周易本義
本義序例
河 圖 |
洛 書 |
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繫辭傳曰、河出圖、洛出書。聖人則之。又曰、天一地二。天三地四。天五地六。天七地八。天九地十。天數五、地數五。五位相得而各有合。天數二十有五。地數三十。凡天地之數五十有五。此所以成變化而行鬼神也。此河圖之數也。洛書蓋取龜象。故其數、戴九履一、左三、右七、二・四爲肩、六・八爲足。蔡元定曰、圖書之象、自漢孔安國・劉歆、魏關朗子明、有宋康節先生邵雍堯夫、皆謂如此。至劉牧始兩易其名而諸家因之。故今復之悉從其舊。
【読み】
繫辭傳に曰く、河は圖を出だし、洛は書を出だす。聖人は之に則れり、と。又曰く、天一地二。天三地四。天五地六。天七地八。天九地十。天數五つ、地數五つ。五位相得て各々合うこと有り。天數は二十有五。地數は三十。凡て天地の數は五十有五。此れ變化を成して鬼神を行う所以なり、と。此れ河圖の數なり。洛書は蓋し龜の象に取る。故に其の數は、九を戴き一を履み、左三に、右七、二・四を肩と爲し、六・八を足と爲す。蔡元定が曰く、圖書の象は、漢の孔安國・劉歆、魏の關朗子明、有宋の康節先生邵雍堯夫より、皆謂えること此の如し。劉牧に至りて始めて兩つながら其の名を易えて諸家之に因る、と。故に今之を復して悉く其の舊に從う。
伏羲八卦次序 |
繫辭傳曰、易有太極。是生兩儀。兩儀生四象。四象生八卦。邵子曰、一分爲二、二分爲四、四分爲八也。說卦傳曰、易逆數也。邵子曰、乾一、兌二、離三、震四、巽五、坎六、艮七、坤八。自乾至坤、皆得未生之卦。若逆推四時之比也。後六十四卦次序放此。黑白之位本非古法。但今欲易曉、且爲此以寓之耳。後六十四卦次序放此。
【読み】
繫辭傳に曰く、易に太極有り。是れ兩儀を生ず。兩儀は四象を生ず。四象は八卦を生ず、と。邵子曰く、一分かれて二と爲り、二分かれて四と爲り、四分かれて八と爲る、と。說卦傳に曰く、易は逆數なり、と。邵子曰く、乾一、兌二、離三、震四、巽五、坎六、艮七、坤八、と。乾より坤に至りて、皆未生の卦を得。逆に四時を推すの比
[たぐい]の若し。後の六十四卦の次序も此に放え。黑白の位は本古法に非ず。但今曉り易からんことを欲し、且つ此を爲して以て之を寓するのみ。後の六十四卦の次序も此に放え。
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伏羲八卦方位
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說卦傳曰、天地定位、山澤通氣、雷風相薄、水火不相射、八卦相錯。數往者順、知來者逆。邵子曰、乾南、坤北、離東、坎西、震東北、兌東南、巽西南、艮西北。自震至乾爲順、自巽至坤爲逆。後六十四卦方位放此。
【読み】
說卦傳に曰く、天地位を定め、山澤氣を通じ、雷風相い薄[せま]り、水火相射[いと]わず、八卦相錯[まじ]わる。往を數うるは順、來を知るは逆なり。邵子曰く、乾は南、坤は北、離は東、坎は西、震は東北、兌は東南、巽は西南、艮は西北、と。震より乾に至るを順と爲し、巽より坤に至るを逆と爲す。後の六十四卦の方位も此に放え。 |
伏羲六十四卦次序 |
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前八卦次序圖、卽繫辭傳所謂八卦成列者。此圖、卽其所謂因而重之者也。故下三畫卽前圖之八卦。上三畫則各以其序重之、而下卦因亦各衍而爲八也。若逐爻漸生、則邵子所謂八分爲十六、十六分爲三十二、三十二分爲六十四者。尤見法象自然之妙也。
【読み】
前の八卦の次序の圖は、卽ち繫辭傳に謂う所の八卦列を成す者なり。此の圖は、卽ち其の謂う所に因りて之を重ぬる者なり。故に下の三畫は卽ち前圖の八卦なり。上の三畫は則ち各々其の序を以て之を重ねて、下の卦は因りて亦各々衍
[の]べて八と爲るなり。若し爻を逐いて漸く生ずれば、則ち邵子謂う所の八分かれて十六と爲り、十六分かれて三十二と爲り、三十二分かれて六十四と爲る者なり。尤も法象自然の妙を見るなり。
伏羲六十四卦方位
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右、伏羲四圖、其說皆出於邵氏。蓋邵氏得之李之才挺之、挺之得之穆脩伯長、伯長得之華山希夷先生陳摶圖南者。所謂先天之學也。此圖圓布者、乾盡午中、坤盡子中、離盡卯中、坎盡酉中。陽生於子中、極於午中、陰生於午中、極於子中。其陽在南、其陰在北。方布者、乾始於西北、坤盡於東南。其陽在北、其陰在南。此二者、陰陽對待之數、圓於外者爲陽、方於中者爲陰。圓者動而爲天、方者靜而爲地者也。圓圖、乾在南、坤在北、方圖、坤在南、乾在北。乾位陽畫之聚爲多、坤位陰畫之聚爲多。此陰陽之各以類而聚也。亦莫不有自然之法象焉。圓圖象天、一順一逆、流行中有對待。如震八卦對巽八卦之類。方圖象地、有逆无順。定位中有對待、四角相對。如乾八卦對坤八卦之類。此則方圓圖之辨也。圓圖象天者。天圓而動■■地外。方圖象地者。地方而靜囿乎天中。圓圖者天道之陰陽、方圖者地道之柔剛。震・離・兌・乾爲天之陽、地之剛、巽・坎・艮・坤爲天之陰、地之柔。地道承天而行、以地之柔剛應天之陰陽。同一理也。特在天者、一逆一順。卦氣所以運。在地者、惟主乎逆。卦畫所以成耳。
【読み】
右、伏羲の四圖、其の說は皆邵氏より出でたり。蓋し邵氏之を李之才挺之に得、挺之之を穆脩伯長に得、伯長之を華山の希夷先生陳摶圖南に得。謂う所の先天の學なり。此の圖圓
[まど]かに布けるは、乾午の中に盡き、坤子の中に盡き、離卯の中に盡き、坎酉の中に盡く。陽子の中に生じ、午の中に極まり、陰午の中に生じ、子の中に極まる。其の陽南に在り、其の陰北に在り。方に布けるは、乾西北に始まり、坤東南に盡く。其の陽北に在り、其の陰南に在り。此の二つの者は、陰陽對待の數、外に圓かなる者は陽爲り、中に方なる者は陰爲り。圓かなる者は動いて天爲り、方なる者は靜にして地爲る者なり。圓圖は、乾南に在り、坤北に在り、方圖は、坤南に在り、乾北に在り。乾位は陽畫の聚まり多しと爲し、坤位は陰畫の聚まり多しと爲す。此れ陰陽の各々類を以て聚まるなり。亦自然の法象有らざること莫し。圓圖は天に象り、一順一逆、流行の中に對待有り。震の八卦の巽の八卦に對するの類の如し。方圖は地に象り、逆有りて順无し。定位の中に對待有り、四角相對す。乾の八卦の坤の八卦に對するの類の如し。此れ則ち方圓圖の辨なり。圓圖は天に象る者なり。天は圓かにして動き地の外を■。方圖は地を象る者なり。地は方にして靜に天の中に囿う。圓圖は天道の陰陽、方圖は地道の柔剛。震・離・兌・乾を天の陽、地の剛と爲し、巽・坎・艮・坤を天の陰、地の柔と爲す。地道は天を承けて行き、地の柔剛を以て天の陰陽に應ず。同じく一理なり。特に天に在る者は、一逆一順なり。卦氣の運る所以なり。地に在る者は、惟逆を主とす。卦畫の成る所以なるのみ。
文王八卦次序 |
文王八卦方位 |
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右、見說卦。邵子曰、此文王八卦、乃入用之位。後天之學也。
【読み】
右、說卦に見えたり。邵子曰く、此れ文王の八卦、乃ち入用の位なり、と。後天の學なり。
卦變圖
彖傳或以卦變爲說。今作此圖以明之。蓋易中之一義、非畫卦作易之本指也。
【読み】
彖傳或は卦變を以て說を爲せり。今此の圖を作りて以て之を明らかにす。蓋し易中の一義は、卦を畫し易を作れるの本指に非ざるなり。
凡一陰一陽之卦、各六。皆自復・姤而來。五陰五陽、卦同圖異。
【読み】
凡そ一陰一陽の卦、各々六つ。皆復・姤よりして來る。五陰五陽は、卦同じく圖異なり。
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剥 |
夬 |
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比 |
大有 |
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豫 |
小畜 |
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謙 |
履 |
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師 |
同人 |
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復 |
姤 |
凡二陰二陽之卦、各十有五。皆自臨・遯而來。四陰四陽、卦同圖異。
【読み】
凡そ二陰二陽の卦、各々十有五。皆臨・遯よりして來る。四陰四陽は、卦同じく圖異なり。
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頤 |
蒙 |
艮 |
晉 |
觀 |
大過 |
革 |
兌 |
需 |
大壯 |
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屯 |
坎 |
蹇 |
萃 |
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鼎 |
離 |
睽 |
大畜 |
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震 |
解 |
小過 |
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巽 |
家人 |
中孚 |
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明夷 |
升 |
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訟 |
无妄 |
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臨 |
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遯 |
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凡三陰三陽之卦、各二十。皆自泰・否而來。
【読み】
凡そ三陰三陽の卦、各々二十。皆泰・否よりして來る。
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損 |
賁 |
噬嗑 |
益 |
蠱 |
未濟 |
渙 |
旅 |
漸 |
否 |
咸 |
困 |
井 |
恆 |
隨 |
旣濟 |
豐 |
節 |
歸来 |
泰 |
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節 |
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井 |
困 |
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咸 |
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旅 |
未濟 |
蠱 |
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噬嗑 |
賁 |
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損 |
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歸妹 |
豐 |
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益 |
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凡四陰四陽之卦、各十有五。皆自大壯・觀而來。二陰二陽、圖已見前。
【読み】
凡そ四陰四陽の卦、各々十有五。皆大壯・觀よりして來る。二陰二陽は、圖已に前に見えたり。
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大畜 |
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家人 |
无妄 |
鼎 |
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訟 |
遯 |
萃 |
蹇 |
小過 |
坎 |
解 |
升 |
屯 |
震 |
明夷 |
臨 |
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需 |
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大過 |
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晉 |
艮 |
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蒙 |
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頤 |
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大壯 |
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觀 |
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凡五陰五陽之卦、各六。皆自夬・剥而來。一陰一陽、圖已見前。
【読み】
凡そ五陰五陽の卦、各々六つ。皆夬・剥よりして來る。一陰一陽は、圖已に前に見えたり。
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大有 |
小畜 |
履 |
同人 |
姤 |
比 |
豫 |
謙 |
師 |
復 |
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夬 |
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剥 |
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右、易之圖九、有天地自然之易、有伏羲之易、有文王・周公之易、有孔子之易。自伏羲以上皆无文字。只有圖畫。最宜深玩。可見作易本原精微之意。文王以下方有文字。卽今之周易。然讀者亦宜各就本文消息、不可便以孔子之說爲文王之說也。
【読み】
右、易の圖九つ、天地自然の易有り、伏羲の易有り、文王・周公の易有り、孔子の易有り。伏羲より以上は皆文字无し。只圖畫有り。最も宜しく深く玩ぶべし。易を作れる本原精微の意を見る可し。文王以下は方に文字有り。卽ち今の周易なり。然るに讀む者も亦宜しく各々本文に就いて消息すべく、便ち孔子の說を以て文王の說と爲す可からざるなり。
筮 儀
擇地潔處爲蓍室、南戶、置牀于室中央。
【読み】
地の潔き處を擇びて蓍室を爲り、戶を南にし、牀を室の中央に置く。
牀大約長五尺、廣三尺。毋太近壁。
【読み】
牀は大約長さ五尺、廣さ三尺。太だ壁に近づくること毋かれ。
蓍五十莖。韜以纁帛、貯以皁囊、納之櫝中、置于牀北。
【読み】
蓍は五十莖。韜[つつ]むに纁帛を以てし、貯るに皁囊を以てし、之を櫝の中に納め、牀の北に置く。
櫝以竹筒或堅木或布漆爲之。圓徑三寸、如蓍之長、半爲底、半爲蓋、下別爲臺、函之使不偃仆。
【読み】
櫝は竹筒或は堅木或は布漆を以て之を爲る。圓徑三寸、蓍の長さの如くし、半を底と爲し、半を蓋と爲し、下に別に臺を爲りて、之を函れ偃仆せざらしむ。
設木格于櫝南、居牀二分之北。
【読み】
木格を櫝の南に設け、牀二分の北に居く。
格以橫木板爲之。高一尺、長竟牀。當中爲兩大刻。相距一尺、大刻之西爲三小刻。相距各五寸許、下施橫足側立案上。
【読み】
格は橫木板を以て之を爲る。高さ一尺、長さ牀を竟う。中に當たりて兩つの大刻を爲す。相距てること一尺、大刻の西に三つの小刻を爲す。相距てること各々五寸許[ばか]り、下に橫足を施して案上に側だてて立つ。
置香爐一于格南、香合一于爐南、日炷香致敬。將筮、則灑掃拂拭、滌硯一注水、及筆一墨一黄漆板一于爐東東上。筮者齋潔衣冠北面、盥手焚香致敬。
【読み】
香爐一つを格の南に、香合一つを爐の南に置き、日々に香を炷[た]き敬を致す。將に筮せんとすれば、則ち灑掃拂拭し、硯一つを滌[あら]いて水を注ぎ、及び筆一つ墨一つ黄漆の板一つ爐の東に于て東上す。筮者齋潔衣冠し北面して、手を盥い香を焚き敬を致す。
筮者北面、見儀禮。若使人筮、則主人焚香畢少退北面立。筮者進立於牀前、少西南向受命。主人直述所占之事。筮者許諾。主人右還西向立。筮者右還北向立。
【読み】
筮者北面すること、儀禮に見えたり。若し人をして筮せしめれば、則ち主人香を焚き畢りて少し退き北面して立つ。筮者進みて牀の前に立ち、少し西し南に向いて命を受く。主人直に占う所の事を述ぶ。筮者許諾す。主人右に還り西に向いて立つ。筮者右に還り北に向いて立つ。
両手奉櫝蓋置于格南爐北出蓍于櫝、去囊解韜置于櫝東、合五十策、兩手執之薫於爐上。
【読み】
両手にて櫝の蓋を奉じて格の南爐の北に置いて蓍を櫝より出し、囊を去り韜を解いて櫝の東に置き、五十策を合わせ、兩手にて之を執りて爐上に薫ず。
此後、所用蓍策之數、其說、並見啓蒙。
【読み】
此の後、用うる所の蓍策の數、其の說、並[とも]に啓蒙に見えたり。
命之曰、假爾泰筮有常、假爾泰筮有常。某官姓名、今以某事云云、未知可否、爰質所疑于神于靈。吉凶得失悔吝憂虞、惟爾有神、尙明告之。乃以右手取其一策、反於櫝中、而以左右手中分四十九策、置格之左右兩大刻。
【読み】
之に命じて曰く、爾の泰筮常有るに假る、爾の泰筮常有るに假る。某の官姓名、今某の事云云、未だ可否を知らざるを以て、爰に疑う所を神に靈に質す。吉凶得失悔吝憂虞、惟れ爾と有神、尙わくは明らかに之を告げよ、と。乃ち右の手を以て其の一策を取り、櫝の中に反して、左右の手を以て四十九策を中分して、格の左右の兩つの大刻に置く。
此第一營。所謂分而爲二。以象兩者也。
【読み】
此れ第一營なり。謂う所の分けて二と爲すなり。以て兩に象る者なり。
次以左手取左大刻之策、執之、而以右手取右大刻之一策、掛于左手之小指閒。
【読み】
次に左の手を以て左の大刻の策を取り、之を執りて、右の手を以て右の大刻の一策を取り、左手の小指の閒に掛く。
此第二營。所謂掛一。以象三者也。
【読み】
此れ第二營なり。謂う所の一を掛くなり。以て三に象る者なり。
次以右手四揲左手之策。
【読み】
次に右の手を以て四つずつ左の手の策を揲うる。
此第三營之半。所謂揲之以四。以象四時者也。
【読み】
此れ第三營の半なり。謂う所の之を揲うるに四を以てするなり。以て四時に象る者なり。
次歸其所餘之策、或一、或二、或三、或四、而扐之左手无名指閒。
【読み】
次に其の餘る所の策、或は一つ、或は二つ、或は三つ、或は四つを歸して、之を左の手の无名指の閒に扐む。
此第四營之半。所謂歸奇於扐。以象閏者也。
【読み】
此れ第四營の半なり。謂う所の奇を扐に歸すなり。以て閏に象る者なり。
次以右手反過揲之策於左大刻、遂取右大刻之策、執之、而以左手四揲之。
【読み】
次に右の手を以て過揲の策を左の大刻に反し、遂に右の大刻の策を取り、之を執りて、左の手を以て四つずつ之を揲うる。
此第三營之半。
【読み】
此れ第三營の半なり。
次歸其所餘之策如前、而扐之左手中指之閒。
【読み】
次に其の餘る所の策前の如きを歸して、之を左の手の中指の閒に扐む。
此第四營之半。所謂再扐。以象再閏者也。一變所餘之策、左一則右必三、左二則右亦二、左三則右必一、左四則右亦四。通掛一之策、不五則九。五以一其四而爲奇、九以兩其四而爲耦。奇者三而耦者一也。
【読み】
此れ第四營の半なり。謂う所の再扐するなり。以て再閏に象る者なり。一變餘る所の策は、左一つなれば則ち右必ず三つ、左二つなれば則ち右も亦二つ、左三つなれば則ち右必ず一つ、左四つなれば則ち右も亦四つ。掛一の策を通じ、五つならざれば則ち九つ。五つは以て其の四つを一つにして奇と爲し、九つは以て其の四つを兩つにして耦と爲す。奇は三つにして耦は一つなり。
次以右手反過揲之策於右大刻、而合左手一掛二扐之策、置於格上第一小刻。
【読み】
次に右の手を以て過揲の策を右の大刻に反して、左の手の一掛二扐の策を合わせて、格上第一の小刻に置く。
以東爲上。後放此。
【読み】
東を以て上と爲す。後も此に放え。
是爲一變。再以兩手取左右大刻之蓍合之。
【読み】
是を一變と爲す。再び兩手を以て左右大刻の蓍を取りて之を合す。
或四十四策、或四十策。
【読み】
或は四十四策、或は四十策なり。
復四營如第一變之儀、而置其掛扐之策於格上第二小刻。是爲二變。
【読み】
復四營すること第一變の儀の如くして、其の掛扐の策を格上第二の小刻に置く。是を二變と爲す。
二變所餘之策、左一則右必二、左二則右必一、左三則右必四、左四則右必三。通掛一之策、不四則八。四以一其四而爲奇、八以兩其四而爲耦。奇耦各得四之二焉。
【読み】
二變餘る所の策は、左一つなれば則ち右必ず二つ、左二つなれば則ち右必ず一つ、左三つなれば則ち右必ず四つ、左四つなれば則ち右必ず三つ。掛一の策を通じ、四つならざれば則ち八つ。四つは以て其の四つを一つにして奇と爲し、八つは以て其の四つを兩つにして耦と爲す。奇耦各々四の二を得。
又再取左右大刻之蓍合之。
【読み】
又再び左右大刻の蓍を取りて之を合わす。
或四十策、或三十六策、或三十二策。
【読み】
或は四十策、或は三十六策、或は三十二策なり。
復四營如第二變之儀、而置其掛扐之策於格上第三小刻。是爲三變。
【読み】
復四營すること第二變の儀の如くして、其の掛扐の策を格上第三の小刻に置く。是を三變と爲す。
三變餘策與二變同。
【読み】
三變の餘策は二變と同じ。
三變旣畢、乃視其三變所得掛扐過揲之策、而畫其爻於版。
【読み】
三變旣に畢わり、乃ち其三變得る所の掛扐過揲の策を視て、其の爻を版に畫す。
掛扐之數五・四爲奇、九・八爲耦。掛扐三奇合十三策、則過揲三十六策而爲老陽、其畫爲□。所謂重也。掛扐兩奇一耦合十七策、則過揲三十二策而爲小陰、其畫--。所謂拆也。掛扐兩耦一奇合二十一策、則過揲二十八策而爲小陽、其畫爲━。所謂單也。掛扐三耦合二十五策、則過揲二十四策而爲老陰、其畫爲×。所謂交也。
【読み】
掛扐の數五つ・四つを奇と爲し、九つ・八つを耦と爲す。掛扐三奇合いて十三策なれば、則ち過揲三十六策にして老陽と爲し、其の畫は□を爲す。謂う所の重なり。掛扐兩奇一耦合いて十七策なれば、則ち過揲三十二策にして小陰と爲し、其の畫は--を爲す。謂う所の拆なり。掛扐兩耦一奇合いて二十一策なれば、則ち過揲二十八策にして小陽と爲し、其の畫は━を爲す。謂う所の單なり。掛扐三耦合いて二十五策なれば、則ち過揲二十四策にして老陰と爲し、其の畫は×を爲す。謂う所の交なり。
如是每三變而成爻。
【読み】
是の如く三變每にして爻を成す。
第一、第四、第七、第十、第十三、第十六、凡六變並同。但第三變以下不命、而但用四十九蓍耳。第二、第五、第八、第十一、第十四、第十七、凡六變亦同。第三、第六、第九、第十二、第十五、第十八、凡六變亦同。
【読み】
第一、第四、第七、第十、第十三、第十六は、凡て六變並に同じ。但第三變以下は命ぜずして、但四十九蓍を用うるのみ。第二、第五、第八、第十一、第十四、第十七は、凡て六變亦同じ。第三、第六、第九、第十二、第十五、第十八は、凡て六變亦同じ。
凡十有八變而成卦。乃考其卦之變、而占其事之吉凶。
【読み】
凡て十有八變して卦を成す。乃ち其の卦の變を考えて、其の事の吉凶を占う。
卦變別有圖說。見啓蒙。
【読み】
卦變別に圖說有り。啓蒙に見えたり。
禮畢、韜蓍襲之以囊、入櫝加蓋、斂筆硯墨版、再焚香致敬而退。
【読み】
禮畢わりて、蓍を韜み之を襲[かさ]ぬるに囊を以てし、櫝に入れ蓋を加え、筆硯墨版を斂め、再び香を焚き敬を致して退く。
如使人筮、則主人焚香、揖筮者而退。
【読み】
如し人をして筮せしむれば、則ち主人香を焚き、筮者を揖して退く。
五 贊
原 象
太一肇判、陰降陽升。陽一以施、陰兩而承。
惟皇昊羲、仰觀俯察。奇耦旣陳、兩儀斯設。
旣幹乃支、一各生兩。陰陽交錯、以立四象。
奇加以奇、曰陽之陽。奇而加耦、陽陰以章。
耦而加奇、陰内陽外。耦復加耦、陰與陰會。
兩一旣分、一復生兩。三才在目、八卦指掌。
奇奇而奇、初一曰乾。奇奇而耦、兌次二焉。
奇耦而奇、次三曰離。奇耦而耦、四震以隨。
耦奇而奇、巽居次五。耦奇而耦、坎六斯覩。
耦耦而奇、艮居次七。耦耦而耦、坤八以畢。
初畫爲儀、中畫爲象。上畫卦成、人文斯朗。
因而重之、一貞八悔。六十四卦、由内達外。
交易爲體、往此來彼。變易爲用、時靜時動。
降帝而王、傳夏歴商。有占无文、民用弗章。
文王繫彖、周公繫爻。視此八卦、二純六交。
乃乾斯父、乃坤斯母。震坎艮男、巽離兌女。
離南坎北、震東兌西。乾坤艮巽、位以四維。
建官立師、命曰周易。孔聖傳之、是爲十翼。
遭秦弗燼、及宋而明。邵傳羲畫、程演周經。
象陳數列、言盡理得。彌億萬年、永著常式。
【読み】
太一肇めて判れ、陰降り陽升る。陽は一にして以て施し、陰は兩にして承く。
惟れ皇いなる昊羲、仰ぎて觀俯して察す。奇耦旣に陳べ、兩儀斯に設けり。
旣に幹にて乃ち支、一各々兩を生ず。陰陽交わり錯わりて、以て四象を立つ。
奇加うるに奇を以てして、陽の陽と曰う。奇にして耦を加えて、陽陰以て章[あやど]る。
耦にして奇を加えて、陰は内に陽は外なり。耦復耦を加えて、陰と陰と會す。
兩一旣に分かれて、一復兩を生ず。三才目に在り、八卦掌を指す。
奇奇にして奇、初一を乾と曰う。奇奇にして耦、兌は次の二なり。
奇耦にして奇、次の三を離と曰う。奇耦にして耦、四震以て隨う。
耦奇にして奇、巽次の五に居る。耦奇にして耦、坎六斯に覩ゆ。
耦耦にして奇、艮次の七に居る。耦耦にして耦、坤八以て畢わる。
初畫を儀と爲し、中畫を象と爲す。上畫卦成りて、人文斯に朗らかなり。
因りて之を重ね、一貞八悔。六十四卦、内由り外に達[とお]る。
交易體を爲して、此より往き彼より來る。變易用を爲して、時に靜かに時に動く。
帝に降ろして王、夏に傳え商を歴る。占有り文无く、民用章かならず。
文王彖を繫け、周公爻を繫く。此の八卦を視るに、二つは純らに六つは交われり。
乃ち乾は斯れ父、乃ち坤は斯れ母なり。震・坎・艮は男、巽・離・兌は女なり。
離は南、坎は北、震は東、兌は西。乾・坤・艮・巽、位四維を以てす。
官を建て師を立て、命じて周易と曰う。孔聖之に傳し、是を十翼と爲す。
秦に遭いて燼[や]けず、宋に及んで明らかなり。邵は羲畫を傳え、程は周經を演[の]べり。
象陳べ數列ね、言盡き理得たり。億萬年に彌[わた]りて、永く常式を著す。
述 旨
昔在上古、世質民淳。是非莫別、利害不分。
風氣旣開、乃生聖人。聰明睿知、出類超羣。
仰觀俯察、始畫奇耦。敎之卜筮、以斷可否。
作爲君師、開鑿戶牖。民用不迷、以有常守。
降及中古、世變風移。淳澆質喪、民僞日滋。
穆穆文王、身蒙大難。安土樂天、惟世之患。
乃本卦義、繫此彖辭。爰及周公、六爻是資。
因事設敎、丁寧詳密。必中必正、乃亨乃吉。
語子惟孝、語臣則忠。鈞深闡微、如日之中。
爰曁末流、淫於術數。僂句成欺、黄裳亦誤。
大哉孔子、晩好是書。韋編旣絶、八索以祛。
乃作彖象、十翼之篇。專用義理、發揮經言。
居省象辭、動察變占。存亡進退、陟降飛潛。
曰毫曰釐、匪差匪繆。假我數年、庶无大咎。
恭惟三古、四聖一心。埀象炳明、千載是臨。
惟是學者、不本其初。文辭象數、或肆或拘。
嗟予小子、旣微且陋。鑽仰沒身、奚測奚究。
匪警滋荒、匪識滋漏。維用存疑。敢曰埀後。
【読み】
昔在上古は、世質にて民淳。是非別つこと莫く、利害分かたず。
風氣旣に開けて、乃ち聖人を生ず。聰明睿知、類を出でて羣を超えり。
仰いで觀俯して察し、始めて奇耦を畫す。之に卜筮を敎えて、以て可否を斷[ことわ]る。
君師を作爲し、戶牖を開鑿す。民用迷わずして、以て常の守り有り。
降りて中古に及んで、世變わり風移る。淳澆[うす]く質喪いて、民僞日々に滋し。
穆穆たる文王、身大難を蒙る。土を安んじ天を樂しみ、惟世のみ之れ患う。
乃ち卦の義に本づき、此の彖の辭を繫けり。爰に周公に及んで、六爻是れ資れり。
事に因りて敎を設け、丁寧詳密なり。必中必正、乃ち亨り乃ち吉なり。
子に語れば惟れ孝、臣に語れば則ち忠。深きを鈎り微を闡[ひら]きて、日の中するが如し。
爰に末流に曁[およ]んで、術數に淫す。僂句欺を成し、黄裳も亦誤る。
大なるかな孔子、晩に是の書を好む。韋編旣に絶え、八索以て祛[はら]う。
乃ち彖象、十翼の篇を作る。專ら義理を用て、經言を發揮せり。
居るに象辭を省み、動くに變占を察す。存亡進退、陟降飛潛。
毫と曰い釐と曰い、差に匪ず繆に匪ず。我に數年を假し、大なる咎无からんことを庶えり。
恭しく惟みれば三古、四聖一心。象を埀れて炳明、千載是れ臨めり。
惟是れ學者、其の初に本づかず。文辭象數、或は肆にし或は拘わる。
嗟予小子、旣に微に且つ陋し。鑽仰して身を沒するも、奚んぞ測り奚んぞ究めん。
警むるに匪ざれば滋々荒[すさ]み、識すに匪ざれば滋々漏る。維れ用て疑を存す。敢えて後に埀ると曰んや。
明 筮
倚數之元、參天兩地。衍而極之、五十乃備。
是曰大衍、虛一无爲。其爲用者、四十九蓍。
信手平分、置右於几。取右一蓍、掛左小指。
乃以右手、揲左之策。四四之餘、歸之于扐。
初扐左手、无名指閒。右策左揲、將指是安。
再扐之奇、通掛之算。不五則九、是謂一變。
置此掛扐、再用存策。分掛揲歸、復準前式。
三亦如之、奇皆四八。三變旣備、數斯可察。
數之可察、其辨伊何。四五爲少、八九爲多。
三少爲九、是曰老陽。三多爲六、老陰是當。
一少兩多、少陽之七。孰八少陰、少兩多一。
旣得初爻、復合前蓍。四十有九、如前之爲。
三變一爻、通十八變。六爻發揮、卦體可見。
老極而變、少守其常。六爻皆守、彖辭是當。
變視其爻、兩兼首尾。變及三爻、占兩卦體。
或四或五、視彼所存。四二五一、二分一專。
皆變而他、新成舊毀。消息盈虛、舍此視彼。
乾占用九、坤占用六。泰愕匪人、姤喜來復。
【読み】
數を倚するの元は、天を參にし地を兩にす。衍べて之を極め、五十乃ち備わる。
是を大衍と曰い、一を虛しくして爲すこと无し。其の用を爲す者、四十九蓍。
手に信ばせ平分し、右を几に置く。右の一蓍を取りて、左の小指に掛く。
乃ち右の手を以て、左の策を揲うる。四四の餘り、之を扐に歸す。
初は左の手、无名の指の閒に扐む。右の策は左にて揲え、將指に是れ安んず。
再扐の奇、通掛之を算ず。五つならざれば則ち九つ、是を一變と謂う。
此の掛扐を置いて、再び存策を用ゆ。分掛揲歸、復前式に準う。
三たび亦之の如くし、奇は皆四・八なり。三變旣に備わりて、數斯に察す可し。
數の察す可き、其の辨伊何。四・五を少と爲し、八・九を多と爲す。
三少を九と爲し、是を老陽と曰う。三多を六と爲し、老陰是れ當たる。
一少兩多は、少陽の七なり。孰か八の少陰なる、少兩つ多一つなり。
旣に初爻を得て、復前蓍を合す。四十有九、前の爲[しわざ]の如し。
三變一爻、通じて十八變。六爻發揮して、卦體見る可し。
老は極まりて變じ、少は其の常を守る。六爻皆守れば、彖辭是れ當たる。
變ずれば其の爻を視て、兩つなれば首尾を兼ぬ。變じて三爻に及べば、兩卦の體を占う。
或は四つ或は五つなれば、彼の存する所を視る。四つなれば二つ、五つなれば一つ、二つは分かれ一つは專らなり。
皆變じて他なれば、新成り舊毀る。消息盈虛、此を舍て彼を視る。
乾は用九を占い、坤は用六を占う。泰は人に匪ざるに愕き、姤は來り復るを喜ぶ。
稽 類
八卦之象、說卦詳焉。考之於經、其用弗專。
彖以情言、象以像告。唯是之求、斯得其要。
乾健天行、坤順地從。震動爲雷、巽入木風。
坎險水泉、亦雲亦雨。離麗文明、電日而火。
艮止爲山、兌說爲澤。以是擧之、其要斯得。
凡卦六虛、奇耦殊位。奇陽耦陰、各以其類。
得位爲正、二五爲中。二臣五君、初始上終。
貞悔體分、爻以位應。陰陽相求、乃得其正。
凡陽斯淑、君子居之。凡陰斯慝、小人是爲。
常可類求、變非例測。非常曷變、謹此爲則。
【読み】
八卦の象、說卦詳らかなり。之を經に考うるに、其の用專らならず。
彖は情を以て言い、象は像を以て告げり。唯是れ之れ求めて、斯に其の要を得。
乾は健に、天の行なり、坤は順う、地の從なり。震は動く、雷と爲す、巽は入る、木なり風なり。
坎は險み、水と泉と、亦雲亦雨なり。離は麗く、文明、電日にして火なり。
艮は止まる、山と爲す、兌は說ぶ、澤と爲す。是を以て之を擧げ、其の要斯に得。
凡そ卦の六虛、奇耦位を殊にす。奇は陽、耦は陰、各々其の類を以てす。
位を得るを正と爲し、二・五を中と爲す。二は臣、五は君、初は始め、上は終わり。
貞悔體分かれ、爻位を以て應ず。陰陽相求めて、乃ち其の正を得たり。
凡そ陽は斯れ淑、君子之に居る。凡そ陰は斯れ慝、小人是れ爲す。
常は類し求む可く、變は例し測るに非ず。常に非ずんば曷ぞ變ぜん、此を謹みて則と爲す。
警 學
讀易之法、先正其心。肅容端席、有翼其臨。
于卦于爻、如筮斯得。假彼象辭、爲我儀則。
字從其訓、句逆其情。事因其理、意適其平。
曰否曰臧、如目斯見。曰止曰行、如足斯踐。
毋寬以畧、毋密以窮。毋固而可、毋必而通。
平易從容、自表而裏。及其貫之、萬事一理。
理定旣實、事來尙虛。用應始有、體該本无。
稽實待虛、存體應用。執古御今、由靜制動。
潔靜精微、是之謂易。體之在我、動有常吉。
在昔程氏、繼周紹孔。奥指宏綱、星陳極拱。
唯斯未啓、以俟後人。小子狂簡、敢述而申。
【読み】
易を讀む法は、先ず其の心を正しくす。容を肅して席を端し、翼たること有りて其れ臨む。
卦に于て爻に于て、筮して斯に得るが如くす。彼の象辭を假りて、我が儀則と爲す。
字は其の訓に從い、句は其の情を逆う。事は其の理に因り、意は其の平に適う。
否と曰い臧と曰い、目斯に見るが如し。止と曰い行と曰い、足斯に踐むが如し。
寬にして以て畧すること毋かれ、密にして以て窮すること毋かれ。固毋くして可に、必毋くして通ず。
平易從容として、表よりして裏。其の之を貫くに及んでは、萬事一理なり。
理定まりて旣に實、事來ること尙虛なり。用應じて始めて有り、體該[か]ねて本无し。
實を稽え虛を待ち、體を存し用に應ず。古を執りて今を御し、靜なるに由りて動くことを制す。
潔靜精微、是れ之を易と謂う。之を體して我に在れば、動くこと常有りて吉なり。
在昔程氏、周に繼ぎ孔に紹ぐ。奥指宏綱、星陳べ極に拱[むか]う。
唯斯れ未だ啓かずして、以て後人を俟てり。小子狂簡、敢えて述べて申す。
周易上經
周、代名也。易、書名也。其卦本伏羲所畫、有交易變易之義。故謂之易。其辭則文王周公所繫。故繫之周。以其簡帙重大、故分爲上下兩篇。經則伏羲之畫、文王周公之辭也。幷孔子所作之傳十篇、凡十二篇。中閒頗爲諸儒所亂。近世晁始正其失、而未能盡合古文。呂氏又更定著爲經二卷・傳十卷。乃復孔氏之舊云。
【読み】
周は、代名なり。易は、書名なり。其の卦は本伏羲の畫する所にて、交易變易の義有り。故に之を易と謂う。其の辭は則ち文王周公の繫ける所。故に之を周に繫く。其の簡帙重大なるを以て、故に分かちて上下兩篇と爲す。經は則ち伏羲の畫、文王周公の辭なり。孔子作す所の傳十篇を幷せて、凡て十二篇。中閒頗る諸儒の亂す所と爲る。近世晁始めて其の失を正せども、而して未だ盡くは古文に合すること能わず。呂氏又更定し著して經二卷・傳十卷と爲す。乃ち孔氏の舊に復すと云う。
乾下乾上 乾
○乾、元亨。利貞。乾、渠焉反。○六畫者、伏羲所畫之卦也。━者、奇也。陽之數也。乾者、健也。陽之性也。本註乾字、三畫卦之名也。下者、内卦也。上者、外卦也。經文乾字、六畫卦之名也。伏羲仰觀俯察、見陰陽有奇耦之數。故畫一奇以象陽、畫一耦以象陰。見一陰一陽有各生一陰一陽之象。故自下而上、再倍而三、以成八卦。見陽之性健、而其成形之大者爲天。故三奇之卦、名之曰乾、而擬之於天也。三畫已具、八卦已成、則又三倍其畫以成六畫。而於八卦之上、各加八卦、以成六十四卦也。此卦六畫皆奇、上下皆乾、則陽之純而健之至也。故乾之名、天之象、皆不易焉。元亨利貞、文王所繫之辭、以斷一卦之吉凶。所謂彖辭者也。元、大也。亨、通也。利、宜也。貞、正而固也。文王以爲乾道大通而至正。故於筮得此卦、而六爻皆不變者、言其占當得大通、而必利在正固、然後可以保其終也。此聖人所以作易敎人卜筮、而可以開物成務之精意。餘卦放此。
【読み】
○乾は、元[おお]いに亨[とお]る。貞[ただ]しきに利[よ]ろし。乾は、渠焉の反。○六畫は、伏羲の畫する所の卦なり。━は、奇なり。陽の數なり。乾は、健なり。陽の性なり。本註の乾の字は、三畫卦の名なり。下は、内卦なり。上は、外卦なり。經文の乾の字は、六畫卦の名なり。伏羲は仰いで觀て俯して察し、陰陽に奇耦の數有るを見る。故に一奇を畫して以て陽に象り、一耦を畫して以て陰に象る。一陰一陽各々一陰一陽を生ずるの象有るを見る。故に下よりして上、再倍すること三たび、以て八卦を成す。陽の性は健にして、其の形を成すの大いなる者は天と爲るを見る。故に三奇の卦は、之を名づけて乾と曰い、而して之を天に擬す。三畫已に具わり、八卦已に成れば、則ち又其の畫を三倍して以て六畫を成す。而して八卦の上に於て、各々八卦を加えて、以て六十四卦を成すなり。此の卦の六畫は皆奇にて、上下皆乾なれば、則ち陽の純にして健の至りなり。故に乾の名、天の象なること、皆易わらず。元いに亨り貞しきに利ろしは、文王繫ける所の辭にて、以て一卦の吉凶を斷ず。所謂彖辭なる者なり。元は、大いなり。亨は、通るなり。利は、宜しきなり。貞は、正しくして固きなり。文王以爲えらく、乾道は大いに通りて正しきに至る、と。故に筮して此の卦を得て、六爻皆變ぜざる者に於て、其の占は當に大いに通るを得べく、而して必ず利ろしきこと正固に在り、然して後に以て其の終わりを保つ可きを言うなり。此れ聖人の易を作り人に卜筮を敎うる所以にして、以て物を開き務めを成す可きの精意なり。餘の卦も此に放え。
○初九、潛龍勿用。潛、捷言反。○初九者、卦下陽爻之名。凡畫卦者自下而上。故以下爻爲初。陽數九爲老。七爲少。老變而少不變。故謂陽爻爲九。潛龍勿用、周公所繫之辭、以斷一爻之吉凶。所謂爻辭者也。潛、藏也。龍、陽物也。初陽在下、未可施用。故其象爲潛龍。其占曰勿用。凡遇乾而此爻變者、當觀此象而玩其占也。餘爻放此。
【読み】
○初九は、潛龍用うること勿かれ。潛は、捷言の反。○初九は、卦の下の陽爻の名。凡そ卦を畫するは下よりして上。故に下爻を以て初と爲す。陽數は九を老と爲す。七を少と爲す。老は變じて少は變ぜず。故に陽爻を謂いて九と爲す。潛龍用うること勿かれとは、周公の繫ける所の辭にて、以て一爻の吉凶を斷ず。所謂爻辭なる者なり。潛とは、藏
[かく]るるなり。龍とは、陽物なり。初陽下に在り、未だ施し用うる可からず。故に其の象を潛龍と爲す。其の占は用うること勿かれと曰う。凡そ乾に遇いて此の爻の變ずる者は、當に此の象を觀て其の占を玩ぶべきなり。餘の爻も此に放え。
○九二、見龍在田。利見大人。見龍之見、賢遍反。卦内見龍並同。○二、謂自下而上、第二爻也。後放此。九二剛健中正、出潛離隱、澤及於物、物所利見。故其象爲見龍在田、其占爲利見大人。九二雖未得位、而大人之德已著。常人不足以當之。故値此爻之變者、但爲利見此人而已。蓋亦謂在下之大人也。此以爻與占者相爲主賓、自爲一例。若有見龍之德、則爲利見九五在上之大人矣。
【読み】
○九二は、見龍田に在り。大人を見るに利ろし。見龍の見は、賢遍の反。卦の内の見龍も並同じ。○二とは、下より上、第二爻を謂うなり。後も此に放え。九二は剛健中正、潛を出で隱を離れ、澤の物に及び、物の見るに利ろしき所なり。故に其の象は見龍田に在りと爲し、其の占は大人を見るに利ろしと爲す。九二は未だ位を得ずと雖も、而して大人の德已に著る。常人は以て之に當たるに足らず。故に此の爻の變に値う者は、但此の人を見るに利ろしと爲すのみ。蓋し亦下に在るの大人を謂うならん。此れ爻と占者とを以て主賓と相爲すの、自ら一例と爲す。若し見龍の德有れば、則ち九五上に在るの大人を見るに利ろしと爲すなり。
○九三、君子終日乾乾、夕惕若。厲无咎。九、陽爻。三、陽位。重剛不中、居下之上。乃危地也。然性體剛健、有能乾乾惕厲之象。故其占如此。君子指占者而言。言能憂懼如是、則雖處危地而无咎也。
【読み】
○九三は、君子終日乾乾し、夕べに惕若たり。厲[あや]うけれども咎无[な]し。九は、陽爻。三は、陽位。重剛不中、下の上に居る。乃ち危地なり。然れども性體剛健なれば、能く乾乾惕厲の象有り。故に其の占此の如し。君子とは占者を指して言う。言うこころは、能く憂懼すること是の如くなれば、則ち危地に處ると雖も咎无し、と。
○九四、或躍在淵。无咎。躍、羊灼反。○或者、疑而未定之辭。躍者、无所緣而絶於地、特未飛爾。淵者、上空下洞、深昧不測之所。龍之在是、若下於田。或躍而起、則向乎天矣。九陽四陰、居上之下、改革之際、進退未定之時也。故其象如此。其占能隨時進退、則无咎也。
【読み】
○九四は、或は躍りて淵に在り。咎无し。躍は、羊灼の反。○或は、疑いて未だ定まらざるの辭。躍るは、緣る所无くして地に絶えども、特未だ飛ばざるのみ。淵は、上は空しく下は洞にて、深昧不測の所。龍の是に在るは、田より下るが若し。或は躍りて起きれば、則ち天に向かうなり。九は陽にて四は陰、上の下に居り、改革の際、進退未だ定まらざるの時なり。故に其の象此の如し。其の占は能く時に隨いて進退すれば、則ち咎无きとなり。
○九五、飛龍在天。利見大人。剛健中正以居尊位。如以聖人之德、居聖人之位。故其象如此。而占法與九二同、特所利見者在上之大人爾。若有其位、則爲利見九二在下之大人也。
【読み】
○九五は、飛龍天に在り。大人を見るに利ろし。剛健中正以て尊位に居る。聖人の德を以て、聖人の位に居るが如し。故に其の象此の如し。而して占法は九二と同じく、特見るに利ろしき所の者は上に在るの大人のみ。若し其の位有れば、則ち九二の下に在るの大人を見るに利ろしと爲すなり。
○上九、亢龍有悔。亢、苦浪反。○上者、最上一爻之名。亢者、過於上而不能下之意也。陽極於上、動必有悔。故其象占如此。
【読み】
○上九は、亢龍悔有り。亢は、苦浪の反。○上は、最上の一爻の名。亢は、上るに過ぎて下ること能わざるの意なり。陽上に極まり、動けば必ず悔有り。故に其の象占此の如し。
○用九、見羣龍无首。吉。用九、言凡筮得陽爻者、皆用九而不用七。蓋諸卦百九十二陽爻之通例也。以此卦純陽而居首、故於此發之。而聖人因繫之辭、使遇此卦而六爻皆變者、卽此占之。蓋六陽皆變、剛而能柔、吉之道也。故爲羣龍无首之象。而其占爲如是則吉也。春秋傳曰、乾之坤、曰見羣龍无首吉。蓋卽純坤卦辭牝馬之貞、先迷後得、東北喪朋之意。
【読み】
○用九は、羣龍首无きを見る。吉なり。用九とは、凡そ筮して陽爻を得る者は、皆九を用いて七を用いざるを言う。蓋し諸卦百九十二の陽爻の通例なり。此の卦は純陽にして首めに居るを以て、故に此に於て之を發す。而して聖人因りて之が辭を繫け、此の卦に遇いて六爻皆變ずる者は、此に卽いて之を占わしむ。蓋し六陽皆變ずれば、剛にして能く柔にて、吉の道なり。故に羣龍首无きの象と爲す。而して其の占は是の如くなれば則ち吉と爲すなり。春秋傳に曰く、乾の坤に之く、曰く、羣龍首无きを見る、吉なり、と。蓋し卽ち純坤の卦辭の牝馬の貞しき、先んずれば迷い後るれば得、東北には朋を喪うの意ならん。
坤下坤上 坤
○坤、元亨。利牝馬之貞。君子有攸往、先迷、後得。主利。西南得朋、東北喪朋。安貞吉。牝、頻忍反。喪、去聲。○--者、耦也。陰之數也。坤者、順也。陰之性也。註中者、三畫卦之名也。經中者、六畫卦之名也。陰之成形、莫大於地。此卦三畫皆耦。故名坤而象地。重之又得坤焉、則是陰之純、順之至。故其名與象皆不易也。牝馬、順而健行者。陽先陰後、陽主義、陰主利。西南、陰方。東北、陽方。安、順之爲也。貞、健之守也。遇此卦者、其占爲大亨、而利以順健爲正。如有所往、則先迷後得而主於利。往西南則得朋、往東北則喪朋。大抵能安於正則吉也。
【読み】
○坤は、元いに亨る。牝馬の貞に利ろし。君子往く攸[ところ]有るに、先んずれば迷い、後るれば得。利を主とす。西南には朋を得、東北には朋を喪う。貞に安んずれば吉なり。牝は、頻忍の反。喪は、去聲。○--は、耦なり。陰の數なり。坤は、順なり。陰の性なり。註の中は、三畫卦の名なり。經の中は、六畫卦の名なり。陰の形を成すは、地より大いなるは莫し。此の卦の三畫は皆耦。故に坤と名づけて地に象る。之を重ねて又坤を得れば、則ち是れ陰の純にて、順の至りなり。故に其の名と象とは皆易わらざるなり。牝馬とは、順にして健やかに行く者。陽は先んじ陰は後れ、陽は義を主り、陰は利を主る。西南は、陰の方。東北は、陽の方。安んずとは、順いて之を爲すなり。貞とは、健を之れ守るなり。此の卦に遇う者は、其の占は大いに亨りて、順健を以て正と爲すに利ろしと爲す。如し往く所有れば、則ち先んずれば迷い後るれば得て利を主とす。西南に往けば則ち朋を得、東北に往けば則ち朋を喪う。大抵能く正に安んずれば則ち吉なり。
○初六。履霜。堅冰至。六、陰爻之名。陰數六老而八少。故謂陰爻爲六也。霜、陰氣所結。盛則水凍而爲冰。此爻陰始生於下。其端甚微、而其勢必盛。故其象如履霜、則知堅冰之將至也。夫陰陽者、造化之本、不能相无。而消長有常、亦非人所能損益也。然陽主生、陰主殺、則其類有淑慝之分焉。故聖人作易、於其不能相无者、旣以健順仁義之屬明之、而无所偏主。至其消長之際、淑慝之分、則未嘗不致其扶陽抑陰之意焉。蓋所以贊化育而參天地者、其旨深矣。不言其占者、謹微之意、已可見於象中矣。
【読み】
○初六は、霜を履む。堅冰至る。六とは、陰爻の名。陰數六は老にして八は少。故に陰爻を謂いて六と爲すなり。霜とは、陰氣の結する所。盛んなれば則ち水凍りて冰と爲る。此の爻は陰始めて下に生ずるなり。其の端は甚だ微かにして、其の勢いは必ず盛んなり。故に其の象は霜を履めば、則ち堅冰の將に至らんとするを知るが如し。夫れ陰陽は、造化の本にて、相无きこと能わず。而して消長に常有り、亦人の能く損益する所に非ざるなり。然れども陽は生を主り、陰は殺を主れば、則ち其の類に淑慝の分有り。故に聖人の易を作るや、其の相无きこと能わざる者に於て、旣に健順仁義の屬を以て之を明らかにすれども、而して偏主する所无し。其の消長の際、淑慝の分に至りては、則ち未だ嘗て其の陽を扶け陰を抑えるの意を致さずんばあらず。蓋し化育を贊けて天地に參なる所以の者は、其の旨深からん。其の占を言わざるは、微を謹むの意、已に象中に見る可きなればなり。
○六二、直・方・大。不習无不利。柔順正固、坤之直也。賦形有定、坤之方也。德合无疆、坤之大也。六二柔順而中正、又得坤道之純者。故其德内直外方而又盛大、不待學習而无不利。占者有其德、則其占如是也。
【読み】
○六二は、直・方・大なり。習わざれども利ろしからざること无し。柔順にて正固なるは、坤の直なり。形を賦して定め有るは、坤の方なり。德の无疆に合するは、坤の大なり。六二は柔順にして中正、又坤道の純を得る者。故に其の德は内は直に外は方にして又盛大、學習を待たずして利ろしからざること无し。占者其の德有れば、則ち其の占是の如し。
○六三、含章可貞。或從王事、无成有終。六陰三陽。内含章美、可貞以守。然居下之上、不終含藏。故或時出而從上之事、則始雖无成、而後必有終。爻有此象。故戒占者有此德、則如此占也。
【読み】
○六三は、章[あや]を含みて貞にす可し。或は王事に從うも、成すこと无くして終わり有り。六は陰にて三は陽。内に章美を含めども、貞以て守る可し。然れども下の上に居れば、含藏するを終えず。故に或は時に出でて上の事に從えば、則ち始めは成すこと无しと雖も、而して後に必ず終わり有り。爻に此の象有り。故に占者を戒むるに、此の德有れば、則ち此の占の如し、と。
○六四、括囊。无咎无譽。括、古活反。譽、音餘。又音預。○括囊、言結囊口而不出也。譽者、過實之名。謹密如是、則无咎而亦无譽矣。六四重陰不中。故其象占如此。蓋或事當謹密、或時當隱遯也。
【読み】
○六四は、囊を括る。咎も无く譽れも无し。括は、古活の反。譽は、音餘。又音預。○囊を括るとは、囊の口を結びて出さざるを言うなり。譽れは、實に過ぐるの名。謹密なること是の如くなれば、則ち咎无くして亦譽れも无し。六四は重陰にて不中。故に其の象占此の如し。蓋し或は事に當に謹密にすべく、或は時に當に隱遯すべきならん。
○六五、黄裳。元吉。黄、中色。裳、下飾。六五以陰居尊、中順之德、充諸内而見於外。故其象如此、而其占爲大善之吉也。占者德必如是、則其占亦如是矣。春秋傳、南蒯將叛、筮得此爻、以爲大吉。子服惠伯曰、忠信之事則可、不然必敗。外彊内溫、忠也。和以率貞、信也。故曰黄裳、元吉。黄、中之色也。裳、下之飾也。元、善之長也。中不忠、不得其色。下不共、不得其飾、事不善、不得其極。且夫易不可以占險。三者有闕、筮雖當未也。後蒯果敗。此可以見占法矣。
【読み】
○六五は、黄裳なり。元吉なり。黄は、中の色。裳は、下の飾り。六五は陰を以て尊きに居り、中順の德、諸を内に充たして外に見る。故に其の象此の如くして、其の占は大善の吉と爲すなり。占者の德必ず是の如くなれば、則ち其の占も亦是の如し。春秋傳に、南蒯將に叛かんとして、筮して此の爻を得、以て大吉と爲す。子服惠伯曰く、忠信の事は則ち可なれども、然らざれば必ず敗る。外彊く内溫やかなるは、忠なり。和以て貞に率うは、信なり。故に曰く、黄裳なり、元吉なり、と。黄は、中の色なり。裳は、下の飾りなり。元は、善の長なり。中、忠ならざれば、其の色を得ず。下、共にせざれば、其の飾りを得ず、事、善ならざれば、其の極を得ず。且つ夫れ易は以て險を占う可からず。三つの者に闕有れば、筮して當たると雖も未だし、と。後蒯果たして敗る。此れ以て占法を見る可し。
○上六、龍戰于野。其血玄黄。陰盛之極。至與陽爭、兩敗倶傷。其象如此。占者如是、其凶可知。
【読み】
○上六は、龍野に戰う。其の血玄黄なり。陰盛んの極みなり。陽と爭うに至り、兩つ敗れ倶に傷む。其の象此の如し。占者是の如くなれば、其の凶なること知る可し。
○用六、利永貞。用六、言凡筮得陰爻者、皆用六而不用八、亦通例也。以此卦純陰而居首、故發之。遇此卦而六爻倶變者、其占如此辭。蓋陰柔而不能固守、變而爲陽、則能永貞矣。故戒占者以利永貞。卽乾之利貞也。自坤而變。故不足於元亨云。
【読み】
○用六は、永く貞しきに利ろし。用六は、凡そ筮して陰爻を得る者は、皆六を用いて八を用いざるを言い、亦通例なり。此の卦純陰にして首めに居るを以て、故に之を發す。此の卦に遇いて六爻倶に變ずる者は、其の占此の辭の如し。蓋し陰柔にして固く守ること能わざれども、變じて陽と爲れば、則ち能く永く貞しきなり。故に占者を戒むるに永く貞しきに利ろしを以てす。卽ち乾の貞しきに利ろしなり。坤よりして變ず。故に元いに亨るには足らずと云う。
震下坎上 屯
屯、元亨。利貞。勿用有攸往。利建侯。屯、張倫反。○震・坎、皆三畫卦之名。震、一陽動於二陰之下。故其德爲動、其象爲雷。坎、一陽陷於二陰之閒。故其德爲陷爲險、其象爲雲爲雨爲水。屯、六畫卦之名也。難也。物始生而未通之意。故其爲字、象草穿地始出而未申也。其卦以震遇坎、乾坤始交而遇險陷。故其名爲屯。震動在下、坎險在上。是能動乎險中。能動雖可以亨、而在險則宜守正、而未可遽進。故筮得之者、其占爲大亨而利於正、但未可遽有所往耳。又初九陽居陰下、而爲成卦之主。是能以賢下人、得民而可君之象。故筮立君者、遇之則吉也。
【読み】
屯[ちゅん]は、元いに亨る。貞しきに利ろし。往く攸有るに用うること勿かれ。侯[きみ]を建つるに利ろし。屯は、張倫の反。○震・坎は、皆三畫卦の名。震は、一陽、二陰の下に動く。故に其の德は動と爲し、其の象は雷と爲す。坎は、一陽、二陰の閒に陷る。故に其の德は陷と爲し險と爲し、其の象は雲と爲し雨と爲し水と爲す。屯は、六畫卦の名なり。難なり。物始めて生じて未だ通ぜざるの意。故に其の字爲るや、草の地を穿ち始めて出でて未だ申びざるを象るなり。其の卦は震を以て坎に遇い、乾坤始めて交わりて險陷に遇う。故に其の名を屯と爲す。震動下に在り、坎險上に在り。是れ能く險中に動くなり。能く動けば以て亨る可きと雖も、而して險に在れば則ち宜しく正しきを守るべくして、未だ遽に進む可からず。故に筮して之を得る者は、其の占は大いに亨りて正しきに利ろしと爲し、但未だ遽に往く所有る可からざるのみ。又初九の陽は陰の下に居れども、而して成卦の主を爲す。是れ能く賢を以て人に下り、民を得て君たる可きの象なり。故に君を立つるを筮する者は、之に遇えば則ち吉なり。
○初九、磐桓。利居貞。利建侯。磐、歩干反。○磐桓、難進之貌。屯難之初、以陽在下、又居動體、而上應陰柔險陷之爻。故有磐桓之象。然居得其正。故其占利於居貞。又本成卦之主、以陽下陰、爲民所歸。侯之象也。故其象又如此。而占者如是、則利建以爲侯也。
【読み】
○初九は、磐桓たり。貞に居るに利ろし。侯を建つるに利ろし。磐は、歩干の反。○磐桓とは、進み難き貌。屯難の初め、陽を以て下に在り、又動の體に居り、而して上は陰柔險陷の爻に應ず。故に磐桓の象有り。然れども居るに其の正を得る。故に其の占は貞に居るに利ろし。又本成卦の主にて、陽を以て陰に下り、民の歸す所と爲す。侯の象なり。故に其の象も又此の如し。而して占者是の如くなれば、則ち建つるに以て侯と爲すに利ろし。
○六二、屯如、邅如、乘馬班如。匪寇婚媾。女子貞不字、十年乃字。邅、張連反。乘、繩澄反。又音繩。○班、分布不進之貌。字、許嫁也。禮曰、女子許嫁、筓而字。六二陰柔中正、有應於上、而乘初剛。故爲所難而邅回不進。然初非爲寇也、乃求與己爲婚媾耳。但己守正。故不之許。至於十年、數窮理極、則妄求者去、正應者合、而可許矣。爻有此象。故因以戒占者。
【読み】
○六二は、屯如たり、邅如[てんじょ]たり、馬に乘りて班如たり。寇[あだ]するに匪[あら]ず、婚媾[こんこう]せんとす。女子貞にして字せず、十年にして乃ち字す。邅は、張連の反。乘は、繩澄の反。又音繩。○班とは、分布して進まざるの貌。字とは、許嫁なり。禮に曰く、女子許嫁すれば、筓して字す、と。六二は陰柔中正、上に應有りて、初剛に乘る。故に難き所と爲りて邅回して進まず。然れども初は寇を爲すに非ず、乃ち己と婚媾を爲さんと求むのみ。但己は正しきを守る。故に之を許さず。十年に至り、數窮まり理極まれば、則ち妄りに求むる者去り、正應なる者合い、而して許さる可し。爻に此の象有り。故に因りて以て占者を戒む。
○六三、卽鹿无虞。惟入于林中。君子幾不如舍。往吝。幾、音機。舍、音捨。象同。○陰柔居下、不中不正、上无正應、妄行取困。爲逐鹿无虞、陷入林中之象。君子見幾、不如舍去。若往逐而不舍、必致羞吝。戒占者宜如是也。
【読み】
○六三は、鹿に卽[つ]くに虞无し。惟林中に入る。君子は幾をみて舍[や]むるに如かず。往けば吝なり。幾は、音機。舍は、音捨。象も同じ。○陰柔下に居り、不中不正、上に正應无く、妄りに行けば困を取る。鹿を逐うに虞无く、林中に陷入するの象と爲す。君子幾を見れば、舍去するに如かず。若し往きて逐いて舍まざれば、必ず羞吝を致す。占者を戒むるに宜しく是の如くすべし、と。
○六四、乘馬班如。求婚媾。往吉无不利。陰柔居屯、不能上進。故爲乘馬班如之象。然初九守正居下、以應於己。故其占爲下求婚媾則吉也。
【読み】
○六四は、馬に乘りて班如たり。婚媾を求む。往けば吉にして利ろしからざること无し。陰柔にて屯に居り、上り進むこと能わず。故に馬に乘りて班如たりの象と爲す。然れども初九は正しきを守りて下に居り、以て己に應ず。故に其の占は下に婚媾を求むれば則ち吉と爲す。
○九五、屯其膏。小貞吉、大貞凶。九五雖以陽剛中正居尊位、然當屯之時、陷於險中。雖有六二正應、而陰柔才弱、不足以濟。初九得民於下、衆皆歸之。九五坎體、有膏潤而不得施、爲屯其膏之象。占者以處小事、則守正猶可獲吉、以處大事、則雖正而不免於凶。
【読み】
○九五は、其の膏[めぐみ]を屯[とどこお]らす。小貞なれば吉、大貞なれば凶なり。九五は陽剛中正を以て尊位に居ると雖も、然れども屯の時に當たり、險中に陷る。六二の正應有りと雖も、而して陰柔にて才弱く、以て濟うに足らず。初九は民を下に得、衆は皆之に歸す。九五は坎の體、膏潤有りて施すことを得ず、其の膏を屯らすの象と爲す。占者以て小事を處すれば、則ち正しきを守りて猶吉を獲可く、以て大事を處すれば、則ち正しきと雖も而して凶を免れず。
*正・・・山崎嘉点は「正」、他の本では「守正」。
○上六、乘馬班如。泣血漣如。陰柔无應、處屯之終、進无所之、憂懼而已。故其象如此。
【読み】
○上六は、馬に乘りて班如たり。泣血漣如たり。陰柔にて應无く、屯の終わりに處り、進むに之く所无く、憂懼するのみ。故に其の象此の如し。
坎下艮上 蒙
蒙、亨。匪我求童蒙。童蒙求我。初筮告。再三瀆。瀆則不告。利貞。告、音谷。三、息暫反。瀆、音獨。○艮、亦三畫卦之名。一陽止於二陰之上。故其德爲止、其象爲山。蒙、昧也。物生之初、蒙昧未明也。其卦以坎遇艮。山下有儉、蒙之地也。内險外止、蒙之意也。故其名爲蒙。亨以下、占辭也。九二内卦之主、以剛居中、能發人之蒙者、而與六五陰陽相應。故遇此卦者、有亨道也。我、二也。童蒙、幼穉而蒙昧、謂五也。筮者明、則人當求我而其亨在人、筮者暗、則我當求人而亨在我。人求我者、當視其可否而應之、我求人者、當致其精一而扣之。而明者之養蒙、與蒙者之自養、又皆利於以正也。
【読み】
蒙は、亨る。我より童蒙に求むるに匪ず。童蒙より我に求む。初筮は告ぐ。再三すれば瀆[けが]る。瀆るれば則ち告げず。貞しきに利ろし。告は、音谷。三は、息暫の反。瀆は、音獨。○艮とは、亦三畫卦の名。一陽、二陰の上に止まる。故に其の德は止まると爲し、其の象は山と爲す。蒙とは、昧なり。物生ずるの初めは、蒙昧未明なり。其の卦は坎を以て艮に遇う。山の下に儉有り、蒙の地なり。内險にて外止まるは、蒙の意なり。故に其の名を蒙と爲す。亨る以下は、占辭なり。九二は内卦の主にて、剛を以て中に居り、能く人の蒙を發く者にして、六五と陰陽相應ず。故に此の卦に遇う者は、亨る道有るなり。我とは、二なり。童蒙とは、幼穉にして蒙昧、五を謂うなり。筮する者明なれば、則ち人當に我に求むるべくして其の亨るは人に在り、筮する者暗ければ、則ち我當に人に求むるべくして亨るは我に在り。人の我に求むるは、當に其の可否を視て之に應ずべく、我の人に求むるは、當に其の精一を致して之を扣くべし。而して明者の蒙を養うと、蒙者の自ら養うとは、又皆正しきを以てするに利ろしきなり。
○初六、發蒙。利用刑人、用說桎梏。以往吝。說、吐活反。桎、音質。梏、古毒反。○以陰居下、蒙之甚也。占者遇此、當發其蒙。然發之之道、當痛懲而暫舍之、以觀其後。若遂往而不舍、則致羞吝矣。戒占者當如是也。
【読み】
○初六は、蒙を發[ひら]く。人を刑するに用い、桎梏を說[だっ]するに用うるに利ろし。以て往けば吝なり。說は、吐活の反。桎は、音質。梏は、古毒の反。○陰を以て下に居り、蒙の甚だしきなり。占者此に遇えば、當に其の蒙を發くべし。然れども之を發くの道は、當に痛懲して暫く之を舍き、以て其の後を觀るべし。若し遂に往きて舍かざれば、則ち羞吝を致すなり。占者を戒むるに、當に是の如くすべし、と。
○九二、包蒙、吉。納婦、吉。子克家。九二以陽剛爲内卦之主、統治羣陰。當發蒙之任者。然所治旣廣、物性不齊、不可一概取必。而爻之德剛而不過、爲能有所包容之象。又以陽受陰、爲納婦之象。又居下位而能任上事、爲子克家之象。故占者有其德而當其事、則如是而吉也。
【読み】
○九二は、蒙を包[か]ぬ、吉なり。婦[つま]を納る、吉なり。子家を克[おさ]む。九二は陽剛を以て内卦の主と爲り、羣陰を統べ治む。蒙を發くの任に當たる者なり。然れども治むる所旣に廣く、物の性は齊しからず、一概に必を取る可からず。而して爻の德は剛にして過ぎず、能く包容する所有るの象と爲す。又陽を以て陰を受け、婦を納るの象と爲す。又下位に居りて能く上の事を任じ、子家を克むの象と爲す。故に占者其の德有りて其の事に當たれば、則ち是の如くして吉なり。
○六三、勿用取女。見金夫、不有躬。无攸利。取、七具反。○六三陰柔不中不正、女之見金夫而不能有其身之象也。占者遇之、則其取女必得如是之人、无所利矣。金夫、蓋以金賂己而挑之。若魯秋胡之爲者。
【読み】
○六三は、女を取[めと]るに用うること勿かれ。金夫を見れば、躬を有たず。利ろしき攸无し。取は、七具の反。○六三は陰柔にて不中不正、女の金夫を見て其の身を有つこと能わざるの象なり。占者之に遇えば、則ち其れ女を取れば必ず是の如きの人得て、利ろしき所无し。金夫とは、蓋し金を以て己に賂して之を挑
[そそのか]すなり。魯の秋胡の爲すが若き者なり。
○六四、困蒙。吝。旣遠於陽、又无正應、爲困於蒙之象。占者如是、可羞吝也。能求剛明之德而親近之、則可免矣。
【読み】
○六四は、蒙に困[くる]しむ。吝なり。旣に陽に遠くして、又正應无ければ、蒙に困しむの象と爲す。占者是の如くなれば、羞吝ある可し。能く剛明の德を求めて之に親しく近づけば、則ち免る可し。
○六五、童蒙。吉。柔中居尊、下應九二、純一未發、以聽於人。故其象爲童蒙。而其占爲如是則吉也。
【読み】
○六五は、童蒙なり。吉なり。柔中にて尊きに居り、下は九二に應じ、純一にて未だ發かず、以て人に聽[したが
]う。故に其の象は童蒙と爲す。而して其の占是の如くなれば則ち吉と爲すなり。
○上九、擊蒙。不利爲寇。利禦寇。以剛居上、治蒙過剛。故爲擊蒙之象。然取必太過、攻治太深、則必反爲之害。惟捍其外誘以全其眞純、則雖過於嚴密、乃爲得宜。故戒占者如此。凡事皆然、不止爲誨人也。
【読み】
○上九は、蒙を擊つ。寇を爲すに利ろしからず。寇を禦[ふせ]ぐに利ろし。剛を以て上に居り、蒙を治めて剛に過ぐ。故に蒙を擊つの象と爲す。然れども必を取ること太だ過ぎ、攻め治むること太だ深ければ、則ち必ず反って之が害と爲る。惟其の外誘を捍ぎ以て其の眞純を全うするなれば、則ち嚴密に過ぐと雖も、乃ち宜しきを得ると爲す。故に占者を戒むること此の如し。凡そ事は皆然り、止人を誨うるが爲ならざるなり。
乾下坎上 需
需、有孚、光亨。貞吉。利渉大川。需、待也。以乾遇坎。乾健坎險、以剛遇險、而不遽進以陷於險、待之義也。孚、信之在中者也。其卦九五以坎體中實、陽剛中正而居尊位、爲有孚得正之象。坎水在前、乾健臨之。將渉水而不輕進之象。故占者爲有所待、而能有信、則光亨矣。若又得正、則吉、而利渉大川。正固无所不利、而渉川尤貴於能待、則不欲速而犯難也。
【読み】
需は、孚[まこと]有れば、光[おお]いに亨る。貞しくして吉なり。大川を渉るに利ろし。需は、待つなり。乾を以て坎に遇う。乾は健にて坎は險、剛を以て險に遇い、而して遽に進みて以て險に陷らざるは、待つの義なり。孚とは、信の中に在る者なり。其の卦の九五は坎の體にて中實、陽剛中正を以て尊位に居り、孚有りて正しきを得るの象と爲す。坎水前に在り、乾健之に臨む。將に水を渉らんとして輕々しく進まざるの象なり。故に占者待つ所有りて、能く信有れば、則ち光いに亨ると爲す。若し又正しきを得れば、則ち吉にして、大川を渉るに利ろし。正固なれば利ろしからざる所无けれども、而して川を渉るは尤も能く待つこと貴ければ、則ち速やかならんことを欲して難を犯さざるなり。
○初九、需于郊。利用恆。无咎。郊、曠遠之地。未近於險之象也。而初九陽剛、又有能恆於其所之象。故戒占者能如是則无咎也。
【読み】
○初九は、郊に需[ま]つ。恆に用うるに利ろし。咎无し。郊とは、曠遠の地なり。未だ險に近からざるの象なり。而して初九は陽剛にて、又能く其の所に恆あるの象有り。故に占者を戒むるに、能く是の如くすれば則ち咎无し、と。
○九二、需于沙。小有言、終吉。沙、則近於險矣。言語之傷、亦災害之小者、漸進近坎。故有此象。剛中能需。故得終吉。戒占者當如是也。
【読み】
○九二は、沙[すな]に需つ。小しく言有れど、終には吉なり。沙は、則ち險に近きなり。言語の傷みも、亦災害の小しき者にて、漸く進んで坎に近づく。故に此の象有り。剛中にて能く需つ。故に終に吉を得。占者を戒むるに、當に是の如くするべし、と。
○九三、需于泥。致寇至。泥、將陷於險矣。寇、則害之大者。九三去險愈近、而過剛不中。故其象如此。
【読み】
○九三は、泥に需つ。寇の至ることを致す。泥とは、將に險に陷らんとするなり。寇とは、則ち害の大いなる者。九三は險を去ること愈々近く、而して過剛不中。故に其の象此の如し。
○六四、需于血。出自穴。血者、殺傷之地。穴者、險陷之所。四交坎體、入乎險矣。故爲需于血之象。然柔得其正、需而不進。故又爲出自穴之象。占者如是、則雖在傷地而終得出也。
【読み】
○六四は、血に需つ。穴より出づ。血は、殺傷の地。穴は、險陷の所。四は坎の體に交わり、險に入る。故に血を需つの象と爲す。然れども柔にて其の正を得、需ちて進まず。故に又穴より出づの象と爲す。占者是の如くすれば、則ち傷地に在ると雖も終に出づるを得るなり。
○九五、需于酒食。貞吉。酒食、宴樂之具、言安以待之。九五陽剛中正、需于尊位。故有此象。占者如是而貞固、則得吉也。
【読み】
○九五は、酒食に需つ。貞しくして吉なり。酒食とは、宴樂の具にて、安んじて以て之を待つを言う。九五は陽剛中正にて、尊位に需つ。故に此の象有り。占者是の如くして貞固なれば、則ち吉を得るなり。
○上六、入于穴。有不速之客三人來。敬之終吉。陰居險極、无復有需、有陷而入穴之象。下應九三、九三與下二陽需極並進、爲不速客三人之象。柔不能禦而能順之、有敬之之象。占者當陷險中。然於非意之來、敬以待之、則得終吉也。
【読み】
○上六は、穴に入る。速[まね]かざるの客三人來ること有り。之を敬すれば終には吉なり。陰、險の極みに居り、復需つこと有る无く、陷りて穴に入るの象有り。下は九三に應ずれども、九三は下の二陽と需つこと極まり並進めば、速かざる客三人の象と爲す。柔にて禦ぐこと能わずして能く之に順えば、之を敬するの象有り。占者當に險中に陷るべし。然れども非意の來るに於て、敬以て之を待てば、則ち終に吉を得るなり。
坎下乾上 訟
訟、有孚窒。惕中吉、終凶。利見大人。不利渉大川。窒、張栗反。○訟、爭辯也。上乾下坎、乾剛坎險。上剛以制其下、下險以伺其上。又爲内險而外健、又爲己險而彼健、皆訟之道也。九二中實、上无應與、又爲加憂。且於卦變自遯而來、爲剛來居二、而當下卦之中、有有孚而見窒、能懼而得中之象。上九過剛、居訟之極、有終極其訟之象。九五剛健中正、以居尊位、有大人之象。以剛乘險、以實履陷、有不利渉大川之象。故戒占者必有爭辯之事、而隨其所處爲吉凶也。
【読み】
訟は、孚[まこと]有れども窒がる。惕れて中なれば吉、終われば凶なり。大人を見るに利ろし。大川を渉るに利ろしからず。窒は、張栗の反。○訟とは、爭辯なり。上は乾にて下は坎、乾は剛にて坎は險。上は剛以て其の下を制し、下は險以て其の上を伺う。又内險にして外健と爲し、又己險にして彼健と爲し、皆訟の道なり。九二は中實にて、上に應與无く、又加憂と爲す。且つ卦變に於ては遯よりして來り、剛來りて二に居り、而して下の卦の中に當たると爲し、孚有りて窒がれ、能く懼れて中を得るの象有り。上九は過剛にて、訟の極みに居り、其の訟を終に極むるの象有り。九五は剛健中正、以て尊位に居り、大人の象有り。剛を以て險に乘り、實を以て陷を履み、大川を渉るに利ろしからずの象有り。故に占者を戒むるに、必ず爭辯の事有れども、而して其の處る所に隨いて吉凶を爲せ、と。
○初六、不永所事。小有言、終吉。陰柔居下、不能終訟。故其象占如此。
【読み】
○初六は、事とする所を永くせず。小しく言有れども、終には吉なり。陰柔下に居り、訟を終えること能わず。故に其の象占此の如し。
○九二、不克訟。歸而逋。其邑人三百戶、无眚。逋、補吳反。眚、生領反。○九二陽剛、爲險之主、本欲訟者也。然以剛居柔、得下之中、而上應九五、陽剛居尊、勢不可敵。故其象占如此。邑人三百戶、邑之小者。言自處卑約以免災患。占者如是、則无眚矣。
【読み】
○九二は、訟えを克せず。歸りて逋[のが]る。其の邑人三百戶なれば、眚[わざわ]い无し。逋は、補吳の反。眚は、生領の反。○九二は陽剛、險の主を爲し、本訟を欲する者なり。然れども剛を以て柔に居り、下の中を得、而して上は九五に應じ、陽剛にて尊きに居り、勢い敵する可からず。故に其の象占此の如し。邑人三百戶とは、邑の小さき者なり。自ら處ること卑約にして以て災患を免るるを言う。占者是の如くなれば、則ち眚い无きなり。
○六三、食舊德、貞厲。終吉。或從王事、无成。食、猶食邑之食。言所享也。六三陰柔、非能訟者。故守舊居正、則雖危而終吉。然或出而從上之事、則亦必无成功。占者守常而不出則善也。
【読み】
○六三は、舊德を食むこと貞しけれど厲うし。終には吉なり。或は王事に從うとも、成すこと无し。食とは、猶食邑の食のごとし。享く所を言うなり。六三は陰柔にて、能く訟する者に非ず。故に舊を守り正しきに居れば、則ち危うしと雖も終には吉なり。然れども或は出でて上の事に從えば、則ち亦必ず功を成すこと无し。占者常を守りて出でざれば則ち善し。
○九四、不克訟。復卽命、渝安貞吉。渝、以朱反。○卽、就也。命、正理也。渝、變也。九四剛而不中。故有訟象。以其居柔。故又爲不克、而復就正理、渝變其心、安處於正之象。占者如是則吉也。
【読み】
○九四は、訟えを克せず。復りて命に卽き、渝[か]えて、貞しきに安んずれば吉なり。渝は、以朱の反。○卽は、就くなり。命は、正理なり。渝は、變えるなり。九四は剛にして不中。故に訟の象有り。其の柔に居るを以て。故に又克せずして、復りて正理に就き、其の心を渝變して、正しきに安んじて處るの象と爲す。占者是の如くなれば則ち吉なり。
○九五、訟、元吉。陽剛中正以居尊位、聽訟而得其平者也。占者遇之、訟而有理、必獲伸矣。
【読み】
○九五は、訟え、元[おお]いに吉なり。陽剛中正以て尊位に居り、訟を聽きて其の平を得る者なり。占者之に遇えば、訟えて理有れば、必ず伸を獲るなり。
○上九、或錫之鞶帶、終朝三褫之。褫、敕紙反。○鞶帶、命服之飾。褫、奪也。以剛居訟極、終訟而能勝之。故有錫命受服之象。然以訟得之、豈能安久。故又有終朝三褫之象。其占爲終訟无理而或取勝、然其所得、終必失之。聖人爲戒之意深矣。
【読み】
○上九は、或は之に鞶帶を錫[たま]わるも、朝を終ゆるまでに三たび之を褫[うば]わる。褫は、敕紙の反。○鞶帶は、命服の飾り。褫は、奪うなり。剛を以て訟の極みに居り、訟を終えて能く之に勝つ。故に命を錫い服を受くの象有り。然れども訟を以て之を得れば、豈能く安んじて久しからん。故に又終朝三褫の象有り。其の占は訟を終え理无くして或は勝を取るとも、然れども其の得る所は、終には必ず之を失うと爲す。聖人の戒めと爲すの意深し。
坎下坤上 師
師、貞。丈人吉无咎。師、兵衆也。下坎上坤、坎險坤順、坎水坤地。古者寓兵於農。伏至險於大順、藏不測於至靜之中。又卦唯九二一陽居下卦之中、爲將之象。上下五陰順而從之、爲衆之象。九二以剛居下而用事、六五以柔居上而任之、爲人君命將出師之象。故其卦之名曰師。丈人、長老之稱。用師之道、利於得正、而任老成之人、乃得吉而无咎。戒占者亦必如是也。
【読み】
師は、貞なり。丈人なれば吉にして咎无し。師とは、兵衆なり。下は坎にて上は坤、坎は險にて坤は順、坎は水にて坤は地。古は兵を農に寓す。至險を大順に伏し、不測を至靜の中に藏す。又卦は唯九二のみ一陽にて下の卦の中に居り、將の象と爲す。上下の五陰は順にして之に從い、衆の象と爲す。九二は剛を以て下に居りて事を用い、六五は柔を以て上に居りて之に任ずれば、人君の將に命じ師を出だすの象と爲す。故に其の卦の名を師と曰う。丈人とは、長老の稱。師を用うるの道は、正しきを得るに利ろしくして、老成の人に任ずれば、乃ち吉にして咎无きを得。占者を戒むるに、亦必ず是の如くすべし、と。
○初六、師出以律。否臧凶。律、法也。否臧、謂不善也。晁氏曰、否字、先儒多作不、是也。在卦之初、爲師之始。出師之道、當謹其始。以律則吉、不臧則凶。戒占者當謹始而守法也。
【読み】
○初六は、師は出づるに律を以てす。否臧なれば凶なり。律とは、法なり。否臧とは、不善なるを謂うなり。晁氏曰く、否の字、先儒多く不に作るとは、是なり。卦の初めに在り、師の始めと爲す。師を出づるの道は、當に其の始めを謹むべし。律を以てすれば則ち吉にて、否臧なれば則ち凶。占者を戒むるに、當に始めを謹みて法を守るべし、と。
