隱公 桓公 莊公 閔公 僖公 文公 宣公 成公 襄公 昭公上 昭公下 定公 哀公
秦鼎の「春秋左氏傳校本」と漢籍國字解全書を参考とした。
春秋左氏傳校本第二 桓公 起元年盡十八年 晉 杜氏 集解 唐 陸氏 音義 尾張 秦 鼎 校本 桓公 名、軌。惠公之子。隱公之弟。母仲子。史記、亦名允。謚法、辟土服遠曰桓。 【読み】 桓公 名は、軌。惠公の子。隱公の弟。母は仲子。史記に、亦名は允、と。謚法に、土を辟き遠きを服するを桓と曰う、と。 〔經〕元年、春、王正月、公卽位。嗣子位、定於初喪。而改元必須踰年者、繼父之業、成父之志、不忍有變於中年也。諸侯每首歲、必有禮於廟。諸遭喪繼位者、因此而改元正位、百官以序。故國史亦書卽位之事於策。桓公簒立、而用常禮、欲自同於遭喪繼位者。釋例論之備矣。○簒、初患反。 【読み】 〔經〕元年、春、王の正月、公位に卽く。嗣子の位は、初喪に定まる。而るを元を改むるは必ず年を踰ゆるを須つ者は、父の業を繼ぎ、父の志を成すこと、中年に變ずること有るに忍びざればなり。諸侯首歲每に、必ず廟に禮有り。諸々喪に遭いて位を繼ぐ者、此に因りて元を改め位を正し、百官以て序ず。故に國史も亦卽位の事を策に書すなり。桓公簒立して、常禮を用ゆるは、自ら喪に遭い位を繼ぐ者に同じくせんと欲するなり。釋例之を論ずること備われり。○簒は、初患反。 三月、公會鄭伯于垂。鄭伯以璧假許田。夏、四月、丁未、公及鄭伯盟于越。公以簒立而修好於鄭。鄭因而迎之、成禮于垂、終易二田、然後結盟。垂、犬丘。衛地也。越、近垂地名。鄭求祀周公。魯聽受祊田、令鄭廢泰山之祀。知其非禮。故以璧假爲文。時之所隱。○祊、百庚反。 【読み】 三月、公鄭伯に垂に會す。鄭伯璧を以て許の田を假る。夏、四月、丁未[ひのと・ひつじ]、公鄭伯と越に盟う。公簒立するを以て好を鄭に修む。鄭因りて之を迎え、禮を垂に成し、終に二田を易えて、然して後に盟を結ぶ。垂は、犬丘。衛の地なり。越は、垂に近き地の名。鄭周公を祀らんことを求む。魯聽[ゆる]して祊[ほう]の田を受け、鄭をして泰山の祀を廢せしむ。其の禮に非ざるを知る。故に璧假を以て文を爲す。時の隱す所なり。○祊は、百庚反。 秋、大水。書災也。傳例曰、凡平原出水爲大水。 【読み】 秋、大水あり。災いを書すなり。傳例に曰く、凡そ平原水を出だすを大水とす、と。 冬、十月。迎之、迎其意。且乘其有惡也。因佯言、以祊之稅賦、供周公之祀。故傳曰、爲周公祊故也。言爲欲祀周公、又以祊與魯故也。然此傳文頗難說。 【読み】 冬、十月。之を迎うとは、其の意を迎うるなり。且つ其の惡有るに乘ずるなり。因佯言う、祊の稅賦を以て、周公の祀に供す、と。故に傳に曰く、周公と祊との爲の故なり、と。言うこころは、周公を祀り、又祊を以て魯に與えんと欲するが爲の故なり。然れども此の傳文頗る說き難し。 〔傳〕元年、春、公卽位、修好于鄭。鄭人請復祀周公、卒易祊田。事在隱八年。○復、扶又反。 【読み】 〔傳〕元年、春、公位に卽いて、好を鄭に修む。鄭人復周公を祀り、卒に祊の田を易えんと請う。事は隱八年に在り。○復は、扶又反。 公許之。三月、鄭伯以璧假許田、爲周公祊故也。魯不宜聽鄭祀周公。又不宜易取祊田。犯二不宜以動。故隱其實、不言祊、稱璧假、言若進璧以假田、非久易也。○爲、于僞反。 【読み】 公之を許す。三月、鄭伯璧を以て許の田を假るとは、周公と祊との爲の故なり。魯は鄭の周公を祀るを聽す宜からず。又祊の田を易え取る宜からず。二つの不宜を犯して以て動く。故に其の實を隱して、祊を言わずして、璧假を稱するは、言うこころは、璧を進めて以て田を假る、久しく易うるに非ざるが若くす。○爲は、于僞反。 夏、四月、丁未、公及鄭伯盟于越、結祊成也。結成易二田之事也。傳以經不書祊、故獨見祊。○見、賢遍反。 【読み】 夏、四月、丁未[ひのと・ひつじ]、公鄭伯と越に盟うは、祊の成れるを結ぶなり。二田を易うることを成すの事を結ぶなり。傳經に祊を書さざるを以て、故に獨り祊を見すなり。○見は、賢遍反。 盟曰、渝盟無享國。渝、變也。 【読み】 盟いて曰く、盟を渝[か]えば國を享くること無けん、と。渝は、變なり。 秋、大水。 【読み】 秋、大水あり。 凡平原出水爲大水。廣平曰原。 【読み】 凡そ平原水を出だすを大水とす。廣平を原と曰う。 冬、鄭伯拜盟。鄭伯若自來、則經不書。若遣使、則當言鄭人、不得稱鄭伯。疑謬誤。 【読み】 冬、鄭伯盟を拜す。鄭伯若し自ら來るとすれば、則ち經に書さず。若し使いを遣らば、則ち當に鄭人と言うべく、鄭伯と稱することを得ず。疑うらくは謬誤ならん。 宋華父督見孔父之妻于路。華父督、宋戴公孫也。孔父嘉、孔子六世祖。○華、戶化反。 【読み】 宋の華父督孔父の妻を路に見る。華父督は、宋の戴公の孫なり。孔父嘉は、孔子六世の祖。○華は、戶化反。 目逆而送之。曰、美而豔。色美曰豔。○豔、以贍反。○此傳先經以著其事。一說、色美而治曰艷。色以質言、艷以神言。杜引毛傳、未是。 【読み】 目逆[むか]えて之を送る。曰く、美にして豔[えん]なり、と。色美なるを豔と曰う。○豔は、以贍反。○此の傳經に先だちて以て其の事を著す。一說に、色美にして治まれるを艷と曰う。色は質を以て言い、艷は神を以て言う。杜毛傳を引くは、是ならず。 〔經〕二年、春、王正月、戊申、宋督弑其君與夷、及其大夫孔父。稱督以弑、罪在督也。孔父稱名者、内不能治其閨門、外取怨於民、身死而禍及其君。 【読み】 〔經〕二年、春、王の正月、戊申[つちのえ・さる]、宋の督其の君與夷を弑して、其の大夫孔父に及ぶ。督を稱して以て弑するは、罪督に在るなり。孔父名を稱するは、内其の閨門を治むること能わず、外怨みを民に取り、身死して禍い其の君に及べばなり。 滕子來朝。無傳。隱十一年稱侯、今稱子者、蓋時王所黜。 【読み】 滕子來朝す。傳無し。隱十一年に侯と稱し、今子と稱するは、蓋し時の王の黜くる所ならん。 三月、公會齊侯・陳侯・鄭伯于稷、以成宋亂。成、平也。宋有弑君之亂。故爲會、欲以平之。稷、宋地。 【読み】 三月、公齊侯・陳侯・鄭伯に稷に會して、以て宋の亂を成[たい]らぐ。成は、平らぐなり。宋君を弑するの亂有り。故に會を爲して、以て之を平らげんと欲す。稷は、宋の地。 夏、四月、取郜大鼎于宋。戊申、納于大廟。宋以鼎賂公。大廟、周公廟也。始欲平宋之亂、終於受賂。故備書之。戊申、五月十日。○郜、古報反。大、音泰。 【読み】 夏、四月、郜[こう]の大鼎を宋に取る。戊申[つちのえ・さる]、大廟に納る。宋鼎を以て公に賂う。大廟は、周公の廟なり。宋の亂を平げんと欲するに始まり、賂を受くるに終わる。故に備に之を書す。戊申は、五月十日。○郜は、古報反。大は、音泰。 秋、七月、杞侯來朝。公卽位而來朝。 【読み】 秋、七月、杞侯來朝す。公位に卽いて來朝す。 蔡侯・鄭伯會于鄧。潁川召陵縣西南有鄧城。 【読み】 蔡侯・鄭伯鄧に會す。潁川召陵縣の西南に鄧城有り。 九月、入杞。不稱主帥、微者也。弗地曰入。○帥、所類反。或作師。 【読み】 九月、杞に入る。主帥を稱せざるは、微者なればなり。地もたざるを入ると曰う。○帥は、所類反。或は師に作る。 公及戎盟于唐。冬、公至自唐。傳例曰、告于廟也。特相會。故致地也。凡公行、還不書至者、皆不告廟也。隱不書至、謙不敢自同於正君、書勞策勳。 【読み】 公戎と唐に盟う。冬、公唐より至る。傳例に曰く、廟に告ぐるなり、と。特りずつ相會す。故に地を致すなり。凡そ公の行、還るに至るを書さざるは、皆廟に告げざればなり。隱至るを書さざるは、謙して敢えて自ら正君に同じくして、勞を書し勳を策せざるなり。 〔傳〕二年、春、宋督攻孔氏、殺孔父而取其妻。公怒。督懼、遂弑殤公。君子以督爲有無君之心、而後動於惡。雖有君、若無也。 【読み】 〔傳〕二年、春、宋の督孔氏を攻め、孔父を殺して其の妻を取る。公怒る。督懼れ、遂に殤公を弑す。君子督を以て君を無するの心有りて、而して後に惡に動くとす。君有りと雖も、無きが若し。 故先書弑其君。 【読み】 故に先ず其の君を弑すと書す。 會于稷、以成宋亂。爲賂故、立華氏也。經稱平宋亂者、蓋以魯君受賂立華氏、貪縱之甚、惡其指斥。故遠言始與齊・陳・鄭爲會之本意也。傳言爲賂故立華氏、明經本書平宋亂、爲公諱。諱在受賂立華氏也。猶璧假許田、爲周公祊故。所謂婉而成章。督未死而賜族、督之妄也。○爲賂、于僞反。 【読み】 稷に會して、以て宋の亂を成[たい]らげんとす。賂の爲の故に、華氏を立てり。經に宋の亂を平らぐと稱するは、蓋し魯君賂を受けて華氏を立つ、貪縱の甚だしきを以て、其の指斥を惡む。故に遠く始めに齊・陳・鄭と會を爲すの本意を言うなり。傳に賂の爲の故に華氏を立つと言うは、經に本宋の亂を平らぐと書すは、公の爲に諱むことを明かすなり。諱むるは賂を受けて華氏を立つるに在り。猶璧もて許の田を假るは、周公と祊との爲の故なりというがごとし。所謂婉にして章を成すなり。督未だ死せずして族を賜うは、督の妄なり。○爲賂は、于僞反。 宋殤公立、十年十一戰。殤公以隱四年立。十一戰、皆在隱公世。 【読み】 宋の殤公立ちて、十年に十一戰す。殤公隱が四年を以て立つ。十一戰は、皆隱公の世に在り。 民不堪命。孔父嘉爲司馬、督爲大宰。故因民之不堪命、先宣言曰、司馬則然。言公之數戰、則司馬使爾。嘉、孔父字。○數、音朔。 【読み】 民命に堪えず。孔父嘉司馬爲り、督大宰爲り。故に民の命に堪えざるに因りて、先ず宣言して曰く、司馬則ち然らん、と。言うこころは、公の數々戰うは、則ち司馬爾[しか]らしむ、と。嘉は、孔父の字。○數は、音朔。 已殺孔父、而弑殤公、召莊公于鄭而立之、以親鄭。莊公、公子馮也。隱三年、出居于鄭。馮入宋不書、不告也。○馮、皮氷反。 【読み】 已に孔父を殺して、殤公を弑し、莊公を鄭より召して之を立てて、以て鄭を親しむ。莊公は、公子馮なり。隱の三年、出でて鄭に居る。馮の宋に入るを書さざるは、告げざればなり。○馮は、皮氷反。 以郜大鼎賂公。郜國所造器也。故繫名於郜。濟陰成武縣東南有北郜城。 【読み】 郜の大鼎を以て公に賂う。郜國造る所の器なり。故に名を郜に繫く。濟陰成武縣の東南に北郜城有り。 齊・陳・鄭皆有賂。故遂相宋公。 【読み】 齊・陳・鄭皆賂有り。故に遂に宋公を相[たす]く。 夏、四月、取郜大鼎于宋、戊申、納于大廟。非禮也。 【読み】 夏、四月、郜の大鼎を宋に取り、戊申[つちのえ・さる]、大廟に納る。禮に非ざるなり。 臧哀伯諫曰、臧哀伯、魯大夫。僖伯之子。 【読み】 臧哀伯[ぞうあいはく]諫めて曰く、臧哀伯は、魯大夫。僖伯の子。 君人者、將昭德塞違、以臨照百官、猶懼或失之。故昭令德以示子孫。是以淸廟茅屋、以茅飾屋、著儉也。淸廟、肅然淸靜之稱也。○稱、尺證反。 【読み】 人に君たる者は、將に德を昭らかにし違えるを塞ぎ、以て百官を臨照せんとするも、猶或は之を失わんことを懼る。故に令德を昭らかにして以て子孫に示す。是を以て淸廟は茅屋、茅を以て屋を飾るは、儉を著すなり。淸廟は、肅然淸靜の稱なり。○稱は、尺證反。 大路越席、大路、玉路。祀天車也。越席、結草。○越、戶括反。 【読み】 大路は越席、大路は、玉路。天を祀るの車なり。越席は、草を結べるなり。○越は、戶括反。 大羹不致、大羹、肉汁。不致五味。 【読み】 大羹は致さず、大羹は、肉汁。五味を致さず。 粢食不鑿、黍稷曰粢。不精鑿。○粢、音咨。食、音嗣。鑿、子洛反。精米也。字林作毇。子沃反。云、糲米一斛、舂爲八斗。 【読み】 粢食は鑿せざるは、黍稷を粢と曰う。精鑿せざるなり。○粢は、音咨。食は、音嗣。鑿は、子洛反。精米なり。字林に毇[さく]に作る。子沃反。云う、糲米一斛は、舂八斗爲り、と。 昭其儉也。此四者皆示儉。 【読み】 其の儉を昭らかにするなり。此の四つの者は皆儉を示すなり。 袞・冕・黻・珽、袞、畫衣也。冕、冠也。黻、韋韠。以蔽膝也。珽、玉笏也。若今吏之持簿。○珽、他頂反。韠、音必。簿、步古反。徐廣云、持簿、手板也。 【読み】 袞[こん]・冕[べん]・黻[ふつ]・珽[てい]、袞は、畫衣なり。冕は、冠なり。黻は、韋韠[いひつ]。以て膝を蔽うなり。珽は、玉笏なり。今の吏の持簿の若し。○珽は、他頂反。韠は、音必。簿は、步古反。徐廣云う、持簿は、手板、と。 帶・裳・幅・舄、帶、革帶也。衣下曰裳。幅、若今行縢者。舄、複履。○幅、音逼。縢、徒登反。複、音福。 【読み】 帶・裳・幅・舄[せき]、帶は、革帶なり。衣の下を裳と曰う。幅は、今の行縢の若き者。舄は、複履。○幅は、音逼。縢は、徒登反。複は、音福。 衡・紞・紘・綖、衡、維持冠者。紞、冠之垂者。紘、纓從下而上者。綖、冠上覆。○紞、多敢反。紘、獲耕反。綖、音延。字林、弋善反。 【読み】 衡・紞[たん]・紘・綖は、衡は、冠を維持する者。紞は、冠の垂るる者。紘は、纓[えい]の下よりして上る者。綖は、冠上の覆い。○紞は、多敢反。紘は、獲耕反。綖は、音延。字林に、弋善反、と。 昭其度也。尊卑各有制度。 【読み】 其の度を昭らかにするなり。尊卑各々制度有り。 藻率・鞞鞛、藻率、以韋爲之。所以藉玉也。王五采、公侯伯三采、子男二采。鞞、佩刀削上飾。鞛、下飾。○率、劣戍反。鞞、補頂反。鞛、布孔反。削、仙妙反。 【読み】 藻率・鞞鞛[へいほう]、藻率は、韋を以て之を爲る。玉に藉[し]く所以なり。王は五采、公侯伯は三采、子男は二采。鞞は、佩刀の削の上飾り。鞛は、下飾り。○率は、劣戍反。鞞は、補頂反。鞛は、布孔反。削は、仙妙反。 鞶・厲・游・纓、鞶、紳帶也。一名大帶。厲、大帶之垂者。游、旌旗之遊。纓、在馬膺前。如索帬。○鞶、步干反。游、音留。索、悉各反。 【読み】 鞶・厲・游・纓[えい]は、鞶は、紳帶なり。一に大帶と名づく。厲は、大帶の垂るる者。游は、旌旗の遊。纓は、馬膺の前に在り。索帬[さくぐん]の如し。○鞶は、步干反。游は、音留。索は、悉各反。 昭其數也。尊卑各有數。 【読み】 其の數を昭らかにするなり。尊卑各々數有り。 火・龍・黼・黻、火、畫火也。龍、畫龍也。白與黑謂之黼。形若斧。黑與靑謂之黻。兩己相戾。 【読み】 火・龍・黼[ふ]・黻[ふつ]は、火は、火を畫くなり。龍は、龍を畫くなり。白と黑と之を黼と謂う。形は斧の若し。黑と靑と之を黻と謂う。兩己相戾るなり。 昭其文也。以文章明貴賤。 【読み】 其の文を昭らかにするなり。文章を以て貴賤を明らかにするなり。 五色比象、昭其物也。車服器械之有五色、皆以比象天地四方、以示器物不虛設。○比、幷是反。 【読み】 五色比象は、其の物を昭らかにするなり。車服器械の五色有るは、皆以て天地四方に比象して、以て器物の虛しく設けざるを示すなり。○比は、幷是反。 鍚・鸞・和・鈴、昭其聲也。鍚、在馬額。鸞、在鑣。和、在衡。鈴、在旂。動皆有鳴聲。○錫、音楊。馬面當盧。 【読み】 鍚[よう]・鸞[らん]・和・鈴は、其の聲を昭らかにするなり。鍚は、馬額に在り。鸞は、鑣[ひょう]に在り。和は、衡に在り。鈴は、旂[き]に在り。動けば皆鳴聲有り。○錫は、音楊。馬面の當盧。 三辰旂旗、昭其明也。三辰、日・月・星也。畫於旂旗、象天之明。 【読み】 三辰旂旗[きき]は、其の明を昭らかにするなり。三辰は、日・月・星なり。旂旗に畫いて、天の明を象るなり。 夫德儉而有度、登降有數。登降、謂上下尊卑。 【読み】 夫德儉にして度有り、登降數有り。登降は、上下尊卑を謂う。 文物以紀之、聲明以發之、以臨照百官。百官於是乎戒懼、而不敢易紀律。 【読み】 文物以て之を紀し、聲明以て之を發して、以て百官に臨照す。百官是に於て戒懼して、敢えて紀律を易えず。 今滅德立違、謂立華督違命之臣。 【読み】 今德を滅ぼし違えるを立てて、華督命に違うの臣を立つるを謂うなり。 而寘其賂器於大廟、以明示百官。百官象之、其又何誅焉。國家之敗、由官邪也。官之失德、寵賂章也。郜鼎在廟。章孰甚焉。武王克商、遷九鼎于雒邑、九鼎、殷所受夏九鼎也。武王克商、乃營雒邑而後去之、又遷九鼎焉。時但營雒邑、未有都城。至周公乃卒營雒邑。謂之王城。卽今河南城也。故傳曰成王定鼎于郟鄏。○雒、音洛。 【読み】 其の賂器を大廟に寘[お]いて、以て百官に明示す。百官之に象るとも、其れ又何をか誅[せ]めん。國家の敗るるは、官の邪なるに由れり。官の德を失うは、寵賂章らかなればなり。郜鼎廟に在り。章孰れか焉より甚だしからん。武王商に克ちて、九鼎を雒邑[らくゆう]に遷せしも、九鼎は、殷の夏に受くる所の九鼎なり。武王商に克ち、乃ち雒邑を營じて而して後に之を去り、又九鼎を遷す。時に但雒邑を營じて、未だ都城有らず。周公に至りて乃ち卒に雒邑を營ず。之を王城と謂う。卽ち今の河南城なり。故に傳に成王鼎を郟鄏[こうじょく]に定むと曰う。○雒は、音洛。 義士猶或非之。蓋伯夷之屬。 【読み】 義士猶或は之を非[そし]れり。蓋し伯夷の屬ならん。 而況將昭違亂之賂器於大廟。其若之何。 【読み】 而るを況んや將に違亂の賂器を大廟に昭らかにせんとするをや。其れ之を若何、と。 公不聽。 【読み】 公聽かず。 周内史聞之曰、臧孫達其有後於魯乎。君違不忘諫之以德。内史、周大夫官也。僖伯諫隱觀魚、其子哀伯諫桓納鼎。積善之家、必有餘慶。故曰其有後於魯。 【読み】 周の内史之を聞いて曰く、臧孫達は其れ魯に後有らんか。君違いて之を諫むるに德を以てするを忘れず、と。内史は、周の大夫の官なり。僖伯隱の魚を觀るを諫め、其の子哀伯桓の鼎を納るるを諫む。積善の家には、必ず餘慶有り。故に其れ魯に後有らんかと曰う。 秋、七月、杞侯來廟。不敬。杞侯歸。乃謀伐之。 【読み】 秋、七月、杞侯來廟す。不敬なり。杞侯歸る。乃ち之を伐たんことを謀る。 蔡侯・鄭伯會于鄧、始懼楚也。楚國、今南郡江陵縣北、紀南城也。楚武王始僭號稱王、欲害中國。蔡・鄭、姬姓近楚。故懼而會謀。 【読み】 蔡侯・鄭伯鄧に會するは、始めて楚を懼るるなり。楚國は、今の南郡江陵縣の北、紀の南城なり。楚の武王始めて僭號して王と稱し、中國を害せんと欲す。蔡・鄭は、姬姓にして楚に近し。故に懼れて會し謀る。 九月、入杞、討不敬也。 【読み】 九月、杞に入るは、不敬を討ずるなり。 公及戎盟于唐、脩舊好也。惠・隱之好。 【読み】 公戎と唐に盟うは、舊好を脩むるなり。惠・隱の好なり。 冬、公至自唐、告于廟也。 【読み】 冬、公唐より至るとは、廟に告ぐればなり。 凡公行、告于宗廟。反行飮至、舍爵策勳焉。禮也。爵、飮酒器也。旣飮置爵、則書勳勞於策。言速紀有功也。○舍、音赦。置也。舊音捨。 【読み】 凡そ公の行、宗廟に告ぐ。行より反れば飮至し、爵を舍[お]き勳を策す。禮なり。爵は、飮酒の器なり。旣に飮んで爵を置くは、則ち勳勞を策に書す。速やかに有功を紀すを言うなり。○舍は、音赦。置くなり。舊音捨。 特相會、往來稱地。讓事也。特相會、公與一國會也。會必有主。二人獨會、則莫肯爲主。兩讓會事不成。故但書地。 【読み】 特りずつ相會するは、往來地を稱す。事を讓るなり。特りずつ相會すとは、公一國と會するなり。會には必ず主有り。二人獨會すれば、則ち肯えて主と爲ること莫し。兩りながら讓りて會事成らず。故に但地を書す。 自參以上、則往稱地、來稱會。成事也。成會事。○參、七南反。一音三。 【読み】 參より以上は、則ち往くに地を稱し、來るに會を稱す。事を成せばなり。會事を成す。○參は、七南反。一に音三。 初、晉穆侯之夫人姜氏、以條之役生大子。命之曰仇。條、晉地。大子、文侯也。意取於戰相仇怨。 【読み】 初め、晉の穆侯の夫人姜氏、條の役を以て大子を生む。之を命[な]づけて仇と曰う。條は、晉の地。大子は、文侯なり。意、戰は相仇怨するに取る。 其弟以千畝之戰生。命之曰成師。桓叔也。西河界休縣南有地、名千畝。意取能成其衆。 【読み】 其の弟千畝の戰を以て生まる。之を命づけて成師と曰う。桓叔なり。西河界休縣の南に地有り、千畝と名づく。意、能く其の衆を成すに取る。 師服曰、異哉君子之名子也。師服、晉大夫。 【読み】 師服曰く、異なるかな君子の子に名づくるや。師服は、晉の大夫。 夫名以制義、名之必可言也。 【読み】 夫れ名は以て義を制し、之を名づくること必ず言を可くす。 義以出禮、禮從義出。 【読み】 義以て禮を出だし、禮は義より出づ。 禮以體政、政以禮成。 【読み】 禮以て政を體し、政は禮を以て成る。 政以正民。是以政成而民聽。易則生亂。反易禮義、則亂生也。 【読み】 政以て民を正す。是を以て政成りて民聽く。易うるときは則ち亂を生ず。禮義に反易すれば、則ち亂生ずるなり。 嘉耦曰妃、怨耦曰仇。古之命也。自古有此言。○耦、五口反。妃、芳非反。 【読み】 嘉耦を妃と曰い、怨耦を仇と曰う。古の命なり。古より此の言有り。○耦は、五口反。妃は、芳非反。 今君命大子曰仇、弟曰成師。始兆亂矣。兄其替乎。穆公愛少子桓叔。倶取於戰、以爲名、所附意異。故師服知桓叔之黨、必盛於晉、以傾宗國。故因名以諷諫。 【読み】 今君大子を命づけて仇と曰い、弟を成師と曰う。始めて亂を兆せり。兄其れ替[すた]らん。穆公少子桓叔を愛す。倶に戰に取りて、以て名とすれども、附くる所の意異なり。故に師服桓叔が黨の、必ず晉に盛んにして、以て宗國を傾けんことを知る。故に名に因りて以て諷諫す。 惠之二十四年、晉始亂。故封桓叔于曲沃。惠、魯惠公也。晉文侯卒。子昭侯元年、危不自安、封成師爲曲沃伯。 【読み】 惠の二十四年に、晉始めて亂る。故に桓叔を曲沃に封ず。惠は、魯の惠公なり。晉の文侯卒す。子の昭侯元年、危くして自ら安んぜず、成師を封じて曲沃の伯とす。 靖侯之孫欒賓傅之。靖侯、桓叔之高祖父。言得貴寵公孫爲傅相。○靖、才井反。欒、力官反。 【読み】 靖侯の孫欒賓[らんひん]之に傅たり。靖侯は、桓叔の高祖父。貴寵の公孫を得て傅相とするを言う。○靖は、才井反。欒は、力官反。 師服曰、吾聞國家之立也、本大而末小。是以能固。故天子建國、立諸侯也。 【読み】 師服曰く、吾れ聞く、國家の立つや、本は大にして末は小なり。是を以て能く固し。故に天子は國を建て、諸侯を立つなり。 諸侯立家、卿大夫稱家。 【読み】 諸侯は家を立て、卿大夫に家と稱す。 卿置側室。側室、衆子也。得立此一官。 【読み】 卿は側室を置く。側室は、衆子なり。此の一官を立つるを得。 大夫有貳宗、適子爲小宗、次者爲貳宗。以相輔貳。 【読み】 大夫に貳宗有り、適子を小宗と爲し、次なる者を貳宗と爲す。以て相輔貳す。 士有隸子弟。士卑。自以其子弟爲僕隸。 【読み】 士に隸子弟有り。士は卑し。自ら其の子弟を以て僕隸とす。 庶人工商、各有分親。皆有等衰。庶人無復尊卑。以親疏爲分別也。衰、殺也。○分、扶問反。又如字。親、七刃反。又如字。 【読み】 庶人工商は、各々分親有り。皆等衰[とうさい]有り。庶人は復尊卑無し。親疏を以て分別とす。衰は、殺なり。○分は、扶問反。又字の如し。親は、七刃反。又字の如し。 是以民服事其上、而下無覬覦。下冀望上位。○覬、音冀。覦、羊朱反。 【読み】 是を以て民其の上に服事して、下覬覦[きゆ]すること無し、と。下上位を冀望せず。○覬は、音冀。覦は、羊朱反。 今晉、甸侯也。而建國。本旣弱矣。其能久乎。諸侯而在甸服者。 【読み】 今晉は、甸侯[てんこう]なり。而るに國を建つ。本旣に弱し。其れ能く久しからんや、と。諸侯にして甸服在る者なり。 惠之三十年、晉潘父弑昭侯而納桓叔。不克。潘父、晉大夫也。昭侯、文侯子。 【読み】 惠の三十年、晉の潘父昭侯を弑して桓叔を納れんとす。克わず。潘父は、晉の大夫なり。昭侯は、文侯の子。 晉人立孝侯。昭侯子也。 【読み】 晉人孝侯を立つ。昭侯の子なり。 惠之四十五年、曲沃莊伯伐翼、弑孝侯。莊伯、桓叔子。翼、晉國所都。 【読み】 惠の四十五年、曲沃の莊伯翼を伐ちて、孝侯を弑す。莊伯は、桓叔の子。翼は、晉國の都する所。 翼人立其弟鄂侯。 【読み】 翼人其の弟鄂侯を立つ。 鄂侯生哀侯。鄂侯以隱五年奔隨。其年秋、王立哀侯于翼。 【読み】 鄂侯哀侯を生む。鄂侯隱五年を以て隨に奔る。其の年の秋、王哀侯を翼に立つ。 哀侯侵陘庭之田。陘庭、翼南鄙邑。○陘、音刑。 【読み】 哀侯陘庭の田を侵す。陘庭は、翼の南鄙の邑。○陘は、音刑。 陘庭南鄙、啓曲沃伐翼。 【読み】 陘庭の南鄙、曲沃を啓いて翼を伐たしむ。 〔經〕三年、春、正月、公會齊侯于嬴。經之首時、必書王、明此歷天王之所班也。其或廢法違常、失不班歷、故不書王。嬴、齊邑。今泰山嬴縣。○經三年正月、從此盡十七年、皆無王、唯十年有。二傳以爲義。或有王字者非。嬴、音盈。 【読み】 〔經〕三年、春、正月、公齊侯に嬴[えい]に會す。經の首時には、必ず王を書すは、此の歷は天王の班[わか]つ所なることを明かすなり。其の或は法を廢し常に違い、失して歷を班たざれば、故に王を書さず。嬴は、齊の邑。今の泰山の嬴縣なり。○經三年正月、此より十七年まで、皆王無く、唯十年に有り。二傳以て義とす。或は王の字有るは非ならん。嬴は、音盈。 夏、齊侯・衛侯胥命于蒲。申約言以相命、而不歃血也。蒲、衛地。在陳留長垣縣西南。○歃、所洽反。 【読み】 夏、齊侯・衛侯蒲に胥命ず。約言を申[の]べて以て相命じて、血を歃[すす]らざるなり。蒲は、衛の地。陳留長垣縣の西南に在り。○歃は、所洽反。 六月、公會杞侯于郕。秋、七月、壬辰朔、日有食之。旣。無傳。旣、盡也。歷家之說謂、日光以望時遙奪月光。故月食。日月同會、月奄日。故日食。食有上下者、行有高下。日光輪存而中食者、相奄密。故日光溢出。皆旣者、正相當而相奄、閒疏也。然聖人不言月食日、而以自食爲文者、闕於所不見。 【読み】 六月、公杞侯に郕[せい]に會す。秋、七月、壬辰[みずのえ・たつ]朔、日之を食する有り。旣[つ]く。傳無し。旣は、盡くなり。歷家の說に謂く、日光望時を以て遙かに月光を奪う。故に月食す。日月同會して、月日を奄う。故に日食す。食に上下有るは、行に高下有ればなり。日光輪存して中食するは、相奄うこと密なり。故に日光溢れ出づるなり。皆旣くるは、正しく相當たりて相奄い、閒疏なればなり。然れども聖人月日を食すと言わずして、自ら食するを以て文を爲すは、見ざる所を闕くなり。 公子翬如齊逆女。禮、君有故、則使卿逆。 【読み】 公子翬[き]齊に如いて女を逆[むか]う。禮に、君故有れば、則ち卿をして逆えしむ、と。 九月、齊侯送姜氏于讙。讙、魯地。濟北蛇丘縣西有下讙亭。已去齊國。故不言女。未至於魯。故不稱夫人。○讙、呼端反。蛇、以支反。 【読み】 九月、齊侯姜氏を讙[かん]に送る。讙は、魯の地。濟北蛇丘縣の西に下讙亭有り。已に齊國を去る。故に女と言わず。未だ魯に至らず。故に夫人と稱せず。○讙は、呼端反。蛇は、以支反。 公會齊侯于讙。無傳。 【読み】 公齊侯に讙に會す。傳無し。 夫人姜氏至自齊。無傳。告於廟也。不言翬以至者、齊侯送之、公受之於讙。 【読み】 夫人姜氏齊より至る。傳無し。廟に告ぐればなり。翬以[い]て至ると言わざるは、齊侯之を送り、公之を讙に受ければなり。 冬、齊侯使其弟年來聘。有年。無傳。五穀皆熟書有年。 【読み】 冬、齊侯其の弟年をして來聘せしむ。年有り。傳無し。五穀皆熟するを年有りと書す。 〔傳〕三年、春、曲沃武公伐翼、次于陘庭。韓萬御戎、梁弘爲右、武公、曲沃莊伯子也。韓萬、莊伯弟也。御戎、僕也。右、戎車之右。 【読み】 〔傳〕三年、春、曲沃の武公翼を伐ち、陘庭に次[やど]る。韓萬戎に御となり、梁弘右と爲り、武公は、曲沃の莊伯の子なり。韓萬は、莊伯の弟なり。戎に御たるは、僕なり。右は、戎車の右なり。 逐翼侯于汾隰。汾隰、汾水邊。○汾、扶云反。 【読み】 翼侯を汾隰[ふんしゅう]に逐う。汾隰は、汾水の邊。○汾は、扶云反。 驂絓而止。驂、騑馬。○驂、七南反。絓、戶卦反。 【読み】 驂[さん]絓[か]かりて止まる。驂は、騑馬。○驂は、七南反。絓は、戶卦反。 夜獲之、及欒共叔。共叔、桓叔之傅、欒賓之子也。身傅翼侯。父子各殉所奉之主。故幷見獲而死。 【読み】 夜之を獲、欒共叔[らんきょうしゅく]に及ぶ。共叔は、桓叔の傅、欒賓の子なり。身翼侯に傅たり。父子各々奉ずる所の主に殉[したが]う。故に幷せて獲られて死す。 會于嬴、成昏于齊也。公不由媒介、自與齊侯會而成昏。非禮也。 【読み】 嬴に會するは、昏を齊に成すなり。公媒介に由らずして、自ら齊侯と會して昏を成す。禮に非ざるなり。 夏、齊侯・衛侯胥命于蒲、不盟也。 【読み】 夏、齊侯・衛侯蒲に胥命ずるは、盟わざるなり。 公會杞侯于郕、杞求成也。二年入杞。故今來求成。 【読み】 公杞侯に郕に會するは、杞成[たい]らぎを求むればなり。二年杞に入る。故に今來りて成らぎを求む。 秋、公子翬如齊逆女。修先君之好。故曰公子。昏禮雖奉時君之命、其言必稱先君、以爲禮辭。故公子翬逆女、傳稱修先君之好、公子遂逆女、傳稱尊君命、互舉其義。 【読み】 秋、公子翬齊に如いて女を逆う。先君の好を修む。故に公子と曰う。昏禮時君の命を奉ずと雖も、其の言は必ず先君を稱して、以て禮辭とす。故に公子翬が女を逆うるには、傳に先君の好を修むと稱し、公子遂が女を逆うるには、傳に君命を尊ぶと稱して、互いに其の義を舉ぐるなり。 齊侯送姜氏、非禮也。 【読み】 齊侯姜氏を送るは、禮に非ざるなり。 凡公女嫁于敵國、姊妹則上卿送之。以禮於先君。公子則下卿送之。於大國、雖公子、亦上卿送之。於天子、則諸卿皆行。公不自送。於小國、則上大夫送之。 【読み】 凡そ公の女敵國に嫁すれば、姊妹は則ち上卿之を送る。以て先君に禮するなり。公の子は則ち下卿之を送る。大國に於ては、公の子と雖も、亦上卿之を送る。天子に於ては、則ち諸卿皆行く。公は自ら送らず。小國に於ては、則ち上大夫之を送る。 冬、齊仲年來聘、致夫人也。古者女出嫁、又使大夫隨加聘問。存謙敬、序殷勤也。在魯而出、則曰致女、在他國而來、則總曰聘。故傳以致夫人釋之。 【読み】 冬、齊の仲年來聘するは、夫人を致すなり。古は女出でて嫁すれば、又大夫をして隨いて聘問を加えしむ。謙敬を存し、殷勤を序ずるなり。魯在[よ]りして出づれば、則ち女を致すと曰い、他國在りして來れば、則ち總べて聘と曰う。故に傳夫人を致すを以て之を釋く。 芮伯萬之母芮姜、惡芮伯之多寵人也。故逐之。出居于魏。爲明年秦侵芮張本。芮國、在馮翊臨晉縣。魏國、河東河北縣。○芮、如銳反。惡、烏路反。 【読み】 芮伯[ぜいはく]萬の母芮姜、芮伯の寵人多きを惡む。故に之を逐う。出でて魏に居る。明年秦芮を侵す爲の張本なり。芮國は、馮翊臨晉縣に在り。魏國は、河東の河北縣。○芮は、如銳反。惡は、烏路反。 〔經〕四年、春、正月、公狩于郎。冬獵曰狩。行三驅之禮、得田狩之時。故傳曰書時禮也。周之春、夏之冬也。田狩從夏時。郎非國内之狩地。故書地。 【読み】 〔經〕四年、春、正月、公郎に狩す。冬獵を狩と曰う。三驅の禮を行い、田狩の時を得。故に傳に時の禮あるを書すと曰う。周の春は、夏の冬なり。田狩は夏の時に從う。郎は國内の狩地に非ず。故に地を書す。 夏、天王使宰渠伯糾來聘。宰、官。渠、氏。伯糾、名也。王官之宰、當以才授位。而伯糾攝父之職、出聘列國。故書名以譏之。國史之記、必書年以集此公之事、書首時以成此年之歲。故春秋有空時而無事者。今不書秋冬首月、史闕文。他皆放此。一說、三驅、驅逆車。三面驅禽也。禽唯有背己向己趣己。故左右及于後驅之。禮、天子不合圍。順而來、取之。從前而逸、免之。 【読み】 夏、天王宰渠伯糾をして來聘せしむ。宰は、官。渠は、氏。伯糾は、名なり。王官の宰は、當に才を以て位を授くべし。而るに伯糾父の職を攝して、出でて列國に聘す。故に名を書して以て之を譏る。國史の記、必ず年を書して以て此の公の事を集め、首時を書して以て此の年の歲を成す。故に春秋空しく時しるして事無き者有り。今秋冬の首月を書さざるは、史の闕文なり。他も皆此に放え。一說に、三驅は、驅逆車、と。三面禽を驅るなり。禽唯己に背き己に向かい己に趣くこと有り。故に左右及び後ろに于て之を驅る。禮に、天子は合圍せず。順いて來る、之を取る。前よりして逸る、之を免す、と。 〔傳〕四年、春、正月、公狩于郎、書時禮也。郎非狩地。故唯時合禮。 【読み】 〔傳〕四年、春、正月、公郎に狩するは、時の禮あるを書すなり。郎は狩地に非ず。故に唯時のみ禮に合う。 夏、周宰渠伯糾來聘。父在。故名。 【読み】 夏、周の宰渠伯糾來聘す。父在り。故に名いう。 秋、秦師侵芮。敗焉。小之也。秦以芮小輕之。故爲芮所敗。 【読み】 秋、秦の師芮を侵す。敗らる。之を小とすればなり。秦芮の小を以て之を輕んず。故に芮の爲に敗らる。 冬、王師・秦師圍魏、執芮伯以歸。三年、芮伯出居魏。芮更立君。秦爲芮所敗。故以芮伯歸、將欲納之。 【読み】 冬、王の師・秦の師魏を圍み、芮伯を執えて以[い]て歸る。三年、芮伯出でて魏に居る。芮更に君を立つ。秦芮の爲に敗らる。故に芮伯を以て歸り、將に之を納れんと欲す。 〔經〕五年、春、正月、甲戌、己丑、陳侯鮑卒。未同盟而書名者、來赴以名故也。甲戌、前年十二月二十一日。己丑、此年正月六日。陳亂。故再赴。赴雖日異、而皆以正月起文。故但書正月。愼疑審事。故從赴兩書。○鮑、步飽反。 【読み】 〔經〕五年、春、正月、甲戌[きのえ・いぬ]、己丑[つちのと・うし]、陳侯鮑卒す。未だ同盟せずして名を書すは、來り赴[つ]ぐるに名を以てする故なり。甲戌は、前年の十二月二十一日。己丑は、此の年の正月六日。陳亂る。故に再び赴ぐ。赴ぐること日異なりと雖も、而れども皆正月を以て文を起こす。故に但正月を書す。疑を愼み事を審らかにす。故に赴ぐるに從いて兩つながら書す。○鮑は、步飽反。 夏、齊侯・鄭伯如紀。外相朝、皆言如。齊欲滅紀。紀人懼而來告。故書。 【読み】 夏、齊侯・鄭伯紀に如く。外に相朝するは、皆如くと言う。齊紀を滅ぼさんと欲す。紀人懼れて來り告ぐ。故に書す。 天王使仍叔之子來聘。仍叔、天子之大夫。稱仍叔之子、本於父字、幼弱之辭也。譏使童子出聘。 【読み】 天王仍叔[じょうしゅく]の子をして來聘せしむ。仍叔は、天子の大夫。仍叔の子と稱して、父の字に本づくは、幼弱の辭なり。童子をして出聘せしむるを譏るなり。 葬陳桓公。無傳。 【読み】 陳の桓公を葬る。傳無し。 城祝丘。無傳。齊・鄭將襲紀故。 【読み】 祝丘に城く。傳無し。齊・鄭將に紀を襲わんとする故なり。 秋、蔡人・衛人・陳人從王伐鄭。王自爲伐鄭之主。君臣之辭也。王師敗不書、不以告。○從、如字。又才用反。 【読み】 秋、蔡人・衛人・陳人王に從いて鄭を伐つ。王自ら鄭を伐つの主と爲る。君臣の辭なり。王の師敗るるを書さざるは、以て告げざればなり。○從は、字の如し。又才用反。 大雩。傳例曰、書不時也。失龍見之時。 【読み】 大いに雩[う]す。傳例に曰く、時ならざるを書すなり、と。龍見の時を失うなり。 螽。無傳。蚣蝑之屬。爲災、故書。○蚣、相容反。蝑、相魚反。 【読み】 螽[しゅう]あり。傳無し。蚣蝑[しょうしょ]の屬なり。災いを爲す、故に書す。○蚣は、相容反。蝑は、相魚反。 冬、州公如曹。不書奔、以朝出也。爲下實來書也。曹國、今濟陰定陶縣。州、是畿内之地。河内州縣、是也。蓋州侯旣如曹、先使告魯。故書。 【読み】 冬、州公曹に如く。奔ると書さざるは、朝するを以て出づればなり。下の實に來るが爲に書すなり。曹國は、今の濟陰定陶縣なり。州は、是れ畿内の地。河内州縣、是れなり。蓋し州侯旣に曹に如き、先ず魯に告げしむ。故に書す。 〔傳〕五年、春、正月、甲戌、己丑、陳侯鮑卒、再赴也。 【読み】 〔傳〕五年、春、正月、甲戌[きのえ・いぬ]、己丑[つちのと・うし]、陳侯鮑卒すとは、再び赴[つ]げたればなり。 於是陳亂。文公子佗殺大子免而代之。佗、桓公弟五父也。稱文公子、明侘非桓公母弟也。免、桓公大子。○侘、大何反。免、音問。 【読み】 是に於て陳亂る。文公の子佗大子免を殺して之に代わる。佗は、桓公の弟五父なり。文公の子と稱するは、侘は桓公の母弟に非ざることを明かすなり。免は、桓公の大子。○侘は、大何反。免は、音問。 公疾病而亂作、國人分散。故再赴。 【読み】 公の疾病にして亂作り、國人分散す。故に再び赴ぐるなり。 夏、齊侯・鄭伯朝于紀、欲以襲之。紀人知之。 【読み】 夏、齊侯・鄭伯紀に朝して、以て之を襲わんと欲す。紀人之を知る。 王奪鄭伯政。鄭伯不朝。奪、不使知王政。 【読み】 王鄭伯の政を奪う。鄭伯朝せず。奪うとは、王政を知らしめざるなり。 秋、王以諸侯伐鄭。鄭伯禦之。王爲中軍。虢公林父將右軍。蔡人・衛人屬焉。虢公林父、王卿士。○將、子匠反。下同。 【読み】 秋、王諸侯を以[い]て鄭を伐つ。鄭伯之を禦ぐ。王中軍と爲る。虢公林父右軍に將たり。蔡人・衛人屬す。虢公林父は、王の卿士。○將は、子匠反。下も同じ。 周公黑肩將左軍。陳人屬焉。黑肩、周桓公也。 【読み】 周公黑肩左軍に將たり。陳人屬す。黑肩は、周の桓公なり。 鄭子元請爲左拒、以當蔡人・衛人、子元、鄭公子。拒、方陳。○拒、倶甫反。下同。陳、直覲反。下同。 【読み】 鄭の子元左拒を爲して、以て蔡人・衛人に當たり、子元は、鄭の公子。拒は、方陳。○拒は、倶甫反。下も同じ。陳は、直覲反。下も同じ。 爲右拒、以當陳人。曰、陳亂、民莫有鬭心。若先犯之、必奔。王卒顧之、必亂。蔡・衛不枝、固將先奔。不能相枝持也。 【読み】 右拒を爲して、以て陳人に當たらんと請う。曰く、陳亂れ、民鬭心有ること莫し。若し先ず之を犯さば、必ず奔らん。王の卒之を顧ば、必ず亂れん。蔡・衛枝[ささ]えず、固より將に先ず奔らんとす。相枝持すること能わざるなり。 旣而萃於王卒、可以集事。從之。萃、聚也。集、成也。 【読み】 旣にして王の卒に萃まらば、以て事を集[な]す可し、と。之に從う。萃は、聚まるなり。集は、成すなり。 曼伯爲右拒、曼伯、檀伯。○曼、音萬。 【読み】 曼伯右拒と爲り、曼伯は、檀伯。○曼は、音萬。 祭仲足爲左拒、原繁・高渠彌以中軍奉公、爲魚麗之陳、先偏後伍、伍承彌縫。司馬法、車戰二十五乘爲偏。以車居前、以伍次之、承偏之隙、而彌縫闕漏也。五人爲伍。此蓋魚麗陳法。○麗、力知反。 【読み】 祭仲足左拒と爲り、原繁・高渠彌中軍を以て公を奉じて、魚麗の陳を爲し、偏を先にし伍を後にし、伍承けて彌縫す。司馬法に、車戰二十五乘を偏とす、と。車を以て前に居き、伍を以て之に次ぎ、偏の隙を承けて、闕漏を彌縫するなり。五人を伍とす。此れ蓋し魚麗の陳法ならん。○麗は、力知反。 戰于繻葛。繻葛、鄭地。○繻、音須。 【読み】 繻葛に戰わんとす。繻葛は、鄭の地。○繻は、音須。 命二拒曰、旝動而鼓。旝、旃也。通帛爲之。蓋今大將之麾也。執以爲號令。○旝、古外反。又古活反。說文作檜。建大木、置石其上、發機以磓敵。 【読み】 二拒に命じて曰く、旝[はた]動いて鼓て、と。旝[かい]は、旃[せん]なり。通帛にて之を爲る。蓋し今の大將の麾[き]ならん。執りて以て號令を爲す。○旝は、古外反。又古活反。說文に檜に作る。大木を建てて、石を其上に置き、機を發して以て敵を磓[う]つ。 蔡・衛・陳皆奔。王卒亂。鄭師合以攻之。王卒大敗。祝耼射王中肩。王亦能軍。雖軍敗身傷、猶殿而不奔。故言能軍。○射、食亦反。中、丁仲反。殿、多見反。 【読み】 蔡・衛・陳皆奔る。王の卒亂る。鄭の師合いて以て之を攻む。王の卒大いに敗れぬ。祝耼[しゅくたん]王を射て肩に中つ。王も亦能く軍す。軍敗れ身傷つくと雖も、猶殿して奔らず。故に能く軍すと言う。○射は、食亦反。中は、丁仲反。殿は、多見反。 祝耼請從之。公曰、君子不欲多上人。況敢陵天子乎。苟自救也。社稷無隕多矣。鄭於此收兵自退。○隕、于敏反。 【読み】 祝耼之を從[お]わんと請う。公曰く、君子は多く人を上[しの]ぐことを欲せず。況んや敢えて天子を陵がんや。苟も自ら救わんとてなり。社稷隕つること無くば多なり、と。鄭此に於て兵を收めて自ら退く。○隕は、于敏反。 夜、鄭伯使祭足勞王、且問左右。祭足、卽祭仲之字。蓋名仲、字仲足也。勞王問左右、言鄭志在苟免、王討之非也。○勞、力報反。 【読み】 夜、鄭伯祭足をして王を勞い、且左右を問わしむ。祭足は、卽ち祭仲の字。蓋し名は仲、字は仲足ならん。王を勞い左右を問うは、鄭の志は苟免に在り、王之を討つは非なるを言うなり。○勞は、力報反。 仍叔之子、弱也。仍叔之子來聘、童子將命、無速反之心、久留在魯。故經書夏聘、傳釋之於末秋。 【読み】 仍叔の子とは、弱[わか]ければなり。仍叔の子來聘し、童子命を將[おこな]い、速やかに反るの心無く、久しく留まりて魯に在り。故に經に夏聘すと書し、傳は之を末秋に釋く。 秋、大雩、書不時也。十二公傳、唯此年、及襄二十六年、有兩秋。此發雩祭之例、欲顯天時以指事。故重言秋、異於凡事。 【読み】 秋、大いに雩するは、時ならざるを書すなり。十二公の傳、唯此の年、及び襄二十六年にのみ、兩秋有り。此には雩祭の例を發すれば、天時を顯らかにして以て事を指さんと欲す。故に重ねて秋を言いて、凡事に異にするなり。 凡祀、啓蟄而郊、言凡祀、通下三句、天地宗廟之事也。啓蟄、夏正建寅之月、祀天南郊。○蟄、直立反。 【読み】 凡そ祀は、啓蟄にして郊し、凡そ祀と言うは、下の三句、天地宗廟の事に通ずるなり。啓蟄は、夏正建寅の月、天を南郊に祀る。○蟄は、直立反。 龍見而雩、龍見、建巳之月、蒼龍宿之體、昏見東方。萬物始盛、待雨而大。故、祭天、遠爲百穀祈膏雨。○見、賢遍反。宿、音秀。 【読み】 龍見えて雩し、龍見は、建巳の月、蒼龍宿の體、昏に東方に見る。萬物始めて盛んにして、雨を待ちて大いなり。故に、天を祭りて、遠く百穀の爲に膏雨を祈る。○見は、賢遍反。宿は、音秀。 始殺而嘗、建酉之月、陰氣始殺、嘉穀始熟。故薦嘗於宗廟。 【読み】 始めて殺[さい]して嘗し、建酉の月、陰氣始めて殺し、嘉穀始めて熟す。故に宗廟に薦嘗す。 閉蟄而烝。建亥之月、昆蟲閉戶、萬物皆成。可薦者衆。故烝祭宗廟。釋例論之備矣。 【読み】 閉蟄にして烝す。建亥の月、昆蟲戶を閉じ、萬物皆成る。薦む可き者衆し。故に宗廟に烝祭す。釋例之を論ずること備われり。 過則書。卜日有吉否。過次節則書。以譏慢也。 【読み】 過ぐれば則ち書す。日を卜するに吉否有り。次節を過ぐれば則ち書す。以て慢れるを譏るなり。 冬、淳于公如曹。度其國危、遂不復。淳于、州國所都、城陽淳于縣也。國有危難、不能自安。故出朝而遂不還。○度、待洛反。 【読み】 冬、淳于公曹に如く。其の國の危うきを度りて、遂に復らず。淳于は、州國の都する所、城陽の淳于縣なり。國に危難有りて、自ら安んずること能わず。故に出でて朝して遂に還らず。○度は、待洛反。 〔經〕六年、春、正月、寔來。寔、實也。不言州公者、承上五年冬經如曹、閒無異事、省文從可知。○寔、時力反。 【読み】 〔經〕六年、春、正月、寔[まこと]に來る。寔は、實なり。州公を言わざるは、上の五年冬の經に曹に如くを承けて、閒に異事無ければ、文を省くも從りて知る可ければなり。○寔は、時力反。 夏、四月、公會紀侯于成。成、魯地。在泰山鉅平縣東南。 【読み】 夏、四月、公紀侯に成に會す。成は、魯の地。泰山鉅平縣の東南に在り。 秋、八月、壬午、大閱。齊爲大國。以戎事徵諸侯之戍、嘉美鄭忽。而忽欲以有功爲班、怒而訴齊。魯人懼之。故以非時簡車馬。 【読み】 秋、八月、壬午[みずのえ・うま]、大いに閱す。齊は大國爲り。戎事を以て諸侯の戍を徵して、鄭忽を嘉美す。而して忽功有るを以て班[ついで]を爲さんことを欲し、怒りて齊に訴う。魯人之を懼る。故に非時を以て車馬を簡ぶなり。 蔡人殺陳佗。佗立踰年、不稱爵者、簒立未會諸侯也。傳例在莊二十二年。 【読み】 蔡人陳佗を殺す。佗立ちて年を踰え、爵と稱せざるは、簒立して未だ諸侯に會せざればなり。傳例は莊二十二年に在り。 九月、丁卯、子同生。桓公子莊公也。十二公唯子同是適夫人之長子。備用大子之禮。故史書之於策。不稱大子者、書始生也。 【読み】 九月、丁卯[ひのと・う]、子同生まる。桓公の子莊公なり。十二公は唯子同のみ是れ適夫人の長子なり。大子の禮を備え用ゆ。故に史之を策に書す。大子と稱せざるは、始生を書すなり。 冬、紀侯來朝。 【読み】 冬、紀侯來朝す。 〔傳〕六年、春、自曹來朝。書曰寔來、不復其國也。亦承五年冬傳淳于公如曹也。言奔、則來行朝禮。言朝、則遂留不去。故變文言寔來。 【読み】 〔傳〕六年、春、曹より來朝す。書して寔に來ると曰うは、其の國に復らざればなり。亦五年冬の傳の淳于公曹に如くを承くるなり。奔ると言わんとすれば、則ち來りて朝禮を行う。朝すと言わんとすれば、則ち遂に留まりて去らず。故に文を變じて寔に來ると言う。 楚武王侵隨、隨、國。今義陽隨縣。 【読み】 楚の武王隨を侵し、隨は、國。今の義陽の隨縣なり。 使薳章求成焉。薳章、楚大夫。○薳、于委反。 【読み】 薳章[いしょう]をして成[たい]らぎを求めしむ。薳章は、楚の大夫。○薳は、于委反。 軍於瑕以待之。瑕、隨地。 【読み】 瑕に軍して以て之を待つ。瑕は、隨の地。 隨人使少師董成。少師、隨大夫。董、正也。○少、詩照反。 【読み】 隨人少師をして成らぎを董[ただ]さしむ。少師は、隨の大夫。董は、正すなり。○少は、詩照反。 鬭伯比言于楚子曰、吾不得志於漢東也、我則使然。鬭伯比、楚大夫。令尹子文之父。 【読み】 鬭伯比楚子に言いて曰く、吾が志を漢東に得ざるや、我れ則ち然らしむるなり。鬭伯比は、楚の大夫。令尹子文の父なり。 我張吾三軍、而被吾甲兵、以武臨之。彼則懼、而協以謀我。故難閒也。漢東之國、隨爲大。隨張、必棄小國。張、自侈大也。○隨張、豬亮反。一如字。 【読み】 我れ吾が三軍を張りて、吾が甲兵を被り、武を以て之に臨む。彼れ則ち懼れて、協いて以て我を謀る。故に閒し難し。漢東の國は、隨を大なりとす。隨張らば、必ず小國を棄てん。張は、自ら侈ること大いにするなり。○隨張は、豬亮反。一に字の如し。 小國離、楚之利也。少師侈。請羸師以張之。羸、弱也。○羸、劣追反。 【読み】 小國の離るるは、楚の利なり。少師侈れり。請う師を羸[よわ]めて以て之を張らしめん、と。羸[るい]は、弱きなり。○羸は、劣追反。 熊率且比曰、季梁在。何益。熊率且比、楚大夫。季梁、隨賢臣。○率、音律。且、子余反。 【読み】 熊率且比曰く、季梁在り。何の益あらん、と。熊率且比は、楚の大夫。季梁は、隨の賢臣。○率は、音律。且は、子余反。 鬭伯比曰、以爲後圖。少師得其君。言季梁之諫不過一見從。隨侯卒當以少師爲計。故云以爲後圖。二年、蔡侯・鄭伯會于鄧、始懼楚。楚子自此遂盛、終於抗衡中國。故傳備言其事、以終始之。 【読み】 鬭伯比曰く、以て後圖と爲さん。少師其の君を得たり。言うこころは、季梁の諫めは一たび從わるるに過ぎず。隨侯卒に當に少師を以て計を爲すべし。故に以て後圖と爲さんと云う。二年、蔡侯・鄭伯鄧に會し、始めて楚を懼る。楚子此より遂に盛んにして、中國に抗衡するに終わる。故に傳備に其の事を言いて、以て之を終始す。 王毀軍而納少師。從伯比之謀。 【読み】 王軍を毀ちて少師を納る。伯比の謀に從う。 少師歸、請追楚師。隨侯將許之。信楚弱也。 【読み】 少師歸り、楚の師を追わんと請う。隨侯將に之を許さんとす。楚の弱きを信ずるなり。 季梁止之曰、天方授楚。楚之羸、其誘我也。君何急焉。臣聞小之能敵大也、小道大淫。所謂道、忠於民而信於神也。上思利民、忠也。祝史正辭、信也。正辭、不虛稱君美。 【読み】 季梁之を止めて曰く、天方に楚に授く。楚の羸きは、其れ我を誘[あざむ]くなり。君何ぞ急にする。臣聞く小の能く大に敵するや、小道あり大淫なればなり、と。所謂道とは、民に忠にして神に信あるなり。上民を利せんことを思うは、忠なり。祝史辭を正しくするは、信なり。辭を正しくすとは、君の美を虛しく稱せざるなり。 今民餒而君逞欲、逞、快也。○餒、奴罪反。 【読み】 今民餒[う]えて君欲を逞[こころよ]くし、逞は、快きなり。○餒は、奴罪反。 祝史矯舉以祭。臣不知其可也。詐稱功德以欺鬼神。 【読み】 祝史矯舉して以て祭る。臣其の可なることを知らず、と。功德を詐稱して以て鬼神を欺くなり。 公曰、吾牲牷肥腯、粢盛豐備。何則不信。牲、牛・羊・豕也。牷、純色完全也。腯、亦肥也。黍稷曰粢、在器曰盛。○牷、音全。腯、徒忽反。 【読み】 公曰く、吾が牲牷[せいせん]は肥腯[ひとつ]、粢盛は豐備なり。何ぞ則ち不信ならん、と。牲は、牛・羊・豕なり。牷は、純色完全なり。腯も、亦肥ゆるなり。黍稷を粢と曰い、器に在るを盛と曰う。○牷は、音全。腯は、徒忽反。 對曰、夫民、神之主也。言鬼神之情、依民而行。 【読み】 對えて曰く、夫れ民は、神の主なり。鬼神の情は、民に依りて行うを言う。 是以聖王先成民、而後致力於神。故奉牲以告曰、博碩肥腯。謂民力之普存也。博、廣也。碩、大也。 【読み】 是を以て聖王は先ず民を成して、而して後に力を神に致す。故に牲を奉げて以て告げて曰く、博碩肥腯、と。民力の普く存するを謂うなり。博は、廣きなり。碩は、大いなり。 謂其畜之碩大蕃滋也。謂其不疾瘯蠡也。謂其備腯咸有也。雖告神以博碩肥腯、其實皆當兼此四謂。民力適完、則六畜旣大而滋也。皮毛無疥癬、兼備而無有所闕。○畜、吁又反。瘯、七木反。蠡、力果反。瘯瘰、皮肥也。 【読み】 其の畜の碩大蕃滋なるを謂うなり。其の瘯蠡[ぞくれい]を疾まざるを謂うなり。其の備腯して咸[ことごと]く有るを謂うなり。神に告ぐるに博碩肥腯を以てすと雖も、其の實は皆當に此の四謂を兼ぬるべし。民力適に完きときは、則ち六畜旣に大いにして滋きなり。皮毛に疥癬無く、兼ね備わりて闕くる所有ること無きなり。○畜は、吁又反。瘯は、七木反。蠡は、力果反。瘯瘰[ぞくるい]、皮肥なり。 奉盛以告曰、絜粢豐盛。謂其三時不害、而民和年豐也。三時、春・夏・秋。 【読み】 盛を奉げて以て告げて曰く、絜粢豐盛、と。其の三時害あらずして、民和し年豐かなるを謂うなり。三時は、春・夏・秋。 奉酒醴以告曰、嘉栗旨酒。嘉、善也。栗、謹敬也。 【読み】 酒醴を奉げて以て告げて曰く、嘉栗の旨酒、と。嘉は、善きなり。栗は、謹敬なり。 謂其上下皆有嘉德、而無違心也。所謂馨香、無讒慝也。馨、香之遠聞。○慝、他得反。 【読み】 其の上下皆嘉德有りて、違心無きを謂うなり。所謂馨香ありて、讒慝無きなり。馨は、香の遠く聞こゆるなり。○慝は、他得反。 故務其三時、脩其五敎、父義、母慈、兄友、弟恭、子孝。 【読み】 故に其の三時を務め、其の五敎を脩め、父義、母慈、兄友、弟恭、子孝。 親其九族、以致其禋祀。禋、絜敬。九族、謂外祖父、外祖母、從母子、及妻父、妻母、姑之子、姊妹之子、女子之子、幷己之同族、皆外親有服而異族者也。 【読み】 其の九族を親しみて、以て其の禋祀を致す。禋は、絜敬。九族は、外祖父、外祖母、從母の子、及び妻の父、妻の母、姑の子、姊妹の子、女子の子、己の同族を幷すると、皆外親の服有りて族を異にする者を謂うなり。 *「幷己之同族」の幷について、頭註に「按幷或非」とある。 於是乎民和而神降之福。故動則有成。 【読み】 是に於て民和して神之に福を降す。故に動けば則ち成ること有り。 今民各有心、而鬼神乏主。民饑餒也。 【読み】 今民各々心有りて、鬼神主に乏し。民饑餒[きだい]す。 君雖獨豐、其何福之有。君姑脩政、而親兄弟之國、庶免於難。隨侯懼而脩政。楚不敢伐。 【読み】 君獨り豐かにすと雖も、其れ何の福か之れ有らん。君姑く政を脩めて、兄弟の國を親しまば、庶わくは難を免れん、と。隨侯懼れて政を脩む。楚敢えて伐たず。 夏、會于成、紀來諮謀齊難也。齊欲滅紀。故來謀之。○難、乃旦反。 【読み】 夏、成に會するは、紀來りて齊の難を諮謀するなり。齊紀を滅ぼさんと欲す。故に來りて之を謀る。○難は、乃旦反。 北戎伐齊。齊使乞師于鄭。鄭大子忽帥師救齊。六月、大敗戎師、獲其二帥大良・少良、甲首三百、以獻於齊。甲首、被甲者首。○二帥、所類反。少、詩照反。 【読み】 北戎齊を伐つ。齊師を鄭に乞わしむ。鄭の大子忽師を帥て齊を救う。六月、大いに戎の師を敗り、其の二帥大良・少良、甲首三百を獲て、以て齊に獻ず。甲首は、甲を被る者の首。○二帥は、所類反。少は、詩照反。 於是諸侯之大夫戍齊。齊人饋之餼。生曰餼。 【読み】 是に於て諸侯の大夫齊を戍[まも]る。齊人之に餼[き]を饋[おく]る。生を餼と曰う。 使魯爲其班。後鄭。班、次也。魯親班齊饋、則亦使大夫戍齊矣。經不書、蓋史闕文。 【読み】 魯をして其の班[ついで]を爲さしむ。鄭を後にす。班は、次なり。魯親ら齊の饋を班ずるときは、則ち亦大夫をして齊を戍らしむるなり。經に書さざるは、蓋し史の闕文ならん。 鄭忽以其有功也怒。故有郎之師。郎師在十年。 【読み】 鄭忽其の功有るを以てや怒る。故に郎の師有り。郎の師は十年に在り。 公之未昏於齊也、齊侯欲以文姜妻鄭大子忽。大子忽辭。人問其故。大子曰、人各有耦。齊大。非吾耦也。詩云、自求多福。詩、大雅文王。言求福由己、非由人也。○妻、七計反。 【読み】 公の未だ齊に昏せざりしや、齊侯文姜を以て鄭の大子忽に妻わせんと欲す。大子忽辭す。人其の故を問う。大子曰く、人各々耦有り。齊は大なり。吾が耦に非ず。詩に云う、自ら多福を求む、と。詩は、大雅文王。福を求むるは己に由る、人に由るに非ざるを言うなり。○妻は、七計反。 在我而已。大國何爲。君子曰、善自爲謀。言獨絜其身、謀不及國。 【読み】 我に在るのみ。大國何をかせん、と。君子曰く、善く自ら謀を爲せり、と。獨り其の身を絜くして、謀國に及ばざるを言う。 及其敗戎師也、齊侯又請妻之。欲以他女妻之。 【読み】 其の戎の師を敗るに及んでや、齊侯又之に妻わせんことを請う。他の女を以て之に妻わせんと欲す。 固辭。人問其故。大子曰、無事於齊、吾猶不敢。今以君命奔齊之急、而受室以歸、是以師昏也。民其謂我何。言必見怪於民。 【読み】 固辭す。人其の故を問う。大子曰く、齊に事無かりしも、吾れ猶敢えてせざりき。今君命を以て齊の急に奔りて、室を受けて以て歸らば、是れ師を以て昏するなり。民其れ我を何とか謂わん、と。必ず民に怪しまるるを言う。 遂辭諸鄭伯。假父之命以爲辭。爲十一年、鄭忽出奔衛傳。 【読み】 遂に諸を鄭伯に辭す。父の命を假りて以て辭を爲す。十一年、鄭忽衛に出奔する爲の傳なり。 秋、大閱、簡車馬也。 【読み】 秋、大いに閱するは、車馬を簡ぶなり。 九月、丁卯、子同生。以大子生之禮舉之。接以大牢、大牢、牛・羊・豕也。以禮接夫人、重適也。○接、如字。禮記作音捷。 【読み】 九月、丁卯[ひのと・う]、子同生まる。大子生まるるの禮を以て之を舉ぐ。接するに大牢を以てし、大牢は、牛・羊・豕なり。禮を以て夫人に接するは、適を重んずるなり。○接は、字の如し。禮記に音捷に作る。 卜士負之、士妻食之、禮、世子生三日、卜士負之、射人以桑弧蓬矢、射天地四方。卜士之妻爲乳母。○食、音嗣。射天地、食亦反。 【読み】 士を卜して之を負わしめ、士の妻之を食[やしな]い、禮に、世子生まれて三日、士を卜して之を負わしめ、射人桑弧蓬矢を以て、天地四方を射る。士の妻を卜して乳母とす、と。○食は、音嗣。射天地は、食亦反。 公與文姜宗婦命之。世子生三月、君夫人沐浴於外寢、立於阼階、西郷。世婦抱子升自西階、君命之乃降。蓋同宗之婦。 【読み】 公文姜宗婦と之に命[な]づく。世子生まれて三月、君夫人外寢に沐浴し、阼階に立ちて、西に郷[む]かう。世婦子を抱いて西階より升り、君之に命づけて乃ち降る。蓋し同宗の婦ならん。 公問名於申繻。對曰、名有五。有信、有義、有象、有假、有類。申繻、魯大夫。○繻、音須。 【読み】 公名を申繻に問う。對えて曰く、名に五つ有り。信有り、義有り、象有り、假有り、類有り。申繻は、魯の大夫。○繻は、音須。 以名生爲信、若唐叔虞、魯公子友。 【読み】 名を以て生まるるを信と爲し、唐叔虞、魯の公子友の若し。 以德命爲義、若文王名昌、武王名發。 【読み】 德を以て命づくるを義と爲し、文王名は昌、武王名は發の若し。 以類命爲象、若孔子首象尼丘。 【読み】 類を以て命づくるを象と爲し、孔子の首[こうべ]尼丘に象るが若し。 取於物爲假、若伯魚生、人有饋之魚。因名之曰鯉。 【読み】 物に取るを假と爲し、伯魚生まるるとき、人之に魚を饋る有り。因りて之を名づけて鯉と曰うが若し。 取於父爲類。若子同生、有與父同者。 【読み】 父に取るを類と爲す。子同生まれて、父と同じきこと有る者の若し。 不以國、國君之子、不自以本國爲名也。 【読み】 國を以てせず、國君の子、自ら本國を以て名と爲さざるなり。 不以官、不以山川、不以隱疾、隱、痛。疾、患。避不祥也。 【読み】 官を以てせず、山川を以てせず、隱疾を以てせず、隱は、痛む。疾は、患う。不祥を避くるなり。 不以畜牲、畜牲、六畜。 【読み】 畜牲を以てせず、畜牲は、六畜。 不以器幣。幣、玉帛。 【読み】 器幣を以てせず。幣は、玉帛。 周人以諱事神。名、終將諱之。君父之名、固非君子所斥。然禮、旣卒哭、以木鐸徇曰、舍故而諱新。謂舍親盡之祖、而諱新死者。故言以諱事神、名、終將諱之。自父至高祖、皆不敢斥言。○舍、音捨。 【読み】 周人は諱を以て神に事う。名は、終われば將に之を諱まんとす。君父の名は、固より君子の斥[さ]す所に非ず。然れども禮に、旣に卒哭して、木鐸を以て徇[とな]えて曰く、故きを舍てて新らしきを諱め、と。親盡くるの祖を舍てて、新たに死する者を諱むを謂う。故に言う、諱を以て神に事う、名は、終われば將に之を諱まんとす、と。父より高祖に至るまでは、皆敢えて斥し言わず。○舍は、音捨。 故以國則廢名、國不可易。故廢名。 【読み】 故に國を以てすれば則ち名を廢し、國は易う可からず。故に名を廢す。 以官則廢職、以山川則廢主、改其山川之名。 【読み】 官を以てすれば則ち職を廢し、山川を以てすれば則ち主を廢し、其の山川の名を改む。 以畜牲則廢祀、名豬則廢豬、名羊則廢羊。 【読み】 畜牲を以てすれば則ち祀を廢し、豬と名づくれば則ち豬を廢し、羊と名づくれば則ち羊を廢す。 以器幣則廢禮。晉以僖侯廢司徒、僖侯、名司徒。廢爲中軍。 【読み】 器幣を以てすれば則ち禮を廢す。晉は僖侯を以て司徒を廢し、僖侯、名は司徒。廢して中軍と爲す。 宋以武公廢司空、武公、名司空。廢爲司城。 【読み】 宋は武公を以て司空を廢し、武公、名は司空。廢して司城と爲す。 先君獻・武廢二山。二山、具・敖也。魯獻公、名具。武公、名敖。更以其郷名山。○敖、五羔反。 【読み】 先君は獻・武二山を廢す。二山は、具・敖なり。魯の獻公、名は具。武公、名は敖。更めて其の郷を以て山に名づく。○敖は、五羔反。 是以大物不可以命。 【読み】 是を以て大物は以て命づく可からず、と。 公曰、是其生也、與吾同物。命之曰同。物、類也。謂同日。 【読み】 公曰く、是れ其の生まるるや、吾と物を同じくせり、と。之を命づけて同と曰う。物は、類なり。日を同じくするを謂う。 冬、紀侯來朝。請王命以求成于齊。公告不能。紀微弱、不能自通於天子。欲因公以請王命。公無寵於王。故告不能。請上疑有脫字。 【読み】 冬、紀侯來朝す。王命を請いて以て齊に成らがんことを求めんとす。公能わずと告ぐ。紀は微弱、自ら天子に通ずること能わず。公に因りて以て王命を請わんと欲す。公王に寵無し。故に能わずと告ぐ。請の上に疑うらくは脫字有らん。 〔經〕七年、春、二月、己亥、焚咸丘。無傳。焚、火田也。咸丘、魯地。高平鉅野縣南有咸亭。譏盡物。故書。 【読み】 〔經〕七年、春、二月、己亥[つちのと・い]、咸丘に焚[やきがり]す。傳無し。焚は、火田なり。咸丘は、魯の地。高平鉅野縣の南に咸亭有り。物を盡くすを譏る。故に書す。 夏、穀伯綏來朝。鄧侯吾離來朝。不揔稱朝者、各自行朝禮也。穀國、在南郷筑陽縣北。○筑、逐。不書秋冬、史闕文也。詳四年注。 【読み】 夏、穀伯綏[すい]來朝す。鄧侯吾離來朝す。朝を揔稱せざるは、各々自ら朝禮を行えばなり。穀國は、南郷筑陽縣の北に在り。○筑は、逐。秋冬を書さざるは、史の闕文なり。四年の注に詳らかなり。 〔傳〕七年、春、穀伯・鄧侯來朝。名、賤之也。辟陋小國賤之、禮不足。故書名。以春來、夏乃行朝禮。故經書夏。○辟、匹亦反。 【読み】 〔傳〕七年、春、穀伯・鄧侯來朝す。名いうは、之を賤しむなり。辟陋の小國之を賤しむは、禮足らざればなり。故に名を書す。春を以て來り、夏乃ち朝禮を行う。故に經夏に書す。○辟は、匹亦反。 夏、盟・向求成于鄭。旣而背之。盟・向、二邑名。隱十一年、王以與鄭。故求與鄭成。○盟、音孟。向、傷亮反。背、音佩。 【読み】 夏、盟・向成[たい]らぎを鄭に求む。旣にして之に背く。盟・向は、二邑の名。隱十一年、王以て鄭に與う。故に鄭と成らがんことを求む。○盟は、音孟。向は、傷亮反。背は、音佩。 秋、鄭人・齊人・衛人伐盟・向。王遷盟・向之民于郟。郟、王城。 【読み】 秋、鄭人・齊人・衛人盟・向を伐つ。王盟・向の民を郟[こう]に遷す。郟は、王城。 冬、曲沃伯誘晉小子侯殺之。曲沃伯、武公也。小子侯、哀侯子。 【読み】 冬、曲沃の伯晉の小子侯を誘[あざむ]きて之を殺す。曲沃の伯は、武公なり。小子侯は、哀侯の子。 〔經〕八年、春、正月、己卯、烝。無傳。此夏之仲月。非爲過。而書者、爲下五月復烝見瀆也。例在五年。○見、賢遍反。 【読み】 〔經〕八年、春、正月、己卯[つちのと・う]、烝す。傳無し。此れ夏の仲月なり。過ぐるとするには非ず。而るに書すは、下の五月に復烝して瀆すを見す爲なり。例は五年に在り。○見は、賢遍反。 天王使家父來聘。無傳。家父、天子大夫。家、氏。父、字。 【読み】 天王家父をして來聘せしむ。傳無し。家父は、天子の大夫。家は、氏。父は、字。 夏、五月、丁丑、烝。無傳。 【読み】 夏、五月、丁丑[ひのと・うし]、烝す。傳無し。 秋、伐邾。無傳。 【読み】 秋、邾[ちゅ]を伐つ。傳無し。 冬、十月、雨雪。無傳。今八月也。書時失。○雨、于付反。 【読み】 冬、十月、雪雨[ふ]る。傳無し。今の八月なり。時の失を書す。○雨は、于付反。 祭公來。遂逆王后于紀。祭公、諸侯爲天子三公者。王使魯主昏。故祭公來、受命而迎也。天子無外。故因稱王后。卿不書、舉重略輕。○祭、側界反。 【読み】 祭公來る。遂に王后を紀に逆[むか]う。祭公は、諸侯の天子の三公と爲る者なり。王魯をして昏を主らしむ。故に祭公來り、命を受けて迎うるなり。天子は外無し。故に因りて王后と稱す。卿書さざるは、重きを舉げて輕きを略するなり。○祭は、側界反。 〔傳〕八年、春、滅翼。曲沃滅之。 【読み】 〔傳〕八年、春、翼を滅ぼす。曲沃之を滅ぼす。 隨少師有寵。楚鬭伯比曰、可矣。讎有釁。不可失也。釁、瑕隙也。無德者寵、國之釁也。 【読み】 隨の少師寵有り。楚の鬭伯比曰く、可なり。讎に釁[きん]有り。失う可からざるなり、と。釁は、瑕隙なり。德無き者が寵せらるは、國の釁なり。 夏、楚子合諸侯于沈鹿。沈鹿、楚地。 【読み】 夏、楚子諸侯を沈鹿に合す。沈鹿は、楚の地。 黃・隨不會。黃國、今弋陽縣。 【読み】 黃・隨會せず。黃國は、今の弋陽縣。 使薳章讓黃。責其不會。 【読み】 薳章[いしょう]をして黃を讓[せ]めしむ。其の會せざるを責む。 楚子伐隨、軍於漢・淮之閒。季梁請、下之。弗許而後戰。下之、請服也。○下、遐嫁反。 【読み】 楚子隨を伐ち、漢・淮の閒に軍す。季梁請う、之に下らん。許さずして後に戰わん。之に下るは、服せんと請うなり。○下は、遐嫁反。 所以怒我而怠寇也。少師謂隨侯曰、必速戰。不然、將失楚師。隨侯禦之。 【読み】 我を怒らして寇を怠らす所以なり、と。少師隨侯に謂いて曰く、必ず速やかに戰え。然らずんば、將に楚の師を失わんとす、と。隨侯之を禦ぐ。 望楚師。遙見楚師。 【読み】 楚の師を望む。遙かに楚の師を見る。 季梁曰、楚人上左、君必左。君、楚君也。 【読み】 季梁曰く、楚人は左を上[たっと]べば、君必ず左ならん。君は、楚の君なり。 無與王遇。且攻其右。右無良焉。必敗。偏敗、衆乃攜矣。少師曰、不當王、非敵也。弗從。不從季梁謀。 【読み】 王と遇うこと無かれ。且[しばら]く其の右を攻めよ。右には良無けん。必ず敗れん。偏敗れば、衆乃ち攜[はな]れん、と。少師曰く、王に當たらざれば、敵に非ざるなり、と。從わず。季梁の謀に從わず。 戰于速杞。隨師敗績。隨侯逸。速杞、隨地。逸、逃也。 【読み】 速杞に戰う。隨の師敗績す。隨侯逸る。速杞は、隨の地。逸は、逃るなり。 鬭丹獲其戎車與其戎右少師。鬭丹、楚大夫。戎車、君所乘兵車也。戎右、車右也。寵之、故爲右。 【読み】 鬭丹其の戎車と其の戎右少師とを獲たり。鬭丹は、楚の大夫。戎車は、君の乘る所の兵車なり。戎右は、車右なり。之を寵す、故に右とす。 秋、隨及楚平。楚子將不許。鬭伯比曰、天去其疾矣。去疾、謂少師見獲而死。 【読み】 秋、隨と楚と平らがんとす。楚子將に許さざらんとす。鬭伯比曰く、天其の疾を去れり。疾を去るは、少師獲られて死するを謂う。 隨未可克也。乃盟而還。 【読み】 隨には未だ克つ可からず、と。乃ち盟いて還る。 冬、王命虢仲、立晉哀侯之弟緡于晉。虢仲、王卿士、虢公、林父。○緡、亡巾反。 【読み】 冬、王虢仲に命じて、晉の哀侯の弟緡[びん]を晉に立つ。虢仲は、王の卿士、虢公、林父。○緡は、亡巾反。 祭公來。遂逆王后于紀。禮也。天子娶於諸侯、使同姓諸侯爲之主。祭公來受命於魯。故曰禮。 【読み】 祭公來る。遂に王后を紀に逆う。禮なり。天子諸侯に娶れば、同姓の諸侯をして之が主爲らしむ。祭公來りて命を魯に受く。故に禮と曰う。 〔經〕九年、春、紀季姜歸于京師。季姜、桓王后也。季、字。姜、紀姓也。書字者、伸父母之尊。 【読み】 〔經〕九年、春、紀の季姜京師に歸[とつ]ぐ。季姜は、桓王の后なり。季は、字。姜は、紀の姓なり。字を書すは、父母の尊きを伸ぶるなり。 夏、四月。秋、七月。冬、曹伯使其世子射姑來朝。曹伯有疾。故使其子來朝。○射姑、音亦。又音夜。 【読み】 夏、四月。秋、七月。冬、曹伯其の世子射姑[やこ]をして來朝せしむ。曹伯疾有り。故に其の子をして來朝せしむ。○射姑は、音亦。又音夜。 〔傳〕九年、春、紀季姜歸于京師。凡諸侯之女行、唯王后書。爲書婦人行例也。適諸侯、雖告魯猶不書。 【読み】 〔傳〕九年、春、紀の季姜京師に歸ぐ。凡そ諸侯の女の行く、唯王后のみ書す。婦人の行くを書す爲の例なり。諸侯に適くは、魯に告ぐると雖も猶書さず。 巴子使韓服告于楚、請與鄧爲好。韓服、巴行人。巴國、在巴郡江州縣。 【読み】 巴子韓服をして楚に告げしめて、鄧と好を爲さんと請う。韓服は、巴の行人。巴國は、巴郡の江州縣に在り。 楚子使道朔將巴客以聘於鄧。道朔、楚大夫。巴客、韓服。 【読み】 楚子道朔をして巴の客を將[い]て以て鄧に聘せしむ。道朔は、楚の大夫。巴の客は、韓服なり。 鄧南鄙鄾人、攻而奪之幣、鄾、在今鄧縣南、沔水之北。○鄾、音憂。 【読み】 鄧の南鄙の鄾人[ゆうひと]、攻めて之が幣を奪い、鄾は、今の鄧縣の南、沔水の北に在り。○鄾は、音憂。 殺道朔及巴行人。楚子使薳章讓於鄧。鄧人弗受。言非鄾人所攻。 【読み】 道朔と巴の行人とを殺す。楚子薳章[いしょう]をして鄧を讓[せ]めしむ。鄧人受けず。鄾人の攻むる所に非ずと言う。 夏、楚使鬭廉帥師及巴師圍鄾。鬭廉、楚大夫。 【読み】 夏、楚鬭廉をして師を帥て巴の師と鄾を圍ましむ。鬭廉は、楚の大夫。 鄧養甥・耼甥帥師救鄾、三逐巴師。不克。二甥、皆鄧大夫。○耼、乃甘反。 【読み】 鄧の養甥[ようせい]・耼甥[たんせい]師を帥て鄾を救い、三たび巴の師を逐う。克たず。二甥は、皆鄧の大夫。○耼は、乃甘反。 鬭廉衡陳其師於巴師之中、以戰而北。衡、橫也。分巴師爲二部。鬭廉橫陳於其閒、以與鄧師戰而僞北。北、走也。○衡、如字。一音橫。陳、直覲反。 【読み】 鬭廉其の師を巴師の中に衡陳して、以て戰いて北[に]ぐ。衡は、橫なり。巴の師を分けて二部とす。鬭廉其の閒に橫陳して、以て鄧の師と戰いて僞り北ぐ。北は、走るなり。○衡は、字の如し。一に音橫。陳は、直覲反。 鄧人逐之、背巴師。而夾攻之。楚師僞走、鄧師逐之、背巴師。巴師攻之。楚師自前還與戰。○背、音佩。 【読み】 鄧人之を逐いて、巴の師を背にす。而して夾みて之を攻む。楚師僞りて走り、鄧の師之を逐いて、巴の師を背にす。巴の師之を攻む。楚の師前より還りて與に戰う。○背は、音佩。 鄧師大敗。鄾人宵潰。宵、夜也。 【読み】 鄧師大いに敗れぬ。鄾人宵潰[つい]ゆ。宵は、夜なり。 秋、虢仲・芮伯・梁伯・荀侯・賈伯伐曲沃。梁國、在馮翊夏陽縣。荀・賈、皆國名。 【読み】 秋、虢仲・芮伯・梁伯・荀侯・賈伯曲沃を伐つ。梁國は、馮翊夏陽縣に在り。荀・賈は、皆國の名。 冬、曹大子來朝。賓之以上卿。禮也。諸侯之適子、未誓於天子、而攝其君、則以皮帛繼子男。故賓之以上卿。各當其國之上卿。○適、丁歷反。 【読み】 冬、曹の大子來朝す。之を賓するに上卿を以てす。禮なり。諸侯の適子、未だ天子に誓せずして、其の君を攝するは、則ち皮帛を以て子男に繼ぐ。故に之を賓するに上卿を以てす。各々其の國の上卿に當たるなり。○適は、丁歷反。 享曹大子。初獻、樂奏而歎。酒始獻。 【読み】 曹の大子を享す。初めて獻ずるとき、樂奏して歎ず。酒始めて獻ず。 施父曰、曹大子其有憂乎。非歎所也。施父、魯大夫。○施、色豉反。 【読み】 施父曰く、曹の大子は其れ憂え有らんか。歎ずる所に非ざるなり、と。施父は、魯の大夫。○施は、色豉反。 〔經〕十年、春、王正月、庚申、曹伯終生卒。未同盟、而赴以名。 【読み】 〔經〕十年、春、王の正月、庚申[かのえ・さる]、曹伯終生卒す。未だ同盟せざるに、赴[つ]ぐるに名を以てす。 夏、五月、葬曹桓公。無傳。 【読み】 夏、五月、曹の桓公を葬る。傳無し。 秋、公會衛侯于桃丘。弗遇。無傳。衛侯與公爲會期、中背公更與齊・鄭。故公獨往而不相遇也。桃丘、衛地。濟北東阿縣東南有桃城。 【読み】 秋、公衛侯に桃丘に會せんとす。遇わず。傳無し。衛侯公と會期を爲し、中ごろ公に背いて更に齊・鄭に與す。故に公獨り往いて相遇わざるなり。桃丘は、衛の地。濟北東阿縣の東南に桃城有り。 冬、十有二月、丙午、齊侯・衛侯・鄭伯來戰于郎。改侵伐而書來戰、善魯之用周班、惡三國討有辭。○惡、烏洛反。又烏路反。 【読み】 冬、十有二月、丙午[ひのえ・うま]、齊侯・衛侯・鄭伯來りて郎に戰う。侵伐を改めて來戰と書すは、魯の周班を用ゆるを善し、三國の有辭を討ずるを惡むなり。○惡は、烏洛反。又烏路反。 〔傳〕十年、春、曹桓公卒。終施父之言。 【読み】 〔傳〕十年、春、曹の桓公卒す。施父の言を終う。 虢仲譖其大夫詹父於王。虢仲、王卿士。詹父、屬大夫。○譖、側鴆反。 【読み】 虢仲其の大夫詹父[せんぽ]を王に譖る。虢仲は、王の卿士。詹父は、屬大夫。○譖は、側鴆反。 詹父有辭。以王師伐虢。夏、虢公出奔虞。虞國、在河東大陽縣。 【読み】 詹父辭有り。王の師を以て虢を伐つ。夏、虢公出でて虞に奔る。虞國は、河東大陽縣に在り。 秋、秦人納芮伯萬于芮。四年圍魏所執者。 【読み】 秋、秦人芮伯萬を芮に納る。四年魏を圍みて執る所の者なり。 初、虞叔有玉。虞叔、虞公之弟。 【読み】 初め、虞叔玉有り。虞叔は、虞公の弟。 虞公求旃。旃、之也。○旃、之然反。 【読み】 虞公旃[これ]を求む。旃[せん]は、之なり。○旃は、之然反。 弗獻。旣而悔之曰、周諺有之。匹夫無罪。懷璧其罪。人利其璧、以璧爲罪。 【読み】 獻ぜず。旣にして之を悔いて曰く、周の諺に之れ有り。匹夫罪無し。璧を懷くは其れ罪なり、と。人其の璧を利として、璧を以て罪と爲す。 吾焉用此。其以賈害也。賈、買也。○焉、音煙。賈、音古。 【読み】 吾れ焉ぞ此を用いん。其れ以て害を賈わんや、と。賈は、買うなり。○焉は、音煙。賈は、音古。 乃獻之。又求其寶劍。叔曰、是無厭也。無厭將及我。將殺我。○厭、於鹽反。 【読み】 乃ち之を獻ず。又其の寶劍を求む。叔曰く、是れ厭くこと無し。厭くこと無くんば將に我に及ばんとす、と。將に我を殺さんとす。○厭は、於鹽反。 遂伐虞公。故虞公出奔共池。共池、地名。闕。○共、音洪。一音恭。 【読み】 遂に虞公を伐つ。故に虞公出でて共池に奔る。共池は、地の名。闕く。○共は、音洪。一に音恭。 冬、齊・衛・鄭來戰于郎、我有辭也。 【読み】 冬、齊・衛・鄭來りて郎に戰うとは、我れ辭有るなり。 初北戎病齊、在六年。 【読み】 初め北戎齊を病ましめ、六年に在り。 諸侯救之、鄭公子忽有功焉。齊人餼諸侯、使魯次之、魯以周班後鄭、鄭人怒、請師於齊。齊人以衛師助之。故不稱侵伐。不稱侵伐、而以戰爲文、明魯直諸侯曲。故言我有辭。以禮自釋、交綏而退無敗績。○綏、荀隹反。 【読み】 諸侯之を救いしとき、鄭の公子忽功有り。齊人諸侯に餼し、魯をして之を次でせしに、魯周班を以て鄭を後にせしかば、鄭人怒り、師を齊に請う。齊人衛の師を以[い]て之を助く。故に侵伐を稱せず。侵伐を稱せずして、戰を以て文を爲すは、魯は直く諸侯は曲れるを明かす。故に我れ辭有りと言う。禮を以て自ら釋き、交々綏[すい]して退いて敗績すること無し。○綏は、荀隹反。 先書齊・衛、王爵也。鄭主兵、而序齊・衛下者、以王爵次之也。春秋所以見魯猶秉周禮。 【読み】 先ず齊・衛を書すは、王爵なればなり。鄭兵を主りて、齊・衛の下に序ずるは、王爵を以て之を次[つい]ずるなり。春秋魯猶周の禮を秉るを見す所以なり。 〔經〕十有一年、春、正月、齊人・衛人・鄭人盟于惡曹。惡曹、地闕。 【読み】 〔經〕十有一年、春、正月、齊人・衛人・鄭人惡曹に盟う。惡曹は、地闕く。 夏、五月、癸未、鄭伯寤生卒。同盟於元年、赴以名。 【読み】 夏、五月、癸未[みずのと・ひつじ]、鄭伯寤生卒す。元年に同盟し、赴[つ]ぐるに名を以てす。 秋、七月、葬鄭莊公。無傳。三月而葬。速。 【読み】 秋、七月、鄭の莊公を葬る。傳無し。三月にして葬る。速きなり。 九月、宋人執鄭祭仲。祭、氏。仲、名。不稱行人、聽迫脅以逐君、罪之也。行人例、在襄十一年。釋例詳之。 【読み】 九月、宋人鄭の祭仲を執う。祭は、氏。仲は、名。行人と稱せざるは、迫り脅すを聽[ゆる]して以て君を逐えば、之を罪するなり。行人の例は、襄十一年に在り。釋例之を詳らかにす。 突歸于鄭。突、厲公也。爲宋所納。故曰歸。例在成十八年。不稱公子、從告也。文連祭仲。故不言鄭。 【読み】 突鄭に歸る。突は、厲公なり。宋の爲に納れらる。故に歸ると曰う。例は成十八年に在り。公子と稱せざるは、告ぐるに從うなり。文祭仲に連なる。故に鄭と言わず。 鄭忽出奔衛。忽、昭公也。莊公旣葬、不稱爵者、鄭人賤之、以名赴。 【読み】 鄭の忽出でて衛に奔る。忽は、昭公なり。莊公旣に葬りて、爵を稱せざるは、鄭人之を賤しみ、名を以て赴ぐればなり。 柔會宋公・陳侯・蔡叔盟于折。無傳。柔、魯大夫。未賜族者。蔡叔、蔡大夫。叔、名也。折、地闕。○折、之設反。 【読み】 柔宋公・陳侯・蔡の叔に會して折に盟う。傳無し。柔は、魯の大夫。未だ族を賜わざる者なり。蔡の叔は、蔡の大夫。叔は、名なり。折は、地闕く。○折は、之設反。 公會宋公于夫鍾。無傳。夫鍾、郕地。○夫、音扶。 【読み】 公宋公に夫鍾に會す。傳無し。夫鍾は、郕[せい]の地。○夫は、音扶。 冬、十有二月、公會宋公于闞。無傳。闞、魯地。在東平須昌縣東南。○闞、口暫反。 【読み】 冬、十有二月、公宋公に闞[かん]に會す。傳無し。闞は、魯の地。東平須昌縣の東南に在り。○闞は、口暫反。 〔傳〕十一年、春、齊・衛・鄭・宋盟于惡曹。宋不書、經闕。 【読み】 〔傳〕十一年、春、齊・衛・鄭・宋惡曹に盟う。宋書さざるは、經闕けたり。 楚屈瑕將盟貳・軫。貳・軫、二國名。○屈、居勿反。 【読み】 楚の屈瑕將に貳[じ]・軫[しん]に盟わんとす。貳・軫は、二國の名。○屈は、居勿反。 鄖人軍於蒲騷、將與隨・絞・州・蓼伐楚師。鄖國、在江夏。雲杜縣東南有鄖城。蒲騷、鄖邑。絞、國名。州國、在南郡華容縣東南。蓼國、今義陽棘縣東南湖陽城。○鄖、音云。騷、音蕭。絞、古卯反。 【読み】 鄖人[うんひと]蒲騷に軍して、將に隨・絞・州・蓼[りょう]と楚の師を伐たんとす。鄖國は、江夏に在り。雲杜縣の東南に鄖城有り。蒲騷は、鄖の邑。絞は、國の名。州國は、南郡華容縣の東南に在り。蓼國は、今の義陽棘縣の東南の湖陽城。○鄖は、音云。騷は、音蕭。絞は、古卯反。 莫敖患之。莫敖、楚官名。卽屈瑕。○敖、五刀反。 【読み】 莫敖之を患う。莫敖は、楚の官名。卽ち屈瑕なり。○敖は、五刀反。 鬭廉曰、鄖人軍其郊、必不誡。且日虞四邑之至也。虞、度也。四邑、隨・絞・州・蓼也。邑亦國也。 【読み】 鬭廉曰く、鄖人其の郊に軍すれば、必ず誡めじ。且つ日々に四邑の至るを虞[はか]らん。虞は、度るなり。四邑は、隨・絞・州・蓼なり。邑も亦國なり。 君次於郊郢以禦四邑。君、謂屈瑕也。郊郢、楚地。○郢、以井反。 【読み】 君は郊郢[こうえい]に次[やど]りて以て四邑を禦げ。君は、屈瑕を謂うなり。郊郢は、楚の地。○郢は、以井反。 我以銳師宵加於鄖。鄖有虞心而恃其城、恃近其城。 【読み】 我れ銳師を以て宵鄖に加えん。鄖虞る心有りて其の城を恃めば、其の城に近きを恃むなり。 莫有鬭志。若敗鄖師、四邑必離。 【読み】 鬭志有ること莫けん。若し鄖の師を敗らば、四邑必ず離れん、と。 莫敖曰、盍請濟師於王。盍、何不也。濟、益也。 【読み】 莫敖曰く、盍ぞ師を濟[ま]すことを王に請わざる、と。盍は、何ぞせざるなり。濟は、益すなり。 對曰、師克、在和、不在衆。商・周之不敵、君之所聞也。商、紂也。周、武王也。傳曰、武王有亂臣十人、紂有億兆夷人。 【読み】 對えて曰く、師の克つは、和に在り、衆に在らず。商・周の敵せざりしは、君の聞ける所なり。商は、紂なり。周は、武王なり。傳に曰く、武王亂臣十人有り、紂億兆の夷人有り、と。 成軍以出。又何濟焉。 【読み】 軍を成して以て出でたり。又何ぞ濟さん、と。 莫敖曰、卜之。對曰、卜以決疑。不疑何卜。遂敗鄖師於蒲騷、卒盟而還。卒盟貳・軫。 【読み】 莫敖曰く、之を卜せん、と。對えて曰く、卜は以て疑いを決す。疑わずんば何ぞ卜せん、と。遂に鄖の師を蒲騷に敗り、卒に盟いて還れり。卒に貳・軫に盟う。 鄭昭公之敗北戎也、在六年。 【読み】 鄭の昭公の北戎を敗りしや、六年に在り。 齊人將妻之。昭公辭。祭仲曰、必取之。君多内寵、子無大援。將不立。三公子皆君也。子突、子亹、子儀之母、皆有寵。○妻、七計反。亹、亡匪反。 【読み】 齊人將に之を妻わせんとす。昭公辭す。祭仲曰く、必ず之を取[めと]れ。君内寵多く、子大いなる援け無し。將に立たざらんとす。三公子は皆君なり、と。子突、子亹[び]、子儀の母、皆寵有り。○妻は、七計反。亹は、亡匪反。 弗從。 【読み】 從わざりき。 夏、鄭莊公卒。 【読み】 夏、鄭の莊公卒す。 初、祭封人仲足有寵於莊公。祭、鄭地。陳留長垣縣東北有祭城。封人、守封疆者。因以所守爲氏。 【読み】 初め、祭の封人仲足莊公に寵有り。祭は、鄭の地。陳留長垣縣の東北に祭城有り。封人は、封疆を守る者。因りて守る所を以て氏とす。 莊公使爲卿。爲公娶鄧曼。生昭公。故祭仲立之。曼、鄧姓。○爲、于僞反。曼、音萬。 【読み】 莊公卿爲らしむ。公の爲に鄧曼を娶る。昭公を生めり。故に祭仲之を立つ。曼は、鄧の姓。○爲は、于僞反。曼は、音萬。 宋雍氏女於鄭莊公。曰雍姞。生厲公。雍、氏。姞、姓。宋大夫也。以女妻人曰女。○雍、於恭反。女、尼據反。姞、其吉反。 【読み】 宋の雍氏鄭の莊公に女[めあ]わす。雍姞[ようきつ]と曰う。厲公を生む。雍は、氏。姞は、姓。宋の大夫なり。女を以て人に妻わすを女と曰う。○雍は、於恭反。女は、尼據反。姞は、其吉反。 雍氏宗有寵於宋莊公。故誘祭仲而執之。祭仲之如宋、非會非聘、見誘而以行人應命。 【読み】 雍氏の宗宋の莊公に寵有り。故に祭仲を誘[あざむ]きて之を執う。祭仲の宋に如くは、會に非ず聘に非ず、誘かれて行人を以て命に應ず。 曰、不立突、將死。亦執厲公而求賂焉。祭仲與宋人盟、以厲公歸而立之。 【読み】 曰く、突を立てずんば、將に死なんとす、と。亦厲公を執えて賂を求む。祭仲宋人と盟い、厲公を以[い]て歸りて之を立つ。 秋、九月、丁亥、昭公奔衛。己亥、厲公立。雍氏宗宗、宗族也。指其大宗。與昭廿八年、梗陽人大宗同。 【読み】 秋、九月、丁亥[ひのと・い]、昭公衛に奔る。己亥[つちのと・い]、厲公立つ。雍氏の宗の宗は、宗族なり。其の大宗を指す。昭廿八年、梗陽人大宗と同じ。 〔經〕十有二年、春、正月。夏、六月、壬寅、公會杞侯・莒子盟于曲池。曲池、魯地。魯國汶陽縣北有曲水亭。 【読み】 〔經〕十有二年、春、正月。夏、六月、壬寅[みずのえ・とら]、公杞侯・莒子に會して曲池に盟う。曲池は、魯の地。魯國汶陽縣の北に曲水亭有り。 秋、七月、丁亥、公會宋公・燕人盟于穀丘。穀丘、宋地。燕人、南燕大夫。 【読み】 秋、七月、丁亥[ひのと・い]、公宋公・燕人に會して穀丘に盟う。穀丘は、宋の地。燕人は、南燕の大夫。 八月、壬辰、陳侯躍卒。無傳。厲公也。十一年、與魯大夫盟於折。不書葬、魯不會也。壬辰、七月二十三日。書於八月、從赴。 【読み】 八月、壬辰[みずのえ・たつ]、陳侯躍卒す。傳無し。厲公なり。十一年、魯の大夫と折に盟う。葬を書さざるは、魯會せざればなり。壬辰は、七月二十三日。八月に書すは、赴[つ]ぐるに從うなり。 公會宋公于虛。虛、宋地。○虛、去魚反。 【読み】 公宋公に虛に會す。虛は、宋の地。○虛は、去魚反。 冬、十有一月、公會宋公于龜。龜、宋地。 【読み】 冬、十有一月、公宋公に龜に會す。龜は、宋の地。 丙戌、公會鄭伯盟于武父。武父、鄭地。陳留濟陽縣東北有武父城。 【読み】 丙戌[ひのえ・いぬ]、公鄭伯に會して武父に盟う。武父は、鄭の地。陳留濟陽縣の東北に武父城有り。 丙戌、衛侯晉卒。無傳。重書丙戌、非義例。因史成文也。未同盟、而赴以名。 【読み】 丙戌、衛侯晉卒す。傳無し。重ねて丙戌を書すは、義例に非ず。史の成文に因るなり。未だ同盟せざれども、赴ぐるに名を以てす。 十有二月、及鄭師伐宋。丁未、戰于宋。旣書伐宋、又重書戰者、以見宋之無信也。莊十一年傳例曰、皆陳曰戰。尤其無信。故以獨戰爲文。 【読み】 十有二月、鄭の師と宋を伐つ。丁未[ひのと・ひつじ]、宋に戰う。旣に宋を伐つと書して、又重ねて戰うと書すは、以て宋の信無きを見すなり。莊十一年の傳例に曰く、皆陳するを戰と曰う、と。其の信無きを尤[とが]む。故に獨戰を以て文を爲す。 〔傳〕十二年、夏、盟于曲池、平杞・莒也。隱四年、莒人伐杞。自是遂不平。 【読み】 〔傳〕十二年、夏、曲池に盟うは、杞・莒を平らぐるなり。隱四年、莒人杞を伐つ。是れより遂に平らがず。 公欲平宋・鄭。秋、公及宋公盟于句瀆之丘。句瀆之丘、卽穀丘也。宋以立厲公故、多責賂於鄭。鄭人不堪。故不平。○句、古侯反。瀆、音豆。 【読み】 公宋・鄭を平らげんと欲す。秋、公と宋公と句瀆[こうとう]の丘に盟う。句瀆の丘は、卽ち穀丘なり。宋厲公を立つるを以ての故に、多く賂を鄭に責む。鄭人堪えず。故に平らがず。○句は、古侯反。瀆は、音豆。 宋成未可知也。故又會于虛。冬、又會于龜。宋公辭平。故與鄭伯盟于武父。宋公貪鄭賂。故與公三會、而卒辭不與鄭平。 【読み】 宋の成[たい]らぎ未だ知る可からず。故に又虛に會す。冬、又龜に會す。宋公平らぎを辭す。故に鄭伯と武父に盟う。宋公鄭の賂を貪る。故に公と三たび會すれども、卒に辭して鄭と平らがず。 遂帥師而伐宋、戰焉。宋無信也。 【読み】 遂に師を帥て宋を伐ち、戰う。宋信無ければなり。 君子曰、苟信不繼、盟無益也。詩云、君子屢盟。亂是用長。無信也。詩、小雅。言無信故數盟。數盟則情疏。情疏則憾結。故云長亂。○長、丁丈反。 【読み】 君子曰く、苟も信繼がざれば、盟も益無し、と。詩に云う、君子屢々盟う。亂是を用て長ず、と。信無ければなり。詩は、小雅。言うこころは、信無き故に數々盟う。數々盟えば則ち情疏なり。情疏なれば則ち憾み結ぶ。故に亂を長ずと云う。○長は、丁丈反。 楚伐絞、軍其南門。莫敖屈瑕曰、絞小而輕。輕則寡謀。請無扞采樵者以誘之。扞、衛也。樵、薪也。○輕、遣政反。扞、戶旦反。 【読み】 楚絞を伐ち、其の南門に軍す。莫敖屈瑕曰く、絞小にして輕々し。輕々しければ則ち謀寡し。請う、樵を采る者を扞[まも]ること無くして以て之を誘[あざむ]かん、と。扞は、衛るなり。樵は、薪なり。○輕は、遣政反。扞は、戶旦反。 從之。絞人獲三十人。獲楚人也。 【読み】 之に從う。絞人三十人を獲たり。楚人を獲るなり。 明日絞人爭出、驅楚役徒於山中。楚人坐其北門、而覆諸山下。坐、猶守也。覆、設伏兵而待之。○覆、扶又反。 【読み】 明日絞人爭い出でて、楚の役徒を山中に驅る。楚人其の北門を坐[まも]りて、諸を山下に覆[おそ]う。坐は、猶守るのごとし。覆は、伏兵を設けて之を待つなり。○覆は、扶又反。 大敗之、爲城下之盟而還。城下盟、諸侯所深恥。 【読み】 大いに之を敗り、城下の盟を爲して還る。城下の盟は、諸侯の深く恥ずる所なり。 伐絞之役、楚師分涉於彭。彭水、在新城昌魏縣。 【読み】 絞を伐つの役に、楚の師分かれて彭を涉[わた]る。彭水は、新城昌魏縣に在り。 羅人欲伐之、使伯嘉諜之。三巡數之。羅、熊姓國。在宜城縣西山中。後徙南郡枝江縣。伯嘉、羅大夫。諜、伺也。巡、徧也。○數、色主反。 【読み】 羅人之を伐たんと欲し、伯嘉をして之を諜[うかが]わしむ。三たび巡りて之を數えぬ。羅は、熊姓の國。宜城縣の西山中に在り。後に南郡の枝江縣に徙る。伯嘉は、羅の大夫。諜は、伺うなり。巡は、徧[めぐ]るなり。○數は、色主反。 〔經〕十有三年、春、二月、公會紀侯・鄭伯、己巳、及齊侯・宋公・衛侯・燕人戰。齊師・宋師・衛師・燕師敗績。大崩曰敗績。例在莊十一年。或稱人、或稱師、史異辭也。衛宣公未葬、惠公稱侯以接鄰國、非禮也。 【読み】 〔經〕十有三年、春、二月、公紀侯・鄭伯に會し、己巳[つちのと・み]、齊侯・宋公・衛侯・燕人と戰う。齊の師・宋の師・衛の師・燕の師敗績す。大崩を敗績と曰う。例は莊十一年に在り。或は人と稱し、或は師と稱するは、史の異辭なり。衛の宣公未だ葬らざるに、惠公侯と稱して以て鄰國に接するは、禮に非ざるなり。 三月、葬衛宣公。無傳。 【読み】 三月、衛の宣公を葬る。傳無し。 夏、大水。無傳。 【読み】 夏、大水あり。傳無し。 秋、七月。冬、十月。無傳。 【読み】 秋、七月。冬、十月。傳無し。 〔傳〕十三年、春、楚屈瑕伐羅。鬭伯比送之、還。謂其御曰、莫敖必敗。舉趾高。心不固矣。趾、足也。 【読み】 〔傳〕十三年、春、楚の屈瑕羅を伐つ。鬭伯比之を送り、還る。其の御に謂いて曰く、莫敖は必ず敗れん。趾を舉ぐること高し。心固からず、と。趾は、足なり。 遂見楚子曰、必濟師。難言屈瑕將敗。故以益師諷諫。○見、賢遍反。難、乃旦反。 【読み】 遂に楚子に見えて曰く、必ず師を濟[ま]せ、と。屈瑕將に敗れんとするを言うことを難んずる。故に師を益すを以て諷諫す。○見は、賢遍反。難は、乃旦反。 楚子辭焉。不解其旨。故拒之。○解、戶買反。 【読み】 楚子辭す。其の旨を解せず。故に之を拒む。○解は、戶買反。 入告夫人鄧曼。鄧曼曰、大夫其非衆之謂。鄧曼、楚武王夫人。言伯比意不在於益衆也。 【読み】 入りて夫人鄧曼に告ぐ。鄧曼曰く、大夫は其れ衆を謂うには非ず。鄧曼は、楚の武王の夫人。言うこころは、伯比が意は衆を益すに在らず。 其謂君撫小民以信、訓諸司以德、而威莫敖以刑也。莫敖狃於蒲騷之役、將自用也。狃、忕也。蒲騷役、在十一年。○狃、女久反。忕、時世反。 【読み】 其れ君の小民を撫づるに信を以てし、諸司を訓[おし]うるに德を以てして、莫敖を威[おど]すに刑を以てせんことを謂うならん。莫敖蒲騷の役に狃[な]れて、將に自ら用いんとす。狃[じゅう]は、忕[せつ]なり。蒲騷の役は、十一年に在り。○狃は、女久反。忕は、時世反。 *忕は立心偏に犬とある。 必小羅。君若不鎭撫、其不設備乎。夫固謂君訓衆而好鎭撫之、撫小民以信也。○好、呼報反。又如字。 【読み】 必ず羅を小なりとせん。君若し鎭撫せずんば、其れ備えを設けざらんか。夫れ固より君の衆に訓えて好く之を鎭撫し、小民を撫づるに信を以てするなり。○好は、呼報反。又字の如し。 召諸司而勸之以令德、訓諸司以德也。 【読み】 諸司を召して之を勸むるに令德を以てし、諸司を訓うるに德を以てするなり。 見莫敖而告諸天之不假易也。諸、之也。言天不借貸慢易之人。威莫敖以刑也。○易、以豉反。 【読み】 莫敖を見て諸に天の易[あなど]るに假さざるを告げんことを謂うならん。諸は、之なり。言うこころは、天は慢易の人に借貸せず。莫敖を威すに刑を以てするなり。○易は、以豉反。 不然、夫豈不知楚師之盡行也。 【読み】 然らずんば、夫れ豈楚の師の盡く行きしを知らざんや、と。 楚子使賴人追之。不及。賴國、在義陽縣。賴人仕於楚者。○盡、津忍反。此類可以意求。 【読み】 楚子賴人をして之を追わしむ。及ばず。賴國は、義陽縣に在り。賴人は楚に仕うる者。○盡は、津忍反。此の類意を以て求む可し。 莫敖使徇于師曰、諫者有刑。徇、宣令也。○徇、似俊反。 【読み】 莫敖師に徇[とな]えしめて曰く、諫むる者は刑有らん、と。徇は、令を宣ぶるなり。○徇は、似俊反。 及鄢、亂次以濟。鄢水、在襄陽宜城縣。入漢。○鄢、於晩反。又於萬反。 【読み】 鄢[えん]に及び、次を亂して以て濟[わた]る。鄢水は、襄陽の宜城縣に在り。漢に入る。○鄢は、於晩反。又於萬反。 遂無次。且不設備、及羅。羅與盧戎兩軍之、盧戎、南蠻。 【読み】 遂に次無し。且備えを設けず、羅に及ぶ。羅と盧戎と兩つどころより之に軍し、盧戎は、南蠻。 大敗之。莫敖縊于荒谷。羣帥囚于冶父、縊、自經也。荒谷・冶父、皆楚地。 【読み】 大いに之を敗る。莫敖荒谷に縊[くび]る。羣帥冶父に囚われて、縊は、自ら經するなり。荒谷・冶父は、皆楚の地。 以聽刑。楚子曰、孤之罪也。皆免之。 【読み】 以て刑を聽く。楚子曰く、孤の罪なり、と。皆之を免す。 宋多責賂於鄭。立突賂。 【読み】 宋多く賂を鄭に責む。突を立つる賂なり。 鄭不堪命。故以紀・魯及齊與宋・衛・燕戰。不書所戰、後也。公後地期、而及其戰。故不書所戰之地。 【読み】 鄭命に堪えず。故に紀・魯を以[い]て齊と宋・衛・燕と戰う。戰う所を書さざるは、後れたればなり。公地期に後れて、其の戰に及ぶ。故に戰う所の地を書さず。 鄭人來請脩好。 【読み】 鄭人來りて好を脩めんことを請う。 〔經〕十有四年、春、正月、公會鄭伯于曹。脩十二年武父之好。以曹地、曹與會。 【読み】 〔經〕十有四年、春、正月、公鄭伯に曹に會す。十二年武父の好を脩む。曹を以て地するは、曹も會に與るなり。 無冰。無傳。書時失。 【読み】 冰無し。傳無し。時の失を書す。 夏、五、不書月、闕文。 【読み】 夏、五、月を書さざるは、闕文なり。 鄭伯使其弟語來盟。秋、八月、壬申、御廩災。御廩、藏公所親耕以奉粢盛之倉。天火曰災。例在宣十六年。○廩、力錦反。 【読み】 鄭伯其の弟語をして來盟せしむ。秋、八月、壬申[みずのえ・さる]、御廩災あり。御廩は、公の親ら耕して以て粢盛に奉ずる所を藏むるの倉。天火を災と曰う。例は宣十六年に在り。○廩は、力錦反。 乙亥、嘗。先其時、亦過也。旣戒日致齊。廩雖災、苟不害嘉穀、則祭不應廢。故書以示法。○先、悉薦反。 【読み】 乙亥[きのと・い]、嘗す。其の時に先だつも、亦過つなり。旣に日を戒めて致齊す。廩災ありと雖も、苟も嘉穀を害せざれば、則ち祭廢す應からず。故に書して以て法を示す。○先は、悉薦反。 冬、十有二月、丁巳、齊侯祿父卒。無傳。隱六年盟於艾。 【読み】 冬、十有二月、丁巳[ひのと・み]、齊侯祿父卒す。傳無し。隱六年艾[がい]に盟う。 宋人以齊人・蔡人・衛人・陳人伐鄭。凡師能左右之曰以。例在僖二十六年。 【読み】 宋人齊人・蔡人・衛人・陳人を以[い]て鄭を伐つ。凡そ師能く之を左右するを以ると曰う。例は僖二十六年に在り。 〔傳〕十四年、春、會于曹。曹人致餼。禮也。熟曰饔、生曰餼。 【読み】 〔傳〕十四年、春、曹に會す。曹人餼を致す。禮なり。熟を饔と曰い、生を餼と曰う。 夏、鄭子人來尋盟、且脩曹之會。子人、卽弟語也。其後爲子人氏。 【読み】 夏、鄭の子人來りて盟を尋[かさ]ね、且曹の會を脩む。子人は、卽ち弟語なり。其の後を子人氏とす。 秋、八月、壬申、御廩災。乙亥、嘗、書不害也。災其屋。救之則息。不及穀。故曰書不害。 【読み】 秋、八月、壬申[みずのえ・さる]、御廩災あり。乙亥[きのと・い]、嘗すとは、害あらざるを書すなり。其の屋に災す。之を救えば則ち息む。穀に及ばず。故に害あらざるを書すと曰う。 冬、宋人以諸侯伐鄭、報宋之戰也。在十二年。 【読み】 冬、宋人諸侯を以て鄭を伐つは、宋の戰に報ゆるなり。十二年に在り。 焚渠門、入及大逵、渠門、鄭城門。逵、道方九軌。 【読み】 渠門を焚き、入りて大逵[たいき]に及び、渠門は、鄭の城門。逵は、道九軌を方[なら]ぶるなり。 伐東郊、取牛首。東郊、鄭郊。牛首、鄭邑。 【読み】 東郊を伐ち、牛首を取る。東郊は、鄭の郊。牛首は、鄭の邑。 以大宮之椽歸、爲盧門之椽。大宮、鄭祖廟。盧門、宋城門。告伐而不告入取。故不書。○大、音泰。 【読み】 大宮の椽を以て歸り、盧門の椽と爲す。大宮は、鄭の祖廟。盧門は、宋の城門。伐つを告げて入りて取るを告げず。故に書さず。○大は、音泰。 〔經〕十有五年、春、二月、天王使家父來求車。三月、乙未、天王崩。無傳。桓王也。 【読み】 〔經〕十有五年、春、二月、天王家父をして來りて車を求めしむ。三月、乙未[きのと・ひつじ]、天王崩ず。傳無し。桓王なり。 夏、四月、己巳、葬齊僖公。無傳。 【読み】 夏、四月、己巳[つちのと・み]、齊の僖公を葬る。傳無し。 五月、鄭伯突出奔蔡。突旣簒立、權不足以自固、又不能倚任祭仲、反與小臣造賊盜之計。故以自奔爲文、罪之也。例在昭三年。 【読み】 五月、鄭伯突出でて蔡に奔る。突旣に簒立し、權以て自ら固くするに足らず、又祭仲に倚任すること能わず、反って小臣と賊盜の計を造す。故に自ら奔るを以て文を爲すは、之を罪するなり。例は昭三年に在り。 鄭世子忽復歸于鄭。忽實居君位。故今還、以復其位之例爲文也。稱世子者、忽爲大子、有母氏之寵、宗卿之援、有功於諸侯。此大子之盛者也。而守介節、以失大國之助、知三公子之强、不從祭仲之言、修小善、絜小行、從匹夫之仁、忘社稷之大計。故君子謂之善自爲謀。言不能謀國也。父卒而不能自君、鄭人亦不君之、出則降名以赴、入則逆以大子之禮。始於見逐、終於見殺。三公子更立、亂鄭國者、實忽之由。復歸例在成十八年。 【読み】 鄭の世子忽鄭に復歸す。忽實に君位に居る。故に今還るとき、其の位に復るの例を以て文を爲すなり。世子と稱するは、忽大子と爲りて、母氏の寵、宗卿の援け有り、諸侯に功有り。此れ大子の盛んなる者なり。而れども介節を守りて、以て大國の助けを失い、三公子の强きを知れども、祭仲の言に從わず、小善を修め、小行を絜くして、匹夫の仁に從い、社稷の大計を忘る。故に君子之を善く自ら謀を爲すと謂う。國を謀ること能わざるを言うなり。父卒して自ら君たること能わず、鄭人も亦之を君とせず、出づれば則ち名を降して以て赴[つ]げ、入れば則ち逆[むか]うるに大子の禮を以てす。逐わるるに始まり、殺さるるに終わる。三公子更々立ちて、鄭國を亂る者は、實に忽に之れ由れり。復歸の例は成十八年に在り。 許叔入于許。許叔、莊公弟也。隱十一年、鄭使許大夫奉許叔、居許東偏。鄭莊公旣卒、乃入居位。許人嘉之、以字告也。叔本不去國。雖稱入、非國逆例。 【読み】 許叔許に入る。許叔は、莊公の弟なり。隱十一年、鄭許の大夫をして許叔を奉じて、許の東偏に居らしむ。鄭の莊公旣に卒して、乃ち入りて位に居る。許人之を嘉し、字を以て告ぐるなり。叔は本國を去らず。入ると稱すと雖も、國逆うるの例に非ず。 公會齊侯于艾。邾人・牟人・葛人來朝。無傳。三人皆附庸之世子也。其君應稱名。故其子降稱人。牟國、今泰山牟縣。葛國、在梁國寧陵縣東北。 【読み】 公齊侯に艾[がい]に會す。邾人[ちゅひと]・牟人[ぼうひと]・葛人來朝す。傳無し。三人は皆附庸の世子なり。其の君應に名を稱すべし。故に其の子降して人と稱す。牟國は、今の泰山の牟縣。葛國は、梁國寧陵縣の東北に在り。 秋、九月、鄭伯突入于櫟。櫟、鄭別都也。今河南陽翟縣。未得國、直書入、無義例也。○櫟、音歷。 【読み】 秋、九月、鄭伯突櫟[れき]に入る。櫟は、鄭の別都なり。今の河南陽翟縣なり。未だ國を得ざれども、直に入ると書すは、義例無きなり。○櫟は、音歷。 冬、十有一月、公會宋公・衛侯・陳侯于袲伐鄭。袲、宋地。在沛國相縣西南。先行會禮而後伐也。○袲、昌氏反。相、息亮反。 【読み】 冬、十有一月、公宋公・衛侯・陳侯に袲[し]に會して鄭を伐つ。袲は、宋の地。沛國相縣の西南に在り。先ず會禮を行いて後に伐つなり。○袲は、昌氏反。相は、息亮反。 〔傳〕十五年、春、天王使家父來求車、非禮也。 【読み】 〔傳〕十五年、春、天王家父をして來りて車を求めしむるは、禮に非ざるなり。 諸侯不貢車服。車服、上之所以賜下。 【読み】 諸侯は車服を貢せず。車服は、上の下に賜う所以なり。 天子不私求財。諸侯有常職貢。 【読み】 天子は私に財を求めず。諸侯常の職貢有り。 祭仲專。鄭伯患之、使其婿雍糾殺之。將享諸郊。雍姬知之。謂其母曰、父與夫孰親。其母曰、人盡夫也。父一而已。胡可比也。婦人在室則天父、出則天夫。女以爲疑。故母以所生爲本解之。 【読み】 祭仲專なり。鄭伯之を患え、其の婿雍糾をして之を殺さしめんとす。將に諸を郊に享せんとす。雍姬之を知る。其の母に謂いて曰く、父と夫と孰れか親しき、と。其の母曰く、人は盡く夫なり。父は一りのみ。胡ぞ比す可けんや、と。婦人室に在れば則ち父を天とし、出づれば則ち夫を天とす。女以て疑いを爲す。故に母所生を以て本と爲して之を解く。 遂告祭仲曰、雍氏舍其室、而將享子於郊。吾惑之。以告。祭仲殺雍糾、尸諸周氏之汪。汪、池也。周氏、鄭大夫。殺而暴其尸以示戮也。○舍、音捨。汪、烏黃反。暴、步卜反。 【読み】 遂に祭仲に告げて曰く、雍氏其の室を舍てて、將に子を郊に享せんとす。吾れ之に惑う、と。以て告げり。祭仲雍糾を殺して、諸を周氏の汪に尸[さら]す。汪は、池なり。周氏は、鄭の大夫。殺して其の尸を暴して以て戮を示すなり。○舍は、音捨。汪は、烏黃反。暴は、步卜反。 公載以出。愍其見殺。故載其尸共出國。 【読み】 公載せて以て出づ。其の殺さるるを愍[いた]む。故に其の尸を載せて共に國を出づ。 曰、謀及婦人。宜其死也。 【読み】 曰く、謀婦人に及べり。宜なり其の死すること、と。 夏、厲公出奔蔡。六月、乙亥、昭公入。 【読み】 夏、厲公出でて蔡に奔る。六月、乙亥[きのと・い]、昭公入る。 許叔入于許。 【読み】 許叔許に入る。 公會齊侯于艾、謀定許也。 【読み】 公齊侯に艾に會するは、許を定めんことを謀るなり。 秋、鄭伯因櫟人殺檀伯、而遂居櫟。檀伯、鄭守櫟大夫。 【読み】 秋、鄭伯櫟人に因りて檀伯を殺して、遂に櫟に居る。檀伯は、鄭の櫟を守る大夫。 冬、會于袲、謀伐鄭、將納厲公也。弗克而還。 【読み】 冬、袲に會して、鄭を伐たんことを謀るは、將に厲公を納れんとするなり。克わずして還る。 〔經〕十有六年、春、正月、公會宋公・蔡侯・衛侯于曹。夏、四月、公會宋公・衛侯・陳侯・蔡侯伐鄭。春旣謀之。今書會者、魯諱議納不正。蔡常在衛上。今序陳下、蓋後至。 【読み】 〔經〕十有六年、春、正月、公宋公・蔡侯・衛侯に曹に會す。夏、四月、公宋公・衛侯・陳侯・蔡侯に會して鄭を伐つ。春旣に之を謀る。今會を書すは、魯不正を納るることを議するを諱みてなり。蔡は常に衛の上に在り。今陳の下に序ずるは、蓋し後れて至るならん。 秋、七月、公至自伐鄭。用飮至之禮。故書。 【読み】 秋、七月、公鄭を伐ちてより至る。飮至の禮を用ゆ。故に書す。 冬、城向。傳曰、書時也。而下有十一月、舊說因謂傳誤。此城向、亦倶是十一月、但本事異、各隨本而書之耳。經書夏、叔弓如滕、五月、葬滕成公、傳云五月、叔弓如滕。卽知但稱時者、未必與下月異也。又推校此年、閏在六月、則月却而節前、水星可在十一月而正也。詩云、定之方中、作于楚宮。此未正中也。功役之事、皆揔指天象。不與言歷數同也。故傳之釋經、皆通言一時。不月別。○向、失亮反。定、丁佞反。 【読み】 冬、向[しょう]に城く。傳に曰く、時なるを書すなり、と。而れども下に十一月有れば、舊說に因りて傳の誤りなりと謂う。此の向に城くも、亦倶に是れ十一月なるも、但本事異なれば、各々本に隨いて之を書すのみ。經に夏、叔弓滕に如く、五月、滕の成公を葬ると書し、傳には五月、叔弓滕に如くと云う。卽ち知る、但時を稱する者は、未だ必ずしも下の月と異ならざるを。又此の年を推し校[はか]るに、閏六月に在れば、則ち月却[しりぞ]きて節前[すす]めば、水星十一月に在りて正しかる可し。詩に云う、定の方に中せんとす、楚宮を作る、と。此れ未だ正中ならざるなり。功役の事は、皆揔べて天象を指す。歷數を言うと同じからざるなり。故に傳の經を釋く、皆通して一時を言う。月ごとに別たず。○向は、失亮反。定は、丁佞反。 十有一月、衛侯朔出奔齊。惠公也。朔讒構取國。故不言二公子逐。罪之也。 【読み】 十有一月、衛侯朔出でて齊に奔る。惠公なり。朔讒構して國を取る。故に二公子逐うと言わず。之を罪するなり。 〔傳〕十六年、春、正月、會于曹、謀伐鄭也。前年冬謀納厲公、不克。故復更謀。 【読み】 〔傳〕十六年、春、正月、曹に會するは、鄭を伐たんことを謀るなり。前年冬厲公を納れんことを謀りて、克わず。故に復更に謀る。 夏、伐鄭。 【読み】 夏、鄭を伐つ。 秋、七月、公至自伐鄭、以飮至之禮也。 【読み】 秋、七月、公鄭を伐ちてより至るとは、飮至の禮を以てすればなり。 冬、城向、書時也。 【読み】 冬、向に城くは、時なるを書すなり。 初、衛宣公烝於夷姜、生急子。夷姜、宣公之庶母也。上淫曰烝。 【読み】 初め、衛の宣公夷姜に烝して、急子を生む。夷姜は、宣公の庶母なり。上淫を烝と曰う。 屬諸右公子。爲之娶於齊而美。公取之、生壽及朔。屬壽於左公子。左右媵之子、因以爲號。○屬、音燭。下同。爲、于僞反。媵、羊證反。 【読み】 諸を右公子に屬す。之が爲に齊に娶りて美なり。公之を取り、壽と朔とを生む。壽を左公子に屬す。左右媵の子、因りて以て號と爲す。○屬は、音燭。下も同じ。爲は、于僞反。媵は、羊證反。 夷姜縊。失寵而自經死。 【読み】 夷姜縊[くび]る。寵を失いて自ら經して死す。 宣姜與公子朔構急子。宣姜、宣公所取急子之妻。構會其過惡。○構、古豆反。會、古外反。 【読み】 宣姜公子朔と急子を構う。宣姜は、宣公が取る所の急子の妻。其の過惡を構會す。○構は、古豆反。會は、古外反。 公使諸齊、使盜待諸莘、將殺之。莘、衛地。陽平縣西北有莘亭。○公使、所吏反。莘、所巾反。 【読み】 公諸を齊に使いせしめて、盜をして諸を莘[しん]に待たしめ、將に之を殺さんとす。莘は、衛の地。陽平縣の西北に莘亭有り。○公使は、所吏反。莘は、所巾反。 壽子告之、使行。行、去也。 【読み】 壽子之に告げて、行[さ]らしむ。行は、去るなり。 不可、曰、棄父之命、惡用子矣。惡、安也。○惡、音烏。 【読み】 可[き]かずして、曰く、父の命を棄てば、惡[いずく]んぞ子を用いん。惡は、安んぞなり。○惡は、音烏。 有無父之國則可也。及行、飮以酒、壽子載其旌以先。盜殺之。急子至、曰、我之求也。此何罪。請殺我乎。又殺之。二公子故怨惠公。 【読み】 父無きの國有らば則ち可なり、と。行くに及んで、飮ましむるに酒を以てし、壽子其の旌を載せて以て先だつ。盜之を殺す。急子至りて、曰く、我を之れ求むるならん。此れ何の罪かある。請う、我を殺さん、と。又之を殺す。二公子故に惠公を怨む。 十一月、左公子洩、右公子職、立公子黔牟。黔牟、羣公子。○飮、於鴆反。洩、息列反。黔、其廉反。 【読み】 十一月、左公子洩[せつ]、右公子職、公子黔牟[けんぼう]を立つ。黔牟は、羣公子。○飮は、於鴆反。洩は、息列反。黔は、其廉反。 惠公奔齊。 【読み】 惠公齊に奔る。 〔經〕十有七年、春、正月、丙辰、公會齊侯・紀侯盟于黃。黃、齊地。 【読み】 〔經〕十有七年、春、正月、丙辰[ひのえ・たつ]、公齊侯・紀侯に會して黃に盟う。黃は、齊の地。 二月、丙午、公會邾儀父盟于趡。趡、魯地。稱字、義與蔑盟同。二月無丙午。丙午、三月四日也。日月必有誤。○趡、翠軌反。 【読み】 二月、丙午[ひのえ・うま]、公邾[ちゅ]の儀父に會して趡[すい]に盟う。趡は、魯の地。字を稱するは、義蔑の盟と同じ。二月に丙午無し。丙午は、三月四日なり。日月必ず誤り有らん。○趡は、翠軌反。 夏、五月、丙午、及齊師戰于奚。奚、魯地。皆陳曰戰。○陳、直覲反。 【読み】 夏、五月、丙午、齊の師と奚に戰う。奚は、魯の地。皆陳するを戰と曰う。○陳は、直覲反。 六月、丁丑、蔡侯封人卒。十一年、大夫盟于折。 【読み】 六月、丁丑[ひのと・うし]、蔡侯封人卒す。十一年、大夫折に盟う。 秋、八月、蔡季自陳歸于蔡。季、蔡侯弟也。言歸、爲陳所納。 【読み】 秋、八月、蔡季陳より蔡に歸る。季は、蔡侯の弟なり。歸と言うは、陳の爲に納れらるればなり。 癸巳、葬蔡桓侯。無傳。稱侯、蓋謬誤。三月而葬、速。 【読み】 癸巳[みずのと・み]、蔡の桓侯を葬る。傳無し。侯と稱するは、蓋し謬誤ならん。三月にして葬るは、速きなり。 及宋人・衛人伐邾。冬、十月朔、日有食之。甲・乙者、歷之紀也。晦・朔者、日月之會也。日食不可以不存晦・朔。晦・朔須甲・乙而可推。故日食、必以書朔日爲例。 【読み】 宋人・衛人と邾を伐つ。冬、十月朔、日之を食する有り。甲・乙は、歷の紀なり。晦・朔は、日月の會なり。日食は以て晦・朔を存せざる可からず。晦・朔は甲・乙を須[もっ]て推す可し。故に日食は、必ず朔日を書すを以て例とす。 〔傳〕十七年、春、盟于黃、平齊・紀、且謀衛故也。齊欲滅紀、衛逐其君。 【読み】 〔傳〕十七年、春、黃に盟うは、齊・紀を平らげ、且衛の故を謀るなり。齊は紀を滅ぼさんと欲し、衛は其の君を逐う。 及邾儀父盟于趡、尋蔑之盟也。蔑盟、在隱元年。 【読み】 邾の儀父と趡に盟うは、蔑の盟を尋[かさ]ぬるなり。蔑の盟は、隱元年に在り。 夏、及齊師戰于奚、疆事也。爭疆界也。 【読み】 夏、齊の師と奚に戰うは、疆の事なり。疆界を爭うなり。 於是齊人侵魯疆。疆吏來告。公曰、疆場之事、愼守其一、而備其不虞。虞、度也。不度、猶不意也。○場、音亦。 【読み】 是に於て齊人魯の疆を侵す。疆吏來り告ぐ。公曰く、疆場の事は、愼みて其の一を守りて、其の不虞に備えよ。虞は、度るなり。不度は、猶不意のごとし。○場は、音亦。 姑盡所備焉。事至而戰。又何謁焉。齊背盟而來。公以信待。故不書侵伐。 【読み】 姑く備うる所を盡くせ。事至らば戰え。又何ぞ謁[つ]げん、と。齊盟に背きて來れり。公信を以て待つ。故に侵伐を書さず。 蔡桓侯卒。蔡人召蔡季于陳。桓侯無子。故召季而立之。季内得國人之望、外有諸侯之助。故書字以善得衆。稱歸以明外納。 【読み】 蔡の桓侯卒す。蔡人蔡季を陳より召す。桓侯子無し。故に季を召して之を立つ。季内に國人の望を得、外に諸侯の助有り。故に字を書して以て衆を得るを善す。歸ると稱して以て外より納るるを明かす。 秋、蔡季自陳歸于蔡、蔡人嘉之也。嘉之。上以字告。 【読み】 秋、蔡季陳より蔡に歸るとは、蔡人之を嘉するなり。之を嘉す。上に字を以て告ぐ。 伐邾、宋志也。邾・宋爭疆。魯從宋志、背趡之盟。 【読み】 邾を伐つは、宋の志なり。邾・宋疆を爭う。魯宋の志に從いて、趡の盟に背く。 冬、十月朔、日有食之。不書日、官失之也。 【読み】 冬、十月朔、日之を食する有り。日を書さざるは、官之を失えるなり。 天子有日官。諸侯有日御。日官・日御、典歷數者。 【読み】 天子に日官有り。諸侯に日御有り。日官・日御は、歷數を典る者。 日官居卿以厎日。禮也。日官、天子掌歷者。不在六卿之數、而位從卿。故言居卿也。厎、平也。謂平歷數。○厎、音旨。 【読み】 日官は卿に居りて以て日を厎[たい]らかにす。禮なり。日官は、天子の歷を掌る者。六卿の數に在らずして、位は卿に從う。故に卿に居ると言うなり。厎は、平らなり。歷數を平らかにするを謂う。○厎は、音旨。 日御不失日、以授百官于朝。日官平歷以班諸侯。諸侯奉之不失天時、以授百官。 【読み】 日御日を失わずして、以て百官に朝に授く。日官歷を平らかにして以て諸侯に班[わか]つ。諸侯之を奉じて天の時を失わず、以て百官を授く。 初、鄭伯將以高渠彌爲卿。昭公惡之、固諫。不聽。昭公立。懼其殺己也、辛卯、弑昭公而立公子亹。公子亹、昭公弟。○惡、烏路反。亹、音尾。 【読み】 初め、鄭伯將に高渠彌を以て卿と爲さんとす。昭公之を惡み、固く諫む。聽かず。昭公立つ。其の己を殺さんことを懼るるや、辛卯[かのと・う]、昭公を弑して公子亹[び]を立つ。公子亹は、昭公の弟。○惡は、烏路反。亹は、音尾。 君子謂、昭公知所惡矣。公子達曰、公子達、魯大夫。 【読み】 君子謂う、昭公は惡む所を知れり、と。公子達曰く、公子達は、魯の大夫。 高伯其爲戮乎。復惡已甚矣。復、重也。本爲昭公所惡、而復弑君、重爲惡也。○復、扶又反。一音服。則乖註意。復惡、疑報惡之誤。韓非子論之詳矣。 【読み】 高伯は其れ戮せられんか。惡を復[かさ]ぬること已甚し、と。復は、重ぬるなり。本昭公の爲に惡まれて、復君を弑するは、重ねて惡を爲すなり。○復は、扶又反。一に音服。則ち乖註の意。復惡は、疑うらくは報惡の誤りならん。韓非子之を論ずること詳らかなり。 〔經〕十有八年、春、王正月、公會齊侯于濼。濼水、在濟南歷城縣西、北入濟。○濼、盧篤力角二反。 【読み】 〔經〕十有八年、春、王の正月、公齊侯に濼に會す。濼水は、濟南歷城縣の西に在り、北して濟に入る。○濼は、盧篤力角二反。 公與夫人姜氏遂如齊。公本與夫人倶行。至濼、公與齊侯行會禮。故先書會濼。旣會而相隨至齊。故曰遂。 【読み】 公夫人姜氏と遂に齊に如く。公本夫人と倶に行く。濼に至り、公齊侯と會禮を行う。故に先ず濼に會するを書す。旣に會して相隨いて齊に至る。故に遂にと曰う。 夏、四月、丙子、公薨于齊。不言戕、諱之也。戕例在宣十八年。 【読み】 夏、四月、丙子[ひのえ・ね]、公齊に薨ず。戕[そこな]わると言わざるは、之を諱みてなり。戕うの例は宣十八年に在り。 丁酉、公之喪至自齊。無傳。告廟也。丁酉、五月一日。有日而無月。 【読み】 丁酉[ひのと・とり]、公の喪齊より至る。傳無し。廟に告ぐるなり。丁酉は、五月一日。日有りて月無し。 秋、七月。冬、十有二月、己丑、葬我君桓公。無傳。九月乃葬。緩慢也。 【読み】 秋、七月。冬、十有二月、己丑[つちのと・うし]、我が君桓公を葬る。傳無し。九月乃ち葬る。緩慢なり。 〔傳〕十八年、春、公將有行。遂與姜氏如齊。始議行事。 【読み】 〔傳〕十八年、春、公將に行くこと有らんとす。遂に姜氏と齊に如く。始めて行く事を議す。 申繻曰、女有家、男有室、無相瀆也、謂之有禮。易此必敗。女安夫之家、夫安妻之室。違此則爲瀆。今公將姜氏如齊。故知其當致禍亂。 【読み】 申繻曰く、女に家有り、男に室有り、相瀆るること無き、之を禮有りと謂う。此を易えば必ず敗れん、と。女は夫の家を安んじ、夫は妻の室を安んず。此に違えば則ち瀆るると爲す。今公姜氏を將[い]て齊に如く。故に其の當に禍亂を致すべきを知る。 公會齊侯于濼、遂及文姜如齊。齊侯通焉。公謫之。謫、譴也。○謫、直革反。 【読み】 公齊侯に濼に會し、遂に文姜と齊に如く。齊侯通ず。公之を謫[せ]む。謫は、譴むるなり。○謫は、直革反。 以告。夫人告齊侯。 【読み】 以て告ぐ。夫人齊侯に告ぐ。 夏、四月、丙子、享公、齊侯爲公設享燕之禮。 【読み】 夏、四月、丙子[ひのえ・ね]、公を享し、齊侯公の爲に享燕の禮を設く。 使公子彭生乘公。公薨于車。上車曰乘。彭生多力、拉公幹而殺之。○乘、如字。又繩證反。拉、力答反。幹、古旦反。 【読み】 公子彭生をして公を乘せしむ。公車に薨ず。車に上るを乘ると曰う。彭生多力、公の幹[からだ]を拉[ひし]いで之を殺す。○乘は、字の如し。又繩證反。拉は、力答反。幹は、古旦反。 魯人告于齊曰、寡君畏君之威、不敢寧居。來脩舊好、禮成而不反。無所歸咎、惡於諸侯。請以彭生除之。除恥辱之惡也。 【読み】 魯人齊に告げて曰く、寡君君の威を畏れて、敢えて寧居せず。來りて舊好を脩めしに、禮成りて反らず。咎を歸する所無く、諸侯に惡し。請う、彭生を以て之を除かん、と。恥辱の惡を除くなり。 齊人殺彭生。不書、非卿。 【読み】 齊人彭生を殺す。書さざるは、卿に非ざればなり。 秋、齊侯師于首止。陳師首止、討鄭弑君也。首止、衛地。陳留襄邑縣東南有首郷。 【読み】 秋、齊侯首止に師す。師を首止に陳して、鄭の君を弑するを討つなり。首止は、衛の地。陳留襄邑縣の東南に首郷有り。 子亹會之。高渠彌相。不知齊欲討己。○相、息亮反。 【読み】 子亹之に會す。高渠彌相[たす]く。齊の己を討ぜんと欲するを知らず。○相は、息亮反。 七月、戊戌、齊人殺子亹、而轘高渠彌。車裂曰轘。○轘、音患。 【読み】 七月、戊戌[つちのえ・いぬ]、齊人子亹を殺して、高渠彌を轘にす。車裂を轘と曰う。○轘は、音患。 祭仲逆鄭子于陳而立之。鄭子、昭公弟、子儀也。 【読み】 祭仲鄭子を陳より逆[むか]えて之を立つ。鄭子は、昭公の弟、子儀なり。 是行也、祭仲知之。故稱疾不往。人曰、祭仲以知免。仲曰、信也。時人譏祭仲失忠臣之節。仲以子亹爲渠彌所立。本旣不正。又不能固位安民。宜其見除。故卽而然譏者之言、以明本意。○知、音智。 【読み】 是の行や、祭仲之を知れり。故に疾と稱して往かず。人曰く、祭仲は知を以て免れたり、と。仲曰く、信なり、と。時人祭仲の忠臣の節を失うを譏る。仲以[おも]えらく、子亹は渠彌の爲に立てらる。本旣に正しからず。又位を固くし民を安んずること能わず。宜なり其の除かるること、と。故に卽いて譏者の言を然りとし、以て本意を明かす。○知は、音智。 周公欲弑莊王、而立王子克。莊王、桓王大子。王子克、莊王弟、子儀。 【読み】 周公莊王を弑して、王子克を立てんと欲す。莊王は、桓王の大子。王子克は、莊王の弟、子儀なり。 辛伯告王。遂與王殺周公黑肩。王子克奔燕。辛伯、周大夫。 【読み】 辛伯王に告ぐ。遂に王と周公黑肩を殺す。王子克燕に奔る。辛伯は、周の大夫。 初、子儀有寵於桓王。桓王屬諸周公。辛伯諫曰、竝后、妾如后。○屬、音燭。 【読み】 初め、子儀桓王に寵有り。桓王諸を周公に屬す。辛伯諫めて曰く、后に竝び、妾后の如し。○屬は、音燭。 匹嫡、庶如嫡。 【読み】 嫡に匹し、庶嫡の如し。 兩政、臣擅命。 【読み】 政を兩つにし、臣命を擅[ほしいまま]にす。 耦國、都如國。 【読み】 國に耦[なら]ぶは、都國の如し。 亂之本也。周公弗從。故及。及於難也。 【読み】 亂の本なり、と。周公從わず。故に及べり。難に及ぶなり。 桓 經元年。脩好。呼報反。傳同。近垂。附近之近。令鄭。力呈反。 傳。渝盟。羊主反。無享。許丈反。遣使。所吏反。宋華。戶化反。大夫氏也。後皆同。父督。音篤。 經二年。閏。音圭。召陵。上照反。 傳。爲賂。于僞反。注除爲會一字竝同。惡其。烏路反。婉。於阮反。大宰。音泰。遂相。息亮反。下注傳相同。著儉。張慮反。後不音者同。祀天車。本或無天字者非。袞。古本反。黻。音弗。下同。笏。音忽。舄。音昔。紞。字林、丁坎反。而上。時掌反。下上下同。藉玉。在夜反。馬膺。於陵反。黼。音甫。相戾。力計反。械。戶戒反。鈴。音零。額。顏客反。鑣。彼驕反。旂。勤衣反。而寘。之豉反。置也。官邪。似嗟反。雒邑。本亦作洛。受夏。戶雅反。郟。古洽反。鄏。音辱。近楚。附近之近。舊好。呼報反。注同。以上。時掌反。曰仇。音求。君之名子。如字。或彌政反。其替。他計反。廢也。少子。詩照反。以諷。方鳳反。適子。丁歷反。爲小宗。本或作爲大宗誤。等衰。初危反。注同。無復。扶又反。分別。彼列反。衰殺。所界反。覦。字林、羊住反。說文云、欲也。侯甸。徒練反。 經三年。約言。如字。又於妙反。長垣。音袁。 傳。隰。下溼曰隰。騑。芳非反。各徇。似俊反。媒介。音界。之好。呼報反。注同。齊侯送姜氏。本或作送姜氏于讙。公子。公女。馮翊。音翼。 經四年。公狩。手又反。夏之。戶雅反。下同。伯糾。居黝反。 傳。 經五年。雩。音于。祭名。龍見。賢遍反。螽。音終。定陶。同勞反。 傳。五父。音甫。襲。音習。王卒。尊忽反。下同。縫。扶容反。五乘。繩證反。麾。許危反。名仲字足。一本作字仲足。○今本亦仲足。重言。直用反。遠爲。于僞反。閉。必計反。又必結反。字林、方結反。烝。之承反。不復。音服。後不音者皆同。危難。乃旦反。 經六年。省文。所景反。閱。音悅。是適。丁歷反。傳同。長子。丁丈反。 傳。瑕。下加反。而被。皮寄反。下注被甲同。難閒。閒厠之閒。師侈。昌氏反。又式氏反。抗衡。苦浪反。矯舉。居兆反。蕃滋。音煩。瘯、本又作蔟。同。無疥。音界。癬。息淺反。說文云、乾瘍。遠聞。音問。又如字。九族。杜釋與孔安國・鄭玄不同。禋祀。音因。饑。音飢。又音機。饋。其媿反。遣也。餼。許旣反。牲腥曰餼。桑弧。音胡。蓬矢。步工反。于阼。才故反。○今本于作於。鯉。音里。周人以諱事神名。絶句。衆家多以名字屬下句。鐸。待洛反。徇。似俊反。本又作殉。同。 經七年。焚。扶云反。綏來。須唯反。 傳。辟陋。本又作僻。同。郟。古洽反。 經八年。烝。之承反。爲下。于僞反。復烝。扶又反。 傳。釁。許覲反。注同。弋。餘職反。將失楚師。一本無師字。天去。起呂反。注同。 經九年。伸父母。音申。 傳。爲書。于僞反。爲好。呼報反。沔。面善反。陳。一如字。而夾。古洽反。又音古協反。宵潰。戶對反。夏陽。戶雅反。適子。丁歷反。享曹。許兩反。施父。音甫。 經十年。中背。如字。一音丁仲反。下音佩。 傳。詹父。章廉反。諺。音彥。以見。賢遍反。 經十一年。聽迫。吐定反。于折。一音一列反。須昌。宣踰反。 傳。屈。居勿反。楚大夫氏。貳軫。音二。下之忍反。蒲騷。一音縿。州蓼。音了。本或作鄝。同。江夏。戶雅反。溳城。音云。亦作鄖。○今本亦鄖。棘。紀力反。湖。音胡。且日。人逸反。虞度。待洛反。郊郢。一音以政反。恃近。附近之近。盍請。戶臘反。濟。箋計反。億兆。於力反。大援。於眷反。亹。本或作斖。封疆。居良反。姞。一音其秩反。應命。應對之應。 經十二年。汶。音問。躍。羊略反。武父。音甫。地名有父字者皆同甫音。重書。直用反。下同。以見。賢遍反。皆陳。直覲反。 傳。婁盟。力倶反。本又作屢。音同。○今本亦屢。故數。音朔。下同。而憾。戶暗反。○今本而作則。采樵。在遙反。諜。徒協反。枝江。質而反。諜伺也。音笥。巡徧。音遍。 經十三年。 傳。必濟。箋計反。風諫。方鳳反。本亦作諷。○今本亦諷。狃忕。一音時設反。不借。子夜反。貸。他代反。慢。武諫反。亂次以濟。本或作亂次以濟其水。廬。如字。本或作盧。音同。○今本亦盧。縊于。一豉反。荒谷。如字。本或作巟。音同。冶父。音也。脩好。呼報反。 經十四年。之好。呼報反。曹與。音預。先其。一如字。致齊。側皆反。 傳。逵。求龜反。椽。直專反。榱也。圓曰椽、方曰桷。說文云、周謂之榱、齊・魯謂之桷。 經十五年。倚任。於綺反。守介。音界。小行。下孟反。更立。音庚。牟人。亡侯反。翟。徒歷反。 傳。檀。徒丹反。 經十六年。 傳。故復。扶又反。烝。之承反。急子。如字。詩作伋。上淫。時掌反。一音如字。飮以酒。一本以作之。黔。一音琴。 經十七年。 傳。疆事。居良反。注及下皆同。虞度。待洛反。下同。齊背。音佩。下同。復重。直用反。下同。 經十八年。濼。一音洛。說文、匹沃反。言戕。在良反。 傳。瀆。徒木反。謫。責也。王又丁革反。譴。遣戰反。爲公。于僞反。上車。時掌反。舊好。呼報反。歸咎。其九反。裂。音列。以知。一如字。欲弑。申志反。匹嫡。丁歷反。注同。臣擅。市戰反。於難。乃旦反。
春秋左氏傳校本第三 莊公 起元年盡三十二年 晉 杜氏 集解 唐 陸氏 音義 尾張 秦 鼎 校本 莊公 名同。桓公子。母文姜。謚法、勝敵克亂曰莊。 【読み】 莊公 名は同。桓公の子。母は文姜。謚法に、敵に勝ち亂に克つを莊と曰う、と。 〔經〕元年、春、王正月。三月、夫人孫于齊。夫人、莊公母也。魯人責之。故出奔。内諱奔謂之孫。猶孫讓而去。○孫、本作遜。 【読み】 〔經〕元年、春、王の正月。三月、夫人齊に孫[のが]る。夫人は、莊公の母なり。魯人之を責む。故に出奔す。内奔るを諱みて之を孫ると謂う。猶孫讓して去るがごとし。○孫は、本遜に作る。 夏、單伯送王姬。無傳。單伯、天子卿也。單、采地。伯、爵也。王將嫁于齊、旣命魯爲主。故單伯送女、不稱使也。王姬不稱字、以王爲尊、且別於内女也。天子嫁女於諸侯、使同姓諸侯主之、不親昏。尊卑不敵。○單、音善。 【読み】 夏、單伯[ぜんはく]王姬を送る。傳無し。單伯は、天子の卿なり。單は、采地。伯は、爵なり。王將に齊に嫁がせんとして、旣に魯に命じて主と爲す。故に單伯女を送るに、使と稱せず。王姬字を稱せざるは、王を以て尊と爲し、且内女に別つなり。天子の女を諸侯に嫁するは、同姓の諸侯をして之を主らしめて、親ら昏せず。尊卑敵せざらればなり。○單は、音善。 秋、築王姬之館于外。公在諒闇、慮齊侯當親迎。不忍便以禮接於廟、又不敢逆王命。故築舍於外。○諒、音梁。又音亮。迎、魚敬反。 【読み】 秋、王姬の館を外に築く。公諒闇に在り、齊侯當に親迎すべきを慮る。便ち禮を以て廟に接するに忍びず、又敢えて王命に逆わず。故に舍を外に築く。○諒は、音梁。又音亮。迎は、魚敬反。 冬、十月、乙亥、陳侯林卒。無傳。未同盟、而赴以名。 【読み】 冬、十月、乙亥[きのと・い]、陳侯林卒す。傳無し。未だ同盟せざれども、赴[つ]ぐるに名を以てす。 王使榮叔來錫桓公命。無傳。榮叔、周大夫。榮、氏。叔、字。錫、賜也。追命桓公、褒稱其德。若昭七年、王追命衛襄之比。 【読み】 王榮叔をして來りて桓公に命を錫わしむ。傳無し。榮叔は、周の大夫。榮は、氏。叔は、字。錫は、賜うなり。桓公に追命して、其の德を褒稱す。昭七年、王衛襄に追命するの比の若し。 王姬歸于齊。無傳。不書逆、公不與接。 【読み】 王姬齊に歸ぐ。傳無し。逆[むか]うるを書さざるは、公與に接せざればなり。 齊師遷紀郱・鄑・郚。無傳。齊欲滅紀。故徙其三邑之民、而取其地。郱、在東莞臨朐縣東南。郚、在朱虛縣東南。北海都昌縣西有訾城。○郱、蒲丁反。鄑、子斯反。郚、音吾。朐、其倶反。訾、子斯反。 【読み】 齊の師紀の郱[へい]・鄑[し]・郚[ご]を遷す。傳無し。齊紀を滅ぼさんと欲す。故に其の三邑の民を徙[うつ]して、其の地を取る。郱は、東莞臨朐縣の東南に在り。郚は、朱虛縣の東南に在り。北海都昌縣の西に訾[し]城有り。○郱は、蒲丁反。鄑は、子斯反。郚は、音吾。朐は、其倶反。訾は、子斯反。 〔傳〕元年、春、不稱卽位、文姜出故也。文姜與桓倶行、而桓爲齊所殺。故不敢還。莊公父弑母出。故不忍行卽位之禮。據文姜未還、故傳稱文姜出也。姜於是感公意而還。不書、不告廟。 【読み】 〔傳〕元年、春、卽位を稱せざるは、文姜出づる故なり。文姜桓と倶に行きて、桓齊の爲に殺さる。故に敢えて還らず。莊公父弑され母出づ。故に卽位の禮を行うに忍びず。文姜未だ還らざるに據り、故に傳に文姜出づと稱す。姜是に於て公の意に感じて還る。書さざるは、廟に告げざればなり。 三月、夫人孫于齊。不稱姜氏、絕不爲親。禮也。姜氏、齊姓。於文姜之義、宜與齊絕。而復奔齊。故於其奔、去姜氏以示義。 【読み】 三月、夫人齊に孫る。姜氏を稱せざるは、絕ちて親と爲さざるなり。禮なり。姜氏は、齊の姓。文姜の義に於て、宜しく齊と絕つべし。而るに復齊に奔る。故に其の奔るに於て、姜氏を去りて以て義を示す。 秋、築王姬之館于外。爲外、禮也。齊彊魯弱、又委罪於彭生、魯不能讎齊。然喪制未闋。故異其禮、得禮之變。○闋、苦穴反。 【読み】 秋、王姬の館を外に築く。外に爲るは、禮なり。齊は彊く魯は弱く、又罪を彭生に委ぬれば、魯齊を讎とすること能わず。然れども喪制未だ闋[おわ]らず。故に其の禮を異にして、禮の變を得たり。○闋[けつ]は、苦穴反。 〔經〕二年、春、王二月、葬陳莊公。無傳。魯往會之。故書。例在昭六年。 【読み】 〔經〕二年、春、王の二月、陳の莊公を葬る。傳無し。魯往いて之に會す。故に書す。例は昭六年に在り。 夏、公子慶父帥師伐於餘丘。無傳。於餘丘、國名也。莊公時年十五、則慶父、莊公庶兄。 【読み】 夏、公子慶父師を帥て於餘丘[およきゅう]を伐つ。傳無し。於餘丘は、國の名なり。莊公時に年十五なれば、則ち慶父は、莊公の庶兄なり。 秋、七月、齊王姬卒。無傳。魯爲之主、比之内女。 【読み】 秋、七月、齊の王姬卒す。傳無し。魯之が主と爲れば、之を内女に比す。 冬、十有二月、夫人姜氏會齊侯于禚。夫人行不以禮。故還皆不書。不告廟也。禚、齊地。○禚、諸若反。 【読み】 冬、十有二月、夫人姜氏齊侯に禚[しゃく]に會す。夫人行くに禮を以てせず。故に還ること皆書さず。廟に告げざればなり。禚は、齊の地。○禚は、諸若反。 乙酉、宋公馮卒。無傳。再與桓同盟。○馮、皮氷反。 【読み】 乙酉[きのと・とり]、宋公馮卒す。傳無し。再び桓と同盟す。○馮は、皮氷反。 〔傳〕二年、冬、夫人姜氏會齊侯于禚、書姦也。文姜前與公倶如齊、後懼而出奔、至此始與齊好會。會非夫人之事。顯然書之。傳曰書姦、姦在夫人。文姜比年出會。其義皆同。 【読み】 〔傳〕二年、冬、夫人姜氏齊侯に禚に會するは、姦を書すなり。文姜前に公と倶に齊に如き、後に懼れて出奔し、此に至りて始めて齊と好會す。會は夫人の事に非ず。顯然として之を書す。傳に姦を書すと曰うは、姦夫人に在るなり。文姜比年に出でて會す。其の義皆同じ。 〔經〕三年、春、王正月、溺會齊師伐衛。溺、魯大夫。疾其專命而行。故去氏。○溺、乃狄反。去、起呂反。 【読み】 〔經〕三年、春、王の正月、溺齊の師に會して衛を伐つ。溺は、魯の大夫。其の命を專にして行くを疾[にく]む。故に氏を去れり。○溺は、乃狄反。去は、起呂反。 夏、四月、葬宋莊公。無傳。 【読み】 夏、四月、宋の莊公を葬る。傳無し。 五月、葬桓王。秋、紀季以酅入于齊。季、紀侯弟。酅、紀邑。在齊國東安平縣。齊欲滅紀。故季以邑入齊、爲附庸。先祀不廢、社稷有奉。故書字貴之。○酅、戶圭反。 【読み】 五月、桓王を葬る。秋、紀季酅[けい]を以[い]て齊に入る。季は、紀侯の弟。酅は、紀の邑。齊國の東安平縣に在り。齊紀を滅ぼさんと欲す。故に季邑を以て齊に入りて、附庸と爲る。先祀廢せず、社稷奉ずる有り。故に字を書して之を貴ぶ。○酅は、戶圭反。 冬、公次于滑。滑、鄭地。在陳留襄邑縣西北。傳例曰、凡師、過信爲次。兵未有所加、所次則書之。旣書兵所加、則不書其所次。以事爲宜、非虛次。 【読み】 冬、公滑に次[やど]る。滑は、鄭の地。陳留襄邑縣の西北に在り。傳例に曰く、凡そ師、信に過ぐるを次と爲す、と。兵未だ加うる所有らざれば、次る所則ち之を書す。旣に兵の加うる所を書せば、則ち其の次る所を書さず。事を以て宜しきを爲して、虛しく次るのみに非ざるなり。 〔傳〕三年、春、溺會齊師伐衛、疾之也。傳重明上例。 【読み】 〔傳〕三年、春、溺齊の師に會して衛を伐てば、之を疾むなり。傳重ねて上の例を明かす。 夏、五月、葬桓王、緩也。以桓十五年三月崩、七年乃葬。故曰緩。 【読み】 夏、五月、桓王を葬るは、緩[おそ]きなり。桓十五年三月を以て崩じて、七年にして乃ち葬る。故に緩しと曰う。 秋、紀季以酅入于齊。紀於是乎始判。判、分也。言分爲附庸始於此。 【読み】 秋、紀季酅を以て齊に入る。紀是に於て始めて判[わか]れぬ。判は、分かるるなり。分かれて附庸と爲ること此に始まるを言う。 冬、公次于滑、將會鄭伯謀紀故也。鄭伯辭以難。厲公在櫟故。○難、乃旦反。櫟、音歷。 【読み】 冬、公滑に次るは、將に鄭伯に會して紀の故を謀らんとするなり。鄭伯辭するに難を以てす。厲公櫟[れき]に在る故なり。○難は、乃旦反。櫟は、音歷。 凡師、一宿爲舍、再宿爲信、過信爲次。爲經書次例也。舍宿不書、輕也。言凡師、通君臣。 【読み】 凡そ師、一宿を舍と爲し、再宿を信と爲し、信に過ぐるを次と爲す。經に次を書す爲の例なり。舍宿書さざるは、輕ければなり。凡そ師と言うは、君臣に通ず。 〔經〕四年、春、王二月、夫人姜氏享齊侯于祝丘。無傳。享、食也。兩君相見之禮。非夫人所用。直書以見其失。祝丘、魯地。○食、音嗣。又如字。 【読み】 〔經〕四年、春、王の二月、夫人姜氏齊侯を祝丘に享す。傳無し。享は、食なり。兩君相見ゆるの禮なり。夫人用ゆる所に非ず。直に書して以て其の失を見す。祝丘は、魯の地。○食は、音嗣。又字の如し。 三月、紀伯姬卒。無傳。隱二年、裂繻所逆者。内女、唯諸侯夫人卒葬皆書。恩成於敵體。 【読み】 三月、紀の伯姬卒す。傳無し。隱二年、裂繻逆[むか]うる所の者。内女は、唯諸侯の夫人のみ卒葬皆書す。恩は敵體に成ればなり。 夏、齊侯・陳侯・鄭伯遇于垂。無傳。 【読み】 夏、齊侯・陳侯・鄭伯垂に遇う。傳無し。 紀侯大去其國。以國與季、季奉社稷。故不言滅。不見迫逐。故不言奔。大去者、不反之辭。 【読み】 紀侯其の國を大去す。國を以て季に與え、季社稷を奉ず。故に滅ぶと言わず。迫逐せられず。故に奔ると言わず。大去とは、反らざるの辭。 六月、乙丑、齊侯葬紀伯姬。無傳。紀季入酅、爲齊附庸、而紀侯大去其國。齊侯加禮初附、以崇厚義。故攝伯姬之喪、而以紀國夫人禮葬之。 【読み】 六月、乙丑[きのと・うし]、齊侯紀の伯姬を葬る。傳無し。紀季酅[けい]を入れて、齊の附庸と爲りて、紀侯其の國を大去す。齊侯禮を初附に加え、以て厚義を崇ぶ。故に伯姬の喪を攝して、紀國夫人の禮を以て之を葬る。 秋、七月。冬、公及齊人狩于禚。無傳。公越竟與齊微者倶狩。失禮可知。○狩、手又反。 【読み】 秋、七月。冬、公齊人と禚[しゃく]に狩す。傳無し。公竟を越えて齊の微者と倶に狩す。禮を失うこと知る可し。○狩は、手又反。 〔傳〕四年、春、王三月、楚武王荆尸、授師孑焉、以伐隨。尸、陳也。荆亦楚也。更爲楚陳兵之法。揚雄方言、孑者、戟也。然則楚始於此參用戟爲陳。○孑、吉熱反。方言云、楚謂戟爲孑。爲陳、直覲反。 【読み】 〔傳〕四年、春、王の三月、楚の武王荆尸して、師に孑[ほこ]を授けて、以て隨を伐たんとす。尸は、陳なり。荆も亦楚なり。更に楚の陳兵の法を爲る。揚雄が方言に、孑は、戟なり、と。然らば則ち楚始めて此に於て戟を參え用いて陳を爲すなり。○孑は、吉熱反。方言云う、楚戟を謂いて孑と爲す、と。爲陳は、直覲反。 將齊。入告夫人鄧曼曰、余心蕩。將授兵於廟。故齊。蕩、動散也。○齊、側皆反。 【読み】 將に齊せんとす。入りて夫人鄧曼に告げて曰く、余が心蕩[うご]きぬ、と。將に兵を廟に授けんとす。故に齊す。蕩は、動き散るなり。○齊は、側皆反。 鄧曼歎曰、王祿盡矣。盈而蕩、天之道也。先君其知之矣。故臨武事、將發大命、而蕩王心焉。楚爲小國。僻陋在夷、至此武王始起其衆、僭號稱王、陳兵授師、志意盈滿、臨齊而散。故鄧曼以天地鬼神、爲徵應之符。 【読み】 鄧曼歎じて曰く、王の祿盡きたり。盈ちて蕩くは、天の道なり。先君其れ之を知れり。故に武事に臨み、將に大命を發せんとして、王の心を蕩かすなり。楚は小國爲り。僻陋にして夷に在り、此に至りて武王始めて其の衆を起こし、僭號して王と稱し、兵を陳ね師に授け、志意盈滿し、齊に臨みて散ず。故に鄧曼天地鬼神を以て、徵應の符と爲せり。 若師徒無虧、王薨於行、國之福也。王薨於行、不死於敵。 【読み】 若し師徒虧[か]くること無く、王行に薨ぜば、國の福なり、と。王行に薨ずとは、敵に死せざるなり。 王遂行、卒於樠木之下。樠木、木名。○樠、郎蕩反。又莫昆反。又武元反。 【読み】 王遂に行き、樠木[ろうぼく]の下に卒す。樠木は、木の名。○樠は、郎蕩反。又莫昆反。又武元反。 令尹鬭祁・莫敖屈重除道梁溠、營軍臨隨。隨人懼、行成。時祕王喪。故爲奇兵、更開直道。溠水、在義陽厥縣西、東南入鄖水。梁、橋也。隨人不意其至。故懼而行成。○重、直用反。一直容反。溠、側嫁反。鄖、音云。 【読み】 令尹鬭祁・莫敖屈重道を除[はら]い溠[さ]に梁[はし]し、軍を營じて隨に臨む。隨人懼れて、成[たい]らぎを行う。時に王の喪を祕す。故に奇兵を爲し、更に直道を開くなり。溠水は、義陽厥縣の西に在り、東南して鄖水[うんすい]に入る。梁は、橋なり。隨人其の至るに不意なり。故に懼れて成らぎを行う。○重は、直用反。一に直容反。溠は、側嫁反。鄖は、音云。 莫敖以王命入盟隨侯、且請爲會於漢汭而還、汭、内也。謂漢西。○汭、如銳反。水曲曰汭。 【読み】 莫敖王命を以て入りて隨侯に盟い、且請いて會を漢汭[かんぜい]に爲して還り、汭は、内なり。漢西を謂う。○汭は、如銳反。水曲を汭と曰う。 濟漢而後發喪。 【読み】 漢を濟[わた]りて後に喪を發せり。 紀侯不能下齊、以與紀季。不能降屈事齊、盡以國與季。明季不叛。 【読み】 紀侯齊に下ること能わず、以て紀季に與う。降屈して齊に事うること能わず、盡く國を以て季に與う。季が叛かざるを明かすなり。 夏、紀侯大去其國、違齊難也。違、辟也。○難、乃旦反。林注、汭、水曲也。楚師濟漢而歸也。附注、汭、内解依鄭箋、非也。或云、請會、期他日爲會也。 【読み】 夏、紀侯其の國を大去するは、齊の難を違[さ]くるなり。違は、辟くるなり。○難は、乃旦反。林注に、汭は、水曲なり。楚師漢を濟りて歸るなり、と。附注の、汭は、内なりの解の鄭箋に依るとは、非なり。或ひと云う、會を請うは、他日會を爲すを期す、と。 〔經〕五年、春、王正月。夏、夫人姜氏如齊師。無傳。書姦。 【読み】 〔經〕五年、春、王の正月。夏、夫人姜氏齊の師に如く。傳無し。姦を書すなり。 秋、郳犁來來朝。附庸國也。東海昌慮縣東北有郳城。犁來、名。○郳、五兮反。 【読み】 秋、郳[げい]の犁來[れいらい]來朝す。附庸の國なり。東海昌慮縣の東北に郳城有り。犁來は、名。○郳は、五兮反。 冬、公會齊人・宋人・陳人・蔡人伐衛。 【読み】 冬、公齊人・宋人・陳人・蔡人に會して衛を伐つ。 〔傳〕五年、秋、郳犁來來朝。名、未王命也。未受爵命爲諸侯。傳發附庸稱名例也。其後數從齊桓、以尊周室、王命以爲小邾子。○數、音朔。 【読み】 〔傳〕五年、秋、郳の犁來來朝す。名いうは、未だ王に命ぜられざればなり。未だ爵命を受けて諸侯と爲さざるなり。傳に附庸名を稱するの例を發するなり。其の後數々齊の桓に從いて、以て周室を尊び、王命じて以て小邾[ちゅ]子とす。○數は、音朔。 冬伐衛、納惠公也。惠公、朔也。桓十六年、出奔齊。 【読み】 冬衛を伐つは、惠公を納れんとなり。惠公は、朔なり。桓十六年、齊に出奔す。 〔經〕六年、春、王正月、王人子突救衛。王人、王之微官也。雖官卑而見授以大事。故稱人而又稱字。 【読み】 〔經〕六年、春、王の正月、王人子突衛を救う。王人は、王の微官なり。官卑しと雖も授くるに大事を以てせらる。故に人と稱して又字を稱す。 夏、六月、衛侯朔入于衛。朔爲諸侯所納。不稱歸而以國逆爲文、朔懼失衆心、以國逆告也。歸・入例、在成十八年。 【読み】 夏、六月、衛侯朔衛に入る。朔諸侯の爲に納れらるる。歸と稱せずして國逆を以て文を爲すは、朔衆心を失わんことを懼れて、國逆を以て告ぐるなり。歸・入の例は、成十八年に在り。 秋、公至自伐衛。無傳。告於廟也。 【読み】 秋、公衛を伐ちてより至る。傳無し。廟に告ぐるなり。 螟。無傳。爲災。○螟、音冥。 【読み】 螟[めい]あり。傳無し。災いを爲す。○螟は、音冥。 冬、齊人來歸衛俘。公羊・穀梁經傳皆言衛寶。此傳亦言寶。唯此經言俘。疑經誤。俘、囚也。○俘、芳夫反。 【読み】 冬、齊人來りて衛の俘を歸[おく]る。公羊・穀梁の經傳皆衛の寶と言う。此の傳も亦寶と言う。唯此の經のみ俘と言う。疑うらくは經の誤りならん。俘は、囚なり。○俘は、芳夫反。 〔傳〕六年、春、王人救衛。 【読み】 〔傳〕六年、春、王人衛を救う。 夏、衛侯入。放公子黔牟于周、放寗跪于秦、殺左公子洩・右公子職、寗跪、衛大夫。宥之以遠曰放。○寗、乃定反。跪、其毀反。 【読み】 夏、衛侯入る。公子黔牟[けんぼう]を周に放ち、寗跪[ねいき]を秦に放ち、左公子洩[せつ]・右公子職を殺して、寗跪は、衛の大夫。之を宥むるに遠を以てするを放と曰う。○寗は、乃定反。跪は、其毀反。 乃卽位。 【読み】 乃ち位に卽く。 君子以二公子之立黔牟、爲不度矣。夫能固位者、必度於本末、而後立衷焉。不知其本、不謀。知本之不枝、弗强。本末、終始也。衷、節適也。譬之樹木、本弱者、其枝必披。非人力所能强成。○度、待洛反。下同。衷、丁仲反。王音忠。强、其丈反。披、普靡反。又普知反。 【読み】 君子二公子の黔牟を立てしを以て、度らずとす。夫の能く位を固くする者は、必ず本末を度りて、而して後に衷を立つ。其の本を知らざれば、謀らず。本の枝せざるを知れば、强いず。本末は、終始なり。衷は、節適なり。之を樹木に譬うれば、本弱き者は、其の枝必ず披[ひら]く。人力の能く强いて成す所に非ず。○度は、待洛反。下も同じ。衷は、丁仲反。王音忠。强は、其丈反。披は、普靡反。又普知反。 詩云、本枝百世。詩、大雅。言文王本枝倶茂、蕃滋百世也。 【読み】 詩云、本枝百世、と。詩は、大雅。文王本枝倶に茂く、蕃滋すること百世なるを言うなり。 冬、齊人來歸衛寶、文姜請之也。公親與齊共伐衛、事畢而還。文姜淫於齊侯。故求其所獲珍寶、使以歸魯。欲說魯以謝慙。○說、音悅。 【読み】 冬、齊人來りて衛の寶を歸るは、文姜之を請えばなり。公親ら齊と共に衛を伐ち、事畢りて還る。文姜齊侯に淫す。故に其の獲たる所の珍寶を求めて、以て魯に歸らしむ。魯を說ばせて以て慙を謝せんと欲す。○說は、音悅。 楚文王伐申、過鄧。鄧祁侯曰、吾甥也。祁、謚也。姊妹之子曰甥。 【読み】 楚の文王申を伐ち、鄧を過ぐ。鄧の祁侯曰く、吾が甥なり、と。祁は、謚なり。姊妹の子を甥と曰う。 止而享之。騅甥・耼甥・養甥請殺楚子。皆鄧甥。仕於舅氏也。○騅、音佳。 【読み】 止めて之を享す。騅甥・耼甥[たんせい]・養甥楚子を殺さんと請う。皆鄧の甥。舅氏に仕う。○騅は、音佳。 鄧侯弗許。三甥曰、亡鄧國者、必此人也。若不早圖、後君噬齊。若齧腹齊。喩不可及。 【読み】 鄧侯許さず。三甥曰く、鄧國を亡ぼさん者は、必ず此人ならん。若し早く圖らずんば、後君齊[ほぞ]を噬[か]まん。腹齊を齧[か]むが若し。及ぶ可からざるに喩う。 其及圖之乎。圖之、此爲時矣。鄧侯曰、人將不食吾餘。言自害其甥、必爲人所賤。 【読み】 其れ之を圖るに及ばんや。之を圖らんとならば、此を時と爲す、と。鄧侯曰く、人將に吾が餘りを食わざらんとす、と。自ら其の甥を害せば、必ず人の爲に賤めらるるを言う。 對曰、若不從三臣、抑社稷實不血食。而君焉取餘。言君無復餘。○焉、於虔反。 【読み】 對えて曰く、若し三臣に從わずんば、抑々社稷も實に血食せず。而るを君焉[いずく]に餘りを取らん、と。君復餘り無きを言う。○焉は、於虔反。 弗從。 【読み】 從わず。 還年、楚子伐鄧。伐申還之年。 【読み】 還る年、楚子鄧を伐つ。申を伐ちて還るの年なり。 十六年、楚復伐鄧、滅之。魯莊公十六年、楚終强盛。爲經書楚事張本。 【読み】 十六年、楚復鄧を伐ちて、之を滅ぼせり。魯の莊公十六年、楚終に强盛なり。經に楚の事を書す爲の張本なり。 〔經〕七年、春、夫人姜氏會齊侯于防。防、魯地。 【読み】 〔經〕七年、春、夫人姜氏齊侯に防に會す。防は、魯の地。 夏、四月、辛卯、夜、恆星不見。恆、常也。謂常見之星。辛卯、四月五日。月光尙微。蓋時無雲、日光不以昏沒。○見、賢遍反。 【読み】 夏、四月、辛卯[かのと・う]、夜、恆星見えず。恆は、常なり。常にして見るの星を謂う。辛卯は、四月五日。月光尙微なり。蓋し時に雲無く、日光昏を以て沒せざるならん。○見は、賢遍反。 夜中、星隕如雨。如、而也。夜半乃有雲、星落而且雨。其數多。皆記異也。日光不匿、恆星不見。而云夜中者、以水漏知之。○中、丁仲反。又如字。隕、于閔反。 【読み】 夜中、星隕ちて雨ふる。如は、而なり。夜半にして乃ち雲有り、星落ちて且雨ふる。其の數多し。皆異を記すなり。日光匿れず、恆星見えず。而るに夜中と云うは、水漏を以て之を知るなり。○中は、丁仲反。又字の如し。隕は、于閔反。 秋、大水。無傳。 【読み】 秋、大水あり。傳無し。 無麥・苗。今五月、周之秋。平地出水、漂殺熟麥及五稼之苗。○漂、匹妙反。 【読み】 麥・苗無し。今の五月は、周の秋。平地水を出だして、熟麥と五稼の苗とを漂殺す。○漂は、匹妙反。 冬、夫人姜氏會齊侯于穀。無傳。穀、齊地。今濟北穀城縣。 【読み】 冬、夫人姜氏齊侯に穀に會す。傳無し。穀は、齊の地。今の濟北穀城縣なり。 〔傳〕七年、春、文姜會齊侯于防、齊志也。文姜數與齊侯會。至齊地、則姦發夫人。至魯地、則齊侯之志。故傳畧舉二端以言之。○數、音朔。 【読み】 〔傳〕七年、春、文姜齊侯に防に會するは、齊の志なり。文姜數々齊侯と會す。齊の地に至るは、則ち姦夫人に發す。魯の地に至るは、則ち齊侯の志なり。故に傳畧二端を舉げて以て之を言う。○數は、音朔。 夏、恆星不見、夜明也。星隕如雨、與雨偕也。偕、倶也。 【読み】 夏、恆星見えざるは、夜明なればなり。星隕ちて雨ふるは、雨と偕にするなり。偕は、倶なり。 秋、無麥・苗、不害嘉穀也。黍稷尙可更種。故曰不害嘉穀。 【読み】 秋、麥・苗無しとは、嘉穀を害せざるなり。黍稷は尙更に種える可し。故に嘉穀を害せずと曰う。 〔經〕八年、春、王正月、師次于郎、以俟陳人・蔡人。無傳。期共伐郕。陳・蔡不至。故駐師于郎以待之。 【読み】 〔經〕八年、春、王の正月、師郎に次[やど]りて、以て陳人・蔡人を俟つ。傳無し。共に郕[せい]を伐たんことを期す。陳・蔡至らず。故に師を郎に駐めて以て之を待つ。 甲午、治兵。治兵於廟習號令。將以圍郕。 【読み】 甲午[きのえ・うま]、治兵す。廟に治兵して號令を習わす。將に以て郕を圍まんとす。 夏、師及齊師圍郕。郕降于齊師。二國同討而齊獨納郕。○降、戶江反。 【読み】 夏、師齊の師と郕[せい]を圍む。郕齊の師に降る。二國同じく討ちて齊獨り郕を納る。○降は、戶江反。 秋、師還。時史善公克己復禮、全軍而還。故特書師還。 【読み】 秋、師還る。時史公の己に克ち禮を復し、軍を全くして還るを善とす。故に特に師還ると書す。 冬、十有一月、癸未、齊無知弑其君諸兒。稱臣、臣之罪也。○兒、如字。一音五兮反。 【読み】 冬、十有一月、癸未[みずのと・ひつじ]、齊の無知其の君諸兒を弑す。臣を稱するは、臣の罪なり。○兒は、字の如し。一に音五兮反。 〔傳〕八年、春、治兵于廟。禮也。 【読み】 〔傳〕八年、春、廟に治兵す。禮なり。 夏、師及齊師圍郕。郕降于齊師。仲慶父請伐齊師。齊不與魯共其功。故欲伐之。 【読み】 夏、師齊の師と郕を圍む。郕齊の師に降る。仲慶父齊の師を伐たんと請う。齊魯と其の功を共にせず。故に之を伐たんと欲す。 公曰、不可。我實不德。齊師何罪。罪我之由。夏書曰、皐陶邁種德。夏書、逸書也。稱皐陶能勉種德。邁、勉也。 【読み】 公曰く、不可なり。我れ實に不德なり。齊の師何の罪かある。罪は我に由れり。夏書に曰く、皐陶邁[つと]めて德を種[し]く、と。夏書は、逸書なり。皐陶能く勉めて德を種くを稱す。邁は、勉むるなり。 德乃降。姑務脩德以待時乎。言苟有德、乃爲人所降服。姑、且也。 【読み】 德あれば乃ち降る。姑く務めて德を脩めて以て時を待たん、と。言うこころは、苟も德有れば、乃ち人の爲に降服せらる、と。姑は、且くなり。 秋、師還。 【読み】 秋、師還る。 君子是以善魯莊公。傳言經所以卽用舊史之文。 【読み】 君子是を以て魯の莊公を善とす。傳は經に卽いて舊史の文を用ゆる所以を言う。 齊侯使連稱・管至父戍葵丘。連稱・管至父、皆齊大夫。戍、守也。葵丘、齊地。臨淄縣西有地、名葵丘。○稱、尺證反。又如字。 【読み】 齊侯連稱・管至父をして葵丘[ききゅう]を戍らしむ。連稱・管至父は、皆齊の大夫。戍は、守るなり。葵丘は、齊の地。臨淄縣の西に地有り、葵丘と名づく。○稱は、尺證反。又字の如し。 瓜時而往。曰、及瓜而代。期戍。公問不至。問、命也。○期、音基。 【読み】 瓜の時にして往く。曰く、瓜に及んで代えん、と。期まで戍る。公の問至らず。問は、命なり。○期は、音基。 請代。弗許。故謀作亂。僖公之母弟曰夷仲年。生公孫無知。有寵於僖公、衣服禮秩如適。適、太子。○適、丁歷反。 【読み】 代わりを請う。許さず。故に亂を作さんことを謀る。僖公の母弟を夷仲年と曰う。公孫無知を生む。僖公に寵有り、衣服禮秩適の如し。適は、太子。○適は、丁歷反。 襄公絀之。二人因之以作亂。二人、連稱・管至父。○絀、勑律反。 【読み】 襄公之を絀[しりぞ]く。二人之に因りて以て亂を作す。二人は、連稱・管至父。○絀[ちゅつ]は、勑律反。 連稱有從妹、在公宮。無寵。使閒公。伺公之閒隙。○從、才用反。下同。 【読み】 連稱に從妹有り、公宮に在り。寵無し。公を閒せしむ。公の閒隙を伺う。○從は、才用反。下も同じ。 曰、捷、吾以女爲夫人。捷、克也。宣無知之言。○捷、在接反。女、音汝。 【読み】 曰く、捷[か]たば、吾れ女を以て夫人と爲さん、と。捷は、克つなり。無知の言を宣ぶ。○捷は、在接反。女は、音汝。 冬、十二月、齊侯游于姑棼、遂田于貝丘、姑棼・貝丘、皆齊地。田、獵也。樂安博昌縣南有地、名貝丘。○棼、扶云反。貝、補蓋反。 【読み】 冬、十二月、齊侯姑棼[こふん]に游び、遂に貝丘に田し、姑棼・貝丘は、皆齊の地。田は、獵なり。樂安博昌縣の南に地有り、貝丘と名づく。○棼は、扶云反。貝は、補蓋反。 見大豕。從者曰、公子彭生也。公見大豕、而從者見彭生。皆妖鬼。 【読み】 大豕を見る。從者曰く、公子彭生なり、と。公は大豕を見て、從者は彭生を見る。皆妖鬼なり。 公怒曰、彭生敢見。射之。豕人立而啼。公懼、隊于車、傷足喪屨。反、誅屨於徒人費。誅、責也。○見、賢遍反。射、食亦反。隊、直類反。喪、息浪反。費、音祕。 【読み】 公怒りて曰く、彭生敢えて見えんや、と。之を射る。豕人のごとく立ちて啼く。公懼れ、車より隊[お]ち、足を傷り屨[くつ]を喪う。反りて、屨を徒人費に誅[せ]む。誅は、責むるなり。○見は、賢遍反。射は、食亦反。隊は、直類反。喪は、息浪反。費は、音祕。 弗得。鞭之見血。走出。遇賊于門。劫而束之。費曰、我奚御哉。袒而示之背。信之。費請先入、詐欲助賊。○御、魚呂反。袒、音但。 【読み】 得ず。之を鞭ち血を見る。走り出づ。賊に門に遇う。劫[おびや]かして之を束ねんとす。費曰く、我れ奚ぞ御[ふせ]がんや、と。袒[はだぬ]いで之に背を示す。之を信ず。費請いて先ず入り、詐いて賊を助けんと欲す。○御は、魚呂反。袒は、音但。 伏公而出鬭、死于門中。石之紛如死于階下。石之紛如、齊小臣。亦鬭死。 【読み】 公を伏せて出でて鬭い、門中に死す。石之紛如階下に死す。石之紛如は、齊の小臣。亦鬭死す。 遂入、殺孟陽于牀。孟陽、亦小臣。代公居牀。 【読み】 遂に入り、孟陽を牀に殺す。孟陽も、亦小臣。公に代わりて牀に居る。 曰、非君也。不類。見公之足于戶下。遂弑之、而立無知。經書十一月癸未。長曆推之、月六日也。傳云十二月、傳誤。 【読み】 曰く、君に非ざるなり。類せず、と。公の足を戶下に見る。遂に之を弑して、而して無知を立つ。經に十一月癸未と書す。長曆もて之を推すに、月の六日なり。傳に十二月と云うは、傳の誤りなり。 初、襄公立、無常。政令無常。 【読み】 初め、襄公立ちて、常無し。政令常無し。 鮑叔牙曰、君使民慢。亂將作矣。奉公子小白出奔莒。鮑叔牙、小白傅。小白、僖公庶子。○鮑、步卯反。 【読み】 鮑叔牙曰く、君民を使うこと慢[みだ]りなり。亂將に作らんとす、と。公子小白を奉じて出でて莒[きょ]に奔る。鮑叔牙は、小白の傅。小白は、僖公の庶子。○鮑は、步卯反。 亂作。管夷吾・召忽奉公子糾來奔。管夷吾・召忽、皆子糾傅也。子糾、小白庶兄。來不書、皆非卿也。爲九年公伐齊納子糾、齊小白入于齊傳。○召、時照反。 【読み】 亂作る。管夷吾・召忽公子糾を奉じて來奔す。管夷吾・召忽は、皆子糾の傅なり。子糾は、小白の庶兄。來るを書さざるは、皆卿に非ざればなり。九年公齊を伐ちて子糾を納れ、齊の小白齊に入る爲の傳なり。○召は、時照反。 初、公孫無知虐于雍廩。雍廩、齊大夫。爲殺無知傳。 【読み】 初め、公孫無知雍廩を虐げぬ。雍廩は、齊の大夫。無知を殺す爲の傳なり。 〔經〕九年、春、齊人殺無知。無知弑君而立、未列於會。故不書爵。例在成十六年。 【読み】 〔經〕九年、春、齊人無知を殺す。無知君を弑して立ち、未だ會に列ならず。故に爵を書さず。例は成十六年に在り。 公及齊大夫盟于蔇。齊亂無君。故大夫得敵於公。蓋欲迎子糾也。來者非一人。故不稱名。蔇、魯地。琅邪繒縣北有蔇亭。○蔇、其器反。 【読み】 公齊の大夫と蔇[き]に盟う。齊亂れて君無し。故に大夫公に敵するを得。蓋し子糾を迎えんと欲するならん。來者一人に非ず。故に名を稱せず。蔇は、魯の地。琅邪繒縣の北に蔇亭有り。○蔇は、其器反。 夏、公伐齊、納子糾。齊小白入于齊。二公子各有黨。故雖盟而迎子糾、當須伐乃得入。又出在小白之後。小白稱入、從國逆之文、本無位。 【読み】 夏、公齊を伐ちて、子糾を納る。齊の小白齊に入る。二公子各々黨有り。故に盟いて子糾を迎うと雖も、當に伐つを須ちて乃ち入ることを得るべし。又出づること小白の後に在り。小白入ると稱して、國逆の文に從うは、本位無ければなり。 秋、七月、丁酉、葬齊襄公。無傳。九月乃葬、亂故也。 【読み】 秋、七月、丁酉[ひのと・とり]、齊の襄公を葬る。傳無し。九月にして乃ち葬るは、亂の故なり。 八月、庚申、及齊師戰于乾時。我師敗績。小白旣定。而公猶不退師、歷時而戰、戰遂大敗。不稱公戰公敗、諱之。乾時、齊地。時水、在樂安界、岐流。旱則竭涸。故曰乾時。○乾、音干。 【読み】 八月、庚申[かのえ・さる]、齊の師と乾時に戰う。我が師敗績す。小白旣に定まる。而るに公猶師を退けず、時を歷て戰い、戰いて遂に大いに敗らる。公戰い公敗らると稱せざるは、之を諱みてなり。乾時は、齊の地。時水は、樂安の界に在り、岐流す。旱には則ち竭涸す。故に乾時と曰う。○乾は、音干。 九月、齊人取子糾殺之。公子爲賊亂則書。齊實告殺、而書齊取殺者、時史惡齊志在譎以求管仲、非不忍其親。故極言之。○惡、烏路反。譎、古穴反。 【読み】 九月、齊人子糾を取[とら]えて之を殺す。公子賊亂を爲せば則ち書す。齊實は殺を告げて、齊取え殺すと書すは、時史齊の志譎[いつわ]りて以て管仲を求むるに在りて、其の親に忍びざるに非ざるを惡む。故に極めて之を言うなり。○惡は、烏路反。譎は、古穴反。 冬、浚洙。無傳。洙水、在魯城北、下合泗。浚、深之。爲齊備。 【読み】 冬、洙を浚[ふか]くす。傳無し。洙水は、魯城の北に在り、下りて泗に合う。浚は、之を深くするなり。齊の爲に備うるなり。 〔傳〕九年、春、雍廩殺無知。 【読み】 〔傳〕九年、春、雍廩無知を殺す。 公及齊大夫盟于蔇、齊無君也。 【読み】 公齊の大夫と蔇に盟うは、齊君無ければなり。 夏、公伐齊、納子糾。桓公自莒先入。桓公、小白。 【読み】 夏、公齊を伐ちて、子糾を納る。桓公莒より先ず入る。桓公は、小白。 秋、師及齊師戰于乾時。我師敗績。公喪戎路、傳乘而歸。戎路、兵車。傳乘、乘他車。○喪、息浪反。乘、繩證反。乘他、如字。 【読み】 秋、師齊の師と乾時に戰う。我が師敗績す。公戎路を喪い、傳乘して歸る。戎路は、兵車。傳乘は、他の車に乘るなり。○喪は、息浪反。乘は、繩證反。乘他は、字の如し。 秦子・梁子以公旗辟于下道。二子、公御及戎右也。以誤齊師。○辟、音避。 【読み】 秦子・梁子公の旗を以て下道に辟く。二子は、公の御と戎右となり。以て齊の師を誤らす。○辟は、音避。 是以皆止。止、獲也。 【読み】 是を以て皆止[え]らる。止は、獲るなり。 鮑叔帥師來言曰、子糾、親也。請君討之。鮑叔乘勝而進軍。志在生得管仲。故託不忍之辭。 【読み】 鮑叔師を帥て來り言いて曰く、子糾は、親なり。請う君之を討ぜよ。鮑叔勝に乘じて軍を進む。志管仲を生得するに在り。故に忍びざるの辭に託す。 管・召、讎也。請受而甘心焉。管仲射桓公。故曰讎。甘心、言欲快意戮殺之。 【読み】 管・召は、讎なり。請う受けて甘心せん、と。管仲桓公を射る。故に讎と曰う。甘心は、快意に之を戮殺せんと欲するを言う。 乃殺子糾于生竇。生竇、魯地。○竇、音豆。 【読み】 乃ち子糾を生竇[せいとう]に殺す。生竇は、魯の地。○竇は、音豆。 召忽死之。管仲請囚。鮑叔受之、及堂阜而稅之。堂阜、齊地。東莞蒙陰縣西北有夷吾亭。或曰、鮑叔解夷吾縛於此。因以爲名。○稅、土活反。一失銳反。 【読み】 召忽之に死す。管仲囚われんと請う。鮑叔之を受け、堂阜に及んで之を稅[と]く。堂阜は、齊の地。東莞蒙陰縣の西北に夷吾亭有り。或ひと曰く、鮑叔夷吾の縛を此に解く。因りて以て名とす、と。○稅は、土活反。一に失銳反。 歸而以告曰、管夷吾治於高傒。高傒、齊卿高敬仲也。言管仲治理政事之才、多於敬仲。○傒、音兮。 【読み】 歸りて以て告げて曰く、管夷吾は高傒より治む。高傒は、齊の卿の高敬仲なり。言うこころは、管仲が政事を治理するの才、敬仲より多し。○傒は、音兮。 使相可也。公從之。○相、息亮反。 【読み】 相たらしめて可なり、と。公之に從う。○相は、息亮反。 〔經〕十年、春、王正月、公敗齊師于長勺。齊人雖成列、魯以權譎稽之、列成而不得用。故以未陳爲文。例在十一年。長勺、魯地。○勺、上酌反。陳、直覲反。 【読み】 〔經〕十年、春、王の正月、公齊の師を長勺に敗る。齊人列を成すと雖も、魯權譎を以て之を稽[とど]め、列成りて用ゆることを得ず。故に未だ陳せざるを以て文を爲す。例は十一年に在り。長勺は、魯の地。○勺は、上酌反。陳は、直覲反。 二月、公侵宋。無傳。侵例、在二十九年。 【読み】 二月、公宋を侵す。傳無し。侵の例は、二十九年に在り。 三月、宋人遷宿。無傳。宋强遷之而取其地。故文異於邢遷。○强、其丈反。 【読み】 三月、宋人宿を遷す。傳無し。宋强いて之を遷して其の地を取る。故に文邢遷るに異なり。○强は、其丈反。 夏、六月、齊師・宋師次于郎。不言侵伐、齊爲兵主、背蔇之盟。義與長勺同。 【読み】 夏、六月、齊の師・宋の師郎に次[やど]る。侵伐を言わざるは、齊兵主と爲りて、蔇の盟に背けばなり。義は長勺と同じ。 公敗宋師于乘丘。乘丘、魯地。○乘、繩證反。 【読み】 公宋の師を乘丘に敗る。乘丘は、魯の地。○乘は、繩證反。 秋、九月、荆敗蔡師于莘、荆、楚本號。後改爲楚、楚辟陋在夷。於此始通中國。然告命之辭、猶未合典禮。故不稱將帥。莘、蔡地。○莘、所巾反。將、子匠反。帥、所類反。 【読み】 秋、九月、荆蔡の師を莘に敗り、荆は、楚の本號。後改めて楚とす、楚辟陋にして夷に在り。此に於て始めて中國に通ず。然れども告命の辭、猶未だ典禮に合わず。故に將帥を稱せず。莘は、蔡の地。○莘は、所巾反。將は、子匠反。帥は、所類反。 以蔡侯獻舞歸。獻舞、蔡季。 【読み】 蔡侯獻舞を以[い]て歸る。獻舞は、蔡季。 冬、十月、齊師滅譚。譚國、在濟南平陵縣西南。傳曰譚無禮、此直釋所以見滅。經無義例。他皆放此。滅例在文十五年。 【読み】 冬、十月、齊の師譚[たん]を滅ぼす。譚國は、濟南平陵縣の西南に在り。傳に譚禮無しと曰うは、此れ直に滅ぼさるる所以を釋くなり。經に義例無し。他皆此に放え。滅の例は文十五年に在り。 譚子奔莒。不言出奔、國滅無所出。 【読み】 譚子莒に奔る。出奔と言わざるは、國滅びて出づる所無ければなり。 〔傳〕十年、春、齊師伐我。不書侵伐、齊背蔇之盟、我有辭。 【読み】 〔傳〕十年、春、齊の師我を伐つ。侵伐を書さざるは、齊蔇の盟に背いて、我れ辭有ればなり。 公將戰。曹劌請見。曹劌、魯人。○劌、古衛反。見、賢遍反。 【読み】 公將に戰わんとす。曹劌[そうけい]見えんことを請わんとす。曹劌は、魯の人。○劌は、古衛反。見は、賢遍反。 其郷人曰、肉食者謀之。又何閒焉。肉食、在位者。閒、猶與也。○與、音預。 【読み】 其の郷人曰く、肉食の者之を謀る。又何ぞ閒せん、と。肉食は、位に在る者。閒は、猶與るがごとし。○與は、音預。 劌曰、肉食者鄙。未能遠謀。乃入見。 【読み】 劌曰く、肉食の者は鄙[いや]し。未だ遠く謀ること能わず、と。乃ち入りて見ゆ。 問何以戰。公曰、衣食所安、弗敢專也。必以分人。對曰、小惠未徧。民弗從也。分公衣食、所惠不過左右。故曰未徧。 【読み】 問う、何を以て戰わんとする、と。公曰く、衣食安んずる所、敢えて專にせず。必ず以て人に分かてり、と。對えて曰く、小惠未だ徧からず。民從わず、と。公の衣食を分かつは、惠む所左右に過ぎず。故に未だ徧からずと曰う。 公曰、犧牲玉帛、弗敢加也。必以信。祝辭不敢以小爲大、以惡爲美。 【読み】 公曰く、犧牲玉帛、敢えて加えず。必ず信を以てせり、と。祝辭敢えて小を以て大と爲し、惡を以て美と爲さず。 對曰、小信未孚、神弗福也。孚、大信也。 【読み】 對えて曰く、小信未だ孚ならず、神福せず、と。孚は、大信なり。 公曰、小大之獄、雖不能察、必以情。必盡己情。察、審也。 【読み】 公曰く、小大の獄、察すること能わずと雖も、必ず情を以てせり、と。必ず己が情を盡くす。察は、審らかなり。 對曰、忠之屬也。上思利民、忠也。 【読み】 對えて曰く、忠の屬なり。上民を利せんと思うは、忠なり。 可以一戰。戰則請從。 【読み】 以て一戰す可し。戰わば則ち請う從わん、と。 公與之乘。共乘兵車。○從、去聲。乘、繩證反。 【読み】 公之と乘る。共に兵車に乘る。○從は、去聲。乘は、繩證反。 戰于長勺。公將鼓之。劌曰、未可。齊人三鼓。劌曰、可矣。齊師敗績。公將馳之。劌曰、未可。下視其轍、視車跡也。○三、息暫反。又如字。 【読み】 長勺に戰う。公將に之に鼓たんとす。劌曰く、未だ可ならず、と。齊人三たび鼓つ。劌曰く、可なり、と。齊の師敗績す。公將に之に馳せんとす。劌曰く、未だ可ならず、と。下りて其の轍を視、車跡を視るなり。○三は、息暫反。又字の如し。 登軾而望之、曰、可矣。遂逐齊師。 【読み】 軾に登りて之を望みて、曰く、可なり、と。遂に齊の師を逐う。 旣克。公問其故。對曰、夫戰、勇氣也。一鼓作氣、再而衰、三而竭。彼竭我盈。故克之。夫大國難測也。懼有伏焉。恐詐奔。 【読み】 旣に克つ。公其の故を問う。對えて曰く、夫れ戰は、勇氣なり。一たび鼓ちて氣を作し、再びして衰え、三たびして竭く。彼れ竭き我れ盈つ。故に之に克てり。夫れ大國は測り難し。伏有らんことを懼る。詐り奔らんことを恐る。 吾視其轍亂、望其旗靡。故逐之。旗靡轍亂、怖遽。 【読み】 吾れ其の轍を視れば亂れ、其の旗を望めば靡く。故に之を逐えり、と。旗靡き轍亂るは、怖遽するなり。 夏、六月、齊師・宋師次于郎。公子偃曰、宋師不整。可敗也。公子偃、魯大夫。 【読み】 夏、六月、齊の師・宋の師郎に次る。公子偃曰く、宋の師整わず。敗れ可し。公子偃は、魯の大夫。 宋敗、齊必還。請擊之。公弗許。自雩門竊出、蒙皐比而先犯之。雩門、魯南城門。皐比、虎皮。○比、音毗。 【読み】 宋敗れば、齊必ず還らん。請う、之を擊たん、と。公許さず。雩門[うもん]より竊かに出でて、皐比を蒙らせて先ず之を犯す。雩門は、魯の南城門。皐比は、虎の皮。○比は、音毗。 公從之、大敗宋師于乘丘。齊師乃還。 【読み】 公之に從い、大いに宋の師を乘丘に敗る。齊の師乃ち還る。 蔡哀侯娶于陳。息侯亦娶焉。息嬀將歸、過蔡。蔡侯曰、吾姨也。妻之姊妹曰姨。 【読み】 蔡の哀侯陳に娶る。息侯も亦娶る。息嬀將に歸らんとし、蔡を過ぐ。蔡侯曰く、吾が姨なり、と。妻の姊妹を姨と曰う。 止而見之。弗賓。不禮敬也。 【読み】 止めて之を見る。賓せず。禮敬せざるなり。 息侯聞之怒。使謂楚文王曰、伐我。吾求救於蔡而伐之。楚子從之。秋、九月、楚敗蔡師于莘、以蔡侯獻舞歸。 【読み】 息侯之を聞いて怒る。楚の文王に謂わしめて曰く、我を伐て。吾れ救いを蔡に求めて之を伐たん、と。楚子之に從う。秋、九月、楚蔡の師を莘に敗り、蔡侯獻舞を以て歸る。 齊侯之出也、過譚。譚不禮焉。及其入也、諸侯皆賀。譚又不至。以九年入。○過、平聲。 【読み】 齊侯の出づるや、譚を過ぐ。譚禮せず。其の入るに及んでや、諸侯皆賀す。譚又至らず。九年を以て入る。○過は、平聲。 冬、齊師滅譚、譚無禮也。譚子奔莒、同盟故也。傳言譚不能及遠、所以亡。 【読み】 冬、齊の師譚を滅ぼすは、譚禮無ければなり。譚子莒に奔るは、同盟の故なり。傳、譚の遠きに及ぶこと能わずして、亡ぶる所以を言う。 〔經〕十有一年、春、王正月。無傳。 【読み】 〔經〕十有一年、春、王の正月。傳無し。 夏、五月、戊寅、公敗宋師于鄑。鄑、魯地。傳例曰、敵未陳曰敗某師。○鄑、子斯反。 【読み】 夏、五月、戊寅[つちのえ・とら]、公宋の師を鄑[し]に敗る。鄑は、魯の地。傳例に曰く、敵未だ陳せざるを某の師を敗ると曰う、と。○鄑は、子斯反。 秋、宋大水。使弔之。故書。 【読み】 秋、宋大水あり。之を弔せしむ。故に書す。 冬、王姬歸于齊。魯主昏。不書齊侯逆、不見公。 【読み】 冬、王姬齊に歸[とつ]ぐ。魯昏を主る。齊侯の逆[むか]うるを書さざるは、公を見ざればなり。 〔傳〕十一年、夏、宋爲乘丘之役故、侵我。公禦之。宋師未陳而薄之、敗諸鄑。 【読み】 〔傳〕十一年、夏、宋乘丘の役の爲の故に、我を侵す。公之を禦ぐ。宋の師未だ陳せずして之に薄[せま]り、諸を鄑に敗る。 凡師、敵未陳曰敗某師。通謂設權譎變詐以勝敵。彼我不得成列、成列而不得用。故以未陳獨敗爲文。○爲乘、于僞反。陳、直覲反。 【読み】 凡そ師、敵未だ陳せざるを某の師を敗ると曰う。通じて權譎變詐を設けて以て敵に勝つを謂う。彼我列を成すことを得ず、列を成せども用ゆることを得ず。故に未だ陳せずして獨敗るを以て文を爲す。○爲乘は、于僞反。陳は、直覲反。 皆陳曰戰。堅而有備。各得其所。成敗決於志力者也。 【読み】 皆陳するを戰と曰う。堅くして備え有り。各々其の所を得。成敗志力に決する者なり。 大崩曰敗績。師徒撓敗、若沮岸崩山、喪其功績。故曰敗績。○撓、乃孝反。一音乃巧反。沮、在呂反。壞也。一音子餘反。岸崩、謂之沮。 【読み】 大いに崩るるを敗績と曰う。師徒撓敗すること、沮岸崩山の若くにして、其の功績を喪う。故に敗績と曰う。○撓は、乃孝反。一に音乃巧反。沮は、在呂反。壞るなり。一に音子餘反。岸崩るる、之を沮と謂う。 得雋曰克。謂若大叔段之比、才力足以服衆、威權足以自固、進不成爲外寇强敵、退復狡壯、有二君之難、而實非二君、克而勝之、則不言彼敗績、但書所克之名。○雋、音俊。 【読み】 雋[しゅん]を得るを克つと曰う。大叔段の比の、才力以て衆を服するに足り、威權以て自ら固くするに足り、進んで外寇强敵爲ることを成さざるも、退いては復狡壯、二君の難有りて、實は二君に非ず、克ちて之に勝てば、則ち彼れ敗績すと言わず、但克つ所の名を書すが若きを謂う。○雋は、音俊。 覆而敗之曰取某師。覆謂威力兼備、若羅網所掩覆。一軍皆見禽制。故以取爲文。 【読み】 覆いて之を敗るを某の師を取ると曰う。覆は威力兼備し、羅網の掩覆する所の若きを謂う。一軍皆禽制せらる。故に取るを以て文を爲す。 京師敗、曰王師敗績于某。王者無敵於天下。天下非所得與戰者。然春秋之世、據有其事、事列於經、則不得不因申其義。有時而敗、則以自敗爲文。明天下莫之得校。○校、音敎。 【読み】 京師敗るるを、王の師某に敗績すと曰う。王者は天下に敵無し。天下與に戰うことを得る所の者に非ず。然れども春秋之世、其の事有るに據りて、事經に列ぬれば、則ち因りて其の義を申べざることを得ず。時有りて敗るれば、則ち自ら敗るるを以て文を爲す。天下之に校[くら]ぶることを得ること莫きを明かす。○校は、音敎。 秋、宋大水。公使弔焉、曰、天作淫雨、害於粢盛。若之何不弔。不爲天所愍弔。 【読み】 秋、宋大水あり。公弔せしめて、曰く、天淫雨を作して、粢盛を害す。之を若何ぞ弔せられざるや、と。天の爲に愍弔[びんちょう]せられず。 對曰、孤實不敬、天降之災。又以爲君憂。拜命之辱。謝辱厚命。 【読み】 對えて曰く、孤實に不敬にして、天之に災いを降せり。又以て君の憂えを爲せり。命の辱[かたじけな]きを拜す、と。厚命を辱くするを謝す。 臧文仲曰、宋其興乎。臧文仲、魯大夫。 【読み】 臧文仲曰く、宋は其れ興らん。臧文仲は、魯の大夫。 禹・湯罪己、其興也悖焉。悖、盛貌。○悖、蒲忽反。一作勃。 【読み】 禹・湯己を罪して、其の興るや悖[ぼつ]焉たり。悖は、盛んなる貌。○悖は、蒲忽反。一に勃に作る。 桀・紂罪人、其亡也忽焉。忽、速貌。 【読み】 桀・紂人を罪して、其の亡ぶるや忽焉たり。忽は、速やかなる貌。 且列國有凶、稱孤、禮也。列國諸侯、無凶則常稱寡人。 【読み】 且つ列國凶有るとき、孤と稱するは、禮なり。列國の諸侯、凶無ければ則ち常に寡人と稱す。 言懼而名禮。其庶乎。言懼、罪己。名禮、稱孤。其庶、庶幾於興。○言懼而名禮、絶句。 【読み】 言懼れて名禮あり。其れ庶からんか、と。言懼るとは、己を罪するなり。名禮ありとは、孤と稱するなり。其れ庶からんとは、興るに庶幾からんとなり。○言懼れて名禮ありは、絶句。 旣而聞之、曰、公子御說之辭也。宋莊公子。○御、魚呂反。說、音悅。 【読み】 旣にして之を聞けば、曰く、公子御說の辭なり、と。宋の莊公の子。○御は、魚呂反。說は、音悅。 臧孫達曰、是宜爲君。有恤民之心。 【読み】 臧孫達曰く、是れ宜なり君爲ること。民を恤うるの心有りき、と。 冬、齊侯來逆共姬。齊桓公也。○共、音恭。 【読み】 冬、齊侯來りて共姬を逆[むか]う。齊の桓公なり。○共は、音恭。 乘丘之役、在十年。 【読み】 乘丘の役に、十年に在り。 公以金僕姑射南宮長萬。金僕姑、矢名。南宮長萬、宋大夫。○射、食亦反。長、丁文反。 【読み】 公金僕姑を以て南宮長萬を射る。金僕姑は、矢の名。南宮長萬は、宋の大夫。○射は、食亦反。長は、丁文反。 公右歂孫生搏之。搏、取也。不書獲、萬時未爲卿。○歂、市專反。搏、音博。 【読み】 公の右歂孫生[せんそんせい]之を搏[とら]えぬ。搏は、取るなり。獲を書さざるは、萬時に未だ卿と爲らざればなり。○歂は、市專反。搏は、音博。 宋人請之。宋公靳之、戲而相愧曰靳。魯聽其得還。○靳、居覲反。服云、恥而惡之曰靳。 【読み】 宋人之を請う。宋公之を靳[はずかし]めて、戲れて相愧[はずかし]むるを靳[きん]と曰う。魯其を聽[ゆる]して還ることを得せしむ。○靳は、居覲反。服云う、恥じて之を惡むを靳と曰う、と。 曰、始吾敬子。今子魯囚也。吾弗敬子矣。病之。萬不以爲戲、而以爲己病。爲宋萬弑君傳。 【読み】 曰く、始め吾れ子を敬せり。今子は魯の囚なり。吾れ子を敬せず、と。之を病む。萬以て戲れと爲さずして、以て己が病と爲す。宋の萬君を弑する爲の傳なり。 〔經〕十有二年、春、王三月、紀叔姬歸于酅。無傳。紀侯去國而死、叔姬歸魯。紀季自定於齊、而後歸之。全守節義、以終婦道。故繫之紀、而以初嫁爲文、賢之也。來歸不書、非寧、且非大歸。○酅、音攜。 【読み】 〔經〕十有二年、春、王の三月、紀の叔姬酅[けい]に歸る。傳無し。紀侯國を去りて死して、叔姬魯に歸る。紀季自ら齊に定まりて、而して後に之に歸る。節義を全守して、以て婦道を終うる。故に之を紀に繫けて、初嫁を以て文を爲すは、之を賢としてなり。來歸書さざるは、寧に非ず、且大歸に非ざればなり。○酅は、音攜。 夏、四月。秋、八月、甲午、宋萬弑其君捷、及其大夫仇牧。捷、閔公也。不書葬、亂也。萬及仇牧皆宋卿。仇牧稱名、不警而遇賊、無善事可褒。 【読み】 夏、四月。秋、八月、甲午[きのえ・うま]、宋の萬其の君捷を弑して、其の大夫仇牧に及ぶ。捷は、閔公なり。葬を書さざるは、亂れたればなり。萬と仇牧とは皆宋の卿なり。仇牧名を稱するは、警めずして賊に遇いて、善事の褒む可き無ければなり。 冬、十月、宋萬出奔陳。奔例、在宣十年。 【読み】 冬、十月、宋の萬出でて陳に奔る。奔るの例は、宣十年に在り。 〔傳〕十二年、秋、宋萬弑閔公于蒙澤。蒙澤、宋地。梁國有蒙縣。 【読み】 〔傳〕十二年、秋、宋の萬閔公を蒙澤に弑す。蒙澤は、宋の地。梁國に蒙縣有り。 遇仇牧于門。批而殺之。手批之也。○批、普迷反。又蒲穴反。擊也。 【読み】 仇牧に門に遇う。批[う]ちて之を殺す。手にて之を批つなり。○批は、普迷反。又蒲穴反。擊つなり。 遇大宰督于東宮之西。又殺之。殺督不書、宋不以告。○大、音泰。 【読み】 大宰督に東宮の西に遇う。又之を殺す。督を殺すこと書さざるは、宋以て告げざればなり。○大は、音泰。 立子游。子游、宋公子。 【読み】 子游を立つ。子游は、宋の公子。 羣公子奔蕭、公子御說奔亳。蕭、宋邑。今沛國蕭縣。亳、宋邑。蒙縣西北有亳城。 【読み】 羣公子蕭[しょう]に奔り、公子御說亳[はく]に奔る。蕭は、宋の邑。今の沛國蕭縣。亳は、宋の邑。蒙縣の西北に亳城有り。 南宮牛・猛獲帥師圍亳。牛、長萬之子。猛獲、其黨。 【読み】 南宮牛・猛獲師を帥て亳を圍む。牛は、長萬の子。猛獲は、其の黨。 冬、十月、蕭叔大心、叔、蕭大夫名。 【読み】 冬、十月、蕭の叔大心、叔は、蕭の大夫の名。 及戴・武・宣・穆・莊之族、宋五公之子孫。 【読み】 戴・武・宣・穆・莊の族と、宋の五公の子孫。 以曹師伐之、殺南宮牛于師、殺子游于宋、立桓公。桓公、御說。 【読み】 曹師を以[い]て之を伐ち、南宮牛を師に殺し、子游を宋に殺して、桓公を立つ。桓公は、御說。 猛獲奔衛、南宮萬奔陳。以乘車輦其母、一日而至。乘車、非兵車。駕人曰輦。宋去陳二百六十里。言萬之多力。○乘、繩證反。 【読み】 猛獲衛に奔り、南宮萬陳に奔る。乘車を以て其の母を輦[れん]にし、一日にして至る。乘車は、兵車に非ず。人を駕するを輦と曰う。宋陳を去ること二百六十里。萬の多力を言う。○乘は、繩證反。 宋人請猛獲于衛。衛人欲勿與。石祁子曰、不可。石祁子、衛大夫。 【読み】 宋人猛獲を衛に請う。衛人與うること勿からんと欲す。石祁子曰く、不可なり。石祁子は、衛の大夫。 天下之惡一也。惡於宋而保於我。保之何補。得一夫而失一國、與惡而棄好、非謀也。宋・衛本同好國。○好、呼報反。 【読み】 天下の惡は一なり。宋に惡にして我に保つ。之を保つも何の補かある。一夫を得て一國を失い、惡に與して好を棄つるは、謀に非ず、と。宋・衛は本同好の國。○好は、呼報反。 衛人歸之。亦請南宮萬于陳以賂。陳人使婦人飮之酒、而以犀革裹之。比及宋、手足皆見。宋人皆醢之。醢、肉醤。幷醢猛獲。故言皆。○請南宮長萬于陳以賂、絕句。飮、於鴆反。見、賢遍反。醢、音海。 【読み】 衛人之を歸す。亦南宮萬を陳に請うに賂を以てす。陳人婦人をして之に酒を飮ましめて、犀の革を以て之を裹[つつ]む。宋に及ぶ比[ころ]、手足皆見る。宋人皆之を醢[ひしお]にす。醢[かい]は、肉醤。幷せて猛獲を醢にす。故に皆と言う。○請南宮長萬于陳以賂は、絕句。飮は、於鴆反。見は、賢遍反。醢は、音海。 〔經〕十有三年、春、齊侯・宋人・陳人・蔡人・邾人會于北杏。北杏、齊地。○杏、戶猛反。 【読み】 〔經〕十有三年、春、齊侯・宋人・陳人・蔡人・邾人[ちゅひと]北杏に會す。北杏は、齊の地。○杏は、戶猛反。 夏、六月、齊人滅遂。遂國、在濟北蛇丘縣東北。○蛇、音移。 【読み】 夏、六月、齊人遂を滅ぼす。遂國は、濟北蛇丘縣の東北に在り。○蛇は、音移。 秋、七月。冬、公會齊侯盟于柯。