軍事用ロボット(ぐんじようロボット)とは、軍事的な活動に利用される機械(ロボット)である。軍用ロボット(ぐんようロボット)、軍事ロボット(ぐんじロボット)ともいう。
本項では、関連する以下に類されるものについても説明する。
- 戦闘ロボット(せんとうロボット)ないし戦闘用ロボット(せんとうようロボット)
- 直接的な戦闘行為に参加するロボット
- ロボット兵器(ロボットへいき)や無人兵器(むじんへいき)
- 高度化され自動化・知能化された兵器
なおサイエンス・フィクション(SF)を含む架空の「戦うロボット」に関しては、別途架空のロボット兵器の一覧(またはロボットアニメなど)を参照の事。本項では主に実在の技術ないし兵器や研究分野の存在する技術について説明する。
概要
ロボットを軍事活動に利用しようという概念は、神話に見出されるゴーレムやタロースのような「人工の兵士」という発想を考慮すれば、おそらくロボットという語以前より存在したと考えられる。危険な環境での活動を、機械に置き換えようという発想の延長である。近年までは、架空の兵器として考えられていたが、ロボット工学の発展に伴い、特定分野に特化した現用のものも出始めている。 ただしミサイル(巡航ミサイル)など直接的な破壊に用いられる兵器は、高度化や知能化も進行してはいるものの余り意識して「軍事用ロボット」とは呼ばれない。
マスメディアが発達した現代では、ベトナム戦争やモガディシュの戦闘などに見られるように、人命の損失(→戦死)は戦争の継続に大きな影響を与えるが、軍事用のロボットが登場することにより、人命の損失は最小限に抑えられると期待されている。また、戦闘活動のみに拠らず、危険物の除去や偵察・哨戒・警備など危険であったり単調だが重要な任務への適用も期待される。
また軍事活動では、直接的な戦闘行為や、戦術的に意味を持つ偵察や、警戒といった活動以外にも、戦闘後に残留する不発弾や地雷、また治安関連といった付随して発生する問題も見られ、この戦後処理に於いてもロボットの活躍する場はあると考えられており、平和回復に於ける軍事的な機能を持つロボットの平和利用という分野も想定できる。
なお日本では2011年の福島第一原子力発電所事故に際して、被曝や二次災害の危険が伴う箇所を調査するために、稼動実績のある偵察用ロボットが投入されており、日本国内ではレスキューロボットの分野に重なる危険箇所調査への転用という可能性も示されている。
現用兵器
試験中の
ビッグドッグ。180kgの荷物を搭載し30kmを走破できる。
現在、世界の先進国では人的被害を避けるために無人兵器・ロボット兵器の類が数多く研究・開発されている。代表的なものとしては、無人偵察機、地雷処理車、爆弾処理車、無人潜航艇などで、いずれも危険度の高い任務を人間に代わってこなすことを求められている。
特に、アメリカでは、ベトナム戦争の人的被害の大きさから国民に厭戦気分が蔓延し、最終的に撤退してしまったという教訓から、この分野に熱心である。アフガニスタン攻撃やイラク戦争、その後の治安安定化作戦に於いて、数々の無人兵器を実戦投入し、効果を挙げている。
人間が無線で操縦するものが多いが、無人偵察機グローバルホークのように、高度なAIを搭載し、自律行動するものもある。
その一方で、戦場等での物資・人員輸送も無人化が研究されており、米国国防総省高等研究計画局(DARPA)主催のロボットカーレースが行われているほか、ビッグドッグと呼ばれる四足歩行ロボットは、かつて軍馬が担っていた不整地での物資輸送に期待が持たれている。
無人機による攻撃
MQ-1 プレデターなど武装した無人航空機が世界で数多く登場しており、アフガニスタン紛争、イラク戦争などで実戦投入されている。主な任務は対地攻撃だがイラク戦争では有人機との空中戦に用いられたケースもある(RQ-1 プレデターの記事を参照)。
近年、攻撃能力を持つ無人機がアフガニスタンとパキスタンでのターリバーン、アルカーイダ攻撃に参加しており、2009年8月にパキスタン・ターリバーン運動のバイトゥッラー・マフスード司令官の殺害に成功しているが、誤爆や巻き添えによる民間人の犠牲者が多いことが問題となっている[1][2]。これは無人機操縦員の誤認や地上部隊の誤報、ヘルファイアミサイルの威力が大きすぎることなどが原因となっている[3][4]。ヘルファイアミサイルの問題に関してはより小型で精密なスコーピオンミサイルを採用して対処することになっている[4]。