○九二、在師中。吉无咎。王三錫命。九二在下、爲衆陰所歸、而有剛中之德。上應於五、而爲所寵任。故其象占如此。
【読み】
○九二は、師に在りて中す。吉にして咎无し。王三たび命を錫う。九二は下に在り、衆陰の歸する所と爲して、剛中の德有り。上は五に應じて、寵任する所と爲す。故に其の象占此の如し。
○六三、師或輿尸。凶。輿尸、謂師徒撓敗、輿尸而歸也。以陰居陽、才弱志剛、不中不正、而犯非其分。故其象占如此。
【読み】
○六三は、師或は尸を輿[の]す。凶なり。尸を輿すとは、師徒撓敗し、尸を輿せて歸るを謂うなり。陰を以て陽に居り、才弱けれども志剛く、不中不正にして、其の分に非ざるを犯す。故に其の象占此の如し。
○六四、師左次。无咎。左次、謂退舍也。陰柔不中、而居陰得正。故其象如此。全師以退、賢於六三遠矣。故其占如此。
【読み】
○六四は、師左次す。咎无し。左次すとは、舍を退くを謂うなり。陰柔にて不中、而して陰に居り正を得。故に其の象此の如し。師を全くして以て退くは、六三に賢なること遠し。故に其の占此の如し。
○六五、田有禽。利執言。无咎。長子帥師。弟子輿尸。貞凶。長、之丈反。○六五用師之主、柔順而中、不爲兵端者也。敵加於己、不得已而應之。故爲田有禽之象、而其占利以搏執而无咎也。言、語辭也。長子、九二也。弟子、三・四也。又戒占者專於委任。若使君子任事、而又使小人參之、則是使之輿尸而歸。故雖貞而亦不免於凶也。
【読み】
○六五は、田[かり]して禽有り。言を執るに利ろし。咎无し。長子は師を帥ゆ。弟子は尸を輿す。貞なるとも凶なり。長は、之丈の反。○六五は師を用うるの主にて、柔順にして中、兵端を爲さざる者なり。敵己に加えて、已むことを得ずして之に應ず。故に田して禽有りの象と爲し、而して其の占は以て搏執するに利ろしくして咎无きなり。言とは、語辭なり。長子とは、九二なり。弟子とは、三・四なり。又占者を戒むるに委任に專らなれ、と。若し君子をして事を任ぜしめ、而して又小人に之に參ぜしめば、則ち是れ之に尸を輿せて歸せしむ。故に貞と雖も而して亦凶を免れざるなり。
○上六、大君有命。開國承家。小人勿用。師之終、順之極、論功行賞之時也。坤爲土。故有開国承家之象。然小人則雖有功、亦不可使之得有爵土、但優以金帛可也。戒行賞之人。於小人則不可用此占。而小人遇之、亦不得用此爻也。
【読み】
○上六は、大君命有り。國を開き家を承く。小人は用うること勿かれ。師の終わり、順の極み、功を論じ賞を行うの時なり。坤を土と爲す。故に国を開き家を承くの象有り。然れども小人は則ち功有りと雖も、亦之に爵土を有つことを得せしむ可からず、但優れるに金帛を以てするは可なり。賞を行う人を戒む。小人に於ては則ち此の占を用ゆ可からず。而して小人之に遇えば、亦此の爻を用うることを得ざるなり。
坤下坎上 比
比、吉。原筮、元永貞、无咎。不寧方來。後夫凶。比、毗意反。○比、親輔也。九五以陽剛居上之中而得其正。上下五陰、比而從之。以一人而撫萬邦、以四海而仰一人之象。故筮者得之、則當爲人所親輔。然必再筮以自審、有元善長永正固之德、然後可以當衆之歸而无咎。其未比而有所不安者、亦將皆來歸之。若又遲而後至、則此交已固、彼來已晩、而得凶矣。若欲比人、則亦以是而反觀之耳。
【読み】
比は、吉なり。原[ふたた]び筮し、元永貞なれば、咎无し。寧からざるものも方に來らん。後夫は凶なり。比は、毗意の反。○比は、親しみ輔くなり。九五は陽剛を以て上の中に居りて其の正を得。上下の五陰は、比して之に從う。一人を以てして萬邦を撫し、四海を以てして一人を仰ぐの象なり。故に筮者之を得れば、則ち當に人の親しみ輔くる所と爲るべし。然れども必ず再筮して以て自ら審らかにして、元善長永正固の德有り、然して後に以て當に衆之れ歸すべくして咎无かる可し。其の未だ比せずして安んぜざる所有る者も、亦將に皆來りて之に歸せんとす。若し又遲れて後に至れば、則ち此の交わり已に固く、彼來ること已に晩くして、凶を得るなり。若し人に比せんと欲せば、則ち亦是を以て之を反觀するのみ。
○初六、有孚比之。无咎。有孚盈缶。終來有他吉。缶、俯九反。他、湯何反。○比之初、貴乎有信、則可以无咎矣。若其充實、則又有他吉也。
【読み】
○初六は、孚有りて之に比す。咎无し。孚有りて缶[ほとぎ]に盈つ。終に來りて他の吉有り。缶は、俯九の反。他は、湯何の反。○比の初めは、信有るを貴べば、則ち以て咎无かる可し。若し其れ充實すれば、則ち又他の吉有るなり。
○六二、比之自内。貞吉。柔順中正、上應九五、自内比外而得其貞。吉之道也。占者如是、則正而吉矣。
【読み】
○六二は、之に比すこと内よりす。貞しくして吉なり。柔順中正にて、上は九五に應じ、内より外に比して其の貞しきを得。吉の道なり。占者是の如くなれば、則ち正しくして吉なり。
○六三、比之匪人。陰柔不中正、承・乘・應皆陰、所比皆非其人之象。其占大凶、不言可知。
【読み】
○六三は、之に比せんとすれど人に匪ず。陰柔にて不中正、承・乘・應は皆陰にて、比す所は皆其の人に非ずの象なり。其の占大凶なること、言わずして知る可し。
○六四、外比之。貞吉。以柔居柔、外比九五、爲得其正。吉之道也。占者如是、則正而吉矣。
【読み】
○六四は、外之に比す。貞しくして吉なり。柔を以て柔に居り、外は九五に比し、其の正を得ると爲す。吉の道なり。占者是の如くなれば、則ち正しくして吉なり。
○九五、顯比。王用三驅失前禽。邑人不誡。吉。一陽居尊、剛健中正、卦之羣陰皆來比己。顯其比而无私、如天子不合圍、開一面之網、來者不拒、去者不追。故爲用三驅失前禽而邑人不誡之象。蓋雖私屬、亦喩上意、不相警備以求必得也。凡此皆吉之道、占者如是則吉也。
【読み】
○九五は、比を顯らかにす。王三驅を用いて前禽を失う。邑人誡めず。吉なり。一陽尊きに居り、剛健中正、卦の羣陰皆來りて己に比す。其の比をを顯らかにして私无きこと、天子圍を合わさず、一面の網を開き、來る者は拒まず、去る者は追わざるが如し。故に三驅を用いて前禽を失いて邑人誡めずの象と爲す。蓋し私屬と雖も、亦上意を喩り、相警備して以て必ず得んことを求めざるならん。凡そ此れ皆吉の道にて、占者是の如くなれば則ち吉なり。
○上六、比之无首。凶。陰柔居上、无以比下。凶之道也。故爲无首之象、而其占則凶也。
【読み】
○上六は、之に比すに首无し。凶なり。陰柔にて上に居り、以て下に比する无し。凶の道なり。故に首无しの象と爲し、而して其の占は則ち凶なり。
乾下巽上 小畜
小畜、亨。密雲不雨。自我西郊。畜、敕六反。大畜卦同。○巽、亦三畫卦之名。一陰伏於二陽之下。故其德爲巽爲入、其象爲風爲木。小、陰也。畜、止之之義也。上巽下乾、以陰畜陽。又卦唯六四一陰、上下五陽皆爲所畜。故爲小畜。又以陰畜陽、能係而不能固、亦爲所畜者小之象。内健外巽、二・五皆陽、各居一卦之中而用事、有剛而能中、其志得行之象。故其占當得亨通。然畜未極而施未行。故有密雲不雨、自我西郊之象。蓋密雲、陰物。西郊、陰方。我者、文王自我也。文王演易於羑里、視岐周爲西方。正小畜之時也。筮者得之、則占亦如其象云。
【読み】
小畜は、亨る。密雲あれど雨ふらず。我が西郊よりす。畜は、敕六の反。大畜の卦も同じ。○巽とは、亦三畫卦の名。一陰、二陽の下に伏す。故に其の德は巽うと爲し入ると爲し、其の象は風と爲し木と爲す。小とは、陰なり。畜とは、之を止むるの義なり。上は巽にて下は乾、陰を以て陽を畜
[とど]む。又卦は唯六四のみ一陰にて、上下五陽は皆畜むる所と爲す。故に小畜と爲す。又陰を以て陽を畜むれば、能く係けて固くすること能わず、亦畜むる所の者小しきの象と爲す。内は健にて外は巽、二・五皆陽にて、各々一卦の中に居りて事を用い、剛にして能く中なれば、其の志行うを得るの象有り。故に其の占は當に亨通を得べし。然れども畜むること未だ極まらずして施し未だ行われず。故に密雲有れども雨ふらず、我が西郊よりすの象あり。蓋し密雲は、陰物。西郊は、陰の方。我は、文王の自ら我なり。文王は易を羑里に演じ、岐周を視て西方と爲す。正に小畜の時なり。筮者之を得れば、則ち占も亦其の象の如しと云う。
○初九、復自道。何其咎。吉。復、芳六反。二爻同。○下卦乾體、本皆在上之物。志欲上進而爲陰所畜。然初九體乾、居下得正、前遠於陰、雖與四爲正應、而能自守以正、不爲所畜。故有進復自道之象。占者如是、則无咎而吉也。
【読み】
○初九は、復ること道よりす。何ぞ其れ咎あらん。吉なり。復は、芳六の反。二爻も同じ。○下の卦は乾の體にて、本皆上に在る物なり。志上り進まんと欲して陰の畜むる所と爲す。然れども初九の體は乾にて、下に居りて正を得、前は陰に遠ざかり、四と正應を爲すと雖も、而して能く自ら守るに正しきを以てし、畜むる所と爲らず。故に進み復ること道によるの象有り。占者是の如くなれば、則ち咎无くして吉なり。
○九二、牽復。吉。三陽志同、而九二漸近於陰。以其剛中、故能與初九牽連而復。亦吉道也。占者如是、則吉也。
【読み】
○九二は、牽きて復る。吉なり。三陽は志同じくして、九二は漸く陰に近づく。其の剛中なるを以て、故に能く初九と牽き連ねて復る。亦吉の道なり。占者是の如くなれば、則ち吉なり。
○九三、輿說輻。夫妻反目。說、吐活反。○九三亦欲上進。然剛而不中、迫近於陰、而又非正應。但以陰陽相說而爲所係畜、不能自進。故有輿說輻之象。然以志剛、故又不能平而與之爭。故又爲夫妻反目之象。戒占者如是、則不得進而有所爭也。
【読み】
○九三は、輿[くるま]輻[とこしばり]を說[だっ]す。夫妻目を反く。說は、吐活の反。○九三も亦上り進まんと欲す。然れども剛にして不中、陰に迫り近づいて、又正應に非ず。但陰陽相說ぶを以て係畜する所と爲り、自ら進むこと能わず。故に輿輻を說すの象有り。然れども志剛きを以て、故に又平なること能わずして之と爭う。故に又夫妻目を反くの象を爲す。占者を戒むるに、是の如くすれば、則ち進むことを得ずして爭う所有り、と。
○六四、有孚。血去惕出。无咎。去、上聲。○以一陰畜衆陽。本有傷害憂懼、以其柔順得正、虛中巽體、二陽助之。是有孚而血去惕出之象也。无咎宜矣。故戒占者亦有其德、則无咎也。
【読み】
○六四は、孚有り。血[いた]み去り惕れ出づ。咎无し。去は、上聲。○一陰を以て衆陽を畜む。本傷害憂懼有れども、其の柔順にて正を得、虛中にて巽の體なるを以て、二陽之を助く。是れ孚有りて血み去り惕れ出づの象なり。咎无きこと宜なり。故に占者を戒むるに、亦其の德有れば、則ち咎无し、と。
○九五、有孚攣如。富以其鄰。攣、力專反。○巽體三爻、同力畜乾。鄰之象也。而九五居中處尊、勢能有爲、以兼上下。故爲有孚攣固、用富厚之力而以其鄰之象。以、猶春秋以某師之以。言能左右之也。占者有孚、則能如是也。
【読み】
○九五は、孚有りて攣如[れんじょ]たり。富みて其の鄰を以[ひき]いる。攣は、力專の反。○巽の體の三爻は、力を同じくして乾を畜む。鄰の象なり。而して九五は中に居り尊きに處り、勢い能く爲すこと有りて、以て上下を兼ぬ。故に孚有りて攣固たり、富厚の力を用いて其の鄰を以いるの象を爲す。以とは、猶春秋に某の師を以いるの以のごとし。能く之を左右するを言うなり。占者孚有れば、則ち能く是の如し。
○上九、旣雨旣處。尙德載。婦貞厲。月幾望。君子征凶。幾、音機。歸妹卦同。○畜極而成、陰陽和矣。故爲旣雨旣處之象。蓋尊尙陰德、至於積滿而然也、陰加於陽。故雖正亦厲。然陰旣盛而抗陽、則君子亦不可以有行矣。其占如此、爲戒深矣。
【読み】
○上九は、旣に雨ふり旣に處る。德の載[み]つるを尙ぶ。婦は貞なれど厲[あや]うし。月望に幾[ちか]し。君子征けば凶なり。幾は、音機。歸妹の卦も同じ。○畜むること極まりて成り、陰陽和す。故に旣に雨ふり旣に處るの象と爲す。蓋し陰の德、積んで滿つるに至りて然るを尊尙すれば、陰、陽を加う。故に正しきと雖も亦厲うし。然して陰旣に盛んにして陽に抗えば、則ち君子も亦以て行うこと有る可からず。其の占此の如く、戒めを爲すこと深し。
兌下乾上 履
履虎尾、不咥人。亨。咥、直結反。○兌、亦三畫卦之名。一陰見於二陽之上。故其德爲說、其象爲澤。履、有所躡而進之義也。以兌遇乾、和說以躡剛強之後、有履虎尾而不見傷之象。故其卦爲履、而占如是也。人能如是、則處危而不傷矣。
【読み】
虎の尾を履むも、人を咥[くら]わず。亨る。咥は、直結の反。○兌とは、亦三畫卦の名。一陰、二陽の上に見る。故に其の德を說ぶと爲し、其の象を澤と爲す。履とは、躡
[ふ]む所有りて進むの義なり。兌を以て乾に遇い、和說して以て剛強の後を躡み、虎の尾を履んで傷つけられずの象有り。故に其の卦を履と爲して、占は是の如し。人能く是の如くなれば、則ち危うきに處りて傷つかざるなり。
○初九、素履。往无咎。以陽在下、居履之初、未爲物遷、率其素履者也。占者如是、則往而无咎也。
【読み】
○初九は、素履す。往くも咎无し。陽を以て下に在り、履の初めに居り、未だ物遷ると爲さず、其の素履に率う者なり。占者是の如くなれば、則ち往きて咎无きなり。
○九二、履道坦坦。幽人貞吉。剛中在下、无應於上。故爲履道平坦、幽獨守貞之象。幽人履道而遇其占、則貞而吉矣。
【読み】
○九二は、道を履むこと坦坦たり。幽人貞しくして吉なり。剛中にて下に在り、上に應无し。故に道を履むこと平坦にて、幽獨貞しきを守るの象と爲す。幽人道を履みて其の占に遇えば、則ち貞しくして吉なり。
○六三、眇能視、跛能履。履虎尾、咥人凶。武人爲于大君。跛、波我反。○六三不中不正、柔而志剛。以此履乾、必見傷害。故其象如此、而占者凶。又爲剛武之人、得志而肆暴之象。如秦政・項籍、豈能久也。
【読み】
○六三は、眇[すがめ]にして能く視るとし、跛[あしなえ]にして能く履むとす。虎の尾を履めば、人を咥いて凶なり。武人大君と爲る。跛は、波我の反。○六三は不中不正、柔にして志剛し。此を以て乾を履めば、必ず傷つき害せらる。故に其の象此の如くして、占者は凶。又剛武の人、志を得て肆暴するの象と爲す。秦政・項籍の如き、豈能く久しからんや。
○九四、履虎尾。愬愬終吉。愬、山革反。音色。○九四亦以不中不正、履九五之剛。然以剛居柔。故能戒懼而得終吉。
【読み】
○九四は、虎の尾を履む。愬愬[さくさく]たれば終には吉なり。愬は、山革の反。音色。○九四も亦不中不正を以て、九五の剛を履む。然れども剛を以て柔に居る。故に能く戒懼して終には吉を得。
○九五、夬履。貞厲。夬、古快反。○九五以剛中正履帝位、而下以兌說應之。凡事必行、无所疑礙。故其象爲夬決其履。雖使得正、亦危道也。故其占爲雖正而危。爲戒深矣。
【読み】
○九五は、履むことを夬す。貞しけれども厲[あや]うし。夬は、古快の反。○九五は剛中正を以て帝位を履み、而して下は兌說を以て之に應ず。凡そ事は必ず行い、疑礙する所无し。故に其の象は其の履を夬決すと爲す。正しきを得せしむと雖も、亦危うき道なり。故に其の占は正しきと雖も而して危うしと爲す。戒めを爲すこと深し。
○上九、視履考祥。其旋元吉。視履之終以考其祥。周旋无虧、則得元吉。占者禍福、視其所履而未定也。
【読み】
○上九は、履むを視て祥を考う。其れ旋[めぐ]れば元いに吉なり。履むの終わりを視て以て其の祥を考う。周旋して虧くこと无ければ、則ち元いに吉を得。占者の禍福は、其の履む所を視て未だ定まらざるなり。
乾下坤上 泰
泰、小往大來。吉亨。泰、通也。爲卦天地交而二氣通。故爲泰。正月之卦也。小、謂陰。大、謂陽。言坤往居外、乾來居内。又自歸妹來、則六往居四、九來居三也。占者有陽剛之德、則吉而亨矣。
【読み】
泰は、小往き大來る。吉にして亨る。泰は、通るなり。卦爲るや天地交わりて二氣通ず。故に泰と爲す。正月の卦なり。小とは、陰を謂う。大とは、陽を謂う。言うこころは、坤往きて外に居り、乾來りて内に居る、と。又歸妹より來りて、則ち六往きて四に居り、九來りて三に居るなり。占者陽剛の德有れば、則ち吉にして亨るなり。
○初九、拔茅茹。以其彙。征吉。茹、人余反。彙、于位反。音胃。否卦同。○三陽在下、相連而進、拔茅連茹之象。征行之吉也。占者陽剛、則其征吉矣。郭璞洞林讀至彙字絶句。下卦放此。
【読み】
○初九は、茅[ちがや]を拔くに茹たり。其の彙[たぐい]を以[ひき]いる。征けば吉なり。茹は、人余の反。彙は、于位の反。音胃。否の卦も同じ。○三陽下に在り、相連ねて進み、茅を拔くに連ねて茹たりの象なり。征行すれば吉なり。占者陽剛なれば、則ち其れ征けば吉なり。郭璞の洞林に讀んで彙の字に至って句を絶つ。下の卦も此に放え。
○九二、包荒、用馮河、不遐遺、朋亡、得尙于中行。馮、音憑。○九二以剛居柔、在下之中、上有六五之應、主乎泰而得中道者也。占者能包容荒穢而果斷剛決、不遺遐遠而不昵朋比、則合乎此爻中行之道矣。
【読み】
○九二は、荒を包[か]ね、河を馮[かちわた]るを用い、遐[とお]きを遺[わす]れず、朋亡ぶれば、中行に尙[かな]うことを得ん。馮は、音憑。○九二は剛を以て柔に居り、下の中に在り、上は六五の應有り、泰に主にして中道を得る者なり。占者能く荒穢を包容して果斷に剛決し、遐遠を遺れずして朋比に昵
[ちか]づかざれば、則ち此の爻の中行の道に合するなり。
○九三、无平不陂、无往不復。艱貞无咎。勿恤其孚。于食有福。將過於中。泰將極而否欲來之時也。恤、憂也。孚、所期之信也。戒占者艱難守貞、則无咎而有福。
【読み】
○九三は、平かの陂[かたむ]かざること无く、往の復らざるは无し。艱[くる]しみて貞しければ咎无し。其の孚を恤うること勿かれ。食に于[ここ]に福有らん。將に中を過ぎんとす。泰將に極まらんとして否來らんと欲するの時なり。恤とは、憂うるなり。孚とは、期す所の信なり。占者を戒むるに、艱難にて貞を守れば、則ち咎无くして福有り、と。
○六四、翩翩。不富以其鄰。不戒以孚。已過乎中、泰已極矣。故三陰翩然而下復、不待富而其類從之。不待戒令而信也。其占爲有小人合交以害正道。君子所當戒也。陰虛陽實。故凡言不富者、皆陰爻也。
【読み】
○六四は、翩翩たり。富めりとせずして其の鄰を以[ひき]いる。戒めずして以て孚あり。已に中を過ぎ、泰已に極まるなり。故に三陰翩然として下り復り、富むことを待たずして其の類之に從う。戒令を待たずして信ずるなり。其の占は小人交わりを合わせて以て正道を害すること有りと爲す。君子當に戒むべき所なり。陰は虛にて陽は實。故に凡そ富まずと言う者は、皆陰爻なり。
○六五、帝乙歸妹。以祉元吉。以陰居尊、爲泰之主。柔中虛己、下應九二。吉之道也。而帝乙歸妹之時、亦嘗占得此爻。占者如是、則有祉而元吉矣。凡經以古人爲言。如高宗・箕子之類者皆放此。
【読み】
○六五は、帝乙妹を歸[とつ]がしむ。以て祉[さいわい]ありて元いに吉なり。陰を以て尊きに居り、泰の主と爲す。柔中にて己を虛しくして、下は九二に應ず。吉の道なり。而して帝乙妹を歸がしむるの時に、亦嘗みに占して此の爻を得。占者是の如くなれば、則ち祉有りて元いに吉なり。凡そ經は古人を以て言と爲す。高宗・箕子の類の如きは皆此に放え。
○上六、城復于隍。勿用師。自邑告命。貞吝。復、房六反。下同。○泰極而否。城復于隍之象。戒占者不可力爭、但可自守。雖得其貞、亦不免於羞吝。
【読み】
○上六は、城隍[ほり]に復る。師を用うること勿かれ。邑より告命す。貞なれども吝なり。復は、房六の反。下も同じ。○泰極まりて否なり。城隍に復るの象なり。占者を戒むるに、力爭す可からず、但自守す可し。其の貞しきを得ると雖も、亦羞吝を免れず、と。
坤下乾上 否
否之匪人。不利君子貞。大往小來。否、備鄙反。○否、閉塞也。七月之卦也。正與泰反。故曰匪人。謂非人道也。其占不利於君子之正道。蓋乾往居外、坤來居内。又自漸卦而來、則九往居四、六來居三也。或疑之匪人三字衍文、由比六三而誤也。傳不特解其義、亦可見。
【読み】
否は之れ人に匪ず。君子の貞に利ろしからず。大往き小來る。否は、備鄙の反。○否とは、閉じ塞がるなり。七月の卦なり。正に泰と反す。故に曰く、人に匪ず、と。人の道に非ざるを謂うなり。其の占は君子の正道に利ろしからず。蓋し乾往きて外に居り、坤來りて内に居る。又漸の卦より來りて、則ち九往きて四に居り、六來りて三に居るなり。或は疑うらくは之匪人の三字は衍文にて、比の六三に由りて誤まるならん。傳特に其の義を解せず、亦見る可し。
○初六、拔茅茹。以其彙。貞吉亨。三陰在下、當否之時、小人連類而進之象、而初之惡則未形也。故戒其貞則吉而亨。蓋能如是、則變而爲君子矣。
【読み】
○初六は、茅を拔くに茹たり。其の彙[たぐい]を以[ひき]いる。貞なれば吉にして亨る。三陰下に在り、否の時に當たり、小人類を連ねて進むの象にして、初めの惡なれば則ち未だ形れず。故に戒むるに、其れ貞なれば則ち吉にして亨る、と。蓋し能く是の如くなれば、則ち變じて君子と爲るなり。
○六二、包承。小人吉。大人否亨。陰柔而中正、小人而能包容承順乎君子之象。小人之吉道也。故占者小人如是則吉、大人則當安守其否而後道亨。蓋不可以彼包承於我而自失其守也。
【読み】
○六二は、包承す。小人は吉なり。大人は否にして亨る。陰柔にして中正、小人にして能く君子に包容承順するの象なり。小人の吉道なり。故に占者小人にて是の如くなれば則ち吉、大人なれば則ち當に其の否を安んじ守りて後に道亨るべし。蓋し彼の我に包承するを以てして自ら其の守りを失う可からざるなり。
○六三、包羞。以陰居陽而不中正、小人志於傷善而未能也。故爲包羞之象。然以其未發、故无凶咎之戒。
【読み】
○六三は、羞を包む。陰を以て陽に居りて不中正、小人善を傷るに志して未だ能わざるなり。故に羞を包むの象と爲す。然して其の未だ發らざるを以て、故に凶咎の戒め无し。
○九四、有命无咎。疇離祉。否過中矣。將濟之時也。九四以陽居陰、不極其剛。故其占爲有命无咎、而疇類三陽、皆獲其福也。命、謂天命。
【読み】
○九四は、命有れば咎无し。疇[たぐい]祉[さいわい]に離[つ]く。否、中を過ぐ。將に濟さんとするの時なり。九四は陽を以て陰に居り、其の剛きを極めず。故に其の占は命有れば咎无しと爲し、而して疇類三陽、皆其の福を獲るなり。命とは、天命を謂う。
○九五、休否。大人吉。其亡其亡、繫于苞桑。苞、與包同。古易作包。○陽剛中正、以居尊位、能休時之否。大人之事也。故此爻之占、大人遇之則吉。然又當戒懼如繫辭傳所云也。
【読み】
○九五は、否を休[や]む。大人は吉なり。其れ亡びなん其れ亡びなんとて、苞桑に繫る。苞は、包と同じ。古易は包に作る。○陽剛にて中正、以て尊位に居り、能く時の否を休む。大人の事なり。故に此の爻の占は、大人之に遇えば則ち吉なり。然れども又當に戒懼すること繫辭傳云う所の如くすべし。
○上九、傾否。先否後喜。以陽剛居否極、能傾時之否者也。其占爲先否後喜。
【読み】
○上九は、否を傾く。先には否[ふさ]がり後には喜ぶ。陽剛を以て否の極みに居り、能く時の否を傾く者なり。其の占は先には否がり後には喜ぶと爲す。
離下乾上 同人
同人于野。亨。利渉大川。利君子貞。離、亦三畫卦之名。一陰麗於二陽之閒。故其德爲麗爲文明、其象爲火爲日爲電。同人、與人同也。以離遇乾、火上同於天。六二得位得中而上應九五。又卦唯一陰而五陽同與之。故爲同人。于野、謂曠遠而无私也、有亨道矣。以健而行。故能渉川。爲卦内文明而外剛健、六二中正而有應、則君子之道也。占者能如是、則亨而又可渉險。然必其所同合於君子之道、乃爲利也。
【読み】
人に野に同じくす。亨る。大川を渉るに利ろし。君子の貞しきに利ろし。離とは、亦三畫卦の名。一陰、二陽の閒に麗く。故に其の德は麗と爲し文明と爲し、其の象は火と爲し日と爲し電と爲す。同人とは、人と同じくするなり。離を以て乾に遇い、火上るは天と同じ。六二は位を得て中を得て上は九五に應ず。又卦は唯一陰のみにして五陽同じく之に與す。故に同人と爲す。野に于てとは、曠遠にして私无きを謂い、亨る道有るなり。健を以て行く。故に能く川を渉る。卦爲るや内は文明にして外は剛健、六二は中正にして應有れば、則ち君子の道なり。占者能く是の如くなれば、則ち亨りて又險を渉る可し。然れども必ず其の同じくする所は君子の道に合して、乃ち利ろしきと爲すなり。
○初九、同人于門。无咎。同人之初、未有私主、以剛在下、上无係應、可以无咎。故其象占如此。
【読み】
○初九は、人に門に同じくす。咎无し。同人の初め、未だ私主有らず、剛を以て下に在り、上は係應无く、以て咎无かる可し。故に其の象占此の如し。
○六二、同人于宗。吝。宗、黨也。六二雖中且正、然有應於上、不能大同而係於私。吝之道也。故其象占如此。
【読み】
○六二は、人に宗に同じくす。吝なり。宗とは、黨なり。六二は中且つ正と雖も、然れども上に應ずる有り、大同すること能わずして私に係る。吝の道なり。故に其の象占此の如し。
○九三、伏戎于莽。升其高陵。三歳不興。莽、莫蕩反。○剛而不中、上无正應。欲同於二而非其正、懼九五之見攻。故有此象。
【読み】
○九三は、戎[つわもの]を莽[くさむら]に伏す。其の高陵に升る。三歳まで興さず。莽は、莫蕩の反。○剛にして不中、上は正應无し。二に同じくせんと欲すれども而して其の正しきに非ず、九五に之れ攻めらるるを懼る。故に此の象有り。
○九四、乘其墉。弗克攻。吉。墉、音庸。○剛不中正、又无應與。亦欲同於六二、而爲三所隔。故爲乘墉以攻之象。然以剛居柔。故有自反而不克攻之象。占者如是、則是能改過而得吉也。
【読み】
○九四は、其の墉[かき]に乘る。攻むること克[あた]わず。吉なり。墉は、音庸。○剛にて不中正、又應與无し。亦六二に同じくせんと欲して、三の隔てる所と爲す。故に墉に乘りて以て攻むるの象と爲す。然れども剛を以て柔に居る。故に自ら反りて攻むること克わずの象有り。占者是の如くなれば、則ち是れ能く過を改めて吉を得るなり。
○九五、同人先號咷而後笑。大師克相遇。號、戶羔反。咷、道刀反。旅卦同。○五剛中正、二以柔中正、相應於下、同心者也。而爲三四所隔、不得其同。然義理所同、物不得而閒之。故有此象。然六二柔弱而三四剛強。故必用大師以勝之、然後得相遇也。
【読み】
○九五は、人に同じくするに先には號[な]き咷[さけ]び後には笑う。大師克ちて相遇う。號は、戶羔の反。咷は、道刀の反。旅の卦も同じ。○五は剛にて中正、二は柔にて中正なるを以て、下に相應じ、心を同じくする者なり。而して三四の隔てる所と爲り、其の同じきを得ず。然れども義理同じくする所にて、物得て之を閒てず。故に此の象有り。然れども六二は柔弱にして三四は剛強。故に必ず大師を用いて以て之に勝ち、然して後に相遇うことを得るなり。
○上九、同人于郊。无悔。居外无應、物莫與同。然亦可以无悔。故其象占如此。郊在野之内、未至於曠遠、但荒僻无與同耳。
【読み】
○上九は、人に郊に同じくす。悔无し。外に居りて應无く、物與に同くする莫し。然れども亦以て悔无かる可し。故に其の象占此の如し。郊は野の内に在り、未だ曠遠に至らざれども、但荒僻にて與に同じくする无きのみ。
乾下離上 大有
大有、元亨。大有、所有之大也。離居乾上、火在天上、无所不照。又六五一陰居尊得中、而五陽應之。故爲大有。乾健離明、居尊應天、有亨之道。占者有其德、則大善而亨也。
【読み】
大有は、元いに亨る。大有は、有する所の大いなるなり。離は乾の上に居り、火、天の上に在り、照らさざる所无し。又六五の一陰は尊きに居り中を得て、五陽之に應ず。故に大有と爲す。乾は健やかにて離は明らか、尊きに居り天に應じ、亨る道有り。占者其の德有れば、則ち大善にして亨るなり。
○初九、无交害。匪咎。艱則无咎。雖當大有之時、然以陽居下、上无係應、而在事初、未渉乎害者也。何咎之有。然亦必艱以處之、則无咎。戒占者宜如是也。
【読み】
○初九は、害に交[わた]ること无し。咎に匪ず。艱[なや]めば則ち咎无し。大有の時に當たると雖も、然れども陽を以て下に居り、上は係應无くして、事の初めに在り、未だ害に渉らざる者なり。何の咎か之れ有らん。然れども亦必ず艱みて以て之に處れば、則ち咎无し。占者を戒むるに、宜しく是の如くすべし、と。
○九二、大車以載。有攸往无咎。剛中在下、得應乎上。爲大車以載之象。有所往而如是、可以无咎矣。占者必有此德、乃應其占也。
【読み】
○九二は、大車以て載す。往く攸有るも咎无し。剛中にて下に在り、應を上に得。大車以て載すの象と爲す。往く所有りて是の如くなれば、以て咎无かる可し。占者必ず此の德有りて、乃ち其の占に應ずべし。
○九三、公用亨于天子。小人弗克。亨、春秋傳作享。謂朝獻也。古者亨通之亨、享獻之享、烹飪之烹、皆作亨字。九三居下之上、公侯之象。剛而得正、上有六五之君、虛中下賢。故爲亨于天子之象。占者有其德、則其占如是。小人无剛正之德、則雖得此爻、不能當也。
【読み】
○九三は、公用[もっ]て天子に亨す。小人は克[あた]わず。亨は、春秋傳に享に作る。朝獻を謂うなり。古は亨通の亨、享獻の享、烹飪の烹は、皆亨の字と作す。九三は下の上に居り、公侯の象なり。剛にして正を得、上に六五の君有り、虛中にて賢に下る。故に天子に亨するの象と爲す。占者其の德有れば、則ち其の占是の如し。小人剛正の德无ければ、則ち此の爻を得ると雖も、當たること能わざるなり。
○九四、匪其彭。无咎。彭、蒲光反。音旁。○彭字音義未詳。程傳曰盛貌。理或當然。六五柔中之君、九四以剛近之、有僭逼之嫌。然以其處柔也、故有不極其盛之象、而得无咎。戒占者宜如是也。
【読み】
○九四は、其の彭[さか]んなるに匪ず。咎无し。彭は、蒲光の反。音旁。○彭の字の音義未だ詳らかならず。程傳に曰く、盛んなる貌、と。理として或は當に然るべし。六五は柔中の君、九四は剛を以て之に近く、僭逼の嫌有り。然れども其の柔に處るを以て、故に其の盛んを極めざるの象有り、而して咎无きを得。占者を戒むるに、宜しく是の如くするべし、と。
○六五、厥孚交如。威如、吉。大有之世、柔順而中、以處尊位。虛己以應九二之賢、而上下歸之。是其孚信之交也。然君道貴剛、太柔則廢。當以威濟之則吉。故其象占如此、亦戒辭也。
【読み】
○六五は、厥の孚交如たり。威如たれば、吉なり。大有の世にて、柔順にして中、以て尊位に處る。己を虛しくして以て九二の賢に應じ、而して上下之に歸す。是れ其れ孚信の交わりなり。然れども君の道は剛きを貴び、太だ柔なれば則ち廢る。當に威を以て之を濟すべくして則ち吉なり。故に其の象占此の如く、亦戒むる辭なり。
○上九、自天祐之。吉无不利。大有之世、以剛居上、而能下從六五。是能履信思順而尙賢也。滿而不溢。故其占如此。
【読み】
○上九は、天より之を祐[たす]く。吉にして利ろしからざること无し。大有の世にて、剛を以て上に居り、而して能く下りて六五に從う。是れ能く信を履み順を思いて賢を尙ぶなり。滿ちて溢れず。故に其の占此の如し。
艮下坤上 謙
謙、亨。君子有終。謙者、有而不居之義。止乎内而順乎外。謙之意也。山至高而地至卑、乃屈而止於其下。謙之象也。占者如是、則亨通而有終矣。有終、謂先屈而後伸也。
【読み】
謙は、亨る。君子終わり有り。謙は、有りて居らざるの義。内に止まりて外に順う。謙の意なり。山は至って高くして地は至って卑く、乃ち屈して其の下に止まる。謙の象なり。占者是の如くなれば、則ち亨通して終わり有るなり。終わり有りとは、先に屈して後に伸びるを謂うなり。
○初六、謙謙君子。用渉大川。吉。以柔處下、謙之至也。君子之行也、以此渉難、何往不濟。故占者如是、則利以渉川也。
【読み】
○初六は、謙謙す君子。用[もっ]て大川を渉る。吉なり。柔を以て下に處るは、謙の至りなり。君子の行うや、此を以て難を渉れば、何ぞ往きて濟さざる。故に占者是の如くなれば、則ち以て川を渉るに利ろし。
○六二、鳴謙。貞吉。柔順中正、以謙有聞。正而且吉者也。故其占如此。
【読み】
○六二は、謙を鳴す。貞しくして吉なり。柔順にて中正、謙を以て聞かる有り。正しくして且つ吉なる者なり。故に其の占此の如し。
○九三、勞謙。君子有終吉。卦唯一陽、居下之上、剛而得正、上下所歸。有功勞而能謙、尤人所難。故有終而吉。占者如是、則如其應矣。
【読み】
○九三は、勞謙す。君子終わり有りて吉なり。卦の唯一陽にて、下の上に居り、剛にして正を得、上下歸す所なり。功勞有りて能く謙り、尤も人の難くする所なり。故に終わり有りて吉なり。占者是の如くなれば、則ち其の應の如し。
○六四、无不利。撝謙。撝、呼回反。與揮同。○柔而得正、上而能下。其占无不利矣。然居九三之上。故戒以更當發揮其謙、以示不敢自安之意也。
【読み】
○六四は、利ろしからざること无し。謙を撝[ふる]う。撝は、呼回の反。揮と同じ。○柔にして正を得、上にして能く下る。其の占は利ろしからざること无し。然れども九三の上に居る。故に戒むるに、更に當に其の謙を發揮し、以て敢えて自ら安んぜざるの意を示すべきを以てす。
○六五、不富以其鄰。利用侵伐。无不利。以柔居尊、在上而能謙者也。故爲不富而能以其鄰之象。蓋從之者衆矣。猶有未服者、則利以征之、而於他事亦无不利。人有是德、則如其占也。
【読み】
○六五は、富めりとせずして其の鄰を以[ひき]いる。侵伐するに用うるに利ろし。利ろしからざること无し。柔を以て尊きに居り、上に在りて能く謙る者なり。故に富めりとせずして能く其の鄰を以いるの象と爲す。蓋し之に從う者衆からん。猶未だ服せざる者有れば、則ち以て之を征するに利ろしく、而して他事に於ても亦利ろしからざること无し。人是の德有れば、則ち其の占の如し。
○上六、鳴謙。利用行師、征邑國。謙極有聞、人之所與。故可用行師。然以其質柔而无位、故可以征己之邑國而已。
【読み】
○上六は、謙を鳴す。師[いくさ]を行[や]り、邑國を征するに用うるに利ろし。謙の極みにて聞かる有り、人の與する所なり。故に師を行るに用ゆ可し。然れども其の質柔にして位无きを以て、故に以て己の邑國を征す可きのみ。
坤下震上 豫
豫、利建侯行師。豫、和樂也。人心和樂以應其上也。九四一陽、上下應之。其志得行。又以坤遇震、爲順以動。故其卦爲豫。而其占利以立君用師也。
【読み】
豫は、侯[きみ]を建て師[いくさ]を行[や]るに利ろし。豫とは、和樂なり。人心和樂して以て其の上に應ずるなり。九四一陽、上下之に應ず。其の志は行くを得。又坤を以て、震に遇い、順以て動くと爲す。故に其の卦を豫と爲す。而して其の占は以て君を立て師を用うるに利ろし。
○初六、鳴豫。凶。陰柔小人、上有強援、得時主事。故不勝其豫而以自鳴。凶之道也。故其占如此。卦之得名、本爲和樂。然卦辭爲衆樂之義、爻辭除九四與卦同外、皆爲自樂。所以有吉凶之異。
【読み】
○初六は、豫を鳴す。凶なり。陰柔なる小人、上に強援有り、時を得て事を主る。故に其の豫びに勝えずして以て自ら鳴く。凶の道なり。故に其の占此の如し。卦の名を得る、本和樂と爲す。然して卦辭は衆樂しむの義と爲し、爻辭は九四の卦と同じきを除く外、皆自ら樂しむと爲す。吉凶の異なり有る所以なり。
○六二、介于石。不終日。貞吉。豫雖主樂、然易以溺人。溺則反而憂矣。卦獨此爻中而得正、是上下皆溺於豫、而獨能以中正自守、其介如石也。其德安靜而堅確。故其思慮明審、不俟終日而見凡事之幾微也。大學曰、安而后能慮、慮而后能得。意正如此。占者如是、則正而吉矣。
【読み】
○六二は、石に介す。日を終えず。貞にして吉なり。豫は樂しむを主とすと雖も、然れども以て人を溺らすこと易し。溺るれば則ち反りて憂う。卦は獨り此の爻のみ中にして正を得、是れ上下皆豫に溺れて、獨り能く中正を以て自ら守り、其の介きこと石の如し。其の德安靜にして堅確。故に其の思慮明審にて、日を終えるを俟たずして凡事の幾微を見る。大學に曰く、安んじて后に能く慮り、慮りて后に能く得、と。意は正に此の如し。占者是の如くなれば、則ち正しくして吉なり。
○六三、盱豫。悔。遲有悔。盱、況于反。○盱、上視也。陰不中正而近於四。四爲卦主。故六三上視於四而下溺於豫、宜有悔者也。故其象如此、而其占爲事當速悔、若悔之遲、則必有悔也。
【読み】
○六三は、盱豫[くよ]す。悔ゆ。遲ければ悔い有り。盱は、況于の反。○盱とは、上視なり。陰にて不中正にして四に近し。四を卦の主と爲す。故に六三は上は四に視られて下は豫に溺れ、宜しく悔有るべき者なり。故に其の象此の如くして、其の占は事當に速やかに悔ゆべく、若し之を悔ゆること遲ければ、則ち必ず悔い有りと爲す。
○九四、由豫。大有得。勿疑。朋盍簪。簪、側林反。○九四、卦之所由以爲豫者也。故其象如此、而其占爲大有得。然又當至誠不疑、則朋類合而從之矣。故又因而戒之。簪、聚也。又速也。
【読み】
○九四は、由豫す。大いに得ること有り。疑うこと勿かれ。朋の盍[あい]簪[あつ]まらん。簪は、側林の反。○九四は、卦の由りて以て豫を爲す所の者なり。故に其の象此の如くして、其の占は大いに得ること有りと爲す。然れども又當に至誠にて疑わざるべくして、則ち朋類合いて之に從うなり。故に又因りて之を戒む。簪とは、聚まるなり。又速やかなり。
○六五、貞疾。恆不死。當豫之時、以柔居尊、沈溺於豫。又乘九四之剛、衆不附而處勢危。故爲貞疾之象。然以其得中、故又爲恆不死之象。卽象而觀、占在其中矣。
【読み】
○六五は、貞疾あり。恆に死せず。豫の時に當たり、柔を以て尊きに居り、豫に沈溺す。又九四の剛に乘り、衆附かずして處勢危うし。故に貞疾ありの象と爲す。然れども其の中を得るを以て、故に又恆に死せずの象と爲す。象に卽いて觀れば、占は其の中に在り。
○上六、冥豫。成有渝、无咎。渝、以朱反。○以陰柔居豫極、爲昏冥於豫之象。以其動體、故又爲其事雖成而能有渝之象。戒占者如是、則能補過而无咎。所以廣遷善之門也。
【読み】
○上六は、豫に冥む。成れるも渝[か]うること有れば、咎无し。渝は、以朱の反。○陰柔を以て豫の極みに居り、豫しみに昏冥するの象と爲す。其の動の體を以て、故に又其の事成ると雖も能く渝うること有りの象と爲す。占者を戒むるに、是の如くすれば、則ち能く過を補いて咎无し、と。善に遷るの門を廣むる所以なり。
震下兌上 隨
隨、元亨。利貞。无咎。隨、從也。以卦變言之、本自困卦九來居初、又自噬嗑九來居五。而自未濟來者兼此二變、皆剛來隨柔之義。以二體言之、爲此動而彼說、亦隨之義。故爲隨。己能隨物、物來隨己、彼此相從、其通易矣。故其占爲元亨。然必利於貞、乃得无咎。若所隨不貞、則雖大亨而不免於有咎矣。春秋傳、穆姜曰、有是四德、隨而无咎。我皆无之、豈隨也哉。今按四德雖非本義、然其下云云、深得占法之意。
【読み】
隨は、元いに亨る。貞しきに利ろし。咎无し。隨は、從うなり。卦變を以て之を言えば、本困の卦より九來りて初に居り、又噬嗑より九來りて五に居る。而して未濟より來る者此の二變を兼ね、皆剛來りて柔に隨うの義なり。二體を以て之を言えば、此れ動きて彼說ぶと爲し、亦隨の義なり。故に隨と爲す。己能く物に隨えば、物來りて己に隨い、彼此相從い、其の通ずること易し。故に其の占は元いに亨ると爲す。然れども必ず貞しきに利ろしくして、乃ち咎无きを得。若し隨う所不貞なれば、則ち大いに亨ると雖も咎有るを免れず。春秋傳に、穆姜曰く、是の四德有りて、隨いて咎无し。我皆之れ无ければ、豈隨わんや、と。今按ずるに四德は本義に非ずと雖も、然れども其の下云云は、深く占法の意を得。
○初九、官有渝。貞吉。出門交有功。卦以物隨爲義、爻以隨物爲義。初九以陽居下、爲震之主。卦之所以爲隨者也。旣有所隨、則有所偏主而變其常矣。惟得其正則吉。又當出門以交、不私其隨、則有功也。故其象占如此、亦因以戒之。
【読み】
○初九は、官渝[か]わること有り。貞しければ吉なり。門を出でて交われば功有り。卦は物を以て隨うを義と爲し、爻は物に隨うを以て義と爲す。初九は陽を以て下に居り、震の主を爲す。卦の隨と爲す所以の者なり。旣に隨う所有れば、則ち偏主する所有りて其の常を變ず。惟其の正しきを得れば則ち吉なり。又當に門を出で以て交わるに、其の隨うを私せざるべければ、則ち功有り。故に其の象占此の如く、亦因りて以て之を戒む。
○六二、係小子、失丈夫。初陽在下而近、五陽正應而遠。二陰柔不能自守以須正應。故其象如此、凶吝可知。不假言矣。
【読み】
○六二は、小子に係りて、丈夫を失う。初陽は下に在りて近く、五陽は正應にして遠し。二は陰柔にて自ら守り以て正應を須つこと能わず。故に其の象此の如くして、凶吝なること知る可し。言を假りず。
○六三、係丈夫、失小子。隨有求得。利居貞。丈夫、謂九四。小子、亦謂初也。三近係四而失於初、其象與六二正相反。四陽當任而己隨之、有求必得。然非正應。故有不正而爲邪媚之嫌。故其占如此、而又戒以居貞也。
【読み】
○六三は、丈夫に係りて、小子を失う。隨いて求むること有れば得。貞に居るに利ろし。丈夫とは、九四を謂う。小子とは、亦初を謂うなり。三は近く四に係わりて初を失い、其の象は六二と正に相反す。四陽は任に當たりて己之に隨えば、求めて必ず得る有り。然れども正應に非ず。故に不正にして邪媚を爲すの嫌有り。故に其の占此の如くして、又戒むるに、貞に居るを以てす。
○九四、隨有獲。貞凶。有孚在道、以明、何咎。九四、以剛居上之下、與五同德。故其占隨而有獲。然勢陵於五。故雖正而凶。惟有孚在道而明、則上安而下從之、可以无咎也。占者當時之任、宜審此戒。
【読み】
○九四は、隨いて獲ること有り。貞しけれども凶なり。孚有り道に在りて、以て明らかなれば、何の咎かあらん。九四は、剛を以て上の下に居り、五と德を同じくす。故に其の占は隨いて獲ること有り。然れども勢いは五を陵ぐ。故に正しきと雖も凶なり。惟孚有り道在りて明なれば、則ち上安んじて下之に從い、以て咎无かる可し。占者時の任に當たれば、宜しく此の戒めを審らかにすべし。
○九五、孚于嘉。吉。陽剛中正、下應中正。是信于善也。占者如是、其吉宜矣。
【読み】
○九五は、嘉に孚なり。吉なり。陽剛にて中正、下は中正に應ず。是れ善に信あるなり。占者是の如くなれば、其の吉なること宜なり。
○上六、拘係之。乃從維之。王用亨于西山。居隨之極、隨之固結而不可解者也。誠意之極、可通神明。故其占爲王用亨于西山。亨、亦當作祭享之享。自周而言、岐山在西。凡筮祭山川者得之、其誠意如是、則吉也。
【読み】
○上六は、之を拘係す。乃ち從いて之を維[つな]ぐ。王用[もっ]て西山に亨す。隨の極みに居り、隨いて固く結び解く可からざる者なり。誠意の極み、神明に通ず可し。故に其の占は王用て西山に亨すと爲す。亨とは、亦當に祭享の享と作すべし。周よりして言えば、岐山は西に在り。凡そ山川を祭るを筮する者之を得れば、其の誠意是の如くなれば、則ち吉なり。
巽下艮上 蠱
蠱、元亨。利渉大川。先甲三日、後甲三日。先、息薦反。後、胡豆反。○蠱、壞極而有事也。其卦艮剛居上、巽柔居下。上下不交、下卑巽而上苟止。故其卦爲蠱。或曰、剛上柔下、謂卦變自賁來者、初上二下、自井來者、五上上下、自旣濟來者、兼之、亦剛上而柔下、皆所以爲蠱也。蠱壞之極、亂當復治。故其占爲元亨而利渉大川。甲、日之始、事之端也。先甲三日、辛也。後甲三日、丁也。前事過中而將壞、則可自新以爲後事之端、而不使至於大壞。後事方始而尙新、然更當致其丁寧之意、以監其前事之失、而不使至於速壞。聖人之戒深也。
【読み】
蠱は、元いに亨る。大川を渉るに利ろし。甲に先だつこと三日、甲に後るること三日。先は、息薦の反。後は、胡豆の反。○蠱とは、壞極まりて事有るなり。其の卦は艮剛上に居り、巽柔下に居る。上下交わらず、下は卑しく巽いて上は苟も止まる。故に其の卦を蠱と爲す。或は曰く、剛上り柔下るは、卦變を謂えば賁より來る者、初上り二下る、井より來る者は、五上り上下る、旣濟より來る者は、之を兼ね、亦剛上りて柔下り、皆蠱を爲す所以なり、と。蠱壞極むれば、亂れて當に復治まるべし。故に其の占は元いに亨りて大川を渉るに利ろしと爲す。甲とは、日の始め、事の端なり。甲に先だつこと三日とは、辛なり。甲に後るること三日とは、丁なり。前の事中を過ぎて將に壞れんとすれば、則ち自ら新たにして以て後の事の端と爲して、大壞に至らしめざる可し。後の事方に始めんとして尙新たなれども、然れども更に當に其の丁寧の意を致して、以て其の前の事の失を監みて、速壞に至らしめざるべし。聖人の戒め深し。
○初六、幹父之蠱。有子、考无咎。厲終吉。幹、如木之幹。枝葉之所附而立者也。蠱者、前人已壞之緒。故諸爻皆有父母之象。子能幹之、則飭治而振起矣。初六蠱未深而事易濟。故其占爲有子、則能治蠱而考得无咎。然亦危矣。戒占者宜如是。又知危而能戒、則終吉也。
【読み】
○初六は、父の蠱[やぶれ]を幹[ただ]す。子有れば、考[なきちち]も咎无し。厲[あや]うけれども終には吉なり。幹とは、木の幹の如し。枝葉の附いて立つ所の者なり。蠱は、前人已に壞るの緒。故に諸爻は皆父母の象有り。子能く之を幹せば、則ち飭
[ただ]し治めて振い起こすなり。初六の蠱は未だ深からずして事濟すこと易し。故に其の占は子有れば、則ち能く蠱を治めて考も咎无きを得と爲す。然れども亦危うし。占者を戒むるに、宜しく是の如くすべし、と。又危うきを知りて能く戒むれば、則ち終には吉なり。
○九二、幹母之蠱。不可貞。九二剛中、上應六五、子幹母蠱而得中之象。以剛承柔而治其壞。故又戒以不可堅貞。言當巽以入之也。
【読み】
○九二は、母の蠱を幹す。貞にす可からず。九二は剛中、上は六五に應じ、子、母の蠱を幹して中を得るの象なり。剛を以て柔を承けて其の壞れを治むる。故に又を戒むるに、堅貞にす可からずを以てす。當に巽以て之に入るべしと言うなり。
○九三、幹父之蠱。小有悔、无大咎。過剛不中。故小有悔。巽體得正。故无大咎。
【読み】
○九三は、父の蠱を幹す。小しく悔有れども、大いなる咎无し。過剛不中。故に小しく悔有り。巽の體にて正を得。故に大いなる咎无し。
○六四、裕父之蠱。往見吝。以陰居陰、不能有爲、寬裕以治蠱之象也。如是、則蠱將日深。故往則見吝。戒占者不可如是也。
【読み】
○六四は、父の蠱を裕[ゆる]やかにす。往けば吝を見る。陰を以て陰に居り、爲すこと有ること能わず、寬裕以て蠱を治むるの象なり。是の如くなれば、則ち蠱將に日に深くならんとす。故に往けば則ち吝を見る。占者を戒むるに、是の如くす可からず、と。
○六五、幹父之蠱。用譽。柔中居尊、而九二承之以德。以此幹蠱、可致聞譽。故其象占如此。
【読み】
○六五は、父の蠱を幹す。用[もっ]て譽れあり。柔中にて尊きに居り、而して九二之を承くるに德を以てす。此を以て蠱を幹し、聞譽を致す可し。故に其の象占此の如し。
○上九、不事王侯。高尙其事。剛陽居上、在事之外。故爲此象。而占與戒、皆在其中矣。
【読み】
○上九は、王侯に事えず。其の事を高尙にす。剛陽にて上に居り、事の外に在る。故に此の象と爲す。而して占と戒めとは、皆其の中に在るなり。
兌下坤上 臨
臨、元亨。利貞。至于八月有凶。臨、進而淩逼於物也。二陽浸長以逼於陰。故爲臨。十二月之卦也。又其爲卦下兌說、上坤順。九二以剛居中、上應六五。故占者大亨而利於正。然至于八月當有凶也。八月、謂自復卦一陽之月、至于遯卦二陰之月、陰長陽遯之時也。或曰、八月、謂夏正八月、於卦爲觀。亦臨之反對也。又因占而戒之。
【読み】
臨は、元いに亨る。貞しきに利ろし。八月に至りて凶有り。臨とは、進みて物を淩ぎ逼るなり。二陽浸く長じ以て陰に逼る。故に臨と爲す。十二月の卦なり。又其の卦爲るや下は兌說、上は坤順。九二は剛を以て中に居り、上は六五に應ず。故に占者大いに亨りて正しきに利ろし。然れども八月に至りて當に凶有るべし。八月は、復の卦の一陽の月より、遯の卦の二陰の月に至るを謂い、陰長じて陽遯く時なり。或は曰く、八月とは、夏正の八月を謂い、卦に於ては觀と爲す。亦臨の反對なり。又占に因りて之を戒む。
○初九、咸臨。貞吉。卦唯二陽、徧臨四陰。故二爻皆有咸臨之象。初九剛而得正。故其占爲貞吉。
【読み】
○初九は、咸[みな]臨む。貞しくして吉なり。卦は唯二陽のみにて、徧く四陰に臨む。故に二爻は皆咸く臨むの象有り。初九は剛にして正を得。故に其の占は貞しくして吉と爲す。
○九二、咸臨。吉无不利。剛得中而勢上進。故其占吉而无不利也。
【読み】
○九二は、咸臨む。吉にして利ろしからざること无し。剛にて中を得て勢い上り進む。故に其の占は吉にして利ろしからざること无きなり。
○六三、甘臨。无攸利。旣憂之、无咎。陰柔不中正、而居下之上、爲以甘說臨人之象。其占固无所利。然能憂而改之、則无咎也。勉人遷善、爲敎深矣。
【読み】
○六三は、甘んじて臨む。利ろしき攸无し。旣に之を憂えば、咎无し。陰柔にて不中正、而して下の上に居り、甘說を以て人に臨むの象と爲す。其の占は固より利ろしき所无し。然れども能く憂えて之を改むれば、則ち咎无し。人を勉めて善に遷らす、敎を爲すこと深し。
○六四、至臨。无咎。處得其位、下應初九、相臨之至。宜无咎者也。
【読み】
○六四は、至りて臨む。咎无し。處るに其の位を得、下は初九に應じ、相臨むの至りなり。宜しく咎无かるべき者なり。
○六五、知臨。大君之宜。吉。知、音智。○以柔居中、下應九二。不自用而任人、乃知之事、而大君之宜、吉之道也。
【読み】
○六五は、知にして臨む。大君の宜しきなり。吉なり。知は、音智。○柔を以て中に居り、下は九二に應ず。自ら用いずして人に任ずるは、乃ち知の事にして、大君の宜しきなり、吉の道なり。
○上六、敦臨。吉无咎。居卦之上、處臨之終、敦厚於臨。吉而无咎之道也。故其象占如此。
【読み】
○上六は、臨むに敦し。吉にして咎无し。卦の上に居り、臨の終わりに處り、臨むに敦厚なり。吉にして咎无きの道なり。故に其の象占此の如し。
坤下巽上 觀
觀、盥而不薦。有孚顒若。觀、官奐反。下大觀、以觀之觀、大象觀字、並同。○觀者、有以中正示人而爲人所仰也。九五居上、四陰仰之。又内順外巽、而九五以中正示天下。所以爲觀。盥、將祭而潔手也。薦、奉酒食以祭也。顒然、尊敬之貌。言致其潔淸而不輕自用、則其孚信在中、而顒然可仰。戒占者當如是也。或曰、有孚顒然、謂在下之人、信而仰之也。此卦四陰長而二陽消、正爲八月之卦。而名卦繫辭、更取他義。亦扶陽抑陰之意。
【読み】
觀は、盥[てあら]いて薦めず。孚有りて顒若[ぎょうじゃく]たり。觀は、官奐の反。下の大觀、以觀の觀、大象の觀の字は、並同じ。○觀は、中正を以て人に示すこと有りて人の仰ぐ所と爲すなり。九五は上に居り、四陰之を仰ぐ。又内は順い外も巽いて、九五は中正を以て天下に示す。觀と爲す所以なり。盥とは、將に祭らんとして手を潔むるなり。薦とは、酒食を奉り以て祭るなり。顒然とは、尊敬するの貌。言うこころは、其の潔淸を致して輕々しく自ら用いざれば、則ち其の孚信中に在りて、顒然として仰ぐ可し、と。占者を戒むるに、當に是の如くすべし、と。或は曰く、孚有りて顒然たりとは、下に在る人、信じて之を仰ぐと謂う。此の卦は四陰長じて二陽消し、正に八月の卦と爲す。而れども卦を名づけ辭を繫けるは、更に他の義を取る。亦陽を扶け陰を抑えるの意なり。
*中正・・・山崎嘉点は「中正」、他の本には無い。
○初六、童觀。小人无咎。君子吝。卦以觀示爲義。據九五爲主也。爻以觀瞻爲義。皆觀乎九五也。初六陰柔在下、不能遠見。童觀之象。小人之道、君子之羞也。故其占在小人則无咎。君子得之、則可羞矣。
【読み】
○初六は、童觀す。小人は咎无し。君子は吝なり。卦は觀は示すを以て義と爲す。九五に據りて主と爲るなり。爻は觀は瞻るを以て義と爲す。皆九五を觀ればなり。初六は陰柔にて下に在り、遠く見ること能わず。童觀の象なり。小人の道にて、君子は羞ずるなり。故に其の占は小人に在りては則ち咎无し。君子之を得れば、則ち羞ず可し、と。
○六二、闚觀。利女貞。陰柔居内而觀乎外。闚觀之象。女子之正也。故其占如此。丈夫得之、則非所利矣。
【読み】
○六二は、闚い觀る。女の貞に利ろし。陰柔にて内に居りて外を觀る。闚い觀るの象なり。女子の正しきなり。故に其の占此の如し。丈夫之を得れば、則ち利ろしき所に非ざるなり。
○六三、觀我生進退。我生、我之所行也。六三居下之上、可進可退。故不觀九五、而獨觀己所行之通塞以爲進退。占者宜自審也。
【読み】
○六三は、我が生を觀て進退す。我が生とは、我の行う所なり。六三は下の上に居り、進む可く退く可し。故に九五を觀ず、而して獨り己の行う所の通塞を觀て以て進退を爲す。占者宜しく自ら審らかにすべし。
○六四、觀國之光。利用賓于王。六四最近於五。故有此象。其占爲利於朝覲仕進也。
【読み】
○六四は、國の光を觀る。王に賓たるに用いて利ろし。六四は五に最も近し。故に此の象有り。其の占は朝覲仕進に利ろしと爲すなり。
○九五、觀我生。君子无咎。九五陽剛中正以居尊位、其下四陰仰而觀之。君子之象也。故戒居此位、得此占者、當觀己所行。必其陽剛中正亦如是焉、則得无咎也。
【読み】
○九五は、我が生を觀る。君子なれば咎无し。九五は陽剛中正以て尊位に居り、其の下四陰仰いで之を觀る。君子の象なり。故に戒むるに、此の位に居り、此の占を得る者は、當に己の行う所を觀るべし、と。必ず其の陽剛中正なること亦是の如くなれば、則ち咎无きを得るなり。
○上九、觀其生。君子无咎。上九陽剛居尊位之上、雖不當事任、而亦爲下所觀。故其戒辭略與五同。但以我爲其、小有主賓之異耳。
【読み】
○上九は、其の生を觀る。君子なれば咎无し。上九は陽剛にて尊位の上に居り、事任ずるに當らずと雖も、而して亦下の觀る所と爲す。故に其の戒めの辭は略五と同じ。但我を以て其と爲し、小しく主賓の異なり有るのみ。
震下離上 噬嗑
噬嗑、亨。利用獄。噬、市利反。嗑、胡臘反。○噬、齧也。嗑、合也。物有閒者、齧而合之也。爲卦上下兩陽而中虛、頤口之象。九四一陽閒於其中、必齧之而後合。故爲噬嗑。其占當得亨通者。有閒故不通。齧之而合、則亨通矣。又三陰三陽、剛柔中半、下動上明、下雷上電。本自益卦六四之柔、上行以至於五而得其中。是知以陰居陽、雖不當位、而利用獄。蓋治獄之道、唯威與明而得其中之爲貴。故筮得之者、有其德則應其占也。
【読み】
噬嗑[ぜいこう]は、亨る。獄を用うるに利ろし。噬は、市利の反。嗑は、胡臘の反。○噬とは、齧むなり。嗑とは、合うなり。物に閒有るは、齧みて之を合わすなり。卦爲るや上下兩陽にして中は虛、頤口の象なり。九四の一陽は其の中に閒し、必ず之を齧みて後に合う。故に噬嗑と爲す。其の占は當に亨通するを得べき者なり。閒有る故に通ぜず。之を齧みて合えば、則ち亨通するなり。又三陰三陽にて、剛柔中半し、下は動き上は明らか、下は雷にて上は電なり。本益の卦より六四の柔、上り行き以て五に至りて其の中を得。是れ知陰を以て陽に居り、位に當たらずと雖も、而して獄を用うるに利ろし。蓋し獄を治むるの道は、唯威と明とのみにして其の中を得るの貴きと爲す。故に筮して之を得る者は、其の德有れば則ち其の占に應ずるなり。
○初九、屨校滅趾。无咎。校、音敎。○初上无位爲受刑之象、中四爻爲用刑之象。初在卦始、罪薄過小、又在卦下。故爲屨校滅趾之象。止惡於初。故得无咎。占者小傷而无咎也。
【読み】
○初九は、校[あしかせ]を屨いて趾[あし]を滅[やぶ]る。咎无し。校は、音敎。○初と上は位无く刑を受くるの象と爲し、中の四爻は刑を用うるの象と爲す。初は卦の始めに在り、罪薄く過小さく、又卦の下に在る。故に校を屨いて趾を滅るの象と爲す。惡を初めに止むる。故に咎无きを得。占者小しく傷つけども咎无し。
○六二、噬膚滅鼻。无咎。祭有膚鼎、蓋肉之柔脆、噬而易嗑者。六二中正。故其所治如噬膚之易。然以柔乘剛。故雖甚易、亦不免於傷滅其鼻。占者雖傷而終无咎也。
【読み】
○六二は、膚を噬[か]みて鼻を滅る。咎无し。祭に膚鼎有り、蓋し肉の柔脆にて、噬みて嗑わせ易き者ならん。六二は中正。故に其の治むる所は膚を噬むの易きが如し。然れども柔を以て剛に乘る。故に甚だ易しと雖も、亦其の鼻を傷滅するを免れず。占者傷つくと雖も而して終に咎无きなり。
○六三、噬腊肉遇毒。小吝、无咎。腊、音昔。○腊肉、謂獸腊、全體骨而爲之者、堅韌之物也。陰柔不中正、治人而人不服、爲噬腊遇毒之象。占雖小吝、然時當噬嗑、於義爲无咎也。
【読み】
○六三は、腊肉[せきにく]を噬みて毒に遇う。小しく吝なれども、咎无し。腊は、音昔。○腊肉とは、獸の腊を謂い、體骨を全くして之を爲す者にて、堅韌の物なり。陰柔にて不中正、人を治めて人服さず、腊を噬みて毒に遇うの象と爲す。占は小しく吝と雖も、然れども時噬嗑に當たれば、義に於て咎无きと爲すなり。
○九四、噬乾胏、得金矢。利艱貞。吉。乾、音干。胏、緇美反。○胏、肉之帶骨者、與胾通。周禮、獄訟入鈞金束矢而後聽之。九四以剛居柔、得用刑之道。故有此象。言所噬愈堅、而得聽訟之宜也。然必利於艱難正固則吉。戒占者宜如是也。
【読み】
○九四は、乾胏[かんし]を噬み、金矢を得。艱[くる]しんで貞なるに利ろし。吉なり。乾は、音干。胏は、緇美の反。○胏とは、肉の骨を帶びる者にて、胾と通ず。周禮に、獄訟に鈞金束矢を入れて後に之を聽く、と。九四は剛を以て柔に居り、刑を用うるの道を得。故に此の象有り。言うこころは、噬む所愈々堅くして、訟を聽くの宜しきを得、と。然れども必ず艱難正固に利ろしくして則ち吉なり。占者を戒むるに、宜しく是の如くするべし、と。
○六五、噬乾肉、得黄金。貞厲、无咎。噬乾肉、難於膚而易於腊胏者也。黄、中色。金、亦謂鈞金。六五柔順而中、以居尊位、用刑於人、人无不服。故有此象。然必貞厲乃得无咎。亦戒占者之辭也。
【読み】
○六五は、乾肉を噬み、黄金を得。貞厲なれば、咎无し。乾肉を噬むとは、膚より難くして腊胏より易き者なり。黄は、中の色。金とは、亦鈞金を謂う。六五は柔順にして中、以て尊位に居り、刑を人に用い、人服せざる无し。故に此の象有り。然れども必ず貞厲にして乃ち咎无きを得。亦占者を戒むるの辭なり。
○上九、何校滅耳。凶。何、何可反。○何、負也。過極之陽、在卦之上、惡極罪大。凶之道也。故其象占如此。
【読み】
○上九は、校を何[にな]いて耳を滅る。凶なり。何は、何可の反。○何は、負うなり。過ぎ極まれる陽、卦の上に在り、惡極まり罪大なり。凶の道なり。故に其の象占此の如し。
離下艮上 賁
賁、亨。小利有攸往。賁、彼僞反。○賁、飾也。卦自損來者、柔自三來而文二、剛自二上而文三。自旣濟而來者、柔自上來而文五、剛自五上而文上。又内離而外艮、有文明而各得其分之象。故爲賁。占者以其柔來文剛、陽得陰助、而離明於内、故爲亨。以其剛上文柔、而艮止於外、故小利有攸往。
【読み】
賁[ひ]は、亨る。小しく往く攸有るに利ろし。賁は、彼僞の反。○賁とは、飾るなり。卦は損より來る者は、柔は三より來りて二を文
[かざ]り、剛は二より上りて三を文る。旣濟より來る者は、柔は上より來りて五を文り、剛は五より上りて上を文る。又内は離にして外は艮にて、文明にして各々其の分を得るの象有り。故に賁と爲す。占者其の柔來りて剛を文り、陽は陰の助けを得て、離は内に明なるを以て、故に亨ると爲す。其の剛上りて柔を文り、而して艮は外に止まるを以て、故に小しく往く攸有るに利ろし。
○初九、賁其趾。舍車而徒。舍、音捨。○剛德明體、自賁於下、爲舍非道之車、而安於徒歩之象。占者自處當如是也。
【読み】
初九は、其の趾[あし]を賁[かざ]る。車を舍てて徒[かち]す。舍は、音捨。○剛の德明の體にて、自ら下に賁り、道に非ざるの車を舍てて、徒歩に安んずるの象と爲す。占者自ら處ること當に是の如くすべし。
○六二、賁其須。二以陰柔居中正、三以陽剛而得正、皆无應與。故二附三而動。有賁須之象。占者宜從上之陽剛而動也。
【読み】
六二は、其の須[ひげ]を賁る。二は陰柔を以て中正に居り、三は陽剛を以て正を得、皆應與无し。故に二は三に附いて動く。須を賁るの象有り。占者宜しく上の陽剛に從いて動くべきなり。
○九三、賁如濡如。永貞吉。一陽居二陰之閒、得其賁而潤澤者也。然不可溺於所安。故有永貞之戒。
【読み】
九三は、賁如たり濡如たり。永貞なれば吉なり。一陽、二陰の閒に居り、其の賁りを得て潤澤なる者なり。然れども安んずる所に溺るる可からず。故に永貞の戒め有り。
○六四、賁如皤如。白馬翰如。匪寇。婚媾。皤、白波反。○皤、白也。馬、人所乘。人白則馬亦白矣。四與初相賁者、乃爲九三所隔而不得遂。故皤如、而其往求之心、如飛翰之疾也。然九三剛正、非爲寇者也、乃求婚媾耳。故其象如此。
【読み】
六四は、賁如たり皤如[はじょ]たり。白馬翰如たり。寇するに匪ず。婚媾せんとす。皤は、白波の反。○皤とは、白なり。馬とは、人の乘る所なり。人白ければ則ち馬も亦白し。四と初とは相賁る者なれども、乃ち九三の隔てる所と爲りて遂げることを得ず。故に皤如にて、其の往きて求むるの心は、飛翰の疾きが如し。然れども九三は剛正にて、寇を爲す者に非ず、乃ち婚媾せんと求むるのみ。故に其の象此の如し。
○六五、賁于邱園。束帛戔戔。吝終吉。戔、在千反。亦音牋。○六五柔中、爲賁之主。敦本尙實、得賁之道。故有邱園之象。然陰性吝嗇。故有束帛戔戔之象。束帛、薄物。戔戔、淺小之意。人而如此、雖可羞吝、然禮奢寧儉。故得終吉。
【読み】
六五は、邱園を賁る。束帛戔戔[せんせん]たり。吝なれども終には吉なり。戔は、在千の反。亦音牋。○六五は柔中にて、賁の主を爲す。本を敦くし實を尙べは、賁の道を得るなり。故に邱園の象有り。然れども陰の性は吝嗇。故に束帛戔戔たりの象有り。束帛とは、薄き物なり。戔戔とは、淺小の意なり。人にして此の如くなれば、羞吝す可しと雖も、然れども禮は奢らんよりも寧ろ儉ならん。故に終に吉を得。
○上九、白賁。无咎。賁極反本、復於无色。善補過矣。故其象占如此。
【読み】
上九は、賁りを白くす。咎无し。賁極まりて本に反り、色无きに復る。善く過を補う。故に其の象占此の如し。
坤下艮上 剥
剥、不利有攸往。剥、落也。五陰在下而方生、一陽在上而將盡。陰盛長而陽消落。九月之卦也。陰盛陽衰、小人壯而君子病。又内坤而外艮、有順時而止之象。故占得之者、不可有所往也。
【読み】
剥[はく]は、往く攸有るに利ろしからず。剥は、落ちるなり。五陰は下に在りて方に生じ、一陽は上に在りて將に盡きんとす。陰は盛長して陽は消落す。九月の卦なり。陰盛んにて陽衰うれば、小人壯んにして君子病む。又内は坤にして外は艮、時に順いて止まるの象有り。故に占に之を得る者は、往く所有る可からざるなり。
○初六、剥牀以足。蔑貞凶。剥自下起。滅正則凶。故其占如此。蔑、滅也。
【読み】
○初六は、牀を剥するに足を以てす。貞を蔑[ほろ]ぼせば凶なり。剥は下より起こる。正を滅ぼさんとすれば則ち凶なり。故に其の占此の如し。蔑とは、滅ぼすなり。
○六二、剥牀以辨。蔑貞凶。辨、音辨。○辨、牀幹也。進而上矣。
【読み】
○六二は、牀を剥するに辨を以てす。貞を蔑ぼせば凶なり。辨は、音辨。○辨とは、牀の幹なり。進みて上るなり。
○六三、剥之。无咎。衆陰方剥陽而己獨應之。去其黨而從正。无咎之道也。占者如是、則得无咎。
【読み】
○六三は、之を剥す。咎无し。衆陰方に陽を剥せんとして己獨り之に應ず。其の黨を去りて正に從う。咎无きの道なり。占者是の如くすれば、則ち咎无きを得。
○六四、剥牀以膚。凶。陰禍切身。故不復言蔑貞、而直言凶也。
【読み】
○六四は、牀を剥するに膚を以てす。凶なり。陰の禍身に切なり。故に復貞を蔑ぼすと言わずして、直に凶と言うなり。
○六五、貫魚。以宮人寵。无不利。魚、陰物。宮人、陰之美而受制於陽者也。五爲衆陰之長、當率其類、受制於陽。故有此象。而占者如是、則无不利也。
【読み】
○六五は、魚を貫く。宮人を以て寵せらる。利ろしからざること无し。魚は、陰物なり。宮人とは、陰の美にして制を陽に受く者なり。五は衆陰の長を爲し、當に其の類を率いて、制を陽に受くべし。故に此の象有り。而して占者是の如くなれば、則ち利ろしからざること无し。
○上九、碩果不食。君子得輿、小人剥廬。一陽在上、剥未盡而能復生。君子在上、則爲衆陰所載。小人居之、則剥極於上、自失所覆、而无復碩果得輿之象矣。取象旣明、而君子小人其占不同。聖人之情益可見矣。
【読み】
○上九は、碩[おお]いなる果食らわれず。君子は輿を得、小人は廬を剥す。一陽上に在り、剥未だ盡きずして能く復生ず。君子上に在れば、則ち衆陰の載す所と爲す。小人之に居れば、則ち剥上に極まり、自ら覆う所を失いて、復碩いなる果と輿を得るの象无し。象を取ること旣に明らかなれども、而して君子と小人とは其の占同じからず。聖人の情益々見る可し。
震下坤上 復
復、亨。出入无疾、朋來无咎。反復其道。七日來復。利有攸往。反復之復、方福反。又作覆。彖同。○復、陽復生於下也。剥盡則爲純坤十月之卦、而陽氣已生於下矣。積之踰月、然後一陽之體始成而來復。故十有一月、其卦爲復。以其陽旣往而復反、故有亨道。又内震外坤、有陽動於下而以順上行之象。故其占又爲己之出入、旣得无疾、朋類之來、亦得无咎。又自五月姤卦一陰始生、至此七爻、而一陽來復。乃天運之自然。故其占又爲反復其道、至於七日、當得來復。又以剛德方長、故其占又爲利有攸往也。反復其道、往而復來、來而復往之意。七日者、所占來復之期也。
【読み】
復は、亨る。出入疾无く、朋來りて咎无し。其の道に反復す。七日にして來復す。往く攸有るに利ろし。反復の復は、方福の反。又覆に作る。彖も同じ。○復とは、陽復下に生ずるなり。剥盡けば則ち純坤十月の卦と爲りて、陽氣已に下に生ず。之を積むこと月を踰え、然して後に一陽の體始めて成りて來復す。故に十有一月、其の卦を復と爲す。其の陽旣に往きて復反るを以て、故に亨る道有り。又内は震にて外は坤、陽は下に動きて順を以て上り行くの象有り。故に其の占も又己の出入は、旣に疾无きを得、朋類來りても、亦咎无きを得ると爲す。又五月の姤の卦の一陰始めて生ずるより、此に至る七爻にして、一陽來復す。乃ち天運の自然なり。故に其の占も又其の道に反復し、七日に至り、當に來復するを得べしと爲す。又剛の德方に長ぜんとするを以て、故に其の占も又往く攸有るに利ろしと爲す。其の道に反復すとは、往きて復來り、來りて復往くの意。七日は、占う所の來復するの期なり。
○初九、不遠復。无祇悔。元吉。祇、音其。○一陽復生於下。復之主也。祇、抵也。又居事初、失之未遠、能復於善、不抵於悔、大善而吉之道也。故其象占如此。
【読み】
○初九は、遠からずして復る。悔に祇[いた]ること无し。元いに吉なり。祇は、音其。○一陽復下に生ず。復の主なり。祇とは、抵るなり。又事の初めに居り、之を失うこと未だ遠からず、能く善に復り、悔に抵らず、大善にして吉の道なり。故に其の象占此の如し。
○六二、休復。吉。柔順中正、近於初九而能下之。復之休美、吉之道也。
【読み】
○六二は、休[よ]く復る。吉なり。柔順にて中正、初九に近くして能く之に下る。復の休美にて、吉の道なり。
○六三、頻復。厲无咎。以陰居陽、不中不正。又處動極、復而不固、屢失屢復之象。屢失故危、復則无咎。故其占又如此。
【読み】
○六三は、頻りに復る。厲[あや]うけれども咎无し。陰を以て陽に居り、不中不正。又動の極みに處り、復りて固からず、屢々失い屢々復るの象なり。屢々失う故に危うけれども、復れば則ち咎无し。故に其の占も又此の如し。
○六四、中行獨復。四處羣陰之中、而獨與初應、爲與衆倶行、而獨能從善之象。當此之時、陽氣甚微、未足以有爲。故不言吉。然理所當然、吉凶非所論也。董子曰、仁人者、正其誼、不謀其利、明其道、不計其功。於剥之六三及此爻見之。
【読み】
○六四は、中行にして獨り復る。四は羣陰の中に處りて、獨り初と應じ、衆と倶に行きて、獨り能く善に從うの象と爲す。此の時に當たり、陽氣甚だ微かにて、未だ以て爲すこと有るに足らず。故に吉と言わず。然して理の當に然るべき所は、吉凶論ずる所に非ざるなり。董子曰く、仁人は、其の誼を正して、其の利を謀らず、其の道を明らかにして、其の功を計らず、と。剥の六三及び此の爻に於て之を見る。
○六五、敦復。无悔。以中順居尊、而當復之時、敦復之象。无悔之道也。
【読み】
○六五は、復るに敦し。悔无し。中順を以て尊きに居りて、復の時に當たり、復るに敦しの象なり。悔无きの道なり。
○上六、迷復。凶。有災眚。用行師、終有大敗。以其國君、凶。至于十年不克征。眚、生領反。○以陰柔居復終。終迷不復之象、凶之道也。故其占如此。以、猶及也。
【読み】
○上六は、復るに迷う。凶なり。災眚[さいせい]有り。用[もっ]て師を行[や]れば、終に大敗有り。其の國君に以[およ]び、凶なり。十年に至るも征すること克わず。眚は、生領の反。○陰柔を以て復の終わりに居る。終に迷いて復らざるの象にて、凶の道なり。故に其の占此の如し。以とは、猶及ぶのごとし。
震下乾上 无妄
无妄、元亨。利貞。其匪正有眚、不利有攸往。无妄、實理自然之謂。史記作无望、謂无所期望而有得焉者。其義亦通。爲卦自訟而變、九自二來而居於初、又爲震主、動而不妄者也。故爲无妄。又二體震動而乾健、九五剛中而應六二。故其占大亨而利於正。若其不正、則有眚、而不利有所往也。
【読み】
无妄[むぼう]は、元いに亨る。貞しきに利ろし。其れ正しきに匪ざれば眚[わざわ]い有りて、往く攸有るに利ろしからず。无妄とは、實理自然の謂。史記は无望と作し、期望する所无くして得ること有る者を謂う。其の義も亦通ず。卦爲るや訟より變じて、九、二より來りて初に居り、又震の主を爲し、動きて妄ならざる者なり。故に无妄と爲す。又二體は震動きて乾健やか、九五は剛中にして六二に應ず。故に其の占は大いに亨りて正しきに利ろし。若し其れ正しからざれば、則ち眚い有りて、往く所有るに利ろしからず。
○初九、无妄。往吉。以剛在内、誠之主也。如是而往、其吉可知。故其象占如此。
【読み】
○初九は、无妄なり。往けば吉なり。剛を以て内に在り、誠の主なり。是の如くして往けば、其の吉なること知る可し。故に其の象占此の如し。
○六二、不耕穫、不菑畬、則利有攸往。菑、側其反。畬、音餘。○柔順中正、因時順理、而无私意期望之心。故有不耕穫不菑畬之象。言其无所爲於前、无所冀於後也。占者如是、則利有所往矣。
【読み】
○六二は、耕穫せず、菑畬[しよ]せざれば、則ち往く攸有るに利ろし。菑は、側其の反。畬は、音餘。○柔順にて中正、時に因りて理に順いて、私意期望の心无し。故に耕穫せず菑畬せずの象有り。其れ前に爲す所无く、後に冀う所无きを言うなり。占者是の如くなれば、則ち往く所有るに利ろし。
○六三、无妄之災。或繫之牛、行人之得、邑人之災。卦之六爻、皆无妄者也。六三處不得正。故遇其占者、无故而有災。如行人牽牛以去、而居者反遭詰捕之擾也。
【読み】
○六三は、无妄の災いあり。或は繫ぐ牛、行人得るは、邑人の災いなり。卦の六爻は、皆无妄なる者なり。六三は處るに正を得ず。故に其の占に遇う者は、故无くして災い有り。行人牛を牽いて以て去り、而して居る者反って詰捕の擾いに遭うが如し。
○九四、可貞。无咎。陽剛乾體、下无應與、可固守而无咎。不可以有爲之占也。
【読み】
○九四は、貞にす可し。咎无し。陽剛にて乾の體、下に應與无く、固く守りて咎无かる可し。以て爲すこと有る可からずの占なり。
○九五、无妄之疾。勿藥有喜。乾剛中正以居尊位、而下應亦中正、无妄之至也。如是而有疾、勿藥而自愈矣。故其象占如此。
【読み】
○九五は、无妄の疾あり。藥すること勿くして喜び有り。乾剛にて中正以て尊位に居り、而して下の應も亦中正にて、无妄の至りなり。是の如くして疾有れば、藥すること勿くして自ら愈ゆ。故に其の象占此の如し。
○上九、无妄。行有眚。无攸利。上九非有妄也。但以其窮極而不可行耳。故其象占如此。
【読み】
○上九は、无妄なり。行けば眚い有り。利ろしき攸无し。上九は妄有るに非ず。但其の窮極なるを以て行く可からざるのみ。故に其の象占此の如し。
乾下艮上 大畜
大畜、利貞。不家食吉。利渉大川。畜、勅六反。○大、陽也。以艮畜乾。又畜之大者也。又以内乾剛健、外艮篤實輝光、是以能日新其德、而爲畜之大也。以卦變言、此卦自需而來、九自五而上。以卦體言、六五尊而尙之。以卦德言、又能止健。皆非大正不能。故其占爲利貞、而不家食吉也。又六五下應於乾、爲應乎天。故其占又爲利渉大川也。不家食、謂食祿於朝、不食於家也。
【読み】
大畜は、貞しきに利ろし。家食せずして吉なり。大川を渉るに利ろし。畜は、勅六の反。○大とは、陽なり。艮を以て乾を畜むる。又畜むることの大いなる者なり。又内は乾の剛健、外は艮の篤實輝光なるを以て、是を以て能く日に其の德を新たにすれば、畜むることの大いなりと爲すなり。卦變を以て言えば、此の卦は需より來りて、九は五より上る。卦體を以て言えば、六五尊くして之を尙ぶ。卦德を以て言えば、又能く健を止むる。皆大いに正しきに非ざれば能わず。故に其の占は貞しきに利ろしく、而して家食せずして吉と爲す。又六五は下りて乾に應じ、天に應ずと爲す。故に其の占も又大川を渉るに利ろしと爲す。家食せずとは、祿を朝に食み、家に食まざるを謂うなり。
○初九、有厲。利已。已、夷止反。○乾之三陽、爲艮所止。故内外之卦、各取其義。初九爲六四所止。故其占往則有危、而利於止也。
【読み】
○初九は、厲[あや]うきこと有り。已むに利ろし。已は、夷止の反。○乾の三陽は、艮の止むる所と爲す。故に内外の卦、各々其の義を取る。初九は六四の止むる所と爲す。故に其の占は往けば則ち危うきこと有り、而して止むるに利ろし。
