TOP(戻る)温故知新(戻る)、 世界三大古典詩集 ( 「詩經」「万(萬)葉集」「ソネット集 SONNET(Shakespeare)」

万葉集(萬葉集 Man'yōshū)は日本人の心の古典、「万世にまで末永く伝えられるべき歌集」
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萬葉集   巻第七  雑 歌
  ななまきにあたるまき くさぐさのうた

(作者名のない雑歌・臂喩歌・挽歌)    鹿持雅澄『萬葉集古義』   



(あめ)を詠める

1068 天の海に雲の波立ち月の船星の林に榜ぎ隠る見ゆ

右ノ一首(ヒトウタ)ハ、柿本朝臣人麿ノ歌集ニ出ヅ。


月を詠める

1069 常はかつて思はぬものをこの月の過ぎ隠れまく惜しき宵かも

1070 大夫(ますらを)弓末(ゆずゑ)振り起し狩高の野辺さへ清く照る月夜(つくよ)かも

1071 山の端にいさよふ月を出でむかと待ちつつ居るに夜ぞ(くだ)ちける

1072 明日の(よひ)照らむ月夜は片寄りに今宵に寄りて夜長からなむ

1073 玉垂(たまたれ)小簾(をす)の間通し独り居て見る(しるし)無き夕月夜かも

1074 春日山おして照らせるこの月は妹が庭にも(さや)けかるらし*

1075 海原の道遠みかも月読(つくよみ)の光少き夜は(くだ)ちつつ

1076 百敷の大宮人の退(まか)り出て遊ぶ今夜の月の(さや)けさ

1077 ぬば玉の夜渡る月を留めむに西の山辺に関もあらぬかも

1078 この月のここに来たれば今とかも妹が出で立ち待ちつつあらむ

1079 真澄鏡(まそかがみ)照るべき月を白妙の雲か隠せる天つ霧かも

1080 久かたの(あま)照る月は神代にか出でかへるらむ年は経につつ

1081 ぬば玉の夜渡る月をおもしろみ()が居る袖に露ぞ置きにける

1082 水底の玉さへ清く見つべくも照る月夜(つくよ)かも夜の更けぬれば

1083 霜曇りすとにかあらむ久かたの夜渡る月の見えなく()へば

1084 山の端にいさよふ月をいつとかも()が待ち居らむ夜は更けにつつ

1085 妹があたり()が袖振らむ木の間より出で来る月に雲な棚引き

1086 (ゆき)懸くる伴の()広き大伴に国栄えむと月は照るらし


雲を詠める

1087 穴師川(あなしかは)川波立ちぬ巻向(まきむく)の弓月が岳に雲居立つらし

1088 あしひきの山河(やまがは)の瀬の鳴るなべに弓月が岳に雲立ち渡る

右ノ二首ハ、柿本朝臣人麿ノ歌集ニ出ヅ。

1089 大海に島もあらなくに海原(うなはら)のたゆたふ波に立てる白雲

右ノ一首ハ、伊勢ニ従駕シテ作メル。


雨を詠める

1090 我妹子(わぎもこ)が赤裳の裾の湿(ひづ)つらむ今日の小雨に(あれ)さへ濡れな

1091 (とほ)るべく雨はな降りそ我妹子が形見の衣(あれ)下に()


山を詠める

1092 鳴神の音のみ聞きし巻向の桧原(ひはら)の山を今日見つるかも

1093 三諸(みもろ)のその山並に子らが手を巻向山は(つぎ)のよろしも

1094 ()が衣色に()めなむ味酒(うまさけ)三室の山は黄葉(もみち)しにけり

右ノ三首ハ、柿本朝臣人麿ノ歌集ニ出ヅ。

1095 三諸つく三輪山見れば隠国(こもりく)の泊瀬の桧原思ほゆるかも

1096 古のことは知らぬを(あれ)見ても久しくなりぬ(あめ)の香具山

1097 我が背子をいで巨勢山と人は言へど君も来まさず山の名にあらし

1098 紀道(きぢ)にこそ妹山ありといへ玉くしげ二上山も妹こそありけれ


(をか)を詠める

1099 片岡のこの向つ()に椎蒔かば今年の夏の蔭になみむか*


河を詠める

1100 巻向の穴師の川ゆ行く水の絶ゆること無くまたかへり見む

1101 ぬば玉の夜さり来れば巻向の川音(かはと)高しも嵐かも()

右ノ二首ハ、柿本朝臣人麿ノ歌集ニ出ヅ。

1102 大王の御笠の山の帯にせる細谷川の音の(さや)けさ

1103 今しきは見めやと()ひしみ吉野の大川淀を今日見つるかも

1104 馬()めてみ吉野川を見まく欲り打ち越え来てぞ滝に遊びつる

1105 音に聞き目にはいまだ見ぬ吉野川六田(むつだ)の淀を今日見つるかも

1106 かはづ鳴く清き川原を今日見てばいつか越し来て見つつ偲はむ

1107 泊瀬川白木綿花(しらゆふはな)に落ちたぎつ瀬を(さや)けみと見に来し(あれ)