操縦者の精神的問題
機体そのものに人間が搭乗しないため撃墜されたり事故をおこしても操縦員に危険はなく、また衛星経由でアメリカから遠隔操作が可能であるため、操縦員は長い期間戦地に派遣されることもなく、任務を終えればそのまま自宅に帰ることも可能である。このような無人機の運用は操縦者が人間を殺傷したという実感を持ちにくいという意見がある[5][6]が、「いつミサイルを発射してもおかしくない状況から、次には子どものサッカーの試合に行く」という平和な日常と戦場を行き来する、従来の軍事作戦では有り得ない生活を送ることや、敵を殺傷する瞬間をカラーTVカメラや赤外線カメラで鮮明に見ることが無人機の操縦員に大きな精神的ストレスを与えているという意見もある[7]。国際政治学者のP・W・シンガーによると、無人機のパイロットは実際にイラクに展開している兵士よりも高い割合で心的外傷後ストレス障害を発症している[8]。
アメリカ軍では無人機の操縦者のうち7人に1人は民間人(民間軍事会社)だが、アメリカ軍の交戦規定により攻撃は軍人が担当している[6]。
将来
遠い将来的な話としては自ら敵味方を識別、攻撃を行う機能も実現されると考えられるが、現状では、敵味方の識別が困難であったり、登録された味方兵士以外(非武装な市民を含む)に攻撃しかねないといった理由で、開発、導入が難航することも予測される。
有人兵器でも現代の航空機ではレーダーや目視で敵味方の識別を行い難い関係から、攻撃判断をある程度は司令部側に求めることが航空機戦闘では一般的であるが、無人航空機の場合は現実的なプランとして、実際の攻撃に際して攻撃許可をオペレーターを介して司令部側に求める様式が現状の主要方針である。開発途上のUCAVでも巡回(パトロール)中や作戦地点までの移動は自動運航でも、実際の兵器使用はリアルタイムでの遠隔操作が基本方針となっている。将来的には通信妨害に対応して、所定攻撃目標を予めプログラミングされ、レーダーサイトなど防御が厚く危険度の高い所定目標に攻撃を加える攻撃機の開発が進められているが、偶発的な航空機との遭遇に伴う交戦には、やはり戦闘許可を求める様式となることも予測される。
特に地上兵器では障害物や想定される認識対象が多過ぎることもあり、更に自動化への困難が予測される。このため、現状の地上軍事用ロボットの場合では、ある程度精度の良いイメージセンサーを備え、遠隔操縦者が送信されてきた映像から状況を判断したり攻撃対象を識別する様式が、主要な運用手段となっている。
危険物の処理
爆弾処理の分野では、1980年代には既に対テロ用として、英国が安全地帯まで爆弾を運搬する為に、リモートコントロール式のロボットを運用、必要とあらば、取り付けられた散弾銃で、爆弾を爆破処理したケースもあり、イスラエルでも、そのような爆弾処理ロボットが運用されている他、2006 FIFAワールドカップでは、ドイツでも同種ロボットが警備で運用され、爆発物特有の揮発物の匂い(爆発物マーカー)を探すことで、テロ防止に努めた。(→爆発物探知機)
日本では文部科学省の呼びかけ[9]で、対人地雷撤去用のロボット開発が進められており、大学の研究室レベルから、機械メーカー、大手企業まで、様々な研究者・開発者が参加している。これ等には、多脚ロボットや、クローラー(無限軌道式の自走式ロボット)、更には、地雷探知用の無人小型ヘリコプター(産業用ラジコンヘリの発展型)の他、地雷処理車両(→地雷処理戦車)の無人運用まで視野に入れられており、川崎重工による実証実験という話も聞かれる[10]。
またイラク戦争以降アメリカ軍が展開しているイラクでは、いまなお幹線道路脇などに仕掛けられた即席爆発装置などによる被害もあり、MRAPなど従来の軍事車両では防ぎきれない爆発に耐える車両の導入も進められるが、その一方で路肩に不審物(人工物や不自然に詰まれた土砂の山など)があった場合に、停車して偵察用の遠隔操作による軍事用ロボットを先行・接近させ、不審物の撤去などに利用している。爆発に巻き込まれるロボットも少なくないが、確実に人的損害を軽減した事例であるとも言える。イラクにおける軍事ロボットはこういった危険な罠の撤去にも有効性が認められ、ロボット掃除機ルンバも製造しているiRobotのほかQinetiQなど複数のメーカーがこういった偵察用のロボットを開発し「市場」に投入している。