此柯、今濟北東阿、齊之阿邑。猶祝柯今爲祝阿。○柯、古何反。 【読み】 秋、七月。冬、公齊侯に會して柯に盟う。此の柯は、今の濟北東阿、齊の阿邑。猶祝柯を今祝阿と爲るがごとし。○柯は、古何反。 〔傳〕十三年、春、會于北杏、以平宋亂。宋有弑君之亂。齊桓欲修霸業。 【読み】 〔傳〕十三年、春、北杏に會して、以て宋の亂を平らぐ。宋に君を弑するの亂有り。齊桓霸業を修めんと欲す。 遂人不至。夏、齊人滅遂、而戍之。戍、守也。 【読み】 遂人至らず。夏、齊人遂を滅ぼして、之を戍る。戍は、守るなり。 冬、盟于柯、始及齊平也。始與齊桓通好。 【読み】 冬、柯に盟うは、始めて齊と平らぐなり。始めて齊桓と好を通ず。 宋人背北杏之會。○背、音佩。 【読み】 宋人北杏の會に背く。○背は、音佩。 〔經〕十有四年、春、齊人・陳人・曹人伐宋。背北杏會故。 【読み】 〔經〕十有四年、春、齊人・陳人・曹人宋を伐つ。北杏の會に背く故なり。 夏、單伯會伐宋。旣伐宋、單伯乃至。故曰會伐宋。單伯、周大夫。 【読み】 夏、單伯[ぜんはく]宋を伐つに會す。旣に宋を伐ちて、單伯乃ち至る。故に宋を伐つに會すと曰う。單伯は、周の大夫。 秋、七月、荆入蔡。入例在文十五年。 【読み】 秋、七月、荆蔡に入る。入るの例は文十五年に在り。 冬、單伯會齊侯・宋公・衛侯・鄭伯于鄄。鄄、衛地。今東郡鄄城也。齊桓脩霸業、卒平宋亂、宋人服從。欲歸功天子。故赴以單伯會諸侯爲文。○鄄、音絹。一音眞。 【読み】 冬、單伯齊侯・宋公・衛侯・鄭伯に鄄[けん]に會す。鄄は、衛の地。今の東郡鄄城なり。齊桓霸業を脩め、卒に宋の亂を平らげ、宋人服從す。功を天子に歸せんと欲す。故に赴[つ]ぐるに單伯諸侯に會するを以て文を爲す。○鄄は、音絹。一に音眞。 〔傳〕十四年、春、諸侯伐宋、齊請師于周。齊欲崇天子。故請師、假王命以示大順。經書人、傳言諸侯、總衆國之辭。 【読み】 〔傳〕十四年、春、諸侯宋を伐ち、齊師を周に請う。齊天子を崇めんと欲す。故に師を請い、王命を假りて以て大順を示す。經に人と書し、傳に諸侯と言うは、衆國を總ぶるの辭なり。 夏、單伯會之、取成于宋而還。 【読み】 夏、單伯之に會し、成[たい]らぎを宋に取りて還る。 鄭厲公自櫟侵鄭、厲公以桓十五年入櫟、遂居之。○櫟、音歷。 【読み】 鄭の厲公櫟[れき]より鄭を侵し、厲公桓十五年を以て櫟に入り、遂に之に居る。○櫟は、音歷。 及大陵。獲傅瑕。大陵、鄭地。傅瑕、鄭大夫。 【読み】 大陵に及ぶ。傅瑕を獲たり。大陵は、鄭の地。傅瑕は、鄭の大夫。 傅瑕曰、苟舍我、吾請納君。與之盟而赦之。六月、甲子、傅瑕殺鄭子及其二子、而納厲公。鄭子、莊四年稱伯會諸侯。今見殺不稱君、無謚者、微弱、臣子不以君禮成喪、告諸侯。○舍、音捨。 【読み】 傅瑕曰く、苟し我を舍[ゆる]さば、吾れ請う、君を納れん、と。之と盟いて之を赦す。六月、甲子[きのえ・ね]、傅瑕鄭子と其の二子とを殺して、厲公を納れぬ。鄭子は、莊四年に伯と稱して諸侯に會せり。今殺さるるに君と稱せず、謚無きは、微弱にして、臣子君の禮を以て喪を成し、諸侯に告げざればなり。○舍は、音捨。 初、内蛇與外蛇鬭於鄭南門中、内蛇死。六年而厲公入。公聞之、問於申繻曰、猶有妖乎。對曰、人之所忌、其氣燄以取之。妖由人興也。尙書洛誥、無若火始燄燄。未盛而進退之時。以喩人心不堅正。○繻、音須。 【読み】 初め、内の蛇と外の蛇と鄭の南門の中に鬭い、内の蛇死したり。六年にして厲公入る。公之を聞き、申繻に問いて曰く、妖有るに猶[よ]れるか、と。對えて曰く、人の忌む所は、其の氣燄[きえん]して以て之を取る。妖は人に由りて興れり。尙書の洛誥に、火の始め燄燄たるが若くなること無し、と。未だ盛んならずして進退するの時なり。以て人心の堅正ならざるに喩う。○繻は、音須。 人無釁焉、妖不自作。人棄常、則妖興。故有妖。 【読み】 人釁[きん]無ければ、妖自ら作らず。人常を棄つるときは、則ち妖興る。故に妖有りしなり、と。 厲公入、遂殺傅瑕。使謂原繁曰、傅瑕貳。言有二心於己。○釁、許靳反。 【読み】 厲公入り、遂に傅瑕を殺す。原繁に謂わしめて曰く、傅瑕貳あり。己に二心有るを言う。○釁は、許靳反。 周有常刑、旣伏其罪矣。納我而無二心者、吾皆許之上大夫之事。吾願與伯父圖之。上大夫、卿也。伯父、謂原繁。疑原繁有二心。 【読み】 周に常刑有りて、旣に其の罪に伏せり。我を納れて二心無き者は、吾れ皆之に上大夫の事を許さんとす。吾れ願わくは伯父と之を圖らん。上大夫は、卿なり。伯父は、原繁を謂う。原繁に二心有らんことを疑う。 且寡人出、伯父無裏言、無納我之言。 【読み】 且つ寡人が出づるに、伯父裏言無く、我を納るるの言無し。 入、又不念寡人。不親附己。 【読み】 入るに、又不寡人を念わず。己に親附せず。 寡人憾焉。對曰、先君桓公、命我先人、典司宗祏。桓公、鄭始受封君也。宗祏、宗廟中藏主石室。言己世爲宗廟守臣。○祏、音石。守、手又反。 【読み】 寡人憾む、と。對えて曰く、先君桓公、我が先人に命じて、宗祏[そうせき]を典司せしめり。桓公は、鄭の始めて封を受けし君なり。宗祏は、宗廟中の主を藏むる石室なり。己世々宗廟の守臣爲るを言う。○祏は、音石。守は、手又反。 社稷有主、而外其心、其何貳如之。苟主社稷、國内之民、其誰不爲臣。臣無二心、天之制也。子儀在位十四年矣。子儀、鄭子也。 【読み】 社稷主有りて、其の心を外にせば、其れ何の貳か之に如かん。苟も社稷を主らば、國内の民、其れ誰か臣爲らざらん。臣に二心無きは、天の制なり。子儀位に在ること十四年なり。子儀は、鄭子なり。 而謀召君者、庸非貳乎。庸、用也。 【読み】 而るを君を召[よ]ばわんことを謀るは、庸[もっ]て貳に非ずや。庸は、用てなり。 莊公之子、猶有八人。若皆以官爵行賂、勸貳而可以濟事、君其若之何。臣聞命矣。 【読み】 莊公の子、猶八人有り。若し皆官爵を以て賂を行い、貳を勸めて以て事を濟す可くんば、君其れ之を若何にせん。臣命を聞けり、と。 乃縊而死。○莊公子猶有八人、傳唯見四人。子忽・子亹・子儀竝死。獨厲公在。八人名字、記傳無聞。 【読み】 乃ち縊れて死す。○莊公の子猶八人有りは、傳は唯四人を見す。子忽・子亹・子儀竝に死す。獨厲公のみ在り。八人の名字、記傳に聞くこと無し。 蔡哀侯爲莘故、繩息嬀以語楚子。莘役、在十年。繩、譽也。○爲莘、于僞反。語、魚據反。繩、食承反。 【読み】 蔡の哀侯莘の爲の故に、息嬀を繩[ほ]めて以て楚子に語[つ]ぐ。莘の役は、十年に在り。繩は、譽むるなり。○爲莘は、于僞反。語は、魚據反。繩は、食承反。 楚子如息、以食入享、遂滅息、僞設享食之具。○食、音嗣。 【読み】 楚子息に如き、食を以て入りて享し、遂に息を滅ぼし、僞りて享食の具を設く。○食は、音嗣。 以息嬀歸。生堵敖及成王焉、未言。未與王言。○堵、丁古反。 【読み】 息嬀を以[い]て歸る。堵敖と成王とを生むも、未だ言わず。未だ王と言わず。○堵は、丁古反。 楚子問之。對曰、吾一婦人而事二夫。縱弗能死、其又奚言。楚子以、蔡侯滅息。遂伐蔡。欲以說息嬀。○說、音悅。 【読み】 楚子之を問う。對えて曰く、吾れ一婦人にして二夫に事う。縱[たと]い死すること能わずとも、其れ又奚ぞ言わん、と。楚子以えらく、蔡侯息を滅ぼさせり、と。遂に蔡を伐つ。以て息嬀を說ばせんと欲す。○說は、音悅。 秋、七月、楚入蔡。 【読み】 秋、七月、楚蔡に入る。 君子曰、商書所謂惡之易也、如火之燎于原、不可郷邇。其猶可撲滅者、其如蔡哀侯乎。商書、盤庚。言惡易長而難滅。 【読み】 君子曰く、商書に所謂惡の易きや、火の原を燎くが如く、郷[む]かい邇[ちか]づく可からず。其れ猶撲ち滅[け]す可けんやとは、其れ蔡の哀侯の如きか、と。商書は、盤庚。惡は長じ易くして滅ぼし難きを言う。 冬、會于鄄、宋服故也。 【読み】 冬、鄄に會するは、宋服する故なり。 〔經〕十有五年、春、齊侯・宋公・陳侯・衛侯・鄭伯會于鄄。夏、夫人姜氏如齊。無傳。夫人、文姜。齊桓公姊妹。父母在、則禮有歸寧、沒、則使卿寧。 【読み】 〔經〕十有五年、春、齊侯・宋公・陳侯・衛侯・鄭伯鄄[けん]に會す。夏、夫人姜氏齊に如く。傳無し。夫人は、文姜。齊の桓公の姊妹。父母在せば、則ち禮に歸寧有り、沒すれば、則ち卿をして寧せしむ。 秋、宋人・齊人・邾人伐郳。宋主兵。故序齊上。○郳、五兮反。 【読み】 秋、宋人・齊人・邾人[ちゅひと]郳[げい]を伐つ。宋兵を主る。故に齊の上に序ず。○郳は、五兮反。 鄭人侵宋。冬、十月。 【読み】 鄭人宋を侵す。冬、十月。 〔傳〕十五年、春、復會焉。齊始霸也。始爲諸侯長。○復、扶又反。 【読み】 〔傳〕十五年、春、復會す。齊始めて霸たり。始めて諸侯の長と爲る。○復は、扶又反。 秋、諸侯爲宋伐郳。郳、附庸。屬宋而叛。故齊桓爲之伐郳。 【読み】 秋、諸侯宋の爲に郳を伐つ。郳は、附庸なり。宋に屬して叛く。故に齊桓之が爲に郳を伐つ。 鄭人閒之而侵宋。 【読み】 鄭人之を閒して宋を侵す。 〔經〕十有六年、春、王正月。夏、宋人・齊人・衛人伐鄭。宋主兵也。班序上下、以國大小爲次、征伐、則以主兵爲先。春秋之常也。他皆放此。 【読み】 〔經〕十有六年、春、王の正月。夏、宋人・齊人・衛人鄭を伐つ。宋兵を主るなり。班序の上下は、國の大小を以て次を爲し、征伐は、則ち主兵を以て先と爲す。春秋の常なり。他も皆此に放え。 秋、荆伐鄭。冬、十有二月、會齊侯・宋公・陳侯・衛侯・鄭伯・許男・滑伯・滕子同盟於幽。書會、魯會之。不書其人、微者也。言同盟、服異也。陳國小、每盟會皆在衛下。齊桓始霸、楚亦始彊。陳侯介於二大國之閒、而爲三恪之客。故齊桓因進之、遂班在衛上、終於春秋。滑國、都費。河南緱氏縣。幽、宋地。○費、扶味反。又音祕。緱、古侯反。 【読み】 秋、荆鄭を伐つ。冬、十有二月、齊侯・宋公・陳侯・衛侯・鄭伯・許男・滑伯・滕子に會して幽に同盟す。會を書すは、魯之に會するなり。其の人を書さざるは、微者なればなり。同盟と言うは、異を服するなり。陳は國小にして、盟會每に皆衛の下に在り。齊桓始めて霸たり、楚も亦始めて彊し。陳侯二大國の閒に介[はさ]まりて、三恪の客爲り。故に齊桓因りて之を進めて、遂に班[ついで]衛の上に在りて、春秋を終うる。滑國は、費に都す。河南の緱氏縣なり。幽は、宋の地。○費は、扶味反。又音祕。緱は、古侯反。 邾子克卒。無傳。克、儀父名。稱子者、蓋齊桓請王命、以爲諸侯。再同盟。 【読み】 邾子[ちゅし]克卒す。傳無し。克は、儀父の名。子と稱するは、蓋し齊桓王命を請いて、以て諸侯と爲すならん。再び同盟す。 〔傳〕十六年、夏、諸侯伐鄭、宋故也。鄭侵宋故。 【読み】 〔傳〕十六年、夏、諸侯鄭を伐つは、宋の故なり。鄭宋を侵す故なり。 鄭伯自櫟入、在十四年。 【読み】 鄭伯櫟[れき]より入りしとき、十四年に在り。 緩告于楚。秋、楚伐鄭、及櫟、爲不禮故也。 【読み】 緩[おそ]く楚に告げぬ。秋、楚鄭を伐ちて、櫟に及ぶは、不禮の爲の故なり。 鄭伯治與於雍糾之亂者。在桓十五年。○爲、于僞反。與、音預。 【読み】 鄭伯雍糾の亂に與りし者を治む。桓十五年に在り。○爲は、于僞反。與は、音預。 九月、殺公子閼、刖强鉏。二子、祭仲黨。斷足曰刖。○閼、安末反。刖、音月。又五刮反。鉏、仕魚反。 【読み】 九月、公子閼[あつ]を殺し、强鉏[きょうしょ]を刖[あしき]る。二子は、祭仲の黨。足を斷つを刖[げつ]と曰う。○閼は、安末反。刖は、音月。又五刮反。鉏は、仕魚反。 公父定叔出奔衛。共叔段之孫。定、謚也。 【読み】 公父定叔出でて衛に奔る。共叔段の孫。定は、謚なり。 三年而復之。曰、不可使共叔無後於鄭。使以十月入。曰、良月也、就盈數焉。數滿於十。 【読み】 三年にして之を復す。曰く、共叔をして鄭に後無からしむ可からず、と。十月を以て入らしむ。曰く、良月なり、盈數に就かしむ、と。數は十に滿つ。 君子謂、強鉏不能衛其足。言其不能早辟害。 【読み】 君子謂[おも]えらく、強鉏其の足を衛ること能わず、と。其の早く害を辟くること能わざるを言う。 冬、同盟于幽、鄭成也。 【読み】 冬、幽に同盟するは、鄭成[たい]らぐなり。 王使虢公命曲沃伯、以一軍爲晉侯。曲沃武公、遂幷晉國。僖王因就命爲晉侯。小國故一軍。 【読み】 王虢公をして曲沃の伯に命じて、一軍を以て晉侯と爲らしむ。曲沃の武公、遂に晉國を幷す。僖王因りて就いて命じて晉侯と爲す。小國故に一軍なり。 初、晉武公伐夷、執夷詭諸。夷詭諸、周大夫。夷、采地名。○詭、九委反。 【読み】 初め、晉の武公夷を伐ち、夷詭諸を執う。夷詭諸は、周の大夫。夷は、采地の名。○詭は、九委反。 蔿國請而免之。蔿國、周大夫。○蔿、于委反。 【読み】 蔿國[いこく]請いて之を免す。蔿國は、周の大夫。○蔿は、于委反。 旣而弗報。詭諸不報施於蔿國。○施、始豉反。 【読み】 旣にして報いず。詭諸蔿國に報施せず。○施は、始豉反。 故子國作亂。謂晉人曰、與我伐夷而取其地。使晉取夷地。 【読み】 故に子國亂を作す。晉人に謂いて曰く、我と夷を伐ちて其の地を取れ、と。晉をして夷の地を取らしむ。 遂以晉師伐夷、殺夷詭諸。 【読み】 遂に晉の師を以[い]て夷を伐ち、夷詭諸を殺す。 周公忌父出奔虢。周公忌父、王卿士。辟子國之難。 【読み】 周公忌父出でて虢に奔る。周公忌父は、王の卿士。子國の難を辟く。 惠王立、而復之。魯桓十五年經書桓王崩。魯莊三年經書葬桓王。自此以來、周有莊王、又有僖王、崩葬皆不見於經傳。王室微弱、不能復自通於諸侯。故傳因周公忌父之事、而見惠王。惠王立在此年之末。附注、惠王之立、當在明年。傳於此云立而復之者、蓋終言之耳。杜注恐誤。 【読み】 惠王立ちて、之を復す。魯桓十五年の經に桓王崩ずと書す。魯莊三年の經に桓王を葬ると書す。此より以來、周に莊王有り、又僖王有るも、崩葬皆經傳に見えず。王室微弱にして、復自ら諸侯に通ずること能わず。故に傳、周公忌父の事に因りて、惠王を見す。惠王の立つは此の年の末に在り。附注に、惠王の立つは、當に明年に在るべし、と。傳此に於て立ちて之を復すと云うは、蓋し之を終言するのみ。杜注恐らくは誤りならん。 〔經〕十有七年、春、齊人執鄭詹。齊桓始霸。鄭旣伐宋、又不朝齊。詹、爲鄭執政大臣。詣齊見執。不稱行人、罪之也。行人例、在襄十一年。諸執大夫、皆稱人以執之。大夫賤故。○詹、之廉反。 【読み】 〔經〕十有七年、春、齊人鄭の詹[せん]を執う。齊桓始めて霸たり。鄭旣に宋を伐ち、又齊に朝せず。詹は、鄭の執政の大臣爲り。齊に詣[いた]りて執えらる。行人と稱せざるは、之を罪するなり。行人の例は、襄十一年に在り。諸々大夫を執うるは、皆人と稱して以て之を執う。大夫は賤しき故なり。○詹は、之廉反。 夏、齊人殲于遂。殲、盡也。齊人戍遂、翫而無備。遂人討而盡殺之。故時史因以自盡爲文。○殲、子廉反。 【読み】 夏、齊人遂に殲[つ]く。殲[せん]は、盡くなり。齊人遂を戍り、翫[もてあそ]びて備え無し。遂人討じて盡く之を殺す。故に時史因りて自ら盡くを以て文を爲す。○殲は、子廉反。 秋、鄭詹自齊逃來。無傳。詹不能伏節守死、以解國患、而遁逃苟免。書逃以賤之。 【読み】 秋、鄭の詹齊より逃げ來る。傳無し。詹節に伏して死を守り、以て國の患えを解くこと能わずして、遁逃して苟も免る。逃ぐると書して以て之を賤しむなり。 冬、多麋。無傳。麋多則害五稼。故以災書。○麋、亡悲反。 【読み】 冬、麋[び]多し。傳無し。麋の多きは則ち五稼を害す。故に災いを以て書す。○麋は、亡悲反。 〔傳〕十七年、春、齊人執鄭詹、鄭不朝也。 【読み】 〔傳〕十七年、春、齊人鄭の詹を執うるは、鄭朝せざればなり。 夏、遂因氏・頜氏・工婁氏・須遂氏饗齊戍、醉而殺之。齊人殲焉。饗、酒食也。四族、遂之彊宗。齊滅遂戍之、在十三年。○頜、烏納反。又苦荅反。 【読み】 夏、遂の因氏・頜[こう]氏・工婁氏・須遂氏齊の戍を饗し、醉わせて之を殺す。齊人殲く。饗は、酒食なり。四族は、遂の彊宗。齊遂を滅ぼして之を戍るは、十三年に在り。○頜は、烏納反。又苦荅反。 〔經〕十有八年、春、王三月、日有食之。無傳。不書日、官失之。 【読み】 〔經〕十有八年、春、王の三月、日之を食する有り。傳無し。日を書さざるは、官之を失うなり。 夏、公追戎于濟西。戎來侵魯。公逐之於濟水之西。 【読み】 夏、公戎を濟の西に追う。戎來りて魯を侵す。公之を濟水の西に逐う。 秋、有蜮。蜮、短弧也。蓋以含沙射人爲災。○蜮、音或。本草謂之射工。 【読み】 秋、蜮[よく]有り。蜮は、短弧なり。蓋し沙を含んで人を射るを以て災いを爲すならん。○蜮は、音或。本草に之を射工[せきこう]と謂う。 冬、十月。 【読み】 冬、十月。 〔傳〕十八年、春、虢公・晉侯朝王。王饗醴。命之宥。王之覲羣后、始則行饗禮、先置醴酒、示不忘古。飮宴則命以幣物。宥、助也。所以助歡敬之意。言備設。 【読み】 〔傳〕十八年、春、虢公・晉侯王に朝す。王饗して醴あり。之に宥を命ず。王の羣后を覲する、始めは則ち饗禮を行い、先ず醴酒を置くは、古を忘れざるを示すなり。飮宴は則ち命ずるに幣物を以てす。宥は、助なり。歡敬の意を助くる所以なり。備に設くるを言う。 皆賜玉五瑴、馬三匹。非禮也。雙玉爲瑴。○瑴、音角。 【読み】 皆玉五瑴[かく]、馬三匹を賜う。禮に非ざるなり。雙玉を瑴とす。○瑴は、音角。 王命諸侯、名位不同、禮亦異數。不以禮假人。侯而與公同賜、是借人禮。 【読み】 王の諸侯に命ずる、名位同じからざれば、禮も亦數を異にす。禮を以て人に假さざるなり。侯にして公と賜を同じくす、是れ人に禮を借すなり。 虢公・晉侯・鄭伯使原莊公逆王后于陳。陳嬀歸于京師。虢・晉朝王。鄭伯又以齊執其卿、故求王爲援、皆在周。倡義爲王定昏。陳人敬從。得同姓宗國之禮。故傳詳其事。不書、不告。 【読み】 虢公・晉侯・鄭伯原莊公をして王后を陳より逆[むか]えしむ。陳嬀京師に歸[とつ]ぐ。虢・晉王に朝す。鄭伯も又齊の其の卿を執るを以て、故に王の援けを爲さんことを求め、皆周に在り。義を倡えて王の爲に昏を定む。陳人敬從す。同姓宗國の禮を得。故に傳其の事を詳らかにす。書さざるは、告げざればなり。 實惠后。陳嬀後號惠后、寵愛少子、亂周室。事在僖二十四年。故傳於此竝正其后稱。○稱、尺證反。 【読み】 實に惠后なり。陳嬀後に惠后と號し、少子を寵愛して、周室を亂る。事は僖二十四年に在り。故に傳此に於て竝に其の后稱を正す。○稱は、尺證反。 夏、公追戎于濟西。不言其來、諱之也。戎來侵魯、魯人不知、去乃追之。故諱不言其來。 【読み】 夏、公戎を濟の西に追う。其の來るを言わざるは、之を諱みてなり。戎來りて魯を侵して、魯人知らず、去りて乃ち之を追う。故に諱みて其の來るを言わず。 秋、有蜮、爲災也。 【読み】 秋、蜮有るは、災いを爲せるなり。 初、楚武王克權、使鬭緡尹之。權、國名。南郡當陽縣東南有權城。鬭緡、楚大夫。○緡、亡巾反。 【読み】 初め、楚の武王權に克ちて、鬭緡[とうびん]をして之に尹たらしむ。權は、國の名。南郡當陽縣の東南に權城有り。鬭緡は、楚の大夫。○緡は、亡巾反。 以叛。圍而殺之、緡以權叛。○以叛句。 【読み】 以[い]て叛く。圍んで之を殺し、緡權を以[い]て叛く。○以叛は句。 遷權於那處、那處、楚地。南郡編縣東南有那口城。○那、乃多反。處、昌呂反。又昌慮反。 【読み】 權を那處に遷し、那處は、楚の地。南郡編縣の東南に那口城有り。○那は、乃多反。處は、昌呂反。又昌慮反。 使閻敖尹之。閻敖、楚大夫。 【読み】 閻敖をして之に尹たらしむ。閻敖は、楚の大夫。 及文王卽位、與巴人伐申、而驚其師。驚巴師。 【読み】 文王の位に卽くに及びて、巴人と申を伐ちて、其の師を驚かす。巴の師を驚かす。 巴人叛楚、而伐那處、取之、遂門于楚。攻楚城門。 【読み】 巴人楚に叛きて、那處を伐ちて、之を取り、遂に楚を門[せ]む。楚の城門を攻む。 閻敖游涌而逸。涌水、在南郡華容縣。閻敖旣不能守城、又游涌水而走。○涌、音勇。 【読み】 閻敖涌を游[およ]いで逸る。涌水は、南郡華容縣に在り。閻敖旣に城を守ること能わず、又涌水を游いで走る。○涌は、音勇。 楚子殺之、其族爲亂。 【読み】 楚子之を殺しかば、其の族亂を爲せり。 冬、巴人因之以伐楚。 【読み】 冬、巴人之に因りて以て楚を伐つ。 〔經〕十有九年、春、王正月。夏、四月。秋、公子結媵陳人之婦、于鄄、遂及齊侯・宋公盟。無傳。公子結、魯大夫。公羊・穀梁皆以爲、魯女媵陳公之婦。其稱陳人之婦、未入國、略言也。大夫出竟、有可以安社稷、利國家者、則專之可也。結在鄄、聞齊・宋有會、權事之宜、去其本職、遂與二君爲盟。故備書之。本非魯公意、而又失媵陳之好。故冬各來伐。 【読み】 〔經〕十有九年、春、王の正月。夏、四月。秋、公子結陳人の婦に媵[よう]し、鄄[けん]に于[ゆ]きて、遂に齊侯・宋公と盟う。傳無し。公子結は、魯の大夫。公羊・穀梁皆以爲えらく、魯の女陳公の婦媵す。其の陳人の婦と稱するは、未だ國に入らざれば、略して言うなり。大夫竟を出づれば、以て社稷を安んじ、國家を利す可き者有れば、則ち之を專らにして可なり。結鄄に在り、齊・宋會有りとを聞き、事の宜を權り、其の本職を去て、遂に二君と盟を爲す。故に之を備に書す。本魯公の意に非ずして、又陳に媵するの好を失う。故に冬各々來り伐つ。 夫人姜氏如莒。無傳。非父母國而往、書姦。 【読み】 夫人姜氏莒に如く。傳無し。父母の國に非ずして往くは、姦を書すなり。 冬、齊人・宋人・陳人伐我西鄙。無傳。幽之盟、魯使微者會、鄄之盟、又使媵臣行。所以受敵。鄙、邊邑。 【読み】 冬、齊人・宋人・陳人我が西鄙を伐つ。傳無し。幽の盟に、魯微者をして會せしめ、鄄の盟に、又媵臣をして行かしむ。敵を受くる所以なり。鄙は、邊邑。 〔傳〕十九年、春、楚子禦之、大敗於津。禦巴人、爲巴人所敗。津、楚地。或曰、江陵縣有津郷。 【読み】 〔傳〕十九年、春、楚子之を禦ぎ、大いに津に敗らる。巴人を禦ぎて、巴人の爲に敗らる。津は、楚の地。或ひと曰く、江陵縣に津郷有り、と。 還。鬻拳弗納。遂伐黃、鬻拳、楚大閽。黃、嬴姓國。今弋陽縣。○鬻、音育。 【読み】 還る。鬻拳[いくけん]納れず。遂に黃を伐ち、鬻拳は、楚の大閽。黃は、嬴[えい]姓の國。今の弋陽縣。○鬻は、音育。 敗黃師于踖陵。踖陵、黃地。○踖、在亦反。一音七略反。 【読み】 黃の師を踖陵[せきりょう]に敗る。踖陵は、黃の地。○踖は、在亦反。一に音七略反。 還。及湫有疾。南郡鄀縣東南有湫城。○湫、子小反。鄀、音若。 【読み】 還る。湫[しょう]に及んで疾有り。南郡鄀縣の東南に湫城有り。○湫は、子小反。鄀は、音若。 夏、六月、庚申、卒。鬻拳葬諸夕室、夕室、地名。 【読み】 夏、六月、庚申[かのえ・さる]、卒す。鬻拳諸を夕室に葬り、夕室は、地の名。 亦自殺也。而葬於絰皇。絰皇、冢前闕。生守門。故死不失職。○絰、田結反。 【読み】 亦自殺す。而して絰皇[てっこう]に葬る。絰皇は、冢前の闕。生きるときは門を守る。故に死して職を失わず。○絰は、田結反。 初、鬻拳强諫楚子。楚子弗從。臨之以兵。懼而從之。鬻拳曰、吾懼君以兵。罪莫大焉。遂自刖也。楚人以爲大閽、謂之大伯。若今城門校尉官。○强、其丈反。大伯、音泰。 【読み】 初め、鬻拳楚子を强諫す。楚子從わず。之に臨むに兵を以てす。懼れて之に從う。鬻拳曰く、吾れ君を懼[おど]すに兵を以てす。罪焉より大なるは莫し、と。遂に自ら刖[あしき]る。楚人以て大閽と爲して、之を大伯と謂う。今の城門校尉の官の若し。○强は、其丈反。大伯は、音泰。 使其後掌之。使其子孫常主此官。 【読み】 其の後をして之を掌らしめり。其の子孫をして常に此の官を主らしむ。 君子曰、鬻拳可謂愛君矣。諫以自納於刑。刑猶不忘納君於善。言愛君、明非臣法也。楚能盡其忠愛。所以興。 【読み】 君子曰く、鬻拳は君を愛すと謂う可し。諫めて以て自ら刑に納る。刑せらるも猶君を善に納るることを忘れず、と。君を愛すと言うは、臣の法に非ざるを明かすなり。楚能く其の忠愛を盡くす。興る所以なり。 初、王姚嬖于莊王、生子頹。王姚、莊王之妾也。姚、姓也。 【読み】 初め、王姚[おうよう]莊王に嬖せられ、子頹[したい]を生む。王姚は、莊王の妾なり。姚は、姓なり。 子頹有寵。蔿國爲之師。及惠王卽位、周惠王、莊王孫。 【読み】 子頹寵有り。蔿國[いこく]之が師と爲る。惠王位に卽くに及んで、周の惠王は、莊王の孫。 取蔿國之圃以爲囿。圃、園也。囿、苑也。 【読み】 蔿國の圃を取りて以て囿と爲す。圃は、園なり。囿は、苑なり。 邊伯之宮、近於王宮。王取之。邊伯、周大夫。 【読み】 邊伯の宮、王宮に近し。王之を取る。邊伯は、周の大夫。 王奪子禽・祝跪、與詹父田、三子、周大夫。○跪、求委反。 【読み】 王子禽・祝跪と、詹父[せんぽ]との田を奪いて、三子は、周の大夫。○跪は、求委反。 而收膳夫之秩。膳夫、石速也。秩、祿也。 【読み】 膳夫の秩を收む。膳夫は、石速なり。秩は、祿なり。 故蔿國・邊伯・石速・詹父・子禽・祝跪作亂、因蘇氏。蘇氏、周大夫。桓王奪其十二邑以與鄭。自此以來、遂不和。 【読み】 故に蔿國・邊伯・石速・詹父・子禽・祝跪亂を作して、蘇氏に因る。蘇氏は、周の大夫。桓王其の十二邑を奪いて以て鄭に與う。此より以來、遂に和せず。 秋、五大夫奉子頹以伐王。石速、士也。故不在五大夫數。 【読み】 秋、五大夫子頹を奉じて以て王を伐つ。石速は、士なり。故に五大夫の數に在らず。 不克。出奔溫。溫、蘇氏邑。 【読み】 克たず。出でて溫に奔る。溫は、蘇氏の邑。 蘇子奉子頹以奔衛。衛師・燕師伐周。燕、南燕。 【読み】 蘇子子頹を奉じて以て衛に奔る。衛の師・燕の師周を伐つ。燕は、南燕。 冬、立子頹。 【読み】 冬、子頹を立つ。 〔經〕二十年、春、王二月、夫人姜氏如莒。無傳。 【読み】 〔經〕二十年、春、王の二月、夫人姜氏莒に如く。傳無し。 夏、齊大災。無傳。來告以大。故書。天火曰災。例在宣十六年。 【読み】 夏、齊大災あり。傳無し。來り告ぐるに大を以てす。故に書す。天火を災と曰う。例は宣十六年に在り。 秋、七月。冬、齊人伐戎。無傳。 【読み】 秋、七月。冬、齊人戎を伐つ。傳無し。 〔傳〕二十年、春、鄭伯和王室。不克。克、能也。 【読み】 〔傳〕二十年、春、鄭伯王室を和せんとす。克わず。克は、能うなり。 執燕仲父。燕仲父、南燕伯。爲伐周故。 【読み】 燕の仲父を執う。燕の仲父は、南燕の伯。周を伐つ爲の故なり。 夏、鄭伯遂以王歸。王處于櫟。秋、王及鄭伯入于鄔。鄔、王所取鄭邑。○鄔、音塢。 【読み】 夏、鄭伯遂に王を以[い]て歸る。王櫟[れき]に處る。秋、王鄭伯と鄔[お]に入る。鄔は、王の取る所の鄭の邑。○鄔は、音塢[お]。 遂入成周、取其寶器而還。 【読み】 遂に成周に入り、其の寶器を取りて還る。 冬、王子頹享五大夫。樂及徧舞。皆舞六代之樂。 【読み】 冬、王子頹五大夫を享す。樂徧舞に及ぶ。皆六代の樂を舞わす。 鄭伯聞之、見虢叔、叔、虢公字。 【読み】 鄭伯之を聞き、虢叔を見て、叔は、虢公の字。 曰、寡人聞之、哀樂失時、殃咎必至。今王子頹歌舞不倦、樂禍也。夫司寇行戮、司寇、刑官。○樂、音洛。 【読み】 曰く、寡人之を聞く、哀樂時を失えば、殃咎[おうきゅう]必ず至る、と。今王子頹歌舞して倦まざるは、禍を樂むなり。夫れ司寇戮を行えば、司寇は、刑官。○樂は、音洛。 君爲之不舉。去盛饌。 【読み】 君之が爲に舉せず。盛饌を去る。 而況敢樂禍乎。奸王之位、禍孰大焉。臨禍忘憂、憂必及之。盍納王乎。虢公曰、寡人之願也。○奸、音干。盍、胡臘反。 【読み】 而るを況んや敢えて禍を樂しまんや。王の位を奸すは、禍孰れか焉より大ならん。禍に臨んで憂えを忘るれば、憂え必ず之に及ばん。盍ぞ王を納れざるや、と。虢公曰く、寡人の願いなり、と。○奸は、音干。盍は、胡臘反。 〔經〕二十有一年、春、王正月。夏、五月、辛酉、鄭伯突卒。十六年、與魯大夫盟于幽。 【読み】 〔經〕二十有一年、春、王の正月。夏、五月、辛酉[かのと・とり]、鄭伯突卒す。十六年、魯の大夫と幽に盟う。 秋、七月、戊戌、夫人姜氏薨。無傳。薨寢祔姑、赴於諸侯。故具小君禮書之。 【読み】 秋、七月、戊戌[つちのえ・いぬ]、夫人姜氏薨ず。傳無し。寢に薨じ姑に祔し、諸侯に赴[つ]ぐる。故に小君の禮を具えて之を書す。 冬、十有二月、葬鄭厲公。無傳。八月乃葬、緩慢也。 【読み】 冬、十有二月、鄭の厲公を葬る。傳無し。八月にして乃ち葬るは、緩慢なり。 〔傳〕二十一年、春、胥命于弭。夏、同伐王城。鄭・虢相命也。弭、鄭地。○弭、面爾反。 【読み】 〔傳〕二十一年、春、弭[び]に胥命ず。夏、同じく王城を伐つ。鄭・虢相命ずるなり。弭は、鄭の地。○弭は、面爾反。 鄭伯將王自圉門入、虢叔自北門入、殺王子頹及五大夫。 【読み】 鄭伯王を將[い]て圉門[ぎょもん]より入り、虢叔北門より入り、王子頹と五大夫とを殺す。 鄭伯享王于闕西辟、樂備。闕、象魏也。樂備、備六代之樂。○圉、魚呂反。辟、蒲歷反。 【読み】 鄭伯王を闕の西辟に享して、樂備うる。闕は、象魏なり。樂備うるとは、六代の樂を備うるなり。○圉は、魚呂反。辟は、蒲歷反。 王與之武公之略、自虎牢以東。略、界也。鄭武公傅平王、平王賜之自虎牢以東、後失其地。故惠王今復與之。虎牢、河南成皐縣。 【読み】 王之に武公の略[さかい]、虎牢より以東を與う。略は、界なり。鄭の武公平王に傅たるとき、平王之に虎牢より以東を賜い、後に其の地を失う。故に惠王今復之を與う。虎牢は、河南の成皐縣。 原伯曰、鄭伯效尤。其亦將有咎。原伯、原莊公也。言效子頹舞徧樂。 【読み】 原伯曰く、鄭伯尤に效う。其れ亦將に咎有らんとす、と。原伯は、原の莊公なり。子頹が徧樂を舞わすに效うを言う。 五月、鄭厲公卒。 【読み】 五月、鄭の厲公卒す。 王巡虢守。巡守於虢國也。天子省方、謂之巡守。○守、音狩。 【読み】 王虢の守を巡る。虢國を巡守するなり。天子方を省る、之を巡守と謂う。○守は、音狩。 虢公爲王宮于玤。玤、虢地。○玤、蒲項反。 【読み】 虢公王宮を玤[ほう]に爲る。玤は、虢の地。○玤は、蒲項反。 王與之酒泉。酒泉、周邑。 【読み】 王之に酒泉を與う。酒泉は、周の邑。 鄭伯之享王也、王以后之鞶鑑予之、后、王后也。鞶帶而以鑑爲飾也。今西方羗胡猶然。古之遺服。○鞶、步干反。 【読み】 鄭伯の王を享するや、王后の鞶鑑を以て之に予え、后は、王后なり。鞶帶して鑑を以て飾とするなり。今西方の羗胡[きょうこ]猶然り。古の遺服なり。○鞶は、步干反。 虢公請器、王予之爵。爵、飮酒器。 【読み】 虢公器を請えば、王之に爵を予えり。爵は、飮酒の器。 鄭伯由是始惡於王。爲僖二十四年、鄭執王使張本。○惡、烏路反。 【読み】 鄭伯是に由りて始めて王を惡む。僖二十四年、鄭王の使を執うる爲の張本なり。○惡は、烏路反。 冬、王歸自虢。傳言王之偏也。 【読み】 冬、王虢より歸る。傳、王の偏なるを言う。 〔經〕二十有二年、春、王正月、肆大眚。無傳。赦有罪也。易稱赦過宥罪、書稱眚災肆赦、傳稱肆眚圍鄭。皆放赦罪人、盪滌衆故、以新其心。有時而用之。非制所常。故書。○眚、所景反。 【読み】 〔經〕二十二有年、春、王の正月、大眚[たいせい]を肆[ゆる]す。傳無し。有罪を赦すなり。易に過を赦し罪を宥むと稱し、書に眚災は肆赦すと稱し、傳に眚を肆して鄭を圍むと稱す。皆罪人を放赦し、衆故を盪滌して、以て其の心を新たにするなり。時有りて之を用ゆ。制の常にする所に非ず。故に書す。○眚は、所景反。 癸丑、葬我小君文姜。無傳。反哭成喪。故稱小君。 【読み】 癸丑[みずのと・うし]、我が小君文姜を葬る。傳無し。反哭して喪を成す。故に小君と稱す。 陳人殺其公子御寇。宣公太子也。陳人惡其殺太子之名。故不稱君父、以國討公子告。○御、音禦。 【読み】 陳人其の公子御寇を殺す。宣公の太子なり。陳人其の太子を殺すの名を惡む。故に君父を稱せず、公子を國討するを以て告ぐ。○御は、音禦。 夏、五月。秋、七月、丙申、及齊高傒盟于防。無傳。高傒、齊之貴卿、而與魯之微者盟、齊桓謙接諸侯、以崇霸業。 【読み】 夏、五月。秋、七月、丙申[ひのえ・さる]、齊の高傒と防に盟う。傳無し。高傒は、齊の貴卿にして、魯の微者と盟うは、齊桓謙りて諸侯に接わり、以て霸業を崇ぶなり。 冬、公如齊納幣。無傳。公不使卿、而親納幣、非禮也。母喪未再期而圖昏。二傳不見所譏。左氏又無傳。失禮明故也。 【読み】 冬、公齊に如きて幣を納る。傳無し。公卿を使わしめずして、親ら幣を納るるは、禮に非ざるなり。母の喪未だ再期をせずして昏を圖る。二傳譏る所を見ず。左氏も又傳無し。禮を失うこと明らかなる故なり。 〔傳〕二十二年、春、陳人殺其大子御寇。傳稱大子、以實言。 【読み】 〔傳〕二十二年、春、陳人其の大子御寇を殺す。傳に大子と稱するは、實を以て言うなり。 陳公子完與顓孫奔齊。公子完・顓孫、皆御寇之黨。 【読み】 陳の公子完顓孫[せんそん]と齊に奔る。公子完・顓孫は、皆御寇の黨。 顓孫自齊來奔。不書、非卿。 【読み】 顓孫齊より來奔す。書さざるは、卿に非ざればなり。 齊侯使敬仲爲卿。敬仲、陳公子完。 【読み】 齊侯敬仲をして卿爲らしむ。敬仲は、陳の公子完。 辭曰、羇旅之臣、羇、寄也。旅、客也。 【読み】 辭して曰く、羇旅[きりょ]の臣、羇は、寄るなり。旅は、客なり。 幸若獲宥、及於寬政、宥、赦也。 【読み】 幸いに若し宥[ゆる]さるるを獲て、寬政に及び、宥は、赦すなり。 赦其不閑於敎訓、而免於罪戾、弛於負擔、弛、去離也。 【読み】 其の敎訓に閑[なら]わざるを赦して、罪戾を免れて、負擔を弛さるれば、弛は、去り離すなり。 君之惠也。所獲多矣。敢辱高位、以速官謗。敢、不敢也。 【読み】 君の惠なり。獲る所多し。敢えて高位を辱くして、以て官の謗りを速[まね]かんや。敢は、敢えてせずなり。 請以死告。以死自誓。 【読み】 請う、死を以て告ぐ。死を以て自ら誓う。 詩云、翹翹車乘、招我以弓。豈不欲往。畏我友朋。逸詩也。翹翹、遠貌。古者聘士以弓。言雖貪顯命、懼爲朋友所譏責。○乘、繩證反。 【読み】 詩に云う、翹翹[ぎょうぎょう]たる車乘、我を招くに弓を以てす。豈往くことを欲せざらんや。我が友朋を畏る、と。逸詩なり。翹翹は、遠き貌。古は士を聘するに弓を以てす。言うこころは、顯命を貪ると雖も、朋友の爲に譏責せられんことを懼る。○乘は、繩證反。 使爲工正。掌百工之官。 【読み】 工正爲らしむ。百工を掌るの官。 飮桓公酒。樂。齊桓賢之。故就其家會。據主人辭。故言飮桓公酒。○飮、於鴆反。樂、音洛。 【読み】 桓公に酒を飮ましむ。樂しむ。齊桓之を賢とす。故に其の家に就いて會す。主人の辭に據る。故に桓公に酒を飮ましむと言う。○飮は、於鴆反。樂は、音洛。 公曰、以火繼之。辭曰、臣卜其晝、未卜其夜。不敢。 【読み】 公曰く、火を以て之に繼げ、と。辭して曰く、臣其の晝を卜して、未だ其の夜を卜せず。敢えてせず、と。 君子曰、酒以成禮、不繼以淫、義也。夜飮爲淫樂。 【読み】 君子曰く、酒は以て禮を成し、繼ぐに淫を以てせざるは、義なり。夜飮を淫樂とす。 以君成禮、弗納於淫、仁也。 【読み】 君を以て禮を成し、淫に納れざるは、仁なり、と。 初、懿氏卜妻敬仲。懿氏、陳大夫。龜曰卜。○妻、七計反。 【読み】 初め、懿氏敬仲に妻わせんことを卜す。懿氏は、陳の大夫。龜を卜と曰う。○妻は、七計反。 其妻占之。曰吉。懿氏妻。 【読み】 其の妻之を占う。曰く吉なり。懿氏の妻。 是謂鳳皇于飛、和鳴鏘鏘、雄曰鳳、雌曰皇。雌雄倶飛、相和而鳴鏘鏘然。猶敬仲夫妻、相隨適齊、有聲譽。 【読み】 是を鳳皇于[ゆ]き飛びて、和鳴すること鏘鏘[しょうしょう]たり、雄を鳳と曰い、雌を皇と曰う。雌雄倶に飛び、相和して鳴くこと鏘鏘然たり。猶敬仲夫妻、相隨いて齊に適き、聲譽有るがごとし。 有嬀之後、將育于姜、嬀、陳姓。姜、齊姓。 【読み】 有嬀の後、將に姜に育われんとす、嬀は、陳の姓。姜は、齊の姓。 五世其昌、竝于正卿、八世之後、莫之與京。京、大也。 【読み】 五世にして其れ昌えて、正卿に竝び、八世の後、之と與に京[おお]いなる莫からんと謂う。京は、大なり。 陳厲公、蔡出也。姊妹之子曰出。 【読み】 陳の厲公は、蔡の出[おい]なり。姊妹の子を出と曰う。 故蔡人殺五父而立之。五父、陳侘也。殺陳侘、在桓六年。 【読み】 故に蔡人五父を殺して之を立つ。五父は、陳侘なり。陳侘を殺すは、桓六年に在り。 生敬仲。其少也、周史有以周易見陳侯者。周大史也。○少、詩照反。 【読み】 敬仲を生む。其の少きとき、周の史周易を以て陳侯に見ゆる者有り。周の大史なり。○少は、詩照反。 陳侯使筮之。蓍曰筮。 【読み】 陳侯之を筮せしむ。蓍を筮と曰う。 遇觀 坤下巽上觀。○觀、古亂反。 【読み】 觀の 坤下巽上は觀。○觀は、古亂反。 之否。坤下乾上否。觀六四爻變而爲否。 【読み】 否に之くに遇う。坤下乾上は否。觀の六四の爻變じて否と爲る。 曰、是謂觀國之光、利用賓于王。此周易觀卦六四爻辭。易之爲書、六爻皆有變象、又有互體。聖人隨其義而論之。 【読み】 曰く、是を國の光を觀る、王に賓たるに用ゆるに利ありと謂う。此れ周易觀の卦の六四の爻の辭。易の書爲る、六爻皆變象有り、又互體有り。聖人其の義に隨いて之を論ず。 此其代陳有國乎。不在此、其在異國。非此其身、在其子孫。光遠而自他有耀者也。坤、土也。巽、風也。乾、天也。風爲天。於土上、山也。巽變爲乾。故曰風爲天。自二至四、有艮象。艮爲山。 【読み】 此れ其れ陳に代わりて國を有たんか。此に在らずして、其れ異國に在らん。此の其の身に非ずして、其の子孫に在らん。光は遠くして他より耀くこと有る者なればなり。坤は、土なり。巽は、風なり。乾は、天なり。風天と爲る。土上に於ては、山なり。巽變じて乾と爲る。故に風天と爲ると曰う。二より四に至り、艮の象有り。艮を山とす。 有山之材、而照之以天光。於是乎居土上。山則材之所生。上有乾、下有坤。故言居土上、照之以天光。 【読み】 山の材有りて、之に照らさるるに天光を以てす。是に於て土上に居る。山は則ち材の生ずる所。上に乾有り、下に坤有り。故に土上に居り、之に照らさるるに天光を以てすと言う。 故曰、觀國之光。利用賓于王。四爲諸侯。變而之乾。有國朝王之象。 【読み】 故に曰く、國の光を觀る、と。王に賓たるに用ゆるに利あり。四を諸侯と爲す。變じて乾に之く。國を有ちて王に朝するの象なり。 庭實旅百、奉之以玉帛。天地之美具焉。故曰、利用賓于王。艮爲門庭、爲金玉、坤爲布帛。諸侯朝王、陳贄幣之象。旅、陳也。百、言物備。 【読み】 庭實百を旅[つら]ね、之を奉ずるに玉帛を以てす。天地の美具われり。故に曰く、王に賓たるに用ゆるに利あり、と。艮を門庭と爲し、乾を金玉と爲し、坤を布帛と爲す。諸侯王に朝して、贄幣を陳ぬるの象なり。旅は、陳ぬるなり。百は、物の備わるを言う。 猶有觀焉。故曰、其在後乎。因觀文以博占。故言猶有觀。非在己之言。故知在子孫。 【読み】 猶觀ること有り。故に曰く、其れ後に在らんか、と。觀の文に因りて以て博く占う。故に猶觀ること有りと言う。己に在るの言に非ず。故に子孫に在るを知る。 風行而著於土。故曰、其在異國乎。若在異國、必姜姓也。姜、大嶽之後也。姜姓之先、爲堯四嶽。○著、直略反。 【読み】 風行きて土に著く。故に曰う、其れ異國に在らん、と。若し異國に在らば、必ず姜姓ならん。姜は、大嶽の後なり。姜姓の先は、堯の四嶽爲り。○著は、直略反。 山嶽則配天。物莫能兩大。陳衰、此其昌乎。變而象艮。故知當興於大嶽之後。得大嶽之權、則有配天之大功。故知陳必衰。 【読み】 山嶽あれば則ち天に配す。物能く兩つながら大なること莫し。陳衰えば、此れ其れ昌んならんか。變じて艮に象る。故に當に大嶽の後に興るべきを知る。大嶽の權を得れば、則ち天に配するの大功有り。故に陳必ず衰えんことを知る。 及陳之初亡也、昭八年、楚滅陳。 【読み】 陳の初めて亡ぶるに及んでや、昭八年、楚陳を滅す。 陳桓子始大於齊。桓子、敬仲五世孫、陳無宇。 【読み】 陳桓子始めて齊に大なり。桓子は、敬仲五世の孫、陳無宇。 其後亡也、哀十七年、楚復滅陳。 【読み】 其の後に亡ぶるや、哀十七年、楚復陳を滅ぼす。 成子得政。成子、陳常也。敬仲八世孫。陳完有禮於齊、子孫世不忘德、德協於卜。故傳備言其終始。卜筮者、聖人所以定猶豫、決疑似、因生義敎者也。尙書洪範、通龜筮以同卿士之數。南蒯卜亂、而遇元吉、惠伯荅以忠信則可。臧會卜僭、遂獲其應。丘明故舉諸縣驗於行事者、以示來世。而君子志其善者遠者。他皆放此。○蒯、苦怪反。 【読み】 成子政を得たり。成子は、陳常なり。敬仲八世の孫。陳完齊に禮有り、子孫世々德を忘れず、德卜に協[かな]う。故に傳備に其の終始を言う。卜筮は、聖人の猶豫を定め、疑似を決する所以にして、因りて義敎を生ずる者なり。尙書洪範に、龜筮を通じて以て卿士の數に同じくす、と。南蒯[なんかい]亂を卜して、元吉に遇えば、惠伯荅うるに忠信なれば則ち可なるを以てす。臧會[そうかい]僭を卜して、遂に其の應を獲たり。丘明故に諸々行事に縣驗ある者を舉げて、以て來世に示す。而して君子其の善き者遠き者を志[しる]せり。他も皆此に放え。○蒯は、苦怪反。 〔經〕二十有三年、春、公至自齊。無傳。 【読み】 〔經〕二十有三年、春、公齊より至る。傳無し。 祭叔來聘。無傳。穀梁以、祭叔爲祭公來聘魯。天子内臣、不得外交。故不言使。不與其得使聘。○祭、側界反。 【読み】 祭叔來聘す。傳無し。穀梁に以えらく、祭叔祭公の爲に魯に來聘す、と。天子の内臣は、外交を得ず。故に使と言わず。其の使聘を得ることを與[ゆる]さざるなり。○祭は、側界反。 夏、公如齊觀社。齊因祭社蒐軍實。故公往觀之。 【読み】 夏、公齊に如きて社を觀る。齊社を祭るに因りて軍實を蒐[しゅう]す。故に公往いて之を觀る。 公至自齊。無傳。 【読み】 公齊より至る。傳無し。 荆人來聘。無傳。不書荆子使某來聘、君臣同辭者、蓋楚之始通、未成其禮。 【読み】 荆人來聘す。傳無し。荆子某をして來聘せしむと書せずして、君臣辭を同じくするは、蓋し楚の始めて通ずる、未だ其の禮を成さざればなり。 公及齊侯遇于穀。無傳。○穀、音谷。 【読み】 公齊侯と穀に遇う。傳無し。○穀は、音谷。 蕭叔朝公。無傳。蕭、附庸國。叔、名。就穀朝公。故不言來。凡在外朝、則禮不得具。嘉禮不野合。 【読み】 蕭叔[しょうしゅく]公に朝す。傳無し。蕭は、附庸の國。叔は、名。穀に就いて公に朝す。故に來ると言わず。凡そ外に在りて朝すれば、則ち禮具わることを得ず。嘉禮は野合せざればなり。 秋、丹桓宮楹。桓公廟也。楹、柱也。 【読み】 秋、桓宮の楹[はしら]を丹にす。桓公の廟なり。楹[えい]は、柱なり。 冬、十有一月、曹伯射姑卒。無傳。未同盟、而赴以名。○射、示亦反。又音亦。 【読み】 冬、十有一月、曹伯射姑[やこ]卒す。傳無し。未だ同盟せずして、赴[つ]ぐるに名を以てす。○射は、示亦反。又音亦。 十有二月、甲寅、公會齊侯盟于扈。無傳。扈、鄭地。在滎陽卷縣西北。○扈、音戶。卷、音權。 【読み】 十有二月、甲寅[きのえ・とら]、公齊侯に會して扈[こ]に盟う。傳無し。扈は、鄭の地。滎陽卷縣の西北に在り。○扈は、音戶。卷は、音權。 〔傳〕二十三年、夏、公如齊觀社、非禮也。 【読み】 〔傳〕二十三年、夏、公齊に如きて社を觀るは、禮に非ざるなり。 曹劌諫曰、不可。夫禮所以整民也。故會以訓上下之則、制財用之節、貢賦多少。 【読み】 曹劌[そうけい]諫めて曰く、不可なり。夫れ禮は民を整うる所以なり。故に會して以て上下の則を訓えて、財用の節を制し、貢賦の多少。 朝以正班爵之義、帥長幼之序、征伐以討其不然。不然、不用命。 【読み】 朝以て班爵の義を正し、長幼の序に帥[したが]い、征伐して以て其の不然を討ず。不然は、命を用いざるなり。 諸侯有王、從王事。 【読み】 諸侯に王有り、王事に從う。 王有巡守、省四方。 【読み】 王に巡守有りて、四方を省す。 以大習之。大習會朝之禮。 【読み】 以て大いに之を習わす。會朝の禮を大習す。 非是君不舉矣、君舉必書。書於策。 【読み】 是に非ざれば君舉せず、君舉すは必ず書す。策に書す。 書而不法、後嗣何觀。 【読み】 書して法ならざれば、後嗣何をか觀ん、と。 晉桓・莊之族偪。桓叔・莊伯之子孫强盛、偪迫公室。○偪、彼力反。 【読み】 晉の桓・莊の族偪る。桓叔・莊伯の子孫强盛にして、公室に偪迫す。○偪は、彼力反。 獻公患之。士蔿曰、去富子、則羣公子可謀也已。士蔿、晉大夫。富子、二族之富强者。○蔿、于委反。去、起呂反。 【読み】 獻公之を患う。士蔿[しい]曰く、富子を去らば、則ち羣公子謀る可きのみ、と。士蔿は、晉の大夫。富子は、二族の富强なる者。○蔿は、于委反。去は、起呂反。 公曰、爾試其事。士蔿與羣公子謀、譖富子而去之。以罪狀誣之。同族惡其富强。故士蔿得因而閒之。用其所親爲譖則似信。離其骨肉則黨弱。羣公子終所以見滅。○惡、烏路反。 【読み】 公曰く、爾其の事を試みよ、と。士蔿羣公子と謀り、富子を譖して之を去れり。罪狀を以て之を誣う。同族其の富强を惡む。故に士蔿因りて之を閒することを得たり。其の所親を用いて譖を爲さば則ち信に似たり。其の骨肉を離れては則ち黨弱し。羣公子終に滅ぼさるる所以なり。○惡は、烏路反。 秋、丹桓宮之楹。或云、士蔿當作土。土氏出於唐杜。 【読み】 秋、桓宮の楹を丹にす。或ひと云う、士蔿は當に土に作るべし。土氏唐杜より出づ、と。 〔經〕二十有四年、春、王三月、刻桓宮桷。刻、鏤也。桷、椽也。將逆夫人。故爲盛飾。 【読み】 〔經〕二十有四年、春、王の三月、桓宮の桷[かく]に刻む。刻は、鏤なり。桷は、椽なり。將に夫人を逆[むか]えんとす。故に盛飾を爲す。 葬曹莊公。無傳。 【読み】 曹の莊公を葬る。傳無し。 夏、公如齊逆女。無傳。親逆、禮也。 【読み】 夏、公齊に如きて女を逆[むか]う。傳無し。親ら逆うるは、禮なり。 秋、公至自齊。無傳。 【読み】 秋、公齊より至る。傳無し。 八月、丁丑、夫人姜氏入。哀姜也。公羊傳以爲、姜氏要公、不與公倶入。蓋以孟任故。丁丑入、而明日乃朝廟。○要、於遙反。任、音壬。後同。 【読み】 八月、丁丑[ひのと・うし]、夫人姜氏入る。哀姜なり。公羊傳に以爲えらく、姜氏公を要して、公と倶に入らず、と。蓋し孟任が故を以てならん。丁丑に入りて、明日乃ち廟に朝せるなり。○要は、於遙反。任は、音壬。後も同じ。 戊寅、大夫・宗婦覿用幣。宗婦、同姓大夫之婦。禮小君至、大夫執贄以見。明臣子之道。莊公欲奢夸夫人。故使大夫・宗婦同贄倶見。 【読み】 戊寅[つちのえ・とら]、大夫・宗婦覿[まみ]ゆるに幣を用ゆ。宗婦は、同姓の大夫の婦。禮に小君至れば、大夫贄を執りて以て見ゆ、と。臣子の道を明らかにするなり。莊公夫人に奢夸[しゃか]せんと欲す。故に大夫・宗婦をして贄を同じくして倶に見えしむ。 大水。無傳。 【読み】 大水あり。傳無し。 冬、戎侵曹。無傳。 【読み】 冬、戎曹を侵す。傳無し。 曹羈出奔陳。無傳。羈、蓋曹世子也。先君旣葬。而不稱爵者、微弱不能自定、曹人以名赴。 【読み】 曹の羈[き]出でて陳に奔る。傳無し。羈は、蓋し曹の世子ならん。先君旣に葬る。而るを爵を稱せざるは、微弱にして自ら定むること能わず、曹人名を以て赴[つ]ぐればなり。 赤歸于曹。無傳。赤、曹僖公也。蓋爲戎所納。故曰歸。 【読み】 赤曹に歸る。傳無し。赤は、曹の僖公なり。蓋し戎の爲に納れらるるならん。故に歸ると曰う。 郭公。無傳。蓋經闕誤也。自曹羈以下、公羊・穀梁之說旣不了。又不可通之於左氏。故不采用。 【読み】 郭公。傳無し。蓋し經の闕誤ならん。曹羈より以下、公羊・穀梁の說旣に了[あき]らかならず。又之を左氏に通ず可からず。故に采り用いず。 〔傳〕二十四年、春、刻其桷。皆非禮也。幷非丹楹。故言皆。 【読み】 〔傳〕二十四年、春、其の桷に刻む。皆禮に非ざるなり。楹[はしら]に丹ぬるを幷せ非る。故に皆と言う。 御孫諫曰、臣聞之、儉、德之共也。侈、惡之大也。御孫、魯大夫。○御、魚呂反。 【読み】 御孫諫めて曰く、臣之を聞く、儉は、德の共なり。侈は、惡の大なり、と。御孫は、魯の大夫。○御は、魚呂反。 先君有共德。而君納諸大惡、無乃不可乎。以不丹楹刻桷爲共。 【読み】 先君共德有り。而るを君諸を大惡に納るれば、乃ち不可なること無からんや、と。楹に丹ぬり桷に刻まざるを以て共とす。 秋、哀姜至。公使宗婦覿用幣。非禮也。傳不言大夫、唯舉非常。 【読み】 秋、哀姜至る。公宗婦をして覿ゆるに幣を用いしむ。禮に非ざるなり。傳に大夫を言わざるは、唯非常を舉ぐるなり。 御孫曰、男贄、大者玉帛。公・侯・伯・子・男、執玉、諸侯世子・附庸・孤卿、執帛。 【読み】 御孫曰く、男の贄は、大なる者は玉帛。公・侯・伯・子・男は、玉を執り、諸侯の世子・附庸・孤卿は、帛を執る。 小者禽鳥。卿執羔、大夫執鴈、士執雉。 【読み】 小なる者は禽鳥。卿は羔を執り、大夫は鴈を執り、士は雉を執る。 以章物也。章所執之物、別貴賤。 【読み】 以て物を章らかにするなり。執る所の物を章らかにして、貴賤を別つ。 女贄、不過榛栗・棗脩。以告虔也。榛、小栗。脩、脯。虔、敬也。皆取其名以示敬。○榛、側巾反。脩、鍛脯加薑桂曰脩。 【読み】 女の贄は、榛栗・棗脩に過ぎず。以て虔[つつし]みを告ぐるなり。榛は、小栗。脩は、脯。虔は、敬なり。皆其の名を取りて以て敬を示す。○榛は、側巾反。脩は、鍛脯薑桂を加うるを脩と曰う。 今男女同贄。是無別也。男女之別、國之大節也。而由夫人亂之、無乃不可乎。 【読み】 今男女贄を同じくす。是れ別無きなり。男女の別は、國の大節なり。而るに夫人に由りて之を亂さば、乃ち不可なること無からんや、と。 晉士蔿又與群公子謀、使殺游氏之二子。游氏二子、亦桓・莊之族。 【読み】 晉の士蔿又群公子と謀り、游氏の二子を殺さしむ。游氏の二子も、亦桓・莊の族。 士蔿告晉侯曰、可矣。不過二年、君必無患。 【読み】 士蔿晉侯に告げて曰く、可なり。二年を過ぎずして、君必ず患え無からん、と。 〔經〕二十有五年、春、陳侯使女叔來聘。女叔、陳卿。女、氏。叔、字。○女、音汝。 【読み】 〔經〕二十有五年、春、陳侯女叔をして來聘せしむ。女叔は、陳の卿。女は、氏。叔は、字。○女は、音汝。 夏、五月、癸丑、衛侯朔卒。無傳。惠公也。書名、十六年、與内大夫盟于幽。 【読み】 夏、五月、癸丑[みずのと・うし]、衛侯朔卒す。傳無し。惠公なり。名を書すは、十六年、内大夫と幽に盟えり。 六月、辛未、朔、日有食之。鼓用牲于社。鼓、伐鼓也。用牲以祭社。傳例曰、非常也。 【読み】 六月、辛未[かのと・ひつじ]、朔、日之を食する有り。鼓して牲を社に用ゆ。鼓は、鼓を伐つなり。牲を用いて以て社を祭る。傳例に曰く、常に非ざるなり、と。 伯姬歸于杞。無傳。不書逆女、逆者微。 【読み】 伯姬杞に歸[とつ]ぐ。傳無し。女を逆[むか]うるを書さざるは、逆うる者微なればなり。 秋、大水。鼓用牲于社于門。門、國門也。傳例曰、亦非常也。 【読み】 秋、大水あり。鼓して牲を社に門に用ゆ。門は、國門なり。傳例に曰く、亦常に非ざるなり、と。 冬、公子友如陳。無傳。報女叔之聘。諸魯出朝聘、皆書如。不果彼國必成其禮。故不稱朝聘。春秋之常也。公子友、莊公之母弟、稱公子者、史策之通言。母弟至親、異於他臣。其相殺害、則稱弟以示義。至嘉好之事、兄弟篤睦、非例所興。或稱弟、或稱公子、仍舊史之文也。母弟例、在宣十七年。 【読み】 冬、公子友陳に如く。傳無し。女叔の聘に報ゆるなり。諸々魯より出でて朝聘するは、皆如くと書す。果たして彼の國其の禮を成すことを必とせず。故に朝聘と稱せず。春秋の常なり。公子友は、莊公の母弟なるに、公子と稱するは、史策の通言なり。母弟は至親、他の臣に異なり。其の相殺害するは、則ち弟と稱して以て義を示す。嘉好の事に至りては、兄弟は篤睦、例の興る所に非ず。或は弟と稱し、或は公子と稱すは、舊史の文に仍るなり。母弟の例は、宣十七年に在り。 〔傳〕二十五年、春、陳女叔來聘、始結陳好也。嘉之。故不名。季友相魯。原仲相陳。二人有舊。故女叔來聘、季友冬亦報聘。嘉好接備。卿以字爲嘉、則稱名其常也。 【読み】 〔傳〕二十五年、春、陳の女叔來聘するは、始めて陳の好を結ぶなり。之を嘉す。故に名いわず。季友魯に相たり。原仲陳に相たり。二人舊有り。故に女叔來聘し、季友冬亦報聘す。好接の備わるを嘉す。卿字を以て嘉すとすれば、則ち名を稱するは其の常なり。 夏、六月、辛未、朔、日有食之。鼓用牲于社。非常也。非常鼓之月。長曆推之、辛未、實七月朔。置閏失所。故致月錯。 【読み】 夏、六月、辛未、朔、日之を食する有り。鼓して牲を社に用ゆ。常に非ざるなり。常鼓の月に非ず。長曆もて之を推すに、辛未は、實は七月朔なり。閏を置くこと所を失う。故に月の錯りを致す。 唯正月之朔、慝未作。正月、夏之四月。周之六月、謂正陽之月。今書六月、而傳云唯者、明此月非正陽月也。慝、陰氣。○正、音政。慝、他得反。 【読み】 唯正月の朔には、慝未だ作らず。正月とは、夏の四月なり。周の六月は、正陽の月を謂うなり。今六月と書して、傳に唯と云うは、此の月は正陽の月に非ざるを明かすなり。慝は、陰氣。○正は、音政。慝は、他得反。 日有食之、於是乎用幣于社、伐鼓于朝。日食、曆之常也。然食於正陽之月、則諸侯用幣于社、請救於上公、伐鼓于朝、退而自責。以明陰不宜侵陽、臣不宜掩君、以示大義。 【読み】 日之を食する有れば、是に於て幣を社に用い、鼓を朝に伐つなり。日食は、曆の常なり。然れども正陽の月に食すれば、則ち諸侯は幣を社に用い、救を上公に請い、鼓を朝に伐ちて、退いて自ら責む。以て陰は陽を侵す宜からず、臣は君を掩う宜からざるを明かして、以て大義を示すなり。 秋、大水。鼓用牲于社于門。亦非常也。失常禮。 【読み】 秋、大水あり。鼓して牲を社に門に用ゆ。亦常に非ざるなり。常禮を失う。 凡天災、有幣無牲。天災、日月食、大水也。祈請而已。不用牲也。 【読み】 凡そ天災には、幣有りて牲無し。天災は、日月の食と、大水となり。祈請するのみ。牲を用いざるなり。 非日月之眚、不鼓。眚、猶災也。月侵日爲眚。陰陽逆順之事、賢聖所重。故特鼓之。○眚、所景反。 【読み】 日月の眚[せい]に非ざれば、鼓たず。眚は、猶災いのごとし。月日を侵すを眚とす。陰陽逆順の事は、賢聖の重んずる所。故に特に之に鼓つ。○眚は、所景反。 晉士蔿使羣公子盡殺游氏之族、乃城聚而處之。聚、晉邑。 【読み】 晉の士蔿羣公子をして盡く游氏の族を殺さしめ、乃ち聚に城きて之を處く。聚は、晉の邑。 冬、晉侯圍聚、盡殺羣公子。卒如士蔿之計。 【読み】 冬、晉侯聚を圍みて、盡く羣公子を殺す。卒に士蔿の計の如し。 〔經〕二十有六年、春、公伐戎。無傳。 【読み】 〔經〕二十有六年、春、公戎を伐つ。傳無し。 夏、公至自伐戎。無傳。 【読み】 夏、公戎を伐ちてより至る。傳無し。 曹殺其大夫。無傳。不稱名、非其罪。例在文七年。 【読み】 曹其の大夫を殺す。傳無し。名を稱せざるは、其の罪に非ざるなり。例は文七年に在り。 秋、公會宋人・齊人伐徐。無傳。宋序齊上、主兵。 【読み】 秋、公宋人・齊人に會して徐を伐つ。傳無し。宋齊の上に序ずるは、兵を主るなり。 冬、十有二月、癸亥、朔、日有食之。無傳。 【読み】 冬、十有二月、癸亥[みずのと・い]、朔、日之を食する有り。傳無し。 〔傳〕二十六年、春、晉士蔿爲大司空。大司空、卿官。 【読み】 〔傳〕二十六年、春、晉の士蔿大司空と爲る。大司空は、卿官。 夏、士蔿城絳、以深其宮。絳、晉所都也。今平陽絳邑縣。 【読み】 夏、士蔿絳[こう]に城きて、以て其の宮を深くす。絳は、晉の都する所なり。今の平陽絳邑縣。 秋、虢人侵晉。冬、虢人又侵晉。爲傳明年晉將伐虢張本。此年經傳各自言其事者、或經是直文、或策書雖存、而簡牘散落、不究其本末。故傳不復申解、但言傳事而已。 【読み】 秋、虢人晉を侵す。冬、虢人又晉を侵す。傳明年晉將に虢を伐たんとする爲の張本なり。此の年經傳各々自ら其の事を言うは、或は經は是れ直文、或は策書存すと雖も、而れども簡牘散落して、其の本末を究めず。故に傳復申解せずして、但傳の事を言うのみ。 〔經〕二十有七年、春、公會杞伯姬于洮。伯姬、莊公女。洮、魯地。○洮、他刀反。 【読み】 〔經〕二十有七年、春、公杞の伯姬に洮[とう]に會す。伯姬は、莊公の女。洮は、魯の地。○洮は、他刀反。 夏、六月、公會齊侯・宋公・陳侯・鄭伯同盟于幽。秋、公子友如陳、葬原仲。原仲、陳大夫。原、氏。仲、字也。禮、臣旣卒不名。故稱字。季友違禮會外大夫葬。具見其事、亦所以知譏。○見、賢遍反。 【読み】 夏、六月、公齊侯・宋公・陳侯・鄭伯に會して幽に同盟す。秋、公子友陳に如き、原仲を葬る。原仲は、陳の大夫。原は、氏。仲は、字なり。禮に、臣旣に卒すれば名いわず、と。故に字を稱す。季友禮に違いて外大夫の葬に會す。具に其の事を見すも、亦譏ることを知る所以なり。○見は、賢遍反。 冬、杞伯姬來。傳例曰、歸寧。 【読み】 冬、杞の伯姬來る。傳例に曰く、歸寧なり、と。 莒慶來逆叔姬。無傳。慶、莒大夫。叔姬、莊公女。卿自爲逆則稱字。例在宣五年。 【読み】 莒の慶來りて叔姬を逆[むか]う。傳無し。慶は、莒の大夫。叔姬は、莊公の女。卿自ら爲に逆うれば則ち字を稱す。例は宣五年に在り。 杞伯來朝。無傳。杞稱伯者、蓋爲時王所黜。 【読み】 杞伯來朝す。傳無し。杞伯と稱するは、蓋し時王の爲に黜けられしならん。 公會齊侯于城濮。無傳。城濮、衛地。將討衛也。 【読み】 公齊侯に城濮[じょうぼく]に會す。傳無し。城濮は、衛の地。將に衛を討ぜんとするなり。 〔傳〕二十七年、春、公會杞伯姬于洮、非事也。非諸侯之事。 【読み】 〔傳〕二十七年、春、公杞の伯姬に洮に會するは、事に非ざるなり。諸侯の事に非ず。 天子非展義不巡守。天子巡守、所以宣布德義。 【読み】 天子義を展ぶるに非ざれば巡守せず。天子の巡守は、德義を宣布する所以なり。 諸侯非民事不舉。卿非君命不越竟。○竟、音境。 【読み】 諸侯は民事に非ざれば舉せず。卿は君命に非ざれば竟を越えず。○竟は、音境。 夏、同盟于幽、陳・鄭服也。二十二年、陳亂而齊納敬仲、二十五年、鄭文公之四年、獲成於楚。皆有二心於齊。今始服也。 【読み】 夏、幽に同盟するは、陳・鄭服するなり。二十二年、陳亂れて齊敬仲を納れ、二十五年、鄭の文公の四年、成[たい]らぎを楚に獲。皆齊に二心有り。今始めて服するなり。 秋、公子友如陳葬原仲、非禮也。原仲、季友之舊也。 【読み】 秋、公子友陳に如きて原仲を葬るは、禮に非ざるなり。原仲は、季友の舊なり。 冬、杞伯姬來、歸寧也。寧、問父母安否。 【読み】 冬、杞の伯姬來るは、歸寧するなり。寧は、父母の安否を問うなり。 凡諸侯之女、歸寧曰來、出曰來歸。歸、不反之辭。 【読み】 凡そ諸侯の女は、歸寧するを來ると曰い、出ださるるを來歸すと曰う。歸は、反らざるの辭。 夫人、歸寧曰如某、出曰歸于某。 【読み】 夫人は、歸寧するを某に如くと曰い、出ださるるを某に歸ると曰う。 晉侯將伐虢。士蔿曰、不可。虢公驕。若驟得勝於我、必弃其民。弃民不養之。 【読み】 晉侯將に虢を伐たんとす。士蔿曰く、不可なり。虢公驕れり。若し驟[しば]々我に勝つことを得ば、必ず其の民を弃[す]てん。民を弃てて之を養わず。 無衆而後伐之、欲禦我誰與。夫禮樂慈愛、戰所畜也。夫民、讓事樂和、愛親哀喪、而後可用也。上之使民、以義・讓・哀・樂爲本。言不可力强。○畜、勑六反。下同。樂、音洛。 【読み】 衆無くして後に之を伐たば、我を禦がんと欲すとも誰か與せん。夫れ禮樂慈愛は、戰の畜うる所なり。夫れ民は、事を讓り和を樂しみ、親を愛し喪を哀しみて、而して後に用ゆ可し。上の民を使うは、義・讓・哀・樂を以て本とす。力强す可からざるを言う。○畜は、勑六反。下も同じ。樂は、音洛。 虢弗畜也。亟戰、將饑。言虢不畜義讓而力戰。○亟、欺冀反。 【読み】 虢畜えず。亟[しば]々戰わば、將に饑えんとす、と。虢義讓を畜えずして力戰するを言う。○亟は、欺冀反。 王使召伯廖賜齊侯命。召伯廖、王卿士。賜命爲侯伯。○召、音邵。廖、力彫反。 【読み】 王召伯廖[しょうはくりょう]をして齊侯に命を賜わしむ。召伯廖は、王の卿士。命を賜いて侯伯と爲る。○召は、音邵。廖は、力彫反。 且請伐衛。以其立子頹也。立子頹、在十九年。 【読み】 且つ衛を伐たんことを請う。其の子頹を立てしを以てなり。子頹を立つるは、十九年に在り。 〔經〕二十有八年、春、王三月、甲寅、齊人伐衛。衛人及齊人戰。衛人敗績。齊侯稱人者、諱取賂而還、以賤者告。不地者、史失之。 【読み】 〔經〕二十有八年、春、王の三月、甲寅[きのえ・とら]、齊人衛を伐つ。衛人齊人と戰う。衛人敗績す。齊侯人と稱するは、賂を取りて還るを諱み、賤者を以て告ぐればなり。地いわざるは、史之を失うなり。 夏、四月、丁未、邾子瑣卒。無傳。未同盟而赴以名。 【読み】 夏、四月、丁未[ひのと・ひつじ]、邾子[ちゅし]瑣卒す。傳無し。未だ同盟せずして赴[つ]ぐるに名を以てす。 秋、荆伐鄭。公會齊人・宋人救鄭。冬、築郿。郿、魯下邑。傳例曰、邑曰築。○郿、亡悲反。 【読み】 秋、荆鄭を伐つ。公齊人・宋人に會して鄭を救う。冬、郿[び]に築く。郿は、魯の下邑。傳例に曰く、邑を築くと曰う、と。○郿は、亡悲反。 大無麥・禾。書於冬者、五穀畢入、計食不足而後書也。 【読み】 大いに麥・禾無し。冬に書すは、五穀畢く入りて、食を計るに足らずして後に書すなり。 臧孫辰告糴于齊。臧孫辰、魯大夫、臧文仲。 【読み】 臧孫辰[ぞうそうしん]糴[てき]を齊に告ぐ。臧孫辰は、魯の大夫、臧文仲なり。 〔傳〕二十八年、春、齊侯伐衛。戰敗衛師、數之以王命、取賂而還。 【読み】 〔傳〕二十八年、春、齊侯衛を伐つ。戰いて衛の師を敗り、之を數[せ]むるに王命を以てし、賂を取りて還る。 晉獻公娶于賈。無子。賈、姬姓國也。 【読み】 晉の獻公賈[か]に娶る。子無し。賈は、姬姓の國なり。 烝於齊姜、齊姜、武公妾。 【読み】 齊姜に烝して、齊姜は、武公の妾。 生秦穆夫人及大子申生。又娶二女於戎。大戎狐姬生重耳、大戎、唐叔子孫別在戎狄者。○重、直龍反。 【読み】 秦の穆夫人と大子申生とを生む。又二女を戎に娶る。大戎の狐姬重耳を生み、大戎は、唐叔の子孫の別に戎狄に在る者。○重は、直龍反。 小戎子生夷吾。小戎、允姓之戎。子、女也。 【読み】 小戎の子夷吾を生む。小戎は、允姓の戎。子は、女なり。 晉伐驪戎。驪戎男女以驪姬。驪戎、在京兆新豐縣。其君姬姓。其爵男也。納女於人曰女。○女、昵據反。 【読み】 晉驪戎を伐つ。驪戎男女[めあ]わすに驪姬を以てす。驪戎は、京兆新豐縣に在り。其の君は姬姓。其の爵は男なり。女を人に納るるを女と曰う。○女は、昵據反。 歸、生奚齊。其娣生卓子。 【読み】 歸りて、奚齊を生む。其の娣卓子を生む。 驪姬嬖。欲立其子、賂外嬖梁五與東關嬖五、姓梁、名五。在閨闥之外者。東關嬖五、別在關塞者。亦名五。皆大夫。爲獻公所嬖幸、視聽外事。 【読み】 驪姬嬖せらる。其の子を立てんと欲して、外嬖梁五と東關嬖五とに賂いて、姓は梁、名は五。閨闥の外に在る者なり。東關の嬖五は、別に關塞に在る者なり。亦名は五。皆大夫なり。獻公の爲に嬖幸せられて、外事を視聽す。 使言於公曰、曲沃、君之宗也。曲沃、桓叔所封。先君宗廟所在。 【読み】 公に言わしめて曰く、曲沃は、君の宗なり。曲沃は、桓叔の封ぜらるる所。先君の宗廟の在る所。 蒲與二屈、君之疆也。蒲、今平陽の蒲子縣。二屈、今平陽の北屈縣。或云、二當爲北。○屈、求勿反。又居勿反。 【読み】 蒲と二屈とは、君の疆なり。蒲は、今の平陽蒲子縣。二屈は、今の平陽北屈縣。或ひと云う、二は當に北に爲るべし、と。○屈は、求勿反。又居勿反。 不可以無主。宗邑無主、則民不威。疆埸無主、則啓戎心。戎之生心、民慢其政、國之患也。若使大子主曲沃、而重耳夷吾主蒲與屈、則可以威民而懼戎。且旌君伐。旌、章也。伐、功也。 【読み】 以て主無かる可からず。宗邑主無ければ、則ち民威[おそ]れず。疆埸主無ければ、則ち戎の心を啓く。戎の心を生じ、民其の政を慢るは、國の患えなり。若し大子をして曲沃に主とし、重耳と夷吾とをして蒲と屈とに主たらしめば、則ち以て民を威して戎を懼れしむ可し。且君の伐[いさおし]を旌[あらわ]さん、と。旌は、章すなり。伐は、功なり。 使倶曰、狄之廣莫、於晉爲都、晉之啓土、不亦宜乎。廣莫、狄地之曠絕也。卽謂蒲與北屈也。言遣二公子出都之、則晉方當大開土界。獻公未決。故復使二五倶說此美。 【読み】 倶に曰わしむらく、狄の廣莫なる、晉に於て都と爲らば、晉の土を啓かんこと、亦宜ならざるや、と。廣莫は、狄地の曠絕なるなり。卽ち蒲と北屈とを謂うなり。言うこころは、二公子をして出でて之に都せしめば、則ち晉方に當に大いに土界を開くべし。獻公未だ決せず。故に復二五をして倶に此の美を說かしむ。 晉侯說之。 【読み】 晉侯之を說ぶ。 夏、使大子居曲沃、重耳居蒲城、夷吾居屈。群公子皆鄙。鄙、邊邑。○說、音悅。 【読み】 夏、大子をして曲沃に居り、重耳をして蒲城に居り、夷吾をして屈に居らしむ。群公子皆鄙なり。鄙は、邊邑。○說は、音悅。 唯二姬之子在絳。二五卒與驪姬譖羣公子、而立奚齊。晉人謂之二五耦。二耜相耦、廣一尺、共起一伐。言二人倶共墾傷晉室若此。○譖、責鴆反。耜、音似。廣、古曠反。 【読み】 唯二姬の子のみ絳に在り。二五卒に驪姬と羣公子を譖して、奚齊を立つ。晉人之を二五耦と謂う。二耜相耦して、廣さ一尺、共に一伐を起こす。二人倶共に晉室を墾傷すること此の若きを言う。○譖は、責鴆反。耜は、音似。廣は、古曠反。 楚令尹子元欲蠱文夫人、文王夫人息嬀也。子元、文王弟。蠱、惑以淫事。 【読み】 楚の令尹子元文夫人を蠱せんと欲し、文王の夫人息嬀なり。子元は、文王の弟。蠱は、惑わすに淫事を以てするなり。 爲館於其宮側、而振萬焉。振、動也。萬、舞也。 【読み】 館を其の宮の側に爲りて、萬を振るう。振は、動かすなり。萬は、舞なり。 夫人聞之、泣曰、先君以是舞也、習戎備也。今令尹不尋諸仇讎、而於未亡人之側。不亦異乎。尋、用也。婦人旣寡、自稱未亡人。 【読み】 夫人之を聞いて、泣いて曰く、先君の是の舞を以てせんや、戎備を習わせり。今令尹は諸を仇讎に尋[もち]いずして、未亡人の側に於てす。亦異[あや]しからずや、と。尋は、用ゆるなり。婦人旣に寡にして、自ら未亡人と稱す。 御人以告子元。御人、夫人之侍人。 【読み】 御人以て子元に告ぐ。御人は、夫人の侍人。 子元曰、婦人不忘襲讎。我反忘之。秋、子元以車六百乘伐鄭、入于桔柣之門。桔柣、鄭遠郊之門也。○乘、繩證反。桔、戶結反。柣、待結反。 【読み】 子元曰く、婦人も讎を襲うことを忘れず。我れ反って之を忘れたり、と。秋、子元車六百乘を以[い]て鄭を伐ち、桔柣[けつてつ]の門に入る。桔柣は、鄭の遠郊の門なり。○乘は、繩證反。桔は、戶結反。柣は、待結反。 子元・鬭御疆・鬭梧・耿之不比爲旆。子元自與三子特建旆以居前。緇廣充幅長尋曰旐。繼旐曰旆。○御、魚呂反。疆、其良反。又居良反。比、幷里反。 【読み】 子元・鬭御疆・鬭梧・耿之不比[こうしふひ]旆[はい]爲り。子元自ら三子と特に旆を建てて以て前に居る。緇廣さ充幅長さ尋を旐[ちょう]と曰う。旐に繼ぐを旆と曰う。○御は、魚呂反。疆は、其良反。又居良反。比は、幷里反。 鬭班・王孫游・王孫喜殿。三子在後爲反禦。○殿、丁見反。 【読み】 鬭班・王孫游・王孫喜殿たり。三子後に在りて反禦を爲す。○殿は、丁見反。 衆車入自純門、及逵市。純門、鄭外郭門也。逵市、郭内道上市。 【読み】 衆車純門より入り、逵市に及ぶ。純門は、鄭の外郭門なり。逵市は、郭内道上の市。 縣門不發。楚言而出。子元曰、鄭有人焉。縣門、施於内城門。鄭示楚以閒暇。故不閉城門、出兵而效楚言。故子元畏之、不敢進。○縣、音玄。 【読み】 縣門發[と]じず。楚言して出づ。子元曰く、鄭に人有り、と。縣門は、内城門に施す。鄭楚に示すに閒暇を以てす。故に城門を閉じずして、兵を出だして楚言を效う。故に子元之を畏れて、敢えて進まず。○縣は、音玄。 諸侯救鄭。楚師夜遁。 【読み】 諸侯鄭を救う。楚の師夜遁ぐ。 鄭人將奔桐丘。許昌縣東北有桐丘城。 【読み】 鄭人將に桐丘に奔らんとす。許昌縣の東北に桐丘城有り。 諜告曰、楚幕有烏。乃止。諜、閒也。幕、帳也。 【読み】 諜告げて曰く、楚の幕に烏有り、と。乃ち止む。諜は、閒なり。幕は、帳なり。 冬、饑。臧孫辰告糴于齊。禮也。經書大無麥・禾、傳言饑、傳又先書饑、在築郿上者、說始糴。經在下須得糴。嫌或諱饑。故曰禮。 【読み】 冬、饑す。臧孫辰糴を齊に告ぐ。禮なり。經は大いに麥・禾無しと書し、傳は饑すと言い、傳又先ず饑を書して、郿に築くの上に在るは、始めて糴するを說くなり。經下に在るは糴を得るを須つなり。或は饑を諱むに嫌あり。故に禮と曰う。 築郿、非都也。 【読み】 郿に築くは、都に非ざるなり。 凡邑、有宗廟先君之主曰都、無曰邑。邑曰築、都曰城。周禮、四縣爲都、四井爲邑。然宗廟所在、則雖邑曰都、尊之也。言凡邑、則他築非例。 【読み】 凡そ邑、宗廟先君の主有るを都と曰い、無きを邑と曰う。邑を築くと曰い、都を城くと曰う。周禮に、四縣を都とし、四井を邑とす、と。然れども宗廟の在る所は、則ち邑と雖も都と曰うは、之を尊んでなり。凡そ邑と言うは、則ち他の築は例に非ざるなり。 〔經〕二十有九年、春、新延廐。傳例曰、書不時。言新者、皆舊物不可用、更造之辭。○廐、居又反。 【読み】 〔經〕二十有九年、春、延廐を新たにす。傳例に曰く、時ならざるを書す、と。新と言うは、皆舊物用ゆ可からずして、更造するの辭なり。○廐は、居又反。 夏、鄭人侵許。傳例曰、無鐘鼓曰侵。 【読み】 夏、鄭人許を侵す。傳例に曰く、鐘鼓無きを侵と曰う、と。 秋、有蜚。傳例曰、爲災。○蜚、扶味反。 【読み】 秋、蜚[ひ]有り。傳例に曰く、災いを爲す、と。○蜚は、扶味反。 冬、十有二月、紀叔姬卒。無傳。紀國雖滅、叔姬執節守義。故繫之紀、賢而錄之。 【読み】 冬、十有二月、紀の叔姬卒す。傳無し。紀の國滅ぶと雖も、叔姬節を執り義を守る。故に之を紀に繫けて、賢として之を錄す。 城諸及防。諸・防、皆魯邑。傳例曰、書時也。諸非備難而興作、傳皆重云時以釋之。他皆放此。諸、今城陽諸縣。 【読み】 諸と防とに城く。諸・防は、皆魯の邑。傳例に曰く、時なるを書すなり、と。諸々難に備うるに非ずして興作する、傳皆重ねて時と云いて以て之を釋く。他も皆此に放え。諸は、今の城陽の諸縣。 〔傳〕二十九年、春、新作延廐、書不時也。經無作字、蓋闕。 【読み】 〔傳〕二十九年、春、新たに延廐を作るは、時ならざるを書すなり。經に作の字無きは、蓋し闕けたるならん。 凡馬、日中而出、日中而入。日中、春秋分也。治廐當以秋分、因馬向入而脩之。今以春作。故曰不時。○向、許亮反。 【読み】 凡そ馬、日中して出だし、日中して入る。日中は、春秋分なり。廐を治むるは當に秋分を以て、馬入るに向かうに因りて之を脩むべし。今春を以て作る。故に時ならずと曰う。○向は、許亮反。 夏、鄭人侵許。 【読み】 夏、鄭人許を侵す。 凡師、有鐘鼓曰伐、聲其罪。 【読み】 凡師、鐘鼓有るを伐つと曰い、其の罪を聲[な]らす。 無曰侵、鐘鼓無聲。 【読み】 無きを侵すと曰い、鐘鼓聲無し。 輕曰襲。掩其不備。○輕、遣政反。 【読み】 輕きを襲うと曰う。其の備えざるを掩う。○輕は、遣政反。 秋、有蜚、爲災也。 【読み】 秋、蜚有るは、災いを爲せるなり。 凡物、不爲災、不書。 【読み】 凡そ物、災いを爲さざれば、書さず。 冬、十二月、城諸及防、書時也。 【読み】 冬、十二月、諸と防とに城くは、時なるを書すなり。 凡土功、龍見而畢務、戒事也。謂今九月、周十一月。龍星、角亢。晨見東方、三務始畢。戒民以土功事。○見、賢遍反。亢、若浪反。又音剛。 【読み】 凡そ土功、龍見えて務めを畢わるは、事を戒むるなり。今の九月は、周の十一月を謂う。龍星は、角亢。晨に東方に見え、三務始めて畢わる。民を戒むるに土功の事を以てす。○見は、賢遍反。亢は、若浪反。又音剛。 火見而致用、大火、心星。次角亢見者。致築作之物。 【読み】 火見えて用を致し、大火は、心星。角亢に次で見る者。築作の物を致す。 水昏正而栽、謂今十月。定星昏而中。於是樹板幹而興作。○栽、才代反。一音再。說文云、築牆長板。定、多佞反。 【読み】 水昏に正しくして栽し、今の十月を謂う。定星昏にして中す。是に於て板幹を樹てて興作す。○栽は、才代反。一に音再。說文に云う、築牆の長板、と。定は、多佞反。 日至而畢。日南至、微陽始動。故土功息。 【読み】 日至にして畢わる。日南至して、微陽始めて動く。故に土功息む。 樊皮叛王。樊皮、周大夫。樊、其采地。皮、名。 【読み】 樊皮[はんひ]王に叛く。樊皮は、周の大夫。樊は、其の采地。皮は、名。 〔經〕三十年、春、王正月。夏、次于成。無傳。將卑師少。故直言次。齊將降鄣。故設備。○將、子匠反。降、戶江反。 【読み】 〔經〕三十年、春、王の正月。夏、成に次[やど]る。傳無し。將卑く師少し。故に直ちに次ると言う。齊將に鄣を降さんとす。故に備えを設く。○將は、子匠反。降は、戶江反。 秋、七月、齊人降鄣。無傳。鄣、紀附庸國。東平無鹽縣東北有鄣城。小國孤危、不能自固。蓋齊遙以兵威脅使降附。 【読み】 秋、七月、齊人鄣を降す。傳無し。鄣は、紀の附庸の國。東平無鹽縣の東北に鄣城有り。小國孤危にして、自ら固くすること能わず。蓋し齊遙かに兵威を以て脅して降附せしむるならん。 八月、癸亥、葬紀叔姬。無傳。以賢錄也。無臣子。故不作謚。 【読み】 八月、癸亥[みずのと・い]、紀の叔姬を葬る。傳無し。賢を以て錄するなり。臣子無し。故に謚を作らず。 九月、庚午、朔、日有食之。鼓用牲于社。無傳。 【読み】 九月、庚午[かのえ・うま]、朔、日之を食する有り。鼓して牲を社に用ゆ。傳無し。 冬、公及齊侯遇于魯濟。濟水、歷齊・魯界。在齊界爲齊濟、在魯界爲魯濟。蓋魯地。○濟、子禮反。 【読み】 冬、公齊侯と魯濟に遇う。濟水は、齊・魯の界を歷。齊の界に在るを齊濟と爲し、魯の界に在るを魯濟と爲す。蓋し魯の地ならん。○濟は、子禮反。 齊人伐山戎。山戎、北狄。 【読み】 齊人山戎を伐つ。山戎は、北狄。 〔傳〕三十年、春、王命虢公討樊皮。夏、四月、丙辰、虢公入樊、執樊仲皮歸于京師。 【読み】 〔傳〕三十年、春、王虢公に命じて樊皮を討ぜしむ。夏、四月、丙辰[ひのえ・たつ]、虢公樊に入り、樊仲皮を執えて京師に歸[おく]る。 楚公子元歸自伐鄭、而處王宮。欲遂蠱文夫人。 【読み】 楚の公子元鄭を伐ちてより歸りて、王宮に處る。遂に文夫人を蠱せんと欲す。 鬭射師諫。則執而梏之。射師、鬭廉也。足曰桎、手曰梏。○射、食亦反。梏、古毒反。 【読み】 鬭射師諫む。則ち執えて之を梏す。射師は、鬭廉なり。足に桎と曰い、手に梏と曰う。○射は、食亦反。梏は、古毒反。 秋、申公鬭班殺子元。申、楚縣。楚僭號、縣尹皆稱公。 【読み】 秋、申公鬭班子元を殺す。申は、楚の縣。楚僭號して、縣尹皆公と稱す。 鬭穀於菟爲令尹、自毀其家、以紓楚國之難。鬭穀於菟、令尹子文也。毀、滅。紓、緩也。○穀、奴走反。楚人謂乳曰穀。於、音烏。菟、音徒。紓、音舒。難、乃旦反。 【読み】 鬭穀於菟[とうどうおと]令尹と爲り、自ら其の家を毀ちて、以て楚國の難を紓[ゆる]くす。鬭穀於菟は、令尹子文なり。毀は、滅ぼす。紓は、緩きなり。○穀は、奴走反。楚人乳を謂いて穀と曰う。於は、音烏。菟は、音徒。紓は、音舒。難は、乃旦反。 冬、遇于魯濟、謀山戎也。以其病燕故也。齊桓行霸。故欲爲燕謀難。燕國、今薊縣。○薊、音計。 【読み】 冬、魯濟に遇うは、山戎を謀るなり。其の燕を病ましむるを以ての故なり。齊桓霸を行う。故に燕の爲に難を謀らんと欲す。燕國は、今の薊[けい]縣。○薊は、音計。 〔經〕三十有一年、春、築臺于郎。無傳。刺奢。且非土功之時。 【読み】 〔經〕三十有一年、春、臺を郎に築く。傳無し。奢りを刺[そし]る。且つ土功の時に非ず。 夏、四月、薛伯卒。無傳。未同盟。 【読み】 夏、四月、薛伯卒す。傳無し。未だ同盟せず。 築臺于薛。無傳。薛、魯地。 【読み】 臺を薛に築く。傳無し。薛は、魯の地。 六月、齊侯來獻戎捷。傳例曰、諸侯不相遺俘。捷、獲也。獻、奉上之辭。齊侯以獻捷禮來。故書以示過。 【読み】 六月、齊侯來りて戎の捷を獻ず。傳例に曰く、諸侯は俘を相遺[おく]らず、と。捷は、獲なり。獻は、上に奉ずるの辭。齊侯捷を獻ずるの禮を以て來る。故に書して以て過を示す。 秋、築臺于秦。無傳。東平范縣西北有秦亭。 【読み】 秋、臺を秦に築く。傳無し。東平范縣の西北に秦亭有り。 冬、不雨。無傳。不書旱、不爲災。例在僖三年。 【読み】 冬、雨ふらず。傳無し。旱と書さざるは、災いを爲さざればなり。例は僖三年に在り。 〔傳〕三十一年、夏、六月、齊侯來獻戎捷、非禮也。 【読み】 〔傳〕三十一年、夏、六月、齊侯來りて戎の捷を獻ずるは、禮に非ざるなり。 凡諸侯有四夷之功、則獻于王。王以警于夷。以警懼夷狄。 【読み】 凡そ諸侯四夷の功有れば、則ち王に獻ず。王以て夷を警む。以て夷狄を警懼す。 中國則否。諸侯不相遺俘。雖夷狄俘、猶不以相遺。 【読み】 中國は則ち否らず。諸侯は俘を相遺[おく]らず。夷狄の俘と雖も、猶以て相遺らず。 〔經〕三十有二年、春、城小穀。小穀、齊邑。濟北穀城縣城中有管仲井。大都以名通者、則不繫國。 【読み】 〔經〕三十有二年、春、小穀に城く。小穀は、齊の邑。濟北穀城縣の城中に管仲井有り。大都の名を以て通ずる者は、則ち國に繫けず。 夏、宋公・齊侯遇于梁丘。齊善宋之請見。故進其班。梁丘、在高平昌邑縣西南。 【読み】 夏、宋公・齊侯梁丘に遇う。齊宋の見えんと請うを善す。故に其の班[ついで]を進む。梁丘は、高平昌邑縣の西南に在り。 秋、七月、癸巳、公子牙卒。牙、慶父同母弟、僖叔也。飮酖而死、不以罪告。故得書卒。書日者、公有疾、不責公不與小斂。○酖、音鴆。 【読み】 秋、七月、癸巳[みずのと・み]、公子牙卒す。牙は、慶父が同母弟、僖叔なり。酖を飮んで死して、罪を以て告げず。故に卒を書すことを得たり。日を書すは、公疾有れば、公の小斂に與らざるを責めざるなり。○酖は、音鴆。 八月、癸亥、公薨于路寢。路寢、正寢也。公薨、皆書其所、詳凶變。 【読み】 八月、癸亥[みずのと・い]、公路寢に薨ず。路寢は、正寢なり。公の薨ずる、皆其の所を書すは、凶變を詳らかにするなり。 冬、十月、己未、子般卒。子般、莊公大子。先君未葬。故不稱爵。不書殺、諱之也。○般、音班。殺、音弑。一音如字。 【読み】 冬、十月、己未[つちのと・ひつじ]、子般卒す。子般は、莊公の大子。先君未だ葬らず。故に爵を稱せず。殺を書さざるは、之を諱みてなり。○般は、音班。殺は、音弑。一に音字の如し。 公子慶父如齊。無傳。慶父旣弑子般、季友出奔。國人不與。故懼而適齊、欲以求援。時無君。假赴告之禮而行。 【読み】 公子慶父齊に如く。傳無し。慶父旣に子般を弑して、季友出奔す。國人與せず。故に懼れて齊に適き、以て援けを求めんと欲す。時に君無し。赴告の禮を假りて行くなり。 狄伐邢。無傳。邢國、在廣平襄國縣。 【読み】 狄邢を伐つ。傳無し。邢國は、廣平の襄國縣に在り。 〔傳〕三十二年、春、城小穀、爲管仲也。公感齊桓之德。故爲管仲城私邑。○爲、于僞反。下同。 【読み】 〔傳〕三十二年、春、小穀に城くは、管仲が爲なり。公齊桓の德に感ず。故に管仲が爲に私邑に城く。○爲は、于僞反。下も同じ。 齊侯爲楚伐鄭之故、請會于諸侯。楚伐鄭、在二十八年。謀爲鄭報楚。 【読み】 齊侯楚の鄭を伐つ爲の故に、會を諸侯に請う。楚鄭を伐つは、二十八年に在り。鄭の爲に楚に報いんことを謀る。 宋公請先見于齊侯。夏、遇于梁丘。○見、音現。又如字。 【読み】 宋公先ず齊侯に見えんと請う。夏、梁丘に遇う。○見は、音現。又字の如し。 秋、七月、有神降于莘。有神、聲以接人。莘、虢地。○莘、所巾反。 【読み】 秋、七月、神有り莘に降る。神有りとは、聲以て人に接わるなり。莘は、虢の地。○莘は、所巾反。 惠王問諸内史過曰、是何故也。内史過、周大夫。○過、古禾反。 【読み】 惠王諸を内史過に問いて曰く、是れ何の故ぞ、と。内史過は、周の大夫。○過は、古禾反。 對曰、國之將興、明神降之。監其德也。將亡、神又降之。觀其惡也。故有得神以興、亦有以亡。虞・夏・商・周皆有之。亦有神異。 【読み】 對えて曰く、國の將に興らんとするや、明神之に降る。其の德を監るなり。將に亡びんとするや、神又之に降る。其の惡を觀るなり。故に神を得て以て興る有り、亦以て亡ぶる有り。虞・夏・商・周皆之れ有り、と。亦神異有り。 王曰、若之何。對曰、以其物享焉。其至之日、亦其物也。享、祭也。若以甲・乙日至、祭先脾、玉用蒼、服上靑。以此類祭之。 【読み】 王曰く、之を若何せん、と。對えて曰く、其の物を以て享[まつ]れ。其の至るの日も、亦其の物なり、と。享は、祭るなり。若し甲・乙の日を以て至れば、祭るに脾を先にし、玉は蒼を用い、服は靑を上[たっと]ぶ。此の類を以て之を祭るなり。 王從之。内史過往。聞虢請命、聞虢請於神、求賜土田之命。 【読み】 王之に從う。内史過往く。虢命を請うと聞き、虢神に請いて、土田を賜うの命を求むると聞く。 反曰、虢必亡矣。虐而聽於神。 【読み】 反りて曰く、虢は必ず亡びん。虐にして神に聽く、と。 神居莘六月。虢公使祝應・宗區・史嚚享焉。神賜之土田。祝、大祝。宗、宗人。史、大史。應・區・嚚、皆名。○區、音驅。嚚、五巾反。 【読み】 神莘に居ること六月。虢公祝應・宗區・史嚚[じぎん]をして享らしむ。神之に土田を賜う。祝は、大祝。宗は、宗人。史は、大史。應・區・嚚は、皆名。○區は、音驅。嚚は、五巾反。 史嚚曰、虢其亡乎。吾聞之、國將興、聽於民。政順民心。 【読み】 史嚚曰く、虢は其れ亡びん。吾れ之を聞く、國將に興らんとするや、民に聽く。政民心に順う。 將亡、聽於神。求福於神。 【読み】 將に亡びんとするや、神に聽く、と。福を神に求む。 神聰明正直而壹者也。依人而行。唯德是與。 【読み】 神は聰明正直にして壹なる者なり。人に依りて行う。唯德のみ是れ與す。 虢多涼德。其何土之能得。涼、薄也。爲僖二年、晉滅下陽傳。 【読み】 虢涼德多し。其れ何ぞ土を之れ能く得ん、と。涼は、薄きなり。僖二年、晉下陽を滅ぼす爲の傳なり。 初、公築臺臨黨氏、黨氏、魯大夫。築臺不書、不告廟。○黨、音掌。 【読み】 初め、公臺を築きて黨氏[しょうし]に臨み、黨氏は、魯の大夫。臺を築くこと書さざるは、廟に告げざればなり。○黨は、音掌。 見孟任、從之。閟。孟任、黨氏女。閟、不從公。○閟、音祕。 【読み】 孟任を見て、之に從わんとす。閟[と]ず。孟任は、黨氏の女。閟[ひ]は、公に從わざるなり。○閟は、音祕。 而以夫人言許之。許以爲夫人。 【読み】 而して夫人の言を以て之を許す。許すに夫人と爲すを以てす。 割臂盟公。生子般焉。 【読み】 臂を割いて公に盟う。子般を生む。 雩、講于梁氏。女公子觀之。雩、祭天也。講、肄也。梁氏、魯大夫。女公子、子般妹。○肄、音四。又以二反。 【読み】 雩[う]するとき、梁氏に講[なら]う。女公子之を觀る。雩は、天を祭るなり。講は、肄[なら]うなり。梁氏は、魯の大夫。女公子は、子般の妹。○肄は、音四。又以二反。 圉人犖自牆外與之戲。圉人、掌養馬者。以慢言戲之。○犖、音洛。 【読み】 圉人[ぎょじん]犖[らく]牆外より之と戲る。圉人は、馬を養うを掌る者。慢言を以て之に戲る。○犖は、音洛。 子般怒、使鞭之。公曰、不如殺之。是不可鞭。 【読み】 子般怒り、之を鞭たしむ。公曰く、之を殺すに如かず。是れ鞭つ可からず、と。 犖有力焉。能投蓋于稷門。蓋、覆也。稷門、魯南城門。走而自投、接其屋之桷、反覆門上。 【読み】 犖力有り。能く投じて稷門に蓋う。蓋は、覆うなり。稷門は、魯の南城門。走りて自ら投じて、其の屋の桷に接して、門上に反覆す。 公疾。問後於叔牙。對曰、慶父材。蓋欲進其同母兄。 【読み】 公疾む。後を叔牙に問う。對えて曰く、慶父材あり、と。蓋し其の同母兄を進めんと欲す。 問於季友。對曰、臣以死奉般。季友、莊公母弟。故欲立般。 【読み】 季友に問う。對えて曰く、臣死を以て般を奉ぜん、と。季友は、莊公の母弟。故に般を立てんと欲す。 公曰、郷者牙曰慶父材。成季使以君命命僖叔、待于鍼巫氏、成季、季友也。鍼巫氏、魯大夫。○郷、許亮反。鍼、其廉反。 【読み】 公曰く、郷[さき]に牙慶父材ありと曰えり、と。成季君命を以て僖叔に命じて、鍼巫氏[けんふし]を待たしめ、成季は、季友なり。鍼巫氏は、魯の大夫。○郷は、許亮反。鍼は、其廉反。 使鍼季酖之。酖、鳥名。其羽有毒、以畫酒飮之、則死。 【読み】 鍼季をして之に酖せしむ。酖は、鳥の名。其の羽に毒有り、以て酒を畫して之を飮めば、則ち死す。 曰、飮此則有後於魯國。不然、死且無後。飮之。歸及逵泉而卒。立叔孫氏。逵泉、魯地。不以罪誅。故得立後世其祿。 【読み】 曰く、此を飮まば則ち魯國に後有らん。然らずんば、死して且[まさ]に後無からんとす、と。之を飮む。歸りて逵泉に及びて卒す。叔孫氏を立つ。逵泉は、魯の地。罪を以て誅せず。故に後を立て其の祿を世々にすることを得たり。 八月、癸亥、公薨于路寢。子般卽位。次于黨氏。卽喪位。次、舍也。 【読み】 八月、癸亥、公路寢に薨ず。子般位に卽く。黨氏に次[やど]る。喪位に卽く。次は、舍なり。 冬、十月、己未、共仲使圉人犖賊子般于黨氏。共仲、慶父。○共、音恭。 【読み】 冬、十月、己未、共仲圉人犖をして子般を黨氏に賊せしむ。共仲は、慶父。○共は、音恭。 成季奔陳。出奔不書、國亂、史失之。 【読み】 成季陳に奔る。出奔を書さざるは、國亂れて、史之を失うなり。 立閔公。閔公、莊公庶子。於是年八歲。 【読み】 閔公を立つ。閔公は、莊公の庶子。是に於て年八歲。 莊 經元年。遜于。○今本孫。采地。七代反。且別。彼列反。之比。必利反。 傳。父殺。音試。一音如字。○今本弑。而復。扶又反。去姜。起呂反。 經二年。 傳。好會。呼報反。 經三年。以酅。本又作攜。于滑。乎八于八二反。 傳。重明。直用反。在濼。一音書約反。 經四年。以見。賢遍反。越竟。音境。本又作境。 傳。僻陋。匹亦反。僭號。子念反。徵應。應對之應。梁溠。字林、壯加反。入員。或作鄖。○今本亦鄖。下齊。遐嫁反。 經五年。犂來。力兮反。昌慮。如字。又力於反。 傳。 經六年。 傳。宥之。音又。蕃滋。音煩。祁侯。巨支反。字林、上尸反。噬齊。市制反。下粗兮反。齧。五結反。無復。扶又反。下文同。 經七年。不匿。女力反。漂殺。一音匹遙反。 傳。偕。音皆。 經八年。 傳。夏書。戶雅反。後放此。皐陶。音遙。樂安。音洛。而啼。田兮反。屨。九具反。之紛。敷文反。于牀。士良反。子糾。居黝反。雍廩。力錦反。 經九年。繒縣。才陵反。岐流。其宜反。又巨移反。竭涸。戶各反。浚。蘇俊反。洙。音殊。泗。音四。 傳。傳乘。直專反。又丁戀反。讎也。市由反。射桓公。食亦反。而稅。本又作說。同。解。古買反。夷吾縛。扶略反。舊扶臥反。治於。直吏反。注同。 經十年。背蔇。音佩。傳同。滅譚。徒南反。 傳。何閒。閒厠之閒。未徧。音遍。注同。犠牲。許宜反。之屬。音蜀。其轍。直列反。登軾。音式。有伏。如字。舊扶又反。旗。音其。靡。音美。怖。普布反。遽也。其據反。雩門。音于。 經十一年。 傳。喪其。息浪反。得儁。本或作俊。之比。必利反。退復。扶又反。狡壯。交卯反。下側亮反。之難。乃旦反。京師敗。本或作京師敗績者非。桀紂。直久反。言懼而名禮。絕句。或以名字絕句者非。公子御。本或作禦。 經十二年。不警。居領反。 傳。批而。字林、父迷父節二反。奔亳。步各反。犀革。音西。裹之。音果。比及。必利反。 經十三年。 傳。通好。呼報反。 經十四年。甄城。一音旃。又舉然反。或作鄄。○今本亦鄄。 傳。鄭子。子儀。内蛇。市奢反。有妖。於驕反。炎以。音豔。○今本燄。洛誥。古報反。燄燄。音豔。無裏。音里。憾焉。戶暗反。乃縊。一賜反。爲莘。所巾反。譽。音餘。又如字。堵敖。五羔反。之易。以豉反。注同。之燎。力召反。又力弔反。郷邇。許亮反。撲滅。普卜反。般庚。步于反。本又作盤。○今本亦盤。易長。丁丈反。 經十五年。 傳。諸侯長。丁丈反。爲宋。于僞反。閒之。閒厠之閒。 經十六年。介於。音界。而爲三恪。苦各反。本或作爲三恪之客。○今本亦同。緱氏。一音苦侯反。 傳。宋故也。本或作爲宋故。公子閼。此閼若非字誤、則子當爲孫。斷足。丁管反。公父。音甫。王如字。共叔。音恭。遂幷。如字。王必政反。采地。七代反。後放此。之難。乃旦反。復自。扶又反。 經十七年。始伯。音霸。又如字。本又作霸。○今本又霸。翫而。五亂反。而盡。津忍反。遁逃。徒遜反。 傳。工婁。力侯反。饗齊。本又作享。 經十八年。有■(上が或で下が虫)。本又作蜮。短弧。本又作斷。同。丁管反。弧又作狐。音胡。射人。食亦反。 傳。饗醴。音禮。之宥。音又。是借。子夜反。爲王。于僞反。少子。詩照反。以畔。本或作叛。俗字。○今本亦叛。那處。或作■。同。編縣。必緜反。一音步典反。 經十九年。媵陳。以證反。又繩證反。送也。出竟。音境。之好。呼報反。 傳。拳。求圓反。大閽。音昬。守門人也。嬴。音盈。字從女。夕室。朝夕之夕。校尉。戶敎反。字從木。王姚。羊消反。嬖于。必計反。子頹。戶回反。之圃。必古反。又音布。爲囿。音又。徐于目反。苑也。於阮反。近於。附近之近。而收。式周反。 經二十年。 傳。爲伐。于僞反。下文同。徧舞。音遍。殃咎。於良反。下其九反。去盛。起呂反。饌。仕眷反。 經二十一年。祔姑。音附。 傳。復興。扶又反。效尤。戶敎反。徧舞。音遍。鞶。一音蒲官反。紳帶也。鑑。工暫反。鏡也。始惡。或如字。王使。所吏反。 經二十二年。 盪。音蕩。本又作蕩。滌。徒歷反。御寇。本亦作禦。惡其。烏路反。不見。賢遍反。又如字。 傳。顓孫。音專。弛於。失氏反。負擔。丁暫反。去離。力智反。官謗。布浪反。翹翹。祁堯反。和鳴。如字。又戶臥反。注同。將將。七羊反。本又作鏘。○今本亦鏘。竝于正卿。本或作竝爲誤。陳侘。大多反。見陳侯。如字。又賢遍反。大史。音泰。使筮。上制反。蓍。音尸。之否。備矣反。注同。爻辭。戶交反。乾天。其然反。陳摯。音至。本又作贄。同。○今本亦贄。大嶽。音泰。下音岳。楚復。扶又反。猶豫。音預。本亦作預。其應。應對之應。縣驗。音玄。 經二十三年。爲祭公。于僞反。宮楹。音盈。卷縣。字林、丘權反。韋昭、丘云反。說文、丘粉反。 傳。長幼。丁丈反。閒之。閒厠之閒。 經二十四年。刻。音克。桷。音角。椽。直專反。覿。徒歷反。見也。以見。賢遍反。下同。奢夸。苦瓜反。 傳。御孫。本亦作禦。侈。昌紙反。又尸氏反。男贄。眞二反。別貴賤。彼列反。虔。音乾。 經二十五年。嘉好。呼報反。傳同。 傳。相魯。息亮反。下同。正月。建巳之月。夏之。戶雅反。城聚。才喩反。 經二十六年。 傳。牘。徒木反。究。音救。不復。扶又反。申解。居蟹反。 經二十七年。自爲。于僞反。黜。勑律反。濮。音卜。 傳。力强。其丈反。饑。居疑反。又音機。 經二十八年。瑣。素果反。糴。徒歷反。 傳。烝。之承反。驪。力知反。卓。勑角反。閨。音圭。闥。吐達反。關塞。素代反。之疆。居良反。下同。場。音亦。故復。扶又反。墾。苦很反。蠱。音古。鬭御。本亦作禦。鬭梧。音吾。旆。蒲貝反。長尋。直亮反。旐。音兆。純。如字。逵。求龜反。遁。徒困反。諜。音牒。幕。音莫。諜閒。閒厠之閒。 經二十九年。備難。乃旦反。皆重。直用反。 傳。嚮入。本或作向。同。○今本亦向。 經三十年。鄣。音章。下同。 傳。射師。一音食夜反。桎。之實反。楚僭。子念反。以紓。一音直汝反。欲爲。于僞反。 經三十一年。刺奢。七賜反。戎捷。在妾反。相遺。唯季反。傳同。俘。音孚。 傳。警。音景。戒懼也。 經三十二年。不與。音預。斂。力豔反。 傳。監其。本又作鑑。古暫反。脾。婢支反。大祝。音泰。下同。涼德。音良。犖。一音力角反。反覆。芳服反。畫酒。音獲。閔公。亡謹反。
春秋左氏傳校本第四 閔公 起元年盡二年 晉 杜氏 集解 唐 陸氏 音義 尾張 秦 鼎 校本 閔公 名啓方。莊公之子。母叔姜。史記云、名開。謚法、在國遭難曰閔。 【読み】 閔公 名は啓方。莊公の子。母は叔姜。史記に云う、名は開、と。謚法に、國に在りて難に遭うを閔と曰う、と。 〔經〕元年、春、王正月、齊人救邢。夏、六月、辛酉、葬我君莊公。秋、八月、公及齊侯盟于落姑。落姑、齊地。 【読み】 〔經〕元年、春、王の正月、齊人邢を救う。夏、六月、辛酉[かのと・とり]、我が君莊公を葬る。秋、八月、公齊侯と落姑に盟う。落姑は、齊の地。 季子來歸。季子、公子友之字。季子忠於社稷、爲國人所思。故賢而字之。齊侯許納。故曰歸。 【読み】 季子來歸す。季子は、公子友の字。季子社稷に忠にして、國人の爲に思わる。故に賢として之に字す。齊侯納るることを許す。故に歸と曰う。 冬、齊仲孫來。仲孫、齊大夫。以事出疆、因來省難。非齊侯命。故不稱使也。還、使齊侯務寧魯亂。故嘉而字之。來者事實、省難其志也。故經但書仲孫之來、而傳尋仲孫之志。 【読み】 冬、齊の仲孫來る。仲孫は、齊の大夫。事を以て疆を出でて、因りて來りて難を省る。齊侯の命に非ず。故に使と稱せず。還りて、齊侯をして務めて魯の亂を寧んぜしむ。故に嘉して之に字す。來るは事實、難を省るは其の志なり。故に經には但仲孫の來るを書して、傳には仲孫の志を尋ぬ。 〔傳〕元年、春、不書卽位、亂故也。國亂、不得成禮。 【読み】 〔傳〕元年、春、卽位を書さざるは、亂の故なり。國亂れて、禮を成すことを得ず。 狄人伐邢。狄伐邢、在往年冬。 【読み】 狄人邢を伐つ。狄邢を伐つは、往年の冬に在り。 管敬仲言於齊侯曰、戎狄豺狼。不可厭也。敬仲、管仲吾。○豺、士皆反。厭、於鹽反。 【読み】 管敬仲齊侯に言いて曰く、戎狄は豺狼なり。厭かしむ可からざるなり。敬仲は、管仲吾。○豺は、士皆反。厭は、於鹽反。 諸夏親暱。不可弃也。諸夏、中國也。暱、近也。 【読み】 諸夏は親暱[しんじつ]なり。弃[す]つ可からざるなり。諸夏は、中國なり。暱は、近きなり。 宴安酖毒。不可懷也。以宴安比之酖毒。 【読み】 宴安は酖毒なり。懷う可からざるなり。宴安を以て之を酖毒に比す。 詩云、豈不懷歸。畏此簡書。詩、小雅也。文王爲西伯、勞來諸侯之詩。 【読み】 詩に云う、豈歸ることを懷わざらんや。此の簡書を畏る、と。詩は、小雅なり。文王西伯と爲り、諸侯を勞來するの詩なり。 簡書、同惡相恤之謂也。同恤所惡。 【読み】 簡書は、同惡相恤うるの謂なり。同じく惡む所を恤う。 請救邢以從簡書。齊人救邢。 【読み】 請う、邢を救いて以て簡書に從わん、と。齊人邢を救う。 夏、六月、葬莊公。亂故、是以緩。十一月乃葬。 【読み】 夏、六月、莊公を葬る。亂の故に、是を以て緩[おく]るなり。十一月にして乃ち葬る。 秋、八月、公及齊侯盟于落姑、請復季友也。閔公初立、國家多難、以季子忠賢故、請霸主而復之。 【読み】 秋、八月、公齊侯と落姑に盟うは、季友を復さんことを請うなり。閔公初めて立ち、國家多難、季子の忠賢を以ての故に、霸主に請うて之を復さんとす。 齊侯許之、使召諸陳。公次于郎以待之。非師旅之事。故不書次。 【読み】 齊侯之を許して、諸を陳に召さしむ。公郎に次[やど]りて以て之を待つ。師旅の事に非ず。故に次るを書さず。 季子來歸、嘉之也。 【読み】 季子來歸すとは、之を嘉するなり。 冬、齊仲孫湫來省難。湫、仲孫名。○湫、子小反。 【読み】 冬、齊の仲孫湫[ちゅうそんしょう]來りて難を省る。湫は、仲孫の名。○湫は、子小反。 書曰仲孫、亦嘉之也。 【読み】 書して仲孫と曰うも、亦之を嘉するなり。 仲孫歸。曰、不去慶父、魯難未已。時慶父亦還魯。○去、起呂反。下同。 【読み】 仲孫歸る。曰く、慶父を去らずんば、魯の難已まじ、と。時に慶父も亦魯に還る。○去は、起呂反。下も同じ。 公曰、若之何而去之。對曰、難不已、將自斃。斃、踣也。 【読み】 公曰く、之を若何にして之を去らん、と。對えて曰く、難已まずんば、將に自ら斃れんとす。斃は、踣[たお]るなり。 君其待之。 【読み】 君其れ之を待て、と。 公曰、魯可取乎。對曰、不可。猶秉周禮。周禮、所以本也。臣聞之、國將亡、本必先顚、而後枝葉從之。魯不弃周禮。未可動也。君其務寧魯難而親之。親有禮、因重固、能重能固、則當就成之。 【読み】 公曰く、魯取る可きか、と。對えて曰く、不可なり。猶周の禮を秉れり。周の禮は、本たる所以なり。臣之を聞く、國の將に亡びんとするや、本必ず先ず顚[くつがえ]りて、而して後に枝葉之に從う、と。魯周の禮を弃てず。動かす可からざるなり。君其れ務めて魯の難を寧んじて之を親しめ。有禮を親しみ、重固に因り、能く重く能く固くば、則ち當に就いて之を成すべし。 閒攜貳、離而相疑者、則當因而閒之。 【読み】 攜貳[けいじ]を閒[へだ]て、離れて相疑う者は、則ち當に因りて之を閒つべし。 覆昏亂、覆、敗也。 【読み】 昏亂を覆[やぶ]るは、覆は、敗るなり。 霸王之器也。霸王所用。故以器爲喩。○王、于況反。 【読み】 霸王の器なり、と。霸王用ゆる所。故に器を以て喩えとす。○王は、于況反。 晉侯作二軍。晉本一軍。見莊十六年。 【読み】 晉侯二軍を作る。晉は本一軍。莊十六年に見ゆ。 公將上軍、大子申生將下軍、趙夙御戎、畢萬爲右、爲公御・右也。夙、趙衰兄。畢萬、魏犫祖父。○將、子匠反。衰、初危反。犫、尺由反。 【読み】 公上軍に將となり、大子申生下軍に將となり、趙夙戎に御となり、畢萬右と爲り、公の御・右と爲るなり。夙は、趙衰の兄。畢萬は、魏犫[ぎしゅう]の祖父。○將は、子匠反。衰は、初危反。犫は、尺由反。 以滅耿、滅霍、滅魏。平陽皮氏縣東南有耿郷。永安縣東北有霍大山。三國皆姬姓。 【読み】 以て耿[こう]を滅ぼし、霍[かく]を滅ぼし、魏を滅ぼす。平陽皮氏縣の東南に耿郷有り。永安縣の東北に霍大山有り。三國は皆姬姓。 還。爲大子城曲沃。賜趙夙耿、賜畢萬魏、以爲大夫。 【読み】 還る。大子の爲に曲沃に城く。趙夙に耿を賜い、畢萬に魏を賜い、以て大夫とす。 士蔿曰、大子不得立矣。分之都城、而位以卿、先爲之極。又焉得立。位以卿、謂將下軍。 【読み】 士蔿[しい]曰く、大子は立つことを得ざらん。之に都城を分かちて、位するに卿を以てして、先ず之が極を爲せり。又焉んぞ立つことを得ん。位するに卿を以てすとは、下軍に將とするを謂う。 不如逃之。無使罪至、爲吳大伯、不亦可乎。大伯、周大王之適子。知其父欲立季歷。故讓位而適吳。 【読み】 之を逃るるに如かず。罪をして至らしむること無く、吳の大伯爲らんこと、亦可からずや。大伯は、周の大王の適子。其の父季歷を立てんことを欲するを知る。故に位を讓りて吳に適く。 猶有令名。與其及也。言雖去猶有令名。勝於留而及禍。 【読み】 猶令名有らん。其の及ばんに與[いず]れぞ。言うこころは、去ると雖も猶令名有らん。留まりて禍に及ぶに勝れり。 且諺曰、心苟無瑕、何恤乎無家。天若祚大子、其無晉乎。爲晉殺申生傳。 【読み】 且諺に曰く、心苟も瑕[きず]無くば、何ぞ家無きを恤えん、と。天若し大子に祚[さいわい]せば、其れ晉無からんや、と。晉申生を殺す爲の傳なり。 卜偃曰、畢萬之後必大。卜偃、晉掌卜大夫。 【読み】 卜偃[ぼくえん]曰く、畢萬の後必ず大ならん。卜偃は、晉の卜を掌る大夫。 萬、盈數也。魏、大名也。以是始賞、天啓之矣。天子曰兆民、諸侯曰萬民。今名之大、以從盈數。其必有衆。以魏從萬、有衆象。 【読み】 萬は、盈數なり。魏は、大名なり。是を以て始めて賞せらるるは、天の之を啓くなり。天子に兆民と曰い、諸侯に萬民と曰う。今名の大、以て盈數に從う。其れ必ず衆を有たん、と。魏を以て萬に從うは、衆を有つの象なり。 初、畢萬筮仕於晉、遇屯 震下坎上屯。 【読み】 初め、畢萬晉に仕えんことを筮して、屯[ちゅん]の 震下坎上は屯。 之比。坤下坎上比。屯初九變而爲比。 【読み】 比に之くに遇えり。坤下坎上は比。屯の初九變じて比と爲る。 辛廖占之。曰、吉。辛廖、晉大夫。○廖、力彫反。 【読み】 辛廖[しんりょう]之を占う。曰く、吉なり。辛廖は、晉の大夫。○廖は、力彫反。 屯固比入。吉孰大焉。其必蕃昌。屯、險難。所以爲堅固。比、親密。所以得入。 【読み】 屯固く比は入る。吉孰れか焉より大ならん。其れ必ず蕃昌せん。屯は、險難なり。堅固と爲る所以なり。比は、親密なり。入るを得る所以なり。 震爲土、震變爲坤。 【読み】 震土と爲り、震變じて坤と爲る。 車從馬、震爲車、坤爲馬。 【読み】 車馬に從い、震を車と爲し、坤を馬と爲す。 足居之、震爲足。 【読み】 足之を居き、震を足と爲す。 兄長之、震爲長男。○長、丁丈反。 【読み】 兄之に長となり、震を長男と爲す。○長は、丁丈反。 母覆之、坤爲母。 【読み】 母之を覆い、坤を母と爲す。 衆歸之。坤爲衆。 【読み】 衆之に歸す。坤を衆と爲す。 六體不易、初一爻變有此六義、不可易也。 【読み】 六體易わらず、初めの一爻變じて此の六義有り、易う可からず。 合而能固、安而能殺、公侯之卦也。比、合。屯、固。坤、安。震、殺。故曰公侯之卦。 【読み】 合いて能く固く、安くして能く殺すは、公侯の卦なり。比は、合う。屯は、固し。坤は、安し。震は、殺す。故に公侯の卦と曰う。 公侯之子孫。必復其始。萬、畢公高之後。傳爲魏之子孫衆多張本。 【読み】 公侯の子孫なり。必ず其の始めに復らん、と。萬は、畢公高の後なり。傳、魏の子孫の衆多なる爲の張本なり。 *注の「萬、畢」について、頭注に「萬畢或作畢萬。今從足利本」とある。 〔經〕二年、春、王正月、齊人遷陽。無傳。陽、國名。蓋齊人偪徙之。 【読み】 〔經〕二年、春、王の正月、齊人陽を遷す。傳無し。陽は、國の名。蓋し齊人偪りて之を徙[うつ]すならん。 夏、五月、乙酉、吉禘于莊公。三年喪畢、致新死者之主於廟、廟之遠主、當遷入祧。因是大祭、以審昭穆。謂之禘。莊公喪制未闋、時別立廟、廟成而吉祭、又不於大廟。故詳書以示譏。○祧、他彫反。昭、上饒反。闋、苦穴反。 【読み】 夏、五月、乙酉[きのと・とり]、莊公に吉禘[きってい]す。三年の喪畢り、新たに死する者の主を廟に致し、廟の遠き主は、當に遷して祧[ちょう]に入るべし。是に因りて大祭して、以て昭穆を審らかにす。之を禘と謂う。莊公の喪制未だ闋[おわ]らず、時に別に廟を立て、廟成りて吉祭し、又大廟に於てせず。故に詳らかに書して以て譏りを示す。○祧は、他彫反。昭は、上饒反。闋[けつ]は、苦穴反。 秋、八月、辛丑、公薨。實弑書薨、又不地者、皆史策諱之。 【読み】 秋、八月、辛丑[かのと・うし]、公薨ず。實は弑して薨ずと書し、又地いわざるは、皆史策之を諱みたるなり。 九月、夫人姜氏孫于邾。哀姜外淫。故孫稱姜氏。○孫、音遜。 【読み】 九月、夫人姜氏邾[ちゅ]に孫[のが]る。哀姜外淫す。故に孫るに姜氏と稱す。○孫は、音遜。 公子慶父出奔莒。弑閔公故。 【読み】 公子慶父出でて莒に奔る。閔公を弑する故なり。 冬、齊高子來盟。無傳。蓋高傒也。齊侯使來平魯亂。僖公新立。因遂結盟。故不稱使也。魯人貴之。故不書名。子、男子之美稱。○美稱、尺證反。 【読み】 冬、齊の高子來り盟う。傳無し。蓋し高傒ならん。齊侯來りて魯の亂を平らげしむ。僖公新たに立つ。因りて遂に盟を結ぶ。故に使と稱せざるなり。魯人之を貴ぶ。故に名を書さず。子は、男子の美稱。○美稱は、尺證反。 十有二月、狄入衛。書入、不能有其地。例在襄十三年。 【読み】 十有二月、狄衛に入る。入ると書すは、其の地を有つこと能わざるなり。例は襄十三年に在り。 鄭弃其師。高克見惡、久不得還。師潰而克奔陳。故克狀其事以告魯也。 【読み】 鄭其の師を弃[す]つ。高克惡まれて、久しく還ることを得ず。師潰[つい]えて克陳に奔る。故に克其の事を狀して以て魯に告ぐるなり。 〔傳〕二年、春、虢公敗犬戎于渭汭。犬戎、西戎別在中國者。渭水、出隴西、東入河。水之隈曲曰汭。○汭、如銳反。隈、烏囘反。 【読み】 〔傳〕二年、春、虢公犬戎を渭汭[いぜい]に敗る。犬戎は、西戎の別に中國に在る者。渭水は、隴西に出でて、東して河に入る。水の隈曲を汭と曰う。○汭は、如銳反。隈は、烏囘反。 舟之僑曰、無德而祿、殃也。殃將至矣。遂奔晉。舟之僑、虢大夫。 【読み】 舟之僑曰く、德無くして祿あるは、殃[わざわい]なり。殃將に至らんとす、と。遂に晉に奔る。舟之僑は、虢の大夫。 夏、吉禘于莊公。速也。 【読み】 夏、莊公に吉禘す。速きなり。 初、公傅奪卜齮田。公不禁。卜齮、魯大夫也。公卽位。年八歲、知愛其傅、而遂成其意、以奪齮田。齮忿其傅、幷及公。故慶父因之。○齮、魚綺反。 【読み】 初め、公の傅卜齮[ぼくき]の田を奪う。公禁ぜず。卜齮は、魯の大夫なり。公位に卽く。年八歲にして、其の傅を愛することを知りて、遂に其の意を成さしめて、以て齮の田を奪う。齮其の傅を忿り、幷せて公に及ぶ。故に慶父之に因る。○齮は、魚綺反。 秋、八月、辛丑、共仲使卜齮賊公于武闈。宮中小門、謂之闈。○共、音恭。 【読み】 秋、八月、辛丑、共仲卜齮をして公を武闈[ぶい]に賊せしむ。宮中の小門、之を闈と謂う。○共は、音恭。 成季以僖公適邾。僖公、閔公庶兄。成風之子。 【読み】 成季僖公を以[い]て邾に適く。僖公は、閔公の庶兄。成風の子。 共仲奔莒。乃入、立之。以賂求共仲于莒。莒人歸之。及密、使公子魚請。密、魯地。瑯邪費縣北有密如亭。公子魚、奚斯也。 【読み】 共仲莒に奔る。乃ち入りて、之を立つ。賂を以て共仲を莒に求む。莒人之を歸す。密に及ぶとき、公子魚をして請わしむ。密は、魯の地。瑯邪費縣の北に密如亭有り。公子魚は、奚斯なり。 不許。哭而往。共仲曰、奚斯之聲也。乃縊。慶父之罪雖重、季子推親親之恩、欲同之叔牙、存孟氏之族。故略其罪不書殺、又不書卒。 【読み】 許さず。哭して往く。共仲曰く、奚斯の聲なり、と。乃ち縊る。慶父の罪重しと雖も、季子親親の恩を推して、之を叔牙に同じくして、孟氏の族を存せんと欲す。故に其の罪を略して殺を書さず、又卒を書さず。 閔公、哀姜之娣叔姜之子也。故齊人立之。共仲通於哀姜。哀姜欲立之。閔公之死也、哀姜與知之。故孫于邾。齊人取而殺之于夷、以其尸歸。爲僖元年、齊人殺哀姜傳。夷、魯地。○與、音預。孫、音遜。 【読み】 閔公は、哀姜の娣の叔姜の子なり。故に齊人之を立つ。共仲哀姜に通ず。哀姜之を立てんことを欲す。閔公の死するや、哀姜之を與り知れり。故に邾に孫る。齊人取[とら]えて之を夷に殺し、其の尸を以て歸る。僖元年、齊人哀姜を殺す爲の傳なり。夷は、魯の地。○與は、音預。孫は、音遜。 僖公請而葬之。哀姜之罪已重。而僖公請其喪還者、外欲固齊以居厚、内存母子不絕之義、爲國家之大計。 【読み】 僖公請いて之を葬れり。哀姜の罪已[はなは]だ重し。而るに僖公其の喪を請いて還すは、外齊を固くして以て厚に居り、内母子不絕の義を存して、國家の大計を爲さんことを欲してなり。 成季之將生也、桓公使卜楚丘之父卜之。卜楚丘、魯掌卜大夫。 【読み】 成季の將に生まれんとするや、桓公卜楚丘の父をして之を卜せしむ。卜楚丘は、魯の卜を掌る大夫。 曰、男也。其名曰友。在公之右。在右、言用事。 【読み】 曰く、男なり。其の名を友と曰わん。公の右に在り。右に在るは、事を用ゆるを言う。 閒于兩社、爲公室輔。兩社、周社・亳社。兩社之閒、朝廷執政所在。 【読み】 兩社に閒[はさ]まり、公室の輔と爲らん。兩社は、周社・亳社。兩社の閒は、朝廷執政の在る所。 季氏亡、則魯不昌。又筮之。遇大有 乾下離上大有。 【読み】 季氏亡びば、則ち魯昌えず、と。又之を筮す。大有の 乾下離上は大有。 之乾。乾下乾上乾。大有六五變而爲乾。 【読み】 乾に之くに遇えり。乾下乾上は乾。大有の六五變じて乾と爲る。 曰、同復于父、敬如君所。筮者之辭也。乾爲君父。離變爲乾。故曰同復于父。見敬與君同。 【読み】 曰く、同じくして父に復り、敬せらること君所の如けん、と。筮者の辭なり。乾を君父と爲す。離變じて乾と爲る。故に同じくして父に復ると曰う。敬せらること君と同じ。 及生、有文在其手曰友。遂以命之。遂以爲名。 【読み】 生まるるに及んで、文の其の手に在る有り友と曰う。遂に以て之に命ぜり。遂に以て名と爲す。 冬、十二月、狄人伐衛。衛懿公好鶴、鶴有乘軒者。軒、大夫車。○好、呼報反。軒、許言反。 【読み】 冬、十二月、狄人衛を伐つ。衛の懿公鶴を好み、鶴軒に乘る者有り。軒は、大夫の車。○好は、呼報反。軒は、許言反。 將戰。國人受甲者皆曰、使鶴。鶴實有祿位。余焉能戰。公與石祁子玦、與甯莊子矢、使守。莊子、甯速也。玦、玉玦。○玦、古穴反。守、手又反。 【読み】 將に戰わんとす。國人の甲を受くる者皆曰う、鶴を使え。鶴實に祿位有り。余焉ぞ能く戰わん、と。公石祁子に玦[けつ]を與え、甯莊子[ねいそうし]に矢を與えて、守らしむ。莊子は、甯速なり。玦は、玉玦。○玦は、古穴反。守は、手又反。 曰、以此贊國、擇利而爲之。贊、助也。玦、示以當決斷、矢、示以禦難。 【読み】 曰く、此を以て國を贊け、利を擇びて之を爲せ、と。贊は、助くなり。玦は、示すに當に決斷すべきを以てし、矢は、示すに難を禦ぐを以てす。 與夫人繡衣、曰、聽於二子。取其文章順序。 【読み】 夫人に繡衣を與えて、曰く、二子に聽け、と。其の文章の順序に取る。 渠孔御戎、子伯爲右、黃夷前驅、孔嬰齊殿、傳言衛侯失民有素、雖臨事而戒、猶無所及。○殿、丁練反。 【読み】 渠孔戎に御となり、子伯右と爲り、黃夷前驅し、孔嬰齊殿となり、傳、衛侯民を失うこと素有り、事に臨みて戒むと雖も、猶及ぶ所無きを言う。○殿は、丁練反。 及狄人戰于熒澤。衛師敗績。遂滅衛。此熒澤、當在河北。君死國散經不書滅者、狄不能赴、衛之君臣皆盡無復文告、齊桓爲之告諸侯、言狄已去、言衛之存。故但以入爲文。○熒、戶扃反。 【読み】 狄人と熒澤[けいたく]に戰う。衛の師敗績す。遂に衛を滅ぼす。此の熒澤は、當に河北に在るべし。君死し國散じて經滅を書さざるは、狄赴[つ]ぐること能わず、衛の君臣皆盡きて復文告無く、齊桓之が爲に諸侯に告げて、狄已に去るを言い、衛の存するを言う。故に但入るを以て文と爲すなり。○熒は、戶扃反。 衛侯不去其旗。是以甚敗。 【読み】 衛侯其の旗を去[す]てず。是を以て甚だ敗れたり。 狄人囚史華龍滑與禮孔、以逐衛人。二人曰、我大史也。實掌其祭。不先、國不可得也。夷狄畏鬼。故恐言、當先白神。○去、起呂反。華、胡化反。 【読み】 狄人史の華龍滑と禮孔とを囚えて、以て衛人を逐う。二人曰く、我は大史なり。實に其の祭を掌れり。先だたずんば、國得可からず、と。夷狄鬼を畏る。故に恐[おど]して言う、當に先ず神に白[もう]すべし、と。○去は、起呂反。華は、胡化反。 乃先之。至則告守曰、不可待也。守、石・甯二大夫。 【読み】 乃ち之を先だつ。至りて則ち守に告げて曰く、待つ可からず、と。守は、石・甯の二大夫。 夜與國人出。狄入衛、遂從之、又敗諸河。衛將東走渡河。狄復逐而敗之。 【読み】 夜國人と出づ。狄衛に入り、遂に之を從[お]い、又諸を河に敗る。衛將に東走して河を渡らんとす。狄復逐って之を敗る。 初、惠公之卽位也少。蓋年十五六。 【読み】 初め、惠公の位に卽くや少[わか]し。蓋し年十五六ならん。 齊人使昭伯烝於宣姜。不可。强之。昭伯、惠公庶兄、宣公子頑也。昭伯不可。 【読み】 齊人昭伯をして宣姜に烝せしむ。可[き]かず。之を强う。昭伯は、惠公の庶兄、宣公の子頑なり。昭伯可かず。 生齊子・戴公・文公・宋桓夫人・許穆夫人。 【読み】 齊子・戴公・文公・宋の桓夫人・許の穆夫人を生む。 文公爲衛之多患也、先適齊。及敗、宋桓公逆諸河。迎衛敗衆。 【読み】 文公衛の患え多きが爲に、先ず齊に適く。敗るるに及んで、宋の桓公諸を河に逆[むか]う。衛の敗衆を迎う。 宵濟。夜渡、畏狄。 【読み】 宵[よる]濟[わた]る。夜渡るは、狄を畏れてなり。 衛之遺民、男女七百有三十人、益之以共・滕之民、爲五千人。共及滕、衛別邑。○共、音恭。 【読み】 衛の遺民、男女七百有三十人、之に益すに共・滕の民を以て、五千人と爲る。共と滕とは、衛の別邑。○共は、音恭。 立戴公以廬于曹。廬、舍也。曹、衛下邑。戴公名申。立其年卒、而立文公。 【読み】 戴公を立てて以て曹に廬す。廬は、舍るなり。曹は、衛の下邑。戴公名は申。立ちて其の年卒して、文公を立つ。 許穆夫人賦載馳。載馳、詩衛風也。許穆夫人痛衛之亡、思歸唁之、不可。故作詩以言志。 【読み】 許の穆夫人載馳[さいち]を賦す。載馳は、詩の衛風なり。許の穆夫人衛の亡ぶるを痛み、歸りて之を唁[とむら]わんことを思えども、不可なり。故に詩を作りて以て志を言う。 齊侯使公子無虧帥車三百乘、甲士三千人、以戍曹。無虧、齊桓公子武孟也。車甲之賦異於常。故傳別見之。 【読み】 齊侯公子無虧[むき]をして車三百乘、甲士三千人を帥いて、以て曹を戍らしむ。無虧は、齊の桓公の子武孟なり。車甲の賦常に異なり。故に傳別に之を見す。 歸公乘馬、祭服五稱、牛・羊・豕・雞・狗皆三百、與門材、歸、遺也。四馬曰乘、衣單複具曰稱。門材、使先立門戶。○稱、尺證反。 【読み】 公に乘馬、祭服五稱、牛・羊・豕・雞・狗皆三百と、門材とを歸[おく]り、歸は、遺るなり。四馬を乘と曰い、衣の單複具わるを稱と曰う。門材は、先ず門戶を立てしむるなり。○稱は、尺證反。 歸夫人魚軒、魚軒、夫人車。以魚皮爲飾。 【読み】 夫人に魚軒と、魚軒は、夫人の車。魚皮を以て飾りと爲す。 重錦三十兩。重錦、錦之熟細者。以二丈雙行。故曰兩。三十兩、三十匹也。 【読み】 重錦三十兩を歸る。重錦は、錦の熟細なる者。二丈を以て雙行す。故に兩と曰う。三十兩は、三十匹なり。 鄭人惡高克、使帥師次于河上、久而弗召。師潰而歸。高克奔陳。高克、鄭大夫也。好利而不顧其君。文公惡之、而不能遠。故使帥師而不召。 【読み】 鄭人高克を惡みて、師を帥いて河上に次[やど]らしめ、久しくして召さず。師潰[つい]えて歸る。高克陳に奔る。高克は、鄭の大夫なり。利を好みて其の君を顧みず。文公之を惡めども、遠ざくること能わず。故に師を帥いしめて召さず。 鄭人爲之賦淸人。淸人、詩鄭風也。刺文公退臣不以道、危國亡師之本。 【読み】 鄭人之が爲に淸人を賦す。淸人は、詩の鄭風なり。文公臣を退くるに道を以てせずして、國を危くし師を亡ぼすの本なるを刺[そし]る。 晉侯使大子申生伐東山皐落氏。赤狄別種也。皐落、其氏族。 【読み】 晉侯大子申生をして東山の皐落氏を伐たしむ。赤狄の別種なり。皐落は、其の氏族。 里克諫曰、大子奉冢祀社稷之粢盛、里克、晉大夫。冢、大也。 【読み】 里克諫めて曰く、大子は冢祀社稷の粢盛を奉じて、里克は、晉の大夫。冢は、大なり。 以朝夕視君膳者也。膳、厨膳。 【読み】 以て朝夕に君の膳を視る者なり。膳は、厨膳。 故曰冢子。君行則守、有守則從。從曰撫軍、守曰監國。古之制也。夫帥師、專行謀、帥師者、必專謀軍事。○守、手又反。下同。從、才用反。監、古銜反。 【読み】 故に冢子と曰う。君行けば則ち守り、守り有れば則ち從う。從うを撫軍と曰い、守るを監國と曰う。古の制なり。夫れ師を帥いれば、專ら謀を行い、師を帥いる者は、必ず專ら軍事を謀る。○守は、手又反。下も同じ。從は、才用反。監は、古銜反。 誓軍旅。宣號令也。 【読み】 軍旅に誓う。號令を宣ぶるなり。 君與國政之所圖也。非大子之事也。國政、正卿。 【読み】 君と國政との圖る所なり。大子の事に非ざるなり。國政は、正卿。 師在制命而已。命、將軍所制。 【読み】 師は命を制するに在るのみ。命は、將に軍の制する所。 稟命則不威、專命則不孝。故君之嗣適、不可以帥師。君失其官、帥師不威、將焉用之。大子統師、是失其官也。專命則不孝、是爲帥必不威也。 【読み】 命を稟くれば則ち威あらず、命を專らにすれば則ち不孝なり。故に君の嗣適は、以て師を帥いしむ可からず。君其の官を失い、師を帥いて威あらざること、將[はた]焉んぞ之を用いん。大子師を統ぶる、是れ其の官を失うなり。命を專らにすれば則ち不孝、是れ帥いて必ず威あらずと爲るなり。 且臣聞、皐落氏將戰。君其舍之。公曰、寡人有子、未知其誰立焉。不對而退。 【読み】 且つ臣聞く、皐落氏將に戰わんとす、と。君其れ之を舍[お]け、と。公曰く、寡人子有り、未だ其の誰をか立てんことを知らず、と。對えずして退く。 見大子。大子曰、吾其廢乎。對曰、告之以臨民、謂居曲沃。 【読み】 大子に見ゆ。大子曰く、吾れ其れ廢てられんか、と。對えて曰く、之に告ぐるに臨民を以てし、曲沃に居くを謂う。 敎之以軍旅。謂將下軍。 【読み】 之に敎ゆるに軍旅を以てす。下軍に將たるを謂う。 不共是懼。何故廢乎。且子懼不孝。無懼弗得立。脩己而不責人、則免於難。 【読み】 共せざるを是れ懼れよ。何の故に廢てられんや。且つ子不孝を懼る。立つことを得ざるを懼るること無けん。己を脩めて人を責めざれば、則ち難を免れん、と。 大子帥師。公衣之偏衣、偏衣、左右異色、其半似公服。○衣之偏、於旣反。下衣身之偏、衣之純、衣之尨服、同。 【読み】 大子師を帥いぬ。公之に偏衣を衣せ、偏衣は、左右色を異にして、其の半は公服に似たるなり。○衣之偏は、於旣反。下の衣身之偏。衣之純、衣之尨服[ぼうふく]、同じ。 佩之金玦。以金爲玦。 【読み】 之に金玦[きんけつ]を佩びしむ。金を以て玦と爲すなり。 狐突御戎、先友爲右、狐突、伯行。重耳外祖父也。爲申生御。申生以大子將上軍。 【読み】 狐突戎に御となり、先友右と爲り、狐突は、伯行。重耳の外祖父なり。申生の御爲り。申生大子を以て上軍に將たり。 梁餘子養御罕夷、先丹木爲右、罕夷、晉下軍卿也。梁餘子養爲罕夷御。 【読み】 梁餘子養罕夷[かんい]に御となり、先丹木右と爲り、罕夷は、晉の下軍の卿なり。梁餘子養は罕夷の御爲たり。 羊舌大夫爲尉。羊舌大夫、叔向祖父也。尉、軍尉。○向、許丈反。 【読み】 羊舌大夫尉爲り。羊舌大夫は、叔向の祖父なり。尉は、軍尉。○向は、許丈反。 先友曰、衣身之偏、偏、半也。 【読み】 先友曰く、身の偏を衣せ、偏は、半なり。 握兵之要。謂佩金玦、將上軍。 【読み】 兵の要を握らしむ。金玦を佩びて、上軍に將とするを謂う。 在此行也、子其勉之。偏躬無慝、分身衣之半、非惡意也。 【読み】 此の行に在りてや、子其れ之を勉めよ。偏躬は慝[あ]しきこと無く、身を分けて之に半を衣するは、惡意に非ざるなり。 兵要遠災。威權在己。可以遠害。○遠、去聲。下同。 【読み】 兵要は災いに遠ざかる。威權己に在り。以て害に遠ざかる可し。○遠は、去聲。下も同じ。 親以無災。又何患焉。 【読み】 親しまれて以て災い無し。又何をか患えん、と。 狐突歎曰、時、事之徵也。歎、以先友爲不知君心。 【読み】 狐突歎じて曰く、時は、事の徵なり。歎ずるは、先友を以て君の心を知らずと爲すなり。 衣、身之章也。章貴賤。 【読み】 衣は、身の章なり。貴賤を章らかにす。 佩、衷之旗也。旗、表也。所以表明其中心。○衷、音忠。 【読み】 佩は、衷の旗なり。旗は、表なり。其の中心を表明する所以なり。○衷は、音忠。 故敬其事、則命以始、賞以春夏。 【読み】 故に其の事を敬すれば、則ち命ずるに始めを以てし、賞するに春夏を以てす。 服其身、則衣之純、必以純色爲服。 【読み】 其の身に服すれば、則ち之に純を衣せ、必ず純色を以て服とす。 用其衷、則佩之度。衷、中也。佩玉者、士君子常度。 【読み】 其の衷を用ゆれば、則ち之に度を佩びしむ。衷は、中なり。玉を佩ぶ者は、士君子の常度。 今命以時卒、閟其事也。冬十二月、閟盡之時。 【読み】 今命ずるに時の卒りを以てするは、其の事を閟[と]ずるなり。冬十二月は、閟盡[ひじん]の時なり。 衣之尨服、遠其躬也。尨、雜色。 【読み】 之に尨服[ぼうふく]を衣するは、其の躬を遠ざくるなり。尨は、雜色。 佩以金玦、弃其衷也。服以遠之、時以閟之。尨涼、冬殺、金寒、玦離。胡可恃也。寒・涼・殺・離、言無溫潤。玦、如環而缺不連。 【読み】 佩びしむるに金玦を以てするは、其の衷を弃[す]つるなり。服以て之を遠ざけて、時以て之を閟ず。尨は涼しく、冬は殺し、金は寒く、玦は離る。胡ぞ恃む可けんや。寒・涼・殺・離は、溫潤無きを言う。玦は、環の如くにして缺[か]けて連ならず。 雖欲勉之、狄可盡乎。 【読み】 之を勉めんと欲すと雖も、狄盡くす可けんや、と。 梁餘子養曰、帥師者、受命於廟、受脤於社、脤、宜社之肉。盛以脤器。○脤、市軫反。 【読み】 梁餘子養曰く、師を帥いる者は、命を廟に受け、脤[しん]を社に受けて、脤は、社に宜するの肉。盛るに脤器を以てす。○脤は、市軫反。 有常服矣。不獲而尨。命可知也。韋弁服、軍之常也。尨、偏衣。 【読み】 常の服有り。獲ずして尨す。命知る可し。韋弁服は、軍の常なり。尨は、偏衣。 死而不孝。不如逃之。 【読み】 死して不孝なり。之を逃るるに如かず、と。 罕夷曰、尨奇無常、雜色奇怪、非常之服。 【読み】 罕夷曰く、尨奇は常無く、雜色奇怪は、非常の服。 金玦不復。雖復何爲。君有心矣。有害大子之心。 【読み】 金玦は復らず。復ると雖も何をか爲さん。君心有り、と。大子を害するの心有り。 先丹木曰、是服也、狂夫阻之。阻、疑也。言雖狂夫、猶知有疑。 【読み】 先丹木曰く、是の服や、狂夫も之に阻[うたが]いありとす。阻は、疑いなり。言うこころは、狂夫と雖も、猶疑い有るを知る。 曰、盡敵而反。曰、公辭。○盡、子忍反。下盡敵同。 【読み】 曰く、敵を盡くして反れ、と。曰くは、公の辭。○盡は、子忍反。下の盡敵も同じ。 敵可盡乎。雖盡敵、猶有内讒。不如違之。違、去也。 【読み】 敵盡くす可けんや。敵を盡くすと雖も、猶内讒有り。之を違[さ]るに如かず、と。違は、去るなり。 狐突欲行。行、亦去也。 【読み】 狐突行[さ]らんと欲す。行も、亦去るなり。 羊舌大夫曰、不可。違命不孝。弃事不忠。雖知其寒、惡不可取。子其死之。寒、薄也。 【読み】 羊舌大夫曰く、不可なり。命に違うは不孝なり。事を弃つるは不忠なり。其の寒[うす]きを知ると雖も、惡取る可からず。子其れ之に死せよ、と。寒は、薄きなり。 大子將戰。狐突諫曰、不可。昔辛伯諗周桓公、諗、告也。事在桓十八年。○諗、音審。說文云、深謀。 【読み】 大子將に戰わんとす。狐突諫めて曰く、不可なり。昔辛伯周の桓公に諗[つ]げて、諗[しん]は、告ぐるなり。事は桓十八年に在り。○諗は、音審。說文に云う、深謀、と。 云、内寵竝后、外寵二政、嬖子配適、大都耦國、亂之本也。周公弗從。故及於難。今亂本成矣。驪姬爲内寵、二五爲外寵、奚齊爲嬖子、曲沃爲大都。故曰亂本成矣。 【読み】 云う、内寵后に竝び、外寵政を二つにし、嬖子適に配[たぐ]い、大都國に耦[なら]ぶは、亂の本なり、と。周公從わず。故に難に及べり。今亂の本成れり。驪姬を内寵と爲し、二五を外寵と爲し、奚齊を嬖子と爲し、曲沃を大都と爲す。故に亂の本成れりと曰う。 立可必乎。孝而安民、子其圖之。奉身爲孝、不戰爲安民。 【読み】 立つこと必とす可けんや。孝にして民を安んぜんこと、子其れ之を圖れ。身を奉ずるを孝と爲し、戰わざるを民を安んずと爲す。 與其危身以速罪也。有功益見害。故言孰與危身以召罪。 【読み】 其の身を危うくして以て罪を速[まね]くに與[いず]れぞや、と。功有れば益々害せらる。故に身を危うくして以て罪を召[まね]くに孰與[いず]れぞと言う。 成風聞成季之繇、乃事之、成風、莊公之妾、僖公之母也。繇、卦兆之占辭。○繇、直救反。 【読み】 成風成季の繇[ちゅう]を聞き、乃ち之に事えて、成風は、莊公の妾、僖公の母なり。繇は、卦兆の占辭。○繇は、直救反。 而屬僖公焉。故成季立之。 【読み】 僖公を屬す。故に成季之を立つ。 僖之元年、齊桓公遷邢于夷儀、二年、封衛于楚丘。邢遷如歸、衛國忘亡。忘其滅亡之困。 【読み】 僖の元年、齊の桓公邢を夷儀に遷し、二年、衛を楚丘に封ず。邢の遷ること歸るが如く、衛國亡びしを忘れたり。其の滅亡の困しみを忘る。 衛文公大布之衣、大帛之冠、大布、麤布。大帛、厚繒。蓋用諸侯諒闇之服。○諒、音良。又音亮。 【読み】 衛の文公大布の衣、大帛の冠し、大布は、麤布。大帛は、厚繒。蓋し諸侯諒闇の服を用ゆるならん。○諒は、音良。又音亮。 務材、訓農、通商、惠工、加惠於百工、賞其利器用。 【読み】 材を務め、農を訓え、商を通じ、工を惠み、惠みを百工に加え、其の器用を利するを賞す。 敬敎、勸學、授方、任能。方、百事之宜也。 【読み】 敎えを敬し、學を勸め、方を授け、能に任ず。方は、百事の宜なり。 元年、革車三十乘、季年、乃三百乘。衛文公以此年冬立、齊桓公始平魯亂。故傳因言齊之所以霸、衛之所由興。革車、兵車。季年、在僖二十五年。蓋招懷迸散。故能致十倍之衆。○乘、繩證反。迸、檗諍反。 【読み】 元年に、革車三十乘、季年に、乃ち三百乘あり。衛の文公此の年の冬を以て立ち、齊の桓公始めて魯の亂を平らぐ。故に傳因りて齊の霸たる所以と、衛の由りて興る所とを言う。革車は、兵車。季年は、僖二十五年に在り。蓋し逬散[ほうさん]を招懷す。故に能く十倍の衆を致すならん。○乘は、繩證反。迸は、檗諍反。 閔 經元年。出疆。居良反。省難。乃旦反。下及傳同。 傳。狼。音郎。諸夏。戶雅反。注同。親暱。女乙反。宴安。於見反。本又作晏。音同。一音烏諫反。酖毒。直蔭反。勞來。力報反。下力代反。自斃。婢世反。踣。蒲北反。閒攜。閒厠之閒。注同。覆昏。芳服反。注同。見莊。賢遍反。滅耿。古幸反。還爲。于僞反。又焉。於虔反。大伯。音泰。注同。適子。丁歷反。本又作嫡。且諺。音彥。若祚。在路反。遇屯。張倫反。之比。毗志反。注及下同。蕃昌。音煩。 經二年。吉禘。大計反。大廟。音泰。見惡。烏路反。師潰。戶内反。 傳。舟之僑。音喬。武闈。音韋。一音暉。費縣。音祕。又扶味反。乃縊。一賜反。亳社。步各反。余焉。於虔反。決斷。丁亂反。禦難。乃旦反。無復。扶又反。下復遂同。爲之。于僞反。下爲衛同。大史。音泰。故恐。丘勇反。也少。詩照反。烝於。之承反。强之。其丈反。以廬。力居反。歸唁。音彥。無虧。去危反。三百乘。繩證反。下及注同。別見。賢遍反。雞狗。音苟。歸遺。于季反。單複。音丹。下方服反。人惡。烏路反。注同。好利。呼報反。能遠。于萬反。爲之。于僞反。皐落。古刀反。別種。章勇反。粢盛。音咨。下音成。朝夕。如字。又張遙反。君膳。市戰反。嗣適。丁歷反。本又作嫡。下配適同。將焉。於虔反。謂將。子匠反。下將上軍竝同。不共。音恭。本又作供。於難。乃旦反。下同。無慝。他得反。旗也。音其。閟其。音祕。尨服。莫江反。盛以。音成。阻之。莊呂反。而屬。章欲反。衛文公大布之衣。本或作衣大布之衣誤。厚繒。疾陵反。
春秋左氏傳校本第五 僖公 起元年盡十五年 晉 杜氏 集解 唐 陸氏 音義 尾張 秦 鼎 校本 僖公 名申。莊公之子。閔公之兄。母成風。謚法、小心畏忌曰僖。 【読み】 僖公 名は申。莊公の子。閔公の兄。母は成風。謚法に、小心畏忌するを僖と曰う、と。 〔經〕元年、春、王正月、齊師・宋師・曹師次于聶北、救邢。齊帥諸侯之師、救邢、次于聶北者、案兵觀釁、以待事也。次例在莊三年。聶北、邢地。○聶、女輒反。 【読み】 〔經〕元年、春、王の正月、齊の師・宋の師・曹の師聶北[しょうほく]に次[やど]りて、邢を救う。齊諸侯の師を帥いて、邢を救い、聶北に次るは、兵を案じて釁[きん]を觀て、以て事を待つなり。次の例は莊三年に在り。聶北は、邢の地。○聶は、女輒反。 *曹師について、頭注に「曹師作伯、誤。此三國皆師多、而大夫將。故名氏不見、竝称師。」とある。 夏、六月、邢遷于夷儀。邢遷如歸。故以自遷爲辭。夷儀、邢地。 【読み】 夏、六月、邢夷儀に遷る。邢の遷ること歸るが如し。故に自ら遷るを以て辭と爲す。夷儀は、邢の地。 齊師・宋師・曹師城邢。傳例曰、救患分災、禮也。一事而再列三國、於文不可言諸侯師故。 【読み】 齊の師・宋の師・曹の師邢に城く。傳例に曰く、患えを救い災いに分かつは、禮なり、と。一事にして再び三國を列ぬるは、文に於て諸侯の師と言う可からざる故なり。 秋、七月、戊辰、夫人姜氏薨于夷。齊人以歸。傳在閔二年。不言齊人殺、諱之。書地者、明在外薨。 【読み】 秋、七月、戊辰[つちのえ・たつ]、夫人姜氏夷に薨ず。齊人以[い]て歸る。傳は閔二年に在り。齊人殺すと言わざるは、之を諱みてなり。地を書すは、外に在りて薨ずることを明かすなり。 楚人伐鄭。荆始改號曰楚。 【読み】 楚人鄭を伐つ。荆始めて號を改めて楚と曰う。 八月、公會齊侯・宋公・鄭伯・曹伯・邾人于檉。檉、宋地。陳國陳縣西北有檉城。公及其會。而不書盟、還不以盟告。○檉、勅呈反。 【読み】 八月、公齊侯・宋公・鄭伯・曹伯・邾人[ちゅひと]に檉[てい]に會す。檉は、宋の地。陳國陳縣の西北に檉城有り。公其の會に及びぬ。而るに盟を書さざるは、還りて盟を以て告げざればなり。○檉は、勅呈反。 九月、公敗邾師于偃。偃、邾地。 【読み】 九月、公邾の師を偃[えん]に敗る。偃は、邾の地。 冬、十月、壬午、公子友帥師敗莒師于酈、獲莒挐。酈、魯地。挐、莒子之弟。不書弟者、非卿。非卿則不應書、嘉季友之功。故特書其所獲。大夫、生死皆曰獲。獲例在昭二十三年。○酈、力知反。挐、女居反。又女加反。 【読み】 冬、十月、壬午[みずのえ・うま]、公子友師を帥いて莒の師を酈に敗り、莒の挐[じょ]を獲。酈は、魯の地。挐は、莒子の弟なり。弟と書さざるは、卿に非ざればなり。卿に非ざれば則ち書す應からざるも、季友の功を嘉す。故に特に其の獲る所を書す。大夫は、生死皆獲と曰う。獲の例は昭二十三年に在り。○酈は、力知反。挐は、女居反。又女加反。 十有二月、丁巳、夫人氏之喪至自齊。僖公請而葬之。故告於廟、而書喪至也。齊侯旣殺哀姜、以其尸歸、絕之於魯、僖公請其喪而還、不稱姜、闕文。 【読み】 十有二月、丁巳[ひのと・み]、夫人氏の喪齊より至る。僖公請いて之を葬る。故に廟に告げて、喪の至るを書すなり。齊侯旣に哀姜を殺して、其の尸を以て歸り、之を魯に絕てども、僖公其の喪を請いて還せるに、姜を稱せざるは、闕文なり。 〔傳〕元年、春、不稱卽位、公出故也。國亂、身出、復入。故卽位之禮有闕。 【読み】 〔傳〕元年、春、卽位を稱せざるは、公出づる故なり。國亂れ、身出でて、復入る。故に卽位の禮闕くること有り。 公出復入。不書、諱之也。諱國惡、禮也。掩惡揚善、義存君親。故通有諱例。皆當時臣子率意而隱。故無深淺常準。聖賢從之、以通人理。有時而聽之可也。 【読み】 公出でて復入る。書さざるは、之を諱みてなり。國惡を諱むは、禮なり。惡を掩い善を揚ぐるは、義君親を存するなり。故に通じて諱の例有り。皆當時の臣子意に率いて隱す。故に深淺の常準無し。聖賢之に從いて、以て人理を通ず。時有りて之を聽[ゆる]して可なり。 諸侯救邢。實大夫。而曰諸侯、總衆國之辭。 【読み】 諸侯邢を救う。實は大夫なり。而るに諸侯と曰うは、衆國を總ぶるの辭なり。 邢人潰、出奔師。奔聶北之師也。邢潰不書、不告也。 【読み】 邢人潰[つい]え、出でて師に奔る。聶北の師に奔るなり。邢潰えること書さざるは、告げざればなり。 師遂逐狄人、具邢器用而遷之、師無私焉。皆撰具還之、無所私取。○撰、仕眷反。 【読み】 師遂に狄人を逐い、邢の器用を具えて之を遷して、師私すること無し。皆撰具して之を還して、私に取る所無し。○撰は、仕眷反。 夏、邢遷于夷儀。諸侯城之、救患也。 【読み】 夏、邢夷儀に遷る。諸侯之に城くは、患えを救うなり。 凡侯伯、救患、分災、討罪、禮也。侯伯、州長也。分穀帛。○分、甫問反。又如字。 【読み】 凡そ侯伯、患えを救い、災いに分かち、罪を討つは、禮なり。侯伯は、州長なり。穀帛を分かつなり。○分は、甫問反。又字の如し。 秋、楚人伐鄭、鄭卽齊故也。 【読み】 秋、楚人鄭を伐つは、鄭齊に卽く故なり。 盟于犖、謀救鄭也。犖、卽檉也。地有二名。○犖、音洛。 【読み】 犖[らく]に盟うは、鄭を救わんことを謀るなり。犖は、卽ち檉なり。地に二名有り。○犖は、音洛。 九月、公敗邾師于偃、虛丘之戍將歸者也。虛丘、邾地。邾人旣送哀姜還、齊人殺之。因戍虛丘、欲以侵魯、公以義求齊、齊送姜氏之喪、邾人懼乃歸。故公要而敗之。○虛、起居反。要、於遙反。 【読み】 九月、公邾の師を偃に敗るは、虛丘の戍の將に歸らんとする者なり。虛丘は、邾の地。邾人旣に哀姜を送りて還して、齊人之を殺す。因りて虛丘を戍り、以て魯を侵さんと欲するに、公義を以て齊に求め、齊姜氏の喪を送れば、邾人懼れて乃ち歸る。故に公要して之を敗る。○虛は、起居反。要は、於遙反。 冬、莒人來求賂。求還慶父之賂。 【読み】 冬、莒人來りて賂を求む。慶父を還すの賂を求む。 公子友敗諸酈、獲莒子之弟挐。非卿也。嘉獲之也。莒旣不能爲魯討慶父、受魯之賂、而又重來、其求無厭。故嘉季友之獲而書之。○重、直用反。 【読み】 公子友諸を酈に敗り、莒子の弟挐を獲。卿に非ず。之を獲るを嘉するなり。莒旣に魯の爲に慶父を討ずること能わずして、魯の賂を受けて、又重ねて來り、其の求め厭くこと無し。故に季友の獲たるを嘉して之を書す。○重は、直用反。 公賜季友汶陽之田及費。汶陽田、汶水北地。汶水、出泰山萊蕪縣、西入濟。○費、音祕。 【読み】 公季友に汶陽[ぶんよう]の田と費とを賜う。汶陽の田は、汶水の北の地。汶水は、泰山萊蕪縣に出でて、西して濟に入る。○費は、音祕。 夫人氏之喪至自齊。 【読み】 夫人氏の喪齊より至る。 君子以齊人之殺哀姜也、爲已甚矣。女子從人者也。言女子有三從之義。在夫家有罪、非父母家所宜討也。 【読み】 君子齊人の哀姜を殺すを以て、已甚[はなは]だしとす。女子は人に從う者なり。言うこころは、女子に三從の義有り。夫の家に在りて罪有るは、父母の家の宜しく討ずべき所に非ざるなり。 〔經〕二年、春、王正月、城楚丘。楚丘、衛邑。不言城衛、衛未遷。 【読み】 〔經〕二年、春、王の正月、楚丘に城く。楚丘は、衛の邑。衛に城くと言わざるは、衛未だ遷らざればなり。 夏、五月、辛巳、葬我小君哀姜。無傳。反哭成喪。故稱小君。例在定十五年。 【読み】 夏、五月、辛巳[かのと・み]、我が小君哀姜を葬る。傳無し。反哭して喪を成す。故に小君と稱す。例は定十五年に在り。 虞師・晉師滅下陽。下陽、虢邑。在河東大陽縣。晉於此始赴見經。滅例在襄十三年。○大、音泰。一如字。 【読み】 虞の師・晉の師下陽を滅ぼす。下陽は、虢の邑。河東大陽縣に在り。晉此に於て始めて赴[つ]げて經に見ゆ。滅の例は襄十三年に在り。○大は、音泰。一に字の如し。 秋、九月、齊侯・宋公・江人・黃人盟于貫。貫、宋地。梁國蒙縣西北有貰城。貰與貫字相似。江國、在汝南安陽縣。○貰、市夜反。又音世。 【読み】 秋、九月、齊侯・宋公・江人・黃人貫に盟う。貫は、宋の地。梁國蒙縣の西北に貰城有り。貰と貫と字相似たり。江國は、汝南安陽縣に在り。○貰は、市夜反。又音世。 冬、十月、不雨。傳在三年。 【読み】 冬、十月、雨ふらず。傳三年に在り。 楚人侵鄭。 【読み】 楚人鄭を侵す。 〔傳〕二年、春、諸侯城楚丘而封衛焉。君死國滅。故傳言封。 【読み】 〔傳〕二年、春、諸侯楚丘に城きて衛を封ず。君死し國滅ぶ。故に傳封ずと言う。 不書所會、後也。諸侯旣罷、而魯後至。諱不及期。故以獨城爲文。 【読み】 會する所を書さざるは、後れたればなり。諸侯旣に罷[かえ]りて、魯後れて至る。期に及ばざるを諱む。故に獨城くを以て文を爲す。 晉荀息請以屈產之乘、與垂棘之璧、假道於虞以伐虢。荀息、荀叔也。屈地生良馬、垂棘出美玉。故以爲名。四馬曰乘。自晉適虢、途出於虞。故借道。○屈、求勿反。又居勿反。乘、繩證反。 【読み】 晉の荀息屈產の乘と、垂棘の璧とを以て、道を虞に假りて以て虢を伐たんことを請う。荀息は、荀叔なり。屈の地良馬を生じ、垂棘美玉を出だす。故に以て名とす。四馬を乘と曰う。晉より虢に適くは、途虞より出づ。故に道を借るなり。○屈は、求勿反。又居勿反。乘は、繩證反。 公曰、是吾寶也。對曰、若得道於虞、猶外府也。公曰、宮之奇存焉。宮之奇、虞忠臣。 【読み】 公曰く、是れ吾が寶なり、と。對えて曰く、若し道を虞に得ば、猶外府のごとけん、と。公曰く、宮之奇存す、と。宮之奇は、虞の忠臣。 對曰、宮之奇之爲人也、懦而不能强諫。懦、弱也。○懦、乃亂反。又乃貨反。强、其良反。又其丈反。 【読み】 對えて曰く、宮之奇の人と爲りや、懦にして强諫すること能わず。懦は、弱きなり。○懦は、乃亂反。又乃貨反。强は、其良反。又其丈反。 且少長於君、君暱之。雖諫、將不聽。親而狎之。必輕其言。○少、詩照反。長、丁丈反。暱、女乙反。 【読み】 且つ少[わか]きより君に長じて、君之を暱[なじ]む。諫むと雖も、將に聽かざらんとす、と。親しんで之に狎る。必ず其の言を輕んぜん。○少は、詩照反。長は、丁丈反。暱は、女乙反。 乃使荀息假道於虞、曰、冀爲不道、入自顚軨、伐鄍三門、前是、冀伐虞至鄍。鄍、虞邑。河東大陽縣東北有顚軨坂。○軨、音零。坂、音反。 【読み】 乃ち荀息をして道を虞に假らしめて、曰く、冀不道を爲して、顚軨[てんれい]より入り、鄍[めい]の三門を伐ち、是より前、冀虞を伐ちて鄍に至れり。鄍は、虞の邑。河東大陽縣の東北に顚軨坂有り。○軨は、音零。坂は、音反。 冀之旣病、則亦唯君故。言虞報伐冀使病。將欲假道。故稱虞彊、以說其心。冀、國名。平陽皮氏縣東北有冀亭。 【読み】 冀の旣に病めるは、則ち亦唯君の故なり。言うこころは、虞冀を報伐して病ましめり。將に道を假らんと欲す。故に虞の彊きを稱して、以て其の心を說ばす。冀は、國の名。平陽皮氏縣の東北に冀亭有り。 今虢爲不道、保於逆旅、逆旅、客舍也。虢稍遣人分依客舍以聚衆、抄晉邊邑。○抄、初敎反。又楚稍反。强取物。 【読み】 今虢不道を爲し、逆旅を保ちて、逆旅は、客舍なり。虢稍[ようや]く人をして客舍に分依して以て衆を聚め、晉の邊邑を抄しめしむ。○抄は、初敎反。又楚稍反。强いて物を取るなり。 以侵敝邑之南鄙。敢請假道以請罪于虢。問虢伐己以何罪。 【読み】 以て敝邑の南鄙を侵せり。敢えて請う、道を假りて以て罪を虢に請わん、と。虢の己を伐つは何の罪を以てなるかを問う。 虞公許之、且請先伐虢。喜於厚賂、而欲求媚。 【読み】 虞公之を許し、且先ず虢を伐たんと請う。厚賂を喜びて、媚を求めんと欲す。 宮之奇諫。不聽。遂起師。 【読み】 宮之奇諫む。聽かず。遂に師を起こす。 夏、晉里克・荀息帥師、會虞師伐虢、滅下陽。晉猶主兵、不信虞。 【読み】 夏、晉の里克・荀息師を帥いて、虞の師に會して虢を伐ち、下陽を滅ぼす。晉猶兵を主るは、虞を信ぜざればなり。 先書虞、賄故也。虞非倡兵之首、而先書之、惡貪賄也。 【読み】 先ず虞を書すは、賄の故なり。虞倡兵の首に非ずして、先ず之を書すは、賄を貪るを惡んでなり。 秋、盟于貫、服江・黃也。江・黃、楚與國也。始來服齊。故爲合諸侯。 【読み】 秋、貫に盟うは、江・黃を服するなり。江・黃は、楚の與國なり。始めて來りて齊に服す。故に爲に諸侯を合わす。 齊寺人貂始漏師于多魚。寺人、内奄官、豎貂也。多魚、地名。闕。齊桓多嬖寵。内則如夫人者六人、外則幸豎貂・易牙之等、終以此亂國。傳言於此始貂擅貴寵、漏洩桓公軍事。爲齊亂張本。○寺、如字。又音侍。 【読み】 齊の寺人貂[ちょう]始めて師を多魚に漏らす。寺人は、内奄官、豎貂なり。多魚は、地の名。闕く。齊桓嬖寵多し。内は則ち夫人の如者六人、外は則ち豎貂・易牙の等を幸して、終に此を以て國を亂れり。傳此に於て始めて貂貴寵を擅[ほしいまま]にし、桓公の軍事を漏洩するを言う。齊亂る爲の張本なり。○寺は、字の如し。又音侍。 虢公敗戎于桑田。桑田、虢地。在弘農陝縣東北。 【読み】 虢公戎を桑田に敗る。桑田は、虢の地。弘農陝縣の東北に在り。 晉卜偃曰、虢必亡矣。亡下陽不懼、而又有功。是天奪之鑒、鑒、所以自照。 【読み】 晉の卜偃曰く、虢は必ず亡びん。下陽を亡いて懼れずして、又功有り。是れ天之が鑒を奪いて、鑒は、自ら照らす所以なり。 而益其疾也。驕則生疾。 【読み】 其の疾を益すなり。驕れば則ち疾を生ず。 必易晉而不撫其民矣。不可以五稔。稔、熟也。爲下五年、晉滅虢張本。○易、以豉反。 【読み】 必ず晉を易[あなど]りて其の民を撫でじ。以て五稔なる可からざらん。稔は、熟すなり。下五年、晉虢を滅ぼす爲の張本なり。○易は、以豉反。 冬、楚人伐鄭。鬭章囚鄭耼伯。經書侵、傳言伐、本以伐興、權行侵掠。爲後年楚伐鄭、鄭伯欲成張本。○耼、乃甘反。掠、音亮。 【読み】 冬、楚人鄭を伐つ。鬭章鄭の耼伯[たんはく]を囚う。經は侵と書し、傳は伐と言うは、本伐を以て興し、權[かり]に侵掠を行うなり。後年楚鄭を伐ち、鄭伯成[たい]らがんと欲する爲の張本なり。○耼は、乃甘反。掠は、音亮。 〔經〕三年、春、王正月、不雨。夏、四月、不雨。一時不雨、則書首月。傳例曰、不曰旱、不爲災。 【読み】 〔經〕三年、春、王の正月、雨ふらず。夏、四月、雨ふらず。一時雨ふらざれば、則ち首月を書す。傳例に曰く、旱すと曰わざるは、災いを爲さざればなり、と。 徐人取舒。無傳。徐國、在下邳僮縣東南。舒國、今廬江舒縣。勝國而不用大師、亦言取。例在襄十三年。 【読み】 徐人舒を取る。傳無し。徐國は、下邳僮縣の東南に在り。舒國は、今の廬江の舒縣。國に勝ちて大師を用いざるも、亦取ると言う。例は襄十三年に在り。 六月、雨。示旱不竟夏。 【読み】 六月、雨ふる。旱の夏を竟[お]えざるを示す。 秋、齊侯・宋公・江人・黃人會于陽穀。陽穀、齊地。在東平須昌縣北。 【読み】 秋、齊侯・宋公・江人・黃人陽穀に會す。陽穀は、齊の地。東平須昌縣の北に在り。 冬、公子友如齊涖盟。涖、臨也。○涖、音利。又音類。 【読み】 冬、公子友齊に如きて涖[のぞ]みて盟う。涖は、臨むなり。○涖は、音利。又音類。 楚人伐鄭。 【読み】 楚人鄭を伐つ。 〔傳〕三年、春、不雨。夏、六月、雨。自十月不雨、至于五月。不曰旱、不爲災也。周六月、夏四月。於播種五稼無損。 【読み】 〔傳〕三年、春、雨ふらず。夏、六月、雨ふる。十月より雨ふらずして、五月に至れり。旱すと曰わざるは、災いを爲さざればなり。周の六月は、夏の四月なり。五稼を播種するに於て損無し。 秋、會于陽穀、謀伐楚也。二年、楚侵鄭故。 【読み】 秋、陽穀に會するは、楚を伐たんことを謀るなり。二年、楚鄭を侵す故なり。 齊侯爲陽穀之會、來尋盟。冬、公子友如齊涖盟。公時不會陽穀。故齊侯自陽穀遣人詣魯求尋盟。魯使上卿詣齊受盟、謙也。 【読み】 齊侯陽穀の會の爲に、來りて盟を尋[かさ]ねんとす。冬、公子友齊に如きて涖みて盟う。公時に陽穀に會せず。故に齊侯陽穀より人をして魯に詣りて尋盟を求めしむ。魯上卿をして齊に詣りて盟を受けしむるは、謙るなり。 楚人伐鄭。鄭伯欲成。孔叔不可、曰、齊方勤我。孔叔、鄭大夫。勤、恤鄭難。 【読み】 楚人鄭を伐つ。鄭伯成[たい]らがんと欲す。孔叔可[き]かず、曰く、齊方に我に勤む。孔叔は、鄭の大夫。勤は、鄭の難を恤うるなり。 弃德不祥。祥、善也。 【読み】 德を弃[す]つるは不祥なり、と。祥は、善なり。 齊侯與蔡姬乘舟于囿。蕩公。蔡姬、齊侯夫人。蕩、搖也。囿、苑也。蓋魚池在苑中。 【読み】 齊侯蔡姬と舟に囿に乘る。公を蕩[うご]かす。蔡姬は、齊侯の夫人。蕩は、搖すなり。囿は、苑なり。蓋し魚池苑中に在るならん。 公懼、變色。禁之。不可。公怒。歸之。未絕之也。蔡人嫁之。爲明年齊侵蔡傳。 【読み】 公懼れ、色を變ず。之を禁ず。可かず。公怒る。之を歸す。未だ之を絕たざるなり。蔡人之を嫁す。明年齊蔡を侵す爲の傳なり。 〔經〕四年、春、王正月、公會齊侯・宋公・陳侯・衛侯・鄭伯・許男・曹伯侵蔡。蔡潰。民逃其上曰潰。例在文三年。 【読み】 〔經〕四年、春、王の正月、公齊侯・宋公・陳侯・衛侯・鄭伯・許男・曹伯に會して蔡を侵す。蔡潰[つい]ゆ。民其の上を逃るるを潰と曰う。例は文三年に在り。 遂伐楚、次于陘。遂、兩事之辭。楚强。齊欲綏之以德。故不速進而次陘。陘、楚地。潁川召陵縣南有陘亭。○陘、音刑。 【読み】 遂に楚を伐ち、陘に次[やど]る。遂は、兩事の辭。楚强し。齊之を綏んずるに德を以てせんと欲す。故に速やかに進まずして陘に次る。陘は、楚の地。潁川召陵縣の南に陘亭有り。○陘は、音刑。 夏、許男新臣卒。未同盟、而赴以名。 【読み】 夏、許男新臣卒す。未だ同盟せずして、赴[つ]ぐるに名を以てす。 楚屈完來盟于師。盟于召陵。屈完、楚大夫也。楚子遣完如師以觀齊。屈完覩齊之盛、因而求盟。故不稱使、以完來盟爲文。齊桓退舍以禮楚。故盟召陵。召陵、潁川縣也。 【読み】 楚の屈完來りて師に盟わんとす。召陵に盟う。屈完は、楚の大夫なり。楚子完をして師に如きて以て齊を觀せしむ。屈完齊の盛んなるを覩て、因りて盟を求む。故に使と稱せずして、完の來盟を以て文を爲す。齊桓退舍して以て楚を禮す。故に召陵に盟う。召陵は、潁川縣なり。 齊人執陳轅濤塗。轅濤塗、陳大夫。 【読み】 齊人陳の轅濤塗[えんとうと]を執う。轅濤塗は、陳の大夫。 秋、及江人・黃人伐陳。受齊命討陳之罪。而以與謀爲文者、時齊不行、使魯爲主。與謀例、在宣七年。 【読み】 秋、江人・黃人と陳を伐つ。齊の命を受けて陳の罪を討つ。而るに與謀を以て文を爲すは、時に齊行かず、魯をして主爲らしむればなり。與謀の例は、宣七年に在り。 八月、公至自伐楚。無傳。告于廟。 【読み】 八月、公楚を伐ちてより至る。傳無し。廟に告ぐるなり。 葬許穆公。冬、十有二月、公孫茲帥師、會齊人・宋人・衛人・鄭人・許人・曹人侵陳。公孫茲、叔牙子、叔孫戴伯。 【読み】 許の穆公を葬る。冬、十有二月、公孫茲[こうそんじ]師を帥いて、齊人・宋人・衛人・鄭人・許人・曹人に會して陳を侵す。公孫茲は、叔牙の子、叔孫戴伯。 〔傳〕四年、春、齊侯以諸侯之師侵蔡。蔡潰。遂伐楚。 【読み】 〔傳〕四年、春、齊侯諸侯の師を以[い]て蔡を侵す。蔡潰ゆ。遂に楚を伐つ。 楚子使與師言曰、君處北海、寡人處南海、唯是風馬牛不相及也。楚界猶未至南海。因齊處北海、遂稱所近。牛馬風逸、蓋末界之微事。故以取喩。 【読み】 楚子師と言わしめて曰く、君は北海に處り、寡人は南海に處りて、唯是れ風する馬牛も相及ばず。楚の界猶南海に至らず。齊の北海に處るに因りて、遂に近き所を稱す。牛馬の風逸するは、蓋し末界の微事ならん。故に以て取り喩う。 不虞君之涉吾地也、何故。管仲對曰、昔召康公命我先君大公、召康公、周大保召公奭也。 【読み】 虞[はか]らざりき、君の吾が地に涉[わた]らんとは、何の故ぞ、と。管仲對えて曰く、昔召康公我が先君大公に命じて、召康公は、周の大保召公奭なり。 曰、五侯九伯、女實征之、以夾輔周室。五等諸侯、九州之伯、皆得征討其罪。齊桓因此命以夸楚。○女、音汝。 【読み】 曰く、五侯九伯、女實に之を征して、以て周室を夾輔せよ、と。五等の諸侯、九州の伯、皆其の罪を征討することを得。齊桓此の命に因りて以て楚に夸[ほこ]る。○女は、音汝。 賜我先君履、東至于海、西至于河、南至于穆陵、北至于無棣。穆陵・無棣、皆齊竟也。履、所踐履之界。齊桓又因以自言其盛。○棣、大計反。 【読み】 我が先君に履むことを賜いて、東は海に至り、西は河に至り、南は穆陵に至り、北は無棣[むたい]に至るまでをせり。穆陵・無棣は、皆齊の竟なり。履は、踐履する所の界なり。齊桓又因りて以て自ら其の盛んなるを言う。○棣は、大計反。 爾貢包茅不入、王祭不共、無以縮酒。寡人是徵。包、裹束也。茅、菁茅也。束茅而灌之以酒爲縮酒。尙書、包軌菁茅。茅之爲異、未審。○共、音恭。 【読み】 爾の貢する包茅入れざれば、王の祭共[そな]わらずして、以て酒を縮[したた]らすこと無し。寡人是れ徵す。包は、裹束なり。茅は、菁茅なり。茅を束ねて之に灌ぐに酒を以てするを縮酒と爲す。尙書に、包軌菁茅、と。茅の異爲る、未だ審らかならず。○共は、音恭。 昭王南征而不復。寡人是問。昭王、成王之孫。南巡守涉漢、船壞而溺。周人諱而不赴。諸侯不知其故。故問之。 【読み】 昭王南征して復らず。寡人是れ問う、と。昭王は、成王の孫。南に巡守して漢を涉り、船壞れて溺る。周人諱みて赴げず。諸侯其の故を知らず。故に之を問う。 對曰、貢之不入、寡君之罪也。敢不共給。昭王之不復、君其問諸水濱。昭王時、漢非楚竟。故不受罪。 【読み】 對えて曰く、貢の入れざるは、寡君の罪なり。敢えて共給せざらんや。昭王の復らざるは、君其れ諸を水濱に問え、と。昭王の時、漢は楚の竟に非ず。故に罪を受けず。 師進、次于陘。楚不服罪。故復進師。 【読み】 師進み、陘に次る。楚罪に服せず。故に復師を進む。 夏、楚子使屈完如師。如陘之師、觀强弱。 【読み】 夏、楚子屈完をして師に如かしむ。陘の師に如きて、强弱を觀る。 師退、次于召陵。完請盟故。 【読み】 師退き、召陵に次る。完盟を請う故なり。 齊侯陳諸侯之師、與屈完乘而觀之。乘、共載。○乘、繩證反。 【読み】 齊侯諸侯の師を陳ねて、屈完と乘して之を觀る。乘は、共に載るなり。○乘は、繩證反。 齊侯曰、豈不穀是爲。先君之好是繼。與不穀同好如何。言諸侯之附從、非爲己。乃尋先君之好。謙而自廣、因求與楚同好。孤・寡・不穀、諸侯謙稱。○爲、于僞反。稱、尺證反。 【読み】 齊侯曰く、豈不穀が是れ爲ならんや。先君の好を是れ繼がん。不穀と好を同じくせば如何、と。言うこころは、諸侯の附從するは、己の爲には非ず。乃ち先君の好を尋[かさ]ねんとなり。謙りて自ら廣め、因りて楚と好を同じくせんことを求む。孤・寡・不穀は、諸侯の謙稱。○爲は、于僞反。稱は、尺證反。 對曰、君惠徼福於敝邑之社稷、辱收寡君、寡君之願也。齊侯曰、以此衆戰、誰能禦之。以此攻城、何城不克。對曰、君若以德綏諸侯、誰敢不服。君若以力、楚國、方城以爲城、漢水以爲池、方城山、在南陽葉縣南。以言竟土之遠。漢水、出武都至江夏、南入江。言其險固以當城池。○徼、古堯反。要也。葉、始涉反。當、丁浪反。 【読み】 對えて曰く、君惠みて福を敝邑の社稷に徼[もと]めんとして、辱く寡君を收めば、寡君の願いなり、と。齊侯曰く、此の衆を以て戰わば、誰か能く之を禦がん。此を以て城を攻めば、何れの城か克たざらん、と。對えて曰く、君若し德を以て諸侯を綏んぜば、誰か敢えて服せざらん。君若し力を以てせば、楚國、方城以て城と爲し、漢水以て池と爲せば、方城山は、南陽葉縣の南に在り。以て竟土の遠きを言う。漢水は、武都に出でて江夏に至り、南して江に入る。其の險固以て城池に當たるを言う。○徼は、古堯反。要むるなり。葉は、始涉反。當は、丁浪反。 雖衆、無所用之。 【読み】 衆[おお]しと雖も、之を用ゆる所無からん、と。 屈完及諸侯盟。 【読み】 屈完諸侯と盟う。 陳轅濤塗謂鄭申侯曰、師出於陳・鄭之閒、國必甚病。申侯、鄭大夫。當有共給之費故。 【読み】 陳の轅濤塗鄭の申侯に謂いて曰く、師陳・鄭の閒より出でば、國必ず甚だ病まん。申侯は、鄭の大夫。當に共給の費え有るべき故なり。 若出於東方、觀兵於東夷、循海而歸、其可也。東夷、郯・莒・徐夷也。觀兵、示威。 【読み】 若し東方より出でて、兵を東夷に觀[しめ]し、海に循いて歸らば、其れ可ならん、と。東夷は、郯[たん]・莒・徐夷なり。兵を觀すは、威を示すなり。 申侯曰、善。濤塗以告。齊侯許之。許出東方。 【読み】 申侯曰く、善し、と。濤塗以て告ぐ。齊侯之を許す。東方より出づることを許す。 申侯見曰、師老矣。若出於東方而遇敵、懼不可用也。若出於陳・鄭之閒、共其資糧屝屨、其可也。屝、草屨。○見、賢遍反。屝、符費反。 【読み】 申侯見えて曰く、師老[つか]れたり。若し東方より出でて敵に遇わば、懼れらくは用ゆ可からざらん。若し陳・鄭の閒より出でて、其の資糧屝屨[ひく]を共せば、其れ可ならん、と。屝は、草屨。○見は、賢遍反。屝は、符費反。 齊侯說、與之虎牢、還以鄭邑賜之。 【読み】 齊侯說び、之に虎牢を與え、還りて鄭の邑を以て之を賜う。 執轅濤塗。 【読み】 轅濤塗を執[とら]う。 秋、伐陳、討不忠也。以濤塗爲誤軍道。 【読み】 秋、陳を伐つは、不忠を討ずるなり。濤塗を以て軍道を誤らすとす。 許穆公卒于師。葬之以侯。禮也。男而以侯禮、加一等。 【読み】 許の穆公師に卒す。之を葬るに侯を以てす。禮なり。男にして侯の禮を以てするは、一等を加うるなり。 凡諸侯薨于朝會、加一等、諸侯命有三等。公爲上等、侯伯中等、子男爲下等。 【読み】 凡そ諸侯朝會に薨ずれば、一等を加え、諸侯の命に三等有り。公を上等とし、侯伯は中等、子男を下等とす。 死王事、加二等。謂以死勤事。 【読み】 王事に死すれば、二等を加う。死を以て事を勤むるを謂う。 於是有以袞斂。袞衣、公服也。謂加二等。○斂、力驗反。 【読み】 是に於て袞を以て斂すること有り。袞衣は、公服なり。二等を加うるを謂う。○斂は、力驗反。 冬、叔孫戴伯帥師、會諸侯之師侵陳。陳成。歸轅濤塗。陳服罪。故歸其大夫。戴、謚也。 【読み】 冬、叔孫戴伯師を帥いて、諸侯の師に會して陳を侵す。陳成[たい]らぐ。轅濤塗を歸す。陳罪に服す。故に其の大夫を歸す。戴は、謚なり。 初、晉獻公欲以驪姬爲夫人。卜之。不吉。筮之。吉。公曰、從筮。卜人曰、筮短龜長。不如從長。物生而後有象。象而後有滋。滋而後有數。龜象、筮數。故象長數短。 【読み】 初め、晉の獻公驪姬を以て夫人と爲さんと欲す。之を卜す。不吉なり。之を筮す。吉なり。公曰く、筮に從わん、と。卜人曰く、筮は短く龜は長し。長きに從うに如かず。物生じて而して後に象有り。象ありて而して後に滋ること有り。滋りて而して後に數有り。龜は象、筮は數。故に象は長く數は短し。 且其繇曰、專之渝、攘公之羭。繇、卜兆辭。渝、變也。攘、除也。羭、美也。言變乃除公之美。○繇、直救反。渝、羊朱反。下渝同音。 【読み】 且つ其の繇[ちゅう]に曰く、之を專らにせば渝[か]わり、公の羭[よき]を攘[はら]わん。繇は、卜兆の辭。渝は、變わるなり。攘は、除うなり。羭は、美なり。言うこころは、變ぜば乃ち公の美を除わん。○繇は、直救反。渝は、羊朱反。下の渝も同じ音。 一薰一蕕、十年尙猶有臭。薰、香草。蕕、臭草。十年有臭、言善易消、惡難除。 【読み】 一薰一蕕[ゆう]、十年なれども尙猶臭有り、と。薰は、香草。蕕は、臭草。十年にして臭有りとは、善消え易く、惡除き難きを言う。 必不可。弗聽。立之。生奚齊。其娣生卓子。 【読み】 必ず不可なり、と。聽かず。之を立つ。奚齊を生む。其の娣卓子を生む。 及將立奚齊、旣與中大夫成謀。姬謂大子曰、君夢齊姜。必速祭之。齊姜、大子母。言求食。○卓、吐濁反。 【読み】 將に奚齊を立てんとするに及びて、旣に中大夫と謀を成す。姬大子に謂いて曰く、君齊姜を夢みたり。必ず速やかに之を祭れ、と。齊姜は、大子の母。食を求むるを言う。○卓は、吐濁反。 大子祭于曲沃、歸胙于公。胙、祭之酒肉。 【読み】 大子曲沃に祭り、胙を公に歸[おく]る。胙は、祭の酒肉。 公田。姬寘諸宮。六日、公至。毒而獻之。毒酒經宿輒敗。而經六日、明公之惑。 【読み】 公田[かり]す。姬諸を宮に寘[お]く。六日にして、公至る。毒して之を獻ず。毒酒宿を經れば輒ち敗る。而るに六日を經るは、公の惑えるを明かすなり。 公祭之地。地墳。與犬。犬斃。與小臣。小臣亦斃。姬泣曰、賊由大子。大子奔新城。新城、曲沃。○墳、扶粉反。 【読み】 公之を地に祭る。地墳[うごも]つ。犬に與う。犬斃る。小臣に與う。小臣も亦斃る。姬泣きて曰く、賊大子に由れり、と。大子新城に奔る。新城は、曲沃。○墳は、扶粉反。 公殺其傅杜原款。 【読み】 公其の傅杜原款を殺す。 或謂大子、子辭。君必辯焉。以六日之狀自理。○款、苦管反。辯、兵免反。 【読み】 或ひと大子に謂う、子辭せよ。君必ず辯ぜん、と。六日の狀を以て自ら理す。○款は、苦管反。辯は、兵免反。 大子曰、君非姬氏、居不安、食不飽。我辭、姬必有罪。君老矣。吾又不樂。吾自理則姬死。姬死則君必不樂。不樂爲由吾也。○樂、音洛。 【読み】 大子曰く、君姬氏に非ざれば、居安んぜず、食飽かず。我れ辭せば、姬必ず罪有らん。君老いたり。吾れ又樂しめざるなり、と。吾れ自ら理せば則ち姬死せん。姬死せば則ち君必ず樂まざらん。樂まざるは吾に由るとす。○樂は、音洛。 曰、子其行乎。大子曰、君實不察其罪。被此名也以出、人誰納我。十二月、戊申、縊于新城。姬遂譖二公子曰、皆知之。重耳奔蒲、夷吾奔屈。二子時在朝。爲明年晉殺申生傳。○被、皮寄反。又皮綺反。縊、一賜反。譖、側鴆反。 【読み】 曰く、子其れ行[さ]らんか、と。大子曰く、君實に其の罪を察せず。此の名を被りて以て出でては、人誰か我を納れん、と。十二月、戊申[つちのえ・さる]、新城に縊る。姬遂に二公子を譖して曰く、皆之を知れり、と。重耳蒲に奔り、夷吾屈に奔る。二子時に朝に在り。明年晉申生を殺す爲の傳なり。○被は、皮寄反。又皮綺反。縊は、一賜反。譖は、側鴆反。 〔經〕五年、春、晉侯殺其世子申生。稱晉侯、惡用讒。書春、從告。 【読み】 〔經〕五年、春、晉侯其の世子申生を殺す。晉侯と稱するは、讒を用ゆるを惡んでなり。春を書すは、告ぐるに從うなり。 杞伯姬來。朝其子。無傳。伯姬來寧、寧成風也。朝其子者、時子年在十歲左右、因有諸侯子得行朝義、而卒不成朝禮、故繫於母、而曰朝其子。○杞伯姬來、絕句。來、歸寧。朝其子、猶言其子朝。 【読み】 杞の伯姬來る。其の子を朝せしむ。傳無し。伯姬來寧するは、成風を寧するなり。其の子を朝せしむるとは、時に子の年十歲の左右に在り、諸侯の子朝義を行うことを得ること有るに、而れども卒に朝禮を成さざるに因りて、故に母に繫けて、其の子を朝せしむと曰う。○杞伯姬來は、絕句。來は、歸寧。其の子を朝せしむるとは、猶其の子朝すと言うがごとし。 夏、公孫茲如牟。叔孫戴伯娶於牟。卿非君命不越竟。故奉公命聘於牟、因自爲逆。 【読み】 夏、公孫茲[こうそんじ]牟[ぼう]に如く。叔孫戴伯牟に娶る。卿君命に非ざれば竟を越えず。故に公命を奉じて牟に聘し、因りて自ら爲に逆[むか]うるなり。 公及齊侯・宋公・陳侯・衛侯・鄭伯・許男・曹伯會王世子于首止。惠王大子鄭也。不名而殊會、尊之也。首止、衛地。陳留襄邑縣東南有首郷。 【読み】 公齊侯・宋公・陳侯・衛侯・鄭伯・許男・曹伯と王の世子に首止に會す。惠王の大子鄭なり。名いわずして殊に會するは、之を尊んでなり。首止は、衛の地。陳留襄邑縣の東南に首郷有り。 秋、八月、諸侯盟于首止。閒無異事、復稱諸侯者、王世子不盟故也。王之世子、尊與王同。齊桓行霸、翼戴天子、尊崇王室。故殊貴世子。 【読み】 秋、八月、諸侯首止に盟う。閒異事無きに、復諸侯と稱するは、王の世子盟わざる故なり。王の世子、尊きこと王と同じ。齊桓霸を行いて、天子を翼戴し、王室を尊崇す。故に殊に世子を貴ぶ。 鄭伯逃歸不盟。逃其師而歸也。逃例、在文三年。 【読み】 鄭伯逃げ歸りて盟わず。其の師を逃げて歸るなり。逃の例は、文三年に在り。 楚人滅弦。弦子奔黃。弦國、在弋陽軑縣東南。 【読み】 楚人弦を滅ぼす。弦子黃に奔る。弦國は、弋陽軑[たい]縣の東南に在り。 九月、戊申、朔、日有食之。無傳。 【読み】 九月、戊申[つちのえ・さる]、朔、日之を食する有り。傳無し。 冬、晉人執虞公。虞公貪璧馬之寶、距絕忠諫。稱人以執、同於無道於其民之例。例在成十五年。所以罪虞、且言易也。晉侯脩虞之祀、而歸其職貢於王。故不以滅同姓爲譏。 【読み】 冬、晉人虞公を執[とら]う。虞公璧馬の寶を貪りて、忠諫を距絕す。人と稱して以て執わるるは、其の民に無道なるの例に同じくするなり。例は成十五年に在り。虞を罪する所以、且易きを言うなり。晉侯虞の祀を脩めて、其の職貢を王に歸す。故に同姓を滅ぼすを以て譏りを爲さず。 〔傳〕五年、春、王正月、辛亥、朔、日南至。周正月、今十一月。冬至之日、日南極。 【読み】 〔傳〕五年、春、王の正月、辛亥[かのと・い]、朔、日南至す。周の正月は、今の十一月なり。冬至の日に、日南極す。 公旣視朔、遂登觀臺、以望而書。禮也。視朔、親告朔也。觀臺、臺上構屋、可以遠觀者也。朔旦冬至、歷數之所始。治歷者因此、則可以明其術數、審別陰陽、敍事訓民。魯君不能常脩此禮。故善公之得禮。○觀、古亂反。 【読み】 公旣に朔を視、遂に觀臺に登りて、以て望みて書す。禮なり。朔を視るは、親ら告朔するなり。觀臺は、臺上に屋を構え、以て遠觀す可き者なり。朔旦冬至は、歷數の始まる所。歷を治むる者此に因るときは、則ち以て其の術數を明らかにし、陰陽を審別し、事を敍で民を訓う可し。魯君常に此の禮を脩むること能わず。故に公の禮を得るを善す。○觀は、古亂反。 凡分・至・啓・閉、必書雲物。分、春秋分也。至、冬夏至也。啓、立春・立夏。閉、立秋・立冬。雲物、氣色災變也。傳重申周典。不言公者、日官掌其職。○重、直用反。 【読み】 凡そ分・至・啓・閉には、必ず雲物を書す。分は、春秋分なり。至は、冬夏至なり。啓は、立春・立夏。閉は、立秋・立冬。雲物は、氣色災變なり。傳周典を重ねて申ぶ。公と言わざるは、日官其の職を掌ればなり。○重は、直用反。 爲備故也。素察妖祥、逆爲之備。 【読み】 備えの爲の故なり。素妖祥を察して、逆[あらかじ]め之が備えを爲す。 晉侯使以殺大子申生之故來告。釋經必須告乃書。 【読み】 晉侯大子申生を殺すの故を以て來りて告げしむ。經は必ず告ぐるを須ちて乃ち書すを釋く。 初、晉侯使士蔿爲二公子築蒲與屈。不愼。寘薪焉。不謹愼。○爲、于僞反。 【読み】 初め、晉侯士蔿[しい]をして二公子の爲に蒲と屈とに築かしむ。愼まず。薪を寘[お]けり。謹愼せず。○爲は、于僞反。 夷吾訴之。公使讓之。譴讓之。 【読み】 夷吾之を訴う。公之を讓[せ]めしむ。之を譴讓す。 士蔿稽首而對曰、臣聞之、無喪而慼、憂必讎焉、讎、猶對也。 【読み】 士蔿稽首して對えて曰く、臣之を聞く、喪無くして慼[いた]めば、憂え必ず讎[むか]い、讎は、猶對うのごとし。 無戎而城、讎必保焉。保而守之。 【読み】 戎無くして城けば、讎必ず保つ、と。保ちて之を守る。 寇讎之保、又何愼焉。守官廢命、不敬。固讎之保、不忠。失忠與敬、何以事君。詩云、懷德惟寧、宗子惟城。詩、大雅。懷德以安、則宗子之固若城。 【読み】 寇讎に之れ保たる、又何ぞ愼まん。官を守りて命を廢するは、不敬なり。讎の保を固むるは、不忠なり。忠と敬とを失わば、何を以てか君に事えん。詩に云う、德を懷[やわ]らげて惟れ寧んずれば、宗子惟れ城なり、と。詩は、大雅。德を懷らげて以て安んずれば、則ち宗子の固きこと城の若し。 君其脩德而固宗子、何城如之。言城不如固宗子。 【読み】 君其れ德を脩めて宗子を固くせば、何の城か之に如かん。城は宗子を固くするに如かざるを言う。 三年將尋師焉。焉用愼。尋、用也。 【読み】 三年ありて將に師を尋[もち]いんとす。焉ぞ愼むことを用いん、と。尋は、用ゆるなり。 退而賦曰、狐裘尨茸。一國三公。吾誰適從。士蔿自作詩也。尨茸、亂貌。公與二公子爲三。言城不堅、則爲公子所訴、爲公所讓。堅之、則爲固讎不忠。無以事君。故不知所從。○尨、莫江反。又音蒙。適、丁歷反。 【読み】 退きて賦して曰く、狐裘尨茸[ぼうじょう]たり。一國に三公あり。吾れ誰にか適從せん、と。士蔿自ら詩を作るなり。尨茸は、亂るる貌。公と二公子と三と爲す。言うこころは、城堅からずんば、則ち公子の爲に訴えられ、公の爲に讓めらる。之を堅くすれば、則ち讎を固くして不忠と爲す。以て君に事うること無し。故に從う所を知らず。○尨は、莫江反。又音蒙。適は、丁歷反。 及難、公使寺人披伐蒲。重耳曰、君父之命不校。乃徇曰、校者吾讎也。踰垣而走。披斬其袪。遂出奔翟。袪、袂也。○難、乃旦反。袪、起魚反。翟、音狄。 【読み】 難に及びて、公寺人披をして蒲を伐たしむ。重耳曰く、君父の命は校[むく]いず、と。乃ち徇[とな]えて曰く、校いん者は吾が讎なり、と。垣を踰えて走る。披其の袪[きょ]を斬る。遂に出でて翟に奔る。袪は、袂なり。○難は、乃旦反。袪は、起魚反。翟は、音狄。 夏、公孫茲如牟。娶焉。因聘而娶。故傳實其事。 【読み】 夏、公孫茲牟に如く。娶れり。聘に因りて娶る。故に傳其の事を實にす。 會于首止、會王大子鄭、謀寧周也。惠王以惠后故、將廢大子鄭、而立王子帶。故齊桓帥諸侯、會王大子、以定其位。 【読み】 首止に會するは、王の大子鄭に會して、周を寧んぜんことを謀るなり。惠王惠后の故を以て、將に大子鄭を廢して、王子帶を立てんとす。故に齊桓諸侯を帥いて、王の大子に會して、以て其の位を定む。 陳轅宣仲怨鄭申侯之反己於召陵。宣仲、轅濤塗。 【読み】 陳の轅宣仲鄭の申侯の己に召陵に反きしを怨む。宣仲は、轅濤塗。 故勸之城其賜邑。齊桓所賜虎牢。 【読み】 故に之に勸めて其の賜邑に城かしむ。齊桓賜う所の虎牢。 曰、美城之。大名也。子孫不忘。吾助子請。 【読み】 曰く、美[うるわ]しく之を城け。大名なり。子孫忘れざらん。吾れ子を助けて請わん、と。 乃爲之請於諸侯而城之。美。樓櫓之備美設。 【読み】 乃ち之が爲に諸侯に請いて之を城く。美し。樓櫓の備え美設す。 遂譖諸鄭伯、曰、美城其賜邑、將以叛也。 【読み】 遂に諸を鄭伯に譖して、曰く、美しく其の賜邑に城くは、將に以て叛かんとするなり、と。 申侯由是得罪。爲七年、鄭殺申侯傳。 【読み】 申侯是に由りて罪を得たり。七年、鄭申侯を殺す爲の傳なり。 秋、諸侯盟。王使周公召鄭伯曰、吾撫女以從楚、輔之以晉。可以少安。周公、宰孔也。王恨齊桓定大子之位。故召鄭伯、使叛齊也。晉・楚不服於齊。故以鎭安鄭。 【読み】 秋、諸侯盟う。王周公をして鄭伯を召さしめて曰く、吾れ女を撫して以て楚に從わしめ、之を輔くるに晉を以てせん。以て少しく安かる可し、と。周公は、宰孔なり。王齊桓が大子の位を定むるを恨む。故に鄭伯を召して、齊に叛かしむるなり。晉・楚齊に服せず。故に以て鄭を鎭安す。 鄭伯喜於王命、而懼其不朝於齊也。故逃歸不盟。 【読み】 鄭伯王命を喜びて、其の齊に朝せざるを懼る。故に逃げ歸りて盟わざらんとす。 孔叔止之曰、國君不可以輕。輕則失親。孔叔、鄭大夫。親、黨援也。○輕、遣政反。 【読み】 孔叔之を止めて曰く、國君は以て輕々しくす可からず。輕々しくれば則ち親を失う。孔叔は、鄭の大夫。親は、黨援なり。○輕は、遣政反。 失親、患必至。病而乞盟、所喪多矣。君必悔之。弗聽。逃其師而歸。○喪、息浪反。 【読み】 親を失えば、患え必ず至る。病みて盟を乞えば、喪う所多し。君必ず之を悔いん、と。聽かず。其の師を逃げて歸る。○喪は、息浪反。 楚鬭穀於菟滅弦。弦子奔黃。 【読み】 楚の鬭穀於菟[とうどうおと]弦を滅ぼす。弦子黃に奔る。 於是江・黃・道・柏方睦於齊。皆弦姻也。姻、外親也。道國、在汝南安陽縣南。柏、國名。汝南西平縣有柏亭。 【読み】 是に於て江・黃・道・柏方に齊に睦まし。皆弦の姻なり。姻は、外親なり。道國は、汝南安陽縣の南に在り。柏は、國の名。汝南西平縣に柏亭有り。 弦子恃之而不事楚。又不設備。故亡。 【読み】 弦子之を恃みて楚に事えず。又備えを設けず。故に亡びたり。 晉侯復假道於虞以伐虢。宮之奇諫曰、虢、虞之表也。虢亡、虞必從之。晉不可啓。寇不可翫。翫、習也。 【読み】 晉侯復道を虞に假りて以て虢を伐つ。宮之奇諫めて曰く、虢は、虞の表なり。虢亡びば、虞必ず之に從わん。晉は啓く可からず。寇は翫[なら]わす可からず。翫[がん]は、習うなり。 一之謂甚。其可再乎。爲二年、假晉道滅下陽。 【読み】 一たびも之れ甚だしと謂う。其れ再びす可けんや。二年、晉に道を假して下陽を滅ぼす爲なり。 諺所謂、輔車相依、脣亡齒寒者、其虞・虢之謂也。輔、頰輔。車、牙車。○車、尺奢反。 【読み】 諺に所謂、輔車相依り、脣亡ぶれば齒寒しとは、其れ虞・虢を之れ謂うなり、と。輔は、頰輔。車は、牙車。○車は、尺奢反。 公曰、晉、吾宗也。豈害我哉。對曰、大伯・虞仲、大王之昭也。大伯不從。是以不嗣。大伯・虞仲、皆大王之子。不從父命、倶讓適吳。仲雍支子、別封西吳。虞公其後也。穆生昭、昭生穆。以世次計。故大伯・虞仲、於周爲昭。○昭、上饒反。後昭・穆放此。 【読み】 公曰く、晉は、吾が宗なり。豈我を害せんや、と。對えて曰く、大伯・虞仲は、大王の昭なり。大伯從わず。是を以て嗣がず。大伯・虞仲は、皆大王の子。父の命に從わず、倶に讓りて吳に適く。仲雍の支子、別に西吳に封ぜらる。虞公は其の後なり。穆昭を生み、昭穆を生む。世次を以て計る。故に大伯・虞仲は、周に於て昭爲り。○昭は、上饒反。後の昭・穆は此に放え。 虢仲・虢叔、王季之穆也。王季者、大伯・虞仲之母弟也。虢仲・虢叔、王季之子、文王之母弟也。仲・叔、皆虢君字。 【読み】 虢仲・虢叔は、王季の穆なり。王季は、大伯・虞仲の母弟なり。虢仲・虢叔は、王季の子、文王の母弟なり。仲・叔は、皆虢君の字。 爲文王卿士。勳在王室、藏於盟府。盟府、司盟之官。 【読み】 文王の卿士爲り。勳王室に在りて、盟府に藏めり。盟府は、司盟の官。 將虢是滅。何愛於虞。且虞能親於桓・莊乎。其愛之也。桓・莊之族何罪、而以爲戮。不唯偪乎。桓叔・莊伯之族、晉獻公之從祖昆弟。獻公患其偪、盡殺之。事在莊二十五年。○偪、彼力反。 【読み】 將に虢をも是れ滅ぼさんとす。何ぞ虞を愛せん。且つ虞能く桓・莊より親しからんや。其れ之を愛せんや。桓・莊の族何の罪ありて、以て戮することをせしや。唯偪るにあらずや。桓叔・莊伯の族は、晉の獻公の從祖昆弟なり。獻公其の偪るを患え、盡く之を殺す。事は莊二十五年に在り。○偪は、彼力反。 親以寵偪、猶尙害之。況以國乎。 【読み】 親しきも寵を以て偪れば、猶尙之を害せり。況んや國を以てするをや、と。 公曰、吾享祀豐絜。神必據我。據、猶安也。 【読み】 公曰く、吾が享祀豐絜なり。神必ず我に據らん、と。據は、猶安んずるがごとし。 對曰、臣聞之、鬼神非人實親。惟德是依。故周書曰、皇天無親。惟德是輔。周書、逸書。 【読み】 對えて曰く、臣之を聞く、鬼神は人を實に親しむに非ず。惟德に是れ依る、と。故に周書に曰く、皇天親無し。惟德を是れ輔く、と。周書は、逸書。 又曰、黍稷非馨。明德惟馨。馨、香之遠聞。○聞、音問。又如字。 【読み】 又曰く、黍稷馨[こう]ばしきに非ず。明德惟れ馨ばし。馨は、香の遠聞なり。○聞は、音問。又字の如し。 又曰、民不易物。惟德繄物。黍稷牲玉、無德則不見饗。有德則見饗。言物一而異用。○繄、烏兮反。 【読み】 又曰く、民物を易えず。惟れ德繄[こ]れ物なり、と。黍稷牲玉、德無ければ則ち饗[う]けられず。德有れば則ち饗けらる。物一にして用を異にするを言う。○繄[えい]は、烏兮反。 如是、則非德民不和、神不享矣。神所馮依、將在德矣。若晉取虞、而明德以薦馨香、神其吐之乎。 【読み】 是の如くならば、則ち德に非ざれば民和せず、神享けず。神の馮依する所は、將に德に在らんとす。若し晉虞を取りて、明德以て馨香を薦めば、神其れ之を吐かんや、と。 弗聽。許晉使。宮之奇以其族行。行、去也。○馮、皮沐反。 【読み】 聽かず。晉の使に許す。宮之奇其の族を以[い]て行[さ]る。行は、去るなり。○馮は、皮沐反。 曰、虞不臘矣。臘、歲終祭衆神之名。 【読み】 曰く、虞は臘せざらん。臘は、歲終に衆神を祭るの名。 在此行也、晉不更舉矣。不更舉兵。 【読み】 此の行に在りてや、晉更に舉げじ、と。更に兵を舉げず。 