○九二、輿說輹。說、吐活反。輹、音服。又音福。○九二亦爲六五所畜。以其處中、故能自止而不進、有此象也。
【読み】
○九二は、輿[くるま]輹[とこしばり]を說[だっ]す。說は、吐活の反。輹は、音服。又音福。○九二も亦六五の畜むる所と爲す。其の中に處るを以て、故に能く自ら止まりて進まざれば、此の象有るなり。
○九三、良馬逐。利艱貞。曰閑輿衛、利有攸往。三以陽居健極、上以陽居畜極、極而通之時也。又皆陽爻。故不相畜而倶進、有良馬逐之象焉。然過剛銳進。故其占必戒以艱貞閑習、乃利於有往也。曰、當爲日月之日。
【読み】
○九三は、良馬逐う。艱[くる]しんで貞なるに利ろし。日々に輿衛を閑[なら]えば、往く攸有るに利ろし。三は陽を以て健の極みに居り、上は陽を以て畜の極みに居り、極まりて通ずるの時なり。又皆陽爻なり。故に相畜めずして倶に進めば、良馬逐うの象有り。然れども過剛にて進むに銳し。故に其の占は必ず戒むるに艱貞閑習を以てして、乃ち往くこと有るに利ろし、と。曰は、當に日月の日と爲すべし。
○六四、童牛之牿。元吉。牿、古毒反。○童者、未角之稱。牿、施橫木於牛角以防其觸。詩所謂楅衡者也。止之於未角之時、爲力則易。大善之吉也。故其象占如此。學記曰、禁於未發之謂豫。正此意也。
【読み】
○六四は、童牛の牿[つのぎ]なり。元いに吉なり。牿は、古毒の反。○童は、未だ角あらざるの稱。牿とは、橫木を牛角に施し以て其の觸れるを防ぐなり。詩に謂う所の楅衡なる者なり。之を未だ角あらざるの時に止むれば、力を爲して則ち易し。大善の吉なり。故に其の象占此の如し。學記に曰く、未だ發らざるに禁ずるを之れ豫と謂う、と。正に此の意なり。
○六五、豶豕之牙。吉。豶、符云反。○陽已進而止之、不若初之易矣。然以柔居中而當尊位。是以得其機會而可制。故其象如此。占雖吉而不言元也。
【読み】
○六五は、豶豕[ふんし]の牙なり。吉なり。豶は、符云の反。○陽已に進みて之を止むるは、初の易きに若かず。然れども柔を以て中に居りて尊位に當たる。是を以て其の機會を得て制す可し。故に其の象此の如し。占は吉と雖も而して元と言わざるなり。
○上九、何天之衢。亨。何天之衢、言何其通達之甚也。畜極而通、豁達无礙。故其象占如此。
【読み】
○上九は、何ぞ天の衢[ちまた]なる。亨る。何ぞ天の衢なるとは、言うこころは、何ぞ其の通達の甚だしき、と。畜極まりて通じ、豁達して礙げ无し。故に其の象占此の如し。
震下艮上 頤
頤、貞吉。觀頤、自求口實。頤、以之反。○頤、口旁也。口食物以自養。故爲養義。爲卦上下二陽、内含四陰、外實内虛、上止下動、爲頤之象、養之義也。貞吉者、占者得正則吉。觀頤、謂觀其所養之道。自求口實、謂觀其所以養身之術。皆得正則吉也。
【読み】
頤[い]は、貞しければ吉なり。頤を觀て、自ら口實を求む。頤は、以之の反。○頤は、口の旁なり。口は物を食べ以て自ら養う。故に養うの義と爲す。卦爲るや上下二陽、内に四陰を含み、外は實にて内は虛、上は止まり下は動き、頤の象、養うの義と爲す。貞しければ吉は、占者正しきを得れば則ち吉なり。頤を觀るとは、其の養う所の道を觀るを謂う。自ら口實を求むとは、其の身を養う所以の術を觀るを謂う。皆正しきを得れば則ち吉なり。
○初九、舎爾靈龜、觀我朶頤。凶。舍、音捨。朶、多果反。○靈龜、不食之物。朶、埀也。朶頤、欲食之貌。初九陽剛在下、足以不食。乃上應六四之陰而動於欲。凶之道也。故其象占如此。
【読み】
○初九は、爾の靈龜を舎て、我を觀て頤[おとがい]を朶[た]る。凶なり。舍は、音捨。朶は、多果の反。○靈龜とは、食わざる物。朶とは、埀れるなり。頤を朶るとは、食わんと欲するの貌。初九は陽剛にて下に在り、以て食わざれども足る。乃ち上は六四の陰に應じて欲に動く。凶の道なり。故に其の象占此の如し。
○六二、顚頤。拂經。于丘頤。征凶。求養於初、則顚倒而違於常理。求養於上、則往而得凶。丘、土之高者、上之象也。
【読み】
○六二は、顚[さかしま]に頤[やしな]わる。經[つね]に拂[もと]れり。丘に于[おい]て頤わる。征けば凶なり。養を初に求むるは、則ち顚倒して常理に違う。養を上に求むれば、則ち往きて凶を得。丘とは、土の高き者にて、上の象なり。
○六三、拂頤。貞凶。十年勿用。无攸利。陰柔不中正、以處動極、拂於頤矣。旣拂於頤、雖正亦凶。故其象占如此。
【読み】
○六三は、頤に拂る。貞なれども凶なり。十年用うること勿かれ。利ろしき攸无し。陰柔にて不中正、以て動の極みに處り、頤に拂る。旣に頤に拂れば、正しきと雖も亦凶なり。故に其の象占此の如し。
○六四、顚頤。吉。虎視眈眈、其欲逐逐、无咎。眈、都含反。○柔居上而得正、所應又正、而頼其養以施於下。故雖顚而吉。虎視眈眈、下而專也。其欲逐逐、求而繼也。又能如是、則无咎矣。
【読み】
○六四は、顚に頤わる。吉なり。虎視眈眈、其の欲逐逐たれば、咎无し。眈は、都含の反。○柔上に居りて正を得、應ずる所も又正にして、其の養に頼りて以て下に施す。故に顚なりと雖も而して吉なり。虎視眈眈とは、下りて專らなるなり。其の欲逐逐とは、求めて繼ぐなり。又能く是の如くなれば、則ち咎无し。
○六五、拂經。居貞吉。不可渉大川。六五陰柔不正、居尊位而不能養人、反頼上九之養。故其象占如此。
【読み】
○六五は、經に拂る。貞に居れば吉なり。大川を渉る可からず。六五は陰柔にて不正、尊位に居りて人を養うこと能わず、反って上九の養を頼る。故に其の象占此の如し。
○上九、由頤。厲吉。利渉大川。六五頼上九之養以養人。是物由上九以養也。位高任重。故厲而吉。陽剛在上。故利渉川。
【読み】
○上九は、由りて頤わる。厲[あや]うけれども吉なり。大川を渉るに利ろし。六五は上九の養を頼り以て人を養う。是れ物は上九に由りて以て養わるるなり。位高く任重し。故に厲うけれども而して吉なり。陽剛にて上に在り。故に川を渉るに利ろし。
巽下兌上 大過
大過、棟橈。利有攸往。亨。撓、乃敎反。○大、陽也。四陽居中過盛。故爲大過。上下二陰、不勝其重。故有棟撓之象。又以四陽雖過而二・五得中、内巽外說、有可行之道、故利有所往而得亨也。
【読み】
大過は、棟[むなぎ]橈[たわ]む。往く攸有るに利ろし。亨る。撓は、乃敎の反。○大とは、陽なり。四陽中に居り過ぎて盛んなり。故に大過と爲す。上下の二陰は、其の重みに勝えず。故に棟撓むの象有り。又四陽過ぐと雖も而して二・五は中を得、内は巽い外は說び、行く可きの道有るを以て、故に往く所有るに利ろしくして亨るを得るなり。
○初六、藉用白茅。无咎。藉、在夜反。○當大過之時、以陰柔居巽下、過於畏愼而无咎者也。故其象占如此。白茅、物之潔者。
【読み】
○初六は、藉[し]くに白茅[はくぼう]を用う。咎无し。藉は、在夜の反。○大過の時に當たり、陰柔を以て巽の下に居り、畏れ愼むに過ぎて咎无き者なり。故に其の象占此の如し。白茅とは、物の潔い者なり。
○九二、枯楊生稊。老夫得其女妻。无不利。稊、吐兮反。○陽過之始而比初陰。故其象占如此。稊、根也。榮於下者也。榮於下、則生於上矣。夫雖老而得女妻、猶能成生育之功也。
【読み】
○九二は、枯楊稊[ひこばえ]を生ず。老夫其の女妻を得。利ろしからざること无し。稊は、吐兮の反。○陽過ぐの始めにして初陰に比す。故に其の象占此の如し。稊とは、根なり。下に榮える者なり。下に榮えれば、則ち上に生ず。夫れ老ゆと雖も女妻を得るは、猶能く生育の功を成すがごとし。
○九三、棟橈。凶。三・四二爻、居卦之中、棟之象也。九三以剛居剛、不勝其重。故象撓而占凶。
【読み】
○九三は、棟橈む。凶なり。三・四の二爻は、卦の中に居り、棟の象なり。九三は剛を以て剛に居り、其の重みに勝えず。故に象は撓む、而して占は凶なり。
○九四、棟隆。吉。有他吝。他、湯何反。○以陽居陰、過而不過。故其象隆而占吉。然下應初六。以柔濟之、則過於柔矣。故又戒以有他則吝也。
【読み】
○九四は、棟隆し。吉なり。他有れば吝なり。他は、湯何の反。○陽を以て陰に居り、過ぎて過ぎず。故に其の象は隆く、而して占は吉なり。然れども下は初六に應ず。柔を以て之を濟えば、則ち柔に過ぐなり。故に又戒むるに、他有れば則ち吝を以てす。
○九五、枯楊生華。老婦得其士夫。无咎无譽。華、如字。○九五陽過之極、又比過極之陰。故其象占皆與二反。
【読み】
○九五は、枯楊華を生ず。老婦其の士夫を得。咎も无く譽れも无し。華は、字の如し。○九五は陽過ぐの極み、又過の極みの陰に比す。故に其の象占は皆二と反す。
○上六、過渉滅頂。凶。无咎。處過極之地、才弱不足以濟。然於義爲无咎矣。蓋殺身成仁之事。故其象占如此。
【読み】
○上六は、過ぎて渉り頂を滅す。凶なり。咎无し。過の極みの地に處り、才弱く以て濟うに足らず。然れども義に於ては咎无しと爲す。蓋し身を殺して仁を成すの事ならん。故に其の象占此の如し。
坎下坎上 坎
習坎、有孚。維心亨。行有尙。習、重習也。坎、險陷也。其象爲水、陽陷陰中、外虛而中實也。此卦上下皆坎、是爲重險。中實爲有孚心亨之象。以是而行、必有功矣。故其占如此。
【読み】
習坎は、孚有り。維れ心亨る。行けば尙ばるること有り。習とは、重習なり。坎とは、險陷なり。其の象は水と爲し、陽は陰の中に陷り、外は虛にして中は實なり。此の卦の上下は皆坎にて、是れ重險と爲す。中實にて孚有り心亨るの象と爲す。是を以て行えば、必ず功有るなり。故に其の占此の如し。
○初六、習坎、入于坎窞。凶。窞、徒坎陵感二反。○以陰柔居重險之下、其陷益深。故其象占如此。
【読み】
○初六は、習坎し、坎窞[かんたん]に入る。凶なり。窞は、徒坎陵感の二反。○陰柔を以て重險の下に居り、其の陷ること益々深し。故に其の象占此の如し。
○九二、坎有險。求小得。處重險之中、未能自出。故爲有險之象。然剛而得中。故其占可以求小得也。
【読み】
○九二は、坎に險有り。求めば小しく得。重險の中に處り、未だ自ら出ること能わず。故に險有りの象と爲す。然れども剛にして中を得。故に其の占は以て求めば小しく得可し。
○六三、來之坎坎。險且枕。入于坎窞。勿用。枕、針甚反。○以陰柔不中正、而履重險之閒、來往皆險。前險而後枕、其陷益深、不可用也。故其象占如此。枕、倚著未安之意。
【読み】
○六三は、來るも之くも坎坎たり。險且つ枕。坎窞に入る。用うること勿かれ。枕は、針甚の反。○陰柔不中正を以て、重險の閒を履み、來るも往くも皆險し。前は險しくして後は枕たり、其の陷ること益々深く、用う可からざるなり。故に其の象占此の如し。枕とは、倚著すること未だ安からざるの意なり。
○六四、樽酒簋、貳用缶。納約自牖。終无咎。簋、音軌。缶、俯九反。○晁氏云、先儒讀樽酒簋爲一句、貳用缶爲一句。今從之。貳、益之也。周禮、大祭三貳。弟子職、左執虛豆、右執挾匕、周旋而貳。是也。九五尊位、六四近之。在險之時、剛柔相際。故有但用薄禮、益以誠心、進結自牖之象。牖非所由之正、而室之所以受明也。始雖艱阻、終得无咎。故其占如此。
【読み】
○六四は、樽酒簋、貳[くわ]うるに缶[ほとぎ]を用う。約を納るるに牖よりす。終に咎无きなり。簋は、音軌。缶は、俯九の反。○晁氏云く、先儒は樽酒簋を讀んで一句と爲し、貳用缶を一句と爲す、と。今之に從う。貳とは、之を益すなり。周禮に、大祭は三たび貳す、と。弟子職に、左に虛豆を執り、右に挾匕を執り、周旋して貳す、と。是れなり。九五は尊位にて、六四之に近し。險の時に在り、剛柔相際わる。故に但薄禮を用い、益すに誠心を以てし、進み結ぶに牖よりするの象有り。牖は由る所の正しきに非ずして、室の以て明を受く所なり。始めは艱阻なりと雖も、終には咎无きを得。故に其の占此の如し。
○九五、坎不盈。祇旣平、无咎。九五雖在坎中、然以陽剛中正居尊位、而時亦將出矣。故其象占如此。
【読み】
○九五は、坎盈たず。旣に平かなるに祇[いた]らば、咎无し。九五は坎の中に在ると雖も、然れども陽剛中正を以て尊位に居り、而して時も亦將に出でんとす。故に其の象占此の如し。
○上六、係用徽纆、寘于叢棘。三歳不得。凶。纆、音墨。寘、音置。○以陰柔居險極。故其象占如此。
【読み】
○上六は、係ぐに徽纆[きぼく]を用い、叢棘[そうきょく]に寘[お]く。三歳まで得ず。凶なり。纆は、音墨。寘は、音置。○陰柔を以て險の極みに居る。故に其の象占此の如し。
離下離上 離
離、利貞。亨。畜牝牛、吉。畜、許六反。○離、麗也。陰麗於陽、其象爲火、體陰而用陽也。物之所麗、貴乎得正。牝牛、柔順之物也。故占者能正則亨。而畜牝牛則吉也。
【読み】
離は、貞しきに利ろし。亨る。牝牛を畜えば、吉なり。畜は、許六の反。○離とは、麗くなり。陰、陽に麗き、其の象は火と爲し、體は陰にして用は陽なり。物の麗く所、正しきを得るを貴ぶ。牝牛とは、柔順の物なり。故に占者能く正しければ則ち亨る。而して牝牛を畜えば則ち吉なり。
○初九、履錯然。敬之无咎。錯、七各反。○以剛居下而處明體、志欲上進。故有履錯然之象。敬之則无咎矣。戒占者宜如是也。
【読み】
○初九は、履むこと錯然たり。之を敬すれば咎无し。錯は、七各の反。○剛を以て下に居り而して明の體に處り、志は上り進まんと欲す。故に履むこと錯然たりの象有り。之を敬すれば則ち咎无し。占者を戒むるに、宜く是の如くすべし、と。
○六二、黄離、元吉。黄、中色。柔麗乎中而得其正。故其象占如此。
【読み】
○六二は、黄離、元いに吉なり。黄は、中の色。柔は中に麗いて其の正を得。故に其の象占此の如し。
○九三、日昃之離。不鼓缶而歌、則大耋之嗟。凶。耋、田節反。○重離之閒、前明將盡。故有日昃之象。不安常以自樂、則不能自處而凶矣。戒占者宜如是也。
【読み】
○九三は、日昃[かたむ]くの離なり。缶[ほとぎ]を鼓ちて歌わざれば、則ち大耋[だいてつ]の嗟[なげ]きあらん。凶なり。耋は、田節の反。○重離の閒、前の明將に盡きんとす。故に日昃くの象有り。常に安んじ以て自ら樂まざれば、則ち自ら處ること能わずして凶なり。占者を戒むるに、宜しく是の如くすべし、と。
○九四、突如其來如。焚如、死如、棄如。突、如忽反。○後明將繼之時、而九四以剛迫之。故其象如此。
【読み】
○九四は、突如として其れ來如たり。焚如たり、死如たり、棄如たり。突は、如忽の反。○後の明將に之を繼がんとする時にして、九四は剛を以て之に迫る。故に其の象此の如し。
○六五、出涕沱若。戚嗟若。吉。沱、徒何反。○以陰居尊、柔麗乎中。然不得其正而迫於上下之陽。故憂懼如此、然後得吉。戒占者宜如是也。
【読み】
○六五は、涕を出だすこと沱若[たじゃく]たり。戚[いた]むこと嗟若たり。吉なり。沱は、徒何の反。○陰を以て尊きに居り、柔にて中に麗く。然れども其の正を得ずして上下の陽に迫られる。故に憂懼すること此の如くして、然して後に吉を得。占者を戒むるに、宜しく是の如くすべし、と。
○上九、王用出征。有嘉折首。獲匪其醜。无咎。剛明及遠、威震而刑不濫。无咎之道也。故其象占如此。
【読み】
○上九は、王用[もっ]て出でて征す。嘉きこと有りて首を折[た]つ。獲るもの其の醜[たぐい]に匪ず。咎无し。剛明遠くに及び、威震いて刑濫りならず。咎无きの道なり。故に其の象占此の如し。
周易下經
艮下兌上 咸
咸、亨。利貞。取女吉。取、七具反。○咸、交感也。兌柔在上、艮剛在下、而交相感應。又艮止則感之專、兌說則應之至。又艮以少男下於兌之少女。男先於女、得男女之正、婚姻之時。故其卦爲咸。其占亨而利貞、取女則吉。蓋感有必通之理、然不以貞、則失其亨、而所爲皆凶矣。
【読み】
咸[かん]は、亨る。貞しきに利ろし。女を取[めと]るは吉なり。取は、七具の反。○咸とは、交感なり。兌柔上に在り、艮剛下に在り、而して交わり相感應す。又艮止まるは則ち感の專、兌說ぶは則ち應の至りなり。又艮は少男を以て兌の少女に下る。男、女に先だつは、男女の正しき、婚姻の時を得。故に其の卦を咸と爲す。其の占は亨りて貞しきに利ろし、女を取るは則ち吉。蓋し感は必ず通るの理有れども、然れども貞を以てせざれば、則ち其の亨るを失いて、爲す所は皆凶なり。
○初六、咸其拇。拇、茂后反。○拇、足大指也。咸以人身取象。感於最下、咸拇之象也。感之尙淺、欲進未能。故不言吉凶。此卦雖主於感、然六爻皆宜靜而不宜動也。
【読み】
○初六は、其の拇[おやゆび]に咸ず。拇は、茂后の反。○拇とは、足の大指なり。咸は人身を以て象を取る。最下に感ずるは、拇に咸ずるの象なり。感ずること尙淺く、進まんと欲して未だ能くせず。故に吉凶を言わず。此の卦感を主とすと雖も、然れども六爻皆宜しく靜かなるべくして宜しく動くべからず。
○六二、咸其腓。凶。居吉。腓、房非反。○腓、足肚也。欲行則先自動、躁妄而不能固守者也。二當其處、又以陰柔不能固守。故取其象。然有中正之德、能居其所。故其占動凶而靜吉也。
【読み】
○六二は、其の腓[こむら]咸ず。凶なり。居れば吉なり。腓は、房非の反。○腓とは、足の肚なり。行かんと欲すれば則ち先ず自ら動き、躁妄して固く守ること能わざる者なり。二は其の處に當たり、又陰柔を以て固く守ること能わず。故に其の象を取る。然れども中正の德有り、能く其の所に居る。故に其の占は動けば凶にして靜かなれば吉なり。
○九三、咸其股。執其隨。往吝。股、隨足而動、不能自專者也。執者、主當持守之意。下二爻皆欲動者、三亦不能自守而隨之。往則吝矣。故其象占如此。
【読み】
○九三は、其の股[もも]に咸ず。執[まも]るも其れ隨う。往けば吝なり。股は、足に隨いて動き、自ら專らにすること能わざる者なり。執は、主當持守の意。下二爻は皆動かんと欲する者にて、三も亦自ら守ること能わずして之に隨う。往けば則ち吝なり。故に其の象占此の如し。
○九四、貞吉悔亡。憧憧往來、朋從爾思。憧、昌容反。又音同。○九四居股之上、脢之下、又當三陽之中、心之象、咸之主也。心之感物、當正而固、乃得其理。今九四乃以陽居陰、爲失其正而不能固。故因占設戒、以爲能正而固、則吉而悔亡。若憧憧往來、不能正固而累於私感、則但其朋類從之、不復能及遠矣。
【読み】
○九四は、貞しければ吉にして悔亡ぶ。憧憧として往來すれば、朋のみ爾が思いに從う。憧は、昌容の反。又音同じ。○九四は股の上、脢の下に居り、又三陽の中に當たり、心の象、咸の主なり。心の物に感ずる、當に正にして固なるべくして、乃ち其の理を得。今九四は乃ち陽を以て陰に居り、其の正を失いて固なること能わずと爲す。故に因りて占に戒めを設け、以爲えらく、能く正にして固なれば、則ち吉にして悔亡ぶ。若し憧憧として往來し、正固なること能わずして私感に累えば、則ち但其の朋類のみ之に從い、復能く遠く及ばざるなり、と。
○九五、咸其脢。无悔。脢、武杯反。又音每。○脢背肉。在心上而相背、不能感物而无私係。九五適當其處。故取其象。而戒占者以能如是、則雖不能感物、而亦可以无悔也。
【読み】
○九五は、其の脢[ばい]に咸ず。悔无し。脢は、武杯の反。又音每。○脢は背の肉。心の上に在りて相背き、物を感ずること能わずして私係无し。九五は適に其の處に當るべし。故に其の象を取る。而して占者を戒むるに、能く是の如くなれば、則ち物を感ずること能わずと雖も、而して亦以て悔无かる可きを以てす。
○上六、咸其輔頬舌。頬、古協反。○輔頬舌、皆所以言者、而在身之上。上六以陰居說之終、處咸之極。感人以言而无其實。又兌爲口舌。故其象如此。凶咎可知。
【読み】
○上六は、其の輔頬舌に咸ず。頬は、古協の反。○輔頬舌とは、皆言う所以の者にして、身の上に在り。上六は陰を以て說の終わりに居り、咸の極みに處る。人を感ぜしむるに言を以てして其の實无し。又兌を口舌と爲す。故に其の象此の如し。凶咎なること知る可し。
巽下震上 恆
恆、亨。无咎。利貞。利有攸往。恆、常久也。爲卦震剛在上、巽柔在下。震雷、巽風、二物相與。巽順震動。爲巽而動。二體六爻、陰陽相應。四者皆理之常。故爲恆。其占爲能久於其道、則亨而无咎。然又必利於守貞、則乃爲得所常久之道、而利有所往也。
【読み】
恆は、亨る。咎无し。貞しきに利ろし。往く攸有るに利ろし。恆は、常久なり。卦爲るや震剛上に在り、巽柔下に在り。震は雷、巽は風、二物相與す。巽は順い震は動く。巽いて動くと爲す。二體六爻は、陰陽相應ず。四つの者は皆理の常。故に恆と爲す。其の占は能く其の道に久しくすれば、則ち亨りて咎が无しと爲す。然れども又必ず貞しきを守るに利ろしくして、則ち乃ち常に久しき所の道を得て、往く所有るに利ろしと爲す。
○初六、浚恆。貞凶。无攸利。初與四爲正應、理之常也。然初居下而在初、未可以深有所求。四震體而陽性、上而不下、又爲二・三所隔、應初之意、異乎常矣。初之柔暗、不能度勢、又以陰居巽下、爲巽之主、其性務入。故深以常理求之。浚恆之象也。占者如此、則雖貞亦凶、而无所利矣。
【読み】
○初六は、恆を浚[ふか]くす。貞しけれども凶なり。利ろしき攸无し。初と四と正應を爲すは、理の常なり。然れども初は下に居りて初めに在り、未だ以て深く求むる所有る可からず。四は震の體にして陽性、上りて下らず、又二・三の隔てる所と爲りて、初に應ずるの意、常に異なれり。初は之れ柔暗にて、勢いを度ること能わず、又陰を以て巽の下に居り、巽の主と爲り、其の性入るを務む。故に深く常理を以て之に求む。恆を浚くすの象なり。占者此の如くなれば、則ち貞しきと雖も亦凶にして、利ろしき所无し。
○九二、悔亡。以陽居陰、本當有悔、以其久中、故得亡也。
【読み】
○九二は、悔亡ぶ。陽を以て陰に居り、本當に悔有るべけれども、其の中に久しきを以て、故に亡ぶを得るなり。
○九三、不恆其德。或承之羞。貞吝。位雖得正、然過剛不中、志從於上、不能久於其所。故爲不恆其德、或承之羞之象。或者、不知其何人之辭。承、奉也。言人皆得奉而進之、不知其所自來也。貞吝者、正而不恆、爲可羞吝。申戒占者之辭。
【読み】
○九三は、其の德を恆にせず。或は之に羞を承[すす]む。貞しけれども吝なり。位正を得ると雖も、然れども過剛にて不中、志上に從いて、其の所に久しきこと能わず。故に其の德を恆にせず、或は之に羞を承むの象と爲す。或は、其れ何人かを知らざるの辭なり。承は、奉るなり。言うこころは、人皆奉じて之を進むことを得れども、其の自りて來る所を知らず、と。貞しけれども吝は、正しくして恆ならざれば、羞吝す可しと爲す。占者を申ねて戒むるの辭なり。
○九四、田无禽。以陽居陰、久非其位。故爲此象。占者田无所獲、而凡事亦不得其所求也。
【読み】
○九四は、田[かり]して禽无し。陽を以て陰に居り、久しく其の位に非ず。故に此の象を爲す。占者田して獲る所无くして、凡そ事も亦其の求むる所を得ざるなり。
○六五、恆其德貞。婦人吉、夫子凶。以柔中而應剛中、常久不易、正而固矣。然乃婦人之道、非夫子之宜也。故其象占如此。
【読み】
○六五は、其の德を恆にして貞し。婦人は吉なれども、夫子は凶なり。柔中を以て剛中に應ずるは、常久にて易わらず、正にして固なり。然れども乃ち婦人の道にて、夫子の宜に非ず。故に其の象占此の如し。
○上六、振恆。凶。振者、動之速也。上六居恆之極、處震之終。恆極則不常、震終則過動。又陰柔不能固守、居上非其所安。故有振恆之象、而其占則凶也。
【読み】
○上六は、振うを恆とす。凶なり。振は、動の速やかなり。上六は恆の極みに居り、震の終わりに處る。恆極まれば則ち常ならず、震終われば則ち過ぎて動く。又陰柔にて固く守ること能わず、上に居るは其の安んずる所に非ず。故に振うを恆とすの象有り、而して其の占は則ち凶なり。
艮下乾上 遯
遯、亨。小利貞。遯、徒困反。○遯、退避也。爲卦二陰浸長、陽當退避。故爲遯。六月之卦也。陽雖當遯、然九五當位而下有六二之應、若猶可以有爲。但二陰浸長於下、則其勢不可以不遯。故其占爲君子能遯、則身雖退而道亨、小人則利於守正。不可以浸長之故、而遂侵迫於陽也。小、謂陰柔小人也。此卦之占、與否之初・二兩爻相類。
【読み】
遯[とん]は、亨る。小なれば貞しきに利ろし。遯は、徒困の反。○遯とは、退避なり。卦爲るや二陰浸く長じ、陽當に退避すべきなり。故に遯と爲す。六月の卦なり。陽當に遯るべきと雖も、然れども九五位に當たりて下に六二の應有り、猶以て爲すこと有る可きが若し。但二陰浸く下に長ずれば、則ち其の勢い以て遯れざる可からず。故に其の占は君子能く遯るれば、則ち身退くと雖も而して道亨り、小人なれば則ち正しきを守るに利ろし。浸く長ずるの故を以て、遂に陽に侵迫す可からずと爲す。小とは、陰柔小人を謂う。此の卦の占は、否の初・二兩爻と相類す。
○初六、遯尾。厲。勿用有攸往。遯而在後、尾之象、危之道也。占者不可以有所往。但晦處靜俟、可免災耳。
【読み】
○初六は、遯尾。厲[あや]うし。往く攸有るに用うること勿かれ。遯れて後ろに在るは、尾の象、危うきの道なり。占者以て往く所有る可からず。但晦くして處り靜かに俟てば、災いを免る可きのみ。
○六二、執之用黄牛之革。莫之勝說。勝、音升。說、吐活反。○以中順自守、人莫能解、必遯之志也。占者固守、亦當如是。
【読み】
○六二は、之を執[とら]うるに黄牛の革を用う。之を說くに勝うること莫し。勝は、音升。說は、吐活の反。○中順を以て自ら守り、人能く必遯の志を解くこと莫し。占者固く守ること、亦當に是の如くすべし。
○九三、係遯。有疾厲。畜臣妾、吉。畜、許六反。○下比二陰、當遯而有所係之象。有疾而危之道也。然以畜臣妾則吉。蓋君子之於小人、惟臣妾則不必其賢而可畜耳。故其占如此。
【読み】
○九三は、係遯す。疾有りて厲うし。臣妾を畜うには、吉なり。畜は、許六の反。○下の二陰に比しみ、當に遯るべくして係がるるの象有り。疾有りて危うきの道なり。然れども以て臣妾を畜うは則ち吉なり。蓋し君子の小人に於る、惟臣妾なれば則ち其の賢を必とせずして畜う可きのみ。故に其の占此の如し。
○九四、好遯。君子吉、小人否。好、呼報反。否、方有反。○下應初六、而乾體剛健、有所好而能絶之、以遯之象也。唯自克之君子能之、而小人不能。故占者君子則吉、而小人否也。
【読み】
○九四は、好遯す。君子は吉なり。小人は否[しか]らず。好は、呼報の反。否は、方有の反。○下は初六に應じ、而して乾の體にて剛健、好む所有りて能く之を絶ち、以て遯るの象なり。唯自ら克つの君子のみ之を能くして、小人能わず。故に占者君子なれば則ち吉、而して小人なれば否らず。
○九五、嘉遯。貞吉。剛陽中正、下應六二、亦柔順而中正。遯之嘉美者也。占者如是、而正則吉矣。
【読み】
○九五は、嘉遯す。貞しくして吉なり。剛陽にて中正、下は六二に應じ、亦柔順にして中正。遯の嘉美なる者なり。占者是の如くして、正しければ則ち吉なり。
○上九、肥遯。无不利。以剛陽居卦外、下无係應。遯之遠而處之裕者也。故其象占如此。肥者、寬裕自得之意。
【読み】
○上九は、肥遯す。利ろしからざること无し。剛陽を以て卦の外に居り、下に係應无し。遯ること遠くして處ること裕かなる者なり。故に其の象占此の如し。肥は、寬裕自得の意。
乾下震上 大壯
大壯、利貞。大、謂陽也。四陽盛長。故爲大壯。二月之卦也。陽壯、則占者吉亨不假言、但利在正固而已。
【読み】
大壯は、貞しきに利ろし。大とは、陽を謂うなり。四陽盛長す。故に大壯と爲す。二月の卦なり。陽壯んなれば、則ち占者吉にて亨ること言を假りず、但利ろしきは正固に在るのみ。
○初九、壯于趾。征凶、有孚。趾在下而進動之物也。剛陽處下而當壯時、壯于進者也。故有此象。居下而壯于進、其凶必矣。故其占又如此。
【読み】
○初九は、趾[あし]に壯んなり。征けば凶なること、孚有り。趾は下に在りて進み動く物なり。剛陽下に處りて壯んなる時に當たり、進むに壯んなる者なり。故に此の象有り。下に居りて進むに壯んなれば、其の凶なること必なり。故に其の占も又此の如し。
○九二、貞吉。以陽居陰、已不得其正矣。然所處得中、則猶可因以不失其正。故戒占者、使因中以求正、然後可以得吉也。
【読み】
○九二は、貞しければ吉なり。陽を以て陰に居り、已に其の正しきを得ず。然れども處る所中を得れば、則ち猶因りて以て其の正しきを失わざる可し。故に占者を戒むるに、中に因りて以て正しきを求めしめ、然して後に以て吉を得可し、と。
○九三、小人用壯、君子用罔。貞厲。羝羊觸藩、羸其角。羝、音低。羸、力追反。○過剛不中、當壯之時。是小人用壯、而君子則用罔也。罔、无也。視有如无。君子之過於勇者也。如此、則雖正亦危矣。羝羊、剛壯喜觸之物。藩、籬也。羸、困也。貞厲之占、其象如此。
【読み】
○九三は、小人は壯を用い、君子は罔を用う。貞しけれども厲[あや]うし。羝羊[ていよう]藩[かき]に觸れて、其の角を羸[くる]しましむ。羝は、音低。羸は、力追の反。○過剛にて不中、壯んなるの時に當たる。是れ小人は壯を用いて、君子は則ち罔を用う。罔とは、无なり。有を視ること无きが如し。君子の勇に過ぎる者なり。此の如くなれば、則ち正しきと雖も亦危うし。羝羊は、剛壯にて觸れるを喜ぶ物。藩は、籬なり。羸は、困しむなり。貞厲の占は、其の象此の如し。
○九四、貞吉悔亡。藩決不羸。壯于大輿之輹。輹、音福。○貞吉悔亡、與咸九四同占。藩決不羸、承上文而言也。決、開也。三前有四、猶有藩焉。四前二陰、則藩決矣。壯于大輿之輹、亦可進之象也。以陽居陰、不極其剛。故其象如此。
【読み】
○九四は、貞しければ吉にして悔亡ぶ。藩決[ひら]けて羸しまず。大輿の輹[とこしばり]に壯んなり。輹は、音福。○貞しければ吉にして悔亡ぶは、咸の九四とは同じ占。藩決けて羸しまずとは、上文を承けて言うなり。決は、開くなり。三の前に四有り、猶藩有るがごとし。四の前は二陰なれば、則ち藩決ける。大輿の輹に壯んとは、亦進む可きの象なり。陽を以て陰に居り、其の剛を極めず。故に其の象此の如し。
○六五、喪羊于易。无悔。喪、息浪反。象同。易、以豉反。一音亦。旅卦同。○卦體似兌、有羊象焉、外柔而内剛者也。獨六五以柔居中、不能抵觸。雖失其壯、然亦无所悔矣。故其象如此、而占亦與咸九五同。易、容易之易、言忽然不覺其亡也。或作疆場之場、亦通。漢食貨志、場作易。
【読み】
○六五は、羊を易に喪う。悔无し。喪は、息浪の反。象も同じ。易は、以豉の反。一に音亦。旅の卦も同じ。○卦の體は兌に似、羊の象有り、外柔にして内剛なる者なり。獨り六五は柔を以て中に居り、抵觸すること能わず。其の壯を失うと雖も、然して亦悔ゆる所无し。故に其の象此の如くして、占も亦咸の九五と同じ。易とは、容易の易、言うこころは、忽然として其の亡きを覺えず、と。或は疆場の場と作すも、亦通ず。漢の食貨志に、場を易に作る。
○上六、羝羊觸藩、不能退、不能遂。无攸利。艱則吉。壯終動極。故觸藩而不能退。然其質本柔。故又不能遂其進也。其象如此、其占可知。然猶幸其不剛。故能艱以處、則尙可以得吉也。
【読み】
○上六は、羝羊藩に觸れ、退くこと能わず、遂げること能わず。利ろしき攸无し。艱[くる]しめば則ち吉なり。壯終わり動極まる。故に藩に觸れて退くこと能わず。然れども其の質は本柔。故に又其の進むを遂げること能わざるなり。其の象此の如くなれば、其の占知る可し。然れども猶幸に其れ剛ならず。故に能く艱しんで以て處れば、則ち尙以て吉を得可し。
坤下離上 晉
晉、康侯用錫馬蕃庶、晝日三接。晉、進也。康侯、安國之侯也。錫馬蕃庶、晝日三接、言多受大賜、而顯被親禮也。蓋其爲卦上離下坤、有日出地上之象、順而麗乎大明之德。又其變自觀而來、爲六四之柔進而上行以至於五。占者有是三者、則亦當有是寵也。
【読み】
晉は、康侯用[もっ]て馬を錫うこと蕃庶にして、晝日に三たび接す。晉とは、進むなり。康侯とは、國を安んずるの侯なり。馬を錫わること蕃庶にして、晝日三たび接すとは、多く大賜を受け、顯わに親禮を被るを言うなり。蓋し其の卦爲るや上は離にて下は坤、日の地上に出るの象、順にして大明に麗くの德有り。又其の變は觀よりして來り、六四の柔進みて上行して以て五に至ると爲す。占者是の三つの者有れば、則ち亦當に是の寵を有べし。
○初六、晉如摧如。貞吉。罔孚、裕无咎。以陰居下、應不中正、有欲進見摧之象。占者如是、而能守正則吉、設不爲人所信、亦當處以寬裕。則无咎也。
【読み】
○初六は、晉如たり摧如たり。貞しければ吉なり。孚とせらるること罔けれども、裕かなれば咎无し。陰を以て下に居り、應は不中正、進まんと欲して摧
[くじ]かるるの象有り。占者是の如くして、能く正しきを守れば則ち吉、設[たと]え人の信ずる所と爲らざれども、亦當に處るに寬裕を以てすべし。則ち咎无きなり。
○六二、晉如愁如。貞吉。受玆介福于其王母。六二中正、上无應援。故欲進而愁。占者如是而能守正則吉、而受福于王母也。王母、指六五。蓋享先妣之吉占、而凡以陰居尊者、皆其類也。
【読み】
○六二は、晉如たり愁如たり。貞しければ吉なり。玆の介[おお]いなる福[さいわい]を其の王母に受く。六二は中正にて、上に應援无し。故に進まんと欲して愁う。占者是の如くして能く正しきを守れば則ち吉、而して福を王母に受く。王母とは、六五を指す。蓋し先妣を享るの吉占にして、凡そ陰を以て尊者に居るは、皆其の類なり。
○六三、衆允。悔亡。三不中正、宜有悔者。以其與下二陰皆欲上進、是以爲衆所信而悔亡也。
【読み】
○六三は、衆允[まこと]とす。悔亡ぶ。三は中正ならず、宜しく悔有るべき者なり。其の下の二陰と皆上り進まんと欲するを以て、是を以て衆の信ずる所と爲りて悔亡ぶなり。
○九四、晉如鼫鼠。貞厲。鼫、音石。○不中不正、以竊高位、貪而畏人。蓋危道也。故爲鼫鼠之象。占者如是、雖正亦危。
【読み】
○九四は、晉如たる鼫鼠[せきそ]。貞しけれども厲[あや]うし。鼫は、音石。○不中不正、以て高位を竊み、貪にして人を畏る。蓋し危うき道なり。故に鼫鼠の象と爲す。占者是の如くなれば、正しきと雖も亦危うし。
○六五、悔亡。失得勿恤。往吉、无不利。以陰居陽、宜有悔矣。以大明在上、而下皆順從、故占者得之、則其悔亡。又一切去其計功謀利之心、則往吉而无不利也。然亦必有其德、乃應其占耳。
【読み】
○六五は、悔亡ぶ。失得恤うること勿かれ。往けば吉にして、利ろしからざること无し。陰を以て陽に居り、宜しく悔有るべし。大明上に在りて、下皆順從するを以て、故に占者之を得れば、則ち其の悔亡ぶ。又一切其の功を計り利を謀るの心を去れば、則ち往けば吉にして利ろしからざること无きなり。然れども亦必ず其の德有りて、乃ち其の占に應ずるのみ。
○上九、晉其角。維用伐邑、厲吉无咎。貞吝。角、剛而居上。上九剛進之極、有其象矣。占者得之、而以伐其私邑、則雖危而吉且无咎。然以極剛治小邑、雖得其正、亦可吝矣。
【読み】
○上九は、其の角に晉む。維れ用て邑を伐てば、厲うけれども吉にして咎无し。貞しけれども吝なり。角は、剛にして上に居る。上九は剛進の極みにて、其の象有り。占者之を得て、而して以て其の私邑を伐てば、則ち危うきと雖も吉にして且つ咎无し。然れども極剛を以て小邑を治むるは、其の正しきを得ると雖も、亦吝す可きなり。
離下坤上 明夷
明夷、利艱貞。夷、傷也。爲卦下離上坤、日入地中、明而見傷之象。故爲明夷。又其上六爲暗之主、六五近之。故占者利於艱難以守正、而自晦其明也。
【読み】
明夷は、艱[くる]しみて貞しきに利ろし。夷は、傷[やぶ]るなり。卦爲るや下は離にて上は坤、日、地中に入りて、明にして傷らるるの象。故に明夷と爲す。又其れ上六は暗の主を爲し、六五は之に近し。故に占者艱難以て正しきを守り、而して自ら其の明を晦
[かく]すに利ろし。
○初九、明夷于飛、埀其翼。君子于行、三日不食。有攸往、主人有言。飛而埀翼、見傷之象。占者行而不食、所如不合、時義當然。不得而避也。
【読み】
○初九は、明夷[やぶ]れて于[ここ]に飛び、其の翼を埀る。君子于に行きて、三日食らわず。往く攸有れば、主人言有り。飛んで翼を埀るとは、傷らるるの象。占者行きて食らわず、如く所合わず、時義當に然るべし。得て避けられず。
○六二、明夷。夷于左股。用拯馬壯、吉。拯、之陵反。渙初爻同。○傷而未切、救之速則免矣。故其象占如此。
【読み】
○六二は、明夷る。左股を夷る。用[もっ]て拯[すく]うに馬壯んなれば、吉なり。拯は、之陵の反。渙の初爻も同じ。○傷れて未だ切れず、之を救うこと速やかなれば則ち免る。故に其の象占此の如し。
○九三、明夷于南狩、得其大首。不可疾貞。以剛居剛、又在明體之上、而屈於至暗之下、正與上六闇主爲應。故有向明除害、得其首惡之象。然不可以亟也。故有不可疾貞之戒。成湯起於夏臺、文王興於羑里、正合此爻之義。而小事亦有然者。
【読み】
○九三は、明夷れて于に南狩して、其の大首を得。疾く貞にす可からず。剛を以て剛に居り、又明體の上に在りて、至暗の下に屈み、正に上六の闇主と應を爲す。故に明に向かい害を除き、其の首惡を得るの象有り。然れども以て亟やかにす可からず。故に疾く貞にす可からざるの戒め有り。成湯は夏臺より起こり、文王は羑里より興り、正に此の爻の義に合う。而して小事も亦然る者有り。
○六四、入于左腹、獲明夷之心、于出門庭。此爻之義未詳。竊疑左腹者、幽隱之處。獲明夷之心于出門庭者、得意於遠去之義。言筮而得此者、其自處當如是也。蓋離體爲至明之德、坤體爲至闇之地。下三爻明在闇外。故隨其遠近高下而處之不同。六四以柔正居闇地而尙淺。故猶可以得意於遠去。五以柔中居闇地而已迫。故爲内難正志以晦其明之象。上則極乎闇矣。故爲自傷其明以至於闇、而又足以傷人之明。蓋下五爻皆爲君子、獨上一爻爲闇君也。
【読み】
○六四は、左腹に入り、明夷の心、門庭を出づるに獲る。此の爻の義未だ詳らかならず。竊かに疑うらくは左腹は、幽隱の處。明夷の心を門庭を出づるに獲るは、意を遠く去るに得るの義ならん。言うこころは、筮して此を得る者は、其れ自ら處すること當に是の如くすべし、と。蓋し離の體は至明の德を爲し、坤の體は至闇の地を爲す。下の三爻は明にて闇の外に在り。故に其の遠近高下に隨いて之に處ること同じからず。六四は柔正を以て闇き地に居りて尙淺し。故に猶以て意を遠く去るに得る可きがごとし。五は柔中を以て闇き地に居りて已に迫る。故に内難に志を正して以て其の明を晦ますの象と爲す。上なれば則ち闇きに極まる。故に自ら其の明を傷りて以て闇に至り、而して又以て人の明を傷るに足ると爲す。蓋し下の五爻は皆君子と爲し、獨上の一爻のみ闇君と爲す。
○六五、箕子之明夷。利貞。居至闇之地、近至闇之君、而能正其志。箕子之象也。貞之至也。利貞、以戒占者。
【読み】
○六五は、箕子の明夷る。貞しきに利ろし。至闇の地に居り、至闇の君に近くして、能く其の志を正しくす。箕子の象なり。貞の至りなり。貞しきに利ろしとは、以て占者を戒むるなり。
○上六、不明晦。初登于天、後入于地。以陰居坤之極、不明其德以至於晦。始則處高位以傷人之明、終必至於自傷而墜厥命。故其象如此、而占亦在其中矣。
【読み】
○上六は、明らかならずして晦し。初めは天に登り、後には地に入る。陰を以て坤の極みに居り、其の德を明らかにせず以て晦きに至る。始めは則ち高位に處りて以て人の明を傷り、終には必ず自ら傷りて厥の命を墜とすに至る。故に其の象此の如くして、占も亦其の中に在り。
離下巽上 家人
家人、利女貞。家人者、一家之人、卦之九五・六二、外内各得其正。故爲家人。利女貞者、欲先正乎内也。内正則外无不正矣。
【読み】
家人は、女の貞しきに利ろし。家人は、一家の人、卦の九五・六二は、外内各々其の正を得。故に家人と爲す。女の貞しきに利ろしは、先ず内を正しくせんと欲するなり。内正しければ則ち外正しからざること无し。
○初九、閑有家。悔亡。初九以剛陽處有家之始、能防閑之、其悔亡矣。戒占者當如是也。
【読み】
○初九は、閑[ふせ]いで家を有つ。悔亡ぶ。初九は剛陽を以て家を有つの始めに處り、能く之を防閑し、其の悔亡ぶ。占者を戒むるに、當に是の如くするべし、と。
○六二、无攸遂。在中饋。貞吉。六二柔順中正、女之正位乎内者也。故其象占如此。
【読み】
○六二は、遂ぐる攸无し。中饋に在り。貞しくして吉なり。六二は柔順中正、女の位を内に正しくする者なり。故に其の象占此の如し。
○九三、家人嗃嗃。悔厲吉。婦子嘻嘻、終吝。嗃、呼落反。嘻、喜悲反。象同。○以剛居剛而不中、過乎剛者也。故有嗃嗃嚴厲之象。如是、則雖有悔厲而吉也。嘻嘻者、嗃嗃之反、吝之道也。占者各以其德爲應。故兩言之。
【読み】
○九三は、家人嗃嗃[かくかく]たり。厲しきを悔ゆれば吉なり。婦子嘻嘻たれば、終には吝なり。嗃は、呼落の反。嘻は、喜悲の反。象も同じ。○剛を以て剛に居りて不中、剛に過ぐ者なり。故に嗃嗃嚴厲の象有り。是の如くなれば、則ち厲しきを悔ゆること有りと雖も吉なり。嘻嘻は、嗃嗃の反、吝の道なり。占者各々其の德を以て應と爲す。故に兩に之を言う。
○六四、富家。大吉。陽主義、陰主利、以陰居陰而在上位。能富其家者也。
【読み】
○六四は、家を富ます。大吉なり。陽は義を主り、陰は利を主り、陰を以て陰に居りて上位に在り。能く其の家を富ます者なり。
○九五、王假有家。勿恤吉。假、更白反。○假、至也。如假于太廟之假。有家、猶言有國也。九五剛健中正、下應六二之柔順中正。王者以是至于其家、則勿用憂恤而吉可必矣。蓋聘納后妃之吉占。而凡有是德者遇之、皆吉也。
【読み】
○九五は、王有家に假[いた]る。恤うること勿くして吉なり。假は、更白の反。○假は、至るなり。太廟に假るの假の如し。有家とは、猶有國と言うがごとし。九五は剛健中正、下は六二の柔順中正に應ず。王者是を以て其の家に至れば、則ち憂恤を用うること勿くして吉なること必なる可し。蓋し后妃を聘納するの吉占ならん。而して凡そ是の德有る者之に遇えば、皆吉なり。
○上九、有孚威如、終吉。上九以剛居上、在卦之終。故言正家久遠之道。占者必有誠信嚴威、則終吉也。
【読み】
○上九は、孚有りて威如たれば、終に吉なり。上九は剛を以て上に居り、卦の終わりに在り。故に家を正しくする久遠の道を言う。占者必ず誠信嚴威有れば、則ち終に吉なり。
兌下離上 睽
睽、小事吉。睽、苦圭反。○睽、乖異也。爲卦上火下澤、性相違異、中女少女、志不同歸。故爲睽。然以卦德言之、内說而外明。以卦變言之、則自離來者、柔進居三、自中孚來者、柔進居五、自家人來者兼之。以卦體言之、則六五得中而下應九二之剛。是以其占不可大事、而小事尙有吉之道也。
【読み】
睽[けい]は、小事に吉なり。睽は、苦圭の反。○睽は、乖き異なるなり。卦爲るや上は火にて下は澤、性相違い異なり、中女少女、志、歸を同じくせず。故に睽と爲す。然るに卦德を以て之を言わば、内說びて外明るし。卦變を以て之を言わば、則ち離より來る者、柔進みて三に居り、中孚より來る者、柔進みて五に居り、家人より來る者之を兼ぬ。卦體を以て之を言わば、則ち六五は中を得て下は九二の剛に應ず。是を以て其の占は大事に可ならずして、小事には尙吉の道有るなり。
○初九、悔亡。喪馬勿逐自復。見惡人、无咎。喪、去聲。○上无正應、有悔也。而居睽之時、同德相應、其悔亡矣。故有喪馬勿逐而自復之象。然亦必見惡人、然後可以辟咎。如孔子之於陽貨也。
【読み】
○初九は、悔亡ぶ。馬を喪うも逐うこと勿くして自ら復る。惡人を見るも、咎无し。喪は、去聲。○上に正應无ければ、悔有るなり。而れども睽の時に居り、同德相應じ、其の悔亡ぶなり。故に馬を喪うも逐うこと勿くして自ら復るの象有り。然れども亦必ず惡人を見て、然して後に以て咎を辟く可し。孔子の陽貨に於るが如し。
○九二、遇主于巷。无咎。二・五陰陽正應、居睽之時、乖戾不合、必委曲相求而得會遇、乃爲无咎。故其象占如此。
【読み】
○九二は、主に巷に遇う。咎无し。二・五は陰陽正應し、睽の時に居り、乖戾して合わず、必ず委曲相求めて會遇するを得、乃ち咎无しと爲す。故に其の象占此の如し。
○六三、見輿曳。其牛掣。其人天且劓。无初有終。曳、以制反。掣、昌逝反。劓、魚器反。○六三上九正應、而三居二陽之閒、後爲二所曳、前爲四所掣。而當睽之時、上九猜狠方深。故又有髠劓之傷。然邪不勝正、終得合。故其象占如此。
【読み】
○六三は、輿を曳くを見る。其の牛掣[ひきとど]めらる。其の人天[かみき]られ且つ劓[はなき]らる。初め无くして終わり有り。曳は、以制の反。掣は、昌逝の反。劓は、魚器の反。○六三と上九は正應して、三は二陽の閒に居り、後ろは二の曳く所と爲し、前は四の掣むる所と爲す。而して睽の時に當たり、上九の猜狠方に深し。故に又髠劓の傷有り。然れども邪は正に勝たず、終に合うことを得。故に其の象占此の如し。
○九四、睽孤。遇元夫。交孚。厲无咎。夫、如字。○睽孤、謂无應。遇元夫、謂得初九。交孚、謂同德相信。然當睽時。故必危厲、乃得无咎。占者亦如是也。
【読み】
○九四は、睽きて孤なり。元夫に遇う。交々孚あり。厲[あや]うけれども咎无し。夫は、字の如し。○睽きて孤とは、應无きを謂う。元夫に遇うとは、初九を得るを謂う。交々孚ありとは、同德相信ずるを謂う。然れども睽の時に當たる。故に必ず危厲なれば、乃ち咎无きを得。占者も亦是の如し。
○六五、悔亡。厥宗噬膚。往何咎。噬、市制反。○以陰居陽、悔也。居中得應。故能亡之。厥宗、指九二。噬膚、言易合。六五有柔中之德。故其象占如是。
【読み】
○六五は、悔亡ぶ。厥の宗膚を噬[か]む。往くも何の咎かあらん。噬は、市制の反。○陰を以て陽に居り、悔あり。中に居りて應を得。故に能く之を亡ぼす。厥の宗とは、九二を指す。膚を噬むとは、合うこと易きを言う。六五は柔中の德有り。故に其の象占是の如し。
○上九、睽孤。見豕負塗、載鬼一車。先張之弧、後說之弧。匪寇、婚媾。往遇雨則吉。弧、音胡。說、吐活反。媾、古豆反。○睽孤、謂六三爲二陽所制、而己以剛處明極睽極之地、又自猜狠而乖離也。見豕負塗、見其汚也。載鬼一車、以无爲有也。張弧、欲射之也。說弧、疑稍釋也。匪寇婚媾、知其非寇而實親也。往遇雨則吉、疑盡釋而睽合也。上九之與六三、先睽後合。故其象占如此。
【読み】
○上九は、睽[そむ]きて孤なり。豕の塗を負うを見、鬼を一車に載す。先には之が弧[ゆみ]を張り、後には之が弧を說す。寇するに匪ず、婚媾せんとす。往きて雨に遇えば則ち吉なり。弧は、音胡。說は、吐活の反。媾は、古豆の反。○睽きて孤とは、六三、二陽の制する所と爲り、而して己剛を以て明の極み睽の極みの地に處り、又自ら猜狠にして乖き離るを謂うなり。豕の塗を負うを見るとは、其の汚を見るなり。鬼を一車に載すとは、无きを以て有りと爲すなり。弧を張るとは、之を射んと欲するなり。弧を說すとは、疑い稍釋けるなり。寇するに匪ず婚媾すとは、其の寇するに非ずして實に親しむを知るなり。往きて雨に遇えば則ち吉とは、疑い盡く釋けて睽き合うなり。上九は之れ六三と、先には睽き後には合う。故に其象占此の如し。
艮下坎上 蹇
蹇、利西南。不利東北。利見大人。貞吉。蹇、紀免反。○蹇、難也。足不能進、行之難也。爲卦艮下坎上、見險而止。故爲蹇。西南平易、東北險阻、又艮方也。方在蹇中、不宜走險。又卦自小過而來、陽進則往居五而得中、退則入於艮而不進。故其占曰利西南不利東北。當蹇之時、必見大人、然後可以濟難。又必守正、然後得吉。而卦之九五剛健中正、有大人之象。自二以上五爻皆得正位、則又貞之義也。故其占又曰利見大人貞吉。蓋見險者貴於能止、而又不可終於止。處險者利於進、而不可失其正也。
【読み】
蹇[けん]は、西南に利ろし。東北に利ろしからず。大人を見るに利ろし。貞しければ吉なり。蹇は、紀免の反。○蹇は、難なり。足進むこと能わず、行くことの難きなり。卦爲るや艮は下にて坎は上、險を見て止まる。故に蹇と爲す。西南は平易、東北は險阻、又艮の方なり。方に蹇の中に在り、險に走るに宜しからず。又卦は小過より來りて、陽進めば則ち往きて五に居りて中を得、退けば則ち艮に入りて進まず。故に其の占に曰く、西南に利ろし、東北に利ろしからず、と。蹇の時に當たれば、必ず大人を見て、然して後に以て難を濟う可し。又必ず正しきを守り、然して後に吉を得。而して卦の九五は剛健中正にて、大人の象有り。二より以上は五爻皆正位を得れば、則ち又貞の義なり。故に其の占も又曰く、大人を見るに利ろし、貞しければ吉、と。蓋し險を見る者は能く止まることを貴び、而して又止まるに終わる可からず。險に處る者は進むに利ろしくして、其の正しきを失う可からず。
○初六、往蹇、來譽。往遇險、來得譽。
【読み】
○初六は、往けば蹇[なや]み、來れば譽れあり。往けば險に遇い、來れば譽れを得。
○六二、王臣蹇蹇。匪躬之故。柔順中正、正應在上、而在險中。故蹇而又蹇、以求濟之。非以其身之故也。不言吉凶者、占者但當鞠躬盡力而已。至於成敗利鈍、則非所論也。
【読み】
○六二は、王臣蹇蹇たり。躬の故に匪ず。柔順中正にて、正應上に在れども、險中に在り。故に蹇み又蹇みて以て之を濟わんと求む。其の身の故を以てするに非ざるなり。吉凶を言わざるは、占者但當に鞠躬して力を盡くすべきのみ。成敗利鈍に至っては、則ち論ずる所に非ざればなり。
○九三、往蹇、來反。反就二陰、得其所安。
【読み】
○九三は、往けば蹇み、來れば反る。反りて二陰に就き、其の安んずる所を得。
○六四、往蹇、來連。連於九三、合力以濟。
【読み】
○六四は、往けば蹇み、來れば連なる。九三に連なり、力を合わせて以て濟う。
○九五、大蹇、朋來。大蹇者、非常之蹇也。九五居尊、而有剛健中正之德、必有朋來而助之者。占者有是德、則有是助矣。
【読み】
○九五は、大いに蹇むも、朋來る。大いに蹇むは、非常の蹇なり。九五は尊に居りて、剛健中正の德有り、必ず朋來りて之を助くる者有り。占者是の德有れば、則ち是の助け有り。
○上六、往蹇、來碩。吉。利見大人。已在卦極、往無所之、益以蹇耳。來就九五、與之濟蹇、則有碩大之功。大人、指九五。曉占者宜如是也。
【読み】
○上六は、往けば蹇み、來れば碩[おお]いなり。吉なり。大人を見るに利ろし。已に卦の極みに在れば、往くとして之く所無く、益々以て蹇むのみ。來りて九五に就き、之と蹇みを濟えば、則ち碩大の功有り。大人とは、九五を指す。占者を曉かすに、宜しく是の如くすべし、と。
坎下震上 解
解、利西南。无所往、其來復、吉。有攸往、夙吉。解、音蠏。彖傳大象同。○解、難之散也。居險能動、則出於險之外矣。解之象也。難之旣解、利於平易安靜、不欲久爲煩擾。且其卦自升來、三往居四、入於坤體、二居其所而又得中。故利於西南平易之地。若无所往、則宜來復其所而安靜。若尙有所往、則宜早往早復、不可久煩擾也。
【読み】
解は、西南に利ろし。往く所无ければ、其れ來復し、吉なり。往く攸有れば、夙[はや]くして吉なり。解は、音蠏。彖傳大象も同じ。○解は、難みの散るなり。險に居りて能く動けば、則ち險の外に出づ。解の象なり。難み旣に解ければ、平易安靜に利ろしく、久しく煩擾を爲すを欲せず。且つ其の卦は升より來り、三往きて四に居り、坤の體に入り、二は其の所に居りて又中を得。故に西南平易の地に利ろし。若し往く所无ければ、則ち宜しく其の所に來復して安靜にすべし。若し尙往く所有れば、則ち宜しく早く往き早く復るべく、久しく煩擾す可からず。
○初六、无咎。難旣解矣。以柔在下、上有正應。何咎之有。故其占如此。
【読み】
○初六は、咎无し。難み旣に解けり。柔を以て下に在り、上に正應有り。何の咎か之れ有らん。故に其の占此の如し。
○九二、田獲三狐、得黄矢。貞吉。此爻取象之意未詳。或曰、卦凡四陰、除六五君位、餘三陰、卽三狐之象也。大抵此爻爲卜田之吉占、亦爲去邪媚而得中直之象。能守其正、則无不吉矣。
【読み】
○九二は、田[かり]に三狐を獲、黄矢を得たり。貞しければ吉なり。此の爻の象を取るの意未だ詳らかならず。或は曰く、卦の凡そ四陰、六五の君位を除き、餘り三陰は、卽ち三狐の象なり、と。大抵此の爻は卜田の吉占と爲り、亦邪媚を去り中直を得るの象と爲らん。能く其の正しきを守れば、則ち吉ならざること无し。
○六三、負且乘、致寇至。貞吝。乘、如字。又石證反。○繫辭備矣。貞吝、言雖以正得之、亦可羞也。唯避而去之、爲可免耳。
【読み】
○六三は、負い且つ乘り、寇の至ることを致す。貞しけれども吝なり。乘は、字の如し。又石證の反。○繫辭に備なり。貞しけれども吝とは、言うこころは、正しきを以て之を得ると雖も、亦羞ず可し、と。唯避けて之を去れば、免がる可しと爲すのみ。
○九四、解而拇。朋至斯孚。解、佳買反。象同。拇、茂后反。○拇、指初。初與四皆不得其位而相應。應之不以正者也。然四陽初陰、其類不同。若能解而去之、則君子之朋至而相信也。
【読み】
○九四は、而[なんじ]が拇[おやゆび]を解く。朋至りて斯に孚あり。解は、佳買の反。象も同じ。拇は、茂后の反。○拇とは、初を指す。初と四とは皆其の位を得ずして相應ず。應の正しきを以てせざる者なり。然れども四は陽にて初は陰、其の類同じからず。若し能く解いて之を去れば、則ち君子の朋至りて相信ず。
○六五、君子維有解、吉。有孚于小人。解、音蠏。象同。○卦凡四陰、而六五當君位、與三陰同類者、必解而去之則吉也。孚、險也。君子有解、以小人之退爲驗也。
【読み】
○六五は、君子維れ解くこと有らば、吉なり。小人に孚有り。解は、音蠏。象も同じ。○卦は凡そ四陰あり、而して六五は君位に當たり、三陰と類を同じくする者なれども、必ず解いて之を去れば則ち吉なり。孚とは、險なり。君子解くこと有れば、小人の退くを以て驗と爲す。
○上六、公用射隼于高墉之上、獲之。无不利。射、食亦反。隼、荀尹反。○繫辭備矣。
【読み】
○上六は、公用[もっ]て隼を高墉[こうよう]の上に射て、之を獲。利ろしからざること无し。射は、食亦の反。隼は、荀尹の反。○繫辭に備なり。
兌下艮上 損
損、有孚、元吉。无咎。可貞。利有攸往。損、減省也。爲卦損下卦上畫之陽、益上卦上畫之陰。損兌澤之深、益艮山之高。損下益上、損内益外、剥民奉君之象。所以爲損也。損所當損、而有孚信、則其占當有此下四者之應矣。
【読み】
損は、孚有れば、元いに吉。咎无し。貞にす可し。往く攸有るに利ろし。損は、減らし省くなり。卦爲るや下卦の上畫の陽を損らして、上卦の上畫の陰に益す。兌澤の深きを損らし、艮山の高きに益す。下を損らして上に益し、内を損らして外に益し、民を剥いで君に奉るの象なり。損と爲す所以なり。當に損らすべき所を損らして、孚信有れば、則ち其の占當に此の下四つの者の應有るべし。
曷之用。二簋可用享。簋、音軌。○言當損時、則至薄无害。
【読み】
曷[なに]をか用いん。二簋[き]用[もっ]て享す可し。簋は、音軌。○言うこころは、損の時に當たれば、則ち至って薄きも害无し、と。
○初九、已事遄往、无咎。酌損之。已、音以。遄、市專反。四爻同。○初九當損下益上之時、上應六四之陰、輟所爲之事、而速往以益之。无咎之道也。故其象占如此。然居下而益上、亦當斟酌其淺深也。
【読み】
○初九は、事を已めて遄[すみ]やかに往けば、咎无し。酌みて之を損らすべし。已は、音以。遄は、市專の反。四爻も同じ。○初九は下を損らして上に益すの時に當たり、上は六四の陰に應じ、爲す所の事を輟
[や]めて、速やかに往きて以て之に益す。咎无きの道なり。故に其の象占此の如し。然れども下に居りて上に益せば、亦當に其の淺深を斟酌すべきなり。
○九二、利貞。征凶。弗損益之。九二剛中、志在自守、不肯妄進。故占者利貞、而征則凶也。弗損益之、言不變其所守、乃所以益上也。
【読み】
○九二は、貞しきに利ろし。征けば凶なり。損らさずして之に益す。九二は剛中、志は自ら守るに在り、肯えて妄進せず。故に占者貞しきに利ろしくして、征けば則ち凶なり。損らさずして之に益すとは、言うこころは、其の守る所を變えざるは、乃ち上に益す所以なり、と。
○六三、三人行則損一人。一人行則得其友。下卦本乾、而損上爻以益坤。三人行而損一人也。一陽上而一陰下、一人行而得其友也。兩相與則專、三則雜而亂。卦有此象。故戒占者當致一也。
【読み】
○六三は、三人行けば則ち一人を損らす。一人行けば則ち其の友を得。下の卦は本乾にして、上爻を損らして以て坤に益す。三人行って一人を損らすなり。一陽上りて一陰下り、一人行って其の友を得。兩り相與すれば則ち專らに、三なれば則ち雜りて亂る。卦に此の象有り。故に占者を戒むるに當に致一すべし、と。
○六四、損其疾。使遄有喜。无咎。以初九之陽剛益己、而損其陰柔之疾、唯速則善。戒占者如是則无咎矣。
【読み】
○六四は、其の疾を損らす。遄やかならしめば喜び有り。咎无し。初九の陽剛を以て己に益して、其の陰柔の疾を損らすは、唯速やかなれば則ち善し。占者を戒むるに、是の如くすれば則ち咎无し、と。
○六五、或益之十朋之龜。弗克違。元吉。柔順虛中、以居尊位。當損之時、受天下之益者也。兩龜爲朋、十朋之龜、大寶也。或以此益之而不能違、其吉可知。占者有是德、則獲其應也。
【読み】
○六五は、或は之に十朋の龜を益す。違うこと克[あた]わず。元いに吉なり。柔順虛中にて、以て尊位に居る。損の時に當たり、天下の益を受くる者なり。兩龜を朋と爲し、十朋の龜は、大寶なり。或は此を以て之に益して違うこと能わざれば、其の吉なること知る可し。占者是の德有れば、則ち其の應を獲るなり。
*違・・・山崎嘉点は「違」、他の本では「辭」。
○上九、弗損益之。无咎。貞吉。利有攸往。得臣无家。上九當損下益上之時、居卦之上、受益之極、而欲自損以益人也。然居上而益下、有所謂惠而不費者。不待損己、然後可以益人也。能如是則无咎。然亦必以正則吉、而利有所往。惠而不費、其惠廣矣。故又曰得臣无家。
【読み】
○上九は、損らさずして之に益す。咎无し。貞しければ吉なり。往く攸有るに利ろし。臣を得て家无し。上九は下を損らし上に益すの時に當たり、卦の上に居り、益を受けること極まり、而して自ら損らし以て人に益さんと欲するなり。然れども上に居りて下に益すは、所謂惠して費えざる者有り。己を損らすを待たず、然して後に以て人に益す可し。能く是の如くすれば則ち咎无し。然して亦必ず正しきを以てすれば則ち吉にして、往く所有るに利ろし。惠して費えず、其の惠み廣し。故に又曰く、臣を得て家无し、と。
震下巽上 益
益、利有攸往。利渉大川。益、增益也。爲卦損上卦初畫之陽、益下卦初畫之陰。自上卦而下於下卦之下。故爲益。卦之九五・六二、皆得中正。下震上巽、皆木之象。故其占利有所往、而利渉大川也。
【読み】
益は、往く攸有るに利ろし。大川を渉るに利ろし。益は、增益なり。卦爲るや上卦の初畫の陽を損らして、下卦の初畫の陰に益す。上卦より下卦の下に下る。故に益と爲す。卦の九五・六二は、皆中正を得。下は震にて上は巽、皆木の象。故に其の占は往く所有るに利ろしくして、大川を渉るに利ろし。
○初九、利用爲大作。元吉。无咎。初雖居下、然當益下之時、受上之益者也。不可徒然无所報效。故利用爲大作、必元吉、然後得无咎。
【読み】
○初九は、大作を爲すに用うるに利ろし。元いに吉なり。咎无し。初は下に居ると雖も、然れども下に益すの時に當たりては、上の益を受くる者なり。徒然として報效する所无かる可からず。故に大作を爲すに用うるに利ろしく、必ず元いに吉にして、然して後に咎无きを得。
○六二、或益之十朋之龜。弗克違。永貞吉。王用享于帝。吉。六二當益下之時、虛中處下。故其象占與損六五同。然爻位皆陰。故以永貞爲戒。以其居下而受上之益、故又爲卜郊之吉占。
【読み】
○六二は、或は之に十朋の龜を益す。違うこと克[あた]わず。永貞なれば吉なり。王用て帝に享す。吉なり。六二は下に益すの時に當たり、虛中にて下に處る。故に其の象占は損の六五と同じ。然れども爻位は皆陰。故に永貞を以て戒めと爲す。其の下に居りて上の益を受くるを以て、故に又郊を卜するの吉占と爲す。
○六三、益之用凶事、无咎。有孚中行、告公用圭。六三陰柔不中不正、不當得益者也。然當益下之時、居下之上。故有益之以凶事者。蓋警戒震動、乃所以益之也。占者如此、然後可以无咎、又戒以有孚中行、而告公用圭也。用圭、所以通信。
【読み】
○六三は、之を益すに凶事を用うれば、咎无し。孚有り中行にして、公に告ぐるに圭を用う。六三は陰柔にて不中不正、當に益を得べからざる者なり。然れども下に益すの時に當たり、下の上に居る。故に之に益すに凶事を以てする者有り。蓋し警戒し震動するは、乃ち之に益す所以なり。占者此の如くして、然して後に以て咎无かる可く、又戒むるに孚有りて中行にして、公に告ぐるに圭を用うを以てす。圭を用うるは、信を通ずる所以なり。
○六四、中行。告公從。利用爲依遷國。三四皆不得中。故皆以中行爲戒。此言以益下爲心、而合於中行、則告公而見從矣。傳曰、周之東遷、晉鄭焉依。蓋古者遷國以益下、必有所依、然後能立。此爻又爲遷國之吉占也。
【読み】
○六四は、中行なり。公に告げて從わる。依ることを爲し國を遷すに用うるに利ろし。三四は皆中を得ず。故に皆中行を以て戒めと爲す。此れ言うこころは、下に益すを以て心と爲して、中行に合すれば、則ち公に告げて從わるる、と。傳に曰く、周之れ東遷し、晉鄭焉れ依れり、と。蓋し古國を遷し以て下に益すに、必ず依る所有り、然して後に能く立つ。此の爻は又國を遷すの吉占と爲す。
○九五、有孚惠心。勿問元吉。有孚惠我德。上有信以惠於下、則下亦有信以惠於上矣。不問而元吉可知。
【読み】
○九五は、孚有りて惠心あり。問うこと勿くして元いに吉なり。孚有りて我が德を惠とす。上に信有りて以て下に惠めば、則ち下も亦信有りて以て上に惠む。問わずして元吉なること知る可し。
○上九、莫益之。或擊之。立心勿恆。凶。以陽居益之極、求益不已。故莫益而或擊之。立心勿恆、戒之也。
【読み】
○上九は、之に益すこと莫し。或は之を擊つ。心を立つること恆勿し。凶なり。陽を以て益の極みに居り、益を求めて已まず。故に益すこと莫くして或は之を擊つ。心を立つること恆勿しとは、之を戒むるなり。
乾下兌上 夬
夬、揚于王庭。孚號、有厲。告自邑。不利卽戎。利有攸往。夬、古快反。號、戶羔反。卦内並同。○夬、決也。陽決陰也。三月之卦也。以五陽去一陰、決之而已。然其決之也、必正名其罪、而盡誠以呼號其衆、相與合力。然亦尙有危厲、不可安肆。又當先治其私、而不可專尙威武、則利有所往也。皆戒之之辭。
【読み】
夬[かい]は、王庭に揚ぐ。孚ありて號び、厲[あや]うきこと有り。告ぐること邑よりす。戎に卽くに利ろしからず。往く攸有るに利ろし。夬は、古快の反。號は、戶羔の反。卦の内は並同じ。○夬とは、決なり。陽、陰を決するなり。三月の卦なり。五陽を以て一陰を去り、之を決するのみ。然れども其の之を決するや、必ず其の罪を正名して、誠を盡くして以て其の衆を呼號し、相與に力を合わすべし。然れども亦尙危厲有りて、安肆す可からず。又當に先ず其の私を治めて、專ら威武を尙ぶ可からずとすべくして、則ち往く所有るに利ろし。皆之を戒むるの辭なり。
○初九、壯于前趾。往不勝。爲咎。前、猶進也。當決之時、居下任壯。不勝宜矣。故其象占如此。
【読み】
○初九は、趾[あし]を前[すす]むるに壯んなり。往きて勝えず。咎と爲す。前とは、猶進むのごとし。決の時に當たり、下に居りて壯に任す。勝えざること宜なり。故に其の象占此の如し。
○九二、惕號。莫夜有戎勿恤。莫、音暮。○九二當決之時、剛而居柔、又得中道。故能憂惕號呼以自戒備。而莫夜有戎、亦可无患也。
【読み】
○九二は、惕れて號ぶ。莫夜に戎有れども恤うること勿かれ。莫は、音暮。○九二は決の時に當たり、剛にして柔に居り、又中道を得。故に能く憂惕號呼して以て自ら戒め備う。而して莫夜に戎有れども、亦患え无かる可し。
○九三、壯于頄。有凶。君子夬夬。獨行遇雨。若濡有慍、无咎。頄、求龜反。○頄、顴也。九三當決之時、以剛而過乎中。是欲決小人、而剛壯見于面目也。如是則有凶道矣。然在衆陽之中、獨與上六爲應。若能果決其決、不係私愛、則雖合於上六、如獨行遇雨、至於若濡而爲君子所慍、然終必能決去小人而无所咎也。溫嶠之於王敦、其事類此。
【読み】
○九三は、頄[つらぼね]に壯んなり。凶有り。君子は夬を夬す。獨り行きて雨に遇う。若し濡れれば慍[いか]らるること有れども、咎无し。頄は、求龜の反。○頄とは、顴なり。九三は決の時に當たり、剛を以て中に過ぐ。是れ小人を決せんと欲して、剛壯面目に見るなり。是の如くなれば則ち凶道有り。然れども衆陽の中に在りて、獨り上六と應爲り。若し能く果たして其の決を決し、私愛に係わらざれば、則ち上六に合うこと、獨り行きて雨に遇うが如く、若し濡れれば君子の慍る所と爲るに至ると雖も、然れども終には必ず能く小人を決去して咎むる所无きなり。溫嶠の王敦に於る、其の事此に類す。
○九四、臀无膚。其行次且。牽羊悔亡。聞言不信。臀、徒敦反。次、七私反。且、七余反。姤卦同。○以陽居陰、不中不正、居則不安、行則不進。若不與衆陽競進、而安出其後、則可以亡其悔。然當決之時、志在上進、必不能也。占者聞言而信、則轉凶而吉矣。牽羊者、當其前則不進、縱之使前而隨其後、則可以行矣。
【読み】
○九四は、臀に膚无し。其の行くこと次且[ししょ]たり。羊を牽けば悔亡ぶ。言を聞くも信ぜず。臀は、徒敦の反。次は、七私の反。且は、七余の反。姤の卦も同じ。○陽を以て陰に居り、不中不正、居れば則ち安からず、行けば則ち進まず。若し衆陽と競いて進まずして、安んじて其の後ろに出づれば、則ち以て其の悔亡ぶ可し。然れども決の時に當たり、志は上り進むに在り、必ず能わざるなり。占者言を聞きて信ずれば、則ち凶を轉じて吉なり。羊を牽くは、其の前に當たれば則ち進まず、之を縱にして前めしめて其の後に隨えば、則ち以て行く可し。
○九五、莧陸。夬夬。中行无咎。莧、閑辨反。○莧陸、今馬齒莧、感陰氣之多者。九五當決之時、爲決之主、而切近上六之陰、如莧陸然。若決而決之、而又不爲過暴、合於中行、則无咎矣。戒占者當如是也。
【読み】
○九五は、莧陸[けんりく]なり。夬すべきを夬す。中行なれば咎无し。莧は、閑辨の反。○莧陸とは、今の馬齒莧、陰氣に感ずるの多き者なり。九五は決の時に當たり、決の主と爲りて、上六の陰に切近し、莧陸の如く然り。若し決すべくして之を決し、而して又過暴を爲さず、中行に合えば、則ち咎无し。占者を戒むるに、當に是の如くすべし、と。
○上六、无號。終有凶。陰柔小人、居窮極之時、黨類已盡、无所號呼、終必有凶也。占者有君子之德、則其敵當之、不然反是。
【読み】
○上六は、號ぶこと无し。終に凶有り。陰柔は小人にて、窮極の時に居り、黨類已に盡き、號呼する所无く、終には必ず凶有り。占者君子の德有れば、則ち其の敵之に當たり、然らざれば是に反る。
巽下乾上 姤
姤、女壯。勿用取女。姤、古后反。取、七喩反。○姤、遇也。決盡則爲純乾、四月之卦。至姤然後一陰可見、而爲五月之卦。以其本非所望、而卒然値之、如不期而遇者、故爲遇。遇已非正、又一陰而遇五陽、則女德不貞而壯之甚也。取以自配、必害乎陽。故其象占如此。
【読み】
姤[こう]は、女壯んなり。女を取[めと]るに用うること勿かれ。姤は、古后の反。取は、七喩の反。○姤とは、遇うなり。決盡きれば則ち純乾、四月の卦と爲る。姤に至り然して後に一陰見る可くして、五月の卦と爲る。其れ本望む所に非ずして、卒然として之に値
[あ]い、期せずして遇う者の如きを以て、故に遇と爲す。遇うこと已に正に非ず、又一陰にして五陽に遇えば、則ち女の德は不貞にして壯の甚だしきなり。取りて以て自ら配せば、必ず陽に害あり。故に其の象占此の如し。
○初六、繫于金柅。貞吉。有攸往、見凶。羸豕孚蹢躅。柅、乃李反。又女紀反。○柅、所以止車、以金爲之。其剛可知。一陰始生、靜正則吉、往進則凶。故以二義戒小人、使不害於君子、則有吉而无凶。然其勢不可止也。故以羸豕蹢躅曉君子、使深爲之備云。
【読み】
○初六は、金柅[きんじ]に繫ぐ。貞しくして吉なり。往く攸有れば、凶を見る。羸豕[るいし]孚に蹢躅[てきちょく]たり。柅は、乃李の反。又女紀の反。○柅とは、車を止むる所以、金を以て之を爲る。其の剛きや知る可し。一陰始めて生じ、靜かに正しければ則ち吉、往き進めば則ち凶なり。故に二義を以て小人を戒め、君子に害あらざらしめば、則ち吉有りて凶无し、と。然れども其の勢いは止む可からず。故に羸豕蹢躅を以て君子を曉し、深く之の備えを爲さしむと云う。
○九二、包有魚。无咎。不利賓。魚、陰物。二與初遇、爲包有魚之象。然制之在己。故猶可以无咎。若不制而使遇於衆、則其爲害廣矣。故其象占如此。
【読み】
○九二は、包[つと]に魚有り。咎无し。賓に利ろしからず。魚は、陰物なり。二の初と遇うは、包に魚有りの象と爲す。然るに之を制するは己に在り。故に猶以て咎无かる可し。若し制せずして衆に遇わせしめば、則ち其の害爲るや廣し。故に其の象占此の如し。
○九三、臀无膚。其行次且。厲无大咎。九三過剛不中、下不遇於初、上无應於上、居則不安、行則不進。故其象占如此。然旣无所遇、則无陰邪之傷。故雖危厲而无大咎也。
【読み】
○九三は、臀に膚无し。其の行くこと次且[ししょ]たり。厲[あや]うけれども大いなる咎は无し。九三は過剛にて不中、下は初に遇わず、上は上に應无く、居れども則ち安からず、行けども則ち進まず。故に其の象占此の如し。然れども旣に遇う所无ければ、則ち陰邪の傷无し。故に危厲なりと雖も大いなる咎无し。
○九四、包无魚。起凶。初六正應、已遇於二、而不及於己。故其象占如此。
【読み】
○九四は、包に魚无し。凶を起こす。初六正應すれども、已に二に遇い、而して己に及ばず。故に其の象占此の如し。
○九五、以杞包瓜。含章。有隕自天。瓜、陰物之在下者、甘美而善潰。杞、高大堅實之木也。五以陽剛中正主卦於上、而下防始生必潰之陰。其象如此。然陰陽迭勝、時運之常。若能含晦章美、靜以制之、則可以回造化矣。有隕自天、本无而倏有之象也。
【読み】
○九五は、杞を以て瓜を包む。章[あや]を含む。隕[お]つること有り天よりす。瓜とは、陰物の下に在る者にて、甘美にして善く潰る。杞とは、高大堅實の木なり。五は陽剛中正を以て、卦に上に主にして、下始めて生じ必ず潰るの陰を防ぐ。其の象此の如し。然れども陰陽迭いに勝つは、時運の常なり。若し能く章美を含晦し、靜以て之を制すれば、則ち以て造化を回らす可し。隕つること有り天よりすとは、本无くして倏
[たちま]ち有るの象なり。
○上九、姤其角。吝无咎。角、剛乎上者也。上九以剛居上而无位、不得其遇。故其象占與九三類。
【読み】
○上九は、其れ角に姤[あ]う。吝なれども咎无し。角とは、上に剛き者なり。上九は剛を以て上に居りて位无く、其の遇うを得ず。故に其の象占は九三と類す。
坤下兌上 萃
萃、亨。王假有廟。利見大人。亨。利貞。用大牲吉。利有攸往。假、更白反。○萃、聚也。坤順兌說。九五剛中而二應之、又爲澤上於地、萬物萃聚之象。故爲萃。亨字衍文。王假有廟、言王者可以至于宗廟之中、王者卜祭之吉占也。祭義曰王假于太廟是也。廟所以聚祖考之精神、又人必能聚己之精神、則可以至于廟而承祖考也。物旣聚、則必見大人而後可以得亨。然又必利於正。所聚不正、則亦不能亨也。大牲必聚而後有、聚則可以有所往、皆占吉而有戒之辭。
【読み】
萃[すい]は、亨る。王有廟に假[いた]る。大人を見るに利ろし。亨る。貞しきに利ろし。大牲を用いて吉なり。往く攸有るに利ろし。假は、更白の反。○萃とは、聚まるなり。坤は順い兌は說ぶ。九五は剛中にして二之に應じ、又澤は地に上となり、萬物萃聚の象と爲す。故に萃と爲す。亨の字は衍文。王有廟に假るとは、言うこころは、王者以て宗廟の中に至る可く、王者祭を卜うの吉占なり、と。祭義に曰く、王太廟に假るとは是れなり。廟は祖考の精神を聚むる所以、又人必ず能く己の精神を聚むれば、則ち以て廟に至りて祖考に承く可し。物旣に聚まれば、則ち必ず大人を見て而して後に以て亨ることを得可し。然れども又必ず正しきに利ろし。聚むる所正しからざれば、則ち亦亨ること能わず。大牲は必ず聚まりて後に有り、聚まれば則ち以て往く所有る可く、皆占は吉にして戒め有るの辭なり。
*王・・・山崎嘉点は「王」、他の本では「公」。
○初六、有孚不終。乃亂乃萃。若號、一握爲笑。勿恤。往无咎。號、平聲。○初六上應九四、而隔於二陰。當萃之時、不能自守。是有孚而不終、志亂而妄聚也。若呼號正應、則衆以爲笑。但勿恤而往從正應、則无咎矣。戒占者當如是也。
【読み】
○初六は、孚有るも終わらず。乃ち亂れ乃ち萃[あつ]まる。若し號べば、一握して笑いを爲さん。恤うること勿かれ。往けば咎无し。號は、平聲。○初六は上は九四に應じて、二陰に隔てらる。萃の時に當たりて、自ら守ること能わず。是れ孚有りて終わらず、志亂れて妄りに聚まるなり。若し正應を呼號すれば、則ち衆以て笑うと爲す。但恤うること勿くして往きて正應に從えば、則ち咎无し。占者を戒むるに、當に是の如くすべし、と。
○六二、引吉。无咎。孚乃利用禴。禴、羊畧反。○二應五而雜於二陰之閒、必牽引以萃、乃吉而无咎。又二中正柔順、虛中以上應。九五剛健中正、誠實而下交。故卜祭者有其孚誠、則雖薄物、亦可以祭矣。
【読み】
○六二は、引けば吉なり。咎无し。孚あれば乃ち禴[やく]を用いて利ろし。禴は、羊畧の反。○二は五に應じて二陰の閒に雜り、必ず牽引以て萃まり、乃ち吉にして咎无し。又二は中正柔順、虛中以て上應ず。九五は剛健中正、誠實にして下交わる。故に祭を卜う者其の孚誠有れば、則ち薄き物と雖も、亦以て祭る可し。
○六三、萃如、嗟如。无攸利。往无咎。小吝。六三陰柔不中不正、上无應與、欲求萃於近而不得。故嗟如而无所利。唯往從於上、可以无咎。然不得其萃。困然後往、復得陰極无位之爻、亦可小羞矣。戒占者當近捨不正之強援、而遠結正應之窮交、則无咎也。