1108 泊瀬川流るる水脈(みを)の瀬を早み井堤(ゐて)越す波の音の清けく

1109 さひのくま桧隈川(ひのくまがは)の瀬を速み君が手取らば(こと)寄せむかも

1110 ゆ種蒔く荒木の小田を求めむと足結(あゆひ)は濡れぬ*この川の瀬に

1111 古もかく聞きつつや偲ひけむこの布留川(ふるかは)の清き瀬の()

1112 葉根蘰(はねかづら)今する妹をうら若みいざ率川(いざがは)の音の清けさ

1113 この小川霧たなびけり*落ち(たぎ)*走井(はしゐ)の上に*言挙げせねども

1114 ()が紐を妹が手もちて結八川(ゆふやがは)また還り見む万代までに

1115 妹が紐結八河内(ゆふやかふち)古の人さへ見つつここを偲ひき*


露を詠める

1116 ぬば玉の()が黒髪に降りなづむ天の露霜取れば()につつ


花を詠める

1117 島()すと磯に見し花風吹きて波は寄すとも採らずばやまじ


葉を詠める

1118 古にありけむ人も()がごとか三輪の桧原(ひはら)挿頭(かざし)折りけむ

1119 ゆく川の過ぎにし人の手折(たを)らねばうらぶれ立てり三輪の桧原は

右ノ二首ハ、柿本朝臣人麿ノ歌集ニ出ヅ。


(こけ)を詠める

1120 み吉野の青根が岳の蘿むしろ(たれ)か織りけむ経緯(たてぬき)無しに


草を詠める

1121 妹がりと()がゆく道の篠芒(しぬすすき)(あれ)し通はば靡け篠原


鳥を詠める

1122 山の()に渡る秋沙(あきさ)の行きて()むその川の瀬に波立つなゆめ

1123 佐保川の清き川原に鳴く千鳥かはづと二つ忘れかねつも

1124 佐保川にさ躍る千鳥*(ぐた)ちて()が声聞けば()ねかてなくに


故郷(ふるさと)(しぬ)