八月、甲午、晉侯圍上陽。上陽、虢國都。在弘農陝縣東南。 【読み】 八月、甲午[きのえ・うま]、晉侯上陽を圍む。上陽は、虢の國都。弘農陝縣の東南に在り。 問於卜偃曰、吾其濟乎。對曰、克之。公曰、何時。對曰、童謠云、丙之晨、龍尾伏辰。龍尾、尾星也。日月之會曰辰。日在尾。故尾星伏不見。 【読み】 卜偃に問いて曰く、吾れ其れ濟[な]らんか、と。對えて曰く、之に克たん、と。公曰く、何れの時ぞ、と。對えて曰く、童謠に云う、丙[ひのえ]の晨に、龍尾辰に伏す。龍尾は、尾星なり。日月の會を辰と曰う。日尾に在り。故に尾星伏して見えず。 均服振振、取虢之旂。戎事、上下同服。振振、盛貌。旂、軍之旌旗。 【読み】 均服振振として、虢を取るの旂[はた]たつ。戎事は、上下服を同じくす。振振は、盛んなる貌。旂は、軍の旌旗。 鶉之賁賁、天策焞焞、火中成軍。虢公其奔。鶉、鶉火星也。賁賁、鳥星之體也。天策、傅說星。時近日、星微。焞焞、無光輝也。言丙子平旦、鶉火中、軍事有成功也。此已上皆童謠言也。童齔之子、未有念慮之感、而會成嬉戲之言。似若有馮者。其言或中或否。博覽之士、能懼思之人、兼而志之、以爲鑒戒、以爲將來之驗、有益於世敎。○賁、音奔。焞、他門反。齔、初問反。 【読み】 鶉[じゅん]の賁賁[ほんほん]たる、天策の焞焞[とんとん]たる、火の中するとき軍を成さん。虢公其れ奔らん、と。鶉は、鶉火星なり。賁賁は、鳥星の體なり。天策は、傅說星。時に日に近くして、星微なり。焞焞は、光輝無きなり。言うこころは、丙子の平旦、鶉火中するとき、軍事成功有りとなり。此れ已上は皆童謠の言なり。童齔[どうしん]の子、未だ念慮の感有らずして、會[たま]々嬉戲の言を成す。馮ること有る者の若きに似たり。其の言或は中り或は否[しか]らず。博覽の士、能く懼思する人、兼ねて之を志[しる]し、以て鑒戒と爲して、以て將來の驗と爲せば、世敎に益有らん。○賁は、音奔。焞は、他門反。齔は、初問反。 其九月十月之交乎。以星驗推之、知九月十月之交。謂夏之九月十月也。交、晦朔交會。 【読み】 其れ九月十月の交か。星驗を以て之を推し、九月十月の交なるを知る。夏の九月十月を謂うなり。交は、晦朔の交會なり。 丙子旦、日在尾、月在策、是夜日月合朔於尾。月行疾。故至旦而過在策。 【読み】 丙子[ひのえ・ね]の旦に、日尾に在り、月策に在りて、是の夜日月尾に合朔す。月行は疾[はや]し。故に旦に至りて過ぎて策に在り。 鶉火中。必是時也。 【読み】 鶉火中す。必ず是の時ならん、と。 冬、十二月、丙子、朔、晉滅虢。虢公醜奔京師。不書、不告也。周十二月、夏之十月。 【読み】 冬、十二月、丙子、朔、晉虢を滅ぼす。虢公醜京師に奔る。書さざるは、告げざればなり。周の十二月は、夏の十月なり。 師還、館于虞、遂襲虞滅之、執虞公及其大夫井伯、以媵秦穆姬。秦穆姬、晉獻公女。送女曰媵。以屈辱之。 【読み】 師還るとき、虞に館り、遂に虞を襲いて之を滅ぼし、虞公と其の大夫井伯とを執えて、以て秦の穆姬に媵す。秦の穆姬は、晉の獻公の女。女を送るを媵と曰う。以て之を屈辱す。 而脩虞祀、且歸其職貢於王。虞所命祀。 【読み】 而して虞の祀を脩め、且其の職貢を王に歸す。虞の命ぜられたる所の祀なり。 故書曰晉人執虞公、罪虞、且言易也。○易、以豉反。 【読み】 故に書して晉人虞公を執うと曰うは、虞を罪し、且易きを言うなり。○易は、以豉反。 〔經〕六年、春、王正月。夏、公會齊侯・宋公・陳侯・衛侯・曹伯伐鄭、圍新城。新城、鄭新密。今滎陽密縣。 【読み】 〔經〕六年、春、王の正月。夏、公齊侯・宋公・陳侯・衛侯・曹伯に會して鄭を伐ち、新城を圍む。新城は、鄭の新密。今の滎陽の密縣。 秋、楚人圍許。楚子不親圍、以圍者告。 【読み】 秋、楚人許を圍む。楚子親ら圍まずして、圍む者を以て告ぐ。 諸侯遂救許。皆伐鄭之諸侯。故不復更敍。 【読み】 諸侯遂に許を救う。皆鄭を伐つの諸侯。故に復更に敍せず。 冬、公至自伐鄭。無傳。 【読み】 冬、公鄭を伐ちてより至る。傳無し。 〔傳〕六年、春、晉侯使賈華伐屈。夷吾不能守、盟而行。賈華、晉大夫。非不欲校、力不能守。言不如重耳之賢。 【読み】 〔傳〕六年、春、晉侯賈華をして屈を伐たしむ。夷吾守ること能わず、盟いて行[さ]る。賈華は、晉の大夫。校[むく]ゆることを欲せざるに非ず、力守ること能わざるなり。重耳の賢に如かざるを言うなり。 將奔狄。郤芮曰、後出同走、罪也。嫌與重耳同謀而相隨。○郤、去逆反。芮、如銳反。 【読み】 將に狄に奔らんとす。郤芮[げきぜい]曰く、後に出でて同じく走るは、罪なり。重耳と同じく謀りて相隨うに嫌あり。○郤は、去逆反。芮は、如銳反。 不如之梁。梁近秦而幸焉。乃之梁。以梁爲秦所親幸、秦旣大國、且穆姬在焉、故欲因以求入。 【読み】 梁に之くに如かず。梁は秦に近くして幸ぜらる、と。乃ち梁に之く。梁、秦の爲に親幸せられ、秦旣に大國にして、且穆姬焉に在るを以て、故に因りて以て入ることを求めんと欲す。 夏、諸侯伐鄭、以其逃首止之盟故也。首止盟、在五年。 【読み】 夏、諸侯鄭を伐つは、其の首止の盟を逃るるを以ての故なり。首止の盟は、五年に在り。 圍新密、鄭所以不時城也。實新密、而經言新城者、鄭以非時興土功、齊桓聲其罪、以告諸侯。 【読み】 新密を圍むは、鄭の時ならずして城く所以なり。實は新密にして、經に新城と言うは、鄭時に非ずして土功を興すを以て、齊桓其の罪を聲[な]らして、以て諸侯に告ぐるなり。 秋、楚子圍許以救鄭。諸侯救許。乃還。 【読み】 秋、楚子許を圍みて以て鄭を救う。諸侯許を救う。乃ち還る。 冬、蔡穆侯將許僖公、以見楚子於武城。楚子退舍武城、猶有忿志。而諸侯各罷兵。故蔡將許君歸楚。武城、楚地。在南陽宛縣北。○宛、於元反。 【読み】 冬、蔡の穆侯許の僖公を將[ひき]いて、以て楚子に武城に見えしむ。楚子退いて武城に舍り、猶忿志有り。而るに諸侯各々兵を罷む。故に蔡、許君を將いて楚に歸す。武城は、楚の地。南陽宛縣の北に在り。○宛は、於元反。 許男面縛銜璧、大夫衰絰、士輿櫬。縛手於後、唯見其面。以璧爲贄、手縛。故銜之。櫬、棺也。將受死。故衰絰。○衰、七雷反。 【読み】 許男面縛して璧を銜[ふく]み、大夫衰絰[さいてつ]し、士櫬[ひつぎ]を輿[にな]う。手を後ろに縛り、唯其の面を見る。璧を以て贄と爲すに、手縛せらる。故に之を銜むなり。櫬[しん]は、棺なり。將に死を受けんとす。故に衰絰す。○衰は、七雷反。 楚子問諸逢伯。逢伯、楚大夫。 【読み】 楚子諸を逢伯に問う。逢伯は、楚の大夫。 對曰、昔武王克殷、微子啓如是、微子啓、紂庶兄。宋之祖也。 【読み】 對えて曰く、昔武王殷に克ちしとき、微子啓是の如くせば、微子啓は、紂の庶兄。宋の祖なり。 武王親釋其縛、受其璧而祓之、祓、除凶之禮。○祓、芳弗反。 【読み】 武王親ら其の縛を釋き、其の璧を受けて之を祓[はらい]し、祓[ふつ]は、凶を除[はら]うの禮。○祓は、芳弗反。 焚其櫬、禮而命之、使復其所。楚子從之。 【読み】 其の櫬を焚き、禮して之に命じ、其の所に復らしめり、と。楚子之に從う。 〔經〕七年、春、齊人伐鄭。夏、小邾子來朝。無傳。郳犂來始得王命、而來朝也。邾之別封。故曰小邾。 【読み】 〔經〕七年、春、齊人鄭を伐つ。夏、小邾子[しょうちゅし]來朝す。傳無し。郳[げい]の犂來[れいらい]始めて王命を得て、來朝するなり。邾の別封なり。故に小邾と曰う。 鄭殺其大夫申侯。申侯、鄭卿。專利而不厭。故稱名以殺。罪之也。例在文六年。○厭、於鹽反。傳同。 【読み】 鄭其の大夫申侯を殺す。申侯は、鄭の卿。利を專らにして厭かず。故に名を稱して以て殺す。之を罪するなり。例は文六年に在り。○厭は、於鹽反。傳も同じ。 秋、七月、公會齊侯・宋公・陳世子款・鄭世子華盟于甯母。高平方與縣東有泥母亭。音如甯。○母、如字。又音無。與、音預。泥、乃麗反。 【読み】 秋、七月、公齊侯・宋公・陳の世子款・鄭の世子華に會して甯母[ねいぼ]に盟う。高平方與縣の東に泥母亭有り。音甯の如し。○母は、字の如し。又音無。與は、音預。泥は、乃麗反。 曹伯班卒。無傳。五年、同盟于首止。 【読み】 曹伯班卒す。傳無し。五年、首止に同盟す。 公子友如齊。無傳。罷盟而聘、謝不敏也。 【読み】 公子友齊に如く。傳無し。盟より罷[かえ]りて聘するは、不敏を謝するなり。 冬、葬曹昭公。無傳。 【読み】 冬、曹の昭公を葬る。傳無し。 〔傳〕七年、春、齊人伐鄭。孔叔言於鄭伯曰、諺有之、曰、心則不競、何憚於病。競、强也。憚、難也。○難、乃旦反。 【読み】 〔傳〕七年、春、齊人鄭を伐つ。孔叔鄭伯に言いて曰く、諺に之れ有り、曰く、心則ち競[こわ]からざれば、何ぞ病[くる]しきを憚らん、と。競は、强きなり。憚は、難きなり。○難は、乃旦反。 旣不能彊、又不能弱、所以斃也。國危矣。請下齊以救國。公曰、吾知其所由來矣。姑少待我。欲以申侯說。 【読み】 旣に彊きこと能わず、又弱きこと能わざるは、斃るる所以なり。國危し。請う、齊に下りて以て國を救わん、と。公曰く、吾れ其の由りて來る所を知れり。姑少[しばら]く我を待て、と。申侯を以て說かんと欲す。 對曰、朝不及夕。何以待君。 【読み】 對えて曰く、朝、夕に及ばず。何を以て君を待たれんや、と。 夏、鄭殺申侯以說于齊。且用陳轅濤塗之譖也。轅濤譖、在五年。 【読み】 夏、鄭申侯を殺して以て齊に說く。且陳の轅濤塗[えんとうと]の譖を用ゆるなり。轅濤の譖は、五年に在り。 初、申侯、申出也。姊妹之子爲出。 【読み】 初め、申侯は、申の出[おい]なり。姊妹の子を出とす。 有寵於楚文王。文王將死、與之璧、使行。曰、唯我知女。女專利而不厭。予取予求、不女疵瑕也。從我取、從我求、我不以女爲罪釁。○女、音汝。 【読み】 楚の文王に寵有り。文王將に死なんとするや、之に璧を與えて、行[さ]らしむ。曰く、唯我れ女を知る。女利を專らにして厭かず。予に取り予に求めしも、女を疵瑕とせざりき。我に從いて取り、我に從いて求めしも、我は女を以て罪釁[ざいきん]とせざりし、と。○女は、音汝。 後之人將求多於女。謂嗣君也。求多、以禮義大望責之。 【読み】 後の人將に多きを女に求めんとす。嗣君を謂うなり。多きを求むとは、禮義を以て大に之を望責するなり。 女必不免。我死、女必速行。無適小國。將不女容焉。政狹、法峻。 【読み】 女必ず免れず。我れ死なば、女必ず速やかに行れ。小國に適くこと無かれ。將に女を容れざらんとす、と。政狹く、法峻[さが]し。 旣葬。出奔鄭。又有寵於厲公。子文聞其死也、曰、古人有言曰、知臣莫若君。弗可改也已。 【読み】 旣に葬る。出でて鄭に奔る。又厲公に寵有り。子文其の死するを聞くや、曰く、古人言えること有り曰く、臣を知るは君に若くは莫し、と。改む可からざるのみ、と。 秋、盟于甯母、謀鄭故也。 【読み】 秋、甯母に盟うは、鄭の故を謀るなり。 管仲言於齊侯曰、臣聞之、招攜以禮、懷遠以德。攜、離也。 【読み】 管仲齊侯に言いて曰く、臣之を聞く、攜[はな]るるを招くには禮を以てし、遠きを懷くるには德を以てす、と。攜は、離るるなり。 德禮不易、無人不懷。 【読み】 德禮易わらざれば、人として懷かざるは無し、と。 齊侯脩禮於諸侯、諸侯官受方物。諸侯官司、各於齊受其方所當貢天子之物。 【読み】 齊侯禮を諸侯に脩め、諸侯の官方物を受く。諸侯の官司、各々齊に於て其の方の當に天子に貢すべき所の物を受く。 鄭伯使大子華聽命於會。 【読み】 鄭伯大子華をして命を會に聽かしむ。 言於齊侯曰、洩氏・孔氏・子人氏三族、實違君命。三族、鄭大夫。○洩、息列反。 【読み】 齊侯に言いて曰く、洩氏[せつし]・孔氏・子人氏の三族、實に君命に違えり。三族は、鄭の大夫。○洩は、息列反。 若君去之以爲成、我以鄭爲内臣。君亦無所不利焉。以鄭事齊、如封内臣。○去、起呂反。 【読み】 若し君之を去[す]てて以て成[たい]らぎを爲さば、我れ鄭を以て内臣と爲らん。君も亦利あらざる所無けん、と。鄭を以て齊に事うること、封内の臣の如し。○去は、起呂反。 齊侯將許之。管仲曰、君以禮與信屬諸侯。而以姦終之、無乃不可乎。子父不奸之謂禮、守命共時之謂信。守君命、共時事。○奸、音干。共、音恭。 【読み】 齊侯將に之を許さんとす。管仲曰く、君禮と信とを以て諸侯を屬けたり。而るを姦を以て之を終わらば、乃ち不可なること無からんや。子父奸さざる、之を禮と謂い、命を守り時に共する、之を信を謂う。君命を守り、時事に共す。○奸は、音干。共は、音恭。 違此二者、姦莫大焉。 【読み】 此の二つの者に違わば、姦焉より大なるは莫し、と。 公曰、諸侯有討於鄭、未捷。今苟有釁。從之、不亦可乎。子華犯父命。是其釁隙。 【読み】 公曰く、諸侯鄭を討ずること有れども、未だ捷[か]たず。今苟に釁有り。之に從わば、亦可ならずや、と。子華父の命を犯す。是れ其の釁隙なり。 對曰、君若綏之以德、加之以訓辭、而帥諸侯以討鄭、鄭將覆亡之不暇。豈敢不懼。若總其罪人以臨之、總、將領也。子華奸父之命、卽罪人。 【読み】 對えて曰く、君若之を綏んずるに德を以てし、之に加うるに訓辭を以てして、諸侯を帥いて以て鄭を討ぜば、鄭將に覆亡にも暇あらざらんとす。豈敢えて懼れざらんや。若し其の罪人を總べて以て之を臨まば、總は、將領なり。子華父の命を奸すは、卽ち罪人なり。 鄭有辭矣。何懼。以大義爲辭。 【読み】 鄭に辭有り。何ぞ懼れん。大義を以て辭を爲す。 且夫合諸侯以崇德也。會而列姦、何以示後嗣。列姦、用子華。 【読み】 且つ夫れ諸侯を合するは以て德を崇ぶなり。會して姦を列ねば、何を以てか後嗣に示さん。姦を列ぬとは、子華を用ゆるなり。 夫諸侯之會、其德刑禮義、無國不記。記姦之位、位、會位也。子華爲姦人。而列在會位、將爲諸侯所記。 【読み】 夫れ諸侯の會は、其の德刑禮義、國として記さざるは無し。姦の位を記さば、位は、會位なり。子華は姦人爲り。而るに列して會位に在らば、將に諸侯の爲に記されんとす。 君盟替矣。替、廢也。 【読み】 君の盟替[すた]れん。替は、廢るなり。 作而不記、非盛德也。君舉必書。雖復齊史隱諱、亦損盛德。 【読み】 作して記さざるは、盛德に非ざるなり。君の舉は必ず書す。復齊史は隱諱すと雖も、亦盛德を損す。 君其勿許。鄭必受盟。 【読み】 君其れ許すこと勿かれ。鄭必ず盟を受けん。 夫子華旣爲大子。而求介於大國、以弱其國。亦必不免。介、因也。 【読み】 夫れ子華旣に大子爲り。而るに大國に介[よ]りて、以て其の國を弱まさんことを求む。亦必ず免れじ。介は、因るなり。 鄭有叔詹・堵叔・師叔、三良爲政。未可閒也。 【読み】 鄭に叔詹[しゅくせん]・堵叔・師叔有り、三良政を爲す。未だ閒す可からざるなり、と。 齊侯辭焉。子華由是得罪於鄭。 【読み】 齊侯辭す。子華是に由りて罪を鄭に得たり。 冬、鄭伯使請盟于齊。以齊侯不聽子華故。 【読み】 冬、鄭伯盟を齊に請わしむ。齊侯子華に聽くにあらざるを以ての故なり。 閏月、惠王崩。襄王惡大叔帶之難、襄王、惠王大子鄭也。大叔帶、襄王弟、惠后之子也。有寵於惠后、惠后欲立之、未及而卒。 【読み】 閏月、惠王崩ず。襄王大叔帶の難を惡み、襄王は、惠王の大子鄭なり。大叔帶は、襄王の弟、惠后の子なり。惠后に寵有り、惠后之を立てんと欲し、未だ及ばずして卒す。 懼不立、不發喪、而告難于齊。爲八年、盟洮傳。○洮、他刀反。 【読み】 立たざらんことを懼れて、喪を發せずして、難を齊に告ぐ。八年、洮[とう]に盟う爲の傳なり。○洮は、他刀反。 〔經〕八年、春、王正月、公會王人・齊侯・宋公・衛侯・許男・曹伯・陳世子款盟于洮。王人與諸侯盟不譏者、王室有難故。洮、曹地。 【読み】 〔經〕八年、春、王の正月、公王人・齊侯・宋公・衛侯・許男・曹伯・陳の世子款に會して洮[とう]に盟う。王人諸侯と盟うに譏らざるは、王室難有る故なり。洮は、曹の地。 鄭伯乞盟。新服未與會。故不序列、別言乞盟。 【読み】 鄭伯盟を乞う。新たに服して未だ會に與らず。故に序列せずして、別に盟を乞うと言う。 夏、狄伐晉。秋、七月、禘于大廟、用致夫人。禘、三年大祭之名。大廟、周公廟。致者、致新死之主於廟、而列之昭穆。夫人淫而與殺、不薨於寢。於禮不應致。故僖公疑其禮、歷三禘、今果行之。嫌異常。故書之。○殺、音試。 【読み】 夏、狄晉を伐つ。秋、七月、大廟に禘し、用[もっ]て夫人を致す。禘は、三年の大祭の名。大廟は、周公の廟。致すとは、新たに死するの主を廟に致して、之を昭穆に列ぬるなり。夫人淫にして殺に與り、寢に薨ぜず。禮に於て應に致すべからず。故に僖公其の禮を疑いて、三禘を歷て、今果たして之を行う。常に異なるに嫌あり。故に之を書す。○殺は、音試。 冬、十有二月、丁未、天王崩。實以前年閏月崩、以今年十二月丁未告。 【読み】 冬、十有二月、丁未[ひのと・ひつじ]、天王崩ず。實は前年の閏月を以て崩じ、今年十二月丁未を以て告ぐ。 〔傳〕八年、春、盟于洮、謀王室也。 【読み】 〔傳〕八年、春、洮に盟うは、王室を謀るなり。 鄭伯乞盟、請服也。 【読み】 鄭伯盟を乞うは、服せんことを請うなり。 襄王定位、而後發喪。王人會洮還、而後王位定。 【読み】 襄王位を定めて、而して後に喪を發せり。王人洮に會して還りて、而して後に王位定まる。 晉里克帥師、梁由靡御、虢射爲右、以敗狄于采桑。傳言前年事也。平陽北屈縣西南有采桑津。○射、食亦反。 【読み】 晉の里克師を帥い、梁由靡御となり、虢射[かくせき]右と爲り、以て狄を采桑に敗る。傳、前年の事を言うなり。平陽北屈縣の西南に采桑津有り。○射は、食亦反。 梁由靡曰、狄無恥。從之必大克。不恥走。故可逐。 【読み】 梁由靡曰く、狄恥無し。之を從[お]わば必ず大いに克たん、と。走[に]ぐるを恥じず。故に逐う可し。 里克曰、懼之而已。無速衆狄。恐怨深而羣黨來報。 【読み】 里克曰く、之を懼さんのみ。衆狄を速[まね]くこと無かれ、と。怨深して羣黨來報せんことを恐る。 虢射曰、期年狄必至。示之弱矣。○期、音基。 【読み】 虢射曰く、期年に狄必ず至らん。之に弱きを示せり、と。○期は、音基。 夏、狄伐晉。報采桑之役也。復期月。明期年之言驗。 【読み】 夏、狄晉を伐つ。采桑の役に報ゆるなり。期月に復びせり。期年の言の驗あるを明かす。 秋、禘而致哀姜焉。非禮也。 【読み】 秋、禘して哀姜を致す。禮に非ざるなり。 凡夫人不薨于寢、不殯于廟、不赴于同、不祔于姑、則弗致也。寢、小寢。同、同盟。將葬、又不以殯過廟。據經哀姜薨葬之文、則爲殯廟赴同祔姑。今當以不薨于寢、不得致也。 【読み】 凡そ夫人寢に薨ぜず、廟に殯せず、同に赴[つ]げず、姑に祔せざれば、則ち致さざるなり。寢は、小寢。同は、同盟。將に葬らんとして、又殯を以て廟に過ぎず。經の哀姜薨葬の文に據れば、則ち廟に殯し同に赴げ姑に祔することを爲せり。今當に寢に薨ぜざるを以て、致すことを得ざるなるべし。 冬、王人來告喪。難故也。是以緩。有大叔帶之難。 【読み】 冬、王人來りて喪を告ぐ。難の故なり。是を以て緩[おく]る。大叔帶の難有り。 宋公疾。大子茲父固請曰、目夷長且仁。君其立之。茲父、襄公也。目夷、茲父庶兄、子魚也。 【読み】 宋公疾む。大子茲父固く請いて曰く、目夷長じて且仁なり。君其れ之を立てよ、と。茲父は、襄公なり。目夷は、茲父の庶兄、子魚なり。 公命子魚。子魚辭曰、能以國讓、仁孰大焉。臣不及也。且又不順。立庶、不順禮。 【読み】 公子魚に命ず。子魚辭して曰く、能く國を以て讓るは、仁孰か焉より大ならん。臣は及ばざるなり。且つ又不順なり、と。庶を立つるは、禮に順わざるなり。 遂走而退。 【読み】 遂に走りて退く。 〔經〕九年、春、王三月、丁丑、宋公御說卒。四同盟。○御、魚呂反。說、音悅。 【読み】 〔經〕九年、春、王の三月、丁丑[ひのと・うし]、宋公御說卒す。四たび同盟す。○御は、魚呂反。說は、音悅。 夏、公會宰周公・齊侯・宋子・衛侯・鄭伯・許男・曹伯于葵丘。周公、宰孔也。宰、官。周、采地。天子三公不字。宋子、襄公也。傳例曰、在喪、公侯曰子。陳留外黃縣東有葵丘。 【読み】 夏、公宰周公・齊侯・宋子・衛侯・鄭伯・許男・曹伯に葵丘[ききゅう]に會す。周公は、宰孔なり。宰は、官。周は、采地。天子の三公は字いわず。宋子は、襄公なり。傳例に曰く、喪に在れば、公侯を子と曰う、と。陳留外黃縣の東に葵丘有り。 秋、七月、乙酉、伯姬卒。無傳。公羊・穀梁曰、未適人。故不稱國。已許嫁、則以成人之禮書、不復殤也。婦人許嫁而筓、猶丈夫之冠。 【読み】 秋、七月、乙酉[きのと・とり]、伯姬卒す。傳無し。公羊・穀梁に曰く、未だ人に適かず。故に國を稱せず、と。已に許嫁すれば、則ち成人の禮を以て書して、復殤[しょう]にせざるなり。婦人許嫁して筓するは、猶丈夫の冠するがごとし。 九月、戊辰、諸侯盟于葵丘。夏會葵丘、次伯姬卒、文不相比。故重言諸侯。宰孔先歸不與盟。 【読み】 九月、戊辰[つちのえ・たつ]、諸侯葵丘に盟う。夏葵丘に會し、次に伯姬卒して、文相比[なら]わず。故に諸侯を重言す。宰孔先ず歸りて盟に與らず。 甲子、晉侯佹諸卒。未同盟、而赴以名。甲子、九月十一日。戊辰、十五日也。書在盟後、從赴。○佹、九委反。 【読み】 甲子[きのえ・ね]、晉侯佹諸卒す。未だ同盟せずして、赴[つ]ぐるに名を以てす。甲子は、九月十一日。戊辰は、十五日なり。書して盟の後に在るは、赴ぐるに從うなり。○佹は、九委反。 冬、晉里克殺其君之子奚齊。獻公未葬、奚齊未成君。故稱君之子。奚齊受命繼位、無罪。故里克稱名。伯爵在喪、亦稱子。見竹書紀年。 【読み】 冬、晉の里克其の君の子奚齊を殺す。獻公未だ葬らず、奚齊未だ君と成らず。故に君の子と稱す。奚齊命を受け位を繼いで、罪無し。故に里克名を稱す。伯爵喪に在るも、亦子と稱す。竹書紀年に見ゆ。 〔傳〕九年、春、宋桓公卒。未葬、而襄公會諸侯。故曰子。 【読み】 〔傳〕九年、春、宋の桓公卒す。未だ葬らずして、襄公諸侯に會す。故に子と曰う。 凡在喪、王曰小童、公・侯曰子。在喪、未葬也。小童者、童蒙幼末之稱。子者、繼父之辭。公・侯、位尊。上連王者、下絕伯・子・男。周康王在喪、稱予一人釗、禮稱亦不言小童。或所稱之辭、各有所施。此謂王自稱之辭。非諸下所得書。故經無其事、傳通取舊典之文、以事相接。○之稱、去聲。釗、古堯反。亦音昭。 【読み】 凡そ喪に在るは、王を小童と曰い、公・侯を子と曰う。喪に在るとは、未だ葬らざるなり。小童は、童蒙幼末の稱。子は、父に繼ぐの辭。公・侯は、位尊し。上は王者に連なり、下は伯・子・男に絕つ。周の康王喪に在りて、予一人釗[しょう]と稱して、禮稱にも亦小童と言わず。或は稱する所の辭、各々施す所有るならん。此は王自ら稱するの辭を謂う。諸れ下の書すことを得る所に非ず。故に經に其の事無けれども、傳は通じて舊典の文を取りて、事を以て相接ぐるなり。○之稱は、去聲。釗は、古堯反。亦音昭。 夏、會于葵丘、尋盟、且脩好。禮也。 【読み】 夏、葵丘に會して、盟を尋[かさ]ね、且好を脩む。禮なり。 王使宰孔賜齊侯胙、胙、祭肉。尊之比二王後。 【読み】 王宰孔をして齊侯に胙を賜わしめて、胙は、祭肉。之を尊んで二王の後に比す。 曰、天子有事于文武、有祭事也。 【読み】 曰く、天子文武に事有りて、祭事有るなり。 使孔賜伯舅胙。天子謂異姓諸侯曰伯舅。 【読み】 孔をして伯舅に胙を賜わしむ、と。天子異姓の諸侯を謂いて伯舅と曰う。 齊侯將下拜。孔曰、且有後命。天子使孔曰、以伯舅耋老、加勞賜一級、無下拜。七十曰耋。級、等也。○耋、田節反。一他結反。勞、力報反。 【読み】 齊侯將に下拜せんとす。孔曰く、且後命有り。天子孔をして曰わしむ、伯舅が耋老[てつろう]するを以て、加勞して一級を賜いて、下拜すること無からしむ、と。七十を耋と曰う。級は、等なり。○耋は、田節反。一に他結反。勞は、力報反。 對曰、天威不違顏咫尺。言天鑒察不遠、威嚴常在顏面之前。八寸曰咫。 【読み】 對えて曰く、天威顏を違[さ]らざること咫尺[しせき]。言うこころは、天の鑒察遠からず、威嚴常に顏面の前に在り。八寸を咫と曰う。 小白、余敢貪天子之命、無下拜、小白、齊侯名。余、身也。 【読み】 小白、余敢えて天子の命を貪りて、下拜すること無くば、小白は、齊侯の名。余は、身なり。 恐隕越于下、隕越、顚墜也。據天王居上。故言恐顚墜于下。 【読み】 恐れらくは下に隕越して、隕越は、顚墜なり。天王上に居るに據る。故に下に顚墜せんことを恐ると言う。 以遺天子羞。敢不下拜。下拜登受。拜堂下、受胙於堂上。○遺、于季反。 【読み】 以て天子に羞を遺らんことを。敢えて下拜せざらんや、と。下拜して登りて受く。堂下に拜して、胙を堂上に受く。○遺は、于季反。 秋、齊侯盟諸侯于葵丘、曰、凡我同盟之人、旣盟之後、言歸于好。義取脩好。故傳顯其盟辭。 【読み】 秋、齊侯諸侯に葵丘に盟いて、曰く、凡そ我が同盟の人、旣に盟うの後は、言[ここ]に好に歸せん、と。義好を脩むるに取る。故に傳其の盟辭を顯す。 宰孔先歸。旣會、先諸侯去。○先諸、悉薦反。 【読み】 宰孔先ず歸る。旣に會して、諸侯に先んじて去る。○先諸は、悉薦反。 遇晉侯、曰、可無會也。晉侯欲來會葵丘。 【読み】 晉侯に遇いて、曰く、會すること無かる可し。晉侯來りて葵丘に會せんと欲す。 齊侯不務德而勤遠略。故北伐山戎、在莊三十年。 【読み】 齊侯德を務めずして遠略を勤む。故に北、山戎を伐ち、莊三十年に在り。 南伐楚、在四年。 【読み】 南、楚を伐ち、四年に在り。 西爲此會也。東略之不知。西則否矣。言或向東、必不能復西略。 【読み】 西、此の會を爲せり。東略せんは知らず。西は則ち否[しか]らじ。言うこころは、東に向かうこと或れば、必ず復西略すること能わず。 其在亂乎。君務靖亂。無勤於行。在、存也。微戒獻公、言晉將有亂。 【読み】 其れ亂を在[と]わんか。君亂を靖[しず]むることを務めよ。行くことを勤むること無かれ、と。在は、存[と]うなり。獻公に微戒して、晉將に亂有らんとすと言う。 晉侯乃還。不復會齊。 【読み】 晉侯乃ち還る。復齊に會せず。 九月、晉獻公卒。里克・丕鄭、欲納文公。故以三公子之徒作亂。丕鄭、晉大夫。三公子、申生・重耳・夷吾。○丕、普悲反。 【読み】 九月、晉の獻公卒す。里克・丕鄭[ひてい]、文公を納れんと欲す。故に三公子の徒を以て亂を作す。丕鄭は、晉の大夫。三公子は、申生・重耳・夷吾。○丕は、普悲反。 初、獻公使荀息傅奚齊。公疾。召之曰、以是藐諸孤、言其幼賤、與諸子縣藐。○藐、妙小反。又亡角反。 【読み】 初め、獻公荀息をして奚齊に傅たらしむ。公疾む。之を召して曰く、是の諸孤に藐たるを以て、言うこころは、其の幼賤、諸子と縣藐なり。○藐は、妙小反。又亡角反。 辱在大夫。其若之何。欲屈辱荀息、使保護之。 【読み】 辱く大夫に在り。其れ之を若何、と。荀息を屈辱して、之を保護せしめんと欲す。 稽首而對曰、臣竭其股肱之力、加之以忠貞。其濟、君之靈也。不濟、則以死繼之。公曰、何謂忠貞。對曰、公家之利、知無不爲、忠也。送往事居、耦俱無猜、貞也。往、死者。居、生者。耦、兩也。送死事生、兩無疑恨。所謂正也。 【読み】 稽首して對えて曰く、臣其の股肱の力を竭し、之に加うるに忠貞を以てせん。其の濟[な]るは、君の靈なり。濟らずんば、則ち死を以て之に繼がん、と。公曰く、何をか忠貞と謂うや、と。對えて曰く、公家の利、知れば爲さざること無きは、忠なり。往を送り居に事え、耦[ふた]つながら俱に猜[うたが]い無きは、貞なり、と。往は、死者。居は、生者。耦は、兩つなり。死を送り生に事え、兩つながら疑恨無し。所謂正なり。 及里克將殺奚齊、先告荀息曰、三怨將作。三公子之徒。 【読み】 里克將に奚齊を殺さんとするに及びて、先ず荀息に告げて曰く、三怨將に作らんとす。三公子の徒。 秦・晉輔之。子將何如。荀息曰、將死之。里克曰、無益也。荀叔曰、吾與先君言矣。不可以貳。能欲復言、而愛身乎。荀叔、荀息也。復言、言可復也。 【読み】 秦・晉之を輔く。子將に何如にせんとする、と。荀息曰く、將に之に死なんとす、と。里克曰く、益無し、と。荀叔曰く、吾れ先君と言えり。以て貳[ふたごころ]ある可からず。能く言を復せんことを欲して、身を愛せんや。荀叔は、荀息なり。復言は、言復す可きなり。 *頭注に「一說、復、踐也。是也」とある。 雖無益也、將焉辟之。且人之欲善、誰不如我。我欲無貳、而能謂人已乎。言不能止里克使不忠於申生等。 【読み】 益無しと雖も、將[はた]焉んぞ之を辟けん。且つ人の善を欲する、誰か我に如かざらん。我れ貳無からんことを欲して、能く人に已めよと謂わんや、と。言うこころは、里克を止めて申生等に不忠ならしむること能わず。 冬、十月、里克殺奚齊于次。次、喪寢。 【読み】 冬、十月、里克奚齊を次に殺す。次は、喪寢。 書曰殺其君之子、未葬也。 【読み】 書して其の君の子を殺すと曰うは、未だ葬らざればなり。 荀息將死之。人曰、不如立卓子而輔之。荀息立公子卓、以葬。十一月、里克殺公子卓于朝。荀息死之。 【読み】 荀息將に之に死なんとす。人曰く、卓子を立てて之を輔くるに如かず、と。荀息公子卓を立てて、以て葬る。十一月、里克公子卓を朝に殺す。荀息之に死す。 君子曰、詩所謂白圭之玷、尙可磨也。斯言之玷、不可爲也。詩、大雅。言此言之缺、難治甚於白圭。○玷、丁簟反。又丁念反。 【読み】 君子曰く、詩に所謂白圭の玷[か]けたるは、尙磨く可し。斯の言の玷けたるは、爲[おさ]む可からず、と。詩は、大雅。言うこころは、此れ言の缺[か]けたるは、治め難きこと白圭より甚だし。○玷[てん]は、丁簟反。又丁念反。 荀息有焉。有此詩人重言之義。 【読み】 荀息焉れ有り、と。此の詩人言を重んずるの義有り。 齊侯以諸侯之師伐晉、及高梁而還。討晉亂也。高梁、晉地。在平陽縣西南。 【読み】 齊侯諸侯の師を以[い]て晉を伐ち、高梁に及びて還る。晉の亂を討ずるなり。高梁は、晉の地。平陽縣の西南に在り。 令不及魯。故不書。前已發不書例。今復重發、嫌霸者異於凡諸侯。 【読み】 令魯に及ばず。故に書さず。前已に書さざるの例を發す。今復重ねて發するは、霸者は凡諸侯に異なるに嫌あればなり。 晉郤芮使夷吾重賂秦以求入。郤芮、郤克祖父。從夷吾者。○從、才用反。 【読み】 晉の郤芮[げきぜい]夷吾をして重く秦に賂いて以て入ることを求めしむ。郤芮は、郤克の祖父。夷吾に從う者なり。○從は、才用反。 曰、人實有國。我何愛焉。言國非己之有。何愛而不以賂秦。 【読み】 曰く、人實に國を有つ。我れ何ぞ愛[おし]まん。言うこころは、國は己が有に非ず。何ぞ愛んで以て秦に賂わざらん。 入而能民、土於何有。從之。能得民、不患無土。 【読み】 入りて民を能くせば、土に於て何か有らん、と。之に從う。能く民を得ば、土無きを患えず。 齊隰朋帥師會秦師、納晉惠公。隰朋、齊大夫。惠公、夷吾。 【読み】 齊の隰朋[しゅうほう]師を帥いて秦の師に會して、晉の惠公を納る。隰朋は、齊の大夫。惠公は、夷吾。 秦伯謂郤芮曰、公子誰恃。對曰、臣聞亡人無黨。有黨必有讎。言夷吾無黨。無黨則無讎。易出易入。以微勸秦。 【読み】 秦伯郤芮に謂いて曰く、公子は誰をか恃める、と。對えて曰く、臣聞く、亡人は黨無し。黨有れば必ず讎有り、と。言うこころは、夷吾黨無し。黨無ければ則ち讎無し。出で易く入り易し。以て秦を微勸す。 夷吾弱不好弄。弄、戲也。 【読み】 夷吾は弱にして弄[たわむれ]を好まず。 弄は、戲れなり。 能鬭不過。有節制。 【読み】 能く鬭いて過ぎず。節制有り。 長亦不改、不識其他。 【読み】 長じて亦改めずして、其の他を識らず、と。 公謂公孫枝曰、夷吾其定乎。公孫枝、秦大夫、子桑也。 【読み】 公公孫枝に謂いて曰く、夷吾は其れ定めんか、と。公孫枝は、秦大夫、子桑なり。 對曰、臣聞之、唯則定國。詩曰、不識不知、順帝之則、文王之謂也。詩、大雅。帝、天也。則、法也。言文王闇行、自然合天之法。 【読み】 對えて曰く、臣之を聞く、唯則あれば國を定む、と。詩に曰く、識らず知らず、帝の則に順うとは、文王を謂うなり。詩は、大雅。帝は、天なり。則は、法なり。文王闇行して、自然に天の法に合うを言う。 又曰、不僭不賊、鮮不爲則、僭、過差也。賊、傷害也。皆忌克也。能不然、則可爲人法則。○鮮、息淺反。 【読み】 又曰く、僭[たが]わず賊[そこな]わざれば、則と爲らざること鮮しとは、僭は、過差なり。賊は、傷害なり。皆忌克なり。能く然らざれば、則ち人の法則と爲る可し。○鮮は、息淺反。 無好無惡、不忌不克之謂也。今其言多忌克。旣僭而賊。 【読み】 好み無く惡み無く、忌まず克たざるを謂うなり。今其の言忌克多し。旣に僭にして賊なり。 難哉。言能自定難。 【読み】 難いかな、と。能く自ら定むることの難きを言う。 公曰、忌則多怨。又焉能克。是吾利也。其言雖多忌、適足以自害。不能勝人也。秦伯慮其還害己。故曰、是吾利。 【読み】 公曰く、忌めば則ち怨み多し。又焉ぞ能く克たん。是れ吾が利なり、と。其の言忌むこと多しと雖も、適に以て自ら害するに足れり。人に勝つこと能わず。秦伯其の還って己を害せんことを慮る。故に曰く、是れ吾が利なり、と。 宋襄公卽位、以公子目夷爲仁、使爲左師以聽政。於是宋治。故魚氏世爲左師。 【読み】 宋の襄公位に卽き、公子目夷を以て仁と爲し、左師と爲して以て政を聽かしむ。是に於て宋治まる。故に魚氏世々左師爲り。 〔經〕十年、春、王正月、公如齊。無傳。 【読み】 〔經〕十年、春、王の正月、公齊に如く。傳無し。 狄滅溫。溫子奔衛。蓋中國之狄、滅而居其土地。 【読み】 狄溫を滅ぼす。溫子衛に奔る。蓋し中國の狄、滅ぼして其の土地に居るならん。 晉里克弑其君卓、及其大夫荀息。弑卓在前年。而以今春書者、從赴也。獻公旣葬、卓已免喪。故稱君也。荀息稱名者、雖欲復言、本無遠謀、從君於昏。 【読み】 晉の里克其の君卓を弑して、其の大夫荀息に及ぶ。卓を弑するは前年に在り。而るに今春を以て書すは、赴[つ]ぐるに從うなり。獻公旣に葬り、卓已に喪を免る。故に君と稱するなり。荀息名を稱するは、復言せんことを欲すと雖も、本遠謀無く、君に昏に從えばなり。 夏、齊侯・許男伐北戎。無傳。北戎、山戎。 【読み】 夏、齊侯・許男北戎を伐つ。傳無し。北戎は、山戎。 晉殺其大夫里克。奚齊者、先君所命。卓子又以在國嗣位。罪未爲無道。而里克親爲三怨之主、累弑二君。故稱名以罪之。 【読み】 晉其の大夫里克を殺す。奚齊は、先君の命ずる所。卓子も又國に在るを以て位を嗣ぐ。罪未だ無道を爲さず。而るを里克親ら三怨の主と爲り、累[しき]りに二君を弑す。故に名を稱して以て之を罪す。 秋、七月。冬、大雨雪。無傳。平地尺爲大雪。○雨、于付反。 【読み】 秋、七月。冬、大いに雪雨[ふ]る。傳無し。平地尺を大雪とす。○雨は、于付反。 〔傳〕十年、春、狄滅溫、蘇子無信也。 【読み】 〔傳〕十年、春、狄溫を滅ぼすは、蘇子信無ければなり。 蘇子叛王卽狄。又不能於狄。狄人伐之。王不救。故滅。蘇子奔衛。蘇子、周司寇、蘇公之後也。國於溫。故曰溫子。叛王事在莊十九年。 【読み】 蘇子王に叛きて狄に卽く。又狄に能からず。狄人之を伐つ。王救わず。故に滅びたり。蘇子衛に奔る。蘇子は、周の司寇、蘇公の後なり。溫に國す。故に溫子と曰う。王に叛く事は莊十九年に在り。 夏、四月、周公忌父・王子黨會齊隰朋、立晉侯。周公忌父、周郷士。王子黨、周大夫。 【読み】 夏、四月、周公忌父・王子黨齊の隰朋[しゅほう]に會して、晉侯を立つ。周公忌父は、周の郷士。王子黨は、周の大夫。 晉侯殺里克以說。自解說不簒。 【読み】 晉侯里克を殺して以て說く。自ら簒わざると解說す。 將殺里克、公使謂之曰、微子則不及此。雖然、子弑二君與一大夫。爲子君者、不亦難乎。對曰、不有廢也、君何以興。欲加之罪、其無辭乎。言欲加己罪、不患無辭。 【読み】 將に里克を殺さんとするに、公之に謂わしめて曰く、子微[な]かりせば則ち此に及ばじ。然りと雖も、子二君と一大夫とを弑せり。子の君爲る者、亦難からずや、と。對えて曰く、廢すること有らずんば、君何を以て興らん。之に罪を加えんと欲せば、其れ辭無からんや。言うこころは、己に罪を加えんと欲せば、辭無きを患えず。 臣聞命矣。伏劒而死。於是丕鄭聘于秦、且謝緩賂。故不及。丕鄭、里克黨。以在秦故、不及里克倶死。 【読み】 臣命を聞けり、と。劒に伏して死す。是に於て丕鄭[ひてい]秦に聘し、且緩賂を謝す。故に及ばず。丕鄭は、里克の黨。秦に在るの故を以て、里克と倶に死なず。 晉侯改葬共大子。共大子、申生也。○共、音恭。大、音泰。 【読み】 晉侯共大子を改葬す。共大子は、申生なり。○共は、音恭。大は、音泰。 秋、狐突適下國、下國、曲沃新城。 【読み】 秋、狐突下國に適き、下國は、曲沃の新城。 遇大子。大子使登僕、忽如夢而相見。狐突、本爲申生御。故復使登車爲僕。 【読み】 大子に遇う。大子登りて僕たらしめて、忽として夢の如くにして相見るなり。狐突は、本申生の御爲り。故に復車に登りて僕爲らしむ。 而告之曰、夷吾無禮。余得請於帝矣。請罰夷吾。 【読み】 之に告げて曰く、夷吾禮無し。余帝に請うことを得たり。夷吾を罰せんと請う。 將以晉畀秦。秦將祀余。對曰、臣聞之、神不歆非類、民不祀非族。君祀無乃殄乎。歆、饗也。殄、絕也。 【読み】 將に晉を以て秦に畀[あた]えんとす。秦將に余を祀らんとす、と。對えて曰く、臣之を聞く、神は非類に歆[う]けず、民は非族を祀らず、と。君の祀乃ち殄[た]ゆること無からんや。歆[きん]は、饗[う]くるなり。殄[てん]は、絕つなり。 且民何罪。失刑乏祀。君其圖之。君曰、諾。吾將復請。七日、新城西偏、將有巫者。而見我焉。新城、曲沃也。將因巫而見。 【読み】 且つ民何の罪かある。刑を失い祀に乏しからん。君其れ之を圖れ、と。君曰く、諾。吾れ將に復請わんとす。七日ありて、新城の西偏に、將に巫者有らんとす。而[なんじ]我を見よ、と。新城は、曲沃なり。將に巫に因りて見えんとす。 許之。遂不見。狐突許其言。申生之象亦沒。○見、賢遍反。又如字。 【読み】 之を許す。遂に見えず。狐突其の言を許す。申生の象も亦沒す。○見は、賢遍反。又字の如し。 及期而往。告之曰、帝許我罰有罪矣。敝於韓。敝、敗也。韓、晉地。獨敝惠公。故言罰有罪。明復以晉畀秦。夷吾忌克多怨、終於失國。雖改葬加謚、申生猶忿。傳言鬼神所馮、有時而信。 【読み】 期に及びて往く。之に告げて曰く、帝我に有罪を罰するを許せり。韓に敝[やぶ]れん。敝は、敗るなり。韓は、晉の地。獨惠公を敝る。故に有罪を罰すと言う。復晉を以て秦に畀えざること明らかなり。夷吾忌克にして多怨、國を失うに終わる。改葬して加謚すと雖も、申生猶忿る。傳に鬼神の馮[よ]る所、時有りて信あるを言う。 丕鄭之如秦也、言於秦伯曰、呂甥・郤稱・冀芮實爲不從。若重問以召之、三子、晉大夫。不從、不與秦賂。問、聘問之幣。○稱、尺證反。又如字。 【読み】 丕鄭の秦に如くや、秦伯に言いて曰く、呂甥[りょせい]・郤稱[げきしょう]・冀芮[きぜい]實に從わざることを爲せり。若し問を重くして以て之を召さば、三子は、晉の大夫。從わずとは、秦に賂を與えざるなり。問は、聘問の幣。○稱は、尺證反。又字の如し。 臣出晉君。君納重耳。蔑不濟矣。蔑、無也。 【読み】 臣晉君を出ださん。君重耳を納れよ。濟[な]らざること蔑[な]けん、と。蔑は、無きなり。 冬、秦伯使泠至報問、且召三子。泠至、秦大夫。○泠、力丁反。 【読み】 冬、秦伯泠至[れいし]をして報問せしめ、且三子を召す。泠至は、秦の大夫。○泠は、力丁反。 郤芮曰、幣重而言甘。誘我也。遂殺平鄭・祁舉、祁舉、晉大夫。 【読み】 郤芮曰く、幣重くして言甘し。我を誘[おび]くなり、と。遂に平鄭・祁舉と、祁舉は、晉の大夫。 及七輿大夫、侯・伯七命、副車七乘。 【読み】 七輿大夫の、侯・伯は七命、副車七乘あり。 左行共華・右行賈華・叔堅・騅歂・纍虎・特宮・山祁。皆里・丕之黨也。七子、七輿大夫。○行、戶剛反。共、音恭。騅、音隹。歂、市專反。纍、力追反。 【読み】 左行共華・右行賈華・叔堅・騅歂[すいせん]・纍虎[るいこ]・特宮・山祁とを殺す。皆里・丕の黨なり。七子は、七輿の大夫。○行は、戶剛反。共は、音恭。騅は、音隹。歂は、市專反。纍は、力追反。 丕豹奔秦。丕豹、丕鄭之子。 【読み】 丕豹秦に奔る。丕豹は、丕鄭の子。 言於秦伯曰、晉侯背大主而忌小怨。民弗與也。伐之必出。大主、秦也。小怨、里・丕。 【読み】 秦伯に言いて曰く、晉侯大主に背きて小怨を忌む。民與せず。之を伐たば必ず出でん、と。大主は、秦なり。小怨は、里・丕。 公曰、失衆、焉能殺。謂殺里・丕之黨。 【読み】 公曰く、衆を失わば、焉ぞ能く殺さん。里・丕の黨を殺すを謂う。 違禍。誰能出君。謂豹避禍也。爲明年晉殺丕鄭傳。 【読み】 禍を違[さ]く。誰か能く君を出ださん、と。豹が禍を避くるを謂うなり。明年晉丕鄭を殺す爲の傳なり。 〔經〕十有一年、春、晉殺其大夫丕鄭父。以私怨謀亂國。書名、罪之。書春、從告。 【読み】 〔經〕十有一年、春、晉其の大夫丕鄭父を殺す。私怨を以て國を亂らんことを謀る。名を書すは、之を罪するなり。春に書すは、告ぐるに從うなり。 夏、公及夫人姜氏會齊侯于陽穀。無傳。婦人送迎不出門。見兄弟不踰閾。與公倶會齊侯、非禮。○閾、音域。門限也。 【読み】 夏、公夫人姜氏と齊侯に陽穀に會す。傳無し。婦人は送迎門を出でず。兄弟に見ゆるに閾[しきい]を踰えず。公と倶に齊侯に會するは、非禮なり。○閾[よく]は、音域。門限なり。 秋、八月、大雩。無傳。過時。故書。 【読み】 秋、八月、大いに雩[う]す。傳無し。時を過ぐ。故に書す。 冬、楚人伐黃。 【読み】 冬、楚人黃を伐つ。 〔傳〕十一年、春、晉侯使以丕鄭之亂來告。釋經書在今年。 【読み】 〔傳〕十一年、春、晉侯丕鄭の亂を以て來り告げしむ。經の書して今年に在るを釋く。 天王使召武公・内史過賜晉侯命。天王、周襄王。召武公、周卿士。内史過、周大夫。諸侯卽位、天子賜之命圭爲瑞。○過、古禾反。 【読み】 天王召武公・内史過をして晉侯に命を賜わしむ。天王は、周の襄王。召武公は、周の卿士。内史過は、周の大夫。諸侯位に卽けば、天子之に命圭を賜いて瑞と爲す。○過は、古禾反。 受玉惰。過歸。告王曰、晉侯其無後乎。王賜之命、而惰於受瑞。先自弃也已。其何繼之有。禮、國之幹也。敬、禮之輿也。不敬、則禮不行。禮不行、則上下昏。何以長世。爲惠公不終張本。○長、直良反。又丁丈反。 【読み】 玉を受くること惰れり。過歸る。王に告げて曰く、晉侯は其れ後無からんか。王之に命を賜いて、瑞を受くるに惰る。先ず自ら弃[す]つるのみ。其れ何の繼ぐことか之れ有らん。禮は、國の幹なり。敬は、禮の輿なり。敬せざれば、則ち禮行われず。禮行われざれば、則ち上下昏し。何を以て世を長くせん、と。惠公終わらざる爲の張本なり。○長は、直良反。又丁丈反。 夏、揚・拒・泉・皐・伊・雒之戎、同伐京師、入王城、焚東門。揚・拒・泉・皐、皆戎邑、及諸雜戎居伊水・雒水之閒者。今伊闕北有泉亭。○拒、倶宇反。 【読み】 夏、揚・拒・泉・皐・伊・雒[らく]の戎、同じく京師を伐ち、王城に入りて、東門を焚く。揚・拒・泉・皐は、皆戎邑、諸々の雜戎と伊水・雒水の閒に居る者なり。今伊闕の北に泉亭有り。○拒は、倶宇反。 王子帶召之也。王子帶、甘昭公也。召戎、欲因以簒位。 【読み】 王子帶が之を召[むか]えるなり。王子帶は、甘昭公なり。戎を召すは、因りて以て位を簒わんと欲するなり。 秦・晉伐戎以救周。秋、晉侯平戎于王。爲二十四年、天王出居鄭傳。 【読み】 秦・晉戎を伐ちて以て周を救う。秋、晉侯戎を王に平らぐ。二十四年、天王出でて鄭に居る爲の傳なり。 黃人不歸楚貢。冬、楚人伐黃。黃人恃齊故。 【読み】 黃人楚に貢を歸[おく]らず。冬、楚人黃を伐つ。黃人齊を恃む故なり。 〔經〕十有二年、春、王三月、庚午、日有食之。無傳。不書朔、官失之。 【読み】 〔經〕十有二年、春、王の三月、庚午[かのえ・うま]、日之を食する有り。傳無し。朔を書さざるは、官之を失えり。 夏、楚人滅黃。秋、七月。冬、十有二月、丁丑、陳侯杵臼卒。無傳。遺世子與僖公同盟甯母及洮。○臼、其九反。 【読み】 夏、楚人黃を滅ぼす。秋、七月。冬、十有二月、丁丑[ひのと・うし]、陳侯杵臼[しょきゅう]卒す。傳無し。世子をして僖公と甯母[ねいぼ]と洮[とう]とに同盟せしむ。○臼は、其九反。 〔傳〕十二年、春、諸侯城衛楚丘之郛。懼狄難也。楚丘、衛國都。郛、郭也。爲明年春、狄侵衛傳。○郛、芳夫反。難、乃旦反。 【読み】 〔傳〕十二年、春、諸侯衛の楚丘の郛[ふ]に城く。狄の難を懼れてなり。楚丘は、衛の國都。郛は、郭なり。明年春、狄衛を侵す爲の傳なり。○郛は、芳夫反。難は、乃旦反。 黃人恃諸侯之睦于齊也、不共楚職、曰、自郢及我九百里、焉能害我。夏、楚滅黃。郢、楚都。○共、音恭。 【読み】 黃人諸侯の齊に睦まじきを恃めるや、楚に職を共せずして、曰く、郢[えい]より我に及ぶまで九百里、焉ぞ能く我を害せん、と。夏、楚黃を滅ぼす。郢は、楚の都。○共は、音恭。 王以戎難故、討王子帶。子帶前年召戎伐周。 【読み】 王戎の難を以ての故に、王子帶を討ず。子帶前年戎を召して周を伐たしむ。 秋、王子帶奔齊。 【読み】 秋、王子帶齊に奔る。 冬、齊侯使管夷吾平戎于王、使隰朋平戎于晉。平、和也。前年晉救周伐戎。故戎與周・晉不和。 【読み】 冬、齊侯管夷吾をして戎を王に平らげしめ、隰朋[しゅうほう]をして戎を晉に平らげしむ。平は、和らぐなり。前年晉周を救いて戎を伐つ。故に戎と周・晉と和せず。 王以上卿之禮饗管仲。管仲辭曰、臣、賤有司也。有天子之二守國・高在。國子・高子、天子所命爲齊守臣。皆上卿也。莊二十二年、高傒始見經。僖二十八年、國歸父乃見傳。歸父之父曰懿仲、高傒之子曰莊子。不知今當誰世。○守、手又反。 【読み】 王上卿の禮を以て管仲を饗す。管仲辭して曰く、臣は、賤しき有司なり。天子の二守なる國・高の在る有り。國子・高子は、天子の命じて齊の守臣と爲す所。皆上卿なり。莊二十二年、高傒始めて經に見ゆ。僖二十八年、國歸父乃ち傳に見ゆ。歸父の父を懿仲と曰い、高傒の子を莊子と曰う。知らず、今誰の世に當たることを。○守は、手又反。 若節春秋、來承王命、何以禮焉。節、時也。 【読み】 若し春秋を節にして、來りて王命を承けば、何を以て禮せん。節は、時なり。 陪臣敢辭。諸侯之臣曰陪臣。 【読み】 陪臣敢えて辭す、と。諸侯の臣を陪臣と曰う。 王曰、舅氏、伯舅之使。故曰舅氏。 【読み】 王曰く、舅氏、伯舅の使。故に舅氏と曰う。 余嘉乃勳、應乃懿德。謂督不忘。往踐乃職、無逆朕命。功勳美德、可謂正而不可忘者。不言位而言職者、管仲位卑而執齊政。故欲以職尊之。 【読み】 余乃の勳を嘉し、乃の懿德に應じたり。督[ただ]しくして忘れられずと謂う。往きて乃の職を踐みて、朕が命に逆うこと無し、と。功勳美德、正しくして忘る可からざる者と謂う可し。位と言わずして職と言うは、管仲位卑くして齊の政を執る。故に職を以て之を尊ばんと欲するなり。 管仲受下卿之禮而還。管仲不敢以職自高、卒受本位之禮。 【読み】 管仲下卿の禮を受けて還る。管仲敢えて職を以て自ら高しとせず、卒に本位の禮を受く。 君子曰、管氏之世祀也宜哉。讓不忘其上。詩曰、愷悌君子、神所勞矣。詩、大雅。愷、樂也。悌、易也。言樂易君子、爲神所勞來。故世祀也。管仲之後、於齊沒不復見。亦舉其無驗。○愷、開在反。悌、音弟。勞、力報反。來、力代反。 【読み】 君子曰く、管氏の世々祀らるるや宜なるかな。讓りて其の上を忘れず。詩に曰く、愷悌の君子は、神の勞する所なり、と。詩は、大雅。愷は、樂しむなり。悌は、易きなり。言うこころは、樂易の君子は、神の爲に勞來せらる。故に世々祀らるるなり。管仲の後、齊に於て沒して復見れず。亦其の驗無きを舉ぐ。○愷は、開在反。悌は、音弟。勞は、力報反。來は、力代反。 〔經〕十有三年、春、狄侵衛。傳在前年春。 【読み】 〔經〕十有三年、春、狄衛を侵す。傳は前年の春に在り。 夏、四月、葬陳宣公。無傳。 【読み】 夏、四月、陳の宣公を葬る。傳無し。 公會齊侯・宋公・陳侯・衛侯・鄭伯・許男・曹伯于鹹。鹹、衛地。東郡濮陽縣東南有鹹城。 【読み】 公齊侯・宋公・陳侯・衛侯・鄭伯・許男・曹伯に鹹[かん]に會す。鹹は、衛の地。東郡濮陽縣の東南に鹹城有り。 秋、九月、大雩。無傳。書過。 【読み】 秋、九月、大いに雩[う]す。傳無し。過ぐるを書す。 冬、公子友如齊。無傳。 【読み】 冬、公子友齊に如く。傳無し。 〔傳〕十三年、春、齊侯使仲孫湫聘于周、且言王子帶。前年王子帶奔齊。言欲復之。 【読み】 〔傳〕十三年、春、齊侯仲孫湫[ちゅうそんしょう]をして周に聘し、且王子帶を言わしむ。前年王子帶齊に奔る。言いて之を復さんと欲す。 事畢。不與王言。不言子帶事。 【読み】 事畢る。王と言わず。子帶の事を言わず。 歸、復命曰、未可。王怒未怠。其十年乎。不十年、王弗召也。 【読み】 歸りて、復命して曰く、未だ可ならず。王の怒り未だ怠らず。其れ十年か。十年ならずんば、王召さじ、と。 夏、會于鹹、淮夷病杞故。且謀王室也。 【読み】 夏、鹹に會するは、淮夷杞を病ましむる故なり。且王室を謀るなり。 秋、爲戎難故、諸侯戍周。齊仲孫湫致之。戍、守也。致諸侯戍卒于周。○爲、于僞反。難、乃旦反。 【読み】 秋、戎の難の爲の故に、諸侯周を戍る。齊の仲孫湫之を致す。戍は、守るなり。諸侯の戍卒を周に致す。○爲は、于僞反。難は、乃旦反。 冬、晉荐饑。麥・禾皆不熟。○荐、在薦反。 【読み】 冬、晉荐[しき]りに饑ゆ。麥・禾皆熟せず。○荐[せん]は、在薦反。 使乞糴于秦。秦伯謂子桑、與諸乎。對曰、重施而報、君將何求。言不損秦。○施、式豉反。 【読み】 糴[てき]を秦に乞わしむ。秦伯子桑に謂う、諸を與えんか、と。對えて曰く、重く施して報いば、君將[はた]何をか求めん。言うこころは、秦を損せざるなり。○施は、式豉反。 重施而不報、其民必攜。攜而討焉、無衆必敗。不義故民離。 【読み】 重く施して報いざれば、其の民必ず攜[はな]れん。攜れて討ぜば、衆無くして必ず敗れん、と。不義の故に民離る。 謂百里、與諸乎。百里、秦大夫。 【読み】 百里に謂う、諸を與えんか、と。百里は、秦の大夫。 對曰、天災流行、國家代有。救災恤鄰、道也。行道有福。 【読み】 對えて曰く、天災の流行する、國家代る代る有り。災いを救い鄰を恤[めぐ]むは、道なり。道を行えば福有り、と。 丕鄭之子豹在秦。請伐晉。欲爲父報怨。 【読み】 丕鄭の子豹秦に在り。晉を伐たんと請う。父の爲に怨みを報いんと欲す。 秦伯曰、其君是惡、其民何罪。 【読み】 秦伯曰く、其の君是れ惡しきも、其の民何の罪かある。 秦於是乎輸粟于晉。自雍及絳相繼。雍、秦國都。絳、晉國都。○雍、於用反。 【読み】 秦是に於て粟を晉に輸[いた]す。雍より絳[こう]に及ぶまで相繼ぐ。雍は、秦の國都。絳は、晉の國都。○雍は、於用反。 命之曰汎舟之役。從渭水運入河汾。 【読み】 之を命[な]づけて汎舟の役と曰う。渭水より運びて河汾に入る。 〔經〕十有四年、春、諸侯城緣陵。緣陵、杞邑。辟淮夷、遷都于緣陵。 【読み】 〔經〕十有四年、春、諸侯緣陵に城く。緣陵は、杞の邑。淮夷を辟け、都を緣陵に遷す。 夏、六月、季姬及鄫子遇于防、使鄫子來朝。季姬、魯女。鄫夫人也。鄫子本無朝志。爲季姬所召而來。故言使鄫子來朝。鄫國、今琅邪鄫縣。○鄫、似綾反。 【読み】 夏、六月、季姬鄫子[しょうし]と防に遇い、鄫子をして來朝せしむ。季姬は、魯の女。鄫の夫人なり。鄫子本朝する志無し。季姬の爲に召されて來る。故に鄫子をして來朝せしむと言う。鄫國は、今の琅邪鄫縣。○鄫は、似綾反。 秋、八月、辛卯、沙鹿崩。沙鹿、山名。平陽元城縣東有沙鹿土山、在晉地。災害繫於所災所害。故不繫國。 【読み】 秋、八月、辛卯[かのと・う]、沙鹿崩る。沙鹿は、山の名。平陽元城縣の東に沙鹿土山有り、晉の地に在り。災害は災いある所害ある所に繫る。故に國に繫けず。 狄侵鄭。無傳。 【読み】 狄鄭を侵す。傳無し。 冬、蔡侯肸卒。無傳。未同盟而赴以名。○肸、許乙反。 【読み】 冬、蔡侯肸[きつ]卒す。傳無し。未だ同盟せずして赴[つ]ぐるに名を以てす。○肸は、許乙反。 〔傳〕十四年、春、諸侯城緣陵、而遷杞焉。不書其人、有闕也。闕、謂器用不具、城池未固而去、爲惠不終也。澶淵之會、旣而無歸、大夫不書、而國別稱人。今此揔曰諸侯、君臣之辭。不言城杞、杞未遷也。○澶、市然反。 【読み】 〔傳〕十四年、春、諸侯緣陵に城きて、杞を遷す。其の人を書さざるは、闕くること有ればなり。闕くとは、器用具わらず、城池未だ固からずして去り、惠みを爲して終わらざるを謂うなり。澶淵[せんえん]の會、旣にして歸[おく]ること無ければ、大夫書さずして、國別に人と稱せり。今此に揔[す]べて諸侯と曰うは、君臣の辭なり。杞に城くと言わざるは、杞未だ遷らざればなり。○澶は、市然反。 鄫季姬來寧。公怒止之。以鄫子之不朝也。來寧不書、而後年書歸鄫、更嫁之文也。明公絕鄫昏、旣來朝而還。○還、戶關反。 【読み】 鄫の季姬來寧す。公怒りて之を止む。鄫子の朝せざるを以てなり。來寧は書さずして、後年鄫に歸るを書すは、更めて嫁ぐの文なり。公鄫の昏を絕ち、旣に來朝して還るを明かす。○還は、戶關反。 夏、遇于防、而使來朝。 【読み】 夏、防に遇いて、來朝せしむ。 秋、八月、辛卯、沙鹿崩。晉卜偃曰、期年將有大咎。幾亡國。國主山川。山崩川竭、亡國之徵。○期、音基。咎、其九反。幾、音祈。又音機。 【読み】 秋、八月、辛卯、沙鹿崩る。晉の卜偃曰く、期年にして將に大咎有らんとす。幾ど國を亡ぼさん、と。國は山川を主る。山崩れ川竭くるは、亡國の徵なり。○期は、音基。咎は、其九反。幾は、音祈。又音機。 冬、秦饑。使乞糴于晉。晉人弗與。 【読み】 冬、秦饑ゆ。糴[てき]を晉に乞わしむ。晉人與えず。 慶鄭曰、背施無親、慶鄭、晉大夫。○背、音佩。施、式豉反。 【読み】 慶鄭曰く、施に背けば親無く、慶鄭は、晉の大夫。○背は、音佩。施は、式豉反。 幸災不仁。貪愛不祥。怒鄰不義。四德皆失、何以守國。虢射曰、皮之不存、毛將安傅。虢射、惠公舅也。皮以喩所許秦城、毛以喩糴。言旣背秦施、爲怨以深。雖與之糴、猶無皮而施毛。○傅、音附。 【読み】 災いを幸うは不仁なり。貪りて愛むは不祥なり。鄰を怒らすは不義なり。四德皆失わば、何を以て國を守らん、と。虢射[かくせき]曰く、皮の存せざる、毛將[はた]安くに傅[つ]かん、と。虢射は、惠公の舅なり。皮は以て秦に許す所の城に喩え、毛は以て糴に喩う。言うこころは、旣に秦の施しに背いて、怨みを爲すこと以[すで]に深し。之に糴を與うと雖も、猶皮無くして毛を施すがごとし。○傅は、音附。 慶鄭曰、弃信背鄰、患孰恤之。無信患作、失援必斃。是則然矣。虢射曰、無損於怨、而厚於寇。不如勿與。言與秦粟、不足解怨。適足使秦强。 【読み】 慶鄭曰く、信を弃[す]てて鄰に背かば、患えあるも孰か之を恤れまん。信無ければ患え作り、援けを失えば必ず斃る、と。是れ則ち然り、と。虢射曰く、怨みに損無くして、寇を厚くす。與うること勿からんに如かず、と。言うこころは、秦に粟を與うとも、怨みを解くに足らず。適に秦を强からしむるに足れり。 慶鄭曰、背施幸災、民所弃也。近猶讎之。況怨敵乎。弗聽。退曰、君其悔是哉。 【読み】 慶鄭曰く、施に背き災いを幸うは、民の弃つる所なり。近きも猶之を讎とす。況んや怨敵をや、と。聽かず。退いて曰く、君其れ是を悔いんかな、と。 〔經〕十有五年、春、王正月、公如齊。無傳。諸侯五年再相朝。禮也。例在文十五年。 【読み】 〔經〕十有五年、春、王の正月、公齊に如く。傳無し。諸侯五年に再び相朝す。禮なり。例は文十五年に在り。 楚人伐徐。三月、公會齊侯・宋公・陳侯・衛侯・鄭伯・許男・曹伯盟于牡丘。牡丘、地名。闕。 【読み】 楚人徐を伐つ。三月、公齊侯・宋公・陳侯・衛侯・鄭伯・許男・曹伯に會して牡丘に盟う。牡丘は、地の名。闕く。 遂次于匡。匡、衛地。在陳留長垣縣西南。 【読み】 遂に匡に次[やど]る。匡は、衛の地。陳留長垣縣の西南に在り。 公孫敖帥師、及諸侯之大夫救徐。公孫敖、慶父之子。諸侯旣盟次匡、皆遣大夫將兵救徐。故不復具列國別也。 【読み】 公孫敖師を帥いて、諸侯の大夫と徐を救う。公孫敖は、慶父の子。諸侯旣に盟いて匡に次り、皆大夫をして兵を將[ひき]いて徐を救わしむ。故に復具列して國別せざるなり。 夏、五月、日有食之。秋、七月、齊師・曹師伐厲。厲、楚與國。義陽隨縣北有厲郷。 【読み】 夏、五月、日之を食する有り。秋、七月、齊師・曹師厲を伐つ。厲は、楚の與國。義陽隨縣の北に厲郷有り。 八月、螽。無傳。爲災。 【読み】 八月、螽[しゅう]あり。傳無し。災いを爲す。 九月、公至自會。無傳。 【読み】 九月、公會より至る。傳無し。 季姬歸于鄫。無傳。來寧不書、此書者、以明中絕。○中、丁仲反。又如字。 【読み】 季姬鄫[しょう]に歸る。傳無し。來寧書さずして、此に書すは、以て中絕を明らかにするなり。○中は、丁仲反。又字の如し。 己卯、晦、震夷伯之廟。夷伯、魯大夫。展氏之祖父。夷、謚。伯、字。震者、雷電擊之。大夫旣卒、書字。 【読み】 己卯[つちのと・う]、晦、夷伯の廟に震す。夷伯は、魯の大夫。展氏の祖父。夷は、謚。伯は、字。震は、雷電之を擊つなり。大夫旣に卒すれば、字を書す。 冬、宋人伐曹。楚人敗徐于婁林。婁林、徐地。下邳僮縣東南有婁亭。○婁、力侯反。 【読み】 冬、宋人曹を伐つ。楚人徐を婁林に敗る。婁林は、徐の地。下邳僮縣の東南に婁亭有り。○婁は、力侯反。 十有一月、壬戌、晉侯及秦伯戰于韓。獲晉侯。例得大夫曰獲。晉侯背施無親、愎諫違卜。故貶絕、下從衆臣之例、而不言以歸。不書敗績、晉師不大崩。○愎、皮逼反。 【読み】 十有一月、壬戌[みずのえ・いぬ]、晉侯秦伯と韓に戰う。晉侯を獲たり。例に大夫を得るを獲と曰う。晉侯施に背きて親無く、諫めに愎[もと]り卜に違う。故に貶絕して、下衆臣の例に從いて、以[い]て歸ると言わず。敗績を書さざるは、晉の師大いに崩れざればなり。○愎[ひょく]は、皮逼反。 〔傳〕十五年、春、楚人伐徐、徐卽諸夏故也。 【読み】 〔傳〕十五年、春、楚人徐を伐つは、徐諸夏に卽く故なり。 三月、盟于牡丘、尋葵丘之盟、且救徐也。葵丘之盟、在九年。 【読み】 三月、牡丘に盟うは、葵丘の盟を尋[かさ]ね、且徐を救うなり。葵丘の盟は、九年に在り。 孟穆伯帥師、及諸侯之師救徐。諸侯次于匡以待之。 【読み】 孟穆伯師を帥いて、諸侯の師と徐を救う。諸侯匡に次りて以て之を待つ。 夏、五月、日有食之。不書朔與日、官失之也。 【読み】 夏、五月、日之を食する有り。朔と日とを書さざるは、官之を失うなり。 秋、伐厲、以救徐也。 【読み】 秋、厲を伐つは、以て徐を救うなり。 晉侯之入也、秦穆姬屬賈君焉。晉侯入、在九年。穆姬、申生姊、秦穆夫人。賈君、晉獻公次妃、賈女也。○屬、音燭。 【読み】 晉侯の入るや、秦の穆姬賈君を屬す。晉侯入るは、九年に在り。穆姬は、申生の姊、秦の穆夫人なり。賈君は、晉の獻公の次妃、賈の女なり。○屬は、音燭。 且曰、盡納羣公子。羣公子、晉武・獻之族。宣二年傳曰、驪姬之亂、詛無畜羣公子。○詛、莊據反。 【読み】 且曰く、盡く羣公子を納れよ、と。羣公子は、晉の武・獻の族。宣二年の傳に曰く、驪姬の亂に、羣公子を畜うこと無からんと詛[ちか]えり、と。○詛は、莊據反。 晉侯烝於賈君、又不納羣公子。是以穆姬怨之。晉侯許賂中大夫、中大夫、國内執政、里・丕等。 【読み】 晉侯賈君に烝して、又羣公子を納れず。是を以て穆姬之を怨む。晉侯賂を中大夫に許して、中大夫は、國内の執政、里・丕等。 旣而皆背之。賂秦伯以河外列城五、東盡虢略、南及華山、内及解梁城。旣而不與。河外、河南也。東盡虢略、從河南而東、盡虢界也。解梁城、今河東解縣也。華山、在弘農華陰縣西南。○解、音蟹。 【読み】 旣にして皆之に背く。秦伯に賂うに河外の列城五つ、東は虢略を盡くし、南は華山に及ぶと、内は解梁城に及ぶまでとを以てす。旣にして與えず。河外は、河南なり。東は虢略を盡くすとは、河南よりして東、虢の界を盡くすなり。解梁城は、今の河東の解縣なり。華山は、弘農華陰縣の西南に在り。○解は、音蟹。 晉饑、秦輸之粟、在十三年。 【読み】 晉饑ゆるとき、秦之に粟を輸[いた]し、十三年に在り。 秦饑、晉閉之糴。在十四年。 【読み】 秦饑ゆるとき、晉之が糴[てき]を閉ず。十四年に在り。 故秦伯伐晉。 【読み】 故に秦伯晉を伐つ。 卜徒父筮之。吉。徒父、秦之掌龜卜者。卜人而用筮、不能通三易之占。故據其所見雜占而言之。 【読み】 卜徒父之を筮す。吉なり。徒父は、秦の龜卜を掌る者。卜人にして筮を用ゆれば、三易の占に通ずること能わず。故に其の見る所の雜占に據りて之を言う。 涉河、侯車敗。詰之。秦伯之軍涉河、則晉侯車敗也。秦伯不解。謂敗在己。故詰之。○詰、起吉反。 【読み】 河を涉らば、侯の車敗れん、と。之を詰[なじ]る。秦伯の軍河を涉らば、則ち晉侯の車敗れん。秦伯解せず。敗己に在りと謂[おも]う。故に之を詰る。○詰は、起吉反。 對曰、乃大吉也。三敗、必獲晉君。其卦遇蠱。巽下艮上蠱。 【読み】 對えて曰く、乃ち大吉なり。三敗して、必ず晉君を獲ん。其の卦蠱に遇えり。巽下艮上は蠱なり。 曰、千乘三去。三去之餘、獲其雄狐。夫狐蠱、必其君也。於周易、利涉大川。往有事也。亦秦勝晉之卦也。今此所言、蓋卜筮書雜辭。以狐蠱爲君、其義欲以喩晉惠公。其象未聞。○去、起居反。又起據反。一起呂反。 【読み】 曰く、千乘三去す。三去の餘は、其の雄狐を獲ん、と。夫れ狐は蠱なれば、必ず其の君ならん。周易に於ては、大川を涉るに利あり。往きて事有るなり。亦秦晉に勝つの卦なり。今此の言う所は、蓋し卜筮書の雜辭ならん。狐蠱を以て君と爲すは、其の義以て晉の惠公に喩えんと欲するなり。其の象は未だ聞かず。○去は、起居反。又起據反。一に起呂反。 蠱之貞、風也。其悔、山也。内卦爲貞。外卦爲悔。巽爲風。秦象。艮爲山。晉象。 【読み】 蠱の貞は、風なり。其の悔は、山なり。内卦を貞と爲す。外卦を悔と爲す。巽を風と爲す。秦の象なり。艮を山と爲す。晉の象なり。 歲云秋矣。我落其實、而取其材。所以克也。周九月、夏之七月、孟秋也。艮爲山。山有木。今歲已秋。風吹落山木之實、則材爲人所取。 【読み】 歲云[ここ]に秋なり。我れ其の實を落して、其の材を取る。克つ所以なり。周の九月は、夏の七月、孟秋なり。艮を山と爲す。山に木有り。今歲已に秋なり。風山木の實を吹き落せば、則ち材人の爲に取らる。 實落材亡。不敗何待。 【読み】 實落ち材亡ぶ。敗れずして何をか待たん、と。 三敗及韓。晉侯車三壞。 【読み】 三たび敗れて韓に及ぶ。晉侯の車三たび壞る。 晉侯謂慶鄭曰、寇深矣。若之何。對曰、君實深之。可若何。公曰、不孫。卜右。慶鄭吉。弗使。惡其不孫、不以爲車右。此夷吾之多忌。○孫、音遜。 【読み】 晉侯慶鄭に謂いて曰く、寇深し。之を若何にせん、と。對えて曰く、君實に之を深くす。若何にす可けん、と。公曰く、不孫なり、と。右を卜す。慶鄭吉なり。使わず。其の不孫を惡みて、以て車右と爲さず。此れ夷吾の多忌なり。○孫は、音遜。 步揚御戎、家僕徒爲右、步揚、郤犨之父。 【読み】 步揚戎に御となり、家僕徒右と爲り、步揚は、郤犨[げきしゅう]の父。 乘小駟。鄭入也。鄭所獻馬。名小駟。 【読み】 小駟に乘る。鄭の入れしなり。鄭の獻ずる所の馬。小駟と名づく。 慶鄭曰、古者大事、必乘其產。生其水土、而知其人心、安其敎訓、而服習其道。唯所納之、無不如志。今乘異產、以從戎事。及懼而變、將與人易。變易人意。 【読み】 慶鄭曰く、古者[いにしえ]大事には、必ず其の產に乘る。其の水土に生じて、其の人心を知り、其の敎訓に安んじて、其の道に服習す。唯之を納るる所のままにして、志の如くならざること無し。今は異產に乘りて、以て戎事に從わんとす。懼るるに及びて變ぜば、將に人と易わらんとす。人意に變易す。 亂氣狡憤、陰血周作、張脈僨興。外彊中乾。狡、戾也。僨、動也。氣狡憤於外、則血脈必周身而作、隨氣張動。外雖有彊形、而内實乾竭。○憤、扶粉反。張、中亮反。僨、方問反。 【読み】 亂氣狡憤すれば、陰血周作して、張脈僨興す。外彊きも中乾く。狡は、戾[もと]るなり。僨は、動くなり。氣外に狡憤すれば、則ち血脈必ず身を周りて作り、氣に隨いて張動す。外彊形有りと雖も、而れども内實に乾竭す。○憤は、扶粉反。張は、中亮反。僨は、方問反。 進退不可、周旋不能。君必悔之。弗聽。 【読み】 進退可ならず、周旋能わず。君必ず之を悔いん、と。聽かず。 九月、晉侯逆秦師。使韓簡視師。韓簡、晉大夫韓萬之孫。 【読み】 九月、晉侯秦の師を逆[むか]う。韓簡をして師を視せしむ。韓簡は、晉の大夫韓萬の孫。 復曰、師少於我、鬭士倍我。公曰、何故。對曰、出因其資、謂奔梁求秦。 【読み】 復して曰く、師は我より少なくして、鬭士は我に倍せり、と。公曰く、何の故ぞ、と。對えて曰く、出づるとき其の資に因り、梁に奔りて秦に求むるを謂う。 入用其寵、爲秦所納。 【読み】 入るとき其の寵を用い、秦の爲に納れらる。 饑食其粟。三施而無報。是以來也。今又擊之。我怠秦奮。倍猶未也。公曰、一夫不可狃。況國乎。狃、忕也。言辟秦則使忕來。○施、式氏反。忕、時世反。又時設反。 【読み】 饑ゆるとき其の粟を食いぬ。三たび施して報ゆること無し。是を以て來れり。今又之を擊つ。我は怠り秦は奮う。倍すというも猶未だし、と。公曰く、一夫も狃れしむ可からず。況んや國をや、と。狃[じゅう]は、忕[な]れるなり。言うこころは、秦を辟けば則ち忕れ來らしめん。○施は、式氏反。忕[せつ]は、時世反。又時設反。 *忕は、立心偏に犬とある。 遂使請戰、曰、寡人不佞。能合其衆、而不能離也。君若不還、無所逃命。秦伯使公孫枝對曰、君之未入、寡人懼之。入而未定列、猶吾憂也。列、位也。 【読み】 遂に戰を請わしめて、曰く、寡人不佞なり。能く其の衆を合わせて、離つこと能わざるなり。君若し還らずんば、命を逃るる所無し、と。秦伯公孫枝をして對えしめて曰く、君の未だ入らざるや、寡人之を懼れぬ。入りて未だ列を定めざるや、猶吾が憂えなりき。列は、位なり。 苟列定矣。敢不承命。韓簡退曰、吾幸而得囚。得囚爲幸。言必敗。 【読み】 苟も列定りぬ。敢えて命を承けざらんや、と。韓簡退いて曰く、吾れ幸いにして囚わるることを得ん、と。囚わるることを得るを幸いとす。必ず敗るるを言う。 壬戌、戰于韓原。九月十三日。 【読み】 壬戌、韓原に戰う。九月十三日。 晉戎馬還、濘而止。濘、泥也。還、便旋也。小駟不調。故隋泥中。○濘、乃定反。隋、大果反。 【読み】 晉の戎馬還し、濘にして止まる。濘は、泥なり。還は、便旋なり。小駟調わず。故に泥中に隋[お]つ。○濘は、乃定反。隋は、大果反。 公號慶鄭。慶鄭曰、愎諫違卜、愎、戾也。○號、戶刀反。又戶報反。 【読み】 公慶鄭を號[よ]ぶ。慶鄭曰く、諫めに愎[もと]り卜に違い、愎は、戾るなり。○號は、戶刀反。又戶報反。 固敗是求。又何逃焉。遂去之。 【読み】 固より敗を是れ求めり。又何ぞ逃れん、と。遂に之を去る。 梁由靡御韓簡、虢射爲右、輅秦伯、將止之、輅、迎也。止、獲也。○輅、五嫁反。 【読み】 梁由靡韓簡に御となり、虢射右と爲り、秦伯を輅[むか]えて、將に之を止[え]んとするを、輅は、迎うなり。止は、獲るなり。○輅は、五嫁反。 鄭以救公誤之、遂失秦伯。秦獲晉侯以歸。經書十一月壬戌。十四日。經從赴。 【読み】 鄭公を救えというを以て之を誤らせ、遂に秦伯を失う。秦晉侯を獲て以[い]て歸る。經は十一月壬戌に書す。十四日なり。經は赴[つ]ぐるに從うなり。 晉大夫反首拔舍從之。反首、亂頭髮下垂也。拔、草。舍、止。壞形毀服。○拔、蒲末反。 【読み】 晉の大夫反首拔舍して之に從う。反首は、頭髮を亂して下り垂るるなり。拔は、草。舍は、止まる。形を壞り服を毀るなり。○拔は、蒲末反。 秦伯使辭焉、曰、二三子何其慼也。寡人之從君而西也、亦晉之妖夢是踐。豈敢以至。狐突不寐、而與神言。故謂之妖夢。申生言、帝許罰有罪。今將晉君而西、以厭息此語。踐、厭也。○厭、於冉反。又於輒反。 【読み】 秦伯辭せしめて、曰く、二三子何ぞ其れ慼[うれ]うるや。寡人が君に從いて西するや、亦晉の妖夢を是れ踐[お]さんとなり。豈敢えて以て至らんや、と。狐突寐ずして、神と言う。故に之を妖夢と謂う。申生言う、帝有罪を罰するを許す、と。今晉君を將いて西するは、以て此の語を厭息せんとなり。踐は、厭[お]すなり。○厭は、於冉反。又於輒反。 晉大夫三拜稽首曰、君履后土而戴皇天。皇天后土實聞君之言。羣臣敢在下風。 【読み】 晉の大夫三拜稽首して曰く、君后土を履みて皇天を戴く。皇天后土實に君の言を聞けり。羣臣敢えて下風に在り、と。 穆姬聞晉侯將至、以大子罃・弘、與女簡璧、登臺而履薪焉、罃、康公名。弘、其母弟也。簡璧、罃・弘姊妹。古之宮閉者、皆居之臺抗絕之。穆姬欲自罪。故登臺而荐之以薪。左右上下者、皆履柴乃得通。○罃、於耕反。 【読み】 穆姬晉侯の將に至らんとするを聞き、大子罃[おう]・弘と、女簡璧とを以[い]て、臺に登りて薪を履み、罃は、康公の名。弘は、其の母弟なり。簡璧は、罃・弘の姊妹。古の宮閉ずる者は、皆之を臺に居[お]きて之を抗絕す。穆姬自ら罪せんと欲す。故に臺に登りて之を荐[かこ]うに薪を以てす。左右の上下する者、皆柴を履みて乃ち通ずることを得。○罃は、於耕反。 使以免服衰絰逆、且告、免・衰・絰、遭喪之服。令行人服此服迎秦伯、且告將以恥辱自殺。○免、音問。衰、七雷反。絰、大結反。 【読み】 以て免[ぶん]して衰絰[さいてつ]を服して逆[むか]え、且つ告げしめて、免・衰・絰は、喪に遭うの服。行人をして此の服を服して秦伯を迎えしめ、且將に恥辱を以て自殺せんとするを告ぐ。○免は、音問。衰は、七雷反。絰は、大結反。 曰、上天降災、使我兩君、匪以玉帛相見、而以興戎。若晉君朝以入、則婢子夕以死。夕以入、則朝以死。唯君裁之。乃舍諸靈臺。在京兆鄠縣。周之故臺。亦所以抗絕令不得通外内。 【読み】 曰く、上天災いを降して、我が兩君をして、玉帛を以て相見ゆるに匪ずして、以て戎を興さしむ。若し晉君朝に以て入らば、則ち婢子夕に以て死なん。夕に以て入らば、則ち朝に以て死なん。唯君之を裁せよ、と。乃ち諸を靈臺に舍く。京兆鄠縣に在り。周の故臺なり。亦抗絕して外内を通ずることを得ざらしむる所以なり。 大夫請以入。公曰、獲晉侯、以厚歸也。旣而喪歸焉用之。若將晉侯入、則夫人或自殺。 【読み】 大夫以[い]て入らんと請う。公曰く、晉侯を獲るは、厚を以て歸るなり。旣にして喪をもて歸らんこと焉んぞ之を用いん。若し晉侯を將いて入らば、則ち夫人或は自殺せん。 大夫其何有焉。何有、猶何得。 【読み】 大夫其れ何か有らん。何か有らんとは、猶何をか得んというがごとし。 且晉人慼憂以重我、謂反首拔舍。 【読み】 且つ晉人慼憂以て我に重ね、反首拔舍を謂う。 天地以要我。不圖晉憂、重其怒也。我食吾言、背天地也。食、消也。○重、直用反。 【読み】 天地以て我に要す。晉の憂えを圖らざるは、其の怒りを重ぬるなり。我れ吾が言を食[け]すは、天地に背くなり。食は、消すなり。○重は、直用反。 重怒難任、背天不祥。必歸晉君。任、當也。○任、音壬。 【読み】 怒りを重ぬれば任[た]え難く、天に背くは不祥なり。必ず晉君を歸さん、と。任は、當たるなり。○任は、音壬。 公子縶曰、不如殺之。無聚慝焉。公子縶、秦大夫。恐夷吾歸、復相聚爲惡。○縶、張執反。慝、他得反。 【読み】 公子縶[ちゅう]曰く、之を殺すに如かず。聚慝せしむること無かれ、と。公子縶は、秦の大夫。恐らくは、夷吾歸らば、復相聚まりて惡を爲さん。○縶は、張執反。慝は、他得反。 子桑曰、歸之而質其大子、必得大成。晉未可滅。而殺其君、祗以成惡。祗、適也。○質、音置。祗、音支。 【読み】 子桑曰く、之を歸して其の大子を質にせば、必ず大成を得ん。晉は未だ滅ぼす可からず。而るを其の君を殺さば、祗[まさ]に以て惡を成さん。祗は、適になり。○質は、音置。祗は、音支。 且史佚有言曰、無始禍。史佚、周武王時大史。名、佚。 【読み】 且つ史佚[しいつ]言えること有り曰く、禍を始むること無かれ。史佚は、周の武王の時の大史。名は、佚。 無怙亂。恃人亂爲己利。 【読み】 亂を怙[たの]むこと無かれ。人の亂を恃みて己が利とす。 無重怒。重怒難任、陵人不祥。乃許晉平。 【読み】 怒りを重ぬること無かれ、と。怒りを重ぬれば任え難く、人を陵ぐは不祥なり、と。乃ち晉の平らぎを許す。 晉侯使郤乞告瑕呂飴甥、且召之。郤乞、晉大夫也。瑕呂飴甥、卽呂甥也。蓋姓、瑕呂。名、飴甥。字、子金。晉侯聞秦將許之平。故告呂甥、召使迎己。○飴、音怡。 【読み】 晉侯郤乞[げきこつ]をして瑕呂飴甥[かりょいせい]に告げ、且つ之を召さしむ。郤乞は、晉の大夫なり。瑕呂飴甥は、卽ち呂甥なり。蓋し姓は、瑕呂。名は、飴甥。字は、子金ならん。晉侯秦の將に之に平らぎを許さんとするを聞く。故に呂甥に告げて、召して己を迎えしむ。○飴は、音怡。 子金敎之言曰、朝國人、而以君命賞、恐國人不從。故先賞之於朝。 【読み】 子金之に言を敎えて曰く、國人を朝せしめて、君命を以て賞し、國人の從わざるを恐る。故に先ず之を朝に賞す。 且告之曰、孤雖歸、辱社稷矣。其卜貳圉也。貳、代也。圉、惠公大子、懷公。 【読み】 且之に告げて曰く、孤歸ると雖も、社稷を辱めたり。其れ卜して圉を貳[か]わりにせよ、と。貳は、代わるなり。圉は、惠公の大子、懷公。 衆皆哭。哀君不還國。 【読み】 衆皆哭す。君の國に還らざるを哀れむ。 晉於是乎作爰田。分公田之稅、應入公者、爰之於所賞之衆。 【読み】 晉是に於て爰田[えんでん]を作る。公田の稅の、應に公に入るべき者を分かちて、之を賞する所の衆に爰[か]う。 呂甥曰、君亡之不恤、而羣臣是憂。惠之至也。將若君何。衆曰、何爲而可。對曰、征繕以輔孺子。征、賦也。繕、治也。孺子、大子圉。 【読み】 呂甥曰く、君亡を恤えずして、羣臣を是れ憂う。惠の至りなり。將に君を若何にせんとする、と。衆曰く、何を爲して可ならん、と。對えて曰く、征繕して以て孺子を輔けん。征は、賦なり。繕は、治むるなり。孺子は、大子圉。 諸侯聞之、喪君有君、羣臣輯睦、甲兵益多、好我者勸、惡我者懼。庶有益乎。衆說。晉於是乎作州兵。五黨爲州。州、二千五百家也。因此又使州長各繕甲兵。○喪、息浪反。輯、音集。又七入反。 【読み】 諸侯之を聞きしに、君を喪いて君有り、羣臣輯睦して、甲兵益々多くば、我を好する者は勸み、我を惡む者は懼れん。庶わくは益有らんか、と。衆說ぶ。晉是に於て州兵を作る。五黨を州と爲す。州は、二千五百家なり。此に因りて又州長をして各々甲兵を繕[おさ]めしむ。○喪は、息浪反。輯は、音集。又七入反。 初、晉獻公筮嫁伯姬於秦。遇歸妹 兌下震上歸妹。 【読み】 初め、晉の獻公伯姬を秦に嫁せんことを筮す。歸妹の 兌下震上は歸妹。 之睽。兌下離上睽。歸妹上六變而爲睽。 【読み】 睽[けい]に之くに遇えり。兌下離上は睽。歸妹の上六變じて睽と爲る。 史蘇占之。曰、不吉。史蘇、晉卜筮之史。 【読み】 史蘇之を占う。曰く、不吉なり。史蘇は、晉の卜筮の史。 其繇曰、士刲羊、亦無衁也、女承筐、亦無貺也。周易歸妹上六爻辭也。衁、血也。貺、賜也。刲羊、士之功。承筐、女之職。上六無應。所求不獲。故下刲無血、上承無實。不吉之象也。離爲中女、震爲長男。故稱士女。○繇、直救反。刲、苦圭反。衁、音荒。中、丁仲反。 【読み】 其の繇[ちゅう]に曰く、士羊を刲[さ]すも、亦衁[こう]無く、女筐を承くるも、亦貺[たまもの]無し、と。周易歸妹上六の爻辭なり。衁は、血なり。貺は、賜なり。羊を刲すは、士の功。筐を承くるは、女の職。上六應無し。求むる所獲ず。故に下刲すに血無く、上承くるに實無し。不吉の象なり。離を中女と爲し、震を長男と爲す。故に士女と稱す。○繇は、直救反。刲は、苦圭反。衁は、音荒。中は、丁仲反。 西鄰責言、不可償也。將嫁女於西、而遇不吉之卦。故知有責讓之言、不可報償。○鄰責、音債。又如字。償、市亮反。又音常。 【読み】 西鄰の責言は、償う可からざるなり。將に女を西に嫁せんとして、不吉の卦に遇う。故に責讓の言有り、報償す可からざるを知る。○鄰責は、音債。又字の如し。償は、市亮反。又音常。 歸妹之睽、猶無相也。歸妹、女嫁之卦。睽、乖離之象。故曰無相。相、助也。○相、息亮反。 【読み】 歸妹の睽に之くも、猶相[たす]け無きなり。歸妹は、女嫁の卦。睽は、乖離の象。故に相け無しと曰う。相は、助けなり。○相は、息亮反。 震之離、亦離之震。二卦變而氣相通。 【読み】 震離に之き、亦離震に之く。二卦變じて氣相通ず。 爲雷爲火、爲嬴敗姬。嬴、秦姓。姬、晉姓。震爲雷、離爲火。火動熾而害其母、女嫁反害其家之象。故曰爲嬴敗姬。 【読み】 雷と爲し火と爲し、嬴[えい]姬を敗ると爲す。嬴は、秦の姓。姬は、晉の姓。震を雷と爲し、離を火と爲す。火動熾して其の母を害するは、女嫁して反って其の家を害するの象なり。故に嬴姬を敗ると爲すと曰う。 車說其輹、火焚其旗。不利行師。敗于宗丘。輹、車下縛也。丘、猶邑也。震爲車、離爲火。上六爻在震則無應。故車脫輹。在離則失位。故火焚旗。言皆失車火之用也。車敗旗焚。故不利行師。火還害母。故敗不出國、近在宗邑。○說、吐活反。輹、音福。又音服。 【読み】 車其の輹を說き、火其の旗を焚く。師を行[や]るに利あらず。宗丘に敗れん。輹は、車下の縛なり。丘は、猶邑のごとし。震を車と爲し、離を火と爲す。上六の爻震に在りて則ち應無し。故に車輹を脫[と]く。離に在りては則ち位を失う。故に火旗を焚く。皆車火の用を失うを言うなり。車敗れ旗焚く。故に師を行るに利あらず。火還って母を害す。故に敗れて國を出でずして、近く宗邑に在り。○說は、吐活反。輹は、音福。又音服。 歸妹睽孤、寇張之弧。此睽上九爻辭也。處睽之極。故曰睽孤。失位孤絕。故遇寇難、而有弓矢之警。皆不吉之象。 【読み】 歸妹の睽孤、寇之が弧[ゆみ]を張る。此れ睽の上九の爻辭なり。睽の極に處る。故に睽孤と曰う。位を失い孤絕す。故に寇難に遇いて、弓矢の警め有り。皆不吉の象なり。 姪其從姑。震爲木、離爲火。火從木生。離爲震妹。於火爲姑。謂我姪者、我謂之姑。謂子圉質秦。○姪、待結反。字林、丈一反。 【読み】 姪其れ姑に從わん。震を木と爲し、離を火と爲す。火は木より生ず。離は震の妹と爲す。火に於ては姑爲り。我を姪と謂う者は、我れ之を姑と謂う。子圉秦に質たるを謂う。○姪は、待結反。字林に、丈一反。 六年其逋、逃歸其國、而弃其家。逋、亡也。家、謂子圉婦懷嬴。○逋、補吾反。 【読み】 六年其れ逋[のが]れ、其の國に逃げ歸りて、其の家を弃[す]てん。逋は、亡[のが]るるなり。家は、子圉の婦懷嬴[かいえい]を謂う。○逋は、補吾反。 明年、其死於高梁之虛。惠公死之明年、文公入殺懷公于高梁。高梁、晉地、在平陽楊氏縣西南。凡筮者用周易、則其象可推。非此而往、則臨時占者或取於象、或取於氣、或取於時日王相、以成其占。若盡附會以爻象、則構虛而不經。故略言其歸趣。他皆放此。○虛、去魚反。王、于況反。相、息亮反。 【読み】 明年、其れ高梁の虛に死せん、と。惠公死するの明年、文公入りて懷公を高梁に殺す。高梁は、晉の地、平陽楊氏縣の西南に在り。凡そ筮者周易を用ゆれば、則ち其の象推す可し。此に非ざるよりは、則ち時に臨みて占者或は象に取り、或は氣に取り、或は時日王相に取りて、以て其の占を成す。若し盡く附會するに爻象を以てせば、則ち虛を構えて不經なり。故に略々其の歸趣を言うのみ。他も皆此に放え。○虛は、去魚反。王は、于況反。相は、息亮反。 及惠公在秦、曰、先君若從史蘇之占、吾不及此夫。韓簡侍曰、龜、象也。筮、數也。物生而後有象。象而後有滋。滋而後有數。先君之敗德及。可數乎。史蘇是占、勿從何益。言龜以象示、筮以數告。象數相因而生、然後有占。占所以知吉凶、不能變吉凶。故先君敗德、非筮數所生。雖復不從史蘇、不能益禍。○夫、音扶。先君之敗德及、絕句。可數乎、一讀、及可數乎。數、色主反。復、扶又反。 【読み】 惠公の秦に在るに及びて、曰く、先君若し史蘇の占に從わば、吾れ此に及ばざらんか、と。韓簡侍して曰く、龜は、象なり。筮は、數なり。物生じて而して後に象有り。象ありて而して後に滋ること有り。滋りて而して後に數有り。先君の敗德にて及べり。數なる可けんや。史蘇の是の占、從うこと勿きも何ぞ益[ま]さん。言うこころは、龜は象を以て示し、筮は數を以て告ぐ。象數相因りて生じて、然して後に占有り。占は吉凶を知る所以にして、吉凶を變ずること能わず。故に先君の敗德は、筮數の生ずる所に非ず。復史蘇に從わずと雖も、禍を益すこと能わず。○夫は、音扶。先君之敗德及は、絕句。可數乎は、一に讀む、及可數乎(數う可きに及ばんや)、と。數は、色主反。復は、扶又反。 詩曰、下民之孼、匪降自天。僔沓背憎、職競由人。詩、小雅。言民之有邪惡、非天所降、僔沓面語、背相憎疾。皆人競所主作。因以諷諫惠公有以召此禍也。○僔、尊本反。 【読み】 詩曰く、下民の孼[わざわい]は、天より降るに匪ず。僔沓[そんとう]して背けば憎み、競うを職[つかさど]るは人に由る、と。詩は、小雅。民の邪惡有るは、天の降す所に非ず、僔沓して面語し、背いて相憎疾す。皆人の競いて主作する所なるを言う。因りて以て惠公以て此の禍を召すこと有るを諷諫す。○僔は、尊本反。 震夷伯之廟、罪之也。於是展氏有隱慝焉。隱惡、非法所得。尊貴、罪所不加。是以聖人因天地之變、自然之妖、以感動之。知達之主、則識先聖之情以自厲、中下之主、亦信妖祥以不妄、神道助敎、唯此爲深。○知、音智。 【読み】 夷伯の廟に震すとは、之を罪するなり。是に於て展氏隱慝有り。隱惡は、法の得る所に非ず。尊貴は、罪の加えざる所なり。是を以て聖人天地の變、自然の妖に因りて、以て之を感動す。知達の主は、則ち先聖の情を識りて以て自ら厲[はげ]み、中下の主も、亦妖祥を信じて以て妄りならず、神道の敎えを助くる、唯此を深しとす。○知は、音智。 冬、宋人伐曹、討舊怨也。莊十四年、曹與諸侯伐宋。 【読み】 冬、宋人曹を伐つは、舊怨を討ずるなり。莊十四年、曹諸侯と宋を伐てり。 楚敗徐于婁林、徐恃救也。恃齊救。 【読み】 楚徐を婁林に敗るは、徐救いを恃めばなり。齊の救いを恃むなり。 十月、晉陰飴甥會秦伯、盟于王城。陰飴甥、卽呂甥也。食采於陰。故曰陰飴甥。王城、秦地。馮翊臨晉縣東有王城。今名武郷。 【読み】 十月、晉の陰飴甥秦伯に會して、王城に盟う。陰飴甥は、卽ち呂甥なり。陰に食采す。故に陰飴甥と曰う。王城は、秦の地。馮翊臨晉縣の東に王城有り。今武郷と名づく。 秦伯曰、晉國和乎。對曰、不和。小人恥失其君、而悼喪其親、痛其親爲秦所殺。 【読み】 秦伯曰く、晉國和するか、と。對えて曰く、和せず。小人は其の君を失うことを恥じて、其の親を喪うことを悼み、其の親秦の爲に殺さるるを痛む。 不憚征繕以立圉也。曰、必報讎。寧事戎狄。君子愛其君而知其罪、不憚征繕以待秦命。曰、必報德。有死無二。以此不和。秦伯曰、國謂君何。對曰、小人慼謂之不免、君子恕、以爲必歸。小人曰、我毒秦。秦豈歸君。毒、謂三施不報。 【読み】 征繕を憚らずして以て圉を立てんとす。曰く、必ず讎を報いん。寧ろ戎狄に事えんや、と。君子は其の君を愛して其の罪を知り、征繕を憚らずして以て秦の命を待つ。曰く、必ず德に報いん。死すること有るとも二無からん、と。此を以て和せず、と。秦伯曰く、國君を何とか謂うや、と。對えて曰く、小人は慼えて之を免れずと謂い、君子は恕[はか]りて、以爲えらく、必ず歸らん、と。小人は曰く、我れ秦に毒せり。秦豈君を歸さんや、と。毒は、三施報いざるを謂う。 君子曰、我知罪矣。秦必歸君。貳而執之、服而舍之、德莫厚焉、刑莫威焉。服者懷德、貳者畏刑、此一役也。言還惠公、使諸侯威服、復可當一事之功。○舍、如字。又音捨。還、音環。 【読み】 君子は曰く、我れ罪を知れり。秦必ず君を歸さん。貳して之を執え、服して之を舍[ゆる]すは、德焉より厚きは莫く、刑焉より威なるは莫し。服する者德に懷き、貳ある者刑を畏れば、此れ一役なり。言うこころは、惠公を還して、諸侯をして威服せしめば、復一事の功に當たる可べし。○舍は、字の如し。又音捨。還は、音環。 秦可以霸。納而不定、廢而不立、以德爲怨、秦不其然。秦伯曰、是吾心也。改館晉侯、饋七牢焉。牛・羊・豕各一爲一牢。 【読み】 秦以て霸たる可し。納れて定めず、廢てて立てず、德を以て怨みと爲すは、秦其れ然らざらん、と。秦伯曰く、是れ吾が心なり、と。改めて晉侯を館して、七牢を饋[おく]りぬ。牛・羊・豕各一を一牢とす。 蛾析謂慶鄭曰、盍行乎。蛾析、晉大夫也。○蛾、魚綺反。一五何反。 【読み】 蛾析[ぎせき]慶鄭に謂いて曰く、盍ぞ行[さ]らざるや、と。蛾析は、晉の大夫なり。○蛾は、魚綺反。一に五何反。 對曰、陷君於敗、謂呼不往、誤晉師、失秦伯。 【読み】 對えて曰く、君を敗に陷れ、呼べども往かず、晉の師を誤らして、秦伯を失わするを謂う。 敗而不死、又使失刑、非人臣也。臣而不臣、行將焉入。十一月、晉侯歸。丁丑、殺慶鄭而後入。丁丑、月二十九日。 【読み】 敗れて死せず、又刑を失わしめば、人臣に非ざるなり。臣にして不臣なるは、行るも將に焉[いずく]に入らんとする、と。十一月、晉侯歸る。丁丑[ひのと・うし]、慶鄭を殺して而して後に入る。丁丑は、月の二十九日。 是歲晉又饑。秦伯又餼之粟。曰、吾怨其君、而矜其民。且吾聞、唐叔之封也、箕子曰、其後必大。晉其庸可冀乎。唐叔、晉始封之君。武王之子。箕子、殷王帝乙之子。紂之庶兄。○餼、許氣反。 【読み】 是の歲晉又饑ゆ。秦伯又之に粟を餼[おく]る。曰く、吾れ其の君を怨みて、其の民を矜れむ。且吾れ聞く、唐叔の封ぜられしや、箕子曰く、其の後必ず大ならん、と。晉其れ庸[もっ]て冀う可けんや。唐叔は、晉の始封の君。武王の子。箕子は、殷王帝乙の子。紂の庶兄。○餼[き]は、許氣反。 姑樹德焉、以待能者。 【読み】 姑く德を樹てて、以て能者を待たん、と。 於是秦始征晉河東、置官司焉。征、賦也。四年傳、驪姬旣與中大夫成謀。此傳、晉許賂中大夫。二中大夫、所指不同。疏無明說。 【読み】 是に於て秦始めて晉の河東を征して、官司を置けり。征は、賦なり。四年の傳に、驪姬旣に中大夫と謀を成す、と。此の傳に、晉賂を中大夫に許す、と。二りの中大夫は、指す所同じからず。疏に明說無し。 僖 經元年。觀釁。許覲反。 傳。復入。扶又反。下文同。常準。之尹反。人潰。戶内反。撰具。一音仕轉反。州長。丁丈反。犖。一音力角反。爲魯。于僞反。無厭。於鹽反。汶陽。音問。萊蕪。音來。 經二年。見經。賢遍反。貫。古亂反。 傳。宮之奇。其宜反。伐鄍。亡丁反。以說。音悅。賄故。呼罪反。惡貪。烏路反。故爲。于僞反。下同。貂。音彫。豎。上主反。擅貴。時戰反。漏洩。息列反。又以制反。 經三年。下邳。皮悲反。僮。音童。廬江。力居反。 傳。爲陽。于僞反。鄭難。乃旦反。囿。音又。 經四年。召陵。上照反。傳皆同。濤塗。音桃。與謀。音預。下同。 傳。所近。附近之近。大公。音泰。注同。公奭。音釋。夾輔。古洽反。舊古協反。夸。苦瓜反。齊竟。音境。下同。不共。本亦作供。下及注同。縮。所六反。裹。音果。菁。子丁反。苞匭。音軌。本或作包軌。○今本亦包軌。守。手又反。溺。乃歷反。水濱。音賓。故復。扶又反。之好。呼報反。下及注同。之費。芳味反。郯。音談。資糧。音良。齊侯說。音悅。袞。古本反。不如。依字読。或一音而據反。攘。如羊反。薰、許云反。蕕。音由。易消。以豉反。歸胙。才故反。姬寘。之豉反。犬斃。婢世反。 經五年。惡用。烏路反。越竟。音境。自爲。于僞反。復稱。扶又反。軑。音大。言易。以豉反。 傳。而書。本或作而書雲物、非也。審別。彼列反。寘薪。之豉反。譴讓。弃戰反。焉用。於虔反。茸。如容反。又音戎。披。普皮反。不校。音敎。乃徇。似俊反。踰垣。音袁。袂。面世反。樓櫓。音魯。秋諸侯盟。本或此下更有于首止三字、非。撫女。音汝。侯復。扶又反。六年經注同。大伯。音泰。下及注同。吾享。興兩反。晉使。所吏反。不臘。力盍反。童謠。音遙。不見。賢遍反。振振。音眞。注同。鶉之。述春反。又常倫反。傅說。音悅。近日。附近之近。已上。時掌反。童齔。一音恥問反。嬉戲。許宜反。或中。丁仲反。 經六年。 傳。以見。賢遍反。各罷。扶罵反。又扶買反。絰。直結反。輿櫬。初覲反。其縛。如字。舊扶臥反。 經七年。方與。音房。泥母。一音甯。王奴兮反。 傳。何憚。徒旦反。請下。戶嫁反。朝不。如字。疵瑕。似斯反。又疾移反。罪釁。許靳反。下文同。政狹。音洽。釁隙。去逆反。覆亡。芳服反。替矣。他計反。雖復。扶又反。介於。音界。堵叔。丁古反。又音者。惡大叔。烏路反。大音泰。叔又作■(叔の俗字)。 經八年。未與。音預。下同。大廟。音泰。 傳。不祔。音附。茲父。音甫。目夷長。丁丈反。 經九年。不復。扶又反。殤。式羊反。而筓。古兮反。之冠。古喚反。相比。毗志反。故重。直用反。不與。音預。殺其。如字。又音弑。傳同。公羊音試。 傳。脩好。呼報反。下于好幷注同。侯胙。才素反。一級。音急。咫尺。之氏反。顚隊。直類反。下同。○今本墜。復西。扶又反。下不復會同。縣藐。音玄。猜。七才反。焉辟。於虔反。下文焉能皆同。今復。扶又反。重發。直用反。濕。音習。易出易入。竝以豉反。不好。呼報反。長亦。丁丈反。不僭。子念反。下注同。無好。呼報反。又如字。無惡。烏路反。宋治。直吏反。 經十年。 傳。不簒。初患反。共大子。本亦作恭。故復。扶又反。下文及注同。畀秦。必利反。下注同。不歆。許金反。西偏。匹緜反。所馮。皮冰反。七乘。繩證反。山祁。巨支反。字林、上尸反。背大。音佩。 經十一年。踰閾。一音況域反。 傳。受玉惰。徒臥反。皐。古刀反。 經十二年。杵臼。昌呂反。 傳。始見。賢遍反。下同。陪臣。步回反。之使。所吏反。督。音篤。凱。本又作愷。○今本亦愷。悌。本亦作弟。凱樂。音洛。下同。悌易。以豉反。下同。不復。扶又反。 經十三年。濮。音卜。 傳。戍卒。子忽反。荐。在薦反。饑。音飢。又音機。糴。直歷反。及絳。古巷反。汎舟。芳劒反。河汾。扶云反。 經十四年。 傳。 經十五年。牡丘。茂后反。不復。扶又反。螽。音終。本亦作■(虫偏に衆)。己卯晦。音悔。下邳。蒲悲反。 傳。諸夏。戶雅反。下注同。烝於。之承反。遇蠱。音古。千乘。繩證反。惡其。烏路反。小駟。音四。狡。古卯反。脈。音麥。可狃。女九反。厭息。一音於甲反。履。如字。徐本作屨。九具反。抗絕。苦浪反。荐。在薦反。上下。時掌反。絻服。又作免。音同。○今本免。令行。力呈反。下同。鄠縣。音戶。焉用。於虔反。以要。於遙反。縶。丁立反。復相。扶又反。佚。音逸。大史。音泰。怙。音古。爰田。于元反。孺。如喩反。好我。呼報反。惡我。烏路反。衆說。音悅。州長。丁丈反。下長男同。睽。苦圭反。又音圭。刲。刺割也。承筐。曲方反。無貺。音況。本亦作況。無應。應對之應。下無應同。嬴。音盈。輹。按車旁著畐、音福。老子所云、三十輻共一轂、是也。車旁著■(輹の右側)、音服。是車下伏菟。縛。如字。又扶臥反。寇難。乃旦反。警。音景。講虛。本又作構。各依字讀。○今本亦構。孼。魚列反。沓。徒合反。有邪。似嗟反。以風。方鳳反。○今本諷。不憚。徒旦反。饋。其位反。蛾。本或作蟻。晳。本或作析。同。星曆反。○今本亦析。盍行。戶臘反。焉入。於虔反。四年傳、漢以爲池。或作漢水。○今本漢水。
春秋左氏傳校本第八 文公 起元年盡十年 晉 杜氏 集解 唐 陸氏 音義 尾張 秦 鼎 校本 文公 名興。僖公子。母聲姜。謚法、慈惠愛民曰文。忠信接禮曰文。 【読み】 文公 名は興。僖公の子。母は聲姜。謚法に、慈惠にして民を愛するを文と曰う。忠信禮に接わるを文と曰う、と。 〔經〕元年、春、王正月、公卽位。無傳。先君未葬、而公卽位、不可曠年無君。 【読み】 〔經〕元年、春、王の正月、公位に卽く。傳無し。先君未だ葬らずして、公位に卽くは、年を曠[むな]しくして君無かる可からざればなり。 二月、癸亥、日有食之。無傳。癸亥、月一日。不書朔、官失之。 【読み】 二月、癸亥[みずのと・い]、日之を食する有り。傳無し。癸亥は、月の一日。朔を書さざるは、官之を失えるなり。 天王使叔服來會葬。叔、氏。服、字。諸侯喪、天子使大夫會葬、禮也。 【読み】 天王叔服をして來りて葬に會せしむ。叔は、氏。服は、字。諸侯の喪に、天子大夫をして葬に會せしむるは、禮なり。 夏、四月、丁巳、葬我君僖公。七月而葬。緩也。 【読み】 夏、四月、丁巳[ひのと・み]、我が君僖公を葬る。七月にして葬る。緩[おそ]きなり。 天王使毛伯來錫公命。毛、國。伯、爵。諸侯爲王卿士者。諸侯卽位、天子賜以命圭、合瑞爲信。僖十一年、王賜晉侯命、亦其比也。 【読み】 天王毛伯をして來りて公に命を錫わしむ。毛は、國。伯は、爵。諸侯の王の卿士爲る者なり。諸侯位に卽けば、天子賜うに命圭を以てし、瑞を合わせて信と爲す。僖十一年、王晉侯に命を賜うも、亦其の比なり。 晉侯伐衛。晉襄公先告諸侯而伐衛。雖大夫親伐、而稱晉侯、從告辭也。 【読み】 晉侯衛を伐つ。晉の襄公先ず諸侯に告げて衛を伐つ。大夫親ら伐つと雖も、而れども晉侯と稱するは、告辭に從うなり。 叔孫得臣如京師。得臣、叔牙之孫。 【読み】 叔孫得臣京師に如く。得臣は、叔牙の孫。 衛人伐晉。衛孔達爲政、不共盟主、興兵鄰國、受討喪邑。故貶稱人。 【読み】 衛人晉を伐つ。衛の孔達政を爲して、盟主に共せず、兵を鄰國に興し、討を受け邑を喪う。故に貶して人と稱す。 秋、公孫敖會晉侯于戚。戚、衛邑。在頓丘衛縣西。禮、卿不會公侯。而春秋魯大夫皆不貶者、體例已舉。故據用魯史成文而已。内稱公、卒稱薨、皆用魯史。 【読み】 秋、公孫敖晉侯に戚に會す。戚は、衛の邑。頓丘衛縣の西に在り。禮に、卿は公侯に會せず、と。而るに春秋魯の大夫皆貶せざるは、體例已に舉げたり。故に魯史の成文に據り用ゆるのみ。内公と稱し、卒するに薨と稱するも、皆魯史を用ゆるなり。 冬十月、丁未、楚世子商臣弑其君頵。商臣、穆王也。弑君例在宣四年。○頵、憂倫反。又丘倫反。 【読み】 冬十月、丁未[ひのと・ひつじ]、楚の世子商臣其の君頵[いん]を弑す。商臣は、穆王なり。君を弑するの例は宣四年に在り。○頵は、憂倫反。又丘倫反。 公孫敖如齊。傳例曰、始聘焉。禮也。 【読み】 公孫敖齊に如く。傳例に曰く、始めて聘す。禮なり、と。 〔傳〕元年、春、王使内史叔服來會葬。公孫敖聞其能相人也、公孫敖、魯大夫。慶父之子。 【読み】 〔傳〕元年、春、王内史叔服をして來りて葬に會せしむ。公孫敖其の能く人を相すると聞き、公孫敖は、魯の大夫。慶父の子。 見其二子焉。叔服曰、穀也食子。難也收子。穀、文伯。難、惠叔。食子、奉祭祀供養者也。收子、葬子身也。○見、賢遍反。食、音嗣。難、乃多反。又如字。 【読み】 其の二子を見えしむ。叔服曰く、穀や子を食[やしな]わん。難や子を收めん。穀は、文伯。難は、惠叔。子を食うとは、祭祀を奉じて供養する者なり。子を收むとは、子の身を葬るなり。○見は、賢遍反。食は、音嗣。難は、乃多反。又字の如し。 穀也豐下。必有後於魯國。豐下、蓋面方。爲八年、公孫敖奔莒傳。 【読み】 穀や豐下なり。必ず魯國に後有らん、と。豐下は、蓋し面方ならん。八年、公孫敖莒に奔る爲の傳なり。 於是閏三月。非禮也。於歷法、閏當在僖公末年。誤於今年三月置閏。蓋時達歷者所譏。 【読み】 是に於て三月に閏す。禮に非ざるなり。歷法に於て、閏は當に僖公の末年に在るべし。誤りて今年三月に於て閏を置けり。蓋し時の歷に達する者を譏る所ならん。 先王之正時也、履端於始、舉正於中、歸餘於終。步歷之始、以爲術之端首。朞之日、三百六十有六日。日月之行、又有遲速、而必分爲十二月、舉中氣以正月、有餘日則歸之於終、積而爲閏。故言歸餘於終。 【読み】 先王の時を正すや、端を始めに履[あゆ]ませ、正を中に舉げ、餘を終わりに歸す。歷の始めを步ませて、以て術の端首と爲す。朞の日、三百六十有六日なり。日月の行に、又遲速有るも、而れども必ず分かちて十二月と爲し、中氣を舉げて以て月を正し、餘日有れば則ち之を終 わりに歸して、積りて閏と爲すなり。故に餘を終わりに歸すと言う。 履端於始、序則不愆、四時無愆過。 【読み】 端を始めに履ますときは、序則ち愆[あやま]らず、四時愆過無し。 舉正於中、民則不惑、斗建不失其次、寒暑不失其常。故無疑惑。 【読み】 正を中に舉ぐるときは、民則ち惑わず、斗建其の次を失わず、寒暑其の常を失わず。故に疑惑無し。 歸餘於終、事則不悖。四時得所、則事無悖亂。 【読み】 餘を終わりに歸するときは、事則ち悖らず。四時所を得れば、則ち事悖亂無し。 夏、四月、丁巳、葬僖公。傳皆不虛載經文。而此經孤見。知僖公末年傳、宜在此下。 【読み】 夏、四月、丁巳、僖公を葬る。傳皆經文を虛しく載せず。而るに此の經のみ孤り見す。知んぬ、僖公の末年の傳の、宜しく此の下に在るべきを。 王使毛伯衛來錫公命。衛、毛伯字。 【読み】 王毛伯衛をして來りて公に命を錫わしむ。衛は、毛伯の字。 叔孫得臣如周拜。謝賜命。 【読み】 叔孫得臣周に如きて拜す。賜命を謝す。 晉文公之季年、諸侯朝晉、衛成公不朝、使孔達侵鄭、伐緜訾及匡。孔達、衛大夫。匡、在潁川新汲縣東北。○訾、子斯反。 【読み】 晉の文公の季年に、諸侯晉に朝せしに、衛の成公のみ朝せず、孔達をして鄭を侵さしめ、緜訾[めんし]と匡とを伐てり。孔達は、衛の大夫。匡は、潁川新汲縣の東北に在り。○訾は、子斯反。 晉襄公旣祥、諸侯雖諒闇、亦因祥祭、爲位而哭。 【読み】 晉の襄公旣に祥して、諸侯諒闇と雖も、亦祥祭に因りて、位を爲して哭す。 使告于諸侯而伐衛、及南陽。今河内地。 【読み】 諸侯に告げしめて衛を伐ち、南陽に及ぶ。今の河内の地。 先且居曰、效尤禍也。尤衛不朝。故伐。今不朝王、是效衛致禍。時王在溫。故勸之。○且、子餘反。 【読み】 先且居曰く、尤に效うは禍なり。衛の朝せざるを尤む。故に伐つ。今王に朝せざれば、是れ衛に效いて禍を致すなり。時に王溫に在り。故に之を勸む。○且は、子餘反。 請君朝王。臣從師。晉侯朝王于溫。先且居・胥臣伐衛。五月、辛酉、朔、晉師圍戚。六月、戊戌、取之、獲孫昭子。昭子、衛大夫。食戚邑。 【読み】 請う君王を朝せよ。臣師に從わん、と。晉侯王に溫に朝す。先且居・胥臣衛を伐つ。五月、辛酉[かのと・とり]、朔、晉の師戚を圍む。六月、戊戌[つちのえ・いぬ]、之を取り、孫昭子を獲たり。昭子は、衛の大夫。戚邑を食む。 衛人使告于陳。陳共公曰、更伐之。我辭之。見伐求和、不競大甚。故使報伐、示己力足以距晉。○共、音恭。更、古孟反。又音庚。 【読み】 衛人陳に告げしむ。陳の共公曰く、更に之を伐て。我れ之を辭せん、と。伐たれて和を求むるは、競わざること大甚だし。故に報伐せしめて、己が力の以て晉を距ぐに足るを示す。○共は、音恭。更は、古孟反。又音庚。 衛孔達帥師伐晉。 【読み】 衛の孔達師を帥いて晉を伐つ。 君子以爲古。古者越國而謀。合古之道、而失今事霸主之禮。故國失其邑、身見執辱。 【読み】 君子以て古なりと爲す。古は國を越えて謀る。古の道に合いて、今霸主に事うるの禮を失う。故に國其の邑を失いて、身執辱せらる。 秋、晉侯疆戚田。故公孫敖會之。晉取衛田、正其疆界。 【読み】 秋、晉侯戚の田を疆[さか]う。故に公孫敖之に會す。晉衛の田を取りて、其の疆界を正す。 初、楚子將以商臣爲大子、訪諸令尹子上。子上曰、君之齒未也。齒、年也。言尙少。 【読み】 初め、楚子將に商臣を以て大子と爲さんとして、諸を令尹子上に訪[と]う。子上曰く、君の齒[よわい]未だし。齒は、年なり。言うこころは、尙少[わか]し。 而又多愛。黜乃亂也。楚國之舉、恆在少者。舉、立也。 【読み】 而るに又愛多し。黜けば乃ち亂あらん。楚國の舉は、恆に少者に在り。舉は、立つなり。 且是人也、蠭目而豺聲。忍人也。能忍行不義。○蠭、本作蜂。 【読み】 且つ是の人や、蠭目[ほうもく]にして豺聲なり。忍人なり。能く忍びて不義を行う。○蠭は、本蜂に作る。 不可立也。弗聽。 【読み】 立つ可からず、と。聽かず。 旣又欲立王子職、而黜大子商臣。職、商臣庶弟。 【読み】 旣にして又王子職を立てて、大子商臣を黜けんことを欲す。職は、商臣の庶弟。 商臣聞之而未察。告其師潘崇曰、若之何而察之。潘崇曰、享江羋而勿敬也。江羋、成王妹。嫁於江。○羋、亡氏反。 【読み】 商臣之を聞きて未だ察せず。其の師潘崇に告げて曰く、之を若何にして之を察せん、と。潘崇曰く、江羋[こうび]を享して敬すること勿かれ、と。江羋は、成王の妹。江に嫁す。○羋は、亡氏反。 從之。江羋怒曰、呼、役夫。呼、發聲也。役夫、賤者稱。○呼、好賀反。 【読み】 之に從う。江羋怒りて曰く、呼、役夫。呼は、發聲なり。役夫は、賤者の稱。○呼は、好賀反。 宜君王之欲殺女而立職也。告潘崇曰、信矣。潘崇曰、能事諸乎。問能事職不。○女、音汝。 【読み】 宜なり君王の女を殺して職を立てんと欲することや、と。潘崇に告げて曰く、信なり、と。潘崇曰く、能く諸に事えんか、と。能く職に事えんや不[いな]やと問う。○女は、音汝。 曰、不能。能行乎。曰、不能。能行大事乎。曰、能。大事、謂弑君。 【読み】 曰く、能わず、と。能く行[さ]らんか。曰く、能わず、と。能く大事を行わんか。曰く、能くせん、と。大事は、君を弑するを謂う。 冬、十月、以宮甲圍成王。大子官甲。僖二十八年、王以東宮卒從子玉、蓋取此宮甲。 【読み】 冬、十月、宮甲を以て成王を圍む。大子の官甲。僖二十八年に、王東宮の卒を以て子玉に從わすとは、蓋し此の宮甲を取るならん。 王請食熊蹯而死。熊掌難熟。冀久將有外救。○蹯、音煩。 【読み】 王熊蹯[ゆうはん]を食いて死なんと請う。熊掌は熟し難し。久しくして將に外救有らんと冀う。○蹯は、音煩。 弗聽。丁未、王縊。謚之曰靈。不瞑。曰成。乃瞑。言其忍甚、未斂而加惡謚。○瞑、亡丁反。又亡千反。 【読み】 聽かず。丁未、王縊る。之を謚して靈と曰う。瞑せず。成と曰う。乃ち瞑す。其の忍甚だしく、未だ斂せずして惡謚を加うるを言う。○瞑は、亡丁反。又亡千反。 穆王立。以其爲大子之室與潘崇、使爲大師、且掌環列之尹。環列之尹、宮衛之官。列兵而環王宮。 【読み】 穆王立つ。其の大子爲るときの室を以て潘崇に與えて、大師爲らしめ、且環列の尹を掌らしむ。環列の尹は、宮衛の官。兵を列ねて王宮を環るものなり。 穆伯如齊、始聘焉。禮也。穆伯、公孫敖。 【読み】 穆伯齊に如き、始めて聘す。禮なり。穆伯は、公孫敖。 凡君卽位、卿出竝聘、踐脩舊好、要結外援、踐、猶履行也。 【読み】 凡そ君位に卽けば、卿出でて竝び聘し、舊好を踐脩し、外援を要結し、踐は、猶履行のごとし。 好事鄰國、以衛社稷。忠信卑讓之道也。忠、德之正也。信、德之固也。卑讓、德之基也。傳因此發凡、以明諸侯諒闇、則國事皆用吉禮。 【読み】 鄰國に好事して、以て社稷を衛る。忠信卑讓の道なり。忠は、德の正なり。信は、德の固なり。卑讓は、德の基なり。傳此に因りて凡そを發して、以て諸侯は諒闇なれば、則ち國事皆吉禮を用ゆることを明かす。 殽之役、在僖三十三年。 【読み】 殽[こう]の役に、僖三十三年に在り。 晉人旣歸秦師。秦大夫及左右皆言於秦伯曰、是敗也、孟明之罪也。必殺之。秦伯曰、是孤之罪也。周芮良夫之詩曰、大風有隧、貪人敗類。詩大雅。隧、蹊徑也。周大夫芮伯刺厲王。言貪人之敗善類、若大風之行、毀壞衆物、所在成蹊徑。○芮、如銳反。 【読み】 晉人旣に秦の師を歸す。秦の大夫と左右と皆秦伯に言いて曰く、是の敗や、孟明の罪なり。必ず之を殺せ、と。秦伯曰く、是れ孤の罪なり。周の芮良夫の詩に曰く、大風隧有り、貪人類を敗る。詩は大雅。隧は、蹊徑なり。周の大夫芮伯厲王を刺る。言うこころは、貪人の善類を敗る、大風の行きて、衆物を毀壞し、在る所蹊徑を成すが若し。○芮は、如銳反。 聽言則對、誦言如醉。言昏亂之君、不好典誦之言、聞之若醉。得道聽塗說之言、則喜而答對。 【読み】 聽言には則ち對え、誦言には醉えるが如し。言うこころは、昏亂の君、典誦の言を好まず、之を聞きて醉えるが若し。道聽塗說の言を得ては、則ち喜びて答對す。 匪用其良、覆俾我悖。覆、反也。俾、使也。不用良臣之言、反使我爲悖亂。 【読み】 其の良を用ゆるに匪ず、覆[かえ]って我をして悖らしむ、と。覆は、反ってなり。俾は、使むるなり。良臣の言を用いず、反って我をして悖亂を爲さしむ。 是貪故也。孤之謂矣。孤實貪以禍夫子。夫子何罪。 【読み】 是れ貪の故なり。孤を謂うなり。孤實に貪りて以て夫子に禍せり。夫子何の罪あらん、と。 復使爲政。爲明年、秦・晉戰彭衙傳。 【読み】 復政を爲さしむ。明年、秦・晉彭衙[ほうが]に戰う爲の傳なり。 〔經〕二年、春、王二月、甲子、晉侯及秦師戰于彭衙。秦師敗績。孟明名氏不見、非命卿也。大崩曰敗績。馮翊郃陽縣西北有彭衙城。○郃、戶納反。 【読み】 〔經〕二年、春、王の二月、甲子[きのえ・ね]、晉侯秦の師と彭衙[ほうが]に戰う。秦の師敗績す。孟明名氏見えざるは、命卿に非ざればなり。大いに崩るるを敗績と曰う。馮翊郃陽[ひょうよくこうよう]縣の西北に彭衙城有り。○郃は、戶納反。 丁丑、作僖公主。主者、殷人以柏、周人以栗。三年喪終、則遷入於廟。 【読み】 丁丑[ひのと・うし]、僖公の主を作る。主は、殷人は柏を以てし、周人は栗を以てす。三年の喪終われば、則ち遷して廟に入る。 三月、乙巳、及晉處父盟。處父爲晉正卿、不能匡君以禮、而親與公盟。故貶其族。族去則非卿。故以微人常稱爲耦、以直厭不直。不地者、盟晉都。 【読み】 三月、乙巳[きのと・み]、晉の處父と盟う。處父晉の正卿と爲りて、君を匡すに禮を以てすること能わずして、親ら公と盟う。故に其の族を貶す。族去れば則ち卿に非ず。故に微人の常稱を以て耦と爲すは、直を以て不直を厭[おと]すなり。地いわざるは、晉の都に盟えばなり。 夏、六月、公孫敖會宋公・陳侯・鄭伯・晉士縠盟于垂隴。垂隴、鄭地。滎陽縣東有隴城。士縠出盟諸侯、受成於衛。故貴而書名氏。○縠、戶木反。 【読み】 夏、六月、公孫敖宋公・陳侯・鄭伯・晉の士縠[しこく]に會して垂隴[すいろう]に盟う。垂隴は、鄭の地。滎陽[けいよう]縣の東に隴城有り。士縠出でて諸侯に盟い、成[たい]らぎを衛に受く。故に貴びて名氏を書す。○縠は、戶木反。 自十有二月不雨、至于秋七月。無傳。周七月、今五月也。不雨、足爲災。不書旱、五穀猶有收。 【読み】 十有二月より雨ふらずして、秋七月に至る。傳無し。周の七月は、今の五月なり。雨ふらざるは、災いを爲すに足れり。旱と書さざるは、五穀猶收むること有ればなり。 八月、丁卯、大事于大廟。躋僖公。大事、禘也。躋、升也。僖公、閔公庶兄。繼閔而立。廟坐宜次閔下。今升在閔上。故書而譏之。時未應吉禘、而於大廟行之。其譏已明。徒以逆祀故、特大其事、異其文。 【読み】 八月、丁卯[ひのと・う]、大廟に大事あり。僖公を躋[のぼ]す。大事は、禘なり。躋[せい]は、升るなり。僖公は、閔公の庶兄。閔に繼いで立つ。廟坐宜しく閔下に次ぐべし。今升せて閔の上に在り。故に書して之を譏る。時未だ應に吉禘すべからずして、大廟に於て之を行う。其の譏るや已に明らかなり。徒に逆祀の故を以て、特に其の事を大いにして、其の文を異にす。 冬、晉人・宋人・陳人・鄭人伐秦。四人皆卿。秦穆悔過、終用孟明。故貶四國大夫以尊秦。 【読み】 冬、晉人・宋人・陳人・鄭人秦を伐つ。四人は皆卿なり。秦穆過ちを悔いて、終に孟明を用ゆ。故に四國の大夫を貶して以て秦を尊ぶ。 公子遂如齊納幣。傳曰、禮也。僖公喪、終此年十一月、則納幣在十二月也。士昏六禮、其一納采・納徵始有玄纁束帛、諸侯則謂之納幣。其禮與士禮不同。蓋公爲大子時、已行昏禮。 【読み】 公子遂齊に如きて幣を納る。傳に曰く、禮なり、と。僖公の喪、此の年十一月に終われば、則ち納幣は十二月に在るなり。士昏の六禮、其の一は納采・納徵に始めて玄纁束帛有り、諸侯は則ち之を納幣と謂う。其の禮と士禮と同じからず。蓋し公大子爲る時、已に昏禮を行うならん。 〔傳〕二年、春、秦孟明視帥師伐晉、以報殽之役。二月、晉侯禦之。先且居將中軍。趙衰佐之。代郤溱。○衰、初危反。 【読み】 〔傳〕二年、春、秦の孟明視師を帥いて晉を伐ちて、以て殽[こう]の役に報ゆ。二月、晉侯之を禦ぐ。先且居中軍に將たり。趙衰[ちょうし]之に佐たり。郤溱に代わる。○衰は、初危反。 王官無地御戎。代梁弘。 【読み】 王官無地戎に御たり。梁弘に代わる。 狐鞫居爲右。鞫居、續簡伯。○鞫、九六反。 【読み】 狐鞫居[こきくきょ]右爲り。鞫居は、續簡伯。○鞫は、九六反。 甲子、及秦師戰于彭衙。秦師敗績。晉人謂秦拜賜之師。以孟明言三年將拜君賜、故嗤之。 【読み】 甲子、秦の師と彭衙に戰う。秦の師敗績す。晉人秦を拜賜の師と謂う。孟明三年ありて將に君の賜を拜せんとすと言いしを以て、故に之を嗤う。 戰于殽也、晉梁弘御戎。萊駒爲右。戰之明日、晉襄公縛秦囚、使萊駒以戈斬之。囚呼。萊駒失戈。狼瞫取戈以斬囚、禽之以從公乘、遂以爲右。箕之役、箕役、在僖三十三年。○呼、火故反。瞫、尺甚反。字林、式衽反。乘、繩證反。 【読み】 殽に戰いしや、晉の梁弘戎に御たり。萊駒右爲り。戰の明日に、晉の襄公秦の囚を縛りて、萊駒をして戈を以て之を斬らしむ。囚呼ぶ。萊駒戈を失う。狼瞫[ろうじん]戈を取りて以て囚を斬り、之を禽にして以て公の乘に從い、遂に以て右と爲りぬ。箕の役に、箕の役は、僖三十三年に在り。○呼は、火故反。瞫は、尺甚反。字林に、式衽反。乘は、繩證反。 先軫黜之、而立續簡伯。狼瞫怒。其友曰、盍死之。瞫曰、吾未獲死所。未得可死處。 【読み】 先軫之を黜けて、續簡伯を立つ。狼瞫怒る。其の友曰く、盍ぞ之に死せざる、と。瞫曰く、吾れ未だ死所を獲ず、と。未だ死す可き處を得ず。 其友曰、吾與女爲難。欲共殺先軫。○難、乃旦反。 【読み】 其の友曰く、吾れ女と難を爲さん、と。共に先軫を殺さんと欲す。○難は、乃旦反。 瞫曰、周志有之、勇則害上、不登於明堂。周志、周書也。明堂、祖廟也。所以策功序德。故不義之士不得升。 【読み】 瞫曰く、周志に之れ有り、勇にして則ち上を害するは、明堂に登[あ]げず、と。周志は、周書なり。明堂は、祖廟なり。功を策し德を序ずる所以。故に不義の士は升ることを得ず。 死而不義、非勇也。共用之謂勇。共用、死國用。○共、音恭。 【読み】 死して不義なれば、勇に非ざるなり。用に共する、之を勇と謂う。用に共するは、國用に死するなり。○共は、音恭。 吾以勇求右。無勇而黜、亦其所也。言今死而不義、更成無勇。宜見退。 【読み】 吾れ勇を以て右を求めたり。勇無くして黜けらるは、亦其の所なり。言うこころは、今死して不義なるは、更に勇無しと成る。宜しく退けらるべし。 謂上不我知、黜而宜、乃知我矣。言今見黜而合宜、則吾不得復言上不我知。 【読み】 上を我を知らずと謂うに、黜けられて宜しきは、乃ち我を知れるなり。言うこころは、今黜けられて宜しきに合うは、則ち吾れ復上を我を知らずと言うことを得ず。 子姑待之。 【読み】 子姑く之を待て、と。 及彭衙旣陳、以其屬馳秦師、死焉。屬、屬己兵。○陳、去聲。 【読み】 彭衙旣に陳するに及びて、其の屬を以[い]て秦の師に馳せて、死す。屬は、己に屬する兵。○陳は、去聲。 晉師從之、大敗秦師。 【読み】 晉の師之に從い、大いに秦の師を敗れり。 君子謂、狼瞫於是乎君子。詩曰、君子如怒、亂庶遄沮。詩、小雅。言君子之怒、必以止亂。遄、疾也。沮、止也。 【読み】 君子謂えらく、狼瞫是に於て君子なり。詩に曰く、君子如し怒らば、亂庶わくは遄[と]く沮[や]まん、と。詩は、小雅。君子の怒は、必ず以て亂を止むるを言う。遄[せん]は、疾きなり。沮は、止むなり。 又曰、王赫斯怒、爰整其旅。詩、大雅。言文王赫然奮怒、則整師旅以討亂。 【読み】 又曰く、王赫として斯に怒り、爰に其の旅を整う、と。詩は、大雅。言うこころは、文王赫然として奮怒すれば、則ち師旅を整えて以て亂を討ず。 怒不作亂、而以從師、可謂君子矣。 【読み】 怒りて亂を作さずして、以て師に從いしは、君子と謂う可し、と。 秦伯猶用孟明。孟明增脩國政、重施於民。趙成子言於諸大夫曰、成子、趙衰。○施、去聲。 【読み】 秦伯猶孟明を用ゆ。孟明國政を增脩して、民に重施す。趙成子諸大夫に言いて曰く、成子は、趙衰。○施は、去聲。 秦師又至。將必辟之。懼而增德。不可當也。詩曰、毋念爾祖。聿脩厥德。詩、大雅。言念其祖考、則宜述脩其德以顯之。毋念、念也。 【読み】 秦の師又至らん。將に必ず之を辟けんとす。懼れて德を增す。當たる可からざるなり。詩に曰く、爾の祖を念うこと毋からんや。厥の德を聿[の]べ脩めよ、と。詩は、大雅。言うこころは、其の祖考を念わば、則ち宜しく其の德を述べ脩めて以て之を顯らかにすべし。毋念は、念うなり。 孟明念之矣。念德不怠。其可敵乎。爲明年、秦人伐晉傳。 【読み】 孟明之を念えり。德を念いて怠らず。其れ敵す可けんや、と。明年、秦人晉を伐つ爲の傳なり。 丁丑、作僖公主。書不時也。過葬十月。故曰不時。例在僖三十三年。 【読み】 丁丑、僖公の主を作る。時ならざるを書すなり。葬を過ぐること十月。故に時ならずと曰う。例は僖三十三年に在り。 晉人以公不朝來討。公如晉。夏、四月、己巳、晉人使陽處父盟公、以恥之。使大夫盟公、欲以恥辱魯也。經書三月乙巳。經・傳必有誤。 【読み】 晉人公の朝せざるを以て來り討ず。公晉に如く。夏、四月、己巳[つちのと・み]、晉人陽處父をして公に盟わしめて、以て之を恥ずかしむ。大夫をして公に盟わしめて、以て魯を恥辱せしめんと欲す。經には三月乙巳と書す。經・傳に必ず誤り有らん。 書曰及晉處父盟、以厭之也。厭、猶損也。晉以非禮盟公。故文厭之、以示譏。○厭、於涉反。 【読み】 書して晉の處父と盟うと曰うは、以て之を厭[おと]すなり。厭は、猶損[おと]すのごとし。晉非禮を以て公に盟う。故に文之を厭して、以て譏りを示す。○厭は、於涉反。 適晉不書、諱之也。不書公如晉。 【読み】 晉に適くを書さざるは、之を諱みてなり。公晉に如くを書さず。 公未至。六月、穆伯會諸侯及晉司空士縠、盟于垂隴。晉討衛故也。討元年、衛人伐晉。士縠、士蔿子。 【読み】 公未だ至らず。六月、穆伯諸侯と晉の司空士縠とに會して、垂隴に盟う。晉衛を討ずる故なり。元年、衛人晉を伐つを討ずるなり。士縠は、士蔿[しい]の子。 書士縠、堪其事也。晉司空、非卿也。以士縠能堪卿事、故書。 【読み】 士縠と書すは、其の事に堪えたるなり。晉の司空は、卿に非ざるなり。士縠能く卿事に堪えたるを以て、故に書す。 陳侯爲衛請成于晉、執孔達以說。陳始與衛謀。謂可以强得免。今晉不聽。故更執孔達以苟免也。 【読み】 陳侯衛の爲に成らぎを晉に請い、孔達を執えて以て說く。陳始め衛と謀る。强を以て免ることを得可しと謂う。今晉聽かず。故に更に孔達を執えて以て苟も免るなり。 秋、八月、丁卯、大事于大廟。躋僖公。逆祀也。僖是閔兄。不得爲父子。嘗爲臣。位應在下。令居閔上。故曰逆祀。 【読み】 秋、八月、丁卯、大廟に大事あり。僖公を躋す。逆祀なり。僖は是れ閔の兄。父子爲るを得ず。嘗て臣爲り。位應に下に在るべし。閔の上に居らしむ。故に逆祀と曰う。 於是夏父弗忌爲宗伯。宗伯、掌宗廟昭穆之禮。 【読み】 是に於て夏父弗忌宗伯爲り。宗伯は、宗廟昭穆の禮を掌る。 尊僖公、且明見曰、吾見新鬼大、故鬼小。新鬼、僖公。旣爲兄。死時年又長。故鬼、閔公。死時年少。弗忌明言其所見。 【読み】 僖公を尊び、且見しことを明らかにして曰く、吾れ新鬼の大に、故鬼の小なるを見たり。新鬼は、僖公。旣に兄爲り。死する時年又長ぜり。故鬼は、閔公。死する時年少し。弗忌明らかに其の見し所を言う。 先大後小、順也。躋聖賢、明也。又以僖公爲聖賢。 【読み】 大を先にし小を後にするは、順なり。聖賢を躋すは、明なり。又僖公を以て聖賢と爲す。 明順、禮也。 【読み】 明順は、禮なり、と。 君子以爲失禮。禮無不順。祀、國之大事也。而逆之。可謂禮乎。子雖齊聖、不先父食久矣。齊、肅也。臣繼君、猶子繼父。○先、去聲。下同。 【読み】 君子以て禮を失えりと爲す。禮は順ならざること無し。祀は、國の大事なり。而るを之を逆にす。禮と謂う可けんや。子は齊聖なりと雖も、父に先だちて食せざること久し。齊は、肅なり。臣の君に繼ぐは、猶子の父に繼ぐがごとし。○先は、去聲。下も同じ。 故禹不先鯀、湯不先契、鯀、禹父。契、湯十三世祖。 【読み】 故に禹も鯀に先だたず、湯も契[せつ]に先だたず、鯀は、禹の父。契は、湯十三世の祖。 文武不先不窋。不窋、后稷子。○窋、知律反。 【読み】 文武も不窋[ふちゅつ]に先だたず。不窋は、后稷の子。○窋は、知律反。 宋祖帝乙、鄭祖厲王、猶上祖也。帝乙、微子父。厲王、鄭桓公父。二國不以帝乙・厲王不肖、而猶尊尙之。 【読み】 宋の祖は帝乙[ていいつ]、鄭の祖は厲王なるも、猶祖を上[たっと]べり。帝乙は、微子の父。厲王は、鄭の桓公の父。二國帝乙・厲王の不肖なるを以てせずして、猶之を尊尙す。 是以魯頌曰、春秋匪解、享祀不忒、皇皇后帝、皇祖后稷。忒、差也。皇皇、美也。后帝、天也。詩、頌僖公郊祭上天、配以后稷。○解、佳買反。 【読み】 是を以て魯頌に曰く、春秋解[おこた]らず、享祀忒[たが]わず、皇皇たる后帝、皇祖后稷、と。忒は、差うなり。皇皇は、美きなり。后帝は、天なり。詩に、僖公の上天を郊祭して、配するに后稷を以てするを頌す。○解は、佳買反。 君子曰、禮。謂其后稷親而先帝也。先稱帝也。 【読み】 君子曰く、禮なり、と。其の后稷は親なれども帝を先にするを謂うなり。先ず帝を稱す。 詩曰、問我諸姑、遂及伯姊。詩、邶風也。衛女思歸而不得。故願致問於姑姊。○邶、音佩。 【読み】 詩に曰く、我が諸姑を問いて、遂に伯姊に及ぶ、と。詩は、邶風[はいふう]なり。衛の女歸を思えども得ず。故に姑姊に致問せんことを願う。○邶は、音佩。 君子曰、禮。謂其姊親而先姑也。僖、親文公父。夏父弗忌從阿時君、先其所親。故傳以此二詩、深責其意。 【読み】 君子曰く、禮なり、と。其の姊は親なれども姑を先にするを謂うなり。僖は、親しく文公の父。夏父弗忌時君に從阿して、其の所親を先にす。故に傳此の二詩を以て、深く其の意を責む。 仲尼曰、臧文仲其不仁者三、不知者三。下展禽、展禽、柳下惠也。文仲知柳下惠之賢、而使在下位。非己欲立而立人之道也。 【読み】 仲尼曰く、臧文仲其の不仁なる者三つ、不知なる者三つ。展禽を下にし、展禽は、柳下惠なり。文仲柳下惠の賢を知りて、下位に在らしむ。己立たんと欲して人を立つの道に非ず。 *頭注に「本註舊脫非之道三字。今以馮氏本補之。七經考文引足利本後人記云、立人下、異本有仁字。」とある。 廢六關、塞關陽關之屬、凡六關。所以禁絕未遊、而廢之。 【読み】 六關を廢し、塞關陽關の屬、凡そ六關。未遊を禁絕する所以にして、之を廢す。 妾織蒲。三不仁也。家人販席。言其與民爭利。 【読み】 妾蒲を織る。三つの不仁なり。家人席[むしろ]を販[ひさ]ぐ。其の民と利を爭うを言う。 作虛器、謂居蔡山節藻梲也。有其器、而無其位。故曰虛。 【読み】 虛器を作り、蔡を居き節を山にし梲[せつ]に藻するを謂うなり。其の器有りて、其の位無し。故に虛と曰う。 縱逆祀、聽夏父躋僖公。 【読み】 逆祀を縱[ゆる]し、夏父僖公を躋すを聽[ゆる]す。 祀爰居。三不知也。海鳥曰爰居。止於魯東門外。文仲以爲神、命國人祀之。 【読み】 爰居[えんきょ]を祀る。三つの不知なり。海鳥を爰居と曰う。魯の東門外に止る。文仲以て神と爲し、國人に命じて之を祀らしむ。 冬、晉先且居・宋公子成・陳轅選・鄭公子歸生伐秦、取汪、及彭衙而還。以報彭衙之役。 【読み】 冬、晉の先且居・宋の公子成・陳の轅選・鄭の公子歸生秦を伐ち、汪を取り、彭衙に及びて還る。以て彭衙の役に報ゆ。 卿不書、爲穆公故、尊秦也。謂之崇德。 【読み】 卿書さざるは、穆公の爲の故に、秦を尊ぶなり。之を德を崇ぶと謂う。 襄仲如齊納幣。禮也。 【読み】 襄仲齊に如きて幣を納る。禮なり。 凡君卽位、好舅甥、脩昏姻、娶元妃、以奉粢盛。孝也。謂諒闇旣終、嘉好之事、通于外内。外内之禮始備。此除凶之卽位也。於是遣卿申好舅甥之國、脩禮以昏姻也。元妃、嫡夫人。奉粢盛、共祭祀。○好、呼報反。 【読み】 凡そ君位に卽くときは、舅甥を好し、昏姻を脩め、元妃を娶り、以て粢盛に奉ず。孝なり。諒闇旣に終わり、嘉好の事、外内に通ずるを謂う。外内の禮始めて備わる。此れ除凶の卽位なり。是に於て卿を遣して好を舅甥の國に申ね、禮を脩めて以て昏姻するなり。元妃は、嫡夫人。粢盛に奉ずるは、祭祀に共するなり。○好は、呼報反。 孝、禮之始也。 【読み】 孝は、禮の始めなり。 〔經〕三年、春、王正月、叔孫得臣會晉人・宋人・陳人・衛人・鄭人伐沈。沈潰。傳例曰、民逃其上曰潰。沈、國名也。汝南平與縣北有沈亭。○與、音餘。一音預。 【読み】 〔經〕三年、春、王の正月、叔孫得臣晉人・宋人・陳人・衛人・鄭人に會して沈を伐つ。沈潰[つい]ゆ。傳例に曰く、民其の上を逃るるを潰と曰う。沈は、國の名なり。汝南平與縣の北に沈亭有り。○與は、音餘。一に音預。 夏、五月、王子虎卒。不書爵者、天王赴也。翟泉之盟、雖輒假王命、周王因以同盟之例爲赴。 【読み】 夏、五月、王子虎卒す。爵を書さざるは、天王赴[つ]ぐればなり。翟泉の盟、輒ち王命を假ると雖も、周王因りて同盟の例を以て赴ぐることを爲す。 秦人伐晉。晉人恥不出、以微者告。 【読み】 秦人晉を伐つ。晉人出でざるを恥じ、微者を以て告ぐ。 秋、楚人圍江。雨螽于宋。自上而隋。有似於雨。宋人以其死爲得天祐。喜而來告。故書。○雨、于付反。隋、徒火反。 【読み】 秋、楚人江を圍む。宋に螽[しゅう]雨[ふ]る。上より隋[お]つ。雨ふるに似たること有り。宋人其の死するを以て天の祐を得るとす。喜びて來り告ぐ。故に書す。○雨は、于付反。隋は、徒火反。 冬、公如晉。十有二月、己巳、公及晉侯盟。晉陽處父帥師伐楚、以救江。 【読み】 冬、公晉に如く。十有二月、己巳[つちのと・み]、公晉侯と盟う。晉の陽處父師を帥いて楚を伐ち、以て江を救う。 〔傳〕三年、春、莊叔會諸侯之師伐沈、以其服於楚也。沈潰。 【読み】 〔傳〕三年、春、莊叔諸侯の師に會して沈を伐つは、其の楚に服するを以てなり。沈潰ゆ。 凡民逃其上曰潰、在上曰逃。潰、衆散流移、若積水之潰。自壞之象也。國君輕走、羣臣不知其謀、與匹夫逃竄無異。是以在衆曰潰、在上曰逃。各以類言之。 【読み】 凡そ民其の上を逃るるを潰と曰い、上に在るを逃と曰う。潰は、衆散流移すること、積水の潰ゆるが若し。自ら壞るるの象なり。國君輕走して、羣臣其の謀を知らざるは、匹夫の逃竄[とうざん]すると異なること無し。是を以て衆に在るを潰と曰い、上に在るを逃と曰う。各々類を以て之を言うなり。 衛侯如陳、拜晉成也。二年、陳侯爲衛請成于晉。 【読み】 衛侯陳に如き、晉の成[たい]らぎを拜す。二年、陳侯衛の爲に成らぎを晉に請う。 夏、四月、乙亥、王叔文公卒。來赴。弔如同盟。禮也。王子虎與僖公同盟於翟泉。文公是同盟之子。故赴以名。傳因王子虎異於諸侯、王叔又未與文公盟、故於此顯示體例也。經書五月、又不書日、從赴也。 【読み】 夏、四月、乙亥[きのと・い]、王叔文公卒す。來り赴[つ]ぐ。弔うこと同盟の如くす。禮なり。王子虎僖公と翟泉に同盟す。文公は是れ同盟の子なり。故に赴ぐるに名を以てす。傳王子虎諸侯に異なり、王叔も又未だ文公と盟うにあらざるに因りて、故に此に於て體例を顯示す。經五月に書し、又日を書さざるは、赴ぐるに從うなり。 秦伯伐晉。濟河焚舟、示必死也。 【読み】 秦伯晉を伐つ。河を濟[わた]りて舟を焚き、必死を示すなり。 取王官、及郊。王官・郊、晉地。 【読み】 王官を取り、郊に及ぶ。王官・郊は、晉の地。 晉人不出。遂自茅津濟、封殽尸而還。茅津、在河東大陽縣西。封、埋藏之。○大、音泰。 【読み】 晉人出でず。遂に茅津より濟り、殽[こう]の尸を封じて還る。茅津は、河東大陽縣の西に在り。封は、之を埋藏するなり。○大は、音泰。 遂霸西戎。用孟明也。 【読み】 遂に西戎に霸たり。孟明を用ゆればなり。 君子是以知秦穆公之爲君也。舉人之周也、周、備也。不偏以一惡棄其善。 【読み】 君子是を以て秦の穆公の君爲ることを知る。人を舉ぐること周[そな]わり、周は、備わるなり。偏に一惡を以て其の善を棄てず。 與人之壹也。壹、無二心。 【読み】 人に與すること壹なり。壹は、二心無きなり。 孟明之臣也、其不解也。能懼思也。子桑之忠也、其知人也。能舉善也。子桑、公孫枝。舉孟明者。 【読み】 孟明の臣たるや、其れ解[おこた]らず。能く懼れ思えり。子桑の忠なるや、其れ人を知れり。能く善を舉げたり。子桑は、公孫枝。孟明を舉ぐる者なり。 詩曰、于以采蘩、于沼于沚。于以用之、公侯之事、秦穆有焉。詩、國風。言沼沚之蘩至薄、猶采以共公侯。以喩秦穆不遺小善。 【読み】 詩に曰く、于[ここ]に以て蘩[はん]を采る、沼に于[おい]てし沚[みぎわ]に于てす。于に以て之を用ゆ、公侯の事にとは、秦穆有り。詩は、國風。沼沚の蘩は至薄なるも、猶采りて以て公侯に共するを言う。以て秦穆小善を遺さざるに喩う。 夙夜匪解、以事一人、孟明有焉。詩、大雅。美仲山甫也。一人、天子也。 【読み】 夙夜解らず、以て一人に事るとは、孟明有り。詩は、大雅。仲山甫を美むるなり。一人は、天子なり。 詒厥孫謀、以燕翼子、子桑有焉。詒、遺也。燕、安也。翼、成也。詩、大雅。美武王能遺其子孫善謀、以安成子孫。言子桑有舉善之謀。 【読み】 厥の孫謀を詒[のこ]して、以て子を燕翼すとは、子桑有り。詒[い]は、遺すなり。燕は、安きなり。翼は、成すなり。詩は、大雅。武王能く其の子孫に善謀を遺して、以て子孫を安成するを美む。子桑善を舉ぐるの謀有るを言う。 秋、雨螽于宋、隊而死也。螽飛至宋、隊地而死。若雨。○隊、直類反。 【読み】 秋、宋に螽雨り、隊[お]ちて死す。螽飛びて宋に至り、地に隊ちて死す。雨の若し。○隊は、直類反。 楚師圍江。晉先僕伐楚以救江。晉救江、在雨螽下。故使圍江之經、隨在雨螽下。 【読み】 楚の師江を圍む。晉の先僕楚を伐ちて以て江を救う。晉江を救うは、螽雨るの下に在り。故に江を圍むの經をして、隨いて螽雨るの下に在らしむ。 冬、晉以江故告于周。欲假天子之威以伐楚。 【読み】 冬、晉江の故を以て周に告ぐ。天子の威を假りて以て楚を伐たんことを欲す。 王叔桓公・晉陽處父伐楚以救江。桓公、周卿士、王叔文公之子。桓公不書、示威名不親伐。 【読み】 王叔桓公・晉の陽處父楚を伐ちて以て江を救う。桓公は、周の卿士、王叔文公の子。桓公書さざるは、威名を示して親伐せざればなり。 門于方城、遇息公子朱而還。子朱、楚大夫。伐江之帥也。聞晉師起、而江兵解。故晉亦還。 【読み】 方城を門[せ]め、息公子朱に遇いて還る。子朱は、楚の大夫。江を伐つの帥なり。晉の師起こると聞きて、江の兵解く。故に晉も亦還る。 晉人懼其無禮於公也、請改盟。改二年、處父之盟。 【読み】 晉人其の公に禮無かりしを懼るるや、改めて盟わんと請う。二年、處父の盟を改むるなり。 公如晉、及晉侯盟。 【読み】 公晉に如き、晉侯と盟う。 晉侯饗公、賦菁菁者莪。菁菁者莪、詩小雅。取其旣見君子、樂且有儀。 【読み】 晉侯公を饗して、菁菁者莪[せいせいしゃが]を賦す。菁菁者莪は、詩の小雅。其の旣に君子を見れば、樂しみて且儀有るに取る。 莊叔以公降拜、謝其以公比君子也。 【読み】 莊叔公を以[い]て降り拜して、其の公を以て君子に比するを謝するなり。 曰、小國受命於大國。敢不愼儀。君貺之以大禮。何樂如之。抑小國之樂、大國之惠也。晉侯降辭。降堦辭讓公。○樂、音洛。下同。 【読み】 曰く、小國命を大國に受く。敢えて儀を愼まざらんや。君之に貺[たま]うに大禮を以てす。何の樂しみか之に如かん。抑々小國の樂しきは、大國の惠みなり、と。晉侯降り辭す。堦を降りて公に辭讓す。○樂は、音洛。下も同じ。 登成拜。倶還上、成拜禮。 【読み】 登りて拜を成す。倶に還り上りて、拜禮を成す。 公賦嘉樂。嘉樂、詩大雅。義取其顯顯令德、宜民宜人、受祿于天。○嘉、戶嫁反。嘉、如字。詩作假。傳、假、嘉也。中庸引作嘉。疏、美也。按樂、音洛。釋文、樂如字、非也。 【読み】 公嘉樂を賦す。嘉樂は、詩の大雅。義其の顯顯たる令德、民に宜しく人に宜しく、祿を天に受くというに取る。○嘉は、戶嫁反。嘉は、字の如し。詩に假に作る。傳に、假は、嘉なり、と。中庸引嘉と作す。疏は、美なり。按ずるに樂は、音洛。釋文、樂字の如しとは、非なり。 〔經〕四年、春、公至自晉。無傳。 【読み】 〔經〕四年、春、公晉より至る。傳無し。 夏、逆婦姜于齊。稱婦、有姑之辭。 【読み】 夏、婦姜を齊より逆[むか]う。婦と稱するは、姑有るの辭。 狄侵齊。無傳。 【読み】 狄齊を侵す。傳無し。 秋、楚人滅江。滅例在文十五年。 【読み】 秋、楚人江を滅ぼす。滅ぼすの例は文十五年に在り。 晉侯伐秦。衛侯使甯兪來聘。冬、十有一月、壬寅、夫人風氏薨。僖公母。風姓也。赴同、祔姑。故稱夫人。 【読み】 晉侯秦を伐つ。衛侯甯兪[ねいゆ]をして來聘せしむ。冬、十有一月、壬寅[みずのえ・とら]、夫人風氏薨ず。僖公の母。風姓なり。同に赴[つ]げ、姑に祔す。故に夫人と稱す。 〔傳〕四年、春、晉人歸孔達于衛。以爲衛之良也。故免之。二年、衛執孔達以說晉。 【読み】 〔傳〕四年、春、晉人孔達を衛に歸す。以て衛の良なりとす。故に之を免[ゆる]す。二年、衛孔達を執えて以て晉に說く。 夏、衛侯如晉拜。謝歸孔達。 【読み】 夏、衛侯晉に如きて拜す。孔達を歸すを謝す。 曹伯如晉會正。會受貢賦之政也。傳言襄公能繼文之業、而諸侯服從。 【読み】 曹伯晉に如きて正に會す。會して貢賦の政を受くるなり。傳襄公能く文の業を繼ぎて、諸侯服從するを言う。 逆婦姜于齊。卿不行、非禮也。禮、諸侯有故、則使卿逆。 【読み】 婦姜を齊より逆う。卿行かざるは、禮に非ざるなり。禮に、諸侯故有れば、則ち卿をして逆えしむ、と。 君子是以知出姜之不允於魯也。允、信也。始來不見尊貴。故終不爲國人所敬信也。文公薨而見出。故曰出姜。 【読み】 君子是を以て出姜の魯に允とせられざるを知れり。允は、信なり。始めて來りて尊貴せられず。故に終に國人の爲に敬信せられざるなり。文公薨じて出ださる。故に出姜と曰う。 曰、貴聘而賤逆之、公子遂納幣。是貴聘也。 【読み】 曰く、貴聘して賤之を逆え、公子遂納幣す。是れ貴聘するなり。 君而卑之、立而廢之、君、小君也。不以夫人禮迎。是卑廢之。 【読み】 君として之を卑しみ、立てて之を廢し、君は、小君なり。夫人の禮を以て迎えず。是れ之を卑廢するなり。 棄信而壞其主、在國必亂、在家必亡。主、内主也。○壞、音怪。 【読み】 信を棄てて其の主を壞[やぶ]れば、國に在りては必ず亂れ、家に在りては必ず亡ぶ。主は、内主なり。○壞は、音怪。 不允宜哉。詩曰、畏天之威、于時保之、敬主之謂也。詩、頌。言畏天威、於是保福祿。 【読み】 允とせられざること宜なるかな。詩に曰く、天の威を畏れて、時[ここ]に之を保つとは、主を敬するを謂うなり、と。詩は、頌。言うこころは、天威を畏れて、是に於て福祿を保つ。 秋、晉侯伐秦、圍邧・新城、以報王官之役。邧・新城、秦邑也。王官役、在前年。○邧、願晩反。一音元。 【読み】 秋、晉侯秦を伐ち、邧[げん]・新城を圍みて、以て王官の役に報ゆ。邧・新城は、秦の邑なり。王官の役は、前年に在り。○邧は、願晩反。一に音元。 楚人滅江。秦伯爲之降服、出次、不舉、過數。降服、素服也。出次、辟正寢。不舉、去盛饌。鄰國之禮有數。今秦伯過之。○爲、于僞反。下同。 【読み】 楚人江を滅ぼす。秦伯之が爲に服を降し、出でて次[やど]り、舉せず、數に過ぐ。服を降すとは、素服するなり。出でて次るとは、正寢を辟くるなり。舉せざるは、盛饌を去るなり。鄰國の禮は數有り。今秦伯之に過ぐ。○爲は、于僞反。下も同じ。 大夫諫。公曰、同盟滅。雖不能救、敢不矜乎。吾自懼也。秦・江同盟。不告。故不書。 【読み】 大夫諫む。公曰く、同盟滅ぶ。救うこと能わずと雖も、敢えて矜[あわ]れまざらんや。吾は自ら懼るるなり、と。秦・江は同盟なり。告げず。故に書さず。 君子曰、詩云、惟彼二國、其政不獲、惟此四國、爰究爰度、其秦穆之謂矣。詩、大雅。言夏商之君、政不得人心。故四方諸侯、皆懼而謀度其政事也。言秦穆亦能感江之滅、懼而思政。爰、於也。究・度、皆謀也。 【読み】 君子曰く、詩に云う、惟れ彼の二國、其の政獲ず、惟れ此の四國、爰に究[はか]り爰に度るとは、其れ秦穆を謂うなり、と。詩は、大雅。言うこころは、夏商の君、政人心を得ず。故に四方の諸侯、皆懼れて其の政事を謀度するなり。秦穆亦能く江の滅ぶるに感じて、懼れて政を思うを言う。爰は、於なり。究・度は、皆謀るなり。 衛甯武子來聘。公與之宴、爲賦湛露及彤弓。非禮之常。公特命樂人以示意。故言爲賦。湛露・彤弓、詩小雅。 【読み】 衛の甯武子來聘す。公之と宴して、爲に湛露[たんろ]と彤弓[とうきゅう]とを賦せしむ。禮の常に非ず。公特に樂人に命じて以て意を示す。故に爲に賦すと言う。湛露・彤弓は、詩の小雅。 不辭、又不答賦。使行人私焉。私問之。 【読み】 辭せず、又答賦せず。行人をして私せしむ。私に之を問う。 對曰、臣以爲肄業及之也。肄、習也。魯人失所賦。甯武子佯不知。此其愚不可及。○肄、以二反。 【読み】 對えて曰く、臣以爲えらく、業を肄[なら]いて之に及べり、と。肄は、習うなり。魯人賦する所を失う。甯武子知らずと佯[いつわ]る。此れ其の愚には及ぶ可からざるなり。○肄は、以二反。 昔諸侯朝正於王、朝而受政敎也。 【読み】 昔諸侯正に王に朝すれば、朝して政敎を受く。 王宴樂之。於是乎賦湛露、則天子當陽、諸侯用命也。湛露曰、湛湛露斯、匪陽不晞。晞、乾也。言露見日而乾、猶諸侯稟天子命而行。 【読み】 王之を宴樂す。是に於て湛露を賦するは、則ち天子陽に當たりて、諸侯命を用ゆるなり。湛露に曰く、湛湛たる露、陽に匪ざれば晞[かわ]かず、と。晞[き]は、乾くなり。露日を見て乾く、猶諸侯天子の命を稟けて行うがごときを言う。 諸侯敵王所愾、而獻其功、敵、猶當也。愾、恨怒也。○愾、苦愛反。 【読み】 諸侯王の愾[いか]る所に敵して、其の功を獻ずれば、敵は、猶當たるのごとし。愾は、恨怒なり。○愾[かい]は、苦愛反。 王於是乎賜之彤弓一、彤矢百、玈弓矢千、以覺報宴。覺、明也。謂諸侯有四夷之功、王賜之弓矢、又爲歌彤弓、以明報功宴樂。○玈、音盧。覺、音角。 【読み】 王是に於て之に彤弓一、彤矢百、玈弓[ろきゅう]矢千を賜いて、以て報宴を覺[あき]らかにす。覺は、明らかなり。諸侯四夷の功有れば、王之に弓矢を賜いて、又爲に彤弓を歌いて、以て功に報じて宴樂するを明らかにするを謂う。○玈は、音盧。覺は、音角。 今陪臣來繼舊好、方論天子之樂。故自稱陪臣。 【読み】 今陪臣來りて舊好を繼ぐに、方に天子の樂を論ず。故に自ら陪臣と稱す。 君辱貺之。其敢干大禮以自取戾。貺、賜也。干、犯也。戾、罪也。 【読み】 君辱く之を貺[たま]えり。其れ敢えて大禮を干して以て自ら戾[つみ]を取らんや、と。貺は、賜うなり。干は、犯すなり。戾は、罪なり。 冬、成風薨。爲明年、王使來含賵傳。 【読み】 冬、成風薨ず。明年、王來りて含賵[ぼう]せしむる爲の傳なり。 〔經〕五年、春、王正月、王使榮叔歸含且賵。珠玉曰含。含、口實。車馬曰賵。○含、戶暗反。 【読み】 〔經〕五年、春、王の正月、王榮叔をして含且賵[ぼう]を歸[おく]らしむ。珠玉を含と曰う。含は、口實。車馬を賵と曰う。○含は、戶暗反。 三月、辛亥、葬我小君成風。無傳。反哭成喪。故曰葬我小君。 【読み】 三月、辛亥[かのと・い]、我が小君成風を葬る。傳無し。反哭して喪を成す。故に我が小君を葬ると曰う。 王使召伯來會葬。召伯、天子卿也。召、采地。伯、爵也。來不及葬、不譏者、不失五月之内。 【読み】 王召伯をして來りて葬に會せしむ。召伯は、天子の卿なり。召は、采地。伯は、爵なり。來りて葬に及ばざれども、譏らざるは、五月の内を失わざればなり。 夏、公孫敖如晉。無傳。 【読み】 夏、公孫敖晉に如く。傳無し。 秦人入鄀。入例在十五年。○鄀、音若。 【読み】 秦人鄀[じゃく]に入る。入るの例は十五年に在り。○鄀は、音若。 秋、楚人滅六。六國、今廬江六縣。 【読み】 秋、楚人六を滅ぼす。六國は、今の廬江の六縣。 冬、十月、甲申、許男業卒。無傳。與僖公六同盟。 【読み】 冬、十月、甲申[きのえ・さる]、許男業卒す。傳無し。僖公と六たび同盟す。 〔傳〕五年、春、王使榮叔來含且賵、召昭公來會葬。禮也。成風、莊公之妾。天子以夫人禮賵之。明母以子貴。故曰禮。 【読み】 〔傳〕五年、春、王榮叔をして來りて含し且賵し、召昭公をして來りて葬に會せしむ。禮なり。成風は、莊公の妾。天子夫人の禮を以て之を賵す。母は子を以て貴きを明かす。故に禮と曰う。 初、鄀叛楚卽秦、又貳於楚。夏、秦人入鄀。 【読み】 初め、鄀楚に叛きて秦に卽き、又楚に貳あり。夏、秦人鄀に入る。 六人叛楚、卽東夷。秋、楚成大心・仲歸帥師滅六。仲歸、子家。 【読み】 六人楚に叛きて、東夷に卽く。秋、楚の成大心・仲歸師を帥いて六を滅ぼす。仲歸は、子家。 冬、楚公子爕滅蓼。蓼、今安豐蓼縣。○爕、息協反。蓼、音了。 【読み】 冬、楚の公子爕[しょう]蓼[りょう]を滅ぼす。蓼は、今の安豐蓼縣。○爕は、息協反。蓼は、音了。 臧文仲聞六與蓼滅、曰、皐陶庭堅不祀、忽諸。德之不建、民之無援、哀哉。蓼與六、皆皐陶後也。傷二國之君、不能建德、結援大國、忽然而亡。 【読み】 臧文仲六と蓼との滅ぶるを聞きて、曰く、皐陶庭堅祀られざること、忽諸たり。德を建てず、民の援け無き、哀しいかな、と。蓼と六とは、皆皐陶の後なり。二國の君、德を建て、援を大國に結ぶこと能わずして、忽然として亡ぶるを傷む。 晉陽處父聘于衛、反過甯。甯嬴從之、甯、晉邑。汲郡脩武縣也。嬴、逆旅大夫。 【読み】 晉の陽處父衛に聘し、反るとき甯を過ぐ。甯の嬴[えい]之に從い、甯は、晉の邑。汲郡脩武縣なり。嬴は、逆旅の大夫。 及溫而還。其妻問之。嬴曰、以剛。商書曰、沈漸剛克、高明柔克。沈漸、猶滯溺也。高明、猶亢爽也。言各當以剛柔勝己本性、乃能成全也。此在洪範。今謂之周書。○漸、似廉反。 【読み】 溫に及びて還る。其の妻之を問う。嬴曰く、以[はなは]だ剛なり。商書に曰く、沈漸なるは剛克し、高明なるは柔克す、と。沈漸は、猶滯溺のごとし。高明は、猶亢爽のごとし。言うこころは、各々當に剛柔を以て己が本性に勝つべく、乃ち能く全きを成す。此れ洪範に在り。今之を周書と謂う。○漸は、似廉反。 夫子壹之。其不沒乎。陽子性純剛。 【読み】 夫子之を壹[もっぱ]らにす。其れ沒[おわ]らざらんか。陽子性純剛なり。 天爲剛德、猶不干時。寒暑相順。 【読み】 天は剛德爲れども、猶時を干さず。寒暑相順う。 況在人乎。 【読み】 況んや人に在りてをや。 且華而不實、怨之所聚也。言過其行。 【読み】 且つ華にして實ならざるは、怨みの聚まる所なり。言其の行いに過ぐ。 犯而聚怨、不可以定身。剛則犯人。 【読み】 犯して怨みを聚めば、以て身を定む可からず。剛なれば則ち人を犯す。 余懼不獲其利而離其難。是以去之。爲六年、晉殺處父傳。○難、乃旦反。 【読み】 余其の利を獲ずして其の難に離[かか]らんことを懼る。是を以て之を去れり、と。六年、晉處父を殺す爲の傳なり。○難は、乃旦反。 晉趙成子・欒貞子・霍伯・臼季皆卒。成子、趙衰。新上軍帥、中軍佐也。貞子、欒枝。下軍帥也。霍伯、先且居。中軍帥也。臼季、胥臣。下軍佐也。爲六年、蒐於夷傳。 【読み】 晉の趙成子・欒貞子[らんていし]・霍伯・臼季皆卒す。成子は、趙衰。新上軍の帥、中軍の佐なり。貞子は、欒枝。下軍の帥なり。霍伯は、先且居。中軍の帥なり。臼季は、胥臣。下軍の佐なり。六年、夷に蒐する爲の傳なり。 〔經〕六年、春、葬許僖公。無傳。 【読み】 〔經〕六年、春、許の僖公を葬る。傳無し。 夏、季孫行父如陳。行父、季友孫。 【読み】 夏、季孫行父陳に如く。行父は、季友の孫。 秋、季孫行父如晉。八月、乙亥、晉侯驩卒。再同盟。 【読み】 秋、季孫行父晉に如く。八月、乙亥[きのと・い]、晉侯驩[かん]卒す。再び同盟す。 冬、十月、公子遂如晉。葬晉襄公。卿共葬事、文・襄之制也。三月而葬。速。 【読み】 冬、十月、公子遂晉に如く。晉の襄公を葬る。卿葬事に共するは、文・襄の制なり。三月にして葬る。速きなり。 晉殺其大夫陽處父。處父侵官。宜爲國討。故不言賈季殺。 【読み】 晉其の大夫陽處父を殺す。處父官を侵す。宜しく國討せらるべし。故に賈季殺すと言わず。 晉狐射姑出奔狄。射姑、狐偃子。射姑、狐偃子、賈季也。奔例在宣十年。○射、音亦。一音夜。 【読み】 晉の狐射姑[こえきこ]出でて狄に奔る。射姑は、狐偃の子、賈季なり。奔るの例は宣十年に在り。○射は、音亦。一に音夜。 閏月、不告月、猶朝于廟。諸侯每月必告朔聽政、因朝宗廟。文公以閏非常月、故闕不告朔、怠慢政事。雖朝于廟、則如勿朝。故曰猶。猶者、可止之辭。 【読み】 閏月、月を告げず、猶廟に朝す。諸侯每月必ず朔を告げ政を聽き、因りて宗廟に朝す。文公閏は常の月に非ざるを以て、故に闕きて告朔せずして、政事を怠慢す。廟に朝すと雖も、則ち朝すること勿きに如かんや。故に猶と曰う。猶とは、止む可きの辭なり。 〔傳〕六年、春、晉蒐于夷、舍二軍。僖三十一年、晉蒐淸原、作五軍。今舍二軍、復三軍之制。夷、晉地。前年四卿卒。故蒐以謀軍帥。○舍、音捨。 【読み】 〔傳〕六年、春、晉夷に蒐して、二軍を舍[す]つ。僖三十一年、晉淸原に蒐して、五軍を作る。今二軍を舍てて、三軍の制に復す。夷は、晉の地。前年四卿卒す。故に蒐して以て軍帥を謀るなり。○舍は、音捨。 使狐射姑將中軍。代先且居。 【読み】 狐射姑をして中軍に將たらしむ。先且居に代わる。 趙盾佐之。代趙衰也。盾、趙衰子。○盾、徒本反。 【読み】 趙盾[ちょうとん]之に佐たり。趙衰に代わるなり。盾は、趙衰の子。○盾は、徒本反。 陽處父至自溫、往年聘衛過溫。今始至。○過、古禾反。 【読み】 陽處父溫より至り、往年衛に聘して溫を過ぐ。今始めて至る。○過は、古禾反。 改蒐于董、易中軍。易以趙盾爲帥。射姑佐之。河東汾陰縣有董亭。 【読み】 改めて董に蒐して、中軍を易う。易えて趙盾を以て帥とす。射姑之に佐たり。河東汾陰縣に董亭有り。 陽子、成季之屬也。處父嘗爲趙衰屬大夫。 【読み】 陽子は、成季の屬なり。處父嘗て趙衰の屬大夫爲り。 故黨於趙氏。且謂趙盾能。曰、使能、國之利也。是以上之。 【読み】 故に趙氏に黨す。且趙盾を能ありと謂う。曰く、能を使うは、國の利なり、と。是を以て之を上にす。 宣子於是乎始爲國政。宣、趙盾謚。 【読み】 宣子是に於て始めて國政を爲す。宣は、趙盾の謚。 制事典、典、常也。 【読み】 事典を制し、典は、常なり。 正法罪、輕重當。○當、丁浪反。 【読み】 法罪を正し、輕重當たる。○當は、丁浪反。 辟刑獄、辟、猶理也。○辟、婢亦反。 【読み】 刑獄を辟[おさ]め、辟は、猶理むるのごとし。○辟は、婢亦反。 董逋逃、董、督也。 【読み】 逋逃を董[ただ]し、董は、督すなり。 由質要、由、用也。質要、券契也。 【読み】 質要を由[もち]い、由は、用ゆるなり。質要は、券契なり。 治舊洿、治、理。洿、穢。○洿、音烏。 【読み】 舊洿[きゅうお]を治め、治は、理む。洿は、穢れ。○洿は、音烏。 本秩禮、貴賤不失其本。 【読み】 秩禮に本づき、貴賤其の本を失わず。 續常職、脩廢官。 【読み】 常職を續ぎ、廢官を脩む。 出滯淹。拔賢能也。 【読み】 滯淹を出だす。賢能を拔くなり。 旣成、以授大傅陽子與大師賈佗、使行諸晉國、以爲常法。賈佗以公族從文公。而不在五人之數。○佗、徒何反。從、才用反。 【読み】 旣に成りて、以て大傅陽子と大師賈佗とに授けて、諸を晉國に行わしめて、以て常法と爲す。賈佗公族を以て文公に從う。而れども五人の數に在らず。○佗、徒何反。從、才用反。 臧文仲以陳・衛之睦也、欲求好於陳。夏、季文子聘于陳、且娶焉。臣非君命不越竟。故因聘而自爲娶。 【読み】 臧文仲陳・衛の睦まじきを以てや、好を陳に求めんことを欲す。夏、季文子陳に聘し、且つ娶る。臣君命に非ざれば竟を越えず。故に聘に因りて自ら爲に娶る。 秦伯任好卒。任好、秦穆公名。○任、音壬。 【読み】 秦伯任好卒す。任好は、秦の穆公の名。○任は、音壬。 以子車氏之三子奄息・仲行・鍼虎爲殉。子車、秦大夫氏也。以人從葬爲殉。○行、音航。鍼、其廉反。殉、音徇。 【読み】 子車氏の三子奄息・仲行・鍼虎[けんこ]を以て殉と爲す。子車は、秦の大夫の氏なり。人を以て葬に從うを殉と爲す。○行は、音航。鍼は、其廉反。殉は、音徇。 皆秦之良也。國人哀之、爲之賦黃鳥。黃鳥、詩秦風。義取黃鳥止于棘桑、往來得其所。傷三良不然。○爲、于僞反。 【読み】 皆秦の良なり。國人之を哀れみ、之が爲に黃鳥を賦す。黃鳥は、詩の秦風。義黃鳥の棘桑に止[やど]りて、往來其の所を得るに取る。三良の然らざるを傷むなり。○爲は、于僞反。 君子曰、秦穆之不爲盟主也宜哉。死而棄民。先王違世、猶詒之法。而況奪之善人乎。詩曰、人之云亡、邦國殄瘁、詩、大雅。言善人亡、則國瘁病。○詒、以之反。瘁、似醉反。 【読み】 君子曰く、秦穆の盟主と爲らざるや宜なるかな。死して民を棄てたり。先王は世を違[さ]れども、猶之に法を詒[のこ]せり。而るを況んや之が善人を奪わんや。詩に曰く、人の云[ここ]に亡ぶる、邦國殄瘁[てんすい]すとは、詩は、大雅。善人亡ぶれば、則ち國瘁病するを言う。○詒[い]は、以之反。瘁は、似醉反。 無善人之謂。若之何奪之。古之王者、知命之不長。是以竝建聖哲、建立聖知、以司牧民。 【読み】 善人無きを謂うなり。之を若何ぞ之を奪わんや。古の王者、命の長からざるを知る。是を以て竝に聖哲を建て、聖知を建立して、以て民を司牧せしむ。 樹之風聲、因土地風俗、爲立聲敎之法。 【読み】 之が風聲を樹て、土地風俗に因りて、爲に聲敎の法を立つ。 分之采物、旌旗衣服、各有分制。○分、扶問反。 【読み】 之が采物を分にし、旌旗衣服、各々分制有り。○分は、扶問反。 著之話言、話、善也。爲作善言遺戒。 【読み】 之が話言を著し、話は、善きなり。爲に善言遺戒を作るなり。 爲之律度、鐘律度量、所以治歷明時。 【読み】 之が律度を爲り、鐘律度量は、歷を治め時を明らかにする所以なり。 陳之藝極、藝、準也。極、中也。貢獻多少之法。傳曰、貢之無藝。又曰、貢獻無極。 【読み】 之が藝極を陳ね、藝は、準なり。極は、中なり。貢獻多少の法なり。傳に曰く、貢の藝無き、と。又曰く、貢獻極無し、と。 引之表儀、引、道也。表儀、猶威儀。○道、音導。 【読み】 之を表儀に引[みちび]き、引は、道くなり。表儀は、猶威儀のごとし。○道は、音導。 予之法制、告之訓典、訓典、先王之書。 【読み】 之に法制を予え、之に訓典を告げ、訓典は、先王の書。 敎之防利、防惡興利。 【読み】 之に防利を敎え、惡を防ぎ利を興す。 委之常秩、委、任也。常秩、官司之常職。 【読み】 之に常秩を委ね、委は、任すなり。常秩は、官司の常職。 道之以禮則、使毋失其土宜、衆隸賴之、而後卽命。卽、就也。 【読み】 之を道くに禮則を以てして、其の土宜を失うこと毋からしめ、衆隸之に賴りて、而して後に命に卽けり。卽は、就くなり。 聖王同之。今縱無法以遺後嗣、而又收其良以死。難以在上矣。 【読み】 聖王之を同じくす。今縱[たと]い法の以て後嗣に遺す無くとも、而るを又其の良を收めて以て死なしめんや。以て上に在ること難し、と。 君子是以知秦之不復東征也。不能復征討東方諸侯爲霸主。○復、扶又反。 【読み】 君子是を以て秦の復東征せざることを知る。復東方の諸侯を征討して霸主爲ること能わざるなり。○復は、扶又反。 秋、季文子將聘於晉、使求遭喪之禮以行。季文子、季孫行父也。聞晉侯疾故。 【読み】 秋、季文子將に晉に聘せんとし、喪に遭うの禮を求めしめて以て行く。季文子は、季孫行父なり。晉侯の疾を聞く故なり。 其人曰、將焉用之。其人、從者。○從、去聲。 【読み】 其の人曰く、將に焉にか之を用いんとす、と。其の人は、從者。○從は、去聲。 文子曰、備豫不虞、古之善敎也。求而無之實難。難卒得。 【読み】 文子曰く、不虞に備豫するは、古の善敎なり。求めて之れ無きは實に難し。卒に得難し。 過求何害。所謂文子三思。 【読み】 過ぎて求むるは何の害あらん、と。所謂文子の三思なり。 八月、乙亥、晉襄公卒。 【読み】 八月、乙亥、晉の襄公卒す。 靈公少。晉人以難故、欲立長君。立少君、恐有難。 【読み】 靈公少[わか]し。晉人難の故を以て、長君を立てんことを欲す。少君を立てば、難有らんことを恐る。 趙孟曰、立公子雍。趙孟、趙盾也。公子雍、文公子、襄公庶弟、杜祁之子。 【読み】 趙孟曰く、公子雍を立てん。趙孟は、趙盾なり。公子雍は、文公の子、襄公の庶弟、杜祁の子。 好善而長、先君愛之。且近於秦。秦舊好也。置善則固、事長則順、立愛則孝、結舊則安。爲難故、故欲立長君。有此四德者、難必抒矣。抒、除也。○抒、直呂反。又時呂反。 【読み】 善を好みて長じ、先君之を愛せり。且秦に近し。秦は舊好なり。善を置けば則ち固く、長に事るは則ち順、愛を立つるは則ち孝、舊を結べば則ち安し。難の故の爲に、故に長君を立てんことを欲するなり。此の四德有らば、難必ず抒[のぞ]かん、と。抒[じょ]は、除くなり。○抒は、直呂反。又時呂反。 賈季曰、不如立公子樂。樂、文公子。○樂、音岳。一音洛。 【読み】 賈季曰く、公子樂を立つるに如かず。樂は、文公の子。○樂は、音岳。一に音洛。 辰嬴嬖於二君。辰嬴、懷嬴也。二君、懷公・文公也。 【読み】 辰嬴[しんえい]二君に嬖せられたり。辰嬴は、懷嬴なり。二君は、懷公・文公なり。 立其子、民必安之。趙孟曰、辰嬴賤。班在九人。班、位也。 【読み】 其の子を立てば、民必ず之を安んぜん、と。趙孟曰く、辰嬴は賤し。班九人に在り。班は、位なり。 其子何震之有。震、威也。 【読み】 其の子何の震か之れ有らん。震は、威なり。 且爲二嬖、淫也。爲先君子、不能求大、而出在小國、辟也。母淫子辟、無威。陳小而遠、無援。將何安焉。 【読み】 且つ二嬖爲るは、淫なり。先君の子と爲して、大を求むること能わずして、出でて小國に在るは、辟なり。母淫に子辟は、威無し。陳小にして遠く、援け無し。將[はた]何ぞ安んぜん。 杜祁以君故、讓偪姞而上之、杜祁、杜伯之後。祁、姓也。偪姞、姞姓之女。生襄公。爲世子。故杜祁讓使在己上。○辟、匹亦反。偪、彼力反。姞、其吉反。 【読み】 杜祁君の故を以て、偪姞[ひょくきつ]に讓りて之を上にし、杜祁は、杜伯の後。祁は、姓なり。偪姞は、姞姓の女。襄公を生む。世子と爲る。故に杜祁讓りて己が上に在らしむ。○辟は、匹亦反。偪は、彼力反。姞は、其吉反。 以狄故、讓季隗而已次之。故班在四。以季隗是文公託狄時妻、故復讓之。然則杜祁本班在二。○隗、五罪反。 【読み】 狄の故を以て、季隗に讓りて已之に次ぐ。故に班四に在り。季隗是れ文公狄に託せし時の妻なるを以て、故に復之に讓る。然らば則ち杜祁の本班は二に在りしなり。○隗は、五罪反。 先君是以愛其子、而仕諸秦、爲亞卿焉。亞、次也。言其賢故位尊。 【読み】 先君是を以て其の子を愛して、諸を秦に仕えしめて、亞卿と爲れり。亞は、次なり。其の賢の故に位尊きを言う。 秦大而近。足以爲援。母義子愛。足以威民。立之不亦可乎。 【読み】 秦は大にして近し。以て援けと爲るに足れり。母義にして子愛あり。以て民を威すに足れり。之を立てんこと亦可ならずや、と。 使先蔑・士會如秦逆公子雍。先蔑、士伯也。士會、隨季也。 【読み】 先蔑・士會をして秦に如きて公子雍を逆えしむ。先蔑は、士伯なり。士會は、隨季なり。 賈季亦使召公子樂于陳。趙孟使殺諸郫。郫、晉地。○郫、婢支反。 【読み】 賈季も亦公子樂を陳より召[よ]ばしむ。趙孟諸を郫[ひ]に殺さしむ。郫は、晉の地。○郫は、婢支反。 賈季怨陽子之易其班也、本中軍帥、易以爲佐。 【読み】 賈季陽子が其の班を易えたるを怨み、本中軍の帥、易えられて以て佐と爲れり。 而知其無援於晉也。少族多怨。 【読み】 而して其の晉に援け無きを知る。族少なく怨み多し。 九月、賈季使續鞫居殺陽處父。鞫居、狐氏之族。 【読み】 九月、賈季續鞫居[ぞくきくきょ]をして陽處父を殺さしむ。鞫居は、狐氏の族。 書曰晉殺其大夫、侵官也。君已命帥、處父易之。故曰侵官。 【読み】 書して晉其の大夫を殺すと曰うは、官を侵せばなり。君已に帥を命じて、處父之を易う。故に官を侵すと曰う。 冬、十月、襄仲如晉、葬襄公。 【読み】 冬、十月、襄仲晉に如き、襄公を葬る。 十一月、丙寅、晉殺續簡伯。簡伯、續鞫居。十一月無丙寅。丙寅、十二月八日也。日月必有誤。 【読み】 十一月、丙寅[ひのえ・とら]、晉續簡伯を殺す。簡伯は、續鞫居。十一月に丙寅無し。丙寅は、十二月八日なり。日月に必ず誤り有らん。 賈季奔狄。宣子使臾騈送其帑。帑、妻子也。宣子以賈季中軍之佐、同官故。○騈、蒲賢反。又蒲丁反。帑、音奴。 【読み】 賈季狄に奔る。宣子臾騈[ゆへん]をして其の帑[ど]を送らしむ。帑は、妻子なり。宣子賈季は中軍の佐にして、同官なるを以ての故なり。○騈は、蒲賢反。又蒲丁反。帑は、音奴。 夷之蒐、賈季戮臾駢。臾駢之人、欲盡殺賈氏以報焉。臾駢曰、不可。吾聞、前志有之、曰、敵惠敵怨、不在後嗣、忠之道也。敵、猶對也。若及子孫、則爲非對。非對、則爲遷怒。 【読み】 夷の蒐に、賈季臾駢を戮せり。臾駢の人、盡く賈氏を殺して以て報いんと欲す。臾駢曰く、不可なり。吾れ聞く、前志に之れ有り、曰く、惠に敵し怨に敵して、後嗣に在らざるは、忠の道なり、と。敵は、猶對のごとし。若し子孫に及べば、則ち對に非ずとす。對に非ざれば、則ち怒を遷すとす。 夫子禮於賈季。我以其寵報私怨、無乃不可乎。言已蒙宣子寵位。 【読み】 夫子賈季に禮あり。我れ其の寵を以て私怨を報いば、乃ち不可なること無からんや。已に宣子が寵位を蒙るを言う。 介人之寵、非勇也。介、因也。 【読み】 人の寵に介[よ]るは、勇に非ざるなり。介は、因るなり。 損怨益仇、非知也。殺季家欲以除怨、宣子將復怨己。是益仇也。 【読み】 怨みを損せんとして仇を益すは、知に非ざるなり。季が家を殺して以て怨みを除かんと欲すれば、宣子將に復己を怨まんとす。是れ仇を益すなり。 以私害公、非忠也。釋此三者、何以事夫子。 【読み】 私を以て公を害するは、忠に非ざるなり。此の三つの者を釋[す]てば、何を以て夫子に事えん、と。 盡具其帑與其器用財賄、親師扞之、送致諸竟。扞、衛也。○扞、戶旦反。竟、音境。 【読み】 盡く其の帑と其の器用財賄とを具え、親ら師いて之を扞[まも]り、送りて諸を竟に致す。扞は、衛るなり。○扞は、戶旦反。竟は、音境。 閏月不告朔。非禮也。經稱告月、傳稱告朔。明告月必以朔。 【読み】 閏月告朔せず。禮に非ざるなり。經に告月と稱し、傳に告朔と稱す。告月は必ず朔を以てすることを明かすなり。 閏以正時、四時漸差、則致閏以正之。 【読み】 閏以て時を正し、四時漸く差えば、則ち閏を致して以て之を正す。 時以作事、順時命事。 【読み】 時以て事を作し、時に順いて事を命ず。 事以厚生。事不失時則年豐。 【読み】 事以て生を厚くす。事時を失わざれば則ち年豐かなり。 生民之道、於是乎在矣。不告閏朔、棄時政也。何以爲民。○爲、如字。治也。 【読み】 生民の道、是に於て在り。閏朔を告げざるは、時政を棄つるなり。何を以て民を爲[おさ]めん。○爲は、字の如し。治むるなり。 〔經〕七年、春、公伐邾。三月、甲戌、取須句。須句、魯之封内屬國也。僖公反其君之後、邾復滅之。書取易也。例在襄十三年。○句、其倶反。 【読み】 〔經〕七年、春、公邾[ちゅ]を伐つ。三月、甲戌[きのえ・いぬ]、須句[しゅこう]を取る。須句は、魯の封内の屬國なり。僖公其の君を反すの後、邾復之を滅ぼせり。取ると書すは易きなり。例は襄十三年に在り。○句は、其倶反。 遂城郚。無傳。因伐邾師、以城郚。郚、魯邑。卞縣南有郚城。備邾難。○郚、音吾。 【読み】 遂に郚[ご]に城く。傳無し。邾を伐つの師に因りて、以て郚に城く。郚は、魯の邑。卞縣の南に郚城有り。邾の難に備うるなり。○郚は、音吾。 夏、四月、宋公王臣卒。二年、與魯大夫盟於垂隴。 【読み】 夏、四月、宋公王臣卒す。二年、魯の大夫と垂隴に盟う。 宋人殺其大夫。宋人攻昭公、幷殺二大夫。故以非罪書。 【読み】 宋人其の大夫を殺す。宋人昭公を攻め、幷せて二大夫を殺す。故に罪に非ざるを以て書す。 戊子、晉人及秦人戰于令狐。趙盾廢嫡而外求君。故貶稱人。晉諱背先蔑而夜薄秦師、以戰告。 【読み】 戊子[つちのえ・ね]、晉人秦人と令狐に戰う。趙盾[ちょうとん]嫡を廢して外君を求む。故に貶して人と稱す。晉先蔑に背きて夜秦の師に薄[せま]るを諱みて、戰を以て告ぐ。 晉先蔑奔秦。不言出、在外奔。 【読み】 晉の先蔑秦に奔る。出づると言わざるは、外に在りて奔ればなり。 狄侵我西鄙。秋、八月、公會諸侯・晉大夫盟于扈。扈、鄭地。滎陽卷縣西北有扈亭。不分別書會人、總言諸侯・晉大夫盟者、公後會而及其盟。○扈、音戶。卷、音權。又丘權反。 【読み】 狄我が西鄙を侵す。秋、八月、公諸侯・晉の大夫に會して扈[こ]に盟う。扈は、鄭の地。滎陽卷縣の西北に扈亭有り。分別して會人を書さずして、總べて諸侯・晉の大夫盟うと言うは、公會に後れて其の盟に及べばなり。○扈は、音戶。卷は、音權。又丘權反。 冬、徐伐莒。不書將帥、徐夷、告辭略。 【読み】 冬、徐莒[きょ]を伐つ。將帥を書さざるは、徐夷にして、告辭略するなり。 公孫敖如莒涖盟。 【読み】 公孫敖莒に如き涖[のぞ]みて盟う。 〔傳〕七年、春、公伐邾、間晉難也。公因霸國有難而侵小。 【読み】 〔傳〕七年、春、公邾を伐つは、晉の難を間してなり。公霸國難有るに因りて小を侵すなり。 三月、甲戌、取須句、寘文公子焉。非禮也。邾文公子叛在魯。故公使爲守須句大夫也。絕大暤之祀、以與鄰國叛臣。故曰非禮。 【読み】 三月、甲戌、須句を取り、文公の子を寘[お]く。禮に非ざるなり。邾の文公の子叛きて魯に在り。故に公須句を守るの大夫爲らしむるなり。大暤の祀を絕ちて、以て鄰國の叛臣に與う。故に禮に非ずと曰う。 夏、四月、宋成公卒。於是公子成爲右師、莊公子。 【読み】 夏、四月、宋の成公卒す。是に於て公子成右師爲り、莊公の子。 公孫友爲左師、目夷子。 【読み】 公孫友左師爲り、目夷の子。 樂豫爲司馬、戴公玄孫。 【読み】 樂豫司馬爲り、戴公の玄孫。 鱗矔爲司徒、桓公孫。○矔、古亂反。 【読み】 鱗矔[りんかん]司徒爲り、桓公の孫。○矔は、古亂反。 公子蕩爲司城、桓公子也。以武公名、廢司空爲司城。 【読み】 公子蕩司城爲り、桓公の子なり。武公の名を以て、司空を廢して司城と爲す。 華御事爲司寇。華元父也。傳言六卿皆公族、昭公不親信之、所以致亂。○御、魚呂反。 【読み】 華御事司寇爲り。華元の父なり。傳六卿皆公族にして、昭公之を親信せず、亂を致す所以なるを言う。○御は、魚呂反。 昭公將去羣公子。樂豫曰、不可。公族、公室之枝葉也。若去之、則本根無所庇廕矣。葛藟猶能庇其本根。葛之能藟蔓繁滋者、以本枝廕庥之多。○去、起呂反。 【読み】 昭公將に羣公子を去らんとす。樂豫曰く、不可なり。公族は、公室の枝葉なり。若し之を去らば、則ち本根庇廕する所無からん。葛藟も猶能く其の本根を庇う。葛の能く藟蔓繁滋するは、本枝廕庥の多きを以てなり。○去は、起呂反。 故君子以爲比。謂詩人取以喩九族兄弟。 【読み】 故に君子以て比と爲す。詩人取りて以て九族兄弟に喩ゆるを謂う。 況國君乎。此諺所謂庇焉、而縱尋斧焉者也。縱、放也。 【読み】 況んや國君をや。此れ諺に所謂庇われて、縱[ほしいまま]に斧を尋[もち]ゆるという者なり。縱は、放なり。 必不可。君其圖之。親之以德、皆股肱也。誰敢攜貳。若之何去之。不聽。 【読み】 必ず不可ならん。君其れ之を圖れ。之を親しむに德を以てせば、皆股肱なり。誰か敢えて攜貳せん。之を若何ぞ之を去さらん、と。聽かず。 穆・襄之族、率國人以攻公、穆公・襄公之子孫、昭公所欲去者。 【読み】 穆・襄の族、國人を率いて以て公を攻め、穆公・襄公の子孫、昭公の去らんと欲する所の者。 殺公孫固・公孫鄭于公宮。二子在公宮。故爲亂兵所殺。 【読み】 公孫固・公孫鄭を公宮に殺す。二子公宮に在り。故に亂兵の爲に殺さる。 六卿和公室。樂豫舍司馬、以讓公子卬。卬、昭公弟。○舍、音捨。下同。卬、五郎反。 【読み】 六卿公室を和す。樂豫司馬を舍てて、以て公子卬[こう]に讓る。卬は、昭公の弟。○舍は、音捨。下も同じ。卬は、五郎反。 昭公卽位而葬。 【読み】 昭公位に卽きて葬る。 書曰宋人殺其大夫、不稱名、衆也。且言非其罪也。不稱殺者及死者名、殺者衆。故名不可知。死者無罪、則例不稱名。 【読み】 書して宋人其の大夫を殺すと曰いて、名を稱せざるは、衆[おお]ければなり。且其の罪に非ざるを言うなり。殺す者と死する者との名を稱せざるは、殺す者衆し。故に名知る可からざればなり。死する者罪無くば、則ち例名を稱せず。 秦康公送公子雍于晉、曰、文公之入也、無衛。故有呂・郤之難。僖二十四年、文公入。 【読み】 秦の康公公子雍を晉に送りて、曰く、文公の入りしや、衛無し。故に呂・郤の難有り、と。僖二十四年に、文公入る。 乃多與之徒衛。 【読み】 乃ち多く之に徒衛を與う。 穆嬴日抱大子以啼于朝、曰、先君何罪。其嗣亦何罪。舍適嗣不立、而外求君。將焉寘此。穆嬴、襄公夫人、靈公母也。○適、丁歷反。 【読み】 穆嬴[ぼくえい]日々に大子を抱きて以て朝に啼きて、曰く、先君何の罪ある。其の嗣も亦何の罪ある。適嗣を舍てて立てずして、外君を求む。將に焉に此を寘かんとするや、と。穆嬴は、襄公の夫人、靈公の母なり。○適は、丁歷反。 出朝、則抱以適趙氏、頓首於宣子曰、先君奉此子也、而屬諸子、曰、此子也才、吾受子之賜。不才、吾唯子之怨。欲使宣子敎訓之。○屬、音燭。 【読み】 朝を出づれば、則ち抱きて以て趙氏に適き、宣子に頓首して曰く、先君此の子を奉じて、諸を子に屬して、曰く、此の子や才あらば、吾れ子の賜を受けん。不才ならば、吾れ唯子を怨みん、と。宣子をして之を敎訓せしめんと欲す。○屬は、音燭。 今君雖終、言猶在耳。在宣子之耳。 【読み】 今君終わると雖も、言猶耳に在らん。宣子の耳に在り。 而棄之。若何。 【読み】 而るに之を棄つ。若何、と。 宣子與諸大夫皆患穆嬴、且畏偪。畏國人以大義來偪己。 【読み】 宣子諸大夫と皆穆嬴を患え、且偪られんことを畏る。國人の大義を以て來りて己に偪らんことを畏る。 乃背先蔑而立靈公、以禦秦師。 【読み】 乃ち先蔑に背きて靈公を立て、以て秦の師を禦ぐ。 箕鄭居守。趙盾將中軍。先克佐之。克、先且居子。代狐射姑。 【読み】 箕鄭居守す。趙盾中軍に將たり。先克之に佐たり。克は、先且居の子。狐射姑に代わる。 荀林父佐上軍。箕鄭將上軍居守。故佐獨行。 【読み】 荀林父上軍に佐たり。箕鄭上軍に將として居守す。故に佐獨り行く。 先蔑將下軍。先都佐之。步招御戎。戎津爲右。及堇陰。先蔑・士會逆公子雍、前還晉。晉人始以逆雍出軍、卒然變計立靈公。故車右・戎御猶在職。堇陰、晉地。○招、上遙反。堇、音謹。一音靳。 【読み】 先蔑下軍に將たり。先都之に佐たり。步招戎に御たり。戎津右爲り。堇陰[きんいん]に及ぶ。先蔑・士會公子雍を逆えて、前に晉に還る。晉人始め雍を逆うるを以て軍を出だし、卒然として計を變じて靈公を立つ。故に車右・戎御猶職に在り。堇陰は、晉の地。○招は、上遙反。堇は、音謹。一に音靳[きん]。 宣子曰、我若受秦、秦則賓也。不受、寇也。旣不受矣。而復緩師、秦將生心。先人有奪人之心、奪敵之戰心也。○先、悉薦反。 【読み】 宣子曰く、我れ若し秦を受けば、秦は則ち賓なり。受けざれば、寇なり。旣に受けず。而るを復師を緩くせば、秦將に心を生ぜんとす。人に先だてば人の心を奪うこと有るは、敵の戰心を奪うなり。○先は、悉薦反。 軍之善謀也。逐寇如追逃、軍之善政也。訓卒利兵、秣馬蓐食、潛師夜起。蓐食、早食於寢蓐。○蓐、音辱。 【読み】 軍の善謀なり。寇を逐うこと逃ぐるを追うが如くするは、軍の善政なり。卒を訓え兵を利[と]くし、馬に秣[まぐさか]い蓐[じょく]に食すといいて、師を潛めて夜起つ。蓐食は、寢蓐に早食するなり。○蓐は、音辱。 戊子、敗秦師于令狐、至于刳首。己丑、先蔑奔秦。士會從之。從刳首去也。令狐、在河東。當與刳首相接。○刳、苦胡反。 【読み】 戊子、秦の師を令狐に敗り、刳首[こしゅ]に至る。己丑[つちのと・うし]、先蔑秦に奔る。士會之に從う。刳首より去る。令狐は、河東に在り。當に刳首と相接わるべし。○刳は、苦胡反。 先蔑之使也、荀林父止之曰、夫人・大子猶在、而外求君。此必不行。子以疾辭、若何。不然將及。禍將及己。 【読み】 先蔑の使いするや、荀林父之を止めて曰く、夫人・大子猶在りて、而るに外君を求む。此れ必ず行われじ。子疾を以て辭せば、若何。然らずんば將に及ばんとす。禍將に己に及ばんとす。 攝卿以往、可也。何必子。同官爲寮。吾嘗同寮。敢不盡心乎。弗聽。爲賦板之三章。板、詩大雅。其三章、義取芻蕘之言、猶不可忽。況同寮乎。僖二十八年、林父將中行。先蔑將左行。 【読み】 卿を攝して以て往かしめて、可なり。何ぞ必ずしも子ならん。同官を寮と爲す。吾れ嘗て同寮なり。敢えて心を盡くさざらんや、と。聽かず。爲に板の三章を賦す。板は、詩の大雅。其の三章は、義芻蕘[すうじょう]の言も、猶忽にす可からず。況んや同寮をやというに取る。僖二十八年、林父中行に將たり。先蔑左行に將たり。 又弗聽。及亡、荀伯盡送其帑及其器用財賄於秦、曰、爲同寮故也。荀伯、林父。 【読み】 又聽かず。亡[に]ぐるに及びて、荀伯盡く其の帑と其の器用財賄とを秦に送りて、曰く、同寮の爲の故なり、と。荀伯は、林父。 士會在秦三年、不見士伯。士伯、先蔑。 【読み】 士會秦に在ること三年、士伯を見ず。士伯は、先蔑。 其人曰、能亡人於國、言能與人倶亡於晉國。 【読み】 其の人曰く、能く國を亡ぐる人と、言うこころは、能く人と倶に晉國を亡げたり。 不能見於此。焉用之。何用如此。 【読み】 此に見ること能わず。焉ぞ之を用いん、と。何ぞ此の如くなることを用いん。 士季曰、吾與之同罪。倶有迎公子雍之罪。 【読み】 士季曰く、吾れ之と罪を同じくするのみ。倶に公子雍を迎うるの罪有り。 非義之也。將何見焉。言己非慕先蔑之義而從之。 【読み】 之を義とするに非ざるなり。將[はた]何ぞ見えん、と。言うこころは、己先蔑の義を慕いて之に從うに非ず。 及歸、遂不見。責先蔑爲正卿而不匡諫、且倶出奔、惡有黨也。士會歸、在十三年。 【読み】 歸るに及ぶまで、遂に見ず。先蔑が正卿と爲して匡諫せざるを責め、且倶に出奔すれば、黨有らんことを惡むなり。士會が歸は、十三年に在り。 狄侵我西鄙。公使告于晉。趙宣子使因賈季問酆舒、且讓之。酆舒、狄相。讓其伐魯。 【読み】 狄我が西鄙を侵す。公晉に告げしむ。趙宣子賈季に因りて酆舒[ほうじょ]を問い、且つ之を讓[せ]めしむ。酆舒は、狄の相。其の魯を伐つを讓む。 酆舒問於賈季曰、趙衰・趙盾孰賢。對曰、趙衰、冬日之日也。趙盾、夏日之日也。冬日可愛、夏日可畏。 【読み】 酆舒賈季に問いて曰く、趙衰・趙盾孰れか賢なる、と。對えて曰く、趙衰は、冬日の日なり。趙盾は、夏日の日なり、と。冬日は愛す可く、夏日は畏る可し。 秋、八月、齊侯・宋公・衛侯・鄭伯・許男・曹伯會晉趙盾、盟于扈、晉侯立故也。公後至。故不書所會。 【読み】 秋、八月、齊侯・宋公・衛侯・鄭伯・許男・曹伯晉の趙盾に會して、扈に盟うは、晉侯立つ故なり。公後れて至る。故に會する所を書さず。 凡會諸侯、不書所會、後也。不書所會、謂不具列公侯及卿大夫。 【読み】 凡そ諸侯に會する、會する所を書さざるは、後れたるなり。會する所を書さざるは、公侯と卿大夫とを具列せざるを謂うなり。 後至、不書其國、辟不敏也。此傳還自釋凡例之意。 【読み】 後れて至れば、其の國を書さざるは、不敏を辟くるなり。此の傳還って自ら凡例の意を釋く。 穆伯娶于莒。曰戴己。生文伯。其娣聲己、生惠叔。穆伯、公孫敖也。文伯、穀也。惠叔、難也。○己、音紀。難、乃多反。 【読み】 穆伯莒に娶る。戴己[たいき]と曰う。文伯を生む。其の娣聲己、惠叔を生む。穆伯は、公孫敖なり。文伯は、穀なり。惠叔は、難なり。○己は、音紀。難は、乃多反。 戴已卒。又聘于莒。莒人以聲已辭。則爲襄仲聘焉。襄仲、公孫敖從父昆弟。 【読み】 戴已卒す。又莒に聘す。莒人聲已を以て辭す。則ち襄仲の爲に聘す。襄仲は、公孫敖の從父昆弟。 冬、徐伐莒。莒人來請盟。見伐。故欲結援。 【読み】 冬、徐莒を伐つ。莒人來りて盟を請う。伐たる。故に援を結ばんと欲す。 穆伯如莒涖盟、且爲仲逆。及鄢陵、登城見之。美。鄢陵、莒邑。○鄢、於晩反。 【読み】 穆伯莒に如きて涖みて盟い、且仲の爲に逆[むか]う。鄢陵[えんりょう]に及び、城に登りて之を見る。美なり。鄢陵は、莒の邑。○鄢は、於晩反。 自爲娶之。仲請攻之。公將許之。叔仲惠伯諫、惠伯、叔牙孫。 【読み】 自ら爲に之を娶る。仲之を攻めんと請う。公將に之を許さんとす。叔仲惠伯諫めて、惠伯は、叔牙の孫。 曰、臣聞之、兵作於内爲亂、於外爲寇。寇猶及人。亂自及也。今臣作亂、而君不禁、以啓寇讎。若之何。公止之。 【読み】 曰く、臣之を聞く、兵内に作るを亂と爲し、外に於るを寇と爲す、と。寇は猶人に及ぶ。亂ら自ら及ぶなり。今臣亂を作して、君禁ぜざるは、以て寇讎を啓くなり。之を若何、と。公之を止む。 惠伯成之。平二子。 【読み】 惠伯之を成[たい]らぐ。二子を平らぐ。 使仲舍之、舍、不娶。○舍、音捨。 【読み】 仲をして之を舍て、舍は、娶らざるなり。○舍は、音捨。 公孫敖反之、還莒女。 【読み】 公孫敖をして之を反し、莒の女を還す。 復爲兄弟如初。從之。爲明年、公孫敖奔莒傳。○復、音服。又扶又反。 【読み】 復兄弟爲ること初めの如くならしむ。之に從う。明年、公孫敖莒に奔る爲の傳なり。○復は、音服。又扶又反。 晉郤缺言於趙宣子曰、日衛不睦。故取其地。日、往日。取衛地、在元年。 【読み】 晉の郤缺[げきけつ]趙宣子に言いて曰く、日[さき]に衛睦まじからず。故に其の地を取れり。日は、往日。衛の地を取るは、元年に在り。 今已睦矣。可以歸之。叛而不討、何以示威。服而不柔、何以示懷。柔、安也。 【読み】 今已に睦まじ。以て之を歸す可し。叛きて討ぜずんば、何を以て威を示さん。服して柔[やす]んぜずんば、何を以て懷を示さん。柔は、安きなり。 非威非懷、何以示德。無德、何以主盟。子爲正卿、以主諸侯。而不務德、將若之何。 【読み】 威に非ず懷に非ずんば、何を以て德を示さん。德無くば、何を以て盟を主らん。子正卿と爲して、以て諸侯を主れり。