【読み】
○六三は、萃如たり、嗟如たり。利ろしき攸无し。往けば咎无し。小しく吝なり。六三は陰柔にて不中不正、上に應與无く、萃まるを近くに求めんと欲して得ず。故に嗟如にして利ろしき所无し。唯往きて上に從えば、以て咎无かる可し。然れども其の萃まるを得ず。困りて然して後に往き、復陰の極み位无きの爻を得、亦小しく羞ず可きなり。占者を戒むるに當に近くして不正の強援を捨て、遠くして正應の窮交と結べば、則ち咎无し、と。
○九四、大吉。无咎。上比九五、下比衆陰、得其萃矣。然以陽居陰不正。故戒占者必大吉、然後得无咎也。
【読み】
○九四は、大吉なり。咎无し。上は九五に比し、下は衆陰に比し、其の萃まるを得るなり。然れども陽を以て陰に居りて不正。故に占者を戒むるに必ず大吉にして、然して後に咎无きを得、と。
○九五、萃有位。无咎。匪孚、元永貞、悔亡。九五剛陽中正、當萃之時而居尊、固无咎矣。若有未信、則亦脩其元永貞之德而悔亡矣。戒占者當如是也。
【読み】
○九五は、萃めて位を有つ。咎无し。孚とせられざれども、元永貞なれば、悔亡ぶ。九五は剛陽中正、萃の時に當たりて尊きに居り、固より咎无し。若し未だ信ぜられざること有れば、則ち亦其の元永貞の德を脩むれば悔亡ぶなり。占者を戒むるに、當に是の如くすべし、と。
○上六、齎咨涕洟。无咎。齎、音咨。又將啼反。洟、音夷。象同。○處萃之終、陰柔无位。求萃不得。故戒占者必如是、而後可以无咎也。
【読み】
○上六は、齎咨[せいし]涕洟[ていい]す。咎无し。齎は、音咨。又將啼の反。洟は、音夷。象も同じ。○萃の終わりに處りて、陰柔にて位无し。萃まるを求めて得ず。故に占者を戒むるに必ず是の如くして、而して後に以て咎无かる可し、と。
巽下坤上 升
升、元亨。用見大人、勿恤。南征吉。升、進而上也。卦自解來、柔上居四、内巽外順、九二剛中而五應之。是以其占如此。南征、前進也。
【読み】
升は、元いに亨る。大人を見るを用て、恤うること勿かれ。南征すれば吉なり。升は、進んで上るなり。卦は解より來り、柔上りて四に居り、内は巽にて外は順、九二は剛中にして五之に應ず。是を以て其の占此の如し。南征とは、前進するなり。
○初六、允升。大吉。初以柔順居下。巽之主也。當升之時、巽於二陽。占者如之、則信能升而大吉矣。
【読み】
○初六は、允に升る。大吉なり。初は柔順を以て下に居る。巽の主なり。升の時に當たり、二陽に巽う。占者之の如くなれば、則ち信に能く升りて大吉なり。
○九二、孚乃利用禴。无咎。義見萃卦。
【読み】
○九二は、孚あれば乃ち禴[やく]を用いて利ろし。咎无し。義は萃の卦に見ゆ。
○九三、升虛邑。陽實、陰虛、而坤有國邑之象。九三以陽剛當升時、而進臨於坤。故其象占如此。
【読み】
○九三は、虛邑に升る。陽は實、陰は虛にして、坤に國邑の象有り。九三は陽剛を以て升の時に當たりて、進みて坤に臨む。故に其の象占此の如し。
○六四、王用亨于岐山。吉无咎。義見隨卦。
【読み】
○六四は、王用て岐山に亨す。吉にして咎无し。義は隨の卦に見ゆ。
○六五、貞吉。升階。以陰居陽、當升而居尊位、必能正固、則可以得吉而升階矣。階、升之易者。
【読み】
○六五は、貞しければ吉なり。階[きざはし]に升る。陰を以て陽に居り、升りて尊位に居るに當たりて、必ず能く正固なれば、則ち以て吉を得て階を升る可し。階とは、升るの易き者なり。
○上六、冥升。利于不息之貞。以陰居升極。昏冥不已者也。占者遇此、无適而利。但可反其不已於外之心、施之於不息之正而已。
【読み】
○上六は、升るに冥し。不息の貞に利ろし。陰を以て升の極みに居る。昏冥已まざる者なり。占者此に遇えば、適くとして利ろしき无し。但其の外に已まざるの心を反して、之を不息の正しきに施す可きのみ。
坎下兌上 困
困、亨。貞。大人吉。无咎。有言不信。困者、窮而不能自振之義。坎剛爲兌柔所揜、九二爲二陰所揜、四五爲上六所揜。所以爲困。坎險兌說、處險而說。是身雖困而道則亨也。二・五剛中、又有大人之象。占者處困能亨、則得其正矣。非大人其孰能之。故曰貞。又曰大人者、明不正之小人不能當也。有言不信、又戒以當務晦默、不可尙口、益取困窮。
【読み】
困は、亨る。貞し。大人は吉なり。咎无し。言うこと有るも信ぜられず。困は、窮まりて自ら振うこと能わざるの義。坎剛は兌柔の揜う所と爲り、九二は二陰の揜う所と爲り、四五は上六の揜う所と爲る。困と爲す所以なり。坎は險しく兌は說び、險しきに處りて說ぶ。是れ身は困しむと雖も而して道は則ち亨るなり。二・五は剛中にて、又大人の象有り。占者困に處りて能く亨れば、則ち其の正しきを得るなり。大人に非ざれば其れ孰か之を能くせん。故に貞と曰う。又大人と曰うは、不正の小人は當たること能わざるを明らかにするなり。言うこと有るも信ぜられずとは、又戒むるに、當に務めて晦默すべく、口を尙びて、益々困窮を取る可からざるを以てするなり。
○初六、臀困于株木。入于幽谷、三歳不覿。臀、物之底也。困于株木、傷而不能安也。初六以陰柔處困之底、居暗之甚。故其象占如此。
【読み】
○初六は、臀株木に困しむ。幽谷に入りて、三歳まで覿[み]ず。臀とは、物の底なり。株木に困しむとは、傷みて安んずること能わざるなり。初六は陰柔を以て困の底に處り、暗きの甚だしきに居るなり。故に其の象占此の如し。
○九二、困于酒食。朱紱方來。利用亨祀。征凶。无咎。紱、音弗。亨、讀作享。○困于酒食、厭飫苦惱之意。酒食、人之所欲。然醉飽過宜、則是反爲所困矣。朱紱方來、上應之也。九二有剛中之德、以處困時。雖无凶害、而反困於得其所欲之多。故其象如此、而其占利以享祀。若征行則非其時。故凶、而於義爲无咎也。
【読み】
○九二は、酒食に困しむ。朱紱[しゅふつ]方に來らんとす。亨祀するに用いて利ろし。征けば凶なり。咎无し。紱は、音弗。亨は、讀んで享に作る。○酒食に困しむとは、厭飫苦惱するの意。酒食は、人の欲する所。然れども醉飽し宜しきに過ぎれば、則ち是れ反って困しむ所と爲す。朱紱方に來らんとすとは、上之に應ずるなり。九二は剛中の德有り、以て困の時に處る。凶害无しと雖も、而して反って其の欲する所を得るの多きに困しむ。故に其の象此の如くして、其の占は以て享祀するに利ろし。若し征行すれば則ち其の時に非ず。故に凶なれども、而して義に於ては咎无しと爲すなり。
○六三、困于石、據于蒺藜。入于其宮、不見其妻。凶。陰柔而不中正。故有此象、而其占則凶。石、指四。蒺藜、指二。宮、謂三。而妻則六矣。其義則繫辭備矣。
【読み】
○六三は、石に困しみ、蒺藜[しつれい]に據る。其の宮に入りて、其の妻を見ず。凶なり。陰柔にして不中正。故に此の象有りて、其の占は則ち凶なり。石は、四を指す。蒺藜は、二を指す。宮は、三を謂う。而して妻は則ち六なり。其の義は則ち繫辭に備なり。
○九四、來徐徐。困于金車。吝、有終。初六、九四之正應、九四處位不當、不能濟物。而初六方困於下、又爲九二所隔。故其象如此。然邪不勝正。故其占雖爲可吝、而必有終也。金車、爲九二象未詳。疑坎有輪象也。
【読み】
○九四は、來ること徐徐たり。金車に困しむ。吝なれども、終わり有り。初六は、九四の正應なれども、九四位に處ること當たらず、物を濟うこと能わず。而して初六は方に下に困しみ、又九二の隔てる所と爲す。故に其の象此の如し。然れども邪は正に勝たず。故に其の占吝す可しと爲すと雖も、而して必ず終わり有り。金車は、九二の象と爲せども未だ詳らかならず。疑うらくは坎に輪の象有ればならん。
○九五、劓刖、困于赤紱。乃徐有說。利用祭祀。劓、音見睽。刖、音月。說、音悦。○劓刖者、傷於上下。上下旣傷、則赤紱无所用而反爲困矣。九五當困之時、上爲陰揜、下則乘剛。故有此象。然剛中而說體。故遲久而有說也。占具象中。又利用祭祀、久當獲福。
【読み】
○九五は、劓[はなき]られ刖[あしき]られ、赤紱[せきふつ]に困しむ。乃ち徐[おもむ]ろに說び有り。祭祀に用うるに利ろし。劓は、音は睽に見ゆ。刖は、音月。說は、音悦。○劓られ刖られは、上下を傷つくなり。上下旣に傷つけば、則ち赤紱用うる所无くして反って困しむと爲す。九五は困の時に當たり、上は陰揜うと爲し、下は則ち剛に乘る。故に此の象有り。然れども剛中にして說の體。故に遲久にして說び有るなり。占は象中に具わる。又祭祀に用うるに利ろしく、久しければ當に福を獲べし。
○上六、困于葛藟于臲卼。曰動悔。有悔征吉。藟、力軌反。臲、五結反。卼、五骨反。○以陰柔處困極。故有困于葛藟于臲卼、曰動悔之象。然物窮則變。故其占曰若能有悔、則可以征而吉矣。
【読み】
○上六は、葛藟[かつるい]に臲卼[げつこつ]に困しむ。曰[ここ]に動けば悔あり。悔ゆること有れば征きて吉なり。藟は、力軌の反。臲は、五結の反。卼は、五骨の反。○陰柔を以て困の極みに處る。故に葛藟に臲卼に困しむ、曰に動けば悔ありの象有り。然れども物窮まれば則ち變ず。故に其の占に曰く、若し能く悔ゆること有れば、則ち以て征きて吉なる可し、と。
巽下坎上 井
井、改邑不改井。无喪无得。往來井井。汔至亦未繘井。羸其瓶。凶。喪、息浪反。汔、許訖反。繘・羸、律裴反。○井者、穴地出水之處。以巽木入乎坎水之下、而上出其水。故爲井。改邑不改井。故无喪无得、而往者來者、皆井其井也。汔、幾也。繘、綆也。羸、敗也。汲井幾至、未盡綆而敗其瓶、則凶也。其占爲事仍舊无得喪。而又當敬勉、不可幾成而敗也。
【読み】
井は、邑を改むるも井を改めず。喪うこと无く得ること无し。往くも來るも井を井とす。汔[ほとん]ど至らんとして、亦未だ井に繘[つりいと]せず。其の瓶[つるべ]を羸[やぶ
]る。凶なり。喪は、息浪の反。汔は、許訖の反。繘・羸は、律裴の反。○井は、地に穴して水を出だすの處。巽木を以て坎水の下に入れて、其の水を上げ出だす。故に井と爲す。邑を改むるも井を改めず。故に喪うこと无く得ること无くして、往く者來る者、皆其の井を井とす。汔とは、幾どなり。繘とは、綆なり。羸とは、敗るなり。井を汲むこと幾ど至らんとして、未だ綆を盡くさずして其の瓶を敗れば、則ち凶なり。其の占は事は舊に仍れば得喪无しと爲す。而して又當に敬勉して、幾ど成して敗る可らざるべし、と。
○初六、井泥不食。舊井无禽。泥、乃計反。○井以陽剛爲泉、上出爲功。初六以陰居下。故爲此象。蓋井不泉而泥、則人所不食、而禽鳥亦莫之顧也。
【読み】
○初六は、井泥して食らわれず。舊井に禽无し。泥は、乃計の反。○井は陽剛を以て泉と爲し、上り出でるを功と爲す。初六は陰を以て下に居る。故に此の象を爲す。蓋し井に泉あらずして泥なれば、則ち人の食わざる所にして、禽鳥も亦之を顧ること莫し。
○九二、井谷射鮒。甕敝漏。谷、余六反。音育。射、石亦反。鮒、音附。○九二剛中、有泉之象。然上无正應、下比初六、功不上行。故其象如此。
【読み】
○九二は、井谷鮒に射[そそ]ぐ。甕敝[やぶ]れて漏る。谷は、余六の反。音は育。射は、石亦の反。鮒は、音附。○九二は剛中にて、泉の象有り。然れども上は正應无く、下は初六に比し、功は上り行かず。故に其の象此の如し。
○九三、井渫不食。爲我心惻。可用汲。王明竝受其福。渫、息列反。○渫、不停汚也。井渫不食、而使人心惻。可用汲矣。王明、則汲井以及物、而施者受者、並受其福也。九三以陽居陽、在下之上、而未爲時用。故其象占如此。
【読み】
○九三は、井渫[さら]えたれども食らわれず。我が心の惻[いた]みを爲す。用[もっ]て汲む可し。王明らかなれば竝[とも]に其の福を受けん。渫は、息列の反。○渫とは、汚を停めざるなり。井渫えたれども食らわれずして、人の心を惻めしむ。用て汲む可きなり。王明らかなれば、則ち井を汲みて以て物に及ぼして、施す者受く者、並其の福を受くるなり。九三は陽を以て陽に居り、下の上に在れども、未だ用うる時と爲さず。故に其の象占此の如し。
○六四、井甃。无咎。甃、側救反。○以六居四、雖得其正、然陰柔不泉。則但能脩治而无及物之功。故其象爲井甃、而占則无咎。占者能自脩治、則雖无及物之功、而亦可以无咎矣。
【読み】
○六四は、井甃[いしだたみ]す。咎无し。甃は、側救の反。○六を以て四に居り、其の正を得ると雖も、然れども陰柔にて泉ならず。則ち但能く脩治するのみにて物に及ぼすの功无し。故に其の象は井甃と爲して、占は則ち咎无し。占者能く自ら脩治すれば、則ち物に及ぼすの功无しと雖も、而して亦以て咎无かる可きなり。
○九五、井冽、寒泉食。冽、音列。○冽、潔也。陽剛中正、功及於物。故爲此象。占者有其德、則契其象也。
【読み】
○九五は、井冽[きよ]くして、寒泉食らわる。冽は、音列。○冽は、潔きなり。陽剛中正にて、功は物に及ぶ。故に此の象を爲す。占者其の德有れば、則ち其の象を契するなり。
○上六、井收勿幕。有孚元吉。收、詩救反。又如字。幕、音莫。○收、汲取也。晁氏曰、收、鹿盧收繘者也。亦通。幕、蔽覆也。有孚、謂其出有源而不窮也。井以上出爲功、而坎口不揜。故上六雖非陽剛、而其象如此。然占者應之、必有孚乃元吉也。
【読み】
○上六は、井收[く]みて幕[おお]うこと勿かれ。孚有れば元いに吉なり。收は、詩救の反。又字の如し。幕は、音莫。○收とは、汲み取るなり。晁氏曰く、收とは、鹿盧の繘を收むる者なり、と。亦通ず。幕とは、蔽覆なり。孚有りとは、其の出づること源有りて窮まらざるを謂うなり。井は上り出づるを以て功と爲せば、坎の口は揜わず。故に上六は陽剛に非ずと雖も、而して其の象此の如し。然して占者之に應じて、必ず孚有れば乃ち元いに吉なり。
*曰・・・山崎嘉点は「曰」、他の本では「云」。
離下兌上 革
革、已日乃孚。元亨。利貞。悔亡。革、變革也。兌澤在上、離火在下。火然則水乾、水決則火滅。中少・二女、合爲一卦、而少上中下、志不相得。故其卦爲革也。變革之初、人未之信。故必已日而後信。又以其内有文明之德、而外有和說之氣、故其占爲有所更革、皆大亨而得其正、所革皆當、而所革之悔亡也。一有不正、則所革不信不通、而反有悔矣。
【読み】
革は、已日にして乃ち孚とせらる。元いに亨る。貞しきに利ろし。悔亡ぶ。革とは、變革なり。兌澤上に在り、離火下に在る。火然えれば則ち水乾き、水決すれば則ち火滅す。中少・二女、合って一卦と爲りて、少は上に中は下にて、志相得ず。故に其の卦を革と爲す。變革の初めは、人未だ之れ信ぜず。故に必ず已日にして後に信ず。又其の内に文明の德有り、而して外に和說の氣有るを以て、故に其の占は更革する所有り、皆大いに亨りて其の正しきを得、革むる所皆當たりて、革むる所の悔亡ぶと爲す。一つとして不正有れば、則ち革むる所は信ぜられず通ぜずして、反って悔有らん。
○初九、鞏用黄牛之革。鞏、九勇反。○雖當革時、居初无應、未可有爲。故爲此象。鞏、固也。黄、中色。牛、順物。革、所以固物、亦取卦名而義不同也。其占爲當堅確固守、而不可以有爲。聖人之於變革、其謹如此。
【読み】
○初九は、鞏[かた]むるに黄牛の革を用う。鞏は、九勇の反。○革の時に當たると雖も、初に居りて應无く、未だ爲すこと有る可からず。故に此の象を爲す。鞏は、固むるなり。黄は、中色。牛は、順う物。革は、物を固むる所以にて、亦卦の名を取りて義は同じからず。其の占は當に堅確固守すべくして、以て爲すこと有る可からずと爲す。聖人の變革に於る、其の謹むこと此の如し。
○六二、已日乃革之。征吉、无咎。六二柔順中正而爲文明之主、有應於上。於是可以革矣。然必已日然後革之、則征吉而无咎。戒占者猶未可遽變也。
【読み】
○六二は、已日にして乃ち之を革む。征けば吉にして、咎无し。六二は柔順中正にして文明の主と爲り、上に應有り。是に於て以て革む可し。然れども必ず已日にして然して後に之を革むれば、則ち征けば吉にして咎无し。占者を戒むるに猶未だ遽に變える可からず、と。
○九三、征凶。貞厲。革言三就、有孚。過剛不中、居離之極、躁動於革者也。故其占有征凶貞厲之戒。然其時則當革。故至於革言三就、則亦有孚而可革也。
【読み】
○九三は、征けば凶なり。貞しけれども厲[あや]うし。革言三たび就[な]れば、孚有り。過剛にて不中、離の極みに居り、革に躁動する者なり。故に其の占に征けば凶なり、貞しけれども厲うしの戒め有り。然れども其の時は則ち當に革むるべきなり。故に革言三たび就るに至れば、則ち亦孚有りて革む可し。
○九四、悔亡。有孚改命、吉。以陽居陰。故有悔。然卦已過中。水火之際、乃革之時。而剛柔不偏、又革之用也。是以悔亡。然又必有孚、然後革乃可獲吉。明占者有其德而當其時、又必有信、乃悔亡而得吉也。
【読み】
○九四は、悔亡ぶ。孚有りて命を改むれば、吉なり。陽を以て陰に居る。故に悔有り。然れども卦已に中より過ぎ、水火の際にて、乃ち革の時なり。而して剛柔偏ならず、又革の用なり。是を以て悔亡ぶ。然れども又必ず孚有りて、然して後に革むれば乃ち吉を獲可し。占者其の德有りて其の時に當たり、又必ず信有りて、乃ち悔亡びて吉を得ることを明らかにす。
○九五、大人虎變。未占有孚。虎、大人之象。變、謂希革而毛毨也。在大人則自新新民之極、順天應人之時也。九五以陽剛中正爲革之主。故有此象。占而得此、則有此應。然亦必自其未占之時、人已信其如此、乃足以當之耳。
【読み】
○九五は、大人虎變す。未だ占わずして孚有り。虎は、大人の象。變とは、希革まりて毛毨するを謂うなり。大人に在れば則ち自ら新たにし民を新たにするの極み、天に順い人に應ずるの時なり。九五は陽剛中正を以て革の主爲り。故に此の象有り。占いて此を得れば、則ち此の應有り。然れども亦必ず其の未だ占わざる時より、人已に其の此の如くなるを信ずれば、乃ち以て之に當たるに足るのみ。
○上六、君子豹變。小人革面。征凶。居貞吉。革道已成、君子如豹之變、小人亦革面以聽從矣。不可以往、而居正則吉。變革之事、非得已者、不可以過。而上六之才、亦不可以有行也。故占者如此。
【読み】
○上六は、君子は豹變す。小人は面を革む。征けば凶なり。貞しきに居れば吉なり。革の道已に成れば、君子は豹の變わるが如く、小人も亦面を革め以て聽き從う。以て往く可からず、而して正しきに居れば則ち吉。變革の事は、已むことを得る者に非ざれば、以て過ぐ可からず。而して上六の才も、亦以て行うこと有る可からざるなり。故に占者此の如し。
巽下離上 鼎
鼎、元吉亨。鼎、烹飪之器。爲卦下陰爲足、二・三・四陽爲腹、五陰爲耳、上陽爲鉉、有鼎之象。又以巽木入離火而致烹飪、鼎之用也。故其卦爲鼎。下巽、巽也。上離爲目、而五爲耳、有内巽順而外聰明之象。卦自巽來、陰進居五、而下應九二之陽。故占曰元亨。吉、衍文也。
【読み】
鼎[てい]は、元いに吉にして亨る。鼎とは、烹飪の器。卦爲るや下陰を足と爲し、二・三・四陽を腹と爲し、五陰を耳と爲し、上陽を鉉と爲し、鼎の象有り。又巽木を以て離火に入れて烹飪を致すは、鼎の用なり。故に其の卦を鼎と爲す。下の巽は、巽うなり。上の離を目と爲して、五を耳と爲し、内は巽順にして外は聰明の象有り。卦は巽より來りて、陰進みて五に居り、而して下は九二の陽に應ず。故に占に曰く、元いに亨る、と。吉は、衍文なり。
○初六、鼎顚趾。利出否。得妾以其子。无咎。出、尺遂反。又如字。否、音鄙。○居鼎之下、鼎趾之象也。上應九四則顚矣。然當卦初、鼎未有實而舊有否惡之積焉。因其顚而出之、則爲利矣。得妾而因得其子、亦猶是也。此爻之象如此、而其占无咎。蓋因敗以爲功、因賤以致貴也。
【読み】
○初六は、鼎[かなえ]趾[あし]を顚[さかしま]にす。否を出だすに利ろし。妾を得て其の子に以[およ]ぶ。咎无し。出は、尺遂の反。又字の如し。否は、音鄙。○鼎の下に居り、鼎の趾の象なり。上は九四に應ずれば則ち顚なり。然れども卦の初めに當たり、鼎未だ實有らずして舊否惡の積有り。其の顚に因りて之を出だせば、則ち利ろしきと爲す。妾を得て因りて其の子を得るも、亦猶是のごとし。此の爻の象此の如くして、其の占は咎无し。蓋し敗るるに因りて以て功を爲し、賤しきに因りて以て貴きを致すなり。
○九二、鼎有實。我仇有疾。不我能卽。吉。仇、音求。○以剛居中、鼎有實之象也。我仇、謂初。陰陽相求而非正、則相陷於惡而爲仇矣。二能以剛中自守、則初雖近、不能以就之。是以其象如此、而其占爲如是則吉也。
【読み】
○九二は、鼎に實有り。我が仇に疾有り。我に能く卽かず。吉なり。仇は、音求。○剛を以て中に居り、鼎に實有るの象なり。我が仇とは、初を謂う。陰陽相求めて正に非ず、則ち惡に相陷りて仇と爲る。二は能く剛中を以て自ら守れば、則ち初は近しと雖も、以て之に就くこと能わず。是を以て其の象此の如くして、其の占是の如くなれば則ち吉と爲すなり。
○九三、鼎耳革、其行塞。雉膏不食。方雨虧悔。終吉。行、下孟反。塞、悉則反。○以陽居鼎腹之中、本有美實者也。然以過剛失中、越五應上、又居下之極、爲變革之時、故爲鼎耳方革、而不可舉移、雖承上卦文明之腴、有雉膏之美、而不得以爲人之食。然以陽居陽、爲得其正。苟能自守、則陰陽將和而失其悔矣。占者如是、則初雖不利而終得吉也。
【読み】
○九三は、鼎の耳革まり、其の行塞がる。雉の膏食らわれず。方に雨ふらんとして悔を虧[か]く。終には吉なり。行は、下孟の反。塞は、悉則の反。○陽を以て鼎の腹の中に居り、本美實有る者なり。然れども過剛にて中を失い、五を越えて上に應じ、又下の極みに居り、變革の時と爲すを以て、故に鼎の耳方に革まりて、舉げ移す可からず、上卦の文明の腴を承け、雉膏の美有りと雖も、而して以て人の食と爲すを得ずと爲す。然れども陽を以て陽に居り、其の正を得ると爲す。苟し能く自ら守れば、則ち陰陽將に和せんとして其の悔を失う。占者是の如くなれば、則ち初めは不利と雖も終には吉を得るなり。
○九四、鼎折足、覆公餗。其形渥。凶。折、之舌反。覆、方服反。餗、送六反。渥、乙角反。○晁氏曰、形渥、諸本作刑剭。謂重刑也。今從之。九四居上、任重者也。而下應初六之陰、則不勝其任矣。故其象如此、而其占凶也。
【読み】
○九四は、鼎足を折り、公の餗[あつもの]を覆す。其の形渥[あく]たり。凶なり。折は、之舌の反。覆は、方服の反。餗は、送六の反。渥は、乙角の反。○晁氏曰く、形渥は、諸本は刑剭と作す。重刑を謂うなり、と。今之に從う。九四は上に居り、任重き者なり。而して下は初六の陰に應ずれども、則ち其の任に勝えず。故に其の象此の如くして、其の占は凶なり。
○六五、鼎黄耳金鉉。利貞。鉉、玄典反。○五於象爲耳、而有中德。故云黄耳。金、堅剛之物。鉉、貫耳以舉鼎者也。五虛中以應九二之堅剛。故其象如此。而其占則利在貞固而已。或曰、金鉉以上九而言。更詳之。
【読み】
○六五は、鼎黄耳金鉉あり。貞しきに利ろし。鉉は、玄典の反。○五は象に於て耳と爲し、中德有り。故に黄耳と云う。金とは、堅剛の物。鉉とは、耳を貫き以て鼎を舉ぐる者なり。五は虛中以て九二の堅剛に應ず。故に其の象此の如し。而して其の占は則ち利は貞固に在るのみ。或は曰う、金鉉は上九を以て言う、と。更に之を詳らかにせん。
○上九、鼎玉鉉。大吉、无不利。上於象爲鉉、而以陽居陰、剛而能溫。故有玉鉉之象、而其占爲大吉无不利。蓋有是德、則如其占也。
【読み】
○上九は、鼎玉鉉あり。大吉にして利ろしからざること无し。上は象に於て鉉と爲し、而して陽を以て陰に居り、剛にして能く溫かし。故に玉鉉の象有りて、其の占は大吉にして利ろしからざること无しと爲す。蓋し是の德有れば、則ち其の占の如くならん。
震下震上 震
震、亨。震來虩虩。笑言啞啞。震驚百里、不喪匕鬯。虩、許逆反。啞、烏客反。喪、息浪反。匕、必以反。鬯、勅亮反。○震、動也。一陽始生於二陰之下、震而動也。其象爲雷、其屬爲長子。震有亨道。震來、當震之來時也。虩虩、恐懼驚顧之貌。震驚百里、以雷言。匕、所以舉鼎實。鬯、以秬黍酒和鬱金、所以灌地降神者也。不喪匕鬯、以長子言也。此卦之占、爲能恐懼則致福、而不失其所主之重。
【読み】
震は、亨る。震の來るとき虩虩[げきげき]たり。笑言啞啞[あくあく]たり。震は百里を驚かせども、匕鬯[ひちょう]を喪わず。虩は、許逆の反。啞は、烏客の反。喪は、息浪の反。匕は、必以の反。鬯は、勅亮の反。○震とは、動くなり。一陽始めて二陰の下に生じ、震いて動くなり。其の象は雷と爲し、其の屬は長子と爲す。震に亨る道有り。震の來るときとは、震の來る時に當たる。虩虩とは、恐懼驚顧の貌。震は百里を驚かすとは、雷を以て言う。匕とは、鼎の實を舉ぐる所以。鬯とは、秬黍酒を以て鬱金に和し、地に灌いで神を降ろす所以の者なり。匕鬯を喪わずとは、長子を以て言うなり。此の卦の占は、能く恐懼すれば則ち福を致し、而して其の主とする所の重きを失わずと爲す。
○初九、震來虩虩。後笑言啞啞。吉。成震之主、處震之初。故其占如此。
【読み】
○初九は、震の來るとき虩虩たり。後には笑言啞啞たり。吉なり。震を成すの主にて、震の初に處る。故に其の占此の如し。
○六二、震來厲。億喪貝、躋于九陵。勿逐。七日得。躋、子西反。○六二乘初九之剛。故當震之來而危厲也。億字未詳。又當喪其貨貝而升於九陵之上。然柔順中正、足以自守。故不求而自獲也。此爻占具象中。但九陵七日之象、則未詳耳。
【読み】
○六二は、震の來るとき厲[あや]うし。億って貝を喪い、九陵に躋[のぼ]る。逐うこと勿かれ。七日にして得ん。躋は、子西の反。○六二は初九の剛に乘る。故に震の來るに當たりて危厲なり。億の字は未だ詳らかならず。又當に其の貨貝を喪いて九陵の上に升るべし。然れども柔順中正にて、以て自ら守るに足る。故に求めずして自ら獲るなり。此の爻の占は象中に具わる。但九陵七日の象は、則ち未だ詳らかならざるのみ。
○六三、震蘇蘇。震行无眚。蘇蘇、緩散自失之状。以陰居陽、當震時而居不正、是以如此。占者若因懼而能行、以去其不正、則可以无眚矣。
【読み】
○六三は、震いて蘇蘇たり。震いて行けば眚[わざわ]い无し。蘇蘇とは、緩散自失の状。陰を以て陽に居り、震の時に當たりて居るに正しからず、是を以て此の如し。占者若し懼るるに因りて能く行い、以て其の不正を去れば、則ち以て眚い无かる可し。
○九四、震遂泥。泥、乃計反。○以剛處柔、不中不正、陷於二陰之閒、不能自震也。遂者、无反之意。泥、滯溺也。
【読み】
○九四は、震いて遂に泥む。泥は、乃計の反。○剛を以て柔に處り、不中不正、二陰の閒に陷り、自ら震うこと能わず。遂とは、反ること无きの意。泥とは、滯り溺れるなり。
○六五、震往來厲。億无喪有事。喪、息浪反。○以六居五、而處震時、无時而不危也。以其得中、故无所喪而能有事也。占者不失其中、則雖危无喪矣。
【読み】
○六五は、震いて往くも來るも厲うし。億って喪うこと无く事有り。喪は、息浪の反。○六を以て五に居りて、震の時に處り、時として危うからざること无し。其の中を得るを以て、故に喪う所无くして能く事有るなり。占者其の中を失わざれば、則ち危うしと雖も喪うこと无し。
○上六、震索索。視矍矍。征凶。震不于其躬、于其鄰、无咎。婚媾有言。索、桑落反。矍、倶縛反。○以陰柔處震極。故爲索索矍矍之象。以是而行、其凶必矣。然能及其震未及其身之時、恐懼脩省、則可以无咎。而亦不能免於婚媾之有言。戒占者當如是也。
【読み】
○上六は、震いて索索たり。視ること矍矍[かくかく]たり。征けば凶なり。震うこと其の躬に于[おい]てせず、其の鄰に于てすれば、咎无し。婚媾言有り。索は、桑落の反。矍は、倶縛の反。○陰柔を以て震の極みに處る。故に索索矍矍の象と爲す。是を以て行けば、其の凶なること必なり。然れども能く其の震うことの未だ其の身に及ばざるの時に及んで、恐懼脩省すれば、則ち以て咎无かる可し。而して亦婚媾の言有るを免るること能わず。占者を戒むるに、當に是の如くすべし、と。
艮下艮上 艮
艮其背、不獲其身。行其庭、不見其人。无咎。艮、止也。一陽止於二陰之上、陽自下升、極上而止也。其象爲山。取坤地而隆其上之状、亦止於極而不進之意也。其占則必能止于背而不有其身、行其庭而不見其人、乃无咎也。蓋身、動物也。唯背爲止。艮其背、則止於所當止也。止於所當止、則不隨身而動矣。是不有其身也。如是、則雖行於庭除有人之地、而亦不見其人矣。蓋艮其背而不獲其身者、止而止也。行其庭而不見其人者、行而止也。動靜各止其所、而皆主夫靜焉。所以得无咎也。
【読み】
其の背に艮[とど]まりて、其の身を獲ず。其の庭に行きて、其の人を見ず。咎无し。艮は、止まるなり。一陽、二陰の上に止まり、陽は下より升り、上に極まりて止まるなり。其の象は山と爲す。坤地にして其の上に隆き状を取り、亦極みに止まりて進まざるの意なり。其の占は則ち必ず能く背に止まりて其の身を有せず、其の庭に行きて其の人を見ざれば、乃ち咎无きなり。蓋し身は、動く物なり。唯背のみ止まると爲す。其の背に艮まるとは、則ち當に止まるべき所に止まるなり。當に止まるべき所に止まれば、則ち身に隨いて動かず。是れ其の身を有たざるなり。是の如くなれば、則ち庭除人有るの地に行くと雖も、而して亦其の人を見ざるなり。蓋し其の背に艮まりて其の身を獲ずは、止まるべくして止まるなり。其の庭に行きて其の人を見ずは、行くべくして止まるなり。動靜各々其の所に止まりて、皆夫の靜を主とす。咎无きを得る所以なり。
○初六、艮其趾。无咎。利永貞。以陰柔居艮初、爲艮趾之象。占者如之則无咎。而又以其陰柔、故又戒其利永貞也。
【読み】
○初六は、其の趾[あし]に艮まる。咎无し。永貞に利ろし。陰柔を以て艮の初めに居り、趾に艮まるの象と爲す。占者之の如くなれば則ち咎无し。而して又其の陰柔を以て、故に又其れ永貞に利ろしと戒むなり。
○六二、艮其腓。不拯其隨。其心不快。拯、之凌反。○六二居中得正、旣止其腓矣。三爲限、則腓所隨也。而過剛不中以止乎上。二雖中正而體柔弱、不能往而拯之。是以其心不快也。此爻占在象中。下爻放此。
【読み】
○六二は、其の腓[こむら]に艮まる。其の隨うところを拯[すく]わず。其の心は快からず。拯は、之凌の反。○六二は中に居りて正を得、旣に其の腓に止まるなり。三を限と爲せば、則ち腓の隨う所なり。而して過剛不中以て上に止まる。二は中正と雖も體は柔弱、往きて之を拯うこと能わず。是を以て其の心快からず。此の爻の占は象中に在り。下の爻も此に放え。
○九三、艮其限。列其夤。厲薫心。夤、引眞反。○限、身上下之際、卽腰胯也。夤、膂也。止于腓、則不進而已。九三以過剛不中、當限之處。而艮其限、則不得屈伸、而上下判隔、如列其夤矣。危厲薫心、不安之甚也。
【読み】
○九三は、其の限[こしぼね]に艮まる。其の夤[せぼね]を列[さ]く。厲[あや]うきこと心を薫[や]く。夤は、引眞の反。○限とは、身の上下の際、卽ち腰胯なり。夤とは、膂なり。腓に止まれば、則ち進まざるのみ。九三は過剛不中を以て、限の處に當たる。而して其の限に艮まれば、則ち屈伸するを得ずして、上下判隔し、其の夤を列くが如し。危厲なること心を薫くとは、安からざるの甚だしきなり。
○六四、艮其身。无咎。以陰居陰、時止而止。故爲艮其身之象、而占得无咎也。
【読み】
○六四は、其の身に艮まる。咎无し。陰を以て陰に居り、時として止まるべくして止まる。故に其の身に艮まるの象と爲して、占は咎无きを得るなり。
○六五、艮其輔。言有序。悔亡。六五當輔之處。故其象如此、而其占悔亡也。悔、謂以陰居陽。
【読み】
○六五は、其の輔[ほほぼね]に艮まる。言に序有り。悔亡ぶ。六五は輔の處に當たる。故に其の象此の如くして、其の占は悔亡ぶなり。悔とは、陰を以て陽に居るを謂う。
○上九、敦艮。吉。以陽剛居止之極。敦厚於止者也。
【読み】
○上九は、艮まるに敦し。吉なり。陽剛を以て止まるの極みに居る。止まるに敦厚なる者なり。
艮下巽上 漸
漸、女歸吉。利貞。漸、漸進也。爲卦止於下而巽於上、爲不遽進之義。有女歸之象焉。又自二至五、位皆得正。故其占爲女歸吉、而又戒以利貞也。
【読み】
漸[ぜん]は、女歸[とつ]ぐに吉なり。貞しきに利ろし。漸とは、漸進なり。卦爲るや下に止まりて上に巽い、遽に進まざるの義と爲す。女歸ぐの象有り。又二より五に至るまで、位は皆正を得。故に其の占は女歸ぐに吉と爲し、而して又戒むるに貞しきに利ろしを以てす。
○初六、鴻漸于干。小子厲。有言、无咎。鴻之行有序而進有漸。干、水涯也。始進於下、未得所安、而上復无應。故其象如此。而其占則爲小子厲、雖有言、而於義則无咎也。
【読み】
○初六は、鴻[かり]干[みぎわ]に漸[すす]む。小子は厲[あや]うし。言有れども、咎无し。鴻の行くに序有りて進むに漸有り。干とは、水涯なり。始めて下に進み、未だ安んずる所を得ず、而して上は復應无し。故に其の象此の如し。而して其の占は則ち小子は厲うし、言有りと雖も、而して義に於ては則ち咎无しと爲す。
○六二、鴻漸于磐。飮食衎衎。吉。衎、苦旦反。○磐、大石也。漸遠於水、進於磐而益安矣。衎衎、和樂意。六二柔順中正、進以其漸、而上有九五之應。故其象如此、而占則吉也。
【読み】
○六二は、鴻磐[いわ]に漸む。飮食衎衎[かんかん]たり。吉なり。衎は、苦旦の反。○磐とは、大石なり。漸く水に遠ざかり、磐に進んで益々安し。衎衎とは、和樂の意。六二は柔順中正、進むに其の漸を以てして、上に九五の應有り。故に其の象此の如くして、占は則ち吉なり。
○九三、鴻漸于陸。夫征不復、婦孕不育。凶。利禦寇。復、房六反。○鴻、水鳥。陸非所安也。九三過剛不中而无應。故其象如此。而其占夫征則不復、婦孕則不育、凶莫甚焉。然以其過剛也、故利禦寇。
【読み】
○九三は、鴻陸[くが]に漸む。夫征きて復らず、婦孕みて育せず。凶なり。寇を禦ぐに利ろし。復は、房六の反。○鴻は、水鳥。陸は安んずる所に非ざるなり。九三は過剛不中にして應无し。故に其の象此の如し。而して其の占は夫征けば則ち復らず、婦孕めば則ち育せず、凶なること焉より甚だしきは莫し。然れども其の過剛を以て、故に寇を禦ぐに利ろし。
○六四、鴻漸于木。或得其桷。无咎。桷、音角。○鴻不木棲。桷、平柯也。或得平柯、則可以安矣。六四乘剛而順巽。故其象如此。占者如之、則无咎也。
【読み】
○六四は、鴻木に漸む。或は其の桷[たるき]を得。咎无し。桷は、音角。○鴻は木棲せず。桷とは、平かなる柯なり。或は平かなる柯を得れば、則ち以て安んず可し。六四は剛に乘りて順巽なり。故に其の象此の如し。占者之の如くなれば、則ち咎无し。
○九五、鴻漸于陵。婦三歳不孕。終莫之勝。吉。陵、高阜也。九五居尊、六二正應在下、而爲三・四所隔。然終不能奪其正也。故其象如此。而占者如是則吉也。
【読み】
○九五は、鴻陵[おか]に漸む。婦三歳まで孕まず。終に之に勝つこと莫し。吉なり。陵とは、高き阜なり。九五は尊きに居り、六二の正應下に在り、而して三・四の隔てる所と爲す。然れども終に其の正を奪うこと能わざるなり。故に其の象此の如し。而して占者是の如くなれば則ち吉なり。
○上九、鴻漸于陸。其羽可用爲儀。吉。胡氏程氏皆云、陸、當作逵。謂雲路也。今以韻讀之良是。儀、羽旄旌纛之飾也。上九至高、出乎人位之外、而其羽毛可用以爲儀飾。位雖極高、而不爲无用之象。故其占爲如是則吉也。
【読み】
○上九は、鴻陸[くもじ]に漸む。其の羽用[もっ]て儀と爲す可し。吉なり。胡氏程氏皆云う、陸は、當に逵と作すべし、と。雲路を謂うなり。今韻を以て之を讀めば良きこと是なり。儀とは、羽旄旌纛の飾りなり。上九は至高にて、人位の外に出で、而して其の羽毛は用うるに以て儀飾と爲す可し。位極めて高しと雖も、而して用うること无しと爲さざるの象なり。故に其の占は是の如くなれば則ち吉と爲すなり。
兌下震上 歸妹
歸妹、征凶。无攸利。婦人謂嫁曰歸。妹、少女也。兌以少女而從震之長男、而其情又爲以說而動。皆非正也。故卦爲歸妹。而卦之諸爻、自二至五、皆不得正、三・五爻又皆以柔乘剛。故其占征凶而无所利也。
【読み】
歸妹[きまい]は、征けば凶なり。利ろしき攸无し。婦人の嫁ぐを謂って歸と曰う。妹は、少女なり。兌は少女を以てして震の長男に從い、而して其の情も又說びを以て動くと爲す。皆正しきに非ざるなり。故に卦は歸妹と爲す。而して卦の諸爻は、二より五に至るまで、皆正を得ず、三・五の爻も又皆柔を以て剛に乘る。故に其の占は征けば凶にして利ろしき所无きなり。
*爻・・・山崎嘉点は「爻」、他の本には無い。
○初九、歸妹以娣。跛能履。征吉。娣、音弟。跛、波我反。○初九居下而无正應。故爲娣象。然陽剛在女子爲賢正之德、但爲娣之賤、僅能承助其君而已。故又爲跛能履之象。而其占則征吉也。
【読み】
○初九は、歸妹に娣を以てす。跛[あしなえ]能く履む。征けば吉なり。娣は、音弟。跛は、波我の反。○初九は下に居りて正應无し。故に娣の象と爲す。然して陽剛女子に在れば賢正の德と爲れども、但娣の賤しきが爲に、僅かに能く其の君を承け助くのみ。故に又跛能く履むの象と爲す。而して其の占は則ち征けば吉なり。
○九二、眇能視。利幽人之貞。眇能視、承上爻而言。九二陽剛得中、女之賢也。上有正應、而反陰柔不正、乃女賢而配不良、不能大成内助之功。故爲眇能視之象。而其占則利幽人之貞也。幽人、亦抱道守正而不偶者也。
【読み】
○九二は、眇[すがめ]能く視る。幽人の貞に利ろし。眇能く視るは、上の爻を承けて言う。九二は陽剛にて中を得、女の賢なり。上に正應有れども、而して反って陰柔不正、乃ち女は賢にして不良に配し、大いに内助の功を成すこと能わず。故に眇能く視るの象と爲す。而して其の占は則ち幽人の貞に利ろし。幽人とは、亦道を抱き正を守りて不偶なる者なり。
○六三、歸妹以須。反歸以娣。六三陰柔而不中正、又爲說之主。女之不正、人莫之取者也。故爲未得所適、而反歸爲娣之象。或曰、須、女之賤者。
【読み】
○六三は、歸妹以て須つ。反歸して娣を以てす。六三は陰柔にして不中正、又說の主と爲す。女の不正は、人之を取る莫き者なり。故に未だ適く所を得ずして、反歸して娣と爲るの象と爲す。或は曰く、須は、女の賤しき者、と。
○九四、歸妹愆期。遲歸有時。九四以陽居上體而无正應。賢女不輕從人、而愆期以待所歸之象。正與六三相反。
【読み】
○九四は、歸妹期を愆[すご]す。歸ぐを遲[ま]つこと時有り。九四は陽を以て上の體に居りて正應无し。賢女は輕々しく人に從わずして、期を愆して以て歸ぐ所を待つの象なり。正に六三と相反す。
○六五、帝乙歸妹。其君之袂、不如其娣之袂良。月幾望。吉。袂、彌計反。○六五柔中居尊、下應九二、尙德而不貴飾。故爲帝女下嫁而服不盛之象。然女德之盛、无以加此。故又爲月幾望之象。而占者如之則吉也。
【読み】
○六五は、帝乙[ていいつ]妹を歸がしむ。其の君の袂は、其の娣の袂の良きに如かず。月望に幾し。吉なり。袂は、彌計の反。○六五は柔中にて尊きに居り、下は九二に應じ、德を尙びて飾りを貴ばず。故に帝女下嫁して服盛んならざるの象と爲す。然れども女の德の盛んなる、以て此に加うるは无し。故に又月望に幾しの象と爲す。而して占者之の如くなれば則ち吉なり。
○上六、女承筐无實、士刲羊无血。无攸利。刲、苦圭反。○上六以陰柔居歸妹之終而无應、約婚而不終者也。故其象如此、而於占爲无所利也。
【読み】
○上六は、女筐を承くるに實无く、士羊を刲[さ]くに血无し。利ろしき攸无し。刲は、苦圭の反。○上六は陰柔を以て歸妹の終わりに居りて應无く、婚を約して終えざる者なり。故に其の象此の如く、而して占に於ては利ろしき所无しと爲すなり。
離下震上 豐
豐、亨。王假之。勿憂。宜日中。假、更白反。○豐、大也。以明而動、盛大之勢也。故其占有亨道焉。然王者至此、盛極當衰、則又有憂道焉。聖人以爲徒憂无益、但能守常、不至於過盛則可矣。故戒以勿憂、宜日中也。
【読み】
豐は、亨る。王之に假[いた]る。憂うること勿かれ。日中に宜し。假は、更白の反。○豐とは、大いなり。明を以て動き、盛大の勢いなり。故に其の占に亨る道有り。然して王者此に至りて、盛極まり當に衰えんとすれば、則ち又憂うる道有り。聖人以爲えらく、徒憂えるは益无く、但能く常を守り、過盛に至らざれば則ち可なり、と。故に戒むるに憂うること勿かれ、日中に宜しを以てす。
○初九、遇其配主。雖旬无咎。往有尙。配主、謂四。旬、均也。謂皆陽也。當豐之時、明動相資。故初九之遇九四、雖皆陽剛、而其占如此也。
【読み】
○初九は、其の配主に遇う。旬[ひと]しと雖も咎无し。往けば尙ばるること有り。配主とは、四を謂う。旬とは、均しきなり。皆陽なるを謂う。豐の時に當たり、明動相資く。故に初九の九四に遇うは、皆陽剛なりと雖も、而して其の占此の如し。
○六二、豐其蔀。日中見斗。往得疑疾。有孚發若、吉。蔀、音部。○六二居豐之時、爲離之主、至明者也。而上應六五之柔暗。故爲豐蔀、見斗之象。蔀、障蔽也。大其障蔽。故日中而昏也。往而從之、則昏暗之主、必反見疑。唯在積其誠意以感發之則吉。戒占者宜如是也。虛中、有孚之象。
【読み】
○六二は、其の蔀[しとみ]を豐[おお]いにす。日中に斗を見る。往けば疑い疾[にく]まるることを得ん。孚有りて發若たれば、吉なり。蔀は、音部。○六二は豐の時に居り、離の主と爲り、至って明なる者なり。而して上は六五の柔暗に應ず。故に蔀を豐いにす、斗を見るの象と爲す。蔀とは、障蔽なり。其の障蔽を大いにす。故に日中にして昏し。往きて之に從えば、則ち昏暗の主なれば、必ず反って疑わる。唯其の誠意を積みて以て之を感發すること在れば則ち吉なり。占者を戒むるに、宜しく是の如くすべし、と。虛中、孚有るの象なり。
○九三、豐其沛。日中見沬。折其右肱。无咎。沬、昧同。莫佩反。折、食列反。○沛、一作旆。謂旛幔也。其蔽甚於蔀矣。沬、小星也。三處明極而應上六。雖不可用、而非咎也。故其象占如此。
【読み】
○九三は、其の沛を豐いにす。日中に沬[ばい]を見る。其の右肱を折る。咎无し。沬は、昧と同じ。莫佩の反。折は、食列の反。○沛は、一に旆に作る。旛幔を謂うなり。其の蔽うこと蔀より甚だし。沬とは、小星なり。三は明極に處りて上六に應ず。用うる可からずと雖も、而して咎非ず。故に其の象占此の如し。
○九四、豐其蔀。日中見斗。遇其夷主、吉。象與六二同。夷、等夷也。謂初九也。其占爲當豐而遇暗主、下就同德則吉也。
【読み】
○九四は、其の蔀を豐いにす。日中に斗を見る。其の夷主に遇えば、吉なり。象は六二と同じ。夷は、等夷なり。初九を謂う。其の占は豐に當りて暗主に遇えども、下の同じき德に就けば則ち吉なりと爲す。
○六五、來章、有慶譽。吉。質雖柔暗、若能來致天下之明、則有慶譽而吉矣。蓋因其柔暗而設此以開之。占者能如是、則如其占矣。
【読み】
○六五は、章を來せば、慶譽有り。吉なり。質は柔暗なりと雖も、若し能く天下の明を來致すれば、則ち慶譽有りて吉なり。蓋し其の柔暗に因りて此を設けて以て之を開くならん。占者能く是の如くなれば、則ち其の占の如し。
○上六、豐其屋、蔀其家。闚其戶、闃其无人。三歳不覿。凶。闃、苦鶪反。○以陰柔居豐極、處動終。明極而反暗者也。故爲豐大其屋而反以自蔽之象。无人、不覿、亦言障蔽之深。其凶甚矣。
【読み】
○上六は、其の屋を豐いにし、其の家に蔀す。其の戶を闚[うかが]うに、闃[げき]として其れ人无し。三歳まで覿[み]ず。凶なり。闃は、苦鶪の反。○陰柔を以て豐の極みに居り、動の終わりに處る。明極まりて反って暗き者なり。故に其の屋を豐大にして反って以て自ら蔽うの象と爲す。人无し、覿ずも、亦障蔽の深きを言う。其の凶なること甚だし。
艮下離上 旅
旅、小亨。旅貞吉。旅、羇旅也。山止於下、火炎於上。爲去其所止而不處之象。故爲旅。以六五得中於外、而順乎上下之二陽、艮止而離麗於明、故其占可以小亨、而能守其旅之貞則吉。旅非常居、若可苟者。然道无不在。故自有其正、不可須臾離也。
【読み】
旅は、小しく亨る。旅にては貞しければ吉なり。旅とは、羇旅なり。山は下に止まり、火は上に炎ゆ。其の止まる所を去りて處らざるの象と爲す。故に旅と爲す。六五は中を外に得て、上下の二陽に順い、艮は止まり離は明に麗くを以て、故に其の占は以て小しく亨る可くして、能く其の旅の貞しきを守れば則ち吉なり。旅は常居に非ず、苟にす可き者の若し。然れども道在らざるは无し。故に自ら其の正しき有りて、須臾も離るる可からざるなり。
○初六、旅瑣瑣。斯其所取災。當旅之時、以陰柔居下位。故其象占如此。
【読み】
○初六は、旅して瑣瑣たり。斯れ其の災いを取る所なり。旅の時に當たり、陰柔を以て下位に居る。故に其の象占此の如し。
○六二、旅卽次。懷其資、得童僕貞。卽次則安、懷資則裕。得其童僕之貞信、則无欺而有頼、旅之最吉者也。二有柔順中正之德。故其象占如此。
【読み】
○六二は、旅して次[やどり]に卽く。其の資[かね]を懷き、童僕の貞を得。次に卽けば則ち安んじ、資を懷けば則ち裕かなり。其の童僕の貞信を得れば、則ち欺かるること无くして頼り有りて、旅の最も吉なる者なり。二は柔順中正の德有り。故に其の象占此の如し。
○九三、旅焚其次。喪其童僕。貞厲。喪、息浪反。象同。○過剛不中、居下之上。故其象占如此。喪其童僕、則不止於失其心矣。故貞字連下句爲義。
【読み】
○九三は、旅して其の次を焚かる。其の童僕を喪う。貞しけれども厲[あや]うし。喪は、息浪の反。象も同じ。○過剛不中にて、下の上に居る。故に其の象占此の如し。其の童僕を喪えば、則ち其の心を失うに止まらず。故に貞の字は下の句に連ぬるを義と爲す。
○九四、旅于處。得其資斧。我心不快。以陽居陰、處上之下、用柔能下。故其象占如此。然非其正位、又上无剛陽之與、下唯陰柔之應。故其心有所不快也。
【読み】
○九四は、旅して于[ここ]に處る。其の資斧を得。我が心快からず。陽を以て陰に居り、上の下に處り、柔を用いて能く下る。故に其の象占此の如し。然れども其れ正位に非ず、又上は剛陽の與すること无く、下は唯陰柔の應あるのみ。故に其の心に快からざる所有るなり。
○六五、射雉、一矢亡。終以譽命。射、石亦反。○雉、文明之物、離之象也。六五柔順文明、又得中道、爲離之主。故得此爻者、爲射雉之象。雖不无亡矢之費、而所喪不多、終有譽命也。
【読み】
○六五は、雉を射て、一矢亡う。終に譽命を以てす。射は、石亦の反。○雉は、文明の物にて、離の象なり。六五は柔順文明にて、又中道を得て、離の主と爲る。故に此の爻を得る者は、雉を射るの象と爲す。矢を亡うの費え无きにあらずと雖も、而して喪う所は多からず、終に譽命有るなり。
○上九、鳥焚其巣。旅人先笑、後號咷。喪牛于易。凶。喪・易、並去聲。○上九過剛、處旅之上、離之極、驕而不順、凶之道也。故其象占如此。
【読み】
○上九は、鳥其の巣を焚かる。旅人先には笑い、後には號き咷ぶ。牛を易に喪う。凶なり。喪・易は、並去聲。○上九は過剛にて、旅の上、離の極みに處り、驕りて不順、凶の道なり。故に其の象占此の如し。
巽下巽上 巽
巽、小亨。利有攸往。利見大人。巽、入也。一陰伏於二陽之下、其性能巽以入也。其象爲風、亦取入義。陰爲主。故其占爲小亨。以陰從陽。故又利有所往。然必知所從、乃得其正。故又曰利見大人也。
【読み】
巽[そん]は、小しく亨る。往く攸有るに利ろし。大人を見るに利ろし。巽は、入るなり。一陰、二陽の下に伏し、其の性は能く巽以て入るなり。其の象は風と爲し、亦入るの義を取る。陰、主と爲る。故に其の占は小しく亨ると爲す。陰を以て陽に從う。故に又往く所有るに利ろし。然れども必ず從う所を知り、乃ち其の正しきを得。故に又曰く、大人を見るに利ろし、と。
○初六、進退。利武人之貞。初六以陰居下、爲巽之主、卑巽之過。故爲進退不果之象。若以武人之貞處之、則有以濟其所不及、而得所宜矣。
【読み】
○初六は、進み退く。武人の貞に利ろし。初六は陰を以て下に居り、巽の主と爲り、卑巽の過ぐるなり。故に進退果たさざるの象と爲す。若し武人の貞を以て之に處れば、則ち以て其の及ばざる所を濟うこと有りて、宜しき所を得。
*六・・・山崎嘉点は「六」、他の本には無い。
○九二、巽在牀下。用史巫紛若。吉、无咎。二以陽處陰而居下、有不安之意。然當巽之時、不厭其卑。而二又居中、不至已甚。故其占爲能過於巽、而丁寧煩悉其辭以自道達、則可以吉而无咎。亦竭誠意以祭祀之吉占也。
【読み】
○九二は、巽いて牀下に在り。史巫を用うること紛若たり。吉にして、咎无し。二は陽を以て陰に處りて下に居り、安からざるの意有り。然れども巽の時に當たり、其の卑しきを厭わず。而して二は又中に居り、已甚だしきに至らず。故に其の占は能く巽に過ぎて、其の辭を丁寧煩悉して以て自ら道達すれば、則ち以て吉にして咎无かる可しと爲す。亦誠意を竭くし以て祭祀するの吉占なり。
○九三、頻巽。吝。過剛不中、居下之上、非能巽者、勉爲屢失。吝之道也。故其象占如此。
【読み】
○九三は、頻りに巽[したが]う。吝なり。過剛不中にて、下の上に居り、能く巽う者に非ず、勉めて爲し屢々失う。吝の道なり。故に其の象占此の如し。
○六四、悔亡。田獲三品。陰柔无應、承乘皆剛、宜有悔也。而以陰居陰、處上之下。故得悔亡。而又爲卜田之吉占也。三品者、一爲乾豆、一爲賓客、一以充庖。
【読み】
○六四は、悔亡ぶ。田[かり]して三品を獲。陰柔にて應无く、承け乘ること皆剛にて、宜しく悔有るべし。而れども陰を以て陰に居り、上の下に處る。故に悔亡ぶを得。而して又田を卜うの吉占と爲すなり。三品とは、一を乾豆と爲し、一を賓客と爲し、一を庖に充つるを以てす。
○九五、貞吉悔亡。无不利。无初有終。先庚三日、後庚三日。吉。先、西薦反。後、胡豆反。○九五剛健中正、而居巽體。故有悔、以有貞而吉也、故得亡其悔而无不利。有悔、是无初也。亡之、是有終也。庚、更也。事之變也。先庚三日、丁也。後庚三日、癸也。丁、所以丁寧於其變之前。癸、所以揆度於其變之後。有所變更而得此占者、如是則吉也。
【読み】
○九五は、貞しければ吉にして悔亡ぶ。利ろしからざること无し。初め无くして終わり有り。庚に先だつこと三日、庚に後るること三日。吉なり。先は、西薦の反。後は、胡豆の反。○九五は剛健中正にして、巽の體に居る。故に悔有れども、貞しければ吉有るを以て、故に其の悔亡ぶを得て利ろしからざること无し。悔有れば、是れ初め无きなり。之を亡ぼせば、是れ終わり有るなり。庚は、更
[か]えるなり。事の變ずるなり。庚に先だつこと三日とは、丁なり。庚に後るること三日とは、癸なり。丁とは、其の變ずるの前に丁寧なる所以なり。癸とは、其の變ずるの後に揆り度る所以なり。變更する所有りて此の占を得る者は、是の如くなれば則ち吉なり。
○上九、巽在牀下。喪其資斧。貞凶。喪、息浪反。下同。○巽在牀下、過於巽者也。喪其資斧、失所以斷也。如是則雖貞亦凶矣。居巽之極、失其陽剛之德。故其象占如此。
【読み】
○上九は、巽いて牀下に在り。其の資斧を喪う。貞しけれども凶なり。喪は、息浪の反。下も同じ。○巽いて牀下に在りとは、巽うに過ぎたる者なり。其の資斧を喪うとは、斷つ所以を失うなり。是の如くなれば則ち貞しきと雖も亦凶なり。巽の極みに居り、其の陽剛の德を失う。故に其の象占此の如し。
兌下兌上 兌
兌、亨。利貞。兌、說也。一陰進乎二陽之上、喜之見乎外也。其象爲澤、取其說萬物、又取坎水而塞其下流之象。卦體剛中而柔外。剛中故說而亨、柔外故利於貞。蓋說有亨道、而其妄說不可以不戒。故其占如此。又柔外故爲說亨、剛中故利於貞、亦一義也。
【読み】
兌[だ:えつ]は、亨る。貞しきに利ろし。兌とは、說なり。一陰、二陽の上に進み、喜びの外に見るなり。其の象は澤と爲し、其の萬物を說ばせるを取り、又坎水にして其の下流を塞ぐの象を取る。卦の體は剛中にして柔外。剛中故に說びて亨り、柔外故に貞しきに利ろし。蓋し說べば亨る道有り、而して其れ妄りに說ぶは以て戒めざる可からず。故に其の占此の如し。又柔外故に說び亨ると爲し、剛中故に貞しきに利ろしも、亦一義なり。
○初九、和兌。吉。以陽爻居說體而處最下、又无係應。故其象占如此。
【読み】
○初九は、和して兌[よろこ]ぶ。吉なり。陽爻を以て說の體に居りて最下に處り、又係應无し。故に其の象占此の如し。
○九二、孚兌。吉、悔亡。剛中爲孚、居陰爲悔。占者以孚而說、則吉而悔亡矣。
【読み】
○九二は、孚[まこと]ありて兌ぶ。吉にして、悔亡ぶ。剛中にて孚と爲し、陰に居りて悔と爲す。占者孚を以て說べば、則ち吉にして悔亡ぶなり。
○六三、來兌。凶。陰柔不中正、爲兌之主。上无所應、而反來就二陽以求說。凶之道也。
【読み】
○六三は、來りて兌ぶ。凶なり。陰柔にて不中正、兌の主と爲る。上應ずる所无くして、反り來りて二陽に就き以て說びを求むる。凶の道なり。
○九四、商兌未寧。介疾有喜。四上承九五之中正、而下比六三之柔邪。故不能決而商度所說未能有定。然質本陽剛。故能介然守正、而疾惡柔邪也。如此則有喜矣。象占如此、爲戒深矣。
【読み】
○九四は、商[はか]りて兌ぶも、未だ寧からず。介[かた]く疾[にく]めば喜び有り。四は上は九五の中正を承けて、下は六三の柔邪に比しむ。故に決すること能わずして說ぶ所を商度して未だ定まること有ること能わず。然れども質は本陽剛。故に能く介然として正しきを守りて、柔邪を疾惡す。此の如くなれば則ち喜び有り。象占此の如く、戒めと爲すこと深し。
○九五、孚于剥。有厲。剥、謂陰能剥陽者也。九五陽剛中正、然當說之時、而居尊位、密近上六。上六陰柔爲說之主、處說之極、爲妄說以剥陽者也。故其占但戒以信于上六、則有危也。
【読み】
○九五は、剥に孚あり。厲[あや]うきこと有り。剥とは、陰の能く陽を剥ぐ者を謂うなり。九五は陽剛中正、然れども說の時に當たりて、尊位に居り、上六に密近す。上六は陰柔にて說の主と爲り、說の極みに處り、妄りに說び以て陽を剥ぐ者と爲す。故に其の占は但上六を信ずれば、則ち危うきこと有りを以て戒むなり。
*爲・・・山崎嘉点は「爲」、他の本では「能」。
○上六、引兌。上六成說之主、以陰居說之極、引下二陽相與爲說、而不能必其從也。故九五當戒、而此爻不言其吉凶。
【読み】
○上六は、引きて兌ぶ。上六は說びを成すの主にて、陰を以て說の極みに居り、下の二陽を引きて相與に說ばんと爲せども、而して其の從うを必とすること能わざるなり。故に九五は當に戒むべくして、此の爻は其の吉凶を言わず。
坎下巽上 渙
渙、亨。王假有廟。利渉大川。利貞。渙、呼亂反。假、庚白反。○渙、散也。爲卦下坎上巽、風行水上、離披解散之象。故爲渙。其變則本自漸卦九來居二而得中、六往居三得九之位、而上同於四。故其占可亨。又以祖考之精神旣散、故王者當至於廟以聚之。又以巽木坎水、舟楫之象、故利渉大川。其曰利貞、則占者之深戒也。
【読み】
渙は、亨る。王有廟に假[いた]る。大川を渉るに利ろし。貞しきに利ろし。渙は、呼亂の反。假は、庚白の反。○渙とは、散るなり。卦爲るや下は坎にて上は巽、風、水上に行きて、離れ披き解け散るの象。故に渙と爲す。其の變は則ち本漸の卦より九來りて二に居りて中を得、六往きて三に居りて九の位を得て、四に上同す。故に其の占は亨る可し。又祖考の精神旣に散るを以て、故に王者當に廟に至りて以て之を聚むべし。又巽木坎水は、舟楫の象なるを以て、故に大川を渉るに利ろし。其れ貞しきに利ろしと曰うは、則ち占者の深き戒めなり。
○初六、用拯馬壯。吉。居卦之初、渙之始也。始渙而拯之、爲力旣易。又有壯馬、其吉可知。初六非有濟渙之才、但能順乎九二。故其象占如此。
【読み】
○初六は、用[もっ]て拯[すく]うに馬壯んなり。吉なり。卦の初めに居り、渙の始めなり。始めの渙にして之を拯うは、力を爲すこと旣に易し。又壯馬有れば、其の吉なること知る可し。初六は渙れるを濟うの才有るに非ず、但能く九二に順うのみ。故に其の象占此の如し。
○九二、渙奔其机。悔亡。机、音几。○九而居二、宜有悔也。然當渙之時、來而不窮、能亡其悔者也。故其象占如此。蓋九奔而二机也。
【読み】
○九二は、渙のとき其の机に奔る。悔亡ぶ。机は、音几。○九にして二に居るは、宜しく悔有るべし。然れども渙の時に當たり、來りて窮まらず、能く其の悔を亡ぼす者なり。故に其の象占此の如し。蓋し九は奔にて二は机ならん。
○六三、渙其躬。无悔。陰柔而不中正、有私於己之象也。然居得陽位、志在濟時、能散其私以得无悔。故其占如此。大率此上四爻、皆因渙以濟渙者也。
【読み】
○六三は、其の躬を渙[ち]らす。悔无し。陰柔にして不中正、己に私有るの象なり。然れども居るに陽位を得て、志は時を濟うに在り、能く其の私を散らし以て悔无きを得。故に其の占此の如し。大率此の上の四爻は、皆渙れるに因りて以て渙を濟う者なり。
○六四、渙其羣。元吉。渙有丘。匪夷所思。居陰得正、上承九五、當濟渙之任者也。下无應與、爲能散其朋黨之象。占者如是、則大善而吉。又言能散其小羣以成大羣、使所散者聚而若丘、則非常人思慮之所及也。
【読み】
○六四は、其の羣を渙らす。元いに吉なり。渙るときは丘[あつ]まること有り。夷[つね]の思う所に匪ず。陰に居りて正を得、上は九五に承け、渙れるを濟うの任に當たる者なり。下に應與无く、能く其の朋黨を散らすの象と爲す。占者是の如くなれば、則ち大いに善にして吉。又言う、能く其の小羣を散らして以て大羣を成し、散る所の者聚めて丘の若くならしむるは、則ち常人の思慮の及ぶ所に非ず、と。
○九五、渙汗其大號。渙王居、无咎。陽剛中正以居尊位、當渙之時、能散其號令、與其居積、則可以濟渙而无咎矣。故其象占如此。九五巽體、有號令之象。汗、謂如汗之出而不反也。渙王居、如陸贄所謂散小儲而成大儲之意。
【読み】
○九五は、渙のとき其の大號を汗す。王居を渙らすも、咎无し。陽剛中正以て尊位に居り、渙の時に當たり、能く其の號令と、其の居積とを散らせば、則ち以て渙れるを濟いて咎无かる可し。故に其の象占此の如し。九五は巽の體にて、號令の象有り。汗とは、汗の出でて反らざるが如きを謂う。王居を渙らすとは、陸贄謂う所の小儲を散らして大儲を成すの意の如し。
○上九、渙其血去、逖出。无咎。去、起呂反。○上九以陽居渙極、能出乎渙。故其象占如此。血、謂傷害。逖、當作惕。與小畜六四同。言渙其血則去、渙其惕則出也。
【読み】
○上九は、渙のとき其の血[いた]み去り、逖[おそ]れ出づ。咎无し。去は、起呂の反。○上九は陽を以て渙の極みに居り、能く渙れるを出づ。故に其の象占此の如し。血とは、傷害を謂う。逖は、當に惕と作すべし。小畜の六四と同じ。言うこころは、其の血みを渙らせば則ち去り、其の惕れを渙らせば則ち出づ、と。
兌下坎上 節
節、亨。苦節。不可貞。節、有限而止也。爲卦下兌上坎、澤上有水、其容有限。故爲節。節固自有亨道矣。又其體陰陽各半、而二・五皆陽。故其占得亨。然至於太甚則苦矣。故又戒以不可守以爲貞也。
【読み】
節は、亨る。苦節す。貞にす可からず。節とは、限り有りて止むなり。卦爲るや下は兌にて上は坎、澤の上に水有り、其の容限り有り。故に節と爲す。節は固より自ら亨る道有り。又其の體は陰陽各々半ばにして、二・五は皆陽。故に其の占は亨るを得。然れども太甚だしきに至れば則ち苦しむ。故に又戒むるに守るを以て貞と爲す可からずを以てす。
○初九、不出戶庭。无咎。戶庭、戶外之庭也。陽剛得正、居節之初、未可以行、能節而止者也。故其象占如此。
【読み】
○初九は、戶庭を出でず。咎无し。戶庭とは、戶外の庭なり。陽剛にて正を得、節の初めに居りて、未だ以て行く可からず、能く節して止むる者なり。故に其の象占此の如し。
○九二、不出門庭。凶。門庭、門内之庭也。九二當可行之時、而失剛不正、上无應與、知節而不知通。故其象占如此。
【読み】
○九二は、門庭を出でず。凶なり。門庭とは、門内の庭なり。九二は行く可きの時に當たりて、剛を失いて不正、上に應與无く、節を知りて通ずるを知らず。故に其の象占此の如し。
○六三、不節若則嗟若。无咎。陰柔而不中正、以當節時、非能節者。故其象占如此。
【読み】
○六三は、節若たらざれば則ち嗟若たり。咎无し。陰柔にして不中正、以て節の時に當たり、能く節する者に非ず。故に其の象占此の如し。
○六四、安節。亨。柔順得正、上承九五、自然有節者也。故其象占如此。
【読み】
○六四は、節に安んず。亨る。柔順にて正を得、上は九五に承け、自然に節有る者なり。故に其の象占此の如し。
○九五、甘節。吉。往有尙。所謂當位以節、中正以通者也。故其象占如此。
【読み】
○九五は、甘節す。吉なり。往けば尙ばるること有り。所謂位に當たりて以て節あり、中正以て通ずる者なり。故に其の象占此の如し。
○上六、苦節。貞凶。悔亡。居節之極。故爲苦節。旣處過極。故雖得正而不免於凶。然禮奢寧儉。故雖有悔而終得亡之也。
【読み】
○上六は、苦節す。貞しけれども凶なり。悔亡ぶ。節の極みに居る。故に苦節すと爲す。旣に過ぎ極まるに處る。故に正を得ると雖も凶を免れず。然れども禮は奢らんよりは寧ろ儉ならん。故に悔有りと雖も終に之を亡ぶるを得るなり。
兌下巽上 中孚
中孚、豚魚吉。利渉大川。利貞。孚、信也。爲卦二陰在内、四陽在外、而二・五之陽、皆得其中。以一卦言之爲中虛、以二體言之爲中實、皆孚信之象也。又下說以應上、上巽以順下、亦爲孚義。豚魚、无知之物。又木在澤上、外實内虛、皆舟楫之象。至信可感豚魚、渉險難、而不可以失其貞。故占者能致豚魚之應、則吉而利渉大川、又必利於貞也。
【読み】
中孚[ちゅうふ]は、豚魚も吉なり。大川を渉るに利ろし。貞しきに利ろし。孚とは、信なり。卦爲るや二陰内に在り、四陽外に在りて、二・五の陽は、皆其の中を得。一卦を以て之を言えば中虛と爲し、二體を以て之を言えば中實と爲し、皆孚信の象なり。又下は說以て上に應じ、上は巽以て下に順い、亦孚の義と爲す。豚魚とは、无知の物。又木、澤の上に在り、外は實にて内は虛、皆舟楫の象なり。至信なれば豚魚を感ず可く、險難を渉れども、而れども以て其の貞しきを失う可からず。故に占者能く豚魚の應を致せば、則ち吉にして大川を渉るに利ろしく、又必ず貞しきに利ろし。
○初九、虞吉。有他不燕。他、湯何反。○當中孚之初、上應六四、能度其可信而信之則吉。復有他焉、則失其所以度之之正、而不得其所安矣。戒占者之辭也。
【読み】
○初九は、虞[やす]んずれば吉なり。他有れば燕[やす]からず。他は、湯何の反。○中孚の初めに當たり、上は六四に應じ、能く其の信ず可きを度りて之を信ずれば則ち吉なり。復他有れば、則ち其の之を度る所以の正しきを失いて、其の安んずる所を得ず。占者を戒むるの辭なり。
○九二、鳴鶴在陰、其子和之。我有好爵。吾與爾靡之。和、胡臥反。靡、亡池反。○九二中孚之實、而九五亦以中孚之實應之。故有鶴鳴子和、我爵爾靡之象。鶴在陰、謂九居二。好爵、謂得中。靡、與縻同。言懿德人之所好。故好爵雖我之所獨有、而彼亦係戀之也。
【読み】
○九二は、鳴鶴陰に在り、其の子之を和す。我に好き爵有り。吾爾と之に靡[かか]らん。和は、胡臥の反。靡は、亡池の反。○九二は中孚の實にして、九五も亦中孚の實を以て之に應ず。故に鶴鳴けば子和し、我が爵爾と之に靡るの象有り。鶴陰に在りとは、九の二に居るを謂う。好き爵とは、中を得るを謂う。靡は、縻と同じ。言うこころは、懿德は人の好む所。故に好き爵は我の獨り有する所と雖も、而して彼も亦之を係戀す、と。
○六三、得敵。或鼓、或罷、或泣、或歌。敵、謂上九、信之窮者。六三陰柔不中正、以居說極而與之爲應。故不能自主、而其象如此。
【読み】
○六三は、敵を得たり。或は鼓ち、或は罷め、或は泣き、或は歌う。敵とは、上九を謂い、信の窮まる者なり。六三は陰柔にて不中正、以て說びの極みに居りて之と應を爲す。故に自ら主とすること能わずして、其の象此の如し。
○六四、月幾望。馬匹亡。无咎。幾、音機。望、无方反。○六四居陰得正、位近於君、爲月幾望之象。馬匹、謂初與己爲匹。四乃絶之、而上以信於五。故爲馬匹亡之象。占者如是則无咎也。
【読み】
○六四は、月望に幾[ちか]し。馬の匹を亡う。咎无し。幾は、音機。望は、无方の反。○六四は陰に居りて正を得、位は君に近く、月望に幾しの象と爲す。馬の匹とは、初と己と匹を爲すを謂う。四は乃ち之を絶ちて、上りて以て五を信ず。故に馬の匹を亡うの象と爲す。占者是の如くなれば則ち咎无きなり。
○九五、有孚攣如。无咎。攣、力圓反。○九五剛健中正、中孚之實、而居尊位、爲孚之主者也。下應九二、與之同德。故其象占如此。
【読み】
○九五は、孚有りて攣如[れんじょ]たり。咎无し。攣は、力圓の反。○九五は剛健中正、中孚の實にして、尊位に居り、孚の主と爲る者なり。下は九二に應じ、之と同じき德なり。故に其の象占此の如し。
○上九、翰音登于天。貞凶。居信之極而不知變、雖得其貞、亦凶道也。故其象占如此。雞曰翰音、乃巽之象。居巽之極、爲登于天。雞非登天之物而欲登天。信非所信而不知變、亦猶是也。
【読み】
○上九は、翰音天に登る。貞しけれども凶なり。信の極みに居りて變ずるを知らず、其の貞しきを得ると雖も、亦凶の道なり。故に其の象占此の如し。雞を翰音と曰い、乃ち巽の象なり。巽の極みに居り、天に登らんと爲す。雞は天を登る物に非ずして天に登らんと欲す。信ずる所に非ざるを信じて變ずるを知らざること、亦猶是のごとし。
艮下震上 小過
小過、亨。利貞。可小事。不可大事。飛鳥遺之音。不宜上、宜下。大吉。小、謂陰也。爲卦四陰在外、二陽在内、陰多於陽、小者過也。旣過於陽、可以亨矣。然必利於守貞、則又不可以不戒也。卦之二・五、皆以柔而得中。故可小事。三・四皆以剛失位而不中。故不可大事。卦體内實外虛、如鳥之飛。其聲下而不上。故能致飛鳥遺音之應、則宜下而大吉、亦不可大事之類也。
【読み】
小過は、亨る。貞しきに利ろし。小事には可なり。大事には可ならず。飛鳥之が音を遺す。上るに宜しからず、下るに宜し。大いに吉なり。小とは、陰を謂うなり。卦爲るや四陰は外に在り、二陽は内に在り、陰は陽より多く、小は過ぎるなり。旣に陽に過ぎれば、以て亨る可し。然れども必ず貞しきを守るに利ろしくして、則ち又以て戒めざる可からざるなり。卦の二・五は、皆柔を以て中を得。故に小事には可なり。三・四は皆剛を以て位を失いて不中。故に大事には可ならず。卦の體は内は實にて外は虛、鳥の飛ぶが如し。其の聲は下りて上らず。故に能く飛鳥音を遺すの應を致せば、則ち下るに宜しくして大吉にて、亦大事には可ならざるの類なり。
○初六、飛鳥以凶。初六陰柔、上應九四、又居過時、上而不下者也。飛鳥遺音、不宜上宜下。故其象占如此。郭璞洞林、占得此者、或致羽蟲之孼。
【読み】
○初六は、飛鳥以て凶なり。初六は陰柔にて、上は九四に應じ、又過ぐる時に居り、上りて下らざる者なり。飛鳥音を遺して、上るに宜しからず下るに宜し。故に其の象占此の如し。郭璞の洞林に、占いて此を得る者は、或は羽蟲の孼を致す、と。
○六二、過其祖、遇其妣。不及其君、遇其臣。无咎。六二柔順中正、進則過三・四而遇六五。是過陽而反遇陰也。如此、則不及六五而自得其分。是不及君而適遇其臣也。皆過而不過、守正得中之意、无咎之道也。故其象占如此。
【読み】
○六二は、其の祖を過ぎて、其の妣に遇う。其の君に及ばずして、其の臣に遇う。咎无し。六二は柔順中正にて、進めば則ち三・四を過ぎて六五に遇う。是れ陽を過ぎて反って陰に遇うなり。此の如くなれば、則ち六五に及ばずして自ら其の分を得。是れ君に及ばずして適に其の臣に遇うなり。皆過ぎて過ぎず、正しきを守りて中を得るの意にて、咎无きの道なり。故に其の象占此の如し。
○九三、弗過防之、從或戕之。凶。戕、在良反。○小過之時、事每當過、然後得中。九三以剛居正、衆陰所欲害者也。而自恃其剛、不肯過爲之備。故其象占如此。若占者能過防之、則可以免矣。
【読み】
○九三は、過ぎて之を防がざれば、從いて或は之を戕[そこな]う。凶なり。戕は、在良の反。○小過の時は、事每に當に過ぎるべく、然して後に中を得。九三は剛を以て正に居り、衆陰害せんと欲する所の者なり。而れども自ら其の剛を恃み、肯えて過ぎて之が備えを爲さず。故に其の象占此の如し。若し占者能く過ぎて之を防げば、則ち以て免る可し。
○九四、无咎。弗過遇之。往厲必戒。勿用永貞。當過之時、以剛處柔、過乎恭矣。无咎之道也。弗過遇之、言弗過於剛而適合其宜也。往則過矣。故有厲而當戒。陽性堅剛。故又戒以勿用永貞。言當隨時之宜、不可固守也。或曰、弗過遇之、若以六二爻例、則當如此說。若依九三爻例、則過遇當如過防之義。未詳孰是。當闕以俟知者。
【読み】
○九四は、咎无し。過ぎずして之に遇う。往けば厲[あや]うくして必ず戒むべし。永貞に用うること勿かれ。過の時に當たり、剛を以て柔に處り、恭に過ぐ。咎无きの道なり。過ぎずして之に遇うとは、言うこころは、剛に過ぎずして適に其の宜しきに合う、と。往けば則ち過ぐ。故に厲うきこと有りて當に戒むべし。陽は性堅剛。故に又戒むるに永貞に用うること勿かれを以てす。言うこころは、當に時の宜しきに隨うべく、固く守る可からず、と。或は曰く、過ぎずして之に遇うは、若し六二の爻例を以てすれば、則ち當に此の說の如くなるべし。若し九三の爻例に依れば、則ち過遇は當に過防の義の如くなるべし、と。未だ孰れか是なるか詳らかならず。當に闕きて以て知者を俟つべし。
○六五、密雲不雨。自我西郊。公弋取彼在穴。弋、餘職反。○以陰居尊、又當陰過之時、不能有爲。而弋取六二以爲助。故有此象。在穴、陰物也。兩陰相得、其不能濟大事可知。
【読み】
○六五は、密雲あれども雨ふらず。我が西郊よりす。公弋[いぐるみ]して彼の穴に在るを取る。弋は、餘職の反。○陰を以て尊きに居り、又陰、過ぎるの時に當たり、爲すこと有ること能わず。而して六二を弋して取りて以て助けと爲す。故に此の象有り。穴に在るは、陰物なり。兩陰相得れども、其の大事を濟すこと能わざること知る可し。
○上六、弗遇過之。飛鳥離之。凶。是謂災眚。眚、生領反。○六以陰居動體之上。處陰過之極、過之已高而甚遠者也。故其象占如此。或曰、遇過、恐亦只當作過遇。義同九四。未知是否。
【読み】
○上六は、遇わずして之を過ぐ。飛鳥之を離る。凶なり。是を災眚[さいせい]と謂う。眚は、生領の反。○六は陰を以て動の體の上に居る。陰、過ぎる極みに處り、過ぎることの已だ高くして甚だ遠き者なり。故に其の象占此の如し。或は曰く、遇過は、恐らくは亦只當に過遇と作すべし、と。義は九四に同じ。未だ是否を知らず。
離下坎上 旣濟
旣濟、亨小。利貞。初吉、終亂。旣濟、事之旣成也。爲卦水火相交、各得其用、六爻之位、各得其正。故爲旣濟。亨小、當爲小亨。大抵此卦及六爻占辭、皆有警戒之意。時當然也。
【読み】
旣濟[きせい]は、亨ること小なり。貞しきに利ろし。初めは吉にして、終わりは亂る。旣濟とは、事の旣に成るなり。卦爲るや水火相交わり、各々其の用を得、六爻の位は、各々其の正を得。故に旣濟と爲す。亨小は、當に小亨と爲すべし。大抵此の卦及び六爻の占辭は、皆警戒の意有り。時當に然るべし。
○初九、曳其輪、濡其尾。无咎。曳、以制反。濡、音如。○輪在下、尾在後。初之象也。曳輪則車不前、濡尾則狐不濟。旣濟之初、謹戒如是。无咎之道。占者如是、則无咎矣。
【読み】
○初九は、其の輪を曳き、其の尾を濡らす。咎无し。曳は、以制の反。濡は、音如。○輪は下に在り、尾は後ろに在り。初の象なり。輪を曳けば則ち車前まず、尾を濡らせば則ち狐濟
[わた]らず。旣濟の初め、謹戒すること是の如し。咎无きの道なり。占者是の如くすれば、則ち咎无きなり。
○六二、婦喪其茀。勿逐。七日得。喪、息浪反。茀、力佛反。○二以文明中正之德、上應九五剛陽中正之君、宜得行其志。而九五居旣濟之時、不能下賢以行其道。故二有婦喪其茀之象。茀、婦車之蔽。言失其所以行也。然中正之道、不可終廢、時過則行矣。故又有勿逐而自得之戒。
【読み】
○六二は、婦其の茀[ふつ]を喪う。逐うこと勿かれ。七日にして得ん。喪は、息浪の反。茀は、力佛の反。○二は文明にて中正の德を以て、上は九五の剛陽中正の君に應じ、宜しく其の志を行うを得べし。而れども九五は旣濟の時に居り、賢に下りて以て其の道を行うこと能わず。故に二に婦其の茀を喪うの象有り。茀とは、婦の車の蔽なり。其の行う所以を失うを言うなり。然れども中正の道は、終に廢る可からず、時過ぎれば則ち行わる。故に又逐うこと勿くして自ら得るの戒め有り。
○九三、高宗伐鬼方、三年克之。小人勿用。旣濟之時、以剛居剛、高宗伐鬼方之象也。三年克之、言其久而後克。戒占者不可輕動之意。小人勿用、占法與師上六同。
【読み】
○九三は、高宗鬼方を伐ち、三年にして之に克つ。小人は用うること勿かれ。旣濟の時、剛を以て剛に居り、高宗鬼方を伐つの象なり。三年にして之に克つとは、其の久しくして後に克つを言う。占者を戒むるに輕々しく動く可からずの意あり。小人は用うること勿かれとは、占法は師の上六と同じ。
○六四、繻有衣袽。終日戒。繻、而朱反。袽、女居反。○旣濟之時、以柔居柔、能豫備而戒懼者也。故其象如此。程子曰、繻、當作濡。衣袽、所以塞舟之罅漏。
【読み】
○六四は、繻[ぬ]るるに衣袽[いじょ]有り。終日戒む。繻は、而朱の反。袽は、女居の反。○旣濟の時、柔を以て柔に居り、能く豫め備えて戒懼する者なり。故に其の象此の如し。程子曰く、繻は、當に濡と作すべし、と。衣袽とは、舟の罅漏を塞ぐ所以なり。
○九五、東鄰殺牛、不如西鄰之禴祭、實受其福。東陽、西陰。言九五居尊而時已過、不如六二之在下而始得時也。又當文王與紂之事。故其象占如此。彖辭初吉終亂、亦此意也。
【読み】
○九五は、東鄰の牛を殺すは、西鄰の禴祭[やくさい]、實に其の福を受くに如かず。東は陽、西は陰。言うこころは、九五は尊きに居りて時已に過ぎ、六二の下に在りて始めて時を得るに如かず、と。又文王と紂との事に當たる。故に其の象占此の如し。彖辭の初めは吉、終わりは亂るるも、亦此の意なり。
