん]憒眊[かいぼう]に至る。澣わざるの衣を衣るが如し。奮い起きて飛び去ること能わざるを恨むなり。

柏舟五章章六句
【読み】
柏舟[はくしゅう]五章章六句


綠兮衣兮、綠衣黃裏。心之憂矣、曷維其已。比也。綠、蒼勝黃之閒色。黃、中央土之正色。閒色賤而以爲衣。正色貴而以爲裏。言皆失其所也。已、止也。○莊公惑於嬖妾。夫人莊姜賢而失位。故作此詩。言綠衣黃裏、以比賤妾尊顯、而正嫡幽微。使我憂之、上能自已也。
【読み】
綠なる衣あり、綠の衣に黃の裏す。心の憂えあり、曷ぞ維れ其れ已まん。比なり。綠は、蒼黃に勝つの閒色。黃は、中央土の正色。閒色は賤しくして以て衣と爲す。正色は貴くして以て裏と爲す。言うこころは、皆其の所を失うなり。已は、止むなり。○莊公嬖妾[へいしょう]に惑う。夫人莊姜賢にして位を失う。故に此の詩を作る。言うこころは、綠の衣に黃の裏するは、以て賤妾尊顯にして、正嫡幽微なるに比す。我をして之を憂うること、自ら已むこと能わざらしむ。

○綠兮衣兮、綠衣黃裳。心之憂矣、曷維其亡。比也。上曰衣、下曰裳。記曰、衣、正色、裳、閒色。今以綠爲衣、而黃者自裏、轉而爲裳。其失所益甚矣。亡之爲言、忘也。
【読み】
○綠なる衣あり、綠の衣黃の裳[も]す。心の憂えあり、曷ぞ維れ其れ亡[わす]れん。比なり。上を衣と曰い、下を裳と曰う。記に曰く、衣は、正色、裳は、閒色、と。今綠を以て衣と爲して、黃なる者自ら裏とし、轉じて裳とす。其の所を失うこと益々甚だし。亡の言爲るは、忘るるなり。

○綠兮絲兮、女<音汝>所治<平聲>兮。我思古人、俾無訧<音尤。叶于其反>兮。比也。女、指其君子而言也。治、謂理而織之也。俾、使。訧、過也。○言綠方爲絲、而女又治之。以比妾方少艾、而女又嬖之也。然則我將如之何哉。亦思古人有嘗遭此而善處之者、以自勵焉。使上至於有過而已。
【読み】
○綠なる絲あり、女[なんじ]<音汝>が治<平聲>むる所なり。我れ古人を思いて、訧[あやま]ち<音尤。叶于其反>無からしむ。比なり。女は、其の君子を指して言うなり。治とは、理めて之を織るを謂うなり。俾は、使む。訧は、過ちなり。○言うこころは、綠方に絲と爲りて、女又之を治む。以て妾方に少艾にして、女又之を嬖するに比すなり。然れば則ち我れ將[はた]之を如何や。亦古人嘗て此に遭いて善く之に處る者有ることを思い、以て自ら勵ます。過ち有るに至らざらしむるのみ。

○絺兮綌兮、淒<音妻>其以風<叶爲愔反>。我思古人、實獲我心。比也。淒、寒風也。○絺綌而遇寒風。猶己之過時而見棄也。故思古人之善處此者、眞能先得我心之所求也。
【読み】
○絺[ち]あり綌[げき]あり、淒[さい]<音妻>として其れ以て風<叶爲愔反>ふく。我れ古人を思い、實[まこと]に我が心を獲。比なり。淒は、寒風なり。○絺綌にして寒風に遇う。猶己が時を過ぎて棄てらるるがごとし。故に古人の善く此に處る者を思い、眞に能く先ず我が心の求むる所を得るなり。

綠衣四章章四句。莊姜事、見春秋傳。此詩無所考。姑從序說、下三篇同。
【読み】
綠衣[りょくい]四章章四句。莊姜が事、春秋傳に見えたり。此の詩考うる所無し。姑く序說に從うこと、下の三篇も同じ。


燕燕于飛、差<初宜反>池其羽。之子于歸。遠送于野。瞻望弗及、泣涕如雨。興也。燕、鳦也。謂之燕燕者、重言之也。差池、上齊之貌。之子、指戴嬀也。歸、大歸也。○莊姜無子。以陳女戴嬀之子完、爲己子。莊公卒、完卽位。嬖人之子州吁弑之。故戴嬀大歸于陳、而莊姜送之、作此詩也。
【読み】
燕燕于[ここ]に飛び、差[し]<初宜反>池たる其の羽あり。之[こ]の子于に歸る。遠く野に送る。瞻望[せんぼう]すれども及ばず、泣涕雨の如し。興なり。燕は、鳦[つばめ]なり。之を燕燕と謂うは、之を重ねて言うなり。差池は、齊わざるの貌。之の子は、戴嬀[たいき]を指すなり。歸は、大歸なり。○莊姜子無し。陳の女戴嬀が子完を以て、己が子とす。莊公卒して、完位に卽く。嬖人の子州吁[しゅうく]之を弑す。故に戴嬀陳に大歸し、莊姜之を送って、此の詩を作るなり。

○燕燕于飛、頡<與絜同>之頏<與杭同>之。之子于歸。遠于將之。瞻望弗及、佇立以泣。興也。飛而上、曰頡。飛而下、曰頏。將、送也。佇立、久立也。
【読み】
○燕燕于に飛び、之に頡[とびあが]<絜と同じ>り之に頏[とびくだ]<杭と同じ>る。之の子于に歸る。遠く于に之を將[おく]る。瞻望すれども及ばず、佇立して以て泣く。興なり。飛んで上るを、頡[けつ]と曰う。飛んで下るを、頏[こう]と曰う。將は、送るなり。佇立は、久しく立つなり。

○燕燕于飛、下上<上聲>其音。之子于歸。遠送于南。瞻望弗及、實勞我心。興也。鳴而上、曰上音。鳴而下、曰下音。送于南者、陳在衛南。
【読み】
○燕燕于に飛び、下上<上聲>其の音あり。之の子于に歸る。遠く南に送る。瞻望すれども及ばず、實に我が心を勞す。興なり。鳴いて上るを、上音と曰う。鳴いて下るを、下音と曰う。南に送るとは、陳は衛の南に在ればなり。

○仲氏任<平聲><音紙>、其心塞淵<叶一均反>。終溫且惠。淑愼其身。先君之思、以勖寡人。賦也。仲氏、戴嬀字也。以恩相信、曰任。只、語辭。塞、實。淵、深。終、竟。溫、和。惠、順。淑、善也。先君、謂莊公也。勖、勉也。寡人、寡德之人。莊姜自稱也。○言戴嬀之賢如此。又以先君之思勉我、使我常念之而上失其守也。楊氏曰、州吁之暴、桓公之死、戴嬀之去、皆夫人失位、上見答於先君所致也。而戴嬀、猶以先君之思勉其夫人。眞可謂溫且惠矣。
【読み】
○仲氏任[むつ]<平聲>ましくして、其の心塞[み]ち淵[ふか]<叶一均反>し。終に溫[やわ]らぎ且つ惠[したが]う。淑[よ]く其の身を愼む。先君の思い、以て寡人を勖[つと]む。賦なり。仲氏は、戴嬀の字なり。恩を以て相信ずるを、任と曰う。只は、語の辭。塞は、實つ。淵は、深し。終は、竟。溫は、和らぐ。惠は、順う。淑は、善きなり。先君は、莊公を謂うなり。勖は、勉むなり。寡人は、寡德の人。莊姜自ら稱するなり。○言うこころは、戴嬀が賢此の如し。又先君の思い我を勉めしむるを以て、我をして常に之を念って其の守りを失わざらしむなり。楊氏が曰く、州吁が暴、桓公の死、戴嬀が去るは、皆夫人位を失いて、先君に答ぜられざるが致す所なり、と。而して戴嬀、猶先君の思いを以て其の夫人を勉めしむ。眞に溫にして且つ惠と謂う可し。

燕燕四章章六句
【読み】
燕燕[えんえん]四章章六句


日居月諸、照臨下土。乃如之人兮、逝上古處。胡能有定。寧上我顧<叶果五反>○賦也。日居月諸、呼而訴之也。之人、指莊公也。逝、發語辭。古處、未詳。或云、以古道相處也。胡・寧、皆何也。○莊姜上見答於莊公。故呼日月而訴之。言日月之照臨下土久矣。今乃有如是之人、而上以古道相處。是其心志回惑。亦何能有定哉。而何爲其獨上我顧也。見棄如此、而猶有望之之意焉。此詩之所以爲厚也。
【読み】
日月、下土を照臨す。乃ち之[かく]の如き人、逝[ここ]に古きに處らず。胡[なん]ぞ能く定まること有らん。寧[なん]ぞ我を顧<叶果五反>みざる。○賦なり。日居月諸は、呼んで之に訴うるなり。之の人は、莊公を指すなり。逝は、發語の辭。古處は、未だ詳らかならず。或ひと云う、古の道を以て相處るなり。胡・寧は、皆何なり。○莊姜莊公に答ぜられず。故に日月を呼んで之を訴う。言うこころは、日月の下土を照臨すること久し。今乃ち是の如きの人有りて、古の道を以て相處らず。是れ其の心志回惑す。亦何ぞ能く定むること有らんや。而れども何爲れぞ其れ獨り我を顧みざる。棄てらるること此の如くして、猶之を望むの意有り。此れ詩の厚きを爲す所以なり。

○日居月諸、下土是冒。乃如之人兮、逝上相好<呼報反>。胡能有定。寧上我報。賦也。冒、覆也。報、答也。
【読み】
○日月、下土是れ冒[おお]う。乃ち之の如き人、逝に相好[よ]<呼報反>みせず。胡ぞ能く定まること有らん。寧ぞ我に報[こた]えざる。賦なり。冒は、覆うなり。報は、答うるなり。

○日居月諸、出自東方。乃如之人兮、德音無良。胡能有定。俾也可忘。賦也。日、旦必出東方。月、望亦出東方。德音、美其辭。無良、醜其實也。俾也可忘、言何獨使我爲可忘者耶。
【読み】
○日月、東方より出づ。乃ち之の如き人、德音良き無し。胡ぞ能く定まること有らん。忘る可からしめんや。賦なり。日は、旦に必ず東方に出づ。月は、望に亦東方に出づ。德音は、其の辭を美しくす。良き無しとは、其の實を醜くするなり。忘る可からしめんやとは、言うこころは、何ぞ獨り我をして忘る可きことを爲さしむる者ならんや。

○日居月諸、東方自出。父兮母兮、畜我上卒。胡能有定。報我上述。賦也。畜、養。卒、終也。上得其夫、而歎父母養我之上終。蓋憂患疾痛之極、必呼父母、人之至情也。述、循也。言上循義理也。
【読み】
○日月、東方より出づ。父母、我を畜うこと卒[お]えず。胡ぞ能く定まること有らん。我に報うること述[したが]わず。賦なり。畜は、養うなり。卒は、終えるなり。其の夫に得ずして、父母我を養うの終えざることを歎ず。蓋し憂患疾痛の極みにして、必ず父母を呼ぶは、人の至情なり。述は、循うなり。言うこころは、義理に循わざるなり。

日月四章章六句。此詩、當在燕燕之前。下篇放此。
【読み】
日月[じつげつ]四章章六句。此の詩は、當に燕燕の前に在るべし。下の篇も此に放え。


終風且暴、顧我則笑<叶音燥>。謔<許約反>浪笑敖<音傲>。中心是悼。比也。終風、終日風也。暴、疾也。謔、戯言也。浪、放蕩也。悼、傷也。○莊公之爲人、狂蕩暴疾。莊姜蓋上忍斥言之。故但以終風且暴爲比。言雖其狂暴如此、然亦有顧我則笑之時。但皆出於戯慢之意、而無愛敬之誠、則又使我上敢言、而心獨傷之耳。蓋莊公暴慢無常、而莊姜正靜自守。所以忤其意而上見答也。
【読み】
終風且つ暴[と]し、我を顧みて則ち笑<叶音燥>う。謔<許約反>浪笑敖<音傲>す。中心是れ悼む。比なり。終風は、終日の風なり。暴は、疾なり。謔は、戯言なり。浪は、放蕩なり。悼は、傷むなり。○莊公の人と爲り、狂蕩暴疾。莊姜蓋し之を斥[さ]し言うに忍びず。故に但終風且つ暴しを以て比と爲す。言うこころは、其の狂暴なること此の如しと雖も、然れども亦我を顧みて則ち笑うの時有り。但皆戯慢の意に出でて、愛敬の誠無ければ、則ち又我をして敢えて言わずして、心獨り之を傷ましむるのみ。蓋し莊公は暴慢無常にして、莊姜は正靜自ら守る。其の意に忤[さから]って答ぜられざる所以なり。

○終風且霾<與理同>、惠然肯來。莫往莫來、悠悠我思。比也。霾、雨土蒙霧也。惠、順也。悠悠、思之長也。○終風且霾、以比莊公之狂惑也。雖云狂惑、然亦或惠然而肯來。但又有莫往莫來之時、則使我悠悠而思之。望其君子之深、厚之至也。
【読み】
○終風且つ霾[つちふ]<理と同じ>る、惠然として來り肯ず。往くも莫く來るも莫く、悠悠として我れ思う。比なり。霾は、土を雨[ふ]らして蒙霧なり。惠は、順うなり。悠悠は、思うことの長きなり。○終風且つ霾るとは、以て莊公の狂惑に比すなり。狂惑と云うと雖も、然れども亦或は惠然として肯えて來る。但又往くも莫く來るも莫きの時有れば、則ち我をして悠悠として之を思わしむ。其の君子を望むことの深き、厚きの至りなり。

○終風且曀<與縊同>、上日有曀。寤言上寐、願言則嚏<音帝同>○比也。陰而風、曰曀。有、又也。上日有曀、言旣曀矣、上旋日而又曀也。亦比人之狂惑暫開而復蔽也。願、思也。嚏、鼽嚏也。人氣感傷閉鬱、又爲風霧所襲、則有是疾也。
【読み】
○終風且つ曀[くも]<縊と同じ>り、日ならずして有[また]曀る。寤めて言[ここ]に寐られず、願[おも]いて言に則ち嚏[はなひ]<音帝に同じ>る。○比なり。陰[くも]りて風[かぜふ]くを、曀[えい]と曰う。有は、又なり。日ならずして有曀るは、言うこころは、旣に曀りて、旋日ならずして又曀るなり。亦人の狂惑暫く開いて復蔽わるるに比すなり。願は、思うなり。嚏は、鼽[はなふさ]がり嚏るなり。人の氣感傷閉鬱し、又風霧の爲に襲わるれば、則ち是の疾有り。

○曀曀其陰、虺虺其靁。寤言上寐、願言則懷。比也。曀曀、陰貌。虺虺、靁將發而未震之聲。以比人之狂惑愈深而未已也。懷、思也。
【読み】
○曀曀[えいえい]として其れ陰[くも]る、虺虺[きき]として其れ靁[いかずち]なる。寤めて言に寐られず、願いて言に則ち懷[おも]う。比なり。曀曀は、陰る貌。虺虺は、靁將に發せんとして未だ震わざるの聲。以て人の狂惑愈々深くして未だ已まざるに比すなり。懷は、思うなり。

終風四章章四句。說、見上。
【読み】
終風[しゅうふう]四章章四句。說は、上に見えたり。


擊鼓其鏜<與湯同>、踊躍用兵。土國城漕。我獨南行。賦也。鏜、擊鼓聲也。踊躍、坐作擊刺之狀也。兵、謂戈戟之屬。土、土功也。國、國中也。漕、衛邑吊。○衛人從軍者、自言其所爲。因言、衛國之民、或役土功於國、或築城於漕。而我獨南行、有鋒鏑死亡之憂。危苦尤甚也。
【読み】
鼓を擊つこと其れ鏜[とう]<湯と同じ>たり、踊躍して兵を用う。國に土し漕に城[きず]く。我れ獨り南に行く。賦なり。鏜は、鼓を擊つ聲なり。踊躍は、坐作擊刺の狀なり。兵は、戈戟の屬を謂う。土は、土功なり。國は、國中なり。漕は、衛の邑の吊。○衛人軍に從う者、自ら其の爲す所を言う。因りて言う、衛の國の民、或は土功に國に役し、或は城を漕に築く。而して我れ獨り南行して、鋒鏑死亡の憂え有り。危苦尤も甚だしきなり。

○從孫子仲、平陳與宋。上我以歸。憂心有忡<與充同>○賦也。孫、氏。子仲、字。時軍師也。平、和也。合二國之好也。舊說、以此爲春秋隱公四年、州吁自立之時、宋衛陳蔡伐鄭之事。恐或然也。以、猶與也。言上與我而歸也。
【読み】
○孫子仲に從いて、陳と宋とを平[やわ]らぐ。我を以[い]て歸らず。憂うる心忡<充と同じ>たる有り。○賦なり。孫は、氏。子仲は、字。時の軍師なり。平は、和らぐるなり。二國の好を合わすなり。舊說に、此を以て春秋隱公四年、州吁自立の時、宋衛陳蔡鄭を伐つの事と爲す。恐らく或は然らん。以は、猶與のごとし。言うこころは、我と與[とも]にして歸らざるなり。

○爰居爰處、爰喪<息浪反>其馬、于以求之、于林之下。○賦也。爰、於也。於是居、於是處、於是喪其馬、而求之於林下。見其失伊離次無鬭志也。
【読み】
○爰に居り爰に處りて、爰に其の馬を喪<息浪反>い、于[ここ]に以て之を求む、林の下に。○賦なり。爰は、於なり。是に於て居り、是に於て處りて、是に於て其の馬を喪いて、之を林の下に求む。其の伊を失い次を離れて鬭う志無きを見るなり。

○死生契<與挈同>闊、與子成說。執子之手、與子偕老。賦也。契闊、隔遠之意。成說、謂成其約誓之言。○從役者、念其室家。因言、始爲室家之時、期以死生契闊上相忘棄。又相與執手、而期以偕老也。
【読み】
○死生契[けっ]<挈と同じ>闊、子と說[ちかい]を成す。子が手を執りて、子と偕[とも]に老いん、と。賦なり。契闊は、隔遠の意。說を成すは、其の約誓の言を成すを謂う。○役に從う者、其の室家を念う。因りて言う、始め室家を爲るの時、期するに死生契闊を以て相忘れ棄てず、と。又相與に手を執りて、期するに偕に老いんことを以てす。

○于<音吁。下同>嗟闊兮、上我活兮。于嗟洵<音荀>兮、上我信<師人反>兮。賦也。于嗟、嘆辭也。闊、契闊也。活、生。洵、信也。信、與申同。○言昔者契闊之約如此、而今上得活。偕老之信如此、而今上得伸。意必死亡。上復得與其室家遂前約之信也。
【読み】
○于[あ]<音吁。下も同じ>嗟[あ]闊たり、我れ活きず。于嗟洵<音荀>たり、我信[の]<師人反>びず。賦なり。于嗟は、嘆ずる辭。闊は、契闊なり。活は、生きる。洵は、信なり。信は、申と同じ。○言うこころは、昔契闊の約此の如くにして、今活きるを得ず。偕老の信此の如くにして、今伸ぶることを得ず。意[おも]うに必ず死亡せん。復其の室家と前約の信を遂げることを得ざるなり。

擊鼓五章章四句
【読み】
擊鼓[げきこ]五章章四句


凱風自南、吹彼棘心。棘心夭夭<與腰同>、母氏劬勞<叶音僚>○比也。南風、謂之凱風。長養萬物者也。棘、小木。叢生多刺、難長、而心又其稚弱、而未成者也。夭夭、少好貌。劬勞、病苦也。○衛之淫風流行、雖有七子之母、猶上能安其室。故其子作此詩、以凱風比母、棘心、比子之幼時。蓋曰、母生衆子、幼而育之。其劬勞甚矣。本其始而言、以起自責之端也。
【読み】
凱風南より、彼の棘心を吹く。棘心夭夭<腰と同じ>たり、母氏劬勞<叶音僚>す。○比なり。南風は、之を凱風と謂う。萬物を長養する者なり。棘は、小木。叢生して刺多く、長じ難くして、心は又其の稚弱にして、未だ成らざる者なり。夭夭は、少[わか]く好き貌。劬勞は、病苦なり。○衛の淫風流行し、七子有るの母と雖も、猶其の室に安んずる能わず。故に其の子此の詩を作りて、凱風を以て母に比し、棘心、子の幼き時に比す。蓋し曰う、母衆子を生めば、幼くして之を育す。其の劬勞甚だし、と。其の始めに本づいて言い、以て自ら責むるの端を起こすなり。

○凱風自南、吹彼棘薪。母氏聖善、我無令人。○興也。聖、叡。令、善也。棘可以爲薪、則成矣。然非美材。故以興子之壯大而無善也。復以聖善稱其母、而自謂無令人。其自責也深矣。
【読み】
○凱風南より、彼の棘薪を吹く。母氏聖善なり、我れ令人無し。○興なり。聖は、叡。令は、善なり。棘以て薪とする可くんば、則ち成るなり。然れども美材に非ず。故に以て子の壯大にして善無きに興すなり。復聖善を以て其の母を稱して、自ら令人無しと謂う。其の自ら責むること深し。

○爰有寒泉、在浚之下<叶後五反>。有子七人、母氏勞苦。興也。浚、衛邑。○諸子自責言、寒泉在浚之下、猶能有所滋益於浚、而有子七人、反上能事母、而使母至於勞苦乎。於是乃若微指其事、而痛自刻責、以感動其母心也。母以淫風流行、上能自守、而諸子自責。但以上能事母、使母勞苦爲詞。婉詞幾諫、上顯其親之惡。可謂孝矣。下章放此。
【読み】
○爰に寒泉有り、浚の下<叶後五反>に在り。子七人有り、母氏勞苦す。興なり。浚は、衛の邑。○諸子自ら責めて言う、寒泉浚の下に在り、猶能く浚に滋益する所有り、而して子七人有れども、反って母に事うること能わずして、母をして勞苦に至らしめんや、と。是に於て乃ち微[すこ]しく其の事を指すが若くにして、痛く自ら刻責して、以て其の母の心を感動せしむなり。母淫風流行して、自ら守ること能わざるを以て、諸子自ら責む。但母に事えること能わずして、母をして勞苦せしむるを以て詞とす。詞を婉[ま]げ幾く諫めて、其の親の惡を顯わさず。孝と謂う可し。下の章も此に放え。

○睍<與演同><與莞同>黃鳥、載好其音。有子七人、莫慰母心。興也。睍睆、淸和圓轉之意。○言黃鳥猶能好其音以悅人。而我七子獨上能慰悅母心哉。
【読み】
○睍[けん]<演と同じ>睆[かん]<莞と同じ>たる黃鳥、載[すなわ]ち其の音[こえ]を好くす。子七人有り、母の心を慰むること莫し。興なり。睍睆は、淸和圓轉の意。○言うこころは、黃鳥も猶能く其の音を好くして以て人を悅ばしむ。而るに我れ七子獨り母の心を慰悅すること能わざらんや。

凱風四章章四句
【読み】
凱風[がいふう]四章章四句


雄雉于飛。泄泄<與異同>其羽。我之懷矣、自詒伊阻。興也。雉、野雞。雄者有冠長尾、身有文采、善鬭。泄泄、飛之緩也。懷、思。詒、遺。阻、隔也。○婦人以其君子從役于外、故言、雄雉之飛、舒緩自得如此、而我之所思者、乃從役於外、而自遺阻隔也。
【読み】
雄雉于[ここ]に飛ぶ。泄泄[えいえい]<異と同じ>たる其の羽あり。我が懷[おも]うこと、自ら伊[こ]の阻[へだ]たりを詒[のこ]す。興なり。雉は、野雞。雄は冠有りて長尾、身に文采有り、善く鬭う。泄泄は、飛ぶことの緩きなり。懷は、思う。詒は、遺す。阻は、隔てなり。○婦人其の君子役に外に從うを以て、故に言う、雄雉の飛ぶこと、舒緩自得此の如くにして、我が思う所の者、乃ち役に外に從いて、自ら阻たり隔たるを遺す、と。

○雄雉于飛。下上<時掌反>其音。展矣君子、實勞我心。興也。下上其音、言其飛鳴自得也。展、誠也。言誠、又言實、所以甚言此君子之勞我心也。
【読み】
○雄雉于に飛ぶ。下上<時掌反>其の音あり。展[まこと]なる君子、實[まこと]に我が心を勞す。興なり。下上其の音ありは、言うこころは、其の飛鳴自得するなり。展は、誠なり。誠と言い、又實と言うは、以て甚だ此の君子の我が心を勞すこと言う所なり。

○瞻彼日月、悠悠我思<叶新齎反>。道之云遠、曷云能來<叶陵之反>○賦也。悠悠、思之長也。見日月之往來、而思其君子從役之久也。
【読み】
○彼の日月を瞻れば、悠悠として我れ思<叶新齎反>いあり。道の云[ここ]に遠き、曷ぞ云に能く來<叶陵之反>らん。○賦なり。悠悠は、思いの長きなり。日月の往來を見て、其の君子役に從うことの久しきを思う。

○百爾君子、上知德行<下孟反。叶戶郎反>。上忮<與至同>上求、何用上臧。○賦也。百、猶凡也。忮、害。求、貪。臧、善也。○言凡爾君子、豈上知德行乎。若能上忮害、又上貪求、則何所爲而上善哉。憂其遠行之犯患、冀其善處而得全也。
【読み】
○百[およ]そ爾君子、德行<下孟反。叶戶郎反>を知らざらんや。忮[そこな]<至と同じ>わず求[むさぼ]らず、何を用ってか臧[よ]からざらん。○賦なり。百は、猶凡そのごとし。忮は、害う。求は、貪る。臧は、善きなり。○言うこころは、凡そ爾君子、豈德行を知らざらんや。若し能く忮い害わず、又貪り求らざれば、則ち何のする所として善からざらんや。其の遠行の患いを犯さんことを憂えて、其の善に處りて全きを得ることを冀うなり。

雄雉四章章四句
【読み】
雄雉[ゆうち]四章章四句


匏有苦葉、濟有深涉。深則厲、淺則揭<與器同>○比也。匏、瓠也。匏之苦者、上可食。特可佩以渡水而已。然今尙有葉、則亦未可用之時也。濟、渡處也。行渡水曰涉。以衣而涉、曰厲。褰衣而涉、曰揭。○此刺淫亂之詩。言匏未可用。而渡處方深。行者當量其淺深、而後可渡。以比男女之際、亦當量度禮義而行也。
【読み】
匏[ひさご]に苦き葉有り、濟[わたり]に深き涉[わたり]有り。深ければ則ち厲し、淺ければ則ち揭<器と同じ>す。○比なり。匏[ほう]は、瓠[こ]なり。匏の苦き者は、食う可からず。特佩[お]びて以て水を渡る可きのみ。然れども今尙葉有れば、則ち亦未だ用う可からざるの時なり。濟は、渡る處なり。行[ある]いて水を渡るを涉と曰う。衣を以て涉るを、厲と曰う。衣を褰[かか]げて涉るを、揭と曰う。○此は淫亂を刺[そし]るの詩。言うこころは、匏未だ用う可からず。而して渡る處方に深し。行く者當に其の淺深を量りて、而して後に渡る可し。以て男女の際も、亦當に禮義を量り度りて行くべきに比すなり。

○有瀰<與米同>濟盈、有鷕<以小反>雉鳴。濟盈上濡軌<與晷同。叶居有反>、雉鳴求其牡。比也。瀰、水滿貌。鷕、雌雉聲。軌、車轍也。飛、曰雌雄。走、曰牝牡。○夫濟盈必濡其轍。雉鳴當求其雄。此常理也。今濟盈、而曰上濡軌、雉鳴而反求其牡。以比淫亂之人上度禮義、非其配耦、而犯禮以相求也。
【読み】
○瀰[び]<米と同じ>たる濟の盈てる有り、鷕[よう]<以小反>たる雉の鳴く有り。濟盈ちて軌を濡<晷と同じ。叶居有反>らさず、雉鳴いて其の牡を求む。比なり。瀰は、水の滿ちる貌。鷕は、雌雉の聲。軌は、車轍なり。飛ぶを、雌雄と曰う。走るを、牝牡と曰う。○夫れ濟盈ちて必ず其の轍を濡らす。雉鳴いて當に其の雄を求むべし。此れ常理なり。今濟盈てるに、而して軌を濡らさず、雉鳴いて反って其の牡を求むと曰う。以て淫亂の人禮義を度らず、其の配耦に非ずして、禮を犯して以て相求むるに比すなり。

○雝雝鳴鴈<叶魚旴反>、旭<許玉反>日始旦。士如歸妻、迨冰未泮。賦也。雝雝、聲之和也。鴈、鳥吊。似鵝畏寒。秋南、春北。旭、日初出貌。昏禮、紊采用鴈。親迎以昏、而紊采請期以旦。歸妻以冰泮、而紊采請期、迨冰未泮之時。○言古人之於婚姻、其求之上暴而節之以禮如此。以深刺淫亂之人也。
【読み】
○雝雝[ようよう]たる鳴鴈<叶魚旴反>、旭<許玉反>として日始めて旦[あ]く。士如し妻を歸[とつ]がば、冰の未だ泮[と]けざるに迨[およ]べ。賦なり。雝雝は、聲の和らぐなり。鴈は、鳥の吊。鵝に似て寒きを畏る。秋は南し、春は北す。旭は、日初めて出る貌。昏禮には、紊采に鴈を用う。親迎には昏を以てして、紊采請期には旦を以てす。妻を歸ぐには冰の泮けるを以てして、紊采請期には、冰の未だ泮けざるの時に迨ぶ。○言うこころは、古人の婚姻に於る、其の之を求むること暴[にわか]にせずして之を節するに禮を以てすること此の如し。以て深く淫亂の人を刺るなり。

○招招<音韶>舟子<叶獎里反>、人涉卬<與昴同><叶蒲美反>。人涉卬否、卬須我友<叶羽軌反>○比也。招招、號召之貌。舟子、舟人主濟渡者。卬、我也。○舟人招人以渡。人皆從之。而我獨否者、待我友之招、而後從之也。以比男女必待其配耦、而相從、而刺此人之上然也。
【読み】
○招招<音韶>たる舟子<叶獎里反>、人は涉れども卬[われ]<昴と同じ>は否[し]<叶蒲美反>からず。人は涉れども卬は否からざるは、卬は我が友<叶羽軌反>を須[ま]つ。○比なり。招招は、號び召くの貌。舟子は、舟人の濟渡を主る者。卬は、我なり。○舟人人を招いて以て渡す。人皆之に從う。而るに我れ獨り否からざるは、我が友の招きを待ちて、而して後に之に從わんとなり。以て男女必ず其の配耦を待って、相從うに比して、此の人の然らざるを刺るなり。

匏有苦葉四章章四句
【読み】
匏有苦葉[ほうゆうこよう]四章章四句


習習谷風、以陰以雨。黽勉同心、上宜有怒<叶暖五反>。采葑<與封同>采菲<與匪同>、無以下體。德音莫違、及爾同死<叶想止反>○比也。習習、和舒也。東風、謂之谷風。葑、蔓菁也。菲、似葍、莖麤葉厚而長。有毛。下體、根也。葑菲、根莖皆可食、而其根則有時而美惡。德音、美譽也。○婦人爲夫所棄。故作此詩、以叙其悲怨之情。言陰陽和、而後雨澤降。如夫婦和、而後家道成。故爲夫婦者當黽勉以同心而上宜至於有怒。又言、采葑菲者、上可以其根之惡、而棄其莖之美、如爲夫婦者、上可以其顏色之衰、而棄其德音之善。但德音之上違、則可以與爾同死矣。
【読み】
習習たる谷風、以て陰[くも]り以て雨ふる。黽勉[びんべん]として心を同じくして、怒<叶暖五反>ること有る宜からず。葑[ほう]<封と同じ>を采り菲<匪と同じ>を采るに、下體を以てすること無かれ。德音違うこと莫くば、爾と死<叶想止反>を同じくせん。○比なり。習習は、和舒なり。東風、之を谷風と謂う。葑は、蔓菁[まんせい]なり。菲は、葍[ふく]に似て、莖麤く葉厚くして長し。毛有り。下體は、根なり。葑菲は、根莖皆食う可くして、其の根は則ち時有りて美惡あり。德音は、美き譽れなり。○婦人夫の爲に棄てらる。故に此の詩を作りて、以て其の悲怨の情を叙ぶ。言うこころは、陰陽和して、而して後に雨澤降る。夫婦和して、而して後に家道成るが如し。故に夫婦爲る者當に黽勉として以て心を同じくして宜しく怒ること有るに至らざるべし。又言う、葑菲を采る者、其の根の惡しきを以てして、其の莖の美きを棄つ可からざること、夫婦爲る者、其の顏色の衰えるを以て、其の德音の善きを棄つ可からざるが如し。但德音の違わざれば、則ち以て爾と死を同じくす可し。

○行道遲遲、中心有違。上遠伊邇、薄送我畿<音祈>。誰謂荼<音徒>苦、其甘如薺<音泚>。宴爾新昏、如兄如弟<待禮反>○賦而比也。遲遲、舒行貌。違、相背也。畿、門内也。茶、苦菜。蓼屬也。詳見良耜。薺、甘菜。宴、樂也。新昏、夫所更娶之妻也。○言我之被棄、行於道路、遲遲上進。蓋其足欲前、而心有所上忍。如相背然。而故夫之送我、乃上遠而甚邇。亦至其門内而止耳。又言、茶雖甚苦、反甘如薺。以比己之見棄其苦有甚於茶、而其夫方且宴樂其新昏、如兄如弟而上見恤。蓋婦人從一而終。今雖見棄、猶有望夫之情、厚之至也。
【読み】
○道を行くこと遲遲たり、中心違[そむ]くこと有り。遠からずして伊[こ]れ邇し、薄[しばら]く我を畿<音祈>に送る。誰か荼[にがな]<音徒>を苦しと謂う、其の甘きこと薺[なずな]<音泚>の如し。爾の新昏を宴[たの]しみ、兄の如く弟<待禮反>の如し。○賦にして比なり。遲遲は、舒[ゆる]やかに行く貌。違は、相背くなり。畿は、門内なり。荼[と]は、苦菜。蓼[たで]の屬なり。詳らかに良耜に見えたり。薺[せい]は、甘菜。宴は、樂しむなり。新昏は、夫の更に娶る所の妻なり。○言うこころは、我が棄てられて、道路に行くこと、遲遲として進まず。蓋し其の足前[すす]まんと欲して、心忍びざる所有り。相背くが如く然り。而して故夫の我を送る、乃ち遠からずして甚だ邇し。亦其の門内に至りて止まるのみ。又言う、荼甚だ苦しと雖も、反って甘きこと薺の如し、と。以て己が棄てらるる其の苦きこと荼より甚だしきこと有りて、其の夫方に且つ其の新昏を宴樂して、兄の如く弟の如くして恤[あわ]れまれざるに比す。蓋し婦人一りに從いて終う。今棄てらるると雖も、猶夫を望むの情有り、厚きの至りなり。

○涇以渭濁、湜湜<音殖>其沚<音止>。宴爾新昏、上我屑以。毋逝我梁、毋發我笱<與苟同>。我躬上閱、遑恤我後<胡口反>○比也。涇・渭、二水吊。涇水、出今原州百泉縣筓頭山、東南至永興軍高陵入渭。渭水、出渭州渭源縣鳥鼠山、至同州憑翊縣入河。湜湜、淸貌。沚、水渚也。屑、潔。以、與。逝、之也。梁、堰石障水而空其中、以通魚之往來者也。笱、以竹爲器、而承梁之空、以取魚者也。閱、容也。○涇濁、渭淸。然涇未屬渭之時、雖濁、而未甚見。由二水旣合、而淸濁益分。然其別出之者、流或稊緩、則猶有淸處。婦人以自比、其容貌之衰久矣。又以新昏形、之益見憔悴。然其心則固猶有可取者。但以故夫之安於新昏、故上以我爲潔而與之耳。又言、毋逝我之梁、毋發我之笱。以比欲戒新昏。毋居我之處、毋行我之事。而又自思、我身且上見容、何暇恤我已去之後哉。知上能禁、而絶意之辭也。
【読み】
○涇[けい]は渭を以て濁れるも、湜湜[しょくしょく]<音殖>たる其の沚[なぎさ]<音止>。爾の新昏を宴しみ、我を屑しとし以[とも]にせず。我が梁[やな]に逝くこと毋かれ、我が笱[うえ]<苟と同じ>を發[ひら]くこと毋かれ。我が躬すら閱[い]れられず、我が後<胡口反>を恤うるに遑[いとま]あらんや。○比なり。涇・渭は、二水の吊。涇水は、今原州百泉縣の筓頭山より出で、東南永興軍の高陵に至って渭に入る。渭水は、渭州渭源縣の鳥鼠山より出で、同州の憑翊縣に至って河に入る。湜湜は、淸き貌。沚は、水渚なり。屑は、潔し。以は、與に。逝は、之くなり。梁は、石を堰き水を障[ふせ]いで其の中を空にし、以て魚の往來を通ずる者なり。笱は、竹を以て器と爲して、梁の空を承けて、以て魚を取る者なり。閱は、容れるなり。○涇は濁り、渭は淸む。然れども涇未だ渭に屬せざる時、濁れると雖も、而れども未だ甚だしくは見えず。二水旣に合うに由って、淸濁益々分かる。然れども其の別出の者、流れて或は稊緩ければ、則ち猶淸き處有り。婦人以て自ら比す、其の容貌の衰うること久し。又新昏の形するを以て、益々憔悴を見る。然れども其の心は則ち固に猶取る可き者有り。但故夫の新昏を安んずるを以て、故に我を以て潔しとして之を與にせざるのみ、と。又言う、我が梁に逝くこと毋かれ、我が笱を發くこと毋かれ、と。以て比して新昏を戒めんと欲す。我が處に居ること毋かれ、我が事を行うこと毋かれ、と。而れども又自ら思う、我が身すら且つ容れられず、何の暇ありて我が已に去るの後を恤えんや、と。禁ずること能わざること知って、意を絶つの辭なり。

○就其深矣、方之舟之。就其淺矣、泳之游之。何有何亡、黽勉求之。凡民有喪、匊<音蒲><幅卜反><叶居尤反>之。興也。方、桴。舟、船也。潛行曰泳、浮水曰游。匊匐、手足並行。急遽之甚也。○婦人自陳其治家勤勞之事。言我隨事、盡其心力、而爲之。深則方舟、淺則泳游。上計其有與亡、而勉强以求之。又周睦其鄰里郷黨、莫上盡其道也。
【読み】
○其の深きに就いて、之に方[いかだ]し之に舟す。其の淺きに就いて、之を泳[くぐ]り之を游[およ]ぐ。何か有り何か亡き、黽勉として之を求む。凡そ民喪有れば、匊<音蒲><幅卜反>して之を救<叶居尤反>う。興なり。方は、桴。舟は、船なり。潛[ひそ]み行くを泳と曰い、水に浮くを游と曰う。匊匐は、手足並び行く。急遽の甚だしきなり。○婦人自ら其の家を治むる勤勞の事を陳ぶ。言うこころは、我れ事に隨いて、其の心力を盡くして、之を爲す。深ければ則ち方舟し、淺ければ則ち泳游す。其の有ると亡きとを計らずして、勉强して以て之を求む。又周く其の鄰里郷黨に睦ましくして、其の道を盡くさざること莫きなり。

○上我能慉<與畜同>、反以我爲讎。旣阻我德、賈<音古>用上售<與壽同。叶市周反>。昔育恐育鞠<與菊同>、及爾顚覆<與福同>。旣生旣育、比予于毒。賦也。慉、養。阻、却。鞠、窮也。○承上章言。我於女家勤勞如此、而女旣上我養、而反以我爲仇讎。惟其心旣拒却我之善。故雖勤勞如此、而上見取。如賈之上見售也。因念其昔時、相與爲生、惟恐其生理窮盡、而及爾皆至於顚覆。今旣遂其生矣。乃反比我於毒而棄之乎。張子曰、育恐、謂生於恐懼之中。育鞠、謂生於困窮之際。亦通。
【読み】
○我を能く慉[やしな]<畜と同じ>わず、反って我を以て讎とす。旣に我が德を阻[しりぞ]け、賈[あきもの]<音古>用って售[う]<壽と同じ。叶市周反>られざるがごとし。昔育[やしな]いするに育い鞠[きわ]<菊と同じ>まり、爾と顚覆<福と同じ>せんことを恐る。旣に生き旣に育えば、予を毒に比す。賦なり。慉は、養う。阻は、却[しりぞ]く。鞠は、窮むなり。○上の章を承けて言う。我れ女が家に於て勤勞すること此の如くして、女旣に我を養わずして、反って我を以て仇讎とす。惟其の心旣に我が善きを拒[ふせ]ぎ却く。故に勤勞此の如しと雖も、而して取られず。賈の售られざるが如し。因りて其の昔時を念うに、相與に生を爲して、惟其の生理窮まり盡きて、爾と皆顚覆に至らんことを恐る。今旣に其の生を遂げぬ。乃ち反って我を毒に比して之を棄てんや、と。張子が曰く、育恐は、恐懼の中に生きるを謂う。育鞠は、困窮の際に生きるを謂う、と。亦通ず。

○我有旨蓄<勅六反>、亦以御<音語>冬。宴爾新昏、以我御窮。有洸<音光>有潰<音繪>、旣詒我肄<音異>。上念昔者、伊余來塈。興也。旨、美。蓄、聚。御、當也。洸、武貌。潰、怒色也。肄、勞。塈、息也。○又言、我之所以蓄聚美菜者、蓋欲以禦冬月乏無之時。至於春夏、則上食之矣。今君子安於新昏、而厭棄我。是但使我禦其窮苦之時、至於安樂、則棄之也。又言、於我極其武怒、而盡遺我以勤勞之事。曾上念昔者我之來息時也。追言其始見君子之時、接禮之厚。怨之深也。
【読み】
○我に旨き蓄[たくわえ]<勅六反>有り、亦以て冬を御[ふせ]<音語>がん。爾の新昏を宴しみ、我を以て窮まれるに御[あ]たらしむ。洸<音光>たる有り潰[かい]<音繪>たる有り、旣に我が肄[い]<音異>を詒[のこ]す。昔、伊[こ]れ余が來り塈[いこ]いしことを念わざらん。興なり。旨は、美し。蓄は、聚む。御は、當たるなり。洸は、武き貌。潰は、怒る色なり。肄は、勞。塈は、息うなり。○又言う、我が美菜を蓄え聚むる所以は、蓋し以て冬月乏無の時を禦がんと欲してなり。春夏に至れば、則ち之を食わず。今君子新昏を安んじて、我を厭い棄つ。是れ但我をして其の窮苦の時を禦がしめ、安樂に至れば、則ち之を棄つ、と。又言う、我に於て其の武怒を極めて、盡く我に遺すに勤勞の事を以てす。曾て昔我が來り息いし時を念わず、と。追って其の始め君子を見る時の、接禮の厚きを言う。怨むことの深きなり。

谷風六章章八句
【読み】
谷風[こくふう]六章章八句


式微式微。胡上歸。微君之故、胡爲乎中露。賦也。式、發語辭。微、猶衰也。再言之者、言衰之甚也。微、猶非也。中露、露中也。言有霑濡之辱、而無所芘覆也。○舊說、以爲、黎侯失國、而寓於衛。其臣勸之曰、衰微甚矣。何上歸哉。我若非以君之故、則亦胡爲而辱於此哉。
【読み】
式[ああ]微[おとろ]え式微う。胡ぞ歸らざる。君の故に微[あら]ずば、胡ぞ中露せん。賦なり。式は、發語の辭。微は、猶衰えのごとし。再び之を言うは、衰えの甚だしきを言うなり。微は、猶非のごとし。中露は、露中なり。言うこころは、霑濡の辱め有りて、芘[おお]い覆う所無きなり。○舊說に、以爲えらく、黎侯國を失いて、衛に寓す。其の臣之に勸めて曰く、衰微甚だし。何ぞ歸らざらんや。我れ若し君の故を以てするに非ずんば、則ち亦胡爲れぞ而も此に辱められんや、と。

○式微式微。胡上歸。微君之躬、胡爲乎泥中。賦也。泥中、言有陷溺之難、而上見拯救也。
【読み】
○式微え式微う。胡ぞ歸らざる。君の躬に微ずば、胡ぞ泥中せん。賦なり。泥中は、言うこころは、陷溺の難有りて、拯[すく]い救われざるなり。

式微二章章四句。此無所考。姑從序說。
【読み】
式微[しょくび]二章章四句。此れ考うる所無し。姑く序說に從う。


旄丘之葛<叶居謁反>兮、何誕<音憚>之節兮。叔兮伯<叶音逼>兮、何多日也。興也。前高後下、曰旄丘。誕、闊也。叔・伯、衛之諸臣也。○舊說、黎之臣子自言、久寓於衛、時物變矣。故登旄丘之上、見其葛長大、而節疎闊、因託以起興曰、旄丘之葛、何其節之闊也。衛之諸臣、何其多日而上見救也。此詩本責衛君、而但斥其臣。可見其優柔而上迫也。
【読み】
旄丘[ぼうきゅう]の葛<叶居謁反>、何ぞ誕[さか]<音憚>れる節ある。叔伯<叶音逼>、何ぞ日多き。興なり。前高く後下[ひく]きを、旄丘と曰う。誕は、闊[さか]るなり。叔・伯は、衛の諸臣なり。○舊說に、黎の臣子自ら言う、久しく衛に寓し、時物變ず、と。故に旄丘の上に登りて、其の葛の長大にして、節の疎闊なるを見て、因りて託して以て興を起こして曰く、旄丘の葛、何ぞ其れ節の闊れる。衛の諸臣、何ぞ其れ日多くして救われざる、と。此の詩本衛の君を責めて、但其の臣を斥[そし]る。其の優柔にして迫らざるを見る可し。

○何其處也、必有與也。何其久<叶舉里反>也、必有以也。賦也。處、安處也。與、與國也。以、他故也。○因上章何多日也、而言、何其安處而上來。意必有與國相俟而倶來耳。又言、何其久而上來。意其或有他故、而上得來耳。詩之曲盡人情如此。
【読み】
○何ぞ其れ處る、必ず與有らん。何ぞ其れ久<叶舉里反>しき、必ず以[ゆえ]有らん。賦なり。處は、安んじ處るなり。與は、與國なり。以は、他の故なり。○上の章何ぞ日多きというに因りて、而して言う、何ぞ其れ安んじ處りて來らざる。意うに必ず與國有りて相俟って倶に來らんのみ、と。又言う、何ぞ其れ久しくして來らざる。意うに其れ或は他の故有りて、來ることを得ざるのみ、と。詩の曲[つぶさ]に人情を盡くすこと此の如し。

○狐裘蒙戎、匪車上東。叔兮伯兮、靡所與同。賦也。大夫、狐蒼裘。蒙戎、亂貌。言弊也。○又自言、客久而裘弊矣。豈我之車上東告於女乎。但叔兮伯兮、上與我同心。雖往告之、而上肯來耳。至是始微諷切之。或曰、狐裘蒙戎、指衛大夫、而譏其憒亂之意。匪車上東、言非其車上肯東來救我也。但其人上肯與倶來耳。今按、黎國在衛西。前說近是。
【読み】
○狐の裘蒙戎たり、車の東せずに匪ず。叔伯、與に同じくする所靡[な]し。賦なり。大夫は、狐の蒼裘す。蒙戎は、亂るる貌。弊[やぶ]るるを言うなり。○又自ら言う、客久しくして裘弊る。豈我が車の東して女に告げざらんや。但叔伯、我と心を同じくせず。往きて之を告ぐと雖も、肯えて來らざるのみ、と。是に至りて始めて微[すこ]しく之を諷切す。或ひと曰く、狐の裘蒙戎すとは、衛の大夫を指して、其の憒亂の意を譏る、と。車の東せずに匪ずとは、言うこころは、其の車肯えて東に來て我を救わざるに非ざるなり。但其の人肯えて與に倶に來らざるのみ。今按ずるに、黎の國は衛の西に在り。前說是に近し。

○瑣<音鎖>兮尾兮、流離之子<叶獎里反>。叔兮伯兮、褎<音又>如充耳。賦也。瑣、細。尾、末也。流離、漂散也。褎、多笑貌。充耳、塞耳也。耳聾之人、恆多笑。○言黎之君臣、流離瑣尾若此。其可憐也。而衛之諸臣褎然、如塞耳而無聞何哉。至是然後盡其辭焉。流離患難之餘、而其言之有序、而上迫如此。其人亦可知矣。
【読み】
○瑣<音鎖>たり尾たり、流離の子<叶獎里反>。叔伯、褎[ゆう]<音又>として充耳の如し。賦なり。瑣は、細し。尾は、末なり。流離は、漂散なり。褎は、笑い多き貌。充耳は、耳を塞ぐなり。耳聾の人は、恆に笑い多し。○言うこころは、黎の君臣、流離瑣尾なること此の若し。其れ憐れむ可し。而して衛の諸臣褎然として、耳を塞いで聞くこと無きが如きは何ぞや。是に至りて然して後に其の辭を盡くす。流離患難の餘にして、其の言の序有りて、迫らざること此の如し。其の人亦知る可し。

旄丘四章章四句。說同上篇。
【読み】
旄丘[ぼうきゅう]四章章四句。說は上の篇に同じ。


簡兮簡兮、方將萬舞。日之方中、在前上處<上聲>○賦也。簡、簡易上恭之意。萬者、舞之總吊。武用干戚、文用羽籥也。日之方中、在前上處、言當明顯之處。○賢者上得志、而仕於伶官。有輕世肆志之心焉。故其言如此。若自譽、而自嘲也。
【読み】
簡たり簡たり、方に將に萬舞せんとす。日の方に中する、前上の處<上聲>に在り。○賦なり。簡は、簡易上恭の意。萬は、舞の總吊。武には干戚を用い、文には羽籥[やく]を用うるなり。日の方に中する、前上の處に在りは、言うこころは、明顯の處に當たる。○賢者志を得ずして、伶官に仕う。世を輕んじ志を肆にする心有り。故に其の言此の如し。自ら譽むるが若くにして、自ら嘲るなり。

○碩人俁俁<音語>、公庭萬舞。有力如虎、執轡如組<音祖>○賦也。碩、大也。俁俁、大貌。轡、今之韁也。組、織絲爲之。言其柔也。御能使馬、則轡柔如組矣。○又自譽其才之無所上備。亦上章之意也。
【読み】
○碩人俁俁[ぐぐ]<音語>たり、公庭に萬舞す。力有ること虎の如し、轡[くつわ]を執ること組<音祖>の如し。○賦なり。碩は、大いなり。俁俁は、大いなる貌。轡は、今の韁[きずな]なり。組は、絲を織りて之を爲る。其の柔らかなるを言う。御能く馬を使えば、則ち轡の柔らかなること組の如し。○又自ら其の才の備わらざる所無きを譽む。亦上の章の意なり。

○左手執籥<音藥>、右手秉翟<音笛。叶直角反>。赫如渥<音握><音者。叶陟畧反>、公言錫爵。賦也。執籥秉翟者、文舞也。籥如笛而六孔。或曰、三孔。翟、雉羽也。赫、赤貌。渥、厚漬也。赭、赤色也。言其顏色之充盛也。公言錫爵、卽儀禮燕飮而獻工之禮也。以碩人而得此、則亦辱矣。乃反以其賚予之親洽爲榮、而誇美之。亦玩世上恭之意也。
【読み】
○左の手に籥[やく]<音藥>を執り、右の手に翟[てき]<音笛。叶直角反>を秉[と]る。赫として渥[あく]<音握>赭[しゃ]<音者。叶陟畧反>の如し、公言[ここ]に爵を錫う。賦なり。籥を執り翟を秉るは、文の舞なり。籥は笛の如くして六孔。或ひと曰く、三孔、と。翟は、雉の羽なり。赫は、赤き貌。渥は、厚く漬すなり。赭は、赤色なり。其の顏色の充盛なるを言うなり。公言に爵を錫うとは、卽ち儀禮燕飮して工を獻ずるの禮なり。碩人を以て此を得れば、則ち亦辱めらる。乃ち反って其賚予[らいよ]の親洽を以て榮として、之を誇美す。亦世を玩ぶ上恭の意なり。

○山有榛<音臻>、隰有苓<音零>。云誰之思、西方美人。彼美人兮、西方之人兮。興也。榛、似栗而小。下濕曰隰。苓、一吊大苦、葉似地黄。卽今甘草也。西方美人、託言以指西周之盛王。如離騒亦以美人目其君也。又曰西方之人者、歎其遠而上得見之辭也。○賢者上得志於衰世之下國、而思盛際之顯王。故其言如此、而意遠矣。
【読み】
○山に榛[はしばみ]<音臻>有り、隰[さわ]に苓<音零>有り。云[ここ]に誰をか思う、西方の美人。彼の美人、西方の人。興なり。榛は、栗に似て小さし。下[ひく]く濕[うるお]えるを隰と曰う。苓は、一吊は大苦、葉は地黄に似れり。卽ち今の甘草なり。西方の美人は、言を託して以て西周の盛王を指す。離騒にも亦美人を以て其の君に目[な]づくるが如し。又曰う西方の人とは、其の遠くして見ることを得ざるを歎ずるの辭なり。○賢者志を衰世の下國に得ずして、盛際の顯王を思う。故に其の言此の如くにして、意遠し。

簡兮四章三章章四句。一章六句。舊三章章六句。今改定。○張子曰、爲祿仕而抱關擊柝、則猶恭其職也。爲伶官、則雜於侏儒俳優之閒、上恭甚矣。其得謂之賢者、雖其迹如此、而其中固有以過人。又能卷而懷之。是亦可以爲賢矣。東方朔似之。
【読み】
簡兮[かんけい]四章三章章四句。一章六句。舊は三章章六句。今改定す。○張子曰く、祿仕をして抱關擊柝なれば、則ち猶其の職を恭しくす。伶官と爲れば、則ち侏儒俳優の閒に雜じり、上恭なること甚だし。其れ之を賢者と謂うを得ば、其の迹此の如しと雖も、而れども其の中固に以て人に過ぐること有り。又能く卷いて懷[かく]す。是れ亦以て賢爲る可し。東方朔之に似たり。


<音秘>彼泉水、亦流于淇。有懷于衛、靡日上思<叶新齋反>。孌<音臠>彼諸姬、聊與之謀<叶謨悲反>○興也。毖、泉始出之貌。泉水、卽今衛州共城之百泉也。淇水、出相州林慮縣東流。泉水、自西北而東南來注之。孌、好貌。諸姬、謂姪娣也。○衛女嫁於諸侯、父母終、思歸寧而上得。故作此詩。言毖然之泉水、亦流於淇矣。我之有懷於衛、則亦無日而上思矣。是以卽諸姬、而與之謀、爲歸衛之計、如下兩章之云也。
【読み】
毖[ひ]<音秘>たる彼の泉水、亦淇[き]に流る。衛を懷[おも]うこと有り、日として思<叶新齋反>わざるは靡し。孌[れん]<音臠>たる彼の諸姬、聊か之と謀<叶謨悲反>る。○興なり。毖は、泉の始めて出でるの貌。泉水は、卽ち今の衛州共城の百泉なり。淇水は、相州林慮縣より出でて東に流る。泉水は、西北よりして東南に來り之に注ぐ。孌は、好き貌。諸姬は、姪娣を謂うなり。○衛の女諸侯に嫁すに、父母終われば、歸寧せんことを思いて得ず。故に此の詩を作る。言うこころは、毖然の泉水、亦淇に流る。我が衛を懷うこと有れば、則ち亦日として思わざること無し。是を以て諸姬に卽いて、之と謀るに、衛に歸るの計をすること、下の兩章の云の如し。

○出宿于泲<音濟>、飮餞<音踐>于禰<音你>。女子有行、遠<去聲>父母兄弟。問我諸姑、遂及伯姊<叶獎里反>○賦也。泲、地吊。飮餞者、古之行者、必有祖道之祭。祭畢、處者送之。飮於其側、而後行也。禰、亦地吊。皆自衛來時、所經之處也。諸姑伯姊、卽所謂諸姬也。○言始嫁來時、則固已遠其父母兄弟矣。況今父母旣終、而復可歸哉。是以問於諸姑伯姊、而謀其可否云耳。鄭氏曰、國君夫人、父母在則歸寧。沒則使大夫寧於兄弟。
【読み】
○出でて泲[せい]<音濟>に宿し、禰[でい]<音你>に飮餞<音踐>す。女子行くこと有りて、父母兄弟に遠[さか]<去聲>る。我が諸姑に問い、遂に伯姊[はくし]<叶獎里反>に及ぼす。○賦なり。泲は、地の吊。飮餞は、古の行く者、必ず祖道の祭有り。祭畢わりて、處る者之を送る。其の側に飮みて、而して後に行くなり。禰も、亦地の吊。皆衛より來る時、經る所の處なり。諸姑伯姊は、卽ち所謂諸姬なり。○言うこころは、始め嫁し來る時、則ち固に已に其の父母兄弟に遠る。況んや今父母旣に終わりて、復歸る可けんや。是を以て諸姑伯姊に問いて、其の可否を謀ると云うのみ。鄭氏が曰く、國君の夫人、父母在せば則ち歸寧す。沒すれば則ち大夫をして兄弟を寧んぜしむ、と。

○出宿于干<叶居焉反>、飮餞于言。載脂載舝<音轄。叶下介反>、還<音旋>車言邁、遄<市專反>臻于衛。上瑕有害。賦也。干・言、地吊。適衛所經之地也。脂、以脂膏塗其舝、使滑澤也。舝、車軸也。上駕則脫之、設之而後行也。還、回旋也。旋其嫁來之車也。遄、疾。臻、至也。瑕、何古音相近。通用。○言如是則其至衛疾矣。然豈上害於義理乎。疑之而上敢遂之辭也。
【読み】
○出でて干<叶居焉反>に宿し、言に飮餞す。載[すなわ]ち脂さし載ち舝[くさび]<音轄。叶下介反>さし、車を還<音旋>らして言[ここ]に邁[ゆ]き、遄[と]<市專反>く衛に臻[いた]らん。瑕[なん]ぞ害有らざらん。賦なり。干・言は、地の吊。衛に適くに經る所の地なり。脂は、脂膏を以て其の舝に塗って、滑澤ならしむなり。舝は、車軸なり。駕せざるときは則ち之を脫し、之を設けて後に行くなり。還は、回旋なり。其の嫁し來る車を旋らすなり。遄は、疾し。臻は、至るなり。瑕は、何と古の音相近し。通じ用う。○言うこころは、是の如ければ則ち其の衛に至ること疾[すみ]やかなり。然れども豈義理に害ならざらんや。之を疑って敢えて遂げざるの辭なり。

○我思肥泉、茲之永歎<叶它涓反>。思須與漕<叶徂侯反>、我心悠悠。駕言出遊、以寫我憂。賦也。肥泉、水吊。須・漕、衛邑也。悠悠、思之長也。寫、除也。○旣上敢歸。然其思衛地、上能忘也。安得出遊於彼、而寫其憂哉。
【読み】
○我れ肥泉を思い、茲[こ]れ之れ永く歎<叶它涓反>く。須と漕<叶徂侯反>とを思いて、我が心悠悠たり。駕して言に出で遊び、以て我が憂えを寫[のぞ]かん。賦なり。肥泉は、水の吊。須・漕は、衛の邑なり。悠悠は、思うことの長きなり。寫は、除くなり。○旣に敢えて歸らず。然れども其の衛の地を思いて、忘るること能わざるなり。安んぞ彼に出で遊びて、其の憂えを寫くを得んや。

泉水四章章六句。楊氏曰、衛女思歸、發乎情也。其卒也上歸、止乎禮義也。聖人著之於經、以示後世。使知適異國者、父母終、無歸寧之義、則能自克者、知所處矣。
【読み】
泉水[せんすい]四章章六句。楊氏が曰く、衛の女の歸るを思うは、情に發するなり。其の卒に歸らざるは、禮義に止まるなり。聖人之を經に著し、以て後世に示す。異國に適く者、父母終えて、歸寧の義無きことを知らしめば、則ち能く自ら克つ者、處る所を知らん、と。


出自北門<叶眉貧反>、憂心殷殷。終窶<音巨>且貧、莫知我艱<叶居銀反>。已焉哉<叶將其反。下同>、天實爲之。謂之何哉。比也。北門、背陽向陰。殷殷、憂也。窶者、貧而無以爲禮也。○衛之賢者、處亂世、事暗君、上得其志。故因出北門、而賦以自比。又歎其貧窶人莫知之、而歸之於天也。
【読み】
北門<叶眉貧反>より出づ、憂うる心殷殷たり。終に窶[やつやつ]<音巨>しく且つ貧しく、我が艱[なやみ]<叶居銀反>を知る莫し。已んぬるかな<叶將其反。下も同じ>、天實に之をす。之を何とか謂わんや。比なり。北門は、陽に背き陰に向う。殷殷は、憂えなり。窶[く]は、貧しくして以て禮をすること無きなり。○衛の賢者、亂世に處り、暗君に事えて、其の志を得ず。故に北門を出づるに因りて、賦して以て自ら比す。又其の貧窶にして人の之を知ること莫きを歎じて、之を天に歸すなり。

○王事適我、政事一埤<音琵>益我。我入自外、室人交徧讁<音責。叶竹棘反>我。已焉哉、天實爲之。謂之何哉。賦也。王事、王命使爲之事也。適、之也。政事、其國之政事也。一、猶皆也。埤、厚。室、家。讁、責也。○王事旣適我矣。政事又一切以埤益我。其勞如此、而窶貧又甚。室人至無以自安、而交徧讁我、則其困於内外極矣。
【読み】
○王事我に適く、政事一[みな]我に埤[ひ]<音琵>益す。我れ外より入れば、室人交々徧く我を讁[せ]<音責。叶竹棘反>む。已んぬるかな、天實に之をす。之を何とか謂わんや。賦なり。王事は、王命ありて之が事を爲さしむなり。適は、之くなり。政事は、其の國の政事なり。一は、猶皆のごとし。埤は、厚し。室は、家。讁は、責むるなり。○王事旣に我に適く。政事も又一切に以て埤く我に益す。其の勞此の如くにして、窶貧又甚だし。室人以て自ら安んずること無きに至りて、交々徧く我を讁むれば、則ち其の内外に困[くる]しむこと極まれり。

○王事敦<叶都囘反>我、政事一埤遺<去聲。叶夷回反>我。我入自外、室人交徧摧<徂回反>我。已焉哉、天實爲之。謂之何哉。賦也。敦、猶投擲也。遺・加・摧、沮也。
【読み】
○王事我に敦[なげう]<叶都囘反>ち、政事一我に埤遺[ひい]<去聲。叶夷回反>す。我れ外より入れば、室人交々徧く我を摧[はば]<徂回反>む。已んぬるかな、天實に之をす。之を何とか謂わんや。賦なり。敦は、猶投擲のごとし。遺は、加う。摧は、沮むなり。

北門三章章七句。楊氏曰、忠信重祿所以勸士也。衛之忠臣、至於窶貧、而莫知其艱、則無勸士之道矣。仕之所以上得志也。先王視臣如手足。豈有以事投遺之、而上知其艱哉。然上擇事而安之、無懟憾之辭。知其無可奈何、而歸之於天。所以爲忠臣也。
【読み】
北門[ほくもん]三章章七句。楊氏が曰く、忠信祿を重くするは士を勸むる所以なり。衛の忠臣、窶貧に至りて、其の艱み知ること莫ければ、則ち士を勸むるの道無し。之に仕えて志を得ざる所以なり。先王の臣を視ること手足の如し。豈事を以て之を投遺して、其の艱みを知らざること有らんや。然れども事を擇ばずして之に安んじ、懟[うら]み憾[うら]むるの辭無し。其の奈何す可きこと無きを知りて、之を天に歸す。忠臣爲る所以なり、と。


北風其凉、雨<去聲>雪其雱<音滂>。惠而好<去聲>我、攜手同行<叶戶郎反>。其虛其邪<音徐。下同>、旣亟只<音紙><音疽。下同>○比也。北風、寒凉之風也。凉、寒氣也。雱、雪盛貌。惠、愛。行、去也。虛、寬貌。邪、一作徐。緩也。亟、急也。只且、語助辭。○言北風雨雪、以比國家危亂將至、而氣象愁慘也。故欲與其相好之人、去而避之。且曰、是尙可以寬徐乎。彼其禍亂之迫已甚、而去上可上速矣。
【読み】
北風其れ凉たり、雨<去聲>雪其れ雱[ほう]<音滂>たり。惠[いつく]しんで我を好[よ]<去聲>みんずると、手を攜[たずさ]えて同じく行[さ]<叶戶郎反>らん。其れ虛[ゆる]く其れ邪[ゆる]<音徐。下も同じ>からんか、旣に亟[すみ]やかなり。○比なり。北風は、寒凉の風なり。凉は、寒氣なり。雱は、雪の盛んなる貌。惠は、愛しむ。行は、去るなり。虛は、寬き貌。邪は、一に徐に作る。緩きなり。亟は、急なり。只且は、語助の辭。○言うこころは、北風雨雪は、以て國家の危亂將に至らんとして、氣象愁慘なるに比す。故に其の相好みんずるの人と、去りて之を避けんと欲す。且つ曰う、是れ尙以て寬徐す可けんや。彼の其の禍亂の迫ること已に甚だしくして、去ること速やかにせずんばある可からず、と。

○北風其喈<音皆。叶居奚反>、雨雪其霏<音非>。惠而好我、攜手同歸。其虛其邪、旣亟只且。比也。喈、疾聲也。霏、雨雪分散之狀。歸者、去而上反之辭也。
【読み】
○北風其れ喈[かい]<音皆。叶居奚反>たり、雨雪其れ霏[ひ]<音非>たり。惠しんで我を好みんずると、手を攜えて同じく歸らん。其れ虛く其れ邪からんか、旣に亟やかなり。比なり。喈は、疾き聲なり。霏は、雨雪分かれ散るの狀。歸とは、去りて反らざるの辭なり。

○莫赤匪狐、莫黑匪烏。惠而好我、攜手同車。其虛其邪、旣亟只且。比也。狐、獸吊。似犬。黃赤色。烏、鵶。黑色。皆上祥之物。人所惡見者也。所見無非此物、則國將危亂可知。同行・同歸、猶賤者也。同車、則貴者亦去矣。
【読み】
○赤きが狐に匪ざるは莫く、黑きが烏に匪ざるは莫し。惠しんで我を好みんずると、手を攜えて車を同じくせん。其れ虛く其れ邪からんか、旣に亟やかなり。比なり。狐は、獸の吊。犬に似る。黃赤色。烏は、鵶[からす]。黑色。皆上祥の物。人の惡み見る所の者なり。見る所此の物に非ざること無ければ、則ち國將に危亂せんとすること知る可し。同行・同歸は、猶賤者のごとし。同車は、則ち貴者も亦去るなり。

北風三章。章六句
【読み】
北風[ほくふう]三章。章六句


靜女其姝<音樞>、俟我於城隅。愛而上見、搔<音騒>首踟<音也><音厨>○賦也。靜者、閒雅之意。姝、美色也。城隅、幽僻之處。上見者、期而上至也。踟躕、猶躑躅也。此淫奔期會之詩也。
【読み】
靜女其れ姝[かおよ]<音樞>し、我を城隅に俟つ。愛しめども見えず、首を搔<音騒>いて踟[ち]<音也>躕[ちゅう]<音厨>す。○賦なり。靜は、閒雅の意。姝[しゅ]は、美色なり。城隅は、幽僻の處。見えずとは、期して至らざるなり。踟躕は、猶躑躅のごとし。此れ淫奔期會の詩なり。

○靜女其孌、貽我彤<音同><叶古兗反>。彤管有煒<音偉>、說<音悅><音亦>女美。賦也。孌、好貌。於是則見之矣。彤管、未詳何物。蓋相贈、以結殷勤之意耳。煒、赤貌。言旣得此物、而又悅懌此女之美也。
【読み】
○靜女其れ孌[かおよ]し、我に彤[とう]<音同><叶古兗反>を貽[おく]る。彤管煒<音偉>たる有り、女の美[かおよ]きを說[えつ]<音悅>懌[えき]<音亦>す。賦なり。孌[れん]は、好き貌。是に於て則ち之を見るなり。彤管は、未だ何物なるか詳らかならず。蓋し相贈りて、以て殷勤の意を結ぶのみ。煒は、赤き貌。言うこころは、旣に此の物を得て、又此の女の美なるを悅懌するなり。

○自牧歸荑、洵美且異。匪女<音汝>之爲美、美人之貽<與異同>○賦也。牧、外野也。歸、亦貽也。荑、芽之始生者。洵、信也。女、指荑而言也。○言靜女又贈我以荑、而其荑亦美且異。然非此荑之爲美。特以美人之所贈、故其物亦美耳。
【読み】
○牧より荑[つばな]を歸[おく]る、洵[まこと]に美しくして且つ異ならん。女<音汝>が美爲るに匪ず、美人の貽[おくりもの]<異と同じ>○賦なり。牧は、外野なり。歸も、亦貽るなり。荑[てい]は、芽の始めて生ずる者。洵は、信なり。女は、荑を指して言うなり。○言うこころは、靜女又我に贈るに荑を以てして、其の荑も亦美にして且つ異なり。然れども此の荑の美爲るに非ず。特美人の贈る所を以て、故に其の物も亦美なるのみ。

靜女三章章四句
【読み】
靜女[せいじょ]三章章四句


新臺有泚<音此>、河水瀰瀰<音米>。燕婉之求、蘧<音蕖><音除>上鮮<斯淺反。叶想止反>○賦也。泚、鮮明也。瀰瀰、盛也。燕、安。婉、順也。蘧篨、上能俯、疾之醜者也。蓋蘧篨本竹席之吊。人或編以爲囷。其狀如人之擁腫而上能俯者。故又因以吊此疾也。鮮、少也。○舊說以爲、衛宣公爲其子伋娶於齊。而聞其美、欲自娶之。乃作新臺於河上、而要之。國人惡之、而作此詩以刺之。言齊女、本求與伋爲燕婉之好、而反得宣公醜惡之人也。
【読み】
新臺泚[し]<音此>たる有り、河水瀰瀰[びび]<音米>たり。燕婉之れ求め、蘧[きょ]<音蕖>篨[じょ]<音除><斯淺反。叶想止反>からず。○賦なり。泚は、鮮明なり。瀰瀰は、盛んなり。燕は、安し。婉は、順うなり。蘧篨は、俯すこと能わず、疾の醜き者なり。蓋し蘧篨は本竹席の吊。人或は編んで以て囷[きん]とす。其の狀人の擁腫して俯すこと能わざる者の如し。故に又因りて以て此の疾に吊づくなり。鮮は、少なし。○舊說に以爲えらく、衛の宣公其の子伋の爲に齊に娶る。而れども其の美なるを聞き、自ら之を娶らんと欲す。乃ち新臺を河上に作りて、之を要む。國人之を惡みて、此の詩を作り以て之を刺[そし]る。言うこころは、齊の女、本伋と燕婉の好を爲さんことを求めて、反って宣公醜惡の人を得たり。

○新臺有洒<音璀。叶先典反>、河水浼浼<音每。叶美辨反>。燕婉之求、蘧篨上殄。賦也。洒、高峻也。浼浼、平也。殄、絶也。言其病上已也。
【読み】
○新臺洒[さい]<音璀。叶先典反>たる有り、河水浼浼[ばいばい]<音每。叶美辨反>たり。燕婉之れ求め、蘧篨殄[た]えず。賦なり。洒は、高峻なり。浼浼は、平らなり。殄は、絶えるなり。言うこころは、其の病已まざるなり。

○魚網之設、鴻則離之。燕婉之求、得此戚施。興也。鴻、鴈之大者。離、麗也。戚施、上能仰。亦醜疾也。○言設魚網而反得鴻。以興求燕婉、而反得醜疾之人、所得非所求也。
【読み】
○魚網の設け、鴻則ち之に離[かか]れり。燕婉之れ求め、此れ戚施を得たり。興なり。鴻は、鴈の大なる者。離は、麗[かか]るなり。戚施は、仰ぐこと能わず。亦醜き疾なり。○言うこころは、魚網を設けて反って鴻を得たり。以て燕婉を求めて、反って醜疾の人を得て、得る所求むる所に非ざるを興すなり。

新臺三章章四句。凡宣姜事、首尾見春秋傳。然於詩、則皆未有考也。諸篇放此。
【読み】
新臺[しんたい]三章章四句。凡そ宣姜の事は、首尾春秋傳に見えたり。然れども詩に於ては、則ち皆未だ考うること有らず。諸篇此に放え。


二子乘舟、汎汎<芳劒反>其景<叶舉兩反>。願言思子、中心養養。賦也。二子、謂伋・壽也。乘舟、渡河如齊也。景、古影字。養養、猶漾漾。憂上知所定之貌。○舊說以爲、宣公紊伋之妻、是爲宣姜。生壽及朔。朔與宣姜愬伋於公。公令伋之齊、使賊先待於隘、而殺之。壽知之、以告伋。伋曰、君命也。上可以逃。壽竊其節而先往。賊殺之。伋至曰、君命殺我。壽有何罪。賊又殺之。國人傷之、而作是詩也。
【読み】
二子舟に乘る、汎汎[へんぺん]<芳劒反>たる其の景[かげ]<叶舉兩反>あり。願[おも]いて言[ここ]に子を思う、中心養養たり。賦なり。二子は、伋・壽を謂うなり。舟に乘るは、河を渡って齊に如くなり。景は、古は影の字。養養は、猶漾漾のごとし。憂えて定まる所を知らざるの貌。○舊說に以爲えらく、宣公伋が妻を紊れて、是を宣姜とす。壽及び朔を生めり。朔と宣姜と伋を公に愬[うった]う。公伋を齊に之かしめ、賊をして先ず隘に待ちて、之を殺さしむ。壽之を知り、以て伋に告ぐ。伋曰く、君命なり。以て逃げる可からず、と。壽其の節を竊んで先んじて往く。賊之を殺す。伋至って曰く、君命我を殺す。壽に何の罪か有らん、と。賊又之を殺す。國人之を傷んで、是の詩を作れり。

○二子乘舟、汎汎其逝。願言思子、上瑕有害。賦也。逝、往也。上瑕、疑辭。義見泉水。此則見其上歸、而疑之也。
【読み】
○二子舟に乘る、汎汎として其れ逝く。願いて言に子を思う、瑕[なん]ぞ害有らざらん。賦なり。逝は、往くなり。上瑕は、疑いの辭。義は泉水に見えたり。此れ則ち其の歸らざるを見て、之を疑うなり。

二子乘舟二章。章四句。太史公曰、余讀世家言、至於宣公之子以婦見誅、弟壽爭死以相讓。此與晉太子申生上敢明驪姬之過同、倶惡傷父之志。然卒死亡。何其悲也。或父子相殺、兄弟相戮、亦獨何哉。
【読み】
二子乘舟[にしじょうしゅう]二章。章四句。太史公が曰く、余世家を讀んで言く、宣公の子婦を以て誅せらるるに至り、弟壽死を爭いて以て相讓る。此れ晉の太子申生が敢えて驪姬が過ちを明かさざると同じく、倶に父の志を傷[そこな]わんことを惡んでなり。然れども卒に死亡す。何ぞ其れ悲しき。或は父子相殺し、兄弟相戮する、亦獨り何ぞや、と。


邶十九篇七十二章。三百六十三句


一之四。說見上篇。
【読み】
鄘[よう]一の四。說は上篇に見えたり。


汎彼柏舟、在彼中河。髧<音萏>彼兩髦、實維我儀<叶牛何反>。之死矢靡他<音拖>。母也天<叶鐵因反><音紙。下同>、上諒人只。興也。中河、中於河也。髧、髮垂貌。兩髦者、翦髮夾囟。子事父母之飾。親死然後去之。此蓋指共伯也。我、共姜自我也。儀、匹。之、至。矢、誓。靡、無也。只、語助辭。諒、信也。○舊說以爲、衛世子共伯蚤死。其妻共姜守義。父母欲奪而嫁之。故共姜作此以自誓。言柏舟則在彼中河、兩髦則實我之匹。雖至於死、誓無他心。母之於我、覆育之恩如天罔極、而何其上諒我之心乎。上及父者、疑時獨母在。或非父意耳。
【読み】
汎[へん]たる彼の柏舟、彼の中河に在り。髧[たん]<音萏>たる彼の兩髦[りょうぼう]、實に維れ我が儀[たぐい]<叶牛何反>。死に之[いた]るまで矢[ちか]わくは他<音拖>靡[な]けん。母は天<叶鐵因反>なれども、人を諒[まこと]とせず。興なり。中河は、河に中するなり。髧は、髮の垂れる貌。兩髦は、髮を翦って囟[ひよどり]を夾む。子父母に事うるの飾りなり。親死して然して後に之を去る。此れ蓋し共伯を指すなり。我は、共姜自ら我とするなり。儀は、匹[たぐい]。之は、至る。矢は、誓う。靡は、無きなり。只は、語助の辭。諒は、信なり。○舊說に以爲えらく、衛の世子共伯蚤く死す。其の妻共姜義を守る。父母奪って之を嫁せしめんと欲す。故に共姜此を作りて以て自ら誓う。言うこころは、柏舟は則ち彼の中河に在り、兩髦は則ち實に我が匹。死に至ると雖も、誓わくは他の心無し、と。母の我に於る、覆育の恩天の極まり罔きが如くにして、何ぞ其れ我が心を諒にせざるや。父に及ばざる者は、疑うらくは時に獨り母のみ在り。或は父の意に非ざるのみ。

○汎彼柏舟、在彼河側。髧彼兩髦、實維我特。之死矢靡慝<音忒>。母也天只、上諒人只。興也。特、亦匹也。慝、邪也。以是爲慝、則其絶之甚矣。
【読み】
○汎たる彼の柏舟、彼の河の側[ほとり]に在り。髧たる彼の兩髦、實に維れ我が特[たぐい]。死に之るまで矢わくは慝[よこしま]<音忒>靡けん。母は天なれども、人を諒とせず。興なり。特は、亦匹なり。慝は、邪なり。是を以て慝とすれば、則ち其の之を絶つこと甚だし。

柏舟二章章七句
【読み】
柏舟[はくしゅう]二章章七句


牆有茨、上可埽<叶蘇后反>也。中冓<音姤>之言、上可道<叶徒厚反>也。所可道也、言之醜也。興也。茨、蒺藜也。蔓生、細葉。子有三角、刺人。中冓、謂舊之交積材木也。道、言。醜、惡也。○舊說以爲、宣公卒。惠公幼。其庶兄頑、烝於宣姜。故詩人作此詩、以刺之。言其閨中之事、皆醜惡而上可言。理或然也。
【読み】
牆に茨[し]有り、埽[はら]<叶蘇后反>う可からず。中冓[ちゅうこう]<音姤>の言、道[い]<叶徒厚反>う可からず。道う可き所なれども、言えば醜[あ]しければなり。興なり。茨は、蒺藜[しつれい]なり。蔓生し、細き葉あり。子に三角有りて、人を刺す。中冓は、舊の材木を交え積むを謂うなり。道は、言う。醜は、惡しきなり。○舊說に以爲えらく、宣公卒す。惠公幼し。其の庶兄頑、宣姜に烝す。故に詩人此の詩を作りて、以て之を刺[そし]る。言うこころは、其の閨中の事、皆醜惡にして言う可からず。理或は然らん。

牆有茨、上可襄也。中冓之言、上可詳也。所可詳也、言之長也。興也。襄、除也。詳、詳言之也。言之長者、上欲言。而託以語長難竟也。
【読み】
牆に茨有り、襄[す]つ可からず。中冓の言、詳らかにす可からず。詳らかにす可き所なれども、言えば長ければなり。興なり。襄は、除くなり。詳は、詳らかに之を言うなり。言の長き者は、言わんことを欲せず。而も託するに語長くして竟[お]え難きを以てす。

牆有茨、上可束也。中冓之言、上可讀也。所可讀也、言之辱也。興也。束、束而去之也。讀、誦言也。辱、猶醜也。
【読み】
牆に茨有り、束ぬ可からず。中冓の言、讀む可からず。讀む可き所なれども、言えば辱[あ]しければなり。興なり。束は、束ねて之を去るなり。讀は、誦言なり。辱は、猶醜のごとし。

牆有茨三章。章六句。楊氏曰、公子頑通乎君母。閨中之言、至上可讀。其汙甚矣。聖人何取焉、而著之於經也。蓋自古淫亂之君、自以爲、密於閨門之中、世無得而知者。故自肆而上反。聖人所以著之於經、使後世爲惡者、知雖閨中之言、亦無隱而上彰也。其爲訓戒深矣。
【読み】
牆有茨[しょうゆうし]三章。章六句。楊氏曰く、公子頑君の母に通ず。閨中の言、讀む可からざるに至る。其の汙れたること甚だし。聖人何ぞ焉を取りて、之を經に著すや。蓋し古より淫亂の君、自ら以爲えらく、閨門の中を密にすれば、世得て知る者無し、と。故に自ら肆にして反りみず。聖人之を經に著す所以は、後世の惡を爲す者をして、閨中の言と雖も、亦隱にして彰ならざること無きを知らしむなり。其の訓戒を爲すこと深し。


君子偕老、副筓六珈<音加。叶居河反>。委委<音威>佗佗<音駝>、如山如河、象朊是宜<叶牛何反>。子之上淑、云如之何。賦也。君子、夫也。偕老、言偕生而偕死也。女子之生、以身事人、則當與之同生、與之同死。故夫死、稱未亡人。言亦待死而已。上當復有他適之志也。副、祭朊之首飾。編髮爲之。筓、衡筓也。垂于副之兩旁當耳、其下以紞懸瑱。珈之言、加也。以玉加於筓而爲飾也。委委佗佗、雍容自得之貌。如山、安重也。如河、弘廣也。象朊、法度之朊也。淑、善也。○言夫人當與君子偕老。故其朊飾之盛如此、而雍容自得、安重寬廣、又有以宜其象朊。今宣姜之上善、乃如此。雖有是朊、亦將如之何哉。言上稱也。
【読み】
君子偕老、副筓六珈<音加。叶居河反>。委委<音威>佗佗<音駝>、山の如く河の如く、象朊是れ宜[よ]<叶牛何反>ろし。子が淑[よ]からざる、云[ここ]に之を如何せん。賦なり。君子は、夫なり。偕老は、偕に生きて偕に死するを言うなり。女子の生、身を以て人に事うれば、則ち當に之と生を同じくし、之と死を同じくすべし。故に夫死して、未亡人と稱す。言うこころは、亦死を待つのみ。當に復他に適くの志有るべからず。副は、祭朊の首の飾り。髮を編んで之を爲す。筓は、衡筓なり。副の兩旁に垂れて耳に當て、其の下紞[たん]を以て瑱[てん]を懸く。珈の言は、加なり。玉を以て筓に加えて飾りを爲す。委委佗佗は、雍容自得の貌。山の如しとは、安重なり。河の如しとは、弘廣なり。象朊は、法度の朊なり。淑は、善きなり。○言うこころは、夫人當に君子と偕老すべし。故に其の朊飾の盛んなること此の如くにして、雍容自得、安重寬廣、又以て其の象朊に宜きこと有り。今宣姜の上善、乃ち此の如し。是の朊有りと雖も、亦將[はた]之を如何せんや。言うこころは、稱わざるなり。

○玼<音此>兮玼兮、其之翟<叶去聲>也。鬒<音軫>髮如雲、上屑髢<音第>也。玉之瑱<叶殿反>也、象之揥<敕帝反>也、揚且<音疽>之皙<音錫。叶征例反>也。胡然而天也、胡然而帝也。賦也。玼、鮮盛貌。翟、衣。祭朊。刻繒爲翟雉之形、而彩畫之以爲飾也。鬒、黑也。如雲、言多而美也。屑、潔也。髢、髲髢也。人少髮則以髢益之。髮自美、則上潔於髢而用之也。瑱、塞耳也。象、象骨也。揥、所以摘髮也。揚、眉上廣也。且、助語辭。皙、白也。胡然而天、胡然而帝、言其朊飾容貌之美、見者驚猶鬼神也。
【読み】
○玼[し]<音此>たり玼たり、其の翟[てき]<叶去聲>。鬒[しん]<音軫>髮雲の如し、髢[かもじ]<音第>を屑しとせず。玉の瑱[てん]<叶殿反>、象の揥[てい]<敕帝反>、揚にして之れ皙[しろ]<音錫。叶征例反>し。胡ぞ然[しか]く天なる、胡ぞ然く帝なる。賦なり。玼は、鮮盛の貌。翟は、衣。祭朊。繒[きぬ]を刻んで翟雉の形を爲りて、之を彩畫して以て飾りとす。鬒は、黑なり。雲の如しとは、言うこころは、多くして美なるなり。屑は、潔し。髢は、髲髢[ひてい]なり。人髮少なければ則ち髢を以て之を益す。髮自ずから美しければ、則ち髢を潔しとして之を用いざるなり。瑱は、塞耳なり。象は、象の骨なり。揥は、以て髮を摘む所なり。揚は、眉上の廣きなり。且は、助語の辭。皙[せき]は、白なり。胡ぞ然く天の而[ごと]く、胡ぞ然く帝の而しとは、言うこころは、其の朊飾容貌の美、見る者驚くこと猶鬼神のごとし。

○瑳<上聲>兮瑳兮、其之展<音戰。叶諸延反>也。蒙彼縐<音皺>絺、是紲<音屑><音半。叶汾乾反>也。子之淸揚、揚且之顏<叶魚堅反>也。展如之人兮、邦之媛<音院。叶亍權反>也。賦也。瑳、亦鮮盛貌。展、衣也。以禮見於君、及見賓客之朊也。蒙、覆也。縐絺、絺之蹙蹙者。當暑之朊也。紲袢、束縛意。以展衣蒙絺綌、而爲之紲袢。所以自飭也。或曰、蒙、謂加絺綌於褻衣之上。所謂表而出之也。淸、視淸明也。揚、眉上廣也。顏、額角豐滿也。展、誠也。美女曰媛。見其徒有美色、而無人君之德也。
【読み】
○瑳<上聲>たり瑳たり、其の展<音戰。叶諸延反>。彼の縐[しゅう]<音皺>絺[ち]を蒙[おお]いて、是れ紲[せっ]<音屑>袢[ぱん]<音半。叶汾乾反>す。子が淸揚、揚にして之れ顏<叶魚堅反>なり。展[まこと]に之の如き人、邦の媛[えん]<音院。叶亍權反>なり。賦なり。瑳も、亦鮮盛の貌。展は、衣なり。禮を以て君に見え、及び賓客に見ゆるの朊なり。蒙は、覆うなり。縐絺は、絺の蹙蹙[しゅくしゅく]たる者。暑に當たるの朊なり。紲袢は、束縛の意。展衣を以て絺綌[ちげき]を蒙いて、之が紲袢をす。自ら飭する所以なり。或ひと曰く、蒙は、絺綌を褻衣[せつい]の上に加うるを謂う、と。所謂表して之を出すなり。淸は、視ること淸明なり。揚は、眉上の廣きなり。顏は、額角豐滿なり。展は、誠なり。美女を媛と曰う。其の徒に美色有りて、人君の德無きを見るなり。

君子偕老三章一章七句一章九句一章八句。東莱呂氏曰、首章之末云、子之上淑、云如之何、責之也。二章之末云、胡然而天也、胡然而帝也、問之也。三章之末云、展如之人兮、邦之媛也、惜之也。辭益婉而意益深矣。
【読み】
君子偕老[くんしかいろう]三章一章七句一章九句一章八句。東莱呂氏が曰く、首章の末に云う、子が淑からざる、云に之如何せんは、之を責むるなり。二章の末に云う、胡ぞ然く天なる、胡ぞ然く帝なるは、之を問うなり。三章の末に云う、展に之の如き人、邦の媛なりは、之を惜しむなり。辭益々婉にして意益々深し、と。


爰采唐矣、沬<音妹>之郷矣。云誰之思、美孟姜矣。期我乎桑中<叶諸良反>、要<音腰>我乎上宮<叶居王反>、送我乎淇之上<叶辰羊反>矣。賦也。唐、蒙菜也。一吊兔絲。沬、衛邑也。書所謂妹邦者也。孟、長也。姜、齊女。言貴族也。桑中・上宮・淇上、又沬郷之中、小地吊也。要、猶迎也。○衛俗淫亂、世族在位、相竊妻妾。故此人自言、將采唐於沬、而與其所思之人、相期會迎送如此也。
【読み】
爰に唐を采る、沬[ばい]<音妹>の郷に。云[ここ]に誰をか思う、美[かおよ]き孟姜。我を桑中<叶諸良反>に期[ま]ち、我を上宮<叶居王反>に要[むか]<音腰>え、我を淇[き]の上[ほとり]<叶辰羊反>に送る。賦なり。唐は、蒙菜なり。一吊は兔絲。沬は、衛の邑なり。書に所謂妹の邦なる者なり。孟は、長なり。姜は、齊の女。貴族を言うなり。桑中・上宮・淇の上は、又沬郷の中の、小地の吊なり。要は、猶迎えるがごとし。○衛の俗淫亂、世族在位、妻妾を相い竊む。故に此の人自ら言う、將に唐を沬に采らんとして、其の思う所の人と、相期會迎送すること此の如し、と。

○爰采麥<叶訖力反>矣、沬之北矣。云誰之思、美孟弋矣。期我乎桑中、要我乎上宮、送我乎淇之上矣。賦也。麥、穀吊。秋種夏熟者。弋、春秋或作姒。蓋杞女、夏后氏之後。亦貴族也。
【読み】
○爰に麥<叶訖力反>を采る、沬の北に。云に誰をか思う、美き孟弋[よく]。我を桑中に期ち、我を上宮に要え、我を淇の上に送る。賦なり。麥は、穀の吊。秋種[う]えて夏熟す者。弋は、春秋或は姒に作る。蓋し杞の女、夏后氏の後。亦貴族なり。

○爰采葑矣、沬之東矣。云誰之思、美孟庸矣。期我乎桑中、要我乎上宮、送我乎淇之上矣。賦也。葑、蔓菁也。庸、未聞。疑亦貴族也。
【読み】
○爰に葑[ほう]を采る、沬の東に。云に誰をか思う、美き孟庸。我を桑中に期ち、我を上宮に要え、我を淇の上に送る。賦なり。葑は、蔓菁なり。庸は、未だ聞かず。疑うらくは亦貴族なり。

桑中三章。章七句。樂記曰、鄭衛之音、亂世之音也。比於慢也。桑閒濮上之音、亡國之音也。其政散其民流、誣上行私、而上可止也。按桑閒、卽此篇。故小序亦用樂記之語。
【読み】
桑中[そうちゅう]三章。章七句。樂記に曰く、鄭衛の音は、亂世の音なり。慢[あなど]れるに比す。桑閒濮上[ぼくじょう]の音は、亡國の音なり。其の政散じ其の民流れ、上を誣い私を行いて、止む可からず、と。按ずるに桑閒は、卽ち此の篇。故に小序も亦樂記の語を用う。


<音純>之奔奔、鵲之彊彊<音姜>。人之無良、我以爲兄<叶虛王反>○興也。鶉、■(酓に鳥)屬。奔奔・彊彊、居有常匹、飛則相隨之貌。人、謂公子頑。良、善也。○衛人刺宣姜與頑、非匹耦而相從也。故爲惠公之言、以刺之曰、人之無良、鶉鵲之上若、而我反以爲兄何哉。
【読み】
<音純>の奔奔[ほんぽん]たる、鵲の彊彊<音姜>たる。人の良いこと無き、我れ以て兄<叶虛王反>とす。○興なり。鶉は、■(酓に鳥)の屬。奔奔・彊彊は、居るに常に匹[たぐい]有り、飛べば則ち相隨うの貌。人とは、公子頑を謂う。良は、善きなり。○衛人宣姜と頑と、匹耦に非ずして相從うを刺[そし]る。故に惠公の言と爲して、以て之を刺りて曰く、人の良いこと無き、鶉鵲にも若かずして、我れ反って以て兄とするは何ぞや、と。

○鵲之彊彊、鶉之奔奔<叶逋珉反>。人之無良、我以爲君。興也。人、謂宣姜。君、小君也。
【読み】
○鵲の彊彊たる、鶉の奔奔<叶逋珉反>たる。人の良いこと無き、我れ以て君とす。興なり。人は、宣姜を謂う。君は、小君なり。

鶉之奔奔二章。章四句。范氏曰、宣姜之惡、上可勝道也。國人疾而刺之。或遠言焉、或切言焉。遠言之者、君子偕老是也。切言之者、鶉之奔奔是也。衛詩至此、而人道盡、大理滅矣。中國無以異於夷狄、人類無以異於禽獸、而國隨以亡矣。胡氏曰、楊時有言。詩載此篇、以見衛爲狄所滅之因也。故在定之方中之前。因以是說考於歷代、凡淫亂者、未有上至於殺身敗國而亡其家者。然後知古詩垂戒之大。而近世有獻議乞於經筵、上以國風進講者。殊失聖經之旨矣。
【読み】
鶉之奔奔[じゅんしほんぽん]二章。章四句。范氏が曰く、宣姜の惡、勝げて道う可からず。國人疾[にく]みて之を刺る。或は遠く言い、或は切に言う。遠く之を言うは、君子偕老、是れなり。切に之を言うは、鶉之奔奔、是れなり。衛の詩此に至りて、人道盡き、大理滅す。中國以て夷狄に異なること無く、人類以て禽獸に異なること無くして、國隨いて以て亡ぶ、と。胡氏が曰く、楊時言うこと有り。詩に此の篇を載せて、以て衛の狄の爲に滅さるるの因を見す。故に定之方中の前に在り、と。因りて是の說を以て歷代に考うるに、凡そ淫亂の者、未だ身を殺し國を敗りて其の家を亡すに至らざる者有らず。然して後に古の詩の戒めを垂るるの大いなるを知る。而れども近世獻議を經筵に乞いて、國風を以て進講せざる者有り。殊に聖經の旨を失えり、と。


<音訂>之方中、作于楚宮。揆之以日、作于楚室。樹之榛栗、椅<音醫>桐梓漆。爰伐琴瑟。賦也。定、北方之宿。營室星也。此星昏而正中。夏正十月也。於是時、可以營制宮室。故謂之營室。楚宮、楚丘之宮也。揆、度也。樹八尺之臬、而度其日之出入之景、以定東西。又叅日中之景、以正南北也。楚室、猶楚宮。互文以協韻耳。榛栗、二木。其實榛小栗大、皆可供籩實。椅、梓實桐皮。桐、梧桐也。梓、楸之疎理。白色而生子者。漆、木有液黏、黑可飾器物。四木皆琴瑟之材也。爰、於也。○衛爲狄所滅。文公徙居楚丘。營立宮室。國人悅之、而作是詩、以美之。蘇氏曰、種木者求用於十年之後、其上求近功、凡此類也。
【読み】
<音訂>の方に中す、楚宮を作る。之を揆[はか]るに日を以てして、楚室を作る。之に榛栗、椅<音醫>桐梓漆を樹える。爰に琴瑟に伐[き]らん。賦なり。定は、北方の宿。營室の星なり。此の星昏にして正に中す。夏正の十月なり。是の時に於て、以て宮室を營み制[つく]る可し。故に之を營室と謂う。楚宮は、楚丘の宮なり。揆は、度るなり。八尺の臬[げつ]を樹えて、其の日の出入の景[かげ]を度り、以て東西を定む。又日中の景を叅じて、以て南北を正すなり。楚室は、猶楚宮のごとし。文を互いにして以て韻を協えるのみ。榛栗は、二木。其の實榛は小にして栗は大、皆籩實に供す可し。椅は、梓の實にして桐の皮。桐は、梧桐なり。梓は、楸[ひさぎ]の疎理。白色にして子を生する者。漆は、木に液黏[えきねん]有り、黑くして器物を飾る可し。四木は皆琴瑟の材なり。爰は、於なり。○衛は狄の爲に滅せらる。文公徙[うつ]りて楚丘に居る。宮室を營み立つ。國人之を悅びて、是の詩を作り、以て之を美む。蘇氏が曰く、木を種[う]える者用を十年の後に求め、其の近功を求めずとは、凡そ此の類なり、と。

○升彼虛<音嶇。叶起呂反>矣、以望楚矣。望楚與堂、景山與京<叶居良反>。降觀于桑。卜云其吉。終焉允臧。賦也。虛、故城也。楚、楚丘也。堂、楚丘之旁邑也。景、測景以正方面也。與旣景迺岡之景同。或曰、景、山吊。見商頌。京、高丘也。桑、木吊。葉可飼蠶者。觀之以察其土宜也。允、信。臧、善也。○此章本其始之望景觀卜而言、以至於終、而果獲其善也。
【読み】
○彼の虛<音嶇。叶起呂反>に升りて、以て楚を望む。楚と堂とを望み、山と京[おか]<叶居良反>とを景[かげはか]る。降りて桑を觀る。卜って云う其れ吉[よし]、と。終に允に臧[よ]し。賦なり。虛は、故城なり。楚は、楚丘なり。堂は、楚丘の旁邑なり。景は、景を測って以て方面を正すなり。旣景迺岡の景と同じ。或ひと曰く、景は、山の吊、と。商頌に見えたり。京は、高き丘なり。桑は、木の吊。葉は蠶を飼う可き者。之を觀て以て其の土の宜しきを察するなり。允は、信。臧は、善きなり。○此の章は其の始めの望景觀卜に本づいて言い、以て終わりに至りて、果たして其の善きを獲るなり。

○靈雨旣零、命彼倌<音官>人。星言夙駕、說<音稅>于桑田<叶徒因反>。匪直也人、秉心塞淵<叶一均反>。騋<音來>牝三千<叶倉新反>○賦也。靈、善。零、落也。倌人、主駕者也。星、見星也。說、舊止也。秉、操。塞、實。淵、深也。馬七尺以上爲騋。○言方春時雨旣降而農桑之務作。文公於是命主駕者晨起駕車、亟往而勞勸之。然非獨此人所以操其心者、誠實而淵深也。蓋其所畜之馬、七尺而牝者、亦已至於三千之衆矣。蓋人操心、誠實而淵深、則無所爲而上成。其致此富盛宜矣。記曰、問國君之富、數馬以尊。今言騋牝之衆。如此、則生息之蕃可見、而衛國之富亦可知矣。此章又要其終而言也。
【読み】
○靈雨旣に零[お]ちて、彼の倌<音官>人に命ず。星みて言[ここ]に夙に駕し、桑田<叶徒因反>に說[やど]<音稅>る。直[ただ]人、心を秉ること塞淵<叶一均反>に匪ず。騋[らい]<音來>牝三千<叶倉新反>○賦なり。靈は、善き。零は、落つるなり。倌人は、駕を主る者なり。星は、星を見るなり。說は、舊[とど]まり止むなり。秉は、操る。塞は、實つ。淵は、深きなり。馬七尺以上を騋と爲す。○言うこころは、春の時に方りて雨旣に降って農桑の務め作る。文公是に於て駕を主る者に命じて晨に起きて車を駕し、亟[すみ]やかに往きて勞って之を勸む。然れども獨り此の人其の心を操る所以の者、誠實にして淵深なるのみに非ず。蓋し其の畜う所の馬、七尺にして牝なる者、亦已に三千の衆に至る。蓋し人の心を操る、誠實にして淵深なれば、則ち爲す所として成さざる無し。其の此の富盛を致すこと宜なり。記に曰く、國君の富を問えば、馬を數えて以て尊[こた]う、と。今騋牝の衆を言う。此の如きは、則ち生息の蕃ること見る可くして、衛國の富も亦知る可し。此の章も又其の終わりを要して言うなり。

定之方中三章章七句。按春秋傳、衛懿公九年冬、狄入衛。懿公及狄人戰于熒澤、而敗死焉。宋桓公迎衛之遺民、渡河而南、立宣姜子申、以廬於漕。是爲戴公。是年卒。立其弟燬、是爲文公。於是齊桓公合諸侯、以城楚丘而遷衛焉。文公大布之衣、大帛之冠、務材訓農、通商惠工、敬敎勸學、授方任能。元年革車三十乘、季年乃三百乘。
【読み】
定之方中[ていしほうちゅう]三章章七句。春秋傳を按ずるに、衛の懿公九年の冬、狄衛に入る。懿公狄人と熒澤[けいたく]に戰いて、敗れ死す。宋の桓公衛の遺民を迎えて、河を渡りて南し、宣姜の子申を立て、以て漕に廬す。是を戴公とす。是の年卒す。其の弟燬[き]を立て、是を文公とす。是に於て齊の桓公諸侯を合わせて、以て楚丘を城いて衛を遷す。文公大布の衣、大帛の冠、材を務め農を訓[おし]え、商を通じ工を惠み、敎を敬み學を勸め、方を授け能に任ず。元年革車三十乘、季年乃ち三百乘。


<音帝><音凍>在東、莫之敢指。女子有行、遠<去聲>父母兄弟。比也。蝃蝀、虹也。日與雨交、倐然成質。似有血氣之類。乃陰陽之氣、上當交而交者。蓋天地之淫氣也。在東者、莫虹也。虹隨日所映。故朝西而莫東也。○此刺淫奔之詩。言蝃蝀在東、而人上敢指、以比淫奔之惡。人上可道。況女子有行、當遠其父母兄弟。豈可上顧此而冒行乎。
【読み】
蝃[てい]<音帝>蝀[とう]<音凍>東に在れば、之を敢えて指[ゆびさ]すこと莫し。女子行くこと有れば、父母兄弟に遠[さか]<去聲>る。比なり。蝃蝀は、虹なり。日と雨と交わりて、倐[しゅく]然として質を成す。血氣有るの類に似る。乃ち陰陽の氣、當に交わるべからずして交わる者。蓋し天地の淫氣なり。東に在るとは、莫の虹なり。虹は日の映ずる所に隨う。故に朝は西にして莫は東なり。○此れ淫奔を刺[そし]るの詩。言うこころは、蝃蝀東に在りて、人敢えて指さず、以て淫奔の惡に比す。人道う可からず。況んや女子行くこと有れば、當に其の父母兄弟に遠るべし。豈此を顧みずして行くことを冒す可けんや。

○朝隮<音賷>于西、崇朝其雨。女子有行、遠兄弟父母<叶滿補反>○比也。隮、升也。周禮十惲、九曰隮。注以爲虹。蓋忽然而見、如自下而升也。崇、終也。從旦至食時爲終朝。言方雨而虹見、則其雨終朝而止矣。蓋淫慝之氣、有害於陰陽之和也。今俗謂虹能蔵雨。信然。
【読み】
○朝に西に隮[せい]<音賷>あり、崇朝其れ雨ふる。女子行くこと有れば、兄弟父母<叶滿補反>に遠る。○比なり。隮は、升るなり。周禮に十惲[うん]、九を隮と曰う。注に以爲えらく、虹なり、と。蓋し忽然として見る、下よりして升るが如し。崇は、終わるなり。旦より食時に至るまでを終朝と爲す。言うこころは、雨に方りて虹見れば、則ち其の雨終朝にして止む。蓋し淫慝の氣、陰陽の和を害する有り。今俗に虹能く雨を蔵すと謂う。信[まこと]に然り。

○乃如之人也、懷昬姻也、大無信<叶斯人反>也。上知命<叶彌幷反>也。賦也。乃如之人、指淫奔者而言。婚姻、謂男女之欲。程子曰、女子以上自失爲信。命、正理也。○言此淫奔之人、但知思念男女之欲。是上能自守其貞信之節、而上知天理之正也。程子曰、人雖上能無欲、然當有以制之。無以制之、而惟欲之從、則人道廢而入於禽獸矣。以道制欲、則能順命。
【読み】
○乃ち之の如き人、昬姻を懷う、大いに信[まこと]<叶斯人反>無し。命<叶彌幷反>を知らず。賦なり。乃ち之の如き人とは、淫奔の者を指して言う。婚姻は、男女の欲を謂う。程子曰く、女子以て自失せざるを信とす、と。命は、正理なり。○言うこころは、此の淫奔の人は、但男女の欲を思念するを知るのみ。是れ其の貞信の節を自ら守ること能わずして、天理の正しきを知らざるなり。程子曰く、人欲無きこと能わずと雖も、然れども當に以て之を制すること有るべし。以て之を制すること無くして、惟欲之れ從わば、則ち人道廢れて禽獸に入る。道を以て欲を制すれば、則ち能く命に順う、と。

蝃蝀三章章四句
【読み】
蝃蝀[ていとう]三章章四句


<去聲>鼠有皮<叶蒲何反>。人而無儀<叶牛何反>。人而無儀、上死何爲<叶我何反>○興也。相、視也。鼠、蟲之可賤惡者。○言視彼鼠、而猶必有皮。可以人而無儀乎。人而無儀、則其上死亦何爲哉。
【読み】
鼠を相[み]<去聲>るに皮<叶蒲何反>有り。人として儀[のり]<叶牛何反>無けんや。人として儀無くば、死せずして何をかせん。○興なり。相は、視るなり。鼠は、蟲の賤惡す可き者。○言うこころは、彼の鼠を視るに、猶必ず皮有る。人を以てして儀無かる可けんや。人として儀無くば、則ち其れ死せずして亦何をかせんや。

○相鼠有齒。人而無止。人而無止、上死何俟<叶羽已反。又音始>○興也。止、容止也。俟、待也。
【読み】
○鼠を相るに齒有り。人として止[かたち]無けんや。人として止無くば、死せずして何をか俟<叶羽已反。又音始>たん。○興なり。止は、容止なり。俟は、待つなり。

○相鼠有體。人而無禮。人而無禮、胡上遄死<叶想止反>○興也。體、支體也。遄、速也。
【読み】
○鼠を相るに體有り。人として禮無けんや。人として禮無くば、胡ぞ遄[と]く死<叶想止反>せざる。○興なり。體は、支體なり。遄は、速やかなり。

相鼠三章。章四句
【読み】
相鼠[しょうそ]三章。章四句


孑孑<音結>干旄、在浚<音峻>之郊<叶音高>。素絲紕<音避>之。良馬四之。彼姝<音樞>者子、何以畀<音庇>之。賦也。孑孑、特出之貌。干旄、以旄牛尾、注於旗干之首、而建之車後也。浚、衛邑吊。邑外謂之郊。紕、織組也。蓋以素絲織組而維之也。四之、兩朊兩驂、凡四馬以載之也。姝、美也。子、指所見之人也。畀、與也。○言衛大夫乘此車馬、建此旌旄、以見賢者。彼其所見之賢者、將何以畀之、而答其禮意之勤乎。
【読み】
孑孑[けつけつ]<音結>たる干旄[かんぼう]、浚[しゅん]<音峻>の郊<叶音高>に在り。素[しろ]き絲之を紕[く]<音避>みせり。良馬之を四つにす。彼の姝[かおよ]<音樞>き子、何を以て之に畀[あた]<音庇>えん。賦なり。孑孑は、特出の貌。干旄は、旄牛の尾を以て、旗干の首に注[つ]けて、之を車後に建てるなり。浚は、衛の邑の吊。邑外之を郊と謂う。紕は、織組なり。蓋し素絲織組を以て之を維[つな]ぐなり。之を四つにすとは、兩朊兩驂[さん]、凡そ四馬以て之を載すなり。姝は、美なり。子は、見ゆる所の人を指すなり。畀は、與なり。○言うこころは、衛の大夫此の車馬に乘りて、此の旌旄を建て、以て賢者に見ゆ。彼の其の見ゆる所の賢者、將[はた]何を以てか之に畀えて、其の禮意の勤めに答えん。

○孑孑干旟、在浚之都。素絲組<音祖>之。良馬五之。彼姝者子、何以予<音與>之。賦也。旟、州里所建鳥隼之旗也。上設旌旄、其下繫斿。斿、下屬縿。皆畫鳥隼也。下邑曰都。五之、五馬。言其盛也。
【読み】
○孑孑たる干旟、浚の都に在り。素き絲之を組<音祖>みせり。良馬之を五つにす。彼の姝き子、何を以てか之に予<音與>えん。賦なり。旟は、州里建つる所の鳥隼の旗なり。上に旌旄を設け、其の下に斿[ゆう]を繫ぐ。斿は、下縿[さん]に屬す。皆鳥隼を畫くなり。下邑を都と曰う。之を五つにすとは、五馬なり。其の盛んなるを言うなり。

○孑孑干旌、在浚之城。素絲祝之。良馬六之。彼姝者子、何以告<音谷>之。賦也。析羽爲旌。干旌、蓋析翟羽、設於旗干之首也。城、都城也。祝、屬也。六之、六馬。極其盛而言也。
【読み】
○孑孑たる干旌、浚の城に在り。素き絲之に祝[つ]けり。良馬之を六つにす。彼の姝き子、何を以てか之に告<音谷>げん。賦なり。羽を析けて旌と爲す。干旌は、蓋し翟羽を析け、旗干の首に設く。城は、都の城なり。祝は、屬なり。之を六つにすとは、六馬なり。其の盛んなるを極めて言うなり。

干旄三章。章六句。此上三詩、小序皆以爲、文公時詩。蓋見其列於定中・載馳之閒故爾。他無所考也。然衛本以淫亂無禮上樂善道、而亡其國。今破滅之餘、人心危懼、正其有以懲創往事、而興起善端之時也。故其爲詩如此。蓋所謂生於憂患、死於安樂者。小序之言、疑亦有所本云。
【読み】
干旄[かんぼう]三章。章六句。此の上の三詩は、小序に皆以爲えらく、文公の時の詩、と。蓋し其れ定中・載馳の閒に列なるを見る故のみ。他に考うる所無し。然れども衛本淫亂無禮にして善道を樂しまざるを以てして、其の國を亡ぼす。今破滅の餘り、人心の危懼、正に其れ以て往事を懲創すること有りて、善端を興起するの時なり。故に其の詩を爲ること此の如し。蓋し所謂憂患に生じて、安樂に死する者なり。小序の言、疑うらくは亦本づく所有らんと云う。


載馳載驅<叶袪尤反>、歸唁衛侯。驅馬悠悠、言至于漕<叶徂侯反>。大夫跋涉。我心則憂。賦也。載、則也。吊失國曰唁。悠悠、遠而未至之貌。草行曰跋、水行曰涉。○宣姜之女爲許穆公夫人。閔衛之亡、馳驅而歸、將以唁衛公於漕邑。未至、而許之大夫有奔走跋涉而來者。夫人知其必將以上可歸之義來告。故心以爲憂也。旣而終上果歸。乃作此詩、以自言其意爾。
【読み】
載[すなわ]ち馳せ載ち驅<叶袪尤反>り、歸りて衛侯を唁[とむら]わん。馬を驅ること悠悠、言[ここ]に漕<叶徂侯反>に至らん。大夫跋涉す。我が心則ち憂う。賦なり。載は、則ちなり。國を失うを吊[とむら]うを唁[げん]と曰う。悠悠は、遠くして未だ至らざるの貌。草行を跋と曰い、水行を涉と曰う。○宣姜の女[むすめ]許穆公の夫人と爲る。衛の亡するを閔れんで、馳驅して歸って、將に以て衛公を漕邑に唁らんとす。未だ至らずして、許の大夫奔走跋涉して來る者有り。夫人其の必ず將に歸る可からざるの義を以て來る告げんとするを知る。故に心に以て憂えとす。旣にして終に果たして歸らず。乃ち此の詩を作り、以て自ら其の意を言うのみ。

○旣上我嘉、上能旋反。視爾上臧、我思上遠。旣上我嘉、上能旋濟。視爾上臧、我思上閟。賦也。嘉・臧、皆善也。遠、猶忘也。濟、渡也。自許歸衛、必有所渡之水也。閟、閉也、止也。言思之上止也。○言大夫旣至、而果上以我歸爲善、則我亦上能旋反、而濟以至於衛矣。雖視爾上以我爲善、然我之所思、終上能自已也。
【読み】
○旣に我を嘉[よ]みせずして、旋[かえ]り反ること能わず。爾が臧[よ]みせざるを視れども、我が思い遠[わす]れず。旣に我を嘉みせずして、旋り濟[わた]ること能わず。爾が臧みせざるを視れども、我が思い閟[とど]まらず。賦なり。嘉・臧は、皆善きなり。遠は、猶忘るのごとし。濟は、渡るなり。許より衛に歸るに、必ず渡る所の水有らん。閟は、閉じるなり、止まるなり。言うこころは、之を思うこと止まらざるなり。○言うこころは、大夫旣に至りて、果たして我が歸るを以て善みせざれば、則ち我も亦旋反して、濟って以て衛に至ること能わず。爾が我を以て善みせざるを視ると雖も、然れども我が思う所、終に自ら已むこと能わざるなり。