而るを德を務めずんば、將[はた]之を若何せん。 夏書曰、逸書。 【読み】 夏書に曰く、逸書。 戒之用休、有休、則戒之以勿休。 【読み】 之を戒むるに休を用てし、休有れば、則ち之を戒むるに休すること勿きを以てす。 董之用威、董、督也。有罪、則督之以威刑。 【読み】 之を董[ただ]すに威を用てし、董は、督すなり。罪有れば、則ち之を督すに威刑を以てす。 勸之以九歌、勿使壞。九功之德、皆可歌也、謂之九歌、六府三事、謂之九功、水・火・金・木・土・穀、謂之六府、正德・利用・厚生、謂之三事、義而行之、謂之德禮。德、正德也。禮以制財用之節、又以厚生民之命。 【読み】 之を勸むるに九歌を以てして、壞[やぶ]れしむること勿かれ、と。九功の德、皆歌う可き、之を九歌と謂い、六府三事、之を九功と謂い、水・火・金・木・土・穀、之を六府と謂い、正德・利用・厚生、之を三事と謂い、義にして之を行う、之を德禮と謂う。德は、正德なり。禮以て財用の節を制し、又以て生民の命を厚くす。 無禮不樂、所由叛也。 【読み】 禮無ければ樂しまず、由りて叛く所なり。 若吾子之德、莫可歌也。其誰來之。來、猶歸也。○樂、音洛。 【読み】 吾子の德の若きは、歌う可き莫し。其れ誰か之に來らん。來は、猶歸すのごとし。○樂は、音洛。 盍使睦者歌吾子乎。宣子說之。爲明年、晉歸鄭衞田張本。一說、歸鄭・衛二國田也。說見下。 【読み】 盍ぞ睦まじき者をして吾子を歌わしめざるか、と。宣子之を說ぶ。明年、晉鄭の衞田を歸す爲の張本なり。一說に、鄭・衛二國の田を歸すなり。說下に見ゆ。 〔經〕八年、春、王正月。夏、四月。秋、八月、戊申、天王崩。冬、十月、壬午、公子遂會晉趙盾盟于衡雍。壬午、月五日。○雍、於用反。 【読み】 〔經〕八年、春、王の正月。夏、四月。秋、八月、戊申[つちのえ・さる]、天王崩ず。冬、十月、壬午[みずのえ・うま]、公子遂晉の趙盾[ちょうとん]に會して衡雍に盟う。壬午は、月の五日。○雍は、於用反。 乙酉、公子遂會雒戎盟于暴。乙酉、月八日也。暴、鄭地。公子遂不受命而盟。宜去族。善其解國患。故稱公子以貴之。 【読み】 乙酉[きのと・とり]、公子遂雒戎[らくじゅう]に會して暴に盟う。乙酉は、月の八日なり。暴は、鄭の地。公子遂命を受けずして盟う。宜しく族を去るべし。其の國の患えを解くを善す。故に公子と稱して以て之を貴ぶ。 公孫敖如京師。不至而復、丙戌、奔莒。不言出、受命而出、自外行。 【読み】 公孫敖京師に如く。至らずして復り、丙戌[ひのえ・いぬ]、莒[きょ]に奔る。出づると言わざるは、命を受けて出でて、外より行けばなり。 螽。無傳。爲災。故書。 【読み】 螽[しゅう]あり。傳無し。災いを爲す。故に書す。 宋人殺其大夫司馬。宋司城來奔。司馬死不舍節。司城奉身而退。故皆書官而不名。貴之。 【読み】 宋人其の大夫の司馬を殺す。宋の司城來奔す。司馬死して節を舍てず。司城身を奉じて退く。故に皆官を書して名いわず。之を貴ぶなり。 〔傳〕八年、春、晉侯使解揚歸匡・戚之田于衛、匡、本衛邑。中屬鄭。孔達伐不能克。今晉令鄭還衛、及取戚田、皆見元年。○解、音蟹。中、去聲。 【読み】 〔傳〕八年、春、晉侯解揚をして匡・戚の田を衛に歸さしめ、匡は、本衛の邑。中ごろ鄭に屬す。孔達伐ちて克つこと能わず。今晉鄭をして衛に還さしめ、及び戚の田を取ること、皆元年に見ゆ。○解は、音蟹。中は、去聲。 且復致公壻池之封、自申至于虎牢之竟。公壻池、晉君女壻。又取衛地以封之、今幷還衛也。申、鄭地。傳言趙盾所以能相幼主而盟諸侯。○復、扶又反。 【読み】 且つ復公の壻池の封の、申より虎牢の竟に至るまでを致[かえ]す。公の壻池は、晉君の女壻なり。又衛の地を取りて以て之を封ぜしを、今幷せて衛に還すなり。申は、鄭の地。傳趙盾[ちょうとん]能く幼主を相けて諸侯に盟う所以を言う。○復は、扶又反。 夏、秦人伐晉、取武城、以報令狐之役。令狐役、在七年。 【読み】 夏、秦人晉を伐ちて、武城を取り、以て令狐の役に報ゆ。令狐の役は、七年に在り。 秋、襄王崩。爲公孫敖如周弔傳。 【読み】 秋、襄王崩ず。公孫敖周に如きて弔する爲の傳なり。 晉人以扈之盟來討。前年盟扈、公後至。 【読み】 晉人扈の盟を以て來り討ず。前年扈[こ]に盟うとき、公後れて至る。 冬、襄仲會晉趙孟盟于衡雍、報扈之盟也。遂會伊雒之戎。伊雒之戎將伐魯。公子遂不及復君。故專命與之盟。 【読み】 冬、襄仲晉の趙孟に會して衡雍に盟うは、扈[こ]の盟に報ゆるなり。遂に伊雒の戎に會す。伊雒の戎將に魯を伐たんとす。公子遂君に復するに及ばず。故に命を專らにして之と盟うなり。 書曰公子遂、珍之也。珍、貴也。大夫出竟、有可以安社稷、利國家者、專之可。 【読み】 書して公子遂と曰うは、之を珍とするなり。珍は、貴きなり。大夫竟を出づるとき、以て社稷を安んじ、國家を利す可き者有れば、之を專らにして可なり。 穆伯如周弔喪。不至。以幣奔莒、從己氏焉。己氏、莒女。 【読み】 穆伯周に如きて喪を弔せんとす。至らず。幣を以て莒に奔り、己氏に從えり。己氏は、莒の女。 宋襄夫人、襄王之姊也。昭公不禮焉。昭公適祖母。 【読み】 宋の襄夫人は、襄王の姊なり。昭公禮せず。昭公の適祖母。 夫人因戴氏之族、華・樂・皇、皆戴族。 【読み】 夫人戴氏の族に因りて、華・樂・皇は、皆戴の族。 以殺襄公之孫孔叔・公孫鍾離及大司馬公子卬。皆昭公之黨也。司馬握節以死。故書以官。節、國之符信也。握之以死、示不廢命。 【読み】 以て襄公の孫孔叔・公孫鍾離と大司馬公子卬[こう]とを殺す。皆昭公の黨なり。司馬節を握りて以て死す。故に書すに官を以てす。節は、國の符信なり。之を握りて以て死するは、命を廢せざるを示すなり。 司城蕩意諸來奔。效節於府人而出。效、猶致也。意諸、公子蕩之孫。 【読み】 司城蕩意諸來奔す。節を府人に效[いた]して出づ。效は、猶致すのごとし。意諸は、公子蕩の孫。 公以其官逆之、皆復之。亦書以官。皆貴之也。卿違從大夫。公賢其效節。故以本官逆之、請宋而復之。司城官屬悉來奔。故言皆復。 【読み】 公其の官を以て之を逆え、皆之を復す。亦書すに官を以てす。皆之を貴ぶなり。卿違[さ]るときは大夫に從う。公其の節を效すを賢とす。故に本官を以て之を逆え、宋に請いて之を復す。司城の官屬悉く來奔す。故に皆復すと言う。 夷之蒐、晉侯將登箕鄭父・先都、登之於上軍也。夷蒐在六年。 【読み】 夷の蒐に、晉侯將に箕鄭父・先都を登せて、之を上軍に登すなり。夷蒐は六年に在り。 而使士縠・梁益耳、將中軍。士縠、本司空。○縠、戶木反。 【読み】 士縠・梁益耳をして、中軍に將たらしめんとす。士縠は、本司空。○縠は、戶木反。 先克曰、狐・趙之勳、不可廢也。從之。狐偃・趙衰、有從亡之勳。○從亡、去聲。 【読み】 先克曰く、狐・趙の勳、廢す可からず、と。之に從う。狐偃・趙衰、亡に從うの勳有り。○從亡は、去聲。 先克奪蒯得田于堇陰。七年、晉禦秦師於堇陰、以軍事奪其田也。先克、中軍佐。○蒯、苦聵反。 【読み】 先克蒯得の田を堇陰[きんいん]に奪う。七年、晉秦の師を堇陰に禦ぐとき、軍事を以て其の田を奪うなり。先克は、中軍の佐。○蒯は、苦聵反。 故箕鄭父・先都・士縠・梁益耳・蒯得作亂。爲明年、殺先克張本。○爲、于僞反。 【読み】 故に箕鄭父・先都・士縠・梁益耳・蒯得亂を作す。明年、先克を殺す爲の張本なり。○爲は、于僞反。 〔經〕九年、春、毛伯來求金。求金以共葬事。雖踰年而未葬。故不稱王使。 【読み】 〔經〕九年、春、毛伯來りて金を求む。金を求めて以て葬事に共せんとす。年を踰ゆと雖も未だ葬らず。故に王使むと稱せず。 夫人姜氏如齊。無傳。歸寧。 【読み】 夫人姜氏齊に如く。傳無し。歸寧なり。 二月、叔孫得臣如京師。辛丑、葬襄王。卿共葬事。禮也。 【読み】 二月、叔孫得臣京師に如く。辛丑[かのと・うし]、襄王を葬る。卿葬事に共す。禮なり。 晉人殺其大夫先都。下軍佐也。以作亂討。故書名。 【読み】 晉人其の大夫先都を殺す。下軍の佐なり。亂を作すを以て討ず。故に名を書す。 三月、夫人姜氏至自齊。無傳。告于廟。 【読み】 三月、夫人姜氏齊より至る。傳無し。廟に告ぐ。 晉人殺其大夫士縠及箕鄭父。與先都同罪也。 【読み】 晉人其の大夫士縠と箕鄭父とを殺す。先都と同罪なり。 楚人伐鄭。楚子師於狼淵不親伐。 【読み】 楚人鄭を伐つ。楚子狼淵に師して親ら伐たず。 公子遂會晉人・宋人・衛人・許人救鄭。夏、狄侵齊。無傳。 【読み】 公子遂晉人・宋人・衛人・許人に會して鄭を救う。夏、狄齊を侵す。傳無し。 秋、八月、曹伯襄卒。無傳。七年、同盟于扈。 【読み】 秋、八月、曹伯襄卒す。傳無し。七年、扈[こ]に同盟す。 九月、癸酉、地震。無傳。地道安靜。以動爲異。故書。 【読み】 九月、癸酉[みずのと・とり]、地震す。傳無し。地道は安靜。動を以て異とす。故に書す。 冬、楚子使椒來聘。稱君以使大夫、其禮辭與中國同。椒不書氏、史略文。 【読み】 冬、楚子椒をして來聘せしむ。君を稱して以て大夫を使いせしめむるは、其の禮辭中國と同じきなり。椒氏を書さざるは、史の略文なり。 秦人來歸僖公・成風之隧。衣服曰隧。秦辟陋。故不稱使。不稱夫人、從來者辭。 【読み】 秦人來りて僖公・成風の隧を歸[おく]る。衣服を隧と曰う。秦は辟陋。故に使むと稱せず。夫人と稱せざるは、來者の辭に從うなり。 葬曹共公。無傳。 【読み】 曹の共公を葬る。傳無し。 〔傳〕九年、春、王正月、己酉、使賊殺先克。箕鄭等所使也。亂殺先克。不赴故不書。 【読み】 〔傳〕九年、春、王の正月、己酉[つちのと・とり]、賊をして先克を殺さしむ。箕鄭等のせしむる所なり。先克を亂殺す。赴[つ]げざる故に書さず。 乙丑、晉人殺先都・梁益耳。乙丑、正月十九日。經書二月、從告。 【読み】 乙丑[きのと・うし]、晉人先都・梁益耳を殺す。乙丑は、正月十九日。經二月に書すは、告ぐるに從うなり。 毛伯衛來求金、非禮也。天子不私求財。故曰非禮。 【読み】 毛伯衛來りて金を求むるは、禮に非ざるなり。天子は私に財を求めず。故に禮に非ずと曰う。 不書王命、未葬也。 【読み】 王命を書さざるは、未だ葬らざればなり。 二月、莊叔如周、葬襄王。 【読み】 二月、莊叔周に如き、襄王を葬る。 三月、甲戌、晉人殺箕鄭父・士縠・蒯得。梁益耳・蒯得不書、皆非卿。 【読み】 三月、甲戌[きのえ・いぬ]、晉人箕鄭父・士縠・蒯得を殺す。梁益耳・蒯得書さざるは、皆卿に非ざればなり。 范山言於楚子曰、晉君少、不在諸侯。北方可圖也。范山、楚大夫。 【読み】 范山楚子に言いて曰く、晉の君少くして、諸侯に在らず。北方圖る可し、と。范山は、楚の大夫。 楚子師于狼淵以伐鄭。陳師狼淵、爲伐鄭援也。潁川潁陰縣西有狼陂。 【読み】 楚子狼淵に師して以て鄭を伐つ。師を狼淵に陳して、鄭を伐つの援とするなり。潁川潁陰縣の西に狼陂有り。 囚公子堅・公子尨及樂耳。三子、鄭大夫。○尨、莫江反。 【読み】 公子堅・公子尨[ぼう]と樂耳とを囚う。三子は、鄭の大夫。○尨は、莫江反。 鄭及楚平。 【読み】 鄭楚と平らぐ。 公子遂會晉趙盾・宋華耦・衛孔達・許大夫救鄭、不及楚師。卿不書、緩也。以懲不恪。華耦、華父督曾孫。公子遂獨不在貶者、諸魯事、自非指爲其國褒貶、則皆從国史、不同之於他國。此春秋大意。他放此。○恪、苦各反。 【読み】 公子遂晉の趙盾・宋の華耦・衛の孔達・許の大夫に會して鄭を救いて、楚の師に及ばず。卿書さざるは、緩[おそ]ければなり。以て不恪を懲らすなり。華耦は、華父督の曾孫。公子遂獨り貶に在らざるは、諸々の魯の事、指して其の國の爲に褒貶するに非ざるよりは、則ち皆国史に從いて、之を他國に同じくせず。此れ春秋の大意なり。他も此に放え。○恪は、苦各反。 夏、楚侵陳、克壺丘。壺丘、陳邑。 【読み】 夏、楚陳を侵し、壺丘に克つ。壺丘は、陳の邑。 以其服於晉也。 【読み】 其の晉に服するを以てなり。 秋、楚公子朱自東夷伐陳。子朱、息公也。 【読み】 秋、楚の公子朱東夷より陳を伐つ。子朱は、息公なり。 陳人敗之、獲公子茷。陳懼。乃及楚平。以小勝大。故懼而請平也。傳言晉君少、楚陵中國。明年、所以有厥貉之會。○茷、扶廢反。貉、武百反。 【読み】 陳人之を敗り、公子茷[はい]を獲たり。陳懼る。乃ち楚と平らぐ。小を以て大に勝つ。故に懼れて平らぎを請うなり。傳晉君少くして、楚中國を陵ぐを言う。明年、厥貉[けつばく]の會有る所以なり。○茷は、扶廢反。貉は、武百反。 冬、楚子越椒來聘。執幣傲。子越椒、令尹子文從子。傲、不敬。 【読み】 冬、楚の子越椒來聘す。幣を執ること傲れり。子越椒は、令尹子文の從子。傲は、不敬なり。 叔仲惠伯曰、是必滅若敖氏之宗。傲其先君。神弗福也。十二年傳曰、先君之敝器、使下臣致諸執事。明奉使皆告廟。故言傲其先君也。爲宣四年、楚滅若敖氏張本。 【読み】 叔仲惠伯曰く、是れ必ず若敖氏の宗を滅ぼさん。其の先君に傲れり。神福せじ、と。十二年の傳に曰く、先君の敝器、下臣をして諸を執事に致さしむ、と。明けし、使を奉ずれば皆廟に告ぐるなり。故に其の先君に傲ると言うなり。宣四年、楚若敖氏を滅ぼす爲の張本なり。 秦人來歸僖公・成風之襚。禮也。秦慕諸夏、欲通敬於魯。因有翟泉之盟、故追贈僖公、幷及成風。本非魯方嶽同盟、無相赴弔之制。故不譏其緩、而以接好爲禮。 【読み】 秦人來りて僖公・成風の襚を歸る。禮なり。秦諸夏を慕い、敬を魯に通ぜんことを欲す。翟泉の盟有るに因りて、故に僖公に追贈して、幷せて成風に及ぶなり。本魯の方嶽の同盟に非ざれば、相赴弔するの制無し。故に其の緩きを譏らずして、接好を以て禮とす。 諸侯相弔賀也、雖不當事、苟有禮焉、書也。以無忘舊好。送死不及尸。故曰不當事。書者、書於典策、垂示子孫、使無忘過厚之好。 【読み】 諸侯相弔賀するや、事に當たらずと雖も、苟も禮有れば、書すなり。舊好を忘るること無きを以てなり。死に送りて尸に及ばず。故に事に當たらずと曰う。書すとは、典策に書して、子孫に垂示して、過厚の好を忘るること無からしむるなり。 〔經〕十年、春、王三月、辛卯、臧孫辰卒。無傳。公與小斂。故書日。 【読み】 〔經〕十年、春、王の三月、辛卯[かのと・う]、臧孫辰卒す。傳無し。公小斂に與る。故に日を書す。 夏、秦伐晉。不稱將帥、告辭略。 【読み】 夏、秦晉を伐つ。將帥を稱せざるは、告辭略するなり。 楚殺其大夫宜申。宜申、子西也。謀弑君。故書名。 【読み】 楚其の大夫宜申を殺す。宜申は、子西なり。君を弑せんと謀る。故に名を書す。 自正月不雨、至于秋七月。無傳。義與二年同。 【読み】 正月より雨ふらず、秋七月に至る。傳無し。義二年と同じ。 及蘇子盟于女栗。女栗、地名。闕。蘇子、周卿士。頃王新立。故與魯盟。親諸侯也。○女、音汝。一如字。 【読み】 蘇子と女栗[じょりつ]に盟う。女栗は、地の名。闕く。蘇子は、周の卿士。頃王新たに立つ。故に魯と盟う。諸侯を親しむなり。○女は、音汝。一に字の如し。 冬、狄侵宋。無傳。 【読み】 冬、狄宋を侵す。傳無し。 楚子・蔡侯次于厥貉。厥貉、地名。闕。將伐宋而未行。故書次。 【読み】 楚子・蔡侯厥貉[けつばく]に次[やど]る。厥貉は、地の名。闕く。將に宋を伐たんとして未だ行かず。故に次ると書す。 〔傳〕十年、春、晉人伐秦、取少梁。少梁、馮翊夏陽縣。○少、詩照反。 【読み】 〔傳〕十年、春、晉人秦を伐ち、少梁を取る。少梁は、馮翊の夏陽縣。○少は、詩照反。 夏、秦伯伐晉、取北徵。報少梁。○徵、如字。三蒼云、音懲。一音張里反。 【読み】 夏、秦伯晉を伐ち、北徵を取る。少梁に報ゆ。○徵は、字の如し。三蒼云う、音懲。一に音張里反。 初、楚范巫矞似、矞似、范邑之巫。○矞、尹必反。 【読み】 初め、楚の范巫矞似[いつじ]、矞似は、范邑の巫。○矞は、尹必反。 謂成王與子玉・子西、曰、三君皆將强死。城濮之役、王思之。故使止子玉、曰、毋死。不及。止子西。縊而縣絕。在僖二十八年。○强、其丈反。 【読み】 成王と子玉・子西とに謂いて、曰く、三君皆將に强死せんとす、と。城濮の役に、王之を思う。故に子玉を止めしめて、曰く、死すこと毋かれ、と。及ばず。子西を止む。縊れて縣絕ゆ。僖二十八年に在り。○强は、其丈反。 *漢籍國字解全書には、「縊而縣絕」は「子西縊而縣絕」とある。 王使適至、遂止之。使爲商公。商、楚邑。今上雒商縣。 【読み】 王の使適[たま]々至り、遂に之を止む。商公爲らしむ。商は、楚の邑。今の上雒商縣。 沿漢泝江、將入郢。沿、順流。泝、逆流。○沿、悅專反。泝、息路反。郢、以井反。 【読み】 漢に沿い江に泝[さかのぼ]り、將に郢[えい]に入らんとす。沿は、流れに順うなり。泝は、流れに逆うなり。○沿は、悅專反。泝は、息路反。郢は、以井反。 *沿は、サンズイに公。 王在渚宮、小洲曰渚。 【読み】 王渚宮に在りて、小洲を渚と曰う。 下見之。懼而辭曰、臣免於死、又有讒言、謂臣將逃。臣歸死於司敗也。陳・楚名司寇爲司敗。子西畏讒言、不敢之商縣。 【読み】 之を下し見る。懼れて辭して曰く、臣死を免れしに、又讒言有りて、臣を將に逃げんとすと謂う。臣死を司敗に歸せん、と。陳・楚司寇を名づけて司敗とす。子西讒言を畏れて、敢えて商縣に之かず。 王使爲工尹。掌百工之官。 【読み】 王工尹爲らしむ。百工を掌るの官。 又與子家謀弑穆王。穆王聞之、五月、殺鬭宜申及仲歸。仲歸、子家。不書、非卿。 【読み】 又子家と穆王を弑せんことを謀る。穆王之を聞き、五月、鬭宜申と仲歸とを殺す。仲歸は、子家。書さざるは、卿に非ざればなり。 秋、七月、及蘇子盟于女栗、頃王立故也。僖十年、狄滅溫、蘇子奔衛。今復見、蓋王復之。 【読み】 秋、七月、蘇子と女栗に盟うは、頃王立つ故なり。僖十年、狄溫を滅ぼして、蘇子衛に奔る。今復見ゆるは、蓋し王之を復すならん。 陳侯・鄭伯會楚子于息。冬、遂及蔡侯次于厥貉。陳・鄭及宋麇子不書者、宋・鄭執卑苟免、爲楚僕任、受役於司馬、麇子恥之、遂逃而歸。三君失位降爵。故不列於諸侯。宋・鄭猶然、則陳侯必同也。○麇、九倫反。 【読み】 陳侯・鄭伯楚子に息に會す。冬、遂に蔡侯と厥貉に次る。陳・鄭と宋の麇子[きんし]と書さざるは、宋・鄭は卑しきを執えて苟も免れ、楚の僕任と爲りて、役を司馬に受け、麇子は之を恥じて、遂に逃げて歸る。三君位を失し爵を降す。故に諸侯に列ねず。宋・鄭猶然るときは、則ち陳侯必ず同じならん。○麇は、九倫反。 將以伐宋。宋華御事曰、楚欲弱我也。先爲之弱乎、何必使誘我。我實不能、民何罪。乃逆楚子、勞且聽命。時楚欲誘呼宋共戰。御事、華元父。○勞、力報反。 【読み】 將に以て宋を伐たんとす。宋の華御事が曰く、楚我を弱めんと欲するなり。先ず之が弱きを爲さんや、何ぞ必ずしも我を誘[あざむ]かしめん。我れ實に能わざれども、民何の罪ある、と。乃ち楚子を逆え、勞して且命を聽く。時に楚宋を誘呼して共に戰わんと欲す。御事は、華元の父。○勞は、力報反。 遂道以田孟諸。孟諸、宋大藪也。在梁國睢陽縣東北。○道、音導。睢、音綏。 【読み】 遂に道[みちび]きて以て孟諸に田[かり]す。孟諸は、宋の大藪なり。梁國睢陽縣の東北に在り。○道は、音導。睢は、音綏。 宋公爲右盂、鄭伯爲左盂、盂、田獵陳名。○陳、直覲反。 【読み】 宋公右盂と爲り、鄭伯左盂と爲り、盂は、田獵の陳の名。○陳は、直覲反。 期思公復遂爲右司馬、復遂、楚期思邑公。今弋陽期思縣。 【読み】 期思公復遂右司馬と爲り、復遂は、楚の期思邑の公。今の弋陽の期思縣。 子朱及文之無畏爲左司馬。將獵、張兩甄。故置二左司馬。然則右司馬一人當中央。○甄、吉然反。 【読み】 子朱と文之無畏と左司馬と爲る。將に獵せんとし、兩甄[りょうけん]を張る。故に二りの左司馬を置く。然れば則ち右司馬一人中央に當たるなり。○甄は、吉然反。 命夙駕載燧。燧、取火者。 【読み】 命ずらく、夙に駕して燧[すい]を載せよ、と。燧は、火を取る者。 宋公違命。不夙駕載燧。 【読み】 宋公命に違う。夙に駕して燧を載せず。 無畏抶其僕以徇。或謂子舟曰、國君不可戮也。子舟曰、當官而行。何彊之有。子舟、無畏字。○抶、恥乙反。 【読み】 無畏其の僕を抶[う]ちて以て徇[とな]う。或ひと子舟に謂いて曰く、國君は戮す可からず、と。子舟曰く、官に當たりて行う。何の彊か之れ有らん。子舟は、無畏の字。○抶[ちつ]は、恥乙反。 詩曰、剛亦不吐、柔亦不茹。詩、大雅。美仲山甫不辟彊禦。○茹、如呂反。 【読み】 詩に曰く、剛も亦吐かず、柔も亦茹[くら]わず、と。詩は、大雅。仲山甫の彊禦を辟けざるを美む。○茹は、如呂反。 毋縱詭隨、以謹罔極。詩、大雅。詭人隨人、無正心者。謹、猶愼也。罔、無也。極、中也。○詭、九委反。 【読み】 詭隨を縱[ゆる]すること毋くして、以て罔極を謹め、と。詩は、大雅。詭人隨人は、正心無き者。謹は、猶愼のごとし。罔は、無なり。極は、中なり。○詭は、九委反。 是亦非辟彊也。敢愛死以亂官乎。爲宣十四年、宋人殺子舟張本。 【読み】 是も亦彊を辟くるに非ざるなり。敢えて死を愛して以て官を亂らんや、と。宣十四年、宋人子舟を殺す爲の張本なり。 厥貉之會、麇子逃歸。爲明年、楚子伐麇傳。 【読み】 厥貉の會に、麇子[きんし]逃げ歸る。明年、楚子麇を伐つ爲の傳なり。 文 經元年。來錫。星歷反。其比。必利反。例也。又如字。喪色。息浪反。 傳。能相。息亮反。供。倶用反。養。餘亮反。期之。居其反。朞同。○今本朞。不愆。起虔反。不悖。必内反。毛伯衛來錫公命。一本作王使。又作天王使。○今本亦作王使。錫作賜。按此文疑有誤脫。汲。居及反。諒。音良。又音亮。大甚。音泰。又如字。疆。居良反。尙少。詩照反。下同。蠭。芳逢反。豺。仕皆反。江羋。史記以爲成王妾。役夫。如字。者稱。尺證反。大事謂弑君。申志反。一本無此注。宮卒。子忽反。從子玉。如字。又才用反。斂。力驗反。大師。音泰。環。如字。又音患。舊好。呼報反。下及注同。要結。於遙反。外援。于眷反。秦帥。所類反。有隧。音遂。敗類。必邁反。注同。蹊。音兮。徑。古定反。誦言。似用反。惽。音昬。本亦作昬。○今本亦昏。覆。芳服反。卑。必爾反。本又作俾。注同。○今本亦俾。復使。扶又定。 經二年。衙。音牙。不見。賢遍反。族去。起呂反。常稱。尺證反。士縠。本又作穀。無隴。力勇反。有收。如字。又手又反。大廟。音泰。下同。躋。子兮反。廟坐。才臥反。又如字。纁。許云反。 傳。禦。魚呂反。將中。子匠反。溱。側巾反。故嗤。尺之反。盍死。戶臘反。死處。昌慮反。與女。音汝。不得復。扶又反。遄。市專反。沮。在汝反。王赫。火百反。必辟。音避。母念。音無。注同。士蔿。于委反。書士縠。本或作書曰晉士。爲衛。于僞反。令居。力呈反。閔上。時掌反。一本無閔字。夏父。戶雅反。昭穆。上遙反。後皆放此。又長。丁丈反。年少。詩照反。鯀。古本反。先契。息列反。殷始封之君。不肖。悉召反。不忒。他得反。不知。音智。下同。塞關。悉再反。販。甫万反。梲。章悅反。爰居。樊光云、似鳳皇。爰居事見國語。莊子云、魯侯御而觴之于廟。公子成。音城。本或作戌。音恤。轅選。息袞反。取汪。烏黃反。爲穆公。于僞反。娶。七住反。元妃。芳非反。粢盛。音咨。下音成。適夫人。丁歷反。○今本嫡。共。音恭。 經三年。沈。尸甚反。潰。戶内反。螽。音終。天祐。音又。 傳。輕走。如字。又遣政反。逃竄。七亂反。爲衛。于僞反。不解。佳賣反。下同。蘩。音煩。沼。之紹反。沚。音止。以共。音恭。詒厥。以之反。詒遺。唯季反。下同。之帥。所類反。兵解。音蟹。又佳買反。菁菁。子丁反。莪。五多反。還上。時掌反。又如字。 經四年。甯兪。羊朱反。祔姑。音附。 傳。去盛。起呂反。饌。仕眷反。不矜。居陵反。爰究。音救。爰度。待洛反。注同。湛露。直減反。彤弓。徒冬反。佯不。音陽。一音祥。宴樂。音洛。下注同。不晞。音希。舊好。呼報反。辱貺。音況。取戾。力計反。 經五年。且賵。芳鳳反。召伯。上照反。廬江。力居反。 傳。蓼。或作鄝。音同。皐陶。音遙。甯嬴。音盈。亢爽。苦浪反。其行。下孟反。軍帥。所類反。下同。蒐。所求反。 經六年。侯驩。喚官反。卿其。音恭。不告月。月或作朔、誤也。不告朔。本或朔告月。 傳。軍帥。所類反。下同。將中。子匠反。逋逃。補吾反。洿。本又作汙。大傅。音泰。下同。求好。呼報反。且娶。七住反。越竟。音境。自爲。于僞反。子車氏。音居。中行。音仲。本亦作仲。下戶郎反。○今本亦仲。爲殉。字林、弋絹反。王者。如字。一于況反。聖知。音智。話言。戶快反。度量。音亮。以遺。唯季反。焉用。於虔反。卒得。寸忽反。三思。息暫反。公少。詩照反。注同。以難。乃旦反。注及下皆同。長君。丁丈反。下皆同。好善。呼報反。下皆同。且近。附近之近。嬖。必計反。杜祁。巨之反。姞。一音其乙反。故復。扶又反。下將復怨同。亞卿。於嫁反。軍帥。所類反。又命帥同。臾。羊朱反。欲盡。津忍反。介人。音戒。非知。音智。爲民。或于僞反、非也。 經七年。邾復。扶又反。易也。以豉反。邾難。乃旦反。今狐。力呈反。廢適。丁歷反。本又作嫡。諱背。音佩。分別。彼列反。書將。子匠反。帥。所類反。涖盟。音利。又音類。 傳。難也。乃旦反。注同。寘文。之豉反。下同。大暤。音泰。下戶老反。庇。必利反。又悲位反。下同。廕。本又作蔭。於鴆反。藟。本或作虆。力軌反。能虆。類龜反。蔓。音萬。廕庥。許求反。本又作庇。爲比。必爾反。之難。乃旦反。穆嬴。音盈。舍嫡。本亦作適。同。○今本亦適。將焉。於虔反。下焉用同。畏偪。彼力反。乃背。音佩。箕鄭。音基。居守。手又反。下注同。將中。子匠反。下注同。卒然。寸忽反。而復。扶又反。有奪人之心。本或此下有後人待其反、誤。訓卒。子忽反。秣馬。音末。之使。所吏反。爲寮。本又作僚。力彫反。爲賦。于僞反。下爲同寮同。芻。初倶反。蕘。音饒。中行。戶郎反。下同。惡有。烏路反。酆舒。芳忠反。狄相。息亮反。戴己。一音杞。其娣。大計反。則爲。于僞反。下且爲・自爲同。用休。許虯反。注同。盍使。戶臘反。說之。音悅。 經八年。會雒戎。音洛。本或作伊雒之戎。此後人妄取傳文加耳。宜去。起呂反。不舍。音捨。 傳。令鄭。力呈反。皆見。賢遍反。公壻。音細。俗作聟。之竟。音境。下注同。能相。息亮反。適祖母。丁歷反。效節。戶敎反。將中。子匠反。 經九年。以共。音恭。本又作供。下同。僻陋。匹亦反。○今本辟。曹共。音恭。 傳。君少。詩照反。下注同。狼陂。彼皮反。以懲。直升反。旨爲。于僞反。執幣傲。本又作敖。五報反。注下同。從子。才用反。若敖。五刀反。奉使。所吏反。諸夏。戶雅反。方嶽。音岳。接好。呼報反。下及注同。 經十年。公與。音預。斂。力驗反。稱將。子匠反。帥。所類反。頃王。音傾。 傳。夏陽。戶雅反。城濮。音卜。毋死。音無。縊。一豉反。而縣。音玄。王使。所吏反。入郢。一音以政反。渚宮。章呂反。小洲。音州。今復。扶又反。見。賢遍反。大藪。素口反。右盂。音于。弋陽。以職反。命夙。眉病反。載燧。本又作■(上が遂、下が火)。音遂。以徇。似俊反。子舟。音州。
春秋左氏傳校本第十 宣公 起元年盡十一年 晉 杜氏 集解 唐 陸氏 音義 尾張 秦 鼎 校本 宣公 名倭。一名接。又作委。文公子。母敬嬴。謚法、善問周達曰宣。 【読み】 宣公 名は倭。一名は接。又委に作る。文公の子。母は敬嬴。謚法に、善問周達するを宣と曰う、と。 〔經〕元年、春、王正月、公卽位。無傳。 【読み】 〔經〕元年、春、王の正月、公位に卽く。傳無し。 公子遂如齊逆女。不譏喪娶者、不待貶責而自明也。卿爲君逆例在文四年。 【読み】 公子遂齊に如きて女を逆[むか]う。喪娶を譏らざるは、貶責を待たずして自明なればなり。卿君の爲に逆う例は文四年に在り。 三月、遂以夫人婦姜至自齊。稱婦、有姑之辭。不書氏、史闕文。 【読み】 三月、遂夫人婦姜を以[い]て齊より至る。婦と稱するは、姑有るの辭。氏を書さざるは、史の闕文なり。 夏、季孫行父如齊。晉放其大夫胥甲父于衛。放者、受罪黜免、宥之以遠。 【読み】 夏、季孫行父齊に如く。晉其の大夫胥甲父を衛に放つ。放つとは、罪を受けて黜免して、之を宥むるに遠を以てするなり。 公會齊侯于平州。平州、齊地。在泰山牟縣西。 【読み】 公齊侯に平州に會す。平州は、齊の地。泰山牟縣の西に在り。 公子遂如齊。六月、齊人取濟西田。魯以賂齊、齊人不用師徒。故曰取。 【読み】 公子遂齊に如く。六月、齊人濟西の田を取る。魯以て齊に賂いて、齊人師徒を用いず。故に取ると曰う。 秋、邾子來朝。無傳。 【読み】 秋、邾子[ちゅし]來朝す。傳無し。 楚子・鄭人侵陳、遂侵宋。晉趙盾帥師救陳。傳言救陳・宋、經無宋字、蓋闕。○盾、徒本反。 【読み】 楚子・鄭人陳を侵し、遂に宋を侵す。晉の趙盾[ちょうとん]師を帥いて陳を救う。傳には陳・宋を救うと言い、經に宋の字無きは、蓋し闕けたるならん。○盾は、徒本反。 宋公・陳侯・衛侯・曹伯會晉師于棐林伐鄭。晉師救陳・宋、四國君往會之、共伐鄭也。不言會趙盾、取於兵會、非好會也。棐林、鄭地。滎陽宛陵縣東南有林郷。○棐、芳尾反。 【読み】 宋公・陳侯・衛侯・曹伯晉の師に棐林[ひりん]に會して鄭を伐つ。晉の師陳・宋を救い、四國の君往きて之に會して、共に鄭を伐つなり。趙盾に會すと言わざるは、兵會に取りて、好會に非ざるなり。棐林は、鄭の地。滎陽宛陵縣の東南に林郷有り。○棐は、芳尾反。 冬、晉趙穿帥師侵崇。晉人・宋人伐鄭。 【読み】 冬、晉の趙穿師を帥いて崇を侵す。晉人・宋人鄭を伐つ。 〔傳〕元年、春、王正月、公子遂如齊逆女、尊君命也。諸侯之卿、出入稱名氏、所以尊君命也。傳於此發者、與還文不同。故釋之。 【読み】 〔傳〕元年、春、王の正月、公子遂齊に如きて女を逆うとは、君命を尊ぶなり。諸侯の卿、出入名氏を稱するは、君命を尊ぶ所以なり。傳此に於て發するは、還る文と同じからず。故に之を釋くなり。 三月、遂以夫人婦姜至自齊、尊夫人也。遂不言公子、替其尊稱、所以成小君之尊也。公子、當時之寵號、非族也。故傳不言舍族。釋例論之備矣。 【読み】 三月、遂夫人婦姜を以て齊より至るとは、夫人を尊ぶなり。遂公子と言わずして、其の尊稱を替[す]つるは、小君の尊を成す所以なり。公子とは、當時の寵號にして、族に非ざるなり。故に傳族を舍つると言わず。釋例之を論ずること備なり。 夏、季文子如齊、納賂以請會。宣公簒立、未列於會。故以賂請之。 【読み】 夏、季文子齊に如き、賂を納れて以て會を請う。宣公簒立して、未だ會に列ならず。故に賂を以て之を請う。 晉人討不用命者、放胥甲父于衛、胥甲、下軍佐。文十二年、戰河曲不肯薄秦於險。 【読み】 晉人命を用いざる者を討じて、胥甲父を衛に放ちて、胥甲は、下軍の佐。文十二年、河曲に戰いしとき秦に險に薄[せま]ることを肯[うけが]わず。 而立胥克。克、甲之子。 【読み】 胥克を立つ。克は、甲の子。 先辛奔齊。辛、甲之屬大夫。 【読み】 先辛齊に奔る。辛は、甲の屬大夫。 會于平州、以定公位。簒立者、諸侯旣與之會、則不得復討。臣子殺之、與弑君同。故公與齊會而位定。 【読み】 平州に會して、以て公の位を定む。簒立する者、諸侯旣に之と會すれば、則ち復討ずることを得ず。臣子之を殺せば、君を弑すると同じ。故に公齊と會して位定まる。 東門襄仲如齊拜成。謝得會也。 【読み】 東門襄仲齊に如きて成[たい]らぎを拜す。會を得ることを謝すなり。 六月、齊人取濟西之田、爲立公故、以賂齊也。濟西、故曹地。僖三十一年、晉文以分魯。 【読み】 六月、齊人濟西の田を取るは、公を立つる爲の故に、以て齊に賂えるなり。濟西は、故の曹の地。僖三十一年、晉文以て魯に分かてり。 宋人之弑昭公也、在文十六年。 【読み】 宋人の昭公を弑するや、文十六年に在り。 晉荀林父以諸侯之師伐宋、宋及晉平、宋文公受盟于晉。又會諸侯于扈、將爲魯討齊。皆取賂而還。文十五年、十七年、二扈之盟、皆受賂。 【読み】 晉の荀林父諸侯の師を以[い]て宋を伐ち、宋と晉と平らぎ、宋の文公盟を晉に受けぬ。又諸侯を扈[こ]に會して、將に魯の爲に齊を討ぜんとす。皆賂を取りて還れり。文十五年、十七年、二扈の盟に、皆賂を受く。 鄭穆公曰、晉不足與也。遂受盟于楚。陳共公之卒、楚人不禮焉、卒、在文十三年。 【読み】 鄭の穆公曰く、晉は與するに足らず、と。遂に盟を楚に受く。陳の共公の卒するに、楚人禮せざりしかば、卒するは、文十三年に在り。 陳靈公受盟于晉。 【読み】 陳の靈公盟を晉に受く。 秋、楚子侵陳、遂侵宋。晉趙盾帥師救陳・宋、會于棐林、以伐鄭也。楚蔿賈救鄭、遇于北林、與晉師相遇。滎陽中牟縣西南有林亭、在鄭北。 【読み】 秋、楚子陳を侵し、遂に宋を侵す。晉の趙盾師を帥いて陳・宋を救い、棐林に會して、以て鄭を伐つなり。楚の蔿賈[いか]鄭を救いて、北林に遇い、晉の師と相遇う。滎陽中牟縣の西南に林亭有り、鄭の北に在り。 囚晉解揚。晉人乃還。解揚、晉大夫。 【読み】 晉の解揚を囚う。晉人乃ち還る。解揚は、晉の大夫。 晉欲求成於秦。趙穿曰、我侵崇、秦急崇、必救之。崇、秦之與國。 【読み】 晉成らぎを秦に求めんと欲す。趙穿曰く、我れ崇を侵さば、秦崇を急にすれば、必ず之を救わん。崇は、秦の與國。 吾以求成焉。冬、趙穿侵崇。秦弗與成。 【読み】 吾れ以て成らぎを求めん、と。冬、趙穿崇を侵す。秦與に成らがず。 晉人伐鄭、以報北林之役。報囚解揚。 【読み】 晉人鄭を伐つは、以て北林の役に報ゆるなり。解揚を囚うるに報ゆ。 於是晉侯侈。趙宣子爲政、驟諫而不入。故不競於楚。競、强也。爲明年、鄭伐宋張本。 【読み】 是に於て晉侯侈れり。趙宣子政を爲して、驟[しば]々諫むれども入れず。故に楚に競[こわ]からず。競は、强きなり。明年、鄭宋を伐つ爲の張本なり。 〔經〕二年、春、王二月、壬子、宋華元帥師、及鄭公子歸生帥師、戰于大棘。宋師敗績。獲宋華元。得大夫、生死皆曰獲。例在昭二十三年。棘、在陳留襄邑縣南。 【読み】 〔經〕二年、春、王の二月、壬子[みずのえ・ね]、宋の華元師を帥いて、鄭の公子歸生が師を帥いたると、大棘[たいきょく]に戰う。宋の師敗績す。宋の華元を獲たり。大夫を得るには、生死皆獲と曰う。例は昭二十三年に在り。棘は、陳留襄邑縣の南に在り。 秦師伐晉。夏、晉人・宋人・衛人・陳人侵鄭。鄭爲楚伐宋、獲其大夫。晉趙盾興諸侯之師、將爲宋報恥、畏楚而還、失霸者之義。故貶稱人。 【読み】 秦の師晉を伐つ。夏、晉人・宋人・衛人・陳人鄭を侵す。鄭楚の爲に宋を伐ち、其の大夫を獲。晉の趙盾諸侯の師を興して、將に宋の爲に恥を報いんとし、楚を畏れて還り、霸者の義を失う。故に貶して人と稱す。 秋、九月、乙丑、晉趙盾弑其君夷皐。靈公不君。而稱臣以弑者、以示良史之法、深責執政之臣。例在四年。○皐、古刀反。 【読み】 秋、九月、乙丑[きのと・うし]、晉の趙盾其の君夷皐を弑す。靈公不君なり。而るを臣を稱して以て弑するは、以て良史の法を示して、深く執政の臣を責むるなり。例は四年に在り。○皐は、古刀反。 冬、十月、乙亥、天王崩。無傳。 【読み】 冬、十月、乙亥[きのと・い]、天王崩ず。傳無し。 〔傳〕二年、春、鄭公子歸生受命于楚伐宋。受楚命也。 【読み】 〔傳〕二年、春、鄭の公子歸生命を楚に受けて宋を伐つ。楚の命を受くるなり。 宋華元・樂呂御之。二月、壬子、戰于大棘。宋師敗績。囚華元、獲樂呂。樂呂、司寇。獲不書、非元帥也。獲、生死通名。經言獲華元。故傳特護之曰囚、以明其生獲、故得贖而還。 【読み】 宋の華元・樂呂之を御[ふせ]ぐ。二月、壬子、大棘に戰う。宋の師敗績す。華元を囚え、樂呂を獲。樂呂は、司寇。獲ると書さざるは、元帥に非ざればなり。獲は、生死の通名。經に華元を獲ると言う。故に傳特に之を護して囚うと曰いて、以て其の生獲せらる、故に贖[あがな]われて還るを得ることを明かすなり。 及甲車四百六十乘、俘二百五十人、馘百人。 【読み】 及び甲車四百六十乘、俘二百五十人、馘[かく]百人をさへ。 狂狡輅鄭人。鄭人入于井。狂狡、宋大夫。輅、迎也。○馘、古獲反。輅、五嫁反。 【読み】 狂狡鄭人を輅[むか]う。鄭人井に入る。狂狡は、宋の大夫。輅は、迎うなり。○馘は、古獲反。輅は、五嫁反。 倒戟而出之。獲狂狡。 【読み】 戟を倒[さかさま]にして之を出だす。狂狡を獲たり。 君子曰、失禮違命。宜其爲禽也。戎昭果毅以聽之。之謂禮。聽、謂常存於耳、著於心、想聞其政令。○倒、丁老反。毅、魚旣反。著、直略反。 【読み】 君子曰く、禮を失い命に違えり。宜なり其の禽と爲ること。戎は果毅を昭らかにして以て之を聽く。之を禮と謂う。聽くとは、常に耳に存し、心に著け、其の政令を聞かんことを想うを謂う。○倒は、丁老反。毅は、魚旣反。著は、直略反。 殺敵爲果、致果爲毅。易之戮也。易、反易。 【読み】 敵を殺すを果と爲し、果を致すを毅と爲す。之を易うるは戮なり、と。易は、反易なり。 將戰、華元殺羊食士。其御羊斟不與。及戰、曰、疇昔之羊、子爲政。疇昔、猶前日也。○食、音嗣。斟、之金反。與、音預。 【読み】 將に戰わんとせしとき、華元羊を殺して士に食わしむ。其の御羊斟與らざりき。戰に及びて、曰く、疇昔の羊は、子政を爲せり。疇昔は、猶前日のごとし。○食は、音嗣。斟は、之金反。與は、音預。 今日之事、我爲政。與入鄭師。故敗。 【読み】 今日の事は、我れ政を爲さん、と。與に鄭の師に入る。故に敗れたり。 君子謂、羊斟非人也。以其私憾敗國殄民。憾、恨也。殄、盡也。○敗、必邁反。又如字。 【読み】 君子謂えらく、羊斟は人に非ざるなり。其の私憾を以て國を敗り民を殄[つ]くす。憾は、恨むなり。殄[てん]は、盡くすなり。○敗は、必邁反。又字の如し。 於是刑孰大焉。詩所謂人之無良者、詩、小雅。義取不良之人、相怨以亡。 【読み】 是に於て刑孰れか焉より大ならん。詩に所謂人の無良とは、詩は、小雅。義不良の人、相怨みて以て亡ぶるに取る。 其羊斟之謂乎。殘民以逞。 【読み】 其れ羊斟の謂か。民を殘[そこな]いて以て逞[たくま]しくせり、と。 宋人以兵車百乘、文馬百駟、畫馬爲文。四百匹。○逞、勑領反。 【読み】 宋人兵車百乘、文馬百駟を以て、馬に畫きて文を爲せるなり。四百匹なり。○逞は、勑領反。 以贖華元于鄭。半入、華元逃歸。 【読み】 以て華元を鄭に贖[あがな]う。半ば入るとき、華元逃げ歸る。 立于門外、告而入。告宋城門而後入。言不苟。 【読み】 門外に立ち、告げて入る。宋の城門に告げて而して後に入る。苟もせざるを言う。 見叔牂曰、子之馬然也。叔牂、羊斟也。卑賤得先歸。華元見而慰之。○牂、子郎反。 【読み】 叔牂[しゅくそう]を見て曰く、子の馬然るなり、と。叔牂は、羊斟なり。卑賤にして先に歸ることを得たり。華元見て之を慰む。○牂は、子郎反。 對曰、非馬也。其人也。叔牂知前言以顯。故不敢讓罪。 【読み】 對えて曰く、馬に非ざるなり。其れ人なり、と。叔牂前言の以[すで]に顯るを知る。故に敢えて罪を讓らず。 旣合而來奔。叔牂言畢、遂奔魯。合、猶答也。 【読み】 旣に合わせて來奔す。叔牂言畢りて、遂に魯に奔る。合は、猶答うるのごとし。 宋城。華元爲植、巡功。植、將主也。○植、直吏反。將、子匠反。 【読み】 宋城く。華元植[ち]と爲り、功を巡る。植は、將主なり。○植は、直吏反。將は、子匠反。 城者謳曰、睅其目、皤其腹、棄甲而復。睅、出目。皤、大腹。棄甲、謂亡師。○睅、戶板反。大目也。皤、音婆。 【読み】 城く者謳[うた]いて曰く、睅[かん]たる其の目、皤[は]たる其の腹、甲を棄てて復れり。睅は、出目。皤は、大腹。甲を棄つるとは、師を亡うを謂う。○睅は、戶板反。大目なり。皤は、音婆。 于思于思、棄甲復來。于思、多鬚之貌。○思、如字。又西才反。來、力知反。又如字。復、扶又反。 【読み】 于思[うし]于思、甲を棄てて復來れり、と。于思は、多鬚の貌。○思は、字の如し。又西才反。來は、力知反。又字の如し。復は、扶又反。 使其驂乘謂之曰、牛則有皮。犀兕尙多。棄甲則那。那、猶何也。○犀、音西。兕、徐里反。那、乃多反。 【読み】 其の驂乘をして之に謂わしめて曰く、牛には則ち皮有り。犀兕[さいじ]も尙多し。甲を棄つるも則ち那[なに]かあらん、と。那は、猶何のごとし。○犀は、音西。兕は、徐里反。那は、乃多反。 役人曰、從其有皮、丹漆若何。華元曰、去之。夫其口衆我寡。傳言華元不吝其咎、寬而容衆。 【読み】 役人をして曰く、從[たと]い其れ皮有りとも、丹漆を若何、と。華元曰く、之を去れ。夫[かれ]は其れ口衆く我は寡し、と。傳華元其の咎を吝[おし]まずして、寬にして衆を容るるを言う。 秦師伐晉、以報崇也。伐崇、在元年。 【読み】 秦の師晉を伐つは、以て崇に報ゆるなり。崇を伐つは、元年に在り。 遂圍焦。焦、晉河外邑。 【読み】 遂に焦を圍む。焦は、晉の河外の邑。 夏、晉趙盾救焦、遂自陰地及諸侯之師侵鄭、陰地、晉河南山北、自上洛以東、至陸渾。○渾、戶昏反。 【読み】 夏、晉の趙盾焦を救い、遂に陰地より諸侯の師と鄭を侵して、陰地は、晉の河南山北、上洛より以東、陸渾に至るまでなり。○渾は、戶昏反。 以報大棘之役。楚鬭椒救鄭。曰、能欲諸侯而惡其難乎。遂次于鄭、以待晉師。趙盾曰、彼宗競于楚。殆將斃矣。競、强也。鬭椒、若敖之族。自子文以來、世爲令尹。○惡・難、皆去聲。 【読み】 以て大棘の役に報ゆ。楚の鬭椒鄭を救う。曰く、能く諸侯を欲して其の難を惡まんや、と。遂に鄭に次[やど]りて、以て晉の師を待つ。趙盾曰く、彼の宗楚に競[こわ]し。殆ど將に斃れんとす。競は、强きなり。鬭椒は、若敖の族。子文より以來、世々令尹爲り。○惡・難は、皆去聲。 姑益其疾。乃去之。欲示弱以驕之。傳言趙盾所以稱人。且爲四年、楚滅若敖氏張本。 【読み】 姑く其の疾を益さん、と。乃ち之を去る。弱きを示して以て之を驕らせんと欲す。傳趙盾を人と稱する所以を言う。且四年、楚若敖氏を滅ぼす爲の張本なり。 晉靈公不君。失君道也。以明於例應稱國以弑。 【読み】 晉の靈公不君なり。君道を失うなり。以て例に於て應に國を稱して以て弑すべきを明らかにす。 厚斂以彫牆、彫、畫也。 【読み】 厚斂して以て牆に彫り、彫は、畫くなり。 從臺上彈人、而觀其辟丸也。宰夫胹熊蹯不熟。殺之、寘諸畚、使婦人載以過朝。畚、以草索爲之。筥屬。○彈、徒丹反。胹、音而。煮也。蹯、扶元反。畚、音本。 【読み】 臺上より人を彈して、其の丸を辟くるを觀る。宰夫熊蹯[ゆうはん]を胹[に]て熟せず。之を殺し、諸を畚[ほん]に寘[お]きて、婦人をして載せて以て朝を過[よぎ]らしむ。畚は、草索を以て之を爲る。筥の屬。○彈は、徒丹反。胹[じ]は、音而。煮るなり。蹯は、扶元反。畚は、音本。 趙盾・士季見其手、問其故而患之、將諫。士季曰、諫而不入、則莫之繼也。會請先。不入、則子繼之。三進及溜、而後視之、士季、隨會也。三進三伏、公不省而又前也。公知欲諫。故佯不視。○溜、力救反。屋霤也。 【読み】 趙盾・士季其の手を見、其の故を問いて之を患え、將に諫めんとす。士季曰く、諫めて入らずんば、則ち之を繼ぐこと莫けん。會請う、先んぜん。入らずんば、則ち子之を繼げ、と。三たび進みて溜に及びて、而して後に之を視て、士季は、隨會なり。三たび進み三たび伏すも、公省みずして又前[すす]むなり。公諫むることを欲するを知る。故に佯[いつわ]りて視ず。○溜は、力救反。屋霤[おくりゅう]なり。 曰、吾知所過矣。將改之。稽首而對曰、人誰無過。過而能改、善莫大焉。詩曰、靡不有初。鮮克有終。詩、大雅也。○鮮、息淺反。少也。 【読み】 曰く、吾れ過つ所を知れり。將に之を改めんとす、と。稽首して對えて曰く、人誰か過ち無けん。過ちて能く改むるは、善焉より大なるは莫し。詩に曰く、初め有らざること靡し。克く終わり有ること鮮し、と。詩は、大雅なり。○鮮は、息淺反。少なきなり。 夫如是、則能補過者鮮矣。君能有終、則社稷之固也。豈惟羣臣賴之。又曰、袞職有闕、惟仲山甫補之、能補過也。詩、大雅也。袞、君之上服。闕、過也。言服袞者有過、則仲山甫能補之。 【読み】 夫れ是の如きは、則ち能く過ちを補う者は鮮し。君能く終わり有らば、則ち社稷の固めなり。豈惟羣臣のみ之に賴るならんや。又曰く、袞職闕くる有れば、惟仲山甫之を補うとは、能く過ちを補うなり。詩は、大雅なり。袞は、君の上服。闕は、過つなり。言うこころは、袞を服する者過ち有れば、則ち仲山甫能く之を補う。 君能補過、袞不廢矣。常服袞也。 【読み】 君能く過ちを補わば、袞廢れざらん、と。常に袞を服するなり。 猶不改。宣子驟諫。公患之。使鉏麑賊之。鉏麑、晉力士。○鉏、仕倶反。麑、音迷。一五兮反。 【読み】 猶改めず。宣子驟[しば]々諫む。公之を患う。鉏麑[しょげい]をして之を賊せしめんとす。鉏麑は、晉の力士。○鉏は、仕倶反。麑は、音迷。一に五兮反。 晨往、寢門闢矣。盛服將朝、尙早。坐而假寐。不解衣冠而睡。○闢、婢亦反。盛、音成。 【読み】 晨に往けば、寢門闢けたり。盛服して將に朝せんとし、尙早し。坐して假寐す。衣冠を解かずして睡る。○闢は、婢亦反。盛は、音成。 麑退、歎而言曰、不忘恭敬、民之主也。賊民之主、不忠。棄君之命、不信。有一於此、不如死也。觸槐而死。槐、趙盾庭樹。○槐、音懷。又音囘。 【読み】 麑退き、歎じて言いて曰く、恭敬を忘れざるは、民の主なり。民の主を賊するは、不忠なり。君の命を棄つるは、不信なり。此に一有らんは、死するに如かず、と。槐に觸れて死す。槐は、趙盾の庭樹。○槐は、音懷。又音囘。 秋、九月、晉侯飮趙盾酒。伏甲將攻之。其右提彌明知之。右、車右。○飮、於鴆反。提、上支反。彌、面支反。 【読み】 秋、九月、晉侯趙盾に酒を飮ましむ。甲を伏せて將に之を攻めんとす。其の右提彌明[しびめい]之を知る。右は、車右。○飮は、於鴆反。提は、上支反。彌は、面支反。 趨登曰、臣侍君宴、過三爵、非禮也。遂扶以下。公嗾夫獒焉。明搏而殺之。獒、猛犬也。○嗾、素口反。說文云、使犬也。夫、音扶。獒、五羔反。搏、音博。 【読み】 趨り登りて曰く、臣君の宴に侍りて、三爵に過ぐるは、禮に非ず、と。遂に扶けて以[い]て下る。公夫の獒[ごう]に嗾[そう]せしむ。明搏[う]ちて之を殺す。獒は、猛犬なり。○嗾は、素口反。說文に云う、犬を使うなり。夫は、音扶。獒は、五羔反。搏は、音博。 盾曰、棄人用犬。雖猛何爲。責公不養士、而更以犬爲己用。 【読み】 盾曰く、人を棄てて犬を用ゆ。猛しと雖も何をかせん、と。公の士を養わずして、更に犬を以て己が用と爲すを責む。 鬭且出。提彌明死之。 【読み】 鬭い且つ出づ。提彌明之に死す。 初、宣子田於首山、舍于翳桑、田、獵也。翳桑、桑之多蔭翳者。首山、在河東蒲坂縣東南。○翳、於計反。 【読み】 初め、宣子首山に田[かり]して、翳桑に舍り、田は、獵なり。翳桑は、桑の蔭翳多き者。首山は、河東蒲坂縣の東南に在り。○翳は、於計反。 見靈輒餓、問其病。靈輒、晉人。 【読み】 靈輒が餓ゆるを見て、其の病を問う。靈輒は、晉人。 曰、不食三日矣。食之。舍其半。問之。曰、宦三年矣。宦、學也。○食之、音嗣。下同。舍、音捨。 【読み】 曰く、食わざること三日なり、と。之に食わしむ。其の半ばを舍く。之を問う。曰く、宦すること三年なり。宦は、學ぶなり。○食之は、音嗣。下も同じ。舍は、音捨。 未知母之存否。今近焉。去家近。 【読み】 未だ母の存否を知らず。今近し。家を去ること近し。 請以遺之。使盡之、而爲之簞食與肉、簞、笥也。○遺、唯季反。笥、思嗣反。 【読み】 請う以て之に遺らん、と。之を盡くさしめて、之が簞食と肉とを爲り、簞は、笥なり。○遺は、唯季反。笥は、思嗣反。 寘諸橐以與之。旣而與爲公介。靈輒爲公甲士。○橐、他洛反。而與、音預。 【読み】 諸を橐[たく]に寘[お]きて以て之に與う。旣にして公の介爲るに與れり。靈輒公の甲士と爲る。○橐は、他洛反。而與は、音預。 倒戟以禦公徒而免之。問何故。對曰、翳桑之餓人也。問其名居。問所居。 【読み】 戟を倒にして以て公の徒を禦ぎて之を免れしむ。何の故ぞと問う。對えて曰く、翳桑の餓人なり、と。其の名居を問う。所居を問う。 不告而退、不望報也。 【読み】 告げずして退き、報を望まざるなり。 遂自亡也。輒亦去。 【読み】 遂に自ら亡ぐ。輒も亦去る。 乙丑、趙穿攻靈公於桃園。穿、趙盾之從父昆弟子。乙丑、九月二十七日。 【読み】 乙丑、趙穿靈公を桃園に攻む。穿は、趙盾の從父昆弟の子。乙丑は、九月二十七日。 宣子未出山而復。晉竟之山也。盾出奔、聞公弑而還。 【読み】 宣子未だ山を出でずして復る。晉の竟の山なり。盾出奔し、公弑せらると聞きて還る。 大史書曰、趙盾弑其君。以示於朝。宣子曰、不然。對曰、子爲正卿、亡不越竟、反不討賊。非子而誰。宣子曰、嗚呼、我之懷矣、自貽伊慼、其我之謂矣。逸詩也。言人多所懷戀、則自遺憂。 【読み】 大史書して曰く、趙盾其の君を弑す、と。以て朝に示す。宣子曰く、然らず、と。對えて曰く、子正卿と爲して、亡げて竟を越えず、反りて賊を討ぜず。子に非ずして誰ぞ、と。宣子曰く、嗚呼、我の懷[おも]いて、自ら伊[こ]の慼[うれ]えを貽[おく]れりとは、其れ我を謂うなり、と。逸詩なり。言うこころは、人懷戀する所多ければ、則ち自ら憂えを遺る。 *「貽」は、漢籍國字解全書では「詒[のこ]す」である。 孔子曰、董狐、古之良史也。書法不隱。不隱盾之罪。 【読み】 孔子曰く、董狐は、古の良史なり。法を書して隱さず。盾の罪を隱さず。 趙宣子、古之良大夫也。爲法受惡。善其爲法受屈。○爲、于僞反。 【読み】 趙宣子は、古の良大夫なり。法の爲に惡を受けり。其の法の爲に屈を受くるを善す。○爲は、于僞反。 惜也、越竟乃免。越竟則君臣之義絕、可以不討賊。 【読み】 惜しいかな、竟を越ゆれば乃ち免れん、と。竟を越ゆれば則ち君臣の義絕えて、以て賊を討ぜざる可し。 宣子使趙穿逆公子黑臀于周、而立之。黑臀、晉文公子。○臀、徒門反。 【読み】 宣子趙穿をして公子黑臀[こくとん]を周より逆[むか]えしめて、之を立つ。黑臀は、晉の文公の子。○臀は、徒門反。 壬申、朝于武宮。壬申、十月五日。旣有日而無月、冬又在壬申下。明傳文無較例。○較、音角。 【読み】 壬申[みずのえ・さる]、武宮に朝す。壬申は、十月五日。旣に日有りて月無く、冬又壬申の下に在り。明けし、傳文較例無きこと。○較は、音角。 初、麗姬之亂、詛無畜羣公子。詛、盟誓。○麗、力知反。 【読み】 初め、麗姬の亂に、羣公子を畜うこと無からんと詛[ちか]えり。詛は、盟誓。○麗は、力知反。 自是晉無公族。無公子。故廢公族之官。 【読み】 是より晉に公族無し。公子無し。故に公族の官を廢す。 及成公卽位、乃宦卿之適、而爲之田、以爲公族。宦、仕也。爲置田邑、以爲公族大夫。○適、丁歷反。爲置、于僞反。 【読み】 成公が位に卽くに及びて、乃ち卿の適を宦にして、之が田を爲りて、以て公族と爲す。宦は、仕なり。爲に田邑を置きて、以て公族大夫とす。○適は、丁歷反。爲置は、于僞反。 又宦其餘子、亦爲餘子。餘子、適子之母弟也。亦治餘子之政。 【読み】 又其の餘子を宦にして、亦餘子と爲す。餘子は、適子の母弟なり。亦餘子の政を治む。 其庶子爲公行。庶子、妾子也。掌率公戎行。○行、戶郎反。 【読み】 其の庶子を公行と爲す。庶子は、妾の子なり。公の戎行を率ゆることを掌る。○行は、戶郎反。 晉於是有公族・餘子・公行。皆官名。 【読み】 晉是に於て公族・餘子・公行有り。皆官の名。 趙盾請以括爲公族。括、趙盾異母弟、趙姬之中子屛季也。○中、如字。又丁仲反。屛、步丁反。 【読み】 趙盾括を以て公族と爲さんと請う。括は、趙盾の異母弟、趙姬の中子屛季なり。○中は、字の如し。又丁仲反。屛は、步丁反。 曰、君姬氏之愛子也。趙姬、文公女、成公姊也。 【読み】 曰く、君姬氏の愛子なり。趙姬は、文公の女、成公の姊なり。 微君姬氏、則臣狄人也。公許之。盾、狄外孫也。姬氏逆之以爲適。事見僖二十四年。 【読み】 君姬氏微[な]かりせば、則ち臣は狄人なり、と。公之を許す。盾は、狄の外孫なり。姬氏之を逆えて以て適とす。事は僖二十四年に見ゆ。 冬、趙盾爲旄車之族、旄車、公行之官。盾、本卿適。其子當爲公族。辟屛季。故更掌旄車。 【読み】 冬、趙盾旄車[ぼうしゃ]の族と爲り、旄車は、公行の官。盾は、本卿の適なり。其の子當に公族と爲るべし。屛季を辟く。故に更に旄車を掌る。 使屛季以其故族、爲公族大夫。盾以其故官屬與屛季、使爲衰之適。○衰、初危反。嫡下、一有子字。爲公族、爲或訓治、非。下同。原同長。而使括者、以姬氏愛子。 【読み】 屛季をして其の故族を以て、公族大夫と爲らしむ。盾其の故官屬を以て屛季に與えて、衰の適爲らしむ。○衰は、初危反。嫡の下、一に子の字有り。爲公族の、爲或は治むと訓ずるは、非なり。下も同じ。原同じく長なり。而るを括をしむるは、姬氏の愛子を以てなり。 〔經〕三年、春、王正月、郊牛之口傷。改卜牛。牛死。乃不郊。牛不稱牲、未卜日。 【読み】 〔經〕三年、春、王の正月、郊牛の口傷る。牛を改め卜す。牛死す。乃ち郊せず。牛牲と稱せざるは、未だ日を卜せざればなり。 猶三望。葬匡王。無傳。四月而葬。速。 【読み】 猶三望す。匡王を葬る。傳無し。四月にして葬る。速きなり。 楚子伐陸渾之戎。夏、楚人侵鄭。秋、赤狄侵齊。無傳。 【読み】 楚子陸渾の戎を伐つ。夏、楚人鄭を侵す。秋、赤狄齊を侵す。傳無し。 宋師圍曹。冬、十月、丙戌、鄭伯蘭卒。再與文同盟。 【読み】 宋の師曹を圍む。冬、十月、丙戌[ひのえ・いぬ]、鄭伯蘭卒す。再び文と同盟す。 葬鄭穆公。無傳。 【読み】 鄭の穆公を葬る。傳無し。 〔傳〕三年、春、不郊而望。皆非禮也。言牛雖傷死、當更改卜、取其吉者。郊不可廢也。前年冬、天王崩。未葬而郊者、不以王事廢天事。禮記曾子問、天子崩、未殯、五祀不行、旣殯而祭。自啓至于反哭、五祀之祭不行。已葬而祭。 【読み】 〔傳〕三年、春、郊せずして望す。皆禮に非ざるなり。言うこころは、牛傷死すと雖も、當に更に改め卜して、其の吉なる者を取るべし。郊は廢す可からざるなり。前年の冬、天王崩ず。未だ葬らずして郊するは、王事を以て天事を廢せざるなり。禮記の曾子問に、天子崩じて、未だ殯せざれば、五祀行わず、旣に殯して祭る。啓より反哭に至るまで、五祀の祭行わず。已に葬りて祭る、と。 望、郊之屬也。不郊、亦無望可也。已有例、在僖三十一年。復發傳者、嫌牛死與卜不從異。 【読み】 望は、郊の屬なり。郊せざれば、亦望すること無くして可なり。已に例有り、僖三十一年に在り。復傳を發するは、牛死すると卜して從わざると異なるに嫌あればなり。 晉侯伐鄭、及郔。鄭及晉平。士會入盟。郔、鄭地。爲夏、楚侵鄭傳。○郔、音延。 【読み】 晉侯鄭を伐ち、郔[えん]に及ぶ。鄭晉と平らぐ。士會入りて盟う。郔は、鄭の地。夏、楚鄭を侵す爲の傳なり。○郔は、音延。 楚子伐陸渾之戎。遂至于雒、觀兵于周疆。雒水、出上雒冢領山、至河南鞏縣入河。 【読み】 楚子陸渾の戎を伐つ。遂に雒に至り、兵を周の疆に觀[しめ]す。雒水は、上雒の冢領山に出でて、河南の鞏縣に至り河に入る。 定王使王孫滿勞楚子。王孫滿、周大夫。○勞、力報反。 【読み】 定王王孫滿をして楚子を勞わしむ。王孫滿は、周の大夫。○勞は、力報反。 楚子問鼎之大小輕重焉。示欲偪周取天下。 【読み】 楚子鼎の大小輕重を問う。周に偪りて天下を取らんと欲するを示す。 對曰、在德不在鼎。昔夏之方有德也、禹之世。 【読み】 對えて曰く、德に在りて鼎に在らず。昔夏の方に德有りしや、禹の世。 遠方圖物、圖畫山川奇異之物而獻之。 【読み】 遠方物を圖[えが]きしかば、山川奇異の物を圖畫して之を獻ず。 貢金九牧、使九州之牧貢金。 【読み】 金を九牧に貢せしめ、九州の牧をして金を貢せしむ。 鑄鼎象物、象所圖物、著之於鼎。○鑄、之樹反。著、張慮反。 【読み】 鼎を鑄て物に象り、圖する所の物に象りて、之を鼎に著す。○鑄は、之樹反。著は、張慮反。 百物而爲之備、使民知神姦。圖鬼神百物之形、使民逆備之。 【読み】 百物にして之が備えを爲して、民をして神姦を知らしめり。鬼神百物の形を圖して、民をして逆[あらかじ]め之に備えしむ。 故民入川澤山林、不逢不若、若、順也。 【読み】 故に民川澤山林に入りて、不若に逢わず、若は、順なり。 螭魅罔兩、螭、山神・獸形。魅、怪物。罔兩、水神。○螭、勑知反。魅、亡備反。 【読み】 螭魅罔兩、螭は、山神・獸の形。魅は、怪物。罔兩は、水神。○螭は、勑知反。魅は、亡備反。 莫能逢之、逢、遇也。 【読み】 能く之に逢うこと莫く、逢は、遇うなり。 用能協于上下、以承天休。民無災害、則上下和、而受天祐。 【読み】 用[もっ]て能く上下を協えて、以て天休を承けり。民災害無ければ、則ち上下和して、天祐を受く。 桀有昏德、鼎遷于商。載祀六百。載祀、皆年。○載祀、商曰祀、唐虞曰載。 【読み】 桀昏德有りしかば、鼎商に遷りぬ。載祀六百なり。載祀は、皆年。○載祀は、商は祀と曰い、唐虞は載と曰う。 商紂暴虐、鼎遷于周。德之休明、雖小重也。不可遷。 【読み】 商紂暴虐なりしかば、鼎周に遷りぬ。德の休明なれば、小なりと雖も重し。遷す可からず。 其姦回昏亂、雖大輕也。言可移。 【読み】 其の姦回昏亂なれば、大なりと雖も輕し。言うこころは、移す可からず。 天祚明德、有所底止。底、致也。 【読み】 天の明德に祚[さいわい]するは、底[いた]し止まる所有り。底は、致すなり。 *「底」は、漢籍國字解全書では「厎」。 成王定鼎于郟鄏、郟鄏、今河南也。武王遷之、成王定之。○郟、古洽反。鄏、音辱。 【読み】 成王鼎を郟鄏[こうじょく]に定めて、郟鄏は、今の河南なり。武王之を遷し、成王之を定む。○郟は、古洽反。鄏は、音辱。 卜世三十、卜年七百。天所命也。 【読み】 世を卜するに三十、年を卜するに七百なり。天の命ずる所なり。 周德雖衰、天命未改。鼎之輕重、未可問也。 【読み】 周德衰えたりと雖も、天命未だ改まらず。鼎の輕重、未だ問う可からざるなり、と。 夏、楚人侵鄭、鄭卽晉故也。 【読み】 夏、楚人鄭を侵すは、鄭晉に卽く故なり。 宋文公卽位三年、殺母弟須及昭公子、武氏之謀也。武氏謀奉母弟須及昭公子以作亂。事在文十八年。 【読み】 宋の文公位に卽くの三年、母弟須と昭公の子とを殺せしは、武氏が謀ればなり。武氏母弟須と昭公の子とを奉じて以て亂を作さんことを謀る。事は文十八年に在り。 使戴桓之族、攻武氏於司馬子伯之館、盡逐武・穆之族、武・穆之族、以曹師伐宋。秋、宋師圍曹、報武氏之亂也。 【読み】 戴桓の族をして、武氏を司馬子伯の館に攻めて、盡く武・穆の族を逐わしめしかば、武・穆の族、曹の師を以[い]て宋を伐てり。秋、宋の師曹を圍むは、武氏の亂に報ゆるなり。 冬、鄭穆公卒。 【読み】 冬、鄭の穆公卒す。 初、鄭文公有賤妾、曰燕姞。姞、南燕姓。○姞、其乙反。 【読み】 初め、鄭の文公賤妾有り、燕姞[えんきつ]と曰う。姞は、南燕の姓。○姞は、其乙反。 夢天使與己蘭、蘭、香草。 【読み】 夢みらく、天己に蘭を與えしめて、蘭は、香草。 曰、余爲伯鯈。余而祖也。伯鯈、南燕祖。○鯈、直留反。 【読み】 曰く、余を伯鯈[はくちゅう]と爲す。余は而[なんじ]の祖なり。伯鯈は、南燕の祖。○鯈は、直留反。 以是爲而子。以蘭爲女子名。○女、音汝。 【読み】 是を以て而の子とせん。蘭を以て女の子の名とせん。○女は、音汝。 以蘭有國香、人服媚之如是。媚、愛也。欲令人愛之如蘭。 【読み】 蘭に國香有るを以て、人之に服媚すること是の如くならん、と。媚は、愛するなり。人をして之を愛すること蘭の如くならしめんと欲す。 旣而文公見之、與之蘭而御之。辭曰、妾不才。幸而有子、將不信。敢徵蘭乎。懼將不見信。故欲計所賜蘭、爲懷子月數。 【読み】 旣にして文公之を見、之に蘭を與えて之を御[お]らしむ。辭[つ]げて曰く、妾不才なり。幸いにして子有りとも、將に信ぜられざらんとす。敢えて蘭を徵とせんか、と。懼れらくは將に信ぜられざらんとす。故に賜う所の蘭を計えて、子を懷く月數と爲さんと欲す。 公曰、諾。生穆公。名之曰蘭。 【読み】 公曰く、諾、と。穆公を生む。之を名づけて蘭と曰う。 文公報鄭子之妃。曰陳嬀。鄭子、文公叔父、子儀也。漢律、淫季父之妻曰報。○嬀、九危反。 【読み】 文公鄭子の妃に報ず。陳嬀[ちんき]と曰う。鄭子は、文公の叔父、子儀なり。漢律に、季父の妻に淫するを報と曰う、と。○嬀は、九危反。 生子華・子臧。子臧得罪而出。出奔宋。 【読み】 子華・子臧を生む。子臧罪を得て出づ。出でて宋に奔る。 誘子華而殺之南里、在僖十六年。南里、鄭地。 【読み】 子華を誘きて之を南里に殺し、僖十六年に在り。南里は、鄭の地。 使盜殺子臧於陳・宋之閒。在僖二十四年。 【読み】 盜をして子臧を陳・宋の閒に殺さしむ。僖二十四年に在り。 又娶于江。生公子士。朝于楚。楚人酖之。及葉而死。葉、楚地。今南陽葉縣。○酖、直蔭反。葉、式涉反。 【読み】 又江に娶る。公子士を生む。楚に朝す。楚人之を酖す。葉に及びて死す。葉は、楚の地。今の南陽の葉縣。○酖は、直蔭反。葉は、式涉反。 又娶于蘇。生子瑕・子兪彌。兪彌早卒。洩駕惡瑕。文公亦惡之。故不立也。洩駕、鄭大夫。 【読み】 又蘇に娶る。子瑕・子兪彌を生む。兪彌早く卒す。洩駕[せつが]瑕を惡む。文公も亦之を惡む。故に立てざるなり。洩駕は、鄭の大夫。 公逐羣公子。公子蘭奔晉、從晉文公伐鄭。在僖三十年。○從、才用反。又如字。 【読み】 公羣公子を逐う。公子蘭晉に奔り、晉の文公の鄭を伐つに從う。僖三十年に在り。○從は、才用反。又字の如し。 石癸曰、吾聞姬・姞耦、其子孫必蕃。姞姓宜爲姬配耦。 【読み】 石癸曰く、吾れ聞く、姬・姞耦すれば、其の子孫必ず蕃[しげ]らん、と。姞姓は宜しく姬の配耦と爲すべし。 姞、吉人也。后稷之元妃也。姞姓之女、爲后稷妃、周是以興。故曰吉人。 【読み】 姞は、吉人なり。后稷の元妃なり。姞姓の女、后稷の妃と爲りて、周是を以て興れり。故に吉人と曰う。 今公子蘭、姞甥也。天或啓之、必將爲君。其後必蕃。先納之、可以亢寵。亢、極也。○亢、苦浪反。 【読み】 今公子蘭は、姞の甥なり。天或は之を啓かば、必ず將に君と爲らんとす。其の後必ず蕃らん。先ず之を納れば、以て寵を亢[きわ]む可し、と。亢は、極むなり。○亢は、苦浪反。 與孔將鉏・侯宣多納之、盟于大宮而立之、大宮、鄭祖廟。○大、音泰。 【読み】 孔將鉏・侯宣多と之を納れ、大宮に盟いて之を立て、大宮は、鄭の祖廟。○大は、音泰。 以與晉平。 【読み】 以て晉と平らぐ。 穆公有疾、曰、蘭死、吾其死乎。吾所以生也。刈蘭而卒。傳言穆氏所以大興於鄭、天所啓也。 【読み】 穆公疾有り、曰く、蘭死[か]れば、吾れ其れ死なん。吾が生ぜし所以なり、と。蘭を刈りて卒す。傳穆氏の大いに鄭に興る所以は、天の啓く所なるを言うなり。 〔經〕四年、春、王正月、公及齊侯平莒及郯。莒人不肯。公伐莒、取向。莒・郯二國相怨。故公與齊侯共平之。向、莒邑。東海承縣東南有向城。遠疑也。○向、舒亮反。承、之甑反。又音拯。 【読み】 〔經〕四年、春、王の正月、公齊侯と莒と郯[たん]とを平らげんとす。莒人肯[うけが]わず。公莒を伐ちて、向[しょう]を取る。莒・郯二國相怨む。故に公齊侯と共に之を平らげんとす。向は、莒の邑。東海承縣の東南に向城有り。遠ければ疑わし。○向は、舒亮反。承は、之甑反。又音拯。 秦伯稻卒。無傳。未同盟。 【読み】 秦伯稻卒す。傳無し。未だ同盟せず。 夏、六月、乙酉、鄭公子歸生弑其君夷。傳例曰、稱臣、臣之罪也。子公實弑、而書子家、罪其權不足也。 【読み】 夏、六月、乙酉[きのと・とり]、鄭の公子歸生其の君夷を弑す。傳例に曰く、臣を稱するは、臣の罪なり、と。子公實に弑して、子家を書すは、其の權の足らざるを罪するなり。 赤狄侵齊。無傳。 【読み】 赤狄齊を侵す。傳無し。 秋、公如齊。無傳。 【読み】 秋、公齊に如く。傳無し。 公至自齊。無傳。告于廟。例在桓二年。 【読み】 公齊より至る。傳無し。廟に告ぐ。例は桓二年に在り。 冬、楚子伐鄭。 【読み】 冬、楚子鄭を伐つ。 〔傳〕四年、春、公及齊侯平莒及郯。莒人不肯。公伐莒、取向、非禮也。 【読み】 〔傳〕四年、春、公齊侯と莒と郯とを平らげんとす。莒人肯わず。公莒を伐ち、向を取るは、禮に非ざるなり。 平國以禮、不以亂。伐而不治、亂也。責公不先以禮治之而用伐。 【読み】 國を平らぐるは禮を以てして、亂を以てせず。伐ちて治めざるは、亂なり。公不先ず禮を以て之を治めずして伐を用ゆるを責む。 以亂平亂。何治之有。無治、何以行禮。 【読み】 亂を以て亂を平らげんとす。何の治まること之れ有らん。治まること無くば、何を以て禮を行わん。 楚人獻黿於鄭靈公。穆公大子、夷也。○黿、音元。 【読み】 楚人黿[げん]を鄭の靈公に獻ず。穆公の大子、夷なり。○黿は、音元。 公子宋與子家將見。宋、子公也。子家、歸生。○見、賢遍反。 【読み】 公子宋子家と將に見えんとす。宋は、子公なり。子家は、歸生。○見は、賢遍反。 子公之食指動。第二指也。 【読み】 子公の食指動く。第二指なり。 以示子家、曰、他日我如此、必嘗異味。及入、宰夫將解黿。相視而笑。公問之。問所笑。○解、如字。 【読み】 以て子家に示して、曰く、他日我れ此の如くなれば、必ず異味を嘗む、と。入るに及びて、宰夫將に黿を解かんとす。相視て笑う。公之を問う。笑う所を問う。○解は、字の如し。 子家以告。及食大夫黿、召子公而弗與也。欲使指動無效。○食、音嗣。 【読み】 子家以て告ぐ。大夫に黿を食わしむるに及びて、子公を召して與えず。指の動くをして效無からしめんと欲す。○食は、音嗣。 子公怒。染指於鼎、嘗之而出。公怒。欲殺子公。子公與子家謀先。先公爲難。○染、如琰反。先公、悉薦反。 【読み】 子公怒る。指を鼎に染めて、之を嘗めて出づ。公怒る。子公を殺さんと欲す。子公子家と先んぜんことを謀る。公に先んじて難を爲さんとす。○染は、如琰反。先公は、悉薦反。 子家曰、畜老猶憚殺之。六畜。○畜、許又反。又許六反。 【読み】 子家曰く、畜の老いたるも猶之を殺すことを憚る。六畜。○畜は、許又反。又許六反。 而況君乎。反譖子家。子家懼而從之。譖子家於公。 【読み】 而るを況んや君をや、と。反って子家を譖す。子家懼れて之に從う。子家を公に譖す。 夏、弑靈公。 【読み】 夏、靈公を弑す。 書曰鄭公子歸生弑其君夷、權不足也。子家權不足以禦亂、懼譖而從弑君。故書以首惡。 【読み】 書して鄭の公子歸生其の君夷を弑すと曰うは、權足らざればなり。子家權以て亂を禦ぐに足らず、譖を懼れて君を弑するに從う。故に書すに首惡を以てす。 君子曰、仁而不武、無能達也。初稱畜老、仁也。不討子公、是不武也。故不能自通於仁道、陷弑君之罪。 【読み】 君子曰く、仁なれども武ならざれば、能く達すること無し、と。初め畜老を稱するは、仁なり。子公を討ぜざるは、是れ不武なり。故に自ら仁道に通ずること能わずして、君を弑するの罪に陷れり。 凡弑君、稱君、君無道也。稱臣、臣之罪也。稱君、謂唯書君名、而稱國以弑。言衆所共絕也。稱臣者、謂書弑者之名、以示來世、終爲不義。改殺稱弑、辟其惡名、取有漸也。書弑之義、釋例論之備矣。 【読み】 凡そ君を弑するに、君を稱するは、君の無道なり。臣を稱するは、臣の罪なり。君を稱するは、唯君の名を書して、國を稱して以て弑するを謂う。言うこころは、衆の共に絕つ所なり。臣を稱するは、弑者の名を書して、以て來世に示して、終に不義と爲すを謂う。殺を改めて弑と稱するは、其の惡名を辟けて、漸有るに取るなり。弑と書すの義、釋例之を論ずること備なり。 鄭人立子良。穆公庶子。 【読み】 鄭人子良を立てんとす。穆公の庶子。 辭曰、以賢則去疾不足、去疾、子良名。○去、上聲。下皆同。 【読み】 辭して曰く、賢を以てすれば則ち去疾足らず、去疾は、子良の名。○去は、上聲。下も皆同じ。 以順則公子堅長。乃立襄公。襄公、堅也。 【読み】 順を以てすれば則ち公子堅長ぜり、と。乃ち襄公を立つ。襄公は、堅なり。 襄公將去穆氏、逐羣兄弟。 【読み】 襄公將に穆氏を去てて、羣兄弟を逐う。 而舍子良。以其讓己。○舍、音赦。下同。 【読み】 子良を舍かんとす。其の己に讓るを以てなり。○舍は、音赦。下も同じ。 子良不可。曰、穆氏宜存、則固願也。若將亡之、則亦皆亡。去疾何爲。何爲獨留。 【読み】 子良可[き]かず。曰く、穆氏宜しく存すべきは、則ち固より願いなり。若し將に之を亡ぼさんとすれば、則ち亦皆亡けん。去疾何ぞせん、と。何ぞ獨り留ることをせん。 乃舍之。皆爲大夫。 【読み】 乃ち之を舍く。皆大夫と爲す。 初、楚司馬子良生子越椒。子文曰、必殺之。子文、子良之兄。 【読み】 初め、楚の司馬子良子越椒を生む。子文曰く、必ず之を殺せ。子文は、子良の兄。 是子也、熊虎之狀、而豺狼之聲。弗殺、必滅若敖氏矣。諺曰、狼子野心。是乃狼也。其可畜乎。子良不可。子文以爲大慼。及將死、聚其族曰、椒也知政、乃速行矣。無及於難。且泣曰、鬼猶求食、若敖氏之鬼、不其餒而。而、語助。言必餒。○難、乃旦反。 【読み】 是の子や、熊虎の狀にして、豺狼の聲なり。殺さずんば、必ず若敖氏を滅ぼさん。諺に曰く、狼子は野心なり、と。是れ乃ち狼なり。其れ畜う可けんや、と。子良可かず。子文以て大慼と爲す。將に死なんとするに及びて、其の族を聚めて曰く、椒や政を知らば、乃ち速やかに行[さ]れ。難に及ぶこと無かれ、と。且つ泣きて曰く、鬼猶食を求めば、若敖氏の鬼、其れ餒[う]えざらんや、と。而は、語助。言うこころは、必ず餒えん。○難は、乃旦反。 及令尹子文卒、鬭般爲令尹、般、子文之子、子揚。○般、音班。 【読み】 令尹子文が卒するに及びて、鬭般令尹と爲り、般は、子文の子、子揚。○般は、音班。 子越爲司馬、蔿賈爲工正。譖子揚而殺之、子越爲令尹、己爲司馬。賈爲椒譖子揚、而己得椒處。○蔿、于委反。 【読み】 子越司馬と爲り、蔿賈[いか]工正と爲る。子揚を譖して之を殺し、子越令尹と爲り、己司馬と爲る。賈椒の爲に子揚を譖して、而して己椒が處を得。○蔿は、于委反。 子越又惡之、惡賈。○惡、烏路反。 【読み】 子越又之を惡み、賈を惡む。○惡は、烏路反。 乃以若敖氏之族、圄伯嬴於轑陽而殺之。圄、囚也。伯嬴、蔿賈也。轑陽、楚邑。○圄、魚呂反。轑、音遼。 【読み】 乃ち若敖氏の族を以て、伯嬴[はくえい]を轑陽[りょうよう]に圄[とら]えて之を殺す。圄[ぎょ]は、囚うるなり。伯嬴は、蔿賈なり。轑陽は、楚の邑。○圄は、魚呂反。轑は、音遼。 遂處烝野、將攻王。王以三王之子爲質焉。弗受。烝野、楚邑。三王、文・成・穆。○質、音致。 【読み】 遂に烝野に處り、將に王を攻めんとす。王三王の子を以て質と爲さんとす。受けず。烝野は、楚の邑。三王は、文・成・穆。○質は、音致。 師于漳澨。漳澨、漳水邊。○漳、音章。澨、市制反。 【読み】 漳の澨[ほとり]に師す。漳澨[しょうせい]は、漳水の邊。○漳は、音章。澨は、市制反。 秋、七月、戊戌、楚子與若敖氏戰于皐滸。皐滸、楚地。○滸、呼五反。 【読み】 秋、七月、戊戌[つちのえ・いぬ]、楚子若敖氏と皐滸に戰う。皐滸は、楚の地。○滸は、呼五反。 伯棼射王。汰輈及鼓跗、著於丁寧。伯棼、越椒也。輈、車轅。汰、過也。箭過車轅上。丁寧、鉦也。○棼、扶云反。射、食亦反。汰、他未反。輈、陟留反。跗、芳扶反。著、直略反。鉦、音征。 【読み】 伯棼[はくふん]王を射る。輈[ちゅう]を汰[す]ぎて鼓跗に及び、丁寧に著く。伯棼は、越椒なり。輈は、車轅。汰[た]は、過ぐるなり。箭車轅の上を過ぐるなり。丁寧は、鉦[せい]なり。○棼は、扶云反。射は、食亦反。汰は、他未反。輈は、陟留反。跗は、芳扶反。著は、直略反。鉦は、音征。 又射。汰輈以貫笠轂。兵車、無蓋。尊者則邊人執笠、依轂而立、以禦寒暑。名曰笠轂。此言箭過車轅、及王之蓋。○轂、古木反。 【読み】 又射る。輈を汰ぎて以て笠轂を貫く。兵車は、蓋無し。尊者は則ち邊人笠を執り、轂に依りて立ちて、以て寒暑を禦ぐ。名づけて笠轂と曰う。此は箭車轅を過ぎて、王の蓋に及ぶを言うなり。○轂は、古木反。 師懼、退。王使巡師曰、吾先君文王克息、獲三矢焉。伯棼竊其二、盡於是矣。鼓而進之、遂滅若敖氏。 【読み】 師懼れて、退く。王師を巡らしめて曰く、吾が先君文王息に克ちて、三矢を獲たり。伯棼其の二を竊みしに、是に盡きたり、と。鼓ちて之を進め、遂に若敖氏を滅ぼす。 初、若敖娶於鄖、鄖、國名。○鄖、音云。 【読み】 初め、若敖鄖[うん]に娶り、鄖は、國の名。○鄖は、音云。 生鬭伯比。若敖卒、從其母畜於鄖。畜、養也。○畜、許六反。 【読み】 鬭伯比を生む。若敖卒して、其の母に從いて鄖に畜[やしな]わる。畜は、養うなり。○畜は、許六反。 淫於鄖子之女、生子文焉。鄖夫人使棄諸夢中。夢、澤名。江夏安陸縣城東南有雲夢城。○夢、音蒙。又亡貢反。 【読み】 鄖子の女に淫して、子文を生む。鄖夫人諸を夢中に棄てしむ。夢は、澤の名。江夏安陸縣の城の東南に雲夢城有り。○夢は、音蒙。又亡貢反。 虎乳之。鄖子田、見之、懼而歸。夫人以告。告女私通所生。○乳、如主反。 【読み】 虎之に乳のます。鄖子田[かり]して、之を見、懼れて歸る。夫人以て告ぐ。女の私通して生む所なることを告ぐ。○乳は、如主反。 遂使收之。楚人謂乳穀、謂虎於菟。故命之曰鬭穀於菟。以其女妻伯比。伯比所淫者。○穀、奴口反。於、音烏。菟、音徒。妻、七計反。 【読み】 遂に之を收めしむ。楚人乳を穀[どう]と謂い、虎を於菟と謂う。故に之を命[な]づけて鬭穀於菟[とうどうおと]と曰う。其の女を以て伯比に妻わす。伯比の淫する所の者。○穀は、奴口反。於は、音烏。菟は、音徒。妻は、七計反。 實爲令尹子文。鬭氏始自子文爲令尹。 【読み】 實に令尹子文爲り。鬭氏子文より始めて令尹と爲る。 其孫箴尹克黃、箴尹、官名。克黃、子揚之子。○箴、之金反。 【読み】 其の孫箴尹克黃、箴尹は、官の名。克黃は、子揚の子。○箴は、之金反。 使於齊、還及宋、聞亂。其人曰、不可以入矣。箴尹曰、棄君之命、獨誰受之。君、天也。天可逃乎。遂歸復命、而自拘於司敗。王思子文之治楚國也、曰、子文無後、何以勸善。使復其所、改命曰生。易其名也。 【読み】 齊に使いして、還りて宋に及び、亂を聞く。其の人曰く、以て入る可からず、と。箴尹曰く、君の命を棄てば、獨り誰か之を受けん。君は、天なり。天逃る可けんや、と。遂に歸りて復命して、自ら司敗に拘わる。王子文の楚國を治めんことを思いて、曰く、子文にして後無くば、何を以て善を勸めん、と。其の所に復らしめ、改め命じて生と曰う。其の名を易うるなり。 冬、楚子伐鄭、鄭未服也。前年、楚侵鄭、不獲成。故曰未服。 【読み】 冬、楚子鄭を伐つは、鄭未だ服せざればなり。前年、楚鄭を侵して、成[たい]らぎを獲ず。故に未だ服せずと曰う。 〔經〕五年、春、公如齊。夏、公至自齊。秋、九月、齊高固來逆叔姬。高固、齊大夫。不書女歸、降於諸侯。 【読み】 〔經〕五年、春、公齊に如く。夏、公齊より至る。秋、九月、齊の高固來りて叔姬を逆[むか]う。高固は、齊の大夫。女の歸[とつ]ぐを書さざるは、諸侯より降ればなり。 叔孫得臣卒。無傳。不書日、公不與小斂。○與、音預。 【読み】 叔孫得臣卒す。傳無し。日を書さざるは、公小斂に與らざればなり。○與は、音預。 冬、齊高固及子叔姬來。叔姬寧、固反馬。 【読み】 冬、齊の高固子叔姬と來る。叔姬は寧し、固は馬を反す。 楚人伐鄭。 【読み】 楚人鄭を伐つ。 〔傳〕五年、春、公如齊。高固使齊侯止公、請叔姬焉。留公强成昏。○强、其丈反。 【読み】 〔傳〕五年、春、公齊に如く。高固齊侯をして公を止めしめて、叔姬を請う。公を留めて强いて昏を成す。○强は、其丈反。 夏、公至自齊、書過也。公旣見止、連昏於鄰國之臣、厭尊毀列、累其先君。而於廟行飮至之禮。故書以示過。○厭、於涉反。累、劣僞反。 【読み】 夏、公齊より至るとは、過ちを書すなり。公旣に止められて、昏を鄰國の臣に連ね、尊を厭[おと]され列を毀り、其の先君を累わす。而るに廟に於て飮至の禮を行う。故に書して以て過ちを示す。○厭は、於涉反。累は、劣僞反。 秋、九月、齊高固來逆女、自爲也。故書曰逆叔姬、卿自逆也。適諸侯稱女、適大夫稱字。所以別尊卑也。此春秋新例。故稱書曰而不言凡也。不於莊二十七年發例者、嫌見逼而成昏、因明之。○爲、于僞反。別、彼列反。 【読み】 秋、九月、齊の高固來りて女を逆うるは、自ら爲にするなり。故に書して叔姬を逆うと曰うは、卿自ら逆うるなり。諸侯に適くは女と稱し、大夫に適くは字を稱す。尊卑を別つ所以なり。此れ春秋の新例。故に書して曰うと稱して凡そと言わざるなり。莊二十七年に於て例を發せざるは、逼られて昏を成すに嫌あり、因りて之を明かすなり。○爲は、于僞反。別は、彼列反。 冬、來、反馬也。禮、送女留其送馬、謙不敢自安。三月廟見、遣使反馬。高固遂與叔姬倶寧。故經・傳具見以示譏。 【読み】 冬、來るは、馬を反すなり。禮に、女を送りて其の送馬を留むるは、謙して敢えて自ら安んぜざるなり。三月廟見して、使を遣わして馬を反すなり、と。高固遂に叔姬と倶に寧す。故に經・傳具に見して以て譏るを示す。 楚子伐鄭。陳及楚平。晉荀林父救鄭、伐陳。爲明年、晉・衛侵陳傳。 【読み】 楚子鄭を伐つ。陳楚と平らぐ。晉の荀林父鄭を救い、陳を伐つ。明年、晉・衛陳を侵す爲の傳なり。 〔經〕六年、春、晉趙盾・衛孫免侵陳。夏、四月。秋、八月、螽。無傳。 【読み】 〔經〕六年、春、晉の趙盾[ちょうとん]・衛の孫免陳を侵す。夏、四月。秋、八月、螽[しゅう]あり。傳無し。 冬、十月。 【読み】 冬、十月。 〔傳〕六年、春、晉・衛侵陳、陳卽楚故也。 【読み】 〔傳〕六年、春、晉・衛陳を侵すは、陳楚に卽く故なり。 夏、定王使子服求后于齊。子服、周大夫。 【読み】 夏、定王子服をして后を齊に求めしむ。子服は、周の大夫。 秋、赤狄伐晉、圍懷及邢丘。邢丘、今河内平皐縣。 【読み】 秋、赤狄晉を伐ちて、懷と邢丘とを圍む。邢丘は、今の河内平皐縣。 晉侯欲伐之。中行桓子曰、使疾其民、驕則數戰、爲民所疾。 【読み】 晉侯之を伐たんと欲す。中行桓子曰く、其の民を疾ましめ、驕れば則ち數々戰い、民の爲に疾まる。 以盈其貫、將可殪也。殪、盡也。貫、猶習也。○貫、古患反。殪、於計反。 【読み】 以て盈たせて其れ貫[なら]わせば、將に殪[つ]くす可からんとす。殪[えい]は、盡くすなり。貫は、猶習うのごとし。○貫は、古患反。殪は、於計反。 周書曰、殪戎殷、周書、康誥也。義取周武王以兵伐殷、盡滅之。 【読み】 周書に曰く、殷を殪戎[えいじゅう]すとは、周書は、康誥なり。義周の武王兵を以て殷を伐ちて、盡く之を滅ぼすに取る。 此類之謂也。爲十五年、晉滅狄傳。 【読み】 此の類を謂うなり、と。十五年、晉狄を滅ぼす爲の傳なり。 冬、召桓公逆王后于齊。召桓公、王卿士。事不關魯。故不書。爲成二年、王甥舅張本。○召、上照反。 【読み】 冬、召桓公王后を齊に逆う。召桓公は、王の卿士。事魯に關らず。故に書さず。成二年、王の甥舅という爲の張本なり。○召は、上照反。 楚人伐鄭、取成而還。九年・十一年傳、所稱厲之役、蓋在此。 【読み】 楚人鄭を伐ち、成[たい]らぎを取りて還る。九年・十一年の傳に、稱する所の厲の役は、蓋し此に在るならん。 鄭公子曼滿與王子伯廖語、欲爲卿。二子、鄭大夫。○曼、音萬。廖、力彫反。 【読み】 鄭の公子曼滿王子伯廖[はくりょう]と語り、卿爲らんと欲す。二子は、鄭の大夫。○曼は、音萬。廖は、力彫反。 伯廖告人曰、無德而貪、其在周易、豐 離下震上、豐。 【読み】 伯廖人に告げて曰く、德無くして貪るは、其れ周易に在りて、豐 離下震上は、豐。 之離。豐上六變而爲純離也。周易論變。故雖不筮、必以變言其義。豐上六曰、豐其屋、蔀其家。闚其戶、闃其無人、三歲不覿。凶。義取無德而大其屋、不過三歲必滅亡。○蔀、步口反。闚、苦規反。闃、苦鵙反。 【読み】 の離に之くなり。豐の上六變じて純離と爲るなり。周易は變を論ず。故に筮せずと雖も、必ず變を以て其の義を言う。豐の上六に曰く、其の屋を豐[おお]いにし、其の家に蔀[ほう]す。其の戶を闚[うかが]えば、闃[げき]として其れ人無く、三歲まで覿[み]ず。凶なり、と。義德無くして其の屋を大いにするは、三歲を過ぎずして必ず滅亡するに取る。○蔀は、步口反。闚は、苦規反。闃は、苦鵙反。 弗過之矣。不過三年。 【読み】 之に過ぎざらん、と。三年を過ぎず。 閒一歲、鄭人殺之。 【読み】 一歲を閒てて、鄭人之を殺す。 〔經〕七年、春、衛侯使孫良夫來盟。夏、公會齊侯伐萊。傳例曰、不與謀也。萊國、今東萊黃縣。 【読み】 〔經〕七年、春、衛侯孫良夫をして來盟せしむ。夏、公齊侯に會して萊を伐つ。傳例に曰く、謀に與らざるなり、と。萊國は、今の東萊黃縣。 秋、公至自伐萊。無傳。 【読み】 秋、公萊を伐ちてより至る。傳無し。 大旱。無傳。書旱而不書雩、雩無功、或不雩。 【読み】 大旱す。傳無し。旱を書して雩[う]を書さざるは、雩して功無きか、或は雩せざるならん。 冬、公會晉侯・宋公・衛侯・鄭伯・曹伯于黑壤。 【読み】 冬、公晉侯・宋公・衛侯・鄭伯・曹伯に黑壤に會す。 〔傳〕七年、春、衛孫桓子來盟、始通、且謀會晉也。公卽位、衛始脩好。 【読み】 〔傳〕七年、春、衛の孫桓子來盟するは、始めて通じ、且晉に會せんことを謀るなり。公位に卽きて、衛始めて好を脩む。 夏、公會齊侯伐萊、不與謀也。 【読み】 夏、公齊侯に會して萊を伐つとは、謀に與らざるなり。 凡師出、與謀曰及、不與謀曰會。與謀者、謂同志之國相與講議利害、計成而行之。故以相連及爲文。若不獲已應命而出、則以外合爲文。皆據魯而言。師者、國之大事、存亡之所由。故詳其舉動、以例別之。○與、音預。下同。 【読み】 凡そ師の出づる、謀に與るを及と曰い、謀に與らざるを會と曰う。謀に與るとは、同志の國相與に利害を講議し、計成りて之を行うを謂う。故に相連及するを以て文を爲す。若し已むことを獲ずして命に應じて出でば、則ち外合を以て文を爲す。皆魯に據りて言うなり。師は、國の大事、存亡の由る所なり。故に其の舉動を詳らかにして、例を以て之を別つなり。○與は、音預。下も同じ。 赤狄侵晉、取向陰之禾。此無秋字、蓋闕文。晉用桓子謀。故縱狄。○向、舒亮反。 【読み】 赤狄晉を侵して、向陰[しょういん]の禾[か]を取る。此に秋の字無きは、蓋し闕文ならん。晉桓子の謀を用ゆ。故に狄を縱[ゆる]すなり。○向は、舒亮反。 鄭及晉平。公子宋之謀也。故相鄭伯以會。 【読み】 鄭晉と平らぐ。公子宋の謀なり。故に鄭伯を相けて以て會す。 冬、盟于黑壤。王叔桓公臨之、以謀不睦。王叔桓公、周卿士。銜天子之命、以監臨諸侯。不同歃者、尊卑之別也。 【読み】 冬、黑壤に盟う。王叔桓公之に臨みて、以て不睦を謀る。王叔桓公は、周の卿士。天子の命を銜[ふく]みて、以て諸侯に監臨す。同じく歃[すす]らざるは、尊卑の別なり。 晉侯之立也、在二年。 【読み】 晉侯の立つや、二年に在り。 公不朝焉。又不使大夫聘。晉人止公于會。盟于黃父、公不與盟。以賂免。黃父、卽黑壤。 【読み】 公朝せず。又大夫をして聘せしめず。晉人公を會に止む。黃父に盟うも、公盟に與らず。賂を以て免る。黃父は、卽ち黑壤。 故黑壤之盟不書、諱之也。慢盟主、以取執止之辱。故諱之。 【読み】 故に黑壤の盟書さざるは、之を諱みてなり。盟主を慢りて、以て執止の辱を取る。故に之を諱む。 〔經〕八年、春、公至自會。無傳。義與五年書過同。 【読み】 〔經〕八年、春、公會より至る。傳無し。義五年過ちを書すと同じ。 夏、六月、公子遂如齊。至黃乃復。無傳。蓋有疾而還。大夫受命而出、雖死以尸將事。遂以疾還、非禮也。 【読み】 夏、六月、公子遂齊に如く。黃に至りて乃ち復る。傳無し。蓋し疾有りて還るならん。大夫命を受けて出づれば、死すと雖も尸を以て事を將[おこな]う。遂疾を以て還るは、禮に非ざるなり。 辛巳、有事于大廟。仲遂卒于垂。有事、祭也。仲遂卒、與祭同日。略書有事、爲繹張本。不言公子、因上行還、閒無異事、省文。從可知也。稱字、時君所嘉、無義例也。垂、齊地。非魯竟。故書地。 【読み】 辛巳[かのと・み]、大廟に事有り。仲遂垂に卒す。事有りとは、祭なり。仲遂の卒するは、祭と同日なり。事有りと略書するは、繹の爲の張本なり。公子と言わざるは、上の行き還る、閒に異事無きに因りて、文を省くなり。從りて知る可ければなり。字を稱するは、時君の嘉する所、義例無し。垂は、齊の地。魯の竟に非ず。故に地を書す。 壬午、猶繹。萬入、去籥。繹、又祭。陳昨日之禮。所以賓尸。萬、舞名。籥、管也。猶者、可止之辭。魯人知卿佐之喪、不宜作樂、而不知廢繹。故内舞去籥。惡其聲聞。○去、起呂反。 【読み】 壬午[みずのえ・うま]、猶繹す。萬入りて、籥[やく]を去[す]つ。繹は、又祭なり。昨日の禮を陳ぬ。尸を賓する所以なり。萬は、舞の名。籥は、管なり。猶とは、止む可きの辭なり。魯人卿佐の喪には、宜しく樂を作すべからざるを知りて、繹を廢することを知らず。故に舞を内[い]れて籥を去つ。其の聲聞を惡みてなり。○去は、起呂反。 戊子、夫人嬴氏薨。無傳。宣公母也。 【読み】 戊子[つちのえ・ね]、夫人嬴氏[えいし]薨ず。傳無し。宣公の母なり。 晉師白狄伐秦。楚人滅舒・蓼。秋、七月、甲子、日有食之。旣。無傳。月三十日食。 【読み】 晉の師白狄秦を伐つ。楚人舒・蓼[りょう]を滅ぼす。秋、七月、甲子[きのえ・ね]、日之を食する有り。旣[つ]く。傳無し。月の三十日に食す。 冬、十月、己丑、葬我小君敬嬴。敬、謚。嬴、姓也。反哭成喪。故稱葬小君。 【読み】 冬、十月、己丑[つちのと・うし]、我が小君敬嬴を葬る。敬は、謚。嬴は、姓なり。反哭して喪を成す。故に小君を葬ると稱す。 雨不克葬。庚寅、日中而克葬。克、成也。 【読み】 雨ふりて葬を克[な]さず。庚寅[かのえ・とら]、日中にして葬を克す。克は、成すなり。 城平陽。今泰山有平陽縣。 【読み】 平陽に城く。今の泰山に平陽縣有り。 楚師伐陳。 【読み】 楚の師陳を伐つ。 〔傳〕八年、春、白狄及晉平。 【読み】 〔傳〕八年、春、白狄晉と平らぐ。 夏、會晉伐秦。經在仲遂卒下。從赴。 【読み】 夏、晉に會して秦を伐つ。經には仲遂卒するの下に在り。赴[つ]ぐるに從うなり。 晉人獲秦諜、殺諸絳市。六日而蘇。蓋記異也。 【読み】 晉人秦の諜を獲、諸を絳の市に殺す。六日にして蘇る。蓋し異を記すならん。 有事于大廟、襄仲卒、而繹。非禮也。 【読み】 大廟に事有り、襄仲卒して、繹す。禮に非ざるなり。 楚爲衆舒叛故、伐舒・蓼、滅之。舒・蓼、二國名。○爲、于僞反。 【読み】 楚衆舒の叛く爲の故に、舒・蓼を伐ちて、之を滅ぼす。舒・蓼は、二國の名。○爲は、于僞反。 楚子疆之、正其界也。 【読み】 楚子之を疆して、其の界を正すなり。 及滑汭、滑、水名也。○滑、干八反。 【読み】 滑汭に及び、滑は、水の名なり。○滑は、干八反。 盟吳・越而還。吳國、今吳郡。越國、今會稽山陰縣也。傳言楚彊吳・越服從。○會、古外反。 【読み】 吳・越に盟いて還る。吳國は、今の吳郡。越國は、今の會稽山陰縣なり。傳楚の彊くして吳・越服從するを言う。○會は、古外反。 晉胥克有蠱疾。惑以喪志。○蠱、音古。 【読み】 晉の胥克蠱疾有り。惑いて以て志を喪う。○蠱は、音古。 郤缺爲政。代趙盾。 【読み】 郤缺[げきけつ]政を爲す。趙盾に代わる。 秋、廢胥克、使趙朔佐下軍。朔、盾之子。代胥克。爲成十七年、胥童怨郤氏張本。 【読み】 秋、胥克を廢して、趙朔をして下軍に佐たらしむ。朔は、盾の子。胥克に代わる。成十七年、胥童郤氏を怨む爲の張本なり。 冬、葬敬嬴。旱無麻。始用葛茀。記禮變之所由。茀、所以引柩。殯則有之以備火、葬則以下柩。○茀、方勿反。引棺索也。 【読み】 冬、敬嬴を葬る。旱して麻無し。始めて葛茀[かつふつ]を用ゆ。禮變の由る所を記す。茀は、柩を引く所以。殯には則ち之れ有りて以て火に備え、葬には則ち以て柩を下す。○茀は、方勿反。棺を引く索なり。 雨不克葬、禮也。 【読み】 雨りて葬を克さざるは、禮なり。 禮、卜葬先遠日、辟不懷也。懷、思也。 【読み】 禮、葬を卜するに遠日を先にするは、懷[おも]わざるを辟くるなり。懷は、思うなり。 城平陽、書時也。 【読み】 平陽に城くは、時なるを書すなり。 陳及晉平。楚師伐陳。取成而還。言晉・楚爭强。 【読み】 陳晉と平らぐ。楚の師陳を伐つ。成らぎを取りて還る。晉・楚强を爭うを言う。 〔經〕九年、春、王正月、公如齊。無傳。 【読み】 〔經〕九年、春、王の正月、公齊に如く。傳無し。 公至自齊。無傳。 【読み】 公齊より至る。傳無し。 夏、仲孫蔑如京師。齊侯伐萊。無傳。 【読み】 夏、仲孫蔑京師に如く。齊侯萊を伐つ。傳無し。 秋、取根牟。根牟、東夷國也。今琅邪陽都縣東有牟郷。 【読み】 秋、根牟を取る。根牟は、東夷の國なり。今の琅邪陽都縣の東に牟郷有り。 八月、滕子卒。未同盟。 【読み】 八月、滕子卒す。未だ同盟せず。 九月、晉侯・宋公・衛侯・鄭伯・曹伯會于扈。晉荀林父帥師伐陳。辛酉、晉侯黑臀卒于扈。卒於竟外。故書地。四與文同盟。九月無辛酉。日誤。 【読み】 九月、晉侯・宋公・衛侯・鄭伯・曹伯扈[こ]に會す。晉の荀林父師を帥いて陳を伐つ。辛酉[かのと・とり]、晉侯黑臀[こくとん]扈に卒す。竟外に卒す。故に地を書す。四たび文と同盟す。九月に辛酉無し。日の誤りなり。 冬、十月、癸酉、衛侯鄭卒。無傳。三與文同盟。 【読み】 冬、十月、癸酉[みずのと・とり]、衛侯鄭卒す。傳無し。三たび文と同盟す。 宋人圍滕。楚子伐鄭。晉郤缺帥師救鄭。陳殺其大夫洩冶。洩冶直諫於淫亂之朝、以取死。故不爲春秋所貴而書名。○洩、息列反。冶、音也。 【読み】 宋人滕を圍む。楚子鄭を伐つ。晉の郤缺師を帥いて鄭を救う。陳其の大夫洩冶[せつや]を殺す。洩冶淫亂の朝に直諫して、以て死を取る。故に春秋の爲に貴ばれずして名を書さる。○洩は、息列反。冶は、音也。 〔傳〕九年、春、王使來徵聘。徵、召也。言周徵也。徵聘不書、微加諷諭、不指斥。 【読み】 〔傳〕九年、春、王來りて聘を徵[め]さしむ。徵は、召すなり。周の徵すを言うなり。聘を徵すこと書さざるは、微[すこ]しく諷諭を加えて、指斥せざればなり。 夏、孟獻子聘於周。王以爲有禮。厚賄之。 【読み】 夏、孟獻子周に聘す。王以て禮有りと爲す。厚く之に賄う。 秋、取根牟、言易也。○易、以豉反。 【読み】 秋、根牟を取るとは、易きを言うなり。○易は、以豉反。 滕昭公卒。爲宋圍滕傳。 【読み】 滕の昭公卒す。宋滕を圍む爲の傳なり。 會于扈、討不睦也。謀齊・陳。 【読み】 扈に會するは、不睦を討ずるなり。齊・陳を謀るなり。 陳侯不會。前年與楚成故。 【読み】 陳侯會せず。前年楚と成らぐ故なり。 晉荀林父以諸侯之師伐陳。不書諸侯師、林父帥之、無將帥。 【読み】 晉の荀林父諸侯の師を以[い]て陳を伐つ。諸侯の師を書さざるは、林父之を帥いて、將帥無ければなり。 晉侯卒于扈。乃還。 【読み】 晉侯扈に卒す。乃ち還る。 冬、宋人圍滕、因其喪也。 【読み】 冬、宋人滕を圍むは、其の喪に因れるなり。 陳靈公與孔寧・儀行父通於夏姬。皆衷其衵服、以戲于朝。二子、陳卿。夏姬、鄭穆公女、陳大夫御叔妻。衷、懷也。衵服、近身衣。○夏、戶雅反。衷、音忠。又丁仲反。衵、女乙反。一汝栗反。御、如字。一魚呂反。 【読み】 陳の靈公孔寧・儀行父と與に夏姬に通ず。皆其の衵服[じつふく]を衷[うち]にして、以て朝に戲る。二子は、陳の卿。夏姬は、鄭の穆公の女、陳の大夫御叔の妻。衷は、懷くなり。衵服は、身に近き衣。○夏は、戶雅反。衷は、音忠。又丁仲反。衵は、女乙反。一に汝栗反。御は、字の如し。一に魚呂反。 洩冶諫曰、公卿宣淫、民無效焉。宣、示也。 【読み】 洩冶諫めて曰く、公卿淫を宣[しめ]さば、民效うこと無からんや。宣は、示すなり。 且聞不令。君其納之。納、藏衵服。 【読み】 且聞こえて不令なり。君其れ之を納めよ、と。納は、衵服を藏むるなり。 公曰、吾能改矣。公告二子。二子請殺之。公弗禁。遂殺洩冶。孔子曰、詩云、民之多辟、無自立辟、其洩冶之謂乎。辟、邪也。辟、法也。詩、大雅。言邪辟之世、不可立法。國無道、危行言孫。○多辟、匹亦反。立辟、婢亦反。 【読み】 公曰く、吾れ能く改めん、と。公二子に告ぐ。二子之を殺さんと請う。公禁ぜず。遂に洩冶を殺す。孔子曰く、詩に云う、民の辟[よこしま]多きに、自ら辟[のり]を立つること無かれとは、其れ洩冶を謂うか、と。辟は、邪なり。辟は、法なり。詩は、大雅。言うこころは、邪辟の世には、法を立つ可からず。國道無ければ、行を危[たか]くし言は孫[したが]う。○多辟は、匹亦反。立辟は、婢亦反。 楚子爲厲之役故、伐鄭。六年、楚伐鄭、取成於厲。旣成、鄭伯逃歸。事見十一年。○爲、去聲。 【読み】 楚子厲の役の爲の故に、鄭を伐つ。六年、楚鄭を伐ち、成らぎを厲に取る。旣に成らぎて、鄭伯逃げ歸る。事は十一年に見ゆ。○爲は、去聲。 晉郤缺救鄭。鄭伯敗楚師于柳棼。柳棼、鄭地。○棼、扶云反。 【読み】 晉の郤缺鄭を救う。鄭伯楚の師を柳棼に敗る。柳棼は、鄭の地。○棼は、扶云反。 國人皆喜。唯子良憂曰、是國之災也。吾死無日矣。自是晉・楚交兵伐鄭、十二年、卒有楚子入鄭之禍。 【読み】 國人皆喜ぶ。唯子良のみ憂えて曰く、是れ國の災いなり。吾れ死なんこと日無けん、と。是より晉・楚兵を交えて鄭を伐ち、十二年、卒に楚子鄭に入るの禍有り。 〔經〕十年、春、公如齊。公至自齊。無傳。 【読み】 〔經〕十年、春、公齊に如く。公齊より至る。傳無し。 齊人歸我濟西田。元年以賂齊也。不言來、公如齊、因受之。 【読み】 齊人我が濟西の田を歸す。元年以て齊に賂うなり。來ると言わざるは、公齊に如き、因りて之を受くればなり。 夏、四月、丙辰、日有食之。無傳。不書朔、官失之。 【読み】 夏、四月、丙辰[ひのえ・たつ]、日之を食する有り。傳無し。朔を書さざるは、官之を失えり。 己巳、齊侯元卒。未同盟、而赴以名。 【読み】 己巳[つちのと・み]、齊侯元卒す。未だ同盟せずして、赴[つ]ぐるに名を以てす。 齊崔氏出奔衛。齊略見舉族出。因其告辭、以見無罪。 【読み】 齊の崔氏出でて衛に奔る。齊略して舉族出づるを見す。其の告辭に因りて、以て罪無きを見す。 公如齊。五月、公至自齊。無傳。 【読み】 公齊に如く。五月、公齊より至る。傳無し。 癸巳、陳夏徵舒弑其君平國。徵舒、陳大夫也。靈公惡不加民。故稱臣以弑。 【読み】 癸巳[みずのと・み]、陳の夏徵舒其の君平國を弑す。徵舒は、陳の大夫なり。靈公惡民に加わらず。故に臣を稱して以て弑す。 六月、宋師伐滕。公孫歸父如齊。葬齊惠公。無傳。歸父、襄仲之子。 【読み】 六月、宋の師滕を伐つ。公孫歸父齊に如く。齊の惠公を葬る。傳無し。歸父は、襄仲の子。 晉人・宋人・衛人・曹人伐鄭。鄭及楚平故。 【読み】 晉人・宋人・衛人・曹人鄭を伐つ。鄭楚と平らぐ故なり。 秋、天王使王季子來聘。王季子者、公羊以爲天王之母弟。然則字季子。天子大夫稱字。 【読み】 秋、天王王季子をして來聘せしむ。王季子は、公羊に以爲えらく、天王の母弟なり、と。然らば則ち字は季子なり。天子の大夫には字を稱す。 公孫歸父帥師伐邾、取繹。繹、邾邑。魯國鄒縣北有繹山。 【読み】 公孫歸父師を帥いて邾[ちゅ]を伐ち、繹を取る。繹は、邾の邑。魯國鄒縣の北に繹山有り。 大水。無傳。 【読み】 大水あり。傳無し。 季孫行父如齊。冬、公孫歸父如齊。齊侯使國佐來聘。旣葬成君。故稱君命使也。 【読み】 季孫行父齊に如く。冬、公孫歸父齊に如く。齊侯國佐をして來聘せしむ。旣葬りて君と成る。故に君命じて使むと稱す。 饑。無傳。有水災、嘉穀不成。 【読み】 饑ゆ。傳無し。水災有りて、嘉穀成らず。 楚子伐鄭。 【読み】 楚子鄭を伐つ。 〔傳〕十年、春、公如齊。齊侯以我服故、歸濟西之田。公比年朝齊故。 【読み】 〔傳〕十年、春、公齊に如く。齊侯我が服するを以ての故に、濟西の田を歸す。公比年齊に朝する故なり。 夏、齊惠公卒。崔杼有寵於惠公、高・國畏其偪也、高・國二家、齊正卿。○杼、直呂反。偪、音逼。 【読み】 夏、齊の惠公卒す。崔杼[さいじょ]惠公に寵有り、高・國其の偪らんことを畏るるや、高・國二家は、齊の正卿。○杼は、直呂反。偪は、音逼。 公卒而逐之。奔衛。 【読み】 公卒して之を逐う。衛に奔る。 書曰崔氏、非其罪也。且告以族、不以名。典策之法、告者皆當書以名。今齊特以族告。夫子因而存之、以示無罪。又言且告以族不以名者、明春秋有因而用之、不皆改舊史。 【読み】 書して崔氏と曰うは、其の罪に非ざればなり。且告ぐるに族を以てして、名を以てせざればなり。典策の法、告ぐる者皆當に書すに名を以てすべし。今齊特に族を以て告ぐ。夫子因りて之を存して、以て罪無きを示す。又且告ぐるに族を以てして名を以てせずと言うは、春秋因りて之を用ゆること有りて、皆舊史を改めざることを明かすなり。 凡諸侯之大夫違、違、奔放也。 【読み】 凡そ諸侯の大夫の違[さ]る、違は、奔放なり。 告於諸侯曰、某氏之守臣某、上某氏者姓。下某名。○守、音狩。 【読み】 諸侯に告げて曰く、某氏の守臣某、上の某氏は姓。下の某は名。○守は、音狩。 失守宗廟。敢告。所有玉帛之使者則告。玉帛之使、謂聘。 【読み】 宗廟を守ることを失う。敢えて告ぐ、と。玉帛の使い有りし所の者は則ち告ぐ。玉帛の使いとは、聘を謂うなり。 不然則否。恩好不接。故亦不告。 【読み】 然らざれば則ち否せず。恩好接わらず。故に亦告げず。 公如齊奔喪。公親奔喪、非禮也。公出朝會、奔喪、會葬、皆書如。不言其事、史之常也。 【読み】 公齊に如くは喪に奔るなり。公親ら喪に奔るは、禮に非ざるなり。公出でて朝會し、奔喪し、會葬するは、皆如くと書す。其の事を言わざるは、史の常なり。 陳靈公與孔寧・儀行父飮酒於夏氏。公謂行父曰、徵舒似女。對曰、亦似君。徵舒病之。靈公卽位、於今十五年。徵舒已爲卿年大。無嫌是公子。蓋以夏姬淫放、故謂其子多似、以爲戲。○女、音汝。 【読み】 陳の靈公孔寧・儀行父と酒を夏氏に飮む。公行父に謂いて曰く、徵舒女に似たり、と。對えて曰く、亦君に似たり、と。徵舒之を病む。靈公位に卽き、今に於て十五年なり。徵舒已に卿と爲りて年大いなり。是れ公の子なるに嫌い無し。蓋し夏姬淫放なるを以て、故に其の子多く似たるを謂いて、以て戲れと爲すならん。○女は、音汝。 公出。自其廏射而殺之。二子奔楚。○射、音石。 【読み】 公出づ。其の廏より射て之を殺す。二子楚に奔る。○射は、音石。 滕人恃晉而不事宋。六月、宋師伐滕。 【読み】 滕人晉を恃みて宋に事えず。六月、宋の師滕を伐つ。 鄭及楚平。前年敗楚師、恐楚深怨。故與之平。 【読み】 鄭楚と平らぐ。前年楚の師を敗り、楚の深く怨むを恐る。故に之と平らぐなり。 諸侯之師伐鄭、取成而還。 【読み】 諸侯の師鄭を伐ち、成[たい]らぎを取りて還る。 秋、劉康公來報聘。報孟獻子之聘。卽王季子也。其後食采於劉。 【読み】 秋、劉康公來りて報聘す。孟獻子の聘に報ずるなり。卽ち王季子なり。其の後劉に食采す。 師伐邾、取繹。爲子家如齊傳。 【読み】 師邾を伐ち、繹を取る。子家齊に如く爲の傳なり。 季文子初聘于齊。齊侯初卽位。 【読み】 季文子初めて齊に聘す。齊侯初めて位に卽く。 冬、子家如齊、伐邾故也。魯侵小。恐爲齊所討。故往謝。 【読み】 冬、子家齊に如くは、邾を伐てる故なり。魯小を侵す。齊の爲に討せられんことを恐る。故に往きて謝す。 國武子來報聘。報文子也。 【読み】 國武子來りて報聘す。文子に報ずるなり。 楚子伐鄭。晉士會救鄭、逐楚師于潁北。潁水、出河南陽城、至下蔡入淮。 【読み】 楚子鄭を伐つ。晉の士會鄭を救い、楚の師を潁北に逐う。潁水は、河南陽城より出でて、下蔡に至り淮に入る。 諸侯之師戍鄭。 【読み】 諸侯の師鄭を戍る。 鄭子家卒。鄭人討幽公之亂、斲子家之棺、而逐其族、以四年、弑君故也。斲薄其棺、不使從卿禮。○斲、竹角反。 【読み】 鄭の子家卒す。鄭人幽公の亂を討じて、子家の棺を斲[けず]りて、其の族を逐い、四年、君を弑するを以ての故なり。其の棺を斲り薄くして、卿の禮に從わしめず。○斲[たく]は、竹角反。 改葬幽公、諡之曰靈。 【読み】 幽公を改め葬り、之に諡して靈と曰う。 〔經〕十有一年、春、王正月。夏、楚子・陳侯・鄭伯盟于辰陵。楚復伐鄭。故受盟也。辰陵、陳地。潁川長平縣東南有辰亭。 【読み】 〔經〕十有一年、春、王の正月。夏、楚子・陳侯・鄭伯辰陵に盟う。楚復鄭を伐つ。故に盟を受くるなり。辰陵は、陳の地。潁川長平縣の東南に辰亭有り。 公孫歸父會齊人伐莒。無傳。 【読み】 公孫歸父齊人に會して莒を伐つ。傳無し。 秋、晉侯會狄于欑函。晉侯往會之。故以狄爲會主。欑函、狄地。○欑、才端反。函、音咸。 【読み】 秋、晉侯狄に欑函[さんかん]に會す。晉侯往きて之に會す。故に狄を以て會主と爲すなり。欑函は、狄の地。○欑は、才端反。函は、音咸。 冬、十月、楚人殺陳夏徵舒。不言楚子而稱人、討賊辭也。 【読み】 冬、十月、楚人陳の夏徵舒を殺す。楚子と言わずして人と稱するは、賊を討ずる辭なり。 丁亥、楚子入陳、楚子先殺徵舒、而欲縣陳。後得申叔時諫、乃復封陳、不有其地。故書入在殺徵舒之後。 【読み】 丁亥[ひのと・い]、楚子陳に入り、楚子先ず徵舒を殺して、陳を縣にせんと欲す。後申叔時が諫めを得て、乃ち復陳を封じて、其の地を有たず。故に入るを書すこと徵舒を殺すの後に在り。 納公孫寧・儀行父于陳。二子淫昏亂人也。君弑之後、能外託楚、以求報君之讎、内結强援於國。故楚莊得平步而討陳、除弑君之賊。於時陳成公播蕩於晉。定亡君之嗣、靈公成喪、賊討國復。功足以補過。故君子善楚復之。 【読み】 公孫寧・儀行父を陳に納れぬ。二子は淫昏の亂人なり。君弑せらるの後、能く外は楚に託して、以て君の讎を報いんことを求め、内は强援を國に結ぶ。故に楚莊平步して陳を討じ、君を弑するの賊を除くことを得。時に於て陳の成公晉に播蕩す。亡君の嗣を定め、靈公喪を成し、賊討じ國復す。功以て過ちを補うに足れり。故に君子楚の之を復せんことを善す。 〔傳〕十一年、春、楚子伐鄭、及櫟。子良曰、晉・楚不務德而兵爭。與其來者可也。晉・楚無信。我焉得有信。乃從楚。夏、楚盟于辰陵、陳・鄭服也。傳言楚與晉狎主盟。○櫟、音歷。 【読み】 〔傳〕十一年、春、楚子鄭を伐ち、櫟[れき]に及ぶ。子良曰く、晉・楚德を務めずして兵爭す。其の來る者に與して可なり。晉・楚信無し。我れ焉ぞ信有ることを得ん、と。乃ち楚に從う。夏、楚辰陵に盟うは、陳・鄭服すればなり。傳楚と晉と狎[かわるがわ]る盟を主ることを言う。○櫟は、音歷。 楚左尹子重侵宋。子重、公子嬰齊。莊王弟。 【読み】 楚の左尹子重宋を侵す。子重は、公子嬰齊。莊王の弟。 王待諸郔。郔、楚地。○郔、音延。 【読み】 王諸を郔[えん]に待つ。郔は、楚の地。○郔は、音延。 令尹蔿艾獵城沂。艾獵、孫叔敖也。沂、楚邑。○蔿、羽委反。 【読み】 令尹蔿艾獵[いがいりょう]沂[き]に城く。艾獵は、孫叔敖なり。沂は、楚の邑。○蔿は、羽委反。 使封人慮事、封人、其時主築城者。慮事、無慮計功。○慮、如字。一音力於反。廣雅云、無慮、都凡也。 【読み】 封人をして事を慮らしめて、封人は、其の時築城を主る者。事を慮るとは、無慮して功を計るなり。○慮は、字の如し。一に音力於反。廣雅に云う、無慮は、都凡、と。 *頭注に、「按無慮或作謀慮、誤也。」とある。 以授司徒。司徒、掌役。 【読み】 以て司徒に授く。司徒は、役を掌る。 量功命日、命作日數。 【読み】 功を量りて日を命じ、作る日數を命ず。 分財用、財用、築作具。 【読み】 財用を分かち、財用は、築作の具。 平板榦、榦、楨也。 【読み】 板榦を平らかにし、榦は、楨なり。 稱畚築、量輕重。畚、盛土器。○畚、音本。 【読み】 畚築[ほんちく]を稱[はか]り、輕重を量るなり。畚は、土を盛る器。○畚は、音本。 程土物、爲作程限。 【読み】 土物を程[はか]り、爲に程限を作す。 議遠邇、均勞逸。 【読み】 遠邇を議[はか]り、勞逸を均しくす。 略基趾、趾、城足。略、行也。○行、去聲。 【読み】 基の趾を略[めぐ]り、趾は、城足。略は、行るなり。○行は、去聲。 具餱糧、餱、乾食也。 【読み】 餱糧を具え、餱は、乾食なり。 度有司。謀監主。○度、待洛反。 【読み】 有司を度る。監主を謀る。○度は、待洛反。 事三旬而成。十日爲旬。 【読み】 事三旬にして成る。十日を旬とす。 不愆于素。不過素所慮之期也。傳言叔敖之能使民。 【読み】 素に愆[あやま]らず。素慮る所の期を過らざるなり。傳叔敖の能く民を使うを言う。 晉郤成子求成于衆狄。衆狄疾赤狄之役、遂服于晉。赤狄、潞氏最强。故服役衆狄。 【読み】 晉の郤成子成[たい]らぎを衆狄に求む。衆狄赤狄の役を疾[にく]みて、遂に晉に服す。赤狄は、潞氏最も强し。故に衆狄を服役す。 秋、會于欑函、衆狄服也。 【読み】 秋、欑函に會するは、衆狄服すればなり。 是行也、諸大夫欲召狄。郤成子曰、吾聞之、非德莫如勤。非勤何以求人。能勤有繼。其從之也。勤則功繼之。 【読み】 是の行や、諸大夫狄を召さんと欲す。郤成子曰く、吾れ之を聞く、德に非ざれば勤むるに如くは莫し。勤むるに非ざれば何を以て人を求めん。能く勤むれば繼ぐこと有り。其れ之に從わん。勤むれば則ち功之に繼ぐ。 詩曰、文王旣勤止。詩、頌。文王勤以創業。 【読み】 詩に曰く、文王旣に勤めり、と。詩は、頌。文王勤めて以て業を創む。 文王猶勤。況寡德乎。 【読み】 文王も猶勤めたり。況んや寡德をや、と。 冬、楚子爲陳夏氏亂故、伐陳。十年、夏徵舒弑君。 【読み】 冬、楚子陳の夏氏の亂の爲の故に、陳を伐つ。十年、夏徵舒君を弑す。 謂陳人、無動。將討於少西氏。少西、徵舒之祖、子夏之名。 【読み】 陳人に謂えらく、動くこと無かれ。將に少西氏を討ぜんとす、と。少西は、徵舒の祖、子夏の名。 遂入陳、殺夏徵舒、轘諸栗門、轘、車裂也。栗門、陳城門。○轘、音患。 【読み】 遂に陳に入り、夏徵舒を殺して、諸を栗門に轘にし、轘は、車裂なり。栗門は、陳の城門。○轘は、音患。 因縣陳。滅陳以爲楚縣。 【読み】 因りて陳を縣にす。陳を滅ぼして以て楚の縣とす。 陳侯在晉。靈公子、成公午。 【読み】 陳侯晉に在り。靈公の子、成公午。 申叔時使於齊反、復命而退。王使讓之曰、夏徵舒爲不道、弑其君。寡人以諸侯討而戮之、諸侯・縣公皆慶寡人。楚縣大夫、皆僭稱公。 【読み】 申叔時齊に使いして反り、復命して退く。王之を讓[せ]めしめて曰く、夏徵舒不道を爲して、其の君を弑す。寡人諸侯を以[い]て討じて之を戮せしかば、諸侯・縣公皆寡人を慶せり。楚の縣大夫、皆僭して公と稱す。 女獨不慶寡人。何故。對曰、猶可辭乎。王曰、可哉。曰、夏徵舒弑其君、其罪大矣。討而戮之、君之義也。抑人亦有言曰、牽牛以蹊人之田、抑、辭也。蹊、徑也。○蹊、音兮。 【読み】 女獨り寡人を慶せず。何の故ぞ、と。對えて曰く、猶辭す可けんや、と。王曰く、可なるかな、と。曰く、夏徵舒其の君を弑せしは、其の罪大なり。討じて之を戮せしは、君の義なり。抑々人亦言えること有り曰く、牛を牽きて以て人の田を蹊[わた]れば、抑は、辭なり。蹊は、徑るなり。○蹊は、音兮。 而奪之牛。牽牛以蹊者、信有罪矣。而奪之牛、罰已重矣。諸侯之從也、曰討有罪也。今縣陳、貪其富也。以討召諸侯、而以貪歸之、無乃不可乎。王曰、善哉。吾未之聞也。反之可乎。對曰、可哉。吾儕小人。所謂取諸其懷而與之也。叔時謙言、小人意淺。謂譬如取人物懷而還之、爲愈於不還。○儕、仕皆反。 【読み】 之が牛を奪えり、と。牛を牽きて以て蹊る者は、信に罪有り。而るを之が牛を奪うは、罰已[はなは]だ重し。諸侯の從うや、有罪を討ずと曰えばなり。今陳を縣にするは、其の富を貪るなり。討を以て諸侯を召して、貪を以て歸らば、乃ち不可なること無からんや、と。王曰く、善いかな。吾れ未だ之を聞かざりき。之を反さば可ならんか、と。對えて曰く、可ならんかな。吾儕は小人なり。所謂諸を其の懷に取りて之を與うるなり、と。叔時謙して言う、小人は意淺し、と。譬えば人の物を懷に取りて之を還すは、還さざるに愈[まさ]れりと爲すが如しと謂う。○儕は、仕皆反。 乃復封陳、郷取一人焉以歸。謂之夏州。州、郷族。示討夏氏所獲也。○復、扶又反。 【読み】 乃ち復陳を封じ、郷ごとに一人を取りて以て歸る。之を夏州と謂う。州は、郷の族。夏氏を討じて獲たる所なるを示すなり。○復は、扶又反。 故書曰楚子入陳、納公孫寧・儀行父于陳、書有禮也。沒其縣陳本意、全以討亂存國爲文、善其得禮。 【読み】 故に書して楚子陳に入り、公孫寧・儀行父を陳に納ると曰うは、禮有るを書すなり。其の陳を縣にせん本意を沒して、全く亂を討じ國を存するを以て文を爲すは、其の禮を得るを善するなり。 厲之役、鄭伯逃歸。蓋在六年。 【読み】 厲の役に、鄭伯逃げ歸る。蓋し六年に在るならん。 自是楚未得志焉。鄭旣受盟于辰陵、又徼事于晉。爲明年、楚圍鄭傳。十年、鄭及楚平。旣無其事。辰陵盟後、鄭徼事晉、又無端跡。傳皆特發以明經也。自厲之役、鄭南北兩屬。故未得志。九年、楚子伐鄭、不以黑壤興伐、遠稱厲之役者、志恨在厲役。此皆傳上下相包通之義也。○徼、古堯反。 【読み】 是より楚未だ志を得ず。鄭旣に盟を辰陵に受け、又晉に事えんことを徼[もと]めり。明年、楚鄭を圍む爲の傳なり。十年、鄭楚と平らぐ。旣に其の事無し。辰陵の盟の後、鄭晉に事えんことを徼むるも、又端跡無し。傳皆特に發して以て經を明かすなり。厲の役より、鄭南北に兩屬す。故に未だ志を得ず。九年、楚子の鄭を伐つ、黑壤を以て伐を興さずして、遠く厲の役を稱するは、志恨厲の役に在ればなり。此は皆傳上下相包通するの義なり。○徼は、古堯反。 宣 經元年。喪取。七喩反。本亦作娶。○今本亦娶。卿爲。于僞反。宥之。音又。牟縣。亡侯反。非好。呼報反。 傳。尊稱。尺證反。舍族。音捨。簒立。初患反。得復。扶又反。爲立。于僞反。下同。陳共。音恭。解揚。音蟹。侯侈。昌氏尸氏二反。驟諫。仕救反。 經二年。鄭爲。于僞反。下同。 傳。元帥。所類反。見贖。食欲反。十乘。繩證反。下皆同。俘二。芳夫反。狂狡。古卯反。宜其禽也。一本作宜其爲禽也。○今本亦同。私感。戶暗反。本又作憾。注同。○今本亦憾。殄民。大典反。謳曰。烏侯反。睅。蘇林云、寢視不安貌。孟康云、猶分然也。驂乘。七南反。丹漆。音七。不吝。力刃反。其咎。其九反。將斃。婢世反。國以殺。申志反。○今本弑。厚斂。力驗反。彫牆。本亦作雕。下在良反。寘諸。之豉反。草索。素各反。之筥。九呂反。見其手。一本作首。袞職。古本反。盛服。本或作成。而睡。垂僞反。祗、本又作提。遂扶以下。舊本皆作扶。房孚反。服虔作跣。今杜注本往往有跣者。獒。尙書傳曰、大犬也。說文云、犬知人心可使者。多蔭。音陰。又於鴆反。簞食。音丹。公介。音界。以禦。魚呂反。趙穿攻。如字。本或作弑。竟之。音境。下及注同。聞公弑。申志反。大史。音泰。詛無。側慮反。之適。本又作嫡。下注同。以括。古活反。見僖。賢遍反。旄車。音毛。一本作軞。 經三年。 傳。復發。扶又反。周疆。居良反。昔夏。戶雅反。著之。舊直略反。魅。本又作鬽。罔。亡丈反。兩。本又作蜽。音同。說文云、山川之精物也。天休。許虯反。下同。天祐。音又。商紂。直九反。天祚。才故反。燕姞。一其吉反。人服媚。亡冀反。欲令。力呈反。子臧。作郎反。子兪。音楡。惡瑕。烏路反。下同。石癸。居揆反。必蕃。音煩。下同。將鉏。仕倶反。刈蘭。魚廢反。 經四年。及郯。音談。稻卒。徒老反。 傳。不治。直吏反。將解。一音蟹。爲難。乃旦反。憚。徒旦反。難也。御亂。魚呂反。○今本禦。堅長。丁丈反。餒。奴罪反。餓也。賈爲。于僞反。椒處。昌慮反。伯嬴。音盈。烝野。之承反。鼓跗。芳扶反。著於。直略反。以貫。古亂反。笠。音立。使於。所吏反。自拘。音倶。 經五年。小斂。力驗反。 傳。廟見。賢遍反。下同。遣使。所吏反。 經六年。 傳。數戰。所角反。爲。于僞反。蔀。一普口反。覿。徒歷反。閒一。閒厠之閒。 經七年。萊。音來。壤。如丈反。 傳。脩好。呼報反。應命。應對之應。例別。彼列反。故相。息亮反。以監。古銜反。同歃。所洽反。又所甲反。 經八年。大廟。音泰。傳同。爲繹。于僞反。省文。所景反。魯竟。音境。籥。羊略反。管也。音館。惡其。烏路反。聲聞。音問。又如字。 傳。絳市。古巷反。疆之。居良反。汭。如銳反。一音如悅反。稽。古兮反。楚彊。其良反。喪志。息浪反。引柩。其又反。 經九年。竟外。音境。 傳。加諷。芳鳳反。厚賄。呼罪反。字林、音悔。無將。子匠反。帥。所類反。衵。說文、仁一反。近身。附近之近。無傚。戶敎反。且聞。如字。一音問。弗禁。居鴆反。又音金。辟邪。似嗟反。下同。危行。下孟反。言孫。音遜。爲厲。于僞反。事見。賢遍反。柳。力手反。 經十年。濟西。子禮反。略見。賢遍反。下同。陳夏。戶雅反。取繹。音亦。 傳。其偪。彼力反。之使。所吏反。注同。恩好。呼報反。夏氏。戶雅反。其廐。居又反。 經十一年。楚復。扶又反。下復封陳同。播蕩。補賀反。下如字。 傳。兵爭。爭鬭之爭。我焉。於虔反。夏楚盟。本或作楚子。艾獵。五蓋反。下力涉反。城沂。魚依反。楨也。音貞。盛土。音成。基趾。音止。糧。音良。監主。古銜反。不愆。起虔反。潞氏。音路。以創。初亮反。爲陳。于僞反。少西。詩照反。使於。所吏反。皆僭。子念反。女獨。音汝。徑也。古定反。夏州。戶雅反。三年將鉏、仕倶反。襄二十四年作仕居反。
春秋左氏傳校本第十二 成公 起元年盡十年 晉 杜氏 集解 唐 陸氏 音義 尾張 秦 鼎 校本 成公 名、黑肱。宣公子。謚法、安民立政曰成。 【読み】 成公 名は、黑肱。宣公の子。謚法に、民を安んじ政を立つるを成と曰う、と。 〔經〕元年、春、王正月、公卽位。無傳。 【読み】 〔經〕元年、春、王の正月、公位に卽く。傳無し。 二月、辛酉、葬我君宣公。無傳。 【読み】 二月、辛酉[かのと・とり]、我が君宣公を葬る。傳無し。 無冰。無傳。周二月、今之十二月。而無冰、書冬溫。 【読み】 冰無し。傳無し。周の二月は、今の十二月。而るに冰無きは、冬の溫かなるを書すなり。 三月、作丘甲。周禮、九夫爲井、四井爲邑、四邑爲丘。丘、十六井。出戎馬一匹、牛三頭。四丘爲甸。甸、六十四井。出長轂一乘、戎馬四匹、牛十二頭、甲士三人、步卒七十二人。此甸所賦。今魯使丘出之。譏重斂故書。○甸、繩證反。斂、力驗反。 【読み】 三月、丘甲を作る。周禮に、九夫を井と爲し、四井を邑と爲し、四邑を丘と爲す、と。丘は、十六井。戎馬一匹、牛三頭を出だす。四丘を甸[しょう]と爲す。甸は、六十四井。長轂一乘、戎馬四匹、牛十二頭、甲士三人、步卒七十二人を出だす。此れ甸の賦する所なり。今魯丘をして之を出ださしむ。重斂を譏る故に書す。○甸は、繩證反。斂は、力驗反。 夏、臧孫許及晉侯盟于赤棘。晉地。 【読み】 夏、臧孫許晉侯と赤棘に盟う。晉の地。 秋、王師敗績于茅戎。茅戎、戎別種。不言戰、王者至尊、天下莫之得校。故以自敗爲文。不書敗地、而書茅戎、明爲茅戎所敗。書秋、從告。○茅、亡交反。 【読み】 秋、王の師茅戎に敗績す。茅戎は、戎の別種。戰を言わざるは、王者は至尊、天下之に校することを得ること莫し。故に自ら敗るるを以て文を爲す。敗るる地を書さずして、茅戎を書すは、茅戎の爲に敗らるるを明かすなり。秋に書すは、告ぐるに從うなり。○茅は、亡交反。 冬、十月。 【読み】 冬、十月。 〔傳〕元年、春、晉侯使瑕嘉平戎于王。平文十七年、邥垂之役。詹嘉處瑕。故謂之瑕嘉。○邥、音審。 【読み】 〔傳〕元年、春、晉侯瑕嘉をして戎を王に平らげしむ。文十七年、邥垂[しんすい]の役を平らぐ。詹嘉瑕に處る。故に之を瑕嘉と謂う。○邥は、音審。 單襄公如晉拜成。單襄公、王卿士。謝晉爲平戎。○單、音善。爲、于僞反。 【読み】 單襄公晉に如きて成[たい]らぎを拜す。單襄公は、王の卿士。晉の爲に戎を平らぐるを謝す。○單は、音善。爲は、于僞反。 劉康公徼戎、將遂伐之。康公、王季子也。戎平還。欲要其無備。○徼、古堯反。 【読み】 劉康公戎を徼[むか]え、將に遂に之を伐たんとす。康公は、王季子なり。戎平らぎて還る。其の備え無きを要[むか]えんと欲す。○徼[きょう]は、古堯反。 叔服曰、背盟而欺大國。此必敗。叔服、周内史。○背、音佩。下同。 【読み】 叔服曰く、盟に背きて大國を欺く。此れ必ず敗れん。叔服は、周の内史。○背は、音佩。下も同じ。 背盟不祥。欺大國不義。神人弗助。將何以勝。不聽。遂伐茅戎。三月、癸未、敗績于徐吾氏。徐吾氏、茅戎之別也。 【読み】 盟に背くは不祥なり。大國を欺くは不義なり。神人助けず。將[はた]何を以て勝たん、と。聽かず。遂に茅戎を伐つ。三月、癸未[みずのと・ひつじ]、徐吾氏に敗績す。徐吾氏は、茅戎の別なり。 爲齊難故、作丘甲。前年、魯乞於楚、欲以伐齊。楚師不出。故懼而作丘甲。○難、乃旦反。下同。 【読み】 齊の難の爲の故に、丘甲を作る。前年、魯楚に乞いて、以て齊を伐たんと欲す。楚の師出でず。故に懼れて丘甲を作る。○難は、乃旦反。下も同じ。 聞齊將出楚師、夏、盟于赤棘。與晉盟。懼齊・楚。 【読み】 齊の將に楚の師を出ださんとするを聞き、夏、赤棘に盟う。晉と盟う。齊・楚を懼るるなり。 秋、王人來告敗。解經所以秋乃書。 【読み】 秋、王人來りて敗を告ぐ。經の秋乃ち書す所以を解く。 冬、臧宣叔令脩賦繕完、治完城郭。○繕、市戰反。完、和端反。 【読み】 冬、臧宣叔賦を脩め繕完して、城郭を治完す。○繕は、市戰反。完は、和端反。 具守備。曰、齊・楚結好、我新與晉盟。晉・楚爭盟、齊師必至。雖晉人伐齊、楚必救之。是齊・楚同我也。同、共也。○守、手又反。 【読み】 守備を具えしむ。曰く、齊・楚は好を結び、我は新たに晉と盟う。晉・楚盟を爭えば、齊の師必ず至らん。晉人齊を伐つと雖も、楚必ず之を救わん。是れ齊・楚我を同[とも]にするなり。同は、共なり。○守は、手又反。 知難而有備、乃可以逞。逞、解也。爲二年、齊侯伐我傳。○解、音蟹。 【読み】 難を知りて備え有らば、乃ち以て逞[と]く可し。逞は、解くなり。二年、齊侯我を伐つ爲の傳なり。○解は、音蟹。 〔經〕二年、春、齊侯伐我北鄙。夏、四月、丙戌、衛孫良夫帥師及齊師戰于新築。衛師敗績。新築、衛地。皆陳曰戰、大崩曰敗績。四月無丙戌。丙戌、五月一日。 【読み】 〔經〕二年、春、齊侯我が北鄙を伐つ。夏、四月、丙戌[ひのえ・いぬ]、衛の孫良夫師を帥いて齊師と新築に戰う。衛の師敗績す。新築は、衛の地。皆陳するを戰と曰い、大いに崩るるを敗績と曰う。四月に丙戌無し。丙戌は、五月一日。 六月、癸酉、季孫行父・臧孫許・叔孫僑如・公孫嬰齊帥師會晉郤克・衛孫良夫・曹公子首、及齊侯戰于鞌。齊師敗績。魯乞師於晉。而不以與謀之例者、從盟主之令、上行於下、非匹敵和成之類。例在宣七年。曹大夫常不書、而書公子首者、首命於國、備於禮、成爲卿故也。鞌、齊地。○郤、去逆反。鞌、音安。 【読み】 六月、癸酉[みずのと・とり]、季孫行父・臧孫許・叔孫僑如・公孫嬰齊師を帥いて晉の郤克・衛の孫良夫・曹の公子首に會して、齊侯と鞌[あん]に戰う。齊の師敗績す。魯師を晉に乞う。而るを與謀の例を以いざるは、盟主の令に從うは、上下に行いて、匹敵和成の類に非ざればなり。例は宣七年に在り。曹の大夫常に書さずして、公子首を書すは、首國に命ぜられて、禮を備えて、卿爲ることを成す故なり。鞌は、齊の地。○郤は、去逆反。鞌は、音安。 秋、七月、齊侯使國佐如師。己酉、及國佐盟于袁婁。穀梁曰、鞌、去齊五百里。袁婁、去齊五十里。 【読み】 秋、七月、齊侯國佐をして師に如かしむ。己酉[つちのと・とり]、國佐と袁婁[えんろう]に盟う。穀梁に曰く、鞌は、齊を去ること五百里。袁婁は、齊を去ること五十里、と。 八月、壬午、宋公鮑卒。未同盟、而赴以名。○鮑、步卯范。 【読み】 八月、壬午[みずのえ・うま]、宋公鮑卒す。未だ同盟せずして、赴[つ]ぐるに名を以てす。○鮑は、步卯范。 庚寅、衛侯速卒。宣十七年、盟于斷道。據傳、庚寅、九月七日。 【読み】 庚寅[かのえ・とら]、衛侯速卒す。宣十七年、斷道に盟う。傳に據るに、庚寅は、九月七日なり。 取汶陽田。晉使齊還魯。故書取。不以好得。故不言歸。○好、呼報反。 【読み】 汶陽[ぶんよう]の田を取る。晉齊をして魯に還さしむ。故に取ると書す。好を以て得るにあらず。故に歸すと言わず。○好は、呼報反。 冬、楚師・鄭師侵衛。子重不書、不親伐。 【読み】 冬、楚の師・鄭の師衛を侵す。子重書さざるは、親伐たらざればなり。 十有一月、公會楚公子嬰齊于蜀。公與大夫會、不貶嬰齊者、時有許・蔡之君故。 【読み】 十有一月、公楚の公子嬰齊に蜀に會す。公大夫と會して、嬰齊を貶せざるは、時に許・蔡の君有る故なり。 丙申、公及楚人・秦人・宋人・陳人・衛人・鄭人・齊人・曹人・邾人・薛人・鄫人盟于蜀。齊在鄭下、非卿。傳曰、卿不書、匱盟也。然則楚卿於是始與中國準。自此以下、楚卿不書、皆貶惡也。 【読み】 丙申[ひのえ・さる]、公楚人・秦人・宋人・陳人・衛人・鄭人・齊人・曹人・邾人[ちゅひと]・薛人・鄫人[しょうひと]と蜀に盟う。齊鄭の下に在るは、卿に非ざればなり。傳に曰く、卿書さざるは、匱盟[きめい]なればなり、と。然らば則ち楚の卿是に於て始めて中國と準ずるなり。此より以下、楚の卿書さざるは、皆惡を貶するなり。 〔傳〕二年、春、齊侯伐我北鄙、圍龍。龍、魯邑。在泰山博縣西南。 【読み】 〔傳〕二年、春、齊侯我が北鄙を伐ち、龍を圍む。龍は、魯の邑。泰山博縣の西南に在り。 頃公之嬖人盧蒲就魁門焉。攻龍門也。 【読み】 頃公[けいこう]の嬖人盧蒲就魁門[せ]む。龍の門を攻むるなり。 龍人囚之。齊侯曰、勿殺。吾與而盟、無入而封。封、竟。 【読み】 龍人之を囚う。齊侯曰く、殺すこと勿かれ。吾而[なんじ]と盟いて、而の封に入ること無からん、と。封は、竟。 弗聽。殺而膊諸城上。膊、磔也。○膊、普各反。磔、陟百反。 【読み】 聽かず。殺して諸を城上に膊[はりつけ]にす。膊[はく]は、磔なり。○膊は、普各反。磔[たく]は、陟百反。 齊侯親鼓。士陵城。三日取龍、遂南侵、及巢丘。取龍侵巢丘不書、其義未聞。 【読み】 齊侯親ら鼓つ。士城を陵ぐ。三日にして龍を取り、遂に南侵して、巢丘に及ぶ。龍を取りて巢丘を侵すこと書さざるは、其の義未だ聞かざればなり。 衛侯使孫良夫・石稷・甯相・向禽將侵齊。與齊師遇。齊伐魯還、相遇於衛地。良夫、孫林父之父。石稷、石碏四世孫。甯相、甯兪子。○相、息亮反。向、舒亮反。 【読み】 衛侯孫良夫・石稷・甯相[ねいしょう]・向禽[しょうきん]をして將に齊を侵さんとせしむ。齊の師と遇う。齊魯を伐ちて還り、衛の地に相遇うなり。良夫は、孫林父の父。石稷は、石碏四世の孫。甯相は、甯兪の子。○相は、息亮反。向は、舒亮反。 石子欲還。孫子曰、不可。以師伐人、遇其師而還、將謂君何。言無以答君。 【読み】 石子還らんと欲す。孫子曰く、不可なり。師を以て人を伐ち、其の師に遇いて還らば、將に君に何とか謂わんとする。以て君に答うること無きを言う。 若知不能、則如無出。今旣遇矣。不如戰也。 【読み】 若し能わざるを知らば、則ち出づること無きに如かんや。今旣に遇えり。戰うに如かざるなり、と。 夏有。闕文。失新築戰事。 【読み】 夏有り。闕文。新築の戰事を失う。 石成子曰、師敗矣。子不少須、衆懼盡。成子、石稷也。衛師已敗。而孫良夫復欲戰。故成子欲使須救。 【読み】 石成子曰く、師敗れたり。子少[しばら]く須たずんば、衆懼らくは盡きん。成子は、石稷なり。衛の師已に敗れぬ。而るを孫良夫復戰わんと欲す。故に成子救いを須たしめんと欲す。 子喪師徒、何以復命。皆不對。又曰、子國卿也。隕子辱矣。隕、見禽獲。 【読み】 子師徒を喪わば、何を以て復命せん、と。皆對えず。又曰く、子は國卿なり。子を隕[おと]さば辱なり。隕は、禽獲せらるるなり。 子以衆退。我此乃止。我於此止、禦齊師。 【読み】 子衆を以[い]て退け。我は此に乃ち止らん、と。我れ此に於て止まり、齊の師を禦がん。 且告車來甚衆。新築人救孫桓子。故竝告令軍中。 【読み】 且車の來ること甚だ衆[おお]しと告ぐ。新築の人孫桓子を救うなり。故に竝に軍中に告令す。 齊師乃止、次于鞫居。鞫居、衛地。○鞫、居六反。 【読み】 齊の師も乃ち止まり、鞫居[きくきょ]に次[やど]る。鞫居は、衛の地。○鞫は、居六反。 新築人仲叔于奚救孫桓子。桓子是以免。于奚、守新築大夫。 【読み】 新築の人仲叔于奚孫桓子を救う。桓子是を以て免れぬ。于奚は、新築を守る大夫。 旣衛人賞之以邑。賞于奚。 【読み】 旣にして衛人之を賞するに邑を以てす。于奚を賞す。 辭。請曲縣、軒縣也。周禮、天子樂宮縣、四周。諸侯軒縣、闕南方。○縣、音玄。 【読み】 辭す。曲縣し、軒縣なり。周禮に、天子の樂は宮縣、四周。諸侯は軒縣、南方を闕く、と。○縣は、音玄。 *「四周」について、頭注に、「四周、一作四面。」とある。 繁纓以朝。許之。繁纓、馬飾。皆諸侯之服。○繁、步于反。 【読み】 繁纓[はんえい]して以て朝せんと請う。之を許す。繁纓は、馬の飾。皆諸侯の服。○繁は、步于反。 仲尼聞之曰、惜也。不如多與之邑。唯器與名、不可以假人。器、車服。名、爵號。 【読み】 仲尼之を聞きて曰く、惜しいかな。多く之に邑を與えんに如かず。唯器と名とは、以て人に假す可からず。器は、車服。名は、爵號。 君之所司也。名以出信、名位不愆、爲民所信。 【読み】 君の司る所なり。名以て信を出だし、名位愆[あやま]らざれば、民の爲に信ぜらる。 信以守器、動不失信、則車服可保。 【読み】 信以て器を守り、動きて信を失わざれば、則ち車服保つ可し。 器以藏禮、車服、所以表尊卑。 【読み】 器以て禮を藏[おさ]め、車服は、尊卑を表する所以なり。 禮以行義、尊卑有禮、各得其義。 【読み】 禮以て義を行い、尊卑禮有れば、各々其の義を得。 義以生利、得其宜、則利生。 【読み】 義以て利を生じ、其の宜を得れば、則ち利生ず。 利以平民。政之大節也。若以假人、與人政也。政亡、則國家從之。弗可止也已。 【読み】 利以て民を平らかにす。政の大節なり。若し以て人に假さば、人に政を與うるなり。政亡ぶれば、則ち國家之に從う。止む可からざるのみ、と。 孫桓子還於新築、不入。不入國。 【読み】 孫桓子新築より還り、入らず。國に入らず。 遂如晉乞師。臧宣叔亦如晉乞師。皆主郤獻子。宣十七年、郤克至齊、爲婦人所笑。遂怒。故魯・衛因之、孫桓子・臧宣叔皆不以國命、各自詣郤克。故不書。 【読み】 遂に晉に如きて師を乞う。臧宣叔も亦晉に如きて師を乞う。皆郤獻子を主とす。宣十七年、郤克齊に至り、婦人の爲に笑わる。遂に怒る。故に魯・衛之に因る、孫桓子・臧宣叔皆國命を以てせずして、各々自ら郤克に詣る。故に書さず。 晉侯許之七百乘。五萬二千五百人。 【読み】 晉侯之に七百乘を許す。五萬二千五百人。 郤子曰、此城濮之賦也。城濮、在僖二十八年。 【読み】 郤子曰く、此れ城濮の賦なり。城濮は、僖二十八年に在り。 有先君之明、與先大夫之肅、故捷。克於先大夫、無能爲役。不中爲之役使。 【読み】 先君の明と、先大夫の肅と有り、故に捷[か]てり。克が先大夫に於る、能く役爲ること無し。之が役使爲るに中らず。 請八百乘。許之。六萬人。 【読み】 八百乘を請う。之を許す。六萬人。 郤克將中軍。士燮將上軍。范文子代荀庚。 【読み】 郤克中軍に將たり。士燮[ししょう]上軍に將たり。范文子荀庚に代わる。 欒書將下軍。代趙朔。 【読み】 欒書下軍に將たり。趙朔に代わる。 韓厥爲司馬。以救魯・衛。 【読み】 韓厥[かんけつ]司馬爲り。以て魯・衛を救う。 臧宣叔逆晉師、且道之。季文子帥師會之。及衛地。韓獻子將斬人。郤獻子馳將救之。至則旣斬之矣。郤子使速以徇。告其僕曰、吾以分謗也。不欲使韓氏獨受謗。 【読み】 臧宣叔晉の師を逆[むか]え、且つ之を道[みちび]く。季文子師を帥いて之に會す。衛の地に及ぶ。韓獻子將に人を斬らんとす。郤獻子馳せて將に之を救わんとす。至れば則ち旣に之を斬れり。郤子速やかに以て徇[とな]えしむ。其の僕に告げて曰く、吾は以て謗りを分かたんとなり。韓氏をして獨り謗りを受けしむることを欲せず。 師從齊師于莘。莘、齊地。 【読み】 師齊の師に莘[しん]に從う。莘は、齊の地。 六月、壬申、師至于靡筓之下。靡筓、山名。○靡、如字。又音摩。筓、音雞。 【読み】 六月、壬申[みずのえ・さる]、師靡筓[ひけい]の下[ふもと]に至る。靡筓は、山の名。○靡は、字の如し。又音摩。筓は、音雞。 齊侯使請戰、曰、子以君師、辱於敝邑、不腆敝賦、詰朝請見。詰朝、平旦。○見、賢遍反。 【読み】 齊侯戰を請わしめて、曰く、子君の師を以て、敝邑を辱くすれば、不腆の敝賦、詰朝に請う見えん、と。詰朝は、平旦。○見は、賢遍反。 對曰、晉與魯・衛、兄弟也。來告曰、大國朝夕釋憾於敝邑之地。大國、謂齊。敝邑、魯・衛自稱。 【読み】 對えて曰く、晉と魯・衛とは、兄弟なり。來り告げて曰く、大國朝夕憾みを敝邑の地に釋く、と。大國は、齊を謂う。敝邑は、魯・衛自ら稱す。 寡君不忍、使羣臣請於大國。無令輿師淹於君地。輿、衆也。淹、久也。 【読み】 寡君忍びずして、羣臣をして大國に請わしむ。輿師をして君の地に淹[ひさ]しからしむること無かれ、と。輿は、衆なり。淹は、久しきなり。 能進不能退。君無所辱命。言自欲戰。不復須君命。 【読み】 能く進みて退くこと能わず。君命を辱くする所無し、と。言うこころは、自ら戰わんと欲す。復君命を須たず。 齊侯曰、大夫之許、寡人之願也。若其不許、亦將見也。 【読み】 齊侯曰く、大夫の許すは、寡人の願いなり。若し其れ許さざるも、亦將に見えんとするなり、と。 齊高固入晉師、桀石以投人、桀、擔也。○擔、丁甘反。 【読み】 齊の高固晉の師に入り、石を桀[にな]いて以て人に投げ、桀は、擔うなり。○擔は、丁甘反。 禽之而乘其車、旣獲其人。因釋己車、而載所獲者車。 【読み】 之を禽にして其の車に乘り、旣に其の人を獲。因りて己が車を釋[す]てて、獲る所の者の車に載るなり。 繫桑本焉、以徇齊壘、將至齊壘。以桑樹繫車而走、欲自異。 【読み】 桑本を繫けて、以て齊の壘に徇えて、將に齊の壘に至らんとす。桑樹を以て車に繫けて走るは、自ら異にせんと欲するなり。 曰、欲勇者、賈余餘勇。賈、買也。言己勇有餘、欲賣之。 【読み】 曰く、勇を欲する者は、余が餘勇を賈え、と。賈は、買うなり。己が勇餘有り、之を賣らんと欲するを言う。 癸酉、師陳于鞌。邴夏御齊侯。逢丑父爲右。晉解張御郤克。鄭丘緩爲右。 【読み】 癸酉、師鞌に陳す。邴夏[へいか]齊侯に御たり。逢丑父右爲り。晉の解張郤克に御たり。鄭丘緩右爲り。 齊侯曰、余姑翦滅此而朝食。姑、且也。翦、盡也。○陳、直覲反。邴、音丙。解、音蟹。 【読み】 齊侯曰く、余姑く此を翦滅して朝食せん、と。姑は、且くなり。翦は、盡くすなり。○陳は、直覲反。邴は、音丙。解は、音蟹。 不介馬而馳之。介、甲也。 【読み】 馬に介せずして之に馳す。介は、甲なり。 郤克傷於矢、流血及屨、未絕鼓音。中軍將自執旗鼓。故雖傷而擊鼓不息。 【読み】 郤克矢に傷つき、流血屨に及べども、未だ鼓音を絕たず。中軍の將は自ら旗鼓を執る。故に傷つくと雖も鼓を擊ちて息まず。 曰、余病矣。張侯曰、自始合、而矢貫余手及肘、余折以御、左輪朱殷、豈敢言病。吾子忍之。張候、解張也。朱、血色。血色久則殷。殷音近烟。今人謂赤黑爲殷色。言血多汙車輪、御猶不敢息。○折、之設反。殷、於閑反。又於辰反。汙、音烏。又一故反。 【読み】 曰く、余病めり、と。張侯曰く、始め合いてよりして、矢余が手と肘とを貫きしを、余折りて以て御して、左輪朱殷[しゅあん]なるも、豈敢えて病めりと言わんや。吾子之を忍べ、と。張候は、解張なり。朱は、血色。血色久しければ則ち殷[あか]し。殷の音は烟に近し。今の人赤黑を謂いて殷色と爲す。言うこころは、血多く車輪を汙すも、御して猶敢えて息まず。○折は、之設反。殷は、於閑反。又於辰反。汙は、音烏。又一故反。 緩曰、自始合、苟有險、余必下推車。子豈識之。然子病矣。以其不識己推車。○推、昌誰反。又他回反。 【読み】 緩曰く、始め合いてよりして、苟も險有れば、余必ず下りて車を推せり。子豈之を識らんや。然らば子は病めり、と。其の己が車を推すを識らざるを以てなり。○推は、昌誰反。又他回反。 張侯曰、師之耳目、在吾旗鼓。進退從之。此車一人殿之、可以集事。殿、鎭也。集、成也。○殿、多練反。 【読み】 張侯曰く、師の耳目は、吾が旗鼓に在り。進退之に從う。此の車一人之に殿たらば、以て事を集[な]す可し。殿は、鎭なり。集は、成すなり。○殿は、多練反。 若之何其以病、敗君之大事也。擐甲執兵、固卽死也。擐、貫也。卽、就也。○擐、音患。 【読み】 之を若何ぞ其れ病めるを以て、君の大事を敗らんや。甲を擐[つらぬ]き兵を執るは、固より死に卽くなり。擐[かん]は、貫くなり。卽は、就くなり。○擐は、音患。 病未及死。吾子勉之。左幷轡、右援枹而鼓。馬逸不能止。師從之。晉師從郤克車。○幷、必政反。援、音爰。枹、音浮。鼓槌也。 【読み】 病むも未だ死に及ばず。吾子之を勉めよ、と。左に轡を幷せ、右に枹[ふ]を援[と]りて鼓つ。馬逸して止むること能わず。師之に從う。晉の師郤克が車に從う。○幷は、必政反。援は、音爰。枹は、音浮。鼓槌なり。 齊師敗績。逐之、三周華不注。華不注、山名。○華、如字。又戶化反。 【読み】 齊の師敗績す。之を逐いて、三たび華不注を周れり。華不注は、山の名。○華は、字の如し。又戶化反。 韓厥夢子輿謂己、曰且辟左右。子輿、韓厥父。 【読み】 韓厥子輿己に謂いて、且く左右を辟けよと曰いしと夢みす。子輿は、韓厥の父。 故中御而從齊侯。居中代御者。自非元帥、御者皆在中。將在左。 【読み】 故に中に御して齊侯を從[お]う。中に居りて御者に代わるなり。元帥に非ざるよりは、御者皆中に在り。將は左に在り。 邴夏曰、射其御者。君子也。公曰、謂之君子而射之、非禮也。齊侯不知戎禮。○射、食亦反。下皆同。 【読み】 邴夏曰く、其の御者を射よ。君子なり、と。公曰く、之を君子と謂いて之を射るは、禮に非ざるなり、と。齊侯戎禮を知らず。○射は、食亦反。下も皆同じ。 射其左。越于車下。越、隊也。○隊、直類反。 【読み】 其の左を射る。車下に越[お]つ。越は、隊[お]つるなり。○隊は、直類反。 射其右。斃于車中。綦毋張喪車、從韓厥曰、請寓乘。綦毋張、晉大夫。寓、寄也。○毋、音無。乘、繩證反。 【読み】 其の右を射る。車中に斃る。綦毋張車を喪い、韓厥に從りて曰く、請う、寓乘せん、と。綦毋張は、晉の大夫。寓は、寄るなり。○毋は、音無。乘は、繩證反。 從左右。皆肘之、使立於後。以左右皆死、不欲使立其處。 【読み】 左右從りす。皆之を肘して、後に立たしむ。左右皆死するを以て、其の處に立たしむることを欲せず。 韓厥俛定其右。俛、俯也。右被射仆車中。故俯安隱之。○俛、音勉。 【読み】 韓厥俛[ふ]して其の右を定む。俛[べん]は、俯すなり。右射られて車中に仆る。故に俯して之を安隱す。○俛は、音勉。 逢丑父與公易位。居公處。 【読み】 逢丑父公と位を易う。公の處に居る。 將及華泉。驂絓於木而止。驂馬絓也。○華、戶化反。絓、戶卦反。一音圭。 【読み】 將に華泉に及ばんとす。驂木に絓[かか]りて止まる。驂馬絓るなり。○華は、戶化反。絓は、戶卦反。一に音圭。 丑父寢於轏中、轏、士車。○轏、士產反。亦仕諫反。臥車也。 【読み】 丑父轏中[さんちゅう]に寢ねしに、轏は、士の車。○轏は、士產反。亦仕諫反。臥車なり。 蛇出於其下、以肱擊之、傷而匿之。故不能推車而及。爲韓厥所及。丑父欲爲右。故匿其傷。 【読み】 蛇其の下より出でしを、肱を以て之を擊ち、傷つきて之を匿[かく]せり。故に車を推すこと能わずして及ばる。韓厥の爲に及ばる。丑父右爲らんと欲す。故に其の傷を匿すなり。 韓厥執縶馬前、縶、馬絆也。執之、示脩臣僕之職。○縶、張立反。絆、音半。 【読み】 韓厥縶[ちゅう]を馬前に執り、縶は、馬絆なり。之を執るは、臣僕の職を脩むるを示すなり。○縶は、張立反。絆は、音半。 再拜稽首、奉觴加璧以進、進觴璧、亦以示敬。 【読み】 再拜稽首して、觴[さかずき]を奉じ璧を加えて以て進めて、觴璧を進むるは、亦以て敬を示すなり。 曰、寡君使羣臣爲魯・衛請、曰、無令輿師陷入君地。本但爲二國救請。不欲乃過入君地。謙辭。○爲、于僞反。 【読み】 曰く、寡君羣臣をして魯・衛の爲に請わしめて、曰く、輿師をして君の地に陷入せしむること無かれ、と。本但二國の救の爲に請うのみ。乃ち君の地に過入することを欲せず、と。謙辭なり。○爲は、于僞反。 下臣不幸、屬當戎行、無所逃隱。屬、適也。○屬、音燭。行、下郎反。 【読み】 下臣不幸にして、屬[たま]々戎行に當たりて、逃隱する所無し。屬は、適々なり。○屬は、音燭。行は、下郎反。 且懼奔辟而忝兩君。臣辱戎士、若奔辟則爲辱晉君、幷爲齊侯羞。故言二君。此蓋韓厥自處臣僕、謙敬之飾言。○辟、音避。 【読み】 且懼れらくは奔辟して兩君を忝めんことを。臣戎士を辱くすれば、若し奔辟せば則ち晉君を辱むることを爲し、幷せて齊侯の羞と爲らん。故に二君と言う。此れ蓋し韓厥自ら臣僕に處る、謙敬の飾言ならん。○辟は、音避。 敢告不敏。攝官承乏。言欲以己不敏、攝承空乏、從君倶還。 【読み】 敢えて告ぐ、不敏なり。官を攝して乏しきを承けん、と。言うこころは、己が不敏を以て、空乏を攝承して、君に從いて倶に還らんと欲す。 丑父使公下如華泉取飮。鄭周父御佐車、宛茷爲右、載齊侯以免。佐車、副車。○宛、紆元反。茷、扶廢反。 【読み】 丑父公をして下りて華泉に如きて飮を取らしむ。鄭周父佐車に御となり、宛茷[えんはい]右と爲り、齊侯を載せて以て免る。佐車は、副車。○宛は、紆元反。茷は、扶廢反。 韓厥獻丑父。郤獻子將戮之。呼曰、自今無有代其君任患者。有一於此、將爲戮乎。郤子曰、人不難以死免其君。我戮之、不祥。赦之以勸事君者。乃免之。 【読み】 韓厥丑父を獻ず。郤獻子將に之を戮せんとす。呼[よ]ばいて曰く、今より其の君に代わりて患に任ずる者有ること無からん。此に一有るも、將に戮することを爲さんとするか、と。郤子曰く、人死を以て其の君を免れしむることを難[はばか]らず。我れ之を戮するは、不祥なり。之を赦して以て君に事る者を勸めん、と。乃ち之を免す。 齊侯免、求丑父、三入三出。重其代己。故三入晉軍求之。○呼、火故反。任、音壬。難、乃旦反。 【読み】 齊侯免れ、丑父を求めんとして、三たび入り三たび出づ。其の己に代わるを重んず。故に三たび晉軍に入りて之を求めんとす。○呼は、火故反。任は、音壬。難は、乃旦反。 每出齊師以帥退、入于狄卒。齊師大敗、皆有退心。故齊侯輕出其衆、以帥厲退者、遂逬入狄卒。狄卒者、狄人從晉討齊者。○輕、遣政反。逬、補諍反。 【読み】 齊の師を出づる每に以て退けるを帥い、狄の卒に入る。齊の師大敗して、皆退心有り。故に齊侯輕々しく其の衆を出でて、以て退く者を帥厲して、遂に狄の卒に逬入[ほうにゅう]す。狄の卒は、狄人の晉に從いて齊を討ずる者なり。○輕は、遣政反。逬は、補諍反。 狄卒皆抽戈、楯冒之、以入于衛師。衛師免之。狄・衛畏齊之强。故不敢害齊侯、皆共免護之。○楯、食準反。又音久。 【読み】 狄の卒皆戈を抽[ひ]き、楯にて之を冒いて、以て衛の師に入れぬ。衛の師も之を免す。狄・衛齊の强きを畏る。故に敢えて齊侯を害せず、皆共に之を免護す。○楯は、食準反。又音久。 遂自徐關入。 【読み】 遂に徐關より入る。 齊侯見保者曰、勉之。齊師敗矣。所過城邑、皆勉勵其守者。 【読み】 齊侯保者を見て曰く、之を勉めよ。齊の師敗れたり、と。過ぐる所の城邑、皆其の守者を勉勵す。 辟女子。使辟君也。齊侯單還。故婦人不辟之。○辟、音避。 【読み】 女子を辟けしむ。君を辟けしむるなり。齊侯單還す。故に婦人之を辟けず。○辟は、音避。 女子曰、君免乎。曰、免矣。曰、銳司徒免乎。曰、免矣。銳司徒、主銳兵者。○銳、悅歲反。 【読み】 女子曰く、君免れたりや、と。曰く、免れたり、と。曰く、銳司徒免れたりや、と。曰く、免れたり、と。銳司徒は、銳兵を主る者。○銳は、悅歲反。 曰、苟君與吾父免矣。可若何。言餘人不可復若何。 【読み】 曰く、苟も君と吾が父と免れたり。若何にす可けん、と。言うこころは、餘人は復若何ともす可からず。 乃奔。走辟君。 【読み】 乃ち奔る。走りて君を辟く。 齊侯以爲有禮。先問君後問父故也。 【読み】 齊侯以て禮有りとす。先ず君を問いて後に父を問う故なり。 旣而問之、辟司徒之妻也。辟司徒、主壘壁者。○辟、音壁。 【読み】 旣にして之を問えば、辟司徒の妻なり。辟司徒は、壘壁を主る者。○辟は、音壁。 予之石窌。石窌、邑名。濟北廬縣東有地、名石窌。○窌、力救反。一力到反。 【読み】 之に石窌[せきりゅう]を予う。石窌は、邑の名。濟北廬縣の東に地有り、石窌と名づく。○窌は、力救反。一に力到反。 晉師從齊師、入自丘輿、擊馬陘。丘輿・馬陘、皆齊邑。○陘、音刑。 【読み】 晉の師齊の師を從[お]い、丘輿より入り、馬陘を擊つ。丘輿・馬陘は、皆齊の邑。○陘は、音刑。 齊侯使賓媚人賂以紀甗・玉磬與地。媚人、國佐也。甗、玉甑。皆滅紀所得。○甗、魚輦反。又音彥。又音言。甑、子孕反。 【読み】 齊侯賓媚人をして賂うに紀の甗[げん]・玉磬と地とを以てせしむ。媚人は、國佐なり。甗は、玉甑[ぎょくそう]。皆紀を滅ぼして得る所。○甗は、魚輦反。又音彥。又音言。甑は、子孕反。 不可、則聽客之所爲。賓媚人致賂。晉人不可、曰、必以蕭同叔子爲質、同叔、蕭君之字。齊侯外祖父。子、女也。難斥言其母。故遠言之。○質、音致。下同。難、乃旦反。 【読み】 可[き]かずんば、則ち客のする所を聽け、と。賓媚人賂を致す。晉人可かずして、曰く、必ず蕭同叔の子を以て質と爲して、同叔は、蕭君の字。齊侯の外祖父なり。子は、女なり。其の母を斥言するを難る。故に之を遠言す。○質は、音致。下も同じ。難は、乃旦反。 而使齊之封内、盡東其畝。使壟畝東西行。○盡、津忍反。行、戶郎反。又如字。 【読み】 齊の封内をして、盡く其の畝を東にせしめよ、と。壟畝をして東西行にせしむ。○盡は、津忍反。行は、戶郎反。又字の如し。 對曰、蕭同叔子非他、寡君之母也。若以匹敵、則亦晉君之母也。吾子布大命於諸侯、而曰必質其母以爲信、其若王命何。言違王命。 【読み】 對えて曰く、蕭同叔の子とは他に非ず、寡君の母なり。若し匹敵を以てせば、則ち亦晉君の母なり。吾子大命を諸侯に布きて、必ず其の母を質として以て信とせんと曰わば、其れ王命を若何。王命に違うを言う。 且是以不孝令也。詩曰、孝子不匱、永錫爾類。詩、大雅。言孝心不乏者、又能以孝道長賜其志類。 【読み】 且つ是れ不孝を以て令するなり。詩に曰く、孝子匱[とぼ]しからざるは、永く爾の類に錫う、と。詩は、大雅。孝心乏しからざる者は、又能く孝道を以て長く其の志類に賜うを言う。 若以不孝令於諸侯、其無乃非德類也乎。不以孝德賜同類。 【読み】 若し不孝を以て諸侯に令せば、其れ乃ち德類に非ざること無からんや。孝德を以て同類を賜わず。 先王疆理天下、物土之宜而布其利。疆、界也。理、正也。物土之宜、播殖之物、各從土宜。 【読み】 先王の天下を疆理するは、物ごと土の宜をして其の利を布けり。疆は、界なり。理は、正すなり。物ごと土の宜とは、播殖の物、各々土宜に從うなり。 故詩曰、我疆我理、南東其畝。詩、小雅。或南或東、從其土宜。 【読み】 故に詩に曰く、我れ疆し我れ理して、其の畝を南東にす、と。詩は、小雅。或は南或は東、其の土宜に從うなり。 今吾子疆理諸侯、而曰盡東其畝而已、唯吾子戎車是利、晉之伐齊、循壟東行易。 【読み】 今吾子諸侯を疆理して、盡く其の畝を東にせんのみと曰わば、唯吾子は戎車をのみ是れ利して、晉の齊を伐つに、壟に循いて東行すれば易し。 無顧土宜。其無乃非先王之命也乎。反先王則不義。何以爲盟主。 【読み】 土宜を顧みること無きなり。其れ乃ち先王の命に非ざること無からんや。先王に反するは則ち不義なり。何を以て盟主爲らん。 其晉實有闕。闕、失。 【読み】 其れ晉實に闕くること有り。闕は、失。 四王之王也、禹・湯・文・武。○之王、于況反。 【読み】 四王の王たるや、禹・湯・文・武。○之王は、于況反。 樹德而濟同欲焉。樹、立也。濟、成也。 【読み】 德を樹てて同欲を濟[な]せり。樹は、立つなり。濟は、成すなり。 五伯之霸也、夏伯、昆吾。商伯、大彭・豕韋。周伯、齊桓・晉文。○或曰、桓・文・宋襄・秦穆・楚莊。 【読み】 五伯の霸たるや、夏の伯は、昆吾。商の伯は、大彭・豕韋。周の伯は、齊桓・晉文。○或は曰く、桓・文・宋襄・秦穆・楚莊、と。 勤而撫之、以役王命。役、事也。 【読み】 勤めて之を撫でて、以て王命に役せり。役は、事うるなり。 今吾子求合諸侯、以逞無疆之欲。疆、竟也。 【読み】 今吾子は諸侯を合わせて、以て無疆の欲を逞しくせんことを求む。疆は、竟なり。 詩曰、布政優優、百祿是遒。詩、頌。殷湯布政優和。故百祿來聚。遒、聚也。 【読み】 詩に曰く、政を布くこと優優たり、百祿是れ遒[あつ]まる、と。詩は、頌。殷湯政を布くこと優和なり。故に百祿來聚す。遒[しゅう]は、聚まるなり。 子實不優、而棄百祿、諸侯何害焉。言不能爲諸侯害。 【読み】 子實に優ならずして、百祿を棄てば、諸侯何の害あらん。言うこころは、諸侯の害を爲すこと能わず。 不然、不見許。 【読み】 然らずんば、許されざるなり。 寡君之命使臣、則有辭矣。曰、子以君師辱於敝邑、不腆敝賦、以犒從者、戰而曰犒、爲孫辭。○使、所吏反。從、才用反。 【読み】 寡君の使臣に命ぜし、則ち辭有り。曰く、子君の師を以て敝邑に辱くすれば、不腆なる敝賦、以て從者を犒[ねぎら]いしも、戰いて犒うと曰うは、孫辭を爲すなり。○使は、所吏反。從は、才用反。 畏君之震、師徒橈敗。震、動。橈、曲也。○橈、乃敎反。 【読み】 君の震を畏れて、師徒橈敗[どうはい]せり。震は、動く。橈は、曲るなり。○橈は、乃敎反。 吾子惠徼齊國之福、不泯其社稷、使繼舊好、唯是先君之敝器土地不敢愛。子又不許、請收合餘燼、燼、火餘木。○燼、似刃反。 【読み】 吾子惠みて齊國の福を徼めんとして、其の社稷を泯[ほろ]ぼさずして、舊好を繼がしめば、唯是れ先君の敝器土地敢えて愛[お]しまじ。子又許さずんば、請う、餘燼を收合して、燼は、火餘の木なり。○燼は、似刃反。 背城借一。欲於城下復借一戰。○背、音佩。 【読み】 城を背にして一を借らん。城下に於て復一戰を借らんと欲す。○背は、音佩。 敝邑之幸、亦云從也。況其不幸、敢不唯命是聽。言完全之時、尙不敢違晉。今若不幸則從命。 【読み】 敝邑の幸いなるも、亦云[ここ]に從えり。況んや其れ不幸なるをや、敢えて唯命是れ聽かざらんや、と。言うこころは、完全の時も、尙敢えて晉に違わざりき。今不幸の若きは則ち命に從わん。 魯・衛諫曰、齊疾我矣。諫郤克也。 【読み】 魯・衛諫めて曰く、齊我を疾[にく]めり。郤克を諫むるなり。 其死亡者、皆親暱也。子若不許、讎我必甚。唯子則又何求。子得其國寶、謂甗磬。○暱、女乙反。 【読み】 其の死亡する者は、皆親暱[しんじつ]なり。子若し許さずんば、我を讎とすること必ず甚だしからん。唯子は則ち又何をか求めん。子其の國寶を得、甗磬を謂う。○暱は、女乙反。 我亦得地、齊歸所侵。 【読み】 我も亦地を得て、齊侵す所を歸す。 而紓於難、齊服則難緩。○紓、音舒。難、乃旦反。 【読み】 難を紓[ゆる]べば、齊服すれば則ち難緩む。○紓は、音舒。難は、乃旦反。 其榮多矣。齊・晉亦唯天所授。豈必晉。 【読み】 其の榮多し。齊・晉も亦唯天の授くる所なり。豈必ずしも晉のみならんや、と。 晉人許之。對曰、羣臣帥賦輿、賦輿、猶兵車。 【読み】 晉人之を許す。對えて曰く、羣臣賦輿を帥いて、賦輿は、猶兵車のごとし。 以爲魯・衛請、若苟有以藉口而復於寡君、藉、薦也。復、白也。○爲、于僞反。藉、在夜反。 【読み】 以て魯・衛の爲に請いしに、若し苟も以て口に藉[し]きて寡君に復[もう]すこと有らば、藉は、薦[し]くなり。復は、白[もう]すなり。○爲は、于僞反。藉は、在夜反。 君之惠也。敢不唯命是聽。 【読み】 君の惠みなり。敢えて唯命を是れ聽かざらんや、と。 禽鄭自師逆公。禽鄭、魯大夫。歸逆公會晉師。 【読み】 禽鄭師より公を逆う。禽鄭は、魯の大夫。歸りて公を逆えて晉の師に會す。 秋、七月、晉師及齊國佐盟于爰婁。使齊人歸我汶陽之田。公會晉師于上鄍。上鄍、地闕。公會晉師不書、史闕。 【読み】 秋、七月、晉の師齊國の佐と爰婁[えんろう]に盟う。齊人をして我が汶陽の田を歸さしむ。公晉の師に上鄍[じょうべい]に會す。上鄍は、地闕く。公晉の師に會すること書さざるは、史の闕なり。 賜三帥先路三命之服、三帥、郤克・士燮・欒書。已嘗受王先路之賜。今改而易新。幷此車所建所服之物。 【読み】 三帥に先路三命の服を賜い、三帥は、郤克・士燮・欒書。已に嘗て王の先路の賜を受く。今改めて新に易う。幷せて此の車の建つる所服する所の物までをす。 司馬・司空・輿帥・候正・亞旅、皆受一命之服。晉司馬・司空、皆大夫。輿帥、主兵車。候正、主斥候。亞旅、亦大夫也。皆魯侯賜。 【読み】 司馬・司空・輿帥・候正・亞旅は、皆一命の服を受く。晉の司馬・司空は、皆大夫なり。輿帥は、兵車を主る。候正は、斥候を主る。亞旅も、亦大夫なり。皆魯侯の賜なり。 八月、宋文公卒。始厚葬、用蜃炭、益車馬、始用殉、燒蛤爲炭以瘞壙、多埋車馬、用人從葬。○蜃、市忍反。 【読み】 八月、宋の文公卒す。始めて厚葬し、蜃炭を用い、車馬を益し、始めて殉を用い、蛤を燒きて炭と爲して以て壙を瘞[うず]め、多く車馬を埋め、人を用いて葬に從う。○蜃は、市忍反。 重器備。重、猶多也。○重、直恭反。 【読み】 器備を重ぬ。重は、猶多きがごとし。○重は、直恭反。 椁有四阿、棺有翰檜。四阿、四注椁也。翰、旁飾。檜、上飾。皆王禮。○翰、戶旦反。一音韓。檜、古外反。又音會。 【読み】 椁に四阿有り、棺に翰檜[かんかい]有り。四阿は、四注椁なり。翰は、旁飾。檜は、上飾。皆王の禮なり。○翰は、戶旦反。一に音韓。檜は、古外反。又音會。 君子謂、華元・樂舉於是乎不臣。臣、治煩去惑者也。是以伏死而爭。今二子者、君生則縱其惑、謂文十八年、殺母弟須。○去、起呂反。 【読み】 君子謂えらく、華元・樂舉是に於て不臣なり。臣は、煩を治め惑を去る者なり。是を以て死に伏して爭う。今二子の者は、君生くるときは則ち其の惑いを縱にして、文十八年、母弟須を殺すを謂う。○去は、起呂反。 死又益其侈。是棄君於惡也。何臣之爲。若言何用爲臣。 【読み】 死するときは又其の侈りを益す。是れ君を惡に棄つるなり。何ぞ臣と之れせんや、と。何を用て臣爲らんと言うが若し。 九月、衛穆公卒。晉三子自役弔焉、哭於大門之外。師還過衛。故因弔之。未復命。故不敢成禮。 【読み】 九月、衛の穆公卒す。晉の三子役より弔して、大門の外に哭す。師還りて衛を過ぐ。故に因りて之を弔う。未だ復命せず。故に敢えて禮を成さず。 衛人逆之、逆於門外設喪位。 【読み】 衛人之を逆え、門外に逆えて喪位を設く。 婦人哭於門内。喪位、婦人哭於堂。賓在門外。故移在門内。 【読み】 婦人門内に哭す。喪位は、婦人は堂に哭す。賓門外に在り。故に移して門内に在るなり。 送亦如之。遂常以葬。至葬行此禮。 【読み】 送るも亦之の如し。遂に常として以いて葬れり。葬に至るまで此の禮を行う。 楚之討陳夏氏也、在宣十一年。 【読み】 楚の陳の夏氏を討ぜしや、宣十一年に在り。 莊王欲納夏姬。申公巫臣曰、不可。君召諸侯、以討罪也。今納夏姬、貪其色也。貪色爲淫、淫爲大罰。周書曰、明德愼罰。周書、康誥。 【読み】 莊王夏姬を納れんと欲す。申公巫臣曰く、不可なり。君諸侯を召すは、以て罪を討ずるなり。今夏姬を納れば、其の色を貪るなり。色を貪るを淫と爲し、淫を大罰と爲す。周書に曰く、德を明らかにし罰を愼む、と。周書は、康誥。 文王所以造周也。明德、務崇之之謂也。愼罰、務去之之謂也。若興諸侯以取大罰、非愼之也。君其圖之。王乃止。 【読み】 文王の周を造[な]せし所以なり。德を明らかにすとは、務めて之を崇くするの謂なり。罰を愼むとは、務めて之を去るの謂なり。若し諸侯を興して以て大罰を取らば、之を愼むに非ざるなり。君其れ之を圖れ、と。王乃ち止む。 子反欲取之。巫臣曰、是不祥人也。是夭子蠻、子蠻、鄭霊公。夏姬之兄。殺死無後。○殺、申志反。下殺靈候同。 【読み】 子反之を取らんと欲す。巫臣曰く、是れ不祥の人なり。是れ子蠻を夭せしめ、子蠻は、鄭の霊公。夏姬の兄。殺死せられて後無し。○殺は、申志反。下の殺靈候も同じ。 殺御叔、御叔、夏姬之夫。亦早死。 【読み】 御叔を殺し、御叔は、夏姬の夫。亦早く死す。 弑靈侯、陳靈公也。 【読み】 靈侯を弑し、陳の靈公なり。 戮夏南、夏姬子、徵舒。 【読み】 夏南を戮し、夏姬の子、徵舒。 出孔・儀、孔寧、儀行父。 【読み】 孔・儀を出だし、孔寧・儀行父。 喪陳國。楚滅陳。○喪、息浪反。 【読み】 陳國を喪ぼせり。楚陳を滅ぼす。○喪は、息浪反。 何不祥如是。人生實難。其有不獲死乎。言死易得。無爲取夏姬以速之。 【読み】 何の不祥か是に如かん。人の生は實に難し。其れ死を獲ざること有らんや。言うこころは、死は得易し。夏姬を取りて以て之を速[まね]くことを爲すこと無かれ。 天下多美婦人。何必是。子反乃止。王以予連尹襄老。襄老死於邲、不獲其尸。邲戰、在宣十二年。 【読み】 天下に美婦人多し。何ぞ必ずしも是れのみならん、と。子反乃ち止む。王以て連尹襄老に予う。襄老邲[ひつ]に死して、其の尸を獲ず。邲の戰は、宣十二年に在り。 其子黑要烝焉。黑要、襄老子。○要、一遙反。 【読み】 其の子黑要烝す。黑要は、襄老の子。○要は、一遙反。 巫臣使道焉、曰、歸。吾聘女。道夏姬使歸鄭。○女、音汝。 【読み】 巫臣道[みちび]かしめて、曰く、歸れ。吾れ女を聘せん、と。夏姬を道きて鄭に歸らしむ。○女は、音汝。 又使自鄭召之、曰、尸可得也。襄老尸。 【読み】 又鄭より之を召[よ]ばしめて、曰く、尸得可し。襄老の尸なり。 必來逆之。姬以告王。王問諸屈巫。屈巫、巫臣。○屈、居勿反。 【読み】 必ず來りて之を逆えよ、と。姬以て王に告ぐ。王諸を屈巫に問う。屈巫は、巫臣。○屈は、居勿反。 對曰、其信。知罃之父、成公之嬖也、而中行伯之季弟也。知罃父、荀首也。中行伯、荀林父也。邲之戰、楚人囚知罃。○知、音智。罃、於耕反。 【読み】 對えて曰く、其れ信ならん。知罃[ちおう]の父は、成公の嬖にして、中行伯の季弟なり。知罃の父は、荀首なり。中行伯は、荀林父なり。邲の戰に、楚人知罃を囚う。○知は、音智。罃は、於耕反。 新佐中軍、而善鄭皇戌。甚愛此子、愛知罃也。 【読み】 新たに中軍に佐として、鄭の皇戌に善し。甚だ此の子を愛すれば、知罃を愛するなり。 其必因鄭而歸王子與襄老之尸、以求之。王子、楚公子穀臣也。邲之戰荀首囚之。 【読み】 其れ必ず鄭に因りて王子と襄老の尸とを歸して、以て之を求めん。王子は、楚の公子穀臣なり。邲の戰に荀首之を囚う。 鄭人懼於邲之役、而欲求媚於晉、其必許之。 【読み】 鄭人邲の役に懼れて、媚を晉に求めんと欲すれば、其れ必ず之を許さん、と。 王遣夏姬歸。將行。謂送者曰、不得尸、吾不反矣。巫臣聘諸鄭。鄭伯許之。聘夏姬。 【読み】 王夏姬をして歸らしむ。將に行かんとす。送者に謂いて曰く、尸を得ずんば、吾れ反らじ、と。巫臣諸を鄭に聘す。鄭伯之を許す。夏姬を聘す。 及共王卽位、將爲陽橋之役。楚伐魯至陽橋。在此年冬。○共、音恭。 【読み】 共王の位に卽くに及びて、將に陽橋の役を爲さんとす。楚魯を伐ちて陽橋に至る。此の年の冬に在り。○共は、音恭。 使屈巫聘於齊、且告師期。巫臣盡室以行。室家盡去。 【読み】 屈巫をして齊に聘せしめ、且師の期を告ぐ。巫臣室を盡くして以て行[さ]る。室家盡く去る。 申叔跪從其父將適郢、遇之、叔跪、申叔時之子。○從、才用反。郢、以井反。 【読み】 申叔跪[しんしゅくき]其の父に從いて將に郢[えい]に適かんとし、之に遇いて、叔跪は、申叔時の子。○從は、才用反。郢は、以井反。 曰、異哉。夫子有三軍之懼、而又有桑中之喜。宜將竊妻以逃者也。桑中、衛風。淫奔之詩。 【読み】 曰く、異なるかな。夫子三軍の懼れ有りて、又桑中の喜び有り。宜なり將に妻を竊みて以て逃げんとする者なること、と。桑中は、衛風。淫奔の詩。 及鄭、使介反幣、而以夏姬行。介、副也。幣、聘物。 【読み】 鄭に及び、介をして幣を反さしめて、夏姬を以[い]て行る。介は、副なり。幣は、聘物。 將奔齊。齊師新敗。曰、吾不處不勝之國。遂奔晉、而因郤至、至、郤克族子。 【読み】 將に齊に奔らんとす。齊の師新たに敗れたり。曰く、吾れ不勝の國に處らず、と。遂に晉に奔りて、郤至に因り、至は、郤克の族子。 以臣於晉。晉人使爲邢大夫。邢、晉邑。 【読み】 以て晉に臣たり。晉人邢の大夫爲らしむ。邢は、晉の邑。 子反請以重幣錮之。禁錮勿令仕。○錮、音固。 【読み】 子反重幣を以て之を錮せんと請う。禁錮して仕えしむること勿からんとす。○錮は、音固。 王曰、止。其自爲謀也則過矣。其爲吾先君謀也則忠。忠、社稷之固也。所蓋多矣。蓋、覆也。○自爲、于僞反。又如字。爲吾、于僞反。 【読み】 王曰く、止めよ。其の自ら爲に謀るや則ち過てり。其の吾が先君の爲に謀るや則ち忠なり。忠は、社稷の固めなり。蓋う所多し。蓋は、覆うなり。○自爲は、于僞反。又字の如し。爲吾は、于僞反。 且彼若能利國家、雖重幣、晉將可乎。言不許。 【読み】 且つ彼若し能く國家に利あらば、重幣と雖も、晉將[はた]可[き]かんや。許さざるを言う。 若無益於晉、晉將棄之。何勞錮焉。爲七年、楚滅巫臣族、晉南通吳張本。 【読み】 若し晉に益無くば、晉將に之を棄てんとす。何ぞ錮することを勞せん、と。七年、楚巫臣の族を滅ぼし、晉南吳に通ずる爲の張本なり。 晉師歸。范文子後入。武子曰、無爲吾望爾也乎。武子、士會。文子之父。 【読み】 晉の師歸る。范文子後れて入る。武子曰く、吾れ爾を望むとすることを無からんや、と。武子は、士會。文子の父。 對曰、師有功。國人喜以逆之。先入、必屬耳目焉。是代帥受名也。故不敢。武子曰、吾知免矣。知其不益己禍。○屬、章欲反。 【読み】 對えて曰く、師功有り。國人喜びて以て之を逆う。先ず入らば、必ず耳目を屬けん。是れ帥に代わりて名を受くるなり。故に敢えてせず、と。武子曰く、吾免ることを知れり、と。其の己が禍を益さざるを知る。○屬は、章欲反。 郤伯見。公曰、子之力也夫。對曰、君之訓也。二三子之力也。臣何力之有焉。郤伯、郤克。○見、賢遍反。 【読み】 郤伯見ゆ。公曰く、子の力めなるかな、と。對えて曰く、君の訓えなり。二三子の力めなり。臣何の力めか之れ有らん、と。郤伯は、郤克。○見は、賢遍反。 范叔見。勞之如郤伯。對曰、庚所命也。克之制也。燮何力之有焉。荀庚、將上軍。時不出。范文子、上軍佐。代行。故稱帥以讓。○勞、力報反。 【読み】 范叔見ゆ。之を勞すること郤伯の如し。對えて曰く、庚が命ずる所なり。克の制なり。燮何の力めか之れ有らん、と。荀庚は、上軍に將たり。時に出でず。范文子は、上軍の佐。代わり行く。故に帥を稱して以て讓る。○勞は、力報反。 欒伯見。公亦如之。對曰、燮之詔也。士用命也。書何力之有焉。詔、告也。欒書、下軍帥。故推功上軍。傳言晉將帥克讓。所以能勝齊。 【読み】 欒伯見ゆ。公亦之の如し。對えて曰く、燮の詔げなり。士命を用ゆるなり。書何の力めか之れ有らん、と。詔は、告げなり。欒書は、下軍の帥。故に功を上軍に推す。傳晉の將帥克く讓る。能く齊に勝つ所以を言う。 宣公使求好于楚、莊王卒、宣公薨、不克作好。在宣十八年。 【読み】 宣公好を楚に求めしめんとせしに、莊王卒し、宣公薨じて、好を作すこと克わざりき。宣十八年に在り。 公卽位、受盟于晉、元年、盟赤棘。 【読み】 公位に卽きて、盟を晉に受け、元年、赤棘に盟う。 會晉伐齊、衛人不行使于楚、不聘楚。 【読み】 晉に會して齊を伐ち、衛人も使いを楚に行[や]らずして、楚に聘せず。 而亦受盟于晉、從於伐齊。故楚令尹子重爲陽橋之役以救齊。 【読み】 亦盟を晉に受け、齊を伐つに從えり。故に楚の令尹子重陽橋の役を爲して以て齊を救う。 將起師、子重曰、君弱、傳曰、寡人生十年而喪先君。共王卽位、至是三年。蓋年十二三矣。 【読み】 將に師を起こさんとするとき、子重曰く、君弱[わか]く、傳に曰く、寡人生まれて十年にして先君を喪う。共王位に卽きてより、是に至りて三年なり。蓋し年十二三ならん。 羣臣不如先大夫。師衆而後可。詩曰、濟濟多士、文王以寧。詩、大雅。言文王以衆士安。 【読み】 羣臣先大夫に如かず。師衆くして後に可なり。詩に曰く、濟濟たる多士、文王以て寧し、と。詩は、大雅。文王衆士を以て安きを言う。 夫文王猶用衆。況吾儕乎。儕、等。 【読み】 夫れ文王も猶衆きを用いたり。況んや吾が儕[ともがら]をや。儕は、等なり。 且先君莊王屬之曰、無德以及遠方、莫如惠恤其民而善用之。乃大戶、閱民戶口。 【読み】 且つ先君莊王之を屬して曰く、德の以て遠方に及ぶこと無くば、其の民を惠恤して善く之を用ゆるに如くは莫し、と。乃ち大いに戶し、民の戶口を閱す。 已責、棄逋責。○逋、補吳反。 【読み】 責を已め、逋責を棄つ。○逋は、補吳反。 逮鰥、施及老鰥。○施、始豉反。 【読み】 鰥[かん]に逮[およ]ぼし、老鰥に施及す。○施は、始豉反。 救乏、赦罪、悉師。王卒盡行。彭名御戎。蔡景公爲左。許靈公爲右。王卒盡行。故王戎車亦行。雖無楚王、令二君當左右之位。 【読み】 乏を救い、罪を赦し、師を悉くす。王の卒盡く行く。彭名戎に御たり。蔡の景公左爲り。許の靈公右爲り。王の卒盡く行く。故に王の戎車も亦行く。楚王無しと雖も、二君をして左右の位に當たらしむ。 二君弱。皆強冠之。 【読み】 二君弱し。皆強いて之を冠せしむ。 冬、楚師侵衛、遂侵我、師于蜀。公賂之而退。故不書侵。○强、其丈反。冠、古亂反。 【読み】 冬、楚の師衛を侵し、遂に我を侵し、蜀に師す。公之に賂いて退く。故に侵を書さず。○强は、其丈反。冠は、古亂反。 使臧孫往。臧孫、宣叔也。 【読み】 臧孫をして往かしむ。臧孫は、宣叔なり。 辭曰、楚遠而久。固將退矣。無功而受名、臣不敢。不敢虛受退楚名。 【読み】 辭して曰く、楚遠くして久し。固より將に退かんとす。功無くして名を受くるは、臣敢えてせず、と。敢えて虛しく楚を退くるの名を受けず。 楚侵及陽橋。陽橋、魯地。 【読み】 楚侵して陽橋に及ぶ。陽橋は、魯の地。 孟孫請往賂之。楚侵遂深。故孟孫請以賂往。孟孫、獻子也。 【読み】 孟孫往きて之に賂わんと請う。楚の侵すこと遂に深し。故に孟孫賂を以て往かんと請う。孟孫は、獻子なり。 以執斲・執鍼・織紝、執斲、匠人。執鍼、女工。織紝、織繒布者。○斲、竹角反。鍼、之林反。紝、女金反。亦而鴆反。 【読み】 執斲[しったく]・執鍼[しっしん]・織紝[しょくじん]、執斲は、匠人。執鍼は、女工。織紝は、繒布を織る者。○斲は、竹角反。鍼は、之林反。紝は、女金反。亦而鴆反。 皆百人、公衡爲質、公衡、成公子。○質、音致。 【読み】 皆百人を以てし、公衡質と爲り、公衡は、成公の子。○質は、音致。 以請盟。楚人許平。十一月、公及楚公子嬰齊・蔡侯・許男・秦右大夫說・宋華元・陳公孫寧・衛孫良夫・鄭公子去疾、及齊國之大夫盟于蜀。齊大夫不書其名、非卿也。○說、音悅。去、起呂反。 【読み】 以て盟を請う。楚人平らぎを許す。十一月、公楚の公子嬰齊・蔡侯・許男・秦の右大夫說・宋の華元・陳の公孫寧・衛の孫良夫・鄭の公子去疾と、齊國の大夫と蜀に盟う。齊の大夫其の名を書さざるは、卿に非ざればなり。○說は、音悅。去は、起呂反。 卿不書、匱盟也。於是乎畏晉而竊與楚盟。故曰匱盟。匱、乏也。 【読み】 卿書さざるは、匱盟なればなり。是に於て晉を畏れて竊かに楚と盟う。故に匱盟と曰う。匱は、乏しきなり。 蔡侯・許男不書、乘楚車也。謂之失位。乘楚王車爲左右、則失位也。卿不書、則稱人、諸侯不書、皆不見經。君臣之別。 【読み】 蔡侯・許男書さざるは、楚の車に乘ればなり。之を位を失うと謂う。楚王の車に乘りて左右と爲るは、則ち位を失うなり。卿の書さざるは、則ち人と稱し、諸侯の書さざるは、皆經に見さず。君臣の別なり。 君子曰、位其不可不愼也乎。蔡・許之君、一失其位、不得列於諸侯。況其下乎。詩曰、不解于位、民之攸墍、詩、大雅。言在上者、勤正其位、則國安而民息也。攸、所也。墍、息也。○解、佳賣反。墍、許器反。 【読み】 君子曰く、位は其れ愼まずんばある可からざるなり。蔡・許の君、一たび其の位を失いて、諸侯に列ぬることを得ず。況んや其の下をや。詩に曰く、位に解[おこた]らざるは、民の墍[いこ]う攸なりとは、詩は、大雅。言うこころは、上に在る者、勤めて其の位を正しくすれば、則ち國安んじて民息うなり。攸は、所なり。墍[き]は、息うなり。○解は、佳賣反。墍は、許器反。 其是之謂矣。 【読み】 其れ是を之れ謂うなり、と。 楚師及宋。公衡逃歸。臧宣叔曰、衡父不忍數年之不宴、宴、樂也。○數、所主反。 【読み】 楚の師宋に及ぶ。公衡逃げ歸る。臧宣叔曰く、衡父數年の宴[たの]しまざるを忍びずして、宴は、樂しむなり。○數は、所主反。 以棄魯國。國將若之何。誰居、後之人必有任是夫。國棄矣。居、辭也。言後人必有當此患。○居、音基。任、音壬。夫、音扶。 【読み】 以て魯國を棄つ。國將に之を若何にせんとす。誰ぞや、後の人必ず是に任ずること有らん。國棄れられたり、と。居は、辭なり。言うこころは、後の人必ず此の患えに當たるもの有らん。○居は、音基。任は、音壬。夫は、音扶。 是行也、晉辟楚、畏其衆也。君子曰、衆之不可以已也、大夫爲政、猶以衆克。況明君而善用其衆乎。大誓所謂商兆民離、周十人同者、衆也。大誓、周書。萬億曰兆。民離則弱、合則成衆。言殷以散亡、周以衆興。 【読み】 是の行や、晉楚を辟けしは、其の衆を畏れてなり。君子曰く、衆の以て已む可からざるや、大夫政を爲すも、猶衆を以て克てり。況んや明君にして善く其の衆を用ゆるをや。大誓に所謂商の兆民は離れ、周の十人は同じとは、衆なればなり、と。大誓は、周書。萬億を兆と曰う。民離るれば則ち弱く、合えば則ち衆を成す。殷は散を以て亡び、周は衆を以て興るを言う。 晉侯使鞏朔獻齊捷于周。王弗見。使單襄公辭焉、曰、蠻夷・戎狄、不式王命、式、用也。 【読み】 晉侯鞏朔をして齊の捷を周に獻ぜしむ。王見ず。單襄公をして辭せしめて、曰く、蠻夷・戎狄、王命を式[もち]いず、式は、用ゆるなり。 淫湎毀常、王命伐之、則有獻捷。王親受而勞之、所以懲不敬、勸有功也。兄弟・甥舅、侵敗王略、兄弟、同姓國。甥舅、異姓國。略、經略法度。○湎、面善反。勞、力報反。敗、必邁反。 【読み】 淫湎して常を毀るを、王命じて之を伐たすれば、則ち捷を獻ずること有り。王親ら受けて之を勞うは、不敬を懲らして、有功を勸むる所以なり。兄弟・甥舅、王略を侵し敗るとき、兄弟は、同姓の國。甥舅は、異姓の國。略は、經略法度。○湎は、面善反。勞は、力報反。敗は、必邁反。 王命伐之、告事而已。不獻其功、所以敬親暱、告伐事、而不獻囚俘。 【読み】 王命じて之を伐たすれば、事を告ぐるのみ。其の功を獻ぜざるは、親暱を敬して、伐事を告げて、囚俘を獻ぜず。 禁淫慝也。淫慝、謂虣掠百姓、取囚俘也。○慝、他得反。虣、薄報反。掠、音亮。 【読み】 淫慝を禁ずる所以なり。淫慝は、百姓を虣掠[ほうりょう]し、囚俘を取るを謂うなり。○慝は、他得反。虣は、薄報反。掠は、音亮。 今叔父克遂有功于齊。克、能也。 【読み】 今叔父克く遂に齊に功有り。克は、能くなり。 而不使命卿鎭撫王室、所使來撫余一人、而鞏伯實來。未有職司於王室、鞏朔、上軍大夫。非命卿。名位不達於王室。 【読み】 而るを命卿をして王室を鎭撫せしめずして、來りて余一人を撫せしむる所にして、鞏伯實に來れり。未だ王室に職司有らず、鞏朔は、上軍の大夫。命卿に非ず。名位王室に達せず。 又奸先王之禮。謂獻齊捷。 【読み】 又先王の禮を奸せり。齊の捷を獻ずるを謂う。 余雖欲於鞏伯、欲受其獻。 【読み】 余鞏伯に欲すと雖も、其の獻を受けんと欲す。 其敢廢舊典以忝叔父。夫齊、甥舅之國也、而大師之後也。齊世與周昏。故曰甥舅。 【読み】 其れ敢えて舊典を廢して以て叔父を忝めんや。夫れ齊は、甥舅の國にして、大師の後なり。齊世々周と昏す。故に甥舅と曰う。 寧不亦淫從其欲、以怒叔父。抑豈不可諫誨。 【読み】 寧ろ亦其の欲を淫從にして、以て叔父を怒らすならざらんや。抑々豈諫誨す可からざらんや、と。 士莊伯不能對。莊伯、鞏朔。○從、子用反。 【読み】 士莊伯對うること能わず。莊伯は、鞏朔。○從は、子用反。 王使委於三吏、委、屬也。三吏、三公也。三公者、天子之吏也。 【読み】 王三吏に委ねしめて、委は、屬すなり。三吏は、三公なり。三公は、天子の吏なり。 禮之如侯伯克敵、使大夫告慶之禮、降於卿禮一等。王以鞏伯宴、而私賄之。使相告之曰、非禮也。勿籍。相、相禮者。籍、書也。王畏晉。故私宴賄以慰鞏朔。○相、息亮反。 【読み】 之を禮すること侯伯の敵に克ちて、大夫をして慶を告げしむるの禮の如くにして、卿の禮より降すこと一等。王鞏伯と宴して、私に之を賄う。相をして之に告げしめて曰く、禮に非ざるなり。籍すること勿かれ、と。相は、禮を相る者。籍は、書なり。王晉を畏る。故に私に宴賄して以て鞏朔を慰む。○相は、息亮反。 〔經〕三年、春、王正月、公會晉侯・宋公・衛侯・曹伯伐鄭。宋・衛未葬。而稱爵以接鄰國、非禮也。 【読み】 〔經〕三年、春、王の正月、公晉侯・宋公・衛侯・曹伯に會して鄭を伐つ。宋・衛未だ葬らず。而るを爵を稱して以て鄰國に接わるは、禮に非ざるなり。 辛亥、葬衛穆公。無傳。 【読み】 辛亥[かのと・い]、衛の穆公を葬る。傳無し。 二月、公至自伐鄭。無傳。 【読み】 二月、公鄭を伐ちてより至る。傳無し。 甲子、新宮災。三日哭。無傳。三年喪畢、宣公神主新入廟。故謂之新宮。書三日哭、善得禮。宗廟、親之神靈所憑居、而遇災。故哀而哭之。 【読み】 甲子[きのえ・ね]、新宮災あり。三日哭す。傳無し。三年の喪畢わりて、宣公の神主新たに廟に入る。故に之を新宮と謂う。三日哭すを書すは、禮を得るを善してなり。宗廟は、親の神靈の憑居する所にして、災に遇う。故に哀しみて之を哭す。 乙亥、葬宋文公。無傳。七月而葬、緩。 【読み】 乙亥[きのと・い]、宋の文公を葬る。傳無し。七月にして葬るは、緩[おそ]きなり。 夏、公如晉。鄭公子去疾帥師伐許。公至自晉。無傳。 【読み】 夏、公晉に如く。鄭の公子去疾師を帥いて許を伐つ。公晉より至る。傳無し。 秋、叔孫僑如帥師圍棘。棘、汶陽田之邑。在濟北蛇丘縣。○蛇、以支反。一如字。 【読み】 秋、叔孫僑如師を帥いて棘を圍む。棘は、汶陽の田の邑。濟北蛇丘縣に在り。○蛇は、以支反。一字の如し。 大雩。無傳。以過時書。 【読み】 大いに雩[う]す。傳無し。以て時を過ぐるを書す。 晉郤克・衛孫良夫伐廧咎如。赤狄別種。○廧、在良反。咎、古刀反。種、章勇反。 【読み】 晉の郤克・衛の孫良夫廧咎如[しょうこうじょ]を伐つ。赤狄の別種。○廧は、在良反。咎は、古刀反。種は、章勇反。 冬、十有一月、晉侯使荀庚來聘。衛侯使孫良夫來聘。