これから社長になる人が知っておきたい三つの心得
1.社長は特別な存在ではない?
社長とは、特別な存在だと考えている人が多いのではないでしょうか? しかし、現在、日本には約400万の法人が存在し、各法人にひとりの社長がいると仮定した場合、社長の人数は400万人となります。日本の人口は約1億2,000万人なので、ざっくり30人にひとりが社長ということになります。
このように、"社長業"は決して珍しいものではありませんが、その仕事内容は一般の社員とは異なる難しさがあります。社長の仕事は利益を上げ続けて会社を成長させることですが、起業後10年でおよそ30%の企業が廃業しているという調査結果もあるほど、経営のかじ取りは難しいものです。
会社を成長させる社長と、会社を潰してしまう社長の違いはさまざまですが、起業したばかりの新米社長は、まだ社長業が板についておらず、「社長にふさわしい所作とはどのようなものか?」といった根本的な悩みを抱えるようです。
社長は自分の感性を大切にしなければなりません。しかし、自己主張の方法を間違えると周囲から反感を買ってしまい、ビジネスを広げることができません。伝説となっているような名経営者も新米社長も、根本的に守らなければならない社長のマナーや心得は共通しています。
本稿では著名な経営者の取り組みなども踏まえつつ、社長にふさわしい存在になるための三つの心得を紹介していきます。
2.心得1 第一印象を大切にする
1)人は見た目で判断される?
会ったばかりでまだ話もしていないのに、一目見ただけで「この人は仕事ができそう!」と感じることがあります。その主な理由は、第一印象です。服装や髪形など身だしなみが整った社長と、そうでない社長とでは、前者のほうが第一印象がよく、「仕事も正確そう」と感じるものです。服装や髪形で仕事をするわけではありませんが、第一印象は相手の記憶にある程度残るため、第一印象がよいほうがスタート時点で有利な立場に立つことができます。
この点を理解し、身だしなみには気を使っている社長も多いと思いますが、自分のことを客観的に見ることができず、「自分では"お気に入り"のスーツでも、周りはあまり色が似合っていないと思っている......」ということがあるかもしれません。
イメージコンサルタントに相談すれば、パーソナルカラーや似合う髪形などを診断してくれるので、社長の仲間入りをしたならば、そうしたサービスを利用して、客観的に見て印象がよくなるよう自分に投資してみるのもよいでしょう。
2)スティーブ・ジョブズ氏のこだわり
第一印象をよくするために、トレードマークになるようなこだわりをファッションに取り入れてみるのもよいでしょう。例えば、アップル社の創業者のひとりであるスティーブ・ジョブズ氏(以下「ジョブズ氏」)のトレードマークといえば黒いタートルネックでした。黒いタートルネックにジーンズといういでたちは、よくあるファッションですが、実はあのタートルネックには、特別な想いとこだわりがあったといわれます。ソニーのファンであったジョブズ氏が同社の工場を訪れたときに、従業員がイッセイミヤケのユニホームを着ているのを見て、ジョブズ氏も黒いタートルネックをイッセイミヤケにオーダーしたといわれています。
スーツ、時計、靴、カバン、ネクタイなど好きなものでよいので、うんちくを語れるくらいにこだわってみましょう。こだわり続けていれば、いずれそれが社長のトレードマークになります。
3.心得2 謙虚でいて堅苦しくなく、ときに情熱的に振る舞う
1)「今の自分があるのは......」と考える
会社を成長させる社長に共通しているのは、謙虚な姿勢を崩さないということです。これは、「周囲の助けがあったからこそ、今の自分がある」という考えを持っているからです。
ただし、謙虚さを重んじるあまり、杓子定規な対応ばかりしていると、相手から「人間として面白みがない」と誤解されてしまいかねません。せっかく相手のほうから打ち解けようと少々ラフな話し方をしてくれているのに、こちらは表情一つ崩さずに淡々と答えているようでは、それ以上の深い付き合いは見込めないのではないでしょうか。
ちなみに、謙虚さや礼儀正しさの基準は相手が持っています。例えば、同年代の社長仲間が笑いながら肩をポンと叩いてきたら、こちらも相手の肩をポンと叩いても大丈夫です。常に相手と同じレベルで打ち解けていけば、「失礼だ!」と思われることはないでしょう。