○上六、濡其首。厲。旣濟之極、險體之上、而以陰柔處之。爲狐渉水而濡其首之象。占者不戒、危之道也。
【読み】
○上六は、其の首を濡らす。厲[あや]うし。旣濟の極み、險の體の上にして、陰柔を以て之に處る。狐水を渉らんとして其の首を濡らすの象と爲す。占者戒まざれば、危うきの道なり。
坎下離上 未濟
未濟、亨。小狐汔濟、濡其尾。无攸利。汔、許訖反。○未濟、事未成之時也。水火不交、不相爲用、卦之六爻、皆失其位。故爲未濟。汔、幾也。幾濟而濡尾、猶未濟也。占者如此、何所利哉。
【読み】
未濟[びせい]は、亨る。小狐汔[ほとん]ど濟[わた]らんとして、其の尾を濡らす。利ろしき攸无し。汔は、許訖の反。○未濟は、事未だ成らざるの時なり。水火交わらず、用を相爲さず、卦の六爻、皆其の位を失う。故に未濟と爲す。汔とは、幾どなり。幾ど濟らんとして尾を濡らせば、猶未だ濟らざるがごとし。占者此の如くなれば、何ぞ利ろしき所あらんや。
○初六、濡其尾。吝。以陰居下、當未濟之初、未能自進。故其象占如此。
【読み】
○初六は、其の尾を濡らす。吝なり。陰を以て下に居り、未濟の初めに當たり、未だ自ら進むこと能わず。故に其の象占此の如し。
○九二、曳其輪。貞吉。以九二應六五而居柔得中、爲能自止而不進、得爲下之正也。故其象占如此。
【読み】
○九二は、其の輪を曳く。貞しければ吉なり。九二、六五に應じて柔に居り中を得るを以て、能く自ら止まりて進まずと爲し、下爲るの正しきを得。故に其の象占此の如し。
○六三、未濟。征凶。利渉大川。陰柔不中正、居未濟之時、以征則凶。然以柔乘剛、將出乎坎、有利渉之象。故其占如此。蓋行者可以水浮、而不可以陸走也。或疑利字上當有不字。
【読み】
○六三は、未だ濟[な]らず。征けば凶なり。大川を渉るに利ろし。陰柔にて不中正、未濟の時に居り、以て征けば則ち凶なり。然れども柔を以て剛に乘り、將に坎を出でんとすれば、渉るに利ろしの象有り。故に其の占此の如し。蓋し行く者は以て水に浮かぶ可くして、以て陸に走る可からざるならん。或は疑うらくは利の字の上に當に不の字有るべし。
○九四、貞吉、悔亡。震用伐鬼方、三年有賞于大國。以九居四、不正而有悔也。能勉而貞、則悔亡矣。然以不貞之資、欲勉而貞、非極其陽剛用力之久不能也。故爲伐鬼方、三年而受賞之象。
【読み】
○九四は、貞しければ吉にして、悔亡ぶ。震[うご]いて用[もっ]て鬼方を伐てば、三年にして大國に賞せらるること有り。九を以て四に居り、不正にして悔有り。能く勉めて貞しくすれば、則ち悔亡ぶなり。然れども不貞の資を以て、勉めて貞を欲するは、其の陽剛を極めて力を用うること久しきに非ざれば能わざるなり。故に鬼方を伐てば、三年にして賞を受くの象と爲す。
○六五、貞吉无悔。君子之光。有孚吉。以六居五、亦非正也。然文明之主、居中應剛、虛心以求下之助。故得貞而吉且无悔。又有光輝之盛、信實而不妄。吉而又吉也。
【読み】
○六五は、貞しければ吉にして悔无し。君子の光あり。孚有りて吉なり。六を以て五に居り、亦正に非ず。然れども文明の主にて、中に居り剛に應じ、虛心以て下の助けを求む。故に貞しくして吉且つ悔无きを得。又光輝の盛ん有り、信實にして妄ならず。吉にして又吉なり。
○上九、有孚于飮酒。无咎。濡其首、有孚失是。以剛明居未濟之極、時將可以有爲、而自信自養以俟命。无咎之道也。若縱而不反、如狐之渉水而濡其首、則過於自信而失其義矣。
【読み】
○上九は、酒を飮むに孚有り。咎无し。其の首を濡らすときは、孚有れども是を失う。剛明を以て未濟の極みに居り、時將に以て爲すこと有る可くして、自ら信じ自ら養い以て命を俟つ。咎无きの道なり。若し縱にして反らず、狐の水を渉りて其の首を濡らすが如くなれば、則ち自ら信ずることに過ぎて其の義を失うならん。
上彖傳
彖、卽文王所繫之辭。傳者、孔子所以釋經之辭也。後凡言傳者放此。
【読み】
○彖とは、卽ち文王の繫ける所の辭。傳は、孔子經を釋く所以の辭なり。後凡そ傳と言う者は此に放え。
乾下乾上 乾
○大哉乾元、萬物資始。乃統天。彖、吐亂反。○此專以天道明乾義。又析元亨利貞爲四德、以發明之。而此一節、首釋元義也。大哉、歎辭。元、大也、始也。乾元、天德之大始。故萬物之生、皆資之以爲始也。又爲四德之首、而貫乎天德之始終。故曰統天。
【読み】
○大いなるかな乾元、萬物資りて始む。乃ち天を統ぶ。彖は、吐亂の反。○此れ專ら天道を以て乾の義を明らかにす。又元亨利貞を析いて四德と爲し、以て之を發明す。而して此の一節は、首めに元の義を釋くなり。大いなるかなは、歎辭。元とは、大いなり、始めなり。乾元は、天德の大始。故に萬物の生ずる、皆之に資りて以て始めと爲す。又四德の首めと爲りて、天德の始終を貫く。故に天を統ぶと曰う。
雲行雨施、品物流形。施、始豉反。卦内同。○此釋乾之亨也。
【読み】
雲行き雨施し、品物形を流[し]く。施は、始豉の反。卦の内も同じ。○此れ乾の亨るを釋く。
大明終始、六位時成。時乘六龍以御天。始、卽元也。終、謂貞也。不終則无始。不貞則无以爲元也。此言聖人大明乾道之終始、則見卦之六位各以時成、而乘此六陽以行天道。是乃聖人之元亨也。
【読み】
大いに終始を明らかにし、六位時に成る。時に六龍に乘りて以て天に御す。始とは、卽ち元なり。終とは、貞を謂うなり。終わらざれば則ち始め无し。貞しからざれば則ち以て元を爲すこと无し。此れ聖人大いに乾道の終始を明らかにして、則ち卦の六位各々時を以て成るを見て、而して此の六陽に乘りて以て天道を行うを言う。是れ乃ち聖人の元いに亨るなり。
乾道變化、各正性命、保合太和、乃利貞。變者、化之漸。化者、變之成。物所受爲性、天所賦爲命。太和、陰陽會合沖和之氣也。各正者、得於有生之初。保合者、全於已生之後。此言乾道變化、无所不利、而萬物各得其性命以自全。以釋利貞之義也。
【読み】
乾道變化し、各々性命を正しくし、太和を保合するは、乃ち利貞なり。變は、化の漸。化は、變の成るなり。物の受くる所を性と爲し、天の賦す所を命と爲す。太和とは、陰陽の會合する沖和の氣なり。各々正しくすは、有生の初めに得るなり。保合は、已生の後に全きなり。此れ乾道變化は、利ろしからざる所无くして、萬物各々其の性命を得て以て自ら全きを言う。以て利貞の義を釋くなり。
首出庶物、萬國咸寧。聖人在上、高出於物、猶乾道之變化也。萬國各得其所而咸寧、猶萬物之各正性命而保合太和也。此言聖人之利貞也。蓋嘗統而論之。元者物之始生、亨者物之暢茂、利則向於實也。貞則實之成也。實之旣成、則其根蔕脱落、可復種而生矣。此四德之所以循環而无端也。然而四者之閒、生氣流行、初无閒斷。此元之所以包四德而統天也。其以聖人而言、則孔子之意、蓋以此卦爲聖人得天位、行天道、而致太平之占也。雖其文義有非文王之舊者、然讀者各以其意求之、則並行而不悖也。坤卦放此。
【読み】
庶物に首出して、萬國咸[ことごと]く寧し。聖人上に在り、高く物に出づるは、猶乾道の變化するがごとし。萬國各々其の所を得て咸く寧きは、猶萬物の各々性命を正しくして太和を保合するがごとし。此れ聖人の利貞を言うなり。蓋し嘗みに統べて之を論ぜん。元は物の始めて生じ、亨は物の暢茂し、利は則ち實に向かうなり。貞は則ち實の成るなり。實旣に成れば、則ち其の根蔕脱落し、復種よりして生ず可し。此れ四德の循環して端无き所以なり。然して四つの者の閒、生氣流行し、初めより閒斷无し。此れ元の四德を包ねて天を統ぶ所以なり。其れ聖人を以て言えば、則ち孔子の意は、蓋し此の卦を以て聖人天位を得、天道を行い、而して太平を致すの占と爲すならん。其の文義は文王の舊に非ざる者有りと雖も、然れども讀者各々其の意を以て之を求むれば、則ち並行いて悖らざるなり。坤の卦も此に放え。
坤下坤上 坤
○至哉坤元、萬物資生。乃順承天。此以地道明坤之義。而首言元也。至、極也。比大義差緩。始者、氣之始。生者、形之始。順承天施、地之道也。
【読み】
○至れるかな坤元、萬物資りて生ず。乃ち順いて天を承く。此れ地道を以て坤の義を明らかにす。而して首めは元を言うなり。至とは、極なり。大に比べて義は差緩し。始めは、氣の始め。生ずるは、形の始め。順いて天の施しを承くるは、地の道なり。
坤厚載物、德合无疆。含弘光大、品物咸亨。疆、居良反。下同。○言亨也。德合无疆、謂配乾也。
【読み】
坤は厚くして物を載せ、德は无疆に合す。含弘光大にして、品物咸く亨る。疆は、居良の反。下も同じ。○亨るを言うなり。德は无疆に合すとは、乾に配するを謂うなり。
牝馬地類、行地无疆。柔順利貞、君子攸行。言利貞也。馬、乾之象、而以爲地類者。牝、陰物。而馬又行地之物也。行地无疆、則順而健矣。柔順利貞、坤之德也。君子攸行、人之所行、如坤之德也。所行如是、則其占如下文所云也。
【読み】
牝馬は地の類、地を行くこと疆[かぎ]り无し。柔順利貞は、君子行う攸なり。利貞を言うなり。馬は、乾の象にして、以て地の類と爲る者。牝は、陰物。而して馬も又地を行くの物なり。地を行くこと疆り无しとは、則ち順にして健なればなり。柔順利貞は、坤の德なり。君子行う攸は、人の行う所にて、坤の德の如し。行う所是の如くなれば、則ち其の占は下文云う所の如し。
先迷失道、後順得常。西南得朋、乃與類行。東北喪朋、乃終有慶。陽大陰小、陽得兼陰、陰不得兼陽。故坤之德、常減於乾之半也。東北雖喪朋、然反之西南、則終有慶矣。
【読み】
先んずれば迷いて道を失い、後るれば順いて常を得。西南には朋を得とは、乃ち類と行えばなり。東北には朋を喪うとは、乃ち終に慶び有るなり。陽は大にて陰は小、陽は陰を兼ねることを得、陰は陽を兼ねることを得ず。故に坤の德は、常に乾の半を減ずるなり。東北は朋を喪うと雖も、然れども反って西南に之けば、則ち終に慶び有るなり。
安貞之吉、應地无疆。安而且貞、地之德也。
【読み】
安貞の吉とは、地の无疆に應ずるなり。安んじて且つ貞なるは、地の德なり。
震下坎上 屯
○屯、剛柔始交而難生。難、去聲。六二象同。○以二體釋卦名義。始交、謂震。難生、謂坎。
【読み】
○屯は、剛柔始めて交わりて難[なや]み生ず。難は、去聲。六二の象も同じ。○二體を以て卦の名義を釋く。始めて交わるとは、震を謂う。難み生ずとは、坎を謂う。
動乎險中。大亨貞。以二體之德釋卦辭。動、震之爲也。險、坎之地也。自此以下、釋元亨利貞。乃用文王本意。
【読み】
險中に動く。大いに亨りて貞し。二體の德を以て卦辭を釋く。動とは、震の爲すなり。險とは、坎の地なり。此より以下は、元亨利貞を釋く。乃ち文王の本意を用ゆ。
雷雨之動滿盈。天造草昧、宜建侯而不寧。以二體之象釋卦辭。雷、震象。雨、坎象。天造、猶言天運。草、雜亂。昧、晦冥也。陰陽交而雷雨作。雜亂晦冥、塞乎兩閒。天下未定、名分未明。宜立君以統治、而未可遽謂安寧之時也。不取初九爻義者、取義多端、姑舉其一也。
【読み】
雷雨の動き滿ち盈つ。天造草昧、宜しく侯を建つべくしていまだ寧からず。二體の象を以て卦辭を釋く。雷は、震の象。雨は、坎の象。天造とは、猶天運を言うがごとし。草は、雜亂。昧は、晦冥なり。陰陽交わりて雷雨作る。雜亂晦冥して、兩つの閒を塞ぐ。天下未だ定まらず、名分未だ明らかならず。宜しく君を立てて以て統べ治むべく、而して未だ遽に安寧の時と謂う可からず。初九の爻義を取らざるは、義を取ること多端にて、姑く其の一を舉ぐればなり。
坎下艮上 蒙
○蒙、山下有險。險而止、蒙。以卦象卦德釋卦名有兩義。
【読み】
○蒙は、山下に險有り。險にして止まるは、蒙なり。卦象卦德を以て卦の名に兩義有るを釋く。
蒙亨、以亨行時中也。匪我求童蒙、童蒙求我、志應也。初筮告、以剛中也。再三瀆、瀆則不告、瀆蒙也。蒙以養正、聖功也。以卦體釋卦辭也。九二以可亨之道、發人之蒙、而又得其時之中、謂如下文所指之事、皆以亨行而當其可也。志應者、二剛明、五柔暗。故二不求五而五求二、其志自相應也。以剛中者、以剛而中、故能告而有節也。瀆、筮者二三、則問者固瀆、而告者亦瀆矣。蒙以養正、乃作聖之功、所以釋利貞之義也。
【読み】
蒙は亨るとは、亨るべきを以て行えば時中なり。我より童蒙に求むるに匪ず、童蒙より我に求むとは、志應ずるなり。初筮は告ぐとは、剛中を以てなり。再三すれば瀆る、瀆るれば則ち告げずとは、蒙を瀆せばなり。蒙以て正を養うは、聖の功なり。卦體を以て卦辭を釋くなり。九二の亨る可きの道を以て、人の蒙を發き、而して又其の時の中を得るは、下文指す所の事の如きを謂い、皆亨るべきを以て行いて其の可に當たるべし。志應ずは、二は剛明、五は柔暗。故に二は五に求めずして五は二に求め、其の志自ら相應ずるなり。剛中を以ては、剛にして中なるを以て、故に能く告げて節有るなり。瀆るとは、筮者二たび三たびすれば、則ち問う者固より瀆れ、而して告ぐる者も亦瀆るるなり。蒙以て正を養うは、乃ち聖と作るの功、利貞の義を釋く所以なり。
乾下坎上 需
○需、須也。險在前也。剛健而不陷、其義不困窮矣。此以卦德釋卦名義。
【読み】
○需は、須[ま]つなり。險前に在るなり。剛健にして陷らず、其の義困窮せず。此れ卦德を以て卦の名義を釋く。
需、有孚、光亨、貞吉、位乎天位、以正中也。利渉大川、往有功也。以卦體及兩象釋卦辭。
【読み】
需は、孚有れば、光いに亨る、貞しくして吉とは、天位に位するに、正中を以てするなり。大川を渉るに利ろしとは、往きて功有るなり。卦體及び兩象を以て卦辭を釋く。
坎下乾上 訟
○訟、上剛下險。險而健、訟。以卦德釋卦名義。
【読み】
○訟は、上剛にして下險なり。險にして健なるは、訟なり。卦德を以て卦の名義を釋く。
訟、有孚窒、惕中吉、剛來而得中也。終凶、訟不可成也。利見大人、尙中正也。不利渉大川、入于淵也。以卦變卦體卦象釋卦辭。
【読み】
訟は、孚有りて窒がる、惕れて中なれば吉とは、剛來りて中を得ればなり。終われば凶とは、訟は成す可からざればなり。大人を見るに利ろしとは、中正を尙べばなり。大川を渉るに利ろしからずとは、淵に入ればなり。卦變卦體卦象を以て卦辭を釋く。
坎下坤上 師
○師、衆也。貞、正也。能以衆正、可以王矣。王、往況反。○此以卦體釋師貞之義。以、謂能左右之也。一陽在下之中、而五陰皆爲所以也。能以衆正、則王者之師矣。
【読み】
○師は、衆なり。貞は、正なり。能く衆を以[ひき]いて正しければ、以て王たる可し。王は、往況の反。○此れ卦體を以て師貞の義を釋く。以は、能く之を左右するを謂うなり。一陽下の中に在りて、五陰は皆以いる所と爲すなり。能く衆を以いて正しければ、則ち王者の師なり。
剛中而應、行險而順。以此毒天下、而民從之。吉又何咎矣。又以卦體卦德釋丈人吉无咎之義。剛中、謂九二。應、謂六五應之。行險、謂行危道。順、謂順人心。此非有老成之德者不能也。毒、害也。師旅之興、不无害於天下。然以其有是才德、是以民悦而從之也。
【読み】
剛中にして應じ、險に行いて順なり。此を以て天下を毒[くる]しめて、而も民之に從う。吉にして又何の咎かあらん。又卦體卦德を以て丈人なれば吉にして咎无しの義を釋く。剛中とは、九二を謂う。應とは、六五の之に應ずるを謂う。險に行うとは、危うき道に行くを謂う。順とは、人心に順うを謂う。此れ老成の德有る者に非ざれば能わざるなり。毒とは、害するなり。師旅の興るは、天下に害无きことあらず。然れども其れ是の才德有るを以て、是を以て民悦びて之に從うなり。
坤下坎上 比
○比、吉也。此三字、疑衍文。
【読み】
○比は、吉なり。此の三字は、疑うらくは衍文ならん。
比、輔也。下順從也。此以卦體釋卦名義。
【読み】
比は、輔くるなり。下順從するなり。此れ卦體を以て卦の名義を釋く。
原筮、元永貞、无咎、以剛中也。不寧方來、上下應也。後夫凶、其道窮也。亦以卦體釋卦辭。剛中、謂五。上下、謂五陰。
【読み】
原び筮し、元永貞なれば、咎无しとは、剛中なるを以てなり。寧からざるもの方に來るとは、上下應ずればなり。後るる夫は凶とは、其の道窮まればなり。亦卦體を以て卦辭を釋く。剛中とは、五を謂う。上下とは、五陰を謂う。
乾下巽上 小畜
○小畜、柔得位而上下應之、曰小畜。以卦體釋卦名義。柔得位、指六居四。上下、謂五陽。
【読み】
○小畜は、柔位を得て上下之に應ずるを、小畜と曰う。卦體を以て卦の名義を釋く。柔位を得とは、六の四に居るを指す。上下とは、五陽を謂う。
健而巽、剛中而志行。乃亨。以卦德卦體而言。陽猶可亨也。
【読み】
健にして巽い、剛中にして志行わる。乃ち亨る。卦德卦體を以て言う。陽は猶亨る可きがごとし。
密雲不雨、尙往也。自我西郊、施未行也。施、始豉反。○尙往、言畜之未極、其氣猶上進也。
【読み】
密雲あれど雨ふらずとは、尙往くなり。我が西郊よりすとは、施し未だ行われざるなり。施は、始豉の反。○尙往くとは、言うこころは、之を畜むること未だ極まらず、其の氣猶上り進むがごとし、と。
兌下乾上 履
○履、柔履剛也。以二體釋卦名義。
【読み】
○履は、柔剛を履むなり。二體を以て卦の名義を釋く。
說而應乎乾。是以履虎尾不咥人、亨。說、音悦。○以卦德釋彖辭。
【読み】
說[よろこ]びて乾に應ず。是を以て虎の尾を履むも人を咥わず、亨るなり。說は、音悦。○卦德を以て彖辭を釋く。
剛中正、履帝位而不疚、光明也。又以卦體明之。指九五也。
【読み】
剛中正にして、帝位を履みて疚[やま]しからず、光明あるなり。又卦體を以て之を明らかにす。九五を指すなり。
乾下坤上 泰
○泰、小往大來、吉亨、則是天地交、而萬物通也。上下交、而其志同也。内陽而外陰。内健而外順。内君子而外小人。君子道長、小人道消也。長、丁丈反。否卦同。
【読み】
○泰は、小往き大來る、吉にして亨るとは、則ち是れ天地交わりて、萬物通ずるなり。上下交わりて、其の志同じきなり。内陽にして外陰なり。内健にして外順なり。内君子にして外小人なり。君子は道長じ、小人は道消するなり。長は、丁丈の反。否の卦も同じ。
坤下乾上 否
○否之匪人、不利君子貞、大往小來、則是天地不交、而萬物不通也。上下不交、而天下无邦也。内陰而外陽。内柔而外剛。内小人而外君子。小人道長、君子道消也。
【読み】
○否は之れ人に匪ず、君子の貞に利ろしからず、大往き小來るとは、則ち是れ天地交わらずして、萬物通ぜざるなり。上下交わらずして、天下に邦无きなり。内陰にして外陽なり。内柔にして外剛なり。内小人にして外君子なり。小人は道長じ、君子は道消するなり。
離下乾上 同人
○同人、柔得位、得中而應乎乾、曰同人。以卦體釋卦名義。柔、謂六二。乾、謂九五。
【読み】
○同人は、柔位を得、中を得て乾に應ずるを、同人と曰う。卦體を以て卦の名義を釋く。柔とは、六二を謂う。乾とは、九五を謂う。
同人曰、衍文。
【読み】
同人に曰く、衍文なり。
同人于野、亨、利渉大川、乾行也。文明以健、中正而應、君子正也。唯君子爲能通天下之志。以卦德卦體釋卦辭。通天下之志、乃爲大同。不然、則是私情之合而已。何以致亨而利渉哉。
【読み】
人に野に同じくす、亨る、大川を渉るに利ろしとは、乾の行なり。文明にして以て健、中正にして應ずるは、君子の正なり。唯君子のみ能く天下の志を通ずと爲す。卦德卦體を以て卦辭を釋く。天下の志を通ずとは、乃ち大同と爲るなり。然らざれば、則ち是れ私情合うのみ。何を以て亨るを致して渉るに利ろしとせんや。
乾下離上 大有
○大有、柔得尊位大中、而上下應之、曰大有。以卦體釋卦名義。柔、謂六五。上下、謂五陽。
【読み】
○大有は、柔尊位を得て大中にして、上下之に應ずるを、大有と曰う。卦體を以て卦の名義を釋く。柔とは、六五を謂う。上下とは、五陽を謂う。
其德剛健而文明、應乎天而時行。是以元亨。以卦德卦體釋卦辭。應天、指六五也。
【読み】
其の德剛健にして文明、天に應じて時に行う。是を以て元いに亨るなり。卦德卦體を以て卦辭を釋く。天に應ずとは、六五を指すなり。
艮下坤上 謙
○謙、亨。天道下濟而光明。地道卑而上行。上、時掌反。○言謙之必亨。
【読み】
○謙は、亨る。天道は下濟して光明なり。地道は卑くして上り行く。上は、時掌の反。○謙の必ず亨るを言う。
天道虧盈而益謙、地道變盈而流謙、鬼神害盈而福謙、人道惡盈而好謙。謙尊而光、卑而不可踰。君子之終也。惡、烏路反。好、呼報反。○變、謂傾壞。流、謂聚而歸之。人能謙、則其居尊者、其德愈光、其居卑者、人亦莫能過。此君子所以有終也。
【読み】
天道は盈を虧きて謙に益し、地道は盈を變じて謙に流し、鬼神は盈を害して謙に福し、人道は盈を惡みて謙を好む。謙は尊くして光り、卑くけれども踰ゆ可からず。君子の終わりなり。惡は、烏路の反。好は、呼報の反。○變とは、傾壞するを謂う。流とは、聚まりて之に歸すを謂う。人能く謙なれば、則ち其の尊きに居る者は、其の德愈々光り、其の卑きに居る者は、人も亦能く過ぎること莫し。此れ君子の終わり有る所以なり。
坤下震上 豫
○豫、剛應而志行。順以動、豫。以卦體卦德釋卦名義。
【読み】
○豫は、剛應じて志行わる。順以て動くは、豫なり。卦體卦德を以て卦の名義を釋く。
豫順以動。故天地如之。而況建侯行師乎。以卦德釋卦辭。
【読み】
豫は順以て動く。故に天地も之の如し。而るを況や侯を建て師を行るをや。卦德を以て卦辭を釋く。
天地以順動。故日月不過、而四時不忒。聖人以順動、則刑罰淸而民服。豫之時義、大矣哉。極言之而贊其大也。
【読み】
天地は順を以て動く。故に日月過たずして、四時忒[たが]わず。聖人順を以て動けば、則ち刑罰淸くして民服す。豫の時義、大いなるかな。極めて之を言いて其の大いなるを贊す。
震下兌上 隨
○隨、剛來而下柔。動而說、隨。下、遐嫁反。說、音悦。○以卦變卦德釋卦名義。
【読み】
○隨は、剛來りて柔に下る。動きて說ぶは、隨なり。下は、遐嫁の反。說は、音悦。○卦變卦德を以て卦の名義を釋く。
大亨貞。无咎。而天下隨時。王肅本、時作之。今當從之。釋卦辭。言能如是、則天下之所從也。
【読み】
大いに亨りて貞し。咎无し。而して天下時[これ]に隨う。王肅本に、時を之と作す。今當に之に從うべし。卦辭を釋く。言うこころは、能く是の如くすれば、則ち天下の從う所なり、と。
隨時之義、大矣哉。王肅本、時字在之字下。今當從之。
【読み】
隨の時義、大いなるかな。王肅本に、時の字は之の字の下に在り。今當に之に從うべし。
巽下艮上 蠱
○蠱、剛上而柔下。巽而止、蠱。以卦體卦變卦德釋卦名義。蓋如此、則積弊而至於蠱也。
【読み】
○蠱は、剛上りて柔下る。巽いて止まるは、蠱なり。卦體卦變卦德を以て卦の名義を釋く。蓋し此の如くなれば、則ち弊を積みて蠱に至らん。
蠱、元亨而天下治也。利渉大川、往有事也。先甲三日、後甲三日、終則有始、天行也。釋卦辭。治蠱至於元亨、則亂而復治之象也。亂之終、治之始。天運然也。
【読み】
蠱は、元いに亨りて天下治まるなり。大川を渉るに利ろしとは、往きて事有るなり。甲に先だつこと三日、甲に後るること三日とは、終われば則ち始め有り、天の行なるなり。卦辭を釋く。蠱を治めて元いに亨るに至れば、則ち亂れて復治まるの象なり。亂の終わりは、治の始め。天運然り。
兌下坤上 臨
○臨、剛浸而長。長、丁丈反。○以卦體釋卦名。
【読み】
○臨は、剛浸[ようや]くにして長ず。長は、丁丈の反。○卦體を以て卦の名を釋く。
說而順、剛中而應。說、音悦。○又以卦德卦體言卦之善。
【読み】
說びて順い、剛中にして應ず。說は、音悦。○又卦德卦體を以て卦の善を言う。
大亨以正、天之道也。當剛長之時、又有此善。故其占如此也。
【読み】
大いに亨りて以て正しきは、天の道なり。剛長の時に當たり、又此の善有り。故に其の占此の如きなり。
至于八月有凶、消不久也。言雖天運之當然、然君子宜知所戒。
【読み】
八月に至りて凶有りとは、消すること久しからざればなり。言うこころは、天運の當然と雖も、然れども君子は宜しく戒むる所を知るべし、と。
坤下巽上 觀
○大觀在上、順而巽、中正以觀天下。以卦體卦德釋卦名義。
【読み】
○大觀上に在り、順にして巽い、中正にして以て天下を觀るなり。卦體卦德を以て卦の名義を釋く。
觀、盥而不薦、有孚顒若、下觀而化也。觀、如字。下觀天、大象觀民之觀、六爻觀字、並同。
【読み】
觀は、盥いて薦めず、孚有りて顒若たりとは、下觀て化するなり。觀は、字の如し。下の觀天、大象の觀民の觀、六爻の觀の字は、並同じ。
觀天之神道、而四時不忒。聖人以神道設敎、而天下服矣。極言觀之道也。四時不忒、天之所以爲觀也。神道設敎、聖人之所以爲觀也。
【読み】
天の神道を觀るに、四時忒[たが]わず。聖人神道を以て敎を設けて、天下服す。觀の道を極言するなり。四時忒わずとは、天の觀を爲す所以なり。神道敎を設くるは、聖人の觀を爲す所以なり。
震下離上 噬嗑
○頤中有物、曰噬嗑。以卦體釋卦名義。
【読み】
○頤中に物有るを、噬嗑と曰う。卦體を以て卦の名義を釋く。
噬嗑而亨。剛柔分、動而明、雷電合而章。柔得中而上行。雖不當位、利用獄也。上、時掌反。○又以卦名卦體卦德二象卦變釋卦辭。
【読み】
噬み嗑わせて亨るなり。剛柔分かれ、動きて明らかに、雷電合して章[あき]らかなり。柔中を得て上り行く。位に當たらずと雖も、獄を用うるに利ろしきなり。上は、時掌の反。○又卦の名卦體卦德二象の卦變を以て卦辭を釋く。
離下艮上 賁
○賁、亨。亨字疑衍。
【読み】
○賁は、亨る。亨の字は疑うらくは衍ならん。
柔來而文剛。故亨。分剛上而文柔。故小利有攸往。天文也。以卦變釋卦辭。剛柔之交、自然之象。故曰天文。先儒說天文上當有剛柔交錯四字。理或然也。
【読み】
柔來りて剛を文[かざ]る。故に亨るなり。剛を分かち上りて柔を文る。故に小しく往く攸有るに利ろしきなり。天文なり。卦變を以て卦辭を釋く。剛柔の交るは、自然の象なり。故に天文と曰う。先儒は天文の上に當に剛柔交錯の四字有るべしと說く。理として或は然らん。
文明以止、人文也。又以卦德言之。止、謂各得其分。
【読み】
文明にして以て止まるは、人文なり。又卦德を以て之を言う。止まるとは、各々其の分を得るを謂う。
觀乎天文、以察時變、觀乎人文、以化成天下。極言賁道之大也。
【読み】
天文を觀て、以て時變を察し、人文を觀て、以て天下を化成す。賁の道の大いなるを極言す。
坤下艮上 剥
○剥、剥也。柔變剛也。以卦體釋卦名義。言柔進干陽、變剛爲柔也。
【読み】
○剥は、剥ぐなり。柔、剛を變ずるなり。卦體を以て卦の名義を釋く。言うこころは、柔進みて陽を干し、剛を變じて柔と爲す、と。
不利有攸往、小人長也。順而止之、觀象也。君子尙消息盈虛、天行也。長、丁丈反。○以卦體卦德釋卦辭。
【読み】
往く攸有るに利ろしからずとは、小人長ずればなり。順にして之に止まるは、象を觀ればなり。君子の消息盈虛を尙ぶは、天の行なればなり。長は、丁丈の反。○卦體卦德を以て卦辭を釋く。
震下坤上 復
○復、亨、剛反。剛反則亨。
【読み】
○復は、亨るとは、剛反ればなり。剛反れば則ち亨る。
動而以順行。是以出入无疾、朋來无咎。以卦德而言。
【読み】
動きて順を以て行く。是を以て出入疾无く、朋來りて咎无きなり。卦德を以て言う。
反復其道、七日來復、天行也。陰陽消息、天運然也。
【読み】
其の道に反復す、七日にして來復すとは、天の行なり。陰陽の消息、天運然り。
利有攸往、剛長也。長、丁丈反。○以卦體而言。旣生則漸長矣。
【読み】
往く攸有るに利ろしとは、剛長ずればなり。長は、丁丈の反。○卦體を以て言う。旣に生ずれば則ち漸く長ず。
復、其見天地之心乎。積陰之下、一陽復生。天地生物之心幾於滅息、而至此乃復可見。在人則爲靜極而動、惡極而善、本心幾息而復見之端也。程子論之詳矣。而邵子之詩亦曰、冬至子之半、天心无改移。一陽初動處、萬物未生時。玄酒味方淡、太音聲正希。此言如不信、更請問包羲。至哉言也。學者宜盡心焉。
【読み】
復は、其れ天地の心を見るか。積陰の下、一陽復生ず。天地物を生ずるの心滅息するに幾[ちか]くして、此に至りて乃ち復見る可し。人に在りては則ち靜極まりて動き、惡極まりて善に、本心息むに幾くして復見るるの端と爲すなり。程子之を論ずること詳らかなり。而して邵子の詩も亦曰く、冬至は子の半ば、天心は改め移すこと无し。一陽初めて動く處、萬物未だ生ぜざる時。玄酒の味方に淡く、太音の聲正に希なし。此の言如し信じざれば、更に請う、包羲に問え、と。至れるかな言や。學者宜しく心を盡くすべし。
震下乾上 无妄
○无妄、剛自外來而爲主於内。動而健。剛中而應。大亨以正、天之命也。其匪正有眚、不利有攸往。无妄之往、何之矣。天命不祐、行矣哉。以卦變卦德卦體言卦之善如此。故其占當獲大亨而利於正。乃天命之當然也。其有不正、則不利有所往。欲何往哉。蓋其逆天之命而天不祐之。故不可以有行也。
【読み】
○无妄は、剛外より來りて内に主と爲る。動きて健なり。剛中にして應ず。大いに亨りて以て正しきは、天の命なればなり。其れ正しきに匪ざれば眚い有り、往く攸有るに利ろしからず。无妄の往くは、何くにか之かん。天命祐けず、行かんや。卦變卦德卦體を以て卦の善きを言うこと此の如し。故に其の占は當に大いに亨りて正しきに利ろしきを獲るべし。乃ち天命の當然なり。其れ正しからざること有れば、則ち往く所有るに利ろしからず。何くに往かんと欲せんや。蓋し其れ天の命に逆らえば天之を祐けず。故に以て行くこと有る可からざるなり。
乾下艮上 大畜
○大畜、剛健篤實輝光、日新其德。以卦德釋卦名義。
【読み】
○大畜は、剛健篤實にして輝光あり、日に其の德を新たにす。卦德を以て卦の名義を釋く。
剛上而尙賢。能止健、大正也。以卦變卦體卦德釋卦辭。
【読み】
剛上りて賢を尙ぶ。能く健を止むるは、大いに正しきなり。卦變卦體卦德を以て卦辭を釋く。
不家食吉、養賢也。亦取尙賢之象。
【読み】
家食せずして吉なりとは、賢を養えばなり。亦賢を尙ぶの象を取る。
利渉大川、應乎天也。亦以卦體而言。
【読み】
大川を渉るに利ろしとは、天に應ずればなり。亦卦體を以て言う。
震下艮上 頤
○頤、貞吉、養正則吉也。觀頤、觀其所養也。自求口實、觀其自養也。釋卦辭。
【読み】
○頤は、貞しければ吉なりとは、正しきを養えば則ち吉なるなり。頤を觀るとは、其の養う所を觀るなり。自ら口實を求むとは、其の自ら養うことを觀るなり。卦辭を釋く。
天地養萬物、聖人養賢以及萬民。頤之時、大矣哉。極言養道而贊之。
【読み】
天地は萬物を養い、聖人は賢を養いて以て萬民に及ぼす。頤の時、大いなるかな。養う道を極言して之を贊す。
巽下兌上 大過
○大過、大者過也。以卦體釋卦名義。
【読み】
○大過は、大なる者の過ぎたるなり。卦體を以て卦の名義を釋く。
棟橈、本末弱也。復以卦體釋卦辭。本、謂初。末、謂上。弱、謂陰柔。
【読み】
棟橈むとは、本末の弱きなり。復卦體を以て卦辭を釋く。本とは、初を謂う。末とは、上を謂う。弱とは、陰柔を謂う。
剛過而中、巽而說行。利有攸往、乃亨。說、音悦。○又以卦體卦德釋卦辭。
【読み】
剛過ぎたれども中し、巽いて說び行く。往く攸有るに利ろしく、乃ち亨るなり。說は、音悦。○又卦體卦德を以て卦辭を釋く。
大過之時、大矣哉。大過之時、非有大過人之材、不能濟也。故歎其大。
【読み】
大過の時、大いなるかな。大過の時は、大いに人に過ぐるの材有るに非ざれば、濟うこと能わざるなり。故に其の大いなるを歎ず。
坎下坎上 坎
○習坎、重險也。重、直龍反。○釋卦名義。
【読み】
○習坎は、重險なり。重は、直龍の反。○卦の名義を釋く。
水流而不盈、行險而不失其信。以卦象釋有孚之義。言内實而行有常也。
【読み】
水流れて盈たず、險に行きて其の信を失わざるなり。卦象を以て孚有りの義を釋く。言うこころは、内實にして行い常有り、と。
維心亨、乃以剛中也。行有尙、往有功也。以剛在中、心亨之象。如是而往、必有功也。
【読み】
維れ心亨るとは、乃ち剛中なるを以てなり。行けば尙ばるること有りとは、往きて功有るなり。剛を以て中に在るは、心亨るの象なり。是の如くして往けば、必ず功有るなり。
天險、不可升也。地險、山川丘陵也。王公設險、以守其國。險之時用、大矣哉。極言之而贊其大也。
【読み】
天險は、升る可からざるなり。地險は、山川丘陵なり。王公は險を設けて、以て其の國を守る。險の時用、大いなるかな。極めて之を言いて其の大いなるを贊す。
離下離上 離
○離、麗也。日月麗乎天、百穀草木麗乎土。重明以麗乎正、乃化成天下。重、直龍反。○釋卦名義。
【読み】
○離は、麗なり。日月は天に麗[つ]き、百穀草木は土に麗く。重明以て正に麗き、乃ち天下を化成す。重は、直龍の反。○卦の名義を釋く。
柔麗乎中正。故亨。是以畜牝牛吉也。以卦體釋卦辭。
【読み】
柔、中正に麗く。故に亨る。是を以て牝牛を畜えば吉なるなり。卦體を以て卦辭を釋く。
下彖傳
艮下兌上 咸
○咸、感也。釋卦名義。
【読み】
○咸は、感なり。卦の名義を釋く。
柔上而剛下、二氣感應以相與。止而說、男下女。是以亨、利貞、取女吉也。說、音悦。男下之下、遐嫁反。○以卦體卦德卦象釋卦辭。或以卦變言柔上剛下之義。曰咸自旅來、柔上居六、剛下居五也。亦通。
【読み】
柔上りて剛下り、二氣感應して以て相與す。止まりて說び、男は女に下る。是を以て亨り、貞しきに利ろしく、女を取るは吉なるなり。說は、音悦。男下の下は、遐嫁の反。○卦體卦德卦象を以て卦辭を釋く。或は卦變を以て柔上剛下の義を言う。曰く、咸は旅より來りて、柔上りて六に居り、剛下りて五に居る、と。亦通ず。
天地感而萬物化生、聖人感人心、而天下和平。觀其所感、而天地萬物之情可見矣。極言感通之理。
【読み】
天地感じて萬物化生し、聖人人心を感ぜしめて、天下和平なり。其の感ずる所を觀て、天地萬物の情見る可し。感通の理を極言す。
巽下震上 恆
○恆、久也。剛上而柔下、雷風相與、巽而動、剛柔皆應、恆。以卦體卦象卦德釋卦名義。或以卦變言剛上柔下之義。曰恆自豐來、剛上居二、柔下居初也。亦通。
【読み】
○恆は、久なり。剛上りて柔下り、雷風相與し、巽いて動き、剛柔皆應ずるは、恆なり。卦體卦象卦德を以て卦の名義を釋く。或は卦變を以て剛上り柔下るの義を言う。曰く、恆は豐より來りて、剛上りて二に居り、柔下りて初に居る、と。亦通ず。
恆亨、无咎、利貞、久於其道也。天地之道、恆久而不已也。恆固能亨、且无咎矣。然必利於正、乃爲久於其道。不正則久非其道矣。天地之道、所以長久、亦以正而已矣。
【読み】
恆は亨る、咎无し、貞しきに利ろしとは、其の道に久しければなり。天地の道は、恆久にして已まざるなり。恆は固より能く亨り、且つ咎无し。然れども必ず正しきに利ろしくして、乃ち其道に久しと爲す。正しからざれば則ち其の道に非ざるに久し。天地の道、長久なる所以も、亦正しきを以てなるのみ。
利有攸往、終則有始也。久於其道、終也。利有攸往、始也。動靜相生、循環之理。然必靜爲主也。
【読み】
往く攸有るに利ろしとは、終われば則ち始め有るなり。其の道に久しとは、終わりなり。往く攸有るに利ろしとは、始めなり。動靜相生ずるは、循環の理。然れども必ず靜を主と爲す。
日月得天而能久照、四時變化而能久成、聖人久於其道而天下化成。觀其所恆、而天地萬物之情可見矣。極言恆久之道。
【読み】
日月は天を得て能く久しく照らし、四時は變化して能く久しく成し、聖人は其の道に久しくして天下化成す。其の恆なる所を觀て、天地萬物の情見る可し。恆久の道を極言す。
艮下乾上 遯
○遯、亨、遯而亨也。剛當位而應、與時行也。以九五一爻釋亨義。
【読み】
○遯は、亨るとは、遯れて亨るなり。剛位に當たりて應じ、時と與に行うなり。九五一爻を以て亨の義を釋く。
小利貞、浸而長也。長、丁丈反。○以下二陰釋小利貞。
【読み】
小利貞とは、浸[ようや]くにして長ずればなり。長は、丁丈の反。○下二陰を以て小利貞を釋く。
遯之時義、大矣哉。陰方浸長、處之爲難。故其時義爲尤大也。
【読み】
遯の時義、大いなるかな。陰方に浸く長ぜんとし、之に處ること難しと爲す。故に其の時義尤も大いなりと爲す。
乾下震上 大壯
○大壯、大者壯也。剛以動。故壯。釋卦名義。以卦體言、則陽長過中、大者壯也。以卦德言、則乾剛震動。所以壯也。
【読み】
○大壯は、大なる者の壯んなるなり。剛にして以て動く。故に壯んなり。卦の名義を釋く。卦體を以て言えば、則ち陽長じて中を過ぎ、大なる者の壯んなるなり。卦德を以て言えば、則ち乾剛く震動く。壯なる所以なり。
大壯利貞、大者正也。正大而天地之情可見矣。釋利貞之義而極言之。
【読み】
大壯利貞とは、大なる者正しきなり。正大にして天地の情見る可し。利貞の義を釋きて之を極言す。
坤下離上 晉
○晉、進也。釋卦名義。
【読み】
○晉は、進なり。卦の名義を釋く。
明出地上、順而麗乎大明、柔進而上行。是以康侯用錫馬蕃庶、晝日三接也。上行之上、時掌反。○以卦象卦德卦變釋卦辭。
【読み】
明地上に出で、順にして大明に麗き、柔進みて上り行く。是を以て康侯用て馬を錫わること蕃庶にして、晝日に三たび接するなり。上行の上は、時掌の反。○卦象卦德卦變を以て卦辭を釋く。
離下坤上 明夷
○明入地中、明夷。以卦象釋卦名。
【読み】
○明の地中に入るは、明夷なり。卦象を以て卦名を釋く。
内文明而外柔順、以蒙大難。文王以之。難、去聲。下同。○以卦德釋卦義。蒙大難、謂遭紂之亂而見囚也。
【読み】
内文明にして外柔順、以て大難を蒙る。文王之を以[もち]う。難は、去聲。下も同じ。○卦德を以て卦義を釋く。大難を蒙るとは、紂の亂に遭いて囚わるるを謂うなり。
利艱貞、晦其明也。内難而能正其志。箕子以之。以六五一爻之義釋卦辭。内難謂爲紂近親、在其國内。如六五之近於上六也。
【読み】
艱しみて貞しきに利ろしとは、其の明を晦ますなり。内難にして能く其の志を正しくす。箕子之を以う。六五一爻の義を以て卦辭を釋く。内難とは紂の近親と爲りて、其の國内に在るを謂う。六五の上六に近きが如し。
離下巽上 家人
○家人、女正位乎内、男正位乎外。男女正、天地之大義也。以卦體九五・六二釋利女貞之義。
【読み】
○家人は、女位を内に正しくし、男位を外に正しくす。男女正しきは、天地の大義なり。卦體九五・六二を以て女の貞しきに利ろしの義を釋く。
家人有嚴君焉、父母之謂也。亦謂二・五。
【読み】
家人に嚴君有りとは、父母の謂なり。亦二・五を謂う。
父父、子子、兄兄、弟弟、夫夫、婦婦。而家道正。正家而天下定矣。上父、初子、五・三夫、四・二婦、五兄、三弟。以卦畫推之、又有此象。
【読み】
父は父たり、子は子たり、兄は兄たり、弟は弟たり、夫は夫たり、婦[つま]は婦たり。而して家道正し。家を正しくして天下定まる。上は父、初は子、五・三は夫、四・二は婦、五は兄、三は弟。卦畫を以て之を推し、又此の象有り。
兌下離上 睽
○睽、火動而上、澤動而下。二女同居、其志不同行。上下倶上聲。下同。○以卦象釋卦名義。
【読み】
○睽は、火動いて上り、澤動いて下る。二女同じく居りて、其の志は同行せず。上下は倶に上聲。下も同じ。○卦象を以て卦の名義を釋く。
說而麗乎明、柔進而上行、得中而應乎剛。是以小事吉。說、音悦。○以卦德卦變卦體釋卦辭。
【読み】
說びて明に麗き、柔進みて上り行き、中を得て剛に應ず。是を以て小事には吉なるなり。說は、音悦。○卦德卦變卦體を以て卦辭を釋く。
天地睽而其事同也。男女睽而其志通也。萬物睽而其事類也。睽之時用、大矣哉。極言其理而贊之。
【読み】
天地睽けども其の事同じきなり。男女睽けども其の志通ずるなり。萬物睽けども其の事類するなり。睽の時用、大いなるかな。其の理を極言して之を贊す。
艮下坎上 蹇
○蹇、難也。險在前也。見險而能止。知矣哉。難、乃旦反。知、音智。○以卦德釋卦名義、而贊其美。
【読み】
○蹇は、難なり。險前に在るなり。險を見て能く止まる。知なるかな。難は、乃旦の反。知は、音智。○卦德を以て卦の名義を釋いて、其の美を贊す。
蹇、利西南、往得中也。不利東北、其道窮也。利見大人、往有功也。當位貞吉、以正邦也。蹇之時用、大矣哉。以卦變卦體釋卦辭、而贊其時用之大也。
【読み】
蹇は、西南に利ろしとは、往きて中を得ればなり。東北に利ろしからずとは、其の道窮すればなり。大人を見るに利ろしとは、往きて功有るなり。位に當たり貞しければ吉なりとは、以て邦を正しくするなり。蹇の時用、大いなるかな。卦變卦體を以て卦辭を釋いて、其の時用の大いなるを贊す。
坎下震上 解
○解、險以動。動而免乎險、解。以卦德釋卦名義。
【読み】
○解は、險にして以て動く。動きて而して險より免るるは、解なり。卦德を以て卦の名義を釋く。
解利西南、往得衆也。其來復吉、乃得中也。有攸往、夙吉、往有功也。以卦變釋卦辭。坤爲衆。得衆、謂九四入坤體。得中、有功、皆指九二。
【読み】
解は西南に利ろしとは、往きて衆を得るなり。其れ來復して吉とは、乃ち中を得ればなり。往く攸有れば、夙くして吉とは、往きて功有るなり。卦變を以て卦辭を釋く。坤は衆と爲す。衆を得るとは、九四の坤の體に入るを謂う。中を得、功有りとは、皆九二を指す。
天地解而雷雨作。雷雨作百果草木皆甲坼。解之時、大矣哉。極言而贊其大也。
【読み】
天地解けて雷雨作り、雷雨作りて百果草木皆甲坼[こうたく]す。解の時、大いなるかな。極言して其の大いなるを贊するなり。
兌下艮上 損
○損、損下益上、其道上行。上行之上、時掌反。○以卦體釋卦名義。
【読み】
○損は、下を損らして上に益し、其の道上り行く。上行の上は、時掌の反。○卦體を以て卦の名義を釋く。
損而有孚、元吉、无咎、可貞、利有攸往。曷之用、二簋可用享。二簋應有時。損剛益柔有時。損益盈虛、與時偕行。此釋卦辭。時、謂當損之時。
【読み】
損らして孚有れば、元いに吉、咎无し、貞にす可し、往る攸有るに利ろし。曷をか用いん、二簋[き]用て享す可し。二簋もてするは應[まさ]に時有るべし。剛を損らして柔を益すに時有り。損益盈虛は、時と偕
[とも]に行わる。此れ卦辭を釋く。時とは、當に損らすべきの時なるを謂う。
震下巽上 益
○益、損上益下。民說无疆。自上下下、其道大光。上下之下、去聲。○以卦體釋卦名義。
【読み】
○益は、上を損らして下に益す。民說ぶこと疆[かぎ]り无し。上より下に下る、其の道大いに光[あき]らかなり。上下の下は、去聲。○卦體を以て卦の名義を釋く。
利有攸往、中正有慶。利渉大川、木道乃行。以卦體卦象釋卦辭。
【読み】
往く攸有るに利ろしとは、中正にして慶び有るなり。大川を渉るに利ろしとは、木道乃ち行わるるなり。卦體卦象を以て卦辭を釋く。
益動而巽、日進无疆。天施地生、其益无方。凡益之道、與時偕行。施、始豉反。○動巽、二卦之德。乾下施、坤上生、亦上文卦體之義。又以此極言贊益之大。
【読み】
益は動きて巽い、日に進むこと疆り无し。天は施し地は生じ、其の益すこと方无し。凡そ益の道は、時と偕に行わる。施は、始豉の反。○動き巽うとは、二卦の德。乾下りて施し、坤上りて生ずるも、亦上文の卦體の義なり。又此を以て極言して益の大いなるを贊す。
乾下兌上 夬
○夬、決也。剛決柔也。健而說、決而和。說、音悦。○釋卦名義、而贊其德。
【読み】
○夬は、決なり。剛の柔を決するなり。健やかにして說び、決して和す。說は、音悦。○卦の名義を釋き、而して其の德を贊す。
揚于王庭、柔乘五剛也。孚號、有厲、其危乃光也。告自邑、不利卽戎、所尙乃窮也。利有攸往、剛長乃終也。長、丁丈反。○此釋卦辭。柔乘五剛、以卦體言、謂以一小人加於衆君子之上。是其罪也。剛長乃終、謂一變則爲純乾也。
【読み】
王庭に揚ぐとは、柔、五剛に乘ればなり。孚ありて號び、厲うきこと有りとは、其れ危ぶめば乃ち光[おお]いなるなり。告ぐること邑よりす、戎に卽くに利ろしからずとは、尙ぶ所乃ち窮するなり。往く攸有るに利ろしとは、剛長じて乃ち終わればなり。長は、丁丈の反。○此れ卦辭を釋く。柔、五剛に乘るとは、卦體を以て言えば、一小人を以て、衆君子の上に加うを謂う。是れ其れ罪あるなり。剛長じて乃ち終わるとは、一變すれば則ち純乾と爲るを謂う。
巽下乾上 姤
○姤、遇也。柔遇剛也。釋卦名。
【読み】
○姤は、遇うなり。柔、剛に遇うなり。卦の名を釋く。
勿用取女、不可與長也。釋卦辭。
【読み】
女を取るに用うること勿かれとは、與に長ず可からざればなり。卦辭を釋く。
天地相遇、品物咸章也。以卦體言。
【読み】
天地相遇いて、品物咸[ことごと]く章[あき]らかなり。卦體を以て言う。
剛遇中正、天下大行也。指九五。
【読み】
剛中正に遇いて、天下大いに行わるるなり。九五を指す。
姤之時義、大矣哉。幾微之際、聖人所謹。
【読み】
姤の時義、大いなるかな。幾微の際は、聖人の謹しむ所なり。
坤下兌上 萃
○萃、聚也。順以說、剛中而應。故聚也。說、音悦。○以卦德卦體釋卦名義。
【読み】
○萃は、聚まるなり。順にして以て說び、剛中にして應ず。故に聚まるなり。說は、音悦。○卦德卦體を以て卦の名義を釋く。
王假有廟、致孝享也。利見大人、亨、聚以正也。用大牲吉、利有攸往、順天命也。釋卦辭。
【読み】
王有廟に假るとは、孝享を致すなり。大人を見るに利ろし、亨るとは、聚まるに正を以てすればなり。大牲を用いて吉なり、往く攸有るに利ろしとは、天命に順うなり。卦辭を釋く。
觀其所聚、而天地萬物之情可見矣。極言其理而贊之。
【読み】
其の聚まる所を觀て、天地萬物の情見る可し。其の理を極言して之を贊す。
巽下坤上 升
○柔以時升。以卦變釋卦名。
【読み】
○柔、時を以て升る。卦變を以て卦の名を釋く。
巽而順、剛中而應。是以大亨。以卦德卦體釋卦辭。
【読み】
巽にして順、剛中にして應ず。是を以て大いに亨る。卦德卦體を以て卦辭を釋く。
用見大人、勿恤、有慶也。南征吉、志行也。
【読み】
用て大人を見る、恤うること勿かれとは、慶び有るなり。南征すれば吉なりとは、志行わるるなり。
坎下兌上 困
○困、剛揜也。以卦體釋卦名。
【読み】
○困は、剛揜わるるなり。卦體を以て卦の名を釋く。
險以說。困而不失其所亨、其唯君子乎。貞、大人吉、以剛中也。有言不信、尙口乃窮也。說、音悦。○以卦德卦體釋卦辭。
【読み】
險にして以て說ぶ。困しみて其の亨る所を失わざるは、其れ唯君子のみか。貞し、大人は吉とは、剛中なるを以てなり。言うこと有るも信ぜられずとは、口を尙べば乃ち窮するなり。說は、音悦。○卦德卦體を以て卦辭を釋く。
巽下坎上 井
○巽乎水而上水、井。井、養而不窮也。上、時掌反。○以卦象釋卦名義。
【読み】
○水に巽[い]れて水を上ぐるは、井なり。井は、養いて窮まらざるなり。上は、時掌の反。○卦象を以て卦の名義を釋く。
改邑不改井、乃以剛中也。汔至亦未繘井、未有功也。羸其瓶。是以凶也。以卦體釋卦辭。无喪无得、往來井井、兩句意與不改井同。故不復出。剛中、以二五而言。未有功而敗其瓶、所以凶也。
【読み】
邑を改むるも井を改めずとは、乃ち剛中なるを以てなり。汔ど至らんとして亦未だ井に繘せずとは、未だ功有ざるなり。其の瓶を羸る。是を以て凶なるなり。卦體を以て卦辭を釋く。喪うこと无く得ること无し、往くも來るも井を井とすは、兩句の意は井を改めずと同じ。故に復出さず。剛中とは、二五を以て言う。未だ功有らずして其の瓶を敗るは、凶なる所以なり。
離下兌上 革
○革、水火相息、二女同居、其志不相得、曰革。以卦象釋卦名義。大畧與睽相似。然以相違而爲睽、相息而爲革也。息、滅息也。又爲生息之義。滅息而後生息也。
【読み】
○革は、水火相息し、二女同じく居りて、其の志相得ざるを、革と曰う。卦象を以て卦の名義を釋く。大畧は睽と相似す。然れども相違うを以て睽と爲り、相息して革と爲るなり。息は、滅息なり。又生息の義と爲す。滅息して後に生息するなり。
已日乃孚、革而信之。文明以說、大亨以正、革而當、其悔乃亡。說、音悦。當、去聲。○以卦德釋卦辭。
【読み】
已日にして乃ち孚とせらるとは、革めて之を信ず。文明にして以て說び、大いに亨りて以て正しくして、革めて當たれば、其の悔乃ち亡ぶ。說は、音悦。當は、去聲。○卦德を以て卦辭を釋く。
天地革而四時成。湯武革命、順乎天而應乎人。革之時、大矣哉。極言而贊其大也。
【読み】
天地革まりて四時成る。湯武命を革めて、天に順い人に應ず。革の時、大いなるかな。極言して其の大いなるを贊す。
巽下離上 鼎
○鼎、象也。以木巽火、亨飪也。聖人亨以享上帝、而大亨以養聖賢。亨、普庚反。飪、入甚反。○以卦體二象釋卦名義、因極其大而言之。享帝貴誠、用犢而已。養賢則饔飧牢禮當極其盛。故曰大亨。
【読み】
○鼎は、象なり。木を以て火に巽[い]れて、亨飪[ほうじん]するなり。聖人は亨して以て上帝を享[まつ]り、大いに亨して以て聖賢を養う。亨は、普庚の反。飪は、入甚の反。○卦體二象を以て卦の名義を釋き、因りて其の大いなるを極めて之を言う。帝を享るは誠を貴び、犢を用うるのみ。賢を養うは則ち饔飧牢の禮にて當に其の盛んを極むべし。故に曰く、大いに亨る、と。
巽而耳目聰明、柔進而上行、得中而應乎剛。是以元亨。上、時掌反。○以卦象卦變卦體釋卦辭。
【読み】
巽にして耳目聰明、柔進みて上り行き、中を得て剛に應ず。是を以て元いに亨るなり。上は、時掌の反。○卦象卦變卦體を以て卦辭を釋く。
震下震上 震
○震、亨。震有亨道、不待言也。
【読み】
○震は、亨る。震に亨る道有るは、言を待たず。
震來虩虩、恐致福也。笑言啞啞、後有則也。恐致福、恐懼以致福也。則、法也。
【読み】
震の來るとき虩虩たりとは、恐れて福を致すなり。笑言啞啞たりとは、後には則有るなり。恐れて福を致すとは、恐懼して以て福を致すなり。則とは、法なり。
震驚百里、驚遠而懼邇也。出可以守宗廟社稷、以爲祭主也。程子以爲邇也下、脱不喪匕鬯四字。今從之。出、謂繼世而主祭也。或云、出、卽鬯字之誤。
【読み】
震は百里を驚かすとは、遠きを驚かして邇[ちか]きを懼れしむるなり。出でては以て宗廟社稷を守り、以て祭主と爲る可きなり。程子は以爲らく、邇也の下に、不喪匕鬯の四字を脱す、と。今之に從う。出でるとは、世を繼いで祭を主るを謂うなり。或は云う、出でるとは、卽ち鬯の字の誤り、と。
艮下艮上 艮
○艮、止也。時止則止、時行則行、動靜不失其時。其道光明。此釋卦名。艮之義則止也。然行止各有其時。故時止而止、止也。時行而行、亦止也。艮體篤實。故又有光明之義。大畜於艮、亦以輝光言之。
【読み】
○艮は、止まるなり。時止まるべくば則ち止まり、時行うべくば則ち行い、動靜其の時を失わず。其の道光明なり。此れ卦の名を釋く。艮の義は則ち止まるなり。然れども行止各々其の時有り。故に時止まるべくして止まるは、止まるなり。時行うべくして行うも、亦止まるなり。艮の體は篤實。故に又光明の義有り。大畜の艮に於るも、亦輝光を以て之を言う。
艮其止、止其所也。上下敵應、不相與也。是以不獲其身、行其庭、不見其人、无咎也。此釋卦辭。易背爲止、以明背卽止也。背者、止之所也。以卦體言、内外之卦、陰陽敵應而不相與也。不相與、則内不見己、外不見人、而无咎矣。晁氏曰、艮其止、當依卦辭作背。
【読み】
其の止に艮まるとは、其の所に止まるなり。上下敵應して、相與せず。是を以て其の身を獲ず、其の庭に行きて、其の人を見ず、咎无きなり。此れ卦辭を釋く。背を易えて止と爲し、以て背は卽ち止なることを明らかにす。背は、止まる所なり。卦體を以て言えば、内外の卦、陰陽敵應して相與せず。相與せざれば、則ち内は己を見ず、外は人を見ずして、咎无きなり。晁氏曰く、其の止に艮まるは、當に卦辭に依りて背と作すべし、と。
*曰・・・山崎嘉点は「曰」、他の本では「云」。
艮下巽上 漸
○漸之進也、女歸吉也。之字疑衍。或是漸字。
【読み】
○漸の進むや、女の歸ぐに吉なり。之の字は疑うらくは衍ならん。或は是れ漸の字ならん。
進得位、往有功也。進以正、可以正邦也。以卦變釋利貞之意。蓋此卦之變、自渙而來、九進居三、自旅而來、九進居五、皆爲得位之正。
【読み】
進みて位を得、往きて功有るなり。進むに正しきを以てし、以て邦を正す可きなり。卦變を以て利貞の意を釋く。蓋し此の卦の變は、渙より來りて、九進み三に居り、旅より來りて、九進み五に居り、皆位を得るの正しきと爲す。
其位剛得中也。以卦體言。謂九五也。
【読み】
其の位剛にして中を得るなり。卦體を以て言う。九五を謂うなり。
止而巽、動不窮也。以卦德言。漸進之義。
【読み】
止まりて巽い、動いて窮まらざるなり。卦德を以て言う。漸進の義なり。
兌下震上 歸妹
○歸妹、天地之大義也。天地不交而萬物不興。歸妹、人之終始也。釋卦名義也。歸者、女之終、生育者、人之始。
【読み】
○歸妹は、天地の大義なり。天地交わらざれば萬物興らず。歸妹は、人の終始なり。卦の名義を釋く。歸は、女の終わり、生育は、人の始め。
說以動。所歸妹也。說、音悦。○又以卦德言之。
【読み】
說びて以て動く。歸ぐ所のものは妹なり。說は、音悦。○又卦德を以て之を言う。
征凶、位不當也。无攸利、柔乘剛也。又以卦體釋卦辭。男女之交、本皆正理。唯若此卦、則不得其正也。
【読み】
征けば凶とは、位當たらざればなり。利ろしき攸无しとは、柔剛に乘ればなり。又卦體を以て卦辭を釋く。男女の交わりは、本皆正理。唯此の卦の若きのみ、則ち其の正しきを得ざるなり。
離下震上 豐
○豐、大也。明以動。故豐。以卦德釋卦名義。
【読み】
○豐は、大なり。明にして以て動く。故に豐かなり。卦德を以て卦の名義を釋く。
王假之、尙大也。勿憂、宜日中、宜照天下也。釋卦辭。
【読み】
王之に假るとは、大を尙ぶなり。憂うること勿かれ、日中に宜しとは、天下を照らすに宜しきなり。卦辭を釋く。
日中則昃、月盈則食。天地盈虛、與時消息。而況於人乎。況於鬼神乎。此又發明卦辭外意。言不可過中也。
【読み】
日中すれば則ち昃[かたむ]き、月盈つれば則ち食[か]く。天地の盈虛は、時と消息す。而るを況や人に於てをや。況や鬼神に於てをや。此れ又卦辭の外の意を發明す。言うこころは、中を過ぐ可からず、と。
艮下離上 旅
○旅、小亨。柔得中乎外、而順乎剛、止而麗乎明。是以小亨。旅、貞吉也。以卦體卦德釋卦辭。
【読み】
○旅は、小しく亨る。柔、中を外に得て、剛に順い、止まりて明に麗く。是を以て小しく亨る。旅は、貞しければ吉なるなり。卦體卦德を以て卦辭を釋く。
旅之時義、大矣哉。旅之時爲難處。
【読み】
旅の時義、大いなるかな。旅の時は處り難しと爲す。
巽下巽上 巽
○重巽以申命。釋卦義也。巽順而入、必究乎下。命令之象。重巽、故爲申命也。
【読み】
○重巽以て命を申[かさ]ぬ。卦義を釋くなり。巽順にして入れば、必ず下に究まる。命令の象なり。重巽、故に命を申ぬと爲す。
剛巽乎中正而志行、柔皆順乎剛。是以小亨。利有攸往、利見大人。以卦體釋卦辭。剛巽乎中正而志行、指九五。柔、謂初四。
【読み】
剛は中正に巽いて志行われ、柔は皆剛に順う。是を以て小しく亨る。往く攸有るに利ろしく、大人を見るに利ろし。卦體を以て卦辭を釋く。剛は中正に巽いて志行わるとは、九五を指す。柔とは、初四を謂う。
兌下兌上 兌
○兌、說也。說、音悦。下同。○釋卦名義。
【読み】
○兌は、說ぶなり。說は、音悦。下も同じ。○卦の名義を釋く。
剛中而柔外。說以利貞。是以順乎天而應乎人。說以先民、民忘其勞。說以犯難、民忘其死。說之大、民勸矣哉。先、西薦反。又如字。難、乃旦反。○以卦體釋卦辭、而極言之。
【読み】
剛中にして柔外なり。說びて以て利貞。是を以て天に順いて人に應ずるなり。說びて以て民に先だてば、民其の勞を忘る。說びて以て難を犯せば、民其の死を忘る。說びの大いなる、民勸むかな。先は、西薦の反。又字の如し。難は、乃旦の反。○卦體を以て卦辭を釋き、而して之を極言す。
坎下巽上 渙
○渙、亨、剛來而不窮、柔得位乎外而上同。上、如字。又時掌反。○以卦變釋卦辭。
【読み】
○渙は、亨るとは、剛來りて窮まらず、柔位を外に得て上同すればなり。上は、字の如し。又時掌の反。○卦變を以て卦辭を釋く。
王假有廟、王乃在中也。中、謂廟中。
【読み】
王有廟に假るとは、王乃ち中に在るなり。中とは、廟中を謂う。
利渉大川、乘木有功也。
【読み】
大川を渉るに利ろしとは、木に乘りて功有るなり。
兌下坎上 節
○節、亨、剛柔分而剛得中。以卦體釋卦辭。
【読み】
○節は、亨るとは、剛柔分かれて剛中を得ればなり。卦體を以て卦辭を釋く。
苦節、不可貞、其道窮也。又以理言。
【読み】
苦節す、貞にす可からずとは、其の道窮まればなり。又理を以て言う。
說以行險、當位以節、中正以通。說、音悦。○又以卦德卦體言之。當位、中正、指五。又坎爲通。
【読み】
說びて以て險に行き、位に當たりて以て節し、中正にして以て通ず。說は、音悦。○又卦德卦體を以て之を言う。位に當たる、中正は、五を指す。又坎に通ずると爲す。
天地節而四時成。節以制度、不傷財、不害民。極言節道。
【読み】
天地は節ありて四時成る。節して以て度を制すれば、財を傷らず、民を害せず。節の道を極言す。
兌下巽上 中孚
○中孚、柔在内而剛得中。說而巽、孚乃化邦也。說、音悦。○以卦體卦德釋卦名義。
【読み】
○中孚は、柔内に在りて剛中を得。說びて巽[したが]い、孚ありて乃ち邦を化するなり。說は、音悦。○卦體卦德を以て卦の名義を釋く。
豚魚吉、信及豚魚也。利渉大川、乘木舟虛也。以卦象言。
【読み】
豚魚も吉とは、信豚魚に及ぶなり。大川を渉るに利ろしとは、木に乘りて舟虛しきなればなり。卦象を以て言う。
中孚以利貞、乃應乎天也。信而正、則應乎天矣。
【読み】
中孚にして以て貞しきに利ろしとは、乃ち天に應ずるなり。信にして正しければ、則ち天に應ずるなり。
艮下震上 小過
○小過、小者過而亨也。以卦體釋卦名義與其辭。
【読み】
○小過は、小なる者の過ぎて亨るなり。卦體を以て卦の名義と其の辭とを釋く。
過以利貞、與時行也。柔得中。是以小事吉也。以二・五言。
【読み】
過ぎて以て利貞とは、時と與に行うなり。柔、中を得。是を以て小事には吉なるなり。二・五を以て言う。
剛失位而不中。是以不可大事也。以三・四言。
【読み】
剛位を失いて中ならず。是を以て大事には可ならざるなり。三・四を以て言う。
有飛鳥之象焉。飛鳥遺之音、不宜上、宜下、大吉、上逆而下順也。以卦體言。
【読み】
飛鳥の象有り。飛鳥之が音を遺す、上るに宜しからず、下るに宜し、大いに吉とは、上るは逆にして下るは順なればなり。卦體を以て言う。
離下坎上 旣濟
○旣濟、亨、小者亨也。濟下疑脱小字。
【読み】
○旣濟は、亨るとは、小なる者の亨るなり。濟の下に疑うらくは小の字を脱すならん。
利貞、剛柔正而位當也。以卦體言。
【読み】
利貞とは、剛柔正しくして位當たればなり。卦體を以て言う。
初吉、柔得中也。指六二。
【読み】
初めは吉とは、柔、中を得ればなり。六二を指す。
終止則亂、其道窮也。
【読み】
終わり止まれば則ち亂るとは、其の道窮まるなり。
坎下離上 未濟
○未濟、亨、柔得中也。指六五言。
【読み】
○未濟は、亨るとは、柔、中を得ればなり。六五を指して言う。
小狐汔濟、未出中也。濡其尾、无攸利、不續終也。雖不當位、剛柔應也。
【読み】
小狐汔ど濟らんとすとは、未だ中を出でざるなり。其の尾を濡らす、利ろしき攸无しとは、續いて終えざればなり。位に當たらずと雖も、剛柔應ずるなり。
上象傳
象者、卦之上下兩象、及兩象之六爻、周公所繫之辭也。
【読み】
象は、卦の上下兩象、及び兩象の六爻、周公繫ける所の辭なり。
乾下乾上 乾
○天行健。君子以自彊不息。天、乾卦之象也。凡重卦皆取重義、此獨不然者、天一而已。但言天行、則見其一日一周、而明日又一周、若重複之象、非至健不能也。君子法之、不以人欲害其天德之剛、則自彊而不息矣。
【読み】
○天行は乾なり。君子以て自ら彊めて息まず。天とは、乾の卦の象なり。凡そ重卦は皆重義を取れども、此れ獨り然らざるは、天は一のみなればなり。但天行と言うは、則ち其の一日一周して、明日又一周する、重複の象の若きを見れば、至健に非ざれば能わざるなり。君子は之に法り、人欲を以て其の天德の剛を害さざれば、則ち自ら彊めて息まざるなり。
潛龍勿用、陽在下也。陽、謂九。下、謂潛。
【読み】
潛龍用うること勿かれとは、陽下に在ればなり。陽とは、九を謂う。下とは、潛を謂う。
見龍在田、德施普也。
【読み】
見龍田に在りとは、德の施し普[あまね]きなり。
終日乾乾、反復道也。復、芳服反。本亦作覆。○反復、重複踐行之意。
【読み】
終日乾乾すとは、道に反復するなり。復は、芳服の反。本に亦覆に作る。○反復とは、重複踐行の意。
或躍在淵、進无咎也。可以進而不必進也。
【読み】
或は躍りて淵に在りとは、進むも咎无きなり。以て進む可くして必ずしも進まざるなり。
飛龍在天、大人造也。造、徂早反。○造、猶作也。
【読み】
飛龍天に在りとは、大人造すなり。造は、徂早の反。○造は、猶作すのごとし。
亢龍有悔、盈不可久也。
【読み】
亢龍悔有りとは、盈つれば久しくす可からざるなり。
用九、天德不可爲首也。言陽剛不可爲物先。故六陽皆變而吉。○天行以下、先儒謂之大象。潛龍以下、先儒謂之小象。後放此。
【読み】
用九は、天德首と爲る可からざるなり。言うこころは、陽剛は物に先だつと爲す可からず。故に六陽皆變じて吉、と。○天行以下、先儒之を大象と謂う。潛龍以下、先儒之を小象と謂う。後も此に放え。
坤下坤上 坤
○地勢、坤。君子以厚德載物。地、坤之象、亦一而已。故不言重、而言其勢之順。則見其高下相因之无窮、至順極厚而无所不載也。
【読み】
○地勢は、坤なり。君子以て厚德にて物を載す。地は、坤の象にて、亦一なるのみ。故に重を言わずして、其の勢いの順なるを言う。則ち其の高下相因ること之れ窮まり无く、至順極厚にして載せざる所无きを見る。
履霜堅冰、陰始凝也。馴致其道、至堅冰也。凝、魚陵反。訓、似遵反。○按魏志作初六履霜。今當從之。訓、順習也。
【読み】
霜を履みて堅冰とは、陰始めて凝るなり。其の道を馴致して、堅冰に至るなり。凝は、魚陵の反。訓は、似遵の反。○按ずるに魏志に初六霜を履むと作す。今當に之に從うべし。訓とは、順い習うなり。
六二之動、直以方也。不習无不利、地道光也。
【読み】
六二の動は、直にして以て方なり。習わざれども利ろしからざること无しとは、地道光るなり。
含章可貞、以時發也。或從王事、知光大也。知、音智。
【読み】
章を含みて貞にす可しとは、時を以て發するなり。或は王事に從うとは、知光大なればなり。知は、音智。
括囊无咎、愼不害也。
【読み】
囊を括るも咎无しとは、愼めば害あらざるなり。
黄裳元吉、文在中也。文在中而見於外也。
【読み】
黄裳元吉とは、文中に在ればなり。文は中に在りて外に見るなり。
龍戰于野、其道窮也。
【読み】
龍野に戰うとは、其の道窮まるなり。
用六永貞、以大終也。初陰後陽。故曰大終。
【読み】
用六の永貞とは、大を以て終わるなり。初は陰にて後は陽。故に大いに終わると曰う。
震下坎上 屯
○雲雷、屯。君子以經綸。坎不言水而言雲者、未通之意。經綸、治絲之事。經引之、綸理之也。屯難之世、君子有爲之時也。
【読み】
○雲雷は、屯なり。君子以て經綸す。坎の水を言わずして雲を言うは、未だ通ぜざるの意なり。經綸とは、絲を治むるの事。經は之を引き、綸は之を理むるなり。屯難の世は、君子爲すこと有るの時なり。
雖磐桓、志行正也。以貴下賤。大得民也。下、遐嫁反。
【読み】
磐桓たりと雖も、志は正しきを行うなり。貴を以て賤に下る。大いに民を得るなり。下は、遐嫁の反。
六二之難、乘剛也。十年乃字、反常也。
【読み】
六二の難みは、剛に乘ればなり。十年にして乃ち字すとは、常に反るなり。
卽鹿无虞、以從禽也。君子舍之、往吝、窮也。
【読み】
鹿に卽くに虞无しとは、以て禽に從うなり。君子は之を舍む、往けば吝なりとは、窮すればなり。
求而往、明也。
【読み】
求めて往くは、明らかなるなり。
屯其膏、施未光也。施、始豉反。
【読み】
其の膏を屯らすとは、施すこと未だ光いならざるなり。施は、始豉の反。
泣血漣如、何可長也。長、直良反。
【読み】
泣血漣如たりとは、何ぞ長かる可けんやとなり。長は、直良の反。
坎下艮上 蒙
○山下出泉、蒙。君子以果行育德。行、下孟反。六三象同。○泉、水之始出者、必行而有漸也。
【読み】
○山下に泉を出だすは、蒙なり。君子以て行を果たし德を育[やしな]う。行は、下孟の反。六三の象も同じ。○泉とは、水の始めて出づる者にて、必ず行きて漸有るなり。
利用刑人、以正法也。發蒙之初、法不可不正。懲戒所以正法也。
【読み】
人を刑するに用うるに利ろしとは、以て法を正すなり。蒙を發くの初めは、法、正さざる可からず。懲戒は法を正す所以なり。
子克家、剛柔接也。指二・五之應。
【読み】
子家を克むとは、剛柔接わるなり。二・五の應を指す。
勿用取女、行不順也。順、當作愼。蓋順愼古字通用。荀子順墨作愼墨。且行不愼、於經意尤親切。今當從之。
【読み】
女を取るに用うること勿かれとは、行い順ならざればなり。順は、當に愼と作すべし。蓋し順と愼は古字通用す。荀子は順墨を愼墨と作す。且に行きて愼まずなれば、經に於て意尤も親切なるべし。今當に之に從うべし。
困蒙之吝、獨遠實也。遠、于滿反。實、叶韻去聲。
【読み】
蒙に困しむの吝とは、獨り實に遠ければなり。遠は、于滿の反。實は、叶韻去聲。
童蒙之吉、順以巽也。
【読み】
童蒙の吉とは、順にして以て巽なればなり。
利用禦寇、上下順也。禦寇以剛、上下皆得其道。
【読み】
寇を禦ぐに用うるに利ろしとは、上下順なればなり。寇を禦ぐに剛を以てすれば、上下皆其の道を得。
乾下坎上 需
○雲上於天、需。君子以飮食宴樂。上、上聲。樂、音洛。○雲上於天、无所復爲、待其陰陽之和而自雨爾。事之當需者、亦不容更有所爲。但飮食宴樂、俟其自至而已。一有所爲、則非需也。
【読み】
○雲の天に上るは、需なり。君子以て飮食宴樂す。上は、上聲。樂は、音洛。○雲の天に上るとは、復爲す所无く、其の陰陽の和して自ら雨ふるを待つのみ。事の當に需つべき者は、亦更に爲す所有る容からず。但飮食宴樂は、其の自ら至るを俟つのみ。一つ爲す所有れば、則ち需に非ざるなり。
需于郊、不犯難行也。利用恆、无咎、未失常也。難、去聲。
【読み】
郊に需つとは、難を犯して行かざるなり。恆に用うるに利ろし、咎无しとは、未だ常を失わざるなり。難は、去聲。
需于沙、衍在中也。雖小有言、以吉終也。衍、以善反。○衍、寬意。以寬居中、不急進也。
【読み】
沙に需つとは、衍[ゆた]かにして中に在るなり。小しく言有りと雖も、吉を以て終わるなり。衍は、以善の反。○衍とは、寬の意。寬を以て中に居れば、急に進まざるなり。
需于泥、災在外也。自我致寇、敬愼不敗也。外、謂外卦。敬愼不敗、發明占外之占。聖人示人之意切矣。
【読み】
泥に需つとは、災い外に在るなり。我より寇を致すとは、敬愼すれば敗れざるとなり。外とは、外卦を謂う。敬愼すれば敗れずとは、占外の占を發明す。聖人人に示す意切なり。
需于血、順以聽也。
【読み】
血に需つとは、順にして以て聽[したが]うなり。
酒食貞吉、以中正也。
【読み】
酒食の貞吉とは、中正なるを以てなり。
不速之客來、敬之終吉、雖不當位、未大失也。當、都浪反。後凡言當位不當位者倣此。○以陰居上、是爲當位、言不當位、未詳。
【読み】
速かざるの客來る、之を敬すれば終には吉とは、位に當たらずと雖も、未だ大いに失わざるなり。當は、都浪の反。後凡そ當位不當位と言う者は此に倣え。○陰を以て上に居るは、是れ位に當たると爲す。位に當たらずと言うは、未だ詳らかならず。
坎下乾上 訟
○天與水違行、訟。君子以作事謀始。天上水下、其行相違。作事謀始、訟端絶矣。
【読み】
○天と水と違い行くは、訟なり。君子以て事を作すに始めを謀る。天は上にて水は下、其の行くこと相違う。事を作すに始めを謀れば、訟の端絶ゆ。
不永所事、訟不可長也。雖小有言、其辯明也。
【読み】
事とする所を永くせずとは、訟は長くす可からざればなり。小しく言有りと雖も、其の辯明らかなり。
不克訟、歸逋竄也。自下訟上、患至掇也。竄、七亂反。掇、都活反。○掇、自取也。
【読み】
訟えに克たず、歸りて逋れ竄[かく]るるなり。下より上を訟うるは、患えの至ること掇[ひろ]うがごときなり。竄は、七亂の反。掇は、都活の反。○掇うとは、自ら取るなり。
食舊德、從上吉也。從上吉、謂隨人則吉。明自主事、則无成功也。
【読み】
舊德を食むとは、上に從えば吉なるなり。上に從えば吉とは、人に隨えば則ち吉なるを謂う。自ら事を主れば、則ち功を成すこと无きことを明らかにす。
復卽命渝、安貞、不失也。
【読み】
復りて命に卽き、渝えて貞しきに安んずとは、失わざるなり。
訟元吉、以中正也。中則聽不偏、正則斷合理。
【読み】
訟え元いに吉とは、中正なるを以てなり。中なれば則ち聽きて偏ならず、正しければ則ち斷は理に合す。
以訟受服、亦不足敬也。
【読み】
訟を以て服を受くるは、亦敬するに足らざるなり。
坎下坤上 師
○地中有水、師。君子以容民畜衆。畜、許六反。○水不外於地、兵不外於民。故能養民、則可以得衆矣。
【読み】
○地中に水有るは、師なり。君子以て民を容れ衆を畜[やしな]う。畜は、許六の反。○水は地に外れず、兵は民に外れず。故に能く民を養えば、則ち以て衆を得可し。
師出以律、失律凶也。
【読み】
師は出づるに律を以てすとは、律を失えば凶なるなり。
在師中、吉、承天寵也。王三錫命、懷萬邦也。
【読み】
師に在りて中す、吉とは、天寵を承くるなり。王三たび命を錫うとは、萬邦を懷くるなり。
師或輿尸、大无功也。
【読み】
師或は尸を輿すとは、大いに功无きなり。
左次、无咎、未失常也。知難而退、師之常也。
【読み】
左次す、咎无しとは、未だ常を失わざればなり。難を知りて退くは、師の常なり。
長子帥師、以中行也。弟子輿尸、使不當也。當、去聲。
【読み】
長子は師を帥ゆとは、中行なるを以てなり。弟子は尸を輿すとは、使うこと當たらざるなり。當は、去聲。
大君有命、以正功也。小人勿用、必亂邦也。聖人之戒深矣。
【読み】
大君命有りとは、以て功を正すなり。小人は用うること勿かれとは、必ず邦を亂せばなり。聖人の戒め深し。
坤下坎上 比
○地上有水、比。先王以建萬國、親諸侯。地上有水、水比於地。不容有閒。建国親侯、亦先王所以比於天下而无閒者也。彖意人來比我。此取我行比人。
【読み】
○地上に水有るは、比なり。先王以て萬國を建て、諸侯を親しむ。地上に水有るは、水、地に比せばなり。閒て有るを容れず。国を建て侯を親しむも、亦先王天下を比して閒て无き所以の者なり。彖の意は人來りて我に比す。此は我行きて人に比すに取る。
比之初六、有他吉也。
【読み】
比の初六は、他の吉有るなり。
比之自内、不自失也。得正則不自失矣。
【読み】
之に比すこと内よりすとは、自ら失わざるなり。正を得れば則ち自ら失わざるなり。
比之匪人、不亦傷乎。
【読み】
之に比せんとすれども人に匪ずとは、亦傷ましからずや。
外比於賢、以從上也。
【読み】
外賢に比すとは、以て上に從うなり。
顯比之吉、位正中也。舍逆取順、失前禽也。邑人不誡、上使中也。舍、音捨。○由上之德使不偏也。
【読み】
比を顯らかにするの吉とは、位正中なればなり。逆を舍て順を取れば、前禽を失うなり。邑人誡めずとは、上の使う中なり。舍は、音捨。○上の德使うこと偏ならざるに由るなり。
比之无首、无所終也。以上下之象言之、則爲无首。以終始之象言之、則爲无終。无首則无終矣。
【読み】
之に比すに首无しとは、終わる所无きなり。上下の象を以て之を言えば、則ち首无しと爲す。終始の象を以て之を言えば、則ち終わり无しと爲す。首无ければ則ち終わり无し。
乾下巽上 小畜
○風行天上、小畜。君子以懿文德。風有氣而无質、能畜而不能久。故爲小畜之象。懿文德、言未能厚積而遠施也。
【読み】
○風天上に行くは、小畜なり。君子以て文德を懿[よ]くす。風は氣有りて質无く、能く畜[とど]めて久しきこと能わず。故に小畜の象と爲す。文德を懿くすとは、言うこころは、未だ厚く積み遠く施すこと能わず、と。
復自道、其義吉也。
【読み】
復ること道よりすとは、其の義吉なるなり。
牽復在中。亦不自失也。亦者、承上爻義。
【読み】
牽きて復りて中に在り。亦自ら失わざるなり。亦は、上の爻の義を承く。
夫妻反目、不能正室也。程子曰、說輻反目、三自爲也。
【読み】
夫妻目を反くとは、室を正すこと能わざるなり。程子曰く、輻を說し目を反くは、三自ら爲す、と。
有孚惕出、上合志也。
【読み】
孚有りて惕れ出づとは、上志を合すればなり。
有孚攣如、不獨富也。
【読み】
孚有りて攣如たりとは、獨り富めりとせざるなり。
旣雨旣處、德積載也。君子征凶、有所疑也。
【読み】
旣に雨ふり旣に處るとは、德積みて載てるなり。君子征けば凶とは、疑わしき所有ればなり。
兌下乾上 履
○上天下澤、履。君子以辯上下、定民志。程傳備矣。○傳曰、天在上、澤居下、上下之正理也。人之所履當如是。故取其象而爲履。君子觀履之象、以辯別上下之分、以定其民志。夫上下之分明、然後民志有定。民志定、然後可以言治。民志不定、天下不可得而治也。古之時、公卿大夫而下、位各稱其德、終身居之、得其分也。位未稱德、則君舉而進之。士脩其學、學至而君求之。皆非有預於己也。農工商賈勤其事、而所享有限。故皆有定志、而天下之心可一。後世自庶士至於公卿、日志於尊榮、農工商賈、日志於富侈、億兆之心、交騖於利、天下紛然。如之何其可一也。欲其不亂難矣。此由上下无定志也。君子觀履之象、而分辯上下、使各當其分、以定民之心志也。