丙午、及荀庚盟。丁未、及孫良夫盟。先晉後衛、尊霸主。 【読み】 冬、十有一月、晉侯荀庚をして來聘せしむ。衛侯孫良夫をして來聘せしむ。丙午[ひのえ・うま]、荀庚と盟う。丁未[ひのと・ひつじ]、孫良夫と盟う。晉を先にして衛を後にするは、霸主を尊ぶなり。 鄭伐許。無傳。不書將帥、告辭略。 【読み】 鄭許を伐つ。傳無し。將帥を書さざるは、告辭略すればなり。 〔傳〕三年、春、諸侯伐鄭、次于伯牛、討邲之役也。伯牛、鄭地。邲役、在宣十二年。 【読み】 〔傳〕三年、春、諸侯鄭を伐ち、伯牛に次[やど]るは、邲の役を討ずるなり。伯牛は、鄭の地。邲の役は、宣十二年に在り。 遂東侵鄭。晉潛軍深入。 【読み】 遂に東して鄭を侵す。晉軍を潛めて深く入る。 鄭公子偃帥師禦之。偃、穆公子。 【読み】 鄭の公子偃師を帥いて之を禦ぐ。偃は、穆公の子。 使東鄙覆諸鄤、覆、伏兵也。○覆、扶又反。鄤、亡袁反。又武旦反。 【読み】 東鄙をして諸を鄤[ばん]に覆せしめ、覆は、伏兵なり。○覆は、扶又反。鄤は、亡袁反。又武旦反。 敗諸丘輿。鄤・丘輿、皆鄭地。晉偏軍爲鄭所敗。故不書。 【読み】 諸を丘輿に敗る。鄤・丘輿は、皆の鄭の地。晉の偏軍鄭の爲に敗らる。故に書さず。 皇戌如楚獻捷。 【読み】 皇戌楚に如きて捷を獻ず。 夏、公如晉、拜汶陽之田。前年、晉使齊歸魯汶陽田故。 【読み】 夏、公晉に如くは、汶陽の田を拜するなり。前年、晉齊をして魯に汶陽の田を歸さしむる故なり。 許恃楚而不事鄭。鄭子良伐許。 【読み】 許楚を恃みて鄭に事えず。鄭の子良許を伐つ。 晉人歸楚公子穀臣與連尹襄老之尸于楚、以求知罃。邲之戰楚獲知罃。 【読み】 晉人楚の公子穀臣と連尹襄老の尸とを楚に歸して、以て知罃[ちおう]求む。邲の戰に楚知罃を獲たり。 於是荀首佐中軍矣。荀首、知罃父。 【読み】 是に於て荀首中軍に佐たり。荀首は、知罃の父。 故楚人許之。 【読み】 故に楚人之を許す。 王送知罃曰、子其怨我乎。對曰、二國治戎、臣不才、不勝其任、以爲俘馘、執事不以釁鼓、以血塗鼓爲釁鼓。○勝、音升。 【読み】 王知罃を送りて曰く、子其れ我を怨むるか、と。對えて曰く、二國戎を治め、臣不才、其の任に勝えずして、以て俘馘[ふかく]と爲りしを、執事以て鼓に釁[ちぬ]らずして、血を以て鼓に塗るを釁鼓[きんこ]と爲す。○勝は、音升。 使歸卽戮、君之惠也。臣實不才。又誰敢怨。王曰、然則德我乎。對曰、二國圖其社稷、而求紓其民、紓、緩也。 【読み】 歸りて戮に卽かしむるは、君の惠みなり。臣實に不才なり。又誰をか敢えて怨みん、と。王曰く、然らば則ち我を德とせんか、と。對えて曰く、二國其の社稷を圖りて、其の民を紓[ゆる]べんことを求め、紓は、緩むなり。 各懲其忿以相宥也、宥、赦也。 【読み】 各々其の忿りを懲らして以て相宥し、宥は、赦すなり。 兩釋纍囚以成其好。纍、繫也。 【読み】 兩つながら纍囚を釋きて以て其の好を成す。纍は、繫ぐなり。 二國有好、臣不與及。其誰敢德。言二國本不爲己。 【読み】 二國好有り、臣與り及ばず。其れ誰をか敢えて德とせん、と。二國本己が爲にせざるを言う。 王曰、子歸、何以報我。對曰、臣不任受怨、君亦不任受德、無怨無德。不知所報。王曰、雖然、必告不穀。對曰、以君之靈、纍臣得歸骨於晉、寡君之以爲戮、死且不朽。戮其不勝任。○任、音壬。下同。 【読み】 王曰く、子歸らば、何を以て我に報いん、と。對えて曰く、臣怨みを受くるに任ぜず、君も亦德を受くるに任ぜず、怨み無く德無し。報いん所を知らず、と。王曰く、然りと雖も、必ず不穀に告げよ、と。對えて曰く、君の靈を以て、纍臣骨を晉に歸すことを得、寡君の以て戮することを爲さば、死するも且に朽ちざらんとす、と。其の任に勝えざるを戮す。○任は、音壬。下も同じ。 若從君之惠而免之、以賜君之外臣首、稱於異國君曰外臣。 【読み】 若し君の惠みに從いて之を免して、以て君の外臣首に賜い、異國の君に稱して外臣と曰う。 首其請於寡君、而以戮於宗、亦死且不朽。若不獲命、君不許戮。 【読み】 首其れ寡君に請いて、以て宗に戮せしも、亦死すとも且に朽ちざらんとす。若し命を獲ずして、君戮を許さず。 而使嗣宗職、嗣其祖宗之位職。 【読み】 宗職を嗣がしめ、其の祖宗の位職を嗣ぐ。 次及於事、而帥偏師以脩封疆、雖遇執事、遇楚將帥。 【読み】 次で事に及びて、偏師を帥いて以て封疆を脩めば、執事に遇うと雖も、楚の將帥に遇う。 其弗敢違、違、辟也。 【読み】 其れ敢えて違けずして、違は、辟くなり。 其竭力致死、無有二心、以盡臣禮。所以報也。王曰、晉未可與爭。重爲之禮而歸之。 【読み】 其れ力を竭くし死を致して、二心有ること無くして、以て臣の禮を盡くさん。報ゆる所以なり、と。王曰く、晉は未だ與に爭う可からず、と。重く之が禮を爲して之を歸す。 秋、叔孫僑如圍棘。 【読み】 秋、叔孫僑如棘を圍む。 取汶陽之田、棘不服。故圍之。僑如、叔孫得臣子。 【読み】 汶陽の田を取るとき、棘服せざりき。故に之を圍むなり。僑如は、叔孫得臣の子。 晉郤克・衛孫良夫伐廧咎如、討赤狄之餘焉。宣十五年、晉滅赤狄潞氏。其餘民散入廧咎如。故討之。 【読み】 晉の郤克・衛の孫良夫廧咎如を伐つは、赤狄の餘を討ずるなり。宣十五年、晉赤狄潞氏を滅ぼす。其の餘民廧咎如に散入す。故に之を討ず。 廧咎如潰、上失民也。此傳釋經之文、而經無廧咎如潰。蓋經闕此四字。 【読み】 廧咎如潰ゆとは、上民を失うなり。此の傳經の文を釋して、經に廧咎如潰ゆと無し。蓋し經に此の四字を闕くならん。 冬、十一月、晉侯使荀庚來聘、且尋盟。尋元年赤棘盟。荀庚、林父之子。 【読み】 冬、十一月、晉侯荀庚をして來聘し、且つ盟を尋[かさ]ねしむ。元年赤棘の盟を尋ぬるなり。荀庚は、林父の子。 衛侯使孫良夫來聘、且尋盟。尋宣七年盟。 【読み】 衛侯孫良夫をして來聘し、且つ盟を尋ねしむ。宣七年の盟を尋ぬるなり。 公問諸臧宣叔曰、中行伯之於晉也、其位在三。下卿。 【読み】 公諸を臧宣叔に問いて曰く、中行伯の晉に於るや、其の位三に在り。下卿。 孫子之於衛也、位爲上卿。將誰先。對曰、次國之上卿、當大國之中。中當其下。下當其上大夫。降一等。 【読み】 孫子の衛に於るや、位上卿爲り。將に誰をか先にせんとする、と。對えて曰く、次國の上卿は、大國の中に當たる。中は其の下に當たる。下は其の上大夫に當たる。一等を降す。 小國之上卿、當大國之下卿。中當其上大夫。下當其下大夫。降大國二等。 【読み】 小國の上卿は、大國の下卿に當たる。中は其の上大夫に當たる。下は其の下大夫に當たる。大國に降ること二等。 上下如是、古之制也。古制、公爲大國、侯伯爲次國、子男爲小國。 【読み】 上下是の如きは、古の制なり。古の制は、公を大國と爲し、侯伯を次國と爲し、子男を小國と爲す。 衛在晉、不得爲次國。春秋時、以强弱爲大小。故衛雖侯爵、猶爲小國。 【読み】 衛の晉に在るは、次國爲ることを得ず。春秋の時は、强弱を以て大小を爲す。故に衛は侯爵と雖も、猶小國と爲す。 晉爲盟主。其將先之。計等則二人位敵。以盟主故先晉。 【読み】 晉は盟主爲り。其れ將[はた]之を先にせん、と。等を計れば則ち二人位敵す。盟主を以ての故に晉を先にす。 丙午、盟晉、丁未、盟衛。禮也。 【読み】 丙午、晉に盟い、丁未、衛に盟う。禮なり。 十二月、甲戌、晉作六軍。爲六軍、僭王也。萬二千五百人爲軍。 【読み】 十二月、甲戌[きのえ・いぬ]、晉六軍を作る。六軍を爲るは、王に僭するなり。萬二千五百人を軍と爲す。 韓厥・趙括・鞏朔・韓穿・荀騅・趙旃、皆爲卿。賞鞌之功也。韓厥爲新中軍。趙括佐之。鞏朔爲新上軍。韓穿佐之。荀騅爲新下軍。趙旃佐之。晉舊自有三軍、今增此。故爲六軍。○騅、音隹。 【読み】 韓厥・趙括・鞏朔・韓穿・荀騅・趙旃、皆卿と爲す。鞌の功を賞するなり。韓厥新中軍と爲る。趙括之に佐たり。鞏朔新上軍と爲る。韓穿之に佐たり。荀騅新下軍と爲る。趙旃之に佐たり。晉舊自ら三軍有り、今此を增す。故に六軍とす。○騅は、音隹。 齊侯朝于晉。將授玉。行朝禮。 【読み】 齊侯晉に朝す。將に玉を授けんとす。朝禮を行う。 郤克趨進曰、此行也、君爲婦人之笑辱也。寡君未之敢任。言齊侯之來、以謝婦人之笑。非爲脩好。故云晉君不任當此惠。○任、音壬。 【読み】 郤克趨り進みて曰く、此の行や、君婦人の笑いの爲に辱くするなり。寡君未だ之に敢えて任[た]えず、と。言うこころは、齊侯の來るは、以て婦人の笑いを謝するなり。好を脩むる爲に非ず。故に晉君此の惠みに任當せずと云う。○任は、音壬。 晉侯享齊侯。齊侯視韓厥。韓厥曰、君知厥也乎。齊侯曰、服改矣。戎朝、異服也。言服改、明識其人。 【読み】 晉侯齊侯を享す。齊侯韓厥を視る。韓厥曰く、君厥を知れりや、と。齊侯曰く、服改まれり、と。戎朝は、服を異にす。服改まると言うは、其の人を識るを明かす。 韓厥登、舉爵曰、臣之不敢愛死、爲兩君之在此堂也。 【読み】 韓厥登り、爵を舉げて曰く、臣の敢えて死を愛まざりしは、兩君の此の堂に在らんが爲なり、と。 荀罃之在楚也、鄭賈人有將寘諸褚中以出。旣謀之、未行、而楚人歸之。賈人如晉。荀罃善視之、如實出己。賈人曰、吾無其功、敢有其實乎。吾小人。不可以厚誣君子。遂適齊。傳言知罃之賢。○賈、音古。褚、中呂反。 【読み】 荀罃の楚に在りしや、鄭の賈人將に諸を褚中に寘きて以て出ださんとする有り。旣に之を謀り、未だ行わずして、楚人之を歸す。賈人晉に如く。荀罃善く之を視る、實に己を出だせるが如し。賈人曰く、吾れ其の功無くして、敢えて其の實を有たんや。吾は小人なり。以て厚く君子を誣う可からず、と。遂に齊に適く。傳知罃の賢を言う。○賈は、音古。褚は、中呂反。 〔經〕四年、春、宋公使華元來聘。三月、壬申、鄭伯堅卒。無傳。二年、大夫盟于蜀。壬申、二月二十八日。 【読み】 〔經〕四年、春、宋公華元をして來聘せしむ。三月、壬申[みずのえ・さる]、鄭伯堅卒す。傳無し。二年、大夫蜀に盟う。壬申は、二月二十八日。 杞伯來朝。夏、四月、甲寅、臧孫許卒。無傳。 【読み】 杞伯來朝す。夏、四月、甲寅[きのえ・とら]、臧孫許卒す。傳無し。 公如晉。葬鄭襄公。無傳。 【読み】 公晉に如く。鄭の襄公を葬る。傳無し。 秋、公至自晉。冬、城鄆。無傳。公欲叛晉。故城而爲備。○鄆、音運。 【読み】 秋、公晉より至る。冬、鄆[うん]に城く。傳無し。公晉に叛かんと欲す。故に城きて備えを爲す。○鄆は、音運。 鄭伯伐許。 【読み】 鄭伯許を伐つ。 〔傳〕四年、春、宋華元來聘、通嗣君也。宋共公卽位。 【読み】 〔傳〕四年、春、宋の華元來聘するは、嗣君を通ずるなり。宋の共公位に卽く。 杞伯來朝、歸叔姬故也。將出叔姬、先脩禮朝魯、言其故。 【読み】 杞伯來朝するは、叔姬を歸す故なり。將に叔姬を出ださんとして、先ず禮を脩め魯に朝し、其の故を言う。 夏、公如晉。晉侯見公。不敬。季文子曰、晉侯必不免。言將不能壽終也。後十年、陷厠而死。 【読み】 夏、公晉に如く。晉侯公を見る。不敬なり。季文子曰く、晉侯必ず免れじ。言うこころは、將に壽終すること能わざらん。後十年、厠に陷りて死す。 詩曰、敬之敬之。天惟顯思。命不易哉。詩、頌。言天道顯明。受其命甚難。不可不敬以奉之。○易、以豉反。 【読み】 詩に曰く、之を敬せよ之を敬せよ。天惟れ顯らかなり。命易からざるかな、と。詩は、頌。天道顯明なり。其の命を受くること甚だ難し。敬して以て之を奉ぜずんばある可からざるを言う。○易は、以豉反。 夫晉侯之命、在諸侯矣。可不敬乎。敬諸侯、則得天命。 【読み】 夫れ晉侯の命は、諸侯に在り。敬せざる可けんや、と。諸侯を敬すれば、則ち天命を得。 秋、公至自晉。欲求成于楚而叛晉。季文子曰、不可。晉雖無道、未可叛也。國大臣睦、而邇於我。邇、近也。 【読み】 秋、公晉より至る。成[たい]らぎを楚に求めて晉に叛かんと欲す。季文子曰く、不可なり。晉無道なりと雖も、未だ叛く可からざるなり。國大に臣睦まじくして、我に邇し。邇は、近きなり。 諸侯聽焉。未可以貳。聽、服也。 【読み】 諸侯聽く。未だ以て貳す可からず。聽は、服すなり。 史佚之志有之、周文王大史。 【読み】 史佚の志に之れ有り、周の文王の大史。 曰、非我族類、其心必異。楚雖大、非吾族也。與魯異姓。 【読み】 曰く、我が族類に非ざれば、其の心必ず異なり、と。楚大なりと雖も、吾が族に非ず。魯と姓を異にす。 其肯字我乎。公乃止。字、愛也。 【読み】 其れ肯えて我を字[いつく]しまんや、と。公乃ち止む。字は、愛しむなり。 冬、十一月、鄭公孫申帥師疆許田。前年、鄭伐許、侵其田。今正其界。 【読み】 冬、十一月、鄭の公孫申師を帥いて許の田を疆[さか]う。前年、鄭許を伐ちて、其の田を侵す。今其の界を正す。 許人敗諸展陂。鄭伯伐許、取鉏任・泠敦之田。展陂、亦許地。○任、音壬。泠、力丁反。 【読み】 許人諸を展陂に敗る。鄭伯許を伐ち、鉏任[しょじん]・泠敦[れいとん]の田を取る。展陂も、亦許の地。○任は、音壬。泠は、力丁反。 晉欒書將中軍、代郤克。 【読み】 晉の欒書中軍に將となり、郤克に代わる。 荀首佐之、士燮佐上軍、以救許、伐鄭、取氾・祭。氾・祭、鄭地。成皐縣東有汜水。○氾、音凡、或音祀。祭、側介反。 【読み】 荀首之に佐となり、士燮[ししょう]上軍に佐となりて、以て許を救い、鄭を伐ち、氾[し]・祭を取る。氾・祭は、鄭の地。成皐縣の東に汜水有り。○氾は、音凡、或は音祀。祭は、側介反。 *「氾」は「音凡」であれば「氾」だが、「音祀」であれば「汜」の誤り。頭注に「鄭有東西氾、而此非彼二氾。蓋成皐縣東汜水。晉取之知之。」とある。 楚子反救鄭。鄭伯與許男訟焉。於子反前爭曲直。 【読み】 楚の子反鄭を救う。鄭伯と許男と訟う。子反の前に於て曲直を爭う。 皇戌攝鄭伯之辭。代之對。 【読み】 皇戌鄭伯の辭を攝す。之に代わりて對う。 子反不能決也。曰、君若辱在寡君、寡君與其二三臣、共聽兩君之所欲、成其可知也。欲使自屈於楚子前決之。 【読み】 子反決すること能わず。曰く、君若し辱く寡君に在りて、寡君と其の二三臣と、共に兩君の欲する所を聽かば、成らぎ其れ知る可し。自ら楚子の前に屈せしめて之を決せんと欲す。 不然、側不足以知二國之成。側、子反名。爲明年、許愬鄭於楚張本。 【読み】 然らずんば、側以て二國の成らぎを知るに足らず、と。側は、子反の名。明年、許鄭を楚に愬[うった]うる爲の張本なり。 晉趙嬰通于趙莊姬。趙嬰、趙盾弟。莊姬、趙朔妻。朔、盾之子。 【読み】 晉の趙嬰趙莊姬に通ず。趙嬰は、趙盾の弟。莊姬は、趙朔の妻。朔は、盾の子。 〔經〕五年、春、王正月、杞叔姬來歸。出也。傳在前年。 【読み】 〔經〕五年、春、王の正月、杞の叔姬來歸す。出ださるなり。傳前年に在り。 仲孫蔑如宋。夏、叔孫僑如會晉荀首于穀。穀、齊地。 【読み】 仲孫蔑宋に如く。夏、叔孫僑如晉の荀首に穀に會す。穀は、齊の地。 梁山崩。記異也。梁山、在馮翊夏陽縣北。 【読み】 梁山崩る。異を記すなり。梁山は、馮翊夏陽縣の北に在り。 秋、大水。無傳。 【読み】 秋、大水あり。傳無し。 冬、十有一月、己酉、天王崩。十有二月、己丑、公會晉侯・齊侯・宋公・衛侯・鄭伯・曹伯・邾子・杞伯、同盟于蟲牢。蟲牢、鄭地。陳留封丘縣北有桐牢。 【読み】 冬、十有一月、己酉[つちのと・とり]、天王崩ず。十有二月、己丑[つちのと・うし]、公晉侯・齊侯・宋公・衛侯・鄭伯・曹伯・邾子[ちゅし]・杞伯に會して、蟲牢に同盟す。蟲牢は、鄭の地。陳留封丘縣の北に桐牢有り。 〔傳〕五年、春、原・屛放諸齊。放趙嬰也。原同・屛季、嬰之兄。○屛、步丁反。 【読み】 〔傳〕五年、春、原・屛諸を齊に放つ。趙嬰を放つなり。原同・屛季は、嬰の兄。○屛は、步丁反。 嬰曰、我在。故欒氏不作。我亡、吾二昆其憂哉。且人各有能有不能。言己雖淫、而能令莊姬護趙氏。 【読み】 嬰曰く、我れ在り。故に欒氏作らず。我れ亡びば、吾が二昆其れ憂えんかな。且つ人各々能有り不能有り。言うこころは、己淫なりと雖も、而れども能く莊姬をして趙氏を護らせしむ。 舍我何害。弗聽。 【読み】 我を舍[お]くも何の害あらん、と。聽かず。 嬰夢天使謂己。祭余。余福女。使問諸士貞伯。貞伯曰、不識也。旣而告其人、自告貞伯從人。○舍、音捨。又音赦。聽、吐丁反。女、音汝。從、才用反。 【読み】 嬰夢みらく、天己に謂わしむ。余を祭れ。余女に福せん、と。諸を士貞伯に問わしむ。貞伯曰く、識らず、と。旣にして其の人に告げて、自ら貞伯の從人に告ぐ。○舍は、音捨。又音赦。聽は、吐丁反。女は、音汝。從は、才用反。 曰、神福仁而禍淫。淫而無罰、福也。祭其得亡乎。以得放遣爲福。 【読み】 曰く、神は仁に福して淫に禍す。淫にして罰無きは、福なり。祭らば其れ亡[に]ぐることを得んか、と。放遣を得るを以て福と爲す。 祭之之明日而亡。爲八年、晉殺趙同・趙括傳。 【読み】 之を祭るの明日にして亡げたり。八年、晉趙同・趙括を殺す爲の傳なり。 孟獻子如宋、報華元也。前年、宋華元來聘。 【読み】 孟獻子宋に如くは、華元に報ゆるなり。前年、宋の華元來聘す。 夏、晉荀首如齊逆女。故宣伯餫諸穀。野饋曰餫。運糧饋之、敬大國也。○餫、音鄆。 【読み】 夏、晉の荀首齊に如きて女を逆[むか]う。故に宣伯諸に穀に餫[おく]る。野饋を餫[うん]と曰う。糧を運びて之を饋[おく]るは、大國を敬するなり。○餫は、音鄆[うん]。 梁山崩。晉侯以傳召伯宗。傳、驛。○傳、直戀反。 【読み】 梁山崩る。晉侯傳を以て伯宗を召す。傳は、驛。○傳は、直戀反。 伯宗辟重曰、辟傳。重載之車。○辟、匹亦反。又甫赤反。曰辟、音避。 【読み】 伯宗重を辟かしめて曰く、傳を辟けよ、と。重載の車。○辟は、匹亦反。又甫赤反。曰辟は、音避。 重人曰、待我、不如捷之速也。捷、邪也。 【読み】 重人曰く、我を待たんより、捷するの速やかなるには如かじ、と。捷は、邪[ななめ]なり。 問其所。曰、絳人也。問絳事焉。曰、梁山崩。將召伯宗謀之。問將若之何。曰、山有朽壤而崩。可若何。國主山川。主謂所主祭。 【読み】 其の所を問う。曰く、絳人なり。絳の事を問う。曰く、梁山崩る。將に伯宗を召して之を謀らんとす、と。問う、將に之を若何にせんとする、と。曰く、山に朽壤有りて崩る。若何にす可けん。國は山川を主る。主は主り祭る所を謂う。 故山崩川竭、君爲之不舉、去盛饌。○爲、于僞反。饌、志戀反。 【読み】 故に山崩れ川竭くれば、君之が爲に舉せず、盛饌を去る。○爲は、于僞反。饌は、志戀反。 降服、損盛服。 【読み】 服を降し、盛服を損す。 乘縵、車無文。○縵、武旦反。 【読み】 縵に乘り、車文無し。○縵は、武旦反。 徹樂、息八音。 【読み】 樂を徹し、八音を息む。 出次、舍於郊。 【読み】 出でて次[やど]り、郊に舍る。 祝幣、陳玉帛。 【読み】 祝幣し、玉帛を陳ぬ。 史辭、自罪責。 【読み】 史辭し、自ら罪責す。 以禮焉。禮山川。 【読み】 以て禮す。山川を禮す。 其如此而已。雖伯宗若之何。伯宗請見之。見之於晉君。○見、賢遍反。 【読み】 其れ此の如きのみ。伯宗と雖も之を若何にせん、と。伯宗之を見えんと請う。之を晉君に見えしむ。○見は、賢遍反。 不可。不肯見。 【読み】 可[き]かず。見ゆることを肯わず。 遂以告而從之。從重人言。 【読み】 遂に以て告げて之に從う。重人の言に從う。 許靈公愬鄭伯于楚。前此年、鄭伐許故。 【読み】 許の靈公鄭伯を楚に愬[うった]う。此より前の年、鄭許を伐つ故なり。 六月、鄭悼公如楚訟。不勝。楚人執皇戌及子國。以鄭伯不直故也。子國、鄭穆公子。 【読み】 六月、鄭の悼公楚に如きて訟う。勝たず。楚人皇戌と子國とを執う。鄭伯の不直を以ての故なり。子國は、鄭の穆公の子。 故鄭伯歸、使公子偃請成于晉。秋、八月、鄭伯及晉趙同盟于垂棘。垂棘、晉地。 【読み】 故に鄭伯歸りて、公子偃をして成らぎを晉に請わしむ。秋、八月、鄭伯晉の趙同と垂棘に盟う。垂棘は、晉の地。 宋公子圍龜爲質于楚而歸。圍龜、文公子。○質、音致。 【読み】 宋の公子圍龜楚に質と爲りて歸る。圍龜は、文公の子。○質は、音致。 華元享之。請鼓譟以出、鼓譟以復入。出入輒擊鼓。○復、扶又反。 【読み】 華元之を享す。鼓譟して以て出で、鼓譟して以て復入らんと請う。出入に輒ち鼓を擊つ。○復は、扶又反。 曰、習攻華氏。宋公殺之。蓋宣十五年、宋・楚平後、華元使圍龜代己爲質。故怨而欲攻華氏。 【読み】 曰く、華氏を攻むるを習わん、と。宋公之を殺す。蓋し宣十五年、宋・楚平らぐの後、華元圍龜をして己に代わりて質爲らしむ。故に怨みて華氏を攻めんと欲す。 冬、同盟于蟲牢、鄭服也。 【読み】 冬、蟲牢に同盟するは、鄭服すればなり。 諸侯謀復會。宋公使向爲人辭以子靈之難。子靈、圍龜也。宋公不欲會。以新誅子靈爲辭。爲明年、侵宋傳。○向、舒亮反。 【読み】 諸侯復會せんことを謀る。宋公向爲人[しょういじん]をして辭するに子靈の難を以てせしむ。子靈は、圍龜なり。宋公會することを欲せず。新たに子靈を誅するを以て辭と爲す。明年、宋を侵す爲の傳なり。○向は、舒亮反。 十一月、己酉、定王崩。經在蟲牢上、傳在下、月倒錯。衆家傳、悉無此八字。或衍文。 【読み】 十一月、己酉、定王崩ず。經には蟲牢の上に在り、傳には下に在りて、月倒錯す。衆家の傳、悉く此の八字無し。或は衍文ならん。 〔經〕六年、春、王正月、公至自會。無傳。 【読み】 〔經〕六年、春、王の正月、公會より至る。傳無し。 二月、辛巳、立武宮。魯人自鞌之功至今無患。故築武軍、又作先君武公宮、以告成事、欲以示後世。 【読み】 二月、辛巳[かのと・み]、武宮を立つ。魯人鞌の功より今に至るまで患え無し。故に武軍を築き、又先君武公の宮を作りて、以て成事を告げ、以て後世に示さんと欲す。 取鄟。附庸國也。○鄟、音專。又市臠反。 【読み】 鄟[せん]を取る。附庸の國なり。○鄟は、音專。又市臠反。 衛孫良夫帥師侵宋。夏、六月、邾子來朝。無傳。 【読み】 衛の孫良夫師を帥いて宋を侵す。夏、六月、邾子[ちゅし]來朝す。傳無し。 公孫嬰齊如晉。嬰齊、叔肸子。 【読み】 公孫嬰齊晉に如く。嬰齊は、叔肸[しゅくきつ]の子。 壬申、鄭伯費卒。前年、同盟蟲牢。○費、音祕。 【読み】 壬申[みずのえ・さる]、鄭伯費卒す。前年、蟲牢に同盟す。○費は、音祕。 秋、仲孫蔑・叔孫僑如帥師侵宋。楚公子嬰齊帥師伐鄭。冬、季孫行父如晉。晉欒書帥師救鄭。 【読み】 秋、仲孫蔑・叔孫僑如師を帥いて宋を侵す。楚の公子嬰齊師を帥いて鄭を伐つ。冬、季孫行父晉に如く。晉の欒書師を帥いて鄭を救う。 〔傳〕六年、春、鄭伯如晉拜成。謝前年再盟。 【読み】 〔傳〕六年、春、鄭伯晉に如きて成[たい]らぎを拜す。前年に再び盟うを謝す。 子游相。子游、公子偃。 【読み】 子游相[たす]く。子游は、公子偃。 授玉于東楹之東。禮、授玉兩楹之閒。鄭伯行疾。故東過。 【読み】 玉を東楹[えい]の東に授く。禮に、玉を兩楹の閒に授く、と。鄭伯行くこと疾し。故に東に過ぐ。 士貞伯曰、鄭伯其死乎。自棄也已。視流而行速。不安其位。宜不能久。視流、不端諦。 【読み】 士貞伯曰く、鄭伯其れ死せんか。自ら棄つるのみ。視ること流れて行くこと速やかなり。其の位に安んぜず。宜しく久しきこと能わざるべし、と。視ること流るとは、端諦せざるなり。 二月、季文子以鞌之功立武宮。非禮也。宣十二年、潘黨勸楚子立武軍。楚子答以武有七德、非己所堪、其爲先君宮、告成事而已。今魯倚晉之功、又非霸主而立武宮。故譏之。 【読み】 二月、季文子鞌の功を以て武宮を立つ。禮に非ざるなり。宣十二年、潘黨楚子に武軍を立てんことを勸む。楚子答うるに武に七德有り、己が堪うる所に非ず、其れ先君の宮を爲り、成事を告げんのみを以てす。今魯は晉の功に倚り、又霸主に非ずして武宮を立つ。故に之を譏る。 聽於人以救其難、不可以立武。立武由己。非由人也。言請人救難、勝非己功。○難、乃旦反。 【読み】 人に聽きて以て其の難を救うは、以て武を立つ可からず。武を立つるは己に由る。人に由るに非ざるなり。人に請いて難を救うは、勝己が功に非ざるを言う。○難は、乃旦反。 取鄟、言易也。 【読み】 鄟を取るとは、易きを言うなり。 三月、晉伯宗・夏陽說・衛孫良夫・甯相・鄭人・伊雒之戎・陸渾蠻氏侵宋。夏陽說、晉大夫。蠻氏、戎別種也。河南新城縣東南有蠻城。經唯書衛孫良夫、獨衛告也。○說、音悅。渾、戶門反。 【読み】 三月、晉の伯宗・夏陽說・衛の孫良夫・甯相・鄭人・伊雒の戎・陸渾の蠻氏宋を侵す。夏陽說は、晉の大夫。蠻氏は、戎の別種なり。河南新城縣の東南に蠻城有り。經に唯衛の孫良夫のみを書すは、獨り衛のみ告ぐればなり。○說は、音悅。渾は、戶門反。 以其辭會也。辭會、在前年。 【読み】 其の會を辭するを以てなり。會を辭するは、前年に在り。 師于鍼。衛人不保。不守備。○鍼、其廉反。一音針。 【読み】 鍼[けん]に師す。衛人保せず。守備せず。○鍼は、其廉反。一に音針。 說欲襲衛。曰、雖不可入、多俘而歸。有罪不及死。伯宗曰、不可。衛唯信晉。故師在其郊而不設備。若襲之、是棄信也。雖多衛俘、而晉無信、何以求諸侯。乃止。師還。衛人登陴。聞說謀故。○陴、音皮。 【読み】 說衛を襲わんと欲す。曰く、入る可からずと雖も、俘多くして歸らん。罪有るも死に及ばじ、と。伯宗曰く、不可なり。衛は唯晉を信ず。故に師其の郊に在りて備えを設けず。若し之を襲わば、是れ信を棄つるなり。衛の俘多しと雖も、晉に信無くば、何を以て諸侯を求めん、と。乃ち止む。師還る。衛人陴に登りぬ。說の謀を聞く故なり。○陴は、音皮。 晉人謀去故絳。晉復命新田爲絳。故謂此故絳。 【読み】 晉人故絳を去らんことを謀る。晉復新田を命[な]づけて絳とす。故に此を故絳と謂う。 諸大夫皆曰、必居郇瑕氏之地。郇瑕、古國名。河東解縣西北有郇城。○郇、音荀。解、音蟹。 【読み】 諸大夫皆曰く、必ず郇瑕氏[じゅんかし]の地に居れ。郇瑕は、古の國の名。河東解縣の西北に郇城有り。○郇は、音荀。解は、音蟹。 沃饒而近盬。盬、鹽也。猗氏縣鹽池是也。○盬、音古。猗、於宜反。 【読み】 沃饒にして盬[こ]に近し。盬は、鹽なり。猗氏縣の鹽池是れなり。○盬は、音古。猗は、於宜反。 國利君樂。不可失也。韓獻子將新中軍、且爲僕大夫。兼大僕。○樂、音洛。 【読み】 國利あり、君樂しむ。失う可からざるなり、と。韓獻子新中軍に將として、且僕大夫爲り。大僕を兼ぬ。○樂は、音洛。 公揖而入。獻子從公立於寢庭。路寢之庭。 【読み】 公揖[ゆう]して入る。獻子公に從いて寢庭に立つ。路寢の庭。 謂獻子曰、何如。問諸大夫言是非。 【読み】 獻子に謂いて曰く、何如、と。諸大夫の言の是非を問う。 對曰、不可。郇瑕氏、土薄水淺。土薄、地下。 【読み】 對えて曰く、不可なり。郇瑕氏は、土薄くして水淺し。土薄しとは、地下きなり。 其惡易覯。惡、疾疢。覯、成也。○易、以豉反。覯、古豆反。疢、勑覲反。 【読み】 其の惡覯[な]り易し。惡は、疾疢[しっちん]。覯[こう]は、成るなり。○易は、以豉反。覯は、古豆反。疢は、勑覲反。 易覯則民愁。民愁則墊隘。墊隘、羸困也。○墊、丁念反。隘、於賣反。羸、劣僞反。 【読み】 覯り易きときは則ち民愁う。民愁うるときは則ち墊隘[てんあい]す。墊隘は、羸困[るいこん]なり。○墊は、丁念反。隘は、於賣反。羸は、劣僞反。 於是乎有沈溺重膇之疾。沈溺、濕疾。重膇、足腫。○膇、治僞反。 【読み】 是に於て沈溺重膇[ちょうつい]の疾有り。沈溺は、濕疾。重膇は、足腫。○膇は、治僞反。 不如新田。今平陽絳邑縣是。 【読み】 新田に如かず。今の平陽絳邑縣是れなり。 土厚水深、居之不疾。高燥故。 【読み】 土厚く水深くして、之に居て疾まず。高燥の故なり。 有汾・澮以流其惡、汾水、出大原經絳北、西南入河。澮水、出平陽絳縣南、西入汾。惡、垢穢。○汾、扶云反。澮、古外反。 【読み】 汾・澮有りて以て其の惡を流し、汾水は、大原に出でて絳の北を經、西南して河に入る。澮水は、平陽絳縣の南に出でて、西して汾に入る。惡は、垢穢。○汾は、扶云反。澮は、古外反。 且民從敎。無災患。 【読み】 且民敎えに從う。災患無し。 十世之利也。夫山澤林盬、國之寶也。國饒、則民驕佚。財易致則民驕侈。 【読み】 十世の利なり。夫れ山澤林盬は、國の寶なり。國饒[ゆた]かなれば、則ち民驕佚す。財致に易きときは則ち民驕侈す。 近寶、公室乃貧。不可謂樂。近寶則民務本。 【読み】 寶に近づけば、公室乃ち貧し。樂しと謂う可からず、と。寶に近づくときは則ち民本を務めず。 公說、從之。 【読み】 公說び、之に從う。 夏、四月、丁丑、晉遷于新田。爲季孫如晉傳。 【読み】 夏、四月、丁丑[ひのと・うし]、晉新田に遷る。季孫晉に如く爲の傳なり。 六月、鄭悼公卒。終士貞伯言。 【読み】 六月、鄭の悼公卒す。士貞伯の言を終える。 子叔聲伯如晉。命伐宋。晉人命聲伯。 【読み】 子叔聲伯晉に如く。命じて宋を伐たしむ。晉人聲伯に命ず。 秋、孟獻子・叔孫宣伯侵宋、晉命也。 【読み】 秋、孟獻子・叔孫宣伯宋を侵すは、晉の命なり。 楚子重伐鄭、鄭從晉故也。前年、從晉盟。 【読み】 楚の子重鄭を伐つは、鄭晉に從う故なり。前年、晉に從うを盟う。 冬、季文子如晉、賀遷也。 【読み】 冬、季文子晉に如くは、遷るを賀するなり。 晉欒書救鄭、與楚師遇於繞角。繞角、鄭地。 【読み】 晉の欒書鄭を救い、楚の師と繞角[じょうかく]に遇う。繞角は、鄭の地。 楚師還。晉師遂侵蔡。楚公子申・公子成以申・息之師救蔡、申・息、楚二縣。 【読み】 楚の師還る。晉の師遂に蔡を侵す。楚の公子申・公子成申・息の師を以[い]て蔡を救い、申・息は、楚の二縣。 禦諸桑隧。汝南朗陵縣東有桑里、在上蔡西南。 【読み】 諸を桑隧に禦ぐ。汝南朗陵縣の東に桑里有り、上蔡の西南に在り。 趙同・趙括欲戰、請於武子。武子將許之。武子、欒書。 【読み】 趙同・趙括戰わんと欲し、武子に請う。武子將に之を許さんとす。武子は、欒書。 知莊子、荀首、中軍佐。 【読み】 知莊子、荀首は、中軍の佐。 范文子、士燮、上軍佐。 【読み】 范文子、士燮[ししょう]は、上軍の佐。 韓獻子、韓厥、新中軍將。 【読み】 韓獻子、韓厥は、新中軍の將。 諫曰、不可。吾來救鄭。楚師去我、吾遂至於此、此、蔡地。 【読み】 諫めて曰く、不可なり。吾が來るは鄭を救うなり。楚の師我を去り、吾れ遂に此に至りしは、此は、蔡の地。 是遷戮也。戮而不已、又怒楚師、戰必不克。遷戮不義。怒敵難當。故不克。 【読み】 是れ戮を遷すなり。戮して已まず、又楚の師を怒らさば、戰わば必ず克たざらん。戮を遷すは不義なり。敵を怒らすは當たり難し。故に克たず。 雖克不令。成師以出、而敗楚之二縣、何榮之有焉。六軍悉出。故曰成師。以大勝小。不足爲榮。 【読み】 克つと雖も令[よ]からず。師を成して以て出でて、楚の二縣を敗るとも、何の榮か之れ有らん。六軍悉く出づ。故に成師と曰う。大を以て小に勝つ。榮とするに足らず。 若不能敗、爲辱已甚。不如還也。乃遂還。 【読み】 若し敗ること能わざれば、辱爲ること已甚だし。還るに如かず、と。乃ち遂に還る。 於是軍師之欲戰者衆。或謂欒武子曰、聖人與衆同欲。是以濟事。子盍從衆。盍、何不也。○帥、所類反。 【読み】 是に於て軍師の戰わんと欲する者衆し。或ひと欒武子に謂いて曰く、聖人は衆と欲を同じくす。是を以て事を濟[な]す。子盍ぞ衆に從わざる。盍は、何ぞせざるなり。○帥は、所類反。 子爲大政、中軍元帥。 【読み】 子は大政を爲して、中軍の元帥。 將酌於民者也。酌取民心以爲政。 【読み】 將に民に酌まんとする者なり。民心を酌み取りて以て政を爲す。 子之佐十一人、六軍之卿佐。 【読み】 子の佐十一人、六軍の卿佐。 其不欲戰者、三人而已。知・范・韓也。 【読み】 其の戰を欲せざる者は、三人のみ。知・范・韓なり。 欲戰者可謂衆矣。商書曰、三人占、從二人、衆故也。商書、洪範。 【読み】 戰を欲する者衆しと謂う可し。商書に曰く、三人占えば、二人に從うとは、衆の故なり、と。商書は、洪範。 武子曰、善鈞從衆。鈞、等也。 【読み】 武子曰く、善鈞[ひと]しければ衆に從う。鈞は、等しきなり。 夫善、衆之主也。三卿爲主。可謂衆矣。三卿、皆晉之賢人。 【読み】 夫れ善は、衆の主なり。三卿を主と爲す。衆と謂う可し。三卿は、皆晉の賢人。 從之、不亦可乎。傳善欒書得從衆之義。且爲八年、晉侵蔡傳。 【読み】 之に從わば、亦可ならずや、と。傳欒書が衆に從うの義を得ることを善す。且八年、晉蔡を侵す爲の傳なり。 〔經〕七年、春、王正月、鼷鼠食郊牛角。改卜牛。鼷鼠又食其角。乃免牛。無傳。稱牛、未卜日。免、放也。免牛可也。不郊、非禮也。○鼷、音兮。 【読み】 〔經〕七年、春、王の正月、鼷鼠[けいそ]郊牛の角を食む。改めて牛を卜す。鼷鼠又其の角を食む。乃ち牛を免[はな]つ。傳無し。牛と稱するは、未だ日を卜せざるなり。免は、放つなり。牛を免つは可なり。郊せざるは、禮に非ざるなり。○鼷は、音兮。 吳伐郯。○郯、音談。 【読み】 吳郯[たん]を伐つ。○郯は、音談。 夏、五月、曹伯來朝。不郊。猶三望。無傳。書不郊、閒有事。三望、非禮。 【読み】 夏、五月、曹伯來朝す。郊せず。猶三望す。傳無し。郊せざるを書すは、閒に事有ればなり。三望は、禮に非ず。 秋、楚公子嬰齊帥師伐鄭。公會晉侯・齊侯・宋公・衛侯・曹伯・莒子・邾子・杞伯救鄭。八月、戊辰、同盟于馬陵。馬陵、衛地。陽平元城縣東南有地、名馬陵。 【読み】 秋、楚の公子嬰齊師を帥いて鄭を伐つ。公晉侯・齊侯・宋公・衛侯・曹伯・莒子・邾子[ちゅし]・杞伯に會して鄭を救う。八月、戊辰[つちのえ・たつ]、馬陵に同盟す。馬陵は、衛の地。陽平元城縣の東南に地有り、馬陵と名づく。 公至自會。無傳。 【読み】 公會より至る。傳無し。 吳入州來。州來、楚邑。淮南下蔡縣是也。 【読み】 吳州來に入る。州來は、楚の邑。淮南下蔡縣是れなり。 冬、大雩。無傳。書過。 【読み】 冬、大いに雩[う]す。傳無し。過ぐるを書すなり。 衛孫林父出奔晉。 【読み】 衛の孫林父出でて晉に奔る。 〔傳〕七年、春、吳伐郯。郯成。 【読み】 〔傳〕七年、春、吳郯を伐つ。郯成[たい]らぐ。 季文子曰、中國不振旅、蠻夷入伐、而莫之或恤。振、整也。旅、衆也。 【読み】 季文子曰く、中國振旅せずして、蠻夷入り伐ちて、之を恤[あわ]れむこと或ること莫し。振は、整うなり。旅は、衆なり。 無弔者也夫。言中國不能相愍恤。故夷狄内侵。 【読み】 弔[あわ]れむ者無ければなるか。言うこころは、中國相愍恤すること能わず。故に夷狄内侵す。 詩曰、不弔昊天、亂靡有定、其此之謂乎。詩、小雅。刺在上者不能弔愍下民。故號天告亂。○昊、戶老反。號、戶刀反。 【読み】 詩曰く、弔れまず昊天、亂定むること有ること靡しとは、其れ此を之れ謂うか。詩は、小雅。上に在る者下民を弔愍すること能わず。故に天を號びて亂を告ぐるを刺[そし]る。○昊は、戶老反。號は、戶刀反。 有上不弔。其誰不受亂。上謂霸主。 【読み】 上有るも弔れまれず。其れ誰か亂を受けざらん。上は霸主を謂う。 吾亡無日矣。 【読み】 吾が亡びんこと日無けん、と。 君子曰、知懼如是、斯不亡矣。 【読み】 君子曰く、懼れを知ること是の如きは、斯れ亡びじ、と。 鄭子良相成公以如晉見、且拜師。謝前年、晉救鄭之師。爲楚伐鄭張本。○相、息亮反。見、賢遍反。 【読み】 鄭の子良成公を相けて以て晉に如きて見え、且つ師に拜す。前年、晉鄭を救うの師を謝す。楚鄭を伐つ爲の張本なり。○相は、息亮反。見は、賢遍反。 夏、曹宣公來朝。 【読み】 夏、曹の宣公來朝す。 秋、楚子重伐鄭、師于氾。氾、鄭地。在襄城縣南。○氾、音凡。 【読み】 秋、楚の子重鄭を伐ち、氾に師す。氾は、鄭の地。襄城縣の南に在り。○氾は、音凡。 諸侯救鄭。鄭共仲・侯羽軍楚師。二子、鄭大夫。 【読み】 諸侯鄭を救う。鄭の共仲・侯羽楚の師に軍す。二子は、鄭の大夫。 囚鄖公・鍾儀、獻諸晉。 【読み】 鄖公[うんこう]・鍾儀を囚え、諸を晉に獻ず。 八月、同盟于馬陵、尋蟲牢之盟、且莒服故也。蟲牢盟、在五年。莒本屬齊。齊服故莒從之。 【読み】 八月、馬陵に同盟するは、蟲牢の盟を尋[かさ]ね、且莒服する故なり。蟲牢の盟は、五年に在り。莒は本齊に屬す。齊服する故に莒之に從う。 晉人以鍾儀歸、囚諸軍府。軍藏府也。爲九年、晉侯見鍾儀張本。○藏、才浪反。 【読み】 晉人鍾儀を以[い]て歸り、諸を軍府に囚う。軍の藏府なり。九年、晉侯鍾儀を見る爲の張本なり。○藏は、才浪反。 楚圍宋之役、在宣十四年。 【読み】 楚宋を圍むの役に、宣十四年に在り。 師還。子重請取於申・呂、以爲賞田。王許之。分申・呂之田、以自賞。 【読み】 師還る。子重申・呂に取りて、以て賞田と爲さんと請う。王之を許す。申・呂の田を分けて、以て自ら賞す。 申公巫臣曰、不可。此申・呂所以邑也。是以爲賦、以御北方。若取之、是無申・呂也。言申・呂賴此田成邑耳。不得此田、則無以出兵賦、而二邑壞也。○御、魚呂反。 【読み】 申公巫臣曰く、不可なり。此れ申・呂の邑とする所以なり。是を以て賦を爲して、以て北方を御[ふせ]ぐ。若し之を取らば、是れ申・呂無きなり。言うこころは、申・呂此の田に賴りて邑を成すのみ。此の田を得ざれば、則ち以て兵賦を出だすこと無くして、二邑壞るるなり。○御は、魚呂反。 晉・鄭必至于漢。王乃止。子重是以怨巫臣。子反欲取夏姬、巫臣止之、遂取以行、子反亦怨之。及共王卽位、楚共王以魯成公元年卽位。 【読み】 晉・鄭必ず漢に至らん、と。王乃ち止む。子重是を以て巫臣を怨む。子反夏姬を取[めと]らんと欲して、巫臣之を止め、遂に取りて以て行[さ]りしかば、子反も亦之を怨む。共王の位に卽くに及びて、楚の共王は魯の成公元年を以て位に卽く。 子重・子反殺巫臣之族子閻・子蕩及淸尹弗忌、皆巫臣之族。 【読み】 子重・子反巫臣の族子閻・子蕩と淸尹弗忌と、皆巫臣の族。 及襄老之子黑要、以夏姬故、幷怨黑要。 【読み】 襄老の子黑要とを殺して、夏姬を以ての故に、幷せて黑要を怨む。 而分其室。子重取子閻之室、使沈尹與王子罷、分子蕩之室、子反取黑要與淸尹之室。巫臣自晉遺二子書、子重・子反。○罷、音皮。 【読み】 其の室を分かつ。子重子閻の室を取り、沈尹と王子罷とをして、子蕩の室を分かたしめ、子反黑要と淸尹との室を取る。巫臣晉より二子に書を遺りて、子重・子反なり。○罷は、音皮。 曰、爾以讒慝貪惏事君、而多殺不辜。余必使爾罷於奔命以死。 【読み】 曰く、爾讒慝貪惏[たんらん]を以て君に事えて、多く不辜を殺せり。余必ず爾をして奔命に罷[つか]れて以て死せしめん、と。 巫臣請使於吳。晉侯許之。吳子壽夢說之。乃通吳于晉。壽夢、季札父。○惏、力含反。夢、莫公反。 【読み】 巫臣吳に使いせんと請う。晉侯之を許す。吳子壽夢之を說ぶ。乃ち吳を晉に通ず。壽夢は、季札の父。○惏は、力含反。夢は、莫公反。 以兩之一卒適吳、舍偏兩之一焉、司馬法、百人爲卒、二十五人爲兩、車九乘爲小偏、十五乘爲大偏。蓋留九乘車及一兩二十五人、令吳習之。○舍、音赦。舊音捨。乘、繩證反。 【読み】 兩の一卒を以[い]て吳に適き、偏兩の一を舍き、司馬法に、百人を卒と爲し、二十五人を兩と爲し、車九乘を小偏と爲し、十五乘を大偏と爲す、と。蓋し九乘の車と一兩二十五人とを留めて、吳をして之を習わしむるならん。○舍は、音赦。舊音捨。乘は、繩證反。 與其射御、敎吳乘車、敎之戰陳、敎之叛楚。前是、吳常屬楚。○戰陳、直覲反。 【読み】 其れに射御を與え、吳に車に乘ることを敎え、之に戰陳を敎え、之に楚に叛くことを敎ゆ。是より前、吳常に楚に屬す。○戰陳は、直覲反。 寘其子狐庸焉、使爲行人於吳。吳始伐楚、伐巢、伐徐。巢・徐、楚屬國。 【読み】 其の子狐庸を寘いて、吳に行人爲らしむ。吳始めて楚を伐ち、巢を伐ち、徐を伐つ。巢・徐は、楚の屬國。 子重奔命。救徐・巢。 【読み】 子重奔命す。徐・巢を救う。 馬陵之會、吳入州來。子重自鄭奔命。因伐鄭而行。 【読み】 馬陵の會に、吳州來に入る。子重鄭より奔命す。鄭を伐つに因りて行く。 子重・子反於是乎一歲七奔命。蠻夷屬於楚者、吳盡取之。是以始大。 【読み】 子重・子反是に於て一歲に七たび奔命す。蠻夷の楚に屬する者、吳盡く之を取る。是を以て始めて大なり。 通吳於上國。上國、諸夏。 【読み】 吳を上國に通ぜり。上國は、諸夏。 衛定公惡孫林父。冬、孫林父出奔晉。林父、孫良夫之子。 【読み】 衛の定公孫林父を惡む。冬、孫林父出でて晉に奔る。林父は、孫良夫の子。 衛侯如晉。晉反戚焉。戚、林父邑。林父出奔、戚隨屬晉。 【読み】 衛の侯晉に如く。晉戚を反す。戚は、林父の邑。林父出奔して、戚隨いて晉に屬す。 〔經〕八年、春、晉侯使韓穿來言汶陽之田、歸之于齊。齊服事晉。故晉來語魯使還二年所取田。○語、魚據反。 【読み】 〔經〕八年、春、晉侯韓穿をして來りて汶陽の田を言いて、之を齊に歸さしむ。齊晉に服事す。故に晉來りて魯に語りて二年に取る所の田を還さしむ。○語は、魚據反。 晉欒書帥師侵蔡。公孫嬰齊如莒。宋公使華元來聘。夏、宋公使公孫壽來納幣。昏聘不使卿。今華元將命。故特書之。宋公無主昏者、自命之。故稱使也。公孫壽、蕩意諸之父。 【読み】 晉の欒書師を帥いて蔡を侵す。公孫嬰齊莒に如く。宋公華元をして來聘せしむ。夏、宋公公孫壽をして來りて幣を納れしむ。昏聘には卿を使わず。今華元命を將[おこな]う。故に特に之を書す。宋公昏を主れる者無く、自ら之を命ず。故に使むと稱す。公孫壽は、蕩意諸の父。 晉殺其大夫趙同・趙括。傳曰、原屛、咎之徒也。明本不以德義自居、宜其見討。故從告辭而稱名。 【読み】 晉其の大夫趙同・趙括を殺す。傳に曰く、原屛は、咎の徒なり、と。本德義を以て自ら居らざれば、宜しく其の討ぜらるべきを明かす。故に告辭に從いて名を稱す。 秋、七月、天子使召伯來賜公命。諸侯卽位、天子賜以命圭、與之合瑞。八年乃來、緩也。天子・天王、王者之通稱。○稱、尺證反。 【読み】 秋、七月、天子召伯をして來りて公に命を賜わしむ。諸侯位に卽けば、天子賜うに命圭を以てして、之と瑞を合す。八年にして乃ち來るは、緩[おく]るるなり。天子・天王は、王者の通稱。○稱は、尺證反。 冬、十月、癸卯、杞叔姬卒。前五年來歸者。女旣適人、雖見出弃、猶以成人禮書之。終爲杞伯所葬。故稱杞叔姬。 【読み】 冬、十月、癸卯[みずのと・う]、杞の叔姬卒す。前五年に來歸する者なり。女旣に人に適けば、出弃せらると雖も、猶成人の禮を以て之を書す。終に杞伯の爲に葬らる。故に杞の叔姬と稱す。 晉侯使士燮來聘。叔孫僑如會晉士燮・齊人・邾人伐郯。先謀而稱會、盟主之命、不同之於列國。 【読み】 晉侯士燮[ししょう]をして來聘せしむ。叔孫僑如晉の士燮・齊人・邾人[ちゅひと]に會して郯[たん]を伐つ。先ず謀りて會すと稱するは、盟主の命、之を列國と同じくせざるなり。 衛人來媵。古者諸侯取適夫人及左右媵。各有姪娣。皆同姓之國。國三人、凡九女。所以廣繼嗣也。魯將嫁伯姬於宋。故衛來媵之。○媵、以證反。適、丁歷反。姪、大結反。又丈一反。 【読み】 衛人來り媵[よう]す。古は諸侯適夫人と左右媵とを取る。各々姪娣有り。皆同姓の國。國ごとに三人、凡そ九女。繼嗣を廣むる所以なり。魯將に伯姬を宋に嫁せんとす。故に衛來りて之に媵す。○媵は、以證反。適は、丁歷反。姪は、大結反。又丈一反。 〔傳〕八年、春、晉侯使韓穿來言汶陽之田、歸之于齊。季文子餞之。餞、送行飮酒。○餞、錢淺反。祖而舍軷、飮酒於其側曰餞。 【読み】 〔傳〕八年、春、晉侯韓穿をして來りて汶陽の田を言いて、之を齊に歸さしむ。季文子之を餞す。餞は、行[さ]るを送りて酒を飮むなり。○餞は、錢淺反。祖して軷[はつ]を舍き、其の側に飮酒するを餞と曰う。 私焉、私與之言。 【読み】 私して、私に之と言う。 曰、大國制義、以爲盟主。是以諸侯懷德畏討、無有貳心。謂汶陽之田、敝邑之舊也、而用師於齊、使歸諸敝邑。用師、鞌之戰。 【読み】 曰く、大國義を制して、以て盟主と爲る。是を以て諸侯德に懷き討を畏れて、貳心有ること無し。汶陽の田を、敝邑の舊なりと謂いて、師を齊に用いて、諸を敝邑に歸さしめたり。師を用ゆるは、鞌の戰なり。 今有二命、曰歸諸齊。信以行義、義以成命、小國所望而懷也。信不可知、義無所立、四方諸侯其誰不解體。言不復肅敬於晉。 【読み】 今二命有りて、諸を齊に歸せと曰う。信以て義を行い、義以て命を成すは、小國の望みて懷く所なり。信知る可からず、義立つ所無くば、四方の諸侯其れ誰か解體せざらん。復晉を肅敬せざるを言う。 詩曰、女也不爽、士貳其行。士也罔極。二三其德。爽、差也。極、中也。詩、衛風。婦人怨丈夫不一其行。喩魯事晉、猶女之事夫、不敢過差。而晉有罔極之心、反二三其德。○差、初買反。又初佳反。 【読み】 詩に曰く、女は爽[たが]わず、士は其の行いを貳にす。士は極罔し。其の德を二三にす、と。爽は、差うなり。極は、中なり。詩は、衛風。婦人丈夫の其の行いを一にせざるを怨む。魯の晉に事うるは、猶女の夫に事うるがごとく、敢えて過差せず。而るに晉に罔極の心有り、反って其の德を二三にするを喩う。○差は、初買反。又初佳反。 七年之中、一與一奪、二三孰甚焉。士之二三、猶喪妃耦。而況霸主。霸主、將德是以。以、用也。 【読み】 七年の中、一たびは與え一たびは奪うは、二三孰れか焉より甚だしからん。士の二三も、猶妃耦を喪う。而るを況んや霸主をや。霸主は、將に德是れ以[もち]いんとす。以は、用ゆるなり。 而二三之、其何以長有諸侯乎。詩曰、猶之未遠、是用大簡。猶、圖也。簡、諫也。詩、大雅。言王者圖事不遠。故用大道諫之。 【読み】 而るに之を二三にせば、其れ何を以て長く諸侯を有たんや。詩に曰く、之を猶[はか]ること未だ遠からず、是に大を用いて簡[いさ]む、と。猶は、圖るなり。簡は、諫むなり。詩は、大雅。王者事を圖ること遠からず。故に大道を用いて之を諫むるを言う。 行父懼晉之不遠猶、而失諸侯也。是以敢私言之。 【読み】 行父晉の遠猶せずして、諸侯を失わんことを懼る。是を以て敢えて私に之を言う、と。 晉欒書侵蔡、六年、未得志故。 【読み】 晉の欒書蔡を侵し、六年、未だ志を得ざる故なり。 遂侵楚、獲申驪。申驪、楚大夫。○驪、力馳反。 【読み】 遂に楚を侵して、申驪を獲たり。申驪は、楚の大夫。○驪は、力馳反。 楚師之還也、謂六年、遇於繞角時。 【読み】 楚の師の還りしや、六年、繞角に遇う時を謂う。 晉侵沈、獲沈子揖。初從知・范・韓也。繞角之役、欒書從知莊子・范文子・韓獻子之言、不與楚戰。自是常從其謀、師出有功。故傳善之。沈國、今汝南平與縣。○揖、音集。又於立反。 【読み】 晉沈を侵して、沈子揖を獲たり。初めて知・范・韓に從えり。繞角の役に、欒書知莊子・范文子・韓獻子の言に從いて、楚と戰わず。是より常に其の謀に從い、師出でて功有り。故に傳之を善す。沈國は、今の汝南平與縣。○揖は、音集。又於立反。 君子曰、從善如流、宜哉。宜有功也。如流、喩速。 【読み】 君子曰く、善に從うこと流るるが如しとは、宜なるかな。宜なり功有ること。流るるが如きは、速やかなるに喩う。 詩曰、愷悌君子、遐不作人。遐、遠也。作、用也。詩、大雅。言文王能遠用善人。不、語助。 【読み】 詩に曰く、愷悌の君子、遐[とお]く人を作[もち]ゆ、と。遐は、遠きなり。作は、用ゆるなり。詩は、大雅。文王能く遠く善人を用ゆると言う。不は、語助。 求善也夫。作人、斯有功績矣。 【読み】 善を求むればなるかな。人を作ゆれば、斯に功績有り、と。 是行也、鄭伯將會晉師、會伐蔡之師。○夫、音扶。 【読み】 是の行や、鄭伯將に晉の師に會せんとし、蔡を伐つの師に會す。○夫は、音扶。 門于許東門、大獲焉。過許見其無備。因攻之。○過、古禾反。 【読み】 許の東門を門[せ]め、大いに獲たり。許を過ぎて其の備え無きを見る。因りて之を攻む。○過は、古禾反。 聲伯如莒、逆也。自爲逆婦。不書者、因聘而逆。○爲、于僞反。 【読み】 聲伯莒に如くは、逆[むか]うるなり。自ら爲に婦を逆う。書さざるは、聘に因りて逆うればなり。○爲は、于僞反。 宋華元來聘、聘共姬也。穆姜之女、成公姊妹、爲宋共公夫人。聘、不應使卿。故傳發其事而已。 【読み】 宋の華元來聘するは、共姬を聘するなり。穆姜の女、成公の姊妹、宋の共公の夫人と爲る。聘は、應に卿を使うべからず。故に傳其の事を發するのみ。 夏、宋公使公孫壽來納幣、禮也。納幣、應使卿。 【読み】 夏、宋公公孫壽をして來りて幣を納れしむるは、禮なり。納幣は、應に卿を使うべし。 晉趙莊姬爲趙嬰之亡故、譖之于晉侯、趙嬰亡、在五年。 【読み】 晉の趙莊姬趙嬰の亡[に]ぐる爲の故に、之を晉侯に譖りて、趙嬰の亡ぐるは、五年に在り。 曰、原・屛將爲亂。欒・郤爲徵。欒氏・郤氏亦徵其爲亂。 【読み】 曰く、原・屛將に亂を爲さんとす、と。欒・郤徵を爲す。欒氏・郤氏も亦其の亂を爲すを徵す。 六月、晉討趙同・趙括。武從姬氏畜于公宮。趙武、莊姬之子。莊姬、晉成公女。畜、養也。 【読み】 六月、晉趙同・趙括を討ず。武姬氏に從いて公宮に畜[やしな]わる。趙武は、莊姬の子。莊姬は、晉の成公の女。畜は、養うなり。 以其田與祁奚。韓厥言於晉侯曰、成季之勳、宣孟之忠、成季、趙衰。宣孟、趙盾。○祁、巨之反。盾、徒本反。 【読み】 其の田を以て祁奚に與う。韓厥晉侯に言いて曰く、成季の勳、宣孟の忠にして、成季は、趙衰。宣孟は、趙盾なり。○祁は、巨之反。盾は、徒本反。 而無後、爲善者其懼矣。三代之令王、皆數百年保天之祿。夫豈無辟王。賴前哲以免也。言三代亦有邪辟之君。但賴其先人以免禍耳。○數、所主反。辟、匹亦反。 【読み】 後無くば、善を爲す者其れ懼れん。三代の令王は、皆數百年天の祿を保てり。夫れ豈辟王無からんや。前哲に賴りて以て免れぬ。言うこころは、三代も亦邪辟の君有り。但其の先人に賴りて以て禍を免るるのみ。○數は、所主反。辟は、匹亦反。 周書曰、不敢侮鰥寡、所以明德也。周書、康誥。言文王不侮鰥寡、而德益明。欲使晉侯之法文王。 【読み】 周書に曰く、敢えて鰥寡を侮らずとは、德を明らかにする所以なり、と。周書は、康誥。文王鰥寡を侮らずして、德益々明らかなるを言う。晉侯をして文王に法らしめんことを欲す。 乃立武而反其田焉。 【読み】 乃ち武を立てて其の田を反す。 秋、召桓公來賜公命。召桓公、周卿士。 【読み】 秋、召桓公來りて公に命を賜う。召桓公は、周の卿士。 晉侯使申公巫臣如吳、假道于莒。與渠丘公立於池上。渠丘公、莒子朱也。池、城池也。梁丘、邑名。莒縣有蘧里。○蘧、其居反。 【読み】 晉侯申公巫臣をして吳に如かしめ、道を莒に假る。渠丘公と池上に立つ。渠丘公は、莒子朱なり。池は、城池なり。梁丘は、邑の名。莒縣に蘧里[きょり]有り。○蘧は、其居反。 曰、城已惡。莒子曰、辟陋在夷。其孰以我爲虞。虞、度也。○度、待洛反。 【読み】 曰く、城已[はなは]だ惡し、と。莒子曰く、辟陋にして夷に在り。其れ孰か我を以て虞[はか]ることをせん、と。虞は、度るなり。○度は、待洛反。 對曰、夫狡焉、狡猾之人。○狡、交卯反。猾、干八反。 【読み】 對えて曰く、夫の狡焉として、狡猾の人。○狡は、交卯反。猾は、干八反。 思啓封疆、以利社稷者、何國蔑有。唯然。故多大國矣。唯或思或縱也。世有思開封疆者、有縱其暴掠者。莒人當唯此爲命。○掠、音亮。 【読み】 封疆を啓きて、以て社稷を利せんと思う者、何れの國か有ること蔑[な]からん。唯然り。故に大國多し。唯或は思い或は縱にす。世々封疆を開かんと思う者有り、其の暴掠を縱にする者有り。莒人當に唯此を命と爲すべし。○掠は、音亮。 勇夫重閉。況國乎。爲明年、莒潰傳。○重、直龍反。又直勇反。 【読み】 勇夫も重閉す。況んや國をや、と。明年、莒潰ゆる爲の傳なり。○重は、直龍反。又直勇反。 冬、杞叔姬卒。來歸自杞。故書。愍其見出來歸。故書卒也。若更適大夫、則不復書卒。 【読み】 冬、杞の叔姬卒す。杞より來歸す。故に書す。其の出だされて來歸するを愍[あわ]れむ。故に卒を書すなり。若し更に大夫に適けば、則ち復卒を書さず。 晉士燮來聘、言伐郯也。以其事吳故。七年、郯與吳成。 【読み】 晉の士燮來聘するは、郯を伐たんことを言うなり。其の吳に事うるを以ての故なり。七年、郯と吳と成らぐ。 公賂之、請緩師。文子不可。文子、士燮。 【読み】 公之に賂いて、師を緩くせんことを請う。文子可[き]かず。文子は、士燮。 曰、君命無貳。失信不立。禮無加貨、事無二成。公私不兩成。 【読み】 曰く、君命は貳無し。信を失えば立たず。禮には加貨無く、事には二成無し。公私兩成せず。 君後諸侯、是寡君不得事君也。欲與魯絕。 【読み】 君諸侯に後れば、是れ寡君君に事うるを得ざるなり。魯と絕たんと欲す。 燮將復之。季孫懼、使宣伯帥師會伐郯。 【読み】 燮將に之を復[もう]さんとす、と。季孫懼れ、宣伯をして師を帥いて郯を伐つに會せしむ。 衛人來媵共姬。禮也。 【読み】 衛人來りて共姬に媵す。禮なり。 凡諸侯嫁女、同姓媵之。異姓則否。必以同姓者、參骨肉至親、所以息陰訟。 【読み】 凡そ諸侯女を嫁すときは、同姓之に媵す。異姓は則ち否[しか]らず。必ず同姓を以てするは、骨肉の至親を參えて、陰訟を息むる所以なり。 〔經〕九年、春、王正月、杞伯來逆叔姬之喪以歸。公會晉侯・齊侯・宋公・衛侯・鄭伯・曹伯・莒子・杞伯同盟于蒲。蒲、衛地。在長垣縣西南。 【読み】 〔經〕九年、春、王の正月、杞伯來りて叔姬の喪を逆[むか]えて以て歸る。公晉侯・齊侯・宋公・衛侯・鄭伯・曹伯・莒子・杞伯に會して蒲に同盟す。蒲は、衛の地。長垣縣の西南に在り。 公至自會。無傳。 【読み】 公會より至る。傳無し。 二月、伯姬歸于宋。宋不使卿逆、非禮。 【読み】 二月、伯姬宋に歸[とつ]ぐ。宋卿をして逆えしめざるは、禮に非ず。 夏、季孫行父如宋致女。女嫁三月、又使大夫隨加聘問。謂之致女。所以致成婦禮、篤昏姻之好。 【読み】 夏、季孫行父宋に如きて女を致す。女嫁して三月、又大夫をして隨いて聘問を加えしむ。之を致女と謂う。婦禮を成すことを致して、昏姻の好を篤くする所以なり。 晉人來媵。媵伯姬也。 【読み】 晉人來りて媵す。伯姬に媵するなり。 秋、七月、丙子、齊侯無野卒。無傳。五同盟。丙子、六月一日。書七月、從赴。 【読み】 秋、七月、丙子[ひのえ・ね]、齊侯無野卒す。傳無し。五たび同盟す。丙子は、六月一日。七月と書すは、赴[つ]ぐるに從う。 晉人執鄭伯。鄭伯旣受盟於蒲、又受楚賂、會於鄧。故晉執之。稱人者、晉以無道於民告諸侯。例在十五年。 【読み】 晉人鄭伯を執う。鄭伯旣に盟を蒲に受け、又楚の賂を受けて、鄧に會す。故に晉之を執う。人と稱するは、晉民に無道なるを以て諸侯に告ぐればなり。例は十五年に在り。 晉欒書帥師伐鄭。冬、十有一月、葬齊頃公。無傳。 【読み】 晉の欒書師を帥いて鄭を伐つ。冬、十有一月、齊の頃公を葬る。傳無し。 楚公子嬰齊帥師伐莒。庚申、莒潰。民逃其上曰潰。 【読み】 楚の公子嬰齊師を帥いて莒を伐つ。庚申[かのえ・さる]、莒潰ゆ。民其の上を逃るるを潰ゆと曰う。 楚人入鄆。鄆、莒別邑也。楚偏師入鄆。故稱人。 【読み】 楚人鄆[うん]に入る。鄆は、莒の別邑なり。楚の偏師鄆に入る。故に人と稱す。 秦人・白狄伐晉。鄭人圍許。城中城。魯邑也。在東海廩丘縣西南。此閏月城、在十一月之後、十二月之前。故傳曰書時。 【読み】 秦人・白狄晉を伐つ。鄭人許を圍む。中城を城く。魯の邑なり。東海廩丘縣の西南に在り。此れ閏月に城きて、十一月の後、十二月の前に在り。故に傳時なるを書すと曰う。 〔傳〕九年、春、杞桓公來逆叔姬之喪、請之也。叔姬已絕於杞。魯復强請杞、使還取葬。○强、其丈反。 【読み】 〔傳〕九年、春、杞の桓公來りて叔姬の喪を逆うは、之を請うなり。叔姬已に杞に絕ゆ。魯復强いて杞に請いて、還して取りて葬らしむ。○强は、其丈反。 杞叔姬卒、爲杞故也。還爲杞婦。故卒稱杞。○爲、于僞反。下文及爲魯・爲歸同。 【読み】 杞の叔姬卒すとは、杞の爲の故なり。還りて杞の婦と爲る。故に卒するに杞と稱す。○爲は、于僞反。下文及び爲魯・爲歸も同じ。 逆叔姬、爲我也。旣弃而復逆其喪。明爲魯故。○逆叔姬絶句。爲我也、本或無爲字。 【読み】 叔姬を逆うるは、我が爲なり。旣に弃てられて復其の喪を逆う。魯の爲の故なることを明かす。○逆叔姬は絶句。爲我也は、本或は爲の字無からん。 爲歸汶陽之田故、諸侯貳於晉。歸田、在前年。 【読み】 汶陽の田を歸す爲の故に、諸侯晉に貳あり。田を歸すは、前年に在り。 晉人懼、會於蒲、以尋馬陵之盟。馬陵、在七年。 【読み】 晉人懼れ、蒲に會して、以て馬陵の盟を尋[かさ]ぬ。馬陵は、七年に在り。 季文子謂范文子曰、德則不競、尋盟何爲。競、强也。 【読み】 季文子范文子に謂いて曰く、德を則ち競[つよ]めずして、盟を尋ぬるも何をかせん、と。競は、强きなり。 范文子曰、勤以撫之、寬以待之、堅彊以御之、明神以要之、柔服而伐貳、德之次也。 【読み】 范文子曰く、勤以て之を撫で、寬以て之を待ち、堅彊以て之を御し、明神以て之を要し、服するを柔[やす]んじて貳を伐つは、德の次なり、と。 是行也、將始會吳。吳人不至。爲十五年、會鐘離傳。○御、魚呂反。要、一遙反。 【読み】 是の行や、將に始めて吳に會せんとす。吳人至らず。十五年、鐘離に會する爲の傳なり。○御は、魚呂反。要は、一遙反。 二月、伯姬歸于宋。爲致女復命起。 【読み】 二月、伯姬宋に歸ぐ。致女復命の爲に起こす。 楚人以重賂求鄭。鄭伯會楚公子成于鄧。爲晉人執鄭伯傳。 【読み】 楚人重賂を以て鄭に求む。鄭伯楚の公子成に鄧に會す。晉人鄭伯を執うる爲の傳なり。 夏、季文子如宋致女。復命。公享之。賦韓奕之五章。韓奕、詩大雅篇名。其五章言、蹶父嫁女於韓候。爲女相所居。莫如韓樂。文子喩魯候有蹶父之德、宋公如韓候、宋土如韓樂。○蹶、九衛反。爲、于僞反。樂、音洛。 【読み】 夏、季文子宋に如きて女を致す。復命す。公之を享す。韓奕[かんえき]の五章を賦す。韓奕は、詩の大雅の篇の名。其の五章に言う、蹶父[けいほ]女を韓候に嫁す。女の爲に居る所を相る。韓の樂しきに如くは莫し、と。文子魯候に蹶父の德有り、宋公韓候の如く、宋土韓の樂しきが如くなるを喩う。○蹶は、九衛反。爲は、于僞反。樂は、音洛。 穆姜出于房、再拜曰、大夫勤辱、不忘先君、以及嗣君、施及未亡人。穆姜、伯姬母。聞文子言宋樂、喜而出、謝其行勞。婦人夫死、自稱未亡人。○施、以豉反。 【読み】 穆姜房より出でて、再拜して曰く、大夫勤辱して、先君を忘れずして、以て嗣君に及ぼし、施[ひ]いて未亡人に及ぼす。穆姜は、伯姬の母。文子宋の樂しきを言うを聞きて、喜びて出でて、其の行勞を謝す。婦人夫死すれば、自ら未亡人と稱す。○施は、以豉反。 先君猶有望也。言先君亦望文子之若此。 【読み】 先君も猶望むこと有り。先君も亦文子の此の若きを望むを言う。 敢拜大夫之重勤。又賦綠衣之卒章而入。綠衣、詩邶風也。取其我思古人、實獲我心。喩文子言得己意。○重、直勇反。又直用反。邶、音佩。 【読み】 敢えて大夫の重勤を拜す、と。又綠衣の卒章を賦して入る。綠衣は、詩の邶風[はいふう]なり。其の我が古人を思い、實に我が心を獲るに取る。文子の言の己が意を得るに喩う。○重は、直勇反。又直用反。邶は、音佩。 晉人來媵。禮也。同姓故。 【読み】 晉人來り媵す。禮なり。同姓の故なり。 秋、鄭伯如晉。晉人討其貳於楚也、執諸銅鞮。銅鞮、晉別縣。在上黨。○鞮、丁兮反。 【読み】 秋、鄭伯晉に如く。晉人其の楚に貳あるを討じて、諸を銅鞮[どうてい]に執う。銅鞮は、晉の別縣。上黨に在り。○鞮は、丁兮反。 欒書伐鄭。鄭人使伯蠲行成。晉人殺之。非禮也。 【読み】 欒書鄭を伐つ。鄭人伯蠲[はくけん]をして成[たい]らぎを行わしむ。晉人之を殺す。禮に非ざるなり。 兵交、使在其間可也。明殺行人例。○蠲、古玄反。又音圭。 【読み】 兵交わるとき、使其の閒に在りて可なり。行人を殺すの例を明かす。○蠲は、古玄反。又音圭。 楚子重侵陳以救鄭。陳與晉故。 【読み】 楚の子重陳を侵して以て鄭を救う。陳晉に與する故なり。 晉侯觀于軍府、見鍾儀。問之曰、南冠而縶者、誰也。南冠、楚冠。縶、拘執。○縶、陟立反。 【読み】 晉侯軍府を觀て、鍾儀を見る。之を問いて曰く、南冠して縶がるる者は、誰ぞや、と。南冠は、楚の冠。縶[ちゅう]は、拘執。○縶、陟立反。 有司對曰、鄭人所獻楚囚也。使稅之、鄭獻鐘儀、在七年。稅、解也。○稅、吐活反。又私銳反。 【読み】 有司對えて曰く、鄭人の獻ぜし所の楚の囚なり、と。之を稅[と]かしめて、鄭鐘儀を獻ずるは、七年に在り。稅は、解くなり。○稅は、吐活反。又私銳反。 召而弔之。再拜稽首。問其族。對曰、泠人也。泠人、樂官。○泠、力丁反。 【読み】 召して之を弔う。再拜稽首す。其の族を問う。對えて曰く、泠人[れいじん]なり、と。泠人は、樂官。○泠は、力丁反。 公曰、能樂乎。對曰、先父之職官也。敢有二事。言不敢學他事。 【読み】 公曰く、能く樂せんか、と。對えて曰く、先父の職官なり。敢えて二事有らんや、と。敢えて他事を學ばざるを言う。 使與之琴。操南音。南音、楚聲。○操、七刀反。 【読み】 之に琴を與えしむ。南音を操る。南音は、楚の聲。○操は、七刀反。 公曰、君王何如。對曰、非小人之所得知也。固問之。對曰、其爲大子也、師保奉之、以朝于嬰齊、而夕于側也。嬰齊、令尹子重。側、司馬子反。言其尊卿敬老。 【読み】 公曰く、君王は何如、と。對えて曰く、小人の知ることを得る所に非ざるなり、と。固く之を問う。對えて曰く、其の大子爲りしや、師保之を奉じて、以て嬰齊に朝して、側に夕せり。嬰齊は、令尹子重。側は、司馬子反。其の卿を尊び老を敬するを言う。 不知其他。公語范文子。文子曰、楚囚、君子也。言稱先職、不背本也。樂操土風、不忘舊也。稱大子、抑無私也。舍其近事、而遠稱少小、以示性所自然。明至誠。○語、魚據反。 【読み】 其の他を知らず、と。公范文子に語[つ]ぐ。文子曰く、楚の囚は、君子なり。言先職を稱するは、本に背かざるなり。樂土風を操るは、舊を忘れざるなり。大子を稱するは、抑々私無きなり。其の近事を舍てて、遠く少小を稱して、以て性の自然なる所を示す。至誠を明かすなり。○語は、魚據反。 名其二卿、尊君也。尊晉君也。 【読み】 其の二卿に名いうは、君を尊ぶなり。晉君を尊ぶなり。 不背本、仁也。不忘舊、信也。無私、忠也。尊君、敏也。敏、達也。 【読み】 本に背かざるは、仁なり。舊を忘れざるは、信なり。私無きは、忠なり。君を尊ぶは、敏なり。敏は、達するなり。 仁以接事、信以守之、忠以成之、敏以行之、事雖大必濟。言有此四德、必能成大事。 【読み】 仁以て事に接わり、信以て之を守り、忠以て之を成し、敏以て之を行わば、事大なりと雖も必ず濟[な]らん。此の四德有れば、必ず能く大事を成すを言う。 君盍歸之、使合晉・楚之成。公從之、重爲之禮、使歸求成。爲下十二月、晉・楚結成張本。 【読み】 君盍ぞ之を歸して、晉・楚の成らぎを合わせしめざる、と。公之に從い、重く之が禮を爲して、歸りて成らぎを求めしむ。下の十二月、晉・楚成らぎを結ぶ爲の張本なり。 冬、十一月、楚子重自陳伐莒、圍渠丘。渠丘城惡。衆潰奔莒。戊申、楚入渠丘。月六日。 【読み】 冬、十一月、楚の子重陳より莒を伐ち、渠丘を圍む。渠丘城惡し。衆潰えて莒に奔る。戊申[つちのえ・さる]、楚渠丘に入る。月の六日。 莒人囚楚公子平。楚人曰、勿殺。吾歸而俘。莒人殺之。楚師圍莒。莒城亦惡。庚申、莒潰。月十八日。 【読み】 莒人楚の公子平を囚う。楚人曰く、殺すこと勿かれ。吾れ而[なんじ]の俘を歸さん、と。莒人之を殺す。楚の師莒を圍む。莒の城も亦惡し。庚申、莒潰ゆ。月の十八日。 楚遂入鄆。莒無備故也。終巫臣之言。 【読み】 楚遂に鄆に入る。莒備え無き故なり。巫臣の言を終える。 君子曰、恃陋而不備、罪之大者也。備豫不虞、善之大者也。莒恃其陋、而不脩城郭、浹辰之閒、而楚克其三都、無備也夫。浹辰、十二日也。○浹、子協反。又子答反。 【読み】 君子曰く、陋を恃みて備えざるは、罪の大なる者なり。不虞に備豫するは、善の大なる者なり。莒其の陋を恃みて、城郭を脩めずして、浹辰の閒にして、楚其の三都に克ちしは、備え無ければなるかな。浹辰は、十二日なり。○浹は、子協反。又子答反。 詩曰、雖有絲麻、無棄菅蒯。雖有姬姜、無棄蕉萃。凡百君子、莫不代匱、言備之不可以已也。逸詩也。姬姜、大國之女。蕉萃、陋賤之人。○菅、古顏反。蒯、苦怪反。蕉、在遙反。 【読み】 詩に曰く、絲麻有りと雖も、菅蒯[かんかい]を棄つること無かれ。姬姜有りと雖も、蕉萃を棄つること無かれ。凡百の君子、匱[とぼ]しきに代へざること莫しとは、備えの以て已む可からざるを言うなり、と。逸詩なり。姬姜は、大國の女。蕉萃は、陋賤の人。○菅は、古顏反。蒯は、苦怪反。蕉は、在遙反。 秦人・白狄伐晉、諸侯貳故也。 【読み】 秦人・白狄晉を伐つは、諸侯貳ある故なり。 鄭人圍許、示晉不急君也。此秋、晉執鄭伯。 【読み】 鄭人許を圍むは、晉に君を急にせざるを示すなり。此の秋、晉鄭伯を執う。 是則公孫申謀之曰、我出師以圍許、示不畏晉。 【読み】 是れ則ち公孫申之を謀りて曰く、我れ師を出だして以て許を圍み、晉を畏れざるを示す。 爲將改立君者、而紓晉使、紓、緩也。勿亟遣使詣晉、示欲更立君。○爲・將、竝如字。亟、紀力反。或欺冀反。 【読み】 將に君を改め立てんとする者の爲[まね]して、晉の使いを紓[ゆる]くせば、紓は、緩きなり。亟[しば]々使いをして晉に詣らしむること勿くして、更に君を立てんと欲するを示す。○爲・將は、竝字の如し。亟は、紀力反。或は欺冀反。 晉必歸君。爲明年、晉侯歸鄭伯張本。 【読み】 晉必ず君を歸さん、と。明年、晉侯鄭伯を歸す爲の張本なり。 城中城、書時也。 【読み】 中城に城くは、時なるを書すなり。 十二月、楚子使公子辰如晉。報鍾儀之使、請修好結成。鍾儀奉晉命歸。故楚報之。 【読み】 十二月、楚子公子辰をして晉に如かしむ。鍾儀の使いに報い、好を修め成らぎを結ばんことを請う。鍾儀晉の命を奉じて歸る。故に楚之に報ゆ。 〔經〕十年、春、衛侯之弟黑背帥師侵鄭。夏、四月、五卜郊。不從。乃不郊。無傳。卜常祀、不郊、皆非禮。故書。 【読み】 〔經〕十年、春、衛侯の弟黑背師を帥いて鄭を侵す。夏、四月、五たび郊を卜す。從わず。乃ち郊せず。傳無し。常祀を卜し、郊せざるは、皆禮に非ず。故に書す。 五月、公會晉侯・齊侯・宋公・衛侯・曹伯伐鄭。晉侯、大子州蒲也。稱爵、見其生代父居位、失人子之禮。○見、賢遍反。 【読み】 五月、公晉侯・齊侯・宋公・衛侯・曹伯に會して鄭を伐つ。晉侯は、大子州蒲なり。爵を稱するは、其の生きながら父に代わり位に居り、人子の禮を失うを見す。○見は、賢遍反。 齊人來媵。無傳。媵伯姬也。異姓來媵、非禮也。 【読み】 齊人來り媵す。傳無し。伯姬に媵するなり。異姓來り媵するは、禮に非ざるなり。 丙午、晉侯獳卒。六同盟。據傳、丙午、六月七日。有日無月。○獳、乃侯反。 【読み】 丙午[ひのえ・うま]、晉侯獳[どう]卒す。六たび同盟す。傳に據るに、丙午は、六月七日。日有りて月無し。○獳は、乃侯反。 秋、七月、公如晉。冬、十月。 【読み】 秋、七月、公晉に如く。冬、十月。 〔傳〕十年、春、晉侯使糴茷如楚。糴茷、晉大夫。○糴、徒弔反。一杜敖反。茷、扶廢反。一蒲發反。 【読み】 〔傳〕十年、春、晉侯糴茷[てきはい]をして楚に如かしむ。糴茷は、晉の大夫。○糴は、徒弔反。一に杜敖反。茷は、扶廢反。一に蒲發反。 報大宰子商之使也。子商、楚公子辰。使、在前年。 【読み】 大宰子商の使いに報ゆるなり。子商は、楚の公子辰。使いは、前年に在り。 衛子叔黑背侵鄭、晉命也。晉命衛使侵鄭。 【読み】 衛の子叔黑背鄭を侵すは、晉の命なり。晉衛に命じて鄭を侵さしむ。 鄭公子班聞叔申之謀、改立君之謀。 【読み】 鄭の公子班叔申の謀を聞き、君を改め立つの謀。 三月、子如立公子繻。子如、公子班。○繻、音須。 【読み】 三月、子如公子繻を立つ。子如は、公子班。○繻は、音須。 夏、四月、鄭人殺繻、立髡頑。子如奔許。髡頑、鄭成侯大子。○髡、苦門反。 【読み】 夏、四月、鄭人繻を殺して、髡頑[こんがん]を立つ。子如許に奔る。髡頑は、鄭の成侯の大子。○髡は、苦門反。 欒武子曰、鄭人立君。我執一人焉何益。不如伐鄭而歸其君、以求成焉。 【読み】 欒武子曰く、鄭人君を立つ。我れ一人を執うとも何の益あらん。鄭を伐ちて其の君を歸して、以て成[たい]らぎを求めんに如かず、と。 晉侯有疾。五月、晉立大子州蒲以爲君、而會諸侯伐鄭。生立子爲君。此父不父子不子。經因書晉侯。其惡明。 【読み】 晉侯疾有り。五月、晉大子州蒲を立てて以て君と爲して、諸侯を會して鄭を伐つ。生きながら子を立てて君と爲す。此れ父父ならず子子ならざるなり。經因りて晉侯と書す。其の惡明らかなり。 鄭子罕賂以襄鍾。子罕、穆公子。襄鐘、鄭襄公之廟鐘。 【読み】 鄭の子罕賂うに襄鍾を以てす。子罕は、穆公の子。襄鐘は、鄭の襄公の廟鐘。 子然盟于脩澤。子駟爲質。子然・子駟、皆穆公子。滎陽卷縣東有脩武亭。○質、音致。卷、音權。又丘權反。 【読み】 子然脩澤に盟う。子駟質と爲る。子然・子駟は、皆穆公の子。滎陽卷縣の東に脩武亭有り。○質は、音致。卷は、音權。又丘權反。 辛巳、鄭伯歸。鄭伯歸不書、鄭不告入。 【読み】 辛巳[かのと・み]、鄭伯歸る。鄭伯歸ること書さざるは、鄭入ることを告げざればなり。 晉侯夢、大厲被髮及地、搏膺而踊曰、殺余孫不義。厲、鬼也。趙氏之先祖也。八年、晉侯殺趙同・趙括。故怒。○被、皮寄反。 【読み】 晉侯夢みらく、大厲髮を被りて地に及び、膺を搏[う]ちて踊りて曰く、余が孫を殺せしこと不義なり。厲は、鬼なり。趙氏の先祖ならん。八年、晉侯趙同・趙括を殺す。故に怒る。○被は、皮寄反。 余得請於帝矣。壞大門及寢門而入。公懼入于室。又壞戶。公覺、召桑田巫。桑田、晉邑。○壞、音怪。覺、古孝反。 【読み】 余帝に請うことを得たり、と。大門と寢門とを壞りて入る。公懼れて室に入る。又戶を壞る。公覺め、桑田の巫を召す。桑田は、晉の邑。○壞は、音怪。覺は、古孝反。 巫言如夢。巫云鬼怒、如公所夢。 【読み】 巫の言うこと夢の如し。巫鬼の怒りを云うこと、公の夢みる所の如し。 公曰、何如。曰、不食新矣。言公不得及食新麥。 【読み】 公曰く、何如、と。曰く、新を食わじ、と。言うこころは、公新麥を食うに及ぶことを得ず。 公疾病。求醫于秦。秦伯使醫緩爲之。緩、醫名。爲、猶治也。 【読み】 公疾病なり。醫を秦に求む。秦伯醫緩をして之を爲[おさ]めしむ。緩は、醫の名。爲は、猶治むるのごとし。 未至、公夢、疾爲二豎子、曰、彼良醫也。懼傷我。焉逃之。其一曰、居肓之上、膏之下、若我何。肓、鬲也。心下爲膏。○焉、於虔反。一讀如字。屬上句。肓、音荒。心下、鬲上也。 【読み】 未だ至らずして、公夢みらく、疾二豎子と爲りて、曰く、彼は良醫なり。懼らくは我を傷らん。焉[いずく]に之を逃れん、と。其の一曰く、肓[こう]の上、膏[こう]の下に居らば、我を若何にせん、と。肓は、鬲[かく]なり。心の下を膏と爲す。○焉は、於虔反。一に讀みて字の如し。上の句に屬く。肓は、音荒。心の下、鬲の上なり。 醫至。曰、疾不可爲也。在肓之上、膏之下。攻之不可、達之不及、藥不至焉。不可爲也。達、針。 【読み】 醫至る。曰く、疾爲む可からざるなり。肓の上、膏の下に在り。之を攻むとも可ならず、之に達するとも及ばず、藥も至らず。爲む可からざるなり、と。達は、針。 公曰、良醫也。厚爲之禮而歸之。 【読み】 公曰く、良醫なり、と。厚く之が禮を爲して之を歸す。 六月、丙午、晉侯欲麥。周六月、今四月。麥始熟。 【読み】 六月、丙午、晉侯麥を欲す。周の六月は、今の四月。麥始めて熟す。 使甸人獻麥。甸人、主爲公田者。○甸、徒練反。 【読み】 甸人[てんじん]をして麥を獻ぜしむ。甸人は、公田を爲ることを主る者。○甸は、徒練反。 饋人爲之。召桑田巫、示而殺之。將食。張。如廁。陷而卒。張、腹滿也。○饋、其媿反。張、中亮反。 【読み】 饋人之を爲す。桑田の巫を召して、示して之を殺す。將に食わんとす。張す。廁に如く。陷りて卒す。張は、腹滿つるなり。○饋は、其媿反。張は、中亮反。 小臣有晨夢負公以登天。及日中、負晉侯出諸廁。遂以爲殉。傳言巫以明術見殺、小臣以言夢自禍。 【読み】 小臣晨に公を負いて以て天に登ると夢みる有り。日中に及びて、晉侯を負いて諸を廁より出だす。遂に以て殉と爲す。傳巫は術に明なるを以て殺され、小臣は夢を言うを以て自ら禍するを言う。 鄭伯討立君者、戊申、殺叔申・叔禽。叔禽、叔申弟。 【読み】 鄭伯君を立つる者を討じ、戊申[つちのえ・さる]、叔申・叔禽を殺す。叔禽は、叔申の弟。 君子曰、忠爲令德、非其人猶不可。況不令乎。言叔申爲忠、不得其人、還害身。 【読み】 君子曰く、忠は令德爲れども、其の人に非ざれば猶不可なり。況んや不令をや、と。叔申忠を爲して、其の人を得ずして、還って身を害することを言う。 秋、公如晉。親弔非禮。 【読み】 秋、公晉に如く。親ら弔うは禮に非ず。 晉人止公。使送葬。於是糴茷未反。是春晉使糴茷至楚結成。晉謂魯貳於楚。故留公須糴茷還、驗其虛實。 【読み】 晉人公を止む。葬を送らしむ。是に於て糴茷未だ反らず。是の春晉糴茷をして楚に至りて成らぎを結ばしむ。晉魯は楚に貳ありと謂う。故に公を留めて糴茷の還るを須ちて、其の虛實を驗す。 冬、葬晉景公。公送葬。諸侯莫在。魯人辱之。故不書。諱之也。諱不書晉葬也。 【読み】 冬、晉の景公を葬る。公葬を送る。諸侯在ること莫し。魯人之を辱とす。故に書さず。之を諱みてなり。諱みて晉の葬を書さざるなり。 成 經元年。一乘。繩證反。卒七。尊忽反。茅戎。史記及二傳、皆作貿戎。別種。章勇反。 傳。詹嘉。之廉反。欲要。一遙反。結好。呼報反。 經二年。新築。音竹。皆陳。直覲反。僑如。其驕反。注同。以與。音預。匹敵。如字。本或作適。亦音敵。汶。音問。匱盟。其位反。 傳。頃公。音傾。嬖人。必計反。魁。苦囘反。封竟。音境。石碏。七略反。甯兪。羊朱反。復欲。扶又反。子喪。息浪反。隕。于敏反。止御。魚呂反。○今本禦。愆。起虔反。百乘。繩證反。下同。濮。音卜。將中。子匠反。且道。音導。以徇。似俊反。于莘。所巾反。不腆。他典反。詰。起吉反。朝。如字。注及下朝夕・朝食同。釋感。胡暗反。本又作憾。○今本亦憾。無令。力呈反。輿師。如字。下無令輿師同。一音所類反。不復。扶又反。齊壘。力軌反。欲賣。摩懈反。邴。一音彼命反。夏。戶雅反。解張。如字。一音直亮反。軍將。子匠反。下將在左同。貫余。古亂反。下注同。肘。竹九反。近烟。附近之近。左幷。徐方聘反。桴。字林云、擊鼓柄也。○今本枹。不注。之住反。元帥。所類反。綦。音其。喪車。息浪反。寓乘。繩證反。其處。昌慮反。仆車。音赴。又蒲北反。驂。七南反。轏。一音仕板反。以肱。古弘反。而匿。女力反。注同。奉觴。式羊反。無令。力呈反。奔辟。徐扶臂反。服氏扶亦反。從君。才用反。又如字。狄卒。子忽反。注及下同。冒之。亡報反。守者。手又反。辟女子。一音扶亦反。單還。音丹。可復。扶又反。辟司徒。必覓反。注同。徐甫亦反。賓媚。美冀反。賂以。音路。甗。字林、牛健反。甑。一音慈陵反。盡東。津忍反。壟。力勇反。疆理。居良反。注下皆同。易也。以豉反。疆竟。如字。又音境。遒。在由反。徐子由反。犒。苦報反。不泯。彌忍反。舊好。呼報反。敢合。如字。一音閤。復借。扶又反。而紓。一音直呂反。鄍。覓經反。三帥。所類反。注及下同。炭。吐旦反。用殉。似俊反。蛤。古荅反。瘞。於例反。壙。苦晃反。一音曠。椁。音郭。而爭。爭鬭之爭。其侈。昌氏反。又式氏反。過衛。古禾反。又古臥反。夏氏。戶雅反。下同。殺御叔。魚據反。死易。以豉反。烝。之承反。使道。音導。注同。吾聘。匹政反。跪。其委反。一音居委反。郢。一音以政反。使介。音界。邢。音刑。勿令。力呈反。代帥。所類反。下注稱帥軍帥・將帥同。也夫。音扶。庚將。子匠反。下同。求好。呼報反。下同。行使。所吏反。濟濟。子禮反。儕。仕皆反。閱。音悅。鰥。古頑反。王卒。子忽反。注同。令二君。力呈反。不見。賢遍反。之別。彼列反。宴樂。音洛。捷。在妾反。暱。女乙反。謂暴。本又作虣。○今本亦虣。奸。音干。大師。音泰。淫從。本又作縱。 經三年。所馮。皮冰反。書將。子匠反。帥。所類反。 傳。鄤。一音莫干反。徐一音万。俘。芳夫反。馘。古獲反。以釁。許覲反。求紓。音舒。懲。直升反。宥。音又。纍。力誰反。其好。呼報反。下同。不與。音預。不爲。于僞反。疆。居良反。楚將。子亮反。帥。所類反。如潰。戶内反。君爲。于僞反。下爲兩君同。寘諸。之豉反。 經四年。 傳。大史。音泰。疆。居良反。陂。彼皮反。鉏。仕居反。將中。子匠反。愬。音素。 經五年。 傳。能令。力呈反。饋。其媿反。驛也。音亦。捷之。在妾反。邪出。似嗟反。絳人。古巷反。壤。如丈反。去盛。起呂反。縵。一音莫半反。譟。素報反。之難。乃旦反。月倒。丁老反。 經六年。 傳。子游相。息亮反。下甯相同。諦。音帝。魯倚。於綺反。言易。以豉反。夏陽。戶雅反。別種。章勇反。登陴。毗支反。復命。扶又反。而近。附近之近。下及注近實皆同。將新。子匠反。下注軍將同。大僕。音泰。疾疢。本或作■(疒に尓)、同。溺。乃歷反。重膇。一音直媿反。足腫。章勇反。一音常勇反。垢。古口反。驕佚。音逸。公說。音悅。公子成。音城。禦諸。魚呂反。桑隧。音遂。子盍。戶臘反。 經七年。 傳。也夫。音扶。共仲。音恭。鄖。本亦作員。音云。邑名。閻。音鹽。黑要。一遙反。遺。唯季反。慝。他得反。請使。所吏反。說之。音悅。季札。側八反。一卒。子忽反。注同。令吳。力呈反。寘其。之豉反。諸夏。戶雅反。惡孫。烏路反。反戚。七狄反。 經八年。來媵。一音繩證反。娣。大計反。 傳。不復。扶又反。其行。下孟反。注同。猶喪。息浪反。妃耦。音配。下五口反。長有。如字。一音丁丈反。平與。音餘。一音預。愷。開在反。樂也。悌。徒禮反。易也。共姬。音恭。祁奚。字林、上尸反。趙衰。初危反。盾。徒本反。喆。陟列反。○今本哲。邪。似嗟反。敢侮。亡甫反。鰥、古頑反。城已惡。如字。已猶太也。本或作城已惡矣。虞度。待洛反。封疆。居良反。注同。唯然。音維。本或作雖。後人改也。閉。補計反。又補結反。一音戶旦反。不復。扶又反。君後。如字。徐胡豆反。 經九年。之好。呼報反。頃。音傾。 傳。魯復。扶又反。下同。相所。息亮反。綠衣。如字。本又作褖。吐亂反。注同。使在。所吏反。拘。九于反。不背。音佩。下同。舍其。音捨。少小。詩照反。君盍。戶臘反。也夫。音扶。萃。在醉反。匱。其位反。爲將。于僞反、非也。而紓。音舒。晉使。所吏反。注及下同。脩好。呼報反。 經十年。 傳。糶、一音土弔反。今本糴。茷。一音蒲艾反。大宰。音泰。之使。所吏反。下及注使在同。頑。如字。徐五班反。州蒲。本或作州滿。卷縣。字林、丘權反。如淳漢書音同。搏膺。音博。而踊。音勇。及寢門。一本無及字。求醫。於其反。懼傷我。絶句。逃之。絶句。鬲。音革。攻之。音工。鍼也。音針。○今本針。爲之。如字。
春秋左氏傳校本第十四 襄公 起一年盡九年 晉 杜氏 集解 唐 陸氏 音義 尾張 秦 鼎 校本 襄公 名、午。成公子。母定姒。謚法、因事有功曰襄。辟土有德曰襄。 【読み】 襄公 名は、午。成公の子。母は定姒[ていじ]。謚法に、事に因りて功有るを襄と曰う、と。土を辟き德有るを襄と曰う。 〔經〕元年、春、王正月、公卽位。無傳。於是公年四歲。 【読み】 〔經〕元年、春、王の正月、公位に卽く。傳無し。是に於て公の年四歲なり。 仲孫蔑會晉欒黶・宋華元・衛甯殖・曹人・莒人・邾人・滕人・宋人・薛人圍宋彭城。魯與謀於虛朾。而書會者、稟命霸主、非匹敵故。○與、音預。 【読み】 仲孫蔑晉の欒黶[らんえん]・宋の華元・衛の甯殖[ねいしょく]・曹人・莒人・邾人[ちゅひと]・滕人・宋人・薛人に會して宋の彭城を圍む。魯謀に虛朾[きょてい]に與る。而るを會と書すは、命を霸主に稟けて、匹敵に非ざる故なり。○與は、音預。 夏、晉韓厥帥師伐鄭。仲孫蔑會齊崔杼・曹人・邾人・杞人次于鄫。鄫、鄭地。在陳留襄邑縣東南。書次、兵不加鄭、次鄫以待晉師。○鄫、才陵反。 【読み】 夏、晉の韓厥師を帥いて鄭を伐つ。仲孫蔑齊の崔杼・曹人・邾人・杞人に會して鄫[しょう]に次[やど]る。鄫は、鄭の地。陳留襄邑縣の東南に在り。次ると書すは、兵鄭に加えず、鄫に次りて以て晉の師を待つなり。○鄫は、才陵反。 秋、楚公子壬夫帥師侵宋。九月、辛酉、天王崩。無傳。辛酉、九月十五日。 【読み】 秋、楚の公子壬夫師を帥いて宋を侵す。九月、辛酉[かのと・とり]、天王崩ず。傳無し。辛酉は、九月十五日。 邾子來朝。冬、衛侯使公孫剽來聘。剽、子叔黑背子。○剽、匹妙反。 【読み】 邾子來朝す。冬、衛侯公孫剽をして來聘せしむ。剽は、子叔黑背の子。○剽は、匹妙反。 晉侯使荀罃來聘。冬者、十月初也。王崩赴未至、皆未聞喪。故各得行朝聘之禮。而傳善之。 【読み】 晉侯荀罃[じゅんおう]をして來聘せしむ。冬は、十月の初めなり。王崩じて赴[つげ]未だ至らず、皆未だ喪を聞かず。故に各々朝聘の禮を行うことを得たり。而して傳之を善す。 〔傳〕元年、春、己亥、圍宋彭城。下有二月、則此己亥爲正月。正月無己亥。日誤。 【読み】 〔傳〕元年、春、己亥[つちのと・い]、宋の彭城を圍む。下に二月有れば、則ち此の己亥は正月爲り。正月に己亥無し。日の誤りなり。 非宋地。追書也。成十八年、楚取彭城以封魚石。故曰非宋地。夫子治春秋、追書繫之宋。 【読み】 宋の地に非ず。追って書すなり。成十八年、楚彭城を取りて以て魚石を封ず。故に宋の地に非ずと曰う。夫子春秋を治め、追書して之を宋に繫くるなり。 於是爲宋討魚石。故稱宋。且不登叛人也。登、成也。不與其專邑叛君。故使彭城還繫宋。 【読み】 是に於て宋の爲に魚石を討ず。故に宋と稱す。且叛人を登[な]さざるなり。登は、成すなり。其の邑を專らにし君に叛くを與[ゆる]さず。故に彭城をして還して宋に繫けしむ。 謂之宋志。稱宋、亦以成宋志。 【読み】 之を宋の志と謂う。宋と稱するは、亦以て宋の志を成すなり。 彭城降晉。晉人以宋五大夫在彭城者歸、寘諸瓠丘。彭城降不書、賤略之。瓠丘、晉地。河東東垣縣東南有壺丘。五大夫、魚石・向爲人・鱗朱・向帶・魚府。○降、戶江反。瓠、侯吳反。一戶故反。 【読み】 彭城晉に降る。晉人宋の五大夫の彭城に在る者を以[い]て歸り、諸を瓠丘[こきゅう]に寘く。彭城降ること書さざるは、賤しければ之を略するなり。瓠丘は、晉の地。河東東垣縣の東南に壺丘有り。五大夫は、魚石・向爲人・鱗朱・向帶・魚府。○降は、戶江反。瓠は、侯吳反。一に戶故反。 齊人不會彭城。晉人以爲討。二月、齊大子光爲質於晉。光、齊靈公大子。 【読み】 齊人彭城に會せず。晉人以て討ずることを爲す。二月、齊の大子光晉に質と爲る。光は、齊の靈公の大子。 夏、五月、晉韓厥・荀偃帥諸侯之師伐鄭、入其郛、荀偃不書、非元帥。○郛、芳夫反。 【読み】 夏、五月、晉の韓厥・荀偃諸侯の師を帥いて鄭を伐ち、其の郛[ふ]に入り、荀偃書さざるは、元帥に非ざればなり。○郛は、芳夫反。 敗其徒兵於洧上。徒兵、步兵。洧水出密縣、東南至長平入潁。○洧、于軌反。 【読み】 其の徒兵を洧上[いじょう]に敗る。徒兵は、步兵。洧水は密縣に出でて、東南して長平に至りて潁に入る。○洧は、于軌反。 於是東諸侯之師、次于鄫、以待晉師、齊・魯・曹・邾・杞。 【読み】 是に於て東諸侯の師は、鄫に次りて、以て晉の師を待ち、齊・魯・曹・邾・杞。 晉師自鄭以鄫之師侵楚焦夷、及陳。於是孟獻子自鄫先歸、不與侵陳・楚。故不書。○焦、如字。又在堯反。 【読み】 晉の師は鄭より鄫の師を以て楚の焦夷を侵して、陳に及ぶ。是に於て孟獻子鄫より先ず歸り、陳・楚を侵すに與らず。故に書さず。○焦は、字の如し。又在堯反。 晉侯・衛侯次于戚、以爲之援。爲韓厥援。 【読み】 晉侯・衛侯は戚に次りて、以て之が援けを爲す。韓厥が援けを爲す。 秋、楚子辛救鄭、侵宋呂・留。呂・留二縣、今屬彭城郡。 【読み】 秋、楚の子辛鄭を救いて、宋の呂・留を侵す。呂・留二縣は、今彭城郡に屬す。 鄭子然侵宋、取犬丘。譙國酇縣東北有犬丘城。迂廻疑。○酇、才河反。又子旦反。迂、音于。 【読み】 鄭の子然宋を侵して、犬丘を取る。譙國酇縣の東北に犬丘城有り。迂廻なれば疑わし。○酇は、才河反。又子旦反。迂は、音于。 九月、邾子來朝。禮也。邾宣公。 【読み】 九月、邾子來朝す。禮なり。邾の宣公。 冬、衛子叔・晉知武子來聘。禮也。 【読み】 冬、衛の子叔・晉の知武子來聘す。禮なり。 凡諸侯卽位、小國朝之、小事大。 【読み】 凡そ諸侯位に卽けば、小國は之に朝し、小は大に事う。 大國聘焉、大字小。 【読み】 大國は聘して、大は小を字[いつく]しむ。 以繼好結信、謀事補闕。禮之大者也。闕、猶過也。禮以安國家利民人爲大。 【読み】 以て好を繼ぎ信を結び、事を謀り闕けたるを補う。禮の大なる者なり。闕は、猶過ちのごとし。禮は國家を安んじ民人を利するを以て大と爲す。 〔經〕二年、春、王正月、葬簡王。無傳。五月而葬。速。 【読み】 〔經〕二年、春、王の正月、簡王を葬る。傳無し。五月にして葬る。速きなり。 鄭師伐宋。書伐、從告。 【読み】 鄭の師宋を伐つ。伐つと書すは、告ぐるに從うなり。 夏、五月、庚寅、夫人姜氏薨。六月、庚辰、鄭伯睔卒。未與襄同盟、而赴以名。庚辰、七月九日。書六月、經誤。○睔、古囷反。又胡忖反。 【読み】 夏、五月、庚寅[かのえ・とら]、夫人姜氏薨ず。六月、庚辰[かのえ・たつ]、鄭伯睔[きん]卒す。未だ襄と同盟せずして、赴[つ]ぐるに名を以てす。庚辰は、七月九日。六月に書すは、經の誤りなり。○睔は、古囷反。又胡忖反。 晉師・宋師・衛甯殖侵鄭。宋雖非卿師重。故敍衛上。 【読み】 晉の師・宋の師・衛の甯殖鄭を侵す。宋卿に非ずと雖も師重し。故に衛の上に敍ず。 秋、七月、仲孫蔑會晉荀罃・宋華元・衛孫林父・曹人・邾人于戚。己丑、葬我小君齊姜。齊、謚也。三月而葬。速。○齊、如字。執心克莊曰齊。 【読み】 秋、七月、仲孫蔑晉の荀罃[じゅんおう]・宋の華元・衛の孫林父・曹人・邾人に戚に會す。己丑[つちのと・うし]、我が小君齊姜を葬る。齊は、謚なり。三月にして葬る。速きなり。○齊は、字の如し。執心克莊を齊と曰う。 叔孫豹如宋。豹於此始自齊還爲卿。 【読み】 叔孫豹宋に如く。豹此に於て始めて齊より還りて卿と爲る。 冬、仲孫蔑會晉荀罃・齊崔杼・宋華元・衛孫林父・曹人・邾人・滕人・薛人・小邾人于戚。遂城虎牢。以逼鄭。 【読み】 冬、仲孫蔑晉の荀罃・齊の崔杼・宋の華元・衛の孫林父・曹人・邾人・滕人・薛人・小邾人に戚に會す。遂に虎牢に城く。以て鄭に逼る。 楚殺其大夫公子申。 【読み】 楚其の大夫公子申を殺す。 〔傳〕二年、春、鄭師侵宋、楚令也。以彭城故。 【読み】 〔傳〕二年、春、鄭の師宋を侵すは、楚の令なり。彭城を以ての故なり。 齊侯伐萊。萊人使正輿子賂夙沙衛以索馬牛皆百匹。夙沙衛、齊寺人。索、簡擇好者。○索、所白反。 【読み】 齊侯萊を伐つ。萊人正輿子をして夙沙衛に賂いて索[えら]べる馬牛皆百匹を以てせしむ。夙沙衛は、齊の寺人。索は、好き者を簡擇するなり。○索は、所白反。 齊師乃還。 【読み】 齊の師乃ち還る。 君子是以知齊靈公之爲靈也。謚法、亂而不損曰靈。言謚應其行。 【読み】 君子是を以て齊の靈公の靈爲るを知れり。謚法に、亂れて損せざるを靈と曰う。謚其の行いに應ずるを言う。 夏、齊姜薨。 【読み】 夏、齊姜薨ず。 初、穆姜使擇美檟、檟、梓之屬。○檟、古雅反。 【読み】 初め、穆姜美檟[びか]を擇ばしめ、檟は、梓の屬。○檟は、古雅反。 以自爲櫬與頌琴。櫬、棺也。頌琴、琴名。猶言雅琴。皆欲以送終。○櫬、初覲反。 【読み】 以て自ら櫬[しん]と頌琴とに爲る。櫬は、棺なり。頌琴は、琴の名。猶雅琴と言うがごとし。皆以て終わりを送らんと欲す。○櫬は、初覲反。 季文子取以葬。 【読み】 季文子取りて以て葬る。 君子曰、非禮也。禮無所逆。婦養姑者也。虧姑以成婦、逆莫大焉。穆姜、成公母。齊姜、成公婦。○養、余亮反。 【読み】 君子曰く、禮に非ざるなり。禮は逆う所無し。婦は姑を養う者なり。姑を虧[か]きて以て婦を成すは、逆焉より大なるは莫し。穆姜は、成公の母。齊姜は、成公の婦。○養は、余亮反。 詩曰、其惟哲人、告之話言、順德之行。詩、大雅。哲、知也。話、善也。言知者行事無不順。○話、古怪反。知、音致。 【読み】 詩に曰く、其れ惟れ哲人は、之に話言を告ぐれば、順いて德の行をす、と。詩は、大雅。哲は、知なり。話は、善きなり。言うこころは、知者は事を行うに順ならざること無し。○話は、古怪反。知は、音致。 季孫於是爲不哲矣。言逆德。 【読み】 季孫是に於て不哲爲り。德に逆うを言う。 且姜氏、君之妣也。襄公適母。故曰君之妣。 【読み】 且つ姜氏は、君の妣なり。襄公の適母。故に君の妣と曰う。 詩曰、爲酒爲醴、烝畀祖妣、以洽百禮、降福孔偕。詩、周頌。烝、進也。畀、與也。偕、偏也。言敬事祖妣、則鬼神降福。季孫葬姜氏不以禮。是不敬祖妣。 【読み】 詩に曰く、酒を爲り醴[れい]を爲り、祖妣に烝畀[じょうひ]して、以て百禮を洽[あまね]くすれば、福を降すこと孔[はなは]だ偕[あまね]し、と。詩は、周頌。烝は、進むなり。畀は、與うるなり。偕は、偏きなり。祖妣に敬事すれば、則ち鬼神福を降すを言う。季孫姜氏を葬るに禮を以てせず。是れ祖妣を敬せざるなり。 齊侯使諸姜宗婦來送葬。宗婦、同姓大夫之婦。婦人越疆送葬、非禮。 【読み】 齊侯諸姜と宗婦とをして來りて葬を送らしむ。宗婦は、同姓の大夫の婦。婦人疆を越えて葬を送るは、禮に非ず。 召萊子。萊子不會。故晏弱城東陽以偪之。爲六年、滅萊傳。東陽、齊竟上邑。 【読み】 萊子を召す。萊子會せず。故に晏弱東陽に城きて以て之に偪る。六年、萊を滅ぼす爲の傳なり。東陽は、齊の竟上の邑。 鄭成公疾。子駟請息肩於晉。欲辟楚役。以負擔喩。○擔、都暫反。 【読み】 鄭の成公疾む。子駟肩を晉に息えんと請う。楚の役を辟けんと欲す。負擔を以て喩う。○擔は、都暫反。 公曰、楚君以鄭故、親集矢於其目。謂鄢陵戰、晉射楚王目。○射、食亦反。 【読み】 公曰く、楚の君鄭の故を以て、親ら矢を其の目に集[とど]めたり。鄢陵の戰に、晉楚王の目を射るを謂う。○射は、食亦反。 非異人任。寡人也。言楚子任此患、不爲他人、蓋在己。○非異人任、絶句。任、音壬。一讀、至人字絶句。 【読み】 異人の任に非ず。寡人のなり。言うこころは、楚子此の患えに任ずるは、他人の爲ならず、蓋し己に在り。○非異人任は、絶句。任は、音壬。一に讀みて、至人の字は絶句。 若背之、是棄力與言。其誰暱我。言、盟誓之言。○力、服本作功。暱、女乙反。 【読み】 若し之に背かば、是れ力と言とを棄つるなり。其れ誰か我を暱[した]しまん。言は、盟誓の言なり。○力は、服本功に作る。暱[じつ]は、女乙反。 免寡人、唯二三子。 【読み】 寡人を免れしむるは、唯二三子なり。 秋、七月、庚辰、鄭伯睔卒。於是子罕當國、攝君事。 【読み】 秋、七月、庚辰、鄭伯睔卒す。是に於て子罕國に當たり、君の事を攝す。 子駟爲政、爲正卿。 【読み】 子駟政を爲し、正卿爲り。 子國爲司馬。晉師侵鄭。晉伐喪、非禮。 【読み】 子國司馬爲り。晉の師鄭を侵す。晉喪を伐つは、禮に非ず。 諸大夫欲從晉。子駟曰、官命未改。成公未葬、嗣君未免喪。故言未改。不欲違先君意。 【読み】 諸大夫晉に從わんことを欲す。子駟曰く、官命未だ改まらず、と。成公未だ葬らず、嗣君未だ喪を免[ぬ]がず。故に未だ改まらずと言う。先君の意に違うことを欲せず。 會于戚、謀鄭故也。鄭久叛晉。謀討之。 【読み】 戚に會するは、鄭の故を謀るなり。鄭久しく晉に叛く。之を討ぜんことを謀る。 孟獻子曰、請城虎牢以偪鄭。虎牢、舊鄭邑。今屬晉。 【読み】 孟獻子曰く、請う、虎牢に城きて以て鄭に偪らん、と。虎牢は、舊鄭の邑。今晉に屬す。 知武子曰、善。鄫之會、吾子聞崔子之言。今不來矣。元年、孟獻子與齊崔杼次于鄫。崔杼有不服晉之言。獻子以告知武子。 【読み】 知武子曰く、善し。鄫[しょう]の會に、吾子崔子の言を聞けり。今來らず。元年、孟獻子齊の崔杼と鄫に次る。崔杼晉に服せざるの言有り。獻子以て知武子に告ぐ。 滕・薛・小邾之不至、皆齊故也。三國、齊之屬。 【読み】 滕・薛・小邾の至らざるは、皆齊の故なり。三國は、齊の屬。 寡君之憂不唯鄭。言復憂齊叛。○復、扶又反。下同。 【読み】 寡君の憂えは唯鄭のみにあらず。復齊の叛くを憂うるを言う。○復は、扶又反。下も同じ。 罃將復於寡君而請於齊。以城事白晉君、而請齊會之、欲以觀齊志。 【読み】 罃將に寡君に復[もう]して齊に請わんとす。城く事を以て晉君に白[もう]して、齊に之に會せんことを請いて、以て齊の志を觀んと欲す。 得請而告、吾子之功也。得請、謂齊人應命、告諸侯會、築虎牢。 【読み】 請うことを得て告げば、吾子の功なり。請うことを得るとは、齊人命に應じ、諸侯に會を告げ、虎牢に築くを謂う。 若不得請、事將在齊。將伐齊。 【読み】 若し請うことを得ずんば、事將に齊に在らんとす。將に齊を伐たんとす。 吾子之請、諸侯之福也。城虎牢、足以服鄭息征伐。 【読み】 吾子の請いは、諸侯の福なり。虎牢に城くは、以て鄭を服して征伐を息むるに足る。 豈惟寡君賴之。傳言荀罃能用善謀。 【読み】 豈惟寡君のみ之に賴らんや、と。傳荀罃能く善謀を用ゆるを言う。 穆叔聘于宋、通嗣君也。 【読み】 穆叔宋に聘するは、嗣君を通ずるなり。 冬、復會于戚。齊崔武子及滕・薛・小邾之大夫皆會。知武子之言故也。武子言、事將在齊。齊人懼、帥小國而會之。 【読み】 冬、復戚に會す。齊崔武子と滕・薛・小邾の大夫と皆會す。知武子の言の故なり。武子言う、事將に齊に在らんとす、と。齊人懼れ、小國を帥いて之に會す。 遂城虎牢。鄭人乃成。如孟獻子之謀。 【読み】 遂に虎牢に城く。鄭人乃ち成[たい]らぐ。孟獻子の謀の如し。 楚公子申爲右司馬、多受小國之賂、以偪子重・子辛。偪奪其權勢。 【読み】 楚の公子申右司馬と爲り、多く小國の賂を受けて、以て子重・子辛に偪る。其の權勢を偪り奪う。 楚人殺之。故書曰楚殺其大夫公子申。言所以致國討之文。 【読み】 楚人之を殺す。故に書して楚其の大夫公子申を殺すと曰う。國討の文を致す所以を言う。 〔經〕三年、春、楚公子嬰齊帥師伐吳。公如晉。夏、四月、壬戌、公及晉侯盟于長樗。晉侯出其國都、與公盟於外。○樗、勑居反。 【読み】 〔經〕三年、春、楚の公子嬰齊師を帥いて吳を伐つ。公晉に如く。夏、四月、壬戌[みずのえ・いぬ]、公晉侯と長樗[ちょうちょ]に盟う。晉侯其の國都を出でて、公と外に盟う。○樗は、勑居反。 公至自晉。無傳。不以長樗至、本非會。 【読み】 公晉より至る。傳無し。長樗を以て至るとせざるは、本會に非ざればなり。 六月、公會單子・晉侯・宋公・衛侯・鄭伯・莒子・邾子・齊世子光。己未、同盟于雞澤。雞澤、在廣平曲梁縣西南。周靈王新卽位、使王官伯出、與諸侯盟、以安王室。故無譏。 【読み】 六月、公單子・晉侯・宋公・衛侯・鄭伯・莒子・邾子[ちゅし]・齊の世子光に會す。己未[つちのと・ひつじ]、雞澤に同盟す。雞澤は、廣平曲梁縣の西南に在り。周の靈王新たに位に卽き、王官の伯をして出でて、諸侯と盟わしめて、以て王室を安んず。故に譏り無し。 陳侯使袁僑如會。陳疾楚政、而來屬晉。本非召會而自來。故言如會。 【読み】 陳侯袁僑をして會に如かしむ。陳楚の政を疾[にく]みて、來りて晉に屬す。本召會に非ずして自ら來る。故に會に如くと言う。 戊寅、叔孫豹及諸侯之大夫及陳袁僑盟。諸侯旣盟、袁僑乃至。故使大夫別與之盟。言諸侯之大夫、則在雞澤之諸侯也。殊袁僑者、明諸侯大夫所以盟、盟袁僑也。據傳、盟在秋。長曆推、戊寅、七月十三日。經誤。 【読み】 戊寅[つちのえ・とら]、叔孫豹諸侯の大夫と及[とも]に陳の袁僑と盟う。諸侯旣に盟いて、袁僑乃ち至る。故に大夫をして別に之と盟わしむ。諸侯の大夫と言うは、則ち雞澤に在るの諸侯なり。袁僑を殊にするは、諸侯大夫の盟う所以は、袁僑に盟うことを明らかにするなり。傳に據れば、盟は秋に在り。長曆をもって推すに、戊寅は、七月十三日なり。經の誤りなり。 秋、公至自會。無傳。 【読み】 秋、公會より至る。傳無し。 冬、晉荀罃帥師伐許。 【読み】 冬、晉の荀罃[じゅんおう]師を帥いて許を伐つ。 〔傳〕三年、春、楚子重伐吳。爲簡之師、簡、選練。 【読み】 〔傳〕三年、春、楚の子重吳を伐つ。簡[えら]べる師を爲し、簡は、選練。 克鳩玆、至于衡山。鳩玆、吳邑。在丹陽蕪湖縣東。今皐夷也。衡山、在吳興烏程縣南。 【読み】 鳩玆に克ち、衡山に至る。鳩玆は、吳の邑。丹陽蕪湖縣の東に在り。今の皐夷なり。衡山は、吳興の烏程縣の南に在り。 使鄧廖帥組甲三百・被練三千、組甲・被練、皆戰備也。組甲、漆甲成組文。被練、練袍。○廖、力彫反。組、音祖。被、去聲。 【読み】 鄧廖[とうりょう]をして組甲三百・被練三千を帥いて、組甲・被練は、皆戰備なり。組甲は、甲に漆して組文を成すなり。被練は、練袍なり。○廖は、力彫反。組は、音祖。被は、去聲。 以侵吳。吳人要而擊之、獲鄧廖。其能免者、組甲八十、被練三百而已。 【読み】 以て吳を侵さしむ。吳人要[むか]えて之を擊ち、鄧廖を獲。其の能く免る者は、組甲八十、被練三百のみ。 子重歸、旣飮至。三日、吳人伐楚、取駕。 【読み】 子重歸り、旣に飮至す。三日ありて、吳人楚を伐ちて、駕を取る。 駕、良邑也。鄧廖、亦楚良也。君子謂、子重於是役也、所獲不如所亡。當時君子。○要、於遙反。 【読み】 駕は、良邑なり。鄧廖も、亦楚の良なり。君子謂えらく、子重是の役に於てや、獲る所亡[うしな]う所に如かず、と。當時の君子。○要は、於遙反。 楚人以是咎子重。子重病之、遂遇心疾而卒。憂恚。故成心疾。 【読み】 楚人是を以て子重を咎む。子重之を病[うれ]え、遂に心疾に遇いて卒す。憂恚[ゆうい]す。故に心疾を成す。 公如晉、始朝也。公卽位而朝。 【読み】 公晉に如くは、始めて朝するなり。公位に卽きて朝す。 夏、盟于長樗。孟獻子相。公稽首。相儀也。稽首、首至地。 【読み】 夏、長樗に盟う。孟獻子相[たす]く。公稽首す。儀を相くるなり。稽首は、首地に至るなり。 知武子曰、天子在。而君辱稽首。寡君懼矣。稽首、事天子之禮。 【読み】 知武子曰く、天子在[いま]す。而るを君辱く稽首す。寡君懼る、と。稽首は、天子に事うるの禮。 孟獻子曰、以敝邑介在東表、密邇仇讎、仇讎、謂齊・楚與晉爭。 【読み】 孟獻子曰く、敝邑の東表に介在して、仇讎に密邇するを以て、仇讎は、齊・楚と晉と爭うを謂う。 寡君將君是望。敢不稽首。傳言獻子能固事盟主。 【読み】 寡君將に君を是れ望まんとす。敢えて稽首せざらんや、と。傳獻子能く固く盟主に事うるを言う。 晉爲鄭服故、且欲脩吳好。鄭服在前年。 【読み】 晉鄭の服する爲の故に、且吳の好を脩めんと欲す。鄭の服するは前年に在り。 將合諸侯。使士匃告于齊曰、寡君使匃。以歲之不易、不虞之不戒、寡君願與一二兄弟相見、不易、多難也。虞、度也。戒、備也。列國之君、相謂兄弟。○易、以豉反。 【読み】 將に諸侯を合わせんとす。士匃[しかい]をして齊に告げしめて曰く、寡君匃を使いす。歲の易からざると、不虞の戒めざるを以て、寡君願わくは一二の兄弟と相見えて、易からざるは、難多きなり。虞は、度るなり。戒は、備うるなり。列國の君、兄弟と相謂う。○易は、以豉反。 以謀不協。請君臨之。使匃乞盟。齊侯欲勿許。而難爲不協。乃盟於耏外。與士匃盟。耏、水名。○耏、音而。 【読み】 以て不協を謀らんとす。君の之に臨まんことを請う。匃をして盟を乞わしむ、と。齊侯許すこと勿からんと欲す。而れども不協爲るに難[はばか]る。乃ち耏外[じがい]に盟う。士匃と盟う。耏は、水の名。○耏は、音而。 祁奚請老。老、致仕。 【読み】 祁奚[きけい]老を請う。老は、致仕なり。 晉侯問嗣焉。嗣續其職者。 【読み】 晉侯嗣を問う。其の職を嗣續する者。 稱解狐。其讎也。將立之而卒。解狐卒。○解、音蟹。 【読み】 解狐を稱す。其の讎なり。將に之を立てんとして卒す。解狐卒す。○解は、音蟹。 又問焉。對曰、午也可。午、祁奚子。 【読み】 又問う。對えて曰く、午や可なり、と。午は、祁奚の子。 於是羊舌職死矣。晉侯曰、孰可以代之。對曰、赤也可。赤、職之子、伯華。 【読み】 是に於て羊舌職死す。晉侯曰く、孰か以て之に代う可き、と。對えて曰く、赤や可なり、と。赤は、職の子、伯華。 於是使祁午爲中軍尉、羊舌赤佐之。各代其父。 【読み】 是に於て祁午をして中軍の尉爲らしめて、羊舌赤之に佐たり。各々其の父に代わる。 君子謂、祁奚於是能舉善矣。稱其讎、不爲諂、立其子、不爲比、舉其偏、不爲黨。諂、媚也。偏、屬也。○諂、他檢反。比、毗志反。 【読み】 君子謂えらく、祁奚是に於て能く善を舉げたり。其の讎を稱して、諂えりと爲さず、其の子を立てて、比すると爲さず、其の偏を舉げて、黨すと爲さず。諂は、媚びるなり。偏は、屬なり。○諂は、他檢反。比は、毗志反。 商書曰、無偏無黨、王道蕩蕩、商書、洪範也。蕩蕩、平正無私。 【読み】 商書に曰く、偏無く黨無く、王道蕩蕩たりとは、商書は、洪範なり。蕩蕩は、平正にして私無きなり。 其祁奚之謂矣。解狐得舉、未得位。故曰得舉。 【読み】 其れ祁奚を謂うなり。解狐舉を得、未だ位を得ず。故に舉を得と曰う。 祁午得位、伯華得官。建一官而三物成、一官、軍尉。物、事也。 【読み】 祁午位を得、伯華官を得たり。一官を建てて三物成りしは、一官は、軍尉。物は、事なり。 能舉善也夫。唯善。故能舉其類。詩云、惟其有之。是以似之。祁奚有焉。詩、小雅。言唯有德之人、能舉似己者也。○夫、音扶。絕句。一讀、夫爲下句首。 【読み】 能く善を舉ぐればなるかな。唯善なり。故に能く其の類を舉げたり。詩に云う、惟其れ之れ有り。是を以て之に似たるをす、と。祁奚焉れ有り、と。詩は、小雅。唯德有るの人のみ、能く己に似たる者を舉ぐるを言う。○夫は、音扶。絕句。一に讀みて、夫は下の句の首めと爲す。 六月、公會單頃公及諸侯。己未、同盟于雞澤。單頃公、王卿士。○頃、音傾。 【読み】 六月、公單頃公[ぜんけいこう]と諸侯とに會す。己未、雞澤に同盟す。單頃公は、王の卿士。○頃は、音傾。 晉侯使荀會逆吳子于淮上。吳子不至。道遠多難。 【読み】 晉侯荀會をして吳子を淮上に逆えしむ。吳子至らず。道遠くして難多し。 楚子辛爲令尹、侵欲於小國。陳成公使袁僑如會求成。患楚侵欲。袁僑、濤塗四世孫。 【読み】 楚の子辛令尹と爲り、小國を侵欲す。陳の成公袁僑をして會に如きて成[たい]らぎ求めしむ。楚の侵欲を患う。袁僑は、濤塗が四世の孫。 晉侯使和組父告于諸侯。告陳服。 【読み】 晉侯和組父をして諸侯に告げしむ。陳の服するを告ぐ。 秋、叔孫豹及諸侯之大夫及陳袁僑盟、陳請服也。其君不來。使大夫盟之、匹敵之宜。 【読み】 秋、叔孫豹諸侯の大夫と及に陳の袁僑と盟うとは、陳服せんことを請えるなり。其の君來らず。大夫をして之に盟わしむるは、匹敵の宜なり。 晉侯之弟揚干、亂行於曲梁。行、陳次。○行、戶郎反。注同。陳、直覲反。 【読み】 晉侯の弟揚干、行を曲梁に亂る。行は、陳の次。○行は、戶郎反。注も同じ。陳は、直覲反。 魏絳戮其僕。僕、御也。 【読み】 魏絳其の僕を戮す。僕は、御なり。 晉侯怒。謂羊舌赤曰、合諸侯以爲榮也。揚干爲戮。何辱如之。必殺魏絳。無失也。對曰、絳無貳志。事君不辟難、有罪不逃刑。其將來辭。何辱命焉。言終。魏絳至、授僕人書、僕人、晉侯御僕。 【読み】 晉侯怒る。羊舌赤に謂いて曰く、諸侯を合わすは以て榮爲り。揚干戮せらる。何の辱か之に如かんや。必ず魏絳を殺せ。失うこと無かれ、と。對えて曰く、絳は貳志無し。君に事えて難を辟けず、罪有りて刑を逃げず。其れ將に來り辭せんとす。何ぞ命を辱くせん、と。言終わる。魏絳至り、僕人に書を授けて、僕人は、晉侯の御僕。 將伏劒。士魴・張老止之。公讀其書曰、日君乏使、使臣斯司馬。斯、此也。 【読み】 將に劒に伏さんとす。士魴・張老之を止む。公其の書を讀むに曰く、日[さき]に君使いに乏しく、臣をして斯の司馬たらしめり。斯は、此なり。 臣聞師衆以順爲武、順莫敢違。 【読み】 臣聞く、師衆は順を以て武と爲し、順は敢えて違うこと莫し。 軍事有死無犯爲敬。守官行法。雖死不敢有違。 【読み】 軍事は死すること有るも犯すこと無きを敬と爲す、と。官を守りて法を行う。死すと雖も敢えて違うこと有らず。 君合諸侯。臣敢不敬。君師不武、執事不敬、罪莫大焉。臣懼其死以及揚干、無所逃罪、懼自犯不武不敬之罪。 【読み】 君諸侯を合す。臣敢えて敬せざらんや。君の師武ならず、執事敬せざるは、罪焉より大なるは莫し。臣其の死の以て揚干に及び、罪を逃るる所無からんことを懼れて、自ら不武不敬の罪を犯さんことを懼る。 不能致訓、至於用鉞、用鉞、斬揚干之僕。 【読み】 訓えを致すこと能わずして、鉞[えつ]を用ゆるに至りしは、鉞を用ゆるは、揚干の僕を斬るなり。 臣之罪重。敢有不從以怒君心。言不敢不從戮。 【読み】 臣の罪重し。敢えて從わずして以て君の心を怒らすこと有らんや。敢えて戮に從わずんばあらざるを言う。 請歸死於司寇。致尸於司寇、使戮之。 【読み】 請う、死を司寇に歸せん、と。尸を司寇に致して、之を戮せしむ。 公跣而出曰、寡人之言、親愛也。吾子之討、軍禮也。寡人有弟、弗能敎訓、使干大命、寡人之過也。子無重寡人之過。聽絳死、爲重過。 【読み】 公跣[せん]して出でて曰く、寡人の言は、親愛なり。吾子の討は、軍禮なり。寡人弟有るも、敎訓すること能わずして、大命を干さしめしは、寡人の過ちなり。子寡人の過ちを重ぬること無かれ。絳が死を聽くは、過ちを重ぬると爲す。 敢以爲請。請使無死。 【読み】 敢えて以て請うことを爲す、と。請いて死すること無からしむ。 晉侯以魏絳爲能以刑佐民矣。反役、與之禮食、使佐新軍。羣臣旅會。今欲顯絳。故特爲設禮食。○食、音嗣。又如字。 【読み】 晉侯魏絳を以て能く刑を以て民を佐くと爲す。役より反りて、之に禮食を與えて、新軍に佐たらしむ。羣臣旅會す。今絳を顯さんと欲す。故に特に爲に禮食を設く。○食は、音嗣。又字の如し。 張老爲中軍司馬、代魏絳。 【読み】 張老を中軍司馬と爲し、魏絳に代わる。 士富爲候奄。代張老。士富、士會別族。 【読み】 士富を候奄と爲す。張老に代わる。士富は、士會の別族。 楚司馬公子何忌侵陳、陳叛故也。 【読み】 楚の司馬公子何忌陳を侵すは、陳叛く故なり。 許靈公事楚、不會于雞澤。冬、晉知武子帥師伐許。 【読み】 許の靈公楚に事えて、雞澤に會せず。冬、晉の知武子師を帥いて許を伐つ。 〔經〕四年、春、王三月、己酉、陳侯午卒。前年、大夫盟雞澤。三月無己酉。日誤。 【読み】 〔經〕四年、春、王の三月、己酉[つちのと・とり]、陳侯午卒す。前年、大夫雞澤に盟えり。三月に己酉無し。日の誤りなり。 夏、叔孫豹如晉。秋、七月、戊子、夫人姒氏薨。成公妾。襄公母。姒、杞姓。 【読み】 夏、叔孫豹晉に如く。秋、七月、戊子[つちのえ・ね]、夫人姒氏[じし]薨ず。成公の妾。襄公の母。姒は、杞の姓。 葬陳成公。無傳。 【読み】 陳の成公を葬る。傳無し。 八月、辛亥、葬我小君定姒。無傳。定、謚也。赴同祔姑、反哭成喪。皆以正夫人禮、母以子貴。踰月而葬、速。 【読み】 八月、辛亥[かのと・い]、我が小君定姒を葬る。傳無し。定は、謚なり。同に赴[つ]げ姑に祔し、反哭し喪を成す。皆正夫人の禮を以てするは、母は子を以て貴ければなり。月を踰えて葬るは、速きなり。 冬、公如晉。陳人圍頓。 【読み】 冬、公晉に如く。陳人頓を圍む。 〔傳〕四年、春、楚師爲陳叛故、猶在繁陽。前年、何忌之師侵陳。今猶未還。繁陽、楚地。在汝南鮦陽縣南。○鮦、音紂。一音童。 【読み】 〔傳〕四年、春、楚の師陳叛くが爲の故に、猶繁陽に在り。前年、何忌の師陳を侵す。今猶未だ還らず。繁陽は、楚の地。汝南鮦陽縣の南に在り。○鮦は、音紂。一に音童。 韓獻子患之。言於朝曰、文王帥殷之叛國以事紂、唯知時也。知時未可爭。 【読み】 韓獻子之を患う。朝に言いて曰く、文王殷の叛國を帥いて以て紂に事えしは、唯時を知ればなり。時の未だ爭う可からざるを知るなり。 今我易之。難哉。晉力未能服楚、受陳爲非時。 【読み】 今我れ之を易う。難いかな、と。晉の力未だ楚を服すること能わずして、陳を受くるは時に非ずと爲す。 三月、陳成公卒。楚人將伐陳。聞喪乃止。軍禮、不伐喪。 【読み】 三月、陳の成公卒す。楚人將に陳を伐たんとす。喪を聞きて乃ち止む。軍禮に、喪を伐たず、と。 陳人不聽命。不聽楚命。 【読み】 陳人命を聽かず。楚の命を聽かず。 臧武仲聞之曰、陳不服於楚、必亡。大國行禮焉而不服、在大猶有咎。而況小乎。 【読み】 臧武仲之を聞きて曰く、陳楚に服せずんば、必ず亡びん。大國禮を行いて服せずんば、大に在りても猶咎有り。而るを況んや小をや、と。 夏、楚彭名侵陳。陳無禮故也。爲下陳圍頓傳。 【読み】 夏、楚の彭名陳を侵す。陳禮無き故なり。下の陳頓を圍む爲の傳なり。 穆叔如晉、報知武子之聘也。武子聘、在元年。 【読み】 穆叔晉に如くは、知武子の聘に報ゆるなり。武子の聘は、元年に在り。 晉侯享之。金奏肆夏之三。不拜。肆夏、樂曲名。周禮、以鐘鼓奏九夏。其二曰肆夏。一名樊。三曰韶夏。一名遏。四曰納夏。一名渠。蓋擊鐘而奏此三夏曲。○夏、戶雅反。 【読み】 晉侯之を享す。肆夏の三を金奏す。拜せず。肆夏は、樂曲の名。周禮に、鐘鼓を以て九夏を奏す、と。其の二を肆夏と曰う。一名は樊。三を韶夏と曰う。一名は遏。四を納夏と曰う。一名は渠。蓋し鐘を擊ちて此の三夏曲を奏するならん。○夏は、戶雅反。 工歌文王之三。又不拜。工、樂人也。文王之三、大雅之首、文王・大明・緜。 【読み】 工文王の三を歌う。又拜せず。工は、樂人なり。文王の三は、大雅の首め、文王・大明・緜なり。 歌鹿鳴之三。三拜。小雅之首、鹿鳴・四牡・皇皇者華。 【読み】 鹿鳴の三を歌う。三たび拜す。小雅の首め、鹿鳴・四牡・皇皇者華なり。 韓獻子使行人子員問之、行人、通使之官。○員、音云。使、所吏反。 【読み】 韓獻子行人子員をして之を問わしめて、行人は、通使の官。○員は、音云。使は、所吏反。 曰、子以君命辱於敝邑。先君之禮、藉之以樂、以辱吾子。藉、薦也。○藉、在夜反。 【読み】 曰く、子君命を以て敝邑に辱くす。先君の禮、之に藉[し]くに樂を以てし、以て吾子を辱しむ。藉は、薦[し]くなり。○藉は、在夜反。 吾子舍其大而重拜其細。敢問何禮也。對曰、三夏、天子所以享元侯也。使臣弗敢與聞。元侯、牧伯。○舍、音捨。 【読み】 吾子其の大を舍てて其の細を重拜す。敢えて問う、何の禮ぞや、と。對えて曰く、三夏は、天子の元侯を享する所以なり。使臣敢えて與り聞かず。元侯は、牧伯。○舍は、音捨。 文王、兩君相見之樂也。臣不敢及。及、與也。文王之三、皆稱文王之德、受命作周。故諸侯會同以相樂。○相樂、音洛。 【読み】 文王は、兩君相見るの樂なり。臣敢えて及ばず。及は、與るなり。文王の三は、皆文王の德、命を受けて周を作すを稱す。故に諸侯會同に以て相樂しむ。○相樂は、音洛。 鹿鳴、君所以嘉寡君也。敢不拜嘉。晉以叔孫爲嘉賓。故歌鹿鳴之詩。取其我有嘉賓。叔孫奉君命而來。嘉叔孫、乃所以嘉魯君。 【読み】 鹿鳴は、君の寡君を嘉する所以なり。敢えて嘉を拜せざらんや。晉叔孫を以て嘉賓と爲す。故に鹿鳴の詩を歌う。其の我に嘉賓有りというに取る。叔孫君命を奉じて來る。叔孫を嘉するは、乃ち魯君を嘉する所以なり。 四牡、君所以勞使臣也。敢不重拜。詩言使臣乘四牡、騑騑然行不止勤勞也。晉以叔孫來聘、故以此勞之。○勞、力報反。勤勞、平聲。騑、芳非反。 【読み】 四牡は、君の使臣を勞う所以なり。敢えて重拜せざらんや。詩に使臣四牡に乘りて、騑騑然として行きて止まらずして勤勞するを言う。晉叔孫來聘するを以て、故に此を以て之を勞うなり。○勞は、力報反。勤勞は、平聲。騑は、芳非反。 皇皇者華、君敎使臣曰、必諮於周。皇皇者華、君遣使臣之詩。言忠信奉使、能光輝君命、如華之皇皇然。又當諮于忠信、以補己不及、忠信爲周。其詩曰、周爰諮諏。周爰諮謀。周爰諮度。周爰諮詢。言必於忠信之人、諮此四事。○諏、子須反。度、待洛反。下同。 【読み】 皇皇者華は、君使臣に敎えて曰く、必ず周に諮[と]え、と。皇皇者華は、君使臣を遣るの詩なり。忠信使いを奉じて、能く君命を光輝すること、華の皇皇然たるが如くなるを言う。又當に忠信に諮りて、以て己が及ばざるを補うべし、忠信を周と爲す。其の詩に曰く、周に爰に諮諏す。周に爰に諮謀す。周に爰に諮度す。周に爰に諮詢す、と。必ず忠信の人に於て、此の四事を諮うを言うなり。○諏は、子須反。度は、待洛反。下も同じ。 臣聞之、訪問於善爲咨、問善道。 【読み】 臣之を聞く、善を訪問するを咨と爲し、善道を問う。 咨親爲詢、問親戚之義。 【読み】 親を咨うを詢と爲し、親戚の義を問う。 咨禮爲度、問禮宜。 【読み】 禮を咨うを度と爲し、禮の宜を問う。 咨事爲諏、問政事。 【読み】 事を咨うを諏と爲し、政事を問う。 咨難爲謀。問患難。○難、乃旦反。 【読み】 難を咨うを謀と爲す、と。患難を問う。○難は、乃旦反。 臣獲五善。敢不重拜。五善、謂諮・詢・度・諏・謀。 【読み】 臣五善を獲たり。敢えて重拜せざらんや、と。五善は、諮・詢・度・諏・謀を謂う。 秋、定姒薨。不殯于廟、無櫬、不虞。櫬、親身棺。季孫以定姒本賤、旣無器備。議其喪制、欲殯不過廟、又不反哭。○過、古禾反。 【読み】 秋、定姒薨ず。廟に殯せず、櫬[しん]無く、虞せざらんとす。櫬は、親身の棺。季孫以えらく、定姒本賤しくして、旣に器備無し、と。其の喪制を議して、殯廟を過ぎず、又反哭せざらんことを欲す。○過は、古禾反。 匠慶謂季文子、匠慶、魯大匠。 【読み】 匠慶季文子に謂いて、匠慶は、魯の大匠。 曰、子爲正卿、而小君之喪不成、謂如季孫所議、則爲夫人禮不成。 【読み】 曰く、子正卿として、小君の喪成らざるは、季孫が議する所の如きは、則ち夫人の禮成らずとするを謂う。 不終君也。慢其母、是不終事君之道。 【読み】 君を終えざるなり。其の母を慢るは、是れ君に事うるの道を終えざるなり。 君長、誰受其咎。言襄公長、將責季孫。○長、丁丈反。 【読み】 君長ぜば、誰か其の咎を受けん、と。言うこころは、襄公長ぜば、將に季孫を責めんとす。○長は、丁丈反。 初、季孫爲己樹六檟於蒲圃東門之外。蒲圃、場圃名。季文子樹檟欲自爲櫬。 【読み】 初め、季孫己が爲に六檟[りくか]を蒲圃の東門の外に樹えしむ。蒲圃は、場圃の名。季文子檟を樹えて自ら櫬と爲さんと欲す。 匠慶請木。爲定姒作櫬。 【読み】 匠慶木を請う。定姒の爲に櫬を作る。 季孫曰、略。不以道取爲略。 【読み】 季孫曰く、略せよ、と。道を以てせずして取るを略と爲す。 匠慶用蒲圃之檟。季孫不御。御、止也。傳言遂得成禮。故經無異文。○御、魚呂反。 【読み】 匠慶蒲圃の檟を用ゆ。季孫御[とど]めず。御は、止むるなり。傳遂に禮を成すことを得るを言う。故に經に異文無し。○御は、魚呂反。 君子曰、志所謂多行無禮、必自及也、其是之謂乎。 【読み】 君子曰く、志に所謂多く無禮を行えば、必ず自ら及ぶとは、其れ是を謂うか、と。 冬、公如晉聽政。受貢賦多少之政。 【読み】 冬、公晉に如きて政を聽く。貢賦多少の政を受く。 晉侯享公。公請屬鄫。鄫、小國也。欲得使屬魯、如須句・顓臾之比、使助魯出貢賦。公時年七歲。蓋相者爲之言。鄫、今琅邪鄫縣。 【読み】 晉侯公を享す。公鄫[しょう]を屬せんことを請う。鄫は、小國なり。魯に屬せしめて、須句・顓臾の比の如く、魯を助けて貢賦を出ださしむることを得んと欲す。公時に年七歲。蓋し相者之が爲に言うならん。鄫は、今の琅邪鄫縣。 晉侯不許。孟獻子曰、以寡君之密邇於仇讎、而願固事君、無失官命。晉官徵發之命。 【読み】 晉侯許さず。孟獻子曰く、寡君の仇讎に密邇するを以て、願わくは固く君に事えて、官命を失うこと無からんことを。晉の官の徵發の命。 鄫無賦於司馬。晉司馬。又掌諸侯之賦。 【読み】 鄫は司馬に賦無し。晉の司馬。又諸侯の賦を掌る。 爲執事朝夕之命敝邑、敝邑褊小、闕而爲罪、闕、不共也。○共、音恭。 【読み】 執事朝夕に敝邑に命ずるに、敝邑褊小にして、闕けて罪と爲らんが爲に、闕は、共せざるなり。○共は、音恭。 寡君是以願借助焉。借鄫以自助。○借、子亦反。 【読み】 寡君是を以て借助せんことを願う、と。鄫を借りて以て自ら助く。○借は、子亦反。 晉侯許之。爲明年、叔孫豹・鄫世子巫如晉傳。 【読み】 晉侯之を許す。明年、叔孫豹・鄫の世子巫晉に如く爲の傳なり。 楚人使頓閒陳、而侵伐之。故陳人圍頓。閒、伺閒缺。○閒、去聲。伺、音司。閒、音閑。又去聲。 【読み】 楚人頓をして陳を閒せしめて、之を侵伐せり。故に陳人頓を圍む。閒は、閒缺を伺うなり。○閒は、去聲。伺は、音司。閒は、音閑。又去聲。 無終子嘉父使孟樂如晉、無終、山戎國名。孟樂、其使臣。 【読み】 無終子嘉父孟樂をして晉に如かしめ、無終は、山戎の國の名。孟樂は、其の使臣。 因魏莊子納虎豹之皮、以請和諸戎。欲戎與晉和。莊子、魏絳。 【読み】 魏莊子に因りて虎豹の皮を納れて、以て諸戎を和せんことを請う。戎と晉と和せんことを欲す。莊子は、魏絳。 晉侯曰、戎狄無親而貪。不如伐之。魏絳曰、諸侯新服、陳新來和。將觀於我。我德則睦、否則攜貳。勞師於戎、而楚伐陳、必弗能救。是棄陳也。諸華必叛。諸華、中國。 【読み】 晉侯曰く、戎狄は親無くして貪る。之を伐たんに如かず、と。魏絳曰く、諸侯新たに服して、陳新たに來り和す。將に我を觀んとす。我れ德あれば則ち睦び、否らざれば則ち攜貳す。師を戎に勞して、楚陳を伐たば、必ず救うこと能わじ。是れ陳を棄つるなり。諸華必ず叛かん。諸華は、中國。 戎禽獸也。獲戎失華、無乃不可乎。 【読み】 戎は禽獸なり。戎を獲て華を失わば、乃ち不可なること無からんや。 夏訓有之曰、有窮后羿。夏訓、夏書。有窮、國名。后、君也。羿、有窮君之號。 【読み】 夏訓に之れ有り曰く、有窮の后羿、と。夏訓は、夏書。有窮は、國の名。后は、君なり。羿は、有窮の君の號。 公曰、后羿何如。怪其言不次。故問之。 【読み】 公曰く、后羿とは何如、と。其の言の次あらざるを怪しむ。故に之を問う。 對曰、昔有夏之方衰也、后羿自鉏遷于窮石、因夏民以代夏政。禹孫大康淫放失國、夏人立其弟仲康。仲康亦微弱。仲康卒、子相立。羿遂代相。號曰有窮。鉏、羿本國名。 【読み】 對えて曰く、昔有夏の方に衰うるや、后羿鉏より窮石に遷り、夏の民に因りて以て夏の政に代われり。禹の孫大康淫放にして國を失い、夏人其の弟仲康を立つ。仲康亦微弱なり。仲康卒して、子の相立つ。羿遂に相に代わる。號して有窮と曰う。鉏は、羿の本國の名。 恃其射也、羿善射。 【読み】 其の射を恃めるや、羿射を善す。 不脩民事、而淫于原獸、淫放原野。 【読み】 民事を脩めずして、原獸に淫し、原野に淫放す。 棄武羅・伯因・熊髡・尨圉、四子、皆羿之賢臣。○髡、苦門反。尨、莫邦反。圉、魚呂反。 【読み】 武羅・伯因・熊髡[ゆうこん]・尨圉[ぼうぎょ]を棄てて、四子は、皆羿の賢臣。○髡は、苦門反。尨は、莫邦反。圉は、魚呂反。 而用寒浞。寒浞、伯明氏之讒子弟也。寒、國。北海平壽縣東有寒亭。伯明、其君名。○浞、仕角反。又在角反。 【読み】 寒浞[かんさく]を用ゆ。寒浞は、伯明氏の讒子弟なり。寒は、國。北海平壽縣の東に寒亭有り。伯明は、其の君の名。○浞は、仕角反。又在角反。 伯明后寒棄之、夷羿收之、夷、氏。 【読み】 伯明寒に后として之を棄てしを、夷羿之を收め、夷は、氏。 信而使之、以爲己相。浞行媚于内、内、宮人。 【読み】 信じて之を使いて、以て己が相と爲しぬ。浞媚を内に行いて、内は、宮人。 而施賂于外、愚弄其民、欺罔之。 【読み】 賂を外に施し、其の民を愚弄して、之を欺罔す。 而虞羿于田、樂之以遊田。○樂、音洛。下樂安同。 【読み】 羿を田[かり]に虞[たの]しましめ、之を樂しむるに遊田を以てす。○樂は、音洛。下の樂安同じ。 樹之詐慝、以取其國家。樹、立也。 【読み】 之が詐慝を樹てて、以て其の國家を取らんとす。樹は、立つなり。 外内咸服、信浞詐。 【読み】 外内咸服して、浞が詐りを信ず。 羿猶不悛。悛、改也。○悛、七全反。 【読み】 羿猶悛[あらた]めず。悛は、改むなり。○悛は、七全反。 將歸自田、羿獵還。 【読み】 將に田より歸らんとして、羿獵して還る。 家衆殺而亨之、以食其子。食羿子。○亨、普彭反。食、音嗣。 【読み】 家衆殺して之を亨[に]て、以て其の子に食わしむ。羿が子に食わしむ。○亨は、普彭反。食は、音嗣。 其子不忍食諸、死于窮門。殺之於國門。 【読み】 其の子諸を食うに忍びず、窮門に死す。之を國門に殺す。 靡奔有鬲氏。靡、夏遺臣、事羿者。有鬲、國名。今平原鬲縣。○鬲、音革。 【読み】 靡有鬲氏に奔る。靡は、夏の遺臣にして、羿に事うる者。有鬲は、國の名。今の平原鬲縣。○鬲は、音革。 浞因羿室、就其妃妾。 【読み】 浞羿が室に因りて、其の妃妾に就く。 生澆及豷。恃其讒慝詐僞、而不德于民。使澆用師滅斟灌及斟尋氏、二國、夏同姓諸侯。仲康之子后相所依。樂安壽光縣東南有灌亭。北海平壽縣東南有斟亭。○澆、五弔反。豷、許器反。 【読み】 澆[ぎょう]と豷[き]とを生む。其の讒慝詐僞を恃みて、民に德あらず。澆をして師を用いて斟灌と斟尋氏とを滅ぼさしめ、二國は、夏の同姓の諸侯。仲康の子后相の依る所なり。樂安壽光縣の東南に灌亭有り。北海平壽縣の東南に斟亭有り。○澆は、五弔反。豷は、許器反。 處澆于過、處豷于戈。過・戈、皆國名。東萊掖縣北有過郷。戈、在宋・鄭之閒。○過、古禾反。 【読み】 澆を過に處き、豷を戈[か]に處く。過・戈は、皆國の名。東萊掖縣の北に過郷有り。戈は、宋・鄭の閒に在り。○過は、古禾反。 靡自有鬲氏收二國之燼、燼、遺民。○燼、才刃反。 【読み】 靡有鬲氏より二國の燼を收めて、燼は、遺民。○燼は、才刃反。 以滅浞而立少康。少康、夏后相之子。 【読み】 以て浞を滅ぼして少康を立つ。少康は、夏后相の子。 少康滅澆于過、后杼滅豷于戈。后杼、少康子。○杼、直呂反。 【読み】 少康澆を過に滅ぼし、后杼[こうちょ]豷を戈に滅ぼす。后杼は、少康の子。○杼は、直呂反。 有窮由是遂亡。失人故也。浞因羿室。故不改有窮之號。 【読み】 有窮是に由りて遂に亡びたり。人を失うが故なり。浞羿の室に因る。故に有窮の號を改めず。 昔周辛甲之爲大史也、命百官官箴王闕。辛甲、周武王大史。闕、過也。使百官各爲箴辭戒王過。 【読み】 昔周の辛甲の大史爲るや、百官に命じて官ごとに王の闕けたるを箴[いまし]めしむ。辛甲は、周の武王の大史。闕は、過ちなり。百官をして各々箴辭を爲して王の過ちを戒めしむ。 於虞人之箴、虞人、掌田獵。 【読み】 虞人の箴に於ける、虞人は、田獵を掌る。 曰、芒芒禹跡、畫爲九州。芒芒、遠貌。畫、分也。 【読み】 曰く、芒芒たる禹跡、畫[わ]けて九州と爲す。芒芒は、遠き貌。畫は、分かつなり。 經啓九道、啓開九州之道。 【読み】 九道を經啓して、九州の道を啓き開く。 民有寢廟、獸有茂草、各有攸處、德用不擾。人神各有所歸。故德不亂。○處、如字。 【読み】 民に寢廟有り、獸に茂草有り、各々處る攸有りて、德用て擾[みだ]れず。人神各々歸する所有り。故に德亂れず。○處は、字の如し。 在帝夷羿、冒于原獸、冒、貪也。 【読み】 帝夷羿に在りて、原獸を冒[むさぼ]り、冒は、貪るなり。 忘其國恤、而思其麀牡。言但念獵。 【読み】 其の國恤を忘れて、其の麀牡[ゆうぼ]を思う。但獵を念うを言う。 武不可重。重、猶數也。 【読み】 武は重ぬ可からず。重は、猶數々のごとし。 用不恢于夏家。羿以好武、雖有夏家、而不能恢大之。 【読み】 用て夏家を恢[おお]いにせず。羿武を好むを以て、夏家を有つと雖も、之を恢大[かいだい]にすること能わず。 獸臣司原。敢告僕夫。獸臣、虞人。告僕夫、不敢斥尊。 【読み】 獸臣原を司れり。敢えて僕夫に告ぐ、と。獸臣は、虞人。僕夫に告ぐとは、敢えて尊を斥[さ]さざるなり。 虞箴如是。可不懲乎。 【読み】 虞の箴是の如し。懲りざる可けんや、と。 於是晉侯好田。故魏絳及之。及后羿事。 【読み】 是に於て晉侯田を好む。故に魏絳之に及べり。后羿が事に及ぶ。 公曰、然則莫如和戎乎。對曰、和戎有五利焉。戎狄荐居、貴貨易土。荐、聚也。易、猶輕也。○荐、在薦反。易、以豉反。 【読み】 公曰く、然らば則ち戎を和するに如くは莫きか、と。對えて曰く、戎を和するに五利有り。戎狄は荐居[せんきょ]して、貨を貴びて土を易[かろ]んず。荐は、聚まるなり。易は、猶輕んずるがごとし。○荐は、在薦反。易は、以豉反。 土可賈焉。一也。邊鄙不聳、民狎其野、穡人成功。二也。聳、懼。狎、習也。○賈、音古。 【読み】 土賈う可し。一なり。邊鄙聳[おそ]れず、民其の野に狎れ、穡人功を成す。二なり。聳は、懼るるなり。狎は、習るるなり。○賈は、音古。 戎狄事晉、四鄰振動、諸侯威懷。三也。以德綏戎、師徒不勤、甲兵不頓。四也。頓、壞也。 【読み】 戎狄晉に事えば、四鄰振動して、諸侯威懷せん。三なり。德を以て戎を綏んぜば、師徒勤めずして、甲兵頓[やぶ]れじ。四なり。頓は、壞るなり。 鑒于后羿、而用德度、以后羿爲鑒戒。 【読み】 后羿に鑒みて、德度を用いば、后羿を以て鑒戒と爲す。 遠至邇安。五也。君其圖之。 【読み】 遠きは至り邇きは安からん。五なり。君其れ之を圖れ、と。 公說。使魏絳盟諸戎、脩民事、田以時。傳言晉侯能用善謀。 【読み】 公說ぶ。魏絳をして諸戎に盟わしめ、民事を脩め、田するに時を以てす。傳晉侯能く善謀を用いしを言う。 冬、十月、邾人・莒人伐鄫。臧紇救鄫侵邾、敗于狐駘。臧紇、武仲也。鄫屬魯。故救之。狐駘、邾地。魯國番縣東南有目台亭。○紇、恨發反。駘、徒來反。又勑才反。 【読み】 冬、十月、邾人・莒人鄫を伐つ。臧紇[ぞうこつ]鄫を救いて邾を侵し、狐駘に敗れぬ。臧紇は、武仲なり。鄫魯に屬す。故に之を救う。狐駘は、邾の地。魯國番縣の東南に目台亭有り。○紇は、恨發反。駘は、徒來反。又勑才反。 國人逆喪者皆髽。魯於是乎始髽。髽、麻髮合結也。遭喪者多。故不能備凶服、髽而已。○髽、側瓜反。結、音計。 【読み】 國人の喪を逆うる者皆髽[さ]す。魯是に於て始めて髽す。髽は、麻髮合結するなり。喪に遭う者多し。故に凶服を備うること能わず、髽するのみ。○髽は、側瓜反。結は、音計。 國人誦之曰、臧之狐裘、敗我於狐駘。臧紇時服狐裘。 【読み】 國人之を誦して曰く、臧の狐裘する、我を狐駘に敗れしめり。臧紇時に狐裘を服す。 我君小子、朱儒是使。朱儒朱儒、使我敗於邾。襄公幼弱。故曰小子。臧紇短小。故曰朱儒。敗不書、魯人諱之。 【読み】 我が君小子、朱儒是れ使う。朱儒朱儒、我をして邾に敗れしめり、と。襄公幼弱。故に小子と曰う。臧紇短小。故に朱儒と曰う。敗れ書さざるは、魯人之を諱みてなり。 〔經〕五年、春、公至自晉。夏、鄭伯使公子發來聘。發、子產父。 【読み】 〔經〕五年、春、公晉より至る。夏、鄭伯公子發をして來聘せしむ。發は、子產の父。 叔孫豹・鄫世子巫如晉。比魯大夫。故書巫如晉。 【読み】 叔孫豹・鄫[しょう]の世子巫晉に如く。魯の大夫に比す。故に巫晉に如くと書す。 仲孫蔑・衛孫林父會吳于善道。魯・衛倶受命於晉。故不言及。吳先在善道。二大夫往會之。故曰會吳。善道、地闕。 【読み】 仲孫蔑・衛の孫林父吳に善道に會す。魯・衛倶に命を晉に受く。故に及と言わず。吳先ず善道に在り。二大夫往きて之に會す。故に吳に會すと曰う。善道は、地闕く。 秋、大雩。楚殺其大夫公子壬夫。書名、罪其貪。 【読み】 秋、大いに雩[う]す。楚其の大夫公子壬夫を殺す。名を書すは、其の貪を罪するなり。 公會晉侯・宋公・陳侯・衛侯・鄭伯・曹伯・莒子・邾子・滕子・薛伯・齊世子光・吳人・鄫人于戚。穆叔使鄫人聽命于會。故鄫見經。不復殊吳者、吳來會于戚。 【読み】 公晉侯・宋公・陳侯・衛侯・鄭伯・曹伯・莒子・邾子[ちゅし]・滕子・薛伯・齊の世子光・吳人・鄫人に戚に會す。穆叔鄫人をして命を會に聽かしむ。故に鄫經に見ゆ。復吳を殊にせざるは、吳來りて戚に會すればなり。 公至自會。無傳。 【読み】 公會より至る。傳無し。 冬、戍陳。諸侯在戚會、皆受命戍陳各還國遣戍。不復有告命。故獨書魯戍。 【読み】 冬、陳を戍る。諸侯の戚の會に在る、皆陳を戍るの命を受けて各々國に還りて戍を遣る。復告命有らず。故に獨り魯の戍を書す。 楚公子貞帥師伐陳。公會晉侯・宋公・衛侯・鄭伯・曹伯・齊世子光救陳。十有二月、公至自救陳。無傳。 【読み】 楚の公子貞師を帥いて陳を伐つ。公晉侯・宋公・衛侯・鄭伯・曹伯・齊の世子光に會して陳を救う。十有二月、公陳を救いてより至る。傳無し。 辛未、季孫行父卒。 【読み】 辛未[かのと・ひつじ]、季孫行父卒す。 〔傳〕五年、春、公至自晉。公在晉、旣聽屬鄫、聞其見伐、遙命臧紇出救。故傳稱經公至以明之。 【読み】 〔傳〕五年、春、公晉より至る。公晉に在りて、旣に鄫を屬するを聽[ゆる]され、其の伐たるると聞き、遙かに臧紇に命じて出でて救わしむ。故に傳經の公至るを稱して以て之を明らかにす。 王使王叔陳生愬戎于晉。王叔、周卿士也。戎陵虣周室。故告愬於盟主。○虣、白報反。 【読み】 王王叔陳生をして戎を晉に愬[うった]えしむ。王叔は、周の卿士なり。戎周室を陵虣[りょうほう]す。故に盟主に告愬す。○虣は、白報反。 晉人執之。士魴如京師、言王叔之貳於戎也。王叔反有二心於戎、失奉使之義。故晉執之。 【読み】 晉人之を執う。士魴京師に如き、王叔の戎に貳あるを言う。王叔反って戎に二心有り、使いを奉ずるの義を失う。故に晉之を執う。 夏、鄭子國來聘、通嗣君也。鄭僖公初卽位。 【読み】 夏、鄭の子國來聘するは、嗣君を通ずるなり。鄭の僖公初めて位に卽く。 穆叔覿鄫大子于晉、以成屬鄫。覿、見也。前年、請屬鄫。故將鄫大子巫如晉以成之。○見、賢遍反。 【読み】 穆叔鄫の大子を晉に覿[まみ]えしめて、以て鄫を屬することを成す。覿[てき]は、見るなり。前年、鄫を屬するを請う。故に鄫の大子巫を將[もっ]て晉に如きて以て之を成す。○見は、賢遍反。 書曰叔孫豹・鄫大子巫如晉、言比諸魯大夫也。豹與巫倶受命於魯。故經不書及。比之魯大夫。 【読み】 書して叔孫豹・鄫の大子巫晉に如くと曰うは、諸を魯の大夫に比するを言うなり。豹と巫と倶に命を魯に受く。故に經に及と書さず。之を魯の大夫に比するなり。 吳子使壽越如晉、壽越、吳大夫。 【読み】 吳子壽越をして晉に如かしめ、壽越は、吳の大夫。 辭不會于雞澤之故、三年、會雞澤、吳不至。今來謝之。 【読み】 雞澤に會せざるの故を辭し、三年、雞澤に會するとき、吳至らず。今來りて之を謝す。 且請聽諸侯之好。更請會。 【読み】 且つ諸侯の好を聽かんと請う。更に會を請う。 晉人將爲之合諸侯、使魯・衛先會吳、且告會期。以其道遠、故使魯・衛先告期。○爲、于僞反。 【読み】 晉人將に之が爲に諸侯を合わせんとし、魯・衛をして先ず吳に會し、且つ會期を告げしむ。其の道遠きを以て、故に魯・衛をして先ず期を告げしむ。○爲は、于僞反。 故孟獻子・孫文子會吳于善道。二子皆受晉命而行。 【読み】 故に孟獻子・孫文子吳に善道に會す。二子皆晉の命を受けて行く。 秋、大雩、旱也。雩、夏祭。所以祈甘雨。若旱則又脩其禮。故雖秋雩、非書過也。然經與過雩同文。是以傳每釋之、曰旱也。雩而獲雨。故書雩、而不書旱。 【読み】 秋、大いに雩するは、旱すればなり。雩は、夏の祭。甘雨を祈る所以なり。若し旱すれば則ち又其の禮を脩む。故に秋雩すと雖も、過ぐるを書すに非ざるなり。然れども經過雩と文を同じくす。是を以て傳每に之を釋きて、旱すればなりと曰う。雩して雨を獲。故に雩を書して、旱を書さず。 楚人討陳叛故、討、治也。 【読み】 楚人陳の叛く故を討[おさ]めて、討は、治むるなり。 曰、由令尹子辛實侵欲焉。乃殺之。 【読み】 曰く、令尹子辛が實に侵欲せしに由れり、と。乃ち之を殺す。 書曰楚殺其大夫公子壬夫、貪也。 【読み】 書して楚其の大夫公子壬夫を殺すと曰うは、貪なればなり。 君子謂、楚共王於是不刑。陳之叛楚、罪在子辛。共王旣不能素明法敎、陳叛之日、又不能嚴斷威刑、以謝小國、而擁其罪人、興兵致討。加禮於陳、而陳恨彌篤。乃怨而歸罪子辛。子辛之貪、雖足以取死、然共王用刑、爲失其節。故言不刑。 【読み】 君子謂えらく、楚の共王是に於て不刑なり。陳の楚に叛くは、罪子辛に在り。共王旣に素[あらかじ]め法敎を明らかにすること能わず、陳叛くの日、又嚴斷威刑して、以て小國に謝すること能わずして、其の罪人を擁して、兵を興し討を致す。禮を陳に加うれども、而して陳の恨み彌々篤し。乃ち怨みて罪を子辛に歸す。子辛の貪、以て死を取るに足ると雖も、然れども共王刑を用ゆること、其の節を失うと爲す。故に不刑と言う。 詩曰、周道挺挺。我心扃扃。講事不令、集人來定。逸詩也。挺挺、正直也。扃扃、明察也。講、謀也。言謀事不善、當聚致賢人以定之。○扃、工逈反。 【読み】 詩に曰く、周道挺挺たり。我が心扃扃[けいけい]たり。事を講[はか]りて令[よ]からずば、人を集めて來り定めよ、と。逸詩なり。挺挺は、正直なり。扃扃は、明察なり。講は、謀るなり。事を謀りて善からずば、當に賢人を聚致して以て之を定むべきを言う。○扃は、工逈反。 己則無信、而殺人以逞。不亦難乎。共王伐宋封魚石、背盟敗于鄢陵、殺子反・公子申及壬夫。八年之中、戮殺三卿、欲以屬諸侯。故君子以爲不可。 【読み】 己則ち信無くして、人を殺して以て逞しくす。亦難からずや。共王宋を伐ちて魚石を封じ、盟に背きて鄢陵に敗れ、子反・公子申と壬夫とを殺す。八年の中、三卿を戮殺して、以て諸侯を屬せんと欲す。故に君子以て不可と爲す。 夏書曰、成允成功。亦逸書也。允、信也。言信成然後有成功。 【読み】 夏書に曰く、允を成して功を成す、と。亦逸書なり。允は、信なり。信成りて然して後に成功有るを言う。 九月、丙午、盟于戚、會吳、且命戍陳也。公及其會。而不書盟、非公後會。蓋不以盟告廟。 【読み】 九月、丙午[ひのえ・うま]、戚に盟うは、吳に會し、且陳を戍ることを命ずるなり。公其の會に及べり。而るに盟を書さざるは、公の會に後るるに非ず。蓋し盟を以て廟に告げざるならん。 穆叔以屬鄫爲不利、使鄫大夫聽命于會。鄫近魯竟。故欲以爲屬國。旣而與莒有忿、魯不能救。恐致譴責。故復乞還之。傳言鄫人所以見於戚會。○復、扶又反。見、賢遍反。 【読み】 穆叔鄫を屬するを以て不利と爲し、鄫の大夫をして命を會に聽かしむ。鄫魯の竟に近し。故に以て屬國とせんことを欲す。旣にして莒と忿り有り、魯救うこと能わず。恐れらくは譴責を致さんことを。故に復乞いて之を還す。傳鄫人の戚の會に見る所以を言う。○復は、扶又反。見は、賢遍反。 楚子囊爲令尹。公子貞。 【読み】 楚の子囊令尹と爲る。公子貞。 范宣子曰、我喪陳矣。楚人討貳、而立子囊。必改行、改子辛所行。○喪、息浪反。行、如字。又下孟反。 【読み】 范宣子曰く、我れ陳を喪わん。楚人貳を討じて、子囊を立つ。必ず行いを改めて、子辛の行う所を改む。○喪は、息浪反。行は、字の如し。又下孟反。 而疾討陳。疾、急也。 【読み】 疾く陳を討ぜん。疾は、急なり。 陳近于楚。民朝夕急、能無往乎。有陳非吾事也。無之而後可。言晉力不能及陳。故七年、陳侯逃歸。 【読み】 陳楚に近し。民朝夕に急ならば、能く往くこと無からんや。陳を有つは吾が事に非ざるなり。之れ無くして而して後に可なり、と。晉の力陳に及ぶこと能わざるを言う。故に七年、陳侯逃歸す。 冬、諸侯戍陳。備楚。 【読み】 冬、諸侯陳を戍る。楚に備う。 子囊伐陳。十一月、甲午、會于城棣以救之。公及救陳、而不及會。故不書城棣。城棣、鄭地。陳留酸棗縣西南有棣城。○棣、直計反。一戶妹反。 【読み】 子囊陳を伐つ。十一月、甲午[きのえ・うま]、城棣に會して以て之を救う。公陳を救うに及びて、會に及ばず。故に城棣を書さず。城棣は、鄭の地。陳留酸棗縣の西南に棣城有り。○棣は、直計反。一に戶妹反。 季文子卒。大夫入斂。公在位。在阼階西郷。 【読み】 季文子卒す。大夫入りて斂す。公位に在り。阼階に在りて西に郷[む]かう。 宰庀家器爲葬備。庀、具也。○庀、必婢反。 【読み】 宰家器を庀[そな]えて葬の備えを爲す。庀[ひ]は、具うるなり。○庀は、必婢反。 無衣帛之妾、無食粟之馬、無藏金玉、無重器備。器備、謂珍寶甲兵之物。○衣、於旣反。食、如字。又音嗣。重、如字。又直龍反。 【読み】 帛を衣るの妾無く、粟を食うの馬無く、藏むる金玉無く、重なる器備無し。器備は、珍寶甲兵の物を謂う。○衣は、於旣反。食は、字の如し。又音嗣。重は、字の如し。又直龍反。 君子是以知季文子之忠於公室也。相三君矣。而無私積。可不謂忠乎。○積、子賜反。 【読み】 君子是を以て季文子の公室に忠なるを知れり。三君に相たり。而るに私積[しし]無し。忠と謂わざる可けんや。○積は、子賜反。 〔經〕六年、春、王三月、壬午、杞伯姑容卒。夏、宋華弱來奔。華叔孫。 【読み】 〔經〕六年、春、王三月、壬午[みずのえ・うま]、杞伯姑容卒す。夏、宋の華弱來奔す。華叔が孫。 秋、葬杞桓公。無傳。 【読み】 秋、杞の桓公を葬る。傳無し。 滕子來朝。莒人滅鄫。冬、叔孫豹如邾。季孫宿如晉。行父之子。 【読み】 滕子來朝す。莒人鄫[しょう]を滅ぼす。冬、叔孫豹邾[ちゅ]に如く。季孫宿晉に如く。行父の子。 十有二月、齊侯滅萊。書十二月、從告。 【読み】 十有二月、齊侯萊を滅ぼす。十二月に書すは、告ぐるに從うなり。 〔傳〕六年、春、杞桓公卒。始赴以名。同盟故也。杞入春秋、未嘗書名。桓公三與成同盟。故赴以名。 【読み】 〔傳〕六年、春、杞の桓公卒す。始めて赴[つ]ぐるに名を以てす。同盟の故なり。杞春秋に入りて、未だ嘗て名を書さず。桓公三たび成と同盟す。故に赴ぐるに名を以てす。 宋華弱與樂轡少相狎、長相優、又相謗也。狎、親習也。優、調戲也。○少、詩照反。長、丁丈反。 【読み】 宋の華弱樂轡[がくひ]と少[わか]くして相狎れ、長じて相優[たわむ]れ、又相謗る。狎は、親習なり。優は、調戲なり。○少は、詩照反。長は、丁丈反。 子蕩怒。以弓梏華弱于朝。子蕩、樂轡也。張弓以貫其頸。若械之在手。故曰梏。○梏、古毒反。 【読み】 子蕩怒る。弓を以て華弱を朝に梏す。子蕩は、樂轡なり。弓を張りて以て其の頸を貫く。械の手に在るが若し。故に梏と曰う。○梏は、古毒反。 平公見之曰、司武而梏於朝、難以勝矣。司武、司馬。言其懦弱、不足以勝敵。○懦、乃亂反。又乃臥反。 【読み】 平公之を見て曰く、司武にして朝に梏せらるは、以て勝ち難し、と。司武は、司馬。其の懦弱にして、以て敵に勝つに足らざるを言う。○懦は、乃亂反。又乃臥反。 遂逐之。夏、宋華弱來奔。司城子罕曰、同罪異罰、非刑也。專戮於朝。罪孰大焉。亦逐子蕩。子蕩射子罕之門曰、幾日而不我從。言我射女門。女亦當以不勝任見逐。○射、食亦反。 【読み】 遂に之を逐う。夏、宋の華弱來奔す。司城子罕曰く、罪を同じくして罰を異にするは、刑に非ざるなり。戮を朝に專らにす。罪孰れか焉より大ならん、と。亦子蕩を逐う。子蕩子罕の門を射て曰く、幾日にして我に從わざらんや、と。言うこころは、我れ女の門を射る。女も亦當に任に勝えざるを以て逐わるべし。○射は、食亦反。 子罕善之如初。言子罕雖見辱、不追忿。所以得安。 【読み】 子罕之を善すること初めの如くす。子罕辱めらると雖も、追忿せず。安きを得る所以なるを言う。 秋、滕成公來朝、始朝公也。 【読み】 秋、滕の成公來朝するは、始めて公に朝するなり。 莒人滅鄫、鄫恃賂也。鄫有貢賦之賂在魯。恃之而慢莒。故滅之。 【読み】 莒人鄫を滅ぼすは、鄫賂を恃めばなり。鄫貢賦の賂の魯に在る有り。之を恃みて莒を慢る。故に之を滅ぼす。 冬、穆叔如邾聘。且脩平。平四年、狐駘戰。 【読み】 冬、穆叔邾に如きて聘す。且つ平らぎを脩む。四年、狐駘の戰を平らぐ。 晉人以鄫故來討曰、何故亡鄫。鄫屬魯、恃賂而慢莒。魯不致力輔助、無何以還晉。尋便見滅。故晉責魯。 【読み】 晉人鄫の故を以て來り討じて曰く、何の故に鄫を亡ぼせる、と。鄫魯に屬して、賂を恃みて莒を慢る。魯力を致して輔助せず、何くも無くして以て晉に還す。尋[つい]で便ち滅ぼさる。故に晉魯を責む。 季武子如晉見、且聽命。始代父爲卿、見大國、且謝亡鄫。聽命、受罪。 【読み】 季武子晉に如きて見え、且つ命を聽けり。始めて父に代わりて卿と爲り、大國に見え、且つ鄫を亡ぼすを謝す。命を聽くは、罪を受くるなり。 十一月、齊侯滅萊、萊恃謀也。賂夙沙衛之謀也。事在二年。 【読み】 十一月、齊侯萊を滅ぼすは、萊謀を恃めばなり。夙沙衛に賂うの謀なり。事は二年に在り。 於鄭子國之來聘也四月、晏弱城東陽、而遂圍萊。子國聘在五年。二年、晏弱城東陽。至五年四月、復託治城、因遂圍萊。 【読み】 鄭の子國の來聘するの四月に於て、晏弱東陽に城きて、遂に萊を圍む。子國が聘は五年に在り。二年、晏弱東陽に城く。五年四月に至りて、復城を治むるに託して、因りて遂に萊を圍む。 甲寅、堙之、環城傅於堞。堞、女墻也。堙、土山也。周城爲土山、及女墻。○環、戶關反。又音患。傅、音附。 【読み】 甲寅[きのえ・とら]、之に堙[いん]して、城を環らして堞[ちょう]に傅[つ]く。堞は、女墻なり。堙は、土山なり。城を周らして土山を爲り、女墻に及ぶ。○環は、戶關反。又音患。傅は、音附。 及杞桓公卒之月、此年三月。 【読み】 杞の桓公の卒する月の、此の年の三月。 乙未、王湫帥師及正輿子・棠人軍齊師。王湫、故齊人。成十八年、奔萊。正輿子、萊大夫。棠、萊邑也。北海卽墨縣有棠郷。三人帥別邑兵來解圍。○湫、子小反。 【読み】 乙未[きのと・ひつじ]に及びて、王湫[おうしょう]師を帥いて正輿子・棠人[とうひと]と齊の師に軍す。王湫は、故[もと]齊人。成十八年、萊に奔る。正輿子は、萊の大夫。棠は、萊の邑なり。北海卽墨縣に棠郷有り。三人別邑の兵を帥いて來りて圍を解く。○湫は、子小反。 齊師大敗之。敗湫等。 【読み】 齊の師大いに之を敗る。湫等を敗る。 丁未、入萊。萊共公浮柔奔棠。正輿子・王湫奔莒。莒人殺之。四月、陳無宇獻萊宗器于襄宮。無宇、桓子。陳完玄孫。襄宮、齊襄公廟。 【読み】 丁未[ひのと・ひつじ]、萊に入る。萊の共公浮柔棠に奔る。正輿子・王湫莒に奔る。莒人之を殺す。四月、陳無宇萊の宗器を襄宮に獻ず。無宇は、桓子。陳完の玄孫。襄宮は、齊の襄公の廟。 晏弱圍棠。十一月、丙辰、而滅之、遷萊于郳。遷萊子于郳國。○郳、五兮反。 【読み】 晏弱棠を圍む。十一月、丙辰[ひのえ・たつ]に、之を滅ぼし、萊を郳[げい]に遷す。萊子を郳國に遷す。○郳は、五兮反。 高厚・崔杼定其田。定其疆界。高厚、高固子。 【読み】 高厚・崔杼其の田を定めり。其の疆界を定む。高厚は、高固の子。 〔經〕七年、春、郯子來朝。夏、四月、三卜郊。不從。乃免牲。稱牲、旣卜日也。卜郊、又非禮也。 【読み】 〔經〕七年、春、郯子[たんし]來朝す。夏、四月、三たび郊を卜す。從わず。乃ち牲を免[はな]つ。牲と稱するは、旣に日を卜するなり。郊を卜するは、又禮に非ざるなり。 小邾子來朝。城費。南遺假事難而城之。○費、音祕。難、乃旦反。 【読み】 小邾子[しょうちゅし]來朝す。費に城く。南遺事難を假りて之に城く。○費は、音祕。難は、乃旦反。 秋、季孫宿如衛。八月、螽。無傳。爲災。故書。 【読み】 秋、季孫宿衛に如く。八月、螽[しゅう]あり。傳無し。災を爲す。故に書す。 冬、十月、衛侯使孫林父來聘。壬戌、及孫林父盟。楚公子貞帥師圍陳。十有二月、公會晉侯・宋公・陳侯・衛侯・曹伯・莒子・邾子于鄬。謀救陳。陳侯逃歸不成救。故不書救也。鄬、鄭地。○鄬、于軌反。 【読み】 冬、十月、衛侯孫林父をして來聘せしむ。壬戌[みずのえ・いぬ]、孫林父と盟う。楚の公子貞師を帥いて陳を圍む。十有二月、公晉侯・宋公・陳侯・衛侯・曹伯・莒子・邾子に鄬[い]に會す。陳を救わんことを謀るなり。陳侯逃歸して救を成さず。故に救を書さざるなり。鄬は、鄭の地。○鄬は、于軌反。 鄭伯髡頑如會。未見諸侯。丙戌、卒于鄵。實爲子駟所弑。以瘧疾赴。故不書弑。稱名、爲書卒同盟故也。如會、會於鄬也。未見諸侯、未至會所而死。鄵、鄭地。不欲再稱鄭伯。故約文上其名於會上。○鄵、七報反。又采南反。爲、于僞反。 【読み】 鄭伯髡頑[こんがん]會に如く。未だ諸侯を見ず。丙戌[ひのえ・いぬ]、鄵[そう]に卒す。實は子駟の爲に弑せらるるなり。瘧疾を以て赴[つ]ぐ。故に弑を書さず。名を稱するは、卒を書すと同盟との爲の故なり。會に如くは、鄬に會するなり。未だ諸侯を見ざるとは、未だ會所に至らずして死するなり。鄵は、鄭の地。再び鄭伯と稱することを欲せず。故に文を約して其の名を會の上に上ぐるなり。○鄵は、七報反。又采南反。爲は、于僞反。 陳侯逃歸。畏楚逃晉而歸。 【読み】 陳侯逃げ歸る。楚を畏れ晉を逃れて歸る。 〔傳〕七年、春、郯子來朝、始朝公也。 【読み】 〔傳〕七年、春、郯子來朝するは、始めて公に朝するなり。 夏、四月、三卜郊。不從。乃免牲。 【読み】 夏、四月、三たび郊を卜す。從わず。乃ち牲を免つ。 孟獻子曰、吾乃今而後知有卜筮。夫郊祀后稷、以祈農事也。郊祀后稷以配天。后稷、周始祖。能播殖者。 【読み】 孟獻子曰く、吾れ乃ち今にして後に卜筮有ることを知れり。夫れ后稷を郊祀するは、以て農事を祈るなり。后稷を郊祀して以て天に配す。后稷は、周の始祖。能く播殖する者。 是故啓蟄而郊、郊而後耕。今旣耕而卜郊。宜其不從也。啓蟄、夏正建寅之月。耕、謂春分。○蟄、直立反。 【読み】 是の故に啓蟄にして郊し、郊して後に耕すなり。今旣に耕して郊を卜す。宜なり其の從わざることや、と。啓蟄は、夏正建寅の月。耕は、春分を謂う。○蟄は、直立反。 南遺爲費宰、費、季氏邑。 【読み】 南遺費の宰と爲り、費は、季氏の邑。 叔仲昭伯爲隧正。隧正、主役徒。昭伯、叔仲惠伯之孫。 【読み】 叔仲昭伯隧正と爲る。隧正は、役徒を主る。昭伯は、叔仲惠伯の孫。 欲善季氏、而求媚於南遺。謂遺請城費。使遺請城。 【読み】 季氏に善からんことを欲して、媚を南遺に求めんとす。遺に謂えらく、請うて費に城け。遺をして城くことを請わしむ。 吾多與而役。故季氏城費。傳言祿去公室、季氏所以强。 【読み】 吾れ多く而[なんじ]に役を與えん、と。故に季氏費に城く。傳祿公室を去りて、季氏强き所以を言う。 小邾穆公來朝、亦始朝公也。亦郯子也。 【読み】 小邾の穆公來朝するは、亦始めて公に朝するなり。郯子に亦とするなり。 秋、季武子如衛、報子叔之聘、且辭緩報非貳也。子叔聘在元年。言國家多難、故不時報。 【読み】 秋、季武子衛に如くは、子叔の聘に報いて、且緩[おそ]く報ゆるの貳に非ざるを辭するなり。子叔の聘は元年に在り。國家多難、故に時に報ぜざるを言う。 冬、十月、晉韓獻子告老。公族穆子有廢疾。穆子、韓厥長子。成十八年、爲公族大夫。 【読み】 冬、十月、晉の韓獻子老を告ぐ。公族穆子廢疾有り。穆子は、韓厥の長子。成十八年、公族大夫と爲る。 將立之。代厥爲卿。 【読み】 將に之を立てんとす。厥に代わりて卿と爲す。 辭曰、詩曰、豈不夙夜。謂行多露。詩言雖欲早夜而行、懼多露之濡己。義取非禮不可妄行。 【読み】 辭して曰く、詩に曰く、豈夙夜にせざらんや。行[みち]の露多きを謂[おも]いてなり、と。詩に早夜にして行かんことを欲すと雖も、多露の己を濡らさんことを懼るるを言う。義禮に非ざれば妄りに行う可からざるに取る。 又曰、弗躬弗親、庶民弗信。詩小雅。言譏在位者、不躬親政事、則庶民不奉信其命。言己有疾、不能躬親政事。 【読み】 又曰く、躬[みずか]らせず親[みずか]らせざれば、庶民信ぜず、と。詩は小雅。在位の者、政事を躬親せざれば、則ち庶民其の命を奉信せざるを譏るを言う。己疾有りて、政事を躬親すること能わざるを言うなり。 無忌不才。讓其可乎。請立起也。無忌、穆子名。起、無忌弟、宣子也。 【読み】 無忌不才なり。讓らんこと其れ可ならんや。請う、起を立てよ。無忌は、穆子の名。起は、無忌の弟、宣子なり。 與田蘇游。而曰好仁。田蘇、晉賢人。蘇言起好仁。 【読み】 田蘇と游ぶ。而して仁を好むと曰う。田蘇は、晉の賢人。蘇起仁を好むと言う。 詩曰、靖共爾位、好是正直。神之聽之、介爾景福。靖、安也。介、助也。景、大也。詩、小雅。言君子當思不出其位、求正直之人、與之竝立。如是則神明順之、致大福也。 【読み】 詩に曰く、爾の位を靖共して、是の正直を好せよ。神の之を聽きて、爾の景福を介[たす]けん、と。靖は、安んずるなり。介は、助くなり。景は、大いなり。詩は、小雅。君子當に思うこと其の位を出でず、正直の人を求めて、之と竝び立つべし。是の如くなれば則ち神明之に順いて、大福を致すを言う。 恤民爲德、靖共其位、所以恤民。 【読み】 民を恤うるを德と爲し、其の位を靖共するは、民を恤うる所以なり。 正直爲正、正己心。 【読み】 正直にするを正と爲し、己が心を正しくす。 正曲爲直、正人曲。 【読み】 曲を正すを直と爲し、人の曲を正す。 參和爲仁。德・正・直、三者備、乃爲仁。○參、七南反。或音三。 【読み】 參ながら和するを仁と爲す。德・正・直、三つの者備わるを、乃ち仁と爲す。○參は、七南反。或は音三。 如是則神聽之、介福降之。立之、不亦可乎。言起有此三德。故可立。 【読み】 是の如くなれば則ち神之を聽きて、福を介けて之に降す。之を立てんこと、亦可ならずや、と。言うこころは、起此の三德有り。故に立つ可し。 庚戌、使宣子朝。遂老。韓厥致仕。 【読み】 庚戌[かのえ・いぬ]、宣子をして朝せしむ。遂に老す。韓厥仕を致す。 晉侯謂韓無忌仁。使掌公族大夫。爲之師長。 【読み】 晉侯韓無忌を謂えらく、仁なり、と。公族大夫を掌らしむ。之が師長と爲す。 衛孫文子來聘、且拜武子之言、緩報非貳之言。 【読み】 衛の孫文子來聘し、且武子の言を拜して、緩く報ゆるの貳に非ざるの言。 而尋孫桓子之盟。盟在成三年。 【読み】 孫桓子の盟を尋[かさ]ぬ。盟は成三年に在り。 公登亦登。禮、登階、臣後君一等。 【読み】 公登れば亦登る。禮に、階を登るは、臣君に後るること一等、と。 叔孫穆子相。趨進曰、諸侯之會、寡君未嘗後衛君。敵體竝登。 【読み】 叔孫穆子相[たす]く。趨り進みて曰く、諸侯の會に、寡君未だ嘗て衛君に後れず。敵體は竝び登る。 今吾子不後寡君。寡君未知所過。吾子其少安。安、徐也。 【読み】 今吾子寡君に後れず。寡君未だ過つ所を知らず。吾子其れ少しく安[しず]かにせよ、と。安は、徐[しず]かなり。 孫子無辭、亦無悛容。悛、改也。 【読み】 孫子辭無く、亦悛[あらた]むる容無し。悛は、改むるなり。 穆叔曰、孫子必亡。爲臣而君、過而不悛。亡之本也。詩曰、退食自公。委蛇委蛇。委蛇、順貌。詩、召南。言人臣自公門入私門、無不順禮。 【読み】 穆叔曰く、孫子は必ず亡びん。臣として君をし、過ちて悛めず。亡ぶるの本なり。詩に曰く、公より退食す。委蛇[いい]たり委蛇たり、と。委蛇は、順う貌。詩は、召南。人臣公門より私門に入るまで、禮に順わざること無きを言う。 謂從者也。從、順行。 【読み】 從う者を謂うなり。從は、順行。 衡而委蛇必折。衡、橫也。橫不順道、必毀折。爲十四年、林父逐君起本。 【読み】 衡にして委蛇とすれば必ず折れぬ。衡は、橫なり。橫たわりて道に順わざれば、必ず毀折す。十四年、林父君を逐う爲の起本なり。 楚子囊圍陳。會于鄬以救之。晉會諸侯。 【読み】 楚の子囊陳を圍む。鄬に會して以て之を救う。晉諸侯を會す。 鄭僖公之爲大子也、於成之十六年、魯成公。 【読み】 鄭の僖公の大子爲るや、成の十六年に於て、魯の成公。 與子罕適晉。不禮焉。又與子豐適楚。亦不禮焉。子豐、穆公子。 【読み】 子罕と晉に適く。禮せず。又子豐と楚に適く。亦禮せず。子豐は、穆公の子。 及其元年、朝于晉、鄭僖元年。魯襄三年。 【読み】 其の元年、晉に朝するに及びて、鄭の僖元年。魯の襄三年。 子豐欲愬諸晉而廢之。子罕止之。 【読み】 子豐諸を晉に愬[うった]えて之を廢せんことを欲す。子罕之を止む。 及將會于鄬、子駟相。又不禮焉。侍者諫。不聽。又諫。殺之。及鄵。子駟使賊夜弑僖公、而以瘧疾赴于諸侯。傳言經所以不書弑。 【読み】 將に鄬に會せんとするに及びて、子駟相く。又禮せず。侍者諫む。聽かず。又諫む。之を殺す。鄵に及ぶ。子駟賊をして夜僖公を弑せしめて、瘧疾を以て諸侯に赴[つ]ぐ。傳經に弑を書さざる所以を言う。 簡公生五年。奉而立之。僖公子。 【読み】 簡公生まれて五年なり。奉じて之を立つ。僖公の子。 陳人患楚。楚圍陳故。 【読み】 陳人楚を患う。楚陳を圍む故なり。 慶虎・慶寅謂楚人曰、吾使公子黃往。而執之。二慶、陳執政大夫。黃、哀公弟。 【読み】 慶虎・慶寅楚人に謂いて曰く、吾れ公子黃をして往かしめん。而[なんじ]之を執えよ、と。二慶は、陳の執政の大夫。黃は、哀公の弟。 楚人從之。爲執黃。 【読み】 楚人之に從う。爲に黃を執う。 二慶使告陳侯于會、鄬之會。 【読み】 二慶陳侯に會に告げしめて、鄬の會。 曰、楚人執公子黃矣。君若不來、羣臣不忍社稷宗廟。懼有二圖。背君屬楚。 【読み】 曰く、楚人公子黃を執えたり。君若し來らずんば、羣臣社稷宗廟に忍びず。懼らくは二圖有らん、と。君に背きて楚に屬す。 陳侯逃歸。鄬會所以不書救。 【読み】 陳侯逃げ歸る。鄬の會に救を書さざる所以なり。 〔經〕八年、春、王正月、公如晉。夏、葬鄭僖公。無傳。 【読み】 〔經〕八年、春、王の正月、公晉に如く。夏、鄭の僖公を葬る。傳無し。 鄭人侵蔡。獲蔡公子燮。鄭子國稱人、刺其無故侵蔡、以生國患。燮、蔡莊公子。 【読み】 鄭人蔡を侵す。蔡の公子燮[しょう]を獲たり。鄭の子國人と稱するは、其の故無くして蔡を侵して、以て國患を生ずるを刺[そし]るなり。燮は、蔡の莊公の子。 季孫宿會晉侯・鄭伯・齊人・宋人・衛人・邾人于邢丘。時公在晉。晉悼難勞諸侯、唯使大夫聽命。故季孫在會、而公先歸。○難、乃旦反。 【読み】 季孫宿晉侯・鄭伯・齊人・宋人・衛人・邾人[ちゅひと]に邢丘に會す。時に公晉に在り。晉悼諸侯を勞することを難[はばか]り、唯大夫をして命を聽かしむ。故に季孫會に在りて、公先ず歸る。○難は、乃旦反。 公至自晉。無傳。 【読み】 公晉より至る。傳無し。 莒人伐我東鄙。秋、九月、大雩。冬、楚公子貞帥師伐鄭。晉侯使士匃來聘。 【読み】 莒人我が東鄙を伐つ。秋、九月、大いに雩[う]す。冬、楚の公子貞師を帥いて鄭を伐つ。晉侯士匃[しかい]をして來聘せしむ。 〔傳〕八年、春、公如晉、朝、且聽朝聘之數。晉悼復脩霸業。故朝而稟其多少。○復、扶又反。 【読み】 〔傳〕八年、春、公晉に如くは、朝して、且朝聘の數を聽くなり。晉悼復霸業を脩む。故に朝して其の多少を稟く。○復は、扶又反。 鄭羣公子以僖公之死也、謀子駟。子駟先之。夏、四月、庚辰、辟殺子狐・子煕・子侯・子丁。辟、罪也。加罪以戮之。○先、悉薦反。辟、婢亦反。 【読み】 鄭の羣公子僖公の死するを以てや、子駟を謀る。子駟之に先だつ。夏、四月、庚辰[かのえ・たつ]、辟[つみ]して子狐・子煕・子侯・子丁を殺す。辟は、罪なり。罪を加えて以て之を戮す。○先は、悉薦反。辟は、婢亦反。 孫擊・孫惡出奔衛。二孫、子狐之子。 【読み】 孫擊・孫惡出でて衛に奔る。二孫は、子狐の子。 庚寅、鄭子國・子耳侵蔡、獲蔡司馬公子燮。鄭侵蔡、欲以求媚於晉。子耳、子良之子。不言敗、唯以獲告。 【読み】 庚寅[かのえ・とら]、鄭の子國・子耳蔡を侵して、蔡の司馬公子燮を獲たり。鄭蔡を侵して、以て媚を晉に求めんと欲す。子耳は、子良の子。敗るを言わざるは、唯獲るを以て告ぐればなり。 鄭人皆喜。唯子產不順。子產、子國子。不順衆而喜。 【読み】 鄭人皆喜ぶ。唯子產のみ順わず。子產は、子國の子。衆に順いて喜ばず。 曰、小國無文德而有武功。禍莫大焉。楚人來討、能勿從乎。從之、晉師必至。晉・楚伐鄭。自今鄭國不四五年、弗得寧矣。子國怒之、曰、爾何知。國有大命、而有正卿。童子言焉、將爲戮矣。大命、起師行軍之命。 【読み】 曰く、小國文德無くして武功有り。禍焉より大なるは莫し。楚人來り討ぜば、能く從うこと勿からんや。之に從わば、晉の師必ず至らん。晉・楚鄭を伐たん。今より鄭國四五年ならずば、寧きを得じ、と。子國之を怒りて、曰く、爾何をか知らん。國に大命有れば、正卿有り。童子言う、將に戮せられんとす、と。大命は、師を起こし軍を行うの命。 五月、甲辰、會于邢丘、以命朝聘之數、使諸侯之大夫聽命。季孫宿・齊高厚・宋向戌・衛甯殖・邾大夫會之。晉難重煩諸侯。故使大夫聽命。 【読み】 五月、甲辰[きのえ・たつ]、邢丘に會して、以て朝聘の數を命じ、諸侯の大夫をして命を聽かしむ。季孫宿・齊の高厚・宋の向戌[しょうじゅつ]・衛の甯殖・邾の大夫之に會す。晉重ねて諸侯を煩わすことを難る。故に大夫をして命を聽かしむ。 鄭伯獻捷于會。故親聽命。獻蔡捷也。 【読み】 鄭伯捷を會に獻ず。故に親ら命を聽く。蔡の捷を獻ずるなり。 大夫不書、尊晉侯也。晉悼復文・襄之業、制朝聘之節。儉而有禮、德義可尊。故退諸侯大夫以崇之。 【読み】 大夫書さざるは、晉侯を尊びてなり。晉悼文・襄の業を復し、朝聘の節を制す。儉にして禮有り、德義尊ぶ可し。故に諸侯の大夫を退けて以て之を崇ぶ。 莒人伐我東鄙、以疆鄫田。莒旣滅鄫。魯侵其西界。故伐魯東鄙、以正其封疆。 【読み】 莒人我が東鄙を伐つは、以て鄫[しょう]の田を疆うなり。莒旣に鄫を滅ぼす。魯其の西界を侵す。故に魯の東鄙を伐ちて、以て其の封疆を正す。 秋、九月、大雩、旱也。 【読み】 秋、九月、大雩するは、旱すればなり。 冬、楚子囊伐鄭、討其侵蔡也。 【読み】 冬、楚の子囊鄭を伐つは、其の蔡を侵すを討ずるなり。 子駟・子國・子耳欲從楚。子孔・子蟜・子展欲待晉。待晉來救。子孔、穆公子。子蟜、子游子。子展、子罕子。○蟜、居表反。 【読み】 子駟・子國・子耳楚に從わんと欲す。子孔・子蟜[しきょう]・子展晉を待たんと欲す。晉の來り救うを待つなり。子孔は、穆公の子。子蟜は、子游の子。子展は、子罕の子。○蟜は、居表反。 子駟曰、周詩有之曰、俟河之淸、人壽幾何。逸詩也。言人壽促、而河淸遲。喩晉之不可待。 【読み】 子駟曰く、周詩に之れ有り曰く、河の淸[す]めるを俟[ま]たんも、人壽幾何[いくばく]ぞ。逸詩なり。言うこころは、人壽促[すみ]やかにして、河の淸むは遲し。晉の待つ可からざるに喩う。 兆云詢多、職競作羅。兆、卜。詢、謀也。職、主也。言旣卜且謀多、則競作羅網之難、無成功。○難、乃旦反。 【読み】 兆して云[ここ]に詢[はか]ること多ければ、職として競いて羅[あみ]を作す、と。兆は、卜。詢は、謀るなり。職は、主なり。旣に卜して且謀ること多ければ、則ち競いて羅網の難を作して、成功無きを言う。○難は、乃旦反。 謀之多族、民之多違、族、家也。 【読み】 謀の族多ければ、民の違うこと多くして、族は、家なり。 事滋無成。滋、益也。 【読み】 事滋々成ること無し。滋は、益々なり。 民急矣。姑從楚以紓吾民。晉師至、吾又從之。敬共幣帛以待來者、小國之道也。 【読み】 民は急なり。姑く楚に從いて以て吾が民を紓[ゆる]べん。晉の師至らば、吾れ又之に從わん。敬みて幣帛を共[そな]えて以て來者を待つは、小國の道なり。 犧牲玉帛待於二竟、二竟、晉・楚界上。 【読み】 犧牲玉帛二竟に待ち、二竟は、晉・楚の界上。 以待彊者而庇民焉。寇不爲害、民不罷病、不亦可乎。 【読み】 以て彊き者を待ちて民を庇わん。寇害を爲さず、民罷病せずんば、亦可ならずや、と。 子展曰、小所以事大、信也。小國無信、兵亂日至、亡無日矣。 【読み】 子展曰く、小の大に事うる所以は、信なり。小國信無ければ、兵亂日に至り、亡ぶること日無けん。 五會之信、謂三年、會雞澤、五年、會戚、又會城棣、七年、會鄬、八年、會邢丘。 【読み】 五會の信、三年、雞澤に會し、五年、戚に會し、又城棣に會し、七年、鄬[い]に會し、八年、邢丘に會するを謂う。 今將背之。雖楚救我、將安用之。言失信得楚、不足貴。 【読み】 今將に之に背かんとす。楚我を救うと雖も、將に安くに之を用いんとする。信を失いて楚を得るは、貴ぶに足らざるを言う。 親我無成、晉親鄭。 【読み】 我を親しむは成[たい]らぐこと無く、晉鄭を親しむ。 鄙我是欲。楚欲以鄭爲鄙邑。而反欲與成。 【読み】 我を鄙にするを是れ欲す。楚鄭を以て鄙邑とせんと欲す。而るを反って與に成らがんと欲す。 不可從也。言子駟不可從。 【読み】 從う可からざるなり。子駟に從う可からざるを言う。 不如待晉。晉君方明、四軍無闕、八卿和睦。必不棄鄭。四軍、謂上中下新軍也。軍有二卿。 【読み】 晉を待つに如かず。晉君方に明らかにして、四軍闕けたること無く、八卿和睦す。必ず鄭を棄てじ。四軍は、上中下新軍を謂うなり。軍ごとに二卿有り。 楚師遼遠。糧食將盡。必將速歸。何患焉。 【読み】 楚の師遼遠なり。糧食將に盡きんとす。必ず將に速やかに歸らんとす。何ぞ患えん。 舍之聞之、舍之、子展名。 【読み】 舍之之を聞く、舍之は、子展の名。 杖莫如信。完守以老楚、杖信以待晉、不亦可乎。 【読み】 杖[よ]るは信に如くは莫し、と。守りを完くして以て楚を老[つか]らし、信に杖りて以て晉を待たんこと、亦可ならずや、と。 子駟曰、詩云、謀夫孔多。是用不集。詩、小雅。孔、甚也。集、就也。言人欲爲政、是非相亂而不成。○守、手又反。或如字。下守官同。 【読み】 子駟曰く、詩に云う、謀夫孔[はなは]だ多し。是を用て集[な]らず。詩は、小雅。孔は、甚だなり。集は、就なるなり。人政をせんと欲すれども、是非相亂れて成らざるを言う。○守は、手又反。或は字の如し。下の守官も同じ。 發言盈庭。誰敢執其咎。言謀者多、若有不善無適受其咎。○適、丁歷反。 【読み】 言を發して庭に盈つ。誰か敢えて其の咎を執らん。言うこころは、謀者多ければ、若し不善有るとも適として其の咎を受くること無し。○適は、丁歷反。 如匪行邁謀。是用不得于道。匪、彼也。行邁謀、謀於路人也。不得于道、衆無適從。 【読み】 匪[か]の行邁して謀るが如し。是を用て道に得ず、と。匪は、彼なり。行邁して謀るとは、路人に謀るなり。道に得ずとは、衆くして適從無きなり。 請從楚。騑也受其咎。騑、子駟名。○騑、芳非反。 【読み】 請う、楚に從わん。騑や其の咎を受けん、と。騑は、子駟の名。○騑は、芳非反。 乃及楚平。 【読み】 乃ち楚と平らぐ。 使王子伯騈告于晉。伯騈、鄭大夫。 【読み】 王子伯騈[はくへん]をして晉に告げしむ。伯騈は、鄭の大夫。 曰、君命敝邑、脩而車賦、儆而師徒、以討亂略。蔡人不從、敝邑之人、不敢寧處。悉索敝賦、索、盡也。○索、悉名反。又所百反。 【読み】 曰く、君敝邑に命ずらく、而[なんじ]の車賦を脩め、而の師徒を儆[いまし]めて、以て亂略を討ぜよ、と。蔡人從わざりしかば、敝邑の人、敢えて寧處せず。悉く敝賦を索[つ]くして、索は、盡くすなり。○索は、悉名反。又所百反。 以討于蔡、獲司馬燮、獻于邢丘、今楚來討曰、女何故稱兵于蔡。稱、舉也。 【読み】 以て蔡を討じて、司馬燮を獲て、邢丘に獻ぜしを、今楚來り討じて曰く、女何の故に兵を蔡に稱[あ]げたる、と。稱は、舉ぐるなり。 焚我郊保、郭外曰郊。保、守也。 【読み】 我が郊保を焚き、郭外を郊と曰う。保は、守なり。 馮陵我城郭、馮、迫也。○馮、皮冰反。 【読み】 我が城郭を馮陵すれば、馮は、迫るなり。○馮は、皮冰反。 敝邑之衆、夫婦男女、不皇啓處、以相救也、皇、暇也。啓、跪なり。 【読み】 敝邑の衆、夫婦男女、啓處するに皇[いとま]あらずして、以て相救うも、皇は、暇なり。啓は、跪くなり。 翦焉傾覆、無所控告。翦、盡也。控、引也。 【読み】 翦[ことごと]く焉に傾覆して、控告する所無し。翦は、盡くなり。控は、引くなり。 民死亡者、非其父兄、卽其子弟。夫人愁痛、夫人、猶人人也。○夫、音扶。 【読み】 民の死亡する者、其の父兄に非ざれば、卽ち其の子弟なり。夫人[ひとびと]愁痛して、夫人は、猶人人のごとし。○夫は、音扶。 不知所庇。民知窮困、而受盟于楚。孤也與其二三臣、不能禁止。孤、鄭伯。 【読み】 庇われん所を知らず。民窮困するを知りて、盟を楚に受けたり。孤や其の二三臣と、禁止すること能わず。孤は、鄭伯。 不敢不告。 【読み】 敢えて告げずんばあらず、と。 知武子使行人子員對之曰、君有楚命、見討之命。 【読み】 知武子行人子員をして之に對えしめて曰く、君楚の命有るも、討たるるの命。 亦不使一介行李告于寡君、一介、獨使也。行李、行人也。○介、古賀反。獨使、所吏反。 【読み】 亦一介の行李をして寡君に告げしめずして、一介は、獨使なり。行李は、行人なり。○介は、古賀反。獨使は、所吏反。 而卽安于楚。君之所欲也。誰敢違君。寡君將帥諸侯以見于城下。唯君圖之。爲明年、晉伐鄭傳。 【読み】 安きに楚に卽く。君の欲する所のままなり。誰か敢えて君に違わん。寡君將に諸侯を帥いて以て城下に見えんとす。唯君之を圖れ、と。明年、晉鄭を伐つ爲の傳なり。 晉范宣子來聘、且拜公之辱、謝公此春朝。 【読み】 晉の范宣子來聘し、且つ公の辱きを拜し、公此の春朝するを謝す。 告將用師于鄭。 【読み】 將に師を鄭に用いんとするを告ぐ。 公享之。宣子賦摽有梅。摽有梅、詩召南。摽、落也。梅盛極則落。詩人以興女色盛則有衰、衆士求之、宜及其時。宣子欲魯及時共討鄭。取其汲汲相赴。 【読み】 公之を享す。宣子摽有梅[ひょうゆうばい]を賦す。摽有梅は、詩の召南。摽は、落つるなり。梅盛り極わまれば則ち落つる。詩人以て女色盛んなれば則ち衰うること有り、衆士の之を求むる、宜しく其の時に及ぶべきに興す。宣子魯の時に及びて共に鄭を討ぜんことを欲す。其の汲汲として相赴[つ]ぐるに取る。 季武子曰、誰敢哉。言誰敢不從命。 【読み】 季武子曰く、誰か敢えてせんや。言うこころは、誰か敢えて命に從わざらんや。 今譬於草木、寡君在君、君之臭味也。言同類。 【読み】 今草木に譬うれば、寡君の君に在るは、君の臭味なり。同類を言う。 歡以承命。何時之有。遲速無時。 【読み】 歡びて以て命を承けん。何の時か之れ有らん、と。遲速時無し。 武子賦角弓。角弓、詩小雅。取其兄弟婚姻、無相遠矣。 【読み】 武子角弓を賦す。角弓は、詩の小雅。其の兄弟婚姻、相遠ざかること無きに取るなり。 賓將出。武子賦彤弓。彤弓、天子賜有功諸侯之詩。欲使晉君繼文之業、復受彤弓於王。 【読み】 賓將に出でんとす。武子彤弓[とうきゅう]を賦す。彤弓は、天子有功の諸侯に賜うの詩なり。晉君をして文の業を繼いで、復彤弓を王に受けしめんことを欲す。 宣子曰、城濮之役、在僖二十八年。 【読み】 宣子曰く、城濮の役に、僖二十八年に在り。 我先君文公獻功于衡雍、受彤弓于襄王、以爲子孫藏。藏之以示子孫。○雍、於用反。 【読み】 我が先君文公功を衡雍に獻じて、彤弓を襄王に受けて、以て子孫の爲に藏めり。之を藏めて以て子孫に示す。○雍は、於用反。 匃也先君守官之嗣也。敢不承命。言己嗣其父祖爲先君守官。不敢廢命。欲匡晉君。 【読み】 匃や先君の守官の嗣なり。敢えて命を承けざらんや、と。己其の父祖に嗣いで先君の守官爲り。敢えて命を廢せず。晉君を匡さんと欲するを言う。 君子以爲知禮。彤弓之義、義在晉君。故范匃受之。所謂知禮。 【読み】 君子以て禮を知れりと爲す。彤弓の義、義晉君に在り。故に范匃之を受く。所謂禮を知れるなり。 〔經〕九年、春、宋災。天火曰災。來告。故書。 【読み】 〔經〕九年、春、宋災あり。天火を災と曰う。來り告ぐ。故に書す。 夏、季孫宿如晉。五月、辛酉、夫人姜氏薨。成公母。 【読み】 夏、季孫宿晉に如く。五月、辛酉[かのと・とり]、夫人姜氏薨ず。成公の母。 秋、八月、癸未、葬我小君穆姜。無傳。四月而葬。速。 【読み】 秋、八月、癸未[みずのと・ひつじ]、我が小君穆姜を葬る。傳無し。四月にして葬る。速きなり。 冬、公會晉侯・宋公・衛侯・曹伯・莒子・邾子・滕子・薛伯・杞伯・小邾子・齊世子光伐鄭。十有二月、己亥、同盟于戲。伐鄭而書同盟、則鄭受盟可知。傳言十有二月己亥。以長曆推之、十二月無己亥。經誤。戲、鄭地。○戲、許宜反。 【読み】 冬、公晉侯・宋公・衛侯・曹伯・莒子・邾子[ちゅし]・滕子・薛伯・杞伯・小邾子・齊の世子光に會して鄭を伐つ。十有二月、己亥[つちのと・い]、戲に同盟す。鄭を伐ちて同盟すと書すときは、則ち鄭盟を受くること知る可し。傳に十有二月己亥と言う。長曆を以て之を推すに、十二月に己亥無し。經の誤りなり。戲は、鄭の地。○戲は、許宜反。 楚子伐鄭。 【読み】 楚子鄭を伐つ。 〔傳〕九年、春、宋災。 【読み】 〔傳〕九年、春、宋災あり。 樂喜爲司城。以爲政。樂喜、子罕也。爲政卿。知將有火災。素戒爲備火之政。 【読み】 樂喜司城爲り。以て政を爲す。樂喜は、子罕なり。政卿爲り。將に火災有らんとするを知る。素[あらかじ]め戒め火に備うるの政を爲す。 使伯氏司里、伯氏、宋大夫。司里、里宰。 【読み】 伯氏をして司里として、伯氏は、宋の大夫。司里は、里宰。 火所未至、徹小屋、塗大屋、大屋、難徹。就塗之。 【読み】 火の未だ至らざる所は、小屋を徹し、大屋を塗り、大屋は、徹し難し。就きて之を塗る。 陳畚挶、具綆缶、畚、簣籠。挶、土轝。綆、汲索。缶、汲器。○畚、音本。草器也。挶、九錄反。綆、古杏反。缶、方九反。簣、其位反。籠、力東反。轝、音預。 【読み】 畚挶[ほんきょく]を陳ね、綆缶[こうふ]を具え、畚は、簣籠[きろう]。挶は、土轝[どよ]。綆は、汲索。缶は、汲器。○畚は、音本。草器なり。挶は、九錄反。綆は、古杏反。缶は、方九反。簣は、其位反。籠は、力東反。轝は、音預。 備水器、盆■之屬。○■、戶暫反。 【読み】 水器を備え、盆■の屬。○■は、戶暫反。 *■は「鑒の上部」に下が「缶」。 量輕重、計人力所任。○任、音壬。 【読み】 輕重を量り、人力の任[た]うる所を計る。○任は、音壬。 蓄水潦、積土塗、巡丈城、繕守備、巡、行也。丈、度也。繕、治也。行度守備之處、恐因災有亂。○行、下孟反。度、待洛反。 【読み】 水潦を蓄え、土塗を積み、城を巡り丈[はか]りて、守備を繕[おさ]め、巡は、行[めぐ]るなり。丈は、度るなり。繕は、治むるなり。守備の處を行り度るは、災に因りて亂有らんことを恐れてなり。○行は、下孟反。度は、待洛反。 表火道。火起則從其所趣標表之。 【読み】 火道を表せしむ。火起これば則ち其の趣く所に從いて之を標表す。 使華臣具正徒、華臣、華元子。爲司徒。正徒、役徒也。司徒之所主也。 【読み】 華臣をして正徒を具え、華臣は、華元の子。司徒爲り。正徒は、役徒なり。司徒の主る所なり。 令隧正納郊保、奔火所。隧正、官名也。五縣爲隧。納聚郊野保守之民、使隨火所起往救之。 【読み】 隧正に令して郊保を納れ、火所に奔らしむ。隧正は、官の名なり。