1125 清き瀬に千鳥妻呼び山の()に霞立つらむ甘南備(かむなび)の里

1126 年月もいまだ経なくに明日香川瀬々(せせ)ゆ渡しし石橋(いはばし)もなし


井を詠める

1127 落ちたぎつ走井(はしゐ)の水の清くあれば(わた)らふ(あれ)*行きかてぬかも

1128 馬酔木(あしび)なす栄えし君が掘りし井の石井(いはゐ)の水は飲めど飽かぬかも


和琴(やまとこと)を詠める

1129 琴取れば嘆き先立つけだしくも琴の下樋(したひ)に妻や(こも)れる


芳野にてよめる

1130 神さぶる岩根こごしきみ吉野の水分山(みくまりやま)を見れば(かな)しも

1131 人皆の恋ふるみ吉野今日見ればうべも恋ひけり山川清み

1132 (いめ)和太(わだ)(こと)にしありけり(うつつ)にも見て来しものを思ひし()へば

1133 皇祖神(すめろき)の神の宮人野老葛(ところづら)いや(とこ)しくに(あれ)かへり見む

1134 吉野川(いは)と柏と常磐なす(あれ)は通はむ万代までに


山背にてよめる

1135 宇治川は淀瀬無からし網代人(あじろひと)舟呼ばふ声をちこち聞こゆ

1136 宇治川に生ふる菅藻を川速み採らず来にけり(つと)にせましを

1137 宇治人の譬ひの網代君しあらば*今は寄らまし木積(こつ)ならずとも*

1138 宇治川を船渡せをと呼ばへども聞こえざるらし楫の()もせず

1139 ちはや人宇治川波を清みかも旅行く人の立ちかてにする


摂津(つのくに)にてよめる

1140 しなが鳥猪名野を来れば有馬山夕霧立ちぬ宿は無くして

1141 武庫川(むこかは)水脈を速みと*赤駒の足掻くたぎちに濡れにけるかも

1142 命を(さき)くあらむと*石走る垂水の水を結びて飲みつ

1143 さ夜更けて堀江榜ぐなる松浦船(まつらぶね)楫の()高し水脈速みかも

1144 悔しくも満ちぬる潮か住吉(すみのえ)の岸の浦廻よ行かましものを

1145 妹がため貝を(ひり)ふと茅渟(ちぬ)の海に濡れにし袖は干せど乾かず

1146 めづらしき人を我家(わぎへ)に住吉の岸の埴生(はにふ)を見むよしもがも

1147 (いとま)あらば拾ひに行かむ住吉の岸に寄るちふ恋忘れ貝

1148 馬()めて今日()が見つる住吉の岸の埴生を万代に見む

1149 住吉に往きにし道に*昨日見し恋忘れ貝言にしありけり

1150 住吉の岸に家もが沖に辺に寄する白波見つつ偲はむ

1151 大伴の御津の浜辺を打ちさらし寄せ来る波のゆくへ知らずも

1152 楫の()ぞほのかにすなる海未通女(あまをとめ)沖つ藻刈りに舟出すらしも

1153 住吉の名児の浜辺に馬並めて*玉拾ひしく常忘らえず

1154 雨は降り刈廬は作るいつの間に吾児(あご)の潮干に玉は拾はむ

1155 名児の海の朝明(あさけ)のなごり今日もかも磯の浦廻に乱れてあらむ

1156 住吉の遠里(をり)小野(をぬ)真榛(まはり)もち摺れる衣の盛り過ぎぬる

1157 時つ風吹かまく知らに吾児の海の朝明の潮に玉藻刈りてな

1158 住吉の沖つ白波風吹けば来寄する浜を見れば清しも

1159 住吉の岸の松が根打ちさらし寄せ来る波の音の清しも*

1160 難波潟潮干に立ちて見渡せば淡路の島に(たづ)渡る見ゆ


覊旅(たび)にてよめる

1161 家(ざか)り旅にしあれば秋風の寒き夕へに雁鳴き渡る

1162 圓方(まとがた)の港の洲鳥波立てば妻呼びたてて辺に近づくも

1163 年魚市潟(あゆちがた)潮干にけらし知多の浦に朝榜ぐ舟も沖に寄る見ゆ

1164 潮干れば共に潟に()鳴く(たづ)の声遠ざかれ磯廻すらしも

1165 夕凪にあさりする(たづ)潮満てば沖波高み己妻(おのづま)呼ぶも

1166 古にありけむ人の求めつつ衣に摺りけむ真野の榛原

1167 あさりすと磯に()が見し名告藻(なのりそ)をいづれの島の海人か刈るらむ

1168 今日もかも沖つ玉藻は白波の八重折るが上に乱れてあらむ

1169 近江の()八十(やそ)あり何処(いづく)にか君が舟泊て草結びけむ

1170 楽浪(ささなみ)連庫山(なみくらやま)に雲ゐれば雨そ降るちふ帰り()我が背

1171 大御船(おほみふね)泊ててさもらふ高島の三尾の勝野(かちぬ)の渚し思ほゆ

1172 何処にか(ふな)乗りしけむ高島の香取の浦ゆ榜ぎ出来し船

1173 飛騨人の真木流すちふ丹生(にふ)の川言は通へど船ぞ通はぬ

1174 霰降り鹿島の崎を波高み過ぎてや行かむ恋しきものを

1175 足柄の箱根飛び越え行く(たづ)(とも)しき見れば大和し思ほゆ

1176 夏麻引(なつそび)海上潟(うなかみがた)の沖つ洲に鳥はすだけど君は音もせず

1177 若狭なる三方の海の浜清みい往き返らひ見れど飽かぬかも

1178 印南野は行き過ぎぬらし天伝(あまづた)ふ日笠の浦に波立てり見ゆ

1179 家にして(あれ)は恋ひむな印南野の浅茅が上に照りし月夜を

1180 荒磯(ありそ)越す波を畏み淡路島見ずや過ぎなむここだ近きを

1181 朝霞止まず棚引く龍田山船出せむ日は(あれ)恋ひむかも

1182 海人小舟帆かも張れると見るまでに鞆之浦廻(とものうらみ)に波立てり見ゆ

1183 ま(さき)くてまた還り見む大夫(ますらを)の手に巻き持たる鞆之浦廻を

1184 鳥じもの海に浮き居て沖つ波騒くを聞けばあまた悲しも

1185 朝凪に真楫榜ぎ出て見つつ来し御津の松原波越しに見ゆ

1186 あさりする海未通女(あまをとめ)らが袖通り濡れにし衣干せど乾かず

1187 網引する海人とや見らむ飽浦(あくのうら)の清き荒磯を見に来し(あれ)

右ノ一首ハ、柿本朝臣人麿ノ歌集ニ出ヅ。

1188 山越えて遠津の浜の磯躑躅還り来むまで*ふふみてあり待て

1189 大海に嵐な吹きそしなが鳥猪名の湊に舟泊つるまで

1190 舟泊てて(かし)振り立てて廬りせな子潟(こがた)の浜辺*過ぎかてぬかも

1191 妹が門入り泉川の*瀬を速み()(うま)つまづく家()ふらしも

1192 白たへににほふ真土の山川に()が馬なづむ家恋ふらしも

1193 ()の山に(ただ)に向へる妹の山事許せやも打橋渡す

1194 紀の国の雑賀(さひか)の浦に出で見れば海人の燈火波の間ゆ見ゆ

1195 麻衣(あさころも)()ればなつかし紀の国の妹背の山に麻蒔く我妹(わぎも)