【読み】
○上天にして下澤なるは、履なり。君子以て上下を辯え、民の志を定む。程傳に備なり。○傳に曰く、天上に在り、澤下に居るは、上下の正理なり。人の履む所は當に是の如くあるべし。故に其の象を取りて履と爲す。君子は履の象を觀て、以て上下の分を辯別し、以て其の民の志を定む。夫れ上下の分明らかにして、然して後に民の志定まる有り。民の志定まりて、然して後に以て治を言う可し。民の志定まらざれば、天下得て治む可からざるなり。古の時、公卿大夫よりして下、位各々其の德に稱い、身を終うるまで之に居り、其の分を得るなり。位未だ德に稱わざれば、則ち君舉げて之を進む。士其の學を脩め、學至りて君之を求む。皆己に預ること有るに非ざるなり。農工商賈は其の事を勤めて、享く所限り有り。故に皆志定まる有りて、天下の心一つなる可し。後世は庶士より公卿に至るまで、日に尊榮を志し、農工商賈は、日に富侈を志し、億兆の心、交々利に騖せて、天下紛然たり。之を如何ぞ其の一つなる可き。其の亂れざるを欲せども難し。此れ上下志を定むること无きに由るなり。君子は履の象を觀て、上下を分辯し、各々其の分に當たらしめて、以て民の心志を定むるなり、と。
素履之往、獨行願也。
【読み】
素履の往くは、獨り願いを行うなり。
幽人貞吉、中不自亂也。
【読み】
幽人は貞しくして吉とは、中自ら亂さざればなり。
眇能視、不足以有明也。跛能履、不足以與行也。咥人之凶、位不當也。武人爲于大君、志剛也。
【読み】
眇にして能く視るとすとは、以て明有りとするに足らざるなり。跛にして能く履むとすとは、以て與に行くに足らざるなり。人を咥うの凶は、位當たらざればなり。武人大君に爲るとは、志のみ剛きなり。
愬愬終吉、志行也。
【読み】
愬愬たれば終には吉とは、志行わるるなり。
夬履、貞厲、位正當也。傷於所恃。
【読み】
履むことを夬す、貞しけれども厲うしとは、位正しく當たればなり。恃む所に傷つく。
元吉在上、大有慶也。若得元吉、則大有福慶也。
【読み】
元いに吉にして上に在るは、大いに慶び有るなり。若し元いに吉を得れば、則ち大いに福慶有るなり。
乾下坤上 泰
○天地交、泰。后以財成天地之道、輔相天地之宜、以左右民。財、栽同。相、息亮反。左、音佐。右、音佑。○財成以制其過、輔相以補其不及。
【読み】
○天地交わるは、泰なり。后以て天地の道を財成し、天地の宜を輔相し、以て民を左右す。財は、栽に同じ。相は、息亮の反。左は、音佐。右は、音佑。○財成して以て其の過を制し、輔相して以て其の及ばざるを補う。
拔茅、征吉、志在外也。
【読み】
茅を拔く、征けば吉とは、志外に在ればなり。
包荒、得尙于中行、以光大也。
【読み】
荒を包ぬ、中行に尙うことを得んとは、光大なるを以てなり。
无平不陂、天地際也。
【読み】
平かの陂[かたむ]かざるとは、天地際[まじ]わればなり。
*无平不陂・・・山崎嘉点は「无平不陂」、他の本では「无往不復」。
翩翩、不富、皆失實也。不戒以孚、中心願也。陰本居下。在上爲失實。
【読み】
翩翩たり、富めりとせずとは、皆實を失えばなり。戒めずして以て孚ありとは、中心より願えばなり。陰は本下に居る。上に在れば實を失うと爲す。
以祉元吉、中以行願也。
【読み】
以て祉ありて元いに吉とは、中以て願いを行えばなり。
城復于隍、其命亂也。命亂故復否。告命所以治之也。○治、平聲。
【読み】
城隍[ほり]に復るとは、其の命亂るるなり。命亂るる故に復りて否なり。告命は之を治むる所以なり。○治は、平聲。
坤下乾上 否
○天地不交、否。君子以儉德辟難。不可榮以祿。辟、音避。難、去聲。○收斂其德、不形於外。以避小人之難、人不得以祿位榮之。
【読み】
○天地交わらざるは、否なり。君子以て德を儉[つづま]やかにして難を辟く。榮するに祿を以てす可からず。辟は、音避。難は、去聲。○其の德を收斂して、外に形れず。以て小人の難を避け、人祿位を以て之を榮するを得ず。
拔茅、貞吉、志在君也。小人而變爲君子、則能以愛君爲念、而不計其私矣。
【読み】
茅を拔く、貞なれば吉とは、志君に在ればなり。小人にして變じて君子と爲れば、則ち能く君を愛するを以て念いと爲して、其の私を計らざるなり。
大人否亨、不亂羣也。言不亂於小人之羣。
【読み】
大人は否にして亨るとは、羣に亂されざるなり。言うこころは、小人の羣に亂されず、と。
包羞、位不當也。
【読み】
羞を包むとは、位當たらざればなり。
有命无咎、志行也。
【読み】
命有れば咎无しとは、志行わるるなり。
大人之吉、位正當也。
【読み】
大人は吉とは、位正しく當たればなり。
否終則傾。何可長也。
【読み】
否終われば則ち傾く。何ぞ長かる可けんや。
離下乾上 同人
○天與火、同人。君子以類族辨物。天在上而火炎上、其性同也。類族辨物、所以審異而致同也。
【読み】
○天と火とは、同人なり。君子以て族を類し物を辨ず。天は上に在りて火は炎上し、其の性同じきなり。族を類し物を辨ずるは、異なるを審らかにして同じきを致す所以なり。
出門同人。又誰咎也。
【読み】
門を出でて人に同じくす。又誰か咎めん。
同人于宗、吝道也。
【読み】
人に宗に同じくするは、吝道なり。
伏戎于莽、敵剛也。三歳不興、安行也。言不能行。
【読み】
戎を莽に伏すとは、敵剛きなり。三歳まで興さずとは、安んぞ行われんやとなり。言うこころは、行うこと能わず、と。
乘其墉、義弗克也。其吉、則困而反則也。乘其墉矣、則非其力之不足也。特以義之弗克而不攻耳。能以義斷、困而反於法則。故吉也。
【読み】
其の墉に乘るとは、義克[あた]わざるなり。其の吉とは、則ち困しみて則に反ればなり。其の墉に乘るとは、則ち其の力の足らざるに非ざるなり。特義の克わざるを以て攻めざるのみ。能く義を以て斷じ、困しみて法則に反る。故に吉なり。
同人之先、以中直也。大師相遇、言相克也。直、謂理直。
【読み】
人に同じくするの先とは、中直なるを以てなり。大師相遇うとは、言うこころは、相克つ、と。直とは、理直を謂う。
同人于郊、志未得也。
【読み】
人に郊に同じくすとは、志未だ得ざるなり。
乾下離上 大有
○火在天上、大有。君子以遏惡揚善、順天休命。火在天上、所照者廣、爲大有之象。所有旣大、无以治之、則釁蘖萌於其閒矣。天命有善而无惡。故遏惡揚善。所以順天。反之於身、亦若是而已矣。
【読み】
○火天上に在るは、大有なり。君子以て惡を遏[とど]め善を揚げて、天の休[おお]いなる命に順う。火は天上に在り、照らす所の者廣く、大有の象と爲す。有する所旣に大きく、以て之を治むること无ければ、則ち釁蘖其の閒に萌すなり。天命は善有りて惡无し。故に惡を遏め善を揚ぐ。天に順う所以なり。之を身に反せば、亦是の若きのみ。
大有初九、无交害也。
【読み】
大有の初九は、害に交ること无きなり。
大車以載、積中不敗也。
【読み】
大車以て載すとは、中に積みて敗れざるなり。
公用亨于天子。小人害也。
【読み】
公用て天子に亨す。小人は害あるなり。
匪其彭、无咎、明辯晳也。晳、明貌。
【読み】
其の彭[さか]んなるに匪ず、咎无しとは、明辯にして晳[あき]らかなればなり。晳とは、明らかなる貌。
厥孚交如、信以發志也。一人之信、足以發上下之志也。
【読み】
厥の孚交如たりとは、信以て志を發するなり。一人の信は、以て上下の志を發するに足るなり。
威如之吉、易而无備也。易、以豉反。○太柔、則人將易之而无畏備之心。
【読み】
威如の吉とは、易[あなど]りて備うること无ければなり。易は、以豉の反。○太だ柔なれば、則ち人將に之を易りて畏れ備うるの心无からんとす。
大有上吉、自天祐也。
【読み】
大有の上の吉とは、天より祐くればなり。
艮下坤上 謙
○地中有山、謙。君子以裒多益寡、稱物平施。裒、蒲侯反。稱、尺証反。施、始豉反。○以卑蘊高、謙之象也。裒多益寡、所以稱物之宜而平其施。損高增卑、以趣於平、亦謙之意也。
【読み】
○地中に山有るは、謙なり。君子以て多きを裒[へ]らし寡なきに益し、物を稱り施しを平かにす。裒は、蒲侯の反。稱は、尺証の反。施は、始豉の反。○卑きを以て高きを蘊むは、謙の象なり。多きを裒らし寡なきに益すは、物の宜しきを稱りて其の施しを平かにする所以なり。高きを損らし卑きを增し、以て平かに趣くも、亦謙の意なり。
謙謙君子、卑以自牧也。
【読み】
謙謙す君子とは、卑くして以て自ら牧うなり。
鳴謙、貞吉、中心得也。
【読み】
謙を鳴す、貞しくして吉なりとは、中心より得ればなり。
勞謙君子、萬民服也。
【読み】
勞謙す君子とは、萬民服するなり。
无不利、撝謙、不違則也。言不爲過。
【読み】
利ろしからざること无し、謙を撝[ふる]うとは、則に違わざるなり。言うこころは、過と爲さず、と。
利用侵伐、征不服也。
【読み】
侵伐するに用うるに利ろしとは、不服を征するなり。
鳴謙、志未得也。可用行師、征邑國也。陰柔无位、才力不足。故其志未得、而至於行師。然亦適足以治其私邑而已。
【読み】
謙を鳴すとは、志未だ得ざるなり。師を行り邑國を征するに用う可きのみなるなり。陰柔にて位无く、才力足らず。故に其の志未だ得ずして、師を行るに至る。然れども亦適に以て其の私邑を治むるに足るのみ。
坤下震上 豫
○雷出地奮、豫。先王以作樂崇德、殷薦之上帝、以配祖考。雷出地奮、和之至也。先王作樂、旣象其聲、又取其義。殷、盛也。
【読み】
○雷の地を出でて奮うは、豫なり。先王以て樂を作り德を崇くし、殷[さか]んに之を上帝に薦め、以て祖考を配す。雷の地を出でて奮うは、和の至りなり。先王の樂を作る、旣に其の聲に象り、又其の義を取る。殷とは、盛んなり。
初六鳴豫、志窮凶也。窮、謂滿極。
【読み】
初六の豫を鳴すとは、志窮まりて凶なるなり。窮とは、滿ち極まるを謂う。
不終日、貞吉、以中正也。
【読み】
日を終えず、貞しくして吉とは、中正なるを以てなり。
盱豫有悔、位不當也。
【読み】
盱豫の悔有るは、位當たらざればなり。
由豫、大有得、志大行也。
【読み】
由豫す、大いに得ること有りとは、志大いに行わるるなり。
六五貞疾、乘剛也。恆不死、中未亡也。
【読み】
六五の貞疾は、剛に乘ればなり。恆に死せずとは、中未だ亡わざるなり。
冥豫在上。何可長也。
【読み】
豫に冥して上に在り。何ぞ長かる可けんや。
震下兌上 隨
○澤中有雷、隨。君子以嚮晦入宴息。雷藏澤中。隨時休息。
【読み】
○澤中に雷有るは、隨なり。君子以て晦[ひのくれ]に嚮[む]かいて入りて宴息す。雷、澤中に藏る。時に隨いて休息す。
官有渝、從正吉也。出門交有功、不失也。
【読み】
官渝わること有りとは、正しきに從えば吉なるなり。門を出でて交われば功有りとは、失なわざるなり。
係小子、弗兼與也。
【読み】
小子に係るとは、兼與せざるなり。
係丈夫、志舍下也。舍、音捨。
【読み】
丈夫に係るとは、志下を舍つるなり。舍は、音捨。
隨有獲、其義凶也。有孚在道、明功也。
【読み】
隨いて獲ること有りとは、其の義凶なるなり。孚有り道に在りとは、明らかなるの功なり。
孚于嘉、吉、位正中也。
【読み】
嘉に孚なり、吉とは、位正中なればなり。
拘係之、上窮也。窮、極也。
【読み】
之を拘係すとは、上窮まるなり。窮とは、極まるなり。
巽下艮上 蠱
○山下有風、蠱。君子以振民育德。山下有風、物壞而有事矣。而事莫大於二者。乃治己治人之道也。
【読み】
○山下に風有るは、蠱なり。君子以て民を振[すく]い德を育う。山下に風有るは、物壞れて事有るなり。而して事は二つの者より大なるは莫し。乃ち己を治め人を治むるの道なり。
幹父之蠱、意承考也。
【読み】
父の蠱を幹すとは、意考に承くるなり。
幹母之蠱、得中道也。
【読み】
母の蠱を幹すとは、中道を得るなり。
幹父之蠱、終无咎也。
【読み】
父の蠱を幹すとは、終に咎无きなり。
裕父之蠱、往未得也。
【読み】
父の蠱を裕やかにすとは、往きて未だ得ざるなり。
幹父、用譽、承以德也。
【読み】
父を幹す、用て譽れありとは、承くるに德を以てすればなり。
不事王侯、志可則也。
【読み】
王侯に事えずとは、志則る可きなり。
兌下坤上 臨
○澤上有地、臨。君子以敎思无窮、容保民无疆。思、去聲。○地臨於澤、上臨下也。二者皆臨下之事。敎之无窮者、兌也。容之无窮者、坤也。
【読み】
○澤上に地有るは、臨なり。君子以て敎思すること窮まり无く、民を容れ保んずること疆[かぎ]り无し。思は、去聲。○地、澤に臨むは、上、下に臨むなり。二つの者は皆下に臨むの事。敎の窮まり无き者は、兌なり。容の窮まり无き者は、坤なり。
咸臨、貞吉、志行正也。
【読み】
咸臨む、貞しくして吉とは、志正しきを行えばなり。
咸臨、吉无不利、未順命也。未詳。
【読み】
咸臨む、吉にして利ろしからざること无しとは、未だ命に順わざればなり。未だ詳らかならず。
甘臨、位不當也。旣憂之、咎不長也。
【読み】
甘んじて臨むとは、位當たらざればなり。旣に之を憂えば、咎は長からざるなり。
至臨、无咎、位當也。
【読み】
至りて臨む、咎无しとは、位當たればなり。
大君之宜、行中之謂也。
【読み】
大君の宜しきとは、中を行うの謂なり。
敦臨之吉、志在内也。
【読み】
臨むに敦しの吉とは、志内に在ればなり。
坤下巽上 觀
○風行地上、觀。先王以省方觀民設敎。省、悉井反。○省方以觀民、設敎以爲觀。
【読み】
○風の地上を行くは、觀なり。先王以て方を省み民を觀て敎を設く。省は、悉井の反。○方を省み以て民を觀、敎を設けて以て觀を爲すなり。
初六童觀、小人道也。
【読み】
初六の童觀すとは、小人の道なり。
闚觀、女貞、亦可醜也。在丈夫則爲醜也。
【読み】
闚い觀る、女の貞とは、亦醜ず可きなり。丈夫に在れば則ち醜と爲すなり。
觀我生進退、未失道也。
【読み】
我が生を觀て進退すとは、未だ道を失わざるなり。
觀國之光、尙賓也。
【読み】
國の光を觀るとは、賓たらんことを尙[こいねが]うなり。
觀我生、觀民也。此夫子以義言之。明人君觀己所行、不但一身之得失、又當觀民德之善否、以自省察也。
【読み】
我が生を觀るとは、民を觀るなり。此れ夫子は義を以て之を言う。人君の己の行う所を觀るとは、但一身の得失のみならず、又當に民德の善否を觀て、以て自ら省察すべきことを明らかにするなり。
觀其生、志未平也。志未平、言雖不得位、未可忘戒懼也。
【読み】
其の生を觀るとは、志未だ平かならざるなり。志未だ平かならずとは、言うこころは、位を得ずと雖も、未だ戒懼するを忘れる可からず、と。
震下離上 噬嗑
○雷電、噬嗑。先王以明罰勅法。雷電、當作電雷。
【読み】
○雷電は、噬嗑なり。先王以て罰を明らかにして法を勅[ととの]う。雷電は、當に電雷と作すべし。
屨校滅趾、不行也。滅趾、又有不進於惡之象。
【読み】
校を屨いて趾を滅るとは、行かざるなり。趾を滅るとは、又惡に進まざるの象有り。
噬膚滅鼻、乘剛也。
【読み】
膚を噬みて鼻を滅るとは、剛に乘ればなり。
遇毒、位不當也。
【読み】
毒に遇うとは、位當たらざればなり。
利艱貞、吉、未光也。
【読み】
艱しんで貞なるに利ろし、吉とは、未だ光[おお]いならざるなり。
貞厲无咎、得當也。
【読み】
貞厲なれば咎无しとは、當を得ればなり。
何校滅耳、聰不明也。滅耳、蓋罪其聽之不聰也。若能審聽而早圖之、則无此凶矣。
【読み】
校を何いて耳を滅るとは、聰明らかならざればなり。耳を滅るとは、蓋し其の聽くことの聰からざるを罪するならん。若し能く審らかに聽きて早く之を圖れば、則ち此の凶无きなり。
離下艮上 賁
○山下有火、賁。君子以明庶政、无敢折獄。山下有火、明不及遠。明庶政、事之小者。折獄、事之大者。内離明而外艮止。故取象如此。
【読み】
○山下に火有るは、賁なり。君子以て庶政を明らかにし、敢えて獄を折[さだ]むること无し。山下に火有るとは、明遠くに及ばざるなり。庶政を明らかにすとは、事の小さき者なり。獄を折むとは、事の大なる者なり。内は離明にして外は艮止。故に象を取ること此の如し。
舍車而徒、義弗乘也。君子之取舍、決於義而已。
【読み】
車を舍てて徒すとは、義として乘らざるなり。君子の取舍は、義を決するのみ。
賁其須、與上興也。
【読み】
其の須[ひげ]を賁るとは、上と與に興るなり。
永貞之吉、終莫之陵也。
【読み】
永貞の吉とは、終に之を陵ぐもの莫きなり。
六四、當位疑也。匪寇、婚媾、終无尤也。當位疑、謂所當之位可疑也。終无尤、謂若守正而不與、亦无他患也。
【読み】
六四は、位に當たりて疑わるなり。寇するに匪ず、婚媾せんとすとは、終に尤[とが]无きなり。位に當たりて疑わるとは、當たる所の位は疑わる可きを謂うなり。終に尤无しとは、若し正しきを守りて與せざれば、亦他の患え无きを謂うなり。
六五之吉、有喜也。
【読み】
六五の吉とは、喜び有るなり。
白賁、无咎、上得志也。
【読み】
賁りを白くす、咎无しとは、上志を得ればなり。
坤下艮上 剥
○山附於地、剥。上以厚下安宅。
【読み】
○山の地に附くは、剥なり。上以て下を厚くして宅を安んず。
剥牀以足、以滅下也。
【読み】
牀を剥するに足を以てすとは、以て下を滅ぼすなり。
剥牀以辨、未有與也。言未大盛。
【読み】
牀を剥するに辨を以てすとは、未だ與するもの有らざるなり。言うこころは、未だ大いに盛んならず、と。
剥之、无咎、失上下也。上下、謂四陰。
【読み】
之を剥す、咎无しとは、上下を失えばなり。上下とは、四陰を謂う。
剥牀以膚、切近災也。
【読み】
牀を剥するに膚を以てすとは、切に災いに近きなり。
以宮人寵、終无尤也。
【読み】
宮人を以て寵せらるとは、終に尤无きなり。
君子得輿、民所載也。小人剥廬、終不可用也。
【読み】
君子は輿を得とは、民の載す所なればなり。小人は廬を剥すとは、終に用う可からざるなり。
震下坤上 復
○雷在地中、復。先王以至日閉關、商旅不行、后不省方。安靜以養微陽也。月令、是月齋戒掩身、以待陰陽之所定。
【読み】
○雷の地中に在るは、復なり。先王以て至日に關を閉ざし、商旅行かず、后は方を省みず。安靜以て微陽を養うなり。月令に、是の月齋戒して身を掩い、以て陰陽の定まる所を待つ、と。
不遠之復、以脩身也。
【読み】
遠からずの復とは、以て身を脩むるなり。
休復之吉、以下仁也。下、遐嫁反。
【読み】
休く復るの吉とは、以て仁に下るなり。下は、遐嫁の反。
頻復之厲、義无咎也。
【読み】
頻りに復るの厲うきは、義として咎无きなり。
中行獨復、以從道也。
【読み】
中行にして獨り復るとは、以て道に從うなり。
敦復、无悔、中以自考也。考、成也。
【読み】
復るに敦し、悔无しとは、中以て自ら考[な]せばなり。考とは、成るなり。
迷復之凶、反君道也。
【読み】
復に迷うの凶とは、君道に反けばなり。
震下乾上 无妄
○天下雷行、物與无妄。先王以茂對時育萬物。天下雷行、震動發生、萬物各正其性命。是物物而與之以无妄也。先王法此以對時育物、因其所性而不爲私焉。
【読み】
○天の下に雷行き、物ごとに无妄を與う。先王以て茂[さか]んに時に對して萬物を育う。天の下に雷行き、震動發生し、萬物各々其の性命を正す。是れ物物をして之に與うるに无妄を以てす。先王此に法り以て時に對して物を育い、其の性のままなる所に因りて私を爲さざるなり。
无妄之往、得志也。
【読み】
无妄の往くは、志を得るなり。
不耕獲、未富也。富、如非富天下之富。言非計其利而爲之也。
【読み】
耕獲せずとは、未だ富まんとせざるなり。富とは、天下を富ますに非ずの富の如し、言うこころは、其の利を計りて之を爲すに非ず、と。
行人得牛、邑人災也。
【読み】
行人の牛を得るは、邑人の災いなるなり。
可貞、无咎、固有之也。有、猶守也。
【読み】
貞にす可し、咎无しとは、固く之を有つなり。有つとは、猶守るのごとし。
无妄之藥、不可試也。旣已无妄而復藥之、則反爲妄而生疾矣。試、謂少嘗之也。
【読み】
无妄の藥は、試[もち]う可からざるなり。旣已に无妄にして復之に藥せば、則ち反って妄と爲りて疾を生ず。試とは、少しく之を嘗めるを謂うなり。
无妄之行、窮之災也。
【読み】
无妄の行くは、窮まるの災いあるなり。
乾下艮上 大畜
○天在山中、大畜。君子以多識前言往行、以畜其德。識、如字。又音志。行、下孟反。○天在山中、不必實有是事。但以其象言之耳。
【読み】
○天の山中に在るは、大畜なり。君子以て多く前言往行を識して、以て其の德を畜むる。識は、字の如し。又音志。行は、下孟の反。○天の山中に在るとは、必ず實に是の事有らず。但其の象を以て之を言うのみ。
有厲、利已、不犯災也。
【読み】
厲うきこと有り、已むに利ろしとは、災いを犯さざるなり。
輿說輹、中无尤也。
【読み】
輿輹を說すとは、中にして尤无きなり。
利有攸往、上合志也。
【読み】
往く攸有るに利ろしとは、上と志を合すればなり。
六四元吉、有喜也。
【読み】
六四の元いに吉とは、喜び有るなり。
六五之吉、有慶也。
【読み】
六五の吉とは、慶び有るなり。
何天之衢、道大行也。
【読み】
何ぞ天の衢なるとは、道大いに行わるるなり。
震下艮上 頤
○山下有雷、頤。君子以愼言語、節飮食。二者養德養身之切務。
【読み】
○山下に雷有るは、頤なり。君子以て言語を愼み、飮食を節す。二つの者は德を養い身を養うの切務なり。
觀我朶頤、亦不足貴也。
【読み】
我を觀て頤を朶るとは、亦貴ぶに足らざるなり。
六二征凶、行失類也。初上皆非其類也。
【読み】
六二の征けば凶とは、行きて類を失えばなり。初と上は皆其の類に非ざるなり。
十年勿用、道大悖也。
【読み】
十年用うること勿かれとは、道大いに悖ればなり。
顚頤之吉、上施光也。施、始豉反。
【読み】
顚に頤わるるの吉とは、上の施し光るなり。施は、始豉の反。
居貞之吉、順以從上也。
【読み】
貞に居るの吉とは、順にして以て上に從えばなり。
由頤、厲吉、大有慶也。
【読み】
由りて頤わる、厲うけれども吉とは、大いに慶び有るなり。
巽下兌上 大過
○澤滅木、大過。君子以獨立不懼、遯世无悶。澤滅於木、大過之象也。不懼无悶、大過之行也。
【読み】
○澤の木を滅[つ]くすは、大過なり。君子以て獨り立ちて懼れず、世を遯[のが]れて悶うること无し。澤の木を滅くすは、大過の象なり。懼れず悶うること无きは、大過の行なり。
藉用白茅、柔在下也。
【読み】
藉くに白茅を用うとは、柔にして下に在ればなり。
老夫女妻、過以相與也。
【読み】
老夫女妻とは、過ぎて以て相與するなり。
棟橈之凶、不可以有輔也。
【読み】
棟橈むの凶とは、以て輔くること有る可からざればなり。
棟隆之吉、不橈乎下也。
【読み】
棟隆きの吉とは、下に橈まざればなり。
枯楊生華、何可久也。老婦士夫、亦可醜也。
【読み】
枯楊華を生ずとは、何ぞ久しかる可けんや。老婦士夫とは、亦醜ず可きなり。
過渉之凶、不可咎也。
【読み】
過ぎて渉るの凶は、咎む可からざるなり。
坎下坎上 坎
○水洊至、習坎。君子以常德行、習敎事。洊、在薦反。行、下孟反。○治己治人、皆必重習、然後熟而安之。
【読み】
○水洊[しき]りに至るは、習坎なり。君子以て德行を常にし、敎事を習[かさ]ぬ。洊は、在薦の反。行は、下孟の反。○己を治め人を治むるは、皆必ず重習にして、然して後に熟して之に安んず。
習坎入坎、失道凶也。
【読み】
習坎し坎に入るとは、道を失いて凶なるなり。
求小得、未出中也。
【読み】
求めば小しく得とは、未だ中を出でざればなり。
來之坎坎、終无功也。
【読み】
來るも之くも坎坎たりとは、終に功无きなり。
樽酒簋貳、剛柔際也。晁氏曰、陸氏釋文本无貳字。今從之。
【読み】
樽酒簋とは、剛柔際[まじ]わるなり。晁氏曰く、陸氏の釋文本に貳の字无し、と。今之に從う。
坎不盈、中未大也。有中德而未大。
【読み】
坎盈たずとは、中未だ大ならざればなり。中の德有りて未だ大いならず。
上六失道。凶三歳也。
【読み】
上六は道を失う。凶なること三歳なるなり。
離下離上 離
○明兩作、離。大人以繼明照于四方。作、起也。
【読み】
○明兩[ふたた]び作るは、離なり。大人以て明を繼ぎ四方を照らす。作とは、起こるなり。
履錯之敬、以辟咎也。辟、避同。
【読み】
履むこと錯たるの敬は、以て咎を辟くるなり。辟は、避に同じ。
黄離、元吉、得中道也。
【読み】
黄離、元いに吉とは、中道を得ればなり。
日昃之離、何可久也。
【読み】
日昃くの離は、何ぞ久しかる可けんや。
突如其來如、无所容也。无所容、言焚・死・棄也。
【読み】
突如として其れ來如たりとは、容れらるる所无きなり。容れらるる所无しとは、焚・死・棄を言うなり。
六五之吉、離王公也。離、音麗。
【読み】
六五の吉とは、王公に離[つ]けばなり。離は、音麗。
王用出征、以正邦也。
【読み】
王用て出で征すとは、以て邦を正すなり。
下象傳
艮下兌上 咸
○山上有澤、咸。君子以虛受人。山上有澤、以虛而通也。
【読み】
○山上に澤有るは、咸なり。君子以て虛にして人を受く。山上に澤有り、虛を以て通ずるなり。
咸其拇、志在外也。
【読み】
其の拇に咸ずとは、志外に在るなり。
雖凶居吉、順不害也。
【読み】
凶と雖も居れば吉とは、順えば害せざるなり。
咸其股、亦不處也。志在隨人。所執下也。言亦者、因前二爻皆欲動而云也。二爻陰躁、其動也宜。九三陽剛、居止之極、宜靜而動、可吝之甚也。
【読み】
其の股に咸ずとは、亦處[とど]まらざるなり。志人に隨うに在り。執る所下きなり。亦と言うは、前の二爻皆動かんと欲するに因りて云うなり。二爻は陰躁、其の動くや宜なり。九三は陽剛、止の極みに居り、靜に宜しくして動くは、吝す可きの甚だしきなり。
貞吉悔亡、未感害也。憧憧往來、未光大也。感害、言不正而感、則有害也。
【読み】
貞しければ吉にして悔亡ぶとは、未だ感の害ならざるなり。憧憧として往來すとは、未だ光大ならざるなり。感の害とは、言うこころは、正しからずして感ずれば、則ち害有り、と。
咸其脢、志末也。志末、謂不能感物。
【読み】
其の脢に咸ずとは、志末なるなり。志末とは、物に感ずること能わざるを謂う。
咸其輔頬舌、滕口說也。滕、騰通用。
【読み】
其の輔頬舌に咸ずとは、口說を滕[あ]ぐるなり。滕は、騰に通用す。
巽下震上 恆
○雷風、恆。君子以立不易方。
【読み】
○雷風は、恆なり。君子以て立ちて方を易えず。
浚恆之凶、始求深也。
【読み】
恆を浚くすの凶とは、始めに求むること深ければなり。
九二悔亡、能久中也。
【読み】
九二の悔亡ぶとは、能く中に久しければなり。
不恆其德、无所容也。
【読み】
其の德を恆にせずとは、容れる所无きなり。
久非其位、安得禽也。
【読み】
久しきも其の位に非ず、安んぞ禽を得んや。
婦人貞吉、從一而終也。夫子制義。從婦凶也。
【読み】
婦人は貞しければ吉とは、一に從いて終わればなり。夫子は義を制す。婦に從えば凶なるなり。
振恆在上、大无功也。
【読み】
振うを恆とし上に在り、大いに功无きなり。
艮下乾上 遯
○天下有山、遯。君子以遠小人、不惡而嚴。遠、袁萬反。○天體无窮、山高有限。遯之象也。嚴者、君子自守之常、而小人自不能近。
【読み】
○天の下に山有るは、遯なり。君子以て小人に遠ざかり、惡まずして嚴しくす。遠は、袁萬の反。○天の體は窮まり无く、山高けれども限り有り。遯の象なり。嚴は、君子自ら守るの常にして、小人自ら近づくこと能わず。
遯尾之厲、不往何災也。
【読み】
遯尾の厲うきは、往かざれば何の災いかあらん。
執用黄牛、固志也。
【読み】
執うるに黄牛を用うとは、志を固くするなり。
係遯之厲、有疾憊也。畜臣妾吉、不可大事也。憊、音敗。
【読み】
係遯の厲うきは、疾有りて憊[つか]るるなり。臣妾を畜うには吉とは、大事には可ならざるなり。憊は、音敗。
君子好遯。小人否也。
【読み】
君子は好遯す。小人は否らざるなり。
嘉遯、貞吉、以正志也。
【読み】
嘉遯す、貞しくして吉とは、以て志を正しくするなり。
肥遯、无不利、无所疑也。
【読み】
肥遯す、利ろしからざること无しとは、疑う所无ければなり。
乾下震上 大壯
○雷在天上、大壯。君子以非禮弗履。自勝者強。
【読み】
○雷の天上に在るは、大壯なり。君子以て禮に非ざれば履まず。自ら勝つ者は強し。
壯于趾、其孚窮也。言必困窮。
【読み】
趾に壯んなりとは、其れ孚に窮するなり。言うこころは、必ず困窮す、と。
九二貞吉、以中也。
【読み】
九二の貞しければ吉とは、中を以てなり。
小人用壯、君子罔也。小人以壯敗、君子以罔困。
【読み】
小人は壯を用うれど、君子は罔きなり。小人は壯を以て敗れ、君子は罔を以て困しむ。
藩決不羸、尙往也。尙、上通。
【読み】
藩決けて羸しまずとは、尙[うえ]に往くなり。尙は、上に通ず。
喪羊于易、位不當也。
【読み】
羊を易に喪うとは、位當たらざればなり。
不能退、不能遂、不詳也。艱則吉、咎不長也。
【読み】
退くこと能わず、遂げること能わずとは、詳らかならざればなり。艱しめば則ち吉とは、咎長からざるなり。
坤下離上 晉
○明出地上、晉。君子以自昭明德。昭、明之也。
【読み】
○明地上に出づるは、晉なり。君子以て自ら明德を昭らかにす。昭とは、之を明らかにするなり。
晉如、摧如、獨行正也。裕无咎、未受命也。初居下位、未有官守之命。
【読み】
晉如たり、摧如たりとは、獨り正しきを行うなり。裕かなれば咎无しとは、未だ命を受けざればなり。初は下位に居り、未だ官守の命有らず。
受玆介福、以中正也。
【読み】
玆の介いなる福を受くとは、中正なるを以てなり。
衆允之志、上行也。
【読み】
衆允とすの志は、上り行くなり。
鼫鼠貞厲、位不當也。
【読み】
鼫鼠貞しけれども厲うしとは、位當たらざればなり。
失得勿恤、往有慶也。
【読み】
失得恤うること勿かれとは、往きて慶び有るなり。
維用伐邑、道未光也。
【読み】
維れ用て邑を伐つとは、道未だ光[おお]いならざるなり。
離下坤上 明夷
○明入地中、明夷。君子以莅衆、用晦而明。
【読み】
○明の地中に入るは、明夷なり。君子以て衆に莅[のぞ]み、晦きを用いて而も明なり。
君子于行、義不食也。唯義所在、不食可也。
【読み】
君子于に行くとは、義として食まざるなり。唯義の在する所にして、食まざるは可なり。
六二之吉、順以則也。
【読み】
六二の吉とは、順にして以て則あればなり。
南狩之志、乃大得也。
【読み】
南狩の志とは、乃ち大いに得るなり。
入于左腹、獲心意也。意、叶音臆。
【読み】
左腹に入るとは、心意を獲るなり。意は、叶音は臆。
箕子之貞、明不可息也。
【読み】
箕子の貞とは、明息む可からざるなり。
初登于天、照四國也。後入于地、失則也。照四國、以位言。
【読み】
初めは天に登るとは、四國を照らすなり。後には地に入るとは、則を失うなり。四國を照らすとは、位を以て言う。
離下巽上 家人
○風自火出、家人。君子以言有物、而行有恆。行、下孟反。○身脩則家治矣。
【読み】
○風の火より出づるは、家人なり。君子以て言に物有りて、行いに恆有り。行は、下孟の反。○身脩まれば則ち家治まる。
閑有家、志未變也。志未變而豫防之。
【読み】
閑いで家を有つとは、志未だ變ぜざるなり。志未だ變ぜずして豫め之を防ぐ。
六二之吉、順以巽也。
【読み】
六二の吉とは、順にして以て巽なればなり。
家人嗃嗃、未失也。婦子嘻嘻、失家節也。
【読み】
家人嗃嗃たりとは、未だ失なわざるなり。婦子嘻嘻たりとは、家節を失うなり。
富家、大吉、順在位也。
【読み】
家を富ます、大吉とは、順にして位に在ればなり。
王假有家、交相愛也。程子曰、夫愛其内助、婦愛其刑家。
【読み】
王有家に假るとは、交々相愛するなり。程子曰く、夫は其の内助を愛し、婦は其の家を刑するを愛す、と。
威如之吉、反身之謂也。謂非作威也。反身自治、則人畏服之矣。
【読み】
威如たるの吉とは、身に反るの謂なり。威を作すに非ざるを謂うなり。身に反りて自ら治むれば、則ち人之に畏服す。
兌下離上 睽
○上火下澤、睽。君子以同而異。二卦合體而性不同。
【読み】
○上に火あり下に澤あるは、睽なり。君子以て同じくして異なる。二卦體を合して性は同じからず。
見惡人、以辟咎也。辟、音避。
【読み】
惡人を見るとは、以て咎を辟くるなり。辟は、音避。
遇主于巷、未失道也。本其正應、非有邪也。
【読み】
主に巷に遇うとは、未だ道を失わざればなり。本其れ正應なれば、邪有ること非ず。
見輿曳、位不當也。无初有終、遇剛也。
【読み】
輿を曳くを見るとは、位當たらざればなり。初め无くして終わり有りとは、剛に遇えばなり。
交孚、无咎、志行也。
【読み】
交々孚あり、咎无しとは、志行わるるなり。
厥宗噬膚、往有慶也。
【読み】
厥の宗膚を噬むとは、往きて慶び有るなり。
遇雨之吉、羣疑亡也。
【読み】
雨に遇うの吉とは、羣疑亡ぶればなり。
艮下坎上 蹇
○山上有水、蹇。君子以反身脩德。
【読み】
○山上に水有るは、蹇なり。君子以て身に反りて德を脩む。
往蹇、來譽、宜待也。
【読み】
往けば蹇み、來れば譽れありとは、待つに宜しきなり。
王臣蹇蹇、終无尤也。事雖不濟、亦无可尤。
【読み】
王臣蹇蹇たりとは、終に尤无きなり。事濟われずと雖も、亦尤む可き无し。
往蹇、來反、内喜之也。
【読み】
往けば蹇み、來れば反るとは、内之を喜ぶとなり。
往蹇、來連、當位實也。當、去聲。
【読み】
往けば蹇み、來れば連なるとは、位に當たりて實なればなり。當は、去聲。
大蹇、朋來、以中節也。
【読み】
大いに蹇むも、朋來るとは、中節なるを以てなり。
往蹇、來碩、志在内也。利見大人、以從貴也。
【読み】
往けば蹇み、來れば碩いなりとは、志内に在るなり。大人を見るに利ろしとは、以て貴きに從うなり。
坎下震上 解
○雷雨作、解。君子以赦過宥罪。
【読み】
○雷雨作るは、解なり。君子以て過を赦して罪を宥[なだ]む。
剛柔之際、義无咎也。
【読み】
剛柔の際[まじ]わりは、義として咎无きなり。
九二貞吉、得中道也。
【読み】
九二の貞しければ吉とは、中道を得ればなり。
負且乘、亦可醜也。自我致戎、又誰咎也。戎、古本作寇。
【読み】
負い且つ乘るとは、亦醜ず可きなり。我より戎を致せば、又誰をか咎めん。戎は、古本は寇に作る。
解而拇、未當位也。
【読み】
而の拇を解くとは、未だ位に當たらざればなり。
君子有解、小人退也。
【読み】
君子解くこと有れば、小人退くなり。
公用射隼、以解悖也。解、佳買反。
【読み】
公用て隼を射るとは、以て悖れるを解くなり。解は、佳買の反。
兌下艮上 損
○山下有澤、損。君子以懲忿窒欲。懲、直升反。○君子脩身、所當損者、莫切於此。
【読み】
○山下に澤有るは、損なり。君子以て忿りを懲らし欲を窒ぐ。懲は、直升の反。○君子の身を脩むる、當に損らすべき所の者は、此より切なるは莫し。
已事遄往、尙合志也。尙、上通。
【読み】
事を已めて遄やかに往くとは、尙[かみ]と志を合すればなり。尙は、上に通ず。
九二利貞、中以爲志也。
【読み】
九二の貞しきに利ろしとは、中以て志と爲せばなり。
一人行、三則疑也。
【読み】
一人行くとは、三なれば則ち疑うなり。
損其疾、亦可喜也。
【読み】
其の疾を損らすとは、亦喜ぶ可きなり。
六五元吉、自上祐也。
【読み】
六五の元いに吉とは、上より祐くればなり。
弗損益之、大得志也。
【読み】
損らさずして之に益すとは、大いに志を得るなり。
震下巽上 益
○風雷、益。君子以見善則遷、有過則改。風雷之勢、交相助益、遷善改過。益之大者、而其相益亦猶是也。
【読み】
○風雷は、益なり。君子以て善を見れば則ち遷り、過有れば則ち改む。風雷の勢いは、交々相助け益し、善に遷り過を改む。益の大いなる者にして、其の相益すこと亦猶是のごとし。
元吉无咎、下不厚事也。下本不當任厚事。故不如是、不足以塞咎也。
【読み】
元いに吉にして咎无しとは、下厚事せざればなり。下は本當に厚事を任ずるべからず。故に是の如くならざれば、以て咎を塞ぐに足らざるなり。
或益之、自外來也。或者、衆无定主之辭。
【読み】
或は之に益すとは、外より來るなり。或は、衆く定主无きの辭。
益用凶事、固有之也。益用凶事、欲其困心衡慮而固有之也。
【読み】
益すに凶事を用うとは、固く之を有つなり。益すに凶事を用うとは、其の心を困しめ慮りに衡りて固く之を有たんと欲するなり。
告公從、以益志也。
【読み】
公に告げて從わるとは、益さんとするの志あるを以てなり。
有孚惠心、勿問之矣。惠我德、大得志也。
【読み】
孚有りて惠心ありとは、之を問うこと勿きなり。我が德を惠とすとは、大いに志を得るなり。
莫益之、偏辭也。或擊之、自外來也。莫益之者、猶從其求益之偏辭而言也。若究而言之、則又有擊之者矣。
【読み】
之に益すこと莫しとは、偏辭なり。或は之を擊つとは、外より來るなり。之に益すこと莫しは、猶其の益を求むるの偏辭に從りて言うがごとし。若し究めて之を言えば、則ち又之を擊つ者有るなり。
乾下兌上 夬
○澤上於天、夬。君子以施祿及下、居德則忌。上、時掌反。施、始豉反。○澤上於天、潰決之勢也。施祿及下、潰決之意也。居德則忌、未詳。
【読み】
○澤の天に上るは、夬なり。君子以て祿を施して下に及ぼし、德に居ること則ち忌む。上は、時掌の反。施は、始豉の反。○澤の天に上るとは、潰決の勢いなり。祿を施して下に及ぼすとは、潰決の意なり。德に居ること則ち忌むとは、未だ詳らかならず。
不勝而往、咎也。
【読み】
勝えずして往くは、咎なり。
有戎勿恤、得中道也。
【読み】
戎有れども恤うること勿かれとは、中道を得ればなり。
君子夬夬、終无咎也。
【読み】
君子は夬を夬すとは、終に咎无きなり。
其行次且、位不當也。聞言不信、聰不明也。
【読み】
其の行くこと次且たりとは、位當たらざればなり。言を聞くも信ぜずとは、聰くこと明らかならざればなり。
中行无咎、中未光也。程傳備矣。傳曰、卦辭言夬夬、則於中行爲无咎矣。象復盡其義云、中未光也。夫人心正意誠、乃能極中正之道、而充實光輝。五心有所比、以義之不可而決之。雖行於外、不失中正之義、可以无咎。然於中道未得爲光大也。蓋人心一有所欲、則離道矣。夫子於此、示人之意深矣。
【読み】
中行なれば咎无しとは、中未だ光[おお]いならざるなり。程傳に備なり。傳に曰く、卦辭に夬を夬すと言うは、則ち中行に於て咎无しと爲すなり。象も復其の義を盡くして云う、中未だ光いならず、と。夫れ人心正しく意誠なれば、乃ち能く中正の道を極めて、充實光輝す。五は心比する所有りて、義を以て之くこと可ならずして之を決す。外に行くと雖も、中正の義を失わず、以て咎无かる可し。然れども中道に於て未だ光大を爲すを得ず。蓋し人心一たび欲する所有れば、則ち道を離る。夫子此に於て、人に示すの意深し。
无號之凶、終不可長也。
【読み】
號ぶこと无きの凶とは、終に長かる可からざるなり。
巽下乾上 姤
○天下有風、姤。后以施命誥四方。
【読み】
○天の下に風有るは、姤なり。后以て命を施し四方に誥[つ]ぐ。
繫于金柅、柔道牽也。牽、進也。以其進、故止之。
【読み】
金柅に繫ぐとは、柔道牽けばなり。牽とは、進むなり。其の進むを以て、故に之を止むる。
包有魚、義不及賓也。
【読み】
包に魚有りとは、義として賓に及ばざるなり。
其行次且、行未牽也。
【読み】
其の行くこと次且たりとは、行きて未だ牽かれざるなり。
无魚之凶、遠民也。遠、袁萬反。○民之去己、猶己遠之。
【読み】
魚无きの凶とは、民を遠ざければなり。遠は、袁萬の反。○民の己を去るは、猶己之を遠ざくがごとし。
九五含章、中正也。有隕自天、志不舍命也。舍、音捨。
【読み】
九五の章を含むとは、中正なればなり。隕つること有り天よりすとは、志命を舍てざるなり。舍は、音捨。
姤其角、上窮吝也。
【読み】
其れ角に姤うとは、上窮まりて吝なるなり。
坤下兌上 萃
○澤上于地、萃。君子以除戎器、戒不虞。上、時掌反。○除者、脩而聚之之謂。
【読み】
○澤の地に上るは、萃なり。君子以て戎器を除[おさ]め、不虞を戒む。上は、時掌の反。○除は、脩めて之を聚むるの謂。
乃亂乃萃、其志亂也。
【読み】
乃ち亂れ乃ち萃まるとは、其の志亂るるなり。
引吉、无咎、中未變也。
【読み】
引けば吉なり、咎无しとは、中未だ變ぜざればなり。
往无咎、上巽也。
【読み】
往けば咎无しとは、上巽えばなり。
大吉、无咎、位不當也。
【読み】
大吉にして、咎无しとは、位當たらざればなり。
萃有位、志未光也。未光、謂匪孚。
【読み】
萃めて位を有つとも、志未だ光[おお]いならざるなり。未だ光いならずとは、孚に匪ざるを謂う。
齎咨涕洟、未安上也。
【読み】
齎咨涕洟すとは、未だ上に安んぜざるなり。
巽下坤上 升
○地中生木、升。君子以順德、積小以高大。王肅本、順作愼。今按他書引此、亦多作愼、意尤明白。蓋古字通用也。說見上篇蒙卦。
【読み】
○地中に木を生ずるは、升なり。君子以て順德、小を積みて以て高大なり。王肅本に、順を愼と作す。今按ずるに他書此を引くに、亦多く愼と作し、意尤も明白なり。蓋し古字通用せん。說は上篇の蒙の卦に見ゆ。
允升、大吉、上合志也。
【読み】
允に升る、大吉とは、上と志を合すればなり。
九二之孚、有喜也。
【読み】
九二の孚ありとは、喜び有るなり。
升虛邑、无所疑也。
【読み】
虛邑に升るとは、疑う所无きなり。
王用亨于岐山、順事也。以順而升登。祭于山之象。
【読み】
王用て岐山に亨すとは、順いて事るなり。順を以て升り登る。山に祭るの象なり。
貞吉、升階、大得志也。
【読み】
貞しければ吉なり、階に升るとは、大いに志を得るなり。
冥升在上、消不富也。
【読み】
升るに冥くして上に在るは、消して富まざるなり。
坎下兌上 困
○澤无水、困。君子以致命遂志。水下漏則澤上枯。故曰澤无水。致命、猶言授命。言持以與人而不之有也。能如是、則雖困而亨矣。
【読み】
○澤に水无きは、困なり。君子以て命を致し志を遂ぐ。水下りて漏るれば則ち澤上に枯る。故に澤に水无しと曰う。命を致すとは、猶言いて命を授くがごとし。言うこころは、持して以て人に與えて之を有せず、と。能く是の如くなれば、則ち困しむと雖も亨るなり。
入于幽谷、幽不明也。
【読み】
幽谷に入るとは、幽にして明らかならざるなり。
困于酒食、中有慶也。
【読み】
酒食に困しむとは、中にして慶び有るなり。
據于蒺藜、乘剛也。入于其宮、不見其妻、不祥也。
【読み】
蒺藜に據るとは、剛に乘ればなり。其の宮に入りて、其の妻を見ずとは、不祥なるなり。
來徐徐、志在下也。雖不當位、有與也。
【読み】
來ること徐徐たりとは、志下に在ればなり。位に當たらずと雖も、與するもの有るなり。
劓刖、志未得也。乃徐有說、以中直也。利用祭祀、受福也。
【読み】
劓[はなき]られ刖[あしき]らるとは、志未だ得ざるなり。乃ち徐ろに說び有りとは、中直なるを以てなり。祭祀に用うるに利ろしとは、福を受くるなり。
困于葛藟、未當也。動悔、有悔吉行也。
【読み】
葛藟に困しむとは、未だ當たらざるなり。動けば悔あり、悔ゆること有れば吉にして行くなり。
巽下坎上 井
○木上有水、井。君子以勞民勸相。上、如字。又時掌反。勞、力報反。相、息亮反。○木上有水、津潤上行、井之象也。勞民者、以君養民。勸相者、使民相養。皆取井養之義。
【読み】
○木の上に水有るは、井なり。君子以て民を勞い勸めて相[たす]く。上は、字の如し。又時掌の反。勞は、力報の反。相は、息亮の反。○木の上に水有り、津潤して上り行くは、井の象なり。民を勞うは、君を以て民を養うなり。勸めて相くは、民をして相養わしむなり。皆井の養の義を取るなり。
井泥不食、下也。舊井无禽、時舍也。舍、音捨。○言爲時所棄。
【読み】
井泥して食らわれずとは、下なればなり。舊井に禽无しとは、時舍つるなり。舍は、音捨。○言うこころは、時の棄つる所と爲す、と。
井谷射鮒、无與也。
【読み】
井谷鮒に射[そそ]ぐとは、與するもの无ければなり。
井渫不食、行惻也。求王明、受福也。行惻者、行道之人皆以爲惻也。
【読み】
井渫えたれども食らわれずとは、行くもの惻むなり。王の明を求めて、福を受くるなり。行くもの惻むは、道を行く人皆以て惻みと爲すなり。
井甃、无咎、脩井也。
【読み】
井甃す、咎无しとは、井を脩むるなり。
寒泉之食、中正也。
【読み】
寒泉の食らわるるは、中正なればなり。
元吉在上、大成也。
【読み】
元いに吉にして上に在るは、大いに成れるなり。
離下兌上 革
○澤中有火、革。君子以治厤明時。治、平聲。○四時之變、革之大者。
【読み】
○澤の中に火有るは、革なり。君子以て厤[こよみ]を治め時を明らかにす。治は、平聲。○四時の變は、革の大いなる者なり。
鞏用黄牛、不可以有爲也。
【読み】
鞏むるに黄牛を用うとは、以て爲すこと有る可からざるなり。
已日革之、行有嘉也。
【読み】
已日にして之を革むとは、行きて嘉きこと有るなり。
革言三就、又何之矣。言已審。
【読み】
革言三たび就れば、又何くにか之かん。言うこころは、已に審らかなり、と。
改命之吉、信志也。
【読み】
命を改むるの吉とは、志を信ずればなり。
大人虎變、其文炳也。
【読み】
大人は虎變すとは、其の文炳[へい]たるなり。
君子豹變、其文蔚也。小人革面、順以從君也。蔚、紆胃反。
【読み】
君子は豹變すとは、其の文蔚[うつ]たるなり。小人は面を革むとは、順にして以て君に從うなり。蔚は、紆胃の反。
巽下離上 鼎
○木上有火、鼎。君子以正位凝命。鼎、重器也。故有正位凝命之意。凝、猶至道不凝之凝。傳所謂協于上下以承天休者也。
【読み】
○木の上に火有るは、鼎なり。君子以て位を正し命を凝[な]す。鼎とは、重き器なり。故に位を正し命を凝すの意有り。凝は、猶至道凝らずの凝のごとし。傳に謂う所の上下に協
[かな]いて以て天休を承く者なり。
鼎顚趾、未悖也。利出否、以從貴也。鼎而顚趾、悖道也。而因可出否以從貴、則未爲悖也。從貴、謂應四、亦爲取新之意。
【読み】
鼎趾を顚にすとは、未だ悖らざるなり。否を出だすに利ろしとは、以て貴きに從うなり。鼎にして趾を顚にするは、悖道なり。而れども因りて否を出だして以て貴きに從う可くば、則ち未だ悖ると爲さざるなり。貴きに從うとは、四に應ずるを謂い、亦新しきを取るの意と爲す。
鼎有實、愼所之也。我仇有疾、終无尤也。有實而不愼其所往、則爲仇所卽而陷於惡矣。
【読み】
鼎に實有りとは、之く所を愼むなり。我が仇に疾有るも、終に尤无きなり。實有りて其の往く所を愼まざれば、則ち仇の卽く所と爲りて惡に陷るなり。
鼎耳革、失其義也。
【読み】
鼎の耳革まるとは、其の義を失うなり。
覆公餗。信如何也。言失信也。
【読み】
公の餗を覆す。信[まこと]に如何せん。言うこころは、信を失う、と。
鼎黄耳、中以爲實也。
【読み】
鼎に黄耳ありとは、中以て實と爲るなり。
玉鉉在上、剛柔節也。
【読み】
玉鉉上に在りとは、剛柔節するなり。
震下震上 震
○洊雷、震。君子以恐懼脩省。洊、在薦反。省、悉井反。
【読み】
○洊[しき]りに雷あるは、震なり。君子以て恐懼脩省す。洊は、在薦の反。省は、悉井の反。
震來虩虩、恐致福也。笑言啞啞、後有則也。
【読み】
震の來るとき虩虩たりとは、恐れて福を致すなり。笑言啞啞たりとは、後には則有るなり。
震來厲、乘剛也。
【読み】
震の來るとき厲うしとは、剛に乘ればなり。
震蘇蘇、位不當也。
【読み】
震いて蘇蘇たりとは、位當たらざればなり。
震遂泥、未光也。
【読み】
震いて遂に泥むとは、未だ光[おお]いならざればなり。
震往來厲、危行也。其事在中、大无喪也。
【読み】
震いて往くも來るも厲うしとは、危行なり。其の事中に在り、喪うこと无きを大とするなり。
震索索、中未得也。雖凶无咎、畏鄰戒也。中、謂中心。
【読み】
震いて索索たりとは、中未だ得ざればなり。凶なりと雖も咎无しとは、鄰の戒めを畏るればなり。中は、中心を謂う。
艮下艮上 艮
○兼山、艮。君子以思不出其位。
【読み】
○兼山は、艮なり。君子以て思うこと其の位を出でず。
艮其趾、未失正也。
【読み】
其の趾に艮まるとは、未だ正しきを失わざるなり。
不拯其隨、未退聽也。三止乎上、亦不肯退而聽乎二也。
【読み】
其の隨うところを拯わずとは、未だ退きて聽わざればなり。三は上に止まり、亦肯えて退きて二に聽わざるなり。
艮其限、危薫心也。
【読み】
其の限に艮まれば、危うきこと心を薫くなり。
艮其身、止諸躬也。
【読み】
其の身に艮まるとは、諸を躬に止むるなり。
艮其輔、以中正也。正字羨文。叶韻可見。
【読み】
其の輔に艮まるとは、中正なるを以てなり。正の字は羨文。叶韻見る可し。
敦艮之吉、以厚終也。
【読み】
艮まるに敦きの吉とは、厚きを以て終わればなり。
艮下巽上 漸
○山上有木、漸。君子以居賢德善俗。二者皆當以漸而進。疑賢字衍。或善下有脱字。
【読み】
○山上に木有るは、漸なり。君子以て賢德に居りて俗を善くす。二は皆當に漸を以て進むべし。疑うらくは賢の字は衍ならん。或は善の下に脱字有らん。
小子之厲、義无咎也。
【読み】
小子の厲うしとは、義として咎无きなり。
飮食衎衎、不素飽也。素飽、如詩言素餐。得之以道、則不爲徒飽而處之安矣。
【読み】
飮食衎衎たりとは、素飽せざるなり。素飽とは、詩に言う素餐の如し。之を得るに道を以てすれば、則ち徒飽と爲さずして之に處ること安し。
夫征不復、離羣醜也。婦孕不育、失其道也。利用禦寇、順相保也。離、力智反。
【読み】
夫征きて復らずとは、羣離れて醜ずべきなり。婦孕みて育せずとは、其の道を失えばなり。寇を禦ぐに用うるに利ろしとは、順にして相保てばなり。離は、力智の反。
或得其桷、順以巽也。
【読み】
或は其の桷を得とは、順にして以て巽なればなり。
終莫之勝、吉、得所願也。
【読み】
終に之に勝つこと莫し、吉とは、願う所を得るなり。
其羽可用爲儀、吉、不可亂也。漸進愈高而不爲无用。其志卓然。豈可得而亂哉。
【読み】
其の羽用て儀と爲す可し、吉とは、亂る可からざればなり。漸進すること愈々高くして用无しと爲さず。其の志卓然たり。豈得て亂る可けんや。
兌下震上 歸妹
○澤上有雷、歸妹。君子以永終知敝。雷動澤隨、歸妹之象。君子觀其合之不正、知其終之有敝也。推之事物、莫不皆然。
【読み】
○澤上に雷有るは、歸妹なり。君子以て終わりを永くし敝[やぶ]るるを知る。雷動き澤隨うは、歸妹の象。君子は其の合うことの正しからざるを觀て、其の終わりの敝れ有るを知るなり。之を事物に推せば、皆然らざること莫し。
歸妹以娣、以恆也。跛能履吉、相承也。恆、謂有常久之德。
【読み】
歸妹に娣を以てすとは、恆を以てするなり。跛能く履むの吉とは、相承くればなり。恆とは、常久の德有るを謂う。
利幽人之貞、未變常也。
【読み】
幽人の貞に利ろしとは、未だ常を變ぜざるなり。
歸妹以須、未當也。
【読み】
歸妹以て須つとは、未だ當たらざればなり。
愆期之志、有待而行也。
【読み】
期を愆[すご]すの志とは、待つこと有りて行くなり。
帝乙歸妹、不如其娣之袂良也、其位在中、以貴行也。以其有中德之貴而行。故不尙飾。
【読み】
帝乙妹を歸がしむ、其の娣の袂の良きに如かずとは、其の位中に在り、貴きを以て行けばなり。其の中德の貴き有るを以て行う。故に飾るを尙ばず。
上六无實、承虛筐也。
【読み】
上六の實无きは、虛筐を承くるなり。
離下震上 豐
○雷電皆至、豐。君子以折獄致刑。折、之舌反。○取其威照並行之象。
【読み】
○雷電皆至るは、豐なり。君子以て獄を折[さだ]め刑を致す。折は、之舌の反。○其の威照りて並び行くの象を取る。
雖旬无咎、過旬災也。戒占者不可求勝其配。亦爻辭外意。
【読み】
旬[ひと]しと雖も咎无しとは、旬しきを過ぐれば災いあるなり。占者を戒むるに、其の配に勝たんと求むる可からず、と。亦爻辭の外の意なり。
有孚發若、信以發志也。
【読み】
孚有りて發若たりとは、信[まこと]以て志を發するなり。
豐其沛、不可大事也。折其右肱、終不可用也。
【読み】
其の沛を豐いにすとは、大事に可ならざるなり。其の右肱を折るとは、終に用う可からざるなり。
豐其蔀、位不當也。日中見斗、幽不明也。遇其夷主吉、行也。
【読み】
其の蔀を豐いにすとは、位當たらざればなり。日中に斗を見るとは、幽にして明ならざるなり。其の夷主に遇えば吉とは、行けばなり。
六五之吉、有慶也。
【読み】
六五の吉とは、慶び有るなり。
豐其屋、天際翔也。闚其戶、闃其无人、自藏也。藏、謂障蔽。
【読み】
其の屋を豐いにすとは、天際に翔るなり。其の戶を闚うに、闃として其れ人无しとは、自ら藏[かく]るるなり。藏とは、障蔽を謂う。
艮下離上 旅
○山上有火、旅。君子以明愼用刑而不留獄。愼刑如山、不留如火。
【読み】
○山上に火有るは、旅なり。君子以て明らかに愼みて刑を用いて獄を留めず。刑を愼むこと山の如く、留めざること火の如し。
旅瑣瑣、志窮災也。
【読み】
旅して瑣瑣たりとは、志窮して災いあるなり。
得童僕貞、終无尤也。
【読み】
童僕の貞を得とは、終に尤无きなり。
旅焚其次、亦以傷矣。以旅與下、其義喪也。以旅之時、而與下之道如此。義當喪也。
【読み】
旅して其の次を焚かるとは、亦以て傷まし。旅を以て下に與すれば、其の義喪うなり。旅の時を以て、下に與するの道は此の如し。義として當に喪うべし。
旅于處、未得位也。得其資斧、心未快也。
【読み】
旅して于に處るとは、未だ位を得ざるなり。其の資斧を得とは、心未だ快からざるなり。
終以譽命、上逮也。上逮、言其譽命聞於上也。
【読み】
終に以て譽命ありとは、上に逮べばなり。上に逮ぶとは、其の譽命上に聞こゆるを言うなり。
以旅在上。其義焚也。喪牛于易、終莫之聞也。
【読み】
旅を以て上に在り。其の義焚かるるなり。牛を易に喪うとは、終に之を聞くこと莫きなり。
巽下巽上 巽
○隨風、巽。君子以申命行事。隨、相繼之義。
【読み】
○隨風は、巽なり。君子以て命を申ね事を行う。隨とは、相繼ぐの義。
進退、志疑也。利武人之貞、志治也。
【読み】
進み退くとは、志疑うなり。武人の貞に利ろしとは、志治まるなり。
紛若之吉、得中也。
【読み】
紛若たるの吉とは、中を得ればなり。
頻巽之吝、志窮也。
【読み】
頻りに巽うの吝とは、志窮すればなり。
田獲三品、有功也。
【読み】
田して三品を獲とは、功有るなり。
九五之吉、位正中也。
【読み】
九五の吉とは、位正中なればなり。
巽在牀下、上窮也。喪其資斧、正乎凶也。正乎凶、言必凶。
【読み】
巽いて牀下に在りとは、上窮まるなり。其の資斧を喪うとは、凶に正するなり。凶に正すとは、言うこころは、必ず凶なり、と。
兌下兌上 兌
○麗澤、兌。君子以朋友講習。兩澤相麗、互相滋益。朋友講習、其象如此。
【読み】
○麗澤は、兌なり。君子以て朋友講習す。兩つの澤相麗き、互いに相滋しみ益す。朋友講習は、其の象此の如し。
和兌之吉、行未疑也。居卦之初、其說也正。未有所疑也。
【読み】
和して兌ぶの吉とは、行いて未だ疑われざるなり。卦の初めに居り、其の說ぶや正し。未だ疑う所有らざるなり。
孚兌之吉、信志也。
【読み】
孚ありて兌ぶの吉とは、志を信ずればなり。
來兌之凶、位不當也。
【読み】
來りて兌ぶの凶とは、位當たらざればなり。
九四之喜、有慶也。
【読み】
九四の喜びとは、慶び有るなり。
孚于剥、位正當也。與履九五同。
【読み】
剥に孚ありとは、位正しく當たればなり。履の九五と同じ。
上六引兌、未光也。
【読み】
上六は引きて兌ぶとは、未だ光[おお]いならざるなり。
坎下巽上 渙
○風行水上、渙。先王以享于帝立廟。皆所以合其散。
【読み】
○風の水上に行くは、渙なり。先王以て帝に享し廟を立つ。皆其の散れるを合する所以なり。
初六之吉、順也。
【読み】
初六の吉とは、順なればなり。
渙奔其机、得願也。
【読み】
渙のとき其の机に奔るとは、願いを得るなり。
渙其躬、志在外也。
【読み】
其の躬を渙らすとは、志外に在るなり。
渙其羣、元吉、光大也。
【読み】
其の羣を渙らす、元いに吉とは、光大なればなり。
王居无咎、正位也。
【読み】
王居咎无しとは、正位なればなり。
渙其血、遠害也。遠、袁萬反。
【読み】
其の血を渙らすとは、害に遠ざかるなり。遠は、袁萬の反。
兌下坎上 節
○澤上有水、節。君子以制數度議德行。行、下孟反。
【読み】
○澤の上に水有るは、節なり。君子以て數度を制し德行を議す。行は、下孟の反。
不出戶庭、知通塞也。塞、悉則反。
【読み】
戶庭を出でずとは、通塞を知ればなり。塞は、悉則の反。
不出門庭、凶、失時極也。
【読み】
門庭を出でず、凶とは、時を失して極まるなり。
不節之嗟、又誰咎也。此无咎與諸爻異。言无所歸咎也。
【読み】
不節の嗟きとは、又誰をか咎めん。此の无咎は諸爻と異なり。言うこころは、咎を歸する所无き、と。
安節之亨、承上道也。
【読み】
安節の亨るは、上の道を承くればなり。
甘節之吉、居位中也。
【読み】
甘節の吉とは、位に居て中なればなり。
苦節、貞凶、其道窮也。
【読み】
苦節、貞くすれば凶とは、其の道窮まればなり。
兌下巽上 中孚
○澤上有風、中孚。君子以議獄緩死。風感水受、中孚之象。議獄緩死、中孚之意。
【読み】
○澤の上に風有るは、中孚なり。君子以て獄を議り死を緩くす。風感じて水受くるは、中孚の象なり。獄を議り死を緩くするは、中孚の意なり。
初九虞吉、志未變也。
【読み】
初九の虞んずれば吉とは、志未だ變ぜざるなり。
其子和之、中心願也。
【読み】
其の子之を和すとは、中心より願うなり。
或鼓或罷、位不當也。
【読み】
或は鼓ち或は罷むとは、位當たらざればなり。
馬匹亡、絶類上也。上、上聲。
【読み】
馬の匹を亡うとは、類を絶ちて上るなり。上は、上聲。
有孚攣如、位正當也。
【読み】
孚有りて攣如たりとは、位正當なればなり。
翰音登于天、何可長也。
【読み】
翰音天に登る、何ぞ長かる可けんや。
艮下震上 小過
○山上有雷、小過。君子以行過乎恭、喪過乎哀、用過乎儉。山上有雷、其聲小過。三者之過、皆小者之過、可過於小而不可過於大。可以小過而不可甚過、彖所謂可小事而宜下者也。
【読み】
○山の上に雷有るは、小過なり。君子以て行いは恭に過ぎ、喪は哀に過ぎ、用は儉に過ぐ。山の上に雷有れば、其の聲小しく過ぐ。三つの者の過は、皆小なる者の過にて、小に過ぐ可くして大に過ぐ可からず。以て小しく過ぐる可くして甚だ過ぐ可からず、彖に謂う所の小事には可にして下るに宜しき者なり。
飛鳥以凶、不可如何也。
【読み】
飛鳥以て凶とは、如何ともす可からざるなり。
不及其君、臣不可過也。所以不及君而還遇臣者、以臣不可過故也。
【読み】
其の君に及ばずとは、臣は過ぐ可からざるなり。君に及ばずして還って臣に遇う所以の者は、臣は過ぐ可からざるを以て故なり。
從或戕之、凶如何也。
【読み】
從いて或いは之を戕[そこな]うとは、凶なること如何せん。
弗過遇之、位不當也。往厲、必戒、終不可長也。爻義未明。此又當闕。
【読み】
過ぎずして之に遇うとは、位當たらざればなり。往けば厲うくして、必ず戒むべしとは、終に長くす可からざればなり。爻義未だ明らかならず。此も又當に闕くべし。
密雲不雨、已上也。已上、太高也。
【読み】
密雲あれども雨ふらずとは、已[はなは]だ上ればなり。已上とは、太だ高きなり。
弗遇過之、已亢也。
【読み】
遇わずして之に過ぐとは、已だ亢[たかぶ]れるなり。
離下坎上 旣濟
○水在火上、旣濟。君子以思患而豫防之。
【読み】
○水の火の上に在るは、旣濟なり。君子以て患えを思いて豫め之を防ぐ。
曳其輪、義无咎也。
【読み】
其の輪を曳くとは、義として咎无きなり。
七日得、以中道也。
【読み】
七日にして得んとは、中の道を以てなり。
三年克之、憊也。憊、蒲拜反。
【読み】
三年にして之に克つとは、憊[つか]るるなり。憊は、蒲拜の反。
終日戒、有所疑也。
【読み】
終日に戒むとは、疑う所有ればなり。
東鄰殺牛、不如西鄰之時也。實受其福、吉大來也。
【読み】
東鄰の牛を殺すは、西鄰の時なるに如かざるなり。實に其の福を受けて、吉大いに來るなり。
濡其首、厲、何可久也。
【読み】
其の首を濡らす、厲うしとは、何ぞ久しかる可けんや。
坎下離上 未濟
○火在水上、未濟。君子以愼辨物居方。水火異物、各居其所。故君子觀象而審辨之。
【読み】
○火の水の上に在るは、未濟なり。君子以て愼みて物を辨じ方に居く。水火は異なる物にて、各々其の所に居る。故に君子は象を觀て審らかに之を辨ず。
濡其尾、亦不知極也。極字未詳。考上下韻亦不叶。或恐是敬字。今且闕之。
【読み】
其の尾を濡らすとは、亦極を知らざるなり。極の字は未だ詳らかならず。上下の韻を考えるも亦叶わず。或は恐らくは是れ敬の字ならん。今且く之を闕かん。
九二貞吉、中以行正也。九居二、本非正。以中故得正也。
【読み】
九二の貞しければ吉とは、中以て正を行えばなり。九は二に居り、本正しきに非ず。中を以て故に正しきを得るなり。
未濟、征凶、位不當也。
【読み】
未濟、征けば凶とは、位當たらざればなり。
貞吉悔亡、志行也。
【読み】
貞しければ吉にして悔亡ぶとは、志行わるるなり。
君子之光、其暉吉也。暉者、光之散也。
【読み】
君子の光ありとは、其の暉[かがや]き吉なるなり。暉は、光の散るなり。
飮酒濡首、亦不知節也。
【読み】
酒を飮みて首を濡らすとは、亦節を知らざるなり。
上繫辭傳 傳、去聲。後同。
【読み】
上繫辭傳 傳は、去聲。後も同じ。
繫辭、本謂文王周公所作之辭、繫于卦爻之下者。卽今經文。篇乃孔子所述繫辭之傳也。以其通論一經之大體凡例、故无經可附、而自分上下云。
【読み】
繫辭は、本文王周公作る所の辭、卦爻の下に繫ける者を謂う。卽ち今の經文なり。此の篇は乃ち孔子述ぶる所の繫辭の傳なり。其れ通じて一經の大體凡例を論ずるを以て、故に經をして附す可きこと无くして、自ら上下を分かつと云う。
天尊地卑、乾坤定矣。卑高以陳、貴賤位矣。動靜有常、剛柔斷矣。方以類聚、物以羣分、吉凶生矣。在天成象、在地成形、變化見矣。斷、丁亂反。見、賢遍反。○天地者、陰陽形氣之實體。乾坤者、易中純陰純陽之卦名也。卑高者、天地萬物上下之位。貴賤者、易中卦爻上下之位也。動者、陽之常。靜者、陰之常。剛柔者、易中卦爻陰陽之稱也。方、謂事情所向。言事物善惡、各以類分。而吉凶者、易中卦爻占決之辭也。象者、日月辰之屬。形者、山川動植之屬。變化者、易中蓍策卦爻、陰變爲陽、陽化爲陰者也。此言聖人作易、因陰陽之實體、爲卦爻之法象。莊周所謂易以道陰陽、此之謂也。
【読み】
天は尊く地は卑くして、乾坤定まる。卑高以て陳[つら]なりて、貴賤位す。動靜常有りて、剛柔斷ず。方は類を以て聚まり、物は羣を以て分かれて、吉凶生ず。天に在りては象を成し、地に在りては形を成して、變化見
[あらわ]る。斷は、丁亂の反。見は、賢遍の反。○天地は、陰陽形氣の實體。乾坤は、易中純陰純陽の卦の名なり。卑高は、天地萬物上下の位。貴賤は、易中卦爻の上下の位なり。動は、陽の常。靜は、陰の常。剛柔は、易中卦爻の陰陽の稱なり。方は、事情の向かう所を謂う。言うこころは、事物善惡の、各々類を以て分かる、と。而して吉凶は、易中卦爻の占決の辭なり。象は、日月辰の屬。形は、山川動植の屬。變化は、易中蓍策の卦爻、陰變じて陽と爲り、陽化して陰と爲る者なり。此れ言うこころは、聖人の易を作る、陰陽の實體に因りて、卦爻の法象と爲る、と。莊周謂う所の易は以て陰陽を道うとは、此れ之を謂うなり。
是故剛柔相摩、八卦相蕩。蕩、徒浪反。○此言易卦之變化也。六十四卦之初、剛柔兩畫而已。兩相摩而爲四、四相摩而爲八、八相蕩而爲六十四。
【読み】
是の故に剛柔相摩し、八卦相蕩[うご]かす。蕩は、徒浪の反。○此れ易の卦の變化を言うなり。六十四卦の初めは、剛柔兩畫のみ。兩つ相摩して四と爲り、四相摩して八と爲り、八相蕩かして六十四と爲る。
鼓之以雷霆、潤之以風雨。日月運行、一寒一暑。此變化之成象者。
【読み】
之を鼓するに雷霆を以てし、之を潤すに風雨を以てす。日月運行して、一たびは寒く一たびは暑し。此れ變化の象を成す者なり。
乾道成男、坤道成女。此變化之成形者。此兩節、又明易之見於實體者。與上文相發明也。
【読み】
乾道は男を成し、坤道は女を成す。此れ變化の形を成す者なり。此の兩節、又易の實體に見る者を明らかにす。上文と相發明す。
乾知大始、坤作成物。知、猶主也。乾主始物而坤作成之。承上文男女而言乾坤之理。蓋凡物之屬乎陰陽者、莫不如此。大抵陽先陰後、陽施陰受、陽之輕淸未形、而陰之重濁有迹也。
【読み】
乾は大始を知[つかさど]り、坤は成物を作す。知は、猶主るのごとし。乾は物を始むるを主りて坤は之を作成す。上文の男女を承けて乾坤の理を言う。蓋し凡そ物の陰陽に屬する者は、此の如くならざること莫し。大抵陽は先だちて陰は後れ、陽施して陰受け、陽の輕淸未だ形れずして、陰の重濁迹有り。
乾以易知、坤以簡能。易、以豉反。○乾健而動。卽其所知、便能始物而无所難。故爲以易而知大始。坤順而靜。凡其所能、皆從乎陽而不自作。故爲以簡而能成物。
【読み】
乾は易を以て知り、坤は簡を以て能くす。易は、以豉の反。○乾は健にして動。卽ち其の知る所、便ち能く物を始めて難き所无し。故に易を以て大始を知ると爲す。坤は順にして靜。凡そ其の能くする所は、皆陽に從いて自ら作さず。故に簡を以て能く物を成すと爲す。
易則易知、簡則易從。易知則有親、易從則有功。有親則可久、有功則可大。可久則賢人之德、可大則賢人之業。人之所爲、如乾之易、則其心明白而人易知、如坤之簡、則其事要約而人易從。易知則與之同心者多。故有親。易從則與之協力者衆。故有功。有親則一於内。故可久。有功則兼於外。故可大。德、謂得於己者。業、謂成於事者。上言乾坤之德不同、此言人法乾坤之道。至此則可以爲賢矣。
【読み】
易なれば則ち知り易く、簡なれば則ち從い易し。知り易ければ則ち親しみ有り、從い易ければ則ち功有り。親しみ有れば則ち久しかる可く、功有れば則ち大いなる可し。久しかる可きは則ち賢人の德、大いなる可きは則ち賢人の業なり。人の爲す所、乾の易の如くなれば、則ち其の心明白にして人知ること易く、坤の簡の如くなれば、則ち其の事要約して人從うこと易し。知ること易ければ則ち之と心を同じくする者多し。故に親しみ有り。從うこと易ければ則ち之と力を協わす者衆し。故に功有り。親しみ有れば則ち内に一なり。故に久しかる可し。功有れば則ち外に兼ぬ。故に大いなる可し。德は、己に得る者を謂う。業は、事に成る者を謂う。上は乾坤の德同じからざるを言い、此は人の乾坤の道に法るを言う。此に至れば則ち以て賢と爲る可し。
易簡而天下之理得矣。天下之理得、而成位乎其中矣。成位、謂成人之位。其中、謂天地之中。至此則體道之極功。聖人之能事、可以與天地參矣。
【読み】
易簡にして天下の理得。天下の理得て、位を其の中に成す。位を成すとは、成人の位を謂う。其の中とは、天地の中を謂う。此に至れば則ち道に體するの極功なり。聖人の能く事とし、以て天地と參なる可し。
右第一章。此章以造化之實、明作經之理。又言乾坤之理、分見於天地、而人兼體之也。
【読み】
右第一章。此の章は造化の實を以て、經を作るの理を明らかにす。又乾坤の理、分かちて天地に見[しめ]し、人之を兼ね體するを言えり。
聖人設卦觀象、繫辭焉而明吉凶。象者、物之似也。此言聖人作易、觀卦爻之象而繫以辭也。
【読み】
聖人卦を設けて象を觀、辭を繫けて吉凶を明らかにす。象は、物の似なり。此れ聖人の易を作る、卦爻の象を觀て繫けるに辭を以てするを言うなり。
剛柔相推而生變化。言卦爻陰陽迭相推蕩、而陰或變陽、陽或化陰。聖人所以觀象而繫辭、衆人所以因蓍而求卦者也。
【読み】
剛柔相推して變化生ず。言うこころは、卦爻陰陽迭いに相推し蕩き、陰或は陽に變じ、陽或は陰に化す、と。聖人の象を觀て辭を繫ける所以、衆人の蓍に因りて卦を求むる所以の者なり。
是故吉凶者失得之象也。悔吝者憂虞之象也。吉凶悔吝者、易之辭也。得失憂虞者、事之變也。得則吉、失則凶。憂虞雖未至凶、然已足以致悔而取羞矣。蓋吉凶相對、而悔吝居其中閒、悔自凶而趨吉、吝自吉而向凶也。故聖人觀卦爻之中、或有此象、則繫之以此辭也。
【読み】
是の故に吉凶とは失得の象なり。悔吝とは憂虞の象なり。吉凶悔吝は、易の辭なり。得失憂虞は、事の變なり。得れば則ち吉、失えば則ち凶なり。憂虞未だ凶に至らずと雖も、然れども已に以て悔いを致して羞を取るに足る。蓋し吉凶相對して、悔吝其の中閒に居り、悔は凶よりして吉に趨り、吝は吉よりして凶に向かうなり。故に聖人は卦爻の中を觀て、或は此の象有るを、則ち之に繫けるに此の辭を以てす。
變化者進退之象也。剛柔者晝夜之象也。六爻之動、三極之道也。柔變而趨於剛者、退極而進也。剛化而趨於柔者、進極而退也。旣變而剛、則晝而陽矣。旣化而柔、則夜而陰矣。六爻、初・二爲地、三・四爲人、五・上爲天。動、卽變化也。極、至也。三極、天地人之至理、三才各一太極也。此明剛柔相推以生變化、而變化之極復爲剛柔、流行於一卦六爻之閒、而占者得因所値以斷吉凶也。
【読み】
變化とは進退の象なり。剛柔とは晝夜の象なり。六爻の動きは、三極の道なり。柔變じて剛に趨るは、退くこと極まりて進むなり。剛化して柔に趨るは、進むこと極まりて退くなり。旣に變じて剛なれば、則ち晝にして陽なり。旣に化して柔なれば、則ち夜にして陰なり。六爻は、初・二は地と爲り、三・四は人と爲り、五・上は天と爲る。動とは、卽ち變化なり。極とは、至れるなり。三極とは、天地人の至理にて、三才は各々一太極なり。此れ剛柔相推して以て變化を生じて、變化の極みも復剛柔を爲し、一卦六爻の閒に流行して、占者値
[あ]う所に因りて以て吉凶を斷つを得るを明らかにするなり。
是故君子所居而安者、易之序也。所樂而玩者、爻之辭也。樂、音洛。○易之序、謂卦爻所著事理當然之次第。玩者、觀之詳。
【読み】
是の故に君子の居りて安んずる所の者は、易の序なり。樂んで玩ぶ所の者は、爻の辭なり。樂は、音洛。○易の序とは、卦爻著る所の事理當然の次第を謂う。玩は、觀ることの詳らかなるなり。
是故君子居則觀其象而玩其辭、動則觀其變而玩其占。是以自天祐之、吉无不利。象・辭・變已見上。凡單言變者、化在其中。占、謂其所値吉凶之決也。
【読み】
是の故に君子は居れば則ち其の象を觀て其の辭を玩び、動けば則ち其の變を觀て其の占を玩ぶ。是を以て天より之を祐け、吉にして利ろしからざること无し。象・辭・變は已に上に見ゆ。凡そ單に變と言う者は、化其の中に在り。占とは、其の値う所の吉凶の決を謂うなり。
右第二章。此章言聖人作易、君子學易之事。
【読み】
右第二章。此の章は聖人易を作り、君子易を學ぶ事を言えり。
彖者言乎象者也。爻者言乎變者也。彖、謂卦辭。文王所作者。爻、謂爻辭。周公所作者。象、指全體而言。變、指一節而言。
【読み】
彖とは象を言う者なり。爻とは變を言う者なり。彖とは、卦辭を謂う。文王作る所の者なり。爻とは、爻辭を謂う。周公作る所の者なり。象とは、全體を指して言う。變とは、一節を指して言う。
吉凶者言乎其失得也。悔吝者言乎其小疵也。无咎者善補過也。此卦爻辭之通例。
【読み】
吉凶とは其の失得を言うなり。悔吝とは其の小疵を言うなり。咎无しとは善く過を補うなり。此れ卦爻の辭の通例なり。
是故列貴賤者存乎位。齊小大者存乎卦。辯吉凶者存乎辭。位、謂六爻之位。齊、猶定也。小、謂陰。大、謂陽。
【読み】
是の故に貴賤を列ぬる者は位に存す。小大を齊[さだ]むる者は卦に存す。吉凶を辯ずる者は辭に存す。位とは、六爻の位を謂う。齊とは、猶定むのごとし。小とは、陰を謂う。大とは、陽を謂う。
憂悔吝者存乎介。震无咎者存乎悔。上悔、乎罪反。下悔、呼對反。○介、謂辯別之端。蓋善惡已動而未形之時也。於此憂之、則不至於悔吝矣。震、動也。知悔、則有以動其補過之心、而可以无咎矣。
【読み】
悔吝を憂うる者は介に存す。震[うご]きて咎无き者は悔に存す。上の悔は、乎罪の反。下の悔は、呼對の反。○介とは、辯別の端を謂う。蓋し善惡已に動きて未だ形れざるの時なり。此に於て之を憂うれば、則ち悔吝に至らざるなり。震とは、動くなり。悔を知れば、則ち以て其の過を補うの心を動かすこと有りて、以て咎无かる可し。
是故卦有小大、辭有險易。辭也者各指其所之。易、以豉反。○小險大易、各隨所向。
【読み】
是の故に卦に小大有り、辭に險易有り。辭なる者は各々其の之く所を指す。易は、以豉の反。○小險大易、各々向かう所に隨う。
右第三章。此章釋卦爻辭之通例。
【読み】
右第三章。此の章は卦爻辭の通例を釋けり。
易與天地準。故能彌綸天地之道。易書卦爻具有天地之道、與之齊準。彌、如彌縫之彌、有終竟聯合之意。綸、有選擇條理之意。
【読み】