インターフェース
軍事用ロボットのマンマシンインタフェースは様々なものが利用されている。
目視操作
古くリモートコントロールを行うロボットでは、操作者が目視でアーケードゲームなどにみるようなジョイスティックを組み込んだコントローラーを操作しながら動作状況を確認、動きを加減するというもので、現在でも建設機械などで使われる単純な操作系が利用された。
この中で、記録に残っているもっとも古い使用例はソビエト連邦のテレタンク(Teletank、1930年代-1940年代前半)とされる。このT-18、T-26、T-38、BT-5、およびBT-7といった既存戦車を元にしたラジオコントロールの兵器は冬戦争に投入された。また、ナチス・ドイツ軍は第二次世界大戦にゴリアテを投入、遠くから兵士が目視で有線誘導し、目的の場所で自爆させている。日本軍も遠隔操縦器材い号を開発していたが実戦には使われなかった。これら遠隔操作兵器は、現代の軍事用ロボットの原型ともいえる構造をしていた。
しかしこの方法は、ロボットが操作者から見える位置に居なければならず、必然的に距離に制限が生じ、ロボットを発見した敵対勢力からもロボット操作者が見えかねないことを意味する。このため爆発物処理では問題がなくとも、偵察はできないし、兵器発射プラットフォームを遠隔操作するなどの場合にも不都合が存在する。
ビデオカメラ・遠隔操作
この直接的に操作するロボットに次いでよく見られるものとしては、ビデオカメラを搭載し、これを有線や無線で映像を操作者に伝え、これを見た操作者がジョイスティックを操作してロボットを操縦するという方法である。
これはビデオカメラの向きを変えれば様々な方向をロボットの視点で見ることができ、2000年代に実用化されている偵察型の軍事用ロボットでも大きく変わることは無い。この映像の伝達方法は従来はアナログのビデオ映像で送信していたが、後にデジタルビデオ映像にとって変わられ、これと平行してロボットと操作者間の通信はデジタル通信が利用されるようになってきている。
2000年代になって急速に発展を見せた軍事用ロボットでは、こういったビデオ映像以外にも様々なセンサからの情報が操作者に送信され、より詳しくロボットの周辺状況を知ることができるようになってきている。映像面でも、地上偵察では通常のビデオ映像に加え暗視カメラなどが利用されている。
無人航空機ではレーダーは勿論、GPSなどを利用して現在位置を測定・把握するものもみられる。こういった方向性は誘導兵器にも見られ、湾岸戦争では兵器側の映像が盛んにテレビにも出たため、米国内では「ニンテンドーウォー(意訳:テレビゲーム的な戦争)」とも呼ばれた。
最近の軍用装甲車や軍用船舶にはRWS(Remote Weapon Station/System)と呼ばれる遠隔操作式のロボット銃座が備えられている物があり、乗員が車外に身を晒す事無く、車内で搭載カメラの映像を見ながら銃器を操作して攻撃できるようになっている。さらに敵の攻撃を感知して自律的に反撃を行うシステムも研究開発されている。
コントロールとコンピュータ
アメリカ陸軍のフューチャー・フォース・ウォーリア。
遠隔操作対象が高度化する一方で、この軍事用ロボットから送られてくる様々なデータを処理するため、操作者側のコントローラーもコンピュータで自動化・効率化が為されており、自動操縦の指示などはこのコンピュータに予めデータを与えることで運用可能であり、特に実用化されている軍事用ロボットでも地上偵察用では、戸外でも使えるよう防水・防塵仕様のノートパソコン程度のコンピュータに無線送受信機を接続して利用する形態が見られる。
また歩兵の将来像としてウェアラブルコンピューティングにより高度に情報化された歩兵が想定されており、この歩兵が備えるであろうヘッドマウントディスプレイを介して偵察ロボットを操作することも実際の方向性として進められており、この場合においてロボットのオペレーターは家庭用ゲーム機のゲームコントローラのようなものを操作することが考えられている。すでに実用化された無人偵察機の場合では、複数のモニタを備えた操作席に座ったオペレータが、衛星回線経由で米国の軍オフィス内から遠隔地のロボットを直接操作することも可能となっている。