五縣を隧と爲す。郊野保守の民を納聚して、火の起こる所に隨いて往きて之を救わしむ。 使華閱討右官、官庀其司。亦華元子。代元爲右師。討、治也。庀、具也。使具其官屬。○庀、芳婢反。 【読み】 華閱をして右官を討[おさ]め、官ごとに其の司を庀[そな]えしむ。亦華元の子。元に代わりて右師と爲る。討は、治むるなり。庀[ひ]は、具うるなり。其の官屬を具えしむ。○庀は、芳婢反。 向戌討左、亦如之。向戌、左師。 【読み】 向戌[しょうじゅつ]左を討むるも、亦之の如し。向戌は、左師。 使樂遄庀刑器、亦如之。樂遄、司寇。刑器、刑書。○遄、市專反。 【読み】 樂遄[がくせん]をして刑器を庀えしむるも、亦之の如し。樂遄は、司寇。刑器は、刑書。○遄は、市專反。 使皇鄖命校正出馬、工正出車、備甲兵、庀武守。皇鄖、皇父充石之後。校正主馬、工正主車。使各備其官。○鄖、音云。校、戶敎反。出、如字。又尺遂反。 【読み】 皇鄖[こううん]をして校正に命じて馬を出だし、工正をして車を出だし、甲兵を備え、武守を庀えしむ。皇鄖は、皇父充石の後。校正は馬を主り、工正は車を主る。各々其の官を備えしむ。○鄖は、音云。校は、戶敎反。出は、字の如し。又尺遂反。 使西鉏吾庀府守、鉏吾、大宰也。府、六官之典。○吾、音魚。 【読み】 西鉏吾をして府守を庀え、鉏吾は、大宰なり。府は、六官の典。○吾は、音魚。 令司宮・巷伯儆宮。司宮、奄臣。巷伯、寺人。皆掌宮内之事。 【読み】 司宮・巷伯に令して宮を儆[いまし]めむ。司宮は、奄臣。巷伯は、寺人。皆宮内の事を掌る。 二師令四郷正敬享、二師、左右師也。郷正、郷大夫。享、祀也。 【読み】 二師四郷正をして敬みて享し、二師は、左右の師なり。郷正は、郷大夫。享は、祀るなり。 祝宗用馬于四墉、祀盤庚于西門之外。祝、大祝。宗、宗人。墉、城也。用馬祭于四城以禳火。盤庚、殷王。宋之遠祖。城、積陰之氣。故祀之。凡天災有幣無牲。用馬祀盤庚、皆非禮。 【読み】 祝宗をして馬を四墉に用い、盤庚を西門の外に祀らしむ。祝は、大祝。宗は、宗人。墉は、城なり。馬を用いて四城に祭りて以て火を禳[はら]うなり。盤庚は、殷王。宋の遠祖。城は、積陰の氣。故に之を祀る。凡そ天災は幣有りて牲無し。馬を用いて盤庚を祀るは、皆禮に非ず。 晉侯問於士弱、弱、士渥濁之子、莊子。 【読み】 晉侯士弱に問いて、弱は、士渥濁の子、莊子。 曰、吾聞之、宋災。於是乎知有天道。何故。問宋何故自知天道將災。 【読み】 曰く、吾れ之を聞く、宋災あり。是に於て天道有ることを知る、と。何の故ぞ、と。問う、宋何の故に自ら天道の將に災いせんとするを知るや、と。 對曰、古之火正、或食於心、或食於咮、以出内火。是故咮爲鶉火、心爲大火。謂火正之官配食於火星。建辰之月、鶉火星昏在南方、則令民放火。建戌之月、大火星伏在日下、夜不得見、則令民内火、禁放火。○咮、竹又反。又丁遘反。出、如字。又尺遂反。内、如字。又音納。鶉、音純。 【読み】 對えて曰く、古の火正、或は心に食し、或は咮[ちゅう]に食して、以て火を出内す。是の故に咮を鶉火[じゅんか]と爲し、心を大火と爲す。火正の官火星に配食するを謂う。建辰の月、鶉火星昏に南方に在れば、則ち民をして火を放たしむ。建戌の月、大火星伏して日の下に在りて、夜見ることを得ざれば、則ち民をして火を内れしめ、放火を禁ず。○咮は、竹又反。又丁遘反。出は、字の如し。又尺遂反。内は、字の如し。又音納。鶉は、音純。 陶唐氏之火正閼伯居商丘、陶唐、堯有天下號。閼伯、高辛氏之子。傳曰、遷閼伯于商丘、主辰。辰、大火也。今爲宋星。然則商丘、在宋地。○閼、於葛反。 【読み】 陶唐氏の火正閼伯[あつはく]商丘に居り、陶唐は、堯の天下を有つの號。閼伯は、高辛氏の子。傳に曰く、閼伯を商丘に遷して、辰を主らしむ、と。辰は、大火なり。今宋の星爲り。然らば則ち商丘は、宋の地に在り。○閼は、於葛反。 祀大火、而火紀時焉。謂出内火時。 【読み】 大火を祀りて、火時を紀しぬ。火を出内する時を謂う。 相土因之。故商主大火。相土、契孫、商之祖也。始代閼伯之後、居商丘、祀大火。○相、息亮反。 【読み】 相土之に因る。故に商大火を主れり。相土は、契の孫、商の祖なり。始めて閼伯の後に代わり、商丘に居りて、大火を祀る。○相は、息亮反。 商人閱其禍敗之釁、必始於火。是以日知其有天道也。閱、猶數也。商人數所更歷、恆多火災。宋是殷・商之後。故知天道之災必火。 【読み】 商人其の禍敗の釁[きん]を閱するに、必ず火に始まる。是を以て日[おの]ずから其の天道有るを知れり、と。閱は、猶數うるのごとし。商人更歷する所を數うるに、恆に火災多し。宋は是れ殷・商の後なり。故に天道の災は必ず火なるを知るなり。 公曰、可必乎。對曰、在道。國亂無象。不可知也。言國無道、則災變亦殊。故不可必知。 【読み】 公曰く、必とす可けんや、と。對えて曰く、道に在り。國亂るるときは象無し。知る可からざるなり、と。言うこころは、國道無ければ、則ち災變亦殊なり。故に必ずしも知る可からず。 夏、季武子如晉、報宣子之聘也。宣子聘、在八年。 【読み】 夏、季武子晉に如くは、宣子の聘に報ゆるなり。宣子の聘は、八年に在り。 穆姜薨於東宮。太子宮也。穆姜淫僑如、欲廢成公。故徙居東宮。事在成十六年。 【読み】 穆姜東宮に薨ず。太子の宮なり。穆姜僑如に淫して、成公を廢せんと欲す。故に東宮に徙居す。事は成十六年に在り。 始往而筮之。遇艮之八。艮下艮上艮。周禮、大卜掌三易。然則雜用連山・歸藏・周易。二易皆以七八爲占。故言遇艮之八。 【読み】 始め往かんとして之を筮す。艮の八なるに遇う。艮下艮上は艮。周禮に、大卜三易を掌る、と。然らば則ち連山・歸藏・周易を雜え用ゆるなり。二易は皆七八を以て占を爲す。故に艮の八に遇うと言う。 史曰、是謂艮之隨。震下兌上隨。史疑、占易遇八爲不利。故更以周易占變爻、得隨卦而論之。 【読み】 史曰く、是を艮の隨に之くと謂う。震下兌上は隨。史疑う、占易八に遇うは不利爲たるを。故に更に周易を以て變爻を占い、隨卦を得て之を論ず。 隨其出也。史謂隨非閉固之卦。 【読み】 隨は其れ出づるなり。史隨は閉固の卦に非ざるを謂う。 君必速出。姜曰、亡。亡、猶無也。○亡、如字。或音無。 【読み】 君必ず速やかに出でん、と。姜曰く、亡[な]し。亡は、猶無きがごとし。○亡は、字の如し。或は音無。 是於周易曰、隨元亨利貞、無咎。易筮皆以變者占。遇一爻變義異、則論彖。故姜亦以彖爲占也。史據周易。故指言周易以折之。 【読み】 是れ周易に於て曰く、隨は元亨利貞、咎無し、と。易筮皆變ずる者を以て占う。一爻變じて義異なるに遇えば、則ち彖を論ず。故に姜亦彖を以て占と爲すなり。史周易に據る。故に周易を指言して以て之を折[さだ]む。 元、體之長也。亨、嘉之會也。利、義之和也。貞、事之幹也。體仁足以長人、嘉德足以合禮、利物足以和義、貞固足以幹事。然。故不可誣也。是以雖隨無咎。言不誣四德、乃遇隨無咎。明無四德者、則爲淫而相隨、非吉事。 【読み】 元は、體の長なり。亨は、嘉の會なり。利は、義の和なり。貞は、事の幹なり。仁を體するは以て人に長たるに足り、嘉德は以て禮に合するに足り、物を利するは以て義を和するに足り、貞固は以て事に幹たるに足れり。然り。故に誣う可からざるなり。是を以て隨と雖も咎無し。言うこころは、四德を誣いざれば、乃ち隨に遇いて咎無し。四德無き者は、則ち淫にして相隨うことを爲して、吉事に非ざるを明らかにす。 今我婦人而與於亂、固在下位、婦人卑於丈夫。○與、音預。 【読み】 今我れ婦人にして亂に與り、固より下位に在りて、婦人は丈夫より卑し。○與は、音預。 而有不仁。不可謂元。不靖國家。不可謂亨。作而害身。不可謂利。棄位而姣。姣、淫之別名。○姣、戶交反。又如字。又音效。 【読み】 不仁有り。元と謂う可からず。國家を靖んぜず。亨と謂う可からず。作して身を害す。利と謂う可からず。位を棄てて姣[こう]す。姣は、淫の別名。○姣は、戶交反。又字の如し。又音效。 不可謂貞。有四德者、隨而無咎。我皆無之。豈隨也哉。我則取惡。能無咎乎。必死於此。弗得出矣。傳言穆姜辯而不德。 【読み】 貞と謂う可からず。四德有る者は、隨にして咎無し。我れ皆之れ無し。豈隨ならんや。我れ則ち惡を取れり。能く咎無からんや。必ず此に死なん。出づることを得じ、と。傳穆姜辯にして不德なるを言う。 秦景公使士雃乞師于楚。將以伐晉。楚子許之。子囊曰、不可。當今吾不能與晉爭。晉君類能而使之、隨所能。○雃、苦田反。 【読み】 秦の景公士雃[しけん]をして師を楚に乞わしむ。將に以て晉を伐たんとす。楚子之を許す。子囊曰く、不可なり。當今吾れ晉と爭うこと能わず。晉君能を類して之を使い、能くする所に隨う。○雃は、苦田反。 舉不失選、得所選。○選、息戀反。 【読み】 舉は選を失わず、選ぶ所を得。○選は、息戀反。 官不易方、方、猶宜也。 【読み】 官は方を易えず、方は、猶宜のごとし。 其卿讓於善、讓勝己者。 【読み】 其の卿は善に讓り、己に勝る者に讓る。 其大夫不失守、各任其職。 【読み】 其の大夫は守を失わず、各々其の職に任ず。 其士競於敎、奉上命。 【読み】 其の士は敎に競い、上命を奉ず。 其庶人力於農穡、種曰農、收曰穡。 【読み】 其の庶人は農穡を力め、種[う]うるを農と曰い、收むるを穡と曰う。 商・工・皁・隸不知遷業。四民不雜。 【読み】 商・工・皁[そう]・隸業を遷すことを知らず。四民雜わらず。 韓厥老矣。知罃稟焉以爲政。代將中軍。 【読み】 韓厥老す。知罃[ちおう]稟けて以て政を爲す。代わりて中軍に將たり。 范匃少於中行偃而上之、使佐中軍。使匃佐中軍、偃將上軍。○少、詩照反。中行、戶郎反。 【読み】 范匃[はんかい]中行偃より少[わか]くして之を上げて、中軍に佐たらしむ。匃をして中軍に佐とし、偃をして上軍に將たらしむ。○少は、詩照反。中行は、戶郎反。 韓起少於欒黶、而欒黶・士魴上之、使佐上軍、黶・魴讓起、起佐上軍、黶將下軍、魴佐之。○黶、於斬反。 【読み】 韓起欒黶[らんえん]より少くして、欒黶・士魴之を上げて、上軍に佐たらしめ、黶・魴起に讓り、起上軍に佐となり、黶下軍に將となり、魴之に佐となる。○黶は、於斬反。 魏絳多功、以趙武爲賢而爲之佐。武、新軍將。 【読み】 魏絳功多きも、趙武を以て賢と爲して之が佐と爲る。武は、新軍の將。 君明臣忠、上讓下競。尊官相讓、勞職力競。 【読み】 君明らかに臣忠に、上讓り下競う。尊官相讓り、勞職力め競う。 當是時也、晉不可敵。事之而後可。君其圖之。 【読み】 是の時に當たりて、晉には敵す可からず。之に事えて而して後に可なり。君其れ之を圖れ、と。 王曰、吾旣許之矣。雖不及晉、必將出師。 【読み】 王曰く、吾れ旣に之を許せり。晉に及ばずと雖も、必ず將に師を出ださんとす、と。 秋、楚子師于武城、以爲秦援。秦人侵晉。晉饑。弗能報也。爲十年、晉伐秦傳。 【読み】 秋、楚子武城に師して、以て秦の援けを爲す。秦人晉を侵す。晉饑ゆ。報ゆること能わざるなり。十年、晉秦を伐つ爲の傳なり。 冬、十月、諸侯伐鄭。鄭從楚也。 【読み】 冬、十月、諸侯鄭を伐つ。鄭楚に從うなり。 庚午、季武子・齊崔杼・宋皇鄖從荀罃・士匃門于鄟門、鄭城門也。三國從中軍。 【読み】 庚午[かのえ・うま]、季武子・齊の崔杼・宋の皇鄖荀罃・士匃に從いて鄟門[せんもん]を門[せ]め、鄭の城門なり。三國は中軍に從う。 衛北宮括・曹人・邾人從荀偃・韓起、門于師之梁、師之梁、亦鄭城門。三國從上軍。 【読み】 衛の北宮括・曹人・邾人荀偃・韓起に從いて、師之梁を門め、師之梁も、亦鄭の城門。三國は上軍に從う。 滕人・薛人從欒黶・士魴門于北門、二國從下軍。 【読み】 滕人・薛人欒黶・士魴に從いて北門を門め、二國は下軍に從う。 杞人・郳人從趙武・魏絳斬行栗。二國從新軍。行栗、表道樹。○行、如字。道也。 【読み】 杞人・郳人[げいひと]趙武・魏絳に從いて行栗を斬る。二國は新軍に從う。行栗は、表道の樹。○行は、字の如し。道なり。 甲戌、師于氾。衆軍還聚氾。氾、鄭地、東氾。○氾、音凡。 【読み】 甲戌[きのえ・いぬ]、氾に師す。衆軍還りて氾に聚まる。氾は、鄭の地、東氾なり。○氾は、音凡。 令於諸侯曰、脩器備、兵器戦備。 【読み】 諸侯に令して曰えらく、器備を脩め、兵器戦備。 盛餱糧、餱、乾食。○盛、音成。餱、音侯。 【読み】 餱糧を盛り、餱は、乾食。○盛は、音成。餱は、音侯。 歸老幼、示將久師。 【読み】 老幼を歸し、將に久しく師せんとするを示す。 居疾于虎牢、諸侯已取鄭虎牢。故使諸軍疾病息其中。 【読み】 疾めるを虎牢に居き、諸侯已に鄭の虎牢を取る。故に諸軍の疾病あるをして其の中に息わしむ。 肆眚圍鄭。肆、緩也。眚、過也。不書圍、鄭逆服不成圍。○眚、生領反。又所幸反。 【読み】 眚[せい]を肆[ゆる]して鄭を圍め、と。肆は、緩すなり。眚は、過ちなり。圍むを書さざるは、鄭逆え服して圍を成さざればなり。○眚は、生領反。又所幸反。 鄭人恐。乃行成。與晉成也。 【読み】 鄭人恐る。乃ち成[たい]らぎを行う。晉と成らぐなり。 中行獻子曰、遂圍之、以待楚人之救也、而與之戰。不然無成。獻子、荀偃也。恐楚救鄭、鄭復屬之。 【読み】 中行獻子曰く、遂に之を圍みて、以て楚人の救いを待ちて、之と戰わん。然らずば成らぐこと無からん、と。獻子は、荀偃なり。楚鄭を救いて、鄭復之に屬せんことを恐る。 知武子曰、許之盟而還師、以敝楚人。敝、罷也。 【読み】 知武子曰く、之に盟を許して師を還して、以て楚の人を敝[つか]らさん。敝は、罷[つか]るるなり。 吾三分四軍、分四軍爲三部。 【読み】 吾れ四軍を三分にして、四軍を分けて三部と爲す。 與諸侯之銳、以逆來者、來者、楚也。 【読み】 諸侯の銳と與に、以て來る者を逆[むか]えば、來者とは、楚なり。 於我未病、楚不能矣。晉各一動、而楚三來。故曰不能。 【読み】 我に於て未だ病まず、楚能わざるなり。晉各々一たび動きて、楚三たび來る。故に能わずと曰う。 猶愈於戰。勝聚戰。 【読み】 猶戰うに愈れり。聚まり戰うに勝れり。 暴骨以逞。不可以爭。言爭當以謀。不可以暴骨。○暴、蒲卜反。 【読み】 骨を暴して以て逞しくせん。爭いに以う可からず。言うこころは、爭いは當に謀を以てすべし。以て骨を暴す可からず。○暴は、蒲卜反。 *頭注に「不可以爭、當在未艾下。此二句上下倒置也。」とある。 大勞未艾、君子勞心、小人勞力。先王之制也。艾、息也。言當從勞心之勞。○艾、魚廢反。又五盖反。 【読み】 大勞未だ艾[や]まざれば、君子心を勞し、小人力を勞す。先王の制なり、と。艾[がい]は、息むなり。言うこころは、當に心を勞するの勞に從うべし。○艾は、魚廢反。又五盖反。 諸侯皆不欲戰。乃許鄭成。 【読み】 諸侯皆戰を欲せず。乃ち鄭に成らぎを許す。 十一月、己亥、同盟于戲、鄭服也。鄭服。故言同盟。 【読み】 十一月、己亥、戲に同盟するは、鄭服すればなり。鄭服す。故に同盟と言う。 將盟。鄭六卿公子騑、子駟。 【読み】 將に盟わんとす。鄭の六卿公子騑、子駟。 公子發、子國。 【読み】 公子發、子國。 公子嘉、子孔。 【読み】 公子嘉、子孔。 公孫輒、子耳。 【読み】 公孫輒[こうそんちょう]、子耳。 公孫蠆、子蟜。○蠆、勑邁反。 【読み】 公孫蠆[こうそんたい]、子蟜[しきょう]。○蠆、勑邁反。 公孫舍之、子展。 【読み】 公孫舍之と、子展。 及其大夫門子皆從鄭伯。門子、卿之適子。○從、才用反。 【読み】 其の大夫門子と皆鄭伯に從う。門子は、卿の適子。○從は、才用反。 晉士莊子爲載書、莊子、士弱。載書、盟書。 【読み】 晉の士莊子載書を爲して、莊子は、士弱。載書は、盟書。 曰、自今日旣盟之後、鄭國而不唯晉命是聽、而或有異志者、有如此盟。如違盟之罰。 【読み】 曰く、今日旣に盟うの後より、鄭國にして唯晉の命を是れ聽かずして、或は異志有らん者ならば、此の盟の如きこと有らん、と。盟に違うの罰の如けん。 公子騑趨進曰、天禍鄭國、使介居二大國之閒、介、猶閒也。 【読み】 公子騑趨り進みて曰く、天鄭國に禍して、二大國の閒に介居せしめ、介は、猶閒のごとし。 大國不加德音、而亂以要之、謂以兵亂之力、强要鄭。○要、一遙反。强、其丈反。 【読み】 大國德音を加えずして、亂以て之を要して、兵亂の力を以て、鄭を强要するを謂う。○要は、一遙反。强は、其丈反。 使其鬼神不獲歆其禋祀、其民人不獲享其土利、夫婦辛苦墊隘、無所底告。墊隘、猶委頓。底、至也。○墊、丁念反。 【読み】 其の鬼神をして其の禋祀[いんし]を歆[う]くることを獲ず、其の民人をして其の土利を享くることを獲ず、夫婦をして辛苦墊隘[てんあい]して、底[いた]り告ぐる所無からしむ。墊隘は、猶委頓のごとし。底は、至るなり。○墊は、丁念反。 自今日旣盟之後、鄭國而不唯有禮與彊、可以庇民者是從、而敢有異志者、亦如之。亦如此盟。 【読み】 今日旣に盟うの後より、鄭國にして唯有禮と彊きとの、以て民を庇う可き者に是れ從わずして、敢えて異志有らんも、亦之の如くならん、と。亦此の盟の如けん。 荀偃曰、改載書。子駟亦以所言載於策。故欲改之。 【読み】 荀偃曰く、載書を改めよ、と。子駟亦言う所を以て策に載す。故に之を改めんと欲す。 公孫舍之曰、昭大神要言焉。要、誓以告神。 【読み】 公孫舍之曰く、大神に昭らかにして要言せり。要は、誓いて以て神に告ぐるなり。 若可改也、大國亦可叛也。知武子謂獻子曰、我實不德、而要人以盟。豈禮也哉。非禮何以主盟。姑盟而退、脩德息師而來、終必獲鄭。何必今日。我之不德、民將棄我。豈唯鄭。若能休和、遠人將至。何恃於鄭。乃盟而還。遂兩用載書。 【読み】 若し改む可くば、大國にも亦叛く可し、と。知武子獻子に謂いて曰く、我れ實に不德にして、人を要して以て盟う。豈禮ならんや。禮に非ざれば何を以て盟を主らん。姑く盟いて退き、德を脩め師を息えて來らば、終に必ず鄭を獲ん。何ぞ必ずしも今日のみならん。我の不德ならば、民も將に我を棄てんとす。豈唯鄭のみならんや。若し能く休和せば、遠人も將に至らんとす。何ぞ鄭を恃まんや、と。乃ち盟いて還る。遂に載書を兩用す。 晉人不得志於鄭、以諸侯復伐之。十二月、癸亥、門其三門。三門、鄟門・師之梁・北門也。癸亥、月五日。晉果三分其軍、各攻一門。 【読み】 晉人志を鄭に得ず、諸侯を以[い]て復之を伐つ。十二月、癸亥[みずのと・い]、其の三門を門む。三門は、鄟門・師之梁・北門なり。癸亥は、月の五日。晉果たして其の軍を三分して、各々一門を攻む。 閏月、戊寅、濟于陰阪、侵鄭。以長曆參校上下、此年不得有閏月戊寅。戊寅、是十二月二十日。疑閏月、當爲門五日。五字上與門合爲閏、則後學者自然轉日爲月。晉人三番四軍、更攻鄭門。門各五日、晉各一攻、鄭三受敵。欲以苦之。癸亥、去戊寅十六日。以癸亥始攻、攻輒五日、凡十五日、鄭故不服而去、明日戊寅、濟于陰阪、復侵鄭外邑。陰阪、洧津。○閏月、依注讀爲門五日。阪、音反。又扶板反。番、芳元反。更、音庚。 【読み】 閏月、戊寅[つちのえ・とら]、陰阪より濟[わた]り、鄭を侵す。長曆を以て上下を參校するに、此の年閏月戊寅有ることを得ず。戊寅は、是れ十二月二十日。疑うらくは閏月は、當に門五日に爲るべし。五の字上門と合して閏と爲るときは、則ち後の學者自然に日を轉じて月と爲すならん。晉人四軍を三番にして、更[こも]々鄭の門を攻む。門ごとに各々五日、晉各々一たび攻めて、鄭三たび敵を受く。以て之を苦しめんと欲するなり。癸亥は、戊寅を去ること十六日。癸亥を以て始めて攻め、攻むること輒ち五日、凡そ十五日、鄭故[なお]服せずして去り、明日戊寅、陰阪を濟り、復鄭の外邑を侵す。陰阪は、洧津。○閏月は、注に依りて讀みて門むること五日と爲す。阪は、音反。又扶板反。番は、芳元反。更は、音庚。 次于陰口而還。陰口、鄭地名。 【読み】 陰口に次[やど]りて還る。陰口は、鄭の地名。 子孔曰、晉師可擊也。師老而勞、且有歸志。必大克之。子展曰、不可。傳言子展能守信。 【読み】 子孔曰く、晉の師擊つ可し。師老[つか]れて勞し、且歸志有り。必ず大いに之に克たん、と。子展曰く、不可なり、と。傳子展能く信を守るを言う。 公送晉侯。晉侯以公宴于河上。問公年。季武子對曰、會于沙隨之歲、寡君以生。沙隨、在成十六年。 【読み】 公晉侯を送る。晉侯公を以[い]て河上に宴す。公の年を問う。季武子對えて曰く、沙隨に會するの歲に、寡君以て生まれたり、と。沙隨は、成十六年に在り。 晉侯曰、十二年矣。是謂一終。一星終也。歲星、十二歲而一周天。 【読み】 晉侯曰く、十二年なり。是を一終と謂う。一星の終わりなり。歲星は、十二歲にして天を一周す。 國君十五而生子。冠而生子、禮也。冠、成人之服。故必冠而後生子。○冠、古亂反。下同。 【読み】 國君は十五にして子を生む。冠して子を生むは、禮なり。冠は、成人の服。故に必ず冠して後に子を生む。○冠は、古亂反。下も同じ。 君可以冠矣。大夫盍爲冠具。武子對曰、君冠、必以祼享之禮行之、祼、謂灌鬯酒也。享、祭先君也。○祼、古亂反。 【読み】 君以て冠す可けん。大夫盍ぞ冠具を爲さざる、と。武子對えて曰く、君冠するときは、必ず祼享[かんきょう]の禮を以て之を行い、祼は、鬯酒[ちょうしゅ]を灌ぐを謂うなり。享は、先君を祭るなり。○祼は、古亂反。 以金石之樂節之、以鐘磬爲舉動之節。 【読み】 金石の樂を以て之を節し、鐘磬[しょうけい]を以て舉動の節と爲す。 以先君之祧處之。諸侯以始祖之廟爲祧。○祧、他彫反。 【読み】 先君の祧[ちょう]を以て之に處る。諸侯始祖の廟を以て祧と爲す。○祧は、他彫反。 今寡君在行、未可具也。請及兄弟之國、而假備焉。晉侯曰、諾。公還及衛、冠于成公之廟、成公、今衛獻公之曾祖。從衛所處。 【読み】 今寡君行に在り、未だ具う可からざるなり。請う、兄弟の國に及びて、假り備えん、と。晉侯曰く、諾、と。公還りて衛に及び、成公の廟に冠して、成公は、今の衛の獻公の曾祖。衛の處する所に從う。 假鍾磬焉。禮也。 【読み】 鍾磬[しょうけい]を假る。禮なり。 楚子伐鄭。與晉成故。 【読み】 楚子鄭を伐つ。晉と成らぐ故なり。 子駟將及楚平。子孔・子蟜曰、與大國盟、口血未乾而背之、可乎。子駟・子展曰、吾盟固云、唯彊是從。 【読み】 子駟將に楚と平らがんとす。子孔・子蟜曰く、大國と盟いて、口血未だ乾かずして之に背かば、可ならんや、と。子駟・子展曰く、吾が盟に固より云いき、唯彊きに是れ從わん、と。 今楚師至、晉不我救、則楚彊矣。盟誓之言、豈敢背之。 【読み】 今楚の師至りて、晉我を救わずんば、則ち楚は彊きなり。盟誓の言、豈敢えて之を背かんや。 且要盟無質。神弗臨也。質、主也。 【読み】 且つ要盟は質無し。神臨まざるなり。質は、主なり。 所臨唯信。信者、言之瑞也。瑞、符也。 【読み】 臨む所は唯信なり。信は、言の瑞なり。瑞は、符なり。 善之主也。是故臨之。神臨之。 【読み】 善の主なり。是の故に之に臨む。神之に臨む。 明神不蠲要盟。蠲、潔也。 【読み】 明神は要盟を蠲[いさぎよ]しとせず。蠲[けん]は、潔きなり。 背之可也。 【読み】 之に背くも可なり、と。 乃及楚平。公子罷戎入盟、同盟于中分。中分、鄭城中里名。罷戎、楚大夫。○罷、音皮。又音被。 【読み】 乃ち楚と平らぐ。公子罷戎入りて盟い、中分に同盟す。中分は、鄭の城中の里の名。罷戎は、楚の大夫。○罷は、音皮。又音被。 楚莊夫人卒。共王母。 【読み】 楚の莊夫人卒す。共王の母。 王未能定鄭而歸。 【読み】 王未だ鄭を定むること能わずして歸る。 晉侯歸、謀所以息民。魏絳請施舍、施恩惠舍勞役。 【読み】 晉侯歸り、民を息えん所以を謀る。魏絳施舍し、恩惠を施し勞役を舍[ゆる]す。 輸積聚以貸。輸、盡也。○積、子賜反。下同。貸、他代反。 【読み】 積聚[ししゅう]を輸[つ]くして以て貸さんと請う。輸は、盡くすなり。○積は、子賜反。下も同じ。貸は、他代反。 自公以下、苟有積者盡出之、國無滯積、散在民。 【読み】 公より以下、苟も積有る者は盡く之を出だし、國に滯積無く、散じて民に在り。 亦無困人、不匱乏。 【読み】 亦困人無く、匱乏せず。 公無禁利、與民共。 【読み】 公利を禁ずること無く、民と共にす。 亦無貪民。禮讓行。 【読み】 亦貪民無し。禮讓行わる。 祈以幣更、不用牲。 【読み】 祈るに幣を以て更え、牲を用いず。 賓以特牲、務崇省。 【読み】 賓をも特牲を以てし、務めて省を崇ぶ。 器用不作、因仍舊。 【読み】 器用作らず、舊に因仍[いんじょう]す。 車服從給。足給事也。 【読み】 車服給に從う。事に給するに足るなり。 行之期年、國乃有節。三駕而楚不能與爭。三駕、三興師。謂十年、師於牛首、十一年、師於向、其秋觀兵於鄭東門。自是鄭遂服。○期、音基。 【読み】 之を行うこと期年、國乃ち節有り。三駕して楚與に爭うこと能わざりき。三駕とは、三たび師を興すなり。十年、牛首に師し、十一年、向に師し、其の秋兵を鄭の東門に觀[しめ]すを謂う。是より鄭遂に服す。○期は、音基。 襄 經元年。公孫剽。字林、匹召反。 傳。爲宋。于僞反。歸寘。之豉反。東垣。音袁。爲質。音致。元帥。所類反。不與。音預。繼好。呼報反。 經二年。甯殖。市力反。齊姜。或音側皆反、非。 傳。伐萊。音來。正輿子。音餘。本亦作與。謚應。應對之應。年末同。其行。下孟反。爲不哲矣。一本作不爲哲矣。之妣。必履反。公適。丁歷反。本亦作嫡。烝。之承反。畀。必利反。注同。以洽。戶夾反。孔偕。音皆。偕徧。音遍。越疆。居良反。齊竟。音境。不爲。于僞反。若背。音佩。弃力。○今本棄。弃古文。誰暱。本又作昵。徐乃吉反。 經三年。三年單子。音善。袁僑。其驕反。 傳。被練。徐扶僞反。注及下同。咎子。其九反。患恚。一僞反。子相。息亮反。注同。介在。音界。晉爭。爭鬭之爭。爲鄭。于僞反。吳好。呼報反。多難。乃旦反。年内同。虞度。待洛反。用鉞。音越。公跣。先典反。無量。直用反。注同。特爲。于僞反。 經四年。 傳。爲陳。于僞反。鮦陽。孟康直九反、或音直勇反、非。有咎。其九反。下同。肆夏一名樊。國語云、金奏肆夏樊遏渠。杜遂分爲三夏之別名。呂叔玉云、肆夏、時邁也。樊遏、執競也。渠、思文也。韶夏。上招反。名遏。於葛反。夏納。本或爲納夏誤。名渠。其居反。子員。徐于貧反。而重。直用反。下皆同。敢與。音預。下及與同。牧伯。徐音目。咨諏。○今本咨作諮。下咨度咨詢皆同。咨詢。音荀。爲己。于僞反。下注爲定姒爲言下爲執事同。圃。布古反。場。直良反。須句。其倶反。顓。音專。臾。羊朱反。之比。必二反。蓋相。息亮反。朝夕。如字。褊小。必淺反。其使。所吏反。夏訓。戶雅反。下注皆同。后羿。音詣。自鉏。仕居反。大康。音泰。中康。音仲。下同。○今本仲。子相。息亮反。下及注同。慝。他得反。後同。而亨。煮也。斟。之林反。灌。古亂反。干戈。古禾反。掖縣。音亦。漢書作夜。孟康音掖。少康。詩照反。注下同。官箴。之林反。芒芒。莫郎反。畫爲。乎麥反。攸家。如字。本或作攸處。○今本亦攸處。不擾。如少反。冒于。莫報反。又亡北反。其麀。音憂。鹿牝也。牡。茂后反。可重。直用反。下文同。猶數。所角反。不恢。苦回反。以好。呼報反。下文同。不懲。直升反。荐居。一音才遜反。易土。徐神豉反。不聳。息勇反。公說。音悅。番縣。一音方袁反。目台。吐才反。合髻。本又作結。又作紒。音同。○今本結。朱儒。本或作侏。亦音朱。 經五年。子巫。亡扶反。鄫見。賢遍反。不復。扶又反。下同。 傳。愬戒。悉路反。奉使。所吏反。覿鄫。直歷反。之好。呼報反。共王。音恭。嚴斷。丁亂反。挺挺。他頂反。扃扃。徐孔穎反。背盟。音佩。鄫近。附近之近。下文陳近同。魯竟。音境。致譴。棄專反。子囊。乃郎反。民朝。如字。入斂。力豔反。西郷。許亮反。相三。息亮反。 經六年。 傳。狎。戶甲反。調戲。徒弔反。以貫。古亂反。幾日。居豈反。射女。音汝。不勝。音升。見且。賢遍反。注同。復託。扶又反。堙之。音因。王湫。徐子鳥反。共公。音恭。其疆。居良反。 經七年。郯子。音談。于鄬。字林、几吹反。于鄵。字林、千消反。所殺。音試。下同。○今本弑。上其名。時掌反。 傳。夏正。戶雅反。隧正。音遂。多難。乃旦反。長子。丁丈反。下師長同。好仁。呼報反。注及下同。靖共。音恭。下注同。介爾。音界。下及注同。臣後。胡豆反。下文不後寡君同。子相。息亮反。下子駟相同。未嘗後。如字。徐胡豆反。無悛。七全反。委蛇。於危反。下以支反。下同。召南。上照反。爲執。于僞反。背君。音佩。 經八年。公子燮。悉協反。邢丘。徐音刑。 傳。伯業。音霸。又如字。本亦作霸。○今本亦霸。先之。一如字。子煕。許其反。徐音怡。以疆。居良反。注同。人壽。音授。或如字。注同。幾何。居豈反。以紓。音舒。敬共。音恭。二竟。音境。注同。而庇。必利反。又音祕。下同。不罷。音皮。背之。音佩。至卷末皆同。杖莫。直亮反。下同。其咎。其九反。下同。伯騈。扶賢反。又扶經反。儆而。居領反。女何。音汝。啓跪。其委反。傾覆。芳服反。所控。苦貢反。以見。賢遍反。或如字。摽有。徐扶妙反。又扶表反。以興。許譍反。今辟。音譬。本多卽作譬字。後放此。○今本又譬。彤弓。徒冬反。復受。扶又反。城濮。音卜。孫臧。如字。徐才浪反。 經九年。 傳。汲。音急。索。悉各反。畜。勅六反。本又作蓄。○今本亦蓄。水潦。音老。繕守。手又反。注守備同。之處。昌慮反。標表。必遙反。隧正。音遂。華閱。音悅。皇鄖。本亦作員。音同。武守。手又反。下同。儆官。音景。四庸。本又作墉。音同。○今本亦墉。般庚。步干反。字亦作盤。○今本亦盤。以禳。如羊反。渥濁。於角反。得見。如字。又賢遍反。契孫。息列反。之釁。許靳反。猶數。處主反。下同。所更。音庚。遇艮。古恨反。元亨。許庚反。下同。論彖。吐亂反。以折。之設反。之長。丁丈反。下同。嘉德。易作嘉會。新軍將。子匠反。晉饑。音飢。又音機。鄟門。音專。本亦作專。人恐。丘勇反。鄭復。扶又反。敝罷。音皮。暴骨。徐扶沃反。以爭。爭鬭之爭。注同。又如字。適子。丁歷反。使介。音界。注同。介猶閒也。音閒厠之閒。又如字。歆其。許今反。隘。於懈反。所底。音旨。以庇。必利反。能休。許虯反。復伐。扶又反。下注同。洧津。于軌反。盍爲。戶臘反。謂灌。古亂反。鬯酒。勅亮反。中分。竝如字。徐音丁仲反。聚。才住反。崇省。所景反。期年。本亦作朞。于向。舒亮反。
春秋左氏傳校本第二十 昭公 起元年盡三年 晉 杜氏 集解 唐 陸氏 音義 尾張 秦 鼎 校本 昭公 名、裯。襄公子。母齊歸。在位二十五年、遜于齊。在外八年、凡三十三年。薨于乾侯。謚法、威儀恭明曰昭。 【読み】 昭公 名は、裯[ちゅう]。襄公の子。母は齊歸。在位二十五年、齊に遜る。外に在ること八年、凡そ三十三年なり。乾侯に薨ず。謚法に、威儀恭明なるを昭と曰う、と。 〔經〕元年、春、王正月、公卽位。無傳。 【読み】 〔經〕元年、春、王の正月、公位に卽く。傳無し。 叔孫豹會晉趙武・楚公子圍・齊國弱・宋向戌・衛齊惡・陳公子招・蔡公孫歸生・鄭罕虎・許人・曹人于虢。招、實陳侯母弟。不稱弟者、義與莊二十五年公子友同。今讀舊書、則楚當先晉。而先書趙武者、亦取宋盟貴武之信。故尙之也。衛在陳・蔡上、先至於會。○招、常遙反。虢、瓜百反。當先、悉薦反。 【読み】 叔孫豹晉の趙武・楚の公子圍・齊の國弱・宋の向戌[しょうじゅつ]・衛の齊惡・陳の公子招・蔡の公孫歸生・鄭の罕虎・許人・曹人に虢[かく]に會す。招は、實は陳侯の母弟なり。弟と稱せざるは、義莊二十五年の公子友と同じ。今舊書を讀むときは、則ち楚當に晉に先だつべし。而るに先ず趙武を書すは、亦宋の盟に武の信を貴ぶに取る。故に之を尙ぶなり。衛の陳・蔡の上に在るは、先ず會に至ればなり。○招は、常遙反。虢は、瓜百反。當先は、悉薦反。 三月取鄆。不稱將師、將卑師少。書取、言易也。○鄆、音運。 【読み】 三月鄆[うん]を取る。將師を稱せざるは、將卑しく師少なければなり。取ると書すは、易きを言うなり。○鄆は、音運。 夏、秦伯之弟鍼出奔晉。稱弟、罪秦伯。○鍼、其廉反。 【読み】 夏、秦伯の弟鍼[けん]出でて晉に奔る。弟と稱するは、秦伯を罪するなり。○鍼は、其廉反。 六月、丁巳、邾子華卒。無傳。三同盟。 【読み】 六月、丁巳[ひのと・み]、邾子[ちゅし]華卒す。傳無し。三たび同盟す。 晉荀吳帥師敗狄于大鹵。大鹵、大原晉陽縣。○大鹵、如字。又音泰。 【読み】 晉の荀吳師を帥いて狄を大鹵[たいろ]に敗る。大鹵は、大原晉陽縣。○大鹵は、字の如し。又音泰。 秋、莒去疾自齊入于莒。國逆而立之曰入。○去、起呂反。 【読み】 秋、莒の去疾齊より莒に入る。國逆[むか]えて之を立つるを入ると曰う。○去は、起呂反。 莒展輿出奔吳。弑君賊、未會諸侯。故不稱爵。 【読み】 莒の展輿出でて吳に奔る。君を弑する賊にして、未だ諸侯に會せず。故に爵を稱せず。 叔弓帥師疆鄆田。春取鄆、今正其封疆。 【読み】 叔弓師を帥いて鄆の田を疆[さか]う。春鄆を取り、今其の封疆を正す。 葬邾悼公。無傳。 【読み】 邾の悼公を葬る。傳無し。 冬、十有一月、己酉、楚子麇卒。楚以瘧疾赴。故不書弑。○麇、九倫反。 【読み】 冬、十有一月、己酉[つちのと・とり]、楚子麇[きん]卒す。楚瘧疾[ぎゃくしつ]を以て赴[つ]ぐ。故に弑を書さず。○麇は、九倫反。 楚公子比出奔晉。書名、罪之。 【読み】 楚の公子比出でて晉に奔る。名を書すは、之を罪するなり。 〔傳〕元年、春、楚公子圍聘于鄭。且娶於公孫段氏。伍舉爲介。伍舉、椒舉。介、副也。 【読み】 〔傳〕元年、春、楚の公子圍鄭に聘す。且公孫段氏に娶らんとす。伍舉介爲り。伍舉は、椒舉。介は、副なり。 將入館。就客舍。 【読み】 將に入りて館せんとす。客舍に就く。 鄭人惡之、知楚懷詐。○惡、烏路反。 【読み】 鄭人之を惡み、楚の詐りを懷くを知る。○惡は、烏路反。 使行人子羽與之言、乃館於外。舍城外。 【読み】 行人子羽をして之と言わしめて、乃ち外に館す。城外に舍す。 旣聘、將以衆逆。以兵入逆婦。 【読み】 旣に聘し、將に衆を以て逆えんとす。兵を以て入りて婦を逆う。 子產患之、使子羽辭曰、以敝邑褊小、不足以容從者。請墠聽命。欲於城外除地爲墠、行昏禮。○褊、必淺反。墠、音善。 【読み】 子產之を患え、子羽をして辭せしめて曰く、敝邑の褊小なるを以て、以て從者を容るるに足らず。請う墠[せん]にして命を聽かん、と。城外に於て地を除いて墠を爲り、昏禮を行わんことを欲す。○褊は、必淺反。墠は、音善。 令尹命大宰伯州犂對曰、君辱貺寡大夫圍、謂圍將使豐氏撫有而室。豐氏、公孫段。 【読み】 令尹大宰伯州犂[はくしゅうり]に命じて對えしめて曰く、君辱く寡大夫圍に貺[たま]い、圍に謂えらく、將に豐氏をして而[なんじ]の室を撫有せしめんとす、と。豐氏は、公孫段。 圍布几筵、告於莊・共之廟而來。莊王、圍之祖。共王、圍之父。 【読み】 圍几筵を布き、莊・共の廟に告げて來れり。莊王は、圍の祖。共王は、圍の父。 若野賜之、是委君貺於草莽也。是寡大夫不得列於諸卿也。言不得從卿禮。 【読み】 若し野にして之を賜わば、是れ君の貺を草莽に委[す]つるなり。是れ寡大夫諸卿に列ぬることを得ざるなり。言うこころは、卿の禮に從うことを得ざるなり。 不寧唯是。又使圍蒙其先君、蒙、欺也。告先君而來、不得成禮於女氏之廟。故以爲欺先君。 【読み】 不寧[むし]ろ唯是のみならんや。又圍をして其の先君を蒙[あざむ]かしめて、蒙は、欺くなり。先君に告げて來りて、禮を女氏の廟に成すことを得ず。故に以て先君を欺くと爲す。 將不得爲寡君老。大臣稱老。懼辱命而黜退。 【読み】 將に寡君の老と爲ることを得ざらんとす。大臣は老と稱す。命を辱めて黜退せられんことを懼る。 其蔑以復矣。唯大夫圖之。 【読み】 其れ以て復すこと蔑[な]からん。唯大夫之を圖れ、と。 子羽曰、小國無罪。恃實其罪。恃大國而無備、則是罪。 【読み】 子羽曰く、小國罪無し。恃むは實に其の罪なり。大國を恃みて備え無きは、則ち是れ罪なり。 將恃大國之安靖己、而無乃包藏禍心以圖之。小國失恃、而懲諸侯、使莫不憾者、距違君命、而有所壅塞不行是懼。言己失所恃、則諸侯懲恨以距君命、壅塞不行。所懼唯此。 【読み】 將に大國の己を安靖せんことを恃まんとするに、而るに乃ち禍心を包藏して以て之を圖ること無からんや。小國恃みを失いて、諸侯を懲らさば、憾みざる者莫くして、君命を距違して、壅塞して行われざる所有らしめんこと是れ懼る。言うこころは、己恃む所を失わば、則ち諸侯懲恨して以て君命を距み、壅塞して行われざらん。懼るる所は唯此のみ。 不然、敝邑館人之屬也。館人、守舍之人也。 【読み】 然らずんば、敝邑は館人の屬なり。館人は、守舍の人なり。 其敢愛豐氏之祧。祧、遠祖廟。○祧、他彫反。 【読み】 其れ敢えて豐氏の祧[ちょう]を愛まんや、と。祧は、遠祖の廟。○祧は、他彫反。 伍舉知其有備也、請垂櫜而入。垂櫜、示無弓。○櫜、音羔。弓衣也。 【読み】 伍舉其の備え有るを知るや、櫜[こう]を垂れて入らんと請う。櫜を垂るとは、弓無きを示すなり。○櫜は、音羔。弓衣なり。 許之。 【読み】 之を許す。 正月、乙未、入逆而出。 【読み】 正月、乙未[きのと・ひつじ]、入りて逆えて出づ。 遂會於虢。虢、鄭地。 【読み】 遂に虢に會す。虢は、鄭の地。 尋宋之盟也。宋盟、在襄二十七年。 【読み】 宋の盟を尋[かさ]ぬるなり。宋の盟は、襄二十七年に在り。 祁午謂趙文子曰、宋之盟、楚人得志於晉。得志、謂先歃。午、祁奚子。○歃、所洽反。 【読み】 祁午趙文子に謂いて曰く、宋の盟に、楚人志を晉に得たり。志を得るとは、先ず歃るを謂うなり。午は、祁奚の子。○歃は、所洽反。 今令尹之不信、諸侯之所聞也。子弗戒、懼又如宋。恐楚復得志。 【読み】 今令尹の不信は、諸侯の聞ける所なり。子戒めずば、懼らくは又宋の如くならん。楚復志を得んことを恐る。 子木之信、稱於諸侯、猶詐晉而駕焉。駕、猶陵也。詐、謂衷甲。○衷、音忠。 【読み】 子木の信は、諸侯に稱せられしも、猶晉を詐りて駕[しの]げり。駕は、猶陵ぐのごとし。詐は、甲を衷[うち]にするを謂う。○衷は、音忠。 況不信之尤者乎。尤、甚也。 【読み】 況んや不信の尤[はなは]だしき者をや。尤は、甚だなり。 楚重得志於晉、晉之恥也。 【読み】 楚重ねて志を晉に得ば、晉の恥なり。 子相晉國以爲盟主、於今七年矣。襄二十五年始爲政。以春言。故云七年。○重、直用反。 【読み】 子晉國を相けて以て盟主爲ること、今に於て七年なり。襄二十五年始めて政を爲す。春を以て言う。故に七年と云うなり。○重は、直用反。 再合諸侯、襄二十五年、會夷儀、二十六年、會澶淵。 【読み】 再び諸侯を合わせ、襄二十五年、夷儀に會し、二十六年、澶淵[せんえん]に會す。 三合大夫、襄二十七年、會于宋、三十年、會澶淵、及今會虢也。 【読み】 三たび大夫を合わせ、襄二十七年、宋に會し、三十年、澶淵に會し、及び今虢に會するなり。 服齊・狄、寧東夏、襄二十八年、齊侯・白狄朝晉。 【読み】 齊・狄を服せしめ、東夏を寧んじ、襄二十八年、齊侯・白狄晉に朝す。 平秦亂、襄二十六年、秦・晉爲成。 【読み】 秦の亂を平らげ、襄二十六年、秦・晉成らぎを爲す。 城淳于。襄二十九年、城杞之淳于、杞遷都。 【読み】 淳于に城く。襄二十九年、杞の淳于に城きて、杞都を遷す。 師徒不頓、國家不罷、民無謗讟、讟、誹也。 【読み】 師徒頓[にぶ]からず、國家罷[つか]れず、民謗讟[ぼうとく]無く、讟は、誹るなり。 諸侯無怨、天無大災。子之力也。有令名矣。而終之以恥、午也是懼。吾子其不可以不戒。 【読み】 諸侯怨むること無く、天大災無し。子の力なり。令名有り。而るに之を終わるに恥を以てせんこと、午や是れ懼る。吾子其れ以て戒めずんばある可からず、と。 文子曰、武受賜矣。受午言。 【読み】 文子曰く、武賜を受けり。午の言を受く。 然宋之盟、子木有禍人之心、武有仁人之心。是楚所以駕於晉也。今武猶是心也。楚又行僭、僭、不信。 【読み】 然れども宋の盟に、子木は人に禍するの心有り、武は人に仁するの心有り。是れ楚の晉を駕ぎし所以なり。今武猶是の心なり。楚又僭を行うも、僭は、不信なり。 非所害也。武將信以爲本、循而行之。譬如農夫、是穮是蔉、穮、耘也。壅苗爲蔉。○穮、音標。蔉、音袞。 【読み】 害とする所に非ざるなり。武將に信以て本と爲し、循いて之を行わんとす。譬えば農夫の、是れ穮[くさぎ]り是れ蔉[つちか]えば、穮[ひょう]は、耘[くさぎ]るなり。苗に壅[つちか]うを蔉[こん]と爲す。○穮は、音標。蔉は、音袞。 雖有饑饉、必有豐年。言耕鉏不以水旱息、必獲豐年之收。○饉、其靳反。收、手又反。又如字。 【読み】 饑饉有りと雖も、必ず豐年有るが如し。言うこころは、耕鉏水旱を以て息めざれば、必ず豐年の收を獲ん。○饉は、其靳反。收は、手又反。又字の如し。 且吾聞之、能信不爲人下。吾未能也。自恐未能信也。 【読み】 且つ吾れ之を聞く、能く信なれば人の下と爲らず、と。吾れ未だ能わざるなり。自ら未だ信なること能わざるを恐るるなり。 詩曰、不僭不賊、鮮不爲則、信也。詩、大雅。僭、不信。賊、害人也。 【読み】 詩に曰く、僭せず賊せざれば、則爲らざること鮮しとは、信なり。詩は、大雅。僭は、不信なり。賊は、人を害するなり。 能爲人則者、不爲人下矣。吾不能是難。楚不爲患。 【読み】 能く人の則と爲る者は、人の下と爲らず。吾れ能わざること是れ難[なや]みとす。楚患えと爲らず、と。 楚令尹圍請、用牲、讀舊書、加于牲上而已。舊書、宋之盟書。楚恐晉先歃。故欲從舊書、加于牲上、不歃血。經所以不書盟。○難、乃旦反。 【読み】 楚の令尹圍請う、牲を用い、舊書を讀みて、牲上に加えんのみ、と。舊書は、宋の盟書なり。楚晉先ず歃らんことを恐る。故に舊書に從い、牲上に加え、血を歃らざらんことを欲す。經盟を書さざる所以なり。○難は、乃旦反。 晉人許之。三月、甲辰、盟。 【読み】 晉人之を許す。三月、甲辰[きのえ・たつ]、盟う。 楚公子圍設服離衛。設君服、二人執戈、陳於前以自衛。離、陳也。 【読み】 楚の公子圍服を設けて離[つら]ね衛る。君服を設け、二人戈を執り、前に陳ね以て自ら衛る。離は、陳ぬるなり。 叔孫穆子曰、楚公子美矣。君哉。美服似君。 【読み】 叔孫穆子曰く、楚の公子は美なり。君なるかな、と。美服君に似たり。 鄭子皮曰、二執戈者前矣。禮、國君行、有二執戈者在前。 【読み】 鄭の子皮曰く、二りの戈を執る者前なり、と。禮に、國君行かば、二りの戈を執る者前に在る有り、と。 蔡子家曰、蒲宮、有前不亦可乎。公子圍在會、特緝蒲爲王殿屋屛蔽、以自殊異。言旣造王宮而居之。雖服君服、無所怪也。 【読み】 蔡の子家曰く、蒲宮すれば、前有るも亦可ならんや、と。公子圍會に在りて、特に蒲を緝[あつ]めて王の殿屋屛蔽を爲して、以て自ら殊異にす。言うこころは、旣に王宮を造りて之に居る。君服を服すと雖も、怪しき所無し。 楚伯州犂曰、此行也、辭而假之寡君。聞諸大夫譏之。故言假以飾令尹過。 【読み】 楚の伯州犂曰く、此の行や、辭して之を寡君に假れり、と。諸大夫の之を譏るを聞く。故に假ると言いて以て令尹の過ちを飾るなり。 鄭行人揮曰、假不反矣。言將遂爲君。 【読み】 鄭の行人揮曰く、假りて反さざらん、と。言うこころは、將に遂に君爲らんとす。 伯州犂曰、子姑憂子皙之欲背誕也。襄三十年、鄭子皙殺伯有、背命放誕。將爲國難。言子且自憂此。無爲憂令尹不反戈。○背、音佩。 【読み】 伯州犂曰く、子姑く子皙の背誕せんと欲するを憂えよ、と。襄三十年、鄭の子皙伯有を殺し、命に背きて放誕なり。將に國難を爲さんとす。言うこころは、子且く自ら此を憂えよ。令尹が戈を反さざるを憂うることを爲すこと無かれ。○背は、音佩。 子羽曰、當璧猶在。假而不反、子其無憂乎。子羽、行人揮。當璧、謂弃疾。事在昭十三年。言弃疾有當璧之命。圍雖取國、猶將有難。不無憂也。 【読み】 子羽曰く、當璧猶在り。假りて反さざるも、子其れ憂え無からん、と。子羽は、行人揮。當璧は、弃疾を謂う。事は昭十三年に在り。言うこころは、弃疾當璧の命有り。圍國を取ると雖も、猶將に難有らんとす。憂え無しとせざるなり。 齊國子曰、吾代二子愍矣。國子、國弱也。二子、謂王子圍及伯州犂。圍此冬便簒位、不能自終。州犂亦尋爲圍所殺。故言可愍。 【読み】 齊の國子曰く、吾は二子に代わりて愍[うれ]えり、と。國子は、國弱なり。二子は、王子圍と伯州犂とを謂う。圍此の冬便ち位を簒いて、自ら終わること能わず。州犂も亦尋[つい]で圍の爲に殺さる。故に愍う可しと言う。 陳公子招曰、不憂何成。二子樂矣。言以憂生事、事成而樂。○樂、音洛。 【読み】 陳の公子招曰く、憂えずんば何ぞ成らん。二子は樂せん、と。言うこころは、憂えを以て事を生じ、事成りて樂しむ。○樂は、音洛。 衛齊子曰、苟或知之、雖憂何害。齊子、齊惡。言先知爲備、雖有憂難、無所損害。 【読み】 衛の齊子曰く、苟も之を知ること或らば、憂うと雖も何の害あらん、と。齊子は、齊惡。言うこころは、先ず知りて備えを爲さば、憂難有りと雖も、損害する所無し。 宋合左師曰、大國令、小國共。吾知共而已。共承大國命、不能知其禍福。○共、音恭。 【読み】 宋の合左師曰く、大國は令し、小國は共す。吾は共を知るのみ、と。大國の命を共承して、其の禍福を知ること能わず。○共は、音恭。 晉樂王鮒曰、小旻之卒章善矣。吾從之。小旻、詩小雅。其卒章、義取非唯暴虎馮河之可畏也、不敬小人亦危殆。王鮒從斯義。故不敢譏議公子圍。○鮒、音附。 【読み】 晉の樂王鮒曰く、小旻の卒章は善し。吾れ之に從わん、と。小旻は、詩の小雅。其の卒章は、義唯暴虎馮河の畏る可きのみに非ず、小人を敬せざるも亦危殆なるに取る。王鮒斯の義に從う。故に敢えて公子圍を譏議せず。○鮒は、音附。 退會。子羽謂子皮曰、叔孫絞而婉。絞、切也。譏其似君、反謂之美。故曰婉。 【読み】 會より退く。子羽子皮に謂いて曰く、叔孫は絞にして婉なり。絞は、切なり。其の君に似たるを譏りて、反って之を美と謂う。故に婉と曰う。 宋左師簡而禮。無所臧否。故曰簡。共事大國。故曰禮。○否、音鄙。 【読み】 宋の左師は簡にして禮あり。臧否する所無し。故に簡と曰う。大國に共事す。故に禮と曰う。○否は、音鄙。 樂王鮒字而敬。字、愛也。不犯凶人。所以自愛敬。 【読み】 樂王鮒は字にして敬なり。字は、愛しむなり。凶人を犯さず。自ら愛敬する所以なり。 子與子家持之。子、子皮。子家、蔡公孫歸生。持之、言無所取與。 【読み】 子と子家とは之を持にせり。子は、子皮。子家は、蔡の公孫歸生。之を持にすとは、取與する所無きを言う。 皆保世之主也。齊・衛・陳大夫、其不免乎。國子代人憂、子招樂憂、齊子雖憂弗害。夫弗及而憂、與可憂而樂、與憂而弗害、皆取憂之道也。憂必及之。大誓曰、民之所欲、天必從之。逸書。○樂、音洛。 【読み】 皆保世の主なり。齊・衛・陳の大夫は、其れ免れざらんか。國子は人に代わりて憂え、子招は憂えを樂しみ、齊子は憂うと雖も害あらずとす。夫れ及ばずして憂うると、憂う可くして樂しむと、憂えて害あらずとするとは、皆憂えを取るの道なり。憂え必ず之に及ばん。大誓に曰く、民の欲する所は、天必ず之に從う、と。逸書。○樂は、音洛。 三大夫兆憂。憂能無至乎。開憂兆也。 【読み】 三大夫は憂えを兆せり。憂え能く至ること無からんや。憂兆を開くなり。 言以知物、其是之謂矣。物、類也。察言以知禍福之類。八年、陳招殺大子、國弱・齊惡、當身各無患。 【読み】 言以て物を知るとは、其れ是を謂うなり、と。物は、類なり。言を察して以て禍福の類を知るなり。八年、陳の招大子を殺し、國弱・齊惡は、當身各々患無し。 季武子伐莒、取鄆。兵未加莒而鄆服。故書取而不言伐。 【読み】 季武子莒を伐ちて、鄆を取る。兵未だ莒に加えずして鄆服す。故に取るを書して伐つを言わず。 莒人告於會。楚告於晉曰、尋盟未退。尋弭兵之盟。 【読み】 莒人會に告ぐ。楚晉に告げて曰く、盟を尋ねて未だ退かず。弭兵の盟を尋ぬ。 而魯伐莒、瀆齊盟。瀆、慢也。 【読み】 而るに魯莒を伐ちて、齊盟を瀆[あなど]れり。瀆は、慢るなり。 請戮其使。時叔孫豹在會。欲戮之。 【読み】 請う、其の使いを戮せん、と。時に叔孫豹會に在り。之を戮せんと欲す。 樂桓子相趙文子。桓子、樂王鮒。相、佐也。 【読み】 樂桓子趙文子を相く。桓子は、樂王鮒。相は、佐くなり。 欲求貨於叔孫、而爲之請、使請帶焉。難指求貨。故以帶爲辭。○而爲、去聲。 【読み】 貨を叔孫に求めて、之が爲に請わんと欲して、帶を請わしむ。貨を求むることを指し難し。故に帶を以て辭と爲す。○而爲は、去聲。 弗與。梁其踁曰、貨以藩身。子何愛焉。踁、叔孫家臣。○踁、戶定反。 【読み】 與えず。梁其踁[りょうきけい]曰く、貨は以て身を藩[まも]らんとす。子何ぞ愛しめる、と。踁は、叔孫の家臣。○踁は、戶定反。 叔孫曰、諸侯之會、衛社稷也。我以貨免、魯必受師。言不戮其使、必伐其國。 【読み】 叔孫曰く、諸侯の會は、社稷を衛らんとなり。我れ貨を以て免るれば、魯必ず師を受けん。言うこころは、其の使いを戮せざれば、必ず其の國を伐たん。 是禍之也。何衛之爲。人之有牆、以蔽惡也。喩己爲國衛。如牆爲人蔽。 【読み】 是れ之を禍するなり。何ぞ衛るとせん。人の牆有るは、以て惡を蔽わんとなり。己は國の衛り爲り。牆の人の蔽い爲るが如きに喩う。 牆之隙壞、誰之咎也。咎在牆。 【読み】 牆の隙壞あるは、誰が咎ぞや。咎牆に在り。 衛而惡之、吾又甚焉。罪甚牆。 【読み】 衛りて之を惡しくせば、吾れ又焉より甚だし。罪牆より甚だし。 雖怨季孫、魯國何罪。怨季孫之伐莒。 【読み】 季孫を怨むと雖も、魯國何の罪ある。季孫が莒を伐つを怨む。 叔出季處、有自來矣。吾又誰怨。季孫守國、叔孫出使、所從來久。今遇此戮無所怨也。 【読み】 叔は出でて季は處るは、自りて來ること有り。吾れ又誰をか怨みん。季孫國を守り、叔孫出でて使いするは、從來する所久し。今此の戮に遇うも怨むる所無し。 然鮒也賄。弗與不已。召使者、裂裳帛而與之、曰、帶其褊矣。言帶褊盡。故裂裳、示不相逆。 【読み】 然れども鮒や賄をす。與えずんば已まじ、と。使者を召し、裳帛を裂きて之を與えて、曰く、帶は其れ褊せり、と。言うこころは、帶褊盡す。故に裳を裂きて、相逆わざるを示すなり。 趙孟聞之曰、臨患不忘國、忠也。謂言魯國何罪。 【読み】 趙孟之を聞きて曰く、患えに臨みて國を忘れざるは、忠なり。魯國何の罪あると言うを謂う。 思難不越官、信也。謂言叔出季處。○難、乃旦反。下同。 【読み】 難を思いて官を越えざるは、信なり。叔出でて季處ると言うを謂う。○難は、乃旦反。下も同じ。 圖國忘死、貞也。謂不以貨免。 【読み】 國を圖りて死を忘るるは、貞なり。貨を以て免れざるを謂う。 謀主三者、義也。三者、忠・信・貞。 【読み】 謀三つの者を主とするは、義なり。三つの者とは、忠・信・貞。 有是四者。又可戮乎。幷義而四。 【読み】 是の四つの者有り。又戮す可けんや、と。義を幷せて四つ。 乃請諸楚曰、魯雖有罪、其執事不辟難、執事、謂叔孫。 【読み】 乃ち諸を楚に請いて曰く、魯罪有りと雖も、其の執事難を辟けず、執事は、叔孫を謂う。 畏威而敬命矣。謂不敢辟戮。 【読み】 威を畏れて命を敬せり。敢えて戮を辟けざるを謂う。 子若免之、以勸左右、可也。若子之羣吏、處不辟汚、汚、勞事。 【読み】 子若し之を免して、以て左右を勸めば、可なり。若し子の羣吏、處りて汚を辟けず、汚は、勞事。 出不逃難、不苟免。 【読み】 出でて難を逃れずんば、苟も免れず。 其何患之有。患之所生、汚而不治、難而不守、所由來也。能是二者、又何患焉。不靖其能、其誰從之。安靖賢能、則衆附從。 【読み】 其れ何の患えか之れ有らん。患えの生ずる所は、汚にして治めず、難ありて守らざれば、由り來る所なり。是の二つの者を能くせば、又何ぞ患えん。其の能を靖んぜずんば、其れ誰か之に從わん。賢能を安靖すれば、則ち衆附從す。 魯叔孫豹、可謂能矣。請免之以靖能者。 【読み】 魯の叔孫豹は、能と謂う可し。請う、之を免して以て能者を靖んぜん。 子會而赦有罪、不伐魯。 【読み】 子會して有罪を赦し、魯を伐たず。 又賞其賢、赦叔孫。 【読み】 又其の賢を賞せば、叔孫を赦す。 諸侯其誰不欣焉望楚而歸之、視遠如邇。疆場之邑、一彼一此。何常之有。言今衰世。疆場無定主。 【読み】 諸侯其れ誰か欣焉として楚を望みて之に歸すること、遠きを視るも邇きが如くならざらん。疆場の邑は、一彼一此なり。何の常か之れ有らん。言うこころは、今は衰世。疆場定主無し。 王伯之令也、言三王・五伯、有令德時。 【読み】 王伯の令ありしや、三王・五伯、令德有りし時を言う。 引其封疆、引、正也。正封界。 【読み】 其の封疆を引[ただ]して、引は、正すなり。封界を正す。 而樹之官、樹、立也。立官以守國。 【読み】 之が官を樹てて、樹は、立つなり。官を立てて以て國を守る。 舉之表旗、旌旗以表貴賤。 【読み】 之が表旗を舉げて、旌旗以て貴賤を表す。 而著之制令、爲諸侯作制度法令、使不得相侵犯。 【読み】 之が制令を著し、諸侯の爲に制度法令を作り、相侵犯することを得ざらしむ。 過則有刑、猶不可壹。於是乎虞有三苗、三苗、饕餮。放三危者。 【読み】 過てば則ち刑有るも、猶壹にす可からず。是に於て虞に三苗有り、三苗は、饕餮[とうてつ]。三危に放たる者。 夏有觀・扈、觀國、今頓丘衛縣。扈、在始平鄠縣。書序曰、啓與有扈戰于甘之野。○觀、音館。 【読み】 夏に觀・扈[こ]有り、觀國は、今の頓丘の衛縣。扈は、始平の鄠縣[こけん]に在り。書序に曰く、啓と有扈と甘の野に戰う、と。○觀は、音館。 商有姺・邳、二國、商諸侯。邳、今下邳縣。○姺、西典反。又西禮反。 【読み】 商に姺[せん]・邳有り、二國は、商の諸侯。邳は、今の下邳縣。○姺は、西典反。又西禮反。 周有徐・奄。二國、皆嬴姓。書序曰、成王伐淮夷、遂踐奄。徐卽淮夷。 【読み】 周に徐・奄有り。二國は、皆嬴[えい]姓。書序に曰く、成王淮夷を伐ち、遂に奄を踐[き]る、と。徐は卽淮夷なり。 自無令王、諸侯逐進、遂、猶競也。 【読み】 令王無かりしより、諸侯逐進して、遂は、猶競うのごとし。 狎主齊盟。其又可壹乎。彊弱無常。故更主盟。○更、音庚。 【読み】 狎[こも]々齊盟を主れり。其れ又壹にす可けんや。彊弱常無し。故に更々盟を主る。○更は、音庚。 恤大舍小、足以爲盟主。大、謂簒弑滅亡之禍。 【読み】 大を恤れみ小を舍てば、以て盟主爲るに足らん。大は、簒弑滅亡の禍を謂う。 又焉用之。焉用治小事。○焉、於虔反。 【読み】 又焉ぞ之を用いん。焉ぞ小事を治むることを用いん。○焉は、於虔反。 封疆之削、何國蔑有。主齊盟者、誰能辯焉。辯、治也。 【読み】 封疆の削らる、何れの國にか有ること蔑からん。齊盟を主る者、誰か能く辯[おさ]めん。辯は、治むるなり。 吳・濮有釁、楚之執事、豈其顧盟。吳在東、濮在南。今建寧郡南有濮夷。釁、過也。 【読み】 吳・濮に釁[きん]有らば、楚の執事、豈其れ盟を顧みんや。吳は東に在り、濮は南に在り。今建寧郡の南に濮夷有り。釁は、過ちなり。 莒之疆事、楚勿與知、諸侯無煩、不亦可乎。莒・魯爭鄆、爲日久矣。苟無大害於其社稷、可無亢也。亢、禦。○與、音預。亢、苦浪反。又音剛。 【読み】 莒の疆事、楚與り知ること勿く、諸侯煩無きは、亦可ならずや。莒・魯の鄆を爭うは、日爲ること久し。苟も其の社稷に大害無くんば、亢[ふせ]ぐこと無かる可し。亢は、禦ぐなり。○與は、音預。亢は、苦浪反。又音剛。 去煩宥善、莫不競勸。子其圖之。固請諸楚。楚人許之。乃免叔孫。 【読み】 煩を去り善を宥めば、競勸せざること莫けん。子其れ之を圖れ、と。固く諸を楚に請う。楚人之を許す。乃ち叔孫を免す。 令尹享趙孟、賦大明之首章。大明、詩大雅。首章言文王明明照於下。故能赫赫盛於上。令尹意在首章。故特稱首章、以自光大。○去、起呂反。 【読み】 令尹趙孟を享して、大明の首章を賦す。大明は、詩の大雅。首章に文王明明として下に照らかなり。故に能く赫赫として上に盛んなるを言う。令尹の意首章に在り。故に特に首章を稱して、以て自ら光大にす。○去は、起呂反。 趙孟賦小宛之二章。小宛、詩小雅。二章取其各敬爾儀、天命不又。言天命一去、不可復還。以戒令尹。 【読み】 趙孟小宛の二章を賦す。小宛は、詩の小雅。二章は其の各々爾の儀を敬せよ、天命又せざるというに取る。言うこころは、天命一たび去らば、復還る可からず。以て令尹を戒む。 事畢。趙孟謂叔向曰、令尹自以爲王矣。何如。問將能成否。 【読み】 事畢わる。趙孟叔向[しゅくきょう]に謂いて曰く、令尹自ら王たらんと以爲[おも]えり。何如、と。將能く成らんや否やと問う。 對曰、王弱、令尹疆。其可哉。言可成。 【読み】 對えて曰く、王弱く、令尹疆し。其れ可ならんかな。言うこころは、成る可し。 雖可不終。趙孟曰、何故。對曰、彊以克弱而安之、彊不義也。安於勝君。是彊而不義。 【読み】 可なりと雖も終えじ、と。趙孟曰く、何の故ぞ、と。對えて曰く、彊以て弱に克ちて之に安んずるは、彊くして不義なるなり。君に勝つに安んず。是れ彊くして不義なり。 不義而彊、其斃必速。詩曰、赫赫宗周、襃姒滅之、彊不義也。詩、小雅。襃姒、周幽王后。幽王惑焉、而行不義。遂至滅亡。言雖赫赫盛彊、不義足以滅之。○滅、如字。詩作烕。 【読み】 不義にして彊きは、其の斃ること必ず速やかなり。詩に曰く、赫赫たる宗周も、襃姒之を滅ぼすとは、彊くして不義なるなり。詩は、小雅。襃姒は、周の幽王の后。幽王惑いて、不義を行う。遂に滅亡に至れり。言うこころは、赫赫として盛彊なりと雖も、不義なれば以て之を滅ぼすに足る。○滅は、字の如し。詩烕に作る。 令尹爲王、必求諸侯。晉少懦矣。懦、弱也。○懦、乃亂反。 【読み】 令尹王と爲らば、必ず諸侯を求めん。晉少しく懦[よわ]し。懦は、弱きなり。○懦は、乃亂反。 諸侯將往。若獲諸侯、其虐滋甚。滋、益也。 【読み】 諸侯將に往かんとす。若し諸侯を獲ば、其の虐滋々甚だしからん。滋は、益々なり。 民弗堪也。將何以終。夫以彊取、取不以道。 【読み】 民堪えじ。將に何を以て終わらんとする。夫れ彊を以て取り、取るに道を以てせず。 不義而克、必以爲道。以不義爲道。 【読み】 不義にして克たば、必ず以て道とせん。不義を以て道とす。 道以淫虐、弗可久已矣。爲十三年、楚弑靈王傳。 【読み】 道として以て淫虐ならば、久しかる可からざるのみ、と。十三年、楚靈王を弑する爲の傳なり。 夏、四月、趙孟・叔孫豹・曹大夫入于鄭。會罷過鄭。 【読み】 夏、四月、趙孟・叔孫豹・曹の大夫鄭に入る。會より罷[かえ]りて鄭を過ぐ。 鄭伯兼享之。子皮戒趙孟、戒享期。 【読み】 鄭伯之を兼ね享せんとす。子皮趙孟に戒め、享期を戒む。 禮終。趙孟賦瓠葉。受所戒禮、畢而賦詩。瓠葉、詩小雅。義取古人不以微薄廢禮、雖瓠葉兔首、猶與賓客享之。○瓠、戶故反。 【読み】 禮終わる。趙孟瓠葉[こよう]を賦す。戒むる所の禮を受け、畢わりて詩を賦す。瓠葉は、詩の小雅。義古人微薄を以て禮を廢せず、瓠葉兔首と雖も、猶賓客と與に之を享するに取る。○瓠は、戶故反。 子皮遂戒穆叔、且告之。告以趙孟賦瓠葉。 【読み】 子皮遂に穆叔に戒め、且つ之を告ぐ。告ぐるに趙孟瓠葉を賦するを以てす。 穆叔曰、趙孟欲一獻。瓠葉詩、義取薄物而以獻酬。知欲一獻。 【読み】 穆叔曰く、趙孟一獻を欲するならん。瓠葉の詩、義薄物にして以て獻酬するに取る。一獻を欲することを知る。 子其從之。子皮曰、敢乎。言不敢。 【読み】 子其れ之に從え、と。子皮曰く、敢えてせんや、と。敢えてせざるを言う。 穆叔曰、夫人之所欲也。又何不敢。夫人、趙孟。○夫、音扶。 【読み】 穆叔曰く、夫の人の欲する所なり。又何ぞ敢えてせざらん、と。夫人は、趙孟。○夫は、音扶。 及享、具五獻之籩豆於幕下。朝聘之制、大國之卿、五獻。 【読み】 享に及びて、五獻の籩豆を幕下に具う。朝聘の制、大國の卿は、五獻なり。 趙孟辭。趙孟自以今非聘鄭、故辭五獻。 【読み】 趙孟辭す。趙孟自ら今鄭に聘するに非ざるを以て、故に五獻を辭す。 私於子產、私語。 【読み】 子產に私して、私語なり。 曰、武請於冢宰矣。冢宰、子皮。請、謂賦瓠葉。 【読み】 曰く、武冢宰に請えり、と。冢宰は、子皮。請うとは、瓠葉を賦せしを謂う。 乃用一獻。趙孟爲客。禮終乃宴。卿會公侯、享宴皆折俎、不體薦。○折、之設反。 【読み】 乃ち一獻を用ゆ。趙孟客爲り。禮終わりて乃ち宴す。卿の公侯に會するは、享宴皆折俎ありて、體薦せず。○折は、之設反。 穆叔賦鵲巢。鵲巢、詩召南。言鵲有巢而鳩居之。喩晉君有國、趙孟治之。 【読み】 穆叔鵲巢[じゃくそう]を賦す。鵲巢は、詩の召南。言うこころは、鵲巢有りて鳩之に居る。晉君國を有ち、趙孟之を治むるに喩う。 趙孟曰、武不堪也。又賦采蘩。亦詩召南。義取蘩菜薄物、可以薦公侯、享其信不求其厚也。 【読み】 趙孟曰く、武堪えざるなり、と。又采蘩[さいはん]を賦す。亦詩の召南。義蘩菜は薄物なるも、以て公侯に薦む可し、其の信を享けて其の厚きを求めざるに取るなり。 曰、小國爲蘩。大國省穡而用之、其何實非命。穆叔言、小國微薄猶蘩菜、大國能省愛、用之而不棄、則何敢不從命。穡、愛也。○省、所景反。又所幸反。 【読み】 曰く、小國は蘩爲り。大國省穡して之を用いば、其れ何ぞ實に命に非ざらん、と。穆叔言う、小國微薄にして猶蘩菜のごとくなるも、大國能く省愛して、之を用いて棄てざれば、則ち何ぞ敢えて命に從わざらん、と。穡は、愛するなり。○省は、所景反。又所幸反。 子皮賦野有死麕之卒章。野有死麕、詩召南。卒章曰、舒而脫脫兮。無感我帨兮。無使尨也吠。脫脫、安徐。帨、佩巾。義取君子徐以禮來、無使我失節、而使狗驚吠。喩趙孟以義撫諸侯、無以非禮相加陵。○脫、吐外反。帨、始銳反。 【読み】 子皮野有死麕[やゆうしきん]の卒章を賦す。野有死麕は、詩の召南。卒章に曰く、舒[しず]かにして脫脫[たいたい]たり。我が帨[ぜい]を感[うご]かすこと無かれ。尨[いぬ]をして吠えしむること無かれ、と。脫脫は、安徐。帨は、佩巾。義君子徐[しず]かに禮を以て來り、我をして節を失わしめて、狗をして驚吠せしむること無かれというに取る。趙孟義を以て諸侯を撫して、非禮を以て相加陵すること無きに喩う。○脫は、吐外反。帨は、始銳反。 趙孟賦常棣。常棣、詩小雅。取其凡今之人、莫如兄弟。言欲親兄弟之國。 【読み】 趙孟常棣[じょうてい]を賦す。常棣は、詩の小雅。其の凡そ今の人、兄弟に如くは莫しというに取る。言うこころは、兄弟の國を親せんことを欲す。 且曰、吾兄弟比以安、尨也可使無吠。受子皮之詩。○比、毗志反。下同。 【読み】 且つ曰く、吾が兄弟比して以て安んぜば、尨や吠ゆること無からしむ可し、と。子皮の詩を受く。○比は、毗志反。下も同じ。 穆叔・子皮及曹大夫興拜。三大夫、皆兄弟國。興、起也。 【読み】 穆叔・子皮曹の大夫と興[た]ちて拜す。三大夫は、皆兄弟の國。興は、起つなり。 舉兕爵曰、小國賴子、知免於戾矣。兕爵、所以罰不敬。言小國蒙趙孟德比以安、自知免此罰戮。 【読み】 兕爵[じしゃく]を舉げて曰く、小國子に賴りて、戾[つみ]に免ることを知れり、と。兕爵は、不敬を罰する所以なり。言うこころは、小國趙孟の德を蒙り比して以て安く、自ら此の罰戮を免るるを知る。 飮酒樂。趙孟出曰、吾不復此矣。不復見此樂。○樂、音洛。復、去聲。下同。 【読み】 酒を飮みて樂しむ。趙孟出でて曰く、吾れ此を復びせじ、と。復此の樂を見じ。○樂は、音洛。復は、去聲。下も同じ。 天王使劉定公勞趙孟於潁、館於雒汭。王、周景王。定公、劉夏。潁水、出陽城縣。雒汭、在河南鞏縣南。水曲流爲汭。 【読み】 天王劉定公をして趙孟を潁に勞わしめ、雒汭[らくぜい]に館す。王は、周の景王。定公は、劉夏。潁水は、陽城縣に出づ。雒汭は、河南鞏縣の南に在り。水の曲流を汭と爲す。 劉子曰、美哉禹功、見河雒而思禹功。 【読み】 劉子曰く、美なるかな禹の功、河雒を見て禹の功を思うなり。 明德遠矣。微禹、吾其魚乎。吾與子弁冕端委、以治民臨諸侯、禹之力也。弁冕、冠也。端委、禮衣。言今得共服冠冕有國家者、皆由禹之力。 【読み】 明德遠し。禹微かりせば、吾れ其れ魚ならんか。吾と子と弁冕端委して、以て民を治め諸侯に臨むは、禹の力なり。弁冕は、冠なり。端委は、禮衣。言うこころは、今共に冠冕を服して國家を有つことを得るは、皆禹の力に由る。 子盍亦遠績禹功、而大庇民乎。勸趙孟使纂禹功。 【読み】 子盍ぞ亦遠く禹の功を績[つ]ぎて、大いに民を庇わざるや、と。趙孟を勸めて禹の功を纂[つ]がしむ。 對曰、老夫罪戾是懼。焉能恤遠。吾儕偸食、朝不謀夕。何其長也。言欲苟免目前。不能念長久。 【読み】 對えて曰く、老夫罪戾を是れ懼る。焉ぞ能く遠きを恤えん。吾儕は偸食[とうしょく]して、朝夕を謀らず。何ぞ其れ長きをせんや、と。言うこころは、苟も目前を免れんことを欲す。長久を念うこと能わず。 劉子歸以語王曰、諺所謂老將知而耄及之者、八十曰耄。耄、亂也。○知、音智。 【読み】 劉子歸りて以て王に語りて曰く、諺に所謂老いて將に知ならんとして耄之に及ぶとは、八十を耄と曰う。耄は、亂るるなり。○知は、音智。 其趙孟之謂乎。爲晉正卿、以主諸侯。而儕於隸人、朝不謀夕。言其自比於賤人、而無恤民之心。 【読み】 其れ趙孟を謂うか。晉の正卿として、以て諸侯を主れり。而るに隸人に儕[ひと]しくして、朝夕を謀らずという。言うこころは、其れ自ら賤人に比して、民を恤うるの心無し。 棄神人矣。民爲神主。不恤民。故神人皆去。 【読み】 神人に棄てられたり。民は神の主爲り。民を恤えず。故に神人皆去つ。 神怒民叛、何以能久。趙孟不復年矣。言將死。不復見明年。 【読み】 神怒り民叛かば、何を以て能く久しからん。趙孟復年せじ。言うこころは、將に死せんとす。復明年を見じ。 神怒、不歆其祀、民叛、不卽其事。祀事不從、又何以年。爲此冬趙孟卒起本。 【読み】 神怒れば、其の祀を歆[う]けず、民叛けば、其の事に卽かず。祀事從わざれば、又何を以て年せん、と。此の冬趙孟卒する爲の起本なり。 叔孫歸。虢會歸。 【読み】 叔孫歸る。虢の會より歸るなり。 曾夭御季孫以勞之。旦及日中不出。恨季孫伐莒、使己幾被戮。 【読み】 曾夭季孫に御して以て之を勞う。旦より日中に及べども出でず。季孫莒を伐ち、己をして幾ど戮を被らしめんとするを恨む。 曾夭謂曾阜、曾阜、叔孫家臣。 【読み】 曾夭曾阜に謂いて、曾阜は、叔孫の家臣。 曰、旦及日中。吾知罪矣。魯以相忍爲國也。忍其外、不忍其内、焉用之。欲受楚戮、是忍其外。日中不出、是不忍其内。 【読み】 曰く、旦より日中に及べり。吾れ罪を知れり。魯は相忍ぶを以て國を爲せり。其の外に忍びて、其の内に忍びざること、焉ぞ之を用いん、と。楚の戮を受けんと欲するは、是れ其の外に忍ぶなり。日中まで出でざるは、是れ其の内に忍びざるなり。 阜曰、數月於外。言叔孫勞役在外數月。○數、所主反。 【読み】 阜曰く、外に數月せり。言うこころは、叔孫勞役して外に在ること數月なり。○數は、所主反。 一旦於是、庸何傷。賈而欲贏、而惡嚻乎。言譬如商賈求贏利者、不得惡諠嚻之聲。○賈、音古。惡、烏路反。下同。嚻、許驕反。又五高反。 【読み】 是に一旦するも、庸て何ぞ傷まん。賈して贏[えい]を欲して、嚻[ごう]を惡まんや、と。言うこころは、譬えば商賈の贏利を求むる者の、諠嚻の聲を惡むことを得ざるが如し。○賈は、音古。惡は、烏路反。下も同じ。嚻は、許驕反。又五高反。 阜謂叔孫曰、可以出矣。叔孫指楹曰、雖惡是、其可去乎。乃出見之。楹、柱也。以諭魯有季孫、猶屋有柱。○去、起呂反。 【読み】 阜叔孫に謂いて曰く、以て出づ可し、と。叔孫楹を指して曰く、是を惡むと雖も、其れ去る可けんや、と。乃ち出でて之を見る。楹は、柱なり。以て魯に季孫有るは、猶屋の柱有るがごときに諭う。○去は、起呂反。 鄭徐吾犯之妹美。犯、鄭大夫。 【読み】 鄭の徐吾犯の妹美なり。犯は、鄭の大夫。 公孫楚聘之矣。楚、子南。穆公孫。 【読み】 公孫楚之を聘す。楚は、子南。穆公の孫。 公孫黑又使强委禽焉。禽、鴈也。納采用鴈。○强、其丈反。 【読み】 公孫黑又强いて禽を委せしむ。禽は、鴈なり。納采に鴈を用ゆ。○强は、其丈反。 犯懼、告子產。子產曰、是國無政。非子之患也。唯所欲與。犯請於二子、請使女擇焉。皆許之。子皙盛飾入、布幣而出。布陳贄幣。子皙、公孫黑。 【読み】 犯懼れて、子產に告ぐ。子產曰く、是れ國に政無きなり。子の患えには非ざるなり。唯與えんと欲する所のままなり、と。犯二子に請えらく、請う、女をして擇ばしめん、と。皆之を許す。子皙盛飾して入り、幣を布きて出づ。贄幣を布陳す。子皙は、公孫黑。 子南戎服入、左右射、超乘而出。女自房觀之、曰、子皙信美矣。抑子南夫也。言丈夫。○乘、繩證反。 【読み】 子南戎服して入り、左右に射、超乘して出づ。女房より之を觀て、曰く、子皙は信に美なり。抑々子南は夫なり。言うこころは、丈夫なり。○乘は、繩證反。 夫夫婦婦、所謂順也。適子南氏。 【読み】 夫夫たり婦婦たるは、所謂順なり、と。子南氏に適く。 子皙怒。旣而櫜甲以見子南。欲殺之而取其妻。子南知之、執戈逐之、及衝、擊之以戈。衝、交道。 【読み】 子皙怒る。旣にして櫜甲[こうこう]して以て子南を見る。之を殺して其の妻を取らんと欲す。子南之を知り、戈を執りて之を逐い、衝に及びて、之を擊つに戈を以てす。衝は、交道。 子皙傷而歸。告大夫曰、我好見之、不知其有異志也。故傷。大夫皆謀之。子產曰、直鈞、幼賤有罪。罪在楚也。先聘、子南直也。子南用戈、子皙直也。子產力未能討。故鈞其事、歸罪於楚。○好、如字。一呼報反。 【読み】 子皙傷つきて歸る。大夫に告げて曰く、我れ之を好見して、其の異志有るを知らざりき。故に傷けり、と。大夫皆之を謀る。子產曰く、直鈞しきは、幼賤に罪有り。罪は楚に在り、と。先ず聘するは、子南の直なり。子南戈を用ゆるは、子皙の直なり。子產力未だ討ずること能わず。故に其の事を鈞しくして、罪を楚に歸するなり。○好は、字の如し。一に呼報反。 乃執子南而數之曰、國之大節有五。女皆奸之。奸、犯也。○女、音汝。下皆同。 【読み】 乃ち子南を執えて之を數[せ]めて曰く、國の大節五有り。女皆之を奸せり。奸は、犯すなり。○女は、音汝。下も皆同じ。 畏君之威、聽其政、尊其貴、事其長、養其親。五者所以爲國也。今君在國、女用兵焉、不畏威也。奸國之紀、不聽政也。奸國之紀、謂傷人。○長、丁丈反。養、如字。 【読み】 君の威を畏れ、其の政を聽き、其の貴を尊び、其の長に事え、其の親を養う。五つの者は國を爲むる所以なり。今君國に在すに、女兵を用ゆるは、威を畏れざるなり。國の紀を奸すは、政を聽かざるなり。國の紀を奸すとは、人を傷つくるを謂う。○長は、丁丈反。養は、字の如し。 子皙上大夫、女嬖大夫、而弗下之、不尊貴也。幼而不忌、不事長也。忌、畏也。 【読み】 子皙は上大夫、女は嬖大夫にして、之に下らざるは、貴を尊ばざるなり。幼にして忌[おそ]れざるは、長に事えざるなり。忌は、畏るるなり。 兵其從兄、不養親也。君曰、余不女忍殺。宥女以遠。勉速行乎。無重而罪。五月、庚辰、鄭放游楚於吳。 【読み】 其の從兄を兵するは、親を養わざるなり。君曰く、余女を殺すに忍びず。女を宥むるに遠を以てす、と。勉めて速やかに行[さ]らんか。而の罪を重ぬること無かれ、と。五月、庚辰[かのえ・たつ]、鄭游楚を吳に放つ。 將行子南、子產咨於大叔。大叔、游楚之兄子。○從兄、如字。又才用反。 【読み】 將子南を行らんとするに、子產大叔に咨[と]う。大叔は、游楚の兄の子。○從兄は、字の如し。又才用反。 大叔曰、吉不能亢身。焉能亢宗。亢、蔽也。○亢、苦浪反。 【読み】 大叔曰く、吉や身を亢[おお]うこと能わず。焉ぞ能く宗を亢わん。亢は、蔽うなり。○亢は、苦浪反。 彼國政也。非私難也。子圖鄭國。利則行之。又何疑焉。周公殺管叔而蔡蔡叔。蔡、放也。○難、乃旦反。蔡蔡、上素葛反。下如字。 【読み】 彼は國政なり。私の難に非ざるなり。子は鄭國を圖る。利ならば則ち之を行え。又何ぞ疑わん。周公は管叔を殺して蔡叔を蔡[はな]てり。蔡は、放つなり。○難は、乃旦反。蔡蔡は、上は素葛反。下は字の如し。 夫豈不愛。王室故也。吉若獲戾、子將行之。何有於諸游。爲二年、鄭殺公孫黑傳。○夫、音扶。 【読み】 夫れ豈愛せざらんや。王室の故なり。吉若し戾を獲ば、子將に之を行らんとす。諸游に何か有らん、と。二年、鄭公孫黑を殺す爲の傳なり。○夫は、音扶。 秦后子有寵於桓、如二君於景。后子、秦桓公子、景公母弟鍼也。其權寵如兩君。 【読み】 秦の后子桓に寵有りて、景に二君の如し。后子は、秦の桓公の子、景公の母弟鍼なり。其の權寵兩君の如し。 其母曰、弗去懼選。選、數也。恐景公數其罪而加戮。○選、息轉反。又素短反。數、所主反。 【読み】 其の母曰く、去らずんば懼らくは選[かぞ]えられん、と。選は、數うるなり。恐らくは景公其の罪を數えて戮を加えん。○選は、息轉反。又素短反。數は、所主反。 癸卯、鍼適晉。其車千乘。 【読み】 癸卯[みずのと・う]、鍼晉に適く。其の車千乘あり。 書曰秦伯之弟鍼出奔晉、罪秦伯也。罪失敎。 【読み】 書して秦伯の弟鍼出でて晉に奔ると曰うは、秦伯を罪するなり。敎えを失うを罪す。 后子享晉侯。爲晉侯設享禮。 【読み】 后子晉侯を享す。晉侯の爲に享禮を設く。 造舟于河、造舟爲梁、通秦・晉之道。○造、七報反。 【読み】 河に造舟し、造舟して梁と爲して、秦・晉の道を通ず。○造は、七報反。 十里舍車、一舍八乘、爲八反之備。 【読み】 十里に車を舍き、一舍に八乘、八反の備えを爲す。 自雍及絳。雍・絳相去千里、用車八百乘。○雍、於用反。 【読み】 雍より絳に及ぶ。雍・絳相去ること千里、車八百乘を用ゆ。○雍は、於用反。 歸取酬幣、備九獻之儀。始禮自齎其一。故續送其八酬酒幣。 【読み】 歸りて酬幣を取らしめ、九獻の儀を備うる。始禮は自ら其の一つを齎[もたら]す。故に其の八つの酬酒幣を續ぎ送るなり。 終事八反。每十里以八乘車、各以次載幣、相授而還。不徑至。故言八反。千里用車八百乘、其二百乘以自隨。故言千乘。傳言秦鍼之出、極奢富以成禮、欲盡敬於所赴。 【読み】 事を終うるまで八反す。十里每に八乘の車を以てして、各々次を以て幣を載せて、相授けて還る。徑[ただ]ちに至らず。故に八反と言う。千里に車八百乘を用い、其の二百乘は以て自ら隨う。故に千乘と言う。傳秦鍼の出づる、奢富を極めて以て禮を成して、敬を赴[つ]ぐる所に盡くせんと欲するを言う。 司馬侯問焉曰、子之車盡於此而已乎。對曰、此之謂多矣。若能少此、吾何以得見。言己坐車多故出奔。○見、賢遍反。 【読み】 司馬侯問いて曰く、子の車此に盡きたるのみか、と。對えて曰く、此を多しと謂えり。若し能く此より少なくば、吾れ何を以て見ゆることを得ん、と。言うこころは、己車の多き故に坐して出奔す。○見は、賢遍反。 女叔齊以告公、叔齊、司馬侯。 【読み】 女叔齊以て公に告げ、叔齊は、司馬侯。 且曰、秦公子必歸。臣聞、君子能知其過、必有令圖。令圖、天所贊也。后子見趙孟。趙孟曰、吾子其曷歸。問何時當歸。 【読み】 且つ曰く、秦の公子は必ず歸らん。臣聞く、君子能く其の過ちを知れば、必ず令圖有り、と。令圖は、天の贊くる所なり、と。后子趙孟を見る。趙孟曰く、吾子其れ曷[いつ]か歸らん、と。何の時か當に歸るべきと問う。 對曰、鍼懼選於寡君、是以在此。將待嗣君。趙孟曰、秦君何如。對曰、無道。趙孟曰、亡乎。對曰、何爲。一世無道、國未艾也。艾、絕也。○艾、魚廢反。 【読み】 對えて曰く、鍼寡君に選えられんことを懼れ、是を以て此に在り。將に嗣君を待たんとす、と。趙孟曰く、秦君は何如、と。對えて曰く、無道なり、と。趙孟曰く、亡びんか、と。對えて曰く、何爲れぞ。一世の無道にしては、國未だ艾[た]えざるなり。艾は、絕えるなり。○艾は、魚廢反。 國於天地、有與立焉。言欲輔助之者多。 【読み】 天地に國するは、與に立つること有り。言うこころは、之を輔助せんと欲する者多し。 不數世淫、弗能斃也。趙孟曰、天乎。對曰、有焉。趙孟曰、其幾何。對曰、鍼聞之、國無道而年穀和熟、天贊之也。贊、佐助也。 【読み】 數世の淫ならざれば、斃るること能わざるなり、と。趙孟曰く、天か、と。對えて曰く、有り、と。趙孟曰く、其れ幾何ぞ、と。對えて曰く、鍼之を聞く、國無道にして年穀和熟するは、天の之を贊くるなり、と。贊は、佐助なり。 鮮不五稔。鮮、少也。少尙當歷五年。多則不啻。 【読み】 鮮きも五稔ならざらんや、と。鮮は、少なきなり。少なきも尙當に五年を歷るべし。多くば則ち啻[ただ]ならず。 趙孟視蔭曰、朝夕不相及。誰能待五。蔭、日景也。趙孟意衰、以日景自喩。故言朝夕不相及、誰能待五。○蔭、於金反。景、如字。又於領反。 【読み】 趙孟蔭を視て曰く、朝夕相及ばず。誰か能く五を待たん、と。蔭は、日景なり。趙孟意衰え、日景を以て自ら喩う。故に朝夕相及ばず、誰か能く五を待たんと言う。○蔭は、於金反。景は、字の如し。又於領反。 后子出而告人曰、趙孟將死矣。主民、翫歲而愒日。翫・愒、皆貪也。○愒、苦蓋反。 【読み】 后子出でて人に告げて曰く、趙孟將に死せんとす。民を主りて、歲を翫[むさぼ]りて日を愒[むさぼ]る。翫[がん]・愒[かい]は、皆貪るなり。○愒は、苦蓋反。 其與幾何。言不能久。○與、如字。又預。 【読み】 其れ與に幾何かあらん、と。言うこころは、久しきこと能わず。○與は、字の如し。又預。 鄭爲游楚亂故、游楚、子南。 【読み】 鄭游楚の亂の爲の故に、游楚は、子南。 六月、丁巳、鄭伯及其大夫盟于公孫段氏。罕虎・公孫僑・公孫段・印段・游吉・駟帶私盟于閨門之外。實薰隧。閨門、鄭城門。薰隧、門外道名。實之者、爲明年、子產數子皙罪、稱薰隧盟起本。 【読み】 六月、丁巳、鄭伯其の大夫と公孫段氏に盟う。罕虎・公孫僑・公孫段・印段・游吉・駟帶私に閨門の外に盟う。實は薰隧なり。閨門は、鄭の城門。薰隧は、門外の道の名。之を實にするは、明年、子產子皙の罪を數めて、薰隧の盟を稱する爲の起本なり。 公孫黑强與於盟、使大史書其名、且曰七子。自欲同於六卿。故曰七子。○强、其丈反。與、音預。 【読み】 公孫黑强いて盟に與り、大史をして其の名を書さしめ、且つ七子と曰う。自ら六卿に同じからんと欲す。故に七子と曰う。○强は、其丈反。與は、音預。 子產弗討。子皙强。討之、恐亂國。 【読み】 子產討ぜず。子皙强し。之を討ぜば、恐らくは國を亂らん。 晉中行穆子敗無終及羣狄于大原。卽大鹵也。無終、山戎。 【読み】 晉の中行穆子無終と羣狄とを大原に敗りぬ。卽ち大鹵なり。無終は、山戎。 崇卒也。崇、衆也。 【読み】 卒を崇[あつ]めてなり。崇は、衆なり。 *「衆」は、漢籍國字解全書では「聚」。 將戰、魏舒曰、彼徒我車、所遇又阨。地險不便車。○阨、於懈反。 【読み】 將に戰わんとするとき、魏舒曰く、彼は徒我は車、遇う所又阨[あい]なり。地險にして車に便ならず。○阨は、於懈反。 以什共車、必克。更增十人、以當一車之用。○共、音恭。 【読み】 什を以て車に共せば、必克たん。更に十人を增して、以て一車の用に當つるなり。○共は、音恭。 困諸阨、又克。車每困於阨道。今去車。故爲必克。○去、起呂反。 【読み】 諸を阨に困しめば、又克たん。車每[つね]に阨道に困しむ。今車を去る。故に必ず克つとす。○去は、起呂反。 請皆卒。去車爲步卒。 【読み】 請う、皆卒とせん。車を去てて步卒とす。 自我始。乃毀車以爲行、魏舒先自毀其屬車爲步陳。○行、戶郎反。陳、直覲反。下五陳・未陳同。 【読み】 我より始めん、と。乃ち車を毀りて以て行を爲し、魏舒先ず自ら其の屬車を毀りて步陳と爲す。○行は、戶郎反。陳は、直覲反。下の五陳・未陳も同じ。 五乘爲三伍。乘車者車三人。五乘、十五人。今改去車、更以五人爲伍、分爲三伍。○五乘、繩證反。 【読み】 五乘を三伍と爲す。車に乘る者車ごとに三人なり。五乘は、十五人なり。今改めて車を去り、更に五人を以て伍と爲し、分けて三伍と爲す。○五乘は、繩證反。 荀吳之嬖人不肯卽卒。斬以徇。魏舒輒斬之。荀吳不恨。所以能立功。 【読み】 荀吳の嬖人肯えて卒に卽かず。斬りて以て徇[とな]う。魏舒輒ち之を斬る。荀吳恨みず。能く功を立つる所以なり。 爲五陳以相離、兩於前、伍於後、專爲右角、參爲左角、偏爲前拒、皆臨時處置之名。○拒、九甫反。 【読み】 五陳を爲して以て相離ち、兩を前に、伍を後に、專を右角と爲し、參を左角と爲し、偏を前拒と爲して、皆時に臨みて處置するの名。○拒は、九甫反。 以誘之。翟人笑之。笑其失常。 【読み】 以て之を誘く。翟人之を笑う。其の常を失うを笑う。 未陳而薄之、大敗之。傳言苟吳能用善謀。 【読み】 未だ陳せずして之に薄[せま]り、大いに之を敗れり。傳苟吳能く善謀を用ゆるを言う。 莒展輿立、而奪羣公子秩。公子召去疾于齊。秋、齊公子鉏納去疾。齊雖納去疾、莒人先召之。故從國逆例書入。去疾奔齊、在襄三十一年。 【読み】 莒の展輿立ちて、羣公子の秩を奪う。公子去疾を齊より召ぶ。秋、齊の公子鉏去疾を納る。齊去疾を納ると雖も、莒人先ず之を召ぶ。故に國逆の例に從いて入ると書す。去疾齊に奔るは、襄三十一年に在り。 展輿奔吳。吳外孫。 【読み】 展輿吳に奔る。吳の外孫なればなり。 叔弓帥師疆鄆田。因莒亂也。此春取鄆、今正其疆界。 【読み】 叔弓師を帥いて鄆の田を疆う。莒の亂に因りてなり。此の春鄆を取り、今其の疆界を正すなり。 於是莒務婁・瞀胡及公子滅明、以大厖與常儀靡奔齊。三子、展輿黨。大厖・常儀靡、莒二邑。○務、如字。又音謀。一音無。瞀、音茂。一音謀。 【読み】 是に於て莒の務婁[ぼうろう]・瞀胡[ぼうこ]と公子滅明と、大厖[たいぼう]と常儀靡とを以[い]て齊に奔る。三子は、展輿の黨。大厖・常儀靡は、莒の二邑。○務は、字の如し。又音謀。一に音無。瞀は、音茂。一に音謀。 君子曰、莒展之不立、棄人也夫。奪羣公子秩、是弃人。 【読み】 君子曰く、莒展の立たざるは、人を棄てたるなり。羣公子の秩を奪うは、是れ人を弃つるなり。 人可棄乎。詩曰、無競維人、善矣。詩、周頌。言惟得人則國家彊。 【読み】 人棄つ可けんや。詩に曰く、維れ人より競[つよ]きは無しとは、善し、と。詩は、周頌。言うこころは、惟れ人を得れば則ち國家彊し。 晉侯有疾。鄭伯使公孫僑如晉聘、且問疾。叔向問焉曰、寡君之疾病。卜人曰、實沈・臺駘爲祟。史莫之知。敢問此何神也。子產曰、昔高辛氏有二子。伯曰閼伯、季曰實沈。高辛、帝嚳。○駘、他才反。閼、於葛反。嚳、音酷。 【読み】 晉侯疾有り。鄭伯公孫僑をして晉に如きて聘し、且つ疾を問わしむ。叔向問いて曰く、寡君の疾病なり。卜人曰く、實沈・臺駘祟りを爲す、と。史之を知るもの莫し。敢えて問う、此れ何れの神ぞや、と。子產曰く、昔高辛氏に二子有り。伯を閼伯[あつはく]と曰い、季を實沈と曰う。高辛は、帝嚳[ていこく]。○駘は、他才反。閼は、於葛反。嚳は、音酷。 居于曠林、不相能也。曠林、地闕。○能、如字。又奴代反。 【読み】 曠林に居りて、相能[むつ]まじからず。曠林は、地闕く。○能は、字の如し。又奴代反。 日尋干戈、以相征討。尋、用也。 【読み】 日々に干戈を尋[もち]いて、以て相征討す。尋は、用ゆるなり。 后帝不臧、后帝、堯也。臧、善也。 【読み】 后帝臧[よみ]せず、后帝は、堯なり。臧は、善なり。 遷閼伯于商丘、主辰。商丘、宋地。主祀辰星。辰、大火也。 【読み】 閼伯を商丘に遷して、辰を主らしむ。商丘は、宋の地。辰星を祀ることを主る。辰は、大火なり。 商人是因。故辰爲商星。商人、湯先相土。封商丘、因閼伯故國祀辰星。 【読み】 商人是に因る。故に辰を商の星と爲す。商人は、湯の先相土なり。商丘に封ぜられ、閼伯の故國に因りて辰星を祀れり。 遷實沈于大夏、主參。大夏、今晉陽縣。○參、音森。下同。 【読み】 實沈を大夏に遷して、參を主らしむ。大夏は、今の晉陽縣。○參は、音森。下も同じ。 唐人是因、以服事夏・商。唐人、若劉累之等。累遷魯縣、此在大夏。 【読み】 唐人是に因りて、以て夏・商に服事す。唐人とは、劉累の等の若きなり。累は魯縣に遷り、此は大夏に在り。 其季世曰唐叔虞。唐人之季世、其君曰叔虞。 【読み】 其の季世を唐叔虞と曰う。唐人の季世にして、其の君を叔虞と曰う。 當武王邑姜方震大叔、邑姜、武王后。齊大公之女。懷胎爲震。大叔、成王之弟、叔虞。○震、音振。又音申。大、音泰。 【読み】 武王の邑姜の方に大叔を震[はら]めるに當たり、邑姜は、武王の后。齊の大公の女。懷胎を震と爲す。大叔は、成王の弟、叔虞。○震は、音振。又音申。大は、音泰。 夢帝謂己、余命而子曰虞。帝、天。取唐君之名。 【読み】 夢に帝己に謂えらく、余而[なんじ]の子を命[なづ]けて虞と曰わん。帝は、天。唐君の名を取るなり。 將與之唐、屬諸參、而蕃育其子孫。及生、有文在其手曰虞。遂以命之。及成王滅唐而封大叔焉。故參爲晉星。叔虞封唐。是爲晉侯。○屬、之玉反。蕃、音煩。 【読み】 將に之に唐を與え、諸を參に屬して、其の子孫を蕃育せんとす、と。生まるるに及びて、文の其の手に在る有りて虞と曰う。遂に以て之に命けぬ。成王の唐を滅ぼすに及びて大叔を封ぜり。故に參を晉の星と爲す。叔虞唐に封ぜらる。是を晉侯と爲す。○屬は、之玉反。蕃は、音煩。 由是觀之、則實沈、參神也。 【読み】 是に由りて之を觀れば、則ち實沈は、參の神なり。 昔金天氏有裔子曰昧。爲玄冥師、生允格・臺駘。金天氏、帝少暭。裔、遠也。玄冥、水官。昧爲水官之長。 【読み】 昔金天氏に裔子有り昧と曰う。玄冥の師と爲り、允格[いんかく]・臺駘を生む。金天氏は、帝少暭。裔は、遠きなり。玄冥は、水官。昧を水官の長と爲す。 臺駘能業其官、纂昧之業。 【読み】 臺駘能く其の官を業にし、昧の業を纂ぐ。 宣汾・洮、宣、猶通也。汾・洮、二水名。○洮、他刀反。 【読み】 汾・洮[とう]を宣[とお]し、宣は、猶通すのごとし。汾・洮は、二水の名。○洮は、他刀反。 障大澤、陂障之。○障、之尙反。又音章。 【読み】 大澤に障して、之に陂障す。○障は、之尙反。又音章。 以處大原。大原、晉陽也。臺駘之所居。 【読み】 以て大原に處れり。大原は、晉陽なり。臺駘の居る所。 帝申嘉之、封諸汾川、帝、顓頊。 【読み】 帝申ねて之を嘉して、諸を汾川に封じ、帝は、顓頊[せんぎょく]。 沈・姒・蓐・黃實守其祀、四國、臺駘之後。○沈、音審。 【読み】 沈[しん]・姒・蓐[じょく]・黃實に其の祀を守りしを、四國は、臺駘の後。○沈は、音審。 今晉主汾而滅之矣。滅四國。 【読み】 今晉汾を主りて之を滅ぼせり。四國を滅ぼす。 由是觀之、則臺駘、汾神也。 【読み】 是に由りて之を觀れば、則ち臺駘は、汾の神なり。 抑此二者、不及君身。山川之神、則水旱癘疫之災、於是乎禜之、有水旱之災、則禜祭山川之神、若臺駘者。周禮、四曰禜祭。爲營欑、用幣、以祈福祥。○禜、音詠。欑、子管反。 【読み】 抑々此の二りの者は、君の身に及ばず。山川の神は、則ち水旱癘疫の災あれば、是に於て之を禜[えい]し、水旱の災有れば、則ち山川の神、臺駘の若き者を禜祭するなり。周禮に、四に禜祭と曰う。營欑[えいさん]を爲し、幣を用いて、以て福祥を祈る。○禜は、音詠。欑は、子管反。 日月星辰之神、則雪霜風雨之不時、於是乎禜之。星辰之神、若實沈者。 【読み】 日月星辰の神は、則ち雪霜風雨の時ならざれば、是に於て之を禜するのみ。星辰の神は、實沈の若き者。 若君身、則亦出入・飮食・哀樂之事也。山川星辰之神、又何爲焉。言實沈・臺駘不爲君疾。 【読み】 君の身の若きは、則ち亦出入・飮食・哀樂の事なり。山川星辰の神、又何ぞ爲さん。言うこころは、實沈・臺駘君の疾を爲さず。 僑聞之、君子有四時。朝以聽政、聽國政。 【読み】 僑之を聞く、君子に四時有り。朝は以て政を聽き、國政を聽く。 晝以訪問、問可否。 【読み】 晝は以て訪問し、可否を問う。 夕以脩令、念所施。 【読み】 夕は以て令を脩め、施す所を念う。 夜以安身。於是乎節宣其氣、宣、散也。 【読み】 夜は以て身を安んず、と。是に於て其の氣を節宣して、宣は、散るなり。 勿使有所壅閉湫底、以露其體、湫、集也。底、滯也。露、羸也。壹之則血氣集滯、而體羸露。○壅、於勇反。湫、子小反。又音秋。底、丁禮反。 【読み】 壅閉湫底する所有りて、以て其の體を露[つか]らし、湫は、集まるなり。底は、滯るなり。露は、羸[つか]れるなり。之を壹にすれば則ち血氣集滯して、體羸露[るいろ]す。○壅は、於勇反。湫は、子小反。又音秋。底は、丁禮反。 玆心不爽、而昏亂百度。玆、此也。爽、明也。百度、百事之節。 【読み】 玆の心爽ならずして、百度を昏亂せしむること勿し。玆は、此なり。爽は、明らかなり。百度は、百事の節。 今無乃壹之。同四時也。 【読み】 今乃ち之を壹にすること無からんや。四時を同じくするなり。 則生疾矣。 【読み】 則ち疾を生じぬ。 僑又聞之、内官不及同姓。内官、嬪御。 【読み】 僑又之を聞く、内官は同姓に及ばず。内官は、嬪御。 其生不殖、殖、長也。 【読み】 其の生殖せず、殖は、長ずるなり。 美先盡矣、則相生疾。同姓之相與、先美也。美極則盡。盡則生疾。 【読み】 美先ず盡くれば、則ち疾を相生ず。同姓の相與するは、先ず美なり。美極まれば則ち盡く。盡くれば則ち疾を生ず。 君子是以惡之。故志曰、買妾不知其姓、則卜之。違此二者、古之所愼也。壹四時、取同姓、二者古人所愼。○惡、如字。又烏路反。取、七住反。 【読み】 君子是を以て之を惡む、と。故に志に曰く、妾を買うに其の姓を知らざれば、則ち之を卜う、と。此の二つの者に違うは、古の愼む所なり。四時を壹にし、同姓を取る、二つの者は古人の愼む所なり。○惡は、字の如し。又烏路反。取は、七住反。 男女辨姓、禮之大司也。辨、別也。 【読み】 男女姓を辨つは、禮の大司なり。辨は、別つなり。 今君内實有四姬焉。同姓姬四人。 【読み】 今君の内實に四姬有り。同姓の姬四人。 其無乃是也乎。若由是二者、弗可爲也已。爲、治也。 【読み】 其れ乃ち是なること無からんや。若し是の二つの者に由らば、爲む可からざるのみ。爲は、治むるなり。 四姬有省猶可。無則必生疾矣。據異姓、去同姓。故言省。○省、所景反。又所幸反。 【読み】 四姬を省くこと有らば猶可なり。無くば則ち必ず疾を生ぜん、と。異姓に據りて、同姓を去る。故に省くと言う。○省は、所景反。又所幸反。 叔向曰、善哉。肸未之聞也。此皆然矣。 【読み】 叔向曰く、善いかな。肸[きつ]未だ之を聞かざりき。此れ皆然り、と。 叔向出。行人揮送之。送叔向。 【読み】 叔向出づ。行人揮之を送る。叔向を送る。 叔向問鄭故焉、且問子皙。對曰、其與幾何。言將敗不久。○與、如字。又音預。 【読み】 叔向鄭の故を問い、且つ子皙を問う。對えて曰く、其れ幾何かあらん。言うこころは、將に敗れんとすること久しからず。○與は、字の如し。又音預。 *頭注に、「按與、語助也。一說、與、助也。言助之者少也。」とある。 無禮而好陵人、怙富而卑其上。弗能久矣。爲明年、鄭殺公孫黑傳。 【読み】 無禮にして人を陵ぐことを好み、富を怙[たの]みて其の上を卑しむ。久しきこと能わじ、と。明年、鄭公孫黑を殺す爲の傳なり。 晉侯聞子產之言曰、博物君子也。重賄之。 【読み】 晉侯子產の言を聞きて曰く、博物の君子なり、と。重く之に賄う。 晉侯求醫於秦。秦伯使醫和視之。曰、疾不可爲也。是謂近女室。疾如蠱。蠱、惑疾。 【読み】 晉侯醫を秦に求む。秦伯醫和をして之を視せしむ。曰く、疾爲む可からざるなり。是を女室に近づくと謂う。疾蠱の如し。蠱は、惑疾。 非鬼非食、惑以喪志。惑女色而失志。○喪、息浪反。 【読み】 鬼に非ず食に非ず、惑いて以て志を喪えり。女色に惑いて志を失う。○喪は、息浪反。 良臣將死。天命不祐。良臣不匡救君過。故將死、而不爲天所祐。 【読み】 良臣將に死せんとす。天命祐けず、と。良臣君の過ちと匡救せず。故に將に死せんとして、天の爲に祐けられず。 公曰、女不可近乎。對曰、節之。先王之樂、所以節百事也。故有五節。五聲之節。 【読み】 公曰く、女は近づく可からざるか、と。對えて曰く、之を節するなり。先王の樂は、百事を節する所以なり。故に五節有り。五聲の節。 遲速本末以相及、中聲以降、五降之後、不容彈矣。此謂先王之樂得中聲、聲成五降而息也。降、罷退。○彈、徒丹反。又徒旦反。 【読み】 遲速本末以て相及ぼし、中聲にして以て降り、五降の後、容[まさ]に彈ずべからず。此れ先王の樂は中聲を得、聲成りて五降して息むを謂うなり。降は、罷退なり。○彈は、徒丹反。又徒旦反。 於是有煩手淫聲、慆堙心耳、乃忘平和。君子弗聽也。五降而不息、則雜聲竝奏。所謂鄭・衛之聲。○慆、吐刀反。 【読み】 是に於て煩手淫聲すること有れば、心耳を慆堙[とういん]して、乃ち平和を忘れしむ。君子は聽かざるなり。五降して息まざれば、則ち雜聲竝に奏す。所謂鄭・衛の聲なり。○慆は、吐刀反。 物亦如之。言百事皆如樂。不可失節。 【読み】 物も亦之の如し。言うこころは、百事皆樂の如し。節を失う可からず。 至於煩、乃舍也已。無以生疾。煩不舍則生疾。○舍、音捨。 【読み】 煩に至れば、乃ち舍[や]むるのみ。以て疾を生ずること無かれ。煩にして舍まざれば則ち疾を生ず。○舍は、音捨。 君子之近琴瑟、以儀節也。非以慆心也。爲心之節儀、使動不過度。 【読み】 君子の琴瑟を近づくるは、以て儀節をするなり。以て心を慆[ふさ]がんとには非ず。心の節儀を爲して、動きて度を過ぎざらしむ。 天有六氣、謂陰陽風雨晦明也。 【読み】 天に六氣有り、陰陽風雨晦明を謂うなり。 降生五味、謂金味辛、木味酸、水味鹹、火味苦、土味甘、皆由陰陽風雨而生。 【読み】 降りて五味を生じ、金の味は辛く、木の味は酸く、水の味は鹹[しおから]く、火の味は苦く、土の味は甘く、皆陰陽風雨よりして生ずるを謂う。 發爲五色、辛色白、酸色靑、鹹色黑、苦色赤、甘色黃。發、見也。○見、賢遍反。 【読み】 發して五色と爲り、辛の色は白く、酸の色は靑く、鹹[かん]の色は黑く、苦の色は赤く、甘の色は黃なり。發は、見るなり。○見は、賢遍反。 徵爲五聲。白聲商、靑聲角、黑聲羽、赤聲徵、黃聲宮。徵、驗也。○聲徵、張里反。 【読み】 徵して五聲と爲る。白の聲は商、靑の聲は角、黑の聲は羽、赤の聲は徵、黃の聲は宮。徵は、驗なり。○聲徵は、張里反。 淫生六疾。淫、過也。滋味聲色、所以養人。然過則生害。 【読み】 淫[す]ぐれば六疾を生ず。淫は、過ぐるなり。滋味聲色は、人を養う所以なり。然れども過ぐれば則ち害を生ず。 六氣曰陰陽風雨晦明也。分爲四時、序爲五節。六氣之化、分而序之、則成四時、得五行之節。 【読み】 六氣を陰陽風雨晦明と曰う。分かれて四時と爲り、序でて五節と爲る。六氣の化、分かれて之を序づれば、則ち四時を成し、五行の節を得。 過則爲菑。陰淫寒疾、寒過則爲冷。 【読み】 過ぐれば則ち菑[わざわい]を爲す。陰淫は寒疾し、寒過ぐれば則ち冷を爲す。 陽淫熱疾、熱過則喘渴。 【読み】 陽淫は熱疾し、熱過ぐれば則ち喘渴す。 風淫末疾、末、四支也。風爲緩急。 【読み】 風淫は末疾し、末は、四支なり。風は緩急を爲す。 雨淫腹疾、雨濕之氣爲洩注。 【読み】 雨淫は腹疾し、雨濕の氣は洩注を爲す。 晦淫惑疾、晦、夜也。爲宴寢過節、則心惑亂。 【読み】 晦淫は惑疾し、晦は、夜なり。宴寢節に過ぐることを爲せば、則ち心惑亂す。 明淫心疾。明、晝也。思慮煩多、心勞生疾。 【読み】 明淫は心疾す。明は、晝なり。思慮煩多なれば、心勞して疾を生ず。 女陽物而晦時。淫則生内熱惑蠱之疾。女常隨男。故言陽物。家道常在夜。故言晦時。 【読み】 女は陽の物にして晦の時なり。淫すれば則ち内熱惑蠱の疾を生ず。女は常に男に隨う。故に陽の物と言う。家道は常に夜に在り。故に晦の時と言う。 今君不節不時。能無及此乎。 【読み】 今君節あらず時あらず。能く此に及ぶこと無からんや、と。 出告趙孟。趙孟曰、誰當良臣。對曰、主是謂矣。主相晉國、於今八年。晉國無亂、諸侯無闕。可謂良矣。和聞之、國之大臣、榮其寵祿、任其大節、有菑禍興而無改焉、改、改行以救菑。○行、去聲。 【読み】 出でて趙孟に告ぐ。趙孟曰く、誰か良臣に當たれる、と。對えて曰く、主を是れ謂うなり。主晉國を相けて、今に八年なり。晉國亂無く、諸侯闕けたること無し。良と謂う可し。和之を聞く、國の大臣、其の寵祿に榮え、其の大節に任じて、菑禍の興ること有りて改むること無ければ、改は、行いを改めて以て菑を救うなり。○行は、去聲。 必受其咎。今君至於淫以生疾、將不能圖恤社稷。禍孰大焉。主不能禦。吾是以云也。云主將死。 【読み】 必ず其の咎を受く、と。今君淫にして以て疾を生じて、將に社稷を圖り恤うること能わざらんとするに至れり。禍孰れか焉より大ならん。主禦ぐこと能わず。吾れ是を以て云えり、と。主將に死せんとするを云う。 趙孟曰、何謂蠱。對曰、淫溺惑亂之所生也。溺、沈沒於嗜欲。 【読み】 趙孟曰く、何を蠱と謂うや、と。對えて曰く、淫溺惑亂の生ずる所なり。溺は、嗜欲に沈沒するなり。 於文、皿蟲爲蠱。文、字也。皿、器也。器受蟲害者爲蠱。○皿、命景反。又讀若猛。 【読み】 文に於て、皿蟲[めいこ]を蠱と爲す。文は、字なり。皿は、器なり。器の蟲の害を受くる者を蠱と爲す。○皿は、命景反。又讀んで猛の若し。 穀之飛亦爲蠱。穀久積則變爲飛蟲。名曰蠱。 【読み】 穀の飛ぶも亦蠱と爲す。穀久しく積めば則ち變じて飛蟲と爲る。名づけて蠱と曰う。 在周易、女惑男、風落山、謂之蠱。巽下艮上、蠱。巽爲長女、爲風、艮爲少男、爲山。少男而說長女非匹。故惑。山木得風而落。 【読み】 周易に在りて、女男を惑わし、風山を落す、之を蠱と謂う。巽下艮上は、蠱なり。巽を長女と爲し、風と爲し、艮を少男と爲し、山と爲す。少男にして長女を說ぶは匹に非ず。故に惑う。山木風を得て落つ。 皆同物也。物、猶類也。 【読み】 皆同物なり、と。物は、猶類のごとし。 趙孟曰、良醫也。厚其禮而歸之。贈賄之禮。 【読み】 趙孟曰く、良醫なり、と。其の禮を厚くして之を歸す。贈賄の禮なり。 楚公子圍使公子黑肱・伯州犂城犫・櫟・郟。黑肱、王子圍之弟、子皙也。犫縣、屬南陽。郟縣、屬襄城。櫟、今河南陽翟縣。三邑、本鄭地。○犫、尺州反。櫟、音歷。又音鑠。郟、音夾。 【読み】 楚の公子圍公子黑肱・伯州犂をして犫[しゅう]・櫟[れき]・郟[こう]に城かしむ。黑肱は、王子圍の弟、子皙なり。犫縣は、南陽に屬す。郟縣は、襄城に屬す。櫟は、今の河南陽翟縣なり。三邑は、本鄭の地。○犫は、尺州反。櫟は、音歷。又音鑠。郟は、音夾。 鄭人懼。子產曰、不害。令尹將行大事、謂將弑君。 【読み】 鄭人懼る。子產曰く、害あらず。令尹將に大事を行わんとして、將に君を弑せんとするを謂う。 而先除二子也。二子、謂黑肱・伯州犂。 【読み】 先ず二子を除かんとするなり。二子は、黑肱・伯州犂を謂う。 禍不及鄭。何患焉。 【読み】 禍鄭に及ばず。何ぞ患えん、と。 冬、楚公子圍將聘于鄭。伍舉爲介。未出竟。聞王有疾而還。伍舉遂聘。十一月、己酉、公子圍至、入問王疾、縊而弑之。縊、絞也。孫卿曰、以冠纓絞之。長歷推、己酉、十二月六日。經傳皆言十一月、月誤也。○縊、一豉反。 【読み】 冬、楚の公子圍將に鄭に聘せんとす。伍舉介爲り。未だ竟を出でず。王疾有りと聞きて還る。伍舉遂に聘す。十一月、己酉、公子圍至り、入りて王の疾を問い、縊りて之を弑す。縊[い]は、絞めるなり。孫卿曰く、冠纓を以て之を絞す、と。長歷もて推すに、己酉は、十二月六日。經傳皆十一月と言うは、月の誤りなり。○縊は、一豉反。 遂殺其二子幕及平夏。皆郟敖子。 【読み】 遂に其の二子幕と平夏とを殺す。皆郟敖の子。 右尹子干出奔晉。子干、王子比。 【読み】 右尹子干出でて晉に奔る。子干は、王子比。 宮廐尹子皙出奔鄭。因築城而去。 【読み】 宮廐尹子皙出でて鄭に奔る。城を築くに因りて去る。 殺大宰伯州犂于郟。葬王于郟。謂之郟敖。郟敖、楚子麇。 【読み】 大宰伯州犂を郟に殺す。王を郟に葬る。之を郟敖と謂う。郟敖は、楚子麇。 使赴于鄭。伍舉問應爲後之辭焉。問赴者。 【読み】 鄭に赴[つ]げしむ。伍舉後爲る應きの辭を問う。赴者に問うなり。 對曰、寡大夫圍。伍舉更之曰、共王之子圍爲長。伍舉更赴辭使從禮。此告終稱嗣、不以簒弑赴諸侯。○共、音恭。長、丁丈反。 【読み】 對えて曰く、寡大夫圍、と。伍舉之を更めて曰く、共王の子圍長爲り、と。伍舉赴辭を更めて禮に從わしむ。此れ終を告げ嗣を稱し、簒弑を以て諸侯に赴げざるなり。○共は、音恭。長は、丁丈反。 子干奔晉、從車五乘。叔向使與秦公子同食。食祿同。○從、才用反。 【読み】 子干晉に奔るや、從車五乘なり。叔向秦の公子と食を同じくせしむ。食祿同じ。○從は、才用反。 皆百人之餼。百人、一卒也。其祿足百人。○餼、音墍。 【読み】 皆百人の餼なり。百人は、一卒なり。其の祿百人に足る。○餼は、音墍。 趙文子曰、秦公子富。謂秦鍼富强、秩祿不宜與子干同。 【読み】 趙文子曰く、秦の公子は富めり。秦の鍼は富强、秩祿子干と同じかる宜からずと謂う。 叔向曰、底祿以德。底、致也。○底、音旨。 【読み】 叔向曰く、祿を底[いた]すは德を以てす。底は、致すなり。○底は、音旨。 *「底」は「厎」。 德鈞以年、年同以尊。公子以國。不聞以富。且夫以千乘去其國、彊禦已甚。詩曰、不侮鰥寡、不畏彊禦。詩、大雅。侮、陵也。○夫、音扶。 【読み】 德鈞しければ年を以てし、年同じければ尊を以てす。公子は國を以てす。富を以てすることを聞かず。且つ夫れ千乘を以て其の國を去るは、彊禦已甚だし。詩に曰く、鰥寡を侮[しの]がず、彊禦を畏れず、と。詩は、大雅。侮は、陵ぐなり。○夫は、音扶。 秦・楚匹也。 【読み】 秦・楚は匹なり、と。 使后子與子干齒。以年齒爲高下而坐。 【読み】 后子と子干とをして齒せしむ。年齒を以て高下を爲して坐せしむ。 辭曰、鍼懼選、楚公子不獲。是以皆來。亦唯命。不獲、不得自安。言倶奔事有優劣。唯主人命所處。謙辭。 【読み】 辭して曰く、鍼は選えらるるを懼れ、楚の公子は獲ず。是を以て皆來れり。亦唯命のままなり。獲ずとは、自ら安んずることを得ざるなり。言うこころは、倶に奔るも事に優劣有り。唯主人處する所を命ぜよ、と。謙辭なり。 且臣與羇齒、無乃不可乎。后子先來仕。欲自同於晉臣爲主人。子干後來奔、以爲羇旅之客。 【読み】 且つ臣と羇と齒せば、乃ち不可なること無からんや。后子先ず來りて仕う。自ら晉の臣に同じくして主人爲らんと欲す。子干後に來奔して、以て羇旅の客爲り。 史佚有言曰、非羇何忌。忌、敬也。欲謙以自別。 【読み】 史佚言えること有り曰く、羇に非ずして何ぞ忌[うやま]わん、と。忌は、敬うなり。謙して以て自ら別たんと欲す。 楚靈王卽位、薳罷爲令尹、薳啓彊爲大宰。靈王、公子圍也。卽位易名熊虔。○罷、音皮。彊、其良反。 【読み】 楚の靈王位に卽き、薳罷[いひ]を令尹と爲し、薳啓彊を大宰と爲す。靈王は、公子圍なり。位に卽きて名を熊虔と易う。○罷は、音皮。彊は、其良反。 鄭游吉如楚、葬郟敖、且聘立君。歸。謂子產曰、具行器矣。行器、會備。 【読み】 鄭の游吉楚に如き、郟敖を葬り、且つ立君に聘す。歸る。子產に謂いて曰く、行器を具えよ。行器は、會の備えなり。 楚王汰侈而自說其事。必合諸侯。吾往無日矣。子產曰、不數年未能也。爲四年、會申傳。○說、音悅。一始悅反。數、所主反。 【読み】 楚王汰侈にして自ら其の事を說ぶ。必ず諸侯を合わせん。吾れ往かんこと日無けん、と。子產曰く、數年ならざれば未だ能わじ、と。四年、申に會する爲の傳なり。○說は、音悅。一に始悅反。數は、所主反。 十二月、晉旣烝。烝、冬祭也。 【読み】 十二月、晉旣に烝す。烝は、冬祭なり。 趙孟適南陽、將會孟子餘。孟子餘、趙衰、趙武之曾祖。其廟在晉之南陽溫縣。往會祭之。 【読み】 趙孟南陽に適き、將に孟子餘に會せんとす。孟子餘は、趙衰、趙武の曾祖。其の廟晉の南陽溫縣に在り。往きて之を祭るに會す。 甲辰、朔、烝于溫。趙氏烝祭。甲辰、十二月朔。晉旣烝、趙孟乃烝其家廟、則晉烝當在甲辰之前。傳言十二月、月誤。 【読み】 甲辰、朔、溫に烝す。趙氏烝祭す。甲辰は、十二月朔。晉旣に烝して、趙孟乃ち其の家廟に烝すれば、則ち晉の烝は當に甲辰の前に在るべし。傳十二月と言うは、月の誤りなり。 庚戌、卒。十二月七日。終劉定公・秦后子之言。 【読み】 庚戌[かのえ・いぬ]、卒す。十二月七日。劉定公・秦の后子の言を終わる。 鄭伯如晉弔。及雍乃復。弔趙氏。蓋趙氏辭之而還。傳言大夫彊、諸侯畏而弔之。○雍、於用反。 【読み】 鄭伯晉に如きて弔わんとす。雍に及びて乃ち復る。趙氏を弔うなり。蓋し趙氏之を辭して還るならん。傳大夫彊く、諸侯畏れて之を弔するを言う。○雍は、於用反。 〔經〕二年、春、晉侯使韓起來聘。夏、叔弓如晉。叔弓、叔老子。 【読み】 〔經〕二年、春、晉侯韓起をして來聘せしむ。夏、叔弓晉に如く。叔弓は、叔老の子。 秋、鄭殺其大夫公孫黑。書名、惡之。薰隧盟、子產不討、遂以爲卿。故書名。○惡、烏路反。 【読み】 秋、鄭其の大夫公孫黑を殺す。名を書すは、之を惡むなり。薰隧の盟に、子產討ぜず、遂に以て卿と爲す。故に名を書す。○惡は、烏路反。 冬、公如晉、至河乃復。弔少姜也。晉人辭之。故還。 【読み】 冬、公晉に如き、河に至りて乃ち復る。少姜を弔するなり。晉人之を辭す。故に還る。 季孫宿如晉。致襚服也。公實以秋行、冬還乃書。 【読み】 季孫宿晉に如く。襚服[すいふく]を致すなり。公實は秋を以て行き、冬還りて乃ち書すなり。 〔傳〕二年、春、晉侯使韓宣子來聘。公卽位故。 【読み】 〔傳〕二年、春、晉侯韓宣子をして來聘せしむ。公位に卽く故なり。 且告爲政而來見。禮也。代趙武爲政。雖盟主而脩好同盟。故曰禮。○見、賢遍反。 【読み】 且つ政を爲すことを告げて來り見ゆ。禮なり。趙武に代わりて政を爲す。盟主と雖も好を同盟に脩む。故に禮と曰う。○見は、賢遍反。 觀書於大史氏。見易象與魯春秋、曰、周禮盡在魯矣。易象、上下經之象辭。魯春秋、史記之策書。春秋遵周公之典以序事。故曰周禮盡在魯矣。 【読み】 書を大史氏に觀る。易象と魯の春秋とを見て、曰く、周の禮は盡く魯に在り。易象は、上下經の象の辭。魯の春秋は、史記の策書。春秋は周公の典に遵いて以て事を序づ。故に周の禮は盡く魯に在りと曰う。 吾乃今知周公之德、與周之所以王也。易象・春秋、文王・周公之制。當此時、儒道廢、諸國多闕。唯魯備。故宣子適魯而說之。○以王、于況反。說、音悅。 【読み】 吾れ乃ち今周公の德と、周の王たる所以を知れり、と。易象・春秋は、文王・周公の制。此の時に當たりて、儒道廢して、諸國闕けたること多し。唯魯のみ備わる。故に宣子魯に適きて之を說ぶなり。○以王は、于況反。說は、音悅。 公享之。季武子賦緜之卒章。緜、詩大雅。卒章、義取文王有四臣。故能以緜緜致興盛。以晉侯比文王、以韓子比四輔。 【読み】 公之を享す。季武子緜の卒章を賦す。緜は、詩の大雅。卒章は、義文王四臣有り。故に能く以て緜緜として興盛を致すに取る。晉侯を以て文王に比し、韓子を以て四輔に比す。 韓子賦角弓。角弓、詩小雅。取其兄弟昏姻、無胥遠矣。言兄弟之國、宜相親。 【読み】 韓子角弓を賦す。角弓は、詩の小雅。其の兄弟昏姻、胥[あい]遠ざかること無きに取る。言うこころは、兄弟の國は、宜しく相親しむべし。 季武子拜曰、敢拜子之彌縫敝邑。寡君有望矣。彌縫、猶補合也。謂以兄弟之義。 【読み】 季武子拜して曰く、敢えて子の敝邑を彌縫するを拜す。寡君望むこと有り、と。彌縫は、猶補合のごとし。兄弟の義を以てするを謂う。 武子賦節之卒章。節、詩小雅。卒章、取式訛爾心、以畜萬邦。以言晉德可以畜萬邦。○節、才結反。 【読み】 武子節の卒章を賦す。節は、詩の小雅。卒章は、式[もっ]て爾の心を訛して、以て萬邦を畜[やしな]えというに取る。以て言うこころは、晉の德以て萬邦を畜う可し、と。○節は、才結反。 旣享、宴于季氏。有嘉樹焉。宣子譽之。譽其好也。○譽、音餘。 【読み】 旣に享して、季氏に宴す。嘉樹有り。宣子之を譽む。其の好きを譽むるなり。○譽は、音餘。 武子曰、宿敢不封殖此樹。以無忘角弓。封、厚也。殖、長也。 【読み】 武子曰く、宿敢えて此の樹を封殖せざらんや。以て角弓を忘るること無けん、と。封は、厚きなり。殖は、長きなり。 遂賦甘棠。甘棠、詩召南。召伯息於甘棠之下。詩人思之、而愛其樹。武子欲封殖嘉樹如甘棠。以宣子比召公。 【読み】 遂に甘棠を賦す。甘棠は、詩の召南。召伯甘棠の下に息う。詩人之を思いて、其の樹を愛す。武子嘉樹を封殖すること甘棠の如くせんと欲す。宣子を以て召公に比するなり。 宣子曰、起不堪也。無以及召公。 【読み】 宣子曰く、起堪えざるなり。以て召公に及ぶこと無し、と。 宣子遂如齊納幣。爲平公聘少姜。 【読み】 宣子遂に齊に如きて幣を納る。平公の爲に少姜を聘す。 見子雅。子雅召子旗、子旗、子雅之子。 【読み】 子雅を見る。子雅子旗を召して、子旗は、子雅の子。 使見宣子。宣子曰、非保家之主也。不臣。志氣亢。○見、賢遍反。下見彊同。 【読み】 宣子に見えしむ。宣子曰く、保家の主に非ざるなり。不臣なり、と。志氣亢ず。○見は、賢遍反。下の見彊も同じ。 見子尾。子尾見彊。彊、子尾之子。 【読み】 子尾を見る。子尾彊を見えしむ。彊は、子尾の子。 宣子謂之如子旗。亦不臣。 【読み】 宣子之を謂うこと子旗の如し。亦不臣という。 大夫多笑之。唯晏子信之曰、夫子君子也。夫子、韓起。 【読み】 大夫多く之を笑う。唯晏子のみ之を信じて曰く、夫子は君子なり。夫子は、韓起。 君子有信。其有以知之矣。爲十年、齊欒施・高彊來奔張本。 【読み】 君子は信有り。其れ以て之を知ること有らん。十年、齊の欒施・高彊來奔する爲の張本なり。 自齊聘於衛。衛侯享之。北宮文子賦淇澳。淇澳、詩衛風。美武公也。言宣子有武公之德。○澳、於六反。 【読み】 齊より衛に聘す。衛侯之を享す。北宮文子淇澳[きいく]を賦す。淇澳は、詩の衛風。武公を美むるなり。言うこころは、宣子武公の德有り。○澳は、於六反。 宣子賦木瓜。木瓜、亦衛風。義取於欲厚報以爲好。 【読み】 宣子木瓜[ぼっか]を賦す。木瓜も、亦衛風。義厚報して以て好を爲さんと欲するに取る。 夏、四月、韓須如齊逆女。須、韓起之子。逆少姜。 【読み】 夏、四月、韓須齊に如きて女を逆[むか]う。須は、韓起の子。少姜を逆う。 齊陳無宇送女、致少姜。少姜有寵於晉侯。晉侯謂之少齊。爲立別號。所以寵異之。 【読み】 齊の陳無宇女を送り、少姜を致す。少姜晉侯に寵有り。晉侯之を少齊と謂う。爲に別號を立つ。之を寵異する所以なり。 謂陳無宇非卿、欲使齊以適夫人禮送少姜。○適、丁歷反。 【読み】 陳無宇を卿に非ずと謂いて、齊をして適夫人の禮を以て少姜を送らしめんと欲す。○適は、丁歷反。 執諸中都。中都、晉邑。在西河界休縣東南。 【読み】 諸を中都に執う。中都は、晉の邑。西河界休縣の東南に在り。 少姜爲之請曰、送從逆班。班、列也。 【読み】 少姜之が爲に請いて曰く、送るは逆うるの班に從う。班は、列なり。 畏大國也、猶有所易、是以亂作。韓須、公族大夫。陳無宇、上大夫。言齊畏晉、改易禮制、使上大夫送、遂致此執辱之罪。蓋少姜謙以示譏。 【読み】 大國を畏るるや、猶易うる所有りしかば、是を以て亂作れり、と。韓須は、公族大夫。陳無宇は、上大夫。言うこころは、齊晉を畏れ、禮制を改易して、上大夫をして送らしめ、遂に此の執辱の罪を致せり。蓋し少姜謙して以て譏りを示すなり。 叔弓聘于晉、報宣子也。此春、韓宣子來聘。 【読み】 叔弓晉に聘するは、宣子に報ゆるなり。此の春、韓宣子來聘す。 晉侯使郊勞。聘禮、賓至近郊、君使卿勞之。○勞、力報反。 【読み】 晉侯郊勞せしむ。聘禮に、賓近郊に至るときは、君卿をして之を勞わしむ、と。○勞、力報反。 辭曰、寡君使弓來繼舊好、固曰、女無敢爲賓。徹命於執事、敝邑弘矣。徹、達也。○女、音汝。下皆同。 【読み】 辭して曰く、寡君弓をして來りて舊好を繼がしめ、固より曰く、女敢えて賓爲ること無し、と。命を執事に徹せば、敝邑の弘[さいわい]なり。徹は、達するなり。○女は、音汝。下も皆同じ。 敢辱郊使。請辭。辭郊勞。○使、所吏反。 【読み】 敢えて郊使を辱くせんや。請う、辭す、と。郊勞を辭す。○使は、所吏反。 致館。辭曰、寡君命下臣來繼舊好。好合使成、臣之祿也。得通君命、則於己爲榮祿。 【読み】 館を致す。辭して曰く、寡君下臣に命じて來りて舊好を繼がしむ。好く合い使い成らば、臣の祿[さいわい]なり。君命を通ずることを得ば、則ち己に於て榮祿爲り。 敢辱大館。敢、不敢。 【読み】 敢えて大館を辱くせんや、と。敢は、不敢なり。 叔向曰、子叔子知禮哉。吾聞之、曰、忠信、禮之器也。卑讓、禮之宗也。宗、猶主也。 【読み】 叔向曰く、子叔子は禮を知るかな。吾れ之を聞く、曰く、忠信は、禮の器なり。卑讓は、禮の宗なり、と。宗は、猶主のごとし。 辭不忘國、忠信也。謂稱舊好。 【読み】 辭國を忘れざるは、忠信なり。舊好と稱するを謂う。 先國後己、卑讓也。始稱敝邑之弘、先國也。次稱臣之祿、後己也。 【読み】 國を先にし己を後にするは、卑讓なり。始め敝邑の弘と稱するは、國を先にするなり。次に臣の祿と稱するは、己を後にするなり。 詩曰、敬愼威儀、以近有德。夫子近德矣。詩、大雅。 【読み】 詩に曰く、威儀を敬愼すれば、以て有德に近づく、と。夫子德に近づけり、と。詩は、大雅。 秋、鄭公孫黑將作亂。欲去游氏而代其位。游氏、大叔之族。黑爲游楚所傷。故欲害其族。○去、起呂反。 【読み】 秋、鄭の公孫黑將に亂を作さんとす。游氏を去りて其の位に代わらんと欲す。游氏は、大叔の族。黑游楚の爲に傷つけらる。故に其の族を害せんと欲す。○去は、起呂反。 傷疾作而不果。前年、游楚所擊創。○創、初良反。 【読み】 傷疾作りて果たさず。前年、游楚擊つ所の創なり。○創は、初良反。 駟氏與諸大夫欲殺之。駟氏、黑之族。 【読み】 駟氏諸大夫と之を殺さんと欲す。駟氏は、黑の族。 子產在鄙、聞之、懼弗及、乘遽而至、遽、傳驛。○傳、中戀反。 【読み】 子產鄙に在り、之を聞き、及ばざらんことを懼れ、遽に乘じて至り、遽は、傳驛。○傳は、中戀反。 使吏數之、責數其罪。 【読み】 吏をして之を數[せ]めしめて、其の罪を責數す。 曰、伯有之亂、在襄三十年。 【読み】 曰く、伯有の亂に、襄三十年に在り。 以大國之事、而未爾討也。務共大國、不暇治女罪。○共、音恭。下同。 【読み】 大國の事あるを以て、未だ爾を討ぜざりき。大國に共するを務めて、女の罪を治むるに暇あらざりし。○共は、音恭。下も同じ。 爾有亂心無厭、國不女堪。專伐伯有。而罪一也。昆弟爭室、而罪二也。謂爭徐吾犯之妹。○厭、於鹽反。 【読み】 爾亂心有りて厭くこと無く、國女に堪えず。專ら伯有を伐つ。而[なんじ]の罪一なり。昆弟室を爭う、而の罪二なり。徐吾犯の妹を爭うを謂う。○厭は、於鹽反。 薰隧之盟、女矯君位、而罪三也。謂使大史書七子。 【読み】 薰隧の盟に、女君位を矯[いつわ]る、而の罪三なり。大史をして七子を書さしむるを謂う。 有死罪三。何以堪之。不速死、大刑將至。 【読み】 死罪三つ有り。何を以て之に堪えん。速やかに死せずんば、大刑將に至らんとす、と。 再拜稽首、辭曰、死在朝夕。無助天爲虐。子產曰、人誰不死。凶人不終。命也。作凶事爲凶人。不助天、其助凶人乎。 【読み】 再拜稽首して、辭じて曰く、死朝夕に在り。天を助けて虐を爲すこと無かれ、と。子產曰く、人誰か死なざらん。凶人は終わらず。命なり。凶事を作すを凶人と爲す。天を助けずして、其れ凶人を助けんや、と。 請以印爲褚師。印、子皙之子。褚師、市官。○褚、張呂反。 【読み】 印を以て褚師と爲さんと請う。印は、子皙の子。褚師は、市官。○褚は、張呂反。 子產曰、印也若才、君將任之。不才、將朝夕從女。女罪之不恤、而又何請焉。不速死、司寇將至。七月、壬寅、縊。尸諸周氏之衢、衢、道也。 【読み】 子產曰く、印や若し才ならば、君將に之に任ぜんとす。不才ならば、將に朝夕に女に從わんとす。女の罪を恤えずして、又何ぞ請わん。速やかに死せずんば、司寇將に至らんとす、と。七月、壬寅[みずのえ・とら]、縊る。諸を周氏の衢[く]に尸[さら]し、衢は、道なり。 加木焉。書其罪於木、以加尸上。 【読み】 木を加う。其の罪を木に書して、以て尸の上に加う。 晉少姜卒。公如晉、及河。晉侯使士文伯來辭曰、非伉儷也。晉侯溺於所幸、爲少姜行夫人之服。故諸侯弔、不敢以私煩諸侯。故止之。 【読み】 晉の少姜卒す。公晉に如き、河に及ぶ。晉侯士文伯をして來りて辭せしめて曰く、伉儷[こうれい]に非ざるなり。晉侯所幸に溺れ、少姜の爲に夫人の服を行う。故に諸侯弔するも、敢えて私を以て諸侯を煩わさず。故に之を止む。 請君無辱。公還。季孫宿遂致服焉。致少姜之襚服。公以末秋行、始冬還。還乃書之。故經在冬。 【読み】 請う、君辱くすること無かれ、と。公還る。季孫宿遂に服を致す。少姜の襚服を致すなり。公末秋を以て行き、始冬に還る。還れば乃ち之を書す。故に經冬に在り。 叔向言陳無宇於晉侯曰、彼何罪。彼、無宇。 【読み】 叔向陳無宇を晉侯に言いて曰く、彼れ何の罪かある。彼は、無宇。 君使公族逆之、齊使上大夫送之、猶曰不共、君求以貪。國則不共、逆卑於送。是晉國不共。 【読み】 君公族をして之を逆えしめ、齊上大夫をして之を送らしむるを、猶不共なりと曰わんは、君の求め以[はなは]だ貪れり。國則ち共せずして、逆うるは送るより卑し。是れ晉國共せざるなり。 而執其使、君刑己頗。何以爲盟主。頗、不平。○頗、普多反。 【読み】 其の使いを執うるは、君の刑己[はなは]だ頗なり。何を以て盟主爲らん。頗は、不平。○頗は、普多反。 且少姜有辭。謂請無宇之辭。 【読み】 且少姜も辭有りし、と。無宇を請うの辭を謂う。 冬、十月、陳無宇歸。晉侯赦之。 【読み】 冬、十月、陳無宇歸る。晉侯之を赦す。 十一月、鄭印段如晉弔。弔少姜。 【読み】 十一月、鄭の印段晉に如きて弔う。少姜を弔う。 〔經〕三年、春、王正月、丁未、滕子原卒。襄二十五年、盟重丘。○重、直恭反。 【読み】 〔經〕三年、春、王の正月、丁未[ひのと・ひつじ]、滕子原卒す。襄二十五年、重丘に盟う。○重は、直恭反。 夏、叔弓如滕。五月、葬滕成公。卿共小國之葬禮過厚。葬襄公、滕子來會。故魯厚報之。○共、音恭。下皆同。 【読み】 夏、叔弓滕に如く。五月、滕の成公を葬る。卿小國の葬禮に共するは過厚なり。襄公を葬るとき、滕子來會す。故に魯之に厚報す。○共は、音恭。下も皆同じ。 秋、小邾子來朝。八月、大雩。冬、大雨雹。無傳。記災。○雨、于付反。雹、蒲學反。 【読み】 秋、小邾子[しょうちゅし]來朝す。八月、大いに雩[う]す。冬、大いに雹雨[ふ]る。傳無し。災を記すなり。○雨は、于付反。雹は、蒲學反。 北燕伯款出奔齊。不書大夫逐之、而言奔、罪之也。書名、從告。 【読み】 北燕伯款出でて齊に奔る。大夫之を逐うを書さずして、奔ると言うは、之を罪するなり。名を書すは、告ぐるに從うなり。 〔傳〕三年、春、王正月、鄭游吉如晉、送少姜之葬。梁丙與張趯見之。二子、晉大夫。○趯、他歷反。 【読み】 〔傳〕三年、春、王の正月、鄭の游吉晉に如きて、少姜の葬を送る。梁丙と張趯[ちょうてき]と之を見る。二子は、晉の大夫。○趯は、他歷反。 梁丙曰、甚矣哉、子之爲此來也。卿共妾葬、過禮甚。○爲、于僞反。 【読み】 梁丙曰く、甚だしきかな、子の此の爲に來れるや、と。卿妾の葬に共するは、禮を過ぐること甚だし。○爲は、于僞反。 子大叔曰、將得已乎。言不得止。 【読み】 子大叔曰く、將[はた]已むことを得んや。止むことを得ざるを言う。 昔文・襄之霸也、晉文公・襄公。 【読み】 昔文・襄の霸たるや、晉の文公・襄公。 其務不煩諸侯、令諸侯三歲而聘、五歲而朝、有事而會、不協而盟、明王之制、歲聘閒朝、在十三年。今簡之。 【読み】 其の務め諸侯を煩わさず、諸侯をして三歲にして聘し、五歲にして朝し、事有れば會し、協[あ]わずして盟い、明王の制は、歲ごとに聘し閒に朝すること、十三年に在り。今之を簡[おろそ]かにす。 君薨、大夫弔、卿共葬事、夫人、士弔、大夫送葬、先王之制、諸侯之喪、士弔、大夫送葬、在三十年。蓋時俗過制。故文・襄雖節之、猶過於古。 【読み】 君薨ずれば、大夫弔し、卿葬事に共し、夫人は、士弔し、大夫葬を送らしめて、先王の制は、諸侯の喪には、士弔し、大夫葬を送ること、三十年に在り。蓋し時俗制に過ぐ。故に文・襄之を節すと雖も、猶古に過ぐるならん。 足以昭禮命事謀闕而已、朝聘以昭禮、盟會以謀闕。 【読み】 以て禮を昭らかにし事を命じ闕けたるを謀るに足るのみにして、朝聘して以て禮を昭らかにし、盟會して以て闕けたるを謀る。 無加命矣。命有常。 【読み】 加命無かりき。命常有り。 今嬖寵之喪、不敢擇位、而數於守適。不敢以其位卑、而令禮數如守適夫人。然則時適夫人之喪、弔送之禮、已過文・襄之制。○而數、所具反。又所主反。適、丁歷反。 【読み】 今嬖寵の喪に、敢えて位を擇ばずして、數守適に於てす。敢えて其の位の卑しきを以てせずして、禮數をして守適夫人の如くならしむ。然らば則ち時に適夫人の喪は、弔送の禮、已に文・襄の制に過ぎたり。○而數は、所具反。又所主反。適は、丁歷反。 唯懼獲戾。豈敢憚煩。少姜有寵而死、齊必繼室。繼室、復薦女。 【読み】 唯戾[つみ]を獲んことを懼る。豈敢えて煩を憚らんや。少姜寵有りて死すれば、齊必ず室を繼がん。室を繼ぐとは、復女を薦むるなり。 今玆吾又將來賀。不唯此行也。張趯曰、善哉、吾得聞此數也。然自今子其無事矣。譬如火焉。火、心星。 【読み】 今玆[ことし]吾れ又將に來り賀せんとす。唯此の行のみにあらじ、と。張趯曰く、善いかな、吾れ此の數を聞くことを得たり。然れども今より子其れ事無からん。譬えば火の如し。火は、心星。 火中、寒暑乃退。心以季夏昏中而暑退、季冬旦中而寒退。 【読み】 火中すれば、寒暑乃ち退く。心季夏の昏を以て中して暑退き、季冬の旦に中して寒退く。 此其極也。能無退乎。晉將失諸侯。諸侯求煩不獲。言將不能復煩諸侯。 【読み】 此れ其の極なり。能く退くこと無からんや。晉將に諸侯を失わんとす。諸侯煩を求むとも獲ざらん、と。言うこころは、將に復諸侯を煩わすこと能わざらんとす。 二大夫退。子大叔告人曰、張趯有知、其猶在君子之後乎。譏其無隱諱。○知、音智。 【読み】 二大夫退く。子大叔人に告げて曰く、張趯知有るも、其れ猶君子の後に在らんか、と。其の隱諱無きを譏る。○知は、音智。 丁未、滕子原卒。同盟。故書名。同盟於襄之世。亦應從同盟之禮。故傳發之。 【読み】 丁未、滕子原卒す。同盟なり。故に名を書す。襄の世に同盟す。亦同盟の禮に從う應し。故に傳之を發す。 齊侯使晏嬰請繼室於晉、復以女繼少姜。 【読み】 齊侯晏嬰をして室を繼がんことを晉に請わしめて、復女を以て少姜に繼がんとす。 曰、寡人願事君、朝夕不倦、將奉質幣、以無失時、則國家多難、是以不獲。不得自來。○質、之二反。又如字。難、乃旦反。 【読み】 曰く、寡人君に事えて、朝夕に倦まずして、質幣を將奉して、以て時を失うこと無けんことを願えども、則ち國家多難にして、是を以て獲ず。自ら來たることを得ず。○質は、之二反。又字の如し。難は、乃旦反。 *頭注に「按各本於晉下、有曰寡君使嬰五字。唯穆本無之。」とある。 不腆先君之適、謂少姜。 【読み】 不腆なる先君の適、少姜を謂う。 以備内官、焜燿寡人之望、則又無祿、早世隕命、寡人失望。 【読み】 以て内官に備えて、寡人の望みを焜燿[こんよう]せしも、則ち又無祿にして、早世隕命して、寡人望みを失えり。 君若不忘先君之好、惠顧齊國、辱收寡人、徼福於大公・丁公、徼、要也。二公、齊先君。言收恤寡人、則先君與之福也。○焜、胡本反。又音昆。徼、古堯反。 【読み】 君若し先君の好を忘れず、齊國を惠顧して、寡人を辱收し、福を大公・丁公に徼[もと]めんとし、徼[きょう]は、要むるなり。二公は、齊の先君なり。言うこころは、寡人を收恤せば、則ち先君も之に福を與えん。○焜は、胡本反。又音昆。徼は、古堯反。 照臨敝邑、鎭撫其社稷、則猶有先君之適、適、夫人之女。 【読み】 敝邑を照臨し、其の社稷を鎭撫せば、則ち猶先君の適、適は、夫人の女。 及遺姑姊妹、遺、餘也。 【読み】 及び遺れる姑姊妹、遺は、餘るなり。 若而人。言如常人。不敢譽。 【読み】 若而人有り。言うこころは、常人の如しとなり。敢えて譽めざるなり。 君若不棄敝邑、而辱使董振擇之、以備嬪嬙、寡人之望也。董、正也。振、整也。嬪嬙、婦官。○振、之刃反。一音眞。 【読み】 君若し敝邑を棄てずして、辱く董振して之を擇びて、以て嬪嬙[ひんきょう]に備えしめば、寡人の望みなり、と。董は、正すなり。振は、整うなり。嬪嬙は、婦官。○振は、之刃反。一に音眞。 韓宣子使叔向對曰、寡君之願也。寡君不能獨任其社稷之事、未有伉儷、在縗絰之中、是以未敢請。制、夫人之服則葬訖、君臣乃釋服。○任、音壬。 【読み】 韓宣子叔向をして對えしめて曰く、寡君の願いなり。寡君獨り其の社稷の事に任[た]うること能わず、未だ伉儷[こうれい]有らざるも、縗絰[さいてつ]の中に在れば、是を以て未だ敢えて請わざりき。制に、夫人の服は則ち葬訖[おわ]れば、君臣乃ち服を釋く、と。○任は、音壬。 君有辱命、惠莫大焉。若惠顧敝邑、撫有晉國、賜之内主、豈唯寡君。舉羣臣實受其貺。其自唐叔以下、實寵嘉之。唐叔、晉之祖。 【読み】 君辱命有り、惠焉より大なるは莫し。若し敝邑を惠顧し、晉國を撫有して、之が内主を賜わば、豈唯寡君のみならんや。羣臣を舉[こぞ]りて實に其の貺[たまもの]を受けん。其れ唐叔より以下も、實に之を寵嘉せん、と。唐叔は、晉の祖。 旣成昏、許昏成。 【読み】 旣に昏を成し、昏を許して成る。 晏子受禮。受賓享之禮。 【読み】 晏子禮を受く。賓享の禮を受く。 叔向從之宴、相與語。叔向曰、齊其何如。問興衰。 【読み】 叔向之に從いて宴して、相與に語る。叔向曰く、齊其れ何如、と。興衰を問う。 晏子曰、此季世也。吾弗知、齊其爲陳氏矣。不知其他。唯知齊將爲陳氏。 【読み】 晏子曰く、此れ季世なり。吾れ知らず、齊は其れ陳氏爲らん。其の他を知らず。唯齊の將に陳氏爲らんとするを知るのみ。 公棄其民、而歸於陳氏。棄民不恤。 【読み】 公其の民を棄てて、陳氏に歸せしむ。民を棄てて恤れまず。 齊舊四量。豆・區・釜・鍾。四升爲豆、各自其四、以登於釜、四豆爲區。區、斗六升。四區爲釜。釜、六斗四升。登、成也。○量、音亮。下同。區、烏侯反。下皆同。 【読み】 齊は舊四量。豆・區[おう]・釜・鍾あり。四升を豆と爲し、各々其の四にしてより、以て釜に登り、四豆を區と爲す。區は、斗六升。四區を釜と爲す。釜は、六斗四升なり。登は、成るなり。○量は、音亮。下も同じ。區は、烏侯反。下も皆同じ。 釜十則鍾。六斛四斗。 【読み】 釜十は則ち鍾なり。六斛[こく]四斗。 陳氏三量、皆登一焉。鍾乃大矣。登、加也。加一、謂加舊量之一也。以五升爲豆、五豆爲區、五區爲釜、則區二斗、釜八斗、鐘八斛。 【読み】 陳氏は三量を、皆一を登す。鍾乃ち大なり。登は、加うるなり。一を加うとは、舊量の一を加うるを謂うなり。五升を以て豆と爲し、五豆を區と爲し、五區を釜と爲せば、則ち區は二斗、釜は八斗、鐘は八斛。 以家量貸、而以公量收之。貸厚而收薄。 【読み】 家量を以て貸して、公量を以て之を收む。貸すは厚くして收むるは薄し。 山木如市、弗加於山、魚鹽蜃蛤、弗加於海。賈如在山海、不加貴。○蜃、食軫反。賈、音嫁。 【読み】 山木市に如けども、山より加えず、魚鹽蜃蛤も、海より加えず。賈山海に在るが如くにして、貴を加えず。○蜃は、食軫反。賈は、音嫁。 民參其力、二入於公、而衣食其一。言公重賦斂。○參、七南反。又音三。 【読み】 民其の力を參にして、二は公に入れて、其の一を衣食にす。公賦斂を重くするを言う。○參は、七南反。又音三。 公聚朽蠹、而三老凍餒。三老、謂上壽・中壽・下壽。皆八十已上、不見養遇。 【読み】 公聚は朽蠹[きゅうと]して、三老は凍餒[とうたい]す。三老は、上壽・中壽・下壽を謂う。皆八十已上にして、養遇せられず。 國之諸市、屨賤踊貴。踊、刖足者屨。言刖多。○踊、音勇。 【読み】 國の諸市、屨[くつ]は賤しくして踊は貴し。踊は、足を刖[き]る者の屨なり。刖[あしぎり]の多きを言う。○踊は、音勇。 民人痛疾、而或燠休之、燠休、痛念聲。謂陳氏也。○燠、於喩反。一於六反。休、虛喩反。又許留反。 【読み】 民人痛疾すれば、或は之を燠休[いくきゅう]して、燠休は、痛念の聲なり。陳氏を謂うなり。○燠は、於喩反。一に於六反。休は、虛喩反。又許留反。 其愛之如父母、而歸之如流水。欲無獲民、將焉辟之。箕伯・直柄・虞遂・伯戲、四人、皆舜後。陳氏之先。○戲、許宜反。 【読み】 其の之を愛すること父母の如くにして、之に歸すること流水の如し。民を獲ること無からんと欲すとも、將焉ぞ之を辟けん。箕伯・直柄・虞遂・伯戲、四人は、皆舜の後。陳氏の先なり。○戲は、許宜反。 其相胡公・大姬、已在齊矣。胡公、四人之後。周始封陳之祖。大姬、其妃也。言陳氏雖爲人臣、然將有國。其先祖鬼神、已與胡公共在齊。○大、音泰。 【読み】 其れ胡公・大姬を相けて、已に齊に在り、と。胡公は、四人の後。周始めて封ずる陳の祖なり。大姬は、其の妃なり。言うこころは、陳氏人臣爲りと雖も、然れども將に國を有たんとす。其の先祖の鬼神、已に胡公と共に齊に在り。○大は、音泰。 叔向曰、然。雖吾公室、今亦季世也。戎馬不駕、卿無軍行、言晉衰弱、不能征討救諸侯。○行、戶郎反。 【読み】 叔向曰く、然り。吾が公室と雖も、今亦季世なり。戎馬駕せず、卿軍行無く、言うこころは、晉衰弱して、征討して諸侯を救うこと能わず。○行は、戶郎反。 公乘無人、卒列無長。百人爲卒。言人皆非其人、非其長。○乘、繩證反。 【読み】 公乘に人無く、卒列に長無し。百人を卒と爲す。言うこころは、人皆其の人に非ず、其の長に非ず。○乘は、繩證反。 庶民罷敝、而宮室滋侈、滋、益也。 【読み】 庶民罷敝して、宮室滋々侈り、滋は、益々なり。 道殣相望、餓死爲殣。○殣、音覲。路冢也。 【読み】 道殣[どうきん]相望みて、餓死を殣と爲す。○殣は、音覲。路冢なり。 而女富溢尤。女、嬖寵之家。 【読み】 女富溢々尤[はなは]だし。女は、嬖寵の家。 民聞公命、如逃寇讎。欒・郤・胥・原・狐・續・慶・伯降在皁隸。八姓、晉舊臣之族也。皁隸、賤官。 【読み】 民公の命を聞けば、寇讎を逃ぐるが如し。欒[らん]・郤[げき]・胥・原・狐・續・慶・伯降りて皁隸[そうれい]に在り。八姓は、晉の舊臣の族なり。皁隸は、賤官。 政在家門、大夫專政。 【読み】 政家門に在りて、大夫政を專にす。 民無所依、君日不悛、以樂慆憂。慆、藏。悛、改也。○慆、音滔。樂、音洛。 【読み】 民依る所無く、君日々に悛[あらた]めず、樂を以て憂えを慆[おさ]む。慆は、藏むる。悛は、改むるなり。○慆は、音滔。樂は、音洛。 公室之卑、其何日之有。言今至。 【読み】 公室の卑しからんこと、其れ何れの日か之れ有らん。今至るを言う。 讒鼎之銘、讒、鼎名也。 【読み】 讒鼎の銘に、讒は、鼎の名なり。 曰、昧旦丕顯、後世猶怠。昧旦、早起也。丕、大也。言夙興以務大顯、後世猶解怠。 【読み】 曰く、昧旦に丕[おお]いに顯らかにするも、後世猶怠る、と。昧旦は、早起なり。丕は、大いなり。言うこころは、夙に興きて以て務めて大いに顯らかにするも、後世猶解怠す。 況日不悛。其能久乎。 【読み】 況んや日々に悛めざるをや。其れ能く久しからんや、と。 晏子曰、子將若何。問何以免此難。 【読み】 晏子曰く、子將に若何にせんとする、と。何を以て此の難を免れんと問う。 叔向曰、晉之公族盡矣。肸聞之、公室將卑、其宗族枝葉先落、則公從之。肸之宗十一族、同祖爲崇。○肸、許乙反。 【読み】 叔向曰く、晉の公族盡きたり。肸[きつ]之を聞く、公室の將に卑しからんとするは、其の宗族の枝葉先ず落つれば、則ち公之に從う、と。肸の宗は十一族なりしも、同祖を崇と爲す。○肸は、許乙反。 唯羊舌氏在而已。肸又無子、無賢子。 【読み】 唯羊舌氏在るのみ。肸又子無く、賢子無し。 公室無度。無法度。 【読み】 公室度無し。法度無し。 幸而得死。言得以壽終爲幸。 【読み】 幸いにして死することを得んのみ。言うこころは、壽を以て終わることを得るを幸いとす。 豈其獲祀。言必不得祀。 【読み】 豈其れ祀らるることを獲んや、と。言うこころは、必ず祀らるることを得ず。 初、景公欲更晏子之宅。曰、子之宅近市、湫隘嚻塵。不可以居。湫、下。隘、小。嚻、聲。塵、土。○湫、子小反。徐音秋。又在酒反。 【読み】 初め、景公晏子の宅を更めんと欲す。曰く、子の宅市に近くして、湫隘[しょうあい]嚻塵[ごうじん]なり。以て居る可からず。湫は、下[ひく]き。隘は、小さき。嚻は、聲。塵は、土。○湫は、子小反。徐音秋。又在酒反。 請更諸爽塏者。爽、明。塏、燥。○塏、音凱。 【読み】 請う、諸を爽塏[そうがい]なる者に更めん、と。爽は、明らか。塏は、燥く。○塏は、音凱。 辭曰、君之先臣容焉。先臣、晏子之先人。 【読み】 辭して曰く、君の先臣容れたり。先臣は、晏子の先人。 臣不足以嗣之、於臣侈矣。侈、奢也。 【読み】 臣以て之を嗣ぐに足らざれば、臣に於ては侈れるなり。侈は、奢るなり。 且小人近市、朝夕得所求、小人之利也。敢煩里旅。旅、衆也。不敢勞衆爲己宅。 【読み】 且つ小人市に近くして、朝夕求むる所を得るは、小人の利なり。敢えて里旅を煩わさんや、と。旅は、衆なり。敢えて衆を勞して己が宅を爲さず。 公笑曰、子近市。識貴賤乎。對曰、旣利之。敢不識乎。公曰、何貴何賤。於是景公繁於刑、繁、多也。 【読み】 公笑いて曰く、子市に近し。貴賤を識れりや、と。對えて曰く、旣に之を利とす。敢えて識らざらんや、と。公曰く、何れか貴く何れか賤しき、と。是に於て景公刑を繁[おお]くして、繁は、多きなり。 有鬻踊者。故對曰、踊貴屨賤。旣已告於君。故與叔向語而稱之。傳護晏子、令不與張趯同譏。○鬻、羊六反。賣也。 【読み】 踊を鬻[ひさ]ぐ者有り。故に對えて曰く、踊は貴く屨は賤し、と。旣已に君に告げぬ。故に叔向と語りて之を稱せり。傳晏子を護して、張趯と譏りを同じくせざらしむ。○鬻[いく]は、羊六反。賣るなり。 景公爲是省於刑。 【読み】 景公是が爲に刑を省けり。 君子曰、仁人之言、其利博哉。晏子一言而齊侯省刑。詩曰、君子如祉、亂庶遄已。詩小雅。如、行也。祉、福也。遄、疾也。言君子行福、則庶幾亂疾止也。○爲、于僞反。 【読み】 君子曰く、仁人の言は、其の利博いかな。晏子一言にして齊侯刑を省けり。詩に曰く、君子祉[さいわい]を如[おこな]わば、亂庶わくは遄[すみ]やかに已まん、と。詩は小雅。如は、行うなり。祉は、福なり。遄は、疾やかなり。言うこころは、君子福を行わば、則ち庶幾わくは亂疾やかに止まん。○爲は、于僞反。 其是之謂乎。 【読み】 其れ是を之れ謂うか、と。 及晏子如晉、公更其宅。反則成矣。旣拜、拜、謝新宅。 【読み】 晏子が晉に如くに及びて、公其の宅を更む。反れば則ち成れり。旣に拜して、拜は、新宅を謝するなり。 乃毀之而爲里室、皆如其舊、本壞里室以大晏子之宅。故復之。○壞、音怪。 【読み】 乃ち之を毀ちて里室と爲して、皆其の舊の如くにして、本里室を壞りて以て晏子の宅を大にす。故に之を復す。○壞は、音怪。 則使宅人反之。還其故室。○還、音環。 【読み】 則ち宅人をして之を反さしむ。其の故室を還す。○還は、音環。 且諺曰、非宅是卜。唯鄰是卜。卜良鄰。 【読み】 且つ諺に曰く、宅を是れ卜するに非ず。唯鄰を是れ卜す、と。良鄰を卜す。 二三子先卜鄰矣。二三子、謂鄰人。 【読み】 二三子先に鄰を卜せり。二三子は、鄰人を謂う。 違卜不祥。君子不犯非禮、去儉卽奢爲非禮。 【読み】 卜に違うは不祥なり。君子は非禮を犯さず、儉を去りて奢に卽くを非禮と爲す。 小人不犯不祥、古之制也。吾敢違諸乎。卒復其舊宅。公弗許。因陳桓子以請。乃許之。傳言齊・晉之衰、賢臣懷憂、且言陳氏之興。 【読み】 小人は不祥を犯さざるは、古の制なり。吾れ敢えて諸に違わんや、と。卒に其の舊宅に復る。公許さず。陳桓子に因りて以て請う。乃ち之を許す。傳齊・晉の衰えて、賢臣憂えを懷くを言い、且つ陳氏の興るを言う。 夏、四月、鄭伯如晉。公孫段相。甚敬而卑、禮無違者。晉侯嘉焉、授之以策、策、賜命之書。 【読み】 夏、四月、鄭伯晉に如く。公孫段相く。甚だ敬して卑しく、禮違う者無し。晉侯嘉して、之を授くるに策を以てして、策は、命を賜うの書なり。 曰、子豐有勞於晉國、子豐、段之父。 【読み】 曰く、子豐が晉國に勞有りしこと、子豐は、段の父。 余聞而弗忘。賜女州田、州縣、今屬河内郡。○女、音汝。 【読み】 余聞きて忘れず。女に州の田を賜いて、州縣は、今河内郡に屬す。○女は、音汝。 以胙乃舊勳。伯石再拜稽首、受策以出。 【読み】 以て乃の舊勳に胙[むく]ゆ、と。伯石再拜稽首して、策を受けて以て出づ。 君子曰、禮其人之急也乎。伯石之汰也、汰、驕也。 【読み】 君子曰く、禮は其れ人の急なるか。伯石の汰[おご]るも、汰は、驕るなり。 一爲禮於晉、猶荷其祿。況以禮終始乎。詩曰、人而無禮、胡不遄死。其是之謂乎。 【読み】 一たび禮を晉に爲して、猶其の祿を荷えり。況んや禮を以て終始するをや。詩に曰く、人として禮無くんば、胡ぞ遄やかに死せざる、と。其れ是を之れ謂うか、と。 初、州縣、欒豹之邑也。豹、欒盈族。○荷、戶可反。 【読み】 初め、州縣は、欒豹の邑なり。豹は、欒盈の族。○荷は、戶可反。 及欒氏亡、范宣子・趙文子・韓宣子皆欲之。文子曰、溫吾縣也。州本屬溫。溫、趙氏邑。 【読み】 欒氏が亡ぶるに及びて、范宣子・趙文子・韓宣子皆之を欲す。文子曰く、溫は吾が縣なり、と。州は本溫に屬す。溫は、趙氏の邑。 二宣子曰、自郤稱以別三傳矣。郤稱、晉大夫。始受州。自是州與溫別、至今傳三家。○稱、尺證反。傳、直專反。 【読み】 二宣子曰く、郤稱よりして以て別れて三傳せり。郤稱は、晉の大夫。始めて州を受く。是よりして州は溫と別れ、今に至りて 三家に傳えたり。○稱は、尺證反。傳は、直專反。 晉之別縣、不唯州。誰獲治之。言縣邑旣別甚多。無有得追而治取之。 【読み】 晉の縣を別つこと、唯州のみにあらず。誰か之を治むることを獲ん、と。言うこころは、縣邑旣に別るること甚だ多し。追て之を治め取ることを得ること有ること無し。 文子病之、乃舍之。二子曰、吾不可以正議而自與也。皆舍之。 【読み】 文子之を病[うれ]え、乃ち之を舍つ。二子曰く、吾れ正議を以てして自ら與う可からず、と。皆之を舍つ。 及文子爲政、趙獲曰、可以取州矣。獲、文子之子。○乃舍、音赦。又音捨。下同。 【読み】 文子が政を爲すに及びて、趙獲曰く、以て州を取る可し、と。獲は、文子の子。○乃舍は、音赦。又音捨。下も同じ。 文子曰、退。使獲退也。 【読み】 文子曰く、退け。獲をして退かしむるなり。 二子之言義也。二子、二宣子也。 【読み】 二子の言は義なり。二子は、二宣子なり。 違義禍也。余不能治余縣。又焉用州。其以徼禍也。君子曰、弗知實難。患不知禍所起。 【読み】 義に違うは禍なり。余余が縣を治むること能わず。又焉ぞ州を用いんや。其れ以て禍を徼めんや。君子曰く、知らざるは實に難し。禍の起こる所を知らざるを患う。 知而弗從、禍莫大焉。有言州必死。 【読み】 知りて從わざるは、禍焉より大なるは莫し、と。州を言うこと有らば必ず死せん、と。 豐氏故主韓氏。故、猶舊也。豐氏至晉、舊以韓氏爲主人。 【読み】 豐氏は故より韓氏を主とす。故は、猶舊のごとし。豐氏晉に至れば、舊より韓氏を以て主人と爲す。 伯石之獲州也、韓宣子爲之請之。爲其復取之之故。後若還晉、因自欲取之。爲七年、豐氏歸州張本。○爲、去聲。自爲介外皆同。 【読み】 伯石の州を獲るや、韓宣子之が爲に之を請えるなり。其の復すとき之を取らんが爲の故なり。後若し晉に還さば、因りて自ら之を取らんと欲す。七年、豐氏州を歸す爲の張本なり。○爲は、去聲。爲介より外は皆同じ。 五月、叔弓如滕、葬滕成公。子服椒爲介。及郊、遇懿伯之忌、敬子不入。忌、怨也。懿伯、椒之叔父。敬子、叔弓也。叔弓禮椒、爲之辟仇。○辟、音避。 【読み】 五月、叔弓滕に如きて、滕の成公を葬る。子服椒介爲り。郊に及び、懿伯の忌に遇い、敬子入らず。忌は、怨むなり。懿伯は、椒の叔父。敬子は、叔弓なり。叔弓椒を禮するは、之が仇を辟けるが爲なり。○辟は、音避。 惠伯曰、公事有公利、無私忌。椒請先入。乃先受館。敬子從之。惠伯、子服椒也。傳言叔弓之有禮。 【読み】 惠伯曰く、公事には公利有りて、私忌無し。椒請う、先ず入らん、と。乃ち先ず館を受く。敬子之に從う。惠伯は、子服椒なり。傳叔弓の禮有るを言う。 晉韓起如齊逆女。爲平公逆。 【読み】 晉の韓起齊に如きて女を逆う。平公の爲に逆う。 公孫蠆爲少姜之有寵也、以其子更公女、而嫁公子。更嫁公女。○蠆、敕邁反。更、平聲。 【読み】 公孫蠆[こうそんたい]少姜の寵有りしが爲に、其の子を以て公女に更えて、公の子を嫁がしむ。公の女を更め嫁す。○蠆は、敕邁反。更は、平聲。 人謂宣子、子尾欺晉。晉胡受之。宣子曰、我欲得齊而遠其寵、寵將來乎。寵謂子尾。○遠、去聲。 【読み】 人宣子に謂えらく、子尾晉を欺く。晉胡ぞ之を受けん、と。宣子曰く、我れ齊を得んと欲して其の寵を遠ざけば、寵將來らんや、と。寵は子尾を謂う。○遠は、去聲。 秋、七月、鄭罕虎如晉、賀夫人。 【読み】 秋、七月、鄭の罕虎晉に如きて、夫人を賀す。 且告曰、楚人日徵敝邑、以不朝立王之故。楚靈王新立。 【読み】 且つ告げて曰く、楚人日々に敝邑を徵すに、立王に朝せざるの故を以てす。楚の靈王新たに立つ。 敝邑之往、則畏執事、其謂寡君而固有外心。其不往、則宋之盟云。云交相見。 【読み】 敝邑往かば、則ち執事の、其れ寡君を而[なんじ]固より外心有りと謂わんことを畏る。其れ往かざるときは、則ち宋の盟に云えり。交々相見えんと云う。 進退罪也。寡君使虎布之。布、陳也。 【読み】 進退罪あり。寡君虎をして之を布かしむ、と。布は、陳ぶるなり。 宣子使叔向對曰、君若辱有寡君、在楚何害。脩宋盟也。君苟思盟、寡君乃知免於戾矣。君若不有寡君、雖朝夕辱於敝邑、寡君猜焉。猜、疑也。 【読み】 宣子叔向をして對えしめて曰く、君若し辱く寡君を有せば、楚に在るも何の害あらん。宋の盟を脩むるなり。君苟も盟を思わば、寡君乃ち戾[つみ]に免るることを知れり。君若し寡君を有せざれば、朝夕に敝邑に辱くすと雖も、寡君猜[うたが]わん。猜は、疑うなり。 君實有心、何辱命焉。言若有事晉心、至楚可不須告。 【読み】 君實に心有らば、何ぞ命ずることを辱くせん。言うこころは、若し晉に事うる心有らば、楚に至るも告ぐることを須いざる可し。 君其往也。苟有寡君、在楚猶在晉也。 【読み】 君其れ往け。苟も寡君を有せば、楚に在るも猶晉に在るがごとし、と。 張趯使謂大叔曰、自子之歸也、歸、在此年春。 【読み】 張趯大叔に謂わしめて曰く、子の歸りしより、歸は、此の年の春に在り。 小人糞除先人之敝廬、曰、子其將來。今子皮實來。小人失望。大叔曰、吉賤。不獲來。賤、非上卿。 【読み】 小人先人の敝廬を糞除して、曰く、子其れ將に來らんとす、と。今子皮實に來れり。小人望みを失えり、と。大叔曰く、吉は賤し。來ることを獲ず。賤しとは、上卿に非ざるなり。 畏大國、尊夫人也。且孟曰而將無事。吉庶幾焉。孟、張趯也。庶幾如趯言。 【読み】 大國を畏れ、夫人を尊びてなり。且つ孟而[なんじ]將に事無からんとすと曰えり。吉庶幾えり、と。孟は、張趯なり。趯が言の如くならんことを庶幾う。 小邾穆公來朝。季武子欲卑之。不欲以諸侯禮待之。 【読み】 小邾穆公來朝す。季武子之を卑しめんと欲す。諸侯の禮を以て之を待することを欲せず。 穆叔曰、不可。曹・滕・二邾、實不忘我好。敬以逆之、猶懼其貳。又卑一睦焉、一睦、謂小邾。 【読み】 穆叔曰く、不可なり。曹・滕・二邾は、實に我が好を忘れず。敬して以て之を逆うるも、猶其の貳あらんことを懼る。又一睦を卑しまば、一睦は、小邾を謂う。 逆羣好也。其如舊而加敬焉。志曰、能敬無災。又曰、敬逆來者、天所福也。季孫從之。 【読み】 羣好に逆うなり。其れ舊の如くにして敬を加えよ。志に曰く、能く敬すれば災い無し、と。又曰く、敬して來者を逆うるは、天の福する所なり、と。季孫之に從う。 八月、大雩、旱也。 【読み】 八月、大いに雩するは、旱すればなり。 齊侯田於莒。莒、齊東竟。○好、去聲。 【読み】 齊侯莒に田[かり]す。莒は、齊の東竟。○好は、去聲。 盧蒲嫳見、泣且請曰、余髮如此種種。余奚能爲。嫳、慶封之黨。襄二十八年、放之於竟。種種、短也。自言衰老、不能復爲害。○嫳、普結反。見、賢遍反。種、章勇反。 【読み】 盧蒲嫳[きょほべつ]見え、泣き且つ請いて曰く、余が髮此の如く種種たり。余奚ぞ能くせん、と。嫳は、慶封の黨。襄二十八年、之を竟に放つ。種種は、短きなり。自ら衰老して、復害を爲すこと能わずと言う。○嫳は、普結反。見は、賢遍反。種は、章勇反。 公曰、諾。吾告二子。二子、子雅・子尾。 【読み】 公曰く、諾。吾れ二子に告げん、と。二子は、子雅・子尾。 歸而告之。子尾欲復之。子雅不可、曰、彼其髮短、而心甚長。其或寢處我矣。言不可信。 【読み】 歸りて之を告ぐ。子尾之を復さんと欲す。子雅可[き]かずして、曰く、彼れ其の髮短くして、心甚だ長し。其れ或は我に寢處せん、と。言うこころは、信ず可からず。 九月、子雅放盧蒲嫳于北燕。恐其復作亂。 【読み】 九月、子雅盧蒲嫳を北燕に放つ。其の復亂を作さんことを恐る。 燕簡公多嬖寵。欲去諸大夫、而立其寵人。冬、燕大夫比以殺公之外嬖。比、相親比。○去、上聲。比、毗志反。 【読み】 燕の簡公嬖寵多し。諸大夫を去りて、其の寵人を立てんと欲す。冬、燕の大夫比して以て公の外嬖を殺す。比は、相親比するなり。○去は、上聲。比は、毗志反。 公懼、奔齊。 【読み】 公懼れ、齊に奔る。 書曰北燕伯款出奔齊、罪之也。款罪輕於衛衎、重於蔡朱。故舉中示例。○衎、苦旦反。 【読み】 書して北燕伯款出でて齊に奔ると曰うは、之を罪するなり。款の罪衛衎[かん]より輕くして、蔡朱より重し。故に中を舉げて例を示す。○衎は、苦旦反。 十月、鄭伯如楚。子產相。楚子享之、賦吉日。吉日、詩小雅。宣王田獵之詩。楚王欲與鄭伯共田。故賦之。 【読み】 十月、鄭伯楚に如く。子產相く。楚子之を享して、吉日を賦す。吉日は、詩の小雅。宣王田獵するの詩なり。楚王鄭伯と共に田せんと欲す。故に之を賦す。 旣享。子產乃具田備。王以田江南之夢。楚之雲夢、跨江南北。○夢、如字。又莫公反。 【読み】 旣に享す。子產乃ち田の備えを具う。王以て江南の夢に田す。楚の雲夢は、江の南北に跨る。○夢は、字の如し。又莫公反。 齊公孫竈卒。竈、子雅。 【読み】 齊の公孫竈[こうそんそう]卒す。竈は、子雅。 司馬竈見晏子、司馬竈、齊大夫。 【読み】 司馬竈晏子を見て、司馬竈は、齊の大夫。 曰、又喪子雅矣。晏子曰、惜也、子旗不免。殆哉。以其不臣。○喪、息浪反。 【読み】 曰く、又子雅を喪えり、と。晏子曰く、惜しいかな、子旗免れじ。殆きかな。其の不臣を以てなり。○喪は、息浪反。 姜族弱矣。而嬀將始昌。嬀、陳氏。○嬀、九危反。 【読み】 姜の族弱りたり。而して嬀[き]將に始めて昌えんとす。嬀は、陳氏。○嬀は、九危反。 二惠競爽、猶可。子雅・子尾、齊惠公之孫也。競、彊也。爽、明也。 【読み】 二惠競爽せば、猶可なり。子雅・子尾は、齊の惠公の孫なり。競は、彊きなり。爽は、明らかなり。 又弱一个焉。姜其危哉。○个、古賀反。 【読み】 又一个[いっか]を弱くす。姜其れ危うきかな、と。○个は、古賀反。 昭 經元年。不稱將。下匠反。下同。帥。所類反。言易。以豉反。大鹵。音魯。莒展出奔吳。一本作莒展輿。○今本亦同。疆鄆。居良反。注同。以瘧。音虐。書弑。申志反。或作殺。音同。 傳。且娶。七住反。爲介。音界。注同。從者。才用反。辱貺。音況。布几。木亦作机。筵。音延。莊共。音恭。草莽。莫蕩反。而懲。直升反。不憾。戶暗反。所雍。於勇反。本又作壅。注及下注同。○今本亦壅。垂櫜。古刀反。復得。扶又反。下雖復同。而駕。如字。又音加。注及下同。子相。息亮反。東夏。戶雅反。淳于。音純。不罷。音皮。謗讟。音獨。誹也。方畏反。行僭。子念反。下同。是穮。彼驕反。是蔉。古本反。耘也。音云。除草也。耕鉏。仕居反。鮮不。息淺反。特緝。七入反。誕也。音但。便簒。初患反。小旻。亡巾反。馮河。皮冰反。絞。古卯反。而婉。紆阮反。注同。臧否。悲矣反。舊方九反。持之。如字。本或作恃、誤。當身。丁浪反。瀆齊。徒木反。其使。所吏反。下注其使・出使・下召使者同。相趙。息亮反。注同。以藩。方元反。之隙。去逆反。之咎。其九反。注同。也賄。呼罪反。辟汚。音烏。注及下同。疆。居良反。注及下至莒之疆事同。場。音亦。注同。表旗。音其。饕。吐刀反。餮。吐結反。夏有。戶雅反。觀。舊音官。扈。音戶。鄠縣。音戶。邳。皮悲反。嬴姓。音盈。狎主。戶甲反。吳濮。音卜。有釁。許靳反。禦也。魚呂反。○今本無也字。宥善。音又。小宛。紆阮反。可復。扶又反。襃姒。音似。過鄭。古禾反。猶與賓客享之。許丈反。又普庚反。於幕。武博反。采蘩。音煩。死麏。九倫反。○今本麕。使尨。武江反。也吠。扶廢反。兕爵。徐履反。於戾。力計反。下同。於潁。營井反。於雒汭。如銳反。劉夏。戶雅反。弁端委。本亦作弁冕端委。○今本亦同。子蓋。戶臘反。何不也。亦遠績功。本或作亦遠績禹功。○今本亦同。大庇。必利反。又音祕。焉能。於虔反。下焉用・焉能同。吾儕。仕皆反。朝不。如字。下同。以語。魚據反。而耄。莫報反。不歆。許金反。曾夭。於兆反。幾被。音祈。曾阜。扶九反。欲贏。音盈。注同。惡讙。呼端反。或作喧。○今本亦喧。指楹。音盈。贄幣。音至。櫜甲。古刀反。本或作衷。丁隆反。及衝。尺容反。奸之。音干。女嬖。必計反。弗下。戶嫁反。無重。直用反。又直勇反。而蔡。素葛反。說文作■(上が殺、下が米)。音同。字從殺下米。云、■(左が米、右が悉)■(上が殺、下が米)散之也。會杜義。千乘。繩證反。下及注同。爲晉侯。于僞反。造舟。李巡注爾雅云、比其舩而度也。郭云、倂舟爲橋。自齎。子兮反。本又作賚、同。而還。音環。不徑。古定反。己坐。才臥反。女叔齊。音汝。其幾何。居豈反。下同。鮮不。息淺反。注同。五稔。而甚反。不啻。始豉反。視蔭。本亦作陰。朝夕。如字。注同。翫歲。五喚反。說文云、習厭也。又作忨。云、貪也。其與。如字。又音預。鄭爲。于僞反。閨門。音圭。實薰。許云反。隧。音遂。數子皙。色主反。又色具反。大原。音泰。崇卒。子忽反。下及注皆同。又阨。本又作隘。不便。婢面反。以什。音十。以徇。辭俊反。疆鄆。居良反。注同。務婁。竝如字。厖。武江反。也夫。音扶。爲崇。息遂反。帝嚳。苦毒反。相土。息亮反。大夏。戶雅反。注及下同。主參。所林反。注及下同。方震。本又作娠。之愼反。懷胎。他來反。有裔。以制反。曰昧。音妹。爲玄冥師。師、長也。少暭。詩照反。下戶老反。之長。丁丈反。下殖長同。纂昧。子管反。宣汾。扶云反。陂障。彼皮反。顓頊。音專。下許玉反。姒。音似。癘。音例。疫。音役。禜之。徐一音營。哀樂。音洛。朝以。如字。湫。徐一音在酒反。服云、著也。底。服云、止也。露羸。劣危反。下同。嬪御。婢人反。辨別。彼列反。去同。起呂反。幾何。居豈反。而好。呼報反。怙富。音戶。近女。附近之近。下同。如蠱。音古。不佑。音又。以降。音絳。下及注同。或音戶江反。堙。音因。爲菑。音災。下同。喘渴。昌兗反。洩注。息列反。下如字。思慮。息利反。主相。息亮反。其咎。其九反。能御。魚呂反。本亦作禦。○今本亦禦。淫溺。乃狄反。耆欲。時志反。○今本嗜。皿蟲。字林、音猛。巽下。音遜。艮上。古恨反。長女。丁丈反。下同。少男。詩照反。下同。而說。音悅。櫟。徐失灼反。郟。古洽反。爲介。音界。出竟。音境。殺之。申志反。○今本弑。絞也。古卯反。幕。音莫。平夏。戶雅反。宮廐。居久反。五乘。繩證反。下同。之餼。許氣反。一卒。子忽反。不侮。亡甫反。鰥寡。古頑反。史佚。音逸。自別。彼列反。薳啓彊。一音居良反。汰侈。音泰。旣烝。之承反。趙衰。初危反。 經二年。少姜。詩照反。傳放此。致襚。音遂。 傳。脩好。呼報反。所以王。周弘正依字讀。四臣。大顚・閎夭・散宜生・南宮适。四輔。謂先後・奔奏・疏附・禦侮。彌縫。扶恭反。補合。如字。一音閤。賦節。徐如字。式訛。五禾反。殖長。丁丈反。召南。上照反。下同。爲平公。于僞反。下文爲之請同。亢也。苦浪反。○今本無也字。淇。音其。爲好。呼報反。後文注皆同。介休。音界。下許虯反。○今本介作界。以近。附近之近。下同。驛。音亦。女矯。居表反。朝夕。如字。下同。以印。一刃反。之衢。其于反。非伉。苦浪反。儷。力計反。其使。所吏反。 經三年。 傳。閒朝。閒厠之閒。守適。本或作嫡。而令。力呈反。復薦。扶又反。下不出者皆同。朝夕。如字。不腆。他典反。焜。服云、明也。燿。羊照反。服云、照也。殞命。于敏反。○今本隕。之好。呼報反。大公。音泰。要也。一遙反。敢譽。音餘。嬪廧。本又作嬙。在良反。○今本亦嬙。在衰。七雷反。本亦作縗。今本亦縗。絰。直結反。其貺。音況。吾弗知。絕句。以五升爲豆四豆爲區四區爲釜。舊本如此。直加豆爲五升。而區釜自大。故杜云、區二斗、釜八斗、是也。本或作五豆爲區、五區爲釜者謂加舊豆爲五、亦與杜注相會。非於五升之豆又五五而加也。○今本亦五豆爲區、五區爲釜。量貸。他代反。蛤。古答反。賦斂。力驗反。公聚。徐在喩反。一音在主反。朽蠹。丁故反。三老。服云、工老・商老・農老也。凍。丁貢反。餒。奴罪反。上壽。音授。下同。以上。時掌反。○今本以作已。屨賤。九具反。刖者。音月。又五刮反。而或燠。徐音憂。又於到反。休之。賈云、燠、厚也。休、美也。將焉。於虔反。其相。息亮反。服如字。卒列。子忽反。注同。無長。丁丈反。注同。罷敝。音皮。滋侈。尺氏反。又昌氏反。道殣。說文云、道中死者人所覆也。毛詩、作墐。傳云、墐路冢也。欒郤。去逆反。皁。才早反。隸。力計反。不悛。七全反。以樂。一音岳。慆憂。吐刀反。讒鼎。仕咸反。服云、疾讒之鼎也。昧旦。音妹。丕顯。普悲反。怠解。佳賣反。○今本解怠。況日。人實反。此難。乃旦反。近市。附近之近。下同。隘。於賣反。嚻塵。許驕反。一音五高反。爽塏。苦待反。燥也。素早反。朝夕。如字。下雖朝夕同。令不與。力呈反。省於。所景反。下同。如祉。音恥。遄。市專反。故復。音服。下卒復・爲其復・欲復之同。諺曰。音彥。段相。息亮反。筴。初革反。○今本策。以胙。才路反。之汰。音泰。猶荷。任也。一音可。以別。絕句。又焉。於虔反。爲介。音界。猜焉。七才反。糞除。甫問反。東竟。音境。盧蒲嫳。一音匹舌反。子產相。息亮反。