右ノ七首ハ、藤原卿作メリ。年月審ラカナラズ。

1196 (つと)もがと乞はば取らせむ貝(ひり)(あれ)を濡らすな沖つ白波

1197 手に取るがからに忘ると海人の言ひし恋忘れ貝言にしありけり

1198 あさりすと磯に棲む(たづ)明けゆけば浜風寒み己妻(おのつま)呼ぶも

1199 藻刈舟(もかりぶね)沖榜ぎ来らし妹が島形見の浦に(たづ)翔る見ゆ

1200 我が舟は沖よな(さか)り迎ひ舟片待ちがてり浦ゆ榜ぎ逢はむ

1201 大海の水底(とよ)み立つ波の寄せむと()へる磯のさやけさ

1202 荒磯ゆもまして思へや玉之浦(さか)る小島の夢にし見ゆる

1203 磯の()に爪木折り焚き()が為と()(かづ)き来し沖つ白玉

1204 浜清み磯に()が居れば見む人は海人とか見らむ釣もせなくに

1205 沖つ楫やうやうな榜ぎ*見まく欲り()がする里の隠らく惜しも

1206 沖つ波辺つ藻巻き持ち寄せ来とも君にまされる玉寄せめやも

1207 粟島に榜ぎ渡らむと思へども明石の門波(となみ)いまだ騒けり

1208 妹に恋ひ()が越えゆけば勢の山の妹に恋ひずてあるが羨しさ

1209 人ならば母の愛子(まなご)麻裳(あさも)よし紀の川の辺の妹と背の山

1210 我妹子に()が恋ひゆけば羨しくも並びをるかも妹と背の山

1211 妹があたり今ぞ()が行く目のみだに(あれ)に見せこそ言問はずとも

1212 阿提(あて)過ぎて糸鹿(いとか)の山の桜花散らずあらなむ還り来むまで

1213 名草山(なぐさやま)言にしありけり()が恋ふる千重の一重も慰めなくに

1214 安太(あた)へ行く推手(をすて)の山の真木の葉も久しく見ねば蘿むしにけり

1215 玉津島(たまづしま)よく見ていませ青丹よし奈良なる人の待ち問はばいかに

1216 潮満たばいかにせむとか海神(わたつみ)神が()渡る*海未通女ども

1217 玉津島見てしよけくも(あれ)はなし都に行きて恋ひまく()へば

1218 黒牛の()紅にほふ百敷の大宮人し漁りすらしも

1219 若の浦に白波立ちて沖つ風寒き夕へは大和し思ほゆ

1220 妹が為玉を拾ふと紀の国の由良の岬にこの日暮らしつ

1221 ()が舟の楫をばな引き大和より恋ひ()し心いまだ飽かなくに

1222 玉津島見れども飽かずいかにして包み持ちゆかむ見ぬ人の為

1223 (わた)の底沖榜ぐ舟を辺に寄せむ風も吹かぬか波立てずして

1224 大葉山(おほはやま)霞たなびき小夜更けて()が船泊てむ泊知らずも

1225 さ夜更けて夜中の方におほほしく呼びし舟人泊てにけむかも

1226 (かみ)の崎荒磯も見えず波立ちぬいづくゆ行かむ避道(よきぢ)は無しに

1227 磯に立ち沖辺を見れば海藻刈舟(めかりぶね)海人榜ぎ()らし鴨翔る見ゆ

1228 風早(かざはや)の三穂の浦廻を榜ぐ船の舟人騒く波立つらしも

1229 ()が舟は明石の浦に*榜ぎ泊てむ沖へな(さか)りさ夜更けにけり

1230 ちはやぶる鐘の岬を過ぎぬとも()をば忘れじ志加(しか)皇神(すめかみ)

1231 天霧(あまぎら)日方(ひかた)吹くらし水茎(みづくき)の崗の湊に波立ち渡る

1232 大海の波は畏し然れども神を(いは)ひて船出せばいかに

1233 未通女(をとめ)らが織る(はた)()を真櫛もち掻上(かか)栲島(たくしま)波の間ゆ見ゆ

1234 潮速み磯廻に居れば漁りする*海人とや見らむ旅ゆく我を

1235 波高し如何に楫取水鳥の浮寝やすべき猶や榜ぐべき

1236 夢のみに継ぎて見えつつ高島の磯越す波のしくしく思ほゆ

1237 静けくも岸には波は寄せけるかこの家通し聞きつつ居れば

1238 高島の安曇(あど)河波は*騒けども(あれ)は家()ふ廬り悲しみ

1239 大海の磯もと揺すり立つ波の寄せむと()へる浜の(さや)けく

1240 玉くしげ見諸戸山(みもろとやま)を行きしかば面白くして古思ほゆ

1241 ぬば玉の黒髪山を朝越えて山下露に濡れにけるかも

1242 あしひきの山ゆき暮らし宿借らば妹立ち待ちて宿貸さむかも

1243 見渡せば近き里廻を(たもとほ)り今そ()が来し領巾(ひれ)振りし野に

1244 未通女らが(はなり)の髪を由布の山雲な棚引き家のあたり見む

1245 志加の海人の釣船の綱耐へかてに心に()ひて出でて来にけり

1246 志加の海人の塩焼く(けぶり)風をいたみ立ちは上らず山に棚引く

右ノ件ノ歌ハ、古集ノ中ニ出ヅ。

1247 大穴牟遅(おほなむぢ)少御神(すくなみかみ)の作らしし妹背の山は見らくしよしも

1248 我妹子と見つつ偲はむ沖つ藻の花咲きたらば(あれ)に告げこそ

1249 君がため浮沼(うきぬ)の池の菱摘むと()染衣(しめころも)*濡れにけるかも

1250 妹がため菅の実採りに行きし(あれ)山道に惑ひこの日暮らしつ

右ノ四首ハ、柿本朝臣人麿ノ歌集ニ出ヅ。

1417 名児の海を朝榜ぎ来れば海中(わたなか)鹿子(かこ)ぞ呼ぶなる*あはれその水夫(かこ)