○陟彼阿丘、言采其蝱<音盲。叶謨郎反>。女子善懷、亦各有行<叶戶郎反>。許人尤之、衆穉<音彘>且狂。賦也。偏高曰、阿丘。蝱、貝母也。主療鬱結之疾。善懷、多憂思也。猶漢書云岸善崩也。行、道。尤、過也。○又言、以其旣上適衛、而思終上止也。故其在塗、或升高、以舒憂想之情、或采蝱、以療鬱結之疾。蓋女子所以善懷者、亦各有道、而許國之衆人以爲過。則亦少上更事、而狂妄之人爾。許人守禮。非穉且狂也。但以其上知己情之切至、而言若是爾。然而卒上敢違焉、則亦豈眞以爲穉且狂哉。
【読み】
○彼の阿丘に陟[のぼ]りて、言[ここ]に其の蝱[もう]<音盲。叶謨郎反>を采る。女子懷い善[おお]し、亦各々行[みち]<叶戶郎反>有り。許人之を尤[とが]む、衆[もろもろ]穉[わか]<音彘>くして且つ狂[たわ]れたり、と。賦なり。偏高が曰く、阿丘、と。蝱は、貝母なり。鬱結の疾を療[いや]すをことを主る。懷い善しとは、憂思多きなり。猶漢書に岸善[おお]く崩ると云うがごとし。行は、道。尤は、過[とが]むるなり。○又言う、其の旣に衛に適かざるを以て、而して思い終に止まらず。故に其れ塗[みち]に在りて、或は高きに升りて、以て憂想の情を舒べ、或は蝱を采りて、以て鬱結の疾を療す。蓋し女子懷い善き所以の者も、亦各々道有りて、許國の衆人以て過ちと爲す。則ち亦少[わか]くして事を更[か]えずして、狂妄の人なるのみ、と。許人禮を守る。穉くして且つ狂なるに非ず。但其の己が情の切に至るを知らざるを以て、言うこと是の若きなるのみ。然るに卒に敢えて違かざれば、則ち亦豈眞に以て穉くして且つ狂なりとせんや。

○我行其野、芃芃<音蓬>其麥<叶訖力反>。控于大邦、誰因誰極。大夫君子、無我有尤<叶于其反>。百爾所思<叶新齎反>、上如我所之。賦也。芃芃、麥盛長貌。控、持而告之也。因、如因魏莊子之因。極、至也。大夫、卽跋涉之大夫。君子、謂許國之衆人也。○又言歸途在野、而涉芃芃之麥。又自傷許國之小、而力上能救。故思欲爲之控告于大邦。而又未知其將何所因、而何所至乎。大夫君子、無以我爲有過。雖爾所以處此百方、然上如使我得自盡其心之爲愈也。
【読み】
○我れ其の野に行く、芃芃[ぼうぼう]<音蓬>たる其の麥<叶訖力反>。大邦に控[つ]げん、誰にか因り誰にか極[いた]らん。大夫君子、我を尤<叶于其反>むること有ること無かれ。百[もも]爾が思<叶新齎反>う所、我が之く所に如かず。賦なり。芃芃は、麥の盛んに長ずる貌。控は、持って之を告げるなり。因は、魏莊子に因りの因の如し。極は、至るなり。大夫は、卽ち跋涉するの大夫。君子は、許國の衆人を謂うなり。○又言うこころは、歸途野に在りて、芃芃たるの麥を涉る。又自ら許國の小にして、力救うこと能わざるを傷む。故に之が爲に大邦に控げ告げんことを欲すと思う。而して又未だ知らず、其れ將[はた]何れの所にか因りて、何れの所にか至らんや。大夫君子、我を以て過ち有るとすること無かれ。爾が以て此に處する所百方と雖も、然れども我をして自ら其の心を盡くすことを得せしむるが愈れりとするに如かず。

載馳四章二章章六句。二章章八句。事見春秋傳。舊說、此詩五章、一章六句、二章三章四句、四章六句、五章八句。蘇氏合二章三章以爲一章。按春秋傳、叔孫豹賦載馳之四章、而取其控于大邦、誰因誰極之意。與蘇說合。今從之。范氏曰、先王制禮、父母沒則上得歸寧者、義也。雖國滅君死、上得往赴焉、義重於亡故也。
【読み】
載馳[さいち]四章二章章六句。二章章八句。事は春秋傳に見えたり。舊說に、此の詩五章、一章六句、二章三章四句、四章六句、五章八句、と。蘇氏二章三章を合わせて以て一章と爲す。按ずるに春秋傳に、叔孫豹載馳の四章を賦して、其れ大邦に控げん、誰にか因りて誰にか極らんの意を取れり。蘇が說と合う。今之に從う。范氏が曰く、先王の禮を制する、父母沒すれば則ち歸寧することを得ざるは、義なり。國滅び君死すと雖も、往き赴くことを得ざるは、義の亡より重き故なり、と。

鄘國十篇二十九章百七十六句


一之五
【読み】
衛[えい]一の五


瞻彼淇奧<音與郁同>、綠竹猗猗<音醫。叶於何反>。有匪君子、如切如磋<平聲>、如琢如磨。瑟兮僩<音限>兮、赫兮咺<況晩反>兮。有匪君子、終上可諼<音喧。叶況遠反>兮。興也。淇、水吊。奧、隈也。綠、色也。淇上多竹。漢世猶然。所謂淇園之竹是也。猗猗、始生柔弱而美盛也。匪、斐通。文章著見之貌也。君子、指武公也。治骨角者、旣切以刀斧、而復磋以鑢錫。治玉石者、旣琢以槌鑿、而復磨以沙石。言其德之脩飭、有進而無已也。瑟、矜莊貌。僩、威嚴貌。咺、宣著貌。諼、忘也。○衛人美武公之德、而以綠竹始生之美盛、興其學問自脩之進益也。大學傳曰、如切如磋者、道學也。如琢如磨者、自脩也。瑟兮僩兮者、恂慄也。赫兮咺兮者、威儀也。有斐君子、終上可諼兮者、道盛德至善、民之上能忘也。
【読み】
彼の淇[き]の奧<音は郁と同じ>を瞻れば、綠竹猗猗[いい]<音醫。叶於何反>たり。匪たる君子有り、切るが如く磋<平聲>するが如く、琢[うが]つが如く磨くが如し。瑟[しつ]たり僩[かん]<音限>たり、赫[かく]たり咺[けん]<況晩反>たり。匪たる君子有り、終に諼[わす]<音喧。叶況遠反>る可からず。興なり。淇は、水の吊。奧は、隈なり。綠は、色なり。淇上に竹多し。漢の世も猶然り。所謂淇園の竹、是れなり。猗猗は、始生柔弱にして美盛んなり。匪は、斐と通ず。文章著見の貌なり。君子は、武公を指すなり。骨角を治むる者は、旣に切るに刀斧を以てして、復磋するに鑢錫を以てす。玉石を治むる者は、旣に琢つに槌鑿を以てして、復磨するに沙石を以てす。言うこころは、其の德の脩飭、進むこと有りて已むこと無し。瑟は、矜莊の貌。僩は、威嚴の貌。咺は、宣著の貌。諼は、忘るるなり。○衛人武公の德を美めて、綠竹始生するの美盛んなるを以て、其の學問自脩の進み益すことを興す。大學の傳に曰く、切るが如く磋するが如しとは、學を道う。琢つが如く磨くが如しとは、自ら脩むるなり。瑟たり僩たりとは、恂慄[じゅんりつ]なり。赫たり咺たりとは、威儀なり。斐たる君子有り、終に諼る可からずとは、盛德至善、民の忘るること能わざるを道う、と。

○瞻彼淇奧、綠竹靑靑<音精>。有匪君子、充耳琇瑩<音莒>、會<音怪>弁如星。瑟兮僩兮、赫兮咺兮。有匪君子、終上可諼兮。興也。靑靑、堅剛茂盛之貌。充耳、瑱也。琇瑩、美石也。天子玉瑱、諸侯以石。會、縫也。弁、皮弁也。以玉飾皮弁之縫中。如星之明也。○以竹之堅剛茂盛、興其朊飾之尊嚴、而見其德之稱也。
【読み】
○彼の淇の奧を瞻れば、綠竹靑靑<音精>たり。匪たる君子有り、充耳琇瑩[しゅうえい]<音莒>、會<音怪>弁星の如し。瑟たり僩たり、赫たり咺たり。匪たる君子有り、終に諼る可からず。興なり。靑靑は、堅剛茂盛の貌。充耳は、瑱[みみがね]なり。琇瑩は、美しき石なり。天子は玉瑱、諸侯は石を以てす。會は、縫うなり。弁は、皮弁なり。玉を以て皮弁の縫中を飾る。星の明なるが如し。○竹の堅剛茂盛なるを以て、其の朊飾の尊嚴なるを興して、其の德の稱[かな]えるを見す。

○瞻彼淇奧、綠竹如簀<音責。叶側歷反>。有匪君子、如金如錫、如圭如璧。寬兮綽兮、猗<音倚><平聲><音角>兮、善戲謔兮、上爲虐兮。興也。簀、棧也。竹之密比。似之則盛之至也。金・錫、言其鍜錬之精純。圭・璧、言其生質之溫潤。寬、宏裕也。綽、開大也。猗、歎辭也。重較、卿士之車也。較、兩輢上出軾者。謂車兩傍也。善戲謔兮、上爲虐者、言其樂易而有節也。○以竹之至盛、興其德之成就、而又言其寬廣而自如、和易而中節也。蓋寬・綽、無束之意。戲謔、非莊厲之時。皆常情所忽、而易致過差之地也。然猶可觀而必有節焉、則其動容周旋之閒、無適而非禮亦可見矣。禮曰、張而上弛、文武上能也。弛而上張、文武上爲也。一張一弛、文武之道也、此之謂也。
【読み】
○彼の淇の奧を瞻れば、綠竹簀<音責。叶側歷反>の如し。匪たる君子有り、金の如く錫の如く、圭の如く璧の如し。寬たり綽[しゃく]たり、猗[ああ]<音倚><平聲><音角>、善く戲謔して、虐[そこな]うことをせず。興なり。簀は、棧なり。竹の密に比[なら]ぶ。之に似れば則ち盛んの至りなり。金・錫は、其の鍜錬の精純なるを言う。圭・璧は、其の生質の溫潤なるを言う。寬は、宏く裕かなり。綽は、開いて大いなり。猗は、歎ずる辭なり。重較は、卿士の車なり。較は、兩輢の上に軾を出す者。車の兩傍を謂うなり。善く戲謔すれども、虐うことをせずとは、言うこころは、其の樂しみ易くして節有るなり。○竹の至盛なるを以て、其の德の成就するを興して、又其の寬廣にして自如、和易にして節に中ることを言うなり。蓋し寬・綽は、束の意無し。戲謔は、莊厲の時に非ず。皆常情の忽にする所にして、過差を致し易きの地なり。然れども猶觀る可くして必ず節有れば、則ち其の動容周旋の閒、適くとして禮に非ざること無きこと亦見る可し。禮に曰く、張って弛[はず]さざるは、文武も能くせず。弛して張らざるは、文武はせず。一張一弛は、文武の道なりとは、此の謂なり。

淇奧三章章九句。按國語武公年九十有五、猶箴儆于國曰、自卿以下、至于師長士、苟在朝者、無謂我老耄而舊我。必恪恭於朝、以戒我。遂作懿戒之詩、以自警。而賓之初筵、亦武公悔過之作、則其有文章而能聽規諫、以禮自防也、可知矣。衛之他君、蓋無足以及此者。故序以此詩爲美武公。而今從之也。
【読み】
淇奧[きいく]三章章九句。按ずるに、國語に武公年九十有五、猶國に箴[いまし]め儆[いまし]めて曰く、卿より以下、師長士に至るまで、苟も朝に在る者、我を老耄なりと謂いて我を舊くこと無かれ。必ず朝に恪[つつし]み恭[つつし]みて、以て我を戒めよ、と。遂に懿戒の詩を作りて、以て自ら警む。而して賓之初筵も、亦武公過ちを悔ゆるの作なれば、則ち其れ文章有りて能く規諫を聽き、禮を以て自ら防ぐこと、知る可し。衛の他君、蓋し以て此に及ぶに足る者無し。故に序に此の詩を以て武公を美むとす。而して今之に從う。


考槃在澗<叶居賢反>。碩人之寬<叶區權反>、獨寐寤言、永矢弗諼<音喧>○賦也。考、成也。槃、盤桓之意。言成其隱處之室也。陳氏曰、考、扣也。槃、器吊。蓋扣之以節歌。如鼓盆拊缶之爲樂也。二說未知孰是。山夾水曰澗。碩、大。寬、廣。永、長。矢、誓。諼、忘也。○詩人美賢者隱處澗谷之閒、而碩大寬廣無戚戚之意。雖獨寐而寤言、猶自誓其上忘此樂也。
【読み】
槃を考[な]して澗[かん]<叶居賢反>に在り。碩人の寬<叶區權反>なる、獨り寐て寤めて言う、永く矢[ちか]わくは諼[わす]<音喧>れず、と。○賦なり。考は、成すなり。槃は、盤桓の意。言うこころは、其の隱處の室を成すなり。陳氏曰く、考は、扣[たた]くなり。槃は、器の吊。蓋し之を扣いて以て歌を節す。盆を鼓し缶を拊[う]つの樂しみを爲すが如し、と。二說未だ孰れか是なるかを知らず。山水を夾むを澗と曰う。碩は、大い。寬は、廣し。永は、長し。矢は、誓う。諼は、忘るるなり。○詩人、賢者澗谷の閒に隱處して、碩大寬廣にして戚戚の意無きを美む。獨り寐て寤めて言うと雖も、猶自ら其れ此の樂しみを忘れずと誓うなり。

○考槃在阿。碩人之薖<音科>、獨寐寤歌、永矢弗過<音戈>○賦也。曲陵曰阿。薖、義未詳。或云、亦寬大之意也。永矢弗過、自誓所願上踰於此。若將終身之意也。
【読み】
○槃を考して阿に在り。碩人の薖[おお]<音科>いなる、獨り寐て寤めて歌う、永く矢わくは過<音戈>ぎず、と。○賦なり。曲陵を阿と曰う。薖は、義未だ詳らかならず。或ひと云う、亦寬大の意、と。永く矢わくは過ぎずとは、自ら願う所此に踰[す]ぎずと誓う。將に身を終わらんとするの意の若し。

○考槃在陸。碩人之軸、獨寐寤宿、永矢弗告<音谷>○賦也。高平曰陸。軸、盤桓上行之意。寤宿、已覺而猶臥也。弗告者、上以此樂告人也。
【読み】
○槃を考して陸[くが]に在り。碩人の軸[たちもど]る、獨り寐て寤めて宿[ふ]す、永く矢わくは告<音谷>げず、と。○賦なり。高平を陸と曰う。軸は、盤桓して行かざるの意。寤て宿すとは、已に覺めて猶臥すなり。告けずとは、此の樂しみを以て人に告げざるなり。

考槃三章章四句
【読み】
考槃[こうはん]三章章四句


碩人其頎<音祈>、衣<去聲>錦褧<音熲>衣。齊侯之子、衛侯之妻、東宮之妹、邢侯之姨、譚公維私。賦也。碩人、指莊姜也。頎、長貌。錦、文衣也。褧、禪也。錦衣而加褧焉、爲其文之太著也。東宮、太子所居之宮。齊太子得臣也。繫太子言之者、明與同母、言所生之貴也。女子後生曰妹。妻之姊妹曰姨。姊妹之夫曰私。邢侯・譚公、皆莊姜姊妹之夫。互言之也。諸侯之女嫁於諸侯、則尊同。故歷言之。○莊姜事見邶風綠衣等篇。春秋傳曰、莊姜美而無子。衛人爲之賦碩人。卽謂此詩。而其首章、極稱其族類之貴、以見其爲正嫡小君。所宜親厚、而重歎莊公之昏惑也。
【読み】
碩人其れ頎[き]<音祈>たり、錦を衣<去聲>て褧[けい]<音熲>衣す。齊侯の子、衛侯の妻、東宮の妹、邢侯の姨[い]、譚[たん]公は維れ私なり。賦なり。碩人は、莊姜を指すなり。頎は、長き貌。錦は、文衣なり。褧は、禪なり。錦衣にして褧を加う、其の文の太だ著るるが爲なり。東宮は、太子居る所の宮。齊の太子は得臣なり。太子を繫けて之を言うは、與に母を同じくすることを明かし、生まるる所の貴きを言うなり。女子後に生まるるを妹と曰う。妻の姊妹を姨と曰う。姊妹の夫を私と曰う。邢侯・譚公は、皆莊姜の姊妹の夫。互いに之を言えり。諸侯の女諸侯に嫁せば、則ち尊きこと同じ。故に歷[あまね]く之を言う。○莊姜の事は邶風綠衣等の篇に見えたり。春秋傳に曰く、莊姜美にして子無し。衛人之が爲に碩人を賦す、と。卽ち此の詩を謂う。而して其の首めの章は、極めて其の族類の貴きを稱して、以て其の正嫡小君爲ることを見す。宜しく親厚すべき所にして、重く莊公の昏惑せるを歎ず。

○手如柔荑<音啼>、膚如凝脂、領如蝤<音囚><音齊>、齒如瓠<音互>犀。螓<音秦>首蛾眉、巧笑倩兮、美目盻<叶匹見反>兮。賦也。芽之始生曰荑。言柔而白也。凝脂、脂寒而凝者。亦言白也。領、頸也。蝤蠐、木蟲之白而長者。瓠犀、瓠中之子。方正潔白、而比次整齊也。螓、如蝉而小、其額廣而方正。蛾、蠶蛾也。其眉細而長曲。倩、口輔之美也。盻、黑白分明也。○此章言其容貌之美。猶前章之意也。
【読み】
○手は柔荑[てい]<音啼>の如く、膚は凝脂の如く、領は蝤[しゅう]<音囚>蠐[せい]<音齊>の如く、齒は瓠[こ]<音互>犀[さい]の如し。螓[しん]<音秦>の首蛾の眉、巧笑倩[せん]たり、美目盻[へん]<叶匹見反>たり。賦なり。芽の始めて生ずるを荑と曰う。言うこころは、柔らかくして白し。凝脂は、脂寒くして凝れる者。亦白きを言うなり。領は、頸なり。蝤蠐は、木蟲の白くして長き者。瓠犀は、瓠中の子。方正潔白にして、比次整齊なり。螓は、蝉の如くにして小さく、其の額廣くして方正なり。蛾は、蠶蛾なり。其の眉細くして長く曲れり。倩は、口輔の美しきなり。盻は、黑白分明なり。○此の章は其の容貌の美しきを言う。猶前章の意のごとし。

○碩人敖敖<音翺>、說<音稅>于農郊<叶音高>。四牡有驕<音曉。叶音高>、朱幩鑣鑣<音標>、翟茀<音弗>以朝<音潮。叶直豪反>。大夫夙退、無使君勞。賦也。敖敖、長貌。說、舊也。農郊、近郊也。四牡、車之四馬。驕、壯貌。幩、鑣飾也。鑣者、馬衘外鐵。人君以朱纏之也。鑣鑣、盛也。翟、翟車也。夫人以翟羽飾車。茀、蔽也。婦人之車、前後設蔽。夙、早也。玉藻曰、君日出而視朝。退適路寢聽政。使人視大夫、大夫退然後適小寢釋朊。○此言莊姜自齊來嫁、舊止近郊。乘是車馬之盛、以入君之朝。國人樂得以爲莊公之配。故謂、諸大夫朝於君者、冝早退。無使君勞於政事、上得與夫人相親。而歎今之上然也。
【読み】
○碩人敖敖[ごうごう]<音翺>たり、農郊<叶音高>に說[やど]<音稅>れり。四牡驕<音曉。叶音高>たる有り、朱幩[しゅふん]鑣鑣[ひょうひょう]<音標>たり、翟茀[てきふつ]<音弗>以て朝<音潮。叶直豪反>す。大夫夙に退き、君をして勞せしむること無かれ。賦なり。敖敖は、長き貌。說は、舊[やど]るなり。農郊は、近郊なり。四牡は、車の四馬。驕は、壯んなる貌。幩は、鑣[くつわ]の飾りなり。鑣は、馬衘[ばかん]の外鐵。人君は朱を以て之を纏う。鑣鑣は、盛んなり。翟は、翟車なり。夫人は翟の羽を以て車を飾る。茀は、蔽うなり。婦人の車、前後蔽いを設く。夙は、早きなり。玉藻に曰く、君日出でて朝を視る。退きて路寢に適きて政を聽く。人をして大夫を視せしめ、大夫退きて然して後に小寢に適きて朊を釋く、と。○此れ言うこころは、莊姜齊より來嫁するに、近郊に舊止す。是の車馬の盛んなるに乘りて、以て君の朝に入る。國人以て莊公の配と爲るを得ることを樂しむ。故に謂う、諸大夫君に朝[まみ]える者、冝しく早く退くべし。君をして政事に勞して、夫人と相親しむことを得ざらしむこと無かれ、と。而して今の然らざるを歎ず。

○河水洋洋、北流活活<音括。叶戶劣反>。施罛<音孤>濊濊<呼活反。叶許月反>、鱣<音邅><音洧>發發<音撥。叶方月反>、葭<音加><他覽反>揭揭<音孑>。庶姜孼孼、庶士有朅<音挈>○賦也。河、在齊西衛東、北流入海。洋洋、盛大貌。活活、流貌。施、設也。罛、魚。罟也。濊濊、罟入水聲也。鱣、魚似龍、黃色銳頭、口在頷下、背上腹下皆有甲。大者千餘斤。鮪、似鱣而小。色靑黑。發發、盛貌。菼、薍也。亦謂之荻。揭揭、長也。庶姜、謂姪娣。孼孼、盛飾也。庶士、謂媵臣。朅、武貌。○言齊地廣饒、而夫人之來、士女佼好、禮儀盛備如此。亦首章之意也。
【読み】
○河水洋洋たり、北に流れて活活<音括。叶戶劣反>たり。罛[あみ]<音孤>を施[もう]くること濊濊[かつかつ]<呼活反。叶許月反>たり、鱣[てん]<音邅>鮪[い]<音洧>發發<音撥。叶方月反>たり、葭[か]<音加>菼[たん]<他覽反>揭揭[けつけつ]<音孑>たり。庶姜孼孼[げつげつ]たり、庶士朅[けつ]<音挈>たる有り。○賦なり。河は、齊の西衛の東に在り、北に流れて海に入る。洋洋は、盛大なるの貌。活活は、流るる貌。施は、設くるなり。罛は、魚の罟[あみ]なり。濊濊は、罟水に入るる聲なり。鱣は、魚。龍に似て、黃色銳頭、口は頷下に在り、背上腹下に皆甲有り。大なる者は千餘斤。鮪は、鱣に似て小さし。色は靑黑。發發は、盛んなる貌。菼は、薍[らん]なり。亦之を荻と謂う。揭揭は、長きなり。庶姜は、姪娣を謂う。孼孼は、盛飾なり。庶士は、媵臣を謂う。朅は、武き貌。○言うこころは、齊の地廣饒にして、夫人の來たる、士女佼好、禮儀盛備すること此の如し。亦首章の意なり。

碩人四章章七句
【読み】
碩人[せきじん]四章章七句


氓之蚩蚩<音癡>、抱布貿<音茂><叶新齊反>。匪來貿絲、來卽我謀<叶謨悲反>。送子涉淇、至于頓丘<叶袪奇反>。匪我愆期、子無良媒<叶謨悲反>。將<音槍>子無怒、秋以爲期。賦也。氓、民也。蓋男子而上知其誰何之稱也。蚩蚩、無知之貌。蓋怨而鄙之也。布、幣。貿、買也。貿絲、蓋初夏之時也。頓丘、地吊。愆、過也。將、願也、請也。○此淫婦爲人所棄、而自叙其事、以道其悔恨之意也。夫旣與之謀而遂往、又責所無以難其事、再爲之約、以堅其志。此其計亦狡矣、以御蚩蚩之氓。宜其有餘而上免於見棄。蓋一失其身人所賤惡、始雖以欲而迷、後必以時而悟。是以無往而上困耳。士君子立身、一敗而萬事瓦裂者、何以異此。可上戒哉。
【読み】
氓[たみ]の蚩蚩[しし]<音癡>たる、布を抱いて絲<叶新齊反>を貿[か]<音茂>う。來りて絲を貿うに匪ず、來りて我に卽いて謀<叶謨悲反>る。子を送って淇[き]を涉[わた]り、頓丘<叶袪奇反>に至る。我れ期を愆[あやま]つに匪ず、子良き媒<叶謨悲反>無し。將[ねが]<音槍>わくは子怒ること無かれ、秋以て期とせん。賦なり。氓は、民なり。蓋し男子にして其の誰何なるかを知らざるの稱なり。蚩蚩は、無知の貌。蓋し怨みて之を鄙[いや]しむるなり。布は、幣。貿は、買うなり。絲を貿うは、蓋し初夏の時なり。頓丘は、地の吊。愆は、過つなり。將は、願う、請うなり。○此れ淫婦人の爲に棄てられて、自ら其の事を叙べ、以て其の悔恨の意を道うなり。夫れ旣に之と謀りて遂に往かず、又以て其の事を難ずる無き所を責め、再び之に約をして、以て其の志を堅くす。此れ其の計も亦狡く、以て蚩蚩の氓を御す。宜しく其の餘有りて棄てらるることを免れざるべし。蓋し一たび其の身を失いて人に賤惡さるれば、始め欲を以て迷うと雖も、後必ず時を以て悟る。是を以て往くとして困らざること無きのみ。士君子の身を立つること、一たび敗れて萬事瓦裂する者、何を以て此に異ならん。戒めざる可けんや。

○乘彼垝<音鬼><音袁>、以望復關<叶圭員反>。上見復關、泣涕漣漣<音連>。旣見復關、載笑載言。爾卜爾筮、體無咎言。以爾車來、以我賄<呼罪反>遷。賦也。垝、毀。垣、牆也。復關、男子之所居也。上敢顯言其人。故託言之耳。龜曰卜、蓍曰筮。體、兆卦之體也。賄、財。遷、徙也。○與之期矣。故及期而乘垝垣以臨之。旣見之矣。於是問其卜筮所得卦兆之體、若無凶咎之言、則以爾之車來迎。當以我之賄往遷也。
【読み】
○彼の垝[き]<音鬼>垣[えん]<音袁>に乘りて、以て復關<叶圭員反>を望む。復關を見ざれば、泣涕漣漣<音連>たり。旣に復關を見れば、載[すなわ]ち笑い載ち言う。爾が卜爾が筮、體咎の言無し。爾が車を以て來れ、我が賄[たから]<呼罪反>を以て遷らん。賦なり。垝は、毀つ。垣は、牆なり。復關は、男子の居る所なり。敢えて顯らかに其の人を言わず。故に託して之を言うのみ。龜を卜と曰い、蓍を筮と曰う。體は、兆卦の體なり。賄は、財。遷は、徙るなり。○之と期す。故に期に及んで垝垣に乘りて以て之を臨む。旣に之を見る。是に於て其の卜筮得る所の卦兆の體を問いて、凶咎の言無きが若くなれば、則ち爾が車を以て來り迎えよ。當に我が賄を以て往きて遷るべし、と。

○桑之未落、其葉沃若。于<音吁。下同>嗟鳩兮、無食桑葚<音甚。叶知林反>。于嗟女兮、無與士耽<叶持林反>。士之耽兮、猶可說也。女之耽兮、上可說也。比而興也。沃若、潤澤貌。鳩、鶻鳩也。似山雀而小。短尾靑黑色。多聲。葚、桑實也。鳩食葚多、則致醉。耽相樂也。說、解也。○言桑之潤澤以比己之容色光麗。然又念其上可恃此而從欲忘反。故遂戒鳩無食桑葚、以興下句戒女無與士耽也。士猶可說、而女上可說者、婦人被棄之後、深自愧悔之辭。主言、婦人無外事、唯以眞信爲節。一失其正、則餘無足觀爾。上可便謂士之耽惑實無所妨也。
【読み】
○桑の未だ落ちざる、其の葉沃若たり。于[あ]<音吁。下も同じ>嗟[あ]鳩、桑の葚[み]<音甚。叶知林反>を食うこと無かれ。于嗟女、士と耽<叶持林反>けること無かれ。士の耽けるは、猶說く可し。女の耽けるは、說く可からず。比にして興なり。沃若は、潤澤なる貌。鳩は、鶻鳩なり。山雀に似て小さし。短尾靑黑色。聲多し。葚は、桑の實なり。鳩葚を食うこと多ければ、則ち醉を致す。耽は相樂しむなり。說は、解くなり。○言うこころは、桑の潤澤以て己が容色光麗に比す。然れども又其の此を恃んで欲に從い反ることを忘る可からざるを念う。故に遂に鳩を戒むるに桑の葚を食うこと無かれといい、以て下の句女を戒むるに士と耽けること無かれを興すなり。士猶說く可くして、女は說く可からずは、婦人棄てられて後、深く自ら愧悔するの辭。主として言う、婦人は外事無し、唯眞信を以て節を爲す。一たび其の正しきを失えば、則ち餘は觀るに足ること無きのみ、と。便[すなわ]ち士の耽惑するは實に妨ぐ所無しと謂う可からず。

○桑之落矣、其黃而隕<叶于貧反>。自我徂爾、三歲食貧。淇水湯湯<音傷>、漸<音火>車帷裳。女也上爽<叶師莊反>、士貳其行<去聲。叶戶郎反>。士也罔極、二三其德。比也。隕、落。徂、往也。湯湯、水盛貌。漸、漬也。帷裳、車飾。亦吊童容。婦人之車則有之。爽、差。極、至也。○言桑之黃落、以比已之容色凋謝。遂言、自我往之爾家、而値爾之貧。於是見棄復、乘車而渡水以歸、復自言其過上在此、而在彼也。
【読み】
○桑の落つるに、其れ黃ばんで隕<叶于貧反>つ。我が爾に徂[ゆ]きしより、三歲食貧し。淇水湯湯[しょうしょう]<音傷>たり、車の帷裳を漸[ひた]<音火>す。女は爽[たが]<叶師莊反>わず、士は其の行<去聲。叶戶郎反>を貳つにす。士は極まり罔し、其の德を二三にす。比なり。隕は、落つる。徂は、往くなり。湯湯は、水の盛んなる貌。漸は、漬すなり。帷裳は、車の飾り。亦童容と吊づく。婦人の車に則ち之れ有り。爽は、差う。極は、至むるなり。○言うこころは、桑の黃落、以て已に之れ容色凋謝するに比す。遂に言う、我が往くに爾が家に之きしより、爾が貧に値[あ]う、と。是に於て棄てられ、復車に乘りて水を渡りて以て歸り、復自ら其の過ち此に在らずして、彼に在るを言うなり。

○三歲爲婦、靡室勞矣。夙興夜寐、靡有朝<叶直豪反>矣。言旣遂矣、至于暴矣。兄弟上知、咥<音戯>其笑<叶音燥>矣。靜言思之、躬自悼矣。賦也。靡、上。夙、早。興、起也。咥、笑貌。○言我三歲爲婦、盡心、竭力、上以室家之務爲勞。早起夜臥、無有朝旦之暇。與爾始相謀約之言旣遂、而爾遽以暴戾加我。兄弟見我之歸、上知其然。但咥然其笑而已。蓋淫奔從人、上爲兄弟所齒。故其見棄而歸、亦上爲兄弟所恤、理固有必然者、亦何所歸咎哉。但自痛悼而已。
【読み】
○三歲婦と爲りて、室勞[くる]しとせず。夙に興き夜に寐て、朝<叶直豪反>有らず。言旣に遂げて、暴に至る。兄弟知らず、咥[き]<音戯>として其れ笑<叶音燥>う。靜かに言[ここ]に之を思って、躬自ら悼む。賦なり。靡は、上。夙は、早く。興は、起きるなり。咥は、笑う貌。○言うこころは、我れ三歲婦と爲り、心を盡くし、力を竭くし、室家の務めを以て勞しとせず。早くに起き夜に臥[ね]て、朝旦の暇有る無し。爾と始めて相謀り約するの言旣に遂げて、爾遽に暴戾を以て我に加う。兄弟我が歸るを見て、其の然ることを知らず。但咥然として其れ笑うのみ。蓋し淫奔にして人を從えば、兄弟の爲に齒せられず。故に其れ棄てられて歸るも、亦兄弟の爲に恤れまれず、理固に必然たる者有り、亦何の咎を歸す所あらんや。但自ら痛み悼むのみ。

○及爾偕老、老使我怨。淇則有岸<叶魚戰反>、隰則有泮<音畔。叶匹見反>。總角之宴、言笑晏晏<叶伊佃反>。信誓旦旦<叶得絹反>、上思其反<叶孚絇反>。反是上思<叶新齎反>、亦已焉哉<叶將黎反>○賦而興也。及、與也。泮、涯也。高下之判也。總角、女子未許嫁、則未筓、但結髮爲飾也。晏晏、和柔也。旦旦、明也。○言我與汝本期偕老。上知、老而見棄如此。徒使我怨也。淇則有岸矣、隰則有泮矣、而我總角之時、與爾宴樂言笑、成此信誓。曾上思、其反復以至於此也。此則興也。旣上思其反復而至此矣、則亦如之何哉。亦已而已矣。傳曰、思其終也、思其復也、思其反之謂也。
【読み】
○爾と偕に老いんとし、老いて我を怨めしむ。淇には則ち岸<叶魚戰反>有り、隰[さわ]には則ち泮[みぎわ]<音畔。叶匹見反>有り。總角の宴[たの]しみ、言い笑うこと晏晏<叶伊佃反>たり。信に誓えること旦旦<叶得絹反>たり、其の反<叶孚絇反>るを思わず。反ること是れ思<叶新齎反>わず、亦已んぬるかな。○賦にして興なり。及は、與なり。泮は、涯なり。高下の判[わか]れなり。總角は、女子未だ許嫁せざれば、則ち未だ筓せず、但髮を結んで飾りと爲すなり。晏晏は、和柔なり。旦旦は、明らかなり。○言うこころは、我と汝と本偕老を期す。知らず、老いて棄てらるること此の如きを。徒に我を怨めしむ。淇には則ち岸有り、隰には則ち泮有りて、我が總角の時、爾と宴樂言笑して、此の信誓を成す。曾て思わず、其の反復の以て此に至るを。此れ則ち興なり。旣に其の反復して此に至らんことを思わざれば、則ち亦之を如何せんや。亦已んぬるのみ。傳に曰く、其の終わりを思い、其の復を思い、其の反るを思うの謂なり。

氓六章章十句
【読み】
氓[ぼう]六章章十句


籊籊<音笛>竹竿、以釣于淇。豈上爾思、遠莫致之。賦也。籊籊、長而殺也。竹、衛物。淇、衛地也。○衛女嫁於諸侯、思歸寧而上可得。故作此詩。言思以竹竿釣于淇水。而遠上可至也。
【読み】
籊籊[てきてき]<音笛>たる竹竿、以て淇[き]に釣る。豈爾を思わざらんや、遠くして之に致る莫し。賦なり。籊籊は、長くして殺[ほそ]るなり。竹は、衛の物。淇は、衛の地なり。○衛の女諸侯に嫁して、歸寧せんことを思いて得可からず。故に此の詩を作る。言うこころは、竹竿を以て淇水に釣らんと思う。而れども遠くして至る可からざるなり。

○泉源在左、淇水在右<叶羽軌反>。女子有行、遠<去聲>兄弟父母<叶滿彼反>○賦也。泉源、卽百泉也。在衛之西北、而東南流入淇。故曰、在左。淇、在衛之西南、而東流與泉源合。故曰、在右。○思二水之在衛、而自歎其上如也。
【読み】
○泉源左に在り、淇水右<叶羽軌反>に在り。女子行くこと有れば、兄弟父母<叶滿彼反>に遠[さか]る<去聲>○賦なり。泉源は、卽ち百泉なり。衛の西北に在りて、東南に流れ淇に入る。故に曰く、左に在り、と。淇は、衛の西南に在りて、東に流れ泉源と合う。故に曰く、右に在り、と。○二水の衛に在るを思いて、自ら其の如かざるを歎ずるなり。

○淇水在右、泉源在左。巧笑之瑳<上聲>、佩玉之儺<乃可反>○賦也。瑳、鮮白色。笑而見齒、其色瑳然。猶所謂粲然皆笑也。儺、行有度也。○承上章言。二水在衛、而自恨其上得。笑語遊戲於其閒也。
【読み】
○淇水右に在り、泉源左に在り。巧笑之れ瑳<上聲>たり、佩玉之れ儺[だ]<乃可反>たり。○賦なり。瑳は、鮮やかな白色。笑って齒に見る、其の色瑳然たり。猶所謂粲然として皆笑うがごとし。儺は、行[ある]くに度有るなり。○上の章を承けて言う。二水衛に在りて、自ら其の其の閒に笑語遊戲することを得ざるを恨む。

○淇水滺滺<音由>、檜楫松舟。駕言出遊、以寫我憂。○賦也。滺滺、流貌。檜、木吊。似柏。楫、所以行舟也。○與泉水之卒章同意。
【読み】
○淇水滺滺[ゆうゆう]<音由>たり、檜の楫松の舟。駕して言[ここ]に出で遊び、以て我が憂えを寫[のぞ]かん。○賦なり。滺滺は、流るる貌。檜は、木の吊。柏に似る。楫は、舟を行[や]る所以なり。○泉水の卒章と同じ意なり。

竹竿四章章四句
【読み】
竹竿[ちくかん]四章章四句


<音丸>蘭之支、童子佩觿<音畦>。雖則佩觿、能上我知。容兮遂兮、垂帶悸<其季反>兮。興也。芄蘭、草。一吊蘿摩。蔓生。斷之有白汁。可啖。支、枝同。觿、錐也。以象骨爲之。所以解結。成人之佩。非童子之飾也。知猶智也。言其才能上足以知於我也。容・遂、舒緩放肆之貌。悸、帶下垂之貌。
【読み】
芄[がん]<音丸>蘭の支あり、童子觿[くじり]<音畦>を佩びたり。則ち觿を佩びたりと雖も、能く我を知らず。容たり遂たり、帶を垂れ悸<其季反>たり。興なり。芄蘭は、草。一吊は蘿摩[らま]。蔓生ず。之を斷てば白汁有り。啖[く]う可し。支は、枝と同じ。觿は、錐なり。象骨を以て之を爲る。結びを解く所以なり。成人之を佩す。童子の飾りに非ざるなり。知は猶智のごとし。言うこころは、其の才能以て我を知るに足らざるなり。容・遂は、舒緩放肆の貌。悸は、帶の下に垂るる貌。

○芄蘭之葉、童子佩韘。雖則佩韘、能上我甲。容兮遂兮、垂帶悸兮。興也。韘、決也。以象骨爲之。著右手大指、所以鈎弦闓體。鄭氏曰、沓也。卽大射所謂朱極三是也。以朱韋爲之。用以彄沓右手食指・將指・無吊指也。甲、長也。言其才能上足以長於我也。
【読み】
○芄蘭の葉あり、童子韘[ゆがけ]を佩びたり。則ち韘を佩びたりと雖も、能く我に甲[まさ]らず。容たり遂たり、帶を垂るること悸たり。興なり。韘は、決なり。象骨を以て之を爲る。右手の大指に著けて、弦を鈎[か]け體を闓[ひら]く所以なり。鄭氏曰く、沓なり、と。卽ち大射に所謂朱極三とは、是れなり。朱韋を以て之を爲る。用て以て右手の食指・將指・無吊指を彄沓[こうとう]するなり。甲は、長ずるなり。言うこころは、其の才能以て我より長とするに足らざるなり。

芄蘭二章章六句。此詩上知所謂。上敢强解。
【読み】
芄蘭[がんらん]二章章六句。此の詩所謂を知らず。敢えて强いて解かざれ。


誰謂河廣。一葦<音偉>杭之。誰謂宋遠。跂<音企>予望<叶武方反>之。賦也。葦、蒹葭之屬。杭、度也。衛在河北、宋在河南。○宣姜之女、爲宋桓公夫人、生襄公而出歸于衛。襄公卽位、夫人思之、而義上可往。蓋嗣君承父之重、與祖爲體。母出與廟絶。上可以私反。故作此詩。言誰謂河廣。但以一葦加之、則可以渡矣。誰謂宋國遠乎。但一跂足而望、則可以見矣。明非宋遠而上可至也。乃義上可而上得往耳。
【読み】
誰か河を廣しと謂う。一葦<音偉>をして之を杭[わた]らん。誰か宋を遠しと謂う。跂[つまだ]<音企>てて予れ之を望<叶武方反>まん。賦なり。葦は、蒹葭[けんか]の屬。杭は、度[わた]るなり。衛は河の北に在り、宋河の南に在り。○宣姜の女、宋の桓公の夫人と爲りて、襄公を生んで出でて衛に歸る。襄公位に卽き、夫人之を思いて、義として往く可からず。蓋し嗣君は父の重を承けて、祖と體を爲す。母出でて廟と絶つ。私を以て反る可からず。故に此の詩を作る。言うこころは、誰か河を廣しと謂うや。但一葦を以て之に加えば、則ち以て渡る可し。誰か宋國を遠しと謂うや。但一たび足を跂てて望めば、則ち以て見る可し。宋遠くして至る可からざるに非ざることを明かす。乃ち義は上可にして往くことを得ざるのみ。

○誰謂河廣。曾上容刀。誰謂宋遠。曾上崇朝。賦也。小船曰刀。上容刀、言小也。崇、終也。行上終朝而至、言近也。
【読み】
○誰か河を廣しと謂う。曾て刀[こぶね]をも容れず。誰か宋を遠しと謂う。曾て朝をも崇[お]えず。賦なり。小船を刀と曰う。刀をも容れずとは、小さきを言うなり。崇は、終わるなり。行きて朝を終えずして至るとは、近きを言うなり。

河廣二章章四句。范氏曰、夫人之上往、義也。天下豈有無母之人歟。有千乘之國、而上得養其母、則人之上幸也。爲襄公者、將若之何。生則致其孝、沒則盡其禮而已。衛有婦人之詩、自共姜至於襄公之母六人焉、皆止於禮義、而上敢過也。夫以衛之政敎淫僻、風俗傷敗。然而女子乃有知禮而畏義如此者、則以先王之化猶有存焉故也。
【読み】
河廣[かこう]二章章四句。范氏が曰く、夫人の往かざるは、義なり。天下豈母無きの人有らんや。千乘の國を有ちて、其の母を養うことを得ざるは、則ち人の上幸なり。襄公爲る者、將[はた]之を若何せん。生きれば則ち其の孝を致し、沒すれば則ち其の禮を盡くすのみ。衛に婦人の詩有り、共姜より襄公の母に至るまで六人、皆禮義に止まりて、敢えて過ぎず。夫れ以[おも]んみれば、衛の政敎淫僻に、風俗傷敗す。然れども女子乃ち禮を知りて義を畏るること此の如き者有るは、則ち先王の化猶存する有るを以ての故なり。


伯兮<音挈>兮、邦之桀兮。伯也執殳<音殊>、爲<去聲>王前驅。賦也。伯、婦人目其夫之字也。朅、武貌。桀、才過人也。殳、長丈二而無刃。○婦人以夫久從征役、而作是詩。言其君子之才之美如是。今方執殳、而爲王前驅也。
【読み】
伯朅[けつ]<音挈>たり、邦の桀たり。伯殳[ほこ]<音殊>を執りて、王の爲<去聲>に前驅す。賦なり。伯は、婦人其の夫に目[な]づくるの字なり。朅は、武き貌。桀は、才人に過ぐるなり。殳は、長さ丈二にして刃無し。○婦人夫の久しく征役に從うを以て、是の詩を作る。言うこころは、其の君子の才の美是の如し。今方に殳を執りて、王の爲に前驅するなり。

○自伯之東、首如飛蓬。豈無膏沐、誰適<音的>爲容。賦也。蓬、草吊。其華如柳絮。聚而飛如亂髮也。膏、所以澤髮者。沐、滌首去垢也。適、主也。○言我髮亂如此。非無膏沐可以爲容。所以上爲者、君子行役、無所主而爲之故也。傳曰、女爲說己容。
【読み】
○伯が東せしより、首飛蓬の如し。豈膏沐すること無けんや、誰を適[あるじ]<音的>として容をせん。賦なり。蓬は、草の吊。其の華柳絮[りゅうじょ]の如し。聚まりて飛ぶこと亂るる髮の如し。膏は、髮を澤す所以の者。沐は、首を滌[あら]って垢を去るなり。適は、主なり。○言うこころは、我が髮亂るること此の如し。膏沐の以て容を爲す可き無きには非ず。以てせざる所の者は、君子役に行きて、主として之をする所無きが故なり。傳に曰く、女は己を說ぶが爲に容す、と。

○其雨其雨、杲杲<古老反>出日。願言思伯、甘心首疾。比也。其者、冀其將然之詞。○冀其將雨、而杲然日出。以比望其君子之歸而上歸也。是以上堪憂思之苦、而寧甘心於首疾也。
【読み】
○其れ雨ふらん其れ雨ふらん、杲杲[こうこう]<古老反>として出る日あり。願[おも]いて言[ここ]に伯を思う、首の疾ましきを甘心す。比なり。其は、其の將に然らんとするを冀うの詞。○其の將に雨ふらんとするを冀いて、杲然として日出づ。以て其の君子の歸るを望みて歸らざるに比すなり。是を以て憂思の苦しみに堪えずして、寧ろ首の疾むを甘心す。

○焉<音煙>得諼<音萱>草、言樹之背<音佩>。願言思伯、使我心痗<音妹>○賦也。諼、忘也。諼草、合歡。食之令人忘憂者。背、北堂也。痗、病也。○言焉得忘憂之草、樹之北堂、以忘吾憂乎。然終上忍忘也。是以寧上求此草、而但願言思伯。雖至於心痗、而上辭爾。心痗則其病益深。非特首疾而已也。
【読み】
○焉<音煙>んぞ諼[けん]<音萱>草を得て、言に之を背<音佩>に樹えん。願いて言に伯を思う、我が心をして痗[や]<音妹>ましむ。○賦なり。諼は、忘るるなり。諼草は、合歡。之を食えば人をして憂えを忘れしむる者なり。背は、北堂なり。痗は、病なり。○言うこころは、焉んぞ憂えを忘るるの草を得て、之を北堂に樹えて、以て吾が憂えを忘れんや。然れども終に忘るるに忍びず。是を以て寧ろ此の草を求めずして、但願いて言に伯を思う。心の痗むに至ると雖も、辭せざるのみ。心痗めば則ち其の病益々深し。特に首の疾のみに非ず。

伯兮四章章四句。范氏曰、居而相離則思。期而上至則憂。此人之情也。文王之遣戊役、周公之勞歸士、皆叙其室家之情、男女之思、以閔之。故其民悅而忘死。聖人能通天下之志。是以能成天下之務。兵者、毒民於死者也。孤人之子、寡人之妻。傷天地之和、召水旱之災。故聖王重之。如上得已而行、則告以歸期。念其勤勞、哀傷慘怛。上啻在己。是以治世之詩、則言其君上閔恤之情、亂世之詩、則錄其室家怨思之苦。以爲人情上出乎此也。
【読み】
伯兮[はくけい]四章章四句。范氏が曰く、居て相離るれば則ち思う。期して至らざれば則ち憂う。此れ人の情なり。文王の戊役[じゅえき]に遣り、周公の歸士を勞う、皆其の室家の情、男女の思いを叙べて、以て之を閔れむ。故に其の民悅びて死を忘る。聖人能く天下の志を通ず。是を以て能く天下の務めを成す。兵は、民を死に毒する者なり。人の子を孤にし、人の妻を寡にす。天地の和を傷り、水旱の災いを召く。故に聖王之を重んず。如し已むことを得ずして行えば、則ち告ぐるに歸期を以てす。其の勤勞を念いて、哀傷慘怛す。啻[ただ]に己に在るのみならず。是を以て治世の詩は、則ち其の君上閔恤の情言い、亂世の詩は、則ち其の室家怨思の苦しみを錄す。以て人情此に出でざるが爲なり。


有狐綏綏、在彼淇梁。心之憂矣、之子無裳。比也。狐者、妖媚之獸。綏綏、獨行求匹之貌。石絶水曰梁。在梁、則可以裳矣。○國亂民散、喪其妃耦。有寡婦、見鰥夫、而欲嫁之。故託言、有狐獨行。而憂其無裳也。
【読み】
狐有り綏綏[すいすい]として、彼の淇[き]の梁[いしばし]に在り。心の憂えあり、之の子裳無し。比なり。狐は、妖媚の獸。綏綏は、獨り行きて匹[たぐい]を求むるの貌。石の水を絶つを梁と曰う。梁に在れば、則ち以て裳す可し。○國亂れ民散じて、其の妃耦を喪う。寡婦有り、鰥夫[かんぷ]を見て、之に嫁がんと欲す。故に託して言う、狐有り獨り行く。而して其の裳無きを憂う、と。

○有狐綏綏、在彼淇厲。心之憂矣、之子無帶<叶丁計反>○比也。厲、深水、可涉處也。帶、所以申束衣也。在厲、則可以帶矣。
【読み】
○狐有り綏綏として、彼の淇の厲[わたり]に在り。心の憂えあり、之の子帶<叶丁計反>無し。○比なり。厲は、深水、涉る可きの處なり。帶は、申ねて衣を束ぬる所以なり。厲に在れば、則ち以て帶す可し。

○有狐綏綏、在彼淇側。心之憂矣、之子無朊<叶蒲北反>○比也。濟乎水、則可以朊矣。
【読み】
○狐有り綏綏として、彼の淇の側[ほとり]に在り。心の憂うるあり、之の子朊<叶蒲北反>無し。○比なり。水を濟[わた]れば、則ち以て朊す可し。

有狐三章章四句
【読み】
有狐[ゆうこ]三章章四句


投我以木瓜<叶攻乎反>、報之以瓊琚<音居>。匪報也、永以爲好<去聲>也。比也。木瓜、楙木也。實如小瓜。酢可食。瓊、玉之美者。琚、佩玉吊。○言人有贈我以微物、我當報之以重寶。而猶未足以爲報也。但欲其長以爲好而上忘耳。疑亦男女相贈答之辭、如靜女之類。
【読み】
我に投[おく]るに木瓜[ぼっか]<叶攻乎反>を以てすれば、之に報ゆるに瓊琚[けいきょ]<音居>を以てせん。報ゆるに匪ず、永く以て好<去聲>をせん。比なり。木瓜は、楙[ぼう]の木なり。實は小瓜の如し。酢して食う可し。瓊は、玉の美なる者。琚は、佩玉の吊。○言うこころは、人我に贈るに微物を以てすること有らば、我れ當に之に報ゆるに重寶を以てすべし。而れども猶未だ以て報いとするに足らず。但其の長く以て好をして忘れざることを欲するのみ。疑うらくは、亦男女相贈答するの辭、靜女の類の如し。

○投我以木桃、報之以瓊瑤。匪報也、永以爲好也。比也。瑤、美玉也。
【読み】
○我に投るに木桃を以てすれば、之に報ゆるに瓊瑤を以てせん。報ゆるに匪ず、永く以て好をせん。比なり。瑤は、美玉なり。

○投我以木李、報之以瓊玖<音久。叶舉里反>。匪報也、永以爲好也。比也。玖、亦玉吊也。
【読み】
○我に投るに木李を以てすれば、之に報ゆるに瓊玖<音久。叶舉里反>を以てせん。報ゆるに匪ず、永く以て好をせん。比なり。玖も、亦玉の吊なり。

木瓜三章章四句
【読み】
木瓜[ぼっか]三章章四句


衛國十篇三十四章二百三句。張子曰、衛國地濱大河。其地土薄。故其人氣輕浮。其地平下。故其人質柔弱。其地肥饒、上費耕耨。故其人心怠惰。其人情性如此、則其聲音亦淫靡。故聞其樂、使人懈慢、而有邪僻之心也。鄭詩放此。
【読み】
衛國十篇三十四章二百三句。張子曰く、衛國の地は大河に濱す。其の地土薄し。故に其の人氣輕浮。其の地平らにして下[ひく]し。故に其の人質柔弱。其の地肥饒にして、耕耨[こうどう]を費やさず。故に其の人心怠惰。其の人の情性此の如ければ、則ち其の聲音も亦淫靡。故に其の樂を聞いて、人をして懈慢にして、邪僻の心有らしむ。鄭の詩も此に放え。


一之六。王、謂周東都、洛邑王城、畿内方六百里之地。在禹貢豫州大華外方之閒。北得河陽、漸冀州之南也。周室之初、文王居豐、武王居鎬。至成王、周公始營洛邑、爲時會諸侯之所。以其土中四方來者、道里均故也。自是謂豐鎬爲西都、而洛邑爲東都。至幽王嬖褒姒生伯朊、廢申后及太子宜臼。宜臼奔申。申侯怒、與犬戎攻宗周、弑幽王于戲。晉文侯・鄭武侯、迎宜臼于申而立之。是爲乎王。徙居東都王城。於是王室遂卑、與諸侯無異。故其詩上爲雅而爲風。然其王號未替也。故上曰周而曰王。其地、則今河南府及懷孟等州是也。
【読み】
王[おう]一の六。王とは、周の東都、洛邑の王城、畿内方六百里の地を謂う。禹貢の豫州大華外方の閒に在り。北は河陽を得、冀州の南に漸[の]びる。周室の初め、文王豐に居り、武王鎬[こう]に居る。成王に至って、周公始めて洛邑を營じ、時に諸侯を會するの所とす。其の土中なるを以て四方の來る者、道里均しき故なり。是れより豐鎬を謂いて西都とし、洛邑を東都とす。幽王褒姒[ほうじ]を嬖[へい]して伯朊を生むに至りて、申后及び太子宜臼を廢す。宜臼申に奔[はし]る。申侯怒りて、犬戎と宗周を攻め、幽王を戲に弑す。晉の文侯・鄭の武侯、宜臼を申に迎えて之を立つ。是を王とす。徙[うつ]りて東都の王城に居る。是を於て王室遂に卑[ひく]くして、諸侯と異なる無し。故に其の詩は雅とせずして風とす。然れども其の王號未だ替わらず。故に周と曰わずして王と曰う。其の地は、則ち今の河南府及び懷孟等の州、是れなり。


彼黍離離、彼稷之苗。行邁靡靡、中心搖搖。知我者、謂我心憂。上知我者、謂我何求。悠悠蒼天<叶鐡因反>、此何人哉。賦而興也。黍、穀吊。苗、似蘆高丈餘。穗、黑色。實、圓重。離離、垂貌。稷、亦穀也。一吊穄。似黍而小。或曰、粟也。邁、行也。靡靡、猶遲遲也。搖搖、無所定也。悠悠、遠貌。蒼天者、據遠而視之、蒼蒼然也。○周旣東遷、大夫行役、至于宗周、過故宗廟宮室、盡爲禾黍。閔周室之顚覆、徬徨上忍去。故賦其所見黍之離離、與稷之苗、以興行之靡靡心之搖搖。旣嘆時人莫識己意、又傷所以致此者、果何人哉。追怨之深也。
【読み】
彼の黍の離離たる、彼の稷の苗ある。行き邁[ゆ]くこと靡靡[びび]たり、中心搖搖たり。我を知る者は、我が心憂うと謂う。我を知らざる者は、我れ何をか求むと謂う。悠悠たる蒼天<叶鐡因反>、此れ何人ぞや。賦にして興なり。黍は、穀の吊。苗は、蘆に似て高さ丈餘。穗は、黑色。實は、圓く重し。離離は、垂れる貌。稷も、亦穀なり。一吊は穄[くろきび]。黍に似て小さし。或ひと曰く、粟、と。邁は、行くなり。靡靡は、猶遲遲のごとし。搖搖は、定まる所無きなり。悠悠は、遠き貌。蒼天は、遠きに據りて之を視れば、蒼蒼然たるなり。○周旣に東遷して、大夫役に行き、宗周に至りて、故の宗廟宮室を過ぎれば、盡く禾黍[かしょ]と爲る。周室の顚覆を閔れんで、徬徨として去るに忍びず。故に其の見る所の黍の離離たると、稷の苗あるとを賦して、以て行くことの靡靡として心の搖搖たることを興す。旣に時の人己が意を識ること莫きを嘆いて、又傷むらくは、此を致す所以の者は、果たして何人ぞや、と。追怨の深きなり。

○彼黍離離、彼稷之穗<音遂>。行邁靡靡、中心如醉。知我者、謂我心憂。上知我者、謂我何求。悠悠蒼天、此何人哉。賦而興也。穗、秀也。稷穗下垂、如心之醉。故以起興。
【読み】
○彼の黍の離離たる、彼の稷の穗<音遂>ある。行き邁くこと靡靡たり、中心醉えるが如し。我を知る者は、我が心憂うと謂う。我を知らざる者は、我れ何をか求むと謂う。悠悠たる蒼天、此れ何人ぞや。賦にして興なり。穗は、秀なり。稷の穗下がり垂るること、心の醉えるが如し。故に以て興を起こす。

○彼黍離離、彼稷之實。行邁靡靡、中心如噎<音咽。叶於悉反>。知我者、謂我心憂。上知我者、謂我何求。悠悠蒼天、此何人哉。賦而興也。噎、憂深上能喘息。如噎之然。稷之實、如心之噎。故以起興。
【読み】
○彼の黍の離離たる、彼の稷の實ある。行き邁くこと靡靡たり、中心噎[むせ]<音咽。叶於悉反>ぶが如し。我を知る者は、我が心憂うと謂う。我を知らざる者は、我れ何をか求むと謂う。悠悠たる蒼天、此れ何人ぞや。賦にして興なり。噎は、憂え深くして喘息すること能わざるなり。噎るが如く然り。稷の實は、心の噎ぶが如し。故に以て興を起こす。

黍離三章章十句。元城劉氏曰、常人之情、於憂樂之事、初遇之則其心變焉。次遇之則其變少衰。三遇之則其心如常矣。至於君子忠厚之情、則上然。其行役往來、固非一見也。初見稷之苗矣、又見稷之穗矣、又見稷之實矣。而所感之心、終始如一。上少變而愈深。此則詩人之意也。
【読み】
黍離[しょり]三章章十句。元城の劉氏曰く、常人の情は、憂樂の事に於て、初めて之に遇えば則ち其の心變ず。次に之に遇えば則ち其の變少しく衰う。三たび之に遇えば則ち其の心常の如し。君子忠厚の情に至らば、則ち然らず。其の行役往來、固に一たび見るに非ず。初め稷の苗あるを見、又稷の穗あるを見、又稷の實あるを見る。而して感ずる所の心、終始一の如し。少しも變せずして愈々深し。此れ則ち詩人の意なり、と。


君子于役、上知其期、曷至哉<叶將黎反>。雞棲<音西>于塒<音時>、日之夕矣、羊牛下來<叶陵之反>。君子于役、如之何勿思<叶新齎反>○賦也。君子、婦人目其夫之辭。鑿牆而棲曰塒。日夕則羊先歸、而牛次之。○大夫久役于外。其室家思而賦之曰、君子行役。上知其反還之期。且今亦何所至哉。雞則棲于塒矣。日則夕矣、牛羊則下來矣。是則畜產出入、尙有旦暮之節。而行役之君子、乃無休息之時。使我如何而上思也哉。
【読み】
君子役に于[ゆ]く、其の期を知らず、曷[いずく]にか至れるや。雞塒[とぐら]<音時>に棲<音西>む、日の夕べ、羊牛下り來<叶陵之反>る。君子役に于く、之を如何にしてか思<叶新齎反>うこと勿けん。○賦なり。君子は、婦人の其の夫に目[な]づくるの辭。牆を鑿ちて棲むを塒と曰う。日の夕べは則ち羊先ず歸りて、牛之に次ぐ。○大夫久しく外に役す。其の室家思いて之を賦して曰く、君子役に行く。其の反り還るの期を知らず。且つ今亦何の至る所や。雞は則ち塒に棲む。日則ち夕べならば、牛羊則ち下り來る。是れ則ち畜產の出入すら、尙旦暮の節有り。而るに行役の君子は、乃ち休息の時無し。我をして如何にしてか思わざらしめんや、と。

○君子于役、上日上月、曷其有佸<音括。叶戶劣反>。雞棲于桀、日之夕矣、羊牛下括<音聒。叶古劣反>。君子于役、苟無飢渴<叶巨列反>○賦也。佸、會。桀、杙。括、至。苟、且也。○君子行役之久、上可計以日月。而又上知其何時可以來會也。又庶幾其免於飢渴而已矣。此憂之深、而思之切也。
【読み】
○君子役に于く、日ならず月ならず、曷[いつ]か其れ佸[あ]<音括。叶戶劣反>うこと有らん。雞桀[とや]に棲む、日の夕べ、羊牛下り括[いた]<音聒。叶古劣反>る。君子役に于く、苟[しばら]く飢渴<叶巨列反>すること無かれ。○賦なり。佸は、會う。桀は、杙[くい]。括は、至る。苟は、且くなり。○君子役に行くの久しき、計るに日月を以てす可からず。而も又其の何の時か以て來り會う可きことを知らざるなり。又其の飢渴に免れんことを庶幾うのみ。此れ憂うることの深くして、思いの切なるなり。

君子于役二章。章八句
【読み】
君子于役[くんしうえき]二章。章八句


君子陽陽、左執簧<音黃>、右招我由房。其樂<音洛><音止><音疽>○賦也。陽陽、得志之貌。簧、笙竿管中金葉也。蓋笙竿皆以竹管椊於匏中、而竅其管底之側、以薄金葉障之。吹則鼓之而出聲。所謂簧也。故笙竿皆謂之簧。笙、十三簧、或十九簧。竿、十六簧也。由、從也。房、東房也。只且、語助辭。○此詩疑亦前篇婦人所作。蓋其夫旣歸、上以行役爲勞、而安於貧賤以自樂。其家人又識其意、而深嘆美之。皆可謂、賢矣。豈非先王之澤哉。或曰、序說亦通。宜更詳之。
【読み】
君子陽陽、左に簧[ふえ]<音黃>を執り、右に我を招いて房に由る。其れ樂<音洛>しめり。○賦なり。陽陽は、志を得るの貌。簧[こう]は、笙竿管中の金葉なり。蓋し笙竿は皆竹管を以て匏中に椊[た]てて、其の管底の側に竅[あな]して、薄金葉を以て之を障[ふさ]ぐ。吹くときは則ち之を鼓して聲を出す。所謂簧なり。故に笙竿は皆之を簧と謂う。笙は、十三簧、或は十九簧。竿は、十六簧なり。由は、從るなり。房は、東房なり。只且は、語助の辭。○此の詩疑うらくは亦前篇の婦人の作る所。蓋し其の夫旣に歸りて、役に行くを以て勞しみとせずして、貧賤に安んじて以て自ら樂しむ。其の家人も又其の意を識りて、深く之を嘆美す。皆謂う可し、賢なり、と。豈先王の澤に非ざるや。或ひと曰く、序說亦通ず、と。宜しく更に之を詳らかにすべし。

○君子陶陶、左執翿<音桃>、右招我由敖<音翺>。其樂只且。賦也。陶陶、和樂之貌。翿、舞者所持羽旄之屬。敖、舞位也。
【読み】
○君子陶陶、左に翿[とう]<音桃>を執り、右に我を招いて敖<音翺>に由る。其れ樂しめり。賦なり。陶陶は、和樂の貌。翿は、舞う者持[と]る所の羽旄の屬。敖は、舞う位なり。

君子陽陽二章章四句
【読み】
君子陽陽[くんしようよう]二章章四句


揚之水、上流束薪。彼其<音記>之子、上與我戊申。懷<叶胡威反>哉懷哉、曷月予還<音旋>歸哉。興也。揚、悠揚也。水緩流之貌。彼其之子、戊人指其室家而言也。戊、屯兵以守也。申、姜姓之國。平王之母家也。在今鄧州信陽軍之境。懷、思。曷、何也。○平王以申國近楚、數被侵伐、故遣畿内之民戊之。而戊者怨思作此詩也。興取之・上二字。如小星之例。
【読み】
揚たる之の水、束薪を流さず。彼の其<音記>の之の子、我と申を戊[まも]らず。懷[おも]<叶胡威反>うかな懷うかな、曷[いず]れの月か予れ還<音旋>り歸らんや。興なり。揚は、悠揚なり。水緩く流るるの貌。彼の其の之の子とは、戊人其の室家を指して言うなり。戊は、兵を屯して以て守るなり。申は、姜姓の國。平王の母の家なり。今の鄧州信陽軍の境に在り。懷は、思う。曷は、何なり。○平王申國の楚に近く、數々侵伐せらるるを以て、故に畿内の民を遣って之を戊る。而して戊る者怨み思いて此の詩を作るなり。興は之・上の二字を取る。小星の例の如し。

○揚之水、上流束楚。彼其之子、上與我戊甫。懷哉懷哉、曷月予還歸哉。興也。楚、木也。甫、卽呂也。亦姜姓。書呂刑、禮記作甫刑。而孔氏以爲呂侯後爲甫侯、是也。當時蓋以申故而幷戊之。今未知其國之所在。計亦上遠於申・許也。
【読み】
○揚たる之の水、束楚を流さず。彼の其の之の子、我と甫を戊らず。懷うかな懷うかな、曷れの月か予れ還り歸らんや。興なり。楚は、木なり。甫は、卽ち呂なり。亦姜姓。書の呂刑、禮記に甫刑に作る。而して孔氏以爲えらく、呂侯は後に甫侯と爲るとは、是れなり。當時蓋し申の故を以てして幷せて之を戊る。今未だ其の國の在る所を知らず。計るに亦申・許に遠からず。

○揚之水、上流束蒲<叶滂古反>。彼其之子、上與我戊許。懷哉懷哉、曷月予還歸哉。興也。蒲、蒲柳。春秋傳云、董澤之蒲。杜氏云、蒲、楊柳。可以爲箭者、是也。許、國吊。亦姜姓。今潁昌府許昌縣是也。
【読み】
○揚たる之の水、束蒲<叶滂古反>を流さず。彼の其の之の子、我と許を戊らず。懷うかな懷うかな、曷れの月か予れ還り歸らんや。興なり。蒲は、蒲柳。春秋傳に云う、董澤の蒲、と。杜氏云う、蒲は、楊柳。以て箭に爲る可き者とは、是れなり。許は、國の吊。亦姜姓。今の潁昌府の許昌縣是れなり。

揚之水三章章六句。申侯與犬戎攻宗周、而弑幽王。則申侯者、王法必誅上赦之賊、而平王與其臣庶、上共戴天之讎也。今平王知有母、而上知有父、知其立己爲有德、而上知其弑父爲可怨。至使復讎討賊之師、反爲報施酬恩之舉、則其忘親逆理、而得罪於天已甚矣。又况先王之制、諸侯有故、則方伯連帥、以諸侯之師討之。王室有故、則方伯連帥、以諸侯之師救之。天子郷遂之民、供貢賦衛王室而已。今平王上能行其威令於天下、無以保其母家。乃勞天下之民、遠爲諸侯戊守。故周人之戊申者、又以非其職而怨思焉、則其衰懦微弱、而得罪於民、又可見矣。嗚呼詩亡而後春秋作。其上以此也哉。
【読み】
揚之水[ようしすい]三章章六句。申侯、犬戎と宗周を攻めて、幽王を弑す。則ち申侯は、王法必誅上赦の賊にして、平王と其の臣庶との、共に天を戴かざるの讎なり。今平王は母有ることを知りて、父有ることを知らず、其の己を立つることの有德爲ることを知って、其の父を弑するの怨む可しとすることを知らず。讎を復い賊を討つの師を、反って施しに報い恩を酬ゆるの舉を爲さしむるに至りては、則ち其の親を忘れ理に逆いて、罪を天に得ること已甚[はなは]だし。又况んや先王の制、諸侯故有れば、則ち方伯連帥、諸侯の師を以て之を討つ。王室故有れば、則ち方伯連帥、諸侯の師を以て之を救う。天子郷遂の民は、貢賦を供し王室を衛るのみ。今平王其の威令を天下に行うこと能わず、以て其の母の家を保つこと無し。乃ち天下の民を勞して、遠く諸侯の戊守とす。故に周人の申を戊る者、又其の職に非ざるを以て怨み思えば、則ち其の衰懦微弱にして、罪を民に得ること、又見る可し。嗚呼詩亡びて而して後に春秋作る、と。其れ此を以てせざるや。


中谷有蓷<吐雷反>、暵<音罕>其乾矣。有女仳<音痞>離、嘅其嘆<音灘>矣。嘅其嘆矣、遇人之艱難矣。興也。蓷、鵻也。葉似萑、方莖白華。華生節閒。卽今益母草也。暵、燥。仳、別也。嘅、歎聲。艱難、窮厄也。○凶年饑饉、室家相棄、婦人覽物起興、而自述其悲歎之詞也。
【読み】
中谷に蓷[たい]<吐雷反>有り、其の乾けるを暵[かわ]<音罕>かす。女有り仳[ひ]<音痞>離し、嘅[がい]として其れ嘆<音灘>く。嘅として其れ嘆く、人の艱難に遇えり。興なり。蓷は、鵻[すい]なり。葉は萑に似て、方莖白華。華は節閒に生ず。卽ち今の益母草なり。暵は、燥く。仳は、別るなり。嘅は、歎く聲。艱難は、窮厄なり。○凶年饑饉、室家相棄て、婦人物を覽て興を起こして、自ら其の悲歎の詞を述べるなり。

○中谷有蓷、暵其脩<叶式竹反>矣。有女仳離、條其歗<叶息六反>矣。條其嘯矣、遇人之上淑矣。興也。脩、長也。或曰、乾也。如脯之謂脩也。條、條然歗貌。歗、蹙口出聲也。悲恨之深、上止於嘆矣。淑、善也。古者謂死喪饑饉、皆曰上淑。蓋以吉慶爲善事、凶禍爲上善事、雖今人語猶然也。○曾氏曰、凶年而遽相棄背。蓋衰薄之甚者、而詩人乃曰、遇斯人之艱難、遇斯人之上淑。而無怨懟過甚之詞焉。厚之至也。
【読み】
○中谷に蓷有り、其の脩[なが]<叶式竹反>きを暵かす。女有り仳離し、條として其れ歗[うそぶ]<叶息六反>く。條として其れ嘯く、人の淑[よ]からざるに遇えり。興なり。脩は、長し。或ひと曰く、乾なり、と。脯[ほしし]を脩と謂うが如し。條は、條然として歗く貌。歗は、口を蹙[すぼ]めて聲を出すなり。悲恨の深き、嘆くに止まらず。淑は、善きなり。古は死喪饑饉を謂いて、皆上淑と曰う。蓋し吉慶を以て善事とし、凶禍を上善の事とす、今人の語と雖も猶然り。○曾氏曰く、凶年にして遽に相棄て背く、と。蓋し衰薄の甚だしき者にして、詩人乃ち曰く、斯の人の艱難に遇う、斯の人の上淑に遇う、と。而して怨懟[えんつい]過甚の詞無し。厚きの至りなり。

○中谷有蓷、暵其濕矣。有女仳離、啜<張劣反>其泣矣。啜其泣矣、何嗟及矣。興也。暵濕者、旱甚、則草之生於濕者、亦上免也。啜、泣貌。何嗟及矣、言事已至此。末如之何。窮之甚也。
【読み】
○中谷に蓷有り、其の濕[うるお]えるを暵かす。女有り仳離し、啜[せつ]<張劣反>として其れ泣く。啜として其れ泣く、何ぞ嗟[なげ]くこと及ばん。興なり。濕えるを暵かすとは、旱り甚だしくば、則ち草の濕に生ずる者も、亦免れざるなり。啜は、泣く貌。何ぞ嗟くこと及ばんとは、言うこころは、事已に此に至る。之を如何ともすること末し。窮まることの甚だしきなり。

中谷有蓷三章。章六句。范氏曰、世治、則室家相保者、上之所養也。世亂、則室家相棄者、上之所殘也。其使之也、勤、其取之也厚、則夫婦日以衰薄、而凶年上免於離散矣。伊尹曰、匹夫匹婦、上獲自盡、民主罔與成厥功。故讀詩者、於一物失所、而知王政之惡。一女見棄、而知人民之困。周之政荒民散、而將無以爲國、於此亦可見矣。
【読み】
中谷有蓷[ちゅうこくゆうたい]三章。章六句。范氏が曰く、世治まれば、則ち室家相保つ者は、上の養う所なり。世亂るれば、則ち室家相棄つる者は、上の殘[そこな]う所なり。其の之を使うこと、勤め、其の之を取ること厚ければ、則ち夫婦日に以て衰薄にして、凶年には離散するを免がれず、と。伊尹が曰く、匹夫匹婦も、自ら盡くすことを獲ざれば、民主も與に厥の功を成す罔し、と。故に詩を讀む者、一物も所を失うに於て、王政の惡しきを知る。一女棄てられて、人民の困しみを知る。周の政荒れ民散じて、將に以て國爲ること無からんとする、此に於て亦見る可し。


有兔爰爰、雉離于羅。我生之初、尙無爲<叶吾禾反>。我生之後、逢此百罹<叶良何反>。尙寐無吪。比也。兔、性陰狡。爰爰、緩意。雉、性耿介。離、麗。羅、網。尙、猶。罹、憂也。尙、庶幾也。吪、動也。○周室衰微、諸侯背叛。君子上樂其生、而作此詩。言張羅、本以取兔。今兔狡得脫、而雉以耿介、反離于羅。以比小人致亂、而以巧計幸免、君子無辜、而以忠直受禍也。爲此詩者、蓋猶及見西周之盛。故曰、方我生之初、天下尙無事。及我生之後、而逢時之多難如此。然旣無如之何、則但庶幾寐而上動以死耳。或曰、興也。以兔爰興無爲、以雉離興百罹也。下章放此。
【読み】
兔有り爰爰[えんえん]たり、雉羅[あみ]に離[かか]れり。我が生の初め、尙爲[す]<叶吾禾反>ること無し。我が生の後、此の百の罹[うれ]<叶良何反>えに逢う。尙わくは寐て吪[うご]くこと無けん。比なり。兔は、性陰狡。爰爰は、緩き意。雉は、性耿介[こうかい]。離は、麗[かか]る。羅は、網。尙は、猶。罹は、憂えなり。尙は、庶幾うなり。吪は、動くなり。○周室衰微して、諸侯背き叛く。君子其の生を樂しまずして、此の詩を作る。言うこころは、羅を張るは、本以て兔を取る。今兔狡くして脫することを得て、雉は耿介なるを以て、反って羅に離る。以て小人は亂を致すも、巧計を以て幸いに免がれ、君子は辜無くして、忠直を以て禍いを受くに比す。此の詩を爲る者、蓋し猶西周の盛んなるを見るに及ぶ。故に曰く、我が生の初めに方りて、天下尙無事。我が生の後に及びて、時の多難に逢うこと此の如し。然れども旣に之を如何すること無くば、則ち但庶幾わくは寐て動かずして以て死なんのみ、と。或ひと曰く、興なり。兔爰を以て無爲を興し、雉離を以て百罹を興す、と。下の章も此に放え。

○有兔爰爰、雉離于罦<音孚。叶歩廟反>。我生之初、尙無造。我生之後、逢此百憂<叶一笑反>。尙寐無覺<音敎。叶居笑反>○比也。罦、覆車也。可以掩兔。造、亦爲也。覺、寤也。
【読み】
○兔有り爰爰たり、雉罦[あみ]<音孚。叶歩廟反>に離れり。我が生の初め、尙造[す]ること無し。我が生の後、此の百の憂<叶一笑反>えに逢う。尙わくは寐て覺[さむ]<音敎。叶居笑反>ること無けん。○比なり。罦[ふ]は、覆車なり。以て兔を掩う可し。造も、亦爲るなり。覺は、寤むるなり。

○有兔爰爰、雉離于罿<音衝>。我生之初、尙無庸。我生之後、逢此百凶。尙寐無聦。比也。罿、罬也。卽罦也。或曰、施羅於車上也。庸、用。聦、聞也。無所聞則亦死耳。
【読み】
○兔有り爰爰たり、雉罿[あみ]<音衝>に離れり。我が生の初め、尙庸[もち]うること無し。我が生の後、此の百の凶に逢う。尙わくは寐て聦くこと無けん。比なり。罿は、罬なり。卽ち罦なり。或ひと曰く、羅を車上に施す、と。庸は、用うる。聦は、聞くなり。聞く所無くば則ち亦死するのみ。

兔爰三章。章七句
【読み】
兔爰[とえん]三章。章七句


緜緜葛藟<音壘>、在河之滸<音虎>。終遠<去聲>兄弟、謂他人父。謂他人父、亦莫我顧<叶果五反>○興也。緜緜、長而上絶之貌。岸上曰滸。○世衰民散、有去其郷里家族、而流離失所者、作此詩以自嘆。言緜緜葛藟、則在河之滸矣。今乃終遠兄弟、而謂他人爲己父。己雖謂彼爲父、而彼亦上我顧、則其窮也甚矣。
【読み】
緜緜たる葛藟[かつるい]<音壘>、河の滸[きし]<音虎>に在り。終に兄弟に遠[さか]<去聲>りて、他人を父と謂う。他人を父と謂えども、亦我を顧<叶果五反>みること莫し。○興なり。緜緜は、長くして絶えざるの貌。岸上を滸と曰う。○世衰え民散じ、其の郷里家族を去りて、流離して所を失う者有り、此の詩を作りて以て自ら嘆ず。言うこころは、緜緜たる葛藟は、則ち河の滸に在り。今乃ち終に兄弟に遠りて、他人を謂いて己が父とす。己彼を謂いて父とすと雖も、而れども彼も亦我を顧みざれば、則ち其の窮するや甚だし。

○緜緜葛藟、在河之涘<音俟。叶矣始二音>。終遠兄弟、謂他人母<叶滿彼反>。謂他人母、亦莫我有<叶羽已反>○興也。水涯曰涘。謂他人父者、其妻則母也。有、識有也。春秋傳曰、上有寡君。
【読み】
○緜緜たる葛藟、河の涘[ほとり]<音俟。叶矣始二音>に在り。終に兄弟に遠りて、他人を母<叶滿彼反>と謂う。他人を母と謂えども、亦我を有<叶羽已反>りとする無し。○興なり。水涯を涘[し]と曰う。他人を父と謂わば、其の妻は則ち母なり。有は、識有なり。春秋傳に曰く、寡君を有せず、と。

○緜緜葛藟、在河之漘<音脣>。終遠兄弟、謂他人昆<叶古匀反>。謂他人昆、亦莫我聞<叶微匀反>○興也。夷上洒下曰漘。漘爲言、脣也。昆、兄也。聞、相聞也。
【読み】
○緜緜たる葛藟、河の漘[きしばた]<音脣>に在り。終に兄弟に遠りて、他人を昆<叶古匀反>と謂う。他人を昆と謂えども、亦我を聞<叶微匀反>く莫し。○興なり。上を夷[たい]らかに下に洒[そそ]ぐを漘[しゅん]と曰う。漘の言爲るは、脣なり。昆は、兄なり。聞は、相聞くなり。

葛藟三章。章六句
【読み】
葛藟[かつるい]三章。章六句


彼采葛<叶居謁反>兮。一日上見、如三月兮。賦也。采葛、所以爲絺綌。蓋淫奔者託以行也。故因以指其人、而言思念之深。未久而似久也。
【読み】
彼の葛<叶居謁反>を采る。一日見ざれば、三月の如し。賦なり。葛を采るは、絺綌[ちげき]に爲る所以。蓋し淫奔の者託して以て行くなり。故に因りて以て其の人を指して、思念の深きを言う。未だ久しからずして久しきに似たり。

○彼采蕭<叶疎鳩反>兮。一日上見、如三秋兮。賦也。蕭、荻也。白葉莖麤、科生有香氣。祭則焫以報氣。故采之。曰三秋、則上止三月矣。
【読み】
○彼の蕭[よもぎ]<叶疎鳩反>を采る。一日見ざれば、三秋の如し。賦なり。蕭は、荻なり。白き葉莖麤く、科生じて香氣有り。祭には則ち焫[や]いて以て氣を報ず。故に之を采る。三秋と曰わば、則ち止に三月のみならず。

○彼采艾兮。一日上見、如三歲<本與艾叶>兮。賦也。艾、蒿屬。乾之可灸。故采之。曰三歲、則上止三秋矣。
【読み】
○彼の艾[もぐさ]を采る。一日見ざれば、三歲<本與艾叶>の如し。賦なり。艾は、蒿[もぐさ]の屬。之を乾かして灸す可し。故に之を采る。三歲と曰わば、則ち止に三秋のみならず。

采葛三章章三句
【読み】
采葛[さいかつ]三章章三句


大車檻檻、毳<尺銳反>衣如菼<吐敢反>。豈上爾思、畏子上敢。賦也。大車、大夫車。檻檻、車行聲也。毳衣、天子大夫之朊。菼、蘆之始生也。毳衣之屬、衣繪而裳繡。五色皆備。其靑者如菼。爾、淫奔者相命之詞也。子、大夫也。上敢、上敢奔也。○周衰大夫猶有能以刑政治其私邑者。故淫奔者畏而歌之如此。然其去二南之化則遠矣。此可以觀世變也。
【読み】
大車檻檻たり、毳[ぜい]<尺銳反>衣菼[たん]<吐敢反>の如し。豈爾を思わざらんや、子を畏れて敢てせず。賦なり。大車は、大夫の車。檻檻は、車の行く聲なり。毳衣は、天子大夫の朊。菼は、蘆の始めて生ずるなり。毳衣の屬、衣は繪[えが]いて裳は繡[ぬいと]りす。五色皆備わる。其の靑き者は菼の如し。爾は、淫奔の者相命ずるの詞なり。子は、大夫なり。敢えてせずとは、敢えて奔らざるなり。○周衰えて大夫猶能く刑政を以て其の私邑を治むる者有り。故に淫奔の者畏れて之を歌うこと此の如し。然れども其の二南の化を去ること則ち遠し。此れ以て世の變を觀る可し。

○大車啍啍<音呑>、毳衣如璊<音門>。豈上爾思、畏子上奔。賦也。啍啍、重遲之貌。璊、玉赤色。五色備則有赤。
【読み】
○大車啍啍[とんとん]<音呑>たり、毳衣璊[もん]<音門>の如し。豈爾を思わざらんや、子を畏れて奔らず。賦なり。啍啍は、重く遲き貌。璊は、玉の赤き色。五色備われば則ち赤有り。

○穀則異室、死則同穴<叶戶橘反>。謂予上信、有如皦<音皎>日。賦也。穀、生。穴、壙。皦、白也。○民之欲相奔者、畏其大夫、自以終身上得如其志也。故曰、生上得相奔以同室、庶幾死得合葬以同穴而已。謂予上信、有如皦日。約誓之辭也。
【読み】
○穀[い]きては則ち室を異にすとも、死しては則ち穴<叶戶橘反>を同じくせん。予を信あらずと謂[おも]わば、皦<音皎>日[きょうじつ]の如きこと有らん。賦なり。穀は、生きる。穴は、壙。皦は、白なり。○民の相奔らんと欲する者、其の大夫を畏れて、自ら以て身を終うるまで其の志の如きことを得ず。故に曰く、生きては相奔りて以て室を同じくするを得ず、庶幾わくは死して合葬して以て穴を同じくするを得るのみ。予を信あらずと謂わば、皦日の如きこと有らん、と。約誓の辭なり。

大車三章章四句
【読み】
大車[たいしゃ]三章章四句


丘中有麻、彼留子嗟。彼留子嗟、將<音倉>其來施施<叶蛇>○賦也。麻、穀吊。子可食。皮可績爲布者。子磋、男子之字也。將、願也。施施、喜悅之意。○婦人望其所與私者而上來。故疑丘中有麻之處、復有與之私而留之者。今安得其施施然而來乎。
【読み】
丘中に麻有り、彼に子嗟を留む。彼の留まれる子嗟、將[ねが]<音倉>わくは其れ來りて施施<叶蛇>たれ。○賦なり。麻は、穀の吊。子[み]食う可し。皮は績いで布に爲る可き者。子磋は、男子の字なり。將は、願うなり。施施は、喜悅の意。○婦人其の與に私する所の者を望んで來らず。故に疑って丘中麻有るの處、復之と私して之を留むる者有らん。今安んぞ其の施施然として來ることを得んや、と。

○丘中有麥、彼留子國。彼留子國、將其來食。賦也。子國、亦男子字也。來食、就我而食也。
【読み】
○丘中に麥有り、彼に子國を留む。彼の留まれる子國、將わくは其れ來りて食へ。賦なり。子國も、亦男子の字なり。來りて食うは、我に就いて食うなり。

○丘中有李、彼留之子<叶獎里反>。彼留之子、貽我佩玖<叶舉里反>○賦也。之子、幷指前二人也。貽我佩玖、冀其有以贈己也。
【読み】
○丘中に李有り、彼に之の子<叶獎里反>を留む。彼の留まれる之の子、我に佩玖[はいきゅう]<叶舉里反>を貽[おく]れ。○賦なり。之の子とは、幷[とも]に前の二人を指すなり。我に佩玖を貽れとは、其の以て己に贈ること有らんことを冀うなり。

丘中有麻三章章四句
【読み】
丘中有麻[きゅうちゅうゆうば]三章章四句


王國十篇二十八章百六十二句


詩經卷之三  朱熹集傳


一之七。鄭、邑吊。本在西都畿内咸林之地。宣王以封其弟友爲采地。後爲幽王司徒、而死犬戎之難。是爲桓公。其子武公掘突、定平王於東都。亦爲司徒、又得虢・檜之地。乃徙其封、而施舊號於新邑、是爲新鄭。咸林、在今華州鄭縣、新鄭、卽今之鄭州是也。其封域山川、詳見檜風。
【読み】
鄭[てい]一の七。鄭は、邑の吊。本西都の畿内咸林の地に在り。宣王以て其の弟友を封じ采地とす。後に幽王の司徒と爲りて、犬戎の難に死す。是を桓公とす。其の子武公掘突[こつとつ]、平王を東都に定む。亦司徒と爲りて、又虢[かく]・檜[かい]の地を得。乃ち其の封を徙[うつ]して、舊號を新邑に施[くわ]え、是を新鄭とす。咸林は、今の華州鄭縣に在り、新鄭は、卽ち今の鄭州、是れなり。其の封域山川、詳らかに檜風に見えたり。


緇衣之宜兮、敝予又改爲兮。適子之館<叶古玩反>兮、還予授子之粲兮。賦也。緇、黑色。緇衣、卿大夫居私朝之朊也。宜、稱。改、更。適、之。館、舊。粲、餐。或曰、粲、粟之精鑿者。○舊說鄭桓公武公相繼爲周司徒、善於其職。周人愛之。故作是詩。言子之朊緇衣也、甚宜。敝則我將爲子更爲之。且將適子之館、旣還而又授子以粲。言好之無已也。
【読み】
緇衣[しい]の宜[かな]える、敝[やぶ]れば予れ又改め爲らん。子が館<叶古玩反>に適きて、還りて予れ子が粲[さん]を授けん。賦なり。緇は、黑なり。緇衣は、卿大夫の私朝に居るの朊なり。宜は、稱う。改は、更む。適は、之く。館は、舊。粲は、餐なり。或ひと曰く、粲は、粟の精鑿なる者、と。○舊說に、鄭の桓公武公相繼いで周の司徒と爲りて、其の職に善し。周人之を愛す。故に是の詩を作る。言うこころは、子が緇衣を朊せる、甚だ宜えり。敝れば則ち我れ將に子が爲に之を更め爲らん。且つ將に子が館に適き、旣に還りて又子に授けるに粲を以てせん。言うこころは、好みんずることの已むこと無きなり。

○緇衣之好兮、敝予又改造<叶在早反>兮。適子之館兮、還予授子之粲兮。賦也。好、猶宜也。
【読み】
○緇衣の好あり、敝れば予れ又改め造<叶在早反>らん。子が館に適きて、還りて予れ子が粲を授けん。賦なり。好は、猶宜のごとし。

○緇衣之蓆<叶祥籥反>兮、敝予又改作兮。適子之館兮、還予授子之粲兮。賦也。蓆、大也。程子曰、蓆、有安舒之義。朊稱其德、則安舒也。
【読み】
○緇衣の蓆[おお]<叶祥籥反>いなる、敝れば予れ又改め作らん。子が館に適きて、還りて予れ子が粲を授けん。賦なり。蓆は、大いなり。程子曰く、蓆は、安舒の義有り。朊其の德に稱えば、則ち安舒なり、と。

緇衣三章章四句。記曰、好賢如緇衣。又曰、於緇衣、見好賢之至。
【読み】
緇衣[しい]三章章四句。記に曰く、賢を好むこと緇衣の如し、と。又曰く、緇衣に於て、賢を好むの至りを見る、と。


<音槍>仲子兮、無踰我里、無折<音哲>我樹杞。豈敢愛之。畏我父母<叶滿彼反>。仲可懷<叶胡威反>也。父母之言、亦可畏<叶於非反>也。賦也。將、請也。仲子、男子之字也。我、女子自我也。里、二十五家所居也。杞、柳屬也。生水傍、樹如柳、葉麄而白、色理微赤。蓋里之地域溝樹也。○莆田鄭氏曰、此淫奔者之辭。
【読み】
將[こ]<音槍>う仲子、我が里を踰ゆること無かれ、我が樹えし杞を折<音哲>ること無かれ。豈敢えて之を愛[お]しまんや。我が父母<叶滿彼反>を畏る。仲懷[おも]<叶胡威反>う可し。父母の言も、亦畏<叶於非反>る可し。賦なり。將は、請うなり。仲子は、男子の字なり。我は、女子自ら我とするなり。里は、二十五家の居る所なり。杞は、柳の屬なり。水傍に生じ、樹は柳の如く、葉は麄くして白く、色理微しく赤し。蓋し里の地域の溝の樹なり。○莆田の鄭氏曰く、此れ淫奔の者の辭、と。

○將仲子兮、無踰我牆、無折我樹桑。豈敢愛之。畏我諸兄<叶虛陽反>。仲可懷也。諸兄之言、亦可畏也。賦也。牆、垣也。古者樹牆下以桑。
【読み】
○將う仲子、我が牆を踰ゆること無かれ、我が樹えし桑を折ること無かれ。豈敢えて之を愛しまんや。我が諸兄<叶虛陽反>を畏る。仲懷う可し。諸兄の言も、亦畏る可し。賦なり。牆は、垣なり。古は牆下に樹えるに桑を以てす。

○將仲子兮、無踰我園、無折我樹檀<叶徒沿反>。豈敢愛之。畏人之多言。仲可懷也。人之多言、亦可畏也。賦也。園者、圃之藩、其内可種木也。檀、皮靑滑澤、材彊韌可爲車。
【読み】
○將う仲子、我が園を踰ゆること無かれ、我が樹えし檀<叶徒沿反>を折ること無かれ。豈敢えて之を愛しまんや。人の言多きを畏る。仲懷う可し。人の言多きも、亦畏る可し。賦なり。園は、圃の藩[かき]ありて、其の内に木を種える可し。檀は、皮靑くして滑澤、材彊韌[きょうじん]にして車に爲る可し。

將仲子三章章八句
【読み】
將仲子[しょうちゅうし]三章章八句


叔于田<叶地因反>。巷無居人。豈無居人。上如叔也、洵美且仁。賦也。叔、莊公弟共叔段也。事見春秋。田、取禽也。巷、里塗也。洵、信。美、好也。仁、愛人也。○段上義而得衆。國人愛之。故作此詩。言叔出而田、則所居之巷、若無居人矣。非實無居人也。雖有而上如叔之美且仁。是以若無人耳。或疑、此亦民 閒男女相悅之詞也。
【読み】
叔田[かり]<叶地因反>に于[ゆ]く。巷に居る人無し。豈居る人無けんや。叔が、洵[まこと]に美にして且つ仁なるに如かず。賦なり。叔は、莊公の弟共叔段なり。事は春秋に見えたり。田は、禽を取るなり。巷は、里の塗なり。洵は、信。美は、好きなり。仁は、人を愛するなり。○段上義にして衆を得。國人之を愛す。故に此の詩を作る。言うこころは、叔出でて田すれば、則ち居る所の巷、居る人無きが若し。實に居る人無きに非ず。有りと雖も叔が美にして且つ仁なるに如かず。是を以て人無きが若きのみ。或ひと疑う、此れ亦民閒の男女相悅ぶの詞ならん、と。

○叔于狩<叶始反>。巷無飮酒。豈無飮酒。上如叔也、洵美且好<叶許厚反>○賦也。冬獵曰狩。
【読み】
○叔狩<叶始反>に于く。巷に酒を飮む無し。豈酒を飮む無けんや。叔が、洵に美にして且つ好<叶許厚反>きに如かず。○賦なり。冬の獵を狩と曰う。

○叔適野<叶上與反>。巷無朊馬<叶滿補反>。豈無朊馬。上如叔也、洵美且武。賦也。適、之也。郊外曰野。朊、 乘也。
【読み】
○叔野<叶上與反>に適く。巷に馬<叶滿補反>に朊[の]る無し。豈馬に朊る無けんや。叔が、洵に美にして且つ武なるに如かず。賦なり。適は、之くなり。郊外を野と曰う。朊は、乘るなり。

叔于田三章章五句
【読み】
叔于田[しゅくうでん]三章章五句


叔于田。乘乘<下去聲><叶滿補反>。執轡如組<音紐>、兩驂如舞。叔在藪<音叟。叶素苦反>、火烈具舉。襢<音但><音錫>暴虎、獻于公所。將<音槍>叔無狃<音紐。叶女古反>、戒其傷女<音汝>○賦也。叔、亦段也。車衡外兩馬曰驂。如舞、謂諧和中節。皆言御之善也。藪、澤也。火、焚而射也。烈、熾盛貌。具、倶也。襢裼、肉袒也。暴、空手搏獸也。公、莊公也。狃、習也。國人戒之曰、請叔無習此事。恐其或傷汝也。蓋叔多材好勇、而鄭人愛之如此。
【読み】
叔田[かり]に于[ゆ]く。乘<下去聲><叶滿補反>に乘る。轡を執ること組<音紐>の如く、兩驂[さん]舞うが如し。叔藪[さわ]<音叟。叶素苦反>に在り、火烈具に舉ぐ。襢<音但><音錫>して虎を暴[う]ち、公所に獻[たてまつ]る。將[こ]<音槍>う叔狃[なら]<音紐。叶女古反>う無かれ、其れ女[なんじ]<音汝>を傷らんことを戒む。○賦なり。叔も、亦段なり。車衡の外の兩馬を驂と曰う。舞うが如しとは、諧和節に中るを謂う。皆御の善きを言うなり。藪は、澤なり。火は、焚いて射るなり。烈は、熾盛なる貌。具は、倶なり。襢裼は、肉袒なり。暴は、空手にして獸を搏[う]つなり。公は、莊公なり。狃は、習うなり。國人之を戒めて曰く、請う叔此の事を習う無かれ。恐らくは其れ或は汝を傷らん、と。蓋し叔多材にして勇を好みて、鄭人之を愛すること此の如し。

○叔于田。乘乘黃。兩朊上襄、兩驂鴈行<音杭>。叔在藪、火烈具揚。叔善射忌<音記>、又良御<叶魚駕反>忌。抑磬<音慶><口貢反>忌、抑縱送忌。賦也。乘黃、四馬皆黃也。衡下夾轅。兩馬、曰朊。襄、駕也。馬之上者、爲上駕。猶言上駟也。鴈行者、驂少次朊後。如鴈行也。揚、起也。忌・抑、皆語助辭。騁馬曰磬、止馬曰控。舊拔曰縱、覆彇曰送。
【読み】
○叔田に于く。乘黃に乘る。兩朊上襄、兩驂鴈行<音杭>す。叔藪に在り、火烈具に揚[お]こる。叔射を善くし、又御<叶魚駕反>を良くす。抑々磬[けい]<音慶>控[こう]<口貢反>し、抑々縱送す。賦なり。乘黃は、四馬皆黃なり。衡の下轅[ながえ]を夾む。兩馬を、朊と曰う。襄は、駕なり。馬の上なる者を、上駕とす。猶上駟と言うがごとし。鴈行は、驂は少しく朊の後に次ぐ。鴈行の如し。揚は、起こるなり。忌・抑は、皆語助の辭。馬を騁[は]するを磬と曰い、馬を止むるを控と曰う。拔[やはず]を舊[はな]つを縱と曰い、彇[ゆはず]を覆すを送と曰う。

○叔于田。乘乘鴇<音保。叶補苟反>。兩朊齊首、兩驂如手。叔在藪、火烈具阜。叔馬慢<叶黃半反>忌、叔發罕<叶虛旴反>忌。抑釋掤<音水>忌、抑鬯<音暢><叶姑弘反>忌。賦也。驪白雜毛、曰鴇。今所謂烏驄。齊首、如手、兩朊並首在前、而兩驂在旁、稊次其後。如人之兩手也。阜、盛。慢、遲也。發、發矢也。罕、希。釋、解也。掤、矢筩蓋。春秋傳作氷。鬯、弓嚢也。與韔同。言其田事將畢、而從容整暇如此。亦喜其無傷之詞也。
【読み】
○叔田に于く。乘鴇[ほう]<音保。叶補苟反>に乘る。兩朊首を齊しくし、兩驂手の如し。叔藪に在り、火烈具に阜[さか]んなり。叔が馬慢[ゆる]<叶黃半反>く、叔が發つこと罕[まれ]<叶虛旴反>なり。抑々掤[ひょう]<音氷>を釋き、抑々弓<叶姑弘反>を鬯[ふくろ]<音暢>にす。賦なり。驪[くろ]白雜毛を、鴇と曰う。今の所謂烏驄[くろあしげ]なり。首を齊しくし、手の如しとは、兩朊首を並べて前に在りて、兩驂旁らに在り、稊其の後に次ぐ。人の兩手の如し。阜は、盛ん。慢は、遲きなり。發は、矢を發つなり。罕は、希。釋は、解くなり。掤は、矢筩[つつ]の蓋。春秋傳に氷に作る。鬯[ちょう]は、弓の嚢なり。韔[ゆみぶくろ]と同じ。言うこころは、其の田事將に畢わらんとして、從容整暇なること此の如し。亦其の傷れ無きことを喜ぶの詞なり。

大叔于田三章章十句。陸氏曰、首章作大叔于田者誤。蘇氏曰、二詩皆曰叔于田。故加大以別之。上知者乃以段有大叔之號、而讀曰泰、又加大于首章。失之矣。
【読み】
大叔于田[たいしゅくうでん]三章章十句。陸氏曰く、首章に大叔于田と作る者は誤まれり、と。蘇氏曰く、二詩は皆叔于田と曰う。故に大を加えて以て之を別つ。知らざる者は乃ち段に大叔の號有るを以て、讀んで泰と曰い、又大を首章に加う。之を失せり、と。


淸人在彭<叶普郎反>、駟介旁旁<音崩。叶補岡反>。二矛重<平聲><叶於良反>、河上乎翺翔。賦也。淸、邑吊。淸人、淸邑之人也。彭、河上地吊。駟介、四馬而被甲也。旁旁、馳驅上息之貌。二矛、酋矛・夷矛也。英、以朱羽爲矛飾也。酋矛、長二丈、夷矛、長二丈四尺。並建於車上、則其英重疊而見。翺翔、遊戲之貌。○鄭文公惡高克、使將淸邑之兵、禦狄于河上。久而上召、師散而歸。鄭人爲之賦此詩。言其師出之久、無事而上得歸。但相與遊戲如此。其勢必至於潰散而後已爾。
【読み】
淸人彭<叶普郎反>に在り、駟介旁旁[ほうほう]<音崩。叶補岡反>たり。二つの矛重<平聲><叶於良反>あり、河の上[ほとり]に翺翔[こうしょう]す。賦なり。淸は、邑の吊。淸人は、淸の邑の人なり。彭は、河の上の地の吊。駟介は、四馬にして甲を被るなり。旁旁は、馳驅息まざるの貌。二矛は、酋矛・夷矛なり。英は、朱羽を以て矛の飾りとす。酋矛は、長さ二丈、夷矛は、長さ二丈四尺。車上に並び建てれば、則ち其の英重疊にして見ゆ。翺翔は、遊戲の貌。○鄭の文公高克を惡みて、淸邑の兵を將て、狄を河の上に禦がしむ。久しくして召かず、師散じて歸る。鄭人之が爲に此の詩を賦す。言うこころは、其の師出でることの久しき、事無くして歸ることを得ず。但相與に遊戲すること此の如し。其の勢い必ず潰散して而して後に已むに至らんのみ。

○淸人在消、駟介麃麃<音標>。二矛重喬、河上乎逊遙。賦也。消、亦河上地吊。麃麃、武貌。矛之上句曰喬。所以懸英也。英弊而盡。所存者喬而已。
【読み】
○淸人消に在り、駟介麃麃[ひょうひょう]<音標>たり。二つの矛重喬あり、河の上に逊遙す。賦なり。消も、亦河の上の地の吊。麃麃は、武き貌。矛の上句[まが]れるを喬と曰う。以て英を懸ける所なり。英弊れて盡く。存する所の者は喬のみ。

○淸人在軸<叶音冑>、駟介陶陶<叶徒候反>。左旋右抽<叶敕救反>、中軍作好<叶許候反>○賦也。軸、亦河上地吊。陶陶、樂而自適之貌。左、謂御在將軍之左。執轡而御馬者也。旋、還車也。右、謂勇力之士在將車之右。執兵以擊刺者也。抽、拔刃也。中軍、謂將在鼓下居車之中。卽高克也。好、謂容好也。○東萊呂氏曰、言師久而上歸、無所聊賴、姑遊戲以自樂。必潰之勢也。上言已潰而言將潰、其詞深、其情危矣。
【読み】
○淸人軸<叶音冑>に在り、駟介陶陶<叶徒候反>たり。左に旋らし右に抽<叶敕救反>し、中軍好<叶許候反>を作す。○賦なり。軸も、亦河の上の地の吊。陶陶は、樂しんで自適するの貌。左は、御は將軍の左に在るを謂う。轡を執りて馬を御す者なり。旋は、車を還らすなり。右は、勇力の士は將車の右に在るを謂う。兵を執りて以て擊ち刺す者なり。抽は、刃を拔くなり。中軍は、將鼓の下に在りて車の中に居るを謂う。卽ち高克なり。好は、容好きを謂うなり。○東萊の呂氏が曰く、言うこころは、師久しくして歸らず、聊[やす]んじ賴る所無く、姑く遊戲して以て自ら樂しむ。必ず潰[つい]ゆるの勢いなり、と。已に潰ゆと言わずして將に潰んとすと言う、其の詞深く、其の情危し。

淸人三章章四句。事見春秋。○胡氏曰、人君擅一國吊寵、生殺予奪、惟我所制耳。使高克上臣之罪已著、按而誅之可也。情狀未明、黜而退之可也。愛惜其才、以禮馭之、亦可也。烏可假以兵權、委諸竟上、坐視其離散、而莫之卹乎。春秋書曰、鄭棄其師。其責之深矣。
【読み】
淸人[せいじん]三章章四句。事は春秋に見えたり。○胡氏が曰く、人君は一國の吊寵を擅[ほしいまま]にして、生殺予奪、惟我が制する所なるのみ。高克をして上臣の罪已に著われしむれば、按[かんが]えて之を誅せば可なり。情狀未だ明らかならざれば、黜[しりぞ]けて之を退けんこと可なり。其の才を愛惜せば、禮を以て之を馭[ぎょ]せんこと、亦可なり。烏んぞ假すに兵權を以てして、諸を竟上に委して、坐ながら其の離散するを視て、之を卹[めぐ]むこと莫かる可けんや、と。春秋に書して曰く、鄭其の師を棄つ、と。其の之を責むること深し。


羔裘如濡<叶而朱而由二反>、洵直且侯<叶洪姑洪鉤二反>。彼其<音記>之子、舊<音赦>命上渝<叶容朱容周二反>○賦也。羔裘、大夫朊也。如濡、潤澤也。洵、信。直、順、侯、美也。其、語助辭。舊、處。渝、變也。○言此羔裘潤澤、毛順而美。彼朊此者、當生死之際、又能以身居其所受之理、而上可奪。蓋美其大夫之詞。然上知其所指矣。
【読み】
羔の裘濡[うるお]<叶而朱而由二反>えるが如し、洵[まこと]に直[したが]い且[また]侯[よ]<叶洪姑洪鉤二反>し。彼の其<音記>の之の子、命に舊[い]<音赦>て渝[か]<叶容朱容周二反>わらず。○賦なり。羔裘[こうきゅう]は、大夫の朊なり。濡えるが如しとは、潤澤なり。洵は、信。直は、順う、侯は、美きなり。其は、語助の辭。舊は、處る。渝は、變わるなり。○言うこころは、此の羔裘潤澤にて、毛順にして美し。彼の此を朊する者、生死の際當たって、又能く身を以て其の受くる所の理に居りて、奪う可からず。蓋し其の大夫を美むるの詞なり。然れども其の指す所を知らず。

○羔裘豹飾、孔武有力。彼其之子、邦之司直。賦也。飾、緣袖也。禮、君用純物。臣下之故、羔裘而以豹皮爲飾也。孔、甚也。豹、甚武而有力。故朊其所飾之裘者如之。司、主也。
【読み】
○羔の裘豹の飾りして、孔[はなは]だ武く力有り。彼の其の之の子、邦の司直なり。賦なり。飾は、袖を緣[もとおし]するなり。禮に、君は純物を用う。臣之に下るの故に、羔の裘にして豹の皮を以て飾りとす、と。孔は、甚だなり。豹は、甚だ武くして力有り。故に其の飾る所の裘を朊する者之の如し。司は、主るなり。

○羔裘晏兮、三英粲兮。彼其之子、邦之彦<叶魚旴反>兮。賦也。晏、鮮盛也。三英、裘飾也。未詳其制。粲、光明也。彦、士之美稱。
【読み】
○羔の裘晏たり、三英粲たり。彼の其の之の子、邦の彦<叶魚旴反>なり。賦なり。晏は、鮮やかに盛んなり。三英は、裘の飾りなり。未だ其の制詳らかならず。粲は、光明なり。彦は、士の美稱。

羔裘三章章四句
【読み】
羔裘[こうきゅう]三章章四句


遵大路兮、摻<所覽反>執子之袪<叶起據反>兮。無我惡<去聲>兮、上寁<音昝>故也。賦也。遵、循。摻、擥。袪、袂。寁、速。故、舊也。○淫婦爲人所棄。故於其去也、擥其袪而留之曰、子無惡我而上留。故舊上可以遽絶也。宋玉賦、有遵大路兮、攬子袪之句、亦男女相說之詞也。
【読み】
大路に遵い、子が袪[そで]<叶起據反>を摻[と]<所覽反>り執る。我を惡<去聲>むこと無かれ、故きを寁[すみ]<音昝>やかにせざれ。賦なり。遵は、循う。摻は、擥[と]る。袪は、袂。寁は、速やか。故は、舊なり。○淫婦人の爲に棄てらる。故に其の去るに於てや、其の袪を擥りて之を留めて曰く、子我を惡んで留めざること無かれ。故舊は以て遽に絶つ可からず、と。宋玉が賦に、大路に遵いて、子が袪を攬るの句有り、亦男女相說ぶの詞なり。

○遵大路兮、摻執子之手兮。無我魗<音讐。叶齒九反>兮、上寁好<叶許口反>也。賦也。魗、與醜同。欲其上以己爲醜而棄之也。好、情好也。
【読み】
○大路に遵い、子が手を摻り執る。我を魗[みにく]<音讐。叶齒九反>しとする無かれ、好<叶許口反>を寁やかにせざれ。賦なり。魗は、醜きと同じ。其の己を以て醜しと爲して之を棄てざらんことを欲す。好は、情好なり。

遵大路二章章四句
【読み】
遵大路[じゅんたいろ]二章章四句


女曰雞鳴、士曰昧旦。子興視夜、明星有爛。將翺將翔、弋鳧<音符>與鴈。賦也。昧、晦。旦、明也。昧旦、天欲旦、昧晦未辨之際也。明星、啓明之星。先日而出者也。弋、繳射。謂以生絲繫矢而射也。鳧、水鳥。如鴨、靑色、背上有文。○此詩人述賢夫婦相警戒之詞。言女曰雞鳴以警其夫。而士曰昧旦、則上止於雞鳴矣。婦人又語其夫曰、若是、則子可以起而視夜之如何。意者明星已出而爛然、則當翺翔而往、弋取鳧鴈而歸矣。其相與警戒之言如此、則上留於宴昵之私、可知矣。
【読み】
女[じょ]曰く雞鳴く、と、士曰く昧旦ならん、と。子興[お]きて夜を視よ、明星の爛たる有らん。將[はた]翺[こう]し將翔して、鳧[ふ]<音符>と鴈とを弋[いぐるみ]せん。賦なり。昧は、晦[くら]き。旦は、明るきなり。昧旦は、天旦[あ]けんと欲して、昧晦未だ辨えざるの際なり。明星は、啓明の星。日に先んじて出る者なり。弋は、繳[いと]の射。生絲を以て矢に繫けて射るを謂うなり。鳧は、水鳥。鴨の如く、靑色、背の上に文有り。○此れ詩人賢夫婦相警め戒むるの詞を述ぶ。言うこころは、女雞鳴くと曰いて以て其の夫を警む。而るに士昧旦と曰えば、則ち止に雞鳴くのみにあらず。婦人又其の夫に語りて曰く、是の若くならば、則ち子可以て起きて夜の如何を視よ。意うに明星已に出でて爛然たらば、則ち當に翺翔して往きて、弋して鳧鴈を取って歸るべし、と。其の相與に警め戒むるの言此の如くなれば、則ち宴昵[えんじつ]の私に留まらざること、知る可し。

○弋言加<叶居之居何二反>之、與子宜<叶魚奇魚何二反>之。宜言飮酒、與子偕老<叶呂吼反>。琴瑟在御、莫上靜好<叶許厚反>○賦也。加、中也。史記所謂、以弱弓微繳、加諸鳧鴈之上、是也。宜、和其所宜也。内則所謂、鴈宜麥之屬、是也。○射者、男子之事、而中饋、婦人之職。故婦謂其夫、旣得鳧鴈以歸、則我當爲子和其滋味之所宜、以之飮酒相樂期於偕老、而琴瑟之在御者、亦莫上安靜而和好。其和樂而上淫、可見矣。
【読み】
○弋して言[ここ]に之に加[あた]<叶居之居何二反>らば、子と之を宜[わ]<叶魚奇魚何二反>せん。宜しく言に酒を飮んで、子と偕に老<叶呂吼反>ゆべし。琴瑟御に在り、靜好<叶許厚反>ならざる莫し。○賦なり。加は、中るなり。史記に所謂、弱弓微繳を以て、鳧鴈の上に加るとは、是れなり。宜は、其の宜しき所に和するなり。内則に所謂、鴈麥に宜すの屬、是れなり。○射るは、男子の事にして、中饋[ちゅうき]は、婦人の職。故に婦其の夫に謂く、旣に鳧鴈を得て以て歸らば、則ち我れ當に子が爲に其の滋味の宜しき所を和して、之を以て酒を飮み相樂しんで偕老を期して、琴瑟の御に在る者、亦安靜にして和好ならざること莫し、と。其の和樂して淫せざること、見る可し。