春秋左氏傳校本第二十六 昭公 起二十七年盡三十二年 晉 杜氏 集解 唐 陸氏 音義 尾張 秦 鼎 校本 〔經〕二十有七年、春、公如齊。自鄆行。○鄆、音運。 【読み】 〔經〕二十有七年、春、公齊に如く。鄆[うん]より行く。○鄆は、音運。 公至自齊、居于鄆。夏、四月、吳弑其君僚。僚亟戰民罷、又伐楚喪。故光乘閒而動。稱國以弑、罪在僚。○罷、音皮。 【読み】 公齊より至り、鄆に居る。夏、四月、吳其の君僚を弑す。僚亟[しば]々戰いて民罷[つか]れ、又楚の喪を伐つ。故に光閒に乘じて動けり。國を稱して以て弑するは、罪僚に在るなり。○罷は、音皮。 楚殺其大夫郤宛。無極、楚之讒人。宛所明知、而信近之、以取敗亡。故書名罪宛。○郤、去逆反。宛、於阮反。又於元反。 【読み】 楚其の大夫郤宛を殺す。無極は、楚の讒人。宛が明らかに知る所にして、之を信近して、以て敗亡を取れり。故に名を書して宛を罪す。○郤は、去逆反。宛は、於阮反。又於元反。 秋、晉士鞅・宋樂祁犂・衛北宮喜・曹人・邾人・滕人會于扈。冬、十月、曹伯午卒。無傳。未同盟、而赴以名。 【読み】 秋、晉の士鞅・宋の樂祁犂[がくきれい]・衛の北宮喜・曹人・邾人[ちゅひと]・滕人扈[こ]に會す。冬、十月、曹伯午卒す。傳無し。未だ同盟せずして、赴[つ]ぐるに名を以てす。 邾快來奔。無傳。快、邾命卿也。故書。 【読み】 邾の快來奔す。傳無し。快は、邾の命卿なり。故に書す。 公如齊。自鄆行。 【読み】 公齊に如く。鄆より行く。 公至自齊、居于鄆。無傳。 【読み】 公齊より至り、鄆に居る。傳無し。 〔傳〕二十七年、春、公如齊、公至自齊、處于鄆、言在外也。在外邑。故書地。 【読み】 〔傳〕二十七年、春、公齊に如く、公齊より至り、鄆に處るとは、外に在るを言うなり。外邑に在り。故に地を書す。 吳子欲因楚喪、而伐之。前年、楚平王卒。 【読み】 吳子楚の喪に因りて、之を伐たんことを欲す。前年、楚の平王卒す。 使公子掩餘・公子燭庸帥師圍潛、二子、皆王僚母弟。潛、楚邑。在廬江六縣西南。 【読み】 公子掩餘・公子燭庸をして師を帥いて潛を圍ましめ、二子は、皆王僚の母弟。潛は、楚の邑。廬江六縣の西南に在り。 使延州來季子聘于上國、季子本封延陵。後復封州來。故曰延州來。 【読み】 延州來の季子をして上國に聘せしめ、季子本延陵に封ぜらる。後復州來に封ぜらる。故に延州來と曰う。 遂聘于晉、以觀諸侯。觀彊弱。 【読み】 遂に晉に聘して、以て諸侯を觀せしむ。彊弱を觀る。 楚莠尹然・工尹麇帥師救潛、二尹、楚官。然・麇、其名。○麇、九倫反。 【読み】 楚の莠尹然[ゆういんぜん]・工尹麇[こういんきん]は師を帥いて潛を救い、二尹は、楚の官。然・麇は、其の名。○麇は、九倫反。 左司馬沈尹戌帥都君子與王馬之屬以濟師、都君子、在都邑之士、有復除者。王馬之屬、王之養馬官屬。校人也。濟、益也。○復、音福。 【読み】 左司馬沈尹戌[しんいんじゅつ]は都君子と王馬の屬とを帥いて以て師を濟[ま]して、都君子は、都邑に在るの士、復除有る者なり。王馬の屬とは、王の馬を養う官屬。校人なり。濟は、益すなり。○復は、音福。 與吳師遇于窮、令尹子常以舟師及沙汭而還、沙、水名。 【読み】 吳の師と窮に遇い、令尹子常は舟師を以て沙汭に及びて還り、沙は、水の名。 左尹郤宛・工尹壽帥師至于潛。吳師不能退。楚師彊。故吳不得退却。 【読み】 左尹郤宛・工尹壽は師を帥いて潛に至る。吳の師退くこと能わず。楚の師彊し。故に吳退却することを得ず。 吳公子光曰、此時也。弗可失也。欲因其師徒在外、國不堪役、以弑王。 【読み】 吳の公子光曰く、此れ時なり。失う可からず、と。其の師徒の外に在りて、國役に堪えざるに因りて、以て王を弑せんと欲す。 告鱄設諸曰、上國有言、曰、不索何獲。我王嗣也。吾欲求之。光、吳王諸樊子也。故曰我王嗣。○鱄、音專。 【読み】 鱄設諸[せんせつしょ]に告げて曰く、上國に言有り、曰く、索[もと]めずんば何ぞ獲ん、と。我は王の嗣なり。吾れ之を求めんと欲す。光は、吳王諸樊の子なり。故に我は王の嗣なりと曰う。○鱄は、音專。 事若克、季子雖至、不吾廢也。至、言聘還。 【読み】 事若し克たば、季子至ると雖も、吾を廢せじ、と。至るとは、聘して還るを言う。 鱄設諸曰、王可弑也。母老子弱。是無若我何。猶言我無若是何。欲以老弱託光。 【読み】 鱄設諸曰く、王をば弑す可し。母老い子弱[わか]し。是れ我を若何ともすること無し、と。猶我れ是を若何ともすること無しと言うがごとし。老弱を以て光に託せんと欲す。 光曰、我爾身也。言我身猶爾身。 【読み】 光曰く、我は爾の身なり、と。言うこころは、我が身は猶爾の身のごとし。 夏、四月、光伏甲於堀室而享王。掘地爲室。○堀、苦忽反。 【読み】 夏、四月、光甲を堀室に伏せて王を享す。地を掘りて室を爲す。○堀は、苦忽反。 王使甲坐於道及其門。坐道邊至光門。 【読み】 王甲をして道に坐せしめて其の門に及ぶ。道邊に坐せしめて光の門に至る。 門階戶席、皆王親也。夾之以鈹、羞者獻體、改服於門外。羞、進食也。獻體、解衣。○鈹、普皮反。劒也。 【読み】 門階戶席、皆王の親なり。之を夾むに鈹[ひ]を以てし、羞者體を獻じて、服を門外に改む。羞は、食を進むるなり。體を獻ずとは、衣を解くなり。○鈹は、普皮反。劒なり。 執羞者坐行而入、坐行、膝行。 【読み】 羞を執る者坐行して入れば、坐行は、膝行。 執鈹者夾承之、承執羞者。 【読み】 鈹を執る者夾みて之を承け、羞を執る者を承く。 及體以相授也。鈹及進羞者體、以所食授王。 【読み】 體に及びて以て相授く。鈹進羞する者の體に及び、食する所を以て王に授く。 光僞足疾、入于堀室。恐難作王黨殺己、素辟之。 【読み】 光足疾ありと僞りて、堀室に入る。難作りて王の黨己を殺さんことを恐れ、素[あらかじ]め之を辟く。 鱄設諸寘劒於魚中以進、全魚炙。 【読み】 鱄設諸劒を魚中に寘きて以て進め、全魚の炙り。 抽劒刺王。鈹交於胷、交鱄諸胷。 【読み】 劒を抽きて王を刺す。鈹胷に交われども、鱄諸が胷に交わる。 遂弑王。闔廬以其子爲卿。闔廬、光也。以鱄諸子爲卿。 【読み】 遂に王を弑しぬ。闔廬[こうりょ]其の子を以て卿と爲す。闔廬は、光なり。鱄諸が子を以て卿と爲す。 季子至。曰、苟先君無廢祀、民人無廢主、社稷有奉、國家無傾、乃吾君也。吾誰敢怨。哀死事生、以待天命。非我生亂。立者從之。先人之道也。吳自諸樊以下、兄弟相傳而不立適。是亂由先人起也。季子自知力不能討光。故云爾。 【読み】 季子至る。曰く、苟も先君祀を廢すること無く、民人主を廢すること無く、社稷奉ずること有り、國家傾くこと無くば、乃ち吾が君なり。吾れ誰をか敢えて怨みん。死を哀しみ生に事えて、以て天命を待たん。我れ亂を生ずるに非ず。立つ者に之に從わん。先人の道なり、と。吳諸樊より以下、兄弟相傳えて適を立てず。是れ亂先人より起これるなり。季子自ら力の光を討ずること能わざるを知る。故に爾か云う。 復命哭墓、復使命於僚墓。 【読み】 復命して墓に哭し、使命を僚が墓に復す。 復位而待。復本位、待光命。 【読み】 位に復りて待ちぬ。本位に復りて、光が命を待つ。 吳公子掩餘奔徐、公子燭庸奔鍾吾。鍾吾、小國。 【読み】 吳の公子掩餘徐に奔り、公子燭庸鍾吾に奔る。鍾吾は、小國。 楚師聞吳亂而還。言聞吳亂、明郤宛不取賂而還。 【読み】 楚の師吳の亂を聞きて還る。吳の亂を聞くと言うは、郤宛が賂を取らずして還ることを明らかにするなり。 郤宛直而和。國人說之。以直事君、以和接類。 【読み】 郤宛直にして和なり。國人之を說ぶ。直を以て君に事え、和を以て類に接す。 鄢將師爲右領、右領、官名。○鄢、於晩樊。又烏戶反。 【読み】 鄢將師右領と爲り、右領は、官の名。○鄢は、於晩反。又烏戶反。 與費無極比而惡之。惡郤宛。○費、扶味反。比、毗志反。惡、烏路反。 【読み】 費無極と比して之を惡む。郤宛を惡む。○費は、扶味反。比は、毗志反。惡は、烏路反。 令尹子常賄而信讒。無極譖郤宛焉、謂子常曰、子惡欲飮子酒。子惡、郤宛。○飮、於鴆反。 【読み】 令尹子常賄にして讒を信ず。無極郤宛を譖せんとして、子常に謂いて曰く、子惡子に酒を飮ませんと欲す、と。子惡は、郤宛。○飮は、於鴆反。 又謂子惡、令尹欲飮酒於子氏。子惡曰、我賤人也。不足以辱令尹。令尹將必來辱、爲惠已甚。吾無以酬之。若何。酬、報獻。 【読み】 又子惡に謂えらく、令尹酒を子氏に飮まんと欲す、と。子惡曰く、我は賤人なり。以て令尹を辱くするに足らず。令尹將[も]し必ず來辱せば、惠み爲ること已甚だし。吾れ以て之に酬ゆること無し。若何にせん、と。酬は、報獻。 無極曰、令尹好甲兵。子出之。吾擇焉。擇取以進子常。 【読み】 無極曰く、令尹甲兵を好む。子之を出だせ。吾れ擇ばん、と。擇び取りて以て子常に進めん。 取五甲五兵、曰、寘諸門。令尹至、必觀之。而從以酬之。曰、無極辭。 【読み】 五甲五兵を取りて、曰く、諸を門に寘け。令尹至らば、必ず之を觀ん。而[なんじ]從いて以て之に酬えという。曰くは、無極が辭。 及饗日、帷諸門左。張帷陳甲兵其中。 【読み】 饗日に及びて、諸を門左に帷せしむ。帷を張りて甲兵を其の中に陳ぬ。 無極謂令尹曰、吾幾禍子。子惡將爲子不利。甲在門矣。子必無往。且此役也、此春、救潛之役。○幾、音祁。 【読み】 無極令尹に謂いて曰く、吾れ幾ど子に禍せんとせり。子惡將に子が不利を爲さんとす。甲門に在り。子必ず往くこと無かれ。且つ此の役や、此の春、潛を救うの役。○幾は、音祁。 吳可以得志、子惡取賂焉而還、又誤羣帥使退其師、曰、乘亂不祥。吳乘我喪。我乘其亂、不亦可乎。令尹使視郤氏、則有甲焉。不往。召鄢將師而告之。告子惡門有甲兵、將害己。 【読み】 吳に以て志を得可きに、子惡賂を取りて還り、又羣帥を誤らせて其の師を退かしめて、曰く、亂に乘ずるは不祥なり、と。吳我が喪に乘ぜり。我れ其の亂に乘ずるも、亦可ならずやという。令尹郤氏を視せしむれば、則ち甲有り。往かず。鄢將師を召して之に告ぐ。子惡が門に甲兵有り、將に己を害せんとするを告ぐ。 將師退、遂令攻郤氏、且爇之。爇、燒也。○爇、如悅反。 【読み】 將師退き、遂に郤氏を攻めしめ、且に之を爇[や]かんとす。爇[ぜつ]は、燒くなり。○爇は、如悅反。 子惡聞之、遂自殺也。國人弗爇。令曰、不爇郤氏、與之同罪。或取一編菅焉、或取一秉秆焉、編菅、苫也。秉、把也。秆、稾也。○菅、古顏反。秆、古但反。禾莖也。 【読み】 子惡之を聞きて、遂に自殺す。國人爇かず。令して曰く、郤氏を爇かずんば、之と罪を同じくせん、と。或は一編菅を取り、或は一秉秆[へいかん]を取るも、編菅は、苫なり。秉は、把なり。秆は、稾なり。○菅は、古顏反。秆は、古但反。禾莖なり。 國人投之、遂弗爇也。令尹炮之、炮燔郤宛。 【読み】 國人之を投げて、遂に爇かざるなり。令尹之を炮[や]かしむといいて、郤宛を炮燔す。 盡滅郤氏之族黨、殺陽令終與其弟完及佗、令終、陽匃子。 【読み】 盡く郤氏の族黨を滅ぼし、陽令終と其の弟完及び佗と、令終は、陽匃[ようかい]の子。 與晉陳及其子弟。晉陳、楚大夫。皆郤氏之黨。 【読み】 晉陳及び其の子弟とを殺す。晉陳は、楚の大夫。皆郤氏の黨。 晉陳之族呼於國曰、鄢氏・費氏自以爲王、專禍楚國、弱寡王室、蒙王與令尹以自利也。蒙、欺也。○呼、火故反。 【読み】 晉陳の族國に呼ばいて曰く、鄢氏・費氏自ら以て王と爲り、專ら楚國に禍し、王室を弱寡なりとし、王と令尹とを蒙[あざむ]きて以て自ら利す。蒙は、欺くなり。○呼は、火故反。 令尹盡信之矣。國將如何。令尹病之。爲下殺無極張本。 【読み】 令尹盡く之を信ぜり。國將に如何にせんとする、と。令尹之を病む。下の無極を殺す爲の張本なり。 秋、會于扈、令戍周、且謀納公也。 【読み】 秋、扈に會するは、周を戍らしめ、且つ公を納れんことを謀るなり。 宋・衛皆利納公、固請之。范獻子取貨於季孫、謂司城子梁與北宮貞子、子梁、宋樂祁也。貞子、衛北宮喜。 【読み】 宋・衛皆公を納るることを利とし、固く之を請う。范獻子貨を季孫に取り、司城子梁と北宮貞子とに謂いて、子梁は、宋の樂祁なり。貞子は、衛の北宮喜なり。 曰、季孫未知其罪、而君伐之、請囚請亡、於是乎不獲。君又弗克、而自出也。夫豈無備而能出君乎。季氏之復、天救之也。復、猶安也。 【読み】 曰く、季孫未だ其の罪を知らずして、君之を伐ち、囚われんと請い亡げんと請えども、是に於て獲ず。君又克たずして、自ら出でたり。夫れ豈備え無くして能く君を出ださんや。季氏の復りしは、天の之を救えるなり。復は、猶安んずるのごとし。 休公徒之怒、休、息也。 【読み】 公徒の怒りを休めて、休は、息むなり。 而啓叔孫氏之心。不然、豈其伐人而說甲執冰以游。叔孫氏懼禍之濫、而自同於季氏、天之道也。 【読み】 叔孫氏の心を啓[ひら]きたり。然らずんば、豈其れ人を伐ちて甲を說[ぬ]ぎ冰を執りて以て游ばんや。叔孫氏禍の濫せんことを懼れて、自ら季氏に同じくせしは、天の道[みちび]けるなり。 魯君守齊、三年而無成、季氏甚得其民、淮夷與之。淮夷、魯東夷。○說、他活反。 【読み】 魯君は齊を守ること、三年にして成ること無く、季氏は甚だ其の民を得て、淮夷之に與せり。淮夷は、魯の東夷。○說は、他活反。 有十年之備、有齊・楚之援、公雖在齊、言齊不致力。 【読み】 十年の備え有り、齊・楚の援け有り、公齊に在りと雖も、齊の力を致さざるを言う。 有天之贊、有民之助、有堅守之心、有列國之權。而弗敢宣也、宣、用也。 【読み】 天の贊け有り、民の助け有り、堅守の心有り、列國の權有り。而れども敢えて宣[もち]いずして、宣は、用ゆるなり。 事君如在國。書公行、告公至。是也。 【読み】 君に事うること國に在すが如くす。公の行るを書し、公の至るを告ぐ。是れなり。 故鞅以爲難。 【読み】 故に鞅は難しと以爲えり。 二子皆圖國者也。而欲納魯君。鞅之願也。請從二子以圍魯。無成、死之。 【読み】 二子は皆國を圖る者なり。而して魯君を納れんことを欲す。鞅の願いなり。請う、二子に從いて以て魯を圍まん。成ること無くば、之に死なん、と。 二子懼、皆辭。乃辭小國、而以難復。以難納白晉君。 【読み】 二子懼れ、皆辭す。乃ち小國に辭して、難きを以て復[もう]す。納れ難きを以て晉君に白[もう]す。 孟懿子・陽虎伐鄆。陽虎、季氏家臣。伐鄆、欲奪公。 【読み】 孟懿子・陽虎鄆を伐つ。陽虎は、季氏の家臣。鄆を伐つは、公を奪わんと欲してなり。 鄆人將戰。子家子曰、天命不慆久矣。慆、疑也。言棄君不疑。○慆、他刀反。 【読み】 鄆人將に戰わんとす。子家子曰く、天命慆[うたが]わざること久し。慆[とう]は、疑うなり。言うこころは、君を棄てて疑わず。○慆は、他刀反。 使君亡者、必此衆也。言君據鄆衆以與魯戰、必敗亡。 【読み】 君をして亡せしむる者は、必ず此の衆ならん。言うこころは、君鄆の衆に據りて以て魯と戰わば、必ず敗亡せん。 天旣禍之。而自福也。不亦難乎。猶有鬼神、此必敗也。嗚呼、爲無望也夫。其死於此乎。 【読み】 天旣に之に禍せり。而るを自ら福せんとす。亦難からずや。猶鬼神有るも、此れ必ず敗れん。嗚呼、望み無しとするかな。其れ此に死なんか、と。 公使子家子如晉。公徒敗于且知。且知、近鄆地也。○夫、音扶。且、子餘反。 【読み】 公子家子をして晉に如かしむ。公の徒且知に敗れぬ。且知は、鄆に近き地なり。○夫は、音扶。且は、子餘反。 楚郤宛之難、國言未已。進胙者莫不謗令尹。進胙、國中祭祀也。謗、詛也。 【読み】 楚の郤宛の難に、國言未だ已まず。胙を進むる者令尹を謗[のろ]わざること莫し。胙を進むるは、國中の祭祀なり。謗は、詛うなり。 沈尹戌言於子常曰、夫左尹與中廐尹、莫知其罪。而子殺之、以興謗讟、至于今不已。左尹、郤宛也。中廐尹、陽令終。 【読み】 沈尹戌子常に言いて曰く、夫の左尹と中廐尹とは、其の罪を知ること莫し。而るを子之を殺して、以て謗讟[ぼうとく]を興して、今に至るまで已まず。左尹は、郤宛なり。中廐尹は、陽令終。 戌也惑之。仁者殺人以掩謗、猶弗爲也。今吾子殺人以興謗、而弗圖。不亦異乎。 【読み】 戌や之に惑いぬ。仁者は人を殺して以て謗りを掩うも、猶爲さざるなり。今吾子は人を殺して以て謗りを興して、圖らず。亦異ならずや。 夫無極、楚之讒人也。民莫不知。去朝吳、在十五年。○去、起呂反。朝、如字。 【読み】 夫れ無極は、楚の讒人なり。民知らざること莫し。朝吳を去り、十五年に在り。○去は、起呂反。朝は、字の如し。 出蔡侯朱、在二十一年。 【読み】 蔡侯朱を出だし、二十一年に在り。 喪大子建、殺連尹奢、在二十年。○喪、息浪反。 【読み】 大子建を喪い、連尹奢を殺し、二十年に在り。○喪は、息浪反。 屛王之耳目、使不聰明。不然、平王之溫惠共儉、有過成・莊、無不及焉。所以不獲諸侯、邇無極也。邇、近也。 【読み】 王の耳目を屛[おお]いて、聰明ならざらしめり。然らずんば、平王の溫惠共儉なる、成・莊に過ぐること有るも、及ばざること無し。諸侯を獲ざりし所以は、無極を邇づくればなり。邇は、近づくなり。 今又殺三不辜、以興大謗。三不辜、郤氏・陽氏・晉陳氏。 【読み】 今又三不辜を殺して、以て大謗を興せり。三不辜は、郤氏・陽氏・晉陳氏。 幾及子矣。子而不圖、將焉用之。 【読み】 幾ど子に及ばん。子にして圖らずんば、將に焉[いずく]にか之を用いんとする。 夫鄢將師矯子之命、以滅三族。國之良也、而不愆位。在位無愆過。○幾、音祁。又音機。 【読み】 夫れ鄢將師子の命を矯[あ]げて、以て三族を滅ぼせり。國の良にして、位に愆[あやま]らざりき。位に在りて愆過無し。○幾は、音祁。又音機。 吳新有君、光新立也。 【読み】 吳新たに君有りて、光新たに立つなり。 疆埸日駭。楚國若有大事、子其危哉。知者除讒以自安也。今子愛讒以自危也。甚矣其惑也。 【読み】 疆埸[きょうえき]日々に駭[おどろ]く。楚國若し大事有らば、子其れ危ういかな。知者は讒を除きて以て自ら安んず。今子は讒を愛して以て自ら危うくす。甚だしいかな其の惑えるや、と。 子常曰、是瓦之罪。敢不良圖。九月、己未、子常殺費無極與鄢將師、盡滅其族、以說于國。謗言乃止。 【読み】 子常曰く、是れ瓦が罪なり。敢えて良圖せざらんや、と。九月、己未[つちのと・ひつじ]、子常費無極と鄢將師とを殺し、盡く其の族を滅ぼして、以て國に說く。謗言乃ち止む。 冬、公如齊。齊侯請饗之。設饗禮。○知、音智。 【読み】 冬、公齊に如く。齊侯之を饗せんと請う。饗禮を設く。○知は、音智。 子家子曰、朝夕立於其朝、又何饗焉。其飮酒也。乃飮酒、使宰獻而請安。比公於大夫也。禮、君不敵臣、宴大夫、使宰爲主。獻、獻爵也。請安、齊侯請自安、不在坐也。 【読み】 子家子曰く、朝夕其の朝に立つに、又何ぞ饗せん。其れ酒を飮まんのみ、と。乃ち酒を飮み、宰をして獻ぜしめて安を請えり。公を大夫に比するなり。禮に、君は臣に敵せず、大夫を宴すれば、宰をして主爲らしむ、と。獻は、爵を獻ずるなり。安を請うとは、齊侯自ら安を請いて、坐に在らざるなり。 子仲之子曰重。爲齊侯夫人。曰、請使重見。子仲、魯公子憖也。十二年、謀逐季氏、不能而奔齊。今行飮酒禮、而欲使重見、從宴媟也。○重、直勇反。又直恭反。見、賢遍反。憖、魚覲反。媟、息列反。 【読み】 子仲の子[むすめ]を重と曰う。齊侯の夫人爲り。曰く、請う、重をして見えしめん、と。子仲は、魯の公子憖[ぎん]なり。十二年、季氏を逐わんことを謀り、能わずして齊に奔る。今飮酒の禮を行いて、重をして見えしめんと欲するは、宴媟[えんせつ]に從わすなり。○重は、直勇反。又直恭反。見は、賢遍反。憖は、魚覲反。媟は、息列反。 子家子乃以君出。辟齊夫人。 【読み】 子家子乃ち君を以[い]て出づ。齊の夫人を辟く。 十二月、晉籍秦致諸侯之戍于周。魯人辭以難。經所以不書戍周。籍秦、籍談子。 【読み】 十二月、晉の籍秦諸侯の戍を周に致す。魯人は辭するに難を以てす。經に周を戍ることを書さざる所以なり。籍秦は、籍談の子。 〔經〕二十有八年、春、王三月、葬曹悼公。無傳。六月而葬。緩。 【読み】 〔經〕二十有八年、春、王の三月、曹の悼公を葬る。傳無し。六月にして葬る。緩[おそ]きなり。 公如晉、次于乾侯。乾侯、在魏郡斥丘縣。晉竟内邑。 【読み】 公晉に如き、乾侯に次[やど]る。乾侯は、魏郡斥丘縣に在り。晉の竟内の邑。 夏、四月、丙戌、鄭伯寧卒。無傳。未同盟、而赴以名。 【読み】 夏、四月、丙戌[ひのえ・いぬ]、鄭伯寧卒す。傳無し。未だ同盟せずして、赴[つ]ぐるに名を以てす。 六月、葬鄭定公。無傳。三月而葬。速。 【読み】 六月、鄭の定公を葬る。傳無し。三月にして葬る。速きなり。 秋、七月、癸巳、滕子寧卒。無傳。未同盟、而赴以名。 【読み】 秋、七月、癸巳[みずのと・み]、滕子寧卒す。傳無し。未だ同盟せずして、赴ぐるに名を以てす。 冬、葬滕悼公。無傳。 【読み】 冬、滕の悼公を葬る。傳無し。 〔傳〕二十八年、春、公如晉。將如乾侯。齊侯卑公。故適晉。 【読み】 〔傳〕二十八年、春、公晉に如く。將に乾侯に如かんとす。齊侯公を卑しむ。故に晉に適く。 子家子曰、有求於人、而卽其安、人孰矜之。其造於竟。欲使次於竟以待命。○造、七報反。 【読み】 子家子曰く、人に求むること有りて、其の安きに卽かば、人孰か之を矜[あわ]れまん。其れ竟に造[いた]れ、と。竟に次りて以て命を待たしめんと欲す。○造は、七報反。 弗聽。使請逆於晉。晉人曰、天禍魯國、君淹恤在外。君亦不使一个辱在寡人、一个、單使。○个、音箇。 【読み】 聽かず。逆[むか]えんことを晉に請わしむ。晉人曰く、天魯國に禍し、君淹恤して外に在り。君も亦一个[いっか]をして寡人に辱在せしめずして、一个は、單使。○个は、音箇。 而卽安於甥舅。其亦使逆君。言自使齊逆君。 【読み】 安きに甥舅に卽けり。其れ亦君を逆えしめよ、と。言うこころは、自ら齊をして君を逆えしめよ。 使公復于竟而後逆之。逆著乾侯也。言公不能用子家、所以見辱。○著、中略反。 【読み】 公をして竟に復らしめて而して後に之を逆えり。逆えて乾侯に著くるなり。公子家を用ゆること能わずして、辱めらるる所以を言う。○著は、中略反。 晉祁勝與鄔臧通室。二子、祁盈家臣也。通室、易妻。○鄔、舊音烏戶反、誤。當作於庶反。 【読み】 晉の祁勝鄔臧[よぞう]と室を通ず。二子は、祁盈の家臣なり。室を通ずるは、妻を易うるなり。○鄔は、舊音烏戶反は、誤りなり。當に於庶反に作るべし。 祁盈將執之。盈、祁午之子。 【読み】 祁盈將に之を執えんとす。盈は、祁午の子。 訪於司馬叔游。叔游、司馬叔侯之子。 【読み】 司馬叔游に訪う。叔游は、司馬叔侯の子。 叔游曰、鄭書有之、惡直醜正、實蕃有徒。鄭書、古書名也。言害正直者、實多徒衆。○惡、如字。又去聲。 【読み】 叔游曰く、鄭書に之れ有り、直を惡とし正を醜とするは、實に蕃[おお]く徒有りといえり。鄭書は、古書の名なり。言うこころは、正直を害する者、實に徒衆多し。○惡は、字の如し。又去聲。 無道立矣。子懼不免。言世亂讒勝。 【読み】 無道立てり。子懼らくは免れざらん。言うこころは、世亂れて讒勝つ。 詩曰、民之多辟、無自立辟。詩、大雅。○多辟、匹亦反。立辟、婢亦反。 【読み】 詩に曰く、民の辟[よこしま]多き、自ら立てて辟[のり]とすること無かれ、と。詩は、大雅。○多辟は、匹亦反。立辟は、婢亦反。 *「無自立辟」は、漢籍國字解全書では「自ら辟を立つること無かれ」である。 姑已。若何。姑、且也。已、止也。 【読み】 姑く已めよ。若何、と。姑は、且くなり。已は、止むなり。 盈曰、祁氏私有討。國何有焉。言討家臣、無與國事。 【読み】 盈曰く、祁氏私に討ずること有り。國に何か有らん、と。言うこころは、家臣を討ずるは、國事に與ること無し。 遂執之。祁勝賂荀躒。荀躒爲之言於晉侯。晉侯執祁盈。以其專戮。 【読み】 遂に之を執う。祁勝荀躒に賂う。荀躒之が爲に晉侯に言う。晉侯祁盈を執う。其の戮を專らにするを以てなり。 祁盈之臣曰、鈞將皆死。鈞、同也。 【読み】 祁盈の臣曰く、鈞しく將に皆死せんとす。鈞は、同じなり。 憖使吾君聞勝與臧之死也以爲快。憖、發語之音。○憖、魚覲反。 【読み】 憖[ああ]吾れ君をして勝と臧との死するを聞きて以て快を爲さしめん、と。憖は、發語の音。○憖は、魚覲反。 乃殺之。夏、六月、晉殺祁盈及楊食我。楊、叔向邑。食我、叔向子、伯石也。○食、音嗣。 【読み】 乃ち之を殺す。夏、六月、晉祁盈と楊食我とを殺す。楊は、叔向の邑。食我は、叔向の子、伯石なり。○食は、音嗣。 食我、祁盈之黨也、而助亂。故殺之。遂滅祁氏・羊舌氏。 【読み】 食我は、祁盈の黨にして、亂を助く。故に之を殺せり。遂に祁氏・羊舌氏を滅ぼす。 初、叔向欲娶於申公巫臣氏。夏姬女也。 【読み】 初め、叔向[しゅくきょう]申公巫臣氏に娶らんと欲す。夏姬の女なり。 其母欲娶其黨。叔向曰、吾母多而庶鮮。吾懲舅氏矣。言父多妾媵、而庶子鮮少。嫌母氏性不曠。 【読み】 其の母は其の黨に娶らんと欲す。叔向曰く、吾が母多くして庶鮮し。吾れ舅氏に懲りたり、と。言うこころは、父妾媵多くして、庶子鮮少なり。母氏の性曠からざるを嫌う。 其母曰、子靈之妻、殺三夫・ 子靈、巫臣。妻、夏姬也。三夫、陳御叔・楚襄老、及巫臣也。時巫臣已死。 【読み】 其の母曰く、子靈の妻は、三夫・ 子靈は、巫臣。妻は、夏姬なり。三夫は、陳の御叔・楚の襄老、及び巫臣なり。時に巫臣已に死す。 一君・ 陳靈公。 【読み】 一君・ 陳の靈公。 一子、夏徵舒。 【読み】 一子を殺して、夏徵舒。 而亡一國・ 陳也。 【読み】 一國・ 陳なり。 兩卿矣。孔寧・儀行父。 【読み】 兩卿を亡ぼせり。孔寧・儀行父。 可無懲乎。吾聞之、甚美必有甚惡。是鄭穆少妃姚子之子、子貉之妹也。子貉、鄭靈公夷。○貉、亡白反。 【読み】 懲ること無かる可けんや。吾れ之を聞く、甚だ美なるは必ず甚だ惡しきこと有り、と。是れ鄭穆の少妃姚子[ようし]の子にして、子貉[しばく]の妹なり。子貉は、鄭の靈公夷。○貉は、亡白反。 子貉早死無後、而天鍾美於是。是、夏姬也。鍾、聚也。子貉死、在宣四年。 【読み】 子貉早く死して後無くして、天美を是に鍾[あつ]めり。是とは、夏姬なり。鍾は、聚むるなり。子貉の死は、宣四年に在り。 將必以是大有敗也。 【読み】 將に必ず是を以て大いに敗るること有らんとす。 昔有仍氏生女。黰黑、有仍、古諸侯也。美髮爲黰。○黰、之忍反。 【読み】 昔有仍氏[ゆうじょうし]女を生む。黰黑[しんこく]にして、有仍は、古の諸侯なり。美髮を黰と爲す。○黰は、之忍反。 而甚美。光可以鑑。髮膚光色、可以照人。 【読み】 甚だ美なり。光以て鑑とす可し。髮膚の光色、以て人を照らす可し。 名曰玄妻。以髮黑故。 【読み】 名づけて玄妻と曰う。髮の黑きを以ての故なり。 樂正后夔取之、夔、舜典樂之君長。○取、如字。又七住反。 【読み】 樂正后夔[こうき]之を取[めと]り、夔は、舜の典樂の君長。○取は、字の如し。又七住反。 生伯封。實有豕心、貪惏無饜、忿纇無期、謂之封豕、纇、戾也。封、大也。○惏、力耽反。饜、於鹽反。纇、立對反。 【読み】 伯封を生む。實に豕心有り、貪惏[たんらん]にして饜くこと無く、忿纇[ふんらい]にして期無かりしかば、之を封豕と謂い、纇は、戾[もと]るなり。封は、大なり。○惏は、力耽反。饜は、於鹽反。纇は、立對反。 有窮后羿滅之。夔是以不祀。羿、簒夏后者。○羿、音詣。 【読み】 有窮の后羿之を滅ぼせり。夔是を以て祀られず。羿は、夏后を簒[うばいと]る者。○羿は、音詣。 且三代之亡、共子之廢、皆是物也。夏以妹喜、殷以妲己、周以襃姒。三代所由亡也。共子、晉申生。以驪姬廢。○共、音恭。喜、音嬉。 【読み】 且つ三代の亡ぶる、共子の廢せる、皆是の物なり。夏は妹喜を以てし、殷は妲己を以てし、周は襃姒を以てす。三代由りて亡びし所なり。共子は、晉の申生。驪姬を以て廢せらる。○共は、音恭。喜は、音嬉。 女何以爲哉。夫有尤物足以移人、苟非德義、則必有禍。尤、異也。○女、音汝。 【読み】 女何を以てせんや。夫れ尤物[ゆうぶつ]の以て人を移すに足ること有るは、苟に德義に非ざれば、則ち必ず禍有り、と。尤は、異なり。○女は、音汝。 叔向懼、不敢取。平公强使取之。生伯石。伯石始生、子容之母走謁諸姑、子容母、叔向嫂、伯華妻也。姑、叔向母。○取、七住反。又如字。强、其丈反。 【読み】 叔向懼れ、敢えて取らず。平公强いて之を取らしむ。伯石を生む。伯石始めて生まるるとき、子容の母走りて諸を姑に謁[つ]げて、子容の母は、叔向の嫂、伯華の妻なり。姑は、叔向の母。○取は、七住反。又字の如し。强は、其丈反。 曰、長叔姒生男。兄弟之妻相謂姒。○長、丁丈反。 【読み】 曰く、長叔姒男を生めり、と。兄弟の妻は姒と相謂う。○長は、丁丈反。 姑視之、及堂、聞其聲而還。曰、是豺狼之聲也。狼子野心。非是、莫喪羊舌氏矣。遂弗視。 【読み】 姑之を視んとして、堂に及び、其の聲を聞きて還る。曰く、是れ豺狼の聲なり。狼子は野心なり。是に非ざれば、羊舌氏を喪ぼすこと莫し、と。遂に視ざりき。 秋、晉韓宣子卒。魏獻子爲政、獻子、魏舒。 【読み】 秋、晉の韓宣子卒す。魏獻子政を爲し、獻子は、魏舒。 分祁氏之田以爲七縣、七縣、鄔・祁・平陵・梗陽・塗水・馬首・盂也。 【読み】 祁氏の田を分かちて以て七縣と爲し、七縣は、鄔・祁・平陵・梗陽・塗水・馬首・盂[う]なり。 分羊舌氏之田以爲三縣。銅鞮・平陽・楊氏。○鞮、丁兮反。 【読み】 羊舌氏の田を分かちて以て三縣と爲す。銅鞮・平陽・楊氏。○鞮は、丁兮反。 司馬彌牟爲鄔大夫、大原鄔縣。 【読み】 司馬彌牟を鄔の大夫と爲し、大原の鄔縣。 賈辛爲祁大夫、大原祁縣。 【読み】 賈辛を祁の大夫と爲し、大原の祁縣。 司馬烏爲平陵大夫、魏戊爲梗陽大夫、戊、魏舒庶子。梗陽、在大原晉陽縣南。 【読み】 司馬烏を平陵の大夫と爲し、魏戊[ぎぼう]を梗陽の大夫と爲し、戊は、魏舒の庶子。梗陽は、大原晉陽縣の南に在り。 知徐吾爲塗水大夫、徐吾、知盈孫。塗水、大原楡次縣。 【読み】 知徐吾を塗水の大夫と爲し、徐吾は、知盈の孫。塗水は、大原の楡次縣。 韓固爲馬首大夫、固、韓起孫。 【読み】 韓固を馬首の大夫と爲し、固は、韓起の孫。 孟丙爲盂大夫、大原盂縣。 【読み】 孟丙を盂の大夫と爲し、大原の盂縣。 *頭注に、「孟丙、舊作盂丙、非。漢書地理志云、盂、晉大夫孟丙邑。」とある。 樂霄爲銅鞮大夫、上黨銅鞮縣。 【読み】 樂霄[がくしょう]を銅鞮の大夫と爲し、上黨の銅鞮縣。 趙朝爲平陽大夫、朝、趙勝曾孫。平陽平陽縣。○朝、如字。 【読み】 趙朝を平陽の大夫と爲し、朝は、趙勝の曾孫。平陽の平陽縣。○朝は、字の如し。 僚安爲楊氏大夫。平陽楊氏縣。 【読み】 僚安を楊氏の大夫と爲す。平陽の楊氏縣。 謂賈辛・司馬烏、爲有力於王室。二十二年、辛・烏帥師納敬王。 【読み】 賈辛・司馬烏を謂えらく、王室に力め有りと爲す。二十二年、辛・烏師を帥いて敬王を納る。 故舉之。謂知徐吾・趙朝・韓固・魏戊、餘子之不失職、能守業者也。卿之庶子爲餘子。 【読み】 故に之を舉ぐ、と。知徐吾・趙朝・韓固・魏戊を謂えらく、餘子の職を失わずして、能く業を守れる者なり、と。卿の庶子を餘子と爲す。 其四人者、皆受縣而後見於魏子。以賢舉也。四人、司馬彌牟・孟丙・樂霄・僚安也。受縣而後見、言采衆而舉、不以私也。○見、賢遍反。 【読み】 其の四人の者も、皆縣を受けて而して後に魏子に見えぬ。賢を以て舉げたるなり。四人は、司馬彌牟・孟丙・樂霄・僚安なり。縣を受けて而して後に見ゆるは、衆に采りて舉げて、私を以てせざるを言うなり。○見は、賢遍反。 魏子謂成鱄、鱄、晉大夫。○鱄、音鄟。又市轉反。又音附。 【読み】 魏子成鱄[せいせん]に謂えらく、鱄は、晉の大夫。○鱄は、音鄟。又市轉反。又音附。 吾與戊也縣。人其以我爲黨乎。對曰、何也。戊之爲人也、遠不忘君、遠、疎遠也。 【読み】 吾れ戊に縣を與う。人其れ我を以て黨せりと爲さんか、と。對えて曰く、何ぞや。戊が人と爲りや、遠きも君を忘れず、遠は、疎遠なり。 近不偪同、不偪同位。 【読み】 近きも同に偪らず、同位に偪らず。 居利思義、不苟得。 【読み】 利に居りて義を思い、苟も得ず。 在約思純。無濫心。 【読み】 約に在りて純を思う。濫心無し。 有守心而無淫行。雖與之縣、不亦可乎。昔武王克商、光有天下、光、大也。○行、下孟反。 【読み】 守心有りて淫行無し。之に縣を與うと雖も、亦可ならずや。昔武王商に克ち、天下を光有して、光は、大なり。○行は、下孟反。 其兄弟之國者十有五人、姬姓之國者四十人、皆舉親也。夫舉無他。唯善所在、親疏一也。詩曰、唯此文王、帝度其心。莫其德音、其德克明。克明克類。克長克君。王此大國、克順克比、比于文王、其德靡悔。旣受帝祉、施于孫子。詩、大雅。美文王能王大國、受天福、施及子孫。○度、待洛反。莫、亡白反。又如字。王此、于況反。施、以豉反。 【読み】 其の兄弟の國する者十有五人、姬姓の國する者四十人、皆親を舉げたり。夫れ舉ぐるは他無し。唯善の在る所のままにして、親疏一なり。詩に曰く、唯此の文王、帝其の心に度らしむ。其の德音を莫にして、其の德克く明らかなり。克く明らかに克類あり。克く長たり克く君たり。此の大國に王として、克く順い克く比し、文王に比して、其の德悔ゆること靡し。旣に帝の祉を受けて、孫子に施く、と。詩は、大雅。文王能く大國に王として、天の福を受け、子孫に施及するを美む。○度は、待洛反。莫は、亡白反。又字の如し。王此は、于況反。施は、以豉反。 心能制義曰度、帝度其心。 【読み】 心能く義を制するを度と曰い、帝其の心に度らしむ。 德正應和曰莫、莫然淸靜。 【読み】 德正しくして應和するを莫と曰い、莫然として淸靜。 照臨四方曰明、勤施無私曰類、施而無私、物得其所、無失類也。○施、式豉反。 【読み】 四方に照臨するを明と曰い、勤め施して私無きを類と曰い、施して私無く、物其の所を得て、類を失うこと無きなり。○施は、式豉反。 敎誨不倦曰長、敎誨、長人之道。 【読み】 敎誨して倦まざるを長と曰い、敎誨は、人に長たるの道。 賞慶刑威曰君、作威作福、君之職也。 【読み】 賞慶刑威するを君と曰い、威を作し福を作すは、君の職なり。 慈和徧服曰順、唯順。故天下徧服。 【読み】 慈和にして徧服するを順と曰い、唯順なり。故に天下徧く服す。 擇善而從之曰比、比方善事、使相從也。 【読み】 善を擇びて之に從わすを比と曰い、善事を比方して、相從わしむ。 經緯天地曰文。經緯相錯。故織成文。 【読み】 天地を經緯するを文と曰う。經緯相錯わる。故に織りて文を成す。 九德不愆、作事無悔。九德、上九曰也。皆無愆過、則動無悔吝。 【読み】 九德愆[あやま]らざれば、事を作して悔ゆること無し。九德は、上の九つの曰なり。皆愆過無ければ、則ち動きて悔吝無し。 故襲天祿、子孫賴之。襲、受也。 【読み】 故に天祿を襲[う]けて、子孫之に賴る。襲は、受くるなり。 主之舉也、近文德矣。所及其遠哉。舉魏戊等、勤施無私也。其四人者、擇善而從。故曰近文德、所及遠也。 【読み】 主の舉や、文の德に近し。及ぶ所其れ遠からんかな、と。魏戊等を舉ぐるは、勤め施して私無きなり。其の四人の者、善を擇びて從わす。故に文の德に近く、及ぶ所遠からんと曰うなり。 賈辛將適其縣。見於魏子。魏子曰、辛來。昔叔向適鄭。鬷蔑惡。惡、貌醜。○鬷、子工反。 【読み】 賈辛將に其の縣に適かんとす。魏子に見ゆ。魏子曰く、辛來れ。昔叔向鄭に適く。鬷蔑[そうべつ]惡[みにく]し。惡は、貌の醜きなり。○鬷は、子工反。 欲觀叔向、從使之收器者、從、隨也。隨使人應斂俎豆者。 【読み】 叔向を觀んと欲し、使いの器を收むる者に從いて、從は、隨うなり。使人の應に俎豆を斂むべき者に隨う。 而往立於堂下、一言而善。叔向將飮酒、聞之曰、必鬷明也。素聞其賢。故聞其言而知之。 【読み】 往きて堂下に立ち、一言して善し。叔向將に酒を飮まんとし、之を聞きて曰く、必ず鬷明ならん、と。素より其の賢を聞く。故に其の言を聞きて之を知る。 下執其手以上、曰、昔賈大夫惡。賈國大夫。惡亦醜也。 【読み】 下りて其の手を執りて以て上りて、曰く、昔賈の大夫惡し。賈國の大夫。惡も亦醜きなり。 娶妻而美。三年不言不笑。御以如皐、爲妻御之皐澤。 【読み】 妻を娶りて美なり。三年まで言わず笑わず。御して以て皐に如き、妻の爲に御して皐澤に之く。 射雉獲之。其妻始笑而言。賈大夫曰、才之不可以已。我不能射、女遂不言不笑夫。今子少不颺。顏貌不揚顯。○射雉、音石。女、音汝。 【読み】 雉を射て之を獲たり。其の妻始めて笑いて言う。賈の大夫曰く、才の以て已む可からざるなり。我れ射ること能わずば、女遂に言わず笑わざらんか、と。今子少しく不颺[ふよう]なり。顏貌揚顯せず。○射雉は、音石。女は、音汝。 子若無言、吾幾失子矣。言之不可以已也如是。遂如故知。 【読み】 子若し言無くば、吾れ幾ど子を失わん。言の以て已む可からざるや是の如し、と。遂に故知の如くなりき。 今女有力於王室。吾是以舉女。因賈辛有功、而後舉之。言人不可無能。○幾、音祁。 【読み】 今女王室に力め有り。吾れ是を以て女を舉げたり。賈辛が功有るに因りて、而して後に之を舉ぐ。人能無かる可からざるを言う。○幾は、音祁。 行乎、敬之哉。毋墮乃力。墮、損也。○墮、許規反。 【読み】 行けや、之を敬めや。乃の力を墮すこと毋かれ、と。墮は、損するなり。○墮は、許規反。 仲尼聞魏子之舉也、以爲義、曰、近不失親、謂舉魏戊。 【読み】 仲尼魏子の舉ぐるを聞きて、以て義と爲して、曰く、近きは親を失わず、魏戊を舉ぐるを謂う。 遠不失舉、以賢舉。 【読み】 遠きは舉を失わず、賢を以て舉ぐ。 可謂義矣。又聞其命賈辛也、以爲忠。先賞王室之功。故爲忠。 【読み】 義と謂う可し、と。又其の賈辛に命ずるを聞きて、以て忠と爲す。先ず王室の功を賞す。故に忠と爲す。 詩曰、永言配命、自求多福、忠也。詩、大雅。永、長也。言能長配天命、致多福者、唯忠。 【読み】 詩に曰く、永く命に配すと言うは、自ら多福を求むるなりとは、忠なり。詩は、大雅。永は、長きなり。言うこころは、能く長く天命に配して、多福を致す者は、唯忠なり。 *「永言配命」は、漢籍國字解全書では「永く言[われ]命に配す」と読む。また、「言」を「ここ(に)」と読むものもある。 魏子之舉也義。其命也、忠。其長有後於晉國乎。 【読み】 魏子の舉ぐるや義なり。其の命ずるや、忠なり。其れ長く晉國に後有らんか、と。 冬、梗陽人有獄。魏戊不能斷。以獄上。上魏子。○斷、丁亂反。 【読み】 冬、梗陽人獄有り。魏戊斷ずること能わず。獄を以て上ぐ。魏子に上ぐ。○斷は、丁亂反。 其大宗賂以女樂。訟者之大宗。 【読み】 其の大宗賂うに女樂を以てす。訟者の大宗。 魏子將受之。魏戊謂閻沒・女寬、二人、魏子之屬大夫。 【読み】 魏子將に之を受けんとす。魏戊閻沒・女寬に謂いて、二人は、魏子の屬大夫。 曰、主以不賄聞於諸侯。若受梗陽人、賄莫甚焉。吾子必諫。皆許諾。退朝、待於庭。魏子朝君退。而待於魏子之庭。○聞、如字。又音問。 【読み】 曰く、主は賄せざるを以て諸侯に聞こえたり。若し梗陽の人に受けば、賄焉より甚だしきは莫し。吾子必ず諫めよ、と。皆許諾す。朝より退くとき、庭に待つ。魏子君に朝して退く。而して魏子の庭に待つ。○聞は、字の如し。又音問。 饋入、召之。召二大夫食。 【読み】 饋入るとき、之を召す。二大夫を召して食らわしむ。 比置、三歎。旣食、使坐。更命之令坐。 【読み】 置く比[ころおい]まで、三たび歎ず。旣に食して、坐せしむ。更に之に命じて坐せしむ。 魏子曰、吾聞諸伯叔。諺曰、唯食忘憂。吾子置食之閒、三歎何也。同辭而對曰、或賜二小人酒、不夕食。或、他人也。言饑甚。 【読み】 魏子曰く、吾れ諸を伯叔に聞く。諺に曰く、唯食憂れを忘る、と。吾子は食を置くの閒にして、三たび歎ぜしは何ぞや、と。辭を同じくして對えて曰く、或ひと二小人に酒を賜いて、夕食せざりき。或は、他人なり。饑えの甚だしきを言う。 饋之始至、恐其不足。是以歎。中置、自咎曰、豈將軍食之、而有不足。是以再歎。魏子、中軍帥。故謂之將軍。○食、音嗣。 【読み】 饋の始めて至るとき、其の足らざらんことを恐れぬ。是を以て歎ぜり。中ごろ置くとき、自ら咎めて曰く、豈將軍之を食らわせて、足らざること有らんや、と。是を以て再び歎ぜり。魏子は、中軍の帥。故に之を將軍と謂う。○食は、音嗣。 及饋之畢、願以小人之腹、爲君子之心。屬厭而已。屬、足也。言小人之腹飽、猶知厭足。君子之心亦宜然。○屬、之玉反。厭、於鹽反。又於豔反。 【読み】 饋の畢わるに及びて、小人の腹を以て、君子の心と爲さんことを願う。屬厭せんのみ、と。屬は、足るなり。言うこころは、小人の腹飽くも、猶厭足を知る。君子の心も亦宜しく然るべし。○屬は、之玉反。厭は、於鹽反。又於豔反。 獻子辭梗陽人。傳言魏氏所以興也。韋注、屬、適也。 【読み】 獻子梗陽の人を辭す。傳魏氏の興る所以を言うなり。韋注、屬は、適なり。 〔經〕二十有九年、春、公至自乾侯、居于鄆。以乾侯致、不得見晉侯故。 【読み】 〔經〕二十有九年、春、公乾侯より至り、鄆[うん]に居る。乾侯を以て致すとは、晉侯を見ることを得ざる故なり。 齊侯使高張來唁公。唁公至晉不見受。高張、高偃子。 【読み】 齊侯高張をして來りて公を唁[とむら]わしむ。公晉に至りて受けられざるを唁うなり。高張は、高偃の子。 公如晉、次于乾侯。復不見受、往乾侯。 【読み】 公晉に如き、乾侯に次[やど]る。復受けられず、乾侯に往く。 夏、四月、庚子、叔詣卒。無傳。 【読み】 夏、四月、庚子[かのえ・ね]、叔詣卒す。傳無し。 秋、七月。冬、十月、鄆潰。無傳。民逃其上曰潰。潰散叛公。○潰、戶對反。 【読み】 秋、七月。冬、十月、鄆潰ゆ。傳無し。民其の上を逃るを潰と曰う。潰散して公に叛くなり。○潰は、戶對反。 〔傳〕二十九年、春、公至自乾侯、處于鄆。齊侯使高張來唁公。稱主君。比公於大夫。 【読み】 〔傳〕二十九年、春、公乾侯より至り、鄆に處る。齊侯高張をして來りて公を唁わしむ。主君と稱す。公を大夫に比す。 子家子曰、齊卑君矣。君祗辱焉。言往事齊、適取辱。○祗、音支。 【読み】 子家子曰く、齊君を卑しめり。君祗[まさ]に辱められん、と。言うこころは、往きて齊に事えば、適に辱を取らん。○祗は、音支。 公如乾侯。爲齊所卑。故復適晉、冀見恤。 【読み】 公乾侯に如く。齊の爲に卑しめらる。故に復晉に適き、恤れまれんことを冀う。 三月、己卯、京師殺召伯盈・尹氏固及原伯魯之子。皆子朝黨也。稱伯魯子、終不說學。○說、音悅。 【読み】 三月、己卯[つちのと・う]、京師召伯盈・尹氏固と原伯魯の子とを殺す。皆子朝が黨なり。伯魯の子と稱するは、學を說びざるを終わるなり。○說は、音悅。 尹固之復也、二十六年、尹固與子朝倶奔楚而道還。 【読み】 尹固の復るや、二十六年、尹固子朝と倶に楚に奔りて道より還る。 有婦人遇之周郊、尤之曰、處則勸人爲禍、行則數日而反。是夫也、其過三歲乎。 【読み】 婦人有りて之に周の郊に遇い、之を尤[とが]めて曰く、處れば則ち人を勸めて禍を爲し、行[さ]れば則ち日を數えて反る。是の夫や、其れ三歲を過ぎんや、と。 夏、五月、庚寅、王子趙車入于鄻以叛。陰不佞敗之。趙車、子朝之餘也。見王殺伯盈等。故叛。鄻、周邑。○數、所主反。鄻、列勉反。 【読み】 夏、五月、庚寅[かのえ・とら]、王子趙車鄻[れん]に入りて以て叛く。陰不佞之を敗りぬ。趙車は、子朝の餘なり。王の伯盈等を殺すを見る。故に叛く。鄻は、周の邑。○數は、所主反。鄻は、列勉反。 平子每歲賈馬、賈、買也。○賈、音古。 【読み】 平子每歲馬を賈い、賈は、買うなり。○賈は、音古。 具從者之衣屨、而歸之于乾侯、公執歸馬者賣之、賣其馬。 【読み】 從者の衣屨を具えて、之を乾侯に歸[おく]りしに、公馬を歸る者を執えて之を賣りしかば、其の馬を賣る。 乃不歸馬。 【読み】 乃ち馬を歸らず。 衛侯來獻其乘馬。曰啓服。啓服、馬名。○乘、如字。又繩證反。 【読み】 衛侯來りて其の乘馬を獻ず。啓服と曰う。啓服は、馬の名。○乘は、字の如し。又繩證反。 塹而死。隋塹死也。 【読み】 塹[せん]にして死す。塹に隋[お]ちて死す。 公將爲之櫝。爲作棺也。 【読み】 公將に之が櫝[とく]を爲らんとす。爲に棺を作るなり。 子家子曰、從者病矣。請以食之。乃以帷裹之。禮曰、敝帷不棄、爲埋馬也。○從、去聲。食、音嗣。 【読み】 子家子曰く、從者病めり。請う、以て之を食らわせん、と。乃ち帷を以て之を裹[つつ]む。禮に曰く、敝帷棄てざるは、馬を埋めんが爲、と。○從は、去聲。食は、音嗣。 公賜公衍羔裘、使獻龍輔於齊侯。龍輔、玉名。 【読み】 公公衍に羔裘を賜い、龍輔を齊侯に獻ぜしむ。龍輔は、玉の名。 遂入羔裘。齊侯喜、與之陽穀。陽穀、齊邑。 【読み】 遂に羔裘を入れぬ。齊侯喜びて、之に陽穀を與う。陽穀は、齊の邑。 公衍・公爲之生也、其母偕出。出之産舍。 【読み】 公衍・公爲の生まるるや、其の母偕に出づ。出でて産舍に之く。 公衍先生。公爲之母曰、相與偕出。請相與偕告。留公衍母、使待己共白公。 【読み】 公衍先ず生まる。公爲の母曰く、相與に偕に出でたり。請う、相與に偕に告げん、と。公衍が母を留めて、己を待たせて共に公に白[もう]さしむ。 三日、公爲生。其母先以告。公爲爲兄。公私喜於陽穀、而思於魯、曰、務人爲此禍也。務人、公爲也。始與公若謀逐季氏。 【読み】 三日ありて、公爲生まる。其の母先ず以て告ぐ。公爲を兄とせり。公私[ひそ]かに陽穀に喜びて、魯を思いて、曰く、務人[ぼうじん]此の禍を爲せり。務人は、公爲なり。始め公若と季氏を逐わんことを謀れり。 且後生而爲兄、其誣也久矣。乃黜之、而以公衍爲大子。 【読み】 且つ後に生まれて兄と爲るは、其の誣うるや久し、と。乃ち之を黜けて、公衍を以て大子と爲す。 秋、龍見于絳郊。絳、晉國都。○見、賢遍反。下同。 【読み】 秋、龍絳の郊に見ゆ。絳は、晉の國都。○見は、賢遍反。下も同じ。 魏獻子問於蔡墨、蔡墨、晉大史。 【読み】 魏獻子蔡墨に問いて、蔡墨は、晉の大史。 曰、吾聞之、蟲莫知於龍。以其不生得也、謂之知。信乎。對曰、人實不知。非龍實知。言龍無知。乃人不知之耳。○莫知、音智。下謂之知・實知・注無知同。 【読み】 曰く、吾れ之を聞く、蟲は龍より知なるは莫し。其の生きながら得られざるを以てや、之を知と謂う、と。信なるか、と。對えて曰く、人實に知らざるなり。龍實に知なるに非ず。言うこころは、龍は無知。乃ち人之を知らざるのみ。○莫知は、音智。下の謂之知・實知・注無知も同じ。 古者畜龍。故國有豢龍氏、有御龍氏。豢・御、養也。○豢、音患。 【読み】 古は龍を畜える。故に國に豢龍氏[かんりゅうし]有り、御龍氏有り、と。豢・御は、養うなり。○豢は、音患。 獻子曰、是二氏者、吾亦聞之。而不知其故。是何謂也。 【読み】 獻子曰く、是の二氏なる者は、吾も亦之を聞けり。而れども其の故を知らず。是れ何の謂ぞや、と。 對曰、昔有飂叔安、飂、古國也。叔安、其君名。○飂、力謬反。 【読み】 對えて曰く、昔有飂[ゆうりゅう]の叔安、飂は、古の國なり。叔安は、其の君の名。○飂は、力謬反。 有裔子、曰董父。裔、遠也。玄孫之後爲裔。 【読み】 裔子有り、董父と曰う。裔は、遠きなり。玄孫の後を裔と爲す。 實甚好龍、能求其耆欲以飮食之、龍多歸之。乃擾畜龍、以服事帝舜。帝賜之姓曰董、擾、順也。○好、呼報反。耆、時志反。飮、於鴆反。食、音嗣。下同。擾、而小反。 【読み】 實に甚だ龍を好み、能く其の耆欲を求めて以て之に飮食せしめ、龍多く之に歸せり。乃ち龍を擾畜して、以て帝舜に服事す。帝之に姓を賜いて董と曰い、擾は、順うなり。○好は、呼報反。耆は、時志反。飮は、於鴆反。食は、音嗣。下も同じ。擾は、而小反。 氏曰豢龍、豢龍、官名。官有世功、則以官氏。 【読み】 氏を豢龍と曰い、豢龍は、官の名。官世功有れば、則ち官を以て氏とす。 封諸鬷川。鬷夷氏其後也。鬷水上夷、皆董姓。○鬷、子工反。 【読み】 諸を鬷川[そうせん]に封ぜり。鬷夷氏は其の後なり。鬷水上の夷、皆董姓。○鬷は、子工反。 故帝舜氏世有畜龍。 【読み】 故に帝舜氏世々畜龍有り。 及有夏孔甲擾于有帝、孔甲、少康之後。九世君也。其德能順於天。 【読み】 有夏の孔甲が有帝に擾[したが]うに及びて、孔甲は、少康の後。九世の君なり。其の德能く天に順えり。 帝賜之乘龍。河漢各二。合爲四。○乘、繩證反。 【読み】 帝之に乘龍を賜えり。河漢各々二つ。合わせて四つ爲り。○乘は、繩證反。 各有雌雄。孔甲不能食、而未獲豢龍氏。有陶唐氏旣衰、其後有劉累、陶唐、堯所治地。 【読み】 各々雌雄有り。孔甲食[やしな]うこと能わずして、未だ豢龍氏を獲ず。有陶唐氏旣に衰えて、其の後に劉累という有り、陶唐は、堯の治むる所の地。 學擾龍于豢龍氏、以事孔甲、能飮食之、夏后嘉之、賜氏曰御龍、夏后、孔甲。 【読み】 龍を擾うことを豢龍氏に學びて、以て孔甲に事えて、能く之に飮食せしかば、夏后之を嘉して、氏を賜いて御龍と曰い、夏后は、孔甲。 以更豕韋之後。更、代也。以劉累代彭姓之豕韋。累尋遷魯縣、豕韋復國、至商而滅。累之後世、復承其國爲豕韋氏。在襄二十四年。○更、音庚。 【読み】 以て豕韋の後に更わらしむ。更は、代わるなり。劉累を以て彭姓の豕韋に代う。累尋[つ]いで魯縣に遷り、豕韋國に復して、商に至りて滅ぶ。累の後世、復其の國を承けて豕韋氏と爲れり。襄二十四年に在り。○更は、音庚。 龍一雌死、潛醢以食夏后。潛、藏也。藏以爲醢、明龍不知。○醢、音海。知、音智。 【読み】 龍の一雌死せしを、潛[ひそ]めて醢にして以て夏后に食らはしむ。潛は、藏すなり。藏めて以て醢と爲すは、龍の不知を明らかにす。○醢は、音海。知は、音智。 夏后饗之、旣而使求之、求致龍也。 【読み】 夏后之を饗け、旣にして之を求めしむれば、龍を致さんことを求む。 懼而遷于魯縣。不能致龍。故懼遷魯縣、自貶退也。魯縣、今魯陽也。 【読み】 懼れて魯縣に遷れり。龍を致すこと能わず。故に懼れて魯縣に遷りて、自ら貶退す。魯縣は、今の魯陽なり。 范氏其後也。晉范氏也。 【読み】 范氏は其の後なり、と。晉の范氏なり。 獻子曰、今何故無之。對曰、夫物物有其官。官脩其方、方、法術。 【読み】 獻子曰く、今何の故に之れ無き、と。對えて曰く、夫れ物物にして其の官有り。官其の方を脩めて、方は、法術。 朝夕思之。一日失職、則死及之。失職有罪。 【読み】 朝夕に之を思う。一日職を失えば、則ち死之に及ぶ。職を失えば罪有り。 失官不食。不食祿。 【読み】 官を失えば食まず。祿を食まず。 官宿其業、宿、猶安也。 【読み】 官其の業を宿[やす]んずれば、宿は、猶安んずるのごとし。 其物乃至。設水官脩則龍至。 【読み】 其の物乃ち至る。設[も]し水官脩むれば則ち龍至る。 若泯棄之、物乃坻伏、泯、滅也。坻、止也。○泯、彌忍反。坻、音旨。又丁禮反。 【読み】 若し之を泯棄[びんき]すれば、物乃ち坻伏[ていふく]し、泯は、滅ぶなり。坻は、止むなり。○泯は、彌忍反。坻は、音旨。又丁禮反。 鬱湮不育。鬱、滯也。湮、塞也。育、生也。○湮、音因。 【読み】 鬱湮[うついん]して育たず。鬱は、滯るなり。湮は、塞がるなり。育は、生きるなり。○湮は、音因。 故有五行之官、是謂五官。實列受氏姓、封爲上公、爵、上公。 【読み】 故に五行の官有り、是を五官と謂う。實に列もて氏姓を受け、封ぜられて上公と爲り、爵は、上公。 祀爲貴神、社稷五祀、是尊是奉。五官之君長、能脩其業者死、皆配食於五行之神、爲王者所尊奉。 【読み】 祀られて貴神と爲り、社稷五祀として、是れ尊ばれ是れ奉ぜらる。五官の君長、能く其の業を脩むる者死すれば、皆五行の神に配食して、王者の爲に尊奉せらる。 木正曰句芒、正、官長也。取木生句曲而有芒角也。其祀重焉。○句、古侯反。下同。重、直龍反。下同。 【読み】 木正を句芒[こうぼう]と曰い、正は、官長なり。木の生ずるとき句曲して芒角有るに取るなり。其の祀は重なり。○句は、古侯反。下も同じ。重は、直龍反。下も同じ。 火正曰祝融、祝融、明貌。其祀犂焉。 【読み】 火正を祝融と曰い、祝融は、明らかなる貌。其の祀は犂なり。 金正曰蓐收、秋物摧蓐而可收也。其祀該焉。○蓐、音辱。摧、徂回反。 【読み】 金正を蓐收[じょくしゅう]と曰い、秋は物摧蓐して收む可し。其の祀は該なり。○蓐は、音辱。摧は、徂回反。 水正曰玄冥、水陰而幽冥。其祀脩及熙焉。 【読み】 水正を玄冥と曰い、水は陰にして幽冥。其の祀は脩と熙となり。 土正曰后土。土爲群物主。故稱后也。其祀句龍焉。在家則祀中霤、在野則爲社。○霤、力救反。 【読み】 土正を后土と曰う。土は群物の主爲り。故に后と稱するなり。其の祀は句龍なり。家に在れば則ち中霤[ちゅうりゅう]に祀られ、野に在れば則ち社と爲す。○霤は、力救反。 龍、水物也。水官棄矣。故龍不生得。棄、廃也。 【読み】 龍は、水物なり。水官棄[すた]る。故に龍生得せられず。棄は、廃るなり。 不然、周易有之。言若不爾、周易無緣有龍。 【読み】 然らずんば、周易に之れ有り。言うこころは、若し爾からずんば、周易に龍有るに緣[よし]無し。 在乾 乾下乾上、乾。 【読み】 乾の 乾下乾上は、乾。 之姤、巽下乾上、姤。乾初九變。○姤、古豆反。 【読み】 姤[こう]に之くに在り、巽下乾上は、姤。乾の初九變ず。○姤は、古豆反。 曰、潛龍勿用。乾初九爻辭。 【読み】 曰く、潛龍用ゆること勿かれ、と。乾の初九の爻の辭。 其同人、離下乾上、同人。乾九二變。 【読み】 其の同人に、離下乾上は、同人。乾の九二變ず。 曰、見龍在田。乾九二爻辭。 【読み】 曰く、見龍田に在り、と。乾の九二の爻の辭。 其大有、乾下離上、大有。乾九五變。 【読み】 其の大有に、乾下離上は、大有。乾の九五の變ず。 曰、飛龍在天。乾九五爻辭。 【読み】 曰く、飛龍天に在り、と。乾の九五の爻の辭。 其夬、乾下兌上、夬。乾上九變。○夬、古快反。 【読み】 其の夬[かい]に、乾下兌上は、夬。乾の上九變ず。○夬は、古快反。 曰、亢龍有悔。乾上九爻辭。 【読み】 曰く、亢龍悔有り、と。乾の上九の爻の辭。 其坤、坤下坤上、坤。乾六爻皆變。 【読み】 其の坤に、坤下坤上は、坤。乾の六爻皆變ず。 曰、見群龍無首、吉。乾用九爻辭。 【読み】 曰く、群龍を見るに首たること無ければ、吉なり、と。乾の用九の爻の辭。 坤之剝、坤下艮上、剝。坤上六變。 【読み】 坤の剝に之くに、坤下艮上は、剝。坤の上六變ず。 曰、龍戰于野。坤上六爻辭。 【読み】 曰く、龍野に戰う、と。坤の上六の爻の辭。 若不朝夕見、誰能物之。物、謂上六卦所稱龍各不同也。今說易者、皆以龍喩陽氣。如史墨之言、則爲皆是眞龍。 【読み】 若し朝夕に見れずんば、誰か能く之を物とせん、と。物とは、上の六卦稱する所の龍各々同じからざるを謂うなり。今易を說く者は、皆龍を以て陽氣に喩う。史墨の言の如きは、則ち皆是れ眞龍とするなり。 獻子曰、社稷五祀、誰氏之五官也。問五官之長、皆是誰。 【読み】 獻子曰く、社稷五祀は、誰氏の五官ぞや、と。問う、五官の長は、皆是れ誰ぞ、と。 對曰、少皞氏有四叔。少皞、金天氏。○皞、戶老反。 【読み】 對えて曰く、少皞氏四叔有り。少皞は、金天氏。○皞は、戶老反。 曰重、曰該、曰脩、曰熙。實能金木及水。能治其官。○重、直龍反。 【読み】 重と曰い、該と曰い、脩と曰い、熙と曰う。實に金木と水とを能くせり。能く其の官を治む。○重は、直龍反。 使重爲句芒、木正。 【読み】 重をして句芒と爲し、木正。 該爲蓐收、金正。 【読み】 該を蓐收と爲し、金正。 脩及熙爲玄冥、二子相代爲水正。 【読み】 脩と熙とを玄冥爲らしめ、二子相代わりて水正と爲る。 世不失職、遂濟窮桑。此其三祀也。窮桑、少皞之號也。四子能治其官、使不失職、濟成少皞之功。死皆爲民所祀。窮桑地、在魯北。 【読み】 世々職を失わず、遂に窮桑を濟[な]せり。此れ其の三祀なり。窮桑は、少皞の號なり。四子能く其の官を治めて、職を失わざらしめて、少皞の功を濟し成せり。死して皆民の爲に祀らる。窮桑の地は、魯の北に在り。 顓頊氏有子、曰犂。爲祝融。犂爲火正。 【読み】 顓頊氏[せんぎょくし]子有り、犂と曰う。祝融と爲る。犂火正と爲る。 共工氏有子、曰句龍。爲后土。共工、在大皞後神農前。以水名官者。其子句龍能平水土。故死而見祀。 【読み】 共工氏子有り、句龍と曰う。后土と爲る。共工は、大皞の後神農の前に在り。水を以て官に名づくる者なり。其の子句龍能く水土を平らぐ。故に死して祀らる。 此其二祀也。后土爲社。方答社稷。故明言爲社。 【読み】 此れ其の二祀なり。后土を社と爲す。方に社稷に答う。故に社と爲るを明言す。 稷、田正也。掌播殖也。 【読み】 稷は、田正なり。播殖を掌るなり。 有烈山氏之子曰柱。爲稷。烈山氏、神農世諸侯。 【読み】 有烈山氏の子を柱と曰う。稷と爲る。烈山氏は、神農の世の諸侯。 自夏以上祀之。祀柱。 【読み】 夏より以上之を祀れり。柱を祀る。 周棄亦爲稷。棄、周之始祖。能播百穀。湯旣勝夏、廢柱而以棄代之。 【読み】 周棄も亦稷と爲る。棄は、周の始祖。能く百穀を播けり。湯旣に夏に勝ち、柱を廢して棄を以て之に代う。 自商以來祀之。傳言蔡墨之博物。 【読み】 商より以來之を祀りぬ、と。傳蔡墨の博物を言う。 冬、晉趙鞅・荀寅帥師城汝濱。趙鞅、趙武孫也。荀寅、中行荀吳之子。汝濱、晉所取陸渾地。 【読み】 冬、晉の趙鞅・荀寅師を帥いて汝濱に城く。趙鞅は、趙武の孫なり。荀寅は、中行荀吳の子。汝濱は、晉の取る所の陸渾の地。 遂賦晉國一鼓鐵、以鑄刑鼎、令晉國各出功力、共鼓石爲鐵、計令一鼓而足。因軍役而爲之。故言遂。 【読み】 遂に晉國に賦して鐵を一鼓せしめて、以て刑鼎を鑄、晉國をして各々功力を出だして、共に石を鼓して鐵と爲さしめ、計りて一鼓にして足らしむるなり。軍役に因りて之を爲す。故に遂にと言う。 著范宣子所爲刑書焉。 【読み】 范宣子が爲りし所の刑書を著す。 仲尼曰、晉其亡乎。失其度矣。夫晉國將守唐叔之所受法度、以經緯其民、卿大夫以序守之。序、位次也。 【読み】 仲尼曰く、晉は其れ亡びんか。其の度を失えり。夫れ晉國は將に唐叔の受くる所の法度を守り、以て其の民を經緯して、卿大夫序を以て之を守らんとす。序は、位次なり。 民是以能尊其貴、貴是以能守其業、貴賤不愆。所謂度也。文公是以作執秩之官、爲被廬之法、僖二十七年、文公蒐被廬、脩唐叔之法。○被、皮義反。 【読み】 民是を以て能く其の貴を尊び、貴是を以て能く其の業を守り、貴賤愆[あやま]らず。所謂度なり。文公是を以て執秩の官を作り、被廬の法を爲して、僖二十七年、文公被廬に蒐して、唐叔の法を脩む。○被は、皮義反。 以爲盟主。今棄是度也、而爲刑鼎。民在鼎矣。何以尊貴。棄禮徵書。故不尊貴。 【読み】 以て盟主爲り。今是の度を棄てて、刑鼎を爲る。民鼎に在り。何を以て貴を尊ばん。禮を棄て書に徵す。故に貴を尊ばず。 貴何業之守。民不奉上、則上失業。 【読み】 貴何の業をか之れ守らん。民上を奉ぜざれば、則ち上業を失う。 貴賤無序、何以爲國。 【読み】 貴賤序無ければ、何を以て國を爲めん。 且夫宣子之刑、夷之蒐也。晉國之亂制也。范宣子所用刑、乃夷蒐之法也。夷蒐、在文六年。一蒐而三易中軍帥、賈季・箕鄭之徒遂作亂。故曰亂制。 【読み】 且つ夫れ宣子の刑は、夷の蒐なり。晉國の亂制なり。范宣子用ゆる所の刑は、乃ち夷蒐の法なり。夷の蒐は、文六年に在り。一蒐して三たび中軍の帥を易え、賈季・箕鄭の徒遂に亂を作せり。故に亂制と曰う。 若之何以爲法。 【読み】 之を若何ぞ以て法と爲さん、と。 蔡史墨曰、范氏・中行氏其亡乎。蔡史墨、卽蔡墨。 【読み】 蔡史墨曰く、范氏・中行氏は其れ亡びんか。蔡史墨は、卽ち蔡墨。 中行寅爲下卿、而干上令、擅作刑器、以爲國法。是法姦也。又加范氏焉、易之亡也。范宣子刑書、中旣廢矣。今復興之、是成其咎。 【読み】 中行寅下卿として、上の令を干し、擅[ほしいまま]に刑器を作りて、以て國法と爲す。是れ姦を法とするなり。又范氏に加えて、之を易えて亡びしめんとす。范宣子が刑書は、中ごろ旣に廢す。今復之を興すは、是れ其の咎を成すなり。 其及趙氏。趙孟與焉。然不得已。若德可以免。鑄刑鼎、本非趙鞅意。不得已而從之。若能脩德、可以免禍。爲定十三年、荀寅・士吉射入朝歌以叛傳。○與、音預。朝、如字。 【読み】 其れ趙氏に及ばん。趙孟も與ればなり。然れども已むことを得ざるなり。若し德あらば以て免る可し。刑鼎を鑄るは、本趙鞅の意に非ず。已むことを得ずして之に從う。若し能く德を脩めば、以て禍を免る可し。定十三年、荀寅・士吉射朝歌に入りて以て叛く爲の傳なり。○與は、音預。朝は、字の如し。 〔經〕三十年、春、王正月、公在乾侯。釋不朝正于廟。 【読み】 〔經〕三十年、春、王の正月、公乾侯に在り。廟に朝正せざるを釋く。 夏、六月、庚辰、晉侯去疾卒。未同盟、而赴以名。 【読み】 夏、六月、庚辰[かのえ・たつ]、晉侯去疾卒す。未だ同盟せずして、赴[つ]ぐるに名を以てす。 秋、八月、葬晉頃公。三月而葬。速。○頃、音傾。 【読み】 秋、八月、晉の頃公を葬る。三月にして葬る。速きなり。○頃は、音傾。 冬、十有二月、吳滅徐。徐子章羽奔楚。徐子稱名、以名告也。 【読み】 冬、十有二月、吳徐を滅ぼす。徐子章羽楚に奔る。徐子名を稱するは、名を以て告ぐればなり。 〔傳〕三十年、春、王正月、公在乾侯。 【読み】 〔傳〕三十年、春、王の正月、公乾侯に在り。 不先書鄆與乾侯、非公、且徵過也。徵、明也。二十七年・二十八年、公在鄆、二十九年、公在乾侯。而經不釋朝正之禮者、所以非責公之妄、且明過謬猶可掩。故不顯書其所在、使若在國然。自是鄆人潰叛、齊・晉卑公、子家忠謀終不能用、内外棄之。非復過誤所當掩塞。故每歲書公所在。○徵、直升反。 【読み】 先に鄆[うん]と乾侯とを書さざりしは、公を非[そし]り、且つ過ちなるを徵[あ]かさんとなり。徵は、明かすなり。二十七年・二十八年、公鄆に在り、二十九年、公乾侯に在り。而るを經に朝正の禮を釋かざりし者は、公の妄を非責して、且つ過謬にして猶掩う可きを明かす所以なり。故に其の在る所を顯書せずして、國に在るが若く然らしむ。是より鄆人潰叛し、齊・晉公を卑しめ、子家が忠謀終に用ゆること能わず、内外之を棄つ。復過誤の當に掩塞すべき所に非ず。故に每歲公の在る所を書す。○徵は、直升反。 夏、六月、晉頃公卒。秋、八月、葬。 【読み】 夏、六月、晉の頃公卒す。秋、八月、葬る。 鄭游吉弔、且送葬。魏獻子使士景伯詰之、曰、悼公之喪、子西弔、子蟜送葬。在襄十五年。○詰、起吉反。蟜、居表反。 【読み】 鄭の游吉弔し、且つ葬を送る。魏獻子士景伯をして之を詰[なじ]らしめて、曰く、悼公の喪に、子西弔し、子蟜[しきょう]葬を送れり。襄十五年に在り。○詰は、起吉反。蟜は、居表反。 今吾子無貳。何故。弔葬共使。○使、所吏反。 【読み】 今吾子貳無し。何の故ぞ、と。弔葬使いを共にす。○使は、所吏反。 對曰、諸侯所以歸晉君、禮也。禮也者、小事大、大字小之謂。事大、在共其時命。隨時共所求。○共、音恭。 【読み】 對えて曰く、諸侯の晉君に歸する所以は、禮なり。禮とは、小大に事え、大小を字[めぐ]むを謂うなり。大に事うるは、其の時命に共するに在り。時に隨いて求むる所に共す。○共は、音恭。 字小、在恤其所無。以敝邑居大國之閒、共其職貢、與其備御不虞之患。豈忘共命。言不敢忘共命、以所備御者多、不及辨之。○御、魚呂反。辨、皮莧反。 【読み】 小を字むは、其の無き所を恤うるに在り。敝邑の大國の閒に居りて、其の職貢に共すると、其の不虞の患えに備御するとを以てなり。豈命を共することを忘れんや。言うこころは、敢えて命に共することを忘れざるも、備御する所の者多きを以て、之を辨ずるに及ばず。○御は、魚呂反。辨は、皮莧反。 先王之制、諸侯之喪、士弔、大夫送葬。唯嘉好・聘享・三軍之事、於是乎使卿。晉之喪事、敝邑之閒、先君有所助執紼矣。紼、輓索也。禮、送葬必執紼。○閒、音閑。紼、音弗。輓、音晩。 【読み】 先王の制、諸侯の喪には、士弔し、大夫葬を送れり。唯嘉好・聘享・三軍の事には、是に於て卿をせしむ。晉の喪事に、敝邑の閒あれば、先君も助けて紼[ふつ]を執りし所有り。紼は、輓索[ばんさく]なり。禮に、葬を送れば必ず紼を執る、と。○閒は、音閑。紼は、音弗。輓は、音晩。 若其不閒、雖士大夫、有所不獲數矣。不得如先王禮數。 【読み】 若し其れ閒あらざれば、士大夫と雖も、數を獲ざりし所有りき。先王の禮數の如くなることを得ず。 大國之惠、亦慶其加、慶、善也。謂善其君自行。 【読み】 大國の惠ある、亦其の加を慶[よみ]して、慶は、善するなり。其の君の自ら行くを善するを謂う。 而不討其乏、明底其情、底、致也。○底、音旨。 【読み】 其の乏を討[とが]めず、其の情を底[いた]すを明らかにして、底は、致すなり。○底は、音旨。 *「底」は、本来は「厎」。 取備而已、以爲禮也。 【読み】 備わるを取れるのみにして、以て禮と爲せり。 靈王之喪、在襄二十九年。 【読み】 靈王の喪に、襄二十九年に在り。 我先君簡公在楚、我先大夫印段實往。敝邑之少卿也、少、年少也。 【読み】 我が先君簡公楚に在りしかば、我が先大夫印段實に往きぬ。敝邑の少卿なりしも、少は、年少なり。 王吏不討、恤所無也。 【読み】 王の吏討めざりしは、無き所を恤れむなり。 今大夫曰、女盍從舊。盍、何不也。○女、音汝。 【読み】 今大夫曰く、女盍ぞ舊に從わざる、と。盍は、何ぞせざるなり。○女は、音汝。 舊有豐有省、不知所從。從其豐、則寡君幼弱。是以不共。從其省、則吉在此矣。唯大夫圖之。晉人不能詰。傳言大叔之敏。 【読み】 舊に豐有り省有り、從わん所を知らず。其の豐に從わんとすれば、則ち寡君幼弱なり。是を以て共せず。其の省に從わんとすれば、則ち吉此に在り。唯大夫之を圖れ、と。晉人詰ること能わず。傳大叔の敏を言う。 吳子使徐人執掩餘、使鍾吾人執燭庸。二十七年、奔故。 【読み】 吳子徐人をして掩餘を執えしめ、鍾吾人をして燭庸を執えしめんとす。二十七年に、奔る故なり。 二公子奔楚。楚子大封而定其徙、大封與其田、定其所徙之居。 【読み】 二公子楚に奔る。楚子大いに封じて其の徙[し]を定め、大いに封じて其れに田を與え、其の徙る所の居を定む。 使監馬尹大心逆吳公子、使居養、二子奔楚、楚使逆之於竟也。養、卽所封之邑。○監、古銜反。 【読み】 監馬尹大心をして吳の公子を逆[むか]えしめて、養に居らしめ、二子楚に奔り、楚之を竟に逆えしむるなり。養は、卽ち封ずる所の邑。○監は、古銜反。 莠尹然・左司馬沈尹戌城之、城養。 【読み】 莠尹然[ゆういんぜん]・左司馬沈尹戌[しんいんじゅつ]之に城き、養に城く。 取於城父與胡田以與之、胡田、故胡子之地。 【読み】 城父と胡の田とを取りて以て之に與え、胡の田は、故の胡子の地。 將以害吳也。 【読み】 將に以て吳を害せんとす。 子西諫曰、吳光新得國而親其民、視民如子、辛苦同之。將用之也。若好吾邊疆、使柔服焉、猶懼其至。柔服、謂不與吳構怨。○好、呼報反。 【読み】 子西諫めて曰く、吳光新たに國を得て其の民を親しみ、民を視ること子の如くし、辛苦之を同じくす。將に之を用いんとするなり。若し吾が邊疆に好させ、柔服せしむるも、猶其の至らんことを懼る。柔服は、吳と怨みを構えざるを謂う。○好は、呼報反。 *頭注に、「吾、或作吳、非也。」とある。 吾又彊其讎、以重怒之、無乃不可乎。讎、謂三公子。 【読み】 吾れ又其の讎を彊くして、以て重ねて之を怒らさば、乃ち不可なること無からんや。讎は、三公子を謂う。 吳、周之冑裔也。而棄在海濱、不與姬通、今而始大、比于諸華。光又甚文、將自同於先王。先王、謂大王王季。亦自西戎始比諸華。 【読み】 吳は、周の冑裔なり。而れども海濱に棄在せられて、姬と通ぜざりしに、今にして始めて大にして、諸華に比せり。光又甚だ文にして、將に自ら先王に同じからんとす。先王は、大王王季を謂う。亦西戎より始めて諸華に比せり。 不知天將以爲虐乎。使翦喪吳國、而封大異姓乎。其抑亦將卒以祚吳乎。其終不遠矣。言其事行可知不久。 【読み】 知らず、天將に以て虐を爲させんとするか。吳國を翦喪して、異姓を封大せしめんか。其れ抑々亦將に卒に以て吳に祚[さいわい]せんとするか。其の終わり遠からじ。言うこころは、其の事行の知る可きこと久しからじ。 我盍姑億吾鬼神、億、安也。 【読み】 我れ盍ぞ姑く吾が鬼神を億[やす]んじて、億は、安んずるなり。 而寧吾族姓、以待其歸。善惡之歸。 【読み】 吾が族姓を寧んじて、以て其の歸を待たざる。善惡の歸。 將焉用自播揚焉。播揚、猶勞動也。○將焉、於虔反。播、彼我反。又波賀反。 【読み】 將[はた]焉ぞ自ら播揚することを用いん、と。播揚は、猶勞動のごとし。○將焉は、於虔反。播は、彼我反。又波賀反。 王弗聽。吳子怒。冬、十二月、吳子執鍾吾子、遂伐徐、防山以水之。防塞山水以灌徐。 【読み】 王聽かず。吳子怒る。冬、十二月、吳子鍾吾子を執え、遂に徐を伐ち、山を防[さ]えて以て之を水ぜめす。山水を防塞して以て徐に灌ぐ。 己卯、滅徐。徐子章禹斷其髮、斷髮自刑示懼。○斷、丁緩反。 【読み】 己卯[つちのと・う]、徐を滅ぼす。徐子章禹其の髮を斷ち、髮を斷ちて自ら刑して懼れを示す。○斷は、丁緩反。 攜其夫人以逆吳子。吳子唁而送之、使其邇臣從之。遂奔楚。邇、近也。 【読み】 其の夫人を攜えて以て吳子を逆う。吳子唁[とむら]いて之を送り、其の邇臣をして之に從わしむ。遂に楚に奔る。邇は、近きなり。 楚沈尹戌帥師救徐。弗及。遂城夷、使徐子處之。夷、城父也。 【読み】 楚の沈尹戌師を帥いて徐を救う。及ばず。遂に夷に城き、徐子をして之に處らしむ。夷は、城父なり。 吳子問於伍員曰、初而言伐楚。在二十年。○員、音云。 【読み】 吳子伍員[ごうん]に問いて曰く、初め而[なんじ]楚を伐てと言えり。二十年に在り。○員は、音云。 余知其可也、而恐其使余往也、又惡人之有余之功也。今余將自有之矣。伐楚何如。對曰、楚執政衆而乖、莫適任患。若爲三師以肄焉。肄、猶勞也。○惡、去聲。適、音的。任、音壬。肄、以制反。 【読み】 余其の可なるを知るも、而れども其の余をして往かしめんことを恐れ、又人の余の功を有たんことを惡めり。今余將に自ら之を有たんとす。楚を伐たんこと何如、と。對えて曰く、楚の執政衆くして乖き、適として患えに任ずるもの莫し。若し三師を爲して以て焉を肄[つか]らさん。肄[い]は、猶勞るるのごとし。○惡は、去聲。適は、音的。任は、音壬。肄は、以制反。 *頭注に、「若、疑請誤。」とある。 一師至、彼必皆出。彼出則歸、彼歸則出、楚必道敝。罷敝於道。○罷、音皮。 【読み】 一師至らば、彼れ必ず皆出でん。彼れ出でば則ち歸り、彼れ歸らば則ち出でば、楚必ず道に敝[つか]れん。道に罷敝す。○罷は、音皮。 亟肄以罷之、亟、數也。○亟、欺冀反。 【読み】 亟[しば]々肄らせて以て之を罷[つか]らせ、亟は、數々なり。○亟は、欺冀反。 多方以誤之、旣罷而後以三軍繼之、必大克之。 【読み】 多方以て之を誤らせ、旣に罷れて後に三軍を以て之に繼がば、必ず大いに之に克たん、と。 闔廬從之。楚於是乎始病。爲定四年、吳入楚傳。 【読み】 闔廬[こうりょ]之に從う。楚是に於て始めて病めり。定四年、吳楚に入る爲の傳なり。 〔經〕三十有一年、春、王正月、公在乾侯。季孫意如會晉荀躒於適歷。適歷、晉地。○躒、音歷。適、音的。 【読み】 〔經〕三十有一年、春、王の正月、公乾侯に在り。季孫意如晉の荀躒に適歷に會す。適歷は、晉の地。○躒は、音歷。適は、音的。 夏、四月、丁巳、薛伯穀卒。襄二十五年、盟重丘。○重、平聲。 【読み】 夏、四月、丁巳[ひのと・み]、薛伯穀卒す。襄二十五年、重丘に盟う。○重は、平聲。 晉侯使荀躒唁公于乾侯。將使意如迎公。故荀躒來唁。 【読み】 晉侯荀躒をして公を乾侯に唁[とむら]わしむ。將に意如をして公を迎えしめんとす。故に荀躒來り唁う。 秋、葬薛獻公。無傳。 【読み】 秋、薛の獻公葬る。傳無し。 冬、黑肱以濫來奔。黑肱、邾大夫。濫、東海昌慮縣。不書邾、史闕文。○濫、力甘反。或力暫反。慮、音閭。又如字。 【読み】 冬、黑肱濫を以て來奔す。黑肱は、邾[ちゅ]の大夫。濫は、東海昌慮縣。邾を書さざるは、史の闕文なり。○濫は、力甘反。或は力暫反。慮は、音閭。又字の如し。 十有二月、辛亥、朔、日有食之。 【読み】 十有二月、辛亥[かのと・い]、朔、日之を食する有り。 〔傳〕三十一年、春、王正月、公在乾侯、言不能外内也。公内不容於臣子、外不容於齊・晉。所以久在乾侯。 【読み】 〔傳〕三十一年、春、王の正月、公乾侯に在りとは、外内に能からざるを言うなり。公内は臣子に容れられず、外は齊・晉に容れられず。久しく乾侯に在る所以なり。 晉侯將以師納公。范獻子曰、若召季孫而不來、則信不臣矣。然後伐之、若何。晉人召季孫。獻子使私焉、曰、子必來。我受其無咎。言我爲子受無咎之任。 【読み】 晉侯將に師を以て公を納れんとす。范獻子曰く、若し季孫を召して來らずんば、則ち信に不臣なり。然して後に之を伐たば、若何、と。晉人季孫を召す。獻子私せしめて、曰く、子必ず來れ。我れ其の咎無きを受けん、と。言うこころは、我れ子の爲に咎無きの任を受けん。 季孫意如會晉荀躒于適歷。荀躒曰、寡君使躒謂吾子。何故出君。有君不事、周有常刑。子其圖之。季孫練冠麻衣跣行、示憂慼。○跣、素典反。 【読み】 季孫意如晉の荀躒に適歷に會す。荀躒曰く、寡君躒をして吾子に謂わしむ。何の故に君を出だせる。君有りて事えざるは、周に常刑有り。子其れ之を圖れ、と。季孫練冠麻衣して跣行し、憂慼を示す。○跣は、素典反。 伏而對曰、事君、臣之所不得也。敢逃刑命。言願事君、君不肯還。不敢辟罪。 【読み】 伏して對えて曰く、君に事えんとするも、臣の得ざる所なり。敢えて刑命を逃れんや。言うこころは、君を事えんことを願うとも、君肯えて還らず。敢えて罪を辟けず。 君若以臣爲有罪、請囚于費、以待君之察也。亦唯君。若以先臣之故、不絕季氏而賜之死。雖賜以死、不絕其後。○費、音祕。 【読み】 君若し臣を以て罪有りと爲さば、請う、費に囚われて、以て君の察するを待たん。亦唯君のままなり。若し先臣の故を以てせば、季氏を絕たずして之に死を賜え。賜うに死を以てすと雖も、其の後を絕たず。○費は、音祕。 若弗殺弗亡、君之惠也。死且不朽。若得從君而歸、則固臣之願也。敢有異心。君、皆謂魯侯也。蓋季孫探言罪己輕重、以荅荀躒。○探、他南反。 【読み】 若し殺さず亡ぼさざれば、君の惠みなり。死すとも且に朽ちざらんとす。若し君に從いて歸ることを得ば、則ち固より臣の願いなり。敢えて異心有らんや、と。君とは、皆魯侯を謂うなり。蓋し季孫己を罪する輕重を探り言いて、以て荀躒に荅うるなり。○探は、他南反。 夏、四月、季孫從知伯如乾侯。知伯、荀躒。○知、音智。 【読み】 夏、四月、季孫知伯に從いて乾侯に如く。知伯は、荀躒。○知は、音智。 子家子曰、君與之歸。一慙之不忍、而終身慙乎。公曰、諾。衆曰、在一言矣。君必逐之。言晉旣憂君。君一言使晉、晉必逐之。 【読み】 子家子曰く、君之と歸れ。一慙を忍びずして、終身慙じんや、と。公曰く、諾、と。衆曰く、一言に在り。君必ず之を逐え、と。言うこころは、晉旣に君を憂う。君一言して晉に使わしめば、晉必ず之を逐わん。 荀躒以晉侯之命唁公、且曰、寡君使躒以君命討於意如。意如不敢逃死。君其入也。公曰、君惠顧先君之好、施及亡人、將使歸糞除宗祧以事君、則不能見夫人。已所能見夫人者、有如河。夫人、謂季孫也。言若見季孫、己當受禍。明如河。以自誓。 【読み】 荀躒晉侯の命を以て公を唁い、且つ曰く、寡君躒をして君の命を以て意如を討ぜしむ。意如敢えて死を逃れず。君其れ入れ、と。公曰く、君惠みありて先君の好を顧み、施きて亡人に及ぼし、將に歸りて宗祧[そうちょう]を糞除して以て君に事えしめんとするも、則ち夫の人を見ること能わじ。已能く夫の人を見る所の者あらば、河の如きこと有らん、と。夫の人とは、季孫を謂うなり。言うこころは、若し季孫を見ば、己當に禍を受くべし。明らかなること河の如し。以て自ら誓うなり。 荀躒掩耳而走。怪公所言、示不忍聽。 【読み】 荀躒耳を掩いて走る。公の言う所を怪しみ、聽くに忍びざることを示す。 曰、寡君其罪之恐。敢與知魯國之難。言恐獲不納君之罪。今納而不入。何敢復知耶。○與、音預。難、乃旦反。 【読み】 曰く、寡君は其の罪を恐れてなり。敢えて魯國の難を與り知らんや。言うこころは、君を納れざるの罪を獲んことを恐る。今納れて入らず。何ぞ敢えて復知らんや。○與は、音預。難は、乃旦反。 臣請復於寡君。退而謂季孫、君怒未怠。子姑歸祭。歸攝君事。 【読み】 臣請う、寡君に復[もう]さん、と。退きて季孫に謂えらく、君の怒り未だ怠らず。子姑く歸りて祭れ、と。歸りて君の事を攝す。 子家子曰、君以一乘入于魯師。季孫必與君歸。公欲從之。衆從者脅公不得歸。傳言君弱不得復自在。○乘、繩證反。從、才用反。 【読み】 子家子曰く、君一乘を以て魯の師に入れ。季孫必ず君と歸らん、と。公之に從わんと欲す。衆從者公を脅かして歸ることを得ず。傳君弱くして復自ら在るを得ざるを言う。○乘は、繩證反。從は、才用反。 薛伯穀卒。同盟故書。謂書名也。入春秋來、薛始書名。故發傳。經在荀躒唁公上、傳在下者、欲魯事相次。 【読み】 薛伯穀卒す。同盟の故に書す。名を書すを謂うなり。春秋に入りてより來[このかた]、薛始めて名を書す。故に傳を發す。經は荀躒公を唁うの上に在り、傳は下に在るは、魯の事の相次がんことを欲してなり。 秋、吳人侵楚、伐夷、侵潛・六。皆楚邑。 【読み】 秋、吳人楚を侵して、夷を伐ち、潛・六を侵す。皆楚の邑。 楚沈尹戌帥師救潛。吳師還。楚師遷潛於南岡而還。吳師圍弦。左司馬戌・右司馬稽帥師救弦。及豫章。左司馬、沈尹戌。○稽、音啓。又古兮反。 【読み】 楚の沈尹戌師を帥いて潛を救う。吳の師還る。楚の師潛を南岡に遷して還る。吳の師弦を圍む。左司馬戌・右司馬稽師を帥いて弦を救う。豫章に及ぶ。左司馬は、沈尹戌。○稽は、音啓。又古兮反。 吳師還。始用子胥之謀也。謀在前年。 【読み】 吳の師還る。始めて子胥の謀を用ゆるなり。謀は前年に在り。 冬、邾黑肱以濫來奔。賤而書名、重地故也。黑肱、非命卿。故曰賤。 【読み】 冬、邾[ちゅ]の黑肱濫を以て來奔す。賤しくして名を書すは、地を重んずる故なり。黑肱は、命卿に非ず。故に賤と曰う。 君子曰、名之不可不愼也如是。是、黑肱也。 【読み】 君子曰く、名の愼まざる可からざるや是の如し。是は、黑肱なり。 夫有所有名、而不如其已。有所、謂有地也。言雖有名、不如無名。已、止也。 【読み】 夫れ所有りて名有るは、其の已むに如かず。所有りとは、地有るを謂うなり。言うこころは、名有りと雖も、名無きに如かず。已は、止むなり。 以地叛、雖賤、必書地以名其人。終爲不義、弗可滅已。是故君子動則思禮、行則思義。不爲利回、回正心也。○不爲、于僞反。下同。 【読み】 地を以て叛けば、賤しと雖も、必ず地を書して以て其の人に名をす。終に不義と爲り、滅[け]す可からざるのみ。是の故に君子動けば則ち禮を思い、行えば則ち義を思う。利の爲に回らず、正心を回すなり。○不爲は、于僞反。下も同じ。 不爲義疚。疚、病也。見義則爲之。 【読み】 義の爲に疚しからず。疚は、病むなり。義を見れば則ち之を爲す。 或求名而不得、或欲蓋而名章、懲不義也。齊豹爲衛司寇、守嗣大夫。守先人嗣、言其尊。 【読み】 或は名を求めんとして得ず、或は蓋わんと欲して名章るは、不義を懲らすなり。齊豹衛の司寇として、守嗣大夫なり。先人の嗣を守るとは、其の尊きを言うなり。 作而不義、其書爲盜、求名而不得也。二十年、豹殺衛侯兄、欲求不畏疆禦之名。 【読み】 作して不義なれば、其れ書されて盜と爲り、名を求めて得ざるなり。二十年、豹衛侯の兄を殺すは、疆禦を畏れざるの名を求めんと欲するなり。 邾庶其・ 在襄二十一年。 【読み】 邾の庶其・ 襄二十一年に在り。 莒牟夷・ 在五年。 【読み】 莒の牟夷・ 五年に在り。 邾黑肱以土地出、求食而已。不求其名、賤而必書。春秋叛者多。唯取三人、來適魯者。三人、皆小國大夫。故曰賤。 【読み】 邾の黑肱土地を以て出づるは、食を求めんとするのみ。其の名を求めざるも、賤しくして必ず書す。春秋に叛く者多し。唯三人を取るは、來りて魯に適く者なればなり。三人は、皆小國の大夫。故に賤と曰う。 此二物者、所以懲肆而去貪也。物、事也。肆、放也。齊豹書盜、懲肆也。三叛人名、去貪也。○去、上聲。 【読み】 此の二物は、肆を懲らして貪を去る所以なり。物は、事なり。肆は、放なり。齊豹を盜と書すは、肆を懲らすなり。三叛人に名いうは、貪を去るなり。○去は、上聲。 若艱難其身、身爲艱難。 【読み】 若し其の身に艱難をして、身艱難を爲す。 以險危大人、大人、在位者。 【読み】 以て大人を險危して、大人は、位に在る者。 而有名章徹、謂得勇名。 【読み】 名の章徹する有らば、勇名を得るを謂う。 攻難之士、將奔走之。攻、猶作也。奔走、猶赴趣也。○難、去聲。 【読み】 攻難の士、將に之に奔走せんとす。攻は、猶作すのごとし。奔走は、猶赴趣のごとし。○難は、去聲。 若竊邑叛君、以徼大利而無名、謂不書其人名。○徼、音澆。 【読み】 若し邑を竊み君に叛きて、以て大利を徼[もと]めて名無くば、其の人の名を書さざるを謂う。○徼は、音澆。 貪冒之民、將寘力焉。盡力爲之、不顧於見書。○冒、亡北反。又亡報反。 【読み】 貪冒の民、將に力を寘かんとす。力を盡くして之を爲して、書さるるを顧みず。○冒は、亡北反。又亡報反。 是以春秋書齊豹曰盜、三叛人名、以懲不義、數惡無禮。其善志也。無禮惡逆、皆數而不忘。記事之善者也。○數、所主反。 【読み】 是を以て春秋に齊豹を書して盜と曰い、三叛人に名いうは、以て不義を懲らして、惡無禮を數うるなり。其れ善志なり。無禮惡逆、皆數えて忘れず。事を記すの善き者なり。○數は、所主反。 故曰、春秋之稱、微而顯、文微而義著。○稱、尺證反。 【読み】 故に曰く、春秋の稱は、微にして顯、文微にして義著る。○稱は、尺證反。 婉而辨。辭婉而旨別。○別、彼列反。 【読み】 婉にして辨。辭婉にして旨別る。○別は、彼列反。 上之人能使昭明、上之人、謂在位者。在位者能行其法。非賤人所能。 【読み】 上の人能く昭明ならしめば、上の人とは、在位の者を謂う。在位の者にして能く其の法を行う。賤人の能くする所に非ず。 善人勸焉、淫人懼焉。是以君子貴之。 【読み】 善人は勸み、淫人は懼れん。是を以て君子之を貴ぶ、と。 十二月、辛亥、朔、日有食之。是夜也、趙簡子夢童子臝而轉以歌。轉、宛轉也。○臝、力果反。 【読み】 十二月、辛亥、朔、日之を食する有り。是の夜や、趙簡子夢みらく、童子臝[ら]にして轉じて以て歌う、と。轉は、宛轉なり。○臝は、力果反。 旦占諸史墨曰、吾夢如是、今而日食。何也。簡子夢適與日食會。謂咎在己。故問之。 【読み】 旦に諸を史墨に占いて曰く、吾が夢是の如くにして、今にして日食す。何ぞや、と。簡子の夢適々日食と會す。咎己に在りと謂えり。故に之を問う。 對曰、六年、及此月也、吳其入郢乎。終亦弗克。史墨知夢非日食之應。故釋日食之咎、而不釋其夢。○郢、以井反。又羊政反。 【読み】 對えて曰く、六年にして、此の月に及びて、吳其れ郢[えい]に入らんか。終に亦克たざらん。史墨夢は日食の應に非ざるを知る。故に日食の咎を釋きて、其の夢を釋かず。○郢は、以井反。又羊政反。 入郢必以庚辰。庚日有變。日在辰尾。故曰以庚辰。定四年十一月庚辰、吳入郢。 【読み】 郢に入るは必ず庚辰[かのえ・たつ]を以てせん。庚の日に變有り。日辰尾に在り。故に庚辰を以てせんと曰う。定四年十一月庚辰、吳郢に入れり。 日月在辰尾。辰尾、龍尾也。周十二月、今之十月。日月合朔於辰尾而食。 【読み】 日月辰尾に在り。辰尾は、龍尾なり。周の十二月は、今の十月。日月辰尾に合朔して食す。 庚午之日、日始有謫。火勝金。故弗克。謫、變氣也。庚午、十月十九日。去辛亥朔四十一日。雖食在辛亥、更以始變爲占也。午、南方。楚之位也。午、火。庚、金也。日以庚午有變。故災在楚。楚之仇敵唯吳。故知入郢必吳。火勝金者、金爲火妃。食在辛亥。亥、水也。水數六。故六年也。○謫、直革反。 【読み】 庚午[かのえ・うま]の日に、日始めて謫[たく]有り。火は金に勝つ。故に克たじ、と。謫は、變氣なり。庚午は、十月十九日。辛亥朔を去ること四十一日。食辛亥に在りと雖も、更に始變を以て占を爲すなり。午は、南方。楚の位なり。午は、火。庚は、金なり。日庚午を以て變有り。故に災楚に在り。楚の仇敵は唯吳のみなり。故に郢に入るは必ず吳ならんことを知る。火金に勝つとは、金は火の妃爲り。食辛亥に在り。亥は、水なり。水數は六。故に六年というなり。○謫は、直革反。 〔經〕三十有二年、春、王正月、公在乾侯。取闞。無傳。公別居乾侯、遣人誘闞而取之、不用師徒。○闞、口暫反。 【読み】 〔經〕三十有二年、春、王の正月、公乾侯に在り。闞[かん]を取る。傳無し。公別に乾侯に居り、人をして闞を誘きて之を取らしめて、師徒を用いざるなり。○闞は、口暫反。 夏、吳伐越。秋、七月。冬、仲孫何忌會晉韓不信・齊高張・宋仲幾・衛世叔申・鄭國參・曹人・莒人・薛人・杞人・小邾人城成周。世叔申、世叔儀孫也。國參、子產之子。不書盟、時公在外、未及告公、公已薨。○參、七南反。 【読み】 夏、吳越を伐つ。秋、七月。冬、仲孫何忌晉の韓不信・齊の高張・宋の仲幾・衛の世叔申・鄭の國參・曹人・莒人・薛人・杞人・小邾人[しょうちゅひと]に會して成周に城く。世叔申は、世叔儀の孫なり。國參は、子產の子。盟を書さざるは、時に公外に在りて、未だ公に告ぐるに及ばずして、公已に薨ずればなり。○參は、七南反。 十有二月、己未、公薨于乾侯。十五日。 【読み】 十有二月、己未[つちのと・ひつじ]、公乾侯に薨ず。十五日。 〔傳〕三十二年、春、王正月、公在乾侯、言不能外内、又不能用其人也。其人、謂子家羈也。言公不能用其人。故於今猶在乾侯。 【読み】 〔傳〕三十二年、春、王の正月、公乾侯に在りとは、外内に能からず、又其の人を用ゆること能わざるを言うなり。其の人とは、子家羈を謂うなり。言うこころは、公其の人を用ゆること能わず。故に今に於て猶乾侯に在り。 夏、吳伐越、始用師於越也。自此之前、雖疆事小爭、未嘗用大兵。 【読み】 夏、吳越を伐つは、始めて師を越に用ゆるなり。此より前は、疆事小爭すと雖も、未だ嘗て大兵を用いず。 史墨曰、不及四十年、越其有吳乎。存亡之數、不過三紀。歲星三周、三十六歲。故曰不及四十年。哀二十二年、越滅吳。至此三十八歲。 【読み】 史墨曰く、四十年に及ばずして、越其れ吳を有たんか。存亡の數、三紀に過ぎず。歲星三周すれば、三十六歲なり。故に四十年に及ばずと曰う。哀二十二年に、越吳を滅ぼす。此に至りて三十八歲なり。 越得歲而吳伐之。必受其凶。此年、歲在星紀。星紀、吳・越之分也。歲星所在、其國有福。吳先用兵。故反受其殃。 【読み】 越歲を得て吳之を伐つ。必ず其の凶を受けん、と。此の年、歲星紀に在り。星紀は、吳・越の分なり。歲星の在る所は、其の國福有り。吳先ず兵を用ゆ。故に反って其の殃を受くるなり。 秋、八月、王使富辛與石張如晉、請城成周。子朝之亂、其餘黨多在王城。敬王畏之、徙都成周。成周、狹小。故請城之。 【読み】 秋、八月、王富辛と石張とをして晉に如きて、成周に城かんことを請わしむ。子朝の亂に、其の餘黨多く王城に在り。敬王之を畏れ、都を成周に徙す。成周は、狹小。故に之に城かんことを請う。 天子曰、天降禍于周、俾我兄弟、竝有亂心、以爲伯父憂、俾、使也。兄弟、謂子朝也。伯父、謂晉侯。 【読み】 天子曰く、天禍を周に降して、我が兄弟をして、竝に亂心有りて、以て伯父の憂えを爲さしめ、俾は、使なり。兄弟は、子朝を謂うなり。伯父は、晉侯を謂うなり。 我一二親昵甥舅、不皇啓處、於今十年、謂二十三年、二師圍郊至于今。○昵、女乙反。 【読み】 我が一二の親昵[しんじつ]甥舅[せいきゅう]、啓處するに皇[いとま]あらざりしより、今に於て十年、二十三年、二師郊を圍みてより今に至るまでを謂う。○昵は、女乙反。 勤戍五年。謂二十八年、晉籍秦致諸侯之戍至于今。 【読み】 戍を勤むること五年。二十八年、晉の籍秦諸侯の戍を致してより今に至るまでを謂う。 余一人無日忘之、念諸侯勞。 【読み】 余一人日として之を忘れんこと無く、諸侯の勞を念う。 閔閔焉如農夫之望歲、懼以待時。閔閔、憂貌。王憂亂、常閔閔冀望安定、如農夫之憂饑、冀望來歲之將熟。 【読み】 閔閔焉として農夫の歲を望むが如くにして、懼れて以て時を待てり。閔閔は、憂うる貌。王亂を憂え、常に閔閔として安定を冀望すること、農夫の饑を憂え、來歲の將に熟せんとするを冀望するが如し。 伯父若肆大惠、復二文之業、弛周室之憂、肆、展放也。二文、謂文侯仇・文侯重耳。弛、猶解也。 【読み】 伯父若し大惠を肆[の]べ、二文の業を復し、周室の憂えを弛め、肆は、展放なり。二文は、文侯仇・文侯重耳を謂う。弛は、猶解くがごとし。 徼文・武之福、以固盟主、宣昭令名、則余一人有大願矣。昔成王合諸侯城成周、以爲東都、崇文德焉。作成周、遷殷民、以爲京師之東都、所以崇文王之德。○徼、古堯反。 【読み】 文・武の福を徼めて、以て盟主を固くし、令名を宣昭せんとならば、則ち余一人大願有り。昔成王諸侯を合わせて成周に城き、以て東都と爲して、文德を崇くせり。成周を作り、殷民を遷して、以て京師の東都と爲すは、文王の德を崇くする所以なり。○徼は、古堯反。 今我欲徼福假靈于成王、脩成周之城、俾戍人無勤。諸侯用寧、蝥賊遠屛、晉之力也。蝥賊、喩災害。○蝥、亡侯反。 【読み】 今我れ福を徼め成王に靈を假り、成周の城を脩め、戍人をして勤むること無からしめんことを欲す。諸侯用て寧く、蝥賊[ぼうぞく]遠く屛[しりぞ]かば、晉の力なり。蝥賊は、災害に喩う。○蝥は、亡侯反。 其委諸伯父、使伯父實重圖之。俾我一人無徵怨于百姓、徵、召也。○徵、張升反。 【読み】 其れ諸を伯父に委ねて、伯父をして實に之を重圖せしむ。我れ一人をして怨みを百姓に徵[め]すこと無からしめて、徵は、召すなり。○徵は、張升反。 而伯父有榮施、先王庸之。庸、功也。先王之靈、以爲大功。○施、式豉反。 【読み】 伯父榮施有らば、先王之を庸[いさおし]とせん、と。庸は、功なり。先王の靈、以て大功と爲さん。○施は、式豉反。 范獻子謂魏獻子曰、與其戍周、不如城之。天子實云。云欲罷戍而城。 【読み】 范獻子魏獻子に謂いて曰く、其の周を戍らんよりは、之に城くに如かず。天子實に云えり。戍を罷めて城かんと欲すと云えり。 雖有後事、晉勿與知、可也。從王命以紓諸侯、晉國無憂。是之不務、而又焉從事。魏獻子曰、善。 【読み】 後事有りと雖も、晉與り知ること勿からんも、可なり。王命に從いて以て諸侯を紓[ゆる]べば、晉國も憂え無からん。是を之れ務めずして、又焉[いずく]に事に從わん、と。魏獻子曰く、善し、と。 使伯音對、伯音、韓不信。○與、音預。紓、音舒。 【読み】 伯音をして對えしめて、伯音は、韓不信。○與は、音預。紓は、音舒。 曰、天子有命。敢不奉承、以奔告於諸侯。遲速衰序、衰、差也。序、次也。○衰、初危反。 【読み】 曰く、天子命有り。敢えて奉承して、以て奔りて諸侯に告げざらんや。遲速衰序は、衰は、差なり。序は、次なり。○衰は、初危反。 於是焉在。在周所命。 【読み】 是に於て在り、と。周の命ずる所に在り。 冬、十一月、晉魏舒・韓不信如京師、合諸侯之大夫于狄泉、尋盟、且令城成周。尋平丘盟。 【読み】 冬、十一月、晉の魏舒・韓不信京師に如き、諸侯の大夫を狄泉に合わせて、盟を尋[かさ]ね、且つ成周に城くことを令す。平丘の盟を尋ぬ。 魏子南面。居君位。 【読み】 魏子南面す。君位に居る。 衛彪徯曰、魏子必有大咎。干位以令大事、非其任也。彪徯、衛大夫。○彪、彼虯反。徯、音兮。 【読み】 衛の彪徯曰く、魏子必ず大咎有らん。位を干して以て大事を令するは、其の任に非ざるなり。彪徯は、衛の大夫。○彪は、彼虯反。徯は、音兮。 詩曰、敬天之怒、不敢戲豫。敬天之渝、不敢馳驅。詩、大雅。戒王者。言當敬畏天之譴怒、不可遊戲・逸豫・馳驅自恣。渝、變也。 【読み】 詩に曰く、天の怒りを敬して、敢えて戲豫せざれ。天の渝[か]わるを敬して、敢えて馳驅せざれ、と。詩は、大雅。王者を戒むるなり。言うこころは、當に天の譴怒を敬畏して、遊戲・逸豫・馳驅自ら恣にす可からざるべし。渝は、變わるなり。 況敢干位以作大事乎。 【読み】 況んや敢えて位を干して以て大事を作さんや、と。 己丑、士彌牟營成周。計丈數、計所當城之丈數也。 【読み】 己丑[つちのと・うし]、士彌牟成周を營む。丈數を計り、當に城くべき所の丈數を計るなり。 揣高卑、度高曰揣。○揣、丁果反。又初委反。 【読み】 高卑を揣[はか]り、高さを度るを揣[し]と曰う。○揣は、丁果反。又初委反。 度厚薄、仞溝洫、度深曰仞。 【読み】 厚薄を度り、溝洫を仞[はか]り、深さを度るを仞と曰う。 物土方、議遠邇、物、相也。相取土之方面、遠近之宜。○相、息亮反。 【読み】 土方を物[み]、遠邇を議り、物は、相[み]るなり。土を取るの方面、遠近の宜しきを相る。○相は、息亮反。 量事期、知事幾時畢。○幾、居豈反。下同。 【読み】 事期を量り、事の幾時にして畢わらんとを知る。○幾は、居豈反。下も同じ。 計徒庸、知用幾人功。 【読み】 徒庸を計り、幾人功を用ゆることを知る。 慮財用、知費幾材用。○費、芳貴反。 【読み】 財用を慮り、幾材用を費すことを知る。○費は、芳貴反。 書餱糧、知用幾量食。 【読み】 餱糧を書して、幾量食を用ゆることを知る。 以令役於諸侯、屬役賦丈、付所當城尺丈。○屬、之欲反。 【読み】 以て役を諸侯に令し、役を屬し丈を賦[くば]り、當に城くべき所の尺丈を付す。○屬は、之欲反。 書以授帥、帥、諸侯之大夫。○帥、所類反。 【読み】 書して以て帥に授けて、帥は、諸侯の大夫。○帥は、所類反。 而效諸劉子。效、致也。 【読み】 諸を劉子に效[いた]す。效は、致すなり。 韓簡子臨之、以爲成命。臨履其事、以命諸侯。經所以不書魏舒。 【読み】 韓簡子之に臨みて、以て命を成すことを爲せり。其の事に臨履して、以て諸侯に命ず。經に魏舒を書さざる所以なり。 十二月、公疾。徧賜大夫。從公者。○從、才用反。下同。 【読み】 十二月、公疾む。徧く大夫に賜う。公に從う者。○從は、才用反。下も同じ。 大夫不受。賜子家子雙琥・ 琥、玉器。 【読み】 大夫受けず。子家子に雙琥[そうこ]・ 琥は、玉器。 一環・一璧・輕服。細好之服。 【読み】 一環・一璧・輕服を賜う。細好の服。 受之。大夫皆受其賜。己未、公薨。子家子反賜於府人曰、吾不敢逆君命也。大夫皆反其賜。書曰公薨于乾侯、言失其所也。不薨路寢爲失所。 【読み】 之を受く。大夫皆其の賜を受く。己未、公薨ず。子家子賜を府人に反して曰く、吾は敢えて君命に逆わざらんとなり、と。大夫皆其の賜を反す。書して公乾侯に薨ずと曰うは、其の所を失えるを言うなり。路寢に薨ぜざるを所を失うと爲す。 趙簡子問於史墨曰、季氏出其君、而民服焉、諸侯與之、君死於外、而莫之或罪也。對曰、物生、有兩、有三、有五、有陪貳。故天有三辰。謂有三。 【読み】 趙簡子史墨に問いて曰く、季氏其の君を出だして、民服し、諸侯之に與し、君外に死して、之を罪すること或ること莫し、と。對えて曰く、物生ずれば、兩有り、三有り、五有り、陪貳有り。故に天に三辰有り。三有るを謂う。 地有五行。謂有五。 【読み】 地に五行有り。五有るを謂う。 體有左右。謂有兩。 【読み】 體に左右有り。兩有るを謂う。 各有妃耦。謂陪貳。○妃、音配。 【読み】 各々妃耦有り。陪貳を謂う。○妃は、音配。 王有公。諸侯有卿。皆有貳也。 【読み】 王に公有り。諸侯に卿有り。皆貳有るなり。 天生季氏以貳魯侯。爲日久矣。民之服焉、不亦宜乎。魯君世從其失、季氏世脩其勤。民忘君矣。雖死於外、其誰矜之。社稷無常奉、 【読み】 天季氏を生じて以て魯侯に貳とす。日爲ること久し。民の服する、亦宜ならずや。魯の君は世々其の失を從[ほしいまま]にし、季氏は世々其の勤めを脩む。民君を忘れたり。外に死すと雖も、其れ誰か之を矜[あわ]れまん。社稷は常奉無く、 *頭注に、「從、本作縱。」とある。 君臣無常位。自古以然。史墨跡古今以實言。 【読み】 君臣は常位無し。古より以[すで]に然り。史墨古今を跡[たず]ねて以て言を實にす。 故詩曰、高岸爲谷、深谷爲陵。詩、小雅。言高下有變易。 【読み】 故に詩に曰く、高岸は谷と爲り、深谷は陵に爲る、と。詩は、小雅。言うこころは、高下變易有り。 三后之姓、於今爲庶。主所知也。三后、虞・夏・商。 【読み】 三后の姓も、今に於て庶と爲るあり。主の知れる所なり。三后は、虞・夏・商。 在易卦、雷乘乾曰大壯。乾下震上、大壯。震在乾上。故曰雷乘乾。 【読み】 易卦に在り、雷乾に乘るを大壯と曰う。乾下震上は、大壯。震乾の上に在り。故に雷乾に乘ると曰う。 天之道也。乾爲天子、震爲諸侯。而在乾上、君臣易位。猶臣大强壯、若天上有雷。 【読み】 天の道なり。乾を天子と爲し、震を諸侯と爲す。而るに乾の上に在りて、君臣位を易う。猶臣の大强壯、天上に雷有るが若し。 昔成季友、桓之季也。文姜之愛子也。始震而卜。卜人謁之曰、生有嘉聞。嘉名聞於世。○震、如字。一音身。聞、音問。 【読み】 昔成季友は、桓の季なり。文姜の愛子なり。始めて震[はら]みて卜す。卜人之を謁[つ]げて曰く、生まれて嘉聞有らん。嘉名世に聞こゆ。○震は、字の如し。一音身。聞は、音問。 其名曰友、爲公室輔。及生如卜人之言。有文在其手曰友。遂以名之。旣而有大功於魯、立僖公。○名之、武政反。 【読み】 其の名を友と曰い、公室の輔と爲らん、と。生まるるに及びて卜人の言の如し。文の其の手に在る有りて友と曰いぬ。遂に以て之に名づけり。旣にして魯に大功有りて、僖公を立つ。○名之は、武政反。 受費以爲上卿。至於文子・武子、文子、行父。武子、宿。○費、音祕。 【読み】 費を受けて以て上卿と爲れり。文子・武子に至るまで、文子は、行父。武子は、宿。○費は、音祕。 世增其業、不廢舊績。魯文公薨、而東門遂殺適立庶、魯君於是乎失國。失國權。 【読み】 世々其の業を增し、舊績を廢てず。魯の文公薨じて、東門遂適を殺し庶を立て、魯の君是に於て國を失えり。國權を失う。 政在季氏、於此君也四公矣。民不知君。何以得國。是以爲君、愼器與名。不可以假人。器、車服。名、爵號。 【読み】 政季氏に在ること、此の君に於て四公なり。民君を知らず。何を以て國を得ん。是を以て君と爲りては、器と名とを愼む。以て人に假す可からず、と。器は、車服。名は、爵號。 昭 經二十七年。吳弑。申志反。注同。君僚。力彫反。亟。欺冀反。殺。始察反。信近。附近之近。祁犂。力兮反。又力之反。扈。音戶。曹伯午。音五。邾快。苦夬反。 傳。掩餘。於檢反。後復。扶又反。莠尹。由九反。沈尹戌。音恤。校人。胡孝反。沙汭。如銳反。以殺。申志反。下文同。○今本弑。上國有言。賈云、上國與中國同。服云、上古國也。不索。所白反。堀室。本又作窟。同。掘。其勿反。又其月反。夾之。古洽反。又古協反。下同。恐難。乃旦反。寘劒。之豉反。炙。章夜反。抽劒。勑留反。刺王。七亦反。闔廬。戶臘反。相傳。直專反。立適。丁歷反。使命。所吏反。說之。音悅。賄而。呼罪反。譖郤。側鴆反。好甲。呼報反。羣帥。所類反。一編。必然反。又必干反。秉秆。一音古旦反。苫也。式占反。李巡云、編菅茅以覆屋曰苫。把。必馬反。稾。古老反。炮之。陟交反。又彭交反。燔。音煩。及佗。徒河反。匃。古害反。堅守。手又反。近鄆。附近之近。之難。之旦反。年末同。進胙。才故反。詛也。側慮反。中廐。九又反。謗讟。音獨。邇近。附近之近。將焉。於虔反。矯子。居表反。不愆。起虔反。疆埸。居良反。下音亦。在坐。才臥反。 經二十八年。斥丘。音尺。一音昌夜反。竟。音境。傳同。 傳。一个。古賀反。注同。單使。所吏反。逆著。一音直略反。祁勝。巨支反。字林云、大原縣。上尸反。鄔臧。舊烏戶反。又音偃。案地名在周者烏戶反。隱十一年、王取鄔留是也。在鄭者音偃。成十六年、戰于鄢陵是也。在楚者音於建反。又音偃。昭十三年、王沿夏將入鄢是也。在晉者音於庶反。字林、乙袪反。郭璞三倉解詁、音瘀。於庶反。闞駰、音厭飫之飫。重言之大原有鄔縣。唯周地者從烏。餘皆從焉。字林、亦作■(左が阝で右が焉)。音同。傳云、分祁氏之田以爲七縣、司馬彌牟爲鄔大夫、卽大原縣也。鄔臧宜以邑爲氏。音於庶反。舊音誤。實蕃。音煩。多僻。本又作辟。○今本亦辟。無與。音預。爲之。于僞反。叔向。許丈反。欲娶。七住反。夏姬。戶雅反。下皆同。庶鮮。息淺反。注同。吾懲。直升反。妾媵。繩證反。又時證反。少妃。詩照反。黰黑。說文作■(診の右側)。又作鬒。云、稠髮也。以鑑。古暫反。鏡也。后夔。求龜反。君長。丁丈反。無饜。本又作厭。忿纇。本又作類。服作類。簒夏。初患反。共子。本亦作恭。末喜。本或作嬉。音同。國語云、桀伐有施。有施氏以末喜女焉。韋昭注漢書云、嬉、姓也。○今本末作妹。妲己。丁達反。下音几。國語云、有蘇氏之女也。韋昭云、己、姓也。襃姒。音似。龍漦所生、襃人所養者也。毛詩云、姒、姓也。鄭箋云、姒、字也。孋姬。本又作麗。亦作驪。同。力知反。獻公伐驪戎所得、而以爲夫人。穀梁傳云、滅虢所得。莊子云、艾封人之子。○今本亦驪。叔向嫂。素早反。兄妻也。依字宜如此。豺。本又作犲。同。仕皆反。莫喪。息浪反。梗陽。古沓反。盂。音于。下文同。魏戊。音茂。知徐。音智。楡次。資利反。又如字。樂霄。音消。僚安。力彫反。不偪。彼力反。唯此文王。詩作唯此王季。克長。丁丈反。下及注同。帝祉。音恥。應和。應對之應。下如字。又胡臥反。徧服。音遍。注同。悔吝。力刃反。近文。附近之近。以上。時掌反。下幷注同。娶妻。七住反。爲妻。于僞反。射雉。食亦反。夫。音扶。颺。餘常反。毋墮。音無。閻沒。以占反。饋入。求位反。比置。必利反。令坐。力呈反。自咎。其九反。軍帥。所類反。本又作率。同。 經二十九年。唁。音彥。復不。扶又反。 傳。故復。扶又反。召伯。上照反。具從。才用反。衣屨。九具反。塹而。七豔反。隋塹。徒火反。將爲。如字。一音于僞反。櫝。徒木反。爲作。于僞反。下同。帷裹。古火反。有裔。以制反。有夏。戶雅反。下皆同。少康。詩照反。下少皞同。河漢各二。服云、河漢各二乘。所治。直吏反。復承。扶又反。朝夕。如字。下朝夕見同。鬱堙。○今本湮。君長。丁丈反。下皆同。祀犂。力兮反。蓐收。本又作辱。玄冥。亡丁反。在乾。其連反。本亦作■。巽下。音遜。爻辭。戶交反。兌上。徒外反。亢龍。苦浪反。其巛。本又作坤。空門反。○今本亦坤。之剝。邦角反。艮上。古恨反。曰該。古咳反。顓。音專。頊。許玉反。共工。音恭。大皞。音泰。烈山。如字。禮記、作厲山。以上。時掌反。汝濱。音賓。中行。戶郎反。以鑄。之樹反。計令。力呈反。被廬。力居反。文公搜。本又作蒐。所求反。○今本亦蒐。中軍帥。所類反。擅作。市戰反。今復。扶又反。其咎。其九反。 經三十年。去疾。起呂反。 傳。且徵。本或作懲、誤。非復。扶又反。嘉好。呼報反。輓索。本又作挽。下悉各反。印段。一刃反。少卿。詩照反。注同。女盍。胡臘反。下同。有省。所景反。下同。於竟。音境。莠尹。音誘。吾好。一本作若好吾。○今本亦同。邊疆。居良反。以重。直用反。之冑。直又反。大王。音泰。翦喪。息浪反。以祚。才故反。姑億。於力反。防壅。於勇反。以灌。古亂反。莫適。丁歷反。以肄。本又作肆。數也。所角反。 經三十一年。荀躒。力狄反。適歷。丁歷反。 傳。無咎。其九反。下注放此。爲子。于僞反。出君。如字。又勑律反。之好。呼報反。施及。以豉反。宗祧。他彫反。夫人。音扶。下及注同。敢復。扶又反。義疚。久又反。懲不義。直升反。下同。以徼。古堯反。將寘。之豉反。婉而。於阮反。臝而。本又作裸。之應。應對之應。 經三十二年。 傳。疆事。居良反。小爭。爭鬭之爭。之分。扶問反。其殃。於良反。狹小。音洽。俾我。本又作卑。同。必爾反。注同。弛周。式氏反。注同。重耳。直龍反。又焉。於虔反。大咎。其九反。之渝。羊朱反。譴怒。弃戰反。度高。待洛反。下文及注同。仞溝。本又作刃。而愼反。洫。況域反。糇。音侯。本又作餱。○今本亦餱。糧。音良。而效。戶孝反。致也。徧賜。音遍。雙琥。音虎。陪貳。蒲回反。世從。本又作縱。殺適。丁歷反。
春秋左氏傳校本第二十七 定公 起元年盡七年 晉 杜氏 集解 唐 陸氏 音義 尾張 秦 鼎 校本 定公 名、宋。襄公之子。昭公之弟。謚法、安民大慮曰定。 【読み】 定公 名は、宋。襄公の子。昭公の弟。謚法に、民を安んじ大慮するを定と曰う、と。 〔經〕元年、春、王 公之始年、而不書正月、公卽位在六月故。 【読み】 〔經〕元年、春、王の 公の始年にして、正月を書さざるは、公の位に卽くことは六月に在る故なり。 三月、晉人執宋仲幾于京師。晉執人于天子之側、而不以歸京師。故但書其執、不書所歸。○幾、音機。 【読み】 三月、晉人宋の仲幾を京師に執う。晉人を天子の側に執えて、以て京師に歸[おく]らず。故に但其の執うるを書して、歸る所を書さず。○幾は、音機。 夏、六月、癸亥、公之喪至自乾侯。告於廟。故書至。 【読み】 夏、六月、癸亥[みずのと・い]、公の喪乾侯より至る。廟に告ぐ。故に至るを書す。 戊辰、公卽位。定公不得以正月卽位、失其時。故詳而日之。記事之宜。無義例。 【読み】 戊辰[つちのえ・たつ]、公位に卽く。定公正月を以て位に卽くことを得ず、其の時を失う。故に詳らかにして之に日す。事を記すの宜しきなり。義例無し。 秋、七月、癸巳、葬我君昭公。公在外薨。故八月乃葬。 【読み】 秋、七月、癸巳[みずのと・み]、我が君昭公を葬る。公外に在りて薨ず。故に八月にして乃ち葬る。 九月、大雩。無傳。過也。○雩、音于。 【読み】 九月、大いに雩[う]す。傳無し。過ぐるなり。○雩は、音于。 立煬宮。煬公、伯禽子也。其廟已毀。季氏禱之、而立其宮。書以譏之。○煬、羊讓反。 【読み】 煬宮を立つ。煬公は、伯禽の子なり。其の廟已に毀つ。季氏之に禱りて、其の宮を立つ。書して以て之を譏る。○煬は、羊讓反。 冬、十月、隕霜殺菽。無傳。周十月、今八月。隕霜殺菽、非常之災。○菽、本又作叔。 【読み】 冬、十月、隕霜菽を殺[か]らす。傳無し。周の十月は、今の八月。隕霜菽を殺らすは、非常の災なり。○菽は、本又叔に作る。 〔傳〕元年、春、王正月、辛巳、晉魏舒合諸侯之大夫于狄泉、將以城成周。魏子涖政。涖、臨也。代天子大夫爲政。 【読み】 〔傳〕元年、春、王の正月、辛巳[かのと・み]、晉の魏舒諸侯の大夫を狄泉に合わせ、將に以て成周に城かんとす。魏子政に涖[のぞ]む。涖は、臨むなり。天子の大夫に代わりて政を爲す。 衛彪傒 衛大夫。 【読み】 衛の彪傒 衛の大夫。 曰、將建天子、立天子之居。 【読み】 曰く、將に天子を建てんとして、天子の居を立つるなり。 而易位以令、非義也。大事奸義、必有大咎。晉不失諸侯、魏子其不免乎。 【読み】 位を易えて以て令するは、義に非ざるなり。大事に義を奸せば、必ず大咎有り。晉諸侯を失わずんば、魏子其れ免れざらんか、と。 是行也、魏獻子屬役於韓簡子及原壽過、簡子、韓起孫、不信也。原壽過、周大夫。○屬、之欲反。過、古禾反。 【読み】 是の行や、魏獻子役を韓簡子と原壽過とに屬して、簡子は、韓起の孫、不信なり。原壽過は、周の大夫。○屬は、之欲反。過は、古禾反。 而田於大陸、焚焉。禹貢、大陸、在鉅鹿北、嫌絕遠。疑此田在汲郡吳澤荒蕪之地。火田幷見燒也。爾雅、廣平曰陸。 【読み】 大陸に田[かり]し、焚かれぬ。禹貢に、大陸は、鉅鹿の北に在れば、絕遠に嫌あり。疑うらくは此の田は汲郡吳澤荒蕪の地に在らん。火田して幷せて燒かるるなり。爾雅に、廣平を陸と曰う、と。 還、卒於甯。甯、今脩武縣。近吳澤。 【読み】 還り、甯[ねい]に卒す。甯は、今の脩武縣。吳澤に近し。 范獻子去其柏槨。以其未復命而田也。范獻子代魏子爲政。去其柏槨、示貶之。○去、起呂反。 【読み】 范獻子其の柏槨を去[す]つ。其の未だ復命せずして田するを以てなり。范獻子魏子に代わりて政を爲す。其の柏槨を去つるは、之を貶するを示すなり。○去は、起呂反。 孟懿子會城成周。不書、公未卽位。 【読み】 孟懿子成周に城くに會す。書さざるは、公未だ位に卽かざればなり。 庚寅、栽。栽、設版築。○栽、才代反。又音再。 【読み】 庚寅[かのえ・とら]に、栽す。栽は、版築を設くるなり。○栽は、才代反。又音再。 宋仲幾不受功、曰、滕・薛・郳、吾役也。欲使三國代宋受功役也。○郳、五兮反。小邾國。 【読み】 宋の仲幾功を受けずして、曰く、滕・薛・郳[げい]は、吾が役なり。三國をして宋に代わりて功役を受けしめんと欲するなり。○郳は、五兮反。小邾國。 薛宰曰、宋爲無道、絕我小國於周、以我適楚。故我常從宋。晉文公爲踐土之盟、在僖二十八年。 【読み】 薛の宰曰く、宋無道を爲し、我が小國を周に絕ち、我を以[い]て楚に適きぬ。故に我れ常に宋に從えり。晉の文公踐土の盟を爲して、僖二十八年に在り。 曰、凡我同盟、各復舊職。若從踐土。若從宋。亦唯命。仲幾曰、踐土固然。固曰從舊。薛、舊爲宋役。 【読み】 曰く、凡そ我が同盟、各々舊職に復せよ、と。若しくは踐土に從わんか。若しくは宋に從わんか。亦唯命のままなり、と。仲幾曰く、踐土固より然り、と。固より舊に從えと曰えり。薛は、舊宋の役爲り。 薛宰曰、薛之皇祖奚仲居薛、以爲夏車正、皇、大也。奚仲爲夏禹掌車服大夫。 【読み】 薛の宰曰く、薛の皇祖奚仲薛に居りて、以て夏の車正と爲り、皇は、大なり。奚仲夏禹の車服を掌る大夫爲り。 奚仲遷于邳、邳、下邳縣。 【読み】 奚仲邳[ひ]に遷り、邳は、下邳縣。 仲虺居薛、以爲湯左相。仲虺、奚仲之後。 【読み】 仲虺[ちゅうき]薛に居りて、以て湯の左相爲り。仲虺は、奚仲の後。 若復舊職、將承王官。何故以役諸侯。承、奉也。 【読み】 若し舊職に復せば、將に王官に承けんとす。何の故にして以て諸侯に役せん、と。承は、奉ずるなり。 仲幾曰、三代各異物。薛焉得有舊。言居周世、不得以夏・殷爲舊。 【読み】 仲幾曰く、三代各々物を異にす。薛焉ぞ舊有ることを得ん。言うこころは、周の世に居りては、夏・殷を以て舊爲ることを得ず。 爲宋役、亦其職也。士彌牟曰、晉之從政者新。言范獻子新爲政、未習故事。 【読み】 宋の役爲るも、亦其の職なり、と。士彌牟曰く、晉の政に從う者新たなり。言うこころは、范獻子新たに政を爲して、未だ故事に習わず。 子姑受功。歸、吾視諸故府。求故事。 【読み】 子姑く功を受けよ。歸りて、吾れ諸を故府に視ん、と。故事を求めんとす。 仲幾曰、縱子忘之、山川鬼神其忘諸乎。山川鬼神、盟所告。 【読み】 仲幾曰く、縱[たと]い子之を忘るるも、山川鬼神其れ諸を忘れんや、と。山川鬼神は、盟して告ぐる所。 士伯怒。謂韓簡子曰、薛徵於人、典籍故事、人所知也。 【読み】 士伯怒る。韓簡子に謂いて曰く、薛は人に徵[あ]かし、典籍の故事は、人の知る所なり。 宋徵於鬼。取證於鬼神。 【読み】 宋は鬼に徵かす。證を鬼神に取る。 宋罪大矣。且己無辭而抑我以神、誣我也。啓寵納侮、其此之謂矣。啓寵過分、則納受侵侮。 【読み】 宋の罪大なり。且つ己辭無くして我を抑うるに神を以てするは、我を誣うるなり。寵を啓[ひら]けば侮りを納るとは、其れ此を之れ謂うなり。寵を啓くこと分に過ぐれば、則ち侵侮を納れ受く。 必以仲幾爲戮。乃執仲幾以歸。三月、歸諸京師。知以歸不可。故復歸之京師。 【読み】 必ず仲幾を以て戮することをせん、と。乃ち仲幾を執えて以[い]て歸る。三月、諸を京師に歸[おく]る。以て歸るの不可なるを知る。故に復之を京師に歸る。 城三旬而畢。乃歸諸侯之戍。 【読み】 城三旬にして畢わる。乃ち諸侯の戍を歸す。 齊高張後、不從諸侯。後期不及諸侯之役。 【読み】 齊の高張後れて、諸侯に從わず。期に後れて諸侯の役に及ばず。 晉女叔寬曰、周萇弘・齊高張、皆將不免。叔寬、女寬也。○萇、直良反。 【読み】 晉の女叔寬曰く、周の萇弘・齊の高張は、皆將に免れざらんとす。叔寬は、女寬なり。○萇は、直良反。 萇叔違天、高子違人。天旣厭周德、萇弘欲遷都以延其祚。故曰違天。諸侯相帥、以崇天子。而高子後期。故曰違人。 【読み】 萇叔は天に違い、高子は人に違う。天旣に周の德を厭うに、萇弘都を遷して以て其の祚を延べんと欲す。故に天に違うと曰う。諸侯相帥いて、以て天子を崇む。而るに高子期に後る。故に人に違うと曰う。 天之所壞、不可支也。衆之所爲、不可奸也。爲哀三年、周人殺萇弘、六年、高張來奔起。 【読み】 天の壞[やぶ]る所は、支う可からざるなり。衆の爲す所は、奸す可からざるなり、と。哀三年、周人萇弘を殺し、六年、高張來奔する爲の起なり。 夏、叔孫成子逆公之喪于乾侯。成子、叔孫婼之子。 【読み】 夏、叔孫成子公の喪を乾侯に逆[むか]う。成子は、叔孫婼[しゅくそんちゃく]の子。 季孫曰、子家子亟言於我。未嘗不中吾志也。吾欲與之從政。子必止之。且聽命焉。衆事皆諮問子家子。○亟、去聲。 【読み】 季孫曰く、子家子亟[しば]々我に言あり。未だ嘗て吾が志に中らずんばあらず。吾れ之と政に從わんと欲す。子必ず之を止めよ。且つ命を聽け、と。衆事皆子家子に諮問せよ、と。○亟は、去聲。 子家子不見叔孫、易幾而哭。幾、哭會也。不欲見叔孫。故朝夕哭不同會。 【読み】 子家子叔孫を見ず、幾を易えて哭す。幾は、哭の會なり。叔孫を見んことを欲せず。故に朝夕の哭同じく會せず。 叔孫請見子家子。子家子辭曰、羈未得見、而從君以出、出時成子未爲卿。○羈、居宜反。子家子名。得見、音現。從、才用反。下同。 【読み】 叔孫子家子を見んことを請う。子家子辭して曰く、羈未だ見ることを得ずして、君に從いて以て出で、出づる時成子未だ卿と爲らず。○羈は、居宜反。子家子の名。得見は、音現。從は、才用反。下も同じ。 君不命而薨。羈不敢見。言未受昭公之命。託辭以距叔孫。 【読み】 君命ぜずして薨ぜり。羈敢えて見えじ、と。言うこころは、未だ昭公の命を受けず。託辭して以て叔孫を距む。 叔孫使告之曰、公衍・公爲實使羣臣不得事君。二子始謀逐季氏。 【読み】 叔孫之に告げしめて曰く、公衍・公爲は實に羣臣をして君に事うることを得ざらしめり。二子始謀して季氏を逐う。 若公子宋主社稷、則羣臣之願也。宋、昭公弟、定公。 【読み】 若し公子宋社稷に主たらば、則ち羣臣の願いなり。宋は、昭公の弟、定公なり。 凡從君出而可以入者、將唯子是聽。子家氏未有後。季孫願與子從政。此皆季孫之願也。使不敢以告。不敢、叔孫成子名。 【読み】 凡そ君に從いて出でて以て入る可き者は、將に唯子に是れ聽かんとす。子家氏未だ後有らず。季孫子と政に從わんことを願う。此れ皆季孫の願いなり。不敢をして以て告げしむ、と。不敢は、叔孫成子の名。 對曰、若立君、則有卿士大夫與守龜在。羈弗敢知。若從君者、則貌而出者、入可也。貌出、謂以義從公、與季氏無實怨。○守、手又反。 【読み】 對えて曰く、君を立つるが若きは、則ち卿士大夫と守龜との在る有り。羈敢えて知らず。君に從う者の若きは、則ち貌にして出づる者は、入らんこと可なり。貌にして出づとは、義を以て公に從いて、季氏と實怨無きを謂う。○守は、手又反。 寇而出者、行可也。與季氏爲寇讎者、自可去。 【読み】 寇にして出づる者は、行[さ]らんこと可なり。季氏と寇讎爲る者は、自ら去る可し。 若羈也、則君知其出也、君、昭公。 【読み】 羈が若きは、則ち君其の出でしことを知れども、君は、昭公。 而未知其入也。羈將逃也。 【読み】 而れども未だ其の入ることを知らざるなり。羈は將に逃れんとす、と。 喪及壞隤。公子宋先入。從公者皆自壞隤反。出奔。○壞、音懷。又去聲。隤、音頹。 【読み】 喪壞隤[かいたい]に及ぶ。公子宋先ず入る。公に從う者皆壞隤より反る。出奔す。○壞は、音懷。又去聲。隤は、音頹。 六月、癸亥、公之喪至自乾侯。戊辰公卽位。諸侯薨、五日而殯。殯則嗣子卽位。癸亥、昭公喪至、五日殯於宮、定公乃卽位。 【読み】 六月、癸亥、公の喪乾侯より至る。戊辰公位に卽く。諸侯の薨ずるは、五日にして殯す。殯すれば則ち嗣子位に卽く。癸亥に、昭公の喪至り、五日にして宮に殯し、定公乃ち位に卽く。 季孫使役如闞公氏、將溝焉。闞、魯羣公墓所在也。季孫惡昭公、欲溝絕其兆域、不使與先君同。○闞、口暫反。惡、去聲。又如字。 【読み】 季孫役をして闞[かん]の公氏に如かしめ、將に溝ほらんとす。闞は、魯の羣公の墓の在る所なり。季孫昭公を惡み、溝して其の兆域を絕ち、先君と同じからしめざらんと欲す。○闞は、口暫反。惡は、去聲。又字の如し。 榮駕鵝曰、生不能事、死又離之、以自旌也。駕鵝、魯大夫、榮成伯也。旌、章也。○駕、音加。鵞、五何反。 【読み】 榮駕鵝曰く、生けるとき事うること能わず、死して又之を離つは、以て自ら旌[あらわ]すなり。駕鵝は、魯の大夫、榮成伯なり。旌は、章すなり。○駕は、音加。鵞は、五何反。 縱子忍之、後必或恥之。乃止。 【読み】 縱い子之を忍ぶとも、後必ず之を恥ずること或らん、と。乃ち止む。 季孫問於榮駕鵝曰、吾欲爲君謚、使子孫知之。爲惡謚。 【読み】 季孫榮駕鵝に問いて曰く、吾れ君の謚を爲り、子孫をして之を知らしめんと欲す、と。惡謚を爲るなり。 對曰、生弗能事、死又惡之、以自信也。將焉用之。乃止。 【読み】 對えて曰く、生けるとき事うること能わず、死して又之を惡しくするは、以て自ら信にするなり。將に焉[いずく]に之を用いんとする、と。乃ち止む。 秋、七月、癸巳、葬昭公於墓道南。孔子之爲司寇也、溝而合諸墓。明臣無貶君之義。○惡、如字。又去聲。 【読み】 秋、七月、癸巳、昭公を墓道の南に葬る。孔子の司寇爲るや、溝して諸を墓に合わせり。臣君を貶するの義無きを明らかにするなり。○惡は、字の如し。又去聲。 昭公出故、季平子禱于煬公。九月、立煬宮。平子逐君、懼而請禱於煬公、昭公死於外。自以爲獲福。故立其宮。 【読み】 昭公出づる故に、季平子煬公に禱る。九月、煬宮を立つ。平子君を逐いて、懼れて煬公に請禱して、昭公外に死す。自ら福を獲たりと以爲えり。故に其の宮を立つ。 周鞏簡公棄其子弟、而好用遠人。簡公、周卿士。遠人、異族也。爲明年、鞏氏賊簡公張本。○好、去聲。 【読み】 周の鞏簡公[きょうかんこう]其の子弟を棄てて、遠人を用ゆることを好む。簡公は、周の卿士。遠人は、異族なり。明年、鞏氏簡公を賊する爲の張本なり。○好は、去聲。 〔經〕二年、春、王正月。夏、五月、壬辰、雉門及兩觀災。無傳。雉門、公宮之南門。兩觀、闕也。天火曰災。○觀、古亂反。 【読み】 〔經〕二年、春、王の正月。夏、五月、壬辰[みずのえ・たつ]、雉門と兩觀と災あり。傳無し。雉門は、公宮の南門。兩觀は、闕なり。天火を災と曰う。○觀は、古亂反。 秋、楚人伐吳。囊瓦稱人、見誘以敗軍。 【読み】 秋、楚人吳を伐つ。囊瓦人と稱するは、誘かれて以て軍を敗ればなり。 冬、十月、新作雉門及兩觀。無傳。 【読み】 冬、十月、新たに雉門と兩觀とを作る。傳無し。 〔傳〕二年、夏、四月、辛酉、鞏氏之羣子弟賊簡公。傳言棄親用疏、所以敗也。 【読み】 〔傳〕二年、夏、四月、辛酉[かのと・とり]、鞏氏[きょうし]の羣子弟簡公を賊す。傳親を棄て疏を用ゆるは、敗るる所以なるを言うなり。 桐叛楚。桐、小國。廬江舒縣西南有桐郷。 【読み】 桐楚に叛く。桐は、小國。廬江舒縣の西南に桐郷有り。 吳子使舒鳩氏誘楚人、舒鳩、楚屬國。 【読み】 吳子舒鳩氏をして楚人を誘かしめて、舒鳩は、楚の屬國。 曰、以師臨我。敎舒鳩誘楚、使以師臨吳。 【読み】 曰く、師を以て我に臨ませよ。舒鳩に敎えて楚を誘かせて、師を以て吳に臨ましむ。 我伐桐。爲我使之無忌。吳伐桐也。僞若畏楚師之臨己、而爲伐其叛國以取媚者也。欲使楚不忌吳。所謂多方以誤之。○爲我、于僞反。下同。 【読み】 我れ桐を伐たん。我が爲に之をして忌むこと無からしめよ、と。吳桐を伐つなり。僞りて楚の師の己に臨むを畏れて、爲に其の叛國を伐ちて以て媚を取る者の若くす。楚をして吳を忌まざらしめんと欲するなり。所謂多方以て之を誤らすなり。○爲我は、于僞反。下も同じ。 秋、楚囊瓦伐吳、師于豫章。從舒鳩言。 【読み】 秋、楚の囊瓦吳を伐ちて、豫章に師す。舒鳩の言に從う。 吳人見舟于豫章、僞將爲楚伐桐。○見、賢遍反。 【読み】 吳人舟を豫章に見[しめ]して、僞りて將に楚の爲に桐を伐たんとす。○見は、賢遍反。 而潛師于巢。實欲以擊楚。 【読み】 潛[ひそ]かに巢に師す。實は以て楚を擊たんと欲す。 冬、十月、吳軍楚師于豫章、敗之、楚不忌故。 【読み】 冬、十月、吳楚の師に豫章に軍して、之を敗り、楚忌まざる故なり。 遂圍巢、克之、獲楚公子繁。繁、守巢大夫。 【読み】 遂に巢を圍みて、之に克ち、楚の公子繁を獲たり。繁は、巢を守る大夫。 邾莊公與夷射姑飮酒。私出。射姑、邾大夫。出、辟酒。○射、音亦。一音夜。 【読み】 邾の莊公夷射姑[いえきこ]と酒を飮む。私に出づ。射姑は、邾の大夫。出づるは、酒を辟くるなり。○射は、音亦。一に音夜。 閽乞肉焉。奪之杖以敲之。奪閽杖以敲閽頭也。爲明年、邾子卒傳。○敲、苦孝反。又苦學反。又口交反。 【読み】 閽肉を乞う。之が杖を奪いて以て之を敲[たた]きぬ。閽が杖を奪いて以て閽が頭を敲くなり。明年、邾子卒する爲の傳なり。○敲は、苦孝反。又苦學反。又口交反。 〔經〕三年、春、王正月、公如晉。至河乃復。無傳。 【読み】 〔經〕三年、春、王の正月、公晉に如く。河に至りて乃ち復る。傳無し。 二月、辛卯、邾子穿卒。再同盟。 【読み】 二月、辛卯[かのと・う]、邾子穿卒す。再び同盟す。 夏、四月。秋、葬邾莊公。六月乃葬。緩。 【読み】 夏、四月。秋、邾の莊公を葬る。六月にして乃ち葬る。緩[おそ]きなり。 冬、仲孫何忌及邾子盟于拔。拔、地闕。○拔、皮八反。 【読み】 冬、仲孫何忌邾子と拔に盟う。拔は、地闕く。○拔は、皮八反。 〔傳〕三年、春、二月、辛卯、邾子在門臺、門上有臺。 【読み】 〔傳〕三年、春、二月、辛卯、邾子門臺に在り、門上に臺有り。 臨廷。閽以缾水沃廷。邾子望見之、怒。閽曰、夷射姑旋焉。旋、小便。 【読み】 廷に臨む。閽缾水[へいすい]を以て廷に沃[そそ]ぐ。邾子之を望み見て、怒る。閽曰く、夷射姑旋[ゆばり]す、と。旋は、小便。 命執之。見其不潔、執射姑。 【読み】 命じて之を執えしむ。其の不潔を見て、射姑を執えんとす。 弗得。滋怒。自投于牀、廢于鑪炭、爛遂卒。廢、隋也。○鑪、力吳反。隋、徒火反。 【読み】 得ず。滋々怒る。自ら牀より投じて、鑪炭に廢[お]ち、爛れて遂に卒す。廢は、隋[お]つるなり。○鑪は、力吳反。隋は、徒火反。 先葬以車五乘・殉五人。欲藏中之潔。故先内車及殉、別爲便房。蓋其遺命。○先、悉薦反。又如字。藏、才浪反。 【読み】 葬に先んずるに車五乘・殉五人を以てす。藏中の潔を欲す。故に先ず車と殉とを内れ、別に便房を爲す。蓋し其れ遺命ならん。○先は、悉薦反。又字の如し。藏は、才浪反。 莊公卞急而好潔。故及是。卞、躁疾也。 【読み】 莊公卞急[べんきゅう]にして潔を好む。故に是に及べり。卞は、躁疾なり。 秋、九月、鮮虞人敗晉師于平中、平中、晉地。 【読み】 秋、九月、鮮虞人晉の師を平中に敗り、平中は、晉の地。 獲晉觀虎。恃其勇也。爲五年、士鞅圍鮮虞張本。 【読み】 晉の觀虎を獲たり。其の勇を恃めばなり。五年、士鞅鮮虞を圍む爲の張本なり。 冬、盟于郯、郯、卽拔也。 【読み】 冬、郯[たん]に盟うは、郯は、卽ち拔なり。 脩邾好也。公卽位。故脩好。 【読み】 邾の好を脩むるなり。公位に卽く。故に好を脩む。 蔡昭侯爲兩佩與兩裘、佩、佩玉也。 【読み】 蔡の昭侯兩佩と兩裘とを爲りて、佩は、佩玉なり。 以如楚、獻一佩一裘於昭王。昭王服之以享蔡侯。蔡侯亦服其一。子常欲之。弗與。三年止之。唐成公如楚。有兩肅爽馬。子常欲之。成公、唐惠侯之後。肅爽、駿馬名。○肅、如字。又所六反。爽、音霜。 【読み】 以て楚に如き、一佩一裘を昭王に獻ず。昭王之を服して以て蔡侯を享す。蔡侯も亦其の一を服す。子常之を欲す。與えず。三年之を止む。唐の成公楚に如く。兩つの肅爽馬有り。子常之を欲す。成公は、唐の惠侯の後。肅爽は、駿馬の名。○肅は、字の如し。又所六反。爽は、音霜。 弗與。亦三年止之。 【読み】 與えず。亦三年之を止む。 唐人或相與謀、請代先從者。許之。飮先從者酒、醉之、竊馬而獻之子常。子常歸唐侯。自拘於司敗、竊馬者自拘。○從、才用反。飮、於鴆反。 【読み】 唐人或ひと相與に謀りて、先の從者に代わらんと請う。之を許す。先の從者に酒を飮ませて、之を醉わせ、馬を竊みて之を子常に獻ず。子常唐侯を歸す。自ら司敗に拘われて、馬を竊む者自ら拘わる。○從は、才用反。飮は、於鴆反。 曰、君以弄馬之故、隱君身、隱、憂約也。 【読み】 曰く、君馬を弄ぶの故を以て、君の身を隱[いた]ましめ、隱は、憂約なり。 棄國家。羣臣請相夫人以償馬。必如之。相、助也。夫人、謂養馬者。○相、息亮反。夫、音扶。 【読み】 國家を棄てんとせり。羣臣請う、夫の人を相けて以て馬を償わん。必ず之の如きをせん、と。相は、助くなり。夫の人は、馬を養う者を謂う。○相は、息亮反。夫は、音扶。 唐侯曰、寡人之過也。二三子無辱。皆賞之。 【読み】 唐侯曰く、寡人の過ちなり。二三子辱とすること無かれ、と。皆之を賞す。 蔡人聞之、固請而獻佩于子常。子常朝、見蔡侯之徒、命有司曰、蔡君之久也、官不共也。言楚所以禮遣蔡侯之物、不共備故。○共、音恭。 【読み】 蔡人之を聞きて、固く請いて佩を子常に獻ず。子常朝し、蔡侯の徒を見、有司に命じて曰く、蔡君の久しきや、官共せざればなり。言うこころは、楚蔡侯を禮し遣る所以の物、共備せざる故なり。○共は、音恭。 明日禮不畢、將死。遣蔡侯之禮。 【読み】 明日禮畢わらずんば、將に死せんとす、と。蔡侯を遣るの禮。 蔡侯歸。及漢、執玉而沈曰、余所有濟漢而南者、有若大川。自誓言、若復渡漢、當受禍。明如大川。○沈、音鴆。 【読み】 蔡侯歸る。漢に及び、玉を執りて沈めて曰く、余漢を濟りて南すること有る所の者あらば、大川の若きこと有らん、と。自ら誓言すらく、若し復漢を渡らば、當に禍を受くべし。明らかなること大川の如し、と。○沈は、音鴆。 蔡侯如晉、以其子元與其大夫之子爲質焉、而請伐楚。爲明年、會召陵張本。 【読み】 蔡侯晉に如き、其の子元と其の大夫の子とを以て質と爲して、楚を伐たんことを請う。明年、召陵に會する爲の張本なり。 〔經〕四年、春、王二月、癸巳、陳侯吳卒。無傳。未同盟、而赴以名。癸巳、正月七日。書二月從赴。 【読み】 〔經〕四年、春、王の二月、癸巳[みずのと・み]、陳侯吳卒す。傳無し。未だ同盟せずして、赴[つ]ぐるに名を以てす。癸巳は、正月七日。二月に書すは赴ぐるに從うなり。 三月、公會劉子・晉侯・宋公・蔡侯・衛侯・陳子・鄭伯・許男・曹伯・莒子・邾子・頓子・胡子・滕子・薛伯・杞伯・小邾子・齊國夏于召陵、侵楚。於召陵先行會禮、入楚竟。故書侵。 【読み】 三月、公劉子・晉侯・宋公・蔡侯・衛侯・陳子・鄭伯・許男・曹伯・莒子・邾子[ちゅし]・頓子・胡子・滕子・薛伯・杞伯・小邾子・齊の國夏に召陵に會して、楚を侵す。召陵に於て先ず會禮を行いて、楚の竟に入る。故に侵を書す。 夏、四月、庚辰、蔡公孫姓帥師滅沈。以沈子嘉歸、殺之。五月、公及諸侯盟于皐鼬。召陵會劉子諸侯。總言之也。繁昌縣東南有城皐亭。復稱公者、會盟異處故。○姓、音生。鼬、由又反。 【読み】 夏、四月、庚辰[かのえ・たつ]、蔡の公孫姓師を帥いて沈[しん]を滅ぼす。沈子嘉を以[い]て歸り、之を殺す。五月、公諸侯と皐鼬[こうゆう]に盟う。召陵の會の劉子諸侯なり。之を總言するなり。繁昌縣の東南に城皐亭有り。復公を稱する者は、會盟處を異にする故なり。○姓は、音生。鼬は、由又反。 杞伯成卒于會。無傳。 【読み】 杞伯成會に卒す。傳無し。 六月、葬陳惠公。無傳。 【読み】 六月、陳の惠公を葬る。傳無し。 許遷于容城。無傳。 【読み】 許容城に遷る。傳無し。 秋、七月、公至自會。無傳。 【読み】 秋、七月、公會より至る。傳無し。 劉卷卒。無傳。卽劉蚠也。劉子奉命、出盟召陵。死則天王爲告同盟。故不具爵。○卷、音權。一眷免反。蚠、扶粉反。 【読み】 劉卷卒す。傳無し。卽ち劉蚠[りゅうふん]なり。劉子命を奉じて、出でて召陵に盟う。死すれば則ち天王爲に同盟に告ぐ。故に爵を具えず。○卷は、音權。一に眷免反。蚠は、扶粉反。 葬杞悼公。無傳。 【読み】 杞の悼公を葬る。傳無し。 楚人圍蔡。不服故也。 【読み】 楚人蔡を圍む。服せざる故なり。 晉士鞅・衛孔圉帥師伐鮮虞。無傳。孔圉、孔羈孫。士鞅、卽范鞅。 【読み】 晉の士鞅・衛の孔圉師を帥いて鮮虞を伐つ。傳無し。孔圉は、孔羈の孫。士鞅は、卽ち范鞅。 葬劉文公。無傳。 【読み】 劉文公を葬る。傳無し。 冬、十有一月、庚午、蔡侯以吳子及楚人戰于柏舉。楚師敗績。師能左右之曰以。皆陳曰戰。大崩曰敗績。吳爲蔡討楚、從蔡計謀。故書蔡侯以吳子。言能左右之也。囊瓦稱人、貪以致敗、不能死難。罪賤之。柏舉、楚地。昭三十一年傳曰、六年十二月庚辰、吳其入郢。今以十一月者、幷數閏。○陳、直覲反。 【読み】 冬、十有一月、庚午[かのえ・うま]、蔡侯吳子を以[い]て楚人と柏舉に戰う。楚の師敗績す。師能く之を左右するを以ると曰う。皆陳するを戰うと曰う。大いに崩るるを敗績と曰う。吳蔡の爲に楚を討じて、蔡の計謀に從う。故に蔡侯吳子を以てと書す。能く之を左右するを言うなり。囊瓦人と稱するは、貪りて以て敗を致し、難に死すること能わず。罪して之を賤しむなり。柏舉は、楚の地。昭三十一年の傳に曰く、六年十二月庚辰、吳其れ郢[えい]に入らん、と。今十一月を以てするは、閏を幷せ數うるなり。○陳は、直覲反。 楚囊瓦出奔鄭。書名、惡之。○惡、烏路反。 【読み】 楚の囊瓦出でて鄭に奔る。名を書すは、之を惡みてなり。○惡は、烏路反。 庚辰、吳入郢。弗地曰入。吳不稱子、史畧文。 【読み】 庚辰、吳郢[えい]に入る。地もたざるを入ると曰う。吳子と稱せざるは、史の畧文なり。 〔傳〕四年、春、三月、劉文公合諸侯于召陵、謀伐楚也。文公、王官伯也。晉人假王命以討楚之久留蔡侯。故曰文公合諸侯。 【読み】 〔傳〕四年、春、三月、劉文公諸侯を召陵に合わすは、楚を伐たんことを謀るなり。文公は、王官の伯なり。晉人王命を假りて以て楚の久しく蔡侯を留めしを討ず。故に文公諸侯を合わすと曰う。 晉荀寅求貨於蔡侯。弗得。言於范獻子曰、國家方危、諸侯方貳、將以襲敵。不亦難乎。水潦方降、疾瘧方起、中山不服。中山、鮮虞。 【読み】 晉の荀寅貨を蔡侯に求む。得ず。范獻子に言いて曰く、國家方に危うく、諸侯方に貳ありて、將に以て敵を襲わんとす。亦難からずや。水潦方に降り、疾瘧方に起こり、中山服せず。中山は、鮮虞。 棄盟取怨、無損於楚、晉・楚同盟。伐之爲取怨。 【読み】 盟を棄てて怨みを取り、楚に損無くして、晉・楚は同盟なり。之を伐つは怨みを取ると爲す。 而失中山。不如辭蔡侯。吾自方城以來、楚未可以得志。晉敗楚侵方城、在襄十六年。 【読み】 中山を失わん。蔡侯に辭するに如かず。吾れ方城より以來、楚には未だ以て志を得可からず。晉楚を敗り方城を侵せしは、襄十六年に在り。 祗取勤焉。乃辭蔡侯。 【読み】 祗[まさ]に勤めを取らん、と。乃ち蔡侯に辭す。 晉人假羽旄於鄭。鄭人與之。析羽爲旌。王者遊車之所建。鄭私有之。因謂之羽旄。借觀之。○祗、音支。 【読み】 晉人羽旄[うぼう]を鄭に假る。鄭人之を與う。析羽を旌と爲す。王者遊車の建つる所。鄭私に之れ有り。因りて之を羽旄と謂う。借りて之を觀るなり。○祗は、音支。 明日或旆以會。或、賤者也。繼旐曰旆。令賤人施其旆、執以從會、示卑鄭。○旆、步貝反。令、力呈反。 【読み】 明日或ひと旆[はい]して以て會す。或ひととは、賤者なり。旐[ちょう]に繼ぐを旆と曰う。賤人をして其の旆を施し、執りて以て會に從わしむるは、鄭を卑しむことを示すなり。○旆は、步貝反。令は、力呈反。 晉於是乎失諸侯。傳言晉無禮所以遂弱。 【読み】 晉是に於て諸侯を失えり。傳晉無禮にして遂に弱き所以を言う。 將會。衛子行敬子言於靈公、子行敬子、衛大夫。 【読み】 將に會せんとす。衛の子行敬子靈公に言いて、子行敬子は、衛の大夫。 曰、會同難。難得宜。 【読み】 曰く、會同は難し。宜しきを得難し。 嘖有煩言、莫之治也。嘖、至也。煩言、忿爭也。○嘖、仕責反。一音責。 【読み】 煩言有るに嘖[いた]らば、之を治むること莫けん。嘖[さく]は、至るなり。煩言は、忿爭なり。○嘖は、仕責反。一音責。 其使祝佗從。祝佗、大祝子魚。○佗、徒何反。從、才用反。 【読み】 其れ祝佗をして從わしめよ、と。祝佗は、大祝子魚。○佗は、徒何反。從は、才用反。 公曰、善。乃使子魚。子魚辭曰、臣展四體、以率舊職、猶懼不給而煩刑書。若又共二、共二職。○共、音恭。 【読み】 公曰く、善し、と。乃ち子魚をせしむ。子魚辭して曰く、臣四體を展べて、以て舊職に率うだも、猶給せずして刑書を煩わさんことを懼る。若し又二に共せば、二職に共す。○共は、音恭。 徼大罪也。且夫祝、社稷之常隸也。隸、賤臣也。 【読み】 大罪を徼[もと]むるなり。且つ夫れ祝は、社稷の常隸なり。隸は、賤臣なり。 社稷不動、祝不出竟、官之制也。社稷動、謂國遷。 【読み】 社稷動かざれば、祝竟を出でざるは、官の制なり。社稷動くとは、國の遷るを謂う。 君以軍行、祓社釁鼓、師出、先有事。祓禱於社。謂之宜社。於是殺牲以血塗鼓鼙、爲釁鼓。○祓、音弗。又音廢。 【読み】 君以て軍行すれば、社に祓いし鼓に釁[ちぬ]り、師出づれば、先ず事有り。社に祓禱す。之を宜社と謂う。是に於て牲を殺して血を以て鼓鼙[こへい]に塗るを、釁鼓[きんこ]と爲す。○祓は、音弗。又音廢。 祝奉以從、奉社主也。○從、如字。又才用反。 【読み】 祝奉じて以て從い、社主を奉ずるなり。○從は、字の如し。又才用反。 於是乎出竟。若嘉好之事、謂朝會。○好、呼報反。 【読み】 是に於て竟を出づ。若し嘉好の事は、朝會を謂う。○好は、呼報反。 君行師從、二千五百人。 【読み】 君行けば師從い、二千五百人。 卿行旅從。五百人。 【読み】 卿行けば旅從う。五百人。 臣無事焉。公曰、行也。 【読み】 臣は事無し、と。公曰く、行け、と。 及皐鼬、將盟。 【読み】 皐鼬に及び、將に盟わんとす。 將長蔡於衛。欲令蔡先衛歃。○長、丁丈反。先、悉薦反。下先衛同。 【読み】 將に蔡を衛より長とせんとす。蔡をして衛に先だちて歃[すす]らしめんと欲す。○長は、丁丈反。先は、悉薦反。下の先衛も同じ。 衛侯使祝佗私於萇弘曰、聞諸道路、不知信否。若聞蔡將先衛。信乎。萇弘曰、信。蔡叔、康叔之兄也。蔡叔、周公兄。康叔、周公弟。 【読み】 衛侯祝佗をして萇弘に私せしめて曰く、諸を道路に聞くも、信否を知らず。蔡將に衛に先だたんとすと聞くが若し。信なるか、と。萇弘曰く、信なり。蔡叔は、康叔の兄なり。蔡叔は、周公の兄。康叔は、周公の弟。 先衛、不亦可乎。子魚曰、以先王觀之、則尙德也。昔武王克商、成王定之、選建明德、以藩屛周。故周公相王室以尹天下、尹、正也。 【読み】 衛に先だたんこと、亦可ならずや、と。子魚曰く、先王を以て之を觀れば、則ち德を尙べり。昔武王商に克ち、成王之を定め、明德を選び建てて、以て周に藩屛とす。故に周公は王室を相けて以て天下を尹[ただ]して、尹は、正すなり。 於周爲睦、睦、親厚也。以盛德見親厚。 【読み】 周に於て睦爲りしかば、睦は、親厚なり。盛德を以て親厚せらる。 分魯公以大路・大旂・ 魯公、伯禽也。此大路、金路。錫同姓諸侯車也。交龍爲旂。周禮、同姓以封。○分、扶問反。下竝同。 【読み】 魯公に分するに大路・大旂[たいき]・ 魯公は、伯禽なり。此の大路は、金路。同姓の諸侯に錫うの車なり。交龍を旂と爲す。周禮に、同姓以て封ず、と。○分は、扶問反。下も竝同じ。 夏后氏之璜・ 璜、美玉名。 【読み】 夏后氏の璜[こう]・ 璜は、美玉の名。 封父之繁弱・ 封父、古諸侯也。繁弱、大弓名。○繁、扶元反。 【読み】 封父の繁弱・ 封父は、古の諸侯なり。繁弱は、大弓の名。○繁は、扶元反。 殷民六族、條氏・徐氏・蕭氏・索氏・長勺氏・尾勺氏、使帥其宗氏、輯其分族、將其類醜、醜、衆也。○索、素各反。勺、市灼反。輯、音集。又音緝。 【読み】 殷民の六族、條氏・徐氏・蕭氏・索氏・長勺氏・尾勺氏を以てし、其の宗氏を帥い、其の分族を輯[やわ]らげ、其の類醜を將[ひき]いて、醜は、衆なり。○索は、素各反。勺は、市灼反。輯は、音集。又音緝。 以法則周公、用卽命于周、卽、就也。使六族就周、受周公之法制。 【読み】 以て周公に法則して、用て命に周に卽かしめ、卽は、就くなり。六族をして周に就きて、周公の法制を受けしむ。 是使之職事于魯、共魯公之職事。 【読み】 是に之をして魯に職事して、魯公の職事に共す。 以昭周公之明德、昭、顯也。 【読み】 以て周公の明德を昭[あらわ]さしめて、昭は、顯すなり。 分之土田陪敦、陪、增也。敦、厚也。○陪、步囘反。 【読み】 之に土田の陪敦なると、陪は、增すなり。敦は、厚きなり。○陪は、步囘反。 祝・宗・卜・史、大祝・宗人・大卜・大史。凡四官。 【読み】 祝・宗・卜・史、大祝・宗人・大卜・大史。凡そ四官。 備物・典策、典策、春秋之制。 【読み】 備物・典策、典策は、春秋の制。 官司彝器、官司、百官也。彝器、常用器。 【読み】 官司の彝器[いき]とを分して、官司は、百官なり。彝器は、常用の器。 因商奄之民、商奄、國名也。與四國流言、或逬散在魯。皆令卽屬魯懷柔之。○迸、彼諍反。 【読み】 商奄の民に因りて、商奄は、國の名なり。四國と流言し、或は逬散[ほうさん]して魯に在り。皆卽きて魯に屬して之を懷柔せしむ。○迸は、彼諍反。 命以伯禽、伯禽、周公世子。時周公唯遣伯禽之國。故皆以付伯禽。 【読み】 命ずるに伯禽を以てして、伯禽は、周公の世子。時に周公唯伯禽をして國に之かしむ。故に皆以て伯禽に付す。 而封於少皞之虛。少皞虛、曲阜也。在魯城内。○虛、起居反。 【読み】 少皞の虛に封ぜり。少皞の虛は、曲阜なり。魯城の内に在り。○虛は、起居反。 分康叔、康叔、衛之祖。 【読み】 康叔に分するに、康叔は、衛の祖。 以大路・少帛・綪茷旃旌・ 少帛、雜帛也。綪茷、大赤。取染草名也。通帛爲旃、析羽爲旌。○綪、七見反。茷、步貝反。又音吠。 【読み】 大路・少帛・綪茷[せんはい]の旃旌・ 少帛は、雜帛なり。綪茷は、大赤。染草の名を取るなり。通帛を旃と爲し、析羽を旌と爲す。○綪は、七見反。茷は、步貝反。又音吠。 大呂・ 鍾名。 【読み】 大呂・ 鍾の名。 殷民七族、陶氏・施氏・繁氏・錡氏・樊氏・饑氏・終葵氏、封畛土畧、自武父以南、及圃田之北竟、畛、塗所徑也。畧、界也。武父、衛北界。圃田、鄭藪名。○繁、步何反。錡、魚綺反。畛、之忍反。一音眞。徑、音經。 【読み】 殷民の七族、陶氏・施氏・繁氏・錡氏・樊氏・饑氏・終葵氏を以てして、土畧を封畛[ほうしん]すること、武父以南より、圃田の北竟に及ぶまでをし、畛は、塗[みち]の徑る所なり。畧は、界なり。武父は、衛の北界。圃田は、鄭の藪の名。○繁は、步何反。錡は、魚綺反。畛は、之忍反。一に音眞。徑は、音經。 取於有閻之土、以共王職、有閻、衛所受朝宿邑。蓋近京畿。 【読み】 有閻の土に取りて、以て王職に共せしめ、有閻は、衛の受くる所の朝宿の邑。蓋し京畿に近きならん。 取於相土之東都、以會王之東蒐。爲湯沐邑、王東巡守、以助祭泰山。○相、息亮反。 【読み】 相土の東都に取りて、以て王の東蒐に會せしむ。湯沐の邑と爲して、王東に巡守すれば、以て泰山に助祭す。○相は、息亮反。 耼季授土、耼季、周公弟。司空。○耼、乃甘反。 【読み】 耼季[たんき]土を授け、耼季は、周公の弟。司空。○耼は、乃甘反。 陶叔授民、陶叔、司徒。 【読み】 陶叔民を授け、陶叔は、司徒。 命以康誥、而封於殷虛。康誥、周書。殷虛、朝歌也。 【読み】 命ずるに康誥を以てして、殷の虛に封ぜり。康誥は、周書。殷の虛は、朝歌なり。 皆啓以商政、疆以周索。皆魯・衛也。啓、開也。居殷故地、因其風俗、開用其政、疆理土地、以周法。索、法也。 【読み】 皆啓[ひら]くに商の政を以てして、疆するは周の索を以てせしむ。魯・衛に皆とするなり。啓は、開くなり。殷の故地に居れば、其の風俗に因りて、開くに其の政を用い、土地を疆理するは、周の法を以てするなり。索は、法なり。 分唐叔、唐叔、晉之祖。 【読み】 唐叔に分するに、唐叔は、晉の祖。 以大路・密須之鼓・ 密須、國名。 【読み】 大路・密須の鼓・ 密須は、國の名。 闕鞏・ 甲名。○鞏、九勇反。 【読み】 闕鞏・ 甲の名。○鞏は、九勇反。 沽洗・ 鍾名。○洗、息典反。 【読み】 沽洗・ 鍾の名。○洗は、息典反。 懷姓九宗・職官五正、懷姓、唐之餘民。九宗、一姓爲九族。職官五正、五官之長。○長、丁丈反。下長衛同。 【読み】 懷姓の九宗・職官の五正を以てし、懷姓は、唐の餘民。九宗は、一姓九族と爲れるなり。職官の五正は、五官の長なり。○長は、丁丈反。下の長衛も同じ。 命以唐誥、而封於夏虛、唐誥、誥命篇名也。夏虛、大夏。今大原晉陽也。 【読み】 命ずるに唐誥を以てして、夏の虛に封じ、唐誥は、誥命の篇名なり。夏の虛は、大夏。今の大原晉陽なり。 啓以夏政、亦因夏風俗、開用其政。 【読み】 啓くに夏の政を以てし、亦夏の風俗に因り、開くに其の政を用ゆ。 疆以戎索。大原近戎而寒。不與中國同。故自以戎法。 【読み】 疆するは戎の索を以てせしむ。大原は戎に近くして寒し。中國と同じからず。故に自ら戎の法を以てす。 三者皆叔也。而有令德。故昭之以分物。不然、文・武・成・康之伯猶多、而不獲是分也、唯不尙年也。 【読み】 三つの者は皆叔なり。而れども令德有り。故に之を昭すに分物を以てせり。然らずんば、文・武・成・康の伯猶多くして、是の分を獲ざるや、唯年を尙ばざればなり。 管・蔡啓商、惎閒王室、惎、毒也。周公攝政。管叔・蔡叔開道紂子祿父、以毒亂王室。○惎、音忌。閒、去聲。 【読み】 管・蔡商を啓きて、王室を惎閒[きかん]せしかば、惎は、毒なり。周公攝政す。管叔・蔡叔紂が子祿父に開道して、以て王室を毒亂す。○惎は、音忌。閒は、去聲。 王於是乎殺管叔而蔡蔡叔、周公稱王命、以討二叔。蔡、放也。○蔡蔡、上素達反。下如字。 【読み】 王是に於て管叔を殺して蔡叔を蔡[はな]つに、周公王命を稱して、以て二叔を討ず。蔡は、放つなり。○蔡蔡は、上は素達反。下は字の如し。 以車七乘・徒七十人。與蔡叔車徒而放之。 【読み】 車七乘・徒七十人を以てせり。蔡叔に車徒を與えて之を放つ。 其子蔡仲改行帥德、周公舉之以爲己卿士、爲周公臣。 【読み】 其の子蔡仲行いを改め德に帥[したが]いしかば、周公之を舉げて以て己が卿士と爲し、周公の臣と爲す。 見諸王、而命之以蔡。命爲蔡侯。○見、賢遍反。 【読み】 諸を王に見えしめて、之に命ずるに蔡を以てせり。命じて蔡侯と爲す。○見は、賢遍反。 其命書云、王曰、胡、無若爾考之違王命也。胡、蔡仲名。 【読み】 其の命書に云く、王曰く、胡よ、爾の考の王命に違えるが若くなること無かれ、と。胡は、蔡仲の名。 若之何其使蔡先衛也。 【読み】 之を若何ぞ其れ蔡をして衛に先だたしめん。 武王之母弟八人、周公爲大宰、康叔爲司寇、耼季爲司空、五叔無官。豈尙年哉。五叔、管叔鮮・蔡叔度・成叔武・霍叔處・毛叔耼也。○先、悉薦反。 【読み】 武王の母弟八人、周公は大宰爲り、康叔は司寇爲り、耼季は司空爲り、五叔は官無し。豈年を尙ぶならんや。五叔は、管叔鮮・蔡叔度・成叔武・霍叔處・毛叔耼なり。○先は、悉薦反。 曹、文之昭也、文王子。與周公異母。○昭、上饒反。 【読み】 曹は、文の昭にして、文王の子。周公と異母なり。○昭は、上饒反。 晉、武之穆也、武王子。 【読み】 晉は、武の穆なるも、武王の子。 曹爲伯甸。非尙年也。以伯爵居甸服、言小。 【読み】 曹は伯甸[はくてん]爲り。年を尙べるに非ざるなり。伯爵を以て甸服に居るは、小なるを言う。 今將尙之、是反先王也。 【読み】 今將に之を尙ばんとすれば、是れ先王に反くなり。 晉文公爲踐土之盟、衛成公不在。夷叔其母弟也、猶先蔡。踐土・召陵二會、經書蔡在衛上。霸主以國大小之序也。子魚所言、盟歃之次。 【読み】 晉の文公踐土の盟を爲せしとき、衛の成公在らず。夷叔は其の母弟なるも、猶蔡に先だてり。踐土・召陵の二會には、經に書して蔡衛の上に在り。霸主は國の大小の序を以てするなり。子魚が言う所は、盟歃の次なり。 其載書云、王若曰、晉重・ 文公。○重、直龍反。 【読み】 其の載書に云う、王若[かくのごと]く曰く、晉の重・ 文公。○重は、直龍反。 魯申・ 僖公。 【読み】 魯の申・ 僖公。 衛武・ 叔武。 【読み】 衛の武・ 叔武。 蔡甲午・ 莊侯。 【読み】 蔡の甲午・ 莊侯。 鄭捷・ 文公。 【読み】 鄭の捷・ 文公。 齊潘・ 昭公。 【読み】 齊の潘・ 昭公。 宋王臣・ 成公。○王、如字。或作壬。如林反。 【読み】 宋の王臣・ 成公。○王は、字の如し。或は壬に作る。如林反。 莒期。玆丕公也。齊序鄭下、周之宗盟、異姓爲後。 【読み】 莒の期、と。玆丕公なり。齊鄭の下に序ずるは、周の宗盟は、異姓を後と爲す。 藏在周府。可覆視也。吾子欲復文・武之畧、畧、道也。 【読み】 藏めて周府に在り。覆視す可し。吾子文・武の畧を復せんと欲して、畧は、道なり。 而不正其德、將如之何。 【読み】 其の德を正さずんば、將[はた]之を如何にせん、と。 萇弘說、告劉子與范獻子謀之、乃長衛侯於盟。 【読み】 萇弘說び、劉子と范獻子とに告げて之を謀り、乃ち衛侯を盟に長とす。 反自召陵。鄭子大叔未至而卒。晉趙簡子爲之臨、甚哀。曰、黃父之會、在昭二十五年。○說、音悅。臨、力鴆反。 【読み】 召陵より反る。鄭の子大叔未だ至らずして卒す。晉の趙簡子之が爲に臨し、甚だ哀しむ。曰く、黃父の會に、昭二十五年に在り。○說は、音悅。臨は、力鴆反。 夫子語我九言曰、無始亂。無怙富。無恃寵。無違同。無敖禮。無驕能。以能驕人。○語、魚據反。敖、五報反。 【読み】 夫子我に九言を語げて曰く、亂を始むること無かれ。富を怙むこと無かれ。寵を恃むこと無かれ。同に違うこと無かれ。禮に敖ること無かれ。能に驕ること無かれ。能を以て人に驕るなり。○語は、魚據反。敖は、五報反。 無復怒。復、重也。○復、扶又反。 【読み】 怒りを復[かさ]ぬること無かれ。復は、重ぬるなり。○復は、扶又反。 無謀非德。非所謀也。 【読み】 非德を謀ること無かれ。謀る所に非ざるなり。 無犯非義。傳言簡子能用善言、所以遂興。 【読み】 非義を犯すこと無かれ、と。傳簡子能く善言を用いて、遂に興る所以を言う。 沈人不會于召陵。晉人使蔡伐之。夏、蔡滅沈。秋、楚爲沈故圍蔡。 【読み】 沈人召陵に會せず。晉人蔡をして之を伐たしむ。夏、蔡沈を滅ぼす。秋、楚沈の爲の故に蔡を圍む。 伍員爲吳行人以謀楚。楚之殺郤宛也、在昭二十七年。○員、音云。 【読み】 伍員[ごうん]吳の行人と爲りて以て楚を謀る。楚の郤宛を殺せるや、昭二十七年に在り。○員は、音云。 伯氏之族出。郤宛黨。 【読み】 伯氏の族出づ。郤宛の黨。 伯州犂之孫嚭爲吳大宰以謀楚。楚自昭王卽位、無歲不有吳師。蔡侯因之、以其子乾與其大夫之子爲質於吳。冬、蔡侯・吳子・唐侯伐楚。唐侯不書、兵屬於吳・蔡。○嚭、普鄙反。 【読み】 伯州犂の孫嚭[ひ]吳の大宰と爲りて以て楚を謀る。楚昭王の位に卽きしより、歲として吳の師有らざること無し。蔡侯之に因りて、其の子乾と其の大夫の子とを以て吳に質と爲す。冬、蔡侯・吳子・唐侯楚を伐つ。唐侯書さざるは、兵吳・蔡に屬すればなり。○嚭は、普鄙反。 舍舟于淮汭、吳乘舟從淮來、過蔡而舍之。○舍、音赦。又音捨。 【読み】 舟を淮汭に舍き、吳舟に乘りて淮より來り、蔡を過ぎて之を舍く。○舍は、音赦。又音捨。 自豫章與楚夾漢。豫章、漢東江北地名。 【読み】 豫章より楚と漢を夾む。豫章は、漢東江北の地の名。 左司馬戌謂子常曰、子沿漢而與之上下。沿、緣也。緣漢上下、遮使勿渡。 【読み】 左司馬戌子常に謂いて曰く、子漢に沿[よ]りて之と上下せよ。沿は、緣るなり。漢に緣りて上下して、遮りて渡ること勿からしむ。 我悉方城外以毀其舟、以方城外人、毀吳所舍舟。 【読み】 我れ方城の外を悉くして以て其の舟を毀り、方城外の人を以て、吳の舍く所の舟を毀るなり。 還塞大隧・直轅・冥阨。三者、漢東之隘道。○冥、如字。或作寘。阨、於懈反。 【読み】 還りて大隧・直轅・冥阨[めいあい]を塞がん。三つの者は、漢東の隘道。○冥は、字の如し。或は寘に作る。阨は、於懈反。 子濟漢而伐之。我自後擊之、必大敗之。旣謀而行。武城黑謂子常、黑、楚武城大夫。 【読み】 子漢を濟りて之を伐て。我れ後より之を擊たば、必ず大いに之を敗らん、と。旣に謀りて行く。武城黑子常に謂いて、黑は、楚の武城の大夫。 曰、吳用木也。我用革也。用、軍器。 【読み】 曰く、吳の用は木なり。我が用は革なり。用は、軍器。 不可久也。不如速戰。史皇謂子常、楚人惡子而好司馬。史皇、楚大夫。司馬、沈尹戌。 【読み】 久しくす可からざるなり。速やかに戰うに如かず、と。史皇子常に謂えらく、楚人子を惡みて司馬を好す。史皇は、楚の大夫。司馬は、沈尹戌。 若司馬毀吳舟于淮、塞城口而入、城口、三隘道之總名。 【読み】 若し司馬吳の舟を淮に毀り、城口を塞ぎて入らば、城口は、三隘道の總名。 是獨克吳也。子必速戰。不然不免。乃濟漢而陳、自小別至于大別、禹貢、漢水至大別、南入江。然則此二別、在江・夏界。○陳、直覲反。下陳于同。 【読み】 是れ獨り吳に克てるなり。子必ず速やかに戰え。然らずんば免れじ、と。乃ち漢を濟りて陳し、小別より大別に至るまで、禹貢に、漢水は大別に至り、南して江に入る、と。然らば則ち此の二別は、江・夏の界に在らん。○陳は、直覲反。下の陳于も同じ。 三戰。子常知不可、欲奔。知吳不可勝。 【読み】 三たび戰う。子常不可なるを知り、奔らんと欲す。吳の勝つ可からざるを知る。 史皇曰、安求其事、求知政事。 【読み】 史皇曰く、安くして其の事を求め、政事を知らんことを求む。 難而逃之、將何所入。子必死之。初罪必盡說。言致死以克吳、可以免貪賄致寇之罪。○難、乃旦反。 【読み】 難にして之を逃れば、將に何れ所に入らんとする。子必ず之に死ね。初罪必ず盡く說けん、と。言うこころは、死を致して以て吳に克たば、以て賄を貪り寇を致すの罪を免る可し。○難は、乃旦反。 十一月、庚午、二師陳于柏舉。經所以書戰。二師、吳・楚師。 【読み】 十一月、庚午、二師柏舉に陳す。經に戰を書す所以なり。二師は、吳・楚の師。 闔廬之弟夫槩王晨請於闔廬曰、楚瓦不仁。瓦、子常名。 【読み】 闔廬[こうりょ]の弟夫槩王晨に闔廬に請いて曰く、楚の瓦不仁なり。瓦は、子常の名。 其臣莫有死志。先伐之、其卒必奔。而後大師繼之、必克。弗許。夫槩王曰、所謂臣義而行、不待命者、其此之謂也。今日我死、楚可入也。以其屬五千、先擊子常之卒。子常之卒奔、楚師亂。吳師大敗之。子常奔鄭。史皇以其乘廣死。以戰死。○乘、繩證反。廣、古曠反。 【読み】 其の臣死志有ること莫し。先ず之を伐たば、其の卒必ず奔らん。而して後に大師之に繼かば、必ず克たん、と。許さず。夫槩王曰く、所謂臣は義にして行う、命を待たずとは、其れ此を謂うか。今日我れ死せば、楚には入る可し、と。其の屬五千を以て、先ず子常の卒を擊つ。子常の卒奔り、楚の師亂る。吳の師大いに之を敗る。子常鄭に奔る。史皇其の乘廣を以て死す。以て戰いて死す。○乘は、繩證反。廣は、古曠反。 吳從楚師及淸發。淸發、水名。 【読み】 吳楚の師を從[お]いて淸發に及ぶ。淸發は、水の名。 將擊之。夫槩王曰、困獸猶鬭。況人乎。若知不免而致死、必敗我。若使先濟者知免、後者慕之、蔑有鬭心矣。半濟而後可擊也。從之。又敗之。楚人爲食。吳人及之。奔食。而從之、敗諸雍澨、五戰及郢。奔食、食者走不陳。故在戰數。○澨、市制反。 【読み】 將に之を擊たんとす。夫槩王曰く、困しめば獸だも猶鬭う。況んや人をや。若し免れざることを知りて死を致さば、必ず我を敗らん。若し先ず濟る者は免るることを知り、後なる者に之を慕わしめば、鬭心有ること蔑[な]けん。半ば濟りて而して後に擊つ可し、と。之に從う。又之を敗る。楚人食を爲さんとす。吳人之に及ぶ。奔りつつ食らう。而して之を從いて、諸を雍澨[ようぜい]に敗り、五戰して郢に及ぶ。奔りつつ食らうとは、食らう者走りて陳せざるなり。故に戰の數に在らず。○澨は、市制反。 *頭注に、「按奔食二字句。林注、奔句、食而從之句。吳人食楚食而逐之也。」とある。 己卯、楚子取其妹季羋・畀我以出、涉雎。雎水、出新城昌魏縣、東南至枝江縣入江。是楚王西走。○羋、面爾反。楚姓。季羋・畀我、皆平王女也。一云、畀我、季羋之字。雎、七餘反。下同。 【読み】 己卯[つちのと・う]、楚子其の妹季羋[きび]・畀我[ひが]を取りて以て出でて、雎を涉る。雎水は、新城昌魏縣に出でて、東南して枝江縣に至りて江に入る。是れ楚王西に走るなり。○羋は、面爾反。楚の姓。季羋・畀我は、皆平王の女なり。一に云う、畀我は、季羋の字、と。雎は、七餘反。下も同じ。 鍼尹固與王同舟。王使執燧象以奔吳師。燒火燧繫象尾、使赴吳師、驚却之。○鍼、之林反。 【読み】 鍼尹固[しんいんこ]王と舟を同じくす。王燧象を執りて以て吳の師に奔らしむ。火燧を燒きて象の尾に繫け、吳の師に赴きて、驚かして之を却けしむ。○鍼は、之林反。 庚辰、吳入郢、以班處宮。以尊卑班次、處楚王宮室。 【読み】 庚辰、吳郢に入り、班を以て宮に處る。尊卑の班次を以て、楚王の宮室に處る。 子山處令尹之宮。子山、吳王子。 【読み】 子山令尹の宮に處る。子山は、吳王の子。 夫槩王欲攻之。懼而去之。夫槩王入之。入令尹宮也。言吳無禮。所以不能遂克。 【読み】 夫槩王之を攻めんと欲す。懼れて之を去る。夫槩王之に入る。令尹の宮に入るなり。言うこころは、吳禮無し。遂に克つこと能わざる所以なり。 左司馬戌及息而還、息、汝南新息也。聞楚敗。故還。 【読み】 左司馬戌息に及びて還り、息は、汝南の新息なり。楚敗るると聞く。故に還る。 敗吳師于雍澨、傷。司馬先敗吳師、而身被創。○創、初良反。 【読み】 吳の師を雍澨に敗りて、傷つく。司馬先ず吳の師を敗りて、身創を被る。○創は、初良反。 初、司馬臣闔廬。故恥爲禽焉。司馬嘗在吳爲闔廬臣。是以今恥於見禽。 【読み】 初め、司馬闔廬に臣たり。故に禽と爲るを恥ず。司馬嘗て吳に在りて闔廬が臣爲り。是を以て今禽にせらるるを恥ず。 謂其臣曰、誰能免吾首。吳句卑曰、臣賤。可乎。司馬曰、我實失子。可哉。失不知子賢。○句、古侯反。 【読み】 其の臣に謂いて曰く、誰か能く吾が首を免れしめん、と。吳句卑[ごこうひ]曰く、臣は賤し。可ならんか、と。司馬曰く、我れ實に子を失えり。可なるかな、と。失して子が賢を知らず。○句は、古侯反。 三戰、皆傷。曰、吾不可用也已。句卑布裳、剄而裹之、司馬已死、剄取其首。○剄、古頂反。 【読み】 三たび戰い、皆傷つく。曰く、吾れ用ゆ可からざるのみ、と。句卑裳を布き、剄[くびは]ねて之を裹み、司馬已に死し、剄ねて其の首を取るなり。○剄[けい]は、古頂反。 藏其身、而以其首免。傳言司馬之忠壯。 【読み】 其の身を藏して、其の首を以て免る。傳司馬の忠壯を言う。 楚子涉雎濟江、入于雲中。入雲夢澤中。所謂江南之夢。○夢、如字。又音蒙。 【読み】 楚子雎を涉り江を濟り、雲中に入る。雲夢の澤中に入るなり。所謂江南の夢なり。○夢は、字の如し。又音蒙。 王寢。盜攻之、以戈擊王。王孫由于以背受之、中肩。王奔鄖。鍾建負季羋以從。鍾建、楚大夫。○鄖、音云。從、才用反。一如字。 【読み】 王寢ぬ。盜之を攻め、戈を以て王を擊つ。王孫由于背を以て之を受け、肩に中る。王鄖[うん]に奔る。鍾建季羋を負いて以て從う。鍾建は、楚の大夫。○鄖は、音云。從は、才用反。一に字の如し。 由于徐蘇而從。以背受戈。故當時悶絕。 【読み】 由于徐[ようや]くに蘇りて從う。背を以て戈を受く。故に當時悶絕す。 鄖公辛之弟懷將弑王曰、平王殺吾父。我殺其子、不亦可乎。辛、蔓成然之子、鬭辛也。昭十四年、楚平王殺成然。○殺、如字。又申志反。下同。 【読み】 鄖公辛の弟懷將に王を弑せんとして曰く、平王吾が父を殺せり。我れ其の子を殺さんこと、亦可ならずや、と。辛は、蔓成然の子、鬭辛なり。昭十四年、楚の平王成然を殺す。○殺は、字の如し。又申志反。下も同じ。 辛曰、君討臣、誰敢讎之。君命天也。若死天命、將誰讎。詩曰、柔亦不茹、剛亦不吐、不侮矜寡、不畏彊禦、唯仁者能之。詩、大雅。言仲山甫不辟彊陵弱。○茹、音汝。矜、古頑反。 【読み】 辛曰く、君の臣を討ずるは、誰か敢えて之を讎とせん。君の命は天なり。若し天命に死せば、將に誰を讎とせんとする。詩に曰く、柔も亦茹[く]らわず、剛も亦吐かず、矜寡を侮らず、彊禦を畏れずとは、唯仁者之を能くす。詩は、大雅。言うこころは、仲山甫彊を辟け弱を陵がず。○茹は、音汝。矜は、古頑反。 違彊陵弱、非勇也。乘人之約、非仁也。滅宗廢祀、非孝也。弑君、罪應滅宗。 【読み】 彊を違[さ]け弱を陵ぐは、勇に非ざるなり。人の約に乘ずるは、仁に非ざるなり。宗を滅ぼし祀を廢するは、孝に非ざるなり。君を弑せば、罪應に宗を滅ぼすべし。 動無令名、非知也。必犯是、余將殺女。鬭辛與其弟巢以王奔隨。 【読み】 動きて令名無きは、知に非ざるなり。必ず是を犯さんとせば、余將に女を殺さんとす、と。鬭辛其の弟巢と王を以[い]て隨に奔る。 吳人從之、謂隨人曰、周之子孫在漢川者、楚實盡之。天誘其衷、致罰於楚。而君又竄之。竄、匿也。○知、音智。女、音汝。 【読み】 吳人之を從い、隨人に謂いて曰く、周の子孫の漢川に在る者をば、楚實に之を盡くせり。天其の衷を誘[すす]めて、罰を楚に致せり。而るを君又之を竄[かく]す。竄は、匿すなり。○知は、音智。女は、音汝。 周室何罪。君若顧報周室、施及寡人、以獎天衷、獎、成也。○施、以豉反。 【読み】 周室何の罪ある。君若し周室を顧み報い、施きて寡人に及ぼして、以て天の衷を獎[な]さば、獎は、成すなり。○施は、以豉反。 君之惠也。漢陽之田、君實有之。 【読み】 君の惠なり。漢陽の田は、君實に之を有て、と。 楚子在公宮之北。隨公宮也。 【読み】 楚子公宮の北に在り。隨公の宮なり。 吳人在其南。子期似王。子期、昭王兄、公子結也。 【読み】 吳人其の南に在り。子期王に似たり。子期は、昭王の兄、公子結なり。 逃王而己爲王、曰、以我與之、王必免。隨人卜與之。不吉。乃辭吳曰、以隨之辟小、而密邇於楚、楚實存之、世有盟誓、至于今未改。若難而棄之、何以事君。執事之患、不唯一人。一人、楚王。○辟、音僻。難、去聲。 【読み】 王を逃して己王と爲りて、曰く、我を以て之に與えば、王必ず免れん、と。隨人之に與えんことを卜す。不吉なり。乃ち吳に辭して曰く、隨の辟小にして、楚に密邇するを以て、楚實に之を存して、世々盟誓有りて、今に至るまで未だ改めず。若し難ありて之を棄てば、何を以て君に事えん。執事の患えは、唯一人のみならず。一人は、楚王。○辟は、音僻。難は、去聲。 若鳩楚竟、敢不聽命。吳人乃退。鳩、安集也。○竟、音境。 【読み】 若し楚の竟を鳩[あつ]めば、敢えて命を聽かざらんや、と。吳人乃ち退く。鳩は、安集なり。○竟は、音境。 鑢金初宦於子期氏、實與隨人要言。要言無以楚王與吳、幷欲脫子期。○鑢、音慮。鑢姓。金名。 【読み】 鑢金[りょきん]初め子期氏に宦し、實に隨人と要言せり。要言して楚王を以て吳に與うること無く、幷せて子期を脫せんと欲す。○鑢は、音慮。鑢は姓。金は名。 *頭注に、「鑢、或作鑪、誤也。釋文古今人表皆作鑢。」とある。 王使見。王喜其意、欲引見之、以比王臣。且欲使盟隨人。○見、音現。 【読み】 王見えしめんとす。王其の意を喜び、之を引見して、以て王臣に比せんと欲す。且つ隨人に盟わしめんと欲す。○見は、音現。 辭曰、不敢以約爲利。此約、謂要言也。此一時之事、非爲德舉。故辭不敢見、亦不肯爲盟主。○約、如字。又於妙反。 【読み】 辭して曰く、敢えて約を以て利と爲さず、と。此の約は、要言を謂うなり。此れ一時の事、德舉爲るに非ず。故に辭して敢えて見えず、亦肯えて盟主と爲らず。○約は、字の如し。又於妙反。 王割子期之心、以與隨人盟。當心前割取血以盟、示其至心。 【読み】 王子期の心を割きて、以て隨人と盟う。心前に當てて血を割き取りて以て盟うは、其の至心を示すなり。 初、伍員與申包胥友。包胥、楚大夫。 【読み】 初め、伍員申包胥と友たり。包胥は、楚の大夫。 其亡也、謂申包胥曰、我必復楚國。復、報也。 【読み】 其の亡ぐるや、申包胥に謂いて曰く、我れ必ず楚國に復[むく]いん、と。復は、報ゆるなり。 申包胥曰、勉之。子能復之。我必能興之。及昭王在隨、申包胥如秦乞師、曰、吳爲封豕長蛇、以荐食上國、荐、數也。言吳貪害如蛇豕。○荐、在薦反。數、音朔。 【読み】 申包胥曰く、之を勉めよ。子能く之に復え。我は必ず能く之を興さん、と。昭王の隨に在るに及びて、申包胥秦に如きて師を乞いて、曰く、吳封豕長蛇を爲し、以て上國を荐食[せんしょく]して、荐は、數々なり。言うこころは、吳の貪害蛇豕の如し。○荐は、在薦反。數は、音朔。 虐始於楚、寡君失守社稷、越在草莽。使下臣告急、曰、夷德無厭。若鄰於君、疆埸之患也。吳有楚、則與秦鄰。○莽、莫蕩反。 【読み】 虐楚に始め、寡君社稷を守ることを失いて、草莽に越在せり。下臣をして急を告げしめて、曰く、夷德厭くこと無し。若し君に鄰せば、疆埸の患えならん。吳楚を有てば、則ち秦と鄰る。○莽は莫蕩反。 逮吳之未定、君其取分焉。與吳共分楚地。○取分、扶問反。 【読み】 吳の未だ定めざるに逮びて、君其れ分を取れ。吳と共に楚の地を分せよ。○取分は、扶問反。 若楚之遂亡、君之土也。若以君靈撫之、世以事君。撫、存恤也。 【読み】 若し楚遂に亡びば、君の土なり。若し君の靈を以て之を撫でば、世々以て君に事えん、と。撫は、存恤なり。 秦伯使辭焉、曰、寡人聞命矣。子姑就館。將圖而告。對曰、寡君越在草莽、未獲所伏。伏、猶處也。 【読み】 秦伯辭せしめて、曰く、寡人命を聞けり。子姑く館に就け。將に圖りて告げんとす、と。對えて曰く、寡君草莽に越在して、未だ伏す所を獲ず。伏は、猶處るのごとし。 下臣何敢卽安。立依於庭牆而哭、日夜不絕聲、勺飮不入口、七日、秦哀公爲之賦無衣。詩、秦風。取其王于興師、脩我戈矛、與子同仇、與子偕作、與子偕行。○勺、市灼反。又音灼。爲、去聲。 【読み】 下臣何ぞ敢えて安きに卽かん、と。立ちて庭牆に依りて哭し、日夜聲を絕たず、勺飮口に入れざること、七日、秦の哀公之が爲に無衣を賦す。詩は、秦風。其れ王于[ここ]に師を興さば、我が戈矛[かぼう]を脩めて、子と仇を同じくし、子と偕に作[た]ち、子と偕に行かんというに取る。○勺は、市灼反。又音灼。爲は、去聲。 九頓首而坐。無衣三章。章三頓首。 【読み】 九たび頓首して坐す。無衣は三章。章ごとに三たび頓首す。 秦師乃出。爲明年、包胥以秦師至張本。 【読み】 秦の師乃ち出づ。明年、包胥秦の師を以[い]て至る爲の張本なり。 〔經〕五年、春、王三月、辛亥、朔、日有食之。無傳。 【読み】 〔經〕五年、春、王の三月、辛亥[かのと・い]朔、日之を食する有り。傳無し。 夏、歸粟于蔡。蔡爲楚所圍、饑乏。故魯歸之粟。 【読み】 夏、粟を蔡に歸[おく]る。蔡楚の爲に圍まれて、饑乏す。故に魯之に粟を歸る。 於越入吳。於、發聲也。 【読み】 於越吳に入る。於は、發聲なり。 六月、丙申、季孫意如卒。秋、七月、壬子、叔孫不敢卒。無傳。 【読み】 六月、丙申[ひのえ・さる]、季孫意如卒す。秋、七月、壬子[みずのえ・ね]、叔孫不敢卒す。傳無し。 冬、晉士鞅帥師圍鮮虞。 【読み】 冬、晉の士鞅師を帥いて鮮虞を圍む。 〔傳〕五年、春、王人殺子朝于楚。因楚亂也。終閔馬父之言。 【読み】 〔傳〕五年、春、王人子朝を楚に殺す。楚の亂に因りてなり。閔馬父の言を終わる。 夏、歸粟於蔡、以周亟、矜無資。亟、急也。 【読み】 夏、粟を蔡に歸るは、以て亟を周[すく]い、資無きを矜[めぐ]むなり。亟は、急なり。 越入吳、吳在楚也。 【読み】 越吳に入るは、吳楚に在ればなり。 六月、季平子行東野。東野、季氏邑。○行、下孟反。下桓子行同。 【読み】 六月、季平子東野を行[めぐ]る。東野は、季氏の邑。○行は、下孟反。下の桓子行も同じ。 還。未至、丙申、卒于房。陽虎將以璵璠斂。璵璠、美玉。君所佩。○璵、音餘。璠、音煩。又方煩反。 【読み】 還る。未だ至らず、丙申、房に卒す。陽虎將に璵璠[よはん]を以て斂せんとす。璵璠は、美玉。君の佩ぶ所。○璵は、音餘。璠は、音煩。又方煩反。 仲梁懷弗與、懷亦季氏家臣。 【読み】 仲梁懷與えずして、懷も亦季氏の家臣。 曰、改步改玉。昭公之出、季孫行君事、佩璵璠祭宗廟。今定公立、復臣位。改君步、則亦當去璵璠。○去、起呂反。 【読み】 曰く、步を改むれば玉を改む、と。昭公の出づる、季孫君の事を行い、璵璠を佩びて宗廟を祭れり。今定公立ちて、臣位に復す。君の步を改むれば、則ち亦當に璵璠を去るべし。○去は、起呂反。 陽虎欲逐之、告公山不狃。不狃曰、彼爲君也。子何怨焉。不狃、季氏臣、費宰子洩也。爲君、不欲使僭。○爲、于僞反。 【読み】 陽虎之を逐わんと欲し、公山不狃[こうざんふじゅう]に告ぐ。不狃曰く、彼は君の爲なり。子何ぞ怨みん、と。不狃は、季氏の臣、費の宰子洩なり。君の爲とは、僭せしめんことを欲せざるなり。○爲は、于僞反。 旣葬、桓子行東野。桓子、意如子、季孫斯。 【読み】 旣に葬り、桓子東野を行る。桓子は、意如の子、季孫斯。 及費。子洩爲費宰。逆勞於郊。桓子敬之。勞仲梁懷。仲梁懷弗敬。懷時從桓子行、輕慢子洩。○勞、力報反。下同。 【読み】 費に及ぶ。子洩費の宰爲り。逆[むか]えて郊に勞う。桓子之を敬す。仲梁懷を勞う。仲梁懷敬せず。懷時に桓子に從いて行き、子洩を輕慢す。○勞は、力報反。下も同じ。 子洩怒。謂陽虎、子行之乎。行、逐懷也。爲下陽虎囚桓子起。 【読み】 子洩怒る。陽虎に謂えらく、子之を行[さ]らんか、と。行は、懷を逐うなり。下の陽虎桓子を囚うる爲の起なり。 申包胥以秦師至。 【読み】 申包胥秦の師を以[い]て至る。 秦子蒲・子虎帥車五百乘以救楚。五百乘、三萬七千五百人。 【読み】 秦の子蒲・子虎車五百乘を帥いて以て楚を救う。五百乘は、三萬七千五百人。 子蒲曰、吾未知吳道。道、猶法術。 【読み】 子蒲曰く、吾れ未だ吳の道[てだて]を知らず、と。道は、猶法術のごとし。 使楚人先與吳人戰、而自稷會之、大敗夫槩王于沂。稷・沂、皆楚地。 【読み】 楚人をして先ず吳人と戰わしめて、稷より之に會し、大いに夫槩王を沂に敗る。稷・沂は、皆楚の地。 吳人獲薳射於柏舉。薳射、楚大夫。○射、食亦反。亦食夜反。 【読み】 吳人薳射[いえき]を柏舉に獲。薳射は、楚の大夫。○射は、食亦反。亦食夜反。 其子帥奔徒、奔徒、楚散卒。 【読み】 其の子奔徒を帥いて、奔徒は、楚の散卒。 以從子西、敗吳師于軍祥。楚地。 【読み】 以て子西に從いて、吳の師を軍祥に敗る。楚の地。 秋、七月、子期・子蒲滅唐。從吳伐楚故。 【読み】 秋、七月、子期・子蒲唐を滅ぼす。吳に從いて楚を伐つ故なり。 九月、夫槩王歸自立也、以與王戰而敗。自立爲吳王、號夫槩。 【読み】 九月、夫槩王歸りて自立して、以て王と戰いて敗れぬ。自立して吳王と爲り、夫槩と號す。 奔楚、爲堂谿氏。傳終言之。 【読み】 楚に奔りて、堂谿氏と爲る。傳之を終え言う。 吳師敗楚師于雍澨。秦師又敗吳師。吳師居麇。麇、地名。○麇、九倫反。 【読み】 吳の師楚の師を雍澨に敗る。秦の師又吳の師を敗る。吳の師麇[きん]に居る。麇は、地の名。○麇は、九倫反。 子期將焚之。子西曰、父兄親暴骨焉、不能收、又焚之、不可。前年、楚人與吳戰、多死麇中。言不可幷焚。○暴、步卜反。 【読み】 子期將に之を焚かんとす。子西曰く、父兄親しく骨を暴して、收むること能わざるに、又之を焚かんこと、不可なり、と。前年、楚人吳と戰いて、多く麇中に死す。言うこころは、幷せて焚く可らず。○暴は、步卜反。 子期曰、國亡矣。死者若有知也、可以歆舊祀。言焚吳復楚、則祭祀不廢。 【読み】 子期曰く、國亡びたり。死者若し知ること有らば、以て舊祀を歆[う]く可し。言うこころは、吳を焚きて楚を復せば、則ち祭祀廢らず。 豈憚焚之。焚之而又戰。吳師敗。又戰于公壻之谿。楚地名。 【読み】 豈之を焚くことを憚らんや、と。之を焚きて又戰う。吳の師敗れぬ。又公壻の谿に戰う。楚の地名。 吳師大敗。吳子乃歸。 【読み】 吳の師大いに敗れぬ。吳子乃ち歸る。 囚闉輿罷。闉輿罷請先、遂逃歸。輿罷、楚大夫。請先至吳而逃歸。言吳唯得楚一大夫、復失之。所以不克。○闉、音因。輿、音餘。又羊汝反。罷、音皮。 【読み】 闉輿罷[いんよひ]を囚う。闉輿罷先んぜんことを請い、遂に逃げ歸る。輿罷は、楚の大夫。先ず吳に至らんことを請いて逃げ歸る。言うこころは、吳唯楚の一大夫を得るも、復之を失う。克たざる所以なり。○闉は、音因。輿は、音餘。又羊汝反。罷は、音皮。 葉公諸梁之弟后臧、從其母於吳、不待而歸。諸梁、司馬沈尹戌之子、葉公子高也。吳入楚、獲后臧之母。楚定。臧棄母而歸。○葉、舒涉反。從、如字。又才用反。 【読み】 葉公[しょうこう]諸梁の弟后臧、其の母に吳に從い、待たずして歸る。諸梁は、司馬沈尹戌の子、葉公子高なり。吳楚に入り、后臧の母を獲。楚定まる。臧母を棄てて歸るなり。○葉は、舒涉反。從は、字の如し。又才用反。 葉公終不正視。不義之。 【読み】 葉公終に正視せざりき。之を不義とす。 乙亥、陽虎囚季桓子及公父文伯、文伯、季桓子從父昆弟也。陽虎欲爲亂。恐二子不從。故囚之。 【読み】 乙亥[きのと・い]、陽虎季桓子と公父文伯とを囚えて、文伯は、季桓子の從父昆弟なり。陽虎亂を爲さんと欲す。二子の從わざらんことを恐る。故に之を囚う。 而逐仲梁懷。冬、十月、丁亥、殺公何藐。藐、季氏族。○藐、亡角反。又彌小反。 【読み】 仲梁懷を逐う。冬、十月、丁亥[ひのと・い]、公何藐[こうかばく]を殺す。藐は、季氏の族。○藐は、亡角反。又彌小反。 己丑、盟桓子于稷門之内。魯南城門。 【読み】 己丑[つちのと・うし]、桓子に稷門の内に盟う。魯の南城門。 庚寅、大詛、逐公父歜及秦遄。皆奔齊。歜、卽文伯也。秦遄、平子姑婿也。傳言季氏之亂。○詛、莊慮反。歜、昌欲反。遄、市專反。 【読み】 庚寅[かのえ・とら]、大いに詛いて、公父歜[こうほしょく]と秦遄[しんせん]とを逐う。皆齊に奔る。歜は、卽ち文伯なり。秦遄は、平子の姑婿なり。傳季氏の亂を言う。○詛は、莊慮反。歜は、昌欲反。遄は、市專反。 楚子入于郢。吳師已歸。 【読み】 楚子郢に入る。吳の師已に歸る。 初、鬭辛聞吳人之爭宮也、曰、吾聞之、不讓則不和、不和不可以遠征。吳爭於楚。必有亂。有亂則必歸。焉能定楚。 【読み】 初め、鬭辛吳人の宮を爭うと聞きて、曰く、吾れ之を聞く、讓らざれば則ち和せず、和せざれば以て遠征す可からず、と。吳楚に爭う。必ず亂有らん。亂有らば則ち必ず歸らん。焉ぞ能く楚を定めん、と。 王之奔隨也、將涉於成臼。江夏竟陵縣西有臼水、出聊屈山、西南入漢。○屈、其勿反。又居勿反。 【読み】 王の隨に奔るや、將に成臼に涉らんとす。江夏竟陵縣の西に臼水有り、聊屈山[りょうくつざん]より出でて、西南して漢に入る。○屈は、其勿反。又居勿反。 藍尹亹涉其帑、亹、楚大夫。○亹、亡匪反。帑、音奴。 【読み】 藍尹亹[らんいんび]其の帑を涉して、亹は、楚の大夫。○亹は、亡匪反。帑は、音奴。 不與王舟。及寧、王欲殺之。寧、安定也。 【読み】 王に舟を與えず。寧んずるに及びて、王之を殺さんと欲す。寧は、安定なり。 子西曰、子常唯思舊怨以敗。君何效焉。王曰、善。使復其所。吾以志前惡。惡、過也。 【読み】 子西曰く、子常唯舊怨を思いて以て敗れたり。君何ぞ效[なら]わん、と。王曰く、善し。其の所に復らしめよ。吾れ以て前惡を志[しる]さん、と。惡は、過ちなり。 王賞鬭辛・王孫由于・王孫圉・鍾建・鬭巢・申包胥・王孫賈・宋木・鬭懷。九子、皆從王有大功者。 【読み】 王鬭辛・王孫由于・王孫圉・鍾建・鬭巢・申包胥・王孫賈・宋木・鬭懷を賞す。九子は、皆王に從いて大功有る者なり。 子西曰、請舍懷也。以初謀弑王也。○舍、音捨。又音赦。 【読み】 子西曰く、請う、懷を舍[お]け、と。初め王を弑せんことを謀るを以てなり。○舍は、音捨。又音赦。 王曰、大德滅小怨、道也。終從其兄免王大難。是大德。 【読み】 王曰く、大德小怨を滅ぼすは、道なり、と。終に其の兄に從いて王を大難に免れしむ。是れ大德なり。 申包胥曰、吾爲君也。非爲身也。君旣定矣。又何求。且吾尤子旗、其又爲諸。子旗、蔓成然也。以有德於平王、求欲無厭、平王殺之。在昭十四年。○爲君・爲身、于僞反。 【読み】 申包胥曰く、吾は君の爲なり。身の爲に非ざるなり。君旣に定まれり。又何をか求めん。且つ吾れ子旗を尤めて、其れ又諸を爲さんや、と。子旗は、蔓成然なり。平王に德有るを以て、求欲厭くこと無く、平王之を殺せり。昭十四年に在り。○爲君・爲身は、于僞反。 遂逃賞。 【読み】 遂に賞を逃る。 王將嫁季羋。季羋辭曰、所以爲女子、遠丈夫也。鍾建負我矣。以妻鍾建、以爲樂尹。司樂大夫。○遠、于萬反。妻、七計反。 【読み】 王將に季羋[きび]を嫁せんとす。季羋辭して曰く、女子爲る所以は、丈夫に遠ざかるなり。鍾建我を負えり、と。以て鍾建に妻わせて、以て樂尹と爲す。司樂大夫。○遠は、于萬反。妻は、七計反。 王之在隨也、子西爲王輿服以保路、國于脾洩、脾洩、楚邑也。失王、恐國人潰散。故僞爲王車服、立國脾洩、以保安道路人。 【読み】 王の隨に在るや、子西王の輿服を爲して以て路を保んじて、脾洩に國し、脾洩は、楚の邑なり。王を失えば、國人の潰散せんことを恐る。故に僞りて王の車服を爲りて、國を脾洩に立てて、以て道路の人を保安す。 聞王所在而後從王。 【読み】 王の所在を聞きて而して後に王に從えり。 王使由于城麇。於麇築城。 【読み】 王由于をして麇に城かしむ。麇に於て城を築く。 復命。子西問高厚焉。弗知。子西曰、不能、如辭。言自知不能、當辭勿行。 【読み】 復命す。子西高厚を問う。知らず。子西曰く、能わずんば、辭するに如かんや。言うこころは、自ら能わざるを知らば、當に辭して行くこと勿かるべし。 城不知高厚小大、何知。對曰、固辭不能、子使余也。人各有能有不能。王遇盜於雲中、余受其戈。其所猶在。袒而示之背、曰、此余所能也。脾洩之事、余亦不能也。傳言昭王所以復國、有賢臣也。○袒、音但。 【読み】 城きて高厚小大を知らずんば、何をか知らんとする、と。對えて曰く、固より不能を辭すれども、子余を使えり。人各々能有り不能有り。王盜に雲中に遇いしとき、余其の戈を受けたり。其の所猶在り、と。袒[はだぬ]ぎて之に背を示して、曰く、此れ余が能くする所なり。脾洩の事は、余も亦能わず、と。傳昭王國を復する所以は、賢臣有るを言うなり。○袒は、音但。 晉士鞅圍鮮虞、報觀虎之役也。三年、鮮虞獲晉觀虎。 【読み】 晉の士鞅鮮虞を圍むは、觀虎の役に報ゆるなり。三年、鮮虞晉の觀虎を獲。 〔經〕六年、春、王正月、癸亥、鄭游速帥師滅許、以許男斯歸。游速、大叔子。 【読み】 〔經〕六年、春、王の正月、癸亥[みずのと・い]、鄭の游速師を帥いて許を滅ぼし、許男斯を以[い]て歸る。游速は、大叔の子。 二月、公侵鄭。公至自侵鄭。無傳。 【読み】 二月、公鄭を侵す。公鄭を侵してより至る。傳無し。 夏、季孫斯・仲孫何忌如晉。秋、晉人執宋行人樂祁犂。稱行人、言非其罪。 【読み】 夏、季孫斯・仲孫何忌晉に如く。秋、晉人宋の行人樂祁犂[がくきれい]を執う。行人と稱するは、其の罪に非ざるを言うなり。 冬、城中城。無傳。公爲晉侵鄭。故懼而城之。 【読み】 冬、中城に城く。傳無し。公晉の爲に鄭を侵す。故に懼れて之に城く。 季孫斯・仲孫忌帥師圍鄆。無傳。何忌不言何、史闕文。鄆貳於齊。故圍之。 【読み】 季孫斯・仲孫忌師を帥いて鄆[うん]を圍む。傳無し。何忌何を言わざるは、史の闕文なり。鄆齊に貳あり。故に之を圍む。 〔傳〕六年、春、鄭滅許、因楚敗也。 【読み】 〔傳〕六年、春、鄭許を滅ぼすは、楚の敗に因れるなり。 二月、公侵鄭取匡、爲晉討鄭之伐胥靡也。胥靡、周地也。周儋翩因鄭人以作亂。鄭爲之伐胥靡。故晉使魯討之。匡、鄭地。取匡不書、歸之晉。○儋、丁甘反。 【読み】 二月、公鄭を侵して匡を取るは、晉の爲に鄭の胥靡を伐ちしを討ずるなり。胥靡は、周の地なり。周の儋翩[たんへん]鄭人に因りて以て亂を作す。鄭之が爲に胥靡を伐つ。故に晉魯をして之を討ぜしめり。匡は、鄭の地。匡を取ること書さざるは、之を晉に歸[おく]ればなり。○儋は、丁甘反。 往不假道於衛、及還、陽虎使季・孟自南門入、出自東門、陽虎將逐三桓、欲使得罪於鄰國。 【読み】 往くとき道を衛に假らず、還るに及びて、陽虎季・孟をして南門より入り、東門より出でしめて、陽虎將に三桓を逐わんとし、罪を鄰國に得せしめんと欲す。 舍於豚澤。衛侯怒。使彌子瑕追之。彌子瑕、衛嬖大夫。 【読み】 豚澤に舍る。衛侯怒る。彌子瑕をして之を追わしめんとす。彌子瑕は、衛の嬖大夫。 公叔文子老矣。文子、公叔發。 【読み】 公叔文子老う。文子は、公叔發。 輦而如公、曰、尤人而效之、非禮也。昭公之難、君將以文之舒鼎・ 衛文公之鼎。 【読み】 輦[れん]にして公に如きて、曰く、人を尤めて之に效[なら]うは、禮に非ざるなり。昭公の難に、君將に文の舒鼎・ 衛の文公の鼎。 成之昭兆・ 寶龜。 【読み】 成の昭兆・ 寶龜。 定之鞶鑑、鞶帶而以鏡爲飾也。今西方羌胡猶然。古之遺服。○鞶、步丹反。 【読み】 定の鞶鑑を以て、鞶帶にして鏡を以て飾りとするなり。今西方の羌胡猶然り。古の遺服なり。○鞶は、步丹反。 苟可以納之、擇用一焉。公子與二三臣之子、諸侯苟憂之、將以爲之質。爲質求納魯昭公。 【読み】 苟も以て之を納る可くんば、擇びて一を用いんとす。公の子と二三臣の子と、諸侯苟も之を憂えば、將に以て之が質と爲さんとす。質と爲して魯の昭公を納れんことを求む。 此羣臣之所聞也。今將以小忿蒙舊德、蒙、覆也。 【読み】 此れ羣臣の聞ける所なり。今將に小忿を以て舊德を蒙[おお]わんとするは、蒙は、覆うなり。 無乃不可乎。 【読み】 乃ち不可なること無からんや。 大姒之子、大姒、文王妃。 【読み】 大姒の子は、大姒は、文王の妃。 唯周公・康叔爲相睦也。而效小人以棄之、不亦誣乎。天將多陽虎之罪以斃之。君姑待之、若何。乃止。止不伐魯師。 【読み】 唯周公・康叔のみ相睦まじと爲す。而るに小人に效いて以て之を棄てば、亦誣いざらんや。天將に陽虎の罪を多くして以て之を斃さんとす。君姑く之を待たば、若何、と。乃ち止む。止めて魯の師を伐たざるなり。 夏、季桓子如晉、獻鄭俘也。獻此春取匡之俘。 【読み】 夏、季桓子晉に如くは、鄭の俘を獻ずるなり。此の春匡を取るの俘を獻ず。 陽虎强使孟懿子往報夫人之幣。虎欲困辱三桓、幷求媚於晉。故强使正卿報晉夫人之聘。 【読み】 陽虎强いて孟懿子をして往きて夫人の幣に報ぜしむ。虎三桓を困辱し、幷せて媚を晉に求めんと欲す。故に强いて正卿をして晉の夫人の聘に報ぜしむ。 晉人兼享之。賤魯。故不復兩設禮。明經所以不備書。 【読み】 晉人之を兼ね享す。魯を賤しむ。故に復禮を兩設せず。經に備に書せざる所以を明らかにするなり。 孟孫立于房外、謂范獻子曰、陽虎若不能居魯、而息肩於晉、所不以爲中軍司馬者、有如先君。稱先君、以徵其言、若欲使晉必厚待之。 【読み】 孟孫房外に立ち、范獻子に謂いて曰く、陽虎若し魯に居ること能わずして、肩を晉に息えんとき、以て中軍司馬と爲さざる所の者あらば、先君の如きこと有らん、と。先君を稱して、以て其の言を徵する、晉をして必ず之を厚待せしめんと欲するが若くす。 獻子曰、寡君有官。將使其人。擇得其人。 【読み】 獻子曰く、寡君官有り。將に其の人を使わんとす。其の人を擇び得。 鞅何知焉。獻子謂簡子曰、魯人患陽虎矣。孟孫知其釁、以爲必適晉。故强爲之請、以取入焉。欲令晉人聞虎當逃走。故强設請託之辭、因此言以入晉、令晉素知之。○釁、許靳反。爲之、于僞反。 【読み】 鞅何ぞ知らん、と。獻子簡子に謂いて曰く、魯人陽虎を患う。孟孫其の釁を知りて、必ず晉に適かんと以爲えり。故に强いて之が爲に請いて、以て入れんことを取れり、と。晉人をして虎が當に逃走すべきを聞かしめんと欲す。故に强いて請託の辭を設けて、此の言に因りて以て晉に入れしめんとして、晉をして素より之を知らしむ。○釁は、許靳反。爲之は、于僞反。 四月、己丑、吳大子終纍敗楚舟師、終纍、闔廬子、夫差兄。舟師、水戰。○纍、力追反。又力軌反。夫、音扶。差、初佳反。 【読み】 四月、己丑[つちのと・うし]、吳の大子終纍[しゅうるい]楚の舟師を敗り、終纍は、闔廬の子、夫差の兄。舟師は、水戰。○纍は、力追反。又力軌反。夫は、音扶。差は、初佳反。 獲潘子臣・小惟子、二子、楚舟師之帥。 【読み】 潘子臣・小惟子と、二子は、楚の舟師の帥。 及大夫七人。楚國大惕、懼亡。子期又以陵師敗于繁揚。陵師、陸軍。 【読み】 大夫七人とを獲たり。楚國大いに惕れ、亡びんことを懼る。子期又陵師を以て繁揚に敗れぬ。陵師は、陸軍。 令尹子西喜曰、乃今可爲矣。言知懼而後可治。 【読み】 令尹子西喜びて曰く、乃ち今にして爲む可し、と。言うこころは、懼れを知りて而して後に治む可し。 於是乎遷郢於鄀、而改紀其政、以定楚國。傳言楚賴子西以安。○鄀、音若。 【読み】 是に於て郢[えい]を鄀[じゃく]に遷して、其の政を改め紀して、以て楚國を定む。傳楚子西に賴りて以て安きを言う。○鄀は、音若。 周儋翩率王子朝之徒、因鄭人將以作亂于周。儋翩、子朝餘黨。 【読み】 周の儋翩[たんへん]王子朝の徒を率いて、鄭人に因りて將に亂を周に作さんとす。儋翩は、子朝の餘黨。 鄭於是乎伐馮・滑・胥靡・負黍・狐人・闕外。鄭伐周六邑、在魯伐鄭取匡前。於此見者、爲戍周起也。陽城縣西南有負黍亭。○見、賢遍反。下同。 【読み】 鄭是に於て馮・滑・胥靡・負黍・狐人・闕外を伐ちぬ。鄭周の六邑を伐つは、魯の鄭を伐ち匡を取るの前に在り。此に見すは、周を戍る爲の起なり。陽城縣の西南に負黍亭有り。○見は、賢遍反。下も同じ。 六月、晉閻沒戍周、且城胥靡。爲下天王出、居姑蕕起。 【読み】 六月、晉の閻沒周を戍り、且[また]胥靡に城く。下の天王出でて、姑蕕[こゆう]に居る爲の起なり。 秋、八月、宋樂祁言於景公曰、諸侯唯我事晉。今使不往、晉其憾矣。樂祁告其宰陳寅。以與公言告之。○使、去聲。 【読み】 秋、八月、宋の樂祁景公に言いて曰く、諸侯は唯我のみ晉に事う。今使い往かずんば、晉其れ憾みん、と。樂祁其の宰陳寅に告ぐ。公と言うを以て之に告ぐ。○使は、去聲。 陳寅曰、必使子往。他日、公謂樂祁曰、唯寡人說子之言。子必往。陳寅曰、子立後而行、吾室亦不亡。寅知晉政多門、往必有難。故使樂祁立後而行。○說、音悅。 【読み】 陳寅曰く、必ず子をして往かしめん、と。他日、公樂祁に謂いて曰く、唯寡人子の言を說ぶ。子必ず往け、と。陳寅曰く、子後を立てて行かば、吾が室も亦亡びじ。寅晉の政門多ければ、往かば必ず難有らんことを知る。故に樂祁をして後を立てて行かしむ。○說は、音悅。 唯君亦以我爲知難而行也。見溷而行。溷、樂祁子也。見於君、立以爲後。○溷、侯溫反。又侯困反。 【読み】 唯君も亦我を以て難を知りて行くと爲さん、と。溷[こん]を見えしめて行く。溷は、樂祁の子なり。君に見えしめ、立てて以て後と爲す。○溷は、侯溫反。又侯困反。 趙簡子逆而飮之酒於緜上。獻楊楯六十於簡子。楊、木名。○楯、食允反。又音允。 【読み】 趙簡子逆えて之に酒を緜上に飮ましむ。楊楯六十を簡子に獻ず。楊は、木の名。○楯は、食允反。又音允。 陳寅曰、昔吾主范氏、今子主趙氏、又有納焉。以楊楯賈禍。弗可爲也已。知范氏必怨將得禍。○賈、音古。 【読み】 陳寅曰く、昔吾れ范氏を主とせしに、今子は趙氏を主として、又納るること有り。楊楯を以て禍を賈わん。爲す可からざるのみ。范氏必ず怨みて將に禍を得んとするを知る。○賈は、音古。 然子死晉國、子孫必得志於宋。以其爲國死。 【読み】 然れども子晉國に死なば、子孫必ず志を宋に得ん、と。其の國の爲に死するを以てなり。 范獻子言於晉侯曰、以君命越疆而使、未致使而私飮酒、不敬二君。不可不討也。 【読み】 范獻子晉侯に言いて曰く、君命を以て疆を越えて使いし、未だ使いを致さずして私に酒を飮むは、二君に不敬なり。討ぜずんばある可からざるなり、と。 乃執樂祁。獻子怒祁比趙氏。經所以稱行人。 【読み】 乃ち樂祁を執う。獻子祁が趙氏に比するを怒る。經に行人と稱する所以なり。 陽虎又盟公及三桓於周社、盟國人于亳社、詛于五父之衢。傳言三桓微、陪臣專政。爲八年、陽虎作亂起。 【読み】 陽虎又公と三桓とに周社に盟い、國人に亳社[はくしゃ]に盟い、五父に衢に詛[ちか]う。傳三桓微にして、陪臣政を專にするを言う。八年、陽虎亂を作す爲の起なり。 冬、十二月、天王處于姑蕕、姑蕕、周地。 【読み】 冬、十二月、天王姑蕕[こゆう]に處るは、姑蕕は、周の地。 辟儋翩之亂也。爲明年、單・劉逆王起。 【読み】 儋翩の亂を辟くるなり。明年、單・劉王を逆うる爲の起なり。 〔經〕七年、春、王正月。夏、四月。秋、齊侯・鄭伯盟于鹹。衛地。 【読み】 〔經〕七年、春、王の正月。夏、四月。秋、齊侯・鄭伯鹹[かん]に盟う。衛の地。 齊人執衛行人北宮結、以侵衛。稱行人、非使人之罪。 【読み】 齊人衛の行人北宮結を執えて、以て衛を侵す。行人と稱するは、使人の罪に非ざるなり。 齊侯・衛侯盟于沙。結叛晉也。陽平元城縣東南有沙亭。 【読み】 齊侯・衛侯沙に盟う。晉に叛くことを結ぶなり。陽平元城縣の東南に沙亭有り。 大雩。無傳。過也。 【読み】 大いに雩[う]す。傳無し。過ぐるなり。 齊國夏帥師伐我西鄙。夏、國佐孫。 【読み】 齊の國夏師を帥いて我が西鄙を伐つ。夏は、國佐の孫。 九月、大雩。無傳。過也。 【読み】 九月、大いに雩す。傳無し。過ぐるなり。 冬、十月。 【読み】 冬、十月。 〔傳〕七年、春、二月、周儋翩入于儀栗以叛。儀栗、周邑。 【読み】 〔傳〕七年、春、二月、周の儋翩[たんへん]儀栗に入りて以て叛く。儀栗は、周の邑。 齊人歸鄆・陽關。陽虎居之以爲政。鄆・陽關、皆魯邑。中貳於齊。齊今歸之。不書、虎專之。○中、丁仲反。 【読み】 齊人鄆[うん]・陽關を歸す。陽虎之に居りて以て政を爲す。鄆・陽關は、皆魯の邑。中ごろ齊に貳す。齊今之を歸す。書さざるは、虎之を專にすればなり。○中は、丁仲反。 夏、四月、單武公・ 穆公子。 【読み】 夏、四月、單武公・ 穆公の子。 劉桓公、文公子。 【読み】 劉桓公、文公の子。 敗尹氏于窮谷。尹氏復黨儋翩、共爲亂也。 【読み】 尹氏を窮谷に敗る。尹氏復儋翩に黨して、共に亂を爲せばなり。 秋、齊侯・鄭伯盟于鹹、徵會于衛。徵、召也。 【読み】 秋、齊侯・鄭伯鹹に盟い、會を衛に徵[め]す。徵は、召すなり。 衛侯欲叛晉。屬齊・鄭也。 【読み】 衛侯晉に叛かんと欲す。齊・鄭に屬せんとす。 諸大夫不可。使北宮結如齊、而私於齊侯曰、執結以侵我。欲以齊師懼諸大夫。 【読み】 諸大夫可[き]かず。北宮結をして齊に如かしめて、齊侯に私して曰く、結を執えて以て我を侵せ、と。齊の師を以て諸大夫を懼[おど]さんと欲す。 齊侯從之、乃盟于瑣。瑣、卽沙也。爲明年、涉佗捘衛侯手起。○捘、子對反。 【読み】 齊侯之に從い、乃ち瑣に盟う。瑣は、卽ち沙なり。明年、涉佗衛侯の手を捘[お]す爲の起なり。○捘は、子對反。 齊國夏伐我。齊叛晉故。 【読み】 齊の國夏我を伐つ。齊晉に叛く故なり。 陽虎御季桓子、公斂處父御孟懿子、處父、孟氏家臣、成宰公斂陽。○斂、力檢反。又音廉。 【読み】 陽虎季桓子に御となり、公斂處父孟懿子に御となりて、處父は、孟氏の家臣、成の宰公斂陽なり。○斂は、力檢反。又音廉。 將宵軍齊師。齊師聞之、墮伏而待之。墮毀其軍以誘敵、而設伏兵。○墮、許規反。 【読み】 將に宵齊の師に軍せんとす。齊の師之を聞き、墮[やぶ]りて伏して之を待つ。其の軍を墮毀して以て敵を誘きて、伏兵を設く。○墮は、許規反。 處父曰、虎不圖禍。而必死。而、女也。○女、音汝。 【読み】 處父曰く、虎禍を圖らず。而[なんじ]必ず死せん、と。而は、女なり。○女は、音汝。 苫夷曰、虎陷二子於難。苫夷、季氏家臣。二子、季・孟。○苫、始占反。 【読み】 苫夷[せんい]曰く、虎二子を難に陷れんとす。苫夷は、季氏の家臣。二子は、季・孟。○苫は、始占反。 不待有司、余必殺女。虎懼、乃還。不敗。傳言陪臣强、能自相制、季・孟不敢有心。 【読み】 有司を待たずして、余必ず女を殺さん、と。虎懼れ、乃ち還る。敗れず。傳陪臣强く、能く自ら相制して、季・孟敢えて心有らざるを言う。 冬、十一月、戊午、單子・劉子逆王于慶氏。慶氏、守姑蕕大夫。 【読み】 冬、十一月、戊午[つちのえ・うま]、單子・劉子王を慶氏より逆う。慶氏は、姑蕕[こゆう]を守る大夫。 晉籍秦送王。己巳、王入于王城。己巳、十二月五日。有日無月。 【読み】 晉の籍秦王を送る。己巳[つちのと・み]、王王城に入る。己巳は、十二月五日。日有れども月無し。 館于公族黨氏、黨氏、周大夫。○黨、音掌。 【読み】 公族の黨氏[しょうし]に館りて、黨氏は、周の大夫。○黨は、音掌。 而後朝于莊宮。莊王廟也。 【読み】 而して後に莊宮に朝せり。莊王の廟なり。 定 經元年。禱之。丁老反。隕霜。于敏反。 傳。涖政。音利。又音類。奸義。音干。大咎。其九反。荒蕪。音無。近吳。附近之近。柏椁。音郭。爲夏。戶雅反。注同。于邳。皮悲反。仲虺。許鬼反。左相。息亮反。薛焉。於虔反。納侮。亡甫反。過分。扶問反。故復。扶又反。旣厭。於豔反。其祚。才故反。不中。丁仲反。故朝夕。如字。而從君。或如字。壞隤。徒回反。自旌。音精。將焉。於虔反。鞏。九勇反。 經二年。囊瓦。乃郎反。 傳。閽。音昬。守門人也。以敲。說文、作毃。云、擊頭也。字林同。又一曰、擊聲也。口交反。又口卓反。訓此敲云、橫擿也。又或作摮。或作搞。口交反。 經三年。子穿。音川。 傳。臨廷。音庭。下同。缾水。步丁反。本又作甁。炭。他旦反。五乘。繩證反。殉五人。辭俊反。卞急。皮彥反。而好。呼報反。下文及注同。躁疾。早報反。于郯。音談。駿馬。音俊。自拘。九于反。弄馬。魯貢反。以償。市亮反。若復。扶又反。爲質。音致。 經四年。國夏。戶雅反。召陵。上照反。楚竟。音境。公孫生。本又作姓。○今本亦姓。復稱。扶又反。異處。昌慮反。伯成。音城。爲告。于僞反。下吳爲蔡同。孔圉。魚呂反。死難。乃旦反。幷數。所主反。 傳。水潦。音老。疾瘧。魚略反。羽旄。音毛。析羽。星曆反。下放此。旐。音兆。忿爭。爭鬭之爭。大祝。音泰。下大祝・大卜・大史・大原同。徼大。古堯反。夫祝。音扶。出竟。音境。下同。釁鼓。許靳反。鼓鞞。步西反。本又作鼙。○今本亦鼙。欲令歃也。所洽反。又所甲反。以蕃。方元反。○今本藩。相王。悉亮反。大輅。音路。本亦作路。下皆同。○今本亦路。大旂。其依反。諸侯所建。錫。星曆反。夏后。戶雅反。下皆同。之璜。音黃。封父。音甫。下武父同。封父、國名。輯其。一音七入反。共魯。音恭。下文以共王職同。倍敦。本亦作陪。同。○今本亦陪。典筴。本又作冊。亦作策。或作笧。皆初革反。○今本亦策。彝。羊之反。皆令。徐力呈反。皞。詩照反。注及下同。下胡老反。旃。章然反。陶。徒刀反。甫田。布吳反。本亦作圃。同。○今本圃。塗所徑。音徒。鄭藪。素口反。蓋近。附近之近。下近戒同。東蒐。所求反。巡守。手又反。疆以。居良反。注及下同。沽洗。音孤。道紂。音導。七乘。繩證反。改行。下孟反。之昭。說文作佋。伯甸。徒練反。鄭捷。在接反。齊潘。普安反。玆丕。普悲反。可覆。芳服反。爲之。于僞反。下楚爲沈同。黃父。音甫。無怙。音戶。州犂。力兮反。子乾。其連反。爲質。音致。淮汭。人銳反。夾漢。古洽反。沿漢。悅全反。上下。時掌反。注同。遮使。正奢反。大隧。音遂。冥。本或作寘。之豉反。阨。本或作隘。音同。惡子。烏路反。而好。呼報反。江夏。戶雅反。其卒。子忽反。下同。畀我。必利反。燧象。音遂。裹。音果。中肩。丁仲反。蔓成。音萬。其衷。音忠。又竄。七亂反。竄匿。女力反。申包。必交反。數也。所角反。草茅。舊作茅。亡交反。今本多作莽。○今本亦莽。無厭。於鹽反。疆。居良反。埸。音亦。逮吳。音代。同仇。音求。 經五年。 傳。周亟。紀力反。注同。璵。本又作與。斂。力驗反。不狃。女九反。子洩。息列反。使僭。子念反。時從。才用反。下從父昆弟・皆從王、竝同。百乘。繩證反。注同。于沂。魚依反。散卒。子忽反。堂谿。苦兮反。下同。以歆。許金反。輿。本又作與。罷。音皮。復失。扶又反。公父。音甫。焉能。於虔反。成臼。其九反。藍尹。力甘反。謀殺。申志反。○今本弑。大難。乃旦反。無厭。於鹽反。脾洩。婢支反。下息列反。 經六年。祁犂。力兮反。又力之反。公爲。于僞反。圍鄆。音運。 傳。爲晉。于僞反。注同。儋翩。音篇。豚澤。杜孫反。嬖大夫。必計反。之難。乃旦反。盤。或作鞶。一音蒲官反。○今本亦鞶。鑑。古暫反。爲質。音致。注同。大姒。音泰。下音似。鄭俘。芳夫反。强使。其丈反。注同。下放此。不復。扶又反。欲令。力呈反。小惟子。位悲反。本又作帷。又如字。之帥。所類反。大惕。他歷反。爲戍。于僞反。下同。其憾。戶暗反。有難。乃旦反。下文同。飮之。於鴆反。爲國。于僞反。下同。越疆。居良反。而使。所吏反。下同。比趙。毗志反。亳社。步各反。詛于。側慮反。五父。音甫。之衢。其倶反。姑蕕。音由。又作猶。一音由舊反。單劉。音善。 經七年。于鹹。音咸。非使。所吏反。于沙。如字。又星和反。 傳。中貳。丁仲反。復黨。扶又反。瑣。素果反。涉佗。徒何反。公斂。或音慮點反。於難。乃旦反。