ただこういった遠隔操作では、いくらかコンピュータの補助があるとはいえ、操作者は目や耳を介して得た情報を元に判断し、手を使ってコントローラーを操作するため、見落としや操作ミスといった面で確実性に限界が存在し、これは高度化しつづける航空機などの兵器操作でも同種の問題を含んでいる。特に前線では悠長にコントローラーを取り出して操作しにくい状況などから、やや後方から操作したり、軍事用ロボット操作中の兵士を他の兵士が援護したりしなければならない。
サイバネティックスの可能性
このコントローラーを操作するために無防備となり易い問題において、ユーザーインターフェースの次のステップとしてサイボーグ技術や脳とコンピュータを直接繋げるという、ブレイン・マシン・インタフェース技術などもSFから現実のものとして研究開発がすすんでいる。軍事用ロボットの操作でも、兵士の頭脳にコンピュータを埋め込み、偵察ロボットや攻撃ロボットを「自分の分身や体の延長」のように、無人兵器を直接遠隔操作出来るようになる可能性も存在する。
だがこのアプローチは人体への侵襲(人為的に傷付けることなど)を伴うため、医学面での技術的ハードルと同時に、倫理面等での問題も予測されるため、実用化は21世紀初頭の段階では未知数である。
ロボットの兵隊
フィクションの世界では、人間の代用品としてのロボットという発想の延長で、ロボットの歩兵のようなものも登場しているが、現実の世界では人工知能の開発以前に、二足歩行ロボットなども技術的な面で依然研究段階にあり、実際に歩兵の代用品として機能するものは存在しない。加えて現用兵器のロボット化の項でも述べたが、敵・味方の識別という非常に高い技術的ハードルが存在している。
戦場に於いて地上戦をする上では、戦闘車両と共に歩兵は戦術レベルで必要不可欠な要素にあり、加えて兵器を操作するのも人間である。この人間が持つ優位性は、喩えて言うなら火薬を使用する現用の銃器とレーザーガンなどのSF兵器の関係のようなもので、当面は置き換えが起こらないものと見られている。このため米国を中心として歩兵の安全性を向上させる意味で、むしろボディアーマーの利用やパワードスーツの研究開発のほうが現実的なプランとして進められている。
なお人間の姿や形をしたロボットの兵隊というのは、実際の戦闘の面ではほぼ架空の話の上だけというレベルではあるが、その一方で急病や負傷した人間の反応を模したロボット(一種のダミー人形)などは救急救命士や衛生兵の救急処置教育に用いられる場合がある[11]。これは全く別の意味で、また間接的ではあるにせよ「歩兵の命を救っている人間型ロボット」と呼べるかもしれない。
架空の軍事用ロボット
これらロボット兵器の行き着く先は、完全に自動化されて索敵から攻撃までをも自己判断するロボット歩兵が挙げられ、人命損失を防げると考えられている。また、レーションなどの食料を必要としないロボットは、人間の歩兵よりも補給が簡略化できることも予測される。
その一方、ロボットアニメなどに見られるようにSFの分野では戦闘用ロボットに一定の人気があり、こういったロボットはさまざまな作品中に見出せる。これらでは、人が乗るものから完全自動化したものまでさまざまであり、一種のヒーロー的な側面も見出せる。
フィクションにおけるロボット兵器に関しては、架空のロボット兵器の一覧を参照。
軍事用ロボットの主な種類
脚注
- ^ 無人機プレデター&リーパー【2】死者1000人、巻き添え多数 - 時事ドットコム
- ^ ロイター 米無人機攻撃、パキスタンでは市民400人超が犠牲に=国連調査 2013年 10月 19日 13:28 JST
- ^ テロとの戦いと米国:第4部 オバマの無人機戦争/2 「情報」が招く誤爆 - 毎日新聞 2010年5月1日
- ^ a b 巻き添え減らせ、CIAが対テロ新型ミサイル - 読売新聞 2010年4月27日
- ^ テロとの戦いと米国:第4部 オバマの無人機戦争/1 ピーター・シンガー氏の話 - 毎日新聞 2010年4月30日
- ^ a b テロとの戦いと米国:第4部 オバマの無人機戦争/3 コソボ、イラクで操作した… - 毎日新聞 2010年5月2日
- ^ 「地球の裏側から無人航空機でミサイルを発射する」兵士たちのストレス - WIRED.jp 2008年8月22日
- ^ P.W. Singer が語る軍用ロボットと戦争の未来
- ^ 地雷除去プロジェクト
- ^ 川崎重工プレスリリース
- ^ 「High-tech war games help save lives」CNN記事(英語)
関連項目