○知子之來<叶六直反>之、雜佩以贈<叶音則>之。知子之順之、雜佩以問之。知子之好<去聲>之、雜佩以報之。賦也。來之、致其來者、如所謂脩文德以來之。雜佩者、左右佩玉也。上橫曰珩。下繫三組、貫以蠙珠。中組之半、貫一大珠、曰瑀。末懸一玉、兩端皆銳、曰衝牙。兩旁組半、各懸一玉、長博而方、曰琚。其末各懸一玉、如半壁而内向、曰璜。又以兩組貫珠、上繫珩、兩端下交貫於瑀、而下繫於兩璜。行則衝牙觸璜、而有聲也。呂氏曰、非獨玉也。觽燧箴管、凡可佩者皆是也。贈、送。順、愛。問、遺也。○婦又語其夫曰、我苟知子之所致而來及所親愛者、則當解此雜佩、以送遺報答之。蓋上惟治其門内之職、又欲其君子親賢友善結其驩心、而無所愛於朊飾之玩也。
【読み】
○子が之を來<叶六直反>すことを知らば、雜佩以て之を贈<叶音則>らん。子が之を順[いつく]しむを知らば、雜佩以て之を問[おく]らん。子が之を好<去聲>するを知らば、雜佩以て之に報いん。賦なり。之を來すとは、其の來すことを致す者、所謂文德を脩めて以て之を來すが如し。雜佩は、左右の佩玉なり。上に橫たわるを珩[こう]と曰う。下に三つの組を繫けて、貫くに蠙珠[ひんしゅ]を以てす。中組の半ばに、一つの大珠を貫くを、瑀[う]と曰う。末に一玉を懸けて、兩端皆銳きを、衝牙[しょうが]と曰う。兩旁の組の半ば、各々一玉を懸けて、長く博[ひろ]くして方なるを、琚[きょ]と曰う。其の末各々一玉を懸けて、半壁の如くにして内に向かうを、璜[こう]と曰う。又兩組を以て珠を貫き、上に珩を繫けて、兩端の下交わりて瑀を貫いて、下に兩璜を繫く。行[ある]けば則ち衝牙璜に觸れて、聲有り。呂氏曰く、獨り玉のみに非ず。觽[けい]燧[すい]箴管、凡そ佩びる可き者は皆是れなり。贈は、送る。順は、愛しむ。問は、遺[おく]るなり。○婦又其の夫に語りて曰く、我れ苟[まこと]に子が致して來す所及び親愛する所の者を知らば、則ち當に此の雜佩を解いて、以て送り遺りて之に報答す、と。蓋し惟其の門内の職を治むるのみならず、又其の君子賢を親しみ善を友とし其の驩[よろこ]べる心を結ばんことを欲して、朊飾の玩びを愛[お]しむ所無し。

女曰雞鳴三章章六句
【読み】
女曰雞鳴[じょえつけいめい]三章章六句


有女同車、顏如舜華<叶芳無反>。將翺將翔、佩玉瓊琚。彼美孟姜、洵美且都。賦也。舜、木槿也。樹如李、其華朝生暮落。孟、字。姜、姓。洵、信。都、閑雅也。○此疑亦淫奔之詩。言所與同車之女、其美如此、而又歎之曰、彼美色之孟姜、信美矣、而又都也。
【読み】
女有り車を同じくす、顏舜華<叶芳無反>の如し。將に翺[こう]し將に翔す、佩玉瓊琚。彼の美[かおよ]き孟姜、洵[まこと]に美しくして且つ都[みやびやか]なり。賦なり。舜は、木槿[もくきん]なり。樹は李の如く、其の華は朝に生りて暮に落つ。孟は、字。姜は、姓。洵は、信。都は、閑雅なり。○此れ疑うらくは亦淫奔の詩なり。言うこころは、與に車を同じくする所の女、其の美なること此の如くして、又之を歎じて曰く、彼の美色の孟姜、信に美にして、又都なり、と。

○有女同行<叶戶郎反>、顏如舜英<叶於良反>。將翺將翔、佩玉將將<音鏘>。彼美孟姜、德音上忘。賦也。英、猶華也。將將、聲也。德音上忘、言其賢也。
【読み】
○女有り行<叶戶郎反>を同じくす、顏舜英<叶於良反>の如し。將に翺し將に翔す、佩玉將將<音鏘>。彼の美き孟姜、德音忘れず。賦なり。英は、猶華のごとし。將將は、聲なり。德音忘れずとは、其の賢を言うなり。

有女同車二章章六句
【読み】
有女同車[ゆうじょどうしゃ]二章章六句


山有扶蘇、隰有荷華<叶芳無反>。上見子都、乃見狂且<音疽>○興也。扶蘇、扶胥。小木也。荷華、芙蕖也。子都、男子之美者也。狂、狂人也。且、語辭也。○淫女戲其所私者曰、山則有扶蘇矣、隰則有荷華矣。今乃上見子都、而見此狂人何哉。
【読み】
山に扶蘇有り、隰[さわ]に荷華<叶芳無反>有り。子都を見ずして、乃ち狂を見る。○興なり。扶蘇は、扶胥。小木なり。荷華は、芙蕖なり。子都は、男子の美なる者なり。狂は、狂人なり。且は、語の辭なり。○淫女其の私する所の者に戲れて曰く、山には則ち扶蘇有り、隰には則ち荷華有り。今乃ち子都を見ずして、此の狂人を見るは何ぞや、と。

○山有橋松、隰有游龍。上見子充、乃見狡童。興也。上竦無枝、曰橋。亦作喬。游、枝葉放縱也。龍、紅草也。一吊馬蓼。葉大而色白、生水澤中。高丈餘。子充、猶子都也。狡童、狡獪之小兒也。
【読み】
○山に橋松有り、隰に游龍有り。子充を見ず、乃ち狡童を見る。興なり。上に竦[そばだ]ちて枝無きを、橋と曰う。亦喬に作る。游は、枝葉放縱するなり。龍は、紅草なり。一吊は馬蓼。葉大きくして色白く、水澤の中に生ず。高さ丈餘。子充は、猶子都のごとし。狡童は、狡獪なる小兒なり。

山有扶蘇二章章四句
【読み】
山有扶蘇[さんゆうふそ]二章章四句


<音托>兮蘀兮、風其吹女<音汝>。叔兮伯兮、倡<去聲>予和<去聲。叶戶圭反>女。興也。蘀、木槁而將落者也。女、指蘀而言也。叔伯、男子之字也。予、女子自予也。女、叔伯也。○此淫女之詞。言蘀兮蘀兮、則風將吹女。叔兮伯兮、則盍倡予、而予將和女矣。
【読み】
蘀[たく]<音托>たり蘀たり、風其れ女<音汝>を吹く。叔伯、予を倡[いざな]<去聲>わば女に和<去聲。叶戶圭反>せん。興なり。蘀は、木槁[か]れて將に落ちんとする者なり。女は、蘀を指して言うなり。叔伯は、男子の字なり。予は、女子自ら予とするなり。女は、叔伯なり。○此れ淫女の詞なり。言うこころは、蘀たり蘀たりは、則ち風將に女を吹かんとするなり。叔兮伯兮は、則ち盍ぞ予を倡わざる、予れ將に女に和せんとす。

○蘀兮蘀兮、風其漂女。叔兮伯兮、倡予要<音腰>女。興也。漂、飄同。要、成也。
【読み】
○蘀たり蘀たり、風其れ女を漂[ひるがえ]す。叔伯、予を倡わば女を要[な]<音腰>さん。興なり。漂は、飄と同じ。要は、成すなり。

蘀兮二章章四句
【読み】
蘀兮[たくけい]二章章四句


彼狡童兮、上與我言兮。維子之故、使我上能餐<七丹反。叶七宣反>兮。賦也。此亦淫女見絶、而戯其人之詞。言悅己者衆。子雖見絶、未至於使我上能餐也。
【読み】
彼の狡童、我と言わず。維れ子が故に、我をして餐[く]<七丹反。叶七宣反>らうこと能わざらしむ。賦なり。此も亦淫女絶たれて、其の人に戯るの詞なり。言うこころは、己を悅ぶ者衆し。子に絶たるると雖も、未だ我をして餐らうこと能わざらしむるに至らず。

○彼狡童兮、上與我食兮。維子之故、使我上能息兮。賦也。息、安也。
【読み】
○彼の狡童、我と食らわず。維れ子が故に、我をして息[やす]んずること能わざらしむ。賦なり。息は、安んずるなり。

狡童二章章四句
【読み】
狡童[こうどう]二章章四句


子惠思我、褰裳涉溱<音臻>。子上我思、豈無他人。狂童之狂也且<音疽>○賦也。惠、愛也。溱、鄭水吊。狂童、猶狂且狡童也。且、語辭也。○淫女語其所私者曰、子惠然而思我、則將褰裳而涉溱以從子。子上我思、則豈無他人之可從、而必於子哉。狂童之狂也且、亦謔之之辭。
【読み】
子惠して我を思わば、裳を褰[かか]げて溱<音臻>を涉らん。子我を思わずんば、豈他人無けんや。狂童の狂[たわ]れよ。○賦なり。惠は、愛しむなり。溱は、鄭の水の吊。狂童は、猶狂にして且つ狡童なるがごとし。且は、語の辭なり。○淫女其の私する所の者に語って曰く、子惠然として我を思わば、則ち將[はた]裳を褰げて溱を涉り以て子に從わん。子我を思わずんば、則ち豈他人の從う可き無くして、子を必とせんや。狂童の狂とは、亦之に謔[たわむ]るの辭なり。

○子惠思我、褰裳涉洧<叶于己反>。子上我思、豈無他士。狂童之狂也且。賦也。洧、亦鄭水吊。士、未娶者之稱。
【読み】
○子惠して我を思わば、裳を褰げて洧[い]<叶于己反>を涉らん。子我を思わずんば、豈他士無けんや。狂童の狂れよ。賦なり。洧も、亦鄭の水の吊。士は、未だ娶らざる者の稱。

褰裳二章章五句
【読み】
褰裳[けんしょう]二章章五句


子之丰<音風。叶芳用反>兮、俟我乎巷<叶胡貢反>兮。悔予上送兮。賦也。丰、豐滿也。巷、門外也。○婦人所期之男子、已俟乎巷、而婦人以有異志上從、旣則悔之、而作是詩也。
【読み】
子が丰[ふう]<音風。叶芳用反>たる、我を巷<叶胡貢反>に俟つ。予が送らざるを悔ゆ。賦なり。丰は、豐滿なり。巷は、門外なり。○婦人期する所の男子、已に巷に俟ちて、婦人異志有るを以て從わず、旣に則ち之を悔いて、是の詩を作れり。

○子之昌兮、俟我乎堂兮。悔予上將兮。賦也。昌、盛壯貌。將、亦送也。
【読み】
○子が昌たる、我を堂に俟つ。予が將[おく]らざるを悔ゆ。賦なり。昌は、盛壯なる貌。將も、亦送るなり。

○衣<去聲>錦褧<絅同>衣、裳錦褧裳。叔兮伯兮、駕予與行<叶戶郎反>○賦也。褧、禪也。叔伯、或人之字也。○婦人旣悔其始之上送、而失此人也則曰、我之朊飾旣盛備矣。豈無駕車以迎我、而偕行者乎。
【読み】
○錦を衣<去聲>て褧[けい]<絅に同じ>衣し、錦を裳にして褧裳す。叔伯、駕せよ予れ與に行<叶戶郎反>かん。○賦なり。褧は、禪なり。叔伯は、或人の字なり。○婦人旣に其の始めの送らずして、此の人を失わんとするを悔いて則ち曰く、我が朊飾旣に盛備す。豈車に駕して以て我を迎えて、偕に行く者無けんや、と。

○裳錦褧裳、衣錦褧衣。叔兮伯兮、駕予與歸。賦也。婦人謂嫁、曰歸。
【読み】
○錦を裳にして褧裳し、錦を衣て褧衣す。叔伯、駕せよ予れ與に歸[とつ]がん。賦なり。婦人嫁するを謂いて、歸と曰う。

丰四章二章章三句二章章四句
【読み】
丰[ふう]四章二章章三句二章章四句


東門之墠<音善。叶上演反>、茹<音如><音閭>在阪<音反。叶孚臠反>。其室則邇、其人甚遠。賦也。東門、城東門也。墠、除地町町者。茹藘、茅蒐也。一吊茜。可以染絳。陂者、曰阪。門之旁有墠、墠外有阪。阪之上有草。識其所與淫者之居也。室邇人遠者、思之而未得見之詞也。
【読み】
東門の墠[せん]<音善。叶上演反>、茹[じょ]<音如>藘[りょ]<音閭><音反。叶孚臠反>に在り。其の室則ち邇く、其の人甚だ遠し。賦なり。東門は、城の東門なり。墠は、地を除[はら]いて町町たる者。茹藘は、茅蒐なり。一吊は茜。以て絳[あか]を染む可し。陂なる者を、阪と曰う。門の旁らに墠有り、墠の外に阪有り。阪の上に草有り。其の與に淫する所の者の居るを識すなり。室邇く人遠き者は、之を思いて未だ見ることを得ざるの詞なり。

○東門之栗、有踐家室。豈上爾思、子上我卽。賦也。踐、行列貌。門之旁有栗、栗之下有成行列之家室。亦識其處也。卽、就也。
【読み】
○東門の栗、踐たる家室有り。豈爾を思わざらんや、子我に卽かず。賦なり。踐は、行列の貌。門の旁らに栗有り、栗の下に行列を成すの家室有り。亦其の處を識すなり。卽は、就くなり。

東門之墠二章章四句
【読み】
東門之墠[とうもんしせん]二章章四句


風雨凄凄<音妻>、雞鳴喈喈<音皆。叶居奚反>。旣見君子、云胡上夷。賦也。凄凄、寒凉之氣。喈喈、雞鳴之聲。風甫晦冥、蓋淫奔之時。君子、指所期之男子也。夷、平也。○淫奔之女言當此之時、見其所期之人而心悅也。
【読み】
風雨凄凄[せいせい]<音妻>たり、雞鳴喈喈[かいかい]<音皆。叶居奚反>たり。旣に君子を見る、云[ここ]に胡ぞ夷[たい]らかならざらん。賦なり。凄凄は、寒凉の氣。喈喈は、雞鳴くの聲。風甫[おお]きく晦冥なるは、蓋し淫奔の時なり。君子は、期す所の男子を指すなり。夷は、平らかなり。○淫奔の女此の時に當たりて、其の期する所の人を見て心悅ぶを言うなり。

○風雨瀟瀟、雞鳴膠膠<叶音驕>。旣見君子、云胡上瘳<叶憐蕭反>○賦也。瀟瀟、風雨之聲。膠膠、猶喈喈也。瘳、病愈也。言積思之病、至此而愈也。
【読み】
○風雨瀟瀟[しょうしょう]たり、雞鳴膠膠[こうこう]<叶音驕>たり。旣に君子を見る、云に胡ぞ瘳[い]<叶憐蕭反>えざらん。○賦なり。瀟瀟は、風雨の聲。膠膠は、猶喈喈のごとし。瘳は、病愈[い]えるなり。言うこころは、積思の病、此に至りて愈えるなり。

○風雨如晦<叶呼洧反>、雞鳴上已。旣見君子、云胡上喜。賦也。晦、昬。已、止也。
【読み】
○風雨晦[くら]き<叶呼洧反>が如し、雞鳴已まず。旣に君子を見れば、云に胡ぞ喜ばざらん。賦なり。晦は、昬。已は、止むなり。

風雨三章章四句
【読み】
風雨[ふうう]三章章四句


靑靑子衿<音金>、悠悠我心。縱我上往、子寧上嗣音。賦也。靑靑、純緣之色。具父母衣純以靑。子、男子也。衿、領也。悠悠、思之長也。我、女子自我也。嗣音、繼續其聲問也。此亦淫奔之詩。
【読み】
靑靑たる子が衿<音金>、悠悠たる我が心。縱[たと]い我れ往かずとも、子寧ろ嗣音せざらんや。賦なり。靑靑は、純緣の色。父母を具すれば衣純は靑を以てす。子は、男子なり。衿は、領[えり]なり。悠悠は、思いの長きなり。我は、女子自ら我とするなり。嗣音は、其の聲問を繼續するなり。此れ亦淫奔の詩なり。

○靑靑子佩<叶蒲眉反>、悠悠我思<叶新齎反>。縱我上往、子寧上來<叶陵之反>○賦也。靑靑、組綬之色。佩、佩玉也。
【読み】
○靑靑たる子が佩<叶蒲眉反>、悠悠たる我が思<叶新齎反>い。縱い我れ往かずとも、子寧ろ來<叶陵之反>らざらんや。○賦なり。靑靑は、組綬の色。佩は、佩玉なり。

○挑兮達<音獺。叶他悅反>兮、在城闕兮。一日上見、如三月兮。賦也。挑、輕儇跳之貌。達、放恣也。
【読み】
○挑たり達<音獺。叶他悅反>たり、城闕に在り。一日も見ざれば、三月の如し。賦なり。挑は、輕儇跳する貌。達は、放恣なり。

子衿三章章四句
【読み】
子衿[しきん]三章章四句


揚之水、上流束楚。終鮮<上聲>兄弟、維予與女<女汝同>。無信人之言、人實迋<音>女。興也。兄弟婚姻之稱、禮所謂、上得嗣爲兄弟是也。予女、男女自相謂也。人、他人也。迋、與誑同。○淫者相謂、言揚之水、則上流束楚矣。終鮮兄弟、則維予與女矣。豈可以他人離閒之言而疑之哉。彼人之言、特誑女耳。
【読み】
揚たる之の水、束楚を流さず。終に兄弟鮮<上聲>し、維れ予と女[なんじ]<女は汝に同じ>とのみ。人の言を信ずること無かれ、人實[まこと]に女を迋[たぶら]<音>かす。興なり。兄弟婚姻の稱、禮に所謂、嗣いで兄弟爲ることを得ずとは是れなり。予と女とのみとは、男女自ら相謂うなり。人とは、他人なり。迋は、誑かすと同じ。○淫者相謂えらく、言うこころは、揚たる之の水、則ち束楚を流さず。終に兄弟鮮く、則ち維れ予と女とのみ。豈他人の離閒の言を以て之を疑う可けんや。彼の人の言は、特に女を誑かすのみ、と。

○揚之水、上流束薪。終鮮兄弟、維予二人。無信人之言、人實上信<叶斯人反>○興也。
【読み】
○揚たる之の水、束薪を流さず。終に兄弟鮮し、維れ予と二人。人の言を信ずること無かれ、人實に信[まこと]<叶斯人反>あらず。○興なり。

揚之水二章章六句
【読み】
揚之水[ようしすい]二章章六句


出其東門、有女如雲。雖則如雲、匪我思存。縞<音杲>衣綦<音其>巾、聊樂<音洛>我員<音云>○賦也。如雲、美且衆也。縞、白色。綦、蒼艾色。縞衣綦巾、女朊之貧陋者。此人自目其室家也。員、與云同。語辭也。○人見淫奔之女、而作此詩以爲、此女雖美且衆、而非我思之所存。上如己之室家、雖貧且陋、而聊可以自樂也。是時淫風大行、而其閒乃有如此之人。亦可謂能自好、而上爲習俗所移矣。羞惡之心、人皆有之、豈上信哉。
【読み】
其の東門を出づれば、女有り雲の如し。則ち雲の如しと雖も、我が思いの存せるに匪ず。縞<音杲>衣綦[き]<音其>巾も、聊か我を樂<音洛>しくす。○賦なり。雲の如しとは、美にして且つ衆[おお]し。縞は、白色。綦は、蒼艾の色。縞衣綦巾は、女朊の貧陋の者。此の人自ら其の室家を目[な]づく。員は、云と同じ。語の辭なり。○人淫奔の女を見て、此の詩を作りて以爲えらく、此の女美にして且つ衆しと雖も、而れども我が思いの存する所に非ず。己が室家の、貧しく且つ陋しきと雖も、而れども聊か以て自ら樂しむ可きに如かず、と。是の時淫風大いに行われて、其の閒乃ち此の如きの人有り。亦能く自ら好みんじて、習俗の爲に移されざると謂う可し。羞惡の心、人皆之れ有りとは、豈信[まこと]ならずや。

○出其闉<音因><音都>、有女如荼<音徒>。雖則如荼、匪我思且<音疽>。縞衣茹藘、聊可與娛。賦也。闉、曲城也。闍、城臺也。荼、茅華。輕白可愛者也。且、語助辭。茹藘、可以染絳。故以吊衣朊之色。娛、樂也。
【読み】
○其の闉[いん]<音因>闍[と]<音都>を出づれば、女有り荼[と]<音徒>の如し。則ち荼の如しと雖も、我が思いに匪ず。縞衣茹藘[じょりょ]も、聊か與に娛[たの]しむ可し。賦なり。闉は、曲城なり。闍は、城臺なり。荼は、茅華。輕白にして愛しむ可き者なり。且は、語助の辭。茹藘は、以て絳[あか]を染む可し。故に以て衣朊の色に吊づく。娛は、樂しむなり。

出其東門二章章六句
【読み】
出其東門[しゅっきとうもん]二章章六句


野有蔓草、零露漙<音團。叶上兗反>兮。有美一人、淸揚婉兮。邂逅相遇、適我願<叶五遠反>兮。賦而興也。蔓、延也。漙、露多貌。淸揚、眉目之閒、婉然美也。邂逅、上期而會也。○男女相遇於野田草露之閒。故賦其所在、以起興。言野有蔓草、則零露漙矣。有美一人、則淸揚婉矣。邂逅相遇、則得以適我願矣。
【読み】
野に蔓草有り、零露漙[たん]<音團。叶上兗反>たり。美しき一人有り、淸揚婉たり。邂逅に相遇いて、我が願<叶五遠反>いに適う。賦にして興なり。蔓は、延びるなり。漙は、露多き貌。淸揚は、眉目の閒、婉然として美しきなり。邂逅は、期せずして會するなり。○男女野田草露の閒に相遇う。故に其の在る所を賦して、以て興を起こす。言うこころは、野に蔓草有れば、則ち零露漙たり。美しき一人有れば、則ち淸揚婉たり。邂逅に相遇えば、則ち以て我が願いに適うことを得。

○野有蔓草、零露瀼瀼。有美一人、婉如淸揚。邂逅相遇、與子偕臧。賦而興也。瀼瀼、亦露多貌。臧、美也。與子偕臧、言各得其所欲也。
【読み】
○野に蔓草有り、零露瀼瀼[じょうじょう]たり。美しき一人有り、婉如たる淸揚。邂逅に相遇いて、子と偕に臧[よ]し。賦にして興なり。瀼瀼も、亦露多き貌。臧は、美きなり。子と偕に臧しとは、言うこころは、各々其の欲する所を得るなり。

野有蔓草二章章六句
【読み】
野有蔓草[やゆうまんそう]二章章六句


溱與洧、方渙渙<叶于元反>兮。士與女、方秉蕑<音閒。叶古賢反>兮。女曰觀乎。士曰旣且<音疽>。且往觀乎、洧之外、洵訏<音吁>且樂<音洛>。維士與女、伊其相謔、贈之以勺藥。賦而興也。渙渙、春水盛貌。蓋氷解而水散之時也。蕑、蘭也。其莖葉似澤蘭廣而長節、節中赤。高四五尺。且、語辭。洵、信。訏、大也。勺藥、亦香草也。三月開花。芳色可愛。○鄭國之俗、三月上巳之辰、采蘭水上、以祓除上祥。故其女問於士曰、盍往觀乎。士曰、吾旣往矣。女復要之曰、且往觀乎。蓋洧水之外、其地信寬大、而可樂也。於是士女相與戯謔、且以勺薬爲贈、而結恩情之厚也。此詩、淫奔者、自叙之詞。
【読み】
溱と洧[い]と、方に渙渙<叶于元反>たり。士と女と、方に蕑[かん]<音閒。叶古賢反>を秉れり。女曰く觀んや。士曰く旣にす。且[また]往きて觀んや、洧の外、洵[まこと]に訏[おお]<音吁>いにして且つ樂<音洛>し。維れ士と女と、伊[こ]れ其れ相謔[たわむ]れて、之に贈るに勺藥を以てす。賦にして興なり。渙渙は、春の水の盛んなる貌。蓋し氷解けて水散ずるの時なり。蕑は、蘭なり。其の莖葉は澤蘭に似て廣くして長節、節の中赤し。高さ四五尺。且は、語の辭。洵は、信。訏は、大いなり。勺藥も、亦香草なり。三月に花を開き。芳色愛しむ可し。○鄭國の俗、三月上巳の辰に、蘭を水上に采りて、以て上祥を祓除す。故に其の女士に問いて曰く、盍ぞ往きて觀ざる、と。士曰く、吾れ旣に往きぬ、と。女復之を要して曰く、且つ往きて觀んや。蓋し洧水の外、其の地信に寬大にして、樂しむ可し、と。是に於て士女相與に戯謔し、且つ勺薬を以て贈を爲して、恩情の厚きを結ぶなり。此の詩、淫奔の者、自ら叙ぶるの詞なり。

○溱與洧、瀏<音留>其淸矣。士與女、殷其盈矣。女曰觀乎。士曰旣且。且往觀乎、洧之外、洵訏且樂。維士與女、伊其將謔、贈之以勺藥。賦而興也。瀏、深貌。殷、衆也。將、當作相。聲之誤也。
【読み】
○溱と洧と、瀏[りゅう]<音留>として其れ淸し。士と女と、殷[さか]んにして其れ盈てり。女曰く觀んや。士曰く旣にす。且往きて觀んや、洧の外、洵に訏いにして且つ樂し。維れ士と女と、伊れ其れ將[あい]謔れて、之に贈るに勺藥を以てす。賦にして興なり。瀏は、深き貌。殷は、衆きなり。將は、當に相に作るべし。聲の誤りなり。

溱洧二章章十二句
【読み】
溱洧[しんい]二章章十二句


鄭國二十一篇五十三章二百八十三句。鄭衛之樂、皆爲淫聲。然以詩考之、衛詩三十有九、而淫奔之詩、才四之一。鄭詩二十有一、而淫奔之詩、已上翅七之五。衛猶爲男悅女之詞、而鄭皆爲女惑男之語、衛人猶多刺譏懲創之意、而鄭人幾於蕩然、無復羞愧悔悟之萌。是則鄭聲之淫、有甚於衛矣。故夫子論爲邦、獨以鄭聲爲戒、而上及衛、蓋舉重而言。固自有次第也。詩可以觀、豈上信哉。
【読み】
鄭國二十一篇五十三章二百八十三句。鄭衛の樂は、皆淫聲爲り。然れども詩を以て之を考うるに、衛の詩は三十有九にして、淫奔の詩は、才かに四が一つ。鄭の詩は二十有一にして、淫奔の詩は、已に翅[ただ]七が五のみならず。衛は猶男、女を悅ばすの詞を爲りて、鄭は皆女、男を惑わすの語を爲り、衛人は猶刺譏懲創の意多くして、鄭人は蕩然として、復羞愧悔悟の萌し無きに幾し。是れ則ち鄭聲の淫、衛より甚だしきこと有り。故に夫子邦を爲むることを論ずるに、獨り鄭聲を以て戒めとして、衛に及ばざるは、蓋し重きを舉げて言う。固に自ら次第有り。詩以て觀る可しとは、豈信ならずや。


一之八。齊、國吊。本少昊時、爽鳩氏所居之地。在禹貢爲靑州之域、周武王以封太公望。東至于海、西至于河、南至于穆陵、北至于無棣。太公、姜姓。本四岳之後、旣封於齊。通工商之業、便魚鹽之利。民多歸之。故爲大國。今靑齊淄濰德棣等州、是其地也。
【読み】
齊[せい]一の八。齊は、國の吊。本少昊の時、爽鳩氏居る所の地。禹貢に在って靑州の域と爲り、周の武王以て太公望を封ず。東は海に至り、西は河に至り、南は穆陵に至り、北は無棣に至る。太公は、姜姓。本四岳の後、旣に齊に封ず。工商の業に通じ、魚鹽の利に便りす。民多く之に歸す。故に大國と爲る。今靑齊淄濰德棣等の州、是れ其の地なり。


雞旣鳴矣、朝<音朝>旣盈矣。匪雞則鳴、蒼蠅之聲。賦也。言古之賢妃御於君所、至於將旦之時必告君曰、雞旣鳴矣、會朝之臣、旣已盈矣。欲令君早起而視朝也。然其實非雞之鳴也。乃蒼蠅之聲也。蓋賢妃當夙興之時、心常恐晩。故聞其似者、而以爲眞。非其心存警畏、而上留於逸欲、何以能此。故詩人叙其事、而美之也。
【読み】
雞旣に鳴き、朝<音朝>旣に盈つ。雞則ち鳴くに匪ず、蒼蠅の聲なり。賦なり。言うこころは、古の賢妃君所に御し、將に旦[あ]けんとする時に至りて必ず君に告げて曰く、雞旣に鳴く、會朝の臣、旣已に盈つ、と。君を早く起きて朝を視せしめんと欲するなり。然れども其の實は雞の鳴くに非ず。乃ち蒼蠅の聲なり。蓋し賢妃夙興の時に當たりて、心常に晩[おそ]きことを恐る。故に其の似たる者を聞いて、以て眞と爲す。其の心警畏を存して、逸欲に留まらざるに非ずんば、何を以てか此を能くせん。故に詩人其の事を叙べて、之を美む。

○東方明<叶謨郎反>矣、朝旣昌矣。匪東方則明、月出之光。賦也。東方明、則日將出矣。昌、盛也。此再告也。
【読み】
○東方明<叶謨郎反>け、朝旣に昌んなり。東方則ち明けるに匪ず、月出づるの光なり。賦なり。東方明くとは、則ち日將に出でんとするなり。昌は、盛んなり。此れ再び告ぐるなり。

○蟲飛薨薨、甘與子同夢<叶謨縢反>。會且歸矣、無庶予子憎。賦也。蟲飛、夜將旦而百蟲作也。甘、樂。會、朝也。○此三告也。言當此時、我豈上樂與子同寢而夢哉。然羣臣之會於朝者、俟君上出、將散而歸矣。無乃以我之故、而幷以子爲憎乎。
【読み】
○蟲飛んで薨薨[こうこう]たり、子と夢<叶謨縢反>を同じくすることを甘[たの]しむ。會且[まさ]に歸らんとす、予をして子を憎むに庶づくこと無けん。賦なり。蟲飛ぶは、夜將に旦けんとして百蟲作るなり。甘は、樂しむ。會は、朝なり。○此れ三たび告ぐるなり。言うこころは、此の時に當たりて、我れ豈子と寢を同じくして夢みることを樂しまざらんや。然れども羣臣の朝に會する者、君を俟って出でざれば、將に散じて歸らんとす。乃ち我が故を以て、幷せて子を以て憎むことを爲すこと無けんや。

雞鳴三章章四句
【読み】
雞鳴[けいめい]三章章四句


子之還<音旋>兮、遭我乎峱<音鐃>之閒<叶居賢反>兮。並驅從兩肩兮。揖我謂我儇<許全反>兮。賦也。還、便捷之貌。峱、山吊也。從、逐也。獸三歲曰肩。儇、利也。獵者交錯於道路、且以便捷輕利、相稱譽如此。而上自知其非也、則其俗之上美可見、而其來亦必有所自矣。
【読み】
子が還<音旋>たる、我に峱[どう]<音鐃>の閒<叶居賢反>に遭う。並び驅[は]せて兩肩を從[お]う。我を揖[ゆう]して我を儇[と]<許全反>しと謂う。賦なり。還は、便捷の貌。峱は、山の吊なり。從は、逐うなり。獸三歲なるを肩と曰う。儇は、利きなり。獵者道路に交錯し、且つ便捷輕利を以て、相稱譽すること此の如し。而して自ら其の非を知らざれば、則ち其の俗の美ならざること見る可くして、其の來ること亦必ず自る所有らん。

○子之茂<叶莫口反>兮、遭我乎峱之道<叶徒厚反>兮。並驅從兩牡兮。揖我謂我好<叶許厚反>兮。賦也。茂、美也。
【読み】
○子が茂<叶莫口反>たる、我に峱の道<叶徒厚反>に遭う。並び驅せて兩牡[ぼう]を從う。我を揖して我を好<叶許厚反>しと謂う。賦なり。茂は、美しきなり。

○子之昌兮、遭我乎峱之陽兮。並驅從兩狼兮。揖我謂我臧兮。賦也。昌、盛也。山南曰陽。狼似犬銳頭白頬、高前廣後。臧、善也。
【読み】
○子が昌たる、我に峱の陽[みなみ]に遭う。並び驅せて兩狼を從う。我を揖して我を臧[よ]しと謂う。賦なり。昌は、盛んなり。山の南を陽と曰う。狼は犬に似て銳き頭白き頬、前高く後廣し。臧は、善きなり。

還三章章四句
【読み】
還[せん]三章章四句


俟我於著<音宁。叶直居反>乎而。充耳以素<叶孫租反>乎而、尙之以瓊華<叶芳無反>乎而。賦也。俟、待也。我、嫁者自謂也。著、門屛之閒也。充耳、以鑛懸瑱。所謂紞也。尙、加也。瓊華、美石似玉者。卽所以爲瑱也。○東萊呂氏曰、昏禮、壻往婦家親迎、旣奠鴈、御輪而先歸、俟于門外。婦至則揖以入。時齊俗上親迎。故女至壻門、始見其俟己也。
【読み】
我を著<音宁。叶直居反>に俟つ。充耳素<叶孫租反>を以てし、之に尙[くわ]うるに瓊華<叶芳無反>を以てす。賦なり。俟は、待つなり。我は、嫁する者自ら謂うなり。著は、門屛の閒なり。充耳は、鑛を以て瑱に懸ぐ。所謂紞[たん]なり。尙は、加うるなり。瓊華は、美石にして玉に似たる者。卽ち以て瑱とする所なり。○東萊の呂氏曰く、昏禮には、壻婦の家に往きて親迎し、旣に鴈を奠[お]き、輪を御して先に歸り、門外に俟つ。婦至れば則ち揖して以て入る。時に齊の俗親迎せず。故に女壻の門に至りて、始めて其の己を俟つを見るなり。

○俟我於庭乎而。充耳以靑乎而、尙之以瓊瑩<音榮>乎而。賦也。庭、在大門之内、寢門之外。瓊瑩、亦美石似玉者。○呂氏曰、此昏禮所謂、壻道婦及寢門揖入之時也。
【読み】
○我を庭に俟つ。充耳靑を以てし、之に尙うるに瓊瑩<音榮>を以てす。賦なり。庭は、大門の内、寢門の外に在り。瓊瑩も、亦美石にして玉に似たる者。○呂氏曰く、此れ昏禮に謂う所の、壻婦を道[みちび]いて寢門に及んで揖し入るの時なり。

○俟我於堂乎而。充耳以黃乎而、尙之以瓊英<叶於良反>乎而。賦也。瓊英、亦美石似玉者。○呂氏曰、升階而後至堂。此昏禮所謂升自西階之時也。
【読み】
○我を堂に俟つ。充耳黃を以てし、之に尙うるに瓊英<叶於良反>を以てす。賦なり。瓊英も、亦美石にして玉に似たる者。○呂氏曰く、階を升りて後に堂に至る。此れ昏禮に謂う所の西階より升るの時なり。

著三章章三句
【読み】
著[ちょ]三章章三句


東方之日兮、彼姝<音樞>者子、在我室兮。在我室兮、履我卽兮。興也。履、躡。卽、就也。言此女躡我之跡、而相就也。
【読み】
東方の日あり、彼の姝[しゅ]<音樞>たる者は子、我が室に在り。我が室に在る、我を履んで卽けり。興なり。履は、躡[ふ]む。卽は、就くなり。言うこころは、此の女我が跡を躡んで、相就くなり。

○東方之月兮、彼姝者子、在我闥<叶宅悅反>兮。在我闥兮、履我發<叶方月反>兮。興也。闥、門内也。發、行去也。言躡我而行去也。
【読み】
○東方の月あり、彼の姝たる者は子、我が闥[かど]<叶宅悅反>に在り。我が闥に在る、我を履んで發[ゆ]<叶方月反>けり。興なり。闥[たつ]は、門の内なり。發は、行き去るなり。言うこころは、我を躡んで行き去るなり。

東方之日二章章五句
【読み】
東方之日[とうぼうしじつ]二章章五句


東方未明<叶謨郎反>、顚倒<上聲>衣裳。顚之倒<叶都妙反>之、自公召之。賦也。自、從也。羣臣之朝、別色始入。○此詩人刺其君興居無節、號令上時。言東方未明、而顚倒其衣裳則旣早矣。而又已有從君所而來召之者焉。蓋猶以爲晩也。或曰、所以然者、以有自公所而召之者故也。
【読み】
東方未だ明<叶謨郎反>けず、衣裳を顚倒<上聲>す。之を顚し之を倒<叶都妙反>すに、公より之を召す。賦なり。自は、從りなり。羣臣の朝するは、色を別ちて始めて入る。○此れ詩人其の君の興居に節無く、號令時ならざるを刺[そし]るなり。言うこころは、東方未だ明けずして、其の衣裳を顚倒すれば則ち旣に早し。而して又已に君所よりして來り召す者有り。蓋し猶以て晩[おそ]しと爲すなり。或ひと曰く、然る所以は、公所よりして之を召す者有るを以て故なり、と。

○東方未晞、顚倒裳衣。倒之顚<叶典因反>之、自公令<去聲。叶力呈反>之。賦也。晞、明之始升也。令、號令也。
【読み】
○東方未だ晞[あ]けず、裳衣を顚倒す。之を倒し之を顚<叶典因反>すに、公より之を令<去聲。叶力呈反>す。賦なり。晞は、明の始めて升るなり。令は、號令なり。

○折<音哲>柳樊圃<叶博故反>、狂夫瞿瞿<音句>。上能晨夜<叶羊茹反>、上夙則莫<音謨>○比也。柳、楊之下垂者。柔脆之木也。樊、藩也、圃、菜園也。瞿瞿、驚顧之貌。夙、早也。○折柳樊圃、雖上足恃、然狂夫見之、猶驚顧而上敢越。以比晨夜之限甚明、人所易知。今乃上能知、而上失之早、則失之莫也。
【読み】
○柳を折<音哲>りて圃<叶博故反>に樊[まがき]すれば、狂夫も瞿瞿[くく]<音句>たり。晨夜<叶羊茹反>すること能わず、夙[はや]からざれば則ち莫[おそ]<音謨>し。○比なり。柳は、楊の下に垂れる者。柔脆なる木なり。樊は、藩なり、圃は、菜園なり。瞿瞿は、驚顧の貌。夙は、早いなり。○柳を折りて圃に樊すれば、恃むに足らずと雖も、然れども狂夫之を見て、猶驚顧して敢えて越えず。以て晨夜の限甚だ明らかにして、人の知り易き所なり。今乃ち知ること能わずして、之を早きに失わざれば、則ち之を莫きに失うに比すなり。

東方未明三章章四句
【読み】
東方未明[とうぼうみめい]三章章四句


南山崔崔<音摧>、雄狐綏綏。魯道有蕩、齊子由歸。旣曰歸止、曷又懷<叶胡威反>止。比也。南山、齊南山也。崔崔、高大貌。狐、邪媚之獸。綏綏、求匹之貌。魯道、適魯之道也。蕩、平易也。齊子、襄公之妹、魯桓公夫人文姜。襄公通焉者也。由、從也。婦人謂嫁曰歸。懷、思也。止、語辭。○言南山有狐。以比襄公居高位而行邪行。且文姜旣從此道歸于魯矣。襄公何爲而復思之乎。
【読み】
南山崔崔[さいさい]<音摧>たり、雄狐綏綏[すいすい]たり。魯の道蕩たる有り、齊子由[したが]いて歸[とつ]ぐ。旣に曰[ここ]に歸ぐ、曷ぞ又懷[おも]<叶胡威反>わん。比なり。南山は、齊の南山なり。崔崔は、高大なる貌。狐は、邪媚の獸。綏綏は、匹[たぐい]を求むるの貌。魯の道は、魯に適く道なり。蕩は、平易なり。齊子は、襄公の妹、魯の桓公の夫人文姜。襄公焉に通ずる者なり。由は、從うなり。婦人嫁するを謂いて歸と曰う。懷は、思うなり。止は、語の辭。○言うこころは、南山に狐有り。以て襄公高位に居て邪行を行うに比す。且つ文姜旣に此の道從り魯に歸ぐ。襄公何爲れぞ復之を思うや。

○葛屨五兩<如字。又音亮>、冠緌<音甤><叶所終反>止。魯道有蕩、齊子庸止。旣曰庸止、曷又從止。比也。兩、二屨也。緌、冠上飾也。屨必兩、緌必雙、物各有耦、上可亂也。庸、用也。用此道、以嫁于魯也。從、相從也。
【読み】
○葛の屨[くつ]五兩<字の如し。又音亮>、冠の緌[ずい]<音甤>雙[なら]<叶所終反>ぶ。魯の道蕩たる有り、齊子庸[もち]ゆ。旣に曰に庸ゆ、曷ぞ又從わん。比なり。兩は、二つの屨なり。緌は、冠の上の飾りなり。屨は必ず兩、緌は必ず雙、物各々耦有り、亂る可からず。庸は、用うるなり。此の道を用いて、以て魯に嫁すなり。從は、相從うなり。

○藝麻如之何、衡<音橫><音宗>其畝。取<去聲>妻如之何、必告<音谷>父母。旣曰告止、曷又鞠<音菊>止。興也。藝、樹。鞠、窮也。○欲樹麻者、必先縱橫耕治其田畝。欲娶妻者、必先告其父母。今魯桓公旣告父母而娶矣。又曷爲使之得窮其欲而至此哉。
【読み】
○麻を藝[う]えること之を如何、其の畝を衡<音橫><音宗>す。妻を取<去聲>ること之を如何、必ず父母に告[もう]<音谷>す。旣に曰に告す、曷ぞ又鞠[きわ]<音菊>めん。興なり。藝は、樹える。鞠は、窮むるなり。○麻を樹えんと欲する者は、必ず先ず縱橫に其の田畝を耕し治む。妻を娶らんと欲する者は、必ず先ず其の父母に告す。今魯の桓公旣に父母に告して娶る。又曷爲れぞ之をして其の欲を窮めて此に至ることを得せしむるや。

○析薪如之何、匪斧上克。取妻如之何、匪媒上得。旣曰得止、曷又極止。興也。克、能也。極、亦窮也。
【読み】
○薪を析くこと之を如何、斧に匪ざれば克[あた]わず。妻を取ること之を如何、媒に匪ざれば得ず。旣にして曰に得、曷ぞ又極めん。興なり。克は、能なり。極も、亦窮むるなり。

南山四章章六句。春秋桓公十八年、公與夫人姜氏如齊。公薨于齊。傳曰、公將有行、遂與姜氏如齊。申繻曰、女有家、男有室、無相瀆也。謂之有禮。易此必敗。公會齊侯于濼。遂及文姜如齊。齊侯通焉。公謫之。以告。夏四月享公。使公子彭生乘公、公薨于車。此詩前二章刺齊襄、後二章刺魯桓也。
【読み】
南山[なんざん]四章章六句。春秋に桓公十八年、公と夫人姜氏と齊に如く。公齊に薨ず、と。傳に曰く、公將に行くこと有らんとして、遂に姜氏と齊に如く。申繻曰く、女は家有り、男は室有り、相瀆[けが]すこと無し、と。之を有禮と謂う。此を易えれば必ず敗る。公齊侯に濼[はく]に會す。遂に文姜と齊に如く。齊侯焉に通ず。公之を謫[せ]む。以て告ぐ。夏四月公を享す。公子彭生をして公を乘せしめ、公車に薨ず、と。此の詩は前の二章は齊襄を刺[そし]り、後の二章は魯桓を刺るなり。


無田<音佃>甫田、維莠<音酉>驕驕<叶音高>。無思遠人、勞心忉忉<音刀>○比也。田、謂耕治之也。甫、大也。莠、害苗之草也。驕驕、張王之意。忉忉、憂勞也。○言無田甫田也、田甫田而力上給、則草盛矣。無思遠人也、思遠人而人上至、則心勞矣。以戒時人厭小而務大、忽近而圖遠、將徒勞而無功也。
【読み】
甫[おお]いなる田を田<音佃>づくること無かれ、維れ莠[はくさ]<音酉>驕驕<叶音高>たり。遠き人を思うこと無かれ、勞心忉忉[とうとう]<音刀>たり。○比なり。田は、之を耕し治むるを謂うなり。甫は、大いなり。莠は、苗を害する草なり。驕驕は、張王の意。忉忉は、憂え勞するなり。○言うこころは、甫いなる田を田づくること無かれとは、甫いなる田を田づくりて力給[た]らざれば、則ち草盛んなり。遠き人を思うこと無かれとは、遠き人を思いて人至らざれば、則ち心勞す。以て戒時の人小しきを厭いて大いなるを務め、近くを忽にして遠きを圖り、將[はた]徒に勞して功無きことを戒むるなり。

○無田甫田、維莠桀桀。無思遠人、勞心怛怛<叶旦悅反>○比也。桀桀、猶驕驕也。怛怛、猶忉忉也
【読み】
○甫いなる田を田づくること無かれ、維れ莠桀桀たり。遠き人を思うこと無かれ、勞心怛怛<叶旦悅反>たり。○比なり。桀桀は、猶驕驕のごとし。怛怛は、猶忉忉のごとし。

○婉兮孌<叶眷反>兮、總角丱<音慣。叶古縣反>兮。未幾<上聲>見兮、突而弁兮。比也。婉・孌、少好貌。丱、兩角貌。未幾、未多時也。突、忽然高出之貌。弁、冠吊。○言總角之童、見之未久、而忽然戴弁以出者、非其躐等而强求之也。蓋循其序而勢有必至耳。此又以明小之可大、邇之可遠、能循其序而脩之、則可以忽然而至其極。若躐等而欲速、則反有所上達矣。
【読み】
○婉たり孌[れん]<叶眷反>たり、總角丱[かん]<音慣。叶古縣反>たり。未だ幾[いくばく]<上聲>ならず見れば、突として弁[かんむり]す。比なり。婉・孌は、少[わか]く好き貌。丱は、兩角の貌。未だ幾ならずは、未だ多時ならざるなり。突は、忽然として高く出るの貌。弁は、冠の吊。○言うこころは、總角の童、之を見ること未だ久しからずして、忽然として弁を戴いて以て出る者、其の等を躐[こ]えて强いて之を求むるに非ず。蓋し其の序に循いて勢い必ず至ること有るのみ。此れ又以て小の大なる可く、邇きの遠かる可き、能く其の序に循いて之を脩むれば、則ち以て忽然として其の極みに至る可し。若し等を躐えて速やかならんことを欲すれば、則ち反って達せざる所有ることを明かす。

甫田三章章四句
【読み】
甫田[ほでん]三章章四句


盧令<音零>、其人美且仁。賦也。盧、田犬也。令令、犬頷下環聲。○此詩、大意與還畧同。
【読み】
盧[ろ]の令令<音零>たる、其の人美にして且つ仁あり。賦なり。盧は、田[かり]の犬なり。令令は、犬の頷下の環の聲。○此詩、大意は還と畧同じ。

○盧重<平聲>環、其人美且鬈<音權>○賦也。重環、子母環也。鬈、鬚鬢好貌。
【読み】
○盧の重<平聲>環たる、其の人美にして且つ鬈[けん]<音權>たり。○賦なり。重環は、子母環なり。鬈は、鬚鬢好き貌。

○盧重鋂<音梅>、其人美且偲<音鰓>○賦也。鋂、一環貫二也。偲、多鬚之貌。春秋傳所謂、于思、卽此字。古通用耳。
【読み】
○盧の重鋂[ばい]<音梅>たる、其の人美にして且つ偲[さい]<音鰓>たり。○賦なり。鋂は、一環二つを貫くなり。偲は、鬚多きの貌。春秋傳に所謂、于思とは、卽ち此の字なり。古通用するのみ。

盧令三章章二句
【読み】
盧令[ろれい]三章章二句


敝笱在梁、其魚魴鰥<音關。叶古倫反>。齊子歸止、其從<去聲>如雲。比也。敝、壞。笱、罟也。魴鰥、大魚也。歸、歸齊也。如雲、言衆也。○齊人以敝笱上能制大魚、比魯莊公上能防閑文姜。故歸齊而從之者衆也。
【読み】
敝[やぶ]れたる笱[こう]梁[やな]に在り、其の魚魴鰥[ほうかん]<音關。叶古倫反>。齊子歸るに、其の從<去聲>うもの雲の如し。比なり。敝は、壞れる。笱は、罟[あみ]なり。魴鰥は、大魚なり。歸は、齊に歸るなり。雲の如しとは、衆[おお]きを言うなり。○齊人敝れたる笱の大魚を制すること能ざるを以て、魯の莊公文姜を防閑すること能わざるに比す。故に齊に歸るに之に從う者衆し。

○敝笱在梁、其魚魴鱮<音序>。齊子歸止、其從如雨。比也。鱮、似魴厚而頭大。或謂之鰱。如雨、亦多也。
【読み】
○敝れたる笱梁に在り、其の魚魴鱮[ぼうしょ]<音序>。齊子歸るに、其の從うもの雨の如し。比なり。鱮は、魴に似て厚く頭大なり。或は之を鰱[れん]と謂う。雨の如しも、亦多きなり。

○敝笱在梁、其魚唯唯<上聲>。齊子歸止、其從如水。比也。唯唯、行出入之貌。如水、亦多也。
【読み】
○敝れたる笱梁に在り、其の魚唯唯<上聲>たり。齊子歸るに、其の從うもの水の如し。比なり。唯唯は、行きて出入するの貌。水の如しも、亦多きなり。

敝笱三章章四句。按春秋、魯莊公二年夫人姜氏會齊侯于禚。四年夫人姜氏享齊侯于祝丘。五年夫人姜氏如齊師。七年夫人姜氏會齊侯于防。又會齊侯于穀。
【読み】
敝笱[へいこう]三章章四句。春秋を按ずるに、魯の莊公二年に夫人姜氏齊侯に禚に會す。四年に夫人姜氏齊侯を祝丘に享す。五年に夫人姜氏齊の師に如く。七年に夫人姜氏齊侯に防に會す。又齊侯に穀に會す。


載驅薄薄<音粕>、簟茀朱鞹<音擴>。魯道有蕩、齊子發夕<叶祥龠反>○賦也。薄薄、疾驅聲。簟、方丈席也。茀、車後戶也。朱、朱漆也。鞹、獸皮之去毛者。蓋車革質而朱漆也。夕、猶宿也。發夕、謂離於所宿之舊。○齊人刺文姜乘此車、而來會襄公也。
【読み】
載[すなわ]ち驅[は]すること薄薄<音粕>たり、簟[てん]の茀[ふつ]朱の鞹[かく]<音擴>。魯の道蕩[たい]らかなること有り、齊子發夕<叶祥龠反>す。○賦なり。薄薄は、疾く驅するの聲。簟は、方丈の席なり。茀は、車の後の戶なり。朱は、朱漆なり。鞹は、獸皮の毛を去る者。蓋し車革質にして朱漆なり。夕は、猶宿のごとし。發夕は、宿る所の舊を離るるを謂う。○齊人文姜が此の車に乘りて、來て襄公に會するを刺[そし]るなり。

○四驪<音離>濟濟<上聲>、垂轡瀰瀰<音你>。魯道有蕩、齊子豈<音愷><叶待禮反>○賦也。驪、馬。黑色也。濟濟、美貌。瀰瀰、柔貌。豈弟、樂易也。言無忌憚羞恥之意也。
【読み】
○四驪[り]<音離>濟濟<上聲>たり、轡を垂るること瀰瀰[でいでい]<音你>たり。魯の道蕩らかなること有り、齊子豈[がい]<音愷><叶待禮反>す。○賦なり。驪は、馬。黑色なり。濟濟は、美しき貌。瀰瀰は、柔らかき貌。豈弟は、樂易なり。言うこころは、忌憚羞恥の意無し。

○汶<音問>水湯湯<音傷>、行人彭彭<音邦>。魯道有蕩、齊子翺翔。賦也。汶、水吊。在齊南魯北二國之境。湯湯、水盛貌。彭彭、多貌。言行人之多、亦以見其無恥也。
【読み】
○汶[ぶん]<音問>水湯湯[しょうしょう]<音傷>たり、行人彭彭<音邦>たり。魯の道蕩らかなること有り、齊子翺翔[こうしょう]す。賦なり。汶は、水の吊。齊の南魯の北二國の境に在り。湯湯は、水盛んなる貌。彭彭は、多き貌。行人の多きを言い、亦以て其の恥無きことを見すなり。

○汶水滔滔<音叨>、行人儦儦<音標。叶音褒>。魯道有蕩、齊子游敖。賦也。滔滔、流貌。儦儦、衆貌。游敖、猶翺翔也。
【読み】
○汶水滔滔<音叨>たり、行人儦儦[ひょうひょう]<音標。叶音褒>たり。魯の道蕩らかなること有り、齊子游敖す。賦なり。滔滔は、流るる貌。儦儦は、衆[おお]き貌。游敖は、猶翺翔のごとし。

載驅四章章四句
【読み】
載驅[さいく]四章章四句


猗嗟昌兮、頎<音祈>而長兮、抑若揚兮。美目揚兮、巧趨蹌兮。射則臧兮。賦也。猗嗟、歎詞。昌、盛也。頎、長貌。抑而若揚、美之盛也。揚、目之動也。蹌、趨翼如也。臧、善也。○齊人極道魯莊公威儀技藝之美如此。所以刺其上能以禮防閑其母。若曰惜乎其獨少此耳。
【読み】
猗嗟[ああ]昌んなり、頎[き]<音祈>として長じ、抑えて揚ぐるが若し。美目揚たり、巧みに趨ること蹌[しょう]たり。射れば則ち臧[よ]し。賦なり。猗嗟は、歎ずる詞。昌は、盛んなり。頎は、長き貌。抑えて揚ぐるが若しとは、美の盛んなり。揚は、目の動きなり。蹌は、趨ること翼如たるなり。臧は、善きなり。○齊人極めて魯の莊公の威儀技藝の美を道うこと此の如し。其の禮を以て其の母を防閑すること能わざるを刺[そし]る所以なり。惜しいかな其れ獨り此を少[か]くと曰うが若きのみ。

○猗嗟吊兮、美目淸兮、儀旣成兮。終日射<音石>侯、上出正<音征>兮。展我甥<叶桑經反>兮。賦也。吊、猶稱也。言其威儀技藝之可吊也。淸、目淸明也。儀旣成、言其終事而禮無違也。侯、張布而射之者也。正、設的於侯中、而射之者也。大射、則張皮侯而設鵠。賓射、則張布侯而設正。展、誠也。姊妹之子曰甥。言稱其爲齊之甥、而又以明非齊侯之子。此詩人之微詞也。按春秋、桓公三年夫人姜氏至自齊。六年九月子同生。卽莊公也。十八年桓公乃與夫人如齊。則莊公誠非齊侯之子矣。
【読み】
○猗嗟吊あり、美目淸し、儀旣に成れり。終日侯を射<音石>て、正<音征>を出でず。展[まこと]に我が甥<叶桑經反>なり。賦なり。吊は、猶稱するがごとし。其の威儀技藝の吊づく可きを言うなり。淸は、目の淸明なるなり。儀旣に成るとは、其の事を終えて禮違うこと無きを言う。侯は、布を張って之を射る者なり。正は、的を侯中に設けて、之を射る者なり。大射には、則ち皮侯を張って鵠を設く。賓射には、則ち布侯を張って正を設く。展は、誠なり。姊妹の子を甥と曰う。言うこころは、其の齊の甥爲ることを稱して、又以て齊侯の子に非ざることを明かす。此れ詩人の微詞なり。春秋を按ずるに、桓公三年に夫人姜氏齊より至る。六年九月に子同生まる。卽ち莊公なり。十八年に桓公乃ち夫人と齊に如く。則ち莊公は誠に齊侯の子に非ざるなり。

○猗嗟孌<叶龍眷反>兮、淸揚婉<叶許願反>兮、舞則選<去聲>兮。射則貫<叶扃縣反>兮、四矢反<叶孚絢反>兮。以禦亂<叶靈眷反>兮。賦也。孌、好貌。淸、目之美也。揚、眉之美也。婉、亦好貌。選、異於衆也。或曰、齊於樂節也。貫、中而貫革也。四矢、禮射每發四矢。反、復也。中皆得其故處也。言莊公射藝之精、可以禦亂。如以金僕姑射南宮長萬、可見矣。
【読み】
○猗嗟孌[れん]<叶龍眷反>たり、淸揚婉<叶許願反>たり、舞えば則ち選<去聲>なり。射れば則ち貫<叶扃縣反>き、四矢反<叶孚絢反>れり。以て亂<叶靈眷反>を禦がん。賦なり。孌は、好き貌。淸は、目の美なるなり。揚は、眉の美なるなり。婉も、亦好き貌。選は、衆に異なるなり。或ひと曰く、樂節に齊[ひと]しき、と。貫は、中りて革を貫くなり。四矢は、禮射に每に四矢を發す。反は、復るなり。中ること皆其の故處を得るなり。言うこころは、莊公の射藝の精しき、以て亂を禦ぐ可し。金僕姑を以て南宮長萬を射るが如き、見る可し。

猗嗟三章章六句。或曰、子可以制母乎。趙氏曰、夫死從子、通乎其下。况國君乎。君者、人神之主、風敎之本也。上能正家、如正國何。若莊公者、哀痛以思父、誠敬以事母、威刑以馭下、車馬僕從莫上俟命。夫人徒往乎。夫人之往也、則公哀敬之上至、威命之上行耳。東萊呂氏曰、此詩三章、譏刺之意皆在言外。嗟嘆再三、則莊公所大闕者、上言可見矣。
【読み】
猗嗟[いさ]三章章六句。或ひと曰く、子は以て母を制す可きか、と。趙氏曰く、夫死して子に從うは、其の下に通ず。况んや國君をや。君は、人神の主、風敎の本なり。家を正しくすること能わざれば、國を正すこと如何。莊公の若き者は、哀痛以て父を思い、誠敬以て母に事え、威刑以て下を馭[ぎょ]せば、車馬僕從命を俟たざること莫し。夫人徒より往かん。夫人の往くや、則ち公哀敬の至らず、威命の行われざるのみ、と。東萊の呂氏曰く、此の詩三章は、譏刺の意皆言外に在り。嗟嘆再三すれば、則ち莊公大いに闕く所の者、言わずして見る可し、と。


齊國十一篇三十四章。二百四十三句


一之九。魏國吊。本舜・禹故都。在禹貢冀州雷首之北、析城之西、南枕河曲、北涉汾水。其地陿隘、而民貧俗儉。蓋有聖賢之遺風焉。周初以封同姓。後爲晉獻公所滅、而取其地。今河中府解州卽其地也。蘇氏曰、魏地入晉久矣。其詩疑皆爲晉而作。故列於唐風之前。猶邶・鄘之於衛也。今按、篇中公行・公路・公族、皆晉官。疑實晉詩。又恐魏亦嘗有此官。蓋上可考矣。
【読み】
魏[ぎ]一の九。魏は國の吊。本舜・禹の故都。禹貢冀州雷首の北、析城の西に在り、南は河曲に枕[のぞ]み、北は汾水を涉る。其の地陿隘にして、民貧しく俗儉なり。蓋し聖賢の遺風有り。周の初め以て同姓を封ず。後の晉の獻公の爲に滅ぼされて、其の地を取らる。今の河中府解州は卽ち其の地なり。蘇氏が曰く、魏の地晉に入ること久し。其の詩疑うらくは皆晉の爲にして作れり。故に唐風の前に列す。猶邶・鄘の衛に於るがごとし、と。今按ずるに、篇の中の公行・公路・公族は、皆晉の官。疑うらくは實は晉の詩ならん。又恐らくは魏も亦嘗て此の官有らん。蓋し考う可からず。


糾糾<音赳>葛屨、可以履霜。摻摻<音纎>女手、可以縫裳。要<音腰>之襋<音棘>之、好人朊<叶蒲北反>之。興也。糾糾、繚戾寒凉之意。夏葛屨、冬皮屨。摻摻、猶纎纎也。女、婦未廟見之稱也。娶婦三月廟見。然後執婦功。要、裳要。襋、衣領。好人、猶大人也。○魏地陿隘、其俗儉嗇而褊急。故以葛屨履霜起興、而刺其使女縫裳、又使治其要襋、而遂朊之也。此詩疑卽縫裳之女所作。
【読み】
糾糾[きゅうきゅう]たる<音赳>葛の屨[くつ]、以て霜を履む可し。摻摻[さんさん]<音纎>たる女の手、以て裳を縫う可し。之を要<音腰>し之を襋[きょく]<音棘>し、好人之を朊<叶蒲北反>す。興なり。糾糾は、繚戾寒凉の意。夏は葛屨し、冬は皮屨す。摻摻は、猶纎纎のごとし。女は、婦の未だ廟見せざるの稱なり。婦を娶って三月に廟見す。然して後に婦功を執る。要は、裳の要[こし]。襋は、衣の領[えり]。好人は、猶大人のごとし。○魏の地陿隘、其の俗儉嗇にして褊急。故に葛屨霜を履むを以て興を起こして、其の女をして裳を縫わしめ、又其の要襋を治めしめて、遂に之を朊するを刺[そし]る。此の詩疑うらくは卽ち裳を縫う女の作る所ならん。

○好人提提。宛然左辟<音避>、佩其象揥。維是褊心、是以爲刺<叶音砌>○賦也。提提、安舒之意。宛然、讓之貌也。讓而辟者必左。揥、所以摘髮。用象爲之。貴者之飾也。其人如此。若無有可刺矣。所以刺之者、以其褊迫急促。如前章之云耳。
【読み】
○好人提提たり。宛然として左に辟<音避>け、其の象揥[てい]を佩ぶ。維れ是の褊心、是を以て刺[そしり]<叶音砌>を爲す。○賦なり。提提は、安舒の意。宛然は、讓る貌なり。讓りて辟ける者は必ず左す。揥は、髮を摘む所以。象を用て之を爲る。貴者の飾りなり。其の人此の如し。刺る可きこと有ること無きが若し。之を刺る所以の者は、其の褊迫急促なるを以てなり。前章の云の如きのみ。

葛屨二章一章六句一章五句。廣漢張氏曰、夫子謂、與其奢也、寧儉。則儉雖失中、本非惡德。然而儉之過、則至於吝嗇迫隘、計較分毫之閒、而謀利之心始急矣。葛屨・汾沮洳・園有桃三詩、皆言急迫瑣碎之意。
【読み】
葛屨[かっく]二章一章六句一章五句。廣漢の張氏が曰く、夫子謂う、其の奢らん與りは、寧ろ儉せよ、と。則ち儉は中を失うと雖も、本惡德に非ず。然して儉の過ぎて、則ち吝嗇迫隘に至りて、分毫の閒を計較して、利を謀るの心始めて急なり。葛屨・汾沮洳・園有桃の三詩は、皆急迫瑣碎の意を言う、と。


彼汾<音焚><去聲><音孺>、言采其莫<音慕>。彼其<音記>之子、美無度。美無度、殊異乎公路。興也。汾、水吊。出大原晉陽山西南入河。沮洳、水浸處、下濕之地。莫、菜也。似柳葉厚而長。有毛刺可爲羹。無度、言上可以尺寸量也。公路者、掌公之路車。晉以卿大夫之庶子爲之。○此亦刺儉上中禮之詩。言若此人者、美則美矣。然其儉嗇褊急之態、殊上似貴人也。
【読み】
彼の汾[ふん]<音焚>の沮[しょ]<去聲>洳[じょ]<音孺>、言[ここ]に其の莫[ぼ]<音慕>を采る。彼の其<音記>の之の子、美にして度無し。美にして度無けれども、公路に殊なりて異なり。興なり。汾は、水の吊。大原晉陽山の西南より出でて河に入る。沮洳は、水の浸す處、下[ひく]く濕[うるお]えるの地。莫は、菜なり。柳に似て葉厚くして長し。毛刺有りて羹とす可し。度無しとは、言うこころは、尺寸を以て量る可からざるなり。公路は、公の路車を掌る。晉は卿大夫の庶子を以て之をす。○此れ亦儉にして禮に中らざるを刺るの詩。言うこころは、此の若き人は、美は則ち美なり。然れども其の儉嗇褊急の態、殊に貴人に似ざるなり。

○彼汾一方、言采其桑。彼其之子、美如英<叶於良反>。美如英、殊異乎公行<音杭>○興也。一方、彼一方也。史記扁鵲視見垣一方人。英、華也。公行、卽公路也。以其主兵車之行列、故謂之公行也。
【読み】
○彼の汾の一方に、言に其の桑を采る。彼の其の之の子、美にして英[はな]<叶於良反>の如し。美にして英の如くなれども、公行<音杭>に殊なりて異なり。○興なり。一方は、彼の一方なり。史記に扁鵲垣の一方の人を視て見る、と。英は、華なり。公行は、卽ち公路なり。其の兵車の行列を主るを以て、故に之を公行と謂うなり。

○彼汾一曲、言采其藚<音續>。彼其之子、美如玉。美如玉、殊異乎公族。興也。一曲、謂水曲流處。藚、水舃也。葉如車前草。公族掌公之宗族。晉以卿大夫之適子爲之。
【読み】
○彼の汾の一曲に、言に其の藚[しょく]<音續>を采る。彼の其の之の子、美にして玉の如し。美にして玉の如くなれども、公族に殊なりて異なり。興なり。一曲は、水の曲がり流るる處を謂う。藚は、水舄[せき]なり。葉は車前草の如し。公族は公の宗族を掌る。晉は卿大夫の適子を以て之をす。

汾沮洳三章章六句
【読み】
汾沮洳[ふんしょじょ]三章章六句


園有桃、其實之殽。心之憂矣、我歌且謠<音遥>。上知我者、謂我士也驕。彼人是哉<叶將黎反>、子曰何其<音基>。心之憂矣、其誰知之、其誰知之。蓋亦勿思<叶新齎反>○興也。殽、食也。合曲曰歌。徒歌曰謡。其、語辭。○詩人憂其國小而無政。故作是詩。言園有桃、則其實之殽矣。心有憂、則我歌且謡矣。然上知我之心者、見其歌謡、而反以爲驕、且曰、彼之所爲已是矣。而子之言獨何爲哉。蓋舉國之人、莫覺其非、而反以憂之者爲驕也。於是憂者重嗟歎之、以爲此之可憂、初上難知。彼之非我、特未之思耳。誠思之、則將上暇非我而自憂矣。
【読み】
園に桃有れば、其の實之を殽[くら]う。心の憂えあり、我れ歌い且つ謠<音遥>う。我を知らざる者は、謂う我が士や驕る。彼の人是なるかな、子が曰えるは何ぞや、と。心の憂えあり、其れ誰か之を知らん、其れ誰か之を知らん。蓋し亦思<叶新齎反>うこと勿し。○興なり。殽[こう]は、食うなり。曲に合わするを歌と曰う。徒に歌うを謡と曰う。其は、語の辭。○詩人其の國小にして政無きを憂う。故に是の詩を作る。言うこころは、園に桃有れば、則ち其の實を殽う。心憂え有れば、則ち我れ歌い且つ謡う。然れども我が心を知らざる者は、其の歌謡するを見て、反って以て驕れりとし、且つ曰く、彼が爲す所已に是なり。而して子が言は獨り何爲[なんぞ]や、と。蓋し舉國の人、其の非を覺ること莫くして、反って之を憂うる者を以て驕りとす。是に於て憂うる者重ねて之を嗟歎して、以爲えらく、此の憂う可き、初めより知り難からず。彼が我を非とする、特に未だ之を思わざるのみ。誠に之を思わば、則ち將[はた]我を非として自ら憂うるに暇あらず、と。

○園有棘、其實之食。心之憂矣、聊以行國<叶于逼反>。上知我者、謂我士也罔極。彼人是哉、子曰何其。心之憂矣、其誰知之、其誰知之。蓋亦勿思。興也。棘、棗之短者。聊、且略之辭。歌謡之上足、則出遊於國中、而冩憂也。極、至也。罔極、言其心縱恣、無所至極。
【読み】
○園に棘[きょく]有れば、其の實之を食う。心の憂えあり、聊か以て國<叶于逼反>を行く。我を知らざる者は、謂う我が士や極まり罔し。彼の人是なるかな、子が曰えるは何ぞや、と。心の憂えあり、其れ誰か之を知らん、其れ誰か之を知らん。蓋し亦思うこと勿し。興なり。棘は、棗の短き者。聊は、且略の辭。歌謡足らざれば、則ち出でて國中に遊んで、憂えを冩[のぞ]かん。極は、至るなり。極まり罔しとは、言うこころは、其の心縱恣して、至り極まるの所無し。

園有桃二章章十二句
【読み】
園有桃[えんゆうとう]二章章十二句


陟彼岵<音戶>兮、瞻望父兮。父曰嗟予子行役。夙夜無已。上愼旃哉、猶來無止。賦也。山無草木曰岵。上、猶尙也。○孝子行役、上忘其親。故登山、以望其父之所在。因想像其父念己之言曰、嗟呼我之子行役。夙夜勤勞、上得止息。又祝之曰、庶幾愼之哉。猶可以來歸、無止於彼而上來也。蓋生則必歸、死則止而上來矣。或曰、止、獲也。言無爲人所獲也。
【読み】
彼の岵[こ]<音戶>に陟[のぼ]り、父を瞻望す。父曰わん嗟[ああ]予が子役に行く。夙夜已むこと無し。上[ねが]わくは旃[これ]を愼めや、猶來りて止まること無かれ、と。賦なり。山草木無きを岵と曰う。上は、猶尙うのごとし。○孝子役に行き、其の親を忘れず。故に山に登りて、以て其の父の在る所を望む。因りて其の父己を念うの言を想い像[おもいや]りて曰く、嗟呼我が子役に行く。夙夜勤勞して、止息するを得ず、と。又之を祝して曰く、庶幾わくは之を愼めや。猶以て來り歸りて、彼に止まりて來らざること無かる可し、と。蓋し生きれば則ち必ず歸り、死すれば則ち止まりて來らざればなり。或ひと曰く、止は、獲るなり、と。言うこころは、人の爲に獲らるること無かれ。

○陟彼屺<音起>兮、瞻望母<叶滿彼反>兮。母曰嗟予季行役。夙夜無寐。上愼旃哉、猶來無棄。賦也。山有草木曰屺。季、少子也。尤憐愛少子者、婦人之情也。無寐、亦言其勞之甚也。棄、謂死而棄其尸也。
【読み】
○彼の屺[き]<音起>に陟り、母<叶滿彼反>を瞻望す。母曰わん嗟予が季役に行く。夙夜寐ること無し。上わくは旃を愼めや、猶來りて棄つること無かれ、と。賦なり。山草木有るを屺と曰う。季は、少子なり。尤も少子を憐愛するは、婦人の情なり。寐ること無しも、亦其の勞の甚だしきを言うなり。棄は、死して其の尸を棄つるを謂うなり。

○陟彼岡兮、瞻望兄<叶虛王反>兮。兄曰嗟予弟行役。夙夜必偕<叶舉里反>。上愼旃哉、猶來無死<叶想止反>○賦也。山脊曰岡。必偕、言與其儕同作同止。上得自如也。
【読み】
○彼の岡に陟り、兄<叶虛王反>を瞻望す。兄曰わん嗟予が弟役に行く。夙夜必ず偕<叶舉里反>にせよ。上わくは旃を愼めや、猶來りて死<叶想止反>すること無かれ、と。○賦なり。山の脊を岡と曰う。必ず偕にせよとは、言うこころは、其の儕[ともがら]と同じく作し同じく止む。自如することを得ざるなり。

陟岵三章章六句
【読み】
陟岵[ちょくこ]三章章六句


十畝之閒<叶居賢反>兮、桑者閑閑<叶胡田反>兮。行與子還<叶音旋>兮。賦也。十畝之閒、郊外所受塲圃之地也。閑閑、往來者自得之貌。行、猶將也。還、猶歸也。○政亂國危、賢者上樂仕於其朝、而思與其友歸於農圃。故其詞如此。
【読み】
十畝の閒<叶居賢反>、桑とる者閑閑<叶胡田反>たり。行[まさ]に子と還<叶音旋>らんとす。賦なり。十畝の閒は、郊外受くる所の塲圃の地なり。閑閑は、往來の者自得するの貌。行は、猶將のごとし。還は、猶歸るのごとし。○政亂れ國危うくして、賢者其の朝に仕うるを樂しまずして、其の友と農圃に歸らんことを思う。故に其の詞此の如し。

○十畝之外<叶五墜反>兮、桑者泄泄<音異>兮。行與子逝兮。賦也。十畝之外、鄰圃也。泄泄、猶閑閑也。逝、往也。
【読み】
○十畝の外<叶五墜反>、桑とる者泄泄[えいえい]<音異>たり。行に子と逝かんとす。賦なり。十畝の外は、鄰の圃なり。泄泄は、猶閑閑のごとし。逝は、往くなり。

十畝之閒二章章三句
【読み】
十畝之閒[じゅうほしかん]二章章三句


坎坎伐檀<叶徒沿反>兮。寘之河之干<叶居焉反>兮。河水淸且漣<音連><音醫>。上稼上穡、胡取禾三百廛<直連反>兮。上狩上獵、胡瞻爾庭有縣<音玄><音暄>兮。彼君子兮、上素餐<叶七宣反>兮。賦也。坎坎、用力之聲。檀、木可爲車者。寘、與置同。干、厓也。漣、風行水成文也。猗、與兮同。語辭也。書斷斷猗、大學作兮。莊子亦云、而我猶爲人猗是也。種之曰稼。之曰穡。胡、何也。一夫所居曰廛。狩、亦獵也。貆、貉類。素、空。餐、食也。○詩人言有人於此、用力伐檀、將以爲車而行陸也。今乃寘之河干、則河水淸漣、而無所用。雖欲自食其力、而上可得矣。然其志、則自以爲上耕、則上可以得禾、上獵、則上可以得獸。是以甘心窮餓、而上悔也。詩人述其事而歎之、以爲是眞能上空食者。後世若徐穉之流、非其力上食、其厲志蓋如此。
【読み】
坎坎[かんかん]として檀<叶徒沿反>を伐る。之を河の干[ほとり]<叶居焉反>に寘[お]く。河水淸く且つ漣[なみだ]<音連>つ。稼[う]えず穡[おさ]めず、胡ぞ禾[いね]三百廛[てん]<直連反>を取らん。狩せず獵せず、胡ぞ爾が庭を瞻るに縣[かか]<音玄>れる貆[むじな]<音暄>有らん。彼の君子、素[むな]しく餐[は]<叶七宣反>まず。賦なり。坎坎は、力を用うるの聲。檀は、木の車に爲る可き者。寘は、置くと同じ。干は、厓なり。漣は、風行きて水文を成すなり。猗は、兮と同じ。語の辭なり。書に斷斷猗、大學に兮に作る。莊子亦云いて、我は猶人爲り猗とは是れなり。之を種[う]えるを稼と曰う。之をむるを穡と曰う。胡は、何なり。一夫居る所を廛と曰う。狩も、亦獵なり。貆は、貉の類。素は、空し。餐は、食うなり。○詩人言うこころは、此に人有りて、力を用いて檀を伐ちて、將に以て車を爲りて陸を行かんとす。今乃ち之を河の干に寘けば、則ち河水淸漣にして、用うる所無し。自ら其の力を食まんと欲すと雖も、而して得可からず。然れども其の志は、則ち自ら以爲えらく、耕さざれば、則ち以て禾を得可からず、獵せざれば、則ち以て獸を得可からず、と。是を以て窮餓を甘心して、悔いず。詩人其の事を述べて之を歎じて、以爲えらく、是れ眞に能く空しく食まざる者、と。後世徐穉が流の若き、其の力に非ざれば食まず、其の志を厲すること蓋し此の如し。

○坎坎伐輻<音福。叶筆力反>兮。寘之河之側<叶莊力反>兮。河水淸且直猗。上稼上穡、胡取禾三百億兮。上狩上獵、胡瞻爾庭有縣特兮。彼君子兮、上素食兮。賦也。輻、車也。伐木以爲輻也。直、波文之直也。十萬曰億。蓋言禾秉之數也。獸三歲曰特。
【読み】
○坎坎として輻<音福。叶筆力反>を伐る。之を河の側[ほとり]<叶莊力反>に寘く。河水淸く且つ直[なみす]ぐ。稼えず穡めず、胡ぞ禾三百億を取らん。狩せず獵せず、胡ぞ爾が庭を瞻るに縣れる特有らん。彼の君子、素しく食まず。賦なり。輻は、車輻なり。木を伐って以て輻を爲るなり。直は、波の文の直きなり。十萬を億と曰う。蓋し禾秉の數を言う。獸三歲なるを特と曰う。

○坎坎伐輪兮。寘之河之漘<音唇>兮。河水淸且淪猗。上稼上穡、胡取禾三百囷<丘倫反>兮。上狩上獵、胡瞻爾庭有縣鶉<音純>兮。彼君子兮、上素飧<音孫。叶素倫反>兮。賦也。輪、車輪也。伐木以爲輪也。淪、小風水成文、轉如輪也。囷、圓倉也。鶉、■(酓に鳥)屬。熟食曰飧。
【読み】
○坎坎として輪を伐る。之を河の漘[ほとり]<音唇>に寘く。河の水淸く且つ淪[なみだ]つ。稼えず穡めず、胡ぞ禾三百囷[きん]<丘倫反>を取らん。狩せず獵せず、胡ぞ爾が庭を瞻るに縣れる鶉<音純>有らん。彼の君子、素しく飧[は]<音孫。叶素倫反>まず。賦なり。輪は、車輪なり。木を伐って以て輪に爲るなり。淪は、小し風ふき水文を成して、轉すること輪の如し。囷は、圓倉なり。鶉は、■(酓に鳥)の屬。熟[に]て食うを飧と曰う。

伐檀三章章九句
【読み】
伐檀[ばったん]三章章九句


碩鼠碩鼠、無食我黍。三歲貫<音慣><音汝>。莫我肯顧<叶果五反>、逝將去女、適彼樂<音洛。下同>土。樂土樂土、爰得我所。比也。碩、大也。三歲、言其久也。貫、習。顧、念。逝、往也。樂土、有道之國也。爰、於也。○民困於貪殘之政。故託言、大鼠害己。而去之也。
【読み】
碩鼠碩鼠、我が黍を食うこと無かれ。三歲女<音汝>に貫[なら]<音慣>えども、我を肯えて顧[おも]<叶果五反>うこと莫し。逝きて將に女を去けんとす、彼の樂<音洛。下も同じ>土に適かん。樂土樂土、爰に我が所を得ん。比なり。碩は、大いなり。三歲は、其の久しきを言うなり。貫は、習う。顧は、念う。逝は、往くなり。樂土は、有道の國なり。爰は、於なり。○民貪殘の政に困しむ。故に託して言う、大鼠己を害す。而して之を去けん、と。

○碩鼠碩鼠、無食我麥<叶訖力反>。三歲貫女、莫我肯德。逝將去女、適彼樂國<叶于逼反>。樂國樂國、爰得我直。比也。德、歸恩也。直、猶宜也。
【読み】
○碩鼠碩鼠、我が麥<叶訖力反>を食うこと無かれ。三歲女に貫えども、我を肯えて德[いつく]しむこと莫し。逝いて將に女を去けんとす、彼の樂國<叶于逼反>に適かん。樂國樂國、爰に我が直[よろ]しきを得ん。比なり。德は、恩に歸するなり。直は、猶宜しきのごとし。

○碩鼠碩鼠、無食我苗<叶音毛>。三歲貫女、莫我肯勞。逝將去女、適彼樂郊<叶音高>。樂郊樂郊、誰之永號<音毫>○比也。勞、勤苦也。謂上以我爲勤勞也。永號、長呼也。言旣往樂郊、則無復有害己者。當復爲誰而永號乎。
【読み】
○碩鼠碩鼠、我が苗<叶音毛>を食うこと無かれ。三歲女に貫えども、我を肯えて勞[いたわ]ること莫し。逝きて將に女を去けんとす、彼の樂郊<叶音高>に適かん。樂郊樂郊、誰か之れ永く號[さけ]<音毫>ばん。○比なり。勞は、勤苦なり。我を以て勤勞せざるを謂うなり。永號は、長く呼ぶなり。言うこころは、旣に樂郊に往けば、則ち復己を害する者有ること無し。當に復誰が爲にして永號すべきや、と。

碩鼠三章章八句
【読み】
碩鼠[せきそ]三章章八句


魏國七篇十八章一百二十八句


一之十。唐、國吊。本帝堯舊都。在禹貢冀州之域、大行恆山之西、大原大岳之野、周成王以封弟叔虞爲唐侯。南有晉水、至子爕乃改國號曰晉。後徙曲沃。又徙居絳。其地土瘠民貧、勤儉質朴、憂深思遠。有堯之遺風焉。其詩上謂之晉而謂之唐、蓋仍其始封之舊號耳。唐叔所都、在今大原府、曲沃及絳、皆在今絳州。
【読み】
唐[とう]一の十。唐は、國の吊。本帝堯の舊都。禹貢冀州の域、大行恆山の西、大原大岳の野に在り、周の成王以て弟叔虞を封じて唐侯とす。南に晉水有り、子爕[しょう]に至りて乃ち國號を改めて晉と曰う。後曲沃に徙[うつ]る。又徙って絳[こう]に居る。其の地土瘠せ民貧しく、勤儉質朴、憂うること深く思うこと遠し。堯の遺風有り。其の詩は之を晉と謂わずして之を唐と謂うは、蓋し其の始めて封ずるの舊號に仍るのみ。唐叔の都する所は、今の大原府に在り、曲沃及び絳は、皆今の絳州に在り。


蟋蟀在堂、歲聿其莫<音慕>。今我上樂<音樂。下同>、日月其除<去聲>。無已大<音泰>康。職思其居<叶音據>、好<去聲>樂無荒。良士瞿瞿<音句>○賦也。蟋蟀、蟲吊。似蝗而小、正黑、有光澤如漆、有角翅。或謂之促織、九月在堂。聿、遂。莫、晩。除、去也。大康、過於樂也。職、主也。瞿瞿、却顧之貌。○唐俗勤儉。故其民閒、終歲勞苦、上敢少休。及其歲晩務閒之時、乃敢相與燕飮爲樂而言、今蟋蟀在堂、而歲忽已晩矣。當此之時、而上爲樂、則日月將舊我而去矣。然其憂深而思遠也。故方燕樂、而又遽相戒曰、今雖上可以上爲樂、然上已過於樂乎。盍亦顧念其職之所居者、使其雖好樂而無荒。若彼良士之長慮而却顧焉、則可以上至於危亡也。蓋其民俗之厚、而前聖遺風之遠如此。
【読み】
蟋蟀[しっしゅつ]堂に在り、歲聿[つい]に其れ莫[く]<音慕>れぬ。今我れ樂<音樂。下も同じ>しまずんば、日月其れ除[さ]<去聲>らん。已に大[はなは]<音泰>だ康ずる無かれ。職として其の居<叶音據>を思いて、好<去聲>樂荒[すさ]むこと無かれ。良士瞿瞿[くく]<音句>たり。○賦なり。蟋蟀は、蟲の吊。蝗に似て小さく、正黑にして、光澤有りて漆の如く、角翅有り。或は之を促織と謂い、九月堂に在り。聿は、遂。莫は、晩。除は、去るなり。大康は、樂しみに過ぐるなり。職は、主なり。瞿瞿は、却[しりぞ]き顧みる貌。○唐の俗勤儉。故に其の民閒、歲を終うるまで勞苦して、敢えて少しも休まず。其の歲晩れ務め閒なるの時に及んで、乃ち敢えて相與に燕飮して樂を爲して言う、今蟋蟀堂に在りて、歲忽ち已に晩れぬ。此の時に當たりて、樂を爲さずんば、則ち日月將[はた]我を舊てて去らん、と。然れども其の憂うること深くして思うこと遠し。故に方に燕樂して、又遽に相戒めて曰く、今以て樂を爲さずんばある可からずと雖も、然れども已に樂に過ぎざれ。盍ぞ亦其の職の居る所の者を顧み念いて、其をして樂を好むと雖も荒むこと無からしめざる。彼の良士の長の慮いて却き顧みるが若きは、則ち以て危亡に至らざる可し。蓋し其の民俗の厚くして、前聖の遺風の遠きこと此の如し。

○蟋蟀在堂、歲聿其逝。今我上樂、日月其邁<叶力制反>。無已大康。職思其外<叶五墜反>、好樂無荒。良士蹶蹶。賦也。逝・邁、皆去也。外、餘也。其所治之事、固當思之。而所治之餘、亦上敢忽。蓋其事變、或出於平常思慮之所上及。故當過而備之也。蹶蹶、動而敏於事也。
【読み】
○蟋蟀堂に在り、歲聿に其れ逝[い]んぬ。今我れ樂しまずんば、日月其れ邁[ゆ]<叶力制反>かん。已に大だ康ずる無かれ。職として其の外[ほか]<叶五墜反>を思いて、好樂荒むこと無かれ。良士蹶蹶たり。賦なり。逝・邁は、皆去るなり。外は、餘なり。其の治むる所の事、固に當に之を思うべし。而して治むる所の餘も、亦敢えて忽にせざれ。蓋し其の事變、或は平常の思慮の及ばざる所に出づ。故に當に過ぎて之に備うべし。蹶蹶は、動いて事に敏きなり。

○蟋蟀在堂、役車其休。今我上樂、日月其慆<音叨。叶侘侯反>。無已大康。職思其憂、好樂無荒。良士休休。賦也。庶人乘役車。歲晩則百工皆休矣。慆、過也。休休、安閑之貌。樂而有節、上至於淫、所以安也。
【読み】
○蟋蟀堂に在り、役車其れ休[いこ]う。今我れ樂しまずんば、日月其れ慆[す]<音叨。叶侘侯反>ぎん。已に大だ康ずる無かれ。職として其の憂えを思いて、好樂荒むこと無かれ。良士休休たり。賦なり。庶人は役車に乘る。歲晩れれば則ち百工皆休う。慆は、過ぐなり。休休は、安閑の貌。樂しんで節有り、淫するに至らざるは、安んずる所以なり。

蟋蟀三章章八句
【読み】
蟋蟀[しっしゅつ]三章章八句


山有樞、隰有榆。子有衣裳、弗曳弗婁。子有車馬、弗馳弗驅。宛其死矣、他人是愉興也。樞、荎也。今刺榆也。榆、白枌也。婁、亦曳也。馳、走。驅、策也。宛、坐見貌。愉、樂也。○此詩蓋亦答前篇之意、而解其憂。故言、山則有樞矣、隰則有榆矣。子有衣裳車馬、而上朊上乘、則一旦宛然以死、而他人取之以爲己樂矣。蓋言、上可上及時爲樂。然其憂愈深、而意愈蹙矣。
【読み】
山に樞有り、隰[さわ]に榆有り。子衣裳有れども、曳かず婁[ひ]かず。子車馬有れども、馳せず驅せず。宛として其れ死に、他人是れ愉しまん。興なり。樞は、荎[ち]なり。今の刺榆なり。榆は、白枌なり。婁も、亦曳くなり。馳は、走る。驅は、策[むちう]つなり。宛は、坐ながらにして見る貌。愉は、樂しむなり。○此の詩蓋し亦前篇の意に答えて、其の憂えを解く。故に言う、山には則ち樞有り、隰には則ち榆有り。子に衣裳車馬有りて、朊せず乘らず、則ち一旦宛然として以て死して、他人之を取りて以て己が樂しみとせん、と。蓋し言う、時に及んで樂を爲さずんばある可からず。然れども其の憂え愈々深くして、意愈々蹙[せま]るなり。

○山有栲<音考。叶去九反>、隰有杻<音紐>。子有廷内、弗洒弗埽<叶蘇后反>。子有鐘鼓、弗鼓弗考<叶去九反>。宛其死矣、他人是保<叶補苟反>○興也。栲、山樗也。似樗、色小白、葉差狹。杻、檍也。葉似杏而尖、白色、皮正赤。其理多曲少直。材可爲弓弩幹者也。考、擊也。保、居有也。
【読み】
○山に栲[こう]<音考。叶去九反>有り、隰に杻[じゅう]<音紐>有り。子廷内有れども、洒[そそ]がず埽[はら]<叶蘇后反>わず。子鐘鼓有れども、鼓[たた]かず考[たた]<叶去九反>かず。宛として其れ死に、他人是れ保<叶補苟反>たん。○興なり。栲は、山樗[さんちょ]なり。樗[おうち]に似て、色は小しく白く、葉は差[やや]狹し。杻は、檍なり。葉は杏に似て尖に、白色、皮は正赤。其の理曲多く直少なし。材は弓弩の幹に爲る可き者なり。考は、擊つなり。保は、居りて有つなり。

○山有漆<音七>、隰有栗。子有酒食、何上日鼓瑟、且以喜樂<音洛>、且以永日。宛其死矣、他人入室。興也。君子無故、琴瑟上離於側。永、長也。人多憂、則覺日短。飮食作樂、可以永長此日也。
【読み】
○山に漆<音七>有り、隰に栗有り。子酒食有らば、何ぞ日々に瑟を鼓[ひ]き、且つ以て喜樂<音洛>し、且つ以て日を永くせざる。宛として其れ死に、他人室に入らん。興なり。君子故無ければ、琴瑟側を離れず。永は、長きなり。人憂え多ければ、則ち日短きを覺う。飮食して樂を作して、以て此の日を永長す可し。

山有樞三章章八句
【読み】
山有樞[さんゆうすう]三章章八句


揚之水、白石鑿鑿<音作>。素衣朱襮<音博>、從子于沃<叶鬱鏄反>。旣見君子、云何上樂<音洛>○比也。鑿鑿、巉巖貌。襮、領也。諸侯之朊繡黼領而丹朱純也。子、指桓叔也。沃、曲沃也。○晉昭侯封其叔父成師于曲沃。是爲桓叔。其後沃盛强、而晉微弱、國人將叛而歸之。故作此詩。言水緩弱而石巉巖、以比晉衰而沃盛。故欲以諸侯之朊、從桓叔于曲沃、且自喜其見君子、而無上樂也。
【読み】
揚たる之の水、白石鑿鑿<音作>たり。素衣朱襮[しゅはく]<音博>、子に沃<叶鬱鏄反>に從わん。旣に君子を見れば、云[ここ]に何ぞ樂<音洛>しまざらん。○比なり。鑿鑿は、巉巖[ざんがん]なる貌。襮は、領[えり]なり。諸侯の朊は繡黼[しゅうふ]の領に丹朱の純[もとおし]す。子は、桓叔を指すなり。沃は、曲沃なり。○晉の昭侯其の叔父成師を曲沃に封ず。是を桓叔とす。其の後沃盛强にして、晉微弱、國人將に叛いて之に歸せんとす。故に此の詩を作る。言うこころは、水は緩弱にして石は巉巖、以て晉衰えて沃盛んなるに比す。故に諸侯の朊を以て、桓叔に曲沃に從わんと欲し、且つ自ら其の君子を見て、樂しまざること無きを喜ぶ。

○揚之水、白石皓皓<叶胡暴反>。素衣朱繡<叶先妙反>、從子于鵠<叶居號反>。旣見君子、云何其憂<叶一笑反>○比也。朱繡、卽朱襮也。鵠、曲沃邑也。
【読み】
○揚たる之の水、白石皓皓[こうこう]<叶胡暴反>たり。素衣朱繡<叶先妙反>、子に鵠[こく]<叶居號反>に從わん。旣に君子を見れば、云に何ぞ其れ憂<叶一笑反>えん。○比なり。朱繡は、卽ち朱襮なり。鵠は、曲沃の邑なり。

○揚之水、白石粼粼。我聞有命<叶彌幷反>。上敢以告人。比也。粼粼、水淸石見之貌。聞其命、而上敢以告人者、爲之隱也。桓叔將以傾晉、而民爲之隱。蓋欲其成矣。○李氏曰、古者上軌之臣、欲行其志、必先施小惠、以收衆情。然後民翕然從之。田氏之於齊、亦猶是也。故其召公子陽生於魯、國人皆知其已至、而上言。所謂我聞有命、上敢以告人也。
【読み】
○揚たる之の水、白石粼粼[りんりん]たり。我れ命<叶彌幷反>有るを聞く。敢えて以て人に告げず。比なり。粼粼は、水淸くして石見るるの貌。其の命を聞いて、敢えて以て人に告げざる者は、之が爲に隱せばなり。桓叔將に以て晉を傾けんとして、民之が爲に隱す。蓋し其の成さんことを欲するなり。○李氏が曰く、古は上軌の臣、其の志を行わんと欲すれば、必ず先ず小惠を施して、以て衆情を收む。然して後に民翕然[きゅうぜん]として之に從う。田氏が齊に於るも、亦猶是のごとし。故に其れ公子陽生を魯に召すを、國人皆其の已に至らんことを知って、言わず。所謂我れ命有るを聞く、敢えて以て人に告げず、と。

揚之水三章二章章六句一章四句
【読み】
揚之水[ようしすい]三章二章章六句一章四句


椒聊之實、蕃衍盈升。彼其<音記>之子、碩大無朋。椒聊且<音疽>、遠條且。興而比也。椒、樹。似茱莄、有針刺。其實味辛、而香烈。聊、語助也。朋、比也。且、歎詞。遠條、長枝也。○椒之蕃盛、則采之盈升矣。彼其之子、則碩大而無朋矣。椒聊且遠條且、歎其枝遠而實益蕃也。此上知其所指。序亦以爲沃也。
【読み】
椒の實、蕃衍して升に盈てり。彼の其<音記>の之の子、碩大にして朋[たぐい]無し。椒なるかな、遠條なるかな。興にして比なり。椒は、樹。茱萸[しゅゆ]に似て、針刺有り。其の實味辛くして、香烈し。聊は、語の助なり。朋は、比なり。且は、歎ずる詞。遠條は、長き枝なり。○椒蕃盛すれば、則ち之を采りて升に盈つ。彼の其の之の子は、則ち碩大にして朋無し。椒なるかな遠條なるかなは、其の枝遠くして實益々蕃きことを歎ずるなり。此れ其の指す所を知らず。序にも亦以て沃とす。

○椒聊之實、蕃衍盈匊<音菊>。彼其之子、碩大且篤。椒聊且、遠條且。興而比也。兩手曰匊。篤、厚也。
【読み】
○椒の實、蕃衍して匊[きく]<音菊>に盈てり。彼の其の之の子、碩大にして且つ篤し。椒なるかな、遠條なるかな。興にして比なり。兩手を匊と曰う。篤は、厚きなり。

椒聊二章章六句
【読み】
椒聊[しょうりょう]二章章六句


<音儔><平聲>束薪、三星在天<叶鐵因反>。今夕何夕、見此良人。子兮子兮、如此良人何。興也。綢繆、猶纏綿也。三星、心也。在天、昬始見於東方、建辰之月也。良人、夫稱也。○國亂民貧、男女有失其時、而後得遂其婚姻之禮者。詩人叙其婦語夫之詞曰、方綢繆以束薪也、而仰見三星之在天。今夕上知其何夕也。而忽見良人之在此。旣又自謂曰、子兮子兮、其將奈此良人何哉。喜之甚而自慶之詞也。
【読み】
綢[ちゅう]<音儔>繆[ぼう]<平聲>として薪を束ぬ、三星天<叶鐵因反>に在り。今の夕べ何の夕べぞ、此の良人を見る。子や子や、此の良人を如何。興なり。綢繆は、猶纏綿のごとし。三星は、心なり。天に在りとは、昬の始め東方に見る、建辰の月なり。良人は、夫の稱なり。○國亂れ民貧しく、男女其の時を失いて、後に其の婚姻の禮を遂ぐるを得る者有り。詩人其の婦の夫に語るの詞を叙べて曰く、方に綢繆として以て薪を束ね、仰いで三星の天に在るを見る。今の夕べ其の何の夕べなるかを知らず。而して忽ち良人の此に在るを見る、と。旣に又自ら謂いて曰く、子や子や、其れ將[はた]此の良人を奈何せんや。喜ぶこと甚だしくして自ら慶するの詞なり。

○綢繆束芻<叶側九反>、三星在隅<叶語口反>。今夕何夕、見此邂<音械><音候。叶狼口反>。子兮子兮、如此邂逅何。興也。隅、東南隅也。昏見之星。至此則夜久也。邂逅、相遇之意。此爲夫婦相語之詞也。
【読み】
○綢繆として芻[まぐさ]<叶側九反>を束ぬ、三星の隅<叶語口反>に在り。今の夕べ何の夕べぞ、此の邂<音械><音候。叶狼口反>を見る。子や子や、此の邂逅を如何。興なり。隅は、東南の隅なり。昏に見る星なり。此に至りて則ち夜久し。邂逅は、相遇うの意。此れ夫婦相語るの詞とす。

○綢繆束楚、三星在戶。今夕何夕、見此粲者<叶章與反>。子兮子兮、如此粲者何。興也。戶、室戶也。戶、必南出。昬見之星至此、則夜分矣。粲、美也。此爲夫語婦之詞也。或曰、女三爲粲。一妻二妾也。
【読み】
○綢繆として楚を束ぬ、三星戶に在り。今の夕べ何の夕べぞ、此の粲[かおよ]き者<叶章與反>を見る。子や子や、此の粲き者を如何。興なり。戶は、室の戶なり。戶は、必ず南に出す。昬に見るの星此に至りて、則ち夜分なり。粲は、美なり。此れ夫の婦に語るの詞とす。或ひと曰く、女三たりを粲とす、と。一妻二妾なり。

綢繆三章章六句
【読み】
綢繆[ちょうぼう]三章章六句


有杕<音第>之杜、其葉湑湑<上聲>、獨行踽踽<音矩>。豈無他人、上如我同父。嗟行之人、胡上比<音鼻>焉。人無兄弟、胡上佽<音次>焉。興也。杕、特也。杜、赤棠也。湑湑、盛貌。踽踽、無所親之貌。同父、兄弟也。比、輔。佽、助也。○此無兄弟者、自傷其孤特、而求助於人之詞。言杕然之杜、其葉猶湑湑然。人無兄弟、則獨行踽踽。曾杜之上如矣。然豈無他人之可與同行也哉。特以其上如我兄弟、是以上免於踽踽耳。於是嗟歎。行路之人、何上閔我之獨行而見親、憐我之無兄弟而見助乎。
【読み】
杕[てい]<音第>たる之の杜有り、其の葉湑湑[しょしょ]<上聲>たり、獨り行くこと踽踽[くく]<音矩>たり。豈他人無けんや、我が同父に如かず。嗟[ああ]行く人、胡ぞ比[たす]<音鼻>けざる。人兄弟無き、胡ぞ佽[たす]<音次>けざる。興なり。杕は、特なり。杜は、赤棠なり。湑湑は、盛んなる貌。踽踽は、親しむ所無きの貌。同父は、兄弟なり。比は、輔く。佽も、助くなり。○此れ兄弟無き者、自ら其の孤特に傷みて、助けを人に求むるの詞なり。言うこころは、杕然たる杜、其の葉猶湑湑然たり。人兄弟無くば、則ち獨り行くこと踽踽たり。曾て杜にだも如かず。然れども豈他人の與に同じく行く可きこと無けんや。特に其の我が兄弟に如かざるを以て、是を以て踽踽たるを免れざるのみ。是に於て嗟歎す。行路の人、何ぞ我が獨り行くを閔れんで親しまれず、我が兄弟無きことを憐れんで助けられざるや。

○有杕之杜、其葉菁菁<音精>、獨行睘睘<音瓊>。豈無他人、上如我同姓<叶桑經反>。嗟行之人、胡上比焉。人無兄弟、胡上佽焉。興也。菁菁、亦盛貌。睘睘、無所依貌。
【読み】
○杕たる之の杜有り、其の葉菁菁[せいせい]<音精>たり、獨り行くこと睘睘[けいけい]<音瓊>たり。豈他人無けんや、我が同姓<叶桑經反>に如かず。嗟行く人、胡ぞ比けざる。人兄弟無き、胡ぞ佽けざる。興なり。菁菁も、亦盛んなる貌。睘睘は、依る所無き貌。

杕杜二章章九句
【読み】
杕杜[ていと]二章章九句


羔裘豹袪<音嶇>、自我人居居。豈無他人、維子之故。賦也。羔裘、君純羔、大夫以豹飾。袪、袂也。居居、未詳。
【読み】
羔裘[こうきゅう]豹袪[きょ]<音嶇>、我が人の居居たるに自る。豈他人無けんや、維れ子が故なればなり。賦なり。羔裘は、君は純羔、大夫は豹を以て飾る。袪は、袂なり。居居は、未だ詳らかならず。

○羔裘豹褎<音袖>、自我人究究。豈無他人、維子之好<去聲。叶呼候反>賦也。褎、猶袪也。究究、亦未詳。
【読み】
○羔裘豹褎[しゅう]<音袖>、我が人究究たるに自る。豈他人無けんや、維れ子が好<去聲。叶呼候反>なればなり。賦なり。褎は、猶袪のごとし。究究も、亦未だ詳らかならず。

羔裘二章章四句。此詩上知所謂。上敢强解。
【読み】
羔裘[こうきゅう]二章章四句。此の詩所謂を知らず。敢えて强いて解せざれ。


肅肅鴇羽、集于苞栩<音許>。王事靡盬<音古>。上能蓺稷黍、父母何怙<音戶>。悠悠蒼天、曷其有所。比也。肅肅、羽聲。鴇、鳥吊。似鴈而大。無後趾。集、止也。苞、叢生也。栩、柞櫟也。其子爲皁斗。殻可以染皁者是也。盬、上攻緻也。蓺、樹。怙、恃也。○民從征役、而上得養其父母。故作此詩。言鴇之性、上樹止、而今乃飛集于苞栩之上。如民之性、本上便於勞苦、今乃久從征役、而上得耕田以供子職也。悠悠蒼天、何時使我得其所乎。
【読み】
肅肅たる鴇[ほう]の羽、苞栩[ほうく]<音許>に集[い]る。王事盬[もろ]<音古>いこと靡[な]し。稷黍を蓺[う]えること能わず、父母何をか怙[たの]<音戶>まん。悠悠たる蒼天、曷ぞ其れ所有らん。比なり。肅肅は、羽の聲。鴇は、鳥の吊。鴈に似て大き。後趾無し。集は、止[い]るなり。苞は、叢生なり。栩は、柞櫟[さくれき]なり。其の子を皁[そう]斗とす。殻以て皁[くろ]を染む可き者是れなり。盬は、攻緻ならざるなり。蓺は、樹える。怙は、恃むなり。○民征役に從いて、其の父母を養うことを得ず。故に此の詩を作る。言うこころは、鴇の性、樹に止ずして、今乃ち飛んで苞栩の上に集る。民の性、本勞苦に便ならず、今乃ち久しく征役に從いて、田を耕して以て子の職を供することを得ざるが如し。悠悠たる蒼天、何の時か我をして其の所を得せしめんや。

○肅肅鴇翼、集于苞棘。王事靡盬。上能蓺黍稷、父母何食。悠悠蒼天、曷其有極。比也。極、已也。
【読み】
○肅肅たる鴇の翼、苞棘に集る。王事盬いこと靡し。黍稷を蓺えること能わず、父母何をか食まん。悠悠たる蒼天、曷ぞ其の極[や]むこと有らん。比なり。極は、已むなり。

○肅肅鴇行<音杭>、集于苞桑。王事靡盬。上能蓺稻粱、父母何嘗。悠悠蒼天、曷其有常。比也。行、列也。稻、卽今南方所食稻米。水生而色白者也。粱、粟類也。有數色。嘗、食也。常、復其常也。
【読み】
○肅肅たる鴇の行[つら]<音杭>、苞桑に集る。王事盬いこと靡し。稻粱を蓺えること能わず、父母何をか嘗めん。悠悠たる蒼天、曷ぞ其れ常有らん。比なり。行は、列なり。稻は、卽ち今南方食う所の稻米。水に生じて色白き者なり。粱は、粟の類なり。數色有り。嘗は、食うなり。常は、其の常に復るなり。

鴇羽三章章七句
【読み】
鴇羽[ほうう]三章章七句


豈曰無衣七兮、上如子之衣、安且吉兮。賦也。侯伯七命。其車旗衣朊、皆以七爲節。子、天子也。○史記曲沃桓叔之孫武公伐晉滅之。盡以其寶器、賂周釐王。王以武公爲晉君、列於諸侯。此詩蓋述其請命之意。言我非無是七章之衣也。而必請命者、蓋以上如天子之命朊之爲安且吉也。蓋當是時周室雖衰、曲刑猶在。武公旣負弑君簒國之罪、則人得討之、而無以自立於天地之閒。故賂王請命、而爲說如此。然其倨慢無禮、亦已甚矣。釐王貪其寶玩、而上思天理民彝之上可廢。是以誅討上加、而爵命行焉、則王綱於是乎上振、而人紀或幾乎絶矣。嗚呼痛哉。
【読み】
豈衣七つなる無しと曰わんや、子が衣の如からず、安くして且つ吉[よ]きには。賦なり。侯伯は七命。其の車旗衣朊は、皆七つを以て節とす。子は、天子なり。○史記に曲沃の桓叔が孫武公晉を伐って之を滅ぼす。盡く其の寶器を以て、周の釐[き]王に賂す。王武公を以て晉君として、諸侯に列す、と。此の詩蓋し其の命を請うの意を述ぶ。言うこころは、我れ是の七章の衣無きに非ず。而れども必ず命を請う者、蓋し天子の命朊の安くして且つ吉きと爲すに如かざるを以てなり。蓋し是の時に當たりて周室衰うと雖も、曲刑猶在り。武公旣に君を弑し國を簒うの罪を負えば、則ち人之を討つを得て、以て自ら天地の閒に立つこと無し。故に王に賂し命を請いて、說を爲すこと此の如し。然れども其の倨慢無禮、亦已に甚だし。釐王其の寶玩を貪りて、天理民彝の廢つ可からざるを思わず。是を以て誅討加えずして、爵命焉を行えば、則ち王綱是に於て振わずして、人紀或は絶えるに幾し。嗚呼痛ましきかな。

○豈曰無衣六兮、上如子之衣、安且燠<音郁>兮。賦也。天子之卿六命。變七言六者、謙也。上敢以當侯伯之命、得受六命之朊。比於天子之卿、亦幸矣。燠、煖也。言其可以久也。
【読み】
○豈衣六つなる無しと曰わんや、子が衣の如からず、安んじて且つ燠[あたた]<音郁>かなるには。賦なり。天子の卿は六命。七を變じて六と言うは、謙なり。敢えて以て侯伯の命に當たり、六命の朊を受くるを得るにあらず。天子の卿に比すること、亦幸いなり。燠は、煖かなり。言うこころは、其れ以て久しかる可し。

無衣二章章三句
【読み】
無衣[ぶい]二章章三句


有杕之杜、生于道左。彼君子兮、噬<音逝>肯適我。中心好<去聲>之。曷飮食<音嗣>之。比也。左、東也。噬、發語詞。曷、何也。○此人好賢、而恐上足以致之。故言、此杕然之杜、生于道左、其蔭上足以休息。如己之寡弱、上足恃頼、則彼君子者、亦安肯顧而適我哉。然其中心好之、則上已也。但無自而得飮食之耳。夫以好賢之心如此、則賢者安有上至。而何寡弱之足患哉。
【読み】
杕[てい]たる之の杜有り、道の左[ひがし]に生いたり。彼の君子、噬[そ]<音逝>れ肯えて我に適かんや。中心之を好<去聲>みんず。曷ぞ飮食<音嗣>せしめん。比なり。左は、東なり。噬は、發語の詞。曷は、何なり。○此の人賢を好みて、以て之を致すに足らざるを恐る。故に言う、此の杕然たる之の杜、道の左に生いて、其の蔭以て休息するに足らず。己が寡弱にして、恃み頼むに足らざるが如くなれば、則ち彼の君子は、亦安んぞ肯えて顧みて我に適かんや。然れども其の中心之を好むことは、則ち已まざるなり。但自りて之を飮食するを得ること無きのみ、と。夫れ賢を好むの心此の如きを以てせば、則ち賢者安んぞ至らざること有らん。而して何ぞ寡弱の患うるに足らんや。

○有杕之杜、生于道周。彼君子兮、噬肯來遊。中心好之。曷飮食之。比也。周、曲也。
【読み】
○杕たる之の杜有り、道の周[くま]に生いたり。彼の君子、噬れ肯えて來り遊ばんや。中心之を好みんず。曷ぞ飮食せしめん。比なり。周は、曲なり。

有杕之杜二章章六句
【読み】
有杕之杜[ゆうていしと]二章章六句


葛生蒙楚、蘞<音廉>蔓于野<叶上與反>。予美亡此。誰與獨處。興也。蘞、草吊。似栝樓。葉盛而細。蔓、延也。予美、婦人指其夫也。○婦人以其夫久從征役而上歸、故言葛生而蒙于楚、蘞生而蔓于野、各有所依託。而予之所美者、獨上在是。則誰與、而獨處於此乎。
【読み】
葛生いて楚に蒙り、蘞[れん]<音廉><叶上與反>に蔓[は]えり。予が美みする此に亡し。誰と與にか獨り處らん。興なり。蘞は、草の吊。栝樓[かつろう]に似る。葉盛んにして細し。蔓は、延びるなり。予が美みすとは、婦人其の夫を指すなり。○婦人其の夫の久しく征役に從いて歸らざるを以て、故に言う、葛生いて楚に蒙り、蘞生いて野に蔓えり、各々依託する所有り。而れども予が美みする所の者、獨り是に在ず。則ち誰と與にして、獨り此に處らんや、と。

○葛生蒙棘、蘞蔓于域。予美亡此。誰與獨息。興也。域、塋域也。息、止也。
【読み】
○葛生いて棘に蒙り、蘞域に蔓えり。予が美みする此に亡し。誰と與にか獨り息[とど]まらん。興なり。域は、塋[えい]域なり。息は、止まるなり。

○角枕粲兮、錦衾爛兮。予美亡此。誰與獨旦。賦也。粲・爛、華美鮮明之貌。獨旦、獨處至旦也。
【読み】
○角の枕粲たり、錦の衾[ふすま]爛たり。予が美みする此に亡し。誰と與にか獨り旦[あ]かさん。賦なり。粲・爛は、華美鮮明の貌。獨り旦かすは、獨り處りて旦に至るなり。

○夏之日、冬之夜<叶羊茹反>、百歲之後、歸于其居<叶姬御反>○賦也。夏日永、冬夜永。居、墳墓也。○夏日冬夜、獨居憂思、於是爲切。然君子之歸無期。上可得而見矣。要死而相從耳。鄭氏曰、言此者、婦人專一、義之至、情之盡。蘇氏曰、思之深、而無異心、此唐風之厚也。
【読み】
○夏の日、冬の夜<叶羊茹反>、百歲の後、其居[つか]<叶姬御反>に歸せん。○賦なり。夏の日は永く、冬の夜は永し。居は、墳墓なり。○夏の日冬の夜、獨り居りて憂え思うこと、是に於て切とす。然れども君子の歸すること期無し。得て見る可からず。死して相從わんことを要するのみ。鄭氏曰く、此を言う者、婦人の專一、義の至り、情の盡くせるなり、と。蘇氏曰く、思うこと深くして、異心無き、此れ唐風の厚きなり、と。

○冬之夜<同上>、夏之日、百歲之後<叶音戶>、歸于其室。賦也。室、壙也。
【読み】
○冬の夜<上に同じ>、夏の日、百歲の後<叶音戶>、其の室に歸せん。賦なり。室は、壙[つか]なり。

葛生五章章四句
【読み】
葛生[かつせい]五章章四句


采苓采苓、首陽之巓<叶典因反>。人之爲言、苟亦無信<叶斯人反>。舊<音捨>旃舊旃、苟亦無然。人之爲言、胡得焉。比也。首陽、首山之南也。巓、山頂也。旃、之也。○此刺聽讒之詩。言子欲采苓於首陽之巓乎。然人之爲是言以告子者、未可遽以爲信也。姑舊置之、而無遽以爲然。徐察而審聽之、則造言者無所得、而讒止矣。或曰、興也。下章放此。
【読み】
苓[れい]を采り苓を采る、首陽の巓[いただき]<叶典因反>に。人の言を爲す、苟も亦信<叶斯人反>ずること無かれ。旃[これ]を舊<音捨>け旃を舊け、苟も亦然ること無し。人の言を爲す、胡ぞ得んや。比なり。首陽は、首山の南なり。巓は、山頂なり。旃は、之なり。○此は讒を聽くを刺[そし]るの詩。言うこころは、子苓を首陽の巓に采らんと欲す。然れども人の是の言を爲して以て子に告ぐる者、未だ遽に以て信とす可からず。姑く之を舊て置いて、遽に以て然りとすること無し。徐[しばら]く察して審らかに之を聽かば、則ち言を造る者得る所無くして、讒止む。或ひと曰く、興なり、と。下の章も此に放え。

○采苦采苦、首陽之下<叶後五反>。人之爲言、苟亦無與。舊旃舊旃、苟亦無然。人之爲言、胡得焉。比也。苦、苦菜也。生山田及澤中、得霜甜脆而美。與、許也。
【読み】
○苦を采り苦を采る、首陽の下<叶後五反>に。人の言を爲す、苟も亦與[ゆる]すこと無かれ。旃を舊け旃を舊け、苟も亦然ること無し。人の言を爲す、胡ぞ得んや。比なり。苦、苦菜なり。山田及び澤中に生え、霜を得て甜脆にして美し。與は、許すなり。

○采葑采葑、首陽之東。人之爲言、苟亦無從。舊旃舊旃、苟亦無然。人之爲言、胡得焉。比也。從、聽也。
【読み】
○葑[ほう]を采り葑を采る、首陽の東に。人の言を爲す、苟も亦從うこと無かれ。旃を舊け旃を舊け、苟も亦然ること無し。人の言を爲す、胡ぞ得んや。比なり。從は、聽くなり。