春秋左氏傳校本第二十九 哀公 起元年盡十三年 晉 杜氏 集解 唐 陸氏 音義 尾張 秦 鼎 校本 哀公 名、蔣。定公之子。蓋夫人定姒所生。謚法、恭仁短折曰哀。 【読み】 哀公 名は、蔣。定公の子。蓋し夫人定姒の生む所ならん。謚法に、恭仁短折を哀と曰う、と。 〔經〕元年、春、王正月、公卽位。無傳。 【読み】 〔經〕元年、春、王の正月、公位に卽く。傳無し。 楚子・陳侯・隨侯・許男圍蔡。隨世服於楚、不通中國。吳之入楚、昭王奔隨。隨人免之、卒復楚國。楚人德之、使列於諸侯。故得見經。定六年、鄭滅許。此復見者、蓋楚封之。 【読み】 楚子・陳侯・隨侯・許男蔡を圍む。隨世々楚に服して、中國に通ぜず。吳の楚に入るとき、昭王隨に奔る。隨人之を免れしめ、卒に楚國を復す。楚人之を德とし、諸侯に列ねしむ。故に經に見ることを得たり。定六年、鄭許を滅す。此に復見る者は、蓋し楚之を封ずるならん。 鼷鼠食郊牛。改卜牛。夏、四月、辛巳、郊。無傳。書過也。不言所食、所食非一處。 【読み】 鼷鼠[けいそ]郊牛を食む。牛を改め卜す。夏、四月、辛巳[かのと・み]、郊す。傳無し。過ぐるを書すなり。食む所を言わざるは、食む所一處に非ざればなり。 秋、齊侯・衛侯伐晉。冬、仲孫何忌帥師伐邾。無傳。 【読み】 秋、齊侯・衛侯晉を伐つ。冬、仲孫何忌師を帥いて邾[ちゅ]を伐つ。傳無し。 〔傳〕元年、春、楚子圍蔡、報柏舉也。在定四年。 【読み】 〔傳〕元年、春、楚子蔡を圍むは、柏舉に報ゆるなり。定四年に在り。 里而栽。栽、設板築爲圍壘。周匝去蔡城一里。○栽、才代反。又音再。築牆長版。 【読み】 里にして栽す。栽は、板築を設けて圍壘を爲すなり。周匝[しゅうそう]して蔡城を去ること一里。○栽は、才代反。又音再。牆を築く長版。 廣丈高倍。壘厚一丈、高二丈。○廣、古曠反。高、如字。又古報反。 【読み】 廣さ丈高さ倍す。壘の厚さ一丈、高さ二丈。○廣は、古曠反。高は、字の如し。又古報反。 夫屯晝夜九日、夫、猶兵也。壘未成。故令人在壘裏屯守蔡。○屯、徒門反。 【読み】 夫屯すること晝夜九日、夫は、猶兵のごとし。壘未だ成らず。故に人をして壘裏に在りて蔡を屯守せしむ。○屯は、徒門反。 如子西之素。子西本計爲壘當用九日而成。 【読み】 子西の素の如し。子西本壘を爲るは當に九日を用いて成るべきを計る。 蔡人男女以辨。辨、別也。男女各別、係纍而出降。○辨、扶免反。纍、力維反。 【読み】 蔡人男女以て辨つ。辨は、別つなり。男女各々別れて、係纍して出でて降る。○辨は、扶免反。纍は、力維反。 使疆于江・汝之閒而還。楚欲使蔡徙國、在江水之北、汝水之南、求田以自安也。蔡權聽命。故楚師還。 【読み】 江・汝の閒に疆せしめて還る。楚蔡をして國を徙[うつ]して、江水の北、汝水の南に在りて、田を求めて以て自ら安んぜしめんと欲す。蔡權[かり]に命を聽く。故に楚の師還る。 蔡於是乎請遷于吳。楚旣還。蔡人更叛楚就吳。爲明年、蔡遷州來傳。 【読み】 蔡是に於て遷らんことを吳に請う。楚旣に還る。蔡人更に楚を叛きて吳に就く。明年、蔡州來に遷る爲の傳なり。 吳王夫差敗越于夫椒。報檇李也。檇李、在定十四年。夫椒、吳郡吳縣西南大湖中椒山。○夫、音扶。檇、音醉。 【読み】 吳王夫差越を夫椒に敗る。檇李[すいり]に報ゆるなり。檇李は、定十四年に在り。夫椒は、吳郡吳縣の西南の大湖中の椒山。○夫は、音扶。檇は、音醉。 遂入越。越子以甲楯五千保于會稽、上會稽也。在會稽山陰縣南。○楯、食允反。又音允。會、古外反。 【読み】 遂に越に入る。越子甲楯五千を以て會稽に保ち、會稽に上るなり。會稽山陰縣の南に在り。○楯は、食允反。又音允。會は、古外反。 使大夫種因吳大宰嚭以行成。吳子將許之。 【読み】 大夫種をして吳の大宰嚭[ひ]に因りて以て成[たい]らぎを行わしむ。吳子將に之を許さんとす。 伍員曰、不可。臣聞之、樹德莫如滋、去疾莫如盡。昔有過澆殺斟灌、以伐斟鄩、澆、寒浞子。封於過者。二斟、夏同姓諸侯。襄四年傳曰、澆用師滅斟灌。○嚭、普鄙反。員、音云。去、起呂反。過、古禾反。澆、五呌反。一五報反。灌、古亂反。鄩、音尋。浞、仕捉反。 【読み】 伍員[ごうん]曰く、不可なり。臣之を聞く、德を樹つるは滋くするに如くは莫く、疾を去るは盡くすに如くは莫し、と。昔有過の澆[ぎょう]斟灌を殺して、以て斟鄩[しんじん]を伐ち、澆は、寒浞[かんさく]の子。過に封ぜらるる者なり。二斟は、夏の同姓の諸侯。襄四年の傳に曰く、澆師を用いて斟灌を滅ぼす、と。○嚭は、普鄙反。員は、音云。去は、起呂反。過は、古禾反。澆は、五呌反。一に五報反。灌は、古亂反。鄩は、音尋。浞は、仕捉反。 滅夏后相、夏后相、啓孫也。后相失國、依於二斟。復爲澆所滅。○相、息亮反。 【読み】 夏后相を滅ぼせしとき、夏后相は、啓の孫なり。后相國を失いて、二斟に依る。復澆の爲に滅ぼさる。○相は、息亮反。 后緡方娠。逃出自竇、后緡、相妻。娠、懷身也。○娠、音震。又音身。 【読み】 后緡[こうびん]方に娠めり。竇[とう]より逃げ出でて、后緡は、相の妻。娠は、懷身なり。○娠は、音震。又音身。 歸于有仍、后緡、有仍氏女。 【読み】 有仍[ゆうじょう]に歸り、后緡は、有仍氏の女。 生少康焉。爲仍牧正、牧官之長。 【読み】 少康を生みぬ。仍の牧正と爲り、牧官の長。 惎澆能戒之。惎、毒也。戒、備也。○惎、音忌。 【読み】 澆を惎[き]として能く之に戒[そな]う。惎は、毒なり。戒は、備うるなり。○惎は、音忌。 澆使椒求之、椒、澆臣。 【読み】 澆椒をして之を求めしむれば、椒は、澆の臣。 逃奔有虞、爲之庖正、以除其害。虞舜後諸侯也。梁國有虞縣。庖正、掌膳羞之官。賴此以得除己害。 【読み】 有虞に逃げ奔り、之が庖正と爲りて、以て其の害を除く。虞舜の後の諸侯なり。梁國に虞縣有り。庖正は、膳羞を掌るの官。此に賴りて以て己が害を除くことを得たり。 虞思於是妻之以二姚、思、有虞君也。虞思自以二女妻小康。姚、虞姓。○妻、七計反。 【読み】 虞思是に於て之に妻わすに二姚[によう]を以てして、思は、有虞の君なり。虞思自ら二女を以て小康を妻わす。姚は、虞の姓。○妻は、七計反。 而邑諸綸、綸、虞邑。 【読み】 諸を綸に邑せしかば、綸は、虞の邑。 有田一成、有衆一旅、方十里爲成、五百人爲旅。 【読み】 田一成有り、衆一旅有りしも、方十里を成と爲し、五百人を旅と爲す。 能布其德而兆其謀、兆、始。 【読み】 能く其の德を布きて其の謀を兆[はじ]め、兆は、始む。 以收夏衆、撫其官職、襄四年傳曰、靡自有鬲氏、收二國之燼、以滅浞而立少康。○鬲、音革。 【読み】 以て夏の衆を收め、其の官職を撫で、襄四年の傳に曰く、靡有鬲氏[ゆうかくし]より、二國の燼を收めて、以て浞を滅ぼして少康を立つ、と。○鬲は、音革。 使女艾諜澆、女艾、少康臣。諜、候也。○女、如字。又音汝。 【読み】 女艾[じょがい]をして澆を諜[うかが]わしめ、女艾は、少康の臣。諜は、候[うかが]うなり。○女は、字の如し。又音汝。 使季杼誘豷、豷、澆弟也。季杼、少康子、后杼也。○杼、直呂反。豷、許器反。 【読み】 季杼をして豷[き]を誘かしめ、豷は、澆の弟なり。季杼は、少康の子、后杼なり。○杼は、直呂反。豷は、許器反。 遂滅過・戈、復禹之績、過、澆國。戈、豷國。○過・戈、竝古禾反。 【読み】 遂に過・戈[か]を滅ぼし、禹の績を復して、過は、澆の國。戈は、豷の國。○過・戈は、竝古禾反。 祀夏配天、不失舊物。物、事也。 【読み】 夏を祀り天に配して、舊物を失わざりき。物は、事なり。 今吳不如過、而越大於少康。或將豐之、不亦難乎。言與越成、是使越豐大、必爲吳難。○難、乃旦反。 【読み】 今吳は過に如かずして、越は少康より大なり。或は將に之を豐かにせんとせば、亦難[なや]みたらざらんや。言うこころは、越と成らがば、是れ越をして豐大ならしめて、必ず吳の難みと爲らん。○難は、乃旦反。 勾踐能親而務施、施不失人、所加惠賜、皆得其人。○施、始豉反。下同。 【読み】 勾踐能く親しみて施しを務め、施して人を失わず、惠賜を加うる所、皆其の人を得たり。○施は、始豉反。下も同じ。 親不棄勞。推親愛之誠、則不遺小勞。 【読み】 親しみて勞を棄てず。親愛の誠を推して、則ち小勞を遺[す]てず。 與我同壤、而世爲仇讎。於是乎克而弗取、將又存之。違天而長寇讎、猶言天與不取。 【読み】 我と壤を同じくして、世々仇讎爲り。是に於て克ちて取らずして、將に又之を存せんとす。天に違いて寇讎を長ぜば、猶天の與うるを取らずと言うがごとし。 後雖悔之、不可食已。食、消也。已、止也。 【読み】 後之を悔ゆと雖も、食[け]し已む可からず。食は、消すなり。已は、止むなり。 姬之衰也、日可俟也。姬、吳姓。言可計日而待。 【読み】 姬の衰うるや、日して俟つ可きなり。姬は、吳の姓。言うこころは、日を計えて待つ可し。 介在蠻夷而長寇讎、以是求伯、必不行矣。 【読み】 蠻夷に介在して寇讎を長じ、是を以て伯を求めんこと、必ず行われじ、と。 弗聽。退而告人曰、越十年生聚、而十年敎訓。生民聚財、富而後敎之。○伯、如字。又音霸。 【読み】 聽かず。退きて人に告げて曰く、越十年生聚して、十年敎訓せん。民を生し財を聚め、富みて而して後に之を敎ゆ。○伯は、字の如し。又音霸。 二十年之外、吳其爲沼乎。謂吳宮室廢壞、當爲汙池。爲二十二年、越入吳起本。 【読み】 二十年の外、吳其れ沼と爲らんか、と。吳の宮室廢壞して、當に汙池と爲るべきを謂う。二十二年、越吳に入る爲の起本なり。 三月、越及吳平。 【読み】 三月、越吳と平らぐ。 吳入越不書、吳不告慶、越不告敗也。嫌夷狄不與華同。故復發傳。 【読み】 吳の越に入ること書さざるは、吳慶を告げず、越敗を告げざればなり。夷狄華と同じからざるに嫌あり。故に復傳を發す。 夏、四月、齊侯・衛侯救邯鄲、圍五鹿。趙稷以邯鄲叛。范・中行氏之黨也。五鹿、晉邑。○邯、音寒。鄲、音丹。 【読み】 夏、四月、齊侯・衛侯邯鄲を救いて、五鹿を圍む。趙稷邯鄲を以て叛く。范・中行氏の黨なり。五鹿は、晉の邑。○邯は、音寒。鄲は、音丹。 吳之入楚也、在定四年。 【読み】 吳の楚に入るや、定四年に在り。 使召陳懷公。懷公朝國人而問焉、曰、欲與楚者右、欲與吳者左。陳人從田。無田從黨。都邑之人無田者、隨黨而立。不知所與。故直從所居。田在西者居右、在東者居左。 【読み】 陳の懷公を召ばしむ。懷公國人を朝せしめて問いて、曰く、楚に與せんと欲する者は右し、吳に與せんと欲する者は左せよ、と。陳人田に從う。田無きは黨に從う。都邑の人田無き者は、黨に隨いて立つ。與せん所を知らず。故に直に居る所に從う。田西に在る者は右に居り、東に在る者は左に居る。 逢滑當公而進、當公、不左不右。 【読み】 逢滑公に當たりて進みて、公に當たれば、左せず右せざるなり。 曰、臣聞國之興也以福、其亡也以禍。今吳未有福、楚未有禍。楚未可棄、吳未可從。而晉盟主也。若以晉辭吳、若何。公曰、國勝君亡。非禍而何。楚爲吳所勝。 【読み】 曰く、臣聞く、國の興るや福を以てし、其の亡ぶるや禍を以てす、と。今吳未だ福有らず、楚未だ禍有らず。楚は未だ棄つ可からず、吳には未だ從う可からず。而して晉は盟主なり。若し晉を以て吳に辭せば、若何、と。公曰く、國勝たれ君亡[に]ぐ。禍に非ずして何ぞ、と。楚吳の爲に勝たる。 對曰、國之有是多矣。何必不復。小國猶復。況大國乎。臣聞國之興也、視民如傷。是其福也。如傷、恐驚動。 【読み】 對えて曰く、國の是れ有ること多し。何ぞ必ずしも復せざらん。小國だも猶復す。況んや大國をや。臣聞く、國の興るや、民を視ること傷つくが如くす。是れ其れ福なり。傷つくが如くすとは、驚動せんことを恐るるなり。 其亡也、以民爲土芥。是其禍也。芥、草也。 【読み】 其の亡ぶるや、民を以て土芥と爲す。是れ其れ禍なり、と。芥は、草なり。 楚雖無德、亦不艾殺其民。吳日敝於兵、暴骨如莽、草之生於廣野、莽莽然。故曰草莽。○艾、魚廢反。暴、步卜反。 【読み】 楚は德無しと雖も、亦其の民を艾殺[がいさつ]せず。吳は日々に兵に敝[つか]れ、骨を暴すこと莽の如くにして、草の廣野に生ずるは、莽莽然たり。故に草莽と曰う。○艾は、魚廢反。暴は、步卜反。 而未見德焉。天其或者正訓楚也。使懼而改過。 【読み】 未だ德を見ず。天其れ或は楚を正訓するか。懼れて過ちを改めしむ。 禍之適吳、其何日之有。言今至。 【読み】 禍の吳に適かんこと、其れ何れの日か之れ有らん、と。言うこころは、今至らん。 陳侯從之。 【読み】 陳侯之に從う。 及夫差克越、乃脩先君之怨。秋、八月、吳侵陳。脩舊怨也。傳言吳不脩德而脩怨。所以亡。 【読み】 夫差が越に克つに及びて、乃ち先君の怨みを脩めんとす。秋、八月、吳陳を侵す。舊怨を脩むるなり。傳吳德を脩めずして怨みを脩む。亡ぶる所以を言う。 齊侯・衛侯會于乾侯、救范氏也。 【読み】 齊侯・衛侯乾侯に會するは、范氏を救うなり。 師及齊師・衛孔圉・鮮虞人伐晉、取棘蒲。魯師不書、非公命也。孔圉、孔烝鉏曾孫。鮮虞、狄。帥賤。故不書。 【読み】 師齊の師・衛の孔圉・鮮虞の人と晉を伐ちて、棘蒲を取る。魯の師書さざるは、公命に非ざればなり。孔圉は、孔烝鉏の曾孫。鮮虞は、狄。帥賤し。故に書さず。 吳師在陳。楚大夫皆懼曰、闔廬惟能用其民、以敗我於柏舉。今聞其嗣又甚焉。將若之何。子西曰、二三子恤不相睦。無患吳矣。 【読み】 吳の師陳に在り。楚の大夫皆懼れて曰く、闔廬惟能く其の民を用いて、以て我を柏舉に敗れり。今聞く、其の嗣又焉より甚だし、と。將に之を若何にせんとする、と。子西曰く、二三子相睦まじからざることを恤えよ。吳を患うること無かれ。 昔闔廬食不二味、居不重席、室不崇壇、平地作室不起壇也。○重、平聲。 【読み】 昔闔廬食味を二にせず、居席を重ねず、室壇を崇くせず、平地に室を作りて壇を起こさざるなり。○重は、平聲。 器不彤鏤、彤、丹也。鏤、刻也。 【読み】 器彤鏤[とうろう]せず、彤は、丹なり。鏤は、刻むなり。 宮室不觀、觀、臺榭。○觀、古亂反。 【読み】 宮室觀せず、觀は、臺榭[だいしゃ]。○觀は、古亂反。 舟車不飾、衣服財用、擇不取費、選取堅厚、不尙細靡。○費、芳味反。 【読み】 舟車飾らず、衣服財用、擇びて費を取らず、堅厚を選び取りて、細靡を尙ばず。○費は、芳味反。 在國、天有菑癘、癘、疾疫也。 【読み】 國に在りては、天に菑癘有れば、癘は、疾疫なり。 親巡孤寡、而共其乏困、在軍、熟食者分而後敢食。必須軍士皆分熟食、不敢先食。分、猶徧也。○共、音恭。 【読み】 親ら孤寡を巡りて、其の乏困に共[そな]え、軍に在りては、熟食する者を分[あまね]くして後に敢えて食らう。必ず軍士の皆分く熟食するを須ちて、敢えて先に食らわず。分は、猶徧くのごとし。○共は、音恭。 其所嘗者、卒乘與焉。所嘗、甘珍非常食。 【読み】 其の嘗むる所の者は、卒乘も與る。嘗むる所とは、甘珍非常の食。 勤恤其民、而與之勞逸。是以民不罷勞、死知不曠。知身死不見曠棄。○罷、音皮。 【読み】 其の民を勤恤して、之と與に勞逸す。是を以て民罷勞せずして、死して曠[むな]しからざるを知れり。身死して曠棄せられざるを知る。○罷は、音皮。 吾先大夫子常易之。所以敗我也。易、猶反也。 【読み】 吾が先大夫子常之を易う。我を敗りし所以なり。易は、猶反くのごとし。 今聞夫差次有臺榭陂池焉、積土爲高曰臺、有木曰榭、過再宿曰次。 【読み】 今聞く、夫差は次に臺榭陂池有り、土を積みて高きを爲すを臺と曰い、木有るを榭と曰い、再宿に過ぐるを次と曰う。 宿有妃嬙嬪御焉、妃嬙、貴者。嬪御、賤者。皆内官。 【読み】 宿に妃嬙嬪御有り、妃嬙は、貴者。嬪御は、賤者。皆内官。 一日之行、所欲必成、玩好必從、珍異是聚、觀樂是務、視民如讎、而用之日新。夫先自敗也已。安能敗我。爲二十二年、越滅吳起本。 【読み】 一日の行も、欲する所必ず成し、玩好必ず從え、珍異是れ聚め、觀樂是れ務め、民を視ること讎の如くにして、之を用ゆること日に新たなり、と。夫れ先ず自ら敗れんのみ。安ぞ能く我を敗らん、と。二十二年、越吳を滅ぼす爲の起本なり。 冬、十一月、晉趙鞅伐朝歌。討范・中行氏。 【読み】 冬、十一月、晉の趙鞅朝歌を伐つ。范・中行氏を討ず。 〔經〕二年、春、王二月、季孫斯・叔孫州仇・仲孫何忌帥師伐邾、取漷東田及沂西田。邾人以賂。取之、易也。○漷、火虢反。又音郭。沂、魚依反。 【読み】 〔經〕二年、春、王の二月、季孫斯・叔孫州仇・仲孫何忌師を帥いて邾[ちゅ]を伐ち、漷東[かくとう]の田と沂西[ぎせい]の田とを取る。邾人以て賂うなり。之を取るとは、易きなり。○漷は、火虢反。又音郭。沂は、魚依反。 癸巳、叔孫州仇・仲孫何忌及邾人盟于句繹。句繹、邾地。取邑、盟以要之。○句、音勾。 【読み】 癸巳[みずのと・み]、叔孫州仇・仲孫何忌邾人と句繹に盟う。句繹は、邾の地。邑を取りて、盟いて以て之を要す。○句は、音勾。 夏、四月、丙子、衛侯元卒。定四年、盟皐鼬。 【読み】 夏、四月、丙子[ひのえ・ね]、衛侯元卒す。定四年、皐鼬[こうゆう]に盟う。 滕子來朝。無傳。 【読み】 滕子來朝す。傳無し。 晉趙鞅帥師納衛世子蒯聵于戚。秋、八月、甲戌、晉趙鞅帥師及鄭罕達帥師戰于鐵。鄭師敗績。皆陳曰戰、大崩曰敗績。鐵、在戚城南。罕逹、子皮孫。 【読み】 晉の趙鞅師を帥いて衛の世子蒯聵[かいかい]を戚に納る。秋、八月、甲戌[きのえ・いぬ]、晉の趙鞅師を帥いて鄭の罕達が師を帥いると鐵に戰う。鄭の師敗績す。皆陳するを戰と曰い、大いに崩るるを敗績と曰う。鐵は、戚城の南に在り。罕逹は、子皮の孫。 冬、十月、葬衛靈公。無傳。七月而葬。緩。 【読み】 冬、十月、衛の靈公を葬る。傳無し。七月にして葬る。緩きなり。 十有一月、蔡遷于州來。畏楚而請遷。故以自遷爲文。 【読み】 十有一月、蔡州來に遷る。楚を畏れて遷らんことを請う。故に自ら遷るを以て文を爲す。 蔡殺其大夫公子駟。懷土而欺大國。故罪而書名。 【読み】 蔡其の大夫公子駟を殺す。土を懷いて大國を欺く。故に罪して名を書す。 〔傳〕二年、春、伐邾、將伐絞。絞、邾邑。 【読み】 〔傳〕二年、春、邾を伐ち、將に絞を伐たんとす。絞は、邾の邑。 邾人愛其土。故賂以漷・沂之田而受盟。 【読み】 邾人其の土を愛しむ。故に賂うに漷・沂の田を以てして盟を受く。 初、衛侯遊于郊、子南僕。子南、靈公子、郢也。僕、御也。 【読み】 初め、衛侯郊に遊びしとき、子南僕たり。子南は、靈公の子、郢[えい]なり。僕は、御なり。 公曰、余無子。將立女。蒯聵奔、無大子。○女、音汝。 【読み】 公曰く、余子無し。將に女を立てんとす、と。蒯聵奔りて、大子無し。○女は、音汝。 不對。他日又謂之。對曰、郢不足以辱社稷。君其改圖。君夫人在堂、三揖在下。三揖、卿・大夫・士。 【読み】 對えず。他日又之を謂う。對えて曰く、郢[えい]は以て社稷を辱むるに足らず。君其れ改め圖れ。君夫人堂に在り、三揖下に在り。三揖は、卿・大夫・士。 君命祇辱。言立適當以禮與外内同之。今君私命。事必不從。適爲辱。○祇、音支。立適、音的。 【読み】 君の命祇[まさ]に辱められん、と。言うこころは、適を立つること當に禮を以て外内と之を同じくすべし。今君私に命ず。事必ず從われざらん。適に辱めと爲らん。○祇は、音支。立適は、音的。 夏、衛靈公卒。夫人曰、命公子郢爲大子。君命也。對曰、郢異於他子。言用意不同。 【読み】 夏、衛の靈公卒す。夫人曰く、公子郢を命じて大子とせよ。君の命なり、と。對えて曰く、郢は他子に異なり。言うこころは、意を用ゆること同じからず。 且君沒於吾手。若有之、郢必聞之。言當以臨沒爲正。 【読み】 且君吾が手に沒せり。若し之れ有らば、郢必ず之を聞かん。言うこころは、當に沒するに臨むを以て正と爲す。 且亡人之子輒在。輒、蒯聵之子、出公也。靈公適孫。 【読み】 且つ亡人の子輒[ちょう]在り、と。輒は、蒯聵の子、出公なり。靈公の適孫なり。 乃立輒。 【読み】 乃ち輒を立つ。 六月、乙酉、晉趙鞅納衛大子于戚。宵迷。陽虎曰、右河而南、必至焉。是時河北流、過元城界。戚、在河外。晉軍已渡河。故欲出河右而南。 【読み】 六月、乙酉[きのと・とり]、晉の趙鞅衛の大子を戚に納れんとす。宵迷う。陽虎曰く、河を右にして南せば、必ず至らん、と。是の時河北流して、元城の界を過ぐ。戚は、河外に在り。晉の軍已に河を渡る。故に河の右に出でて南せんと欲す。 使大子絻、絻者、始發喪之服。○絻、音問。 【読み】 大子をして絻[ぶん]せしめ、絻は、始めて喪を發するの服。○絻は、音問。 八人衰絰、僞自衛逆者、欲爲衛人逆。故衰絰成服。 【読み】 八人衰絰[さいてつ]して、衛より逆[むか]うる者と僞り、衛人の逆うる爲[まね]せんと欲す。故に衰絰して服を成す。 告於門、哭而入、遂居之。 【読み】 門に告げ、哭して入り、遂に之に居る。 秋、八月、齊人輸范氏粟。鄭子姚・子般送之、子姚、罕達。子般、駟弘。○般、音班。 【読み】 秋、八月、齊人范氏に粟を輸[いた]す。鄭の子姚[しよう]・子般之を送り、子姚は、罕達。子般は、駟弘。○般は、音班。 士吉射逆之。趙鞅禦之、遇于戚。陽虎曰、吾車少。以兵車之旆、與罕・駟兵車先陳、旆、先驅車也。以先驅車、益其兵車、以示衆。○陳、直覲反。 【読み】 士吉射之を逆う。趙鞅之を禦ぎ、戚に遇う。陽虎曰く、吾が車少なし。兵車の旆[はい]を以て、罕・駟の兵車と先ず陳せば、旆は、先驅の車なり。先驅の車を以て、其の兵車を益して、以て衆きを示すなり。○陳は、直覲反。 罕・駟自後隨而從之、彼見吾貌、必有懼心。晉人先陳、鄭人隨之、不知其虛實、見車多必懼。 【読み】 罕・駟後より隨いて之に從い、彼れ吾が貌を見て、必ず懼心有らん。晉人先ず陳して、鄭人之に隨いて、其の虛實を知らず、車の多きを見て必ず懼れん。 於是乎會之、會、合戰。 【読み】 是に於て之に會せば、會は、合戰なり。 必大敗之。從之。 【読み】 必ず大いに之を敗らん、と。之に從う。 卜戰。龜焦。兆不成。 【読み】 戰を卜す。龜焦る。兆成らず。 樂丁曰、詩曰、爰始爰謀、爰契我龜。樂丁、晉大夫。詩、大雅。言先人事、後卜筮。 【読み】 樂丁曰く、詩に曰く、爰に始め爰に謀りて、爰に我が龜を契[や]く、と。樂丁は、晉の大夫。詩は、大雅。言うこころは、人事を先にして、卜筮を後にす。 謀協。以故兆詢可也。詢、諮詢也。故兆、始納衛大子、卜得吉兆。言今旣謀同。可不須更卜。 【読み】 謀協[かな]えり。故兆を以て詢[はか]らんこと可なり、と。詢[じゅん]は、諮詢なり。故兆は、始め衛の大子を納れんとして、卜して吉兆を得るなり。言うこころは、今旣に謀同じ。更に卜することを須いざる可し。 簡子誓曰、范氏・中行氏反易天明、不事君也。 【読み】 簡子誓いて曰く、范氏・中行氏天明に反易し、君に事えざるなり。 斬艾百姓、欲擅晉國而滅其君。寡君恃鄭而保焉、今鄭爲不道、棄君助臣。二三子順天明、從君命、經德義、除詬恥。在此行也、克敵者、上大夫受縣、下大夫受郡、周書作雒篇、千里百縣、縣有四郡。○艾、魚廢反。滅、或作戕。音殘。詬、呼豆反。又音苟。 【読み】 百姓を斬艾[ざんがい]し、晉國を擅[ほしいまま]にして其の君を滅ぼさんと欲す。寡君鄭を恃みて保んぜんとするに、今鄭不道を爲して、君を棄て臣を助けり。二三子天明に順い、君命に從い、德義を經して、詬恥を除け。此の行に在りてや、敵に克たん者は、上大夫は縣を受け、下大夫は郡を受け、周書作雒の篇、千里に百縣、縣に四郡有り、と。○艾は、魚廢反。滅、或は戕に作る。音殘。詬は、呼豆反。又音苟。 士田十萬、十萬畞也。 【読み】 士は田十萬、十萬畞なり。 庶人工商遂、得遂進仕。 【読み】 庶人工商は遂げ、進仕を遂ぐることを得。 人臣隸圉免。去厮役。○厮、又作斯。音同。艾草爲防者曰厮、汲水漿者曰役。 【読み】 人臣隸圉は免さん。厮役[しえき]を去る。○厮は、又斯に作る。音同じ。草を艾[か]り防を爲す者を厮と曰い、水漿を汲む者を役と曰う。 志父無罪、君實圖之。志父、趙簡子之一名也。言己事濟、君當圖其賞。○志父、趙鞅入晉陽以畔、後得歸、改名志父。春秋仍舊猶書趙鞅。 【読み】 志父罪無くば、君實に之を圖らん。志父は、趙簡子の一名なり。言うこころは、己が事濟らば、君當に其の賞を圖るべし。○志父は、趙鞅晉陽に入りて以て畔[そむ]き、後歸ることを得て、名を志父と改む。春秋舊に仍りて猶趙鞅と書す。 若其有罪、絞縊以戮。絞、所以縊人物。 【読み】 若し其れ罪有らば、絞縊して以て戮せられん。絞は、人を縊る所以の物。 桐棺三寸、不設屬辟、屬辟、棺之重數。王棺四重、君再重、大夫一重。○屬、音燭。次大棺也。辟、步歷反。親身棺也。禮、大夫無辟。 【読み】 桐棺三寸、屬辟を設けず、屬辟は、棺の重數。王の棺は四重、君は再重、大夫は一重。○屬は、音燭。次大の棺なり。辟は、步歷反。親身の棺なり。禮に、大夫辟無し、と。 素車樸馬、以載柩。○樸、普卜反。 【読み】 素車樸馬、以て柩を載す。○樸は、普卜反。 無入于兆。兆、葬域。 【読み】 兆に入ること無からん。兆は、葬域。 下卿之罰也。爲衆設賞、自設罰。所以能克敵。 【読み】 下卿の罰なり、と。衆の爲には賞を設け、自らは罰を設く。能く敵に克つ所以なり。 甲戌、將戰。郵無恤御簡子、衛大子爲右、郵無恤、王良也。 【読み】 甲戌、將に戰わんとす。郵無恤簡子に御となり、衛の大子右と爲り、郵無恤は、王良なり。 登鐵上、鐵、丘名。 【読み】 鐵上に登り、鐵は、丘の名。 望見鄭師衆、大子懼、自投于車下。子良授大子綏而乘之、曰、婦人也。言其怯。 【読み】 鄭の師衆を望見し、大子懼れて、自ら車下に投ず。子良大子に綏[すい]を授けて之を乘せて、曰く、婦人なり、と。其の怯[よわ]きを言う。 簡子巡列曰、畢萬、匹夫也、七戰皆獲、有馬百乘、死於牖下。畢萬、晉獻公卿也。皆獲、有功。死於牖下、言得壽終。○乘、去聲。 【読み】 簡子列を巡りて曰く、畢萬は、匹夫なりしも、七戰皆獲て、馬百乘有り、牖下[ゆうか]に死したり。畢萬は、晉の獻公の卿なり。皆獲とは、功有るなり。牖下に死すとは、壽終することを得るを言う。○乘は、去聲。 羣子勉之。死不在寇。言有命。 【読み】 羣子之を勉めよ。死は寇に在らず、と。言うこころは、命有り。 繁羽御趙羅。宋勇爲右。三子、晉大夫。 【読み】 繁羽趙羅に御たり。宋勇右爲り。三子は、晉の大夫。 羅無勇、麇之。麇、束縛也。○麇、丘隕反。 【読み】 羅は勇無しといいて、之を麇[ゆ]わう。麇[きん]は、束縛なり。○麇は、丘隕反。 吏詰之。御對曰、痁作而伏。痁、瘧疾也。○詰、音乞。痁、詩占反。 【読み】 吏之を詰[なじ]る。御對えて曰く、痁[せん]作りて伏せり、と。痁は、瘧疾なり。○詰は、音乞。痁は、詩占反。 衛大子禱曰、曾孫蒯聵、敢昭告皇祖文王・ 周文王。皇、大也。○禱、如字。一丁報反。 【読み】 衛の大子禱りて曰く、曾孫蒯聵、敢えて昭らかに皇祖文王・ 周の文王。皇は、大なり。○禱は、字の如し。一に丁報反。 烈祖康叔・ 烈、顯也。 【読み】 烈祖康叔・ 烈は、顯らかなり。 文祖襄公。繼業守文。故曰文祖。蒯聵、襄公之孫。 【読み】 文祖襄公に告ぐ。業を繼ぎ文を守る。故に文祖と曰う。蒯聵は、襄公の孫。 鄭勝亂從、勝、鄭聲公名。釋君助臣、爲從於亂。 【読み】 鄭の勝亂に從えども、勝は、鄭の聲公の名。君を釋[す]て臣を助くるを、亂に從うと爲す。 晉午在難、午、晉定公名。○難、乃旦反。 【読み】 晉の午難に在りて、午は、晉の定公の名。○難は、乃旦反。 不能治亂、使鞅討之。鞅、簡子名。 【読み】 亂を治むること能わずして、鞅をして之を討ぜしめり。鞅は、簡子の名。 蒯聵不敢自佚、備持矛焉。戎右持矛。 【読み】 蒯聵敢えて自ら佚[やす]んぜず、矛を持するに備われり。戎右は矛を持す。 敢告、無絕筋、無折骨、無面傷、以集大事、無作三祖羞。集、成也。 【読み】 敢えて告ぐ、筋を絕たすこと無く、骨を折らすこと無く、面傷つかすこと無く、以て大事を集[な]させて、三祖の羞を作すこと無かれ。集は、成すなり。 大命不敢請、佩玉不敢愛。不敢愛。故以祈禱。 【読み】 大命敢えて請わず、佩玉敢えて愛しまず、と。敢えて愛しまず。故に以て祈禱す。 鄭人擊簡子、中肩。斃于車中。斃、踣也。○中肩、丁仲反。 【読み】 鄭人簡子を擊ちて、肩に中つ。車中に斃る。斃は、踣[たう]るなり。○中肩は、丁仲反。 獲其蠭旗。蠭旗、旗名。○蠭、音蜂。 【読み】 其の蠭旗を獲たり。蠭旗は、旗の名。○蠭は、音蜂。 大子救之以戈。鄭師北。獲溫大夫趙羅。羅無勇。故鄭師雖北、猶獲羅。 【読み】 大子之を救うに戈を以[もち]ゆ。鄭の師北[に]ぐ。溫の大夫趙羅を獲たり。羅勇無し。故に鄭の師北ぐると雖も、猶羅を獲たり。 大子復伐之。鄭師大敗。獲齊粟千車。趙孟喜曰、可矣。趙孟、簡子也。喜大子前怯今更勇。○復、扶又反。 【読み】 大子復之を伐つ。鄭の師大いに敗れぬ。齊の粟千車を獲たり。趙孟喜びて曰く、可なり、と。趙孟は、簡子なり。大子前に怯くして今更に勇なるを喜ぶ。○復は、扶又反。 傅傁曰、雖克鄭、猶有知在。憂未艾也。傅傁、簡子屬也。言知氏將爲難。後竟有晉陽之患。○傁、音叟。知、音智。艾、魚廢反。又五蓋反。 【読み】 傅傁[ふそう]曰く、鄭に克つと雖も、猶知が在る有り。憂え未だ艾[や]まず、と。傅傁は、簡子の屬なり。言うこころは、知氏將に難を爲さんとす。後竟に晉陽の患え有り。○傁は、音叟。知は、音智。艾は、魚廢反。又五蓋反。 初、周人與范氏田、公孫尨稅焉。尨、范氏臣。爲范氏收周人所與田之稅。 【読み】 初め、周人范氏に田を與え、公孫尨[こうそんぼう]稅す。尨は、范氏の臣。范氏の爲に周人の與うる所の田の稅を收む。 趙氏得而獻之。得尨以獻簡子。 【読み】 趙氏得て之を獻ず。尨を得て以て簡子に獻ず。 吏請殺之。趙孟曰、爲其主也。何罪。止而與之田。還其所稅。 【読み】 吏之を殺さんと請う。趙孟曰く、其の主の爲にするなり。何の罪あらん、と。止めて之に田を與う。其の稅する所を還す。 及鐵之戰、以徒五百人宵攻鄭師、取蠭旗於子姚之幕下、獻曰、請報主德。 【読み】 鐵の戰に及びて、徒五百人を以て宵鄭の師を攻め、蠭旗を子姚の幕下に取り、獻じて曰く、請う、主の德に報いん、と。 追鄭師。姚・般・公孫林殿而射。前列多死。晉前列。○姚・般、子姚・子般。殿、丁見反。射、食亦反。 【読み】 鄭の師を追う。姚・般・公孫林殿して射る。前列多く死す。晉の前列。○姚・般は、子姚・子般。殿は、丁見反。射は、食亦反。 趙孟曰、國無小。言雖小國、猶有善射者。 【読み】 趙孟曰く、國小なること無し、と。言うこころは、小國と雖も、猶善く射る者有り。 旣戰。簡子曰、吾伏弢嘔血、弢、弓衣。嘔、吐也。○弢、吐刀反。 【読み】 旣に戰う。簡子曰く、吾れ弢[とう]に伏して血を嘔けども、弢は、弓衣。嘔は、吐くなり。○弢は、吐刀反。 鼓音不衰。今日我上也。功爲上。 【読み】 鼓音衰えざりき。今日は我れ上なり、と。功上爲り。 大子曰、吾救主於車、退敵於下。我右之上也。郵良曰、我兩靷將絕、吾能止之。止使不絕。○靷、以刃反。 【読み】 大子曰く、吾れ主を車に救い、敵を下に退けたり。我は右の上なり、と。郵良曰く、我が兩靷[りょういん]將に絕えんとせしを、吾れ能く之を止めたり。止めて絕えざらしむ。○靷は、以刃反。 我御之上也。駕而乘材、兩靷皆絕。材、橫木。明細小也。傳言簡子不讓、下自伐。 【読み】 我は御の上なり、と。駕して材に乘れば、兩靷皆絕ゆ。材は、橫木。細小なるを明らかにするなり。傳簡子讓らず、下自ら伐[ほこ]るを言う。 吳洩庸如蔡納聘、而稍納師。師畢入、衆知之。元年、蔡請遷于吳、中悔。故因聘襲之。○洩、息列反。 【読み】 吳の洩庸[せつよう]蔡に如きて納聘して、稍[ようや]く師を納る。師畢く入りて、衆之を知る。元年、蔡遷らんことを吳に請いて、中ごろ悔ゆ。故に聘に因りて之を襲う。○洩は、息列反。 蔡侯告大夫、殺公子駟以說。殺駟以說吳。言不時遷、駟之爲。 【読み】 蔡侯大夫に告げて、公子駟を殺して以て說く。駟を殺して以て吳に說く。言うこころは、時に遷らざりしは、駟の爲[わざ]なり。 哭而遷墓。將遷、與先君辭。故哭。 【読み】 哭して墓より遷る。將に遷らんとして、先君と辭す。故に哭す。 冬、蔡遷于州來。 【読み】 冬、蔡州來に遷る。 〔經〕三年、春、齊國夏・衛石曼姑帥師圍戚。曼姑爲子圍父。知其不義。故推齊使爲兵首。戚不稱衛、非叛人。○曼、音萬。 【読み】 〔經〕三年、春、齊の國夏・衛の石曼姑師を帥いて戚を圍む。曼姑子の爲に父を圍む。其の不義を知る。故に齊を推して兵首爲らしむ。戚衛と稱せざるは、叛人に非ざればなり。○曼は、音萬。 夏、四月、甲午、地震。無傳。 【読み】 夏、四月、甲午[きのえ・うま]、地震す。傳無し。 五月、辛卯、桓宮・僖宮災。天火曰災。 【読み】 五月、辛卯[かのと・う]、桓宮・僖宮災あり。天火を災と曰う。 季孫斯・叔孫州仇帥師城啓陽。無傳。魯黨范氏。故懼晉、比年四城。啓陽、今琅邪開陽縣。 【読み】 季孫斯・叔孫州仇師を帥いて啓陽に城く。傳無し。魯范氏に黨す。故に晉を懼れて、比年四たび城く。啓陽は、今の琅邪開陽縣。 宋樂髡帥師伐曹。無傳。 【読み】 宋の樂髡[がくこん]師を帥いて曹を伐つ。傳無し。 秋、七月、丙子、季孫斯卒。蔡人放其大夫公孫獵于吳。無傳。公子駟之黨。 【読み】 秋、七月、丙子[ひのえ・ね]、季孫斯卒す。蔡人其の大夫公孫獵を吳に放つ。傳無し。公子駟の黨。 冬、十月、癸卯、秦伯卒。無傳。不書名、未同盟。 【読み】 冬、十月、癸卯[みずのと・う]、秦伯卒す。傳無し。名を書さざるは、未だ同盟せざればなり。 叔孫州仇・仲孫何忌帥師圍邾。無傳。 【読み】 叔孫州仇・仲孫何忌師を帥いて邾[ちゅ]を圍む。傳無し。 〔傳〕三年、春、齊・衛圍戚、求援于中山。中山、鮮虞。 【読み】 〔傳〕三年、春、齊・衛戚を圍みて、援けを中山に求む。中山は、鮮虞。 夏、五月、辛卯、司鐸火。司鐸、宮名。 【読み】 夏、五月、辛卯、司鐸火あり。司鐸は、宮の名。 火踰公宮、桓・僖災。桓公・僖公廟。 【読み】 火公宮を踰え、桓・僖災あり。桓公・僖公の廟。 救火者皆曰、顧府。言常人愛財。 【読み】 火を救う者皆曰く、府を顧みよ、と。言うこころは、常人財を愛す。 南宮敬叔至、命周人出御書、俟於宮。敬叔、孔子弟子、南宮閱。周人、司周書典籍之官。御書、進於君者也。使待命於宮。 【読み】 南宮敬叔至り、周人に命じて御書を出だして、宮に俟たしむ。敬叔は、孔子の弟子、南宮閱。周人は、周書典籍を司るの官。御書は、君に進むる者なり。命を宮に待たしむ。 曰、庀女而不在、死。庀、具也。○庀、匹婢反。女、音汝。 【読み】 曰く、女に庀[そな]えて在らずんば、死なん、と。庀[ひ]は、具うるなり。○庀は、匹婢反。女は、音汝。 子服景伯至、命宰人出禮書、景伯、子服何也。宰人、冢宰之屬。 【読み】 子服景伯至り、宰人に命じて禮書を出だして、景伯は、子服何なり。宰人は、冢宰の屬。 以待命。命不共、有常刑。待求之命。 【読み】 以て命を待たしむ。命共せざれば、常刑有り。求むるの命を待つ。 校人乘馬、巾車脂轄、校人、掌馬、巾車、掌車。乘馬、使四四相從。爲賀之易。○校、音效。乘、去聲。下同。爲、于僞反。 【読み】 校人馬を乘にし、巾車轄[くさび]に脂さし、校人は、馬を掌り、巾車は、車を掌る。馬を乘にするは、四四をして相從わしむるなり。賀するの易きが爲なり。○校は、音效。乘は、去聲。下も同じ。爲は、于僞反。 百官官備、府庫愼守、官人肅給、國有火災。恐有變難。故愼爲備。 【読み】 百官官ごとに備え、府庫愼守し、官人肅給し、國に火災有り。恐れらくは變難有らんことを。故に愼みて備えを爲す。 濟濡帷幕、鬱攸從之、鬱攸、火氣也。濡物於水、出用爲濟。○濟、子細反。又子禮反。 【読み】 濟[すく]うに帷幕を濡[うるお]して、鬱攸[うつゆう]のままに之に從い、鬱攸は、火氣なり。物を水に濡して、出だし用いて濟うことを爲す。○濟は、子細反。又子禮反。 蒙茸公屋、以濡物冒覆公屋。 【読み】 公屋を蒙茸し、濡える物を以て公屋を冒い覆う。 自大廟始、外内以悛、悛、次也。先尊後卑、以次救之。○悛、七全反。 【読み】 大廟より始めて、外内悛[ついで]を以てし、悛[せん]は、次なり。尊を先にし卑を後にし、次を以て之を救う。○悛は、七全反。 助所不給。有不用命、則有常刑。無赦。 【読み】 給せざる所を助けよ。命を用いざること有らば、則ち常刑有り。赦すこと無からん、と。 公父文伯至、命校人駕乘車。乘車、公車。 【読み】 公父文伯至り、校人に命じて乘車に駕せしむ。乘車は、公車。 季桓子至、御公立于象魏之外、象魏、門闕。 【読み】 季桓子至り、公に御して象魏の外に立ち、象魏は、門闕。 命救火者、傷人則止。財可爲也。命藏象魏。周禮、正月、縣敎令之法于象魏、使萬民觀之。故謂其書爲象魏。 【読み】 火を救う者に命ずらく、人を傷[やぶ]らば則ち止めよ。財は爲す可し、と。命じて象魏を藏めしむ。周禮に、正月、敎令の法を象魏に縣け、萬民をして之を觀せしむ、と。故に其の書を謂いて象魏と爲す。 曰、舊章不可亡也。 【読み】 曰く、舊章は亡う可からず、と。 富父槐至。曰、無備而官辦者、猶拾瀋也。槐、富父終甥之後。瀋、汁也。言不備而責辦、不可得。○瀋、尺審反。 【読み】 富父槐至る。曰く、備え無くして官辦[かんべん]せん者は、猶瀋[しる]を拾うがごとし、と。槐は、富父終甥の後。瀋[しん]は、汁なり。言うこころは、備えずして辦せんことを責むるも、得可からず。○瀋は、尺審反。 於是乎去表之稾、表、表火道。風所向者、去其稾積。○去、起呂反。積、子賜反。 【読み】 是に於て表の稾を去りて、表は、火道に表するなり。風の向かう所の者、其の稾積を去るなり。○去は、起呂反。積は、子賜反。 道還公宮。開除道、周帀公宮、使火無相連。○還、又作環。戶關反。 【読み】 道して公宮を還らせり。道を開除し、公宮を周帀[しゅうそう]して、火をして相連ぬること無からしむ。○還は、又環に作る。戶關反。 孔子在陳、聞火曰、其桓・僖乎。言桓・僖親盡而廟不毀。宜爲天所災。 【読み】 孔子陳に在して、火を聞きて曰く、其れ桓・僖か、と。言うこころは、桓・僖親盡きて廟毀たず。宜しく天の爲に災せらるべし。 劉氏・范氏世爲婚姻、劉氏、周卿士。范氏、晉大夫。 【読み】 劉氏・范氏世々婚姻を爲し、劉氏は、周の卿士。范氏は、晉の大夫。 萇弘事劉文公。爲之屬大夫。 【読み】 萇弘は劉文公に事う。之が屬大夫爲り。 故周與范氏、趙鞅以爲討。責周與范氏。 【読み】 故に周范氏に與せしかば、趙鞅以て討ずることを爲す。周の范氏に與するを責む。 六月、癸卯、周人殺萇弘。終違天之禍。 【読み】 六月、癸卯、周人萇弘を殺す。天に違うの禍を終わる。 秋、季孫有疾。命正常曰、無死。正常、桓子之寵臣。欲付以後事。故勑令勿從己死。 【読み】 秋、季孫疾有り。正常に命じて曰く、死すること無かれ。正常は、桓子の寵臣。付するに後事を以てせんと欲す。故に勑して己に從いて死すること勿からしむ。 南孺子之子、男也、則以告而立之。南孺子、季桓子之妻。言若生男、告公而立之。 【読み】 南孺子の子、男ならば、則ち以て告げて之を立てよ。南孺子は、季桓子の妻。言うこころは、若し男を生まば、公に告げて之を立てよ。 女也、則肥也可。肥、康子也。 【読み】 女ならば、則ち肥や可なり、と。肥は、康子なり。 季孫卒、康子卽位。旣葬、康子在朝。在公朝也。 【読み】 季孫卒し、康子位に卽く。旣に葬り、康子朝に在り。公朝に在るなり。 南氏生男。正常載以如朝、告曰、夫子有遺言。命其圉臣曰、南氏生男、則以告於君與大夫而立之。今生矣。男也。敢告。遂奔衛。康子請退。退、辟位也。 【読み】 南氏男を生む。正常載せて以て朝に如き、告げて曰く、夫子遺言有り。其の圉臣に命じて曰く、南氏男を生まば、則ち以て君と大夫とに告げて之を立てよ、と。今生まれたり。男なり。敢えて告ぐ、と。遂に衛に奔る。康子退かんと請う。退くとは、位を辟くるなり。 公使共劉視之、共劉、魯大夫。○共、音恭。 【読み】 公共劉をして之を視せしむれば、共劉は、魯の大夫。○共は、音恭。 則或殺之矣。乃討之。討殺者。 【読み】 則ち或ひと之を殺せり。乃ち之を討ず。殺す者を討ず。 召正常。正常不反。畏康子也。傳備言季氏家事。 【読み】 正常を召す。正常反らず。康子を畏るるなり。傳備に季氏が家事を言う。 冬、十月、晉趙鞅圍朝歌、師于其南。范・中行所在。 【読み】 冬、十月、晉の趙鞅朝歌を圍みて、其の南に師す。范・中行が在る所。 荀寅伐其郛、伐其北郭圍。 【読み】 荀寅其の郛[ふ]を伐ち、其の北郭の圍みを伐つ。 使其徒自北門入、己犯師而出。荀寅使在外救己之徒、擊趙氏圍之北門、因外内攻得出。 【読み】 其の徒をして北門より入らしめて、己は師を犯して出づ。荀寅外に在りて己を救うの徒をして、趙氏が圍む北門を擊たしめ、外内より攻むるに因りて出づることを得るなり。 癸丑、奔邯鄲。 【読み】 癸丑[みずのと・うし]、邯鄲に奔る。 十一月、趙鞅殺士皐夷。惡范氏也。惡范氏而殺其族。言遷怒。○惡、烏路反。 【読み】 十一月、趙鞅士皐夷を殺す。范氏を惡みてなり。范氏を惡みて其の族を殺す。怒りを遷すを言う。○惡は、烏路反。 〔經〕四年、春、王二月、庚戌、盜殺蔡侯申。賤者。故稱盜。不言弑其君、賤盜也。○殺、申志反。案宣十七年、蔡公申卒。是文侯也。今昭侯、是其玄孫。不容與高祖同名。未審何者誤。 【読み】 〔經〕四年、春、王の二月、庚戌[かのえ・いぬ]、盜蔡侯申を殺す。賤者なり。故に盜と稱す。其の君を弑すと言わざるは、盜を賤しむなり。○殺は、申志反。案ずるに宣十七年に、蔡公申卒す、と。是れ文侯なり。今の昭侯は、是れ其の玄孫なり。高祖と同じく名づく容からず。未だ何れの者が誤りなるか審らかならず。 蔡公孫辰出奔吳。弑君賊之黨。故書名。 【読み】 蔡の公孫辰出でて吳に奔る。君を弑する賊の黨。故に名を書す。 葬秦惠公。無傳。 【読み】 秦の惠公を葬る。傳無し。 宋人執小邾子。無傳。邾子無道於其民。故稱人以執。 【読み】 宋人小邾子[しょうちゅし]を執う。傳無し。邾子其の民に無道なり。故に人と稱して以て執う。 夏、蔡殺其大夫公孫姓・公孫霍。皆弑君黨。○姓、音生。 【読み】 夏、蔡其の大夫公孫姓・公孫霍を殺す。皆君を弑するの黨。○姓は、音生。 晉人執戎蠻子赤歸于楚。晉恥爲楚執諸侯。故稱人以告。若蠻子不道於其民也。赤本屬楚。故言歸。○爲、于僞反。 【読み】 晉人戎蠻子赤を執えて楚に歸[おく]る。晉楚の爲に諸侯を執うることを恥ず。故に人と稱して以て告ぐ。蠻子其の民に不道なるが若くす。赤本楚に屬す。故に歸ると言う。○爲は、于僞反。 城西郛。無傳。魯西郭。備晉也。 【読み】 西郛[せいふ]に城く。傳無し。魯の西郭。晉に備うるなり。 六月、辛丑、亳社災。無傳。天火也。亳社、殷社。諸侯有之、所以戒亡國。 【読み】 六月、辛丑[かのと・うし]、亳社[はくしゃ]災あり。傳無し。天火なり。亳社は、殷の社。諸侯に之れ有るは、亡國を戒むる所以なり。 秋、八月、甲寅、滕子結卒。無傳。同盟於皐鼬。 【読み】 秋、八月、甲寅[きのえ・とら]、滕子結卒す。傳無し。皐鼬[こうゆう]に同盟す。 冬、十有二月、葬蔡昭公。無傳。亂故是以緩。 【読み】 冬、十有二月、蔡の昭公を葬る。傳無し。亂の故に是を以て緩きなり。 葬滕頃公。無傳。 【読み】 滕の頃公[けいこう]を葬る。傳無し。 〔傳〕四年、春、蔡昭侯將如吳。諸大夫恐其又遷也。承。承、音懲。蓋楚言也。 【読み】 〔傳〕四年、春、蔡の昭侯將に吳に如かんとす。諸大夫其の又遷らんことを恐る。承[こ]りたればなり。承は、音懲。蓋し楚言ならん。 公孫翩逐而射之。入於家人而卒。翩、蔡大夫。○射、食亦反。 【読み】 公孫翩逐いて之を射る。家人に入りて卒す。翩は、蔡の大夫。○射は、食亦反。 以兩矢門之。衆莫敢進。翩以矢自守其門。 【読み】 兩矢を以て門す。衆敢えて進むこと莫し。翩矢を以て自ら其の門を守る。 文之鍇後至。鍇、蔡大夫。○鍇、音楷。又音皆。 【読み】 文之鍇[ぶんしかい]後れて至る。鍇は、蔡の大夫。○鍇は、音楷。又音皆。 曰、如牆而進、多而殺二人。倂行如牆倶進。○倂、步頃反。 【読み】 曰、牆の如くにして進まば、多くして二人を殺さんのみ、と。倂行して牆の如くにして倶に進むなり。○倂は、步頃反。 鍇執弓而先。翩射之、中肘。鍇遂殺之。故逐公孫辰、而殺公孫姓・公孫旴。旴、卽霍也。○旴、況于反。 【読み】 鍇弓を執りて先だつ。翩之を射て、肘に中つ。鍇遂に之を殺す。故に公孫辰を逐いて、公孫姓・公孫旴[こうそんく]を殺す。旴は、卽ち霍なり。○旴は、況于反。 *頭注に、「宋板、旴作盱。」とある。 夏、楚人旣克夷虎、夷虎、蠻夷叛楚者。 【読み】 夏、楚人旣に夷虎に克ち、夷虎は、蠻夷の楚に叛く者。 乃謀北方。左司馬眅・申公壽餘・葉公諸梁致蔡於負函、三子、楚大夫也。此蔡之故地人民、楚因以爲邑。致之者、會其衆也。○眅、普版反。又匹姦反。葉、始涉反。 【読み】 乃ち北方を謀る。左司馬眅[はん]・申公壽餘・葉公[しょうこう]諸梁蔡を負函に致し、三子は、楚の大夫なり。此れ蔡の故地の人民にして、楚因りて以て邑とするなり。之を致すとは、其の衆を會するなり。○眅は、普版反。又匹姦反。葉は、始涉反。 致方城之外於繒關、負函・繒關、皆楚地。○繒、才陵反。 【読み】 方城の外を繒關[しょうかん]に致して、負函・繒關は、皆楚の地。○繒は、才陵反。 曰、吳將泝江入郢。逆流曰泝。 【読み】 曰く、吳將に江に泝[さかのぼ]りて郢[えい]に入らんとす。流れに逆うを泝[そ]と曰う。 將奔命焉。爲一昔之期、襲梁及霍、僞辭當備吳、夜結期、明日便襲梁・霍、使不知之。梁、河南梁縣西南故城也。梁南有霍陽山。皆蠻子之邑也。 【読み】 將に命に奔らんとす、と。一昔の期を爲して、梁と霍とを襲い、當に吳に備うべしと僞り辭して、夜期を結び、明日便ち梁・霍を襲いて、之を知らざらしむ。梁は、河南梁縣の西南の故城なり。梁の南に霍陽山有り。皆蠻子の邑なり。 單浮餘圍蠻氏。蠻氏潰。浮餘、楚大夫。○單、音善。 【読み】 單浮餘蠻氏を圍む。蠻氏潰ゆ。浮餘は、楚の大夫。○單は、音善。 蠻子赤奔晉陰地。陰地、河南山北、自上雒以東、至陸渾。○渾、戶門反。 【読み】 蠻子赤晉の陰地に奔る。陰地は、河南の山北、上雒より以東、陸渾に至るまでなり。○渾は、戶門反。 司馬起豐・析與狄・戎、楚司馬眅也。析縣、屬南郷郡。析南有豐郷。皆楚邑。發此二邑人及戎・狄。 【読み】 司馬豐・析と狄・戎とを起こして、楚の司馬眅なり。析縣は、南郷郡に屬す。析の南に豐郷有り。皆楚の邑。此の二邑人と戎・狄とを發す。 以臨上雒、左師軍于菟和、菟和山、在上雒東也。○菟、音徒。 【読み】 以て上雒[じょうらく]に臨み、左師は菟和[とわ]に軍し、菟和山は、上雒の東に在るなり。○菟は、音徒。 右師軍于倉野、倉野、在上雒縣。 【読み】 右師倉野に軍し、倉野は、上雒縣に在り。 使謂陰地之命大夫士蔑、命大夫、別縣監尹。○監、古銜反。 【読み】 陰地の命大夫士蔑に謂わしめて、命大夫は、別縣の監尹。○監は、古銜反。 曰、晉・楚有盟、好惡同之。若將不廢、寡君之願也。不然、將通於少習以聽命。少習、商縣武關也。將大開武關道、以伐晉。○少、詩照反。 【読み】 曰く、晉・楚盟有り、好惡之を同じくせん、と。若し將に廢てざらんとせば、寡君の願いなり。然らずんば、將に少習に通じて以て命を聽かんとす、と。少習は、商縣の武關なり。將に大いに武關の道を開きて、以て晉を伐たんとす。○少は、詩照反。 士蔑請諸趙孟。趙孟曰、晉國未寧。安能惡於楚。必速與之。未寧、時有范・中行之難。 【読み】 士蔑諸を趙孟に請う。趙孟曰く、晉國未だ寧からず。安ぞ能く楚に惡しからん。必ず速やかに之を與えよ、と。未だ寧からずとは、時に范・中行の難有るなり。 士蔑乃致九州之戎、九州戎、在晉陰地陸渾者。 【読み】 士蔑乃ち九州の戎を致すらく、九州の戎は、晉の陰地陸渾に在る者。 將裂田以與蠻子而城之。以詐蠻子。 【読み】 將に田を裂きて以て蠻子に與えて之に城かんとす。以て蠻子を詐るなり。 且將爲之卜。卜城。○爲、于僞反。 【読み】 且つ將に之が爲に卜せんとす。城くことを卜う。○爲は、于僞反。 蠻子聽卜、遂執之、與其五大夫、以畀楚師于三戶、今丹水縣北三戶亭。 【読み】 蠻子卜を聽かんとするを、遂に之を執え、其の五大夫とをさえに、以て楚の師に三戶に畀[あた]うれば、今の丹水縣の北の三戶亭。 司馬致邑立宗焉、以誘其遺民、楚復詐爲蠻子作邑、立其宗主。 【読み】 司馬邑を致し宗を立つるまねして、以て其の遺民を誘きて、楚復蠻子の爲に邑を作り、其の宗主を立つると詐る。 而盡俘以歸。 【読み】 盡く俘にして以[い]て歸れり。 秋、七月、齊陳乞・弦施・衛甯跪救范氏、陳乞、僖子。弦施、弦多。 【読み】 秋、七月、齊の陳乞・弦施・衛の甯跪[ねいき]范氏を救い、陳乞は、僖子。弦施は、弦多。 庚午、圍五鹿。五鹿、晉邑。 【読み】 庚午[かのえ・うま]、五鹿を圍む。五鹿は、晉の邑。 九月、趙鞅圍邯鄲。冬、十一月、邯鄲降。荀寅奔鮮虞、趙稷奔臨。臨、晉邑。○降、戶江反。 【読み】 九月、趙鞅邯鄲を圍む。冬、十一月、邯鄲降る。荀寅鮮虞に奔り、趙稷臨に奔る。臨は、晉の邑。○降は、戶江反。 十二月、弦施逆之、遂墮臨。國夏伐晉、取邢・任・欒・鄗・逆畤・陰人・盂・壺口。八邑、晉地。欒、在趙國平棘縣西北。鄗、卽高邑縣也。路縣東有壺口關。○墮、許規反。任、音壬。鄗、呼洛反。畤、音止。 【読み】 十二月、弦施之を逆え、遂に臨を墮[こぼ]つ。國夏晉を伐ち、邢・任・欒・鄗[かく]・逆畤・陰人・盂・壺口を取る。八邑は、晉の地。欒は、趙國平棘縣の西北に在り。鄗は、卽ち高邑縣なり。路縣の東に壺口關有り。○墮[き]は、許規反。任は、音壬。鄗は、呼洛反。畤は、音止。 會鮮虞、納荀寅于柏人。晉邑也。今趙國柏人縣也。弦施與鮮虞會也。 【読み】 鮮虞に會し、荀寅を柏人に納る。晉の邑なり。今の趙國柏人縣なり。弦施鮮虞と會するなり。 〔經〕五年、春、城毗。無傳。備晉也。 【読み】 〔經〕五年、春、毗に城く。傳無し。晉に備うるなり。 夏、齊侯伐宋。無傳。 【読み】 夏、齊侯宋を伐つ。傳無し。 晉趙鞅帥師伐衛。秋、九月、癸酉、齊侯杵臼卒。再同盟也。 【読み】 晉の趙鞅師を帥いて衛を伐つ。秋、九月、癸酉[みずのと・とり]、齊侯杵臼[しょきゅう]卒す。再び同盟す。 冬、叔還如齊。閏月、葬齊景公。無傳。 【読み】 冬、叔還[しゅくせん]齊に如く。閏月、齊の景公を葬る。傳無し。 〔傳〕五年、春、晉圍柏人。荀寅・士吉射奔齊。 【読み】 〔傳〕五年、春、晉柏人を圍む。荀寅・士吉射齊に奔る。 初、范氏之臣王生惡張柳朔。言諸昭子、使爲柏人。爲柏人宰也。昭子、范吉射。○惡、去聲。下同。 【読み】 初め、范氏の臣王生張柳朔を惡む。諸を昭子に言いて、柏人爲らしめんとす。柏人の宰とするなり。昭子は、范吉射。○惡は、去聲。下も同じ。 昭子曰、夫非而讎乎。對曰、私讎不及公。公家之事也。○夫、音扶。 【読み】 昭子曰く、夫[かれ]は而[なんじ]が讎に非ずや、と。對えて曰く、私讎は公に及ばず。公家の事なり。○夫は、音扶。 好不廢過、惡不去善、義之經也。臣敢違之。及范氏出、出柏人奔齊。○好、呼報反。去、起呂反。 【読み】 好して過ちを廢てず、惡みて善を去てざるは、義の經なり。臣敢えて之に違わんや、と。范氏が出づるに及びて、柏人を出でて齊に奔る。○好は、呼報反。去は、起呂反。 張柳朔謂其子、爾從主勉之。我將止死。王生授我矣。授我死節。 【読み】 張柳朔其の子に謂えらく、爾は主に從いて之を勉めよ。我は將に止まりて死なんとす。王生我に授けり。我に死節を授く。 吾不可以僭之。遂死於柏人。爲吉射距晉戰死。 【読み】 吾れ以て之を僭にす可からず、と。遂に柏人に死す。吉射が爲に晉を距ぎて戰死す。 夏、趙鞅伐衛、范氏之故也。遂圍中牟。衛助范氏故也。 【読み】 夏、趙鞅衛を伐つは、范氏の故なり。遂に中牟を圍む。衛范氏を助くる故なり。 齊燕姬生子、不成而死。燕姬、景公夫人。不成、未冠也。○燕、於賢反。 【読み】 齊の燕姬子を生み、成らずして死す。燕姬は、景公の夫人。成らずとは、未だ冠せざるなり。○燕は、於賢反。 諸子、鬻姒之子荼嬖。諸子、庶公子也。鬻姒、景公妾。荼、安孺子。○鬻、音育。荼、音舒。又音徒。 【読み】 諸子には、鬻姒[いくじ]の子荼[と]嬖せらる。諸子は、庶公子なり。鬻姒は、景公の妾。荼は、安孺子。○鬻は、音育。荼は、音舒。又音徒。 諸大夫恐其爲大子也、言於公曰、君之齒長矣。未有大子。若之何。公曰、二三子閒於憂虞、則有疾疢。亦姑謀樂。何憂於無君。景公意欲立荼、而未發。故以此言塞大夫請。○長、上聲。閒、音閑。又音諫。疢、勑覲反。樂、音洛。 【読み】 諸大夫其の大子爲らんことを恐るるや、公に言いて曰く、君の齒長ぜり。未だ大子有らず。之を若何、と。公曰く、二三子憂虞に閒あれば、則ち疾疢[しっちん]有り。亦姑く樂しみを謀らんのみ。何ぞ君無きを憂えん、と。景公意荼を立てんと欲して、未だ發せず。故に此の言を以て大夫の請を塞ぐなり。○長は、上聲。閒は、音閑。又音諫。疢は、勑覲反。樂は、音洛。 公疾。使國惠子・高昭子立荼、惠子、國夏。昭子、高張。 【読み】 公疾む。國惠子・高昭子をして荼を立てしめて、惠子は、國夏。昭子は、高張。 寘羣公子於萊。萊、齊東鄙邑。 【読み】 羣公子を萊に寘く。萊は、齊の東鄙の邑。 秋、齊景公卒。冬、十月、公子嘉・公子駒・公子黔奔衛、公子鉏・公子陽生來奔。皆景公子在萊者。○黔、巨廉反。又音琴。 【読み】 秋、齊の景公卒す。冬、十月、公子嘉・公子駒・公子黔[けん]衛に奔り、公子鉏・公子陽生來奔す。皆景公の子の萊に在る者。○黔は、巨廉反。又音琴。 萊人歌之曰、景公死乎不與埋。三軍之事乎不與謀。師乎師乎、何黨之乎。師、衆也。黨、所也。之、往也。稱謚、蓋葬後而爲此歌、哀羣公子失所。○與、音預。 【読み】 萊人之を歌いて曰く、景公死して埋むに與らず。三軍の事謀に與らず。師や師や、何れの黨に之かんか、と。師は、衆なり。黨は、所なり。之は、往くなり。謚を稱するは、蓋し葬後にして此の歌を爲り、羣公子の所を失えるを哀しむならん。○與は、音預。 鄭駟秦富而侈。嬖大夫也。而常陳卿之車服於其庭。鄭人惡而殺之。 【読み】 鄭の駟秦富みて侈る。嬖大夫なり。而るに常に卿の車服を其の庭に陳ぬ。鄭人惡みて之を殺せり。 子思曰、詩曰、不解于位、民之攸墍。子思、子產子、國參也。詩、大雅。攸、所也。墍、息也。○解、佳買反。墍、許器反。 【読み】 子思曰く、詩に曰く、位に解[おこた]らざるは、民の墍[いこ]う攸なり、と。子思は、子產の子、國參なり。詩は、大雅。攸は、所なり。墍[き]は、息うなり。○解は、佳買反。墍は、許器反。 不守其位、而能久者鮮矣。商頌曰、不僭不濫、不敢怠皇、命以多福。僭、差也。濫、溢也。皇、暇也。言駟秦違詩・商頌。故受禍。○鮮、息淺反。 【読み】 其の位を守らずして、能く久しき者は鮮し。商頌に曰く、僭[たが]わず濫[あふ]れず、敢えて怠皇せざれば、命ずるに多福を以てす、と。僭は、差[たが]うなり。濫は、溢るるなり。皇は、暇なり。言うこころは、駟秦詩と商頌とに違う。故に禍を受く。○鮮は、息淺反。 〔經〕六年、春、城邾瑕。無傳。備晉也。任城亢父縣北有邾婁城。○亢、苦浪反。又音剛。 【読み】 〔經〕六年、春、邾瑕[ちゅか]に城く。傳無し。晉に備うるなり。任城亢父縣の北に邾婁城有り。○亢は、苦浪反。又音剛。 晉趙鞅帥師伐鮮虞。吳伐陳。夏、齊國夏及高張來奔。二子阿君、廢長立少。旣受命、又不能全。書名、罪之也。 【読み】 晉の趙鞅師を帥いて鮮虞を伐つ。吳陳を伐つ。夏、齊の國夏と高張と來奔す。二子君に阿り、長を廢てて少を立つ。旣に命を受けて、又全くすること能わず。名を書すは、之を罪するなり。 叔還會吳于柤。無傳。○柤、莊加反。 【読み】 叔還[しゅくせん]吳に柤[さ]に會す。傳無し。○柤は、莊加反。 秋、七月、庚寅、楚子軫卒。未同盟、而赴以名。 【読み】 秋、七月、庚寅[かのえ・とら]、楚子軫卒す。未だ同盟せずして、赴[つ]ぐるに名を以てす。 齊陽生入于齊。爲陳乞所逆。故書入。 【読み】 齊の陽生齊に入る。陳乞の爲に逆[むか]えらる。故に入ると書す。 齊陳乞弑其君荼。弑荼者、朱毛與陽生也。而書陳乞、所以明乞立陽生、而荼見弑、則禍由乞始也。楚比劫立、陳乞流涕、子家憚老。皆疑於免罪。故春秋明而書之、以爲弑主。 【読み】 齊の陳乞其の君荼[と]を弑す。荼を弑する者は、朱毛と陽生となり。而るに陳乞と書すは、乞陽生を立てて、荼弑せらるるときは、則ち禍乞に由りて始まるを明らかにする所以なり。楚の比劫立せられ、陳乞涕を流し、子家老を憚る。皆罪を免れんに疑あり。故に春秋明らかにして之を書して、以て主を弑すとす。 冬、仲孫何忌帥師伐邾。無傳。 【読み】 冬、仲孫何忌師を帥いて邾を伐つ。傳無し。 宋向巢帥師伐曹。無傳。 【読み】 宋の向巢[しょうそう]師を帥いて曹を伐つ。傳無し。 〔傳〕六年、春、晉伐鮮虞、治范氏之亂也。四年、鮮虞納荀寅于柏人。 【読み】 〔傳〕六年、春、晉鮮虞を伐つは、范氏の亂を治むるなり。四年、鮮虞荀寅を柏人に納る。 吳伐陳、復脩舊怨也。元年、未得志故也。○復、扶又反。 【読み】 吳陳を伐つは、復舊怨を脩むるなり。元年、未だ志を得ざる故なり。○復は、扶又反。 楚子曰、吾先君與陳有盟。不可以不救。乃救陳、師于城父。陳盟、在昭十三年。 【読み】 楚子曰く、吾が先君陳と盟有り。以て救わずんばある可からず、と。乃ち陳を救いて、城父に師す。陳の盟は、昭十三年に在り。 齊陳乞僞事高・國者、高張・國夏受命立荼。陳乞欲害之。故先僞事焉。 【読み】 齊の陳乞高・國に事うる者の僞[まね]して、高張・國夏命を受けて荼を立つ。陳乞之を害せんと欲す。故に先ず僞り事う。 每朝必驂乘焉。所從必言諸大夫、言其罪過。○乘、去聲。後同。 【読み】 朝する每に必ず驂乘す。從う所には必ず諸大夫を言いて、其の罪過を言う。○乘は、去聲。後も同じ。 曰、彼皆偃蹇。將棄子之命。偃蹇、驕敖。 【読み】 曰く、彼れ皆偃蹇[えんけん]なり。將に子の命を棄てんとす。偃蹇は、驕敖。 皆曰、高・國得君。得君寵也。 【読み】 皆曰う、高・國君を得たり。君の寵を得るなり。 必偪我。盍去諸。固將謀子。子早圖之。圖之、莫如盡滅之。需、事之下也。需、疑也。○去、起呂反。下同。 【読み】 必ず我に偪らん、と。盍ぞ諸を去らざるや。固より將に子を謀らんとす。子早く之を圖れ。之を圖らば、盡く之を滅ぼすに如くは莫し。需[うたがい]は、事の下なり、と。需は、疑いなり。○去は、起呂反。下も同じ。 及朝、則曰、彼虎狼也。見我在子之側、殺我無日矣。請就之位。欲與諸大夫謀高・國。故求就之。 【読み】 朝に及べば、則ち曰く、彼は虎狼なり。我が子の側に在るを見ば、我を殺すこと日無けん。請う、之に位に就かん、と。諸大夫と高・國を謀らんと欲す。故に之に就かんことを求む。 又謂諸大夫曰、二子者禍矣。恃得君而欲謀二三子。曰、國之多難、貴寵之由。盡去之而後君定。旣成謀矣。盍及其未作也先諸。作而後悔、亦無及也。大夫從之。 【読み】 又諸大夫に謂いて曰く、二子の者は禍なり。君を得たるを恃みて二三子を謀らんことを欲す。曰く、國の難多きは、貴寵に之れ由る。盡く之を去りて而して後に君定まらん、と。旣に謀を成せり。盍ぞ其の未だ作らざるに及びて諸に先んぜざる。作りて後に悔ゆとも、亦及ぶこと無けん、と。大夫之に從う。 夏、六月、戊辰、陳乞・鮑牧、牧、鮑圉孫。 【読み】 夏、六月、戊辰[つちのえ・たつ]、陳乞・鮑牧、牧は、鮑圉の孫。 及諸大夫、以甲入于公宮。昭子聞之、與惠子乘如公、戰于莊、敗。高・國敗也。莊、六軌之道。 【読み】 諸大夫と、甲を以て公宮に入る。昭子之を聞きて、惠子と乘じて公に如き、莊に戰い、敗れぬ。高・國敗るるなり。莊は、六軌の道。 國人追之。國夏奔莒。遂及高張・晏圉・弦施來奔。圉、晏嬰之子。圉・施不書、非卿。 【読み】 國人之を追う。國夏莒に奔る。遂に高張・晏圉・弦施と來奔す。圉は、晏嬰の子。圉・施書さざるは、卿に非ざればなり。 秋、七月、楚子在城父。將救陳。卜戰。不吉。卜退。不吉。王曰、然則死也。再敗楚師、不如死。前已敗於柏舉。今若退還、亦是敗。 【読み】 秋、七月、楚子城父に在り。將に陳を救わんとす。戰を卜す。不吉なり。退かんことを卜す。不吉なり。王曰く、然らば則ち死なん。再び楚の師を敗らば、死するに如かず。前已に柏舉に敗らる。今若し退還せば、亦是れ敗るるなり。 *頭注に、「一說、再敗謂今戰更敗也。杜以退還爲敗退。還卽弃逃也。非敗。」とある。 棄盟逃讎、亦不如死。死一也。其死讎乎。命公子申爲王。不可。則命公子結。亦不可。則命公子啓。申、子西。結、子期。啓、子閭。皆昭王兄。 【読み】 盟を棄て讎を逃ぐるも、亦死するに如かず。死は一なり。其れ讎に死なんか、と。公子申に命じて王とせんとす。可[き]かず。則ち公子結に命ず。亦可かず。則ち公子啓に命ず。申は、子西。結は、子期。啓は、子閭。皆昭王の兄。 五辭而後許。 【読み】 五たび辭して而して後に許す。 將戰。王有疾。庚寅、昭王攻大冥、卒于城父。大冥、陳地。吳師所在。 【読み】 將に戰わんとす。王疾有り。庚寅、昭王大冥を攻め、城父に卒す。大冥は、陳の地。吳の師の在る所。 子閭退曰、君王舍其子而讓羣臣。敢忘君乎。從君之命、順也。從命許立。 【読み】 子閭退きて曰く、君王其の子を舍てて羣臣に讓れり。敢えて君を忘れんや。君の命に從うは、順なり。命に從いて立つことを許す。 立君之子、亦順也。二順不可失也。 【読み】 君の子を立つるも、亦順なり。二順失う可からざるなり、と。 與子西・子期謀、潛師閉塗、逆越女之子章、立之而後還。潛師、密發也。閉塗、不通外使也。越女、昭王妾。章、惠王。 【読み】 子西・子期と謀り、師を潛め塗[みち]を閉じ、越女の子章を逆えて、之を立てて而して後に還る。師を潛むるは、密かに發するなり。塗を閉ずるは、外使を通ぜざるなり。越女は、昭王の妾。章は、惠王。 是歲也、有雲如衆赤鳥、夾日以飛三日。楚子使問諸周大史。周大史曰、其當王身乎。日爲人君。妖氣守之。故以爲當王身。雲在楚上。唯楚見之。故禍不及他國。 【読み】 是の歲や、雲有り衆赤鳥の如く、日を夾みて以て飛ぶこと三日。楚子諸を周の大史に問わしむ。周の大史曰く、其れ王の身に當たらんか。日を人君と爲す。妖氣之を守る。故に以て王の身に當たると爲す。雲楚の上に在り。唯楚にのみ之を見る。故に禍他國に及ばず。 若禜之、可移於令尹司馬。禜、禳祭。○禜、音詠。 【読み】 若し之を禜[えい]せば、令尹司馬に移す可し、と。禜は、禳祭。○禜は、音詠。 王曰、除腹心之疾、而寘諸股肱、何益。不穀不有大過、天其夭諸。有罪受罰。又焉移之。遂弗禜。 【読み】 王曰く、腹心の疾を除きて、諸を股肱に寘かば、何の益あらん。不穀大過有らずんば、天其れ夭せんや。罪有らば罰を受けん。又焉ぞ之を移さん、と。遂に禜せず。 初、昭王有疾。卜曰、河爲祟。王弗祭。大夫請祭諸郊。王曰、三代命祀、祭不越望。諸侯望祀竟内山川星辰。 【読み】 初め、昭王疾有り。卜するに曰く、河祟りを爲せり、と。王祭らず。大夫諸を郊に祭らんと請う。王曰く、三代の命祀は、祭望を越えず。諸侯は竟内の山川星辰を望祀す。 江・漢・雎・漳、楚之望也。四水、在楚界。○雎、七餘反。 【読み】 江・漢・雎[しょ]・漳は、楚の望なり。四水は、楚の界に在り。○雎は、七餘反。 禍福之至、不是過也。不穀雖不德、河非所獲罪也。遂弗祭。 【読み】 禍福の至る、是に過ぎざるなり。不穀不德なりと雖も、河は罪を獲る所に非ざるなり、と。遂に祭らず。 孔子曰、楚昭王知大道矣。其不失國也宜哉。夏書曰、惟彼陶唐、帥彼天常、逸書。言堯循天之常道。 【読み】 孔子曰く、楚の昭王大道を知れり。其の國を失わざるや宜なるかな。夏書に曰く、惟れ彼の陶唐、彼の天常に帥[したが]い、逸書。言うこころは、堯天の常道に循う。 有此冀方。今失其行、亂其紀綱、乃滅而亡。滅亡、謂夏桀也。唐虞及夏、同都冀州、不易地而亡、由於不知大道故。○行、如字。又下孟反。 【読み】 此の冀方を有ちぬ。今其の行いを失い、其の紀綱を亂りて、乃ち滅ぼして亡ぼせり、と。滅亡は、夏桀を謂うなり。唐虞と夏と、冀州に同じく都して、地を易えずして亡びしは、大道を知らざるに由る故なり。○行は、字の如し。又下孟反。 又曰、允出玆在玆。由己率常可矣。又逸書。言信出己、則福亦在己。 【読み】 又曰く、允玆に出づれば玆に在り、と。己に由り常に率いて可なり、と。又逸書。言うこころは、信己に出づれば、則ち福も亦己に在り。 八月、齊邴意玆來奔。高・國黨。 【読み】 八月、齊の邴意玆[へいいじ]來奔す。高・國の黨。 陳僖子使召公子陽生。召、在七月。今在八月下、記事之次。 【読み】 陳僖子公子陽生を召ばしむ。召ぶは、七月に在り。今八月の下に在るは、記事の次なり。 陽生駕而見南郭且于、且于、齊公子鉏。在魯南郭。○且、子餘反。 【読み】 陽生駕して南郭且于[なんかくしょう]を見て、且于は、齊の公子鉏。魯の南郭に在り。○且は、子餘反。 曰、嘗獻馬於季孫、不入於上乘。故又獻此。請與子乘之。畏在家人聞其言。故欲二人共載。以試馬爲辭。○上乘、繩證反。 【読み】 曰く、嘗て馬を季孫に獻ぜしに、上乘に入れず。故に又此を獻ぜんとす。請う、子と之に乘らん、と。家に在らば人の其の言を聞かんことを畏る。故に二人共に載らんと欲す。馬を試みるを以て辭と爲すなり。○上乘は、繩證反。 出萊門而告之故。魯郭門也。 【読み】 萊門を出でて之に故を告ぐ。魯の郭門なり。 闞止知之、先待諸外。闞止、陽生家臣、子我也。待外、欲倶去。 【読み】 闞止[かんし]之を知り、先ず諸を外に待つ。闞止は、陽生の家臣、子我なり。外に待つとは、倶に去らんと欲するなり。 公子曰、事未可知。反與壬也處。壬、陽生子、簡公。 【読み】 公子曰く、事未だ知る可からず。反りて壬と與に處れ、と。壬は、陽生の子、簡公。 戒之遂行。戒使無洩言。 【読み】 之を戒めて遂に行く。戒めて言を洩らすこと無からしむ。 逮夜至於齊。國人知之。故以昏至。不欲令人知也。國人知而不言、言陳氏得衆。 【読み】 夜に逮びて齊に至る。國人之を知る。故[ことさら]に昏を以て至る。人をして知らしめんことを欲せざるなり。國人知りて言わざるは、陳氏の衆を得るを言う。 僖子使子士之母養之、隱於僖子家内。子士母、僖子妾。 【読み】 僖子子士の母をして之を養わしめ、僖子の家内に隱る。子士の母は、僖子の妾。 與饋者皆入。陳僖子又令陽生隨饋食之人、入處公宮。 【読み】 饋者と皆[とも]に入る。陳僖子又陽生をして饋食の人に隨いて、入りて公宮に處らしむ。 冬、十月、丁卯、立之。 【読み】 冬、十月、丁卯[ひのと・う]、之を立つ。 將盟。盟諸大夫。 【読み】 將に盟わんとす。諸大夫に盟う。 鮑子醉而往。其臣差車鮑點、點、鮑牧臣也。差車、主車之官。○差、所宜反。點、音沾。又如字。 【読み】 鮑子醉いて往く。其の臣差車鮑點、點は、鮑牧の臣なり。差車は、主車の官。○差は、所宜反。點は、音沾。又字の如し。 曰、此誰之命也。陳子曰、受命于鮑子。遂誣鮑子曰、子之命也。見其醉。故誣之。 【読み】 曰く、此れ誰が命ぞや、と。陳子曰く、命を鮑子に受けたり、と。遂に鮑子を誣いて曰く、子の命なり、と。其の醉えるを見る。故に之を誣う。 鮑子曰、女忘君之爲孺子牛而折其齒乎。而背之也。孺子、荼也。景公嘗銜繩爲牛、使荼牽之。荼頓地。故折其齒。○折、之舌反。又市列反。 【読み】 鮑子曰く、女君の孺子の牛と爲りて其の齒を折きしを忘れたりや。而るに之に背けるや、と。孺子は、荼なり。景公嘗て繩を銜[ふく]みて牛と爲り、荼をして之を牽かしむ。荼地に頓[たう]る。故に其の齒を折けり。○折は、之舌反。又市列反。 悼公稽首、悼公、陽生。 【読み】 悼公稽首して、悼公は、陽生。 曰、吾子奉義而行者也。若我可、不必亡一大夫。言己可爲君、必不怨鮑子。 【読み】 曰く、吾子は義を奉じて行う者なり。若し我れ可ならば、必ず一大夫を亡わじ。言うこころは、己君爲る可くば、必ず鮑子を怨みじ。 若我不可、不必亡一公子。公子、自謂也。恐鮑子殺己。故要之。○要、一遙反。 【読み】 若し我れ不可ならば、必ず一公子を亡わざれ。公子は、自ら謂うなり。鮑子が己を殺さんことを恐る。故に之を要す。○要は、一遙反。 義則進、否則退。敢不唯子是從。廢興無以亂、則所願也。鮑子曰、誰非君之子。乃受盟。言陽生亦君之子。固可立。 【読み】 義ならば則ち進み、否[しか]らずば則ち退かん。敢えて唯子に是れ從わざらんや。廢興亂を以てすること無きは、則ち願う所なり、と。鮑子曰く、誰か君の子に非ざらん、と。乃ち盟を受く。言うこころは、陽生も亦君の子なり。固より立つ可し。 使胡姬以安孺子如賴。胡姬、景公妾也。賴、齊邑。安、號也。 【読み】 胡姬をして安孺子を以[い]て賴に如かしむ。胡姬は、景公の妾なり。賴は、齊の邑。安は、號なり。 去鬻姒、荼之母。○去、起呂反。 【読み】 鬻姒[いくじ]を去り、荼の母。○去は、起呂反。 殺王甲、拘江說、囚王豹于句竇之丘。三子、景公嬖臣。荼之黨也。○說、音悅。句、音鉤。 【読み】 王甲を殺し、江說を拘え、王豹を句竇[こうとう]の丘に囚う。三子は、景公の嬖臣。荼の黨なり。○說は、音悅。句は、音鉤。 公使朱毛告於陳子、朱毛、齊大夫。 【読み】 公朱毛をして陳子に告げしめて、朱毛は、齊の大夫。 曰、微子則不及此。然君異於器。不可以二。器二不匱、君二多難。敢布諸大夫。僖子不對而泣曰、君舉不信羣臣乎。舉、皆也。○難、乃旦反。 【読み】 曰く、子微かりせば則ち此に及ばじ。然れども君は器に異なり。以て二ある可からず。器の二は匱[とぼ]しからず、君の二は難多し。敢えて諸を大夫に布く、と。僖子對えずして泣きて曰く、君舉[みな]羣臣を信ぜざるか。舉は、皆なり。○難は、乃旦反。 以齊國之困、困又有憂、内有饑荒之困、又有兵革之憂。 【読み】 齊國の困しみて、困しみて又憂え有りて、内に饑荒の困しみ有り、又兵革の憂え有り。 少君不可以訪、是以求長君。庶亦能容羣臣乎。不然、夫孺子何罪。毛復命。公悔之。悔失言。 【読み】 少君には以て訪[と]う可からざるを以て、是を以て長君を求めり。庶わくは亦能く羣臣を容れんや。然らずんば、夫の孺子何の罪あらん、と。毛復命す。公之を悔ゆ。失言を悔ゆ。 毛曰、君大訪於陳子、而圖其小可也。大謂國政、小謂殺荼。 【読み】 毛曰く、君大は陳子に訪いて、其の小を圖りて可なり、と。大は國政を謂い、小は荼を殺すを謂う。 使毛遷孺子於駘。不至、殺諸野幕之下、葬諸殳冒淳。恐駘人不從。故毛駐於野、張帳而殺之。駘、齊邑。殳冒淳、地名。實以冬殺。經書秋者、史書秋記始事、遂連其死、通以冬告魯。○駘、他才反。又徒來反。殳、音殊。 【読み】 毛をして孺子を駘に遷さしむ。至らずして、諸を野幕の下に殺し、諸を殳冒淳[しゅぼうじゅん]に葬れり。駘人の從わざらんことを恐る。故に毛野に駐[とど]まり、帳を張りて之を殺す。駘は、齊の邑。殳冒淳は、地の名。實は冬を以て殺す。經秋に書すは、史秋に書して始事を記し、遂に其の死を連ねて、通じて冬を以て魯に告ぐるなり。○駘は、他才反。又徒來反。殳は、音殊。 〔經〕七年、春、宋皇瑗帥師侵鄭。晉魏曼多帥師侵衛。夏、公會吳于鄫。鄫、今琅邪鄫縣。○瑗、于眷反。鄫、才陵反。 【読み】 〔經〕七年、春、宋の皇瑗師を帥いて鄭を侵す。晉の魏曼多師を帥いて衛を侵す。夏、公吳に鄫[しょう]に會す。鄫は、今の琅邪鄫縣。○瑗は、于眷反。鄫は、才陵反。 秋、公伐邾。八月、己酉、入邾、以邾子益來。他國言歸、於魯言來。外内之辭。 【読み】 秋、公邾[ちゅ]を伐つ。八月、己酉[つちのと・とり]、邾に入り、邾子益を以[い]て來る。他國には歸と言い、魯に於ては來と言う。外内の辭なり。 宋人圍曹。冬、鄭駟弘帥師救曹。 【読み】 宋人曹を圍む。冬、鄭の駟弘師を帥いて曹を救う。 〔傳〕七年、春、宋師侵鄭、鄭叛晉故也。定八年、鄭始叛。 【読み】 〔傳〕七年、春、宋の師鄭を侵すは、鄭晉に叛く故なり。定八年、鄭始めて叛く。 晉師侵衛、衛不服也。五年、晉伐衛。至今未服。 【読み】 晉の師衛を侵すは、衛服せざればなり。五年、晉衛を伐つ。今に至りて未だ服せず。 夏、公會吳于鄫。吳欲霸中國。 【読み】 夏、公吳に鄫に會す。吳中國に霸たらんと欲す。 吳來徵百牢。子服景伯對曰、先王未之有也。吳人曰、宋百牢我。是時吳過宋得百牢。 【読み】 吳來りて百牢を徵す。子服景伯對えて曰く、先王未だ之れ有らず、と。吳人曰く、宋我に百牢せり。是の時吳宋を過りて百牢を得たり。 魯不可以後宋。且魯牢晉大夫過十。晉大夫、范鞅也。在昭二十一年。 【読み】 魯以て宋に後る可からず。且つ魯晉の大夫に牢すること十に過ぎたり。晉の大夫は、范鞅なり。昭二十一年に在り。 吳王百牢、不亦可乎。景伯曰、晉范鞅貪而棄禮、以大國懼敝邑。故敝邑十一牢之。君若以禮命於諸侯、則有數矣。有常數。 【読み】 吳王に百牢せんこと、亦可ならずや、と。景伯曰く、晉の范鞅貪りて禮を棄て、大國を以て敝邑を懼[おど]す。故に敝邑之に十一牢せり。君若し禮を以て諸侯に命ぜば、則ち數有り。常數有るなり。 若亦棄禮、則有淫者矣。淫、過也。 【読み】 若し亦禮を棄てば、則ち淫[す]ぐる者有らん。淫は、過ぐるなり。 周之王也、制禮上物、不過十二、上物、天子之牢。 【読み】 周の王たるや、禮を制すること上物も、十二に過ぎず、上物は、天子の牢。 以爲天子之大數也。天有十二次。故制禮象之。 【読み】 以て天子の大數と爲す。天に十二次有り。故に禮を制して之に象る。 *「天子之大數」は、漢籍國字解全書では、「天之大數」である。 今棄周禮、而曰必百牢。亦唯執事。 【読み】 今周禮を棄てて、必ず百牢せよと曰う。亦唯執事のままなり、と。 吳人弗聽。景伯曰、吳將亡矣。棄天而背本。違周爲背本。 【読み】 吳人聽かず。景伯曰く、吳將に亡びんとす。天を棄てて本に背けり。周に違いて本に背くと爲す。 不與、必棄疾於我。放棄凶疾、來伐擊我。 【読み】 與えずんば、必ず疾を我に棄てん。凶疾を放棄して、來りて我を伐擊せん。 乃與之。 【読み】 乃ち之に與う。 大宰嚭召季康子。嚭、吳大夫。 【読み】 大宰嚭[ひ]季康子を召ぶ。嚭は、吳の大夫。 康子使子貢辭。大宰嚭曰、國君道長、蓋言君長大於道路。○長、丁丈反。 【読み】 康子子貢をして辭せしむ。大宰嚭曰く、國君道に長じて、蓋し君道路に長大するを言う。○長は、丁丈反。 而大夫不出門。此何禮也。對曰、豈以爲禮。畏大國也。畏大國、不敢虛國盡行。 【読み】 大夫門を出でず。此れ何の禮ぞや、と。對えて曰く、豈以て禮とせんや。大國を畏れてなり。大國を畏れて、敢えて國を虛しくして盡く行かず。 大國不以禮命於諸侯。苟不以禮、豈可量也。寡君旣共命焉。其老豈敢棄其國。大伯端委以治周禮、仲雍嗣之、斷髮文身、臝以爲飾、豈禮也哉。有由然也。大伯、周大王之長子。仲雍、大伯弟也。大伯・仲雍、讓其弟季歷、倶適荆蠻、遂有民衆。大伯卒、無子。仲雍嗣立。不能行禮致化。故效吳俗。言其權時制宜、以辟災害、非以爲禮也。端委、禮衣也。○共、音恭。斷、丁管反。臝、力果反。 【読み】 大國禮を以て諸侯に命ぜず。苟も禮を以てせざれば、豈量る可けんや。寡君旣に命に共せり。其の老豈敢えて其の國を棄てんや。大伯は端委して以て周禮を治め、仲雍之を嗣ぎて、髮を斷ち身を文[もどろ]け、臝[はだか]にして以て飾りとせしは、豈禮ならんや。由ること有りて然るなり、と。大伯は、周の大王の長子。仲雍は、大伯の弟なり。大伯・仲雍、其の弟季歷に讓りて、倶に荆蠻に適き、遂に民衆を有つ。大伯卒して、子無し。仲雍嗣立す。禮を行いて化を致すこと能わず。故に吳の俗に效う。言うこころは、其の時を權り宜を制して、以て災害を辟くは、以て禮とするに非ざるなり。端委は、禮衣なり。○共は、音恭。斷は、丁管反。臝は、力果反。 反自鄫、以吳爲無能爲也。棄禮、知其不能霸也。 【読み】 鄫より反りて、吳を以て能く爲すこと無しと爲す。禮を棄つれば、其の霸たること能わざるを知るなり。 季康子欲伐邾、乃饗大夫以謀之。子服景伯曰、小所以事大、信也。大所以保小、仁也。背大國不信。大國、吳也。 【読み】 季康子邾を伐たんことを欲し、乃ち大夫を饗して以て之を謀る。子服景伯曰く、小の大に事うる所以は、信なり。大の小を保つ所以は、仁なり。大國に背くは不信なり。大國は、吳なり。 伐小國不仁。民保於城、城保於德。失二德者、危將焉保。二德、信與仁也。 【読み】 小國を伐つは不仁なり。民は城に保んじ、城は德に保んず。二德を失わば、危うきも將に焉[いずく]に保んぜんとする、と。二德は、信と仁となり。 孟孫曰、二三子以爲何如。怪諸大夫不言。故指問之。 【読み】 孟孫曰く、二三子何如と以爲[おも]える。諸大夫の言わざるを怪しむ。故に指して之を問う。 惡賢而逆之。孟孫賢景伯、欲使大夫不逆其言。惡、猶安也。○惡、音烏。 【読み】 惡ぞ賢として之に逆わん。孟孫景伯を賢とし、大夫をして其の言に逆わざらしめんと欲す。惡は、猶安ぞのごとし。○惡は、音烏。 對曰、禹合諸侯於塗山、執玉帛者萬國、諸大夫對也。諸侯執玉、附庸執帛。塗山、在壽春東北。 【読み】 對えて曰く、禹諸侯を塗山に合わせしとき、玉帛を執れる者萬國なりしも、諸大夫對うるなり。諸侯は玉を執り、附庸は帛を執る。塗山は、壽春の東北に在り。 今其存者、無數十焉。唯大不字小、小不事大也。言諸侯相伐、古來以然。○數、所主反。 【読み】 今其の存する者、數十無し。唯大小を字[めぐ]まず、小大に事えざればなり。言うこころは、諸侯相伐つは、古來以[すで]に然り。○數は、所主反。 知必危、何故不言。知伐邾必危、自當言。今不言者、不危故也。大夫以荅孟孫所怪、且阿附季孫。 【読み】 必ず危うきを知らば、何の故に言わざらんや、と。邾を伐つの必ず危うきを知らば、自ら當に言うべし。今言わざるは、危うからざる故なり。大夫以て孟孫が怪しむ所に荅え、且つ季孫に阿附するなり。 魯德如邾。而以衆加之。可乎。孟孫忿荅大夫。今魯德無以勝邾。但欲恃衆。可乎、言不可。 【読み】 魯の德も邾の如し。而るに衆を以て之に加えんとす。可ならんや、と。孟孫忿りて大夫に荅う。今魯の德以て邾に勝ること無し。但衆を恃まんと欲す。可ならんやとは、不可なるを言う。 不樂而出。季・孟意異、佞直不同。故罷饗。○樂、音岳。一音洛。 【読み】 樂しまずして出づ。季・孟意異に、佞直同じからず。故に饗を罷[や]む。○樂は、音岳。一に音洛。 秋伐邾、及范門。邾郭門也。 【読み】 秋邾を伐ち、范門に及ぶ。邾の郭門なり。 猶聞鐘聲。邾不禦寇。 【読み】 猶鐘聲を聞く。邾寇を禦がず。 大夫諫不聽。茅成子請告於吳。成子、邾大夫、茅夷鴻。 【読み】 大夫諫むれども聽かず。茅成子吳に告げんと請う。成子は、邾の大夫、茅夷鴻。 不許。曰、魯擊柝聞於邾。言以近。○聞、音問。又如字。 【読み】 許さず。曰く、魯は柝[たく]を擊てば邾に聞こゆ。言うこころは、近きを以てなり。○聞は、音問。又字の如し。 吳二千里。不三月不至。何及於我。且國内豈不足。言足以距魯。 【読み】 吳は二千里なり。三月ならざれば至らじ。何ぞ我に及ばん。且つ國内豈足らざらんや、と。言うこころは、以て魯を距ぐに足る。 成子以茅叛。高平西南有茅郷亭。 【読み】 成子茅を以て叛く。高平の西南に茅郷亭有り。 師遂入邾、處其公宮、衆師晝掠。虜掠取財物也。○掠、音亮。 【読み】 師遂に邾に入り、其の公宮に處り、衆師晝掠む。虜掠して財物を取るなり。○掠は、音亮。 邾衆保于繹。繹、邾山也。在鄒縣北。 【読み】 邾の衆繹に保つ。繹は、邾の山なり。鄒縣の北に在り。 師宵掠。以邾子益來、益、邾隱公也。晝夜掠、傳言康子無法。 【読み】 師宵掠む。邾子益を以て來り、益は、邾の隱公なり。晝夜掠むるは、傳康子法無きを言う。 獻于亳社、以其亡國與殷同。 【読み】 亳社[はくしゃ]に獻じ、其の國を亡ぼすこと殷と同じきを以てなり。 囚諸負瑕。負瑕故有繹。負瑕、魯邑。高平南、平陽縣西北有瑕丘城。前者魯得邾之繹民、使在負瑕。故使相就以辱之。 【読み】 諸を負瑕に囚う。負瑕に故[もと]繹有ればなり。負瑕は、魯の邑。高平の南、平陽縣の西北に瑕丘城有り。前者[さき]に魯邾の繹民を得、負瑕に在らしむ。故に相就かしめて以て之を辱む。 邾茅夷鴻以束帛乘韋、自請救於吳、無君命。故言自。○乘、去聲。下同。 【読み】 邾の茅夷鴻束帛乘韋を以て、自ら救いを吳に請いて、君命無し。故に自らと言う。○乘は、去聲。下も同じ。 曰、魯弱晉而遠吳、馮恃其衆、馮、依。○馮、音憑。 【読み】 曰く、魯晉を弱しとして吳を遠しとし、其の衆を馮恃して、馮は、依るなり。○馮は、音憑。 而背君之盟、辟君之執事、辟、陋。○辟、匹亦反。 【読み】 君の盟に背き、君の執事を辟として、辟は、陋[いや]し。○辟は、匹亦反。 以陵我小國。邾非敢自愛也。懼君威之不立。君威之不立、小國之憂也。若夏盟於鄫衍、鄫衍、卽鄫也。鄫盟不書、吳行夷禮、禮儀不典、非所以結信義。故不錄。 【読み】 以て我が小國を陵げり。邾敢えて自ら愛しむには非ざるなり。君の威の立たざらんことを懼れてなり。君の威の立たざるは、小國の憂えなり。若し夏鄫衍[しょうえん]に盟い、鄫衍は、卽ち鄫なり。鄫の盟書さざるは、吳夷禮を行いて、禮儀典らず、信義を結ぶ所以に非ず。故に錄せず。 秋而背之、成求而不違、言魯成其所求、無違逆也。 【読み】 秋にして之に背き、求めを成して違わずんば、言うこころは、魯其の求むる所を成して、違逆する無きなり。 四方諸侯其何以事君。且魯賦八百乘、君之貳也。貳、敵也。魯以八百乘之賦貢於吳。言其國大。 【読み】 四方の諸侯其れ何を以て君に事えん。且つ魯の賦は八百乘、君の貳なり。貳は、敵なり。魯八百乘の賦を以て吳に貢す。其の國大なるを言う。 邾賦六百乘、君之私也。爲私屬。 【読み】 邾の賦は六百乘、君の私なり。私屬爲り。 以私奉貳、唯君圖之。吳子從之。爲明年、吳伐我傳。 【読み】 私を以て貳に奉ぜんこと、唯君之を圖れ、と。吳子之に從う。明年、吳我を伐つ爲の傳なり。 宋人圍曹。鄭桓子思曰、宋人有曹、鄭之患也。不可以不救。桓、謚。 【読み】 宋人曹を圍む。鄭の桓子思曰く、宋人曹を有たば、鄭の患えなり。以て救わずんばある可からず、と。桓は、謚なり。 冬、鄭師救曹、侵宋。 【読み】 冬、鄭の師曹を救いて、宋を侵す。 初、曹人或夢衆君子立于社宮、社宮、社也。 【読み】 初め、曹人或ひと夢みらく、衆君子社宮に立ちて、社宮は、社なり。 而謀亡曹。曹叔振鐸請待公孫彊。許之。振鐸、曹始祖。 【読み】 曹を亡ぼさんことを謀る。曹の叔振鐸公孫彊を待たんと請う。之を許す、と。振鐸は、曹の始祖なり。 旦而求之、曹無之。戒其子曰、我死、爾聞公孫彊爲政、必去之。及曹伯陽卽位、好田弋。曹鄙人公孫彊好弋、獲白鴈獻之、且言田弋之說。說之、因訪政事、大說之。有寵。使爲司城以聽政。夢者之子乃行。 【読み】 旦にして之を求むるに、曹に之れ無し。其の子を戒めて曰く、我れ死して、爾公孫彊政を爲すと聞かば、必ず之を去れ、と。曹伯陽が位に卽くに及び、田弋[でんよく]を好む。曹の鄙人公孫彊弋を好み、白鴈を獲て之を獻じ、且田弋の說を言う。之を說び、因りて政事を訪い、大いに之を說ぶ。寵有り。司城と爲して以て政を聽かしむ。夢みる者の子乃ち行[さ]る。 彊言霸說於曹伯。曹伯從之、乃背晉而奸宋。宋人伐之。晉人不救。築五邑於其郊。曰黍丘・揖丘・大城・鍾・邘。爲明年、入曹傳也。梁國下邑縣西南有黍丘亭。○說、如字。說之、音悅。霸說、如字。又始銳反。揖、音集。一於入反。邘、音于。 【読み】 彊霸の說を曹伯に言う。曹伯之に從い、乃ち晉に背きて宋を奸す。宋人之を伐つ。晉人救わず。五邑を其の郊に築く。黍丘・揖丘・大城・鍾・邘[う]と曰う。明年、曹に入る爲の傳なり。梁國下邑縣の西南に黍丘亭有り。○說は、字の如し。說之は、音悅。霸說は、字の如し。又始銳反。揖は、音集。一に於入反。邘は、音于。 〔經〕八年、春、王正月、宋公入曹、以曹伯陽歸。曹人背晉而奸宋。是以致討。宋公旣還、而不忍褚師之詬、怒而反兵、一舉滅曹。滅非本志。故以入告。 【読み】 〔經〕八年、春、王の正月、宋公曹に入り、曹伯陽を以[い]て歸る。曹人晉に背きて宋を奸す。是を以て討を致す。宋公旣に還りて、褚師の詬[はずかし]めに忍びず、怒りて兵を反して、一舉して曹を滅ぼす。滅ぼすは本志に非ず。故に入るを以て告ぐ。 吳伐我。夏、齊人取讙及闡。不書伐、兵未加而魯與之邑。闡、在東平剛縣北。○讙、音歡。闡、尺善反。 【読み】 吳我を伐つ。夏、齊人讙と闡[せん]とを取る。伐を書さざるは、兵未だ加えずして魯之に邑を與うればなり。闡は、東平剛縣の北に在り。○讙は、音歡。闡は、尺善反。 歸邾子益于邾。秋、七月。冬、十有二月、癸亥、杞伯過卒。無傳。未同盟、而赴以名。○過、古禾反。 【読み】 邾子益を邾に歸す。秋、七月。冬、十有二月、癸亥[みずのと・い]、杞伯過卒す。傳無し。未だ同盟せずして、赴[つ]ぐるに名を以てす。○過は、古禾反。 齊人歸讙及闡。不言來、命歸之、無官使也。○使、所吏反。 【読み】 齊人讙と闡とを歸す。來ると言わざるは、命じて之を歸して、官使無ければなり。○使は、所吏反。 *頭注に、「官使、足利本官作旨。宋板作肯。文十五年、疏引此註作指使。釋文作官使。所吏反。」とある。 〔傳〕八年、春、宋公伐曹、將還。褚師子肥殿。子肥、宋大夫。○殿、丁練反。 【読み】 〔傳〕八年、春、宋公曹を伐ち、將に還らんとす。褚師子肥殿たり。子肥は、宋の大夫。○殿は、丁練反。 曹人詬之。不行。詬、詈辱也。不行、殿兵止也。○詬、呼豆反。 【読み】 曹人之を詬[ののし]る。行かず。詬は、詈辱なり。行かずとは、殿兵止まるなり。○詬は、呼豆反。 師待之。公聞之怒、命反之、遂滅曹、執曹伯及司城彊以歸、殺之。終曹人之夢。 【読み】 師之を待つ。公之を聞きて怒り、命じて之を反さしめ、遂に曹を滅ぼし、曹伯と司城彊とを執えて以て歸りて、之を殺す。曹人の夢を終わる。 吳爲邾故、將伐魯。問於叔孫輒。問可伐不。輒故魯人。 【読み】 吳邾の爲の故に、將に魯を伐たんとす。叔孫輒[しゅくそんちょう]に問う。伐つ可きや不やと問う。輒は故[もと]魯人。 叔孫輒對曰、魯有名而無情。有大國名、無情實。 【読み】 叔孫輒對えて曰く、魯は名有りて情無し。大國の名有りて、情實無し。 伐之必得志焉。退而告公山不狃。不狃亦故魯人。 【読み】 之を伐たば必ず志を得ん、と。退きて公山不狃[こうざんふじゅう]に告ぐ。不狃も亦故魯人。 公山不狃曰、非禮也。君子違不適讎國。違、奔亡也。 【読み】 公山不狃曰く、禮に非ざるなり。君子違[さ]るも讎國に適かず。違は、奔亡するなり。 未臣而有伐之、奔命焉、死之可也。未臣所適之國、若有伐本國者、則可還奔命死其難。 【読み】 未だ臣たらずして之を伐つこと有らば、命に奔りて、之に死なんこと可なり。未だ適く所の國に臣たらずして、若し本國を伐つ者有れば、則ち還りて命に奔りて其の難に死す可し。 所託也則隱。曾所因託、則爲之隱惡。 【読み】 託する所は則ち隱す。曾て因託する所は、則ち之が爲に惡を隱す。 且夫人之行也、不以所惡廢郷。不以其私怨惡廢棄其郷黨之好。○夫、音扶。行、下孟反。又如字。惡、烏路反。又如字。 【読み】 且つ夫れ人の行いや、惡む所を以て郷を廢てず。其の私の怨惡を以て其の郷黨の好を廢棄せず。○夫は、音扶。行は、下孟反。又字の如し。惡は、烏路反。又字の如し。 今子以小惡而欲覆宗國。不亦難乎。輒、魯公族。故謂之宗國。 【読み】 今子小惡を以て宗國を覆さんと欲す。亦難からずや。輒は、魯の公族。故に之を宗國と謂う。 若使子率、子必辭。王將使我。子張疾之。子張、輒也。 【読み】 若し子をして率いしめば、子必ず辭せよ。王將に我をせしめんとす、と。子張之を疾む。子張は、輒なり。 王問於子洩。子洩、不狃。 【読み】 王子洩[しせつ]に問う。子洩は、不狃。 對曰、魯雖無與立、緩時若無能自立。 【読み】 對えて曰く、魯は與に立つこと無しと雖も、緩き時は能く自立すること無きが若し。 *頭注に、「按自、當作與。寫誤也。與立、指君臣也。朱注、魯平日雖無共立以爲黨者。」とある。 必有與斃。急則人人知懼、皆將同死戰。 【読み】 必ず與に斃るること有らん。急なれば則ち人人懼れを知り、皆將に同じく死戰せんとす。 諸侯將救之。未可以得志焉。晉與齊・楚輔之、是四讎也。與魯而四。 【読み】 諸侯將に之を救わんとす。未だ以て志を得可からず。晉と齊・楚と之を輔けば、是れ四讎なり。魯と與にして四。 夫魯、齊・晉之脣。脣亡齒寒、君所知也。不救何爲。 【読み】 夫れ魯は、齊・晉の脣[くちびる]なり。脣亡ぶれば齒寒きというは、君の知る所なり。救わずして何をかせん、と。 三月、吳伐我。子洩率、故道險、從武城。故由險道、欲使魯成備。 【読み】 三月、吳我を伐つ。子洩率いて、故[ことさら]に險に道して、武城よりす。故に險道よりするは、魯をして備えを成さしめんと欲するなり。 初、武城人或有因於吳竟田焉。僑田吳界。 【読み】 初め、武城の人或ひと吳の竟に因りて田づくる有り。吳の界に僑田す。 拘鄫人之漚菅者曰、何故使吾水滋。鄫人亦僑田吳。滋、濁也。○漚、烏豆反。菅、古顏反。滋、音玄。又本作玆。子絲反。字林云、黑也。 【読み】 鄫人[しょうひと]の菅を漚[ひた]す者を拘えて曰く、何の故に吾が水を滋[にご]らしむる、と。鄫人も亦吳に僑田す。滋は、濁るなり。○漚[おう]は、烏豆反。菅は、古顏反。滋は、音玄。又本玆に作る。子絲反。字林に云う、黑なり、と。 及吳師至、拘者道之、以伐武城克之。鄫人敎吳、必可克。 【読み】 吳の師の至るに及びて、拘われたる者之を道[みちび]くらく、以て武城を伐たば之に克たん、と。鄫人吳に敎えらく、必ず克つ可し、と。 王犯嘗爲之宰、澹臺子羽之父好焉。國人懼。王犯、吳大夫。故嘗奔魯爲武城宰。澹臺子羽、武城人。孔子弟子也。其父與王犯相善。國人懼其爲内應。○澹、待甘反。 【読み】 王犯嘗て之が宰と爲り、澹臺子羽[たんだいしう]の父好す。國人懼る。王犯は、吳の大夫。故に嘗て魯に奔りて武城の宰と爲る。澹臺子羽は、武城の人。孔子の弟子なり。其の父王犯と相善し。國人其の内應を爲さんことを懼る。○澹は、待甘反。 懿子謂景伯、若之何。對曰、吳師來、斯與之戰。何患焉。且召之而至。又何求焉。言犯盟伐邾、所以召吳。 【読み】 懿子景伯に謂えらく、之を若何にせん、と。對えて曰く、吳の師來らば、斯に之と戰わん。何ぞ患えん。且つ之を召して至れり。又何をか求めん、と。言うこころは、盟を犯して邾を伐ちしは、吳を召す所以なり。 吳師克東陽而進、舍於五梧、明日、舍於蠶室。三邑、魯地。 【読み】 吳の師東陽に克ちて進み、五梧に舍り、明日、蠶室に舍る。三邑は、魯の地。 公賓庚・公甲叔子與戰于夷。獲叔子與析朱鉏、公賓庚・公甲叔子、幷析朱鉏、爲三人。皆同車。傳互言之。 【読み】 公賓庚・公甲叔子與に夷に戰う。叔子と析朱鉏とを獲、公賓庚・公甲叔子と、析朱鉏とを幷せて、三人と爲す。皆同車なり。傳互いに之を言うなり。 獻於王。王曰、此同車。必使能。國未可望也。同車能倶死。是國能使人。故不可望得。 【読み】 王に獻ず。王曰く、此れ車を同じくす。必ず能を使うならん。國未だ望む可からず、と。同車能く倶に死す。是れ國能く人を使うなり。故に得ることを望む可からず。 明日、舍于庚宗、遂次于泗上。微虎欲宵攻王舍、微虎、魯大夫。 【読み】 明日、庚宗に舍り、遂に泗上に次る。微虎宵王舍を攻めんことを欲し、微虎は、魯の大夫。 私屬徒七百人、三踊於幕庭。於帳前設格、令士試躍之。○屬、音燭。令、力呈反。 【読み】 私に徒七百人を屬[あつ]めて、幕庭に三踊せしむ。帳前に於て格を設け、士をして試みに之を躍らしむ。○屬は、音燭。令は、力呈反。 卒三百人。有若與焉。卒、終也。終得三百人任行。有若、孔子弟子。與在三百人中。○與、音預。任、音壬。 【読み】 卒わりに三百人あり。有若與れり。卒は、終わりなり。終わりに三百人の行くに任[た]えたるを得。有若は、孔子の弟子。與りて三百人の中に在り。○與は、音預。任は、音壬。 及稷門之内。三百人行、至稷門。 【読み】 稷門の内に及ぶ。三百人行きて、稷門に至る。 或謂季孫曰、不足以害吳、而多殺國士。不如已也。乃止之。吳子聞之、一夕三遷。畏微虎也。○三、息暫反。 【読み】 或ひと季孫に謂いて曰く、以て吳を害するに足らずして、多く國士を殺さん。已むに如かず、と。乃ち之を止む。吳子之を聞きて、一夕に三たび遷る。微虎を畏れてなり。○三は、息暫反。 吳人行成。求與魯成。 【読み】 吳人成[たい]らぎを行う。魯と成らがんことを求む。 將盟。景伯曰、楚人圍宋、易子而食、析骸而爨、在宣十五年。 【読み】 將に盟わんとす。景伯曰く、楚人宋を圍みしとき、子を易えて食らい、骸を析[さ]きて爨[かし]ぎしも、宣十五年に在り。 猶無城下之盟。我未及虧、而有城下之盟、是棄國也。吳輕而遠。不能久。將歸矣。請少待之。弗從。景伯負載造於萊門。以言不見從、故負載書、將欲出盟。○輕、去聲。造、七報反。 【読み】 猶城下の盟無かりき。我れ未だ虧[か]くるに及ばずして、城下の盟有らば、是れ國を棄つるなり。吳輕くして遠し。久しきこと能わじ。將に歸らんとす。請う、少[しばら]く之を待て、と。從わず。景伯載を負いて萊門に造る。言從われざるを以て、故に載書を負いて、將に出でて盟わんと欲せんとす。○輕は、去聲。造は、七報反。 乃請釋子服何於吳。吳人許之。以王子姑曹當之。而後止。釋、舍也。魯人不以盟爲了、欲因留景伯爲質於吳。旣得吳之許、復求吳王之子以交質。吳人不欲留王子。故遂兩止。 【読み】 乃ち子服何を吳に釋[お]かんと請う。吳人之を許す。王子姑曹を以て之に當てんとす。而して後に止む。釋は、舍くなり。魯人盟を以て了わると爲さず、因りて景伯を留めて吳に質と爲さんと欲す。旣に吳の許しを得て、復吳王の子を求めて以て交々質にせんとす。吳人王子を留めんことを欲せず。故に遂に兩つながら止む。 吳人盟而還。不書盟、恥吳夷。 【読み】 吳人盟いて還る。盟を書さざるは、吳の夷を恥じてなり。 齊悼公之來也、在五年。 【読み】 齊の悼公の來るや、五年に在り。 季康子以其妹妻之。卽位而逆之。季魴侯通焉。魴侯、康子叔父。○魴、音房。 【読み】 季康子其の妹を以て之に妻わす。位に卽きて之を逆う。季魴侯通ず。魴侯は、康子の叔父。○魴は、音房。 女言其情。弗敢與也。齊侯怒。夏、五月、齊鮑牧帥師伐我、取讙及闡。 【読み】 女其の情を言う。敢えて與えず。齊侯怒る。夏、五月、齊の鮑牧師を帥いて我を伐ち、讙と闡とを取る。 或譖胡姬於齊侯、胡姬、景公妾。 【読み】 或ひと胡姬を齊侯に譖[しこ]ぢて、胡姬は、景公の妾。 曰、安孺子之黨也。六月、齊侯殺胡姬。傳言齊侯無道、所以不終。 【読み】 曰く、安孺子の黨なり、と。六月、齊侯胡姬を殺す。傳齊侯無道にして、終わらざる所以を言う。 齊侯使如吳請師、將以伐我。乃歸邾子。齊未得季姬。故請師也。吳前爲邾討魯。懼二國同心。故歸邾子。 【読み】 齊侯吳に如きて師を請わしめ、將に以て我を伐たんとす。乃ち邾子を歸す。齊未だ季姬を得ず。故に師を請うなり。吳前に邾の爲に魯を討ず。二國心を同じくせんことを懼る。故に邾子を歸す。 邾子又無道。吳子使大宰子餘討之、子餘、大宰嚭。 【読み】 邾子又無道なり。吳子大宰子餘をして之を討ぜしめ、子餘は、大宰嚭。 囚諸樓臺、栫之以棘。栫、擁也。○栫、在薦反。 【読み】 諸を樓臺に囚え、之を栫[かこ]うに棘を以てす。栫[せん]は、擁[かこ]うなり。○栫は、在薦反。 使諸大夫奉大子革以爲政。革、邾大子、桓公也。爲十年、邾子來奔傳。 【読み】 諸大夫をして大子革を奉じて以て政を爲さしむ。革は、邾の大子、桓公なり。十年、邾子來奔する爲の傳なり。 秋、及齊平。九月、臧賓如如齊涖盟。賓如、臧會子。 【読み】 秋、齊と平らぐ。九月、臧賓如齊に如きて涖みて盟う。賓如は、臧會の子。 齊閭丘明來涖盟。明、閭丘嬰之子也。盟不書、諱畧之。 【読み】 齊の閭丘明來りて涖みて盟う。明は、閭丘嬰の子なり。盟書さざるは、諱みて之を畧するなり。 且逆季姬以歸。嬖。季姬、魴侯所通者。 【読み】 且つ季姬を逆えて以て歸る。嬖せらる。季姬は、魴侯が通ずる所の者。 鮑牧又謂羣公子曰、使女有馬千乘乎。有馬千乘、使爲君也。鮑牧本不欲立陽生。故諷動羣公子。○女、音汝。乘、去聲。 【読み】 鮑牧又羣公子に謂いて曰く、女をして馬千乘を有らしめんか、と。馬千乘有りとは、君爲らしむるなり。鮑牧本陽生を立てんことを欲せず。故に羣公子を諷動す。○女は、音汝。乘は、去聲。 公子愬之。公謂鮑子、或譖子。子姑居於潞。以察之。潞、齊邑。 【読み】 公子之を愬[うった]う。公鮑子に謂えらく、或ひと子を譖づ。子姑く潞に居れ。以て之を察せん。潞は、齊の邑。 若有之、則分室以行。若無之、則反子之所。出門。使以三分之一行、半道使以二乘。及潞。麇之以入、遂殺之。麇、亦束縛。○麇、丘隕反。 【読み】 若し之れ有らば、則ち室を分けて以て行[さ]らしめん。若し之れ無くば、則ち子の所に反さん、と。門を出づ。三分の一を以て行かしめ、半道にして二乘を以てせしむ。潞に及ぶ。之を麇[とら]えて以て入り、遂に之を殺す。麇[きん]も、亦束縛なり。○麇は、丘隕反。 冬、十二月、齊人歸讙及闡、季姬嬖故也。 【読み】 冬、十二月、齊人讙と闡とを歸すは、季姬嬖せらるる故なり。 〔經〕九年、春、王二月、葬杞僖公。無傳。三月而葬。速。 【読み】 〔經〕九年、春、王の二月、杞の僖公を葬る。傳無し。三月にして葬る。速きなり。 宋皇瑗帥師取鄭師于雍丘。書取、覆而敗之。雍丘縣屬陳留。○雍、於勇反。 【読み】 宋の皇瑗師を帥いて鄭の師を雍丘に取る。取ると書すは、覆して之を敗るなり。雍丘縣は陳留に屬す。○雍は、於勇反。 夏、楚人伐陳。秋、宋公伐鄭。冬、十月。 【読み】 夏、楚人陳を伐つ。秋、宋公鄭を伐つ。冬、十月。 〔傳〕九年、春、齊侯使公孟綽辭師于吳。齊與魯平。故辭吳師。 【読み】 〔傳〕九年、春、齊侯公孟綽[こうもうしゃく]をして師を吳に辭せしむ。齊魯と平らぐ。故に吳の師を辭す。 吳子曰、昔歲寡人聞命。今又革之。不知所從。將進受命於君。爲十年、吳伐齊傳。 【読み】 吳子曰く、昔歲寡人命を聞けり。今又之を革む。從わん所を知らず。將に進みて命を君に受けんとす、と。十年、吳齊を伐つ爲の傳なり。 鄭武子賸之嬖許瑕求邑。無以與之。賸、罕達也。瑕、武子之屬。 【読み】 鄭の武子賸[ぶしよう]の嬖許瑕邑を求む。以て之に與うる無し。賸は、罕達なり。瑕は、武子の屬。 請外取。許之。瑕請取於他國也。 【読み】 外に取らんことを請う。之を許す。瑕他國に取らんことを請うなり。 故圍宋雍丘。宋皇瑗圍鄭師、許瑕師。 【読み】 故に宋の雍丘を圍む。宋の皇瑗鄭の師を圍み、許瑕の師。 每日遷舍、作壘塹、成輒徙舍合其圍。 【読み】 每日舍を遷して、壘塹を作りて、成れば輒ち舍を徙して其の圍を合わす。 壘合。鄭師哭。子姚救之、大敗。子姚、武子賸也。 【読み】 壘合う。鄭の師哭す。子姚[しよう]之を救い、大いに敗らる。子姚は、武子賸なり。 二月、甲戌、宋取鄭師于雍丘、使有能者無死、惜其能也。 【読み】 二月、甲戌[きのえ・いぬ]、宋鄭の師を雍丘に取り、能有る者をして死すること無からしめ、其の能を惜しむなり。 以郟張與鄭羅歸。鄭之有能者。○郟、古洽反。 【読み】 郟張[こうちょう]と鄭羅とを以[い]て歸る。鄭の能有る者。○郟は、古洽反。 夏、楚人伐陳、陳卽吳故也。 【読み】 夏、楚人陳を伐つは、陳吳に卽く故なり。 宋公伐鄭。報雍丘。 【読み】 宋公鄭を伐つ。雍丘に報ず。 秋、吳城邗、溝通江・淮。於邗江築城、穿溝、東北通射陽湖、西北至宋口入淮。通糧道也。今廣陵韓江是。○邗、音寒。射、食亦反。又音亦。 【読み】 秋、吳邗[かん]に城き、溝して江・淮に通ず。邗江に於て城を築き、溝を穿ち、東北は射陽湖に通じ、西北は宋口に至りて淮に入る。糧道を通ずるなり。今の廣陵の韓江是れなり。○邗は、音寒。射は、食亦反。又音亦。 晉趙鞅卜救鄭、遇水適火。水火之兆。 【読み】 晉の趙鞅鄭を救わんことを卜して、水の火に適くに遇う。水火の兆。 占諸史趙・史墨・史龜。皆晉史。 【読み】 諸を史趙・史墨・史龜に占う。皆晉の史。 史龜曰、是謂沈陽。火陽得水。故沈。 【読み】 史龜曰く、是を沈陽と謂う。火の陽水を得。故に沈む。 可以興兵。兵、陰類也。故可以興兵。 【読み】 以て兵を興す可し。兵は、陰類なり。故に以て兵を興す可し。 利以伐姜。不利子商。姜、齊姓。子商、謂宋。 【読み】 以て姜を伐つに利あり。子商に利あらず。姜は、齊の姓。子商は、宋を謂う。 伐齊則可。敵宋不吉。史墨曰、盈、水名也。子、水位也。趙鞅姓盈。宋姓子。水盈坎乃行。子姓又得北方水位。 【読み】 齊を伐たば則ち可ならん。宋に敵せば不吉なり、と。史墨曰く、盈は、水の名なり。子は、水の位なり。趙鞅姓は盈。宋の姓は子。水坎に盈ちて乃ち行く。子姓又北方の水位を得。 名位敵。不可干也。二水倶盛。故言不可干。 【読み】 名位敵す。干す可からざるなり。二水倶に盛んなり。故に干す可からずと言う。 炎帝爲火師、神農有火端、以火名官。 【読み】 炎帝は火師を爲して、神農火端有り、火を以て官に名づく。 姜姓其後也。水勝火。伐姜則可。史趙曰、是謂如川之滿、不可游也。旣盈而得水位。故爲如川之滿、不可馮游。言其波流盛。○馮、皮冰反。 【読み】 姜姓は其の後なり。水は火に勝つ。姜を伐たば則ち可ならん、と。史趙曰く、是を川の滿ちて、游ぐ可からざるが如しと謂う。旣に盈ちて水位を得。故に川の滿ちて、馮游す可からざるが如しと爲す。言うこころは、其の波流盛んなり。○馮は、皮冰反。 鄭方有罪。不可救也。鄭以嬖寵伐人。故以爲有罪。 【読み】 鄭方に罪有り。救う可からざるなり。鄭嬖寵を以て人を伐つ。故に以て罪有りと爲す。 救鄭則不吉。不知其他。救鄭則當伐宋。故不吉也。 【読み】 鄭を救わば則ち不吉なり。其の他を知らず、と。鄭を救わば則ち當に宋を伐つべし。故に不吉なり。 陽虎以周易筮之。遇泰 乾下坤上、泰。 【読み】 陽虎周易を以て之を筮す。泰の 乾下坤上は、泰。 之需。乾下坎上、需。泰六五變。 【読み】 需に之くに遇う。乾下坎上は、需。泰の六五變ず。 曰、宋方吉。不可與也。不可與戰。泰六五曰、帝乙歸妹以祉、元吉。帝乙、紂父。立爲天子。故稱帝乙。陰而得中、有似王者嫁妹。得如其願、受福祿而大吉。 【読み】 曰く、宋方に吉なり。與にす可からざるなり。與に戰う可からず。泰の六五に曰く、帝乙妹を歸がせて以て祉あり、元吉なり、と。帝乙は、紂の父。立ちて天子と爲る。故に帝乙と稱す。陰にして中を得、王者の妹を嫁するに似たること有り。其の願いの如くなることを得、福祿を受けて大吉なり。 微子啓、帝乙之元子也。宋・鄭、甥舅也。宋・鄭爲昏姻、甥舅之國。宋爲微子之後。今卜得帝乙卦。故以爲宋吉。 【読み】 微子啓は、帝乙の元子なり。宋・鄭、甥舅なり。宋・鄭昏姻を爲して、甥舅の國なり。宋を微子の後と爲す。今卜して帝乙の卦を得。故に以て宋吉と爲す。 祉、祿也。若帝乙之元子歸妹而有吉祿、我安得吉焉。乃止。吉在彼、則我伐之、爲不吉。 【読み】 祉は、祿なり。若し帝乙の元子妹を歸がせて吉祿有らば、我れ安ぞ吉を得ん、と。乃ち止む。吉彼に在りて、則ち我れ之を伐つは、不吉と爲す。 冬、吳子使來儆師伐齊。前年、齊與吳謀伐魯。齊旣與魯成而止。故吳恨之、反與魯謀伐齊。 【読み】 冬、吳子來りて師を儆[いまし]めて齊を伐たしむ。前年、齊吳と魯を伐たんことを謀る。齊旣に魯と成らぎて止む。故に吳之を恨み、反って魯と齊を伐たんことを謀る。 〔經〕十年、春、王二月、邾子益來奔。公會吳伐齊。書會、從不與謀。 【読み】 〔經〕十年、春、王の二月、邾子[ちゅし]益來奔す。公吳に會して齊を伐つ。會を書すは、從いて謀に與らざるなり。 三月、戊戌、齊侯陽生卒。以疾赴。故不書弑。 【読み】 三月、戊戌[つちのえ・いぬ]、齊侯陽生卒す。疾を以て赴[つ]ぐ。故に弑するを書さず。 夏、宋人伐鄭。無傳。 【読み】 夏、宋人鄭を伐つ。傳無し。 晉趙鞅帥師侵齊。五月、公至自伐齊。無傳。 【読み】 晉の趙鞅師を帥いて齊を侵す。五月、公齊を伐ちてより至る。傳無し。 葬齊悼公。無傳。 【読み】 齊の悼公を葬る。傳無し。 衛公孟彄自齊歸于衛。無傳。書歸、齊納之。○彄、苦侯反。 【読み】 衛の公孟彄[こうもうこう]齊より衛に歸る。傳無し。歸ると書すは、齊之を納るればなり。○彄は、苦侯反。 薛伯夷卒。無傳。赴以名。故書。 【読み】 薛伯夷卒す。傳無し。赴ぐるに名を以てす。故に書す。 秋、葬薛惠公。無傳。 【読み】 秋、薛の惠公を葬る。傳無し。 冬、楚公子結帥師伐陳。吳救陳。季子不書、陳人來告不以名。 【読み】 冬、楚の公子結師を帥いて陳を伐つ。吳陳を救う。季子書さざるは、陳人來り告ぐるに名を以てせざればなり。 〔傳〕十年、春、邾隱公來奔。齊甥也。故遂奔齊。終子貢之言。 【読み】 〔傳〕十年、春、邾の隱公來奔す。齊の甥なり。故に遂に齊に奔る。子貢の言を終わる。 公會吳子・邾子・郯子伐齊南鄙、師于鄎。鄎、齊地。邾・郯不書、兵幷屬吳、不列於諸侯。○郯、音談。鄎、音息。 【読み】 公吳子・邾子・郯子[たんし]に會して齊の南鄙を伐ち、鄎[そく]に師す。鄎は、齊の地。邾・郯書さざるは、兵吳に幷屬して、諸侯に列ねざればなり。○郯は、音談。鄎は、音息。 齊人弑悼公、赴于師。以說吳。 【読み】 齊人悼公を弑して、師に赴[つ]ぐ。以て吳に說く。 吳子三日哭于軍門之外。徐承帥舟師、將自海入齊。齊人敗之。吳師乃還。承、吳大夫。 【読み】 吳子三日軍門の外に哭す。徐承舟師を帥いて、將に海より齊に入らんとす。齊人之を敗る。吳の師乃ち還る。承は、吳の大夫。 夏、趙鞅帥師伐齊。經書侵、以侵告。 【読み】 夏、趙鞅師を帥いて齊を伐つ。經に侵すと書すは、侵すを以て告ぐればなり。 大夫請卜之。趙孟曰、吾卜於此起兵。謂往歲、卜伐宋不吉、利以伐姜。故今興兵。 【読み】 大夫之を卜せんと請う。趙孟曰く、吾れ此に卜して兵を起こせり。往歲、宋を伐たんことを卜するに不吉なり、以て姜を伐つに利あり。故に今兵を興すを謂う。 事不再令、再令、瀆也。 【読み】 事は再び令せず、再令するは、瀆すなり。 卜不襲吉。襲、重也。 【読み】 卜は吉を襲[かさ]ねず。襲は、重ぬるなり。 行也。於是乎取犂及轅、犂、一名隰。濟南有隰陰縣。祝阿縣西有轅城。○轅、音袁。一于眷反。 【読み】 行かん、と。是に於て犂と轅とを取り、犂は、一名は隰[しゅう]。濟南に隰陰縣有り。祝阿縣の西に轅城有り。○轅は、音袁。一に于眷反。 毀高唐之郭、侵及賴而還。 【読み】 高唐の郭を毀ち、侵して賴に及びて還る。 秋、吳子使來復儆師。伐齊未得志故。爲明年、吳伐齊傳。○復、扶又反。 【読み】 秋、吳子來りて復師を儆[いまし]めしむ。齊を伐ちて未だ志を得ざる故なり。明年、吳齊を伐つ爲の傳なり。○復は、扶又反。 冬、楚子期伐陳。陳卽吳故。 【読み】 冬、楚子期陳を伐つ。陳吳に卽く故なり。 吳延州來季子救陳。謂子期曰、二君不務德、二君、吳・楚。 【読み】 吳の延州來の季子陳を救う。子期に謂いて曰く、二君德を務めずして、二君は、吳・楚なり。 而力爭諸侯。民何罪焉。我請退、以爲子名。務德而安民。乃還。季子、吳王壽夢少子也。壽夢以襄十二年卒。至今七十七歲。壽夢卒、季子已能讓國、年當十五六。至今蓋九十餘。○夢、音蒙。 【読み】 諸侯を力爭す。民何の罪ある。我れ請う、退きて、以て子が名を爲さん。德を務めて民を安んぜよ、と。乃ち還る。季子は、吳王壽夢の少子なり。壽夢襄十二年を以て卒す。今に至りて七十七歲なり。壽夢卒するとき、季子已に能く國を讓るときは、年當に十五六なるべし。今に至りて蓋し九十餘ならん。○夢は、音蒙。 〔經〕十有一年、春、齊國書帥師伐我。夏、陳轅頗出奔鄭。書名、貪也。○頗、破可反。又普多反。 【読み】 〔經〕十有一年、春、齊の國書師を帥いて我を伐つ。夏、陳の轅頗出でて鄭に奔る。名を書すは、貪ればなり。○頗は、破可反。又普多反。 五月、公會吳伐齊。甲戌、齊國書帥師及吳戰于艾陵。齊師敗績。獲齊國書。公與伐而不與戰。艾陵、齊地。 【読み】 五月、公吳に會して齊を伐つ。甲戌[きのえ・いぬ]、齊の國書師を帥いて吳と艾陵に戰う。齊の師敗績す。齊の國書を獲たり。公伐に與りて戰に與らず。艾陵は、齊の地。 秋、七月、辛酉、滕子虞母卒。無傳。赴以名。故書之。 【読み】 秋、七月、辛酉[かのと・とり]、滕子虞母卒す。傳無し。赴[つ]ぐるに名を以てす。故に之を書す。 秋、十有一月、葬滕隱公。無傳。 【読み】 秋、十有一月、滕の隱公を葬る。傳無し。 衛世叔齊出奔宋。書名、淫也。 【読み】 衛の世叔齊出でて宋に奔る。名を書すは、淫なればなり。 〔傳〕十一年、春、齊爲鄎故、鄎、在前年。 【読み】 〔傳〕十一年、春、齊鄎[そく]の爲の故に、鄎は、前年に在り。 國書・高無丕帥師伐我、及淸。淸、齊地。濟北盧縣東有淸亭。○丕、普悲反。 【読み】 國書・高無丕師を帥いて我を伐ち、淸に及ぶ。淸は、齊の地。濟北盧縣の東に淸亭有り。○丕は、普悲反。 季孫謂其宰冉求、冉求、魯人。孔子弟子。 【読み】 季孫其の宰冉求に謂いて、冉求は、魯人。孔子の弟子なり。 曰、齊師在淸、必魯故也。若之何。求曰、一子守、二子從公禦諸竟。季孫曰、不能。自度、力不能使二子禦諸竟。○守、去聲。從、如字。又去聲。竟、音境。 【読み】 曰く、齊の師淸に在るは、必ず魯の故ならん。之を若何にせん、と。求曰く、一子は守り、二子は公に從いて諸を竟に禦がせよ、と。季孫曰く、能ず、と。自ら度るに、力二子をして諸を竟に禦がしむること能わず。○守は、去聲。從は、字の如し。又去聲。竟は、音境。 求曰、居封疆之閒。封疆、竟内近郊之地。 【読み】 求曰く、封疆の閒に居らせよ、と。封疆は、竟内近郊の地。 季孫告二子。二子、叔孫・孟孫也。 【読み】 季孫二子に告ぐ。二子は、叔孫・孟孫なり。 二子不可。求曰、若不可、則君無出。一子帥師背城而戰。不屬者非魯人也。屬、臣屬也。言不戰爲不臣。 【読み】 二子可[き]かず。求曰く、若し可かずんば、則ち君出づること無かれ。一子師を帥いて城を背にして戰え。屬せざらん者は魯人に非ざるなり。屬は、臣屬なり。言うこころは、戰わざれば不臣爲るなり。 魯之羣室、衆於齊之兵車。羣室、都邑居家。 【読み】 魯の羣室、齊の兵車より衆し。羣室は、都邑の居家なり。 一室敵車、優矣。子何患焉。二子之不欲戰也宜。政在季氏。言二子恨季氏專政。故不盡力。 【読み】 一室車に敵すれば、優なり。子何ぞ患えん。二子の戰を欲せざるや宜なり。政季氏に在ればなり。言うこころは、二子季氏政を專にするを恨む。故に力を盡くさず。 當子之身、齊人伐魯而不能戰、子之恥也。大不列於諸侯矣。 【読み】 子の身に當たり、齊人魯を伐ちて戰うこと能わずんば、子の恥なり。大いに諸侯に列ならじ、と。 *頭注に、「一讀、大字屬上句、非。」とある。 季孫使從於朝、使冉求隨己之公朝。 【読み】 季孫朝に從わしめ、冉求をして己に隨いて公朝に之かしむ。 俟於黨氏之溝。黨氏溝、朝中地名。○黨、音掌。 【読み】 黨氏[しょうし]の溝に俟つ。黨氏の溝は、朝中の地の名。○黨は、音掌。 武叔呼而問戰焉。問冉求。 【読み】 武叔呼びて戰を問う。冉求に問う。 對曰、君子有遠慮。小人何知。懿子强問之。對曰、小人慮材而言、量力而共者也。言子所問、非己材力所及。故不能言。○强、其丈反。共、音恭。 【読み】 對えて曰く、君子は遠慮有り。小人何をか知らん、と。懿子强いて之を問う。對えて曰く、小人は材を慮りて言い、力を量りて共する者なり、と。言うこころは、子の問う所、己が材力の及ばん所に非ず。故に言うこと能わず。○强は、其丈反。共は、音恭。 武叔曰、是謂我不成丈夫也。知冉求非己不欲戰。故不對。 【読み】 武叔曰く、是れ我を丈夫と成らずと謂えるなり、と。冉求己が戰を欲せざるを非る。故に對えざることを知る。 退而蒐乘。蒐、閱。 【読み】 退きて乘を蒐す。蒐は、閱す。 孟孺子洩帥右師、孺子、孟懿子之子、武伯彘。 【読み】 孟孺子洩右師を帥い、孺子は、孟懿子の子、武伯彘[ち]なり。 顏羽御、邴洩爲右。二子、孟氏臣。 【読み】 顏羽御たり、邴洩右爲り。二子は、孟氏の臣。 冉求帥左師、管周父御、樊遲爲右。樊遲、魯人。孔子弟子、樊須。○帥、音率。 【読み】 冉求左師を帥い、管周父御たり、樊遲右爲り。樊遲は、魯人。孔子の弟子、樊須なり。○帥は、音率。 季孫曰、須也弱。有子曰、就用命焉。雖年少能用命。有子、冉求也。○少、詩照反。 【読み】 季孫曰く、須や弱[わか]きなり、と。有子曰く、就きて命を用ゆ、と。年少と雖も能く命を用ゆ。有子は、冉求なり。○少は、詩照反。 季孫之甲七千、冉有以武城人三百爲己徒卒、步卒精兵。 【読み】 季孫の甲七千、冉有武城の人三百を以て己が徒卒と爲し、步卒の精兵。 老幼守宮、次于雩門之外。南城門也。 【読み】 老幼に宮を守らせ、雩門[うもん]の外に次[やど]る。南城門なり。 五日、右師從之。五日乃從、言不欲戰。 【読み】 五日ありて、右師之に從う。五日にして乃ち從うは、戰を欲せざるを言う。 公叔務人 務人、公爲。昭公子。 【読み】 公叔務人 務人は、公爲。昭公の子。 見保者而泣、保守城者。 【読み】 保者を見て泣きて、城を保守する者なり。 曰、事充、繇役煩。 【読み】 曰く、事充[わずら]わしく、繇役煩わし。 政重、賦稅多。 【読み】 政重きも、賦稅多し。 上不能謀、士不能死。何以治民。吾旣言之矣。敢不勉乎。旣言人不能死。己不敢不死。 【読み】 上謀ること能わず、士死すること能わず。何を以て民を治めん。吾れ旣に之を言えり。敢えて勉めざらんや、と。旣に人の死すること能わざるを言う。己敢えて死なずんばあらず。 師及齊師戰于郊。齊師自稷曲。稷曲、郊地名。 【読み】 師齊の師と郊に戰う。齊の師稷曲よりす。稷曲は、郊の地の名なり。 師不踰溝。樊遲曰、非不能也。不信子也。請三刻而踰之。與衆三刻約信。 【読み】 師溝を踰えず。樊遲曰く、能わざるには非ざるなり。子を信ぜざればなり。請う、三刻して之を踰えん、と。衆と三刻して約信す。 如之。衆從之。如樊遲言、乃踰溝。 【読み】 之の如くす。衆之に從う。樊遲が言の如くにして、乃ち溝を踰ゆ。 師入齊軍。冉求之師。 【読み】 師齊の軍に入る。冉求の師。 右師奔。齊人從之、逐右師。 【読み】 右師奔る。齊人之を從[お]い、右師を逐う。 陳瓘・陳莊涉泗。二陳、齊大夫。○瓘、古喚反。 【読み】 陳瓘・陳莊泗を涉る。二陳は、齊の大夫。○瓘は、古喚反。 孟之側後入以爲殿。之側、孟氏族也。字、反。 【読み】 孟之側後に入りて以て殿と爲る。之側は、孟氏の族なり。字は、反。 抽矢策其馬曰、馬不進也。不欲伐善。 【読み】 矢を抽きて其の馬を策[むちう]ちて曰く、馬の進まざればなり、と。善に伐[ほこ]ることを欲せず。 林不狃之伍曰、走乎。不狃、魯士。五人爲伍。敗而欲走。 【読み】 林不狃の伍曰く、走らんか、と。不狃は、魯の士。五人を伍と爲す。敗れて走らんと欲す。 不狃曰、誰不如。我不如誰而欲走。 【読み】 不狃曰く、誰に如かざらん、と。我れ誰に如かずして走らんと欲するや。 曰、然則止乎。不狃曰、惡賢。言止戰、惡足爲賢。皆無戰志。○惡、音烏。 【読み】 曰く、然らば則ち止まらんか、と。不狃曰く、惡ぞ賢とせん、と。言うこころは、止まり戰うも、惡ぞ賢とするに足らん。皆戰志無し。○惡は、音烏。 徐步而死。徐行而死。言魯非無壯士、但季孫不能使。 【読み】 徐步して死す。徐行して死す。言うこころは、魯壯士無きに非ず、但季孫使うこと能わず。 師獲甲首八十。冉求所得。 【読み】 師甲首八十を獲。冉求の得る所。 齊人不能師。不能整其師。 【読み】 齊人師すること能わず。其の師を整うること能わず。 宵諜曰、齊人遁。諜、閒也。 【読み】 宵諜曰く、齊人遁る、と。諜は、閒なり。 冉有請從之。三。季孫弗許。 【読み】 冉有之を從わんと請う。三たびす。季孫許さず。 孟孺子語人曰、我不如顏羽、而賢於邴洩。二子與孟孺子同車。○語、魚據反。 【読み】 孟孺子人に語りて曰く、我れ顏羽に如かずして、邴洩より賢れり。二子孟孺子と同車す。○語は、魚據反。 子羽銳敏。子羽、顏羽。銳、精也。敏、疾也。言欲戰。 【読み】 子羽は銳敏なり。子羽は、顏羽。銳は、精なり。敏は、疾きなり。言うこころは、戰わんと欲せり。 我不欲戰而能默。心雖不欲、口不言奔。 【読み】 我は戰を欲せずして能く默せり。心には欲せずと雖も、口に奔らんと言わず。 洩曰驅之。言驅馬欲奔。 【読み】 洩は之を驅せよと曰えり。言うこころは、馬を驅して奔らんと欲す。 公爲與其嬖僮汪錡乘、皆死。皆殯。皆、倶也。○僮、音童。錡、魚綺反。乘、繩證反。 【読み】 公爲其の嬖僮汪錡と乘じ、皆[とも]に死す。皆に殯す。皆は、倶になり。○僮は、音童。錡は、魚綺反。乘は、繩證反。 孔子曰、能執干戈以衛社稷。可無殤也。時人疑童子當殤。 【読み】 孔子曰く、能く干戈を執りて以て社稷を衛れり。殤[しょう]とすること無かる可きなり、と。時人童子は當に殤とすべしと疑う。 冉有用矛於齊師。故能入其軍。孔子曰、義也。言能以義勇。不書戰、不皆陳也。不書敗、勝負不殊。 【読み】 冉有矛を齊の師に用ゆ。故に能く其の軍に入れり。孔子曰く、義なり、と。言うこころは、能く義を以て勇むなり。戰を書さざるは、皆陳せざればなり。敗を書さざるは、勝負殊ならざればなり。 夏、陳轅頗出奔鄭。 【読み】 夏、陳の轅頗出でて鄭に奔る。 初、轅頗爲司徒、賦封田、以嫁公女。封内之田、悉賦稅之。 【読み】 初め、轅頗司徒と爲り、封田に賦して、以て公の女を嫁がしむ。封内の田、悉く之を賦稅す。 有餘、以爲己大器。大器、鐘鼎之屬。 【読み】 餘有り、以て己が大器を爲す。大器は、鐘鼎の屬。 國人逐之。故出。道渴。其族轅咺進稻醴・粱糗・腶脯焉。糗、乾飯也。○糗、起九反。一昌紹反。腶、丁亂反。 【読み】 國人之を逐う。故に出づ。道にして渴[かわ]く。其の族轅咺[えんけん]稻醴・粱糗[りょうきゅう]・腶脯[たんほ]を進む。糗は、乾飯なり。○糗は、起九反。一に昌紹反。腶は、丁亂反。 喜曰、何其給也。對曰、器成而具。具此醴糗。 【読み】 喜びて曰く、何ぞ其れ給せる、と。對えて曰く、器成りて具えり、と。此の醴糗を具う。 曰、何不吾諫。對曰、懼先行。恐言不從、先見逐。 【読み】 曰く、何ぞ吾を諫めざりし、と。對えて曰く、先ず行らんことを懼れてなり、と。言從われずして、先ず逐われんことを恐る。 爲郊戰故、公會吳子伐齊。欲以報也。○爲、去聲。 【読み】 郊の戰の爲の故に、公吳子に會して齊を伐つ。以て報ぜんと欲するなり。○爲は、去聲。 五月、克博、壬申、至于嬴。博・嬴、齊邑也。二縣、皆屬泰山。 【読み】 五月、博に克ち、壬申[みずのえ・さる]、嬴[えい]に至る。博・嬴は、齊の邑なり。二縣は、皆泰山に屬す。 中軍從王。吳中軍。 【読み】 中軍王に從う。吳の中軍。 胥門巢將上軍。王子姑曹將下軍。展如將右軍。三將、吳大夫。 【読み】 胥門巢上軍に將たり。王子姑曹下軍に將たり。展如右軍に將たり。三將は、吳の大夫。 齊國書將中軍。高無丕將上軍。宗樓將下軍。陳僖子謂其弟書、爾死、我必得志。書、子占也。欲獲死事之功。 【読み】 齊の國書中軍に將たり。高無丕上軍に將たり。宗樓下軍に將たり。陳僖子其の弟書に謂えらく、爾死なば、我れ必ず志を得ん、と。書は、子占なり。事に死するの功を獲んと欲す。 宗子陽與閭丘明相厲也。相勸厲致死。子陽、宗樓也。 【読み】 宗子陽閭丘明と相厲む。相勸厲して死を致す。子陽は、宗樓なり。 桑掩胥御國子。國子、國書。 【読み】 桑掩胥國子に御たり。國子は、國書。 公孫夏曰、二子必死。亦勸勉之。 【読み】 公孫夏曰く、二子必ず死ね、と。亦之を勸勉す。 將戰。公孫夏命其徒歌虞殯。虞殯、送葬歌曲。示必死。 【読み】 將に戰わんとす。公孫夏は其の徒に命じて虞殯を歌わしむ。虞殯は、葬を送る歌曲なり。必死を示す。 陳子行命其徒具含玉。子行、陳逆也。具含玉、亦示必死。○行、如字。又戶郎反。 【読み】 陳子行は其の徒に命じて含玉を具えしむ。子行は、陳逆なり。含玉を具うるは、亦必死を示す。○行は、字の如し。又戶郎反。 公孫揮命其徒曰、人尋約。吳髮短。約、繩也。八尺爲尋。吳髮短。欲以繩貫其首。 【読み】 公孫揮は其の徒に命じて曰く、人ごとに尋して約せよ。吳の髮は短し、と。約は、繩なり。八尺を尋と爲す。吳の髮は短し。繩を以て其の首を貫かんと欲す。 東郭書曰、三戰必死。於此三矣。三戰、夷儀・五氏與今。 【読み】 東郭書曰く、三戰すれば必ず死す、と。此に於て三たびなり。三戰は、夷儀と五氏と今となり。 使問弦多以琴。弦多、齊人也。六年奔魯。問、遺也。 【読み】 弦多に問[おく]るに琴を以てせしむ。弦多は、齊人なり。六年魯に奔る。問は、遺るなり。 曰、吾不復見子矣。言將死戰。 【読み】 曰く、吾れ復子を見じ、と。言うこころは、將に死戰せんとす。 陳書曰、此行也、吾聞鼓而已。不聞金矣。鼓以進軍、金以退軍。不聞金、言將死也。傳言吳師彊、齊人自知將敗。 【読み】 陳書曰く、此の行や、吾れ鼓を聞かんのみ。金を聞かじ、と。鼓以て軍を進め、金以て軍を退く。金を聞かずとは、言うこころは、將に死なんとするなり。傳吳の師彊くして、齊人自ら將に敗れんとするを知るを言う。 甲戌、戰于艾陵。展如敗高子。齊上軍敗。 【読み】 甲戌、艾陵に戰う。展如高子を敗る。齊の上軍敗れぬ。 國子敗胥門巢。吳上軍亦敗。 【読み】 國子胥門巢を敗る。吳の上軍も亦敗れぬ。 王卒助之、大敗齊師、獲國書・公孫夏・閭丘明・陳書・東郭書・革車八百乘・甲首三千、以獻于公。公以兵從。故以勞公。○從、才用反。又如字。勞、力報反。 【読み】 王の卒之を助け、大いに齊の師を敗り、國書・公孫夏・閭丘明・陳書・東郭書・革車八百乘・甲首三千を獲て、以て公に獻ず。公兵を以て從う。故に以て公を勞う。○從は、才用反。又字の如し。勞は、力報反。 將戰。吳子呼叔孫、叔孫、武叔州仇。 【読み】 將に戰わんとす。吳子叔孫を呼びて、叔孫は、武叔州仇。 曰、而事何也。問何職。 【読み】 曰く、而[なんじ]の事は何ぞ、と。何の職ぞと問う。 對曰、從司馬。從吳司馬所命。 【読み】 對えて曰く、從司馬なり、と。吳の司馬の命ずる所に從う。 王賜之甲・劒・鈹曰、奉爾君事、敬無廢命。叔孫未能對。衛賜進、賜、子貢。孔子弟子也。○鈹、普悲反。 【読み】 王之に甲・劒・鈹を賜いて曰く、爾の君事を奉じて、敬みて命を廢つること無かれ、と。叔孫未だ對うること能わず。衛の賜進みて、賜は、子貢。孔子の弟子なり。○鈹は、普悲反。 曰、州仇奉甲從君、而拜。拜受之。 【読み】 曰く、州仇甲を奉じて君に從わんといいて、拜す。拜して之を受く。 公使大史固歸國子之元、歸於齊也。元、首也。吳以獻魯。 【読み】 公大史固をして國子の元[こうべ]を歸[おく]らしめ、齊に歸るなり。元は、首なり。吳以て魯に獻ぜるなり。 寘之新篋、褽之以玄纁、褽、薦也。○褽、音尉。 【読み】 之を新篋に寘き、之に褽[し]くに玄纁[げんくん]を以てし、褽[い]は、薦[し]くなり。○褽は、音尉。 加組帶焉、寘書于其上曰、天若不識不衷、何以使下國。言天識不善。故殺國子。 【読み】 組帶を加え、書を其の上に寘きて曰く、天若し不衷を識らずんば、何を以て下國をせしめん、と。言うこころは、天不善を識れり。故に國子を殺す。 吳將伐齊。越子率其衆以朝焉。王及列士、皆有饋賂。吳人皆喜。唯子胥懼曰、是豢吳也夫。豢、養也。若人養犧牲。非愛之。將殺之。 【読み】 吳將に齊を伐たんとす。越子其の衆を率いて以て朝す。王より列士に及ぶまで、皆饋賂有り。吳人皆喜ぶ。唯子胥懼れて曰く、是れ吳を豢[やしな]うなるか、と。豢[かん]は、養うなり。人の犧牲を養うが若し。之を愛するに非ず。將に之を殺さんとす。 諫曰、越在我、心腹之疾也。壤地同、而有欲於我。欲得吳。 【読み】 諫めて曰く、越の我に在るは、心腹の疾なり。壤地同じくして、我に欲すること有り。吳を得んことを欲す。 夫其柔服、求濟其欲也。不如早從事焉。從事、擊之。 【読み】 夫れ其の柔服するは、其の欲を濟さんことを求めんとなり。早く事に從うに如かず。事に從うとは、之を擊つなり。 得志於齊、猶獲石田也。無所用之。石田、不可耕。 【読み】 志を齊に得るも、猶石田を獲るがごとし。之を用ゆる所無し。石田は、耕す可からず。 越不爲沼、吳其泯矣。使醫除疾、而曰必遺類焉者、未之有也。 【読み】 越沼と爲らずんば、吳其れ泯[ほろ]びん。醫をして疾を除かしめて、必ず類を遺せと曰わん者は、未だ之れ有らざるなり。 盤庚之誥曰、其有顚越不共、則劓殄無遺育、無俾易種于玆邑。盤庚、商書也。顚越不共、從橫不承命者也。劓、割也。殄、絕也。育、長也。俾、使也。易種、轉生種類。○劓、音藝。種、章勇反。從、子容反。 【読み】 盤庚の誥に曰く、其の顚越に不共なる有らば、則ち劓殄[ぎてん]して遺育すること無く、種を玆の邑に易えしむること無けん、と。盤庚は、商書なり。顚越に不共とは、從橫にして命を承けざる者なり。劓は、割くなり。殄は、絕つなり。育は、長ずるなり。俾は、使なり。種を易うるとは、種類を轉生するなり。○劓は、音藝。種は、章勇反。從は、子容反。 是商所以興也。今君易之、將以求大。不亦難乎。弗聽。 【読み】 是れ商の興れる所以なり。今君之を易えて、將に以て大を求めんとす。亦難からずや、と。聽かず。 使於齊、屬其子於鮑氏、爲王孫氏。私使人至齊、屬以其子、改姓爲王孫。欲辟吳禍。 【読み】 齊に使いをして、其の子を鮑氏に屬して、王孫氏と爲す。私に人をして齊に至りて、屬するに其の子を以てせしめ、姓を改めて王孫と爲す。吳の禍を辟けんと欲す。 反役、王聞之、使賜之屬鏤以死。艾陵役也。屬鏤、劒名。○鏤、音閭。又音婁。 【読み】 役より反り、王之を聞きて、之に屬鏤を賜いて以て死なしむ。艾陵の役なり。屬鏤は、劒の名。○鏤は、音閭。又音婁。 將死。曰、樹吾墓檟。檟可材也、吳其亡乎。三年、其始弱矣。盈必毀、天之道也。越人朝之、伐齊勝之。盈之極也。爲十三年、越伐吳起。 【読み】 將に死なんとす。曰く、吾が墓に檟[か]を樹えよ。檟材とす可きときは、吳其れ亡びんか。三年に、其れ始めて弱からん。盈つれば必ず毀[やぶ]るは、天の道なり、と。越人之に朝し、齊を伐ちて之に勝つ。盈つるの極まれるなり。十三年、越吳を伐つ爲の起なり。 秋、季孫命脩守備。曰、小勝大、禍也。齊至無日矣。善有備。○守、手又反。 【読み】 秋、季孫命じて守備を脩む。曰く、小の大に勝つは、禍なり。齊の至らんこと日無けん、と。備え有るを善す。○守は、手又反。 冬、衛大叔疾出奔宋。疾、卽齊也。 【読み】 冬、衛の大叔疾出でて宋に奔る。疾は、卽ち齊なり。 初、疾娶于宋子朝。子朝、宋人。仕衛爲大夫。 【読み】 初め、疾宋の子朝に娶る。子朝は、宋人。衛に仕えて大夫と爲る。 其娣嬖。娣、所娶女之娣。 【読み】 其の娣嬖せらる。娣は、娶る所の女の娣。 子朝出。出奔。 【読み】 子朝出づ。出奔す。 孔文子使疾出其妻而妻之。疾使侍人誘其初妻之娣、寘於犂、犂、衛邑。○妻之、去聲。 【読み】 孔文子疾をして其の妻を出ださしめて之に妻わす。疾侍人をして其の初めの妻の娣を誘かしめて、犂に寘きて、犂は、衛の邑。○妻之は、去聲。 而爲之一宮、如二妻。文子怒、欲攻之。仲尼止之。遂奪其妻。或淫于外州。外州人奪之軒以獻。外州、衛邑。軒、車也。以獻於君。 【読み】 之が一宮を爲して、二妻の如し。文子怒り、之を攻めんと欲す。仲尼之を止む。遂に其の妻を奪う。外州に淫すること或り。外州の人之が軒を奪いて以て獻ず。外州は、衛の邑。軒は、車なり。以て君に獻ず。 恥是二者。故出。衛人立遺、使室孔姞。遺、疾之弟。孔姞、孔文子之女、疾之妻。○姞、其乙反。 【読み】 是の二つの者を恥ず。故に出づ。衛人遺を立てて、孔姞[こうきつ]を室とせしむ。遺は、疾の弟。孔姞は、孔文子の女、疾の妻。○姞は、其乙反。 疾臣向魋、爲宋向魋臣。○魋、徒回反。 【読み】 疾向魋[しょうたい]に臣となり、宋の向魋の臣と爲る。○魋は、徒回反。 納美珠焉。與之城鉏。城鉏、宋邑。 【読み】 美珠を納る。之に城鉏を與う。城鉏は、宋の邑。 宋公求珠。魋不與。由是得罪。及桓氏出、出、在十四年。 【読み】 宋公珠を求む。魋與えず。是に由りて罪を得たり。桓氏の出づるに及びて、出づるは、十四年に在り。 城鉏人攻大叔疾。衛莊公復之、聽使還。 【読み】 城鉏の人大叔疾を攻む。衛の莊公之を復し、聽[ゆる]して還らしむ。 使處巢。死焉。殯於鄖、葬於少禘。終言疾之失所也。巢・鄖・少禘、皆衛地。○鄖、音云。 【読み】 巢に處らしむ。死す。鄖[うん]に殯し、少禘に葬れり。疾の所を失うを終え言うなり。巢・鄖・少禘は、皆衛の地。○鄖は、音云。 初、晉悼公子憖亡在衛、使其女僕而田。僕、御。田、獵。○憖、魚覲反。一征領反。 【読み】 初め、晉の悼公の子憖[ぎん]亡げて衛に在り、其の女をして僕たらしめて田[かり]す。僕は、御。田は、獵。○憖は、魚覲反。一に征領反。 大叔懿子止而飮之酒、懿子、大叔儀之孫。○飮、於鴆反。 【読み】 大叔懿子止めて之に酒を飮ましめ、懿子は、大叔儀の孫。○飮は、於鴆反。 遂聘之。生悼子。悼子、大叔疾。 【読み】 遂に之を聘す。悼子を生む。悼子は、大叔疾。 悼子卽位。故夏戊爲大夫。夏戊、悼子之甥。 【読み】 悼子位に卽く。故に夏戊[かぼう]を大夫と爲す。夏戊は、悼子の甥。 悼子亡、衛人翦夏戊。翦削其爵邑。 【読み】 悼子亡げしとき、衛人夏戊を翦りぬ。其の爵邑を翦削す。 孔文子之將攻大叔也、訪於仲尼。仲尼曰、胡簋之事、則嘗學之矣。胡簋、禮器名。夏曰胡、周曰簋。 【読み】 孔文子の將に大叔を攻めんとするや、仲尼に訪う。仲尼曰く、胡簋[こき]の事は、則ち嘗て之を學べり。胡簋は、禮器の名。夏に胡と曰い、周に簋と曰う。 甲兵之事、未之聞也。退、命駕而行、曰、鳥則擇木。木豈能擇鳥。以鳥自喩。 【読み】 甲兵の事は、未だ之を聞かざるなり、と。退きて、駕を命じて行らんとして、曰く、鳥は則ち木を擇ぶ。木豈能く鳥を擇ばんや、と。鳥を以て自ら喩う。 文子遽止之曰、圉豈敢度其私。訪衛國之難也。圉、文子名。度、謀也。○度、入聲。下同。難、去聲。 【読み】 文子遽[あわ]てて之を止めて曰く、圉豈敢えて其の私を度らんや。衛國の難を訪えるなり、と。圉は、文子の名。度は、謀るなり。○度は、入聲。下も同じ。難は、去聲。 將止。仲尼止。 【読み】 將に止まらんとす。仲尼止まる。 魯人以幣召之。乃歸。於是自衛反魯、樂正、雅頌各得其所。 【読み】 魯人幣を以て之を召す。乃ち歸る。是に於て衛より魯に反り、樂正しく、雅頌各々其の所を得たり。 季孫欲以田賦。兵賦之法、因其田財、通出馬一疋・牛三頭。今欲別其田及家財、各爲一賦。故言田賦。○別、如字。又彼列反。 【読み】 季孫田を以て賦せんと欲す。兵賦の法、其の田財に因りて、通じて馬一疋・牛三頭を出だす。今其の田と家財とを別けて、各々一賦と爲さんと欲す。故に田賦と言う。○別は、字の如し。又彼列反。 使冉有訪於仲尼。仲尼曰、丘、不識也。三發。三發問。 【読み】 冉有をして仲尼に訪わしむ。仲尼曰く、丘、識らず、と。三たび發す。三たび問いを發す。 卒曰、卒、終也。 【読み】 卒わりに曰く、卒は、終わりなり。 子爲國老。待子而行。若之何子之不言也。仲尼不對、不公答。 【読み】 子國老爲り。子を待ちて行わんとす。之を若何ぞ子の言わざる、と。仲尼對えずして、公答せず。 而私於冉有曰、君子之行也、行政事。 【読み】 冉有に私して曰く、君子の行うや、政事を行う。 度於禮。施取其厚、事舉其中、斂從其薄。如是、則以丘亦足矣。丘、十六井、出戎馬一疋・牛三頭。是賦之常法。○施、尸豉反。 【読み】 禮に度る。施しは其の厚きを取り、事は其の中を舉げ、斂は其の薄きに從う。是の如くなれば、則ち丘を以てするも亦足れり。丘は、十六井、戎馬一疋・牛三頭を出だす。是れ賦の常法なり。○施は、尸豉反。 若不度於禮、而貪冒無厭、則雖以田賦、將又不足。且子季孫若欲行而法、則周公之典在。若欲苟而行、又何訪焉。弗聽。爲明年、用田賦傳。○冒、密北反。又如字。厭、平聲。 【読み】 若し禮に度らずして、貪冒して厭くこと無くば、則ち田を以て賦すと雖も、將に又足らざらんとす。且つ子季孫若し行いて法あらんことを欲せば、則ち周公の典在り。若し苟もして行わんと欲せば、又何ぞ訪わん、と。聽かず。明年、田賦を用ゆる爲の傳なり。○冒は、密北反。又字の如し。厭は、平聲。 〔經〕十有二年、春、用田賦。直書之者、以示改法重賦。 【読み】 〔經〕十有二年、春、田賦を用ゆ。直に之を書すは、以て法を改めて賦を重くするを示すなり。 夏、五月、甲辰、孟子卒。魯人諱娶同姓、謂之孟子。春秋不改、所以順時。 【読み】 夏、五月、甲辰[きのえ・たつ]、孟子卒す。魯人同姓を娶るを諱みて、之を孟子と謂う。春秋に改めざるは、時に順う所以なり。 公會吳于橐皐。橐皐、在淮南逡遒縣東南。○橐、章夜反。一音託。逡、音峻。遒、音囚。 【読み】 公吳に橐皐[たくこう]に會す。橐皐は、淮南逡遒[しゅんしゅう]縣の東南に在り。○橐は、章夜反。一に音託。逡は、音峻。遒は、音囚。 秋、公會衛侯・宋皇瑗于鄖。鄖、發陽也。廣陵海陵縣東南有發繇口。 【読み】 秋、公衛侯・宋の皇瑗に鄖[うん]に會す。鄖は、發陽なり。廣陵海陵縣の東南に發繇口有り。 宋向巢帥師伐鄭。冬、十有二月、螽。周十二月、今十月。是歲應置閏、而失不置。雖書十二月、實今之九月。司歷誤一月。九月之初、尙溫。故得有螽。 【読み】 宋の向巢[しょうそう]師を帥いて鄭を伐つ。冬、十有二月、螽[しゅう]あり。周の十二月は、今の十月なり。是の歲應に閏を置くべくして、失して置かず。十二月と書すと雖も、實は今の九月なり。司歷一月を誤れり。九月の初め、尙溫かし。故に螽有ることを得たり。 〔傳〕十二年、春、王正月、用田賦。終前年事。 【読み】 〔傳〕十二年、春、王の正月、田賦を用ゆ。前年の事を終わる。 夏、五月、昭夫人孟子卒。 【読み】 夏、五月、昭夫人孟子卒す。 昭公娶于吳。故不書姓。諱娶同姓。故謂之孟子、若宋女。 【読み】 昭公吳に娶る。故に姓を書さず。同姓を娶るを諱む。故に之を孟子と謂いて、宋の女の若くす。 死不赴。故不稱夫人。不稱夫人。故不言薨。 【読み】 死して赴[つ]げず。故に夫人と稱せず。夫人と稱せず。故に薨ずと言わず。 不反哭。故言不葬小君。反哭者、夫人禮也。以同姓故、不成其夫人喪。 【読み】 反哭せず。故に小君を葬ると言わず。反哭とは、夫人の禮なり。同姓を以ての故に、其の夫人の喪を成さず。 孔子與弔。適季氏。季氏不絻。放絰而拜。孔子始老。故與弔也。絻、喪冠也。孔子以小君禮往弔。季孫不服喪。故去絰。從主節制。○與、音預。絻、音問。 【読み】 孔子弔に與る。季氏に適く。季氏絻[ぶん]せず。絰を放ちて拜す。孔子始めて老す。故に弔に與るなり。絻は、喪冠なり。孔子小君の禮を以て往きて弔す。季孫喪を服せず。故に絰を去る。主に從いて制を節するなり。○與は、音預。絻は、音問。 公會吳于橐皐。吳子使大宰嚭請尋盟。尋鄫盟。 【読み】 公吳に橐皐に會す。吳子大宰嚭[ひ]をして盟を尋[かさ]ねんことを請わしむ。鄫[しょう]の盟を尋ぬ。 公不欲。使子貢對曰、盟所以周信也。周、固。 【読み】 公欲せず。子貢をして對えしめて曰く、盟は信を周[かた]くする所以なり。周は、固きなり。 故心以制之、制其義。 【読み】 故に心以て之を制し、其の義を制す。 玉帛以奉之、奉贄明神。 【読み】 玉帛以て之を奉げ、明神に奉贄す。 言以結之、結其信。 【読み】 言以て之を結び、其の信を結ぶ。 明神以要之。要以禍福。 【読み】 明神以て之を要す。要するに禍福を以てす。 寡君以爲苟有盟焉、弗可改也巳。若猶可改、日盟何益。今吾子曰、必尋盟。若可尋也、亦可寒也。尋、重也。寒、歇也。 【読み】 寡君以爲えらく、苟も盟有れば、改む可からざるのみ、と。若し猶改む可くんば、日々に盟うとも何の益あらん。今吾子曰く、必ず盟を尋ねん、と。若し尋ぬ可くんば、亦寒[や]む可し。尋は、重ぬるなり。寒は、歇[や]むなり。 乃不尋盟。 【読み】 乃ち盟を尋ねず。 吳徵會于衛。初、衛人殺吳行人且姚、而懼、謀於行人子羽。子羽、衛大夫也。○且、子餘反。 【読み】 吳會を衛に徵す。初め、衛人吳の行人且姚[しょよう]を殺して、懼れ、行人子羽に謀る。子羽は、衛の大夫なり。○且は、子餘反。 子羽曰、吳方無道。無乃辱吾君。不如止也。子木曰、吳方無道。子木、衛大夫。 【読み】 子羽曰く、吳方に無道なり。乃ち吾が君を辱むること無からんや。止むに如かざるなり、と。子木曰く、吳方に無道なり。子木は、衛の大夫。 國無道、必棄疾於人。吳雖無道、猶足以患衛。爲衛患也。 【読み】 國道無ければ、必ず疾を人に棄つ。吳無道なりと雖も、猶以て衛を患えしむるに足れり。衛の患えと爲るなり。 往也。長木之斃、無不摽也、摽、擊。○摽、敷蕭反。又普交反。 【読み】 往け。長木の斃るるは、摽[う]たざること無く、摽[ひょう]は、擊つなり。○摽は、敷蕭反。又普交反。 國狗之瘈、無不噬也。瘈、狂也。噬、齧也。○瘈、吉世反。 【読み】 國狗の瘈[くる]うは、噬[か]まざること無し。瘈[けい]は、狂うなり。噬は、齧[か]むなり。○瘈、吉世反。 而況大國乎。秋、衛侯會吳于鄖。公及衛侯・宋皇瑗盟、盟不書、畏吳竊盟。 【読み】 而るを況んや大國をや、と。秋、衛侯吳に鄖に會す。公衛侯・宋の皇瑗と盟いて、盟書さざるは、吳を畏れて竊かに盟えばなり。 而卒辭吳盟。 【読み】 卒に吳の盟を辭す。 吳人藩衛侯之舍。藩、籬。 【読み】 吳人衛侯の舍を藩す。藩は、籬。 子服景伯謂子貢曰、夫諸侯之會、事旣畢矣。侯伯致禮、地主歸餼、侯伯致禮、以禮賓也。地主、所會主人也。餼、生物。 【読み】 子服景伯子貢に謂いて曰く、夫れ諸侯の會、事旣に畢わる。侯伯禮を致し、地主餼を歸[おく]り、侯伯禮を致すは、以て賓を禮するなり。地主は、會する所の主人なり。餼は、生物。 以相辭也。各以禮相辭讓。 【読み】 以て相辭するのみ。各々禮を以て相辭讓す。 今吳不行禮於衛、而藩其君舍以難之。難、苦困也。 【読み】 今吳禮を衛に行わずして、其の君の舍に藩して以て之を難[なや]ます。難は、苦困なり。 子盍見大宰。 【読み】 子盍ぞ大宰を見ざる、と。 乃請束錦以行。以賂吳。 【読み】 乃ち束錦を請いて以て行く。以て吳に賂う。 語及衛故。若本不爲衛請者。 【読み】 語衛の故に及ぶ。本衛の爲に請わざる者の若くす。 大宰嚭曰、寡君願事衛君、衛君之來也緩。寡君懼。故將止之。止、執。 【読み】 大宰嚭曰く、寡君衛君に事えんことを願えども、衛君の來るや緩し。寡君懼る。故に將に之を止[とら]えんとす、と。止は、執うるなり。 子貢曰、衛君之來、必謀於其衆。其衆或欲或否。是以緩來。其欲來者、子之黨也。其不欲來者、子之讎也。若執衛君、是墮黨而崇讎也。墮、毀也。○墮、許規反。 【読み】 子貢曰く、衛君の來れる、必ず其の衆に謀るならん。其の衆或は欲し或は否らず。是を以て緩く來れるなり。其の來らんことを欲する者は、子の黨なり。其の來らんことを欲せざる者は、子の讎なり。若し衛君を執えば、是れ黨を墮[やぶ]りて讎を崇むるなり。墮は、毀るなり。○墮は、許規反。 夫墮子者、得其志矣。且合諸侯而執衛君、誰敢不懼。墮黨崇讎、而懼諸侯、或者難以霸乎。大宰嚭說。乃舍衛侯。 【読み】 夫の子を墮る者、其の志を得ん。且つ諸侯を合わせて衛君を執えば、誰か敢えて懼れざらん。黨を墮り讎を崇めて、諸侯を懼[おど]さば、或は以て霸たり難からんか、と。大宰嚭說ぶ。乃ち衛侯を舍[ゆる]す。 衛侯歸、效夷言。子之尙幼。子之、公孫彌牟。○說、音悅。舍、音捨。又音赦。 【読み】 衛侯歸り、夷言を效う。子之は尙幼し。子之は、公孫彌牟。○說は、音悅。舍は、音捨。又音赦。 曰、君必不免。其死於夷乎。執焉而又說其言、從之固矣。出公輒後卒死於越。 【読み】 曰く、君必ず免れじ。其れ夷に死なんか。執われて又其の言を說ぶは、之に從うこと固し、と。出公輒後に卒に越に死す。 冬、十二月、螽。季孫問諸仲尼。仲尼曰、丘聞之、火伏而後蟄者畢。火、心星也。火伏、在今十月。 【読み】 冬、十二月、螽あり。季孫諸を仲尼に問う。仲尼曰く、丘之を聞く、火伏して後に蟄する者畢わる、と。火は、心星なり。火伏するは、今の十月に在り。 今火猶西流。司歷過也。猶西流、言未盡沒。知是九月。歷官失一閏。釋例論之備。 【読み】 今火猶西に流る。司歷の過ちなり、と。猶西に流るとは、言うこころは、未だ盡く沒せざるなり。知んぬ、是れ九月なることを。歷官一閏を失うなり。釋例之を論ずること備なり。 宋・鄭之閒、有隙地焉。隙地、閒田。 【読み】 宋・鄭の閒に、隙地有り。隙地は、閒田。 曰彌作・頃丘・玉暢・喦・戈・鍚。凡六邑。○彌、亡支反。又亡爾反。頃、苦穎反。又音傾。喦、五咸反。鍚、音羊。一星歷反。 【読み】 彌作・頃丘・玉暢[ぎょくちょう]・喦[がん]・戈[か]・鍚[よう]と曰う。凡そ六邑。○彌は、亡支反。又亡爾反。頃は、苦穎反。又音傾。喦は、五咸反。鍚は、音羊。一に星歷反。 子產與宋人爲成、曰、勿有是。倶棄之。 【読み】 子產宋人と成[たい]らぎを爲して、曰く、是を有つこと勿かれ、と。倶に之を棄つ。 及宋平・元之族自蕭奔鄭、在定十五年。 【読み】 宋の平・元の族の蕭[しょう]より鄭に奔るに及びて、定十五年に在り。 鄭人爲之城喦・戈・鍚。城以處平・元之族。 【読み】 鄭人之が爲に喦・戈・鍚に城く。城きて以て平・元の族を處く。 九月、宋向巢伐鄭、取鍚、殺元公之孫、遂圍喦。十二月、鄭罕達救喦、丙申、圍宋師。此事經在十二月螽上。今倒在下、更具列其月、以爲別者、丘明本不以爲義例。故不皆齊同。 【読み】 九月、宋の向巢鄭を伐ちて、鍚を取り、元公の孫を殺して、遂に喦を圍む。十二月、鄭の罕達喦を救い、丙申[ひのえ・さる]、宋の師を圍む。此の事經は十二月螽の上に在り。今下に倒在して、更に其の月を具列して、以て別を爲すは、丘明本以て義例と爲さず。故に皆齊同ならず。 〔經〕十有三年、春、鄭罕達帥師取宋師于喦。書取、覆而敗之。 【読み】 〔經〕十有三年、春、鄭の罕達師を帥いて宋の師を喦[がん]に取る。取ると書すは、覆して之を敗ればなり。 夏、許男成卒。無傳。 【読み】 夏、許男成卒す。傳無し。 公會晉侯及吳子于黃池。陳留封丘縣南有黃亭。近濟水。夫差欲霸中國尊天子、自去其僭號而稱子、以告令諸侯。故史承而書之。○去、起呂反。 【読み】 公晉侯と吳子とに黃池に會す。陳留封丘縣の南に黃亭有り。濟水に近し。夫差中國に霸として天子を尊ばんと欲し、自ら其の僭號を去てて子と稱して、以て諸侯に告令す。故に史承けて之を書す。○去は、起呂反。 楚公子申帥師伐陳。無傳。 【読み】 楚の公子申師を帥いて陳を伐つ。傳無し。 於越入吳。秋、公至自會。無傳。 【読み】 於越吳に入る。秋、公會より至る。傳無し。 晉魏曼多帥師侵衛。無傳。 【読み】 晉の魏曼多師を帥いて衛を侵す。傳無し。 葬許元公。無傳。 【読み】 許の元公を葬る。傳無し。 九月、螽。無傳。書災。 【読み】 九月、螽[しゅう]あり。傳無し。災を書す。 冬、十有一月、有星孛于東方。無傳。平旦衆星皆沒、而孛乃見。故不言所在之次。○孛、步内反。見、賢遍反。 【読み】 冬、十有一月、星の東方に孛[はい]する有り。傳無し。平旦に衆星皆沒して、孛乃ち見る。故に在る所の次を言わず。○孛は、步内反。見は、賢遍反。 盜殺陳夏區夫。無傳。稱盜、非大夫。○區、烏侯反。 【読み】 盜陳の夏區夫[かおうふ]を殺す。傳無し。盜と稱するは、大夫に非ざればなり。○區は、烏侯反。 十有二月、螽。無傳。前年、季孫雖聞仲尼之言、而不正歷、失閏至此年。故復十二月螽。實十一月。○復、扶又反。 【読み】 十有二月、螽あり。傳無し。前年、季孫仲尼の言を聞くと雖も、而れども歷を正さず、閏を失いて此の年に至る。故に復十二月に螽あり。實は十一月なり。○復は、扶又反。 〔傳〕十三年、春、宋向魋救其師。救前年、圍喦師。 【読み】 〔傳〕十三年、春、宋の向魋[しょうたい]其の師を救う。前年、喦を圍むの師を救う。 鄭子賸使徇曰、得桓魋者有賞。魋也逃歸。遂取宋師于喦、獲成讙・郜延。二子、宋大夫。○讙、火官反。郜、古報反。又古毒反。 【読み】 鄭の子賸[しよう]徇[とな]えしめて曰く、桓魋を得ん者は賞有らん、と。魋や逃げ歸る。遂に宋の師を喦に取り、成讙・郜延を獲たり。二子は、宋の大夫。○讙は、火官反。郜は、古報反。又古毒反。 以六邑爲虛。空虛之、各不有。 【読み】 六邑を以て虛と爲す。之を空虛にして、各々有たず。 夏、公會單平公・晉定公・吳夫差于黃池。平公、周卿士也。不書、尊之、不與會。 【読み】 夏、公單平公・晉の定公・吳の夫差に黃池に會す。平公は、周の卿士なり。書さざるは、之を尊びて、會に與らせざるなり。 六月、丙子、越子伐吳。爲二隧、隧、道也。 【読み】 六月、丙子[ひのえ・ね]、越子吳を伐つ。二隧を爲し、隧は、道なり。 疇無餘・謳陽自南方、二子、越大夫。 【読み】 疇無餘・謳陽南方よりし、二子は、越の大夫。 先及郊。吳大子友・王子地・王孫彌庸・壽於姚自泓上觀之。觀越師。泓、水名。○泓、烏宏反。 【読み】 先ず郊に及ぶ。吳の大子友・王子地・王孫彌庸・壽於姚[じゅおよう]泓上[おうじょう]より之を觀る。越の師を觀る。泓は、水の名。○泓は、烏宏反。 彌庸見姑蔑之旗、姑蔑、越地。今東陽大末縣。○大、音泰。又音闥。 【読み】 彌庸姑蔑の旗を見て、姑蔑は、越の地。今の東陽大末縣。○大は、音泰。又音闥。 曰、吾父之旗也。彌庸父爲越所獲。故姑蔑人得其旌旗。 【読み】 曰く、吾が父の旗なり。彌庸が父越の爲に獲らる。故に姑蔑の人其の旌旗を得。 不可以見讎而弗殺也。大子曰、戰而不克、將亡國。請待之。彌庸不可。屬徒五千。屬、會也。○屬、音燭。 【読み】 以て讎を見て殺さずんばある可からざるなり、と。大子曰く、戰いて克たずんば、將に國を亡ぼさんとす。請う、之を待て、と。彌庸可[き]かず。徒五千を屬[あつ]む。屬は、會するなり。○屬は、音燭。 王子地助之。乙酉、戰。彌庸獲疇無餘、地獲謳陽。越子至。王子地守。丙戌、復戰。大敗吳師。獲大子友・王孫彌庸・壽於姚。地守。故不獲。○守、手又反。復、扶又反。 【読み】 王子地之を助く。乙酉[きのと・とり]に、戰う。彌庸疇無餘を獲、地謳陽を獲たり。越子至る。王子地守る。丙戌[ひのえ・いぬ]に、復戰う。大いに吳の師を敗る。大子友・王孫彌庸・壽於姚を獲たり。地守る。故に獲られず。○守は、手又反。復は、扶又反。 丁亥、入吳。 【読み】 丁亥[ひのと・い]、吳に入る。 吳人告敗于王。王惡其聞也、惡諸侯聞之。○惡、烏路反。 【読み】 吳人敗を王に告ぐ。王其の聞かんことを惡み、諸侯の之を聞かんことを惡む。○惡は、烏路反。 自剄七人於幕下。以絕口。○剄、古頂反。 【読み】 自ら七人を幕下に剄[くびは]ぬ。以て口を絕つ。○剄[けい]は、古頂反。 秋、七月、辛丑、盟。吳・晉爭先。爭歃血先後。 【読み】 秋、七月、辛丑[かのと・うし]、盟う。吳・晉先を爭う。血を歃るの先後を爭う。 吳人曰、於周室我爲長。吳爲大伯後。故爲長。○長、上聲。 【読み】 吳人曰く、周室に於て我は長爲り、と。吳は大伯の後爲り。故に長爲り。○長は、上聲。 晉人曰、於姬姓我爲伯。爲侯伯。 【読み】 晉人曰く、姬姓に於て我は伯爲り、と。侯伯爲り。 趙鞅呼司馬寅、寅、晉大夫。 【読み】 趙鞅司馬寅を呼びて、寅は、晉の大夫。 曰、日旰矣。旰、晩也。○旰、古旦反。 【読み】 曰く、日旰[く]れぬ。旰は、晩れるなり。○旰は、古旦反。 大事未成。二臣之罪也。大事、盟也。二臣、鞅與寅。 【読み】 大事未だ成らず。二臣の罪なり。大事とは、盟なり。二臣とは、鞅と寅となり。 建鼓整列、二臣死之、長幼必可知也。對曰、請姑視之。反曰、肉食者無墨、墨、氣色下。 【読み】 鼓を建て列を整え、二臣之に死なば、長幼必ず知る可し、と。對えて曰く、請う、姑く之を視ん、と。反りて曰く、肉食の者には墨無きに、墨は、氣色の下るなり。 今吳王有墨。國勝乎。國爲敵所勝。 【読み】 今吳王に墨有り。國勝たれたるか。國敵の爲に勝たる。 大子死乎。且夷德輕。不忍久。請少待之。少待、無與爭。○輕、遣政反。 【読み】 大子死したるか。且つ夷德は輕し。久しきに忍びず。請う、少[しばら]く之を待て、と。少く待てとは、與に爭うこと無かれとなり。○輕は、遣政反。 乃先晉人。盟不書、諸侯恥之。故不錄。 【読み】 乃ち晉人を先にす。盟書さざるは、諸侯之を恥ず。故に錄せざるなり。 吳人將以公見晉侯。子服景伯對使者曰、王合諸侯、則伯帥侯牧以見於王。伯、王官伯。侯牧、方伯。○見晉、如字。又賢遍反。以見、賢遍反。 【読み】 吳人將に公を以[い]て晉侯を見んとす。子服景伯使者に對えて曰く、王諸侯を合わすときは、則ち伯侯牧を帥いて以て王に見ゆ。伯は、王官の伯。侯牧は、方伯。○見晉は、字の如し。又賢遍反。以見は、賢遍反。 伯合諸侯、則侯帥子男以見於伯。伯、諸侯長。 【読み】 伯諸侯を合わすときは、則ち侯子男を帥いて以て伯に見ゆ。伯は、諸侯の長。 自王以下、朝聘玉帛不同。故敝邑之職貢於吳、有豐於晉、無不及焉、以爲伯也。今諸侯會、而君將以寡君見晉君、則晉成爲伯矣。敝邑將改職貢。魯賦於吳八百乘。若爲子男、則將半邾以屬於吳、半邾、三百乘。 【読み】 王より以下、朝聘に玉帛同じからず。故に敝邑の吳に職貢すること、晉より豐かなること有るも、及ばざること無きは、伯爲るを以てなり。今諸侯會して、君將に寡君を以て晉君に見えんとするは、則ち晉伯爲ることを成すなり。敝邑將に職貢を改めんとす。魯の吳に賦するは八百乘なり。若し子男爲らば、則ち將に邾に半ばにして以て吳に屬し、邾に半ばにすとは、三百乘なり。 而如邾以事晉。如邾、六百乘。 【読み】 而して邾の如くにして以て晉に事えんとす。邾の如くにすとは、六百乘なり。 且執事以伯召諸侯、而以侯終之、何利之有焉。吳人乃止。 【読み】 且つ執事伯を以て諸侯を召して、侯を以て之を終えば、何の利か之れ有らん、と。吳人乃ち止む。 旣而悔之、謂景伯欺之。 【読み】 旣にして之を悔い、景伯の之を欺くと謂えり。 將囚景伯。景伯曰、何也立後於魯矣。何、景伯名。 【読み】 將に景伯を囚えんとす。景伯曰く、何や後を魯に立てたり。何は、景伯の名。 將以二乘與六人從。遲速唯命。遂囚以還。及戶牖。戶牖、陳留外黃縣西北東昏城是。○從、才用反。 【読み】 將に二乘と六人とを以て從わんとす。遲速は唯命のままなり、と。遂に囚えて以て還る。戶牖[こゆう]に及ぶ。戶牖は、陳留外黃縣の西北の東昏城是れなり。○從は、才用反。 謂大宰曰、魯將以十月上辛有事於上帝先王、季辛而畢。何世有職焉。有職於祭事。 【読み】 大宰に謂いて曰く、魯將に十月上辛を以て上帝先王事有りて、季辛にして畢わらんとす。何世々職有り。祭事に職有り。 自襄以來、未之改也。魯襄公。 【読み】 襄より以來、未だ之を改めざるなり。魯の襄公。 若不會、祝宗將曰、吳實然。言魯祝宗將告神云、景伯不會、坐爲吳所囚。吳人信鬼。故以是恐之。 【読み】 若し會せずんば、祝宗將に曰わんとす、吳實に然らしむ、と。言うこころは、魯の祝宗將に神に告げて云わんとす、景伯が會せざるは、吳の爲に囚えらるるに坐[よ]る、と。吳人鬼を信ず。故に是を以て之を恐[おど]す。 且謂魯不共、而執其賤者七人、何損焉。大宰嚭言於王曰、無損於魯、而祇爲名。適爲惡名。 【読み】 且つ魯を不共なりと謂いて、其の賤者七人を執うるとも、何の損あらん、と。大宰嚭王に言いて曰く、魯に損無くして、祇[まさ]に名を爲さん。適に惡名を爲さん。 不如歸之。乃歸景伯。 【読み】 之を歸さんに如かず、と。乃ち景伯を歸す。 吳申叔儀乞糧於公孫有山氏、申叔儀、吳大夫。公孫有山、魯大夫。舊相識。 【読み】 吳の申叔儀糧を公孫有山氏に乞いて、申叔儀は、吳の大夫。公孫有山は、魯の大夫。舊相識る。 曰、佩玉繠兮、余無所繫之。繠然、服飾備也。己獨無以繫佩。言吳王不恤下。○繠、而捶反。 【読み】 曰く、佩玉繠[ずい]たるも、余は之を繫くる所無し。繠然は、服飾の備わるなり。己獨り以て佩を繫くること無し、と。言うこころは、吳王下を恤[めぐ]まず。○繠は、而捶反。 旨酒一盛兮、余與褐之父睨之。一盛、一器也。睨、視也。褐、寒賤之人。言但得視、不得飮。○盛、音成。又市政反。睨、五計反。 【読み】 旨酒一盛を、余褐の父と之を睨るのみ。一盛は、一器なり。睨は、視るなり。褐は、寒賤の人。言うこころは、但視ることを得て、飮むことを得ず。○盛は、音成。又市政反。睨は、五計反。 對曰、梁則無矣。麤則有之。若登首山以呼。曰庚癸乎、則諾。軍中不得出糧。故爲私隱。庚、西方主穀。癸、北方主水。傳言吳子不與士共饑渴、所以亡。○呼、火故反。 【読み】 對えて曰く、梁は則ち無し。麤[そ]は則ち之れ有り。若[なんじ]首山に登りて以て呼べ。庚癸と曰わば、則ち諾せよ、と。軍中糧を出だすことを得ず。故に私隱を爲す。庚は、西方穀を主る。癸は、北方水を主る。傳吳子士と饑渴を共にせず、亡ぶる所以を言う。○呼は、火故反。 王欲伐宋殺其丈夫而囚其婦人。以宋不會黃池故。言吳子悖惑。 【読み】 王宋を伐ちて其の丈夫を殺して其の婦人を囚にせんと欲す。宋黃池に會せざるを以ての故なり。吳子が悖惑を言う。 大宰嚭曰、可勝也。而弗能居也。乃歸。 【読み】 大宰嚭曰く、勝つ可きなり。而れども居ること能わじ、と。乃ち歸る。 冬、吳及越平。終伍員之言。 【読み】 冬、吳越と平らぐ。伍員の言を終わる。 哀 經元年。得見。賢遍反。下同。此復。扶又反。一處。昌慮反。 傳。圍壘。力軌反。周帀。子合反。○今本匝。高陪。竝如字。厚一。戶豆反。故令。力呈反。以辨。一音方免反。別也。彼列反。下同。出降。戶江反。使疆。居良反。夫椒。椒又作棑。子消反。大湖。音泰。會稽。古兮反。上會稽。時掌反。大夫種。章勇反。大宰。音泰。去疾。本又作去惡。有過。國名。殺斟。之林反。夏同姓。戶雅反。下注皆同。復爲。扶又反。后緡。亡巾反。○舊有昬忘亡亮反五字。今刪。自竇。音豆。少康。詩照反。之長。丁丈反。庖正。步交反。二姚。羊昭反。諸綸。音倫。之燼。徐刃反。又秦刃反。女艾。五蓋反。諜澆。音牒。之績。一本作迹。而長。丁丈反。下同。可竢。本又作俟。音仕。○今本亦俟。介在。音界。生聚。才喩反。又如字。爲沼。之兆反。汙池。音烏。故復。扶又反。逢滑。干八反。土芥。古邁反。如莽。亡黨反。孔圉。魚呂反。烝鉏。之承反。下仕居反。崇壇。徒丹反。不彤。徒冬反。丹漆也。鏤。魯豆反。臺榭。音謝。天有菑。音災。癘。本或作天無菑癘、非。疾疫。音役。熟食者分。如字。一讀、以分字連下句。猶徧。音遍。卒。子忽反。乘。繩證反。與焉。音預。陂池。彼宜反。妃嬙。本又作廧。或作■(女偏に廧)。在羊反。嬪御。毗人反。玩好。呼報反。夫先自敗也已。夫音扶。本或作夫差先自敗者、非。 經二年。易也。以豉反。句繹。古侯反。下音亦。以要。一遙反。于鐵。天結反。皆陳。直覲反。 傳。伐絞。古卯反。郢也。以井反。三揖。一入反。立適。丁歷反。下適孫同。大子絻。喪冠也。衰絰。七雷反。下田結反。爰契。苦計反。又苦結反。謀協以故兆。絕句。詢可也。思遵反。斬艾。魚廢反。欲擅。市戰反。作雒。音洛。斯役。如字。字又作厮。音同。蘇林注漢書云、厮、取薪者。○今本亦厮。志父。音甫。絞縊。一賜反。以戮。音六。桐棺三寸。禮記云、夫子制於中都、四寸之棺、五寸之椁、以斯知不欲速朽也。鄭康成注云、此庶人之制也。案禮、上大夫棺八寸、屬六寸、下大夫棺六寸、屬四寸。無三寸棺制也。棺用難朽之木。桐木易壞、不堪爲棺。故以爲罰。之重。直龍反。下同。王棺四重。禮記云、水兕革棺被之、其厚三寸。被水牛及兕之革爲一重、辟爲二重、屬爲三重、大棺爲四重。君再重。君、謂侯伯子男。侯伯已下無革棺。上公則唯無水革耳。兕革與辟爲一重、屬爲再重、大棺爲三重。大夫一重。大夫唯屬與大棺爲一重。今云不設辟者、時僭耳。非正禮也。載柩。其又反。爲衆。于僞反。郵無恤。音尤。其怯。去業反。牖下。羊九反。吏詰。起吉反。瘧疾。魚略反。禱曰。丁老反。自泆。音逸。持矛。亡侯反。絕筋。居銀反。斃于。婢世反。本亦作弊。踣。蒲北反。蠭旗。芳恭反。傅傁。素口反。又作叟。公孫尨。武江反。稅焉。始銳反。爲范。于僞反。下文爲其主同。幕下。音莫。嘔血。本又作■(口偏に咎)。烏口反。吐也。他露反。洩庸。一音作息引反。未詳。中悔。丁仲反。 經三年。爲子。于僞反。樂髡。苦孫反。 傳。司鐸。待洛反。南宮閱。音悅。命不共。音恭。校人。戶敎反。注及下同。脂轄。戶瞎反。本又作鎋。同。之易。以豉反。變難。乃旦反。帷幕。位悲反。下音莫。蒙葺。七入反。一音丁入反。縣敎。音玄。富父。音甫。槐。音懷。官辦。辦具之辦。注同。猶拾。音十。瀋也。北土呼汁爲瀋。之稾。古老反。注同。所郷。許亮反。○今本向。道還。一音患。勑令。力呈反。南孺子。如住反。其郛。芳夫反。 經四年。公孫姓。本又作生。或一音性。亳社。步洛反。頃公。音傾。 傳。也承。音懲。直升反。公孫翩。音篇。文之鍇。一音客駭反。中肘。丁仲反。下竹九反。負函。音咸。泝江。音素。入郢。以井反。又以政反。氏潰。戶内反。豐析。星歷反。注同。少習。一音如字。之難。乃旦反。以畀。必利反。與也。楚復。扶又反。甯跪。其委反。取邢。音刑。欒。力官反。鄗。郭璞三蒼解詁、音臛。字林、火沃反。韋昭、呼告反。闞駰云、讀磽确同。盂。音于。 經五年。城毗。頻夷反。杵臼。昌呂反。下求又反。 傳。柳朔。良九反。以僭。子念反。後同。爲吉射。于僞反。未冠。古喚反。鬻姒。音似。子荼。一音丈加反。嬖。必計反。閒於。一音閒厠之閒。又如字。疾疢。本或作疹。乃結反。寘羣。之豉反。羣或作諸。於萊。音來。公子鉏。仕居反。埋。亡皆反。而侈。昌氏反。又尺氏反。惡而。烏路反。不濫。力暫反。濫溢。音逸。 經六年。邾瑕。音遐。任城。音壬。亢父。音甫。廢長。丁丈反。立少。詩照反。楚子軫。之忍反。史記、作珍。殺荼。音試。下皆同。○今本弑。 傳。城父。音甫。偃蹇。約免反。下紀晩反。驕敖。五報反。必偪。音逼。盍。戶臘反。下同。需。音須。一音懦。多難。乃旦反。鮑牧。州牧之牧。乘如。繩證反。晏圉。魚呂反。大冥。亡丁反。舍其。音捨。夾日。古洽反。大史。音泰。下同。禳祭。如羊反。而寘。之豉反。其夭。於表反。又焉。於虔反。爲崇。息遂反。竟内。音境。漳。音章。楚昭王知大道矣。本或作天道、非。夏書。戶雅反。下注同。闞止。苦暫反。壬也。而林反。洩言。息列反。又以製反。欲令。力呈反。下同。與饋。其位反。鮑點。之廉反。女忘。音汝。而背。音佩。後年皆同。拘。音倶。句竇。音豆。不匱。其位反。少君。詩照反。長君。丁丈反。夫■子。音扶。■或作孺、同。○今本亦孺。野幕。音莫。冒。亡報反。淳。音純。駐於。中住反。 經七年。于繒。本又作鄫。○今本亦鄫。 傳。百牢。力刀反。吳過宋。古禾反。以後。如字。又戶豆反。上物。如字。一音時掌反。注同。大伯。音泰。注同。臝以。本又作倮。故效。戶孝反。將焉。於虔反。不禦。魚呂反。擊柝。音託。以兩木相擊以行夜也。字又作■(木偏に橐)、同。晝掠。中救反。于繹。音亦。鄒縣。側留反。馮恃。皮冰反。注同。振鐸。待洛反。注同。公孫彊。其良反。好田。呼報反。下同。弋。以職反。而奸。音干。 經八年。褚師。中呂反。之詬。呼豆反。 傳。詬之。本又作訽。詈辱。力智反。吳爲。于僞反。下注則爲之隱惡同。不狃。女九反。死其難。乃旦反。曾所。在增反。之好。呼報反。下文好焉同。欲覆。芳服反。子泄。息列反。又作洩。○今本亦洩。與斃。婢世反。子洩率。絕句。故道險。絕句。吳竟。音境。僑田。其驕反。拘鄫。音倶。下同。道之。音導。内應。應對之應。析朱鉏。星歷反。注及下同。泗上。音四。於幕庭。亡博反。設格。更百反。試躍。羊灼反。析骸。戶皆反。本又作骨。而爨。七亂反。及虧。去危反。負載。如字。或音戴。萊門。音來。爲質。音致。下同。復求。扶又反。妻之。七計反。前爲。于僞反。荐之。本又作栫。○今本亦栫。雍也。於勇反。○今本擁。故諷。方鳳反。愬之。音素。於潞。音路。 經九年。 傳。公孟綽。昌灼反。本又作卓、同。武子賸。以證反。作壘。力軌反。塹成。七豔反。郟張。一音甲。可游。音由。之需。音須。以祉。音恥。儆。音景。 經十年。不與。音預。書殺。申志反。○今本弑。 傳。兵幷。必政反。人殺。申志反。○今本弑。襲重。直龍反。又直用反。取犂。力兮反。又力之反。名隰。音習。本或作濕。音同。少子。詩照反。 經十一年。艾陵。五蓋反。公與伐。音預。下同。 傳。齊爲。于僞反。御諸。魚呂反。本又作禦。○今本亦禦。自度。待洛反。封疆。居良反。注同。二子之不欲戰也宜。絕句。不成丈夫也。本或作大夫、非。蒐乘。所求反。下繩證反。閱。音悅。孟孺子。而住反。彘。直利反。邴洩。音丙。又彼命反。管周父。音甫。徒卒。子忽反。注同。雩門。音于。繇役。本或作徭、同。音遙。涉泗。音四。爲殿。丁練反。抽矢。勑留反。策其。初革反。本或作莢。誰不如。如字。諜。音牒。齊人遁。徒困反。諜閒。閒厠之閒。能默。本亦作嘿。亡北反。其嬖。必計反。童。本亦作僮。音同。○今本亦僮。汪。烏黃反。無殤。音商。八歲至十九爲殤。用矛。亡侯反。皆陳。直覲反。轅咺。況阮反。稻醴。音禮。腶脯。字又作鍛。嬴。音盈。公孫夏。戶雅反。虞殯。必刃反。具含玉。戶暗反。本又作唅。揮。許韋反。問遺。唯季反。王卒。子忽反。八百乘。繩證反。寘之。之豉反。新篋。苦協反。褽以。一本作褽之以玄纁。○今本亦同。玄纁。許云反。本亦作勳。加組。音祖。不衷。音忠。饋賂。其位反。或作餽。下音路。豢。音患。也夫。音扶。爲沼。之兆反。其泯。亡軫反。盤庚。步干反。之誥。古報反。不共。音恭。注同。劓。魚器反。殄。大典反。無俾。必爾反。育長。丁丈反。使於。所吏反。屬鏤。力倶反。又力侯反。墓檟。古雅反。木名。子朝。如字。犂。力兮反。孔姞。一音其吉反。少禘。詩照反。下大計反。子憖。一作整。遂聘。匹政反。夏戊。戶雅反。下同。戊音茂。簋。音軌。遽止。其據反。斂從。力豔反。貪冒。亡北反。一音莫報反。無厭。於鹽反。 經十二年。諱取。七喩反。又如字。本或作娶。○今本亦娶。逡。一音七倫反。遒。一音巡。繇。音遙。螽。音終。 傳。取于。七喩反。本亦作娶。今本亦娶。放絰。大結反。故去。起呂反。贄。音至。以要。一遙反。注同。尋重。直龍反。寒歇。許謁反。之斃。婢世反。國狗。音苟。噬。市制反。齧。五結反。本或作囓。藩衛。方元反。注及下同。籬也。力知反。○今本無也字。餼。許氣反。以難。乃旦反。注同。子盍。戶臘反。不爲。于僞反。乃舍。釋也。效夷。戶敎反。蟄。直立反。隙地。去逆反。閒田。音閑。一本作閒地。一音如字。玉暢。勑亮反。一本作王暢。戈。古禾反。爲之。于僞反。今倒。丁老反。爲別。如字。又彼列反。 經十三年。男成。音城。本或作戊。近濟。附近之近。僭。子念反。陳夏。戶雅反。 傳。使徇。似俊反。爲虛。竝如字。或音墟、非。單平公。音善。不與。音預。二隧。音遂。注同。謳陽。烏侯反。蔑。亡結反。之旗。音其。地守。手又反。下注同。爭歃。所洽反。又所甲反。大伯。音泰。對使。所吏反。於吳有豐。芳中反。八百乘。繩證反。下及注同。坐爲。才臥反。恐之。丘勇反。不共。音恭。而祇。音支。繠。一音而水反。褐。戶葛反。之父。如字。又音甫。麤則。本或作麄。七奴反。殺其丈夫。直兩反。本或作大夫、誤。悖惑。補内反。 TOP
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