2)事業のことを上手に伝える
分刻みで仕事をこなす社長の活動にはメリハリがあります。ダラダラと話すことはなく、会合などにおいても主張するときは主張し、聞くときは聞くことに徹します。このあたりのバランスはとても重要です。社長だから人よりも長く話をしなければならないと勘違いをして、他人の話の腰を折って割り込むようではいけません。
ただし、社長が声を大きくして主張しなければならないことがあります。それは、自社の本業のことです。周囲の人は、「社長たるもの自分の会社の事業に誇りを持ち、誰にも負けないくらい勉強していて当然」だと考えています。この期待を裏切ってしまうと、会社自体の信頼も揺らぎます。
本業については、社長はいつでもきちんと説明できるように準備しておかなければなりません。その際、「伝え方」に工夫をしましょう。基本は、専門用語に頼らず、平易な言葉で伝えられる訓練をすることです。また、自分の思いを伝えるために言葉をつくったり、同じ言葉を繰り返し使ったりすることも効果的です。小松製作所の相談役である坂根正弘氏(以下「坂根氏」)は、社長に就任した当時、苦境にあった同社を立て直すために、「ダントツ」という言葉を使って自らの想いを従業員に伝えました。坂根氏が使う「ダントツ」という言葉には、群を抜いて素晴らしい商品を開発するという熱い想いが込められています。
4.心得3 会社を成長させる
1)人脈を広げれば、ビジネスも広がる
ビジネスは、人と人とのつながりから大きく広がっていくものです。そのため、起業したばかりの新米社長は、早い段階で人脈を広げることが大切です。異業種交流会や勉強会に参加するのは基本ですが、テーマや分野を絞ることによって少しずつ顔なじみができてきて、その人から紹介を受けられるようになるので、さらに効率的に人脈を広げることができるでしょう。
こうして緩やかな人脈を形成した後は、定期的にランチに誘う、勉強会の幹事になるなどして目立つ存在になれるように努力します。一般的に、30人程度で始まった緩やかなつながりは、少しずつメンバーが少なくなっていき、最終的には5人ぐらいに落ち着くものです。その5人はつながりが強く、いろいろな相談にも乗ってくれるはずなので、大切にしましょう。人脈を維持するためには、相手に"得"を差し出すことです。相手から相談されたことについて、忙しくてもきちんと答えてあげていれば、逆の立場になったときにも助けてくれます。ビジネス上の人脈は家族や友人とは異なり、ギブ・アンド・テークを基本とすることを忘れてはなりません。
2)ポジティブな考えが成功を呼び込む
会社を経営していれば、成功することも失敗することもあります。社長の実感としては、成功したときの「よし、うまくいったぞ!!」という感情は一瞬にして過ぎ去り、失敗したときの「あのとき、こうしていれば違う結果になったかもしれない......」という感情を長く引きずってしまうものです。しかし、会社を成長させている多くの社長は、「失敗を経験することで改善点が明確になり、次の成長のきっかけになる」とポジティブに考えています。つまずいて落ち込むのは当たり前ですが、そこから何度でも立ち上がる胆力が社長には求められます。
チャレンジし続けることが成功につながり、それが自信へとつながっていきます。会社の業績が好調に推移すれば、自分のやってきたことは間違いなかったと確信できますし、社外の人から「この前の商品は着眼点が素晴らしいですね。今度、ぜひ、話を聞かせてください」と言われれば、素直にうれしい気持ちになります。この社外の人から与えられる自信がとても大きな意味を持ちます。GEの会長兼CEOを務めたジャック・ウェルチ氏(以下「ウェルチ氏」)は、母親の厳しさと優しさにあふれた教育によって自分に自信を持てるようになり、自らのビジネススタイルを確立していきました。ウェルチ氏は、自分に自信を持てる人とは、無理をして自分を飾り立てることなく、あるがままの自分を"さらけ出す勇気"のある人だといいます。そうした自信は、自分自身の努力の成果だけではなく、他人が与えてくれるものでもあります。
そうした意味でも、積極的に人脈を広げ、成功したときだけではなく、失敗したときにも、変に強がることなく、自分のあるがままの姿を見せることができる仲間を社内にも社外にも持つことが重要です。