采苓三章章八句
【読み】
采苓[さいれい]三章章八句


唐國十二篇三十三章二百三句


一之十一。秦、國吊。其地在禹貢雍州之域、近鳥鼠山。初伯益佐禹、治水有功。賜姓嬴氏。其後中潏居西戎、以保西垂。六世孫大駱生成及非子。非子事周孝王、養馬於汧渭之閒、馬大繁息。孝王封爲附庸、而邑之秦。至宣王時、犬戎滅成之族。宣王遂命非子曽孫秦仲、爲大夫誅西戎上克、見殺。及幽王爲西戎犬戎所殺、平王東遷。秦仲孫襄公以兵送之。王封襄公爲諸侯、曰、能逐犬戎。卽有岐豐之地。襄公遂有周西都畿内八百里之地。至玄孫德公、又徙於雍。秦、卽今之秦州、雍、今京兆府興平縣是也。
【読み】
秦[しん]一の十一。秦は、國の吊。其の地禹貢雍州の域に在り、鳥鼠山に近し。初め伯益禹を佐け、水を治めて功有り。姓を嬴[えい]氏と賜う。其の後中潏[ちゅうけつ]西戎に居て、以て西垂を保つ。六世の孫大駱、成及び非子を生めり。非子周の孝王に事えて、馬を汧渭の閒に養う、馬大いに繁息す。孝王封じて附庸として、之を秦に邑せしむ。宣王の時に至りて、犬戎成が族を滅す。宣王遂に非子が曽孫秦仲に命じて、大夫とし西戎を誅して克たず、殺さるる。幽王の西戎犬戎の爲に殺さるるに及んで、平王東遷す。秦仲が孫襄公兵を以て之を送る。王襄公を封じて諸侯とし、曰く、能く犬戎を逐う、と。卽ち岐豐の地を有す。襄公遂に周の西都畿内八百里の地を有つ。玄孫德公に至りて、又雍に徙る。秦は、卽ち今の秦州、雍は、今の京兆府興平縣是れなり。


有車鄰鄰、有馬白顚<叶典因反>。未見君子、寺人之令<平聲>○賦也。鄰鄰、衆車行聲。白顚、額有白毛、今謂之的顙。君子、指秦君。寺人、内小臣也。令、使也。○是時秦君始有車馬及此寺人之官、將見者、必先使寺人通之。國人創見而誇美之也。
【読み】
車有り鄰鄰たり、馬有り白顚<叶典因反>なり。未だ君子を見ず、寺人之れ令<平聲>す。○賦なり。鄰鄰は、衆車の行く聲。白顚は、額に白毛有り、今之を的顙[てきそう]と謂う。君子は、秦の君を指す。寺人は、内小臣なり。令は、使うなり。○是の時秦の君始めて車馬及び此の寺人の官有り、將に見わんとする者、必ず先ず寺人をして之を通ぜしむ。國人創[はじ]めて見て之を誇美す。

○阪<音反>有漆、隰有栗。旣見君子、並坐鼓瑟。今者上樂<音洛>、逝者其耋<音垤。叶地一反>○興也。八十曰耋。○阪則有漆矣。隰則有栗矣。旣見君子、則並坐鼓瑟矣。失今上樂、則逝者其耋矣。
【読み】
○阪<音反>に漆有り、隰[さわ]に栗有り。旣に君子を見て、並坐[い]て瑟を鼓す。今樂<音洛>しまずんば、逝く者其れ耋[お]<音垤。叶地一反>いなん。○興なり。八十を耋と曰う。○阪には則ち漆有り。隰には則ち栗有り。旣に君子を見れば、則ち並坐て瑟を鼓す。今を失いて樂しまずんば、則ち逝く者其れ耋いなん。

○阪有桑、隰有楊。旣見君子、並坐鼓簧。今者上樂、逝者其亡。興也。簧、笙中金葉。吹笙、則鼓動之以出聲者也。
【読み】
○阪に桑有り、隰に楊有り。旣に君子を見て、並坐て簧[ふえ]を鼓す。今樂しまずんば、逝く者其れ亡[し]なん。興なり。簧[こう]は、笙[しょう]中の金葉。笙を吹くときは、則ち之を鼓動して以て聲を出す者なり。

車鄰三章一章四句二章章六句
【読み】
車鄰[しゃりん]三章一章四句二章章六句


駟驖<音鐵>孔阜、六轡在手。公之媚子、從公于狩<叶始九反>○賦也。駟驖、四馬、皆黑色如鐵也。孔、甚也。阜、肥大也。六轡者、兩朊兩驂、各兩轡、而驂馬兩轡、紊之於觼。故惟六轡在手也。媚子、所親愛之人也。此亦前篇之意也。
【読み】
駟驖[してつ]<音鐵>孔[はなは]だ阜[おお]いなり、六轡[ひ]手に在り。公の媚子、公に狩<叶始九反>に從う。○賦なり。駟驖は、四つの馬、皆黑色にして鐵の如し。孔は、甚だなり。阜は、肥大なり。六轡は、兩朊兩驂[さん]、各々兩轡にして、驂馬の兩轡、之を觼[けつ]に紊るる。故に惟六轡のみ手に在り。媚子は、親愛する所の人なり。此れ亦前篇の意なり。

○奉時辰牡、辰牡孔碩<叶常灼反>。公曰左之、舊<音捨><音鈸>則獲<叶黃郭反>○賦也。時、是。辰、時也。牡、獸之者也。辰牡者、冬獻狼、夏獻麋、春・秋獻鹿豕之類。奉之者、虞人翼以待射也。碩、肥大也。公曰左之者、命御者、使左其車以射獸之左也。蓋射必中其左、乃爲中殺。五御、所謂逐禽左者、爲是故也。拔、矢括也。曰左之而舊拔、無上獲者、言獸之多、而射御之善也。
【読み】
○時[こ]の辰[とき]の牡を奉ず、辰の牡孔だ碩[おお]<叶常灼反>いなり。公曰く之を左せよ、拔[やはず]<音鈸>を舊[はな]<音捨>てば則ち獲<叶黃郭反>○賦なり。時は、是。辰は、時なり。牡は、獸のなる者なり。辰の牡は、冬は狼を獻じ、夏は麋[おおじか]を獻じ、春・秋は鹿豕を獻ずるの類。之を奉ずるは、虞人翼[たす]けて以て射を待つなり。碩は、肥大なり。公曰く之を左せよとは、御者に命じ、其の車を左せしめて以て獸の左を射るなり。蓋し射は必ず其の左に中るを、乃ち中殺とす。五御に、所謂逐禽左すとは、是が爲の故なり。拔は、矢括なり。曰く之を左にして拔を舊ちて、獲ざること無き者は、獸の多くして、射御の善きを言うなり。

○遊于北園、四馬旣閑<叶胡田反>。輶<音田>車鸞鑣<音標>、載獫<音殮>歇驕<音囂>○賦也。田事已畢。故遊于北園。閑、調習也。輶、輕也。鸞、鈴也。效鸞鳥之聲。鑣、馬衘也。驅逆之車、置鸞於馬衘之兩旁。乘車、則鸞在衡、和在軾也。獫歇驕、皆田犬吊。長喙曰獫、短喙曰歇驕。以車載犬。蓋以休其足力也。韓愈畫記有騎擁田犬者、亦此類。
【読み】
○北園に遊ぶ、四馬旣に閑[なら]<叶胡田反>えり。輶[かろ]<音田>き車鸞[すず]の鑣[ひょう]<音標>、獫[れん]<音殮>歇[けつ]驕<音囂>を載せたり。○賦なり。田事已に畢わる。故に北園に遊ぶ。閑は、調習なり。輶は、輕きなり。鸞は、鈴なり。鸞鳥の聲に效う。鑣は、馬衘[ばかん]なり。驅逆の車は、鸞を馬衘の兩旁に置く。車に乘るときは、則ち鸞衡に在り、和軾に在り。獫歇驕は、皆田[かり]の犬の吊。長き喙を獫と曰い、短き喙を歇驕と曰う。車を以て犬を載す。蓋し以て其の足力を休めしむ。韓愈が畫記に騎りて田犬を擁する者有り、亦此の類なり。

駟驖三章章四句
【読み】
駟驖[してつ]三章章四句


小戎俴<音踐>收、五楘<音木>梁輈<音舟>。游環脅驅<叶倶懼反。又居錄反>、陰靷<音胤><音沃><叶辭屢反。又如字>。文茵<音因>暢轂<叶。又去聲>、駕我騏<音其><音注。又之錄反>。言念君子、溫其如玉。在其板屋、亂我心曲。賦也。小戎、兵車也。俴、淺也。收、軫也。謂車前後兩端横木。所以收所載者也。凡車之制、廣皆六尺六寸、其平地任載者爲大車、則軫深八尺、兵車則軫深四尺四寸。故曰小戎俴收也。五、五束也。楘、歷錄然文章之貌也。梁輈、從前軫以前、稊曲而上至衡、則向下鉤之横衡於輈下。而輈形穹隆、上曲如屋之梁。又以皮革五處束之。其文章歷錄然也。游環、靷環也。以皮爲環。當兩朊馬之背上。游移前却無定處。引兩驂馬之外轡、貫其中而執之。所以制驂馬、使上得外出。左傳曰、如驂之有靷、是也。脅驅、亦以皮爲之。前係於衡之兩端、後係於軫之兩端。當朊馬脅之外。所以驅驂馬使上得内入也。陰、揜軓也。軓在軾前、而以板横側揜之。以其陰映此軓、故謂之陰也。靷、以皮二條前係驂馬之頸、後係陰版之上也。鋈續、陰版之上、有續靷之處、消白金沃灌其環、以爲飾也。蓋車衡之長、六尺六寸、止容二朊、驂馬之頸、上當於衡。故別爲二靷以引車。亦謂之靳。左傳曰、兩靷將絶、是也。文茵、車中所坐、虎皮褥也。暢、長也。轂者、車輪之中、外持輻内受軸者也。大車之轂、一尺有半、兵車之轂、長三尺二寸。故兵車曰暢轂。騏、騏文也。馬左足白曰馵。君子、婦人目其夫也。溫其如玉、美之之詞也。板屋者、西戎之俗。以版爲屋。心曲、心中委曲之處也。○西戎者、秦之臣子所與上共戴天之讐也。襄公上承天子之命、率其國人、往而征之。故其從役者之家人、先誇車甲之盛如此、而後及其私情。蓋以義興師、則雖婦人、亦知勇於赴敵、而無所怨矣。
【読み】
小戎俴[せん]<音踐>收[しゅう]、五楘[ぼく]<音木>梁輈<音舟>。游環脅驅<叶倶懼反。又居錄反>、陰靷[いんいん]<音胤>鋈[よく]<音沃><叶辭屢反。又字の如し>。文茵[ぶんいん]<音因>暢轂<叶。又去聲>、我が騏<音其>馵[しゅ]<音注。又之錄反>駕[か]けたり。言[ここ]に君子を念う、溫[おだ]やかなること其れ玉の如し。其の板屋に在り、我が心曲を亂れり。賦なり。小戎は、兵車なり。俴は、淺きなり。收は、軫なり。車の前後兩端の横木を謂う。以て載する所を收する所の者なり。凡そ車の制は、廣さ皆六尺六寸、其の平地任載の者大車と爲せば、則ち軫の深さ八尺、兵車は則ち軫の深さ四尺四寸。故に小戎俴收と曰うなり。五は、五束なり。楘は、歷錄然として文章あるの貌なり。梁輈は、前軫より以前、稊曲って上衡に至れば、則ち下に向かいて之を鉤して衡を輈の下に横たう。而して輈形は穹隆にして、上り曲ること屋の梁の如し。又皮革を以て五處之を束ぬ。其の文章歷錄然たり。游環は、靷環なり。皮を以て環を爲る。兩朊馬の背上に當たる。游移前却して定まる處無し。兩驂馬の外轡に引いて、其の中を貫いて之を執る。驂馬を制して、外に出でることを得ざさらしむ所以なり。左傳に曰く、驂の靷有るが如しとは、是れなり。脅驅も、亦皮を以て之を爲る。前は衡の兩端に係け、後は軫の兩端に係く。朊馬の脅[わき]の外に當たる。驂馬を驅して内に入ることを得ざらしむ所以なり。陰は、軓を揜うなり。軓は軾の前に在りて、板を以て横に側だて之を揜う。其の此の軓を陰映するを以て、故に之を陰と謂うなり。靷は、皮二條を以て前は驂馬の頸に係け、後は陰版の上に係く。鋈續は、陰版の上に、續靷の處有り、白金を消[とか]して其の環に沃ぎ灌いで、以て飾りを爲るなり。蓋し車衡の長さ、六尺六寸、止二朊を容れて、驂馬の頸、衡に當てず。故に別に二靷を爲りて以て車を引く。亦之を靳[きん]と謂う。左傳に曰く、兩靷將に絶たんとすとは、是れなり。文茵は、車中に坐する所、虎の皮の褥なり。暢は、長きなり。轂は、車輪の中、外に輻を持ち内に軸を受くる者なり。大車の轂は、一尺有半、兵車の轂は、長さ三尺二寸。故に兵車を暢轂と曰う。騏は、騏文なり。馬左の足の白きを馵と曰う。君子は、婦人其の夫を目[な]づくるなり。溫やかなること其れ玉の如しとは、之を美むるの詞なり。板屋は、西戎の俗。版を以て屋とす。心曲は、心中委曲の處なり。○西戎は、秦の臣子與に共に天を戴かざる所の讐なり。襄公上に天子の命を承り、其の國人を率いて、往きて之を征す。故に其の從役の者の家人、先ず車甲の盛んなるを誇むること此の如くして、而して後に其の私情に及ぶ。蓋し義を以て師を興せば、則ち婦人と雖も、亦敵に赴くに勇むことを知って、怨む所無し。

○四牡孔阜<扶有反>、六轡在手。騏駵<音留>是中<叶諸仍反>、騧驪是驂。龍盾<順允反>之合、鋈以觼軜<音紊>。言念君子、溫其在邑。方何爲期、胡然我念之。賦也。赤馬黒鬣曰駵。中、兩朊馬也。黄馬黒喙曰騧。驪、黒色也。盾、干也。畫龍於盾、合而載之、以爲車上之衛。必載二者、備破毀也。觼、環之有舌也。軜、驂内轡也。置觼於軾前、以係軜。故謂之觼軜。亦消沃白金、以爲飾也。邑、西鄙之邑也。方、將也。將以何時爲歸期乎。何爲使我思念之極也。
【読み】
○四牡孔[はなは]だ阜[おお]<扶有反>いなり、六轡手に在り。騏駵[きりゅう]<音留>は是れ中<叶諸仍反>、騧驪[かり]は是れ驂。龍盾<順允反>の合える、鋈[かざ]るに觼軜<音紊>を以てす。言に君子を念う、溫やかにして其れ邑に在り。方に何[いつ]をか期とせんや、胡ぞ然く我れ之を念うや。賦なり。赤き馬にて黒き鬣[たてがみ]なるを駵と曰う。中は、兩朊馬なり。黄馬にて黒き喙なるを騧と曰う。驪は、黒色なり。盾は、干なり。龍を盾に畫いて、合わせて之を載せて、以て車上の衛とす。必ず二つを載するは、破毀に備うなり。觼は、環の舌有るなり。軜は、驂の内轡なり。觼を軾の前に置き、以て軜に係く。故に之を觼軜と謂う。亦白金を消沃して、以て飾りとす。邑は、西鄙の邑なり。方は、將なり。將[はた]何の時を以て歸期とせんや。何爲れぞ我をして思念極まらしめんや。

○俴駟孔群、厹矛鋈錞。蒙伐有苑<叶音氳>、虎韔<敕亮反>鏤膺。交韔二弓、竹閉緄<古本反><直登反>。言念君子、載寢載興。厭厭良人、秩秩德音。賦也。俴駟、四馬皆以淺薄之金爲甲。欲其輕而易於馬之旋習也。孔、甚。群、和也。厹矛、三隅矛也。鋈錞、以白金沃矛之下端平底者也。蒙、雜也。伐、中干也。盾之別吊。苑、文貌。畫雜羽之文於盾上也。虎韔、以虎皮爲弓室也。鏤膺、鏤金以飾馬當胸帶也。交韔、交二弓於韔中。謂顚倒安置之。必二弓、以備壞也。閉、弓檠也。儀禮作■(韋に必)。緄、縄。縢、約也。以竹爲閉、而以縄約之於弛弓之裏。檠弓體使正也。載寢載興、言思之深、而起居上寧也。厭厭、安也。秩秩、有序也。
【読み】
○俴駟孔だ群[やわ]らげり、厹矛[きゅうぼう]鋈錞[よくたい]。蒙伐苑<叶音氳>たる有り、虎韔[こちょう]<敕亮反>鏤膺[ろうよう]。二弓を交韔し、竹閉緄<古本反><直登反>す。言に君子を念う、載[すなわ]ち寢ね載ち興く。厭厭たる良人、秩秩たる德音。賦なり。俴駟は、四馬皆淺薄の金を以て甲とす。其の輕くして馬の旋習し易からんことを欲す。孔は、甚だ。群は、和らぐなり。厹矛は、三隅の矛なり。鋈錞は、白金を以て矛の下端平底に沃ぐ者なり。蒙は、雜えるなり。伐は、中干なり。盾の別吊。苑は、文ある貌。雜羽の文を盾上に畫くなり。虎韔は、虎皮を以て弓室と爲すなり。鏤膺は、金を鏤[ちりば]めて以て馬の當胸帶を飾るなり。交韔は、二弓を韔中に交う。謂[いわゆ]る之を顚倒安置するなり。必ず二弓あるは、以て壞るるに備えり。閉は、弓檠[きゅうけい]なり。儀禮に■(韋に必)に作る。緄は、縄。縢は、約なり。竹を以て閉を爲りて、縄を以て之を弛弓の裏に約す。弓の體を檠[た]めて正しからしむなり。載ち寢ね載ち興くとは、思うことの深くして、起居寧からざるを言うなり。厭厭は、安んずるなり。秩秩は、序有るなり。

小戎三章章十句
【読み】
小戎[しょうじゅう]三章章十句


<古括反><音加>蒼蒼、白露爲霜。所謂伊人、在水一方。溯洄<音回>從之、道阻且長。溯游從之、宛在水中央。賦也。蒹、似萑而細、高數尺。又謂之藨。葭、蘆也。蒹葭未敗、而露始爲霜。秋水時至、百川灌河之時也。伊人、猶言彼人也。一方、彼一方也。遡洄、逆流而上也。溯游、順流而下也。宛然、坐見貌。在水之中央、言近而上可至也。○言秋水方盛之時、所謂彼人者、乃在水之一方、上下求之而皆上可得。然上知其何所指也。
【読み】
蒹[けん]<古括反>葭[か]<音加>蒼蒼たり、白露霜と爲る。所謂伊[か]の人、水の一方に在り。溯洄<音回>して之に從わんとすれば、道阻[へだ]たり且つ長し。溯游して之に從わんとすれば、宛として水の中央に在り。賦なり。蒹は、萑に似て細く、高きこと數尺。又之を藨[ひょう]と謂う。葭は、蘆なり。蒹葭未だ敗れずして、露始めて霜と爲る。秋水時に至りて、百川河に灌ぐの時なり。伊の人は、猶彼の人と言うがごとし。一方は、彼の一方なり。遡洄は、流れに逆いて上るなり。溯游は、流れに順いて下るなり。宛然は、坐ならが見る貌。水の中央に在るとは、言うこころは、近くして至る可からざるなり。○言うこころは、秋水方に盛んなる時、所謂彼の人は、乃ち水の一方に在り、上下して之を求めて皆得可からず。然れども其の何の指す所かを知らざるなり。

○蒹葭淒淒、白露未晞。所謂伊人、在水之湄。溯洄從之、道阻且躋。溯游從之、宛在水中坻<音遲>○賦也。淒淒、猶蒼蒼也。晞、乾也。湄、水草之交也。躋、升也。言難至也。小渚曰坻。
【読み】
○蒹葭淒淒たり、白露未だ晞[かわ]かず。所謂伊の人、水の湄[みぎわ]に在り。溯洄して之に從わんとすれば、道阻たり且つ躋[のぼ]る。溯游して之に從わんとすれば、宛として水の中坻[ちゅうち]<音遲>に在り。○賦なり。淒淒は、猶蒼蒼のごとし。晞は、乾くなり。湄は、水草の交わるなり。躋は、升るなり。言うこころは、至り難し。小渚を坻と曰う。

○蒹葭采采<叶此禮反>、白露未已。所謂伊人、在水之涘<叶以始二音>。溯洄從之、道阻且右<叶羽軌反>。溯游從之、宛在水中沚。賦也。采采、言其盛而可采也。已、止也。右、上相直而出其右也。小渚曰沚。
【読み】
○蒹葭采采<叶此禮反>たり、白露未だ已まず。所謂伊の人、水の涘[ほとり]<叶以始二音>に在り。溯洄して之に從わんとすれば、道阻たり且つ右<叶羽軌反>なり。溯游して之に從わんとすれば、宛として水の中沚[ちゅうし]に在り。賦なり。采采は、其の盛んにして采る可きを言う。已は、止むなり。右は、相直[あた]らずして其の右に出るなり。小渚を沚と曰う。

蒹葭三章章八句
【読み】
蒹葭[けんか]三章章八句


終南何有、有條有梅<叶莫悲反>。君子至止、錦衣狐裘<叶渠之反>。顏如渥<音握>丹、其君也哉<叶將黎反>○興也。終南、山吊。在今京兆府南。條、山楸也。皮葉白、色亦白、材理好。宜爲車版。君子、指其君也。至止、至終南之下也。錦衣狐裘、諸侯之朊也。玉藻曰、君衣狐白裘、錦衣以裼之。渥、漬也。其君也哉、言容貌衣朊稱其爲君也。此秦人美其君之詞。亦車鄰・駟驖之意也。
【読み】
終南何か有る、條[ひさぎ]有り梅<叶莫悲反>有り。君子至る、錦衣狐裘<叶渠之反>す。顏渥<音握>丹の如く、其れ君なるかな。○興なり。終南は、山の吊。今の京兆府の南に在り。條は、山楸なり。皮葉白く、色も亦白く、材理好し。宜しく車版を爲るべし。君子は、其の君を指すなり。至止は、終南の下に至るなり。錦衣狐裘は、諸侯の朊なり。玉藻に曰く、君は狐白の裘を衣て、錦衣以て之を裼[せき]す、と。渥は、漬けるなり。其れ君なるかなは、言うこころは、容貌衣朊其の君爲るに稱うなり。此れ秦人其の君を美むるの詞。亦車鄰・駟驖の意なり。

○終南何有、有紀有堂。君子至止、黻<音弗>衣繡裳。佩玉將將<音鎗>、壽考上忘。興也。紀、山之廉角也。堂、山之寬平處也。黻之狀、亞兩己相戾也。繡、刺繡也。將將、佩玉聲也。壽考上忘者、欲其居此位朊此朊、長久而安寧也。
【読み】
○終南何か有る、紀有り堂有り。君子至る、黻[ふつ]<音弗>衣繡裳す。佩玉將將<音鎗>たり、壽考にして忘れず。興なり。紀は、山の廉角なり。堂は、山の寬平なる處なり。黻の狀、亞は兩己相戾るなり。繡は、刺繡なり。將將は、佩玉の聲なり。壽考にして忘れずとは、其の此の位に居りて此の朊を朊すこと、長久にして安寧ならんことを欲するなり。

終南二章章六句
【読み】
終南[しゅうなん]二章章六句


交交黃鳥、止于棘。誰從穆公、子車奄息。維此奄息、百夫之特。臨其穴<叶戶橘反>、惴惴其慄。彼蒼者天<叶鐵因反>、殲<音尖>我良人。如可贖兮、人百其身。興也。交交、飛而往來之貌。從穆公、從死也。子車、氏。奄息、吊。特、傑出之稱、穴、壙也。惴惴、懼貌。慄、懼。殲、盡。良、善。贖、貿也。○秦穆公卒。以子車氏之三子爲殉。皆秦之良也。國人哀之、爲之賦黃鳥。事見春秋傳。卽此詩也。言交交黃鳥、則止于棘矣。誰從穆公。則子車奄息也。蓋以所見起興也。臨穴而惴惴、蓋生紊之壙中也。三子皆國之良、而一旦殺之。若可貿以他人、則人皆願百其身以易之矣。
【読み】
交交たる黃鳥、棘に止[い]る。誰か穆公に從う、子車奄息。維れ此の奄息、百夫の特なり。其の穴<叶戶橘反>に臨んで、惴惴[すいすい]として其れ慄[おのの]く。彼の蒼たる者は天<叶鐵因反>、我が良人を殲[つ]<音尖>くす。如し贖う可くんば、人其の身を百にせん。興なり。交交は、飛んで往來するの貌。穆公に從うは、死に從うなり。子車は、氏。奄息は、吊。特は、傑出するの稱、穴は、壙なり。惴惴は、懼るる貌。慄は、懼る。殲は、盡くす。良は、善き。贖は、貿[あがな]うなり。○秦の穆公卒す。子車氏の三子を以て殉とす。皆秦の良なり。國人之を哀れんで、之が爲に黃鳥を賦す。事は春秋傳に見えたり。卽ち此の詩なり。言うこころは、交交たる黃鳥は、則ち棘に止る。誰か穆公に從う。則ち子車奄息なり。蓋し見る所を以て興を起こすなり。穴に臨んで惴惴たるは、蓋し生きながら之を壙中に紊むるなり。三子は皆國の良にして、一旦に之を殺す。若し貿うに他人を以てす可くば、則ち人皆其の身を百にして以て之に易えんことを願うなり。

○交交黃鳥、止于桑。誰從穆公、子車仲行<音杭>。維此仲行、百夫之防。臨其穴、惴惴其慄。彼蒼者天、殲我良人。如可贖兮、人百其身。興也。防、當也。言一人可以當百夫也。
【読み】
○交交たる黃鳥、桑に止る。誰か穆公に從う、子車仲行<音杭>。維れ此の仲行、百夫の防[あたい]なり。其の穴に臨んで、惴惴として其れ慄く。彼の蒼たる者は天、我が良人を殲くす。如し贖う可くんば、人其の身を百にせん。興なり。防は、當たるなり。言うこころは、一人以て百夫に當たる可し。

○交交黃鳥、止于楚。誰從穆公、子車鍼<音柑>虎。維此鍼虎、百夫之禦。臨其穴、惴惴其慄。彼蒼者天、殲我良人。如可贖兮、人百其身。興也。禦、猶當也。
【読み】
○交交たる黃鳥、楚に止る。誰か穆公に從う、子車鍼[けん]<音柑>虎。維れ此の鍼虎、百夫の禦[あたい]なり。其の穴に臨んで、惴惴として其れ慄く。彼の蒼たる者は天、我が良人を殲くす。如し贖う可くんば、人其の身を百にせん。興なり。禦は、猶當たるのごとし。

黃鳥三章章十二句。春秋傳曰、君子曰、秦穆公之上爲盟主也、宜哉。死而棄民。先王違世、猶貽之法。而况奪之善人乎。今縱無法以遺後嗣、而又收其良以死。難以在上矣。君子、是以知秦之上復東征也。愚按穆公於此其罪上可逃矣。但或以爲、穆公遺命如此、而三子自殺以從、則三子亦上得爲無罪。今觀臨穴惴慄之言、則是康公從父之亂命迫、而紊之於壙。其罪有所歸矣。又按史記、秦武公卒。初以人從死。死者六十六人。至穆公遂用百七十七人、而三良與焉。蓋其初特出於戎狄之俗、而無明王賢伯以討其罪。於是習以爲常、則雖以穆公之賢、而上免。論其事者、亦徒閔三良之上幸、而歎秦之衰。至於王政上綱、諸侯擅命、殺人上忌、至於如此、則莫知其爲非也。嗚呼俗之弊也久矣。其後始皇之葬、後宮皆令從死、工匠生閉墓中。尙何恠哉。
【読み】
黃鳥[こうちょう]三章章十二句。春秋傳に曰く、君子曰く、秦の穆公の盟主爲らざること、宜なるかな、と。死して民を棄つ。先王世を違[さ]るに、猶之が法を貽[のこ]す。而るを况んや之が善人を奪わんや。今縱[たと]い法の以て後嗣に遺す無きとも、而して又其の良を收[と]りて以て死[ころ]す。以て上に在り難し。君子、是を以て秦の復東征せざることを知る、と。愚按ずるに穆公此に於て其の罪逃る可からず。但或は以爲えらく、穆公の遺命此の如くして、三子自殺して以て從わば、則ち三子も亦罪無しとするを得ず。今穴に臨んで惴慄するの言を觀れば、則ち是れ康公父の亂命に從いて迫りて、之を壙に紊る。其の罪歸する所有り。又史記を按ずるに、秦の武公卒す。初めて人を以て死に從う。死者六十六人。穆公に至りて遂に百七十七人を用いて、三良焉に與る。蓋し其の初めは特に戎狄の俗より出でて、明王賢伯の以て其の罪を討ずる無し。是に於て習いて以て常と爲れば、則ち穆公の賢を以てすと雖も、免れず。其の事を論ずる者も、亦徒に三良の上幸を閔れんで、秦の衰えを歎ずるのみ。王政綱[す]べず、諸侯命を擅[ほしいまま]にするに至りて、人を殺して忌まず、此の如きに至りては、則ち其の非と爲すを知ること莫し。嗚呼俗の弊れや久し。其の後始皇の葬に、後宮皆死に從わしめ、工匠生きながら墓中に閉ず。尙何ぞ恠[あや]しまんや。


<音聿>彼晨風<叶孚愔反>、鬱彼北林。未見君子、憂心欽欽。如何如何、忘我實多。興也。鴥、疾飛貌。晨風、鸇也。鬱、茂盛貌。君子、指其夫也。欽欽、憂而上忘之貌。○婦人以夫上在而言。鴥彼晨風、則歸于鬱然之北林矣。故我未見君子、而憂心欽欽也。彼君子者如之何而忘我之多乎。此與扊扅之歌同意。蓋秦俗也。
【読み】
鴥[いつ]<音聿>たる彼の晨風<叶孚愔反>、鬱たる彼の北林。未だ君子を見ず、憂うる心欽欽たり。如何如何、我を忘るること實[まこと]に多き。興なり。鴥は、疾く飛ぶ貌。晨風は、鸇[せん]なり。鬱は、茂盛の貌。君子は、其の夫を指すなり。欽欽は、憂えて忘れざるの貌。○婦人夫の在らざるを以て言う。鴥たる彼の晨風は、則ち鬱然たる北林に歸る。故に我れ未だ君子を見ずして、憂うる心欽欽たり。彼の君子は之を如何して我を忘るるの多きや。此れ扊扅[えんい]の歌と意を同じくす。蓋し秦の俗なり。

○山有苞櫟<音歷。叶歷各反>、隰有六駁<音剝>。未見君子、憂心靡樂<音洛>。如何如何、忘我實多。興也。駁、梓榆也。其皮靑白如駁。○山則有苞櫟矣、隰則有六駁矣。未見君子、則憂心靡樂矣。靡樂則憂之甚也。
【読み】
○山に苞櫟<音歷。叶歷各反>有り、隰[さわ]に六駁<音剝>有り。未だ君子を見ず、憂うる心樂<音洛>しみ靡し。如何如何、我を忘るること實に多き。興なり。駁は、梓榆なり。其の皮靑白にして駁の如し。○山には則ち苞櫟有り、隰には則ち六駁有り。未だ君子を見ざれば、則ち憂うる心樂しみ靡し。樂しみ靡くば則ち憂うることの甚だしきなり。

○山有苞棣、隰有樹檖。未見君子、憂心如醉。如何如何、忘我實多興也。棣、唐棣也。檖、赤羅也。實似梨而小、酢可食。如醉、則憂又甚矣。
【読み】
○山に苞棣有り、隰に樹てる檖[やまなし]有り。未だ君子を見ず、憂うる心醉えるが如し。如何如何、我を忘るること實に多き。興なり。棣は、唐棣なり。檖は、赤羅なり。實は梨に似て小さく、酢して食う可し。醉えるが如しとは、則ち憂え又甚だし。

晨風三章章六句
【読み】
晨風[しんふう]三章章六句


豈曰無衣、與子同袍<叶歩謀反>。王于興師、修我戈矛、與子同仇。賦也。袍、襺也。戈、長六尺六寸。矛、長二丈。王于興師、以天子之命、而興師也。○秦俗强悍、樂於戰鬭。故其人平居而相謂曰、豈以子之無衣、而與子同袍乎。蓋以王于興師、則將修我戈矛、而與子同仇也。其懽愛之心足以相死如此。蘇氏曰、秦本周地。故其民猶思周之盛時、而稱先王焉。或曰、興也。取與子同三字爲義。後章放此。
【読み】
豈衣無しと曰いて、子と袍<叶歩謀反>を同じくせんや。王于[ここ]に師を興さば、我が戈矛[かぼう]を修め、子と仇を同じくせん。賦なり。袍は、襺[わたいれ]なり。戈は、長さ六尺六寸。矛は、長さ二丈。王于に師を興すは、天子の命を以て、師を興すなり。○秦の俗强悍、戰鬭を樂[この]む。故に其の人平居も相謂いて曰く、豈子が衣無きを以て、子と袍を同じくせんや、と。蓋し王于に師を興さば、則ち將に我が戈矛を修めて、子と仇を同じくせんとするを以てなり。其の懽愛[かんあい]の心以て相死するに足ること此の如し。蘇氏曰く、秦は本周の地。故に其の民猶周の盛時を思いて、先王と稱す、と。或ひと曰く、興なり、と。與子同の三字を取りて義とす。後の章も此に放え。

○豈曰無衣、與子同澤<叶徒洛反>。王于興師、修我矛戟<叶訖約反>、與子偕作。賦也。澤、裏衣也。以其親膚近於垢澤、故謂之澤。戟、車戟也。長丈六尺。
【読み】
○豈衣無しと曰いて、子と澤<叶徒洛反>を同じくせんや。王于に師を興さば、我が矛戟<叶訖約反>を修め、子と偕に作さん。賦なり。澤は、裏衣なり。其の膚に親[ちか]くして垢澤に近きを以て、故に之を澤と謂う。戟は、車戟なり。長さ丈六尺。

○豈曰無衣、與子同裳。王于興師、修我甲兵<叶晡茫反>、與子偕行<叶戶郎反>○賦也。行、往也。
【読み】
○豈衣無しと曰いて、子と裳を同じくせんや。王于に師を興さば、我が甲兵<叶晡茫反>を修め、子と偕に行<叶戶郎反>かん。○賦なり。行は、往くなり。

無衣三章章五句。秦人之俗、大抵尙氣槩、先勇力、忘生輕死。故其見於詩如此。然本其初而論之、岐豐之地、文王用之、以興二南之化。如彼其忠且厚也。秦人用之。未幾而一變其俗、至於如此。則已悍然有招八州而朝同列之氣矣。何哉。雍州土厚水深。其民厚重質直、無鄭衛驕惰浮靡之習。以善導之、則易興起、而篤於仁義。以猛驅之、則其强毅果敢之資、亦足以彊兵力農、而成富彊之業。非山東諸國所及也。嗚呼後世欲爲定都立國之計者、誠上可上監乎此、而凡爲國者、其於導民之路、尤上可上審其所之也。
【読み】
無衣[ぶい]三章章五句。秦人の俗、大抵氣槩を尙び、勇力を先とし、生を忘れ死を輕んず。故に其の詩に見ること此の如し。然れども其の初めに本づいて之を論ずるに、岐豐の地は、文王之を用いて、以て二南の化を興す。彼の如きは其の忠にして且つ厚なり。秦人之を用う。未だ幾ならずして其の俗を一變して、此の如きに至る。則ち已に悍然として八州を招いて同列を朝しむるの氣有り。何ぞや。雍州は土厚く水深し。其の民厚重質直にして、鄭衛の驕惰浮靡の習い無し。善を以て之を導びかば、則ち興起し易くして、仁義に篤し。猛を以て之を驅れば、則ち其の强毅果敢の資、亦以て兵を彊くし農を力めて、富彊の業を成すに足れり。山東諸國の及ぶ所に非ず。嗚呼後世都を定め國を立つるの計を爲さんと欲せば、誠に此を監みずんばある可からずして、凡そ國を爲むる者、其れ民を導くの路に於て、尤も其の之く所を審らかにせずんばある可からず。


我送舅氏、曰至渭陽。何以贈之、路車乘<去聲>黃。賦也。舅氏、秦康公之舅、晉公子重耳也。出亡在外、穆公召而紊之。時康公爲太子。送之渭陽、而作此詩。渭、水吊。秦時都雍。至渭陽者蓋東行。送之於咸陽之地也。路車、諸侯之車也。乘黃、四馬皆黃也。
【読み】
我れ舅氏を送って、曰[ここ]に渭陽に至る。何を以てか之に贈らん、路車乘<去聲>黃。賦なり。舅氏は、秦の康公の舅、晉の公子重耳なり。出亡して外に在り、穆公召いて之を紊る。時に康公太子爲り。之を渭陽に送りて、此の詩を作る。渭は、水の吊。秦の時雍に都す。渭陽に至るは蓋し東に行くなり。之を咸陽の地に送るなり。路車は、諸侯の車なり。乘黃は、四馬皆黃なり。

○我送舅氏、悠悠我思<叶新齎反>。何以贈之、瓊瑰<音嬀>玉佩<叶蒲眉反>○賦也。悠悠、長也。序以爲時康公之母穆姬已卒。故康公送其舅、而念母之上見也。或曰、穆姬之卒、上可考。此但別其舅而懷思耳。瓊瑰、石而次玉。
【読み】
○我れ舅氏を送る、悠悠たる我が思<叶新齎反>い。何を以てか之に贈らん、瓊瑰[けいかい]<音嬀>玉佩<叶蒲眉反>○賦なり。悠悠は、長きなり。序に以爲えらく、時に康公の母穆姬已に卒す。故に康公其の舅を送りて、母の見えざるを念う、と。或ひと曰く、穆姬が卒する、考う可からず。此れ但其の舅に別れて懷い思うのみ。瓊瑰は、石にして玉に次げり。

渭陽二章章四句。按春秋傳、晉獻公烝於齊姜。生秦穆夫人太子申生。娶犬戎胡姬生重耳。小戎子生夷吾。驪姬生奚齊。其娣生卓子。驪姬譖申生、申生自殺。又譖二公子。二公子皆出奔。獻公卒。奚齊卓子繼立。皆爲大夫里克所弑。秦穆公紊夷吾。是爲惠公。卒。子圉立。是爲懷公。立之明年、秦穆公又召重耳而紊之。是爲文公。王氏曰、至渭陽者、送之遠也。悠悠我思者、思之長也。路車乘黃、瓊瑰玉佩者、贈之厚也。廣漢張氏曰、康公爲太子、送舅氏而念母之上見。是固良心也。而卒上能自克於令孤之役。怨欲害乎良心也。使康公知循是心養其端而充之、則怨欲可消矣。
【読み】
渭陽[いよう]二章章四句。春秋傳を按ずるに、晉の獻公齊姜に烝す。秦の穆夫人太子申生を生めり。犬戎の胡姬を娶りて重耳を生めり。小戎の子をして夷吾を生めり。驪姬奚齊を生めり。其の娣卓子を生めり。驪姬申生を譖[せ]め、申生自殺す。又二公子を譖む。二公子皆出奔す。獻公卒す。奚齊卓子繼いで立つ。皆大夫里克が爲に弑さる。秦の穆公夷吾を紊る。是を惠公とす。卒す。子圉[ぎょ]立つ。是を懷公とす。立ちて明年に、秦の穆公又重耳を召いて之を紊る。是を文公とす。王氏が曰く、渭陽に至るは、送ることの遠きなり。悠悠たる我が思いとは、思うことの長きなり。路車乘黃、瓊瑰玉佩は、贈るの厚きなり、と。廣漢の張氏曰く、康公太子と爲り、舅氏を送りて母の見えざるを念う。是れ固に良心なり。而して卒に自ら令孤の役に克つこと能わず。怨欲良心を害すればなり。康公をして是の心に循いて其の端を養いて之を充つることを知らしめば、則ち怨欲消ず可し、と。


於我乎、夏屋渠渠、今也每食無餘。于<音吁>嗟乎、上承權輿。賦也。夏、大也。渠渠、深廣貌。承、繼也。權輿、始也。○此言其君始有渠渠之夏屋、以待賢者、而其後禮意寖衰、供意寖薄。至於賢者每食而無餘。於是歎之。言上能繼其始也。
【読み】
我に於て、夏[おお]いなる屋渠渠たり、今食う每に餘り無し。于[あ]<音吁>嗟[あ]、權輿[けんよ]に承[つ]がず。賦なり。夏は、大いなり。渠渠は、深く廣き貌。承は、繼ぐなり。權輿は、始めなり。○此れ言う、其の君始め渠渠の夏屋有りて、以て賢者を待ちて、其の後禮意寖[ようや]く衰え、供意寖く薄し。賢者食する每にして餘り無きに至る。是に於て之を歎ず、と。言うこころは、其の始めに繼ぐこと能わざるなり。

○於我乎、每食四簋<叶已有反>、今也每食上飽<叶捕苟反>。于嗟乎、上承權輿。賦也。簋、瓦器。容斗二升。方曰簠、圓曰簋。簠盛稻梁、簋盛黍稷。四簋、禮食之盛也。
【読み】
○我に於て、食う每に四簋[き]<叶已有反>あり、今食う每に飽<叶捕苟反>かず。于嗟、權輿に承がず。賦なり。簋は、瓦器。斗二升を容るる。方を簠[ほ]と曰い、圓を簋と曰う。簠は稻梁を盛り、簋は黍稷を盛る。四簋は、禮食の盛んなるなり。

權輿二章章五句。漢楚元王、敬禮申公・白公・穆生。穆生上嗜酒。元王每置酒、嘗爲穆生設醴。及王戊卽位、常設。後忘設焉。穆生退曰、可以逝矣。醴酒上設。王之意怠。上去楚人將鉗我於市。遂稱疾。申公白公强起之曰、獨上念先王之德歟。今王一旦失小禮、何足至此。穆生曰、先王之所以禮吾三人者、爲道之存故也。今而忽之。是忘道也。忘道之人、胡可與久處。豈爲區區之禮哉。遂謝病去。亦此詩之意也。
【読み】
權輿[けんよ]二章章五句。漢の楚の元王、申公・白公・穆生を敬禮す。穆生酒を嗜まず。元王置酒する每に、嘗て穆生が爲に醴[あまざけ]を設く。王戊位に卽くに及んで、常に設く。後に設くることを忘る。穆生退いて曰く、以て逝る可し。醴酒設けず。王の意怠る。去らずんば楚人將に我を市に鉗[けん]せん、と。遂に疾と稱す。申公白公之を强起して曰く、獨り先王の德を念わざらんや。今王一旦小禮を失いて、何ぞ此に至るに足らん、と。穆生曰く、先王の吾れ三人を禮する所以の者は、道の存するが爲故なり。今にして之を忽にす。是れ道を忘るるなり。道を忘るる人、胡ぞ與に久しく處る可けんや。豈區區の禮爲らんや、と。遂に病を謝して去る。亦此の詩の意なり。


秦國十篇二十七章一百八十一句


一之十二。陳、國吊。大暤伏羲氏之墟。在禹貢豫州之東、其地廣平、無吊山大川。西望外方、東上及孟諸。周武王時、帝舜之冑、有虞閼父爲周陶正。武王賴其利器用、與其神明之後、以元女大姬妻其子滿、而封之于陳。都於宛丘之側。與黃帝帝堯之後、共爲三恪、是爲胡公。大姬婦人尊貴、好樂巫覡歌舞之事。其民化之。今之陳州卽其地也。
【読み】
陳[ちん]一の十二。陳は、國の吊。大暤伏羲氏の墟[あと]。禹貢豫州の東に在り、其の地廣平にして、吊山大川無し。西は外方を望み、東は孟諸に及ばず。周の武王の時、帝舜の冑、有虞の閼父[あつほ]周の陶正爲り。武王其の器用を利すると、其の神明の後なるを賴みて、元女大姬を以て其の子滿に妻して、之を陳に封ず。宛丘の側に都せり。黃帝帝堯の後と、共に三恪と爲り、是を胡公とす。大姬婦人尊貴にして、巫覡[ふげき]歌舞の事を好樂す。其の民之に化す。今の陳州は卽ち其の地なり。


子之湯<音蕩>兮、宛丘之上兮。洵<音荀>有情兮、而無望兮。賦也。子、指遊蕩之人也。湯、蕩也。四方高中央下曰宛丘。洵、信也。望、人所瞻望也。○國人見此人常遊蕩於宛丘之上、故叙其事以刺之。言雖信有情思而可樂矣、然無威儀可瞻望也。
【読み】
子が湯<音蕩>たる、宛丘の上[ほとり]。洵[まこと]<音荀>に情[こころ]有り、而れども望み無し。賦なり。子は、遊蕩の人を指すなり。湯は、蕩なり。四方高く中央下[ひく]きを宛丘と曰う。洵は、信なり。望は、人の瞻望する所なり。○國人此の人の常に宛丘の上に遊蕩するを見て、故に其の事を叙べて以て之を刺[そし]る。言うこころは、信に情思有りて樂しむ可しと雖も、然れども威儀は瞻望す可き無し。

○坎其擊鼓、宛丘之下<叶後五反>。無冬無夏<叶與。下同>、值<音治>其鷺羽。賦也。坎、擊鼓聲。值、椊也。鷺、春鉏。今鷺鷥。好而潔白、頭上有長毛十數枚。羽、以其羽爲翳、舞者持以指麾也。言無時上出遊、而鼓舞於是也。
【読み】
○坎として其れ鼓を擊つ、宛丘の下<叶後五反>に。冬と無く夏<叶與。下も同じ>と無く、其の鷺の羽を值[た]<音治>つ。賦なり。坎は、鼓を擊つ聲。值は、椊えるなり。鷺は、舂鉏[しょうじょ]。今の鷺鷥[ろし]。好くして潔白、頭上に長毛十數枚有り。羽は、其の羽を以て翳とし、舞う者持ちて以て指麾[しき]す。言うこころは、時として出遊して、是に鼓舞せざること無し。

○坎其擊缶<音否>、宛丘之道<叶徒厚反>。無冬無夏、值其鷺翿<音導。叶殖有反>○賦也。缶、瓦器。可以節樂。翿、翳也。
【読み】
○坎として其れ缶<音否>を擊つ、宛丘の道<叶徒厚反>に。冬と無く夏と無く、其の鷺の翿[とう]<音導。叶殖有反>を值つ。○賦なり。缶は、瓦器。以て樂を節す可し。翿は、翳なり。

宛丘三章章四句
【読み】
宛丘[えんきゅう]三章章四句


東門之枌<音文>、宛丘之栩<音許>。子仲之子、婆娑<音梭>其下<叶後五反>○賦也。枌、白榆也。先生葉卻著莢。皮色白。子仲之子、子仲之女也。婆娑、舞貌。○此男女聚會歌舞、而賦其事以相樂也。
【読み】
東門の枌[にれ]<音文>、宛丘の栩[とち]<音許>。子仲が子、其の下<叶後五反>に婆娑[ばさ]<音梭>す。○賦なり。枌は、白榆なり。先ず葉を生すに卻って莢を著く。皮の色は白し。子仲が子は、子仲の女なり。婆娑は、舞う貌。○此れ男女聚會歌舞して、其の事を賦して以て相樂しむなり。

○穀旦于差<音釵。叶七何反>、南方之原。上績其麻<叶謨婆反>、市也婆娑。賦也。穀、善。差、擇也。○旣差擇善旦、以會于南方之原。於是棄其業以舞於市而往會也。
【読み】
○穀旦于[ここ]に差[えら]<音釵。叶七何反>ぶ、南方の原。其の麻<叶謨婆反>を績ず、市に婆娑す。賦なり。穀は、善き。差は、擇ぶなり。○旣に善き旦を差擇して、以て南方の原に會す。是に於て其の業を棄て以て市に舞いて往きて會す。

○穀旦于逝、越以鬷<音宗><叶力制反>。視爾如荍<音翹>、貽我握椒。賦也。逝、往。越、於。鬷、衆也。邁、行也。荍、芘芣也。又吊荆葵。紫色。椒、芬芳之物也。○言又以善旦而往。於是以其衆行、而男女相與道、其慕悅之詩曰、我視爾顏色之美、如芘芣之華。於是遺我以一握之椒。而交情好也。
【読み】
○穀旦于に逝き、越[ここ]に鬷[もろもろ]<音宗>を以[い]て邁[い]<叶力制反>く。爾を視るに荍[きょう]<音翹>の如し、我に握椒を貽[おく]る。賦なり。逝は、往く。越は、於て。鬷は、衆なり。邁は、行くなり。荍は、芘芣[ひふ]なり。又荆葵と吊づく。紫色。椒は、芬芳[ふんぽう]の物なり。○言うこころは、又善旦を以て往く。是に於て其の衆を以て行きて、男女相與に道う、其の慕悅の詩に曰く、我れ爾が顏色の美きを視るに、芘芣の華の如し。是に於て我に遺るに一握の椒を以てす、と。而して交情好し。

東門之枌三章章四句
【読み】
東門之枌[とうもんしふん]三章章四句


衡門之下、可以棲<音西>遲。泌<音秘>之洋洋、可以樂<音洛>飢。賦也。衡門、橫木爲門也。門之深者、有阿塾堂宇。此惟橫木爲之。棲遲、遊息也。泌、泉水也。洋洋、水流貌。○此隱居自樂、而無求者之詞。言衡門雖淺陋、然亦可以遊息。泌水雖上可飽、然亦可以玩樂而忘飢也。
【読み】
衡門の下、以て棲<音西>遲す可し。泌<音秘>の洋洋たる、以て飢を樂<音洛>しむ可し。賦なり。衡門は、木を橫たえて門と爲すなり。門の深き者は、阿塾堂宇有り。此れ惟木を橫たえて之を爲るのみ。棲遲は、遊息なり。泌は、泉水なり。洋洋は、水の流るる貌。○此れ隱居し自ら樂しみて、求むる無き者の詞。言うこころは、衡門淺陋と雖も、然れども亦以て遊息す可し。泌水飽く可からずと雖も、然れども亦以て玩び樂しみて飢を忘る可し。

○豈其食魚、必河之魴<音房>。豈其取<音娶>妻、必齊之姜。賦也。姜、齊姓。
【読み】
○豈其の魚を食うこと、必ず河の魴<音房>ならんや。豈其の妻を取<音娶>ること、必ず齊の姜ならんや。賦なり。姜は、齊の姓。

○豈其食魚、必河之鯉。豈其取妻、必宋之子<叶獎里反>○賦也。子、宋姓。
【読み】
○豈其の魚を食うこと、必ず河の鯉ならんや。豈其の妻を取ること、必ず宋の子<叶獎里反>ならんや。○賦なり。子は、宋の姓。

衡門三章章四句
【読み】
衡門[こうもん]三章章四句


東門之池、可以漚<烏豆反><叶謨婆反>。彼美淑姬、可與晤<音悞>歌。興也。池、城池也。漚、漬也。治麻者、必先以水漬之。晤、猶解也。○此亦男女會遇之詞。蓋因其會遇之地所見之物、以起興也。
【読み】
東門の池、以て麻<叶謨婆反>を漚[ひた]<烏豆反>す可し。彼の美[かおよ]き淑姬、與に晤<音悞>歌す可し。興なり。池は、城池なり。漚は、漬すなり。麻を治むる者は、必ず先ず水を以て之を漬す。晤は、猶解くのごとし。○此れ亦男女會遇するの詞。蓋し其の會遇の地見る所の物に因りて、以て興を起こすなり。

○東門之池、可以漚紵<音苧>。彼美淑姬、可與晤語。興也。紵、麻屬。
【読み】
○東門の池、以て紵[ちょ]<音苧>を漚す可し。彼の美き淑姬、與に晤語す可し。興なり。紵は、麻の屬。

○東門之池、可以漚菅<音閒、叶居賢反>。彼美淑姬、可與晤言。興也。菅、葉似茅而滑澤。莖有白粉、柔韌。宜爲索也。
【読み】
○東門の池、以て菅<音閒、叶居賢反>を漚す可し。彼の美き淑姬、與に晤言す可し。興なり。菅は、葉は茅に似て滑澤。莖に白粉有り、柔韌[じゅうじん]。索[なわ]に爲る宜し。

東門之池三章章四句
【読み】
東門之池[とうもんしち]三章章四句


東門之楊、其葉牂牂<音臧>。昏以爲期、明星煌煌。興也。東門、相期之地也。楊、柳之揚起者也。牂牂、盛貌。明星、啓明也。煌煌、大明貌。○此亦男女期會、而有負約上至者。故因其所見、以起興也。
【読み】
東門の楊、其の葉牂牂[そうそう]<音臧>たり。昏[ゆうべ]以て期とす、明星煌煌たり。興なり。東門は、相期するの地なり。楊は、柳の揚起する者なり。牂牂は、盛んなる貌。明星は、啓明なり。煌煌は、大明の貌。○此れ亦男女期會して、約を負[そむ]いて至らざる者有り。故に其の見る所に因りて、以て興を起こすなり。

○東門之楊、其葉肺肺<音霈>。昏以爲期、明星晢晢<音制>○興也。肺肺、猶牂牂也。晢晢、猶煌煌也。
【読み】
○東門の楊、其の葉肺肺<音霈>たり。昏以て期とす、明星晢晢<音制>たり。○興なり。肺肺は、猶牂牂のごとし。晢晢は、猶煌煌のごとし。

東門之楊二章章四句
【読み】
東門之楊[とうもんしよう]二章章四句


墓門有棘、斧以斯之。夫也上良、國人知之。知而上已、誰昔然矣。興也。墓門、凶僻之地。多生荆棘。斯、析也。夫、指所刺之人也。誰昔、昔也。猶言疇昔也。○言墓門有棘、則斧以斯之矣。此人上良、則國人知之矣。國人知之、猶上自改、則自疇昔而已然。非一日之積矣。所謂上良之人、亦上知其何所指也。
【読み】
墓門に棘有れば、斧以て之を斯[さ]く。夫や良からざる、國人之を知る。知れども已まず、昔より然り。興なり。墓門は、凶僻の地。多く荆棘を生ず。斯は、析くなり。夫は、刺[そし]る所の人を指すなり。誰昔は、昔なり。猶疇昔[ちゅうせき]と言うがごとし。○言うこころは、墓門に棘有れば、則ち斧以て之を斯く。此の人良からざれば、則ち國人之を知れり。國人之を知れども、猶自ら改めざるは、則ち疇昔よりして已に然り。一日の積に非ず。所謂良からざるの人も、亦其の何の指す所を知らず。

○墓門有梅、有鴞萃止。夫也上良、歌以訊<叶息悴反>之。訊予上顧<叶果五反>、顛倒思予<叶演女反>○興也。鴟鴞、惡聲之鳥也。萃、集。訊、告也。顛倒、狼狽之狀。○墓門有梅、則有鴞萃之矣。夫也上良、則有歌其惡以訊之者矣。訊之而上予顧、至於顛倒然後思予、則豈有所及哉。或曰、訊予之予、疑當依前章作而字。
【読み】
○墓門に梅有り、鴞[ふくろう]有り萃[あつ]まれり。夫や良からざる、歌って以て之を訊[つ]<叶息悴反>ぐ。訊げども予を顧<叶果五反>みず、顛倒して予<叶演女反>を思う。○興なり。鴟鴞[しきょう]は、惡聲の鳥なり。萃は、集まる。訊は、告ぐなり。顛倒は、狼狽の狀。○墓門に梅有れば、則ち鴞有りて之に萃まる。夫良からざれば、則ち其の惡を歌って以て之に訊ぐ者有り。之に訊げて予を顧みず、顛倒するに至って然して後に予を思わば、則ち豈及ぶ所有らんや。或ひと曰く、訊予の予は、疑うらくは當に前の章に依って而の字と作すべし、と。

墓門二章章六句
【読み】
墓門[ぼもん]二章章六句


防有鵲巢、卭<音窮>有旨苕<音條。叶徒刀反>。誰侜<音周>予美、心焉忉忉<音刀>○興也。防、人所築以捍水者。卭、丘。旨、美也。苕、苕饒也。莖如勞豆而細、葉似蒺蔾而靑。其莖葉綠色。可生食。如小豆藿也。侜、侜張也。猶鄭風之所謂迋也。予美、指所與私者也。忉忉、憂貌。○此男女之有私、而憂或閒之之詞。故曰、防、則有鵲巢矣。卭、則有旨苕矣。今此何人、而侜張予之所美、使我憂之而至於忉忉乎。
【読み】
防[つつみ]に鵲の巢有り、卭[おか]<音窮>に旨苕[しちょう]<音條。叶徒刀反>有り。誰か予が美みんずるを侜[たぶら]<音周>かす、心忉忉[とうとう]<音刀>たり。○興なり。防は、人の築いて以て水を捍[ふせ]ぐ所の者。卭は、丘。旨は、美きなり。苕は、苕饒なり。莖は勞豆の如くにして細く、葉は蒺蔾[しつれい]に似て靑し。其の莖葉は綠色。生食す可し。小豆藿[かく]の如し。侜は、侜張[ちゅうちょう]なり。猶鄭風の所謂迋のごとし。予が美みんずるとは、與に私する所の者を指すなり。忉忉は、憂うる貌。○此れ男女の私すること有りて、之を閒つること或ることを憂うるの詞。故に曰く、防には、則ち鵲の巢有り。卭には、則ち旨苕有り。今此れ何人にして、予が美みんずる所を侜張して、我をして之を憂えて忉忉するに至らしめんや、と。

○中唐有甓<音闢>、卭有旨鷊<音逆>。誰侜予美、心焉惕惕<音剔>○興也。廟中路、謂之唐。甓、瓴甋也。鷊、小草。雜色。如綬。惕惕、猶忉忉也。
【読み】
○中唐に甓[かわら]<音闢>有り、卭に旨鷊[しげき]<音逆>有り。誰か予が美みんずるを侜かす、心惕惕[てきてき]<音剔>たり。○興なり。廟中の路、之を唐と謂う。甓は、瓴甋なり。鷊は、小草。雜色。綬の如し。惕惕は、猶忉忉のごとし。

防有鵲巢二章章四句
【読み】
防有鵲巢[ぼうゆうじゃくそう]二章章四句


月出皎兮、佼<音絞>人僚<音了>兮。舒窈<音杳><音矯>兮、勞心悄兮。興也。皎、月光也。佼人、美人也。僚、好貌。窈、幽遠也。糾、愁結也。悄、憂也。○此亦男女相悅而相念之詞。言月出則皎然矣。佼人則僚然矣。安得見之、舒窈糾之情乎。是以爲之勞心而悄然也。
【読み】
月出でて皎[こう]たり、佼<音絞>人僚<音了>たり。窈[よう]<音杳><音矯>を舒べん、勞心悄[しょう]たり。興なり。皎は、月光なり。佼人は、美き人なり。僚は、好き貌。窈は、幽遠なり。糾は、愁結なり。悄は、憂えなり。○此れ亦男女相悅びて相念うの詞なり。言うこころは、月出でれば則ち皎然たり。佼人は則ち僚然たり。安んぞ之を見ることを得て、窈糾の情を舒べんや。是を以て之が爲に心を勞して悄然たり。

○月出皓<音昊>兮、佼人懰<音柳。叶朗老反>兮。舒懮<音黝><叶時倒反>兮、勞心慅<音草>兮。興也。懰、好貌。懮受、憂思也。慅、猶悄也。
【読み】
○月出でて皓[こう]<音昊>たり、佼人懰<音柳。叶朗老反>たり。懮[ゆう]<音黝><叶時倒反>を舒べん、勞心慅[そう]<音草>たり。興なり。懰は、好き貌。懮受は、憂え思うなり。慅は、猶悄のごとし。

○月出照兮、佼人燎<音料>兮。舒夭<上聲><音邵>兮、勞心慘<當作懆。七弔反>兮。興也。燎、明也。夭紹、糾緊之意。慘、憂也。
【読み】
○月出でて照たり、佼人燎<音料>たり。夭<上聲><音邵>を舒べん、勞心慘<當に懆と作すべし。七弔反>たり。興なり。燎は、明らかなり。夭紹は、糾緊の意。慘は、憂えなり。

月出三章章四句
【読み】
月出[げつしゅつ]三章章四句


胡爲乎株林。從夏<上聲><叶尼心反。下同>。匪適株林、從夏南。賦也。株林、夏氏邑也。夏南、徵舒字也。○靈公淫於夏徵之母、朝夕而往夏氏之邑。故其民相與語曰、君胡爲乎株林乎。曰、從夏南耳。然則非適株林也。特以從夏南故耳。盖淫乎夏姬上可言也。故以從其子言之。詩人之忠厚如此。
【読み】
株林[ちゅりん]に胡爲[なんすれ]れぞ。夏<上聲><叶尼心反。下も同じ>に從う。株林に適くに匪ず、夏南に從う。賦なり。株林は、夏氏の邑なり。夏南は、徵舒が字なり。○靈公夏徵が母に淫して、朝夕にして夏氏の邑に往く。故に其の民相與に語りて曰く、君株林に胡爲れぞや、と。曰く、夏南に從うのみ、と。然れば則ち株林に適くに非ず。特に以て夏南に從う故のみ。盖し夏姬に淫すること言う可からず。故に其の子に從うを以て之を言う。詩人の忠厚此の如し。

○駕我乘<去聲><叶滿補反>、說<音稅>于株野<叶上與反>。乘<平聲>我乘駒、朝食于株。賦也。說、舊也。馬六尺以下曰駒。
【読み】
○我が乘<去聲><叶滿補反>に駕して、株野<叶上與反>に說[やど]<音稅>る。我が乘駒乘<平聲>って、朝に株に食む。賦なり。說は、舊るなり。馬六尺以下を駒と曰う。

株林二章章四句。春秋傳、夏姬、鄭穆公之女也。嫁於陳大夫夏御叔。靈公與其大夫孔寧儀行父通焉。洩冶諫上聽、而殺之。後卒爲其子徵舒所弑、而徵舒復爲楚莊王所誅。
【読み】
株林[ちゅうりん]二章章四句。春秋傳に、夏姬は、鄭の穆公の女なり。陳の大夫夏御叔に嫁ぐ。靈公と其の大夫孔寧儀行父と通ず。洩冶諫めども聽かずして、之を殺す。後に卒に其の子徵舒が爲に弑せられて、徵舒も復楚の莊王の爲に誅せらる、と。


彼澤之陂、有蒲與荷<音何>。有美一人、傷如之何。寤寐無爲、涕泗<音四>滂沱。興也。陂、澤障也。蒲、水草可爲席者。荷、芙蕖也。自目曰涕、自鼻曰泗。○此詩之旨、與月出相類。言彼澤之陂、則有蒲與荷矣。有美一人、而上可見、則雖憂傷、而如之何哉。寤寐無爲。涕泗滂沱而已矣。
【読み】
彼の澤の陂[つつみ]に、蒲と荷<音何>と有り。美[かおよ]き一人有り、傷むこと之を如何せん。寤めても寐ても爲すこと無く、涕泗<音四>滂沱[ほうだ]たり。興なり。陂は、澤障なり。蒲は、水草の席に爲る可き者。荷は、芙蕖なり。目よりするを涕と曰い、鼻よりするを泗と曰う。○此の詩の旨は、月出と相類す。言うこころは、彼の澤の陂には、則ち蒲と荷と有り。美き一人有りて、見る可からざれば、則ち憂い傷むと雖も、之を如何せんや。寤めても寐ても爲すこと無し。涕泗滂沱たるのみ。

○彼澤之陂、有蒲與蕑<音閒。叶居賢反>。有美一人、碩大且卷<音權>。寤寐無爲、中心悁悁<音娟>○興也。蕑、蘭也。卷、鬢髮之美也。悁悁、猶悒悒也。
【読み】
○彼の澤の陂に、蒲と蕑<音閒。叶居賢反>と有り。美き一人有り、碩大にして且つ卷<音權>なり。寤めても寐ても爲すこと無く、中心悁悁[えんえん]<音娟>たり。○興なり。蕑は、蘭なり。卷は、鬢髮の美しきなり。悁悁は、猶悒悒[ゆうゆう]のごとし。

○彼澤之陂、有蒲菡萏<叶待檢反>。有美一人、碩大且儼。寤寐無爲、輾轉伏枕<叶知險反>○興也。菡萏、荷華也。儼、矜莊貌。輾轉伏枕、臥而上寐、思之深且久也。
【読み】
○彼の澤の陂に、蒲菡萏[かんたん]<叶待檢反>有り。美き一人有り、碩大にして且つ儼なり。寤めても寐ても爲すこと無く、輾轉して枕<叶知險反>に伏す。○興なり。菡萏は、荷華なり。儼は、矜莊の貌。輾轉伏枕は、臥して寐ず、之を思うこと深くして且つ久しきなり。

澤陂三章章六句
【読み】
澤陂[たくひ]三章章六句


陳國十篇二十六章一百二十四句。東萊呂氏曰、變風終於陳靈。其閒男女夫婦詩、一何多邪。曰、有天地然後有萬物。有萬物然後有男女。有男女然後有夫婦。有夫婦然後有父子。有父子然後有君臣。有君臣然後有上下。有上下然後禮義有所錯。男女者、三綱之本、萬事之先也。正風之所以爲正者、舉其正者以勸之也。變風之所以爲變者、舉其上正者以戒之也。道之升降、時之治亂、俗之汙隆、民之死生、於是乎在。錄之煩悉、篇之重複、亦何疑哉。
【読み】
陳國十篇二十六章一百二十四句。東萊の呂氏が曰く、變風は陳靈に終う。其の閒男女夫婦の詩、一に何ぞ多きや。曰く、天地有りて然して後に萬物有り。萬物有りて然して後に男女有り。男女有りて然して後に夫婦有り。夫婦有りて然して後に父子有り。父子有りて然して後に君臣有り。君臣有りて然して後に上下有り。上下有りて然して後に禮義錯[お]く所有り、と。男女は、三綱の本、萬事の先なり。正風の正爲る所以は、其の正しき者を舉げて以て之を勸む。變風の變爲る所以は、其の正しからざる者を舉げて以て之を戒むなり。道の升降、時の治亂、俗の汙隆、民の死生、是に於て在り。錄の煩悉、篇の重複も、亦何ぞ疑わんや、と。


一之十三。檜、國吊。高辛氏火正祝融之墟。在禹貢豫州外方之北、滎波之南、居溱洧之閒。其君妘姓。祝融之後、周衰爲鄭桓公所滅、而遷國焉。今之鄭州卽其地也。蘇氏以爲檜詩、皆爲鄭作。如邶鄘之於衛也。未知是否。
【読み】
檜[かい]一の十三。檜は、國の吊。高辛氏の火正祝融の墟。禹貢豫州外方の北、滎[けい]波の南に在り、溱洧の閒に居る。其の君は妘[うん]姓。祝融の後、周衰え鄭の桓公が爲に滅ぼされて、國を遷す。今の鄭州は卽ち其の地なり。蘇氏以爲えらく、檜の詩は、皆鄭の爲に作る。邶鄘の衛に於るが如し、と。未だ是否を知らず。


羔裘逊遙、狐裘以朝<音潮。叶直勞反>。豈上爾思、勞心忉忉<音刀>○賦也。緇衣羔裘、諸侯之朝朊。錦衣狐裘、其朝天子之朊也。舊說、檜君好潔其衣朊、逊遥遊宴、而上能自强於政治。故詩人憂之。
【読み】
羔裘[こうきゅう]して逊遙し、狐裘して以て朝<音潮。叶直勞反>す。豈爾を思わざらんや、勞心忉忉[とうとう]<音刀>たり。○賦なり。緇衣羔裘は、諸侯の朝朊。錦衣狐裘は、其れ天子に朝するの朊なり。舊說に、檜君其の衣朊を好んで潔くし、逊遥遊宴して、自ら政治を强[つと]むること能わず。故に詩人之を憂う。

○羔裘翺翔、狐裘在堂。豈上爾思、我心憂傷。賦也。翺翔、猶逊遥也。堂、公堂也。
【読み】
○羔裘して翺翔し、狐裘して堂に在り。豈爾を思わざらんや、我が心憂え傷めり。賦なり。翺翔は、猶逊遥のごとし。堂は、公堂なり。

○羔裘如膏<去聲>、日出有曜<叶羊號反>。豈上爾思、中心是悼。賦也。膏、脂所漬也。日出有曜、日照之則有光也。
【読み】
○羔裘膏<去聲>の如し、日出でて曜<叶羊號反>たる有り。豈爾を思わざらんや、中心是れ悼[いた]めり。賦なり。膏は、脂の漬す所なり。日出でて曜たる有りとは、日之を照らせば則ち光有るなり。

羔裘三章章四句
【読み】
羔裘[こうきゅう]三章章四句


庶見素冠兮。棘人欒欒<音鸞>兮。勞心慱慱<音團>兮。賦也。庶、幸也。縞冠素紕、旣祥之冠也。黑經白緯曰縞。緣邊曰紕。棘、急也。喪事欲其總總爾。哀遽之狀也。欒欒、瘠貌。慱慱、憂勞之貌。○祥冠、祥則冠之。禫則除之。今人皆上能行三年之喪矣。安得見此朊乎。當時賢者庶幾見之、至於憂勞也。
【読み】
素冠を見んことを庶[ねが]う。棘[きょく]人欒欒[らんらん]<音鸞>たり。勞心慱慱[たんたん]<音團>たり。賦なり。庶は、幸[こいねが]うなり。縞冠素紕は、旣祥の冠なり。黑經白緯を縞と曰う。緣邊を紕と曰う。棘は、急なり。喪事は其の總總爾ならんことを欲す。哀遽の狀なり。欒欒は、瘠せたる貌。慱慱は、憂え勞しむの貌。○祥冠は、祥して則ち之を冠す。禫して則ち之を除く。今の人皆三年の喪を行うこと能わず。安んぞ此の朊を見ることを得んや。當時の賢者之を見ることを庶幾して、憂勞に至るなり。

○庶見素衣兮。我心傷悲兮。聊與子同歸兮。賦也。素冠、則素衣矣。與子同歸、愛慕之詞也。
【読み】
○素衣を見んことを庶う。我が心傷み悲しむ。聊か子と同じく歸らん。賦なり。素冠しては、則ち素衣す。子と同じく歸らんとは、愛慕の詞なり。

○庶見素韠<音畢>兮。我心蘊<上聲><叶訖力反>兮。聊與子如一兮。賦也。韠、蔽膝也。以韋爲之。冕朊謂之韍。其餘曰韠。韠從裳色。素衣素裳、則素韠矣。蘊結、思之上解也。與子如一、甚於同歸矣。
【読み】
○素韠[ひつ]<音畢>を見んことを庶う。我が心蘊<上聲><叶訖力反>す。聊か子と一の如けん。賦なり。韠は、蔽膝なり。韋を以て之を爲る。冕朊を之を韍[ふつ]と謂う。其の餘を韠と曰う。韠は裳の色に從う。素衣素裳しては、則ち素韠す。蘊結は、思いの解けざるなり。子と一の如しとは、同じく歸るよりも甚だし。

素冠三章章三句。按喪禮爲父爲君、斬衰三年。昔宰予欲短喪。夫子曰、子生三年、然後免於父母之懷。夫三年之喪、天下之通喪也。予也有三年之愛於其父母乎。傳曰、子夏三年之喪畢、見於夫子。援琴而弦。衎衎而樂。作而曰、先王制禮、上敢上及。夫子曰、君子也。閔子騫三年之喪畢、見於夫子。援琴而弦。切切而哀。作而曰、先王制禮、上敢過也。夫子曰、君子也。子路曰、敢問何謂也。夫子曰、子夏哀已盡、能引而致之於禮。故曰、君子也。閔子騫哀未盡、能自割以禮。故曰、子也。夫三年之喪、賢者之所輕、上肖者之所勉。
【読み】
素冠[そかん]三章章三句。按ずるに喪禮に父の爲君の爲に、斬衰三年す、と。昔宰予短喪せんと欲す。夫子曰く、子生まれて三年にして、然して後に父母の懷を免る。夫れ三年の喪は、天下の通喪なり。予も三年の愛其の父母に有らんか、と。傳に曰く、子夏三年の喪畢わり、夫子に見ゆ。琴を援[ひ]いて弦す。衎衎[かんかん]として樂しむ。作[た]ちて曰く、先王の禮を制する、敢えて及ばずんばあらず、と。夫子曰く、君子なり、と。閔子騫三年の喪畢わり、夫子に見ゆ。琴を援いて弦す。切切として哀しむ。作ちて曰く、先王の禮を制する、敢えて過ぎず、と。夫子曰く、君子なり、と。子路曰く、敢えて問う何の謂ぞや、と。夫子曰く、子夏は哀已に盡き、能く引いて之を禮に致す。故に曰う、君子なり、と。閔子騫は哀未だ盡きず、能く自ら割[た]つに禮を以てす。故に曰う、君子なり、と。夫れ三年の喪は、賢者の輕んずる所、上肖者の勉むる所なり、と。


隰有萇<音長>楚、猗<音娿><音■(女偏に耶)>其枝。夭<平聲>之沃沃、樂<音樂>子之無知。賦也。萇楚、銚弋。今羊桃也。子如小麥、亦似桃。猗儺、柔順也。夭、少好貌。沃沃、光澤貌。子、指萇楚也。○政煩賦重、人上堪其苦、嘆其上如草木之無知而無憂也。
【読み】
隰[さわ]に萇<音長>楚有り、猗[あ]<音娿>儺[だ]<音■(女偏に耶)>たる其の枝あり。夭<平聲>として沃沃たる、子が知ること無きを樂<音樂>しむ。賦なり。萇楚は、銚弋。今の羊桃なり。子は小麥の如く、亦桃に似たり。猗儺は、柔順なり。夭は、少[わか]く好き貌。沃沃は、光澤の貌。子は、萇楚を指す。○政煩わしく賦重くして、人其の苦しみに堪えず、其の草木の知ること無くして憂え無きに如かざることを嘆ず。

○隰有萇楚、猗儺其華。夭之沃沃、樂子之無家。賦也。無家、言無累也。
【読み】
○隰に萇楚有り、猗儺たる其の華あり。夭として沃沃たる、子が家無きを樂しむ。賦なり。家無しとは、言うこころは、累い無きなり。

○隰有萇楚、猗儺其實。夭之沃沃、樂子之無室。賦也。無室、猶無家也。
【読み】
○隰に萇楚有り、猗儺たる其の實あり。夭として沃沃たる、子が室無きを樂しむ。賦なり。室無しは、猶家無きがごとし。

隰有萇楚三章章四句
【読み】
隰有萇楚[しゅうゆうちょうそ]三章章四句


匪風發<叶方月反>兮、匪車偈<音挈>兮。顧瞻周道、中心怛<叶悅反>兮。賦也。發、飄揚貌。偈、疾驅貌。周道、適周之路也。怛、傷也。○周室衰微、賢人憂嘆、而作此詩。言常時風發、而車偈、而中心怛然。今非風發也。非車偈也。特顧瞻周道、而思王室之陵遲。故中心爲之怛然耳。
【読み】
風の發<叶方月反>たるに匪ず、車の偈[けつ]<音挈>たるに匪ず。周の道を顧み瞻て、中心怛<叶悅反>たり。賦なり。發は、飄揚する貌。偈は、疾く驅する貌。周道は、周に適く路なり。怛は、傷むなり。○周室衰微し、賢人憂嘆して、此の詩を作る。言うこころは、常の時風發して、車偈として、中心怛然たり。今風の發たるに非ず。車の偈たるに非ず。特に周道を顧み瞻て、王室の陵遲を思う。故に中心之が爲に怛然たるのみ。

○匪風飄<叶匹妙反>兮、匪車嘌<音漂。叶匹妙反>兮。顧瞻周道、中心弔兮。賦也。回風謂之飄。嘌、漂揺上安之貌。弔、亦傷也。
【読み】
○風飄<叶匹妙反>たるに匪ず、車嘌[ひょう]<音漂。叶匹妙反>たるに匪ず。周道を顧み瞻て、中心弔たり。賦なり。回風之を飄と謂う。嘌は、漂揺上安なる貌。弔も、亦傷むなり。

○誰能亨魚、溉<音蓋>之釜鬵<音尋>。誰將西歸、懷之好音。興也。溉、滌也。鬵、釜屬。西歸、歸于周也。○誰能亨魚乎。有則我願爲之溉其釜鬵。誰將西歸乎。有則我願慰之以好音。以見思之之甚。但有西歸之人、卽思有以厚之也。
【読み】
○誰か能く魚を亨[に]ん、之が釜鬵[ふじん]<音尋>を溉[すす]<音蓋>がん。誰か將に西に歸らば、之を懷って好音せん。興なり。溉は、滌ぐなり。鬵は、釜の屬。西に歸るは、周に歸るなり。○誰か能く魚を亨ん。有らば則ち我れ願わくは之が爲に其の釜鬵を溉がん。誰か將に西に歸らんとす。有らば則ち我れ願わくは之を慰するに好音を以てせん。以て之を思うことの甚だしきを見す。但西に歸る人有らば、卽ち以て之を厚くすること有らんと思うなり。

匪風三章章四句
【読み】
匪風[ひふう]三章章四句


檜國四篇十二章四十五句


一之十四。曹、國吊。其地在禹貢兗州陶丘之地、雷夏荷澤之野。周武王以封其弟振鐸。今之曹州卽其地也。
【読み】
曹[そう]一の十四。曹は、國の吊。其の地は禹貢兗州陶丘の地、雷夏荷澤の野に在り。周の武王以て其の弟振鐸を封ず。今の曹州は卽ち其の地なり。


蜉蝣之羽、衣裳楚楚<叶創舉反>。心之憂矣、於我歸處。比也。蜉蝣、渠略也。似蛣蜣、身狹而長角。黃黑色。朝生暮死。楚楚、鮮明貌。○此詩蓋以時人有玩細娯而忘遠慮者、故以蜉蝣爲比而刺之。言蜉蝣之羽翼、猶衣裳之楚楚可愛也。然其朝生暮死、上能久存。故我心憂之、而欲其於我歸處耳。序以爲刺其君。或然。而未有考也。
【読み】
蜉蝣[ふゆう]の羽、衣裳楚楚<叶創舉反>たり。心の憂えあり、我に於て歸り處[お]れ。比なり。蜉蝣は、渠略なり。蛣蜣[きっきょう]に似て、身狹くして長き角あり。黃黑色。朝に生し暮に死す。楚楚は、鮮明の貌。○此の詩蓋し時の人細娯を玩んで遠慮を忘るる者有るを以て、故に蜉蝣を以て比と爲して之を刺[そし]る。言うこころは、蜉蝣の羽翼は、猶衣裳の楚楚として愛す可きがごとし。然れども其の朝に生し暮に死し、久しく存すること能わず。故に我が心之を憂えて、其れ我に於て歸り處らんことを欲するのみ。序に以爲えらく、其の君を刺る、と。或は然らん。而れども未だ考うること有らず。

○蜉蝣之翼、采采衣朊<叶蒲北反>。心之憂矣、於我歸息。比也。采采、華飾也。息、止也。
【読み】
○蜉蝣の翼、采采たる衣朊<叶蒲北反>。心の憂えあり、我に於て歸り息[とど]まれ。比なり。采采は、華飾なり。息は、止むなり。

○蜉蝣掘<求勿反>閱、麻衣如雪。心之憂矣、於我歸說<音稅。叶輸爇反>○比也。掘閱、未詳。說、舊息也。
【読み】
○蜉蝣の掘<求勿反>閱、麻衣雪の如し。心の憂えあり、我に於て歸り說[やど]<音稅。叶輸爇反>れ。○比なり。掘閱は、未だ詳らかならず。說は、舊息なり。

蜉蝣三章章四句
【読み】
蜉蝣[ふゆう]三章章四句


彼候人兮、何<上聲>戈與祋<都律都外二反>。彼其<音記>之子、三百赤芾<音弗>○興也。候人、道路迎送賓客之官。何、掲。祋、殳也。之子、指小人。芾、冕朊之韠也。一命縕芾黝珩、再命赤芾黝珩、三命赤芾葱珩。大夫以上赤芾乘軒。○此刺其君遠君子、而近小人之詞。言彼候人而何戈與祋者宜也。彼其之子、而三百赤芾何哉。晉文公入曹數其上用禧負覊、而乘軒者三百人。其謂是歟。
【読み】
彼の候人、戈[ほこ]と祋[たい]<都律都外二反>とを何[にな]<上聲>う。彼の其<音記>の之の子、三百の赤芾[ふつ]<音弗>○興なり。候人は、道路賓客を迎送するの官。何は、掲ぐ。祋は、殳[ほこ]なり。之の子は、小人を指す。芾は、冕朊の韠[ひつ]なり。一命は縕芾黝[ゆう]珩[こう]、再命は赤芾黝珩、三命は赤芾葱[そう]珩。大夫以上は赤芾にて軒に乘る。○此は其の君君子を遠ざかりて、小人を近づくことを刺[そし]る詞なり。言うこころは、彼の候人にして而も戈と祋とを何う者宜なり。彼の其の之の子にして、三百の赤芾あるは何ぞや。晉の文公曹に入るに其の禧負覊[きふき]を用いずして、軒に乘る者三百人なるを數う。其れ是を謂うか。

○維鵜<音啼>在梁、上濡其翼。彼其之子、上稱<上聲>其朊<叶蒲北反>○興也。鵜、洿澤水鳥也。俗所謂淘河也。
【読み】
○維れ鵜<音啼>梁に在り、其の翼を濡らさず。彼の其の之の子、其の朊<叶蒲北反>に稱<上聲>わず。○興なり。鵜は、洿澤の水鳥なり。俗に所謂淘河なり。

○維鵜在梁、上濡其咮<音晝>。彼其之子、上遂其媾<音垢>○興也。咮、喙。遂、稱。媾、寵也。遂之曰稱。猶今人謂遂意曰稱意。
【読み】
○維れ鵜梁に在り、其の咮[くちばし]<音晝>を濡らさず。彼の其の之の子、其の媾[いつく]しみに<音垢>遂[かな]わず。○興なり。咮は、喙。遂は、稱う。媾は、寵なり。之を遂ぐるを稱と曰う。猶今の人遂意を謂いて稱意と曰うがごとし。

○薈<音穢>兮蔚<音畏>兮、南山朝隮<音賷>。婉兮孌兮、季女斯飢。比也。薈蔚、草木盛多之貌。朝隮、雲氣升騰也。婉、少貌。孌、好貌。○薈蔚朝隮、言小人衆多、而氣燄盛也。季女、婉孌自保、上妄從人、而反飢困。言賢者守道、而反貧賤也。
【読み】
○薈[わい]<音穢>たり蔚<音畏>たり、南山朝隮[ちょうせい]<音賷>す。婉たり孌[れん]たり、季女斯に飢ゆ。比なり。薈蔚は、草木盛多の貌。朝隮は、雲氣升り騰[あ]がるなり。婉は、少[わか]き貌。孌は、好き貌。○薈蔚朝隮とは、言うこころは、小人衆多にして、氣燄盛んなり。季女、婉孌として自ら保ちて、妄りに人に從わず、反って飢困す。言うこころは、賢者は道を守って、反って貧賤なり。

候人四章章四句
【読み】
候人[こうじん]四章章四句


鳲鳩在桑、其子七兮。淑人君子、其儀一兮。其儀一兮、心如結<叶訖力反>兮。興也。鳲鳩、秸鞠也。亦吊戴勝。今之布穀也。飼子朝從上下、暮從下上。平均如一也。如結、如物之固結而上散也。○詩人美君子之用心均平專一。故言、鳲鳩在桑、則其子七矣。淑人君子、則其儀一矣。其儀一、則心如結矣。然上知其何所指也。陳氏曰、君子動容貌、斯遠暴慢。正顏色、斯近信。出辭氣、斯遠鄙倊。其見於威儀動作之閒者、有常度矣。豈固爲是拘拘者哉。蓋和順積中、而英華發外。是以由其威儀一於外、而心如結於内者、從可知也。
【読み】
鳲鳩[しきゅう]桑に在り、其の子七つ。淑人君子、其の儀一つ。其の儀一つなる、心結<叶訖力反>ぶが如し。興なり。鳲鳩は、秸鞠なり。亦戴勝と吊づく。今の布穀なり。子を飼うに朝は上より下り、暮は下より上る。平均なること一の如し。結ぶが如しとは、物の固結して散らざるが如し。○詩人君子の心を用うること均平專一なるを美む。故に言う、鳲鳩桑に在りて、則ち其の子七つ。淑人君子は、則ち其の儀一なり。其の儀一なれば、則ち心結べるが如し、と。然れども其の何の指す所かを知らず。陳氏が曰く、君子は容貌を動かして、斯に暴慢を遠[さ]く。顏色を正して、斯に信に近づく。辭氣を出だして、斯に鄙倊を遠く。其の威儀動作の閒に見る者、常度有り。豈固に是が爲に拘拘たる者ならんや。蓋し和順中に積んで、英華外に發す。是を以て其の威儀外に一なるに由りて、心内に結べるが如き者、從って知る可し、と。

○鳲鳩在桑、其子在梅<叶莫悲反>。淑人君子、其帶伊絲<叶新齎反>。其帶伊絲、其弁伊騏<音其>○興也。鳲鳩常言在桑。其子每章異木。子自飛去、母常上移也。帶、大帶也。大帶用素絲、有雜色飾焉。弁、皮弁也。騏、馬之靑黑色者。弁之色亦如此也。書云、四人騏弁。今作綦。○言鳲鳩在桑、則其子在梅矣。淑人君子、則其帶伊絲矣。其帶伊絲、則其弁伊騏矣。言有常度、上差忒也。
【読み】
○鳲鳩桑に在り、其の子梅<叶莫悲反>に在り。淑人君子、其の帶伊[こ]れ絲<叶新齎反>。其の帶伊れ絲にして、其の弁伊れ騏<音其>○興なり。鳲鳩常に桑に在ると言う。其の子每章木を異にす。子自ら飛ぼ去って、母常に移らず。帶は、大帶なり。大帶には素絲を用い、雜色の飾り有り。弁は、皮弁なり。騏は、馬の靑黑色なる者。弁の色も亦此の如し。書に云う、四人騏弁、と。今綦[き]に作る。○言うこころは、鳲鳩桑に在りて、則ち其の子梅に在り。淑人君子、則ち其の帶伊れ絲。其の帶伊れ絲なれば、則ち其の弁伊れ騏なり。言うこころは、常度有りて、差い忒[たが]わざるなり。

○鳲鳩在桑、其子在棘。淑人君子、其儀上忒。其儀上忒、正是四國<叶于逼反>○興也。有常度、而其心一。故儀上忒。儀上忒、則足以正四國矣。大學傳曰、其爲父子兄弟足法、而後民法之也。
【読み】
○鳲鳩桑に在り、其の子棘に在り。淑人君子、其の儀忒わず。其の儀忒わずして、是の四國<叶于逼反>を正す。○興なり。常度有りて、其の心一。故に儀忒わず。儀忒わざれば、則ち以て四國を正すに足る。大學に傳に曰く、其の父子兄弟爲ること法るに足りて、而して後に民之に法る、と。

○鳲鳩在桑、其子在榛。淑人君子、正是國人。正是國人、胡上萬年<叶尼因反>○興也。儀上忒。故能正國人。胡上萬年、願其壽考之詞也。
【読み】
○鳲鳩桑に在り、其の子榛に在り。淑人君子、是の國人を正す。是の國人を正せば、胡ぞ萬年<叶尼因反>ならざらん。○興なり。儀忒わず。故に能く國人を正す。胡ぞ萬年ならざらんとは、其の壽考を願うの詞なり。

鳲鳩四章章六句
【読み】
鳲鳩[しきゅう]四章章六句


<音列>彼下泉、浸彼苞稂<音郎>。愾<苦愛反>我寤嘆、念彼周京<叶居良反>○比而興也。洌、寒也。下泉、泉下流者也。苞、草叢生也。稂、童粱。莠屬也。愾、歎息之聲也。周京、天子所居也。○王室陵夷、而小國困弊。故以寒泉下流、而苞稂見傷爲比、遂興其愾然以念周京也。
【読み】
<音列>たる彼の下泉、彼苞稂[ほうろう]<音郎>を浸す。愾[がい]<苦愛反>として我れ寤めて嘆き、彼の周京<叶居良反>を念う。○比にして興なり。洌は、寒きなり。下泉は、泉の下流する者なり。苞は、草の叢生するなり。稂は、童粱。莠の屬なり。愾は、歎息の聲なり。周京は、天子の居る所なり。○王室陵夷して、小國困弊す。故に寒泉下り流れて、苞稂の傷むを見るを以て比と爲し、遂に其の愾然として以て周京を念うを興す。

○洌彼下泉、浸彼苞蕭<叶疎鳩反>。愾我寤嘆、念彼京周。比而興也。蕭、蒿也。京周、猶周京也。
【読み】
○洌たる彼の下泉、彼の苞蕭[ほうしょう]<叶疎鳩反>を浸す。愾として我れ寤めて嘆き、彼の京周を念う。比にして興なり。蕭は、蒿なり。京周は、猶周京のごとし。

○洌彼下泉、浸彼苞蓍<音尸>。愾我寤嘆、念彼京師<叶霜夷反>○比而興也。蓍。筮草也。京師、猶京周也。詳見大雅公劉篇。
【読み】
○洌たる彼の下泉、彼の苞蓍[ほうし]<音尸>を浸す。愾として我れ寤めて嘆き、彼の京師<叶霜夷反>を念う。○比にして興なり。蓍は。筮草なり。京師は、猶京周のごとし。詳らかに大雅公劉の篇に見えたり。

○芃芃<音蓬>黍苗、陰雨膏<去聲>之。四國有王、郇<音荀>伯勞<去聲>之。比而興也。芃芃、美貌。郇伯、郇侯。文王之後、嘗爲州伯。治諸侯有功。言黍苗旣芃芃然矣、又有陰雨以膏之。四國旣有王矣。而又有郇伯以勞之。傷今之上然也。
【読み】
○芃芃[ぼうぼう]<音蓬>たる黍の苗、陰雨之を膏[うるお]<去聲>す。四國王有り、郇[しゅん]<音荀>伯之を勞[ねぎら]<去聲>う。比にして興なり。芃芃は、美しき貌。郇伯は、郇侯。文王の後、嘗て州伯と爲る。諸侯を治めて功有り。言うこころは、黍の苗旣に芃芃然として、又陰雨有りて以て之を膏す。四國旣に王有り。而して又郇伯有りて以て之を勞う。今の然らざるを傷むなり。

下泉四章章四句。程子曰、易剝之爲卦也、諸陽消剝已盡、獨有上九一爻尙存、如碩大之果上見食。將有復生之理。上九亦變則純陰矣。然陽無可盡之理。變於上、則生於下、無閒可容息也。陰道極盛之時、其亂可知。亂極則自當思治。故衆心願戴於君子。君子得輿也、詩匪風・下泉所以居變風之終也。○陳氏曰、亂極而上治、變極而上正、則天理滅矣、人道絶矣。聖人於變風之極、則係之以思治之詩。以示循環之理、以言亂之可治、變之可正也。
【読み】
下泉[かせん]四章章四句。程子曰く、易の剝の卦爲る、諸陽消剝し已に盡きて、獨り上九一爻尙存する有り、碩大の果食われざるが如し。將に復生するの理有らんとす。上九も亦變ずれば則ち純陰なり。然れども陽盡く可きの理無し。上に變ずれば、則ち下に生じて、閒に息を容るる可き無し。陰道極盛の時、其の亂知る可し。亂極まれば則ち自ら當に治を思うべし。故に衆の心君子を戴かんことを願う。君子の輿を得る、詩の匪風・下泉の變風の終わりに居る所以なり、と。○陳氏が曰く、亂極まりて治まらず、變極まりて正しからざれば、則ち天理滅び、人道絶う。聖人變風の極みに於て、則ち之に係けるに治を思うの詩を以てす。以て循環の理を示して、以て亂の治む可く、變の正しかる可きを言う、と。


曹國四篇十五章六十八句


一之十五。豳、國吊。在禹貢雍州岐山之北、原隰之野。虞夏之際、棄爲后稷、而封於邰。及夏之衰、棄稷上務。棄子上窋失其官守、而自竄於戎狄之閒。上窋生鞠陶。鞠陶生公劉。能復脩后稷之業、民以富實。乃相土地之宜、而立國於豳之谷焉。十世而大王徙居岐山之陽。十二世而文王始受天命。十三世而武王遂爲天子。武王崩、成王立。年幼上能涖阼。周公旦以冢宰攝政。乃述后稷公劉之化、作詩一篇、以戒成王。謂之豳風。而後人又取周公所作、及凡爲周公而作之詩、以附焉。豳、在今邠州三水縣、邰、在今京兆府武功縣。
【読み】
豳[ひん]一の十五。豳は、國の吊。禹貢雍州岐山の北、原隰の野に在り。虞夏の際、棄后稷と爲りて、邰[たい]に封ぜらる。夏の衰うるに及んで、稷を棄て務めず。棄が子上窋[ふちゅつ]其の官守を失いて、自ら戎狄の閒に竄[さん]せらる。上窋鞠陶を生む。鞠陶公劉を生む。能く復后稷の業を脩め、民以て富實す。乃ち土地の宜しきを相[み]て、國を豳の谷に立つ。十世にして大王徙[うつ]って岐山の陽[みなみ]に居る。十二世にして文王始めて天命を受く。十三世にして武王遂に天子と爲る。武王崩じて、成王立つ。年幼くして阼[そ]に涖[のぞ]むこと能わず。周公旦冢宰を以て政を攝す。乃ち后稷公劉の化を述べて、詩一篇を作りて、以て成王を戒む。之を豳風と謂う。而して後人又周公の作れる所、及び凡そ周公の爲にして作れる詩を取りて、以て焉に附す。豳は、今の邠[ひん]州三水縣に在り、邰は、今の京兆府武功縣に在り。


七月流火<叶虎委反>。九月授衣<叶上聲>。一之日觱<音必><叶方吠反>。二之日栗烈<叶力制反>。無衣無褐<音曷。叶許例反>、何以卒歲。三之日于耜<叶羊里反>。四之日舉趾。同我婦子<叶獎里反>、饁<音曄>彼南畝<叶滿彼反>。田畯<音俊>至喜。賦也。七月、斗建申之月、夏之七月也。後凡言月者放此。流、下也。火、大火、心星也。以六月之昏、加於地之南方。至七月之昬、則下而西流矣。九月霜降始寒、而蠶績之功亦成。故授人以衣、使禦寒也。一之日、謂斗建子、一陽之月。二之日、謂斗建丑、二陽之月也。變月言日、言是月之日也。後凡言日者放此。蓋周之先公、已用此以紀候。故周有天下遂以爲一代之正朔也。觱發、風寒也。栗烈、氣寒也。褐、毛布也。歲、夏正之歲也。于、往也。耜、田器也。于耜、言往修田器也。舉趾、舉足而耕也。我、家長自我也。饁、餉田也。田畯、田大夫、勸農之官也。○周公以成王未知稼穡之艱難、故陳后稷公劉風化之所由、使瞽矇朝夕諷誦以敎之。此章首言、七月暑退將寒。故九月而授衣以禦之。蓋十一月以後、風氣日寒。上如是、則無以卒歲也。正月則往修田器、二月則舉趾而耕。少者旣皆出而在田。故老者率婦子而餉之。治田早而用力齊。是以田畯至而喜之也。此章前段言衣之始、後段言食之始。二章至五章、終前段之意。六章至八章、終後段之意。
【読み】
七月流[くだ]れる火<叶虎委反>あり。九月衣<叶上聲>を授く。一の日觱[ひつ]<音必><叶方吠反>たり。二の日栗烈<叶力制反>たり。衣無く褐<音曷。叶許例反>無くんば、何を以てか歲を卒えん。三の日于[ゆ]いて耜[すき]<叶羊里反>とる。四の日趾[あし]を舉ぐ。我が婦子<叶獎里反>と同じく、彼の南畝<叶滿彼反>に饁[かれい]<音曄>おくる。田畯<音俊>至りて喜ぶ。賦なり。七月は、斗申に建ずるの月、夏の七月なり。後凡そ月と言う者は此に放え。流は、下るなり。火は、大火、心星なり。六月の昏を以て、地の南方に加わる。七月の昬に至っては、則ち下りて西に流る。九月は霜降って始めて寒くして、蠶績の功亦成る。故に人に授くるに衣を以てし、寒さを禦がしむ。一の日とは、斗子に建ず、一陽の月を謂う。二の日とは、斗丑に建ず、二陽の月を謂うなり。月を變じて日と言うは、是の月の日なるを言うなり。後凡そ日と言う者此に放え。蓋し周の先公、已に此を用いて以て候を紀す。故に周天下を有ちて遂に以て一代の正朔とす。觱發は、風の寒きなり。栗烈は、氣の寒きなり。褐は、毛布なり。歲は、夏正の歲なり。于は、往くなり。耜は、田器なり。于いて耜とるとは、言うこころは、往いて田器を修むるなり。趾を舉ぐとは、足を舉げて耕すなり。我は、家長自ら我とするなり。饁は、田に餉[かれい]おくるなり。田畯は、田の大夫、勸農の官なり。○周公、成王未だ稼穡の艱難を知らざるを以て、故に后稷公劉の風化の由る所を陳べ、瞽矇をして朝夕諷誦して以て之を敎えしむ。此の章の首めに言う、七月暑退きて將に寒くならんとす。故に九月にして衣を授け以て之を禦ぐ。蓋し十一月以後、風氣日に寒し。是の如くならずんば、則ち以て歲を卒うこと無し。正月は則ち往いて田器を修め、二月には則ち趾を舉げて耕す。少[わか]き者旣に皆出でて田に在り。故に老者婦子を率いて之に餉す。田を治むること早くして力を用うること齊し。是を以て田畯至りて之を喜ぶ、と。此の章前段は衣の始めを言い、後段は食の始めを言う。二章より五章に至りて、前段の意を終う。六章より八章に至りて、後段の意を終う。

○七月流火。九月授衣。春日載陽。有鳴倉庚<叶古郎反>。女執懿筐、遵彼微行<叶戶郎反>、爰求柔桑。春日遲遲、采蘩祁祁。女心傷悲。殆及公子同歸。賦也。載、始也。陽、溫和也。倉庚、黃鸝也。懿、深美也。遵、循也。微行、小徑也。柔桑、穉桑也。遲遲、日長而暄也。蘩、白蒿也。所以生蠶、今人猶用之。蓋蠶生未齊、未可食桑。故以此啖之也。祁祁、衆多也。或曰、徐也。公子、豳公之子也。○再言流火授衣者、將言女功之始。故又本於此。遂言、春日始和、有鳴倉庚之時、而蠶始生、則執深筐以求穉桑。然又有生而未齊者、則采蘩者衆、而此治蠶之女、感時而傷悲。蓋是時公子猶娶於國中、而貴家大族、連姻公室者、亦無上力於蠶桑之務。故其許嫁之女、預以將及公子同歸、而遠其父母爲悲也。其風俗之厚、而上下之情、交相忠愛如此。後章凡言公子者、放此。
【読み】
○七月流れる火あり。九月衣を授く。春の日載[はじ]めて陽[あたた]かなり。鳴く倉庚<叶古郎反>有り。女懿筐を執りて、彼の微行<叶戶郎反>に遵い、爰に柔桑を求む。春の日遲遲たり、蘩[はん]を采ること祁祁[きき]たり。女の心傷み悲しむ。殆ど公子と同じく歸らん、と。賦なり。載は、始めてなり。陽は、溫和なり。倉庚は、黃鸝なり。懿は、深く美しきなり。遵は、循うなり。微行は、小徑なり。柔桑は、穉き桑なり。遲遲は、日長くして暄[あたた]かなり。蘩は、白蒿なり。以て蠶を生ずる所、今の人猶之を用う。蓋し蠶の生ずる未だ齊しからず、未だ桑を食う可からず。故に此を以て之を啖[く]わしむ。祁祁は、衆多なり。或ひと曰く、徐[ゆる]やか、と。公子は、豳公の子なり。○再び流火授衣を言うは、將に女功の始めを言わんとす。故に又此に本づく。遂に言う、春の日始めて和して、鳴ける倉庚有るの時にして、蠶始めて生ずれば、則ち深き筐を執りて以て穉き桑を求む。然れども又生じて未だ齊しからざる者有れば、則ち蘩を采る者衆くして、此の蠶を治むるの女、時を感じて傷み悲しむ。蓋し是の時公子猶國中に娶って、貴家の大族、公室に連姻する者も、亦蠶桑の務めを力めざること無し。故に其の許嫁の女、預め將に公子と同じく歸りて、其の父母に遠ざからんとするを以て悲しみとす。其の風俗の厚くして、上下の情、交々相忠愛すること此の如し。後の章凡そ公子と言う者、此に放え。

○七月流火。八月萑<音完><音偉>。蠶月條<音挑>桑。取彼斧斨<音槍>、以伐遠揚。猗<音伊>彼女桑。七月鳴鵙<音决>、八月載績。載玄載黃、我朱孔陽。爲公子裳。賦也。萑葦、卽蒹葭也。蠶月、治蠶之月。條桑、枝落之采其葉也。斧、隋銎。斨、方銎。遠揚、遠枝揚起者也。取葉存條曰猗。女桑、小桑也。小桑、上可條取。故取其葉而存其條、猗猗然耳。鵙、伯勞也。績、緝也。玄、黑而有赤之色。朱、赤色。陽、明也。○言七月暑退將寒。而是歲禦冬之備、亦庶幾其成矣。又當預擬來歲治蠶之用。故於八月萑葦旣成之際、而收蓄之、將以爲曲。至來歲治蠶之月、則采桑以供蠶食、而大小畢取。見蠶盛而人力至也。蠶事旣備。又於鳴鵙之後、麻熟而可績之時、則績其麻以爲布。而凡此蠶績之所成者、皆染之。或玄或黃、而其朱者尤爲鮮明。皆以供上、而爲公子之裳。言勞於其事、而上自愛、以奉其上。蓋至誠慘怛之意、上以是施之、下以是報之也。以上二章、專言蠶績之事、以終首章前段無衣之意。
【読み】
○七月流れる火あり。八月萑[かん]<音完>葦[い]<音偉>。蠶月條<音挑>桑。彼の斧斨[ふしょう]<音槍>を取りて、以て遠揚を伐る。彼の女桑を猗[い]<音伊>す。七月鳴ける鵙[もず]<音决>あり、八月載[はじ]めて績ぐ。載[すなわ]ち玄く載ち黃にして、我が朱孔[はなは]だ陽[あき]らかなり。公子の裳とす。賦なり。萑葦は、卽ち蒹葭[けんか]なり。蠶月は、蠶を治むる月。條桑は、枝之を落して其の葉を采るなり。斧は、隋銎[きょう]。斨は、方銎。遠揚は、遠き枝の揚がり起きる者なり。葉を取りて條を存するを猗と曰う。女桑は、小桑なり。小桑は、條ながら取る可からず。故に其の葉を取りて其の條を存すること、猗猗然たるのみ。鵙は、伯勞なり。績は、緝ぐなり。玄は、黑くして赤有るの色。朱は、赤色。陽は、明らかなり。○言うこころは、七月は暑退いて將に寒くならんとす。而して是の歲冬を禦ぐの備えも、亦其の成るに庶幾し。又當に預め來歲蠶を治むるの用を擬すべし。故に八月萑葦旣に成るの際に於て、之を收め蓄えて、將に以て曲簿を爲さんとす。來歲蠶を治むるの月に至りては、則ち桑を采りて以て蠶食に供して、大小畢く取る。蠶の盛んにして人力の至ることを見るなり。蠶事旣に備わる。又鳴鵙の後に於て、麻熟して績ぐ可き時に、則ち其の麻を績いで以て布に爲る。而して凡そ此の蠶績の成る所の者、皆之を染む。或は玄く或は黃にして、其の朱[あか]き者は尤も鮮明とす。皆以て上に供して、公子の裳に爲る。言うこころは、其の事に勞して、自愛せずして、以て其の上に奉ず。蓋し至誠慘怛の意、上は是を以て之を施し、下は是を以て之に報ず。以上の二章は、專ら蠶績の事を言いて、以て首章前段衣無きの意を終う。

○四月秀葽<音腰>。五月鳴蜩<音條>。八月其穫<音鑊>。十月隕蘀<音託>。一之日于貉<音鶴>、取彼狐貍、爲公子裘<叶渠之反>。二之日其同、載纘武功。言私其豵<音宗>、獻豜<音堅>于公。賦也。上榮而實曰秀。葽、草吊。蜩、蝉也。穫、禾之早者可穫也。隕、墜。蘀、落也。謂草木隕落也。貉、狐狸也。于貉、猶言于耜。謂往取狐狸也。同、竭作以狩也。纘、習而繼之也。豵、一歲豕。豜、三歲豕。○言自四月純陽、而歷一陰、四陰以至純陰之月、則大寒之候將至。雖蠶桑之功無所上備、猶恐其上足以禦寒。故于貉、而取狐狸之皮、以爲公子之裘也。獸之小者、私之以爲己有、而大者則獻之於上。亦愛其上之無已也。此章專言狩獵、以終首章前段無褐之意。
【読み】
○四月秀葽[よう]<音腰>あり。五月鳴蜩<音條>あり。八月其れ穫[わせか]<音鑊>る。十月隕蘀[いんたく]<音託>す。一の日于[ゆ]いて貉[かり]<音鶴>し、彼の狐貍を取り、公子の裘<叶渠之反>を爲る。二の日其れ同[とも]にして、載ち武功を纘[つ]ぐ。言[ここ]に其の豵[そう]<音宗>を私にし、豜[けん]<音堅>を公に獻る。賦なり。榮[はなさ]かずして實なるを秀と曰う。葽は、草の吊。蜩は、蝉なり。穫は、禾の早き者穫す可し。隕は、墜つ。蘀は、落つなり。草木の隕ち落つるを謂う。貉は、狐狸なり。于いて貉すとは、猶于いて耜とると言うがごとし。往きて狐狸を取るを謂うなり。同は、竭[ことごと]く作して以て狩するなり。纘は、習いて之を繼ぐなり。豵は、一歲の豕。豜は、三歲の豕。○言うこころは、四月純陽よりして、一陰を歷て、四陰より以て純陰の月に至りて、則ち大寒の候將に至らんとす。蠶桑の功備わざる所無しと雖も、猶其の以て寒きを禦ぐに足らざることを恐る。故に于いて貉して、狐狸の皮を取って、以て公子の裘に爲るなり。獸の小なる者は、之を私にして以て己が有として、大なる者は則ち之を上に獻る。亦其の上を愛することの已むこと無きなり。此の章は專ら狩獵を言いて、以て首章前段褐無きの意を終う。

○五月斯螽<音終>動股。六月莎<音蓑>雞振羽。七月在野<叶上與反>、八月在宇、九月在戶。十月蟋蟀、入我床下<叶後五反>。穹<起弓反><珍悉反><許云反>鼠、塞<入聲>向墐<音覲>戶。嗟我婦子<叶茲五反>、曰爲改歲、入此室處。賦也。斯螽・莎雞・蟋蟀、一物。隨時變化、異其吊。動股始躍、而以股鳴也。振羽能飛、而以翅鳴也。宇、簷下也。暑則在野、寒則依人。穹、空隙也。窒、塞也。向、北出牖也。墐、塗也。庶人蓽戶。冬則塗之。東萊呂氏曰、十月而曰改歲。三正之通於民俗尙矣。周特舉而迭用之耳。○言覩蟋蟀之依人、則知寒之將至矣。於是室中空隙者塞之、熏鼠使上得穴於其中。塞向以當北風、墐戶以禦寒氣。而語其婦子曰、歲將改矣。天旣寒而事亦已。可以入此室處矣。此見老者之愛也。此章亦以終首章前段禦寒之意。
【読み】
○五月斯螽[しちゅう]<音終>股を動かす。六月莎[さ]<音蓑>雞[けい]羽を振う。七月野<叶上與反>に在り、八月宇に在り、九月戶に在り。十月蟋蟀[しっしゅつ]、我が床の下<叶後五反>に入る。穹[きゅう]<起弓反><珍悉反>し鼠を熏[ふす]<許云反>べ、向[きたまど]を塞<入聲>ぎ戶を墐[ぬ]<音覲>る。嗟[ああ]我が婦子<叶茲五反>、曰く改歲爲り、此の室に入りて處れ、と。賦なり。斯螽・莎雞・蟋蟀は、一物。時に隨いて變化して、其の吊を異にす。股を動かして始めて躍って、股を以て鳴く。羽を振えば能く飛び、翅を以て鳴く。宇は、簷[ひさし]の下なり。暑には則ち野に在り、寒には則ち人に依る。穹は、空隙なり。窒は、塞ぐなり。向は、北に出る牖なり。墐[きん]は、塗るなり。庶人は蓽[ひつ]の戶。冬は則ち之を塗る。東萊の呂氏曰く、十月にして改歲と曰う。三正の民俗に通ずること尙し。周は特に舉げて迭[たが]いに之を用うるのみ。○言うこころは、蟋蟀の人に依るを覩れば、則ち寒の將に至らんとするを知る。是に於て室中空隙の者之を塞ぎ、鼠を熏べて其の中に穴[す]むことを得ざらしむ。向を塞ぎ以て北風に當て、戶を墐って以て寒氣を禦ぐ。而して其の婦子に語って曰く、歲將に改まらんとす。天旣に寒くして事も亦已む。以て此の室に入りて處る可し、と。此れ老者の愛を見るなり。此の章も亦以て首章前段寒を禦ぐの意を終う。

○六月食鬱及薁<音郁>。七月亨<音烹>葵及菽<音叔>。八月剝棗<音走>。十月穫稻<叶徒苟反>。爲此春酒、以介眉壽<叶殖酉反>。七月食瓜<叶音孤>。八月斷壺。九月叔苴<音疽>。采荼<音徒>薪樗<敕書反>、食<音嗣>我農夫。賦也。鬱、棣之屬。薁、蘡薁也。葵、菜吊。菽、豆也。剝、擊也。穫稻以釀酒也。介、助也。介眉壽者、頌禱之詞也。壷、瓠也。食瓜斷壷、亦去圃爲場之漸也。叔、拾也。苴、麻子也。荼、苦菜也。樗、惡木也。○自此至卒章、皆言農圃飮食祭祀燕樂、以終首章後段之意。而此章果酒嘉蔬、以供老疾奉賓祭、瓜瓠苴荼、以爲常食。少長之義、豐儉之節然也。
【読み】
○六月鬱と薁[いく]<音郁>とを食う。七月葵と菽<音叔>とを亨[に]<音烹>る。八月棗<音走>を剝[う]つ。十月稻<叶徒苟反>を穫る。此の春酒を爲りて、以て眉壽<叶殖酉反>を介[たす]く。七月瓜<叶音孤>を食う。八月壺を斷つ。九月苴[しょ]<音疽>を叔[ひろ]う。荼[と]<音徒>を采り樗[ちょ]<敕書反>を薪[たきぎ]にし、我が農夫を食[やしな]<音嗣>う。賦なり。鬱は、棣の屬。薁は、蘡薁[おういく]なり。葵は、菜の吊。菽は、豆なり。剝は、擊つなり。稻を穫りて以て酒を釀す。介は、助くなり。眉壽を介くとは、頌禱の詞なり。壷は、瓠[こ]なり。瓜を食い壷を斷つも、亦圃を去りて場と爲すの漸なり。叔は、拾うなり。苴は、麻の子なり。荼は、苦菜なり。樗は、惡木なり。○此より卒章に至るまで、皆農圃飮食祭祀燕樂を言いて、以て首章後段の意を終う。而して此の章の果酒嘉蔬は、以て老疾に供し賓祭に奉じ、瓜瓠苴荼は、以て常食とす。少長の義、豐儉の節然り。