問ひ答へのうた

1251 佐保川に鳴くなる千鳥何しかも川原を(しぬ)ひいや川上る

1252 人こそは(おほ)にも言はめ()がここだ偲ふ川原を(しめ)結ふなゆめ

右の二首(ふたうた)は、鳥を詠める。

1253 楽浪の志賀津の海人は(あれ)無しに(かづ)きはなせそ波立たずとも

1254 大船に楫しもあらなむ君無しに潜きせめやも波立たずとも

右の二首は、白水郎(あま)を詠める。


時に()けてよめる

1255 月草に衣ぞ()める君がため斑の衣摺らむと()ひて

1256 春霞井の()(ただ)に道はあれど君に逢はむと(たもとほ)()

1257 道の()草深百合(くさふかゆり)の花笑みに笑まししからに妻と言ふべしや

1258 (もだ)あらじと言のなぐさに言ふことを聞き知れらくは(から)くそありける*

1259 佐伯山卯の花持ちし(かな)しきが手をし取りてば花は散るとも

1260 時じくに斑の衣着欲しきか島の榛原時にあらねども

1261 山守の里へ通ひし山道ぞ茂くなりける忘れけらしも

1262 あしひきの山椿咲く八峯(やつを)越え鹿(しし)待つ君が(いは)ひ妻かも

1263 (あかつき)と夜烏鳴けどこの岡の木末(こぬれ)の上はいまだ静けし

1264 西の市にただ独り出て目並べず買へりし絹の(あき)じこりかも

1265 今年行く(にひ)防人が麻衣肩のまよひは誰か取り見む

1266 大舟を荒海(あるみ)に榜ぎ出八船たけ()が見し子らが(まみ)(しる)しも


所に就けて思ひを()

1267 百敷の大宮人の踏みし跡ところ沖つ波来寄らざりせば失せざらましを 旋頭歌

右ノ十七首ハ、古歌集ニ出ヅ。

1268 子らが手を巻向山(まきむくやま)は常にあれど過ぎにし人に行き巻かめやも

1269 巻向の山辺(とよ)みて行く水の水沫(みなわ)の如し世の人吾等(われ)