参考
『社長の心得』(小宮一慶著、ディスカヴァー・トゥエンティワン)
は、人気経営コンサルタントとして数々のヒットを生み出してきた著者による、記念すべき100冊目の著作。
まず序章で「良い会社とは何か、社員の仕事とは何か」を定義したうえで、第1章で「社長・社員の基礎力を高める」ための方法を、第2章で「社長が持つべき仕事観」を、第3章で「社長が知っておくべき人材育成の要諦」を、そして第4章で「社長としての人物力」をと、社長が持つべき心得をさまざまな角度から記しています。
第4章「社長としての人物力」から、「長く成長し続ける会社の社長の条件」を引き出してみます。
謙虚に人の話を聞く
長期間にわたって業績を上げている会社の社長に共通するのは、まず謙虚さ。学ぶ姿勢がしっかりしているということです。つまり「謙虚である」とは、自分の足りなさを自覚し、そして貪欲だということ。(202ページより)
謙虚でいないと感度が鈍る
「実るほど頭を垂れる稲穂かな」という言葉のとおり、社会的地位が上がるほど謙虚でいたいもの。ちょっと成功しただけで傲慢になる社長ほどみっともないと、著者は指摘しています。そういう場合は「社員も家族も本人も恥をかいていることに気づかなければなりません」とも。(204ページより)
常に貪欲に、学び続ける
多くの会社で研修を行なっている著者は、強い会社には共通点があるといいます。それは、社長も研修に参加して熱心に聞いているということ。社長が教育されずに、社員だけが教育されるということはあり得ない。もし、社員が話を聞かないというなら、社長自身が教育される必要があるというわけです。(206ページより)
自分の関心を世間の関心に合わせる
環境変化を読み取り、「なにをやるか、やめるか」を判断し、適切な「起業の方向づけ」をすることは社長に取ってなによりも重要。そのためには世の中の動きを知り、それに応じて短期的、長期的に企業の方向づけを行なうことが大切。
だからこそ経営者が「自分の関心を世間の関心に合わせる」努力をする必要があります。そのための最良の方法は、新聞の一面のトップ記事を毎日読むこと。さらには、人の話を真剣に聴くことによっても、関心の幅を広げることが可能。関心のないことは、何万回見ても見えないからだといいます。(208ページより)
環境変化に対応できる人材を育てる
企業の発展のためには、環境変化に対応できる準備が必要。そのためにも、社長は「変わることが当たり前」という社風を常につくっていかなければならないそうです。そしてそのために、あえて社内に波風を立てなくてはならない場合もあるとか。(210ページより)
心から反省する
うまくいったときは、成功要因を自分以外のところに見出す。失敗したときは、失敗要因を自分のなかに見つける。つまり、自分の技量や徳が足らなかったことを反省するというわけです。反省することがなぜ重要かといえば、それにより同じ過ちを繰り返さず、自分を大きくしていくことができるから。そしてそのベースは、素直さや謙虚さであるということです。(212ページより)
ときに自己否定もいとわない
成功している会社の社長は、常に謙虚に反省するもの。ところが著者は、さらに「反省では足りない。自己否定するぐらいでないと、人間は進歩しない」と主張する社長に会ったことがあるそうです。
人の意見を本気で聴こうと思ったら、あるいは、新しい戦略に切り替えようと思ったら、いったん自分を無にする。それまでの自分を否定するくらい徹底しなければいけないということです。
ちょっと成功したからといって、その自分に満足し、それまでのやり方や考え方を引きずったままでは、新しいレベルにまで行くことは不可能。成長し続けるためにはいまの地に安住せず、さらに自分を成長させ、会社を成長させ続けることが必要だというわけです。(214ページより)
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これらを見てみてもおわかりように、社長だけではなく、あらゆるリーダーが応用できる内容。1テーマごとに1つの見開きなので読みやすく、思いついたとき気軽に読むことができます。ビジネスバッグに入れておけば、意外なときに役立つかもしれません。
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