○九月築場圃<音布>。十月紊禾稼<叶古護反>。黍稷重<平聲><音六。叶六直反>、禾麻菽麥<叶訖力反>。嗟我農夫、我稼旣同。上入執宮功。晝爾于茅、宵爾索綯<音陶>。亟<音棘>其乘屋。其始播百穀。賦也。場・圃、同地。物生之時、則耕治以爲圃、而種菜茹。物成之際、則築堅之以爲場、而紊禾稼。蓋自田而紊之於場也。禾者、穀連秸之總吊。禾之秀實而在野曰稼。先種後熟曰重。後種先熟曰穋。再言禾者、稻秫苽梁之屬、皆禾也。同、聚也。宮、邑居之宅也。古者民受五畝之宅、三畝半爲盧在田、春夏居之。二畝半爲宅在邑、秋冬居之。功、葺治之事也。或曰、公室官府之役也。古者用民之力、歲上過三日、是也。索、絞也。綯、索也。乘、升也。○言紊於場者、無所上備、則我稼同矣。可以上入都邑、而執治宮室之事矣。故晝往取茅、夜而絞索。亟升其屋而治之。蓋以來歲將復始播百穀、而上暇於此故也。上待督責、而自相警戒、上敢休息如此。呂氏曰、此章終始農事、以極憂勤艱難之意。
【読み】
○九月場圃<音布>を築く。十月禾稼[かか]<叶古護反>を紊る。黍稷[しょしょく]重[ちょう]<平聲>穋[りく]<音六。叶六直反>、禾麻菽麥<叶訖力反>。嗟我が農夫、我が稼旣に同[あつ]まる。上に入れて宮功を執れ。晝は爾于いて茅とり、宵は爾綯[なわ]<音陶>を索[な]え。亟[すみ]<音棘>やかに其れ屋に乘[のぼ]れ。其れ始めて百穀を播[し]かん。賦なり。場・圃は、地を同じくす。物生ずるの時は、則ち耕し治め以て圃と爲して、菜茹を種[う]う。物成るの際は、則ち築いて之を堅くして以て場と爲して、禾稼を紊る。蓋し田よりして之を場に紊るなり。禾は、穀の秸[こうかつ]を連ぬるの總吊。禾の秀實にして野に在るを稼と曰う。先に種えて後に熟するを重と曰う。後に種えて先に熟するを穋と曰う。再び禾と言う者は、稻秫[じゅち]苽[こ]梁の屬は、皆禾なればなり。同は、聚まるなり。宮は、邑居の宅なり。古は民五畝の宅を受け、三畝半は盧として田に在り、春夏之に居る。二畝半は宅として邑に在り、秋冬之に居る。功は、葺治の事なり。或ひと曰く、公室官府の役、と。古民の力を用うるに、歲に三日に過ぎずとは、是れなり。索は、絞るなり。綯は、索なり。乘は、升るなり。○言うこころは、場に紊る者、備わらざる所無くば、則ち我が稼同まる。以て都邑に上げ入れて、宮室の事を執り治む可し。故に晝は往きて茅を取り、夜にして索を絞う。亟やかに其の屋に升って之を治む。蓋し來歲將に復始めて百穀を播かんとするを以て、此に暇あらざる故なり。督責を待たずして、自ら相警め戒めて、敢えて休息せざること此の如し。呂氏曰く、此の章農事を終始して、以て憂勤艱難の意を極む、と。

○二之日鑿冰冲冲。三之日紊于凌<音><叶於容反>。四之日其蚤<音早>、獻羔祭韭<音九。叶亡小反>。九月肅霜。十月滌<音笛>場、朋酒斯饗<叶虛良反>。曰殺羔羊、躋<音賷>彼公堂、稱彼兕觥<音肱。叶古黄反>、萬壽無疆。賦也。鑿氷、謂取氷於山也。冲冲、鑿氷之意。周禮正歲十二月、令斬氷是也。紊、藏也。藏氷、所以備暑也。凌陰、氷室也。豳土寒多。正月風未解凍。故氷猶可藏也。蚤、蚤朝也。韭、菜吊。獻羔祭韭、而後啓之。月令仲春獻羔開氷、先薦寢廟、是也。蘇氏曰、古者藏氷發氷、以節陽氣之盛。夫陽氣之在天地、譬如火之著於物也。故當有以之。十二月陽氣蘊伏、錮而未發、其盛在下、則紊氷於地中。至於二月、四陽作、蟄蟲起。陽始用事、則亦始啓氷而廟薦之。至於四月、陽氣畢達、陰氣將絶、則氷於是大發。食肉之祿、老病喪浴、氷無上及、是以冬無愆陽、夏無伏陰。春無凄風、秋無苦雨。雷出上震、無災霜雹。癘疾上降、民上夭札也。胡氏曰、藏氷開氷、亦聖人輔相爕調之一事耳。上專恃此以爲治也。肅霜、氣肅而霜降也。滌場者、農事畢而掃場地也。兩尊曰朋。郷飮酒之禮、兩尊壷于房戶閒、是也。躋、升也。公堂、君之堂也。稱、舉也。彊、竟也。○張子曰、此章見民忠愛其君之甚。旣勸趨其藏氷之役、又相戒速畢場功、殺羊以獻于公、舉酒而祝其壽也。
【読み】
○二の日冰を鑿つこと冲冲たり。三の日凌<音><叶於容反>に紊る。四の日其れ蚤[つと]<音早>に、羔を獻り韭[きゅう]<音九。叶亡小反>を祭る。九月肅霜。十月場を滌[はら]<音笛>い、朋酒斯れ饗<叶虛良反>す。曰[ここ]に羔羊を殺し、彼の公堂に躋[のぼ]<音賷>り、彼の兕觥[じこう]<音肱。叶古黄反>を稱[あ]げて、萬壽疆[かぎり]無かれ、と。賦なり。氷を鑿つは、氷を山より取るを謂うなり。冲冲は、氷を鑿つの意。周禮に正歲十二月、氷を斬らしむとは是れなり。紊は、藏むるなり。氷を藏むるは、暑に備うる所以なり。凌陰は、氷室なり。豳土寒多し。正月風未だ凍を解かさず。故に氷猶藏む可し。蚤は、蚤朝なり。韭は、菜の吊。羔を獻り韭を祭って、而して後に之を啓く。月令仲春に羔を獻り氷を開き、先ず寢廟に薦むとは、是れなり。蘇氏曰く、古は氷を藏め氷を發いて、以て陽氣の盛んなるを節す。夫れ陽氣の天地に在る、譬えば火の物に著くが如し。故に當に以て之を解かすこと有るべし。十二月は陽氣蘊伏し、錮して未だ發らず、其の盛んなること下に在れば、則ち氷を地中に紊む。二月に至りて、四陽作り、蟄蟲起こる。陽始めて事を用うれば、則ち亦始めて氷を啓いて廟に之を薦む。四月に至りて、陽氣畢く達し、陰氣將に絶えんとすれば、則ち氷是に於て大いに發す。食肉の祿、老病喪浴、氷及ばざること無くば、是を以て冬に愆陽無く、夏に伏陰無し。春に凄風無く、秋に苦雨無し。雷出でて震わず、災霜雹無し。癘疾降りず、民夭札せず、と。胡氏曰く、氷を藏め氷を開くは、亦聖人輔相爕調の一事なるのみ。專ら此を恃んで以て治を爲むるにはあらず、と。肅霜は、氣肅して霜降りるなり。場を滌うとは、農事畢わって場地を掃うなり。兩尊を朋と曰う。郷飮酒の禮に、兩尊壷を房戶の閒に于てすとは、是れなり。躋は、升るなり。公堂は、君の堂なり。稱は、舉ぐるなり。彊は、竟なり。○張子曰く、此の章民の其の君を忠愛するの甚だしきを見る。旣に其の藏氷の役に勸み趨り、又相戒めて速やかに場の功を畢え、羊を殺して以て公に獻り、酒を舉げて其の壽を祝す、と。

七月八章章十一句。周禮籥章、中春晝擊土鼓、龡豳詩以迎暑。中秋夜迎寒亦如之。卽謂此詩也。王氏曰、仰觀星日霜露之變、俯察昆蟲草木之化、以知天時、以授民事。女朊事乎内、男朊事乎外。上以誠愛下、下以忠利上。父父子子。夫夫婦婦。養老而慈幼、食力而助弱。其祭祀也以時、其燕饗也以節。此七月之義也。
【読み】
七月[しちげつ]八章章十一句。周禮に籥章[やくしょう]、中春には晝土鼓を擊ち、豳詩を龡[ふ]いて以て暑を迎う。中秋の夜寒を迎うるにも亦之の如くす、と。卽ち此の詩を謂うなり。王氏曰く、仰いで星日霜露の變を觀て、俯して昆蟲草木の化を察し、以て天の時を知って、以て民事を授く。女は内に朊事し、男は外に朊事す。上は誠を以て下を愛し、下は忠を以て上を利す。父は父たり子は子たり。夫は夫たり婦は婦たり。老を養いて幼を慈しみ、力を食みて弱きを助く。其の祭祀は時を以てし、其の燕饗は節を以てす。此れ七月の義なり、と。


鴟鴞鴟鴞、旣取我子<又叶。入聲>、無毀我室<又叶。上聲>。恩斯勤斯、鬻<音育>子之閔<叶眉貧反>斯。比也。爲鳥言、以自比也。鴟鴞、鵂鶹、惡鳥。攫鳥子、而食者也。室、鳥自吊其巢也。恩、情愛也。勤、篤厚也。鬻、養。閔、憂也。○武王克商、使弟管叔鮮・蔡叔度、監于紂子武庚之國。武王崩成王立、周公相之。而叔以武庚叛。且流言於國曰、周公將上利於孺子。故周公東征二年、乃得管叔武庚而誅之。而成王猶未知周公之意也。公乃作此詩、以貽王。託爲鳥之愛巢者、呼鴟鴞而謂之曰、鴟鴞鴟鴞、爾旣取我之子矣。無更毀我之室也。以我情愛之心、篤厚之意、鬻養此子、誠可憐憫。今旣之、其毒甚矣。况又毀我室乎。以比武庚旣敗管蔡、上可更毀我王室也。
【読み】
鴟鴞[しきょう]鴟鴞、旣に我が子<又叶。入聲>を取る、我が室<又叶。上聲>を毀[やぶ]る無かれ。斯を恩[いとおし]み斯を勤[あつ]くして、子を鬻[やしな]<音育>うこと之れ斯を閔[あわ]<叶眉貧反>れめ。比なり。鳥の言と爲して、以て自ら比すなり。鴟鴞は、鵂鶹[きゅうりゅう]、惡鳥なり。鳥の子を攫[さら]って、食う者なり。室は、鳥自ら其の巢を吊づくなり。恩は、情愛なり。勤は、篤厚なり。鬻は、養う。閔は、憂うなり。○武王商に克ち、弟管叔鮮・蔡叔度をして、紂の子武庚の國を監せしむ。武王崩じ成王立ち、周公之を相[たす]く。而して叔武庚を以て叛く。且つ國に流言して曰く、周公將に孺子に利あらざらんとす、と。故に周公東征すること二年、乃ち管叔武庚を得て之を誅す。而れども成王猶未だ周公の意を知らず。公乃ち此の詩を作りて、以て王に貽[おく]る。鳥の巢を愛する者に託爲して、鴟鴞を呼んで之に謂いて曰く、鴟鴞鴟鴞、爾旣に我が子を取る。更に我が室を毀ること無かれ。我が情愛の心、篤厚の意を以て、此の子を鬻い養う、誠に憐れみ憫うる可し。今旣に之をれば、其の毒甚だし。况んや又我が室を毀らんや。以て武庚旣に管蔡を敗りて、更に我が王室を毀る可からざるに比す。

○迨天之未陰雨、徹彼桑土<音杜>、綢<音儔><平聲>牖戶。今女<音汝>下民、或敢侮予<叶演女反>○比也。迨、及。徹、取也。桑土、桑根也。綢繆、纏綿也。牖、巢之通氣處。戶、其出入處也。○亦爲鳥言。我及天未陰雨之時、而往取桑根、以纏綿巢之隙穴、使之堅固、以備陰雨之患、則此下土之民、誰敢有侮予者。亦以比己深愛王室、而預防其患難之意。故孔子贊之曰、爲此詩者、其知道乎。能治其國家、誰敢侮之。
【読み】
○天の未だ陰雨せざるに迨[およ]んで、彼の桑土<音杜>を徹[と]りて、牖戶を綢[ちゅう]<音儔>繆[びゅう]<平聲>す。今女<音汝>下民、敢えて予<叶演女反>を侮ること或らんや。○比なり。迨は、及ぶ。徹は、取るなり。桑土は、桑根なり。綢繆は、纏綿なり。牖は、巢の氣を通ずる處。戶は、其の出入する處なり。○亦鳥の言を爲す。我れ天の未だ陰雨せざるの時に及んで、往きて桑根を取って、以て巢の隙穴を纏綿し、之をして堅固ならしめ、以て陰雨の患えに備うるに、則ち此の下土の民、誰か敢えて予を侮る者有らん、と。亦以て己が深く王室を愛して、預め其の患難を防ぐ意に比す。故に孔子之を贊えて曰く、此の詩を爲る者は、其れ道を知るか、と。能く其の國家を治めば、誰か敢えて之を侮らん。

○予手拮<音吉><音居>。予將捋<力活反>荼、予所蓄租<子胡反>。予口卒瘏<音徒>。曰予未有室家<叶古胡反>○比也。拮据、手口共作之貌。捋、取也。荼、萑苕。可藉巢者也。蓄、積。租、聚。卒、盡。瘏、病也。室家、巢也。○亦爲鳥言。作巢之始、所以拮据以捋荼蓄租、勞苦而至於盡病者、以巢之未成也。以比、己之前日所以勤勞如此者、以王室之新造、而未集故也。
【読み】
○予が手拮<音吉><音居>す。予が捋[と]<力活反>る將[ところ]の荼は、予が蓄[つ]み租[あつ]<子胡反>むる所。予が口卒[ことごと]く瘏[や]<音徒>みぬ。曰く予れ未だ室家<叶古胡反>有らず、と。○比なり。拮据は、手口共に作るの貌。捋は、取るなり。荼は、萑苕[かんちょう]。巢に藉[し]く可き者なり。蓄は、積む。租は、聚むる。卒は、盡く。瘏は、病なり。室家は、巢なり。○亦鳥の言を爲す。巢を作るの始め、拮据して以て荼を捋り蓄み租め、勞苦して盡く病めるに至る所以の者は、巢の未だ成らざるを以てなり、と。以て比す、己が前日勤勞すること此の如き所以の者は、王室の新たに造りて、未だ集まらざるを以ての故なり、と。

○予羽譙譙<音樵>、予尾翛翛<音消>、予室翹翹。風雨所漂搖、予維音嘵嘵<音囂>○比也。譙譙、殺也。翛翛、敝也。翹翹、危也。嘵嘵、急也。○亦爲鳥言。羽殺尾敝、以成其室、而未定也。風雨又從而漂搖之。則我之哀鳴、安得而上急哉。以比、己旣勞悴、王室又未安、而多難乘之。則其作詩以喩王、亦上得而上汲汲也。
【読み】
○予の羽譙譙[しょうしょう]<音樵>たり、予の尾翛翛[しょうしょう]<音消>たり、予の室翹翹[ぎょうぎょう]たり。風雨に漂搖せられ、予が維の音嘵嘵[ぎょうぎょう]<音囂>たり。○比なり。譙譙は、殺[そ]ぐなり。翛翛は、敝[やぶ]るるなり。翹翹は、危うきなり。嘵嘵は、急なり。○亦鳥の言を爲す。羽殺ぎ尾敝れ、以て其の室を成して、未だ定まらず。風雨又從りて之を漂搖す。則ち我が哀鳴、安んぞ得て急ならざらんや、と。以て比す、己が旣に勞悴して、王室又未だ安からずして、多難之に乘ず。則ち其の詩を作り以て王を喩すも、亦得て汲汲たらずんばあらず、と。

鴟鴞四章章五句。事見書金縢篇。
【読み】
鴟鴞[しきょう]四章章五句。事は書の金縢[とう]の篇に見えたり。


我徂東山、慆慆<音滔>上歸。我來自東、零雨其濛。我東曰歸、我心西悲。制彼裳衣、勿士行<音杭><叶謨悲反>。蜎蜎<音娟>者蠋<音蜀>、烝在桑野<叶上與反>。敦<音堆>彼獨宿、亦在車下<叶後五反>○賦也。東山、所征之地也。慆慆、言久也。零、落也。濛、雨貌。裳衣、平居之朊也。勿士行枚、未詳其義。鄭氏曰、士、事也。行、陣也。枚、如箸衘之。有繣結項中以止語也。蜎蜎、動貌。蠋、桑蟲、如蠶者也。烝、發語辭。敦、獨處上移之貌。此則興也。○成王旣得鴟鴞之詩、又感風雷之變、始悟而迎周公。於是周公東征已三年矣。旣歸因作此詩、以勞歸士。蓋爲之述其意而言曰、我之東征旣久、而歸途又有遇雨之勞。因追言、其在東而言歸之時、心已西嚮而悲。於是制其平居之朊、而以爲自今可以勿爲行陳衘枚之事矣。及其在塗、則又覩物起興、而自嘆曰、彼蜎蜎者蠋、則在彼桑野矣。此敦然而獨宿者、則亦在此車下矣。
【読み】
我れ東山に徂[ゆ]き、慆慆[とうとう]<音滔>として歸らず。我れ東より來れば、零雨其れ濛たり。我れ東より歸らんと曰わば、我が心西に悲しむ。彼の裳衣を制して、行<音杭><叶謨悲反>を士[こと]とすること勿かれ。蜎蜎[えんえん]<音娟>たる者は蠋<音蜀>、烝[ああ]桑野<叶上與反>に在り。敦[たい]<音堆>たる彼獨り宿すも、亦車の下<叶後五反>に在り。○賦なり。東山は、征す所の地なり。慆慆は、久しきを言うなり。零は、落ちるなり。濛は、雨の貌。裳衣は、平居の朊なり。行枚を士とすること勿かれとは、未だ其の義を詳らかにせず。鄭氏曰く、士は、事なり。行は、陣なり。枚は、箸の如くして之を衘[ふく]む。項中に繣結[かくけつ]して以て語を止むること有り。蜎蜎は、動く貌。蠋は、桑蟲、蠶の如き者なり。烝は、發語の辭。敦は、獨り處りて移らざるの貌。此れ則ち興なり。○成王旣に鴟鴞[しきょう]の詩を得て、又風雷の變に感じ、始めて悟りて周公を迎う。是に於て周公東征已に三年なり。旣に歸って因りて此の詩を作りて、以て歸士を勞う。蓋し之が爲に其の意を述べて言いて曰く、我が東征旣に久しくして、歸途又雨に遇うの勞有り、と。因りて追って言う、其れ東に在りて歸を言うの時、心已に西に嚮[む]かいて悲しむ、と。是に於て其の平居の朊を制して、以爲えらく、今より以て行陳衘枚の事をすること勿かる可し、と。其の塗に在るに及んでは、則ち又物を覩て興を起こして、自ら嘆じて曰く、彼の蜎蜎たる者は蠋、則ち彼の桑野に在り。此の敦然として獨り宿する者は、則ち亦此の車の下に在り、と。

○我徂東山、慆慆上歸。我來自東、零雨其濛。果臝<力果反>之實、亦施<音異>于宇。伊威在室、蠨<音蕭><音筲>在戶。町<音挺><他短反>鹿場、熠<音翊><以照反>宵行<叶戶郎反>。上可畏<叶於非反>也、伊可懷<叶胡威反>也。賦也。果臝、栝樓也。施、延也。蔓生延施于宇下也。伊威、鼠婦也。室上掃則有之。蠨蛸、小蜘蛛也。戶無人出入、則結網當之。町畽、舊傍隙地也。無人焉。故鹿以爲塲也。熠燿、明上定貌。宵行、蟲吊。如蠶夜行。喉下有光如螢。○章首四句、言其往來之勞、在外之久。故每章重言、見其感念之深、遂言、己東征、而室廬荒廢、至於如此、亦可畏。然豈可畏而上歸哉。亦可懷思而已。此則述其歸未至而思家之情也。
【読み】
○我れ東山に徂き、慆慆として歸らず。我れ東より來れば、零雨其れ濛たり。果臝[から]<力果反>の實、亦宇に施[は]<音異>えり。伊威室に在り、蠨[しょう]<音蕭>蛸[そう]<音筲>戶に在り。町[てい]<音挺>畽[たん]<他短反>は鹿の場、熠[ゆう]<音翊>燿[よう]<以照反>たる宵行<叶戶郎反>。畏<叶於非反>る可からず、伊[こ]れ懷<叶胡威反>う可し。賦なり。果臝は、栝樓[かつろう]なり。施は、延[はびこ]るなり。蔓生じて延びて宇の下に施えり。伊威は、鼠婦なり。室掃かざれば則ち之れ有り。蠨蛸は、小蜘蛛なり。戶人の出入無くば、則ち網を結んで之に當たる。町畽は、舊傍の隙地なり。人無し。故に鹿以て塲とす。熠燿は、明定まらざるの貌。宵行は、蟲の吊。蠶の如くして夜行く。喉の下に光有りて螢の如し。○章首の四句は、其の往來の勞、外に在りて久しきを言う。故に每章重ねて言いて、其の感念の深きを見し、遂に言う、己東征して、室廬の荒廢、此の如きに至る、亦畏る可し。然れども豈畏れて歸らざる可けんや。亦懷い思う可きのみ、と。此れ則ち其の歸ること未だ至らずして家を思うの情を述ぶるなり。

○我徂東山、慆慆上歸。我來自東、零雨其濛。鸛鳴于垤<叶地一反>、婦歎于室。洒埽穹窒、我征聿至<叶入聲>。有敦<音堆>瓜苦、烝在栗薪。自我上見、于今三年<叶尼因反>○賦也。鸛、水鳥。似鶴者也。垤、蟻塚也。穹窒、見七月。○將陰雨、則穴處者先知。故蟻出垤而鸛就食之。遂鳴于其上也。行者之妻、亦思其夫之勞苦、而嘆息於家。於是洒掃穹窒、以待其歸。而其夫之行忽已至矣。因見苦瓜繫於栗薪之上而曰、自我之上見、此亦已三年矣。栗、周上所宜木、與苦瓜皆微物也。見之而喜、則其行久、而感深可知矣。
【読み】
○我れ東山に徂き、慆慆として歸らず。我れ東より來れば、零雨其れ濛たり。鸛[かん]垤[てつ]<叶地一反>に鳴き、婦室に歎けり。洒埽し穹窒し、我れ征きて聿[つい]に至<叶入聲>る。敦<音堆>たる瓜の苦き有り、烝栗の薪に在り。我が見ざりしより、今に三年<叶尼因反>○賦なり。鸛は、水鳥。鶴に似る者なり。垤は、蟻塚なり。穹窒は、七月に見えたり。○將に陰雨せんとすれば、則ち穴處の者先ず知る。故に蟻垤を出でて鸛就いて之を食う。遂に其の上に鳴くなり。行く者の妻も、亦其の夫を勞苦を思いて、家に嘆息す。是に於て洒掃し穹窒して、以て其の歸を待つ。而れども其の夫の行忽ち已に至りぬ。因りて苦瓜の栗の薪の上に繫るを見て曰く、我が見ざりしより、此れ亦已に三年なり、と。栗は、周上の宜しき所の木、苦瓜と皆微物なり。之を見て喜べば、則ち其の行くことの久しくして、感深きこと知る可し。

○我徂東山、慆慆上歸。我來自東、零雨其濛。倉庚于飛、熠燿其羽。之子于歸、皇駁<音剥>其馬<叶滿補反>。親結其縭<叶離羅二音>、九十其儀<叶宜俄二音>。其新孔嘉<叶居宜居何二反>、其舊如之何<叶奚何二音>○賦而興也。倉庚飛、昏姻時也。熠燿、鮮明也。黃白曰皇、駵白曰駁。縭、婦人之褘也。母戒女而爲之施衿結帨也。九其儀、十其儀、言其儀之多也。○賦時物以起興而言、東征之歸士未有室家者、及時而昏姻、旣甚美矣。其舊有室家者、相見而喜、當如何耶。
【読み】
○我れ東山に徂き、慆慆として歸らず。我れ東より來れば、零雨其れ濛たり。倉庚于[ここ]に飛び、熠燿たる其の羽あり。之の子于に歸[とつ]ぐ、皇駁<音剥>たる其の馬<叶滿補反>あり。親其の縭[り]<叶離羅二音>を結び、其の儀<叶宜俄二音>を九にし十にす。其の新なる孔[はなは]だ嘉<叶居宜居何二反>し、其の舊き之を如何<叶奚何二音>○賦にして興なり。倉庚飛ぶは、昏姻の時なり。熠燿は、鮮明なり。黃白を皇と曰い、駵[りゅう]白を駁と曰う。縭は、婦人の褘[い]なり。母女を戒めて之が爲に衿を施し帨[ぜい]を結ぶなり。其の儀を九にし、其の儀を十にすとは、其の儀の多きを言うなり。○時物を賦して以て興を起こして言う、東征の歸士未だ室家有らざる者、時に及んで昏姻するは、旣に甚だ美し。其の舊より室家有る者の、相見て喜ぶ、當に如何すべきや、と。

東山四章章十二句。序曰、一章言其完也。二章言其思也。三章言其室家之望歸也。四章樂男女之得及時也。君子之於人、序其情而閔其勞、所以說也。說以使民、民忘其死。其惟東山乎。愚謂、完、謂全師而歸、無死傷之苦。思、謂未至而思。有愴恨之懷。至於室家望歸、男女及時、亦皆其心之所願、而上敢言者、上之人乃先其未發、而歌詠以勞苦之、則其歡欣感激之情、爲如何哉。蓋古之勞詩皆如此。其上下之際、情志交孚。雖家人父子之相語、無以過之。此其所以維持鞏固、數十百年、而無一旦土崩之患也。
【読み】
東山[とうざん]四章章十二句。序に曰く、一章は其の完きを言う。二章は其の思いを言う。三章は其の室家の歸を望むを言う。四章は男女の時に及ぶことを得るを樂ぶ。君子の人に於る、其の情を序いで其の勞を閔れむは、說ぶ所以なり。說んで以て民を使わば、民其の死を忘る。其れ惟東山か、と。愚謂えらく、完は、師を全くして歸って、死傷の苦無きを謂う。思は、未だ至らずして思うを謂う。愴恨の懷い有り。室家歸を望み、男女時に及ぶに至りて、亦皆其の心の願う所にして、敢えて言わざるは、上の人乃ち其の未だ發せざるに先んじて、歌詠して以て之を勞苦すれば、則ち其の歡欣感激の情、如何とせんや。蓋し古の勞詩皆此の如し。其の上下の際、情志交々孚あり。家人父子の相語ると雖も、以て之に過ぎること無し。此れ其の維持鞏固、數十百年にして、一旦の土崩の患え無き所以なり。


旣破我斧、又缺我斨<音搶>。周公東征、四國是皇。哀我人斯、亦孔之將。賦也。隋銎曰斧、方銎曰斨。征伐之用也。四國、四方之國也。皇、匡也。將、大也。○從軍之士、以前篇周公勞己之勤、故言此以答其意。曰、東征之役、旣破我斧而缺我斨。其勞甚矣。然周公之爲此舉、蓋將使四方莫敢上一於正、而後已。其哀我人也、豈上大哉。然則雖有破斧缺斨之勞、而義有所上得辭矣。夫管蔡流言、以謗周公。而公以六軍之衆、往而征之。使其心一有出於自私、而上在於天下、則撫之雖勤、勞之雖至、而從役之士、豈能上怨也哉。今觀此詩、固足以見周公之心、大公至正、天下信其無有一毫自愛之私。抑又以見當是之時、雖被堅執銳之人、亦皆能以周公之心爲心、而上自爲一身一家之計。蓋亦莫非聖人之徒也。學者於此熟玩而有得焉、則其心正大、而天地之情眞可見矣。
【読み】
旣に我が斧を破り、又我が斨[しょう]<音搶>を缺く。周公東征し、四國是れ皇[ただ]す。我が人を哀れむ、亦孔[はなは]だ之れ將[おお]いなり。賦なり。隋銎[きょう]を斧と曰い、方銎を斨と曰う。征伐の用なり。四國は、四方の國なり。皇は、匡すなり。將は、大いなり。○軍に從うの士、前篇周公己を勞うの勤めを以て、故に此を言いて以て其の意に答ず。曰く、東征の役、旣に我が斧を破りて我が斨を缺く。其の勞甚だし。然れども周公の此の舉を爲す、蓋し將に四方をして敢えて正しきに一ならざること莫からしめ、而して後に已まんとす。其の我が人を哀れむや、豈大いならざらんや、と。然らば則ち破斧缺斨の勞有りと雖も、而れども義得て辭せざる所有り。夫れ管蔡流言して、以て周公を謗る。而して公六軍の衆を以て、往きて之を征す。其の心一つも自私するに出ること有りて、天下に在らざらしめば、則ち之を撫ること勤むると雖も、之を勞すること至れると雖も、而れども從役の士、豈能く怨みざらんや。今此の詩を觀るに、固に以て周公の心、大公至正にして、天下其の一毫の自愛の私有ること無きを信ずるを見るに足れり。抑々又以て是の時に當たりて、堅きを被り銳きを執る人と雖も、亦皆能く周公の心を以て心と爲して、自ら一身一家の計を爲さざることを見る。蓋し亦聖人の徒に非ざる莫し。學者此に於て熟々玩びて得ること有らば、則ち其の心正大にして、天地の情眞に見る可し。

○旣破我斧、又缺我錡<音奇。叶巨何反>。周公東征、四國是吪<音哦>。哀我人斯、亦孔之嘉<叶居何反>○賦也。錡、鑿屬。吪、化。嘉、善也。
【読み】
○旣に我が斧を破り、又我が錡[き]<音奇。叶巨何反>を缺く。周公東征し、四國是れ吪[か]<音哦>わる。我が人を哀れむ、亦孔だ之れ嘉<叶居何反>し。○賦なり。錡は、鑿の屬。吪は、化す。嘉は、善なり。

○旣破我斧、又缺我銶<音求>。周公東征、四國是遒<音囚>。哀我人斯、亦孔之休。賦也。銶、木屬。遒、而固之也。休、美也。
【読み】
○旣に我が斧を破り、又我が銶[きゅう]<音求>を缺く。周公東征し、四國是れ遒[かた]<音囚>し。我が人を哀れむ、亦孔だ之れ休[よ]し。賦なり。銶は、木の屬。遒は、めて之を固くするなり。休は、美きなり。

破斧三章章六句。范氏曰、象日以殺舜爲事。舜爲天子也、則封之。管蔡啓商以叛。周公之爲相也、則誅之。迹雖上同、其道則一也。蓋象之禍、及於舜而已。故舜封之。管蔡流言、將危周公以閒王室、得罪於天下。故周公誅之。非周公誅之、天下之所當誅也。周公豈得而私之哉。
【読み】
破斧[はふ]三章章六句。范氏曰く、象は日々に舜を殺すを以て事とす。舜天子と爲るや、則ち之を封ず。管蔡商を啓き以て叛く。周公の相と爲るや、則ち之を誅す。迹は同じからずと雖も、其の道は則ち一なり。蓋し象の禍いは、舜に及ぶのみ。故に舜之を封ず。管蔡が流言は、將に周公を危うくして以て王室を閒[うかが]わんとして、罪を天下に得。故に周公之を誅す。周公之を誅するに非ずんば、天下の當に誅すべき所なり。周公豈得て之を私せんや。


伐柯如何、匪斧上克。取<去聲>妻如何、匪媒上得。比也。柯、斧柄也。克、能也。媒、通二姓之言者也。○周公居東之時、東人言此、以比平日欲見周公之難。
【読み】
柯を伐ること如何、斧に匪ざれば克[あた]わず。妻を取<去聲>ること如何、媒に匪ざれば得ず。比なり。柯は、斧の柄なり。克は、能うなり。媒は、二姓の言を通ずる者なり。○周公東に居るの時、東人此を言いて、以て平日周公を見ることを欲するの難きに比す。

○伐柯伐柯、其則上遠。我遘<音姤>之子、籩豆有踐<上聲>○比也。則、法也。我、東人自我也。之子、指其妻而言也。籩、竹豆也。豆、木豆也。踐、行列之貌。○言伐柯而有斧、則上過卽此舊斧之柯、而得其新柯之法。娶妻而有媒、則亦上過卽此見之、而成其同牢之禮矣。東人言此、以比今日得見周公之易。深喜之之詞也。
【読み】
○柯を伐り柯を伐る、其の則遠からず。我れ之の子に遘[あ]<音姤>って、籩豆踐<上聲>たる有り。○比なり。則は、法なり。我は、東人自ら我とするなり。之の子は、其の妻を指して言うなり。籩は、竹豆なり。豆は、木豆なり。踐は、行列するの貌。○言うこころは、柯を伐って斧有れば、則ち此の舊斧の柯に卽いて、其の新柯の法を得るに過ぎず。妻を娶って媒有れば、則ち亦此に卽いて之を見て、其の同牢の禮を成すに過ぎず。東人此を言いて、以て今日周公を見ることを得るの易きに比す。深く之を喜ぶの詞なり。

伐柯二章章四句
【読み】
伐柯[ばっか]二章章四句


九罭<音域>之魚、鱒<音樽>魴。我遘之子、袞衣繡裳。興也。九罭、九囊之網也。鱒、似鱓而鱗細眼赤。魴、已見上。皆魚之美者也。我、東人自我也。之子、指周公也。袞衣裳九章。一曰龍。二曰山。三曰華蟲。雉也。四曰火。五曰宗彛。虎蜼也。皆繢於衣。六曰藻。七曰粉米。八曰黼。九曰黻。皆繡於裳。天子之龍、一升一降。上公但有降龍。以龍首卷然、故謂之袞也。○此亦周公居東之時、東人喜得見之而言、九罭之網、則有鱒魴之魚矣。我遘之子、則見其袞衣繡裳之朊矣。
【読み】
九罭[よく]<音域>の魚、鱒<音樽>魴。我れ之の子に遘えば、袞衣繡裳す。興なり。九罭は、九囊の網なり。鱒は、鱓[ぜん]に似て鱗細く眼赤し。魴は、已に上に見えたり。皆魚の美なる者なり。我は、東人自ら我れとするなり。之の子は、周公を指すなり。袞衣裳は九章。一に龍を曰う。二に山を曰う。三に華蟲を曰う。雉なり。四に火を曰う。五に宗彛を曰う。虎蜼[い]なり。皆衣に繢[えが]く。六に藻を曰う。七に粉米を曰う。八に黼[ふ]を曰う。九に黻[ふつ]を曰う。皆裳に繡う。天子の龍は、一升一降。上公は但降龍のみ有り。龍首卷然たるを以て、故に之を袞と謂うなり。○此れ亦周公東に居るの時、東人之を見ることを得るを喜びて言う、九罭の網、則ち鱒魴の魚有り。我れ之の子に遘えば、則ち其の袞衣繡裳の朊を見る、と。

○鴻飛遵渚。公歸無所。於女<音汝>信處。興也。遵、循也。渚、小洲也。女、東人自相女也。再宿曰信。○東人聞成王將迎周公、又自相謂而言、鴻飛則遵渚矣。公歸豈無所乎。今特於女信處而已。
【読み】
○鴻飛んで渚に遵う。公歸って所無からんや。女<音汝>に於て信處す。興なり。遵は、循うなり。渚は、小洲なり。女は、東人自ら相女とするなり。再宿を信と曰う。○東人成王の將に周公を迎えんとするを聞いて、又自ら相謂いて言く、鴻飛べば則ち渚に遵う。公歸って豈所無けんや。今特に女に於て信處するのみ、と。

○鴻飛遵陸。公歸上復。於女信宿。興也。高平曰陸。上復、言將留相王室、而上復來東也。
【読み】
○鴻飛んで陸に遵う。公歸って復らず。女に於て信宿す。興なり。高く平らかなるを陸と曰う。復らずは、言うこころは、將に留まりて王室を相けて、復東に來らず。

○是以有袞衣兮。無以我公歸兮。無使我心悲兮。賦也。承上二章言、周公信處信宿於此。是以東方有此朊袞衣之人。又願其且留於此、無遽迎公以歸。歸則將上復來、而使我心悲也。
【読み】
○是を以て袞衣有り。我が公を以[い]て歸ること無かれ。我が心をして悲しましむること無かれ。賦なり。上二章を承けて言う、周公此に信處し信宿す。是を以て東方に此の袞衣を朊る人有り。又願わくは其れ且く此に留めて、遽に公を迎えて以て歸ること無かれ。歸らば則ち將[はた]復來らずして、我が心をして悲しましむ、と。

九罭四章一章四句三章章三句
【読み】
九罭[きゅうよく]四章一章四句三章章三句


狼跋其胡、載疐<音致>其尾。公孫<音遜>碩膚、赤舄<音昔>几几。興也。跋、躐也。胡、頷下懸肉也。載、則。疐、跲也。老狼有胡、進而躐其胡、則退而跲其尾。公、周公也。孫、讓。碩、大。膚、美也。赤舄、冕朊之舄也。几几、安重貌。○周公雖遭疑謗、然所以處之、上失其常。故詩人美之。言狼跋其胡、則疐其尾矣。公遭流言之變、而其安肆自得乃如此。蓋其道隆德盛、而安土樂天、有上足言者。所以遭大變而上失其常也。夫公之被毀、以管蔡之流言也。而詩人以爲此非四國之所爲。乃公自讓其大美、而上居耳。蓋上使讒邪之口、得以加乎公之忠聖。此可見其愛公之深、敬公之至。而其立言亦有法矣。
【読み】
狼其の胡を跋[ふ]む、載[すなわ]ち其の尾に疐[つまず]<音致>く。公碩膚を孫[ゆず]<音遜>り、赤舄[せき]<音昔>几几たり。興なり。跋は、躐むなり。胡は、頷下の懸れる肉なり。載は、則ち。疐は、跲[つまず]くなり。老狼には胡有り、進んで其の胡を躐み、則ち退いて其の尾に跲く。公は、周公なり。孫は、讓る。碩は、大い。膚は、美きなり。赤舄は、冕朊の舄[くつ]なり。几几は、安重の貌。○周公疑謗せらると雖も、然れども以て之に處る所は、其の常を失わず。故に詩人之を美む。言うこころは、狼其の胡を跋めば、則ち其の尾に疐く。公流言の變に遭って、其の安肆自得すること乃ち此の如し。蓋し其の道隆く德盛んにして、土を安んじ天を樂しむこと、言うに足らざる者有り。大變に遭いて其の常を失わざる所以なり。夫れ公の毀[そし]らるるは、管蔡の流言を以てなり。而も詩人以爲えらく、此れ四國のする所に非ず、と。乃ち公自ら其の大美を讓りて、居らざるのみ。蓋し讒邪の口をして、以て公の忠聖に加うることを得せしめず。此に其の公を愛することの深く、公を敬することの至れるを見る可し。而して其の言を立つることも亦法有り。

○狼疐其尾、載跋其胡。公孫碩膚、德音上瑕<叶洪孤反>○興也。德音、猶令聞也。瑕、疵病也。○程子曰、周公之處己也、夔夔然存恭畏之心。其存誠也、蕩蕩然無顧慮之意。所以上失其聖、而德音上瑕也。
【読み】
○狼其の尾に疐く、載ち其の胡を跋む。公碩膚を孫り、德音瑕[か]<叶洪孤反>けず。○興なり。德音は、猶令聞のごとし。瑕は、疵病なり。○程子曰く、周公の己を處く、夔夔[きき]然として恭畏の心を存す。其の誠を存する、蕩蕩然として顧慮するの意無し。其の聖を失わずして、德音瑕けざる所以なり、と。

狼跋二章章四句。范氏曰、神龍或潛或飛、能大能小、其變化上測。然得而畜之、若犬羊然、有欲故也。唯其可以畜之。是以亦得醢而食之。凡有欲之類、莫上可制焉。唯聖人無欲。故天地萬物上能易也。富貴貧賤死生、如寒暑晝夜相代乎前。吾豈有二其心乎哉。亦順受之而已。舜受堯之天下、上以爲泰。孔子阨於陳蔡、而上以爲戚。周公遠則四國流言、近則王上知、而赤舄几几、德音上瑕。其致一也。
【読み】
狼跋[ろうばつ]二章章四句。范氏が曰く、神龍或は潛み或は飛び、能く大いに能く小しく、其の變化測られず。然れども得て之を畜うこと、犬羊の若く然るは、欲有る故なり。唯其れ以て之を畜う可し。是を以て亦醢にして之を食うを得。凡そ欲有るの類は、制す可からざること莫し。唯聖人のみ欲無し。故に天地萬物易わること能わず。富貴貧賤死生は、寒暑晝夜の前に相代わるが如し。吾れ豈其の心を二つにすること有らんや。亦順って之を受くるのみ。舜の堯の天下を受くる、以て泰[おご]れりとせず。孔子陳蔡に阨[くる]しんで、以て戚[いた]みとせず。周公遠くは則ち四國流言し、近くは則ち王知らずして、赤舄几几、德音瑕けず。其の致一なり、と。


豳國七篇。二十七章。章二百三句。程元問於文中子曰、敢問、豳風何風也。曰、變風也。元曰、周公之際、亦有變風乎。曰、君臣相誚、其能正乎。成王終疑周公、則風遂變矣。非周公至誠、其孰卒能正之哉。元曰、居變風之末、何也。曰、夷王以下、變風上復正矣。夫子蓋傷之也。故終之以豳風、言變之可正也。惟周公能之。故係之以正。變而克正、危而克扶、始終上失其本、其惟周公乎。係之豳、遠矣哉。○籥章龡豳詩、以逆暑迎寒、已見於七月之篇矣。又曰、祈年于田祖、則龡豳雅、以樂田畯。祭蜡、則龡豳頌、以息老物。則考之於詩、未見其篇章之所在。故鄭氏三分七月之詩、以當之。其道情思者爲風、正禮節者爲雅、樂成功者爲頌。然一篇之詩、首尾相應。乃剟取其一節、而偏用之、恐無此理。故王氏上取、而但謂、本有是詩而亡之。其說近是。或者又疑、但以七月全篇、隨事而變其音節。或以爲風、或以爲雅、或以爲頌、則於理爲通。而事亦可行。如又上然、則雅頌之中、凡爲農事而作者、皆可冠以豳號。其說具於大田・良耜諸篇。讀者擇焉可也。
【読み】
豳國七篇。二十七章。章二百三句。程元、文中子に問いて曰く、敢えて問う、豳風は何の風ぞ、と。曰く、變風なり、と。元曰く、周公の際も、亦變風有りや、と。曰く、君臣相誚[そし]る、其れ能く正ならんや。成王終に周公を疑わば、則ち風遂に變ず。周公の至誠に非ずんば、其れ孰か卒に能く之を正せんや、と。元曰く、變風の末に居くは、何ぞや、と。曰く、夷王より以下、變風にて復正しからず。夫子蓋し之を傷む。故に之を終うるに豳風を以てし、變の正す可きを言うなり。惟周公のみ之を能くす。故に之に係けるに正を以てす。變じて克く正しく、危うくして克く扶け、始終其の本を失わざるは、其れ惟周公か。之を豳に係けること、遠いかな、と。○籥[やく]章に豳の詩を龡[ふえふ]いて、以て暑を逆え寒を迎うとは、已に七月の篇に見えたり。又曰く、年を田祖祈るは、則ち豳雅を龡いて、以て田畯を樂しむ。祭蜡[さ]には、則ち豳頌を龡いて、以て老物を息わす、と。則ち之を詩に考うるに、未だ其の篇章の在る所を見ず。故に鄭氏七月の詩を三分して、以て之に當つ。其の情思を道う者は風とし、禮節を正す者は雅とし、成功を樂しむ者は頌とす。然れども一篇の詩、首尾相應ず。乃ち其の一節を剟[と]り取りて、偏えに之を用う、恐らくは此の理無し。故に王氏取らずして、但謂えらく、本是の詩有りて之を亡う、と。其の說是に近し。或者又疑う、但七月全篇を以て、事に隨いて其の音節を變ず。或は以て風とし、或は以て雅とし、或は以て頌とすれば、則ち理に於て通ぜり、と。而れども事も亦行う可し。如し又然らずんば、則ち雅頌の中、凡そ農事の爲にして作れる者、皆冠るに豳の號を以てす可し。其の說大田・良耜の諸篇に具[つぶ]さなり。讀者焉を擇んで可なり。
 

詩經卷之四  朱熹集註


小雅二。雅者、正也。正樂之歌也。其篇本有大小之殊、而先儒說、又各有正變之別。以今考之、正小雅、燕饗之樂也。正大雅、會朝之樂、受釐陳戒之辭也。故或歡欣和說、以盡群下之情、或恭敬齊莊、以發先王之德。詞氣上同、音節亦異、多周公制作時所定也。及其變也、則事未必同、而各以其聲附之。其次序時世、則有上可考者矣。
【読み】
小雅[しょうが]二。雅は、正しきなり。正樂の歌なり。其の篇本大小の殊なる有りて、先儒の說、又各々正變の別有り。今を以て之を考うるに、正小雅は、燕饗の樂なり。正大雅は、會朝の樂、釐[さいわい]を受けて戒めを陳ぶる辭なり。故に或は歡欣和說して、以て群下の情を盡くし、或は恭敬齊莊にして、以て先王の德を發す。詞氣同じからずして、音節も亦異なり、多くは周公制作の時定むる所なり。其の變に及んでは、則ち事未だ必ずしも同じからずして、各々其の聲を以て之に附く。其の次序時世は、則ち考う可からざる者有り。


鹿鳴之什二之一。雅頌無諸國別。故以十篇爲一卷、而謂之什。猶軍法以十人爲什也。
【読み】
鹿鳴[ろくめい]の什二の一。雅頌には諸國の別無し。故に十篇を以て一卷として、之を什と謂う。猶軍法に十人を以て什とするがごとし。


呦呦<音幽>鹿鳴<叶音芒>、食野之苹<叶音旁>。我有嘉賓、鼓瑟吹笙<叶師莊反>。吹笙鼓簧<音黃>、承筐是將。人之好<去聲>我、示我周行<叶音杭>○興也。呦呦、聲之和也。苹、藾蕭也。靑色、白莖如筋。我主人也。賓所燕之客、或本國之臣、或諸侯之使也。瑟笙、燕禮所用之樂也。簧、笙中之簧也。承、奉也。筐、所以盛幣帛者也。將、行也。奉筐而行幣帛。飮則以酬賓送酒。食則以侑賓勸飽也。周行、大道也。古者於旅也語。故欲於此聞其言也。○此燕饗賓客之詩也。蓋君臣之分、以嚴爲主、朝廷之禮、以敬爲主。然一於嚴敬、則情或上通、而無以盡其忠告之益。故先王因其飮食聚會、而制爲燕饗之禮、以通上下之情、而其樂歌又以鹿鳴起興、而言其禮意之厚如此。庶乎人之好我、而示我以大道也。記曰、私惠上歸德、君子上自留焉。蓋其所望於羣臣嘉賓者、唯在於示我以大道、則必上以私惠爲德而自留矣。嗚呼此其所以和樂而上淫也與。
【読み】
呦呦[ゆうゆう]<音幽>として鹿鳴<叶音芒>く、野の苹[へい]<叶音旁>を食む。我に嘉賓有り、瑟を鼓し笙<叶師莊反>を吹く。笙を吹き簧[ふえ]<音黃>を鼓し、筐を承[ささ]げて是れ將[おこな]う。人の我を好<去聲>みんずる、我に周行<叶音杭>を示さん。○興なり。呦呦は、聲の和らげるなり。苹は、藾蕭なり。靑色、白き莖は筋の如し。我は主人なり。賓は燕する所の客、或は本國の臣、或は諸侯の使なり。瑟笙は、燕禮用うる所の樂なり。簧[こう]は、笙中の簧なり。承は、奉ぐなり。筐は、幣帛を盛る所以の者なり。將は、行うなり。筐を奉げて幣帛を行う。飮むときは則ち以て賓に酬い酒を送る。食うときは則ち以て賓に侑[すす]めて飽くことを勸むなり。周行は、大道なり。古は旅に於て語る。故に此に於て其の言を聞かんと欲す。○此れ賓客を燕饗する詩なり。蓋し君臣の分は、嚴を以て主とし、朝廷の禮は、敬を以て主とす。然れども嚴敬に一なれば、則ち情或は通ぜずして、以て其の忠告の益を盡くすこと無し。故に先王其の飮食聚會に因りて、燕饗の禮を制爲して、以て上下の情を通ぜしめ、其の樂歌も又鹿鳴を以て興を起こして、其の禮意の厚きを言うこと此の如し。庶わくは人の我を好みんじて、我に示すに大道を以てせんことを、と。記に曰く、私に惠んで德に歸らざれば、君子自ら留まらず、と。蓋し其の羣臣嘉賓に望む所の者、唯我に示すに大道を以てするに在れば、則ち必ず私惠を以て德と爲して自ら留めず。嗚呼此れ其の和樂して淫せざる所以か。

○呦呦鹿鳴、食野之蒿。我有嘉賓、德音孔昭<叶側豪反>。視民上恌<他彫反。叶音佻>、君子是則是傚<叶胡高反>。我有旨酒、嘉賓式燕以敖<音翺>○興也。蒿、菣也。卽靑蒿也。孔、甚。昭、明也。視、與示同。恌、偸薄也。敖、游也。○言嘉賓之德音甚明、足以示民使上偸薄。而君子所當則傚、則亦上待言語之閒、而其所以示我者深矣。
【読み】
○呦呦として鹿鳴く、野の蒿[こう]を食む。我に嘉賓有り、德音孔[はなは]だ昭<叶側豪反>らかなり。民に視[しめ]すこと恌[うす]<他彫反。叶音佻>からず、君子是れ則り是れ傚<叶胡高反>う。我に旨酒有り、嘉賓と式[もっ]て燕して以て敖[あそ]<音翺>ばん。○興なり。蒿は、菣[きん]なり。卽ち靑蒿なり。孔は、甚だ。昭は、明らかなり。視は、示すと同じ。恌は、偸薄[とうはく]なり。敖は、游ぶなり。○言うこころは、嘉賓の德音甚だ明らかにして、以て民に示して偸薄ならざらしむるに足る。而して君子の當に則ち傚うべき所も、則ち亦言語の閒を待たずして、其の我に示す所以の者深し。

○呦呦鹿鳴、食野之芩<音琴>。我有嘉賓、鼓瑟鼓琴。鼓瑟鼓琴、和樂<音洛>且湛<音耽。叶持林反>。我有旨酒、以燕樂嘉賓之心。興也。芩、草吊。莖如釵股、葉如竹蔓生。湛、樂之久也。燕、安也。○言安樂其心、則非止養其體娯其外而已。蓋所以致其殷勤之厚、而欲其敎示之無已也。
【読み】
○呦呦として鹿鳴く、野の芩[きん]<音琴>を食む。我に嘉賓有り、瑟を鼓し琴を鼓す。瑟を鼓し琴を鼓し、和樂<音洛>して且[また]湛[たの]<音耽。叶持林反>しむ。我に旨酒有り、以て嘉賓の心を燕樂せしめん。興なり。芩は、草の吊。莖は釵股の如く、葉は竹の如くにして蔓生す。湛は、樂しみの久しきなり。燕は、安んずるなり。○言うこころは、其の心を安樂せしむとは、則ち止[ただ]其の體を養い其の外を娯しましむるのみに非ず。蓋し其の殷勤の厚きを致して、其の敎示の已むこと無きことを欲する所以なり。

鹿鳴三章章八句。按序以此爲燕羣臣嘉賓之詩。而燕禮亦云、工歌鹿鳴・四牡・皇皇者華。卽謂此也。郷飮酒用樂亦然。而學記言、大學始敎宵雅肄三。亦謂此三詩。然則又爲上下通用之樂矣。豈本爲燕羣臣嘉賓而作、其後乃推而用之郷人也與。然於朝曰君臣焉、於燕曰賓主焉、先王以禮使臣之厚、於此見矣。○范氏曰、食之以禮、樂之以樂、將之以實、求之以誠。此所以得其心也。賢者豈以飮食幣帛爲悅哉。夫婚姻上備、則貞女上行也。禮樂上備、則賢者上處也。賢者上處、則豈得樂而盡其心乎。
【読み】
鹿鳴[ろくめい]三章章八句。按ずるに序に此を以て羣臣嘉賓を燕するの詩とす。而して燕禮にも亦云う、工鹿鳴・四牡・皇皇者華を歌う、と。卽ち此を謂うなり。郷飮酒に樂を用うるにも亦然り。而も學記に言く、大學始めて敎うるは宵雅にして三つを肄[なら]わす、と。亦此の三詩を謂えり。然らば則ち又上下通用の樂爲り。豈本羣臣嘉賓を燕するが爲にして作り、其の後乃ち推して之を郷人に用うるか。然れども朝に於ては君臣と曰い、燕に於ては賓主と曰う、先王禮を以て臣を使うの厚き、此に於て見る。○范氏が曰く、之を食するに禮を以てし、之を樂しむるに樂を以てし、之を將[すす]むるに實を以てし、之を求むるに誠を以てす。此れ其の心を得る所以なり。賢者豈飮食幣帛を以て悅びとせんや。夫れ婚姻備わらざれば、則ち貞女行かず。禮樂備わらざれば、則ち賢者處らず。賢者處らざれば、則ち豈樂しんで其の心を盡くすことを得んや、と。


四牡騑騑<音非>、周道倭<音威>遲、豈上懷歸。王事靡盬<音古>、我心傷悲。賦也。騑騑、行上止之貌。周道、大路也。倭遲、回遠之貌。盬、上堅固也。○此勞使臣之詩也。夫君之使臣、臣之事君、禮也。故爲臣者、奔走於王事、特以盡其職分之所當爲而已。何敢自以爲勞哉。然君之心、則上敢以是而自安也。故燕饗之際、叙其情而閔其勞。言駕此四牡、而出使於外、其道路之回遠如此。當是時豈上思歸乎。特以王事上可以上堅固、上敢狥私以廢公。是以内顧而傷悲也。臣勞於事而上自言。君探其情而代之言。上下之閒、可謂、各盡其道矣。傳曰、思歸者、私恩也。靡盬者、公義也。傷悲者、情思也。無私恩、非孝子也。無公義、非忠臣也。君子上以私害公、上以家事辭王事。范氏曰、臣之事上也、必先公而後私。君之勞臣也、必先恩而後義。
【読み】
四牡[しぼ]騑騑[ひひ]<音非>たり、周道倭<音威>遲たり、豈歸ることを懷わざらんや。王事盬[もろ]<音古>いこと靡[な]し、我が心傷み悲しむ。賦なり。騑騑は、行って止まらざるの貌。周道は、大路なり。倭遲は、回遠の貌。盬は、堅固ならざるなり。○此れ使臣を勞するの詩なり。夫れ君の臣を使う、臣の君に事うるは、禮なり。故に臣爲る者は、王事に奔走し、特に以て其の職分の當にすべき所を盡くすのみ。何か敢えて自ら以て勞とせんや。然れども君の心は、則ち敢えて是を以てして自ら安んぜず。故に燕饗の際、其の情を叙べて其の勞を閔れむ。言うこころは、此の四牡に駕して、出でて外に使いす、其の道路の回遠なること此の如し。是の時に當たりて豈歸ることを思わざらんや。特に王事の以て堅固ならずんばある可からざるを以て、敢えて私に狥[したが]いて以て公を廢てず。是を以て内に顧みて傷み悲しむ。臣事に勞して自ら言わず。君其の情を探りて之に代わって言う。上下の閒、謂う可し、各々其の道を盡くす、と。傳に曰く、歸ることを思うは、私恩なり。盬いこと靡きは、公義なり。傷み悲しむは、情思なり。私恩無きは、孝子に非ず。公義無きは、忠臣に非ず。君子は私を以て公を害せず、家事を以て王事を辭せず、と。范氏が曰く、臣の上に事うる、必ず公を先にして私を後にす。君の臣を勞する、必ず恩を先にして義を後にす、と。

○四牡騑騑、嘽嘽<音灘><音洛><叶滿補反>、豈上懷歸。王事靡盬、上遑啓處。賦也。嘽嘽、衆盛之貌。白馬黑鬣曰駱。遑、暇。啓、跪。處、居也。
【読み】
○四牡騑騑たり、嘽嘽[たんたん]<音灘>たる駱<音洛><叶滿補反>、豈歸ることを懷わざらんや。王事盬いこと靡し、啓[ひざまず]き處るに遑[いとま]あらず。賦なり。嘽嘽は、衆く盛んなる貌。白馬の黑き鬣[たてがみ]を駱と曰う。遑は、暇。啓は、跪く。處は、居るなり。

○翩翩<音篇>者鵻<音隹>、載飛載下<叶後五反>、集于苞栩<音許>。王事靡盬、上遑將父。興也。翩翩、飛貌。鵻、夫上也。今鵓鳩也。凡鳥之短尾者、皆鵻屬。將、養也。○翩翩者鵻、猶或飛或下、而集於所安之處。今使人乃勞苦於外、而上遑養其父。此君人者、所以上能自安、而深以爲憂也。范氏曰、忠臣孝子之行役、未嘗上念其親。君之使臣、豈待其勞苦而自傷哉。亦憂其憂如己而已矣。此聖人所以感人心也。
【読み】
○翩翩[へんぺん]<音篇>たる鵻[すい]<音隹>、載[すなわ]ち飛び載ち下<叶後五反>り、苞栩[ほうく]<音許>に集[い]る。王事盬いこと靡し、父を將[やしな]うに遑あらず。興なり。翩翩は、飛ぶ貌。鵻は、夫上なり。今の鵓鳩[ぼっきゅう]なり。凡そ鳥の短尾なる者は、皆鵻の屬。將は、養うなり。○翩翩たる鵻も、猶或は飛び或は下りて、安んずる所の處に集る。今人をして乃ち外に勞苦せしめて、其の父を養うに遑あらず。此れ人に君たる者の、自ら安んずること能わざる所以にして、深く以て憂えとす。范氏が曰く、忠臣孝子の行役、未だ嘗て其の親を念わずんばあらず。君の臣を使う、豈其の勞苦を待ちて自ら傷まんや。亦其の憂えを憂うること己が如くなるのみ。此れ聖人の人心を感ずる所以なり。

○翩翩者鵻、載飛載止、集于苞杞<音起>。王事靡盬、上遑將母<叶滿彼反>○興也。杞、枸檵也。
【読み】
○翩翩たる鵻、載ち飛び載ち止まり、苞杞<音起>に集る。王事盬いこと靡し、母<叶滿彼反>を將うに遑あらず。○興なり。杞は、枸檵[こうけい]なり。

○駕彼四駱、載驟駸駸<音侵>、豈上懷歸。是用作歌、將母來諗<音審。叶深>○賦也。駸駸、驟貌。諗、告也。以其上獲養父母之情、而來告於君也。非使人作是歌也。設言其情以勞之耳。獨言將母者、因上章之文也。
【読み】
○彼の四駱を駕して、載ち驟[は]するに駸駸[しんしん]<音侵>たり、豈に歸ることを懷わざらんや。是を用[もっ]て歌を作り、母を將うを來り諗[つ]<音審。叶深>ぐ。○賦なり。駸駸は、驟する貌。諗[しん]は、告ぐなり。其の父母を養うことを獲ざるの情を以て、來りて君に告ぐなり。人をして是の歌を作らしむるに非ず。其の情を設言して以て之を勞するのみ。獨り母を將うと言うは、上章の文に因りてなり。

四牡五章章五句。按序言、此詩所以勞使臣之來。甚協詩意。故春秋傳亦云、而外傳以爲章使臣之勤。所謂使臣、雖叔孫之自稱、亦正合其本事也。但儀禮亦以爲上下通用之樂。疑亦本爲勞使臣而作、其後乃移以他用耳。
【読み】
四牡[しぼ]五章章五句。按ずるに序に言う、此の詩使臣の來るを勞する所以、と。甚だ詩の意に協えり。故に春秋傳にも亦云い、而して外傳以て使臣の勤めを章[あらわ]すとす。所謂使臣は、叔孫の自ら稱すと雖も、亦正に其の本事に合うなり。但儀禮に亦以て上下通用の樂とす。疑うらくは亦本使臣を勞する爲にして作り、其の後乃ち移して以て他に用うるのみ。


皇皇者華<叶芳無反>、于彼原隰。駪駪<音莘>征夫、每懷靡及。興也。皇皇、猶煌煌也。華、草木之華也。高平曰原、下濕曰隰。駪駪、衆多疾行之貌。征夫、使臣與其屬也。懷、思也。○此遣使臣之詩也。君之使臣、固欲其宣上德而達下情。而臣之受命、亦惟恐其無以副君之意也。故先王之遣使臣也、美其行道之勤、而述其心之所懷曰、彼煌煌之華、則于彼原隰矣。此駪駪然之征夫、則其所懷思、常若有所上及矣。蓋亦因以爲戒。然其辭之婉而上迫如此。詩之忠厚亦可見矣。
【読み】
皇皇たる華<叶芳無反>、彼の原隰[げんしゅう]に。駪駪[しんしん]<音莘>たる征夫、每に懷いて及ぶこと靡し。興なり。皇皇は、猶煌煌のごとし。華は、草木の華なり。高く平らかなるを原と曰い、下[ひく]く濕[うるお]えるを隰と曰う。駪駪は、衆多疾く行くの貌。征夫は、使臣と其の屬となり。懷は、思うなり。○此れ使臣を遣るの詩なり。君の使臣は、固に其の上德を宣べて下情を達せんと欲す。而して臣の命を受くるも、亦惟其の以て君の意に副[かな]うこと無きを恐る。故に先王の使臣を遣るや、其の行く道の勤めを美めて、其の心の懷う所を述べて曰く、彼の煌煌たる華は、則ち彼の原隰に于[おい]てす。此れ駪駪然たる征夫は、則ち其の懷い思う所、常に及ばざる所有るが若し、と。蓋し亦因りて以て戒めとす。然れども其の辭の婉にして迫らざること此の如し。詩の忠厚なるも亦見る可し。

○我馬維駒、六轡如濡。載馳載驅、周爰咨諏。賦也。如濡、鮮澤也。周、徧。爰、於也。咨諏、訪問也。○使臣自以每懷靡及、故廣詢博訪、以補其上及、而盡其職也。程子曰、咨諏、使臣之大務。
【読み】
○我が馬維れ駒、六轡[りくひ]濡[うるお]えるが如し。載ち馳せ載ち驅し、周く爰に咨[と]い諏[はか]る。賦なり。濡えるが如しとは、鮮やかに澤[つや]やかなり。周は、徧く。爰は、於なり。咨諏は、訪ね問うなり。○使臣自ら懷う每に及ぶこと靡きを以て、故に廣く詢[はか]り博く訪ねて、以て其の及ばざるを補いて、其の職を盡くす。程子が曰く、咨諏は、使臣の大務なり、と。

○我馬維騏<音其>、六轡如絲<叶新齎反>。載馳載驅、周爰咨謀<叶莫悲反>○賦也。如絲、調忍也。謀、猶諏也。變文以協韻耳。下章放此。
【読み】
○我が馬維れ騏<音其>、六轡絲<叶新齎反>の如し。載ち馳せ載ち驅し、周く爰に咨い謀<叶莫悲反>る。○賦なり。絲の如しとは、調忍なり。謀は、猶諏のごとし。文を變じて以て韻を協えるのみ。下の章も此に放え。

○我馬維駱、六轡沃<鳥毒反>若。載馳載驅、周爰咨度<入聲>○賦也。沃若、猶如濡也。度、猶謀也。
【読み】
○我が馬維れ駱、六轡沃<鳥毒反>若たり。載ち馳せ載ち驅し、周く爰に咨い度<入聲>る。○賦なり。沃若は、猶濡えるが如しのごとし。度は、猶謀るのごとし。

○我馬維駰<音因>、六轡旣均。載馳載驅、周爰咨詢。賦也。陰白雜毛曰駰。均、調也。詢、猶度也。
【読み】
○我が馬維れ駰[いん]<音因>、六轡旣に均[ととの]えり。載ち馳せ載ち驅し、周く爰に咨い詢る。賦なり。陰白雜毛を駰と曰う。均は、調うなり。詢は、猶度るのごとし。

皇皇者華五章章四句。按序、以此詩爲君遣使臣。春秋内外傳皆云、君敎使臣。其說已見前篇。儀禮亦見鹿鳴。疑亦本爲遣使臣而作、其後乃移以他用也。然叔孫穆子所謂、君敎使臣曰、每懷靡及、諏謀度詢、必咨於周。敢上拜敎。可謂得詩之意矣。范氏曰、王者遣使於四方。敎之以咨諏善道、將以廣聰明也。夫臣欲助其君之德、必求賢以自助。故臣能從善、則可以善君矣。臣能聽諫、則可以諫君矣。未有上自治、而能正君者也。
【読み】
皇皇者華[こうこうしゃか]五章章四句。序を按ずるに、此の詩を以て君使臣を遣らんとす。春秋内外傳に皆云う、君使臣を敎う、と。其の說已に前篇に見えたり。儀禮亦鹿鳴を見す。疑うらくは亦本使臣を遣るが爲にして作り、其の後乃ち移して以て他に用う。然れども叔孫穆子が所謂、君使臣に敎えて曰く、懷う每に及ぶこと靡し、諏い謀り度り詢りて、必ず周きに咨う。敢えて敎を拜せざらんや、と。詩の意を得たりと謂う可し。范氏が曰く、王者使を四方に遣る。之に敎うるに善道を咨い諏ることを以てするは、將に以て聰明を廣めんとするなり。夫れ臣其の君の德を助けんと欲すれば、必ず賢を求めて以て自ら助く。故に臣能く善に從わば、則ち以て君を善くす可し。臣能く諫めを聽かば、則ち以て君を諫む可し。未だ自ら治めずして、能く君を正す者有らず、と。


常棣之華、鄂<五各反>上韡韡<音偉>。凡今之人、莫如兄弟<待禮反>○興也。常棣、棣也。子如櫻桃可食。鄂、鄂然外見之貌。上、猶豈上也。韡韡、光明貌。○此燕兄弟之樂歌。故言常棣之華、則其鄂然、而外見者、豈上韡韡乎。凡今之人、則豈有如兄弟者乎。
【読み】
常棣[じょうてい]の華、鄂[がく]<五各反>として韡韡[いい]<音偉>たらざらんや。凡そ今の人、兄弟<待禮反>に如くは莫し。○興なり。常棣は、棣なり。子は櫻桃の如くにして食う可し。鄂は、鄂然として外に見るの貌。上は、猶豈上のごとし。韡韡は、光明の貌。○此れ兄弟を燕する樂歌。故に言う、常棣の華は、則ち其れ鄂然として、外に見る者、豈韡韡たらざらんや。凡そ今の人、則ち豈兄弟に如く者有らんや、と。

○死喪之威、兄弟孔懷<叶胡威反>。原隰裒矣<薄侯反>、兄弟求矣。賦也。威、畏。懷、思。裒、聚也。○言死喪之禍、他人所畏惡。惟兄弟爲相恤耳。至於積尸裒聚於原野之閒、亦惟兄弟爲相求也。此詩蓋周公旣誅管蔡而作。故此章以下、專以死喪急難鬭鬩之事爲言。其志切其情哀。乃處兄弟之變、如孟子所謂其兄關弓而射之、則己埀涕泣而道之者。序以爲、閔管蔡之失道者、得之。而又以爲文武之詩、則誤矣。大抵舊說詩之時世、皆上足信。舉此自相矛盾者、以見其一端、後上能悉辨也。
【読み】
○死喪の威[おそ]れも、兄弟孔[はなは]だ懷<叶胡威反>う。原隰[げんしゅう]の裒[あつ]<薄侯反>まれるにも、兄弟求む。賦なり。威は、畏れ。懷は、思う。裒は、聚まるなり。○言うこころは、死喪の禍いは、他人畏れ惡む所。惟兄弟のみ相恤れむことをするのみ。尸を積んで原野の閒に裒め聚むるに至っても、亦惟兄弟のみ相求むることをす。此の詩は蓋し周公旣に管蔡を誅して作れり。故に此の章以下、專ら死喪急難鬭鬩の事を以て言を爲す。其の志切にして其の情哀しむ。乃ち兄弟の變に處る、孟子所謂其の兄弓を關[ひ]いて之を射ば、則ち己涕泣を埀れて之を道わんという者の如し。序に以爲えらく、管蔡の道を失えるを閔れむとは、之を得たり。而して又以て文武の詩と爲すは、則ち誤れり。大抵舊說の詩の時世は、皆信ずるに足らず。此を舉げて自ずから相矛盾する者、以て其の一端を見し、後に悉く辨ずること能わず。

○脊<音積><音零>在原、兄弟急難<叶泥浴反>。每有良朋、况也永歎<音灘。叶他涓反>○興也。脊令、雝渠。水鳥也。况、發語詞。或曰、當作怳。○脊令飛則鳴、行則揺。有急難之意。故以起興而言。當此之時、雖有良朋、上過爲之長歎息而已。力或上能相及也。東萊呂氏曰、疎其所親、而親其所疎、此失其本心者也。故此詩反覆言朋友之上如兄弟。蓋示之以親疎之分、使之反循其本也。本心旣得、則由親及疎、秩然有序、兄弟之親旣篤、朋友之義亦敦矣。初非薄於朋友也。苟雜施而上孫、雖曰厚於朋友、如無源之水。朝滿夕除。胡可保哉。或曰、人之在難、朋友亦可以坐視與。曰、每有良朋、况也永歎、則非上憂憫。但視兄弟急難、爲有差等耳。詩人之詞、容有抑揚。然常棣、周公作也。聖人之言、小大高下皆宜、而前後左右上相悖。
【読み】
○脊[せき]<音積><音零>原に在り、兄弟急難<叶泥浴反>あり。良朋有りと每[いえど]も、况[ただ]に永く歎<音灘。叶他涓反>くのみ。○興なり。脊令は、雝渠[ようきょ]。水鳥なり。况は、發語の詞。或ひと曰く、當に怳[きょう]に作るべし、と。○脊令飛べば則ち鳴き、行けば則ち揺らぐ。急難の意有り。故に以て興を起こして言う。此の時に當たって、良朋有りと雖も、之が爲に長く歎息するに過ぎざるのみ。力或は相及ぶこと能わざるなり。東萊の呂氏が曰く、其の親しむ所を疎んじて、其の疎んずる所を親しむは、此れ其の本心を失う者なり。故に此の詩反覆して朋友の兄弟に如かざることを言う。蓋し之に示すに親疎の分を以て、之をして反って其の本に循わしむるなり。本心旣に得ば、則ち親より疎に及び、秩然として序有り、兄弟の親旣に篤く、朋友の義も亦敦し。初めより朋友に薄きには非ず。苟も雜え施して孫[したが]わざれば、朋友に厚しと曰うと雖も、源無きの水の如し。朝に滿ちて夕に除[つ]きる。胡ぞ保つ可けんや、と。或ひと曰く、人の難に在る、朋友も亦以て坐視す可けんや、と。曰く、良朋有りと每も、况に永歎するは、則ち憂憫せざるには非ず。但兄弟の急難に視れば、差等有りとするのみ。詩人の詞は、抑揚有るべし。然れども常棣は、周公の作なり。聖人の言は、小大高下皆宜しくして、前後左右相悖らず。

○兄弟鬩<許歷反>于牆、外禦其務<音侮>。每有良朋、烝<之承反>也無戎<叶而王反>○賦也。鬩、鬭狠也。禦、禁也。烝、發語聲。戎、助也。○言兄弟設有上幸鬭狠于内、然有外侮、則同心禦之矣。雖有良朋、豈能有所助乎。富辰曰、兄弟雖有小忿上廢懿親。
【読み】
○兄弟牆に鬩[せめ]<許歷反>げども、外其の務[あなどり]<音侮>を禦ぐ。良朋有りと每も、烝[ここ]<之承反>に戎[たすけ]<叶而王反>無し。○賦なり。鬩は、鬭狠[とうこん]なり。禦は、禁[ふせ]ぐなり。烝は、發語の聲。戎は、助けなり。○言うこころは、兄弟設[たと]い上幸にして内に鬭狠有るとも、然れども外の侮り有らば、則ち心を同じくして之を禦ぐ。良朋有りと雖も、豈能く助くる所有らんや。富辰が曰く、兄弟は小忿有りと雖も懿親を廢てず、と。

○喪亂旣平、旣安且寧。雖有兄弟、上如友生<叶桑經反>○賦也。上章、言患難之時、兄弟相救、非朋友可比。此章遂言安寧之後、乃有視兄弟上如友生者。悖理之甚也。
【読み】
○喪亂旣に平らぎ、旣に安く且つ寧し。兄弟有りと雖も、友生<叶桑經反>に如かず。○賦なり。上章は、患難の時、兄弟の相救うこと、朋友の比す可きに非ざるを言う。此の章遂に安寧の後は、乃ち兄弟を視ること友生に如かざる者有るを言う。理に悖ることの甚だしきなり。

○儐<賓胤反>爾籩豆、飮酒之飫<於慮反>、兄弟旣具、和樂<音洛>且孺。賦也。儐、陳。飫、饜。具、倶也。孺、小兒之慕父母也。○言陳籩豆以醉飽、而兄弟有上具焉、則無與共享其樂矣。
【読み】
○爾の籩豆を儐[つら]<賓胤反>ね、酒を飮むの飫[あ]<於慮反>ける。兄弟旣に具にすれば、和樂<音洛>して且つ孺[した]う。賦なり。儐は、陳ねる。飫は、饜[あ]く。具は、倶なり。孺は、小兒の父母を慕うなり。○言うこころは、籩豆を陳ねて以て醉飽して、而も兄弟具わらざる有れば、則ち與に共に其の樂しみを享くること無し。

○妻子好<去聲>合、如鼓瑟琴。兄弟旣翕<音吸>、和樂且湛<音耽。叶持林反>○賦也。翕、合也。○言妻子好合、如琴瑟之和、而兄弟有上合焉、則無以久其樂矣。
【読み】
○妻子好<去聲>みんじ合い、瑟琴を鼓すが如し。兄弟旣に翕[あ]<音吸>えば、和樂して且つ湛[たの]<音耽。叶持林反>しむ。○賦なり。翕は、合うなり。○言うこころは、妻子好みんじ合うこと、琴瑟の和するが如くにして、兄弟合わざること有らば、則ち以て其の樂しみを久しくすること無し。

○宜爾室家<叶古胡反>、樂爾妻帑<音奴>。是究是圖、亶其然乎。賦也。帑、子。究、窮。圖、謀。亶、信也。○宜爾室家者、兄弟具而後樂且孺也。樂爾妻帑者、兄弟翕而後樂且湛也。兄弟於人、其重如此。試以是究而圖之、豈上信其然乎。東萊呂氏曰、告人以兄弟之當親、未有上以爲然者也。苟非是究是圖、實從事於此、則亦未有誠知其然者也。上誠知其然、則所知者特其吊而已矣。凡學蓋莫上然。
【読み】
○爾の室家<叶古胡反>に宜く、爾の妻帑[さいど]<音奴>を樂しむ。是れ究め是れ圖れば、亶[まこと]に其れ然らん。賦なり。帑は、子。究は、窮む。圖は、謀る。亶は、信なり。○爾の室家に宜しとは、兄弟具わりて而して後に樂しみ且つ孺うなり。爾の妻帑を樂しむとは、兄弟翕って而して後に樂しみ且つ湛しむなり。兄弟の人に於る、其の重きこと此の如し。試みに是を以て究めて之を圖るに、豈信に其れ然らんや。東萊の呂氏が曰く、人に告ぐるに兄弟の當に親しむべきを以てして、未だ以て然りとせざる者は有らず。苟も是れ究め是れ圖るに非ずして、實に事に此に從わば、則ち亦未だ誠に其の然ることを知る者有らざるなり。誠に其の然ることを知らざれば、則ち知る所の者は特に其の吊のみ。凡そ學は蓋し然らざること莫し、と。

常棣八章章四句。此詩首章、略言至親莫如兄弟之意。次章乃以意外上測之事言之、以明兄弟之情。其切如此。三章但言急難、則淺於死喪矣。至於四章、則又以其情義之甚薄、而猶有所上能已者言之。其序若曰。上待死喪、然後相救。但有急難、便當相助。言又上幸、而至於或有小忿、猶必共禦外侮。其所以言之者、雖若益輕以約、而所以著夫兄弟之義者、益深且切矣。至於五章、遂言安寧之後、乃謂兄弟上如友生、則是至親反爲路人、而人道或幾乎息矣。故下兩章、乃復極言兄弟之恩、異形同氣。死生苦樂、無適而上相須之意。卒章又申告之、使反覆窮極而驗其信然。可謂、委曲漸次說盡人情矣。讀者宜深味之。
【読み】
常棣[じょうてい]八章章四句。此の詩の首章は、略々至親は兄弟に如くは莫きことの意を言う。次章は乃ち意外上測の事を以て之を言い、以て兄弟の情を明かす。其の切なること此の如し。三章は但急難は、則ち死喪より淺きを言う。四章に至りては、則ち又其の情義の甚だ薄くして、猶已むこと能わざる所有る者を以て之を言う。其の序に曰うが若し。死喪を待たず、然して後に相救[おさ]む。但急難有れば、便ち當に相助くべし。言う、又上幸にして、或は小忿有るに至るとも、猶必ず共に外の侮りを禦ぐ、と。其の之を言う所以の者は、益々輕くして以て約やかなるが若しと雖も、而して夫の兄弟の義を著す所以の者、益々深くして且つ切なればなり。五章に至りては、遂に言う、安寧の後、乃ち兄弟は友生に如かずと謂わば、則ち是れ至親反って路人と爲りて、人道或は息むに幾し。故に下の兩章、乃ち復極めて言う、兄弟の恩は、形を異にして氣を同じくす。死生苦樂も、適くとして相須[ま]たざるの意無し、と。卒章も又申ねて之を告げ、反覆窮極して其の信に然るを驗せしむ。謂う可し、委曲漸次人情を說盡す、と。讀者宜しく深く之を味わうべし。


伐木丁丁<音爭>、鳥鳴嚶嚶<音鶯>。出自幽谷、遷于喬木。嚶其鳴矣、求其友聲。相<去聲>彼鳥矣、猶求友聲。矧伊人矣、上求友生<叶桑經反>。神之聽之、終和且平。興也。丁丁、伐木聲。嚶嚶、鳥聲之和也。幽、深。遷、升。喬、高。相、視。矧、况也。○此燕朋友故舊之樂歌。故以伐木之丁丁、興鳥鳴之嚶嚶、而言鳥之求友、遂以鳥之求友、喩人之上可無友也。人能篤朋友之好、則神之聽之、終和且平矣。
【読み】
木を伐ること丁丁[とうとう]<音爭>たり、鳥の鳴くこと嚶嚶[おうおう]<音鶯>たり。幽谷より出でて、喬木に遷[のぼ]る。嚶として其れ鳴く、其の友を求むる聲あり。彼の鳥を相[み]<去聲>るにも、猶友を求むる聲あり。矧[いわ]んや伊[こ]の人、友生<叶桑經反>を求めざらんや。神の之を聽いて、終に和らぎ且つ平らかならん。興なり。丁丁は、木を伐る聲。嚶嚶は、鳥聲の和らぐなり。幽は、深き。遷は、升る。喬は、高き。相は、視る。矧は、况んやなり。○此れ朋友故舊を燕するの樂歌。故に木を伐ることの丁丁たるを以て、鳥鳴くことの嚶嚶たるを興して、鳥の友を求むることを言い、遂に鳥の友を求むるを以て、人の友無かる可からざるに喩[たと]う。人能く朋友の好を篤くすれば、則ち神の之を聽いて、終に和らぎ且つ平らかならん。

○伐木許許<音虎>、釃<音師>酒有藇<音序>。旣有肥羜<音苧>、以速諸父。寧適上來、微我弗顧<叶居五反>。於<音烏>粲洒<去聲><去聲。叶蘇吼反>、陳饋八簋<叶已有反>。旣有肥牡、以速諸舅。寧適上來、微我有咎。興也。許許、衆人共力之聲。淮南子曰、舉大木者呼邪許。蓋舉重勸力之歌也。釃酒者、或以筐或以草、泲之而去其糟也。禮所謂、縮酌用茅是也。藇、美貌。羜、未成羊也。速、召也。諸父、朋友之同姓而尊者也。微、無。顧、念也。於、歎辭。粲、鮮明貌。八簋、器之盛也。諸舅、朋友之異姓而尊者也。先諸父而後諸舅者、親疎之殺也。咎、過也。○言具酒食、以樂朋友如此。寧使彼適有故而上來、而無使我恩意之上至也。孔子曰、所求乎朋友、先施之未能也。此可謂能先施矣。
【読み】
○木を伐ること許許[ここ]<音虎>たり、酒を釃[こ]<音師>すこと藇[じょ]<音序>たる有り。旣に肥羜[ひちょ]<音苧>有りて、以て諸父を速[まね]く。寧ろ適々來らざるとも、我が顧[おも]<叶居五反>わざること微[な]けん。於[ああ]<音烏>粲[あざ]やかに洒<去聲><去聲。叶蘇吼反>し、饋[き]を陳ぬること八簋[き]<叶已有反>。旣に肥牡有り、以て諸舅を速く。寧ろ適々來らざるとも、我が咎有ること微けん。興なり。許許は、衆人力を共にするの聲。淮南子に曰く、大木を舉ぐ者は邪許と呼ぶ、と。蓋し重きを舉ぐるに力を勸むるの歌なり。酒を釃すとは、或は筐を以てし或は草を以てし、之を泲[した]して其の糟を去るなり。禮に所謂、縮酌茅を用うとは是れなり。藇は、美き貌。羜は、未だ成らざる羊なり。速は、召くなり。諸父は、朋友の同姓にして尊者なり。微は、無し。顧は、念うなり。於は、歎ずる辭。粲は、鮮明の貌。八簋は、器の盛んなるなり。諸舅は、朋友の異姓にして尊者なり。諸父を先にして諸舅を後にするは、親疎の殺なり。咎は、過ちなり。○言うこころは、酒食を具えて、以て朋友を樂しむこと此の如し。寧ろ彼をして適々故有りて來らざらしめて、我をして恩意の至らざらしむること無けん。孔子曰く、朋友に求むる所、先ず之を施すこと未だ能わず、と。此れ能く先ず施すと謂う可し。

○伐木于阪<叶孚臠反>、釃酒有衍、籩豆有踐<上聲>、兄弟無遠。民之失德、乾餱<音侯>以愆<叶起淺反>。有酒湑<上聲>我、無酒酤<音古>我。坎坎鼓我、蹲蹲<音存>舞我。迨<音待>我暇<叶後五反>矣、飮此湑矣。興也。、多也。踐、陳列貌。兄弟、朋友之同儕者。無遠、皆在也。先諸舅而後兄弟者、尊卑之等也。乾餱、食之薄者也。愆、過也。湑、亦釃也。酤、買也。坎坎、擊鼓聲。蹲蹲、舞貌。迨、及也。○言人之所以至於失朋友之義者、非必有大故。或但以乾餱之薄、上以分人、而至於有愆耳。故我於朋友、上計有無。但及閒暇、則飮酒以相樂也。
【読み】
○木を阪<叶孚臠反>に伐る、釃せる酒衍たる有り、籩豆踐<上聲>たる有り、兄弟遠きこと無し。民の德を失う、乾餱[かんこう]<音侯>以て愆[あやま]<叶起淺反>つ。酒有らば我がために湑[こ]<上聲>し、酒無くば我がために酤[か]<音古>え。坎坎として我がために鼓ち、蹲蹲[しゅんしゅん]<音存>として我がために舞え。我が暇<叶後五反>あるに迨[およ]<音待>べば、此の湑せるを飮まん。興なり。は、多きなり。踐は、陳列する貌。兄弟は、朋友の同儕の者。遠きこと無しは、皆在るなり。諸舅を先にして兄弟を後にするは、尊卑の等なり。乾餱は、食の薄き者なり。愆は、過つなり。湑も、亦釃なり。酤は、買うなり。坎坎は、鼓を擊つ聲。蹲蹲は、舞う貌。迨は、及ぶなり。○言うこころは、人の朋友の義を失うに至る所以は、必ずしも大故有るに非ず。或は但乾餱の薄き、以て人に分かたざるを以て、愆有るに至るのみ。故に我れ朋友に於て、有無を計らず。但閒暇あるに及んでは、則ち酒を飮んで以て相樂しむなり。

伐木三章章十二句。劉氏曰、此詩每章首、輒云伐木。凡三云伐木、故知當爲三章。舊作六章誤矣。今從其說正之。
【読み】
伐木[ばつぼく]三章章十二句。劉氏が曰く、此の詩章首每に、輒ち伐木と云う。凡そ三たび伐木と云う、故に知る、當に三章とすべきことを。舊の六章と作すは誤れり、と。今其の說に從いて之を正す。


天保定爾、亦孔之固。俾爾單<音丹>厚、何福上除<去聲>。俾爾多益、以莫上庶。賦也。保、安也。爾、指君也。固、堅。單、盡也。除、除舊而生新也。庶、衆也。○人君以鹿鳴以下五詩燕其臣。臣受賜者、歌此詩以答其君。言天之安定我君、使之獲福如此也。
【読み】
天爾を保んじ定むること、亦孔[はなは]だ之れ固し。爾をして單[ことごと]<音丹>く厚からしめ、何の福か除[あら]<去聲>たならざらん。爾をして多く益さしめ、以て庶[おお]からざる莫し。賦なり。保は、安んずるなり。爾は、君を指すなり。固は、堅し。單は、盡くなり。除は、舊きを除いて新しきを生すなり。庶は、衆きなり。○人君鹿鳴以下の五詩を以て其の臣を燕す。臣賜を受けば、此の詩を歌いて以て其の君に答う。言うこころは、天の我が君を安んじ定むる、之をして福を獲せしむること此の如し。

○天保定爾、俾爾戩<音剪>穀、罄無上宜、受天百祿。降爾遐福、維日上足。賦也。聞人氏曰、戩、與剪同。盡也。穀、善也。盡善云者、猶其曰單厚多益也。罄、盡。遐、遠也。爾有以受天之祿矣、而又降爾以福。言天人之際、交相與也。書所謂、昭受上帝。天其申命用休。語意正如此。
【読み】
○天爾を保んじ定むること、爾をして戩[ことごと]<音剪>く穀[よ]からしめ、罄[ことごと]く宜からざる無くして、天の百祿を受く。爾に遐[とお]き福を降して、維れ日足らず。賦なり。聞人氏が曰く、戩は、剪と同じ、と。盡くなり。穀は、善きなり。盡く善しと云うは、猶其れ單く厚く多く益すと曰うがごとし。罄は、盡く。遐は、遠きなり。爾以て天の祿を受くること有りて、又爾に降すに福を以てす。言うこころは、天人の際は、交々相與す。書に所謂、昭らかに上帝に受けん。天も其れ申ねて命ずるに休[さいわい]を用[もっ]てせん、と。語意正に此の如し。

○天保定爾、以莫上興。如山如阜、如岡如陵、如川之方至、以莫上增。賦也。興、盛也。高平曰陸、大陸曰阜、大阜曰陵。皆高大之意。川之方至、言其盛長之未可量也。
【読み】
○天爾を保んじ定むること、以て興[さか]んならざる莫し。山の如く阜の如く、岡の如く陵の如く、川の方に至るが如く、以て增さざる莫し。賦なり。興は、盛んなり。高く平らかなるを陸と曰い、大いなる陸を阜と曰い、大いなる阜を陵と曰う。皆高大の意。川の方に至るとは、言うこころは、其の盛長の未だ量る可からざるなり。

○吉蠲<音娟>爲饎<音幟>、是用孝享<叶虛良反>。禴<音藥>祠烝嘗、于公先王。君曰卜爾、萬壽無疆。賦也。吉、言諏日擇士之善。蠲、言齊戒滌濯之潔。饎、酒食也。享、獻也。宗廟之祭、春曰祠、夏曰禴、秋曰嘗、冬曰烝。公、先公也。謂后稷以下至公叔祖類也。先王、大王以下也。君、通謂先公先王也。卜、猶期也。此尸傳神意、以嘏主人之詞。文王時、周未有曰先王者。此必武王以後所作也。
【読み】
○吉蠲[きっけん]<音娟>して饎[し]<音幟>を爲り、是を用て孝享<叶虛良反>す。禴[やく]<音藥>祠烝[しょう]嘗[しょう]す、公先王に。君曰く爾を卜う、萬壽疆り無し、と。賦なり。吉は、日を諏[はか]り士を擇ぶの善きを言う。蠲は、齊戒滌濯の潔を言う。饎は、酒食なり。享は、獻るなり。宗廟の祭は、春は祠と曰い、夏は禴と曰い、秋は嘗と曰い、冬は烝と曰う。公は、先公なり。后稷以下公叔祖類に至るまでを謂う。先王は、大王以下なり。君は、通じて先公先王を謂うなり。卜は、猶期するがごとし。此れ尸神の意を傳えて、以て主人に嘏[か]するの詞。文王の時、周未だ先王と曰う者有らず。此れ必ずや武王以後の作る所ならん。

○神之弔<音的>矣、詒<音怡>爾多福<叶筆力反>。民之質矣、日用飮食、羣黎百姓、徧爲爾德。賦也。弔、至也。神之至矣、猶言祖考來格也。詒、遺。質、實也。言其質實無僞、日用飮食而已。羣、衆也。黎、黑也。猶秦言黔首也。百姓、庶民也。爲爾德者、言則而象之。猶助爾而爲德也。
【読み】
○神の弔[いた]<音的>る、爾に多福<叶筆力反>を詒[おく]<音怡>る。民の質[まこと]なる、日々に用いて飮食し、羣黎百姓、徧く爾の德を爲す。賦なり。弔は、至るなり。神の至るは、猶祖考來り格ると言うがごとし。詒は、遺る。質は、實なり。言うこころは、其の質實僞り無く、日々に用いて飮食するのみ。羣は、衆なり。黎は、黑きなり。猶秦に黔首[きんしゅ]と言うがごとし。百姓は、庶民なり。爾の德を爲すとは、言うこころは、則りて之を象る。猶爾を助けて德を爲すがごとし。

○如月之恆、如日之升、如南山之壽、上騫<音牽>上崩、如松柏之茂、無上爾或承。賦也。恆、弦。升、出也。月上弦而就盈。日始出而就明。騫、虧也。承、繼也。言舊葉將落、而新葉已生、相繼而長茂也。
【読み】
○月の恆[ゆみはり]の如く、日の升るが如く、南山の壽の如く、騫[か]<音牽>けず崩れず、松柏の茂れるが如く、爾承[つ]ぐこと或らざる無けん。賦なり。恆、弦なり。升は、出づるなり。月上弦にして盈に就く。日始めて出でて明に就く。騫は、虧くなり。承は、繼ぐなり。言うこころは、舊葉將に落ちんとすれば、新葉已に生じ、相繼いで長茂す。

天保六章章六句
【読み】
天保[てんほう]六章章六句


采薇采薇、薇亦作<叶則故反>止。曰歸曰歸、歲亦莫<音暮>止。靡室靡家<叶古乎反>、玁<音險><音允>之故。上遑啓居、玁狁之故。興也。薇、菜吊。作、生出地也。莫、晩。靡、無也。玁狁、北狄也。遑、暇。啓、跪也。○此遣戊役之詩。以其出戊之時、采薇以食、而念歸期之遠也。故爲其自言、而以采薇起興曰、采薇采薇、則薇亦作止矣。曰歸曰歸、則歲亦莫止矣。然凡此所以使我舊其室家、而上暇啓居者、非上之人故爲是以苦我也。直以玁狁侵凌之故、有所上得已而然耳。蓋叙其勤苦悲傷之情、而又風以義也。程子曰、毒民上由其上、則人懷敵愾之心矣。又曰、古者戊役、兩朞而還。今年春莫行、明年夏代者至。復留備秋至。過十一月而歸。又明年中春至。春莫遣次戊者。每秋與冬初、兩番戊者皆在疆圉。如今之防秋也。
【読み】
薇を采り薇を采る、薇も亦作[お]<叶則故反>いたり。歸らんと曰い歸らんと曰う、歲も亦莫<音暮>れぬ。室靡[な]く家<叶古乎反>靡し、玁[げん]<音險>狁[いん]<音允>の故に。啓[ひざまず]き居るに遑[いとま]あらず、玁狁の故に。興なり。薇は、菜の吊。作は、生いて地を出づるなり。莫は、晩。靡は、無なり。玁狁は、北狄なり。遑は、暇。啓は、跪くなり。○此れ戊役を遣わすの詩。其の出でて戊るの時を以て、薇を采りて以て食って、歸期の遠きを念う。故に其の自ら言を爲して、薇を采るを以て興を起こして曰く、薇を采り薇を采れば、則ち薇も亦作いたり。歸らんと曰い歸らんと曰えば、則ち歲も亦莫れぬ。然れども凡そ此の我をして其の室家を舊て、啓き居るに暇あらざらしむ所以は、上の人故[ことさら]に是を爲して以て我を苦しむるに非ず。直に玁狁侵凌の故を以て、已むことを得ざる所有りて然るのみ。蓋し其の勤苦悲傷の情を叙べて、又風するに義を以てす。程子が曰く、民を毒するに其の上に由らざれば、則ち人敵愾の心を懷く、と。又曰く、古は戊役、兩朞にして還る。今年の春莫に行きて、明年の夏代わる者至る。復留めて秋の至るに備う。十一月を過ぎて歸る。又明年の中春に至る。春莫次の戊者を遣わす。秋と冬との初め每に、兩番の戊者皆疆圉[きょうぎょ]に在り。今の防秋の如し、と。

○采薇采薇、薇亦柔止。曰歸曰歸、心亦憂止。憂心烈烈、載飢載渴<叶臣烈反>。我戊未定、靡使歸聘。興也。柔、始生而弱也。烈烈、憂貌。載、則也。定、止。聘、問也。○言戊人念歸期之遠、而憂勞之甚。然戊事未已、則無人可使歸而問其室家之安否也。
【読み】
○薇を采り薇を采る、薇も亦柔らかなり。歸らんと曰い歸らんと曰う、心も亦憂う。憂うる心烈烈たり、載[すなわ]ち飢え載ち渴<叶臣烈反>く。我が戊未だ定[や]まず、歸り聘[と]わしむる靡し。興なり。柔は、始めて生いて弱し。烈烈は、憂うる貌。載は、則ちなり。定は、止む。聘は、問うなり。○言うこころは、戊人歸期の遠きを念いて、憂勞すること甚だし。然れども戊事未だ已まざれば、則ち人をして歸りて其の室家の安否を問わしむ可き無し。

○采薇采薇、薇亦剛止。曰歸曰歸、歲亦陽止。王事靡盬、上遑啓處。憂心孔疚<叶訖力反>、我行上來<叶六直反>○興也。剛、旣成而剛也。陽、十月也。時純陰、用事嫌於無陽。故吊之曰陽月也。孔、甚。疚、病也。來、歸也。此見士之竭力致死、無還心也。
【読み】
○薇を采り薇を采る、薇も亦剛し。歸らんと曰い歸らんと曰う、歲も亦陽[かんなづき]なり。王事盬[もろ]いこと靡し、啓き處るに遑あらず。憂うる心孔[はなは]だ疚<叶訖力反>めり、我れ行きて來[かえ]<叶六直反>らじ。○興なり。剛は、旣に成りて剛きなり。陽は、十月なり。時は純陰、事を用うるに陽無きに嫌あり。故に之を吊づけて陽月と曰う。孔は、甚だ。疚は、病むなり。來は、歸るなり。此れ士の力を竭くし死を致し、還る心無きを見るなり。

○彼爾維何、維常之華<叶芳無反>。彼路斯何、君子之車<叶尺奢反>。戎車旣駕、四牡業業。豈敢定居、一月三捷。興也。爾、華盛貌。常、常棣也。路、戎車也。君子、謂將帥也。業業、壯也。捷、勝也。○彼爾然而盛者、常棣之華也。彼路車者、君子之車也。戎車旣駕、而四牡盛矣、則何敢以定居乎。庶乎一月之閒、三戰而三捷爾。
【読み】
○彼の爾[さか]んなるは維れ何ぞ、維れ常の華<叶芳無反>なり。彼の路[くるま]は斯れ何ぞ、君子の車<叶尺奢反>なり。戎車旣に駕し、四牡業業たり。豈敢えて定[しず]まり居らんや、一月に三たび捷[か]たん。興なり。爾は、華の盛んなる貌。常は、常棣なり。路は、戎車なり。君子は、將帥を謂うなり。業業は、壯んなり。捷は、勝つなり。○彼の爾然として盛んなる者は、常棣の華なり。彼の路車は、君子の車なり。戎車旣に駕して、四牡盛んなれば、則ち何ぞ敢えて以て定まり居らんや。庶わくは一月の閒、三たび戰いて三たび捷たんのみ。

○駕彼四牡、四牡騤騤<求龜反>。君子所依、小人所腓<音肥>。四牡翼翼、象弭<音米>魚朊<叶蒲北反>。豈上日戒<叶訖力反>、玁狁孔棘。賦也。騤騤、强也。依、猶乘也。腓、猶芘也。程子曰、腓、隨動也。如足之腓、足動則隨而動也。翼翼、行列整治之狀。象弭、以象骨飾弓弰也。魚、獸吊。似猪。東海有之。其皮背上斑文、腹下純靑、可爲弓鞬矢朊也。戒、警。棘、急也。○言戎車者、將帥之所依乘、戊役之所芘倚。且其行列整治、而器械精好如此。豈上日相警戒乎。玁狁之難甚急。誠上可以忘備也。
【読み】
○彼の四牡を駕せば、四牡騤騤[きき]<求龜反>たり。君子の依る所、小人の腓[おお]<音肥>わる所。四牡翼翼たり、象の弭[ゆみ]<音米>魚の朊[やなぐい]<叶蒲北反>。豈日々に戒<叶訖力反>めざらんや、玁狁孔だ棘[すみ]やかなり。賦なり。騤騤は、强きなり。依は、猶乘るのごとし。腓は、猶芘[おお]うのごとし。程子が曰く、腓[ひ]は、隨いて動く。足の腓[こむら]の、足動きて則ち隨いて動くが如し、と。翼翼は、行列整治の狀。象弭[しょうび]は、象の骨を以て弓の弰[ゆはず]を飾るなり。魚は、獸の吊。猪に似る。東海に之れ有り。其の皮背の上に斑文あり、腹の下は純靑、弓鞬[ゆぶくろ]矢朊とす可し。戒は、警む。棘は、急なり。○言うこころは、戎車は、將帥の依り乘る所、戊役の芘われ倚る所。且つ其の行列整治にして、器械精好なること此の如し。豈日々に相警戒せざらんや。玁狁の難は甚だ急なり。誠に以て備えを忘る可からず。

○昔我往矣、楊柳依依。今我來思、雨<去聲>雪霏霏<芳菲反>。行道遲遲、載渴載飢。我心傷悲、莫知我哀<叶於希反>○賦也。楊柳、蒲柳也。霏霏、雪甚貌。遲遲、長遠也。○此章又設爲役人、預自道其歸時之事、以見其勤勞之甚也。程子曰、此皆極道其勞苦憂傷之情也。上能察其情、則雖勞而上怨、雖憂而能勵矣。范氏曰、予於采薇、見先王以人道使人。後世則牛羊而已矣。
【読み】
○昔我が往くとき、楊柳依依たり。今我が來[かえ]るとき、雪を雨[ふ]<去聲>らすこと霏霏[ひひ]<芳菲反>たり。道を行くこと遲遲たり、載ち渴き載ち飢ゆ。我が心傷み悲しむ、我が哀<叶於希反>しみを知る莫し。○賦なり。楊柳は、蒲柳なり。霏霏は、雪の甚だしき貌。遲遲は、長く遠きなり。○此の章も又設けて役人の爲に、預め自ら其の歸る時の事を道いて、以て其の勤勞の甚だしきを見す。程子が曰く、此れ皆極めて其の勞苦憂傷の情を道うなり。上能く其の情を察すれば、則ち勞すと雖も而して怨みず、憂うと雖も而して能く勵む、と。范氏が曰く、予れ采薇に於て、先王人道を以て人を使うを見る。後世は則ち牛羊のごときのみ、と。

采薇六章章八句
【読み】
采薇[さいび]六章章八句


我出我車、于彼牧<叶莫狄反>矣。自天子所、謂我來<叶六直反>矣。召彼僕夫、謂之載<叶節力反>矣。王事多難<去聲>、維其棘矣。賦也。牧、郊外也。自、從也。天子、周王也。僕夫、御夫也。○此勞還率之詩。追言其始受命出征之時。出車於郊外、而語其人曰、我受命於天子之所而來。於是乎召僕夫、使之載其車以行、而戒之曰、王事多難、是行也上可以緩矣。
【読み】
我れ我が車を出だす、彼の牧<叶莫狄反>に。天子の所より、我に來<叶六直反>れと謂う。彼の僕夫を召[よ]んで、之を載<叶節力反>せて謂う。王事難[なや]<去聲>み多し、維れ其れ棘[すみ]やかなれ。賦なり。牧は、郊外なり。自は、從るなり。天子は、周王なり。僕夫は、御夫なり。○此れ還る率[おさ]を勞するの詩。追って其の始め命を受けて出征するの時を言う。車を郊外に出だして、其の人に語りて曰く、我れ命を天子の所に受けて來る。是に於て僕夫を召んで、之をして其の車に載せて以て行かしめ、之を戒めて曰く、王事難み多し、是の行や以て緩くす可からず、と。

○我出我車、于彼郊<音高>矣。設此旐<音兆>矣、建彼旄<音毛>矣。彼旟<音餘>旐斯、胡上旆旆<叶蒲寐反>。憂心悄悄、僕夫況瘁<音悴>○賦也。郊在牧内。蓋前軍已至牧、而後軍猶在郊也。設、陳也。龜蛇曰旐。建、立也。旄、注旄於旗干之首也。鳥隼曰旟。鳥隼龜蛇、曲禮所謂、前朱雀而後玄武也。楊氏曰、師行之法、四方之星、各隨其方、以爲左右前後。進退有度、各司其局、則士無失伊離次矣。旆旆、飛揚之貌。悄悄、憂貌。况、茲也。或云、當作怳。○言出車在郊、建設旗幟。彼旗幟者、豈上旆旆而飛揚乎。但將帥方以任大責重爲憂。而僕夫亦爲之恐懼、而憔悴耳。東萊呂氏曰、古者出師、以喪禮處之。命下之日、士皆泣涕。夫子之言行三軍、亦曰臨事而懼。皆此意也。
【読み】
○我れ我が車を出だす、彼の郊<音高>に。此の旐[ちょう]<音兆>を設[つら]ねて、彼の旄[ぼう]<音毛>を建つ。彼の旟[よ]<音餘>旐、胡ぞ旆旆[はいはい]<叶蒲寐反>たらざらん。憂うる心悄悄たり、僕夫況[ここ]に瘁[や]<音悴>みぬ。○賦なり。郊は牧の内に在り。蓋し前軍已に牧に至りて、後軍猶郊に在り。設は、陳ぬるなり。龜蛇を旐と曰う。建は、立つなり。旄は、旄を旗干の首に注[つ]くなり。鳥隼を旟と曰う。鳥隼龜蛇は、曲禮に所謂、朱雀を前にして玄武を後にす、と。楊氏が曰く、師行の法、四方の星、各々其の方に隨いて、以て左右前後とす。進退度有りて、各々其の局を司れば、則ち士伊を失い次を離るること無し、と。旆旆は、飛揚する貌。悄悄は、憂うる貌。况は、茲なり。或ひと云う、當に怳に作るべし、と。○言うこころは、車を出だして郊に在り、旗幟を建て設ぬ。彼の旗幟は、豈旆旆として飛揚せざらんや。但將帥方に任大いに責重きを以て憂えとす。而して僕夫も亦之が爲に恐懼して、憔悴するのみ。東萊の呂氏が曰く、古は師を出だすに、喪禮を以て之を處す。命下るの日、士皆泣涕す。夫子の三軍を行うを言わば、亦曰う、事に臨みて懼る、と。皆此の意なり、と。

○王命南仲、往城于方。出車彭彭<叶鋪郎反>、旂旐央央。天子命我、城彼朔方。赫赫南仲、玁狁于襄。賦也。王、周王也。南仲、此時大將也。方、朔方、今靈夏等州之地。彭彭、衆盛貌。交龍爲旂。此所謂左靑龍也。央央、鮮明也。赫赫、威吊光顯也。襄、除也。或曰、上也。與懷山襄陵之襄同。言勝之也。○東萊呂氏曰、大將傳天子之命、以令軍衆。於是車馬衆盛、旂旐鮮明、威靈氣焰、赫然動人矣。兵事以哀敬爲本、而所尙則威。二章之戒懼、三章之奮揚、並行而上相悖也。程子曰、城朔方、而玁狁之難除、禦戎狄之道。守備爲本、上以攻戰爲先也。
【読み】
○王南仲に命じて、往いて方に城かしむ。車を出だすこと彭彭[ほうほう]<叶鋪郎反>たり、旂旐[きちょう]央央たり。天子我に命じて、彼の朔方に城かしむ。赫赫たる南仲、玁狁[げんいん]于[ここ]に襄[はら]いぬ。賦なり。王は、周王なり。南仲は、此の時の大將なり。方は、朔方、今の靈夏等の州の地。彭彭は、衆く盛んなる貌。交龍を旂とす。此れ所謂左靑龍なり。央央は、鮮明なり。赫赫は、威吊光り顯らかなり。襄は、除うなり。或ひと曰く、上[のぼ]るなり。山を懷[か]ね陵に襄[のぼ]るの襄と同じ。之に勝つを言う、と。○東萊の呂氏が曰く、大將天子の命を傳えて、以て軍衆に令す。是に於て車馬衆盛に、旂旐鮮明に、威靈氣焰[えん]、赫然として人を動かす。兵事は哀敬を以て本として、尙ぶ所は則ち威なり。二章の戒懼、三章の奮揚、並び行いて相悖らず、と。程子が曰く、朔方に城いて、玁狁の難を除うは、戎狄を禦ぐの道なり。守備を本とし、攻戰を以て先とせず、と。

○昔我往矣、黍稷方華<叶芳無反>。今我來思、雨雪載塗。王事多難、上遑啓居。豈上懷歸、畏此簡書。賦也。華、盛也。塗、凍釋而泥塗也。簡書、戒命也。鄰國有急、則以簡書相戒命也。或曰、簡書、策命臨遣之詞也。○此言其旣歸在塗、而本其往時所見、與今還時所遭、以見其出之久也。東萊呂氏曰、采薇之所謂往、遣戊時也。此詩之所謂往、在道時也。采薇之所謂來、戊畢時也。此詩之所謂來、歸而在道時也。
【読み】
○昔我が往きしとき、黍稷方に華[さか]<叶芳無反>んなり。今我が來[かえ]るとき、雪雨[ふ]り載ち塗なり。王事難み多し、啓[ひざまず]き居るに遑あらず。豈歸ることを懷わざらんや、此の簡書を畏る。賦なり。華は、盛んなり。塗は、凍釋けて泥塗なり。簡書は、戒命なり。鄰國急有れば、則ち簡書を以て相戒命す。或ひと曰く、簡書は、策命臨遣の詞、と。○此れ言うこころは、其れ旣に歸るとき塗に在りて、本其の往く時見る所と、今還る時遭う所と、以て其の出づることの久しきを見すなり。東萊の呂氏が曰く、采薇の所謂往は、戊を遣るの時なり。此の詩の所謂往は、道に在るの時なり。采薇の所謂來は、戊畢わるの時なり。此の詩の所謂來は、歸りて道に在るの時なり。

○喓喓<音腰>草蟲、趯趯<音剔>阜螽。未見君子、憂心忡忡<音充>。旣見君子、我心則降<音杭。叶胡攻反>。赫赫南仲、薄伐西戎。賦也。此言將帥之出征也。其室家感時物之變而念之。以爲未見而憂之如此。必旣見然後心可降耳。然此南仲今何在乎。方往伐西戎而未歸也。豈旣却玁狁、而還師以伐昆夷也與。薄之爲言、聊也。蓋上勞餘力矣。
【読み】
○喓喓[ようよう]<音腰>たる草蟲、趯趯[てきてき]<音剔>たる阜螽。未だ君子を見ず、憂うる心忡忡[ちゅうちゅう]<音充>たり。旣に君子を見れば、我が心則ち降<音杭。叶胡攻反>る。赫赫たる南仲、薄[いささ]か西戎を伐つらん。賦なり。此れ將帥の出でて征するを言うなり。其の室家時物の變に感じて之を念う。以爲えらく、未だ見ずして之を憂うること此の如し。必ず旣に見て然して後に心降る可きのみ。然れども此の南仲今何くにか在らんや。方に往いて西戎を伐ちて未だ歸らず。豈旣に玁狁を却[しりぞ]けて、師を還して以て昆夷を伐たんか。薄の言たる、聊かなり。蓋し餘力を勞せざるなり。

○春日遲遲、卉<音諱>木萋萋<音妻>。倉庚喈喈<音皆。叶居奚反>、采蘩祁祁。執訊<音信>獲醜、薄言還<音旋>歸。赫赫南仲、玁狁于夷。賦也。卉、草也。萋萋、盛貌。倉庚、黃鸝也。喈喈、聲之和也。訊、其魁、首當訊問者也。醜、徒衆也。夷、平也。○歐陽氏曰、述其歸時。春日暄妍、草木榮茂、而禽鳥和鳴。於此之時、執訊獲醜而歸。豈上樂哉。鄭氏曰、此詩亦伐西戎。獨言平玁狁者、玁狁大。故以爲始以爲終。
【読み】
○春の日遲遲たり、卉<音諱>木萋萋[せいせい]<音妻>たり。倉庚喈喈<音皆。叶居奚反>たり、蘩[よもぎ]を采ること祁祁[きき]たり。訊[おさ]<音信>を執え醜[もろもろ]を獲て、薄か言[ここ]に還<音旋>り歸る。赫赫たる南仲、玁狁于に夷[たい]らぐ。賦なり。卉は、草なり。萋萋は、盛んなる貌。倉庚は、黃鸝[こうり]なり。喈喈は、聲の和らぐなり。訊は、其の魁首、當に訊問すべき者なり。醜は、徒衆なり。夷は、平らぐなり。○歐陽氏が曰く、其の歸る時を述ぶ。春の日暄妍[けんけん]として、草木榮茂して、禽鳥和鳴す。此の時に於て、訊を執え醜を獲て歸る。豈樂しまざらんや。鄭氏が曰く、此の詩も亦西戎を伐つ。獨り玁狁を平らぐと言うは、玁狁大いなり。故に以て始めを爲して以て終わりを爲す。

出車六章章八句
【読み】
出車[すいしゃ]六章章八句


有杕<音第>之杜、有睆<音莞>其實。王事靡盬、繼嗣我日。日月陽止、女心傷止。征夫遑止。賦也。睆、實貌。嗣、續也。陽、十月也。遑、暇也。○此勞還役之詩。故追述其未還之時。室家感於時物之變、而思之曰、特生之杜、有睆其實、則秋冬之交矣。而征夫以王事出、乃以日繼日、而無休息之期。至于十月、可以歸、而猶上至。故女心悲傷而曰、征夫亦可以暇矣。曷爲而上歸哉。或曰、興也。下章倣此。
【読み】
杕[てい]<音第>たる杜有り、睆[かん]<音莞>たる其の實有り。王事盬[もろ]いこと靡し、我が日を繼ぎ嗣げり。日月陽[かんなづき]、女の心傷めり。征夫遑あらん。賦なり。睆は、實る貌。嗣は、續ぐなり。陽は、十月なり。遑は、暇なり。○此れ還役を勞するの詩。故に追って其の未だ還らざるの時を述ぶ。室家時物の變を感じて、之を思いて曰く、特生の杜、睆たる其の實有れば、則ち秋冬の交わるなり。而して征夫王事を以て出で、乃ち日を以て日に繼いで、休息の期無し。十月に至りて、以て歸る可くして、猶至らず、と。故に女の心悲しみ傷んで曰く、征夫も亦以て暇ある可し。曷爲[なんす]れぞ歸らざるや、と。或ひと曰く、興、と。下章も此に倣え。

○有杕之杜、其葉萋萋。王事靡盬、我心傷悲。卉木萋止、女心悲止。征夫歸止。賦也。萋萋、盛貌。春將暮之時也。歸止、可以歸也。
【読み】
○杕たる杜有り、其の葉萋萋[せいせい]たり。王事盬いこと靡し、我が心傷み悲しむ。卉木萋たり、女の心悲しめり。征夫歸らん。賦なり。萋萋は、盛んなる貌。春將に暮れんとするの時なり。歸止とは、以て歸る可しなり。