右ノ二首ハ、柿本朝臣人麿ノ歌集ニ出ヅ。


物に寄せて思ひを()旋頭歌

1272 大刀の(しり)鞘に入野(いりぬ)に葛引く我妹(わぎも)真袖もち着せてむとかも夏葛引くも*

1273 住吉(すみのえ)波豆麻(なみづま)君が馬乗衣(うまのりごろも)さにづらふ漢女(をとめ)()せて縫へる衣ぞ

1274 住吉の出見(いでみ)の浜の浜菜刈らさね*未通女(をとめ)ども赤裳の裾湿()ぢゆかまくも見む

1275 住吉の小田を刈らす子(やつこ)かも無き奴あれど妹がみためと秋の田刈るも*

1276 池の()小槻(をつき)がもとの小竹(しぬ)な刈りそねそれをだに君が形見に見つつ偲はむ

1277 天なる姫菅原の草な刈りそね(みな)(わた)か黒き髪に芥し付くも

1278 夏蔭の寝屋の下に(きぬ)裁つ我妹うら()けて()がため裁たばいや(ひろ)に裁て*

1279 梓弓引津の()なる名告藻(なのりそ)の花摘むまでに逢はざらめやも名告藻の花

1280 打日さす宮道(みやぢ)を行くに()()()れぬ玉の緒の思ひ乱れて家にあらましを

1281 君がため手力(たぢから)疲れ織りたる(きぬ)*春さらばいかなる色に摺りてばよけむ

1282 梯立(はしたて)の倉梯山に立てる白雲見まく欲り()がするなへに立てる白雲

1283 梯立の倉梯川の(いは)の橋はも男盛(をさかり)()が渡せりし石の橋はも

1284 梯立の倉梯川の川の静菅(しづすげ)()が刈りて笠にも編まず川の静菅

1285 春日(はるひ)すら田に立ち疲る君は悲しも若草の妻なき君が田に立ち疲る

1286 山背(やましろ)の久世の(やしろ)の草な手折りそ()が時と立ち栄ゆとも草な手折りそ

1287 青みづら依網(よさみ)の原に人も逢はぬかも(いは)走る淡海県(あふみあがた)の物語せむ

1288 水門(みなと)の葦の末葉(うらは)を誰か手折りし我が背子が袖振る見むと*(あれ)ぞ手折りし

1289 垣越ゆる犬呼び越せて鳥猟(とがり)する君青山の茂き山辺馬休め君

1290 (わた)の底沖つ玉藻の名告藻の花妹と(あれ)ここにありと名告藻(なのりそ)の花

1291 この岡に草刈る小子(こども)しかな刈りそねありつつも君が来まさむ御馬草(みまくさ)にせむ

1292 江林(えはやし)にやどる猪鹿(しし)やも求むるによき白たへの袖巻き上げて猪鹿待つ我が背

1293 霰降り遠江(とほつあふみ)吾跡川楊(あどがはやなぎ)刈れれどもまたも生ふちふ吾跡川楊

1294 朝月日(あさづくひ)向ひの山に月立てり見ゆ遠妻を持たらむ人し見つつ偲はむ

右ノ二十三首ハ、柿本朝臣人麿ノ歌集ニ出ヅ。

1295 春日(かすが)なる三笠の山に月の船出づ遊士(みやびを)の飲む酒杯に影に見えつつ

右ノ一首ハ、古歌集ニ出ヅ。


行路(みちゆきぶりのうた)

1271 遠くありて雲居に見ゆる妹が()に早く至らむ歩め黒駒

右ノ一首ハ、柿本朝臣人麿ノ歌集ニ出ヅ。



譬喩歌(たとへうた)


(ころも)に寄す

1296 今作る斑の衣目につきて*(あれ)は思ほゆ*いまだ着ねども

1297 紅に衣()めまく欲しけども着てにほはばや人の知るべき

1298 かにかくに人は言ふとも織り継がむ()機物(はたもの)白麻衣(しろあさごろも)

右ノ三首ハ、柿本朝臣人麿ノ歌集ニ出ヅ。

1311 (つるはみ)の衣は人の事なしと*言ひし時より着欲しく思ほゆ

1312 おほよそに(あれ)し思はば下に着てなれにし(きぬ)を取りて着めやも

1313 紅の深染(こそめ)の衣下に着て上に取り着ば(こと)なさむかも

1314 橡の解洗衣(ときあらひきぬ)のあやしくも()に着欲しけきこの夕へかも

1315 橘の島にし居れば川遠み曝さず縫ひし()が下衣


糸に寄す

1316 河内女(かふちめ)の手染の糸を繰り返し片糸にあれど絶えむと()へや


日本琴(やまとこと)に寄す

1328 膝に伏す玉の小琴(をこと)の事無くば甚だここだ(あれ)恋ひめやも


弓に寄す

1329 陸奥(みちのく)安太多良(あだたら)真弓(つら)はけて引かばか人の()を言なさむ

1330 南淵(みなふち)の細川山に立つ(まゆみ)弓束(ゆつか)巻くまで人に知らえじ


玉に寄す

1299 あぢ群のむれよる海に*船浮けて白玉採ると人に知らゆな

1300 をちこちの磯の中なる白玉を人に知らえず見むよしもがも

1301 海神(わたつみ)の手に巻き持たる玉故に磯の浦廻に(かづ)きするかも

1302 海神の持たる白玉見まく欲り千たびそ告げし潜きする海人

1303 潜きする海人は告ぐれど海神の心し得ねば見えむとも云はず

右ノ五首ハ、柿本朝臣人麿ノ歌集ニ出ヅ。

1317 (わた)の底(しづ)く白玉風吹きて海は荒るとも取らずばやまじ

1318 底清み沈ける玉を見まく欲り千たびぞ告げし潜きする海人

1319 大海の水底(みなそこ)照らし沈く玉(いは)ひて採らむ風な吹きそね

1320 水底に沈く白玉誰ゆゑに心尽して()()はなくに

1321 世間(よのなか)は常かくのみか結びてし白玉の緒の絶ゆらく()へば

1322 伊勢の海の海人の島津(しまつ)鮑玉(あはびたま)採りて後もか恋の繁けむ

1323 海の底沖つ白玉よしを無み常かくのみや恋ひ渡りなむ

1324 葦の根のねもころ()ひて結びてし玉の緒といはば人解かめやも

1325 白玉を手には巻かずに箱のみに置けりし人ぞ玉溺らする

1326 照左豆我*手に巻き古す玉もがもその緒は替へて()が玉にせむ

1327 秋風は継ぎてな吹きそ(わた)の底沖なる玉を手に巻くまでに


山に寄す

1331 磐畳(いはたた)む畏き山と知りつつも(あれ)は恋ふるかなそらへなくに

1332 岩が根のこごしく山に入りそめて山なつかしみ出でかてぬかも

1333 佐保山をおほに見しかど今見れば山なつかしも風吹くなゆめ

1334 奥山の岩に苔生し畏けど思ふ心を如何にかもせむ

1335 思ひかていたもすべなみ玉たすき畝傍の山に(あれ)(しめ)結ひつ


木に寄す

1304 天雲の棚引く山の(こも)りたる我が下心木の葉知りけむ

1305 見れど飽かぬ人国山の木の葉をし下の心に*なつかしみ()