易は天地と準[なぞら]う。故に能く天地の道を彌綸[びりん]す。易の書と卦爻は具に天地の道有り、之と齊しく準う。彌とは、彌縫の彌の如く、終竟聯合の意有り。綸とは、選擇條理の意有り。
仰以觀於天文、俯以察於地理。是故知幽明之故。原始反終。故知死生之說。精氣爲物、遊魂爲變。是故知鬼神之情状。此窮理之事。以者、聖人以易之書也。易者陰陽而已。幽明死生鬼神、皆陰陽之變、天地之道也。天文則有晝夜上下、地理則有南北高深。原者、推之於前。反者、要之於後。陰精陽氣、聚而成物、神之伸也。魂游魄降、散而爲變、鬼之歸也。
【読み】
仰いで以て天文を觀、俯して以て地理を察す。是の故に幽明の故を知る。始めを原[たず]ねて終わりに反る。故に死生の說を知る。精氣物を爲し、遊魂變を爲す。是の故に鬼神の情状を知る。此れ理を窮むるの事。以は、聖人易の書を以てなり。易は陰陽のみ。幽明死生鬼神は、皆陰陽の變にて、天地の道なり。天文は則ち晝夜上下有り、地理は則ち南北高深有り。原は、之を前に推す。反は、之を後に要す。陰精陽氣、聚めて物を成すは、神の伸びるなり。魂游び魄降り、散じて變を爲すは、鬼の歸すなり。
與天地相似。故不違。知周乎萬物而道濟天下。故不過。旁行而不流、樂天知命。故不憂。安土敦乎仁。故能愛。知、音智。樂、音洛。知命之知如字。○此聖人盡性之事也。天地之道、知仁而已。知周萬物者、天也。道濟天下者、地也。知且仁、則知而不過矣。旁行者、行權之知也。不流者、守正之仁也。旣樂天理、而又知天命。故能无憂、而其知益深。隨處皆安而无一息之不仁。故能不忘其濟物之心而仁益篤。蓋仁者愛之理、愛者仁之用。故其相爲表裏如此。
【読み】
天地と相似たり。故に違わず。知萬物に周くして道天下を濟[すく]う。故に過たず。旁[あまね]く行きて流れず、天を樂しみ命を知る。故に憂えず。土に安んじ仁に敦し。故に能く愛す。知は、音智。樂は、音洛。知命の知は字の如し。○此れ聖人性を盡くすの事なり。天地の道は、知仁のみ。知萬物に周しは、天なり。道天下を濟うは、地なり。知且つ仁なれば、則ち知って過ぎざるなり。旁く行くは、權を行うの知なり。流れずは、正しきを守るの仁なり。旣に天理を樂しみて、又天命を知る。故に能く憂うること无くして、其の知益々深し。處に隨いて皆安んじて一息の不仁无し。故に能く其の物を濟うの心を忘れずして仁益々篤し。蓋し仁は愛の理、愛は仁の用なり。故に其の表裏を相爲すこと此の如し。
範圍天地之化而不過、曲成萬物而不遺、通乎晝夜之道而知。故神无方而易无體。此聖人至命之事也。範、如鑄金之有模範。圍、匡郭也。天地之化无窮。而聖人爲之範圍、不使過於中道。所謂裁成者也。通、猶兼也。晝夜、則幽明生死鬼神之謂。如此、然後可見至神之妙、无有方所、易之變化、无有形體也。
【読み】
天地の化を範圍して過ぎさず、萬物を曲成して遺さず、晝夜の道を通じて知る。故に神は方无くして易は體无し。此れ聖人の命に至るの事なり。範とは、金を鑄るの模範有るが如し。圍とは、匡郭なり。天地の化は窮まり无し。而して聖人之が範圍を爲し、中道を過ぎしめず。所謂裁成なる者なり。通とは、猶兼ぬるのごとし。晝夜とは、則ち幽明生死鬼神の謂。此の如くして、然して後に至神の妙、方所有ること无く、易の變化、形體有ること无きを見る可し。
右第四章。此章言易道之大、聖人用之如此。
【読み】
右第四章。此の章は易の道の大いなる、聖人之を用うること此の如きを言えり。
一陰一陽之謂道。陰陽迭運者、氣也。其理則所謂道。
【読み】
一陰一陽之を道と謂う。陰陽迭いに運ぶ者は、氣なり。其の理は則ち所謂道なり。
繼之者善也。成之者性也。道具於陰而行乎陽。繼、言其發也。善、謂化育之功、陽之事也。成、言其具也。性、謂物之所受。言物生則有性、而各具是道也。陰之事也。周子程子之書、言之備矣。
【読み】
之を繼ぐ者は善なり。之を成す者は性なり。道は陰に具わりて陽に行わる。繼ぐとは、其の發を言うなり。善とは、化育の功を謂い、陽の事なり。成すとは、其の具わるを言うなり。性とは、物の受くる所を謂う。言うこころは、物生ずれば則ち性有りて、各々是の道を具う、と。陰の事なり。周子程子の書は、之を言うこと備なり。
仁者見之謂之仁、知者見之謂之知、百姓日用而不知。故君子之道鮮矣。知、音智。不知之知、如字。鮮、息淺反。○仁陽知陰、各得是道之一隅。故隨其所見而目爲全體也。日用不知、則莫不飮食、鮮能知味者、又其每下者也。然亦莫不有是道焉。或曰、上章以知屬乎天、仁屬乎地、與此不同、何也。曰、彼以淸濁言、此以動靜言。
【読み】
仁者は之を見て之を仁と謂い、知者は之を見て之を知と謂い、百姓は日に用いて知らず。故に君子の道は鮮し。知は、音智。不知の知は、字の如し。鮮は、息淺の反。○仁は陽にて知は陰、各々是の道の一隅を得。故に其の見る所に隨いて目して全體と爲るなり。日に用いて知らずとは、則ち飮食せざること莫けれども、能く味を知ること鮮き者にして、又其の每に下なる者なり。然れども亦是の道有らざること莫し。或ひと曰く、上章は知を以て天に屬し、仁は地に屬し、此と同じからず、何ぞや、と。曰く、彼は淸濁を以て言い、此は動靜を以て言う、と。
顯諸仁、藏諸用、鼓萬物而不與聖人同憂。盛德大業至矣哉。顯、自内而外也。仁、謂造化之功、德之發也。藏、自外而内也。用、謂機緘之妙、業之本也。程子曰、天地无心而成化、聖人有心而无爲。
【読み】
諸を仁に顯[あらわ]し、諸を用に藏し、萬物を鼓して聖人と憂えを同じくせず。盛德大業至れるかな。顯とは、内よりして外なり。仁とは、造化の功を謂い、德の發なり。藏とは、外よりして内なり。用とは、機緘の妙を謂い、業の本なり。程子曰く、天地は心无くして化を成し、聖人は心有りて爲すこと无し、と。
富有之謂大業、日新之謂盛德。張子曰、富有者、大而无外。日新者、久而无窮。
【読み】
富有之を大業と謂い、日新之を盛德と謂う。張子曰く、富有は、大いにして外无し。日新は、久しくして窮まり无し、と。
生生之謂易、陰生陽、陽生陰。其變無窮。理與書皆然也。
【読み】
生生之を易と謂い、陰、陽を生じ、陽、陰を生ず。其の變窮まり無し。理と書と皆然り。
成象之謂乾、效法之謂坤。效、呈也。法、謂造化之詳密而可見者。
【読み】
象を成す之を乾と謂い、法を效[いた]す之を坤と謂う。效とは、呈するなり。法とは、造化の詳密にして見る可き者を謂う。
極數知來之謂占、通變之謂事、占、筮也。事之未定者、屬乎陽也。事、行事也。占之已決者、屬乎陰也。極數知來、所以通事之變。張忠定公言公事有陰陽、意蓋如此。
【読み】
數を極め來を知る之を占と謂い、變に通ずる之を事と謂い、占とは、筮なり。事の未だ定まらざる者は、陽に屬すなり。事とは、行事なり。占の已に決する者は、陰に屬すなり。數を極め來るを知るとは、事の變を通ずる所以。張忠定公の公事に陰陽有りと言うは、意蓋し此の如くならん。
陰陽不測之謂神。張子曰、兩在故不測。
【読み】
陰陽測られざる之を神と謂う。張子曰く、兩つ在る故に測られず、と。
右第五章。此章言道之體用不外乎陰陽、而其所以然者、則未嘗倚於陰陽也。
【読み】
右第五章。此の章は道の體用は陰陽に外れずして、其の然る所以の者は、則ち未だ嘗て陰陽に倚らざるを言えり。
夫易廣矣大矣。以言乎遠則不禦、以言乎邇則靜而正、以言乎天地之間則備矣。夫、音扶。下同。○不禦、言无盡。靜而正、言卽物而理存。備、言无所不有。
【読み】
夫れ易は廣し大いなり。以て遠きを言えば則ち禦[とど]まらず、以て邇きを言えば則ち靜かにして正しく、以て天地の間を言えば則ち備わる。夫は、音扶。下も同じ。○禦まらずとは、盡きること无きを言う。靜かにして正しきとは、物に卽きて理存するを言う。備とは、有らざる所无きを言う。
夫乾其靜也專。其動也直。是以大生焉。夫坤其靜也翕。其動也闢。是以廣生焉。翕、虛級反。闢、婢亦反。○乾坤各有動靜、於其四德見之。靜體而動用、靜別而動交也。乾一而實。故以質言而曰大。坤二而虛。故以量言而曰廣。蓋天之形雖包於地之外、而其氣常行乎地之中也。易之所以廣大者以此。
【読み】
夫れ乾は其の靜かなるや專らなり。其の動くや直し。是を以て大いに生ず。夫れ坤は其の靜かなるや翕[あ]う。其の動くや闢く。是を以て廣く生ず。翕は、虛級の反。闢は、婢亦の反。○乾坤各々動靜有り、其の四德に於て之を見る。靜は體にして動は用、靜別れて動交わるなり。乾は一にして實。故に質を以て言いて大と曰う。坤は二にして虛。故に量を以て言いて廣と曰う。蓋し天の形は地の外を包ぬと雖も、而して其の氣は常に地の中に行わる。易の廣大なる所以の者は此を以てなり。
廣大配天地。變通配四時。陰陽之義配日月。易簡之善配至德。易、以豉反。○易之廣大變通、與其所言陰陽之說、易簡之德、配之天道人事則如此。
【読み】
廣大は天に配す。變通は四時に配す。陰陽の義は日月に配す。易簡の善は至德に配す。易は、以豉の反。○易の廣大變通と、其の言う所の陰陽の說、易簡の德は、之を天道人事に配すれば則ち此の如し。
右第六章。
子曰、易其至矣乎。夫易、聖人所以崇德而廣業也。知崇禮卑。崇效天、卑法地。知、音智。○十翼皆夫子所作。不應自著子曰字。疑皆後人所加也。窮理則知崇如天而德崇。循理則禮卑如地而業廣。此其取類、又以淸濁言也。
【読み】
子曰く、易は其れ至れるかな。夫れ易は、聖人の德を崇くし業を廣むる所以なり。知は崇く禮は卑し。崇きは天に效[なら]い、卑きは地に法る。知は、音智。○十翼は皆夫子の作る所。自ら子曰の字を著く應からず。疑うらくは皆後人の加うる所ならん。理を窮むれば則ち知崇きこと天の如くして德崇し。理に循えば則ち禮卑きこと地の如くして業廣し。此れ其の類を取り、又淸濁を以て言うなり。
天地設位、而易行乎其中矣。成性存存、道義之門。天地設位而變化行、猶知禮存性而道義出也。成性、本成之性也。存存、謂存而又存。不已之意也。
【読み】
天地位を設けて、易其の中に行わる。成性存存は、道義の門なり。天地位を設けて變化行わるとは、猶禮を知り性を存して道義出づるがごとし。成性とは、本成の性なり。存すべきを存すとは、存して又存すを謂う。已まざるの意なり。
右第七章
聖人有以見天下之賾、而擬諸其形容、象其物宜。是故謂之象。賾、雜亂也。象、卦之象。如說卦所列者。
【読み】
聖人以て天下の賾[さく]を見ること有りて、諸を其の形容に擬し、其の物宜に象る。是の故に之を象と謂う。賾とは、雜亂なり。象とは、卦の象。說卦列する所の如き者なり。
聖人有以見天下之動、而觀其會通、以行其典禮、繫辭焉以斷其吉凶。是故謂之爻。斷、丁玩反。○會、謂理之所聚而不可遺處。通、謂理之可行而无所礙處。如庖丁解牛。會則其族、而通則其虛也。
【読み】
聖人以て天下の動を見ること有りて、其の會通を觀、以て其の典禮を行い、辭を繫けて以て其の吉凶を斷ず。是の故に之を爻と謂う。斷は、丁玩の反。○會とは、理の聚まる所にして遺す可からざる處を謂う。通とは、理の行く可くして礙ぐる所无き處を謂う。庖丁が牛を解くが如し。會は則ち其れ族にして、通は則ち其れ虛なり。
言天下之至賾而不可惡也。言天下之至動而不可亂也。惡、烏路反。○惡、猶厭也。
【読み】
天下の至賾を言えども惡む可からざるなり。天下の至動を言えども亂す可からざるなり。惡は、烏路の反。○惡とは、猶厭うがごとし。
擬之而後言、議之而後動、擬議以成其變化。觀象玩辭、觀變玩占、而法行之。此下七爻、則其例也。
【読み】
之を擬して後に言い、之を議して後に動き、擬議して以て其の變化を成す。象を觀て辭を玩び、變を觀て占を玩び、而して法りて之を行う。此の下の七爻は、則ち其の例なり。
鳴鶴在陰、其子和之。我有好爵、吾與爾靡之。子曰、君子居其室出其言善、則千里之外應之。況其邇者乎。居其室出其言不善、則千里之外違之。況其邇者乎。言出乎身加乎民。行發乎邇見乎遠。言行君子之樞機。樞機之發、榮辱之主也。言行、君子之所以動天地也。可不愼乎。和、胡臥反。靡、音縻。行、下孟反。見、賢遍反。○釋中孚九二爻義。
【読み】
鳴鶴陰に在り、其の子之を和す。我に好き爵有り、吾爾と之に靡[かか]らん。子曰く、君子其の室に居りて其の言を出だすこと善ければ、則ち千里の外も之に應ず。況や其の邇き者をや。其の室に居りて其の言を出だすこと善からざれば、則ち千里の外も之に違う。況や其の邇き者をや。言は身に出でて民に加わる。行いは邇きに發して遠きに見る。言行は君子の樞機なり。樞機の發は、榮辱の主なり。言行は、君子の天地を動かす所以なり。愼まざる可けんや。和は、胡臥の反。靡は、音縻。行は、下孟の反。見は、賢遍の反。○中孚の九二の爻義を釋く。
同人先號咷而後笑。子曰、君子之道、或出或處、或默或語。二人同心、其利斷金。同心之言、其臭如蘭。斷、丁管反。臭、昌又反。○釋同人九五爻義。言君子之道、初若不同、而後實无閒。斷金如蘭、言物莫能閒、而言有味也。
【読み】
人に同じくするに先には號き咷びて後には笑う。子曰く、君子の道、或は出で或は處り、或は默し或は語る。二人心を同じくすれば、其の利きこと金を斷つ。同心の言は、其の臭蘭の如し。斷は、丁管の反。臭は、昌又の反。○同人の九五の爻義を釋く。言うこころは、君子の道は、初め同じからざるが若く、而して後に實に閒て无し、と。金を斷つこと蘭の如しとは、言うこころは、物能く閒てること莫くして、言に味有り、と。
初六、藉用白茅。无咎。子曰、苟錯諸地而可矣。藉之用茅。何咎之有。愼之至也。夫茅之爲物薄、而用可重也。愼斯術也以往、其无所失矣。藉、在夜反。錯、音措。夫、音扶。○釋大過初六爻義。
【読み】
初六、藉[し]くに白茅を用う。咎无し。子曰く、苟も諸を地に錯きて可なり。之を藉くに茅を用う。何の咎か之れ有らん。愼むの至りなり。夫れ茅の物爲る薄けれど、用は重かる可きなり。斯の術を愼みて以て往けば、其れ失する所无からん。藉は、在夜の反。錯は、音措。夫は、音扶。○大過の初六の爻義を釋く。
勞謙。君子有終吉。子曰、勞而不伐、有功而不德、厚之至也。語以其功下人者也。德言盛、禮言恭。謙也者致恭以存其位者也。釋謙九三爻義。德言盛、禮言恭、言德欲其盛、禮欲其恭也。
【読み】
勞謙す。君子終わり有りて吉なり。子曰く、勞して伐[ほこ]らず、功有りて德とせず、厚きの至りなり。其の功を以て人に下る者を語[い]えるなり。德には盛と言い、禮には恭と言う。謙とは恭を致して以て其の位を存する者なり。謙の九三の爻義を釋く。德には盛と言い、禮には恭と言うとは、言うこころは、德は其の盛んならんことを欲し、禮は其の恭しからんことを欲す、と。
亢龍有悔。子曰、貴而无位、高而无民、賢人在下位而无輔。是以動而有悔也。釋乾上九爻義。當屬文言。此蓋重出。
【読み】
亢龍悔有り。子曰く、貴くして位无く、高くして民无く、賢人下位に在りて輔くる无し。是を以て動きて悔有るなり。乾の上九の爻義を釋く。當に文言に屬すべし。此れ蓋し重出ならん。
不出戶庭。无咎。子曰、亂之所生也、則言語以爲階。君不密則失臣、臣不密則失身、幾事不密則害成。是以君子愼密而不出也。幾、音機。○釋節初九爻義。
【読み】
戶庭を出です。咎无し。子曰く、亂の生ずる所や、則ち言語以て階と爲す。君密ならざれば則ち臣を失い、臣密ならざれば則ち身を失い、幾事密ならざれば則ち害成る。是を以て君子は愼密にして出さざるなり。幾は、音機。○節の初九の爻義を釋く。
子曰、作易者、其知盗乎。易曰、負且乘、致寇至。負也者、小人之事也。乘也者、君子之器也。小人而乘君子之器、盗思奪之矣。上慢下暴、盗思伐之矣。慢藏誨盗、冶容誨淫。易曰、負且乘、致寇至、盗之招也。藏、才浪反。○釋解六三爻義。
【読み】
子曰く、易を作る者は、其れ盗を知れるか。易に曰く、負い且つ乘り、寇の至るを致す、と。負うとは、小人の事なり。乘るとは、君子の器なり。小人にして君子の器に乘れば、盗之を奪わんことを思う。上慢にして下暴なれば、盗之を伐たんことを思う。慢藏は盗を誨え、冶容は淫を誨う。易に曰く、負い且つ乘り、寇の至るを致すとは、盗を之れ招くなり。藏は、才浪の反。○解の六三の爻義を釋く。
右第八章。此章言卦爻之用。
【読み】
右第八章。此の章は卦爻の用を言えり。
天一地二。天三地四。天五地六。天七地八。天九地十。此簡本在第十章之首。程子曰、宜在此。今從之。此言天地之數、陽奇陰耦、卽所謂河圖者也。其位一・六居下、二・七居上、三・八居左、四・九居右、五・十居中。就此章而言之、則中五爲衍母、次十爲衍子、次一・二・三・四爲四象之位、次六・七・八・九爲四象之數。二老位於西北、二少位於東南、其數則各以其類交錯於外也。
【読み】
天一地二。天三地四。天五地六。天七地八。天九地十。此の簡は本第十章の首めに在り。程子曰く、宜しく此に在るべし、と。今之に從う。此れ天地の數は、陽は奇、陰は耦なるを言い、卽ち所謂河圖なる者なり。其の位は一・六は下に居り、二・七は上に居り、三・八は左に居り、四・九は右に居り、五・十は中に居る。此の章に就いて之を言えば、則ち中の五を衍母と爲し、次に十を衍子と爲し、次に一・二・三・四を四象の位と爲し、次に六・七・八・九を四象の數と爲す。二老は西北に位し、二少は東南に位し、其の數は則ち各々其の類を以て外に交錯するなり。
天數五、地數五。五位相得而各有合。天數二十有五。地數三十。凡天地之數五十有五。此所以成變化而行鬼神也。此簡本在大衍之後、今按宜在此。天數五者、一・三・五・七・九皆奇也。地數五者、二・四・六・八・十皆耦也。相得、謂一與二、三與四、五與六、七與八、九與十、各以奇耦爲類而自相得。有合、謂一與六、二與七、三與八、四與九、五與十、皆兩相合。二十有五者、五奇之積也。三十者、五耦之積也。變化、謂一變生水、而六化成之、二化生火、而七變成之、三變生木、而八化成之、四化生金、而九變成之、五變生土、而十化成之。鬼神、謂凡奇耦生成之屈伸往來者。
【読み】
天の數五、地の數五。五位相得て各々合うこと有り。天の數二十有五。地の數三十。凡そ天地の數五十有五。此れ變化を成して鬼神を行う所以なり。此の簡は本大衍の後に在り、今按ずるに宜しく此に在るべし。天の數五は、一・三・五・七・九皆奇なり。地の數五は、二・四・六・八・十皆耦なり。相得とは、一と二、三と四、五と六、七と八、九と十、各々奇耦を以て類を爲して自ら相得るを謂う。合うこと有りとは、一と六、二と七、三と八、四と九、五と十、皆兩つ相合うを謂う。二十有五は、五奇の積なり。三十は、五耦の積なり。變化とは、一變じて水を生じ、而して六化して之を成し、二化して火を生し、而して七變じて之を成し、三變じて木を生じ、而して八化して之を成し、四化して金を生じ、而して九變じて之を成し、五變じて土を生じ、而して十化して之を成すを謂う。鬼神とは、凡そ奇耦生成する屈伸往來する者を謂う。
大衍之數五十、其用四十有九。分而爲二以象兩、掛一以象三、揲之以四、以象四時。歸奇於扐以象閏。五歳再閏。故再扐而後掛。揲、時設反。奇、紀宜反。扐、郎得反。○大衍之數五十、蓋以河圖中宮、天五乘地十而得之。至用以筮、則又止用四十有九。蓋皆出於理勢之自然、而非人之知力所能損益也。兩、謂天地也。掛、懸其一於左手小指之閒也。三、三才也。揲、閒而數之也。奇、所揲四數之餘也。扐、勒於左手中三指之兩閒也。閏、積月之餘日而成月者也。五歳之閒、再積日而再成月。故五歳之中、凡有再閏、然後別起積分。如一掛之後、左右各一揲而一扐。故五者之中、凡有再扐、然後別起一掛也。
【読み】
大衍の數五十、其の用四十有九。分かちて二と爲し以て兩に象り、一を掛けて以て三に象り、之を揲[かぞ]うるに四を以てし、以て四時に象り、奇を扐[ろく]に歸して以て閏
[じゅん]に象る。五歳にして再閏あり。故に再扐して後に掛く。揲は、時設の反。奇は、紀宜の反。扐は、郎得の反。○大衍の數五十とは、蓋し河圖中宮の天五を以て、地十に乘りて之を得。用うるに以て筮するに至れば、則ち又止四十有九を用うるのみ。蓋し皆理勢の自然に出でて、人の知力の能く損益する所に非ざるなり。兩とは、天地を謂うなり。掛けるとは、其の一つを左手小指の閒に懸けるなり。三とは、三才なり。揲えるとは、閒てて之を數うるなり。奇とは、四を揲え數うる所の餘なり。扐とは、左手中三指の兩閒に勒すなり。閏とは、月の餘日を積んで月を成す者なり。五歳の閒、再び日を積んで再び月を成す。故に五歳の中、凡そ再閏有り、然して後に別に積分を起こす。一掛の後、左右各々一揲して一扐す。故に五者の中、凡そ再扐有り、然して後に別に一掛を起こすが如し。
乾之策二百一十有六、坤之策百四十有四、凡三百有六十、當期之日。期、音基。○凡此策數生於四象。蓋河圖四面、太陽居一而連九、少陰居二而連八、少陽居三而連七、太陰居四而連六。揲蓍之法、則通計三變之餘、去其初掛之一。凡四爲奇、凡八爲耦。奇圓圍三、耦方圍四。三用其全、四用其半、積而數之、則爲六・七・八・九、而第三變揲數策數、亦皆符會。蓋餘三奇則九、而其揲亦九、策亦四九三十六。是爲居一之太陽。餘二奇一耦則八、而其揲亦八、策亦四八三十二。是爲居二之少陰。二耦一奇則七、而其揲亦七、策亦四七二十八。是爲居三之少陽。三耦則六、而其揲亦六、策亦四六二十四。是爲居四之老陰。是其變化往來進退離合之妙、皆出自然、非人之所能爲也。少陰退而未極乎虛、少陽進而未極乎盈。故此獨以老陽老陰計乾坤六爻之策數。餘可推而知也。期、周一歳也。凡三百六十五日四分日之一、此特舉成數而概言之耳。
【読み】
乾の策二百一十有六、坤の策百四十有四、凡そ三百有六十、期の日に當たる。期は、音基。○凡そ此の策數は四象に生ず。蓋し河圖の四面、太陽は一に居りて九に連なり、少陰は二に居りて八に連なり、少陽は三に居りて七に連なり、太陰は四に居りて六に連なる。蓍を揲うる法は、則ち通して三變の餘を計り、其の初掛の一を去る。凡て四を奇と爲し、凡て八を耦と爲す。奇は圓にて圍は三、耦は方にて圍は四。三は其の全てを用い、四は其の半を用い、積んで之を數うれば、則ち六・七・八・九と爲りて、而して第三變の揲數策數も、亦皆符會す。蓋し餘り三奇なれば則ち九にして、其の揲も亦九、策も亦四九三十六。是を一に居るの太陽と爲す。餘り二奇一耦なれば則ち八にして、其の揲も亦八、策も亦四八三十二。是を二に居るの少陰と爲す。二耦一奇なれば則ち七にして、其の揲も亦七、策も亦四七二十八。是を三に居るの少陽と爲す。三耦なれば則ち六にして、其の揲も亦六、策も亦四六二十四。是を四に居るの老陰と爲す。是れ其の變化往來進退離合の妙は、皆自然に出で、人の能く爲す所に非ざるなり。少陰は退いて未だ虛を極めず、少陽は進んで未だ盈を極めず。故に此れ獨老陽老陰を以て乾坤六爻の策數を計る。餘は推して知る可し。期とは、周一歳なり。凡そ三百六十五日四分日の一、此れ特成數を舉げて概ね之を言うのみ。
二篇之策萬有一千五百二十、當萬物之數也。二篇、謂上下經。凡陽爻百九十二、得六千九百一十二策、陰爻百九十二、得四千六百八策。合之得此數。
【読み】
二篇の策は萬有一千五百二十、萬物の數に當たる。二篇とは、上下の經を謂う。凡そ陽爻は百九十二、六千九百一十二策を得、陰爻は百九十二、四千六百八策を得。之を合わせて此の數を得。
是故四營而成易、十有八變而成卦、四營、謂分二掛一揲四歸奇也。易、變易也。謂一變也。三變成爻、十八變則成六爻也。
【読み】
是の故に四營して易を成し、十有八變にして卦を成し、四營とは、二つに分かち一を掛け四を揲えて奇を歸すを謂うなり。易とは、變易なり。一變を謂うなり。三變して爻を成し、十八變なれば則ち六爻を成すなり。
八卦而小成。謂九變而成三畫、得内卦也。
【読み】
八卦にして小成す。九變して三畫を成し、内卦を得るを謂うなり。
引而伸之、觸類而長之、天下之能事畢矣。長、丁丈反。○謂已成六爻、而視其爻之變與不變、以爲動靜、則一卦可變而爲六十四卦、以定吉凶。凡四千九十六卦也。
【読み】
引きて之を伸べ、類に觸れて之を長くすれば、天下の能事畢わる。長は、丁丈の反。○已に六爻を成して、其の爻の變と不變とを視て、以て動靜を爲せば、則ち一卦變じて六十四卦と爲り、以て吉凶を定む可きを謂うなり。凡て四千九十六卦なり。
顯道神德行。是故可與酬酢、可與祐神矣。行、下孟反。○道因辭顯、行以數神。酬酢、謂應對。祐神、謂助神化之功。
【読み】
道を顯らかにして德行を神にす。是の故に與に酬酢す可く、與に神を祐く可し。行は、下孟の反。○道は辭に因りて顯らかに、行は數を以て神なり。酬酢とは、應對を謂う。神を祐くとは、神化の功を助くを謂う。
子曰、知變化之道者、其知神之所爲乎。變化之道、卽上文數法是也。皆非人之所能爲。故夫子歎之、而門人加子曰以別上文也。
【読み】
子曰く、變化の道を知る者は、其れ神の爲す所を知るか。變化の道とは、卽ち上文の數法、是れなり。皆人の能く爲す所に非ず。故に夫子之を歎じ、而して門人子曰を加えて以て上文に別てり。
右第九章。此章言天地大衍之數、揲蓍求卦之法。然亦略矣。意其詳具於大卜筮人之官、而今不可考耳。其可推者、啓蒙備言之。
【読み】
右第九章。此の章は天地大衍の數、蓍を揲え卦を求むる法を言う。然れども亦略なり。意うに其の詳は大卜筮人の官に具われども、而して今考う可からざるのみ。其の推す可き者は、啓蒙備に之を言えり。
易有聖人之道四焉。以言者尙其辭、以動者尙其變、以制器者尙其象、以卜筮者尙其占。四者皆變化之道。神之所爲者也。
【読み】
易に聖人の道四つ有り。以て言う者は其の辭を尙び、以て動く者は其の變を尙び、以て器を制する者は其の象を尙び、以て卜筮する者は其の占を尙ぶ。四つの者は皆變化の道なり。神の爲す所の者なり。
是以君子將有爲也、將有行也、問焉而以言。其受命也如嚮、无有遠近幽深、遂知來物。非天下之至精、其孰能與於此。嚮、許兩反。古文響字。與、音預。下同。○此尙辭尙占之事。言人以蓍問易、求其卦爻之辭、而以之發言處事、則易受人之命而有以告之、如嚮之應聲、以決其未來之吉凶也。以言、與以言者尙其辭之以言義同。命、則將筮而告蓍之語。冠禮筮日、宰自右贊命、是也。
【読み】
是を以て君子將に爲すこと有るや、將に行うこと有るや、問いて以て言う。其の命を受くるや嚮[ひび]きの如く、遠近幽深有ること无く、遂に來物を知る。天下の至精に非ざれば、其れ孰か能く此に與らん。嚮は、許兩の反。古文は響の字。與は、音預。下も同じ。○此れ辭を尙び占を尙ぶの事。言うこころは、人蓍を以て易を問い、其の卦爻の辭を求めて、之を以て言を發し事を處せば、則ち易人の命を受けて以て之に告ぐること有り、嚮きの聲に應うるが如く、以て其の未だ來らざるの吉凶を決す、と。以て言うとは、以て言う者は其の辭を尙ぶの以て言うと義は同じ。命とは、則ち將に筮せんとして蓍に告ぐるの語。冠禮日を筮す、宰右よりして命を贊くとは、是れなり。
參伍以變、錯綜其數。通其變、遂成天地之文、極其數、遂定天下之象。非天下之至變、其孰能與於此。參、七南反。錯、七各反。綜、作弄反。○此尙象之事。變則象之未定者也。參者、三數之也。伍者、五數之也。旣參以變、又伍以變、一先一後、更相考覈、以審其多寡之實也。錯者、交而互之。一左一右之謂也。綜者、總而挈之。一低一昴之謂也。此亦皆謂揲蓍求卦之事。蓋通三揲兩手之策、以成陰陽老少之畫。究七・八・九・六之數、以定卦爻動靜之象也。參伍錯綜皆古語、而參伍尤難曉。按荀子云、窺敵制變、欲伍以參。韓非曰、省同異之言、以知朋黨之分、偶參伍之驗、以責陳言之實。又曰、參之以比物、伍之以合參。史記曰、必參而伍之。又曰、參伍不失。漢書曰、參伍其實、以類相準。此足以相發明矣。
【読み】
參伍して以て變じ、其の數を錯綜す。其の變に通じて、遂に天地の文を成し、其の數を極めて、遂に天下の象を定む。天下の至變に非ざれば、其れ孰か能く此に與らん。參は、七南の反。錯は、七各の反。綜は、作弄の反。○此れ象を尙ぶの事。變とは則ち象の未だ定まらざる者なり。參は、三たび之を數うるなり。伍は、五たび之を數うるなり。旣に參以て變じ、又伍以て變じ、一先一後、更相考覈し、以て其の多寡の實を審らかにするなり。錯は、交わりて之を互にす。一左一右の謂なり。綜は、總べて之を挈
[も]つ。一低一昴の謂なり。此れ亦皆蓍を揲え卦を求むる事を謂う。蓋し三揲兩手の策を通じ、以て陰陽老少の畫を成す。七・八・九・六の數を究め、以て卦爻の動靜の象を定む。參伍錯綜は皆古語にして、參伍は尤も曉かし難し。按ずるに荀子云う、敵を窺い變を制するは、伍にして以て參ならんことを欲す、と。韓非曰く、同異の言を省み、以て朋黨の分を知り、參伍の驗を偶し、以て陳言の實を責む、と。又曰く、之を參にし以て物に比し、之を伍にして以て參に合す、と。史記に曰く、必ず參にして之を伍にす、と。又曰く、參伍して失わず、と。漢書に曰く、其の實を參伍し、類を以て相準う、と。此れ以て相發明するに足る。
易无思也、无爲也。寂然不動、感而遂通天下之故。非天下之至神、其孰能與於此。此四者、易之體所以立、而用所以行者也。易、指蓍卦。无思无爲、言其无心也。寂然者、感之體。感通者、寂之用。人心之妙、其動靜亦如此。
【読み】
易は思うこと无きなり、爲すこと无きなり。寂然として動かず、感じて遂に天下の故に通ず。天下の至神に非ざれば、其れ孰か能く此に與らん。此の四つの者は、易の體の立つ所以にして、用の行う所以の者なり。易とは、蓍卦を指す。思うこと无き爲すこと无きとは、其れ无心を言うなり。寂然は、感の體。感通は、寂の用。人心の妙、其の動靜も亦此の如し。
夫易聖人之所以極深而研幾也。幾、音機。下同。○研、猶審也。幾、微也。所以極深者至精也。所以研幾者至變也。
【読み】
夫れ易は聖人の深きを極めて幾を研にする所以なり。幾は、音機。下も同じ。○研は、猶審のごとし。幾は、微なり。深きを極むる所以の者は至精なり。幾を研にする所以の者は至變なり。
唯深也。故能通天下之志。唯幾也。故能成天下之務。唯神也。故不疾而速、不行而至。所以通志而成務者、神之所爲也。
【読み】
唯深きなり。故に能く天下の志に通ず。唯幾なり。故に能く天下の務めを成す。唯神なり。故に疾からずして速やかに、行かずして至る。志に通じて務めを成す所以の者は、神の爲す所なり。
子曰、易有聖人之道四焉者、此之謂也。
【読み】
子曰く、易に聖人の道四つ有りとは、此れを之れ謂うなり。
右第十章。此章承上章之意、言易之用有此四者。
【読み】
右第十章。此の章は上章の意を承け、易の用に此の四つの者有るを言えり。
子曰、夫易何爲者也。夫易開物成務、冒天下之道。如斯而巳者也。是故聖人以通天下之志、以定天下之業、以斷天下之疑。夫、音扶。冒、莫報反。斷、丁亂反。○開物成務、謂使人卜筮、以知吉凶而成事業。冒天下之道、謂卦爻旣設、而天下之道皆在其中。
【読み】
子曰く、夫れ易は何する者ぞや。夫れ易は物を開き務めを成し、天下の道を冒[おお]う。斯の如きのみなる者なり。是の故に聖人は以て天下の志に通じ、以て天下の業を定め、以て天下の疑いを斷ず。夫は、音扶。冒は、莫報の反。斷は、丁亂の反。○物を開き務めを成すとは、人をして卜筮して、以て吉凶を知りて事業を成さしむを謂う。天下の道を冒うとは、卦爻旣に設けて、天下の道皆其の中に在るを謂う。
是故蓍之德、圓而神。卦之德、方以知。六爻之義、易以貢。聖人以此洗心、退藏於密、吉凶與民同患。神以知來、知以藏往。其孰能與於此哉。古之聰明睿知、神武而不殺者夫。方以知之知、音智。下知以、叡知、並同。易、音亦。與、音預。夫、音扶。○圓神、謂變化无方。方知、謂事有定理。易以貢、謂變易以告人。聖人體具三者之德、而无一塵之累。无事、則其心寂然、人莫能窺。有事、則神知之用、隨感而應、所謂无卜筮而知吉凶也。神武不殺、得其理而不假其物之謂。
【読み】
是の故に蓍の德は、圓にして神なり。卦の德は、方にして以て知なり。六爻の義は、易わりて以て貢[つ]ぐ。聖人此を以て心を洗い、密に退藏し、吉凶民と患えを同じくす。神は以て來を知り、知は以て往を藏
[おさ]む。其れ孰か能く此に與らんや。古の聰明睿知、神武にして殺さざる者か。方以知の知は、音智。下の知以、叡知も、並同じ。易は、音亦。與は、音預。夫は、音扶。○圓にして神とは、變化方无きを謂う。方にして知とは、事に定理有るを謂う。易わりて以て貢ぐとは、變易以て人に告ぐを謂う。聖人は三つの者の德を體具して、一塵の累い无し。事无ければ、則ち其の心寂然、人能く窺うこと莫し。事有れば、則ち神知の用、感ずるに隨いて應じ、所謂卜筮すること无くして吉凶を知るなり。神武殺さずとは、其の理を得て其の物を假りざるの謂。
是以明於天之道、而察於民之故。是興神物以前民用。聖人以此齊戒、以神明其德夫。夫、音扶。○神物、謂蓍龜。湛然純一之謂齊、肅然警惕之謂戒。明天道。故知神物之可興。察民故。故知其用之不可不有以開其先。是以作爲卜筮以敎人、而於此焉齊戒以考其占、使其心神明不測、如鬼神之能知來也。
【読み】
是を以て天の道に明らかにして、民の故に察らかなり。是に神物を興して以て民用に前[さき]だつ。聖人は此を以て齊戒し、以て其の德を神明にす。夫は、音扶。○神物とは、蓍龜を謂う。湛然純一を之れ齊と謂い、肅然警惕を之れ戒と謂う。天道に明らかなり。故に神物の興る可きを知る。民の故に察らかなり。故に其の用の以て其の先を開くこと有らざる可からざるを知る。是を以て卜筮を作爲し以て人に敎えて、此に於て齊戒し以て其の占を考え、其の心をして神明にして不測なること、鬼神の能く來を知るが如くせしむ。
是故闔戶謂之坤、闢戶謂之乾、一闔一闢謂之變、往來不窮謂之通、見乃謂之象、形乃謂之器、制而用之謂之法、利用出入民咸用之謂之神。見、賢遍反。○闔闢、動靜之機也。先言坤者、由靜而動也。乾坤變通者、化育之功也。見象形器者、生物之序也。法者、聖人脩道之所爲。而神者、百姓自然之日用也。
【読み】
是の故に戶を闔[と]じる、之を坤と謂い、戶を闢[ひら]く、之を乾と謂い、一闔一闢、之を變と謂い、往來窮まらざる、之を通と謂い、見[あらわ]る、乃ち之を象と謂い、形す、乃ち之を器と謂い、制して之を用うる、之を法と謂い、用を利し出入して民咸之を用うる、之を神と謂う。見は、賢遍の反。○闔闢とは、動靜の機なり。先に坤を言うは、靜由りして動なればなり。乾坤變通は、化育の功なり。見象形器は、生物の序なり。法は、聖人道を脩むるの爲す所。而して神は、百姓自然の日用なり。
是故易有太極。是生兩儀。兩儀生四象、四象生八卦。太、音泰。○一每生二、自然之理也。易者、陰陽之變。太極者、其理也。兩儀者、始爲一畫以分陰陽。四象者、次爲二畫以分太少。八卦者、次爲三畫而三才之象始備。此數言者、實聖人作易自然之次第、有不假絲毫智力而成者。畫卦揲蓍、其序皆然。詳見序例・啓蒙。
【読み】
是の故に易に太極有り。是れ兩儀を生ず。兩儀四象を生じ、四象八卦を生ず。太は、音泰。○一每に二を生ずるは、自然の理なり。易は、陰陽の變。太極は、其の理なり。兩儀は、始め一畫を爲して以て陰陽を分かつ。四象は、次に二畫を爲して以て太少を分かつ。八卦は、次に三畫を爲して三才の象始めて備わる。此の數言は、實に聖人易を作る自然の次第にて、絲毫の智力を假りずして成す者有り。卦を畫し蓍を揲うる、其の序皆然り。詳しくは序例・啓蒙に見ゆ。
八卦定吉凶、吉凶生大業。有吉有凶、是生大業。
【読み】
八卦は吉凶を定め、吉凶は大業を生ず。吉有り凶有り、是れ大業を生ず。
是故法象莫大乎天地、變通莫大乎四時、縣象著明莫大乎日月、崇高莫大乎富貴。備物致用、立成器以爲天下利、莫大乎聖人。探賾索隱、鉤深致遠、以定天下之吉凶、成天下之亹亹者、莫大乎蓍龜。縣、音玄。探、吐南反。索、色白反。亹、亡偉反。○富貴、謂有天下履帝位。立下疑有闕文。亹亹、猶勉勉也。疑則怠。決故勉。
【読み】
是の故に法象は天地より大なるは莫く、變通は四時より大なるは莫く、縣象の著明なるは日月より大なるは莫く、崇高は富貴より大なるは莫し。物を備え用を致し、立ちて器を成し以て天下の利を爲すは、聖人より大なるは莫し。賾
[さく]を探り隱を索め、深きを鉤[と]り遠きを致し、以て天下の吉凶を定め、天下の亹亹[びび]を成す者は、蓍龜より大なるは莫し。縣は、音玄。探は、吐南の反。索は、色白の反。亹は、亡偉の反。○富貴とは、天下を有ち帝位を履むを謂う。立の下に疑うらくは闕文有らん。亹亹とは、猶勉勉のごとし。疑えば則ち怠る。決する故に勉む。
是故天生神物、聖人則之、天地變化、聖人效之、天垂象見吉凶、聖人象之、河出圖、洛出書、聖人則之。見、賢遍反。○此四者、聖人作易之所由也。河圖・洛書、詳見啓蒙。
【読み】
是の故に天神物を生じて、聖人之に則り、天地變化して、聖人之に效い、天象を垂れ吉凶を見[しめ]して、聖人之に象り、河圖を出し、洛書を出して、聖人之に則る。見は、賢遍の反。○此の四つの者は、聖人易を作るの由る所なり。河圖・洛書は、詳しくは啓蒙に見ゆ。
易有四象、所以示也。繫辭焉、所以告也。定之以吉凶、所以斷也。斷、丁亂反。○四象、謂陰陽老少。示、謂示人以所値之卦爻。
【読み】
易に四象有るは、示す所以なり。辭を繫くるは、告ぐる所以なり。之を定むるに吉凶を以てするは、斷ずる所以なり。斷は、丁亂の反。○四象とは、陰陽老少を謂う。示すとは、人に示すに値う所の卦爻を以てするを謂う。
右第十一章。此章專言卜筮。
【読み】
右第十一章。此の章は專ら卜筮を言えり。
易曰、自天祐之、吉无不利。子曰、祐者助也。天之所助者順也。人之所助者信也。履信思乎順、又以尙賢也。是以自天祐之、吉无不利也。釋大有上九爻義。然在此无所屬。或恐是錯簡。宜在第八章之末。
【読み】
易に曰く、天より之を祐く、吉にして利ろしからざること无し、と。子曰く、祐は助なり。天の助くる所の者は順なり。人の助くる所の者は信なり。信を履み順を思い、又以て賢を尙ぶなり。是を以て天より之を祐く、吉にして利ろしからざること无きなり。大有の上九の爻義を釋く。然して此に在れども屬する所无し。或は恐らくは是れ錯簡ならん。宜しく第八章の末に在るべし。
子曰、書不盡言、言不盡意。然則聖人之意、其不可見乎。子曰、聖人立象以盡意、設卦以盡情僞、繫辭焉以盡其言、變而通之以盡利、鼓之舞之以盡神。言之所傳者淺、象之所示者深。觀奇耦二畫、包含變化、无有窮盡、則可見矣。變通鼓舞、以事而言。兩子曰字、疑衍其一。蓋子曰字皆後人所加。故有此誤。如近世通書、乃周子所自作、亦爲後人每章加以周子曰字。其設問答處、正如此也。
【読み】
子曰く、書は言を盡くさず、言は意を盡くさず、と。然れば則ち聖人の意は、其れ見る可からざるか。子曰く、聖人は象を立てて以て意を盡くし、卦を設けて以て情僞を盡くし、辭を繫けて以て其の言を盡くし、變じて之を通じ以て利を盡くし、之を鼓し之を舞し以て神を盡くす。言の傳うる所の者は淺く、象の示す所の者は深し。奇耦二畫、包含變化、窮め盡きること有ること无きを觀て、則ち見る可し。變通鼓舞とは、事を以て言う。兩つの子曰の字は、疑うらくは其一を衍す。蓋し子曰の字は皆後人の加うる所。故に此の誤り有り。近世の通書の如き、乃ち周子自ら作る所にて、亦後人每章加うるに周子曰の字を以てす。其の問答を設くる處は、正に此の如し。
乾坤其易之縕耶。乾坤成列、而易立乎其中矣。乾坤毀則无以見易。易不可見、則乾坤或幾乎息矣。縕、與蘊同。邪、于遮反。幾、音機。○縕、所包蓄者、猶衣之著也。易之所有、陰陽而已。凡陽皆乾、凡陰皆坤。畫卦定位、則二者成列而易之體立矣。乾坤毀、謂卦畫不立。乾坤息、謂變化不行。
【読み】
乾坤は其れ易の縕か。乾坤列を成して、易其の中に立つ。乾坤毀るれば則ち以て易を見ること无し。易見る可からざれば、則ち乾坤或は息むに幾し。縕は、蘊と同じ。邪は、于遮の反。幾は、音機。○縕とは、包蓄する所の者、猶衣の著のごとし。易の有る所は、陰陽のみ。凡て陽は皆乾、凡て陰は皆坤。卦を畫し位を定むれば、則ち二つの者列を成して易の體立つ。乾坤毀るとは、卦畫立たざるを謂う。乾坤息むとは、變化行われざるを謂う。
是故形而上者謂之道、形而下者謂之器。化而裁之謂之變、推而行之謂之通、舉而錯之天下之民謂之事業。卦爻陰陽、皆形而下者。其理則道也。因其自然之化而裁制之、變之義也。變通二字、上章以天言、此章以人言。
【読み】
是の故に形よりして上なる者、之を道と謂い、形よりして下なる者、之を器と謂う。化して之を裁する、之を變と謂い、推して之を行う、之を通と謂い、舉げて之を天下の民に錯く、之を事業と謂う。卦爻陰陽は、皆形よりして下なる者。其の理は則ち道なり。其の自然の化に因りて之を裁制するは、變の義なり。變通の二字は、上章は天を以て言い、此の章は人を以て言う。
是故夫象、聖人有以見天下之賾、而擬諸其形容、象其物宜。是故謂之象。聖人有以見天下之動、而觀其會通、以行其典禮、繫辭焉以斷其吉凶。是故謂之爻。重出以起下文。
【読み】
是の故に夫れ象は、聖人以て天下の賾を見ること有りて、諸を其の形容に擬し、其の物宜に象る。是の故に之を象と謂う。聖人以て天下の動を見ること有りて、其の會通を觀、以て其の典禮を行い、辭を繫けて以て其の吉凶を斷ず。是の故に之を爻と謂う。重ねて出して以て下文を起こす。
極天下之賾者存乎卦、鼓天下之動者存乎辭、卦、卽象也。辭、卽爻也。
【読み】
天下の賾を極むる者は卦に存し、天下の動を鼓する者は辭に存し、卦とは、卽ち象なり。辭とは、卽ち爻なり。
化而裁之存乎變。推而行之存乎通。神而明之存乎其人。默而成之不言而信、存乎德行。行、下孟反。○卦爻所以變通者在人、人之所以能神而明之者在德。
【読み】
化して之を裁するは變に存す。推して之を行うは通に存す。神にして之を明らかにするは其の人に存す。默して之を成し言わずして信あるは、德行に存す。行は、下孟の反。○卦爻の變通する所以の者は人に在り、人の能く神にして之を明らかにする所以の者は德に在り。
右第十二章。
下繫辭傳
八卦成列、象在其中矣。因而重之、爻在其中矣。重、直龍反。○成列、謂乾一、兌二、離三、震四、巽伍、坎六、艮七、坤八之類。象、謂卦之形體也。因而重之、謂各因一卦而以八卦次第加之爲六十四也。爻、六爻也。旣重而後卦有六爻也。
【読み】
八卦列を成して、象其の中に在り。因りて之を重ねて、爻其の中に在り。重は、直龍の反。○列を成すとは、乾一、兌二、離三、震四、巽伍、坎六、艮七、坤八の類を謂う。象とは、卦の形體を謂うなり。因りて之を重ぬとは、各々一卦に因りて八卦を以て次第之に加えて六十四と爲すを謂うなり。爻とは、六爻なり。旣に重ねて後に卦に六爻有るなり。
剛柔相推、變在其中矣。繫辭焉而命之、動在其中矣。剛柔相推、而卦爻之變、往來交錯、无不可見。聖人因其如此、而皆繫之辭以命其吉凶、則占者所値當動之爻象、亦不出乎此矣。
【読み】
剛柔相推して、變其の中に在り。辭を繫けて之に命じ、動其の中に在り。剛柔相推して、卦爻の變、往來交錯し、見る可からざること无し。聖人其の此の如きに因りて、皆之に辭を繫けて以て其の吉凶を命ずれば、則ち占者値
[あ]う所は當に動くべきの爻象にて、亦此を出でざるなり。
吉凶悔吝者、生乎動者也。吉凶悔吝、皆辭之所命也。然必因卦爻之動而後見。
【読み】
吉凶悔吝は、動に生ずる者なり。吉凶悔吝は、皆辭の命ずる所なり。然れども必ず卦爻の動に因りて而して後に見る。
剛柔者立本者也。變通者趣時者也。趣、七樹反。○一剛一柔、各有定位。自此而彼、變以從時。
【読み】
剛柔は本を立つる者なり。變通は時に趣く者なり。趣は、七樹の反。○一剛一柔、各々定位有り。此よりして彼、變以て時に從う。
吉凶者貞勝者也。貞、正也、常也。物以其所正爲常者也。天下之事、非吉則凶、非凶則吉、常相勝而不已也。
【読み】
吉凶は貞にして勝つ者なり。貞は、正なり、常なり。物の其の正しき所を以て常と爲す者なり。天下の事、吉に非ざれば則ち凶、凶に非ざれば則ち吉、常に相勝ちて已まざるなり。
天地之道貞觀者也。日月之道貞明者也。天下之動貞夫一者也。觀、官換反。夫、音扶。○觀、示也。天下之動、其變无窮。然順理則吉、逆理則凶。則其所正而常者、亦一理而已矣。
【読み】
天地の道は貞にして觀[しめ]す者なり。日月の道は貞にして明らかなる者なり。天下の動は貞にして夫れ一なる者なり。觀は、官換の反。夫は、音扶。○觀とは、示すなり。天下の動は、其の變窮まり无し。然して理に順えば則ち吉、理に逆らえば則ち凶。則ち其の正しくして常なる所の者も、亦一理なるのみ。
夫乾確然示人易矣。夫坤隤然示人簡矣。確、苦角反。易、音異。隤、音頹。○確然、健貌。隤然、順貌。所謂貞觀者也。
【読み】
夫れ乾は確然として人に易を示す。夫れ坤は隤然[たいぜん]として人に簡を示す。確は、苦角の反。易は、音異。隤は、音頹。○確然とは、健やかなる貌。隤然とは、順なる貌。所謂貞觀なる者なり。
爻也者效此者也。象也者像此者也。此、謂上文乾坤所示之理。爻之奇耦、卦之消息、所以效而象之。
【読み】
爻とは此を效う者なり。象とは此を像[かたど]る者なり。此は、上文の乾坤示す所の理を謂う。爻の奇耦、卦の消息は、效って之に象る所以なり。
爻象動乎内、吉凶見乎外。功業見乎變、聖人之情見乎辭。内、謂蓍卦之中。外、謂蓍卦之外。變、卽動乎内之變。辭、卽見乎外之辭。
【読み】
爻象内に動いて、吉凶外に見る。功業變に見れ、聖人の情は辭に見る。内とは、蓍卦の中を謂う。外とは、蓍卦の外を謂う。變とは、卽ち内に動くの變。辭とは、卽ち外に見るるの辭。
天地之大德曰生、聖人之大寶曰位。何以守位。曰人。何以聚人。曰財。理財正辭、禁民爲非、曰義。曰人之人、今本作仁。呂氏從古。蓋所謂非衆罔與守邦。
【読み】
天地の大德を生と曰い、聖人の大寶を位と曰う。何を以てか位を守る。人と曰う。何を以てか人を聚むる。財と曰う。財を理め辭を正しくし、民の非を爲すを禁ずるを、義と曰う。曰人の人は、今の本は仁に作る。呂氏は古に從う。蓋し謂う所の衆に非ずんば與に邦を守ること罔しならん。
右第一章。此章言卦爻吉凶、造化功業。
【読み】
右第一章。此の章は卦爻の吉凶、造化の功業を言えり。
古者包犧氏之王天下也、仰則觀象於天、俯則觀法於地、觀鳥獸之文與地之宜、近取諸身、遠取諸物。於是始作八卦、以通神明之德、以類萬物之情。包、蒲交反。王、于況反。○王昭素曰、與地之閒、諸本多有天字。俯仰遠近、所取不一。然不過以驗陰陽消息兩端而已。神明之德、如健順動止之性。萬物之情、如雷風山澤之象。
【読み】
古者[いにしえ]包犧氏の天下に王たるや、仰げば則ち象を天に觀、俯しては則ち法を地に觀、鳥獸の文と地の宜とを觀、近くは諸を身に取り、遠くは諸を物に取る。是に於て始めて八卦を作り、以て神明の德を通じ、以て萬物の情を類す。包は、蒲交の反。王は、于況の反。○王昭素曰く、與地の閒、諸本多く天の字有り、と。俯仰遠近は、取る所一ならず。然れども以て陰陽消息兩端を驗すに過ぎざるのみ。神明の德は、健順動止の性の如し。萬物の情は、雷風山澤の象の如し。
作結繩而爲網罟、以佃以漁、蓋取諸離。罔、與網同。罟、音古。佃、音田。○兩目相承、而物麗焉。
【読み】
結繩を作して網罟[もうこ]と爲し、以て佃[かり]し以て漁すは、蓋し諸を離に取る。罔は、網と同じ。罟は、音古。佃は、音田。○兩目相承けて物麗く。
包犧氏沒、神農氏作。斲木爲耜、揉木爲耒、耒耨之利、以敎天下、蓋取諸益。斲、渉角反。耜、音似。耒、力對反。耨、奴豆反。○二體皆木。上入下動。天下之益、莫大於此。
【読み】
包犧氏沒して、神農氏作る。木を斲[き]りて耜[し]と爲し、木を揉[た]めて耒[らい]と爲し、耒耨[らいどう]の利、以て天下に敎うるは、蓋し諸を益に取る。斲は、渉角の反。耜は、音似。耒は、力對の反。耨は、奴豆の反。○二體は皆木。上入り下動く。天下の益、此より大いなるは莫し。
日中爲市、致天下之民、聚天下之貨、交易而退、各得其所、蓋取諸噬嗑。日中爲市、上明而下動。又借噬爲市、嗑爲合也。
【読み】
日中に市を爲して、天下の民を致し、天下の貨を聚め、交易して退き、各々其の所を得るは、蓋し諸を噬嗑に取る。日中に市を爲すは、上明にして下動く。又噬を借りて市と爲し、嗑を合うと爲すなり。
神農氏沒、黄帝堯舜氏作。通其變、使民不倦、神而化之、使民宜之。易窮則變。變則通。通則久。是以自天祐之、吉无不利。黄帝堯舜垂衣裳而天下治、蓋取諸乾坤。乾坤變化而无爲。
【読み】
神農氏沒して、黄帝堯舜氏作る。其の變を通じ、民をして倦まざらしめ、神にして之を化し、民に之を宜しくせしむ。易は窮まれば則ち變ず。變ずれば則ち通ず。通ずれば則ち久し。是を以て天より之を祐け、吉にして利ろしからざること无し。黄帝堯舜衣裳を垂れて天下治まるは、蓋し諸を乾坤に取る。乾坤變化して爲すこと无し。
刳木爲舟、剡木爲楫、舟楫之利、以濟不通。致遠以利天下、蓋取諸渙。刳、口姑反。剡、以冉反。○木在水上也。致遠以利天下、疑衍。
【読み】
木を刳[く]りて舟と爲し、木を剡[けず]りて楫と爲し、舟楫の利、以て通ぜざるを濟[わた]す。遠きを致して以て天下を利するは、蓋し諸を渙に取る。刳は、口姑の反。剡は、以冉の反。○木の水上に在るなり。遠きを致して以て天下を利するは、疑うらくは衍ならん。
服牛乘馬、引重致遠、以利天下、蓋取諸隨。下動上說。
【読み】
牛に服し馬に乘り、重きを引き遠きを致して、以て天下を利するは、蓋し諸を隨に取る。下動いて上說ぶ。
重門擊柝、以待暴客、蓋取諸豫。重、直龍反。析、他各反。○豫、備之意。
【読み】
門を重ね柝を擊ち、以て暴客を待つは、蓋し諸を豫に取る。重は、直龍の反。析は、他各の反。○豫は、備うるの意。
斷木爲杵、掘地爲臼、臼杵之利、萬民以濟、蓋取諸小過。斷、丁緩反。杵、昌呂反。掘、其月反。○下止上動。
【読み】
木を斷[き]りて杵と爲し、地を掘りて臼と爲し、臼杵[きゅうしょ]の利、萬民以て濟[すく]うは、蓋し諸を小過に取る。斷は、丁緩の反。杵は、昌呂の反。掘は、其月の反。○下止まりて上動く。
弦木爲弧、剡木爲矢、弧矢之利、以威天下、蓋取諸睽。睽乖然後威以服之。
【読み】
木に弦[つる]して弧[ゆみ]と爲し、木を剡りて矢と爲し、弧矢の利、以て天下を威すは、蓋し諸を睽に取る。睽乖して然して後に威以て之を服す。
上古穴居而野處。後世聖人易之以宮室、上棟下宇、以待風雨、蓋取諸大壯。處、上聲。○壯固之意。
【読み】
上古は穴居して野處す。後世の聖人之を易うるに宮室を以てし、上棟下宇、以て風雨を待つは、蓋し諸を大壯に取る。處は、上聲。○壯固の意。
古之葬者、厚衣之以薪、葬之中野、不封不樹、喪期无數。後世聖人易之以棺槨、蓋取諸大過。衣、去聲。○送死大事而過於厚。
【読み】
古の葬る者は、厚く之に衣するに薪を以てし、之を中野に葬り、封ぜず樹せず、喪期數无し。後世の聖人之を易うるに棺槨を以てするは、蓋し諸を大過に取る。衣は、去聲。○死を送るは大事にして厚きに過ぐ。
上古結繩而治。後世聖人易之以書契、百官以治、萬民以察、蓋取諸夬。明決之意。
【読み】
上古は繩を結んで治まる。後世の聖人之に易うるに書契を以てし、百官以て治まり、萬民以て察らかなるは、蓋し諸を夬に取る。明決の意。
右第二章。此章言聖人制器尙象之事。
【読み】
右第二章。此の章は聖人の器を制し象を尙ぶの事を言えり。
是故易者象也。象也者像也。易卦之形、理之似也。
【読み】
是の故に易は象なり。象とは像なり。易卦の形、理の似るなり。
彖者材也。彖、言一卦之材。
【読み】
彖は材なり。彖は、一卦の材を言う。
爻也者效天下之動者也。效、放也。
【読み】
爻とは天下の動に效う者なり。效は、放うなり。
是故吉凶生而悔吝著也。悔吝本微、因此而著。
【読み】
是の故に吉凶生じて悔吝著るなり。悔吝は本微かにて、此に因りて著る。
右第三章。
陽卦多陰、陰卦多陽。震坎艮爲陽卦、皆一陽二陰。巽離兌爲陰卦、皆一陰二陽。
【読み】
陽卦は陰多く、陰卦は陽多し。震坎艮は陽卦と爲り、皆一陽二陰なり。巽離兌は陰卦と爲り、皆一陰二陽なり。
其故何也。陽卦奇、陰卦耦。奇、紀宜反。○凡陽卦皆五畫。凡陰卦皆四畫。
【読み】
其の故は何ぞや。陽卦は奇にして、陰卦は耦なればなり。奇は、紀宜の反。○凡て陽卦は皆五畫なり。凡て陰卦は皆四畫なり。
其德行何也。陽一君而二民、君子之道也。陰二君而一民、小人之道也。行、下孟反。○君、謂陽。民、謂陰。
【読み】
其の德行は何ぞや。陽は一君にして二民、君子の道なり。陰は二君にして一民、小人の道なり。行は、下孟の反。○君とは、陽を謂う。民とは、陰を謂う。
右第四章。
易曰、憧憧往來、朋從爾思。子曰、天下何思何慮。天下同歸而殊塗、一致而百慮。天下何思何慮。此引咸九四爻辭而釋之。言理本无二、而殊塗百慮、莫非自然、何以思慮爲哉。必思而從、則所從者亦狹矣。
【読み】
易に曰く、憧憧として往來すれば、朋のみ爾の思いに從う、と。子曰く、天下何をか思い何をか慮らん。天下歸を同じくして塗を殊にし、一致にして百慮。天下何をか思い何をか慮らん。此れ咸の九四の爻辭を引いて之を釋く。言うこころは、理は本二つ无くして、塗を殊にし慮を百にし、自然に非ざること莫し、何ぞ思慮を以て爲さんや、と。必ず思いて從えば、則ち從う所の者も亦狹なり。
日往則月來、月往則日來、日月相推而明生焉。寒往則暑來、暑往則寒來、寒暑相推而歳成焉。往者屈也。來者信也。屈信相感而利生焉。信、音申。○言往來屈信、皆感應自然之常理、加憧憧焉、則入於私矣。所以必思而後有從也。
【読み】
日往けば則ち月來り、月往けば則ち日來り、日月相推して明生ず。寒往けば則ち暑來り、暑往けば則ち寒來り、寒暑相推して歳成る。往くとは屈するなり。來るとは信[の]びるなり。屈信相感じて利生ず。信は、音申。○言うこころは、往來屈信は、皆感應自然の常理にて、憧憧を加うれば、則ち私に入るなり。必ず思いて後に從うこと有る所以なり、と。
尺蠖之屈、以求信也。龍蛇之蟄、以存身也。精義入神、以致用也。利用安身、以崇德也。蠖、紆縛反。蟄、眞立反。○因言屈信往來之理、而又推以言學亦有自然之機也。精研其義、至於入神、屈之至也。然乃所以爲出而致用之本。利其施用、无適不安、信之極也。然乃所以爲入而崇德之資。内外交相養、互相發也。
【読み】
尺蠖[せきかく]の屈するは、以て信びんことを求むるなり。龍蛇の蟄[かく]るるは、以て身を存するなり。義を精しくし神に入るは、以て用を致すなり。用を利し身を安んずるは、以て德を崇くするなり。蠖は、紆縛の反。蟄は、眞立の反。○屈信往來の理を言うに因りて、又推して以て學も亦自然の機有るを言うなり。精しく其の義を研して、神に入るに至るは、屈の至りなり。然れば乃ち出でて用を致すの本と爲す所以なり。其の施用を利して、適くとして安からざること无きは、信の極みなり。然れば乃ち入りて德を崇くするの資と爲す所以なり。内外交々相養い、互いに相發するなり。
過此以往、未之或知也。窮神知化、德之盛也。下學之事。盡力於精義利用、而交養互發之機、自不能已。自是以上、則亦无所用其力矣。至於窮神知化、乃德盛仁熟而自致耳。然不知者、往而屈也。自致者、來而信也。是亦感應自然之理而已。張子曰、氣有陰陽、推行有漸爲化、合一不測爲神。此上四節、皆以釋咸九四爻義。
【読み】
此を過ぐる以往は、未だ之れ知ること或らず。神を窮め化を知るは、德の盛んなるなり。下學の事。力を義を精しくし用を利するに盡くして、交々養い互いに發するの機、自ら已むこと能わず。是より以上は、則ち亦其の力を用うる所无し。神を窮め化を知るに至っては、乃ち德盛んに仁熟して自ら致すのみ。然れども知らざる者は、往きて屈むなり。自ら致す者は、來りて信びるなり。是れ亦感應自然の理なるのみ。張子曰く、氣に陰陽有り、推し行き漸有りて化を爲し、合一測られざるを神と爲す、と。此の上の四節は、皆以て咸の九四の爻義を釋く。
易曰、困于石、據于蒺蔾、入于其宮、不見其妻、凶。子曰、非所困而困焉、名必辱。非所據而據焉、身必危。旣辱且危、死期將至。妻其可得見耶。釋困六三爻義。
【読み】
易に曰く、石に困しみ、蒺蔾[しつり]に據る、其の宮に入りて、其の妻を見ず、凶なり、と。子曰く、困しむべき所に非ずして困しめば、名必ず辱ず。據るべき所に非ずして據れば、身必ず危うし。旣に辱じ且つ危うければ、死期將に至らんとす。妻其れ見ることを得可けんや。困の六三の爻義を釋く。
易曰、公用射隼于高墉之上、獲之无不利。子曰、隼者禽也。弓矢者器也。射之者人也。君子藏器於身、待時而動。何不利之有。動而不括、是以出而有獲。語成器而動者也。射、石亦反。隼、恤允反。括、古活反。○括、結礙也。此釋解上六爻義。
【読み】
易に曰く、公用[もっ]て隼を高墉[こうよう]の上に射る、之を獲て利ろしからざること无し、と。子曰く、隼は禽なり。弓矢は器なり。之を射る者は人なり。君子は器を身に藏し、時を待ちて動く。何の不利か之れ有らん。動きて括ばれず、是を以て出でて獲ること有り。器を成して動く者を語うなり。射は、石亦の反。隼は、恤允の反。括は、古活の反。○括は、結礙なり。此れ解の上六の爻義を釋く。
子曰、小人不恥不仁、不畏不義、不見利不勸、不威不懲。小懲而大誡、此小人之福也。易曰、履校滅趾、无咎、此之謂也。校、音敎。○此釋噬嗑初九爻義。
【読み】
子曰く、小人は不仁を恥じず、不義を畏れず、利を見ざれば勸まず、威さざれば懲りず。小しく懲らして大いに誡むるは、此れ小人の福なり。易に曰く、校[あしかせ]を履いて趾
[あし]を滅[やぶ]る、咎无しとは、此を之れ謂うなり。校は、音敎。○此れ噬嗑の初九の爻義を釋く。
善不積不足以成名。惡不積不足以滅身。小人以小善爲无益而弗爲也。以小惡爲无傷而弗去也。故惡積而不可揜、罪大而不可解。易曰、何校滅耳、凶。何、河可反。去、羗呂反。○此釋噬嗑上九爻義。
【読み】
善積まざれば以て名を成すに足らず。惡積まざれば以て身を滅ぼすに足らず。小人は小善を以て益无しと爲して爲さざるなり。小惡を以て傷うこと无しと爲して去らざるなり。故に惡積みて揜う可からず、罪大にして解く可からず。易に曰く、校
[くびかせ]を何[にな]いて耳を滅る、凶なり、と。何は、河可の反。去は、羗呂の反。○此れ噬嗑の上九の爻義を釋く。
子曰、危者、安其位者也。亡者、保其存者也。亂者、有其治者也。是故君子安而不忘危、存而不忘亡、治而不忘亂。是以身安而國家可保也。易曰、其亡其亡、繫于苞桑。此釋否九五爻義。
【読み】
子曰く、危うしとする者は、其の位を安くする者なり。亡びんとする者は、其の存を保つ者なり。亂るとする者は、其の治を有つ者なり。是の故に君子は安くして危うきを忘れず、存して亡ぶるを忘れず、治まりて亂るるを忘れず。是を以て身安くして國家保つ可きなり。易に曰く、其れ亡びなん其れ亡びなんとて、苞桑に繫る、と。此れ否の九五の爻義を釋く。
子曰、德薄而位尊、知小而謀大、力小而任重、鮮不及矣。易曰、鼎折足、覆公餗、其形渥、凶、言不勝其任也。知、音智。鮮、仙善反。折、之設反。餗、音速。渥、烏角反。勝、音升。○此釋鼎九四爻義。
【読み】
子曰く、德薄くして位尊く、知小にして謀大に、力小にして任重ければ、及ばざること鮮し。易に曰く、鼎足を折り、公の餗[そく]を覆す、其の形渥たり、凶なりとは、其の任に勝えざるを言うなり。知は、音智。鮮は、仙善の反。折は、之設の反。餗は、音速。渥は、烏角の反。勝は、音升。○此れ鼎の九四の爻義を釋く。
子曰、知幾其神乎。君子上交不諂、下交不瀆、其知幾乎。幾者動之微、吉之先見者也。君子見幾而作。不俟終日。易曰、介于石、不終日、貞吉。介如石焉、寧用終日。斷可識矣。君子知微知彰、知柔知剛。萬夫之望。幾、音機。先見之見、音現。斷、丁玩反。望、無方反。○此釋豫六二爻義。漢書吉之之閒有凶字。
【読み】
子曰く、幾を知るは其れ神か。君子は上交して諂わず、下交して瀆れず、其れ幾を知れるか。幾は動の微にして、吉の先ず見る者なり。君子は幾を見て作[た]つ。日を終うるを俟たず。易に曰く、石に介す、日を終えず、貞にして吉なり、と。介きこと石の如し、寧ぞ日を終うるを用いんや。斷じて識る可し。君子は微を知り彰を知り、柔を知り剛を知る。萬夫の望みなり。幾は、音機。先見の見は、音現。斷は、丁玩の反。望は、無方の反。○此れ豫の六二の爻義を釋く。漢書に吉之の閒に凶の字有り。
子曰、顏氏之子、其殆庶幾乎。有不善未嘗不知。知之未甞復行也。易曰、不遠復、无祇悔、元吉。幾、音機。復行之復、芳服反。祇、音其。○殆、危也。庶幾、近意。言近道也。此釋復初九爻義。
【読み】
子曰く、顏氏の子は、其れ殆ど庶幾からんか。不善有れば未だ嘗て知らずんばあらず。之を知れば未だ甞て復行わざるなり。易に曰く、遠からずして復る、悔に祇[いた]ること无し、元吉なり、と。幾は、音機。復行の復は、芳服の反。祇は、音其。○殆は、危なり。庶幾は、近き意。言うこころは、道に近し、と。此れ復の初九の爻義を釋く。
天地絪縕、萬物化醇。男女構精、萬物化生。易曰、三人行、則損一人、一人行、則得其友。言致一也。絪、音因。縕、紆云反。○絪縕、交密之状。醇、謂厚而凝也。言氣化者也。化生、形化者也。此釋損六三爻義。
【読み】
天地絪縕して、萬物化醇す。男女精を構[あわ]せて、萬物化生す。易に曰く、三人行けば、則ち一人を損らす、一人行けば、則ち其の友を得、と。一を致すべきを言うなり。絪は、音因。縕は、紆云の反。○絪縕は、交密の状。醇とは、厚くして凝るを謂うなり。氣化する者を言うなり。化生とは、形化する者なり。此れ損の六三の爻義を釋く。
子曰、君子安其身而後動、易其心而後語、定其交而後求。君子脩此三者。故全也。危以動、則民不與也。懼以語、則民不應也。无交而求、則民不與也。莫之與、則傷之者至矣。易曰、莫益之、或擊之、立心勿恆、凶。易其之易、去聲。○此釋益上九爻義。
【読み】
子曰く、君子は其の身を安くして後に動き、其の心を易くして後に語り、其の交わりを定めて後に求む。君子は此の三つの者を脩む。故に全きなり。危うくして以て動けば、則ち民與せざるなり。懼れて以て語れば、則ち民應ぜざるなり。交わり无くして求むれば、則ち民與せざるなり。之に與すること莫ければ、則ち之を傷
[やぶ]る者至るなり。易に曰く、之に益すこと莫し、或は之を擊つ、心を立つること恆勿し、凶なり、と。易其の易は、去聲。○此れ益の上九の爻義を釋く。
右第五章。
子曰、乾坤其易之門邪。乾陽物也。坤陰物也。陰陽合德而剛柔有體、以體天地之撰、以通神明之德。邪、于遮反。撰、仕免反。○諸卦剛柔之體、皆以乾坤合德而成。故曰乾坤易之門。撰、猶事也。
【読み】
子曰く、乾坤は其れ易の門か。乾は陽物なり。坤は陰物なり。陰陽德を合わせて剛柔體有り、以て天地の撰[こと]を體し、以て神明の德を通ず。邪は、于遮の反。撰は、仕免の反。○諸卦剛柔の體は、皆乾坤の德を合するを以て成る。故に乾坤は易の門と曰う。撰は、猶事のごとし。
其稱名也雜而不越。於稽其類、其衰世之意邪。萬物雖多、无不出於陰陽之變。故卦爻之義、雖雜出而不差繆。然非上古淳質之時思慮所及也。故以爲衰世之意。蓋指文王與紂之時也。
【読み】
其の名を稱するや雜なれども越えず。其の類を稽[かんが]うるに於る、其れ衰世の意か。萬物多しと雖も、陰陽の變に出でざるは无し。故に卦爻の義、雜出すと雖も差繆あらず。然れども上古淳質の時なれば思慮及ぶ所に非ざるなり。故に以て衰世の意と爲す。蓋し文王と紂との時を指すならん。
夫易彰往而察來、而微顯闡幽、開而當名辨物、正言斷辭則備矣。夫、音扶。當、去聲。斷、丁玩反。○而微顯、恐當作微顯而。開而之而、亦疑有誤。
【読み】
夫れ易は往を彰らかにして來を察し、顯を微にして幽を闡[ひら]き、開いて名に當て物を辨え、言を正しくし辭を斷ずれば則ち備わる。夫は、音扶。當は、去聲。斷は、丁玩の反。○而微顯は、恐らくは當に微顯而に作るべし。開而の而も、亦疑うらくは誤り有らん。
其稱名也小、其取類也大。其旨遠、其辭文。其言曲而中、其事肆而隱。因貳以濟民行、以明失得之報。中、丁仲反。行、下孟反。○肆、陳也。貳、疑也。
【読み】
其の名を稱するや小にして、其の類を取るや大なり。其の旨遠く、其の辭文[かざ]る。其の言曲にして中り、其の事肆にして隱[かく]る。貳に因りて以て民の行を濟[すく]い、以て失得の報を明らかにす。中は、丁仲の反。行は、下孟の反。○肆は、陳ぶるなり。貳は、疑うなり。
右第六章。此章多闕文疑字、不可盡通。後皆放此。
【読み】
右第六章。此の章は闕文疑字多く、盡くは通ずる可からず。後も皆此に放え。
易之興也、其於中古乎。作易者、其有憂患乎。夏商之末、易道中微。文王拘於羑里而繫彖辭、易道復興。
【読み】
易の興るや、其れ中古に於るか。易を作る者は、其れ憂患有るか。夏商の末、易の道中ば微る。文王羑里に拘われて彖辭を繫け、易の道復興る。
是故、履德之基也。謙德之柄也。復德之本也。恆德之固也。損德之脩也。益德之裕也。困德之辨也。井德之地也。巽德之制也。履、禮也。上天下澤、定分不易、必謹乎此、然後其德有以爲基而立也。謙者、自卑而尊人、又爲禮者之所當執持而不可失者也。九卦皆反身脩德以處憂患之事也、而有序焉。基、所以立、柄、所以持、復者、心不外而善端存、恆者、守不變而常且久、懲忿窒慾以脩身、遷善改過以長善。困以自驗其力、井以不變其所、然後能巽順於理、以制事變也。
【読み】
是の故に、履は德の基なり。謙は德の柄なり。復は德の本なり。恆は德の固なり。損は德の脩なり。益は德の裕なり。困は德の辨なり。井は德の地なり。巽は德の制なり。履は、禮なり。上は天にて下は澤、定分易わらず、必ず此を謹み、然して後に其の德以て基と爲して立つ有り。謙は、自ら卑くして人を尊び、又禮を爲す者の當に執持すべき所にして失う可からざる者なり。九卦は皆身に反り德を脩めて以て憂患に處るの事にて、而して序有り。基は、立つ所以、柄は、持つ所以、復は、心外にあらずして善端存し、恆は、守り變わらずして常に且つ久しく、忿を懲らし慾を窒ぎ以て身を脩め、善に遷り過を改め以て善を長ず。困以て自ら其の力を驗し、井以て其の所を變えず、然して後に能く理に巽順して、以て事變を制するなり。
履和而至。謙尊而光。復小而辨於物。恆雜而不厭。損先難而後易。益長裕而不設。困窮而通。井居其所而遷。巽稱而隱。易、以豉反。長、丁丈反。稱、尺證反。○此如書之九德。禮非強世、然事皆至極。謙以自卑而尊且光、復陽微而不亂於羣陰、恆處雜而常德不厭。損欲先難、習熟則易。益但充長而不造作。困身困而道亨、井不動而及物、巽稱物之宜而潛隱不露。
【読み】
履は和して至る。謙は尊くして光あり。復は小にして物を辨ず。恆は雜にして厭わず。損は難を先にして易を後にす。益は長裕して設けず。困は窮して通ず。井は其の所に居りて遷る。巽は稱りて隱る。易は、以豉の反。長は、丁丈の反。稱は、尺證の反。○此れ書の九德の如し。禮は世を強いるに非ざれども、然れども事皆極に至る。謙は以て自ら卑くして尊く且つ光あり、復は陽微にして羣陰に亂れず、恆は雜に處りて常德厭わず。損は難を先んずるを欲し、習熟すれば則ち易し。益は但充長して造作せず。困は身困しみて道亨り、井は動かずして物に及び、巽は物の宜を稱りて潛み隱れ露れず。
履以和行。謙以制禮。復以自知。恆以一德。損以遠害。益以興利。困以寡怨。井以辨義。巽以行權。和行之行、下孟反。遠、袁萬反。○寡怨、謂少所怨尤。辨義、謂安而能慮。
【読み】
履は以て行いを和す。謙は以て禮を制す。復は以て自ら知る。恆は以て德を一にす。損は以て害に遠ざかる。益は以て利を興す。困は以て怨みを寡なくす。井は以て義を辨ず。巽は以て權を行う。和行の行は、下孟の反。遠は、袁萬の反。○怨みを寡なくすとは、怨み尤むる所少なきを謂う。義を辨ずとは、安んじて能く慮るを謂う。
右第七章。此章三陳九卦、以明處憂患之道。
【読み】
右第七章。此の章は三たび九つの卦を陳べ、以て憂患に處るの道を明らかにす。
易之爲書也、不可遠。爲道也屢遷、變動不居、周流六虛、上下无常、剛柔相易、不可爲典要、唯變所適。遠、袁萬反。上、上聲。下、去聲。○遠、猶忘也。周流六虛、謂陰陽流行於卦之六位。
【読み】
易の書爲るや、遠ざく可からず。道爲るや屢々遷り、變動して居[とど]まらず、六虛に周流して、上下すること常无く、剛柔相易わり、典要を爲す可からず、唯變の適く所のままなり。遠は、袁萬の反。上は、上聲。下は、去聲。○遠は、猶忘のごとし。六虛に周流すとは、陰陽、卦の六位に流行するを謂う。
其出入以度、外内使知懼。此句未詳。疑有脱誤。
【読み】
其の出入度を以てし、外内懼れを知らしむ。此の句未だ詳らかならず。疑うらくは脱誤有らん。
又明於憂患與故、无有師保、如臨父母。雖无師保、而常若父母臨之。戒懼之至。
【読み】
又憂患と故とを明らかにし、師保有ること无けれども、臨父母の如し。師保无しと雖も、而して常に父母之に臨むが若し。戒懼の至りなり。
初率其辭而揆其方、旣有典常。苟非其人、道不虛行。揆、葵癸反。○方、道也。始由辭以度其理、則見其有典常矣。然神而明之、則存乎其人也。
【読み】
初め其の辭に率いて其の方を揆[はか]れば、旣にして典常有り。苟も其の人に非ざれば、道虛しく行われず。揆は、葵癸の反。○方は、道なり。始め辭に由りて以て其の理を度れば、則ち其の典常有るを見るなり。然して神にして之を明らかにするは、則ち其の人に存するなり。
右第八章。
易之爲書也、原始要終、以爲質也。六爻相雜、唯其時物也。要、一遙反。下同。○質、謂卦體。卦必舉其始終而後成體。爻則唯其時物而已。
【読み】
易の書爲るや、始めを原ねて終わりを要し、以て質と爲るなり。六爻相雜るは、唯其の時の物なり。要は、一遙の反。下も同じ。○質とは、卦の體を謂う。卦は必ず其の始終を舉げて後に體を成す。爻は則ち唯其の時の物なるのみ。
其初難知、其上易知。本末也。初辭擬之、卒成之終。易、去聲。○言初上二爻。
【読み】
其の初は知り難く、其の上は知り易し。本末なればなり。初めは辭もて之に擬し、卒には之が終わりを成す。易は、去聲。○初と上の二爻を言う。
若夫雜物撰德、辨是與非、則非其中爻不備。夫、音扶。○此謂卦中四爻。
【読み】
若し夫れ物を雜え德を撰び、是と非とを辨ぜんとするは、則ち其の中爻に非ざれば備わらず。夫は、音扶。○此れ卦の中の四爻を謂う。
噫亦要存亡吉凶、則居可知矣。知者觀其彖辭、則思過半矣。知者之知、音智。○彖、統論一卦六爻之體。
【読み】
噫[ああ]亦存亡吉凶を要するは、則ち居ながらにして知る可し。知者其の彖辭を觀れば、則ち思い半ばに過ぎん。知者の知は、音智。○彖は、統べて一卦六爻の體を論ず。
二與四同功而異位。其善不同。二多譽、四多懼。近也。柔之爲道、不利遠者、其要无咎、其用柔中也。要、如字。又一遙反。下章同。○此以下論中爻。同功、謂皆陰位。異位、謂遠近不同。四近君。故多懼。柔不利遠、而二多譽者、以其柔中也。
【読み】
二と四とは功を同じくして位を異にす。其の善同じからず。二は譽れ多く、四は懼れ多し。近きなり。柔の道爲る、遠きに利ろしからざる者なれど、其の要の咎无きは、其の柔中を用うるなり。要は、字の如し。又一遙の反。下の章も同じ。○此れ以下は中の爻を論ず。功を同じくすとは、皆陰位なるを謂う。位を異にすとは、遠近同じからざるを謂う。四は君に近し。故に懼れ多し。柔は遠きに利ろしからずして、二は譽れ多しとは、其の柔中なるを以てなり。
三與五同功而異位。三多凶、五多功。貴賤之等也。其柔危、其剛勝邪。勝、音升。○三・五同陽位、而貴賤不同。然以柔居之則危。唯剛則能勝之。
【読み】
三と五とは功を同じくして位を異にす。三は凶多く、五は功多し。貴賤の等なり。其の柔は危うく、其の剛は勝るか。勝は、音升。○三・五は同じく陽位にして、貴賤同じからず。然して柔を以て之に居れば則ち危うし。唯剛なれば則ち能く之に勝る。
右第九章。
易之爲書也、廣大悉備。有天道焉、有人道焉、有地道焉。兼三材而兩之。故六。六者非他也。三材之道也。三畫已具三才、重之故六。而以上二爻爲天、中二爻爲人、下二爻爲地。
【読み】
易の書爲るや、廣大悉く備わる。天道有り、人道有り、地道有り。三材を兼ねて之を兩つにす。故に六なり。六とは他に非ざるなり。三材の道なり。三畫已に三才を具え、之を重ぬる故に六なり。而して上の二爻を以て天と爲し、中の二爻を人と爲し、下の二爻を地と爲す。
道有變動。故曰爻。爻有等。故曰物。物相雜。故曰文。文不當。故吉凶生焉。當、去聲。○道有變動、謂卦之一體。等、謂遠近貴賤之差。相雜、謂剛柔之位相閒。不當、謂爻不當位。
【読み】
道に變動有り。故に爻と曰う。爻に等有り。故に物と曰う。物相雜る。故に文と曰う。文當たらず。故に吉凶生ず。當は、去聲。○道に變動有りとは、卦の一體を謂う。等とは、遠近貴賤の差を謂う。相雜るとは、剛柔の位相閒するを謂う。當たらずとは、爻の位に當たらざるを謂う。
右第十章。
易之興也、其當殷之末世、周之盛德邪。當文王與紂之事邪。是故其辭危。危者使平、易者使傾。其道甚大、百物不廢。懼以終始、其要无咎。此之謂易之道也。邪、于遮反。易者之易、去聲。要、平聲。○危懼故得平安。慢易則必傾覆。易之道也。
【読み】
易の興るや、其れ殷の末世、周の盛德に當たるか。文王と紂との事に當たるか。是の故に其の辭危うし。危うしとする者は平かならしめ、易とする者は傾かしむ。其道甚だ大にして、百物廢れず。懼れて以て終始すれば、其の要は咎无し。此を之れ易の道と謂うなり。邪は、于遮の反。易者の易は、去聲。要は、平聲。○危懼する故に平安を得。慢易すれば則ち必ず傾覆す。易の道なり。