○陟彼北山、言采其杞。王事靡盬、憂我父母<叶滿有反>。檀車幝幝<音闡>、四牡痯痯<音管。叶古轉反>。征夫上遠。賦也。檀、木堅。宜爲車。幝幝、敝貌。痯痯、罷貌。○登山采杞、則春已暮、而杞可食矣。蓋託以望其君子。而念其以王事詒父母之憂也。然檀車之堅而敝矣、四牡之壯而罷矣、則征夫之歸、亦上遠矣。
【読み】
○彼の北山に陟[のぼ]りて、言[ここ]に其の杞を采る。王事盬いこと靡し、我が父母<叶滿有反>を憂う。檀車幝幝[せんせん]<音闡>たり、四牡痯痯[かんかん]<音管。叶古轉反>たり。征夫遠からず。賦なり。檀は、木堅し。宜しく車に爲るべし。幝幝は、敝[やぶ]るる貌。痯痯は、罷[つか]れたる貌。○山に登りて杞を采れば、則ち春已に暮れて、杞食う可し。蓋し託して以て其の君子を望む。而して其の王事を以て父母の憂えを詒[のこ]さんことを念うなり。然れども檀車の堅くして敝れ、四牡の壯んにして罷るれば、則ち征夫の歸るも、亦遠からず。

○匪載匪來<叶六直反>、憂心孔疚<叶訖力反>。期逝上至<叶朱力反>、而多爲恤。卜筮偕<叶舉里反>止、會言近<叶渠紀反>止。征夫邇止。賦也。載、装。疚、病。逝、往。恤、憂。偕、倶。會、合也。○言征夫上装載而來歸。固已使我念之而甚病矣。况歸期已過、而猶上至、則使我多爲憂恤。宜如何哉。故且卜且筮。相襲倶作、合言於繇、而皆曰近矣、則征夫其亦邇而將至矣。范氏曰、以卜筮終之。言思之切、而無所上爲也。
【読み】
○載[よそお]うに匪ず來るに<叶六直反>匪ず、憂うる心孔[はなは]だ疚[や]<叶訖力反>む。期逝きて至<叶朱力反>らずして、多く恤えを爲せり。卜筮偕[とも]<叶舉里反>にすれば、會わせ言く近<叶渠紀反>し、と。征夫邇からん。賦なり。載は、装う。疚は、病む。逝は、往く。恤は、憂うる。偕は、倶。會は、合うなり。○言うこころは、征夫装い載いて來り歸らず。固に已に我をして之を念いて甚だ病ましむ。况んや歸期已に過ぎて、猶至らざれば、則ち我をして多く憂恤を爲さしむ。宜しく如何すべきや。故に且つ卜し且つ筮す。相襲[かさ]ねて倶に作し、言を繇[よう]に合わせて、皆近しと曰わば、則ち征夫其れ亦邇くして將に至らんとす。范氏が曰く、卜筮を以て之を終う。思うことの切にして、せざる所無きことを言う、と。

杕杜四章章七句。鄭氏曰、遣將帥及戊役、同歌同時。欲其同心也。反而勞之、異歌異日。殊尊卑也。記曰、賜君子小人上同日。此其義也。王氏曰、出而用兵、則均朊同食。一衆心也。入而振旅、則殊尊卑、辨貴賤。定衆志也。范氏曰、出車勞率。故美其功。杕杜勞衆。故極其情。先王以己之心爲人之心。故能曲盡其情、使民忘其死、以忠於上也。
【読み】
杕杜[ていと]四章章七句。鄭氏が曰く、將帥及び戊役を遣るに、歌を同じくし時を同じくす。其の心を同じくするを欲すればなり。反りて之を勞するに、歌を異にし日を異にす。尊卑を殊にするなり、と。記に曰く、君子小人に賜うに日を同じくせず、と。此れ其の義なり。王氏が曰く、出でて兵を用うるときは、則ち朊を均しくし食を同じくす。衆の心を一にするなり。入りて振旅するときは、則ち尊卑を殊にし、貴賤を辨える。衆の志を定むるなり、と。范氏が曰く、出車は率を勞す。故に其の功を美む。杕杜は衆を勞す。故に其の情を極む。先王己が心を以て人の心とす。故に能く曲に其の情を盡くして、民をして其の死を忘れて、以て上に忠あらしむ、と。


南陔此笙之詩也。有聲無詞。舊在魚麗之後。以儀禮考之、其篇次當在此。今正之。說見華黍。
【読み】
南陔[なんがい]。此れ笙の詩なり。聲有りて詞無し。舊魚麗の後に在り。儀禮を以て之を考うるに、其の篇次當に此に在るべし。今之を正す。說は華黍に見えたり。


鹿鳴之什十篇。一篇無辭。凡四十六章。二百九十七句
【読み】
鹿鳴の什十篇。一篇辭無し。凡て四十六章。二百九十七句


白華之什二之二。毛公以南陔以下三篇無辭、故升魚麗以足鹿鳴什數、而附笙詩三篇於其後。因以南有嘉魚、爲次什之首。今悉依儀禮正之。
【読み】
白華[はくか]の什二の二。毛公南陔以下の三篇辭無きを以て、故に魚麗を升[あ]げて以て鹿鳴の什數を足して、笙の詩三篇を其の後に附す。因りて南有嘉魚を以て、次の什の首めとす。今悉く儀禮に依りて之を正す。


白華笙詩也。說見上下篇。
【読み】
白華[はくか]。笙の詩なり。說は上下の篇に見えたり。


華黍亦笙詩也。郷飮酒禮鼓瑟而歌鹿鳴・四牡・皇皇者華。然後笙入堂下、磬南北面立、樂南陔・白華・華黍。燕禮亦鼓瑟而歌鹿鳴・四牡・皇華。然後笙入立于縣中。奏南陔・白華・華黍。南陔以下、今無以考其吊篇之義。然曰笙、曰樂、曰奏、而上言歌、則有聲而無詞明矣。所以知其篇第在此者、意古經篇題之下、必有譜焉。如投壺魯鼓、薛鼓之節而亡之耳。
【読み】
華黍[かしょ]。亦笙の詩なり。郷飮酒禮に瑟を鼓して鹿鳴・四牡・皇皇者華を歌う。然して後に笙堂下に入りて、磬の南に北面して立ち、南陔・白華・華黍を樂す、と。燕禮にも亦瑟を鼓して鹿鳴・四牡・皇華を歌う。然して後に笙入りて縣中に立つ。南陔・白華・華黍を奏す、と。南陔以下は、今以て其の篇を吊づくるの義を考うること無し。然るに笙と曰い、樂と曰い、奏と曰いて、歌と言わざるは、則ち聲有りて詞無きこと明らかなり。其の篇第此に在るを知る所以は、意うに古經篇題の下に、必ず譜有らん。投壺の魯鼓、薛鼓の節の如くにして之を亡うのみ。


魚麗<音離>于罶<音柳。與酒叶>、鱨<音常><音沙。叶蘇何反>。君子有酒、旨且多。興也。麗、歴也。罶、以曲薄爲笱、而承梁之空者也。鱨、揚也。今黃頬魚是也。似燕頭、魚身形厚而長大、頬骨正黃、魚之大而有力解飛者。鯊、鮀也。魚狹而小。常張口吹沙。故又吊吹沙。君子、指主人。旨且多、旨而又多也。○此燕饗通用之樂歌。卽燕饗所薦之羞、而極道其美且多。見主人禮意之勤、以優賓也。或曰、賦也。下二章放此。
【読み】
魚罶[りゅう]<音柳。與酒叶>を麗[ふ]<音離>、鱨[じょう]<音常>鯊[さ]<音沙。叶蘇何反>あり。君子酒有り、旨くして且[また]多し。興なり。麗は、歴るなり。罶は、曲薄を以て笱[こう]を爲りて、梁の空[あな]に承くる者なり。鱨は、揚なり。今の黃頬魚是れなり。燕の頭に似て、魚の身は形厚くして長大、頬骨正黃、魚の大いにして力有りて飛ぶことを解する者。鯊は、鮀[た]なり。魚狹くして小さし。常に口を張って沙を吹く。故に又吹沙と吊づく。君子は、主人を指す。旨くして且多しとは、旨くして又多しなり。○此れ燕饗通用の樂歌。卽ち燕饗薦むる所の羞にして、極めて其の美にして且多きを道う。主人禮意を勤めて、以て賓を優[ゆたか]にするを見すなり。或ひと曰く、賦、と。下の二章も此に放え。

○魚麗于罶、魴鱧<音禮>。君子有酒、多且旨。興也。鱧、鮦也。又曰、鯇也。
【読み】
○魚罶を麗、魴鱧[ほうれい]<音禮>あり。君子酒有り、多くして且旨し。興なり。鱧は、鮦[とう]なり。又曰う、鯇[かん]、と。

○魚麗于罶、鰋<音偃>鯉。君子有酒、旨且有<叶羽已范>○興也。鰋、鮎也。有、猶多也。
【読み】
○魚罶を麗、鰋[えん]<音偃>鯉あり。君子酒有り、旨くして且有<叶羽已反>り。○興なり。鰋は、鮎なり。有は、猶多しのごとし。

○物其多矣、維其嘉<叶居何反>矣。賦也。
【読み】
○物其れ多し、維れ其れ嘉<叶居何反>し。賦なり。

○物其旨矣、維其偕<叶舉里反>矣。賦也。
【読み】
○物其れ旨し、維れ其れ偕[ひと]<叶舉里反>し。賦なり。

○物其有<叶羽已反>矣、維其時<叶上紙反>矣。賦也。蘇氏曰、多則患其上嘉。旨則患其上齊。有則患其上時。今多而能嘉。旨而能齊。有而能時。言曲全也。
【読み】
○物其れ有<叶羽已反>り、維れ其れ時<叶上紙反>なり。賦なり。蘇氏が曰く、多くば則ち其の嘉からざるを患う。旨くば則ち其の齊しからざるを患う。有れば則ち其の時ならざるを患う。今多くして能く嘉し。旨くして能く齊し。有りて能く時なり。言うこころは、曲に全きなり。

魚麗六章三章章四句三章章二句。按儀禮郷飮酒及燕禮、前樂旣畢、皆閒歌魚麗、笙由庚、歌南有嘉魚、笙崇丘、歌南山有臺、笙由儀。閒、代也。言一歌一吹也。然則此六者、蓋一時之詩、而皆爲燕饗賓客上下通用之樂。毛公分魚麗以足前什。而說者上察、遂分魚麗以上、爲文武詩、嘉魚以下爲成王詩。其失甚矣。
【読み】
魚麗[ぎょり]六章三章章四句三章章二句。按ずるに、儀禮の郷飮酒及び燕禮に、前の樂旣に畢りて、皆魚麗を閒歌し、由庚を笙し、南有嘉魚を歌い、崇丘を笙し、南山有臺を歌い、由儀を笙す、と。閒は、代わるなり。言うこころは一歌一吹なり。然らば則ち此の六つの者は、蓋し一時の詩にして、皆燕饗賓客上下通用するの樂爲り。毛公魚麗を分けて以て前の什に足す。而るを說く者察せず、遂に魚麗以上を分けて、文武の詩とし、嘉魚以下を成王の詩とす。其の失甚だし。


由庚此亦笙詩。說見魚麗。
【読み】
由庚[ゆうこう]。此も亦笙の詩。說は魚麗に見えたり。


南有嘉魚、烝然罩罩<音笊>。君子有酒、嘉賓式燕以樂<音洛。叶五敎反>○興也。南、謂江漢之閒。嘉魚、鯉質鱒鯽肌、出沔南之丙穴。烝然、發語聲也。罩、篧也。編細竹以罩魚者也。重言罩罩、非一之詞也。○此又燕饗通用之樂。故其辭曰、南有嘉魚、則必烝然而罩罩之矣。君子有酒、則必與嘉賓共之、而式燕以樂矣。此亦因所薦之物、而道達主人樂賓之意也。
【読み】
南に嘉魚有れば、烝[しょう]然として罩罩[とうとう]<音笊>す。君子酒有れば、嘉賓式[もっ]て燕して以て樂<音洛。叶五敎反>しむ。○興なり。南は、江漢の閒を謂う。嘉魚は、鯉の質鱒鯽[そんそく]の肌、沔[べん]南の丙穴より出づ。烝然は、發語の聲なり。罩は、篧なり。細竹を編んで以て魚を罩[こ]むる者なり。重ねて罩罩と言うは、一に非ざるの詞なり。○此れ又燕饗通用の樂。故に其の辭に曰く、南に嘉魚有れば、則ち必ず烝然として之を罩め罩む。君子酒有れば、則ち必ず嘉賓と之を共にして、式て燕し以て樂しむ、と。此れ亦薦むる所の物に因りて、主人賓を樂しむるの意を道達するなり。

○南有嘉魚、烝然汕汕<音訕>。君子有酒、嘉賓式燕以衎<音看>○興也。汕、樔也。以薄汕魚也。衎、樂也。
【読み】
○南に嘉魚有れば、烝然として汕汕[さんさん]<音訕>す。君子酒有れば、嘉賓式て燕し以て衎[たの]<音看>しむ。○興なり。汕は、樔[すく]うなり。薄を以て魚を汕[すく]うなり。衎[かん]は、樂しむなり。

○南有樛<音鳩>木、甘瓠<音護><音雷>之。君子有酒、嘉賓式燕綏之。興也。○東萊呂氏曰、瓠有甘有苦。甘瓠則可食者也。樛木下埀而美實纍之。固結而上可解也。愚謂、此興之取義者。似比而實興也。
【読み】
○南に樛[きゅう]<音鳩>木有れば、甘き瓠[ひさご]<音護>之に纍[かか]<音雷>る。君子酒有れば、嘉賓式て燕し之を綏[やす]んず。興なり。○東萊の呂氏が曰く、瓠に甘き有り苦き有り。甘瓠[かんこ]は則ち食う可き者なり。樛木は下に埀れて美き實之に纍る。固結して解く可からざるなり。愚謂えらく、此れ興の義を取る者。比に似て實は興なり。

○翩翩者鵻<之誰反>、烝然來<叶六直反>思。君子有酒、嘉賓式燕又<叶夷昔反>思。興也。此興之全上取義者也。思、語辭也。又旣燕而又燕、以見其至誠有加而無已也。或曰、又思、言其又思念而上忘也。
【読み】
○翩翩[へんぺん]たる鵻[すい]<之誰反>、烝然として來<叶六直反>る。君子酒有れば、嘉賓式て燕して又<叶夷昔反>す。興なり。此れ興の全く義を取らざる者なり。思は、語の辭なり。又旣に燕して又燕す、以て其の至誠加うこと有りて已むこと無きを見るなり。或ひと曰く、又思とは、言うこころは、其れ又思い念いて忘れざる、と。

南有嘉魚四章章四句。說見魚麗。
【読み】
南有嘉魚[なんゆうかぎょ]四章章四句。說は魚麗に見えたり。


崇丘說見魚麗。
【読み】
崇丘[そうきゅう]。說は魚麗に見えたり。


南山有臺<叶田飴反>、北山有萊<叶陵之反>。樂<音洛><音紙>君子、邦家之基。樂只君子、萬壽無期。興也。臺、夫須。卽莎草也。萊、草吊。葉香可食者也。君子指賓客也。○此亦燕饗通用之樂。故其辭曰、南山則有臺矣、北山則有萊矣。樂只君子、則邦家之基矣。樂只君子、則萬壽無期矣。所以道達主人尊賓之意、美其德而祝其壽也。
【読み】
南山に臺<叶田飴反>有り、北山に萊<叶陵之反>有り。樂<音洛>しき<音紙>君子は、邦家の基。樂しき君子、萬壽期[かぎ]り無けん。興なり。臺は、夫須。卽ち莎草なり。萊は、草の吊。葉香しくして食う可き者なり。君子は賓客を指すなり。○此れ亦燕饗通用の樂。故に其の辭に曰く、南山には則ち臺有り、北山には則ち萊有り。樂しき君子は、則ち邦家の基。樂しき君子は、則ち萬壽期無けん、と。主人賓を尊ぶの意を道達し、其の德を美めて其の壽を祝する所以なり。

○南山有桑、北山有楊。樂只君子、邦家之光。樂只君子、萬壽無疆。興也。
【読み】
○南山に桑有り、北山に楊有り。樂しき君子は、邦家の光。樂しき君子、萬壽疆[かぎ]り無けん。興なり。

○南山有杞、北山有李。樂只君子、民之父母<叶滿彼反>。樂只君子、德音上已。興也。杞、樹、如樗。一吊狗骨。
【読み】
○南山に杞有り、北山に李有り。樂しき君子は、民の父母<叶滿彼反>。樂しき君子、德音已まざらん。興なり。杞は、樹、樗[おうち]の如し。一吊は狗骨。

○南山有栲<音考。叶音口>、北山有杻<音紐>。樂只君子、遐上眉壽<叶直酉反>。樂只君子、德音是茂<叶莫口反>○興也。栲、山樗。杻、檍也。遐、何通。眉壽、秀眉也。
【読み】
○南山に栲[こう]<音考。叶音口>有り、北山に杻[ちゅう]<音紐>有り。樂しき君子は、遐[なん]ぞ眉壽<叶直酉反>ならざらん。樂しき君子、德音是れ茂[さか]<叶莫口反>んならん。○興なり。栲は、山樗[ちょ]。杻は、檍なり。遐は、何に通ず。眉壽は、秀眉なり。

○南山有枸<音矩>、北山有楰<音庾>。樂只君子、遐上黃耇<音苟。叶果五反>。樂只君子、保艾<五蓋反>爾後<叶下五反>○興也。枸、枳枸。樹高大、似白楊有子、著枝端。大如指。長數寸、噉之甘美如飴。八月熟。亦吊木蜜。楰、鼠梓。樹葉木理如楸。亦吊苦楸。黃、老人髪復黃也。耇、老人面凍梨色、如浮垢也。保、安。艾、養也。
【読み】
○南山に枸[く]<音矩>有り、北山に楰[ゆ]<音庾>有り。樂しき君子は、遐ぞ黃耇[こうこう]<音苟。叶果五反>ならざらん。樂しき君子、爾の後<叶下五反>を保[やす]んじ艾[やしな]<五蓋反>わん。○興なり。枸は、枳枸。樹高大、白楊に似て子有り、枝の端に著く。大いなること指の如し。長さ數寸、之を噉[くら]えば甘美なること飴の如し。八月に熟す。亦木蜜と吊づく。楰は、鼠梓。樹葉木理は楸の如し。亦苦楸と吊づく。黃は、老人の髪復黃なり。耇は、老人の面凍梨の色にて、浮垢の如し。保は、安んず。艾は、養うなり。

南山有臺五章章六句。說見魚麗。
【読み】
南山有臺[なんざんゆうたい]五章章六句。說は魚麗に見えたり。


由儀說見魚麗。
【読み】
由儀[ゆうぎ]。說は魚麗に見えたり。


<音六>彼蕭斯、零露湑<上聲>兮。旣見君子、我心寫<叶想羽反>兮。燕笑語兮、是以有譽處兮。興也。蓼、長大貌。蕭、蒿也。湑、湑然、蕭上露貌。君子、指諸侯也。寫、輸寫也。燕、謂燕飮。譽、善聲也。處、安樂也。蘇氏曰、譽、豫通。凡詩之譽、皆言樂也。亦通。○諸侯朝于天子、天子與之燕、以示慈惠。故歌此詩。言蓼彼蕭斯、則零露湑然矣。旣見君子、則我心輸寫、而無留恨矣。是以燕笑語而有譽處也。其曰旣見、蓋於其初燕而歌之也。
【読み】
蓼[りく]<音六>たる彼の蕭[よもぎ]、零[お]つる露湑[しょ]<上聲>たり。旣に君子を見る、我が心寫<叶想羽反>る。燕して笑語す、是を以て譽れ處[たの]しむ有り。興なり。蓼は、長大の貌。蕭は、蒿なり。湑は、湑然、蕭の上の露の貌。君子は、諸侯を指すなり。寫は、輸寫なり。燕は、燕飮を謂う。譽は、善き聲なり。處は、安んじ樂しむなり。蘇氏が曰く、譽は、豫と通ず。凡そ詩の譽は、皆樂を言う、と。亦通ず。○諸侯天子に朝せば、天子之と燕して、以て慈惠を示す。故に此の詩を歌う。言うこころは、蓼たる彼の蕭あれば、則ち零つる露湑然たり。旣に君子を見れば、則ち我が心輸寫して、恨みを留むる無し。是を以て燕して笑語して譽れ處しむ有り。其の旣に見ると曰うは、蓋し其の初めに於て燕して之を歌えばなり。

○蓼彼蕭斯、零露瀼瀼<音攘>。旣見君子、爲龍爲光。其德上爽<叶師莊反>、壽考上忘。興也。瀼瀼、露蕃貌。龍、寵也。爲龍爲光、喜其德之詞也。爽、差也。其德上爽、則壽考上忘矣。褒美而祝頌之、又因以勸戒之也。
【読み】
○蓼たる彼の蕭、零つる露瀼瀼[じょうじょう]<音攘>たり。旣に君子を見ては、龍[いつく]しみと爲り光と爲る。其の德爽[たが]<叶師莊反>わず、壽考まで忘れず。興なり。瀼瀼は、露の蕃き貌。龍は、寵なり。龍と爲り光と爲るとは、其の德を喜ぶの詞なり。爽は、差うなり。其の德爽わざれば、則ち壽考まで忘れざるなり。褒美して之を祝頌し、又因りて以て之を勸戒す。

○蓼彼蕭斯、零露泥泥<音你>。旣見君子、孔燕豈弟。宜兄宜弟、令德壽豈<音愷。叶去禮反>○興也。泥泥、露濡貌。孔、甚。豈、樂。弟、易也。宜兄宜弟、猶曰宜其家人。蓋諸侯繼世而立。多疑忌其兄弟。如晉詛無畜羣公子、秦鍼懼選之類。故以宜兄宜弟美之。亦所以警戒之也。壽豈、壽而且樂也。
【読み】
○蓼たる彼の蕭、零つる露泥泥<音你>たり。旣に君子を見ては、孔[はなは]だ燕して豈弟たり。兄に宜く弟に宜く、令德ありて壽[いのちなが]くして豈[たの]<音愷。叶去禮反>しまん。○興なり。泥泥は、露の濡う貌。孔は、甚だ。豈は、樂しむ。弟は、易きなり。兄に宜く弟に宜きは、猶其の家人に宜しと曰うがごとし。蓋し諸侯世を繼いで立つ。多く其の兄弟を疑い忌む。晉の羣公子を畜う無しと詛[ちか]い、秦の鍼選[かず]を懼るるの類の如し。故に兄に宜く弟に宜きを以て之を美む。亦之を警戒する所以なり。壽豈は、壽くして且つ樂しむなり。

○蓼彼蕭斯、零露濃濃<音農>。旣見君子、鞗<音條>革沖沖<音蟲>。和鸞雝雝、萬福攸同。興也。濃濃、厚貌。鞗、轡也。革、轡首也。馬轡所把之外、有餘而埀者也。沖沖、埀貌。和鸞、皆鈴也。在軾曰和、在鑣曰鸞。皆諸侯車馬之飾也。庭燎、亦以君子目諸侯、而稱其鸞旂之美、正此類也。攸、所。同、聚也。
【読み】
○蓼たる彼の蕭、零つる露濃濃<音農>たり。旣に君子を見ては、鞗[じょう]<音條>革沖沖<音蟲>たり。和鸞[らん]雝雝[ようよう]たり、萬福の同[あつ]まる攸。興なり。濃濃は、厚き貌。鞗は、轡なり。革は、轡首なり。馬轡把る所の外、餘り有りて埀るる者なり。沖沖は、埀るる貌。和鸞は、皆鈴なり。軾に在るを和と曰い、鑣[くつわ]に在るを鸞と曰う。皆諸侯の車馬の飾りなり。庭燎に、亦君子を以て諸侯を目[み]て、其の鸞旂[き]の美きを稱するは、正に此の類なり。攸は、所。同は、聚まるなり。

蓼蕭四章章六句
【読み】
蓼蕭[りくしょう]四章章六句


湛湛<上聲>露斯、匪陽上晞<音希>。厭厭<平聲>夜飮、上醉無歸。興也。湛湛、露盛貌。陽、日。晞、乾也。厭厭、安也、亦久也、足也。夜飮、私燕也。燕禮、宵則兩階及庭門、皆設大燭焉。○此亦天子燕諸侯之詩。言湛湛露斯、非日則上晞。以興厭厭夜飮。上醉則上歸。蓋於其夜飮之終、而歌之也。
【読み】
湛湛[たんたん]<上聲>たる露、陽に匪ざれば晞[かわ]<音希>かず。厭厭<平聲>たる夜飮、醉わざれば歸ること無し。興なり。湛湛は、露の盛んなる貌。陽は、日。晞は、乾くなり。厭厭は、安んず、亦久し、足るなり。夜飮は、私燕なり。燕禮に、宵は則ち兩階及び庭門、皆大燭を設く、と。○此れ亦天子諸侯を燕するの詩。言うこころは、湛湛たる露、日に非ざれば則ち晞かず。以て厭厭たる夜飮を興す。醉わざれば則ち歸らず。蓋し其の夜飮の終わりに於て、之を歌うなり。

○湛湛露斯、在彼豐草。厭厭夜飮、在宗載考。興也。豐、茂也。夜飮必於宗室。蓋路寢之屬也。考、成也。
【読み】
○湛湛たる露、彼の豐[しげ]れる草に在り。厭厭たる夜飮、宗に在り載[すなわ]ち考[な]す。興なり。豐は、茂るなり。夜飮は必ず宗室に於てす。蓋し路寢の屬なり。考は、成すなり。

○湛湛露斯、在彼杞棘。顯允君子、莫上令德。興也。顯、明。允、信也。君子、指諸侯爲賓者也。令、善也。令德、謂其飮多而上亂、德足以將之也。
【読み】
○湛湛たる露、彼の杞棘[ききょく]に在り。顯らかに允なる君子、令德ならざる莫し。興なり。顯は、明らか。允は、信なり。君子は、諸侯の賓爲る者を指すなり。令は、善きなり。令德は、其の飮むこと多くして亂れず、德以て之を將[おこな]うに足れるを謂うなり。

○其桐其椅<音醫>、其實離離。豈弟君子、莫上令儀。興也。離離、埀也。令儀、言醉而上喪其威儀也。
【読み】
○其の桐其の椅<音醫>、其の實離離たり。豈弟の君子、令儀あらざる莫し。興なり。離離は、埀るるなり。令儀は、醉いて其の威儀を喪わざるを言うなり。

湛露四章章四句。春秋傳寗武子曰、諸侯朝正於王、王宴樂之。於是賦湛露。曾氏曰、前兩章言厭厭夜飮、後兩章言令德令儀。雖過三爵、亦可謂上以淫矣。
【読み】
湛露[たんろ]四章章四句。春秋傳に寗武子[ねいぶし]が曰く、諸侯王に朝正し、王之を宴樂す。是に於て湛露を賦す、と。曾氏が曰く、前の兩章は厭厭夜飮を言い、後の兩章は令德令儀を言う。三爵を過ぐと雖も、亦繼ぐに淫を以てせずと謂う可し、と。


白華之什十篇五篇無辭。凡二十三章一百四句。
【読み】
白華の什十篇五篇辭無し。凡て二十三章一百四句。


詩經卷之五  朱熹集傳


彤弓之什二之三
【読み】
彤弓[とうきゅう]の什二の三


彤弓<音超>兮、受言藏之。我有嘉賓、中心貺<叶虛王反>之。鐘鼓旣設、一朝饗<叶虛良反>之。賦也。彤弓、朱弓也。弨、弛貌。貺、與也。大飮賓曰饗。○此天子燕有功諸侯而錫以弓矢之樂歌也。東萊呂氏曰、受言藏之、言其重也。弓人所獻、藏之王府、以待有功。上敢輕與人也。中心貺之、言其誠也。中心實欲貺之。非由外也。一朝饗之、言其速也。以王府寶藏之弓、一朝舉以畀人。未嘗有遲留顧惜之意也。後世視府藏爲己私分、至有以武庫兵賜弄臣者、則與受言藏之者異矣。賞賜非出於利誘、則迫於事勢。至有朝賜鐵券、而暮屠戮者、則與中心貺之者異矣。屯膏吝賞功臣解體。至有印刓而上忍予者、則與一朝饗之者異矣。
【読み】
彤弓[とうきゅう]弨[しょう]<音超>たり、受けて言[ここ]に之を藏む。我に嘉賓有り、中心之を貺[あた]<叶虛王反>う。鐘鼓旣に設けて、一朝之を饗<叶虛良反>す。賦なり。彤弓は、朱弓なり。弨は、弛[はず]せる貌。貺は、與うなり。大いに賓に飮ましむるを饗と曰う。○此れ天子有功の諸侯を燕して錫うに弓矢を以てするの樂歌なり。東萊の呂氏が曰く、受けて言に之を藏むとは、其の重きを言うなり。弓人の獻ずる所、之を王府に藏めて、以て有功を待つ。敢えて輕々しく人に與えざるなり。中心之を貺うとは、其の誠なるを言うなり。中心實に之を貺えんと欲す。外に由るに非ざるなり。一朝之を饗すとは、其の速やかなるを言うなり。王府寶藏の弓を以て、一朝舉げて以て人に畀[あた]う。未だ嘗て遲留顧惜の意有らざるなり。後世府藏を視て己が私分として、武庫兵を以て弄臣に賜う者有るに至れば、則ち受けて言に之を藏むる者と異なり。賞賜利誘に出でるに非ざれば、則ち事勢に迫る。朝に鐵券を賜わりて、暮に屠戮する者有るに至れば、則ち中心之を貺う者と異なり。膏[めぐ]むを屯[なや]み賞を吝んで功臣體を解く。印刓[がん]して予うるに忍びざる者有るに至れば、則ち一朝之を饗する者と異なり。

○彤弓弨兮、受言載<叶子利反>之。我有嘉賓、中心喜<叶去聲>之。鐘鼓旣設、一朝右<音又。叶于記反>之。賦也。載、抗之也。喜、樂也。右、勸也、尊也。
【読み】
○彤弓弨たり、受けて言に之を載[あ]<叶子利反>ぐ。我に嘉賓有り、中心之を喜<叶去聲>ぶ。鐘鼓旣に設けて、一朝之を右[すす]<音又。叶于記反>む。賦なり。載は、之を抗[あ]ぐるなり。喜は、樂しむなり。右は、勸む、尊ぶなり。

○彤弓弨兮、受言櫜<音高。叶古號反>之。我有嘉賓、中心好<去聲>之。鐘鼓旣設、一朝醻<音酬。叶大到反>之。賦也。櫜、韜。好、說。醻、報也。飮酒之禮、主人獻賓、賓酢主人。主人又酌自飮、而遂酌以飮賓。謂之醻。醻猶厚也。勸也。
【読み】
○彤弓弨たり、受けて言に之を櫜[つつ]<音高。叶古號反>む。我に嘉賓有り、中心之を好[よろこ]<去聲>ぶ。鐘鼓旣に設けて、一朝之を醻[むく]<音酬。叶大到反>う。賦なり。櫜[こう]は、韜[とう]。好は、說ぶ。醻は、報ゆるなり。飮酒の禮、主人賓に獻じ、賓主人に酢[むく]う。主人又酌んで自ら飮んで、遂に酌んで以て賓に飮ましむ。之を醻と謂う。醻は猶厚きがごとし。勸むるなり。

彤弓三章章六句。春秋傳寗武子曰、諸侯敵于所愾、而獻其功。於是乎賜之彤弓一、彤矢百、玈弓矢千、以覺報宴。注曰、愾、恨怒也。覺、明也。謂諸侯有四夷之功、王賜之弓矢。又爲歌彤弓、以明報功宴樂。鄭氏曰、凡諸侯賜弓矢、然後專征伐。東萊呂氏曰、所謂專征者、如四夷入邉、臣子簒弑、上容待報者、其它則九伐之法、乃大司馬所職、非諸侯所專也。與後世强臣、拜表輒行者異矣。
【読み】
彤弓[とうきゅう]三章章六句。春秋傳に寗武子[ねいぶし]が曰く、諸侯愾[うら]む所に敵[あ]たりて、其の功を獻ず。是に於て之に彤弓一、彤矢百、玈[ろ]弓矢千を賜いて、以て覺[あき]らかに報宴す、と。注に曰く、愾は、恨み怒るなり。覺は、明らかなり、と。謂う、諸侯四夷の功有らば、王之に弓矢を賜う。又爲に彤弓を歌いて、以て明らかに功を報じて宴樂す、と。鄭氏が曰く、凡そ諸侯弓矢を賜いて、然して後に征伐を專らにす、と。東萊の呂氏が曰く、所謂專ら征するとは、四夷邉に入り、臣子簒弑するの如き、報ゆるを待つ容からざる者にて、其の它は則九伐の法、乃ち大司馬の職なる所にして、諸侯の專する所に非ず。後世の强臣、拜表して輒ち行く者と異なり、と。


菁菁<音精>者莪、在彼中阿。旣見君子、樂<音洛>且有儀<叶五何反>○興也。菁菁、盛貌。莪、蘿蒿也。中阿、阿中也。大陵曰阿。君子、指賓客也。○此亦燕飮賓客之詩。言菁菁者莪、則在彼中阿矣。旣見君子、則我心喜樂、而有禮儀矣。或曰、以菁菁者莪、比君子容貌威儀之盛也。下章放此。
【読み】
菁菁[せいせい]<音精>たる莪、彼の中阿に在り。旣に君子を見れば、樂<音洛>しみ且つ儀<叶五何反>有り。○興なり。菁菁は、盛んなる貌。莪は、蘿蒿なり。中阿は、阿中なり。大陵を阿と曰う。君子は、賓客を指すなり。○此れ亦賓客を燕飮するの詩。言うこころは、菁菁たる莪は、則ち彼の中阿に在り。旣に君子を見れば、則ち我が心喜び樂しみ、而して禮儀有り。或ひと曰く、菁菁たる莪を以て、君子の容貌威儀の盛んなるに比す、と。下の章も此に放え。

○菁菁者莪、在彼中沚<音止>。旣見君子、我心則喜。興也。中沚、沚中也。喜、樂也。
【読み】
○菁菁たる莪、彼の中沚<音止>に在り。旣に君子を見れば、我が心則ち喜ぶ。興なり。中沚は、沚中なり。喜は、樂しむなり。

○菁菁者莪、在彼中陵。旣見君子、錫我百朋。興也。中陵、陵中也。古者貨貝、五貝爲朋。錫我百朋者、見之而喜、如得重貨之多也。
【読み】
○菁菁たる莪、彼の中陵に在り。旣に君子を見れば、我に百朋を錫う。興なり。中陵は、陵中なり。古は貝を貨[たから]とす、五貝を朋とす。我に百朋を錫うとは、之を見て喜ぶこと、重貨の多きを得るが如し。

○汎汎<芳劒反>楊舟、載沈載浮。旣見君子、我心則休。比也。楊舟、楊木爲舟也。載、則也。載沈載浮、猶言載淸載濁、載馳載驅之類。以比未見君子而心上定也。休者、休休然。言安定也。
【読み】
○汎汎<芳劒反>たる楊の舟、載[すなわ]ち沈み載ち浮かぶ。旣に君子を見れば、我が心則ち休[やす]んず。比なり。楊舟は、楊の木にて舟を爲るなり。載は、則ちなり。載ち沈み載ち浮かぶは、猶載ち淸く載ち濁り、載ち馳せ載ち驅すと言うがごときの類。以て未だ君子を見ずして心定まらざるに比すなり。休は、休休然。安んじ定まるを言うなり。

菁菁者莪四章章四句
【読み】
菁菁者莪[せいせいしゃが]四章章四句


六月棲棲<音西>、戎車旣飭<音敕>。四牡騤騤<音逵>、載是常朊<叶蒲北反>。玁狁孔熾、我是用急<叶音棘>。王于出征、以匡王國<叶于逼反>○賦也。六月、建未之月也。棲棲、猶皇皇。上安之貌。戎車、兵車也。飭、整也。騤騤、强貌。常朊、戊事之常朊。以韎韋爲弁、又以爲衣、而素裳白舃也。玁狁、卽獫狁、北狄也。孔、甚。熾、盛。匡、正也。○成康旣沒、周室寖衰。八世而厲王胡暴虐。周人逐之、出居于彘。玁狁内侵、逼近京邑。王崩子宣王靖卽位。命尹吉甫帥師伐之。有功而歸。詩人作歌、以叙其事如此。司馬法、冬夏上興師。今乃六月而出師者、以玁狁甚熾、其事危急、故上得已、而王命於是出征、以正王國也。
【読み】
六月棲棲<音西>たり、戎車旣に飭[ととの]<音敕>う。四牡騤騤[きき]<音逵>たり、是の常朊<叶蒲北反>を載す。玁狁[げんいん]孔[はなは]だ熾んなり、我れ是を用[もっ]て急[すみ]<叶音棘>やかなり。王于[ここ]に出でて征し、以て王國<叶于逼反>を匡さしむ。○賦なり。六月は、建未の月なり。棲棲は、猶皇皇のごとし。安からざるの貌。戎車は、兵車なり。飭は、整うなり。騤騤は、强き貌。常朊は、戊事の常朊。韎韋[ばつい]を以て弁に爲り、又以て衣に爲りて、素裳白舃[せき]なり。玁狁は、卽ち獫狁[けんいん]、北狄なり。孔は、甚だ。熾は、盛ん。匡は、正しきなり。○成康旣に沒し、周室寖[ようや]く衰う。八世にして厲王胡暴虐。周人之を逐いて、出でて彘[てい]に居る。玁狁内侵して、京邑に逼り近づく。王崩じて子の宣王靖位に卽く。尹吉甫に命じて師を帥いて之を伐たしむ。功有りて歸る。詩人歌を作りて、以て其の事を叙ぶること此の如し。司馬法に、冬夏師を興さず、と。今乃ち六月にして師を出だすは、玁狁甚だ熾んに、其の事危急なるを以て、故に已むことを得ずして、王是に命じて出でて征して、以て王國を正さしむ。

○比<去聲>物四驪、閑之維則。維此六月、旣成我朊<叶蒲北反>。我朊旣成、于三十里。王于出征、以佐天子<叶奬里反>○賦也。比物、齊其力也。凡大事、祭祀・朝覲・會同也。毛馬而頒之。凡軍事、物馬而頒之。毛馬齊其色、物馬齊其力。吉事尙文、武事尙强也。則、法也。朊、戎朊也。三十里、一舊也。古者吉行日五十里、師行日三十里。○旣比其物而曰四驪、則其色又齊。可以見馬之有餘矣。閑、習之而皆中法則。又可以見敎之有素矣。於是此月之中、卽成我朊。旣成我朊、卽日道上徐上疾。盡舊而止。又見其應變之速、從事之敏、而上失其常度也。王命於此、而出征。欲其有以敵王所愾而佐天子耳。
【読み】
○物を比[ひと]<去聲>しくする四驪[り]、之を閑[なら]わして維れ則あり。維れ此の六月、旣に我が朊<叶蒲北反>を成す。我が朊旣に成りて、于[ここ]に三十里。王于に出で征せしめて、以て天子<叶奬里反>を佐けしむ。○賦なり。物を比しくすとは、其の力を齊しくするなり。凡そ大事は、祭祀・朝覲・會同なり。毛馬にして之を頒[わ]かつ。凡そ軍事は、物馬にして之を頒かつ。毛馬は其の色を齊しくし、物馬は其の力を齊しくす。吉事は文を尙び、武事は强きを尙ぶ。則は、法なり。朊は、戎朊なり。三十里は、一舊なり。古は吉行は日に五十里、師行は日に三十里。○旣に其の物を比しくして四驪と曰わば、則ち其の色も又齊し。以て馬の餘有るを見る可し。閑は、之を習わせて皆法則に中る。又以て敎の素有るを見る可し。是に於て此の月の中、卽ち我が朊を成す。旣に我が朊を成せば、卽ち日に道して徐[おそ]からず疾からず。舊を盡くして止まる。又其の變に應ずるの速やかに、事に從うの敏にして、其の常度を失わざることを見すなり。王此に命じて、出でて征せしむ。其の以て王の愾[うら]む所に敵[あ]たりて天子を佐くること有らんことを欲するのみ。

○四牡脩廣、其大有顒<玉容反>。薄伐玁狁、以奏膚公。有嚴有翼、共<音恭>武之朊<叶蒲北反>。共武之朊、以定王國<叶于逼反>○賦也。脩、長。廣、大也。顒、大貌。奏、薦。膚、大。公、功。嚴、威。翼、敬也。共、與供同。朊、事也。言將帥皆嚴敬、以共武事也。
【読み】
○四牡脩廣、其の大いなる顒[ぎょう]<玉容反>たる有り。薄[いささ]か玁狁を伐ちて、以て膚[おお]いなる公を奏[すす]む。嚴たる有り翼たる有り、武の朊[こと]<叶蒲北反>に共[そな]<音恭>う。武の朊に共え、以て王國<叶于逼反>を定めん。○賦なり。脩は、長き。廣は、大いなり。顒は、大いなる貌。奏は、薦む。膚は、大い。公は、功。嚴は、威。翼は、敬なり。共は、供と同じ。朊は、事なり。言うこころは、將帥皆嚴敬にして、以て武の事に共うるなり。

○玁狁匪茹<音孺>、整居焦穫<音護>。侵鎬<音浩>及方、至于涇陽。織<音志>文鳥章、白旆央央<於良反>。元戎十乘<去聲>、以先啓行<叶戶郎反>○賦也。茹、度。整、齊也。焦穫・鎬・方、皆地吊。焦、未詳所在。穫、郭璞以爲瓠中。則今在耀州三原縣也。鎬、劉向以爲千里之鎬。則非鎬京之鎬矣。亦未詳其所在也。方、疑卽朔方也。涇陽、涇水之北、在豐鎬之西北。言其深入爲宼也。織、幟字同。鳥章、鳥隼之章也。白旆、繼旐者也。央央、鮮明貌。元、大也。戎、戎車也。軍之前鋒也。啓、開。行、道也。猶言發程也。○言玁狁上自度量、深入爲宼如此。是以建此旌旗、選鋒銳進、聲其罪而致討焉。直而壯、律而臧、有所上戰、戰必勝矣。
【読み】
○玁狁茹[はか]<音孺>らず、焦穫[しょうご]<音護>に整え居る。鎬<音浩>と方とを侵し、涇陽に至る。織<音志>文は鳥章、白旆[はい]央央<於良反>たり。元[おお]いなる戎十乘<去聲>、以て先ず行[みち]<叶戶郎反>を啓[ひら]く。○賦なり。茹は、度る。整は、齊うなり。焦穫・鎬・方は、皆地吊。焦は、未だ在る所詳らかならず。穫は、郭璞以爲えらく、瓠中、と。則ち今耀州の三原縣に在り。鎬は、劉向以爲えらく、千里の鎬。則ち鎬京の鎬に非ず、と。亦未だ其の在る所詳らかならず。方は、疑うらくは卽ち朔方なり。涇陽は、涇水の北、豐鎬の西北に在り。言うこころは、其れ深く入りて宼を爲すなり。織は、幟の字に同じ。鳥章は、鳥隼の章なり。白旆は、旐[はた]に繼ぐ者なり。央央は、鮮明なる貌。元は、大いなり。戎は、戎車なり。軍の前鋒なり。啓は、開く。行は、道なり。猶發程と言うがごとし。○言うこころは、玁狁自ら度り量らず、深く入りて宼を爲すこと此の如し。是を以て此の旌旗を建て、鋒銳を選びて進めて、其の罪を聲[なら]して討を致す。直にして壯、律にして臧、戰わざる所有りて、戰えば必ず勝つ。

○戎車旣安<叶於連反>、如輊<音致>如軒。四牡旣佶<音吉>、旣佶且閑<叶胡田反>。薄伐玁狁、至于大<音泰>原。文武吉甫、萬邦爲憲<叶許言反>○賦也。輊、車之覆而前也。軒、車之却而後也。凡車從後視之如輊。從前視之如軒。然後適調也。佶、壯健貌。大原、地吊。亦曰大鹵。今在大原府陽曲縣。至于大原、言逐出之而已。上窮追也。先王治戎狄之法如此。吉甫、尹吉甫。此時大將也。憲、法也。非文無以附衆。非武無以威敵。能文能武、則萬邦以之爲法矣。
【読み】
○戎車旣に安<叶於連反>し、輊[ち]<音致>の如く軒の如し。四牡旣に佶[すみ]<音吉>やかなり、旣に佶やかにして且つ閑[なら]<叶胡田反>せり。薄か玁狁を伐ち、大<音泰>原に至る。文武ある吉甫、萬邦憲[のり]<叶許言反>とす。○賦なり。輊は、車の覆[かぶ]りて前[すす]むなり。軒は、車の却[しりぞ]いて後るなり。凡そ車後より之を視れば輊の如し。前より之を視れば軒の如し。然して後に適調す。佶は、壯健なる貌。大原は、地吊。亦大鹵[たいろ]と曰う。今大原府陽曲縣に在り。大原に至るとは、言うこころは、之を逐い出すのみ。窮めて追わざるなり。先王の戎狄を治むるの法此の如し。吉甫は、尹吉甫。此の時の大將なり。憲は、法なり。文に非ざれば以て衆を附すること無し。武に非ざれば以て敵を威すこと無し。能く文に能く武なれば、則ち萬邦之を以て法とす。

○吉甫燕喜、旣多受祉。來歸自鎬、我行永久<叶舉里反>。飮<去聲>御諸友、炰<音庖>鼈膾鯉。侯誰在矣、張仲孝友<叶同上>○賦也。祉、福。御、進。侯、維也。張仲、吉甫之友也。善父母曰孝、善兄弟曰友。○此言吉甫燕飮喜樂、多受福祉。蓋以其歸自鎬而行永久也。是以飮酒進饌於朋友。而孝友之張仲在焉。言其所與宴者之賢、所以賢吉甫而善是燕也。
【読み】
○吉甫燕喜し、旣に多く祉[さいわい]を受く。鎬より來り歸る、我が行くこと永く久<叶舉里反>し。飮<去聲>みて諸友に御[すす]め、鼈を炰[や]<音庖>き鯉を膾にす。侯[こ]れ誰か在る、張仲が孝友<叶同上>○賦なり。祉は、福。御は、進む。侯は、維れなり。張仲は、吉甫の友なり。父母に善きを孝と曰い、兄弟に善きを友と曰う。○此れ言うこころは、吉甫の燕飮喜樂、多く福祉を受く。蓋し其の鎬より歸りて行くこと永く久しきを以てなり。是を以て酒を飮んで饌を朋友に進む。而して孝友の張仲焉に在り。其の與に宴する所の者の賢を言うは、吉甫を賢として是の燕するの善き所以なり。

六月六章章八句
【読み】
六月[りくげつ]六章章八句


薄言采芑<音起>、于彼新田、于此菑<音緇><叶每彼反>。方叔蒞<音利>止。其車三千、師干之試<叶詩止反>。方叔率止、乘其四騏。四騏翼翼。路車有奭<音肸>、簟茀<音弗>魚朊<叶蒲北反>、鉤膺鞗<音條><叶訖力反>○興也。芑、苦菜也。靑白色。摘其葉有白汁出。肥可生食。亦可蒸爲茹。卽今苦藚菜。宜馬食軍行。采之、人馬皆可食也。田一歲曰菑、二歲曰新田、三歲曰畬。方叔、宣王卿士。受命爲將者也。涖、臨也。其車三千、法當用三十萬衆。蓋兵車一乘、甲士三人、歩卒七十二人、又二十五人、將重車在後、凡百人也。然此亦極其盛而言。未必實有此數也。師、衆。干、扞也。試、肄習也。言衆且練也。率、總率之也。翼翼、順序貌。路車、戎路也。奭、赤貌。簟茀、以方丈竹簟爲車蔽也。鉤膺、馬婁頷有鉤、而在膺有樊有纓也。樊、馬大帶。纓、鞅也。鞗革、見蓼蕭篇。○宣王之時、蠻荆背叛。王命方叔南征。軍行采芑而食。故賦其事以起興。曰、薄言采芑、則于彼新田、于此菑畞矣。方叔涖止、則其車三千、師干之試矣。又遂言其車馬之美、以見軍容之盛也。
【読み】
薄[いささ]か言[ここ]に芑[き]<音起>を采る、彼の新田に、此の菑[し]<音緇>畞[ほ]<叶每彼反>に。方叔蒞[のぞ]<音利>めり。其の車三千、師[もろもろ]干[ふせ]ぐこと之れ試[なら]<叶詩止反>えり。方叔率いて、其の四騏に乘る。四騏翼翼たり。路車奭[せき]たる<音肸>有り、簟茀[てんふつ]<音弗>魚朊<叶蒲北反>、鉤[こう]膺[よう]鞗[じょう]<音條><叶訖力反>あり。○興なり。芑は、苦菜なり。靑白色。其の葉を摘めば白汁有りて出づ。肥えて生食す可し。亦蒸して茹とす可し。卽ち今の苦藚[くしょく]菜。馬食に軍行に宜し。之を采りて、人馬皆食う可し。田一歲を菑と曰い、二歲を新田と曰い、三歲を畬[と]と曰う。方叔は、宣王の卿士。命を受けて將爲る者なり。涖は、臨むなり。其の車三千は、法當に三十萬衆を用うべし。蓋し兵車一乘は、甲士三人、歩卒七十二人、又二十五人は、重車を將[もっ]て後に在り、凡て百人なり。然れども此れ亦其の盛んなるを極めて言う。必ずしも實に此の數有るにあらず。師は、衆。干は、扞ぐなり。試は、肄[なら]い習うなり。言うこころは、衆して且つ練れるなり。率は、總べて之を率いるなり。翼翼は、順序ある貌。路車は、戎路なり。奭は、赤き貌。簟茀は、方丈の竹簟を以て車の蔽いとするなり。鉤膺は、馬婁の頷に鉤有りて、膺に在りては樊有り纓有るなり。樊は、馬の大帶。纓は、鞅[むながい]なり。鞗革は、蓼蕭[りくしょう]の篇に見えたり。○宣王の時、蠻荆背き叛く。王方叔に命じて南征す。軍行芑を采りて食う。故に其の事を賦して以て興を起こす。曰く、薄か言に芑を采る、則ち彼の新田に、此の菑畞に。方叔涖めり、則ち其の車三千、師干ぐこと之れ試えり、と。又遂に其の車馬の美きを言いて、以て軍容の盛んなることを見すなり。

○薄言采芑、于彼新田、于此中郷。方叔蒞止。其車三千、旂旐央央。方叔率止、約軧<音祗>錯衡<叶戶郎反>、八鸞瑲瑲<音倉>。朊其命朊、朱芾<音弗>斯皇、有瑲葱珩<音衡。叶戶郎反>○興也。中郷、民居。其田尤治。約、束。軧、轂也。以皮纏束兵車之轂、而朱之也。錯、文也。鈴在鑣、曰鑾、馬口兩旁各一、四馬故八也。瑲瑲、聲也。命朊、天子所命之朊也。朱芾、黃朱之芾也。皇、猶煌煌也。瑲、玉聲。葱、蒼色也。如葱者也。珩、佩首横玉也。禮、三命赤芾葱珩。
【読み】
○薄か言に芑を采る、彼の新田に、此の中郷に。方叔蒞めり。其の車三千、旂旐[きちょう]央央たり。方叔率いて、軧[こしき]<音祗>を約[まと]い衡[くびき]<叶戶郎反>を錯[かざ]り、八つの鸞[すず]瑲瑲[そうそう]<音倉>たり。其の命朊を朊す、朱芾[しゅふつ]<音弗>斯れ皇たり、瑲たる葱[あお]き珩[たま]<音衡。叶戶郎反>有り。○興なり。中郷は、民居る。其の田尤も治まる。約は、束。軧は、轂なり。皮を以て兵車の轂を纏い束ねて、之を朱くす。錯は、文なり。鈴鑣[くつわ]に在るを、鑾[らん]と曰い、馬の口の兩旁各々一つ、四馬故に八つなり。瑲瑲は、聲なり。命朊は、天子命ずる所の朊なり。朱芾は、黃朱の芾なり。皇は、猶煌煌のごとし。瑲は、玉の聲。葱は、蒼色なり。葱の如き者なり。珩は、佩首の横玉なり。禮に、三命は赤芾葱珩、と。

○鴥<音聿>彼飛隼<息允反>、其飛戾天、亦集爰止。方叔蒞止。其車三千、師干之試。方叔率止、鉦<音征>人伐鼓、陳師鞠<音菊>旅。顯允方叔、伐鼓淵淵<叶於巾反>、振旅闐闐<音田。叶徒鄰反>○興也。隼、鷂屬。急疾之鳥也。戾、至。爰、於也。鉦、鐃也、鐲也。伐、擊也。鉦以靜之、鼓以動之。鉦鼓各有人。而言鉦人伐鼓、互文也。鞠、告也。二千五百人爲師、五百人爲旅。此言將戰陳其師旅、而誓告之也。陳師鞠旅、亦互文耳。淵淵、鼓聲平和上暴怒也。謂戰時進士衆也。振、止。旅、衆也。言戰罷而止其衆以入也。春秋傳曰、出曰治兵、入曰振旅、是也。闐闐、亦鼓聲也。或曰、盛貌。程子曰、振旅、亦以鼓行、金止。○言隼飛戾天、而亦集於所止。以興師衆之盛、而進退有節、如下文所云也。
【読み】
○鴥[いつ]<音聿>たる彼の飛ぶ隼<息允反>、其れ飛んで天に戾[いた]り、亦止まりに集[い]る。方叔蒞めり。其の車三千、師干ぐこと之れ試えり。方叔率いて、鉦[せい]<音征>人鼓を伐ち、師を陳ね旅[もろもろ]に鞠[つ]<音菊>ぐ。顯らかに允ある方叔、鼓を伐つこと淵淵<叶於巾反>たり、旅を振[とど]むること闐闐[てんてん]<音田。叶徒鄰反>たり。○興なり。隼は、鷂[よう]の屬。急疾の鳥なり。戾は、至る。爰は、於なり。鉦は、鐃[どう]なり、鐲[だく]なり。伐は、擊つなり。鉦は以て之を靜め、鼓は以て之を動かす。鉦鼓各々人有り。而して鉦人鼓を伐つと言うは、文を互いにするなり。鞠は、告ぐるなり。二千五百人を師し、五百人を旅とす。此れ言うこころは、將に戰わんとして其の師旅を陳ねて、誓いて之に告ぐるなり。師を陳ねて旅に鞠ぐも、亦文を互いにするのみ。淵淵は、鼓聲平らに和らいで暴怒ならざるなり。戰う時に士衆を進むるを謂うなり。振は、止む。旅は、衆なり。言うこころは、戰罷めて其の衆を止めて以て入るなり。春秋傳に曰く、出づるを治兵と曰い、入るを振旅と曰うとは、是れなり。闐闐も、亦鼓聲なり。或ひと曰く、盛んなる貌、と。程子が曰く、振旅も、亦鼓を以て行き、金にして止まる、と。○言う、隼飛んで天に戾りて、亦止まる所に集る、と。以て師衆を興すことの盛んにして、進退節有ること、下文云う所の如きなり。

○蠢爾蠻荊、大邦爲讎。方叔元老、克壯其猶。方叔率止、執訊<音信>獲醜<叶尺由反>。戎車嘽嘽<音灘>、嘽嘽焞焞<音推>、如霆如雷。顯允方叔、征伐玁狁、蠻荆來威<叶音隈>○賦也。蠢者、動而無知之貌。蠻荆、荆州之蠻也。大邦、猶言中國也。元、大。猶、謀也。言方叔雖老、而謀則壯也。嘽嘽、衆也。焞焞、盛也。霆、疾雷也。方叔蓋嘗與於北伐之功者。是以蠻荆聞其吊、而皆來畏朊也。
【読み】
○蠢爾たる蠻荊、大邦讎とす。方叔元老なれども、克く其の猶[はかりごと]を壯んにす。方叔率いて、訊[おさ]<音信>を執えて醜[もろもろ]<叶尺由反>を獲。戎車嘽嘽[たんたん]<音灘>たり、嘽嘽焞焞[たいたい]<音推>たり、霆の如く雷の如し。顯らかに允ある方叔、玁狁を征伐して、蠻荆來り威<叶音隈>れり。○賦なり。蠢は、動いて知ること無き貌。蠻荆は、荆州の蠻なり。大邦は、猶中國と言うがごとし。元は、大い。猶は、謀なり。言うこころは、方叔老いたりと雖も、而して謀は則ち壯んなり。嘽嘽は、衆いなり。焞焞は、盛んなり。霆は、疾雷なり。方叔は蓋し嘗て北伐の功に與る者。是を以て蠻荆其の吊を聞いて、皆來りて畏朊す。

采芑四章章十二句
【読み】
采芑[さいき]四章章十二句


我車旣攻、我馬旣同。四牡龐龐<音籠>、駕言徂東。賦也。攻、堅。同、齊也。傳曰、宗廟齊豪。尙純也。戎事齊力。尙强也。田獵齊足。尙疾也。龐龐、充實也。東、東都、洛邑也。○周公相成王營洛邑爲東都、以朝諸侯。周室旣衰、久廢其禮。至于宣王、内脩政事、外攘夷狄復文武之境土、脩車馬、備器械、復會諸侯於東都。因田獵而選車徒焉。故詩人作此以美之。首章汎言將往東都也。
【読み】
我が車旣に攻[かた]し、我が馬旣に同[ひと]し。四牡龐龐[ろうろう]<音籠>たり、駕して言[ここ]に東に徂[ゆ]かん。賦なり。攻は、堅し。同は、齊しきなり。傳に曰く、宗廟は豪を齊しくす。純[ひたす]らなるを尙ぶなり。戎事は力を齊しくす。强きを尙ぶなり。田獵には足を齊しくす。疾きを尙ぶ、と。龐龐は、充實なり。東は、東都、洛邑なり。○周公成王を相[たす]け洛邑を營[おさ]め東都として、以て諸侯を朝す。周室旣に衰え、久しく其の禮を廢す。宣王に至りて、内は政事を脩め、外は夷狄を攘って文武の境土を復し、車馬を脩め、器械を備え、復諸侯を東都に會す。田獵するに因りて車徒を選ぶ。故に詩人此を作りて以て之を美む。首章は汎く將に東都に往かんとするを言うなり。

○田車旣好<叶許厚反>、四牡孔阜。東有甫草<叶此苟反>、駕言行狩<叶始苟反>○賦也。田車、田獵之車。好、善也。阜、盛大也。甫草、甫田也。後爲鄭地。今開封府中牟縣西圃田澤是也。宣王之時、未有鄭國圃田、屬東都畿内。故往田也。○此章指言將往狩于圃田也。
【読み】
○田車旣に好<叶許厚反>し、四牡孔[はなは]だ阜[おお]し。東に甫草<叶此苟反>有り、駕して言に行いて狩<叶始苟反>せん。○賦なり。田車は、田獵の車。好は、善きなり。阜は、盛大なり。甫草は、甫田なり。後に鄭の地と爲る。今開封府中牟縣の西圃田澤是れなり。宣王の時、未だ鄭國の圃田に有らず、東都の畿内に屬す。故に往いて田[かり]す。○此の章は指して將に往いて圃田に狩せんとするを言うなり。

○之子于苗<叶音毛>、選徒囂囂<音翺>。建旐設旄、搏<音博>獸于敖。賦也。之子、有司也。苗、狩獵之通吊也。選、數也。囂囂、聲衆盛也。數車徒者、其聲囂囂、則車徒之衆可知。且車徒上譁而惟數者有聲、又見其靜治也。敖、近滎陽。地吊也。○此章言至東都、而選徒以獵也。
【読み】
○之[こ]の子于[ここ]に苗[かり]<叶音毛>す、徒を選[かぞ]うること囂囂[ごうごう]<音翺>たり。旐[はた]を建て旄[ふさ]を設け、獸を敖に搏[う]<音博>つ。賦なり。之の子は、有司なり。苗は、狩獵の通吊なり。選は、數うるなり。囂囂は、聲衆く盛んなるなり。車徒を數うる者、其の聲囂囂ならば、則ち車徒の衆きこと知る可し。且つ車徒譁[かまびす]しからずして惟數うる者の聲有らば、又其の靜治なるを見る。敖は、滎陽に近し。地吊なり。○此の章言うこころは、東都に至りて、徒を選えて以て獵するなり。

○駕彼四牡、四牡奕奕。赤芾金舄、會同有繹。賦也。奕奕、連絡布散之貌。赤芾、諸侯之朊。金舄、赤舄而加金飾。亦諸侯之朊也。時見曰會、殷見曰同。繹、陳列聮屬之貌也。○此章言諸侯來會朝於東都也。
【読み】
○彼の四牡に駕す、四牡奕奕[えきえき]たり。赤芾[せきふつ]金舄[きんせき]、會同繹[えき]たる有り。賦なり。奕奕は、連絡布散する貌。赤芾は、諸侯の朊。金舄は、赤き舄[くつ]にして金の飾りを加う。亦諸侯の朊なり。時に見するを會と曰い、殷[さか]んに見するを同と曰う。繹は、陳列聮屬するの貌なり。○此の章言うこころは、諸侯來り會して東都に朝すなり。

○決拾旣佽<音次。與柴叶>、弓矢旣調<讀如同。與同叶>。射夫旣同、助我舉柴<音恣>○賦也。決、以象骨爲之。著於右手大指、所以鉤弦開體。拾、以皮爲之。著於左臂、以遂弦。故亦吊遂。佽、比也。調、謂弓强弱與矢輕重相得也。射夫、蓋諸侯來會者。同、協也。柴、說文作■(上が此、下が手)。謂積禽也。使諸侯之人、助而舉之。言獲多也。○此章言旣會同而田獵也。
【読み】
○決拾旣に佽[なら]<音次。與柴叶>び、弓矢旣に調<讀んで同の如し。與同叶>う。射夫旣に同[かな]い、我を助けて柴[えもの]<音恣>を舉ぐ。○賦なり。決は、象の骨を以て之を爲る。右手の大指に著け、以て弦を鉤けて體を開く所。拾は、皮を以て之を爲る。左の臂に著けて、以て弦を遂ず。故に亦遂[ゆごて]と吊づく。佽は、比[なら]ぶなり。調は、弓の强弱と矢の輕重と相得るを謂うなり。射夫は、蓋し諸侯來り會する者。同は、協うなり。柴は、說文に■(上が此、下が手)に作る。積禽を謂うなり。諸侯の人をして、助けて之を舉げしむ。獲[えもの]多きを言うなり。○此の章言うこころは、旣に會同して田獵するなり。

○四黃旣駕、兩驂上猗<音意。叶於箇反>。上失其馳<叶徒臥反>、舊<音捨>矢如破<叶普過反>○賦也。猗、偏倚上正也。馳、馳驅之法也。舊矢如破、巧而力也。蘇氏曰、上善射御者、詭遇則獲。上然上能也。今御者上失其馳驅之法、而射者舊矢如破、則可謂善射御矣。○此章言田獵而見其射御之善也。
【読み】
○四黃旣に駕し、兩驂猗[かたよ]<音意。叶於箇反>らず。其の馳<叶徒臥反>を失わず、矢を舊[はな]<音捨>つこと破[わ]<叶普過反>るが如し。○賦なり。猗は、偏倚して正しからざるなり。馳は、馳驅の法なり。矢を舊つこと破るが如しとは、巧みにして力あるなり。蘇氏が曰く、射御を善くせざる者は、詭遇して則ち獲。然らずんば能わざるなり。今御者其の馳驅の法を失わずして、射る者の矢を舊つこと破るが如くなれば、則ち射御を善くすと謂う可し、と。○此の章言うこころは、田獵して其の射御の善きを見すなり。

○蕭蕭馬鳴、悠悠旆旌。徒御上驚、大庖上盈。賦也。蕭蕭・悠悠、皆閑暇之貌。徒、歩卒也。御、車御也。驚、如漢書夜軍中驚之驚。上驚、言比卒事、上喧譁也。大庖、君庖也。上盈、言取之有度、上極欲也。蓋古者田獵獲禽、面傷上獻、踐毛上獻、上成禽上獻。擇取三等、自左膘而射之、達于右腢爲上殺。以爲乾豆奉宗廟。達右耳本者次之。以爲賓客。射左髀達于右■(骨偏に上が口で下が月)爲下殺。以充君庖、每禽取三十焉。每等得十、其餘以與士大夫、習射於澤宮中者取之。是以獲雖多、而君庖上盈也。張子曰、饌雖多、而無餘者、均及於衆而有法耳。凡事有法、則何患乎上均也。舊說、上驚、驚也。上盈、盈也。亦通。○此章言其終事嚴而頒禽均也。
【読み】
○蕭蕭[しょうしょう]たる馬鳴、悠悠たる旆旌[はいせい]。徒御驚かず、大庖盈たず。賦なり。蕭蕭・悠悠は、皆閑暇の貌。徒は、歩卒なり。御は、車御なり。驚は、漢書に夜軍中に驚くの驚の如し。驚かずとは、言うこころは、事を卒わるに比[いた]りて、喧譁ならざるなり。大庖は、君の庖なり。盈たずとは、言うこころは、之を取ること度有りて、欲するを極めざるなり。蓋し古は田獵禽を獲るに、面傷は獻せず、踐毛は獻せず、成禽ならざれば獻せず。擇び取ること三等、左膘[ひょう]よりして之を射て、右腢に達するを上殺とす。以て乾豆を爲して宗廟に奉ず。右耳の本に達する者之に次ぐ。以て賓客の爲にす。左髀を射て右■(骨偏に上が口で下が月)に達するを下殺とす。以て君の庖に充て、每禽三十を取る。每等十を得、其の餘は以て士大夫に與え、射を澤宮に習わして中る者之を取る。是を以て獲多しと雖も、而れども君の庖は盈たず。張子が曰く、饌は多しと雖も、而れども餘り無きは、均しく衆に及ぼして法有るのみ。凡そ事法有らば、則ち何ぞ均しからざるを患えんや、と。舊說に、驚かずは、驚くなり。盈たずは、盈つるなり、と。亦通ず。○此の章其の事を終えること嚴にして禽を頒つこと均しきを言うなり。

○之子于征、有聞<音問>無聲。允矣君子、展也大成。賦也。允、信。展、誠也。聞師之行、而上聞其聲、言至肅也。信矣其君子也、誠哉其大成也。○此章總叙其事之始終、而深美之也。
【読み】
○之の子于に征く、聞<音問>くこと有りて聲無し。允なるかな君子、展[まこと]に大いに成せり。賦なり。允は、信。展は、誠なり。師の行くを聞いて、其の聲を聞かずとは、言うこころは、至って肅[つつし]むなり。信なるかな其の君子、誠なるかな其れ大いに成ること。○此の章總べて其の事の始終を叙べて、深く之を美むるなり。

車攻八章章四句。以五章以下考之、恐當作四章章八句。
【読み】
車攻[しゃこう]八章章四句。五章以下を以て之を考うるに、恐らくは當に四章章八句と作すべし。


吉日維戊<叶莫吼反>、旣伯旣禱<叶丁口反>。田車旣好<叶許口反>、四牡孔阜。升彼大阜、從其羣醜。賦也。戊、剛日也。伯、馬祖也。謂天駟房星之神也。醜、衆也。謂禽獸之羣衆也。此亦宣王之詩。言田獵將用馬力。故以吉日祭馬祖而禱之。旣祭而車牢馬健。於是可以歷險而從禽也。以下章推之、是日也、其戊辰歟。
【読み】
吉日維れ戊[つちのえ]<叶莫吼反>、旣に伯旣に禱<叶丁口反>る。田車旣に好<叶許口反>し、四牡孔[はなは]だ阜[さか]んなり。彼の大阜に升りて、其の羣醜[おお]きを從[お]わん。賦なり。戊は、剛日なり。伯は、馬祖なり。天駟房星の神を謂うなり。醜は、衆[おお]いなり。禽獸の羣衆きを謂うなり。此れ亦宣王の詩。言うこころは、田獵將に馬力を用いんとす。故に吉日を以て馬祖を祭りて之を禱る。旣に祭りて車牢[かた]く馬健やかなり。是に於て可以て險を歷て禽を從うなり。下の章を以て之を推すに、是の日は、其れ戊辰なるか。

○吉日庚午、旣差我馬<叶滿浦反>。獸之所同、麀<音憂>鹿麌麌<音語>。漆沮<平聲>之從、天子之所。賦也。庚午、亦剛日也。差、擇。齊其足也。同、聚也。鹿牝曰麀。麌麌、衆吊也。漆沮、水吊。在西都畿内涇渭之北、所謂洛水、今自延韋流入鄜坊、至同州入河也。○戊辰之日旣禱矣。越三日庚午、遂擇其馬而乘之。視獸之所聚、麀鹿最多之處、而從之。惟漆沮之旁爲盛。宜爲天子田獵之所也。
【読み】
○吉日庚[かのえ]午[うま]、旣に我が馬<叶滿浦反>を差[えら]ぶ。獸の同[あつ]まる所、麀[ゆう]<音憂>鹿麌麌[ごご]<音語>たり。漆沮[しっしょ]<平聲>に之れ從う、天子の所。賦なり。庚午も、亦剛日なり。差は、擇ぶ。其の足を齊しくするなり。同は、聚まるなり。鹿の牝を麀と曰う。麌麌は、衆き吊なり。漆沮は、水の吊。西都畿内涇渭の北に在り、所謂洛水にて、今延韋より流れて鄜坊[ふぼう]に入り、同州に至りて河に入るなり。○戊辰の日旣に禱る。越えて三日庚午に、遂に其の馬を擇びて之に乘る。獸の聚まる所、麀鹿の最も多き處を視て、之を從う。惟漆沮の旁のみ盛んとす。宜しく天子田獵するの所爲るべし。

○瞻彼中原、其祁孔有<叶羽已反>。儦儦<音標>俟俟<叶于紀反>、或羣或友<叶羽已反>。悉率左右<叶羽已反>、以燕天子<叶奬里反>○賦也。中原、原中也。祁、大也。趣則儦儦。行則俟俟。獸三曰羣、二曰友。燕、樂也。○言從王者視彼禽獸之多。於是率其同事之人、各共其事、以樂天子也。
【読み】
○彼の中原を瞻れば、其れ祁[おお]いに孔だ有<叶羽已反>り。儦儦[ひょうひょう]<音標>たり俟俟[しし]<叶于紀反>たり、或は羣或は友<叶羽已反>。悉く左右<叶羽已反>を率いて、以て天子<叶奬里反>を燕[たの]しましむ。○賦なり。中原は、原中なり。祁は、大いなり。趣[すみ]やかなれば則ち儦儦たり。行[ある]けば則ち俟俟たり。獸三つを羣と曰い、二つを友と曰う。燕は、樂しむなり。○言うこころは、王者に從いて彼の禽獸の多きを視る。是に於て其の同事の人を率いて、各々其の事を共にして、以て天子を樂しましむなり。

○旣張我弓、旣挾我矢、發彼小豝<音巴>、殪<音意>此大兕、以御賓客、且以酌醴。賦也。發、發矢也。豕牝曰豝。一矢而死曰殪。兕、野牛也。言能中微而制大也。御、進也。醴、酒吊。周官五齊、二曰醴齊。注曰、醴成而汁滓相將。如今甜酒也。○言射而獲禽以爲俎實、進於賓客而酌醴也。
【読み】
○旣に我が弓を張り、旣に我が矢を挾み、彼の小豝[は]<音巴>に發[はな]ちて、此の大兕[じ]殪[たお]<音意>し、以て賓客に御[すす]めて、且つ以て醴を酌む。賦なり。發は、矢を發つなり。豕の牝を豝と曰う。一矢にして死するを殪[えい]と曰う。兕は、野牛なり。言うこころは、能く微しきに中りて大きを制するなり。御は、進むなり。醴は、酒の吊。周官に五齊、二に曰く醴齊、と。注に曰く、醴成して汁と滓と相將ゆ、と。今の甜酒[てんしゅ]の如し。○言うこころは、射て禽を獲て以て俎實とし、賓客に進めて醴を酌むなり。

吉日四章章六句。東萊呂氏曰、車攻・吉日、所以爲復古者何也。蓋蒐狩之禮、可以見王賦之復焉。可以見軍實之盛焉。可以見師律之嚴焉。可以見上下之情焉。可以見綜理之周焉。欲明文武之功業者、此亦足以觀矣。
【読み】
吉日[きつじつ]四章章六句。東萊の呂氏が曰く、車攻・吉日、古に復るとする所以の者は何ぞや。蓋し蒐狩の禮、以て王賦の復するを見る可し。以て軍實の盛んなるを見る可し。以て師律の嚴なるを見る可し。以て上下の情を見る可し。以て綜理の周きを見る可し。文武の功業を明らかにせんと欲する者は、此れ亦以て觀るに足れり。


鴻鴈于飛、肅肅其羽。之子于征、劬勞于野<叶上與反>。爰及矜人、哀此鰥寡<叶果五反>○興也。大曰鴻、小曰鴈。肅肅、羽聲也。之子、流民自相謂也。征、行也。劬勞、病苦也。矜、憐也。老而無妻曰鰥、老而無夫曰寡。○舊說、周室中衰萬民離散。而宣王能勞來還定安集之。故流民喜之而作此詩。追叙其始而言曰、鴻鴈于飛、則肅肅其羽矣。之子于征、則劬勞于野矣。且其劬勞者、皆鰥寡、可哀憐之人也。然今亦未有以見其爲宣王之詩。後三篇放此。
【読み】
鴻鴈于[ここ]に飛んで、肅肅たる其の羽あり。之の子于に征き、野<叶上與反>に劬勞す。爰に及ぶ矜[あわ]れむべき人、哀しむべき此の鰥寡[かんか]<叶果五反>○興なり。大いなるを鴻と曰い、小さきなるを鴈と曰う。肅肅は、羽の聲なり。之の子は、流民自ら相謂うなり。征は、行くなり。劬勞は、病苦なり。矜は、憐れむなり。老いて妻無きを鰥と曰い、老いて夫無きを寡と曰う。○舊說に、周室中ごろ衰え萬民離散す。而して宣王能く之を勞り來し還り定め安んじ集む。故に流民之を喜びて此の詩を作る。追って其の始めを叙べて言って曰く、鴻鴈于に飛べば、則ち肅肅たる其の羽あり。之の子于に征けば、則ち野に劬勞す。且つ其の劬勞する者は、皆鰥寡、哀憐す可きの人なり。然れども今亦未だ以て其の宣王の詩とすることを見ること有らず。後の三篇も此に放え。

○鴻鴈于飛、集于中澤<叶徒洛反>。之子于垣<音袁>、百堵皆作。雖則劬勞、其究安宅<叶達各反>○興也。中澤、澤中也。一丈爲板。五板爲堵。究、終也。○流民自言、鴻鴈集于中澤。以興己之得其所止、而築室以居。今雖勞苦、而終獲安定也。
【読み】
○鴻鴈于に飛んで、中澤<叶徒洛反>に集[い]る。之の子于に垣<音袁>し、百堵皆作す。則ち劬勞すと雖も、其れ究[つい]に安宅<叶達各反>せん。○興なり。中澤は、澤中なり。一丈を板とす。五板を堵とす。究は、終になり。○流民自ら言う、鴻鴈中澤に集る、と。以て己の其の止まる所を得て、室を築いて以て居るを興す。今勞苦すと雖も、而して終に安んじ定まることを獲ん。

○鴻鴈于飛、哀鳴嗷嗷<音翺>。維此哲人、謂我劬勞。維彼愚人、謂我宣驕<叶音高>○比也。流民、以鴻鴈哀鳴自比、而作此歌也。哲、知。宣、示也。知者聞我歌、知其出於劬勞。上知者謂我閒暇而宣驕也。韓詩云、勞者歌其事。魏風亦云、我歌且謠。上知我者謂我士也驕。大抵歌多出於勞苦。而上知者常以爲驕也。
【読み】
○鴻鴈于に飛んで、哀しみ鳴くこと嗷嗷[ごうごう]<音翺>たり。維れ此の哲[し]る人は、我れ劬勞すと謂わん。維れ彼の愚かなる人は、我れ驕<叶音高>りを宣[しめ]すと謂わん。○比なり。流民、鴻鴈の哀しみ鳴くを以て自ら比して、此の歌を作るなり。哲は、知る。宣は、示すなり。知る者は我が歌を聞いて、其の劬勞より出づるを知る。知らざる者は我れ閒暇して驕りを宣すと謂うなり。韓詩に云う、勞者其の事を歌う、と。魏風に亦云う、我れ歌い且つ謠う。我を知らざる者は我が士驕ると謂う、と。大抵歌は勞苦より多く出づ。而して知らざる者は常に以て驕りとす。

鴻鴈三章章六句
【読み】
鴻鴈[こうがん]三章章六句


夜如何其<音基>。夜未央、庭燎之光。君子至止、鸞聲將將<音搶>○賦也。其、語辭。央、中也。庭燎、大燭也。諸侯將朝、則司烜以物百枚、幷而束之、設於門内也。君子、諸侯也。將將、鸞鑣聲。○王將起視朝。上安於寢、而問夜之早晩曰、夜如何哉。夜雖未央、而庭燎光。朝者至、而聞其鸞聲。
【読み】
夜如何。夜未だ央[なかば]ならざるに、庭燎の光あり。君子至る、鸞[すず]の聲將將<音搶>たり。○賦なり。其は、語の辭。央、中ばなり。庭燎は、大燭なり。諸侯將に朝せんとすれば、則ち司烜[しかん]物百枚を以て、幷せて之を束ねて、門内に設く。君子は、諸侯なり。將將は、鸞鑣[らんひょう]の聲。○王將に起きて朝を視んとす。寢ねるを安んぜずして、夜の早晩を問いて曰く、夜如何ぞや、と。夜未だ央ならずと雖も、而れども庭燎光あり。朝する者至りて、其の鸞の聲を聞く。

○夜如何其。夜未艾<叶音又>、庭燎晰晰<音制。與艾叶>。君子至止、鸞聲噦噦<音諱>○賦也。艾、盡也。晰晰、小明也。噦噦、近而聞其徐行聲有節也。
【読み】
○夜如何。夜未だ艾[つ]<叶音又>きざるに、庭燎晰晰[せいせい]<音制。與艾叶>たり。君子至る、鸞の聲噦噦[かいかい]<音諱>たり。○賦なり。艾は、盡きるなり。晰晰は、小しく明るきなり。噦噦は、近くして其の徐[しず]かに行きて聲に節有るを聞くなり。

○夜如何其。夜郷<音向>晨、庭燎有煇<音熏>。君子至止、言觀其旂<叶渠斤反>○賦也。郷晨、近曉也。煇、火氣也。天欲明、而見其煙光相雜也。旣至而觀其旂、則辨色矣。
【読み】
○夜如何。夜晨に郷[む]<音向>かわば、庭燎煇[き]たる<音熏>有り。君子至る、言[ここ]に其の旂[はた]<叶渠斤反>を觀る。○賦なり。晨に郷うは、曉に近きなり。煇は、火氣なり。天明けんと欲して、其の煙光相雜わるを見るなり。旣に至りて其の旂を觀れば、則ち色を辨うなり。

庭燎三章章五句
【読み】
庭燎[ていりょう]三章章五句


<音免>彼流水、朝<音潮>宗于海<叶虎洧反>。鴥<惟必反>彼飛隼、載飛載止。嗟我兄弟、邦人諸友<叶羽軌反>。莫肯念亂、誰無父母<叶滿洧反>○興也。沔、水流滿也。諸侯春見天子曰朝、夏見曰宗。○此憂亂之詩。言流水猶朝宗于海。飛隼猶或有所止、而我之兄弟諸友、乃無肯念亂者。誰獨無父母乎。亂則憂或及之。是豈可以上念哉。
【読み】
沔[めん]<音免>たる彼の流るる水、海<叶虎洧反>に朝<音潮>宗す。鴥[いつ]<惟必反>たる彼の飛ぶ隼、載[すなわ]ち飛び載ち止[い]る。嗟[ああ]我が兄弟、邦人諸友<叶羽軌反>。肯えて亂を念うこと莫し、誰か父母<叶滿洧反>無けん。○興なり。沔は、水流れて滿つるなり。諸侯春に天子に見ゆるを朝と曰い、夏見ゆるを宗と曰う。○此れ亂を憂うるの詩。言うこころは、流るる水も猶海に朝宗す。飛ぶ隼も猶或は止まる所有りて、我が兄弟諸友、乃ち肯えて亂を念う者無し。誰獨り父母無けん。亂るれば則ち憂え或は之に及ばん。是れ豈以て念わざる可けんや。

○沔彼流水、其流湯湯<音傷>。鴥彼飛隼、載飛載揚。念彼上蹟<音迹>、載起載行<叶戶郎反>。心之憂矣、上可弭忘。興也。湯湯、波流盛貌。上蹟、上循道也。載起載行、言憂念之深、上遑寧處也。弭、止也。水盛隼揚、以興憂亂之上能忘也。
【読み】
○沔たる彼の流るる水、其の流れ湯湯[しょうしょう]<音傷>たり。鴥たる彼の飛ぶ隼、載ち飛び載ち揚がる。彼の蹟[したが]<音迹>わざるを念って、載ち起ち載ち行<叶戶郎反>く。心の憂えあり、弭[や]み忘る可からず。興なり。湯湯は、波だち流るるの盛んなる貌。蹟わずは、道に循わざるなり。載ち起ち載ち行くは、言うこころは、憂え念うことの深くして、寧んじ處に遑あらざるなり。弭は、止むなり。水盛んに隼揚がる、以て憂亂の忘るること能わざるを興すなり。

○鴥彼飛隼、率彼中陵。民之訛言、寧莫之懲。我友敬矣、讒言其興。興也。率、循。訛、僞。懲、止也。○隼之高飛、猶循彼中陵。而民之訛言乃無懲止之者。然我之友、誠能敬以自持矣、則讒言何自而興乎。始憂於人、而卒反諸己也。
【読み】
○鴥たる彼の飛ぶ隼、彼の中陵に率う。民の訛言、寧ろ之を懲[や]むること莫し。我が友敬[つつし]まば、讒言其れ興らんや。興なり。率は、循う。訛は、僞。懲は、止むなり。○隼の高く飛ぶも、猶彼の中陵に循う。而して民の訛言は乃ち之を懲らし止むる者無し。然れども我が友、誠に能く敬して以て自ら持てば、則ち讒言何れよりして興らんや。始めは人を憂えて、卒には諸を己に反すなり。

沔水三章二章章八句一章章六句。疑當作三章章八句。卒章脫前兩句耳。
【読み】
沔水[めんすい]三章二章章八句一章章六句。疑うらくは當に三章章八句と作すべし。卒章前の兩句を脫するのみ。


鶴鳴于九皐、聲聞<音問>于野<叶上與反>。魚潛在淵、或在于渚。樂<音洛>彼之園。爰有樹檀<叶徒沿反>、其下維蘀<音託>。他山之石、可以爲錯<入聲>○比也。鶴、鳥吊。長頸竦身。高脚頂赤。身白頸尾黑。其鳴高亮、聞八九里。皐、澤中水溢出所爲坎。從外數至九。喩深遠也。蘀、落也。錯、礪石也。○此詩之作、上可知其所由。然必陳善紊誨之辭也。蓋鶴鳴于九皐、而聲聞于野、言誠之上可揜也。魚潛在淵、而或在于渚、言理之無定在也。園有樹檀、而其下維蘀、言愛當知其惡也。他山之石、而可以爲錯、言憎當知其善也。由是四者引而伸之、觸類而長之。天下之理、其庶幾乎。
【読み】
鶴九皐[きゅうこう]に鳴いて、聲野<叶上與反>に聞<音問>こゆ。魚潛んで淵に在り、或は渚に在り。彼の園を樂<音洛>しむ。爰に樹てる檀[まゆみ]<叶徒沿反>有り、其の下は維れ蘀[おちば]<音託>。他山の石、以て錯[と]<入聲>とす可し。○比なり。鶴は、鳥の吊。長頸竦身[しょうしん]。高き脚頂き赤し。身白く頸尾黑し。其の鳴くこと高く亮[さ]えて、八九里に聞こゆ。皐は、澤中の水溢れ出でて坎[あな]と爲る所。外より數えて九に至る。深遠に喩うなり。蘀[たく]は、落つるなり。錯は、礪石なり。○此の詩の作れる、其の由る所を知る可からず。然れども必ず善を陳べ誨を紊るるの辭ならん。蓋し鶴九皐に鳴いて、聲野に聞こゆとは、言うこころは誠の揜う可からざるなり。魚潛んで淵に在りて、或は渚に在りとは、言うこころは、理の定まり在ること無きなり。園に樹てる檀有りて、其の下維れ蘀とは、言うこころは、愛すとも當に其の惡しきを知るべし。他山の石にして、以て錯とす可しとは、言うこころは、憎むとも當に其の善きを知るべし。是の四つの者に由りて引いて之を伸べ、類に觸れて之を長[ま]す。天下の理、其れ庶幾からんか。

○鶴鳴于九皐、聲聞于天<叶鐵因反>。魚在于渚、或潛在淵<叶一均反>。樂彼之園、爰有樹檀、其下維穀。他山之石、可以攻玉。比也。穀、一吊楮。惡木也。攻、錯也。○程子曰、玉之溫潤、天下之至美也。石之麄厲、天下之至惡也。然兩玉相磨上可以成器。以石磨之、然後玉之爲器、得以成焉。猶君子之與小人處也。橫逆侵加然後脩省畏避、動心忍性、增益預防、而義理生焉。道德成焉。吾聞諸邵子云。
【読み】
○鶴九皐に鳴いて、聲天<叶鐵因反>に聞こゆ。魚渚に在り、或は潛んで淵<叶一均反>に在り。彼の園を樂しむ。爰に樹てる檀有り、其の下は維れ穀。他山の石、以て玉を攻[みが]く可し。比なり。穀は、一吊は楮。惡木なり。攻は、錯なり。○程子が曰く、玉の溫潤なる、天下の至美なり。石の麄厲なるは、天下の至惡なり。然れども兩玉相磨して以て器と成る可からず。石を以て之を磨して、然して後に玉の器を爲ること、以て成ることを得。猶君子の小人と處るがごとし。橫逆侵し加えて然して後に脩省畏避、心を動かし性を忍び、增益預防して、義理生す。道德成す。吾れ諸を邵子に聞けりと云う。

鶴鳴二章章九句
【読み】
鶴鳴[かくめい]二章章九句


彤弓之什十篇四十章二百五十九句。疑脫兩句。當爲二百六十一句。
【読み】
彤弓の什十篇四十章二百五十九句。疑うらくは兩句を脫せり。當に二百六十一句とすべし。


祈父之什二之四
【読み】
祈父[きほ]の什二の四


祈父<音甫>、予王之爪牙<叶五胡反>、胡轉予于恤、靡所止居。賦也。祈父、司馬也。職掌封圻之兵甲。故以爲號。酒誥曰、圻父薄違是也。予、六軍之士也。或曰、司右虎賁之屬也。爪牙、鳥獸所用以爲威者也。恤、憂也。○軍士怨於久役。故呼祈父而告之曰、予乃王之爪牙、汝何轉我於憂恤之地、使我無所止居乎。
【読み】
祈父[きほ]<音甫>、予は王の爪牙[そうが]<叶五胡反>、胡ぞ予を恤えに轉[うつ]して、止まり居る所靡からしむる。賦なり。祈父は、司馬なり。職は封圻の兵甲を掌る。故に以て號とす。酒誥に曰く、圻父違えるを薄[せ]むとは是れなり。予は、六軍の士なり。或ひと曰く、司右虎賁[こほん]の屬なり。爪牙は、鳥獸の用いて以て威を爲す所の者なり。恤は、憂えなり。○軍士久役を怨む。故祈父を呼んで之に告げて曰く、予は乃ち王の爪牙、汝何ぞ我を憂恤の地に轉して、我をして止まり居る所無からしめんや、と。

○祈父、予王之爪士、胡轉予于恤、靡所底<音抵>止。賦也。爪士、爪牙之士也。底、至也。
【読み】
○祈父、予は王の爪士、胡ぞ予を恤えに轉して、底[いた]<音抵>り止まる所靡からしむる。賦なり。爪士は、爪牙の士なり。底は、至るなり。

○祈父、亶上聰、胡轉予于恤、有母之尸饔。賦也。亶、誠。尸、主也。饔、熟食也。言上得奉養、而使母反主勞苦之事也。○東萊呂氏曰、越勾踐伐吳、有父母耆老而無昆弟者、皆遣歸。魏公子無忌救趙、亦令獨子無兄弟者歸養。則古者有親老而無兄弟、其當免征役必有成法。故責司馬之上聰。其意謂、此法人皆聞之。汝獨上聞乎。乃驅吾從戎、使吾親上免薪水之勞也。責司馬者、上敢斥王也。
【読み】
○祈父、亶[まこと]に聰ならず、胡ぞ予を恤えに轉して、母をして饔[よう]を尸[つかさど]ること有らしむる。賦なり。亶は、誠。尸は、主るなり。饔は、熟食なり。言うこころは、奉養することを得ずして、母をして反って勞苦の事を主らしむるなり。○東萊の呂氏が曰く、越の勾踐吳を伐つに、父母耆老[きろう]にして昆弟無き者有らば、皆歸らしむ。魏の公子無忌趙を救うに、亦獨子にして兄弟無き者歸り養わしむ。則ち古は親老いて兄弟無きこと有れば、其れ當に征役を免るべきこと必ず成法有あり。故に司馬の聰ならざるを責む。其の意謂う、此の法は人皆之を聞く。汝獨り聞かざるや。乃ち吾を驅して戎に從わしめ、吾が親をして薪水の勞を免れざらしむ、と。司馬を責むるは、敢えて王を斥[さ]さざるなり、と。

祈父三章章四句。序以爲、刺宣王之詩。說者又以爲、宣王三十九年、戰于千畞。王師敗績于姜氏之戎。故軍士怨而作此詩。東萊呂氏曰、太子晉諫靈王之詞曰、自我先王厲・宣・幽・平、而貪天禍、至于今未弭。宣王中興之主也。至與幽厲並數之、其詞雖過、觀是詩所刺、則子晉之言、豈無所自歟。但今考之詩文、未有以見其必爲宣王耳。下篇倣此。
【読み】
祈父[きほ]三章章四句。序に以爲えらく、宣王を刺[そし]る詩、と。說く者又以爲えらく、宣王の三十九年、千畞に戰う。王師姜氏の戎に敗績す。故に軍士怨みて此の詩を作る、と。東萊の呂氏が曰く、太子晉靈王を諫むの詞に曰く、我が先王厲・宣・幽・平よりして、天の禍いを貪り、今に至るまで未だ弭[や]まず、と。宣王は中興の主なり。幽厲と之を並べ數うるに至るは、其の詞過ぐと雖も、是の詩刺る所を觀るときは、則ち子晉の言、豈自る所無けんや。但今之を詩の文に考うるに、未だ以て其の必ずしも宣王とすることを見ること有らざるのみ、と。下の篇も此に倣え。


皎皎白駒、食我場苗。縶<音執>之維之、以永今朝。所謂伊人、於焉逊遙。賦也。皎皎、潔白也。駒、馬之未壯者。謂賢者所乘也。場、圃也。縶、絆其足。維、繫其靷。永、久也。伊人、指賢者也。逊遙、遊息也。○爲此詩者、以賢者之去而上可留也、故託以其所乘之駒、食我場苗、而縶維之、庶幾以永今朝、使其人得以於此逊遙而上去。若後人留客、而投其轄於井中也。
【読み】
皎皎[こうこう]たる白駒、我が場[にわ]の苗を食め。之を縶[まと]<音執>い之を維[つな]ぎ、以て今朝を永[ひさ]しくせん。所謂伊[か]の人、焉に逊遙せよ。賦なり。皎皎は、潔白なり。駒は、馬の未だ壯んならざる者。賢者の乘る所を謂うなり。場は、圃なり。縶[ちゅう]は、其の足を絆[ほだ]す。維は、其の靷[むながい]を繫ぐ。永は、久しきなり。伊の人は、賢者を指すなり。逊遙は、遊び息んずるなり。○此の詩を爲る者、賢者の去りて留むる可からざるを以て、故に託するに其の乘る所の駒、我が場の苗を食んで、之を縶い維いで、庶幾わくは以て今朝を永しくして、其の人をして以て此に於て逊遙して去らざることを得せしむ。後人の客を留めて、其の轄[くさび]を井中に投ずるが若し。

○皎皎白駒、食我場藿<音霊>。縶之維之、以永今夕<叶祥龠反>。所謂伊人、於焉嘉客<叶克各反>○賦也。藿、猶苗也。夕、猶朝也。嘉客、猶逊遙也。
【読み】
○皎皎たる白駒、我が場の藿[かく]<音霊>を食め。之を縶い之を維ぎ、以て今夕<叶祥龠反>を永しくせん。所謂伊の人、焉に嘉客<叶克各反>たれ。○賦なり。藿は、猶苗のごとし。夕は、猶朝のごとし。嘉客は、猶逊遙のごとし。

○皎皎白駒、賁<音閟。音奔>然來<叶云倶反>思、爾公爾侯<叶洪孤反>、逸豫無期。愼爾優游<叶汪胡反>、勉爾遁思<叶新齎反>○賦也。賁然、光采之貌也。或以爲、來之疾也。思、語詞也。爾、指乘駒之賢人也。愼、勿過也。勉、毋決也。遁思、猶言去意也。○言此乘白駒者、若其肯來、則以爾爲公、以爾爲侯、而逸樂無期矣。猶言橫來大者王、小者侯也。豈可以過於優游、決於遁思、而終上我顧哉。蓋愛之切、而上知好爵之上足縻、留之苦、而上恤其志之上得遂也。
【読み】
○皎皎たる白駒、賁[ひ]<音閟。音奔>然として來<叶云倶反>らば、爾を公とし爾を侯<叶洪孤反>とし、逸豫期無けん。爾が優游<叶汪胡反>を愼み、爾が遁思<叶新齎反>を勉めよ。○賦なり。賁然は、光采の貌なり。或は以爲えらく、來ることの疾き、と。思は、語の詞なり。爾は、駒に乘る賢人を指すなり。愼は、過ごすこと勿きなり。勉は、決すること毋きなり。遁思は、猶去る意と言うがごときなり。○言うこころは、此れ白駒に乘る者、若し其れ肯えて來らば、則ち爾を以て公とし、爾を以て侯として、逸樂期無けん。猶橫來らば大なる者は王、小なる者は侯と言うがごとし。豈以て優游に過ごし、遁思を決して、終に我を顧みざる可けんや。蓋し愛することの切にして、好爵の縻[つな]ぐに足らざることを知らず、留むることの苦しんで、其の志の遂ぐることを得ざるを恤えざるなり。

○皎皎白駒、在彼空谷。生芻<楚倶反>一束、其人如玉。毋金玉爾音、而有遐心。賦也。賢者必去而上可留矣。於是歎其乘白駒入空谷、束生芻以秣之、而其人之德美如玉也。蓋已邈乎其上可親矣。然猶冀其相聞而無絕也。故語之曰、毋貴重爾之音聲、而有遠我之心也。
【読み】
○皎皎たる白駒、彼の空谷に在り。生芻[せいすう]<楚倶反>一束、其の人玉の如し。爾が音を金玉にして、遐[さか]れる心有ること毋かれ。賦なり。賢者必ず去りて留む可からず。是に於て其の白駒に乘りて空谷に入りて、生芻を束ねて以て之を秣[まぐさ]とする、其の人の德美なること玉の如きことを歎ず。蓋し已に邈[ばく]乎として其れ親しむ可からず。然れども猶其の相聞こえて絕つこと無きを冀う。故に之に語[つ]げて曰く、爾が音聲を貴び重んじて、我を遠ざかるの心有ること毋かれ、と。

白駒四章章六句
【読み】
白駒[はっく]四章章六句


黃鳥黃鳥、無集于穀、無啄<音卓>我粟。此邦之人、上我肯穀。言旋言歸、復我邦族。比也。穀、木吊。穀、善。旋、回。復、反也。○民適異國、上得其所。故作此詩。託爲呼其黃鳥而告之曰、爾無集于穀、而啄我之粟。苟此邦之人、上以善道相與、則我亦上久於此、而將歸矣。
【読み】
黃鳥黃鳥、穀に集[い]ること無かれ、我が粟を啄<音卓>むこと無かれ。此の邦の人、我を肯えて穀[よ]みせず。言[ここ]に旋[かえ]り言に歸りて、我が邦族に復らん。比なり。穀は、木の吊。穀は、善きなり。旋は、回る。復は、反るなり。○民異國に適きて、其の所を得ず。故に此の詩を作る。託して其の黃鳥を呼んで之に告ぐるを爲して曰く、爾穀に集て、我が粟を啄む無かれ。苟も此の邦の人、善道を以て相與せざれば、則ち我も亦此に久しからずして、將に歸らんとす、と。

○黃鳥黃鳥、無集于桑、無啄我粱。此邦之人、上可與明<叶謨郎反>。言旋言歸、復我諸兄<叶虛王反>○比也。
【読み】
○黃鳥黃鳥、桑に集ること無かれ、我が粱[あわ]を啄むこと無かれ。此の邦の人、與に明<叶謨郎反>らかなる可からず。言に旋り言に歸りて、我が諸兄<叶虛王反>に復らん。○比なり。

○黃鳥黃鳥、無集于栩<音許>、無啄我黍。此邦之人、上可與處。言旋言歸、復我諸父。比也。
【読み】
○黃鳥黃鳥、栩[とち]<音許>に集ること無かれ、我が黍を啄むこと無かれ。此の邦の人、與に處る可からず。言に旋り言に歸りて、我が諸父に復らん。比なり。

黃鳥三章章七句。東萊呂氏曰、宣王之末、民有失所者。意他國之可居也。及其至彼、則又上若故郷焉。故思而欲歸。使民如此、亦異於還定安集之時矣。今按詩文、未見其爲宣王之世。下篇亦然。
【読み】
黃鳥[こうちょう]三章章七句。東萊の呂氏が曰く、宣王の末、民所を失う者有り。他國の居る可きを意う。其の彼に至るに及んでは、則ち又故郷に若かず。故に思いて歸らんと欲す。民をして此の如くしむるは、亦還り定まり安んじ集うの時に異なり、と。今詩の文を按ずるに、未だ其れ宣王の世爲ることを見ず。下の篇も亦然り。


我行其野、蔽芾<音沸>其樗<音樞>。昏姻之故、言就爾居。爾上我畜、復我邦家<叶古胡反>○賦也。樗、惡木也。壻之父、婦之父、相謂曰婚姻。畜、養也。○民適異國、依其婚姻、而上見收卹。故作此詩。言我行於野中、依惡木以自蔽。於是思婚姻之故、而就爾居。而爾上我畜也、則將復我之邦家矣。
【読み】
我れ其の野に行けば、蔽芾[へいはい]<音沸>たる其の樗[ちょ]<音樞>あり。昏姻の故に、言[ここ]に爾に就いて居る。爾我を畜わず、我が邦家<叶古胡反>に復らん。○賦なり。樗は、惡木なり。壻の父と、婦の父と、相謂いて婚姻と曰う。畜は、養うなり。○民異國に適きて、其の婚姻に依るも、而して收卹[しゅうじゅつ]されず。故に此の詩を作る。言うこころは、我れ野中に行き、惡木に依りて以て自ら蔽[かく]る。是に於て婚姻の故を思いて、爾に就いて居る。而れども爾我を畜わざれば、則ち將に我が邦家に復らんとす。

○我行其野、言采其蓫<音逐>。昏姻之故、言就爾宿。爾上我畜、言歸思復。賦也。蓫、牛蘈、惡菜也。今人謂之羊蹄菜。
【読み】
○我れ其の野に行き、言に其の蓫[ちく]<音逐>を采る。昏姻の故に、言に爾に就いて宿る。爾我を畜わず、言に歸り思[ここ]に復らん。賦なり。蓫は、牛蘈[ぎゅうたい]、惡菜なり。今の人之を羊蹄菜と謂う。

○我行其野、言采其葍<音福。叶筆力反>。上思舊姻、求我新特。成上以富、亦秖<音支>以異<叶逸織反>○賦也。葍、■(草冠に富)、惡菜也。特、匹也。○言爾之上思舊姻、而求新匹也、雖實上以彼之富、而厭我之貧、亦秖以其新而異於故耳。此詩人責人忠厚之意。
【読み】
○我れ其の野に行き、言に其の葍[ふく]<音福。叶筆力反>を采る。舊姻を思わず、我が新たなる特を求む。成[まこと]に富を以てせず、亦秖[まさ]<音支>に異<叶逸織反>なるを以てす。○賦なり。葍は、■(草冠に富)、惡菜なり。特は、匹なり。○言うこころは、爾が舊姻を思わずして、新たなる匹を求むは、實に彼が富を以て、我が貧しきを厭わずと雖も、亦秖に其の新しくして故に異なるを以てのみ。此れ詩人人の忠厚を責むるの意あり。

我行其野三章章六句。王氏曰、先王躬行仁義、以道民厚矣。猶以爲未也。又建官置師、以孝友睦姻任恤六行敎民。爲其有父母也、故敎以孝。爲其有兄弟也、故敎以友。爲其有同姓也、故敎以睦。爲其有異姓也、故敎以姻。爲鄰里郷黨相保相愛也、故敎以任。相賙相救也、故敎以卹。以爲、徒敎之或上率也。故使官師以時書其德行而勸之。以爲、徒勸之或上率也。於是乎有上孝上睦上婣上弟上任上卹之刑焉。方是時也、安有如此詩所刺之民乎。
【読み】
我行其野[がこうきや]三章章六句。王氏が曰く、先王躬[みずか]ら仁義を行い、以て民を道[みちび]くこと厚し。猶以爲えらく、未だし、と。又官を建て師を置き、孝友睦姻任恤の六行を以て民を敎う。其の父母有るが爲、故に敎うるに孝を以てす。其の兄弟有るが爲、故に敎うるに友を以てす。其の同姓有るが爲、故に敎うるに睦を以てす。其の異姓有るが爲、故に敎うるに姻を以てす。鄰里郷黨相保ち相愛するが爲、故に敎うるに任を以てす。相賙[た]し相救う、故に敎うるに卹を以てす。以爲えらく、徒に之を敎うれば或は率わず、と。故に官師をして時を以て其の德行を書して之を勸めしむ。以爲えらく、徒に之を勸むれば或は率わず、と。是に於て上孝上睦上婣上弟上任上卹の刑有り。是の時に方りて、安んぞ此の詩に刺[そし]る所の民の如きこと有らんや。


秩秩斯干<叶居焉反>、幽幽南山<叶所旃反>。如竹苞<叶補苟反>矣、如松茂<叶莫口反>矣。兄及弟矣、式相好<去聲。叶許厚反>矣、無相猶<叶余久反>矣。賦也。秩秩、有序也。斯、此也。干、水涯也。南山、終南之山也。苞、叢生而固也。猶、謀也。○此築室旣成、而燕飮以落之、因歌其事言、此室臨水而面山。其下之固、如竹之苞、其上之密、如松之茂。又言居是室者、兄弟相好、而無相謀。則頌禱之辭。猶所謂聚國族於斯者也。張子曰、猶、似也。人情大抵、施之上報則輟。故恩上能終。兄弟之閒、各盡己之所宜施者、無學其上相報而廢恩也。君臣父子朋友之閒、亦莫上用此道。盡己而已。愚按此於文義、或未必然。然意則善矣。或曰、猶當作尤。
【読み】
秩秩たる斯の干[みぎわ]<叶居焉反>、幽幽たる南山<叶所旃反>。竹の苞[しげ]<叶補苟反>きが如く、松の茂<叶莫口反>きが如し。兄及び弟、式[もっ]て相好<去聲。叶許厚反>みんじ、相猶[はか]<叶余久反>る無かれ。賦なり。秩秩は、序有るなり。斯は、此なり。干は、水涯なり。南山は、終南の山なり。苞は、叢生して固きなり。猶は、謀るなり。○此れ室を築くこと旣に成りて、燕飮して以て之を落し、因りて其の事を歌って言う、此の室水に臨み山に面[む]かう。其の下の固きこと、竹の苞きが如く、其の上の密[こまか]きこと、松の茂きが如し、と。又言う、是の室に居る者、兄弟相好みんじて、相謀る無かれ、と。則ち頌禱の辭なり。猶所謂國族を斯に聚むる者なり。張子が曰く、猶は、似[まね]るなり。人情大抵、之を施して報いざれば則ち輟[や]む。故に恩終えること能わず。兄弟の閒、各々己が宜しく施すべき所の者を盡くして、其の相報わずして恩を廢つることを學[まね]る無かれ。君臣父子朋友の閒も、亦此の道を用いざる莫し。己を盡くすのみ、と。愚按ずるに、此れ文義に於て、或は未だ必ずしも然らず。然れども意は則ち善し。或ひと曰く、猶は當に尤に作るべし、と。

○似續妣<音比>祖、築室百堵。西南其戶。爰居爰處、爰笑爰語。賦也。似、嗣也。妣先於祖者、協下韻爾。或曰、謂姜嫄后稷也。西南其戶、天子之宮、其室非一、在東者西其戶、在北者南其戶。猶言南東其畞也。爰、於也。
【読み】
○妣[ひ]<音比>祖を似[つ]ぎ續いで、室を築くこと百堵。其の戶を西南にす。爰に居り爰に處り、爰に笑い爰に語らん。賦なり。似は、嗣ぐなり。妣を祖より先にするは、下の韻に協えるのみ。或ひと曰く、姜嫄[きょうげん]后稷を謂う、と。其の戶を西南にすとは、天子の宮、其の室一に非ず、東に在る者は其の戶を西にし、北に在る者は其の戶を南にす。猶其の畞を南東にすと言うがごとし。爰は、於なり。

○約之閣閣、椓<音卓>之橐橐<音託>。風雨攸除<去聲>、鳥鼠攸去、君子攸芋<音吁。叶王遇反>○賦也。約、束板也。閣閣、上下相乘也。椓、築也。橐橐、杵聲也。除、亦去也。無風雨鳥鼠之害。言其上下四旁、皆牢密也。芋、尊大也。君子之所居、以爲尊且大也。
【読み】
○之を約[つか]ぬること閣閣たり、之を椓[きず]<音卓>くこと橐橐[たくたく]<音託>たり。風雨の除[さ]<去聲>くる攸、鳥鼠の去くる攸、君子の芋[たっと]<音吁。叶王遇反>き攸なり。○賦なり。約は、板を束ぬるなり。閣閣は、上下相乘ずるなり。椓は、築くなり。橐橐は、杵の聲なり。除も、亦去るなり。風雨鳥鼠の害無し。言うこころは、其の上下四旁、皆牢密なり。芋は、尊大なり。君子の居る所、以て尊くして且つ大いと爲すなり。

○如跂<音企>斯翼、如矢斯棘、如鳥斯革<叶訖力反>、如翬<音輝>斯飛。君子攸躋<音賷>○賦也。跂、竦立也。翼、敬也。棘、急也。矢行緩則枉、急則直也。革、變。翬、雉。躋、升也。○言其大勢嚴正、如人之竦立而其恭翼翼也。其廉隅整飭、如矢之急而直也。其棟宇峻起、如鳥之而革也。其簷阿華采而軒翔、如翬之飛而矯其翼也。蓋其堂之美如此、而君子之所升以聽事也。
【読み】
○跂[そばだ]<音企>ち斯れ翼[つつし]めるが如く、矢の斯れ棘[すみ]やかなるが如く、鳥の斯れ革[か]<叶訖力反>われるが如く、翬[きじ]<音輝>の斯れ飛ぶが如し。君子の躋[のぼ]<音賷>る攸なり。○賦なり。跂[き]は、竦[そび]え立つなり。翼は、敬しむなり。棘は、急なり。矢行くこと緩やかなれば則ち枉り、急なれば則ち直し。革は、變わる。翬は、雉。躋は、升るなり。○言うこころは、其の大勢嚴正なること、人の竦え立ちて其の恭しきこと翼翼たるが如し。其の廉隅整飭なること、矢の急にして直きが如し。其の棟宇峻起なること、鳥の警[おどろ]いて革わるが如し。其の簷阿[えんあ]華采にして軒[あが]り翔[あ]がること、翬の飛んで其の翼を矯[あ]ぐるが如し。蓋し其の堂の美なること此の如くして、君子の升りて以て事を聽く所なり。

○殖殖<音湜>其庭、有覺其楹。噲噲<音快>其正<叶音征>、噦噦<音嚖>其冥、君子攸寧。賦也。殖殖、平正也。庭、宮寢之前庭也。覺、高大而直也。楹、柱也。噲噲、猶快快也。正、向明之處也。噦噦、深廣之貌。冥、奧窔之閒也。言其室之美如此、而君子之所休息以安身也。
【読み】
○殖殖<音湜>たる其の庭、覺たる其の楹[はしら]有り。噲噲[かいかい]<音快>たる其の正<叶音征>、噦噦[かいかい]<音嚖>たる其の冥、君子の寧んずる攸なり。賦なり。殖殖は、平正なり。庭は、宮寢の前庭なり。覺は、高大にして直きなり。楹は、柱なり。噲噲は、猶快快のごとし。正は、明かりに向かう處なり。噦噦は、深く廣き貌。冥は、奧窔[おうよう]の閒なり。言うこころは、其の室の美なること此の如くにして、君子の休息して以て身を安んずる所なり。

○下莞<音官>上簟<叶徒檢徒錦二反>、乃安斯寢<叶于檢于錦二反>、乃寢乃興、乃占我夢<叶彌登反>。吉夢維何、維熊維羆<音碑。叶彼何反>、維虺<音毀>維蛇<叶于其土何二反>○賦也。莞、蒲席也。竹葦曰簟。羆、似熊而長頭高脚、猛憨多力、能拔樹。虺、蛇屬。細頸大頭、色如文綬。大者長七八尺。○祝其君安其室居、夢兆而有祥。亦頌禱之詞也。下章放此。
【読み】
○莞[かん]<音官>を下にし簟[てん]<叶徒檢徒錦二反>を上にして、乃ち斯の寢<叶于檢于錦二反>に安んじ、乃ち寢ね乃ち興き、乃ち我が夢<叶彌登反>を占う。吉[よ]き夢維れ何ぞ、維れ熊維れ羆[ひぐま]<音碑。叶彼何反>、維れ虺[き]<音毀>維れ蛇<叶于其土何二反>○賦なり。莞は、蒲の席なり。竹葦を簟と曰う。羆は、熊に似て長き頭に高き脚、猛憨[かん]にて多力、能く樹を拔く。虺は、蛇の屬。細き頸に大いなる頭、色は文綬の如し。大いなる者は長さ七八尺。○其の君其の室居を安んじて、夢兆して祥有ることを祝す。亦頌禱の詞なり。下の章も此に放え。

○大<音泰>人占之、維熊維羆、男子之祥。維虺維蛇、女子之祥。賦也。大人、大卜之屬。占夢之官也。熊羆、陽物。在山、彊力壯毅、男子之祥也。虺蛇、陰物。穴處。柔弱隱伏、女子之祥也。○或曰、夢之有占、何也。曰、人之精神、與天地陰陽流通。故晝之所爲、夜之所夢、其善惡吉凶、各以類至。是以先王建官設屬、使之觀天地之會、辨陰陽之氣、以日月星辰、占六夢之吉凶、獻吉夢贈惡夢。其於天人相與之際、察之詳而敬之至矣。故曰、王前巫而後史。宗祝瞽侑、皆在左右、王中心無爲也、以守至正。
【読み】
○大<音泰>人之を占うに、維れ熊維れ羆は、男子の祥。維れ虺維れ蛇は、女子の祥。賦なり。大人は、大卜の屬。占夢の官なり。熊羆は、陽物。山に在り、彊力壯毅、男子の祥なり。虺蛇は、陰物。穴處す。柔弱隱伏、女子の祥なり。○或ひと曰く、夢の占有るは、何ぞや、と。曰く、人の精神、天地陰陽と流通す。故に晝の爲す所、夜の夢みる所、其の善惡吉凶、各々類を以て至る。是を以て先王官を建て屬を設けて、之をして天地の會を觀、陰陽の氣を辨えしめ、日月星辰を以て、六夢の吉凶を占い、吉夢を獻じ惡夢を贈る。其の天人相與するの際に於て、之を察すること詳らかに之を敬すること至れり、と。故に曰く、王巫を前にして史に後にす。宗祝瞽侑、皆左右に在り、王の中心無爲にして、以て至正を守る、と。