右ノ二首ハ、柿本朝臣人麿ノ歌集ニ出ヅ。

1354 白菅の真野の榛原(はりはら)心よも思はぬ君が衣に摺りつ

1355 真木柱作る杣人(そまひと)いささめに仮廬の為と作りけめやも

1356 向つ()に立てる桃の木()りぬやと*人ぞ(ささ)めきし()が心ゆめ

1357 たらちねの母がその()る桑子すら願へば衣に着るちふものを

1358 はしきやし我家(わぎへ)の毛桃本繁く花のみ咲きて()らざらめやも

1359 向つ峰の若桂の木下枝(しづえ)取り花待つい間に嘆きつるかも


草に寄す

1336 冬こもり春の大野を焼く人は焼き足らねかも()が心焼く

1337 葛城(かづらき)の高間の草野(かやぬ)()りて(しめ)指さましを今し悔しも

1338 我が屋戸に生ふるつちはり心よも思はぬ人の衣に摺らゆな

1339 月草に衣色どり摺らめどもうつろふ色と言ふが苦しさ

1340 紫の糸をぞ()()るあしひきの山橘を()かむと()ひて

1341 真玉つく越智の菅原(すがはら)(あれ)刈らず人の刈らまく惜しき菅原

1342 山高み夕日隠りぬ浅茅原のち見むために標結はましを

1343 言痛(こちた)くばかもかもせむを磐代の野辺の下草(あれ)し刈りてば

1344 真鳥棲む雲梯(うなて)の杜の菅の実を*衣にかき付け着せむ子もがも

1345 常知らぬ*人国山の秋津野のかきつはたをし(いめ)に見しかも

1346 をみなへし佐紀沢(さきさは)()の真葛原いつかも繰りて()(きぬ)に着む

1347 君に似る草と見しより()が標めし野の()の浅茅*人な刈りそね

1348 三島江の玉江の(こも)を標めしより己がとぞ()ふ未だ刈らねど

1349 かくしてや黙止(なほ)や老いなむみ雪降る大荒木野の小竹(しぬ)にあらなくに

1350 近江のや八橋(やばせ)の小竹を矢はがずてまことあり得むや(こほ)しきものを

1351 月草に衣は摺らむ朝露に濡れての後はうつろひぬとも

1352 我が心ゆたにたゆたに浮蓴(うきぬなは)辺にも沖にも寄りかてましを


花に寄す

1306 この山の黄葉(もみち)の下に咲く花を(あれ)はつはつに見つつ恋ふるも*

右ノ一首ハ、柿本朝臣人麿ノ歌集ニ出ヅ。

1360 息の緒に思へる(あれ)を山ぢさの花にか君がうつろひぬらむ

1361 住吉の浅沢小野のかきつはた衣に摺り付け着む日知らずも

1362 秋さらば移しもせむと()が蒔きし韓藍(からゐ)の花を誰か摘みけむ

1363 春日野に咲きたる萩は片枝はいまだふふめり言な絶えそね

1364 見まく欲り恋ひつつ待ちし秋萩は花のみ咲きて()らずかもあらむ

1365 我妹子が屋戸の秋萩花よりは実に成りてこそ恋まさりけれ


稲に寄す

1353 石上(いそのかみ)布留(ふる)早稲田(わさだ)を秀でずとも(しめ)だに()へよ()りつつをらむ


鳥に寄す

1366 明日香川七瀬の淀に住む鳥も心あれこそ波立てざらめ


(けだもの)に寄す

1367 三国山木末(こぬれ)に住まふむささびの鳥待つがごと(あれ)待ち痩せむ


雲に寄す

1368 岩倉の小野よ秋津に立ち渡る雲にしもあれや時をし待たむ


(いかつち)に寄す

1369 天雲に近く光りて鳴る神の見れば(かしこ)し見ねば悲しも


雨に寄す

1370 ここだくも降らぬ雨ゆゑ庭たづみ(いた)くな行きそ人の知るべく

1371 久かたの雨には着ぬをあやしくも我が衣手は()る時なきか


月に寄す

1372 み空行く月読壮士(つくよみをとこ)夕さらず目には見れども寄るよしも無し

1373 春日山山高からし石上(いそのかみ)菅根見むに*月待ちがたし

1374 闇の夜は苦しきものをいつしかと我が待つ月も早も照らぬか

1375 朝霜の()やすき命誰がために千年もがもと()()はなくに

右ノ一首ハ、譬喩歌ノ類ニアラズ。但シ闇ノ夜ノ歌人ノ、所心ノ故ニ並ニ此ノ歌ヲ作ム。コレニ因リテ此ノ歌、此ノ次ニ載ス。


赤土(はに)に寄す

1376 大和の宇陀の真赤土(まはに)のさ()付かばそこもか人の()(こと)なさむ


神に寄す

1403 御幣(みぬさ)取り神の(はふり)(いは)ふ杉原薪伐りほとほとしくに手斧取らえぬ 旋頭歌

1377 木綿懸けて(いは)ふ三諸の神さびて()むにはあらず人目多みこそ

1378 木綿懸けて斎ふこの(もり)越えぬべく思ほゆるかも恋の繁きに


川に寄す