右第十一章。
夫乾天下之至健也。德行恆易以知險。夫坤天下之至順也。德行恆簡以知阻。夫、音扶。行・易、並去聲。阻、莊呂反。○至健則所行无難。故易。至順則所行不煩、故簡。然其於事、皆有以知其難、而不敢易以處之也。是以其有憂患、則健者如自高臨下而知其險、順者如自下趨上而知其阻。蓋雖易而能知險、則不陷於險矣。旣簡而又知阻、則不困於阻矣。所以能危能懼而无易者之傾也。
【読み】
夫れ乾は天下の至健なり。德行恆に易にして以て險を知る。夫れ坤は天下の至順なり。德行恆に簡にして以て阻を知る。夫は、音扶。行・易は、並去聲。阻は、莊呂の反。○至健なれば則ち行く所難きこと无し。故に易なり。至順なれば則ち行く所煩わず、故に簡なり。然れども其の事に於る、皆以て其の難きを知ること有りて、而して敢えて易以て之に處らざるなり。是を以て其れ憂患有れば、則ち健者は高きより下に臨みて其の險を知るが如く、順者は下きより上に趨りて其の阻を知るが如し。蓋し易と雖も而して能く險を知れば、則ち險に陷らざるなり。旣に簡にして又阻を知れば、則ち阻に困しまざるなり。能く危ぶみ能く懼れて易にする者の傾くこと无き所以なり。
能說諸心、能研諸侯之慮、定天下之吉凶、成天下之亹亹者。說、音悦。○侯之二字衍。說諸心者、心與理會。乾之事也。研諸慮者、理因慮審。坤之事也。說諸心。故有以定吉凶。研諸慮。故有以成亹亹。
【読み】
能く諸を心に說び、能く諸を慮に研にし、天下の吉凶を定め、天下の亹亹[びび]を成す者なり。說は、音悦。○侯之の二字は衍なり。諸を心に說ぶとは、心と理と會するなり。乾の事なり。諸を慮に研にすとは、理は慮に因りて審らかなり。坤の事なり。諸を心に說ぶ。故に以て吉凶を定むる有り。諸を慮に研にす。故に以て亹亹を成す有り。
是故變化云爲、吉事有祥。象事知器、占事知來。變化云爲。故象事可以知器。吉事有祥。故占事可以知來。
【読み】
是の故に變化云爲、吉事には祥有り。事を象りて器を知り、事を占いて來を知る。變化云爲。故に事を象りて以て器を知る可し。吉事には祥有り。故に事を占いて以て來を知る可し。
天地設位、聖人成能。人謀鬼謀、百姓與能。與、音預。○天地設位、而聖人作易以成其功。於是人謀鬼謀。雖百姓之愚、皆得以與其能。
【読み】
天地位を設け、聖人能を成す。人謀り鬼謀って、百姓も能に與る。與は、音預。○天地位を設け、而して聖人易を作り以て其の功を成す。是に於て人謀り鬼謀る。百姓の愚と雖も、皆以て其の能に與ることを得。
八卦以象告、爻彖以情言。剛柔雜居而吉凶可見矣。象、謂卦畫。爻彖、謂卦爻辭。
【読み】
八卦は象を以て告げ、爻彖は情を以て言う。剛柔雜居して吉凶見る可し。象とは、卦畫を謂う。爻彖とは、卦爻の辭を謂う。
變動以利言、吉凶以情遷。是故愛惡相攻而吉凶生。遠近相取而悔吝生、情僞相感而利害生。凡易之情、近而不相得則凶。或害之、悔且吝。惡、烏路反。○不相得、謂相惡也。凶害悔吝、皆由此生。
【読み】
變動は利を以て言い、吉凶は情を以て遷る。是の故に愛惡相攻めて吉凶生ず。遠近相取りて悔吝生じ、情僞相感じて利害生ず。凡そ易の情は、近くして相得ざれば則ち凶なり。或は之を害し、悔ありて且つ吝なり。惡は、烏路の反。○相得ずとは、相惡むを謂うなり。凶害悔吝は、皆此に由りて生ず。
將叛者、其辭慙、中心疑者、其辭枝。吉人之辭寡、躁人之辭多。誣善之人、其辭游、失其守者、其辭屈。卦爻之辭、亦猶是也。
【読み】
將に叛かんとする者は、其の辭慙じ、中心疑う者は、其の辭枝[わか]る。吉人の辭は寡なく、躁人の辭は多し。善を誣うる人は、其の辭游し、其の守を失う者は、其の辭屈す。卦爻の辭も、亦猶是のごとし。
右第十二章。
文言傳
此篇申彖傳象傳之意、以盡乾坤二卦之蘊。而餘卦之說、因可以例推云。
【読み】
此の篇は彖傳象傳の意を申ね、以て乾坤二卦の蘊を盡くす。而して餘卦の說も、因りて例を以て推す可しと云う。
○元者善之長也。亨者嘉之會也。利者義之和也。貞者事之幹也。長、丁丈反。下長人同。幹、古旦反。○元者、生物之始。天地之德、莫先於此。故於時爲春、於人則爲仁。而衆善之長也。亨者、生物之通。物至於此、莫不嘉美。故於時爲夏、於人則爲禮。而衆美之會也。利者、生物之遂。物各得宜、不相妨害。故於時爲秋、於人則爲義。而得其分之和。貞者、生物之成。實理具備、隨在各足。故於時爲冬、於人則爲智。而爲衆事之幹。幹、木之身而枝葉所依以立者也。
【読み】
○元は善の長なり。亨は嘉の會なり。利は義の和なり。貞は事の幹なり。長は、丁丈の反。下の長人も同じ。幹は、古旦の反。○元は、生物の始めなり。天地の德は、此より先だつは莫し。故に時に於ては春と爲し、人に於ては則ち仁と爲す。而して衆善の長なり。亨は、生物の通ずるなり。物此に至れば、嘉美ならざること莫し。故に時に於ては夏と爲し、人に於ては則ち禮と爲す。而して衆美の會するなり。利は、生物の遂ぐるなり。物各々宜しきを得て、相妨げ害さず。故に時に於ては秋と爲し、人に於ては則ち義と爲す。而して其の分の和を得。貞は、生物の成るなり。實理具備し、在るに隨いて各々足る。故に時に於ては冬と爲し、人に於ては則ち智と爲す。而して衆事の幹と爲す。幹とは、木の身にして枝葉の依りて以て立つ所の者なり。
君子體仁足以長人、嘉會足以合禮、利物足以和義、貞固足以幹事。以仁爲體、則无一物不在所愛之中。故足以長人。嘉其所會、則无不合禮。使物各得其所利、則義无不和。貞固者、知正之所在而固守之。所謂知而弗去者也。故足以爲事之幹。
【読み】
君子は仁を體すれば以て人に長たるに足り、會を嘉すれば以て禮に合するに足り、物を利すれば以て義を和するに足り、貞固なれば以て事に幹するに足る。仁を以て體と爲せば、則ち一物として愛する所の中に在らざること无し。故に以て人に長たるに足る。其の會する所を嘉すれば、則ち禮に合わざること无し。物をして各々其の利ろしき所を得せしめば、則ち義和せざること无し。貞固は、正しきの在る所を知りて之を固く守るなり。所謂知って去らざる者なり。故に以て事の幹と爲るに足るなり。
君子行此四德者。故曰、乾元亨利貞。非君子之至健、无以行此。故曰乾元亨利貞。○此第一節。申彖傳之意。與春秋傳所載穆姜之言不異。疑古者已有此語。穆姜稱之、而夫子亦有取焉。故下文別以子曰表孔子之辭。蓋傳者欲以明此章之爲古語也。
【読み】
君子は此の四德の者を行うなり。故に曰く、乾は元亨利貞、と。君子の至健に非ざれば、以て此を行うこと无し。故に乾は元亨利貞と曰う。○此れ第一節。彖傳の意を申ぬ。春秋傳に載す所の穆姜の言と異ならず。疑うらくは古已に此の語有らん。穆姜之を稱して、夫子も亦取る有り。故に下文に別に子曰を以て孔子の辭を表す。蓋し傳者以て此の章の古語爲るを明らかにせんと欲するならん。
○初九曰、潛龍勿用、何謂也。子曰、龍德而隱者也。不易乎世、不成乎名、遯世无悶、不見是而无悶。樂則行之、憂則違之。確乎其不可拔、潛龍也。樂、音洛。確、苦學反。○龍德、聖人之德也。在下故隱。易、謂變其所守。大抵乾卦六爻、文言皆以聖人明之、有隱顯而无淺深也。
【読み】
○初九に曰く、潛龍用うること勿かれとは、何の謂ぞや。子曰く、龍德ありて隱れたる者なり。世に易えず、名を成さず、世を遯れて悶うること无く、是とせられずして悶うること无し。樂しめば則ち之を行い、憂うれば則ち之を違
[さ]る。確乎として其れ拔く可からざるは、潛龍なり。樂は、音洛。確は、苦學の反。○龍德とは、聖人の德なり。下に在る故に隱る。易とは、其の守る所を變ずるを謂う。大抵乾の卦の六爻、文言は皆聖人を以て之を明らかにすれば、隱顯有りて淺深无きなり。
○九二曰、見龍在田、利見大人、何謂也。子曰、龍德而正中者也。庸言之信、庸行之謹、閑邪存其誠、善世而不伐、德博而化。易曰、見龍在田、利見大人、君德也。行、下孟反。邪、以嗟反。○正中、不潛而未躍之時也。常言亦信、常行亦謹、盛德之至也。閑邪存其誠、无斁亦保之意。言君德也者、釋大人之爲九二也。
【読み】
○九二に曰く、見龍田に在り、大人を見るに利ろしとは、何の謂ぞや。子曰く、龍德ありて正中なる者なり。庸言を信じ、庸行を謹み、邪を閑[ふせ]ぎて其の誠を存し、世に善くして伐
[ほこ]らず、德博くして化す。易に曰く、見龍田に在り、大人を見るに利ろしとは、君德あるなり。行は、下孟の反。邪は、以嗟の反。○正中とは、潛まずして未だ躍らざるの時なり。常言亦信じ、常行亦謹むは、盛德の至りなり。邪を閑ぎ其の誠を存するは、斁
[えら]ぶこと无くして亦之を保つの意。君德あるなりと言うは、大人は之れ九二爲るを釋くなり。
○九三曰、君子終日乾乾、夕惕若、厲无咎、何謂也。子曰、君子進德脩業。忠信所以進德也。脩辭立其誠、所以居業也。知至至之、可與幾也。知終終之、可與存義也。是故居上位而不驕、在下位而不憂。故乾乾。因其時而惕。雖危无咎矣。幾、音機。○忠信、主於心者无一念之不誠也。脩辭、見於事者无一言之不實也。雖有忠信之心、然非脩辭立誠、則无以居之。知至至之、進德之事。知終終之、居業之事。所以終日乾乾而夕猶惕若者、以此故也。可上可下、不驕不憂、所謂无咎也。
【読み】
○九三に曰く、君子終日乾乾し、夕べに惕若たり、厲うけれども咎无しとは、何の謂ぞや。子曰く、君子は德を進め業を脩む。忠信は德を進むる所以なり。辭を脩めて其の誠を立つるは、業に居る所以なり。至るを知りて之に至る、與に幾す可きなり。終わるを知りて之に終える、與に義を存す可きなり。是の故に上位に居りて驕らず、下位に在りて憂えず。故に乾乾す。其の時に因りて惕る。危うしと雖も咎无きなり。幾は、音機。○忠信とは、心に主たる者にて一念の誠あらざること无きなり。辭を脩むとは、事に見す者にて一言の實あらざること无きなり。忠信の心有りと雖も、然れども辭を脩めて誠を立つるに非ざれば、則ち以て之に居ること无し。至るを知りて之に至るとは、德を進むる事。終わるを知りて之に終えるとは、業に居る事。終日乾乾して夕べに猶惕若たる所以の者は、此を以て故なり。上なる可く下なる可く、驕らず憂えざれば、所謂咎无きなり。
○九四曰、或躍在淵、无咎、何謂也。子曰、上下无常、非爲邪也。進退无恆、非離羣也。君子進德脩業、欲及時也。故无咎。離、去聲。○内卦以德學言、外卦以時位言。進德脩業、九三備矣。此則欲其及時而進也。
【読み】
○九四に曰く、或は躍りて淵に在り、咎无しとは、何の謂ぞや。子曰く、上下すること常无きも、邪を爲すには非ざるなり。進退すること恆无きも、羣を離るるには非ざるなり。君子德を進めて業を脩むるは、時に及ばんことを欲するなり。故に咎无し。離は、去聲。○内卦は德學を以て言い、外卦は時位を以て言う。德を進めて業を脩むること、九三備われり。此れ則ち其の時に及びて進まんことを欲するなり。
○九五曰、飛龍在天、利見大人、何謂也。子曰、同聲相應、同氣相求。水流濕、火就燥。雲從龍、風從虎、聖人作而萬物覩。本乎天者親上、本乎地者親下。則各從其類也。應、去聲。○作、起也。物、猶人也。覩、釋利見之意也。本乎天者、謂動物。本乎地者、謂植物。物各從其類。聖人、人類之首也。故興起於上、則人皆見之。
【読み】
○九五に曰く、飛龍天に在り、大人を見るに利ろしとは、何の謂ぞや。子曰く、同聲相應じ、同氣相求む。水は濕[うるお]えるに流れ、火は燥[かわ]けるに就く。雲は龍に從い、風は虎に從い、聖人作りて萬物覩る。天に本づく者は上を親しみ、地に本づく者は下を親しむ。則ち各々其の類に從うなり。應は、去聲。○作とは、起こるなり。物とは、猶人のごとし。覩るとは、見るに利ろしの意を釋くなり。天に本づく者は、動物を謂う。地に本づく者は、植物を謂う。物は各々其の類に從う。聖人は、人類の首なり。故に上に興起すれば、則ち人皆之を見る。
○上九曰、亢龍有悔、何謂也。子曰、貴而无位、高而无民、賢人在下位而无輔。是以動而有悔也。賢人在下位、謂九五以下。无輔、以上九過高志滿、不來輔助之也。○此第二節。申象傳之意。
【読み】
○上九に曰く、亢龍悔有りとは、何の謂ぞや。子曰く、貴くして位无く、高くして民无く、賢人下位に在るも輔くる无し。是を以て動きて悔有るなり。賢人下位に在るとは、九五以下を謂う。輔くる无しとは、上九は過高志滿を以て、來りて之を輔助せざるなり。○此れ第二節。象傳の意を申ぬ。
○潛龍勿用、下也。
【読み】
○潛龍用うること勿かれとは、下なればなり。
○見龍在田、時舍也。舍、音捨。○言未爲時用也。
【読み】
○見龍田に在りとは、時舍[す]つるなり。舍は、音捨。○言うこころは、未だ時用と爲さず、と。
○終日乾乾、行事也。
【読み】
○終日乾乾すとは、事を行うなり。
○或躍在淵、自試也。未遽有爲。姑試其可。
【読み】
○或は躍りて淵に在りとは、自ら試みるなり。未だ遽に爲すこと有らず。姑く其の可ならんかを試みるなり。
○飛龍在天、上治也。治、平聲。○居上以治下。
【読み】
○飛龍天に在りとは、上にして治むるなり。治は、平聲。○上に居りて以て下を治む。
○亢龍有悔、窮之災也。
【読み】
○亢龍悔有りとは、窮まるの災いあるなり。
○乾元用九、天下治也。治、去聲。○言乾元用九、見與他卦不同。君道剛而能柔、天下无不治矣。○此第三節。再申前意。
【読み】
乾元の用九は、天下治まるなり。治は、去聲。○乾元の用九と言うは、他の卦と同じからざるを見す。君の道剛にして能く柔なれば、天下治まらざること无し。○此れ第三節。再び前意を申ぬ。
○潛龍勿用、陽氣潛藏。
【読み】
○潛龍用うること勿かれとは、陽氣潛藏すればなり。
○見龍在田、天下文明。雖不在上位、然天下已被其化。
【読み】
○見龍田に在りとは、天下文明なるなり。上位に在らずと雖も、然れども天下已に其の化を被れり。
○終日乾乾、與時偕行。時當然也。
【読み】
○終日乾乾すとは、時と偕に行うなり。時當に然るべし。
○或躍在淵、乾道乃革。離下而上。變革之時。
【読み】
○或は躍りて淵に在りとは、乾道乃ち革まるなり。下を離れて上る。變革の時なり。
○飛龍在天、乃位乎天德。天德、卽天位也。蓋唯有是德、乃宜居是位。故以名之。
【読み】
○飛龍天に在りとは、乃ち天德に位するなり。天德とは、卽ち天位なり。蓋し唯是の德有りて、乃ち宜しく是の位に居るべし。故に以て之に名づく。
○亢龍有悔、與時偕極。
【読み】
○亢龍悔有りとは、時と偕に極まるなり。
○乾元用九、乃見天則。剛而能柔、天之法也。○此第四節。又申前意。
【読み】
○乾元の用九は、乃ち天の則を見[しめ]すなり。剛にして能く柔なるは、天の法なり。○此れ第四節。又前意を申ぬ。
○乾元者、始而亨者也。始則必亨。理勢然也。
【読み】
○乾元は、始めにして亨る者なり。始めなれば則ち必ず亨る。理勢然り。
利貞者、性情也。收斂歸藏、乃見性情之實。
【読み】
利貞は、性情なり。收斂歸藏は、乃ち性情の實を見す。
乾始能以美利利天下、不言所利、大矣哉。始者、元而亨也。利天下者、利也。不言所利者、貞也。或曰、坤利牝馬、則言所利矣。
【読み】
乾始めは能く美利を以て天下を利して、利する所を言わず、大なるかな。始めは、元いにして亨るなり。天下に利するは、利なり。利する所を言わざるは、貞なり。或ひと曰く、坤の牝馬に利ろしとは、則ち利する所を言うなり、と。
大哉乾乎、剛健中正、純粹精也。剛以體言、健兼用言。中者、其行无過不及。正者、其立不偏。四者乾之德也。純者、不雜於陰柔。粹者、不雜於邪惡。蓋剛健中正之至極、而精者、又純粹之至極也。或疑乾剛无柔、不得言中正者、不然也。天地之閒、本一氣之流行而有動靜爾。以其流行之統體而言、則但謂之乾而无所不包矣。以其動靜分之、然後有陰陽剛柔之別也。
【読み】
大なるかな乾や、剛健中正、純粹にして精なり。剛は體を以て言い、健は用を兼ねて言う。中は、其の行うこと過不及无し。正は、其の立つこと偏ならず。四つの者は乾の德なり。純は、陰柔に雜らず。粹は、邪惡に雜らず。蓋し剛健中正の至極にして、精は、又純粹の至極ならん。或ひと乾は剛にて柔无く、中正と言うを得ずと疑うは、然らざるなり。天地の閒は、本一氣の流行にして動靜有るのみ。其の流行の統體を以て言えば、則ち但之を乾と謂いて包ねざる所无し。其の動靜を以て之を分かちて、然して後に陰陽剛柔の別有るなり。
六爻發揮、旁通情也。旁通、猶言曲盡。
【読み】
六爻發揮して、旁く情を通ずるなり。旁く通ずとは、猶言わば曲盡のごとし。
時乘六龍、以御天也。雲行雨施、天下平也。言聖人時乘六龍以御天、則如天之雲行雨施而天下平也。○此第五節。復申首章之意。
【読み】
時に六龍に乘りて、以て天に御するなり。雲行きて雨施して、天下平かなるなり。言うこころは、聖人時に六龍に乘りて以て天に御せば、則ち天の雲行きて雨施すが如くして天下平かなり。○此れ第五節。復首章の意を申ぬ。
○君子以成德爲行。日可見之行也。潛之爲言也、隱而未見、行而未成。是以君子弗用也。行、並去聲。未見之見、音現。○成德、已成之德也。初九固成德、但其行未可見爾。
【読み】
○君子は成德を以て行いと爲す。日々に見す可きの行いなり。潛の言爲る、隱れて未だ見れず、行いて未だ成らざるなり。是を以て君子は用いざるなり。行は、並去聲。未見の見は、音現。○成德とは、已に成れる德なり。初九は固より成德にて、但其の行い未だ見る可からざるのみ。
○君子學以聚之、問以辨之、寬以居之、仁以行之。易曰、見龍在田、利見大人、君德也。蓋由四者以成大人之德。再言君德、以深明九二之爲大人也。
【読み】
○君子は學以て之を聚め、問以て之を辨え、寬以て之に居り、仁以て之を行う。易に曰く、見龍田に在り、大人を見るに利ろしとは、君德あるなり。蓋し四つの者に由りて以て大人の德を成す。再び君德と言い、以て深く九二の大人爲るを明らかにす。
○九三、重剛而不中。上不在天、下不在田。故乾乾。因其時而惕。雖危无咎矣。重、平聲。下同。○重剛、謂陽爻陽位。
【読み】
○九三は、重剛にして不中。上は天に在らず、下は田に在らず。故に乾乾す。其の時に因りて惕る。危うしと雖も咎无きなり。重は、平聲。下も同じ。○重剛とは、陽爻陽位なるを謂う。
○九四、重剛而不中。上不在天、下不在田、中不在人。故或之。或之者、疑之也。故无咎。九四非重剛。重字疑衍。在人、謂三。或者、隨時而未定也。
【読み】
○九四は、重剛にして不中。上は天に在らず、下は田に在らず、中は人に在らず。故に之を或とす。之を或とするは、之を疑うなり。故に咎无し。九四は重剛に非ず。重の字は疑うらくは衍ならん。人に在りとは、三を謂う。或は、時に隨いて未だ定まらざるなり。
○夫大人者、與天地合其德、與日月合其明、與四時合其序、與鬼神合其吉凶。先天而天弗違、後天而奉天時。天且弗違、而況於人乎、況於鬼神乎。夫、音扶。先・後、並去聲。○大人、卽釋爻辭所利見之大人也。有是德而當其位、乃可以當之。人與天地鬼神、本无二理。特蔽於有我之私、是以梏於形體而不能相通。大人无私、以道爲體。曾何彼此先後之可言哉。先天不違、謂意之所爲、默與道契。後天奉天、謂知理如是、奉而行之。回紇謂郭子儀曰、卜者言此行當見一大人而還、其占蓋與此合。若子儀者、雖未及乎夫子之所論、然其至公无我、亦可謂當時之太人矣。
【読み】
○夫れ大人は、天地と其の德を合わせ、日月と其の明を合わせ、四時と其の序を合わせ、鬼神と其の吉凶を合わす。天に先だちて天に違わず、天に後れて天の時を奉ず。天すら且つ違わず、而るを況や人に於てをや、況や鬼神に於てをや。夫は、音扶。先・後は、並去聲。○大人とは、卽ち爻辭の見るに利ろしき所の大人を釋くなり。是の德有りて其の位に當れば、乃ち以て之に當る可し。人と天地鬼神とは、本二理无し。特我有るの私に蔽われ、是を以て形體に梏して相通ずること能わず。大人は私无く、道を以て體と爲す。曾て何ぞ彼此先後を之れ言う可けんや。天に先だちて違わずとは、意の爲す所、默して道と契るを謂う。天に後れて天を奉ずとは、理是の如きを知りて、奉じて之を行うを謂う。回紇が郭子儀に謂いて曰く、卜者言いて此れ行えば當に一大人を見て還るべしとは、其の占蓋し此と合わん。子儀が若きは、未だ夫子の論ずる所に及ばずと雖も、然れども其の至公我无きは、亦當時の太人と謂う可し。
*太・・・山崎嘉点は「太」、他の本では「大」。
○亢之爲言也、知進而不知退、知存而不知亡。知得而不知喪。喪、去聲。○所以動而有悔也。
【読み】
○亢の言爲る、進むを知って退くを知らず、存するを知って亡ぶるを知らず。得るを知って喪うを知らず。喪は、去聲。○動きて悔有る所以なり。
其唯聖人乎。知進退存亡、而不失其正者、其唯聖人乎。知其理勢如是而處之以道、則不至於有悔矣。固非計私以避害者也。再言其唯聖人乎、始若設問而卒自應之也。○此第六節。復申第二第三第四節之意。
【読み】
其れ唯聖人か。進退存亡を知って、其の正を失わざる者は、其れ唯聖人か。其の理勢是の如きを知って之に處るに道を以てすれば、則ち悔有るに至らざるなり。固より私を計りて以て害を避けんとする者に非ざるなり。再び其れ唯聖人かと言い、始め問を設けるが若くして卒わりに自ら之に應うるなり。○此れ第六節。復第二第三第四節の意を申ぬ。
○坤至柔而動也剛。至靜而德方。剛方、釋牝馬之貞也。方、謂生物有常。
【読み】
○坤は至柔にして動くや剛なり。至靜にして德方なり。剛方は、牝馬の貞を釋くなり。方は、生物に常有るを謂う。
後得、主而有常。程傳曰、主下當有利字。
【読み】
後るれば得て、主として常有り。程傳に曰く、主の下に當に利の字有るべし、と。
含萬物而化光。復明亨義。
【読み】
萬物を含んで化光[おお]いなり。復亨るの義を明らかにす。
坤道其順乎。承天而時行。復明順承天之義。○此以上、申彖傳之意。
【読み】
坤道は其れ順なるか。天に承けて時に行う。復順いて天に承くの義を明らかにす。○此れ以上、彖傳の意を申ぬ。
○積善之家必有餘慶。積不善之家必有餘殃。臣弑其君、子弑其父、非一朝一夕之故。其所由來者漸矣。由辯之不早辯也。易曰、履霜堅冰至。蓋言順也。古字順愼通用。按此當作愼。言當辯之於微也。
【読み】
○善を積む家には必ず餘慶有り。不善を積む家には必ず餘殃有り。臣にして其の君を弑し、子にして其の父を弑するは、一朝一夕の故に非ず。其の由って來る所の者は漸なり。辯ずべきを早く辯ぜざるに由るなり。易に曰く、霜を履んで堅冰至る、と。蓋し順なるを言うなり。古字順は愼に通用す。按ずるに此れ當に愼と作すべし。言うこころは、當に之を微に辯ずべし、と。
○直其正也、方其義也。君子敬以直内、義以方外。敬義立而德不孤。直・方・大、不習无不利、則不疑其所行也。此以學而言之也。正、謂本體。義、謂裁制。敬則本體之守也。直内方外、程傳備矣。不孤、言大也。疑故習而後利、不疑則何假於習。○傳曰、直、言其正也。方、言其義也。君子主敬以直其内、守義以方其外。敬立而内直、義形而外方。義形於外、非在外也。敬義旣立、其德盛矣。不期大而大矣。德不孤也。无所用而不周、无所施而不利。孰爲疑乎。
【読み】
○直は其れ正なり、方は其れ義なり。君子は敬以て内を直くし、義以て外を方にす。敬義立てば德孤ならず。直・方・大なり、習わざれども利ろしからざること无しとは、則ち其の行う所を疑わざるなり。此れ學を以て之を言うなり。正とは、本體を謂う。義とは、裁制を謂う。敬は則ち本體の守なり。内を直くし外を方にすは、程傳に備なり。孤ならずとは、大を言うなり。疑う故に習いて後に利ろしく、疑わざれば則ち何ぞ習に假りん。○傳に曰く、直は、其の正しきを言うなり。方は、其の義を言うなり。君子敬を主として以て其の内を直くし、義を守りて以て其の外を方にす。敬立ちて内直く、義形れて外方なり。義外に形れども、外に在るに非ず。敬義旣に立てば、其の德盛んなり。大を期せずして大なり。德孤ならず。用うる所として周からざること无く、施す所として利ろしからざること无し。孰か疑いを爲さんや、と。
○陰雖有美、含之以從王事、弗敢成也。地道也、妻道也、臣道也。地道无成、而代有終也。
【読み】
○陰は美有りと雖も、之を含んで以て王事に從い、敢えて成さざるなり。地の道なり、妻の道なり、臣の道なり。地の道は成すこと无くして、代わって終わり有るなり。
○天地變化、草木蕃、天地閉、賢人隱。易曰、括囊、无咎无譽。蓋言謹也。
【読み】
○天地變化して、草木蕃[しげ]り、天地閉じて、賢人隱る。易に曰く、囊を括る、咎も无く譽れも无し、と。蓋し謹むべきを言うなり。
○君子黄中通理、黄中、言中德在内。釋黄字之義也。
【読み】
○君子は黄中にして理に通じ、黄中とは、中德の内に在るを言う。黄の字の義を釋くなり。
正位居體。雖在尊位、而居下體。釋裳字之義也。
【読み】
正位にして體に居る。尊位に在ると雖も、而して下の體に居る。裳の字の義を釋くなり。
美在其中、而暢於四支、發於事業。美之至也。美在其中、復釋黄中。暢於四支、復釋居體。
【読み】
美其の中に在りて、四支に暢び、事業に發す。美の至りなり。美其の中に在りとは、復黄中を釋く。四支に暢びるとは、復體に居るを釋く。
○陰疑於陽必戰。爲其嫌於无陽也、故稱龍焉。猶未離其類也、故稱血焉。夫玄黄者、天地之雜也。天玄而地黄。爲、于僞反。離、力智反。夫、音扶。○疑、謂鈞敵而无小大之差也。坤雖无陽、然陽未嘗无也。血、陰屬。蓋氣陽而血陰也。玄黄、天地之正色。言陰陽皆傷也。○此以上、申象傳之意。
【読み】
○陰、陽に疑わしきときは必ず戰う。其の陽无きに嫌[うたが]わしきが爲に、故に龍と稱す。猶未だ其の類を離れざる、故に血と稱す。夫れ玄黄は、天地の雜るなり。天は玄にして地は黄なり。爲は、于僞の反。離は、力智の反。夫は、音扶。○疑うとは、鈞敵にして小大の差无きを謂うなり。坤は陽无きと雖も、然れども陽未だ嘗て无きことあらず。血は、陰の屬。蓋し氣は陽にして血は陰ならん。玄黄は、天地の正色。言うこころは、陰陽皆傷む、と。○此れ以上、象傳の意を申ぬ。
說卦傳
昔者聖人之作易也、幽贊於神明而生蓍。幽贊神明、猶言贊化育。龜筴傳曰、天下和平、王道得、而蓍莖長丈、其叢生滿百莖。
【読み】
昔者[むかし]聖人の易を作るや、神明を幽贊して蓍を生ず。神明を幽贊すとは、猶化育を贊くと言うがごとし。龜筴傳に曰く、天下和平し、王道得て、蓍莖長丈し、其の叢生百莖に滿つ、と。
參天兩地而倚數。參、七南反。○天圓地方。圓者一而圍三。三各一奇。故參天而爲三。方者一而圍四。四合二耦。故兩地而爲二。數皆倚此而起。故揲蓍三變之末、其餘三奇、卽三三而九。三耦則三二而六。兩二一三則爲七。兩三一二則爲八。
【読み】
參天兩地にして數を倚す。參は、七南の反。○天は圓にて地は方。圓は一にして圍は三。三各々一奇なり。故に天を參にして三と爲す。方は一にして圍は四。四は二耦に合う。故に地を兩にして二と爲す。數は皆此を倚ちて起こる。故に蓍を揲うること三變の末、其の餘三奇なれば、卽ち三三にして九。三耦なれば則ち三二にして六。兩二一三なれば則ち七と爲す。兩三一二なれば則ち八と爲す。
觀變於陰陽而立卦、發揮於剛柔而生爻。和順於道德而理於義、窮理盡性以至於命。和順、從容无所乖逆、統言之也。理、謂隨事得其條理、析言之也。窮天下之理、盡人物之性、而合於天道。此聖人作易之極功也。
【読み】
變を陰陽に觀て卦を立て、剛柔に發揮して爻を生ず。道德に和順して義に理あり、理を窮め性を盡くして以て命に至る。和順は、從容にて乖逆する所无き、統べて之を言うなり。理は、事に隨いて其の條理を得るを謂い、析けて之を言うなり。天下の理を窮め、人物の性を盡くし、而して天道に合す。此れ聖人易を作る極功なり。
右第一章。
昔者聖人之作易也、將以順性命之理。是以立天之道、曰陰與陽。立地之道、曰柔與剛。立人之道、曰仁與義。兼三才而兩之。故易六畫而成卦。分陰分陽、迭用柔剛。故易六位而成章。兼三才而兩之、總言六畫。又細分之、則陰陽之位閒雜而成文章也。
【読み】
昔者聖人の易を作るや、將に以て性命の理に順わんとす。是を以て天の道を立つ、曰く陰と陽、と。地の道を立つ、曰く柔と剛、と。人の道を立つ、曰く仁と義、と。三才を兼ねて之を兩にす。故に易は六畫にして卦を成す。陰を分かち陽を分かち、迭
[たが]いに柔剛を用う。故に易は六位にして章を成す。三才を兼ねて之を兩にすとは、總て六畫を言う。又細かに之を分かてば、則ち陰陽の位閒雜して文章を成すなり。
右第二章。
天地定位、山澤通氣、雷風相薄、水火不相射、八卦相錯。薄、音博。○邵子曰、此伏羲八卦之位。乾南、坤北、離東、坎西、兌居東南、震居東北、巽居西南、艮居西北。於是八卦相交而成六十四卦。所謂先天之學也。
【読み】
天地位を定め、山澤氣を通じ、雷風相薄[せま]り、水火相射[いと]わずして、八卦相錯[まじ]わる。薄は、音博。○邵子曰く、此れ伏羲八卦の位。乾は南、坤は北、離は東、坎は西、兌は東南に居り、震は東北に居り、巽は西南に居り、艮は西北に居る。是に於て八卦相交わりて六十四卦を成す。所謂先天の學なり。
數往者順、知來者逆。是故易逆數也。數、並上聲。○起震而歴離兌以至於乾、數已生之卦也。自巽而歴坎艮以至於坤、推未生之卦也。易之生卦、則以乾兌離震巽坎艮坤爲次。故皆逆數也。
【読み】
往を數うるは順にして、來を知る者は逆なり。是の故に易は逆數なり。數は、並上聲。○震に起こりて離兌を歴て以て乾に至るは、已に生ずるの卦を數うるなり。巽よりして坎艮を歴て以て坤に至るは、未だ生ぜざるの卦を推すなり。易の卦を生ずる、則ち乾兌離震巽坎艮坤を以て次と爲す。故に皆逆數なり。
右第三章。
雷以動之、風以散之、雨以潤之、日以烜之、艮以止之、兌以說之、乾以君之、坤以藏之。烜、與晅同。說、音悦。○此卦位相對、與上章同。
【読み】
雷は以て之を動かし、風は以て之を散らし、雨は以て之を潤し、日は以て之を烜[かわ]かし、艮は以て之を止め、兌は以て之を說ばし、乾は以て之に君たり、坤は以て之を藏[おさ
]む。烜は、晅と同じ。說は、音悦。○此の卦の位の相對する、上章と同じ。
右第四章。
帝出乎震、齊乎巽、相見乎離、致役乎坤、說言乎兌、戰乎乾、勞乎坎、成言乎艮。說、音悦。下同。○帝者、天之主宰。邵子曰、此卦位乃文王所定。所謂後天之學也。
【読み】
帝は震に出で、巽に齊い、離に相見、坤に致役し、兌に說言し、乾に戰い、坎に勞し、艮に成言す。說は、音悦。下も同じ。○帝は、天の主宰なり。邵子曰く、此の卦の位は乃ち文王定むる所、と。所謂後天の學なり。
萬物出乎震。震東方也。齊乎巽。巽東南也。齊也者、言萬物之絜齊也。離也者明也。萬物皆相見。南方之卦也。聖人南面而聽天下、嚮明而治、蓋取諸此也。坤也者地也。萬物皆致養焉。故曰致役乎坤。兌正秋也。萬物之所說也。故曰說言乎兌。戰乎乾。乾西北之卦也。言陰陽相薄也。坎者水也。正北方之卦也。勞卦也。萬物之所歸也。故曰勞乎坎。艮東北之卦也。萬物之所成終而所成始也。故曰成言乎艮。嚮、讀作向。說、音悦。下同。薄、音博。○上言帝、此言萬物之隨帝以出入也。
【読み】
萬物は震に出づ。震は東方なり。巽に齊う。巽は東南なり。齊うとは、萬物の絜齊を言うなり。離とは明なり。萬物皆相見る。南方の卦なり。聖人南面して天下に聽き、明に嚮[むか
]いて治むるは、蓋し諸を此に取るなり。坤とは地なり。萬物皆養を致す。故に曰く、坤に致役す、と。兌は正秋なり。萬物の說ぶ所なり。故に曰く、兌に說言す、と。乾に戰う。乾は西北の卦なり。陰陽相薄
[せま]るを言うなり。坎は水なり。正北方の卦なり。勞卦なり。萬物の歸する所なり。故に曰く、坎に勞す、と。艮は東北の卦なり。萬物の終わりを成す所にして始めを成す所なり。故に曰く、艮に成言す、と。嚮は、讀んで向と作す。說は、音悦。下も同じ。薄は、音博。○上は帝を言い、此は萬物の帝に隨いて以て出入するを言うなり。
右第五章。此章所推卦位之說、多未詳者。
【読み】
右第五章。此の章の推す所の卦の位の說は、未だ詳らかならざる者多し。
神也者、妙萬物而爲言者也。動萬物者、莫疾乎雷、橈萬物者、莫疾乎風、燥萬物者、莫乎熯火、說萬物者、莫說乎澤、潤萬物者、莫潤乎水、終萬物始萬物者、莫盛乎艮。故水火相逮、雷風不相悖、山澤通氣。然後能變化、旣成萬物也。撓、乃飽反。熯、呼但反。悖、必内反。○此去乾坤而專言六子、以見神之所爲。然其位序亦用上章之說、未詳其義。
【読み】
神なる者は、萬物に妙にして言を爲す者なり。萬物を動かす者は、雷より疾きは莫く、萬物を橈むる者は、風より疾きは莫く、萬物を燥かす者は、火より熯けるは莫く、萬物を說ばす者は、澤より說ばすは莫く、萬物を潤す者は、水より潤すは莫く、萬物を終え萬物を始むる者は、艮より盛んなるは莫し。故に水火相逮ぼし、雷風相悖らず、山澤氣を通ず。然して後に能く變化して、旣
[ことごと]く萬物を成すなり。撓は、乃飽の反。熯は、呼但の反。悖は、必内の反。○此れ乾坤を去りて專ら六子を言い、以て神の爲す所を見す。然れども其の位の序も亦上章の說を用い、未だ其の義を詳らかにせず。
右第六章。
乾健也。坤順也。震動也。巽入也。坎陷也。離麗也。艮止也。兌說也。說、音悦。○此言八卦之性情。
【読み】
乾は健なり。坤は順なり。震は動なり。巽は入なり。坎は陷なり。離は麗なり。艮は止なり。兌は說なり。說は、音悦。○此れ八卦の性情を言う。
右第七章。
乾爲馬、坤爲牛、震爲龍、巽爲雞、坎爲豕、離爲雉、艮爲狗、兌爲羊。遠取諸物如此。
【読み】
乾を馬と爲し、坤を牛と爲し、震を龍と爲し、巽を雞と爲し、坎を豕と爲し、離を雉と爲し、艮を狗と爲し、兌を羊と爲す。遠く諸を物に取ること此の如し。
右第八章。
乾爲首、坤爲腹、震爲足、巽爲股、坎爲耳、離爲目、艮爲手、兌爲口。近取諸身如此。
【読み】
乾を首と爲し、坤を腹と爲し、震を足と爲し、巽を股と爲し、坎を耳と爲し、離を目と爲し、艮を手と爲し、兌を口と爲す。近く諸を身に取ること此の如し。
右第九章。
乾天也。故稱乎父。坤地也。故稱乎母。震一索而得男。故謂之長男。巽一索而得女。故謂之長女。坎再索而得男。故謂之中男。離再索而得女。故謂之中女。艮三索而得男。故謂之少男。兌三索而得女。故謂之少女。索、色白反。長、之丈反。少、詩照反。下章同。○索、求也。謂揲蓍以求爻也。男女、指卦中一陰一陽之爻而言。
【読み】
乾は天なり。故に父と稱す。坤は地なり。故に母と稱す。震は一索して男を得。故に之を長男と謂う。巽一索して女を得。故に之を長女と謂う。坎は再索して男を得。故に之を中男と謂う。離は再索して女を得。故に之を中女と謂う。艮は三索して男を得。故に之を少男と謂う。兌は三索して女を得。故に之を少女と謂う。索は、色白の反。長は、之丈の反。少は、詩照の反。下章も同じ。○索とは、求むるなり。蓍を揲うるを以て爻を求むるを謂うなり。男女とは、卦の中の一陰一陽の爻を指して言う。
右第十章。
乾爲天、爲圜、爲君、爲父、爲玉、爲金、爲寒、爲冰、爲大赤、爲良馬、爲老馬、爲瘠馬、爲駁馬、爲木果。圜、音圓。駁、邦角反。○荀九家、此下有爲龍、爲直、爲衣、爲言。
【読み】
乾を天と爲し、圜[えん]と爲し、君と爲し、父と爲し、玉と爲し、金と爲し、寒と爲し、冰と爲し、大赤と爲し、良馬と爲し、老馬と爲し、瘠馬と爲し、駁馬と爲し、木果と爲す。圜は、音圓。駁は、邦角の反。○荀九家に、此の下に龍と爲し、直と爲し、衣と爲し、言と爲すと有り。
坤爲地、爲母、爲布、爲釡、爲吝嗇、爲均、爲子母牛、爲大輿、爲文、爲衆、爲柄、其於地也爲黑。釜、房甫反。嗇、音色。○荀九家、有爲牝、爲迷、爲方、爲囊、爲裳、爲黄、爲帛、爲漿。
【読み】
坤を地と爲し、母と爲し、布と爲し、釡と爲し、吝嗇と爲し、均と爲し、子母牛と爲し、大輿と爲し、文と爲し、衆と爲し、柄と爲し、其の地に於るや黑と爲す。釜は、房甫の反。嗇は、音色。○荀九家に、牝と爲し、迷と爲し、方と爲し、囊と爲し、裳と爲し、黄と爲し、帛と爲し、漿と爲すと有り。
震爲雷、爲龍、爲玄黄、爲旉、爲大塗、爲長子、爲決躁、爲蒼筤竹、爲萑葦、其於馬也爲善鳴、爲馵足、爲作足、爲的顙、其於稼也爲反生、其究爲健、爲蕃鮮。旉、音孚。筤、音郎。萑、音九。馵、主樹反。蕃、音煩。○荀九家、有爲玉、爲鵠、爲鼓。
【読み】
震を雷と爲し、龍と爲し、玄黄と爲し、旉[ふ]と爲し、大塗と爲し、長子と爲し、決躁と爲し、蒼筤竹[そうろうちく]と爲し、萑葦[かんい]と爲し、其の馬に於るや善鳴と爲し、馵足
[しゅそく]と爲し、作足と爲し、的顙と爲し、其の稼に於るや反生と爲し、其の究まりては健と爲し、蕃鮮と爲す。旉は、音孚。筤は、音郎。萑は、音九。馵は、主樹の反。蕃は、音煩。○荀九家に、玉と爲し、鵠と爲し、鼓と爲すと有り。
巽爲木、爲風、爲長女、爲繩直、爲工、爲白、爲長、爲高、爲進退、爲不果、爲臭、其於人也爲寡髪、爲廣顙、爲多白眼、爲近利市三倍、其究爲躁卦。下爲長之長、如字。○荀九家、有爲楊、爲鸛。
【読み】
巽を木と爲し、風と爲し、長女と爲し、繩直と爲し、工と爲し、白と爲し、長と爲し、高と爲し、進退と爲し、果ならずと爲し、臭と爲し、其の人に於るや寡髪と爲し、廣顙と爲し、白眼多しと爲し、利に近づきて市
[う]って三倍すと爲し、其の究まりては躁の卦と爲す。下の爲長の長は、字の如し。○荀九家に、楊と爲し、鸛と爲すと有り。
坎爲水、爲溝瀆、爲隱伏、爲矯輮、爲弓輪、其於人也爲加憂、爲心病、爲耳痛、爲血卦、爲赤、其於馬也爲美脊、爲亟心、爲下首、爲薄蹄、爲曳、其於輿也爲多眚、爲通、爲月、爲盗、其於木也爲堅多心。輮、如九反。亟、紀力反。曳、以制反。○荀九家、有爲宮、爲律、爲可、爲棟、爲叢棘、爲狐、爲蒺藜、爲桎梏。
【読み】
坎を水と爲し、溝瀆と爲し、隱伏と爲し、矯輮と爲し、弓輪と爲し、其の人に於るや加憂と爲し、心病と爲し、耳痛と爲し、血の卦と爲し、赤と爲し、其の馬に於るや美脊と爲し、亟心と爲し、下首と爲し、薄蹄と爲し、曳くと爲し、其の輿に於るや眚多しと爲し、通ずと爲し、月と爲し、盗と爲し、其の木に於るや堅くして心多しと爲す。輮は、如九の反。亟は、紀力の反。曳は、以制の反。○荀九家に、宮と爲し、律と爲し、可と爲し、棟と爲し、叢棘と爲し、狐と爲し、蒺藜と爲し、桎梏と爲すと有り。
離爲火、爲日、爲電、爲中女、爲甲胃、爲戈兵、其於人也爲大腹、爲乾卦、爲鱉、爲蟹、爲蠃、爲蚌、爲龜、其於木也爲科上槁。乾、音干。蟹、戶買反。蠃、力禾反。蚌、歩項反。○荀九家、有爲牝牛。
【読み】
離を火と爲し、日と爲し、電と爲し、中女と爲し、甲胃と爲し、戈兵と爲し、其の人に於るや大腹と爲し、乾くの卦と爲し、鱉[べつ]と爲し、蟹と爲し、蠃[ら]と爲し、蚌[ぼう
]と爲し、龜と爲し、其の木に於るや科[うつろ]にして上槁ると爲す。乾は、音干。蟹は、戶買の反。蠃は、力禾の反。蚌は、歩項の反。○荀九家に、牝牛と爲すと有り。
艮爲山、爲徑路、爲小石、爲門闕、爲果蓏、爲閽寺、爲指、爲狗、爲鼠、爲黔喙之屬、其於木也爲堅多節。蓏、力果反。黔、其堅反。喙、況廢反。又音呪。○荀九家、有爲鼻、爲虎、爲狐。
【読み】
艮は山と爲し、徑路と爲し、小石と爲し、門闕と爲し、果蓏[から]と爲し、閽寺[こんじ]と爲し、指と爲し、狗と爲し、鼠と爲し、黔喙[けんかい]の屬と爲し、其の木に於るや堅くして節多しと爲す。蓏は、力果の反。黔は、其堅の反。喙は、況廢の反。又音呪。○荀九家に、鼻と爲し、虎と爲し、狐と爲すと有り。
兌爲澤、爲少女、爲巫、爲口舌、爲毀折、爲附決、其於地也爲剛鹵、爲妾、爲羊。折、之列反。鹵、力杜反。○荀九家、有爲常、爲輔頰。
【読み】
兌を澤と爲し、少女と爲し、巫と爲し、口舌と爲し、毀折と爲し、附決と爲し、其の地に於るや剛鹵と爲し、妾と爲し、羊と爲す。折は、之列の反。鹵は、力杜の反。○荀九家に、常と爲し、輔頰と爲すと有り。
右第十一章。此章廣八卦之象。其閒多不可曉者。求之於經、亦不盡合也。
【読み】
右第十一章。此の章は八卦の象を廣む。其の閒曉かす可からざる者多し。之を經に求めども、亦盡く合わず。
序卦傳
有天地然後萬物生焉。盈天地之間者唯萬物。故受之以屯。屯者盈也。屯者物之始生也。物生必蒙。故受之以蒙。蒙者蒙也。物之稺也。物稺不可不養也。故受之以需。需者飮食之道也。飮食必有訟。故受之以訟。訟必有衆起。故受之以師。師者衆也。衆必有所比。故受之以比。比者比也。比必有所畜。故受之以小畜。物畜然後有禮。故受之以履。履而泰、然後安。故受之以泰。晁氏曰、鄭本无而泰二字。泰者通也。物不可以終通。故受之以否。物不可以終否。故受之以同人。與人同者物必歸焉。故受之以大有。有大者不可以盈。故受之以謙。有大而能謙必豫。故受之以豫。豫必有隨。故受之以隨。以喜隨人者必有事。故受之以蠱。蠱者事也。有事而後可大。故受之以臨。臨者大也。物大然後可觀。故受之以觀。可觀而後有所合。故受之以噬嗑。嗑者合也。物不可以苟合而已。故受之以賁。賁者飾也。致飾然後亨則盡矣。故受之以剥。剥者剥也。物不可以終盡。剥窮上反下。故受之以復。復則不妄矣。故受之以无妄。有无妄然後可畜。故受之以大畜。物畜然後可養。故受之以頤。頤者養也。不養則不可動。故受之以大過。物不可以終過。故受之以坎。坎者陷也。陷必有所麗。故受之以離。離者麗也。
【読み】
天地有りて然る後に萬物生ず。天地の間に盈つる者は唯萬物なり。故に之に受くるに屯を以てす。屯とは盈つるなり。屯とは物の始めて生ずるなり。物生ずれば必ず蒙なり。故に之に受くるに蒙を以てす。蒙とは蒙
[おろ]かなり。物の稺[おさな]きなり。物稺ければ養わざる可からず。故に之に受くるに需を以てす。需とは飮食の道なり。飮食すれば必ず訟え有り。故に之に受くるに訟を以てす。訟えには必ず衆の起こる有り。故に之に受くるに師を以てす。師とは衆なり。衆あれば必ず比する所有り。故に之に受くるに比を以てす。比とは比しむなり。比しめば必ず畜う所有り。故に之に受くるに小畜を以てす。物畜えられて然る後に禮有り。故に之に受くるに履を以てす。履んで泰、然る後に安し。故に之に受くるに泰を以てす。晁氏曰く、鄭本に而泰の二字无し。泰とは通ずるなり。物は以て通ずるに終わる可からず。故に之に受くるに否を以てす。物は以て否に終わる可からず。故に之に受くるに同人を以てす。人と同じき者は物必ず歸す。故に之に受くるに大有を以てす。大を有つ者は以て盈つる可からず。故に之に受くるに謙を以てす。大を有ちて能く謙なれば必ず豫しむ。故に之に受くるに豫を以てす。豫しめば必ず隨うこと有り。故に之に受くるに隨を以てす。喜びを以て人に隨う者は必ず事有り。故に之に受くるに蠱を以てす。蠱とは事なり。事有りて後に大なる可し。故に之に受くるに臨を以てす。臨とは大なり。物大にして然る後に觀る可し。故に之に受くるに觀を以てす。觀る可くして後に合う所有り。故に之に受くるに噬嗑を以てす。嗑とは合うなり。物以て苟も合うのみなる可からず。故に之に受くるに賁を以てす。賁とは飾るなり。飾りを致して然る後に亨れば則ち盡く。故に之に受くるに剥を以てす。剥とは剥ぐなり。物以て盡くるに終わる可からず。剥ぐこと上に窮まれば下に反る。故に之に受くるに復を以てす。復れば則ち妄ならず。故に之に受くるに无妄を以てす。无妄有りて然る後に畜う可し。故に之に受くるに大畜を以てす。物畜えられて然る後に養う可し。故に之に受くるに頤を以てす。頤とは養うなり。養わざれば則ち動く可からず。故に之に受くるに大過を以てす。物以て過ぐるに終わる可からず。故に之に受くるに坎を以てす。坎とは陷るなり。陷れば必ず麗
[つ]く所有り。故に之に受くるに離を以てす。離とは麗くなり。
右上篇。
有天地然後有萬物。有萬物然後有男女。有男女然後有夫婦。有夫婦然後有父子。有父子然後有君臣。有君臣然後有上下。有上下然後禮儀有所錯。夫婦之道不可以不久也。故受之以恆。恆者久也。物不可以久居其所。故受之以遯。遯者退也。物不可以終遯。故受之以大壯。物不可以終壯。故受之以晉。晉者進也。進必有所傷。故受之以明夷。夷者傷也。傷於外者必反其家。故受之以家人。家道窮必乖。故受之以睽。睽者乖也。乖必有難。故受之以蹇。蹇者難也。物不可以終難。故受之以解。解者緩也。緩必有所失。故受之以損。損而不已必益。故受之以益。益而不已必決。故受之以夬。夬者決也。決必有所遇。故受之以姤。姤者遇也。物相遇而後聚。故受之以萃。萃者聚也。聚而上者謂之升。故受之以升。升而不巳必困。故受之以困。困乎上者必反下。故受之以井。井道不可不革。故受之以革。革物者莫若鼎。故受之以鼎。主器者莫若長子。故受之以震。震者動也。物不可以終動、止之。故受之以艮。艮者止也。物不可以終止。故受之以漸。漸者進也。進必有所歸。故受之以歸妹。得其所歸者必大。故受之以豐。豐者大也。窮大者必失其居。故受之以旅。旅而无所容。故受之以巽。巽者入也。入而後說之。故受之以兌。兌者說也。說而後散之。故受之以渙。渙者離也。物不可以終離。故受之以節。節而信之。故受之以中孚。有其信者必行之。故受之以小過。有過物者必濟。故受之以旣濟。物不可窮也。故受之以未濟終焉。
【読み】
天地有りて然る後に萬物有り。萬物有りて然る後に男女有り。男女有りて然る後に夫婦有り。夫婦有りて然る後に父子有り。父子有りて然る後に君臣有り。君臣有りて然る後に上下有り。上下有りて然る後に禮儀錯く所有り。夫婦の道は以て久しからざる可からざるなり。故に之に受くるに恆を以てす。恆とは久しきなり。物以て久しく其の所に居る可からず。故に之に受くるに遯を以てす。遯とは退くなり。物以て遯に終わる可からず。故に之に受くるに大壯を以てす。物以て壯なるに終わる可からず。故に之に受くるに晉を以てす。晉とは進むなり。進めば必ず傷るる所有り。故に之に受くるに明夷を以てす。夷とは傷るるなり。外に傷るる者は必ず其の家に反る。故に之に受くるに家人を以てす。家道窮まれば必ず乖
[そむ]く。故に之に受くるに睽を以てす。睽とは乖くなり。乖けば必ず難有り。故に之に受くるに蹇を以てす。蹇とは難なり。物以て難に終わる可からず。故に之に受くるに解を以てす。解とは緩なり。緩くすれば必ず失う所有り。故に之に受くるに損を以てす。損して已まざれば必ず益す。故に之に受くるに益を以てす。益して已まざれば必ず決す。故に之に受くるに夬を以てす。夬とは決なり。決すれば必ず遇う所有り。故に之に受くるに姤を以てす。姤とは遇うなり。物相遇いて後に聚まる。故に之に受くるに萃を以てす。萃とは聚なり。聚まりて上る者は之を升ると謂う。故に之に受くるに升を以てす。升りて巳まざれば必ず困しむ。故に之に受くるに困を以てす。上に困しむ者は必ず下に反る。故に之に受くるに井を以てす。井道は革めざる可からず。故に之に受くるに革を以てす。物を革むる者は鼎に若くは莫し。故に之に受くるに鼎を以てす。器を主る者は長子に若くは莫し。故に之に受くるに震を以てす。震とは動くなり。物以て動くに終わる可からず、之を止む。故に之に受くるに艮を以てす。艮とは止むるなり。物以て止まるに終わる可からず。故に之に受くるに漸を以てす。漸とは進むなり。進めば必ず歸る所有り。故に之に受くるに歸妹を以てす。其の歸する所を得る者は必ず大なり。故に之に受くるに豐を以てす。豐とは大なり。大を窮むる者は必ず其の居を失う。故に之に受くるに旅を以てす。旅して容るる所无し。故に之に受くるに巽を以てす。巽とは入るなり。入りて後に之を說ぶ。故に之に受くるに兌を以てす。兌とは說ぶなり。說びて後に之を散らす。故に之に受くるに渙を以てす。渙とは離るるなり。物以て離るるに終わる可からず。故に之に受くるに節を以てす。節して之を信ず。故に之に受くるに中孚を以てす。其の信を有する者は必ず之を行う。故に之に受くるに小過を以てす。物に過ぐること有る者は必ず濟
[な]す。故に之に受くるに旣濟を以てす。物は窮む可からざるなり。故に之に受くるに未濟を以てして終わるなり。
右下篇。
雜卦傳
乾剛坤柔。比樂師憂。樂、音洛。
【読み】
乾は剛にして坤は柔なり。比は樂しみて師は憂う。樂は、音洛。
臨・觀之義、或與或求。以我臨物曰與、物來觀我曰求。或曰、二卦互有與求之義。
【読み】
臨・觀の義は、或は與え或は求む。我、物に臨むを以て與と曰い、物來りて我を觀るを求と曰う。或は曰く、二卦互いに與求の義有り、と。
屯見而不失其居、蒙雜而著。見、賢遍反。著、陟慮反。○屯、震遇坎。震動故見、坎險不行也。蒙、坎遇艮。坎幽昧、艮光明也。或曰、屯以初言、蒙以二言。
【読み】
屯は見[あらわ]れて其の居を失わず、蒙は雜わりて著[あらわ]る。見は、賢遍の反。著は、陟慮の反。○屯は、震坎に遇う。震動く故に見れ、坎險にて行われず。蒙は、坎艮に遇う。坎は幽昧、艮は光明なり。或は曰く、屯は初を以て言い、蒙は二を以て言う、と。
震起也。艮止也。損・益盛衰之始也。
【読み】
震は起こるなり、艮は止まるなり。損・益は盛衰の始めなり。
○大畜時也。无妄災也。止健者時有適然。无妄而災自外至。
【読み】
○大畜は時なり。无妄は災いなり。健を止むる者は時に適然なる有り。无妄にして災い外より至る。
萃聚、而升不來也。謙輕而豫怠也。
【読み】
萃は聚まりて、升は來らざるなり。謙は輕くして豫は怠るなり。
○噬嗑食也。賁无色也。白受采。
【読み】
○噬嗑は食らうなり。賁は色无きなり。白は采を受く。
兌見而巽伏也。見、賢遍反。○兌陰外見、巽陰内伏。
【読み】
兌は見れて巽は伏すなり。見は、賢遍の反。○兌陰外に見れ、巽陰内に伏す。
隨无故也。蠱則飭也。飭、與勑反。○隨前无故。蠱後當飭。
【読み】
隨は故无きなり。蠱は則ち飭[ととの]うるなり。飭は、與勑の反。○隨は前に故无し。蠱は後に當に飭うべし。
剥爛也。復反也。
【読み】
剥は爛[やぶ]るるなり。復は反るなり。
○晉晝也。明夷誅也。誅、傷也。
【読み】
○晉は晝なり。明夷は誅するなり。誅は、傷るなり。
井通而困相遇也。剛柔相遇而剛見揜也。
【読み】
井は通じて困は相遇うなり。剛柔相遇いて剛揜わるるなり。
咸速也。恆久也。咸速、恆久。
【読み】
咸は速やかなり。恆は久しきなり。咸は速やか、恆は久し。
渙離也。節止也。解緩也。蹇難也。睽外也。家人内也。否・泰反其類也。難、乃旦反。
【読み】
渙は離るるなり。節は止まるなり。解は緩くするなり。蹇は難むなり。睽は外なり。家人は内なり。否・泰は其の類に反するなり。難は、乃旦の反。
大壯則止、遯則退也。止、謂不進。
【読み】
大壯は則ち止まり、遯は則ち退くなり。止は、進まざるを謂う。
大有衆也。同人親也。革去故也。鼎取新也。小過過也。中孚信也。豐多故也。親寡旅也。去、起呂反。○旣明且動、其故多矣。
【読み】
大有は衆きなり。同人は親しむなり。革は故きを去るなり。鼎は新しきを取るなり。小過は過ぐるなり。中孚は信[まこと]なるなり。豐は故多きなり。親寡なきは旅なり。去は、起呂の反。○旣に明らかにして且つ動けば、其の故多し。
離上而坎下也。上、時掌反。下、遐嫁反。○火炎上、水潤下。
【読み】
離は上りて坎は下るなり。上は、時掌の反。下は、遐嫁の反。○火は上に炎え、水は下に潤う。
小畜寡也。履不處也。處、上聲。○不處、行進之義。
【読み】
小畜は寡なきなり。履は處らざるなり。處は、上聲。○處らざるとは、行き進むの義。
需不進也。訟不親也。大過顚也。姤遇也。柔遇剛也。漸女歸、待男行也。頤養正也。旣濟定也。歸妹女之終也。未濟男之窮也。夬決也。剛決柔也。君子道長、小人道憂也。長、丁丈反。○自大過以下、卦不反對。或疑其錯簡。今以韻協之、又似非誤。未詳何義。
【読み】
需は進まざるなり。訟は親まざるなり。大過は顚るなり。姤は遇うなり。柔剛に遇うなり。漸は女歸[とつ]ぎ、男を待ちて行くなり。頤は正を養うなり。旣濟は定まるなり。歸妹は女の終わりなり。未濟は男の窮まるなり。夬は決なり。剛柔を決するなり。君子道長じて、小人道憂うるなり。長は、丁丈の反。○大過より以下、卦對に反らず。或は疑うらくは其れ錯簡ならん。今韻を以て之を協
[あ]わすも、又誤りに非ざるに似る。未だ何の義か詳らかならず。
周易本義(終)
(引用文献)
出典:百科事典
『易経』(えききょう、正字体:易經、?音: Yi Jing )とは、古代中国の占筮(細い竹を使用する占い)の書である。符号を用いて状態の変遷、変化の予測を体系化した古典。中心思想は、陰陽二つの元素の対立と統合により、神羅万象の変化法則を説く。古代中国の哲学と宇宙観の集大成であり、著者は伝説上の人物である伏羲とされている。
概要
儒教の基本書籍である五経の筆頭に挙げられる経典であり、『周易』(しゅうえき、Zh?u
Yi)または単に『易』(えき)とも呼ぶ。通常は、基本の「経」の部分である『周易』に儒教的な解釈による附文(十翼または伝)を付け加えたものを一つの書とすることが多く、一般に『易経』という場合それを指すことが多いが、本来的には『易経』は卦の卦画・卦辞・爻辞部分の上下二篇のみを指す。
三易の一つであり、太古よりの占いの知恵を体系・組織化し、深遠な宇宙観にまで昇華させている。今日行われる易占法の原典であるが、古代における占いは現代にしばしば見られる軽さとは大いに趣きを異にし、共同体の存亡に関わる極めて重要かつ真剣な課題の解決法であり、占師は政治の舞台で命がけの責任を背負わされることもあった。
書名
この書物の本来の書名は『易』または『周易』である。『易経』というのは儒教の経書に挙げられたからで、他の五経が『書経』・『詩経』・『礼経』・『春秋経』・『楽経』というように「経(經)」の字を加えるのと同様である
なぜ『易』という名なのか、古来から様々な説が唱えられてきた。ただし、「易」という語がもっぱら「変化」を意味し、また占いというもの自体が過去・現在・未来へと変化流転していくものを捉えようとするものであることから、何らかの点で「変化」と関連すると考える人が多い。
有名なものに「易」という字が蜥蜴に由来するという蜥蜴説があり、蜥蜴が肌の色を変化させることに由来するという。
また、「易」の字が「日」と「月」から構成されるとする日月説があり、太陽と太陰(月)で陰陽を代表させているとする説もあり、太陽や月、星の運行から運命を読みとる占星術に由来すると考える人もいる。
伝統的な儒教の考えでは、『周易正義』が引く『易緯乾鑿度』の「易は一名にして三義を含む」という「変易」「不易」「簡易」(かわる、かわらぬ、たやすい)の三易説を採っている。
また、『周易』の「周」は中国王朝の周代の易の意であると言われることが多いが、鄭玄などは「周」は「あまねく」の意味であると解している。
『易経』の構成
現行『易経』は、本体部分とも言うべき(1)「経」(狭義の「易経」。「上経」と「下経」に分かれる)と、これを注釈・解説する10部の(2)「伝」(「易伝」または「十翼(じゅうよく)」ともいう)からなる。
(1)「経」には、六十四卦の図像である卦画像と、六十四卦の全体的な意味について記述する卦辞と、それぞれの卦を構成している6本の爻位(こうい)の意味を説明する384の爻辞(乾・坤にのみある「用九」「用六」を加えて数えるときは386)とが、整理され箇条書きに収められ、上経(30卦を収録)・下経(34卦を収録)の2巻に分かれる。「経」における六十四卦の並び方がどのように決定されたのかは現代では不明である。また六十四卦の卦辞や爻辞を調べる場合、「経」における六十四卦の並べ方そのままでは不便であり、六十四卦を上下にわけることで、インデックスとなる小成八卦の組み合わせによって六十四卦が整理された。その後、小成八卦自体が世界の構成要素の象徴となって、様々な意味が付与されることとなった。
(2)「伝」(「十翼」)は、「彖伝(たんでん)上・下」、「象伝(しょうでん)上・下」、「繋辞伝(けいじでん)上・下」、「文言伝(ぶんげんでん)」、「説卦伝(せっかでん)」、「序卦伝(じょかでん)」、「雑卦伝(ざっかでん)」の計10部である。これらの中で繋辞伝には小成八卦についての記述なく、繋辞伝が最初に作られた「伝」と推測される。
1973年、馬王堆漢墓で発見された帛書『周易』写本に「十翼」は無く、付属文書は二三子問・繋辞・易之義・要・繆和・昭力の六篇で構成されていた。
現代出版されている易経では、一つの卦に対して、卦辞、彖、象、爻辞の順でそれぞれが並べられていることが多く、「経」、「彖」、「象」を一体のものとして扱っている。
十翼(易伝)の内容
- 「彖伝上・下」には、「周易上・下経」それぞれの卦辞の注釈が収められている。
- 「象伝上・下」には、各卦の象形の意味についての短い解説と、その爻辞の注釈が収められている。易占家の間では、前者部分を「大象」、後者部分を「爻伝」、というふうに呼称を区別していることがある。
- 「文言伝」では、六十四卦のうち最も重要かつ基本の位置づけにある二卦である、乾(けん)および坤(こん)について、詳しい訓詁的な解説がなされる。
- 「繋辞伝上・下」には、易の成り立ち、易の思想、占いの方式、など、『易』に関する包括的な説明が収められている。
- 「説卦伝」では、大成六十四卦のもととなる小成八卦の概念、森羅万象をこの八種の象に分類するその分類のされ方が、詳説される。
- 「序卦伝」には、現行の「周易上・下経」での六十四卦の並び方の理由が説明されている。
- 「雑卦伝」では、占いにあたって卦象を読み解く際の、ちょっとしたヒントが、各卦ごとに短い言葉で述べられる。着目ヒント集である。
六十四卦
詳細は「六十四卦」を参照
易の成立と展開
占筮の定義
『太玄経』 に基づくものを言う場合もごく稀にあるが、一般に「占筮」といえば 『易経』に基づき、筮竹(始原には「蓍」(キク科多年草であるノコギリソウのこと、ただし、和名の「メドギ」はメドハギという豆科の植物)の茎を乾燥させたもの)を用いて占をなすことを言う。この占においては、50本の筮竹を操作して卦や爻を選び定め、それによって吉凶その他を占う。「卜筮」と同義。
易占の成立
易経繋辞上伝には「易は聖人の著作である」ということが書かれており、儒家によって後に伝説が作られた。古来の伝承によれば、易の成立は以下のようなものであったという。
まず伏羲が八卦を作り、さらにそれを重ねて六十四卦とした(一説に神農が重卦したとも)。次に周の文王が卦辞を作り、周公が爻辞を作った(一説に爻辞も文王の作とする)。そして、孔子が「伝」を書いて商瞿(しょうく)へと伝え、漢代の田何(でんか)に至ったものとされる。この『易』作成に関わる伏羲・文王(周公)・孔子を「三聖」という(文王と周公を分ける場合でも親子なので一人として数える)。孔子が晩年易を好んで伝(注釈、いわゆる「十翼」といわれる彖伝・繋辞伝・象伝・説卦伝・文言伝)を書いたというのは特に有名であり、史記孔子世家には「孔子は晩年易を愛読し、彖・繋・象・説卦・文言を書いた。易を読んで竹簡のとじひもが三度も切れてしまった」と書かれており、「韋編三絶」の故事として名高い。
このような伝説は儒家が『易』を聖人の作った経典としてゆく過程で形成された。伏羲画卦は「易伝」の繋辞下伝の記述に基づいており、包犠(伏羲)が天地自然の造型を観察して卦を作り、神明の徳に通じ、万物の姿を類型化したとあり、以後、包犠-神農-黄帝-堯-舜と続く聖人たちが卦にもとづき人間社会の文明制度を創造したとある。
しかしながら、この伝説は古くから疑問視されていた。易の文言が伝承と相違している点が多いためである。宋の欧陽脩が、「十翼は複数の人間の著作物だろう」と疑問を呈したのに始まり、宋代以降易経の成立に関する研究が進めば進むほど、上記の伝説が信じがたいことが明らかになった。朱熹は「六十四卦はただ上経だけが整った形になっているが、下経は乱雑な記述になっており、繋辞上伝は整っているが繋辞下伝は彖伝・象伝と整合性が取れない」といい、「彖伝・象伝はよく出来ているので聖人の著作だろう」と考えたが、他の伝は聖人の著作ではないと考えていたのではないか、と内藤湖南は論文『易疑』で述べている。内藤は更に「商瞿以來の傳授が信ぜられぬことの外、即ち田何が始めて竹帛に著はしたといふことは、恐らく事實とするを得べく、少くとも其時までは易の内容にも變化の起り得ることが容易なものと考へられるのである。それ故筮の起原は或は遠き殷代の巫に在りとし、禮運に孔子が殷道を觀んと欲して宋に之て坤乾を得たりとあるのが、多少の據りどころがあるものとしても、それが今日の周易になるには、絶えず變化し、而かも文化の急激に發達した戰國時代に於て、最も多く變化を受けたものと考ふべきではあるまいか。」(『易疑』)と述べ、易が聖人の著作であることを否定した。後には孔子と易との関わりまでも疑問視されたが、これは高田真治・白川静らによって逆に否定された。現代では以下のように考えられている。
古代中国、殷代には、亀甲を焼き、そこに現れる亀裂の形(卜兆)で、国家的な行事の吉凶を占う「亀卜」が、神事として盛んに行われていたことが、殷墟における多量の甲骨文の発見などにより知られている。西周以降の文の、「蓍亀」や「亀策」(策は筮竹)などの語に見られるように、その後、亀卜と筮占が併用された時代があったらしい。両者の比較については、『春秋左氏伝』僖公4年の記に、亀卜では不吉、占筮では吉と、結果が違ったことについて卜人が、「筮は短にして卜(亀卜)は長なり。卜に従うに如かず(占筮は短期の視点から示し、亀卜は長期の視点から示します。亀卜に従うほうがよいでしょう)」と述べた、という記事が見られる。『春秋左氏伝』には亀卜や占筮に関するエピソードが多く存在するが、それらの記事では、(亀卜の)卜兆と、(占筮の)卦、また、卜兆の形につけられた占いの言葉である?辞(ちゅうじ)と、卦爻につけられた占いの言葉である卦辞・爻辞が、それぞれ対比的な関係を見せている。こうして占われた結果が朝廷に蓄積され、これが周易のもとになったと考えられている。周易のもとになった書物が各地に普及すると、難解な占いの文の解釈書が必要になり、戦国末期から前漢の初期に彖伝・象伝以外の「十翼」が成立したのであろう…というのが丸山松幸による現在の通説のまとめである。
また周代の理想的な官制を描いた『周礼』の春官宗伯には大卜という官吏が三兆・三易・三夢の法を司ったとされ、三兆(玉兆・瓦兆・原兆)すなわち亀卜に関しては「その経兆の体は皆な百有二十、その頌は皆な千有二百」とあり、後漢の鄭玄は卜兆が120体に分類され、1体ごとに10ずつの?があったと解している。一方、三易(連山・帰蔵・周易)すなわち占筮に関しては「その経卦は皆な八、その別は皆な六十有四」と述べ、卦に八卦があり、それを2つ組み合わせた六十四卦の卦辞がある『易』に対応した記述となっている。なお三易の「連山」「帰蔵」を鄭玄はそれぞれ夏代・殷代の易と解している。「連山」「帰蔵」は後世に伝わっていない。
八卦
筮竹を操作した結果、得られる記号である卦は6本の「爻」と呼ばれる横棒(─か--の2種類がある)によって構成されているが、これは3爻ずつのものが上下に2つ重ねて作られているとされる。この3爻の組み合わせによってできる8つの基本図像は「八卦」と呼ばれる。
『易経』は従来、占いの書であるが、易伝においては卦の象形が天地自然に由来するとされ、社会事象にまで適用された。八卦の象はさまざまな事物・事象を表すが、特に説卦伝において整理して示されており、自然現象に配当して、乾=天、坤=地、震=雷、巽=風、坎=水、離=火、艮=山、兌=沢としたり(説卦伝3)、人間社会(家族成員)に類推して乾=父、坤=母、震=長男、巽=長女、坎=中男、離=中女、艮=少男、兌=少女としたり(説卦伝10)した。一方、爻については陰陽思想により─を陽、--を陰とし、万物の相反する性質について説明した。このように戦国時代以降、儒家は陰陽思想や黄老思想を取り入れつつ天地万物の生成変化を説明する易伝を作成することで『易』の経典としての位置を確立させた。
なお八卦の順序には繋辞上伝の生成論(太極-両儀-四象-八卦)による「乾・兌・離・震・巽・坎・艮・坤」と説卦伝5の生成論による「乾・坤・震・巽・坎・離・艮・兌」の2通りがある。前者を伏義先天八卦、後者を文王後天八卦と呼び、前者によって八卦を配置した図を「先天図」、後者によるものを「後天図」という。しかし、実際は11世紀の北宋の邵雍の著作『皇極経世書』において初めて伏義先天八卦、文王後天八卦として図と結びつけられたのであり、先天諸図は邵雍の創作と推測されている。
1993年、郭店一号墓より竹簡に記された『易』が発見された。これは現存最古の秦代の『易』の写本である。
占法
『易』の経文には占法に関する記述がなく、繋辞上伝に簡単に記述されているのみである。繋辞上伝をもとに唐の孔穎達『周易正義』や南宋の朱熹『周易本義』筮儀によって復元の試みがなされ、現在の占いはもっぱら朱熹に依っている。朱熹の本筮法を筮竹あるいは蓍の使用に限って説明すれば以下のようである。
繋辞上伝には「四営して易を成し、十有八変して卦を成す」とあり、これを四つの営みによって一変ができ、三変で1爻が得られ、それを6回繰り返した18変で1卦が得られるとした。さらに4営は伝文にある「分かちて二と為し以て両に象る」を第1営、「一を掛け以て三に象る」を第2営、「これを?(かぞ)うるに四を以てし以て四時に象る」を第3営、「奇を?に帰し以て閏に象る(「奇」は残余、「?」は指の間と解釈される)」を第4営とした。
- 第1変
- 50本の筮竹の中から1本を取り、筮筒に戻す。この1本は使用せず、49本を用いる。この1本は太極に象る。
- 第1営 - 残りの筮竹を無心で左手と右手で2つに分ける。これは天地に象る。
- 第2営 - 右手の中から1本を抜き、左手の小指と薬指の間に挟む。この1本は人に象り、あわせて天地人の三才に象る。
- 第3営(1) - 左手分(天)の本数を右手で4本ずつ数える。これは四時に象る。
- 第4営(1) - その余り(割り切れる場合には4本)を薬指と中指の間に挟む。これは閏月に象る。
- 第3営(2) - 右手分(地)の本数を左手で4本ずつ数える。
- 第4営(2) -
残った余り(割り切れる場合は4本)を中指と人差し指の間に挟む。第2営からここまでの5操作のうちに閏月を象る残余を挟む操作が2度あることは五歳二閏(5年に約2回閏月があること)に象る。
- 左手の指の間に挟みこんだ残余の筮竹の総和を求める。必ず9本か5本になる。
- 第2変 - 49本から第1変の結果の9本か5本を抜いた44本または40本の筮竹で四営を行う。すると左手の指に挟みこまれた筮竹の総和は8本か4本になる。
- 第3変 - 第2変の結果の8本か4本を抜いた40本か、36本か、32本の筮竹で四営を行う。すると左手の指に挟みこまれた筮竹の総和は8本か4本になる。
- 画爻 -
ここで第1変・第2変・第3変の残数により初爻が決まり、それを記録する作業が行われる。これは筆で板に4種類の記号を書き込むが、卦木(算木)で表すこともできる。残余の数は9本か5本、8本か4本であり、これを多いか少ないかによって区別すると、3変とも多い「三多」、2変が少なく1変が多い「二少一多」、2変が多く1変が少ない「二多一少」、3変とも少ない「三少」となる。これらの総和をそれぞれ最初の49本から引くと数えた筮竹の総数に当たるが、これは四時の4と陰陽の数を相乗じることによって得られるとされる。すなわち老陽の9、少陰の8、少陽の7、老陰の6である。ここで導かれた陰陽の属性を表す記号(重・折・単・交)を初爻の位置に記録する。ここで少陽・老陽は陽爻であるが、少陽が不変爻であるのに対し、老陽は陰への変化の可能性をもった変爻である。また少陰・老陰は陰爻であるが、少陰が不変爻であるのに対し、老陰は陽への変化の可能性をもった変爻である。
-
筮竹 |
爻 |
残余の多少 |
数の意味 |
属性 |
数 |
記号 |
三少 |
5+4+4=13 49-13=36=4*9 |
老陽 |
9 |
□ (重) |
二少一多 |
5+4+8または5+8+4または9+4+4=17 49-17=32=4*8 |
少陰 |
8 |
-- (折) |
二多一少 |
9+4+8または9+8+4または5+8+8=21 49-21=28=4*7 |
少陽 |
7 |
─ (単) |
三多 |
9+8+8=25 49-25=24=4*6 |
老陰 |
6 |
× (交) |
- 第4変~第18変 - 上記と同様の操作を続け、初爻の上に下から上への順に第2爻から上爻までを記録し、6爻1卦が定まる。
- 占断 - 以上の操作で定まった卦を「本卦(ほんか)」といい、さらに本卦の変爻(老陰・老陽)を相対する属性に変化させた卦を求め、これを「之卦(しか)」という。ここではじめて『易経』による占断がなされる。占いの結果は本卦と之卦の卦辞を踏まえたうえで、本卦の変爻の爻辞に求められる。なお2つ以上の変爻がある場合には本卦の卦辞によれ(『春秋左氏伝』)あるいは2変爻であれば本卦のその2爻辞(上位を主とする)により、3爻辞であれば本卦と之卦の各卦辞によれ(朱熹『易学啓蒙』)とされる。
例えば、左手の指に挟んだ残数が第3変までで9・8・4、第6変までで9・4・8、第9変までで5・8・8、第12変までで9・8・8、第15変までで9・4・4、第18変までで5・8・4であったとすると、||×|||
と記録され、本卦は||||||泰、之卦は||||||大壮となる。これを「泰の大壮に之(ゆ)く」といい、占断は泰・大壮の卦辞を参考にしつつ泰卦の変爻、六四の爻辞によって行われる。
また筮竹を用いずに卦を立てる占法もあり、3枚の硬貨を同時に投げて、3枚裏を老陽(□)、2枚裏・1枚表を少陰(--)、2枚表・1枚裏を少陽(─)、3枚表を老陰(×)とする擲銭法が唐の賈公彦『儀礼正義』に記されている。
易の注釈史
『易』にはこれまでさまざまな解釈が行われてきたが、大別すると象数易(しょうすうえき)と義理易(ぎりえき)に分けられる。象数易とは卦の象形や易の数理から天地自然の法則を読み解こうとする立場であり、義理易とは経文から聖人が人々に示そうとした義理(倫理哲学)を明らかにしようという立場である。
漢代には天象と人事が影響し、君主の行動が天に影響して災異が起こるとする天人相関説があり、これにもとづいて易の象数から未来に起こる災異を予測する神秘主義的な象数易が隆盛した。ここで『易』はもっぱら政治に用いられ、預言書的な性格をもった。特に孟喜・京房らは戦国時代以来の五行と呼ばれる循環思想を取り込み、十二消息卦など天文律暦と易の象数とを結合させた卦気説と呼ばれる理論体系を構築した。前漢末の劉?はこのような象数に基づく律暦思想の影響下のもと漢朝の官暦太初暦を補正した三統暦を作っており、また劉?から始まる古文学で『易』は五経のトップとされた。
一方、魏の王弼は卦象の解釈に拘泥する漢易のあり方に反対し、経文が語ろうとしている真意をくみ取ろうとする義理易を打ち立てた。彼の注釈では『易』をもっぱら人事を取り扱うものとし、老荘思想に基づきつつ、さまざまな人間関係のなかにおいて個人が取るべき処世の知恵を見いだそうとした。彼の『易注』は南朝において学官に立てられ、唐代には『五経正義』の一つとして『周易正義』が作られた。
こうして王弼注が国家権威として認定されてゆくなかで漢易の系譜は途絶えた。そのなかにあって李鼎祚が漢易の諸注を集めて『周易集解』を残し、後代に漢易の一端を伝えている。
宋代になると、従来の伝ならびに漢唐訓詁学の諸注を否定する新しい経学が興った。易でもさまざまな注釈書が作られたが、義理易において王弼注と双璧と称される程頤の『程氏易伝』がある。また象数易では数理で易卦の生成原理を解こうとする『皇極経世書』や太極や陰陽五行による周敦頤の『通書』、張載の『正蒙』などがある。ここで太極図や先天図、河図洛書といった図像をが用いられ、図書先天の学という易図学が興った。南宋になると、義理易と象数易を統合しようとする動きが現れ、朱震の『漢上易伝』、朱熹の『周易本義』がある。
周敦頤から二程子を経て後の朱子学に連なる儒教の形而上学的基礎は、『易経』に求められる。
数学との関連性
易卦はもともと二進法で表す数字であるという説があり、次のように数を当てはめることができる。右側は二進法の表示であり、易卦と全く同じ並びになることが理解できる。
-
0 000
-
1 001
-
2 010
-
3 011
-
4 100
-
5 101
-
6 110
-
7 111
易卦が二進法の数字であると喝破したのは、ライプニッツであり、宋易の円図、方図の並び方から解読し、「坤」→「剥」→「比」から「乾」までに0から64までの数をあてはめたという。
ただし、円図、方図では、爻の変化を上爻から順番に行っており、上図のように初爻から上爻に向かって順番に変化させたほうが、初爻から順に立卦する易の性格上合理的である。
関連項目
参考文献(近代)
参考文献(古代)
外部リンク
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(引用文献)
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