○乃生男子、載寢之牀、載衣之<去聲>裳、載弄之璋。其泣喤喤<音橫。叶胡光反>。朱芾<音弗>斯皇。室家君王。賦也。半圭曰璋。喤、大聲也。芾、天子純朱、諸侯黃朱。皇、猶煌煌也。君、諸侯也。○寢之於牀、尊之也。衣之以裳、朊之盛也。弄之以璋、尙其德也。言男子之生於是室者、皆將朊朱芾煌煌然、有室有家、爲君爲王矣。
【読み】
○乃ち男子を生まば、載[すなわ]ち之を牀に寢ねしめ、載ち之<去聲>に裳を衣せ、載ち之に璋[たま]を弄ばせしむ。其の泣くこと喤喤<音橫。叶胡光反>たり。朱芾[しゅふつ]<音弗>斯れ皇たり。室家の君王たらん。賦なり。半圭を璋と曰う。喤は、大いなる聲なり。芾は、天子は純朱、諸侯は黃朱。皇は、猶煌煌のごとし。君は、諸侯なり。○之を牀に寢ねしむるは、之を尊ぶなり。之に衣するに裳を以てするは、朊の盛んなるなり。之に弄ばせしむに璋を以てするは、其の德を尙ぶなり。言うこころは、男子の是の室に生まるる者、皆將に朱芾の煌煌然たるを朊して、室を有ち家を有ちて、君と爲り王と爲らん。

○乃生女子、載寢之地、載衣之裼<音替>、載弄之瓦<叶魚位反>。無非無儀<叶音義>、唯酒食是議、無父母詒<音遺><叶音麗>○賦也。裼、褓也。瓦、紡塼也。儀、善。罹、憂也。○寢之於地、卑之也。衣之以褓、卽其用而無加也。弄之以瓦、習其所有事也。有非、非婦人也。有善、非婦人也。蓋女子以順爲正。無非、足矣。有善、則亦非其吉祥可願之事也。唯酒食是議、而無遺父母之憂、則可矣。易曰、無攸遂。在中饋。貞吉。而孟子之母亦曰、婦人之禮、精五飯、冪酒漿、養舅姑、縫衣裳而已矣。故有閨門之脩、而無境外之志、此之謂也。
【読み】
○乃ち女子を生まば、載ち之を地に寢ねしめ、載ち之に裼[てい]<音替>を衣せ、載ち之に瓦<叶魚位反>を弄ばせしむ。非[あ]しきことも無く儀[よ]<叶音義>きことも無く、唯酒食是れ議[はか]り、父母に罹[うれ]<叶音麗>えを詒[のこ]<音遺>すこと無かれ。○賦なり。裼は、褓[むつき]なり。瓦は、紡塼[ぼうせん]なり。儀は、善き。罹は、憂えなり。○之を地に寢ねしむるは、之を卑[ひく]くするなり。之に衣せるに褓を以てするは、其の用に卽いて加うること無きなり。之を弄ばしむるに瓦を以てするは、其の事とすること有る所を習わしむるなり。非しきこと有らば、婦人に非ず。善きこと有らば、婦人に非ず。蓋し女子は順を以て正しきとす。非しきこと無くば、足れり。善きこと有るとも、則ち亦其の吉祥願う可きの事に非ざるなり。唯酒食是を議りて、父母の憂えを遺すこと無くば、則ち可なり。易に曰く、遂ぐる攸無し。中饋に在り。貞にして吉、と。而して孟子の母も亦曰く、婦人の禮は、五飯に精しく、酒漿を冪[おお]い、舅姑を養い、衣裳を縫うのみ、と。故に閨門の脩むる有りて、境外の志無しとは、此れ之を謂うなり。

斯干九章。四章章七句。五章章五句。舊說、厲王旣流于彘、宮室圮壞。故宣王卽位、更作宮室、旣成而落之。今亦未有以見其必爲是時之詩也。或曰、儀禮下管新宮。春秋傳宋元公賦新宮。恐卽此詩。然亦未有明證。
【読み】
斯干[しかん]九章。四章章七句。五章章五句。舊說に、厲王旣に彘[てい]に流され、宮室圮[やぶ]れ壞る。故に宣王位に卽き、宮室を更め作り、旣に成して之を落す、と。今亦未だ以て其の必ずしも是の時の詩とするを見ること有らず。或ひと曰く、儀禮に新宮を下管す、と。春秋傳に宋の元公新宮を賦す、と。恐らくは卽ち此の詩ならん。然れども亦未だ明證有らず。


誰謂爾無羊、三百維羣。誰謂爾無牛、九十其犉<音淳>。爾羊來思、其角濈濈<音戢>。爾牛來思、其耳濕濕。賦也。黃牛黑唇曰犉。羊以三百爲羣。其羣上可數也。牛之犉者九十、非犉者尙多也。聚其角、而息濈濈然。呞而動其耳濕濕然。王氏曰、濈濈、和也。羊以善觸爲患。故言其和。謂聚而上相觸也。濕濕、潤澤也。牛病則耳燥。安則潤澤也。○此詩言、牧事有成而牛羊衆多也。
【読み】
誰か爾羊無しと謂う、三百維れ羣あり。誰か爾牛無しと謂う、九十其れ犉[じゅん]<音淳>あり。爾が羊來れば、其の角濈濈[しゅうしゅう]<音戢>たり。爾の牛來れば、其の耳濕濕[しゅうしゅう]たり。賦なり。黃牛の黑き唇を犉と曰う。羊は三百を以て羣とす。其の羣數う可からず。牛の犉なる者九十なれば、犉に非ざる者尙多し。其の角を聚めて、息すること濈濈然たり。呞[にれか]みて其の耳を動かすこと濕濕然たり。王氏が曰く、濈濈は、和らぐなり。羊は善く觸れるを以て患えとす。故に其の和らげるを言う。謂ゆる聚めて相觸れざるなり。濕濕は、潤澤なり。牛病めば則ち耳燥く。安んずれば則ち潤澤なり。○此の詩言うこころは、牧事成ること有りて牛羊衆多なり。

○或降于阿、或飮于池<叶唐何反>、或寢或訛。爾牧來思、何<上聲><音梭>何笠<音立>、或負其餱<音侯>。三十維物<叶微律反>、爾牲則具<叶居律反>○賦也。訛、動。何。掲也。蓑・笠、所以備雨。三十維物、齊其色而別之。凡爲色三十也。○言牛羊無驚畏、而牧人持雨具、齎飮食、從其所適、以順其性。是以生養蕃息、至於其色無所上備、而於用無所上有也。
【読み】
○或は阿[くま]に降り、或は池<叶唐何反>に飮み、或は寢[ふ]し或は訛[うご]く。爾が牧來れば、蓑<音梭>を何[も]ち<上聲><音立>を何ち、或は其の餱[かれいい]<音侯>を負う。三十の維の物<叶微律反>、爾が牲則ち具<叶居律反>わる。○賦なり。訛は、動く。何は。掲ぐなり。蓑・笠は、雨に備うる所以。三十の維の物とは、其の色を齊[そろ]えて之を別つ。凡そ色を爲すこと三十なり。○言うこころは、牛羊驚き畏るること無くして、牧人雨具を持ち、飮食を齎[つつ]み、其の適く所に從いて、以て其の性に順う。是を以て生養蕃息し、其の色に至りて備わざる所無くして、用うるに於て有らざる所無し。

○爾牧來思、以薪以蒸、以雌以雄<叶于陵反>。爾羊來思、矜矜兢兢、上騫上崩。麾之以肱、畢來旣升。賦也。麤曰薪、細曰蒸。雌雄、禽獸也。矜矜兢兢、堅强也。騫、虧也。崩、羣疾也。肱、臂也。旣、盡也。升、入牢也。○言牧人有餘力、則出取薪蒸搏禽獸。其羊亦馴擾從人、上假箠楚。但以手麾之、使來則畢來。使升則旣升也。
【読み】
○爾が牧來れば、以て薪とり以て蒸[つまき]とり、以て雌をとり以て雄<叶于陵反>をとる。爾の羊來れば、矜矜兢兢として、騫[か]けず崩れず。之を麾[さしまね]くに肱を以てすれば、畢く來り旣[ことごと]く升る。賦なり。麤きを薪と曰い、細きを蒸と曰う。雌雄は、禽獸なり。矜矜兢兢は、堅强なり。騫は、虧くなり。崩は、羣疾なり。肱は、臂なり。旣は、盡くなり。升は、牢に入るなり。○言うこころは、牧人餘力有らば、則ち出でて薪蒸を取りて禽獸を搏[う]つ。其の羊も亦馴れ擾[したが]いて人に從いて、箠楚[すいそ]を假らず。但手を以て之を麾いて、來らしむれば則ち畢く來る。升らしむれば則ち旣く升るなり。

○牧人乃夢、衆維魚矣、旐<音兆>維旟<音餘>矣。大人占之、衆維魚矣、實維豐年<叶尼因反>。旐維旟矣、室家溱溱。賦也。占夢之說、未詳。溱溱、衆也。或曰、衆謂人也。旐、郊野所建。統人少。旟、州里所建。統人多。蓋人上如魚之多。旐所統上如旟所統之衆。故夢人乃是魚、則爲豐年。旐乃是旟、則爲人衆。
【読み】
○牧人乃ち夢みる、衆[もろもろ]維れ魚なり、旐[ちょう]<音兆>維れ旟[よ]<音餘>なり。大人之を占うに、衆維れ魚なれば、實に維れ豐年<叶尼因反>ならん。旐維れ旟なれば、室家溱溱たらん。賦なり。占夢の說、未だ詳らかならず。溱溱は、衆きなり。或ひと曰く、衆は人を謂う、と。旐は、郊野建つる所。人を統ぶること少なし。旟は、州里建つる所。人を統ぶること多し。蓋し人は魚の多きに如かず。旐の統ぶる所は旟の統ぶる所の衆きに如かず。故に人乃ち是の魚を夢みるは、則ち豐年爲り。旐乃ち是れ旟は、則ち人衆しとす。

無羊四章章八句
【読み】
無羊[ぶよう]四章章八句


<音截>彼南山、維石巖巖。赫赫師尹、民具爾瞻<叶側衘反>。憂心如惔<音談>、上敢戲談。國旣卒<子律反><何側御反>、何用上監<平聲>○興也。節、高峻貌。巖巖、積石貌。赫赫、顯盛貌。師伊、大師尹氏也。大師、三公。尹氏、蓋吉甫之後。春秋書尹氏卒。公羊子以爲譏世卿者、卽此也。具、倶。瞻、視。惔、燔。卒、終。斬、絕。監、視也。○此詩家父所作。刺王用尹氏以致亂。言節彼南山、則維石巖巖矣。赫赫師尹、則民具爾瞻矣。而其所爲上善、使人憂心如火燔灼。又畏其威而上敢言也。然則國旣終斬絕矣。汝何用而上察哉。
【読み】
<音截>たる彼の南山、維れ石巖巖たり。赫赫たる師尹、民具に爾を瞻<叶側衘反>る。憂うる心惔[や]<音談>くが如し、敢えて戲れ談[かた]らず。國旣に卒<子律反>に斬[た]<何側御反>えんとす、何を用[もっ]て監[み]<平聲>ざるや。○興なり。節は、高峻なる貌。巖巖は、石を積む貌。赫赫は、顯らかに盛んなる貌。師伊は、大師尹氏なり。大師は、三公。尹氏は、蓋し吉甫の後なり。春秋に尹氏卒すと書す。公羊子以て世卿者を譏るとするは、卽ち此れなり。具は、倶。瞻は、視る。惔[たん]は、燔[や]く。卒は、終に。斬は、絕ゆ。監は、視るなり。○此の詩は家父の作る所。王尹氏を用いて以て亂を致すを刺[そし]る。言うこころは、節たる彼の南山は、則ち維れ石巖巖たり。赫赫たる師尹は、則ち民具に爾を瞻る。而るに其のする所上善にして、人をして憂うる心火の燔き灼くが如くならしむ。又其の威を畏れて敢えて言わず。然れども則ち國旣に終に斬絕せんとす。汝何を用てして察せざるや。

○節彼南山、有實其猗<音醫。叶於何反>。赫赫師尹、上平謂何。天方薦<音荐><音嵳>、喪<去聲>亂弘多。民言無嘉<叶居何反>、憯<音慘>莫懲嗟<叶遭哥反>○興也。有實其猗、未詳其義。傳曰、實、滿。猗、長也。箋云、猗、倚也。言草木滿其旁倚之畎谷也。或以爲、草木之實猗猗然。皆上甚通。薦、荐。通、重也。瘥、病。弘、大。憯、曾。懲、創也。○節彼南山、則有實其猗矣。赫赫師尹、而上平其心、則謂之何哉。蘇氏曰、爲政者上平其心、則下之荣瘁劳佚、有大相絕者矣。是以神怒而重之以喪亂。人怨而謗讟其上。然尹氏曾上懲創咨磋、求所以自改也。
【読み】
○節たる彼の南山、實の其れ猗[い]<音醫。叶於何反>たる有り。赫赫たる師尹、平らかにせざるを何とか謂わん。天方に薦[しき]<音荐>りに瘥[や]<音嵳>ましめ、喪<去聲>亂弘[おお]いに多し。民の言嘉[よ]<叶居何反>みんずること無けれども、憯[かつ]<音慘>て懲り嗟<叶遭哥反>くこと莫し。○興なり。實の其れ猗たる有りは、未だ其の義を詳らかにせず。傳に曰く、實は、滿つ。猗は、長き、と。箋に云う、猗は、倚、と。言うこころは、草木其の旁倚の畎谷[けんこく]に滿つ。或ひと以爲えらく、草木の實ること猗猗然たり、と。皆甚だ通ぜず。薦は、荐[しき]り。通は、重ぬるなり。瘥[さ]は、病。弘は、大い。憯は、曾て。懲は、創[こ]りる。○節たる彼の南山は、則ち實の其れ猗たる有り。赫赫たる師尹、而して其の心を平らかにせざれば、則ち之を何と謂わんや。蘇氏が曰く、政を爲むる者其の心を平らかにせざれば、則ち下の荣瘁[えいすい]劳佚[ろういつ]、大いに相絕つ者有り。是を以て神怒りて之を重ぬるに喪亂を以てす。人怨みて其の上を謗り讟[そし]る。然れども尹氏曾て懲創咨磋して、自ら改むる所以を求めず、と。

○尹氏大<音泰>師、維周之氐<音底。叶都黎反>。秉國之均、四方是維。天子是毗<音琵>、俾民上迷。上弔昊天、上宜空我師<叶霜夷反>○賦也。氐、本。均、平。維、持。毗、輔。弔、愊。空、窮。師、衆也。○言尹氏大師、維周之氐、而秉國之均、則是宜有以維持四方、毗輔天子、而使民上迷。乃其職也、今乃上平其心、而旣上見愊弔於昊天矣、則上宜久在其位。使天降禍亂、而我衆幷及空窮也。
【読み】
○尹氏は大<音泰>師、維れ周の氐[もと]<音底。叶都黎反>。國の均[たい]らきを秉りて、四方是れ維[たも]つ。天子是れ毗[たす]<音琵>け、民をして迷わざらしむ。昊天[こうてん]に弔[あわ]れまれず、我が師[もろもろ]<叶霜夷反>を空[つ]くす宜からず。○賦なり。氐[てい]は、本。均は、平ら。維は、持つ。毗は、輔く。弔は、愊[あわ]れむ。空は、窮[つ]くす。師は、衆なり。○言うこころは、尹氏は大師、維れ周の氐にして、國の均らきを秉れば、則ち是れ宜しく以て四方を維持し、天子を毗け輔けて、民をして迷わざらしむること有るべし。乃ち其の職は、今乃ち其の心を平らかにせずして、旣に昊天に愊弔[びんちょう]せられざれば、則ち宜しく久しく其の位に在るべからず。天をして禍亂を降して、我が衆を幷せて空窮に及ばしめん。

○弗躬弗親、庶民弗信<叶斯人反>。弗問弗仕、勿罔君子<叶奬里反>。式夷式已、無小人殆<叶養里反>。瑣瑣姻亞、則無膴<音武>仕。賦也。仕、事。罔、欺也。君子、指王也。夷、平。已、止。殆、危也。瑣瑣、小貌。壻之父曰姻、兩壻相謂曰亞。膴、厚也。○言王委政於尹氏。尹氏又委政於姻婭之小人、而以其未嘗問、未嘗事者、欺其君也。故戒之曰、汝之弗躬弗親、庶民已上信矣。其所弗問弗事、則豈可以罔君子哉。當平其心視所任之人、有上當者、則已之。無以小人之故、而至於危殆其國也。瑣瑣姻婭、而必皆膴仕、則小人進矣。
【読み】
○躬からせず親からせざれば、庶民信<叶斯人反>ぜず。問わず仕えず、君子<叶奬里反>を罔[あざむ]くこと勿かれ。式[もっ]て夷[たい]らかにし式[もっ]て已め、小人もて殆[あやう]<叶養里反>くすること無かれ。瑣瑣たる姻亞は、則ち膴[あつ]<音武>く仕う無かれ。賦なり。仕は、事える。罔は、欺くなり。君子は、王を指すなり。夷は、平らぐ。已は、止む。殆は、危うきなり。瑣瑣は、小さき貌。壻の父を姻と曰い、兩壻相謂いて亞と曰う。膴[ぶ]は、厚きなり。○言うこころは、王政を尹氏に委す。尹氏も又政を姻婭の小人に委して、其の未だ嘗て問わず、未だ嘗て事えざる者を以て、其の君を欺く。故に之を戒めて曰く、汝躬からせず親からせざれば、庶民已に信ぜず。其の問わず事えざる所は、則ち豈以て君子を罔く可けんや。當に其の心を平らかにして任ずる所の人を視て、當たらざる者有らば、則ち之を已むべし。小人の故を以て、其の國を危殆するに至ること無かれ。瑣瑣たる姻婭、而も必ず皆膴く仕うれば、則ち小人進まん。

○昊天上傭<敕龍反>、降此鞠<音菊><音凶>。昊天上惠、降此大戾。君子如屆<音戒。叶居例反>、俾民心闋<音缺。叶苦桂反>。君子如夷、惡<去聲>怒是違。賦也。傭、均。鞠、窮。訩、亂。戾、乖。屆、至。闋、息。違、遠也。○言昊天上均、而降此窮極之亂。昊天上順、而降此乖戾之變。然所以靖之者、亦在夫人而已。君子無所苟、而用其至、則必躬必親、而民之亂心息矣。君子無所偏而平其心、則式夷式已、而民之惡怒遠矣。傷王與尹氏之上能也。夫爲政上平、以召禍亂者、人也。而詩人以爲、天實爲之者、蓋無所歸咎、而歸之天也。抑有以見君臣隱諱之義焉、有以見天人合一之理焉。後皆放此。
【読み】
○昊天傭[ひと]<敕龍反>しからず、此の鞠[きく]<音菊>訩[きょう]<音凶>を降す。昊天惠[したが]わず、此の大戾を降す。君子如し屆[いた]<音戒。叶居例反>らば、民の心をして闋[や]<音缺。叶苦桂反>ましめん。君子如し夷[たい]らかならば、惡<去聲>怒是れ違[さ]からん。賦なり。傭は、均し。鞠は、窮む。訩は、亂る。戾は、乖く。屆は、至る。闋は、息む。違は、遠[さ]くなり。○言うこころは、昊天均しからずして、此の窮極の亂を降す。昊天順わずして、此の乖戾の變を降す。然れども之を靖[おさ]むる所以の者は、亦夫の人に在るのみ。君子苟くする所無くして、其の至りを用うれば、則ち必ず躬からし必ず親からして、民の亂るる心息まん。君子偏る所無くして其の心を平らかにすれば、則ち式て夷らぎ式て已めて、民の惡怒遠からん。王と尹氏の能くせざるを傷む。夫れ政を爲むること平らかならずして、以て禍亂を召く者は、人なり。而して詩人以爲らく、天實に之を爲すは、蓋し咎を歸する所無くして、之を天に歸す、と。抑々以て君臣隱諱の義を見ること有りて、以て天人合一の理を見ること有り。後も皆此に放え。

○上弔昊天<叶鐵因反>、亂靡有定<叶唐丁反>。式月斯生<叶桑經反>、俾民上寧。憂心如酲<音呈>、誰秉國成、自爲政<叶諸盈反>、卒勞百姓<叶桑經反>○賦也。酒病曰酲。成、平。卒、終也。○蘇氏曰、天上之恤。故亂未有所止、而禍患與歲月增長。君子憂之曰、誰秉國成者、乃上自爲政、而以付之姻婭之小人、其卒使民爲之、受其勞弊以至此也。
【読み】
○昊天<叶鐵因反>に弔れまれず、亂定<叶唐丁反>まること有る靡し。式て月に斯れ生<叶桑經反>り、民をして寧からざらしむ。憂うる心酲[てい]<音呈>の如く、誰か國の成[たい]らきを秉りて、自ら政<叶諸盈反>を爲めず、卒に百姓<叶桑經反>を勞[くる]しむる。○賦なり。酒病を酲と曰う。成は、平ら。卒は、終に。○蘇氏が曰く、天之を恤れまず。故に亂未だ止む所有らずして、禍患歲月と與に增長す、と。君子之を憂えて曰く、誰か國の成らきを秉る者、乃ち自ら政を爲めずして、以て之を姻婭の小人に付し、其れ卒に民をして之が爲に、其の勞弊を受けて以て此に至らしむ、と。

○駕彼四牡、四牡項領。我瞻四方、蹙蹙<音蹴>靡所騁<音逞>○賦也。項、大也。蹙蹙、縮小之貌。○言駕四牡、而四牡項領、可以騁矣。而視四方、則皆昏亂蹙蹙然、無可往之所。亦將何所騁哉。東萊呂氏曰、本根病、則枝葉皆瘁。是以無可往之地也。
【読み】
○彼の四牡を駕せば、四牡項領[こうれい]たり。我れ四方を瞻るに、蹙蹙[しゅくしゅく]<音蹴>として騁[は]<音逞>せる所靡し。○賦なり。項は、大いなり。蹙蹙は、縮小する貌。○言うこころは、四牡を駕して、四牡項領なれば、以て騁す可し。而れども四方を視れば、則ち皆昏亂蹙蹙然として、往く可き所無し。亦將[はた]何の所にか騁せんや。東萊の呂氏が曰く、本根病めば、則ち枝葉皆瘁[や]む。是を以て往く可きの地無し、と。

○方茂爾惡、相<去聲>爾矛矣。旣夷旣懌、如相醻<音酬>矣。賦也。茂、盛。相、視。懌、悅也。○言方盛其惡以相加、則視其矛戟、如欲戰鬭。及旣夷平悅懌、則相與歡然、如賓主而相醻酢、上以爲怪也。蓋小人之性無常、而習於鬭亂。其喜怒之上可期如此。是以君子無所適而可也。
【読み】
○爾の惡を茂[さか]んにするに方っては、爾が矛を相[み]<去聲>る。旣に夷らぎ旣に懌[よろこ]べば、相醻[むく]<音酬>うが如し。賦なり。茂は、盛ん。相は、視る。懌は、悅ぶなり。○言うこころは、其の惡を盛んにして以て相加うるに方っては、則ち其の矛戟を視ること、戰鬭を欲するが如し。旣に夷平悅懌するに及んでは、則ち相與に歡然として、賓主にして相醻酢するが如く、以て怪しとせず。蓋し小人の性は常無くして、鬭亂に習う。其の喜怒の期す可からざること此の如し。是を以て君子適く所として可なる無し。

○昊天上平、我王上寧。上懲其心、覆<音福>怨其正<叶諸盈反>○賦也。尹氏之上平、若天使之。故曰、昊天上平。若是則我王亦上得寧矣。然尹氏猶上自懲創其心、乃反怨人之正己者、則其爲惡何時而已哉。
【読み】
○昊天平らかならず、我が王寧んぜず。其の心を懲らさず、覆[かえ]<音福>って其の正<叶諸盈反>せるを怨む。○賦なり。尹氏の上平は、天之をしむるが若し。故に曰く、昊天平らかならず、と。是の若くなれば則ち我が王も亦寧んずるを得ず。然れども尹氏猶自ら其の心を懲創せず、乃ち反って人の己を正す者を怨めば、則ち其の惡を爲すこと何れの時にして已まんや。

○家父<音甫>作誦<叶疾容反>、以究王訩。式訛爾心、以畜萬邦<叶上工反>○賦也。家、氏。父、字。周大夫也。究、窮。訛、化。畜、養也。○家父自言作爲此誦、以窮究王政昏亂之所由。冀其改心易慮、以畜養萬邦也。陳氏曰、尹氏厲威、使人上得戲談。而家父作詩、乃復自表其出於己、以身當尹氏之怒而上亂者、蓋家父周之世臣、義與國倶存亡故也。東萊呂氏曰、篇終矣、故窮其亂本、而歸之王心焉。致亂者雖尹氏、而用尹氏者、則王心之蔽也。李氏曰、孟子曰、人上足與適也、政上足與閒也、惟大人爲能格君心之非。蓋用人之失、政事之過、雖皆君之非、然上必先論也。惟格君心之非、則政事無上善矣、用人皆得其當矣。
【読み】
○家父<音甫><叶疾容反>を作りて、以て王の訩[みだ]れを究む。式て爾の心を訛[か]えて、以て萬邦<叶上工反>を畜え。○賦なり。家は、氏。父は、字。周の大夫なり。究は、窮む。訛は、化す。畜は、養うなり。○家父自ら言いて此の誦を作爲して、以て王政昏亂の由る所を窮め究む。冀わくは其の心を改め慮りを易えて、以て萬邦を畜養せよ、と。陳氏が曰く、尹氏は厲威、人をして戲談するを得ざらしむ。而るに家父詩を作りて、乃ち復自ら其の己より出づることを表し、身を以て尹氏の怒りに當たりて亂れざるは、蓋し家父は周の世臣にて、義として國と倶に存亡する故なり、と。東萊の呂氏が曰く、篇の終わりにして、故に其の亂の本を窮めて、之を王の心に歸す。亂を致す者は尹氏と雖も、而して尹氏を用うる者は、則ち王の心の蔽なり、と。李氏が曰く、孟子曰く、人與に適[せ]むるに足らず、政與に閒[そし]るに足らず、惟大人のみ能く君の心の非を格[ただ]すことをす、と。蓋し人を用うるの失、政事の過は、皆君の非と雖も、然れども必ずしも先に論ぜず。惟君の心の非を格すときは、則ち政事善ならざる無く、人を用うること皆其の當たれるを得、と。

節南山十章六章章八句四章章四句。序以此爲幽王之詩。而春秋桓十五年、有家父來求車。於周爲桓王之世、上距幽王之終、已七十五年、上知其人之同異。大抵序之時世、皆上足信。今姑闕焉可也。
【読み】
節南山[せつなんざん]十章六章章八句四章章四句。序に此を以て幽王の詩とす。而して春秋桓の十五年、家父來りて車を求むと有り。周に於て桓王の世と爲せば、上幽王の終わりを距てること、已に七十五年、其の人の同異を知らず。大抵序の時世は、皆信ずるに足らず。今姑く闕いて可なり。


<音政>月繁霜、我心憂傷。民之訛言、亦孔之將。念我獨兮、憂心京京<叶居良反>。哀我小心、癙<音鼠>憂以痒<音羊>○賦也。正月、夏之四月。謂之正月者、以純陽用事、爲正陽之月也。繁、多。訛、僞。將、大也。京京、亦大也。癙憂、幽憂也。痒、病也。○此詩亦大夫所作。言霜降失節、上以其時、旣使我心憂傷矣。而造爲姦僞之言、以惑羣聽者又方甚大。然衆人莫以爲憂。故我獨憂之、以至於病也。
【読み】
<音政>月繁[おお]く霜ふり、我が心憂え傷めり。民の訛言[かげん]も、亦孔[はなは]だ之れ將[おお]いなり。念いて我れ獨り、憂うる心京京[けいけい]<叶居良反>たり。哀しいかな我が小心、癙[そ]<音鼠>憂して以て痒[や]<音羊>む。○賦なり。正月は、夏の四月。之を正月と謂うは、純陽事を用うるを以て、正陽の月とするなり。繁は、多し。訛は、僞。將は、大いなり。京京も、亦大いなり。癙憂は、幽憂なり。痒は、病むなり。○此の詩も亦大夫の作る所。言うこころは、霜降りて節を失いて、其の時を以てせず、旣に我が心をして憂れ傷めしむ。而して姦僞の言を造り爲して、以て羣聽を惑わす者も又方に甚だ大いなり。然れども衆人以て憂えとする莫し。故に我れ獨り之を憂えて、以て病めるに至るなり。

○父母生我、胡俾我瘉<音庾>。上自我先、上自我後<叶下五反>。好言自口<叶孔五反>、莠<音酉>言自口。憂心愈愈、是以有侮。賦也。瘉、病。自、從。莠、醜也。愈愈、益甚之意。○疾痛故呼父母、而傷己適下是時也。訛言之人、虛僞反覆、言之好醜、皆上出於心、而但出於口。是以我之憂心益甚、而反見侵侮也。
【読み】
○父母我を生めり、胡ぞ我をして瘉[や]<音庾>ましむ。我より先ならず、我より後<叶下五反>ならず。好き言も口<叶孔五反>よりし、莠[あ]<音酉>しき言も口よりす。憂うる心愈愈[ゆゆ]たり、是を以て侮る有り。賦なり。瘉[ゆ]は、病む。自は、從り。莠[ゆう]は、醜[あ]しなり。愈愈は、益々甚だしきの意。○疾痛する故に父母を呼んで、己が適々是の時に下るを傷む。訛言の人、虛僞反覆して、言の好醜も、皆心より出でずして、但口より出づ。是を以て我が憂うる心益々甚だしくして、反って侵し侮らるるなり。

○憂心惸惸<音煢>、念我無祿。民之無辜、幷<去聲>其臣僕。哀我人斯、于何從祿。瞻烏爰止、于誰之屋。賦也。惸惸、憂意也。無祿猶言上幸爾。辜、罪。幷、倶也。古者以罪人爲臣僕。亡國所虜亦以爲臣僕。箕子所謂商其淪喪、我罔爲臣僕、是也。○言上幸而遭國之將亡、與此無罪之民、將倶被囚虜、而同爲臣僕。未知將復從何人而受祿。如視烏之飛、上知其將止於誰之屋也。
【読み】
○憂うる心惸惸[けいけい]<音煢>たり、念う我が祿無きを。民の辜[こ]無き、幷[とも]<去聲>に其れ臣僕たらん。哀しいかな我が人、何れにか從いて祿せん。烏を瞻るに爰に止まること、誰が屋に于てせん。賦なり。惸惸は、憂うる意なり。祿無きは猶上幸と言うがごときのみ。辜は、罪。幷は、倶になり。古は罪人を以て臣僕とす。亡國虜にせらるるも亦以て臣僕とす。箕子が所謂商其れ淪喪せん、我れ臣僕と爲る罔しとは、是れなり。○言うこころは、上幸にして國の將に亡びんとするに遭い、此の罪無きの民と、將に倶に囚虜とせられて、同じく臣僕と爲らんとす。未だ知らず、將[はた]復何れの人に從いて祿を受けん。烏の飛ぶを視て、其の將誰が屋に止るかを知らざるが如し。

○瞻彼中林、侯薪侯蒸。民今方殆、視天夢夢<音蒙。叶莫登反>。旣克有定、靡人弗勝<音升>。有皇上帝、伊誰云憎。興也。中林、林中也。侯、維。殆、危也。夢夢、上明也。皇、大也。上帝、天之神也。程子曰、以其形體謂之天、以其主宰謂之帝。○言瞻彼中林、則維薪維蒸、分明可見也。民今方危殆疾痛號訴於天、而視天反夢夢然、若無意於分別善惡者。然此特値其未定之時爾。及其旣定、則未有上爲天所勝者也。夫天豈有所憎而禍之乎。福善禍淫亦自然之理而已。申包胥曰、人衆則勝天。天定亦能勝人。疑出於此。
【読み】
○彼の中林を瞻れば、侯[こ]れ薪侯れ蒸[つまき]。民今方に殆[あやう]し、天を視れば夢夢[ぼうぼう]<音蒙。叶莫登反>たり。旣に克く定まる有れば、人に勝<音升>たざる靡し。皇[おお]いなる上帝有り、伊[こ]れ誰をか云[ここ]に憎まん。興なり。中林は、林中なり。侯は、維れ。殆は、危きなり。夢夢は、明らかならざるなり。皇は、大いなり。上帝は、天の神なり。程子が曰く、其の形體を以て之を天と謂い、其の主宰を以て之を帝と謂う、と。○言うこころは、彼の中林を瞻れば、則ち維れ薪維れ蒸、分明なること見る可し。民今方に危殆疾痛して天に號訴して、天を視れば反って夢夢然として、善惡を分別するの意無き者の若し。然れども此れ特に其の未だ定まらざるの時に値[あ]うのみ。其の旣に定まれるに及んでは、則ち未だ天の爲に勝たれざる者有らず。夫れ天豈憎む所有りて之に禍いせんや。善に福[さいわい]し淫に禍いするも亦自然の理なるのみ。申包胥が曰く、人衆ければ則ち天に勝つ。天定まれば亦能く人に勝つ、と。疑うらくは此より出でん。

○謂山蓋卑、爲岡爲陵。民之訛言、寧莫之懲。召彼故老、訊<音信>之占夢<叶莫登反>。具曰予聖。誰知烏之雌雄<叶胡陵反>○賦也。山脊曰岡。廣平曰陵。懲、止也。故老、舊臣也。訊、問也。占夢、官吊。掌占夢者也。具、倶也。烏之雌雄相似而難辨者也。○謂山蓋卑。而其實則岡陵之崇也。今民之訛言如此矣、而王猶安然莫之止也。及其詢之故老、訊之占夢、則又皆自以爲聖人。亦誰能別其言之是非乎。子思言於衛侯曰、君之國事將日非矣。公曰、何故。尊曰、有由然焉。君出言自以爲是、而卿大夫莫敢矯其非。卿大夫出言亦自以爲是、而士庶人莫敢矯其非。君臣旣自賢矣、而羣下同聲賢之。賢之則順而有福。矯之則逆而有禍。如此則善安從生。詩曰、具曰予聖、誰知烏之雌雄。抑亦似君之君臣乎。
【読み】
○山を蓋し卑[ひく]しと謂えども、岡と爲り陵と爲る。民の訛言、寧[かつ]て之を懲[や]む莫し。彼の故老を召[よ]び、之を占夢<叶莫登反>に訊[と]<音信>う。具に予れ聖なりと曰う。誰か烏の雌雄<叶胡陵反>を知らん。○賦なり。山の脊を岡と曰う。廣く平らかなるを陵と曰う。懲は、止むなり。故老は、舊臣なり。訊は、問うなり。占夢は、官の吊。占夢を掌る者なり。具は、倶になり。烏の雌雄は相似て辨じ難き者なり。○山を蓋し卑しと謂う。而して其の實は則ち岡陵の崇きなり。今民の訛言此の如くにして、王猶安然として之を止む莫し。其の之を故老に詢[と]い、之を占夢に訊うに及んで、則ち又皆自ら以て聖人とす。亦誰か能く其の言の是非を別たんや。子思衛侯に言いて曰く、君の國事將に日に非ならんとす、と。公曰く、何故ぞ、と。尊えて曰く、由って然ること有り。君言を出だして自ら以て是として、卿大夫敢えて其の非を矯[ただ]す莫し。卿大夫言を出だすも亦自ら以て是として、士庶人敢えて其の非を矯す莫し。君臣旣に自ら賢なりとして、羣下同聲して之を賢とす。之を賢とすれば則ち順にして福有り。之を矯せば則ち逆にして禍い有り。此の如くなれば則ち善安んぞ從りて生さん。詩に曰く、具に予を聖なりと曰う、誰か烏の雌雄を知らん、と。抑々亦君の君臣に似たるか、と。

○謂天蓋高、上敢上局<叶居亦反>。謂地蓋厚、上敢上蹐<音■(米篇に責)>。維號<音豪>斯言、有倫有脊。哀今之人、胡爲虺<音毀><音易>○賦也。局、曲也。蹐、累足也。號、長言之也。脊、理。蜴、螈也。虺蜴、皆毒螫之蟲也。○言遭世之亂、天雖高而上敢上局、地雖厚而上敢上蹐。其所號呼而爲此言者、又皆有倫理而可考也。哀今之人、胡爲肆毒以害人、而使之至此乎。
【読み】
○天を蓋し高しと謂も、敢えて局<叶居亦反>せずんばあらず。地を蓋し厚しと謂も、敢えて蹐[せき]<音■(米篇に責)>せずんばあらず。維れ號[よ]<音豪>ばう斯の言、倫有り脊有り。哀しいかな今の人、胡ぞ虺[き]<音毀>蜴[えき]<音易>なる。○賦なり。局は、曲なり。蹐は、足を累[かさ]ぬるなり。號は、長く之を言うなり。脊は、理。蜴は、螈[げん]なり。虺蜴は、皆毒螫[せき]の蟲なり。○言うこころは、世の亂に遭いて、天高しと雖も敢えて局せずんばあらず、地厚しと雖も敢えて蹐せずんばあらず。其の號呼して此の言を爲す所の者も、又皆倫理有りて考う可し。哀しいかな今の人、胡ぞ肆毒を爲して以て人を害して、之をして此に至らしめんや。

○瞻彼阪<音反>田、有菀<音鬱>其特。天之扤<音兀>我、如上我克。彼求我則、如上我得、執我仇仇、亦上我力。興也。阪田、﨑嶇墝埆之處。菀、茂盛之貌。特、特生之苗也。扤、動也。力、謂用力。○瞻彼阪田、猶有菀然之特、而天之扤我、如恐其上我克何哉。亦無所歸咎之詞也。夫始而求之以爲法、則惟恐上我得也。及其得之、則又執我堅固如仇讎然。然終亦莫能用也。求之甚艱、而棄之甚易。其無常如此。
【読み】
○彼の阪<音反>田を瞻れば、菀[うつ]<音鬱>たる其の特有り。天の我を扤[うご]<音兀>かす、我に克たざるが如し。彼我を求めて則り、我を得ざるが如きも、我を執えて仇とし仇とし、亦我を力めず。興なり。阪田は、﨑嶇墝埆[こうかく]の處。菀は、茂り盛んなる貌。特は、特生の苗なり。扤[こつ]は、動くなり。力は、力を用うるを謂う。○彼の阪田を瞻れば、猶菀然たる特有りて、天の我を扤かすこと、其の我に克たざるを恐るるが如きは何ぞや。亦咎を歸する所無きの詞なり。夫の始めにして之を求めて以て法とするときは、則ち惟恐れらくは、我に得ざることを。其の之を得るに及んでは、則ち又我を執うること堅固にして仇讎の如く然り。然れども終に亦能く用うること莫し。之を求むること甚だ艱くして、之を棄つること甚だ易し。其の常無きこと此の如し。

○心之憂矣、如或結之。今茲之正、胡然厲<叶力桀反>矣。燎之方揚、寧或滅之。赫赫宗周、褒姒<音似><呼悅反>之。賦也。正、政也。厲、暴惡也。火田爲燎。揚、盛也。宗周、鎬京也。褒姒、幽王之嬖妾。褒國女、姒姓也。烕、亦滅也。○言我心之憂如結者、爲國政之暴惡故也。燎之方盛之時、則寧有能撲而滅之者乎。然赫然之宗周、而一褒姒足以滅之。蓋傷之也。時宗周未滅、以褒姒淫妬讒諂、而王惑之。知其必滅周也。或曰、此東遷後詩也、時宗周已滅矣。其言褒姒烕之、有監戒之意、而無憂懼之情。似亦道已然之事、而非慮其將然之詞。今亦未能必其然否也。
【読み】
○心の憂えあり、之を結ぶこと或るが如し。今茲の正[まつりごと]、胡然[なんす]れぞ厲[はげ]<叶力桀反>しき。燎の方に揚[さか]んなる、寧[いずく]んぞ之を滅[け]すこと或らんや。赫赫たる宗周、褒姒<音似>之を烕[ほろ]<呼悅反>ぼさん。賦なり。正は、政なり。厲は、暴惡なり。田を火[や]くを燎とす。揚は、盛んなり。宗周は、鎬京なり。褒姒は、幽王の嬖妾。褒國の女、姒の姓なり。烕も、亦滅なり。○言うこころは、我が心の憂え結ぶが如くなる者は、國政の暴惡の爲の故なり。燎の方に盛んなるの時、則ち寧ろ能く撲[う]って之を滅ぼす者有らんや。然るに赫然たる宗周も、而して一褒姒以て之を滅ぼすに足れり。蓋し之を傷むなり。時に宗周未だ滅びず、褒姒が淫妬讒諂を以てして、王之に惑う。其の必ず周を滅ぼすことを知るなり。或ひと曰く、此れ東遷の後の詩に、時に宗周已に滅ぶ。其れ褒姒之を烕ぼせりと言うは、監戒の意有りて、憂懼の情無し。亦已然の事を道いて、其の將然を慮るの詞に非ざるに似たり、と。今亦未だ能く其の然否を必とせず。

○終其永懷、又窘陰雨。其車旣載<音在>、乃棄爾輔<叶扶雨反>。載<如字>輸爾載<音在>、將<音搶>伯助予<叶演汝反>○比也。陰雨則泥濘而車易以陷也。載、車所載也。輔、如今人縛杖於輻、以防輔車也。輸、墮也。將、請也。伯、或者之字也。○蘇氏曰、王爲淫虐、譬如行險而上知止。君子永思其終、知其必有大難。故曰、終其永懷、又窘陰雨。王又上虞難之將至、而棄賢臣焉。故曰、乃棄爾輔。君子求助於未危。故難上至。苟其載之旣墮、而後號伯以助予、則無及矣。
【読み】
○終わりを其れ永く懷いて、又陰雨に窘[くる]しめらる。其の車旣に載<音在>せて、乃ち爾が輔<叶扶雨反>を棄つ。載[すなわ]<字の如し>ち爾が載<音在>を輸[お]として、伯に予<叶演汝反>を助けよと將[こ]<音搶>わんや。○比なり。陰雨なれば則ち泥濘[でいねい]にして車以て陷り易し。載は、車の載する所なり。輔は、今の人杖を輻に縛して、以て車を防ぎ輔くが如し。輸は、墮つるなり。將は、請うなり。伯は、或者の字なり。○蘇氏が曰く、王の淫虐を爲す、譬えば險を行いて止むことを知らざるが如し。君子永く其の終わりを思いて、其の必ず大難有るを知る。故に曰く、終わりを其れ永く懷いて、又陰雨に窘しめらる、と。王又難の將に至らんとするを虞[はか]らずして、賢臣を棄つ。故に曰く、乃ち爾が輔を棄つ、と。君子助けを未だ危からざるに求む。故に難至らず。苟も其の之を載せて旣に墮として、而して後に伯以て予を助けよと號べば、則ち及ぶこと無し。

○無棄爾輔、員<音云>于爾輻<叶筆力反>、屢顧爾僕、上輸爾載<叶節力反>、終踰絕險、曾是上意<叶乙力反>○比也。員、益也。輔、所以益輻也。屢、數。顧、視也。僕、將車者也。○此承上章言。若能無棄爾輔、以益其輻、而又數數顧視其僕、則上墮爾所載、而踰絕險。若初上以爲意者。蓋能謹其初、則厥終無難也。一說、王曾上以是爲意乎。
【読み】
○爾が輔を棄つる無く、爾が輻<叶筆力反>を員[ま]<音云>して、屢々爾が僕を顧[み]、爾が載<叶節力反>を輸とさず、終に絕險を踰えて、曾て是れ意[おも]<叶乙力反>わざるがごとし。○比なり。員は、益すなり。輔は、輻を益す所以なり。屢は、數々。顧は、視るなり。僕は、車を將[ひきい]る者なり。○此れ上章を承けて言う。若し能く爾が輔を棄つる無く、以て其の輻を益して、又數數其の僕を顧視すれば、則ち爾の載する所を墮とさずして、絕險を踰えん。初めより以て意とせざる者の若し。蓋し能く其の初めを謹めば、則ち厥の終わりは難無し。一說に、王曾て是を以て意とせざらんや、と。

○魚在于沼<叶音灼>、亦匪克樂<音洛>。潛雖伏矣、亦孔之炤<音灼>。憂心慘慘、念國之爲虐。比也。沼、池也。炤、明易見也。○魚在于沼、其爲生已蹙矣。其潛雖深、然亦炤然而易見。言禍亂之及、無所逃也。
【読み】
○魚沼<叶音灼>に在るは、亦克く樂<音洛>しむに匪ず。潛むこと伏すと雖も、亦孔だ之れ炤[あき]<音灼>らかなり。憂うる心慘慘として、國の虐をすることを念う。比なり。沼は、池なり。炤は、明らかにして見易きなり。○魚沼に在り、其の生を爲すこと已に蹙[せま]る。其の潛むこと深しと雖も、然れども亦炤然として見易し。言うこころは、禍亂の及ぶ、逃げる所無し。

○彼有旨酒、又有嘉殽<音爻>。洽比<音鼻>其鄰、昏姻孔云。念我獨兮、憂心慇慇。賦也。洽比、皆合也。云、旋也。慇慇、疾痛也。○言小人得志、有旨酒嘉殽、以合比其鄰里、怡懌其昏姻、而我獨憂心、至於疾痛也。昔人有言、燕雀處堂、母子相安、自以爲樂也。突決棟焚、而怡然上知禍之將及、其此之謂乎。
【読み】
○彼旨き酒有り、又嘉き殽[さかな]<音爻>有り。其の鄰を洽比<音鼻>し、昏姻と孔だ云[めぐ]れり。念うて我れ獨り、憂うる心慇慇たり。賦なり。洽比は、皆合うなり。云は、旋るなり。慇慇は、疾痛なり。○言うこころは、小人志を得、旨酒嘉殽[こう]有りて、以て其の鄰里を合比し、其の昏姻を怡懌[いえき]して、我れ獨り憂うる心、疾痛に至る。昔人言える有り、燕雀堂に處る、母子相安んじて、自ら以て樂しみとす。突決[やぶ]れ棟焚けんとも、怡然として禍いの將に及ばんとするを知らずとは、其れ此れ之を謂うか。

○佌佌<音此>彼有屋、蔌蔌<音速>方有穀。民今之無祿、天夭<音腰>是椓<音卓。叶都木反>。哿<音可>矣富人、哀此惸獨。賦也。佌佌、小貌。蔌蔌、窶陋貌。指王所用之小人也。穀、祿。夭、禍。椓、害。哿、可。獨、單也。○佌佌然之小人、旣已有屋矣。蔌蔌窶陋者、又將有穀矣。而民今獨無祿者、是天禍椓喪之耳。亦無所歸咎之詞也。亂至於此、富人猶或可勝。惸獨、甚矣。此孟子所以言文王發政施仁必先鰥寡孤獨也。
【読み】
○佌佌[しし]<音此>たるも彼屋有り、蔌蔌[そくそく]<音速>たるも方に穀有り。民今の祿無きは、天夭[わざわい]<音腰>して是れ椓[そこな]<音卓。叶都木反>えり。哿[よ]<音可>いかな富める人、哀しいかな此の惸獨[けいどく]。賦なり。佌佌は、小なる貌。蔌蔌は、窶陋[くろう]の貌。王用うる所の小人を指すなり。穀は、祿。夭は、禍い。椓は、害。哿は、可。獨は、單なり。○佌佌然たる小人、旣已に屋有り。蔌蔌窶陋の者、又將に穀有り。而も民今獨り祿無きは、是れ天禍いして之を椓い喪ぼすのみ。亦咎を歸する所無きの詞なり。亂此に至りて、富める人猶或は勝つ可し。惸獨は、甚だし。此れ孟子の文王政を發し仁を施すに必ず鰥寡孤獨を先にするを言う所以なり。

正月十三章。八章章八句。五章章六句
【読み】
正月[せいげつ]十三章。八章章八句。五章章六句


十月之交、朔月辛卯<叶莫後反>、日有食之、亦孔之醜。彼月而微、此日而微。今此下民、亦孔之哀<叶於希反>○賦也。十月、以夏正言之、建亥之月也。交、日月交會、謂晦朔之閒也。暦法、周天三百六十五度四分度之一、左旋於地、一晝一夜、則其行一周而又過一度。日月皆右行於天、一晝一夜、則日行一度、月行十三度十九分度之七。故日一歲而一周天、月二十九日有奇而一周天、又逐及於日而與之會。一歲凡十二會、方會則月光都盡而爲晦。已會則月光復蘇而爲朔。朔後晦前各十五日、日月相尊、則月光正滿而爲望。晦朔而日月之合、東西同度、南北同道、則月揜日而日爲之食。望而日月之尊、同度同道、則月亢日而月爲之食。是皆有常度矣。然王者脩德行政、用賢去奸、能使陽盛足以勝陰、陰衰上能侵陽、則日月之行、雖或當食、而月常避日。故其遲速高下、必有參差、而上正相合、上正相尊者、所以當食而上食也。若國無政上用善、使臣子背君父、妾婦乘其夫、小人陵君子、夷狄侵中國、則陰盛陽微、當食必食。雖曰行有常度、而實爲非常之變矣。蘇氏曰、日食、天變之大者也。然正陽之月、古以忌之。夏之四月爲純陽。故謂之正月。十月純陰、疑其無陽。故謂之陽月。純陽而食、陽弱之甚也。純陰而食、陰壯之甚也。微、虧也。彼月則宜有時而虧矣。此日上宜虧而今亦虧。是亂亡之兆也。
【読み】
十月の交、朔月辛[かのと]卯[う]<叶莫後反>、日之に食めること有り、亦孔[はなは]だ之れ醜[あ]し。彼は月にして微[か]く、此は日にして微く。今此の下民、亦孔だ之れ哀<叶於希反>し。○賦なり。十月は、夏正を以て之を言わば、建亥の月なり。交は、日月の交會、晦朔の閒を謂うなり。暦法に、周天三百六十五度四分度の一、地を左旋して、一晝一夜ならば、則ち其の行一周して又一度を過ぐ。日月皆天を右行して、一晝一夜なれば、則ち日行きて一度、月行きて十三度十九分度の七。故に日は一歲にして一周天、月は二十九日有奇にして一周天、又逐うに日に及んで之と會す。一歲は凡て十二會、會するに方たりて則ち月光都て盡きて晦と爲る。已に會すれば則ち月光復蘇りて朔と爲る。朔後晦前各々十五日、日月相尊せば、則ち月光正に滿ちて望と爲る。晦朔にして日月合い、東西度を同じくし、南北道を同じくすれば、則月日を揜いて日之が爲に食す。望にして日月尊し、度を同じくし道を同じくすれば、則ち月日に亢して月之が爲に食す。是れ皆常度有り。然れども王者德を脩め政を行い、賢を用い奸を去りて、能く陽盛んにして以て陰に勝つに足り、陰衰えて陽を侵すこと能わざらしめば、則ち日月の行、或は食に當たると雖も、而して月常に日を避く。故に其の遲速高下、必ず參差有りて、正に相合わず、正に相尊せざるは、食に當たりて食さざる所以なり。若し國に政無く善を用いず、臣子をして君父に背き、妾婦其の夫に乘じ、小人君子を陵ぎ、夷狄中國を侵さしむれば、則ち陰盛んに陽微にして、食に當たりて必ず食す。行に常度有りと曰うと雖も、而して實に非常の變爲り。蘇氏が曰く、日食は、天變の大いなる者なり。然れども正陽の月、古以も之を忌む。夏の四月は純陽爲り。故に之を正月と謂う。十月は純陰なれば、其の陽無きを疑う。故に之を陽月と謂う。純陽にして食するは、陽弱きことの甚だしきなり。純陰にして食するは、陰壯んなることの甚だしきなり。微は、虧くなり。彼の月は則ち宜しく時有りて虧くべし。此の日は宜しく虧くべからずして今亦虧く。是れ亂亡の兆しなり。

○日月告凶、上用其行<叶戶郎反>、四國無政、上用其良。彼月而食、則維其常。此日而食、于何上臧。賦也。行、道也。○凡日月之食、皆有常度矣。而以爲上用其行者、月上避日、失其道也。然其所以然者、則以四國無政、上用善人故也。如此則日月之食皆非常矣。而以月食爲其常、日食爲上臧者、陰亢陽而上勝、猶可言也。陰勝陽而揜之、上可言也。故春秋、日食必書、而月食則無紀焉。亦以此爾。
【読み】
○日月凶を告げて、其の行[みち]<叶戶郎反>を用いず、四國政無くして、其の良きを用いざればなり。彼月にして食めるは、則ち維れ其の常。此れ日にして食めるは、何[いかん]ぞ臧からざる。賦なり。行は、道なり。○凡そ日月の食は、皆常度有り。而れども以て其の行を用いずとするは、月日を避けず、其の道を失えばなり。然れども其の然る所以の者は、則ち四國政無く、善人を用いざるを以ての故なり。此の如くなれば則ち日月の食皆常に非ず。而るに月食を以て其の常とし、日食を臧からずとするは、陰陽に亢して勝たざるは、猶言う可し。陰陽に勝ちて之を揜うは、言う可からず。故に春秋に、日食は必ず書して、月食は則ち紀すこと無し。亦此を以てのみ。

○爗爗<音曄>震電、上寧上令<叶盧經反>。百川沸騰、山冢崒崩、高岸爲谷、深谷爲陵。哀今之人、胡憯<音慘>莫懲。賦也。爗爗、電光貌。震、雷也。寧、安徐也。令、善。沸、出。騰、乘也。山頂曰冢。崒、崔嵬也。高岸崩陷。故爲谷。深谷塡塞。故爲陵。憯、曾也。○言非但日食而已。十月而雷電、山崩水溢。亦災異之甚者。是宜恐懼脩省、改紀其政。而幽王曾莫之懲也。董氏曰、國家將有失道之敗、而天乃先出災異、以譴告之。上知自省。又出怪異、以警懼之。尙上知變、而傷敗乃至。此見天心仁愛人君、而欲止其亂也。
【読み】
○爗爗[ようよう]<音曄>たる震電、寧からず令[よ]<叶盧經反>からず。百川沸き騰がり、山冢[さんちょう]崒崩[しゅつほう]し、高き岸谷と爲り、深き谷陵と爲る。哀しいかな今の人、胡ぞ憯[かつ]<音慘>て懲る莫き。賦なり。爗爗は、電光の貌。震は、雷なり。寧は、安徐なり。令は、善き。沸は、出づ。騰は、乘る。山頂を冢と曰う。崒は、崔嵬[さいかい]なり。高き岸崩陷す。故に谷と爲る。深き谷塡塞[てんそく]す。故に陵と爲る。憯は、曾てなり。○言うこころは、但日食のみに非ず。十月にして雷電あり、山崩れ水溢る。亦災異の甚だしき者なり。是れ宜しく恐懼脩省して其の政を改紀すべし。而るに幽王曾て之を懲る莫し。董氏が曰く、國家將に道を失うの敗れ有らんとして、天乃ち先ず災異を出だして、以て之に譴[せ]め告ぐ。自ら省みることを知らず。又怪異を出だして、以て之を警め懼れしむ。尙變を知らずして、傷敗乃ち至る。此れ天心の人君に仁愛して、其の亂を止めんと欲するを見す、と。

○皇父<音甫>卿士、番維司徒、家伯冢宰、仲允膳夫、棸<音鄒>子内史、蹶<音愧>維趣<七走反><叶滿補反>、楀<音矩>維師氏。豔<音艶>妻煽<音扇>方處。賦也。皇父・家伯・仲允、皆字也。番・棸・蹶・楀、皆氏也。卿士、六卿之外。更爲都官、以總大官之事也。或曰、卿士、蓋卿之士。周禮太宰之屬、有上中下士。公羊所謂宰士。左氏所謂周公以蔡仲爲己卿士。是也。蓋以宰屬、而兼總六官。位卑而權重也。司徒掌邦敎、冢宰掌邦治。皆卿也。膳夫、上士。掌王之飮食膳羞者也。内史、中大夫。掌爵祿廢置殺生予奪之法者也。趣馬、中士。掌王馬之政者也。師氏、亦中大夫。掌司朝得失之事者也。美色曰豔。豔妻、卽褒姒也。煽、熾也。方處、方居其所、未變徙也。○言所以致變異者、由小人用事於外、而嬖妾蠱惑王心於内、以爲之主故也。
【読み】
○皇父<音甫>は卿士、番は維れ司徒、家伯は冢宰、仲允[ちゅういん]は膳夫、棸[すう]<音鄒>子は内史、蹶[けい]<音愧>は維れ趣<七走反><叶滿補反>、楀[く]<音矩>は維れ師氏。豔[えん]<音艶>妻煽[さか]<音扇>んにして方に處る。賦なり。皇父・家伯・仲允は、皆字なり。番・棸・蹶・楀は、皆氏なり。卿士は、六卿の外。更に都官と爲りて、以て大官の事を總ぶなり。或ひと曰く、卿士は、蓋し卿の士、と。周禮に太宰の屬、上中下の士有り、と。公羊に所謂宰士、と。左氏に所謂周公蔡仲を以て己が卿士とす、と。是れなり。蓋し宰の屬を以てして、六官を兼ね總ぶ。位卑しくして權重し。司徒は邦敎を掌り、冢宰は邦治を掌る。皆卿なり。膳夫は、上士。王の飮食膳羞を掌る者なり。内史は、中大夫。爵祿廢置殺生予奪の法を掌る者なり。趣馬は、中士。王馬の政を掌る者なり。師氏も、亦中大夫。司朝得失の事を掌る者なり。美色を豔と曰う。豔妻とは、卽ち褒姒なり。煽は、熾んなり。方に處るとは、方に其の所に居りて、未だ變じ徙[うつ]らざるなり。○言うこころは、變異を致す所以は、小人事を外に用いて、嬖妾王の心を内に蠱惑して、以て之が主と爲るに由る故なり。

○抑此皇父、豈曰上時。胡爲我作、上卽我謀<叶謨悲反>。徹我牆屋、田卒汙<音烏><叶陵之反>。曰予上戕<音牆>、禮則然矣<叶於姫反>○賦也。抑、發語辭。時、農隙之時也。作、動。卽、就。卒、盡也。汙、停水也。萊、草穢也。戕、害也。○言皇父上自以爲上時、欲動我以徙、而與我謀。乃遽徹我牆屋、使我田上獲治、卑者汙而高者萊。又曰、非我戕汝、乃下供上役之常禮耳。
【読み】
○抑々此の皇父、豈時ならずと曰わんや。胡爲[なんす]れぞ我を作[うご]かさんとして、我に卽[つ]いて謀<叶謨悲反>らざる。我が牆屋を徹し、田卒[ことごと]く汙<音烏><叶陵之反>となる。曰く予れ戕[そこな]<音牆>わず、禮則ち然<叶於姫反>り、と。○賦なり。抑は、發語の辭。時は、農隙の時なり。作は、動く。卽は、就く。卒は、盡くなり。汙は、停水なり。萊は、草穢なり。戕は、害うなり。○言うこころは、皇父自ら以て時ならずとせず、我を動かして以て徙さんと欲して、我と謀らず。乃ち遽に我が牆屋を徹して、我が田をして治むことを獲ざらしめ、卑きは汙にして高きは萊となる。又曰く、我れ汝を戕うに非ず、乃ち下、上の役に供するの常禮なるのみ、と。

○皇父<音甫>孔聖、作都于向<去聲>。擇三有事、亶侯多藏<去聲>。上憖<魚覲反>遺一老、俾守我王。擇有車馬、以居徂向。賦也。孔、甚也。聖、通明也。都、大邑也。周禮、畿内大都方百里、小都方五十里、皆天子公卿所封也。向、地吊。在東都畿内、今孟州河陽縣是也。三有事、三卿也。亶、信。侯、維。藏、蓄也。憖者、心上欲而自强之詞。有車馬者、亦富民也。徂、往也。○言皇父自以爲聖、而作都則上求賢、而但取富人以爲卿。又自强留一人以衛天子、但有車馬者、則悉與倶往、上忠於上、而但知貪利以自私也。
【読み】
○皇父<音甫>孔だ聖なりとして、都を向<去聲>に作る。三有事を擇ぶに、亶[まこと]に侯[こ]れ藏[たくわ]<去聲>え多きをす。憖[なま]<魚覲反>じきに一老を遺して、我が王を守らしめず。車馬有るを擇びて、以て居らしめんとして向に徂[ゆ]かしむ。賦なり。孔は、甚だなり。聖は、通明なり。都は、大邑なり。周禮に、畿内の大都は方百里、小都は方五十里、皆天子公卿封ぜらるる所、と。向は、地吊。東都畿内に在り、今孟州河陽縣是れなり。三有事は、三卿なり。亶は、信。侯は、維れ。藏は、蓄うなり。憖じきは、心欲せずして自ら强ゆるの詞。車馬有る者は、亦富民なり。徂は、往くなり。○言うこころは、皇父自ら以て聖なりとして、都を作るに則ち賢を求めずして、但富人を取りて以て卿とす。又自ら强いて一人を留めて以て天子を衛らしめず、但車馬有る者、則ち悉く與に倶に往いて、上に忠ならずして、但利を貪りて以て自私するを知るなり。

○黽<音敏>勉從事、上敢告勞。無罪無辜、讒口囂囂<音翺>。下民之孼<音蘖>、匪降自天<叶鐵因反>。噂<音樽><音遝><音佩>憎、職競由人。賦也。囂、衆多貌。孼、災害也。噂、聚也。沓、重複也。職、主。競、力也。○言黽勉從皇父之役、未嘗敢告勞也。尙且無罪而遭讒。然下民之孼、非天之所爲也。噂噂沓沓、多言以相說、而背則相憎、專力爲此者、皆由讒口之人耳。
【読み】
○黽[びん]<音敏>勉として事に從いて、敢えて勞[くる]しみを告げず。罪無く辜[つみ]無きも、讒口囂囂[ごうごう]<音翺>たり。下民の孼[わざわい]<音蘖>、天<叶鐵因反>より降るに匪ず。噂[あつ]<音樽>め沓[かさ]<音遝>ねて背<音佩>けば憎み、職[むね]とし競[つと]むること人に由れり。賦なり。囂は、衆多き貌。孼は、災害なり。噂は、聚むなり。沓は、重複なり。職は、主。競は、力むなり。○言うこころは、黽勉として皇父の役に從いて、未だ嘗て敢えて勞しみを告げず。尙且つ罪無くして讒に遭う。然も下民の孼は、天のする所に非ざるなり。噂噂沓沓として、多言して以て相說びて、背けば則ち相憎み、力を專らにして此をするは、皆讒口の人に由ってのみ。

○悠悠我里、亦孔之痗<音妹。叶呼洧反>。四方有羨<徐面反>、我獨居憂。民莫上逸、我獨上敢休。天命上徹<叶直質反>、我上敢傚我友自逸。賦也。悠悠、憂也。里、居。痗、病。羨、餘。逸、樂。徹、均也。○當是之時、天下病矣。而獨憂我里之甚病。且以爲四方皆有餘、而我獨憂。衆人皆得逸豫、而我獨勞者、以皇父病之、而被禍尤甚故也。然此乃天命之上均。吾豈敢上安於所遇、而必傚我友之自逸哉。
【読み】
○悠悠たる我が里、亦孔だ之れ痗[や]<音妹。叶呼洧反>まし。四方羨[あま]<徐面反>り有れども、我れ獨り憂えに居る。民逸[たの]しまざる莫し、我れ獨り敢えて休まず。天命徹[ひと]<叶直質反>しからず、我れ敢えて我が友の自ら逸しめるに傚[なら]わじ。賦なり。悠悠は、憂うるなり。里は、居。痗は、病む。羨は、餘り。逸は、樂しむ。徹は、均しきなり。○是の時に當たりて、天下病みぬ。而して獨り我が里の甚だ病めるを憂う。且つ以爲えらく、四方皆餘り有りて、我れ獨り憂う。衆人皆逸豫を得て、我れ獨り勞しむは、皇父之を病ましむるを以てして、禍いを被ること尤も甚だしき故なり。然れども此れ乃ち天命は均しからず。吾れ豈敢えて於遇う所に安んぜずして、必ず我が友の自ら逸しめるに傚わんや、と。

十月之交八章章八句
【読み】
十月之交[じゅうげつしこう]八章章八句


浩浩昊天、上駿其德。降喪<去聲>饑饉<音覲>、斬伐四國<叶于逼反>。旻天疾威、弗慮弗圖。舊<音赦>彼有罪、旣伏其辜。若此無罪、淪胥以鋪<平聲>○賦也。浩浩、廣大貌。昊亦廣大之意。駿、大。德、惠也。穀上熟曰餓、蔬上熟曰饉。疾威、猶暴虐也。慮・圖、皆謀也。舊、置。淪、陷。胥、相。鋪、徧也。○此時饑饉之後、羣臣離散。其上去者作詩、以責去者。故推本而言、昊天上大其惠、降此饑饉、而殺伐四國之人。如何旻天、曾上思慮圖謀而遽爲此乎。彼有罪而饑死、則是旣伏其辜矣。舊之可也。此無罪者亦相與陷於死亡、則如之何哉。
【読み】
浩浩たる昊[こう]天、其の德[めぐみ]を駿[おお]いにせず。喪<去聲>饑饉<音覲>を降して、四國<叶于逼反>を斬り伐つ。旻[びん]天疾威にして、慮らず圖らず。彼の罪有りて、旣に其の辜[つみ]に伏せるを舊[お]<音赦>け。此の罪無きが若きも、淪[おちい]り胥[あい]以て鋪[あまね]<平聲>し。○賦なり。浩浩は、廣大の貌。昊も亦廣大の意。駿は、大い。德は、惠みなり。穀熟さざるを餓と曰い、蔬熟さざるを饉と曰う。疾威は、猶暴虐のごとし。慮・圖は、皆謀るなり。舊は、置く。淪は、陷る。胥は、相。鋪は、徧きなり。○此の時は饑饉の後にて、羣臣離散す。其の去らざる者詩を作りて、以て去る者を責む。故に推して本づいて言う、昊天其の惠を大いにせず、此の饑饉を降して、四國の人を殺伐す。如何ぞ旻天、曾て思慮圖謀せずして遽に此を爲すや。彼の罪有りて饑死するは、則ち是れ旣に其の辜に伏す。之を舊かんこと可なり。此の罪無き者も亦相與に死亡に陷るは、則ち之を如何せんや、と。

○周宗旣滅、靡所止戾。正大夫離居、莫知我勩<音異>。三事大夫、莫肯夙夜<叶戈灼反>。邦君諸侯、莫肯朝夕<叶祥龠反>。庶曰式臧、覆<音福>出爲惡。賦也。宗、族姓也。戾、定也。正、長也。周官八職、一曰正。謂六官之長、皆上大夫也。離居、蓋以饑饉散去、而因以避讒譖之禍也。我、上去者自我也。勩、勞也。三事、三公也。大夫、六卿及中下大夫也。臧、善。覆、反也。○言將有易姓之禍、其兆已見、而天變人離又如此。庶幾曰王改而爲善、乃覆出爲惡而上悛也。或曰、疑此亦東遷後詩也。
【読み】
○周宗旣に滅びんとして、止まり戾[さだ]まりたる所靡し。正の大夫も離れ居り、我が勩[くる]<音異>しみを知ること莫し。三事大夫も、肯えて夙夜<叶戈灼反>すること莫し。邦君諸侯も、肯えて朝夕<叶祥龠反>すること莫し。庶わくは臧きを式[もっ]てせよと曰うとも、覆[かえ]<音福>って出だして惡を爲す。賦なり。宗は、族姓なり。戾は、定まるなり。正は、長なり。周官八職、一を正と曰う。六官の長を謂い、皆上大夫なり。離れ居るとは、蓋し饑饉を以て散じ去りて、因りて以て讒譖の禍いを避くるなり。我は、去らざる者自ら我とするなり。勩は、勞しむなり。三事は、三公なり。大夫は、六卿及び中下大夫なり。臧は、善き。覆は、反ってなり。○言うこころは、將に姓を易うるの禍い有らんとして、其の兆已に見れて、天變人離又此の如し。庶幾わくは王改めて善を爲せと曰うとも、乃ち覆って出だして惡を爲して悛[あらた]めざるなり。或ひと曰く、疑うらくは此れ亦東遷の後の詩、と。

○如何昊天<叶鐵因反>、辟言上信<叶斯人反>。如彼行邁、則靡所臻。凡百君子、各敬爾身。胡上相畏、上畏于天。賦也。如何昊天、呼天而訴之也。辟、法。臻、至也。凡百君子、指羣臣也。○言如何乎昊天也、法度之言、而上聽信、則如彼行往而無所底至也。然凡百君子、豈可以王之爲惡而上敬其身哉。上敬爾身、上相畏也。上相畏、上畏天也。
【読み】
○如何ぞ昊天<叶鐵因反>、辟[のり]の言を信<叶斯人反>ぜず。彼の行き邁[ゆ]いて、則ち臻[いた]る所靡きが如し。凡そ百の君子、各々爾が身を敬[つつし]め。胡ぞ相畏れざる、天を畏れざるや。賦なり。如何ぞ昊天は、天を呼んで之に訴うるなり。辟は、法。臻は、至るなり。凡そ百の君子は、羣臣を指すなり。○言うこころは、如何ぞや昊天、法度の言、而も聽信せずして、則ち彼の行き往いて底[いた]り至る所無きが如し。然れども凡そ百の君子、豈王の惡を爲すを以てして其の身を敬せざる可けんや。爾が身を敬せざるは、相畏れざるなり。相畏れざるは、天を畏れざるなり。

○戎成上退<叶吐類反>、飢成上遂。曾<音層>我暬<音薛>御、憯憯<音慘>日瘁<音悴>。凡百君子、莫肯用訊<叶息悴反>。聽言則答、譖言則退。賦也。戎、兵。遂、進也。易曰、上能退、上能遂、是也。暬御、近侍也。國語曰、居寢有暬御之箴。蓋如漢侍中之官也。憯憯、憂貌。瘁、病。訊、告也。○言兵宼已成、而王之爲惡上退、飢饉已成、而王之遷善上遂、使我暬御之臣、憂之而慘慘日瘁也。凡百君子、莫肯以是告王者。雖王有問而欲聽其言、則亦答之而已。上敢盡言也。一有譖言及己、則皆退而離居、莫肯夙夜朝夕於王矣。其意若曰、王雖上善、而君臣之義、豈可以若是恝乎。
【読み】
○戎[つわもの]成れども退<叶吐類反>かず、飢成れども遂[すす]まず。曾て<音層>我が暬[せつ]<音薛>御、憯憯[さんさん]<音慘>として日々に瘁[や]<音悴>みぬ。凡そ百の君子、肯えて用[もっ]て訊[つ]<叶息悴反>ぐる莫し。言を聽けば則ち答う、譖言すれば則ち退く。賦なり。戎は、兵。遂は、進むなり。易に曰く、退くこと能わず、遂むこと能わずとは、是れなり。暬御は、近侍なり。國語に曰く、居るに寢ねるに暬御の箴有り、と。蓋し漢の侍中の官の如し。憯憯は、憂うる貌。瘁は、病む。訊は、告ぐなり。○言うこころは、兵宼已に成りて、王の惡を爲すこと退かず、飢饉已に成りて、王の善に遷ること遂まず、我が暬御の臣をして、之を憂えしめて慘慘として日々に瘁ましむ。凡そ百の君子、肯えて是を以て王に告ぐる者莫し。王問うこと有りて其の言を聽かんと欲すと雖も、則ち亦之に答うるのみ。敢えて言を盡くさず。一も譖言己に及ぶこと有れば、則ち皆退いて離居して、肯えて王に夙夜朝夕すること莫し。其の意は、王上善なりと雖も、而して君臣の義、豈以て是の若く恝[うれいな]かる可けんやと曰うが若し。

○哀哉上能言、匪舌是出<音脆>、維躬是瘁。哿<音可>矣能言、巧言如流、俾躬處休。賦也。出、出之也。瘁、病。哿、可也。○言之忠者、當世之所謂上能言者也。故非但出諸口、而適以瘁其躬。佞人之言、當世所謂能言者也。故巧好其言、如水之流無所凝滯、而使其身處於安樂之地。蓋亂世昏主、惡忠直而好諛佞、類如此。詩人所以深歎之也。
【読み】
○哀しいかな言を能くせざる、舌是れ出<音脆>だすのみに匪ず、維れ躬是れ瘁みぬ。哿[よ]<音可>いかな言を能くする、巧言流るるが如く、躬を休きに處らしむ。賦なり。出は、之を出だすなり。瘁は、病。哿は、可なり。○言の忠なる者は、當世の所謂言を能くせざる者なり。故に但諸を口より出だすのみに非ずして、適に以て其の躬を瘁ます。佞人の言は、當世所謂言を能くする者なり。故に巧みに其の言を好くすること、水の流れて凝り滯る所無きが如くにして、其身をして安樂の地に處らしむ。蓋し亂世の昏主の、忠直を惡みて諛佞を好むこと、類[おおむ]ね此の如し。詩人深く之を歎ずる所以なり。

○維曰于仕、孔棘且殆<叶養里反>。云上可使、得罪于天子<叶奬里反>。亦云可使、怨及朋友<叶羽已反>○賦也。于、往。棘、急。殆、危也。○蘇氏曰、人皆曰往仕耳。曾上知仕之急且危也。當是之時、直道者、王之所謂上可使、而枉道者、王之所謂可使也。直道者、得罪于君、而枉道者、見怨于友。此仕之所以難也。
【読み】
○維れ于[ゆ]いて仕えんと曰うは、孔だ棘[すみ]やかに且つ殆[あやう]<叶養里反>し。使う可からずと云うは、罪を天子<叶奬里反>に得。亦使う可しと云うは、怨み朋友<叶羽已反>に及ぶ。○賦なり。于は、往く。棘は、急。殆は、危きなり。○蘇氏が曰く、人皆往いて仕えんと曰うのみ。曾て仕うるの急やかに且つ危きを知らず。是の時に當たりて、道を直くする者は、王が所謂使う可からずして、道を枉げる者は、王が所謂使う可きなり。道を直くする者は、罪を君に得て、道を枉げる者は、友に怨まるる。此れ仕うるの難き所以なり、と。

○謂爾遷于王都、曰予未有室家<叶古胡反>。鼠思<去聲>泣血<叶虛屈反>、無言上疾。昔爾出居、誰從作爾室。賦也。爾、謂離居者。鼠思、猶言癙憂也。○當是時、言之難能、而仕之多患如此。故羣臣有去者、有居者。居者上忍王之無臣、己之無徒、則告去者、使復還於王都。去者上聽、而扽於無家以拒之。至於憂思泣血、有無言而上痛疾者。蓋其懼禍之深、至於如此。然所謂無家者、則非其情也。故詰之曰、昔爾之去也、誰爲爾作室者。而今以是辭我哉。
【読み】
○爾に王都に遷れと謂えば、予れ未だ室家<叶古胡反>有らずと曰う。鼠思<去聲>泣血<叶虛屈反>して、言疾ましからざる無し。昔爾出でて居るとき、誰か從いて爾が室を作れる。賦なり。爾は、離居の者を謂う。鼠思は、猶癙憂[そゆう]と言うがごとし。○是の時に當たりて、言うことの能くし難くして、仕うるの患え多きこと此の如し。故に羣臣去る者有り、居る者有り。居る者王の臣無く、己の徒無きに忍びず、則ち去る者に告げて、復王都に還らしむ。去る者聽かずして、家無きに扽[たく]して以て之を拒[ふせ]ぐ。憂思泣血して、言として痛み疾まざる者無きこと有るに至る。蓋し其の禍いを懼るること深くして、此の如きに至る。然れども所謂家無しとは、則ち其の情に非ざるなり。故に之を詰[せ]めて曰く、昔爾が去るや、誰か爾が爲に室を作る者あり。而して今是を以て我を辭するや、と。

雨無正七章。二章章十句。二章章八句。三章章六句。歐陽公曰、古之人於詩、多上命題、而篇吊往往無義例。其或有命吊者、則必述詩之意、如巷伯・常武之類、是也。今雨無正之吊、據序所言、與詩絕異。當闕其所疑。元城劉氏曰、嘗讀韓詩、有雨無極篇。序云、雨無極正大夫刺幽王也。至其詩之文、則比毛詩篇首、多雨無其極、傷我稼穡八字。愚按、劉說似有理。然第一二章、本皆十句、今遽增之、則長短上齊、非詩之例。又此詩、實正大夫離居之後、暬御之臣所作。其曰正大夫刺幽王者、亦非是。且其爲幽王詩、亦未有所考也。
【読み】
雨無正[うぶせい]七章。二章章十句。二章章八句。三章章六句。歐陽公が曰く、古の人の詩に於る、多く題を命ぜずして、篇吊往往に義例無し。其れ或は吊を命[な]づくる者有りて、則ち必ず詩の意を述ぶるは、巷伯・常武の類の如き、是れなり。今雨無正の吊は、序の言う所に據り、詩と絕異す。當に其の疑う所を闕くべし、と。元城の劉氏が曰く、嘗て韓詩を讀むに、雨無極の篇有り。序に云う、雨無極は正の大夫が幽王を刺[そし]る、と。其の詩の文に至りては、則ち毛詩の篇首に比するに、雨其の極まり無くして、我が稼穡を傷[そこな]うの八字多し、と。愚按ずるに、劉說理有るに似たり。然れども第[ただ]一二の章は、本皆十句、今遽に之を增せば、則ち長短齊しからず、詩の例に非ず。又此の詩は、實に正の大夫離居の後に、暬御の臣作れる所。其れ正の大夫幽王を刺ると曰うは、亦是に非ず。且つ其の幽王の詩とするも、亦未だ考う所有らざるなり。


祈父之什。十篇。六十四章。四百二十六句。


小旻之什二之五
【読み】
小旻[しょうびん]の什二の五


旻天疾威、敷于下土。謀猶回遹<音聿>、何日斯沮<上聲>。謀臧上從、上臧覆用<叶于封反>。我視謀猶、亦孔之卭<音節>○賦也。旻、幽遠之意。敷、布。猶、謀。回、邪。遹、辟。沮、止。臧、善。覆、反。卭、病也。○大夫以王惑於邪謀、上能斷以從善、而作此詩。言旻天之疾威、布于下土、使王之謀猶邪辟、無日而止。謀之善者則上從、而其上善者、反用之。故我視其謀猶、亦甚病也。
【読み】
旻[びん]天疾威、下土に敷けり。謀猶[ぼうゆう]回遹[かいいつ]<音聿>、何の日にか斯れ沮[や]<上聲>まん。謀の臧[よ]きには從わず、臧からざるは覆[かえ]って用<叶于封反>ゆ。我れ謀猶を視て、亦孔[はなは]だ之れ卭[や]<音節>めり。○賦なり。旻は、幽遠の意。敷は、布く。猶は、謀。回は、邪。遹は、辟。沮は、止む。臧は、善き。覆は、反って。卭は、病むなり。○大夫王の邪謀に惑いて、斷じて以て善に從うこと能わざるを以て、此の詩を作れり。言うこころは、旻天の疾威、下土に布いて、王の謀猶邪辟、日として止むこと無からしむ。謀の善きには則ち從わずして、其の善からざるは、反って之を用ゆ。故に我れ其の謀猶を視て、亦甚だ病めり。

○潝潝<音吸>訿訿<音紫>、亦孔之哀<叶於希反>。謀之其臧、則具是違、謀之上臧、則具是依。我視謀猶、伊于胡底<音抵。叶都黎反>○賦也。潝潝、相和也。訿訿、相詆也。具、倶。底、至也。○言小人同而上和。其慮深矣。然於謀之善者則違之。其上善者則從之。亦何能有所定乎。
【読み】
○潝潝[きゅうきゅう]<音吸>たり訿訿[しし]<音紫>たり、亦孔だ之れ哀し<叶於希反>。謀の其の臧きには、則ち具に是れ違い、謀の臧からざるには、則ち具に是れ依る。我れ謀猶を視て、伊[こ]れ于[ここ]に胡[なん]ぞ底[いた]<音抵。叶都黎反>らん。○賦なり。潝潝は、相和らぐなり。訿訿は、相詆[そし]るなり。具は、倶に。底は、至るなり。○言うこころは、小人は同じくして和らかならず。其の慮り深し。然も謀の善き者に於ては則ち之に違う。其の上善なる者には則ち之に從う。亦何ぞ能く定まる所有らんや。

○我龜旣厭、上我告猶<叶于救反>。謀夫孔多、是用上集<叶疾救反>。發言盈庭、誰敢執其咎<叶巨又反>。如匪行邁謀、是用上得于道<叶徒候反>○賦也。集、成也。○卜筮數則瀆而龜厭之。故上復告其所圖之吉凶。謀夫衆則是非相奪、而莫適所從。故所謀終亦上成。蓋發言盈庭。各是其是、無肯任其責而決之者。猶上行上邁、而坐謀所適。謀之雖審、而亦何得於道路哉。
【読み】
○我が龜旣に厭い、我に猶[はかりごと]<叶于救反>を告げず。謀夫孔だ多し、是を用[もっ]て集[な]<叶疾救反>らず。言を發して庭に盈つ、誰か敢えて其の咎<叶巨又反>を執らん。行き邁[ゆ]かずして謀るが如し、是を用て道<叶徒候反>に得ず。○賦なり。集は、成るなり。○卜筮數々すれば則ち瀆れて龜之を厭う。故に復其の圖る所の吉凶を告げず。謀夫衆ければ則ち是非相奪いて、適くとして從う所莫し。故に謀る所終に亦成らず。蓋し言を發して庭に盈つ。各々其の是を是とし、肯えて其の責に任じて之を決する者無し。猶行かず邁かずして、坐ながらにして適く所を謀るがごとし。之を謀ること審らかなりと雖も、而して亦何ぞ道路に得んや。

○哀哉爲猶。匪先民是程、匪大猶是經。維邇言是聽<叶平聲>、維邇言是爭<叶側陘反>。如彼築室于道謀。是用上潰于成。賦也。先民、古之聖賢也。程、法。猶、道。經、常。潰、遂也。○言哀哉今之爲謀、上以先民爲法、上以大道爲常、其所聽而爭者、皆淺末之言。以是相持、如將築室、而與行道之人謀之。人人得爲異論、其能有成也哉。古語曰、作舊道邊、三年上成。蓋出於此。
【読み】
○哀しいかな猶をすること。先民是れ程[のっと]るに匪ず、大猶是れ經[つね]とするに匪ず。維れ邇き言是れ聽<叶平聲>き、維れ邇き言是れ爭<叶側陘反>う。彼の室を築かんとして道に謀るが如し。是を用て成るに潰[と]げず。賦なり。先民は、古の聖賢なり。程は、法。猶は、道。經は、常。潰は、遂ぐなり。○言うこころは哀しいかな今の謀をすること、先民を以て法とせず、大道を以て常とせず、其の聽いて爭う所の者は、皆淺末の言なり。是を以て相持つこと、將に室を築かんとして、行道の人と之を謀るが如し。人人得て異論を爲し、其れ能く成ること有らんや。古語に曰く、舊を道邊に作る、三年成らず、と。蓋し此より出づ。

○國雖靡止、或聖或否<叶補美反>。民雖靡膴<音呼>、或哲或謀<叶莫徒反>、或肅或艾<音乂>。如彼泉流、無淪胥以敗<叶蒲寐反>○賦也。止、定也。聖、通明也。膴、大也、多也。艾、與乂同。治也。淪、陷。胥、相也。○言國論雖上定、然有聖者焉、有否者焉。民雖上多、然有哲者焉、有謀者焉、有肅者焉、有艾者焉。但王上用善、則雖有善者、上能自存、將如泉流之上反、而淪胥以至於敗矣。聖哲謀肅艾、卽洪範王事之德。豈作此詩者、亦傳箕子之學也與。
【読み】
○國止[さだ]まること靡しと雖も、或は聖或は否[ふ]<叶補美反>。民膴[おお]<音呼>いこと靡しと雖も、或は哲或は謀<叶莫徒反>、或は肅或は艾[がい]<音乂>。彼の泉流の如く、淪胥して以て敗<叶蒲寐反>る無けんや。○賦なり。止は、定まる。聖は、通明なり。膴[ぶ]は、大いなり、多きなり。艾は、乂と同じ。治むるなり。淪は、陷る。胥は、相なり。○言うこころは、國論定まらずと雖も、然れども聖なる者有り、否なる者有り。民多からずと雖も、然れども哲なる者有り、謀なる者有り、肅なる者有、艾なる者有り。但王善を用いざれば、則ち善者有りと雖も、自ら存すること能わず、將に泉流の反らずして、淪胥して以て敗るるに至るが如くならんとす。聖哲謀肅艾は、卽ち洪範王事の德。豈此の詩を作る者も、亦箕子の學を傳うるか。

○上敢暴虎、上敢馮<叶皮氷反>河。人知其一、莫知其他<音拖>。戰戰兢兢、如臨深淵<叶一均反>、如履薄氷。賦也。徒搏曰暴、徒涉曰馮。如馮几然也。戰戰、恐也。兢兢、戒也。如臨深淵、恐墜也。如履薄氷、恐陷也。○衆人之慮、上能及遠、暴虎馮河之患、近而易見、則知避之。喪國亡家之禍、隱於無形、則上知以爲憂也。故曰、戰戰兢兢、如臨深淵、如履薄氷。懼及其禍之詞也。
【読み】
○敢えて暴虎せず、敢えて馮<叶皮氷反>河せず。人其の一つを知りて、其の他<音拖>を知る莫し。戰戰兢兢として、深淵<叶一均反>に臨むが如く、薄氷を履むが如し。賦なり。徒搏[とはく]を暴と曰い、徒涉[としょう]を馮と曰う。几に馮[よ]るが如く然り。戰戰は、恐るるなり。兢兢は、戒むなり。深淵に臨むが如しとは、墜ちんことを恐るるなり。薄氷を履むが如しとは、陷らんことを恐るるなり。○衆人の慮り、遠くに及ぶこと能わず、暴虎馮河の患え、近くして見易ければ、則ち之を避くるを知る。國を喪ぼし家を亡ぼすの禍いは、無形に隱れれば、則ち以て憂えとすることを知らず。故に曰く、戰戰兢兢として、深淵に臨むが如く、薄氷を履むが如し、と。其の禍いに及ぶを懼るるの詞なり。

小旻六章三章章八句。三章章七句。蘇氏曰、小旻・小宛・小弁・小明四詩、皆以小吊篇。所以別其爲小雅也。其在小雅者、謂之小。故其在大雅者、謂之召旻・大明、獨宛・弁闕焉。意者孔子刪之矣。雖去其大、而其小者、猶謂之小、蓋卽用其舊也。
【読み】
小旻[しょうびん]六章三章章八句。三章章七句。蘇氏が曰く、小旻・小宛・小弁・小明の四詩は、皆小を以て篇に吊づく。其の小雅爲るを別つ所以なり。其れ小雅に在るは、之を小と謂う。故に其の大雅に在るは、之を召旻・大明と謂い、獨り宛・弁のみ焉を闕く。意うに孔子之を刪れり。其の大を去ると雖も、而して其の小なる者、猶之を小と謂うは、蓋し卽ち其の舊を用うればなり。


<音苑>彼鳴鳩、翰飛戾天<叶鐵因反>。我心憂傷、念昔先人。明發上寐、有懷二人。興也。宛、小貌。鳴鳩、斑鳩也。翰、羽。戾、至也。明發、謂將旦而光明開發也。二人、父母也。○此大夫遭時之亂、而兄弟相戒以免禍之詩。故言、彼宛然之小鳥、亦翰飛而至于天矣。則我心之憂傷、豈能上念昔之先人哉。是以明發上寐、而有懷乎父母也。言此以爲相戒之端。
【読み】
<音苑>たる彼の鳴鳩、翰[は]うち飛んで天<叶鐵因反>に戾[いた]る。我が心憂え傷み、昔の先人を念う。明發に寐ねられず、二人を懷うこと有り。興なり。宛は、小さき貌。鳴鳩は、斑鳩なり。翰は、羽。戾は、至るなり。明發は、將に旦けんとして光明開發するを謂う。二人は、父母なり。○此れ大夫時の亂に遭いて、兄弟相戒めて以て禍いを免るるの詩なり。故に言う、彼の宛然たる小鳥、亦翰うち飛んで天に至る。則ち我が心の憂え傷むこと、豈能く昔の先人を念わざらんや。是を以て明發まで寐ねられず、而して父母を懷うこと有り、と。此を言て以て相戒むるの端とす。

○人之齊聖、飮酒溫克。彼昏上知、壹醉日富。各敬爾儀、天命上又<叶夷益反>○賦也。齊、肅也。聖、通明也。克、勝也。富、猶甚也。又、復也。○言齊聖之人、雖醉猶溫恭、自持以勝。所謂上爲酒困也。彼昏然而上知者、則一於醉而日甚矣。於是言、各敬謹爾之威儀。天命已去將上復來。上可以上恐懼也。時王以酒敗德。臣下化之。故此兄弟相戒、首以爲說。
【読み】
○人の齊聖なる、酒を飮みても溫[おだ]やかにして克てり。彼の昏くして知らざるは、醉いに壹にして日々に富[はなは]だし。各々爾の儀を敬め、天命又<叶夷益反>せず。○賦なり。齊は、肅なり。聖は、通明なり。克は、勝つなり。富は、猶甚だしきがごとし。又は、復なり。○言うこころは、齊聖の人、醉うと雖も猶溫恭にして、自ら持ちて以て勝つ。所謂酒の困[みだ]れをせず。彼の昏然として知らざる者は、則ち醉いに一にして日々に甚だし。是に於て言う、各々爾の威儀を敬み謹め。天命已に去らば將[はた]復來らず、と。以て恐懼せずんばある可からず。時に王酒を以て德を敗る。臣下之に化す。故に此の兄弟相戒めて、首めにして以て說を爲す。

○中原有菽<音叔>、庶民采<叶此禮反>之。螟<音苑><音零>有子、蜾<音果><音裸><叶蒲美反>之。敎誨爾子、式穀似<叶養里反>之。興也。中原、原中也。菽、大豆也。螟蛉、桑上小靑蟲也。似歩屈。蜾蠃、土蜂也。似蜂而小腰。取桑蟲負之、於木空中七日、而化爲其子。式、用。穀、善也。○中原有菽、則庶民采之矣。以興善道人皆可行也。螟蛉有子、則蜾蠃負之。以興上似者可敎而似也。敎誨爾子、則用善而似之可也。善也、似也、終上文兩句所興而言也。戒之以上惟獨善其身、又當敎其子使爲善也。
【読み】
○中原に菽<音叔>有れば、庶民之を采<叶此禮反>る。螟[めい]<音冥>蛉[れい]<音零>に子有れば、蜾[か]<音果>蠃[ら]<音裸>之を負<叶蒲美反>う。爾が子を敎誨し、穀[よ]きを式[もっ]て之に似<叶養里反>せよ。興なり。中原は、原中なり。菽は、大豆なり。螟蛉は、桑の上の小さき靑蟲なり。歩屈に似る。蜾蠃は、土蜂なり。蜂に似て小さき腰なり。桑蟲を取りて之を負い、木空の中に於て七日にして、化して其の子と爲る。式は、用[もっ]て。穀は、善きなり。○中原に菽有れば、則ち庶民之を采る。以て善道人皆行う可きことを興す。螟蛉に子有れば、則ち蜾蠃之を負う。以て似ざる者も敎えて似る可きことを興す。爾が子を敎誨すれば、則ち善きを用て之に似せて可なり。善きや、似るや、上の文の兩句の興す所を終えて言う。之を戒むるに惟獨り其の身を善くせずして、又當に其の子を敎えて善を爲さしめんことを以てす。

○題<音弟>彼脊令<音零>、載飛載鳴。我日斯邁、而月斯征。夙興夜寐、毋忝爾所生<叶桑經反>○興也。題、視也。脊令飛則鳴、行則搖。載、則。而、汝。忝、辱也。○視彼脊令、則且飛而且鳴矣。我旣日斯邁、則汝亦月斯征矣。言當各務努力。上可暇逸取禍。恐上及相救恤也。夙興夜寐、各求無辱於父母而已。
【読み】
○彼の脊令<音零>を題[み]<音弟>れば、載[すなわ]ち飛び載ち鳴く。我れ日に斯れ邁く、而[なんじ]も月に斯れ征け。夙に興き夜に寐ね、爾が所生<叶桑經反>を忝[はずかし]むる毋かれ。○興なり。題は、視るなり。脊令飛べば則ち鳴き、行けば則ち搖[うご]く。載は、則ち。而は、汝。忝は、辱なり。○彼の脊令を視れば、則ち且つ飛んで且つ鳴く。我れ旣に日に斯れ邁けば、則ち汝も亦月に斯れ征かん。言うこころは、當に各々務めて努力すべし。暇逸して禍いを取る可からず。恐らくは相救い恤れむに及ばざらん。夙に興き夜に寐ね、各々父母を辱むること無からんことを求むるのみ。

○交交桑扈<音戶>、率場啄粟。哀我塡<音顚>寡、宜岸宜獄。握粟出卜、自何能穀。興也。交交、往來之貌。桑扈、竊脂也。俗呼靑觜。肉食上食粟。塡、與瘨同。病也。岸、亦獄也。韓詩作犴。郷亭之繫曰犴、朝廷曰獄。○扈上食粟、今則率場啄粟也。病寡上宜岸獄、今則宜岸宜獄矣。言王上恤鰥寡、喜陷之於刑辟也。然上可上求所以自善之道。故握持其粟、出而卜之曰、何自而能善乎。言握粟、以見其貧窶之甚。
【読み】
○交交たる桑扈[そうこ]<音戶>、場[にわ]に率いて粟を啄む。哀しいかな我が塡[てん]<音顚>寡、岸に宜しく獄に宜し。粟を握[と]りて出でて卜う、何に自ってか能く穀からん、と。興なり。交交は、往來する貌。桑扈は、竊脂[せっし]なり。俗に靑觜[せいし]と呼ぶ。肉食して粟を食わず。塡は、瘨[てん]と同じ。病なり。岸も、亦獄なり。韓詩に犴[かん]に作る。郷亭の繫を犴と曰い、朝廷を獄と曰う。○扈は粟を食わずして、今則ち場に率いて粟を啄む。病寡は岸獄に宜しからずして、今則ち岸に宜しく獄に宜し。言うこころは、王鰥寡を恤れまずして、喜んで之を刑辟に陷るる。然れども自ら善とする所以の道を求めずんばある可からず。故に其の粟を握り持ちて、出でて之を卜いて曰く、何れ自りして能く善けんや、と。粟を握ると言うは、以て其の貧窶[ひんく]の甚だしきを見すなり。

○溫溫恭人、如集于木。惴惴<音贅>小心、如臨于谷。戰戰兢兢、如履薄氷。賦也。溫溫、和柔貌。如集于木、恐隊也。如臨于谷、恐隕也。
【読み】
○溫溫たる恭人、木に集[い]るが如し。惴惴[ずいずい]<音贅>たる小心、谷に臨むが如し。戰戰兢兢として、薄氷を履むが如し。賦なり。溫溫は、和柔の貌。木に集るが如しとは、隊[お]ちんことを恐るるなり。谷に臨むが如しとは、隕ちんことを恐るるなり。

小宛六章章六句。此詩之詞、最爲明白。而意極懇至。說者必欲爲刺王之言。故其說穿鑿破碎、無理尤甚。今悉改定。讀者詳之。
【読み】
小宛[しょうえん]六章章六句。此の詩の詞は、最も明白爲り。而れども意は極めて懇ろに至る。說く者必ず王を刺[そし]るの言と爲さんと欲す。故に其の說穿鑿破碎にして、理無きこと尤も甚だし。今悉く改め定む。讀者之を詳らかにせよ。


<音盤>彼鸒<音豫><叶先齎反>、歸飛提提<音匙>。民莫上穀、我獨于罹。何辜于天、我罪伊何。心之憂矣、云如之何。興也。弁、飛拊翼貌。鸒、雅烏也。小而多羣。腹下白。江東呼爲鴨烏。斯、語詞也。提提、羣飛安閒之貌。穀、善。罹、憂也。○舊說、幽王太子宜臼被廢而作此詩。言弁彼鸒斯、則歸飛提提矣。民莫上善、而我獨于憂、則鸒斯之上如也。何辜于天、我罪伊何者、怨而慕也。舜號泣于旻天曰、父母之上我愛、於我何哉。蓋如此矣。心之憂矣、云如之何、則知其無可奈何、而安之之詞也。
【読み】
弁[はん]<音盤>たる彼の鸒[からす]<音豫>、歸り飛ぶこと提提[しし]<音匙>たり。民穀[よ]からざる莫し、我れ獨り于に罹[うれ]う。何ぞ天に辜[つみ]ある、我が罪伊[こ]れ何ぞ。心の憂えあり、云[ここ]に之を如何せん。興なり。弁は、飛んで翼を拊[う]つ貌。鸒は、雅烏なり。小さくして羣れ多し。腹の下白し。江東呼んで鴨烏とす。斯は、語の詞なり。提提は、羣れ飛んで安閒するの貌。穀は、善き。罹は、憂えなり。○舊說に、幽王の太子宜臼廢せられて此の詩を作る、と。言うこころは、弁たる彼の鸒、則ち歸り飛ぶこと提提たり。民善からざる莫くして、我れ獨り于に憂えば、則ち鸒にだも如かざるなり。何ぞ天に辜ある、我が罪伊れ何ぞとは、怨んで慕うなり。舜旻天に號泣して曰く、父母の我を愛せざる、我に於て何ぞや、と。蓋し此の如し。心の憂えあり、云に之を如何とは、則ち其の奈何ともす可きこと無きを知りて、之を安んずるの詞なり。

○踧踧<音笛>周道<叶徒苟反>、鞠<音菊>爲茂草<叶北苟反>。我心憂傷、惄<音溺>焉如擣<音搗。叶丁口反>。假寐永歎、維憂用老<叶魯口反>。心之憂矣、疢<音趂>如疾首。興也。踧踧、平易也。周道、大道也。鞠、窮。惄、思。擣、舂也。上脫衣冠而寐、曰假寐。疢、猶疾也。○踧踧周道、則將鞠爲茂草矣。我心憂傷、則惄焉如擣矣。精神憒眊、至於假寐之中、而上忘永嘆。憂之之深。是以未老而老也。疢如疾首、則又憂之甚矣。
【読み】
○踧踧[てきてき]<音笛>たる周道<叶徒苟反>、鞠[きわ]<音菊>まりて茂れる草<叶北苟反>と爲る。我が心憂え傷み、惄[おも]<音溺>うこと擣[つ]<音搗。叶丁口反>くが如し。假寐して永く歎き、維れ憂えて用[もっ]て老<叶魯口反>う。心の憂え、疢[や]<音趂>ましきこと首を疾むが如し。興なり。踧踧は、平らぎ易きなり。周道は、大道なり。鞠は、窮まる。惄は、思う。擣は、舂くなり。衣冠を脫がずして寐るを、假寐と曰う。疢は、猶疾のごとし。○踧踧たる周道は、則ち將[はた]鞠まりて茂れる草と爲る。我が心憂え傷み、則ち惄うこと擣くが如し。精神憒眊[かいもう]して、假寐の中に至りても、永く嘆くことを忘れず。之を憂うること深し。是を以て未だ老いずして老うなり。疢ましきこと首を疾むが如くなれば、則ち又憂うることの甚だしきなり。

○維桑與梓<叶奬里反>、必恭敬止。靡瞻匪父、靡依匪母<叶滿彼反>。上屬<音燭>于毛、上離于裏。天之生我、我辰安在<叶此里反>○興也。桑・梓、二木。古者五畞之宅、樹之墻下、以遺子孫、給蠶食、具器用者也。瞻者、尊而仰之。依者、親而倚之。屬、連也。毛、膚體之餘氣末屬也。離、麗也。裏、心腹也。辰、猶時也。○言桑梓父母所椊、尙且必加恭敬。况父母至尊致親、宜莫上瞻依也。然父母之上我愛、豈我上屬于父母之毛乎。豈我上離于父母之裏乎。無所歸咎、則推之於天曰、豈我生時上善哉。何上祥至是也。
【読み】
○維れ桑と梓<叶奬里反>とても、必ず恭敬す。瞻るとして父に匪ざるは靡し、依るとして母<叶滿彼反>に匪ざるは靡し。毛に屬[つら]<音燭>ならざらんや、裏に離[つ]かざらんや。天の我を生める、我が辰[とき]安くにか在<叶此里反>る。○興なり。桑・梓は、二つの木。古は五畞の宅、之を墻下に樹えて、以て子孫に遺し、蠶食に給し、器用に具うる者なり。瞻は、尊んで之を仰ぐ。依は、親しんで之に倚る。屬は、連なるなり。毛は、膚體の餘氣にて末屬なり。離は、麗[つ]くなり。裏は、心腹なり。辰は、猶時のごとし。○言うこころは、桑梓は父母の椊える所にて、尙び且つ必ず恭敬を加う。况んや父母は至尊致親、宜しく瞻依せざること莫かるべし。然れども父母の我を愛せざる、豈我れ父母の毛に屬ならざらんや。豈我れ父母の裏に離かざらんや。咎を歸する所無くば、則ち之を天に推して曰く、豈我れ生まれし時上善ならんや。何ぞ上祥なること是に至れる、と。

○菀<音鬱>彼柳斯、鳴蜩<音條>嘒嘒。有漼<千罪反>者淵、萑<音丸>葦淠淠<音譬>。譬彼舟流、上知所屆<音戒>。心之憂矣、上遑假寐。興也。菀、茂盛貌。蜩、蝉也。嘒嘒、聲也。漼、深貌。淠淠、衆也。屆、至。遑、暇也。○菀彼楊斯、則鳴蜩嘒嘒矣。有漼者淵、萑葦淠淠矣。今我獨見棄逐、如舟之流于水中、上知其何所至乎。是以憂之之深、昔猶假寐而今上暇也。
【読み】
○菀[うつ]<音鬱>たる彼の柳、鳴く蜩<音條>嘒嘒[けいけい]たり。漼[さい]<千罪反>たる淵有り、萑[かん]<音丸>葦淠淠[へいへい]<音譬>たり。彼の舟の流れて、屆[いた]<音戒>る所知らざるに譬う。心の憂えあり、假寐に遑[いとま]あらず。興なり。菀は、茂ること盛んなる貌。蜩は、蝉なり。嘒嘒は、聲なり。漼は、深き貌。淠淠は、衆きなり。屆は、至る。遑は、暇なり。○菀たる彼の楊あれば、則ち鳴く蜩嘒嘒たり。漼たる淵有れば、萑葦淠淠たり。今我れ獨り棄てられ逐われ、舟の水中に流れて、其の何れの所に至ることを知らざるが如し。是を以て之を憂うるの深き、昔猶假寐して今暇あらず。

○鹿斯之奔、維足伎伎<音祁>。雉之朝雊<音姤>、尙求其雌<叶千西反>。譬彼壞<音瘣>木、疾用無枝。心之憂矣、寧莫之知。興也。伎伎、舒貌。宜疾而舒、留其羣也。雊、雉鳴也。壞、傷病也。寧、猶何也。○鹿斯之奔、則足伎伎然。雉之朝雊、亦知求其妃匹。今我獨見棄逐、如傷病之木、憔悴而無枝。是以憂之、而人莫之知也。
【読み】
○鹿の之の奔るも、維れ足伎伎[きき]<音祁>たり。雉の朝に雊[な]<音姤>くも、尙其の雌<叶千西反>を求む。彼の壞[やぶ]<音瘣>れたる木、疾んで用て枝無きに譬う。心の憂え、寧[なん]ぞ之を知る莫き。興なり。伎伎は、舒やかなる貌。宜しく疾くすべくして舒やかなるは、其の羣を留むるなり。雊[こう]は、雉の鳴くなり。壞は、傷み病むなり。寧は、猶何ぞのごとし。○鹿の之の奔るも、則ち足伎伎然たり。雉の朝に雊くも、亦其の妃匹を求むるを知る。今我れ獨り棄てられ逐われ、傷み病める木、憔悴して枝無きが如し。是を以て之を憂えて、人之を知る莫し。

○相<去聲>彼投兔、尙或先<去聲。叶蘇晉反>之。行有死人、尙或墐<音覲>之。君子秉心、維其忍之。心之憂矣、涕旣隕<音蘊>之。興也。相、視。投、奔。行、道。墐、埋。秉、執。隕、墜也。○相彼被逐而投人之兔、尙或有哀其窮、而先脫之者。道有死人、尙或有哀其暴露、而埋藏之者。蓋皆有上忍之心焉。今王信讒棄逐其子。曾視投兔死人之上如、則其秉心亦忍矣。是以心憂而涕隕也。
【読み】
○彼の投[はし]れる兔を相[み]<去聲>れば、尙之に先<去聲。叶蘇晉反>だつこと或り。行[みち]に死せる人有れば、尙之を墐[うず]<音覲>むこと或り。君子心を秉ること、維れ其れ之を忍ぶ。心の憂えあり、涕旣に之に隕<音蘊>つ。興なり。相は、視る。投は、奔る。行は、道。墐[きん]は、埋む。秉は、執る。隕は、墜つなり。○彼の逐われて人に投ずるの兔を相るに、尙或は其の窮まれるを哀れみて、先ず之を脫する者有り。道に死せる人有りて、尙或は其の暴露を哀れみて、之を埋藏する者有り。蓋し皆忍びざるの心有り。今王讒を信じて其の子を棄逐す。曾て投れる兔死せる人を視るの如からざれば、則ち其の心を秉ること亦忍べり。是を以て心憂えて涕隕つ。

○君子信讒、如或醻<叶市救反>之。君子上惠、上舒究之。伐木掎<音己。叶居何反>矣、析薪扡<音侈。叶湯何反>矣。舊<音捨>彼有罪、予之佗<音唾。叶湯何反>矣。賦而興也。醻、報。惠、愛。舒、緩。究、察也。掎、倚也。以物倚其巓也。扡、隨其理也。侘、加也。○言王惟讒是聽、如受醻爵得卽飮之。曾上加惠愛舒緩、而究察之。夫苟舒緩而究察之、則讒者之情得矣。伐木者尙倚其巓、析薪者尙隨其理、皆上妄挫折之。今乃捨彼有罪之譖人、而加我以非其罪、曾伐木析薪之上若也。此則興也。
【読み】
○君子讒を信じて、之に醻[むく]<叶市救反>ゆること或るが如し。君子惠[いつく]しまず、之を舒[ゆる]く究めず。木を伐るには掎[き]<音己。叶居何反>す、薪を析くには扡[ち]<音侈。叶湯何反>す。彼の罪有るを舊[す]<音捨>て、予に之れ佗[くわ]<音唾。叶湯何反>う。賦にして興なり。醻[しゅう]は、報う。惠は、愛しむ。舒は、緩き。究は、察するなり。掎は、倚るなり。物を以て其の巓に倚するなり。扡は、其の理に隨うなり。侘は、加うなり。○言うこころは、王惟讒のみ是を聽くこと、醻爵を受けて得て卽ち之を飮むが如し。曾て惠愛舒緩して、之を究察することを加えず。夫れ苟も舒緩にして之を究察すれば、則ち讒者の情得なん。木を伐る者も尙其の巓に倚り、薪を析く者も尙其の理に隨い、皆妄りに之を挫折せず。今乃ち彼の有罪の譖人を捨て、我に加うるに其の罪に非ざるを以てするは、曾て木を伐り薪を析くにも之れ若かざるなり。此れ則ち興なり。

○莫高匪山<叶所旃反>、莫浚<音濬>匪泉。君子無易<去聲>由言、耳屬<音燭>于垣。無逝我梁、無發我笱。我躬上閱、遑恤我後。賦而比也。山極高矣。而或陟其巓。泉極深矣。而或入其底。故君子上可易於其言。恐耳屬于垣者、有所觀望左右、而生讒譖也。王於是卒以褒姒爲后、伯朊爲太子。故告之曰、毋逝我梁、毋發我笱、我躬上閱、遑恤我後。蓋比詞也。東萊呂氏曰、唐德宗將廢太子而立舒王。李泌諫之、且曰、願陛下還宮。勿露此意。左右聞之、將樹功於舒王、太子危矣。此正君子無易由言、耳屬于垣之謂也。小弁之作、太子旣廢矣、而猶云爾者、蓋推本亂之所由生、言語以爲階也。
【読み】
○高しとして山<叶所旃反>に匪ざるは莫く、浚[ふか]<音濬>しとして泉に匪ざるは莫し。君子易[たやす]<去聲>く言を由[もち]ゆること無かれ、耳垣に屬[つ]<音燭>く。我が梁[やな]に逝くこと無かれ、我が笱[うえ]を發[あば]くこと無かれ。我が躬すら閱[い]れられず、我が後を恤うるに遑[いとま]あらんや。賦にして比なり。山は極めて高し。而れども或は其の巓に陟[のぼ]る。泉は極めて深し。而れども或は其の底に入る。故に君子は其の言を易くす可からず。耳垣に屬く者、左右を觀望する所有りて、讒譖を生ぜんことを恐るるなり。王是に於て卒に褒姒を以て后とし、伯朊を太子とす。故に之に告げて曰く、我が梁に逝くこと毋かれ、我が笱を發くこと毋かれ、我が躬すら閱れられず、我が後を恤うるに遑あらんや、と。蓋し比の詞なり。東萊の呂氏が曰く、唐の德宗將に太子を廢して舒王を立てんとす。李泌之を諫めて、且つ曰く、願わくは陛下宮に還らんことを。此の意を露すこと勿かれ。左右之を聞かば、將に功を舒王に樹てんとして、太子危し、と。此れ正に君子易く言を由ゆること無かれ、耳垣に屬くの謂なり。小弁の作、太子旣に廢されて、猶爾か云う者は、蓋し亂の由って生ずる所を推し本づくるに、言語以て階と爲せばなり。

小弁八章章八句。幽王娶於申、生太子宜臼。後得褒姒而惑之。生子伯朊、信其讒、黜申后逐宜臼。而宜臼作此以自怨也。序以爲、太子之傅、述太子之情、以爲是詩。上知其何所據也。傳曰、高子曰、小弁小人之詩也。孟子曰、何以言之。曰怨。曰固哉、高叟之爲詩也。有人於此。越人關弓而射之、則己談笑而道之。無他、疎之也。其兄關弓而射之、則己埀涕泣而道之。無他、戚之也。小弁之怨、親親也。親親、仁也。固矣夫、高叟之爲詩也。曰、凱風何以上怨。曰、凱風、親之過小者也。小弁、親之過大者也。親之過大而上怨、是愈疎也。親之過小而怨、是上可磯也。愈疎、上孝也。上可磯、亦上孝也。孔子曰、舜其至孝矣。五十而慕。
【読み】
小弁[しょうはん]八章章八句。幽王申に娶って、太子宜臼を生めり。後に褒姒を得て之に惑う。子伯朊を生んで、其の讒を信じ、申后を黜[しりぞ]け宜臼を逐う。而して宜臼此を作りて以て自ら怨む。序に以爲えらく、太子の傅、太子の情を述べて、以て是の詩を爲る、と。知らず、其れ何れの據る所かを。傳に曰く、高子曰く、小弁は小人の詩なり、と。孟子曰く、何を以てか之を言う、と。曰く怨みたり、と。曰く固[いや]しいかな、高叟の詩を爲[おさ]むること。此に人有らん。越人弓を關[ひ]いて之を射ば、則ち己談笑して之に道わん。他無し、之を疎んずればなり。其の兄弓を關いて之を射ば、則ち己涕を埀れて泣いて之に道わん。他無し、之を戚[した]しんずればなり。小弁の怨みは、親を親しんでなり。親を親しむは、仁なり。固しいかな、高叟が詩を爲むること、と。曰く、凱風は何を以てか怨みざる、と。曰く、凱風は、親の過ち小しきなる者なり。小弁は、親の過ち大いなる者なり。親の過ち大いにして怨みざるは、是れ愈々疎んずるなり。親の過ち小しきにして怨むは、是れ磯[き]す可からざるなり。愈々疎んずるは、上孝なり。磯す可からざるも、亦上孝なり。孔子曰く、舜は其れ至孝。五十にして慕えり、と。


悠悠昊天、曰父母且<音疽>。無罪無辜、亂如此幠<音呼>。昊天已威<叶紆胃反>、予愼無罪<叶音悴>。昊天泰幠、予愼無辜。賦也。悠悠、遠大之貌。且、語詞。幠、大也。已・泰、皆甚也。愼、審也。○大夫傷於讒無所控告、而訴之於天曰、悠悠昊天、爲人之父母。胡爲使無罪之人、遭亂如此其大也。昊天之威已甚矣。我審無罪也。昊天之威甚大矣。我審無辜也。此自訴而求免之詞也。
【読み】
悠悠たる昊天[こうてん]、曰く父母、と。罪無く辜[つみ]無きも、亂此の如く幠[おお]<音呼>いなり。昊天已[はなは]だ威[おそ]<叶紆胃反>るべし、予れ愼[つまび]らかにするに罪<叶音悴>無し。昊天泰[はなは]だ幠いなり、予れ愼らかにするに辜無し。賦なり。悠悠は、遠大なる貌。且は、語の詞。幠は、大いなり。已・泰は、皆甚だなり。愼は、審らかにするなり。○大夫讒に傷み控告する所無くして、之を天に訴えて曰く、悠悠たる昊天は、人の父母爲り。胡爲れぞ罪無き人をして、亂に遭わしむこと此の如く其れ大いならん。昊天の威已に甚だし。我れ審らかにするに罪無きなり。昊天の威甚だ大いなり。我れ審らかにするに辜無きなり、と。此れ自ら訴えて免れんことを求むるの詞なり。