1307 この川よ船は行くべくありといへど渡り瀬ごとに()る人あるを

右ノ一首ハ、柿本朝臣人麿ノ歌集ニ出ヅ。

1379 絶えずゆく明日香の川の淀めらば故しもあるごと人の見まくに

1380 明日香川瀬々(せせ)に玉藻は生ひたれどしがらみあれば靡きあはなくに

1381 広瀬川袖()くばかり浅きをや心深めて()は思へらむ

1382 泊瀬川流るる水沫(みを)の絶えばこそ()()ふ心遂げじと思はめ

1383 嘆きせば人知りぬべみ山川(やまがは)のたぎつ心を()かへたるかも

1384 水隠(みこも)りに息づきあまり早川の瀬には立つとも人に言はめやも


埋木(うもれき)に寄す

1385 真鉋(まかな)持ち弓削(ゆげ)の川原の埋木のあらはるまじき事とあらなくに


海に寄す

1308 大海は水門(みなと)(まも)る事しあらばいづへよ君が()()隠れむ*

1309 風吹きて海は荒るとも明日と言はば久しかるべし君がまにまに

1310 雲隠る小島の神の畏けば目は隔つれど心隔つや

右ノ三首ハ、柿本朝臣人麿ノ歌集ニ出ヅ。

1386 大船に真楫しじ()き榜ぎ出にし沖は深けむ潮は干ぬとも

1387 伏超(ふしこえ)よ行かましものを目守(まも)らふにうち濡らさえぬ波()まずして

1388 石隠(いそがく)*岸の浦廻に寄する波辺に来寄らばか言の繁けむ

1389 磯の浦に来寄る白波返りつつ過ぎかてなくば岸にたゆたへ*

1390 近江の()波畏みと風まもり年はや経なむ榜ぐとはなしに

1391 朝凪に来寄る白波見まく欲り(あれ)はすれども風こそ寄せね


浦沙(まなご)に寄す

1392 紫の名高の浦の真砂土(まなごつち)袖のみ触りて寝ずかなりなむ

1393 豊国の企玖(きく)の浜辺の真砂土真直(まなほ)にしあらば如何で嘆かむ


藻に寄す

1394 潮満てば入りぬる磯の草なれや見らく少く恋ふらくの多き

1395 沖つ波寄する荒磯の名告藻(なのりそ)*心のうちに靡きあひにけり*

1396 紫の名高の浦の名告藻の磯に靡かむ時待つ(あれ)

1397 荒磯越す波は畏ししかすがに海の玉藻の憎くはあらぬを


船に寄す

1398 楽浪(ささなみ)の志賀津の浦の船乗りに乗りにし心常忘らえず

1399 百伝ふ八十(やそ)の島廻を榜ぐ船に乗りにし心忘れかねつも

1400 島伝ふ足速(あはや)小舟(をぶね)風まもり年はや経なむ逢ふとはなしに

1401 水霧(みなぎ)らふ沖つ小島に風をいたみ船寄せかねつ心は()へど

1402 こと()かば沖よ離かなむ湊より()付かふ時に離くべきものか


挽歌(かなしみうた)

1404 鏡なす()が見し君を阿婆(あば)の野の花橘の玉に(ひり)ひつ

1405 秋津野を人の懸くれば朝撒きし君が思ほえて嘆きはやまず

1406 秋津野に朝居る雲の失せぬれば昨日も今日も亡き人思ほゆ

1407 隠国(こもりく)の泊瀬の山に霞立ち棚引く雲は妹にかもあらむ

1408 狂言(たはこと)妖言(およづれこと)や隠国の泊瀬の山に廬せりちふ

1270 隠国の泊瀬の山に照る月は満ち欠けしけり人の常無き

1409 秋山の黄葉(もみち)あはれみうらぶれて入りにし妹は待てど来まさず

1410 世の中はまこと二代(ふたよ)はゆかざらし過ぎにし妹に逢はなく思へば

1411 (さき)はひのいかなる人か黒髪の白くなるまで妹が声を聞く

1412 我が背子をいづく行かめとさき竹の背向(そがひ)に寝しく今し悔しも

1413 庭つ鳥(かけ)の垂り尾の乱り尾の長き心も思ほえぬかも

1414 薦枕(こもまくら)()きし子もあらばこそ夜の更くらくも()が惜しみせめ

1415 玉づさの妹は玉かもあしひきの清き山辺に撒けば散りぬる

或ル本ノ歌ニ曰ク、

 1416 玉づさの妹は花かもあしひきのこの山蔭に撒けば失せぬる

       巻第七了

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引用文献


○ManyoshuBest100 ○万葉集[YouTube] ○萬葉集朗詠ライブ ○歴史ヒストリア ○万葉歌と明石 、、 ○100分de名著 万葉集 其の1 ○ 其の2 、、 万葉集読み上げ 巻1 ( 1 -27) 万葉集読み上げ 巻1 (28-49) 万葉集読み上げ 巻1 (50-84)


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