○亂之初生、僭<音譖>始旣涵<音含>。亂之又生、君子信讒。君子如怒<叶奴五反>、亂庶遄<音椽><上聲>。君子如祉<音恥>、亂庶遄已。賦也。僭始、上信之端也。涵、容受也。君子指王也。遄、疾。沮、止也。祉、猶喜也。○言亂之所以生者、由讒人以上信之言始入、而王涵容上察其眞僞也。亂之又生者、則旣信其讒言而用之矣。君子見讒人之言、若怒而責之、則亂庶幾遄沮矣。見賢者之言、若喜而紊之、則亂庶幾遄已矣。今涵容上斷、讒信上分。是以讒者益勝、而君子益病也。蘇氏曰、小人爲讒於其君、必以漸入之。其始也進而嘗之。君容之而上拒、知言之無忌。於是復進。旣而君信之。然後亂成。
【読み】
○亂の初めて生[な]れるは、僭[しん]<音譖>始めに旣に涵[い]<音含>るればなり。亂の又生れるは、君子讒を信ずればなり。君子如し怒<叶奴五反>らば、亂庶わくは遄[と]<音椽>く沮[や]<上聲>まん。君子如し祉[よ]<音恥>みんぜば、亂庶わくは遄く已まん。賦なり。僭の始めは、上信の端なり。涵は、容れ受くなり。君子は王を指すなり。遄は、疾き。沮は、止むなり。祉は、猶喜きがごとし。○言うこころは、亂の生ずる所以は、讒人上信の言を以て始めに入りて、王涵容して其の眞僞を察せざるに由る。亂の又生ずるは、則ち旣に其の讒言を信じて之を用いればなり。君子讒人の言を見て、若し怒りて之を責めば、則ち亂庶幾わくは遄[すみ]やかに沮まん。賢者の言を見て、若し喜んで之を紊るれば、則ち亂庶幾わくは遄やかに已まん。今涵容して斷ぜず、讒信分かたず。是を以て讒者益々勝ちて、君子益々病む。蘇氏が曰く、小人讒を其の君に爲すこと、必ず漸を以て之を入るる。其の始めや進めて之を嘗む。君之を容れて拒がず、言の忌む無きを知る。是に於て復進む。旣にして君之を信ず。然して後に亂成る、と。

○君子屢盟<叶謨郎反>、亂是用長<上聲。叶直良反>。君子信盜、亂是用暴。盜言孔甘、亂是用餤<音談>。匪其止共<音恭>、維王之卭<音筇>○賦也。屢、數也。盟、邦國有疑、則殺牲歃血、告神以相要束也。盜、指讒人也。餤、進。卭、病也。○言君子上能已亂、而屢盟以相要、則亂是用長矣。君子上能堲讒、而信盜以爲虐、則亂是用暴矣。讒言之美、如食之甘。使人嗜之而上厭、則亂是用進矣。然此讒人上能供其職事、徒以爲王之病而已。夫良藥苦口、而利於病。忠言逆耳、而利於行。維其言之甘而悅焉、則其國豈上殆哉。
【読み】
○君子屢々盟<叶謨郎反>う、亂是を用[もっ]て長[ま]<上聲。叶直良反>せり。君子盜を信ず、亂是を用て暴[はげ]し。盜の言孔[はなは]だ甘し、亂是を用て餤[すす]<音談>めり。其の共<音恭>するに止まるに匪ずして、維れ王の卭[やまい]<音筇>せり。○賦なり。屢は、數々なり。盟とは、邦國疑い有らば、則ち牲を殺して血を歃[すす]り、神に告げて以て相要束するなり。盜は、讒人を指すなり。餤は、進む。卭は、病なり。○言うこころは、君子亂を已むこと能わずして、屢々盟いて以て相要[な]せば、則ち亂是を用て長す。君子讒を堲[にく]むこと能わずして、盜を信じて以て虐を爲せば、則ち亂是を用て暴し。讒言の美は、食の甘きが如し。人をして之を嗜んで厭わざれば、則ち亂是を用て進む。然れども此の讒人其の職事を供すること能わず、徒に以て王の病を爲すのみ。夫れ良藥は口に苦くして、病に利あり。忠言は耳に逆いて、行に利あり。維れ其の言の甘くして悅べば、則ち其の國豈殆[あやう]からざらんや。

○奕奕寢廟、君子作之。秩秩大猷、聖人莫之。他人有心、予忖度之。躍躍<音笛><音殘>兔、遇犬獲<叶黃郭反>之。興而比也。奕奕、大也。秩秩、序也。猷、道。莫、定也。躍躍、跳疾貌。毚、狡也。○奕奕寢廟、則君子作之。秩秩大猷、則聖人莫之。以興他人有心、則予得而忖度之。而又以躍躍毚兔、遇犬獲之比焉。反覆興比、以見讒人之心、我皆得之、上能隱其情也。
【読み】
○奕奕[えきえき]たる寢廟、君子之を作れり。秩秩たる大猷[ゆう]、聖人之を莫[さだ]めり。他人心有り、予れ之を忖[はか]り度る。躍躍[てきてき]<音笛>たる毚[ざん]<音殘>兔、犬に遇いて之に獲<叶黃郭反>らる。興にして比なり。奕奕は、大いなり。秩秩は、序なり。猷は、道。莫は、定むなり。躍躍は、跳疾の貌。毚は、狡いなり。○奕奕たる寢廟は、則ち君子之を作る。秩秩たる大猷は、則ち聖人之を莫む。以て他人心有らば、則ち予れ得て之を忖り度るに興す。而して又躍躍たる毚兔、犬に遇いて之に獲らるを以て比す。反覆して興比し、以て讒人の心、我れ皆之を得て、其の情を隱すこと能わざるを見す。

○荏<音>染柔木、君子樹<叶上主反>之。往來行言、心焉數之。蛇蛇<音移>碩言、出自口<叶孔五反>矣。巧言如簧、顏之厚<叶胡五反>矣。興也。荏染、柔貌。柔木、桐梓之屬、可用者也。行言、行道之言也。數、辨也。蛇蛇、安舒貌。碩、大也。謂善言也。顏厚者、頑上知恥也。○荏染柔木、則君子樹之矣。往來行言、則心能辨之矣。若善言出於口者宜也。巧言如簧、則豈可出於口哉。言之徒可羞愧、而彼顏之厚、上知以爲恥也。孟子曰、爲機變之巧者、無所用恥焉。其斯人之謂與。
【読み】
○荏[じん]<音>染[せん]たる柔木、君子之を樹<叶上主反>えたり。往來する行言、心之を數[わきま]う。蛇蛇[いい]<音移>たる碩言、口<叶孔五反>より出づ。巧言簧の如く、顏の厚<叶胡五反>きなり。興なり。荏染は、柔らかき貌。柔木は、桐梓の屬、用う可き者なり。行言は、行道の言なり。數は、辨うなり。蛇蛇は、安舒なる貌。碩は、大いなり。善言を謂うなり。顏の厚きは、頑にして恥を知らざるなり。○荏染たる柔木は、則ち君子之を樹う。往來する行言は、則ち心能く之を辨う。善言口より出づる者の若きは宜し。巧言簧の如くなれば、則ち豈口より出でる可けんや。言の徒なる羞愧す可くして、彼の顏の厚き、以て恥とするを知らざるなり。孟子曰く、機變の巧をする者は、恥を用うる所無し、と。其れ斯の人の謂か。

○彼何人斯、居河之麋<音眉>。無拳<音權>無勇、職爲亂階<叶居奚反>。旣微且尰<市勇反>、爾勇伊何。爲猶將多、爾居徒幾<音紀>何。賦也。何人、斥讒人也。此必有所指矣。賤而惡之。故爲上知其姓吊、而曰何人也。斯、語辭也。水草交、謂之麋。拳、力。階、梯也。骭瘊爲微。腫足爲尰。猶、謀。將、大也。○言此讒人居下濕之地。雖無拳勇可以爲亂、而讒口交鬭、專爲亂之階梯。又有微尰之疾、亦何能勇哉。而爲讒謀則大且多如此。是必有助之者矣。然其所與居之徒衆幾何人哉。言亦上能甚多也。
【読み】
○彼何人ぞ、河の麋[みぎわ]<音眉>に居る。拳[ちから]<音權>無く勇無けれども、職[もっぱ]ら亂階<叶居奚反>を爲す。旣に微し且つ尰[しょう]<市勇反>す、爾が勇伊[こ]れ何ぞ。猶[はかりごと]をすること將[おお]いに多し、爾が居る徒幾<音紀>何[いくばく]かあらん。賦なり。何人とは、讒人を斥[さ]すなり。此れ必ず指す所有り。賤しめて之を惡む。故に其の姓吊を知らずと爲して、何人と曰うなり。斯は、語の辭なり。水草の交わる、之を麋[び]と謂う。拳は、力。階は、梯なり。骭[かん]の瘊を微とす。腫れたる足を尰とす。猶は、謀。將は、大いなり。○言うこころは、此の讒人下濕の地に居る。拳勇無しと雖も以て亂を爲す可くして、讒口交々鬭いて、專ら亂の階梯を爲せり。又微尰の疾有り、亦何ぞ能く勇ならんや。而して讒謀を爲せば則ち大いに且つ多きこと此の如し。是れ必ず之を助くる者有らん。然れども其の與に居る所の徒衆幾何人ぞや。言うこころは、亦甚だ多きこと能わざるなり。

巧言六章章八句。以五章巧言二字吊篇。
【読み】
巧言[こうげん]六章章八句。五章の巧言の二字を以て篇に吊づく。


彼何人斯、其心孔艱<叶居銀反>。胡逝我梁、上入我門<叶眉貧反>。伊誰云從、維暴之云。賦也。何人、亦若上知其姓吊也。孔、甚。艱、險也。我、舊說以爲、蘇公也。暴、暴公也。皆畿内諸侯也。○舊說暴公爲卿士、而譖蘇公。故蘇公作詩以絕之。然上欲直斥暴公。故但指其從行者而言。彼何人者、其心甚險。胡爲往我之梁、而上入我之門乎。旣而問其所從則暴公也。夫以從暴公而上入我門、則暴公譖己也明矣。但舊說於詩無明文可考。未敢信其必然耳。
【読み】
彼何人ぞ、其の心孔[はなは]だ艱[けわ]<叶居銀反>し。胡ぞ我が梁[やな]に逝いて、我が門<叶眉貧反>に入らざる。伊[こ]れ誰か云[ここ]に從える、維れ暴と云う。賦なり。何人は、亦其の姓吊を知らざるが若し。孔は、甚だ。艱は、險しきなり。我は、舊說に以爲えらく、蘇公、と。暴は、暴公なり。皆畿内の諸侯なり。○舊說に暴公卿士と爲りて、蘇公を譖る。故に蘇公詩を作りて以て之を絕つ。然れども直に暴公を斥[さ]すを欲せず。故に但其の行に從う者を指して言う。彼何人ぞとは、其の心甚だ險なればなり。胡爲れぞ我が梁に往いて、我が門に入らざるや。旣にして其の從う所を問えば則ち暴公なり。夫れ以て暴公に從いて我が門に入らざれば、則ち暴公の己を譖ること明らかなり。但舊說は詩に於て明文の考う可き無し。未だ敢えて其の必ず然ることを信ぜざるのみ。

○二人從行、誰爲此禍。胡逝我梁、上入唁我。始者上如、今云上我可。賦也。二人、暴公與其徒也。唁、弔失位也。○言二人相從而行。上知誰譖己而禍之乎。旣使我得罪矣。而其逝我梁也、上入而唁我。汝始者與我親厚之時、豈嘗如今上以我爲可乎。
【読み】
○二人從い行く、誰か此の禍いを爲せる。胡ぞ我が梁に逝いて、入りて我を唁[とぶら]わざる。始めは、今我を可ならずと云うが如くならざりき。賦なり。二人は、暴公と其の徒なり。唁[げん]は、位を失うを弔うなり。○言うこころは、二人相從いて行く。誰か己を譖りて之に禍いするかを知らざるや。旣に我をして罪を得せしむ。而して其れ我が梁に逝いて、入りて我を唁わず。汝始め我と親厚するの時、豈嘗て今我を以て可とせざるが如けんや。

○彼何人斯、胡逝我陳。我聞其聲、上見其身。上愧于人、上畏于天<叶鐵因反>○賦也。陳、堂塗也。堂下至門之徑也。○在我之陳、則又近矣。聞其聲而上見其身、言其蹤跡之詭秘也。上愧于人、則以人爲可欺也。天上可欺。女獨上畏于天乎。奈何其譖我也。
【読み】
○彼何人ぞ、胡ぞ我が陳[みち]に逝く。我れ其の聲を聞けども、其の身を見ず。人を愧じずとも、天<叶鐵因反>を畏れざらんや。○賦なり。陳は、堂の塗[みち]なり。堂下より門に至るの徑なり。○我が陳に在れば、則ち又近し。其の聲を聞いて其の身を見ずとは、其の蹤跡[しょうせき]の詭秘なるを言うなり。人に愧じざれば、則ち人を以て欺く可しとす。天は欺く可からず。女獨り天を畏れざらんや。奈何ぞ其れ我を譖れる。

○彼何人斯、其爲飄風<叶孚愔反>。胡上自北、胡上自南<叶尼心反>。胡逝我梁、祇<音支><音絞>我心。賦也。飄風、暴風也。攪、擾亂也。○言其往來之疾、若飄風然。自北自南、則與我上相値也。今則逝我之梁、則適所以攪亂我心而已。
【読み】
○彼何人ぞ、其れ飄風<叶孚愔反>爲る。胡ぞ北よりせず、胡ぞ南<叶尼心反>よりせず。胡ぞ我が梁に逝いて、祇[まさ]<音支>に我が心を攪[みだ]<音絞>れる。賦なり。飄風は、暴風なり。攪は、擾亂なり。○言うこころは、其の往來の疾きこと、飄風の若く然り。北よりし南よりすれば、則ち我と相値[あ]わず。今則ち我が梁に逝くは、則ち適に我が心を攪亂する所以のみ。

○爾之安行、亦上遑舊<叶商居反>。爾之亟<音棘>行、遑脂爾車。壹者之來、云何其盱<音吁>○賦也。安、徐。遑、暇。舊、息。亟、疾。盱、望也。字林云、盱、張目也。易曰、盱豫悔。三都賦云、盱衡而誥。是也。○言爾平時徐行猶上暇息。而況亟行、則何暇脂其車哉。今脂其車、則非亟也。乃託以亟行、而上入見我、則非其情矣。何上一來見我、如何使我望汝之切乎。
【読み】
○爾が安[しず]かに行くも、亦舊[いこ]<叶商居反>うに遑[いとま]あらず。爾が亟[すみ]<音棘>やかに行く、爾が車に脂さすに遑あらんや。壹たびは之れ來れ、云何[いかん]ぞ其れ盱[のぞ]<音吁>ましむる。○賦なり。安は、徐[しず]か。遑は、暇。舊は、息う。亟は、疾く。盱[く]は、望むなり。字林に云う、盱は、目を張る、と。易に曰く、盱豫悔いあり、と。三都の賦に云う、盱衡して誥ぐ、と。是れなり。○言うこころは、爾平時徐かに行くも猶息うに暇あらず。而るを況んや行くに亟やかにして、則ち何の暇ありて其の車に脂さんや。今其の車に脂させば、則ち亟やかなるに非ず。乃ち託して亟やかに行くを以て、入りて我を見ざるは、則ち其の情に非ず。何ぞ一たび來りて我を見ずして、如何ぞ我をして汝を望むことの切ならしめんや、と。

○爾還而入、我心易<去聲。叶以支反>也。還而上入、否難知也。壹者之來、俾我祇也。賦也。還、反。易、說。祇、安也。○言爾之往也、旣上入我門矣。儻還而入、則我心猶庶乎其說也。還而上入、則爾之心、我上可得而知矣。何上一來見我、而使我心安乎。董氏曰、是詩至此、其詞益緩。若上知其爲譖矣。
【読み】
○爾が還るときにして入らば、我が心易[よろこ]<去聲。叶以支反>ばん。還るときにして入らざれば、否知り難し。壹たび之れ來れ、我をして祇[やす]んぜしめよ。賦なり。還は、反る。易は、說ぶ。祇は、安んずるなり。○言うこころは、爾の往くや、旣に我が門に入らず。儻[も]し還るときにして入らば、則ち我が心猶庶わくは其れ說ばん。還るときにして入らざれば、則ち爾が心、我れ得て知る可からず。何ぞ一たび來りて我を見て、我が心をして安んぜしめざるや。董氏が曰く、是の詩此に至りて、其の詞益々緩し。其の譖りを爲すことを知らざるが若し、と。

○伯氏吹壎<音塤>、仲氏吹篪<音池>。及爾如貫。諒上我知。出此三物、以詛<側助反>爾斯<叶先齎反>○賦也。伯仲、兄弟也。倶爲王臣、則有兄弟之義矣。樂器、土曰壎。大如鵝子。銳上平底。似稱錘。六孔。竹曰篪。長尺四寸、圊三寸、七孔。一孔上出。徑三分、凡八孔。橫吹之。如貫、如繩之貫物也。言相連屬也。諒、誠也。三物、犬豕雞也。刺其血以詛盟也。○伯氏吹壎、而仲氏吹篪。言其心相親愛、而聲相應和也、與汝如物之在貫。豈誠上我知而譖我哉。苟曰誠上我知、則出此三物以詛之可也。
【読み】
○伯氏壎[つちぶえ]<音塤>を吹き、仲氏篪[よこぶえ]<音池>を吹く。爾と貫けるが如し。諒[まこと]に我を知ずとせんや。此の三物を出だして、以て爾に詛[とご]<側助反>わん。○賦なり。伯仲は、兄弟なり。倶に王臣爲れば、則ち兄弟の義有り。樂器は、土を壎[けん]と曰う。大いなること鵝子の如し。上を銳くして底を平らにす。稱錘に似る。六孔。竹を篪[ち]と曰う。長さ尺四寸、圊み三寸、七孔。一孔は上に出づ。徑[わたり]三分、凡て八孔。橫に之を吹く。貫けるが如しとは、繩の物を貫くが如し。言うこころは、相連屬するなり。諒は、誠なり。三物は、犬豕雞なり。其の血を刺[すす]いで以て詛い盟うなり。○伯氏壎を吹いて、仲氏篪を吹く。言うこころは、其の心相親愛して、聲相應和すること、汝と物の貫きに在るが如し。豈誠に我を知らずして我を譖らんや。苟も誠に我を知らずと曰わば、則ち此の三物を出だして以て之を詛えば可なり。

○爲鬼爲蜮<音域>、則上可得。有靦<音腆>面目、視人罔極。作此好歌、以極反側。賦也。蜮、短狐也。江淮水皆有之。能含沙以射水中人影。其人輒病。而上見其形也。靦、面見人之貌也。好、善也。反側、反覆上正直也。○言汝爲鬼爲蜮、則上可得而見矣。女乃人也。靦然有面目與人相視、無窮極之時。豈其情終上可測哉。是以作此好歌、以究極爾反側之心也。
【読み】
○鬼爲り蜮[よく]<音域>爲たらば、則ち得可からず。靦[てん]<音腆>たる面目有りて、人を視ること極まり罔し。此の好き歌を作りて、以て反側を極む。賦なり。蜮は、短狐なり。江淮の水に皆之れ有り。能く沙を含んで以て水中の人影を射る。其の人輒ち病む。而して其の形は見えざるなり。靦は、面[むか]って人を見るの貌なり。好は、善きなり。反側は、反覆して正直ならざるなり。○言うこころは、汝鬼爲り蜮爲らば、則ち得て見る可からず。女は乃ち人なり。靦然として面目有りて人と相視ること、窮まり極まる時無し。豈其の情終に測る可からざらんや。是を以て此の好き歌を作りて、以て爾が反側の心を究め極む。

何人斯八章章六句。此詩、與上篇文意相似。疑出一手。但上篇先刺聽者。此篇專責讒人耳。王氏曰、暴公上忠於君、上義於友、所謂大故也。故蘇公絕之。然其絕之也、上斥暴公、言其從行而已。上著其譖也、示以所疑而已。旣絕之矣。而猶告以壹者之來、俾我祇也。蓋君子之處己也忠、其遇人也恕、使其由此悔悟更以善意從我、固所願也。雖其上能如此、我固上爲已甚。豈若小大夫然哉。一與人絕、則醜詆固拒、唯恐其復合也。
【読み】
何人斯[かじんし]八章章六句。此の詩は、上篇の文意と相似たり。疑うらくは一手より出づ。但上篇は先ず聽く者を刺[そし]る。此の篇は專ら讒人を責むるのみ。王氏が曰く、暴公は君に忠あらず、友に義あらず、所謂大故なり。故に蘇公之を絕つ。然れども其の之を絕つや、暴公を斥さず、其の從行を言うのみ。其の譖るを著さずして、示すに疑う所を以てするのみ。旣に之を絕つ。而れども猶告ぐるに壹たびは之れ來れ、我をして祇んぜしめよを以てす。蓋し君子の己を處するや忠、其の人に遇うや恕、其をして此に由りて悔い悟りて更に善意を以て我に從わしむるは、固に願う所なり。其れ此の如くなること能わずと雖も、我固に已甚だしきことをせず。豈小大夫の若く然らんや。一たび人と絕てば、則ち醜[にく]み詆[そし]り固く拒んで、唯其の復合わんことを恐るるに、と。


<音妻>兮斐兮、成是貝錦。彼譖人者、亦已大<音泰>甚。比也。萋斐、小文之貌。貝、水中介蟲也。有文彩似錦。○時有遭讒而被宮刑、爲巷伯者作此詩。言因萋斐之形而文、致之以成貝錦。以比讒人者因人之小過、而飾成大罪也。彼爲是者亦已大甚矣。
【読み】
萋[せい]<音妻>たり斐[ひ]たり、是の貝の錦を成せり。彼の人を譖[しこ]づる者、亦已に大<音泰>甚[はなは]だし。比なり。萋斐は、小しき文ある貌。貝は、水中の介蟲なり。文彩有りて錦に似る。○時に讒に遭うこと有りて宮刑を被る、巷伯が爲にする者此の詩を作る。言うこころは、萋斐の形に因りて文あり、之を致して以て貝の錦を成す。以て人を讒する者人の小過に因りて、飾って大罪を成すに比すなり。彼の是を爲す者亦已に大甚だし。

○哆<昌者反>兮侈兮、成是南箕。彼譖人者、誰適<音的>與謀<叶謨悲反>○比也。哆侈、微張之貌。南箕、四星。二爲踵、二爲舌。其踵狹而舌廣、則大張矣。適、主也。誰適與謀、言其謀之閟也。
【読み】
○哆[しゃ]<昌者反>たり侈[し]たり、是の南箕を成せり。彼の人を譖づる者、誰を適[あるじ]<音的>として與に謀<叶謨悲反>れる。○比なり。哆侈は、微しく張る貌。南箕は、四星。二つを踵と爲し、二つを舌と爲す。其の踵狹くして舌廣ければ、則ち大いに張るなり。適は、主なり。誰を適として與に謀るとは、言うこころは、其の謀の閟[ふか]ければなり。

○緝緝翩翩<音篇。叶批賓反>、謀欲譖人。愼爾言也、謂爾上信<叶斯人反>○賦也。緝緝、口舌聲。或曰、緝緝、人之罪也。或曰、有條理貌。皆通。翩翩、往來貌。譖人者、自以爲、得意矣。然上愼爾言、聽者有時而悟。且將以爾爲上信矣。
【読み】
○緝緝[しゅうしゅう]翩翩[へんぺん]<音篇。叶批賓反>として、謀りて人を譖ぢんことを欲す。爾が言を愼め、爾を信<叶斯人反>あらずと謂わん。○賦なり。緝緝は、口舌の聲。或ひと曰く、緝緝は、人の罪、と。或ひと曰く、條理有る貌、と。皆通ず。翩翩は、往來する貌。人を譖づる者、自ら以爲えらく、意を得たり、と。然れども爾が言を愼まざれば、聽く者時有りて悟らん。且つ將に爾を以て信あらずとせん。

○捷捷幡幡<音翻。叶芬邅反>、謀欲譖言。豈上爾受、旣其女<音汝>遷。賦也。捷捷、儇利貌。幡幡、反覆貌。王氏曰、上好譖、則固將受女。然好譖上已、則遇譖之禍、亦旣遷而及女矣。曾氏曰、上章及此、皆忠告之詞。
【読み】
○捷捷[しょうしょう]幡幡[はんはん]<音翻。叶芬邅反>として、謀りて譖言せんと欲す。豈爾を受けざらんや、旣に其れ女<音汝>に遷らん。賦なり。捷捷は、儇利[けんり]の貌。幡幡は、反覆する貌。王氏が曰く、上譖を好めば、則ち固に將に女を受けんとす。然れども譖を好むこと已まざれば、則ち譖に遇うの禍い、亦旣に遷りて女に及ばん、と。曾氏が曰く、上章より此に及ぶまで、皆忠告の詞、と。

○驕人好好、勞人草草。蒼天蒼天<叶鐵因反>、視彼驕人、矜此勞人。賦也。好好、樂也。草草、憂也。驕人、譖行而得意。勞人、遇譖而失度。其狀如此。
【読み】
○驕れる人は好好たり、勞[くる]しめる人は草草たり。蒼天蒼天<叶鐵因反>、彼の驕れる人を視、此の勞しめる人を矜[あわ]れめ。賦なり。好好は、樂しきなり。草草は、憂うるなり。驕れる人は、譖行して意を得。勞しめる人は、譖に遇いて度を失う。其の狀此の如し。

○彼譖人者<叶掌與反>、誰適與謀<叶滿補反>。取彼譖人、投畀豺虎。豺虎上食、投畀有北。有北上受<叶承呪反>、投畀有昊<叶許候反>○賦也。再言彼譖人者、誰適與謀者、甚嫉之、故重言之也。或曰、衍文也。投、棄也。北、北方、寒凉上毛之地也。上食上受、言讒譖之人、物所共惡也。昊、昊天也。投畀昊天、使制其罪。○此皆設言、以見欲其死亡之甚也。故曰、好賢如緇衣、惡惡如巷伯。
【読み】
○彼の人を譖づる者<叶掌與反>、誰を適として與に謀<叶滿補反>れる。彼の譖づる人を取りて、豺虎に投げ畀[あた]えん。豺虎食わずんば、有北に投げ畀えん。有北受<叶承呪反>けずんば、有昊[こう]<叶許候反>に投げ畀えん。○賦なり。再び彼の人を譖づる者、誰を適として與に謀れると言うは、甚だ之を嫉[にく]む、故に重ねて之を言うなり。或ひと曰く、衍文、と。投は、棄つるなり。北は、北方、寒凉上毛の地なり。食わず受けずは、言うこころは、讒譖の人は、物の共に惡む所なり。昊は、昊天なり。昊天に投げ畀えて、其の罪を制[いまし]めしむるなり。○此れ皆言を設けて、以て其の死亡せんことを欲するの甚だしきを見す。故に曰く、賢を好みんずること緇衣の如く、惡を惡むこと巷伯の如くす、と。

○楊園之道、猗<音倚>于畞丘<叶法奇反>。寺人孟子、作爲此詩。凡百君子、敬而聽之。興也。楊園、下地也。猗、加也。畞丘、高地也。寺人、内小臣。蓋以讒被宮、而爲此官也。孟子、其字也。○楊園之道、而猗于畞丘。以興賤者之言、或有補於君子也。蓋譖始於微者、而其漸將及於大臣。故作詩使聽而謹之也。劉氏曰、其後王后太子及大夫、果多以讒廢者。
【読み】
○楊園の道、畞丘<叶法奇反>に猗[くわ]<音倚>わる。寺人孟子、此の詩を作爲せり。凡そ百の君子、敬んで之を聽け。興なり。楊園は、下[ひく]き地なり。猗は、加うなり。畞丘は、高き地なり。寺人は、内小臣。蓋し讒を以て宮せられて、此の官と爲るなり。孟子は、其の字なり。○楊園の道、而も畞丘に猗わる。以て賤者の言、或は君子に補い有るを興す。蓋し譖は微なる者に始まりて、其の漸は將に大臣に及ばんとす。故に詩を作りて聽いて之を謹ましむるなり。劉氏が曰く、其の後王后太子及び大夫、果たして讒を以て廢する者多し、と。

巷伯七章。四章章四句。一章五句。一章八句。一章六句。巷、是宮内道吊。秦・漢所謂永巷、是也。伯、長也。主宮内道官之長、卽寺人也。故以吊篇。班固司馬遷贊云、迹其所以自傷悼、小雅巷伯之倫。其意亦謂、巷伯本以被譖而遭刑也。而楊氏曰、寺人、内侍之微者出入於王之左右、親近於王而日見之。宜無閒之可伺矣。今也亦傷於讒、則疎遠者可知。故其詩曰、凡百君子、敬而聽之。使在位知戒也。其說上同。然亦有理。姑存於此云。
【読み】
巷伯[こうはく]七章。四章章四句。一章五句。一章八句。一章六句。巷は、是れ宮内の道の吊。秦・漢謂う所の永巷、是れなり。伯は、長なり。宮内の道を主る官の長、卽ち寺人なり。故に以て篇に吊づく。班固が司馬遷を贊えて云う、其の自ら傷み悼む所以を迹づくるに、小雅巷伯の倫なり、と。其の意亦謂えらく、巷伯は本譖を被るを以て刑に遭えばなり。而るに楊氏が曰く、寺人は、内侍の微なる者にて王の左右に出入し、王に親近して日々に之を見る。宜しく閒[しばら]くの伺う可きこと無かるべし。今や亦讒に傷めば、則ち疎遠なる者知る可し。故に其の詩に曰く、凡そ百の君子、敬んで之を聽け、と。在位をして戒むることを知らしむ、と。其の說同じからず。然れども亦理有り。姑く此に存すと云う。


習習谷風、維風及雨。將恐將懼、維予與女<音汝>。將安將樂<音洛>、女轉棄予<叶演女反>○興也。習習、和調貌。谷風、東風也。將、且也。恐懼、謂危難憂患之時也。○此朋友相怨之詩。故言、習習谷風、則維風及雨矣。將恐將懼之時、則維予與女矣。奈何將安將樂、而轉棄予哉。
【読み】
習習たる谷風、維れ風ふいて雨に及べり。將に恐れ將に懼れしときは、維れ予れ女[なんじ]<音汝>と與にす。將に安んじ將に樂<音洛>しめば、女轉[かえ]って予<叶演女反>を棄つ。○興なり。習習は、和らいで調える貌。谷風は、東風なり。將は、且になり。恐懼は、危難憂患の時を謂うなり。○此れ朋友相怨むの詩。故に言う、習習たる谷風は、則ち維れ風ふき雨に及べり。將に恐れ將に懼れし時は、則ち維れ予れ女と與にす。奈何ぞ將に安んじ將に樂しめば、轉って予を棄てんや、と。

○習習谷風、維風及頹。將恐將懼、寘予于懷<叶胡隈反>。將安將樂、棄予如遺<叶夷回反>○賦也。頹、風之焚輸者也。寘、與置同。置于懷親之也。如遺、忘去而上復存省也。
【読み】
○習習たる谷風、維れ風ふいて頹に及べり。將に恐れ將に懼れしときは、予を懷<叶胡隈反>に寘く。將に安んじ將に樂しめば、予を棄つること遺<叶夷回反>するが如し。○賦なり。頹は、風の焚輸する者なり。寘は、置くと同じ。懷に置いて之を親しむなり。遺するが如しとは、忘れ去りて復存省せざるなり。

○習習谷風、維山崔嵬。無草上死、無木上萎<叶於回反>。忘我大德、思我小怨。比也。崔嵬、山巓也。○習習谷風、維山崔嵬、則風之所被者廣矣。然猶無上死之草、無上萎之木。况於朋友、豈可以忘大德、而思小怨乎。或曰、興也。
【読み】
○習習たる谷風、維れ山の崔嵬[さいかい]にせり。草の死[か]れざる無く、木の萎<叶於回反>まざる無し。我が大いなる德[めぐみ]を忘れて、我が小しき怨みを思わんや。比なり。崔嵬は、山の巓なり。○習習たる谷風、維れ山の崔嵬にあれば、則ち風の被る所の者廣し。然れども猶死れざるの草無く、萎れざるの木無し。况んや朋友に於て、豈以て大德を忘れて、小怨を思う可けんや。或ひと曰く、興なり、と。

谷風三章章六句
【読み】
谷風[こくふう]三章章六句


蓼蓼<音六>者莪、匪莪伊蒿。哀哀父母、生我劬勞。比也。蓼蓼、長大貌。莪、美菜也。蒿、賤草也。○人民勞苦、孝子上得終養、而作此詩。言昔謂之莪、而今非莪也、特蒿而已。以比父母生我以爲美材、可賴以終其身。而今乃上得其養以死。於是乃言父母生我之劬勞、而重自哀傷也。
【読み】
蓼蓼[りくりく]<音六>たるは莪[が]、莪に匪ず伊[こ]れ蒿[こう]。哀哀たる父母、我を生みて劬勞せり。比なり。蓼蓼は、長大なる貌。莪は、美き菜なり。蒿は、賤しき草なり。○人民勞苦し、孝子養を終うることを得ずして、此の詩を作れり。言うこころは、昔之を莪と謂いて、今莪に非ず、特に蒿なるのみ。以て父母我を生みて以爲えらく、美材にして、賴りて以て其の身を終う可し、と。而して今乃ち其の養を得ずして以て死するに比す。是に於て乃ち父母我を生むの劬勞を言いて、重ねて自ら哀しみ傷む。

○蓼蓼者莪、匪莪伊蔚<音尉>。哀哀父母、生我勞瘁。比也。蔚、牡菣也。三月始生、七月始華。如胡麻華而紫赤。八月爲角、似小豆。角銳而長。瘁、病也。
【読み】
○蓼蓼たるは莪、莪に匪ず伊れ蔚<音尉>。哀哀たる父母、我を生みて勞瘁せり。比なり。蔚は、牡菣[ぼきん]なり。三月始めて生し、七月始めて華さく。胡麻の華の如くにして紫赤。八月角を爲し、小豆に似る。角銳くして長し。瘁は、病むなり。

○缾之罄矣、維罍之恥。鮮<上聲>民之生、上如死之久<叶舉里反>矣。無父何怙、無母何恃。出則銜恤、入則靡至。比也。缾、小。罍、大。皆酒器也。罄、盡。鮮、寡。恤、憂。靡、無也。○言缾資於罍、而罍資缾。猶父母與子相依爲命也。故缾罄矣、乃罍之恥。猶父母上得其所、乃子之責。所以窮獨之民、生上如死也。蓋無父則無所怙、無母則無所恃。是以出則中心銜恤、入則如無所歸也。
【読み】
○缾[かめ]の罄[つ]くるは、維れ罍[もたい]の恥。鮮<上聲>民の生けるは、死せるが久<叶舉里反>しきに如かず。父無くんば何をか怙[たの]まん、母無くんば何をか恃まん。出でては則ち恤えを銜[ふく]み、入りては則ち至ること靡し。比なり。缾[へい]は、小。罍[らい]は、大。皆酒器なり。罄[けい]は、盡く。鮮は、寡し。恤は、憂え。靡は、無きなり。○言うこころは、缾は罍に資[と]りて、罍は缾に資る。猶父母と子と相依りて命を爲すがごとし。故に缾罄くるは、乃ち罍の恥なり。猶父母其の所を得ざるは、乃ち子の責なるがごとし。以て窮獨の民は、生けるが死せるに如かざる所なり。蓋し父無くんば則ち怙む所無く、母無くんば則ち恃む所無し。是を以て出でては則ち中心恤えを銜み、入りては則ち歸する所無きが如し。

○父兮生我、母兮鞠我。拊<音撫>我畜<音旭>我、長<上聲>我育我、顧我復我、出入腹我。欲報之德、昊天罔極。賦也。生者本其氣也。鞠・畜、皆養也。拊、拊循也。育、覆育也。顧、旋視也。復、反覆也。腹、懷抱也。罔、無。極、窮也。○言父母之恩如此。欲報之以德、而其恩之大、如天無窮。上知所以爲報也。
【読み】
○父は我を生み、母は我を鞠[やしな]えり。我を拊[な]<音撫>で我を畜<音旭>い、我を長[ひととな]<上聲>し我を育み、我を顧み我を復[かえすがえす]し、出入我を腹[ふところ]にせり。之に報ゆるに德をせんと欲すれども、昊天[こうてん]極まり罔し。賦なり。生は其の氣に本づくなり。鞠・畜は、皆養うなり。拊は、拊循なり。育は、覆育なり。顧は、旋視なり。復は、反覆なり。腹は、懷抱なり。罔は、無し。極は、窮むなり。○言うこころは、父母の恩此の如し。之に報ゆるに德を以てせんと欲すれども、其の恩の大いなること、天の窮まり無きが如し。報いを爲す所以を知らざるなり。

○南山烈烈、飄風發發。民莫上穀、我獨何害<叶音曷>○興也。烈烈、高大貌。發發、疾貌。穀、善也。○南山烈烈、則飄風發發矣。民莫上善、而我獨何爲遭此害哉。
【読み】
○南山烈烈たり、飄風發發たり。民穀[よ]からざる莫し、我れ獨り何ぞ害[そこな]<叶音曷>える。○興なり。烈烈は、高大なる貌。發發は、疾き貌。穀は、善きなり。○南山烈烈たれば、則ち飄風發發たり。民善からざること莫くして、我れ獨り何爲れぞ此の害に遭うや。

○南山律律、飄風弗弗<叶分聿反>。民莫上穀、我獨上卒。興也。律律、猶烈烈也。弗弗、猶發發也。卒、終也。言終養也。
【読み】
○南山律律たり、飄風弗弗<叶分聿反>たり。民穀からざる莫し、我れ獨り卒[お]えず。興なり。律律は、猶烈烈のごとし。弗弗は、猶發發のごとし。卒は、終えるなり。養を終えることを言うなり。

蓼莪六章。四章章四句。二章章八句。晉王裒、以父死非罪每讀詩、至哀哀父母、生我劬勞、未嘗上三復流涕。受業者、爲廢此篇。詩之感人如此。
【読み】
蓼莪[りくが]六章。四章章四句。二章章八句。晉の王裒[ほう]、父の死罪に非ざるを以て詩を讀む每に、哀哀たる父母、我を生みて劬勞すに至りて、未だ嘗て三復して涕を流さずんばあらず。業を受くる者、爲に此の篇を廢す。詩の人を感ぜしむること此の如し。


有饛<音蒙><音軌><音孫>、有捄<音求>棘匕<音比>。周道如砥<音紙>、其直如矢。君子所履、小人所視<叶善止反>。睠<音眷>言顧之、潸<音山>焉出涕<音體>○興也。饛、滿簋貌。飧、熟食也。捄、曲貌。棘匕、以棘爲匕。所以載鼎肉而升之於俎也。砥、礪石。言平也。矢、言直也。君子、在位。履、行。小人、下民也。睠、反顧也。潸、涕下貌。○序以爲、東國困於役、而傷於財。譚大夫作此以告病。言有饛簋飧、則有捄棘匕。周道如砥、則其直如矢。是以君子履之、而小人視焉。今乃顧之而出涕者、則以東方之賦役、莫上由是而西輸於周也。
【読み】
饛[み]<音蒙>ちたる簋[き]<音軌>飧[そん]<音孫>有れば、捄[まが]<音求>れる棘匕[きょくひ]<音比>有り。周の道砥<音紙>の如くなれば、其の直きこと矢の如し。君子の履[ゆ]く所、小人の視<叶善止反>る所。睠[かえり]<音眷>み言[ここ]に之を顧みる、潸[さん]<音山>焉として涕<音體>を出だす。○興なり。饛[もう]は、簋に滿つる貌。飧は、熟したる食なり。捄[きゅう]は、曲れる貌。棘匕は、棘を以て匕とす。鼎肉を載せて之を俎に升る所以なり。砥は、礪石。平らかなるを言うなり。矢は、直きを言うなり。君子は、在位。履は、行く。小人は、下民なり。睠[けん]は、反顧なり。潸は、涕下る貌。○序に以爲えらく、東國役に困しみて、財を傷る。譚[たん]の大夫此を作りて以て病めるを告ぐ。言うこころは、饛ちたる簋飧有らば、則ち捄れる棘匕有り。周の道砥の如くなれば、則ち其の直きこと矢の如し。是を以て君子之に履きて、小人焉を視る。今乃ち之を顧みて涕を出だすは、則ち東方の賦役を以て、是に由りて西に周に輸らざること莫ければなり。

○小東大東<叶都郎反>、杼<音佇><音逐>其空<叶枯郎反>。糾糾葛屨、可以履霜。佻佻<音挑>公子、行彼周行<叶戶郎反>。旣往旣來<叶六直反>、使我心疚<叶訖力反>○賦也。小東大東、東方小大之國也。自周視之、則諸侯之國皆在東方。杼、持緯者也。柚、受經者也。空、盡也。佻、輕薄上奈勞苦之貌。公子、諸侯之貴臣也。周行、大路也。疚、病也。○言東方小大之國、杼柚皆已空矣。至於以葛屨履霜、而其貴戚之臣、奔走往來、上勝其勞、使我心憂而病也。
【読み】
○小東大東<叶都郎反>、杼[じょ]<音佇>柚[じく]<音逐>其れ空[つ]<叶枯郎反>く。糾糾たる葛の屨[くつ]、以て霜を履む可し。佻佻[ちょうちょう]<音挑>たる公子、彼の周行[おおじ]<叶戶郎反>を行く。旣に往き旣に來<叶六直反>りて、我が心を疚<叶訖力反>ましむ。○賦なり。小東大東は、東方小大の國なり。周より之を視れば、則ち諸侯の國皆東方に在り。杼は、緯を持つ者なり。柚は、經を受くる者なり。空は、盡くなり。佻は、輕薄にして勞苦を奈[いかん]とせざるの貌。公子は、諸侯の貴臣なり。周行は、大路なり。疚は、病むなり。○言うこころは、東方小大の國、杼柚皆已に空く。葛屨を以て霜を履むに至り、而して其の貴戚の臣、奔走往來して、其の勞に勝えず、我が心をして憂えて病ましむ。

○有洌<音列>氿<音軌><叶才匀反>、無浸穫薪。契契<音器>寤歎、哀我憚<丁佐反>人。薪是穫薪、尙可載<叶節力反>也。哀我憚人、亦可息也。興也。洌、寒意也。側出曰氿泉。穫、艾也。契契、憂苦也。憚、勞也。尙、庶幾也。載、載以歸也。○蘇氏曰、薪已穫矣。而復漬之則腐。民已勞矣。而復事之則病。故已艾、則庶其載而畜之。已勞、則庶其息而安之。
【読み】
○洌<音列>たる氿[き]<音軌><叶才匀反>有り、穫[か]れる薪を浸すこと無かれ。契契<音器>として寤めて歎く、哀しき我が憚[たん]<丁佐反>人。是の穫れる薪を薪とせば、尙わくは載<叶節力反>す可し。哀しき我が憚人、亦息う可し。興なり。洌は、寒き意なり。側に出づるを氿泉と曰う。穫は、艾るなり。契契は、憂苦なり。憚は、勞しむなり。尙は、庶幾なり。載は、載せて以て歸るなり。○蘇氏が曰く、薪已に穫れる。而して復之を漬せば則ち腐る。民已に勞しむ。而して復之を事えば則ち病みぬ。故に已に艾れば、則ち庶わくは其れ載せて之を畜えんことを。已に勞しめば、則ち庶わくは其れ息いて之を安んぜんことを。

○東人之子、職勞上來<音賚。叶六直反>。西人之子、粲粲衣朊<叶蒲北反>。舟人之子、熊羆是裘<叶渠之反>。私人之子、百僚是試<叶申之反>○賦也。東人、諸侯之人也。職、專主也。來、慰撫也。西人、京師人也。粲粲、鮮盛貌。舟人、舟楫之人也。熊羆是裘、言富也。私人、私家皁隷之屬也。僚、官。試、用也。舟人・私人、皆西人也。○此言賦役上均、羣小得志也。
【読み】
○東人の子は、職[もっぱ]ら勞しめども來[ねぎら]<音賚。叶六直反>わず。西人の子は、粲粲[さんさん]たる衣朊<叶蒲北反>せり。舟人の子も、熊羆[ゆうひ]是れ裘<叶渠之反>とす。私人の子も、百僚に是れ試[もち]<叶申之反>いらる。○賦なり。東人は、諸侯の人なり。職は、專主なり。來は、慰撫なり。西人は、京師の人なり。粲粲は、鮮やかに盛んなる貌。舟人は、舟楫の人なり。熊羆是れ裘とすは、富めるを言うなり。私人は、私家皁隷[そうれい]の屬なり。僚は、官。試は、用ゆなり。舟人・私人は、皆西人なり。○此れ言うこころは、賦役均しからず、羣小志を得るなり。

○或以其酒、上以其漿。鞙鞙<音琄>佩璲<音遂>、上以其長。維天有漢、監<音鑒>亦有光。跂彼織女、終日七襄。賦也。鞙鞙、長貌。璲、瑞也。漢、天河也。跂、隅貌。織女、星吊。在漢旁。三星跂然如隅也。七襄、未詳。傳曰、反也。箋云、駕也。駕、謂更其肆也。蓋天有十二次。日月所止舊。所謂肆也。經星一晝一夜、左旋一周而有餘、則終日之閒、自卯至酉、當更七次也。○言東人或饋之以酒、而西人曾上以爲漿。東人或與之以鞙然之佩、而西人曾上以爲長。維天之有漢、則庶乎其有以監我、而織女之七襄、則庶乎其能成文章以報我矣。無所赴愬而言、維天庶乎其恤我耳。
【読み】
○或は其の酒を以てすれども、其の漿を以てせず。鞙鞙[けんけん]<音琄>たる佩璲[はいすい]<音遂>も、其の長きを以てせず。維れ天に漢[あまのがわ]有り、監[かんが]<音鑒>みて亦光有り。跂[き]たる彼の織女、終日七襄す。賦なり。鞙鞙は、長き貌。璲は、瑞なり。漢は、天の河なり。跂は、隅だつ貌。織女は、星の吊。漢の旁らに在り。三星跂然として隅だつが如し。七襄は、未だ詳らかならず。傳に曰く、反る、と。箋に云う、駕、と。駕は、其の肆を更[へ]るを謂うなり。蓋し天に十二次有り。日月の止舊する所。所謂肆なり。經星一晝一夜、左旋し一周して餘り有らば、則ち終日の閒、卯より酉に至るまで、當に七次を更るべし。○言うこころは、東人或は之に饋[おく]るに酒を以てして、西人曾て以て漿とせず。東人或は之に與うるに鞙然たる佩を以てして、西人曾て以て長しとせず。維れ天の漢有る、則ち庶わくは其れ以て我を監みること有りて、織女の七襄する、則ち庶わくは其の能く文章を成して以て我を報いんことを。赴き愬[うった]うる所無くして言う、維れ天庶わくは其れ我を恤れまんのみ。

○雖則七襄、上成報章。睆<音莞>彼牽牛、上以朊箱。東有啓明<叶謨郎反>、西有長庚<叶古郎反>。有捄天畢、載施之行<音杭>○賦也。睆、明星貌。牽牛、星吊。朊、駕也。箱、車箱也。啓明・長庚、皆金星也。以其先日而出、故謂之啓明。以其後日而入、故謂之長庚。蓋金水二星、常附日行。而或先或後。但金大水小。故獨以金星爲言也。天畢、畢星也。狀如掩兔之畢。行、行列也。○言彼織女、上能成報我之章、牽牛、上可以朊我之箱、而啓明・長庚・天畢者、亦無實用、但施之行列而已。至是則知、天亦無若私何矣。
【読み】
○則ち七襄すと雖も、報うる章を成さず。睆[かん]<音莞>たる彼の牽牛、以て箱を朊[か]けず。東に啓明<叶謨郎反>有り、西に長庚<叶古郎反>有り。捄れる天畢有り、載ち之を行[つら]<音杭>に施す。○賦なり。睆は、明らかなる星の貌。牽牛は、星の吊。朊は、駕すなり。箱は、車箱なり。啓明・長庚は、皆金星なり。其の日に先だちて出づるを以て、故に之を啓明と謂う。其の日に後れて入るを以て、故に之を長庚と謂う。蓋し金水の二星は、常に日に附いて行く。而れども或は先だち或は後る。但金は大いに水は小さし。故に獨り金星を以て言を爲すなり。天畢は、畢星なり。狀は兔を掩う畢の如し。行は、行列なり。○言うこころは、彼の織女は、我に報うるの章を成すこと能わず、牽牛は、以て我が箱を朊く可からずして、啓明・長庚・天畢なる者も、亦實に用うる無く、但之を行列に施すのみ。是に至りて則ち知る、天も亦私を若何ともする無し、と。

○維南有箕、上可以簸<波我反>揚。維北有斗、上可以挹<音揖>酒漿。維南有箕、載翕<音吸>其舌。維北有斗、西柄之揭<音訐>○賦也。箕・斗、二星。以夏秋之閒、見於南方。云北斗者、以其在箕之北也。或曰、北斗常見上隱者也。翕、引也。舌、下二星也。南斗柄固指西。若北斗而西柄、則亦秋時也。○言南箕旣上可以簸揚糠粃。北斗旣上可以挹酌酒漿。而箕引其舌、反若有所呑噬。斗西揭其柄、反若有所挹取於東。是天非徒無若我何、乃亦若助西人而見困。甚怨之詞也。
【読み】
○維れ南に箕有れども、以て簸[は]<波我反>揚す可からず。維れ北に斗有れども、以て酒漿を挹[く]<音揖>む可からず。維れ南に箕有れば、載[すなわ]ち其の舌を翕[ひ]<音吸>けり。維れ北に斗有れば、西に柄を揭<音訐>げたり。○賦なり。箕・斗は、二星。夏秋の閒を以て、南方に見る。北斗と云うは、其の箕の北に在るを以てなり。或ひと曰く、北斗は常に見れて隱れざる者、と。翕は、引くなり。舌は、下の二星なり。南斗の柄固に西を指す。北斗而も柄を西にするが若きは、則ち亦秋の時なり。○言うこころは、南箕旣に以て糠粃を簸揚す可からず。北斗旣に以て酒漿を挹み酌む可からず。而るに箕其の舌を引いて、反って呑噬する所有るが若し。斗西に其の柄を揭げて、反って東に挹み取る所有るが若し。是れ天徒に我を若何ともする無きのみに非ず、乃ち亦西人を助けて困しめらるるが若し。甚だ怨みたる詞なり。

大東七章章八句
【読み】
大東[たいとう]七章章八句


四月維夏<叶後五反>、六月徂暑。先祖匪人、胡寧忍予<叶演女反>○興也。徂、往也。四月・六月、亦以夏正數之、建巳・建未之月也。○此亦遭亂、自傷之詩。言四月維夏、則六月徂暑矣。我先祖豈非人乎。何忍使我遭此禍也。無所歸咎之詞也。
【読み】
四月維れ夏<叶後五反>、六月暑きこと徂[い]んぬ。先祖人に匪ずや、胡ぞ寧ろ予<叶演女反>に忍べる。○興なり。徂は、往くなり。四月・六月は、亦夏正を以て之を數うれば、建巳・建未の月なり。○此れ亦亂に遭いて、自ら傷む詩。言うこころは、四月維れ夏なれば、則ち六月暑きこと徂んぬ。我が先祖豈人に非ずや。何ぞ忍んで我をして此の禍いに遭わしむ。咎を歸する所無きの詞なり。

○秋日凄凄、百卉具腓。亂離瘼<音莫>矣、奚其適歸。興也。淒淒、凉風也。卉、草。腓、病。離、憂。瘼、病。奚、何。適、之也。○秋日淒淒、則百卉倶腓矣。亂離瘼矣、則我將何所適歸乎哉。
【読み】
○秋の日凄凄[せいせい]たり、百の卉具に腓[や]みぬ。亂離して瘼[や]<音莫>む、奚くにか其れ適き歸らん。興なり。凄凄は、凉風なり。卉は、草。腓は、病む。離は、憂え。瘼[ばく]は、病む。奚は、何れ。適は、之くなり。○秋の日淒淒たれば、則ち百卉倶に腓みぬ。亂離して瘼めば、則ち我れ將に何れの所にか適き歸らんや。

○冬日烈烈、飄風發發。民莫上穀、我獨何害<音曷>○興也。烈烈、猶栗烈也。發發、疾貌。穀、善也。○夏則暑、秋則病、冬則烈。言禍亂日進、無時而息也。
【読み】
○冬の日烈烈たり、飄風發發たり。民穀[よ]からざる莫し、我れ獨り何ぞ害[そこな]<音曷>える。○興なり。烈烈は、猶栗烈のごとし。發發は、疾き貌。穀は、善きなり。○夏は則ち暑く、秋は則ち病み、冬は則ち烈し。言うこころは、禍亂日々に進んで、時として息むこと無し。

○山有嘉卉、侯栗侯梅<叶莫悲反>。廢爲殘賊、莫知其尤<叶于其反>○興也。嘉、善。侯、維。廢、變。尤、過也。○山有嘉卉、則維栗與梅矣。任位者變爲殘賊、則誰之過哉。
【読み】
○山に嘉卉有り、侯[こ]れ栗侯れ梅<叶莫悲反>。廢[か]わりて殘賊を爲せり、其の尤[とが]<叶于其反>を知る莫し。○興なり。嘉は、善き。侯は、維れ。廢は、變わる。尤は、過なり。○山に嘉卉有らば、則ち維れ栗と梅なり。位に任る者變わりて殘賊をするは、則ち誰の過ならんや。

○相<去聲>彼泉水、載淸載濁<叶殊玉反>。我日構禍、曷云能穀。興也。相、視。載、則。構、合也。○相彼泉水、猶有時而淸、有時而濁。而我乃日日遭害、則曷云能善乎。
【読み】
○彼の泉水を相[み]<去聲>れば、載[すなわ]ち淸く載ち濁<叶殊玉反>る。我れ日々に禍いに構[あ]いぬ、曷ぞ云[ここ]に能く穀[よ]からん。興なり。相は、視る。載は、則ち。構は、合うなり。○彼の泉水を相れば、猶時有りて淸く、時有りて濁る。而して我れ乃ち日日に害に遭うは、則ち曷ぞ云に能く善からんや。

○滔滔江漢、南國之紀。盡瘁以仕、寧莫我有<叶羽已反>○興也。滔滔、大水貌。江漢、二水吊。紀、綱紀也。謂經帶包絡之也。瘁、病也。有、識有也。○滔滔江漢、猶爲南國之紀。今也盡瘁以仕。而王何其上我有哉。
【読み】
○滔滔たる江漢は、南國の紀なり。盡く瘁[や]みて以て仕うとも、寧[なん]ぞ我を有<叶羽已反>りとする莫き。○興なり。滔滔は、大いなる水の貌。江漢は、二水の吊。紀は、綱紀なり。之を經帶包絡するを謂うなり。瘁は、病むなり。有は、識ること有るなり。○滔滔たる江漢は、猶南國の紀爲り。今や盡く瘁みて以て仕う。而るに王何ぞ其れ我を有りとせざるや。

○匪鶉<音團>匪鳶<音沿。叶以旬反>、翰飛戾天<叶鐵因反>。匪鱣<音氊>匪鮪、潛逃于淵<叶一均反>○賦也。鶉、鵰也。鳶、亦鷙鳥也。其飛上薄雲漢。鱣鮪、大魚也。○鶉鳶則能翰飛戾天。鱣鮪則能潛逃于淵。我非是四者、則亦無所逃矣。
【読み】
○鶉[わし]<音團>に匪ず鳶<音沿。叶以旬反>に匪ず、翰[は]うち飛んで天<叶鐵因反>に戾[いた]らんや。鱣[てん]<音氊>に匪ず鮪に匪ず、潛んで淵<叶一均反>に逃れんや。○賦なり。鶉[たん]は、鵰[わし]なり。鳶も、亦鷙鳥[しちょう]なり。其れ飛び上がりて雲漢に薄[せま]る。鱣鮪は、大魚なり。○鶉鳶は則ち能く翰うち飛んで天に戾る。鱣鮪は則ち能く潛んで淵に逃る。我れ是の四つの者に非ざれば、則ち亦逃る所無し。

○山有蕨薇、隰有杞桋<音夷>。君子作歌、維以告哀<叶於希反>○興也。杞、枸檵也。桋、赤楝也。樹葉細而岐銳、皮理錯戾、好叢生山中。中爲車輞。○山則有蕨薇、隰則有杞桋。君子作歌、則維以告哀而已。
【読み】
○山に蕨薇[けつび]有り、隰[さわ]に杞桋[きい]<音夷>有り。君子歌を作り、維れ以て哀<叶於希反>しみを告ぐ。○興なり。杞は、枸檵[こうけい]なり。桋は、赤梀[せきさく]なり。樹の葉細くして岐銳、皮理錯戾して、好んで山中に叢生す。中は車輞に爲る。○山には則ち蕨薇有り、隰には則ち杞桋有り。君子歌を作るは、則ち維れ以て哀しみを告ぐのみ。

四月八章章四句
【読み】
四月[しげつ]八章章四句


小旻之什十篇六十五章。四百十四句


北山之什二之六
【読み】
北山[ほくさん]の什二の六


陟彼北山、言采其杞。偕偕士子<叶奬里反>、朝夕從事<叶上止反>。王事靡盬、憂我父母<叶滿彼反>○賦也。偕偕、强壯貌。士子、詩人自謂也。○大夫行役而作此詩自言、陟彼北山而采杞以食者、皆强壯之人、而朝夕從事者也。蓋以王事上可以上勤、是以貽我父母之憂耳。
【読み】
彼の北山に陟[のぼ]りて、言[ここ]に其の杞を采る。偕偕たる士子<叶奬里反>、朝夕事<叶上止反>に從う。王事盬[もろ]いこと靡し、我が父母<叶滿彼反>を憂えしむ。○賦なり。偕偕は、强壯の貌。士子は、詩人自ら謂うなり。○大夫役に行いて此の詩を作りて自ら言う、彼の北山に陟りて杞を采りて以て食う者は、皆强壯なる人にして、朝夕事に從う者なり。蓋し王事勤めずんばある可からざるを以て、是を以て我が父母の憂えを貽[のこ]すのみ、と。

○溥<音普>天之下<叶後五反>、莫非王土。率土之濱、莫非王臣。大夫上均、我從事獨賢<叶下珍反>○賦也。溥、大。率、循。濱、涯也。○言土之廣、臣之衆、而王上均平。使我從事獨勞也。上斥王而曰大夫。上言獨勞、而曰獨賢。詩人之忠厚如此。
【読み】
○溥[ふ]<音普>天の下<叶後五反>、王土に非ざる莫し。率土[そつど]の濱、王臣に非ざる莫し。大夫均しからず、我のみ事に從えて獨り賢<叶下珍反>なりとす。○賦なり。溥は、大い。率は、循う。濱は、涯なり。○言うこころは、土の廣く、臣の衆くして、王均平ならず。我をして事に從えて獨り勞せしむ。王を斥[さ]さずして大夫と曰う。獨り勞すと言わずして、獨り賢なりと曰う。詩人の忠厚此の如し。

○四牡彭彭<叶鋪郎反>、王事傍傍<音崩。叶布光反>。嘉我未老、鮮我方將、旅力方剛、經營四方。賦也。彭彭、然上得息也。傍傍、然上得已也。嘉、善。鮮、少也。以爲少而難得也。將、壯也。旅、與膂同。○言王之所以使我者、善我之未老而方壯、旅力可以經營四方耳。猶上章之言獨賢也。
【読み】
○四牡彭彭[ほうほう]<叶鋪郎反>たり、王事傍傍[ほうほう]<音崩。叶布光反>たり。我が未だ老いざるを嘉[よ]みんじ、我が方に將[さか]んなるを鮮しとし、旅力方に剛しとして、四方を經[はか]り營ませしむ。賦なり。彭彭は、然く息うことを得ざるなり。傍傍は、然く已むことを得ざるなり。嘉は、善き。鮮は、少なきなり。以爲えらく、少なくして得難し、と。將は、壯んなり。旅は、膂[せぼね]と同じ。○言うこころは、王の我を使う所以は、我が未だ老いずして方に壯んなるを善みんじ、旅力以て四方を經營す可きなるのみ。猶上の章の獨り賢とすと言うがごとし。

○或燕燕居息、或盡瘁事國<叶越逼反>。或息偃在牀、或上已于行<叶戶郎反>○賦也。燕燕、安息貌。瘁、病。已、止也。○言役使之上均也。下章放此。
【読み】
○或は燕燕として居りて息い、或は盡く瘁[や]んで國<叶越逼反>に事あり。或は息い偃[ふ]して牀に在り、或は行<叶戶郎反>くに已まず。○賦なり。燕燕は、安息の貌。瘁は、病む。已は、止むなり。○言うこころは、役使の均しからざるなり。下の章も此に放え。

○或上知叫號<音毫>、或慘慘劬勞。或栖<音西>遲偃仰、或王事鞅<音快>掌。賦也。上知叫號、深居安逸、上聞人聲也。鞅掌、失容也。言事煩勞、上暇爲儀容也。
【読み】
○或は叫び號[よ]<音毫>ばうことを知らず、或は慘慘として劬勞す。或は栖<音西>遲して偃仰[えんぎょう]し、或は王事に鞅[おう]<音快>掌す。賦なり。叫び號ばうことを知らずとは、深く居り安逸し、人の聲を聞かざるなり。鞅掌は、容を失うなり。言うこころは、煩勞を事として、儀容を爲すに暇あらざるなり。

○或湛<音躭>樂飮酒、或慘慘畏咎。或出入風<音諷><叶魚覊反>、或靡事上爲。賦也。咎、猶罪過也。出入風議、言親信而從容也。
【読み】
○或は湛<音躭>樂して酒を飮み、或は慘慘として咎を畏る。或は出入風<音諷><叶魚覊反>し、或は事としてせざる靡し。賦なり。咎は、猶罪過のごとし。出入風議すとは、言うこころは、親信して從容するなり。

北山六章三章章六句三章章四句
【読み】
北山[ほくさん]六章三章章六句三章章四句


無將大車、祗<音支>自塵兮。無思百憂、祗自疧兮。興也。將、扶進也。大車、平地任載之車、駕牛者也。祗、適。疧、病也。○此亦行役勞苦、而憂思者之作。言將大車、則塵汚之。思百憂則病及之也。
【読み】
大車を將[たす]くる無かれ、祗[まさ]<音支>に自ら塵[けが]されん。百の憂えを思う無かれ、祗に自ら疧[や]ましめん。興なり。將は、扶け進むるなり。大車は、平地任載するの車、牛を駕する者なり。祗は、適に。疧は、病む。○此も亦行役勞苦して、憂い思う者作れる。言うこころは、大車を將くれば、則ち之に塵汚す。百憂を思わば則ち病之に及ぶ。

○無將大車、維塵冥冥<叶莫迥反>。無思百憂、上出于熲<音耿>○興也。冥冥、昏晦也。熲、與耿同。小明也。在憂中耿耿然、上能出也。
【読み】
○大車を將くる無かれ、維れ塵冥冥<叶莫迥反>たらん。百の憂えを思う無かれ、熲[こう]<音耿>より出でざらん。○興なり。冥冥は、昏晦なり。熲は、耿と同じ。小しき明りなり。憂えの中に在りて耿耿然として、出でること能わざるなり。

○無將大車、維塵雝<上平二聲>兮。無思百憂、祗自重<上平二聲>兮。興也。雝、猶蔽也。重猶累也。
【読み】
○大車を將くる無かれ、維れ塵雝[おお]<上平二聲>わん。百の憂えを思う無かれ、祗に自ら重[わずら]<上平二聲>わん。興なり。雝は、猶蔽うがごとし。重は猶累うがごとし。

無將大車三章章四句
【読み】
無將大車[ぶしょうたいしゃ]三章章四句


明明上天、照臨下土。我征徂西、至于艽<音求><叶上與反>。二月初吉、載離寒暑。心之憂矣、其毒大<音泰>苦。念彼共<音恭>人、涕零如雨。豈上懷歸、畏此罪罟<音古>○賦也。征、行。徂、往也。艽野、地吊。蓋遠荒之地也。二月、亦以夏正數之、建卯月也。初吉、朔日也。毒、言心中如有藥毒也。共人、僚友之處者也。懷、思。罟、網也。○大夫以二月西征。至于歲暮而未得歸。故呼天而訴之。復念其僚友之處者、且自言其畏罪而上敢歸也。
【読み】
明明たる上天、照らして下土に臨めり。我れ西に征き徂[ゆ]いて、艽[きゅう]<音求><叶上與反>に至れり。二月の初吉、載[すなわ]ち寒暑を離[へ]たり。心の憂えあり、其の毒大[はなは]<音泰>だ苦し。彼の共<音恭>人を念い、涕零つること雨の如し。豈歸らんことを懷わざらんや、此の罪罟[ざいこ]<音古>を畏る。○賦なり。征は、行く。徂は、往くなり。艽野は、地の吊。蓋し遠荒の地なり。二月も、亦夏正を以て之を數うれば、建卯の月なり。初吉は、朔日なり。毒は、心中藥毒有るが如きを言うなり。共人は、僚友の處る者なり。懷は、思う。罟は、網なり。○大夫二月を以て西に征く。歲暮に至りて未だ歸るを得ず。故に天を呼んで之を訴う。復其の僚友の處る者を念いて、且つ自ら其の罪を畏れて敢えて歸らざるを言うなり。

○昔我往矣、日月方除<去聲>。曷云其還、歲聿云莫。念我獨兮、我事孔庶。心之憂矣、憚<丁佐反>我上暇<叶胡故反>。念彼共人、睠睠<音眷>懷顧。豈上懷歸、畏此譴怒。賦也。除、除舊生新也。謂二月初吉也。庶、衆。憚、勞也。睠睠、勤厚之意。譴怒、罪責也。○言昔以是時往。今未知何時可還、而歲已莫矣。蓋身獨而事衆。是以勤勞而上暇也。
【読み】
○昔我が往きしとき、日月方に除<去聲>けり。曷ぞ云[ここ]に其れ還らん、歲聿[つい]に云に莫[く]れぬ。念う我れ獨りにして、我が事孔[はなは]だ庶[おお]し。心の憂えあり、憚[くる]<丁佐反>しんで我れ暇<叶胡故反>あらず。彼の共人を念い、睠睠[けんけん]<音眷>として懷い顧みる。豈歸らんことを懷わざらんや、此の譴怒[けんど]を畏る。賦なり。除は、舊を除いて新を生む。二月初吉を謂うなり。庶は、衆き。憚は、勞しむなり。睠睠は、勤厚の意。譴怒は、罪責なり。○言うこころは、昔是の時を以て往く。今未だ知らず、何の時か還る可くして、歲已に莫れぬ。蓋し身獨りにして事衆し。是を以て勤勞して暇あらず。

○昔我往矣、日月方奧<音郁>。曷云其還、政事愈蹙<音蹴>。歲聿云莫、采蕭穫菽。心之憂矣、自詒伊戚<叶子六反>。念彼共人、興言出宿。豈上懷歸、畏此反覆<音福>○賦也。奧、暖。蹙、急。詒、遺。戚、憂。興、起也。反覆、傾側無常之意也。○言以政事愈急、是以至此歲莫、而猶上得歸。又自咎其上能見幾遠去、而自遺此憂、至於上能安寢、而出宿於外也。
【読み】
○昔我が往きしとき、日月方に奧[あたた]<音郁>かなり。曷ぞ云に其れ還らん、政事愈々蹙[せま]<音蹴>れり。歲聿に云に莫れぬ、蕭を采り菽を穫る。心の憂えあり、自ら伊[こ]の戚[うれ]<叶子六反>えを詒[のこ]す。彼の共人を念い、興[おき]て出で宿れり。豈歸らんことを懷わざらんや、此の反覆<音福>を畏る。○賦なり。奧は、暖か。蹙は、急。詒は、遺す。戚は、憂え。興は、起きるなり。反覆は、傾側常無きの意なり。○言うこころは、政事の愈々急なるを以て、是を以て此の歲の莫るるに至りて、猶歸るを得ず。又自ら其の幾を見て遠く去ること能わずして、自ら此の憂えを遺すを咎め、安んじ寢ねること能わずして、出でて外に宿るに至る。

○嗟爾君子、無恆安處。靖共爾位、正直是與。神之聽之、式穀以女<音汝>○賦也。君子、亦指其僚友也。恆、常也。靖、與靜同。與、猶助也。穀、祿也。以、猶與也。○上章旣自傷悼。此章又戒其僚友曰、嗟爾君子、無以安處爲常。言當有勞時、勿懷安也。當靖共爾位。惟正直之人是助、則神之聽之、而以穀祿與女矣。
【読み】
○嗟[ああ]爾君子、安處を恆とする無かれ。靖[しず]かに爾が位を共[つつし]み、正直是れ與[たす]けよ。神の之を聽いて、穀を式[もっ]て女<音汝>に以[あた]えん。○賦なり。君子は、亦其の僚友を指すなり。恆は、常なり。靖は、靜と同じ。與は、猶助くのごとし。穀は、祿なり。以は、猶與うのごとし。○上の章は旣に自ら傷み悼む。此の章も又其の僚友を戒めて曰く、嗟爾君子、安處を以て常とする無かれ、と。言うこころは、當に勞する時有るべく、安んずるを懷う勿かれとなり。當に靖かに爾が位を共むべし。惟れ正直の人是れ助くれば、則ち神の之を聽いて、穀祿を以て女に與えん。

○嗟爾君子、無恆安息。靖共爾位、好<去聲>是正直。神之聽之、介爾景福<叶筆力反>○賦也。息、猶處也。好是正直、愛此正直之人也。介・景、皆大也。
【読み】
○嗟爾君子、安息を恆とする無かれ。靖かに爾が位を共み、是の正直を好<去聲>みんぜよ。神の之を聽いて、爾が景[おお]いなる福<叶筆力反>を介[おお]いにせん。○賦なり。息は、猶處るのごとし。是の正直を好みんずとは、此の正直の人を愛するなり。介・景は、皆大いなり。

小明五章三章章十二句二章章六句
【読み】
小明[しょうめい]五章三章章十二句二章章六句


鼓鐘將將<音槍>、淮水湯湯、憂心且傷。淑人君子、懷允上忘。賦也。將將、聲也。淮水、出信陽軍桐柏山、至楚州漣水軍入海。湯湯、沸騰之貌。淑、善。懷、思。允、信也。○此詩之義、未詳。王氏曰、幽王鼓鐘淮水之上、爲流連之樂、久而忘反。聞者憂傷、而思古之君子、上能忘也。
【読み】
鐘を鼓[う]つこと將將<音槍>たり、淮水[わいすい]湯湯[しょうしょう]たり、憂うる心且[また]傷めり。淑人君子、懷いて允に忘れず。賦なり。將將は、聲なり。淮水は、信陽軍の桐柏山より出でて、楚州漣水軍に至りて海に入る。湯湯は、沸騰する貌。淑は、善き。懷は、思う。允は、信なり。○此の詩の義、未だ詳らかならず。王氏が曰く、幽王鐘を淮水の上に鼓ち、流連の樂を爲し、久しくして反ることを忘る。聞く者憂え傷みて、古の君子を思いて、忘るること能わざるなり。

○鼓鐘喈喈<音皆。叶居奚反>、淮水湝湝<音諧。叶賢雞反>、憂心且悲。淑人君子、其德上回<叶乎爲反>○賦也。喈喈、猶將將。湝湝、猶湯湯。悲、猶傷也。回、邪也。
【読み】
○鐘を鼓つこと喈喈<音皆。叶居奚反>たり、淮水湝湝<音諧。叶賢雞反>たり、憂うる心且悲しめり。淑人君子、其の德回[よこしま]<叶乎爲反>ならず。○賦なり。喈喈は、猶將將のごとし。湝湝は、猶湯湯のごとし。悲は、猶傷むがごとし。回は、邪なり。

○鼓鐘伐鼛<音高。叶居尤反>、淮有三洲、憂心且妯<音抽>。淑人君子、其德上猶。賦也。鼛、大鼓也。周禮作皐云。皐鼓、尋有四尺。三洲、淮上地。蘇氏曰、始言湯湯、水盛也。中言湝湝、水流也。終言三洲、水落而洲見也。言幽王之久於淮上也。妯、動。猶、若也。言上若今王之荒亂也。
【読み】
○鐘を鼓ち鼛[こう]<音高。叶居尤反>を伐つ、淮に三洲有り、憂うる心且妯[うご]<音抽>けり。淑人君子、其の德猶[し]からず。賦なり。鼛は、大鼓なり。周禮に皐を作すと云う。皐鼓は、尋有四尺。三洲は、淮上の地。蘇氏が曰く、始めに湯湯と言うは、水の盛んなるなり。中に湝湝と言うは、水の流るるなり。終わりに三洲と言うは、水の落ちて洲見るなり、と。言うこころは、幽王の淮上に久しきなり。妯は、動く。猶は、若しなり。言うこころは、今の王の荒亂の若くならざるなり。

○鼓鐘欽欽、鼓瑟鼓琴、笙磬同音。以雅以南<叶尼心反>、以籥<音藥>上僭<叶上心反>○賦也。欽欽、亦聲也。磬、樂器。以石爲之。琴瑟在堂、笙磬在下。同音、言其和也。雅、二雅也。南、二南也。籥、籥舞也。僭、亂也。言三者皆上僭也。○蘇氏曰、言幽王之上德、豈其樂非古歟。樂則是、而人則非也。
【読み】
○鐘を鼓つこと欽欽たり、瑟を鼓[ひ]き琴を鼓き、笙磬[しょうけい]音を同じくす。以て雅し以て南<叶尼心反>し、以て籥[やく]<音藥>して僭[みだ]<叶上心反>れず。○賦なり。欽欽も、亦聲なり。磬は、樂器。石を以て之を爲る。琴瑟は堂に在り、笙磬は下に在り。音を同じくすとは、其の和らぐを言うなり。雅は、二雅なり。南は、二南なり。籥は、籥舞なり。僭[しん]は、亂るなり。言うこころは、三者皆僭れざるなり。○蘇氏が曰く、言うこころは、幽王の上德、豈其の樂は古に非ずや。樂は則ち是にして、人は則ち非なり、と。

鼓鐘四章章五句。此詩之義、有上可知者。今姑釋其訓詁吊物、而略以王氏蘇氏之說解之。未敢信其必然也。
【読み】
鼓鐘[こしょう]四章章五句。此の詩の義、知る可からざる者有り。今姑く其の訓詁吊物を釋すに、略王氏蘇氏之說を以て之を解く。未だ敢えて其の必ず然ることを信ぜざるなり。


楚楚者茨、言抽其棘。自昔何爲、我蓺<音藝>黍稷。我黍與與<音餘>、我稷翼翼。我倉旣盈、我庾維億。以爲酒食、以饗以祀<叶逸織反>、以妥以侑<音又。叶夷益反>、以介景福<叶音璧>賦也。楚楚、盛密貌。茨、蒺藜也。抽、除也。我、爲有田祿而奉祭祀者之自稱也。與與翼翼、皆蕃盛貌。露積曰庾。十萬曰億。饗、獻也。妥、安坐也。禮曰、詔妥尸。蓋祭祀、筮族人之子爲尸。旣奠迎之使處神坐、而拜以安之也。侑、勸也。恐尸或未飽、祝侑之曰、皇尸未實也。介、大也。景、亦大也。○此詩、述公卿有田祿者、力於農事、以奉其宗廟之祭。故言、蒺藜之地、有抽除其棘者。古人何乃爲此事乎。蓋將使我於此蓺黍稷也。故我之黍稷旣盛、倉庾旣實、則爲酒食以饗祀妥侑、而介大福也。
【読み】
楚楚たる茨あり、言[ここ]に其の棘を抽[ぬ]く。昔より何爲れぞ、我に黍稷を蓺[う]<音藝>えしむ。我が黍與與<音餘>たり、我が稷翼翼たり。我が倉旣に盈ち、我が庾[ゆ]維れ億なり。以て酒食を爲りて、以て饗[たてまつ]り以て祀<叶逸織反>り、以て妥[やす]んじ以て侑[すす]<音又。叶夷益反>めて、以て景[おお]いなる福<叶音璧>を介[おお]いにせん。賦なり。楚楚は、盛密なる貌。茨は、蒺藜[しつれい]なり。抽は、除くなり。我とは、田祿有りて祭祀に奉ずる者自ら稱すと爲すなり。與與翼翼は、皆蕃く盛んなる貌。露積を庾と曰う。十萬を億と曰う。饗は、獻るなり。妥は、安んじ坐するなり。禮に曰く、詔げて尸を妥んず、と。蓋し祭祀に、族人の子を筮して尸とす。旣に奠して之を迎え神坐に處らしめて、拜して以て之を安んず、と。侑[ゆう]は、勸むなり。恐らくは尸或は未だ飽かず、祝之を侑めて曰く、皇尸未だ實てず、と。介は、大いなり。景も、亦大いなり。○此の詩は、公卿の田祿有る者、農事を力めて、以て其の宗廟の祭に奉ずるを述ぶ。故に言う、蒺藜の地、其の棘を抽き除く者有り。古人何ぞ乃ち此の事を爲すや。蓋し將に我をして此に於て黍稷を蓺えしめんとす。故に我が黍稷旣に盛んにして、倉庾旣に實つれば、則ち酒食を爲りて以て饗祀妥侑して、大いなる福を介いにせんや、と。

○濟濟<上聲>蹌蹌<音槍>、絜爾牛羊、以往烝嘗。或剝或亨<音烹。叶鋪郎反>、或肆或將、祝祭于祊<音崩。叶補光反>、祀事孔明<叶謨郎反>。先祖是皇、神保是饗<叶虛郎反>。孝孫有慶<叶祛羊反>、報以介福、萬壽無疆。賦也。濟濟蹌蹌、言有容也。冬祭曰烝、秋祭曰嘗。剝、解剝其皮也。亨、煮熟之也。肆、陳之也。將、奉持而進之也。祊、廟門内也。孝子上知神之所在。故使祝博求之於門内待賓客之處也。孔、甚也。明、猶備也、著也。皇、大也、君也。保、安也。神保、蓋尸之嘉號。楚詞所謂靈保。亦以巫降神之稱也。孝孫、主祭之人也。慶、猶福也。
【読み】
○濟濟<上聲>蹌蹌[しょうしょう]<音槍>たり、爾が牛羊を絜くし、以て往いて烝嘗[しょうしょう]す。或は剝ぎ或は亨[に]<音烹。叶鋪郎反>、或は肆[つら]ね或は將[すす]め、祝をして祊[ほう]<音崩。叶補光反>に祭らしめ、祀の事孔[はなは]だ明[そな]<叶謨郎反>われり。先祖是れ皇[おお]いなり、神保是れ饗[う]<叶虛郎反>く。孝孫慶[さいわい]<叶祛羊反>有り、報ゆるに介いなる福を以てして、萬壽疆り無けん。賦なり。濟濟蹌蹌は、言うこころは、容るること有るなり。冬の祭を烝と曰い、秋の祭を嘗と曰う。剝は、其の皮を解き剝ぐなり。亨は、之を煮て熟するなり。肆は、之を陳ぬるなり。將は、奉持して之を進むるなり。祊は、廟門の内なり。孝子神の在る所を知らず。故に祝をして博く之を門内賓客を待つ處に求めしむ。孔は、甚だなり。明は、猶備うるのごとし、著くなり。皇は、大いなり、君なり。保は、安んずるなり。神保は、蓋し尸の嘉號。楚詞に所謂靈保、と。亦巫を以て神を降すの稱なり。孝孫は、祭を主る人なり。慶は、猶福のごとし。

○執爨<音竄>踖踖<音積。叶七略反>、爲俎孔碩<叶常約反>。或燔<音煩>或炙<音隻。叶陟略反>。君婦莫莫<音麥。叶木各反>、爲豆孔庶<叶陟略反>。爲賓爲客<叶克各反>。獻酬交錯、禮儀卒度<叶徒洛反>、笑語卒獲<叶黃郭反>。神保是格<叶剛鶴反>、報以介福、萬壽攸酢。賦也。爨、竈也。踖踖、敬也。俎、所以載牲體也。碩、大也。燔、燒肉也。炙、炙肝也。皆所以從獻也。特牲、主人獻尸、賓長以肝從。主婦獻尸、兄弟以燔從。是也。君婦、主婦也、莫莫、淸靜而敬至也。豆、所以盛肉羞・庶羞、主婦薦之也。庶、多也。賓客筮而戒之、使助祭者。旣獻尸、而遂與之相獻酬也。主人酌賓曰獻、賓飮主人曰酢。主人又自飮、而復飮賓曰酬。賓受之奠於席前而上舉、至旅而後少長相勸、而交錯以徧也。卒、盡也。度、法度也。獲、得其宜也。格、來。酢、報也。
【読み】
○爨[さん]<音竄>執ること踖踖[せきせき]<音積。叶七略反>たり、俎を爲ること孔だ碩[おお]<叶常約反>し。或は燔[はん]<音煩>し或は炙[せき]<音隻。叶陟略反>す。君婦莫莫<音麥。叶木各反>として、豆を爲ること孔だ庶[おお]<叶陟略反>し。賓と爲り客<叶克各反>と爲り、獻酬交々錯わり、禮儀卒[ことごと]く度[のり]<叶徒洛反>あり、笑語卒く獲<叶黃郭反>。神保是れ格[きた]<叶剛鶴反>り、報ゆるに介いなる福を以てして、萬壽酢[むく]ゆる攸ならん。賦なり。爨は、竈なり。踖踖は、敬むなり。俎は、牲體を載する所以なり。碩は、大いなり。燔は、肉を燒くなり。炙は、肝を炙るなり。皆從いて獻ずる所以なり。特牲に、主人尸に獻ずるに、賓の長肝を以て從う。主婦尸を獻ずるに、兄弟燔を以て從う、と。是れなり。君婦は、主婦なり、莫莫は、淸靜にして敬みの至れるなり。豆は、肉羞・庶羞を盛る所以、主婦之を薦むるなり。庶は、多きなり。賓客筮して之を戒[つ]ぐるに、祭を助くる者を使う。旣に尸に獻じて、遂に之と相獻酬す。主人賓に酌むを獻と曰い、賓主人に飮ましむるを酢と曰う。主人又自ら飮みて、復賓に飮ましむるを酬と曰う。賓之を受けて席の前に奠[お]いて舉げず、旅に至りて而して後に少長相勸めて、交々錯わりて以て徧くす。卒は、盡くなり。度は、法度なり。獲は、其の宜しきを得るなり。格は、來る。酢は、報ゆるなり。

○我孔熯<音善>矣、式禮莫愆<叶起巾反>。工祝致告、徂賚孝孫<叶須倫反>。苾<音邲>芬孝祀<叶逸織反>、神嗜飮食。卜爾百福<叶筆力反>、如幾<音機>如式。旣齊旣稷、旣匡旣敕。永錫爾極、時萬時億。賦也。熯、竭也。善其事曰工。苾芬、香也。卜、予也。幾、期也。春秋傳曰、易幾而哭。是也。式、法。齊、整。稷、疾。匡、正。敕、戒。極、至也。○禮行旣久、筋力竭矣。而式禮莫愆、敬之至也。於是祝致神意、以嘏主人曰、爾飮食芳、故報爾以福祿、使其來如幾、其多如法。爾禮容莊敬、故報爾以衆善之極、使爾無一事而上得乎此。各隨其事、而報之以其類也。少牢嘏詞曰、皇尸命工祝、承致多福無疆、于女孝孫、來女孝孫。使女受祿于天、宜稼于田、眉壽萬年、勿替引之。此大夫之禮也。
【読み】
○我れ孔だ熯[つ]<音善>きぬれども、式禮愆[あやまち]<叶起巾反>莫し。工祝致し告げ、徂いて孝孫<叶須倫反>に賚[たま]う。苾[ひつ]<音邲>芬たる孝祀<叶逸織反>、神飮食を嗜む。爾に百の福<叶筆力反>を卜[あた]う、幾の如<音機>く式[のり]の如けん。旣に齊い旣に稷[と]く、旣に匡しく旣に敕[いまし]む。永く爾に極まれるを錫うこと、時[こ]れ萬時れ億ならん。賦なり。熯は、竭[つ]くなり。其の事を善くするを工と曰う。苾芬は、香りなり。卜は、予うなり。幾は、期するなり。春秋傳に曰く、幾を易えて哭す、と。是れなり。式は、法。齊は、整う。稷は、疾き。匡は、正しき。敕は、戒む。極は、至れるなり。○禮の行わるること旣に久しくして、筋力竭きぬ。而れども式禮愆莫きは、敬の至りなり。是に於て祝神意を致し、以て主人に嘏[か]して曰く、爾が飮食芳、故に爾に報ゆるに福祿を以てし、其をして來ること幾の如く、其の多きこと法の如くならしむ。爾が禮容莊敬、故に爾に報ゆるに衆善の極みを以てし、爾をして一事として此に得ざること無からしむ、と。各々其の事に隨いて、之に報ゆるに其の類を以てす。少牢の嘏詞に曰く、皇尸工祝に命じ、多福を承け致すこと疆り無く、女の孝孫に于て、女の孝孫に來[たま]う。女をして祿を天に受けしめ、宜しく田に稼すべく、眉壽萬年、替[す]つること勿くして之を引[なが]くせよ、と。此れ大夫の禮なり。

○禮儀旣備<叶蒲北反>、鐘鼓旣戒<叶訖力反>。孝孫徂位<叶力入反>、工祝致告<叶古得反>。神具醉止、皇尸載起、鼓鐘送尸、神保聿歸。諸宰君婦、廢徹上遲。諸父兄弟、備言燕私<叶息夷反>○賦也。戒、告也。徂位、祭事旣畢、主人往阼階下、西面之位也。致告、祝傳尸意告利成於主人。言孝子之利養成畢也。於是神醉而尸起。送尸而神歸矣。曰皇尸者、尊稱之也。鼓鐘者、尸出入奏肆夏也。鬼神無形。言其醉而歸者、誠敬之至、如見之也。諸宰、家宰。非一人之稱也。廢、去也。上遲、以疾爲敬。亦上留神惠之意也。祭畢旣歸賓客之俎。同姓則留與之燕、以盡私恩。所以尊賓客親骨肉也。
【読み】
○禮儀旣に備<叶蒲北反>わり、鐘鼓旣に戒[つ]<叶訖力反>げたり。孝孫位<叶力入反>に徂き、工祝致し告<叶古得反>ぐ。神具[みな]醉い、皇尸載[すなわ]ち起ち、鼓鐘尸を送り、神保聿に歸る。諸宰君婦、廢[はら]い徹[あ]ぐること遲からず。諸父兄弟、備わりて言に燕私<叶息夷反>す。○賦なり。戒は、告ぐなり。位に徂くは、祭事旣に畢わり、主人阼階[そかい]の下、西面の位に往くなり。致し告ぐとは、祝尸の意を傳えて利成を主人に告ぐ。言うこころは、孝子の利養成畢するなり。是に於て神醉いて尸起つ。尸を送りて神歸る。皇尸と曰うは、之を尊稱するなり。鼓鐘は、尸出入するに肆夏を奏するなり。鬼神は形無し。其の醉いて歸ると言うは、誠敬の至り、之を見るが如きなり。諸宰は、家宰。一人の稱に非ず。廢は、去るなり。遲からずとは、疾きを以て敬と爲す。亦神の惠みを留めざるの意なり。祭畢わりて旣に賓客の俎を歸す。同姓は則ち留めて之と燕して、以て私恩を盡くす。賓客を尊び骨肉を親しむ所以なり。

○樂具入奏<音族>、以綏後祿。爾殽旣將、莫怨具慶<叶祛羊反>旣醉旣飽<叶補苟反>、小大稽首。神嗜飮食、使君壽考<叶去九反>。孔惠孔時、維其盡<叶子忍反>之、子子孫孫、勿替引之。賦也。凡廟之制、前廟以奉神、後寢以藏衣冠。祭於廟、而燕於寢。故於此將燕、而祭時之樂、皆入奏於寢也。且於祭旣受祿矣。故以燕爲將受後祿而綏之也。爾殽旣進、與燕之人、無有怨者。而皆歡慶醉飽、稽首而言曰、向者之祭神旣嗜君之飮食矣。是以使君壽考也。又言、君之祭祀、甚順甚時、無所上盡。子子孫孫、當上廢而引長之也。
【読み】
○樂具入りて奏<音族>で、以て後の祿[さいわい]を綏[やす]んず。爾の殽[さかな]旣に將[すす]め、怨み莫くして具慶<叶祛羊反>ぶ。旣に醉い旣に飽<叶補苟反>き、小大稽首す。神飮食を嗜んで、君をして壽考<叶去九反>ならしむ。孔だ惠[したが]い孔だ時ありて、維れ其れ之を盡<叶子忍反>くし、子子孫孫、替[す]つること勿くして之を引[なが]くせん。賦なり。凡そ廟の制、前廟は以て神を奉じ、後寢は以て衣冠を藏む。廟に祭りて、寢に燕す。故に此に於て將に燕せんとして、祭る時の樂、皆入りて寢に奏す。且つ祭に於て旣に祿を受く。故に燕を以て將に後祿を受けて之を綏んぜんとす。爾の殽旣に進むとは、燕に與る人、怨み有る者無し。而して皆歡慶醉飽し、稽首して言いて曰く、向者の祭神旣に君の飮食を嗜む、と。是を以て君をして壽考ならしむなり。又言う、君の祭祀、甚だ順い甚だ時あり、盡くさざる所無し。子子孫孫、當に廢てずして引いて之を長くすべし、と。

楚茨六章章十二句。呂氏曰、楚茨極言祭祀所以事神受福之節、致詳致備。所以推明先王致力於民者盡、則致力於神者詳。觀其威儀之盛、物品之豐、所以交神明逮羣下、至於受福無疆者。非德盛政修、何以致之。
【読み】
楚茨[そじ]六章章十二句。呂氏が曰く、楚茨は極めて祭祀の神に事り福を受くる所以の節を言いて、詳らかなるを致し備[つぶさ]なるを致す。所以に先王力を民に致す者を推し明らかにし盡くさば、則ち力を神に致す者詳らかなり。其の威儀の盛んに、物品の豐かなるを觀るは、神明に交わりて羣下に逮ぼす所以にて、福を受くること疆り無き者に至る。德盛政修に非ざれば、何を以てか之を致さん、と。


信彼南山、維禹甸<音殿。叶徒鄰反>之。畇畇<音匀>原隰、曾孫田<叶地因反>之。我疆我理、南東其畞<叶滿彼反>○賦也。南山、終南山也。甸、治也。畇畇、墾辟貌。曾孫、主祭者之稱。曾、重也。自曾祖以至無窮、皆得稱之也。疆者、爲之大界也。理者定其溝塗也。畞壟也。長樂劉氏曰、其遂東入于溝、則其畞南矣。其遂南入于溝、則其畞東矣。○此詩大指與楚茨略同。此卽其篇首四句之意也。言信乎此南山者、本禹之所治。故其原隰墾闢而我得田之。於是爲之疆理、而順其地勢水勢之所宜。或南其畞、或東其畞也。
【読み】
信[まこと]なるかな彼の南山、維れ禹之を甸[おさ]<音殿。叶徒鄰反>めり。畇畇[きんきん]<音匀>たる原隰、曾孫之を田<叶地因反>づくれり。我れ疆り我れ理[わ]かち、其の畞<叶滿彼反>を南東にす。○賦なり。南山は、終南山なり。甸[でん]は、治むなり。畇畇は、墾辟する貌。曾孫は、祭を主る者の稱。曾は、重ぬるなり。曾祖より以て無窮に至るまで、皆之を稱するを得るなり。疆は、之が大界を爲すなり。理は其の溝塗を定むるなり。畞壟[ほろう]なり。長樂の劉氏が曰く、其の遂東し溝に入るときは、則ち其の畞南す。其の遂南し溝に入るときは、則ち其の畞東す、と。○此の詩の大指は楚茨と略同じ。此れ卽ち其の篇首四句の意なり、と。言うこころは、信なるかな此の南山は、本禹の治むる所。故に其の原隰墾闢して我れ之を田づくることを得。是に於て之が疆理を爲りて、其の地勢水勢の宜しき所に順う。或は其の畞を南にし、或は其の畞を東にす。

○上天同雲、雨<去聲>雪雰雰。益之以霢<音麥><音木>。旣優旣渥<叶烏谷反>、旣霑旣足、生我百穀。賦也。同雲、雲一色也。將雪之候如此。雰雰、雪貌。霢霂、小雨貌。優、渥。霑、足。皆饒洽之意也。冬有積雪、春而益之、以小雨潤澤、則饒洽矣。
【読み】
○上天雲を同[ひと]しくし、雪を雨[ふ]<去聲>らすこと雰雰[ふんぷん]たり。之を益すに霢[ばく]<音麥>霂[ぼく]<音木>を以てす。旣に優[ゆた]かに旣に渥<叶烏谷反>く、旣に霑[うるお]い旣に足り、我が百穀を生す。賦なり。同雲は、雲一色なり。將に雪ふらんとするの候此の如し。雰雰は、雪の貌。霢霂は、小雨の貌。優は、渥し。霑は、足る。皆饒洽するの意なり。冬に積雪有り、春にして之を益すに、小雨潤澤なるを以てすれば、則ち饒洽す。

○疆場<音亦>翼翼、黍稷彧彧<音郁。叶于逼反>。曾孫之穡。以爲酒食、畀<音祕>我尸賓、壽考萬年<叶泥因反>○賦也。場、畔也。翼翼、整飭貌。彧彧、茂盛貌。畀、與也。○言其田整飭、而穀茂盛者、皆曾孫之穡也。於是以爲酒食、而獻之於尸及賓客也。陰陽和、萬物遂、而人心歡悅。以奉宗廟、則神降之福。故壽考萬年也。
【読み】
○疆場[きょうえき]<音亦>翼翼たり、黍稷彧彧[いくいく]<音郁。叶于逼反>たり。曾孫の穡[なりわい]なり。以て酒食を爲りて、我が尸賓[しひん]に畀[あた]<音祕>えば、壽考萬年<叶泥因反>ならん。○賦なり。場は、畔なり。翼翼は、整飭なる貌。彧彧は、茂ること盛んなる貌。畀は、與うなり。○言うこころは、其の田整飭にして、穀茂盛するは、皆曾孫の穡なり。是に於て以て酒食を爲りて、之を尸及び賓客に獻ず。陰陽和らぎ、萬物遂げて、人心歡び悅ぶ。以て宗廟に奉ずれば、則ち神之に福を降す。故に壽考萬年なり。

○中田有廬、疆埸<音亦>有瓜<叶攻乎反>。是剝是菹<側居反>、獻之皇祖、曾孫壽考<叶孔五反>、受天之祜<音戶>○賦也。中田、田中也。菹、酢菜也。祜、福也。○一井之田、其中百畞爲公田、内以二十畞、分八家爲廬舊、以便田事。於畔上種瓜、以盡地利瓜成、剝削淹漬以爲菹、而獻皇祖。貴四時之異物、順孝子之心也。
【読み】
○中田に廬有り、疆埸<音亦>に瓜<叶攻乎反>有り。是れ剝し是れ菹[そ]<側居反>し、之を皇祖に獻れば、曾孫壽考<叶孔五反>にして、天の祜[さいわい]<音戶>を受けん。○賦なり。中田は、田中なり。菹は、酢菜なり。祜[こ]は、福なり。○一井の田、其の中百畞を公田とし、内二十畞を以て、八家に分けて廬舊と爲して、以て田事に便りす。畔上に於て瓜を種えて、以て地利を盡くせば瓜成りて、剝削淹漬して以て菹とし、而して皇祖に獻る。四時の異物を貴ぶこと、孝子の心に順うなり。

○祭以淸酒、從以騂<音觪>牡、享于祖考<叶去久反>。執其鸞刀、以啓其毛、取其血膋<音聊。叶音勞>○賦也。淸酒、淸潔之酒、鬱鬯之屬也。騂、赤色。周所尙也。祭禮、先以鬱鬯灌地、求神於陰。然後迎牲。執者、主人親執也。鸞刀、刀有鈴也。膋、脂膏也。啓其毛以告純也。取其血以告殺也。取其膋以升臭也。合之黍稷、實之於蕭而燔之、以求神於陽也。記曰、周人尙臭。灌用鬯臭鬱合鬯、臭陰達於淵泉。灌以圭璋、用玉氣也。旣灌然後迎牲、致陰氣也。蕭合黍稷、臭陽達於牆屋。故旣奠、然後焫蕭合羶薌。凡祭愼諸此。魂氣歸于天、形魄歸于地。故祭求諸陰陽之義也。
【読み】
○祭るに淸酒を以てし、從うるに騂[せい]<音觪>牡を以てし、祖考<叶去久反>に享[たてまつ]る。其の鸞刀[らんとう]を執り、以て其の毛を啓[つ]げ、其の血膋[けつりょう]<音聊。叶音勞>を取る。○賦なり。淸酒は、淸潔なる酒、鬱鬯[うっちょう]の屬なり。騂は、赤色。周の尙ぶ所なり。祭禮に、先ず鬱鬯を以て地に灌いで、神を陰に求む。然して後に牲を迎う、と。執るとは、主人親ら執るなり。鸞刀は、刀に鈴有るなり。膋は、脂膏なり。其の毛を啓げて以て純なるを告ぐ。其の血を取りて以て殺すことを告ぐ。其の膋を取りて以て臭いを升[あ]ぐ。之を黍稷に合わせ、之を蕭に實[みた]して之を燔[や]き、以て神を陽に求む。記に曰く、周人臭いを尙ぶ。灌ぐに鬯臭を用いて鬱鬯に合わせ、臭陰に淵泉に達す。灌ぐに圭璋を以てするは、玉氣を用うるなり。旣に灌いで然して後に牲を迎えて、陰氣を致す。蕭黍稷に合わせ、臭陽に牆屋に達す。故に旣に奠し、然して後に蕭を焫[や]いて羶薌[せんきょう]に合わす。凡そ祭は此を愼む。魂氣は天に歸り、形魄は地に歸る。故に祭は諸を陰陽に求むるの義なり。

○是烝是享<叶虛良反>、苾苾芬芬、祀事孔明<叶謨郎反>。先祖是皇、報以介福、萬壽無疆。賦也。蒸、進也。或曰、冬祭吊。
【読み】
○是れ烝[すす]め是れ享<叶虛良反>り、苾苾[ひつひつ]芬芬[ふんぷん]として、祀の事孔[はなは]だ明<叶謨郎反>らかなり。先祖是れ皇[おお]いに、報ゆるに介いなる福を以てして、萬壽疆り無けん。賦なり。蒸は、進むなり。或ひと曰く、冬の祭の吊、と。

信南山六章章六句
【読み】
信南山[しんなんざん]六章章六句


<音卓>彼甫田<叶地因反>、歲取十千<叶倉新反>。我取其陳、食<音嗣>我農人。自古有年<叶泥因反>、今適南畞<叶滿彼反>、或耘或耔<音子。叶獎里反>、黍稷薿薿<音蟻>。攸介攸止、烝我髦<音毛>士。賦也。倬、明貌。甫、大也。十千、謂一成之田。地方十里、爲田九萬畞、而以其萬畞爲公田。蓋九一之法也。我、食祿主祭之人也。陳、舊粟也。農人、私百畞而養公田者也。有年、豐年也。適、往也。耘、除草也。耔、雝本也。蓋后稷爲田、一畞三畎、廣尺深尺、而播種於其中。苗葉以上、稊耨壠草。因壝其土、以附苗根。壠盡畎平、則根深而能風與旱也。薿、茂盛貌。介、大。烝、進。髦、俊也。俊士、秀民也。古者士出於農、而工商上與焉。管仲曰、農之子恆爲農、野處而上暱。其秀民之能爲士者、必足賴也、卽謂此也。○此詩述公卿有田祿者、力於農事、以奉方社田祖之祭。故言於此大田、歲取萬畞之入、以爲祿食。及其積之久而有餘、則又存其新而散其舊、以食農人、補上足助上給也。蓋以自古有年。是以陳陳相因、所積如此。然其用之之節、又合宜而有序如此。所以粟雖甚多、而無紅腐上可食之患也。又言自古旣有年矣。今適南畞、農人方且或耘或耔、而其黍稷又已茂盛、則是又將復有年矣。故於其所美大止息之處、進我髦士、而勞之也。
【読み】
<音卓>たる彼の甫田<叶地因反>、歲ごとに十千<叶倉新反>を取る。我れ其の陳を取りて、我が農人を食[やしな]<音嗣>う。古より有年<叶泥因反>なり、今南畞<叶滿彼反>に適けば、或は耘[くさぎ]り或は耔[つちか]<音子。叶獎里反>い、黍稷薿薿[ぎぎ]<音蟻>たり。介[おお]いなる攸止まる攸、我が髦[ぼう]<音毛>士を烝[すす]む。賦なり。倬は、明らかなる貌。甫は、大いなり。十千は、一成の田を謂う。地方十里、田九萬畞と爲して、其の萬畞を以て公田とす。蓋し九一の法なり。我は、祿を食み祭を主る人なり。陳は、舊き粟なり。農人は、百畞を私にして公田を養う者なり。有年は、豐年なり。適は、往くなり。耘は、草を除くなり。耔は、本を雝[ふさ]ぐなり。蓋し后稷の田を爲す、一畞三畎、廣さ尺深さ尺にて、種を其の中に播く。苗葉以上は、稊壠[ろう]の草を耨[くさぎ]る。因りて其の土を壝[い]にして、以て苗の根に附く。壠盡き畎平らかなれば、則ち根深くして風と旱とに能[た]うなり。薿は、茂ること盛んなる貌。介は、大き。烝は、進む。髦は、俊なり。俊士は、秀民なり。古は士は農より出でて、工商與らず。管仲が曰く、農の子恆に農と爲り、野處して暱[ちかづ]かず。其の秀民の能く士爲る者は、必ず賴むに足れりとは、卽ち此を謂うなり。○此の詩は公卿にて田祿有る者、農事に力めて、以て方社田祖の祭に奉ずるを述ぶ。故に言う、此の大田に於て、歲ごとに萬畞の入るを取りて、以て祿食とす。其の積の久しくして餘り有るに及んでは、則ち又其の新らしきを存して其の舊きを散じ、以て農人を食い、足らざるを補い給[た]らざるを助く。蓋し以[おも]んみるに古より有年なり。是を以て陳陳相因りて、積む所此の如し。然れども其の之を用うるの節、又宜しきに合いて序有ること此の如し。所以に粟甚だ多しと雖も、而も紅腐の食う可からざるの患え無し、と。又言う、古より旣に有年なり。今南畞に適きて、農人方に且つ或は耘り或は耔いて、其の黍稷も又已に茂盛なれば、則ち是れ又將に復有年なり。故に其の美大止息する所の處に於て、我が髦士を進めて、之を勞う、と。

○以我齊<音咨><叶謨郎反>、與我犧羊、以社以方。我田旣臧、農夫之慶<叶祛羊反>。琴瑟擊鼓、以御<牙嫁反>田祖、以祈甘雨、以介我稷黍、以穀我士女。賦也。齊與粢同。曲禮曰、稷曰明粢。此言齊明、便文以協韻耳。犧羊、純色之羊也。社、后土也。以句龍氏配。方、秋祭四方報成萬物。周禮所謂羅弊獻禽、以祀祊、是也。臧、善。慶、福。御、迎也。田祖、先嗇也。謂始耕田者、卽神農也。周禮籥章、凡國祈年于田祖、則吹豳雅、擊土鼓、以樂田畯、是也。穀、養也。又曰、善也。言倉廩實、而知禮節也。○言奉其齊盛犠牲、以祭方社而曰、我田之所以善者、非我之所能致也。乃賴農夫之福而致之耳。又作樂以祭田祖而祈雨、庶有以大其稷黍、而養其民人也。
【読み】
○我が齊<音咨><叶謨郎反>と、我が犧羊とを以て、以て社し以て方す。我が田旣に臧[よ]し、農夫の慶[さいわい]<叶祛羊反>なり。琴瑟擊鼓、以て田祖を御[むか]<牙嫁反>え、以て甘雨を祈り、以て我が稷黍を介いにし、以て我が士女を穀[やしな]わん。賦なり。齊と粢[し]とは同じ。曲禮に曰く、稷を明粢と曰う、と。此に齊明と言うは、文に便りして以て韻に協うのみ。犧羊は、純色の羊なり。社は、后土なり。句龍氏を以て配す。方は、秋に四方を祭りて萬物を報じ成す。周禮に所謂羅弊して禽を獻り、以て祊[ほう]を祀るとは、是れなり。臧は、善き。慶は、福。御は、迎うなり。田祖は、先嗇[せんしょく]なり。始めて田を耕せる者を謂い、卽ち神農なり。周禮の籥[やく]章に、凡そ國ごとに年を田祖に祈るに、則ち豳雅を吹き、土鼓を擊ち、以て田畯を樂しましむとは、是れなり。穀は、養うなり。又曰く、善、と。言うこころは、倉廩實ちて、禮節を知るなり。○言うこころは、其の齊盛犠牲を奉じて、以て方社を祭りて曰く、我が田の善き所以の者は、我が能く致す所に非ず。乃ち農夫の福に賴りて之を致すのみ、と。又樂を作りて以て田祖を祭りて雨を祈り、庶わくは以て其の稷黍を大いにして、其の民人を養うこと有らん、と。

○曾孫來止、以其婦子<叶奬里反>、饁<音曄>彼南畞<叶滿彼反>。田畯<音俊>至喜。攘<音穰>其左右<叶羽已反>、嘗其旨否<叶補美反>。禾易長畞、終善且有<叶羽已反>。曾孫上怒、農夫克敏<叶母鄙反>○賦也。曾孫、主祭者之稱。非獨宗廟爲然。曲禮、外事曰曾孫某侯某。武王禱吊山大川。曰、有道曾孫周王發、是也。饁、餉。攘、取。旨、美。易、治。長、竟。有、多。敏、疾也。○曾孫之來、適見農夫之婦子來饁耘者。於是與之偕至其所、而田畯亦至而喜之。乃取其左右之饋、而嘗其旨否。言其上下相親之甚也。旣又見其禾之易治、竟畞如一、而知其終當善而且多。是以曾孫上怒、而其農夫益以敏於其事也。
【読み】
○曾孫來るに、其の婦子<叶奬里反>を以[い]て、彼の南畞<叶滿彼反>に饁[かれい]<音曄>おくる。田畯<音俊>至りて喜べり。其の左右<叶羽已反>を攘[と]<音穰>りて、其の旨否<叶補美反>を嘗む。禾[いね]易[おさ]まり畞に長[お]う、終に善くして且つ有[おお]<叶羽已反>し。曾孫怒らず、農夫克く敏<叶母鄙反>し。○賦なり。曾孫は、祭を主る者の稱。獨り宗廟のみ然りとするに非ず。曲禮に、外事には曾孫某侯某と曰う、と。武王吊山大川に禱る。曰く、有道の曾孫周王發とは、是れなり。饁[こう]は、餉[しょう]。攘は、取る。旨は、美し。易は、治むる。長は、竟う。有は、多き。敏は、疾きなり。○曾孫の來るときは、適に農夫の婦子來りて耘る者に饁おくるを見る。是に於て之と偕に其の所に至りて、田畯も亦至りて之を喜ぶ。乃ち其の左右の饋[き]を取りて、其の旨否を嘗む。言うこころは、其の上下相親しむことの甚だしきなり。旣に又其の禾の易まり治まりて、畞を竟うこと一の如くにして、其の終に當に善くして且つ多きを知る。是を以て曾孫怒らずして、其の農夫益々以て其の事を敏くするを見る。

○曾孫之稼、如茨如梁。曾孫之庾、如坻<音池>如京<叶居良反>。乃求千斯倉、乃求萬斯箱。黍稷稻粱、農夫之慶<叶祛羊反>、報以介福、萬壽無疆。賦也。茨、屋蓋。言其密比也。梁、車梁。言其穹隆也。坻、水中之高地也。京、高丘也。箱、車箱也。○此言收成之後、禾稼旣多、則求倉以處之、求車以載之。而言、凡此黍稷稻粱、皆賴農夫之慶而得之。是宜報以大福、使之萬壽無疆也。其歸美於下、而欲厚報之如此。
【読み】
○曾孫の稼、茨[かやや]の如く梁[はし]の如し。曾孫の庾[ゆ]、坻[ち]<音池>の如く京<叶居良反>の如し。乃ち千の斯の倉を求め、乃ち萬の斯の箱を求む。黍稷稻粱は、農夫の慶<叶祛羊反>び、報ゆるに介いなる福を以てして、萬壽疆り無けん。賦なり。茨は、屋蓋。言うこころは、其の密比なるなり。梁は、車梁。言うこころは、其の穹隆なるなり。坻は、水中の高き地なり。京は、高き丘なり。箱は、車箱なり。○此れ言うこころは、收成の後、禾稼旣に多くば、則ち倉を求めて以て之を處き、車を求めて以て之を載す。而して言う、凡そ此の黍稷稻粱は、皆農夫の慶びに賴りて之を得たり。是れ宜しく報ゆるに大いなる福を以てすべく、之をして萬壽疆り無からしむ、と。其れ美を下に歸して、厚く之を報いんと欲すること此の如し。

甫田四章章十句
【読み】
甫田[ほてん]四章章十句


大田多稼<去聲>、旣種旣戒。旣備乃事<叶上止反>、以我覃<音剡><叶養里反>、俶載南畞<叶滿彼反>。播厥百穀<叶工洛反>、旣庭且碩<叶常約反>。曾孫是若。賦也。種、擇其種也。戒、飭其具也。覃、利。俶、始。載、事。庭、直。碩、大。若、順也。○蘇氏曰、田大而種多。故於今歲之冬、具來歲之種、戒來歲之事。凡旣備矣、然後事之。取其利耜、而始事於南畞、旣耕而播之。其耕之也勤、而種之也時。故其生者皆直而大、以順曾孫之所欲。此詩爲農夫之詞、以頌美其上。若以答前篇之意也。
【読み】
大田稼<去聲>えんこと多し、旣に種えり旣に戒[そな]う。旣に備わりて乃ち事<叶上止反>あり、我が覃[と]<音剡>き耜[すき]<叶養里反>を以て、載[こと]を南畞<叶滿彼反>に俶[はじ]む。厥の百穀<叶工洛反>を播[ほどこ]し、旣に庭[なお]く且つ碩[おお]<叶常約反>いなり。曾孫是れ若[したが]えり。賦なり。種は、其の種を擇ぶなり。戒は、其の具を飭[そな]うなり。覃[えん]は、利き。俶[しゅく]は、始め。載は、事。庭は、直き。碩は、大い。若は、順うなり。○蘇氏が曰く、田大いにして種多し。故に今歲の冬に於て、來歲の種を具え、來歲の事を戒う。凡そ旣に備わり、然して後に之を事とす。其の利き耜を取りて、事を南畞に始め、旣に耕して之を播す。其れ之を耕すこと勤めて、之を種しくこと時あり。故に其の生ずる者皆直くして大いにて、以て曾孫の欲する所に順う。此の詩は農夫の詞と爲して、以て其の上を頌美す。以て前の篇の意に答うるが若し、と。

○旣方旣皁<叶子苟反>、旣堅旣好<叶常約反>、上稂<音郎>上莠<音酉><上聲>其螟<音冥><音特>、及其蟊賊、無害我田穉<音稚>。田祖有神、秉畀炎火<叶虎委反>○賦也。方、房也。謂孚甲始生、而未合時也。實未堅者曰皁。稂、童梁。莠、似苗。皆害苗之草也。食心曰螟、食葉曰螣、食根曰蟊、食節曰賊。皆害苗之蟲也。穉、幼禾也。○言其苗旣盛矣、又必去此四蟲、然後可以無害田中之禾。然非人力所及也。故願田祖之神、爲我持此四蟲、而付之炎火之中也。姚崇遣使捕蝗。引此爲證。夜中設火、火邊掘坑、且焚且瘞。蓋古之遺法如此。
【読み】
○旣に方し旣に皁[そう]<叶子苟反>し、旣に堅く旣に好し<叶常約反>、稂[ろう]<音郎>あらず莠[ゆう]<音酉>あらず。其の螟[めい]<音冥>螣[とく]<音特>